●さあさ、聞ひて呉れ給へ――
そう口を開いた男は唇にゆったりと笑みを浮かべていた。
道化師めいた彼は活動写真に語られるかの如き衛士たちの活躍が見たいのだと手にした扇子を打ち鳴らした。
インスピレヱシヨンを得たいのだと云ふ彼は帝都ではそれなりに名の通る文豪なのだという――さて、それが真実であるかは分からない。罷りなりにも彼がその名轟く文豪だと言うならこれ程、光栄な事はありゃあしないだろう――そんな彼は物語が為に話が聞きたいのだとそう口にした。
「只の暇つぶし程度で構いやしませんよ。
お礼にパレヱドへの招待状を渡そうじゃありませんか。
何、余分に渡すことだって構いやしない。折角、帝都にサアカスが遣ってきてパレヱドをしてくれるんだ。見ていきなさいよ」
またも扇子を打ち鳴らした文豪は、その名を■■・■■と名乗った。
「聞いたことがないだって? そりゃあ、困ったな」
胡散臭い男ではあるが、手にした招待状(チケット)は紛れもない本物だ。
戀の話、武勇の伝説、果ては麗しの家族まで。
無音で流れる無意味な活動写真を眺めながら茫と語ってくれやしませんか。
●花形スタアは憂鬱為る乙女であった
美しい黒髪を結わえたパレヱドの乙女の噂は耳にしただろうか。
さあね。志水・美夜子はその言葉を口にしてから「サクラミラージュに素敵なサアカスが遣ってきたそうでございます」と告げた。
曰く、招待状を持って居ればサアカスのパレヱドを見る事が出来るそうなのだが――楽しいばかりが仕事でないのが猟犬の困ったところだ。
「そのサアカスの花形スタアの乙女が影朧であるというのです。
曲芸師、歌姫、猛獣遣いに道化たち。その演目は心行くまで楽しむ事が出来るでしょうが……」
サアカスの花形スタアである乙女に接触し、その存在を『晦まして』欲しいと美夜子は告げた。
「彼女は戀をテヱマに躍る武芸者であるそうです。
その刃の煌めきは乙女の清廉さを。
その曇りなき信念は乙女の情愛を。
彼女の武芸はパレヱドの中でも一等美しいものであると」
誰かが彼女の事を嫋やかなる百合が如き乙女であると称した。白百合嬢と渾名された彼女が舞うサアカスへの招待状は或る文豪が大量に配り歩いているのだそうだ。
客引きか、と言う問い掛けに美夜子は目を伏せる。
「そうとも謂ふのでしょうね。副業(アルバイト)でそう言った事をするのも、悪くはありませんから。
チケットを配るついでに文豪たる男は皆さんの武勇伝を聞きたいと言っておりました。
戀の話であれど、武勇の伝説、過去の話まで。どのようなものでもインスピレヱションを擽るでしょう」
動き続ける活動写真の白と黒の合間で、思い出話に浸り乍らチケットを捥ぎとって来て欲しいと美夜子は笑みを浮かべる。
「さて、サアカスはどの様な場所なのでしょう。花形スタアとの皆様の舞い、嗚呼、楽しみにしておりますよ」
日下部あやめ
日下部あやめと申します。よろしくお願いいたします。
どの章からの参加でも歓迎しております。
●1章:文豪と話し給え
或る文豪は皆さんの話が聞きたいのだと言います。インスピレヱションを擽る話をしてほしいと言いますが何だって喜ぶでしょう。
・恋の話 ・戦いの記憶 ・過去 ・家族 ・旅団での楽しさ ・決意 etc……。
などなど、無音で進む活動写真館でどうぞ、お聞かせください。
●2章:サアカスへ
文豪よりチケットを戴けば入ることのできるサアカスです。此方からの途中参加も大歓迎。余分に下さるのが文豪の素敵な所でございます。
サアカスのパレヱドに現れる『戀』の演目で踊る武芸者たる白百合嬢――そう誰かが呼んだのだと言います――を見世物小屋でどうぞご覧ください。
勿論、彼女に接触するのも歓迎です。何故って、彼女は影朧なのですから。
●3章:影朧『白百合嬢』
そう呼ばれた戀に躍る武芸者たる少女。その実情は帝都で無念の儘殺された乙女であると言います。
彼女はサアカスのパレヱドで踊る間はその刃を血に濡らしませんが、夜な夜な辻斬りに出かけているのだそうです。
さて、帝都のめくるめく物語。どうぞ、ごよろしくお願いいたします。
第1章 日常
『君、ちよつと聞かせてくれたまゑ。』
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POW : 敵を倒して活躍したときの話をする。
SPD : 類稀なる技量で窮地を脱したときの話をする。
WIZ : 閃きや機転で困難を突破したときの話をする。
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楠樹・誠司
サアカスともなれば、帝都の民は浮き立つだろう
華やかなパレヱドに乗じた不徳者あらば
其れは我々の管轄である筈
……民事に関わるなと叱られるだろうか
糊のきいた軍服は身が引き締まる
身形はきちんとするべきだと
教えてくれたのは、……誰だったか
もし、貴方
……どうか身構えず
軍に籍を置く我が身なれど
今日は、非番なので
話
……、……話、ですか
物語を紡ぐ貴方の感性を刺激するようなものは、何も
……いえ、そうですね
では、私の故郷の話で宜しければ
其れはなんて事のない
穏やかで、慎ましやかで
けれど、倖せな人々の暮らし
あたたかい、優しい里でした
確かに其れだけは迷いなく口に出来るのに
何故か――嗚呼、如何しても
皆の笑顔が、思い出せない
●『倖あれかし』
ひとを愛し。ひとを慈しみ。ひとに焦がれた成り損なゐ。
青年は自身をそうであると認識していた。鳥瞰を指先弄び、青年の声音は確かめる様に厳かに言ノ葉を紡ぐ。
「サアカスともなれば、帝都の民は浮き立つだろう
華やかなパレヱドに乗じた不徳者あらば――其れは我々の管轄である筈」
帝國軍人なればこそ、市井の和平は職務足ると自負したる彼は民事に関わる勿れと叱られるだろうかと頬を掻く。
糊が利いた軍服は身を引き締め、身形は整えるべきだと教えて呉れた『誰か』の声音が耳朶に木霊する、しかし、それが誰であったかを彼は思いだす事が出来ない。
「もし、貴方。
……どうか身構えず、軍に籍を置く我が身なれど。今日は、非番なので」
文豪に柔らかに掛けた声音に青年へと応える様に『じっとり』と文豪は彼を見た。
「あゝ、君も噺て呉れるのかい。どうか、聞かせて呉れ給えよ」
「話
……、……話、ですか。
物語を紡ぐ貴方の感性を刺激するようなものは、何も」
文豪とそう冠するからには無数の物語の中で息をしているのだろう。青年は文豪のかんばせを伺うべく覗き込むが好機に満ちた彼は言葉を待ち構えるがように「どうぞ」と続けるだけだ。
「……いえ、そうですね。では、私の故郷の話で宜しければ」
――其れはなんてことない話だ。
穏やかで、慎ましやかで――けれど、素朴で或るからこそ、倖せな人々の暮らし。
あたたかい、優しい里でのことでした。
其処迄、迷いなく口にしたというのにあゝと誠司は唇から毀れた言葉に曖昧な笑みを浮かべるだけだ。
文豪はそれ以上は求めなかった。貼り付けただけの笑みが凍る感覚に誠司は額へと掌を宛がう。
「倖あれと願うたのは誰であったのだろうね、軍人さん」と告げる文豪の横顔を見ながら青年は「あゝ」ともう一度漏らす。そうだ、皆の笑顔が、思い出せないのだった。
大成功
🔵🔵🔵
馮・志廉
腕を組み、睨み付けるような目付きで活動写真を見る男。
文豪の求めに応じ、ぽつりぽつりと語り始める。
友の話。義兄とも慕っていた、友の話。
彼は義に篤かった。武術の腕も、一流だ。
強欲な金満家が貧乏人を泣かせる。良くある話だ。だから、彼が腕ずくでそれを懲らしめるのも、同じように良く見る光景だった。
ある時は、自分と義兄の二人で悪党どもの拠点を壊滅させた事もあった。あれは痛快な事だった。
チケットを貰った後、彼のその後を聞かれたならば。
「斬った。俺が、彼を斬った。彼もまた、力に取り憑かれて外道に堕ちた故」
刀の柄を一撫でし、一点の曇りなく、答える。
●仇斬刃
無音で流れ続けるのは毒にも薬にも為らぬ詰らぬ演目であった。志廉は腕を組み、じつと睨みつけるが如く鋭き眼光で活動写真を眺める。
美しいかんばせの女優の唇がはたりはたりと動く様子を共に眺める文豪に僅か視線を動かしてから、青年の唇は緩やかに動いた。
文字の世界に生きるおとこに求められるかのように、その唇は滑らかに言ノ葉を滑らせる。
「友の話だ」
「友か。あゝ、それは素晴らしい。友人といふのは持つべきだからね」
手を打ち合わせた文豪に志廉は緩やかに頷いた。
「義兄と慕っていた友の話。彼は義に篤く武術の腕も一流であった」
世界に有り触れた不幸を並べ立てよう。
強欲なる金満家が貧乏人を泣かせるというのは良く或る話だ。だからこそ、友は腕ずくで其れらを懲らしめていた。
文豪は『彼』を優しい人であると称したが、志廉は応える事無くk賭場を続けるだけだ。
「ある時は、自分と義兄の二人で悪党どもの拠点を壊滅させた事もあった。あれは痛快な事だった」
「其れは其れは、冒険譚として素晴らしいではありませんか。
――して、『その後の友』は? 元気でやって居るのでせうか」
サアカスのチケットを手にしながら志廉はふと、自身の腰で転寝している刀の柄を撫でつける。
「斬った」
「はて」
「俺が、彼を斬った。彼もまた、力に取り憑かれて外道に堕ちた故」
それは良く或る話なのであろうか。文豪は『ははあ』とだけ返したのだ。
大成功
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夏目・晴夜
暇つぶし程度で良いならば
このハレルヤの他愛もない話でもお聞き下さい
私が話すは戦闘特化からくり人形の話です
ニッキーくん、可愛いでしょう
初対面時は普通の人型だったのですが、精巧な人間の顔が少々怖く
なので元あった人型の頭は外して砕いて燃やして捨てて
代わりに私が適当に造った動物の頭を人形の体に強引に固定しているのです
その結果こんなにも可愛くなったのですが
その日から何故か操らずとも視線が合うんですよねえ
操らずとも誰かに名を呼ばれた際には手を振り応じておりますし
操らずとも私の独り言に頷いてくれます
最初は無かったはずの異常な怪力を有している理由も
改造していないのに強大な体躯と化した原因も
全てさっぱり不明です
●『優しく可愛いニッキーくん』
ハレルヤと云います、と毒も含まぬ笑みでそう笑った彼に文豪は「此れは素晴らしい名だ」と云った。
「神を褒め讃えよとその名より示し給うは素晴らしきかな?」
「さあ。暇つぶし程度で良いならそのハレルヤが他愛もない話をしましょう」
それは良いと手を叩いた文豪に晴夜はそっと、傍らで膝を抱えた歪な兎を引き寄せた。
「私が話すは戦闘特化からくり人形の話です」
狼を思わす様な尾に人が如き両腕で膝を寄せた機械仕掛けの兎。文豪は「『彼』は?」と晴夜に問いかけた。
「ニッキーくん、可愛いでしょう。
初対面時は普通の人型だったのですが、精巧な人間の顔が少々怖く――」
美しき人形のかんばせというのは生者が如く感情を宿らすと云ふ。
文豪は「いやいや、兎ではありませんか」と瞬くだけだが、晴夜はあゝ、と頷いた。
「なので元あった人型の頭は外して砕いて燃やして捨てて、
代わりに私が適当に造った動物の頭を人形の体に強引に固定しているのです」
その結果が愛らしいこのかんばせです、と兎の頭がぐるりと向いた。
「そうしてからというもの、その日から何故か操らずとも視線が合うんですよねえ。
操らずとも誰かに名を呼ばれた際には手を振り応じておりますし、操らずとも私の独り言に頷いてくれます」
ごくり、と生唾を飲んだ文豪は「ニッキーくん」とその兎を呼んだ。
頭はぐるりと動き文豪に応える様に手を振っている。
あゝ、これは。これは。
なんと――なんと歪なのだろう。
讃美歌の如く流暢に言葉を吐き出した晴夜は「それに」とニッキーくんの傍らに腰かけて笑う。
「最初は無かったはずの異常な怪力を有している理由も、改造していないのに強大な体躯と化した原因も――全てさっぱり不明です」
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
無音映画が物珍しく、画面に目を据えたまま
僕も人の話を聞くのは好きデスヨ、と
いつもより大人しく学徒めいた口調で紡ぐ
センセエ、ひとつ記憶に関するハナシは如何デショウ
此処にいる男はある時以前の記憶を失くしていました
ええ、過去形です
様々な切欠で少しずつ取り戻したンですけどね
どうしてだか、思い出せない顔がひとつある
思い出せないまま新たな記憶にどんどん塗り替えられていくような
そんな不安を伴ってたンですがね
ある時新たに取り戻した
それがその「思い出せない者」の意識や記憶だったンですヨ
そしたらもう、分からない
この記憶は本当か、錯覚か
自分と思っていたこの男は「どちら」なのか
センセエ、貴方ならどう結論付けマス?
●錯覚論理
奇妙な事に口は動くのに声は聞こえない。活動写真をの物珍しそうに眺めるコノハは傍らで同じ仕草を見せた文豪を見る事はなく、何時もよりも大人しく――まるで帝都に行き交う学徒が如く――「センセエ」と囁いた。
「僕も人の話を聞くのは好きデスヨ」
「あゝ、それは素晴らしい。奇遇と言えばよいのだろうか」
「さあ。センセエが満足するかは分かりまセン。
けれどひとぉつ、噺しまショウ。記憶に関するハナシは如何デショウ」
嘯くが如く、唇に指先添えて。まるで娼婦がおとこにする一夜の約束が如く、蠱惑の笑みを浮かべながら『らしからぬ』乙女の仕草で噺の世界へと手を引けば文豪は熱に魘される如く頷いた。
「此処にいる男はある時以前の記憶を失くしていました。
ええ、過去形です――様々な切欠で少しずつ取り戻したンですけどね」
「記憶喪失と呼ばれれば、それが戻るという事かね」
「ええ。ええ。デスガ、どうしてだか、思い出せない顔がひとつある。
……思い出せないまま新たな記憶にどんどん塗り替えられていくような」
それは明確なる問いかけがそこに有るかのような感覚であった。
■+▲= の答えが其処には存在しないかのような。其れは価値ある不安であるようにコノハは感じていたと文豪に告げた。
「そんな不安を伴ってたンですがね、ある時新たに取り戻した。
それがその『思い出せない者』の意識や記憶だったンですヨ!」
「君、それは『別の人間の人格を思いだした』という事かね」
問い掛けに、コノハの唇が三日月歪む。進む無音写真ではおんなが告げたであろう安いラブロマンスのセリフが空音として響いている。
「そしたらもう、分からない。
この記憶は本当か、錯覚か――自分と思っていたこの男は『どちら』なのか。
センセエ、貴方ならどう結論付けマス?」
コノハの悪戯めいたその言葉に、文豪は明確な答えを返す事は出来なかった。
大成功
🔵🔵🔵
伊織・あやめ
はじめまして、文豪さん!
こう、ビビッとくるお話、執筆には大事だよね
あたしの話でよければ聞いてみてほしいな
それはとある町でのお話
体の弱い娘がいたんだって
病弱で、いつも熱を出して寝たきりで
彼女は布団の中で本を読むのが好きだった
恋の話、冒険の話、世界の話
頁を捲れば、彼女はどこへだって行けた、なんだってできた
だから夢を見た
いつか世界を駆け巡り、自分も冒険をするのだと
彼女の結い髪には紫の玉簪
病に倒れても彼女は本を手放さず、そうして天に召された
それをずっと見ていた玉簪は思ったんだ
彼女の願いを叶えてあげたいってね
あたしの話はそれでおしまい
玉簪はどうなったかって?
それをあたしが語るのは野暮ってものだから!
●そうして、命が芽吹いたのだと
「はじめまして、文豪さん! こう、ビビッとくるお話、執筆には大事だよね」
結わえた漆黒の髪に、活動写真間の中でも尚、印象的な程にその存在感を誇る紫苑の瞳。あやめと名乗った少女は文豪の言葉に理解を示し笑みを浮かべる。
「あたしの話でよければ聞いてみてほしいな」
噺をするのは嫌いじゃあないという様に人好きする笑みを浮かべた彼女に文豪は「あゝ、よろしく頼もう」とどこか大仰に頷いた。
「それはとある町でのお話。
体の弱い娘がいたんだって、病弱で、いつも熱を出して寝たきりで、彼女は布団の中で本を読むのが好きだった」
「本かね?」
「そう。恋の話、冒険の話、世界の話。
……頁を捲れば、彼女はどこへだって行けた、なんだってできた」
あやめの言葉に其れは違いないと文豪は喜ぶように手を打ち合わせた。本というのは良い、彼が生業にしている事もあるのだろうが本というものは夢想の世界へと誘うが如く、『空想の自分』になることができるのだ。
「君、その少女は素晴らしい存在だ。作家はさぞ喜ぶだろう」
「ふふ。だから夢を見た。
いつか世界を駆け巡り、自分も冒険をするのだと……」
あやめの目が細められる。文豪は『良く或る悲劇』を夢想してあゝと小さく声を漏らした。
「しかし、その少女は」
「そう。彼女の結い髪には紫の玉簪
病に倒れても彼女は本を手放さず、そうして天に召された」
夢の中での冒険を終え、その脚が旅に出ることはなかったという悲劇に文豪は「あゝ、あゝやはり!」と頭を抱える。あやめは「でもね」と文豪の顔を覗き込んで悪戯めいた。
「それをずっと見ていた玉簪は思ったんだ。彼女の願いを叶えてあげたいってね。
……あたしの話はそれでおしまい」
「君、ならばその玉簪はどうなったんだい?」
きっと、彼ならば興味を持って聞くだろうとあやめは分かっていた。だから、笑って見せるのだ――「それをあたしが語るのは野暮ってものだから!」
大成功
🔵🔵🔵
新山・陽
「昨今、悪魔というものを初めて見ました。望みを見せては奪うなどして惑わせ、その様を余興にしておりまして、あれは実によろしくなかった。まるで人間の所業ですよ」
と、直近の戦いについて【コミュ力】をきかせて話します。
「結論から申しますと、悪魔は報いを受けたのです。ですが、その悪魔の口調が面白くてですね」
個人的には、イントネーションが方言寄りで、倒れる時ぶるわぁぁって言いそうでしたが。
「ところで、異世界の文化に興味はおありでしょうか? ある所では、ヒーローの名乗りやヴィランのメインプランを聞く『聞き待ち』の文化がございまして……」
にこりと、微笑みをたたえ、ざっくりとした地元話もおまけに付けます。
●其は、悪魔為りけり
「昨今、悪魔というものを初めて見ました。
望みを見せては奪うなどして惑わせ、その様を余興にしておりまして、あれは実によろしくなかった。まるで人間の所業ですよ」
そう、語り口に乗せた陽の言葉に「人間。あゝ、そうだなあ」と文豪は茫と呟いた。
「確かに、目にも見えぬ悪魔為る存在よりも悪意を手にした人間の方が伝承の悪魔めいて居る事は否定はできぬ。いやはや、それは面白い譬えではなかろうか」
「ええ。しかし、それは『悪魔』でした」
世には居るのだという。そういう架空の神話めいた存在が。陽の言葉に文豪は「それで、どうなったのかね」と促す様にその顔を伺う。
「結論から申しますと、悪魔は報いを受けたのです。ですが、その悪魔の口調が面白くてですね」
その方言の混じった口調は噺の胤にもなろうものだと陽は笑う。
ところ変われば言葉も変わるという事か。文豪が可笑しな口調というものに興味を示した様子を見れば、彼はどんな噺にでも飢えているということなのだろうか。
「ところで、異世界の文化に興味はおありでしょうか?
ある所では、ヒーローの名乗りやヴィランのメインプランを聞く『聞き待ち』の文化がございまして……」
さて――まだ、噺はたんまりとある。無音映画をお茶請けにしながらと陽は口を開いた。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
アドリブ歓迎
人魚の戀の話
冷たい黒と青の水槽の中
悲鳴と絶望と享楽の見世物劇場の中で歌う為に生かされた人魚
死んだように生きて
ただ無意味に歌う瓶詰め人魚が戀の花を見つけた時の
それは薄紅色だ
歌の中に出てきた色彩で
人魚はその色彩を見てみたくて小瓶から抜け出したんだ
罪を犯して
黒と青にはらり舞う薄紅の花
冬とかす春の花
桜
…僕の櫻
掬われた髪の一筋に脣が落ち
桜霞の瞳に囚われた
熱情の糸に絡め取られて
気がついた時には戀獄の中
熱くて苦しくて焦がれて堪らなく――幸せ
泡になっても構わない
そう思った
ふふ
人魚の戀は叶ったか?
嗚呼
毎日桜の花が咲くように
毎日櫻に戀をして
人魚は愛を歌う
こんな話しでいいのかな?
参考になればいいのだけど
●戀ひの噺
「聞いてくれる? 人魚の戀の話。冷たい黒と青の水槽の中の噺」
甘やかなリルのその声を聴きながら、文豪は人魚と言葉にした。彼にとっての人魚と云うものは見世物小屋――サアカスのパレヱドに居るだろう――で囚われる異形のものという存在か。
リルはそれを否定することなく「見世物小屋、そう。見世物小屋」と頷いた。
「悲鳴と絶望と享楽の見世物劇場の中で歌う為に生かされた人魚、
死んだように生きて、ただ無意味に歌う瓶詰め人魚が戀の花を見つけた時の」
瓶詰とはよく言ったものだ。まるで保存される食糧の様にして、息を潜めた人魚の乙女が目にした戀の花はどれ程までに美しく在ったであろうか。
「……それは薄紅色だ。歌の中に出てきた色彩で、
人魚はその色彩を見てみたくて小瓶から抜け出したんだ――罪を犯して」
「逃げ出す事も罪だろう」
「それ以上かも、しれない」
語り口にはそぐわぬとリルがぼかしたその言葉に文豪は小さく笑う。さて、其処から話はどうなるのかと文豪が求める其れにリルの薄く色付く唇がゆるりゆるりと流暢に動き出す。
「黒と青にはらり舞う薄紅の花。冬とかす春の花――桜」
それは春に美しく空に溶ける薄桃の。リルは辿る様に手を伸ばす。宙を掻いた指先は成程、何かを書き抱くかの如く。
「掬われた髪の一筋に脣が落ち、桜霞の瞳に囚われた。
熱情の糸に絡め取られて――気がついた時には戀獄の中」
「戀獄。喉さえ焼け焦げるかの如く、堪らない幸福と不安の責め苦のかい?」
「そう。人魚は泡になっても構わない。歌声すら無くしても構わないと囚われた」
人魚姫は声と尾鰭を失っても尚、愛しいと願ったおとこのもとへと走ったのだという。その噺は悲恋ではなかろかねと囁く文豪にリルが目を細める。
「ふふ。人魚の戀は叶ったか? ――あゝ」
華が開くが如く、毎日戀をし、毎日愛を謳い、そして戀獄に囚われる。
もがく指先が宙を掻いた。
大成功
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第2章 冒険
『サアカスの花形』
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POW : 見世物小屋に真っ向から突入だ!
SPD : ファンや関係者を装い潜入する。
WIZ : 団長、経営者を説得する。
👑11
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|
●
しゃんしゃん、と音鳴らす――
帝都の街は花爛漫、飛び交う嬌声は花形役者に向けられたものであろふか。
獣を巧みに操るおとこのその麗しのかんばせに声を上げるものもいる。
さて、サアカスを心行くまで楽しむというのも道理であろうか。
どうやら文豪のおとこがサアカスが終われば演者たちとの面会も用意してくれた模様。
皆々様はサアカスをどうぞ、ご覧になってくださいませ、と粋な心遣いと云えましょう――
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
さあ、猟兵の皆さま。サアカスで夢を見るのは如何かな?
新山・陽
サアカスの演目を楽しむべく、暫くは見学をしています。ヒーローとヴィラン、が治安を犠牲に突発的に始めるものを見物するのと、サアカスは全く別物なのですね。
「なんという安心感。物見の民間人に被害が及ばないなんて」
とそこで、依頼の白百合嬢を思い出します。影朧というお話でしたし、ゆくゆく客に危害が及んでしまう可能性がある以上、行方を晦ますお手伝いをしましょう。
上流と顔ツナギができる社会人を【演技】で装い、団長や経営者を【コミュ力】で賞賛し、白百合嬢をスカウト話を仄めかします。
上流からのスカウトを匂わせておけば、例え行方を晦ませても、団長や経営者ならやむなしと思ってくれるかもしれません。
馮・志廉
一芸も極めれば道に通ずるもの。
華やかなサアカスの中、様々な芸を見ながら歩む。いずれの技も、興味深く見る。
参考に、等と思ってしまい、純粋に楽しむということは中々出来そうも無い。
件の白百合嬢の番になれば、小石を拾い上げて、目立たぬよう指で弾き、数度白百合嬢へと放つ。
当たるとは思っておらず、技倆を見るため。
面会時には、まず詫びる。
「無礼な事をした」
おそらくは見抜かれているだろう。
腕前を称えつつ、問う。
「その腕前で、何を斬る?まさか、舞踊の為のみの剣とは思えん」
一芸も極めれば道に通ず――志廉は華やかなサアカスを眺めながらそう感じていた。
獣を扱う事さえも、そう感じれば実に興味深い。戦にその技術を使うではなく、人々に感銘を与えるべくしてそれを使っているのだから。
陽はその様子にほうと息を吐いた。サアカスの演目はヒーローとヴィランが『テレビジョン』の様に治安を犠牲にしてでも尚、ヒーローショウをするのとは大きく違う。
「なんという安心感。物見の民間人に被害が及ばないなんて」
そう。サアカスは誰ぞを喜ばせるためのものであり、決して人々を傷つける者ではないのだろう。
ふと、志廉が足元に転がる小さな小石を拾い上げた。ころりとして、無骨なそれを目立たぬように指で弾いたは演者の許へ――数度、放つ其れは『白百合嬢』と呼ばれた一人の役者へと飛び込んだ。
「アッ」と乙女がそう声を上げた事に志廉はどきりとした。技倆を見る為の事ではあったが、当たるとなればまた違う。その姿が印象的であると陽は彼女が此度のターゲットである事を思いだした。
陽はこそりとサアカスの事務所へと赴いた。今、演じて居る乙女は誰だと『上流階級の者』の使いを演じる様にしてそう囁くのだ。
「今、でございますか。白百合でございます」
「白百合。旦那様が、大層気に入ったのですが」
それは上流階級からの引き抜きの言葉である。無論、サアカスの団長はその言葉にぎらりと目を輝かせた。しかし、看板である白百合嬢を売り払うには惜しいと彼は渋る。
陽は考えておいてくださいね、と笑みを溢し『白百合の今後』を示唆するだけであった。
演技を終えた彼女が刃当たった小石を気にする仕草をしたことに志廉は白百合と声をかけた。
「無礼な事をした」
「……いいえいいえ。わざとではございませんでしょう」
志廉は柔らかに笑いながらもその笑みに陰りと裏を感じさせる乙女の貌をじとりと見遣った。美しいそのかんばせには確かな影を感じさせる。
「その腕前で、何を斬る? まさか、舞踊の為のみの剣とは思えん」
形良い唇が「なんでもございませんよ」と――そう、囁いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
伊織・あやめ
サアカスを見るのはもちろん初めて!
もらったチケットを握りしめ
かじりつくように見に行くよ
曲芸も猛獣使いも道化師もみんな楽しいし
芸に精通してる人はすごいと思う
でも一番楽しみなのは噂の白百合嬢!
あたしは戀を知らない
だからこそ、その一挙手一投足に憧れる
その凛々しさ、潔さ、美しさ
ああ、戀ってあんなに素晴らしいものなんだ
ただただ、見惚れるばかり
…でも、影朧だなんて
白百合嬢は何に未練を残したんだろう
戀?それともこの芸を極めること?
そう思うと、さらに切なくなってしまう
あたしたちで、彼女を幸せにできるのかな
絡み、アドリブ歓迎です
コノハ・ライゼ
映画と同じくサアカスというモノも、記憶にある限りは初めてで
上演中は純粋に演目を楽しむ
勿論、噂の白百合嬢の武芸も
上演後は舞台裏を見学できると嬉しいネ
どんなモノであれショーという形にまで高めた技は素晴らしく興味深い
その最後に白百合嬢と少し話ができれば
戀の舞い、綺麗だったねぇ
君自身は戀を知っているの
なに、経験無くしてあれ程の美しさが出せるものかと思ってネ
良ければお聞かせ願えないかな
ボクはね、戀というモノを識りたいンだよ
溺れる程深くてもイイ、消える程儚くてもイイ
知らないが故に
礼を述べサアカスを後にする前に
雇い主はアレが如何なる存在か――辻斬りの事も
知って置いているのか、それとなく確認したいトコだねぇ
あゝ、麗しき華の都に訪れるは素晴らしきかなサアカスの気配。
チケットを握りしめ齧りつくようにそれを眺めるあやめの瞳はきらりときらめきが宿る。
曲芸師に猛獣遣い、道化師。その何れも見た事がない者ばかりであやめは「すごい」と小さく呟いた。
「スゴイ。確かに、スゴイね」とコノハが感嘆の息を漏らしたそれに、あやめは大きく頷く。あゝ、けれどメインディッシュはまだなのだと息巻いて、演目が変わる様子に心を動かす。
「メインディッシュ? あゝ、それって――」
――白百合嬢。
嫋やかなる百合が如く、その体全てを使って戀を示すその演技。
それはコノハにとっては識らぬ活動写真を眺めるのと同じであった。まるで、他人の人生を見ているかのような感覚はあやめも同じか。
戀。それを現すその動き。凛々しく、潔く、美しく、そして――刹那に。
(ああ、戀ってあんなに素晴らしいものなんだ……)
小さく、息を吐く。美しき乙女の姿にちくりと胸が痛んだのは、その白魚の指先の乙女が影朧(いぎょう)であるからだろうか。
「……何が未練なんだろう。
戀? それともこの芸を極めること?」
こんなにも美しいのに。こんなにも凛々しいのに。その裏には刹那の衝動が眠るのかとあやめはぎゅ、と汗ばむ手に力を込めた。
――あたしたちで、彼女を幸せにできるのかな
さあ、幸せなんてものは分からぬとでも言う様にコノハはサアカスの舞台裏へと歩を進めた。どんなモノであろうともショウをするほどに鍛えた技術は素晴らしい。
「白百合嬢?」
「あゝ、ご機嫌よう」
にこりと微笑む乙女はコノハの呼びかけに仕事をしている時と同じく甘い笑みを返す。それが業務上の者だと感じながら彼も同じように笑った。
「戀の舞い、綺麗だったねぇ……君自身は戀を知っているの?」
きょとりとした白百合の瞳が動く。コノハのその言葉に僅か、反応するようにして。
「戀――」と震えたその声音は確かに何らかの未練を感じさせた。
「……なに、経験無くしてあれ程の美しさが出せるものかと思ってネ。
良ければお聞かせ願えないかな、ボクはね、戀というモノを識りたいンだよ」
溺れる程深くても、消える程儚くとも――死んでしまう程に惨くたって。
コノハのその言葉に白百合は明晩、サカアスのない夜に来て欲しいと囁いた。それまでに話を纏めておくから、と。
彼女の言にコノハは悟った。あゝ、サアカスの使用者はきっと彼女が辻斬りである事を知っているのだ。
大成功
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リル・ルリ
アドリブ歓迎
さあかす――見世物小屋
こことは少し違うけれど己が過去に重なってしまう
望まれるがままに歌っていた
仲間達の死を彩る歌を歌う歌姫が僕だ
こうして客席から眺めるのは初めてだ
華やかな演目とあがる嬌声に、嗚呼、嗚呼…どうしても思い出すは血飛沫舞うの舞台
さあかす、を笑い楽しまなければいけないのに
周囲の歓声が悲鳴と重なり耳鰭を塞ぎたくなる
たすけて、と心の中で愛し櫻に手を伸ばせば代わりに触れた柔らかな子ペンギン
大丈夫
ヨルがいる
戀、を踊る白百合を食い入るように見つめ思う
演じることに誇りを持っているのか
彼女は、戀を――しっている?
死んでなお逢いたいと願うほどの存在がいたのだろうか
その鋭く美しい武芸のように
リルのその瞳に映る華やかなる喧騒。それは『さあかす』――見世物小屋であった。これ程迄に華やかで、これ程迄に喧騒に濡れていたとしても、彼女の脳裏には己の過去がちらついた。
見世物として、望まれるが儘に歌謳う。
死を彩る歌を口遊み恋すら知らぬ儘水槽で飼い殺される人魚姫。
セイレーンというのは男を引き摺り込むらしい。あゝ、けれどきっと――人魚姫の様に陸に上がったのは自分の方かと白百合嬢の舞いを食い入るように見つめ続ける。
美しく、麗しく、刹那に、刃を振り翳す。華やかなる演目にあがる嬌声、声躍らせて興奮を伝え称え合う人々を眺めながらリルが反芻する記憶は血濡れの舞台。
さあかすを笑い楽しむ事が出来ず儘、周囲の歓声は悲鳴と重なるかのようで、耳鰭を塞ぎたくなると震える指先はたすけてとサインした。
愛しい櫻に手を伸ばせば柔らかなる子ペンギン――ヨルが傍に居る。
戀。いとおしいその動き。まるで、謳う様に軽やかなるその軌跡。
彼女は――戀を、しっている?
演じる事に誇り高く舞うその姿は死んでも尚、逢いたいと願う存在が居たのだろうか。――その鋭く美しい武芸のように。
ただ、切っ先は迷うことなく、戀を惚れ惚れと踊り上げた。
大成功
🔵🔵🔵
楠樹・誠司
魑魅魍魎の百鬼夜行
蔓延る悪鬼羅刹を唯々斬り伏せるは易いけれど
何もかもを思い出せぬ
『過日』に焦がれる影法師と
巡る『明日』へと懸想する影朧に
嗚呼――何の違いがあるだろうか
見世物小屋の片隅
警邏と称して佇み
白百合の舞台を確りと見届けよう
『戀』
其の強い情念こそが
ひとがひと足る所以なのかもしれない
想う故に立ち止まらぬ、燃え上がる焔の如く
冴えた刃の煌めき、凛と咲き誇る其の姿
嗚呼、まるで
うつくしい、刹那の夢を観て居るようだ
白百合の君に御目通り叶うならば
素晴らしい公演に、心からの賞賛を
ひとつだけ
許されるならと、ちいさく問うた
貴女にとって
『戀』とは、何でしょうか
私にも。確かに、……確かに此の胸に、有った筈なのです
夏目・晴夜
この後に一仕事あるとは言えど
今は何もせずただ観て楽しむだけでいいとは驚きです
贅沢すぎやしないかと少々不安になりますね
うわ、これは素晴らしい…!
サアカスなんてものを観るのは初めてなのですが、
想像していた以上に豪華で多彩で派手で眩くて煌びやかで
まるで夢の世界のように楽しい光景です!
そして何よりもこの喝采がいいですね
地が揺れるほどに凄まじく大きな喝采ではないですか!
これは……あの舞台でこの喝采を浴びるのは物凄く気持ちよさそうです
いいですねえ、羨ましい
ああ、最高に羨ましいです
もし猟兵をやること以上にたくさん褒め称えられるならば
私もサアカスの団員へと思い切って転身しましょうかねえ
いやまあ、冗談ですけども
さあさ、お手を拝借。寄ってらっしゃい見てらっしゃいと軽口叩く道化師に誘われながら晴夜は感激に心躍らせる。
「この後に仕事があるなんて思えません。これは素晴らしい……!」
こんなの贅沢すぎやしないかと空飛ぶ獣を眺める晴夜の傍らで、踊る道化を目で追う誠司が小さく息を吐く。この煌びやかな世界が道化師たちにとっての大いなる世界なのであろうという事が伝わった。
「想像していたよりも立派で、美しい世界なのですね」
「見世物小屋というのは夢が詰まっているから」
観客席より僅か、身を乗り出す様にして晴夜は喝采の海が耳朶を流れる感覚に目を細める。中央の舞台、その場所に注がれる喝采は、成程――どれ程までに気持ちよい事か。
「いいですねえ、羨ましい。ああ、最高に羨ましいです。
もし猟兵をやること以上にたくさん褒め称えられるならば――私もサアカスの団員へと思い切って転身しましょうかねえ」
冗談めかしたその言葉に猟兵も十分魑魅魍魎の百鬼夜行だと誠司はジョークを交えた。蔓延る悪鬼羅刹とならんとしても、その姿かたちの百面は寓話にも語られるほどだろうと彼は喧騒に身を埋める。
白百合が嫋やかに首を垂れる。それが、此度のターゲットだと視線を揺らして。
――何もかもを思い出せぬ。
『過日』に焦がれる影法師と、巡る『明日』へと懸想する影朧に。
嗚呼――何の違いがあるだろうか
彼女が、影朧というのか。斬るべきとされる悪鬼羅刹。
はしゃぐ晴夜と対照的に警邏として眺める誠司は『戀』を舞う情念のおんなを視線で追いかけた。
どうしてひとは恋をするのであろうか。どうして、人は、その強き思いを抱かずにいられないのか。
思ひが只、燃える焔が如く揺れる。冴えた刃の煌めきに凛と咲いたその姿。
嗚呼、まるで――うつくしい、刹那の夢を観て居るようだ。
刹那の夢はいつかは醒める者だ。舞台裏、微笑んだ白百合の乙女が明晩此処へと来て欲しいと猟兵を手招いた。
あゝ、おかしなことを言うではないか。
貴女、明晩は公演等ないでしょうに――?
大成功
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第3章 ボス戦
『辻斬り少女』
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POW : 【先制攻撃型UC】血桜開花~満開~
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 【先制攻撃型UC】絶対殺人刀
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、殺意】を籠めた【斬撃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【急所、又はそれに類する部位】のみを攻撃する。
WIZ : 【先制攻撃型UC】ガール・ザ・リッパー
【対象のあらゆる行動より早く急接近し、斬撃】が命中した対象を切断する。
👑11
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●
――明晩、来てください――
それは乙女が口にする言葉ではないだろうと感じる者もいるかもしれない。煌々と照る美しき月が照らす夜であった。
「御機嫌よう」と乙女は笑みを浮かべる。
美しき、戀を舞った乙女。その名を白百合嬢という。
本来の名を明かさぬ彼女は何らかの事情があるのか。それとも、名すら覚えていないのか。
感じるのは常人ではない気配。彼女が影朧であるという確かな証左だ。
「月が綺麗でしょう。見せたかったのです」
乙女は囁く。
「昔話を聞いてくださる?
儘ならぬ話なのです。わたくし、道ならぬ恋をしたのです。隘路を這う様な――そんな、淡い思い出です。
幼き頃から体の弱いわたくしは体を見てくださっていたお医者様に恋をした。妻子ある彼に……だから、罰があたったのでしょうか」
乙女は目を細める。
「わたくし、辻斬りと謂ふものにこの身を切られたのです。
だから――執着と戀と謂ふ儘ならぬ思いでわたくしは此処におりますの」
刃がこちらへ向いた。乙女は『殺す気』なのだろうか。
「わたくしは白百合嬢。何時か、かの方にこの思いが届くまで舞いますわ。
――あゝ、邪魔をしないで」
それは乙女の恋心。
刃を振り上げた彼女はサアカスの花形ですらない。只の、影朧であった。
楠樹・誠司
焔の如く燃える様、身を焦がす様な
叫び出したい程の衝動を胸に抱いた儘
うつくしいばかりでは居られぬ想ひ
嘸、無念で在った事でせう
此の能面に、乙女心は判らぬだらうと
貴女は笑うでせうか
嗚呼、白百合の君
見誤ってはなりませぬ
我が身、とうの昔に『うつろ』と成りて
今尚在りし日を求め彷徨う影法師也
初手のみ刃を抜きて白百合の剣戟を受け
次手目からは残像交え鍔迫り合いを
ヒト想ふ故に刃を振るうならば
私も一時『そう』在りませう
貴女の執着、想ひごと断ちませう
……我が身、ヒトならざるものなれど
なればこそ、ヒトを愛すもの
貴女もまた慈しむべきもの
貴女の想ひごと、此の胸に抱き続けませう
無垢なるものよ、御還りなさひ
――幻朧桜の御許にて
●
炎の如く燃え、身を焦がす様な欲求。それは慟哭にも似た衝動のかたまりであったか。
誠司は尾を引く黒髪の、その美しさを只、視線で追った。
うつくしいとだけでは済まされぬ――それを人は『戀』と呼んだのか。
その叫び出さんとする想いの欠片に彼は「嘸、無念で在った事でせう」と呟いた。
白百合の眉がぴくりと動く。刃を握る指先が、僅かに震えた。
「此の能面に、乙女心は判らぬだらうと、貴女は笑うでせうか」
「さあ、どうでせう。わたくしだってわかったふりかも知れませんわ」
「わかったふり?」
「ええ、だって。分からぬ儘だからこそ、わたくしは――」
続く言葉は誠司も分かっていた。白百合はとうの昔に『うつろ』となった事を知っていた。
見誤る事無く、今尚在りし日を求め彷徨う影法師として顕現し続ける。
「白百合の君」
「わたくしは、『うつろ』也――ええ、それのどれ程憎い事!」
踏み込む一手を受け止めた。ぎいん、と思い音を立てて弾け飛ぶ。
おんなの両眼がギラリと瞬く。その視線の熱さに火傷しそうなほど。
(ヒト想ふ故に刃を振るうならば――私も一時『そう』在りませう
貴女の執着、想ひごと断ちませう)
ヒトを愛すヒト為らざる者として。
彼女は慈しむものであるとその距離を詰める。恋に生きて、愛に死んだ。
「無垢なるものよ、御還りなさひ――幻朧桜の御許にて」
厭だとその声は響いた。
成功
🔵🔵🔴
新山・陽
「貴女は、ご自身の刃によって、己の恋路を汚そうとしています」
サアカスで多くの観客が打ち鳴らした拍手は、貴女の舞い……恋の有りように送られていました。
「ですが、これでは生前貴女を害した辻斬りと同じになってしまう。血で汚れながら進む恋路に先はありません」
ガール・ザ・リッパーは【気合い】と【激痛耐性】で耐え、UC『真価の片鱗』で動きを止めて話そうと試みます。
「思い人は、賢明に貴女の命を救おうと尽力なさった医師でしょう? なら今の貴女のそんな姿、望まないと思いませんか?」
彼女の恋情は命の深い所に根ざしているのでしょう。道半ばで倒れた無念がその刃なら、それだけは止めましょう。
「貴女は、ご自身の刃によって、己の恋路を汚そうとしています」
只、穏やかなる響きを侍らせて陽はそう言った。サアカスで多くの観客が打ち鳴らした拍手さえ無碍にするかの如き乙女の姿に肩を竦めて。
彼女の舞いに観客たちが歓喜したのはその刹那さ、美しさ故であった。
「……貴女の舞い……恋の有りようは血に濡れれば意味をなさない。
これでは生前貴女を害した辻斬りと同じになってしまう。血で汚れながら進む恋路に先はありません」
「それではどうしろと?」
「どう、とは?」
「この無念さえ飲みこめと謂ふのでせうか」
苛立ちの様に刃を振るい上げる。距離を詰める様に慟哭が陽の頬を裂いた。
「思い人は、賢明に貴女の命を救おうと尽力なさった医師でしょう?
なら今の貴女のそんな姿、望まないと思いませんか?」
時間さえ凍らす様な、その言葉に白百合は唇を噛み締めた。あゝ、けれど、「もう遅い」とその唇が紡いだ途端――刃は鋭さを増した。
せんせいは、もう、失望なさったでしょうね。
成功
🔵🔵🔴
夏目・晴夜
お可哀想に
貴女に切り殺されて無念の儘に散ったであろう罪なき人々が
己の恋心を免罪符に人を殺す悪逆非道が、執着だの戀だの片腹痛い
貴女がどれほど舞おうとも、人殺しの思いなんぞ未来永劫届きませんよ
血に汚れたその思いを受け取って貰える奇跡も起こりやしない
影朧の身に堕ちながら、何時か思いが届くとまさか本気で仰っているのですか?
笑わせないで下さいよ
敵が急接近した際に妖刀で【串刺し・傷口をえぐる】
そして刺した刀身から『喰う幸福』の呪詛を敵の身の中へ放ちます
影朧から人の身へと生まれ変わりさえすれば
その思いは何時か本当に届くかも知れないのに
受け入れられずとも受け取って貰えるかも知れないのに
ああ勿体ない、お可哀想に
その日、彼は天蓋飾った夜の月がどれ程尊いものかを知った。
「お可哀想に」
唇乗せて、その言葉は目の前の悲哀の乙女に向けたものではない。乙女が為すが儘、その刃を振り下ろした相手に駄――あゝ、無残にも切り殺されて無念の儘に散る罪なき人々を思えばこそ、晴夜はその言ノ葉を口遊む。
「お可哀想に」
「わたくしとて、殺したくはありませんわ」
「けれど、殺したのでしょう」
それは恋心と体のいい言い訳を免罪符とした悪鬼が如き行いではなかろうか。
執着心、恋煩ひ。思ひが赤き血潮に変わるのだとすれば――『愛しい人』に届く訳もなかろうに。
「影朧の身に堕ちながら、何時か思いが届くとまさか本気で仰っているのですか? 笑わせないで下さいよ」
「――あなた」
乙女の指先に力がこもる。刃を握るその掌がぶるりと震えた事が晴夜には見て取れた。
「あなた、あなた、あなた、あなた! あゝ、わたくしの心が分からないというのですね。これ程迄焦がれたというのに! あなた!」
刹那、視線が交わった。まるで指先絡める距離で、乙女の腹へと突き刺した妖刀。
ぬらりと赤が散り放たれる。乙女の唇が震えあがり「あゝ」と声が俄かに漏れた。
「影朧から人の身へと生まれ変わりさえすれば――その思いは何時か本当に届くかも知れないのに」
乙女の目は見開かれた。憂いに満ちたその瞳に宿る色彩は、確かに恋する少女の者か。
「受け入れられずとも受け取って貰えるかも知れないのに……あゝ、勿体ない、お可哀想に」
刃を引き抜き『ぼたぼた』と血を滲ませて、乙女は言い放った。
――もう、遅いのよ、と。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
あら困ったねぇ
諦めろとか忘れろナンてのは酷なハナシ
しかし良い月の下、聞かせてくれた礼はするとも
好きになるのに理屈はいらない、そうでしょう
ただ其れが叶うかは別のハナシ
だから君の死も、恋とは別のモノ、ましてや罰だなんて
斬れば斬る程募るのは、恋心でなく血の匂い
じきにサアカスだって匿えなくなる
どれだけ舞おうと、決して届くまいよ
斬撃は躱す事より『オーラ防御』で凌ぎ『カウンター』を狙う
踏み込む相手へ右手振ると同時、人差し指の「Cerulean」を燻銀の刀剣へと変じ斬りつけ【天齎】発動
ねぇ、本当の名を教えて頂戴な、と『呪詛』籠めた刃で『2回攻撃』
斬るのは纏わりつく怨讐だけにして
淡い想いを思い出してみない?
「あら困ったねぇ。諦めろとか忘れろナンてのは酷なハナシ……。
しかし良い月の下、聞かせてくれた礼はするとも」
コノハは云った。もう遅いとあきらめる程の悲恋。その悲哀。あゝ、恋物語として聞くなればどれ程に『美しい』であろうか。
月下の乙女より流れる赤は涙の如く美しい。
「好きになるのに理屈はいらない、そうでしょう。
ただ其れが叶うかは別のハナシ。だから君の死も、恋とは別のモノ、ましてや罰だなんて」
斬れば斬るほどに募ったのは恋心だと白百合は告げた。
募る思いを刃に乗せて、悲哀を踊った憐れな嫋やかなる一輪。けれども薫るは血潮の匂いでは舞い続けても何時かは遁走の終わりが来てしまう。
「わたくしは――それでも!」
「あゝ、そうだね。そうする『しか』なかったんだ」
降ろされた刃を弾く。その至近距離、空もの用のオーラを纏う武器で妄執を切り取る様に呪詛を払う。
「ねぇ、本当の名を教えて頂戴な」
「わたくしの――?」
怨讐を切り取って、それでコノハは乞うた。
名前、を。
白百合の君だなんてそんなウソだらけの存在はハリボテで固めただけの蝋人形だ。何れは焔を灯せば溶けて消える紛い物。
彼女の唇が動く。ひとつ、ふたつ、みっつ。
「 」
美しき、花の名を、口にして。あゝ、その花が咲くのは五月の頃であっただろうか。美しき乙女に良く似合う枝垂れの紫苑。
「素敵な名前」
その言葉と共に、再度、振り下ろせばその胸に深々と刃は突き刺さっていた。
大成功
🔵🔵🔵
楠樹・誠司
決して手にすること叶わぬと
相見えること能わずと
判って居るからこそ
重ねた刃が、あゝ
彼女の、私の、慟哭のやうだ
斬れど重ねど晴れぬ靄
彼の人に其の刃届く迄
貴女は満足出来ないのでせう
一度きり
此の身に白百合の一閃を受けませう
刃を身に食い込ませた侭、己が刃も白百合へ
痛みこそ感じぬ『うつろ』の身なれど
此の一時だけ、貴女は他者を傷付けられませぬ
私は貴女と云ふ女性が存在した事を
決して忘れはしますまい
貴女を『居なかったこと』には致しませぬ
貴女の無念、憧憬――何時の日か新しき生を受け
たった一つの戀を見付け出す迄
緋を、ひとひら
貴女のかけらを『せんせい』に届けると約束致しませう
全てを晴らせなくとも……悔いは、残しますまい
淑女に名を問う事は、決して悪い事ではなかった。ましてや彼女は妖であったのだから。
決して手にすることが叶わぬと相見て居る事能わずと、判って居るからこそ。
抵抗するが如く赤き血潮と共に、重ねた刃が、嗚呼、慟哭のやうだと誠司は目を細めた。
斬れど重ねれど晴れぬ靄の中。満身創痍で乙女は歩み続けたか。
愛しい人に刃届かぬ儘では、それは往く手さえ定まらぬ儘の靄を潜ることしか出来なくて。
只の一度、それが白百合が刃を振るう最期であった。
腹に食い込むその感覚に誠司の唇から赤が落ちる。刃が身を裂く感覚が、乙女の慟哭が如くぎりりと締め付けるから。
「――痛みこそ感じぬ『うつろ』の身なれど、此の一時だけ、貴女は他者を傷付けられませぬ」
だからこそ、その距離の儘、乙女に、白百合に――『 』という名の少女に刃を振り翳した。
「私は貴女と云ふ女性が存在した事を、決して忘れはしますまい。
貴女を『居なかったこと』には致しませぬ。
貴女の無念、憧憬――何時の日か新しき生を受け、たった一つの戀を見付け出す迄」
「わたくし……」
形の良い朱を飾った唇が震えている。その色彩は徐々に色味を失って、生の気配を消し去るから。
「また誰かを好きになれるかしら」
掌に、赤いリボンが落ちた。乙女が愛おしいと願掛けに常に飾った緋のひとひら。
満開の花はもはやもう散ることはないだろう。
また誰かを愛したい。
その時は口にするのだ、道ならぬ恋であろうと。
諦めがつく様に。妄念に駆られぬように。
言ノ葉にして、こととうように。
あいしていますと只、紡ぐのだ。
「ねえ、あなた」
白百合の乙女の瞳が揺れ動く。地に付したその身体が花の様に散ってゆく。
「貴女のかけらを『せんせい』に届けると約束致しませう。
きっと、また――誰かを好きになれるでしょう」
そうならいいわ、と乙女は笑った。
花弁は、最後、一つの言ノ葉を残して。
「――月が、綺麗ね」
大成功
🔵🔵🔵