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猟兵よ、大地を征け

#アックス&ウィザーズ


 月の明るい夜更けであった。
 ゴツゴツとした岩山から吹き降ろす夜風が、見渡す限りの高原を静かに走ってゆく。黙して佇む巨岩たちと、穏やかにうねる木々の梢。小さな湖が僅かに波立って、湖面の月がゆらゆらと揺れる。
 人里から遠く離れ、自然の摂理のままに回っているこの大地には、未だ古き魔法の息吹が深く根付いているようであった。大地ですらも静謐な夜気の毛布にくるまって、微睡の中で朝日を夢見る。竜が姿を消してから幾星霜、破られることなく連綿と続いてきた穏やかな日々。この平穏はどれだけ時がたとうとも、決して乱されることはない──はずだった。
 湖面の月がサッと翳る。吹き渡る風はいつの間にか不穏な空気を孕み、木々が俄かにざわつき始める。今この瞬間にも、空の彼方より迫りくるものが強烈な悪意と憎悪の塊であることを、この大地に属するもの全てが感じ取っているようであった。
 ──災厄が、姿を現す。
 巨大な翼と長い尾で夜風を切り裂いて、悪意の主は高慢にも大地を睥睨する。まるで虫ケラ一匹、見逃しはしないとでもいうかのように。己が翼の下に在る以上、安寧など与えはしないとでもいうかのように。静寂を掻き乱し、ソレは宙天より大地に向けて咆哮する。
『俺は還ってきた来たぞ。再びこの大地を、絶望で染め上げるために──。』
 彼の名はオブリビオン。過去より出でて、未来を喰らうものである。

「ややっ、お忙しいところ招集に応じて下さりありがとう御座います、猟兵の皆さま。」
 グリモアベースに集った猟兵たちを出迎えたのは、シルクハットにタキシード、英国紳士然とした格好の、しかし中東圏のものとおぼしき風貌のミレナリィドールであった。
「申し遅れました、私の名前はヘンペル。昔取った杵柄で陰陽師などやらせて戴いております、何処にでも居る平凡な紳士です。以後、お見知り置きを。」
 そう嘯いて綺麗にお辞儀して見せるミレナリィドールの陰陽師、ヘンペル・トリックボックス。どこかチグハグで胡散臭い雰囲気を携えたこの青年こそ、今回の招集をかけたグリモア猟兵であった。
「はてさて早速ですが、アックス&ウィザーズ世界において、強力なオブリビオンの出現を予知致しました。皆さまにおかれましては、どうかこのオブリビオンの討伐に尽力いただければと招集させてもらった次第です。……なのですが、差し当たっての問題が一つございましてですね……」
 どこかバツの悪そうな表情を浮かべ、自称紳士は頬を掻く。
「その……標的となるオブリビオンの行動範囲が想像以上に広く、正確な居場所の特定ができていないのです、えぇ。ですので、大変申し訳ないのですが……皆さまには、数日がかりで危険地帯での野営及び探索をしていただく事になります。」
 おもむろに脱いだシルクハットの中からやたらと大きな地図を取り出すと、これまたどこからか取り出したステッキで地図上を指し示す。
「今回探索する場所は、人の生活圏から遠く離れた高原地帯が主となります。オブリビオンの痕跡を探索するにしろ討伐に向かうにしろ、野生の獣や魔物が跋扈する危険地帯に数日間滞在する事はほぼ確実です。ですので、転移してから直ぐのアクションとしては、拠点となるベースキャンプの設営が急務となります。」
 不幸中の幸いというべきか、最初に転移する地点は高原中部に位置する小さな湖のそばであった。水質も良く、生活用水に困ることはないだろう。
「この湖を高原の中心として見た場合、大雑把に東から北部の岩山地帯の麓にかけてはちょっとした森林地帯になってます。一方、南部から西部にかけてはひたすらに広大な高原地帯が続いてますね。ちなみに湖から西部へ30キロほど歩くと、一応現在も使用されている街道にぶち当たりますが、一番近い村でも馬車で三日はかかるので人里での補給は実質不可能と考えてください。」
 ステッキの先端から照射される赤い光点が、地図の上を忙しなく動き回る。とある世界ではレーザーポインターと称される道具を、この青年はなぜかステッキに仕込んでいるらしい。
「ベースキャンプの増強を考えるのであれば、東部の森林地帯へ出向いて材木や石、蔓といった自然由来の素材を集めてくるのが得策かと思います。逆に、南西の高原地帯ならば食用に適う野草や野生の動物が多く生息していますので、そちらへ向かうのも良いでしょう。もちろん、キャンプそのものの設営や周囲の安全の確保、炊事、洗濯などなど、人手はあればあるほど良いものです。大切なのは、皆で力を合わせて夜を乗り切ること。このベースキャンプの出来如何で、その後の探索や討伐の難易度が劇的に変わると考えてもらっても構いません。初日の基本的な動きは以上となります。御清聴、ありがとうございました!」
 クルリとステッキを回し、紳士服の青年が一礼する。いよいよ出発かと身構える猟兵たちにヘンペルは、またもバツの悪そうな笑みを浮かべて「それから」と付け加えた。
「……確かに危険な任務です。一瞬の油断が命取りになる局面もあるでしょう。ですが──それを差し引いても、自然の中で共に力を合わせて生き抜くという行為は、ある種の高揚感と代えがたい経験を生むものです。……えぇ、まぁぶっちゃけてしまうと、結構楽しいと思います。立場上、せっかくだからなんて口が裂けても言えませんが──」
 どうかその道行が、一つでも多くの笑顔で彩られていますように、と。そう言ってヘンペルは、今一度お辞儀をするのであった。


信楽茶釜
 どうも皆様はじめまして、信楽茶釜と申します。
 皆様が紡ぐ物語の一助となれれば幸いです。
 以下補足になります。

●最終目的
 標的となるオブリビオンの撃破。

●今シナリオの目的
 拠点設営及び標的探索の準備等。

●地理情報
 転移地点:直径2キロ程度の湖の湖畔。蒸留すれば飲用にも足る。
 東部:北部にかけて広がる森林地帯がある。資源は豊富だが危険な獣やモンスター等も生息している。
 北部:東部から続く森林地帯。森林地帯を抜け切ると、岩だらけの荒野と高原を見下ろす巨大な岩山が現れる。
 南西部:高原地帯。様々な野生動物やモンスターが生息している。湖から西部30キロ地点にある街道は商隊の馬車が通ることもあるが、多くても一日に1、2台程度。

●その他留意点
 場合によっては敵性生物の拠点襲撃等もあり得ますので、夜中は火を絶やさないことをお勧めします。

 それではどうぞ、よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『荒野のキャンプ』

POW   :    寝ずの番で警戒する

SPD   :    キャンプ技術や美味な料理で環境を整える

WIZ   :    キャンプ場所を探す、敵を誘う細工をする

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メタ・フレン
とりあえず、グッドナイス・ブレイヴァーで動画撮影ドローンを召喚。危険な野生動物や魔物が比較的少ないところを探して、そこにテントを張ろう。


鏡島・嵐
旅は危ねぇことも多いけど、やっぱり心が躍るんだよな。
おれはこう見えて臆病者だから、キャンプを張る時はまず安全確保、ってな。

さしあたっては、転移ポイント傍の湖で荷物がかさばらない程度に水を少量汲んでいくぞ。蒸留すれば飲用に堪えるらしいし、落ち着いたら後でまとまった量の水を汲みに来よう。ついでに湖周辺に獣やモンスターの痕跡が無いかチェックして、湖自体の危険度も測っておく。
おれとしてはキャンプを張るのはあんまり強い風が吹かなくて、寒暖の差が小さくて、動物やモンスターの行動圏から外れていそうな場所を選びてぇな。
勿論、他の猟兵の皆がもっと善い案を出してくれるなら、そっちに乗るぞ。



頬を撫でる風と柔らかな下草の感触に、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)はゆっくりと瞼をあけた。
「おお······っ」
 目に飛び込んできた光景に、思わず感嘆の声を漏れる。
 抜けるような青空の下、見渡す限りの草原が広がっていた。吹き抜ける風は生気に充ちて力強く、うねりをあげる緑色の絨毯はまるでひとつの生き物のようだ。振り返れば湖の水面に映る午前の太陽が、千々に砕けてキラキラと輝いている。
 見知らぬ大地、危険の伴う冒険だと分かってはいても、嵐の胸は自然と高鳴っていた。
「壮観ですね。」
「あぁ、こりゃすげぇ──って、うお!?」
 突然足下辺りから聞こえてきた声に、嵐は咄嗟に飛びずさる。いつの間にやら彼のいた場所に、まだ年端もいかぬ幼い少女がテン、と立っていた。同じくこの場所に転移してきた猟兵、メタ・フレンだ。
「い、いや······悪ぃ、あまり急だったからよ。俺は鏡島・嵐。あんたは?」
「······メタ・フレン。」
 頬をかく嵐に、メタは言葉少なに返答する。年上相手には、どうしても無口になりがちな少女であった。
「メタか。よろしくな──って、何やってんだ?」
 メタの掲げた両手のひらに、バーチャルチックな燐光が集う。やがてそれは、キマイラフューチャーでいうドローンの形をとった。ユーベルコード、グッドナイス・ブレイヴァーだ。
「······上空からキャンプに適した場所を探します。私たちが一番乗りのようですので。」
 そう言って、ドローンを空へと放つメタ。右手に持った携帯端末の画面に、高原の雄大な景色が映し出される。
「あー、なるほどな、動画配信用のドローンを偵察に使うワケか。」
「です。危険な野生生物や魔物が居ないところを探します。」
 こくりと頷くメタに、嵐もまた一緒になって画面をのぞきこむ。
「動物やモンスターの行動圏から外れる場所ってのは同意だな。あとは······そうだな、キャンプを張るならあまり強い風が吹かなくて、寒暖の差が小さい場所が良い。体温の低下は意外と馬鹿になんねーし。」
「······詳しいですね。ならこの場所でどうですか。」
「まーな。伊達に旅烏やっちゃいねぇ──早っ!?すげぇなメタ、もう見つけたのかよ!」
「別に······なれてますから。」
 つっけんどんに答えた彼女の口角が、しかし少しだけ嬉しそうに上がっているのを、果たして嵐は気づいたかどうか。発見した地点へと、ドローンがゆっくり降下していく。
「あー、もうちょっと高度を下げてくれ。もうちょい右。湖畔の岸辺らへん」
「······?ここですか」
「おぅ、サンキュ。どれどれ······どの足跡も草食動物のモンだし、そもそも生き物が訪れた痕跡自体が少ないな。環境も理想的だし──よし、ここをキャンプ地にすっか!」
「了解、此処から北北西約1キロメートル、小さな木立と湖畔の中間地点ですね。······丁度他の猟兵さんも到着したようですし、移動を開始しましょう」
 二人を追うように次々と姿を表し始めた猟兵たちを一瞥すると、メタは少しだけ口元を綻ばせ歩き始める。
「お、おい、まずは水の確保をだな!あーもう手ェ空いてる力自慢!拠点まで水汲んで持ってくから手伝ってくれ!待てってメタ、一人じゃあぶねーから!」
 抜けるような青空に、猟兵たちの声が賑やかに響き渡る。
 彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花咲・まい
【SPD】ふうむ、この広い範囲から件のオブリビオンを探すのは確かに苦労しますですね。
しからば、探索の拠点設営が最優先なのも納得しましたですよ!

私はとりあえず、南西部を目指してキャンプを作りますです。あとは食料も獲らなくちゃですね!
幸い野生生物には困らないようですし、それに私は斬れればだいたいなんでも焼いて食べますです。斬れれば食べられる!世の真理です!

もし一緒に探索できる人がいるなら、一緒に設営するのも一石二鳥で良いと思いますです!


清川・シャル
野営必須、忍耐勝負ですね
羅刹は体力と力馬鹿なのでそれを活かしましょう

良さげなポジションは詮索得意な方にお任せしますね
私は薪集めや食材の主に肉類調達に行きます

お料理は得意な方です
ちょっと材料が口に入らないサイズに切っちゃうんですけど

火は誰か起こしてくださーい!
わたし寝ずの番しまーす!

キャンプファイヤーだー!
…あれ?なんか楽しくなって…き…あれ?

きちんと戦闘準備もしますよ!
サポートは任せてくださいね!
火を絶やさないようにしながら周りを警戒しつつ銃の手入れしてますね


ソーニャ・ロマネンコ
さて、屈強な者達がいるようだし…私は料理でもして英気を養う物でも作ろうか。

【料理2】で手持ちの物で何か作るか…確か持ち物にレトルト系があったしな、運が良ければ手頃な野生生物もいるだろう。
肉でも狩れたら私がスナイプしてサクッと狩ってこよう、やはり英気を養うには肉だな、肉。

火はフォックスファイアを使えば楽か、薪や燃やせる物もついでに集めよう。
夜も火が必要になるのだろう?四六時中フォックスファイアを出しっぱなしにする訳にもいくまい。

それでは、楽しいキャンプにしようじゃないか。



トンテンカンカン。穏やかな午後の高原に、心地よいリズムが響き渡る。キャンプの設営はことのほか順調で、完成は目前と言っても過言ではなかった。少なくとも、日が暮れるまでには野営の準備が完璧に整うペースだ。
「せえええええい!」
 ‥‥‥どこかでトンビが鳴いている。実に平和な時間だ。
「ハアアアアアア!」
 実に平和な────。
「どどどどーんっ!」
 ‥‥‥実に平和とは、儚いものである。
 完成を迎えつつあるベースキャンプのド真ん中。その場所にあってなお、決死の戦いに臨む三人の乙女の姿が、そこにはあった。
「クッ‥‥‥これで何体目だ?」
 額に滲んだ汗をぬぐい、ソーニャ・ロマネンコ(妖狐の戦場傭兵・f03219)が歯噛みする。想像以上の数を前に歴戦の傭兵たる彼女すら、疲労を隠せてはいないようだった。
「ぜぇ、ぜぇ、これで確か‥‥‥八体目だったはずです。たぶん‥‥‥」
 ソーニャの言葉に、清川・シャル(バイオレットフィズ・f01440)は肩で息をしながら答える。羅刹特有のパワーと体力には自信のある彼女も、さすがに余裕がなくなってきているようであった。
「キ、キリがないでございますですよ~!」
 半ば悲鳴じみた声を上げつつ、花咲・まい(紅いちご・f00465)が白刃を振り下ろす。他の猟兵たちが設営や哨戒に回っている以上、この窮地を凌ぐことが出来るのは彼女たちだけであった。
 戦場の乙女たる彼女たちが相対するのは、凶暴な野生の肉食動物にあらず。さりとて強大な魔物にあらず。無論、今回のターゲットであるオブリビオンにもあらず。彼女たちが今、必死の思いで戦っている相手は───本日の狩りの成果、即ち大量の食肉であった。
「まさかここまでの量になるとはなぁ‥‥‥」
「一人を除いて全員野生動物狩りにいきましたからねぇ‥‥‥」
「皆さん気合はいりすぎでございますですよ‥‥‥」
 かく言う彼女たち三人も、迷わず食肉調達を選択した口である。ちなみに貴重な野草や果物を調達してきた猟兵は、野営に備えて早めの終身をしている最中だ。
「‥‥‥とはいえ、だ。やはり英気を養うには肉だろ、肉。ましてや、明日から本格的な探索をはじめるのだし、ここでしっかりとパワーをつけておくのは正しい選択のはず!そうだろう、シャル殿、まい殿!」
 折れそうになる心を奮い立たせるように、年長者としてソーニャが拳をグッと握る。その一方で最年少のシャルは、一口で食べるには余りに大きなサイズに肉をカットしながら小さく唸っていた。
「んー、問題はどんな料理にするかですよねー。カレー、シチュー、それとも香草と一緒に蒸し焼きに‥‥‥それでもかなりの量です。有り体に言って、皆さん飽きてしまわないでしょうか‥‥‥?」
「ぐっ‥‥‥それはまぁ、否めないな。一応、レトルトの食材や調味料は一通り揃えてあるが‥‥‥まい殿、例えばの話だが、まい殿はどんな料理であれば飽きずにこの量を完食できる?」
「えっ?そうですね、私は斬れればだいたいなんでも焼いて食べますです。斬れれば食べられる!世の真理です!」
「シンプルだなぁ、まい殿は‥‥‥」
 薄緑色の瞳を輝かせて力説するまいと、遠い目で肉をスライスするソーニャ。しかしてまいのその言葉に、ハッとした様子で顔を上げる少女がいた。シャルだ。
「‥‥‥そっか、そうですよ!シンプルで良いんです!凄いですねまいさん、私もなんだか世界の真理に辿り着けた気がします!!」
「えへへ、理解していただけたようで何よりでございますです!」
「それじゃあ、手始めに火を───」
「ま、待て待て二人とも、なにがなんだかサッパリ分からんぞ!?」
 唐突に世界の真理を垣間見た二人に困惑気味のソーニャだったが、直後耳打ちされたシャルの言葉にストン、と納得してしまった。
「な、なるほど……それは盲点だ」
「ですよね!ささ、ソーニャさん、早く火をおこして下さい!」



 パチパチと薪の爆ぜる小気味良い音とともに、えもいわれぬ香ばしい匂いが辺りに漂っている。
 夕暮れ。黄金色から深い藍色へと色を変える空の下、完成したベースキャンプの中心では、盛大にキャンプファイヤーが行われていた。昼間は主にキャンプの設営をしていた猟兵も、はたまた哨戒に出かけていた猟兵も、この時ばかりは存分に談笑し、また肩の力を抜いてくつろいでいる。年齢、性別、出身───すべてがバラバラなこの集団に、しかし一つだけ共通するものがあった。
「いやぁ、うめーなコレ。もう一本くれ!」
「‥‥‥それは生焼け。もう少し待ったほうが良い。」
「困ったなぁ、何本でも食べれちゃいそう。」
「やはり外で頬張る串焼きは、格別の一言に尽きますね──」
 串焼きである。皆一様にキャンプファイヤーを囲み、串に刺した肉や野菜や香草を直火で炙りながら舌鼓を打っているのであった。
「ふむ、唐突にシャル殿が言い出した時には、何を単純なと思いもしたが‥‥‥キャンプファイヤーにはバーベキュー。なるほど、悪くないじゃないか!」
 肉汁したたるアツアツの串を頬張りつつ、ソーニャが上機嫌で頬を緩ませる。肉と肉の間に挟まれた香草の風味が程よく焼けた肉になじみ、ついもう一口、もう一本という具合に食欲を増進させる。
「お料理だからって少し複雑に考えすぎてました。みんなで焚火を囲んで、綺麗な景色を見ながらお喋りして、みんなで同じものを一緒に食べる。たったそれだけで、どんな食べ物だって美味しく感じるんです。そうですよね、まいさん?」
「ほひほんへほはいまふれふ!おいひい!」
 口いっぱいに幸せを頬張ってご満悦のまいの姿に、シャルが年相応に明るい笑い声を上げる。結果的にとってきた肉の半数が干し肉になったという事実はさておき、三人が苦心して作り上げた「料理」は、猟兵たちの英気を十分すぎるほどに養って見せたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

曙・ひめ
寝ずの番で警戒いたしましょう。もし他の方とご一緒でしたら、協力しあいましょうか。
あらかじめ仮眠をとっておいて、番の間眠たくならないようにします。
火は絶やさないよう頃合いをみて枝や薪を足して、辺りに警戒を払います。

万一、野生動物やモンスターが襲ってきたら、早めに薙刀を用いた螺旋旋風で威嚇して追い払いますね。
なるべく身体を大きく見せて、優位に立てるようにしましょう。
しつこい場合は、キャンプ地から離れた所まで誘導して、なぎ払って仕留めてしまいましょうか。


シグルド・ヴォルフガング
野営、ですか。
よろしいでしょう、私がベースキャンプの不寝番を致しましょう。

なに、私も旅をする身です。
旅慣れた者としてお任せ下さい。
ですが、夜が明ければオブリビオンの追跡と決戦が控えています。
私以外にも番を希望するものが居れば、時間を決め交代するのも手です。

人狼の種族である私は嗅覚、聴覚に優れています。
もし、私が番の交代で眠っていても異変に気づけばすぐ起きて駆けつけ、番をしている最中に気づけば「サイコキネシス」で襲撃者の身を封じ、皆様を呼び起こします。

相手の数がわからない状況で単独に戦うのは危険です。
もしそれが陽動だとしても深追いは厳禁ですよ?


シャイア・アルカミレーウス
「知らない土地で仲間とキャンプ。そして竜退治!うーん、これぞ冒険って感じだよね!」
キャンプ地が決まったら基礎的な設営、周囲の下見と薪の調達をしたら、夜営に備えて早めに休ませてもらおう。

「こっちの道には小石がいっぱいだから、暗くなったら転ばないようにしないとね。あ!コケモモ見っけ!」
襲撃されやすそうな方向、暗い時に深追いしたら危なそうな地形がないか、明るいうちに見る。

「それじゃ、ちょっとお休み~」
見終えたら寝ずの番に備えて明るいうちに休んでおこう。

「よーし、僕も見張り頑張るぞい!」
焚き火で明るさ確保、ガチキマイラで頭をライオンにして夜目と聴覚を強化するよ。襲撃があったら吠えて威嚇と仲間を起こそう



虫の音が響いている。高原から見上げる夜空は清く澄んでいて、都市部から眺める夜空とは比べ物にならない数の星が明滅を繰り返している。まさしく原初の宙。地上の明かりが夜空を塗りつぶす以前の天の有り様を、この大地は未だ克明に遺しているのであった。
 そんな原初の夜の下、幾分小さくなった焚火を囲み、寝ずの番をする三人の姿があった。
「‥‥‥なんて綺麗な夜空。ずっと眺めていたら、吸い込まれてしまいそう」
 そう呟いて曙・ひめ(紅飛蝶・f02658)は、眼鏡の弦を僅かに押し上げた。幼いながらもその瞳には、強い好機の色が宿っている。
「あの星の海を自由に航海できる世界もあるんだから、セカイってのはつくづく広いよねー。いや、多いっていうべきなのかな?」
 どこか楽しそうな様子で星空を眺めるのはシャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)だ。服の下から伸びる蛇の尾が、機嫌良さげに揺れている。
 一方、白金の鎧を着込んだ聖騎士──シグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)は瞼を閉じたまま、静かに口を開いた。
「‥‥‥どの世界であろうとも、オブリビオンの脅威に晒されていることだけは確かです。無論、この世界も含めて。」
 ───パキリ、と。薪の爆ぜる音がやけに大きく響いた。数時間前までの賑やかさはとうに去り、夜の静けさに残っているのは虫の声と湖畔の小さな波音だけだ。夜に染み渡るように訥々と、シグルドの声が流れてゆく。
「私たちが今こうしてオブリビオンを追っている間にも、世界のどこかで過去に轢き潰されていく未来があります。暗い夜の下を、理不尽に震えて過ごす人たちがいます。」
 静かに炎を見つめるシグルドに、ひめもシャイアも、あえて何か言おうとはしなかった。猟兵であれば、誰もが抱くであろう焦燥感と無力感、そして理不尽に対する怒り。本来であれば縁もゆかりもなかった三人を、この原初の夜の下に引き合わせた絶対の理由。
「‥‥‥で、あればこそ。」
 しかして、そんなものだけが猟兵の根幹ではないと、聖騎士は夜空を見上げる。
「であればこそ、この夜空を美しいと思う感情は必要でしょう。顔も知らなかった仲間と火を囲み、食事をする楽しみを捨てる必要はない。それはきっと、世界を守るための一番の原動力なのですから。」
「‥‥‥へへっ、騎士様は回りくどいなぁ。楽しかったよね、さっきのキャンプファイヤー。またあんな風に皆で騒げるなら、こうして寝ずの番をする甲斐もあるってモンさ」
「‥‥‥えぇ、えぇ!わたくし大勢でこんな風にお泊りする機会なんて今まであまりなくって。正直、今こうしてお二人とお喋りしている時間も楽しくって仕方ないんです。」
「あれま、ひめちゃんてば嬉しいこと言ってくれるじゃん!なんなら昔話大会でもする?そうだねー、あれは僕が501本目の剣を岩から引き抜いたときのことなんだけど───」
「───来ます。構えて」
 シグルドの剣がスラリと抜き放たれる。瞬時にシャイアの頭部が獅子へと変じ、ひめの手にした薙刀が旋風を纏い回転を始める。シグルドの声が夜闇に溶けるより早く、三人は臨戦態勢を整えていた。
 焚火の明かりが届かない闇の向こう、金色に光る複数の眼が、ベースキャンプを伺っているのが見て取れた。
「あれは‥‥‥野生の肉食獣?」
「うん。オオカミだね、あれは。だけどそれだけじゃない───」
 ひめの問いに短く返答しつつ、シャイアは獅子のものと化した相貌を闇へと向ける。同じく夜闇に目を凝らし、真っ先に鼻を効かせていたシグルドが忌々し気に口を開いた。
「この腐った穴倉の匂いは‥‥‥ゴブリンですか」
「小鬼、ですか‥‥‥?どうしてゴブリンとオオカミが一緒に?」
「おそらく飼いならしたのでしょう、稀にそういう個体がいるとも聞きます。」
「さっきあれだけ美味しそうな匂い撒き散らしちゃったからねー。嗅ぎ付けてきちゃったかぁ‥‥‥」
「どうだか。まぁどちらにせよ、現状見える範囲での数自体はそう多くはない。どうやらこちらと同じで三組といったところでしょうか。」
 三人が言葉を交わす間にも、襲撃者たちはウロウロと隙を伺っているようであった。
「‥‥‥仕留めますか?」
 薙刀で風を切りながら、緊張した様子でひめが言う。
「いえ、こちらから手を出すのは危険でしょう。陽動の可能性もあります。」
 油断なく剣を構え、シグルドは襲撃者たちを見つめている。見るものが見れば、すでに彼の肉体からはサイキックエナジーと呼ばれる不可視の力場が発生していることに気が付くだろう。
「襲い掛かってくるような僕が思い切り吼えるさ。そうすればみんなも起きてくるだろうしね!」
 低いうなり声をあげつつ、獅子頭のシャイアが不敵に笑う。永遠に感じるような睨み合い。実際は5分程度の時間だったそれは、襲撃者側の撤退という形で幕を閉じた。
「はぁー、緊張しました‥‥‥」
「はた迷惑な連中だよ全く!いったい何の用があったってんだい!」
「‥‥‥何はともあれ、お二人ともお疲れさまでした。もうあと一時間もすれば、東の空が白み始める頃合いでしょう。」
 三人の油断のない警戒の甲斐あって、ベースキャンプは穏やかな朝を迎えようとしていた。いよいよ本格的なオブリビオン探索の旅が、始まる───。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『荒野の探索』

POW   :    荒野を虱潰しに強行軍で探索する

SPD   :    標的の痕跡を探して追跡する

WIZ   :    地形や気候、目撃情報から居場所を推理する

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●オブリビオン討伐遠征 二日目

 東の空が、ようやく藍色の瞼を開けた。目を灼かんばかりの閃光と共に、夜明けの大地が黄金の輝きに染まってゆく。湖から立ち上る朝靄と、澄んだ青空をゆく水鳥の群れ。嗚呼、目を閉じていようと分かる。この大地は今日もまた、最高に天気が良いのだろう。
 人界の時間で言えばまだ早朝もいいところだが、朝の訪れを感じた幾人かの猟兵は早くもテントの外に這い出して、朝の挨拶を交わしていた。新鮮な朝の空気を存分に吸い込むもの。湖に顔を洗いに行くもの。ラジオ体操をはじめるもの。そもそもテントの中で未だ熟睡しているもの。十人十色ではあったが、それぞれが猟兵としての思いを確かに秘め、それぞれの一日をはじめようとしていた。
 オブリビオン討伐遠征、二日目。まだ見ぬ強敵の影を追う一日が、始まる。
鏡島・嵐
そもそも件のオブリビオンってどんなヤツなんだろう? 翼と尻尾があるって以外、具体的な情報が殆ど無ぇよな。
虱潰しに探すのも悪くはねぇけど時間を浪費するのも避けてぇし、ここは後々の戦いを有利にするためにも、オブリビオンが活動したらしい痕跡を探して情報を仕入れておきたい。
普通の動物とは明らかに異なる足跡や、時間が経っていなさそうな尋常じゃねぇ破壊(広範囲に亘る草木の倒壊・消滅など)の痕跡が無ぇかを、キャンプ地を中心に探索してみる。危険そうな動物やモンスターとは出くわさねぇように、風向きとかには気を付ける。
移動はユーベルコードを足代わりに使うか。自分で走るよりは速いし、最悪戦闘になりそうなら逃げよう。


清川・シャル
おはようございます。
目覚ましがてらに偵察に行ってきましょう。
何かしらの痕跡など見つからないでしょうか?
事前に聞き込み出来ている情報などあれば共有し、風向き、におい、天候、地形、あちこちに注意を向けます。

万が一敵と遭遇した場合は味方に連絡が行くように、愛用の銃のぐーちゃんに合図信号用の銃弾を1発込めておきます

対峙したらばそこは即戦場
私、鬼ですので
容赦はしません
金棒での応戦とコード「爆竜戦華」での攻撃を開始します



「わっ、お、おはようございます!」
 驚いた様子で顔を上げたシャルが、瞬時にペコリと頭を下げる。滲み出る礼儀正しさにつられて、嵐も思わず頭を下げていた。
「お、おう、おはようさん。‥‥‥何かあんのか、そこに?」
「え?あ、はい、そうなんです。昨日の夜にオオカミを連れたゴブリンが現れた場所が、ちょうどこの辺らしいんですけど───見てください、ここ。」
 そう言ってシャルが指をさす。周囲の地面に比べると微かに踏み荒らされた形跡のある地面の上で、ドス黒い液体の付着した下草が揺れていた。
「こりゃ‥‥‥血、か?」
「やっぱり鏡島さんにもそう見えますよね‥‥‥。」
「あぁ、少なくとも、足跡に関しちゃオオカミのもので間違いない。コッチの子供位の大きさの足跡はゴブリンだろうな。‥‥‥でも、だとすると妙だぜ。確か昨日の晩、戦闘は行ってねぇって話じゃなかったか?」
「私もそう聞いてるんですけど‥‥‥すでに獲物を確保して巣に戻るところだった、とか?」
 シャルの視線は、南西の高原地帯へ点々と続いている血痕に向けられていた。
「‥‥‥よーし、いっちょ行ってみっか!」
「はい、そうしましょう!この先に彼らの巣があるなら、私たちの探すオブリビオンの痕跡も、もしかしたらあるかもしれません‥‥‥!」



「はあああああああああああ!」
 裂帛の気合と共にシャルの振り下ろすピンクガンメタ色の鬼金棒が、緑色の醜悪な小鬼───ゴブリンの、最後の一匹をついに捉えた。頭蓋を一撃で叩き割る音とともに、凄まじい余波が大地を抉る。舞い上がった土砂や草花をもろともせず、金髪碧眼の戦鬼は頬に飛び散った小鬼の血をゆっくりと拭った。
「だ、大丈夫かよ、シャル」
 相棒たる黄金の獅子の背で嵐もまた、額に浮いた汗を拭うところだった。
「‥‥‥はい、幸いケガらしいケガはしてないみたいです。クーちゃんが先んじて奇襲に気が付かなかったら、危なかったかもですけど‥‥‥」
 いつの間に愛称をつけたのか、シャルが獅子の額をよしよしと撫でる。
「それより、気が付きましたか?鏡島さん。」
「‥‥‥あぁ。あのオオカミを連れたゴブリン、どいつもこいつも───」
 手負いだった。そう呟いて、嵐が眉間に皺を寄せる。いったいこの大地で、何が起きているのか。また一つ増えた謎を土産に、二人はキャンプへと帰還するのであった。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ソーニャ・ロマネンコ
さぁて、それじゃ周辺を探索しようか。

といっても…手当たり次第に虱潰しというのも些か効率が悪いか?
目的はワイバーンの生息地、ならば生物の少ない方向を探り、その方角を重点的に調べてみよう。
装備品の探索での定番【双眼鏡】と機動力確保の【バイク】、技能の【視力】【騎乗】あとは【第六感】で良い感じに攻めていこう。



「‥‥‥昨夜のゴブリンは手負いだった?」
 難しい表情でそう呟き、ソーニャ・ロマネンコ(妖狐の戦場傭兵・f03219)は正午の大地を愛用のバイクで駆けていた。
 南西の高原地帯でのゴブリン襲撃を受け単身ソーニャが向かったのは、方角としてはおよそ真逆に位置する北東の森林部であった。
 未だ敵の正体すら掴めぬ遠征の二日目ではあったが、その点に関しては予知の話を聞いた段階で、ある程度の推測がソーニャの中では立っていた。今、彼女が欲しいのはその推測を確かなものとする確証だけである。
「おっと!」
 考え事をしていたせいだろう。正面から突っ込んできた野生生物と危うく衝突しかけて、ソーニャは咄嗟にハンドルを切った。
「危ない危ない‥‥・今のはイノシシ、か?」
 未舗装の高原地帯を持ち前のテクニックで捌きつつ、ソーニャは周囲へ細かく視線を巡らせる。先ほどのイノシシだけではない。シカや野ウサギ、ひいてはサルや見たこともない魔法生物にいたるまで、実に多様な種類の野生動物が、今自分が向かっている方角から次々と走ってくる。
「‥‥‥私の第六感も、捨てたものではないようだな」
 銀の髪をなびかせ、野生動物の間を縫うように赤い瞳の軌跡が疾走る。眼前数キロ先、巨大な岩山を背に広がる森林地帯が、ようやく姿を現した。
「ビンゴ。」
 一言そう呟いて、ソーニャは森のある一点をめがけてスロットルを全開にする。エンジンが咆哮を上げ、鋼の躯体が大地を駆ける。グングンと縮まっていく距離と、どこか歪な輪郭を鮮明にしてゆく森林地帯。その一点に近づくにつれ、異常はより一層際立って見えた。
 森の一角が、消し飛んでいる。正確には、何らかの力の余波を受け、数十メートル四方の木々が根こそぎ倒れ伏していた。まるで爆心地のごとき惨状である。
 ドリフト気味にバイクを止め、足早に現場へと駆け寄ったソーニャは、早くも推測を確信へと変えていた。
「間違いない。今回私たちが倒さなければならない相手は亜竜種・飛竜ワイバーン。逃げ出してきた野生動物たちの生息域と、ワイバーンの生息域が重なる地点を考えるとヤツの居場所は‥‥‥そうか。やはり───」
 不吉な風を感じて、ソーニャが顔を上げる。その赤い瞳の先には、森の奥に佇む巨大な岩山の姿があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シグルド・ヴォルフガング
竜とて何も「神」ではありません。
我々と同じ生者であり、日々の糧を必要とするでしょう。
目撃情報によると巨躯と聞き及んでいますから……水は
この小さな湖から取っているとみて間違いありません。
それと生物ならば必ず落とす「排泄物」……まぁ、糞、ですね。
後は野生動物を襲った形跡、でしょうか。

ただ、今回はただの竜ではなくオブリビオンです。
過去により甦った亡霊にそれらの常識が通るとは限りません。

となれば、です。覚えていますか?昨夜遭遇したゴブリンを。

あれらを配下に置いている可能性も十分あり得ます。
仮に昨夜の個体が斥候であれば、主を守るべくねぐらを中心に警戒してるかもしれません。

さ、竜退治に参りましょうか。


メタ・フレン
引き続きグッドナイス・ブレイヴァ―で周囲を偵察。個人的には、昨夜現れたというオオカミを従えたゴブリンが気になる。今回の標的であるオブリビオンと、何か関係があるかも……



「なるほど、やはり相手は竜でしたか。」
 だいぶ日も傾き始めた北東部の森林地帯。道なき道を手にした剣で切り開きながら、シグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)は静かに呟いた。神ならぬ普通の竜が相手であれば対策も取りようはあるが、敵は過去からの怪物オブリビオン。通常の生物や魔物に対する常識が、彼らに通用するかどうか───。
「‥‥‥むしろ、気になるのは昨晩襲撃してきたゴブリンです。」
 隣で沈思黙考するシグルドに向かって、メタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)は携帯端末の画面を見ながらそう言った。初日と変わらず、グッドナイス・ブレイヴァーによる上空からの偵察とナビゲーション担当である。
「‥‥‥手負いだった、と」
「えぇ、私もそう報告を受けましたが───昨晩、我々は交戦をしていません。つまり彼らがワイバーンの斥候部隊だったとすれば、すでに別の勢力と交戦していた可能性が出てきます。」
「‥‥‥第三勢力も考慮すべき?」
「考えたくはありませんが。」
 不気味なほど静まり返った森の中をひた歩く。本来なら遭遇してしかるべき野生動物や魔物も、そのこと如くが新たな暴君の圧政に耐え切れずに森を離れてしまったようであった。
「‥‥‥あと100メートルほどで森林地帯を抜けます。出現予定地点はちょうどあの岩山の真下です。」
「承知した。正確な案内に感謝と称賛を。」
「‥‥‥誉めても何も出ませんよ。」
 行く手を塞ぐ枝を切り払い、ついに視界が開ける。しかして眼前に現れたのは、まるで二人を見下ろすかのように聳える岩山の威容と、裾野にゴロゴロと転がる無数の岩───だけでは、なかった。
「なっ───!」
「うそ‥‥‥!」
 平時より口数の少ないこの二人ですら、この時ばかりは完全に言葉を失っていた。
 岩山の麓は赤く染まっていた。無論、西日によって───ではない。
「ゴブリン‥‥‥ッ!?」
 荒野のあちこちに点在する岩の数に比肩しうるほどの、凄まじい数のゴブリンの死体。それらはあまりにも無残に、あまりにも無造作に、岩山の麓に転がっていた。
「い、いったい誰が、こんなこと‥‥‥」
 メタが呆然と呟く。一方で、シグルドは手近な死体の側に屈みこむと、誰に言われるでもなく検死をはじめた。
「‥‥‥背中から、巨大且つ鋭利な刃物状のモノでザックリと切られてます。間違いなく即死でしょう。こっちは巨大な槍のようなもので腹部を貫かれて絶命している。そしてこっちは───まるで高所から叩きつけられたかのような状態で死んでいる。」
「‥‥‥え?そ、それって、つまり───」
「えぇ、ゴブリンたちは他ならぬワイバーンによって虐殺されたと見るべきだ。‥‥‥盲点でしたよ。どうやら、オブリビオン同士が必ずしも手を組むわけではないらしい。」
「‥‥‥昨晩襲撃してきたゴブリンは、この虐殺から生き延びた個体ってことですか」
「おそらく。差し詰め、命からがら森林地帯を抜けた後、食料の匂いに釣られてきたのでしょう。それにしたところで、あの程度の数しか生き残れなかったとは‥‥‥此度の敵は、私たちの思っている以上に残忍且つ危険な相手のようです。」
 どこか畏怖の混ざった表情で、二人は岩山を見上げる。この頂に、惨劇の首謀者は今この時も座しているのだろうか。
「‥‥‥ほかの猟兵の皆様にも通達しましょう。我々だけではどうにもなりそうにない。」
 シグルドの言葉に、メタもコクリと頷く。
「同感です。少なくとも、ある程度作戦を練ってから攻めるべきです。」
 通達の声が響く中、赤く染まる岩山の裾野は、夜を前に不吉な影をより一層深めていくようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

縛野見・都庭
はてさて!先遣隊が無事拠点確保したっぽいので偵察任務のお時間ですー!
といってもこのひろぉぉぉぉい捜索範囲。ちょっと相手の行動を考えながら動かないといけませんかー…

オブビリオンも休息をとるならモンスターや動物がいないところがいいでしょうし、動物側もオブビリオンの気配怖いから逃げるでしょー
あと偉ぶるヤツって高い所好きですし、高所から南西部高原の街道を通る馬車が見えれば襲いにいける気が!
・・・よし決定、私は北部の岩山登るのですー!それにもしでっかいオブビリオンなら高いところから見れば捕捉できるかも!

もし見つけたら【転がる草群】で追跡と監視しつつ討伐隊に報告引継ぎして倒してもらいましょー!(全力疾走)


シャイア・アルカミレーウス
探索の時間だ!本当は強行軍で探索したいけど、追跡や分身のコードが使えないから推理してみよう!

オブリビオンは飛び回る相手だって聞いてるね。僕も背中に翼があるけど、低い所から飛ぶよりも高い所から飛び出した方が楽なんだよね。
それに、敵が来たときなんかも見晴らしがいい方が見つけやすいよね。
なによりも、こういう親玉は高い所にいるっていうのがお約束だよね!
というわけで、オブリビオンは岩山にいるんじゃないかな?

仲間の皆にそう相談して、同じ方へ行く人がいるなら同行しよう!

『トリニティ・エンハンス』で感覚を強化して隠れながら山頂を目指すよ。
もし何もいなくても山から周りを見渡して目立つものを確認しよう!



「いったん皆で集まって作戦会議しよー、だってさ。」
 トリニティ・エンハンスで強化した五感をフルに働かせながら、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は隣に向かってそう言った。
「えー、せっかくここまで登ったのにー。頂上まであとちょこっとじゃないですかーヤダー!」
 一方、その言葉を受けて絶望的な表情をしたのは縛野見・都庭(キマイラC風・f02314)だ。頬を膨らませる彼女に、シャイアはポリポリと頬を掻く。
「そりゃあ僕だって、このまま一息に頂上まで行きたいけどさぁ······」
「じゃー良いじゃないですかー!このまま頂上まで行っちゃいましょうよーシャイアさん。結果的にウチらの推理、カンペキに当たってたワケですし!」
 実際、自前の推理のみでこの岩山に迷わず直行したのは、この二人だけであった。
「へへっ、うんうん!何て言うか、お互いイイ読みだったよねっ!」
「ですよねー!でもまぁ、そんなに難しい話でもないと思うんですけど。だって───」
「「偉そうなヤツは大体高いところにいるしね!」」
 絶妙にハモって、ゲラゲラ笑い始めるキマイラガールズ。尚、敵の本拠地の真っ只中である。
「───って笑ってる場合じゃない!」
「気付かれちゃうじゃないですかーっ!」
 揃って岩影に待避するや否や一転、息を殺して頂上を窺う。茜色の空にたなびく夕雲が、西の空へとゆっくり流れてゆく。
「······反応ないね」
「······お留守なんでしょーか」
 二人は顔を見合わせると、どちらからともなく岩影から静かに這い出した。
「······やっぱり状況が気になるし、頂上までの偵察を終えてから皆と合流しよう。いいかな?」
「もっちろんです!さすがシャイアさん、話が分っかるー!」
「わわわ、しー!しー!」
「わーごめんなさいごめんなさい!」



「まさか本当に留守だとは······。」
「うん。でもやっぱり間違いない、ここがオブリビオンの棲み家だよ。」
 西の空へと、真っ赤な夕陽が沈んでゆく。強烈な風が吹き付ける山の頂きには、無数の骨片が散らばっていた。巨大な岩山の頂きだけあって、結構な広さである。
「······見た感じ、獲物はここに連れ帰ってから食べるみたいですねー。差し詰め今は、夕食の調達の真っ最中じゃあないでしょーか」
 強い西日に目を細めつつ、都庭が山頂を見回す。
「どうやらそうみたいだね。もう少し調べたいところだけれど───退散しよう、お帰りみたいだ。」
 シャイアの言葉にハッとして、都庭は彼女の視線の先に目を移した。沈みゆく夕陽を背に、遠く、黒いシルエットが西の空から此方へと向かってくるのがハッキリと見える。
「うわわ大変早く逃げないと───あーでも、その前に!おいで、【転がる草群】!」
 慌てて踵を返しつつも都庭は、監視追跡用のタンブルウィードを召喚すると、手近な野性動物の頭蓋骨へと押し込んだ。
「都庭、はやくはやく!」
「わかってますよーっ!」
 まるで転げ落ちるような勢いで、二人は山道を駆け降りる。間もなく岩山を揺らす衝撃と共に、主の帰還を告げる凄まじい咆哮が山頂から聞こえてきた。

 山を降りた二人のもたらす情報は、麓に集った猟兵たちに大きな成果をもたらすだろう。
 決戦の舞台はここに整った。空を統べる暴君は、山の頂きにて猟兵たちを待つ───。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
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日が沈む。半ば藍のカーテンのかかる西の空と、遠く東の空に浮かぶ一番星。吹き付ける強風は夜を含んでどこか冷たく、見下ろせば眼下に広がるのは黄昏に染まる雄大な大地だ。昼と夜を二分して、北の山の頂は雄々しく聳え立っている。
 日が沈む。舌鋒に尽くせぬ美しい光景であった。どれほど心の荒んだ者であろうと、この山頂から眺める世界には心動かされるに違いない。もしもそうでない者がいるのだとすれば───それはきっと、とうの昔に、心といえるものを置き去りにしてきた者なのだろう。何かを慈しみ愛そうとする感性が、どこかで欠落してしまっている。
 睥睨する。
 睥睨する。
 ただ地を這うものたちに対する強烈な悪意だけを秘めて、眼下の大地を睥睨する。つまるところ山の頂に座す主は、この大地を過去に沈めるまで暴虐の限りを尽くすことに、何の躊躇いも持ち合わせてはいなかった。
 日が沈む。巨大な翼を広げ、竜は黄昏に咆える。現在未来に属するもの悉くを鏖殺してくれる、と。この身が与えるものなど死以外ありはしない、と。

 日が沈む。───夜が来る。
メタ・フレン
真の姿を解放。
バトルキャラクターズで、ドラゴン特効の武器(ドラゴンスレイヤーだのドラゴンキラーだの)を持ったゲームキャラを17人具現化。彼ら17人を合体させて一人にする。その一人に技能【迷彩】を使い、ワイバーンに気付かれないよう侵入させ、ワイバーンに不意打ちする


シグルド・ヴォルフガング
なるほど、塒は岩山の頂きでしたか。
いやはや…灯台下暗しでしたね。皆様お疲れ様でした。

さて、これからが本番ですね。気を引き締めて参りましょう。

オブリビオン…ワイバーンの鱗を貫くに剣の上をフォースソードで覆わせますか。
避けきれない攻撃はユーベルコード『無敵城塞』で緊急防御します。
発動中はあらゆる攻撃に対しほぼ無敵になりますが、全く動けなくなる制約もありますので…もし相手がそれを看破して執拗に攻撃するようでしたら、、その時は私に構わず攻撃してください。
注意が私に向けられているのであれば、それはそれで好機です。
…なに、巻き添えを食らったとしても無敵城塞で防げる自身はあります。

それでは皆さん、ご武運を。


シャイア・アルカミレーウス
竜が相手なんてこれはもう見習い卒業だね!いざ勝負!
……と、その前にお茶を飲んで『毒耐性』を用意しよう。皆にも勧めとこ。準備が出来たら突撃だ!

敵は空を飛び回る敵だから、近距離攻撃の多い僕は盾役で立ち回るよ。動けなくなる無敵城塞より勇者の心得で挑もう。

「勇者の心得その4!勝って帰るまでが冒険、いのちをだいじに!」
護りきる自分を思い描いて防御と素早さを強化!『勇気4、盾受け3、かばう1、火炎耐性1』で狙われた仲間のカバーに入るよ!
余裕があったら『野生の勘』でカウンターの一つでも狙おう!

討伐が上手くいったら皆で剥ぎ取りや竜の巣を改めて探しちゃダメ?お約束だとお宝があるし、おそろいの討伐記念が欲しいな!


縛野見・都庭
密偵としてお役目果たしましたよー!褒めて、褒めてー!
あとはオブビリオン慢心タイムまで「タンブルウィード君」で見張って
攻撃隊に奇襲してもらって終わり!ですけどー…
飛ぶヤツって一旦飛ぶと結構厄介なんですよねー

なので、丁度本部からヘリ召喚使用許可おりましたし
誰か【特製汎用戦術ヘリコプター】に一緒に乗ってもらって
奇襲後戦闘中に上空から投下して叩き落としちゃう奇襲二段構えどうでしょー?
大丈夫大丈夫、敵は戦闘中「眼下」集中してるし戦闘うるさいからばれやしませんって…ふへへ

あとは皆さんの奮闘を上空ヘリから優雅におやつ食べて眺めてれば
解決!第三部完!
…墜落して自爆特攻なんてお約束、現実には流石に無いですよね?


鏡島・嵐
他の皆はどうだか知らねぇけど、おれ、戦うのはすげぇ怖ぇ。
相手がデカい上に空を飛ぶってなれば、湧き上がる恐怖も、身体の震えもいつにも増して酷くなってるのがわかる。
でも、おれは逃げねぇ。皆と一緒に戦って、やり遂げてみせる。

【WIZ】コード「サモニング・ガイスト」を使用。基本、攻防はそちらに任せる。
こっちは空を飛ぶ手段が無ぇけど、向こうが攻撃の時に急降下してくるなら、そこが狙い目だよな。
咆哮と共に放たれる衝撃波は、こっちも【衝撃波】を出して相殺を試みる。
上手くいなせたら、ワイバーンの翼の皮膜とか腹とか、比較的柔らかそうな部位に攻撃を集中する。

見せ場は作れねぇかもだけど。せめて「機」は作ってみせるさ。


ソーニャ・ロマネンコ
それじゃ、私は警戒と後方支援に回ろう。

【スナイパー3、2回攻撃2、援護射撃2、武器受け1、鎧砕き1、戦闘知識1、激痛耐性1、第六感1、鼓舞3、毒耐性2、目立たない2、視力2】
使う技能はこの辺りか…

攻撃は【スナイパー】【2回攻撃】【援護射撃】【戦闘知識】【視力】を用いての後方射撃だ、対物ライフルや弓を使った【千里眼射ち】等で前線をアシストする。

防御面は【激痛耐性】【毒耐性】【目立たない】【第六感】辺りを使い、耐え抜こう。
奴が私に気を取られているという事は、他の誰かが攻撃するチャンスだという事だ。
勿論、その逆も然り…余所見をしたらその五月蝿い舌を私が射抜くからな?

さぁ、楽しいゲームを始めよう。



惨劇の残滓が色濃く残る岩山の麓。荒野を吹き抜ける冷たい夜風の中に、猟兵たちは集っていた。ここ数日ですっかり顔馴染みになりつつあるメンバーの姿が、白い月の光にぼんやりと浮かび上がっている。
「‥‥‥強襲をかけるメンバーは、これで全員のようですね。」
 先んじて口を開いたのは、白銀の鎧を身に纏い、身の丈ほどもある大盾を携えた誇り高き人狼の騎士、シグルド・ヴォルフガング(人狼の聖騎士・f06428)だった。
「あぁ、どうやらそのようだな。なに、皆ともにこの大地を駆けた同胞だ、負ける道理はあるまいよ。」
 銀砂の髪を月光に透かし、歴戦の傭兵たる妖狐ソーニャ・ロマネンコ(妖狐の戦場傭兵・f03219)は余裕と共に笑みを浮かべた。その言葉から慢心ではなく、確かな信頼の響きが聞いてとれる。
「‥‥‥だ、だけどよ、まがりなりにも相手は竜だぜ?そう簡単に倒せる相手じゃねぇと俺は思うんだが‥‥‥」
 一方、どこか不安げな響きを帯びた声を漏らすのは若き旅人、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)。これより相対する敵の強大さを知るがゆえに、また戦うことの恐さを知るがゆえに、彼の胸中は決して穏やかなものではなかった。
「‥‥‥だからこその作戦会議。誰一人欠けることのないように、しっかりと練っていくべきです。」
 言葉少なげな、けれど確かに思いやりに満ちた声。集った猟兵の中でもダントツで幼い電脳魔術師メタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)は、しかし少女らしからぬ強い覚悟を双眸に秘めてそう言った。
「へへっ、そうそう!勇者の心得その4!勝って帰るまでが冒険、いのちをだいじに!ってね。だいじょーぶ、きっと上手くいくって!だって、そのためにここまで奔走してきたんだからさ!」
 元気よく笑ってそう言葉を重ねたのは、勇者見習いのキマイラ、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)だ。一見して無邪気な風体ではあるが、そこに油断などありはしない。現にこの場に居る全員が手にしている茶は、彼女が淹れた耐毒性を上昇させる特殊な茶である。
「そーですよ、なんたってウチが密偵としてしっかりお役目果たしたんですから!みんな褒めて、褒めてー!」
 加えて元気よく跳ねまわっているのは凄腕の密偵(?)縛野見・都庭(キマイラC風・f02314)である。他ならぬ彼女こそ、今回のオブリビオン強襲作戦における最大のカギであった。
「あぁ、竜と接触する瀬戸際で監視用のファミリアを敵地に忍ばせておくとは称賛せざるをえない。お手柄だな、縛野見殿。これで奇襲の成功率が格段に上がる。」
 戦場に立つものとして素直に称賛の言葉を贈るソーニャに、都庭はまんざらでもない様子で頭をかく。
「えへへー、いやいやそれほどでもー!とりあえず、オブリビオン慢心タイムまでウチのタンブルウィード君で見張って、攻撃隊が奇襲!って流れは確定でいいと思うんですよー。」
「‥‥‥それなら、奇襲の初撃は私に任せてほしいです。」
 おずおずと、しかしハッキリとした声で、メタが小さく手を上げる。
「何か秘策があるのですか?」
「‥‥‥きっと効果があるかと。ゲームでも、特攻ってバカにできませんし。」
 小さく首をかしげるシグルドに、メタもまた小さく首を縦に振る。決して勘や当てずっぽうではない確信めいた秘策が、彼女にはあるようであった。
「‥‥‥そうですか。では、私も前衛に出ましょう。一撃で仕留めるのが理想ではありますが、鏡島さんの言う通りそう簡単にいく相手でもないでしょうしね。」
 バスターソードの柄に手を当てて、シグルドは静かに瞼を閉じる。いざとなれば、身を挺してでも仲間を守る心づもりであった。
「それじゃ、私は警戒と後方支援に回ろう。弓と対物ライフルによる射撃でのアシストが主になるだろうが、なに、誤射の心配はしてくれるな。君たちの背中は私が守る。」
 頼もしいソーニャのその言葉に、皆が一様に頷く。歴戦の彼女であれば、安心して背中を任せられると、それぞれの目が言っていた。
「おおー、奇襲部隊の布陣が着々と整ってますね!ただ───まぁ言われてる通り、奇襲で仕留めきれない場合も大いにあると思うんですよねー。そんでもって、あのテの手合いは空を飛ばれると非常にメンドクサイ‥‥‥。」
 ハイテンションとローテンションを秒で入れ替えながら、都庭は手にした茶をすする。
「と、いうワケで!丁度本部からヘリ召喚使用許可おりましたし、誰か特製汎用戦術ヘリコプターに一緒に乗ってもらって奇襲後戦闘中に上空から投下して叩き落としちゃう、奇襲二段構えどうでしょーか!」
「採用!」
 ビシリ!と敬礼する都庭に、ビシリ!と指を突き付けるシャイア。タイミングから何から、もうピッタリ一緒である。妙に息の合うコンビであった。
「うんうん、そろそろ僕の背の翼を活かすときだと思ってたんだよねー。近接攻撃ばかりだから地上に降りたら盾役にチェンジするけど、二段目の奇襲で敵の機動力を削げればかなり有利になると思う!」
「じゃー、シャイアさんは第二奇襲部隊で決定ですねー。あとは‥‥‥鏡島さん、どーします?」
 都庭の言葉で、視線が一斉に嵐に集まる。どこか思いつめたような顔で拳を握る嵐は、絞り出すような声で答えた。
「お、おれは‥‥‥前衛に‥‥‥いや、攻防はサモニングガイストに任せて‥‥‥」
 消え入るようにそう言ってから頭を振る。考え込むように瞳を閉じて数舜後、深呼吸するかのように大きく息を吐いて、嵐は再び口を開いた。
「‥‥‥おれも、第二奇襲部隊で頼む。」
「‥‥‥無理、してませんか」
 嵐の顔を覗き込むように、メタが言う。嵐は無言で首を横に振った。 
「‥‥‥じゃ、じゃー、早速行動に移りましょうか!山頂までは徒歩で一時間弱。タイミングのいいことに、敵さんは食事を終えて眠る体制に入ってます!作戦開始は一時間後、ここから二部隊に分かれて行動でよいでしょーかっ」
 都庭の言葉に全員が肯定の意思を示す。のこったお茶を飲み干して、猟兵たちは頂へと歩を進め始めるのだった。



 夜空が近い。星々に手を伸ばしたのなら、あるいは本当に手が届くのではないか───そんな荒唐無稽な想像さえ真実味を帯びるほどに、この山の頂は空に近い場所にあった。
「どうやら完全に眠っているようだな」
 頂上へと続く山道の終着点。身を隠すのには丁度いい岩の影から、ソーニャが慎重に頭を出す。目測にして30メートル前方、翼をたたんだ巨大な飛竜が、敷き詰められた骨の上で丸くなっていた。
「正に千載一遇の好機。仕掛けるなら今でしょう。メタさん‥‥‥!」
 ソーニャの言葉を受け、シグルドが隣のメタに合図をすると、彼女はただ静かにコクリと頷いた。
「‥‥‥少しだけ、時間をください。───真の姿を開放します」
 バチリ、と大気の震える音がした。メタの肉体に一瞬のノイズが奔るや否や、バーチャルチックな閃光が全身を覆う。急激に膨れ上がるオーラに呼応して、普段から青い彼女の髪が澄んだ燐光を帯びる。だいぶ浅い深度での開放ではあったが、それでも著しい戦闘力の増加をソーニャ、シグルド共に肌で感じ取っていた。
「‥‥‥来て、私のバトルキャラクターズ。」
 再びの閃光と共に現れたのは、彼女の下僕たる電子の戦士たち。その数、実に17体。そのどれもが、不可思議なオーラを纏った武具を手にしていた。その数の多さに目を見張るよりも早く、光の粒子と化したキャラクター達が一ヵ所に集ってゆく。
「分解、集積、再構成───構築完了。汝が名は【ドラゴンスレイヤー】‥‥‥!」
 一際強い輝きと共に、額に17の数字を刻印された巨躯の戦士が顕現する。鉄塊の如き大剣を手にした漆黒の威容は、まさしく【ドラゴンスレイヤー】の名を冠するに相応しい姿であった。
 これぞ電脳魔術師メタ・フレンの秘策。竜殺しの武器を持つキャラクターを融合させることにより、最強の一振りを作り上げる───自由度の高い魔術系統ならではの戦術である。
「‥‥‥行きましょう、シグルドさん、ソーニャさん。」
「あぁ。」
「了解、状況開始。楽しいゲームを始めよう!」

 夜が、爆ぜた。

 骨片を踏み締め、夜を駆ける。吹き付ける夜風は身を切るような冷たさ。対してその瞳に熱い焔を宿し、シグルド・ヴォルフガングは未だ眠る飛竜のもとへ疾走する。接敵まで残り10メートル。並走するドラゴンスレイヤーが大剣を構えると同時、シグルドもまた愛剣を抜刀した。刀身に念を込めると、バスターソードが鋭い輝きを纏う。敵までの距離、3メートル、2メートル、1メートル───ギロリ、と。飛竜が、目を覚ます。
「はあああああああああああああああ!!!」
 飛竜が知恵を働かせ回避行動をとる前に、二本の刃がその巨躯へと叩き込まれた。睡眠中の隙を狙った奇襲は完璧に成功し、切り裂かれた飛竜の胸部から鮮血が迸る。何が起きているのか理解できぬとばかりに苦悶の咆哮を上げた飛竜は、咄嗟に自らの生存域への離脱を選択した。そう、即ち───第二奇襲部隊の待つ夜空へと。



 時間は少しだけ遡る。
 まるで降り注ぐような星空の下を、都庭の召喚した特製汎用戦術ヘリコプターはホバリングしていた。ターゲットである飛竜の眠る山頂から、更に高度100メートルほどの位置である。
「いやー、こんなときにアレですけど、ホンットに綺麗ですねこの星空!こーんな間近で天体観測できちゃうなんて、いやはや役得役得!ねね、すごくないですか、鏡島さん!」
「‥‥‥あ、あぁ。」
 幾分はしゃいだ様子の都庭とは裏腹に、下を向いて座席に座る嵐。隣に座るシャイアが心配そうな顔で、嵐の顔を覗き込んだ。
「ホントに大丈夫かい?鏡島くん。やっぱり地上のみんなと居た方が‥‥‥」
「‥‥‥わりぃな、二人とも。心配かけちまってるよな、おれ。」
 呟くようにして、嵐が顔を伏せる。プロペラの音だけが規則的に響く中、彼は小さな声で言葉をつづけた。
「‥‥‥他の皆はどうだか知らねぇけど、おれ、戦うのはすげぇ怖ぇ。わかっちゃいるんだよ、逃げたら後悔するって。わかってるんだけど───」
 身体の震えに、まるで歯止めがきかないのだ。湧き上がる恐怖が、いつにも増して酷いのだ。
「‥‥‥おれは、臆病者だ。」
 絞り出すような嵐の独白。それは広く昏い星の海にあって、まるで泡のようにぽっかりと浮かんで消える。北の空に見える三等星が、今にも消えそうに瞬いていた。
 だからこそ───
「ううん、そんなことないよ。」
 シャイアの静かな一言は、空虚な夜空によく沁みた。
「そんなこと、ないんだ。誰だって怖いよ、戦うのは。痛いのは嫌だし、死ぬのなんてもってのほか。傷つけるのも傷つけられるのも本質的には同じことだって、君はきっと知ってる。だからこそ君は、だれより戦うことの恐さを知っている」
「‥‥‥。」
 顔を伏せたままの嵐をチラリと見て、シャイアは静かに目を閉じる。そして───

「勇者の心得その1ーッ!!」

「へっ?」
 突然真横で上がったシャイアの大音声に、思わず嵐は顔を上げた。
「泣かないめげない諦めない!危なくなったらすたこら逃げる!!!はい、復唱!」
「え、ちょっ───」
「勇者の心得その1ーッ!」
「‥‥‥ゆ、勇者の心得、その1‥‥‥」
「泣かないめげない諦めない!危なくなったらすたこら逃げる!!!」
「な、泣かない、めげない、諦めない…危なくなったらすたこら逃げる‥‥‥?」
「そう!すたこら逃げる!でも泣かないこと!めげないこと諦めないこと!それだけで君も勇者だ!わかった!?」
「い、いや、勇者って───」
「わかったっ!?」
「わ、わかった、わかったって!」
 グイグイくる三つ下の少女に、思わず頷いてしまう嵐である。シャイアはどこか満足げな顔をして、自分の座席に収まった。
「大丈夫だよ、鏡島くん。君も立派に勇者の素質、もってるんだからさ!」
「な、なんだよそれ‥‥‥意味分かんね───」
「おーっとお話の途中で失礼します!第一奇襲部隊が間もなく強襲を開始します、お二人とも、ちゃちゃっと準備、しちゃってください!」
「‥‥‥ッ!」
 急激に高度を下げ始めたヘリに、嵐は小さく呼吸を漏らす。眼下の山頂に、今まさに奇襲をかけんと飛竜に向かって走る、仲間の姿が見えた。
 ヘリのドアが自動展開するとともに、強烈な夜風がヘリの中へと入ってきた。
「第一部隊、奇襲成功!オブリビオン、こちらの読みどーり空中へ離脱します!今ですよ、シャイアさん、鏡島さん!」
「ガッテン招致!それじゃ、先に行ってるね、二人とも!」
 都庭の言葉を受け、翼を広げたシャイアが宙へ身を躍らせる。飛び上がった飛竜の巨躯は、意外にもすぐ近くであった。
「う‥‥‥っ」
 シャイアの背を追おうとする心とは裏腹に、足は竦んだまま動かない。手汗がにじみ出る。怖い。恐い。畏い。目の前の現実から目を閉じ耳を塞ぎ口をつぐんで全てを逃避したくなる───が。
『勇者の心得その1-ッ!』
 耳元で、そんな声が聴こえた気がした。
「行かないんですか、鏡島さん?」
 どこか悪戯っぽく笑って、都庭が言う。
「‥‥‥行く。おれは逃げねぇ。皆と一緒に戦って、やり遂げてみせる‥‥‥!」
 そういい切って唇を引き結ぶと、嵐は一思いにヘリから飛び降りた。
 
 信じられない程冷たい風が頬を切る。猛る気流を捕まえて、シャイアは両の翼を広げた。体がフワリと浮く感覚。想像以上に接近していた飛竜の翼めがけて、シャイアは見習い勇者の剣を抜く。
「ヘヘッ、竜が相手なんてこれはもう見習い卒業だね!いざ勝負!」
 自らの領域であったはずの天空にまで侵攻してきた無礼者に対し、飛竜は怒りの咆哮を上げ突貫する。振るうは右脚の一撃。捕まれば最後、哀れな犠牲者は鋭い尾により風穴を開けるだろう。
 勝負は一瞬であった。
「とった!」
 飛竜の右脚を掻い潜り、シャイアの剣がすれ違いざまに右翼をザックリと切り裂く。しかして飛竜は地へと墜ち───ることはなかった。ギリギリのところで右翼の被膜が機能している。これはマズイ、とシャイアが額に汗を浮かべた時だった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 飛竜めがけて飛ぶ───否、落ちてゆく人影がひとつ。他の誰でもない、嵐である。
 凄まじい速度で近づく飛竜の背。シャイアの剣が寸でのところで通じなかったところも、嵐はしっかりと目にしていた。無理くり、空中で軌道を修正する。狙うは右翼、半ば破れかかった、被膜の中央部。
「来い、ガイストオオオオオオオオオオ!!!」
 夜空に、吠える。突き出した右腕に寄り添うようにして、古代戦士の魂が具現化する。鋭い槍を携えたソレは流星のごとく、飛竜の右翼へと突貫し───見事なまでの風穴をあけて見せた。
 咆哮と共に、今度こそ飛竜が地に墜ちる。あとを追うように宙を泳ぐ嵐の身体を、地面に叩きつけられる寸前で掬い上げたのはシャイアであった。
「し、死ぬかと思った‥‥‥サンキュ、勇者見習い」
「やればできるじゃんか、新生勇者見習いくん!」
 半ば不時着じみた格好で着地する二人。
「お怪我はありませんか、お二人とも!」
「‥‥‥流石です、これでもう、竜は飛べません」
 かくして猟兵たちは、山の頂にて合流を果たす。



 何故だ。何故だ‥‥‥!何故だ!!
 竜が吼える。本来、自身を仰ぎ見るべき地を這う虫ケラが、何故この俺を地に這いつくばらせているのか。何故、取るに足らない存在であったはずのヒトの子が、この俺に手傷を負わせることが出来るのか。
 吠える。咆える。吼える。破れて使い物にならなくなった両の翼と長い尾をメチャクチャに振り回す。殺す。何を見逃しても、このヒトの子らだけは何があっても殺す‥‥‥!!
「‥‥‥あと一息、と言ったところか。」
 怒りに我を忘れた飛竜を後方から観察しつつ、ソーニャは装備を弓から対物ライフルへと変更した。最早鱗のない被膜を狙う必要性は薄い。であれば、速射は効くがドラゴンスケイルに今一つ効果の薄い弓矢よりも、一撃必殺の対物ライフルに換装するべきだろう。
 通常の銃火器ではまずお目にかからないような口径の弾丸を、淀みない動作で装填する。装弾数は一発。外せば再装填までに時間を要するのは必至だが、急所に直撃すればまず間違いなく必倒に足る威力。
「‥‥‥頼んだぞ、みんな」
 エイム状態へと移行し、銀髪の戦乙女はスコープ越しに伏して好機を待つ。

「くっ、さすがに抵抗も苛烈になってきましたか‥‥‥!」
 怒涛の如き竜の攻勢を、大楯を一枚で捌き続けるシグルド。これだけの手数を最前線で受けきる彼の防禦技術は、もはや人外域に到達していると言って過言ではない。しかし怒り狂った飛竜の攻撃は苛烈さを増し、こちらから反撃する機会が回ってこないのもまた、事実であった。
「これはちょっと、キツイなぁ‥‥‥!」
 シグルドの隣で剣を振るうシャイアもまた、苦鳴を漏らし後退を始めている。
「ガイスト!」
「ドラゴンスレイヤー!」
 古代戦士の魂と、大剣を携える漆黒の戦士の連携も、感情のままに四肢を振るう竜の前では強みを発揮できていなかった。吹き飛ばされた骨片があちこちに降り注ぎ、砕けた岩が麓へと転がり落ちてゆく。
「‥‥‥やはり、奥の手を切る他ないですね」
 後方に待機する銀髪の戦乙女を思い、シグルドもまた決意を固める。彼女であれば、たとえ一瞬の隙であろうと逃すことはないだろう。強烈な尾の一撃に大きく後退して、シグルドは声を張り上げた。
「皆さん、奥の手を使います!いいですか、何があっても私の身を案じないでください!ただ全力で、あの飛竜の動きを止めることのみに専心を!」
 了解の言葉すらなく、猟兵たちは即座に陣形を再展開する。極限の戦場で彼らは、ついにある種の他心通すら獲得していた。口元に小さく笑みを浮かべ、シグルドはバスターソードを鞘に納める。荒れ狂う飛竜の瞳に一瞬、戸惑いの色が浮かんだ。
「───来い、邪竜。一族の誇りにかけて、このシグルド・ヴォルフガングがお相手仕る!」
 地も砕けよと言わんばかりの勢いで大楯を大地に叩きつけ、白銀の騎士は竜に相対する。再び憤怒の炎を瞳に宿し、咆哮と共に竜の爪が、牙が、翼が、尾が、怒涛の如き勢いでシグルドの元へと殺到する。掠りでもすれば一撃で命を削り飛ばす暴虐の嵐を、シグルドは避けるでもいなすでもなく真正面から迎え撃った。
 轟音が響き渡る。凄まじい衝撃に骨片が塵芥と化し、山頂の地面が放射状にひび割れる。常人であれば、まず間違いなく死を免れぬ死の嵐。しかし───
「‥‥‥所詮は亜竜。こんなものですか」
 彼らは、常人では、ない。人としての域を逸脱し、世の理を超越せしめた埒外の生命体───猟兵である。
「猟兵をなめるな、亜竜‥‥‥!」
 その威容、まさに無敵の城塞の如し。無傷でそこに立つ白銀の騎士に、空の王者は初めて恐怖を覚えた。そしてその隙を、彼らが見逃すわけもない。
「‥‥‥今!叩き斬れ、ドラゴンスレイヤーッ!」
 メタの叫びに呼応して、漆黒の戦士が接敵する。振り翳すは鉄塊が如き巨大な剣。都合17本もの『竜殺し』を束ねて作り上げた、竜という存在そのものに対するアンチテーゼ。凄まじい踏み込みと共に振り下ろされた大質量は、回避行動すら許さぬままに飛竜の尾を、根元から完璧に切断して見せた。
 苦悶の咆哮が星空を震わせる。間違いなく痛恨の一撃。しかし飛竜はそれ以上取り乱すことなく、開いた口腔へと息を一杯に吸い込んだ。限界まで大きく膨らんだ飛竜の胸部が、吸い込んだ大気の圧縮を始める。これより放つは飛竜最強の一撃。即ち───東の森の一角を消し飛ばして見せた、絶大なる威力を持つ竜の吐息、ワイバーンブラスト‥‥‥!
 風が止む。必殺の準備は整った。しかして限界まで圧縮された爆風が、その口腔より解き放たれる───寸前。死地へと飛び込む二つの影があった。嵐とシャイアだ。
「───シャイアッ!」
「うんっ、まかせて!」
 やたらと頑丈なお鍋の蓋を構え、シャイアが突進する。直後───山頂が爆ぜた。瞬時に膨張する大気は局所的なハリケーンにも匹敵し、山頂のこと如くを吹き飛ばして更地に変える。しかし飛竜の放った凄まじい衝撃波を前に、二人の勇者は怖じることなく前へと踏み出していた。
「ここだああああああああああああ!!!」
 嵐が吼える。突進したシャイアによって爆風に穿たれた、あまりにも小さな気流の裂け目。しかしてその裂け目を狙って叩きつけた嵐の『衝撃波』が裂け目を大きく切り開き、爆風の中心にぽっかりと風穴が空く。一周の隙に生まれた、完全なる無風のライン。その中心、即ち弱点を剥き出しにした手負いの飛竜に、死神はついに王手をかけた。
「───チェックメイト。」
 ここまで道を切り開いた仲間たちへの称賛を込め、斯くしてソーニャは引き金を引く。轟音と共に放たれた大口径の弾丸は音を超え、寸分の狂いもなく飛竜の心臓部を打ち抜いた。
 断末魔の咆哮が奔る。糸が切れたように、飛竜の巨躯がゆっくりと崩れ落ちていく。掛け値なしに致命傷。誰もが掴み取った勝利に笑顔を浮かべたその刹那、崩れゆく飛竜の口腔へと再び大気が集う。
 殺す。俺はここで果てるのだろう。けれどこの虫ケラ共だけは、何としてでも道連れにしてくれる‥‥‥!歪み切った笑みを湛え、死にゆく飛竜はザマを見ろと言わんばかりに最後の一撃を───
「あっぶなーい!どいたどいたーっ!」
 そんな間の抜けた声とともに錐もみ回転するヘリコプターが、トドメの一撃と言わんばかりの勢いで飛竜の頭部に激突した。爆発炎上するヘリと、今度こそ地に伏す空の王者。そしてパラシュートとともに空から降ってきたのは、小脇にお菓子の袋を抱えた縛野見・都庭であった。
「やっぱり墜落する宿命だったかー、南無。‥‥‥おつかれさまでした、みなさん!」
 


 透明な風が、まっさらな夜の山頂を吹き抜けてゆく。見上げた夜空は澄んでいて、月の光が柔らかい。暴君の去った今、夜の闇は限りない平穏さに満ちていた。
「‥‥‥終わりましたね。」
 無口気味な声が、小さくそう言った。
「えぇ。曲がりなりにも竜を倒したのです、これは誇るべき偉業でしょう。」
 どこか真面目さの滲む声音で、誰かが言う。
「うんうん、これ勇者としての格も、少しは上がったかな!」
 右手に白く輝く竜牙を手にして、誰かがそんなことを言った。よく見るとこの場に集う誰しもが、その手に竜牙を握っている。お揃いの討伐記念品であった。
「ふむ、短い滞在期間ではあったが、いざ終わってしまうとなると少しばかり物寂しいな。」
 凛々しい声はそう言って、どこか照れ臭そうに笑う。
「‥‥‥あのさ。これは時間があったらの話なんだが‥‥‥キャンプの跡片付けついでに、祝勝会するってのはどうだ?どちらにしろ今日はもう夜が明けちまうから、キャンプに戻って一度ガッツリ寝てからの話だけどさ。」
 誰かの提案に、全員が顔を上げた。
「おぉ!ソレいーですね!ぜひぜひそうしましょー!メニューはもちろん、ドラゴンステーキで!」
「ドラゴンステーキ?」
「ドラゴンステーキ‥‥‥」
「ドラゴンステーキかぁ‥‥‥」
「私は普通の串焼きで。」
「また肉の解体かぁ‥‥‥」
「ちょっと、みなさんノリわるいですよーっ!」
 
 剣と魔法の大地に、再びの朝が来る。竜退治の話は、これでおしまい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月24日


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#アックス&ウィザーズ


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト