――幻朧桜は今日も変わらず、美しく咲いていた。
桜吹雪が舞う中、あたしは今日も、あの子の元へ行く。
「お姉ちゃん、おかえりなさい!」
「紗矢子、……さや、――ただいま」
長い黒髪を靡かせて駆けてきたのは、あたしによく似た笑顔で笑う、紗矢子。
いつもあたしの後をついて来ていた、可愛い妹。
あの日、突然あたしの側からいなくなってしまった――いいえ、今こうして目の前にいる、あたしのたった一人の妹。
なのに、時折脳裏に過ぎる光景がある。
血溜まりの中に倒れている紗矢子。周囲に集まる野次馬達。飛び交う人々の声。
肩から斜めに奔る刀傷。声を掛けても返事はなく、その目は二度と、開くことは――。
「……お姉ちゃん、どうしたの?」
その時、不安げな声があたしを呼んだ。
――ああ、そうだ。あれは全て夢だ。
紗矢子が死んでしまったなんて、嘘だ。だって紗矢子はこうして、あたしの目の前にいる。
「お姉ちゃん、……おねえちゃん、だいすき。私はずっと傍にいるから、お姉ちゃんも私の傍から離れないでね」
「うん、お姉ちゃんも、さやのことが大好きだよ。ずっとさやの傍にいる」
例えまやかしであろうと、紛い物であろうと、――否、そんなことはない。
この子はあたしの、大切な妹。
縋るこの手を、振り払うことなど出来ようか。
だって、あたしは、この子の姉なのだから。
あたしは抱き締める。震える小さな身体を、そこにある確かなぬくもりを。
「今度こそ、あたしが……お姉ちゃんが守ってあげるからね」
●桜花想送
「皆様はもう、あの美しく神秘的な幻朧桜が舞う光景をご覧になられたでしょうか」
フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)はそう言ってたおやかに微笑むと、この度発見された新たな世界、サクラミラージュで起こる一つの事件についての説明を始めた。
サクラミラージュではオブリビオンは“影朧”と呼ばれ、その存在は人々に広く知られている。
傷つき虐げられた者達の過去から生まれた、不安定な存在――これまでの世界では倒すことでしか救えなかった彼らを、この世界ではその荒ぶる魂と肉体を鎮めた後に桜の精の手で癒すことによって、転生という形で救済出来るのだという。
「今回、皆様にお願いしたいのは、一人の影朧の討伐、もしくは救済です」
他の世界のオブリビオンよりも人々にとって身近な存在であるが故に、サクラミラージュには時折、影朧を匿う民間人が現れる。
影朧は存在そのものが不安定であり、直ちに危害を及ぼすとは限らない。だが、影朧がオブリビオンであることに変わりはなく、その行動の全てが、放置しておけばいずれ“世界の崩壊”に繋がってしまうのだ。
「何気ない善意から手を差し伸べてしまっただけだとしても、その囁きは人を惑わし、拐かし、堕落させてしまうと言います。一見害がなくとも、彼らは存在しているだけで人を狂わせてしまうのです」
影朧を匿っているのは堂薗・八重子という一人の少女だとフィオリーナは続けた。
「八重子様が匿っているのは、亡くなられた妹君の面影がある影朧なのだとか。皆様には八重子様に接触を図って頂き、影朧を匿っている場所についての情報を得て頂きたく」
その八重子は今、とあるカフェーのテラス席にいるという。
洋菓子店の二階に併設されたそこは、八重子にとって馴染みのカフェーだ。常連である彼女を、マスターや店員達もよく知っている。八重子本人ではなく、彼らから、八重子や彼女の妹について話を聞くことも不可能ではないだろう。
無論、八重子に直接接触を図らなくとも、テラス席や窓から見える幻朧桜を楽しみつつ、色とりどりの甘味や淹れたての珈琲と共に新たな世界の空気を味わってみるのもいいだろう。他愛ない話に花を咲かせていれば、お喋りな店員達の囁く声が聞こえてくるかもしれない。
「それと、……影朧が八重子様にそうしたように、皆様を惑わす何かがこの先現れないとも限りません」
どうぞ、お気をつけ下さい――そう結び、フィオリーナは手の中にグリモアの光を咲かせたのだった。
小鳥遊彩羽
ご覧くださいましてありがとうございます、小鳥遊彩羽です。
今回は新世界、『サクラミラージュ』でのシナリオをお届け致します。
●シナリオの流れと補足など
第1章:『大正浪漫の溢れるカフェーで』(日常)
第2章
:『???』(冒険)
第3章
:『???』(ボス戦)
となっております。
第1章はカフェーでのひとときを過ごす日常パートです。POW/SPD/WIZの選択肢は気にせず、お好きにお楽しみ下さい。メニューはカラフルなクリームソーダやパフェを中心に色々とあるようです。
影朧を匿っているとされる八重子本人や、彼女をよく知るマスターや店員に話を聞いてみるのも良いかもしれません。情報収集のやり方はご自由にどうぞ。
勿論、純粋にカフェーでのひとときを楽しむだけでもある程度の情報は得られたという扱いになり、次章に進みますので、問題はありません。
第2章は影朧の居場所を捜索する冒険パートとなります。そこでは、あなたの知っている“誰か”に出逢えるかもしれません。
第3章では匿われていた影朧と戦います。普通に戦って倒すか転生させるかは、皆様のプレイング次第となります。
●登場人物
堂薗・八重子(どうぞの・やえこ)
17歳。元は活発で明るい性格だったが、妹の死を切っ掛けに塞ぎ込むようになった。
近頃、また以前のような明るい表情を見せるようになったらしいが…?
堂薗・紗矢子(どうぞの・さやこ)
故人。享年14歳。八重子の妹。姉に似て活発で明るい性格だった少女。
●その他のお願いなど
ご一緒される方がいらっしゃる場合は【お相手の名前(ニックネーム可)とID】もしくは【グループ名】をご記載下さい。
シナリオの進行状況、及びプレイングの受付タイミングなどにつきましては、マスターページにて随時ご案内させて頂きますので、ご確認頂ければ幸いです。
以上となります。ご縁がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。
第1章 日常
『大正浪漫の溢れるカフェーで』
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POW : 甘味や食事を楽しむ
SPD : 珈琲や紅茶や飲み物を楽しむ
WIZ : 人々との歓談を楽しむ
👑11
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二天堂・たま
八重子とやらが影朧…ワタシ達がよく呼ぶ“オブリビオン”と関わりが深いのは分かった。
しかし直接「影朧を匿っているな?」と聞いたところで事態は好転すまい。
店のマスターや従業員を中心に、“八重子が足しげく通うところ”を聞いてみよう。
匿う場所は自宅とは限らんのだし。
あとはそうだ……もしかしたら八重子以外にも影朧の影響を受けている者はいるかもしれん。
“最近、様子の変わった者”の話題には注意しよう、聞き耳や情報収集を活かして。
注文はそうだな…ワタシは紅茶とスコーンをいただこう。
相棒(ひよこ)達にもな。
もふもふして愛でたいならかまわないぞ?
テラス席の片隅に座り、心ここにあらずといった様子で幻朧桜を眺めている少女――堂薗・八重子をちらりと見やり、二天堂・たま(神速の料理人・f14723)はふむ、とひとつ頷いた。
案内役の娘の話によれば、彼女は影朧――自分達がオブリビオンと呼ぶ存在と関わりが深いとのこと。
(「しかし、直接『影朧を匿っているな?』と聞いたところで事態は好転すまい」)
影朧の居所を探るのであれば、当人に直接話を聞くのが最も手っ取り早いだろう。
八重子に声を掛けるのであれば言葉や態度を選ぶ必要は勿論あるが、最悪、力ずくで聞き出すことも、猟兵ならば不可能ではない。
だが、下手に刺激を与えて八重子が深く傷ついてしまうことは避けたかった。
そこで、たまは注文のために呼び止めた店員に、こう尋ねることにした。
「彼女……八重子が足しげく通うところに、心当たりはあるだろうか?」
八重子が影朧を匿っているとして、その場所が自宅であるとは限らない。たまの問う声に店員の娘は一瞬、驚いたように目を瞬かせてから、そっと声を潜めて囁いた。
「……やっぱり八重子ちゃん、何かあったんでしょうか?」
どうやら、八重子の様子がおかしいことは、店員達も察しているらしい。
「元気になった頃から、いつもご自宅とは反対の方に帰られるようになって。お引越しされたわけじゃないと思うんですけど……」
おそらくは、影朧の元に通っているのだろう。やはり、八重子は自宅とは別の場所に影朧を匿っているようだ。なるほどと思案に耽るたまに、店員がおずおずと声を掛けてくる。
「……ところで、ご注文はどうされますか?」
「注文はそうだな……ワタシは紅茶とスコーンをいただこう。――相棒達にもな」
「ぴよ!」
すると、たまと同じサイズのひよこ達がどこからともなく現れ、たまの周りでぴよぴよと愛らしく囀り始めた。同時に、人々の穏やかな喧騒に突如加わったひよこの鳴き声に、八重子の眼差しがちらりと向く気配をたまは感じる。
大きなひよこ達に店員も驚きつつ、どこか楽しげに目を輝かせていて。
「このひよこさん達も、ユーベルコヲドなのですか?」
たまはふ、と笑みを浮かべて、深く頷いてみせた。
「――ああ、もふもふして愛でたいならかまわないぞ?」
大成功
🔵🔵🔵
草野・千秋
彼氏のライアンさん(f02049)と
久しぶりのデートが幻朧桜の世界だなんて
なんだか幻想的なのです
これから起こる事を考えると
そうも言ってられないのかもしれませんが
八重子さんとその妹さんについて
何かご存知ないですか?と
情報収集とコミュ力で聞いて回ってから
僕はデートと洒落こみましょう
大正時代の流行りの食べ物は洋食だと聞きました
オムライスにカツレツ、あと普及し始めたカレーライスも
あと喫茶店の定番メニューといえば
プリンアラモードもですね、プリン好きです
ライアンさんは昔は荒くれた傭兵業で
色々大変だったでしょう
なので今は沢山美味しい物を食べて下さい
僕の奢りです!
何から食べましょう?いっそ全部?
なんて
ライアン・ウィルソン
彼女の草野・千秋(f01504)ちゃんとおデートよ。彼女と行ったら彼女よ。異論は認めないわ。
とりあえずいちゃつきながら八重子&シスターの情報収集ね。コミュ力と失せ物探しと追跡で聞き出すわね。千秋ちゃんのを補う感じ聞くわよ。出尽くした感じになったらデートね
何やら色々おごってくれるみたいだから素直に甘えさせてもらうわね
なお千秋ちゃんの財布が天命を全うされるまで食べるわ。アタシちゃん大食いだから大丈夫。おごりって最高よね。ご褒美にめっちゃ可愛がるし問題ないわよ。これぞまさにウィンウィン。あとアタシちゃんは常に大正町娘って服装だけどツッコミは無用よ
「久しぶりのデートが幻朧桜の世界だなんて、なんだか幻想的なのです。……それに、ライアンさん、とてもお似合いですよ」
「ふふっ、可愛いでしょう? アタシちゃんったら何着ても似合っちゃうんだから罪よねー」
嬉しそうに微笑む草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)に、大正町娘な服装のライアン・ウィルソン(美少女美少年傭兵・f02049)は満更でもない様子。
これから起きることを考えればそうも言っていられないかもしれない、なんて千秋はふと思うけれど、ライアンとこうしてのんびり過ごすデートのひとときも、千秋にとって大切な時間であることに変わりはない。
「大正時代の流行りの食べ物は洋食だと聞きました。ですので、目一杯満喫しましょう」
そうして注文したのはオムライスにカツレツ、それからカレーライス。デザートに千秋が好きなプリンが主役のプリンアラモードを添えれば、白いクロスが掛けられたテーブルが瞬く間に賑やかな彩りで満たされる。
「……そうだ、八重子さんとその妹さんについて、何かご存知ないですか?」
注文の品を運んできた店員に尋ねれば、少し戸惑った様子で視線をちらり。
つられてそちらへと目をやれば、隅っこの席に一人で座る娘の姿。長い黒髪に、この世界らしい着物と袴姿。学校の帰りだろうか。あちらが八重子さんですと店員は続ける。
「八重子さんと妹さん、いつもこの時間に二人でいらしてたんですけど、何年か前に妹さんが亡くなられて……それで八重子さん、ずっと塞ぎ込んでいたんです。でも、最近になって急に……」
別の店員と笑顔で話す八重子は、妹を亡くしたとは思えないほど、明るく希望に満ちているように見えた。
「……確かに、塞ぎ込んでいるようには見えないですね。ありがとうございます」
「どういたしまして、ごゆっくりどうぞ!」
仕事へ戻るメイドを見送り、千秋はライアンへ向き直る。
「ライアンさんは昔は荒くれた傭兵業で、色々大変だったでしょう。なので今は沢山美味しい物を食べて下さい。僕の奢りです!」
「あら、アタシちゃん大食いだけど大丈夫? でも奢ってくれるなら素直に甘えさせて貰うわね。千秋ちゃんの財布が天命を全うされるまで食べるわ」
「ええ、ライアンさんのためなら。何から食べましょう? いっそ全部?」
なんて、と笑いつつ、千秋はライアンを眺めながら自分もオムライスに手を付ける。
華奢な見た目にそぐわぬ大食らいぶりを発揮し始めるライアンも、にっこりと笑って。
「ご褒美に後でめっちゃ可愛がってあげるわね、千秋ちゃん♪」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御影・龍彦
よくある話と言えなくもないけれど
…やりきれないものだね
このままでは姉妹双方の為にならないし
解決に力添えするよ
八重子さんに近い位置に着席
メニューを確認してから、声を掛けるよ
「ねえ、珈琲に合うお菓子ってどれかな?
僕、このお店に来るのは初めてで」
注文した品を楽しみながら、再び彼女にお礼を兼ねて話しかける
「教えてくれてありがとうね。
このお菓子、姉さんが好きそうな味だなぁ」
兄弟の話題へ繋げて
僕の姉が甘味好きとか
しばらく会ってないこととか
他愛ない情報を開示しつつ、しばし話して
「ごめんね、話し込んじゃって。兄弟のこととなるとつい…」
適当なところで退いてみる
妹さんの話、出してくれるかな?
※連携、アドリブOK
愛する家族に似た影朧を匿う民間人の話は、このサクラミラージュにおいては、良くある話のひとつだと言えなくもない。
(「……とは言え、いつだってやりきれないものだね」)
御影・龍彦(廻る守護龍・f22607)は胸の内で小さくため息をつきながら、テラス席へ続く扉を開いた。
向かう先は、八重子が座る席の近く。
メニューを開き、暫しの思案。やがて龍彦はひとつ頷くと、意を決したように顔を上げた。
「ねえ、君、一つ尋ねてもいいかい?」
掛けられた声に瞬いた八重子が、龍彦を見やる。
「……あたし、ですか?」
龍彦は静かに頷くと、手にしたメニューを八重子に見えるように広げてみせた。
「珈琲に合うお菓子ってどれかな? 僕、このお店に来るのは初めてで」
「珈琲だったら……、アップルパイとか、あとレモンパイとかどうですか? あたしは、ここのケーキはどれもおすすめですけど」
「なるほど、ありがとう。折角のおすすめだし、全部と行きたいけれど……さすがに僕一人では食べきれないな」
――そうして更なる思案の末、運ばれてきたアップルパイと珈琲を龍彦はじっくりと味わう。
パイ生地は底までさくさくとしていて、中にこれでもかと詰め込まれたりんごは甘さ控えめで果実の味がそのまま生きている。ついレモンパイも追加したくなる衝動を今は押さえつつ、龍彦は再び八重子へと声を掛けた。
「とても美味しいよ。教えてくれてありがとうね。……このアップルパイ、姉さんが好きそうな味だなぁ」
「……、」
姉、という単語に、思っていた通り八重子は反応を見せた。彼女の様子を窺いながら、龍彦は慎重に言葉を選び、続けていく。
「僕の姉さんはこういう甘味が大好きでね、……暫く会っていないんだけど、元気にしているだろうか」
龍彦が紡ぐのは、他愛のないことばかりだ。姉だけでなく兄のことも。兄弟で一緒にこうしたカフェーで語り合った日のことや、些細な理由で喧嘩をしたことや、他にも――。
「ごめんね、話し込んじゃって。兄弟のこととなるとつい……」
そう言って、龍彦はちらりと八重子を見やる。
龍彦の話に耳を傾けていた八重子は、少し震えているように見えた。
(「元気で明るい様子を見せているとは言うけれど……」)
龍彦の瞳に映る少女は、とてもそうは見えなかった。まるで、何かに怯えているような――そう、おそらくは、“影朧”が発見され、討伐されてしまうことを、それによって妹を再び失うことを、恐れているような。
けれども、このままでは二人のためにならない。
たとえ姿形が似ていても、八重子が匿う存在が過去の残滓から生まれた存在――影朧であることに変わりはない。
本人ではないと、八重子自身も心のどこかでわかっているはずだ。
それでも縋ってしまうほどに、手を伸ばしてしまわずにいられなくなるほどに、喪失の痛みは計り知れぬものだとしても。
自分達は影朧を倒し、あるいは救わねばならない。
「……君にも、ご兄弟はいらっしゃるのかな?」
龍彦は何気なく、世間話のように切り出した。
「……はい、――いました。ううん、います。あたしによく似た、可愛い妹が。……帰ってきてくれたんです。今度こそ、守ってあげなくちゃ」
そう言って明るく微笑んだ八重子は、確かに影朧の影響を受けている――龍彦は胸の内に浮かび上がっていた予感を、確信に変えた。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼心情
ふむ…情報通りなら影朧も意識を保っており
まだ脅威度も高くないように思える。
出来れば2人を説得して見送りたい所だな
▼POW
コートは仕舞い眼鏡とベストで教師っぽい姿で行動。
何かあれば臨時講師として話を合わせる。
店では珈琲を探し、お勧めのブレンドがあれば注文を。
マスターが淹れる様を観察しつつ
店内の客や学生の会話に耳を傾けて思考を纏めよう。
先ずはマスターに八重子を知っているか確認。
最近、情緒不安定に見えるが何か変わった事がないかと問おう。
家庭訪問すべきかと悩む素振を見せつつ、
家庭事情や家の場所…と徐々に突っ込んだ質問を。
聞き終えたら礼を言いチケットで会計。
豆が売ってれば一緒に。
連携、アドリブ歓迎
(「ふむ……情報通りなら影朧も意識を保っており、まだ脅威度も高くないように思える」)
アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、事前に得た情報を更に掘り下げて思案し、ならば影朧をただ倒すのではなく、八重子と影朧それぞれを説得し、影朧を見送りたい――という結論を導き出す。
そのためにも、説得に繋がる何らかの情報を得たいと思い、アネットは常に羽織っている黒い外套の代わりにベストと眼鏡を着用し、まるで教師のような姿に変装した。
有事の際には臨時講師として話を合わせるつもりで、アネットはカフェーの扉を潜る。
「いらっしゃいませー! お一人ですか?」
店に入ったアネットを出迎えたのは、店員達の明るい声と、コーヒーの香り。店員に一人だと告げ、カウンター席へ腰を下ろしたアネットは、サクラミラージュらしいレトロな雰囲気の店内を一瞥してから、いらっしゃいませと静かに会釈をするマスターに告げる。
「マスター、何か……お勧めのブレンドがあれば、それを頼みたい」
「かしこまりました、お待ち下さい」
マスターは頷き、ずらりと並ぶサイフォンを、慣れた手付きで動かし始める。
フラスコの湯がアルコールランプの熱によって瞬く間に上部の漏斗へ吸い上げられてゆく様は、見ているだけでも飽きることはなく。ゆったりと流れていく時間の心地良さに身を委ねながら、アネットは更に思考を纏めてゆく。
「マスター、……堂薗・八重子という少女を知っているだろうか」
淹れたてのコーヒーが差し出された所で、アネットはそう切り出した。
「八重子さんですか? 八重子さんでしたら今日もあちらの……テラスの方にいらしてますよ」
振り返れば窓越しに一人の少女の姿が見える。アネットは確かめるように小さく頷き、更に続けた。
「彼女の友人から、最近情緒不安定に見えると相談を受けていてな。何か変わったことがないか、マスターに心当たりはあるだろうか」
臨時講師として家庭訪問をすべきだろうかと悩む素振りを見せれば、マスターも暫し思案するような間を置いて。
「そうですね、……確かに、最近の彼女は少しおかしいように感じます。妹さんと一緒にここにいらしていた頃は、ぱあっと、向日葵が咲いたみたいによく笑う子だったんですよ。それが、妹さんを亡くされてからは、急に萎んでしまったみたいに悲しそうな顔をしていて」
「……マスター、彼女の妹が何故亡くなったのか、聞いても良いだろうか」
不躾な質問だとは理解していた。だが、その時アネットが取り出してみせたサアビスチケットに、マスターはこちらの事情を察したらしい。僅かな間の後、声を潜めながらこう答えた。
「――辻斬りです。女子供ばかりを狙ったもので、紗矢子さんが巻き込まれたのは不運だとしか言いようがなかった。……八重子さんの帰りをね、待っていたんですよ」
放課後は二人、待ち合わせてここに来るのが常だった。だが、八重子はその日、いつもより少しだけ、帰りが遅くなってしまった。
そうして、八重子が待ち合わせ場所に辿り着いた時――目に飛び込んできたのは、血溜まりの中に倒れる紗矢子の姿だった。
「……そうか」
コーヒーの味が殊更苦く感じられたのは、気のせいではないだろう。
「それがここ最近になって急に、前みたいに笑うようになって。……何か、良くないことの前触れでなければいいのですが」
「ありがとう、参考になった」
会計は勿論、サアビスチケットで。コーヒー豆も一緒に。
大成功
🔵🔵🔵
祇条・結月
……見ようによっては探偵みたいな仕事だよね。
ちょっと苦手かも
だけど……うん。放っておくわけにはいかないから。絶対に
それじゃ、せっかくだしパフェでも頼んでみるよ
少年向けの雑誌とか読みながら、のんびりと過ごして
そう見えるけど【情報収集】は怠らない
ちゃんと周りの話に耳を傾けておいて
もしかしたら、最近八重子さんの様子が変わった、とかそういう話、聞けるんじゃないかなって
元気が出た、とかはやく帰るようになった、とか
自分一人じゃないなら、絶対生活には変化した部分があるはず
どれだけ上手に隠していても
……なんて
家族を。守りたいっていう気持ちは当たり前のものだよね
それでも……
(「……見ようによっては、探偵みたいな仕事だよね」)
祇条・結月(キーメイカー・f02067)はそう、内心で独りごちる。
匿われている影朧を倒すためには、まずその居場所を探らなければならない。直接対話をするにしろ、別のやり方で情報を得るにしろ、そういったことは少し苦手だと思いつつも、結月は意を決したように一つ、頷いて。
(「だけど……うん。放っておくわけにはいかないから。絶対に」)
店に入り、テラス席の一つに腰を落ち着けた結月の前には、プリンとサクランボが盛り付けられたパフェが一皿。グラスの中ではアイスに挟まれたフルーツの層が鮮やかに目を引きつける。
パフェをつつきながら、傍らには少年向けの雑誌。
のんびりと過ぎてゆく時間は、これから戦いが起こることを束の間忘れさせてくれるようで。
けれど、その間にも、結月はしっかりと情報収集を怠らず、周りのざわめきに注意深く耳を傾けていた。
「……八重子ちゃん、今日もいつもの場所に向かうのかしら?」
その時、ふと、結月の耳に届いた声があった。
ちらりと視線を向ければ、先程八重子の元にコーヒーを運んだ店員が、別の店員と言葉を交わしているのが見える。
「やっぱり、“逢引”のお相手は彼氏で間違いないのかしら?」
(「……逢引?」)
あまり想定していなかった単語に、結月は小さく首を傾げる。
「八重子ちゃん、最近すごく元気そうに見えるし、そろそろお店に連れてきてくれないかしら?」
「でも、ユミちゃんの話だと向こうの通りの空き家なんでしょう? そういう所で逢引だなんて、訳有りのお相手じゃなきゃいいんだけど……」
「いつまでも落ち込んでないでって、きっと紗矢子ちゃんが引き寄せてくれたお相手に違いないもの。訳有りだなんてそんな……」
どれだけ上手に隠していても、やはり自分ひとりではない以上、生活に何らかの変化があるはず――という結月の読みは正しいものだった。
(「……向こうの通りの空き家、か……」)
件の場所は、ここから然程遠くない所にあるらしい。
そして、八重子はおそらく、今日もまたその場所に向かうのだろう。
ならば、後は八重子が店を後にするタイミングを見計らい、後を追うのが良いだろうか。
(「家族を。守りたいっていう気持ちは当たり前のものだよね。それでも……」)
結月は少しだけ寂しげに眉を下げ、バニラアイスをスプーンですくい取る。
――それでも、その家族に似た姿をした誰かが影朧であるならば、猟兵としては、倒さなければならない。
だが、たとえ結末が変えられないものであったとしても、まだ今を生きている八重子の心を救うことはきっと、出来るはずだ。
大成功
🔵🔵🔵
鳩宮・哉
相棒の舜(f14724)と一緒
新しいセカイ、わくわくどきどきしちゃう。ね、舜!
窓際の席へ座り、クリームソーダを注文
すごい! こんなに綺麗な飲みもの見たことないよ!
鮮やかな色したそれを見下ろし、ぱぁぁと咲く笑顔
ストローを吸えば甘くてしゅわしゅわ
うん、おいしいよ! 舜も一口どうぞ!
両手で頬杖ついて、窓の向こうの桜を眺め
ねーぇ、舜。舜は、八重子さんの気持ち、わかる?
たとえまやかしでも、大切なひとと一緒に居たいものなのかな
なんだか冷ややかなきみの返事。俺の頬はぷっくり膨らむ
(きっと今、主さんのことを考えてるんでしょう)
なぁんて、言葉には出さないけど
舜のおばか! 一緒にいるときくらい俺のことを見てよ!
雨埜・舜
相棒の哉(f21532)と
ああ。新たな世界というものは心を躍らせる
それにしても美しい場所だな
彼の向かいの席へ腰掛け
自分はホットの珈琲を注文
ほろ苦い其れを口に運び乍ら、燥ぐ君の様子に思わず微笑む
どうだ? 美味しいだろうか
お言葉に甘えて一口頂こう
窓硝子の先で舞散る神秘の桜
君からの問いに、ゆるりと睫毛を伏せて
……さあ、どうだろうか
紡いだ短い返答は思いのほか冷たく響いた
脳裡に過る、今は亡き主の面影
もし主が再び自分の前へ姿を現したら――
はてさて、俺は拒む事が出来るだろうか
そんな思考に耽っていると、何やら拗ねた様子の君
……哉? どうしたんだ
君の考えている事は分かり易いようで――時々分からない
「新しいセカイ、わくわくどきどきしちゃう。ね、舜!」
赤い瞳を輝かせる鳩宮・哉(さよならパライソ・f21532)に、雨埜・舜(游雨・f14724)は小さく頷いてみせる。
「ああ。新たな世界というものはそれだけで心を躍らせてくれる。……それにしても、美しい場所だな」
右を見ても左を見ても、見渡す限りの桜模様。幻朧桜と呼ばれる神秘の桜が一年中咲き誇り、桜色の花弁が舞う世界――サクラミラージュ。
カフェーの扉を潜った二人は幻朧桜がよく見える窓際のテーブル席へ。向かい合わせに座り、舜はホットのコーヒーを、そして哉はクリームソーダを注文した。
「――すごい! こんなに綺麗な飲みもの見たことないよ!」
やがて運ばれてきたクリームソーダの鮮やかなエメラルドグリーンに、哉は白い兎耳をいっぱいに向けながら、ぱあっと笑みの花咲かせ。
早速ストローでメロンソーダを一口吸い込めば、口の中でしゅわしゅわと弾ける甘さにぴこぴこと跳ねる兎耳は、喜びとときめきの証だ。
一方、ほろ苦いコーヒーを口に運ぶ舜ははしゃぐ哉の様子に微笑みながら、何気なく問い掛けた。
「どうだ? 美味しいだろうか」
舜へと向けられる、きらきら輝く赤い瞳は、言わずとも答えを教えてくれているよう。哉はもちろんとばかりに大きく頷き、鮮やかなエメラルドが弾けるクリームソーダのグラスをずいっと舜へ差し出した。
「うん、おいしいよ! 舜も一口どうぞ!」
目の前までやってきたグラスに瞬くも、舜はすぐに目元を和らげて小さく頷き手を伸ばす。
「ああ、お言葉に甘えて一口頂こう」
分かち合う甘さは、幸せの味。
洒落た音楽がささやかな彩りを添える店内には、心地良いざわめきが満ちていた。
穏やかな時の流れに身を委ねながら、哉は両手で頬杖をつき、窓の向こうに咲き誇る満開の幻朧桜を眺めやる。
「ねーぇ、舜。舜は、八重子さんの気持ち、わかる? ……たとえまやかしでも、大切なひとと一緒に居たいものなのかな」
舜は、哉の問う声にゆるりと睫毛を伏せる。
ふと脳裡に過るのは、今は亡き主の面影。古き洋館で時を刻んでいた絡繰時計だった己が、幼い頃から成長を見守り、そして喪ったただ一人の――。
もしも、主が再び自分の前へ現れたら、はたして、拒むことが出来るだろうか。
「……さあ、どうだろうか」
僅かな思考の果てに紡いだ答えは短く、けれど思いの外冷たく響いた声に開かれた琥珀色の瞳が、ぷっくり頬を膨らませた白兎の姿を映し出す。
「……哉? どうしたんだ」
「舜のおばか! 一緒にいるときくらい俺のことを見てよ!」
そのままつんとそっぽを向いてしまった哉を、舜は困惑の表情で見つめ。
「あ、ああ、……すまない」
何やら機嫌を損ねてしまったらしいことを謝りつつ、舜は誤魔化すようにコーヒーカップに口をつけた。
(「君の考えている事は分かり易いようで――時々分からない」)
哉もまた、浮かんだもやもやごと飲み込むように、真っ白なアイスクリームを掬って口に放り込む。
(「きっと今、主さんのことを考えてたんでしょう?」)
哉の知らない人。哉の知らない、舜を知っている人。もう何処にもいないその人を想う舜の眼差しの先に己がいないことを、哉は知っているのだ。
――けれど、まだ。この想いをどんな言葉にすればいいのか、哉は知らない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
風花(f13801)さんを肩に乗せて。
あらあら、これがサクラミラージュですか。素敵ですわ。
カフェーの雰囲気も柔らかくて、落ち着いていて。
私はこの、チヨコレヰトパフェーというものを頼んでみます。
風花さんは・・・ここは多分、お酒はないと思います。多分。
情報収集はどうしましょうか?
私はそれとなく周囲の会話に聞き耳を立てておきましょうか。
八重子さん本人のお話もですけれども。
建物や場所、その他、何かヒントがあるかもしれませんし。
あ、風花さんもパフェー、一口どうですか?
甘くてちょっとほろ苦いところがまた。美味しいですよ。
はい、どうぞ。
下の階にあったケーキも食べてみたいですわね。
帰りに買っていきましょうか。
七霞・風花
ティーシャさん(f02332)と
これは……これまでとはまた違う世界ですね
舞う花びらがとても綺麗で
お酒はないとの指摘を受け
「えっ……いえ、ええと。探して、ませんよ?」
言いながらそそくさとブラックコーヒーを頼みます
パフェをあーん、と差し出されて嬉しくって
しかしコーヒーしか頼んでおらず、しかも妖精サイズ
分けるものが、ない
「もらうばかりで……帰りのケーキ、私が出しますから」
でも甘味の誘惑には抗えません
ぱく、と頬張るとつい笑みがこぼれます
さて、テイクアウトは奮発しなきゃ
おっと本題
情報収集ですがここはカフェ
下手に聞き込むより、自然と過ごして耳を澄ませましょう
意外とそういうところに、鍵が転がっているものです
「あらあら、これがサクラミラージュですか。素敵ですわ。カフェーの雰囲気も柔らかくて、落ち着いていて。……ねえ、風花さん?」
ティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)はそっと、肩に乗せた七霞・風花(小さきモノ・f13801)に微笑みかける。
「ええ、これは……これまでとはまた違う世界ですね。舞う花びらがとても綺麗で」
そっと手を伸ばせば、フェアリーである風花の手のひら位の大きさの桜の花弁が舞い降りる。
カフェーの扉を潜った二人は、案内されるままテラス席の一つへ。この世界――サクラミラージュでは、フェアリーの存在も転生者として珍しいものではないのだろう、テーブルの上には風花用の柔らかいクッションが用意された。
早速メニューを広げれば、目に飛び込んでくる甘味の数々。種類豊富なパフェーから、色とりどりのクリームソーダ、パンケーキなどもある。
「私はこの、“チヨコレヰトパフェー”というものを頼んでみます。風花さんは……ここは多分、お酒はないと思います。多分」
メニューを食い入るように見つめていた風花に、ティーシャがぽつりと一言。
「えっ……いえ、ええと。そんな、いえ、探して、ませんよ?」
真っ当な指摘に風花ははっと顔を上げ、にこにこ笑顔の店員にそそくさとブラックコーヒーを注文するのだった。
注文の品を待つ間、ティーシャはそれとなく、周囲の会話に聞き耳を立てる。
ティーシャの細長いエルフの耳には、離れた場所に座っている八重子の声も届いていた。
どうやら、今は別の猟兵と言葉を交わしているらしい様子が窺える。他愛のない話は、きっと八重子の心を少しでも解してくれていることだろう。
そして、風花も同様に耳を澄ましていた。
カフェーという開かれた場所ならば、下手に聞き込みを行うよりも、そうしていたほうが良いだろう、と。
「……八重子ちゃん、今日も例の場所に向かうのかしら?」
「ええ、きっと行くと思うわ。でも、ついて行くなんて野暮なこと、もうしちゃ駄目よ?」
――と、こんな風に、店員達の密やかなお喋りの声を、二人の耳はしっかり捉えていた。
「お待たせしました! チョコレートパフェとコーヒーのブラックになります」
そうこうしている間に、二人の目の前には出来たてのチョコレートパフェとほろ苦い香りのブラックコーヒー(フェアリーサイズ)が。
ありがとうございますとはにかんで受け取り、ティーシャは早速パフェを一口。甘さ控えめのチョコレートアイスが、上に掛けられたチョコレートソースのほろ苦さをぐっと引き立てる。もう一つ添えられた小さな白いアイスはどうやら塩バニラ味のよう。ふーっと息を吹きかけてコーヒーを冷ます風花に、ティーシャは微笑みかける。
「風花さんもパフェー、一口どうですか? 甘くてちょっとほろ苦いところがまた。美味しいですよ」
はい、どうぞ、と差し出されたスプーンに、風花はどことなく嬉しそうに翅を震わせながらも、はっと何かに気づいたように手元のカップに視線を落とす。
「しかしもらうばかりでは……私は見ての通り、コーヒーしか頼んでおらず……その、分けるものが……」
そのコーヒーもフェアリーサイズ。分けられるものがない申し訳無さと、抗いきれぬ甘味の誘惑の板挟みに悩む風花に、ティーシャは思わず、小さく肩を揺らして笑った。
「では、帰りにケーキを買っていきましょうか。ほら、下の階にあった……あのケーキもどれも美味しそうで、食べてみたいなと思っていたんですよ」
「なるほど、それなら、帰りのケーキ代は私が出しましょう」
そうして今度こそ心置きなく、風花はお裾分けのチョコレートパフェをぱく、と頬張り。
口の中に広がるチョコレートの甘さに思わず笑みを零しつつ、改めて思うのだった。
(「……さて、テイクアウトは奮発しなきゃ」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)とカフェたいむ
わしはなんにしよかなー
せーちゃんはパフェかぁ、かぶらんようにしよ
わしはふるーつたっぷりロールケーキと珈琲にしよかな
……せーちゃんはまた甘そなのだぶるで……
まぁいつものことじゃから最近はそれも当たり前じゃなぁ
ん、じゃあお言葉に甘えてひとくち(がっつりクリームをさらって
美味い!
わしのロールケーキもあげよ。生地がふわっふわですぐ口の中で消えていく心地……
あ、フルーツもとってええよ
旬の葡萄がごろごろっと入っとるからの!
と、楽しみつつも周囲の話に耳を傾け情報収集
ん? せーちゃん見たことあるんか?
桜はせーちゃんに近いもんじゃし、似たよな桜がどこかにあるのかもなぁ
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
カフェーで甘味をいただこう
らんらんはどれにするんだ?
俺はこの大きなパフェに
飲み物は甘い桜色のクリームソーダを(超甘党
ん、甘くて美味だ(微笑み
らんらんも食べてみないか?
好きな部分を掬ってくれ(お裾分け
おお、ロールケーキもふわふわで美味しそうだ
では交換こだな(葡萄もお言葉に甘え共に
エンパイアと何処か似ているが、また違ったこの世界
だが甘い物が美味なのは世界共通だな(微笑み
八重子にも機会あれば声を
突然失礼、浮かぬ顔をしている様に見受けられたので
要らぬ世話かもしれんが、知らぬ者にこそ吐き出せる話もあるのではと思ってな
…幻朧桜、か
らんらん、俺は以前もあの桜を見たことがある気がする
――桜舞うテラス席の一角。
「わしはなんにしよかなー」
灰青の狐尾を楽しげに揺らし、メニューを覗き込む終夜・嵐吾(灰青・f05366)の真向かいで、同じくメニューを見ていた筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が顔を上げる。
「俺はこの大きなパフェに、甘い桜色のクリームソーダを頂こうと思う」
「……せーちゃんはまた甘そなのだぶるで……まぁいつものことか」
自他共認める超甘党の清史郎が選んだのは、たっぷりのフルーツとクリームが頂点を競い合っていそうな、それでいてどこかお洒落な雰囲気もしっかりと漂わせている大きなパフェだ。クリームソーダの桜色は、清史郎によく似合う。
「せーちゃんがパフェならわしはかぶらんように……ふるーつたっぷりロールケーキと珈琲にしよかな」
注文の品を待つ間も、友と語らっていればあっという間だ。
「……幻朧桜、か。らんらん、俺は以前にもこの桜を見たことがある気がする」
辺り一帯に咲く幻朧桜は、清史郎が知っている桜と違うはずなのに、記憶の中にある桜と似ている気がして。舞い散る花弁におもむろに手をのばす清史郎に、嵐吾は不思議そうに瞬きを。
「ん? せーちゃん見たことあるんか? 桜はせーちゃんに近いもんじゃし、似たよな桜がどこかにあるのかもなぁ」
それもまた、縁というものだろう。
やがてやって来たパフェは、メニューの写真そのままのボリュームで。飾られた色とりどりのフルーツに負けないくらい、濃厚そうなホイップクリームがふんだんにあしらわれていた。
嵐吾が頼んだロールケーキも、切り口から覗くフルーツの彩りの鮮やかさが、程よく空いた小腹を刺激する。
「ん、甘くて美味だ。らんらんも食べてみないか? 好きな部分を掬ってくれ」
「ん、じゃあお言葉に甘えてひとくち」
早速パフェを一口掬った清史郎がお裾分けとばかりに器を差し出せば、嵐吾はがっつりとホイップクリームを攫って。
「美味い! わしのロールケーキもあげよ。生地がふわっふわですぐ口の中で消えていく心地……あ、フルーツもとってええよ。旬の葡萄がごろごろっと入っとるからの!」
「おお、ロールケーキもふわふわで美味しそうだ。では交換こだな」
と、清史郎もふわふわの生地と葡萄を頂き、二人で存分に甘味を満喫する。
ふわり、風に舞う幻朧桜。
サクラミラージュの光景は清史郎が生まれたサムライエンパイアと何処か似ているが、確かに違う世界だ。
「だが、甘い物が美味なのは世界共通だな」
微笑み、噛み締めるように味わう清史郎に、嵐吾もそうじゃなー、とのんびり頷いてから、ちらりと目配せを。
「……ところでせーちゃん」
「嗚呼、わかっている」
嵐吾に頷き、清史郎は立ち上がる。向かう先は何処かぼんやりとこちらを見ていた少女――八重子のいるテーブルだ。
「突然失礼、浮かぬ顔をしている様に見受けられたので」
「えっ、……あたしがですか? そう、見えますか? やっぱり、そう見えるのかな……」
当の八重子はまるで意識していなかったらしい。清史郎の声と言葉にぱちぱちと瞬きをしてから、すみませんと申し訳無さそうに答えた。
「要らぬ世話かもしれんが、知らぬ者にこそ吐き出せる話もあるのではと思ってな。……良ければ聞かせてもらえないだろうか」
そう続けた清史郎に、八重子はやはり、どこかぼんやりとした眼差しを、空になったパフェのグラスへと向けて。
「……桜のお兄さんが食べていたパフェ、妹とよく二人で一緒に食べてたんです。一人じゃ多いから……だから、つい懐かしくなっちゃって。あれ……?」
そこまで言って、八重子は不意に立ち上がった。見るからに
「そうだ、さやちゃんが待ってる……あたし、行かなくちゃ。すみません、失礼します」
荷物を纏め、八重子は慌ただしく去ってゆく。少女が向かう先が“何処”であるのか、――浮かぶ答えなど一つしかない。
「さて、わしらも行くとするかの」
「ああ、行こう、らんらん」
清史郎に続き、嵐吾も立ち上がる。そうして二人も八重子を追うべく、その場を後にした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
姉妹――きょうだい、か
…いかんな、任務と云うに感傷に浸るとは
これも彼の桜の所為やも知れん
先ずは件のカフェーに赴いたならば
そうさな…此処はマスターに近付くとしよう
コミュ力を用いて会話を試み、初めて訪れるという事で
おすすめのメニューを聞きつつさり気なく情報収集を試みる
もしマスターや店主が八重子と会話する場面を目的したならば
聞き耳を立て、会話を盗み聞きするも良かろう
また、八重子が此方の様子に気付いたならば会釈を
返されたならば良い子ですね、とマスターへ話題を振る
其処からオブリビオン――影朧に繋がる何らかの情報を得られるよう
極上の甘露に舌鼓を打ちつつ
警戒されぬ程度に世間話を続けよう
*従者、敵以外には敬語
「姉妹――きょうだい、か」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はぽつりと声を落とし、それから、緩く頭を振った。
(「……いかんな、任務と云うに感傷に浸るとは」)
これも、彼の桜の所為かもしれない。永久に咲き続ける幻朧桜――その変わることなき淡い色彩の。
脳裏に一瞬、過ぎりかけた面影を振り払い、件のカフェーへと赴いたアルバは、カウンター席につく。
いらっしゃいませと微笑むのは初老のマスター。丁寧な所作で会釈をしたアルバは、徐にこう切り出した。
「素敵な雰囲気のお店ですね。ここに来るのは初めてでして……お勧めのメニューなど教えて頂けると」
柔らかな声音で告げれば、ありがとうございますとマスターは頷き、
「かしこまりました。では……桜の紅茶などいかがでしょう?」
そうして、暫し。差し出されたカップからふわりと立ち上る甘く上品な桜の香りに、アルバは目を細める。
一緒に出されたのはドライフルーツが散りばめられたパウンドケーキ。控えめな甘さが紅茶の香りを引き立てるのだと、マスターは言った。
極上の甘露に舌鼓を打ちながら、アルバはマスター、と再び声を掛けた。
「この辺りで何か、面白いものが楽しめる場所はありますか?」
「そうですね、それでしたら一つ向こうの通りの……」
「――マスター、ご馳走様でした」
すると、そこに一人の少女が伝票を手に現れた。アルバは開きかけた口をそっと噤み、ちらりと、横目に少女を見やる。
「八重子さん、こちらこそ。気をつけてお帰り下さいね」
成程、この少女こそが堂薗・八重子であるらしい。顔と名前を確りと結びつけたアルバは、少女の瞳がこちらへ向けられている気配を感じ、微笑んで会釈を。
「そんなに慌てると、折角の素敵な着物が乱れてしまいますよ」
「ええ、でも、今は急がなくちゃいけなくて。ありがとうございます、宝石のように綺麗な方。――失礼しますっ」
アルバにぺこりと頭を下げてから、八重子は慌ただしく会計を済ませ、店を後にしていった。
それから程なくして、別の猟兵達が彼女の後を追うように出ていく気配を感じつつ、アルバはマスターへと向き直る。
「八重子さん、ですか。良い子ですね」
「ええ、とても。……お客様は、彼女に何か感じることはありましたか?」
「……彼女に、何か?」
そっと首を傾げるアルバに、マスターは小さくため息をついて。
「彼女――八重子さんは、うちの常連でいらっしゃるのですが。近頃、様子がおかしいように感じられて。うちの娘達は彼女に恋の相手が出来ただの、逢引をしているだのとはしゃいでおりますが。……私は、違うと思っています」
聞けば妹を亡くしたことで沈んでいた八重子は、ある日を境に大きく変わったのだという。
年頃の娘だからそういう相手が出来たとしても何らおかしくはないというのが店員の娘達の見立てであり、最近は家とは逆方向に帰るようになった――という動かぬ証拠は、想像を確信に変える理由としては十分だった。
「それで、ある日八重子さんの後をこっそりつけたと言うんです。勿論、厳しく叱ってはおきましたが……場所が、場所でして」
「八重子さんは、どちらに?」
「ここから少し行った先にある、裏通りの空き家です。そこに、一人で入っていったそうですよ」
「裏通りの、空き家……」
アルバは口の中で呟き、そこに影朧がいるのだろうと当たりをつけると、にっこりと、人当たりの良い笑みを浮かべて続けた。
「――その場所を詳しくお聞きしても?」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『桜彷徨う迷宮』
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POW : 舞い散る花びらに惑わされることなく走り抜ける。
SPD : 桜が作り出す見せかけの幻を見破ることで切り抜ける。
WIZ : 幻の仕組みを調べ、迷宮の罠を解除して進む。
👑11
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待ち合わせはいつもの場所で、それから、二人連れ立っていつものカフェーへ。
そんなありふれた時間が、ずっと続くと思っていた。
けれど、いつもより少しだけ帰りが遅くなってしまったその日。待ち合わせの場所に着いた八重子が目にしたのは、血溜まりの中に倒れた紗矢子だった。
辻斬りに遭ったのだ。それはいくつかの偶然が重なり合った結果の、不幸な事故だった。
無論、八重子を責める者など誰もいなかった。
否、唯一人、八重子だけが八重子自身を責め続けた。
その場に居たら、紗矢子の傍に居たら、彼女を守れたかもしれない。
そんな八重子の想いが、紗矢子に良く似た影朧を呼び寄せてしまった。
カフェーを後にした八重子を、猟兵達は追い掛ける。
共有された情報の通り、カフェーから然程遠くない裏通りの一角に、その空き家は存在していた。
八重子は周りに誰も居ないことを確かめてから、開いた扉の向こうに消えていく。
猟兵達は互いに顔を見合わせて頷き、八重子の後を追って空き家の扉を開いた。
――次の瞬間、景色が一変した。
一面に咲く、淡い桜色。
猟兵達を招き入れたのは灯りのない空き家ではなく、空き家よりももっと広大な、無数の鳥居が連なる幻朧桜の迷宮だった。
そして、無数の桜の花弁が一瞬強く吹き抜けた風に乗って猟兵達を包み込んだ次の瞬間、猟兵達はそれぞれが分断されていることに気がついた。
周りを見回しても、己以外の姿はない。
目の前には、無数に連なる鳥居と石段がどこまでも続いている。その流れに沿うように、幻朧桜の桜並木が続いている。
影朧が己を守るために作り上げた迷宮だろうか。その正体は不明だが、ともかくも影朧を探すためには先に進まなければならない。
そう思い一歩踏み出した猟兵達の前に、ゆらりと浮かび上がる人影があった。
幻朧桜の淡色を纏い現れたのは、つい先程まで隣にいた友や相棒かもしれない。あるいは、家族。愛する者。もうどこにもいない誰か――。
自分にとって大切だと思える誰かが、この先に進んではいけないと、共に戻ろうと呼び掛けてくるだろう。
幻だとわかっていても、その声は、姿は、確かに良く知る誰かのものだった。
けれど、猟兵達は進まなければならない。
己を誘い惑わせる声を振り切り、幻朧桜が創り上げた迷宮を抜け――その先に待つ影朧と、今を生きる一人の少女の元へ行かなければならないのだ。
御影・龍彦
「今度こそ、守ってあげなくちゃ」
カフェで八重子さんはそう言っていた
守りたかった。いや…守りたいだろうね
影朧だと、心の何処かで分かっていても
※pow
このままでは僕が迷ってしまうな
仲間の姿も見当たらないし、進むしか…ん、あれは
桜色の向こう、ぼんやりした人影は
己と同じ色の髪と瞳
親類の誰かだろうかと目を凝らし、気づく
己と同じ角、翼、尾
一族の中で竜人は転生者たる僕だけなのに
いったい、誰なんだ
ひどく懐かしい君はもしかして、前世の――
確かめたいけれど
手を伸ばしたいけれど
『勇気』を胸に駆け出して
幻を振り切って進むよ
焦がれようとも過去は過去
今の僕には為すべき事がある
ゆえに、行かなければならないんだ
※アドリブOK
――今度こそ、守ってあげなくちゃ。
御影・龍彦は静かに、カフェーでの八重子の言葉を反芻する。
(「守りたかった。いや……今でも守りたいだろうね」)
八重子が出逢い、妹だと思っている“それ”が、心の何処かで“影朧”だと分かっていても。
「……さて、困ったな」
桜色に染め上げられた空の下、辺り一面に咲き誇る幻朧桜と並ぶ朱の鳥居が、どこまでも続く空間に一人取り残されてしまった龍彦を誘う。
「このままでは僕が迷ってしまいそうだ」
辺りを見渡しても、先程まで共にいたはずの同胞達の姿はどこにもなく、ただ目の前にどこまでも続く鳥居と石段が、龍彦の前に道を示していた。
ならば、やはり進むしかないだろう。そう思い一歩踏み出そうとした龍彦は、不意に、己を呼ぶ声に振り向いた。
「……誰かな? おや……」
はらはらと零れ落ちる桜吹雪の向こうに、佇む人影が見える。
(「あれは……」)
朧気ながら像を結んだのは、龍彦と同じ、黒い髪に金の瞳の青年だった。
見覚えのある色彩に、知っている誰かだろうかと目を凝らした所で――龍彦は気がついた。
桜花に紛れて現れた“彼”が、龍彦と同じ竜の角と、今は隠している翼、そして尾を持っていることに。
「君は、……いったい誰なんだ?」
一族の中で竜人――ドラゴニアンは転生者である龍彦だけ。
なのにそっくり同じ竜の部位を持ち、そしてこちらへ向けられる穏やかな笑みは、ひどく懐かしい――。
(「ああ、君はもしかして、かつての僕の――」)
今ではない何時か、此処ではない何処か。
辿ろうとも決して辿り着けぬ輪廻の彼方にいた、かつての己自身だろうか。
「――君の進むべき道はそちらではないよ。……さあ、共に帰ろう」
聞き覚えのある穏やかな声が龍彦を呼び、手を差し出してくる。
“彼”が本当にそうであるのか確かめたいと、龍彦は強く思った。
手を伸ばしたいと、そう思った。
だが、どれほど焦がれようとも過去は過去であり、どれほど手を伸ばしても決して届かないことを、龍彦は知っている。
「……ごめんね。僕は、行かなければならないんだ」
今は、為すべきことがある。――為さねばならないことが。
一人の少女を惑わす影朧を、在るべき場所に導いてやらなければならないのだ。
「さようなら、いつかの僕――」
龍彦は桜が見せた幻に背を向け、“前”へと駆け出した。
もう振り返ることはなく、迷うことはなく、頂上を目指して、連なる鳥居を抜けてゆく。
その背を押すように、桜吹雪が舞っていた。
大成功
🔵🔵🔵
雨埜・舜
相棒の哉(f21532)と
周囲を見廻せど哉の姿が無い
逸れてしまったのだろうか
探しに行こうと歩み始めた瞬間
ゆらり、現れた人影
――先程まで脳裡に在った、主の姿だ
主、なぜ此処に?
歩み寄り声を掛ければ、
いつも名前で呼んでくれと言っているだろう、と微笑む貴方
もう逢える筈が無い、これは現では無い――
そう解っているけれど
その声や顔立ちは確かに若き頃の彼のものだった
……八重子、だったな
あの娘もこんな気持ちになったのだろうか
主からの甘き忠告に恭しい礼を返し
有難うございます。しかし自分は行かなければならない
向こうで自分を待つ子が居るんです
主、また。またいずれ
自分の命が潰えた時に逢いましょう
穏やかに微笑んだ
鳩宮・哉
相棒の舜(f14724)と
舜?
しゅん、どこ?
さっきまで一緒にいたきみがいない
不安に思ったのも束の間
一歩踏み出せばふらりと現れたきみ
舜!どこに行ってたの!
もう、心配したんだから!
「すまない」っていつものように微笑む相棒
でもね、なんだか違うんだ
俺の知ってる舜じゃない
「此処は危険だ。一緒に戻ろう」なんて、きみが言うはずがない
きみは、きっと――
ねぇ、舜はどこ?
……
本物の舜は何処だって聞いているんだ
俺の舜を、何処に隠したんだよ
まさか今頃、きみも、まやかしに……?
まさか、きみの大切なひとと、――きみの主と――
いやだいやだ嫌だ!
早くきみのもとへ行かないと
邪魔だ、お前に用は無い!
幻を振り払い迷宮を駆け抜けた
――駆け抜けた風に思わず目を閉じたのは一瞬。
それから頬を擽るように撫でる桜花に再び目を開けた時には、既に、異変は始まっていた。
周囲を見渡せど淡い桜色の風景が広がるばかりで、雨埜・舜はつい先程まで傍らにあったはずの相棒の姿を探す。
逸れてしまった、否、そうさせられてしまったのだと理解するまでに、さほど時間は掛からなかった。
影朧が潜む迷宮ならば、そのような罠の一つや二つ、仕掛けられていてもおかしくはないだろう。いずれにしても探しに行かなければと歩み始めた次の瞬間、舜は、目の前にゆらりと現れた人影に瞬いた。
「……貴方は、」
先程まで舜の脳裡に在った、“主”がそこにいた。
「主、なぜ此処に?」
歩み寄り、掛けた声には少しの困惑。
「……いつも、名前で呼んでくれと言っているだろう」
けれどそれを気にすることなく、かつての主は穏やかに微笑みながら、舜の良く知る声で告げた。
もう逢える筈が無い、これは現では無い――。
これは幻朧桜が見せる幻に過ぎないと、舜は理解していた。
――理解している、筈だった。
なのに、目の前に立つ青年の声や顔立ちは、確かに若き頃の彼のもので。
もう何処にもいない筈の彼が今、此処に――手を伸ばせば届く所にいるのだと惑わされそうになる心地を、舜は覚えていた。
(「……あの娘も、こんな気持ちになったのだろうか」)
舜はカフェーで見かけた八重子の姿を思い出す。
影朧がその姿を変えただけの存在だったとしても、二度と逢えないと思っていたひとに再び逢えたとしたら。
手を伸ばしてしまったとして、責めることが出来ようか。
「さあ、此処にいては危険だ。共に帰ろう」
思考を巡らせている間にも、かつての主はそう言って舜に手を差し伸べてくる。
しかし、舜は惑わされることなく、その甘き忠告に恭しく礼を返した。
「有難うございます。しかし自分は行かなければならない。……向こうで、自分を待つ子が居るんです」
舜は青年の傍を擦り抜けると、今度こそ、目の前に続く無限の鳥居へ踏み出した。
そうして、最後にもう一度“彼”へと振り返り、穏やかに微笑んだ。
「……主、また。またいずれ、自分の命が潰えた時に逢いましょう」
その、刹那。
そうか、と小さく笑ったかつての主の幻は、桜吹雪の中に掻き消えた。
「――舜? しゅん、どこ?」
さっきまで一緒にいた舜が、瞬く間に消えてしまった。
ひとりきりで桜色の世界に取り残されてしまった鳩宮・哉は、舜を探して歩き出す。
「大丈夫か、哉」
胸の奥底から湧き上がる不安をぎゅっと抱きしめたのも束の間のこと。
何処からともなくふらりと現れた舜の姿に、哉は満面に喜色を浮かばせるものの、すぐにぷっくりと頬を膨らませた。
「舜! どこに行ってたの! もう、心配したんだから!」
「ああ、哉、すまない。往こうか」
いつものように微笑みながらも、舜は哉が進もうとしていたのとは逆の方向に向かって歩き出す。
「……舜。どうしてそっちに行こうとするの?」
こっちだよ、と哉は舜の外套の裾を引っ張って無限に続く鳥居の方へ踏み出そうとするけれど、舜は緩く首を横に振り、優しく哉の手を取った。
「此処は危険だ。一緒に戻ろう」
舜がそう告げた瞬間、哉の紅の瞳に、冷えた色が差す。
「戻ろうだなんてそんなこと、きみが言うはずがない。……ねぇ、舜はどこ?」
唇から溢れた音もまた、氷よりも冷たいものだった。
けれど舜はそれに気づくことなく、先程までと変わらぬ微笑みを浮かべていて。
「どうしたんだ、哉。俺なら此処に――」
「――本物の舜は何処だって聞いているんだ。俺の舜を、何処に隠したんだよ!?」
怒りを剥き出しにしながら叫んだ哉は、そこではたと気がついた。
(「まさか今頃、きみも、まやかしに
……?」)
だとすれば、舜の前に現れたのは――。
(「まさか、きみの大切なひとと、……きみの主、と――」)
もしも舜が、その手を取ってしまったら。
そうしたら、哉は再び、この世界に――。
「いやだ、いやだ嫌だ!」
「舜、」
「邪魔だ、お前に用は無い!」
哉はぶんぶんと首を横に振り、繋がれた手を乱暴に振り払うと、地を蹴って舜と距離を取る。
(「はやく、早くきみのもとへ行かないと――」)
幻の舜にはもう目もくれず、哉は一目散に連なる鳥居のトンネルを駆け上がっていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
あれ、せーちゃん(f00502)おらん
まぁええか。その内、会うじゃろうし
一歩足を踏み出せば、その前にある姿
せーちゃん、先回り……というわけでもない
横におったもんが突然前におるなんておかしいもんなぁ
それに、戻ろうとは
どこにじゃ
共に往こうとは、言うじゃろが
戻ろう、などとあの友が言うはずがない……絶対言わんな
真似るならもう少し上手にやらんと
ん、とゆことはせーちゃんの前にも誰か現れとるじゃろな
……まぁ、絆され騙されるなんて想像できんわー
十中八九、そうか、しかし俺は往く(雅な笑み)じゃろ~
…今のちょっと似とったな
わしも追いつかんとな
偽物のせーちゃん、悪いがわしはここを往く
戻るなら一人で戻っておくれ
筧・清史郎
らんらん(f05366)と共に在ったはずが、逸れてしまったか
まぁ目的の場所は同じ、探さずとも会えるだろう
そう迷いなく桜舞う道を進んでいれば
目の前に現れた友は、戻ろうなどと言う
ふと見回し天仰げば、咲き誇る幻朧桜
らんらん、といつも通り呼んではみるけれど
…桜の幻影に、この俺が惑わされるとでも?
本物のらんらんならば、逸れれば躊躇なく先へと進むはず
待っていたとしても、きっとその時はこう言うだろう
せーちゃん、早よいこ、と
外見だけ真似たところで、何も心動かされない
偽物のらんらん、俺は本物のらんらんと合流せねばならないからな
悪いが、遊んでやる暇もない
さぁ、せーちゃん遅いとらんらんに言われぬよう、先を急ごうか
「あれ、せーちゃんおらん」
隣にいたはずの友の姿がいつの間にか消えていたことに、終夜・嵐吾はゆるりと瞬くものの、
「……まぁええか。その内、会うじゃろうし」
特に気にすることもなく、一歩足を踏み出せば――はらはらと舞う桜吹雪の向こうに、隣から消えたはずの友の姿。
「お、せーちゃん」
「らんらん、やはりここは引き返したほうがいい」
戻ろう、と今来た道を引き返そうとする清史郎に、嵐吾はほんの少しばかり訝しげに目を眇めた。
「――戻ろう、とは。……どこにじゃ」
目の前にある友の姿は、ふたいろ灯す虹彩までもが瓜二つで。
けれど、それが本物でないことは、嵐吾には考えるまでもないことだった。
「共に往こうとは、言うじゃろが。戻ろう、などとせーちゃんは絶対に言わん。真似るならもう少し上手にやらんと」
けれど、そこで嵐吾は一つの可能性に思い至る。
「ん、とゆことはせーちゃんの前にも誰か現れとるじゃろな」
己の前にこうして清史郎が現れたということは、おそらくは清史郎の前にも、こうして誰かが現れているのだろうと。
しかし、嵐吾の心には何の焦りも不安もない。ふ、と緩く目を細めて、笑う。
「……まぁ、絆され騙されるなんて想像できんわー。十中八九、そうか、しかし俺は往くじゃろ~」
嵐吾が浮かべてみせたのは雅な笑み。今のちょっと似とったなと満足げに頷くと、嵐吾は幻の清史郎を置いてその先の鳥居に向かう。
「せーちゃんならとっくに先に進んどるじゃろうし、わしも追いつかんとな」
「――らんらん、」
呼び止める声に一度だけ振り返り、嵐吾は静かに告げた。
「偽物のせーちゃん、悪いがわしはここを往く。……戻るなら一人で戻っておくれ」
一方、その頃。
「……らんらんと逸れてしまったか」
筧・清史郎もまた、隣にいたはずの嵐吾の姿が消えていることにふむ、と小さく声を落としていた。
とは言え、こちらも嵐吾同様に、特に焦りや迷いは見られない。目的の場所が同じであるならば、探しに行かなくともすぐに会えるだろうから、その必要もないと言ったほうが正しいか。
そうして桜舞う道へと踏み出せば、吹き抜けた風が踊らせる無数の桜花に紛れ、清史郎の前にも嵐吾が姿を現していた。
「――らんらん、」
清史郎がいつものように呼ぶ声に、嵐吾は清史郎が良く知るふにゃりとした笑みを浮かべて。
「せーちゃん、こんな所におったか。さ、戻ろ」
「……」
清史郎はふと辺りを見回し、それから天を仰ぐ。
何処を見ても、視界を覆わんばかりの幻朧桜が咲いている。
此処に居たら、綻ぶ桜に惑わされたとておかしくないだろう。清史郎が抱いたのはそんな印象だった。
やがて、清史郎は小さく息をついた。
「……桜の幻影に、この俺が惑わされるとでも? 本物のらんらんならば、逸れれば躊躇なく先へと進むはず」
外見だけを真似た所で、心を動かすものは何一つない。
清史郎は心なしか冷えた瞳で幻の友を見つめながら、静かに続ける。
「先で待っていたとしても、きっとその時はこう言うだろう。――せーちゃん、早よいこ、と」
そのまま幻の嵐吾の傍を通り過ぎようとしながら、清史郎は告げた。
「悪いが、偽物のらんらんよ、遊んでやる暇もない。俺は本物のらんらんと合流せねばならないからな」
瞬きの間に降り注ぐ桜吹雪の中に、幻の姿は消えていた。後は振り返ることもなく、清史郎は先を急ぐ。
「さぁ、せーちゃん遅いとらんらんに言われぬよう、先を急ごうか」
大成功
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草野・千秋
女子供ばかりを狙う辻斬りなんて許し難いですね
しかも死んだ後も野次馬に囲まれるだなんて
紗矢子さんは、妹さんは「それ」の犠牲に遭ってしまったのか
(憤りに拳を握り)
妹なら僕にもいました
邪神とその組織に14歳で殺された
奇遇ですね、同じ14歳だなんて
僕の妹もかわいかった
母があの男……父とと離婚してからは
尚更すべてから守らなきゃって誓ったのに
幻朧桜の淡色を纏い現れたのは
そんな死んだはずの妹
母とよく似た顔をしている妹
あの事件で辛かっただろうね、痛かったね、とその手を取り
涙が出そうになるけど、ぐっと堪えて
鎮魂歌のシンフォニックキュアを歌う
過去は過去、妹は妹
僕は前に進まなくちゃ
(黙祷して)
……おやすみなさい
「……女子供ばかりを狙う辻斬りなんて許し難いですね。しかも、死んだ後も野次馬に囲まれるだなんて」
草野・千秋の心を満たすのは、八重子と紗矢子を襲った理不尽な悲劇に対する憤りだった。
(「紗矢子さんは、妹さんは“それ”の犠牲に遭ってしまったのか」)
胸の奥底から込み上げてくる想いに強く拳を握り、千秋は連なる紅い鳥居を見やる。
そうして思い起こすのは、千秋自身もまた喪った、一人の妹のことだった。
――太古から蘇った邪神とその眷属達に、紗矢子と同じ、14歳で殺されてしまった妹。
兄として、守らなければと思っていた――母が父だった男と別れてからは、尚のこと、全てから守らなければと誓った唯一無二の存在。
「――、」
幻朧桜の花吹雪を纏い現れた少女の名を、千秋は優しく紡いだ。
少女もまた、千秋の知っている声で、ただ一人の兄を呼ぶ。
ここは危ないから一緒に帰ろうと、微笑みながら手を差し伸べてくる。
母とよく似た顔をしている、千秋の記憶の中にある姿と、何一つ変わらない少女がそこにいた。
「……辛かっただろうね、痛かったね」
涙が出そうになるのをぐっと堪えながら少女の手を取り、千秋は優しくシンフォニック・キュア――鎮魂歌を歌う。
(「……僕は、前に進まなくちゃ」)
千秋にはわかっていた。過去は過去であり、妹は妹。囚われて歩みを止めることなく、けれど想いは確りと胸に抱いたまま、先へ、前へ進まなければならないと。
千秋は静かに目を閉じ、祈りを捧げる。幻朧桜の花弁がふわりと頬を撫でる感触に再び目を開いた時には、妹の幻は消えていた。
あとには、ただ、優しく咲き誇る桜の花弁が、はらりと舞い踊るだけ。
「……おやすみなさい」
大成功
🔵🔵🔵
二天堂・たま
さてと…八重子を追って扉を開いた途端、異世界が広がっているとは思わなかった。
これは幻朧桜とやらが魅せる幻なのかな……。
猟兵の追跡に気付いていないはずの八重子が、ワタシを出迎えるとは。
確かにキミは大切な人だ。
ワタシ達はキミの元に辿りつき、キミを惑わす幻を祓うために来た。
キミにとって幸せな夢を醒まそうとするワタシにとって、八重子の笑顔ほど後ろ髪を引かれるものはないな。
さて…では本物のキミを追うとしよう。
影朧は野放しにしておけないのだ。
八重子の為でもなく、正義の為でもない。
ワタシは猟兵として、役割を果たすだけだ。
八重子を追い、古びた空き家の扉を開いた途端、目の前に広がった光景は、二天堂・たまの想像を遥かに超えるものだった。
(「これは、幻朧桜とやらが魅せる幻なのか……」)
幻朧桜の無限回廊が続く非日常の異世界、共にこの場へ足を踏み入れた同胞達と隔てられた空間でたまが出逢ったのは、他の誰でもない、堂薗・八重子だった。
影朧が八重子を惑わせたように、自分達を惑わす存在が現れないとは限らない――事前の情報通りならば、幻朧桜で埋め尽くされたこの空間、そして目の前に現れた八重子そのものが、そうであるのだろう。
「猟兵の追跡に気付いていないはずのキミが、ワタシを出迎えるとは」
「……ここは危険です。どうか、お戻り下さい」
幻の八重子は縋るようにたまを見つめながら、ここに居てはいけないという。
それは警告のようでもあり、懇願のようにも聞こえた。
「――八重子、確かにキミは大切な人だ。ワタシ達はキミの元に辿りつき、キミを惑わす幻を祓うために来た」
けれども、たまは動じることなく八重子を見つめ、静かに告げる。
「キミにとって幸せな夢を醒まそうとするワタシにとって、キミの笑顔ほど後ろ髪を引かれるものはないな」
だが、この先に進まなければならないことをたまは知っていた。
故に迷うことなく踏み出し、永遠に続いているような鳥居と共に連なる石段を登っていく。
「さて……では本物のキミを追うとしよう」
影朧は、野放しにしておける存在ではない。
(「ワタシは――」)
八重子の為でもなければ、正義の為でもなく。
ただ、一人の猟兵として、己に与えられた役割を果たすだけだ。
大成功
🔵🔵🔵
祇条・結月
……幻、かな
それとも現実なのかな
……どっちでも。やるべきことは変わらないよね
行こっか
石段を上るとその前にいるのは
……じいちゃん。
神社とか、一緒に来たよね。
こんな風に桜を見て、歩いて。公園でお弁当とか食べて
……あぁ。行くなって、言ってくれるの。そうやって、一緒にいれたらどれだけいいだろう。
……でも、ごめん。
行かないと
どれだけ本物そっくりで。どれだけ、追い求めてる姿でも
……もう、こんな風に僕と笑ってくれることができないのを僕は知ってる。そうしてしまったのは、僕なんだから。
……だから、ごめん
幻だって、いうならきっと何もしてこないと思うけど
万が一攻撃があるなら≪鍵ノ悪魔≫で躱して抜ける
(「……幻、かな、それとも現実なのかな」)
はらはらと舞う淡い桜色。祇条・結月がそっと手のひらを差し出せば、ふわりと舞い降りる花弁はあたたかな光を宿しているよう。
それを包み込むように軽く手を握り込んでから、結月は再び手を開き、花弁を解き放つ。
「……どっちでも。やるべきことは変わらないよね」
先程まで一緒にいたはずの同胞達の姿は、瞬く間に世界を覆った桜吹雪に消えてしまった。
これが現であれ、幻であれ、全てを終わらせる為にも先に進まなければならないことに変わりはない。
結月は小さく頷き、歩き出す。そのまま無限に連なる鳥居を潜り、ゆっくりと石段を上がっていく。
――その時。
桜吹雪の向こうに見えた人影に、結月は足を止める。
そうして茜色の瞳を瞬かせ、静かに呼び掛けた。
「……じいちゃん」
呼ばれれば、皺くちゃの顔で老人は笑い、そして、結月の方へと一歩踏み出した。
老人は結月の知っている声で、行くな、と言う。一緒に戻ろう、帰ろう、と紡ぐ。
「行くなって、言ってくれるの。そうやって、一緒にいれたらどれだけいいだろう」
どこまでも優しく結月を案じる声に、胸が締め付けられるような心地を覚えながらも、結月は微かな笑みを浮かべて。
「神社とか、一緒に来たよね。こんな風に桜を見て、歩いて。公園でお弁当とか食べて――……」
共に過ごした時間、共に行った様々な場所。脳裏に浮かんでは消える様々な情景、そのひとつひとつを噛み締めるように束の間目を閉じてから、結月は緩く首を横に振った。
「……でも、ごめん。僕は行かなくちゃ」
どれほど似ていても、同じように見えても、どれだけ追い求めている姿であっても。
こんな風に共に笑い合うことも、共に歩むことも、もう二度と叶わない。――だって、
(「そうしてしまったのは、僕なんだから」)
結月は一瞬唇を噛み締めて、それから、想いを絞り出すように声を落とした。
「……だから、ごめん」
口をついて出た謝罪の音は、何処にもいない人に向けてのもの。届かぬとわかっていても、行き場を失くした想いを零さずにいられなかったのは――“此処”が、そういう世界であるからこそだろうか。
結月はそのまま前へ、彼方まで続く石段を上ってゆく。
その、刹那――。
「……っ、」
桜吹雪と共に背を押すような優しい声に結月が振り返ると、そこにはもう、誰もいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼心情
成る程…辻斬り、か。
だが八重子がいたとしても犠牲者が増えただけだろうな…。
(かつての仲間達と対峙し)
しかし状況から察するに…影朧の攻撃と見るべきか。
▼SPD
…と驚いてみたが、幻の仲間達を並べられてもな?
いやまあ、懐かしいし嬉しくもあるが…。
同じく神隠しで世界を渡った者がいるとは思えないし
何よりもうこの世にはいない筈だからな。
(所持武器を一瞥し)
それに――かつての仲間達との絆はここに在る。
…だが、影朧の空間に仲間がいるなら丁度良い。
お前達、少し手伝え(爽笑)
非協力的なら放置だが、
紗矢子や八重子らの親族の幻や思念体が出せないかは試そう。
もし会えれば願望等を聞いておく。
仲間は自由、アドリブ歓迎
(「成る程……辻斬り、か」)
八重子の妹、紗矢子の命を奪った存在。
それは運命だと片付けてしまうには、あまりにも理不尽なものだった。
だが、その場に八重子がいたとしても、犠牲者が増えただけだっただろうとアネット・レインフォールは思案する。
桜吹雪に紛れてアネットの前に現れたのは、彼の、かつての仲間達であった。
仲間達は口々に再会を喜びながらも、ここは危険だと告げてきた。
「……これは、影朧の攻撃と見るべきか?」
アネットは表情に僅かな驚きの色を滲ませながらも、冷静に状況を分析する。
「だが、見知った顔とは言え、幻を並べられてもな?」
懐かしく、嬉しいことに変わりはないが、アネットと同じように“神隠し”により世界を渡った者がいるとは思えない。
いたとして、この場所に都合よく現れるなどということはないだろう。
(「……何より、もうこの世にはいない筈だからな」)
アネットは小さく息をつき、手にした得物を一瞥する。
「そもそも俺の仲間達ならば、戦場にいるというのに引き返そうなどとは言わないな。――それに、かつての仲間達との絆はここに在る」
幻朧桜が見せる幻を見せかけのものだと断じた次の瞬間、アネットの前からかつての仲間達の姿が一瞬にして消え失せていた。
後には、ただ、全てが桜色に染まった世界と、どこかへ誘おうとしている無限の鳥居と石階段が続くだけ。
「ふむ、少しでも力が借りられるならばと思ってはいたが、 ……やはり幻は幻か」
それでも、二度と見られないと思っていた懐かしい顔ぶれに出逢えたことは、幸いだっただろうか。
一度幻と見破った以上、これ以上アネットを惑わす存在が現れることがないだろう。
アネットは静かに歩き出す。その先に待つ影朧と、一人の少女の元へ。
大成功
🔵🔵🔵
七霞・風花
ティーシャさん(f02332)といた、のだけれど……?
はて、ここは……そしてティーシャさんがいないですけれど
進めど桜
進めど鳥居
進めど石段
うすぼんやりと、影のようなものがたゆたっているようですが
あぁ、あぁ、そういうものなのでしょうか
きっと恋焦がれる誰か、恨み燻る誰か、心許す誰か
そういった誰かとの逢瀬の世界
でも、私の前には影がたゆたうのみであって
それは、まあ……私にとってそんな誰かはありえないのでしょう
天涯孤独、ひとりぼっち
迷いようもなく、惑うこともなく、道をいく
でも影はあった
つまり……
私にとってそういう誰かが出来つつあると
そういう事なのでしょうかね
ふと最近よくいるエルフを思い出し、くすりと笑った
ティーシャ・アノーヴン
風花(f13801)さんといたはずなのですが。
おかしいですわね、いつの間に一人に?
ともあれ進んでみましょう。
同じところにいるのですし、どこかで合流出来るはず。
ッ!?
何故、貴方が?
私のように森の掟を破ってここまで来たのですか?
いえ、そんなはずは・・・。
貴方は私と違い、聡明な弟。
規律を守り、伝統を重んじる、自慢の弟。
そう、森を出ると言った私を殺してでも止めようとした、真面目過ぎる弟。
だからこそこれは幻、貴方が私を追ってくるわけがありません。
私は進みます。これからも。
でも、久しぶりに会えたことは、少し嬉しかったです、レヴィア。
※弟の一人称は「私」、口調は丁寧で少し嫌味っぽいです。
アドリブでOKです。
「……っ、ぅわっ!?」
それまで己を支えてくれていた感覚が急に消え失せて、七霞・風花は慌てて雪色の翅を羽ばたかせる。
翅の動きに合わせてふわり、踊るように舞った花弁が、はらりと零れ落ちてゆくのが見えた。
「はて、ここは……そしてティーシャさんがいないですけれど」
どこですかー? なんて呼び掛けてみても、答えが返ることはなく。
どこまでも続く桜色の世界は、小さな風花にはより大きく感じられるものだった。
桜の雨が降る中を、風花はふわふわと飛んでいく。
――進めど桜。
進めど鳥居。
進めど石段――。
どこまでもどこまでも、無限に続く空間の中、行く手を遮るように薄ぼんやりと影のようなものが揺蕩っているのを風花は感じ取っていた。
「……あぁ、あぁ、これはー……、そういう、ものなのでしょうか」
何とはなしに、風花は理解する。
――“ここ”は、“そういう”場所なのだと。
恋焦がれる誰か、心許す誰か、あるいは、恨み燻る誰か。
夢と現、過去と現在の狭間。そういった“誰か”との逢瀬の世界だと。
けれど、風花は小さく息をつく。
(「まあ……私にとってそんな誰かはありえないのでしょう」)
天涯孤独、ひとりぼっち。ずっとそうして生きてきた風花には、そういう相手がそもそもいないのだ。
だから迷いようもなく、惑うこともなく、どこまでも続く道を行く――ただ、それだけ。
それでも、風花の目の前を揺蕩う影は、その輪郭さえおぼろげだけれど、どこかあたたかいような気がして。
そして、どことなく風花の身を案じてくれているようで。
「つまり、今の私にとってそういう誰かが出来つつあると。……そういう、ことなのでしょうかね?」
そうして、風花は最近良く共にいるエルフの女性を思い出し、くすりと、どこかくすぐったそうに微笑む。
おぼろげな影は最後までその輪郭を結ぶことなく、先へ進んでゆく風花を見送っていた。
「……おかしいですわね、いつの間に一人に?」
時を同じくして、ティーシャ・アノーヴンもまたいつの間にか肩から消えた柔らかな重みに首を傾げていた。
悪戯だろうかと辺りを見回しても、幻朧桜の花弁が舞っているだけで、気配を全く感じさせずに風花が身を隠せるような場所はない。
鳥居の影に隠れているのなら、飛んでゆく音が聞こえたはずだから。
「ともあれ、先に進んでみましょう。……同じ所にいるのですし、どこかで合流できるはずです、きっと」
一つ頷き、一歩踏み出した――次の瞬間。
桜吹雪に紛れて現れた人影に、ティーシャは目を瞠った。
「……ッ!? ――何故、貴方が?」
「全く、こんな所で迷っていたのですね。わざわざ手間を掛けさせないで頂きたいのですが」
そこに立っていたのは、ティーシャと良く似た気配を纏う、エルフの青年。だが、ティーシャにしてみれば、ここにいることは決してありえない――ティーシャの弟だった。
「私のように、森の掟を破ってここまで来たのですか? いえ、そんなはずは……」
掟を破り、自由を求めて故郷の森を飛び出したティーシャとは違い、聡明で規律を守り、伝統を――エルフとして在るべき姿を重んじる、ティーシャにとっては自慢の弟だ。
「何故ここにいるかなど、お答えするまでもないでしょう。さあ、戻りますよ、……姉さん?」
その言葉に、ティーシャはすぐに首を横に振った。
「……いいえ、――いいえ、貴方は私の弟ではありませんね? あの日、森を出ると言った私を殺してでも止めようとした、真面目過ぎる貴方が、私を許すはずはありません」
森の規律に縛られた彼が、それを破ってまで己を追ってくるはずはないと、ティーシャは断じる。
「――私は進みます。これからも。様々な世界を渡り、森の中では決して知ることが叶わなかった、たくさんのことを知るために」
幻だとわかれば、ティーシャの心を揺さぶるものはもう何もなかった。
そして、弟の幻をよそに、ティーシャは再び歩き出す。
「……でも、たとえ幻でも。久しぶりに会えたことは、少し嬉しかったです、レヴィア」
もう二度と呼ぶことが叶わぬと思っていた名を紡ぎ、ティーシャは穏やかに微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御軍・カエデ
延々続く桜並木。
ソレ自体は嫌いでないが。
頭を掠めるのは、何時だって思い出したくない事ばかり。
ああ視た確かに視た。
花雨の中佇む學徒の女性を。
風に流れる長い黒髪。楚々と微笑む花のかんばせ。
己と同じ桜の外套を羽織って。己と対の太刀を佩いた。
俺の――いもうと。
『おにいさま』
鈴を転がす様な聲は幻であったろうか。
細めた双眼は、既に毒を孕むだろうか。
やくそく契ったあの日の様に。
……ああ、ひどく舌が渇く。
戦帰りのあの朝も、赤く染まったあの夜も。
頭を掠めるのは、何時だって。
俺は。
俺は八重子さんを追わねばならない。
そう自分に言い聞かせて、逃げるように駆け抜けた。
どこまでも、何処までも――延々と、永遠に続く桜並木。
それ自体は嫌いではないが、枯れることなく咲き続ける幻朧桜の世界にあって、御軍・カエデ(色葉錦・f22482)の頭を掠めるのは、何時だって思い出したくないことばかりだった。
――胸の奥底から込み上げてくる、言葉にし難い感情を吐き出そうと息を吸った、その時。
「ああ
、……、」
まるで桜色に染まった天上の空から注ぐような花雨の中に、カエデは確かに“視た”。
風に流れる濡羽色の長い髪。楚々と微笑む花のかんばせ。
(「俺の――」)
カエデと同じ桜の外套を羽織り、腰にカエデと対の太刀を佩いた――學徒の娘。
「おにいさま、」
その姿も、鈴を転がすような愛らしい声も、柔らかく細められた双眸も、唯一つのやくそくを契ったあの日のように、カエデを囚えて離さない。
「――、」
掠れた声で、カエデは娘の――妹の名を紡ぐ。
呼ばれた名を慈しむように、娘はあえかに微笑んだ。
戦帰りのあの朝も、全てが赤く染め上げられたあの夜も。
カエデの頭を掠めるのは、何時だって思い出したくないことで。
――そして、今も。
(「……ああ、」)
ひどく喉が渇くのを、カエデは感じていた。
此処に居てはいけないと優しく諭す声が、鼓膜を伝い胸の奥底まで沁み込んでくる。
誘う声に身を委ねたら、共に帰ることが出来るのだろうか。
はらはらと舞う桜花の雨に溶けてしまえたら、全て、赦されるのだろうか。
(「共に、帰る? ……何処に。――俺は、」)
帰ることなど出来ない。此処には、為すべきことがあって来たのだから。
「……俺は、八重子さんを追わねばならない」
そう自分に言い聞かせながら帽子を深く被り直し、カエデはそれ以上娘に目をくれることなく、その場から逃げるように連なる鳥居を駆け抜けた。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
美しい花は人の心を惑わせると云う
惑わされるもまた一興
…然し、今は先を急ぐでな
躊躇う事無く迷路に足を踏み入れ
迷い無く桜舞うを石段を進む
赤い門…確か鳥居と云ったか、それを潜る度に現より離れゆく感覚を抱く
まるで幽世へ近付いている様な――
刹那、桜吹雪に隠れて見えたのは
懐かしいグレースターサファイアの彩
今は亡き弟の姿
戻ろう、か…久しいな
幼い頃、親に内緒で探検へ出掛けようとした日を思い出す
あの頃は好奇心旺盛な弟を私が引き止めていたんだったか
ふふ、今となっては懐かしい
まさか立場が逆になるとは思わなかった
――すまない、セラ
お前の願いは聞いてやれない
決して顔を見る事はせず
破魔の力で幻を退け、澱みなく歩を進めよう
美しい花は、人の心を惑わせると云う。
「……然し、今は先を急ぐでな」
惑わされるもまた一興ではあるけれど、生憎と今はその時ではない。
アルバ・アルフライラは微かな笑みと共に独り言ち、躊躇うことなく幻朧桜の迷宮に足を踏み入れた。
桜色の大地を踏み締め、アルバは迷いなく真っ直ぐに桜舞う石段を進んでゆく。
「……これは、確か鳥居、と云ったか」
石段に沿って連なる赤い門。少しの傷も汚れもなく、まるで今しがた造られたばかりのように艶めくそれをひとつ潜る度に、現から離れ、さながら幽世へ近づいているような感覚をアルバは抱いていた。
幻朧桜に覆われたこの空間そのものが、あるいはそうであるのかもしれない。
ここは、傷つき虐げられた者達の“過去”から生まれた影朧が“今”を生きる少女と共に身を潜める場所。
即ち、過去と今とを繋ぐ場所だ。
刹那、桜吹雪の向こうに見えた人影に、アルバは青きスターサファイアの瞳を瞬かせた。
「お前は――」
向けられた瞳の彩はグレースターサファイア。
己と瓜二つの、今は亡き弟。
かつて共に在った片割れが、そこにいた。
「……久しいな」
微笑んで兄を呼び、戻ろう、と、記憶の中に今も在る姿で紡ぐ弟に、アルバは何処か懐かしい心地を覚えながら、在りし日のことを思い出していた。
それは、まだ幼かった頃。親に内緒で、探検へ出掛けようとしたことがあった。
あの頃は、好奇心旺盛な弟を引き止めていたのはアルバの方だった。
「ふふ、まさか立場が逆になるとは思わなかった」
今ならばきっと、己が弟の手を引いて、 彼方此方へ連れ出していたことだろう。
それほどまでに、この“世界”は――美しいもので満ち溢れている。
「――すまない、セラ。お前の願いは聞いてやれない」
けれど、それを片割れに見せてやることは叶わない。伸ばされた手を取ることも。
ゆえに、だろうか。幻だとわかっていても、詫びずにいられなかったのは。
あるいは、常世と幽世の狭間のようなこの場所でなら――などと、考えることはしなかった。
そのような奇跡は、決して有り得ぬこと。
再び踏み出したアルバは、決して彼の顔を見ることはせずに。
心惑わす幻を祓い、退けながら――向かうべき場所を目指し、歩を進めてゆくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『血まみれ女学生』
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POW : 乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD : 血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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桜の雨が降り続く中、どれほどの時を歩いただろうか。
永遠のような時間の果てに長い石段の最後の段を上り終えた時、再び一堂に会した猟兵達は、一面に敷き詰められた桜花の絨毯と、正面に聳え立つ一際大きな幻朧桜の樹を目にすることとなった。
大樹の根元には、二人の少女。
一人は、カフェーで多くの者がその姿を目にした堂薗・八重子。
そして、もう一人は――。
「……っ!? ――だれ……?」
猟兵達の気配に先に気づいたのは、もうひとりの少女だった。
「どうして、ここに……? 嫌、だめ……っ」
それにつられるようにこちらを見た八重子が大きく目を瞠り、華奢な身体で少女を隠そうとする。
自分以外の者に、知られてはならない存在。
知られてしまったら、消されてしまう存在。
桜舞うこの永遠の帝都にあって、多くの人々から恐れられながらも、救うべきものとして知られている存在。
目の前に現れた彼らが、己がこうして匿っていた影朧を倒すために来たのだと、八重子はすぐに理解したようだった。
「お願い、あたしからもう紗矢子を奪わないで……!」
ゆえに、影朧である少女を守るように一歩前に出た八重子の声は、悲痛な響きを帯びていた。
だが、八重子自身が戦う力を持っていないことは、誰の目にも明らかで。誰かが言葉を掛けたなら、それを聞き入れるくらいの思慮分別はまだ持ち合わせているだろう。
八重子は、おそらくカフェーで直接言葉を交わした者にも気づいている。だからこそ、見逃してくれと訴えるのだ。
その時、影朧の少女が静かに立ち上がった。全身が痛々しいほどに血に塗れた少女は八重子よりも更に一歩前に出て、八重子を守るように一人、猟兵達と対峙する。
「おねえちゃんを傷つけるやつは、ゆるさない……!」
影朧の少女は黒い涙を流しながら、猟兵達を鋭く睨めつけ、長く伸びた爪を閃かせた。
草野・千秋
隠そうとしなくても大丈夫です
紗矢子さんも八重子さんも傷つけはしませんよ
本当です
だってお互い姉妹として想いあっているのでしょう?
僕の亡き妹も僕を好きと言ってくれました
世界で唯一の存在だって
影朧とはいえど
あなたも八重子さんにとっては
まぎれもなく妹の紗矢子さんなんです
もしかしたらこの事件は
姉妹がいちからやり直せる
チャンスなのかもしれませんね
影朧としての自分から解き放たれて
新しい人生を歩んでみませんか?
この歌であなたの綺麗な部分だけを残して
専守防衛
極力攻勢には出ず歌UCによる浄化を目指す
第六感、戦闘知識で敵攻撃をかわし
盾受け、激痛体制で耐える
味方が攻撃されそうならかばう
皆さんが守れるなら痛くても笑顔
御影・龍彦
紗矢子さん、初めまして
…うん、確かに八重子さんにそっくりだ
こちらから危害は加えず言葉を交わす
攻撃されても『オーラ防御』『呪詛耐性』で耐える
多少の怪我は厭わないよ
八重子さんとは先程、カフェーでお話してね
その時、君のことを少し聴いたんだ
「あたしによく似た、可愛い妹がいた」
「今度こそ、守ってあげなくちゃ」
って、そう言ってた
君も自分の身を顧みずに
お姉さんを守ろうとしてる
本当によく似てるよ
でもね、どうか気づいて
血に塗れた自分の姿に
お姉さんが君を守れなかったと
自責の念に苦しめられていることに
紗矢子さん…八重子さんも
君達が一緒にいる限り
互いの心はけして癒えない
互いの苦しみを、君達は望む?
※連携、アドリブOK
「紗矢子さん、初めまして。……うん、確かに八重子さんにそっくりだ」
金の瞳を柔らかく細め、御影・龍彦は八重子に良く似た面立ちの――影朧の少女へと穏やかに告げる。
龍彦の手に得物はなく、指先に灯る魔力の欠片もない。影に棲まう精霊も主たる龍彦の意に従い、今は息を潜めたまま。
たとえ影朧の少女に傷つけられようと、こちらから危害を加えるつもりは龍彦にはなかった。
傷つき斃れ、悲しみと苦しみを抱いて現世を彷徨う影朧の少女。
その魂を癒し、いつか来る“転生”の道へ導くこと。
それが、このサクラミラージュという世界ではごくありふれた理であり戦い方の一つであることを、この世界で生まれ育った龍彦はよく知っている。
「隠そうとしなくても大丈夫です。紗矢子さんも八重子さんも傷つけはしませんよ」
そう言いながら、草野・千秋は一歩前に出た。
「だって、お互い姉妹として想いあっているのでしょう? ……僕の亡き妹も僕を好きと言ってくれました。世界で唯一の存在だって」
兄として妹を亡くした千秋には、八重子が抱える喪失が痛いほどによく分かる。そして、己を慕ってくれていた妹の想いも。
それは、きっと紗矢子も同じだった。ゆえに、紗矢子がこの世に残した未練と後悔――姉への想いが、八重子の元へ影朧を導いてしまった。
「八重子さんとは先程、カフェーでお話してね。その時、君のことを少し聴いたんだ」
影朧の少女を見つめながらも、龍彦はちらりと八重子を見やる。
彼女と言葉を交わしたのは確かについ先程のことなのに、何故だか随分と長い時間が経っているような心地がした。
永遠に咲き続けながらこの地を淡く染める幻朧桜がそう思わせるのか、あるいは、外界と隔てられたこの空間そのものが歪んでいるからか。
いずれにしても、この世界は間もなく終わる。――否、終わらせる。
「……“あたしによく似た、可愛い妹がいた。今度こそ、守ってあげなくちゃ”……八重子さんは確かに、そう言っていたよ」
龍彦は八重子の言葉をゆっくりとなぞり、八重子の代わりに少女へと告げる。
影朧の少女は身を震わせながら、けれど、二人の言葉に耳を傾けていた。
「君も自分の身を顧みずに、お姉さんを守ろうとしてる。……本当によく似てるよ」
「……おねえちゃん、」
「さや、……」
龍彦の目に映る二人は、とても良く似ていた。
顔立ちだけではない。互いを想う、その心もまた。
「例え、あなたが影朧であっても、あなたも八重子さんにとっては、まぎれもなく妹の紗矢子さんなんです」
だから、千秋は思うのだ。これは、彼女達が一からやり直すことが出来る、チャンスかもしれないと。
「……紗矢子さん、影朧としての自分から解き放たれて、新しい人生を歩んでみませんか? この歌で、あなたの綺麗な部分だけを残して」
千秋はそう言うと、すっと息を吸い込んだ。
朝が来て、別れが来るのなら。一日のはじまりの朝なんていらない――。
大切な誰かを想う切なさを込めた歌声が、少女を柔らかく包み込む。
苦しみを、傷みを、優しく溶かそうとするかのように。
だが――。
「――っ、やめて……!」
影朧の少女は両耳を塞ぎ、己を変えようと、不安定な存在を更に揺さぶろうとする力に抵抗する。
千秋の歌は、目に見える傷を負わせるものではない。肉体を傷つけずに悪しき心を祓い、荒ぶる魂を鎮めるためのものだ。
「さやちゃん……!」
それでも、八重子の目には妹が苦しんでいるように映るのだろう。悲鳴にも似た叫びは、悲痛な響きを帯びていた。
「……あなた達も、わたしをころすの?」
影朧の少女の口から零れ落ちる冷たい音。同時に、少女の身体が黒い血の涙で覆われる。
けれども、それは即ち、二人の声や想いが、どのような形であれ少女の心に届いているという証に他ならない。
その時、一際強い風が大樹の桜を散らした。
淡い桜色の雨が降り注ぐ中で、血と怨念に塗れた影朧の少女は、まさに異質そのものであった。
痛ましいその姿を悲しげに見やりながら、龍彦は告げる。
「……紗矢子さん、どうか気づいて。――血に塗れた、自分の姿に」
「――ッ!」
「そして、お姉さんが君を守れなかったと、自責の念に苦しめられていることに」
影朧の少女は目を瞠り、それから己の両手を、その手のひらを見下ろす。
「そんなこと、ない……! わたし、わたしは……っ」
理解出来ないのか、受け入れられないのか、少女はふるふると首を左右に振るとすぐに顔を上げ、龍彦を鋭く睨めつけるだけだった。
少女にはきっと、己どころかこの世界の色さえもう見えないのだろう。
「紗矢子さん、……八重子さんも」
互いを想い合う二人だからこそ、事実を突きつけるのは酷な話かもしれない。
だが、それでは何も変わらない。それでは、誰も救われない。
ゆえに龍彦は二人をそれぞれ見やりながら、願うように続ける。
「君達が一緒にいる限り、互いの心はけして癒えない。それでも、……互いの苦しみを、君達は望む?」
「あなたに、何がわかるっていうの
……!?」
次の瞬間、激昂した少女が鋭く長く伸びた爪を龍彦へと向けた。
「――危ないっ!」
咄嗟に声を上げた千秋が身を挺するよりも、少女の爪が龍彦に届くほうが僅かに速かった。
けれど龍彦はそれを避けることなく、正面から受け止める。
肩を抉るように穿った傷みが、瞬く間に全身を駆け抜けてゆくけれど――。
それは、まるで、影朧たる少女の慟哭のようだった。
大成功
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ティーシャ・アノーヴン
風花(f13801)さんを再び肩に乗せて
そうですね。戦うことはいつでも出来ます。
先ずは何とか、戦うつもりのない方の出方を見ましょう。
弟の制止を振り切って森を出た私です。
本当は姉妹の在り方について何かを言う権利はないのかも知れません。
・・・先程の幻影が、まだ心に棘を残していますわね。
私は紗矢子さんからも八重子さんからも奪うつもりはありません。
でもこのままでは。
今はそんな傾向がなくとも、いずれ八重子さんは傷つきます。
紗矢子さん自身が、八重子さんを傷つけることになりましょう。
それは悲しすぎます。紗矢子さんも嫌でしょう?
攻撃されれば風花さんを抱きしめて背中を向けます。
抵抗の意思がないことを示すために。
七霞・風花
ティーシャさん(f02332)と
さて、目標を見つけたまではいいのですが……どうしたものでしょう
「お仕事とは言え、憚られるものがありません、か?」
同じ思いか
異なる思いか
再び会えたその肩にふわりと座り、問いかける
「必要とあらば同情の余地あれど滅してみせます。しかし他の道があるなれば……」
我々が手を下さない道も、あるのではないか
その結論が出るまでは、ティーシャ以外の仲間たちを詳しく知らないが……戦闘狂が動くようなら盾となる事をも視野に入れて
「いっそ力での対話の方が楽ですが……一先ず、始めましょう」
言葉の対話を
それでどうにもならないのであれば
「……そうならず。平和的に終わればいいのだけれども」
(「さて、目標を見つけたまではいいのですが……どうしたものでしょう」)
どこまでも果てのない桜色。
風に舞い、降り注ぐ無数の淡い花弁は、誰かが流す涙のよう。
それでも、そこは少女達にとっては楽園と呼べたのかもしれない。
そんな世界に、倒すべき影朧と、守るべき少女がふたりきり。
けれど、ここでなら、きっとずっと一緒にいられる――はずだった。
「お仕事とは言え、憚られるものがありません、か?」
互いを大切に想う二人を、引き離さなければならない現実。
迷宮を抜け、再び逢えたティーシャ・アノーヴンの肩にふわりと座り、七霞・風花はぽつりと零した。
目の前に現れた影朧の少女は、ひどく痛々しい様相をしていた。
倒すだけならばそう難しいことではないだろう。この場には、それが出来る猟兵達が集っている。
だが、この世界においては――オブリビオンである影朧の魂を救う道があるという。
ならば。自分達が手を下さずに済む道も、あるのではないか。
「私も必要とあらば同情の余地あれど滅してみせます。しかし他の道があるならば……」
きっと、生まれ育った世界に大切なものを置いてきたティーシャは、千年鳥居の迷宮で大切な“誰か”と出逢っただろう。その上で彼女の今の想いが自分と同じであるか、それとも異なっているか――確かめるように問い掛けた風花に、ティーシャはこくりと頷いた。
「そうですね。彼女と戦うことはいつでも出来ます。ですから、まずは……」
ただ終わらせるより先に、その道を模索しても良いのではないか。
ティーシャの答えは、風花と同じだった。わかっていたとばかりに、風花は小さく肩を竦めて微かに笑う。
どこか、ほっとしたのかもしれなかった。けれどもすぐに風花はその笑みを引っ込めて、続ける。
「いっそ力での対話の方が楽ですが……一先ず、始めましょう」
まずは、言葉での対話を。
それでどうにもならないのであれば、猟兵として為すべきことを。
(「……まあ、出来ればそうならず。平和的に終わればいいのだけれども」)
風花は白雪の瞳に憂いを灯し、小さく息をついた。
いずれにしても、影朧の少女をどうするのか。
その結論が出るまでは見守ろうと、二人は、影朧の少女へ刃ではなく想いを向ける同胞達へと意識を向ける。
(「私には、姉妹の在り方について何かを言う権利などないのかもしれませんが……」)
弟の静止を振り切り、一族の掟を破って故郷の森を捨てた――その事実を改めて突きつけてきた弟の幻影が、ティーシャの中にわだかまる想いを棘に変えて心を刺してくる。
「私は、紗矢子さんからも八重子さんからも奪うつもりはありません」
それでも、ティーシャには二人の少女に伝えたい想いを口にした。
「……でも、このままでは」
アメジストの瞳が悲しげに伏せられる。
真実を告げるべきかどうか、僅かな逡巡。
やがて、ティーシャは意を決したように、再び口を開いた。
「……今はまだ、そうでなくとも。このままでは、いずれ八重子さんは傷つきます。紗矢子さん自身が、八重子さんを傷つけることになりましょう」
「……っ、」
「そんな結末は、悲しすぎます。紗矢子さんも、嫌でしょう?」
「わたし、……わたしが、そんなこと……」
影朧たる少女は、両の瞳から黒い血の涙を流す。
八重子の心が未だ揺らいでいるように、影朧の少女の心もまた静かに、漣のように――揺らぎ始めていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼心情
ふむ…漆の型を使えば穏やかに送る事も可能だが、
彼女達の選択を尊重しよう。
それが…いかなる選択であってもな
▼POW
まず無手で「まあ、待て」「少し落ち着け」と伝え、
必要なら道中で買ったタピオカ飲料を出し2人の前へ。
影朧になると自我を保てるのは期間限定で、
やがて本能や暴力性に苛まれ…意識を保つのが難しくなるんだ、と
ゆっくり諭すように説得。
『人である内に見送るか、怪異へと至るまで待つか――』
この解は2人にしか出せない。
ただ…辻斬りと同じにはなりたくないんじゃないか?と
優しく決断を見守ろう。
【夢想流天】は痛みの緩和や有事等の時に。
刃物は使わず、手か頭に触れて闘気を流し込むか手刀で対応。
アドリブ歓迎
「まあ、待て。……少し落ち着け」
アネット・レインフォールは剣を持たぬまま、争う意思がないことを示すように両の手のひらを影朧の少女へ向ける。
(「漆の型を使えば穏やかに送ることも可能だが……」)
オブリビオン――影朧の少女を苦しませずに斬ることが出来る剣を、アネットは持っている。
だが、アネットはそれ以上に、二人の選択を尊重したいと思っていた。
たとえ、それが二人にとって如何なる答えであったとしても。
影朧の少女の表情は、敵意、あるいは困惑、――様々な感情が入り混じったように歪んでいた。
猟兵達の言葉により、その存在が揺らぎつつあると言っても過言ではないだろう。
「……ッ!」
影朧の少女は、アネットへ敵意を向け、鋭く長く伸びた爪で引き裂こうと襲い掛かってきた。
「……む、」
それを紙一重で躱したアネットは、手刀に闘気を纏わせて少女へと触れる。
【漆式】夢想流天。傷や苦痛から解放する力を籠めた闘気でオブリビオンを斬ることで、肉体を傷つけたり痛みを与えることなく過去を断つ――アネットの“ユーベルコヲド”だ。
「さやちゃん……!」
「……わかるだろう? これが、影朧だ」
悲鳴じみた八重子の声に、アネットは静かに、諭すように告げる。
「影朧になってしまった以上、自我を保てる期間は、そう長くはない。今はまだそうでなくとも、やがて影朧としての本能や暴力性に苛まれ……意識を保つのが難しくなるんだ」
アネットの目に映る影朧の少女は、まるで獣のようだった。
「人である内に見送るか、怪異へと至るまで待つか――どちらを選ぶにしても、ただ、辻斬りと同じにはなりたくないんじゃないか?」
この解は二人にしか出せないもの。ゆえに、アネットはその答えがどちらであれ、二人の決断を見守ることが己の努めだと思っていた。
大成功
🔵🔵🔵
鳩宮・哉
相棒の舜(f14724)と一緒
再び舜に逢えたけど、心が落ち着かない
むかつく。むかつく
こうだからまやかしは嫌いだ
もう存在しないくせに、人の心を惑わせる
奴らなんて殺したいけど
舜が救うって言うから、俺はそれに従う
苛々してるから、少しくらい口が悪くなってもいいでしょ。いいよね?
小娘は邪魔しないでよ
奪うんじゃない、助けるんだ!
君だって解ってるんだろ、もう本物の妹は居ないってこと
舜を狙う影朧をナイフで裂こうとしたけど制止されて
仕方なく放つのは闇黒を纏ったダークメルヘングッズ
傷付けずに攻撃を封じたい
むかつくのに攻撃出来ないのって、すっごくむかつく!
戦闘後は、八重子さんに謝りにいくよ
小娘って呼んでごめんね
雨埜・舜
相棒の哉(f21532)と
八重子の悲痛な声が痛々しく哀しい
俺たちにこの姉妹を引き裂く資格があるのだろうか
――でもきっと、このままではいけない
この子は妹の死を受け容れなければならない
影朧に切り掛かる哉の腕をぐいと引く
彼女を傷付ける事は許さない
落ち着くんだ、哉
魔鍵から、人魚の姿をしたセイレーンを召喚
"ラッカ"、行っておいで
名を呼び影朧へと放つ
俺たちは君を傷付けないし、傷付けさせもしない
――悲しい事だが
君の……影朧の存在は世界を狂わせる
別れというものは悲しい。受け容れたくない
けれど、少しずつでも、小さな歩みでも
未来へ進まないといけない
生きる者は、――君の姉は、
過去に留まり続ける事は出来ないんだよ
(「……むかつく。むかつく。これだからまやかしは嫌いだ!」)
桜舞う千年鳥居の迷宮を抜け、再び相棒に逢えたというのに、鳩宮・哉の心はひどく苛立っていた。
思い出、記憶、幻――そういうのはいつだって、どんなに手を伸ばしたって届かないくせに容易くひとの心を惑わせる。
――だから、そんな遠い過去からやって来た奴らなんて、全部殺してやりたい。
(「なのに、」)
「彼女を傷付ける事は許さない。落ち着くんだ、哉」
鋭く長く伸びた爪を閃かせる影朧の少女目掛け今にも飛び出しそうだった哉の腕を、雨埜・舜がぐいと引く。
――邪魔をしないで、あいつは舜を傷つけようとした。だから俺が殺してやるんだ。
咄嗟に零れそうになった言葉と想いを呑み込んで、哉は唇を引き結ぶ。
舜が救うと言うのなら、それが彼の意志ならば、哉は従う――ただそれだけ。
けれどざわつく心に燻る嫌な感情の火種は消えるところを知らないから、哉は見える刃を向ける代わりに吐き捨てた。
「小娘は邪魔しないでよ」
鋭く睨みつければ、赤い視線の先で八重子がびくりと肩を震わせる。
ひとっていうのはどうしてこんなにもか弱くて、痛々しい存在なんだろう。
それが余計に哉の心を苛々させるけれど、この想いを少女にぶつけた所で何も変わらないし、きっと舜がまた怒る。
内心の舌打ちは、果たして相棒の耳に届いただろうか。少しくらい口が悪くなっても、許してくれるだろうか。
「奪うんじゃない、助けるんだ! 君だって解ってるんだろ、もう本物の妹は居ないってこと」
「そんな、そんなこと……っ」
八重子の悲痛な声は痛々しく、深い哀しみが感じられた。
(「……俺たちに、この姉妹を引き裂く資格があるのだろうか」)
二人を、本質的には正反対ながらも良く似た面差しの二人を見つめながら、舜は胸中で独りごちる。
このままではいけないことは、わかっていた。それは己だけでなく、きっと哉もそうだろう。
このままでは誰も救われることなく、別の誰かが苦しみや哀しみを負うことになる。
哀しみの連鎖など、させてはならない。
元より、猟兵として、それを止めるために此処にいるのだから。
(「……この子は、妹の死を受け容れなければならない」)
現実を受け入れ、止まった時を再び動かすために。
前を向いて、未来へ歩き出すために。
それを、自分達が伝えなければならない。
舜は星彩宿す小さな魔鍵で、影朧の少女をすっと指し示す。
「……俺たちは君を傷付けないし、傷付けさせもしない。――“ラッカ”、行っておいで」
名を紡いだ刹那、キャンヴァスの溟き海に晦ますセイレーンの流麗な影が泡沫に踊った。
傍らでは仏頂面の哉が、舜のセイレーンが鋭く伸びた爪を受け止めるのに合わせ、闇黒を纏うメルヘングッズ達を少女へと放っていて。
(「むかつくのに攻撃出来ないのって、すっごくむかつく!」)
それでも八重子が悪くないことを、哉は理解していた。
だから戦いが終わったら謝りにゆこう。色んなことが頭に来ていたとは言え、彼女を小娘と呼んでしまったことを。
「――悲しい事だが、君の……影朧の存在は世界を狂わせる」
鋭く伸びた異様な爪を、哉が放ったメルヘングッズが封じ込める。
「……ッ!」
力を封じる戒めを解こうと激しく腕を振る少女を見つめながら、舜は静かに口を開いた。
「別れというものは悲しい。受け容れたくない。それは、誰だってそうだろう。けれど……」
過去から来た少女と、今を生きる少女。
隔てられた道が、些細な偶然から再び交わってしまったとしても。
「少しずつでも、小さな歩みでも、未来へ進まないといけない」
誰かが、それを奇跡と呼んだとしても。
その奇跡は、あってはならないものだから。
「生きる者は、――君の姉は、過去に留まり続ける事は出来ないんだよ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ほう、姉を守らんとするか
健気な事よ…然し、本当にそれだけであろうか
決して傷つけぬよう
【戒めの光芒】にて紗矢子の無力化を図る
たとえ命が削がれようとも戒めを解く心算はない
八重子とて妹が誰かを傷付ける様は見たくなかろう
互いを慈しみ、守り合う姉妹
…ああ、全く
戦の真最中だというのに
嘗ての私達と姿を重ねるなぞ情けない
…が、故に伝えられる事もある
自責に囚われる事自体、悪ではない
今度こそ紗矢子を守りたい
その想いも尊いものだ
然し、影朧とは荒ぶる存在と聞く
今は理性で押し留めているだろうが
何れは必ず姉を――八重子を傷付けるぞ
その時深手を負うのは八重子だけではない
紗矢子の心に深い闇を落とす事を、貴様は覚悟しての事か?
傷つき、倒れそうになっても、抗うための力を削がれようとも、影朧の少女は猟兵達を退けようとする意志を瞳に宿し、睨みつけてくる。
「……ほう、尚も姉を守らんとするか」
アルバ・アルフライラは星宿す瞳を細め、その敵意を流すことなく真正面から受け止めた。
「健気な事よ……然し、本当にそれだけであろうか」
これまでに猟兵達が届けた想いと言葉により、その力は弱められているかのように思えた。けれどアルバは決して油断することなく、そして少女を傷つけぬよう心を配りながら、戒めの光芒――魔力で生成した金紅石の針で少女の“動き”を縫い止める。
「ァ……ッ!」
針が刺さった瞬間、影朧の少女は両手で喉を押さえた。どうやら、声が上手く出せなくなったらしい。だが、これこそがアルバの狙いであった。
影朧の少女の哀哭は、その音が届く限りの全てを無差別に傷つけるもの。即ち、彼女が姉と慕う八重子までもが巻き込まれる可能性があるということだ。
ゆえにそれを封じれば、声が出せなければ、叫ぶことは出来ない。
しかし同時に、封じ続けることの負荷がアルバの身を襲う。美しく整えられた薔薇色輝石の指先に、ぴしり、と繊細な罅が入る。
だが、たとえ術を行使する代わりにこの身が崩れようとも、アルバは戒めを解く心算はなかった。
影朧の少女が“姉”を傷つけられたくないように、八重子もまた、“妹”の姿をした影朧が誰かを傷つける様は見たくないだろう――そう、思ったからだ。
――互いを慈しみ、守り合う姉妹。本質こそ今は異なれど、かつては想い通わせた仲睦まじい二人であったはず。
(「……ああ、全く、私としたことが情けない」)
どんなに願おうとも、決して取り戻せぬ姿を見たからか。
命を賭けた戦の真最中であるというのに、嘗ての自分達と二人の少女を重ねてしまっていることに気づき、アルバは小さく息をつく。
だが、喪う痛みを知っているからこそ、アルバには、伝えられることがあるのだ。
「――自責に囚われること自体、悪ではない。今度こそ紗矢子を守りたい、その想いも尊いものだ。……然し、」
アルバは影朧の少女と八重子を交互に見やり、静かに続けた。
「影朧とは荒ぶる存在と聞く。今は理性で押し留めているだろうが、何れは必ず姉を――八重子を傷付けるぞ」
「……ッ、そ、んな、コト……」
ない、と言いたげに力なく首を横に振る影朧の少女を見つめながら、アルバはただ事実のみを淡々と紡ぐ。
「その時深手を負うのは八重子だけではない。紗矢子の心に深い闇を落とすことを、――貴様は覚悟してのことか?」
アルバが紡いだ言葉に、黒い血の涙を流す影朧の少女の顔が、くしゃりと歪んでいくのが見える。
けれど、それは、怒りだけではない。例えるならばそれは“怖れ”のように、アルバには映った。
大成功
🔵🔵🔵
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
俺は長く箱で在った故、血縁に対する特別な感情は分からない
けれどこの姉妹が互いを大切に思っている事は分かる
だが、共に在る事は決して叶わない
ならばせめて、納得した別れをと
他の者よりも八重子の言葉の方が紗矢子も耳を貸すだろう
なので八重子へと声を
離れ難いのは分かる
だが、痛々しいほど血に塗れたその妹を、もう安らかに転生させてあげないか
紗矢子を真の意味で救済できるのは、八重子、貴女しかいない
ああ、友の言う通り、互いに伝えたい事を紡ぐ時間は待とう
来たる紗矢子の来世の為にも、現世で生きていく八重子の為にも
そうだな、俺にできるのはこの桜花弁で送る事
転生への道を、紗矢子がもう迷わぬように
終夜・嵐吾
せーちゃん(f05366)と
気持ちはわからんでもないが、亡くなってしもたものは戻らんからなぁ…
これから同じ時を歩めるかと言えば、そうじゃない
それなら、わしはここで果てて、めぐりの中に戻った方がええと思うよ
じゃから、果てる事を受け入れてほしい
しかし、その前に何か。互いに伝えねばならん事があるなら
そのくらいの時間は待てる
なぁ、せーちゃん
それくらいは、ええじゃろ?
八重子さんに危険が及ぶなら阻むようにしよ
果てるを受け入れんでも、最後は倒してしまうがの
正直、他人事じゃからなぁ…どこまで口だしてええのか
良い終わりを迎えて欲しいとは、思う
送るなら花弁がよかろうか
虚、幻朧桜の花弁となって慰めてやっておくれ
「気持ちはわからんでもないが、亡くなってしもたものは戻らんからなぁ……」
終夜・嵐吾は小さく肩を竦めながら、二人の少女を見やる。
今を生きる人間と、過去の残滓より生まれた影朧――この先も同じ時を歩めるかと言えば、それは、決して叶わぬこと。
「それなら、わしはここで果てて、めぐりの中に戻った方がええと思うよ。……じゃから、果てることを受け入れてほしい」
この世界では影朧と呼ばれる“それ”が、他の世界ではオブリビオンと呼ばれる存在ならば、嵐吾自身、倒すことに迷いはなかった。
どこの世界でもそのようにして、過去は過去へ、在るべき場所へと送ってきたからだ。
「しかし、その前に何か。互いに伝えねばならんことがあるなら、そのくらいの時間は待てる。……なぁ、せーちゃん。それくらいは、ええじゃろ?」
傍らに視線をやれば、筧・清史郎はああ、と鷹揚に頷き、
「俺は長く箱で在った故、血縁に対する特別な感情は分からない。けれど、この姉妹が互いを大切に思っていることは分かる」
硯箱のヤドリガミである清史郎に、血の繋がった家族はいない。だが、様々な人の手を渡りながら時を経る中で、そういった様々な想いが傍らに溢れていたのは一度や二度ではない。だから、二人が互いを想い合う気持ちそのものは感じ取れる。
――だからこそ、共に在ることは決して叶わないということも同時に理解出来た。
人と影朧――オブリビオン。それは決して共に在ることが許されないもの。
ならば、せめて互いに納得の上での別れを。結末自体が変えられぬものだとしても、そこに至るまでの、そしてここから先へと繋がる想いの在り方は、いくらでも変えられるはずだから。
(「……来たる紗矢子の来世の為にも、現世で生きていく八重子の為にも」)
この場に集った自分達よりも、姉である八重子の言葉のほうがより影朧の少女には響くだろう。
そう考えた清史郎は、八重子へと向き直った。
「――離れ難いのは分かる。だが、痛々しいほど血に塗れたその妹を、もう安らかに転生させてあげないか。……紗矢子を真の意味で救済できるのは、八重子、貴女しかいない」
「……あたし……?」
清史郎が八重子へと向ける言葉を聴きながらも、嵐吾の心はひどく冷めていた。
(「正直、他人事じゃからなぁ……」)
影朧の少女がどういった結末を選んだとしても、最後に倒すことに変わりはない。どうせならば良い終わりを迎えて欲しいと、そう思うだけ。
こういった時に他人に掛けるべき言葉を、嵐吾は持ち合わせていなかった。代わりに、万が一にも影朧の少女が八重子を傷つけるような素振りを見せたら、すぐにでも阻むつもりで右目の眼帯に触れる。
「――さやちゃん、」
八重子が小さく、影朧の少女を呼ぶ。
「……おねえ、ちゃん、」
きっと、心の何処かでは、互いに理解していただろう。
今ひとたびのありふれた日々を願いながらも、それは決して叶わぬということに。
影朧はただそこに在るだけで今を生きる者を狂わせ、破滅への道を歩ませる。今はまだ人として、八重子が辛うじて正気を保っていたとしても、遅かれ早かれ、いずれはそうでなくなる時が必ず来る。
その時、少女の瞳に不意に閃いた刃のような感情に嵐吾は小さく息をつくと、右目を覆う眼帯を外す。
猟兵達の言葉によってその歪みは正されつつあったが、それでもなお、影朧として在る少女の本能――それ自体は、容易く覆せるものではなかった。
「……虚、幻朧桜の花弁となって慰めてやっておくれ」
呼ぶ声に応え、右目の“洞”から桜の花弁が咲きこぼれる。。
そして、清史郎もまた桜の意匠が凝らされた蒼刀を閃かせると、その刃を無数の桜花に変えた。
「俺にできるのはこの桜花弁で送ること。――紗矢子、どうか転生への道を迷わぬように」
――舞い吹雪け、乱れ桜。
幻朧桜の花弁に混ざり、ふたつの桜花が風に舞う。
それは現し世に彷徨い出たひとりの影朧の少女を在るべき場所へ導こうとするかのように、時に優しく、時に嵐のように――少女を覆い、包み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
祇条・結月
……この影朧は守れなかった、遺して逝かなきゃいけなかった誰かへの未練で泣いているのかな
その気持ちが。家族を想う涙が、お互いを縛り付けて、苦しめてる
終わらせないと、だめなんだよ
敢えて影朧の少女には「紗矢子さん」って呼びかけて
君が今、八重子さんを守ろうとしてるのはわかる
……でも、彼女、泣いてるよ
君がそうやって涙を流しながら戦ってることに
……もう、自分のことを許してあげたらどうかな
八重子さんも、紗矢子さんも
……大丈夫
八重子さんには、見守ってくれているみんながちゃんといるよ
紗矢子さんは、桜が導いてくれると思う
紗矢子の涙に鍵を掛ける
その場しのぎかもしれないけど
涙を止めて
笑って、分かれてほしいから
(「……この影朧は守れなかった、遺して逝かなきゃいけなかった誰かへの未練で泣いているのかな」)
ならば、それは――どんなにか悲しくて、苦しい涙だろう。
黒い涙で自らを覆う影朧の少女に、祇条・結月は僅かに眉を下げた。
まるで全てを拒むように、あるいはそれが、守りたかった誰かを守るための力だと言わんばかりに、身を覆う涙の黒。
その気持ちこそが、そして、家族を想う涙が。
互いを縛り付け、苦しめている。
そんな苦しみさえも優しく包み込んでくれるような、幻朧桜に彩られた世界。
永遠にこの世界にいられたら、二人にとっては幸せかもしれない。
けれど、それは決して叶うことではなく、そして、その先に救いはない。
ただ、更なる苦しみや悲しみが、――更なる深い絶望が、待っているだけ。
だから――。
「……終わらせないと、だめなんだよ」
二人の物語が、悲しい結末を迎える前に。
「――紗矢子さん」
結月は敢えて、影朧の少女をそう呼んだ。
もう、少女に戦う力は残されていない。抗う術を封じられ、深い傷を負っている。誰かが手を下せば、そのいのちは骸の海へ還ってゆくだろう。
けれど、結月やこの場に集った猟兵達が願うのは、そうではない、このサクラミラージュだからこそ導くことが出来る、もう一つの結末だった。
「君が今、八重子さんを守ろうとしてるのはわかる。……でも、彼女、泣いてるよ。――君がそうやって、涙を流しながら戦ってることに」
「……っ!!」
結月の言葉に、影朧の少女は目を瞠る。
「さやちゃん……」
振り返れば、そこには姉と呼ぶ少女の姿。
八重子の目に映る影朧の少女は、果たしてどんな姿をしていただろう。
今にも消えてしまいそうなほどに儚く朧気で、それは人ではないとわかっていても、きっと――。
八重子にとっては、少女はかつて共に生きた妹――紗矢子であったに違いない。
だからこそ、たとえ影朧だったとしても、あるいは、影朧であるからこそ、八重子が妹――“紗矢子”だと思う少女のまま、終わらせてやりたいと誰もが思っていた。
そして、結月は鍵のペンダントをそっと握り締めながら、静かに続ける。
「……もう、自分のことを許してあげたらどうかな、八重子さんも、紗矢子さんも」
八重子を蝕む、紗矢子を守れなかったことへの悔恨。
少女が影朧として存在を為すに至った、幾つもの未練。
大丈夫、と、結月は穏やかに微笑み、まるで幼い子どもに聞かせるような優しい声で告げた。
「八重子さんには、見守ってくれているみんながちゃんといるよ。そして、紗矢子さんは、きっと桜が導いてくれる。――だから、もう、涙を止めて」
たとえ、その場しのぎのものでしかなかったとしても。
――“さいご”は、笑って別れてほしいから。
そう願いを込めて結月は少女へ“錠前”を放ち、その鍵穴目掛け、銀の鍵を差し向けた。
影朧の少女が流す黒い涙を、結月はこの目で確かに見た。
ゆえに、封鎖の術式は澱みなく、寸分の狂いもなく展開され――紗矢子の涙に、静かに“鍵”が掛かる。
そして、影朧たる少女の仮初の命にも、また。
「さやちゃん……!」
たまらず、駆けてきた八重子が影朧の少女を抱き締める。
「さやちゃん、さやちゃん、……ごめんね……っ、」
「……おねえ、ちゃん
、……、」
――ありがとう。
その腕の中で、少女はふわりと微笑むと――緩やかに綻び、淡い桜の花弁となって散っていく。
――それは、この世界において影朧に与えられるひとつの終わりであり、始まりのきっかけ。
影朧の少女は確かに、新たな生を受けるための道へ踏み出すことが出来たのだった。
大成功
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