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黒狐少女の殺人(予定)

#サクラミラージュ


 港から船に揺られて小一時間。彼らはとある小島に辿り着いた。
 風光明媚、というには些か物悲しい景観だった。島の南面に広がる砂浜の小さな桟橋から船を降りれば、目的の洋館がすぐ目に入る。申し訳程度に舗装された小径を除けば、館の周囲には鬱蒼とした林が広がるばかりだ。上陸した男たちは冷たい潮風に襟を立てつつ小径を歩いていく。
 彼らは帝都で不動産業を営む者たちだった。この島を訪れたのは目の前に建つ『商品』を確認するためである。
 洋館は、かつては旅館として利用されていた。ろくな観光スポットもない孤島の宿だが、旅館内に湧く天然の温泉を目当てにごく少数の文豪やスタアたち(大抵は変わり者と評される者ばかりだ)が時たま訪れることで細々と運営が続いていたのだという。どういうわけか、旅館の女主人にも『客を選んでいた』という妙な噂があるようだが……。
 そんな旅館も女主人が亡くなるといよいよ店を畳まざるをえなくなる。彼女の死と同時に旅館は廃業。思ひ出の宿を惜しんだのか、宿泊客だった偉人たちの支援により洋館の維持管理だけは行われていたのだが、彼らが鬼籍に入ったことでとうとう建物も売りに出されることになってしまったのだ。

 えっちらおっちらと小径を歩いて洋館の玄関に辿り着いた男たちは、ほぅ、と息を吐いて荷物を降ろす。なるほど、陰鬱な外の景色とは違い、館内は落ち着いた趣味の良い内装だ。玄関ホールは吹き抜けで、正面に二階に上がる大階段が見える。見取り図によれば、一階には温泉や食堂、厨房といった施設が並び、二階にいくつかの客室を配する構造だったようだ。
 往時の情景を想像しつつ館を見て回る男たち。静寂が満ちる館内に生活感はないのだが、不思議と手入れは行き届いていた。これならすぐにでも売りに出せるだろう。あれこれと商談を交わしつつ、ぐるりと館内を一通り見て回って玄関ホールに戻ってきた一行は、気づく。

 ――玄関が開かない。
 生ぬるい風が頬を撫でた気がした。窓は開けていないはず。扉のノブを握っていた男が振り返ると、一人、仲間が消えていた。
 突然、照明が落ちる。高く聳える針葉樹林の影に飲み込まれて、館内が闇に染まった。息を呑み、身体を硬直させた男が最期に目にしたのは、悲しく揺れる、赤い瞳――。


「と、そんな感じの影朧による連続殺人が起きると予知されたわけなんだけど」
 グリモアベースに集まった猟兵たちを前に京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)が肩を竦める。問題の温泉宿の所在地はサクラミラージュ、帝都近海の孤島。『ユーベルコヲド使い』の存在が周知されている彼の世界において、グリモア猟兵の事前工作は思いの外に上手くいったのだという。
「被害者、になる予定だった不動産屋さんたちに『行くな』ってお願いしたらあっさりと承知してくれてね。予知された凶行はもう阻止できちゃってるんだよね」
 はっはっは、と乾いた笑いの伏籠。じゃあなんで呼んだんだよ、と猟兵たちのジト目を受けて彼は咳払いをひとつ。指を一本立てて改めて任務についての説明を続ける。
「……この事件を奇貨にして、件の影朧を転生させてあげたい。そのために、みんなには敢えて『彼女』の思惑通り殺人事件の『被害者』になってもらいたいんだ」

 話はこうだ。事件の主犯、影朧の少女は自身の拠り所である洋館を守るために行動しているらしい。だが、彼女は非常に用心深い性格で、滅多なことでは姿を現さない。
 そこで、猟兵たちはまず、不動産業者に扮して洋館に潜入。館内の設備を堪能しつつ影朧の襲撃を待つ。洋館が売り払われると察知すれば、影朧は猟兵たちに『死のトリック』を仕掛けてくるだろう。その殺人トリックを『わざと喰らって』『死んだふり』をするのだ。
 『殺人事件』が無事に完遂されれば、影朧は被害者(偽装)の前に姿を現すだろう。出現した影朧を転生させることができれば任務は成功となる。

「……影朧を転生させるために必要なのは、荒ぶる魂と肉体を鎮めてあげること。グリモアの予知が正しければ、彼女には『願い』がある。それを叶えることができれば、あるいは」
 掌中に浮かぶグリモアを矯めつ眇めつ、伏籠は小さく呟いた。少女の願いを猟兵たちにそっと伝え、彼はサクラミラージュへの扉を開く。

「大丈夫、みんなならきっと彼女を救えるはず。頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 こんにちは、灰色梟です。今回の事件は館モノのミステリー(?)です。
 ロケーションは孤島の温泉旅館。島の南側は砂浜、北側は断崖。洋館の周囲には鬱蒼とした針葉樹林が広がっています。幻朧桜は島の北端にぽつりと一本。

 第一章では洋館を訪れた一般人を演じてもらうことになります。温泉を堪能するなり洋館を探検するなり、自由に過ごしてください。後ほど『被害者役』になるのであくどい台詞とかがあると影朧も殺る気になるかもしれません。
 第二章になるといよいよ影朧が皆さんに牙を剥きます。『死んだふり』をすることになるので、本当に死なないための工夫やトリックの予想によりダメージを防ぎつつ、死亡フラグを立ててみたりと殺人事件の被害者になりきってください。断末魔や最後の言葉があると影朧もニッコリです。
 偽装が上手くいけば第三章で影朧が姿を現します。お約束通り死体を前に犯人が動機を独白するので、彼女の『願い』を叶えてあげてください。上手く立ち回れば戦闘を回避しつつ影朧を転生させることができるかもしれません。

 ミステリーのようなシチュエーションではありますが、都合、コミカルな描写になるかもしれません。皆さんの迫真の演技をお待ちしています。一緒に頑張りましょう。
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第1章 日常 『偉人の愛した秘湯』

POW   :    秘湯に使って疲れを癒す

SPD   :    旅館の料理に舌鼓を打って疲れを癒す

WIZ   :    幻朧桜を愛でて疲れを癒す

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六条寺・瑠璃緒
温泉、久しぶりだ
此処は初めて来る…かな、何でか懐かしい感じがするなぁ

悪人のフリをすれば良いんでしょ?
演技は任せて
とりあえずUCで演技と存在感を強化
皆不動産屋さんなの?
じゃ、金に汚い縁戚のフリでもしようかな
適当に話を合わせるよ
「流石は流行らない宿だね。叔母さんの遺産もこんな古びた宿しかないなんて」
「早いところ投げ打ってもっとマシなものに投資しよう。帝都の良い物件を教えてよ」
…ごめんね、女将さん
本当は素敵なお宿だと思ってるんだけど…
影朧、ちゃんと聞いていたかな

あ、温泉、忘れてた
「後は良いようにしておいて」
生意気な感じにひらひら手を振って温泉へ
桜、見えるだろうか
…影朧も此のお湯が好きだったのかな



 古びた鍵を鍵穴に挿して、ぎぃと回す。錠の開く音が小気味よく鳴った。
 ノブを握りドアを引けば、洋館の玄関扉が音もなく開く。蝶番には錆もなく、よく手入れされているようであった。
 一歩、二歩と玄関ホールに踏み入る猟兵。時刻は日中。しかし、窓から射し込むはずの陽光は分厚い雲と島の林に遮られていて、屋敷の中に仄暗い影を落としている。
 ひと気の絶えた家屋特有の乾いた匂いが鼻の奥を擽る。その香にさえも郷愁を覚えるのはなぜだろうか。
 ほんの一瞬の瞑目。ノスタルジックな感傷を飲み干して、六条寺・瑠璃緒(常夜に沈む・f22979)は目を開く。それだけで、彼が纏う空気は一変していた。カツンと靴を鳴らして、彼はホールの中央に進み出る。

「流石は流行らない宿だね。叔母さんの遺産もこんな古びた宿しかないなんて」
 生意気な声色と態度。それでいて、確かな存在感を持つ男であった。薄闇の洋館の中、まるで彼の周りにスポットライトが落ちているかのようだ。
 瑠璃緒は大仰に手を広げてホールをぐるりと見渡す。軽薄な視線も、へらりと崩した口元も、すべては演技。心の奥で女主人に謝りつつ、彼はくるりと玄関の仲間たちを振り返った。

「早いところ投げうって、もっとマシなものに投資しよう。帝都の良い物件を教えてよ」
 いかにも金に汚そうな、軽薄な台詞。瞬間、瑠璃緒の首筋がチリチリとざわついた。
 殺気。屋敷に落ちた影のどこかから、何者かが猟兵たちを睨んでいる。瑠璃緒は相手に気取られぬよう、もう一度ホールの天井からぐるりと辺りを見渡してみたが、気配の主は杳としてその姿を晒すことはなかった。
 沈黙が落ちる邸内に、パチリと音が鳴る。次いで、天井の白熱灯が燈り、辺りの影を塗りつぶした。どうやら同行する猟兵のひとりが照明のスイッチを入れたらしい。邸内の影が払われるのと同時に、視線と殺気も霧散するかのように消え失せていった。
 知らず、のしかかっていた肩の重みが消え去り、瑠璃緒はほぅと息を吐いた。

「……後は良いようにしておいて」
 ひらひらと手を振り、彼は洋館を我が物顔で歩き出す。さりげなく周囲に気を配ってみるが、彼の警戒網に引っ掛かるモノは何一つ現れなかった。
 一階の廊下を歩く彼の目に入ってくるのは、趣味の良い調度品や落ち着いた内装。窓から幽かに聞こえる木々のざわめきもまた心地よい。演技とは裏腹に洋館の趣を楽しみつつ、彼は一階の最奥、温泉の入り口へと辿り着く。
 本物の不動産屋が契約を更新しておいたため、照明や水道といった洋館のライフラインは既に復旧している。もし望むのであれば温泉も利用できるのだと彼は聞いている。

「桜、見えるだろうか」
 小さな呟きが宙に溶けた。更衣室を抜け、瑠璃緒は露天風呂の扉に手を掛ける。掌に触れた磨りガラスは、ほんのりと暖かかった。
 両引き戸を開け放つと、彼の視界は湯気で白く染まった。目が慣れていくうちに、まず広々とした湯舟が目に映ってくる。そこから顔を上げ、視界を正面に伸ばしていくと――。

「……嗚呼、影朧も、此のお湯が好きだったのかな」
 露天風呂から北に真っ直ぐ。一直線に切り開かれた林。その遥か先、島の北端に。たった一本の幻朧桜が静かに佇んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アスカ・ユークレース
ここが例の…人里離れた館で起こる連続殺人、まるで物語みたいね…

お金持ちのお嬢様っぽく振る舞います
格好もそれっぽく合わせて

興味津々で洋館を探検しましょう
ついでに間取りも頭に叩き込んでおきます
もしかしたら隠し通路とか秘密の部屋なんかもあったりするかもしれません

それにしても、もったいないですね…アクセスはいまいちだけど、折角雰囲気があって素敵な場所なんです、何とか建物だけでも残らないものかしら?

アドリブ可


フロッシュ・フェローチェス
※アドリブOK
影朧をおびき出すことが、まず第一か。
ここまでの道のりが道のりだったしアタシは架空の護衛……現地のユーベルコヲド使いでも装うかな。
――そうした方が普段通りでボロが出ずに済みそうだし。

……不動産業は分からないけどさ。
立地条件もあって内装良くても中途半端さは否めないし、第一人来ないだろここ?いっそ壊した方が良いと思うけど――世の中そう簡単じゃないんだね。
はぁ……なんかめんどくさ。
アタシの腕なら、化物がいても大して気にする必要はないけどさ?ほんと退屈……チッ、影朧でも出りゃいいのに。

……自分でも分かるぐらい嫌なこと言ってるな。
なんとか未練を晴らしてあげたいけど……。
取りあえず見て回ろう。



 猟兵たちが事前に入手した見取り図によると、洋館は大きく分けて三つのブロックに分かれているらしかった。
 南面の玄関から入って真正面、大階段を上がった先の二階は客室が並ぶブロック。大階段を上らずに一階左手の廊下を進んだ先は温泉関係の施設が並んでいる。そしてもうひとつ、温泉とは逆方向、一階右手の廊下には食堂や遊戯室といった共用施設が集中しているようだ。
 記憶の中の見取り図を思い浮かべ、アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)は小首を傾げた。丈長の羽織に和装の袴、編み上げの革ブーツをキュッと鳴らす彼女は、いかにも良家の子女といった風情である。宝石のような青の瞳が興味津々といったように輝いている。

「それでは、私たちはこっちに行ってみましょうか」
 つぅ、と彼女の細い指先が指したのは向って右手、東側の廊下だ。指し示された廊下の先を、アスカの背後に控えていた護衛がじっと見据える。
 護衛は黒い軍装の女性だった。翻ったマントの裏地は深い青。袖から覗く白手袋と腰に携えた軍刀。彼女の装いは、サクラミラージュ現地の人間と言われてもさほど違和感がないだろう。
 黒の軍帽から覗く翠の瞳を細めていた護衛の女性――、フロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)は、廊下に怪しいものが見当たらないことを確認すると、アスカに向き直って軽く肩を竦める。

「アタシはただの護衛。お嬢さんの好きにしなよ」
「あら、そうでしたね。では、参りましょうか」
 くすりと上品に微笑んでアスカが廊下に向って歩き始める。その背後を気怠げな雰囲気のフロッシュが追っていく。
 演技の都合、フロッシュはアスカを『お嬢さん』と呼んでいるが、実際には二人は揃って17歳。しかし、同い年ではあるものの、フロッシュの方が15cmも身長が高い。レトロな洋館を闊歩する女学生と軍装の護衛は、なかなかどうして絵になっていた。
 勿論、二人とも演技の下ではそれとなく周囲の様子を探っているのだが、やはり影朧の気配は掴むことができないでいる。廊下を歩くことほんの数歩、彼女たちはすぐに一番手前の扉に辿り着いた。

 ノブを回すと、扉は軋みもなく静かに開く。中に入ると、そこは食堂だった。かつてはここに宿泊客たちが一堂に会して食事を摂っていたのだろうか、7、8人は軽く座れそうな大テーブルが中央に置かれ、壁際ではこれまた大きな柱時計がチクタクと時を刻んでいる。
 食堂に入った二人は大テーブルに沿ってぐるりと部屋を一周してみる。近くで見た柱時計は想像以上に重厚で、子供一人ぐらいであれば中に入っていられそうだった。また、入り口からは気づかなかったが、部屋の奥の壁になにやら小窓のようなものが設えられていた。
 それ以外に気に掛かるものは見当たらない。二人は食堂を後にして次の部屋へと向かう。新たな扉にもやはり十数歩もすれば到着できた。

 二つ目の部屋は遊戯室のようだ。ビリヤード台やダーツが置かれ、小さなバー・カウンターまである。残念ながら酒の類は撤去されているらしい。カウンターの中には寒々しい棚が並ぶばかりだ。
 一方で遊戯用の道具は今も一通り揃っているようで、ビリヤードボールは正三角形に整理されているし、ダーツのチップ(針)は鋭く銀に輝いていた。
 また、奥の方まで入ってみると、この部屋の壁にも食堂と同様の小窓があった。成人男性では通り抜けられないような、小さな抜け穴だ。

 小窓の正体は三つ目の部屋で判明した。今度の部屋は遊戯室から結構な距離があった。途中で一度廊下を左に曲がり、扉を開いた先にあったのは広々とした厨房だった。
 錆ひとつないシンクに整理された包丁類。食器棚には高価そうな食器がいくつも収められている。さすがに食材までは置かれていないようで、大型の冷蔵庫はコンセントが抜かれていた。
 この部屋の壁にも小窓が二つ設えられている。猟兵が覗き込むと今まで通ってきた部屋の光景が見えた。少人数で宿を切り盛りするための工夫だろうか、どうやらこの小窓は厨房から料理を通すためのものだったようだ。
 また、部屋の片隅には二階の廊下へと繋がる小さな荷物用のエレベーターも備えられていた。恐らくはこれもルームサービスのために使われていたものだろう。

 見取り図によると廊下の更に奥には倉庫や女主人の居室があるらしいのだが、厨房に辿り着いた二人の猟兵はここでひとまず探索を切り上げた。
 置かれていた小さな椅子にアスカがちょこんとお行儀よく座り、フロッシュはそれを見守る様に腕を組んで背を壁に預けている。
 見知らぬ建物の探検というのは、存外に楽しいものだ。にこりと満足そうな笑みを浮かべるアスカに、フロッシュは少々やり辛そうに演技を始める。

「……不動産業は分からないけどさ。立地条件もあって内装良くても中途半端さは否めないし、第一人来ないだろここ?」
「雰囲気があって素敵な場所なんですけれどね。何とか建物だけでも残らないものかしら?」
「アタシはいっそ壊した方が良いと思うけど」
 意識して刺々しい口調を選ぶフロッシュ。果たしてこの会話も影朧は聞いているのだろうか。二人の会話を除いて、厨房は時が止まったかのような静寂に包まれている。
 フロッシュの物言いに、演技なのかそれとも素なのか、アスカは困ったように唇へ人差し指を当てた。

「それはもったいないです。この洋館なら、きっとそのままでも買い取ってくれる方がいますよ」
「はぁ……、なんかめんどくさ」
 いっそのこと。と呟きながらフロッシュは背を壁から離して軍刀の柄に手を掛ける。
「影朧でも出りゃいいのに」
「フロッシュさん、それは……」
「アタシの腕なら、化物がいても大して気にする必要はないだろう?」
 フロッシュ自身、嫌なことを言っている自覚はあるが、影朧の未練を晴らしてあげるためにはまず対象と接触しなければならない。内心を隠しつつ、彼女は挑発的な台詞を吐く。
 無論、目標とするところはアスカも同じ。フロッシュの目くばせを受けて彼女も敢えて辛辣な言葉を紡ぐ。

「影朧がいた、ともなれば、建物の価値も下がってしまいますから」
「……お嬢さんも言うもんだね」
 何の痛痒もなく純真な表情で言ってのけるアスカに、フロッシュがくっと喉を鳴らす。
 休憩は終わり、とばかりに椅子を立ったアスカに連れ立って、猟兵たちは厨房から廊下へと戻る。部屋から一歩踏み出すと、扉の正面で窓ガラスがガタガタと鳴っていた。
 ほんの少しだけぎょっとした二人が外を覗き見ると、曇天の下、風が強さを増しつつあるようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

唯式・稀美
島に上陸する前準備としてUCで優秀な助手を召喚しておこうか
旅館や女主人、客の共通点や影朧について情報収集をお願いするよ
良い情報があればいいのだけれど

船の上で変装と演技で不動産屋になりきろう。ここからの私は、洋館を商品とするために来た嫌な不動産屋…

「ふうん、思ったよりも綺麗じゃないか」
 私は館を見て回り、客室があった二階を見て、思いつく
「そうだ! 文豪やスタアの御用達だったのだろう? それを前面に出して宣伝すればいいじゃないか! 馬鹿なマニアはそういうのをありがたがるからなあ」
 名案を思い付いたと上機嫌になった私の視界に桜が入ったけれど、不動産屋である私はこの光景が付加価値になるかと考えるだけだ



 強まる風が運んだ冷気に、黒猫がぶるりと身を震わせた。
 猟兵たちが三々五々に散っていき、閑散とした玄関ホール。小さく身体を竦ませた『助手』を唯式・稀美(美探偵・f23190)が優しく拾い上げた。『悪いお金持ち』のテンプレートよろしく、彼女は抱きかかえた黒猫の首筋を撫でる。
 ……尤も、単に悪党と云うには彼女は些か美しすぎるのかもしれない。嫣然と弧を描く唇は確かに妖しい魅力を醸し出してはいるが、それはもはや悪徳成金を通り越して、やり手の女経営者のような雰囲気を演出していた。

「ふうん、思ったよりも綺麗じゃないか」
 しかし、だからこそ上から目線の台詞が真に迫る。不遜な態度でホールの吹き抜けを見渡した稀美は、そのまま真っ直ぐに大階段へと歩を進めた。
 すらりと伸びた脚がタイル貼りの床をコツコツと鳴らす。どうやら絨毯や敷物の類はすべて取り去られているようだ。剥き出しの硬質な床材がひんやりとその存在を主張している。
 トレンチコートを翻して、彼女は階段を上っていく。それほど長い距離はない。二十段も数えないうちに、彼女は二階に到着する。
 洋館の二階には玄関ホールの吹き抜けを囲うよう、ロの字状に廊下が敷かれていた。階段を上り切った正面、館の北側に面する廊下に客室はなく、代わりに大きな窓ガラスが設置されている。遠くに見える淡い桜色は、島唯一の幻朧桜だろうか。

「まったく、ありきたりな風景だね。なんの付加価値にもなりやしない」
 つまらなそうに口を尖らせて批評する稀美。その腕から黒猫がするりと抜け出して廊下に降り立った。猫は稀美を一瞥すると、とことこと西側の廊下へと歩いていく。
 ああ見えて、あの猫は稀美の『優秀な助手』である。情報収集もお手の物だ。黒猫の雄姿を見送ってから、稀美は反対の東側へと足を向けた。まずは手分けして客室の調査からだ。

 客室は吹き抜けを挟んで東西の廊下に並んでいた。南面の廊下には北面と同様の大窓が見える。ホールに沿った廊下には、やや頼りない木製の手摺が設えられていた。
 東側廊下の北端には、厨房と繋がっているだろう小さなエレベータのドアがあった。横目にそれを通り越して、稀美は手始めに一番手前の扉に手を掛ける。鍵は掛かっていないらしい。ノブを捻ると扉は抵抗もなく手前に開いた。
 落ち着いた雰囲気の客室だった。シングルのベッドに柔らかい照明、小さな椅子。奥の方には両開きの窓がひとつ。かつては宿泊客の文豪が利用していたものだろうか、部屋の中で特に目を惹くのははがっしりとした造りのデスクだ。

「そうだ! 文豪やスタアの御用達だったのだろう? それを前面に出して宣伝すればいいじゃないか! 馬鹿なマニアはそういうのをありがたがるからなあ」
 客室を見渡した稀美が思いついたとばかりにぽんと手を打つ。金銭的な価値ばかりを追求する、俗な経営者の演技。あれこれと勝手な言い分で商品の価値を批評する台詞を隠れ蓑に、彼女は客室からいくつもの情報を読み取っていく。
 寝具はベッドがひとつ。つまり、ここは一人部屋なのだろう。部屋の広さも一人なら十二分、二人ならちょっと手狭といった塩梅だ。
 デスクには備え付けの椅子がひとつ。こちらもがっしりとした大振りな造りだ。それと比べると、床にちょこんと置かれたもうひとつの椅子は妙に小さい気がする。

(……何か引っ掛かるな)
 あーだこーだと演技を続けつつ、稀美は客室を出る。探偵としての観察眼に引っ掛かった情報をキープしつつ、彼女はすぐさま隣の部屋のノブを捻った。
 次の客室も間取りはほとんど同じだった。窓とベッドはひとつずつ。重厚なデスクに、大きな椅子と小さな椅子。
 稀美はサイドボードを軽く物色してみる。出てきたのはティーカップのセット。物自体は品の良い白磁の逸品だが……。

(これ、二人用のセットだね)
 彼女は部屋を出て『助手』と合流する。黒猫が調べた西側の客室もおおむね東側と同じ様子だった。つまり、どの部屋も一人部屋のはずなのに、椅子や茶器が二人分ずつ置かれている、と。
 廊下に並んだ客室は、東と西に3つずつの計6部屋。そのすべてに共通した特徴。宿泊客がデスクに座っていたのだとすれば、小さい椅子に座っていた者とは……?

(確か、女主人にも『客を選ぶ』なんて噂があったけれど。……もしかしたら)
 吹き付ける風がガタガタと窓を揺らす。再び黒猫を抱きかかえた稀美は風音を気にした風もなく廊下を戻り始める。その脳裏では、集まった情報がパズル・ピースのようにピタリと嵌りつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

蛭間・マリア
※アドリブ歓迎です。
WIZで判定

殺人事件、ね。
医学生の範疇は超えてるかもしれないけれど、
犠牲者がでないに越したことはないか。

「読書に集中できる場所を探している書生」として振舞ってみようか。
旅館が賑わうことを嫌がって、ますます寂れていくことを喜ぶような、身勝手な書生としてね。


「なんだ。人、いるじゃない。一人きりに慣れると思ってたのに」
遅れて到着して、自分以外に訪問者がいることにがっかりする風に。
気を取り直して一人になれる場所を探しながら、手入れの行き届いた内装を見てつぶやく。
「誰が手入れなんて、余計なことをしてくれたんだか」

これだけやれば、殺る気も十分でるでしょう。
私を狙ってきなさい、影朧…。


沢木・助平
■SPD

花は大正、桜に浪漫。
まぁ桜は綺麗っすけどガジェット以上に興味惹かれるかっつーとノウっすかねぇ。
ま、ちょっと思いっきし腐すとしましょー。

両肩にミニミニガジェット沢木ちゃんをUCで召喚しておいて見て回る。
マジで建物や情緒?みたいなのは興味ないからガンガン文句言って歩く。
汚いとかローテクとか魅力がないとか。
逆にぶっ壊して工場にするのはどうだろ!?人もいないし公害クレームもつきづらい!労働力の脱走も困難!あれ、完璧じゃね?
などと曰うと両肩の沢木ちゃんズが
「沢木チャン、スゴーイ!」
「沢木チャン、天才美少女!」
などとおだててくれるタイプの意地悪さんでいきまーっす。

アドリブ絡みドンとこい



 はっきり言おう。影朧はもう我慢の限界だった。
 屋敷を訪れたニンゲンはイヤなヤツばかりだ。彼らの勝手な言い分を許すつもりも納得するつもりもない。が、連中の立場は影朧の拙い知識でも理解できる。要は、この洋館の『リケン』を持っているニンゲンたちなのだろう。
 だが。だが、しかし。最後にやってきた二人の来訪者は、影朧から見ても明らかに異質なニンゲンだった。

「花は大正、桜に浪漫! ま、綺麗なだけじゃ惹かれもしないっすけどね!」
「ソーダネ、沢木チャン!」
「トーゼンダネ、沢木チャン!」
 油濡れの作業着にタンクトップ。沢木・助平(ガジェットラヴァー・f07190)は服装からして今までの来訪者とは毛色の違う少女だった。
 カラカラと見得を切る助平の両肩では、デフォルメされた青髪青縁眼鏡の人形型ガジェット(よくよく見れば助平本人に似ているかもしれない)が一言一句に反応して賑やかに彼女を囃し立てている。どこからどう見ても彼女が資産家や不動産業者の類とは思えない。
 閑散とした洋館に響く一人と二機の助平劇場。そのけたたましさに眉を顰めるのは影朧だけではなかった。

「なんだ。人、いるじゃない。一人きりになれると思ってたのに」
 助平に遅れて玄関の扉をくぐってきたのは書生風の少女だった。さっぱりとした身なりだが、洒落っ気は薄い。蛭間・マリア(蛭間の医学生・f23199)。一見すると彼女も助平同様、洋館の売買に関わるような手合いには見えなかった。
 ほぼ同刻に洋館へと足を踏み入れた二人の少女。彼女たちはそれぞれ勝手気ままに邸内を探索し始める。……の、だが、どういうわけか行く先々で何度もばったりと顔を合わせてしまうようだ。

「うーん、古くさい内装っすね。機能性もない、ローテクの極み、みたいな」
「またあなた? こっちは一人になれる場所を探してるっていうのに……」
 この二人、表向きの目的からして相性が悪い。両肩のミニミニガジェット沢木ちゃんと合わせて一人でも賑やかな助平に対して、静かな場所を探して彷徨っているマリア。当然、彼女たちが顔を合わせればじゃれ合い程度の衝突が起こる。
 さすがに互いに手が出るような展開にはならないが、それにしたって幽栖の洋館には不釣り合いな騒々しさだ。喧々としたやり取りを聞いていると、轟々とした外の風もどこか通り世界の音のように思える。

「おおっと、年代物のエレベータ! 荷物用とはいえ、ちょっとちゃちすぎっすよ」
「チャチイネ、沢木チャン!」
「ボロイネ、沢木チャン!」
「まだ動くのね、それ。まったく、誰が手入れなんて、余計なことをしてくれたんだか」
 ……それでいて、両者とも洋館をしっかりディスっていくのだから影朧としてはたまったものではない。
 ときに助平が調度品の機能不備を口を尖らせて指摘し、ときにマリアが洋館がまだ『生きて』いることを身勝手に否定する。彼女らの言葉が耳に入るたび、影朧のフラストレーションは増大する一方だ。

「営業してないならもっと寂れてしまえばいいのに。小綺麗にして、人が増えでもしたら興醒めね」
「いやいや、ならいっそ、ぶっ壊して工場にするのはどうだろ!? 人もいないし公害クレームもつきづらい! 労働力の脱走も困難! あれ、完璧じゃね?」
「沢木チャン、スゴーイ!」
「沢木チャン、天才美少女!」
「工場なんかできたら読書に集中できないでしょう。このまま朽ちていくのが最良よ」
 二人とも、お手本のような意地悪さん(の演技)だった。とうとう洋館の去就にまで口を出し始めた少女たちに、隠れ潜んで様子を窺っていた影朧はもはや涙目である。
 技術屋と書生。影朧からすれば、この二人が屋敷をどうこうできる立場のニンゲンには見えないのだ。だというのに、何故ここまで好き勝手言われなければならないのだろう。ぷるぷると震えながら影朧は目を潤ませる。

「もう許さないんだから……!」
 ぐしぐしと目元を拭い、キッと眦を上げた影朧がついに動き出す。すべるように物陰から抜け出した影朧は、洋館を守るべく来訪者の殺人計画に乗り出した。
 まずはニンゲンたちを屋敷に閉じ込め、観察し、隙を伺う。決して真正面から襲い掛かってはいけない。影朧の細腕ですべてのニンゲンを始末するにはこうするしかないのだ。
 だが、感情剥き出しの視線は隠しようもなく拙い。僅かに漏れた鋭い気配に二人の少女猟兵はすぐさま気づいた。

(おっと、とうとうお出ましっすかね?)
(ええ、これだけやれば、殺る気も十分でるでしょう)
 何気ない会話の中で、助平とマリアは小さく頷き合う。二人が交わす言葉を除いて、屋敷はシンと静まり返っていた。ピリピリとした殺気が肌を刺す。たとえ一般人であっても、屋敷に何者かが潜んでいることぐらいは感じられるだろう。
 だが、この期に及んでも影朧の居場所だけはどうしても察知できない。情報通り、影朧は非常に用心深い性格のようだ。対象と接触するためには、予定通り殺人を偽装するしかないだろう。

(私を狙ってきなさい、影朧……)
 助平と別れ、敢えて単独で歩き始めるマリア。影朧に気取られないよう、ふっと小さく息を吐く。殺人事件の対処など、本来は医学生の範疇を超えている。気を張るのも当然だろう。
 ……だが、犠牲者がでないに越したことはない。決意を胸にしまい込み、彼女は音の消えた廊下をそぞろ歩いていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『孤島の邸にて』

POW   :    警察も来ない離島だ。用心棒は必要ないかい?

SPD   :    大きな邸だ。修繕も必要だろう。はて、こんなところに扉が。

WIZ   :    島の地図や伝承を調査する。日記や書き付けは残されていないか。

👑11
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 玄関、窓、通用口。屋敷と外部が繋がるあらゆる場所で錠が降りる。もし鍵を調べてみれば、扉が内側からも開かないことに気付くだろう。
 封じ込めは成った。影朧は屋敷に散らばった来訪者たちを殺害するべく行動を開始する。洋館の構造や各所に取り残された凶器、あらゆるものを利用して彼女は猟兵たちを狙ってくるだろう。
 が、幸いなことに影朧が人間に対して攻撃性を発揮するのは今回が初めてであった。工夫を凝らせば彼女に犯行の成功を誤認させることは十分可能だろう。
 ミステリィの一幕の如く、自身の死を偽装するため、猟兵たちは今か今かと影朧を待ち構えている――。
六条寺・瑠璃緒
上手くいったけど、殺したいほど憎まれるのは少し辛いなぁ
そんなにこの場所が好きだったなら何とかしてあげたいけれど…

UCと演技は継続
「ドアが開かないだって?全く、どれだけ建付が悪いんだ」
「誰か何とかしておいて呉れ。僕は少し休むよ。湯冷めをして仕舞う」
言い捨てて、一人になれる客室へ

死の罠は刃物だとやり易いかなぁ
其れらしきものを探してわざと掛かろう
折角だから派手に死にたいね
致命傷と顔への傷は【Serenade】で防ぎつつ、程々に流血して倒れ込む
「どうしてこんな…嗚呼、誰か医者を…」
憔悴して苦しみ抜いて死んで見せたら影朧も少しは溜飲が下がるかな
…色々とごめんね

そうだ、ミステリらしく血文字で何か遺そう



 湯上りのスタアは、影朧の目を奪うほどに美しかった。
 ひとしきり温泉を満喫した六条寺・瑠璃緒(常夜に沈む・f22979)がほのかに湯気を纏いながら玄関ホールへと廊下を戻っていく。ひんやりとした館の空気が火照った頬に心地良い。
 彼がホールに辿り着くと、幾人かの猟兵が玄関の扉を前に腕組みしていた。尋常ならざる様子(勿論、演技だが)の彼らによれば、先刻からどうやっても扉の鍵が開かないのだという。深刻そうに、あるいは不安そうに振る舞う彼らとは対照的に、瑠璃緒は落ち着き払った態度で湿った髪をかきあげた。

「ドアが開かないだって? 全く、どれだけ建付が悪いんだ」
 驕慢放縦。役柄の設定どおり、雑事には興味ないとばかりに彼はそのまま大階段へと足を向ける。
 踵を鳴らしてタイル床を歩き、階段を上ること一段、二段。ひらひらと手を振りながら、彼は顔も向けずに背後の仲間へと言い放った。

「誰か何とかしておいて呉れ。僕は少し休むよ。湯冷めをして仕舞う」
 言ったからには振り返らず、彼は一息に階段を上り切る。到達した二階からちらりと見下ろせば、階下の猟兵たちが困り顔で玄関から離れていく姿が見えた。
 ふん、と苛立たし気に鼻を鳴らして瑠璃緒は手近な客室の扉に手を掛ける。やはり、鍵は掛かっていない。彼は大きく扉を開け放って、無遠慮に客室へと踏み入った。

「誰もいない、か」
 そんな感想が自然と彼の口をついた。一見して客室に人影はない。勿論、ベッドの陰や箪笥の中といった死角がないわけではないが、それでも大の大人が隠れられるようなスペースは存在しないだろう。
 緊張を解くかのように細く長く息を吐き出す瑠璃緒。その耳に突然、ガタガタと物がぶつかり合う音が届く。びくりと身体を震わせた彼が視線を向ければ、なんのことはない、客室の窓ガラスが強風に叩かれて音を立てているようだった。
 ふらりと窓辺に寄る瑠璃緒。外の様子を確かめようと窓の鍵を開けようとした瞬間、彼の背中に衝撃が走った。

「な、がっ……」
 鍵に気を取られた一瞬の出来事だった。詰まる息。灼けるような痛みが腰の上に突き刺さる。咄嗟に右手で腰の後ろに触れると、ぬるりとした鮮血が白い指を汚す。
 振り返ることもできず、窓に寄りかかるように膝を着く瑠璃緒。藻掻くように伸ばした右掌が窓ガラスを赤く塗った。歪む視界の中、窓ガラスにぼんやりと映ったのは、血濡れの包丁を握る黒い人影だった。

「どうしてこんな……、嗚呼、誰か医者を……」
 流血と共に失われる生命。ついには唇の端からも血が滴らせ、彼は苦悶の声を漏らす。憔悴した表情は次第に色を失い、やがて血だまりに力なく突っ伏した。
 スタアはもはや、動かない。――だが襲撃者は、瑠璃緒の服から一片の白羽が零れ落ちたことに最後まで気付けなかった。
 Serenade、小夜曲の名を持つ守りのオーラ。瞬時に展開された白翼の護りは間違いなく致命傷から瑠璃緒を守っていたのだ。
 瞳を閉じて倒れ伏した瑠璃緒は、静かに背後の気配が去るのを待ち続けている。


 やった。やってしまった。
 両手で包丁を握る影朧は動揺を鎮めようと必死に深く息を吐いていた。もう止まることはできない。最後までこの事件を完遂しなくてはならない。
 どうしてこんなことになってしまったのか。自分は洋館を守りたいだけだったのに。
 ひときわ大きく息を吐いた影朧は、もう一度、自身が手に掛けた男の様子を窺ってみる。やはり、彼はぴくりとも動かない。
 そして少女は気づく。最期の力を振り絞ったのか、倒れ伏した男の指が窓ガラスに血文字を遺していたことに。

(『ごめんね』……? なんで?)
 歪んだダイイング・メッセージは確かにそう読めた。言葉の意味はわかるが、意図がわからない。この男が何を謝るというのだろうか。
 遺された血文字をどうするべきなのか。影朧は必死に頭を捻る。答えを聞こうにも、書いた本人はもうこの世にいない。額に指をあてて唸り込む少女は、やがてハッと顔を上げた。

(……そうよ、コイツらは私のことなんて知らないんだもの! きっと仲間の誰かに襲われたって勘違いしてるんだわ!)
 スマートな『答え』を見つけ出し、影朧は何度も頷く。それならば、このメッセージは放っておこう。ニンゲン同士の疑り合いになれば、きっと次のチャンスに繋がるハズだ。
 多少の冷静さを取り戻し、影朧は踵を返して客室から去っていく。――もし、彼が自分に謝っているのであればどういうことなのか。そんな疑問の棘を胸の片隅に残しながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

唯式・稀美
「外に出られるようになったら呼んでくれたまえ」
なんて言って客室の一つに戻るよ
演技を続けながら、思考は茶器と小さな椅子に向ける
今回の依頼は、影朧の退治ではなく転生だ
そのためには、影朧の目的を、真意を知る必要がある
女主人には、客を選ばなければならない理由があったのだろうか
それは例えば、小さな椅子の主を守るためか
あるいは何か、知られたくない秘密でもあったのか
宿泊客は、皆この小さな椅子の主に会いに来ていたのだろうか

情報収集をしながら第六感と世界知識で時間の許される限り思考を続けながら、UCで攻撃に備える
できるなら影朧の姿を見てから死にたいけれど…
「そ、そんな……この私がこんなところで死ぬはずが……」



 玄関の鍵を調べていた探偵は、扉の開く音に顔を上げた。
 目の前の扉からではない。開閉音は二階の客室から聞こえてきたようだ。彼女の記憶が確かなら、しばらく前に来訪客がひとり階段を上っていったと思うが……。

「外に出られるようになったら呼んでくれたまえ」
 横柄な不動産屋の演技はそのままに、唯式・稀美(美探偵・f23190)は玄関扉から離れる。いかにも不機嫌といった仮面を被りつつ、大階段を上った彼女はぐるりと吹き抜けを囲う廊下を見渡した。
 注意深く観察するまでもない。6つの客室の内、東側中央の扉だけが半開きになっていた。先程の音はあの扉からだろうか?
 意を決して客室に向かう稀美。風の音と自身の鼓動だけが耳を打つ。半開きのドアノブに手を掛け、深呼吸をひとつ。彼女は一息に扉を開き切った。

「……気のせいだったかな?」
 稀美がこの部屋に入るのはこれで二回目だ。見る限り、調度の位置や内装は前回と変わりはない。予想通りというべきか、室内に人の気配も感じられない。
 小さく息を吐いた彼女は不動産屋の仮面を半分外して備え付けのベッドに腰を下ろす。低くなった彼女の視界に、小さな椅子と二人用のティーセットが映った。

(今回の依頼は、影朧の退治ではなく転生だ)
 サイドボードに置かれた灰皿を引き寄せて、稀美はキセルパイプに火をつけた。ほぅと紫煙をくゆらせて、ぼんやりと天井を見上げてその行方を追う。
 被害者に偽装するのは、あくまで影朧と接触するための手段。事件の解決には影朧の目的を、真意を知る必要がある。
 手掛かりは屋敷に残された過去の痕跡。推測し得る、在りし日の情景。

(小さな椅子。座っていたのは、きっと子供だ)
 セピア色に上塗りされた稀美の想像世界で、黒塗りの人物が小さな椅子に座る。ちょこんと収まった小柄な人影は、もうひとつの大きな椅子に座った影と楽しげに話している。
 事前調査で名前が挙がったのは旅館の女主人と宿泊客だけ。小さな椅子の主の記録はどこにも残されていなかった。『女主人が客を選んでいた』のはこの人物を秘密にするためなのか?
 だが一方で、すべての客室にはご丁寧にも同様の調度品が備えられている。椅子の主が自由に部屋を渡り歩いていたのだとすれば……。

(宿泊客は、この小さな椅子の主を知っていた。それでいて、そのことを誰にも漏らさなかった)
 セピアの世界で笑う小さな人影。かつての客たちは、皆、彼女に会いに来ていたのだろうか。
 稀美が連想するのは『民間人が影朧を匿う』という事件。人里離れたこの孤島だからこそ、旅館の関係者は現地のユーベルコヲド使いから影朧の存在を秘匿できたのかもしれない。
 だが、オブリビオンは存在そのものが世界を崩壊に導く。影朧の存在が引き金になったのかは定かではないが、旅館の関係者はすでに全員が鬼籍に入ってしまった。

(影朧のことを知るものは、もう誰もいない。なら、その願いは……)
 稀美がトン、と灰皿にキセルの灰を落とすのに合わせて、彼女の視界はセピア色から現実に引き戻された。同時に、彼女の耳に異音が届く。
 半開きの扉の向こう側から響く、がたついた駆動音。発生源は廊下の北側。荷物用のエレベータだ。
「誰かいるのか!」
 ベッドから跳ね上がった稀美はすぐさま客室から出る。廊下に出ればよりはっきりとエレベータの駆動音が耳に入った。取るものもとりあえず、探偵は廊下を走り出し――。

「……えっ?」
 直後、横合いから突き飛ばされた。一瞬の浮遊感。上体が手摺を乗り越え、吹き抜けの玄関ホールに頭から落ちていく。
 エレベータは囮。だが、廊下に人影はなかったはず。逆さまになった視界で、稀美は目を見開いて襲撃者の姿を探すのだが……、その瞳には『誰もいない廊下』だけが映っていた。
 落下は止まらない。廊下はすぐに視界から消えた。階下の床は硬質のタイルだ。頭部から墜落すれば致命傷は必死。稀美はなんとか身体を捩って急所を守ろうとする。
 乾いた墜落音。衝撃に胸が詰まり、肺の空気が抜ける。遅れてやってくる激痛に探偵は身悶えする。
 ……だが、これで条件は整った。

「そ、そんな……、この私がこんなところで死ぬはずが……」
 無念の言葉を言い残し、意地悪な不動産業者が冷たい床の上で動かなくなる。その姿が一瞬だけ二重にブレたことは、二階の廊下からでは決して知覚できないだろう。
 倒れ伏すのは召喚された偽装死体。自身のダメージをトリガーとするユーベルコードにより、稀美は玄関から遠く離れた部屋、廊下から奥まった場所の倉庫へと瞬間転移していた。
 ……ひとまずはこれで舞台から退場だ。落下のダメージを応急手当しつつ、彼女は耽々と事件の次なる展開を待つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フロッシュ・フェローチェス
※アドリブOK
演技は続けたままにさっきまでの様に装って。
こんな不可思議な施錠、流石におかしいね。見回ってくる……とでも言って厨房や遊戯室の方に向かおう。

コッソリ来るか、飛来物か、どちらでも最初は斬透炉で捌こう。切り落とさないように――。
――面白くなってきたね。
どうした、つまらないじゃないか?こんな依頼飽き飽きしてたんだ……!

……と調子にのるフリで一撃をわざと受けて武器を手放し、UCで致命傷を避け攻撃を受ける――体の特性を活かそう。
後は断末魔か……。
このアタシがっ、こんな――やめっ、まだ楽しみ尽くして……い、いやだぁぁ!?
なんてこれで良いかな?
最後に一つだけ何か残して置きたいけど上手くいくかな。



「こっちの窓もダメか。こんな不可思議な施錠、流石におかしいね」
 洋館一階、東側廊下。鍵の掛かった窓を調べるフロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)が軍帽の下で眉根を寄せる。
 いくら調べても解錠されない玄関を不審に思い、近場の廊下を見回ってみればこの有様である。開こうにもびくともしない窓を前に、軍装の少女は腕を組んで立ち尽くすばかりだ。

(さて、コッソリ来るか、飛来物か)
 無論、猟兵たちが本気を出せば影朧の小細工程度、扉や窓ごと吹き飛ばすことができる。だが、それをやってしまえば影朧は決して彼らの前に姿を見せないだろう。
 特に現地のユーベルコヲド使いに扮したフロッシュは影朧からすれば最も警戒すべき存在だ。そのため、彼女はこうして影朧が襲撃に踏み切れるよう敢えて隙を見せているのだが……。
 ぼんやりと窓の外を眺めること数分。状況が動いたのは溜め息を吐いたフロッシュが視線を廊下の奥に移した瞬間だった。

「……ふっ!」
 閃く白刃。振り向きざまに彼女が切り払ったのは、背後に聞こえた小さな小さな風切り音。魔改造軍刀・斬透炉に迎撃されて一本のダーツが乾いた音を立てて廊下に落ちる。続けざまに迫る二の矢、三の矢。鋭く光る針先に目を細めつつ、フロッシュはその悉くを造作もなく叩き落した。
 軍刀を正眼に構える少女。振り向いた廊下に人影はなく、しかし、何者かが開け放ったであろう遊戯室の扉が今も小さく揺れていた。

「――面白くなってきたね」
 廊下に転がるダーツを隅へと蹴り転がし、口元を歪めたフロッシュが遊戯室に迫る。慎重かつ大胆なアプローチ。足運びはぞんざいだが上体と軍刀には一分の揺らぎも見えない。
 遊戯室に辿り着くまでの十数歩、ダーツによる追撃はもうなかった。拍子抜けとばかりに鼻を鳴らし、彼女は半開きの扉を思い切り開く。

「どうした、つまらないじゃないか? こんな依頼飽き飽きしてたんだ……!」
 威圧的な呼びかけが遊戯室に木霊する。応えるものなし。だが、フロッシュはビリヤード台の奥、厨房とを隔てる壁のあたりで小さな物音がしたのを聞き逃さなかった。
 ここから死角になっているのはビリヤード台の陰のみ。抜刀した軍刀を片手に、フロッシュはゆっくりと距離を詰め始める。踏み出すたびに絨毯張りの床が音もなくブーツを受け止める。余裕の薄笑いを浮かべつつ、彼女はビリヤード台に手を着き――。

「なっ!?」
 その瞬間、背後から飛来したダーツに利き手を貫かれた。思わず(あるいは演技として)軍刀を取り落とす少女。傷口を庇いながら振り向いた彼女の目に映ったのは、至近に迫る無数のダーツの群れだった。
 いつの間に。そう考える暇すらなく襲い来る凶器。この距離ではもはや回避も防御も間に合わない。……あくまで常人であれば、だが。

(――廻砲『P・X』!)
 見開いた翡翠の龍眼が軍帽の陰で輝く。刹那、フロッシュの主観時間が急速に引き延ばされた。高速で飛来するはずのダーツが、ほぼ静止に近い速度まで減速した(ように見える)。
 ユーベルコードを発動させて総合速度を引き上げた今のフロッシュには、コンマ秒以下の世界がコマ送りのようにはっきりと認識できる。加速した思考での超速演算。『ダーツが当たる順番』を見切り、彼女は最期の演技を披露する。
 最初にダーツがヒットするのは右肩。迫りくる針をぎりぎりまで引き付けて、フロッシュは弾かれたように左向きに回転した。

「このアタシがっ、こんな――、やめっ、まだ楽しみ尽くして……、い、いやだぁぁ!?」
 次の一撃は左半身。直撃の寸前に、逆回転。大量のダーツが撃ち込まれ、衝撃に独楽のように弄ばれる……、フリ。
 回転するたび途切れ途切れの悲鳴を上げて、戦闘狂のユーベルコヲド使いはついに崩れ落ちる。突っ伏した少女の死相をずり落ちた軍帽が暗く覆い隠していた。


「お、終わったの……?」
 遊戯室の入り口で、影朧は息を切らせて手を膝についていた。荒い息を懸命に整えて、影朧はもう一度『怖いニンゲン』を観察する。
 ……彼女はもう、ぴくりとも動かない。これで大丈夫。大丈夫なはずだ。
 だが、鼓動を抑えるよう胸に手を当てて息を吐いたとき、影朧は気づく。軍服の袖から覗いた少女の人差し指が、遊戯室の入り口、影朧のいる辺りをまっすぐ指していることに。

「あ……」
 何故だか涙が滲みそうになった。言葉に出来ない感情に襲われて影朧は逃げるように遊戯室から走り去る。荒々しく閉められた扉が、彼女の心の内を表しているかのようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アスカ・ユークレース
「なんなのよここ……!人は死んでいくし出られないし…もう嫌……!」
半狂乱の演技でその場を飛び出しひとりに。気分を落ち着かせるために客室に入ります。ルームサービスがあるならいただくわ。

「……毒……!……一体、誰が……!」

まあ毒入りなのは大体予想はついてるので対策もOK。
口に仕込んだ流体金属で包んでそっと戻すわ。毒対策はこれで完璧。
のたうち回った跡に見えるようにある程度部屋を荒らして。
「……私は……ここで死ぬわけには……」

口元に血糊をぶちまけたら派手な死に様に見えるかしら?
後は極力息を止めて静かに横たわるだけ

アドリブ可



「なんなのよここ……!」
 二階から墜落してきた死体は、玄関ホールに集まっていた客たちを恐慌に陥れた。怯え、混乱した客たちの怒号と悲鳴が虚しく響き渡る。護衛とはぐれてしまったお嬢様、アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)もまたその渦中で身を竦ませていた。
 混乱が収まる気配は一向にない。無意味な責任の押し付け合い、狂乱の叫び声、劈くような泣き声。青ざめた表情で震えていた少女は周囲の喧騒に耐えきれず、とうとう耳を押さえてその場から逃げ出した。

「人は死んでいくし出られないし……、もう嫌……!」
 客たちの輪を振り切って、彼女は大階段を駆け上がる。どこでもいい。とにかく安全な場所でひとりになりたかった。
 ほんの十数段。それだけの階段を上っただけで激しい動悸が胸を打っている。くらくらとした眩暈を感じながらアスカは客室の扉を目指す。
 人が墜ちてきた東側の客室にはとても近づけない。彼女の足は無意識に西側の廊下に向かう。ふと、ほのかに甘い香りがアスカの鼻を擽った。

「この香りは……?」
 古びた空気に満ちた洋館らしからぬ、蕩けるような芳香。まるで夢現。覚束ない足取りでアスカは客室の扉を開く。
 甘い香りは客室のデスクから漂っている。置かれていたのは白磁のティーカップ。恐る恐る覗き込めば、ふんわりと湯気を上らせる琥珀色の液体がなみなみと注がれていた。
 ゴクリ、と少女の白い喉が鳴る。冷たい屋敷の中、芯まで冷えた身体に暖かい紅茶は抗いがたい誘惑だった。畳み掛けるように起こった異常事態に疲弊した思考が、震える少女の指をティーカップに伸ばさせてしまう――。

(……さ、さすがに怪しすぎるわ!)
 と、ここまで演技に徹していたアスカも思わず心中でツッコミを入れる。唐突に出現したルームサービス。いつ、誰が、なぜ準備したのか。怪しいところを挙げればきりがない。
 間違いなく影朧の仕込みなのだが、本当に引っ掛かると思っているのだろうか。……案外、影朧も影朧で殺害方法のネタが尽きているのかもしれない。
 兎も角、今のアスカは『意識朦朧のお嬢様』だ。通常であれば間違いなく回避する罠に思わず嵌ってしまっても、(多分)不自然ではないだろう。

(まあ毒入りなのは大体予想がついてるから……)
 右手の指でティーカップの取っ手を摘み、顔の前まで持ち上げる。ここまでカップを近づければ、紅茶の香りに交じったほんの僅かな異臭に気付く。……確定だ。
 素知らぬ顔でティーカップを傾けつつ、アスカは口内に仕込んだ流体金属で舌の上に薄膜を作る。要は、金属製のオブラートだ。流れ込んだ紅茶はぴったり一口分。素早く金属の膜で包み込み、喉を鳴らして嚥下する『フリ』をする。
 熱い紅茶を呷った少女が左の掌で口元を隠しながらほっと息を吐く。銀色のオブラートはさりげなく口から戻された。

「ああ、温かい……、っ!?」
 あたかも液体が体内に染み渡るのを待っていたかのように、数秒後、アスカがティーカップを取り落とす。絨毯に転がる白磁、染みを作って零れ広がる紅茶。そのすぐそばに少女の膝が落ちる。
 喉を抑えたアスカは、藻掻くように空いた手で絨毯の毛を掴む。這いずり、のたうつように床を転がる少女。ときにはベッドの脚や箪笥にぶつかって部屋の調度を乱す。
 苦悶の声を漏らして苦しむこと数十秒。少女は最期にドアへ向かって手を伸ばした。

「……、私は……、ここで死ぬわけには……」
 虚しく空を切った腕が床に落ちる。客室に新たに転がった死体。うつ伏せの令嬢の口元から零れ出た淀んだ血液が絨毯を黒く汚していた。

(後は極力息を止めて静かに横たわるだけ。……なのだけれど)
 勿論、口元の血液は血糊で断末魔も演技である。死に際の偽装はばっちりだったはずだ。
 問題は影朧がそれを見ていたのかどうか。紅茶の罠だけ準備して部屋を離れていたのであれば、少なくとも影朧が戻ってくるまでは動くことができない。……そして、慎重に立ち回る影朧の気配を掴むことは非常に難しい。
 アスカにとって忍耐の時間の始まりだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

沢木・助平
■SPD

さーて、それじゃ立派に死に役やるとしましょーかねー。

こういうところで死亡フラグを立てるのは被害者の仕事。
封印が成されたってのを自分から確かめ歩くとするっすよ。
密室になったかっつーのを確認するのはいかにも死亡フラグっしょ。
ミニミニ沢木ちゃんズも分離して探させるっすよ。

そして響き渡る沢木ちゃんズの悲鳴!
声の場所には壊れたミニミニ沢木ちゃんズ!
嗚呼!悲しい!自分の可愛いガジェットが!
く、くそー!他の人らも死んでるし、こんなとこいられねー!
意地でも逃げ出してやらぁー!

って闇の館内を疾走して何かが原因で悲鳴と共に死亡。
死体すらどこにあるかわからないみたいな、そんな感じでー。

アドリブ辛味ドンとこい



「マズイマズイ! こいつはマジでヤバイっすよ!」
 薄闇の洋館を沢木・助平(ガジェットラヴァー・f07190)が駆ける。額には大粒の汗、途切れ途切れの激しい吐息は冷え切った館の空気に白く染められている。
 洋館に閉じ込められた当初、彼女もまた大した問題ではないと高を括っていた。むしろ自慢のガジェットを活躍させるチャンスとばかりに、両肩のミニミニ沢木ちゃんズを迷わず館内の探索に送り出したくらいである。
 だが、待てど暮らせどガジェットたちは一向に戻ってこない。その上、玄関ホールに集まっていた仲間たちも次々と姿を消してしまう。余裕の色を失くした助平がガジェットの捜索に乗り出した時には、すべてが手遅れとなっていた。

「ここも! ここもダメ!」
 露天風呂に繋がる更衣室の扉も、あるいは倉庫の奥に見つけた通用口も、助平が駆けずり回って発見した外界に繋がる扉はすべてしっかりと施錠されていた。当然、内側からも解錠できない状態で、だ。
 慌てふためいた彼女が洋館の部屋という部屋を調べてみても、見つかるのは来訪客の死体ばかり。姿なき影に追い詰められていく感覚が助平を襲う。錯乱寸前。出口なし。背筋をゾッとさせた彼女は、もはや出鱈目に走り回ることしかできない。

「――サ―キ――チャ――!」
「っ、今の声は!」
 タンクトップをぐっしょりと汗で濡らした助平の耳に、聞き慣れた機械音声が届く。発生源は遠い、が、あの声を聞き間違えるハズもない。縺れる足にふらつきながら、助平は声の聞こえた方向へ走り出す。
 目指すは再びの玄関ホール。間違いない。調査に出ていたガジェットたちが戻ってきたのだ。どん詰まりの状況に一筋の光明を見出し、助平の表情に喜色が浮かぶ。
 流れる汗も顧みず、よろめきながらホールに飛び込んだ助平。だが、彼女の眼鏡に『希望』は映らなかった。

「は、え、ウソでしょ? ……自分の、可愛いガジェットが!」
「ガガ、サワ、チャ――ガガ」
 スクラップ、と言わざるを得ない。玄関で助平を迎えたのは、無惨に破壊されたミニミニ沢木ちゃんズだった。壊れたレコードのように掠れた音声を繰り返すガジェットを前にして、助平は呆然とした表情で立ち竦むのみ。
 玄関にはもう他に誰もいない。いつの間にか、助平が唯一の生存者となっていた。たったひとり、思考を停止し硬直する少女。彼女を再起動させたのは、ガジェットが奇跡的に発した意味のある音声だった。

「サワキチャ……、ニゲ……ガガ」
「……く、くそー! 他の人らも死んでるし、こんなとこいられねー!」
 己を奮い立たせるように叫び、助平は走り出す。もうなりふり構っていられない。とにかく外だ。この館から脱出しなくては。
 最短距離。視界に入った『外』に向って彼女は猛ダッシュする。大階段を上った真正面。廊下に張られた窓ガラスへ。施錠の有無はもう関係なかった。ガラスを突き破る勢いで彼女は窓に急接近する。

「意地でも逃げ出してやらぁー! ……ぁ?」
 そうして窓に取りつこうとした瞬間、助平の視界が闇に飲まれた。次いで『床が滑った』ような感覚と共に彼女の身体が前方に投げ出される。
 意図的に作り出された暗闇。誰かが洋館の照明を落としたのだ。生み出された闇の中で、一枚の板きれとビリヤードのボールたちが舞う。
 助平が踏んでしまったのはボールの上に設置された偽物の床。バランスを奪われた彼女はそのまま頭から窓ガラスに飛び込んでいく。

(……これはこれで、姿を隠すにはおあつらえ向きっすね)
 刹那の思考。コントロールを失くした空中で、助平は混乱の仮面を脱ぎ捨てた。敢えて慣性には逆らわず、さりげなく最低限の防御姿勢を取る。
 甲高い破砕音。砕け散ったガラスと共に、風変わりな技術者は洋館の外へ墜落していった。断末魔の悲鳴が暴風と混じり合って掻き消されていく。
 一拍遅れて腹の底に響くような衝突音が洋館に届く。それを耳にして、影朧が窓辺の廊下にその姿を現した。彼女は階下に向って耳を澄ませるが、もはや館に吹き込む風の音以外には何も聞こえてこなかった。

 終わった。不意に全身から力が抜けて影朧はその場にへたり込む。これでもう、洋館には誰も残っていない。
 影朧の殺人計画は、ついに完遂されたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『討つべき怪異・ヤオフー』

POW   :    もういいかい、もういいよ
戦場全体に、【周囲の環境に合わせ、木々や路地などの幻影】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD   :    つかまえてごらん!
肉体の一部もしくは全部を【狐】に変異させ、狐の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ   :    あのね、秘密よ
自身と自身の装備、【手を繋いでいる】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​


「余所の人に見つかってはいけないよ。きっと殺されてしまうから」
 孤島の旅館で女主人は『娘』に繰り返しそう言い聞かせてきた。
 戦う術を持たない、非力な影朧の少女。彼女は『母親』と旅館を訪れる『父親たち』に守られてひっそりと暮らしていた。
 ほんの少し窮屈で、けれど安全で穏やかな世界。この生活がずっと続けばいいと、少女はそう思っていた。
 ……だが、彼女の『母』と『父』は、もういない。社会から存在を隠されていた影朧は、たったひとり、ぽつんとこの島に取り残されてしまった。
 押し寄せる孤独に苛まれる日々。唯一の拠り所は、家族で過ごしていた頃の想い出と、慣れ親しんだこの洋館だけ。

「鬼ごっこにかくれんぼ。わたしもやってみたかったな」
 暗い屋敷にひとりぼっち。階段に座り込んだ影朧がぽつりと呟く。『父親たち』は外の世界のことをたくさん教えてくれた。けれど、それはあくまで知識であって、影朧がトモダチと一緒に遊ぶ機会は最後まで訪れなかった。
 『母』の言いつけを守り、館の来訪者から身を隠す日々。今日に至るまで屋敷の手入れにやってきた誰もが、決して彼女の姿を見ることはなかった。
 誰にも認識されず、このまま消えてしまうのではないか。圧し掛かるような不安が影朧の胸をかき乱す。……それでも、ヒトに見つかってしまうことは恐ろしい。きっとこれからも、彼女は誰からも姿を隠して生きていくのだろう。
 矛盾しているのかもしれない。しかし、両腕でその身を掻き抱いた影朧は、か細い声で切なる願いを吐き出した。

「ねぇ、誰か、わたしを見つけてよ……」
蛭間・マリア
※アドリブ歓迎です。
WIZで判定。


依頼そっちのけで、読書に夢中になってしまうだなんて…。
完全に出遅れたわ。

ともかく、捜索と説得ね。

姿の見えない相手を、手探りで探すのも骨ね…。
嵐王の骨刀で風を作り「風を塞ぐ透明なもの」を探してみましょう。
「蛭間の血液製剤」のドーピングで感覚強化も併用して。


さて、事件ごっことかくれんぼ、楽しかったかしら?
(半分だけだけど)私は楽しかったけれど。
誰かと遊ぶのは楽しいでしょう?今度は外に出てトモダチを探すのはどうかしら。
トモダチと遊ぶあなたの笑顔を見たら、お母さんもきっと安心するのではないかしら。

それと。「寂れればいい」、なんてひどいことを言って、ごめんなさいね。


六条寺・瑠璃緒
見ィつけた
…君を探してたんだ
騙してしまって、君の思い出の場所に土足で踏み込んでしまってごめんね
でも、僕達は此の場所に害為す者じゃない

UCで技能強化
「君は一人じゃない。僕だって、他の猟兵達だって、もう君のことを見つけたよ」
言いくるめるように、催眠術を伴う声で語りかける
「長いこと寂しかったよね。鬼ごっこにかくれんぼ、良かったら今からどうだろう」
乗ってくれるなら好きな役をあげる、じゃんけんで決めても良いね
…僕、正直鬼の役は相当苦手なんだけど
鬼ごっことか隠れんぼの初心者相手なら何とかなる、かな…?
ちゃんと、見つけてあげないとね

彼女は転生出来るかな
百年や二百年、待ってあげても良い
此の宿に出資でもしながら



「見ィつけた」

 その男を目にしたとき、影朧が受けたであろう衝撃は察するに余りある。
 曇天の雲の切れ間から差し込む陽光が、砕けた窓枠を通って玄関ホールにスポットライトを落とす。眩い光にその身を晒して現れたのは、誰あろう、六条寺・瑠璃緒(常夜に沈む・f22979)その人であった。
 紅の瞳をまん丸く見開いてぱくぱくと口を開け閉めする影朧。その動揺っぷりとは対照的に、瑠璃緒は落ち着き払った所作で頭を下げる。

「……君を探してたんだ。騙してしまって、君の思い出の場所に土足で踏み込んでしまってごめんね」
「私も『寂れればいい』なんてひどいことを言って、ごめんなさいね」
 心からの謝罪を紡ぐ瑠璃緒の隣に蛭間・マリア(蛭間の医学生・f23199)も歩み出る。書生風の服装に白衣を羽織った彼女の顔にも、影朧ははっきりと見覚えがあった。しかし、つい先刻までイジワルなニンゲンと認識していた少女は、まるで別人のような誠実な雰囲気でホールに立っている。
 どうして。ありえない。混乱の極致にある影朧の思考回路は、辛うじて思い当たった言葉を口に出すので精一杯だった。

「ゆ、ユーレイ……?」
「勿論違うよ。僕達は幽霊ではないし……、此の場所に害為す者でもない」
 驕慢の仮面を脱ぎ捨てた瑠璃緒の声音は脳髄が痺れるほどに甘く、優しかった。隣で聞いているマリアですらくらくらしてしまいそうな『神の声』。もはや催眠術の領域に踏み込んだスタアの言霊が影朧をそっと包み込む。

「長いこと寂しかったよね。鬼ごっこにかくれんぼ、良かったら今からどうだろう」
「……っ、な、なに言ってるのよ! そんなのに、だまされないんだから!」
 誘惑を振り払うように、影朧がぶんぶんと頭を振って身構える。その頬にさっと朱が差したのを、猟兵たちは見逃さなかった。
「恥ずかしがらないで。乗ってくれるなら好きな役をあげるよ」
「ちがうわよ! うぅ、もう、こっちに来ないで!」
 叫ぶようにそう言い放つと、影朧の輪郭が風景に溶けるかのようにぼやけ始めた。変容は一瞬。一秒と経たないうちに、影朧は完全に透明化して猟兵たちの視界から消え失せた。
 消失の瞬間を目撃したはずの二人にさえ追跡を許さない影朧の隠形術。残された猟兵たちはすぐさま周囲を見回すが、手掛かりひとつ見つけられない。数秒後、困ったような表情で二人の猟兵は顔を見合わせた。

「さて、どうしようか。僕、正直鬼の役は相当苦手なんだけど」
「……出遅れた私が言うのもなんだけど、ここはノープランなの?」
「初心者相手なら何とかなる、と思ったのだけどね」
 と、芝居掛かった仕草でお手上げポーズの瑠璃緒。こんな所作ですら様になっているのがスタアらしいというべきか。こめかみに指を当てつつ、マリアはしばし対策を考えてみる。
 初心者どころか『隠れる』ことに関しては影朧はベテランのようなものだ。だが一方で、本気で『探される』ことには彼女も慣れていないはず。
 ……ならば、広範囲を一気に探査すれば対応が間に合わないのでは?

「いいわ。ここは私に任せて」
 抜き放つは吹き荒ぶ神秘、嵐王の骨刀。嵐纏う刀身を床に突き立ててから、マリアは躊躇いもなく自身の腕に蛭間の血液製剤を打ち込んだ。
 特製の輸血液が全身を駆け巡り、目が覚めるように五感が鮮明になっていく。洋館に舞う埃のひとつひとつさえ認識できてしまいそうな、感覚の拡大効果。屋敷全体に意識を張り巡らせつつ、彼女は床に刺さった骨刀の柄を握り込む。

「旅人よ、見えぬ者を探し出せ」
「おおっと」
 力ある言葉を引き金に骨刀から生じた風がソナーとなって洋館を吹き抜けた。隣の瑠璃緒が発した小さな驚きさえも、マリアの強化された聴覚にはうるさいほどに響く。
 目を閉じて神経を集中させることほんの数瞬。可愛らしい反応は思いの外近くにあった。

「わぷっ」
「あら、そんなところにいたのね」
 顔面に風が吹き付けたのだろうか、小さな悲鳴をあげてしまった影朧は大胆にも階段脇の暗がりにしゃがみ込んでいた。猟兵たちがほんの数歩動くだけで、透明化を解除された影朧はその姿を捉えられてしまう。
 ともすれば、隠れているところを発見されたのは初めての経験だったのかもしれない。耳と尻尾をピンと立てた黒狐の少女は物陰でわたわたと慌てふためいていた。

「わかったろう? 君は一人じゃない。僕らは、もう君のことを見つけたんだよ」
 文字通り子供をあやすように暗がりに向って優しく語り掛ける瑠璃緒。隣のマリアが横目でしらっと見つめているのは御愛嬌。
 彼の声に誘われるかのように物陰から一歩踏み出した影朧は、先刻よりもさらに頬を赤く染めていた。恥ずかしいやら悔しいやら、彼女は頬を膨らませて猟兵たちを睨んでいる。が、睨むといっても迫力はまるで感じられない。正直、微笑ましいくらいである。
 その視線を受け止めて、今度はマリアが一歩前に出た。反射的に後ずさる影朧。再び開く両者の距離。マリアはほんの少し困ったように足を止めて、その場で肘に手を当てながら問いかけた。

「さて、事件ごっこは楽しかったかしら?」
「楽しいわけないじゃない! すっごく怖かったのよ!」
「なら、かくれんぼは?」
「……ぜ、ぜんぜん!」
 ぷい、とそっぽを向く影朧。けれども、少女は時折ちらちらと猟兵たちの様子を(本人のつもりとしては)こっそり窺っている。
 意識がきちんとこちらに向いているのは丸わかり。マリアも敢えて近づこうとはせず、落ち着いた声色で少女に語り掛け続けた。

「誰かと遊ぶのは楽しいでしょう? 今度は外に出てトモダチを探すのはどうかしら」
「……」
「トモダチと遊ぶあなたの笑顔を見たら、お母さんもきっと安心するのではないかしら」
 お母さん、と聞いて影朧の耳がピンと跳ねた。ばっと振り向いた少女の表情は、泣き出しそうにくしゃくしゃだった。
 代わる代わる二人の猟兵の瞳を見つめる影朧。しかし、彼女はしばらくすると、目元をごしごしと擦って猟兵たちに指を突き付けてみせた。

「わたしはおうちを守るの! じゃましないで!」
 ドロン、と影朧の姿が煙に隠れる。一瞬の虚を突いて煙から飛び出したのは小さな黒狐。動物に変身した影朧が猟兵たちの脇をすり抜けて屋敷を駆けていく。
 どうやらかくれんぼの第二戦が開幕したようだ。黒狐の姿を見送りながら、瑠璃緒はぽつりと呟いた。

「彼女は転生出来るかな」
「出来るわよ、きっと」
「あの子がこの館に戻ってくるなら、百年や二百年、待ってあげても良いね」
「……私はそんなに長生きできないわ」
 肩を竦めるマリアの隣で、瑠璃緒は百年先の情景を夢想する。
 風変わりなスタアは、かつての宿泊客だけでなく、こんなところにもいたらしい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

唯式・稀美
誰にも知られないということは、自分は存在しないのではないかという不安になる
あの小さな椅子の主が、想像の通り子どもなら、なおのこと一人は寂しいであろう
「なら見つけないとね」
襲われたとき、その姿を見ることができなかった。姿を隠すことができるのだろう
ならば音や匂いといった痕跡を、情報収集で逃さないように探す
影朧に直接人を傷つける経験が今まで無かったとしたら、今頃極度の緊張状態であろう。音を聞くことは難しくないはずだ
見つけたら、攻撃はしない
もし攻撃されれば、できる限りUCで躱す
敵意が無いことを示し、語ろう、知ろう、そして満足がいくまで遊ぼう
存在を知り、感じ、忘れないことが、きっと私にできることだから


フロッシュ・フェローチェス
※アドリブOK
つまりここを訪れていたスタァ達が屋敷を存続させてきた理由は、影朧である彼女の為だったわけか。
それが曲がって伝わってこうなった――。
何にせよ……普通に倒すわけにはいかないね。元より説得が目的なら、そのために確り付き合おうじゃないか。
演技はやめて――いつも通りに行くとしようか。

野生の勘を働かせよう。
いきなりのダッシュで消え物影をのぞき込んだり、残像のフェイントでまた別の所を開けたり。
どの道怖がらせそうだけど追い込む為だ。行動場所をある程度限定させる、だまし討ち的な行いのための布石にね。

そして感覚で彼女の位置を掴んだら――UC発動のために待機。
行動に合わせて回り込む「反撃」を行おうか。



「つまり、ここを訪れていたスタァ達が屋敷を存続させてきた理由は、影朧である彼女の為だったわけか」
 軍帽のツバをきゅっと整えてフロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)は廊下の先の薄闇を見据える。姿を隠した影朧を今度はこちらから探しに行かなければならない。
 元より説得が目的。そのためにも『かくれんぼ』に確り付き合おう、と彼女は気合を入れ直す。差し当たっての問題は、この広い洋館のどこから手を着けるべきか、だが……。

「……まずは直感を働かせようか」
「まぁまぁ、ちょっと待ちたまえ。本当に手掛かりは何もないのかな?」
 信ずるべきは野生の勘、何はともあれ駆け出そうとするフロッシュを廊下の壁に背を預けた唯式・稀美(美探偵・f23190)が呼び止める。
 持って回った言い回し。ある意味、実に探偵らしい。ブレーキを掛けられたフロッシュはほんのり不満げに腕を組んで口を尖らせる。

「ならどうするのかな、探偵サン?」
「うん、影朧が姿を隠すことができるのはわかった。けれども、音や匂いといった痕跡はどうだろうか」
 ピン、と指を一本立て考察を開始する美探偵。痕跡の調査、情報収集は探偵の十八番だ。
 加えて、今日は影朧にとっても予想外の出来事がいくつも起こっている。直接人を傷つけたことも、あるいは猟兵と遭遇したことも、彼女にははじめての経験だっただろう。
 そんな状況で精神が平衡を保てているはずもない。そして、平静を失えば失うほど痕跡というのは残りやすくなるものだ。

「緊張状態が続いているのなら時間が経つほど、つまり、新しい痕跡ほどはっきりと知覚できるはずだよ」
「理屈はわかるけど。結局、どこからスタートするの?」
「そこは君、玄関ホールからだとも。洋館の構造上、どこに行くにしてもホールを経由しなくてはならないからね」
 そうと決まればとフロッシュたちはそのまま玄関ホールに足を運ぶ。二人が戻ってきたホールには、砕けた二階の窓から肌を刺すような風が吹き込んでいた。
 これは僥倖、と稀美が屈みこんで床を調べ始めた。薄闇に目を凝らしてみれば、ホールの床には窓から吹き込んだ木の葉や僅かな砂利が散らばっているのがわかる。
 さしもの影朧も砂利や葉っぱをすべて避けて歩くことはできなかったらしい。いくら透明になろうとも残してしまった足跡が影朧の行き先を如実に示していた。

「あっちから来てこっちに進んで、それから……、ふむ、最後に向かったのは東側の廊下だね」
「オーケイ。それじゃ、鬼ごっこを始めよう」
 すくっと立ち上がり廊下を指差す稀美。洋館の東側はフロッシュも探索済みのエリアだ。食堂や遊戯室、厨房といった影朧が隠れていそうな部屋がいくつも廊下に連なっている。
 だが、ホール側から順繰りに部屋を調べていけば退路を断てることも事実。つま先を鳴らしてブーツの感触を確かめたフロッシュが両脚に力を籠める。

「演技はもうおしまい。――あとはいつも通りに行くとしようか」
 刹那、フロッシュの姿が霞んで消える。ダン、と床を蹴った音が遅れてホールに響いた。
 今度こそ野生の勘の使いどころだ。廊下に踏み込んだ彼女は緩急を付けた高速移動やフェイントを交えつつ、目についた物陰や怪しそうな空間をしらみつぶしにチェックしていく。残像すら発生する速度で何度も食堂や遊戯室に出たり入ったりと、その行動パターンは傍からはまったく予測できない。

(な、なにあれ! どうなってるの!?)
 廊下の奥の曲がり角からこっそり玄関の方を覗き込んでいた影朧もこれにはびっくり仰天、パチパチとまばたきを繰り返している。彼女としては、いざとなったら透明状態で猟兵たちをすり抜けて廊下から脱出しようと考えていたのだが……。
(あんなの、絶対にぶつかっちゃうわ!)
 と、ぺたりと狐耳を折って頭を抱えてしまう。フロッシュの軌道を読んで衝突を回避なんて芸当、非力な影朧にはできそうもなかった。
 そうこうしているうちにもフロッシュの探索網はどんどん影朧に近づいてきている。すぐ近くで鳴った靴音に跳び上がった影朧は、慌てて曲がり角の奥、厨房の中へと逃げていった。

 音を立てないようにそっと厨房の扉を閉めて部屋の隅へ。透明化した影朧はじっと息をひそめる。
 しばらくすると、ふと、廊下から響いていた騒々しい音がぴたりと止んだ。と同時に厨房の扉がギィと鳴って開き始めた。
 影朧は思わず両手で口を押えて呼吸を止める。彼女が部屋にいるのを知ってか知らずか、扉を開けた猟兵はとてもゆっくりと厨房に入ってきた。

(あれ? 緑のヒトじゃない……)
 影朧の予想に反して、現れたのはフロッシュではなく稀美だった。美探偵の纏う輝くオーラが薄暗かった厨房を明るく照らし出す。
 稀美は扉を閉めるとそのまま扉に背中を預けて寄りかかった。逃げ道を封じるような行動に影朧の鼓動がいっそう早鐘を打つ。しかし、入り口に陣取った猟兵は影朧を探すでもなく、どういうわけかマイペースにぽつぽつと独白を始めるのだった。

「誰にも知られないということは、自分は存在しないのではないかという不安に繋がる。取り残されたのが想像通りの子どもなら、なおのこと一人は寂しいだろう」
 ぼんやりと天井近くの空間を眺めながら誰ともなしに語り掛ける稀美。透明なまま狐耳をそばだてる影朧は、探偵の話が自分のことを指していると理解して気が気ではない。こんな風に語り始めるなんてやっぱりこちらに気付いているのではないか、と小さく縮こまっている。
 ……そして、残念なことにその予感は見事に的中していた。言葉を切って天井から下りてきた稀美の視線は、まっすぐに『誰もいないはずの空間』を貫いていた。

「なら見つけないとね」
「ひゃっ! 見つかった!」
 悪戯っぽく囁いた稀美の言葉に、影朧は弾かれたように透明化を解いて走り出す。正面の扉は稀美によって封鎖済み。だが、厨房には『あと二つ』逃げ道がある。
 ぴょんと跳ねて空中で一回転、ドロンと子狐に変身した影朧はすぐさま直角に舵を切る。目指すは厨房の壁、食堂と遊戯室に繋がる二つの小窓だった。

「えっと、こっち!」
 迷っている暇はない。影朧が咄嗟に選んだのは食堂に繋がる小窓。もしかしたら、トリックに使用した遊戯室の小窓は無意識に避けたのかもしれない。
 ダッシュの勢いに乗ったまま影朧は変身後の小さな体を抜け穴に滑り込ませる。彼女が選んだルートを見て、稀美は薄っすらと唇を持ち上げた。
 大当たり。無事食堂に飛び込んだ影朧は、しかし、地面に降りることはできなかった。

「ほら、私の勘も捨てたものじゃないだろう?」
「え、え? なんで!?」
 気が付けば子狐姿の影朧はいつの間にかフロッシュに両手で抱きかかえられていた。捕まった瞬間すら認識できない、フロッシュの驚くべき早業である。
 空中でキャッチされ、背中からがっしりと抱えられた子狐。小さく身悶えしてみるが、フロッシュによる拘束(というにはひどく優しい抱き方だが)はこゆるぎもしない。

「うぅ、なんでこんな簡単に見つかっちゃうのよ……」
 事ここに至り、影朧もとうとう観念したようだ。再びドロンと煙が起こる。
 連戦連敗。少女の姿に戻った影朧は、フロッシュに脇から抱え込まれた格好でぶすっと頬を膨らませるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アスカ・ユークレース
きっとあの子は寂しかったのね……
家族に置いてけぼりにされたこと、誰にも気づかれないまま思い出の場所がなくなってしまうことが……

まずは、演技とはいえ酷いことを言ってしまってごめんなさい。ずっとおうちを守って、偉かったわね。お詫びと言ってはなんだけど、貴方とお友達になって一緒に遊んでもいいかしら?私色んな遊びを知ってるからきっと楽しいわ。
それに私も、寂しいのは嫌だから……


それから…良かったら「願い」を聞かせてくれる?
出来る限りで叶えたいと思ってるの。


たくさん遊んだら……あとは静かに、おやすみなさい。


アドリブ歓迎


沢木・助平
おやまぁ。
幽霊の正体見たりなんとやらなーんていいますが、連続殺人犯はこんなに可愛い女の子だったんすな〜。

まー事情を聞けばスタアの皆さん方も愛情だけを残して今は亡く。
ほーんと生き物ってのはクソ仕様だわ。
敵意が無いなら、転生できるようにお手伝い…て思ったっすけど、仕組みよくワカンねぇわ。

となれば…遊ぼうぜ!
長年一人ぼっちは暇だったっしょ?
かくれんぼと鬼ごっこは終わったから、他の猟兵の皆さんと一緒にはないちもんめなんてどうすか?
猟兵さん方が乗り気じゃねーなら適当に遊び相手ガジェットを召喚しとこ。

あの子が欲しい。
いらないなんて言わないよん。
一人ぼっちは寂しいからね。分かるよ。

アドリブ絡みどんとこい



「おやまぁ。連続殺人犯はこんなに可愛い女の子だったんすな~」
「……ミスイよ、ミスイ」
 ツンと澄ましてそっぽを向く影朧。少女の稚気に沢木・助平(ガジェットラヴァー・f07190)は白い歯を見せる。幽霊の正体見たりなんとやら、殺人計画を企てた犯人の正体は幼気な狐耳の少女であった。
 猟兵たちが集まった食堂で影朧はいわゆる『お誕生日席』にちょこんと腰掛けている。見知らぬ他人、しかも自分が危害を加えた相手たちに見つめられて、少女はそわそわと落ち着かない様子だ。
 そういう意味では助平の気安い態度も影朧にとっては救いだったのかもしれない。少なくとも彼女が猟兵たちに怯え、完全に拒絶するといったことはなさそうだ。可愛らしく頬を膨らませる姿にホッとしつつ、椅子の横にしゃがみ込んだアスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)が影朧に目線を合わせて話しかける。

「演技とはいえ酷いことを言ってしまってごめんなさいね」
「う……、その、わたしも、わるかったわ」
 殺しかけた相手に正面から謝罪されては流石に影朧もバツが悪い。そもそも顔を合わせて話しかけられたことすら影朧にとっては久しぶりの出来事である。同じ目の高さで困ったように眉を下げるアスカに影朧は消え入るような声で謝罪を返した。
 影朧の素直な言葉を耳にしてアスカの表情がぱぁっと明るくなる。ストレートな感情を向けられて、影朧はちょっぴりたじろいだ。

「ずっとおうちを守って、偉かったわね」
「ふ、ふんっ、トーゼンじゃない!」
 どうやら影朧の感情は耳の動きに表れるらしい。ほんのりと頬を染めた少女の頭で黒い狐耳がピコピコと揺れている。
 強がって胸を張る黒狐少女。その姿は微笑ましく、また可愛らしい。だが、だからといってこのまま影朧を見守ってばかりいるわけにはいかない。猟兵たちは彼女の『未練』を断ち切るためにこの地にやってきたのだから。

「お詫びと言ってはなんだけど、貴方とお友達になって一緒に遊んでもいいかしら?」
「そうそう。長年一人ぼっちは暇だったっしょ? 自分らと遊ぼうぜ!」
「……いいの?」
 優しく問い掛けるアスカと気風のいい笑みを浮かべる助平。おずおずと聞き返す影朧に二人はモチロンと頷く。
「私たち、色んな遊びを知ってるからきっと楽しいわ」
「せっかくみんな集まってるんだし、はないちもんめなんてどうすか?」
「それ知ってるわ! お父さんから教えてもらった!」

 かくして影朧と猟兵、さらにはアスカの呼び出したモコモコ羊や助平のガジェットさえも加わった、一大はないちもんめが開催される運びとなった。少女たちは連れ立って屋敷の裏庭へと足を運ぶ。曇り空はいつの間にか晴れ渡り、温かい陽光が孤島に降り注いでいた。
 はじめはたどたどしく、やがては朗々と、嬉々とした遊び唄が抜けるような秋空に響く。天高く片足を蹴り上げる少女たちを幻朧桜が優しく見守っている。
 片方のチームリーダーはもちろん影朧だ。勝って嬉しく、負けて悔しい。少女は表情豊かにジャンケンの結果に一喜一憂している。モコモコの羊を勝ち取ったときなど、羊毛に顔をうずめて思い切り抱きしめもした。
 アスカも助平も、孤独の辛さは知っている。ひとりはさびしい。あのこがほしい。みんな一緒にあそびましょ。

「ちょ、なんで自分が最後まで残されてるんすか!」
「だって羊さんとオモチャさんのほうがかわいいし……」
「ゴメンネ、サワキチャン!」
 なお、最終的にはガジェットを持っていかれて孤軍奮闘する助平が影朧チームに引き抜かれる形で決着となった。勝ちも負けもなく、一列に並んだ人々の笑い声が鳴り渡る。
 しとやかに微笑むアスカも、ちょっぴり拗ねた表情の助平も、そして、コロコロと笑う影朧も今この瞬間を精一杯楽しむのだった。

「おねえちゃんたち、ほんとうにありがとう!」
 陽は傾き、既に夕刻。オレンジに染まった裏庭で、影朧がはにかんだ笑みを浮かべていた。もうどれだけ遊んだだろうか。皆、へとへとになりながらも心地よい充実感が身体を満たしていた。
 幻朧桜を背にして頬を染める黒狐。彼女はほんの一瞬だけ寂しそうに目を落とし、けれどもすぐに前を向いてはっきりと宣言した。

「わたし、もっとたくさん遊びたいし、おトモダチだって作りたいわ。……だから、行かなくちゃ」
「そっか。転生とか仕組みよくワカンねぇすけど、楽しめたんならなによりっす」
 ニッと笑い返す助平に、影朧も同じようなカルい笑顔を見せる。全身全霊で遊んだもの同士、二人はすっかり仲良くなっていた。
 もう、時間はあまり残されていない。近づく別れを前にして、アスカは最後に問い掛ける。

「……ねえ。良かったらあなたの『願い』を聞かせてくれる?」
「わたしの『願い』?」
 きょとんとして首を傾げる黒狐。誰かに見つけて欲しかった。トモダチと遊びたかった。今日一日でたくさんの願いを彼女は叶えてもらった。なら、今、胸の奥に残っている願いとはなんだろうか。
 そっと両手を胸に当てて目を閉じる影朧。去来するのは遠い昔日の、父母との想い出。記憶の中の母の言葉に耳を傾けて、彼女はゆっくりと目を開いた。

「ヤオフー。お母さんはわたしのことをそう呼んでたの。……ねえ、わたしがここにいたって、たまにでいいから思い出して」
「ええ。あなたのことは忘れないわ、ヤオフー」
 アスカの言葉が届いたとき、影朧は自分を現世に留める最後の楔が引き抜かれたことを感じ取った。
(そうだ。わたしはもう一回、名前を呼んでほしかったんだ)
 溢れる想いにヤオフーの視界が滲む。それでも、少女の顔にはこの日一番の笑顔が浮かんでいた。
 ざあっと一陣の風が吹く。影朧を縛るものは、もうなにもない。少女のカタチが淡い桜の花弁となって舞い散った。
 高く高く飛んでいく桜の花。小さくなって消えていく少女の残滓を最後まで見つめながら、アスカは彼女の安寧を祈る。風に乗った花びらはやがて桜の精の元に辿り着き、その癒しを受けて転生するのだ。

「……それまでは静かに、おやすみなさい」


 その後、洋館は何者かの出資により『可能な限り現状を維持すること』を条件に管理・運営されていくことになる。旅館は往時の如く、知る人ぞ知る秘湯の宿としてひっそりと孤島に佇み続けるだろう。
 ――いつかの未来、大切な『娘』が帰る日を待ちわびながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月26日


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#サクラミラージュ


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はオクターヴィア・オパーリンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト