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希(こいねが)うは誰の為か

#サクラミラージュ


●グリモア猟兵との邂逅
 時は大正――その歴史も長く続いた帝都には一つ奇妙な噂話が芽吹こうとしていた。
 空が黄金色に輝く逢魔が時、とある場所に赴くと『己が最も希(こいねが)う相手に出会うことができる』らしいといったものだ。
 出所の分からぬ噂は人々の興味や恐怖を以って流布されていく。放っておけば瞬く間に広がることは用意に想像することができるだろう、と。

「そんな噂をばら撒く『民間人』が居るとビビっとキャッチいたしましてね」
 グリモアベース、その一角で紅茶のティーカップを傾けていた少女、シュテルンヒェン・ライヒナシュナイデ(バトルメイド・f14769)はあなたに向かって此度の依頼内容についてそう語る。
「何らかの思惑があって、願いを持つ者を影朧(かげろう)の元へ導いているんじゃないかなーと、このメイドセンスが反応いたしましてね!!」
 噂を掴み、真相へと近づけるような手順は協力者の動きあっての事である。そもそも噂をばら撒いているのが影朧自身であればわざわざ特定の場所に誘導することもないはずだ。
「猟兵の皆さんにはその噂の出所である民間人を探し、説得をして影朧の居所を探って欲しいのです。勿論、ウルトラハイパーゴージャスにラグジュアリーなメイドから追加の報酬も御座いますよ!!」
 そう言ってメイドは右手に黒々とした謎のオーラを放つパイ(ダークマター)と、左手には美味しそうな香りのする新しい紅茶を用意した。

 あなたはこの依頼を引き受けても良いし、引き受けなくとも良い。
 そしてこのパイと紅茶は食べても食べなくとも良い、メイドからのありがた迷惑というやつである。
 もしもこれを食べるのならば……少々ばかり試練が訪れるかもしれない。

「あ、そうそう。方法はお任せしますが……相手は民間人である事をお忘れの無いように☆」

●帝都
 季節は秋口に入ろうとしている、だというのに辺りに咲き乱れるのはこの世界の特徴である幻朧桜(げんろうざくら)だ。
 枝葉が風に玩ばれ、緩やかにその身を揺らす。風との別れを惜しむように放たれる桜吹雪は幻想的でどこか恐ろしさを孕んでいる。

 メイドから得た追加の情報では『噂を口にする者は女学生が多い』とのことだ。
 彼女達の集うカフェ・喫茶店・パーラー、女学生の通う学校、あるいは表通りを探索して民間人の協力者を得るとしよう。


ゴリラ
 はじめましての方ははじめまして!そうでない方はこんにちは!!
 ゴリラと申します!!
 今回は帝都にて流布されている噂話の解決をお願いしたく筆を取りました。
 第一章では『影朧の噂を流している民間人』を探し説得をして噂話の場所を聞き、
 第二章で得た場所へと赴き影朧の罠を掻い潜り、
 第三章で影朧との戦闘を予定しております。

 メイドのパイについては死ぬほど不味い、あるいは死んだ方がマシな味のダークマターとなっております。
 こちらは触れていただけなくとも通常通りのリプレイを執筆させていただきますのでギャグが苦手な方もご安心下さい。
 触れちゃう方は噂の内容である『己が希う相手』を思い浮かべてしまうかもしれません。ただ単に食べたくなった方も大歓迎ですので、お気軽に食べる食べないをお選び頂ければ幸いです!!
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第1章 日常 『怪奇な噂』

POW   :    歩いて情報収集したり、聞き込みをしたりする。

SPD   :    事件に関係ありそうな場所へ行ったり、新聞などで情報を集める。

WIZ   :    知恵や魔法を使い、推理する事で犯人を絞り込む。

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疋田・菊月
ははあ、人の噂というのは伝播するのも早いですよね
聞く限りでは浪漫のあるお話みたいですが、果たしてどう恐怖に至るのか
とにかく、情報を集めない事には始まりませんねぇ

ここは、繁盛していそうなカフェーにてお手伝いを申し出てみましょうか
ちんくしゃと侮るなかれ、私も帝都の端くれでカフェーに下宿する身です
オールワークス!で最大限に奉仕いたしますれば、多少の繁忙も賄えましょう
接客のついでに、主に女学生さんに噂の事について探りをいれてみれば、何かわかるかもしれません
とはいえ、カフェーはお客様に楽しいひと時を過ごしていただくのが何より
深入りは控えましょう
それにしても、あちらで頂いたスヰーツはなかなか奇抜な味でした



●グリモアベース
 疋田菊月はメイドから依頼について聞き、それに同意する態度を見せる。
「ははあ、人の噂というのは伝播するのも早いですよねえ」
 噂の大半は良し悪しなど関係無く、大半は興味心から広げられるものだ。
 今回の噂というものは聞く限りでは浪漫のある話ではあるが、グリモア猟兵から齎されるものともなればその限りではない。
 それに影朧が絡むとなれば望まずして危険性が付き纏うものだ。
「とにかく、情報を集めない事には始まりませんねぇ」
 噂がどのようにして恐怖へと至るというのか。
 疋田はメイドに別れを告げて転送の合図を出した。

●とあるカフェー
「いらっしゃいませ!!」
 疋田は木製の盆を手にカフェーという名の戦場に立っていた。
 大きいとは言えぬカフェーには所狭しにと机と椅子が並びたてられ、そのどれもが埋まっている。
 軽食を楽しむもの、本と共に暖かいミルクを飲むもの、あるいは雑談に興じるもの。特に目立つのは品の良さそうな女生徒たちが話に花を咲かせていることだろうか。
 女性の会話というのは生きる上で必要不可欠なものらしい。聞き込むまでもなく、さまざまな会話が耳を掠めては万華鏡のようにころころと変化していく。

「……深入りせずとも問題は無さそうですね」疋田は小さく呟いた。
 カフェーはお客様に楽しいひと時を過ごしていただくのが何よりである。
 こうして給仕を行いながら猟兵として動く事ができるのは、別のカフェーに下宿している疋田にとっては僥倖であった。
 オールワークス!を使用しているとはいえ、身一つで飛び込み宛らにカフェーの手伝いを申し出た身である。どちらの仕事もきちんとこなしたい、そんな思いが芽生えるのは致し方のない事だ。
 幸いにも多少の繁忙は賄える自身はあったし、厨房の人間が安心した顔で任せてくれている。決して邪魔にはなっていないだろう。

「お待たせいたしました」
 盆の上に乗せられた軽食をテーブルの上に並べれば、座っていた女学生がこそこそと小声でなにやら語り始める。
『そういえばご存知? 三番通りのガス灯の噂を』
『ええ存じ上げています、確か……希う者に出会えるという噂ですよね』
『わたくしも聞いた事があります。上級生のお姉さまが親の選んだ婚約に嘆き、恋慕している方を想って行ったと』
 小声ながらも上げられる声には明らかな興味心が滲み出ている。
 疋田は邪魔にならぬよう配膳を行い、彼女達の話を注意深く聞いていく。
『そうでしたの、それでその方はお会いできたのかしら』
『噂では……会えたらしいとは。ただ、その後どうなったのかはどなたも存じませんの』
 あら、まあ、そうなの。
 丁寧な言葉遣いが何度か往来し、満足したのか次なる話題は配膳された軽食についてだった。
 彼女達から得られる情報はこのくらいだろうか。疋田は聞き耳を立てるのを止め、給仕へと急ぎ戻っていく。

「三番通りのガス灯……」
 キーワードは得られた。ならば女学生に配膳するときは噂についての探りを入れてみても良いかも知れない。 

『あ、疋田さん。そろそろ一回休憩をどうぞ』
 人波が引いた頃、厨房の男が疋田を手招きする。
 素直についていけばそこには賄いとして用意されたフルーツサンドが置かれていた。
「ありがとうございます」
 二、三会話を挟み、厨房の隅でフルーツサンドを手に取った。
 賄いとはいえその味は店で出されている物に変わりは無い。口の中に広がるクリームの甘さと果物の甘酸っぱさに舌鼓を打ちながらふと想う。

「それにしても、あちらで頂いたスヰーツは中々奇妙な味でした」
 メイドが振舞ってくれたパイ(?)を頂いたとき、脳天に何か突き刺さったかのような感覚が訪れたのだ。
 一体あれは何を使っていたのだろう。疋田は考えてみたが、直ぐに止めた。
 時代や人が変われば好みも変わるものだ。きっとあちらの世界ではそれが正しい味なのだろう、と。
 それがダークセイヴァーへのとんでもない風評被害だということは、彼女のみが知ることである。

 

成功 🔵​🔵​🔴​

フフトフ・トトトフ
●UHGLM(ウルトラ略メイドの人
何だお前(意訳:どちら様ですか 私に何か 程の意
依頼?
フフトフはそんな面倒な事しない! うせろ!
(意訳:これからご飯を探しに行くので 程の意

(腹の虫が大合唱

ソレをくれる?
…お前イイ奴だな(単純
この前囓った鉄釘より美味しそうだ
フフトフは依頼、受けることにする…

いただきm

●マズいはつよい
鉄釘よりマズかった…
でも体に良いものはマズいと言う
フフトフは次こそマズいに勝つ(涙目

●人捜し
じょがくせえ?
かへ?きさてん?ぱーら?
何だそれ
めし食う所で、デカい女(フフトフ比)に聞いて回れば良いのか?

おいお前じょがくせえか?
逢魔が時に(略

そうか
よくやったほめてやる
これをやる(鉄釘



●グリモアベース
 小さき妖精はメイドの前で首を傾げていた。
 いきなりメイドに呼び止められたかと思えば、彼女は満面の笑みで自らが得た予知を語り始めたからである。
 知り合いかとも思ったがそういう訳でもない。このメイドは一体何者なのか、フフトフが尋ねようと口を開けば飛び出したのは粗野な言葉であった。
「何だお前」
 だがメイドはそれを気にする事無く会話を続けた。
 予知の内容、キーワード、そして提示された依頼について。
 推察するに彼女はグリモア猟兵なのだろう、それならば急な呼び止めも納得がいく。
 平時ならば依頼の一つや二つ、引き受けたのかもしれない。だが、生憎な事にフフトフは腹を空かせていた。グリモアベースに訪れたのもこれからご飯を探しに行くためである。
「依頼? フフトフはそんな面倒な事しない! うせろ!」
 吠え立てるように吐き捨てはしたが、それに続いたのはメイドの言葉でもフフトフの言葉でもなかった。
 グゥウウウ。という腹の虫の叫びである。
 可愛らしい鳴き声というよりは大合唱と言った方が近いだろう。

 両者に短い沈黙が落ちる。
 先に動いたのは何かに気付き、右手を差し伸べたメイドである。
 その手には黒々としたオーラを携えている『何か』であり、有ろう事かメイドはそれを『パイ』だと言い張った。

「ソレをくれる?」
 メイドは微笑み頷く。
 パイは少々禍々しいが、この間齧った鉄釘よりは美味しそうにも見える。断る手は無いだろう。
「……お前イイ奴だな」
 フフトフは幾分が態度を改め、パイと共に依頼を引き受ける事にした。

●帝都
 フフトフが降り立ったのはサクラミラージュの世界であった。
 一年を通して桜の花びらが舞う世界、それは他所の世界より訪れた者に驚きを齎す。のだが、現在フフトフは別の驚きに苛まれていた。
「釘鉄よりマズかった……」
 表情を暗くし、そう零す態度に先刻の威勢の良さは見られない。
「でも身体に良いものはマズいと言う」
 あのダークマターをマズいという括りに入れてしまっていいのかは定かではないが、フフトフは己を鼓舞し持ち直す。
「フフトフは次こそマズいに勝つ」
 瞳にじんわりと水分が浮かんだ。

 気を取り直して向かったのはメイドが言っていたじょがくせえが集まる場所だ。
 かへ、きさてん、ぱーら。
 フフトフ的に解釈をすれば『デカい女がめしを食う所』であるらしい。
 聞き覚えの無い言葉に首を傾げつつも向かったのは一件のカフェだ。

 室内は広く、殆どの席は埋まっていた。
 給仕が目まぐるしく店内を回っているのを横目に、フフトフは一番近い席に座っていた女学生に声を掛けた。
「おいお前じょがくせえか?」
 女学生は急な声掛けに驚いたがフフトフの姿を確認するとユーベルコヲド使いだと悟り、快く応対してくれた。
「逢魔が時に――」
 その名を出した瞬間、女学生は驚いた声を上げる。
 どうやら先ほどまでその噂話に興じていたらしい。なんでも三番通りのガス灯の下で件の噂に出会えるのだ、と。
「三番通りのがすとう……そうか、よくやったほめてやる」
 フフトフの無骨な態度を気にする訳でもなく、女学生は『お力になれたのならば』と小さく頭を下げた。
「――これをやる」
 働きには礼を返さねばならない。フフトフは懐から『パイよりはマシ』な鉄釘を数本、机の上に並べた。
 本来ならパイを上げても構わないのだが、自身ですらマズいと思ってしまう代物である。目の前で優雅に茶を嗜んでいる女学生があのパイに打ち勝てるとは思えなかったためだ。
 女学生は鉄釘を見て首を傾げていたが、好意からくるものだと解釈をしたのか小さく微笑んだ。
 その微笑が『獲物を獲って自慢している猫』に近い事をフフトフは知らない。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋森・玲瓏
[POW]

「……っ!?」
やーんっ。あのパイこわーいっ! れーくん死にたくないよぅ!
スマートフォンに[お気持ちだけで充分です]って書いて、お断りしましょ?
んと、今書くから待っててね! シンケンにぽちぽちぽちぽち……もぐもぐ。……あれ?

「……」
えっとね、れーくんね、ガッコー行ってみたーいっ。
学校だとね、女学生さんいーっぱいいると思うの!
だからぁ、情報集め、効率よさそーって思いました!
あっ、でもでもぉ、目立っちゃうかなぁ?
あんまりワァワァってしちゃうと、おべんきょーのジャマだもんね。
うにゅ~。じゃあじゃあっ、テキドに【目立たない】よーに気を付けて、筆談で、【情報収集】!
ウワサの場所はどこですかーっ?



●グリモアベースにて
 秋森玲瓏の頬に冷や汗が伝う。
 目の前に突如として現れた形容しがたい恐怖に思わずして息を呑んだ。
「……っ!?」
 脳内の思い浮かぶ文字は『死にたくないよぅ!!』この一言に尽きる。
 手持ちのスマートフォンを取り出しメモ帳を起動した。これはマズイ、あんなにも怖いパイは受け取ってはならない。
 震える指先で『お気持ちだけで十分です』と文字を綴ろうとすれば眼前に影が落ちた。ちかちかと輝くスマホに反射するようにして映るのはメイドと――件のパイだ。
 今から書くから待っててね!!表情だけでそう伝えてみたがメイドは笑みを濃くするばかりである。
 彼女の口元が細い三日月のように歪み、そして差し出される。手に握られたのはあのパイの一欠けらだ。
 逸る気持ちを押さえ文字をタップしている最中、口の中を奇妙な食感が支配する。
 もぐもぐと咀嚼しているのは紛れもない己の口であり、鼻を突き抜ける感覚はどこまでも味わった事の無い焦燥感が蝕んでいく。
 秋森の対策虚しく、無情にもメイドの手に有ったはずの一欠けらは姿を消していた。納まったのは言うまでも無く――。


●帝都にて
「…………」
 何とも表現しがたい感情を胸に秋森は帝都を歩いていた。
 どこを歩いても桜の花びらが散り落ち、街並みを艶やかに彩っていた。

 先ほどのパイの事は忘れよう。そんな感情を胸に宿し、秋森は辺りを見回した。
 出来る事ならば学校に行ってみたい。学校ならば女学生もいっぱいいるだろう。
 情報集めの効率を考えるのならばそれが良いはずだ。
 そこまで考えて秋森はふと思う。
 このまま赴いたところで目立ってしまうのではないか、と。

「…………」
 あまりワァワァと騒げば勉学の邪魔になる。
 だが情報収集は任務達成への近道でもある。
 目立たないように情報収集をするためにはどうしたらいいのだろうか。
 秋森は少し考える素振りを見せてから歩を進めた。目指すは帝都にある師範学校だ。

 元より帝都からはユーベルコヲド使い向けのサアビスチケットが配布されている。この時代に置ける身分証のようなものだ。
 事務方にそれを見せて『噂の調査』の名目を掲げれば容易く受け入れてもらうことができた。
 後は学生達に無用な心配をさせぬよう己の立場を偽れば良い。
 考えた末に秋森が出した案は『雑誌の記者』のふりである。筆談での情報収集は多少時間は掛かるが、タイミングを見計らえば学徒たちの邪魔となる事もないはずだ。

 秋森は昼時の学園で調査を開始した。
 人好きのする笑みを携え、幾人かに声を掛けていく。『希う者に出会えるというウワサの場所は知っていますか?』と尋ね、反応によりけり情報を精査する。
 根の葉もないような噂は至る所で生み出されては紡がれているようだ。年頃の生徒が多いからなのかもしれない。
 ようやくそれらしい噂を掴む事ができたのは調査を始めて幾ばくかの頃だ。

「ええ、存じておりますとも」
「…………!!」
 秋森は分かりやすく表情を輝かせ、筆談で続きを促した。
「三番通りのガス灯のお話ですよね。先輩方が話しているのを聞いた事がありますのよ」
『どなたか行ったというお話は?』
「聞きかじった程度ですので誰が、というお話ではありませんね。でも有名なお話ですのよ、強く想いがある者だけが出会えるだなんて少しわくわくいたします」
 どうやらこの話、尾ひれや脚色が入ってはいるが、どれも女生徒が好みそうな題材で統一されているらしい。
 希う者が悲哀や悲劇に寄り添っているのもそのせいだろう。
『ありがとうございました』
 秋森は情報提供者にお辞儀をしてからその場を離れる。
 得られたキーワードは『三番通りのガス灯、女学生の好む噂、悲劇悲哀、強く希う者――』
「…………」
 首を傾げ、キーワードを頭の中で並び立てる。
 関連性は無い、が少しだけ気になる事があった。
『まるで来る人を選んでいるみたいだね?』メモに付け足した言葉を反芻し、秋森は小さく頷いた。
 それならば行ってみようじゃないか。
 学園に響く予鈴を皮切りに、秋森は件の噂の場所へと赴いた。 

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・フォーサイス
サクラミラージュでの聞き込みか。楽しみだな。
もうカフェーに行ってる仲間がいるみたいだし、ぼくは劇場で聞き込みをしようかな。

ねえねえ、お姉さん、会いたい人に会えるって噂聞いたことある?ぼく、会いたい人がいるんだ。

教えてもらったらお礼にパイを上げるよ。グリモアベースでメイドのお姉さんにもらったパイと成分レベルで完全に一致する自身作だよ。

あれ?いらないの?グリモアベースでは食べてた人が感動のあまり倒れてたくらいだったんだけどな。ぼくの料理もまだまだなのかな。



●帝都にて
 アリス・フォーサイスは新たなる世界での任務に心躍らせていた。
 既に猟兵が数名向かっているらしい。カフェや学校で調査している仲間はいるようなので、己は劇場で聞き込みをしてみよう。
 アリスは足取り軽く帝都にある劇場へと向かった。

●劇場にて
 劇場は盛況していた。
 訪れた者の大半は男性で女生徒らしき人物は極僅かのようだ。私服を着ているために女学生かどうかは分からないが、劇場に訪れているあたり富裕層と見て間違いは無いだろう。

「ねえねえ、お姉さん。会いたい人に会える噂って聞いた事がある?ぼく、会いたい人がいるんだ」
 アリスは劇場の休憩場に座っていた身なりの良い少女に声を掛けた。
『噂……?もしかして、学校でお姉さまたちがお話されていたものかしら?』
 初めは首を傾げていた少女ではあったが、得心したのか困り顔で話を続けた。
『連日小耳に挟みまして……希う者に会う事ができるというお話ですよね』
「そうそう、場所とか聞いたことってないかな?」
『御座いますよ。三番通りのガス灯ですね。その一角に長らくの間……消えたままのガス灯がありますの』
 どうしてかは分からないが修理されることなく放置されているガス灯があるらしい。
 そこに逢魔が時に行けば希う者に出会える、というのが少女の知る噂のようだ。
『お姉さまがたが熱心にお話をされていましたもの』
「そうなんだ、誰か行ってみた人っているの?」
『そうですね……お名前は出せませんが向かった者もいるようです。帰ってこられた方のお話を聞く限りでは噂は噂だったと思ったのですが……』
 少女は口淀んだ。
 どこまで話して良いのかを探るような顔つきに、アリスは笑顔で懐を漁る。
「実はぼく、ユーベルコード使いなんだ。今回の噂、もしかしたら影朧と関係しているかもしれなくて」
 懐のサアビスチケットをチラつかせると少女は真剣な表情をしてアリスに向き合った。
『そうでしたか。それならば……私のお話を聞いてはもらえませんか』

 話を聞いてみると、どうやら少女の同級生である女学生が噂の場所について調べていたらしい。
 初めは興味心から来るものだと考えていたが、女学生の婚約が決まった頃からその行動はより顕著になったという。
 縁談も纏まり退学も差し迫った頃、熱心に調査していた彼女は突如消息を絶ってしまった、と。

『もしかしたらあの場所が関係あるのではと思いまして』
「その人、会いたい人がいたの?」
『ええ、婚約者とは別に長年の間……その、お慕いしていた方がおりましたの。……身分違いなので結ばれる事はありませんが』
 少女はそこまで話すと深く息を吐いた。誰にも告げる事ができなかった事情が知らず知らずのうちに重荷となっていたのだろう。
 これ以上尋ねるのは負担を強いる事になる。アリスは明るい笑顔で少女にお礼を述べた。
 そして――あろうことか取り出したのは何かとヤバイ案件を作り出しているメイドのパイであった。
「教えてもらったお礼にパイを上げる、自信作なんだ」
 胸を張ってそう主張するアリスの目に迷いは無い。何せこのパイ、成分レベルで完全に一致する自身作なのだ。
 黒々としたオーラに漂う死臭。パイを差し出された少女は『ヒッ』と小さく悲鳴をあげ、ハンカチで口元を押さえた。
「あれ?いらないの?グリモアベースでは食べてた人が感動のあまり倒れてたくらいだったんだけどな」
 そのどれもが顔色が悪かった、泡を吹いていた、昏睡に近かったなどといった情報が付随していたのだが、どうやらアリスの目にはそう映らなかったようだ。
「ぼくの料理もまだまだなのかな」
 その呟きを聞いた少女が『ユーベルコヲド使いの食生活は普通の人間とは違う』などという勘違いを起こしたのは、また別の話である。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋月・信子
・Wiz
暦では秋の筈なんですがどの季節にも桜が咲く万年桜なんですね
捜査は足から、まずは色んな場所を訪れて聞き込みをして…ある程度信憑性ある情報が揃ったら、喫茶店でUC【影の助言者】で今は私の影のままな『姉さん』と呼ぶ二重身と集めた情報を整理してみます

(話に尾鰭が付くって言うけどこれ程とはね…まず「脚色」されていそうな物から弾いていきましょ)
心の中で会話をしながら手帳に書いた集めた噂話を分けていきます
(だいぶ絞られたようね。じゃ、次はこの噂話を流しているのを見つけて捜査再開しましょ…ところでソレ、何時まで持ってる気?)
それは貰ってしまったパイのようなナニか
忘れ物にしましょ、と影が提案したのでした



●帝都にて
 秋月信子は感慨深く帝都の街を眺めていた。
 季節は秋口、未だ所々に新緑の名残を見せてはいるが木の葉の色は真っ赤に染まりつつある。だというのに、視界にちらちらと映りこむのは春の季語たる桜、その花びらたちである。
「暦では秋の筈なんですが」
 この世界の桜はどの季節にも咲く万年桜らしい。
 自分の居た世界では考えられない景色に心を揺さぶられてしまうのは致し方の無い事なのかもしれない。
 秋月信子は暫くの間、桜を眺めながら今後の方針を決めていく。
「捜査は足から、まずは色んな場所を訪れて聞き込みをして……」
 ある程度信憑性のある情報が揃ったら精査すべきだろう。

 秋月信子は街角を歩きながら人々の会話に耳を傾けていく。
 時折場所を変えつつも雑踏に身を置き、様々な情報を得ようとした。
『聞いた話では』『この前の観劇で』『女学生の話では』
 関係のありそうなものからそうでないものまで、多種多様な噂話が耳に飛び込んできた。
 その殆どが又聞きを含むものなので、話者が変われば当然オチも変わってくる。
「でも、なんとなくは掴めましたかね」
 集まった情報を纏め、こちらで整理してみるとしよう。

 ある程度噂を集め、訪れたのは小さな喫茶店だ。
 人は疎らであまり混雑していない。これならば一人で長居していても疎まれる事もないだろう。
 奥側のボックス席に腰を下ろして集めた情報を手帳に纏めていく。
「話に尾鰭が付くっていうけど……」
 似通った話は何度も聞いてきた。その中でも『三番通りのガス灯』は人気なようで、語り始めから終わりまで様々なパターンを知る事ができた。
 心の中で『姉さん』に語りかければ彼女もそう思っていたようで同意してくれる。

『まず「脚色」されていそうな物から弾いていきましょ』
 姉の助言を受けつつ、書き出した情報を頼りにある程度の流れを絞りだしていく。
 この『三番通りのガス灯』は若い女性、それも富裕層である女学生を中心として流布されているらしい。
 余分な情報を切り落とし、その中で重複する情報を並べてみた。

 『希う相手を思い浮かべ』『逢魔が時に』『三番通りのガス灯』『相手に出会える』
 
 大まかな噂の流れとしてはこうだろう。それを軸として各々の尾鰭がついたとみて間違いはない。
『だいぶ絞られたようね』
 影の助言者は捜査内容に満足気に答えた。
『じゃ、次はこの噂話を流しているのを見つけて捜査再開しましょ……ところでソレ、何時まで持ってる気?』
 秋月信子は紙袋をテーブルの上に置いた。
 綺麗にラッピングされているが紙袋からはドス黒いオーラが漏れ出している。脳裏に浮かんだのはこれを押し付けたメイドの笑顔だ。
「どうしましょうか」
 貰ってしまったパイのようなナニか。悪意は無いのだろうが、顔を顰めたくなるような悪臭が鼻を掠める。
『忘れ物にしましょ』
 影は静かに提案する。

 それを秋月信子がどうしたのかは定かではない。
 だが、その日を皮切りに『異臭を放つパイ』という新たな噂話が流れ始めたのは、また別の話である。

成功 🔵​🔵​🔴​

レオレオ・テロメラーゼ(サポート)
「すごいすごいっ!初めて見た!」
「た、戦わなきゃダメなのかっ!?」
「でっかーーーい!」

元実験体の、駆け出しの猟兵です。つい最近まで培養槽の中におり、外へ出たことがありませんでした。

「世界を見る旅」の途中であり、世間知らずで好奇心旺盛なので、見るものほぼすべてに興味津々かつオーバーリアクションを取ります。
駆け出しであることを自覚しているので、基本的には味方のサポートを目的として行動します。
(サイキックブラストで足止めをする、クロックアップ・スピードで索敵を行うなど)

※知識に乏しく、色仕掛けや金銭取引などの誘いには「?」となります
※リアクション要員、迂闊な新兵役などにお使いください



●帝都にて
 レオレオ・テロメラーゼは帝都の街並みをやや興奮した面持ちで眺めていた。
 帝都の街は低い建物が立ち並んでいる。木造とコンクリート造りが密集しており、その隙間を縫うようにして細かな路地が至る所に伸びていた。
 わくわくしながら近くの路地を覗き込めば、愛らしい猫がこちらを向いて「にゃあ」と一声掛けて姿を晦ました。
 後に残るのはこの世界ではどこでも見られる幻朧桜の花びらだ。風に玩ばれては舞い、石畳の道に美しい色彩を齎している。
「すごい、この世界はあのピンク色の花がどこにでもあるんだなあ」
 見渡したどの方向にも幻朧桜が枝葉を伸ばしていた。
 季節問わず咲き乱れる花はこの国の象徴なのだろう。店先の看板に幻朧桜があしらわれている。

 あちらはどうなっているのだろうか、向こうのお店には何が売られているのだろうか。
 培養槽の中からではお目にかかれない景色に思わずして胸が躍る。

「……あ、でも先ずは調査をしないと」
 この街の観光は依頼が終わってからだ。
 レオレオは先ほどまで居たグリモアベースでの出来事を反芻する。

「たしか……依頼の内容は『希う相手に出会える』っていう噂があって、オブリビオン……この世界でいう『影朧』を探し出すのが目的だ」
 影朧、虐げれらた者の『過去』は一体何を望んでいるのだろうか。

●小さな喫茶店
 情報を得る為に訪れたのは小さな喫茶店だ。
 色の深い木材で統一された店内は落ち着いた雰囲気に包まれている。
 店内には若い女性客が溢れており、そこかしこで会話が弾んでいた。

 レオレオは一人用の席に腰を掛けて辺りの様子を伺いながら件の噂話を拾っていく。
「メモをしておこう」
 拾っていった噂をメモに取り、その中でも登場回数の多いワードを整理していく。

『女学生、三番通り、ガス灯、会いたい人……』

 特定の層に特定の噂が流布されている。ともなればやはりそこに影朧が関わっているとみて間違いはないだろう。

「……場所はなんとなく特定できたから、次はそこに行ってみて――」
「お待ちどうさま、今日の日替わりパフェです」
 レオレオの目の前に置かれたのは店の名物である日替わりパフェだ。
 底にはバニラアイスクリィムが詰められ、途中には桃の果肉がゴロゴロと転がっている。
 ふちから零れ落ちそうなほど巻かれた上に乗せられているのは甘酸っぱいラズベリーソースだ。

「――行ってみるのはこの後で!!」
 いただきます。
 レオレオはペンの変わりにスプーンを握りパフェの山の攻略に掛かった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『幻影ガス灯通り』

POW   :    誘惑にも負けずに直進む。

SPD   :    現れた幻影に理性的に分析、突破。

WIZ   :    幻影に対抗する術式を用いて突破。

👑11
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●三番通りのガス灯
 太陽がその姿を潜ませようとしている逢魔ヶ時。辺りのガス灯の明かりが点り始めた頃に不穏な気配が漂い始める。
 陽は未だ落ちてはいない。
 だというのに三番通りは他の通りに比べて薄暗かった。
 大通りから距離を置けば置くほどガス灯の明かりが弱くなっていく。
 辺りの家屋に人の気配は無い、だが確かに己に対して何者かの視線が突き刺さる。

 一歩、また一歩と歩を進めれば突風と共に桜の嵐が辺りを包み込む。
 風も抜け、辺りの様子を伺おうとしたあなたの前に現れたのは――。

『――――』

 現れたのは貴方が最も希う相手だ。
 生きていようがいまいが関係ない。今一度逢いたい、そう強く願ったものがあなたの前に立ち塞がった。


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 MSより。
 幻影は「あなたが最も逢いたいと願っている相手」となります。
 人であろうともそうでなくとも、生きていようとも死んでいようともその姿を現してくれます。
 そして先に進もうとしたあなたをこれ以上先に進ませないように様々な手を尽くしてきます。
 この幻影を打ち破り、奥に居る影朧の元へとたどり着けるようなプレイングをいただければと思います!!
アリス・フォーサイス
希う相手か。
ぼくにとっては上質なお話。そしてハッピーエンドだな。
それを求めることがぼくにとって人生そのものだからね。

もし、この依頼より素敵なお話があったら、そちらに気をとられちゃうかもな。
そういえば、お話を聞いたお姉さんが身分違いの恋を抱えた同級生が消息を絶ったって話をしていたね。そのお話の続きが現れたら、見届けたいって思っちゃうな。

いや、違う。どちらか一方を選ぶなんて、ぼくじゃない。
ぼくは目の前のお話、すべてを求め、食べるんだ。
量子的な存在になって人としての実態を一時的に失っても、
ぼくはどちらも諦めない。



●三番通りのガス灯
 アリス・フォーサイスは黄金色の空を眺めながら思案に耽る。
「希う相手か」
 アリスにとって希うものは上質な話であり、ハッピーエンドである。
 それを追い求める事こそが人生そのものだ。そう称しても過言ではない。
 
 ならばこの通りに現れる幻影はどのような形を成すのだろうか。
 今までに出会った『最高の話』だろうか、あるいは未だ見ぬ『至高の話』なのだろうか。
 もし、この依頼よりも素敵な話が現れたのなら――そちらに気を取られてしまうかもしれない。
 例えば調査しているときに聞いた『身分違いの恋』など最たるものではないだろうか。あの話の続きが現れたのならば是非ともそのまま見届けたいと――。
 
「――いや、違う」 アリスは目を眇めた。
 どちらか一方のみを選ぶだなんて有り得ないことだ。
 目の前にある話を全て求め、喰らいあげてこそ己が己たる所以だろう。

 アリスは意を決めて一歩踏み出した。
 灯る事を忘れてしまったガス灯は宵闇への入り口が如く影を落としている。
 日が落ちれば更に漆黒へと近づくのだろう。

「さあ、出ておいで。ぼくに食べられたい『お話』」

 アリスはスピン『統計性の関係の破れ』を展開し、己を量子化させた。
 輪郭がおぼろげになり僅かに闇に混じり入る。
 警戒を怠らぬように件の『お話』の到来を待ち構える。

 一呼吸置いて現れたのは桜の花びらだ。
 花の嵐は竜巻のように纏まり形を作っていく。
 淡い光と共に現れたのは情報提供をしてくれた少女と同じくらいの女性だ。
 女学生らしい格好をしてきょろきょろと辺りを見回している。やや遅れ、背丈の高い男性が同じようにして現れた。
 
「――――」
「――」

 桜の影は何か会話をしているように見えた。
 言い合うような姿勢、大きく動いた口元は強い印象を受ける。
 その仕草から推し量るにあまり良い雰囲気とはいえなかった。
 しばし何かを言い合っていた二つの影であったが、ふとした瞬間を皮切りに男の影が霧のように消えてしまった。
「……ハッピーエンドにはならなかったんだね」
 アリスは先に此処へ訪れた女生徒の心情を悟った。
 女性とは『希う者』には出会えた。だがそれは影朧が用意をした幻であり『紛いものの結末』でもある。

 一人ぼっちになってしまった女生徒は俯き、石畳に伏せた。
 するとそれを待ち侘びていたのだろうか。明かりの消えた方面から黒い桜の花びらが吹き荒れる。
 黒い花びらを纏った得体の知れぬ何かは女生徒に向かってその手を伸ばしていた。

 これが捜査の途中で得た『身分違いの恋』の結末であり『噂話の真実』なのだろう。本意ではない幻を見せられた者は絶望の淵に立たされ――そして影朧に連れ去られる。
「なるほど、これはぼくとは相容れぬ存在だ」
 ハッピーエンドを好むアリスにとって、バッドエンドへと導いてくる相手など正反対もいいところだろう。
「だからこそ、ぼくは諦めない」
 得体の知れぬ何かが女生徒の影を攫うよりも早くアリスはその動きを読んで女生徒の手を引いた。
 暗がりから明るい通りへと引かれた女生徒の影は花びらを零すようにしてにぼろぼろと崩れ落ちる。

「残念だけど、ぼくはハッピーエンドが好きなんだ」
 追いかけるようにして飛び掛ってきた黒い影をかわせば、黒い影はそのままその姿を消した。
 明かりが弱点なのだろうか。あるいは幻を見せるのに暗闇が必要だったのだろうか。
 どちらにせよ、辺りに残っているのは身体を量子化させているアリスだけである。

「さて、幻は追い払えた。後は……この噂話がハッピーエンドになるように動くだけだね」
 連れ去られてしまった人が無事であれば『最高のハッピーエンド』にもなるんだけど――。
 是非ともそうあってほしい。アリスは希いながら影朧が待ち構える暗闇へと足を踏み入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フフトフ・トトトフ
*「さんばんどおり」
何だそれ 道の名前?
デカいのは大地にまで名前を付けて所有しようとするのか 傲慢だな

*「がすとう」
明るいけど妙な臭いがするぞ
がすって奴は燃やすと臭いんだな

*もっともあいたいもの
おまえは…

…そうだな
確かに逢いたかったぞ

*お ま え う ま か っ た か ら な

もう一度食われるために来てくれたんだな
フフトフはとても嬉しいぞ

この場で捌いてやりたいが フフトフは仕事中なんだ
とても悩ましいぞ

そうだな 暫く遊ぼう
お前は逃げる フフトフは追う
楽しい楽しい狩り遊びをしよう

走り回るし、遊びついでに仕事もこなそう
目的の「かげろー」って奴はどんなのだろうな

こいつみたいにうまかったらいいんだが



●三番通り
「さんばんどおり」
 フフトフ・トトトフは三番通りにやってきた。
 こまごまとした道から大きな道まで、全てに名前をつけて舗装しようとしている街はフフトフにとって不思議なものだ。
 所有したという証なのか、無用な争いを取り除くためかは分からない。だが、人が大地を己のものだと主張するのは聊か傲慢なのではないかとも思ってしまう。
 辺りを見回しても人通りは少なく、奥は色を忘れてしまったかのように漆黒の闇が広がっていた。空に輝く黄金色も相俟ってか不気味な雰囲気が辺りを包み込んでいる。

「がすとう」
 見上げた先にあるのは灯りが弱くなったガス灯だ。
 奥へ行けばいくほどその輝きは失われつつある。
「がすってやつは燃やすと臭いんだな」
 見慣れた蝋燭とは臭いも灯り方も何もかもが違う。
 人や文化が違えば発達するものも違うせいだろうか。改めて別の世界に来たのだなと思わされてしまう。

 そのまま足を進めれば、現れたのは桜の嵐だ。
 吹雪のように降り注いだかと思えば竜巻のように密集する。徐々に形作られていくその姿は――。

「もっともあいたいもの、おまえは――」
 フフトフは喜んだ。
 あの噂はなかなかどうして悪いものではないじゃないか。
「……そうだな、確かにあいたかったぞ」
 希う者、それはつまり望まれた者。フフトフにとっては確かに望んだ、いや渇望して堪らぬ存在だ。
「――お ま え う ま か っ た か ら な」
 一言一句噛み締めるかのような物言いに自ずと口角が上がる。
 そうだ、とても嬉しいことだ。
 何せ一度食らった相手が再び食われる為に現れてくれたのだから。
 直ぐにこの場で捌いてやりたいが、残念な事に今は仕事の真っ最中だ。
 悩ましくもあるが己が猟兵という立場にいられるのは依頼をこなしてこそである。

「そうだな、暫く遊ぼう」
 楽しい楽しい遊びの始まりだ。あの銀色の世界でたくさん遊んだ『狩り』の遊びだ。
「お前は逃げる、フフトフは追う」
 ルールは一つ。追うものと追われるもの。
 単純明快だ。役割は既に決まっているのだから。

 フフトフは小さい身を生かし、撹乱するように相手を追い詰めていく。
 相手が退けば追撃に走り、横に飛べば逃げ道を塞ぐようにして回り込む。
 狩りの基本だ。徐々に追い詰めて退路を断ってしまえば良い。
 幸いなことに人通りは少なく周りを気にする事無く動く事ができる。

 相手の行動パターンを読み、着地点を予想する。
 待ち構えて手を伸ばせば尾のような部位を掴む事ができた。
 小さいからといって侮る事勿れ。
 フフトフはフェアリーといえど体力も腕力もずば抜けている。
 飛びのこうとした桜の影を逃さず力任せに振り回せば相手は宙に浮いた。その勢いを殺さず石畳に叩きつければ身体を構成していた桜の花びらが剥がれ落ちていく。
 フフトフが叩きつければ叩きつけるほど影の容量は減っていった。

「食えないのがざんねんだ」
 最期の一撃、その直前にフフトフは呟いた。
 あんなに美味かったやつなのに食えないとは、猟兵というものも儘ならない職業のようだ。
 形を保てなくなり、桜吹雪と共に消え失せた相手を想いながらフフトフは考える。
「目的のかげろーってやつはどんなのだろうな」
 対峙したことのないオブリビオンを思い描き、ニヤリと口角を上げる。

「こいつみたいにうまかったらいいんだが」
 もしもそうでなかったら依頼の後にでも食い物を探しにいくとしよう。
 誰も居なくなった三番通り、フフトフは新たな獲物を捕らえる為に暗闇へ向かって歩き始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

疋田・菊月
なるほど、実際に遭遇するのは、私という事だったのですねぇ
とはいえ私の希う相手など……おやおや!
ひょっとしてあれなるは、私の生みの親である疋田教授では?
うーん、相変わらず歳を取っているのか不明なほどの美青年でいらっしゃいますが、ちゃんと食べてるんですかね。心配です
ところで貴方は本物でいらっしゃいますか?
いやだなぁ、お忘れですか?
私の家出を笑って許してくれたのは他ならぬ貴方の筈だ
見分を広げ、経験を積み、人として怪物の貴方をいつか打倒するその日まで、再会しない約束だったではありませんか
それとも、こんなところで打倒されるのが、貴方の望みなのですか?
こんな簡単に逢えてはいけないんですよ



●三番通りのガス灯
 疋田菊月は陽の傾き掛けた三番通りを歩いていた。
 奥へ向かえば向かうほど人通りは少なくなり、頼りである灯りはそのなりを潜めていく。
 家屋から漏れる光なども無く、黄金色の空だけが寂しく街並みを照らしていた。だがそれも直に闇へと沈むのだろう。

 疋田が微かに明かりが灯っていたガス灯を潜り抜けた瞬間、突風と共に桜の花吹雪が辺りを覆った。
 目を細めつつ辺りの様子を伺えば、花びらたちは何かの形を造るようにして集合していく。

「なるほど、実際に遭遇するのは、私という事だったのですねぇ」
 ならば現れるのは一体何者なのだろうか。
 疋田には己が希う相手というのは予測が付かなかった。
 徐々に形をなしていく花びらたちを眺めながらそのあたりをつけようとしたその瞬間、見覚えのある人物が目の前に現れる。

「おやおや!!」
 思わずして疋田の口から声が漏れた。
 目の前に現れたのは美青年が一人、疋田の生みの親たる疋田教授だ。
 ちゃんと食べているのだろうか? そんな感情が先立つのも致し方の無い事だ。
 何せ彼、疋田教授は疋田が最後に出会ったときと変わらぬ見目だ。いや、それ以前より前から歳を取っていたかも定かではないほど若々しい姿で疋田の目の前に立ち塞がっている。
 暗闇を背に佇む姿は正しく疋田の知る教授であった。……見目だけは。

「――ところで貴方は本物でいらっしゃいますか?」
 疋田が尋ねても教授は口を開かない。衰えの知らぬ美貌と共に不気味な笑みを携えているだけである。
「いやだなあ、お忘れですか?」
 疋田は弾けるような笑顔で教授に近寄った。
「私の家出を笑って許してくれたのは、他ならぬ貴方の筈だ」
 にわかに疋田の声色が下がる。
 顔は微笑んでいるというのに、その声は何かを見抜いたかのように冷静で底冷えがするような恐ろしさを孕んでいた。
 確かめるように、確認をしているかのように。
 疋田は教授との思い出を掘り返しながら目の前の『なにか』に声を掛け続ける。

「見聞を広げ、経験を積み、人として『怪物の貴方』をいつか打倒するその日まで、再会しない約束だったではありませんか」
 思い出を語るその表情は相変わらず明るいままだ。声色が明るいものであればなかなかに感動的なシーンだろう。
 だが疋田の付け足した言葉には明るさなどなかった。
「ああ、でも怪物には変わりないのかもしれません」 合っているのはそれだけだ。
 断定的な言葉は既に彼が教授でないことを知っていた。

「それとも、こんなところで打倒されるのが、貴方の望みなのですか?」
 問うた声に答えるものは無い。それもその筈だ、目の前の男は紛い物でしかないのだから。
「こんな簡単に逢えてはいけないんですよ」
 まだ約束を果たすべき時ではない。そうでしょう?
 疋田は教授に視線を遣る。見透かすような視線に相手は僅かに身じろいだ。
 教授は一歩、また一歩と後退し、暗闇の中で霧散するように消え失せる。後に残ったのは美しい舞い散る花びらと微笑んだままの疋田だけである。

「……でも、そうですね。猟兵以外の人間ならばこの幻は厄介なものかもしれません」
 希うものが現れたとすれば少なからずとも動揺が走る。そこを突かれてしまえば、噂話に縋ろうとした者の心を折る事は容易い。
 そこからが奥に住まうものの本領発揮、といったところだろうか。

「強敵には変わりありませんね」
 ならば猟兵として確実に討つのが正しい事だろう。
 疋田は足元に落ちた花びらを一つ拾い、目を伏せる。
「……こんな簡単に逢えてはいけないんですよ」
 風と枝葉の揺れる音に紛れ、誰も居なくなった三番通りに疋田の呟きが落とされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
・POW
希う相手…ううん、これはただの噂話…
―想像しては駄目だ、思い出しては駄目だ、希んでは駄目だ
これは幻、頭で理解しても心は無意識に思い出してしまう
そこに居たのは私が着ている制服と同じ制服姿の3人でした
はる…ちゃん…?
それにひーちゃんと先輩も…
私が声をかけても幻影は気づく素振りもなく談話しながらガス灯から離れていこうとしていました
―ま、待って、はるちゃん、ひーちゃん、先輩…私を、置いてかないで!
駆け出そうとすると背後から3発の銃声が鳴り、幻影が霧散しました
後ろを振り返ればガス灯の灯りで浮かんだ私の影…『姉さん』と呼ぶ私と瓜二つの二重身がリボルバーから硝煙をくゆりさせながらこちらを睨んでました



●三番通り
 秋月信子は三番通りに訪れていた。
 辺りには鬱蒼とした雰囲気が集い、何かが手薬煉を引いているような感覚に不安が過ぎる。
 古来より人は暗闇を恐れた。
 視覚を断たれる事により別の感覚が過敏になるからか、あるいは居やしない何者かの存在を想像してしまうせいだろうか。
 
「希う相手……ううん、これはただの噂話……」
 秋月信子はゴクリ、と息を呑む。
 想像しては駄目だ、思い出しては駄目だ、希んでは駄目だ。
 思えば思うほど意識は『それ』に集中してしまう。無意識に敵うものなど居やしないのかもしれない。
 そんな秋月信子を嘲笑うかのように桜の花びらが突風と共に駆け抜けた。
 暗闇に落とされた色彩は徐々に集合し形を成していく。未発達、あるいは発育途中の少女や少年のような手足、そして次に見えたのは見慣れた制服姿――。

「はる……ちゃん……?」 
 形が知り合いになった、そう気付いてしまえば後は流れるままに場は動く。
「それにひーちゃん、先輩……」
 口から零れ落ちる声色は震え顔色は青白くなる。
 まさか、そんな、居るわけがない。どうして。
 はくはくと口は動き呼吸はにわかに荒くなる。確かな『幻』は秋月の心をかき乱すのに十分すぎる要因であった。

 三人の影は何やら談笑をしているような仕草を見せていた。
 語り合い、微笑み、身振り手振りで楽しいひと時を共にする。ここが学校であればなんら違和感の無い光景だ。
 どうしてこちらに気付いてくれないのだろうか。幻影には秋月信子の声は届いてはいないのだろう。その証拠に、声を掛けた3人は秋月信子の方を向く事無く会話を続け、そして――。
「ま、待って。はるちゃん、ひーちゃん、先輩……私を置いていかないで!!」
 幻影は哀しみに溺れる秋月信子を置いて暗闇の方へと歩み始めた。眩い光が徐々に呑まれ、その輝きは徐々に失われつつある。
 このままでは三人とも消えてしまう、それだけは――。
 秋月信子は追いかけようと手を伸ばした。
 その刹那、両者を分け隔てるように銃声が三度響く。

『駄目よ』
 厳しい声色は秋月信子の背後から放たれた。
 振り返ればそこにはガス灯に照らされた秋月信子の影たる『姉さん』が霧散していく幻影を睨み付けていた。
 否、睨み付けていた中には『秋月信子』も含まれていたのかもしれない。
 秋月信子と瓜二つの顔はリボルバーの硝煙に目を遣り語りかける。
『無様ね、私……』
 吐き捨てるような台詞は怒りとは別の感情が窺い見える。呆れか、あるいは哀しみか。複雑に織り交ざった感情を吐露するように彼女の姉である影は言葉を付け足した。
『いい? 今回は特別よ』
 二度目は――。
 秋月信子の影は全てを語る前にリボルバーを降ろした。

『さ、行くわよ。あんたの目的は泥濘に溺れる事じゃないはずよ』
 目指すはガス灯のその奥、サクラミラージュに生れ落ちた影朧の討伐だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋森・玲瓏
強く、希う者。……うにゅ~、れーくんのとこ、出てきてくれるかなぁ?
自分の願いとか、よくわからないから。

あっ。でもねぇ、しいて言うならねぇ、おともだちができたら嬉しいかも~!
おともだちって、いっぱい遊んだり、いっぱいお話したりして、仲良しさんなんだよねっ? ヒドいことしたりしないんだよねっ? れーくんにもいつか、そんなコができたらいいなぁ。

まだ見ぬおともだち、こんにちはっ。
きっときっとれーくんは君のことを大好きになれます。
でもでもぉ、今はそんなに好きじゃないし、れーくんの邪魔をするなら敵だよね。じゃあ、いらないよね! ばーいばいっ!ってしーましょっ。



●三番通り
 秋森玲瓏は誰も居ない三番通りを歩いていた。
 辺り一帯には暗闇広がっている。先に進めば進むほどそれは濃くなり、頼りの明かりであるガス灯はその輝きを失いつつある。
 ガス灯の明かりが完全に消え失せるその一歩手前、秋森は立ち止まり首を傾げた。
 己には強く希う者が居ただろうか? と。
「…………?」
 秋森は今一度誰か居まいかと考えてみたが誰かの顔が浮かぶ事は無かった。
 そもそもとして自分の願いというものをあまり持っていないということにも気が付く。
 ……これでは希う者は出てきてくれないのではないだろうか?
 一抹の不安を胸になんとかひねり出そうとし、ふと思い至った。

「……」
 強いて言うのならば、己の友になってくれる者が出てきてくれたら嬉しいな、と。
 兼ねてより『おともだち』という存在について興味を持っていた。
 沢山遊んだり、沢山お話をしたり、とても仲が良い存在である。きっと『おともだち』ならば酷い事もしないだろう、と。
 もしこの場に現れてくれたのなら、挨拶をして、大好きになれると伝えて――きっと良い関係になれる。いつかでも構わない、そんな存在が出来てくれたらいいなあと黄金色の空を見上げて未だ見ぬ『おともだち』思いを馳せた。

 すると通りに突風が吹きぬけた。
 ゴウゴウと強い風と共に現れたのは辺りを覆いつくすように湧いた桜の嵐だ。
 暗闇に浮かぶ桜の花弁は淡い光を伴い、暗闇の世界に鮮やかな色彩を齎してくれた。
 風に玩ばれるようにして舞い上げられた花びらは集合するように一箇所へと集まり形を作っていく。
 あの噂はこうして『希う者』を作り上げるのか。
 秋森は無表情のまま静かに頷いた。

 現れたのは秋森と同じくらいの背丈をした何かだ。
 眩い光のせいで性別や表情は窺えない、かろうじで人型だということが分かる程度だろう。

「…………」
 秋森は安堵した。自分が思い描いたように件の噂が現れてくれたことについて。
 そして現れた『おともだち』にも好意的な目を見せ――目を眇めた。
 先ほどとは打って変わったその態度に友好的な雰囲気など一切無い。

 今回は猟兵としてこの世界に訪れた。
 仕事の邪魔立てをするというのならば、目の前に現れた『おともだち』候補であった桜の影は間違いなく敵である。

 ならばやるべき事は一つだ。
 秋森はその身に宿る膨大な魔力を具現化して桜の影に向かって放った。
 先ほどとは比べ物にならないほどの突風が通りを抜け、影を構成していた桜の花びらを抉り取るように崩していく。
 放てば放つほど影はその身を小さくしていき、最期には霧のように霧散してしまった。

 僅かに残った花びらは所在無さげに揺れて石畳の上に落ちる。
『ばーいばい』
 秋森は口だけをパクパクと数度動かし、その残滓に向かって小さく手を振った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影竜』

POW   :    伏竜黒槍撃
【影竜の視線】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の足元の影から伸びる黒い槍】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    影竜分身
【もう1体の新たな影竜】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    影界侵食
自身からレベルm半径内の無機物を【生命を侵食する影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●三番通りの奥
 あなたは明かりの消えた通りをひた進んでいた。
 世界の全ては闇に包まれてしまったのではないか、そう思ってしまうほど暗闇の通りは続いている。
 そう感じながら歩を進める事幾ばくか。
 やっと自分の身が視認できるほどの明かりが飛び込んできた。

 あなたたちを出迎えたのは焔と見紛う程の赤い光だ。人の血液のように脈打ち、上から下へと不気味に滴り落ちている。
 よくよく見ればそれを包むようにして竜のような姿をした何かがうめき声を上げていた。
 黒い靄と共に影の翼を羽ばたかせ、来訪者に向かってけたたましい雄叫びを上げる。その存在は禍々しく、とても歪な形をしていた。

 その竜の傍には幾人かの人間が血を流して倒れていた。
 影の竜に生き血を吸い取られてしまったのだろうか。未だ息はあるがそれもいつまで続くかは分からない。
 倒れている人を傷つけないように影の竜を斃そう。それが今回の依頼だ。



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●MSより
 竜の影をたおしましょう!
 エンドロールが必要な方は仰ってくだされば書き上げます!
 終わったあと怪我人を運ぶもよし!竜について考えるもよし!帝都を観光するもよし!でございます!
 第三章、お楽しみ頂ければ幸いです!
秋森・玲瓏
「……」
うにゅ? あれが敵さんかにゃぁ?
いっぱいいっぱいヒトをキズつけちゃう、悪いコさんだよぅ! 悪いコには、おしおきしちゃいましょーっ。

えとえと、[POW]の伏竜黒槍撃は、足元から槍が出てくるからぁ、当たらないよーにUCで【ふわぁ】って飛んで、敵さんのところに一気に飛んでいこーっ。
近くに行けたら、具現化したブキで、【怪力】と【空中戦】を生かして、敵さんをぼこんって殴ったり、ざしゅざしゅーって斬りつけられたらいいなー!



●影朧と秋森玲瓏

 薄暗い世界でも尚、色濃く輪郭を有しているのは此処があの影朧が作り上げたフィールドだからなのだろう。
 血潮のように身体を覆う赤い光は誘い込まれた者の末路か、或いは一時でも夢を見られた対価か。
 秋森玲瓏は咆哮する影朧を見上げていた。
「…………」
 あれが今回討伐すべき影朧である。
 影朧を取り巻く赤い光は夥しい量だ。今までに沢山の人から奪い取った証拠だろう。
 秋森は唇を僅かに動いた。言葉が紡がれる事は無かったが意志を持って動かされたそれを読唇するならば『おしおき』の四文字だ。
 悪は討つべし、それが人の敵ならば尚の事である。

 影朧が吼え、歪な眼が秋森へと向けられた。
 ゾワゾワと嫌な気配が肌を伝い、足元へと駆け巡る。釣られるようにして視線を動かせば、己の影が僅かに蠢いたのが確認できた。
 秋森は回避の為に地を蹴り空へと跳んだ。ユーベルコードを展開し、暗闇の宙へとその身を飛翔させる。
 やや遅れ、秋森の居た場所には禍々しい槍が地面から生えていた。
「…………」
 秋森は跳んだ勢いを殺さぬように身体を捻り、魔力で武器を具現化する。
 掌に収まったのは先ほど見た槍とよく似た武器だ。得意の怪力で力任せに槍を突き刺せば眼下の影朧の姿が僅かに揺らいだ。
 赤い血液が零れるようにして地面に流れ落ち、緩やかに影朧の体積を減らしていく。
 
 弱点が分かればこちらのものだ。
 秋森は影の槍が届かぬ場所から追撃を仕掛け、影朧の身に魔力の槍を突き立てていった。
 攻撃を受けた影朧は身体を震わせ、嘶く。
 秋森は流れ落ちる血を眺めながら再び槍を構えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

疋田・菊月
おやおや、これはいよいよもって捨て置けないみたいですね
誰かを傷つけないうちに桜に還ればと、思っていましたけど……
まあ、何はともあれ、被害者の方々から引き剥がさないことには

クロックアップ・スピードで速力を確保し、速さで翻弄しつつ銃器にて制圧射を行い、影朧を後退させられれば僥倖
それでなくとも、注意を引いて被害者たちから引き離すことを目標として動きます
私一人で追い込むことはできずとも、時間稼ぎ程度ならできましょう
分身を用意して来たら、距離を取ってなるべく全体を視界内に収めつつ陽動と牽制につとめます
被害者の生命優先です

※連携・アドリブはお任せいたします



●影朧と疋田菊月
「おやおや、これはいよいよもって捨て置けないみたいですね」
 疋田菊月は影朧と、その足元に転がっている被害者を眺め、呟いた。
 誰かを傷つけないうちに桜に還ってくれればと思ってはいたが、そういう訳にもいかないらしい。
「……何はともあれ、被害者の方々から引き剥がさないことには」
 事は始まらない。やるべき事は被害者の救出だ。

 疋田は指をパチリと鳴らした。
 ユーベルコード『クロックアップスピード』で高速戦闘モードに切り替え、得意の速さで影朧を撹乱していく。
 新たに現れたもう一体の影竜を銃器で牽制しつつ、場の制圧を心がけていく。
 押し返すまでには至らないが、影竜たちは疋田の動きを追おうと鋭い瞳を向けていた。
「なら……誘導いたしましょう」
 退かせられぬのであればわざと呼び寄せてしまえばいい。
 足元で伏せている被害者達を踏ませぬよう注意をしながら挑発するように影竜の前を横切った。
 やや遅れ、咆哮と共に影竜は疋田の後を追っていく。
 あまり距離を動かれてはこの暗闇がどうなるのかは分からないのでそこそこの距離の所でクロックアップスピードを解除した。
 ここならば影朧の攻撃が被害者達に降り注ぐ事も無いだろう。
「……時間稼ぎ程度ならできましょう」 疋田は銃器を構え直し、二体の影竜と向き合う。
 何はともあれ被害者の生命優先である。ここで他の猟兵たちの到着を待たせてもらうとしよう。
「さあ、暫しの間……私と遊んでくださいませ」
 携える笑みは平時と変わらぬものだ。だが、その瞳は赤い光を受けて煌々と輝いていた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
なるほど、希望を持たせて絶望させたところを襲っていたんだね。
影竜。これがこの世界のオブリビオン、「影朧」か。
傷つき虐げられた者達の「過去」から生まれた、不安定なオブリビオンなんだっけ。

苦しそうだね。こんなオブリビオンもいるんだ。
いいよ。送って上げる。闇を照らす炎でね。

しかし、なんだかお話としては物足りないな。やっぱり、噂をばら撒いてた『民間人』にたどりつけなかったからかな。
噂が富裕層である女学生を中心に広まっていたことから考えると、ばら撒いた本人もそういった女学生である可能性が高いね。
調べてみようかな。目的がなんだったが、気になるしね。



●影朧とアリス・フォーサイス
「なるほど、希望を持たせて絶望させたところを襲っていたんだね」
 傷つき、虐げられた者達の『過去』から生まれた、不安定なオブリビオンは自分たちと同じような方法しか取れないのかもしれない。
 噂話に悲哀性が含まれていたのもきっとオブリビオンの過去が関連しているのだろうか。
「苦しそうだね、こんなオブリビオンもいるんだ」
 今までに邂逅してきたオブリビオンの性質はそれぞれ違っている。背負うものの大きさが違うせいか、はたまた境遇のせいだろうか。
 共通点としてはその過去に忌むべき何かがあったということだけである。

 アリスは魔力を展開し、数多の炎の矢を生み出した。
 轟々と燃え盛る火焔は暗闇を照らす篝火のように燃え盛り、パチパチと爆ぜている。
「いいよ、送ってあげる――闇を照らす炎でね」
 転生後も迷わぬように、道を照らすランタンの役割となるように。
 アリスのウィザード・ミサイルが放たれた。

●アリス・フォーサイスのエピローグ
「しかし、なんだかお話としては物足りないなあ」
 帝都の大通りを歩いていたアリスは腕を組み、ぼやく。
 事件はこれで解決した。が、噂をばら撒いていた『民間人』については得る事ができなかった。
 富裕層、その中でも女学生の間で広まっていたとなればばら撒いた本人は女学生の可能性が高い。
「調べてみようかな……」 噂を広めた目的や意図を知りたい。
 今までに得た情報に何か手がかりは――。
「あ、そういえば……」

 アリスは再び劇場に訪れていた。演目は変わっているが、訪れている人間に然程変化は見られなかった。
 きょろきょろと辺りを見回し――件の相手を見つけ、片手を上げて声を掛ける。
「お姉さん、こんにちは!!」 それは捜査している時に出会った少女だ。
『まあ、御機嫌よう。希う相手には出会えましたか?』
 アリスは質問に答えず曖昧に笑ってから会話を切り出した。
「あの噂話を広げたのはもしかしてお姉さんかな? って思ったから確認しにきたんだ」
『…………どういうことかしら?』
「お姉さん、ガス灯が長らく消えていたって言ってたでしょ?」
『そうですね。あそこの一帯は修理が行き届いていないと』
「噂話が出たのは最近なのにガス灯が長い間消えていたってなんだかちぐはぐしていない?」
 興味心を煽るだけならば「最近灯らなくなった」と流布したほうが記憶に残りやすく、最新の噂だと紐付けられる。後付の尾鰭ならばもっと上手い表現が他にもあったはずだ。
「それに、同級生の人が帰ってこないっていったとき、すごく重いため息を吐いていたから関係あるのかなって」
 あのため息の招待は『自分が流した噂に惹かれて友人が消息を絶ってしまった』からなのではないだろうか。
「まあ、推理にしてはかなりお粗末なものなんだけど……どうしても気になったんだ」
 数え切れないほどの物語を食べてきたアリスにとって小さな違和感は見逃せない存在だ。それは時としてトリックにも伏線ともなり得るものだから――。
『――そうだったとしたら、どうするのですか?』
 長い沈黙の後、少女は静かに問うた。
「ぼくは理由が知りたいんだ。お話を彩る情報がね」
 それ以上でもそれ以下でもない。言い切れば少女はため息を交えて話してくれた。

『手負いの影朧を匿ったのは私です。初めはただの小さな竜だと思っておりましたから』
 家で育てる訳にもいかず、こっそり三番通りの奥地で飼い始めていたらしい。
『手当てしても一向に良くならず、どうしたらいいものかと思っておりましたら、影朧は私の血と引き換えに素敵な幻を見せてくださいました』
 対価は決して安くは無いがそれに見合う幻であった、と少女は付け加える。
『最初はただの善意でした。軽い貧血と引き換えに仮初の幸せを得られる。素晴らしいことだと思って――』
「噂を流したんだね」
『ええ。小さな竜も元気になって安心致しました。……ですが、噂が広がるにつれ身体はどんどんと大きくなり、求める対価も大量に必要となってまいりました』
 やがて影朧は思いつく。訪れた者を連れ去れば安定してその血を得られる、と。
 後は知る通り行方不明者の件に繋がってくる。
「そっか、教えてくれてありがとう」
 アリスは晴れやかな顔でそのまま去ろうとした、が慌てた様子で少女がアリスの袖を掴む。
『わ、私はどう償えば良いのでしょうか』
「行方不明者は無事、もうあの影朧は出ない、このお話はそれで終わりだよ。まあ、一つだけ言うのなら……影朧が無事に転生できるようにお祈りしたらいいんじゃないかな」
 それが力を持たぬ少女に出来る精一杯の償いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フフトフ・トトトフ
*こいつが「かげろー」か
赤く光る影は食ったことがないな
どこから食ってみるか…

悩んでたら腹が減ってきたぞ
とりあえずどこでも良いから囓ってみよう

*フフトフは腹が減った! お前を食う!
お前イマイチおいしくないぞ
だが体に良い物はマズいと言う
フフトフは強くなるためにお前を食う!


*マズくてつよい(つよい
ダークマターに再挑戦

・一口目
前に食ったやつより臭いと味が強烈になってるぞ(涙目

何故か目に見える早さで水気が飛んでいくぞ
どうなってるんだこれ

・二口目
一口目より凶悪な臭いと味になったぞ(涙が止まらない
いつの間にかもう一口で食い終わりそうなサイズに縮んだぞ
どうなってるんだ
これ



 口



どうな
 っ 

る ん


 れ



●影朧とフフトフ・トトトフ
「かげろー」
 フフトフは影朧を目の前に呟いた。
 見上げるほど大きな巨躯は暗闇の中で赤色の何かを纏いながら眩く輝いている。
 流石にこれは食べたことが無い。が、生き物なら食えるはずだ。尤も、生き物じゃなくても食べるのが己なのだが。
 他の猟兵たちの攻撃のお陰で大分弱っては来ている、ある意味で食べごろだろうか。

「ぐううう」 フフトフの腹が盛大に鳴った。
 悩んだせいでカロリーを消費したらしい。今、考えられることはただ一つである。
「くう!!」
 空腹に勝てるものなど無い。必ずお前を喰らってやる。
 あまり美味しくなさそうだがマズイ物は身体に良いと知っている。
 そう考えがならフフトフは残しておいたダークマターを取り出して口の中に放った。
 瞬時広がる謎の異臭、そしてジャリジャリとした食感に思わずして涙目になる。
 だがフフトフは知っている。マズイものは強くなれる可能性を秘めているのだ。

 パワーアップ(?)したフフトフは影朧の動きに合わせて懐に飛び込んだ。
 先ほどまで居た所に数本の槍が刺さっているが気になどならない。今は腹ごしらえの時間なのだ。
「フフトフは腹が減った!! お前を食う!!」
 大きく開けられた口からはキラリと刃が輝いた。そのままの勢いで影朧の腹辺りに喰らい付けば奇妙な味わいが口の中に広がっていく。
 臭いと味が強烈なせいで瞳に涙が溜まっていく。味の表現を考えようとしたものの、あまりの情報量に表現が追いつかない。
 血潮のように流れる輝きを喰らったというのに口の中から水分が飛んでいく。
「どうなってるんだこれ」 咀嚼すればするほど水気が飛び、表現しがたい味が口内を支配する。

 気合を入れて二口目。今度は先ほどとは違う味に変化する。
 一口目よりも凶悪な味と臭いは鼻先をしこたま殴られているような気にさせられた。確認してみたが鼻血は出ていない。
 代わりに出ていたのは留まる事を知らない涙だ。一体これはなんだ、なんなんだ?
「どう、なってるんだ、これ」 初めての味わい、そして感情。フフトフは困惑するばかりである。
 あれほど大きかった影朧はフフトフの攻撃を受け、大分小さくなってしまった。あと一口あれば食べ終わってしそうなサイズだ。
 しかし、これを、喰うのか? この、形容しがたい味を?
「……く、くう!!」
 三口目。影朧全てを飲み込んだ。
 吐き気を催すほど邪悪な味わいに汗が噴出した。体中が干からびてしまうのではないか、そう思ってしまうほど体の水分は飛んでいく。
「どうな、って、るん、だこ、れ」
 美味しい不味いだけでは推し量る事のできない味わいにフフトフは膝を付きそうになる。
 自分は刑罰を受けているのではないか? そう思っても仕方が無い感覚に薄っすらと意識が遠のき始めた。
「お、おお?」
 ドサリと後ろに倒れこんだフフトフの目には夕暮れが広がっていた。
 辺りを縛る暗闇も、陰鬱とした影朧の姿も無い。全ては順調であり、この事件は解決し――。
「…………もうむり」
 ――白目を剥いて倒れている妖精を除いて――猟兵達の力によってこの事件は見事に幕を閉じる事ができた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月19日


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#サクラミラージュ


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト