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星導きのジェイド

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●星導宮さま
 ねえ、『星導宮さま』って知っている? あの方はとってもすごいのよ。
 わたしね、一人でずっと悩んでいたことがあったの。けれどあの方は何も問わずに言い当てて、素敵な言葉をくださったの。すごくて、素敵な方なのよ。
 あなたにも悩み事はあるでしょう? ねえ、星導宮さまに相談してみたら?

 星導宮さまのところへの行き方も教えてあげるから、今度行ってみて?
 行き方は簡単、間違えないわ。星の瞬く夜の道を越えるだけなの。最初は暗くて不安になるかもしれないけれど、綺麗な星を見て不安な気持ちを鎮めるの。暫くすれば進むべき道が見えてくるわ。足元の光る星々が星導宮さまの元へ導いてくれるのよ。
 そこを出たら星導宮さまの使いの方がいらっしゃるわ。その方についていけば星導宮さまに会えるのだけれど、悩みもなく面白半分で来た人は使いの方にも会えずに入り口に戻されちゃうみたいなの。不思議よね。

●尾鰭のいざない
「お前たちに、悩み事はある?」
 グリモアベースの備品の椅子に幾重にもクッションを重ね、そこにゆったりと座した人魚の少年――雅楽代・真珠(水中花・f12752)が目の前に置かれたコーヒーカップを覗き込みながら口を開いた。カップの中は漆黒の液体。覗き込んでも底は見えない。
「アルダワ魔法学園って知っている?」
 返事を待たずに、人魚は続ける。
「――そう、地下迷宮があって、大魔王が居たりする魔法の世界。そこに行ってきて」
 災魔を封じる地下迷宮には様々なフロアで構成されている。迷宮からの脱出を図る災魔と戦う者、迷宮内で体験出来る不思議な出来事を求める者。地下迷宮へ足を運ぶ理由は様々だ。
 しかし最近、とある噂が流れていた。
「『星導宮さま』と言われているそうだよ」
 なんでもその星導宮さまとやらに相談をすると、悩み事が解消するのだと言う。
 『星導宮』とは、学生たちが勝手に付けた名前らしい。性別は女性。年齢は不詳。彼女の元へと至る道、そして星の導きが如く思える行いからきたものだと、心酔した様子でうっとりと彼女に会ったことのある学生たちは語る。
 誰にも言えずに心の底に抱えた悩み。それをその人は言い当て、適した言葉をくれる。悩み事が解消しなくとも、寄り添い一緒に悩んでくれる。一緒に解決の方法を探ってくれる。それはそれは優しい方なのだ。
 誰もが優しい彼女に心酔し、側に仕えたくなる。そのため、星導宮さまに会いに行った者が戻ってくる確率は少ない。少ないが、戻ってきた者たちが素晴らしかった皆も相談すべきだと口々に言い、噂が広がっていく。
 真珠が一度口を閉ざすと、傍らの執事人形が角砂糖をトングで運び、スプーンの上に載せた。
「そだれけなら普通にいいことのように思えるよね」
 けれど、そうではない。彼女は災魔なのだから。
 そうして集まった学生たちを彼女は手足のように扱い、猟兵に対抗する手段にしようとしている、大魔王に造られし宝石人形。それが星導宮さまの正体だ。
 告げながら砂糖を黒い液体に落とし、くるくるとスプーンでかき混ぜて。
「僕が視ただけでも、信者の数は結構なものだよ。かなり慕われている」
 こうして話をしている間にも増えていっているはずだ。
「止めてきて。出来る限り、学生を元の生活に戻してあげて」
 くるくると動かしていたスプーンをソーサーに戻すと、黒い液体を一口口にして。……僅かに眉を顰めた。
 心を囚われた全ての学生を、とは口にしない。きっとそれは、とても難しいことだから。
 星導宮さまに会うには、噂通りにすればいい。星の輝く道を抜け、使いの者にいざなわれれば彼女の元へと辿り着く。
 けれど、その道には仕掛けがある。そこを通った者の悩みが、本人と星導宮さまにのみ視えるのだ。星導宮さまはそうやって相手の悩みを知り、相手の心の隙間を埋める言葉を掛けてくる。しかし例え心に響かない言葉だったとしても、彼女の声には力があり、どんな相手でも洗脳されてしまうため注意が必要だ。
「お前たちも充分気を付けて。――厄介な相手だよ」
 人魚の掌の上に蓮がふわりと浮かび上がり、蓮の上に金魚が泳げば、魔法と迷宮の世界への”門”が開かれる。
 じゃぁね。いつもなら言葉とともに花のように幾重にも重ねられた袖が振られるのだが、ポトポトと角砂糖を何個もコーヒーに沈める音が響くのみだった。


壱花
 壱花です。企画ものなので、びいどろ金魚がご案内します。
 信者と書いて儲かると読みます、ね。学生さんたちでウハウハです。
 マスターページとTwitterに受付や締切が書かれます。章が変わるごとに参照頂けますと幸いです。

◇◆◇
 このシナリオは、複数のMSで星巡りと宝石人形のフラグメントの雰囲気で合わせたシナリオです。
 事件が起きている時刻や日時はそれぞれ別という扱いなので、各シナリオご自由にご参加頂けます。
 各MSの個性溢れるシナリオをお楽しみください。
◇◆◇

 第1章:冒険『星巡りの夜道』
 暗い暗い、夜の道。星あかりがピカピカ、天に地に。星空の中を歩いていきます。
 星々を見上げたり、星あかりのランプを見つめていると、あなたは『あなたの心の奥底の悩み』を幻視します。空の星々の中に、ランプの中に、目の前に。その幻がふわりと見えてくるのです。

 その悩みに、あなたは気付いているのでしょうか?
 知らずに抱いていた悩みを、見せられて初めて知ることになるのでしょうか?

 幻が消えると、あなたには自然と行くべき場所が解ります。迷ってしまいそうだった星海の夜道を正しく抜ける道が見えてくるのです。
 誰かと同行していても、幻は他の人には見えません。あなたの悩みは、あなただけのものなのですから。
 【第1章のプレイング受付は、10/23(水)朝8:31~でお願いします】

 第2章:集団戦『宝石人形』
 星導宮さまのお使いの方。星を散りばめたローブ姿をしており、フードで顔はよく見えないので学生さんはホイホイ着いていっちゃいます。案内してもらわなくてもすぐに星導宮さまの元にたどり着けるので、倒して大丈夫です。星導宮さまに盲信している振りをするとあちらからは襲ってこないので先制攻撃が出来ます。
 稀に、心を悩みに囚われすぎていると悩みのタネに見えてしまうこともあるようです。

 第3章:ボス戦『宝石人形』翡翠
 所謂教祖みたいな事をしている翡翠を宿したお人形と戦います。信者も居ます。
 彼女自身は戦闘は不得手ですが、厄介で強く、とても戦いにくい相手です。
 技能を使う場合は「○○を使用」ではなく、どのように使うかを考えてください。その行動が有効だと判じた場合、プレイングボーナスが付きます。

 どの章からでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『星巡りの夜道』

POW   :    星明かりの導きに誘われて、まっすぐに歩む。

SPD   :    星の瞬きを見落とさぬように、前を見据えて歩む。

WIZ   :    星の位置を確かめて、行く先を定めて歩む。

イラスト:葎

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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ユキ・パンザマスト
【SPD】セラ(f02012)と!

星見も偶には良いものです。
あの星はなんでしょう。セラは星には詳しいです?
光のランプは燦々と灯り、地で燃える星は花のよう。
綺麗な夜道を、物珍しげに、気儘に、寄り道しつつ。
って、おっと、がんがん行きますね!
ユキも負けてられねえすよ。追跡で後を追おうとして。

(今、身を寄せる団地が、終の棲家になれたなら)
(不死のお前に、大それた願いが叶えられると思うか?)
(どうせまた、残されて、忘れ、通り過ぐ)
(不確かな生をわらう声)
(ああ、五月蠅い、振り払え)

おぉい、セラ! 此処です!
はは。暗い中でも、雪白と朗らかさはよぅく目立ちますねえ。
いやはや。夢から覚める心地ですとも。


セラ・ネヴィーリオ
ユキさん(f02035)と!

【WIZ】
わあ、綺麗なところだねえ!
星は絶賛勉強中。語れる物語は僅かなれど
とこしえの星あかりが綺麗だから光に導かれるままステップも軽やか。思わず先行しがちかも
ランプに伸ばす手も躊躇いがなく
その光が揺れたなら――何に出会うのかな

(過去看取ろうとした未練ある魂たちは、みな食らわれて)
(残ったのは胸の裡の『彼』だけ)
(ああ、じゃあ『彼』も何処かに行ってしまったら?)
(僕に残るのは――何?)

瞬きすればそこには誰も
……そっか、そういうこともあるかもかあ
辺りを探せば後方に白椿
ユキさーん!ごめんね先行き過ぎちゃったー!と手を振って彼女の所へ駆け戻ろう。もちろん、元気は忘れずにね!




「わあ、綺麗なところだねえ!」
 自身の頭の花のように空を見上げ、セラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)は思わず口を開いた。儚い光を宿す星々がこれだけ集まれば、儚さなど感じない。ただただ美しい星海の中、楽しげに淡雪を揺らして振り返る。
 振り返った視線の先には、キマイラの少女。星見も稀には良いと、天と地の星々へと視線を向けていたユキ・パンザマスト(ありや、なしや。・f02035)は、ついと人指し指を伸ばしてセラに問い掛けた。
「あの星はなんでしょう。セラは星には詳しいです?」
「星のことは絶賛勉強中だよ」
 ここに、正しい星座があるのかも解らない。
 けれど知っている星座に近いものを見つけたら、「あれは夏の星かも」なんて声を掛け合って、星あかりに満ちる道を二人は進んでいく。
 とこしえの、星あかりが綺麗で。セラの足取りはステップを踏むように軽やか。
 地で燃える星が花のようだと、物珍しげに気儘に歩むユキの足取りは遅れ気味。
 気付けば二人の距離は思っていた以上に離れていて、ユキは流れ星のような彼の後を追いかけた。

 先行しすぎていることに気付くこともなく、セラは星をめいっぱい楽しんで、星あかりのランプにも躊躇いなく手を伸ばして覗き込む。
 ちか、ちか。ランプの中で瞬く星を眺めて。
 この星も綺麗だな、なんて。笑みを浮かべた時、星あかりがゆらり、揺れた。

✦.   ✦.
 ✦.
 ゆらり、揺れる。
 揺れるのは、星ではない。
 ――ああ。未練ある魂たちだ。
 よく見れば、いくつもぽつりぽつりと浮かんでいるじゃないか。
 墓守として歌えば、慰められた魂はひとつずつ消えていく。
 ――そのはずだった。
 けれど、看取ろうとした未練ある魂たちは、みな食らわれて。
 残ったのは胸の裡の『彼』だけ。
 いくつも浮かんでいた魂たちは消え、残ったひとつがゆらり、また揺れる。
 ああ、じゃあ『彼』も何処かに行ってしまったら?
 僕に残るのは――何?

 ゆら、ゆらり。
 揺れる『彼』へ、手を伸ばす。
 ✦.
✦.   ✦.

 目の中で、星が弾けた様に瞬いて。
 気付けばセラは、星空の夜道に一人きり。
 伸ばした手は、力なく落ちていく。
「……そっか、そういうこともあるかもかあ」
 セラの呟きは星海の中に飲まれ、消えた。

✦.   ✦.
 ✦.
 ――今、身を寄せる団地が、終の棲家になれたなら。
 帰れば皆が居て、「やあ、おかえりなさい」と言ってもらえる場所。
 日々楽しく、けれど気楽に気ままに居られる場所。
 どんなに傷つき襤褸のようになったとしても、あの場所に帰れて終われたらいい。
 ずっと皆と楽しく過ごして、居られたらいい。
 けれど。
『不死のお前に、大それた願いが叶えられると思うか?』
 声が、聞こえる。
 五月蝿い。
『どうせまた、残されて、忘れ、通り過ぐ』
 五月蝿い、五月蝿い。
 ユキの、不確かな生を、嘲笑う声。
 ぎゅうと胸を抑えても、耳を両手で塞いでも、尚聞こえてくるその声は――ああ、ユキの声だ。
 ああ、五月蠅い。
 眼前にぼんやりと現れたユキ自身がせせら笑う。
 五月蝿い、五月蝿い。五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!
 ✦.
✦.   ✦.

 ――振り払え!

 ぱちん。
 シャボンが弾けたように、唐突に幻が消えた。
 ぱちぱちと目を瞬かせれば、前方で丁度こちらに気付いたように手を振る雪白に気付いて。ユキも応えるように手を振り返す。
「おぉい、セラ! 此処です!」
「ユキさーん! ごめんね、先行き過ぎちゃったー!」
 朗らかな笑みとともにパタパタと駆け寄ってくるセラの姿に、ユキは夢から覚める心地でひっそりと息を吐いた。
 彼の雪白と朗らかさが、今は妙に胸に優しくて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


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旭・まどか
悩み、か
びいどろ金魚の言葉を思い出しながら
過るのは、唯一つ
お前の事。それだけだ

見上げた星々の煌めきが陰り、曇り
次第に浮かび上がるのは“ヒト”で在った頃のお前の姿

お前は、そんな顔をしていたんだね

叶う筈が無いと思っていた事が念通り
胸を占めるのは哀愁か、落胆か

夢でさえ形を成さないお前の姿が此処には、在る
手を伸ばそうとするけれど
あまりにも朧が過ぎるお前の輪郭は僕の手から逃れて行く

何が、言いたいの

ヒトの口で以って語られる筈の言葉を、聞き取る事が出来ない
何故。今ならばお前と会話が出来る筈なのに

ついぞ意思疎通など出来ぬまま、お前の姿が消えて逝く
嗚呼、どうして

音に出来なかった嘆きは夜に吸い込まれ
唯、無に落ちた




 燃え尽きてしまう星なのか。一際明るい星がひとつ瞬いて、つい吸い寄せられるように視線がそちらへと向かってしまう。特別に強い想いを抱いて見たわけではなく、ただ、なんとなくだ。星海の夜道を歩く旭・まどか(MementoMori・f18469)の思考は、別の場所に向いているのだから。
「悩み、か」
 ぽつり。小さな呟きが星海に落ちる。
 この迷宮へと送られてから、幾度もここへ送ったびいどろ金魚のグリモア猟兵の言葉を思い出していた。
 胸に抱いた、悩みが視える。
 悩み。そう考えて、過るのは、唯一つ。『お前』の事。それだけだった。
 星あかりのランプに、星空に、それが視えるという。何を見ていても良いのだろう。
 どれだけ眺めていたのだろうか。星だけの空間は、時間の感覚を悪戯に狂わせていく。
 星々の煌きが、瞬き、陰り、曇り。そしてまた瞬いて。
 そのなかに、次第に何かが見えてきた。

✦.   ✦.
 ✦.
 それは、“ヒト”で在った頃のお前の姿。
「お前は、そんな顔をしていたんだね」
 夢の中でさえ形を成さないお前。だからこれは、僕が望んだ姿なのかもしれない。
 心の何処かで、それを知っている。
 けれど、終ぞお前の姿を見ることなど叶わないと思っていたのに、お前がこうして僕の目の前にいる。お前の姿が、此処に在る。
 ――嗚呼。けれど、どうして。胸を占めるのが、歓喜では無いのだろう。
 しくりと傷む胸が覚えたのは、哀愁か、落胆か。
『         』
 手を伸ばしても、朧が過ぎるお前の輪郭は僕の手から逃れて。
 お前の唇が、開いて、閉じて。何か、言葉を残す。
「何が、言いたいの」
 今ならばお前と会話が出来る筈なのに、お前の言葉が聞こえない。
『         』
「ねえ」
 お前が口を開く。僕は問い掛ける。
 お前は、どうしたいの。何を言いたいの。
 ✦.
✦.   ✦.

 意思疎通など出来ぬまま、その姿は消えて。
 まどかは一人、夜の道。
 あんなにも星々が煌めいていたのに。
 今はただ、全てが暗く思えた。

 ――嗚呼、どうして。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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ノア・サテライト
【剣蟲呪】の皆と行動

『星導宮さま』ね。なんとも胡散臭いな。どんな者でも洗脳させる...気をつけよう

まずはティアから確実に槍を受け取ろう。そして、どんな幻が来るか分からないから【狂気耐性】で受け構える。こんなもんだね

ティア、要。僕には故郷の者達が見えているね

隠れ里に住んでいた頃の肉親や一族の者達が目の前に現れ様々な言葉を投げかけられる
「お前は出来損ないだ」「一族の恥さらしめ」「なんて忌々しい」
ああ、うるさい。これが僕の悩み?なんだこんなもんか。はあ、過去が出しゃばるな。悪趣味な奴め。対話しようかなって思った僕が馬鹿だったね。決めた。この幻、ぶっ壊す。これしきで僕が挫けると思っているのか?


アリスティアー・ツーハンドソード
【剣蟲呪】の皆と行動
悩みを暴き、導くものか。僕の経験上だと八割詐欺師だが……さて

最悪痛みで覚醒できるよう【アリスランス・クリエイション】で作り出した手の平サイズの槍を要とノアに持たせる。僕自身は【狂気耐性】で幻にとらわれないようにし、【手をつなぐ】で現実を確かめておこう
二人は何が見えてる?僕は一面血の海さ、殺されたアリスのね
確かに悩むことはあるさ。殺す道具である僕が……担い手も守れなかった僕がアリスを救う資格があるのかと
けどね、この惨劇の記憶があるからこそ。こんな景色を二度と見たくないと前に進めるのさ
だからこの悩みを解消する気はない。矛盾を抱えているからこそ僕は剣であり王子であるのだから


地鉛・要
【剣蟲呪】と連携・アドリブ可

こういうのって詐欺か・・・まあ、オブリビオンだし心に入り込んで言葉で相手を篭絡したとかなんだろうな
何が起きても良いようにティアちゃんから貰った槍と、自分の影業をすぐにでも刺せる様にはしておこう

二人はどうだ?何が見える?俺には・・・地面がドス黒く、そして肉片・・・
俺はまだ殺した兄を何処か引きずっているみたいだ
だがあの時能力が目覚めなければ俺は死んでたし、兄もいずれ死んでいた。それはもう知っている
なら、「あの時こうすれば」なんて悩みは数少ない兄との繋がりだ。あの時何て来ないのだから
さあ、こんな大切な思い出に無礼に触ってくる奴を叩き潰しに行こう




「こういうのって詐欺か……」
「僕の経験上だと八割詐欺師だが……さて」
 地鉛・要(夢幻の果てにして底・f02609)の呟きに、アリスティアー・ツーハンドソード(王子気取りの両手剣・f19551)は手のひらサイズの槍を作り出しながら、そう答えた。両手剣の姿のアリスティアーには、当然だが手はない。なので、参考にしたのはノア・サテライト(因果巡り・f22154)の手のひらだ。『男性の要の手のひらでは、女性のノアには大きすぎると感じてしまうかもしれないからね』と、彼女がヒトの身を持っていたら王子様ウインクでもしていたかもしれない。
「さあ、二人とも。僕を持ってくれないか」
 何せ、全身両手剣。一人で動くことが出来ないアリスティアーは二人に槍を渡し終えると、槍を手にしていない方の手で持ち上げてもらう。
 備えは確実に。
 刃は鋭く研ぎ澄まし。
 強い心を持って。
 ずしりと重みのあるアリスティアーを手に、星海を行く。

 暫く歩いた頃、異変が現れたのだろう。歩いていた要の足が止まり、それに合わせてノアも歩みを止める。不思議に思う間もなく、ノアにも足を止めさせる原因が視えたのだろう。どうしたのと要へと問う声は零れなかった。それはまた、二人の間で握られているアリスティアーにも言えることだ。
「二人は何が見えてる?」
「……視える。二人はどうだ? 何が見える? 俺には……」
 要の視界には、『最悪』が広がっていた。地面は血を吸ってようにドス黒く、そして肉片が散らばっている。星海の道に匂いなんてなかったはずなのに、血生臭い嫌な臭いが鼻腔を突く。
 そして要は、殺した兄を引きずっていた。
 視線を下に降ろせば、確かに兄が居る。槍とアリスティアーを手にしていた筈なのに、殺した兄を引きずっている。
(ああ、これは)
 あの時の、『あの時こうすれば』という悩みだ。あの時能力が目覚めなければ俺は死んでたし、兄もいずれ死んでいた。それはもう知っている。この悩みは数少ない兄との繋がりだ。
 両手の存在を思い出す。強く握れば槍が食い込むだろう。要はそれでも構わない。

「――僕は一面血の海さ、殺されたアリスのね」
 アリスティアーの視界もまた、血の海であった。
 救うことが出来ず、死んでいったアリスたち。
 元々はただの剣であったアリスティアーは、謂わば殺しの道具。敵を屠るための、殺人の道具だ。
 沢山の血を浴びて、吸って。担い手たちの願望を叶えてきた。
 そして――担い手を守れなかった、アリスティアー。
 アリスたちの涙を救う手も持たず、ただ斬ることのみしか出来ぬ身体。
 ――そんな僕が、アリスたちを救う資格があるのか。
 何度も自身に問う言葉。何度も何度も自身に問いかけては悩み続けている。
 それでも前に進んでアリスたちを救おうとするのは、この惨劇の記憶があるからだ。こんな景色を二度と見たくない。いや、こんな景色を二度と作ってはならない。
 アリスたちを、必ず救ってみせよう。自分という剣に誓って。
(この悩みを解消する気はない。矛盾を抱えているからこそ僕は剣であり王子であるのだから)
 この惨劇を忘れぬためにも、幻が消えるまでただ見つめていた。

「ティア、要。僕には故郷の者達が見えているね」
 ノアの前に居る、故郷の――隠れ里の者たち。ノアの肉親や一族の者たちだ。
『お前は出来損ないだ』
『一族の恥さらしめ』
『なんて忌々しい』
 次々に、ノアを非難する言葉を投げかける彼等。
 当時のノアだったら、どう思ったことだろう。言葉のひとつひとつに傷ついただろうか。悲しんだだろうか。――けれど、今のノアは違う。
 ――ああ、うるさい。
(これが僕の悩み?)
 なんだこんなもんか、とさえ思う。
 いくら非難の言葉を浴びせてこようとも、心にまるで響かない。
(はあ、過去が出しゃばるな。悪趣味な奴め)
 幻はすぐに消えるものだが、それを待つまでもない。ぶっ壊そう。
 これしきで僕が挫けると思っているのか?

✦.   ✦.
 ✦.

 それぞれの悩みの幻が消えた後、まず口から零れたのはため息だった。
「ティア、要、行こう」
「ああ……」
「そうだね、行こうか」
 あまり手荒に扱わないでおくれよ。なんて、冗談を言って。
 三人は星海の夜道を歩いていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


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雨野・雲珠
しっかり前を見て進みます。
光の先に、角に花を咲かせた大きな鹿を見るかもしれません。
不安も祈りも全てこの「彼」由来ですが当然です、
俺のすべて、俺のかみさまですから。
あのひとの居場所をもう一度作るのが俺の目標。

ですから、星導宮さまの存在は同業者という認識が近いでしょうか?
信仰と経営者が掛け合わされると
ブラック企業が生まれる、この最悪な仕組み!
これだから信じる者と書いて儲かるなんて言われるんです、
迷惑なのでぜひとも阻止したい。

とはいえ。慰めと安堵を与えてもらった学生さんたちは、
きっと心底『彼女』の側にいたいことでしょう。
…それもわかります。
日常に戻ることが辛くないように、お助けできればいいんですが。




 瞬く数多の星の光の中、雨野・雲珠(慚愧・f22865)は惑うことなく真っ直ぐに、しっかりと前だけを見つめて歩み行く。
 雲珠には、視えてしまうものへの心当たりがあった。不安も祈りも全て『彼』が由来なのだから、視えない方がおかしい。それくらい、雲珠にとっては当然のことだった。
 雲珠にとって『星導宮さま』という存在は、同業者という認識が近い。
 しかし、同業者であったとしても、内実は全く違う。あちらはブラック企業で、こちらは由緒正しき神を祀っている。そう、雲珠は考えている。
 信仰に経営が掛け合わさると、どうしても金銭が生じてしまう。金銭無くしてはお社の補修は出来ないし、神が心地よく過ごす場を整えることもできない。ましてや再興を夢見る雲珠にとってもそれは必要だし、重要なのは解っている。けれど、巻き上げて良いものでもないし、正しい信心から得ねばならないものだ。
 なのに、大抵のブラックな教団というものは信心を利用して儲けを得ようとするのだ。
(これだから信じる者と書いて儲かるなんて言われるんです)
 純粋な信心を利用することも、そうすることで他もそうなのだろうと疑われるようになることも。どちらにせよ、迷惑でしかない。
 阻止せねば、と思う。
 けれど、『彼女』に救われた学生たちが居るのもまた事実。それも、解っていた。
 そして心底、彼女の側にいたいことも。

✦.   ✦.
 ✦.
 ああ、彼が居ます。
 光の先に居る彼は、角に花を咲かせた大きな鹿の姿。
 雄々しく、壮大で、美しいその姿。
 俺のすべて。俺のかみさまが、そこに居ました。
 俺のかみさまの居場所は、今は失われてしまっています。
 あのひとの居場所を、もう一度作るのが俺の目標。
 けれど、あのひとが気に入ってくれるような場所を、俺は作れるのでしょうか。
 ✦.
✦.   ✦.

 彼が、消え。浮き上がるのは、落胆。
 深く息を吐いて、しっかりと前を見据える。
 やらねばならないことがある。助けねばならない存在がある。
 しっかりと前を見てぐっと拳を握りしめ、また歩み始めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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ノイ・フォルミード
【こととい】

本当に天地全てが星空のようだ
供がランプというのも、乙じゃあないかい?
悩みがなくても来たくなってしまうね

私の悩み、は

ああ、ほほ笑んでいる「彼女」がいる

会えなくなって
再会した時には話す事も笑う事もしなくなった君

寝ているのかな?いつ起きるのだろう?
前のようにケーキを振舞える日は来るのだろうか
それとも
ぼくは何かを間違えているのだろうか

ふと気づけば再びの煌めきのなか
……ああ、これが

紀昌君、きみは何を幻に見たのだろう
ちらと隣を見やって
無理に聞きだすような事はしないけれど
ほほえみ返せないかわりに頷いて

そうだ、共に先を進もう
どうやら私、こうやって言葉を交わしながら歩むのは存外好きなようだ


弓塚・紀昌

【こととい】
こりゃ綺麗なもんだ。星海を歩くとは正にこういうことを言うのでありやしょう。ノイの旦那とのんびり星の話でもしながら歩きやす

悩みでありやすか。……悩みねぇ

一寸先さえ見えぬ暗き闇が目の前に広がって
あぁ…風の音が聞こえる。いつも心で吹いているそれが……。

何も無い

それがあたしの悩み。本に何を求めているか。何がしたいのか。分からぬから惰性のままに旅をして。

かかっ!そんなこたぁとうの昔に知っていやすとも。えぇ…知っていやしたとも。
煙管に火を付けて煙をふうっと吐くと暗闇が消えていく

なんとも無いと言うように笑いかけ再び歩みを進める
となりに誰かがいるというのは何とも心強いことかと噛み締めて




 見上げても、見上げなくとも。天も地も無く星空で。
「こりゃ綺麗なもんだ」
 足を降ろしたら最後、どこまでも落ちていきやしないかとの懸念は最初の数歩で霧散した。何処を見ても星空なのに、ついつい見上げてしまうのは日頃の習性故だろうか。そんな事を考えながら弓塚・紀昌(サスライビト・f16943)は星海を歩きながら隣を見れば共に並んで歩いているノイ・フォルミード(恋煩いのスケアクロウ・f21803)もまた天を見上げていて、喉がくつりと楽しげに鳴った。
「供がランプというのも、乙じゃあないかい?」
「線香や蝋燭よりはよっぽど」
「違いないね」
 発する機械音声に笑みの気配を漂わせるノイ。こんなに綺麗な場所ならば、悩みがなくても来たくなってしまいそうだ。心を落ち着けるためにも、自分を見つめ直すためにももってこいの場所だろう。――だからこそ、オブリビオンが利用しているのかもしれないが。
 星の囁きを邪魔しない程度に会話を交わす二人だが、暫く歩く内に自然と口数が少なくなる。
(悩みでありやすか。……悩みねぇ)
 『視える』、と。そう言われたものへと自然と意識が向かってしまうせいだ。

(――私の悩み、は)

✦.   ✦.
 ✦.
 ――ああ、ほほ笑んでいる『彼女』がいる。
 会えなくなり、再会した時には話す事も笑う事もしなくなった君。
 その君がほほ笑んで、目の前にいる。
 唇は笑みのまま瞳を閉ざしている君の眸が開くのを、ぼくはずっと待っていた。
 寝ているのかな? いつ起きるのだろう?
 そうだ。君は体が弱かったね。
 君が起きた時のために楽しい話を用意しておくべきだろうか。
 前のようにケーキを振舞える日は来るのだろうか。
 ぼくが作ったケーキを食べて、おいしいと笑ってくれるだろうか。

 それとも――ぼくは何かを間違えているのだろうか。
 ねえ、君――。   。
 ✦.
✦.   ✦.

 電源が入れられたように、フッと視界が開けていく。
「……ああ、これが」
 再びの星々の煌きの中、ノイは小さく言葉を零していた。

✦.   ✦.
 ✦.
 あぁ……風の音が聞こえる。いつも心で吹いているそれが……。
 凪いだ海を駆けるような、何もない草原を駆けるような、それが。
 けれど、暗闇に目を凝らすように見つめたって、何にも見えてこやしない。
 ――そう。何も、無い。
 それがあたしの悩み。
 本に何を求めているか。何がしたいのか。分からぬから惰性のままに旅をして。
 風の吹くまま気の向くままって言やぁ粋なようにも聞こえやすが、本にあたしには何も無い。地に根を張ることも出来ねぇ根無し草。それがこの、あたし。
 かかっ! そんなこたぁとうの昔に知っていやすとも。
 えぇ……知っていやしたとも。
 ✦.
✦.   ✦.

 ふうぅ。
 細く長く息を吐き、隣の男が幻を煙に巻く。
(紀昌君、きみは何を幻に見たのだろう)
 紫煙を吐く紀昌の姿をちらと覗えば、深い笑みが返ってくる。
 けれど、それだけで充分だ。お互いに、何かが見えたのだ。
 笑みを返せぬブリキの案山子は、言葉を掛けず、頷きだけを返すに留めた。
「さ、行きやしょう」
「そうだ、共に先を進もう」
 三度笠を抑えて一度深く被り直し、歩を進めだした紀昌を追って隣に並んで。
 隣に、誰かがいる。
 二人の関係は、まだこれからで。
 けれどそれでも、敵ではない誰かが隣に居るというのは何とも心強い。
(――ああ)
 ノイは、心中で小さく息を吐く。
(どうやら私、こうやって言葉を交わしながら歩むのは存外好きなようだ)
 こうして出掛けて知る、新しい自分。出掛けねば知れなかった、自分。
 言葉を交わし、思いを伝えあい、肩を並べ、ふたりは星の夜道を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.
ジークリンデ・ドラグナー
♢♡POW

たまには仕事もしないとねぇ
星明りが照らす道を歩く

アルダワの迷宮に来た事は恐らくある
身体が何となくだが覚えているのだ
しかし自身の記憶には無い。だから
この迷宮ならば失くした記憶を
取り戻す事が出来るかもしれない

私の悩みはねぇ、何故記憶が無いのか
失くした記憶には一体何があるのか
やがて見えてきた幻は、戦場
こことは違う迷宮、対峙しているのは誰?

――ああ、これが失くした記憶なのねぇ
さて……進むべき道は星が示してくれる
なら少しだけ、私の過去を覗いていこうかしらねぇ

――違うわ、迷宮を作った時に、私がいた
災魔を封じた時代、それが私の失くした記憶
そして今の時代に飛ばされた、と……

……あれが出口、かしら?




 星あかりが照らす道を、ジークリンデ・ドラグナー(ヴァリアント・f20319)はひとり、歩いていく。
 こうして迷宮内を歩くと、何となくだが身体が『覚えている』気がする。
(アルダワの迷宮には来た事があるのかしらねぇ)
 ジークリンデには、自身の記憶がない。
 けれど何かが視えると言うのならば、もしかしたら失った記憶の手がかりがあるかもしれない。全てを取り戻すことは出来なくとも、その取っ掛かりとなるものでも見つけられたら。
 まさしく、星に祈り、星に頼り。女は歩を進めた。

✦.   ✦.
 ✦.
 星あかりの向こうに、何かが見えてきた。
 ――あれは、戦場?
 こことは違う迷宮。それも戦いの跡のある場所で、過去の私が誰かと対峙している。
 それが誰なのかも、今の私には知る手立てがない。
 私の悩みはねぇ、『何故記憶が無いのか』。その悩みを幻が見せたとしたら、私が記憶を探したり記憶が無いことに焦りを感じたり探すべく奔走する姿を映していたことだろう。
 けれど、そうではなかった。
 ならば、これは――何?
 過去の私の悩みなのだろうか。
 ――ああ、これが失くした記憶なのねぇ。
 幻は、見るだけ見たら消えるらしい。それなら少しだけ、私の過去を覗いていこうかしらねぇ。何故私が記憶を失ったのか分かるかもしれないし。

 幻は、切り替わりながら映し出される。
 過去の私。過去の迷宮。全体的に、とても古そうに視える。
 封じられる災魔。
 私の身に、何かが起きる。
 ✦.
✦.   ✦.

 そうして唐突に、照明の電気をオフにしたように、幻はかき消えた。
(――迷宮を作った時に、私がいた?)
 災魔を封じた時代に生きていたジークリンデが今の時代に飛ばされ、その過程でジークリンデは記憶を失ったのだろうか……?
 そして、それに関わる何かで、過去のジークリンデは悩んでいたのだろう。
「……あれが出口、かしら?」
 夜が明けるように、星の道の向こうが開いている。
 ジークリンデは疑問を抱えたまま、夜空の道を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​


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ミラリア・レリクストゥラ
悩みの対価に、心を縛るなんて…それは、未来も一緒に奪う卑劣な行為です!

【WIZ】

星空の迷宮…地下にこれだけ壮大な景色を作り出せるなんて、錬金術って凄いですね…
このランプも、ただの火の輝きじゃないですし…あら?

……まあ。
今朝の宿の、食卓ですね…こんな所にある筈はありませんし。伝えていただいた幻ですね?

…そうでしたね。食事は必要無い事をお伝えし忘れたので、朝食に余分を出してしまい…
いつも、困った顔をさせてしまいます。人数として数えられても、物の用意をズレさせてしまう。
……私も、困った顔になってしまいます。

【宝石の体】では仕方ない事なのですが…まだ、割り切れていないんですね。私。




 煌々と輝く星々は満天に。
 空に同じ星がないように、この星空の夜道の迷宮にも同じ星はないのだろう。遠く近く、灯る強さも違う様々な星を見上げれば感嘆してしまう。地下にこれだけ壮大な景色を作り出せる錬金術の何とすごいことか。
 けれど同時に、ミラリア・レリクストゥラ(目覚めの唄の尖晶石・f21929)は憤る。この美しい景色を利用して悩みを暴き、そして悩みの対価に心を縛る。……それは、未来も一緒に奪うなんとも卑劣な行為だ。
 早く正すべきだと、ミラリアは出口へ向けて星あかりのランプとともに星空の中。
 しかし闇雲に歩き続けても出口には到着できないのだから、今は星々と錬金術の素晴らしさを胸にこのひとときを楽しむことも忘れない。
「本当にすごい星々……。このランプもただの火の輝きじゃないですし……あら?」
 手にしたランプを掲げ見れば、中央でチカチカと輝く星の中に何かがふわりと見えてきた。

✦.   ✦.
 ✦.
 ……まあ。これは今朝の宿の、食卓ですね……。
 黄色の卵色はふわふわのスクランブルエッグ。きつね色の焦げ目を付けたハムにソーセージ。朝採りのレタスなのでしょうか、瑞々しい野菜に黄金色のドレッシング。ふかふかのパンも焼きたてなのでしょう、温かな湯気とバターと小麦の良い香りがしています。
 宿屋の方はそれらをテーブルへと並べ、私に向かって明るい笑顔を向けられます。
「おはようございます、朝食の準備が出来ていますよ」
 ……そうでしたね。食事は必要無い事をお伝えし忘れてしまったのでした。
 余分を出すことになってしまい大変申し訳ないのですが、私は不要の旨を伝えます。すると宿の方は、頬に手を当て困った顔をされました。小さく「どうしよう」と呟かれている声が聞こえてきます。
 幻の、今朝の私もまた、困った顔をしました。
 いつも私は、こうして宿の方を困った顔にさせてしまうのです。人数として数えられても、物の用意をズレさせてしまう。宝石の身体の私たちは星海の世界でも希少民族であり、ましてや他の世界の方に私たちの種へ馴染みがないのは当然です。
 優しい宿の方は私が伝え忘れていたというのに、気になさらないでと言ってくださいます。
 それでも、私は……。
 ✦.
✦.   ✦.

 ぱちりと瞬けば、幻は消え。
 ミラリアはひとりで星海の中に立ち尽くしていた。
「……まだ、割り切れていないんですね。私」
 ため息とともに小さな声を零し、ミラリアはその場を後にする。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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ナターシャ・フォーサイス
WIZ
道を示す方ですか。
それが哀れな魂とはいえ、志は近いのでしょう。
一度お会いしたいものです。
…私も、使徒の責を果たさねばなりませんが。

行き先は星の灯が導いてくださるでしょう。
私の悩みは…なんなのでしょう。
皆を楽園への道行きへ導くことに迷いはないはずですが。
幾度となく導き、されど未だ見ることの叶わぬ楽園への興味でしょうか。
或いは責を果たすため不要と捨てた記憶でしょうか。
後者は個の優先、褒められたものではないのですが。
前にも、似たことはあったはずですが…

…それにしても。
切り捨てたはずの記憶、なのに扉を叩くこの感覚は一体…
…聖堂、啓示、手術室。
いけませんね、少々迷いが生まれてしまったようです。




 白い法衣に身を包んだ少女――ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は星海を往く。
「道を示す方ですか」
 所属する場所や導く場所は違えど、ナターシャの志と近いのだろう。
 一度お会いしたい。そうして言葉を交わしてみたい。
「それにしても……」
 私の悩みは、なんなのでしょう。
 迷いなど、悩みなど、ないはずなのに。

✦.   ✦.
 ✦.
 ふわり、と。星の灯りが霞んだように、私の周囲が朧気になりました。
 手を伸ばしてみても、私の指の先がよく見えません。
 どうしたのでしょうか。皆を楽園への道行きへ導くことに迷いが生じているのでしょうか。――いいえ、迷いなどないはずです。この身体が、信仰心が、いつだって導いてくれるのです。
 幾度となく導き、されど未だ見ることの叶わぬ楽園への興味でしょうか。或いは責を果たすため不要と捨てた記憶への未練……後者は個の優先、褒められたものではないのですが。
 前にも似たことはあったはずですが……私は思い出せません。
 頭が、少し痛みます。不安も、迷いも、悩みも、ないはずなのに。
 薄靄の中、私は歩いていきます。コツリコツリと鳴る靴音がやけに大きく感じる中見えてくるのは――。
 ……聖堂、啓示、手術室。
 切り捨てたはずの記憶の断片なのでしょうか。
 ああ、自らの意思で捨てたもののはずなのに。
 扉を叩くこの感覚は一体なんなのでしょうか……。
 ✦.
✦.   ✦.

 手に残る、微かな感覚。
 ――ああ、これが私の。
 僅かな感傷とともに視線を降ろして。
「いけませんね、少々迷いが生まれてしまったようです」
 顔を上げた頃にはいつもの柔らかな笑みを浮かべ、ナターシャは歩き出す。

 私はナターシャ・フォーサイス。
 人々を楽園へ導くため、記憶も身体も捨てた者。
 楽園への道行きに、迷いなどありません。
 さあ、使徒の責を果たしましょう。

成功 🔵​🔵​🔴​


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御園・ゆず
天の星はヒトを導いてくれるけれど
願いを掛けても叶えてくれないのを知っている

ふわふわ、夢心地で通る
これは現実か幻か

わたしの、悩み
ランプに映るは
虐められる『日常』と
その『日常』を守る『埒外としての日常』
日々を送る普通の『日常』はとても辛くて苦しいもので
『埒外』の仲間と過ごす日々は優しく穏やか
唾棄すべき『日常』を守る為にわたしは『日常』から離れて行く
優しい『埒外』の仲間は好きだけど
このチカラは好きになれなくて
だって、普通と違う、『埒外』だから
普通が良かった
優しい時間を知らずにいれば、辛い時間も耐えられた
…今は、落差が辛い

二律背反
板挟み
辛い、苦しい

わたしは、何のために戦うの?




 天の星はヒトを導いてくれる。けれど、いくら願いを掛けたって、いくら切実に祈ったって、何にも叶えてくれない事を御園・ゆず(群像劇・f19168)は知っていた。
 手を伸ばしたって届かないことも知っている。高いところで、ゆずには関係ない遠い場所で、ただ光っているだけなのだから。
 星を見上げながら、ふわふわと夢見心地でゆずは星海の夜道を歩み往く。ゆずの『日常』と違う場所は既に幻のように思え、本当に現実なのだろうかと疑わしく思えてくる。けれど、星空の中にいるように見えるのに、足はしっかりと地面の感触を伝えてきていた。
 星あかりを宿したランプを覗き込む。
 中央には火ではない光が、ちか、ちか。
 小さな星が、ゆずに話しかけるように瞬いていた。

✦.   ✦.
 ✦.
 唐突に、いつもの『日常』が始まった。
 中学校の、狭い教室で、校舎の裏で。わたしを虐めてくるみんな。
 暴言を吐かれても、わたしは困ったように眉を寄せるだけ。「やめて!」なんて言わない。嵐が過ぎ去るのを待つように、辛くて苦しい気持ちを抱えながら、ただじっと背を丸めて耐え過ごす。
 学校を――日常を終え、わたしはその日常を護る『埒外としての日常』の生活を送る。日々送っている日常と違い、『埒外』の仲間と過ごす時間は優しく穏やか。
 埒外の仲間は、みんな優しくて大好き。
 みんなわたしと『いっしょ』。……わたしはこのチカラは好きではないけど。
 だって、『普通』と違う。わたしは普通が良かった。

 普通じゃないチカラを使って、日常を守る。その度わたしは日常から離れていく。
 普通が良かった。普通になりたかった。
 ――二律背反。
 ――板挟み。
 ――辛い、苦しい。
 埒外のチカラがなくて、優しい時間を知らずにいれば、辛い時間も耐えられたのに。
 日常と埒外の落差が激しくて、それがとても辛く苦しくて。
 ――わたしは、何のために戦うの?
 お願い、教えて。どうすればいいの。
 ✦.
✦.   ✦.

 それでもヒトは、いつだって願いを掛けるし、祈るし、手を伸ばす。
 暗闇の底にいるからこそ、その光が眩しくて。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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リル・ルリ
■バレーナ/f06626


星の道を游ぐなんて綺麗だねバレーナ
君の白によく映える
星空を游ぐのは好きなんだ
微笑んでくるり尾鰭翻す
灯すランプは薄紅色
確か君も桜が好きだったよねと微笑んで
ランプの光に浮かぶ姿に息を飲む

悩みなんて
そう
尾鰭が破れやすいとかそういう……と思ってた

見えたのは
7つ位の黒髪羅刹の少年
ツリ目な桜の瞳が―よく似てる
子ども……家族
僕には家族がいない
家族の絆がわからない
母の愛も父の愛もしらない

どうすればいいのか
わからない
戀以外の愛のカタチ
ヨルとは違う
友達とも違う
どう受け入れればいい?どう愛せばいい?
そう悩む僕は薄情なんだろうか

幻の先にバレーナを見つけて
曖昧に微笑む
君は、知っているんだろうか


バレーナ・クレールドリュンヌ
リル(f10762)と


星巡りの道を二人で進むと、星明かりのランプの灯りに目を奪われて、いつの間にかすぐ側にいるはずのリルの姿が。

でも、その姿は初めて湖に沈んだ街であった時のもの。
誘う歌声もあの時のもの。

その時に見えてくる悩みの正体は、彼を好きになってしまった初めての恋心。
でもそれは叶わない恋。

それをリルに打ち明けたら、どんな表情をするかしら?
わたしは、彼にとってどんな人としてリルの側にいるべきなのか……。
愛情と親愛の念を抱いたまま、この曖昧な距離を持て余しながら。

やがて幻の先で、本当のリルの姿を見つけた時、どうするべきなのかしら。
リルのどこか曖昧な微笑みは、わたしの迷いの色を写しているよう。




 ふたりの人魚は、星海を游ぐ。
「星の道を游ぐなんて綺麗だね、バレーナ」
 暗い暗い星空の道。真っ暗闇だからだろうか、ふたりの白い尾鰭がとても映えていた。
 星空を游ぐのが好きだとリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)が零せば、わたしもとバレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)が答えて。いっしょだねと楽しげにくすくす微笑いあう。
 星あかりのなか、迷ってしまわないように。はぐれてもこの灯りを目印に集えるように。リルが手にするのは薄紅桜の灯りを燈すランプ。その色は、お互いに好きな色だ。きっと、いいや、絶対に。暗い星海で迷ったとしても灯りを頼りに、お互いの歌を頼りに、出会えるだろう。あの日のように。
「ほら、見て。とっても綺麗な色だよ」
「ほんと。ふふ、桜色ね」
 あなたとわたしの大好きな。
 リルが掲げたランプを二人で見つめ、そして――。

✦.   ✦.
 ✦.
 僕は、思わず息を飲んだ。
 目の前に、黒髪の羅刹の少年が居たからだ。
 ツリ目がちな桜の瞳が――『彼』とよく似ている、僕よりも小さな子供。
 そう、子供、なんだ。心を糸で結んだ戀の果て、その結晶で芽生えた息吹。
 彼に対して、僕はどう接すればいいのかわからない。僕には家族が居なくて、家族の絆はわからないから。母の愛も父の愛も知らない、から。彼も交えて家族になろう、なんて。とても、言えない。
 どうすればいいのか、わからない。
 戀以外の愛のカタチ。――親愛とか友愛とか、そう言うらしい。けれど彼は、ヨルとは違う。友達とも違う。僕に優しくしてくれる、好きな人たちともまた違う。
 羅刹の少年が、僕を真っ直ぐに見てくる。
 真っ直ぐに、真っ直ぐに。
 君をどう受け入れればいいのか、どう愛せばいいのかわからない僕を見つめてくる。
 ✦.
✦.   ✦.

 ――薄情なんだろうか。
 ため息が、零れる。零れて、しまう。
 悩みなんて、尾鰭が破れやすいとか、料理が上手に作れないとか、ヨルが隠しておいたお菓子を食べちゃうだとか……そういうものかと思っていた。
 けれど視えてしまったものは全然違って……ため息が、もうひとつ零れてしまう。
 そうして心を少し落ち着かせると隣の存在を思い出し、視線を向けた。

✦.   ✦.
 ✦.
 歌が、聞こえたの。
 直ぐ側にいるリルが歌った。そう、思ったわ。
 けれど、違った。
 その姿は初めて湖に沈んだ街であった時のもの。誘う歌声もあの時のもの。
 ――ああ。これが、わたしの悩み。
 あの日、あの時。彼を好きになってしまったわたしの初めての恋心。叶わない恋だと知りながら、捨てることも出来ない淡い恋。泡沫となって消えることの出来ない身で、王子様に恋をしてしまったの。
 お姫様と呼んでくれた彼が触れた手の感触を、今でも思い出せるわ。
 きっとリルは、この想いに気付いていない。友達としてわたしを大切にしてくれているもの。そんな彼にこの想いを打ち明けたら、どんな表情をするかしら?
 打ち明けても、側にいられるのかしら。変わらぬ態度で接してくれるのかしら。
 わたしは、彼にとってどんな人として側にいるべきなのかしら。
 愛情と親愛の念を抱えたまま、曖昧な距離のままでいればいいのかしら。

 わたしの目の前で、あの日の姿の彼はまだ歌い続けている。
 ――ねえ、王子様。教えて。
 ✦.
✦.   ✦.

 ぱちん。
 水泡のように、幻が消える。
 けれどその先に居るのは、幻ではない本物のリル。幻よりも煌めいて見えるのは、今尚彼に心を寄せているから。
 幻が消えたのはリルの方が僅かに先立ったのだろう。ゆっくりとした仕草でバレーナを振り返るリルの顔には、曖昧な微笑が浮かんでいて。
(――ああ)
 微笑に映るその色は、わたしの迷いの色のよう。
「行こう、バレーナ」
「ええ……」
 ふたりの人魚はそれぞれの想いを胸に、星海を游いでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.
朧・蒼夜
【藤桜】

暗い夜道、星あかりは導いてくれる
咲夜大丈夫かい?
この手を離したりはしない

何処からか囁きが聞こえる
このまま連れ去れば彼女は君のモノだよ?
好きなんだろ?
囁きに気にする事無く歩みを止めない

初めて会ったあの日に彼女の笑顔に心を奪われた
でも次の瞬間彼女の気持ちは他の方へと向いている事も知った

笑顔の向こうに許されない恋に悩み苦しみ涙を流す
俺は彼女の笑顔が好きだ
その時俺は誓った
例え一番になれなくてもいい
傍にいれるのなら

握った彼女の手が震え哀しみの表情を浮かべている
彼を想っているのだろうか?それとも…
優しく強く握り返す
咲夜大丈夫だよ。いつも傍にいるから
と笑顔で語る

そう俺は彼女の笑顔を護る騎士なのだから


東雲・咲夜
【藤桜】
瞬く遠星の命灯を結び渡って
ねえ…そうくん
何があっても、此の手を放さんといて――

夜穹に、溟海に、視える…
うちの、わたしの、心の姿が
囁く聲が、

此の侭見えない振りをするの?
彼の気持ちを知っているんでしょう?

ええ…ええ、気付かない筈があらへん
此の甘く芳しい温もりに秘められた想い
ずっとずぅっと解っていたの

せやけど弱いわたしは手放せへんかった
わたしだけを見てくれはる貴方と居る事で
此処に在ってええんやと、思えたから

此の世に断じて赦されへん弟との恋情
何時しか狂ったわたしたちの往き場は容さえ失くし
貴方という枝に翼を休める事で息を得た

堪忍…堪忍よ、そうくん
それでもうちは貴方がいとしい
喩え、愛せなくても――




 桜の天女と藤騎士は、瞬く遠星の命灯を結び渡る。
 幼馴染の手のひらの熱を確かに感じながら、星海の中へと歩を進め。
 まことの星であったならば、兄弟星でさえ遠い距離。星の逢瀬は大変そう。けれど衛星ならばどうだろう。衛星ならば、会える距離なのだろうか。と話しながら踏み入れた星空の夜道。
「ねえ……そうくん」
「咲夜、大丈夫かい?」
 言葉を切った東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)の声が不安げに揺れていたから。彼女に騎士の誓いを立てている朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)は彼女を気遣って。
 躊躇って、いるのだろう。幾度か言いよどむ気配の後、咲夜は口を開いた。
「何があっても、此の手を放さんといて――」
 切なる願いに応えるのは、いつだって落ち着かせてくれる優しい声。
「ああ、この手を離したりはしない」
 ふたりは手を握りあい、衛星のように寄り添い合って夜穹を歩いた。

✦.   ✦.
 ✦.
 溟海に、星の瞬きの先に、ぼんやりと。
 視える姿は、うちの――わたしの、心の姿。
『此の侭見えない振りをするの?』
 わたしが、そう、囁く。
『彼の気持ちを知っているんでしょう?』
 わたしが、わたしを責め立てる。
 ――ええ……ええ、知っとりました。気付かない筈があらへん。
 暖かな温もりの中に、秘められた想いがあることを。ずっとずぅっと知っていて、解っていて、わたしは応えずにいたの。気付かない振りをしていたの。彼が直接言葉にしないことに、甘えていたの。
 弱いわたしは貴方を手放せへんかった。貴方はわたしだけを見てくれる。貴方と居ることで、此処にあってもええ。そう、思えたから。
 此の世の理では断じて赦されへん、弟との恋情。いけないことだと解っていても、恋に狂ったわたしたちの想いは止められず。往き場は容さえ失くし、貴方という枝に翼を休める事で息を得たの。
 大好き。大好きで優しくていとしい幼馴染みの貴方。
 けれど、貴方の気持ちには応えられない。
 それでも。愛情の種類が違っても、うちは貴方のことがいとしい。
 喩え、愛せなくても――うちの傍に居て。離れないで。
 そう、願ってしまうんよ。
 ✦.
✦.   ✦.

(――堪忍……堪忍よ、そうくん)
 なんて、酷いのだろうか。美しいと、綺麗だと。蒼夜は咲夜を褒めてくれる。
 けれど咲夜の胸の裡は――恋慕と愛情と執着と……。
 心の湖に、澱が溜まっていく。
 巫女として、いつでも清水を湛えていなくてはならない場所に。
 それでも、うちは――弟を愛することをやめられない。

✦.   ✦.
 ✦.
 囁きが、聞こえる。
『このまま連れ去れば彼女は君のモノだよ?』
 けれど俺は気にせず、彼女の手を引いたまま歩いていく。
 歩みを止めない。止める気もない。
『好きなんだろ?』
 そうだ。初めて会ったあの日に、彼女の笑顔に心を奪われた。しかし次の瞬間、彼女の気持ちが他へ向いている事も知った。
 あの日から、長い時が過ぎている。その間に、何度も心の奥底が囁いた。その度、否定した。離れるには過ごす年月は長く、諦めるには近すぎて。幾度と無く心が惑う。
 けれど俺は誓った。大好きな彼女の笑顔を護る騎士になる、と。
 何度も誓って、心に刻んできた。
 美しい笑顔の向こうに、赦されない恋に苦悩して涙を流す彼女。
 彼女の笑顔を護るためならば、この身は剣にも盾にもなろう。
 ――離れないで。一番にそう願っているのは、俺なのかもしれない。
 君が許してくれる限り、いつまでも君の傍に在り続けたいんだ。
 ✦.
✦.   ✦.

 握った咲夜の手が震えている。その横顔は、とても悲しげで。深い悲しみを湛えた湖を決壊させぬように、零れ落ちそうになる涙を懸命に堪えている。
(彼を想っているのだろうか?)
 それとも……。
 自分のことを想ってくれているように、思えた。愛おしい幼馴染はとても優しいから。自責の念で板挟みになってしまっているのではないだろうか。
 離さないでと請われた手を、優しく強く握り返す。
「咲夜、大丈夫だよ。いつも傍にいるから」
 俺は彼女の笑顔を護る騎士。
 天女の涙を晴らせるように、優しい笑みを咲夜へと向ける。
(――例え一番になれなくてもいい。傍に居られるのなら)
 君の笑顔を傍で見られるのなら、それだけでいい。

 星空の夜道に雫がぽたり、一粒落ちた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.
誘名・櫻宵


星空の海を歩くのも浪漫ね!
優しい桜のランプの光があたたかくて角から翼から零れた桜が星と混じりなお美しい
真っ暗な道を導かれながら進んでいるみたい

天の川を歩く
花あかりの中に揺らぐのは透き通った青
――水
悩みと言うなら
なぜあたしは泳げないのかしら
人魚の恋人なのに情けない

父は誇り高き青龍、母は八岐大蛇の血を引く巫女…2人から生まれた私
決して水と相性が悪いわけではないはず
真なる桜龍の姿になれば泳げるのに

小さい頃に水の中に幾度となく投げ込まれたから?
溺れかけて苦しんだから?
……違う
水中に留まっていると
己の中から何か恐ろしいものが…なんて考えても仕方ないわ
練習しなきゃ…
星がこんなにも綺麗

だからきっと大丈夫よ




 星海に、はらり。桜が舞う。
 桜の花弁を咲かせた枝角と花簾の翼から桜を零しながら、高下駄をからりと鳴らし誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は星海の道をいく。持ち込んだ桜花の形をしたランプを手に、星海の中に自身の花弁が混ざるのを振り返っては満足気に見つめて。
「星空の海を歩くのも浪漫ね!」
 柔らかな星の灯りに導かれながら歩むのも、こうして花弁を散らして歩くのも。
 楽しげで軽やかな足取りは暫く続き――。

✦.   ✦.
 ✦.
 足元に水が流れてきた事に気付いたあたしは、水を避けて一歩引いたわ。あたしの履物では簡単に水に足を取られてしまうから。
 何故星海の道に水が――なんて、少し考えれば分かることね。
 ――あたし、思っていたよりも気にしていたのね。
 人魚の恋人なのに、あたしは泳げない。克服は、しようとしている。けれど中々思うようにはいかなくて……。何故泳げないのかしら、自分が情けない。
 誇り高き青龍の父を持ち、八岐大蛇の血を引く巫女の母を持つあたしは、水との相性は決して悪いわけではない。真なる桜龍の姿になれば泳げる。それなのに、ヒトの姿ではそれができない。
 どうして? 小さい頃に水の中に幾度となく投げ込まれたから? それとも、溺れかけて苦しんだから? ……いいえ、違う。
 いつの間にか歩みを止めてしまっていたあたしの足元に、水が流れてきていたわ。下駄にさやさやと当たる水の感触……。段々嵩を増しているのか、下駄の上の足にまで水に浸かってしまいそう。
 ――ざわり。
 足元から、何かが這い上がるような気持ちの悪い感覚。
 何か恐ろしいものが己の中から這い上がり、湧き上がり、そして――。
 ✦.
✦.   ✦.

 ぞくり。
 身を震わせて、櫻宵は逃れるように飛び退いた。
 恐ろしい何かを見たような、恐ろしい夢から覚めたような、そんな顔で。
 そうして見つめた先、先程まで櫻宵が立っていた場所には既に何もない。
「大丈夫、大丈夫よ……」
 零れた声は、泳げるようになる自分を信じての言葉か、それとも――。
「……練習しなきゃ」
 濡れていない足元を確認するように見下ろして。
 顔を上げる頃にはいつもの艶やかな笑みを刷いて、星を見上げる。
 ――きっと、大丈夫よ。
 きらきらと輝く星々だけが見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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花園・スピカ
私が猟兵になった日もこんな綺麗な星が輝く夜でしたね…(星を見上げつつ進む)


「外になんて出たら穢れてしまう!」と持ち主のあの人に閉じ込められていた私
小さな窓から外を眺める日々…ずっと外に出たかった

ある夜窓の外の怪我人を「助けたい」と強く願った瞬間聖なる光を放っていて…数日後学園の方が勧誘に来ました

学園の方と外に出た時あの人は涙を流していました

あの時私は外に出られる事を喜ぶべきだったのか
それともあの人と同じように泣くべきだったのか
あの人が私に向けていたものは本当に『愛情』というものだったのでしょうか

未だ分からずあの人にも顔を合わせられぬまま

…こういう『感情』が分からないのは私が人形だからなのかな…




 満天の星を見上げれば、小さく感嘆のため息が零れる。
 星を見上げながら夜道の迷宮を歩く花園・スピカ(あの星を探しに・f01957)は、自身が猟兵となった日のことを懐かしく思っていた。
 あの日も、こんな風に綺麗な星がたくさん輝く夜だった。そして、星が降る夜だった。あの日と違っているのは星が流れていないことだろうか。
 星飾りの付いたリボンを揺らしながら、星のひとつに混ざりにいくように、スピカは歩む。

✦.   ✦.
 ✦.
 『外になんて出たら穢れてしまう!』
 唐突に聞こえてきた声に、私は星を見上げるのをやめて前方を見つめます。
 そこには――あの人が居ました。私の、持ち主……だった人。
 あの人は私を外に出したがらなかったため、私は外の世界を知らずに過ごし、私の世界はあの人と過ごす場所と小さな窓で切り取られた場所だけでした。額縁のような窓枠の世界――『外』。変わらない室内と違い、日々変化がある外。あの人は駄目だと言っていたけれど、私はずっと外に出てみたいと思っていました。
 しかしそれは、突然、思わぬ形で叶いました。学園の方が、私を勧誘に来たのです。
 学園の方が来た原因は、その数日前の夜のこと。窓の外の怪我人を「助けたい」と強く願った瞬間、私は《聖なる光》を放っていました。結果として私は認められ、外に出たいという願いが叶ったのです。
 けれど、あの日――。
 ああ、あの人が、涙を流しています。
 幻の私は、外に出られる事を喜ぶべきだったのか、あの人と同じように泣くべきだったのかも分からず、学園の方と一緒にあの人の元を去ってしまいます。
 喜ぶべきだったのでしょうか。泣くべきだったのでしょうか。そして、あの人が私に向けていたものは本当に『愛情』というものだったのでしょうか。
 ――その答えには未だ辿り着けていません。
 ✦.
✦.   ✦.

 過去のスピカが立ち去って、幻はふわりと消える。
「……こういう『感情』が分からないのは私が人形だからなのかな……」
 開いた手を見下ろせば、人形の関節が目立つ手。
 あの日のことを悩み続ける人形は、色の違うため息を星海に落とすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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樹神・桜雪
【WIZで判定】※連携・アドリブ歓迎

すごい星空…。ランプの灯りだけが頼りだけど、進めないわけではなさそうだね
ユーベルコードで相棒を呼び出して、道を見てきて貰おうかな。…え、鳥目?お願い、頑張って。
その間に僕は『世界知識』で星の位置を見定めて前に進むね
相棒が帰って来るまで星でも見ていよう
本当にすごい星空だ。吸い込まれてしまいそうになる

(無意識に不安に思うのは『いつか一人になってしまうのではという漠然としたもの』。ずっと一人でいるはずなのに、なぜか不安が拭えずにいます)

帰って来た相棒につつかれて我に返るよ
今のは、なんだったんだろう
……前に進もうか、相棒
ここにいたら、不安で動けなくなりそうだ




「すごい星空……」
 暗闇に、ちかちか星が光る。天と地、そして壁でも瞬く光に、星海に放り出されたように感じてしまうが、足にはしっかりと地面の感触がある。
 星空を見上げて思わず呟いた樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は、《頼りになる隣人》を使用して可愛いシマエナガたちを呼び出した。
「それじゃあ相棒、よろしくね」
 道を見てきて。
 そう願う桜雪だったが、雪のように白い鳥たちはチチチと鳴いて抗議をしている様子。
「……え、鳥目? お願い、頑張って」
 動物と話せる訳ではないが、この小さな相棒たちとは長い付き合いだ。信頼しているからねと声を掛け、シマエナガたちを飛び立たせた。一斉に40羽近い白いシマエナガたちが飛び立てば、辺りに星が増えたよう。……早速何羽か壁にぶつかって落ちる音がした。
 相棒たちを見送って、桜雪は星を見上げる。知っている星はないかとじっくり見てみるが、不思議なことにそれがひとつも無い。ここは地下の迷宮で本物の星空ではないことを思い出した桜雪は、相棒が帰って来るまでのんびりと星でも見ていることにした。
 こんなにすごい星空が広がっているのに、本物じゃないなんて。
 吸い込まれそうな星の輝きに、桜雪は感嘆のため息を零すのだった。

✦.   ✦.
 ✦.
 星の中、ふわりと白い何かが見えてくる。
 ふわふわのシマエナガたちにボクは囲まれていた。
「あれ? 相棒、もう戻ったのかい?」
 えらいねと頭を撫でようと手を伸ばす。
 けれど相棒の姿がふわりと消えて、ボクの手は空を切った。
 ――あれ?
 不思議そうに、相棒たちを見る。
 視線を向けた側から一羽一羽と相棒たちが消えていく。
 そうして……最後に残ったのはボクだけ。
 あんなにも星が瞬いていたのに、星さえなくて。
 真っ暗な空間にボクだけが居る。
 慌ててボクは相棒たちを呼ぼうとする。けれど、何度試しても相棒たちが来てくれない。
 どうして、どうしてだろう。
 ずっと一人で居るけれど、相棒たちさえ居ないなんて。
 ボクの胸に大きな不安が生まれる。
 本当に一人になってしまった時、ボクはどうすればいいんだろう。
 ✦.
✦.   ✦.

 つん、つん。
 つんつんつん。
「わっ!」
 肩に止まって雪桜を突いていた一羽が、すりっと頬に寄り添う。
「びっくりした。……あ、お帰り。戻ったんだね、相棒」
 その小さな頭を軽く指で撫で労って、不安に駆られる胸を無理やり押さえつけた。
 胸に広がる悩みと不安に気付かぬまま、桜雪は前を見て歩き出す。相棒たちには道が分からなかったようだけれど、何故だかもう往くべき場所も分かるから。
「……前に進もうか、相棒」
 不安に囚われて動けなくなる前に。

成功 🔵​🔵​🔴​


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アイシャ・ラブラドライト


わぁ…!とても綺麗な場所ですね。
歩きでは皆さんとはぐれてしまいそうなので、飛びながら道を進みます。
こうしていると、星空に吸い込まれていくようですね。
光の海の中で、夢でも見てるみたい…

花の上で目覚めた記憶
それ以前のことは何も思い出せない
私はどこから来たの?
どうして忘れてしまったの?
思い出さないほうがいいの?
答えは自分の中にしかないのに、どこにも見つからない
足元が途切れている自分の影の幻影を見る

それでもいいじゃない
という自分の声で我に返り。
そうだ、どこから来たかは重要じゃない。
今どうするかを大切にしていこうって…決めているもの。

さぁ、先に進みましょう。
後ろを振り返っている暇はありませんからね。




 星海の中を、星がひとつ動いた。
 ――否、星ではない。小さな翅をパタパタ動かしてフェアリーが飛んでいるのだ。星海を飛ぶ小さき光の正体は、森の妖精――アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)。遠目にアイシャを見た者がいたら、流れ星だと思って願いを掛けているかもしれない。
「わぁ……! とても綺麗な場所ですね」
 天も地も、どこを向いても暗く。星の煌きだけが辺りに満ちている。その星々の合間を飛べば星空に吸い込まれていくようにも思え、アイシャは夢見心地で翅を動かした。

✦.   ✦.
 ✦.
 花の上で、『私』が目覚めました。不思議そうな顔で周囲を見渡して、そこがどこかも解らない……という事が解ると、私は不安そうに眉をよせます。
 ――ああ、これは。あの日の私なのですね。
 花の上で目覚めた私には何も残っていなかったのです。
『私はどこから来たの?』
『どうして忘れてしまったの?』
『思い出さないほうがいいの?』
 私は不安で身体を縮こまらせ、頭を抱えてしまっています。思い出そうと頑張っても何も思い出せないのです。そして、どうして忘れてしまったかも忘れてしまった私は、思い出してもよい事なのかも分からないのです。
 答えは自分の中にしかないのに、どこにも見つからない。
 不安げに眉を寄せた『私』が『私』を見つめてきます。
 ごめんなさい、私も知らないのです。
 ✦.
✦.   ✦.

 ――でも。
「それでもいいじゃない」
 アイシャ自身が発した声と同時に、幻はフッと消える。過去のアイシャの瞳の中に映る今のアイシャの足元が途切れていたことまで覚えているのに、それが夢だったかのように辺りには何もない。ただ、星々が変わらず輝いていた。
「さぁ、先に進みましょう。後ろを振り返っている暇はありませんからね」
 アイシャは今どうするかを大切にしていこう……と決めている。
 だから真っ直ぐに顔を上げ、前だけを見て飛んでいった。
 どこから来たかは重要じゃない。今からどこへ行って何を為すかの方が重要なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​


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冴島・類
…悩みですか
思い煩うことに、寄り添ってもらえたなら
信仰してしまう子らも多いでしょうね
それが、洗脳の手段でしかないというのは
少し…物寂しいですが

数多の輝きを見上げて
彼女自身の心に、響く想いや
悩みは、なかったんだろうか

光と共に思考は浮かんで消える
いつの間にか、光はゆらり姿を変えて

結ばれる姿は、もういない人達
彼らが大切にしてきた
大銀杏の葉がひらり

みるみるうちに、燃えて
残った黒い木の下で
どうして、彼でなく
形をとったのは、君なの?
幼子の声がする
君は、何も●●て
くれなかったのに

……成程ねと頭をふる
こうして、覗くわけだ

悲観に浸り
在ることを、疑えるようなら
楽だったろうが

背負った瓜江の眠る箱へ
すまない、と呟いた




「……悩みですか」
 星の煌きの中、冴島・類(公孫樹・f13398)はポツリと言葉を零した。その言葉は暗闇に消え、聞こえていたとしたら彼の背に負われた大きな箱で眠る相棒だけだっただろう。
 人には大小の違いはあれど、他言できない悩みはいくつかあるものだ。その迷いに、悩みに、寄り添ってもらえたなら。そこに救いを見出した者たちは、相手を神のように信仰してしまうこともあろう。彼の人とともに歩めば、彼の人に教えを乞えば、生きていけると依存して。
 それが、友人同士で悩みを聞いてアドバイスするだけのものだったら良い。けれど、それが洗脳であったならば――。
(少し……物寂しいですね)
 救われた人は確かに居ただけに。
 見上げた星の瞬きの中に、思考は浮かんでは消えていく。救われた人々のこと、そして彼女自身のこと。彼女自身は、どんなひとなのだろうか。
 そうして見上げていた星の光が、いつの間にかゆらり姿を変えて――。

✦.   ✦.
 ✦.
 朱に黄金に、染まる木々。秋ともなればいつも静かな社を囲む鎮守の森も鮮やかで、僕はこの景色が好きだった。何よりも『君』が一番美しい季節だから。
 眼前には一際大きな銀杏の木。そしてその下には人々の姿。大銀杏の葉がひらりと落ちれば、人々は見上げ今年も美しいなどと笑みを交わす。
 ――ああ。
 思わず嘆息してしまう。
 彼らは、彼らが大切にしてきた大銀杏は、もう――。
 僕は何も出来ずに、ただ黄金色の景色を見つめた。

 銀杏の木がゆらり、揺れる。
 場面が切り替わったのだろうか?
 ――いや、違う。炎だ。炎が、木を包んでいる。
 人々は慌て、何とか手を尽くそうと頑張っている。水を掛け、絶望の色を湛えて見上げ、嘆いて。けれどもう、どうしようもない。皆が愛した木はみるみるうちに燃えて、炭となるまで燃え続ける。
 あんなにも美しかった黄金色は失われて、立派な幹は痩せぎすの黒木に。
『どうして、彼でなく、形をとったのは、君なの?』
 黒い木の下から声がする。
『君は、何も●●てくれなかったのに』
 幼子が、じっと僕を見ていた。
 ✦.
✦.   ✦.

「……成程ね」
 幻は消え、けれどまだ眼裏に張り付いているように思え、頭を振る。
 類が悲観に浸り、自身が在ることを疑えるようなら楽だったのだろう――が。そうではない。だからこうして悩み続けているのだろう。思い続けているのだろう。
 腹部より少し上へと左手を添えて。
「……すまない」
 背負箱で眠る瓜江へ向けた小さな声は、再度星海の暗闇へと消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.
ヴィクトル・サリヴァン
悩みねえ。猟兵になってから泳ぎ足りなくなってる事かなー。
基本海住みだったし、そっちの運動量に体も慣れてたから最近ちょっとヤバいかなって。
…これだったら、まだいいんだけどね?

ランプで照らしてのんびり行こう。
色んな世界の星空を見て来たけども迷宮の星灯りも中々。
――幻として見えたのは二十の頃に旅立った友人達の姿。
それぞれの夢を叶え十年経ったらまた会おう、そう約束したけれども約束の日に帰ってこなかった彼ら。
けれどその姿は曖昧。この幻は…今どうしてるのかを知りたい、けれどもその逆で知らぬまま想い出にしたいという悩みなのかな。
…割り切ったつもりだったけど、こうなる程には気にしてたんだね。

※アドリブ等お任せ




 数多の煌めく星。星海とも例えられるそこを、星あかりを手にヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)はのんびりと歩いていた。
(――星海を游ぐシャチだなんて浪漫がありそうだよね)
 実際には歩いているのだが、星海を游いでいるようだと歩む足取りはとても軽い。
 星々を眺めていると、もしもなんて、浪漫を語りたくなるのは何故だろう。
 悩み。そう考えて浮かぶのは、猟兵になってからの運動不足なこと。基本的に海住みだったヴィクトルは、毎日酒と音楽を楽しみながら、たくさん游いですごしてきた。その運動量から比べると陸での生活は……「ちょっとヤバイかな」と思わないでもない。
(まあ、こういう悩みだったらまだいいんだけどね?)
 思いがけずすごく重い悩みを抱えている可能性だってある訳だから。
 軽めのだといいよね。ついでに脂肪も軽く……酒をやめるという選択肢はないけれど。

✦.   ✦.
 ✦.
 星あかりの向こうに、誰かが居た。
 他の猟兵たちだろうか。それとも学生たちだろうか。
 声を掛けようとして、俺の足は動きを止めた。
 そこに居たのは、二十の頃に旅立った友人達だった。
 俺の姿も、そこにある。
『それぞれの夢を叶え十年経ったらまた会おう』
『ああ、またこの場所で』
『約束だぞ、忘れるなよ』
 笑いながら、俺の胸に拳を当ててくる気の好い友人達。小突き合いながら、皆で笑い合って交わした約束。みな胸に夢を抱き、十年後の約束を当たり前に信じていた。
 ――けれども、約束の日に彼らは帰ってこなかった。
 あんなに楽しい日々をともに過ごしたのに、こうして視える姿も曖昧で。この記憶さえも風化してしまう前に再会を果たしたい。
 ……いや、俺は本当にそう思っているのだろうか。このまま彼らの行方も知らぬまま、想い出にしたいと思っているのではないか?
 消えるまで、幻の俺は友人達と笑い合っていた。
 ✦.
✦.   ✦.

 ふっと明るい幻が消えた。あまりにも突然のことだったから、ヴィクトルは周囲へ視線を送り、星空の中に戻っていることを確認する。昔のヴィクトルもその友人達も、そのどこにもいなかった。
「……割り切ったつもりだったけど、こうなる程には気にしてたんだね」
 小さな嘆息とともに、ヴィクトルは歩き出す。
 前に、進むために。

大成功 🔵​🔵​🔵​


✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.
フローリエ・オミネ
和音(f13101)と

夜道は黒に満ちていて

この弱視の片目では星空を捉えられないけれど
唯の真暗闇とは違うの、光の内包された夜

ふと空を見上げようとして、歩き慣れぬ足がふらりよろけて

手を貸してくれた方に有難うと微笑むわ
握った手がとても温かいわね
本当は歩くのが下手っぴなんて、まだ秘密

あら、空に何かが――

瞬く光が空に
これ、星?

どうして、右側も見える
仮面で覆わずとも見えぬはずなのに

でも、どこか期待してしまうの
見えて欲しい。普通の右目と視力が帰ってきますように、と願うの

はっ

…今のは、幻
もう、星は見えなくなっていたわ

隣の彼も幻を…えっ、

和音?

近づいてきた彼の名を呼べば、

…いいえ、良いのよ
そのまま、抱きしめて


鷹沢・和音
フローリエ(f00047)と

星が綺麗だ
この星は東京と同じなのかな
星は詳しくないからわからないけどさ

偶然目の前を歩いていたフローリエが転ぶのに気がついて慌てて受け止める
暗いし気をつけて
でも心配だから
転ばないよう手を差し出す

あれ……?
フローリエの姿が別のものへと変わる

『那波』

存在ごとUDCに喰われて姿を消した幼馴染

いや
一緒に居たのに俺一人だけが助かったんだ
しかも俺はずっと忘れてて
今もまだ全てを思い出せなくて
姿だって影人間のようにしか見えないけれど

ごめん、那波

存在を確かめるように抱きしめようとして
声をかけられた

うわっ
今のが幻だったのか
ごめん
別にセクハラじゃなくてあの!
え?抱いてってそれはマズいから!




 夜闇に浮かぶ小さな瞬き。ちかちかと光るそれは、星。数多の星々で彩られる空は美しく、幾人もの学生や猟兵たちを魅了してきた。
 しかし、フローリエ・オミネ(シソウの魔女・f00047)の眼前に広がる夜道は黒に満ちていた。いくら夜空で星々が瞬いても、弱視の片目にまでその光は届かない。然れどこの黒は、唯の真暗闇とは違う黒。光の内包された夜であった。
「、」
 あ、と。声さえ出さず。ふらりと身体が夜道へと沈もうとする。故郷にて宙を漂っていた魔女の足は未だ歩き慣れず、薄水薔薇に包まれた足は空を見上げようとしただけで確かさを失ってしまって――。
 けれど、その身は夜道の冷たさを知ることはなかった。
「暗いし気をつけて」
「……っ」
 横合いから出てきた青年――鷹沢・和音(ブルースカイブルー・f13101)の腕がフローリエの身体を支えていた。
 フローリエからすれば突然現れた彼。けれど和音からすれば、星が綺麗だと星を見上げながら星空の夜道を歩いていたら、前方を知人が危なっかしく歩いていた。声を掛ける前にその身が傾いたものだから、バスケで鍛えた瞬発力を以ってしてフローリエの夜道との冷たい抱擁から救ったのであった。
 弱視のフローリエも、声で知人と気付いたのだろう。
「あの……、有難う」
 危ないからと差し出された手を握り返し、柔い微笑を見せた。
 触れ合う手は温かく。そうして連れ添う知人が居るだけで、仮面の下の見えない瞼の中にも星が浮かぶようだった。

✦.   ✦.
 ✦.
 そう、星が――。
 あら。
 本当に空に何かが見えてきたの。
 昏いだけのはずの空に、ちかちかと瞬くあれは――。
(これ、星?)
 左目だけではなく、どうしてか仮面で覆われている右側でもその瞬きが見えているの。
 仮面で覆わずとも、右の目はでは見えぬはずなのに。
 どうして、と。思わず唇が震えそうになるわ。
 うれしい、と。心に歓喜が湧きそうになるの。
 期待を、してしまうの。
 見えて欲しい。見えたらいい。
 普通の右目と視力が帰ってきますように。
 何度も何度も、願ってしまうの。
 ✦.
✦.   ✦.

 瞬きをしたその一瞬。目から星が零れ落ちてしまったのか、見えなくなってしまった。
(……今のは、幻)
 視力があればと悩む心が見せた幻なのだと気付き、フローリエはそっと息を吐く。
 もう、見えなくなってしまったと、残念がる心。幻でも星が見られたと、浮き立つ心。
 ふたつの心を持て余しながら、手を握ってくれている彼も幻を見ているのかと視線を向ければ――、
「――那波」
「えっ」

✦.   ✦.
 ✦.
 気付けば目の前に、『那波』が居た。
 さっきまでフローリエの手を握っていた筈の手が、那波の手を握っていて。
 俺は思わず目を見開き、名前を口にする。
「――那波」
 存在ごとUDCに喰われて姿を消した幼馴染。
 ――いや。一緒に居たのに俺一人だけが助かったんだ。
 それなのに俺はずっと忘れていて……。
 今だってまだ全てを思い出せていなくて。
 今見えている姿だって、影人間のようにしか見えていない。
 ――最低だ。最低だよな、俺。
 でも。
「ごめん、那波」
 握っていた那波の手を離して。
 身を寄せて、存在を確かめるように抱きしめ――。
 ✦.
✦.   ✦.

「和音?」
 耳朶に響いた声に、ぴたりと和音の動きが止まる。
「うわっ」
 脳が急回転して現状を理解する、と言うのはこういう時なのだろう。フローリエに身を寄せて腕を開き、今正に包み込むように抱きしめようとした体勢で固まった和音の背中をダラダラと滝のように汗が流れ落ちる。
「ごっ、ごごごごめん! 別にセクハラじゃなくてあの!」
 大急ぎで飛び退くべきか。それとも土下座もセットでつけるべきだろうか。
 現役男子高校生はショート寸前だ。
「……いいえ、良いのよ。そのまま、抱きしめて」
「え?」
 脳の理解がワンテンポ遅れて。
「だ、抱いてってそれはマズいから!」
 抱きしめようとしたまま行き場をなくした手が、大慌てで振られる。
 耳まで真っ赤に染まった男子高校生を見て、片翼の仮面の少女は不思議そうにゆうるりと首を傾げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『宝石人形』

POW   :    【ダブルUC】ジャムバレット+テレポアタック
【宝石弾で対象を攻撃する。また、敵意】を向けた対象に、【瞬間移動で任意の場所に転移し、両手の剣】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    【ダブルUC】テレポアタック+彼岸の投剣
【敵意を向けた対象に、瞬間移動で任意の場所】【に転移し、両手の剣でダメージを与える。】【また、複数人で投擲する様に剣】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    【ダブルUC】ジャムバレット+スーサイド・ドール
【宝石弾で対象を攻撃する。また、中枢の宝石】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【瞬間移動後、対象に自爆攻撃を行う状態】に変化させ、殺傷力を増す。

イラスト:せつ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星の導き
 星海を歩き、游ぎ。そうして迎えた出口。
 夜闇よりも明るく見えたそこから出ると、カチリ、と。何かが嵌るような音がした。一瞬の、眩い光。該当者のみに反応する、出口の転移装置が作動する仕掛けがあったのだろう。
 目の中の白い光が消えたなら、辺りへと視線を動かせば室内が見えてくる。
 薄暗い室内には幾重にも星空に染め上げた布が垂れ下がり、奥まで見通すことは難しい。聖堂の大広間のような空間は静謐を湛え、詰めた吐息を吐けば響いてしまいそうなほど静まり返っている。

 そこへ、音が生じる。
 垂れ布の奥から、星を散りばめたローブ姿の者たちが衣擦れの音とともに現れた。目深に被ったフードで顔はよく見えないが、銀糸を揺らす横顔は女性のもの。
 どうやら彼女たちが噂に出てくる『星導宮さまのお使いの方』――案内人、なのだろう。微かにかしゃ、と球体関節の擦れる音を響かせながら、彼女たちは星の夜道を抜けた君たちの側へとやって来る。
「さあどうぞ。あのお方が、あなたをお待ちしております」
「あのお方が、きっとあなたを救ってくれますよ」
「さあどうぞ。どうぞ、こちらへ」
 人形たちが星の囁きにも似た声で囁いた。
ユキ・パンザマスト
♢【SPD/セラと!】

セラの問いへの返答を聞くや否や【彼岸越境】!
[先制攻撃]で加速つけて、連中に[捨て身の一撃]ですともさ。
礼儀知らずで御免遊ばせ──腹立つんすよ。
あんな風に無辜の人間をかどわかして巻き込むなんて、 分かっちゃいましたが碌なもんじゃあねえ。[挑発]!
話してたとこ悪いっすね、セラ。腹が収まらなくって。 我儘に付き合ってくださいな。

[早業]で縦横無尽に跳び回り、藪椿で[マヒ攻撃]乗せて[なぎ払い]ましょう。なあに、被弾は覚悟すわ。
はは、セラも無茶っすねえ! 
なら[催眠術]めいた、花弁の目くらましで致命打だけは防ぎますよ。
こんな良夜だ!
さあさ、綺麗な歌を聞かせてくださいな!


セラ・ネヴィーリオ
♢【WIZ/ユキさんと!】

ちらと目配せ
お使いの方に聞いてみたいんだ
「悩みに副う言葉を送れるのはうんとすごいけれど、大事なのはその人が道を選ぶこと」
「用意した道を歩かせることじゃないと思うけど、どう?」
たとえ返答が芳しくなくても

ううん、我儘気ままは言ってなんぼ!っていうか僕もそう思ってたー!
笑って返したら『ゆりかご』を解き【死出の導】
詠唱の遅さを逆手に取って無防備を演じ《誘惑/おびき寄せ》
花弁の奏でる旋律に乗せるのは、学生さん達が日常に帰れるよう《祈り》を込めた《歌唱》
傷を負う《覚悟》はもう済んだから
《カウンター/鎧無視攻撃/全力魔法》でお使いさんにぶつけるよ!
さあ、お眠り。僕らは行くよ。



●白花の唄
 しゃらり。
 衣擦れの音を響かせて姿を見せたローブ姿の星導宮さまの使者――オブリビオン『宝石人形』。
(ああ、この人たちが――)
 感情の籠もらぬ声で口上を垂れる使者たちは一見ただの人のようだけれど――その実を知っているセラは、『そう』なのだと認識して。そして、チラリと傍らへと視線を投げた。
 紅玉と猫目石が、確かに一瞬交わって。
「――あの、すみません」
 どうぞと手を前方へと向けるローブ姿の使者たちへと、セラが口を開く。お使いの方に聞いてみたい事があるのだと口にすれば、構いませんよと頷きが返ってきた。
「星導宮さまが、悩みに副う言葉を送ってくださるんだよね? それはうんとすごいけれど、大事なのはその人が道を選ぶことだと思うんだ。用意した道を歩かせることじゃないと思うけど、どう?」
 違うかな? あなたたちはどう思っているの?
 柔らかな笑みとともに首を傾げれば、淡雪の奥で飾りが揺れる。そのセラへ、使者は小さな頷きとともに口を開いた。
「何かよくない噂を耳にされたのでしょうか? ですがご安心を。星導宮さまが何かを強要することはありません。星導宮さまはお言葉をくださるだけです」
 助言はくれるが、それをどうするかはあなた方次第。学生たちの噂でも、確かにそうだったはずだ。そうしてその先で、彼らは『望んで』彼女の側に居る。
 使者たちが口を閉ざしたのが先か。セラの紅玉がひとつ瞬いたのが先か。
 ――ぶわり。
 舞うは白花、藪椿。
 礼儀知らずで御免遊ばせ──なんて。そんな御託どうだっていい。ただ、その全てに腹が立つ。だから、だから! 片頬だけの笑みを浮かべたユキは、勢いよく地を蹴り飛び出した。
「話してたとこ悪いっすね、セラ!」
 腹が収まらなくって。 我儘に付き合ってくださいな。笑み混じりの声で告げれば。
「ううん、ユキさん!」
 僕もそう思ってた! 打てば響く鐘のような声に、カラリと気持ちの良い笑顔で返して。
 ユキはいつだって自分の道を自分で切り開いている。魔物に変じたその先で、朧と掴めぬものがあるからこそ。地を蹴ると同時に発動させた《彼岸越境(アンブレーキ・ビヤーキー)》で肥大化させた蝙蝠翼を大きく広げ、縦横無尽に――
「っとと! 布が邪魔っすね」
 飛び回ることができず、見通せぬように垂れ下がる布のひとつを切り裂いた。長さがあれば、それなりの重量となる布。視界が明瞭とは言えぬ空間で避けて飛ぶには速度を出せず、布を気にせず飛ぶには重すぎる。しかし逆に、わざわざ目くらましをしなくても良いということでもあった。
 ばさりと布が落ちる音を背に、低空飛行。
「獲った!」
 かしゃん。星を映した美しいローブごと薙ぎ払えば、中身の人形を覗かせ使者が崩折れる。
 ――かろん。
 鐘が鳴る。死者に寄り添い導く鐘の音。鐘を宿した杖が輪郭を変え、美しい旋律とともに花びらがぶわりと舞い広がる。
 高速詠唱も、できる。けれど敢えてゆうるりと。
(ほら、ユキさんだけを見ないで。こっちへおいで)
 ユキの攻撃で、一斉にローブを剥ぎ取り臨戦態勢となった宝石人形たちの意識を自分へと向けさせて。
 一斉に、宝石弾がセラへと放たれる。けれどセラは動じず詠唱を続ける。覚悟はもう、済んでいるから。
「はは、セラも無茶っすねえ!」
 それは、ユキとて同じこと。自身が傷つくのは厭わない。致命傷さえ避けられればいい。白い花弁の目くらましで敵の弾道を遮って、セラへと向かう弾を少しでも減らし、友を護った。
 視界の端に、瞬間移動してきた宝石人形たちが映る。
 花の唄が響く。花弁の奏でる旋律に、学生たちが無事に日常に帰れるようにと祈りを篭めて。
「さあ、お眠り。僕らは行くよ」
「さあさ、綺麗な歌を聞かせてくださいな!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノイ・フォルミード
【こととい】

やや、紀昌君
それはいけない
万に一つも失礼があってはいけない方だ
さ、案内人がた
私達は後ろを向いていよう

それにしても星導宮様とは話を伺うだけでも偉大な方だ
沢山の心を癒したお優しい人だとか
きっと私も救って下さるね
早くお会いしたい

表情は無いけれど慣れぬ演技でボロが出ぬように
矢継ぎ早に言葉をかけ

どう?演技できてた?
なんて目配ひとつ
彼女たちが後ろを見せたなら攻め時だ

君達も役割を全うしているだけだろうね、すまない
……使用承認完了『アルブム』

先手をお見舞い出来たなら鍬を持ち応戦
遠距離攻撃は任せるよ
代わりに近くの者は引き受ける

姿を消した者が居たら視野外は特に注意をやり武器受け
何、鍬も案外丈夫だろう?


弓塚・紀昌
【こととい】
さて演技でありやすが。……演技でありやすかぁ
嘘は下手でありやすが頑張りやしょう。フォロー頼みますぜ、ノイの旦那

かかっ!あの方の元へお連れ下さる案内人がいるとは心強い!
ですが向かう前に少々お待ちをば。あの方への献上品がありやすが壊れやすいものでありやしてこの道中で壊してないかちょいと確認したい
できれば案内人の貴女にも見せたくなく。旦那と一緒に後ろ向いて此方を見ずにお待ちくだせぇ

後ろを向いてる間に距離を取りUCで奇襲を仕掛けやす
敵意?いやいや。これがあの方へ送る献上品の矢。ちゃんと使い物になるか、その確認でさ

その後は旦那の援護射撃をしやす
相手の動きを邪魔して旦那が動き易いよう射ちやす



●阿吽
「かかっ! あの方の元へお連れ下さる案内人がいるとは心強い!」
 フォローは頼みやすぜ。そう、ノイに目配せをして、紀昌は機嫌良さげに呵呵と笑ってみせた。
 紀昌はまずは自身の身なりを示し、星導宮さまの噂が遠方まで届いていたことを口にする。奥へと誘導しようとしていたローブ姿の使者たちは動きを止め、「まあ、そんなに遠方まで」と言葉を洩らした。
 星導宮さまのことを褒めそやし、そんな素晴らしい方に是非とも会ってみたく旅をしてきた、そして手ぶらで会うわけにはいかぬと献上品まで用意してきたのだと、演技をする。嘘は下手だとノイには告げていたが、なかなか堂に入った姿にノイは内心感心していた。
「ですが向かう前に少々お待ちをば」
 用意してきた献上品には壊れやすいものもある。いざ渡そうとしたところで壊れていたとなれば失礼に当たるだろう。道中で壊れてしまっていないかの最終確認をしたいと願い出る紀昌。
「やや、紀昌君。それはいけない。万に一つも失礼があってはいけない方だ」
 ノイも大きく頷いて同調し。
「できれば案内人の貴女にも見せたくなく。そこなノイの旦那と一緒に後ろ向いて此方を見ずにお待ちくだせぇ」
「さ、案内人がた。私達は後ろを向いていよう」
「そういうことでしたら」
 人好きのする仕草で使者たちを促して、ノイは使者たちとともに紀昌へと背を向ける。彼とは道中一緒になったのだと告げながら、それにしてもと切り出すのは星導宮さまの話。
「話を伺うだけでも偉大な方だ。沢山の心を癒したお優しい人だとか」
「ええ、皆さん救いを求めてお訪ねになられます」
 あなたもそうなのでしょう。と、長身のノイよりも頭一つ下でローブが揺れる。慣れぬ演技でボロが出ぬようにと矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、紀昌の方を向かせないようにと意識を自分に向けさせて。
「ああ、私も早くお会いしたい」
「そこの道を行けばすぐに星導宮さまの――」
 ――ヒュンッ!
 風を纏った矢が使者の顔すれすれを飛んでいき、ぶわりとフードが捲れ上がり使者――宝石人形の顔が露わとなる。次いで響くは、破壊音。
「っと、すまねぇ、旦那」
 外しちまった。
 背を向けさせてる間に距離を取り、《我流・風巻(シマキ)》を発動させた紀昌であったが、その一矢は外れ地面を破壊しただけであった。要因は、準備の足りなさではない。視界の悪さもあったのだろう、単純な命中率の問題であった。
 すぐさま宝石人形たちが、紀昌をすべく動くが。
 ――使用承認完了『アルブム』。
 ノイの丸い瞳が薄暗い室内で光を放つ。顔の動きと共にレーザーポインターが傍らの宝石人形の顔面へと向けられて――。
「問題ないよ、紀昌君。――君達も役割を全うしているだけだろうね、すまない」
 照射されたレーザー砲にて顔面を破壊された宝石人形の身体が、カシャンと音を立てて崩れ落ちた。
「騙るとは――!」
 案内しようとしていた宝石人形たちが、一斉に宝石弾を飛ばす。
 その宝石を、ノイが手にした鍬が振り抜いて。
「これがあの方へ送る献上品の矢でさ」
 ノイへと両手剣を振り下ろさんとする宝石人形の頭へ、とすっと矢が刺さる。けれど倒すには至らない。それは紀昌もノイも心得ており、すかさずノイが鍬を振って人形の身体を粉砕していく。
「旦那、背中は任せてくだせぇ」
「ああ、頼んだよ。紀昌君」
 遠近の攻撃バランスが優れた二人。長年の友であるかのような阿吽の呼吸にて、周囲の宝石人形たちを倒し切るのに然程時間は掛からなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

樹神・桜雪
【WIZで判定】♢♡

……星導宮様がボクを救ってくれるの?
ボクを一人にしないでくれるの?
…なんて、ね。

盲信するふりをして彼女達の隙を窺う。
隙が出来たら『先制攻撃』で『範囲攻撃』を仕掛けるよ。
彼女達の攻撃に対してはUCで対処。
頑張って相殺を狙ってみるよ。
多少相殺出来なくても気にしないで戦闘は続ける。

今、相棒まで消える幻を見せられて少し機嫌悪いんだ。
…それは怖いと思った感情の裏返しでもあるけども。別に彼女たちには関係ない。
遠慮なく仕掛けさせてもらうよ。
別に、八つ当たりじゃないから。


旭・まどか


――救い
僕はそれを、求めているんだろうか

握った手のひらの感触を確かめて
それが幻で無いことを何度も確認して、漸く
嗚呼、僕は、此処にいる
両の足は確かに、この地を、踏みしめているよ

お前たちの誘いに、乗ってあげよう
良い子の、――素直な、“お前”の言動の、真似をして

星導宮さまに、謁見するのが楽しみだと
頭を垂れられることがなんたる幸福なのかと

お前たちと閑話を、重ねようか


道を違えるのなら、手を下そう

お前たちの相手は、この偽物たち
本物に成り得なかった此れ等は
屑星を核にするお前たちとお似合いだろう?

偽物は偽物同士、共に朽ちるがお似合いだよ
おやすみ、佳い夢を


誘名・櫻宵


あなた達が星導宮様の所に連れていってくれるの?助かったわ!
悩みを解決してくれるなんて……
相当泳ぎも上手いのかしら
頼もしいわ
それともあたしの何かをしっているのかしら
魅惑的に微笑んで
信じたフリして着いていくわ

そうだわ
水に潜ると輪郭が解ける気がするの
ヒトとしての輪郭がとけて
背中に浮かぶ痣が広がって
桜花の鱗が現れて大事に隠しておいた大蛇が鎌首をもたげて出てきてしまう
青龍じゃない方の、龍が

ぼさっとはしてられないわ
刀なぎ払い
「哭華」を生命力吸収の呪詛を衝撃と共に飛ばし斬り裂いて
攻撃は第六感で察し見切りカウンター
生命を喰らう桜花で満たし散らせてあげる
仕上げは胸の宝石をなぎ斬って砕く

星の欠片みたいで
ほら綺麗


ミラリア・レリクストゥラ
! ……ここまでとは、趣が違う部屋…というより、集会場…?

【WIZ】

あら?…ああ、では貴女方がお使いの…『そちら』ですか。
ええ、向かわせていただきますわ。けれど、案内は不要です。
救いを求めにここに来るには、私に見せられた光景はあまりに普遍的で『どうしようもない』物でしたので。

(と、啖呵は切りましたけれど…帰ってこない学生さんが居る、というお話ですし。
崩落の危険を伴って捕縛はまずいですよね…人間ではなさそうですけれど、声色が人真似をしていますし…ここは)

貴女方がどのような生い立ちであれ、このような場所で働き詰めはよくありませんよ。
【ゆりかごの子守歌】で休息してくださいな?



●迷い、と
 ――救い。
 それを自身が本当に求めているのか。それがどちらの答えであれ、確固たる信念で宣言出来るものは極僅かなのだろう。まどかも、その大多数の方の一人だった。自身が本当にそれを求めているのかは、解らない。
 握った手のひらの感覚を確かめて、視線を僅かに落として目でも確認して。
(――嗚呼、僕は、此処にいる)
 確かに両の足で地を踏みしめて立っている。現実を認識し、まどかは顔を上げた。
「……星導宮様がボクを救ってくれるの?」
「……ああ、では貴女方がお使いの……」
 まどかの視線の先には、先にたどり着いたのだろう二人の猟兵の姿。桜雪とミラリアが使者に声を掛けられてともに案内をされるところだった。
 頭を垂れることは慣れていない。パーソナルスペースだって狭い。人と馴れ合うことなど好まない。けれど、一人で演じるよりは多少マシであろうか。
(良い子の、――素直な、“お前”の言動の、真似をしよう)
「待って。僕も一緒に連れて行って」
 良い子の振りをして、まどかも桜雪とミラリアと同行することにした。
「星導宮様は、ボクを一人にしないでくれるの?」
 桜雪が不安そうに問えば、「大丈夫ですよ」とローブを纏った使者が頷いて。
「星導宮さまに、謁見するのが楽しみだよ。ああ、素晴らしい方へ頭を垂れられることのなんたる幸福なことか」
 大げさなぐらいにまどかが称賛すれば、「ああ、なんて素晴らしい心がけなのでしょう」と使者が同調する。
「みなさん、不安はあることでしょう。ですが大丈夫ですよ。さあ、こちらへ」
「ええ、向かわせていただきますわ」
 案内は不要と断るつもりだったミラリアだったが、他の猟兵とともに行けるのは心強く、合流した以上断るのは不自然だろうと一行についていく。
 ミラリアが見た光景――ミラリアの悩みはミラリアにとって普遍的で、どうしようもない物だった。しかしそう告げたならば、きっと使者たちは帰る道を示したことだろう。星導宮さまへ相談に来る者たちは後を絶たず、星導宮さまとて忙しい。用もないのに、けれど面会するなど不審者でしかないからだ。
 桜雪とまどかが盲信する振りをして言葉を重ね、使者も優しく言葉を重ねながら先導する。そうして完全に猟兵たちへと背を向けた時――口火を切ったのは、桜雪だった。
 桜雪は今、少し機嫌が悪い。普段は感情が乏しくぼんやりと過ごしているように見える桜雪だが、感情はちゃんとある。大切な相棒が消える幻を見て、機嫌が悪いのだ。それは怖いという気持ちの裏返しであることも、目の前の彼女たちに関係がないことも解っている。けれど桜雪は猟兵で、彼女たちはオブリビオンだから――。
(遠慮なく仕掛けさせてもらうよ)
 別に、八つ当たりじゃないから。
 音もなく、『透空』が舞い上がる。大量の透き通った空の色の札が宙に並び、先制攻撃を仕掛けたのだ。
「な――!」
 敬虔な信者だ、そう思っていたのに。
 使者のフードが捲れ上がり、僅かに口を開いた人形の顔が露わになった。銀糸の髪をさらりと流し、胸に屑石抱く宝石人形。
(やはり人ではありませんでしたか)
 ミラリアが見つめる先で、直様使者――宝石人形たちが迎撃体勢に移る。
「お前たちの相手は、この偽物たち」
 良い子の芝居は、楽しめた? 演じるのも仕舞いにしよう。自身の腕を傷付けたまどかが口に笑みを刷いて。
 まどかの《十六夜(キボウノタモト)》によって常闇から召喚されたヴァンパイアたちが地面に落ちた血液から姿を現し、宝石弾を撃とうとした宝石人形へ襲いかかる。代償に比例した戦闘力を持つヴァンパイアだが、屑石の宝石人形ぐらいならは腕一つの血液でこと足りる。
「本物に成り得なかった此れ等は、屑星を核にするお前たちとお似合いだろう?」
 肩口に、牙を剥いて。
「偽物は偽物同士、共に朽ちるがお似合いだよ」
 おやすみ、佳い夢を。
 少年が嗤えば、バキンッ! 噛み砕かれた人形の身体が、糸が切れた操り人形のように崩折れる。パシャンと球体関節を鳴らした膝をついたそれを、少年は冷めた目で見下ろした。
 けれど、一体倒しても宝石弾は幾重にも。
 桜雪が札で庇い、落とし。
 ミラリアが声の衝撃破で落とし。
 けれど、宝石人形たちは撃った端から瞬間移動を用いて襲ってくる。ふたつの行動への対処を常にしなくては、いつか倒れるのは――。
 そうして――広間に、子守歌が響いた。

●狂い咲き
「あなた達が星導宮様の所に連れていってくれるの? 助かったわ!」
 垂れた布の奥からフードを被ったローブ姿の使者がやってくれば、櫻宵はパッと艶やかな花のような笑顔を咲かせた。近寄る足取りも軽い。だってここには水はないもの。
 星導宮さまは悩みを聞いてくれて言葉をくれるが、解決するための魔法を掛けてくれるわけではない。けれど救われた人たちがたくさん居て、きっと櫻宵の悩みも解決してくれる。
 ――となると。
(相当泳ぎも上手いのかしら)
 溺れない方法だとか上手な息継ぎだとか伝授してくれるかもしれない。それとも、もっと裡に潜む何かを知っていて――。
 思考に沈む前に「どうかされましたか?」と使者に尋ねられ、
「なんでも無いのよ。それより、早くお会いしたいわ」
 機嫌良く大輪の薔薇のように微笑んで、櫻宵は使者の後を追う。
 ――けれど。水も想いも、沈むもの。気付けば何かを追うように、何かに手を伸ばすように考えてしまっている。
 水に潜ると輪郭が解ける気がするの。ヒトとしての輪郭がとけて、背中に浮かぶ痣が広がって――ああ、隠さないといけないのに、出てきてしまう。見せないようにしたいのに、出てきてしまう。出してはいけない。いけないからこそ、出して、と――いけない龍が鎌首をもたげて――
「あら」
 ぱちり。長い睫毛を瞬けば、手にはいつの間にか抜身の刀。そして目の前には――先程まで案内をしていた筈の使者が、居ない。
 ――斬っちゃった。ああそうかと腑に落ちれば、確かに手応えを刀越しに感じていた事を思い出す。斬ったのだ。抱いたものを、迷いごと断ち切るように。
 まあいいか、どうせ斬る予定のものだったのだ。
 ああ、でも。でも、まだ斬り足りない。
 ゆうらり身体を揺らした時、櫻宵の耳が歌を拾った。一瞬息を飲むが、違う。あの子の歌ではない、歌だ。
「ゆ~らゆ~ら と~くとく 暖かな……」
 穏やかな声を響かせて、ミラリアが《ゆりかごの子守歌(ベルシュ・デュ・レ・メェ)》で宝石人形たちを眠らせていく。
 人形に、眠りなどあるのかは解らない。夢を見るのかなど解らない。けれども。かしゃん、かしゃんと球体関節の膝をついていく宝石人形たち。同じ人形、けれど猟兵の桜雪は、札を使って眠りに落ちる人形たちを骸の海へと還していく。
 まどかのヴァンパイアは容赦なく噛み砕き、海へ還る前にまどかが踏み砕く。
 そこへ。
「面白そうなことしているのね、あたしも混ぜて」
 桜花を舞わせた櫻宵が駆けつけて。
 ミラリアの歌にいざなわれて無抵抗となった宝石人形たちの胸の宝石を、踊るようになぎ斬って砕いていく。
 赤い赤い屑石は、血のように舞って。
 夜空の星のように散って。
 ――星の欠片みたいで、ほぅら綺麗。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジークリンデ・ドラグナー
♢♡
救ってくれる、ねぇ……

そうやって誑かしてどうしようっていうのさ
お前達は今も昔も、変わらない

学生と人形の間に割って入り――
悩みなんてね、全部人任せにしていたら駄目なのよ
その内悩みを解決して貰うのが悩みになっちゃうわ?
引きなさい貴方達。後は任せて

竜を以て竜を制す殺竜部隊が一番槍
ジークリンデがお相手仕る

瞬間移動で逃げるなら
稲妻の縛鎖で動きを封じてやるわ
宝石弾を槍で弾いて、外套の様な竜翼で防いで
必殺の電撃を喰らわせる
逃がしはしないわ――瞬間移動をしようとしたら
稲妻の鎖を引き寄せて串刺しにしてあげるから
覚悟なさい、偽りの宝石達

結局、自分でケリを付けなきゃならないのよねぇ
さあ、主とやらはどこかしらぁ


ナターシャ・フォーサイス
WIZ
貴女がたが、お導きくださるのですね。
私もまた、志を近くするのです。
お言葉に甘えて…と、いきたいですが。
貴女がたもまた哀れな魂、であれば使徒として導かねばなりません。
案内もしていただきますが、責を果たしましょう。

ここの雰囲気は個人的に好みですし、あまり書き換えたくはないのですが。
転移し自爆され、導く前に死なれることを避けるためにも。
まだ見ぬ楽園の一端を現出させ、彼女達にも教えて差し上げましょう。
そして加護をもって天使を呼び、彼女達の力を封じるのです。
光を以て罪と闇を祓い、楽園への道行きへ誘うのです。

彼女が道を示し、従者として貴女方を従えるのなら。
私もまた道を示し、従者をもって導きましょう。



●使徒と一番槍
 救ってくれる。そんな言葉を聞いても、ジークリンデの胸に広がるのは疑念だけだった。甘い蜜に毒が潜まされているように、そうやって誑かしてどうしようというのか。
(――お前達は今も昔も、変わらない)
 そんな思いを懐きながら訪れた広間。ジークリンデの視線の先で使者と言葉を交わす女性がひとり。
「貴女がたが、お導きくださるのですね」
 ああ、これは。今まさに誑かされようとしているのでは。そう思って、
「悩みなんてね、全部人任せにしていたら駄目なのよ。その内悩みを解決して貰うのが悩みになっちゃうわ?」
 なんて、割りいってみたけれど。
「私もまた、志を近くするのです」
 どうやら様子が違うようだ。
 法衣の前、胸で両手を組んだ熱心な信者のようなナターシャだが、ジークリンデを目に止めると「あら」と少し驚いた声を上げ、「大丈夫ですよ」と慈母の瞳で微笑む。その顔には慈しみだけではなく、強い信念のようなものが溢れていた。
「お言葉に甘えて……と、いきたいですが。貴女がたもまた哀れな魂、であれば使徒として導かねばなりません」
 使者の、フードで半分しか見えない顔に困惑を浮かぶ。そのまま案内をすべきなのか、それとも廃すべき敵なのか、迷っているのだろう。
 その迷う僅かな間。その間に、星の中に閉ざされたような荘厳な広間の様子が一変した。
「っ」
 本当に僅かな、一瞬の出来事だった。傍らに居たジークリンデも思わず息を飲み、突然満ちた光に目を眇める。
 そして。
「まだ見ぬ楽園、その一端。仇成すのなら祓いましょう、歩むのならば導きましょう」
 ナターシャの言葉とともに、光が爆ぜた。
 星の垂れ布と薄暗い広間は光に満ち、ナターシャの楽園の概念へと書き換えられる。降り注ぐ明るい光はナターシャとジークリンデを温かく包み、天使までもが天から舞い降りてくる。《召喚:楽園の加護(サモン・ホーリーライト)》、ナターシャの楽園の加護がここに召喚された。
 ナターシャは個人的にはここの雰囲気は好きなため、あまり書き換えたくはない。けれど、自爆されて導く前に死なれては楽園へ導けずナターシャの教えと反してしまう。まだ見ぬ楽園の一端を現出させ、異教徒にも教えて差し上げましょう。楽園がどんなに素晴らしいところなのか。
「あら。これはいいわねぇ」
 ぐっぐっとジークリンデは拳を握っては開いた。身を包むような温かな光が、ジークリンデに力を齎している事が解る。その身は軽く、握る拳には力が宿る。
 形の良い唇に笑みを刷いたジークリンデの手には、いつの間にか禍々しい形状の槍『ドラゴニックヴァイパー』が握られている。翼の生えた蛇から変じた槍をくるりと回して構えを取って、一吠え。
「竜を以て竜を制す殺竜部隊が一番槍。ジークリンデがお相手仕る」
 名乗りとともに地を蹴り、槍を一閃。
 がしゃぁぁんと甲高い音を立て、身近の一体が呆気なく粉砕された。
 次いでそのまま、勢いを殺さず振るってもう一体。
「覚悟なさい、偽りの宝石達」
 ナターシャの天使たちの加護で宝石弾を打てず、瞬間移動で近寄ることもできずに困惑する宝石人形を雷の鎖で絡めて引寄せ、ジークリンデの槍が正確に胸の宝石を貫いた。硬質な赤い石が砕け、楽園の光の下輝きながら散らばり――そして消えていく。
 加護を終え、再度星の帳が落ちた広間に、がしゃがしゃと響く増援の宝石人形たちの足音。
「さあ、主とやらはどこかしらぁ」
 このまま宝石人形たちが来る方にいけば会えるかしらね。
 明るい笑みを刷いたジークリンデの背後では、ナターシャが手を祈りの形に結んで。
「何度でも、楽園への道行きへと誘いましょう」
 そうしてまた、光が満ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
こうも歓迎というのは少し拍子抜けだが
取れる手は一手でも多く
人形達の言葉に乗ってみよう

ご案内どうも
あのお方…は、会ったこともない僕を待って
悩みを紐解けるなんて、凄い力をお持ちなんですねえ
素晴らしいお言葉をくださるのだと聞きました
どうして
手を伸ばしてくださるんですか?

彼女らの話に相槌打ちながら隙を探し
被ったフードの下を真っ直ぐ見つめ
無防備に、問う

救って下さると誘う彼女らの側に笑顔で歩み寄り
そのまま一息に低く踏み込み
足元を薙ぎ払い
二回攻撃で、核の宝石を斬りたい

反撃は、舞使いながら
芯だけは逸らし、跳び回避狙う

手足を増やす手段でも、胸が軽くなる子らはいたろうに
残念ながら、僕は救われることは
望んじゃいない



●風舞う一葉
「やあ。ご案内、どうも」
 人好きそうな、気の好い青年の笑みに使者たちが辞儀を返す。
 その青年の腹の内なぞ、使者たちは知る由もない。
「あのお方……は、会ったこともない僕を待って悩みを紐解けるなんて、凄い力をお持ちなんですねえ」
「お疑い、なのでしょうか?」
「いいえ。いいえ。ただ純粋に、凄いなぁと思いまして」
 大きな木箱を背負ったまま、類は両の手を振って否定して。この魔法学園の世界では見慣れぬ装い――遠い場所から来た自分の悩みでさえ紐解けることがとても凄いこと。そして、素晴らしい言葉をくれるとの噂が遠くまで聞こえてくることを口にすれば、使者たちも納得した様子でフードを被った頭を上下に動かした。
「どうして、手を伸ばしてくださるんですか?」
「どうして、かは……わたしどもには星導宮さまの深いお考えを察することはできないのですが、星導宮さまも最初はそういったつもりは無かったのですよ。けれど救いを求める方々が後をたたないのです」
「なるほど。僕のように遠方から来る人も多いのでしょうね」
「ええ、求められるままにそうあられるのでしょう」
 類の胸の内を使者たちが知らないように、使者たちの零した言葉が本当なのかは類にも解らない。けれど類は素直に相槌を打ち、真っ直ぐに見つめる。朗らかな笑みの下、抜け目なく隙を探して。
 そうして、真っ直ぐに前を見て先導する使者の後を、もうひとりの使者と肩を並べながら会話をして歩こうとし――。
 一瞬、だった。
 すぐ傍らの、ローブ姿の使者へと一息に低く踏み込み、腰を降ろした姿勢から瞬時に抜き放った腰に佩いた刀を一閃。足元を薙ぎ払う。ぐらりと姿勢を崩した使者――宝石人形の胸に抱かれた核の宝石を返す刃で斬りつければ、ガシャンっと乾いた音とともに宝石人形の身体が崩れ落ちた。
「――!?」
 前を歩いていた宝石人形が振り返り、同時に宝石弾が浮かぶ。
 風集い、舞うは《翅果の舞》。
 宝石弾――更に同時に眼前へ瞬間移動で現れて自爆する宝石人形の攻撃を、類は輪郭をゆらりと崩し、そして後方へ跳んで熱からも爆風からも回避し身を守る。代償に命を削るユーベルコードだが、削った命は、僅か。無傷と引き換えならば、安いか否かは類の気持ち次第だろう。
 自爆によってころりと転がる腕だけとなった宝石人形が消えていくのを見守りながら、考えるのは星導宮のこと。敵の目論見がなんであれ、確かに救われた子たちはいたことだろう。けれど。
(――残念ながら、僕は救われることは望んじゃいない)
 爆風によって衣服に付いた埃を払い、背の木箱を背負い直して。
 類はただ、前だけを見据えて歩いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルネ・プロスト
ぎりぎり間に合ったかな?
……お父様が死んで、お父様の工房を出て
あの工房に残してきた姉妹達
ルネの心に残る小さな刺
だけどそれを憂うのは今じゃない

ここに来たのは君達を壊す(弔う)ため
今はそれだけでいい

人形達は死霊憑依&自律行動

ルネのUCで運命を観測・改竄して敵の転移先や攻撃の軌道を予知
その情報を元にポーン8体の一斉発射やキングのカウンターを当てていく
UCの情報元に回避できる攻撃は回避していく
剣の投擲はルークの大盾で防御
ビショップはルネの傍で常時オーラ防御を展開し続けて予測外の攻撃にも備えさせる

君達の与える救いなんていらないよ
ルネの悩みはルネだけのもの
その答えもルネ自身が見つけ出してこそのものだ


アイシャ・ラブラドライト
♢♡

あのお方とはどのような方なのですか?
私たちを救おうとしてくれるのは何故なのですか?
などと星導宮さまに興味津々のふりをして先制攻撃の機会を伺います。
星導宮さまと戦う時に有益になる情報が掴めるかもしれませんしね。
チャンスが来たら【muguet】を振って先制攻撃を。
振ればチリンと鳴るベルの音。
音のもつパワーで攻撃を。
ここは静かな場所ですから、静寂を破る一音の力は大きいはず。
接近戦は得意ではないので、近くに来られるのは厄介ですね…
攻撃を受けそうになったら、フェアリーランドに潜りましょう。
隙を見て出て、攻撃。
自爆攻撃されたら壺が吹き飛ばされそうなので
誰かに壺を持っていてもらえると更に安心なのですが…



●フェアリーワンダーランド
「あのお方とはどのような方なのですか?」
 小さな妖精が、パタパタと羽根をはためかせる。容姿にあった声は愛らしく、そして小さい。そのため、使者の耳元に顔を寄せるようにしてアイシャは言葉を重ねていた。
「私たちを救おうとしてくれるのは何故なのですか?」
「わたしどもにもあのお方の深いお考えを察することはできませんが……救いを求められればそれに応えてしまう優しいお方なのですよ」
 無邪気そうな、妖精の声。興味津々な様子を隠そうとしない愛らしさ。その姿は演技なのだが、使者はすっかり騙されてアイシャの質問に答えていた。
 無害な妖精、と。思ってくれた事を察したアイシャは密かに笑みを深める。
 そして――。
 ちりぃぃぃぃん。
 静寂を破る、鐘の音。響く音は衝撃波となり使者――宝石人形を襲い、弾き飛ばされるようにして宝石人形が転がりガシャンガシャとけたたましい音を立てた。
 音を衝撃波に変える鐘付きのワンド『muguet』を宝石人形の耳元で振るったアイシャはピュンッと飛んで距離を取り、すぐに撃たれる宝石弾に向けてもちりぃぃん。ベルをは鳴らして衝撃波で撃ち落とし――
「きゃ」
 けれどすぐ眼前に宝石人形が瞬間移動してきている事に気付き、自爆される前にアイシャは持っていた小さな壺――《フェアリーランド》へ逃げ込んだ。
 壺に守られ、アイシャの身体には傷一つ無い。
 ……けれど。
 ぴゅぅぅぅぅぅ! アイシャの入った小さな小さな壺は爆風で吹き飛ばされてしまうのだった。

 ぽすん。
 ルネ・プロスト(人形王国・f21741)の手のひらの上に、小さな壺が落ちてきた。
「えっ」
 触れた。そう思ったと同時に、ルネの身体は小さな壺に吸い込まれてしまう。
 瞬きひとつする間に、ルネの身体は壺の中。そうして目の前には……
「可愛い!」
「ひゃ、ごめんなさい!」
 パタパタと羽根を揺らす妖精の姿に、思わず声をあげるルネ。
 よく解らないけれど突然人が入ってきたため、驚いて謝るアイシャ。
 抵抗されなければ、触れた者を壺内へと招いてしまう《フェアリーランド》のせいなのだとアイシャが説明すれば、なるほどとルネは納得した様子を見せるが、視線は始終アイシャの姿を追っていた。
(ぬいぐるみ……ではないけれど、フェアリーさんも可愛い)
 可愛い、なら守ってあげないと。
「ちょっと待っていて。ルネがお外の倒してきてあげる」
 ルネは宝石人形たちを壊す(弔う)ために来たのだから。
 そう告げて、ルネは壺から出ていった。

 ……お父様が死んで、お父様の工房を出て。あの工房に残してきた姉妹達。
 壺から出たルネは、ルネの手の中に収まってしまうくらい小さな壺を握りしめ、眼前の宝石人形たちを静かに見つめる。ルネの心に残る小さな刺と、目の前の人形は別のもの。
 マリオネット・サージネイトフォーサイト。
 十指から伸びる十糸にて、運命を観測して。
 その情報を元に死霊憑依をさせた自律行動可能な人形たちへと命令を下す。
 ルネの配下の人形たちは、ポーンにキングにルークにビショップ。
 ビショップがオーラ防御で予測不能な行動からルネを護り、放たれる宝石弾の攻撃は予測から回避をし、剣の投擲からはルークが大盾で防いでくれる。予測せずとも解る瞬間移動先にはキングとポーンが構え、現れた瞬間串刺しに。
「君達の与える救いなんていらないよ」
 悩みも答えも、ルネだけのものなのだから。
 綺麗に宝石人形たちを片付けたルネは、小さくそう零して。
 手の中の小さな壺を人差し指でコツコツ叩いた。
 もう安全だよ出ておいで、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・蒼夜
【藤桜】
想いが胸に貫く
でも俺は彼女の側にいる事を選んだ

彼女達が星導宮の使い。

ありがとう、と信用している振りをしながらその使いについていく
咲夜の手をぎゅっと握り
大丈夫だろうかと彼女に気をつけながら

攻撃は彼女合図と共に
【藤乱舞】で近くの敵を何人か攻撃して
【白藤】で一体ずつ攻撃

咲夜、傍から離れないで。
握った手を離す事なく彼女を守りつつ攻撃していく

彼女が身を呈して護ってくれた
咲夜大丈夫か?すまない、ありがとう。
傷ついた彼女を心配しつつも
心の何処かで俺を庇ってくれた喜びがあった

いや、駄目だ
俺は彼女の騎士。彼女を護り傷つけないのが俺の役目
彼女を想いを受け止めつつ手を離す
これ以上傷つけさせないと護る


東雲・咲夜
【藤桜】
己が罪の爪痕が疼く
せやけど気持ちを切り替えていかな…
うちを庇い前を往く彼の温もりに縋るよう歩いて

剣を構える微かな響きに顔を上げ
反射的に水の防御結界を展開
危険な時やのに、そうくんは手を放さへん
こないな時なのに…いいえ、こないな時やから
そう、繋がる熱が云うてはる気がして

彼の隙はうちが埋めます
取り囲まれても互いの背を護るんは互いの想い
《神籠》振るえば雷の邀撃
近づかれても此の身を楯とし彼を庇い
桜の花弁が幾百の針と成し反撃します

大丈夫、うちには神様のご加護がありますさかい
痛みの耐性があるの…心配あらへん

喩え肉が裂けようと、四肢が捥げようと
此の聲さえ在れば…
月神様へお願いや…そうくんを、護りたいの



●比翼の花裾
 甘い想いも、苦い想いも。星々が空に輝きを放つように胸に焼き付いて。切ない想いが貫いた二人の胸に、火傷となってじゅくりと痛む。
(それでも俺は――)
 彼女の側に居る事を、遠いあの日に誓っている。選んだ想いは覆ることはないと蒼夜は咲夜の手を引き歩を進めた。
「星導宮さまの元へご案内いたします。さあ、どうぞこちらへ」
「ありがとう」
 使者が来ても咲夜は俯いたまま。蒼夜は彼女の代わりに対応し、信用したように振る舞って使者たちの後に続く。悟られぬ程度の警戒を前方へ、大丈夫だろうかと彼女を案じる心を後方へと向けて。
 想い悩む表情で、蒼夜に庇われながら彼の温もりに縋るように歩く咲夜の姿は、使者から見てもかなりの悩みを抱えていると思われたことだろう。沈む思いの邪魔はされず――けれど、気持ちを切り替えていかないといけない咲夜には話しかけられた方が良かったのかもしれなかった。
 ふいに、強く手を握られて。そして、チャキリと僅かに蒼夜の剣が鳴る。
(ああ、いけない。――そうやね、そうくん)
 ぶわり。紫の藤花が舞う。『黒藤』を解いて藤花へと変化させるは、ユーベルコード《藤乱舞》。渦を描くように舞い上がった藤花は、その美しさからは想像も出来ぬ鋭さを持って周囲の使者――宝石人形たちを切り裂いた。
 藤花の出現と寸分違わぬタイミングで、水の防御結界が蒼夜の眼前に。沈む想いから顔を上げたばかりの咲夜であったが、心が罪の鎖に縛られていても反射的に動けるくらいに、彼との積み上げてきた日々がある。ともに修練を積み、ともに戦った日々が。
 藤乱舞では仕留めるには至らなかった眼前の敵を、蒼夜が『白藤』を振るって宝石人形の核たる宝石を斬る。その間も、繋いだ手は離さない。
(こないな時なのに……いいえ、こないな時やから)
 他方から、宝石弾が撃たれる。咲夜は藤と桜が揺れる扇『神籠』を振るい、雷霆にてそれを撃ち落とす。足りぬ分は、蒼夜が刀で弾き――しかし、同時に宝石人形たちが瞬間移動をして眼前に現れ、自爆する。
 爆発はなんとか水の結界で防いだものの、新たに現れた宝石人形が剣をもって蒼夜を傷つけようとし――
「――そうくんっ」
 喩え肉が裂けようと、四肢が捥げようと、此の聲さえ在ればいい。蒼夜の手を引いて下がらせ、代わりに咲夜が蒼夜の前へ。
(……そうくんを、護りたいの)
「咲夜!」
 細身に、深く剣を差し込ませなどしない。
 彼女の身を斬りつけた剣が深く刺さらぬよう、蒼夜が刀で受け止めて。
 桜の花弁を伴い、切り返した。
「咲夜大丈夫か? すまない、ありがとう」
「大丈夫、うちには神様のご加護がありますさかい」
 咲夜には痛みへの耐性がある。それを解っていても、いや、解っているからこそ案じてしまう。耐性があるからと無理をするのではないか、と。それに、大切な人が傷つく姿を見たいはずがない。
 ――ああ、それなのに。
 蒼夜の心の何処かが、歓喜に震える。君が庇ってくれた、と。俺に身を捧げてくれた、と。悪心が囁いてくる。
(――いや、駄目だ)
 蒼夜は咲夜の騎士である。護り、傷付けないのが騎士たる蒼夜の役目。
 邪念を追い払うように頭を振り、そっと彼女の手を離す。これ以上彼女を傷付けはしない。強い意思を持って、しっかりと両の手で刀を握り締めた。
 手を離された咲夜の手が、名残惜しげに伸ばされたことには気付かずに――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フローリエ・オミネ

和音(f13101)と

星導宮さま…ああ、早くお会いしたいわ
きっととてつもなくお美しくて、甘美な神託を下さるのだわ
足が急いてしまう…

ねえ、和音
足がもつれたら怖いの…だから、手を繋いで欲しいわ
二人で一緒に、星導宮さまの元へ行きましょう?

これで信用は得られたかしら
ならば。
和音の手から力をふっと緩め目配せ、そして兆候なく使いの方に【高速詠唱】で先制攻撃を仕掛けるわ

ここで【空中戦】で浮遊
まずは動きを封じて戦闘を有利に持ち込む
ああ…そうそう、とどめは和音にお願いしてもよろしくて?

わたくしは弱いの。一撃で仕留められるかわからないもの
確実に息の根を止めなくてはね

ふふ、和音ったら凄いわ!
戦い、お上手ではないの


鷹沢・和音

悩みに囚われていると悩みの種に見えてしまう、か
もし、那波の姿を取ったなら
―その時、俺はちゃんと斬れるだろうか

フローリエ(f00047)はうっとりと語っている
これが本心なのか演技なのか解らないな

求められれば手を繋いで転ばないよう気を配る
星導宮様といざ対面した時に擦り傷だらけの泥まみれじゃ格好つかないしさ

目配せをうけてそっと手を離して距離を取る
フローリエを陽動にしてその隙にUC発動し姿を隠す
隠密状態のまま忍び寄ることで奇襲してフローリエが討ち漏らした敵にトドメをさしていく

その姿がどう見えても関係なく俺は斬れると思う
―だって、もう彼女はこの世に居ないんだから

褒め言葉は少しむず痒い
たいしたことないよ



●重力よりも重いのは
「星導宮さま……ああ、早くお会いしたいわ」
 乙女の口から、甘いため息が零れた。夢と言うには甘く、恋と呼ぶには重い其れ。繊手を白皙の頬に添え、恋に恋する乙女が如く囁いて。
「きっととてつもなくお美しくて、甘美な神託を下さるのだわ」
 甘やかな囁きを咎める者は居ない。和音とフローリエを誘う使者たちは、称賛の言葉は当然だと思っているのだろう。深く頷きのみを返し、「こちらへ」と二人を促した。
「ねえ、和音。足がもつれたら怖いの……」
 気が急いて、足が逸ってしまうの。せっかく星導宮さまに会うために綺麗に整えてきたのに、転んでしまったら恥ずかしいわ。だから、ねえ、和音。手を繋いで欲しいわ。
 か細い腕が、縋るように和音の腕に触れる。揺れる隻眼が見上げてくれば、断る男は早々居ないだろう。
「ああ、フローリエ。しっかりと捕まっていて」
 うっとりと語っていたフローリエが、どこまで演技をしているのか和音には解らない。けれど、先程も転びかけていた彼女だ。フローリエに求められずとも和音から申し出ていただろう。
「二人で一緒に、星導宮さまの元へ行きましょう?」
 微笑むフローリエへ和音が頷き返すと、一行は歩みだす。使者たちはフローリエの足が悪いのだと察したのだろう。ゆっくりと歩をすすめていく。そのゆっくりとした道行きは、フローリエにとって都合の良いものだった。フローリエたちが歩みを止めたとしても距離が開きすぎる事はないし、歩みとは違った衣擦れが零れても足をもつれさせたのだろうと勝手に思ってもらえるのだから。
 手から力を緩めるとフローリエは和音に目配せをし、二人は静かに行動に移る。
 フローリエが音もなく浮かび、そして和音もまた、音もなく姿を消す。
 使者たちの後方、何もない空間が突如裂けた。音もなく重力が寄せ集められ、隙だらけの使者たちを、純粋な重力で後方から地面へと縫い付ける。――その力は、フローリエが高速詠唱で発動した《存在不許可(カウントダウン)》。
「――ぐぁ!」
 重力で、ミシリと使者――宝石人形の身体が悲鳴をあげる。重力で潰し動きは封じたが、活動停止までには至らない。
 そこへ突如、宝石人形の傍らへ和音が現れ――。
「……」
 一呼吸分の間。伏した宝石人形を見下ろして。
(もし、那波の姿に見えたらどうしようって思ったけれど)
 その瞳に躊躇いは浮かぶこと無く、ただ真っ直ぐに光の剣を人形の胸の宝石へと突き立てた。
 一瞬だけ彼女の姿に見えた気はしたけれど、関係ない。だって彼女はもう此の世には居ないのだから、見えたとしたらそれは偽物だから。躊躇う必要なんて無いことは心の何処かで解っていたのだ。
 そのまま、重力で地に伏せた他の宝石人形たちの胸の核も同様に次々と砕いていけば、響く笑い声。
「ふふ、和音ったら凄いわ!」
 うっとりとした乙女の顔は何処へやら。
「戦い、お上手ではないの」
「たいしたことないよ」
 年頃の青年には褒め言葉は気恥ずかしい。返す言葉はそっけなく。
 ぽり、と顔を掻いて目を逸した青年へ、笑みを刷いた魔女が再度同じ言葉で誘った。
「さあ、星導宮さまの元へ行きましょう?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■バレーナ/f06626


バレーナ、大丈夫?
自分の困惑と不安は笑顔の奥に封じ込め、君の顔を覗き込む
だって僕まで不安そうな顔をしてたら、もっと不安にさせてしまう
きっと、バレーナも心を悩ませるようなものを見たんだ

案内人……ふうん
悩みを解決してくれる、か
それは楽でいい
ひとに解決してもらうそれは
本当に解決したことになるのかな

バレーナを守らなきゃ
水泡のオーラ防御を彼女の方へ飛ばして最優先に守る
歌唱に魅惑を解かし歌うのは「氷楔の歌」
凍てつけ
砕けろ
迷う心ごと
君が歌うなら合わせるよ
一緒に歌おう

結局の所
解決できるのなんて自分だけ
本当はわかってる
僕は
家族がいない事を言い訳にしてるだけ
……ただ、悔しいだけなんだって


バレーナ・クレールドリュンヌ
■リル(f10762)


リルの健気な微笑みが、わたしには、ジワリと胸に染み込む、甘やかに蝕む罪悪感のようだったわ。

リルの笑顔の裏にある葛藤は何かしら?

「えぇ、大丈夫よ、リル」

そう答えるのは、自分の痛みを隠す為、彼の不安が少しでも和らげば、わたしの罪悪感も赦されるような気がしたから。

【案内人】

リルの歌がわたしを守る時、わたしは、一つの答えを出したわ。
想いの形は一つじゃない、戀ではなくても、愛する事はできるもの。
貴方がただそこにいるだけで、それだけで、あたたかいのだから。

それに、わたしとリルはお互いに届けられる歌があるのだから。

わたしは君のためにできることを、貴方に贈るわ。



●風波の謡
 きゅっと唇を噛み、苦い想いを殺して。
 睫毛を臥せて、戸惑いを殺して。
 不安も困惑も、封じ込めるのは笑顔の中。そうして浮かべた笑顔が、『いつも』を知っている人には通じない事を知っていながら――でも、そうすることしか出来なくて。
「バレーナ、大丈夫?」
 不安にさせないようにと笑顔を浮かべ、揺れる南の海を静かな湖が覗き込む。けれど漣をたてる南の海に映る自身の顔に拭いきれないものを見つけ、リルは取り繕うように笑みを深めた。
 その健気な微笑が、バレーナの胸にジワリと染み込む。甘く蝕むそれは、罪悪感のように似て。けれど敢えてそうと気付かぬよう、バレーナは心から目を背けた。
「えぇ、大丈夫よ、リル」
 お互いを想い、お互いを見ている。
 ――けれど本当は?
 お互いに、相手の瞳の中に、自分を見ていた。リルも、バレーナも、解っている。解っていたけれど、そうすることしか今は出来なかった。
 天から幾重にも垂れ下がった布の向こうから、使者が衣擦れの音とともに現れる。二人きりで微妙な空気に包まれているよりも、誰かがいてくれた方がずっといい。けれど。
「悩みを解決してくれる、か。それは楽でいい」
 ふぅんと気のない様子で小さく零したリルへ使者たちは首を傾げる。
「解決、ですか。ともに解決への道を探してくださる事はあっても、星導宮さまが解決なさることはありませんよ。悩みはそのひとだけのものですから」
 それはあなたも解っているでしょう? と使者が口にする。噂でもグリモア猟兵の話でも、そう言われていたはずだ。望むなら、言葉をくれる。ただそれだけなのに、ひとは縋れるものを見つけると縋ってしまうのだ。
「あなたの悩みも、あなただけのもの。どうするかは常にあなた次第です」
「そう……だね」
 胸の内を、言い当てられた気がした。
(僕は……家族がいない事を言い訳にしてるだけ)
 それが、ただ悔しいだけなんだって事は、本当は解っている。解っていた。上手く言葉に出来なくて、彼にもあの子にも示せなくて。それが酷くもどかしい。
「どうされますか?」
 先へ進むのか、帰るのか。リルたちの前で足を止めたままの使者たちが、どうするかと伺ってくる。リルは――
 ――歌った。
 歌うと同時に、バレーナへ水泡のオーラ防御を飛ばして。
 凍てつけ。
 砕けろ。
 迷う心ごと。
 熱を纏わぬ使者――宝石人形への効果は薄い。けれど歌が何かを齎すのは、敵にだけではない。
(――ああ)
 バレーナの心の中で、音がした。それは、馥郁たる香りとともに花びらいた花から、花弁がはらりと落ちる音。何かが芽吹き、咲いて、ひとつの形となって――そうして、新たな答えが生まれた音。
(戀ではなくても、愛する事はできるもの)
 想いの形は一つじゃない。親愛に友愛……友愛の中にも、形は様々だ。《君(リル)のためにできること》、あるじゃない。お互いに、たくさんある。
 リルの歌に、バレーナは歌を載せる。
 ――聞いて、わたしの歌(おもい)。
 ――聞こえるよ、君の歌(きもち)。
 戀でなくていい。見返りなんていらない。ただ貴方に贈りたいと、響いて混ざるはプラトニック・セレナーデ。
 バレーナの歌声が載って、リルの《氷楔の歌》が勢いを増し、宝石人形たちを凍らせて。
 ――楽しいね、バレーナ。
 ――ええ、あの時といっしょね、リル。
 目配せしあい、笑顔を咲かせ、二人の楽しい合唱は続く。その笑顔に、先程までのぎこちなさは微塵もない。二人を繋いだのが歌ならば、二人を笑顔にするのもまた、歌だった。
 ぱりん、と氷が砕ける音が響くまで――二人の合唱は続くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

地鉛・要
【剣蟲呪】と連携・アドリブ可

最初は油断を誘う為に入信しそうな雰囲気を出す
もちろん、不審な事が有ればすぐに対応するけどな

一通り聞きだした所で不意打ち気味に影業を足元から棘状にして突き刺す様に動かす
飛んでくる宝石弾の対処はティアちゃんに任せる
続いて蟲を召喚
召喚できる殆どは【生命力吸収】を組み合わせて「敵のエネルギー減衰を招く鱗粉をばら撒く」自爆に対応した蝶をより広範囲にばら撒く

残りの少数を「コアを素早く正確に穿ち撃つ事」事に対応した甲虫を召喚し敵に打ち込む
攻撃で仕留めきれればいいけど、出来なさそうなら・・・ノアが攻撃を入れやすいように
悪いが、俺達は自分で前に進めるんでな


ノア・サテライト
【剣蟲呪】の皆と行動・アドリブ可
ふむ。僕も皆に習い始めは信じたふりをしておこう。出来れば星導宮さまに関するいい情報を聞き出したいものだ。

さて、戦いだ。今回はティア(f19551)を装備して戦うよ。
まずは僕とティアの全体に 夢幻ト幻想《黒》 を纏う。これで少しは攻撃力が上がるはずだ。
そしたら 呪いの人形《シャルララール》 を召喚。【呪詛】で要(f02609)の援護をしよう。出来れば敵に【恐怖を与える】事に成功したいな。

相手の放つ宝石弾はティアで上手く逸らす。
瞬間移動されたらティアのUCで速攻で追いついて僕の選択UCをぶち込む。

任されたよ、ティア!
さあ、『爆ぜろ、黒き呪い』ッ


アリスティアー・ツーハンドソード
【剣蟲呪】の皆と行動
二人は乗り気のよう(な演技)だけど僕は疑り深くてね
お使いの方に質問なのだけど、星導宮さまは人を集めて何をしようとしているんだい?
何故人の悩みを解消するのか、その理由を僕は知りたい…どのような答えでも戦闘になることは変わらないけど

今回はノア(f22154)に僕を装備してもらう
要の不意討ちに合わせて【ブレイクミラー・ホッパーション】を展開し相手の放つ宝石弾を反らしてしまおう
そして相手が瞬間移動を使用したならこちらも選択UCを使用してノアごと相手の頭上にテレポートする【カウンター】を当てて逆に死角に潜り込んでやる
テレポートで投剣の射線からは逃れてるはず、まとめて反撃してやれノア!



●剣蟲呪
「君たちが……」
「噂に聞いていた『お使いの方』……? やはり噂は本当だったんだ」
 現れた使者に対し、要とノアは酷く感極まった様子で近づいていく。
 遠くまで噂は届いている。来てよかった。さあ早く連れて行って欲しい。
 二人は口々にそう告げて、さも星導宮を信じているように演技をする。けれど、アリスティアーは暫くの間沈黙し……。
「二人は乗り気のようだけど僕は疑り深くてね」
 ノアに握られて運ばれているアリスティアーが話すと、使者たちは少し驚いた様子で視線をアリスティアーへと向ける。剣が喋りだすとは思わなかったのだろう。
「質問なのだけど、星導宮さまは人を集めて何をしようとしているんだい?」
「いいえ。星導宮さまが集めている訳ではありません。噂を聞いた人々が自ら訪れて、星導宮さまは言葉を授けているだけですよ」
 そうして結果的に集ってしまってはいるが、星導宮さま自身が集めている訳ではない。教団を作っている訳でも、教祖を自ら名乗っていることもない。グリモア猟兵の説明であったとおり名前ですら皆がそう勝手に呼んでいるだけで、自ら名乗ったものではないのだから。
 何故人の悩みを解消するのか。それに対しても同じ答えが返ってくる。ただそう、人々に求められたから、だ。
「とても、お優しい方なのです」
「……そうか」
 そう締めくくった使者に対し、もう信じている振りをやめたのだろう要の返答は短なもの。
 使者が疑問に思う前に要が影から棘状のワイヤーを射出させると、使者たちのローブが切り裂かれるのと同時にノアはティアと自身へ瘴気のカリスマオーラ『夢幻ト幻想《黒》』を纏った。
剣の姿でどうやって装備しているのかは謎だが、アリスティアーのセブンリーグブーツが光る。それに合わせてノアが横薙ぎに振るえば不思議な魔法が発動し、10枚の鏡が出現した。
 宝石弾によって、鏡が撃ち抜かれる。けたたましい音を立てて鏡を割り、そのままアリスティアーたちへと宝石弾が迫る――はずだった。
 ばりぃぃぃん! と、確かに鏡は砕け散った。けれど宝石弾が彼らに届くことはなく、反発力で何処かへと飛んでいってしまったのだ。それが――『ブレイクミラー・ホッパーション』。アリスティアーのセブンリーグブーツに宿った、担い手が振ることによって発動する魔法だ。
 弾かれることを目で確認もせず、要は《監視軍蟲--視線の檻--(カンシグンチュウ)》で蟲たちを召喚する。ティアちゃんならやってくれる、そう信じていたからだ。
 要が召喚した蟲たちは……要が思い描いていたよりも少なかった。けれどその殆どを『敵のエネルギー減衰を招く鱗粉をばら撒く』蝶として、即座に瞬間移動して自爆してくる宝石人形たちの備えとした。蝶のばら撒く鱗粉は要の目論見通り爆発を緩和し――しかし、要が一人でかなり離れていない限りその爆発は仲間へも及ぶ。広範囲に鱗粉を展開した蝶たちによって仲間へのダメージは減っているものの、生命力吸収を使用している要以外は無傷とは到底言えない有様だった。
 僅かな『コアを素早く正確に穿ち撃つ』甲虫を操る要へ、ノアは『呪いの人形《シャルララール》』を召喚して援護に回す。その視界の端に瞬間移動してくる宝石人形が見えたなら――
 ティアーエッジ・フォールダウン!
 アリスティアーの《涙刃堕天刀》でノアごと宝石人形の頭上へと飛んで――!
「まとめて反撃してやれノア!」
「任されたよ、ティア! さあ、『爆ぜろ、黒き呪い』ッ」
 アリスティアーが吠え、ノアが応じる声が高らかに。
 ――しかし。『黒き呪い』が爆ぜることはなかった。
「――ッ!?」
 ノアは動揺を露わに後退する。《円環の因果巡り(イグナイト・イムプレカーティオー)》を発動し、呪いの瘴気で攻撃をするつもりだった。しかし、発動に失敗してしまったのだ。要因は、解らない。
 ノアの背に、要の背がトンと触れる。
 ――やれるか?
 視線だけが交わって。
 小さな頷きとともに、二人は同時に地を蹴った。
 三人の戦いは暫く続くこととなる。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
自分自身でも抱えてた事を掘り起こして、それから言葉をかける。
本当の学生の年代にはそれは突き刺さるだろうねこれ。
厄介な相手、最初に聞いてたけどようやく実感わいてきた。
これは確実に…始末、しないとね?

とりあえず信じてるふりしつつ不意討ちを仕掛ける。
最初はお悩み解決の星導宮なんて都合のいい噂、なんて眉唾だったけどもね。
わーりーと長く抱えてた悩み、どんな風な言葉をかけてくれるのかなあ星導宮さまは、とか夢見るような感じに言ったり。
それで人形達が油断したらUC発動、瞬間移動する前に空シャチ達に襲い掛からせよう。
…それはそれとしてキミ達には退場して貰うんだけど、と銛を投げたりもしつつ。

※アドリブ絡み等お任せ



●空シャチたちの狂宴
「最初はお悩み解決の星導宮なんて都合のいい噂、なんて眉唾だったんだけどもね」
 そう切り出したヴィクトルの次の言葉を、使者たちは口を閉ざしたまま促した。最初はと切り出したからには、現状はどう思っているかの言葉が聞けるはずだからだ。
「わーりーと長く抱えてた悩みがあってさ」
 海の王者とも言われるシャチの外見だが、その口調は穏やか。そして気取らない口調で、胸の内を隠し、信じた振りをしてヴィクトルは使者たちと会話を続けていく。
 多感な年頃であったならば、抱えていた悩みを暴かれ優しい言葉を掛けられたならばコロリといってもおかしくないだろう。魔法学園の学生たちには卒業という概念がないため、ヴィクトルが考えるような一般的な学生の歳ではなかったりするわけだが。学生たち自らそうしているとは言え、やはり気分の良いものではない。
(厄介な相手と最初に聞いてたけど、ようやく実感わいてきたな)
 噂を信じて話を聞いて欲しいと縋るようにやってくる者たちには、静止の声はきっと逆効果だ。言って聞かせて止めることは出来ず……かと言って物理的に阻止しようとすれば躍起になることだろう。確実に、根っこから始末すべき問題だった。
「どんな風な言葉をかけてくれるのかなあ星導宮さまは」
 本心を隠し、そう夢見るように口にして。
 そうして使者たちがすっかりと信者と思い込んだのなら――スカイ・オルカ!
「海ばかりと思ってたら痛い目見るよ」
 はっきりとした敵意を示すと同時に《空泳ぎたちの狂宴》で空中を游ぐ空シャチたちを召喚した。
 敵意に反応して、宝石人形たちが動く――が、遅い。既に召喚された空シャチたちが一斉に宝石人形たちへと襲いかかる。空シャチたちの数で圧倒し、剣の投擲をしようとする個体にはヴィクトルが銛を投げて応戦した。
「キミ達には退場して貰うんだけど……って、もう聞こえてないか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
星導宮さまの、お使いの方ですか?
そばかすだらけの醜い顔を笑顔の形にゆがめて、問う

そうですか、御機嫌よう(こんにちは)
それから、御機嫌よう(さようなら)

肩に提げていたスクールバッグからスコーピオンというサブマシンガンを取り出して銃弾をばらまきます
『主よ御手もて 引かせ給え』
…かみさまなんて、いないんですけれどね

かみさまがいたら、誰も悩まない
優しい世界を作ってくれる
6日間かけてかみさまが作った世界はこんなにも美しいのに
ヒトの心は醜い
7日目もかみさまは休まずに作ればよかったのに

貴女は、どう思いますか?
…お人形さんにはわかりませんか
星導宮さまに、早く会わせてくださいよ

それでは、幕引き
ごきげんよう



●かみさま
 広い広い広間に、何処にでも居そうな少女がひとり。
 ああかみさまでもいそうだな。なんて考えていたら、幾重にも重なった重たそうな垂れ布の向こうからローブを纏った使者たちが現れた。
「星導宮さまの、お使いの方ですか?」
 そばかすだらけの顔を歪め、ゆずが笑う。『いつもの日常』で誰かが何か言っていた、ゆずの顔。
(ああ、そうだ。そうでした)
 醜いって嘲笑われたんだ。
 ブス、汚い、なんて醜い。あの子たちは、そうやっていつも嘲笑う。
「ええ、ご案内させていただきますね」
「そうですか、御機嫌よう(こんにちは)」
「では、こちらへ」
「それから、」
 ――御機嫌よう(さようなら)。
 さよならの声は、銃弾とともに。
 肩に提げていたスクールバッグから『スコーピオン』を取り出したゆずは、使者――宝石人形たちが動くよりも早く銃弾をぶちこんで。
「主よ御手もて 引かせ給え」
 さよならの言葉も、主への祈りも、銃声で宝石人形たちにはきっと聞こえていない。
 まあ、かみさまなんて、いないんですけどね。いないから、祈りだって口にしなくてもいいんだけれど。
 ゆずは、かみさまが居ないことを知っている。身を持って、知っている。
 だってかみさまがいたら、誰も悩まない。優しい世界を作ってくれる。ゆずが助けを求めた時も、救ってくれたはず。でも救いは無くて、助けも無くて。だから、かみさまなんて居ないんだ。
(6日間かけてかみさまが作った世界はこんなにも美しいのに)
 タタタタタ、スコーピオンが謳う。
 どうしてヒトの心は醜いのだろう。
(7日目もかみさまは休まずに作ればよかったのに)
「貴女は、どう思いますか?」
 あっという間に弾を吐ききったスコーピオンに装弾しなおして、問う。
 答えは返ってこない。
「……お人形さんにはわかりませんか」
 きっと銃声で、届いてはいないのだけれど。
 そんなことはゆずにはどうだっていい。
「それでは、ごきげんよう」
 撃ち抜かれた赤い宝石が、キラキラと散った。
 赤い赤い、血のような宝石が降る中、ゆずはスコーピオンを片手に歩み行く。
 星導宮さまとやらの顔を拝んでやるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『宝石人形』徳の翡翠』

POW   :    勇敢なる殉教者達~無名の英雄譚~
戦闘力のない、レベル×1体の【何処かの世界の一般人(洗脳済み)】を召喚する。応援や助言、技能「【かばう(敵の攻撃対象を自身に移し変える)】」を使った支援をしてくれる。
SPD   :    スピーチロック
【一言でも、自身の語った言葉】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    洗脳人形~イェーガーコントロール~
【自身の語った言葉を、一言でも聞く】事で【聞いた対象が自身の言い成りになる洗脳状態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:片九里たわわ

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●徳の翡翠
 人の心は儚くて。
 ――ああ、なんと可哀想なのでしょう。
 人の心は壊れやすくて。
 ――ああ、なんと愛おしいのでしょう。
 大丈夫、大丈夫ですよ。恐れることはありません。
 他の誰もが貴方を認めなくとも、わたくしは貴方を認めましょう。
 ともに泣きましょう。
 ともに笑いましょう。
 大丈夫、わたくしがおります。
 貴方がたは、独りではないのですから。

●星導の女
 女は案じていた。心の底から。
 女は想っていた。心の底から。
 求めるのはいつだって人の方。
 女は求められるままに言葉を与えて、見守っていた。
 創造主に与えられた命との間で揺れる、女の気持ち。
 いつかはこの時を終わらせる者たちが来ることを知りながら、わたくしは――。

 屑石を抱いた宝石人形たちを倒した猟兵たちは、続く奥の間へと向かう。
 先の間と同様に薄暗い室内。その天井には星の瞬き。室内にはたくさんの人の気配があった。
 戦闘音は届いていたのだろう、沢山の人々に護られるように囲まれた女の姿が見える。猟兵たちの姿を目視した信者たちは警戒の色を強くし、ざわめきが波紋のように広がっていく。
 ――しゃん。
 涼やかな、遊環の音。護られるように中心に居る女が手にしている錫杖の音一つで、場にはまた静寂が降りて。
「猟兵の皆さま、お初にお目文字叶います。わたくしは翡翠。『徳の翡翠』と申す者にございます」
 透き通った玲瓏たる声が広い部屋全体へと響き渡る。
 静謐な湖面を思い浮かべるような蒼銀の髪に、天から見守る月のような瞳。
 胸に抱くは翠の宝石――翡翠。
 錫杖を鳴らし、人々に頼られる存在。誰よりも高い徳を持ち、その言葉は絶対的な支配権を伴う宝石人形。それが、星導宮さまと呼ばれている女性――『徳の翡翠』だ。
「このまま、お帰り頂くことはできないのでしょうか?」
 睫毛を震わせ猟兵たちを見て。
「……出来ない、のでしょうね」
 悲しげに瞳が伏せられれば、その様子にまた信者たちにざわめきが広がる。彼女を案じ、心配する声。そして、彼女を悲しませる存在――猟兵たちへ向けられる避難するような、帰ってくれと言わんばかりの目。
「わたくしと貴方がたは相容れぬ存在。わたくしは何れ、命に従い貴方がたと戦わねばならぬ宿命――」
 ――しゃん。遊環が鳴る。
 その時には既に、彼女の姿は信者に隠され見えなくなっていた。

✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.

⚠ MSより ⚠
 戦闘場所は、猟兵たちがドッと押し寄せても大丈夫なくらい広い部屋。参加猟兵が多いため最初から信者が3桁居るので、かなり広いと思って頂いて大丈夫です。
 室内にドッと人が詰めかけている状態の描写となりますので、フレンドリーファイアに気をつけて戦って頂けると、あなたもみなさんも信者もハッピーになれます。
 他者と絡みたく無くとも、同じ場所に居るため、どうしても絡ませてしまう場面が出てくることもあるかと思います。
 とても基本的な事ですが、あなたの行動分だけ敵も同じくらい動ける時間があると考えてください。敵もただ見ている訳ではないので、動きます。
 OPやマスコメを再度よく読んで頂き、彼女の『声』をどう対処するか考えた上で行動してくださると良いかと思います。みなさんは独りではありません。周りには頼もしい仲間たちが居ます。

●『徳の翡翠』
 信者と言う肉壁に囲まれています。我先にと進んで攻撃に当たりに行って彼女を守ろうとします。彼女だけを狙っても、信者専用技能【かばう(敵の攻撃対象を自身に移し変える)】を使用して庇います。
 彼女の声は、よく通ります。猟兵たちの声や歌よりも、ずっと。
 彼女自身は戦闘行為が苦手です。信者たちが彼女を逃がそうとすることがあっても、彼女が自ら逃げようとすることはありません。彼女に猟兵の刃が届く時、翡翠は微笑んで骸の海へと還るでしょう。

・勇敢なる殉教者達~無名の英雄譚~
 召喚。
 信者が3桁増えます。肉壁マシマシおかわり。

・スピーチロック
 単体攻撃。

・洗脳人形~イェーガーコントロール~
 全体攻撃。
 僕も私も猟兵も操り人形。強化状態で寝返ります。
 彼女が解除するか、気絶しそうな一撃でも喰らえば解除されます。

●翡翠の言葉
 1章参加の方は悩みに対する言葉を望めます。プレイング頭に💎をつけてください。
 悩みに対する言葉を望む場合、『洗脳人形』になります。もれなく寝返ります。

●一般人の生死
 猟兵の攻撃で儚く散ります。翡翠が悲しみます。おのれ猟兵!
 成功条件に一般人の生死は関与いたしません。

●成否
 シナリオが失敗に終わることもあるかもしれません。
 失敗となっても洗脳人形になった猟兵たちは「いりませんわー」っとリリースされるので大丈夫です。

●プレイング受付
 上記を踏まえまして、色々と策を練って頂けますよう相談タイムを設けてあります。
 一次受付期間内に頂いた全てのプレイングを拝見してから構成を考えます。失効までに間に合えば完結。間に合わなければ流れますので、二次受付の日程でそのまま再送お願いします。(全採用の確約はしておりません)

・一次受付
 【11/13(火)朝8:31~11/14(火)23:59まで】です。
 いつもより短い受付となりますのでお気をつけください。

・二次受付
 【11/18(日)朝8:31~11/19(月)23:59まで】です。

(更に再送になったらごめんなさい)

✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.
曜日が間違っていました……。

・一次受付
 【11/13(水)朝8:31~11/14(木)23:59まで】です。

・二次受付
 【11/18(月)朝8:31~11/19(火)23:59まで】です。
アイシャ・ラブラドライト
♢♡【WIZ】

災魔を倒せればそれでいいという人もいるかもしれないけど…
私は、人を助けたい。
誰かの言葉に縋りたいくらいの悩みを心に抱えて
そのまま死んで行くなんて、悲しいから…

まずは私自身、星導宮さまの声への対処が必要ですね
原始的なやり方ですが、耳栓をしておきます

空を飛んで、上のほうから、
気絶しそうな一撃を食らったり何らかの理由で洗脳状態の解けた人
実際気絶している人など無抵抗の人を探して
フェアリーランドで回収して保護します。
一般の人が減ったほうが皆さん身動きが取りやすいですよね。
私はサポートに回り、
星導宮さまへの攻撃は他の猟兵たちにお任せします。


リル・ルリ
■バレーナ/f06626


こんなにも信者がいるのか
翡翠にしか心を委ねられなかったとも見えて
何だか、寂しいね
……翡翠には明かさない
言いにくくてもちゃんと相談するよ
悩んだのは大切な想いだから
バレーナも皆もいてくれるから大丈夫

透徹の雨が降る
バレーナの歌は心地いい
どんな声よりずっと優しい
響かせようか、僕らの歌を…ね?
洗脳なんかに負けられない
倒れた信者達を「闇の歌」で操って他の信者達を抑えたり翡翠への道を開けさせる
オーラ防御の水泡で彼らを包んで守り
殺されないよう退避もさせる
僕が操られたら尾鰭ビンタしていい
…君を殴る事は出来ないな

答えは自分でみつける
歌は自分の意思で歌わなければ

そう教えてくれたのは
君だから


ノイ・フォルミード
【こととい】

心からの言葉で心を染める
これが君の寄り添い方か
それとも君はこう在るしかないのかな

翡翠の所まで共にゆこう
極力信者に被害は出したくないが
攻撃してくるなら鍬で受け
眠ってもらおう、『ルブルム』

翡翠に向け発すれば信者たちが庇いに来るだろう
結果的に多くの人へ音が届くといい
眠りに落ちた者は脇へどかして

紀昌君や、他の人の様子にも意識して
祓いの弓にも頼らせてもらうよ
それでももし、私の心がもし翡翠にとらわれてしまったら
紀昌君、思い切りガツンと殴ってやってくれ
此方も遠慮はなしだ
……うん、これもまた、独りでは成せぬ事かな。はは

翡翠へ確実に一撃が届くまでは鍬は振るわない
これは君へ
君だけへ届けたいから


旭・まどか


なんて利己的で自己愛が過ぎるんだろうか
正解を求め惑う誰かを救っているつもり?

勘違いも甚だしい
お前がしているのは他者を巻き込み、自己陶酔に浸っているに過ぎない

束の間の救済を得たとて
向き合わねばならない現実は消えたりしない

本当にお前が慈悲と憐みで以って想うのならば
まやかしの言霊なんて、扱える筈が無い


抗うよ
僕はお前を認めない
例えどれだけ甘言を囁かれたとて、勧誘を受けたとて、揺るがない

隣で吼えるこいつの聲が、僕を僕たらしめてくれる
共に生きる僕を此処に生かしてくれる

僕の声はお前に届かない
けれど、代わりにお前の声も僕には届かない


面倒な倒錯者共には、宵をあげよう
役に立たないのならせめて、僕の邪魔はしないで


フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰兎と櫻


失礼な
ボクだってあるよ!
この前の夜
誘七家に忍び込んだ
その時高そうな壺割って参った
一華君起きないし
櫻宵に言おうと思ってた!

得体の知らない人形よりボクの事を知っててくれる人に相談するのが1番

死にたくなければ道をおあけ!
振りまく絵の具は粘着の全力魔法
吹っ飛ばして鳥餅みたいに縫とめたげる
おっと危ない
声の気配を感じたら「薔薇の国への招待状」で櫻宵と隠れる
声は届かせない
飛び出る度に呪殺の絵具粉を翡翠の方へ散らし喉を破壊すべく工作
ド派手にカラフルな弾幕張り信者達の目を逸らし
その間に死角に蝶飛ばす
目的は櫻宵を人形の所まで行かせる事

キミが敵になったら厄介だ
安心して
思い切り殴るよ

一緒に練習したげるさ!


誘名・櫻宵
🌸兎と櫻


フレちゃん悩みなんてあったの?
その壺ジジイのお気に入りよ
もっと早く相談なさい!何の為のあたしなの?
一緒に謝りに行くわ
…一華の寝付きの良さは母似ね

成程
甘い言葉に慰めは惑う者の美酒
身近な人に相談すべきだったのに
蔑ろにして人形に縋るから

邪魔
睡華の桜花を衝撃波にのせて信者達を眠らせる
起きてる奴は殺す
庇うなら敵と同じ
何故悲しむの?あなたのせいよ

桜花のオーラ覆いなぎ払って衝撃波で吹き飛ばし斬裂き払い翡翠の元へ駆ける
第六感で声を察したらフレズの蝶に触れ躱して
再び睡華の嵐を

洗脳なんて屈辱
殴って頂戴
私も呪殺弾で打つ

生きてるから悩む
悩み戦うから成長する
必要な苦しみを奪わないで

平気よ
泳げない私も可愛いわ


弓塚・紀昌
【こととい】

心は脆く儚いもの?かかっ!確かにその通り。だが、憐れむのは間違いでさ
塞ぎ込み座り込み停滞したとしてもいつしか勝手に立ち上がる
道を選ぶは己自身。選ぶのはたった独りで行わなければならず生とはその繰り返し
故に心は強い。翡翠のお嬢、お前も気づいておりやしょう?
まぁその道中、誰かと共に歩むこともできやすがね

ノイと共に翡翠の元へ

科戸風の矢を旦那と自分に持たせやす
お嬢、あんたの言葉は人を惑わす蠱物でもある。であれば破魔矢は心を護りやしょう

旦那の唄で寝た方々を横へと退かし前へ前へ
旦那や他の方々の心が囚われたなら科戸風を
動けぬ状況になりやしたら旦那を投げて送りやす

あたしの分までぶちかましなせぇ、旦那


ジークリンデ・ドラグナー
♢♡
UC発動
金色のオーラの鎧を纏い空中より翡翠目指して一直線で飛ぶ
きっと信者が邪魔してくるでしょうねぇ
そんな子は――お掃除する迄よ
槍の柄で弾く様に死なない程度に信者を退かして
それでも邪魔を続けるならば
意志の力で強化された羽ばたきで
翡翠の声が届かない様に空間中に爆音を響かせるわ
音速越えの爆音をあなたの声で掻き消せるかしら?

その勢いで信者を吹き飛ばし、引き剥がして
翡翠へ一撃――蛇竜にして飛ばした槍に噛みつかせる
このまま黙らせてやるわ、永遠にね

頼ろうと縋ろうと
意思無き人形になってあなた達は何をしたいの?
たった一人に縋ろうなんてきっと違うわ
これだけ沢山、色んな人がいるんだから……
もっと世界をご覧なさい


バレーナ・クレールドリュンヌ
■リル(f10762)


その声は、届かないわ。

水よ、混沌よ、集い結ばれ、生命を齎せ、『ヒエロス・ガモス』(wiz)

生命の雨を集約して、スコールのように激しく降らせるわ。
懸濁した意識を揺らす雨は音を遮り、弱き者は膝を折るでしょう。

もう、こうすれば……殺戮は必要ないはずよ。
リル、貴方の歌を響かせて、この水の世界で、最も透る貴方の歌を。

リルがもし、翡翠の声に惑うようなら、そっと耳元まで寄り添って、わたしの告白をするわ。

……雨音に、この声は届かないかもしれないけれども……。
答えは、ほんの少しの歩みの先。
慣れない歩みの、不器用な足取りの末に見つかるもの。


セラ・ネヴィーリオ
♢【WIZ/ユキさんと】
どうして、あなたは
翡翠さんに問おうと近づくけれど、信者さんの目を見て諦める
僕らは猟兵だもの、ね

俯き
顔を、上げて【死出の導】
狙いは翡翠唯一人
信者が阻むだろうし出力は最小限、気絶させる程度。なるべく多くを眠らせる

望んで止まない声が聴こえる
死の果てまで傍に在ると、二度と喪わせないと契る囁き
(ずっと……一緒に……?)
揺らぐ

でも
いつか待つ喪失は《覚悟》の上
それでも『彼』や仲間と歩みたいから。そうあれかしと《祈り》を携え
宝石の言葉を打ち砕く意思を《呪詛耐性》の礎として抗う
「……ふざけないで。そんなのもう、いらないよ」
「やっちゃえ!ユキさああん!!」
信者の壁を崩したら負けじと叫べ!


ミラリア・レリクストゥラ
ここですね…こ、これは…この人数は!?

【WIZ】

翡翠さんのあの声…こちらの根幹を、揺るがすような――
語りかけるだけで、影響を及ぼす事ができるのでしょうか…お陰で少し冷静になりましたが。
普段でしたら、こんな姿の人々を見たら、もう…。

…とにかく、この人々をどうにかしないと。
これだけの数、直接影響を与える唄だと全員に聴かせるのは難しいですし…【過去は過去たる地へ沈む】で物理的にどいてもらうしか。
これでも全員は難しい気はしますが…一度床をすり鉢状にして、上に橋をかけます!

翡翠さん。貴女の言葉は効きません。聞き入れません。
【狂気耐性】だけじゃない、この悩みは私以外の誰にも解決なんてできないのですから!!


ユキ・パンザマスト
♢【セラと】
デパイスで情報収集。翡翠の挨拶から声採取。
ハッキング応用で端末の実体ホロ機能に干渉。
声サンプルを元に言霊への呪詛耐性を込めた逆位相音を生成。
全て早業。

セラ、信者達は託します!
アンコールに子守唄も乙なものだ。
(大丈夫。トーチの炎は、染まらぬ芯がある)

その声なら止められんのに。
悲しい面で、殉教のエゴの儘になっているお前。
教祖というよりも──供物の顔だ。
(睨む猫目石、咆哮)
ああどいつもこいつも!
善かれで贄を積み、供物を仕立てやがる!

翡翠の声が飛ぶ直前、先制攻撃で
相手の声にのみ作用する生成音をぶつけ、束縛洗脳の無効化を図る!
ええ、任せろセラ──紅玉の声を追い風にダッシュ!
間隙に【只咢】を!


ルネ・プロスト
よくもまあここまで人心を捉えることができたものだね
……ほんと、外野がざわざわ鬱陶しいことこの上ない
さすがに本気出さないとダメかな
一般人相手にこれ使うのは大人げなくて嫌なんだけど

ルネ(ミレナリィドール・ボディ)を道化師団の武器改造で改造、聴覚遮断して敵UC対策
人形達は複製分含め死霊憑依&自律行動
重度難聴の死霊に限定して敵UCの影響予防

開幕UC
ポーン、ルーク、ナイト、キングの計13+741体で信者達に近接戦、殺さない程度に制圧
2+114体のビショップは破魔のオーラで味方を覆い敵UCの影響緩和、及び破魔の力を流し込んで洗脳解除狙い専念
寝返った子が攻撃してくるなら駒盤遊戯達による強制鎮圧も辞さないよ


冴島・類
♢♡

ご機嫌よう
翡翠の方

貴女が、寄り添った結果
彼らが信奉する
強制させてない
それは解りました

腑に落ちぬのは…
喚べるなら、帰せるだろ

何故
壁になる彼らを帰さない
繋いだ者が傷付く手段を使う

する事があるからですか?
其れと彼ら
何方にも寄り切れぬなら
半端は止めな

自身は他猟兵が彼女に届くよう
道を作るのに徹す
瓜江を手繰り人の引きつけを
一般人へは攻撃は避け
翡翠へ向かうように見せ

庇いに来た子らの視界だけUCで歪め
攻撃や姿を身失わせ、庇い効果をずらし
瓜江との間の操り糸使い
彼らの脚払い、傷つけず動き制限狙う

また、一般人へ当たりそうな攻撃は庇う

洗脳への対策は
懐に潜む灯環に
自分が洗脳されたら
思い切り噛み付いてくれと頼んでおく


樹神・桜雪
【WIZ】ダイヤモンド♢♡

ごめんね…
引き返す訳にはいかないんだ
あなたの言葉はとても魅力的だけど…あまり聞きたくない

信者たちを巻き込むのは心苦しいからUC『雪華繚乱』で眠らせてみる
どれくらいいけるか判らないから『2回攻撃』も併用して可能な限り広い範囲で
操られた仲間がいるなら巻き込む
甘い言葉よりも優しい夢を
少しだけ、おやすみなさい

翡翠の言葉には『祈り』を込めた言葉で語りかけてみる
人の悩みは尽きないし、どうしようもない事もままならない事もある
救いを求めたくなる事だってあるよ
でも、人は少しの支えがあれば何度でも立ち上がれる。ボクはそう信じている
貴女の救いは、人には必要ないものだよ


ヴィクトル・サリヴァン
うわあ、これは流石にちょっと引くなあ。教祖こわい。
噂になる位洗脳されてるのは予想してたけどこの数、よく大騒ぎにならなかったね。
これ以上被害者増やされる前にどうにかしないとね。
…何か洗脳されてる猟兵いたら特に厄介そうだなあ…

とにかく大技も使えないし、信者に取りつかれてにっちもさっちもいかない状態に追い込まれないよう注意しつつ、殺さないように無力化を狙う。
腕の一本や二本はちょっと我慢してね、生きてれば後で治すから。
高速詠唱からの水の魔法で足元縛ったりしつつ、他の猟兵に襲い掛かる信者達を妨害する。
宝石人形には至近距離から銛を当て、当たったらUCで人形のみを狙うよう水シャチで攻撃

※アドリブ絡み等お任せ


東雲・咲夜
【藤桜】


こないな数、傷つけへん方が無理なんは解っとります
せめて命は奪わへんよう
敵や言うても救われた人等を彼の世へ送るなんて
うちには出来ひん

嗚呼…貴方の命の花弁が散ってまう
唯の一片さえ毀れてしまうんは嫌なの
一分一秒、現世に繋ぎ留めておきたい

桜銀糸は宵闇彩へ
藍双眸は月虹眼へ
万神の花嫁が纏うは水の聖衣と星の羽衣
さあ…真の姿をお魅せしまひょ
私は《継護之姫神》

まだ、まだ足りひん――
日輪金環に満ち満ちる水鏡
極限まで高めし力で
此の想いを、祈りを、うらぐわし鈴音の如き旋律に溶かし
魔よ鎮まれ、降り注ぐ氷針にて我が許に跪け

風神霊を手繰り寄せる指先に因り
激しく吹き荒ぶ花嵐
無数に劈く風切り音で空気の振動を遮断します


朧・蒼夜
【藤桜】

壁は一般人だ斬れば早く敵へとたどり着くがそれではきっと彼女が悲しむだろう
【白藤】を手に取り刃を逆さに
《藤蓮斬》
瞳が紅藤に染まり、白藤の斬護は護る刀。人の壁の攻撃をかわしつつ身体を回転させ胴体や首や背中など気絶させ動かないように1.2.3.…8回と攻撃して壁を乗り越え敵の方へ
9回目味方へと攻撃しないと寿命が縮む為傍にいた彼女に攻撃をしようと見せかけて身体を回転させ懐に入り【黒藤】を抜き
敵の首を狙い喉を潰す
敵の美しい声が出なければ洗脳は回避され皆の攻撃が当たりやすくなるだろう

彼女の真の姿、誰よりも美しい。俺の命の削るのはいい。でも君の命は…神にも渡さない
最後に彼女の首を跳ねる


ナターシャ・フォーサイス
💎WIZ
ようやくお会いできましたね。
貴女が導き手、私と志を近くする方ですか。
けれど、貴女もまた我々の導くべき哀れな魂。
ならば私は使徒として、責を果たさねばなりません。

とうに捨てた記憶に対して言葉を伺ってはみたいですが。
それは個の優先、どうするかはその時次第でしょう。

…真の姿、機械仕掛けの天使となり守護結界を展開しましょう。
貴女の信者も、言葉も、その力を封じるのです。
信者の方々には【祈り】【誘惑】【催眠術】【精神攻撃】で我らが教えを説きましょう。
そして、光を以て祓い導くのです。

貴女の言葉を否定はしません。
ですが、私も使徒なのです。
貴女がそうしたように、私もまた貴女を楽園へと導きましょう。


ノア・サテライト
【剣蟲呪】のみんなと行動、連携・アドリブ可

今回は他の猟兵達の援護に徹しよう。
まず先に『徳の翡翠』の声対策だね。
要の【催眠術】で翡翠の言葉を「理解の出来ない音」として認識する様にしてもらおう。
「言葉」ではなく「理解不能な音」なら翡翠の洗脳から逃れられるだろうから。

さて、戦闘だ。
今回は始めからUCを使おう。
【存在感】で信者たちの意識をこちらに向ける。そしたらすかさず選択UCで『信者たち』を指定。強制的に眠りにつかせる。絶対に起きないように自分の一部を代償に魔力を生成、痛みは【激痛耐性】でカバーだ。

ふふ、痛いけれども此処は譲れないのだよ。
道は作った!僕の代わりに進んでくれ!


アリスティアー・ツーハンドソード
【剣蟲呪】の皆と行動
細かい対策は二人に任せて僕は翡翠の奴に少し文句を言ってやろう

僕とキミは似ているのかもね、力を与える僕と優しい言葉を与えるキミ。誰かを助けるために僕達は自分の力を振るっている
とまずは【優しさ】を見せて相手に同意しよう。人は儚いものというのは僕も同じ考えだからね

けれど本当に悩みが解消したのならば彼らはここに留っていない。そんな誰かに依存するような態度はとらない。少なくとも今まで僕が助けてきたアリスはそうだった
キミのやってることは優しさに人を溺れさせてるだけだ、それじゃあ人の孤独は埋まらない。要の作る軍勢がそれを示してる
その言葉にUCを乗せて相手の隙を作りつつ信者の洗脳を弱めよう


地鉛・要
【剣蟲呪】と連携・アドリブ可

今回は援護に徹する
味方と自分に翡翠の言葉を「理解の出来ない音」として認識するように【催眠術】を掛ける
意味が紡げなければ、伝わらなければ言葉なんてただの雑音だからな

まず【幻想劇】でトラウマの軍勢を召喚、意識を奪い生徒達を昏倒させる
信者が百人居るのなら百のトラウマを、千人居るのなら千のトラウマの軍勢を呼び出そう

悪いが・・・空っぽである事を認め自分で歩けてない奴に負ける程、俺の破滅願望は軽くないんでな。


鷹沢・和音
💎フローリエ(f00047)と
朧気な記憶の中、思い出したのはきっと幼馴染が消えたのが俺のせいってこと
きっとこの能力だって、それに関係している
…だから、俺はずっと迷いがあった
彼女と引き替えに得た力を振るう権利も、存在価値もないって

―見つけてあげる、と
脳髄を蕩かす聲に全て身を委ねる
いいんだ、これで
何も考えぬまま、忘れたまま、知らないまま
ただ誰かに全てを委ねてしまえば、楽でとても素晴らしいことで

―違う

誰かがそう囁いて、顔をあげる

俺が失くしたものを
俺が取り戻すべきものを探すのは俺自身
誰かに見つけて貰うものじゃない

ぁ、ごめん…フローリエ
ありがとう
お陰で解った気がする

俺が見つけるんだ
それが、贖罪だから


御園・ゆず
遠目に見た彼女の顔は
…穏やかで、優しくて、そして美しかった

此方も、彼方も。数が多い
銃火器は捨てて、身軽になろう
誤射は嫌だし、一般人を殺すのはもっと嫌だ
左袖中に隠した鋼糸で信者を縛り
右袖中に隠したプッシュダガーで血路を拓く
できるだけ捕縛を意識
声を掛け合い連携を取って
多少の怪我は我慢してくださいね
ダガーの柄で側頭部を殴って

わたしも、言葉を聞きたい
でもいいんだ
…だって、貰って乗り越えたら、次から自力でとか、無理だし

翡翠さん
優しくて、ヒトを愛することを̪識っているヒト
わたしより、ヒトらしい
わたしも、貴女みたいになりたい
困っているヒトを助けて、手を伸べる
醜い人間でごめんなさい
わたしも逝くときは微笑むね


フローリエ・オミネ
和音(f13101)と

仮面越しに右目を撫でる
この目は空っぽで、濁っていて
何も映さなくて

でも…希望を抱いたって無駄、そんなこと分かってるから
わたくしは迷わない

【空中戦】で浮いて、針と陶器人形を取り出せば
人形に丁寧に突き刺すの
でも、出来る限り信者には手を出したくないわね
殺生はしたくないの

せめて、腕や足を縫い止めて、戦闘不能に追い込むわ
とどめは絶対に刺さない、心臓に刺すのは翡翠だけと決めているの

…和音?
一旦地に降りて、声を掛ける
彼はまだ苛まれているというの?
しっかりなさい。そう言って背に背をくっつけましょう
わたくしの冷たい体温と重みで、彼に何かを分け与えられたら…

それでは、任務遂行としましょうか



 最初に動いたのは、ジークリンデ・ドラグナー(ヴァリアント・f20319)だった。竜鱗と竜の牙で形成された濃紫の『メイディッシュメイル』を金色のオーラで覆い、凄まじい速さで飛び出した。その速さは実に時速3000km。その場に募った数多の猟兵たちは誰一人として反応できなかった。
 凄い勢いで接近するジークリンデに、信者たちが驚いた表情を見せる。しかし、禍々しい武器に、ジークリンデの気迫に、怯えたような表情を見せても彼らが退くことはない。いや、退く時間すら無いのだ。より一層翡翠に近づけてはならないと結束を固くするように、ただ身を固くすることしか出来なかったのだ。
(そうね、あなた達はそうするでしょうねぇ。けど、)
 そんな子は――お掃除する迄よ。
 槍の柄で弾く。死なない程度に、と彼女は力を緩めた。しかし、高速で近付いた何かに人が少しでも接触すればどうなるだろうか? その身は簡単にひしゃげ、弾け飛び、いとも呆気なく命を終えることだろう。もしジークリンデが普通に駆けていれば、気絶に留められていただろう。けれど彼女は時速3000km。彼女が飛翔しぶつかっただけで、道中の信者たちはみな物言わぬ肉塊となっていた。いや、肉塊が残っていればまだ良い方だろう。血を内包した肉袋がぺしゃんと潰れて割れていた。
 一瞬で室内に満ちる血臭。突然の出来事に、誰もが息を呑んだ。誰もジークリンデに追いつける者はなく、止められる者もいなかった。
 このまま真っ直ぐに人々を殺し尽くして翡翠の元へと向かうことも出来た。けれど、ジークリンデは飛翔を止めて佇んでしまう。吹き飛ばして引き剥がそうと思っていた彼女にとっても計算外だったのだろう。一般人に時速3000kmで当たればどうなるのか全く考えていなかった、その結果がこの惨事だ。けれど、もっと威力を抑えていても結果は変わらない。その1/10でも人はみな同じ結果になるのだから。
「なんとむごいことを……」
 翡翠の小さな声とともに、信者の層がまた厚くなる。
 その間に、血溜まりの中で立ち止まってしまったジークリンデを浚う影。それは、シャチのキマイラ――ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)だ。飛び出した彼女にいち早く気付いた彼は、即座に反応し彼女を追いかけた。そして、仲間たちが動こうにも彼女をそのままにしておくことは出来ないだろうと思い、その巨体で彼女を担ぎ上げ離れさせたのだった。
 けれど、そんな騒ぎも気に止めること無く、翡翠へと話しかける猟兵が居た。
「ようやくお会いできましたね」
 一歩前に踏み出したナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は胸に手を当て、真っ直ぐに翡翠を見つめる。
「貴女が導き手、私と志を近くする方ですか。貴女もまた我々の導くべき哀れな魂ではあります……が、私とも問答して頂けますか?」
 ナターシャは、ナターシャの信じる教団の使徒である。掲げた信念の元、教団の教えの元、果たすべき責がある。それなのに、とうに捨てた記憶に対して言葉を伺ってみたいと思うのは何故だろうか。揺らぐことのない筈の根幹が、揺らいでいるのだろうか。それとも、それでも揺らがないと自身に言い聞かせたいからなのだろうか。それは個の優先。使徒としてのナターシャなら、選ばなかった選択だったはずなのに。
「あなたは……」
 翡翠が唇を開く。
「悩みなど、迷いなど無い。きっとそう思いたいのでしょう。あなたが信じる教えが全てだと。けれど、本当にそうなのでしょうか? 誰の心も迷うもの。惑い、悩むものなのです。原点に立ち返るのも大切なことかと」
 ナターシャの瞳が、見開かれる。何か口にしようとしたのか唇を震わせ――けれど、そのまま彼女は動きを止める。
 そうして動きを止めたのは、ナターシャだけではなかった。その場に集っていた半数以上の猟兵たちが、天から糸を繋がれた操り人形のようにだらりと手を降ろしたのだ。
 翡翠が操る技《洗脳人形~イェーガーコントロール~》は猟兵たちが操る広範囲型ユーベルコードと同様に、いや、それ以上に広い範囲に作用する。彼女の言葉が聞こえる範囲で誰かが言葉を貰えば、事前に彼女の言葉を聞かないように対策を練っていない者はみな、彼女へと寝返ってしまうのだ。
「あっ、あぁ……ど、どうしましょう」
 血の海に呆気にとられたのも束の間、突然仲間たちの様子がおかしくなった事に気が付いた小さな森妖精のアイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)は、オロオロと仲間たちの頭上で翅を羽ばたかせる。耳栓で音を遮断している彼女には、翡翠の声は届いていない。けれど、こんなに多くの猟兵たちが操られてしまうだなんて……。その身をもって力尽くで押さえつける事ができない小さな彼女は、どうすれば良いのだろうと困ってしまっていた。
「妖精さん、こっちへ」
 耳栓をしたアイシャには、その言葉も聞こえない。
 アイシャへ声を掛けたルネ・プロスト(人形王国・f21741)もまた、アイシャとは違った方法で聴覚を遮断していた。彼女が引き連れている人形の一団のひとつ『死霊操縦・道化師団(リビングドール・パーティドールズ)』の武器改造によって、自身の人形の身体を改造させたのだ。短時間ではそれくらいしか出来なかったが、彼女はこうして『声』の支配から逃れられている。戦闘終了まで聴覚は聞こえない。けれどそれでルネが不都合と感じることもない。ルネには、頼もしい人形たちがついているのだから。
「妖精さん」
「ひゃ!」
 ルネの人形の一体がアイシャへと手を伸ばす。音が聞こえていないため驚くアイシャだったが、ルネを見れば正気を保っている事が解り、人形の手に捕まってルネの側へと身を寄せた。
「さすがに本気出さないとダメかな」
 まだ動き出してはいないものの、沢山の猟兵たちが寝返ってしまった。翡翠がまだ攻撃の命令を出していないのは、残った猟兵たちがすぐさま攻撃を仕掛けようとしていないからだ。
 一般人を相手取るだけなら、大人気ない行為だとルネは思う。けれど、こうも沢山の猟兵たちが術に掛かってしまった以上、そうは言ってはいられない。
「もう遊戯はお終い。――本気、だすよ」
 ドールズキングダム・アニヒレーションドールズ。
 人形王国のお姫様の号令で、駒盤遊戯(ドールズナイト)たちが数を増す。ずらりと並んだ人形たち――ポーンにルークにナイトにキングにビショップたちが一斉に小さなプリンセスに頭を垂れる。
「わあ、すごいです……!」
 耳栓で音は聞こえないが、先程も助けてくれた猟兵が何かをした。それだけは理解出来たアイシャは素直な言葉を零して。
 その数は4桁までとは行かないが、かなりの数に複製されていた。しかし、あまりにも多すぎては室内に入りきらないし、他の猟兵たちの身動きも取れなくなる。かなり広い部屋ではあったが肉声が届く部屋の大きさであり、限度というものがある。幸いにも前の部屋が続いている場所であったため、半数以上は前の部屋での待機をさせるべく、複製した端から一般人が圧死しないように念力で飛ばさねばならなくなった。
 その間に、洗脳された猟兵たちが翡翠の命令で武器を構える。翡翠の目の前に現れた人形たち。それはどう見ても脅威であったためだ。
 ルネもまた、人形兵たちに命令を下す。
「まずは寝返った子たちを制圧して」
 妖精さんは危ないからここに居てね。
 そう付け足したけれど、残念ながらアイシャの耳は音を拾えて居ない。けれどアイシャも飛び出せば危ないことは解っている為、ルネに寄り添い固唾を飲んで人形と猟兵たちを見守っていた。
 真っ先に動いたのは、矢張りジークリンデ。その槍の一閃で何体もの人形たちを屠った。けれどルネには数の利がある。ジークリンデが屠っても、すぐに他の人形たちをけしかけることができる。猟兵に対して一体で相手取るなんて愚は犯さない。一人の猟兵でもその何倍もの人形たちを贅沢に使って、一気にけしかけ確実に昏倒させていった。
 数の利があるとは言え、こうして人形たちで制圧していけるのは、後方で支援に回っているビショップ人形たちのお陰でもある。破魔の力を注いでも洗脳解除は出来ないが、強化されるのだけは防げていたからだ。
「……っ、僕も、お手伝いします」
 そう申し出たのは、冴島・類(公孫樹・f13398)。懐に忍ばせていたヤマネの子『灯環』に思い切り噛み付いてくれと頼んでおいた類は、目に星が浮かびそうなくらいの衝撃とともに正気に戻り、縁紡ぐ赤糸を操って背負い箱から相棒の『瓜江』を起こす。
 刀を手に切り込んできた朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)を避け、ルネの人形たちが注意を引いている隙に背後に回って首筋への鮮やかな手刀。がくりと膝を折った蒼夜を瓜江に任せ、さてどうしたものかと視線を向けた先には、天女がごとき女人の姿。一般人ならば手加減をして押さえつける事も叶う。けれど相手は猟兵だ。本気で挑まねば反撃を受けるは必至だろう。
(彼に怒られそうだ……)
 今しがた気絶させた彼と同じ戦場に居るのを何度か見た事がある。とても大切そうに扱っていた彼の事を思えば、苦いものがこみ上げてくるが……仕方がない。そう、覚悟を決めようとした、その時――。
「僕がお前たちに宵をあげよう」
 凛とした涼やかな声とともに、朔の夜が訪れる。迷宮内の――室内である為、暗い靄が掛かったように元より明るくはない室内の一部が薄暗くなった。朔の夜に包まれて、東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)を始めとした幾人かの猟兵と範囲内に収まった信者が眠りに落ちるのを旭・まどか(MementoMori・f18469)は静かな視線で見守った。
 凪いだ夜の日のストロベリームーンの瞳。しかし、その瞳の奥に揺れる感情は――苛立ちだ。
(なんて利己的で自己愛が過ぎるんだろうか。正解を求め惑う誰かを救っているつもり?)
 ふつり、ふつり。静かな苛立ちが、瞳の奥だけで揺れる。
 翡翠とは相容れぬのだと彼女の言動の全てを否定して、毛皮の『檻』の『聲』だけを聞いていた。耳障りだと、いつだって思うその聲に護られるだなんて、皮肉が効いているじゃないかと心の何処かで己が嘲笑う。けれど、隣で吼える毛皮の聲が、まどかをまどかたらしめてくれるもの。共に生きるまどかを此処に生かしてくれるものだ。
 しかして翡翠の声に抗ったまどかであったが、耳障りな声のせいでまどかの声も翡翠には届かない。先程同胞たちへ掛けた声も、聞こえてはいなかっただろう。……元よりルネは聴覚を遮断しているし、アイシャも耳栓を付けていた訳だが。
 ミラリア・レリクストゥラ(目覚めの唄の尖晶石・f21929)もまた、精神攻撃への耐性と気力で翡翠の声を耐えきっていた。部屋に辿り着いてすぐは信者の多さと猟兵の多さに圧倒されてしまった彼女だったが、猟兵たちへと挨拶をしてきた翡翠の声――こちらの根幹を揺らすような、語りかけるだけで影響を及ぼしそうだと感じてしまう程の声のお陰で少し冷静になれていた。
(翡翠さん。貴女の言葉は効きません。聞き入れません)
 私の悩みは私以外の誰にも解決なんてできないのですから!
「未来を夢見た あの日の幻 とこしえに 底へと 眠りなさい……」
 眼前の信者、そして操られてしまった猟兵たちを見て、ミラリアは詩を紡ぐ。ミラリアを中心とした無機物を操る歌《過去は過去たる地へ沈む(アッシュ・トゥ・アッシュ・ダスト・トゥ・ダスト》を前方の地面へと向けた。地面を自在に操れる土へと変化させたミラリアは、前方の地面をすり鉢上にする――が。
「あ、あら……」
 信者たちも猟兵たちもルネの人形たちも、等しくそこへ巻き込まれてしまう。すり鉢状にするのならば、まずは飛び出して引きつけるなりして確実に仲間が居ない場所で行うべきだったかもしれない。人が入り乱れている状況では、仲間にも混乱を招くだけに終わってしまう。脚を取られた人形が転倒して信者や猟兵を潰してしまう前にミラリアは歌うのを止め、すり鉢の中心となった場所へと集められてしまった昏倒した猟兵の回収に向かうのだった。
 ノイ・フォルミード(恋煩いのスケアクロウ・f21803)が、大きく鍬を振る。信者たちに、ではない。洗脳されていない猟兵やルネの人形たちへ向かって。長身のノイが振るう鍬は彼の身長近くもあり、とても大きい。勢いよく振るえば威力も大きく、ルネの人形たちが倒されていく。しかし人形たちも負けてはいない。倒された数だけぞろぞろと前の部屋から出てきて、ノイを数で制圧していく。
 ガツンと強烈な衝撃で頭をフラフラと揺らしたノイは、丸い目の光をピカピカと放ち、正気に戻った様子。現状把握に視線を巡らせれば、矢を番えた弓塚・紀昌(サスライビト・f16943)が猟兵たちへと鏃の先を向けていた。
 他の猟兵が翡翠に言葉を貰う前に紀昌が作り出した《我流・科戸風(シナトカゼ)》の矢を拾い上げ、ノイは駆ける。翡翠の力に打ち勝てる程の破魔の力が無い矢を持っているだけでは効果が薄いが、矢は射抜いてこそその効力を発揮するものだ。長い足ですぐに間合いを詰め、他の猟兵へと身体を向ける横合いから、手にした矢を突き刺した。
「……っ! 旦那、すいやせん」
「いいや、君の矢があったからこそさ」
 申し訳無さげに笠をかぶり直す紀昌に、ノイは手を振って応えて。他の猟兵たちにも世話になったと軽く頭を下げておく。
「さあ、紀昌君。行こうか」
「旦那の背中はあたしが護りやしょう」
 軽く手の甲を合わせあってからノイは信者たちへと顔を向け、紀昌は洗脳されている猟兵へと視線を向ける。
「穢れ赦さぬ禊の風よ、罪を払いし清めの風よ。今こそ彼の者の終わりを結びやしょう」
 祓いの風を帯びた矢を番え、弦を引き絞り、放つ。バシュッと音が耳に残り、視線も真っ直ぐに標的を捉えたまま――次の矢を番えていく。
 頼もしい姿を視界の端に捉えながら、一歩前へと進み、人には聞こえない高周波数の音を放つ。武器にビリビリと振動だけを残して、何が起きたかも解らず範囲に入っていた使者たちは地面へと倒れた。そうして距離を測る。翡翠まで届かせるためにはどれだけ近寄らねばならないのだろうか、と。
 どんなに早く動こうと、声という『音』より早く動くというのは難しい。少しの動作だけならまだしも、機械での採取・解析・変換・生成、そして発音。それらを瞬時に行った上で、音速の壁を越えられるだろうか。自身がいくら早く動こうとも機械の決まった速度を挟み、そしていくつもの工程があるからだ。ユキ・パンザマスト(猫目石・f02035)が考え出していた対策、その着眼点はとても素晴らしかった。しかし、デバイスで声を採取し解析しようとしていたユキも、一度動きを止めてしまう。ユキの周囲に浮かんでいたホログラムが消え、ユキは自身の手を獣の骨へと変じさせていた。
 ぐるる……。獣じみた呻き声が、ユキの喉から溢れ。瞳からは生気の光を消し、瞳はただ光を反射する猫目石。地を蹴り駆け向かう先は、洗脳された猟兵たちを人形たちで昏倒させていくルネ――を守護する人形たち。
「ダメだよ、ユキさん」
 ――かろん。鐘の付いた杖が、ユキの行く手を阻んだ。
 一足先に人形によって昏倒されていたセラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)は、目覚めてすぐに状況を把握して動いていた。
「ユキさんは我慢強い子だから、全力でいくね」
 ルネのビショップが干渉してくれているため、強化はされていないけれど。それでも普段から強い人だから。
 鐘を揺らす杖がふわりと解け、花弁が舞う。
 真っ直ぐに駆けてくるユキを全ての花弁が包んで――。
「ごめんね」
 花弁がふわりと溶けるように消えていくと、杖が落ちる音とともに倒れてきたユキの身体を、セラは優しく支えた。
「どうして、あなたは」
 ユキの身体を支えたまま、翡翠を見て一歩前へ。たった一歩。歩んだだけでも信者たちが警戒していた。信者たちは、自分たちが猟兵に敵わないこと知っている。それでも翡翠を守ろうと、猟兵が近付けば前に出ようとするのだ。
 彼らの目を見て、セラは前に出そうとした足を止める。
(――そう、だよね)
 僕らは猟兵だもの、ね。
 そう、解っている。けれど、胸がしくりと痛んだ気がした。
「フレちゃん!」
 誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)の着物に隠された豪腕が、羽交い締めにしたフレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)の首を絞める。呪殺弾だと威力が強すぎるような気がして絞めてみたものの、気絶寸前ってどの程度の力で絞め上げればいいのかしら、これくらい? ……といった始末で。一応加減はしている、つもり。けれど既に、櫻宵の腕をフレズローゼの手がべちんべちんと叩いて何かを訴えてきている。
「あらフレちゃん。正気に戻ったのねぇ、よかったわ」
 開放された途端、激しく咳き込むフレズローゼの背を優しく撫でながらおっとりと櫻宵が呟けば、涙を溜めた金の瞳が恨みがましく向けられた。
「し、死ぬかと思ったよ……」
「死ななかったからあたしの力加減がバッチリだったってことね」
 うふふおっけー。一足先にルネの人形に殴り飛ばされて先に正気に戻った櫻宵は、強気に傍らのフレズローゼへウインクをパチン。微妙な顔を返されたがオネェは気にしない。
「――フレちゃん」
「解っているさ」
 誰かがまた翡翠に言葉を貰う前に――。
 女王兎と桜の龍人は、兎が出したトランプの翅を持った蝶に触れ、フレズローゼの薔薇の国へと旅立っていった。
「ご機嫌よう、翡翠の方」
 赤い糸が繋いだ人形――瓜江が踊り、前へ出る。
「何故、彼らを帰さない? する事があるからですか?」
 翡翠へと攻撃しに行くと見せかけて、信者たちを瓜江へ寄せ付けながら類が問う。
 答えは、返らない。きっと幾度と無く翡翠自身が己に問いかけてきたことなのだろう。それでも、未だ答えを出せてはいない。大魔王に改修された強化型ミレナリィドールの翡翠は、猟兵を倒すよう命令を与えられている。その命令は、絶対だ。――誰よりも高い徳を持つ彼女は、彼女の心は、常に板挟みとなっていた。
 けれどそれよりも、本当は――独りになることを誰よりも恐れているのは翡翠なのだろう。人々が居なくては、彼女の本性は――徳は活かせられない。高い徳を持っているからこそ、独りっきりの迷宮は耐えられなかったのだろう。そうして彼女が人を求めるようにと、全てが大魔王の手の内だったとしても。
「何方にも寄り切れぬなら、半端は止めな」
 類の突き放すような言葉は、鋭い氷のように翡翠の胸を貫いて。翡翠は困ったように眉を寄せ、ただ笑みを零した。
 翡翠を庇うべく瓜江へと引き寄せられた信者たちには、《閃輝鏡鳴》で視界を歪め、姿を見失わせて。山奥で道に迷ったように足を止めた彼らの脚を瓜江と繋ぐ操り糸で払い、傷付けぬよう細心の注意を払い信者たちの動きを制限していく。
 しかし、ただ転がすだけでは彼らはまた立ち上がり翡翠を護る壁となってしまう。
 そんな類と瓜江の横を駆け抜けて、びゅおっと風鳴り吹くは、薄紅と真白。雪混じりの風が桜花弁を巻き上げて、早い春を告げながらまだ冬眠している時間だよと、懐に抱いた動物たちへ山の風が囁くように吹いていく。優しきその腕(かいな)に抱かれた信者たちは、優しい夢へとことんと落ちていった。
「甘い言葉よりも優しい夢を。少しだけ、おやすみなさい」
 ――《雪華繚乱》。美しくも優しい雪桜の吹雪を起こした樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)が、感情の乏しい顔に淡雪が如く笑みを浮かべて。
 信者たちの想いも、解らないことはない。きっと桜雪ならば、翡翠の気持ちも汲めたことだろう。けれど。
(ごめんね……。引き返す訳にはいかないんだ)
 雪と桜を混ぜた風を吹かせ、類と瓜江が身動きを封じた信者たちをしっかりと眠りにつかせていく。転倒した衝撃で傷を負っていたとしても、眠っている間に癒やされていく。悩みもない優しい夢の中、少しだけ待っていてねと優しく見つめて。
「やあ。ご助力感謝です」
 からりと笑う類に、桜雪はぺこりと小さく会釈を返して。
 美しい吹雪が止んだなら、ぱたぱたと翅を羽ばたかせた妖精が飛んでくる。人の目にはその羽ばたきは素早くて、キラキラと光りを弾く燐光に見えたことだろう。春先に舞う綿毛のようにふわりと飛んできたアイシャは、信者たちに怪我がないことに小さな安堵の吐息を零し、手にした小さな壺をそっと信者たちに当てていく。すると、眠りに落ちて抵抗のない信者たちの姿が壺の中へと消えていき、類はおやと眉を少し上げた。アイシャに《フェアリーランド》へいざなわれれば、猟兵たちの攻撃の流れ弾を貰ってしまうことも、倒れている信者たちで猟兵たちが足場を気にすることもなくなる。実に良い案だと類も桜雪も頷いて、類はアイシャが壺に回収しやすいようにと糸を手繰って瓜江とともに倒れた信者を一箇所へと集めていく。
 災魔を倒せればそれでいい。そういう猟兵も居るだろう。けれどアイシャは、人を助けたい。誰にも傷ついて欲しくないし、出来ることなら救われて欲しい。悩みを持つ周りの猟兵たちにだってそう思っている。
(誰かの言葉に縋りたいくらいの悩みを心に抱えてそのまま死んで行くなんて、悲しいから……)
 心優しい森妖精はその想いから小さな身体で動き回り、信者たちをフェアリーランドへと迎えていく。
 眠らせた信者たちはアイシャと類の二人に任せれば大丈夫そうだ。そう判断した桜雪は、翡翠へと視線を向ける。
「人の悩みは尽きないし、どうしようもない事もままならない事もある」
 静かな声で、翡翠へと語りかける桜雪。
「救いを求めたくなる事だってあるよ。でも、人は少しの支えがあれば何度でも立ち上がれる。ボクはそう信じている」
 だから、貴女の救いは人には必要ないものだ。
 真っ直ぐに向けられる桜雪の視線。それを真っ直ぐに受け止めて、そして翡翠が静かに唇を開く。
「ええ、わたくしも。わたくしもそう思っております」
 彼女もそうして少しの救いだけを与えてきた。けれど人々が勝手に求め続け、求められ続けた末に――翡翠は彼らを手放す事ができなくなった。元より、ここに集う人々は自ら彼女に救いを求めて来た者たちだし、無理やり操らなくとも勝手に心酔した者たちなのだ。
「――貴方は、ここに居る誰よりもわたくしと近いように思っておりましたが」
 いつか貴方の相棒が貴方の元を離れる時にも、貴方は同じ事を言えるのでしょうか。恐れていることはわたくしと同じの、貴方が。わたくしに、独りになれ、と。
 ルネのビショップから加護を得ていたとしても、何の対策もなく言葉を貰えばどうなるか。聞きたくないと思っても、いつだって言葉は耳からするりと入り込み心を縛るものだ。
 瞠目して動きを止めた桜雪が、翡翠へと向けていた身体を類とアイシャへと向けて。無抵抗となった信者たちを回収していた二人へと、雪と桜を吹雪かせようと深藍の狩衣の袖を揺らして――。
 そこに届くのは、朔の夜。眠らせ、癒やす、まどかのユーベルコード《朔日》。行動で、少しの怪我ならすぐに癒せることをまどかが示せば、猟兵たちも少し大胆な立ち回りが可能となった。けれど傷付けずに済むならばその方が良い。猟兵たちは協力しあって信者たちを減らしていく。
「仕切り直しですよ、セラ!」
 目覚めたユキがそう言って、解析を終えたと勝ち気な顔をしてみせるから。
「うん、ユキさん」
 セラは安堵を滲ませた笑みを浮かべた。
「さあ、夜が来るよ」
 かろん、ころん。もうお眠りよと鐘が鳴る。『ゆりかご』は花弁となって、子守唄を奏で歌いながら翡翠へ。翡翠に届く前に、信者が前に現れる。けれどそうなることは解っていたから、出力は最小限。ユキにそうしたように、包んで。そして次々と気絶させていく。
 翡翠が唇を開く。言葉を耳にした途端、セラの耳に望んで止まない声が聞こえた。
(ずっと……一緒に……?)
 死の果てまで傍に在ると、二度と喪わせないと契る囁きに、唄が、揺らぐ。
 この部屋で響く二度目の花の唄。アンコールは先程と変わらぬ子守唄。けれど、それでいい。トーチの炎は揺らいでも染まらぬと、揺らいでいても紡がれ続けている花の子守唄が教えてくれている。
 いつか待つ喪失は覚悟の上。それでも『彼』や仲間と歩みたい。そうあれかしと祈り望んだ幾つもの夜を越えてきた。大丈夫、惑わされない。ルネからの守護も得ているセラは、自身の心の炎を違う色に変えはしない。
「……ふざけないで。そんなのもう、いらないよ」
 セラの否定。
 翡翠は驚いた顔をして。それから、優しく微笑んだ。
 セラのゆりかごが解かれると同時に駆け、声サンプルを元に言霊への呪詛耐性を込めた逆位相音を翡翠の声にぶつけて洗脳から逃れたユキは、その微笑みを近くから見た。
 思わず、ぎりっと歯を噛みしめる。
 なんて顔で微笑むのだろう。
 ああ、どいつもこいつも!
(――快く憎む事すら儘ならねえ!)
 輝く猫目石で強く睨み、真一文字に結んだ口を大きく開けて咆哮を響かせて。腕を振るえば、獣骨の頭部が横から現れた信者へ噛み付く。生命力を奪われた信者は、膝から力が抜けて崩折れた。
「フローリエ……!」
 鷹沢・和音(ブルースカイブルー・f13101)の悲痛な声が、響く。人形の当身によって昏倒していたが、気付いてすぐに傍らに倒れていたフローリエ・オミネ(シソウの魔女・f00047)を抱き起こす。幾度か名を呼べば、彼女の繊手がピクリと動いて。そっと右目を追おう片翼の仮面を撫ぜた。
 夢を、見ていた。両目が見える夢。けれど、長いまつげが持ち上げられれば、片側は真っ暗の闇。空っぽで、濁っていて、何も映さない右目を、フローリエは目覚める度に自覚してしまう。無いのが当たり前で、それが日常なのに。それでも幾度だって夢見てしまうのだ。希望を抱いてしまうのだ。希望を抱いても無駄ってことは、フローリエが一番解っていると言うのに。
(――わたくしは、迷わない)
 支えてくれている彼に感謝を告げて、ふわりと浮かび上がる。その手には、針と陶器人形。
「さあ、和音。わたくしたちも為せる事を成しましょう」
 手にした針を、丁寧に人形に突き刺す。丁寧に、丁寧に。
 信者には出来るだけ手を出したくはないと思う彼女だが、敵意を向けてくるのは信者たちだ。絶対に殺生をしないように、慎重に。陶器人形に針刺し痛みを与える《執行既得権(アフターライフ)》で、腕や足を縫い止めて。そうして戦闘不能へと追い込んでいく。心臓に刺すのは翡翠だけ。そう決めているから、慎重に、丁寧に、フローリエは針を突き刺した。
「……和音?」
 ふと、和音の様子がおかしい事に気がつく。翡翠の元へ駆けていく、そう思っていた。けれど彼は動かず佇んだままで。どうしたの、和音。和音を案じて、フローリエは再度地面に足を付けた。かつん、と薄水硝子を響かせて。
(彼女と引き替えに得た力を振るう権利も、存在価値も……俺にあるのだろうか)
 和音は、迷っていた。ずっとずっと、迷っていた。帰り道が解らない子供のように。飛び方を忘れた紙飛行機のように。前に進むことが出来ない。あの日から、ずっと。
 幼馴染が消えたのは自分のせいだってことを思い出した和音。そして和音の能力が使えるようになったことに、それが関係していることを察してしまっていた。だから、迷う。悩み続けてしまう。
 救いが、欲しい。答えが、欲しい。一人で悩み続けていたくはない。
「なあ――」
 だから、翡翠へと言葉を求めてしまった。
 ――わたくしも共に探しましょう。貴方が会いたい方を見つけてあげましょう。
 暗転する意識が、脳髄を蕩かす聲にだけ傾いて。その聲に身を委ねる。
 異変に気付いたフローリエが、和音の名を何度も呼ぶ。けれど、和音には聞こえない。
「しっかりなさい」
 和音の背に、フローリエは背をくっつける。真っ暗な沼にどぽんと落ちて沈んでいく彼には、言葉も温度も伝わりはしない。
 和音が振り返り、その手に光の剣が握られた。フローリエは驚きに隻眼を見開いて、けれどすぐに覚悟を決めて針を握りしめる。彼を正気にするには、気絶しそうな程の痛みを与えねばならない。
 暗闇と甘い声に身を委ね、これでいいんだと和音は思う。何も考えず、忘れ、知らずに。何もかもを誰かに委ねてしまえば、それはとても楽なことなのだから。悩まないでいい。苦しまないでいい。それはとても素晴らしいことだ。
 ――違う。
 声が聞こえた気がした。誰かの声。顔を上げるが、何も見えない。
 ――違うわ。
 同時に、痛みが襲う。身に杭でも突き立てるような、鋭い痛み。
 そうだ、違う。和音が失くしたものなんだ。失くしたのが和音なら、取り戻すのも和音自身でないといけない。誰かじゃだめなんだ。
(そんな簡単なこと、気付け無いなんて)
 馬鹿だな、俺。
 パチリと瞬いた目。光が戻った眼前に、銀糸が飛び込んでくる。
「和音!」
「ぁ、ごめん……フローリエ。……ありがとう」
 俺が見つけるんだ。それが、贖罪だから。誰かに委ねてはいけない。
 しっかりとした受け答えに、彼はもう大丈夫だとフローリエは胸を撫で下ろして。
「それでは、任務遂行としましょうか」
 二人は信者を退けるべく、他の猟兵たちとともに動き出した。
「その声は、届かないわ」
 ――水よ、混沌よ、集い結ばれ、生命を齎せ、《ヒエロス・ガモス》――。
 翡翠の声を遮る透徹の雨。二人の周りと前方に降らせた雨はどういう仕組みか室内にも発生し、スコールのような激しい雨に打たれた信者たちが膝を折っていく。
 リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の耳には心地よい音。けれど激しいスコールは二人の周りの音を消して。バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)の歌が呼んだ雨によって翡翠の声から護られたリルは、真っ直ぐに前方へと視線を向けていた。
(――こんなにも信者がいるのか)
 これだけ悩んでいる人たちが居て、その悩みを身近な人に話せなくて悩んでいた。僕と一緒だと胸がちくんと痛む。そして彼らは翡翠にしか心を委ねられなかった。それは寂しいことのように思え、眉を寄せてしまう。
(言いにくくてもちゃんと相談するよ)
 そう、決めた。大切な悩みなら、大切な人に打ち明けるべきだ。リルの居場所はもう閉ざされた水槽では無くて、大好きな人の元へも、バレーナや大切な皆の元へ泳いでいけるのだから。
 そうっと隣で謳うバレーナの顔を見れば、柔らかく顔を綻ばせながら見つめてくるその目が、そっとリルへと囁いてくる。
 ――リル、貴方の歌を響かせて、この水の世界で、最も透る貴方の歌を。
「響かせようか、僕らの歌を……ね?」
 他の猟兵たちが倒れさせた信者たちと昏倒させられた猟兵たちをどかせるべく、白妙の人魚は尾鰭を翻し歌い始めるのだった。
 そして、ルネの人形たちによって昏倒させられたナターシャは、気が付き次第真の姿を形取っていた。機械の翼を背に生やした機械仕掛けの天使は、音も無く飛び上がる。
「まだ見ぬ楽園、その一端。我らが同胞を救い誘うため、光を以て導きましょう」
 薄暗い室内に、光が差す。ナターシャの上に、雲間から差し込むように光が現れたのだ。
 神々しいその姿に思わず目を奪われた信者たちへナターシャは優しげな笑みを向け、ナターシャが信じる教団の教えを説いていく。その言葉には彼女の神への祈りが溢れ、光に目を奪われている信者たちは催眠術を掛けられていることにも気付かずに翡翠への想いが上書きされていく。救ってくれたのは、側に居たいと思ったのは、彼女だったのではないか、と。
 守護結界の光りに包まれた信者たちが、ふらりとナターシャの光の元へと吸い寄せられていく。
「貴女がそうしたように、私もまた楽園へと導きましょう」
 機械仕掛けの天使が、慈しみを篭めてそう微笑んだ。

 一方、翡翠の声は届かないが外の様子もさっぱりと解らない穏やかな薔薇の国では――。
「そういえばフレちゃん、悩みなんてあったの?」
「失礼な、ボクにだってあるよ!」
 そうなのねと首を傾げてみせる櫻宵へ、大きく頷きを返したフレズローゼは自身の悩みを訥々と語って聞かせてあげる。女王様は寛大なのだ。
 それは先日の夜のこと。誘七家に忍び込んだフレズローゼは高そうな壺を割ってしまったのだ。流石にどうしよう! って思ったけれど、フレズローゼが会いに行ったあの子はそれでも起きなくて未だに誰にも相談出来ていないのだと言う。
 ツッコミどころは満載だけれど、とりあえず。
「もっと早く相談なさい! 何の為のあたしなの?」
「櫻宵に言おうと思ってた! いやぁ、でも中々タイミングがね?」
 高そうな壺。そう聞いて櫻宵の脳裏に浮かんだのは父が大切にしている壺たち。飾られていたという事は、お気に入りの壺なのだろう。きっと翌日は何故壺が割れているのかだとか、誰かが寝ながら割ったのではとか一波乱起きていたに違いない。
「……一緒に謝りに行くわ」
 誰かが濡れ衣を着せられているかもしれないし。
(……それにしても。壺が割れても起きないなんて、あの子の寝付きの良さは母似なのね)
 耳をピコピコさせて「やっぱりボクの事を知っててくれる人に相談するのが一番だよね」なんて、胸につっかえていた悩みが無くなって晴れやかな表情を浮かべるフレズローゼ。その傍らで、櫻宵はそっと息を吐くのだった。
「そろそろ外の様子も気になるね。一度出てみよっか」
「そうね」
 ひらりとトランプ翅の蝶を飛ばし、ぽんと外へ飛び出る二人。何分外の様子はさっぱりと解らないものだから、出現場所も選べはしない。
「おっと。死にたくなければ道をおあけ!」
 翡翠からはだいぶ遠い。けれど沢山居る信者たちへ粘着の魔法が掛かった絵の具を『**虹薔薇の絵筆**』で振りまいて。
「邪魔」
 フレズローゼの絵の具が掛からなかった信者へは、衝撃波に乗せて『睡華』を櫻宵が放つ。甘やかな香りとともに桜吹雪がびゅおっと耳に音を残して吹けば、二人の周囲の信者たちはぱたりと倒れ込み、眠りへといざなわれた。
(フレちゃんみたいに身近な人に相談すべきだったのに)
 眠りに落ちた信者たちを見下ろして思う気持ちは、己にも跳ね返るもの。相談出来る人が身近に居ない人の方が沢山居ることも知っている。相談出来る人が身近に居たとしても、それに当て嵌まる櫻宵自身も、相談出来てはいない。甘い言葉と慰めは惑う者の美酒と知りながら、櫻宵も翡翠の言葉を求めるのだから。
「あなたはあたしの何かをしっているのかしら」
「ああ、あなたは……あなたを本当に悩ませているものは、あなたが真に恐ろしいのは、水ではありませんね? あなたがあなたとして非無ければ、あなたは泳げるのではありませんか? 蓋をしないで、どうかあなた自身と向き合ってくださいませ」
 ――ああ、そうだ。
 自身の小さな呟きとともに、意識が落ちていく。水の、底へと――。
「――櫻!」
 異変に気付いたリルが、愛しい人魚が、歌を歌うのを止めて名を叫ぶけれど――彼の耳には届かない。
 しかし。
「ッせい!」
 どかぁぁぁぁん!
 櫻宵の腹が破壊された。
 いや、破壊されてはいない。フレズローゼが描いた破壊の絵の具が腹部で破裂したのだ。
「……っちょ、フレちゃ……」
「ふふん! さっきのお返しさ!」
 フレズローゼが殴るだけでは、櫻宵を気絶寸前まで持ち込むには威力が全然足りなかったのだ。
「……ありがと。お陰で目が冷めたわ」
 腹部を抑えて血を吐いて。吐いた血を、唇に刷いて。桜の花魁が艶やかに咲う。
 ――さあ、仕切り直し。兎と龍人が戦場を鮮やかに染め上げた。
「……リル」
 思わず最愛の名を叫んで歌を止めた白妙の人魚。その名を口にするため、白皙の人魚も歌うのを止めて。
 彼の瞳に揺れる色を見て。彼の視線の先を追って。――未だに胸は疼くように痛んでしまう、けれど。それでもバレーナは微笑みを浮かべ、傍らの彼の手を取った。大丈夫よと告げるように。
「歌いましょう、リル」
 大丈夫だから。わたしたちは、一人でも多く救うの。足を止めさせて、道を明けさせて。頼もしい仲間たちの道を拓くために。
 そう微笑めば、振り返った顔にも笑顔が咲いて。リルもまた、自分の意思で歌い始める。答えは自分でみつけるのだと決意を篭めて。
(――そう教えてくれたのは、君だから)
 上げた雨のヴェールを再び降ろす。歌を歌い続ける二人の間で交わされる言葉は少ないけれど、歌声に気持ちを載せて。雨音に、歌に、溶けて消える想いを載せて。答えは、ほんの少しの歩みの先。慣れない歩みの、不器用な足取りの末に見つかるもの。だから今はまだ――。
 二人の人魚は、歌い続ける。カーテンコールはまだ先なのだから。
 地鉛・要(夢幻の果てにして底・f02609)たちは、要の催眠術によって翡翠の『言葉』を無効化していた。翡翠の言葉を”理解の出来ない音”として認識するよう、要はノア・サテライト(因果巡り・f22154)とアリスティアー・ツーハンドソード(王子気取りの両手剣・f19551)へ催眠を掛けたのだ。”翡翠が発している音”という事は理解してしまうが、言葉として知覚をしていないため《洗脳人形~イェーガーコントロール~》の条件から外れる。それでいて、他の音も猟兵たちの会話もちゃんと聞こえる。実に上手い手であった。
「僕とキミは似ているのかもね、力を与える僕と優しい言葉を与えるキミ」
 洗脳への対策をしっかりとした。先に放たれた言葉も”翡翠が発している音”としか知覚しなかった。その為、アリスティアーは安心して声を掛ける。といってもちょっとした文句なのだが。
「誰かを助けるために僕達は自分の力を振るっている」
 そうだろう? と同意を見せてみせるアリスティアーにとっても、人は儚いものである。長い時間を生きてきて、たくさんのアリスたちを見守ってきた彼女には、翡翠と近いものが少なからずあった。
「けれど本当に悩みが解消したのならば彼らはここに留っていない。そんな誰かに依存するような態度はとらない。少なくとも今まで僕が助けてきたアリスはそうだった」
 翡翠が唇を開く。何か――言葉を、発している。唇が動いているからそうなのだろう。暫くの間、たくさんの言葉を重ねているであろう姿。けれど、アリスティアーたちの耳は、その言葉を言葉として拾わない。彼女がどんな想いを篭めて語ったのか、何ひとつ耳に入ってこないのだ。
 言葉が通じていない事に気付いたのだろう、翡翠は対話を諦めるように頭を振った。
「キミのやってることは優しさに人を溺れさせてるだけだ、それじゃあ人の孤独は埋まらない」
 アリスティアーがそうして一方的に言葉をぶつける中、ノアと要はユーベルコードを発動させる。標的は、信者たち。
 まずは自身の存在を示そうとするノアであったが、この場で一番存在感のある存在は翡翠であろう。示すのならば、彼女を上回るだけの工夫が必要だ。しかし、ノアが前へと歩み出せば、翡翠を護るべく信者たちは反応する。アリスティアーの言葉に不満を抱いた顔をしていた信者たちの視線が、一斉にノアへと向けられた。
 その瞬間、ノアの身体から蒸気が発せられる。一見所持しているようには見えないが、何か小型の機械を所持しているのだろう。蒸気は意思を持つように信者たちの元へと流れていき、覆われた者からぱたりと地面に倒れていく。それは機械が放出する蒸気が見せる睡眠ユーベルコード、親しき悪友からの餞別《蒸気の街の永夜(ロングナイトスチームタウン)》の効果であった。
 翡翠の側から離させた訳ではないため余り多くの信者を眠らせることは出来なかったが、その眠りを深いものにしようとノアは殺戮刃物で自身を深く傷付け魔力を生成。痛みに対して我慢強い方だと自負しているノアは薄らと笑みを刷いて、「さあ、お眠り」と信者たちを深い眠りへといざなった。
 ゆらり。要の影が揺れ。
 ざあっと一斉にいくつもの影が浮かび上がった。
「さあ、悪夢と狂気のパレヱドが始まる」
 その数は、要が視認出来る信者の数と同数。悪夢の影法師の群れたちが信者めがけて飛んでいく。ソレは、相手の夢から最も嫌がる記憶やトラウマを映したもの。信者たちが最も嫌がる記憶とトラウマで、信者の精神を攻撃するもの。
 悩みを乗り越えたとしていても、頑張って克服していたとしても。どんなに強い人でも嫌な記憶はそのまま持っているし、トラウマとして抱えていたりもする。きっとそれはどうやったって消える事はなく、蓋をして忘れた振りをしたり、前を向くことで見ないようにしているだけなのだ。けれど要の《幻想劇:悪夢》は、せっかく乗り越えた苦しみを掘り返す。明確に、信者たちの心を傷付ける行為だった。
『ワスレルコトナカレ』
 信者たちの心に、トラウマの軍勢たちが爪をたてる。消えることのない、深い深い傷。心の傷口に爪を立て、引き裂いて、新たな鮮血を生じさせていく。身体の傷は、いつか癒える。けれど心の傷は? 残念なことに、一生背負っていく者も多いだろう。
「ああ……」
 胸を抑えて苦しみながら倒れ、藻掻き、意識を失っても尚、悪夢に襲われる。痛ましい信者たちの姿に口元を抑えたのは、翡翠だけではない。要たち以外の猟兵たちはみな、『いかに信者を傷付けずに無力化するか』を考えていた。けれど要は一人、別の選択を取った。今ここに来ている猟兵たちも信者たちも、大きさは違えど悩みを抱えている。その痛みを想像するのは容易く、幾人もの猟兵が顔を歪め、その行為を止めるべく動き出した者も居た。
「――要の作る軍勢がそれを示してる」
 尚もアリスティアーは言葉を続ける。何を、示せているのだろうか。苦しむ仲間たちの姿を見せつけられて、同調できる者など一人も居ない。信者たちの心を動かす言葉を掛けるのならば、信者たちに寄り添う言葉とその姿勢を見せるべきだったのに。
 翡翠を護るべく、信者たちの層がまた厚くなる。
「流石にね、看過できないかな」
 要の肩に、大きな手が置かれる。人々の間を泳ぐように近寄ったヴィクトルが、解除してくれるね? と顔を寄せていた。そうしなければ力尽くで無力化に移行する事は、彼の手の内の銛が雄弁に語っている。剣呑なのは彼だけではない。要は周囲の猟兵たちを見ると、嘆息して影法師を消した。それと同時に悪夢に縛られていた信者たちは安らかな顔となり、他の猟兵たちは安堵の表情を浮かべていた。
(――さて、と)
 改めてヴィクトルは翡翠とその信者たちを見る。思わず、うわあと声に出そうになったけれど、普段は客商売をしている身。思いはしても口にはせず、静かにドン引いていた。教祖こわい。
(噂になる位洗脳されてるのは予想してたけどこの数、よく大騒ぎにならなかったね)
 他の世界では学生と言う言葉を耳にすると年若い子たちを想像するかも知れないが、アルダワの魔法学園には卒業という概念が無い。そのため、冒険譚に出てくるような髭を引きずるような魔法使いとなっても、実は学校に所属している学生だったりもする。既に親元を離れているものが大半だろうし、況してや友人へ相談出来ない生徒たちだ。普段から周囲との距離を程よく空けているものたちが多かったのだろう。
 腕の一本や二本くらいは後から治療出来るし、ちょっと我慢してもらおう。そう思っていたヴィクトルだったが、剣呑な空気が漂ったことからもっと手加減をしなくては横槍が入ることを察しの良い男は読み取って――銛を手に信者たちへと駆け出したが、高速詠唱からの水魔法を使用して信者の足元を縛っていく。ころんと信者が転がれば、ノアやまどかが眠らせていってくれる。
「…………ん」
 藤花の騎士の腕の中で、天女が身じろぐ。緩慢に開いた瞳でぼんやりと騎士を見上げ、最初に視界に映ったその姿に愛おしげに微笑みを浮かべる天女の姿に、こんな時でさえ騎士は喜びを感じてしまっていた。
「咲夜、立てるか?」
「うち……」
 眠りに落ちる前の出来事が、万華鏡のように脳内に花開く。弾けた赤、暗転する世界、同胞たる猟兵たちへ対峙する自身……。見開いた瞳から、ほろりと透明の雫が零れるのを、藤色の着物が吸い止めていく。
「……おおきに、そうくん。うち、大丈夫よ」
 先に目覚めたのにずっと支えてくれていたであろう蒼夜へと微笑んで、彼の手を借りながらも咲夜は立ち上がる。こんなところで、泣いているだけなんて駄目だ。失われた命は戻らないけれど、これ以上の惨状は止めることが咲夜には出来るのだから。咲夜は凛と背筋を伸ばし、前だけを見つめた。その儚くも凛々しい横顔を見つめる蒼夜の眼差しに灯るのは、尊敬の色だ。彼女は、優しくて、強い。
 咲夜を残し、蒼夜は地を蹴る。これ以上彼女を悲しませまいと『白藤』を逆刃で握り、瞳を紅藤に染めて。人の壁の中に走り込み、舞うように白藤振るうは《藤連斬》。白藤の斬護は護りの刀。人を護るために編み出された剣技だ。
 ひとつ、柄で真向、額へと。ふたつ、背中を柄で突き。みっつ、鳩尾に柄。よっつ、袈裟で峰打ち。いつつ、抜き打ち片手水平。むっつ、首の裏へと柄を落とし。ななつ、逆袈裟に峰打ち。やっつ、くるりと回って背へと水平に。
 この剣技は、仲間を斬らねば命を削る……が、前に出た蒼夜の側に咲夜は居ない。
 ――ここのつ、身体を回転させて勢いを付け、翡翠を斬る。
 しかし、刃が届く前に翡翠の前に信者が庇いに出てくる。当たる寸前でピタリと刃を止められたのは、技量よりも運によるところが大きい。信者の髪と皮一枚が切れ、赤い血が一筋垂れた。
(――嗚呼……貴方の命の花弁が散ってまう)
 蒼夜がそうしているのは、咲夜のためだ。咲夜が人々の命を慈しむから、傷付けないようにと彼が選んだ行動。それが解っているから咲夜は蒼夜を止められず、ただ彼の背中を見守ることしか出来ない。
 唯の一片さえ毀れてしまうのは嫌で。一分一秒、現世に繋ぎ留めておきたくて。けれど手を伸ばしても彼に届かなくて。抱き締めて、繋ぎ留めておくことも出来ない。ああ、なんてもどかしいのだろう。
 然れど咲夜は、藤騎士に護られるだけのお姫様ではない。
 ――私は、《継護之姫神》。
 水面のように揺れてしまいそうな瞳に決意を篭めれば、眩い光がその身を包んだ。そして、その身は真の姿へと変化する。桜銀糸は宵闇彩へ。藍双眸は月虹眼へ。水の聖衣と星の羽衣を纏いし万神の花嫁。
(まだ、まだ足りひん――)
 羽衣で浮かんだ咲夜の頭上に、日輪の環が生じた。金環日輪に水が満ちれば、スイっと動いて咲夜の足元に。水平となった水面は鏡の役を果たす。咲夜を映せば、母神から御力を授かりて。咲夜の力を極限まで高めていく。
 胸に満ちる想いを、祈りを、心細し繊細な声に溶かし、天女が口を開く。
「魔よ鎮まれ、降り注ぐ氷針にて我が許に跪け」
 繊手を動かせば、風神霊が指先に口づけるように集まって。彼女の意の侭に働く事を誓ってくれる。
 浮かんだ自身の周りに激しく吹き荒らさせ、桜の飛花とともに、烈々たる花嵐とならん。無数に劈く風切り音で空気の振動を遮断して、翡翠の言葉が届くのを絶った。
 しかしそれは、猟兵たちへも作用する。劈く風切り音は仲間の歌さえをも切り裂き、信者へ作用させる為の歌を届かせなくした。翡翠の言葉に合わせて一時的に使用するなら良いだろうが、一際大きな音はただの不協和音となるだろう。
 咲夜は、聡い。それに気付き風神霊を手繰るのを止め、代わりに仲間たちを鼓舞する歌を歌う。離れた背中にも届きますようにと祈りを篭めて。
 歌が、響く。花も人魚も、人も、詩を歌う。その中に新たに混ざった天女が、鼓舞と……それから、眠った猟兵たちも起こしていく。おはよう、起きる時間だよ。風神霊たちが耳元で囁いて。目覚めの歌を奏でた。
「心は脆く儚いもの? かかっ! 確かにその通り。だが、憐れむのは間違いでさ」
 矢を番えた男が呵呵と笑う。
 道を選ぶのは己自身。翡翠もそう思っている。けれど紀昌は選ぶのも独りで行わなければ駄目だと思っている。生とはその繰り返しだと。故に心は強く、人は強い。人は何度だって立ち上がれる生き物なのだ。
「翡翠のお嬢、お前も気づいておりやしょう?」
 静かな瞳を向ける翡翠と紀昌の視線が絡む。どちらかが逸らすことはない。
「ええ。そうですね、憐れむのは……わたくしが愚かだからです」
 しかし、自力で立ち上がれない者も居る。そういった人も多く見てきている。翡翠が悩みを聞いてきた人数は、紀昌が考えるよりも果てしなく多いのだろう。
 ノイもまた、静かに翡翠を見つめる。これが君の寄り添い方か、と。
(それとも――君はこう在るしかないのかな)
 チカ、瞳を瞬かせて。鍬を手に、射出された矢とともにノイは駆けていく。翡翠へ確実に一撃が届くまでは鍬は振るわない。信者が庇いに出れば、彼は寸止めをするだろう。
「やっちゃえ! ユキさああん!!」
「任せろ、セラ」
 響く美しい歌声に、花の子守唄だって負けてはいない。紅玉の声を追い風に、猫目石が輝いて。
 再度獣の顎が食い込むのは信者の肩だったけれど、全ての行為に無駄などない。セラとユキもまた、他の猟兵たちへと繋いでいく。
 水シャチが泳ぎ、騎士鎧の人形と絡繰人形の瓜江が踊り、桜と雪の吹雪の中を藤花散らした騎士が駆け、猟兵たちが一丸となって攻める。
 眠らされた信者たちも歌によって操られ道を開け――そこを駆け抜ける少女は、指の間に握った小さなダガーとともに。
 銃火器は、既に捨てている。誤射は嫌だし、一般人を殺すのはもっと嫌だから。
 鋼糸で信者を縛っては仲間たちへ託し、出来るだけ傷付けないように気をつけながら御園・ゆず(群像劇・f19168)は道を拓いていく。
 言葉を、聞きたいと思っていた。ゆずを非難しない、優しい言葉。
(でも、いいんだ)
 少女は小さな笑みを唇に乗せて、信者の側頭部を殴って気絶させる。
(……だって、言葉を貰って乗り越えたら、次から自力でとか、無理だし)
 心を温かく溶かされてしまうと、弱くなってしまうから。
 言葉は貰わない。けれど、少しでも彼女の側に行きたくて、少女は前へと進んでいった。
 猟兵たちが拓いた道。そこを黄金色が飛び抜ける。
 もう、信者の人壁は無い。
 真っ直ぐに、あっという間に飛び抜けて。

 ――パン!

 翡翠の胸の宝石をジークリンデの槍が刺し貫いた。
 ――ああ、一度終われるのだ。
 大きく目を見開いた翡翠だったが、自身のひとときの海での眠りを理解して柔らかく微笑む。
(おやすみなさい、翡翠さん)
 遠目に見た彼女はとても穏やかで優しげで美しかった。間近でその姿を見ても、ゆずは同じ事を思う。なんて美しいのだろう。優しくて、ヒトを愛することを識っているヒト。わたしより、ヒトらしい。わたしも、貴女みたいになりたい。困っているヒトを助けて、手を伸べる。わたしもそうなりたい。けれどわたしは醜い人間で、貴女のようにはなれない。醜い人間でごめんなさい。
 ゆずもまた、彼女へと微笑みを向ける。
 そうして向けた微笑みを捉えた彼女が、唇だけを動かして微笑んで――。
 翡翠の核に開いた穴から、パリパリと音を立て、ゆっくりと罅が広がっていく。
 ゆずの瞳から、透明な雫が零れ落ちた。

 ――パリィィィン――……。

 翡翠の核が砕け散る。
 翠の宝石が、星のようにキラキラと散って。
 星空の夜道で彼女の悩みから生活を知っていた女は、『愛嬌のある魅力的な笑顔ですね』と微笑って逝った。


✦.   ✦.       ✦.
 ✦.       ✦.    ✦.

 女は知っていた。
 徳とは、人間に備わって初めて善き特質となることを。
 人間の敵である大魔王に創られた身。人形の身の自分では無理なことを。

 女は知っていた。
 自分が人間の敵であることを。
 徳高き身として創られたのに、寄り添うべき相手も居ないことを。

 女は知っていた。
 騒ぎが大きくなれば猟兵たちが自分を殺しにくることを。
 女の此度の生はこれでおしまい。
 また新たに骸の海から出てきた時には、全てを忘れ、違う女となっている。

 ああ、それでも。
 わたくしは、後悔などしていないのです。
 皆さまに、佳き星の導きがあらんことを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月22日


挿絵イラスト