●お楽しみは山間の中に
「うス、お前ら。戦争お疲れさんだったな、そろそろ体の疲れは取れてきたかい?」
グリモアベースの一室で、正純はいつものように猟兵たちへと声を投げかけていく。彼の手には二つの情報が握られていた。
一つは何かのパンフレット。もう一つは、またもや何かのチケットだ。どちらもこの場に集まった猟兵たちの人数分用意されている。
「そこでお前らに提案だ。ここにUDC組織が善意で用意してくれたお手製パンフレットと旅行小切手風チケットが人数分ある。行先は東北に存在する知る人ぞ知る山麓だ。今回は皆に英気を養ってもらおうと思ってな」
そう、今回正純が皆に声を掛けた理由はそれであるようだった。つまるところ、戦争も終わったことだし旅行でも楽しんできたらどうか、というような提案である。
どうやらUDC組織も快く協力してくれるようで、東北の高山地帯に密かに存在する支部をまるまる使わせてくれるとか。つまり、一般人が中々立ち入れない高所の景色やアクティビティを、今回は猟兵たちが独り占めできるという訳だ。
「この旅行小切手風チケットの使い道は三つ。一つ目は、山間からの絶景を楽しみながらのランチ。新鮮な肉や乳製品を使った料理や飲み物が楽しめるらしい。ハンバーグ、ドリア、ビーフシチュー、新鮮なサラダや牛乳なんかがお勧めだってよ」
料理に使用する食材は、今回訪れるUDC組織の支部の近くに存在する牧場から直接仕入れているらしい。つまり、鮮度状態は最高だ。
友人や恋人とのランチをコテージ風の食堂でゆっくり楽しむも良し、希望者がいれば支部に設置されたベランダや山の斜面にある草原などの屋外で直に山の天気を楽しみつつ、ピクニックのように賑やかに過ごすこともできるだろう。
「二つ目は、アイスクリームやチーズなどの乳製品手作り体験。一人で参加するも良し、何人かで参加するも良し。自分で作った食べ物はその場で食べることも持ち帰ることも可能らしいから、その辺りも決めておくと良いかもな」
こちらの材料も、提供は近くにある牧場からのものだ。新鮮な牛乳を使っての乳製品造りは、身近な食品が出来上がるまでの学習をしながら楽しむには丁度良いだろう。
また、完成後自分の作ったものをすぐ食べてみたいという猟兵たちのために、各種果物のジャムや蜂蜜、クラッカーやコーン、チョコチップなどの食材も置いてあるそうで。人によっては、手作り体験よりもその後の方がメインになるかも、ということだ。
「三つ目は、天然の自然岩を利用したボルダリング体験。UDC組織の職員たちが普段トレーニングに使用している場所を貸してもらえるそうだぜ。もちろん道具や更衣室の貸し出しもOK、安全面についても考慮済みだから安心してくれ」
ボルダリングとは、ロッククライミングの一種である。今回はそれを天然の岩で体験してみよう、ということらしい。屋外に設置されたボルダリング場は丁寧に整備され、怪我の原因になるような岩の鋭利な面は既に削ってある。自然岩だと難しいかもという人には、難易度を下げた人工のクライミングウォールも用意されているとのことだ。
猟兵たちにも得意なことの差はあるが、いずれも体が資本であることには変わりない。体力に自信がある人は腕試しに。体力に自信のない人は体力造りに励んでみるのも良いだろう。もちろん、純粋にボルダリングを楽しんでみるのも大いにありありだ。
「説明は以上だ。チケットは一ヵ所でしか使えないから、そこだけ気を付けろよ。それじゃみな、山麓旅行を楽しんできてくれ。お土産話、期待してるぜ」
ボンジュール太郎
お疲れ様です、ボンジュール太郎です。無理なく書かせて頂きます。
今回は山に遊びに行こうよというアレです。いっぱい楽しんできてくださいね。
●構成
以下の構成でお送りします。
1章は『【Q】旅行とかどうでしょう』。以上です!
何かとUDC組織の支部のみなさんが頑張ってくれているので、痒い所に手が届く感じになっていると思います。心置きなく楽しんでやってください。
●行動について
『景色を楽しみながらのランチ』
『乳製品手作り体験』
『ボルダリング体験』
以上三つの中からお好きなものを選んで参加してください。正純は指定された場合のみリプレイ内に登場します。
●アドリブについて
アドリブや絡みを多く書くタイプであることを強く自覚しています。
アドリブ増し増しを希望の方はプレイングの文頭に「●」を、アドリブ無しを希望の方は「×」を書いていただければその通りに致します。
無記名の場合はアドリブ普通盛りくらいでお届けします。
●判定について
楽しんでくれればいいですよ~!
●プレイング再提出について
私の執筆速度の問題で、皆様に再提出をお願いすることがままあるかと思います。
時間の関係で流れてしまっても、そのままの内容で頂ければ幸いでございます。
※プレイング募集は09/25(水) 08:31~からとさせて頂きます。
その前に頂いたものは流してしまうと思いますので、その旨よろしくお願いいたします。
第1章 日常
『【Q】旅行とかどうでしょう』
|
POW : とにかく気力体力の続く限り、旅行先を満喫する
SPD : 旅行先で目ざとく面白いものを見つけて楽しむ
WIZ : 事前に下調べを行い、綿密に計画を立てて楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
落浜・語
●
吉備さん(f17210)と一緒に手作り体験へ参加。
チーズとかもいいけれど、やっぱり好きなんで、アイス作りたいな。
新鮮な牛乳らしいんで、普通にミルクアイスかな。
イチゴやチョコチップも美味しそうだ。
えっと、冷やしながら混ぜて、また冷やして混ぜて冷やして……?中々、手間がかかるんだな。
出来たら、持ち帰らずその場で食べる。クラッカーとチョコチップをトッピングして、せっかくだから外へ。
景色のいい場所とかを探して、あればそこで。手間かけたからか、美味しく感じるな。
ん、じゃあ、一口。…うん、イチゴもおいしい。こっちのもどうぞ。(同じように一匙すくって差し出す。)
吉備・狐珀
語(f03558)殿と手作り体験に参加です。
語殿がミルクアイスを作るなら私は味をかえて作ろうかな。
その方が楽しめますよね。
自家製苺ジャムとチョコチップを使って苺アイスとチョコチップアイスを作ります。
冷やして混ぜてを繰返すのは手間ですけど、口当りが良くなるらしいですよ。
出来たらカップに2つ盛り付けてクッキーを添えて、景色の良い場所で頂きます
素材が良いのもありますけど、自分達で手間をかけて作った分より美味しく感じますね。
語殿はミルク味にチョコチップをかけられたのですか。
苺味も美味しいですよ。(ひと匙すくって食べられてみますか?と差し出す)
美味しい言われ嬉しそうにしながらお返しのひと匙を頂きます。
●夏の思い出は、甘い香り
ここは知る人ぞ知る山麓スポットに立つ、UDC組織の支部の一つ。車などの移動手段は当然のように下山して平地まで出ないと使えず、そして一番近くのコンビニまで車で三時間かかるという秘境でもあった。
しかし、それでもこの支部への異動願いが例年絶えないのは、何を置いても景色は最高、自然は奇麗、澄んだ空気に美味しい食べ物――という、好条件が揃っていたからでもある。そんな好条件の場所を独り占めするように建っているこの支部は――お分かりだろう。実に旅行向けのスポットでもあるのだ。
「いらっしゃいませ! ようこそ、UDC組織の誇る我が山麓秘密支部(アイスクリーム作り部門)へ! 二名様でのご予約ですね、落浜様と吉備様でよろしかったでしょうか?」
「はい、そうです。今日はよろしくお願いしますね。語殿、予約を取ってくれてありがとうございます」
「これくらいの手間、何でもないですよ。吉備さんとの旅行ってんなら、尚更だ」
さて、この場所でアイスクリーム作りを楽しむべく現れたのは、落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)と吉備・狐珀(神様の眷属・f17210)の二人であった。
すでに転送は開始されているため、それなりに支部にも賑わいが出てきた。込み合う前の時間に場所の予約をしっかり取っている辺り、語の細やかな心配りが伺える。
「それでは、早速開始していきましょう! お二人とも、今回は何か味のご希望などはございますか?」
「そうだなあ……。新鮮な牛乳らしいんで、俺は普通にミルクアイスかな。チーズとかもいいけれど、やっぱり好きなんで、アイス。吉備さんは?」
「語殿がミルクアイスを作るなら、私は味をかえて作ろうかな。その方が楽しめますよね」
二人の希望を聞き、職員が必要な材料などを持ってきてくれる。二人分の牛乳、生クリーム、砂糖、レモン汁――。それに、ボウルが一つとアイスの素を入れて冷やすための二つの容器だ。プラスチック製で、大きなジャム瓶のような形をしている。
「吉備さん、牛乳入れてくれる?」
「はい、お任せです。語殿、腕が疲れたら教えてくださいね」
まずはその材料をボウルに入れ、良く混ぜ合わせるところからですよ、と職員から手順を教えてもらった二人は、交代しながらボウルに入ったアイスの素を混ぜていく。
材料を混ぜるだけの単純作業であっても、『旅行先で』『大切な人と』なら、何にも勝る楽しみというものだろう。二人の表情も心なしか明るく見える。
「吉備様、お待たせしましたー! はい、こちら追加のボウルが二つですね」
「ありがとうございます、職員殿。それでは、ここでタネを分けて……。語殿、何を作るか分かりますか?」
「ん? ……なるほど、イチゴやチョコチップも美味しそうだと思ってたところなんだ。これは完成が楽しみだなぁ」
そう、狐珀は二人分の材料を二つに分け、そして更にその一つを二分割。それぞれ異なるボウルに1/4になったアイスの素を分けると、片方には自家製苺ジャムを、もう片方にはチョコチップを投入して再度混ぜていく。
苺アイスとチョコチップアイスを作るという彼女の狙いに気付いた語も、自分のアイスの素の面倒を見ながら、時折狐珀を手伝っていた。談笑しながら材料を混ぜ合わせていけば、時間が過ぎるのもあっという間というもので。
良く練られたアイスの素を三つのプラスチックの容器に入れ、UDC組織の誇る高性能冷凍庫に入れてやや寝かせ。
そして今、二人は良く冷えて僅かに固まりかけてきたアイスの素を再度混ぜ合わせていた。
「えっと、冷やしながら混ぜて、また冷やして混ぜて冷やして……? アイス作りも、中々手間がかかるんだな。あと何回やるんだっけ?」
「ゆっくり冷やして混ぜてを繰返すのは手間ですけど、口当りが良くなるらしいですよ。あと……三回、ですかね」
「はは、そりゃ大変」
「ふふ、そうですね」
そう言いながらも、二人の顔には笑みがあって。時に語が苺ジャムを冗談めかして少し多く入れようとしたり、それを狐珀が微笑みながら止めたり。
そんな風にして、徐々に徐々に固まっていくアイス作りの工程を楽しみながらも、ゆっくり流れていく穏やかな時間を二人は楽しんでいた。そして、ややあって――。
二人は完成したアイスをカップに入れて手に持ち、支部の屋外に設置されたガーデンテーブルを利用し、向かい合って腰かけていた。高所ではあるが、柔らかな陽が出ているためか寒くはない。むしろ、時折ほほを撫でる風が涼しくて心地よい位だ。
「お、上手くできたみたいだ。手間かけたからか、美味しく感じるな」
「ええ、本当に。素材が良いのもありますけど、自分達で手間をかけて作った分、より美味しく感じますね。語殿はミルク味にチョコチップをかけられたのですか」
狐珀の言う通り、語が今食べているのは素材の味を生かしたミルク味のアイスである。その上には幾ばくかのチョコチップと、小さめのクラッカーがトッピングされている。
自然本来の味を殺さず、クラッカーの食感とチョコの香りをアクセントにすることで、さっぱりとしたミルクの甘みをより飽きにくいものとする、シンプルながらも奥深い、語のセンスが光る仕上がりになったと言えるだろう。
「そういう吉備さんはイチゴアイスとチョコチップアイス?」
「ええ、苺味も美味しいですよ。食べられてみますか?」
そして、狐珀が作成したのはアイスの素を作る時点から材料を混ぜ合わせておいた二種類のアイス。その上にはクッキーも乗っており、実に豪華な出来栄えだ。
自家製苺ジャムで作られた苺アイスは、爽やかな酸味がアイス自体の甘みとの相性が最高で。チョコチップをふんだんに用いたチョコチップアイスは、ミルクの芳醇な香りにチョコの甘い香りがプラスされ、リッチな味わいを楽しめる。
異なる材料を用いながらもくちどけ滑らかに作られているのは、氷を操る力を持つ、狐珀の冷気への慣れがあってこそのことだろうか。
「ん、じゃあ、一口。……うん、イチゴ味もおいしい。それじゃ、お返しにこっちのもどうぞ、吉備さん」
「はい、では、一口。……ふふ、ミルク味も美味しいですよ。語殿、ありがとうございます」
「お礼を言いたいのはこっちもですよ。京都の神社に、ねこやしきに、ここ。……夏の思い出、いっぱい出来ましたからね」
お互いが作ったアイスを互いに一口ずつ交換し、二人は絶景を楽しみながら自分で作ったアイスをゆっくり食べ、時に談笑し、時にまた一匙交換し合って、また談笑し、そして景色を楽しんで――。
夏が終わっていく風と、それでもまだ暖かい陽射しを浴びて。二人は、山麓の旅行で過ごす、ゆったりとした時間を大いに楽しんでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神羅・アマミ
●
はー、グリモアベースとUDC研究所もなかなかに粋な計らいをしてくれるではないか~!
しかし、束の間の休息でも思考力・瞬発力・筋力を鍛錬してしまうのが行住坐臥なアマミ流じゃよー!
というわけでボルダリングに挑戦。
最初こそ真面目に岩山と体面するが、経験不足から次第に焦れてくる。
「面倒臭ぇー!」とか「しゃらくせー!」とか絶叫しつつ、時にコード『箱馬』を用いた空中ジャンプでインチキする。
いっそ全ての過程を跳躍で飛ばせば済むところをあくまで「ボルダリングしてまーす」という姿勢は崩さないのがセコいというか小物。
「苦労して山を征服すると見晴らしもまた格別じゃのー!」とか殊更デカい声とドヤ顔で誤魔化す。
●イカサマッチングアマミちゃん
「はー、グリモアベースとUDC研究所もなかなかに粋な計らいをしてくれるではないか~! しかし、束の間の休息でも思考力・瞬発力・筋力を鍛錬してしまうのが行住坐臥なアマミ流じゃよー! たのもー!」
いの一番にボルダリング場に現れたのは、神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。どうやら彼女は戦争の合間でさえも自己鍛錬を欠かすつもりはないらしい。
旅行という僅かな休みの間でも、自ら身体を鍛える場所に赴くとは、まったくなんとも見上げた意識の高さである。怠惰を貪るなどというような考えは、そもそも彼女の中には存在していないのではなかろうか。何て奴だすげえぜ。
「――よっしゃ! ルールは全てわかった! 全て理解した!」
「では、ファイトです! 頑張ってくださいね、アマミさん!」
「うおっしゃァー! 今日で全コース全クリしてやるぜーッ!」
そして、アマミの静かな、そして過酷な挑戦が始まった――(この辺りで壮大なBGMがかかりはじめる)。
求められているのは、実に単純。『岩を登り切る』。ただそれだけ。それだけなのに、どうしてそれがこんなにも難しいのか。
「ぬわーーッ?!」
自然岩を登るのは非常に難しい。自然の雨風によって磨き上げられた岩は、そう易々と人の手を掴んでくれないのだ。
八級、七級、六級――。その辺りまでは一発クリアを決め、余裕を見せていたアマミでさえ、五級になると易々クリアとは到底言えなくなってきた。
「なっ、マジかよーーッ!」
六級までの自然岩は、言わば『未経験者に慣れてもらうための岩』なのだ。岩の傾斜はほぼなく、垂直に近い。掴めるところは多く、滑りにくくて登りやすい。
垂直に登るだけで辛いのに、五級以上は手前にかぶる傾斜が加わってくるのだ。そうなれば純粋に体は岩から離れやすくなり、指の踏ん張りも利きにくくなる。それでも、アマミは地道な努力を続けるではないか!
「…………っ、! ……うおりゃァーーッ!! っしゃァァァァァァァァ!!」
そしてアマミが迎えた、五級の壁の突破。既に普段使わない筋肉を酷使し続けたことで、彼女の筋肉は至る所が悲鳴を上げ、そしてアマミ自身もボルダリングの地道な楽しさに気付き始めて雄たけびを上げる。
『ボルダリングって楽しいかもしれんな――!』そんなことをアマミが考え始めた矢先、彼女の目にあるものが飛び込んできた――! 即ち、『一級の岩』である!
「いや無理じゃろ……え……? あれ登る奴化けモンか何かかじゃろ……? え? 一日全クリとか……無理なのでは――あっ」
いけない! アマミ! 焦るな! 経験不足なのは誰しも仕方ない! 先を見るな! 一級は確かに化けもんだと思うけど! 地道に努力を続けるんだ! 『あっ』とか言うな! 何を思いついたお前! ヤメローーッ!!
「面倒臭ぇー! じゃがよォーッ!」
「わ、あの子猟兵さんでしょ? 今日からだっていうのにすごいわねえ」
「しゃらくせー! ッシャオラァーーッ!!」
「え、あの子もうあんな場所まで登ってるのか?! すげぇな……!」
そして、アマミは手を出した。禁断の力――ユーベルコード、【箱馬】を用いた空中ジャンプに! お前それイカサマやぞ! ガッツリ怠惰貪っとるやないかい!
しかもアマミのなんともいやらしいのは、イカサマをしている以上いっそ全ての過程を跳躍で飛ばせば良い所を、あくまで人目に付かないタイミングだけユーベルコードを使用することで、『真面目にボルダリングしてまーす』という観客への姿勢を崩さないところだぜ! くぅッ! セコい! 小物! イカサマの満員電車! 新人類(イェーガー)! 目に見えるものがリアルだろ! 肩にオブリビオン乗せてんのかい!
「かーっ! 苦労して山を征服すると見晴らしもまた格別じゃのー! しかも一日で最高難度の岩もクリアしちまったからのー! かー!」
「マジかよ……! さすがだな、猟兵って奴は……!」
「フッ……違いますよ観客Aさん……。猟兵がすごいんじゃない。『アマミさんがすごい』んです……!」
「なるほどな、観客B……! 何て奴だ、アマミ……! 恐れ入ったぜ! ここに彼女の銅像を建てよう!」
イカサマを殊更デカい声とドヤ顔で誤魔化すアマミだが、不正の瞬間を見ていない以上、UDC職員たちもアマミを褒めたたえるのみだ。
くっ! 何て奴だ、神羅・アマミ! お前それで良いのか! それで良いの? なら良いかあ!
「ワハハーー! 者ども、アマミちゃんを褒めたたえんかい! ほらコールせいコール! アーマーミ! アーマーミ!」
「アーマーミ! アーマーミ!」
「アーマーミ! アーマーミ!」
――後日。個人的な自己トレーニングのために、自分のフォームを友人に撮影してもらっていた職員が、映像の端でアマミが不正を働いていたのを発見。
アマミの銅像をボルダリング場に建てるという提案は立ち消えになったとか。イカサマなんてよくないですね。ちゃんちゃん。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァン・ロワ
🌑
偶然クロウ◆f04599と遭遇
まあ暇だしって来てみたけど…
もう飽きちゃったな~
ん~何か他に楽しいモノでもないかな
一人で黙々登るクロウ見つけ
ふ~ん、ちょっとは遊べそうかな
クロウの後を追跡する様に
一定の距離を開けて態と同じルートを辿る
どうせなら手足の位置も真似してみよう
スピードアップするならついてくよ~
その方が面白そうだし
クロウが落下したらキャッチしてそのまま着地
オニーサン大丈夫~?
抱えたままヘラヘラと嗤って
おっと、アブナイ
お礼が荒っぽいなぁ~
わざとって何のことかな?
あからさまにすっとぼけ
いや~面白いな
そう、俺様まだまだ未成年のガキだからさ~
助けたお礼にご飯でもおごってくれるつもりオニーサン?
杜鬼・クロウ
🌑
偶然ヴァン◆f18317と遭遇
小切手受取り一人でボルダリング体験へ
自然岩で挑戦
事前に準備体操
イイ運動になりそうじゃねェの(見上げニィ
筋トレも兼ねてっと
あァ結構…ルート考えねェと、詰むなコレッ(地形の利用
最短距離行こうと手足伸ばし移動
地道に上る途中、下から妙な視線感じる
一定距離保たれ警戒
引き離そうと上る速度up
…?(やたらついてくるな、コイツ)
…!、のウゼェ…
っわ!(焦って足滑らせ
…(きょと。イラッ
誰が助けてくれと頼んだよクソが
さっさと下ろせ(手払い
ち…その悪びれねェ態度、わざとヤってンだろ
~~こンのクソガキ
ランチ?甘ったれンな
…ジュースぐれェなら奢ってヤる
それでチャラだ(結局ランチ奢る兄貴
●風雲児の岩滑り、わんわんの助け船
「……っし」
大勢の猟兵たちが訪れることで、山麓のUDC支部も普段より賑やかさを増してきた。
食堂や乳製品手作り会場はもちろんのこと、賑わっているのは屋外のボルダリング場も変わらない。そんな中で、一人静かに柔軟を行っている男がいた。
「コイツは中々イイ運動になりそうじゃねェの……。筋トレも兼ねてっと」
彼の名前は杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。夕赤と青浅葱のオッドアイが眩しいヤドリガミの青年である。彼は転送前に小切手を受取ると、そのまま一人でボルダリング体験を行うべくここまで一直線。
その後はすぐさま身体の筋肉をよくほぐし、用意されている中でもとびきり難易度の高い自然岩ばかりに挑戦していくではないか。傾斜が緩いスラブ形の花崗岩は腕力と体幹を用いてすぐさま攻略し、背が高く多くのホールドスポットがある石灰岩なども、手足の指先でしっかりと全身を支えながら危なげなく突破していく。
「……ふっ……!」
彼の身体能力を十全に用いさえすれば、自然岩のほんの僅かな突起や凹みはクロウにとっての手掛かり足掛かりへと変じ、彼の姿勢を支えるための場所となっていくのは自然な成り行きだったと言えるだろう。
だが、純粋な身体能力だけでは難しいのがボルダリングだ。この競技は全身の筋肉をバランスよく用いる技術も当然大事なのだが、それと同じくらいに事前のルート選定も重要なのである。
「あァ結構……ルート考えねェと、詰むなコレッ」
「まあ暇だしって来てみたけど……。なんかもう飽きちゃったな~。ん~……何か他に楽しいモノでもないかな? ……あれ」
そして今、クロウもまさにそのことを実感せずにはいられなかった。自然に出来た天然の岩を登り切るために、『一つだけの正解ルート』というものはない。だが、それでも『最適解』は存在する。いわゆる、登りやすいルートというものが。
そして、それを見誤れば――同じ岩でも、登る難易度は段違いに跳ね上がる。それでも、クロウは諦めない。
彼は難所とされる次のホールドスポットまでの距離がある部分も、難しい重心移動や手足のスイッチを巧みにこなしながら次の手掛かりへと手を伸ばすことに成功。だが、頂上までの手がかりはもうどこにも存在しない。
万事休すか――と思われたその時、彼は思い切り上体を持ち上げながら片足を無理やり頂上に上げることで登っていく。クロウは無意識のうちに『マントル』というテクニックを使いこなし、難度の高いコースで攻略してみせたのである。
「最短距離で時間かけずに登った方が良いか……。よし、次……」
「……ふ~ん、ちょっとは遊べそうかな」
意図せず自分で難易度を上げたコースをすらクリアし、次の岩を登ろうとするクロウの様子を、少し遠くから眺める一人の男の姿があった。
彼の名前は、ヴァン・ロワ(わんわん・f18317)。灰色の双眸は、先程からクロウの動きを舐めるように観察している。まるで彼から技術を盗むように、まるで自分の動きと比較して楽しんでいるように。
「……」
「~♪」
そうこうしているうちに、二人は全く同じ岩を登っていた。より詳しく記述するのであれば、『クロウが先に登っていた岩』を、『ロワが追従するように登り始めた』のである。
彼ら二人が登っているのは、自然岩の中でも滑りやすく、またホールドスポットを見付けるのも難しい最高難易度に近い一つ。縦に長くそびえたその岩を、しかして二人は止まることなく登り続けていく。
「……?(やたらついてくるな、コイツ)」
「~♪♪」
見付けたルートの中から最短距離を選定し、地道ながらも大胆に手足伸ばして移動をしていくクロウだったが、やはり途中でロワの気配に勘づいた。
自らも岩を登っている途中で下から常に妙な視線を感じるのだから、そうもなる。さらに常軌を逸しているのは、ロワの登り方だ。彼はまるで追跡するように、クロウの動きをトレースしながら岩を登っている。
つまり、ロワは真下からクロウの動きを見、それを真似するだけで岩を登っているのだ。一定の距離を開けながら態と同じルートを辿り、細かな手足のスイッチなどの動作さえもクロウと同じ。常人には不可能な御業をこなす、天性のセンスがなくては到底できない芸当と言える。
「……! っ、のウゼェ……っわ!」
彼らの距離は正に付かず離れず。クロウが速度を上げれば、上げただけ『それも面白そう』と言わんばかりにロワも登る速度を加速させ、一定距離を保って付いていく。
ロアの様子にいい加減警戒の念を抱いたか、ここでいよいよクロウが動いた。付いてくるロワを引き離そうと、更に岩を登る速度を上げてきたのである。だが、その瞬間。
見えてきた頂上に向かって速度を上げ、更に次のポケットへと手を伸ばしていたクロウの指が、僅かな突起を掴み切れず滑り、上体のバランスさえも崩してしまった。見えてきた頂上やロワに意識を取られた上に、無理な加速を続けたという弊害が、最悪な形で現れたのである。即ち――『頭からの落下』だ。
「……っ!」
「お」
だが、落下していくクロウに即座に反応し、彼を救ったものがいる。当然――それは、クロウの後をなぞるように登っていたロワ以外にいない。
彼はクロウが落下したことを目視で確認すると同時に行動を開始。まずはクロウの落下速度と角度を一目で算出すると、そのまま岩に向かいあって登る姿勢から、左腕を背中側に伸ばすことで上半身のみを反転。
体の向きを岩とは逆方向に構えると、そのままクロウの落下速度に合わせて両足で柔らかく跳躍。そのままロワはクロウを空中でお姫様抱っこのようにキャッチすると、まるで猫のように自然な着地を見せた。
「っはは、オニーサン大丈夫~?」
「……っち……。誰が助けてくれと頼んだよ、クソが。さっさと下ろせ」
「おっと、アブナイ。お礼が荒っぽいなぁ~」
「ち……その悪びれねェ態度、わざとヤってンだろ」
「わざとって何のことかな? いや~面白いな」
「~~こンのクソガキ……。良いから、さっさと下ろせっつってンだろ」
信じられないような挙動でクロウを救助したロワは、178cmの身長を持つ大の男を抱えたままヘラヘラと嗤って会話を続けていく。
今の一瞬の間に起こった落下と救助という情報量の多さに、クロウがきょとんとしていたのも僅かの間だけ。彼はイラつきを隠そうともせず、抱っこされながらもロワの手を払いのけて『早く下ろせ』という意思表示を欠かさない。
荒っぽい礼にも戸惑わず、鋭い追及もさらりとすっとぼけて。彼らは決して談笑しているという雰囲気ではない。だがそれでも、彼らは今のやり取りで互いに何かを察したようで。それは、つまり――『取引』に近い空気感であったのだろう。
「……で? 何が狙いだ」
「そうそう、俺様まだまだ未成年のガキだからさ~。助けたお礼に……ご飯でもおごってくれるつもり? オニーサン?」
「ランチ? 甘ったれンな。……ジュースぐれェなら奢ってヤる。それでチャラだ」
「そうこなくっちゃ! いや~、ただ飯どうもね、オニーサン」
「ランチは奢らねえっつってンだろうが、クソガキ」
『取引』が成って、お姫様抱っこも終わって。どうやら落としどころを見付けたらしい二人は、連れ立ってボルダリング場を後にするのだった。
その後、食堂で何やら仲良くケンカをしながらも食事を楽しむ二人組の姿が目撃されたという噂もあるが――。それについては、また、別の機会に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
虹結・廿
●【ヴィクティムさんと】
あまり病み上がりではしゃぐとまた倒れるですよ?
軽業ですか。
基本装備が重量のある廿に必要かはわからないですが、教えていただけるならぜひ。
……お忘れかも知れませんが廿はサイボーグですので疲れることはありませんし、力も多分ヴィクティムさんよりも強いですよ。
(暗に負けません、という意思表示)
壁のぼりとなると服が汚れますから。
戦闘服をこういうときに使うのも憚れますし、学校の体操服を持ってきました。
他に、水分補給のために水筒と、汗拭き用のタオル……それと、それと。
(かなりワクワクしてそうな持ち物の用意具合。表情も柔らかく、嬉しそう)
ヴィクティム・ウィンターミュート
●【廿と】
よーし、廿!退院がてらにちょいとトレーニングに行かないか?
俺のダチがちょうどいい場所を用意してくれたんだ
この機会に軽業も教えてやるからさ、どうよ?
ボルダリングっつークライミングスポーツだ
ホールドって呼ばれてる足場や掴むところを上手く使って、壁面を登っていくんだよ
難しくは無さそうだろ?
いいか?とにかく力まないようにするのが大事だ
足元がおろそかにならないように、自分のペースで進め
届きにくそうな部分は腰のひねりを加えると、案外届く
いやーしかし、パルクールのトレーニングを思い出すな
昔はビルの壁を登って練習したもんだ…
おっし、そんじゃあ俺は先に行くぞ、追いついてみろ
頑張ったら褒めてやるからな?
●山麓最速伝説
「おうおう、良いビュースポットだぜ! 自由に手足を動かせて、外に遊びに行ける楽しさったらねェな!」
「退院したばかりだというのに、またそんな走って……。あまり病み上がりではしゃぐとまた倒れるですよ?」
辺りを見渡せば、軽く整備された大量の自然岩と多くの青々とした自然が目に飛び込んでくる。耳をすませば、聞こえてくるのは近くを流れる川のせせらぎと鳥たちの歌声だ。
この場所の景色と言えば支部内から眺める紅葉ばかりが取り上げられるが、丁度山間の谷の部分になっているこの場所も、全身で自然を楽しむにはもってこいのスポットであった。
「よーし、廿! 退院がてらにちょいとトレーニングに行かないか? 俺のダチがちょうどいい場所を用意してくれたんだ。この機会に軽業も教えてやるからさ、どうよ?」
「軽業ですか。基本装備が重量のある廿に必要かはわからないですが、教えていただけるならぜひ」
「お前も良く知ってるだろ? 世の中に『無価値なもの』なんざないのさ。何に繋がるか分かんねえし、経験を積むのは悪いことじゃない。俺は新しいサイバーアームのリハビリも兼ねてるってことにしといてくれ」
「……そうですね。確かに、そう言われると少しやる気が出てきた……ような……気がします。病室でずっとルービックキューブをやっていたのに、まだリハビリ? という疑問も一応ありますが、それは思考の別フォルダに置いておくとしましょう」
虹結・廿(ですますプロダクション・f14757)とヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の二人が挑もうとしているのは、屋外に設置された人工のボルダリングウォールである。
既に二人はボルダリングに向く長袖の服装と靴に身を包んでいる。ヴィクティムなどは手慣れた具合で、既に準備を完了してウォールの前に移動、登攀ルートの選定を行っている様子。彼に続いて廿もウォール前に来たのを確認すると、ヴィクティムは笑顔で振り向きながら説明を始めていく。
「さて、廿。今からやるのはボルダリングっつークライミングスポーツだ。壁面に、いろんな形の出っ張りがあるだろ? ああいうホールドって呼ばれてる足場や掴むところを上手く使って、壁面を登っていくんだよ。難しくは無さそうだろ?」
「ふむふむ、なるほど。初挑戦の競技です。一見、どこからでも登れるように見えますが……。……どうやら、同じ壁面でもどのホールドを使うか、どんなコースで攻略するか、等の要素で大きく難易度が変化しそうですね」
「ビンゴだぜ。中々良い所に目を付けたな。そう、それがいわゆるオブザベーションってヤツだ。よく見て攻略の糸口を見つけることも、競技の一環って訳だな。例えば、――」
「ということは――、その場合――」
そう言いながら、ヴィクティムはボルダリングのルート選びのコツを廿に伝授していく。ゴールからの逆算や、登る時のペース配分と勢いのバランス。ホールドに残るクライミングチョークや、そこに現れる足跡なんかの痕跡をよく見ることなど、など、など。
簡潔な言葉で説明を行えるヴィクティムの経験も大したものだが、ルート選定の重要さに一目で気付き、彼の説明を一度でよくよく理解していく廿も末恐ろしい程優秀だといえるだろう。
「――とまあ、そんなとこだな。ところで廿、お前その格好はどうしたんだ?」
「壁のぼりとなると服が汚れますから。戦闘服をこういうときに使うのも憚れますし、学校の体操服を持ってきました。他に、水分補給のために水筒と、汗拭き用のタオル……それと、ロッカーを使う時用のコイン、それとチョークを落とすためのブラシ、それと高たんぱくの――」
「お、やる気入ってンな? 良いねえ。んじゃあ始めていこうか。……。その前に、廿に任務だ。いっぱい持ってきたのは偉いが、余分なものはロッカーに仕舞ってきなさい。具体的にはその高たんぱくの奴などが今は要らない」
「たんぱく質は運動後30分以内に取るのが……了解、任務を遂行します」
そんな感じである。
廿が用意してきた道具を簡単に整理して、そして今二人は簡単なコースからボルダリングを開始していた。ボルダリングはシンプルな競技だからこそ、基礎が光るスポーツなのだ。
「いいか? とにかく力まないようにするのが大事だ。足元がおろそかにならないように、自分のペースで進め。届きにくそうな部分は腰のひねりを加えると、案外届く」
「なるほど、全身を用いるという訳ですか。……ヴィクティムさん、腰のひねりを加えても次のホールドに届きそうで届きません。これはルート選びを間違えたのでしょうか」
「手を伸ばす方向と逆方向に首を向けてみな。肩甲骨が伸びて、伸ばせる腕の範囲が増える。ルート選びは間違ってないぜ。後は手首のスイッチと重心移動のコツを掴むことだ」
「そのようなテクニックが……面白いですね。では……。……これで……届きました、クリアです。次はヴィクティムさんですよ」
「ンー、チル。良い生徒だな、教えがいがあるぜ」
同じコースを交代しながら挑むことで、二人は着実に成果を出していった。
楽しみながら行えるボルダリングは、ヴィクティムが自分のサイバーアームのリハビリ兼、鈍った身体のトレーニングをするのに丁度良く、廿にとっては普段行わないような高所での軽業運動という経験値を積むのに最適だったのである。
二人の表情はどちらも明るく、嬉しそうで。ワクワクしてそうな持ち物を持ってきた廿はもちろんのこと、ヴィクティムもまた伸び伸びと身体を動かせる環境を楽しんでいるようだった。
「いやーしかし、パルクールのトレーニングを思い出すな。昔はビルの壁を登って練習したもんだ……。あの時と比べたら、この環境は天国だぜ……っと。ハハ、クリアだ」
「お見事です、ヴィクティムさん。さすが経験者と言うべきでしょうか。……ですが、既に廿もそれなりの経験を積んだいっぱしのクライマーです。そこでどうでしょう? ここで一つ、――勝負をしてみるというのは」
「なンだァ? テメェ……」
しかし、そこで――廿が仕掛けた。『勝負』。実に、実に――ドラマティックな響きだ。この言葉には『勝ち』と『負け』の二つが並び立っている。勝者と敗者が生まれる言葉だ、心が躍る。
そして、この場で彼らの行う『勝負』など、一つ以外に意味を持たない。それ即ち、『ボルダリングの上手さ勝負』である。
さらに言えば、ヴィクティムは既にクライミング技術に関しては廿よりも一日の長がある。そうである以上、彼が廿の挑戦を受けないという選択肢は最早なかった。
「クク……ハハッ! 上等だぜ! ンじゃ、同じ壁を登る勝負で行くか。お前がゴールまでに俺を追い抜いたら廿の勝ち。逆に、俺が廿をチギってゴールしたら俺の勝ちだ。俺は先に行くぞ、追いついてみろ。頑張ったら褒めてやるからな?」
「……お忘れかも知れませんが、廿はサイボーグですので疲れることはありませんし、力も多分ヴィクティムさんよりも強いですよ?」
そして提案されたルールは、いわゆる『峠ルール』。
先攻と後攻に分かれ、先攻は後攻を大きくぶっちぎったら勝ち。後攻は先攻を追い抜いたら勝ち。勝負がつかなければ、先攻後攻を入れ替えてやり直しという、いたって簡単なルールだ。
「ほォー、そいつは暗に『負けません』、ってな意思表示か? クク、ますます上等だぜ」
「さて、捉え方はご自由に。それでは……行きますよ。Ready――!」
「「Go!」」
ヴィクティムの手捌きが唸る! 光る! 彼は手際の良いオブザベーションから効率的な道筋を見つけ出すと、そのまま狙ったホールドを狂いなくそのサイバーアームで捉えていくではないか! まさにゴッドハンド!
だが廿も負けていない! 彼女の足捌きが轟く! 吼える! まるでイリュージョンだ! 彼女は負担の大きい最短ルートを一瞬で算出し、迷いなく進んでいく! 届かないホールドはジャンプと重心移動で難なくクリアだ! まさにゴッドフット!
「やりますね」
「お前もな」
引き分けに終わった初回の勝負を経て、先攻後攻を交代しながらさらに彼らは登る、登る、登る。やればやるほど二人の技術は磨き上げられ、ボルダリングの楽しさは増していくばかり。やったあ! ボルダリングって最高だぜ!
「なんの」
「まだまだ!」
そして二人のボルダリング速度は加速を続け――。いつしか、二人の活躍はUDC組織のボルダリング部で伝説(レジェンド)となっていたとか、なっていなかったとか。
だが、二人の勝負の結末を知っているのは誰もいない。どちらかが勝ったのか、それとも引き分けに終わったのか。それは、二人のみぞ知る魂(スピリット)なのだろう――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
紅葉に染まる山々を眺めながら食堂でランチ
確かに此処は陸奥に当たりますが
なんと言えば良いのか……似ていながらも別のもの
懐かしいけれど、知らない何処かであるもの
頂く食事はハンバーグとサラダ
ハンバーグは最近知ったのですが美味しかったので今回も頂きます
倫太郎殿と別の物にしましたから味の交換
しちゅー……冬場に食べると体が温まりそうですね
これはさんどいっち、海外の軽食で云わばおにぎり
私からも彼にハンバーグを分けてあげます
会話を続けていると不意に彼が手を伸ばす
どうやらハンバーグのソースが付いていたようで
……恥ずかしいですね、貴方よりも遥かに年上だと言うのに
話題逸らしにデザートを
私はヨーグルトを一つ
篝・倫太郎
【華禱】
食堂でランチ
マジで絶景だな……そう感嘆を零して
そいや、夜彦
エンパイアだと陸奥には良く行くつってたけど
こっちでもやっぱ空気とか似てんの?
そんな話をしつつ料理を楽しむ
俺はローストビーフとクリームチーズのサンドイッチとビーフシチュー
夜彦とはメニューが違うから
勿論お裾分け
ほれ、あーん?
スプーンで掬ったシチューを差し出し
ふわりと緩む顔に俺まで嬉しくなってくる
ついでにサンドイッチも
夜彦、弁当付いてる……
ひょいと手を伸ばし
口許のデミグラスソースを拭ってぺろっと舐め
硬直から滅茶苦茶照れる
そんな夜彦が微笑ましくて声も立てずに笑う
デザートはアップルパイに出来たてのバニラアイス!
鉄板メニューだろ、やっぱさ!
●二つの色が隣り合って
今猟兵たちが訪れているこの場所は、それなりの標高を誇る峰々の中にひっそりと建っているスポットだ。そして、あたりにはナナカマド、カエデやケヤキ、ヤマザクラなどの樹木たちが寒くなってきた高山の空気を受けて、紅に染まり始めている。
真っ赤に染まった樹木たちの中で、合間に伸びるブナの木などは黄色い葉を陽に伸ばし、黄金色の輝きを見せていた。自然が織りなす赤と黄色のコントラストに、時折まだ青々とした緑色の葉がアクセントを加えていて。夏から秋に移り変わっていくその瞬間を、人よりも自然が鋭敏に捉えていた。
「うお……。マジで絶景だな……見ろよ夜彦、すげーぜ紅葉! ほらほら」
「ああ、ちょうど紅葉の時期が訪れているのですか。時の流れを目で楽しむ……これも人の世の風情というものですね」
そんな時間の移り変わりを、特等席で楽しむ二人がいた。コテージ風の食堂の一角、大きな四角い窓の向こうに覗く色彩を大いに味わえる二人掛けの席に、二人の猟兵が腰を落ち着けている。
感嘆を零して紅葉を眺め、同行者に笑いながら声を掛け、また紅葉を眺めて感嘆を零して。そんな風に、誰よりも楽しそうにしているのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
そんな倫太郎の姿と、窓から見える自然の色合いを交互に見遣り、柔らかい笑みを落とすのは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。静かな佇まいではあれど、彼も倫太郎に負けぬほどこの時間を楽しんでいる――なんてことは、語るも野暮というものだろう。
「そいや、夜彦? エンパイアだと陸奥には良く行くつってたけど、こっちでもやっぱ空気とか似てんの? 世界は違うけど、場所は近いじゃん?」
「難しいですね……。確かに此処は陸奥に当たりますが、なんと言えば良いのか……。……似ていながらも別のもの。懐かしいけれど、知らない何処かであるもの……という、風に思います」
ここは食堂である故に、二人は既に注文を済ませている。そのため今は待ち時間であるのだが、既に二人は刎頸の交わり、昵懇の仲の間柄。そこに奇麗な眺めまで加われば、ただの待ち時間であっても瞬く間に過ぎるというもの。
話す内容は自然とこの場所に関することになり、異なる世界の景色と今見ている景色との差異などについての話に花が咲いていた。
「そういうもんか。……なあなあ、夜彦としてはどっちの方が好きとかあるのか? エンパイアの景色と、今の景色でさ」
「ふふ、それも難しい問いですね。そうですね……おや、御供御が参ったようですよ。給仕殿、ありがとうございます」
二人で和やかに談笑を楽しみ、時折自然に訪れる沈黙時にはどちらともなく紅葉を楽しんで。また何でもない会話を楽しみ、また嫌ではない沈黙をさえ楽しむ。
そんな風にゆっくりと流れる時間を過ごしていると、どうやら料理の方も完成したようで。給仕服を身に着けたUDC組織の職員が、二人の前に注文の品を並べていく。丁寧な所作からは、彼ら猟兵たちへの日々の感謝が見て取れるようだった。
「いえいえ、猟兵の皆様に感謝したいのは私たちの方ですから。こちらが注文の品でございます。どうぞごゆっくり、この時間をお楽しみくださいませ」
倫太郎の前に並ぶのは、ローストビーフとクリームチーズのサンドイッチにビーフシチュー。彼が選んだこのメニューは、新鮮な牛肉や乳製品を存分に楽しめる満足度の高いもの。
対して夜彦の前に並ぶのは、ハンバーグとサラダのセットだ。『はんばあぐ』という食べ物の存在を夜彦が知ったのは最近のことらしいが、美味しかったのでもう一度食べてみよう、という気持ちの表れだろう。
「おおっ、すごく美味い! 夜彦、このビーフシチューめちゃくちゃ美味いぜ!? 口に入れた途端、肉がほろほろって崩れてさ!」
「ふふ、こちらの丸いハンバーグもとても美味しいですよ。奇麗な成形で見た目も良いですし、何よりこのソースの味付けが絶品です」
二人はまず思い思いに自分の頼んだメニューを楽しみ、そして向かい合った相手に楽しそうに感想を伝えていく。やはりお勧めのメニューなだけあるのか、肉を使った料理に二人も膝を付く思いなのだろう。
そして――まあ、二人とも別々のものを頼み、しかもそのどちらもが美味しそうとなれば、自然な流れでそうなる訳で。二人はどちらが言い出すでもなく、自然と味の交換会を開催していた。
「ほれ、あーん?」
「これはしちゅー……冬場に食べると体が温まりそうですね。芳醇な味わいでとても美味しいです」
「ほれ、こっちも」
「これはさんどいっち、海外の軽食で云わばおにぎりですね。柔らかな食感でとても美味しいです」
「はは、夜彦は何でも美味い美味いって言ってくれるからなー。おすそ分けのし甲斐があるぜ」
勿論おすそ分けは当然と言わんばかりに、交換会を開始していくのは倫太郎だった。スプーンで掬ったシチューを差し出し、ついでにサンドイッチも差し出して。
自分の頼んだメニューであるのに、差し出したメニューの美味しさにふわりと緩む顔を見ていると、まるで夜彦に食べてもらうのがメインであるかのような気持ちになって。じんわりと嬉しくなる気持ちを隠さず、倫太郎も顔を緩ませるのだった。
「いや、その、ふふ。ええ、本当に美味しいものですから。倫太郎殿、私からもハンバーグをどうぞ。こちらもとても美味しいので、最後の一口を残しておいた……」
「あ、ちょいまち。夜彦、弁当付いてる……」
「え」
そうして会話を楽しみながらゆっくり味の交換会を楽しんでいると、不意に夜彦の口許へ倫太郎が手を伸ばして。一瞬の静寂。そして、倫太郎が伸ばした指先が夜彦に届く。
彼が伸びた指の先にあるのは――どうやらいつの間にか夜彦の口許に付いていた、ハンバーグのデミグラスソースだ。倫太郎は驚き固まる夜彦の口許に付いたそれを拭ってやると、その指を戻してぺろっと舐め。一瞬の硬直の後――夜彦の時が動き出す。
「……これは……恥ずかしいですね、貴方よりも遥かに年上だと言うのに……」
「…………ははっ」
時間を置いてようよう多大なる情報量の海から引き上げられたのだろう様子の夜彦は、完全な硬直状態から一転、耳を真っ赤にしながら照れていた。無理もない。
『倫太郎よりも年上なのにお弁当を付けていた』『しかもそれに今の今まで気付かなかった』『さらにそれを倫太郎に拭われて――』。複数の事柄の一つずつが、夜彦にとっては照れざるを得ないあれそれであって。しかもそれが三つ同時に――ともなれば、硬直ののち、夜彦の顔に紅葉が浮かぶのも無理のない話だ。
そんな様子の夜彦が微笑ましくて、倫太郎は声を立てずに笑っていた。楽しいし、嬉しいし、何やら満たされているような心持ちで――ああ、きっと彼らが過ごすこの時間のことを、人は幸せと呼ぶのだろう。
「……ふふ、お客様? 食後にデザートなどはいかがでしょうか」
「……お、お願いします。私はヨーグルトを一つ」
「俺はアップルパイに出来たてのバニラアイスで! 鉄板メニューだろ、やっぱさ!」
夜彦に助け舟を出す職員に、二人はそれぞれデザートを頼み、また待ち時間に談笑を重ねながら外の四季を見遣る。
「……倫太郎殿?」
「ん?」
「好きですよ、どちらも。ずっと昔はサムライエンパイアの景色の方が好き――と答えたように思いますが。今は、どちらも好き……なのだと思います」
「――そっか。……ありがとな、夜彦」
「いえ。こちらこそ」
窓の外、色付く季節は九月。
山間の中、色とりどりの葉っぱに囲まれて。
鬼灯の実と竜胆の花が隣り合っていたのを、彼らはその眼で見ただろうか。
二つの色が、まるで互いに笑いあうように――。
とても、満足そうにしているのを。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリス・ステラ
●
サカガミ(f02636)と参加
「ボンジュール、乳製品!」
言っておかねばならないと思いました
完全武装で手作り体験に参加
癒すことと壊すことしか能がない二人です
正純にアシスタントをお願いします
「以前友人から料理をしてみてはどうかという話があったのです」
こうした機会は良いものです
自分で作ったアイスクリームやチーズを食べてみたい
「こうして見るとサカガミも年相応で可愛いです」
悪戦苦闘する彼は微笑ましい
一方で正純は貪欲な知識欲が玄人はだしの手際?
私は丁寧ですが、要領は悪いです
泡立てれば顔を汚し、味見をしようと火傷しかける
でも、とても楽しい
完成したら、
「はい、あーん」
とサカガミに食べさせます
ご機嫌です
無銘・サカガミ
マリス(f03202)と参加
アドリブ歓迎です
「……ぼ、ぼん?何だそれは?」
いきなり謎の台詞を吐くマリスに戸惑う。
しかし、料理か…そもそも、そんなこと一度もやったことないからな…
ん、手助けしてくれるのか、正純?助かるよ。
……とは言ったものの、正直説明をしてもらってもさっぱり分からん。まるでちゃんと作れんぞ…。
「…ほっといてくれ。」
なぜか微笑んでいるマリスを横目に、なんとか形にしようと試行錯誤しよう。
…まあ、何だかんだでとりあえず、食える程度には出来上がるだろうよ。
「いや、だから恥ずかしいと…」
マリスに食べさせられるが、恥ずかしいから拒否するが…多分、最終的には俺が折れるだろうな。まったく。
●二本の腕、二つの味、二人の思い出
「ボンジュール、乳製品!」
「Yeah! ボンジュール、乳製品!!」
「……ぼ、ぼん? ……。……? 何だそれは? 急にどうした、マリス、正純」
「言っておかねばならないと――そう思いましたので! 何故かは分かりませんが! ほら、サカガミも! 材料を混ぜる腕にも不思議と力が入りますよ!」
「いやだ……このノリに巻き込まないでくれ……たのむ……切にたのむ……材料混ぜくらい静かにやらせろよ……」
「うお、一体俺は何を……。勢いのある掛け声に思わず乗せられちまったぜ」
謎の雰囲気と強制力を伴う掛け声を上げて、二人+アシスタントの乳製品造り体験はスタートしていた。恐らく先ほどの掛け声はえいえいおー! 的な雰囲気を良い感じに表現しようとした彼女が生み出した偶然の産物だろう。恐らく。いや知らんけど。
ともかく、である。なぜ今こうして三人が各々思い思いにボウルの中の材料を混ぜ混ぜしているのか? それを説明するには、少しばかり時間を巻き戻す必要がある。ほわんほわんほわんまりす~~ん(回想に入る音)。
「以前、友人から料理をしてみてはどうかという話も頂きましたし、こうした機会は良いものです。私は自分で作ったアイスクリームやチーズを食べてみたい! ほら、サカガミはどうなんですか!」
「いやテンション高いなマリス……。しかし、料理か……そもそも、そんなこと一度もやったことないからな……。そんなこと言うからには、マリスの方で乳製品の作り方くらいは知ってるんだろうな?」
乳製品手作り体験を始める少し前、二人でチャレンジング乳製品するべく姿を現したのは、マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)と無銘・サカガミ(「神」に抗うもの・f02636)の二人組。
既に両名とも三角巾にエプロン、ポリエチレンの薄手袋まで装備したガチ完全武装の形態を取っている。料理前から既にクライマックスフォームと言っても過言ではない。
それに加えて前髪を髪留めでしっかり止めたマリスは、サカガミから投げかけられた質問に不敵に笑いながら答えて見せるではないか! さぞかし料理の腕に自信があると見える――!
「ふ……舐めてもらっては困りますねサカガミ! 私たちは癒すことと壊すことしか能がない二人です! ここは――正純にアシスタントをお願いします」
「そういう訳で呼ばれた俺だぜ。マリス、サカガミ、よろしく頼む。手順はしっかり教えるから、二人で上手く作ってくれな」
「ん、手助けしてくれるのか、正純? 助かるよ。……ってちょっと待て。マリスも細かい作り方知らなかったのかよ……まあ良いけど……」
――そういうことになった。なったのだ。そんな感じで始まった二人の乳製品手作り体験は、正純の助言を受けながらアイスに用いる材料をよくよくしっかり混ぜ合わせるところから始まって――そして、今に至るという訳だ。回想終わり。
今、マリスとサカガミは各々のアイス分のタネをボウルに抱えて一生懸命混ぜ混ぜしているところである。
「マリス、混ぜるときはもっと手首の力を抜いて良いぜ。手首のスナップで素早くな」
「成程……、こうですかね? えいっ」
「早くしすぎだ、顔に材料付いてるぞ」
「あら、本当。そういうサカガミも、こちらにダマができてますよ。えいっ」
「……今からやろうと思ってたんだよ」
マリスは頑張りすぎて顔に材料を飛ばしてしまい、その度にサカガミにそのことを教えてもらって。お返しにマリスがサカガミの混ぜる材料のタネからダマを潰してあげて。懸命な挑戦の姿勢を取る二人の姿を見て、正純はきっと美味しいものが出来るだろうという確信を抱くのだった。
エネルギッシュに場面を引っ張っていくマリスに、なんだかんだでそんなマリスに付いていきながらフォローを忘れないサカガミ。『二人は良いペアだ』。そのことが、乳製品造りという一つのことに向かって協力し合う二人の姿勢からでも伝わってくる。
「……とは言ったものの、正直説明をしてもらってもさっぱり分からん。まるでちゃんと作れんぞ……。なんだこのドロドロは……? これがアイスになっていくのか……? 本当か……?」
「はは、今はそんなもんさ。良いぞ二人とも。たくさん混ぜてくれてありがとよ、これならしっかりアイスになるだろうぜ。それじゃ、アイスを冷凍庫で冷やしている間にチーズを作っていくか」
「……ふふ。こうして見るとサカガミも年相応で可愛いです」
「……ほっといてくれ、マリス。……ほら、次はチーズだってよ」
慣れない料理に悪戦苦闘する彼を微笑ましく思うマリスと、彼女の微笑みを横目になんとかアイスを形にしようと試行錯誤するサカガミ。
お互い料理には不慣れだが、その分この場には『学ぶ楽しさ』というものがあったのだろう。それに、友達同士での挑戦ともなればなおのことだ。二人はアイスのタネを固めている間に、チーズ作りと言うさらなる課題にもチャレンジしていく。
「わ、わ。本当にお酢を加えたら牛乳がふわふわっとなってきましたよ、サカガミ。すごいですね、不思議です」
「分離し始めたら布なんかで漉していくぞ。熱いから気を付けてな。そうだな、60℃くらいはあるからよ」
「どれどれ、味見を……あっ、あつっ。ちょっと熱いですね」
「いや今熱いから気を付けろって言われたばっかだろ。……代わってやるから、少し指冷やしてろ」
今回二人が作っているのは、作り方が最もシンプルなカッテージチーズだ。このチーズは熱した牛乳にお酢を加えて、分離した固形分を漉し固めるだけでできる熟成させないタイプのチーズである。
既に残りの工程自体は分離した固形分を布で漉してまとめるだけなのだが、味見しようとしたマリスがうっかり火傷しそうになってしまった。それでも、彼女の顔は笑っていて。言葉はなくとも、『とても楽しいですね』という気持ちが伝わってくるようだった。
そしてサカガミが念入りに布で漉したチーズを、無事に戻ってきたマリスが丁寧に、ゆっくりゆっくり成形して。そしてアイスが固まるまで待てば、二人の目の前にはアイスとチーズの完成品が並んだではないか。
「……まあ、何だかんだでとりあえず、食える程度には出来上がったか」
「お見事だぜ、二人とも。完成おめでとう。ああ、食べなくても分かる。こいつは旨そうだ」
「ええ、本当ですね。とても美味しそうにできました。だから……サカガミ、サカガミ。はい、あーん」
料理が完成した後、最初にマリスが取った行動――。それは、自分で一口目を楽しむことではなく、一口目をサカガミに譲ることだった。
アプリコットジャムをたっぷりかけて金平糖を一粒乗せたアイスに、クラッカーに乗せて練乳をかけたカッテージチーズ。マリスの二本の腕が、左右からサカガミに押し寄せる――。
「いや、だから恥ずかしいと……」
「あーん」
「いや……」
「あーん」
「……」
「……あー」
「……分かったよ。…………ああ、まったく。……美味いよ。アイスも、チーズもさ」
二つの味わいをそれぞれ楽しむサカガミの顔を見て、マリスの顔が今日一番の笑顔を見せた。
『癒し』に『壊し』。相反する二本の腕が二つの味わいを『作り出して』。
今日という日に完成した二つの思い出は、きっとこれからも――壊れることなく、二人の記憶に残ることだろう。
いつか思いだした時、癒されるような日常の一幕として。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アキカ・シュテルア
●
『乳製品手作り体験』
戦争お疲れさまでした。興味があるので参加してみたいです!
UDCアースは初めてですが、素敵な場所ですね。空気が澄んでいて、気持ちいいです!拠点の付近と似ていて落ち着きますね。
アイスクリームの体験に参加
料理の腕は多少はありますけれど……上手く作れるでしょうか。せっかく体験しましたし、出来ればレシピを覚えて帰りたいですね。
体験後
作ったアイスはその場で食べる
一口目は何も付けないでそのまま食べてみたいです。
その後は色々組み合わせてみます。
ジャムは勿論ですが、チョコチップ?が大変気になりますね。合うのでしょうか……?
オリヴィア・ローゼンタール
【FH】●
お招きいただきありがとうございます
戦争は大変でしたが、なんとか勝てて良かったですね
皆さんと一緒にわちゃわちゃご飯を食べましょうっ
チーズがたっぷりのミートドリアっ!
あっつあつのうちにいただきますっ!
やっぱりUDCアースのご飯はおいしいですねっ!
他の方と交換してサラダもいただきます
お野菜も美味しいですね、シャキシャキした食感がたまりません
ダークセイヴァーだと採れたてでも萎びたようなのばっかりで……
このドリアも美味しいですよ、チーズの香りが食欲を誘います!
白神・杏華
【FH】●
旅行はやっぱりUDCだよ! いや、もちろん他の世界にも良い所はたくさんあるけどね。
ほかも楽しそうだけど、やっぱりランチかな。正純さんも一緒に食べない? 他のところで疲れてるかもだけど、折角だからさ。
私はビーフシチュー頼むよ。パンで食べるべきかご飯で食べるべきか……悩むよね。悩まない?
食事はアツアツなのがいいよねぇ。UDCの食事はどれも美味しいけど、こんなに美味しいのはなかなかないよ!
牛乳……牛乳かぁ。そういえば中学生の給食以降飲んでない気がする。ちょっと久しぶりに飲もうかな。
……なんか、給食のやつとは全然別物みたい! おいしいね!
……でもジョッキで飲むのはやめとこうかな!
劉・涼鈴
【FH】●
ご飯だご飯だー!
ふふー、このためにいつもの半分(それでも人並)くらいにしてきたんだよ!
お腹すいたー!
でっかいハンバーグどーん!
鉄板でじゅーじゅー焼いてるヤツ!
んでもって上にチーズ乗っける!
カレー煮込みハンバーグってのもあるの? じゃー、それも!
口いっぱいに頬張ってむっしゃむっしゃ!
牛乳もたくさん飲むー!
お酒入れてる……ジョッキってヤツ? アレにいっぱい注ぐよ!
みんなの食べてるのもおいしそー!
交換っこしよ! 煮込みに入ってるの1個あげるー
ユーノ・ディエール
【FH】●P
戦争、今回も激しい戦いでした
あれから1ヶ月も経ったのですね――本当に、無事に終わってよかった
UDCアースは実は初めてで
美味しいものがいっぱいあるって聞いて来ました
この日の為に料理も勉強したんですよ!
流石にドレスは違うと思いますし、偽装ホロで水色のワンピースを着ます
それでは頂きましょう
――本当に瑞々しさが全然違いますね!
私はチーズ盛り合わせと生ハムを
どれも濃厚な味わいです
サラダと合わせても美味しそう!
ジョッキに牛乳……なんて贅沢な
乳製品は滅多に目にしませんでしたから、SSWでは
皆さんのもちょっと欲しいな……なんて
しかしこんなに美味しいものを
どうすれば作れるのでしょう
戦より難しそうです
ユーイ・コスモナッツ
【FH】●
私はサラダ大盛りで!
SSW出身としては、
本物の土と太陽で育ったお野菜を、
心ゆくまで味わいたいと思っていたんです
ほらユーノさん、見てくださいよ、
瑞々しさがSSW産とはぜんぜんちがう!
どのお料理もおいしそう
いろいろな世界を見てきましたが、
こればかりはUDCが一番かもしれませんね
杏華さんがうらやましい
特に、オリヴィアさんのドリアが放つ、
魅惑的な香りと言ったら……!
すみません、私にもミートドリアお願いしますっ
メンカルさん、可愛らしいお召し物ですね
私ももう少しおめかししてくれば良かったかな
涼鈴さんはさすがの健啖ぶりで……
でも、今日は私もたっぷりお腹に入りそう
こんな楽しいランチは久しぶりだもの!
メンカル・プルモーサ
【FH】●
…旅行……しかも美味しい物がある……これは参加するしかないね……
白のサマードレスを着て帽子を被っていこう……一見お嬢様風……
山麓は涼しいかもだけど術式で周囲の気温を一定に保てば問題なし……
小切手風チケットの使い道はランチ択一……絶景を見ながら皆で食べる食事は美味しいね…
…皆で集まって山を一望出来るコテージのベランダでランチ……
クリームシチューにパン、サラダと牛乳を頼むよ…
うん、新鮮な素材を使っているだけあってどれも美味しい……
別の物をたのんだ人ともちょっとずつ交換したりして色んな料理を楽しもう……
●収まりきらない幸せを
UDC支部の中にあるコテージ風の食堂。いつもは職員たちが集まっても『そこそこ』程の賑わいにしかならないそこが、今日に限っては異なっていた。
多くの猟兵たちが楽しむためにこの場所へ訪れたことで、不思議ともてなす側の職員たちの顔にも笑顔が見える。楽しさは蔓延するものだ、たくさんの花のような笑顔が揃うのならば、そこで働く職員たちだって楽しくなってくるのは道理というものである。
「おう、来たかお前ら。ようこそ、山麓の絶景と絶品のランチが楽しめる場所へ。戦争お疲れさん、今日くらいはのんびりしていきな」
「お招きいただきありがとうございます! 戦争は大変でしたが、なんとか勝てて良かったですね。そのおかげでこうしてUDCの旅行も楽しめているのですから」
「旅行はやっぱりUDCだね! いや、もちろん他の世界にも良い所はたくさんあるけどさ。乳製品の手作り体験とかも楽しそうだけど、やっぱりみんなでワイワイするならランチかなって。オリヴィアさんが提案してくれてさ」
「そーそー、杏華の言う通り! ご飯だご飯だー! ふふー、このために朝ごはんはいつもの半分くらいにしてきたんだよ! お腹すいたー! 早くいこ、みんな!」
そんな訳なので、新しい団体様――『Fly High』御一行の面々が食堂に現れた際も、食堂の空気はより一層華やかなものとなって。性別に関わらず、食堂で働く職員たちがニコニコ度合いを増したのはもはや言うまでもないことだろう。
この支部での通常勤務と比肩してもさほど変わらないほどの激務の中で、しかして職員たちは満足そうであった。『こんな辺境の地にお客さんが来てるわ!』『しかも皆メッチャ可愛い!』『いつもの無味乾燥な書類仕事に比べてなんだろう、この充実感……!』彼らの表情からは、そんな感情が読み取れたとか読み取れなかったとか。閑話休題。
「ふふ、涼鈴さんったら。急がなくてもご飯は逃げませんよ? 戦争、今回も激しい戦いでした。あれから1ヶ月も経ったのですね――本当に、無事に終わってよかった」
「……旅行……しかも美味しい物がある……これは参加するしかないね……。…………ところで、なんで給仕? ああ、手が足りてないのか……」
「そういうこった。そもそもこの支部に職員が少ない以上、どこも中々激務でな。俺もこうして色んな場所に出張ってるのさ。しかしユーノもメンカルもお洒落してきたもんだな、似合ってるぜ。食堂のスタッフたちも喜ぶだろうよ」
「ええ、本当に! お二人とも、可愛らしいお召し物ですね! 私ももう少しおめかししてくれば良かったかなぁ」
「はは、エンニチの時みたいにかい? 気にすんな、ユッコたちみたいな美人さんが来てくれただけで皆嬉しいんだからよ。さ、こっちだぜ」
そんなこんなで、食堂に新しく訪れたのは六人の猟兵たち。彼女たちは正純に案内されて順次席に座っていく。行先は、食堂のベランダに設置されたラウンドテーブルだ。
ラグジュアリーな調度品に、ツヤツヤとしたホワイトブラウンのイタウバが良くマッチしていて。このベランダは普段から職員の間でも人気の高いスポットだとか。
深緑色のガーデンテーブルパラソルも、柔らかな陽光と山間からの緑風を受けて輝いて――まるで、猟兵たちの来訪を歓迎しているかのようだった。
「皆座ったな? それじゃ皆様、ご注文をどうぞ」
「はいっ! ここはチーズがたっぷりのミートドリアでっ!」
「そうだなあ……。お勧めらしいし、私はビーフシチューを頼むよ! 皆は?」
「では、私はチーズ盛り合わせと生ハムを。それなら取り分けもしやすいでしょうし。涼鈴さんはどれにします――」
「でっっっっっかいハンバーグどーんで! 鉄板でじゅーじゅー焼いてるヤツ! んでもって上にチーズ乗っけてほしい!」
「……クク。涼鈴、こういうメニューもあるが、どうする?」
「えっ!? カレー煮込みハンバーグってのもあるの!? じゃー、それも!」
「わわ、涼鈴さんすごい……! 負けていられませんね、私はサラダ大盛りで! SSW出身としては、本物の土と太陽で育ったお野菜を、心ゆくまで味わいたいと思っていたんです」
「……小切手風チケットの使い道はランチ択一。もうメニューは決定済みだよ……。…………私は、クリームシチューにパン、サラダと牛乳を」
「はいよ、オーダー了解。料理が出来上がるまで、景色でも眺めながらちょっと待っててな。すぐ完成するからよ」
六人での食事ともなれば、注文だけでも中々の量だ。頼んだメニューが揃うのを待つ間、六人はそれぞれ景色を楽しみながらの談笑に勤しむことにしたらしい。
良い景色に気の置けない友人、それに絶品料理の到着を待つ間のわくわくがあれば、完成までの時間などすぐだ。
「実はUDCアースに訪れるのは初めてで、美味しいものがいっぱいあるって聞いて来ました! この日の為に料理も勉強したんですよ! なので、今日という日が楽しみで楽しみで……オリヴィアさん、今日はお誘いありがとうございます」
「いえいえ、そんな! ユーノさんも来てくれて嬉しいですっ。しかし、料理ですか……私ももう少し腕を上げるべきですかね……。常に携帯保存食に頼る訳にもいきませんし……むむむ……」
楽しみにしていた旅行とはいえ、気心の知れた友人たちとの私的な食事。であれば、ドレスはさすがにやりすぎだろうと考え、偽装ホログラムを用いて水色のワンピース姿に身を包んでいるのはユーノ・ディエール(アレキサンドライト・f06261)。この旅行をとても心待ちにしていた一人である。
そんなユーノの言葉に応えるのは、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。いつも通りのシスター服が、コテージ風の食堂に良く似合っていた。彼女は何を隠そう、この旅行の提案者で。旅行を楽しみにしていたという面では、恐らくユーノにも引けを取らないだろう。
「問題は、ビーフシチューをパンで食べるべきかご飯で食べるべきか……悩むよね。悩まない? これはビーフシチューの永遠の命題だよ……」
「な、成程……! 食材が豊富ということは、裏を返せばそのような悩みが生じるということでもあるのですね……! 確かにそれは、難しい問題だなぁ……!」
そろそろ豪華な食事が群れを成してやってくるという段になっても、実に庶民的な質問を浮かべているのは白神・杏華(普通の女子高生・f02115)。まさに普通の女子高生が考えそうな疑問である。どっちも美味しいよね。答えは十人十色案件だと思います。
そんな杏華の疑問に適当に返すこともなく、口許に手を当てて真っ向から考え、一緒になってうーんと悩んでいるのはユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)。食材に乏しいSSW出身の彼女にとっては、付け合わせの食材を選ぶという事自体、別世界に移動してから知った概念であるのだろう。
「簡単だよ杏華! 両方で食べれば良いとおもう! どやァ……!」
「……これはまた……全力のドヤ顔で食いしん坊まっしぐらの意見が出たね……」
劉・涼鈴(豪拳猛蹴・f08865)の下した質問への解答は、実にゴールデン(贅沢)。『迷うくらいならどっちも食べれば良いじゃない』という、どこかの女王の格言が聞こえてきそうなほど、彼女の意見には凄味があった。『カロリー! カロリー!』という女子高生からの抗議の意見は、この際聞こえないこととする。ここには美味しいものを食べに来たんです。ダイエットのためじゃありません。そんなにカロリーが気になるならボルダリング場がそこにあるでしょ!
白のサマードレスを着て、揃いの白い帽子を被って。一見お嬢様風にめかしこんで座っているのはメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)。実は、今日の快適な温度は彼女の活躍の賜物であった。山麓の屋外は肌寒いかもしれぬとして、メンカルは術式で周囲の気温を一定に保っていたのである。皆が柔らかな日光と、涼しげな山風を楽しめているのも、実は彼女の影の尽力があったればこそなのだ。術式ってすごい。
「あいよ、お待たせ」
「お待たせ致しました!」
「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「はい、ありがとうございます!」
「わあ……すごく豪華だね……」
「給仕さんたちも、ありがとうございます!」
「とんでもございません。皆様に喜んで頂くことこそ、私たちの喜びですから!」
「ライスとパンのお替りも可能ですので、どうぞお気軽にお申し付けくださいませ」
「そういうこった。さ、召し上がれ」
そうこうしているうちに、皆の前には注文の品々が出揃ってきて。どれもこれも、一目で美味しそうなことが分かるほどの逸品だ。料理を運んできてくれた給仕たちも、どこかその表情は誇らしげである。
ミートドリア、ビーフシチュー、チーズ盛り合わせに生ハム。でっかいハンバーグとカレー煮込みハンバーグに、大盛りのサラダ。クリームシチューとパンのセットに、人数分の牛乳ないしは果物ジュース。お替り可能なライスとパンも付くという。さらにいえば、ここは少し目線を外に向けただけで山を一望できる環境だ。
これは紛れもなく――豪華な食卓である。エンパイアウォーという大きな戦争を乗り越えて、英気を養うにはもってこいのそれだ。
「ほらユーノさん、見てくださいよ、サラダの瑞々しさがSSW産のものとはぜんぜんちがう!」
「それでは頂きましょう――本当に瑞々しさが全然違いますね! トマトなんか、まるで宝石みたいに綺麗です……!」
「むっしゃむっしゃ!」
「りょ、涼鈴ちゃん?! 早い! 早いよ! まだ頂きますしてないよ!」
「……これまた食いしん坊まっしぐらだね……」
「それでは、皆さん揃ったようですし! あっつあつのうちに――いただきますっ!」
一名のちょっとした抜け駆けもあったものの、六人はオリヴィアの号令で一斉にランチを楽しみ始めた。それぞれの目の前に置かれた料理は、いずれも新鮮な食材を今調理したものばかり。
つまりは、六人分という量に加え、これ以上ないほど質も高いということだ。その満足度の高さは、料理を楽しんでいる彼女たちの表情を見れば一目瞭然といえるだろう。
「やっぱり食事はアツアツなのがいいよねぇ。UDCの食事はどれも美味しいけど、こんなに美味しいのはなかなかないよ!」
「うん、新鮮な素材を使っているだけあってどれも美味しい……。付け合わせののパンも焼き立てだよ、これ……」
「こちらの生ハムとチーズも濃厚な味わいです! サラダと合わせても美味しそう!」
杏華が舌鼓を打つビーフシチューには、崩れそうなほど柔らかい牛肉のほほ肉がたっぷりと入っていて。葱や人参、セロリなどの香味野菜と赤ワインにじっくり漬け込み、トマトとはちみつ、デミグラスソースなどで味を調えた牛肉の味わいが、口に入れた瞬間にシチュー自体の美味しさと交じり合う。
ビーフシチューに負けないコクを持つのは、メンカルの頼んだクリームシチューだ。大きな鳥肉や玉ねぎなどをメインの具にし、新鮮な野菜で作ったコンソメスープを基にローリエやバター、何よりも新鮮なミルクで仕上がったクリームシチューは、ビーフシチューに負けずとも劣らない香りの良さを誇っている。
さて、ユーノが最初に手を伸ばしたのはチーズの盛り合わせである。パルミジャーノやミモレットなどのハードチーズを中心に、モッツァレラやサン・ネクテールなど幅広く揃っているそれは、どれも近隣の牧場で作られている代物だ。オリーブオイルが少しかかった鮮度の良いズッキーニやトマトと共に、生ハムとモッツァレラを頬張る幸せの何たることか。
「牛乳もたくさん飲むー! ごくごく!」
「ジョッキに牛乳……なんて贅沢な……! い、良いんでしょうか……」
「牛乳……牛乳かぁ。そういえば中学生の給食以降飲んでない気がする。ちょっと久しぶりに飲もうかな。ユーノさんも、一緒に飲もうよ」
「わ、わあ……! SSWでは乳製品は滅多に目にしませんでしたから、なんだか新鮮ですね……! わ、美味しい! 贅沢品の味がします……!」
「ほんとだ……なんか、給食のやつとは全然別物みたい! おいしいね! ……でもジョッキで飲むのはやめとこうかな!」
「ごくごく!」
涼鈴が美味しそうにジョッキで牛乳を飲んでいるのを見て、反応を示したのは杏華とユーノ。出身世界の違いから、二人はそれぞれ異なることを考えていた。
だが、やはり目の前で美味しそうに食べられると自分も『それ』を試したくなるもので。二人は注がれた牛乳を口に運ぶと、それぞれ異なる驚きを胸に抱いた。
杏華は今まで飲んでいた給食での牛乳との差異に驚き、ユーノはSSWでは中々味わうことの出来なかった牛乳に驚く。だが、二人とも思っていることは同じだったのだろう。この牛乳、めっちゃ美味しい。新鮮な牛乳のコクったらないよね。
「んん~~! やっぱりUDCアースのご飯はおいしいですっ! お野菜も美味しいですね、シャキシャキした食感がたまりません。ダークセイヴァーだと採れたてでも萎びたようなのばっかりで……」
「オリヴィアさん……! SSW出身としては、そのお気持ちは痛いほど分かりますっ! さあさあ、一緒にサラダを食べましょう! この南瓜なんか、とっても甘くておいしいですよっ」
「あっ、私もサラダをもう少し食べても良いですか? 先程切り分けてもらった生ハムなどをサラダにトッピングしましょう! 贅沢にいきましょう! ここはUDCアースです!!」
「生……ハム……?! あ、ああ……!!」
「そ、そんな……! 贅沢を……! 良いんでしょうか……! お、おいしい……!」
ユーイとオリヴィアとが意気投合してサラダの美味しさに打ちひしがれている所に、ユーノは悪魔の取引を持ち掛ける。彼女の提案によって、UDC職員が食べやすいサイズに切りそろえられた生ハムをサラダに投入していくではないか。
今ここに、『取れたて野菜の季節のサラダ』を『取れたて野菜と生ハムの季節のサラダ』にする進化の儀式が成り立ってしまったのである。何たる贅沢。とても美味しそうではないか。食材の宝石箱やあ……。
オリーブオイルで揚げ焼きされ、甘みを増した人参、南瓜、さつま芋、れんこんなどが岩塩と黒コショウで味付けの化粧を施され、新鮮なサニーレタスとベリーリーフ、イチジクとトマトが色を添える。そこに生ハムが投入されるのだから、もはやこれは野菜を食べているというよりも、幸せを食べていると言った方が良いかもしれぬというほど美味しいサラダになっていた。
ドレッシングは粒マスタードの香り豊かなマスタードソースに、野菜の甘さが引き立つバーニャカウダソースの隙を生じぬ二段構えである。この美味しさには誰もが唸るほかない。
「むっしゃむっしゃ! むっしゃむっしゃ!」
「よく食べるね……涼鈴……。クリームシチュー、食べる……? すごく美味しいよ……」
「むっしゃむっ……?! ごくり! わあ、メンカルのシチューすごい良い匂い! 食べる食べる! みんなの食べてるのもおいしそー! 交換っこしよ! 煮込みに入ってるの1個あげるー!」
メンカルの隣で息を付く暇もなく一心不乱にハンバーグとライスを食べ続けているのは涼鈴だ。彼女が食べている二種類のハンバーグは、近隣の牧場から提供されている新鮮そのものな牛肉が使われている。
ナイフを入れた途端に肉汁があふれ出る程ジューシーな肉に、シンプルかつコクの深いデミグラスのかかったハンバーグは絶品の一言。増してやそんなハンバーグを具沢山な無水カレーで煮込み、濃厚な味わいのルーと一口大のハンバーグを同時に味わうなど――神をも恐れぬ贅沢さである。美味しくない訳がない。
「わあ、良いですね! こちらのチーズもとても香り高くて絶品ですよ! 生ハムサラダと一緒に、まだ食べてない人は一口食べてみてください。私も、皆さんのもちょっと欲しいな……なんて思ってたんです」
「そういうことでしたらっ! 私のミートドリアも是非皆さんに食べて頂きたいです! とっても美味しいのでっ! これは……!! すごく……!! すご……すごいです!!! すごいですので!!!!」
美味しくない訳がないという点から行くと、オリヴィアの食べているミートドリアも大本命の一角だ。白米の上にみじん切りになった玉ねぎ、にんじんに、トマトににんにく、その他調味料。そして何よりも牛肉100%のひき肉で構成されたミートソースが乗り、新鮮なバターと牛乳をメインに構成されたホワイトソース、そして大量のチーズを乗せてオーブンでじっくり熱した代物など――とんでもなくおいしいに決まっている。
そこに飛び込んできた、涼鈴の提案――それは即ち、『料理の交換会』である。ここにいる六人がそれぞれ異なるものを頼んでいたのは、全てこの時のためのこと。料理の万博、美味しさのコロッセオ、幸せのグランプリが、今幕を開けようとしていた――!
「これは……! どのお料理もおいしそうで目移りしちゃいますね。いろいろな世界を見てきましたが、こればかりはUDCアースが一番かもしれません。杏華さんがうらやましいなぁ」
「わ、それじゃこれからいっぱい色んなものを食べてみなきゃだね、ユーイさん。今度スイーツパラダイスとか行ってみようよ!」
「……おお……このハンバーグ、すごく美味しいね……。サラダも気になる……ドリアも美味しそう……どれから食べるべきか……」
「あ、それじゃメンカルさんには私が取り分けますねっ! どれも美味しいので、是非是非! ミートドリアはすごいですよっ! 是非!!」
「しかし、こんなに美味しいものを……どうすれば作れるのでしょう……??? SSWの艦隊戦より難しそうです」
「ユーノ、むしゃる!!」
「涼鈴ちゃんのそれは……多分……! 『わかる』かな! 分からないけどね! ね、正純さんも一緒に食べない? 他のところで疲れてるかもだけど、折角だからさ」
「お、良いのか? それじゃ、お言葉に甘えて少しだけ頂こうかね。厨房の奴らに怒られるまでな。何がお勧めだい?」
「正純さん、オリヴィアさんのドリアが美味しいですよ。チーズの香りが食欲を誘います!」
「ええ、本当に! どれもおいしいですが、特に、オリヴィアさんのドリアが放つ、魅惑的な香りと言ったら……! すみません、私にもミートドリアお願いしますっ」
「あっ、私にもミートドリアを追加でっ! ユーイさんのと含めて二つ追加でお願いしますっ、まだまだ食べたいですのでっ!」
「そうだ、あと何か持ち帰りに適するメニューってありますかね? すこし、お土産が欲しいんです」
「ユーノ、帰りも転送するからお土産に向くかどうかは考えなくても良いぜ?」
「あ、肉汁たーっぷりのハンバーグが食べたいって言ってましたからねっ! あと、サラダにスープも!」
「お土産……成る程……」
「わあ、とっても良いアイデアだと思います! 皆で見た景色を伝えられないのが残念ですが、それなら味は持ち帰れますね」
「むしゃ! むしゃしにもハンバーグと牛乳をむしゃむしゃ!」
「これは……多分……! 『私にもハンバーグと牛乳をお替り』かな! いや分からないけどね! すいませーん、この子にハンバーグと牛乳のお替りをお願いしまーす!」
「絶景を見ながら皆で食べる食事は美味しいね……。……杏華、私のクリームシチューとビーフシチューも少し交換しよう。……すいません、人数分の取り皿も」
「涼鈴さんはさすがの健啖ぶりで……! でも、今日は私もたっぷりお腹に入りそう! だって、こんな楽しいランチは久しぶりだもの! ――ふふっ」
と、まあ、そのような形で。彼女たちは最後まで楽しそうに季節の味わいと絶景を楽しんで。最終的には、食堂の職員たち全員を巻き込みながら皆で食事を楽しんでいたとかいないとか。
食事は楽しい。旅行は楽しい。友達とみんなで過ごすのは楽しい。景色が奇麗な場所でのことなら尚更だ。戦争の慰安旅行としては十分過ぎるほどの楽しさを、彼女たちは口いっぱいに頬張って。
最後の後片付けまで手伝って、六人は笑顔で食堂を後にしたとか。良き時間を過ごせたのならば、幸甚である。
●バニラアイスの白、輝きの虹色
「戦争お疲れさまでした。アイスクリーム作りに興味があるので参加してみたいです!」
「いえいえ、それはこちらの台詞ですよ! 猟兵の皆さんこそ、戦争お疲れ様でした。ご予約のアキカ・シュテルア(グリッタークラフター・f09473)様ですね? ご案内いたします! 本日はようこそ、乳製品手作り体験へ! 是非楽しんでいって下さいね!」
乳製品手作り体験の最後の予約を取っていたのはアキカだ。
A&Wのとある森にある屋敷を拠点とし、普段はそこで依頼を受けて生活している彼女であるが、本日は旅行ということでここまで足を伸ばしてみることにしたらしい。
「UDCアースは初めてですが、素敵な場所ですね。空気が澄んでいて、気持ちいいです! 拠点の付近と似ていて落ち着きますね」
「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです! ここはすごくきれいな場所なので、UDC職員の中でもとびきり人気の高い支部なんですよ! アキカさんの拠点の近くも、きっといい所なんですねえ」
アキカとUDC職員女性の二人は、ふんわりと意気投合しながらアイスクリーム作りの準備を始めていく。
「料理の腕は多少はありますけれど……上手く作れるでしょうか。せっかく体験する訳ですし、出来ればレシピを覚えて帰りたいですね」
「その意気です、アキカさん! それじゃ、まずはボウルに材料を混ぜるところからですよっ」
ボウルに牛乳と生クリーム、レモン汁と砂糖を投入して、アキカが混ぜる、混ぜる、混ぜる、混ぜる、混ぜる。とにかく混ぜる。
そんなこんなで材料が混ぜ合わさって。アキカがアイスのタネを元々用意してあったプラスチック製のジャム瓶の中に投入していくと、UDC職員の女性が新しい何かを持ってきた。
材料が入った小さいジャム瓶よりもう一段階大きいジャム瓶と、氷。それから……。
「これは……? 塩?」
そう、アイス作りの最後の材料は塩だ。アキカは職員の指示をよく聞いて、まずは大きい瓶にアイスのタネが入った小さい瓶を入れていく。
次に、小さい瓶の周りの空間を埋めるように氷を入れて、そこに中々の量がある塩も入れて、蓋を閉める。大きいジャム瓶の中には、蓋を閉めた材料の入っている小さいジャム瓶に、大量の氷と塩が入っている形だ。
「ありがとうございますアキカさん! ではでは、そのまま思い切り振っちゃってください! ――5分間ほど!」
「5分間、ずっと、振る、と?」
「5分間、ずっと、振ってください」
「結構大変ですね……!」
そして、五分後。職員とアキカの二人で交代しながら振り続けていた瓶の蓋を開けてみると、中の小さなジャム瓶は霜が降りるくらいに冷えていた。
恐る恐る小さな瓶の蓋も開けると、中には――。
「……わあ、すごい。瓶の中で、奇麗に固まるんですね」
「そうなんです。どうぞ、まずは一口いかがです?」
「はい、一口目は何も付けないでそのまま食べてみたいと思ってたんです。それでは……。……ふふ。冷たくて、美味しい」
小さな瓶の中に出来上がっていたのは、密度の高いバニラアイス。光を当てればキラキラと光り、頬張ってみれば滑らかな口当たりと甘い香りがふわっと広がって。
アキカの初めてのアイスクリーム作りは、大成功に終わったと言って良いだろう。
「ふふ、楽しんで頂けたなら何よりです! アキカさん、こんなのをかけてもおいしいですよ!」
「成る程、ジャムは勿論ですが、チョコチップ? が大変気になりますね。合うのでしょうか……? ……あ、すごい。少し入れただけで、大分香りが変わるんですね。……とっても、美味しい」
鮮度の高い牛乳で作られたミルクアイスは、僅かなトッピングでもその顔を大きく変化させる。
ブルーベリージャムをかければ爽やかな甘みに、マーマレードをかければ甘酸っぱい香りに。チョコチップをかければ、口に広がるのは芳醇なチョコとミルクの甘い二重奏。
「アキカさん、もし良かったらそちらの容器と余った材料を差し上げますよ! 今度は拠点などでまた作ってみてください! 冷えた瓶アイスは、保冷剤さえあればお土産にも丁度良いんですから」
「良いんですか? それならお言葉に甘えて。思いがけないお土産を貰っちゃいましたね」
バニラアイスは白。トッピングを混ぜれば、それは色んな色彩へと表情を変えながら新しい味わいを生んでくれる。それはきっと、別々の色を混ぜ合わせることで新たな輝きを生む絵の具のように。
一人で作って、食べて、それでこんなに楽しいなら、誰かと一緒に作ってみるのも楽しそうだな、なんて思って。
思わぬお土産も貰い、アキカはゆっくりゆっくり、自分で作った初めてのアイスの輝きを楽しんでいた。
「アキカさん! こちらにいらっしゃってたんですね?」
「あ、皆さん」
「アイス作りも楽しそうだよね、今度は皆でやってみたいな!」
「……ふふ。それじゃ、今度は私が教えてあげなくちゃ、ですね」
食事を終えたどこかの団体と合流し、皆で帰る、その時まで。
大成功
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