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桜府のサクラ

#サクラミラージュ


●カルフォルニア州サクラメント
 亜米利加は西海岸、加州の都サクラメント。
 桜府という別名を持つこの街の片隅にその孤児院はあった。

「はい、はい……では二名を特待生扱いで大学へ、もう二名は軍が請け負うということで……」
 孤児院の院長室。
 ずれた本棚から見える隠し通路の奥で老境に差し掛かった男は無線機に向かって頭を下げる。やがて話が終わり、受話器を下せば深いため息が漏れた。
「これで良し……これで良いんだ」
 自分を納得させるように呟いたとき、胸を刺すような痛みが走り、男は倒れる。
(こんな時に!? 秘密を……秘密を隠さねば!)
 男が這うように歩き、レバーを下せば本棚が動き、部屋は密室に変わる。
(後は……――がやってくれる)
 痛みが思考を遮る中、思い出すのは運営していた孤児院の子供達。
(すまない、今まで騙してしまって。すまない……罰を受けな……い……で……)
 鼓動が止まり、男はこと切れた。

 次の日、孤児院は滞りなく運営されていた。
 新しく来た院長の手によって。

●グリモアベース
「その孤児院は色々と支援を受けていてね、おかげで子供の就学、就職率は高いところだったんだが……」
 グリモア猟兵、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)が資料片手に猟兵を見る。
「こないだ院長が死んでしまってね。それから出るらしいんだ――影朧が」
 影朧というキーワードで反応を確かめた後、グリモア猟兵は言葉を続ける。
「で、後任の院長を含めて職員から出資者まで皆、どうもその影朧を匿っているらしい。影朧は不安定なオブリビオンの為、ただちに危害を与えるとは限らないが……この先は言うまでもないね。というわけで君達にはこの影朧に接触してもらいたい」
 手渡されるのはある高級将校の邸宅で開かれるサロンの情報。
 そこには孤児院の出資者や院長をはじめとした関係者が参加者として名を連ねている。
「都合のいいことに、関係者は皆、サロンに出席の予定だ。ここでまず情報を掴んでみてくれないか?」
 グリモア猟兵がゲートを開けば、その先には大正七百年の桜が舞っていた。


みなさわ
 こんにちは、みなさわです。
 サクラミラージュのシナリオをサクラメントでやる。今回はサクラ尽くしのお話です。
 でも、桜はそんなに舞わないかもしれません。

●今回のお話
 シリアスです、孤児院が舞台にも関わらず動いているのは子供ではなく大人です。

●第一章
 サロンで情報収集となります。何故孤児院が色々と支援を受けていたのか? 高級将校が関係者を集めてサロンを開く理由は? それを調べることで孤児院の秘密を探ることになります。

●第二章
 孤児院の秘密通路を探し当て、影朧への道を進みます。
 その過程で影朧の秘密を知る可能性があるかもしれません。

●第三章
 ボス戦です。
 全てはお任せします。

 では大正七百年の加州桜府での活躍、お待ちしております。
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第1章 日常 『サロンデビュー』

POW   :    帝都を守護する軍人の方々と話してみる

SPD   :    文壇で活躍中の作家の方々と話してみる

WIZ   :    美麗なる銀幕のスタアの方々と話してみる

👑11
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●桜府の夜会

 カルフォルニアの州都、サクラメント郊外。
 高級将校達が住まう邸宅の一つで彼らは集まった。
「この度はお集まりくださり、誠にありがとうございます。どうぞご歓談を楽しみくださいませ」
 この館の主である男の肩には将官たる証である星が二つ輝き、彼がそれなりの位にあることを証明する。
 男の視線には自分と同じ『仲間』と『それ以外』がそれぞれ場にふさわしい装いで楽団が奏でるジャズミュージックに身を任せていた。
「……」
 男が言葉にしようとしたものを飲み込み、場に混ざろうと歩みだした。
 我々は隠し通さねばならない、自分達が行っている『罪』を。
 我々は続けなければいけない、サクラ・イチロウが行ってきたことを。
 ……サックスの音が重たく感じられた。

 君達はこの場で真実を突き止めなければならない、影朧にたどり着くため。
ツェツィーリエ・アーデルハイト
うぅん、邪推を致しましても子供を資源として使うのはどうも効率が悪い気がいたしますね。子供のころから洗脳教育、など不要ですしねぇ。どうにも腑に落ちません。だからこその調査ですけどね。一先ずはお話を伺うことに致しましょう

私、独逸で孤児院で働いておりましたが、亜米利加ではこれほどまでに出資者が付くモノなのでしょうか?私は村の皆さまからのご厚意でなんとか子供たちを食べさせていましたが、どうにもならないことも多くて、結局はこうして放浪の身に窶してしまいました。何か上手くやる秘訣があればご教授願いたいものですわ。
ねぇ、騎士様もそう思いますでしょう?



●互イニ持チツ持タレツノ関係

 ――効率が悪い。
 ツェツィーリエ・アーデルハイト(皆殺しの聖女・f21413)は孤児院の人間とその支援者のやり事に疑問を抱く。
 資源として使うには効率が悪すぎる、かと言って子供のころから洗脳教育をするには孤児院という施設である必要が無い。
 ならば、彼らは何を目的としているのだろう?
 一先ずは話を伺い、手掛かりを探ることにした。

「お話良いかしら?」
 モスリンの着物に白いエプロン姿の女給との会話を楽しんでいた騎兵将校へ話しかける一人の女。
 将校はチップを女給へ手渡すと、女――ツェツィーリエの方を向く。
「喜んで、小官でよろしければ」
 騎兵将校が受け取っていた二つのワイングラスの一つを目の前のダンピールに手渡せば、グラスを合わせる音が鳴り、葡萄酒が揺れた。

「――ほう、独逸で孤児院を!」
 歓談の中、ツェツィーリエが切り出した言葉に将校が声を上げる。このサロンの目的が何かを知っているがため、やはりその手の施設の事は気になるような表情を見せる。
「ええ、働いておりまして……」
 興味を示した将校へ焦らすように彼女が答えれば、そこから自らの手番とばかりに会話というチェス盤にピースを置く。
「あちらでは村の皆さまからのご厚意でなんとか子供たちを食べさせていましたが、どうにもならないことも多くて、結局はこうして放浪の身に窶してしまいました」
 彼女の身の上に起こった話に、騎兵将校が言葉を呑む。
「亜米利加ではこれほどまでに出資者が付くモノなのでしょうか? 何か上手くやる秘訣があればご教授願いたいものですわ――ねぇ、騎士様もそう思いますでしょう?」
 そして、亜米利加という地名と騎士――将校への共感を求めれば、騎士の末裔を担う騎兵将校は口を開く。
「実はこちらの孤児院も昔は同じような状況だったと聞いています」

 軽くワイングラスを傾ければ、男は緊張の螺子を緩めて放浪するダンピールの不安を取り除こうと話を続けた。
「その時の院長であったサクラ・イチロウという方が当時の現状を憂い、以前の職場であった行政と軍に掛け合って、支援と就職を依頼したのが始まりと聞いています。行政にとっては働かないものを作るよりも、資金を入れて未来の職員を確保したかったでしょうし、軍にとっても有能な士官になりうる人材なら確保したいでしょうし、兵士はやはり欲しいものです……広い亜米利加なら、なおさら」
「つまりは?」
「互いが持ちつ持たれつの関係を作り上げたという所ですね。これがこの孤児院が上手くやれている仕組みだと思います」
 将校の言葉にツェツィーリエはワイングラスを傾けると、いくらかの歓談の後、席を離れた。

 ――互いに持ちつ、持たれつ。果たしてそうだろうか?
 人の世がそのようであるのなら、彼女が放浪する必要などなかっただろう。
 答えるものは誰も居ない。

成功 🔵​🔵​🔴​

御形・菘
何を企んでおるかは割とどうでもよいが、子供を巻き込むのは見過ごせんよ
ばっちり解決してくれよう!

何も知らない将校の妻、というキャラ設定でしれっと場に混じるとしよう
格好は場に合うものを着て、メイクも普通のにしてな!
新任の院長と話をしてみるとしようか


孤児院には篤志家の援助が集まっていると伺いました
主人も感心しておりましたよ、心が温まる本当に良い話ですね
しかし、出資の始まった最初のきっかけはどのような経緯だったのですか?
将校の方々と孤児院なんて、とんと接点が分からないもので

…なんて感じで、孤児院の職員にも話を振ってみるとしよう
イイ話だから、この孤児院が支援を受けている特別な理由に興味津々という風でな


アリウム・ウォーグレイヴ


最近赴任してきた神父とホワイトペーパーで偽造し潜入です。
新院長に世間話を交えながら色々と聞いてみましょう。
私も新参者でしてお互い肩身が狭いですね?とつまらない共感で仲間意識を持ってくれると嬉しいですね。
前院長さんの事、残念でしたね。アーメン。
『礼儀作法』に則り恭しく……。
新院長さんはここに赴任される前はどちらに?孤児院の院長というより、別の仕事をされている方だと一瞬思ってしまって。

それにしてもここの将校さんは人格者ですね。孤児院の皆さんをこんな高級なサロンに招待し歓待するなんて。
孤児院と将校さんの間に何か特別なご縁でも?
身近に立派な軍人さんがいますと軍に入る孤児院の子が多いのではありません?



●サクラ・イチロウハ語ル

「前院長さんの事、残念でしたね。アーメン」
 新しく桜府に赴任したという神父が祈りを捧げれば、孤児院の院長も黙礼にて応じる。
「いえ、前の院長もここ最近は身体を悪くしていたと聞いていましたので……」
 新しく院長となった男は失礼の無いように表情を和らげる。
「とはいえ、突然の事でしたのでまだ慣れないことも多く、色々と教えていただければと思っております」
「なるほど、私も新参者でして……お互い肩身が狭いですね?」
 神父――アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)が囁くように口を開けば、男も笑う。
「話は変わりますが院長さんはここに赴任される前はどちらに?」
 空気が柔らかくなったところで何気なく、アリウムが探りを入れる。
「孤児院の院長というより、別の仕事をされている方だと一瞬思ってしまって」
「ああ、分かりますか」
 院長が困ったように笑った。
「私は軍に居ました、陸軍ですね。任務で怪我を負ってしまったのでそのまま除隊して、こちらの仕事をさせていただくことになりました」
 男の言葉が神父を装った男の耳に引っかかった。

 負傷しての除隊なら名誉除隊扱い、特に軍歴を重視する亜米利加ならそれなりの待遇を受けられるはず。
 それが何故、孤児院の院長という仕事を選ぶのだろう?

「それにしてもここの将校さんは人格者ですね。孤児院の皆さんをこんな高級なサロンに招待し歓待するなんて」
 別方面から探りを入れる必要を感じ、アリウムが問う。
「孤児院と将校さんの間に何か特別なご縁でも?」
「そうですね、孤児院の先々代の院長が軍の方と友人だったらしく、その縁で軍からの支援を受けております」
 院長が答えを返す。
「勿論、こちらとしても子供たちが飢えないようにしてくれる上に、就職先として軍があるというのはとても安心できることです」
 そこには偽りはないようだ。
「身近に立派な軍人さんがいますと軍に入る孤児院の子が多いのではありません?」
「……そうですね」
 さらに問うた時、男の声が硬くなるのを感じた。
「サクラ君! こちらへきて皆へ挨拶を!」
 サロンの主催たる高級将校が院長を呼ぶ。
「では、私はこれで」
 男は頭を下げてその場を去り、アリウムはその背中を見送った。

 ――士官学校を選択するのでなければ、体力的な問題を除き軍に入ることは難しくない。
 そうなれば、別の目的があるはず。先々代の院長は何故孤児院の院長となったのか?
 疑問は次々に湧く。


 孤児院の院長が挨拶回りを終え、一息ついたところでドレスを着た御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)がワイングラスを片手に歩み寄る。
「おひとつ如何?」
「ありがとうございます」
 院長が一礼し、グラスを受け取ると
「本日はお一人で? えっと……」
「御形と申します。夫と一緒に来たのですが、上官への挨拶に行っておりますわ」
 将校の妻を装う菘の姿になるほどと得心した男はワイングラスを傾ける。
「孤児院には篤志家の援助が集まっていると伺いました」
 酒が入り、落ち着いたところで菘が口を開く。
「主人も感心しておりましたよ、心が温まる本当に良い話ですね」
「ありがとうございます。おかげで子供たちが飢えることなく学校にも職にも就くことが出来ております」
 この孤児院が支援を受けている特別な理由に興味津々な表情を見せる将校の妻に対し、微笑みを返しながら、院長は答えを返す。
「しかし、出資の始まった最初のきっかけはどのような経緯だったのですか? 将校の方々と孤児院なんて、とんと接点が分からないもので」
「そうですね……先々代の院長の尽力で軍や行政からの援助を受けたのが始まりと聞いております」
 返ってくるのは同じような答え。
 先々代の院長が当時の状況を憂い、行政や軍に掛け合って、今の支援を取り付けたことと。それによる、軍や行政への就職率の高さと特待生入学による大学への進学等であった。

「そう言えば、お名前を伺っておりませんでした」
 菘がふと気づき問いかければ、院長は一礼をした後。
「サクラ・イチロウと申します。ところで、ご主人にも挨拶に伺わせていただきたいのですが? 何分名簿に載っていない方と会うのは初めてですので、ぜひお会いしたいと」
 名乗る。
 男の表情の裏に見えない刃を感じた将校の妻を演じていた女は内心冷や汗をかくしかなかった。
「……呼んでまいりますので、お時間を頂ければ」
「はい、是非とも」
 見えない刃が首に当てられ逃げ出したくなる気持ちを抑え、菘は雑踏の中へと消えた。

 ――行政や軍に働きかけて支援を受けた男の名はサクラ・イチロウ。
 そして、今の院長の名はサクラ・イチロウ。
 偶然だろうか?
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御園・桜花
「孤児院に関わる本質と目眩ましが入り混じってこの場所を複雑にしているのなら。どの部分が目眩ましなのか、確定することで突き止められることもあるかもしれません」

「美麗なる銀幕のスタアの方々と話してみる(WIZ)」に挑戦。
ユーベルコード「魂の歌劇(タマシイノカゲキ)」を使い、自分も演奏の合間にジャズを歌わせて貰って銀幕スタアの方々に話をしたいという興味を持ってもらう。
(本命は軍と作家の方々に思えるから。銀幕スタアの方々を、誰がどんな理由で呼んだのか聞きだせれば、主催者の意図を明確にできるかもしれません)
イヤークリップ弄りつつ、彼らの自慢話だけになったらさり気なく軌道修正しつつ一生懸命話に耳を傾ける。



●歌姫ハ欺瞞ヲ暴ク

 ウェーブヘアがなびき、三拍子のワルツに乗せて歌声が流れる。
 姪の為のワルツと呼ばれたその洋曲はやがて四拍子へとリズムを変え、歌劇は人々を魅了する。
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が歌い終えれば、聴衆からは拍手が鳴りやまない。

「いやあ、見事な歌声でした。呼んだ甲斐がありましたよ」
 主賓である高級将校が桜花を出迎え、感謝の言葉を述べる。
「お役に立てて、何よりです」
 パーラーメイドの本職の彼女が答えを返す中、バッグバンドが次のナンバーに取り掛かり、二人の為の時間を作る。
「最近、我々が出資している施設で事故がありましてね、職員の気分が沈んでしまわないと不安でしたが、貴女の曲を聴いていると大丈夫のような気がしてきました」
 ユーベルコードの歌声が人々を魅了し、将校は彼女が次に何を歌うかを期待し、気を引こうとその舌は饒舌に回る。
 一方で桜花はその言葉に隠された嘘を見抜いていく。
(職員の慰安は事実だけれども、多分それは欺瞞)
「彼らも頑張っていますので、我々としては出来る限りの支援をしたく」
(これは影朧の件についての口裏合わせと、釘刺し)
 イヤークリップをいじりつつ、高級将校の話を聞きながら、パーラーメイドは推測を立てていた。
(楽団はそれを隠すための隠れ蓑として、そして自分達がそれを個人的なサロンに呼べる力があるということを示す為……つまり示威行為)

 孤児院に関わる本質と目眩ましが入り混じってこの事件を複雑にしているのなら。どの部分が目眩ましなのか、確定することで突き止められることもあるかもしれない。

「事故と言えば。最近、影朧の話を聞きまして……ご存じないかしら?」
 目眩ましを暴けば後は本質だというばかりに桜花が話題を切り出せば、将校の眼の色が変わる。
「小官にとっては初耳の事ですね? まさか施設の事故がそれと?」
「いえ、私も聞いただけですので」
 影朧と事故を即座に結び付けた高級将校に対し、パーラーメイドが笑って答えれば、再びステージに上がる。

 ――間違いない、影朧は孤児院の中。
 後はどうやって探し出すか、真実へ一歩近づく足音が鳴った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六条寺・瑠璃緒
此の大人たちは…子供たちを食い物にしてゐたのかな
然うだとしたら、少し…気に食わないな

UCで各種技能強化
何処ぞの将校のご子息の振りしてサロンに溶け込もう
殊に存在感と誘惑を駆使して将校達の目を引いて
若し表舞台の僕を知るものが居たなら、活動に障るから隠しているけどここだけの話…なんて嘘の素性と予め調べた高名な親の名を告げ言いくるめる

僕も将来、恵まれない子の為に孤児院を作りたいと父上と話して居るんだ
父上も僕も面倒な忖度は好きじゃない
率直に…持ちつ持たれつの関係と云うのは如何様に、誰と組めば良い?

秘密は守るし、寄付をするのも吝かでは無い
そんな風にちらつかせて、反応を伺い、
誰も損をしない話だね?と微笑みを



●アカ、クロ、シロ?

「父上も僕も面倒な忖度は好きじゃない」
 六条寺・瑠璃緒(常夜に沈む・f22979)が率直に切り出した。

 いつの世にも姿がある国民的スタアが将校の息子を装えば、勿論気づく者が居る。
 少なくともオオシマと名乗った上院議員は瑠璃緒の写真を覚えており、そして議員たるものは人の顔を忘れない。
「活動に障るから隠しているけどここだけの話……僕は将校を父に持っていてね、今日は将来に備えての挨拶回りに来たんだ」
 ユーベルコードが紡ぎだす演技に魅了されたオオシマはその話を信じ、ゲストとして彼を歓迎すれば
「僕も将来、恵まれない子の為に孤児院を作りたいと父上と話して居るんだ」
 瑠璃緒が切り出し、話は冒頭へと戻る。

「率直に……持ちつ持たれつの関係と云うのは如何様に、誰と組めば良い?」
 テーブルにあった空のグラスを持ち、まるで自分は今、何も持っていないとばかりに差し出せば、議員はシャンメリイの栓を抜き、瑠璃緒のグラスに注ぐ。
「誰とも組む必要はありません。簡単なことです、私達へ支援していただければ、次は貴方の所へと助けの手が参ります」
「……つまりはそちらの仲間に入れと」
 スタアの問いにオオシマは給仕より赤と白のワイングラスをそれぞれとコーヒーを一つ受け取って、テーブルに置く。
「ここから先はそういうラインなのです、貴方も舞台に上がるのでしたらギャバジンのコートでも雨用と冬用の違いはご存じでしょう。新しい外套を選ぶ必要はあります。勿論……」
 議員が白ワインの入ったグラスを飲み干すと
「今のように酒の事で飲みこんでしまったということで無かったことにも出来ます」
 自らの立場を行動で示す。
「成程……」
 瑠璃緒が彼の振る舞いに対し呟きを漏らす。
 オオシマという男が示したのは『方法を知りたければ仲間に入る必要があるけれど、今回は酒の場と言う事で見逃してもいい』と言う事。
 では、何故飲み物を三種類用意したのだろうか……?
「私から言えるのはそれだけです、個人的には貴方には自由な舞台の上で羽ばたいてほしいものですな、それと……」
 議員は一礼すると
「選ぶとしたらワインの色は誤らないでくださいませ、とても大切なことなので」
 耳元でささやき、去って行った。
「ワインの色?」
 スタアの目の前に残っているのは赤ワインとコーヒー、そして飲み干された白ワインのグラスと手にあるシャンメリイ。
「赤、黒、白……そう言う事か」
 長い時を生きた瑠璃緒という存在はそれで全てを理解した。

 ア カ
 極左
ア オ
 極右
 ク ロ
 無政府
   シ ロ
 ――政府

 この孤児院は政府主導の何かが動いている。

成功 🔵​🔵​🔴​

宇迦野・兵十
咲いた桜に、散る桜。
はてさて、遠く加州に咲く花はいかがな色か。

うちの国じゃ身寄りの無い子は寺社ってのが定番なもんだが、
どうにもここは仰々しい。
これじゃあまるで品評会だ。どうみても子供の為って感じじゃないよ。

人の輪の中に【誘惑/コミュ力】で紛れ込もうか。
古今東西、太鼓持ちが気分良く話を聞いてやってちょいと酒精を回してやれば、老若男女どんなお堅い人だって口は軽くなるもんさ。
ましてや後ろ暗いもの抱えてれば、特にね。

さてさて、鬼が出るか仏が出るか。
まぁどんな話だろうと、子供を泣かせるような話じゃないと
いいんだけどねぇ…

[アドリブ歓迎、諸々お任せいたします]


矢来・夕立

直接のお話は得意な方に任せました。

《闇に紛れて》《忍び足》で邸内を偵察。
【紙技・渡硝子】は伝達用と警戒用に数羽だけ展開。
立ち話や噂話や陰口が利ければ最高ですね。
協力できそうな方、返答に困っている方に優先して情報を伝えます。

で、影朧を匿う実利を考えてみました。
“ご本人に何らかの技術があった”んじゃないでしょうか。
これは例えですが、教授法ですとか。
ほら。教えるのが異様に上手い人、たまにいるでしょ。
“その人でなければならない”なら、皆に匿うメリットがある。
蚊帳の外の子どもたちだって同じでしょうね。

もっと情緒的な話かもですけど。オレは疑ってかかります。
この手の話、善意で動いてた試しがありませんから。



●ユ号適正文書

(うちの国じゃ身寄りの無い子は寺社ってのが定番なもんだが、どうにもここは仰々しい)
 人の輪に紛れ込んだ宇迦野・兵十(きつねさん・f13898)が出席者の話を聞き、心が沈む。
 話しているのは孤児院の今後の話であり、大人の会話。子供を心配する要素は無く、むしろ有望そうな子を探る品評会の様でもある。
 そんな品評会の中で兵十は太鼓持ちのように振る舞い、グラスへ酒を注げば来賓達の口は自然と軽くなる。
 けれど……。
「これはこれは、諸君お疲れ様です。君達のおかげで小官達は全力を以って支援が出来る」
 一人邪魔するものが居た。
 ――この場を仕切る高級将校。
 彼が現れる度、場は緊張し、肝心なところを引き出せない。
 将校を切り崩す必要を感じた時、懐の千代紙が囁いた。
「影朧を匿う理由を見つけました」

 矢来・夕立(影・f14904)は最初から疑っていた。
 自らが浸かっていた沼の臭いがしたのか、それともこの手の話が善意で動いた試しがないと知っての事か。
 故に、彼は人前ではなく、闇に紛れた。
 靴音を消し、洋灯が照らす影に潜み、調度に偽装したキャメラを騙す。
 そうしてたどり着いた将校の私室は一見、綺麗に整理されているようであった。
「そりゃ、小説みたく日記帳なんて残さないですよね」
 呟き、手を開けば、舞うは千代の渡鴉。
 暖炉の周りで円を描けば、その真下には焼け残った書類が一枚。
「ゴミを焼いたらイケないって教わらなかったんですね、ウソですけど」
 壊れないように慎重に書類を集め、合わせれば断片的だが文章が浮かぶ。

 発    人事部
 宛 加州方面軍  
        少将 殿

 ユ号適正 書  要請

 過日のサ ラ チロウノ件ニヨリ消失シタ
 ユ ベル ヲド適 者文書(ユ号文書) 確保ヲ急ゲ
 陸海、双方ニ イテ軍閥ハ  シ、議会は華族
 報国ノ為、人材  ノ継続ガ 要也
 新シキ、サ    ロウト共ニ 朧に 触シ、ユ号文書ノ    ゲ

 夕立が眼鏡の位置を直すと机に腰かけ、窓を見る。
「見立ては外れ……か」
 呟けば、千代を折る。
 影朧を匿う実利を『影朧自身』にあると見ていた影は、人々が求めるのは朧が知っている『物』であることを知り、深く息を吐いた。
「もっと情緒的な話だと思いましたよ……ウソですけど」
 そして千代紙を通して兵十へと全てを伝えた。

「そう言えば?」
 妖狐がふと思いついたように口を開く。
「孤児院の院長が急に亡くなったと聞きましたが、引継ぎとか大変では?」
「引継ぎ?」
 院長が口を開くのを制し、将校が応える。
「例えば、名簿とか……ほら、こちらさんは大学や軍に行かれる子が多いと聞きましたし、名簿が無いと受け入れる側も大変では?」
「その件に関しては、サクラ君が前院長から伺っている。心配なさらずとも良い!」
 強い言葉で答えが返れば、サクラ・イチロウも頷く。
「さあ、そろそろお開きとしようではないか! 皆さま、忘れ物なく!」
 主賓たる高級将校が夜会の終わりを宣言すれば、人々が逃げるように場を後にする。まるでこの日を忘れたいが如く。

「聞いたか?」
 帰りゆく人々に紛れながら兵十が千代紙に囁く。
「聞きました」
 千代紙から声がした。
「奴ら、これから接触を図りますね」
 夕立は断言した。
 足首が何かに浸かるのを感じながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『屋敷の秘された部屋へ』

POW   :    壁や扉などの怪しい場所を片っ端から調べる

SPD   :    家具や調度品に変わった所が無いか注意深く調べる

WIZ   :    机や蔵書、生活の痕跡より推測して調べる

👑11
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●参拾年余後悔迷路

 夜も深い孤児院の一室。
『院長室』と掲示された部屋に人が既に寝静まった時刻を見計らって忍び寄る影。
 人影は本棚に並べられた一冊を手にかけようとして、気配に気づく。
「……来ると思っていました」
 何故か、安堵感の残した表情で院長であるサクラ・イチロウは呟いた。
 視線の先には猟兵の姿。
「貴方達の求めている影朧はこの奥に居ます、ですが……」
 本に偽装されたスイッチを開くとそこにはおびただしい数の日記帳が納められた本棚に挟まれた通路。
 気のせいか、奥の風景が歪んで見える。
「この通路を進めたのは私だけでした、他の人間は皆、戻されてしまう。おそらくですが……影朧を知る者だけが通れると思います」
 ――つまりは誰も通れないのではないか?
 誰かが問えば、サクラ・イチロウは口を開く。
「私は日記帳を読み、奥まで進みました。皆様でもそれは可能と思います、本を手に取り、日記を読み、前院長を知ることが出来れば」
 院長は紙巻の煙草を咥えると燐寸で先端を炙る。
「もしユ号適正文書が見つかれば焼いてくださると幸いです、私はその為に来たので……では、猟兵の方々、義父を……先代のサクラ・イチロウをよろしくお願いします」
 そこに立っていたのは親の死に目に会えなかった子であった。

 ――貴方達はこれから通路に入り、日記帳を目にするだろう。
 それによって、過去を思い出すかもしれない。
 それによって、義憤に駆られるかもしれない。
 どちらにしても、道は開かれる。
 ある男の罪と後悔を知る者こそ、影朧は待っているのだから。
アリウム・ウォーグレイヴ


『第六感』でふと目に触れた一冊を選んで『情報収集』しましょう。
罪が記された日記帳。
誰にも言えない罪をここで懺悔していたのかもしれません。
ここの秘密を暴かれ、裁きの時が来るのを密かに望んでいたのかもしれません。
罪の無い人を犠牲にする行為に怒りを感じます。しかしそれと同じくらい、この筆者の後悔が私の心に暗雲としたものを巡らせるのです。
30年の罪と後悔の道。
人は皆正しい道を歩みたいと思うでしょう。しかしそれが周りの環境や時世、立場によって歩めない場合はどうすればいいのだろう。
選択肢もなく自分や誰かが死ぬとしたら。私に責める権利はない。
誰にでも関係なく訪れるかもしれないから。


宇迦野・兵十
報国の為に子を育てた。
そこにどんな後悔があったのかは、僕には伺いしれないが
今ここに父親の死を悼む子がいる。
僕が働くにゃそれぐらいの理由でちょうどいいね。
お前さんの頼み、承ったよ。

さて、【フォックスファイア】を灯り代わりに
[折紙呪法]を使って【失せ物探し】といこうか。
探すのは大きく2つ。
『孤児院の始まりの頃』と『子たちが孤児院を出る頃』。
始まりの頃は国への義の為だった人が、
いつからか子への仁を感じてしまっていたのなら
そいつは……悲しい話だよ。

ユ号適正文書とやらを見つけたら焼いておこう。
頼まれごとだしね。

義か仁か。
どっちを選んでも後悔する。
でもね、死んでまでそいつを抱え込む必要なんてないさ。



●大正七百年某月

「お前さんの頼み、承ったよ」
 報国の為に子を育てた先代のサクラ・イチロウにどのような後悔があったのかは伺いしれないが、血の繋がりは無けれども今ここに父親の死を悼む子がいる。
 宇迦野・兵十にとってはそれだけで十分だった。
「猟兵さん……」
 サクラ・イチロウはそれ以上の言葉を継げず、ただ頭を下げた。
 猟兵達は通路へと進んでいった。


●大正六百六十七年二月

『機関ヨリ配置転換命令来タル。
 本日より私の名はサクラ・イチロウとなる。
 任務は桜府にてユーベルコヲド適正者、通称ユ号を他の藩閥、軍閥より先に確保し、国家に忠実なる學徒兵を増やす事及びその他有能な人材を育成する事。
 孤児院という隠れ蓑を使い、十分な食事と教育を支援することで人は恩義を感じる。
 そういう人間こそ使いやすいということだろう。
 前のサクラ・イチロウは消された、なら私は上手くやるしかない』

 狐火が照らす中、アリウム・ウォーグレイヴが己の感性に従い、手に取ったのは一番最初の日記帳。
 それは始まりの頁。   サクラ・イチロウ
 一人の男が名を奪われ、幻朧桜の花弁となった物語の始まり。
 日記帳と言う名の懺悔の言葉をアリウムはただ受けとめる。
 この日記の先にあるのは幼き頃からの情と環境により、自由を奪われた者の記録文書。
 その内容に怒りを感じつつも、文章から滲む何かが憂いの曇天を更に重くし、心すら曇らせる。
「三十年の罪と後悔の道」
 呟き、蒼氷色の瞳は次の頁へ視線を落とした。


●大正六百六十九年十一月

『昨年確保シタ、ユ号適正者ノ両親ガ来院。
 院の門に捨てたのを後悔しての事だろう。
 孤児院院長として対応。
 機関の命令通り、適正者は流行り病で死んだと伝える。
 二人は悲嘆に暮れていたが、なら捨てなければいい事。
 役所に相談したか?
 縁者は頼ったか?
 ここは避難所ではないのだ。
 そう言えばあの子は元気だろうか?
 帝都桜學府で元気にやっていればいいのだが……』

 そこにあったのは義と仁の話。
 所属する機関の構成員として任務を遂行する中、子を捨てた親への怒りと手放した子供への矛盾した想いが刻まれる。
「義か仁か」
 兵十が言葉にする。
 どちらを選んでも後悔する道のりであったろう。けれど、それを死んでまで抱え込む必要なんてない。
 そう思うからこそ、狐火に照らされた顔に笑みは無かった。

「彼は裁きの時が来るのを密かに望んでいたのかもしれません」
 アリウムの推測を狐の優男の耳が向く。
「人は皆正しい道を歩みたいと思います。しかしそれが周りの環境や時世、立場によって歩めない場合は――彼の前のサクラ・イチロウが死に彼がそうならないように振舞おうとした時からすでに」
「だからさ……」
 兵十が狐火で銀煙管を炙ると煙を吐く。
「こいつは悲しい話なんだ」
 室内のはずなのに紫煙はあっというまに霧散し、何もなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六条寺・瑠璃緒


先代は、云えない罪や悔恨を日記にしたためていたんだね
神父に告解することも出来ず辛かったろうに、然うまでして何を成そうと…?

此れだけあると全ては読めないな
他の猟兵と手分けして探そう
パラパラと頁を捲りながら、影朧に関連しそうなものと共に、先の議員からの気の利いた助言を元に、政府に関する言及も探す
然うしたものがあれば教えて欲しいと、周りにも一応伝えて

…そも、彼はどんな人で、何を志したのだろう
古い日常を記したものももしあれば目を通しておこう

ユ号文書を見つけたら全て目を通してから思案
赦すも赦さないも彼はもういない
罪を犯す前の、彼の当初の志に報いる術は何だろう
此れは焼いて仕舞うのが良いのか、其れとも…


矢来・夕立
…。推理小説みたいに日記が残ってましたね。超多いし。

【渡硝子】に《情報収集》を手伝わせる。
速読術は体得していませんから、目の数で勝負です。
それでも情報量は多いんで、適当な千代紙にメモしときます。

見たとこコレはユ号適正文書に関する事件のみ。
複数の事件が絡み合っている、とかではないですよね。
1つのとっかかりさえ当てれば、あとはスキルツリーみたいに分かってくるんじゃないでしょうか。
他の猟兵が得た情報もメモに纏めます。
こちらからも情報は提示していきますよ。

過去にやらかしたコトは消えません。
事実としていつまでも残る。
言葉はウソをつきますけど、行為は真実ですから。
…この日記がウソだとは、思いませんが。



●大正七百年某月

「……」
「矢来君?」
「……失礼しました。推理小説みたいに日記が残ってましたね。超多いし」
 六条寺・瑠璃緒に問いかけられ、青年は矢来・夕立という眼鏡をかけ直す。
「此れだけあると全ては読めないな、手分けして探そう」
 同年代のスタアの提案に影は同意する。
「そうですね、情報量は多いんでメモしておきます」
「分かった、もし然うしたものがあれば教えて欲しい」
「勿論です、後で共有しましょう」
 白い肌に黒い髪、赤茶と灰色の瞳が交錯すれば、互いに視線は日記帳へと移る。


●大正六百七十四年八月

『加州上院議員選挙ニテ、機関ノ命令ニ従イ日系議員ノ当選ヲ工作。
 行政府に就職した子供達の協力により、貧民層を味方につける事が上手く行った模様。
 亜米利加や欧州では成功者が福祉活動を行うのは当然というのは本当らしい。
 これにより、地元有力者が中心の上院へ影響力を及ぼすことが出来るのは大きい。
 ユ号適正者の確保も上手く行くだろうし、それ以上に支援が厚くなる。
 大学から講師を呼べないだろうか? 特待生入学でも構わないので子供達を一人でも大学へ行かせてあげたい』

 千代の渡鴉が伝える情報を無地の千代紙に書き留め、白がインクで埋められれば、それを捨て、新たな千代紙に書き込む。
 捨てられた紙は鴉の式がまとめ、整理する。
 日記の内容から同種の案件が無いかと夕立が探すと軍や行政で働く子供達の影響力が徐々にだが侵食しているのが目に付いた。
 密偵として軍の情報を流す者や役所の人間として各種事業の許認可を代行する者。
 亜米利加という異邦の大地にサクラ・イチロウの手が伸びていくようであった。
 けれど……
「手は広げず、孤児院の支援拡大に注力してますね」
 思考を整理するためにあえて推論を言葉に出す。
 調べた限りでは任務を忠実にこなしつつ、あくまで孤児院の事を考える院長としての面が強く出ていた。

 過去にやらかしたコトは消えないと影として生きるモノは知っている。
 事実としていつまでも残ることを。
 自らが時に騙るように言葉はウソをつくが、行為は真実であることに変わらない。
 そして、この日記がウソでないことも……。

 影朧へ至る真実へたどり着くため、夕立は再び日記帳の頁を動かした。


●大正六百七十八年十二月

『機関ヨリ伝達。逢魔ガ辻討伐任務ニヨリ學徒兵戦死者多数。
 当院出身者を主に機関構成員が被害を被った模様。
 ……明らかな警告。
 やりすぎるなら死地へ追いやるということだろう。
 誰の仕業か分からないが、子供達を死なせない方法を考えなければ。
 議員へ働きかけ、士官学校を卒業した子供達を後方や司令部附へ回してもらうようにしよう。
 墓前には行かない、身元がばれる訳にはいかないし、それ以上に私に資格は無い』

 瑠璃緒がぱら、ぱらっと頁をめくれば、違う日記帳を手に取り、サクラ・イチロウの為人を読み取る。
「先代は、云えない罪や悔恨を日記にしたためていたんだね」
 舞台の台本を読み終えたスタアの如く、端的に日記の内容を表現した。
「神父に告解することも出来ず辛かったろうに、然うまでして何を成そうと……?」
 役者が台詞を読み上げるような、その仕草はまさに瑠璃緒の生き方を示しているようであった。
 故に院長と工作員という二つの役を演じた男の心理は理解できた。
「この人は本当に子供達の事を考えているね」

「ねえ」
 互いのメモを交換しながら瑠璃緒が問いかける。
「罪を犯す前の、彼の当初の志に報いる術は何だろう?」
「おそらくは無いと思います」
 夕立は表現すべき言葉を選び答えた。
「彼の志はもっと現実的だったと思います。だからこそ任務を引き受けた」
 影に生きる青年は光を浴びる青年へ背を向ける。
「けど、情が移った。なので偽善かもしれないですが子供達を守るために任務を遂行した」
「ならば、彼の何に報いればいい?」
 夕立の背中に問いかければ
「影朧に会う」
 ただ一言、答えが返ってきた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ツェツィーリエ・アーデルハイト
ここには罪がある。きっとそうなのですね
……なんであれ、興味はありません。ありませんとも
私の目的は哀れな人々を神の御許に送ること。それきりです。

此処に居ると余計なことを思い出します。
お腹が空いたと泣く声が聞こえる
ああ、ああ、お腹いっぱいとはいかなくても、飢えて目を覚ます夜など与えたくはなかった。綺麗でなくても、寒さを凌げる服を着せてあげたかった。
どんな汚い手を使ってでも!

……私もここも終わった話ですね。ちゃんと幕引きは致しましょう


御形・菘
生配信はとっくに終了、妾は秘密を探り出す記者ではないのでな
妾のイケてる変装動画回となるか、その先も動画になるかは、この先に待つモノ次第よ

これだけ量の日記を残す几帳面な者が、整理せずに適当に収めるということもあるまい
並びは大体、時系列順と考えて探し物の目星をつけよう
表紙や中の頁の傷み具合も検討材料であろうな
天地に撮らせて、画像映像として記録に残しておくぞ

妾は記録を残すという行為を、とても意義あるものと思っておる
後に誰が見るかとか、そんな部分は関係ないよ
己の罪を、闇の部分を形に残せるというだけで…この者は、私などよりずっと強い

ユ号適正文書を、妾は廃棄はせん
皆が廃棄するというのなら止めはせんがな



●大正七百年某月

「ここには罪がある。きっとそうなのですね」
 ツェツィーリエ・アーデルハイトが抑揚を抑えた口調で何かに問うた。
「そうなのか?」
 洒落た首輪を模したアクションキャメラの電源を落とし、御形・菘が聞き返す。
「……なんであれ、興味はありません。ありませんとも」
 返ってきた言葉に拍子抜けしたように菘は視線を向け、それが独白と気付くと
「成程、罪であるか……」
 自らも呟く。
「私の目的は哀れな人々を神の御許に送ること。それきりです」
「ならば、妾も向かおう。それに値するモノか見極めるために」
 二人の足が日記と言う名の懺悔の間へと向き、靴底が床を鳴らした。


●大正六百八十年二月

『機関ヨリ転属要請アリ。年齢ヲ理由ニ要請ヲ固辞。
 次のサクラ・イチロウが上手くやれるとは思えない。
 この任務は難しい。
 機関に必要な人材を育てつつ、他の世界にも歩いて行ける道を作るのだから。
 やっとだ、やっと大学に行った子が民間企業に就職した。
 今は支援者の影響を受けているが、やがて自ら羽ばたけるだろう。
 こういう仕事は望んでやるものだ、食事や温情、命令で縛るものではない』

 ――強い男だと菘は日記帳の向こうにいるサクラ・イチロウの姿を想像する。
 おそらくは自分などよりずっと強い。
 己の罪を、闇の部分を形に残せるのだから。
 自律行動するドローンである天地通眼が日記帳の内容を画像記録として残していくかな、邪神設定の配信者は記録に意義を見出し、比較的新しい日記帳をそっと本棚へと戻した。
 組織の人間として生きていた男が孤児と触れ合う内に情が生まれ、任務を果たしながらも子供達が自由に生きる道を作り上げた話を。
 そこに書かれた歪みを知りながら――。


●大正六百九十九年十二月

『夢ヲ見ル、自ラガ死ヌ夢。
 私が死ぬのは構わない、当然のことをしているのだから。
 けれど、子供達が気がかりだ。
 ここに居る孤児達、成長して巣立った子達、任務によって犠牲になった子達。
 私は彼らに報いていない。
 私は彼らに償っていない。
 私は彼らと離れたくない。
 例え、騙していたとしても。偽善であっても。
 ただ……最後は子供達に全てを打ち明け、彼らに委ねたい。
 叶わぬと分かっていても、それだけが願いだ』

 ツェツィーリエの鼓膜を聞こえないはずの泣き声が震わせる。
 お腹が空いたと泣く声。
 そして心に刺さる後悔と言う名の杭。
 ああ、ああ、お腹いっぱいとはいかなくても、飢えて目を覚ます夜など与えたくはなかった。
 綺麗でなくても、寒さを凌げる服を着せてあげたかった。
 この人のように!
 どんな汚い手を使ってでも!

 この哭いている声は誰だろう?
 聞いたことはあるけれど、知らない声だ。
 この口の中に残る鉄の味は何の食べ物だろう?
 よく知っているはずなのに、食べたことはない。
 ここに居るのは誰だろう?
 みんな冷たくなったのに!

 爪先に何かが落ちた感触にたった一人の異教徒は視界を向ける。
 枯れ朽ちた花飾り。
 それは昔日の名残花。
 そうかと呟き、ツェツィーリエが拾い上げる。
 もう哭いている声は聞こえない、それはもう過去の話だから。
「……私もここも終わった話ですね」
 日記帳を本棚へ戻し、花飾りを大事にしまえば、これからへ向かって異教徒は歩を向けた。


「見たか?」
 邪神が問えば
「はい」
 異教徒が答え、会話を継ぐ。
「ユ号適正文書はございませんでした」
「うむ、ならば彼奴が持っているのが大きいか」
 菘の言葉にツェツィーリエが頷く。
「どちらにしても、ちゃんと幕引きは致しましょう」
「そうだな。それが――彼奴には必要ぞ」
 互いの視線が交錯すれば、二人は奥へと消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影竜』

POW   :    伏竜黒槍撃
【影竜の視線】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の足元の影から伸びる黒い槍】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    影竜分身
【もう1体の新たな影竜】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    影界侵食
自身からレベルm半径内の無機物を【生命を侵食する影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●桜府のサクラ

 それは竜の様であった。
 それは形を成せない影の様であった。
 それは只の影朧であった。

 扉の向こう、小さな部屋だった区画は竜が暴れたことで広くなっている。
 周囲にはあらゆるものが散乱し、机だった物は鋭利な何かで裂かれている。
「キミ……タ……チハ?」
 途切れ途切れに声が聞こえる。
「ワタシ……ハ……ロウ。サク……ラ・イ……チロウ」
 サクラ・イチロウと影朧は名乗る。
「モ……シ、アナタタ……チ……ガ、ユーベルコヲド……ヲ、ツカエル……ナラ」
 途切れつつも伝わる言葉は
「コロ……シテクレ」
 ――懇願。
「タノ……ム。ワタシ……ノツミ……ツグナエルワケ……ナイ、ケレド」
 死を望む影朧はやがて竜が如き咆哮を上げる。
「タノム……タノム……ワタシニ……シヲ、コドモタチガミタラ……オビエル……ソノ……マエニ!」
 最後に言葉を絞り出せば、それは只の竜に成り下がる。

 そこに居たのは日記帳という過去と子供達への想いからどうにか影を寄せ集め、竜のような獣の姿を得た、罰を待つ男だった。

 ――後は猟兵に託された。
御形・菘
子供たちが怯える、か
…ああ、同感であるなあ
確かに、それはどんな強敵の一撃よりも痛すぎるぞ
まあ安心せい、エグいビジュアルと気に病んでおるかもしれんが、妾ほどではない!

自ら滅びを望む者に慈悲を与えるほど、妾は優しくないよ
罰を望むというのなら、妾から与えるモノはただ一つ!
ここを出て、詫びたいこと、伝えたいことを直接子供たちに言ってもらおう!
頭を下げるなら、妾も一緒に下げてやってもよい
…こんな終わり方は誰も救われん、悲しいではないか

妾の方から攻撃をする気は一切無い!
急所は守るが、まあ身体をブチ抜かれる分には耐えて辛抱よ
はっはっは、それでお主が心変わりする可能性に賭けて、甘んじて受けようとも!



●罰

「子供たちが怯える、か」
 竜の咆哮が鼓膜を、心を、震わせる。
「……ああ、同感であるなあ」
 けれど御形・菘は共感を示した。
「確かに、それはどんな強敵の一撃よりも痛すぎるぞ」
 朗らかに笑うと、人々が恐れるであろう自らの姿を指さす。
「まあ安心せい、エグいビジュアルと気に病んでおるかもしれんが、妾ほどではない!」
「……」
 竜は沈黙し頭を垂れ、菘へ顔を近づける。
 敵意は無く、何かを求める獣の様。
 目を細め、影の竜を見つめれば邪神を騙る者が告げる。
「自ら滅びを望む者に慈悲を与えるほど、妾は優しくないよ」
 そこに立つのは影朧を狩る猟兵ではなく
「罰を望むというのなら、妾から与えるモノはただ一つ! ここを出て、詫びたいこと、伝えたいことを直接子供たちに言ってもらおう!」
 望みを叶えんとする邪悪な女神であった。
「……こんな終わり方は誰も救われん、悲しいではないか」
 唇が動く、だが誰にもそれは伝わらない。
 目の前の竜を除いて。
「…………ワカッタ」
 影竜が頭を下げれば菘の横を通り過ぎて、通路へ進む。
 誰もそれを止めなかった。

「……先生」
 今のサクラ・イチロウが視線を向ければ
「……オオヤマ君」
 前のサクラ・イチロウが言葉を震わす。
「今は私がサクラ・イチロウです」
 オオヤマと呼ばれた男が答えると竜は首を振る。
「君がこの道へ来ないことを望み、士官学校へ送ったのに」
 明瞭な言葉遣いへと変わっていく影朧が頭を落とす。
「ですが、先生。いつかは誰かがやらないといけない仕事だったのですよ……士官への道を開いてくださって感謝しております。おかげで次は私が子供を守る番です」
「……済まない。子供たちは?」
 竜が問うと男は肩を竦めた。
「寝てますよ、消灯時間を守らないと貴方がやってきて拳骨とミルクを飲まされますからね」
 影と人が笑った。
「では、オオヤ……サクラ君。これで」
 影竜が頭を下げると、今のサクラ・イチロウが答礼する。
「はい先生、今までありがとうございました。後はお任せください」
 竜は背を向けると、再び猟兵の待つ部屋へ消えた。
 そして男は目頭を抑えると身体を預けるように椅子へ腰を落とした。

「もっと話しても良いのだぞ?」
 菘の問いに竜は首を振る。
「充分だ」
「他の子供達には会わないのか?」
「ワタシが影朧となっていることを知ったら、子供達は今のサクラ君に頼らない。私も子供も親離れが必要なのだよ……これからの為に」
「そうか……」
 邪神はただ呟き
「では、行くがよい」
 これから為すべきことを促した。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 竜が進む道を一人の女が阻んだ。
ツェツィーリエ・アーデルハイト
アナタは何も託さなかった、繋がなかった、続けなかった!ワタシはそれが気に食わない、たまらなく!隠し閉ざし、そうして挙句は子供たちが見たら怯える?
永遠の眠りについたとしても、寝言は大概にしなさい!
あぁ、あぁ、それでもきっと私よりは、マシだった!それが一層腹立たしいのです!
何もかも隠し通し素知らぬ顔で生きて、死ねばよかった!中途半端に、こんな、こんなッ、誠実さを欠いたやりくちでそのくせ愛を語るなどとッ

……取り乱しました。信徒たるもの、このようなことではいけませんね。
ご安心を、彼らはこうしたことは得意ですから。さ、闇に葬りなさい。
あの時のように



●罪

「アナタは何も託さなかった、繋がなかった、続けなかった!」
 ツェツィーリエ・アーデルハイトの心の天秤は傾き、理性という堤防は決壊していた。
「ワタシはそれが気に食わない、たまらなく!隠し閉ざし、そうして挙句は子供たちが見たら怯える?」
 誰に言っているだろう?
 ツェツィーリエ・アーデルハイトの眼には影の竜が移っているが……
「永遠の眠りについたとしても、寝言は大概にしなさい!」
 その向こうには
「あぁ、あぁ、それでもきっと私よりは、マシだった! それが一層腹立たしいのです!」
 ――自分が居た。
「何もかも隠し通し素知らぬ顔で生きて、死ねばよかった! 中途半端に、こんな、こんなッ、誠実さを欠いたやりくちでそのくせ愛を語るなどとッ!!」
 成しえなかったを為し、その上で苦しみぬいた竜。
 そして、失ったことで今も苦しむ女。
 肩が上下する程に深く息を吐くツェツィーリエ。影竜が近づけば、女はその手で影を跳ねのける。
「……取り乱しました。信徒たるもの、このようなことではいけませんね」
 顔を上げて歪んだ笑みを湛えれば、傍らに立つのは神殿騎士と聖職者。
「ご安心を、彼らはこうしたことは得意ですから。さ、闇に葬りなさい」
 ツェツィーリエが一歩下がれば、従者は一歩前に出る。
「あの時のように」
 影竜は頷き、前に出た。

 竜は刑を受け、覆う影は一回り小さくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 そして部屋では男が待っていた、望みを叶えるために。
アリウム・ウォーグレイヴ


私は思うのです。彼にとってこの苦悩の30年間がもう既に罰であったのではないかと。
この理不尽なシステムから子供達を守ろうとした彼を罰する権利は、私にはありません。
猟兵の私にできることは、義務として彼の望みを叶えることだけ。

このUCを貴方に使いたくありませんでしたね。
ホワイトブレス。死の吐息で安らかな消滅を迎えることを願います。
竜がもう一体増えた場合は『範囲攻撃』で纏めて氷の中へと沈めましょう。
あまり苦痛を与えたくありませんが、もし影朧の攻撃が苛烈のようでしたら『見切り』、『全力魔法』で一気に片を付けに行きます。
私一人では荷が重い相手です。可能な限り他の猟兵と協力します。



●苦悩

 アリウム・ウォーグレイヴがその身に魔力を纏わせれば、周囲の気温は下がり、見守る猟兵達は背筋に寒さを覚える。

 ――この苦悩の30年間がもう既に罰であったのではないか?
 アリウムが一人思い、紡いだ魔力を指先に集める。
 大人が作ったこの理不尽なシステム。
 そこから子供達を守ろうとした彼を罰する権利を自分は持っていない。
 だからこそ猟兵としてできることは義務として彼の望みを叶えることだけ……。
 指先から放たれた魔力は極低温の波濤となりて、安らかな消滅をもたらそうと影竜を攫っていく。

「このユーベルコヲドを貴方に使いたくありませんでした」
 波濤は死の吐息となり、影朧が纏う衣を吹き飛ばしていく。
 一人では荷が重い相手とも思ったが、ならば今は自分にできることを。

  White breath
 死 の 吐 息が彼の望みを叶えんことを。

  White bless
 汚れ無き 祝福が召された彼に与えられることを。

 祈りを全ての魔力に込めて、蒼氷色の瞳がレンズのように目を逸らさずに竜へと注がれ、波濤は全てを呑み込み白で覆い尽くす。
 罪も、罰も、影も、洗い流すように――。

「……ありがとう」
 白き幕より歩み出た影竜が頭を下げ、アリウムの横を通り過ぎる。
 竜を形どるその影は更に小さくなり、瞳を流れる赤いものは消えた。
「ありがとう」
 竜の言葉に青年は蒼氷色の瞳を閉じ、一言答えた。
 だからこそ、お互いが振り向く事は無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 竜の視線の先では狐耳の男が書類を片手に立っていた。
宇迦野・兵十
子供に頼まれてさ。
父親が死んで、その悩みを知って、泣く事もできずに我慢している子供に父親を助けて欲しいってね。

―竜の動きを【見切り】、語りかつつ接近
 【早業/武器受け】で回避しつつ、被弾時には【激痛耐性】で耐え、表情を崩さない

子供はさ、意外と見てるもんだよ。
親の隠し事や悩みだってね。
お前さんが一番悪かったのはね、子供を頼ってやらなかったって事さ。

―間合いまで【暗殺/早業】で踏み込み、笑狐を【早業】で引き抜き
【三狐新陰流・常世還】

桜の花は散れども、そこにまた花は芽吹く。
生まれ変わったらさ、お前さんの自慢の子にあってやりなよ。

ユ号適正文書は、そうだね燃やしておくよ。
これは受け継がなくていいもんだ。



●還火

「子供に頼まれてさ」
 硬い筆跡で『ユ号適正文書』と書き込まれた書類を狐火が燃やす。
「これは受け継がなくていいもんだ……そうだね?」
 宇迦野・兵十が問えば、影竜は頷く。その姿を見て、兵十は語りを続ける。
「父親が死んで、その悩みを知って、泣く事もできずに我慢している子供に父親を助けて欲しいってね」
「……子供達には悪いことをしたと思っている」
 竜の返答を待たずに狐は懐へ踏み込んだ。

「子供はさ、意外と見てるもんだよ」
 一夜の飲み友達に話しかけるような口調で一足一刀の間合いへ切り込めば、踏み込んだ足に荷重が乗り。
「親の隠し事や悩みだってね」
 運足と捻転を溜め、『鈍刀・笑狐』と呼ぶなまくらの柄を握る。
「お前さんが一番悪かったのはね、子供を頼ってやらなかったって事さ」
 そして全てを解放し、威を乗せれば、刀を縛る黒紐は千切れ、刃が解き放たれる。

 ――三狐新陰流・常世還。

 斬るべき外道の前にて封を破り、常世に笑う赫狐が今だけは罪人を斬る。
「桜の花は散れども、そこにまた花は芽吹く」
 サクラミラージュという世界が赦す、影朧の輪廻。
「生まれ変わったらさ、お前さんの自慢の子にあってやりなよ」
 影を斬り裂かれ人と同じ背となった竜へ、兵十はそれを望んだ。
 けれど、影は首を振る。
「いや……それは出来ない」
 影竜が笑ったように表情を見せ
「願うならば――私は人として終わりたい」
 只人としての生の終わりを望んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 その願いをかなえる刃が飛んだ。
矢来・夕立

自殺志願者を輪廻の輪的なものに還してやるのって拷問じゃないですか?

これは探偵屋さんを通した正式な依頼です。
当人からも殺せと言われました。
なら、オレが殺さない理由は何処にもない。

影と影との化かし合いといきましょうか。
そろそろ隠れられる場所も尽きましたね。
であれば、他の猟兵の影を使うまでです。
便乗させてもらいます。『幸守』と『禍喰』で《だまし討ち》。

…ああ。“まだ”一手目ですよ。
コレで気は緩んでくれましたか?
あ、いずれにせよ最後には殺すのでどっちでもイイです。

本命はこちら。【神業・否無】。
増えた竜を斬るか本体を斬るかは現場判断でいきましょう。
あくまで殺すスタンスで行きます。オレはね。



●影

「自殺志願者を輪廻の輪的なものに還してやるのって拷問じゃないですか?」
 死を望む者へ願いを叶えるために放った千代紙は、蝙蝠となって影を喰らい、蛇となって朽ちるまで締め上げる。
「これは正式な依頼です」
 矢来・夕立は世の中の薄暗いものを知る猟兵の一人だ。
「当人からも殺せと言われました」
 効率だけを追い求め、道徳を捨て置き、血と泥と暴力に親しむ。
 ただ一つ、他の猟兵と違うところがあるとすれば――
「なら、オレが殺さない理由は何処にもない」
 彼は大人でないということ、それだけであろう。

「――苦労をかける」
 影竜の言葉に柳眉が動く。
「苦労はしてませんよ……ああ。“まだ”一手目です」
 式紙が喰らうにその身を任せる竜が頭を上げると、既に夕立の姿は無い。
 いや、最初から彼の姿を捉えることはできなかったというのが正解であろう。
「コレで気は緩んでくれましたか?」
 問いかけが反響し、方々から聞こえる中
「あ、いずれにせよ最後には殺すのでどっちでもイイです」
 影竜は瞳を閉じ、その時を待った。
「……――!」
 竜の背に足がかかれば、背後より赤い目の影が白刃を握る。
 斬魔の剣が一、『雷花』の銘を授かった脇差が音も無く影朧の延髄へと突き刺されば、迸る闇が夕立を、影を、消す。
 嘶きもせず、暴れもせず、影の竜はその場に倒れ伏した。
 黒に染まった赤い瞳の影人がその姿を見下ろすと、懐から取り出した千代紙を重ね、刃を染めた影を拭いとって竜へ巻く。

 白い千代紙を黒を吸い、嫌な湿り気を含んで重くなった時。
 影の竜は死に、只の男がそこに居た。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 人――サクラ・イチロウはゆっくりと歩むと倒れた机の引き出しを引く。
 その光景を一人の若者が見守っていた。
六条寺・瑠璃緒
彼は機関の歯車だったんだね
ただの情でも偽善でもヒトには心があるのだから、きっと歯車にはなれない
其の歪みの結末が此れなら…遣る瀬無いね

「君の願いを叶えてあげる」
と云って僕は刃も銃も持たないから、其れは君自身の手でお願い
視線を呉れて、【君に拠る葬送】を発動。
殺して呉れと願う君なら破滅願望は元よりある筈
【Nocturne】で五感を狂わせながら精神攻撃を重ねて其れを一層焚き付ける

侵食する影は【Serenade】でオーラ防御を
手近な仲間も守れたら守る
防戦一本も癪だから、隙を見てカウンターを

「子ども達のお墓には僕が手を合わせてあげる。君の罪は君が墓まで持って行け」
…幸せに生きている子もいると、願いたいね



●賜死

 彼は機関の歯車だった。けれど、ただの情でも偽善でもヒトには心があるのだから、きっと歯車にはなれない。
 六条寺・瑠璃緒が思索する中、瞳に移るのは竜を形作る事も出来ず、人の姿取るのが精一杯の影朧が引き出しに収まった銃を手に取る姿。
「――其の歪みの結末が此れなら……遣る瀬無いね」
 その吐息は深く、重かった。

 影が震えながら右手の銃をゆっくりとこめかみに近づける。
 だが銃身は小刻みに揺れ、銃口は虚空に出鱈目な絵を描く。
「……済まない」
 影が人の顔を作り、瑠璃緒の方を向く。
「勇気をくれないかな?」
 長い時を生きた舞台俳優は静かに頷くと、自らに与えられた役を演ずる。
「君の願いを叶えてあげる」
 ユーベルコヲドが麻薬のように影朧の心を溶かし、Nocturneが五感を鈍らせ、精神へ侵食は感情を鈍麻させる。
 破滅願望は蛮勇に等しい死への勇気を与え、影に人間としての最後の名誉を務めさせる力を与えた。

「――皆様のご協力、感謝いたします」
 踵を合わせ、敬礼すればサクラ・イチロウは右手に持った銃の人差し指に力を込める。
 起こされた撃鉄が雷管を叩けば、頭から何かを零し、跳ねるように影朧は倒れた。

「子ども達のお墓には僕が手を合わせてあげる。君の罪は君が墓まで持って行け」
 倒れ行く男へ瑠璃緒は葬送の言葉を贈った。
 ――幸せに生きている子もいると願いたいという心は自らの奥へとしまい込んで。

 この日、桜府のサクラは人として死んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月28日


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#サクラミラージュ


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト