#ダークセイヴァー
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●すべては戯れ
繰り返す、繰り返す、繰り返し続ける。
あの日のことを。血と殺戮と恐怖に塗れた、あの惨劇の日を。
――殺せ、殺せ。総てを殺し尽しなさい!
――刃向かう者も、逃げる者も皆殺しよ!
振り下ろされる刃。両断される首。
壁に散る血飛沫。蹴破られる扉。泣き叫ぶ声、響き渡る悲鳴に断末魔。
抉られる心臓、撒き散らされる臓物を魔物が喰らい、助けを求めて這い、彷徨い逃げる人々の背に無慈悲な刃が突き立てられる。
色濃い血の匂いが漂う街には次々と屍が積み重ねられていく。
それは過去の出来事。
遥か昔に終わった筈の禍殃と蹂躙の記憶。
だが、その日の光景は今もなお幻影として繰り返されている。
喚き叫ぶ聲。恐怖を掻き立てる咆哮。失望の絶叫。破壊されていく街の景色と、血色に染まる大地。たった一晩で街が滅びた時のことを、永久に忘れないように。
追憶とは名ばかりの力で投影される惨劇。
その過去は褪せることを赦されず、今も其処に在り続けている。
●苛烈なる紅
灰色の風が吹き抜ける廃都。
雨曝しの宿屋の屋根、風で揺れて軋む鍛冶屋の扉。半壊した煉瓦の家屋。
嘗てヴァンパイアに滅ぼされたという街の名は、今や失われてしまっている。
「……その街では今も、過去の惨劇が繰り返されています」
グリモア猟兵のひとり、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)はそう話し、何故に廃都で過去の記憶が投影され続けているのかを語っていく。
リウ・メイファ。
それが今回倒すべきオブリビオン、吸血鬼の名だ。
「彼女は苛烈なデスゲームを楽しむ性質を持っていて、嘗ての自分の軍勢が滅ぼした街で起こった惨劇を甚く気に入っているみたいなんです。だから、彼女は自身が持つ力を使って過去の出来事を投影し続けているようです」
追憶遊戯、と彼女は呼んでいるようだ。
だが、そんなものを追憶と呼びたくはないとミカゲは語る。
今は廃都に潜んでいるだけの相手だが、きっと彼女はいずれ他の街を滅ぼしに動くだろう。その前に倒して欲しいと願い、ミカゲは静かに頭を下げた。
リウ・メイファは今、街の最奥にある荘厳な教会内を拠点としている。
だが、一筋縄では其処に辿り着けないという。
まず廃都の領域に入ったものは皆、『出来る事なら忘れてしまいたい記憶』が投影される迷路に入ることになる。
「何もなければ過去の廃都の惨劇が見えるようですが、皆さんにとっての忌まわしい過去や、忘れてしまいたいこと、もしくは封じられた記憶がある場合は、その光景が見えてしまうようです」
迷路内の光景には干渉することができない。
たとえ何かを救おうと手を伸ばしても擦り抜けてしまう。それは苦しいことかもしれないが、無理をして立ち向かう必要はない。ただ記憶の迷路を通り抜けることだけを考えればいい。
「迷路を抜けた先には墓地があります。でも、そこには……」
ミカゲは途中まで言葉を紡ぎ、不意に口許を押さえる。
グリモアで視た光景を思い出したことで気分が悪くなったのか、すみません、と告げた少年は呼吸を整えてから再び話し出す。
「墓地には蠢く怪物が居ます。皆さんの行く手を阻むので、倒して進んでください」
待ち受けるのは墓地を埋め尽くすほどの無数の死体。
その流血と身体は混ぜ合わされ、かつて人であったそれらは蠢く怪物として悲しき再生を与えられている。そして、怪物は生者を自らと同じにしようと襲いかかってくる。
それを倒せば、後はリウ・メイファの居る教会に乗り込むだけ。
「敵はひとりですが、厄介な力をたくさん使います。街覆う迷路と同じ力を使ってこちらを閉じ込めてから、炎の騎馬を召喚したり、幻影を嗾けてくるようです」
戦場では再び、惨劇や過去の光景が蘇る。
そしてその幻影とは此方の『大切なヒトやモノ』、または対象が『嫌う自分』を具現化したものだという。
「心まで苦しめられる戦いになるかもしれません。けれど、あんな光景や実験が永遠に繰り返されるところなんて、あってはいけないんです」
だから、どうか――。
空虚なる廃都を残酷な遊戯から解放して欲しい。
強く願った少年は十字架の形を成すグリモアを掲げ、仲間達への信頼を宿した眼差しを向けた。そして、闇の世界へ繋がる転送陣がひらかれてゆく。
犬塚ひなこ
今回の世界は『ダークセイヴァー』
廃都に向かい、潜伏するヴァンパイアを倒すことが目的となります。
●第一章
冒険『空虚なる廃都』
敵の能力、『追憶遊戯』によって作られた魔法の迷路が廃都を覆っています。
内部に入ると、あなたの【出来る事なら忘れてしまいたい記憶】が見えます。記憶の波を抜ければ出口に辿り着けます。必ず乗り越える必要はありません。耳や目を塞いだり、無視して通り過ぎるだけでも脱出は可能ですので、皆様の思うままにどうぞ。
その際、どんな光景が見えるかプレイングにお書き添えください。
特筆する記憶がない場合、もしくは記載されていない場合は、この廃都で起こった凄惨な死の光景を視ることになります。
●第二章
冒険『屍血流路』
迷路を抜けた先にある墓地にて、蠢くモノと戦う章です。
地面を埋め尽くす無数の死体と流血。混ぜ合わされたそれらは、かつて人であった怪物です。現世に無理やり繋ぎ止められている存在なので、彼らを倒すことが救いを与えることになります。
●第三章
ボス戦『リウ・メイファ』
ゲームをしましょう、が口癖の吸血鬼。
人の思い出や感情というものを愛しており、常に笑みを浮かべて何事も楽しむ亡国の将軍。屍血流路も彼女の好むゲームという名の実験場のようです。
【炎で出来た騎馬軍団】、【相手が嫌う相手自身】と【相手の大切なヒトやモノ】を召喚する力や、前述の追憶遊戯の力を使って戦います。
第1章 冒険
『空虚なる廃都』
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POW : 手当たり次第に怪しい部分がないか探して廻る
SPD : 自身の磨いてきた技術を駆使して探索
WIZ : 魔法や呪術の痕跡を探してみる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サリア・カーティス
【POW】
忘れたい過去……そんなもの、私にはないはずですわ(微笑を浮かべながら廃都へ
(まず浮かび上がるは月明かり差し込む石造りの牢獄)
(鎖の鳴る音、「誰か」の体が引き裂かれる光景)
(次に浮かぶはどこかの屋敷)
(広がる血の海、動かない使用人達)
……これは……私の……?
でも……彼らが一体誰なのか、思い出せませんの。
それに、彼らを引き裂いていたモノは……
(白い、女の手)
(あの手は、もしや、自分……の?)
私は一体何、を……して?
(封じられた/書き換えた記憶が紐解かれる予感がした人狼令嬢は、追憶から目を逸らし廃都を駆ける)
……私は何を、恐れ、て……?(常の彼女が浮かべることの無いこわばった表情で
●封じられた記憶
この廃都では過去が巡る。
出来ることならば忘れてしまいたい。無かったことにしてしまいたい。
そんな記憶が追憶として、無慈悲に繰り返され続けている。
街に入る前、遠くに尖塔が見えた。
荘厳さを感じさせるあれが件の吸血鬼が潜む教会なのだろうか。そんなことを考えながらサリア・カーティス(過去を纏い狂う・f02638)は廃都に踏み入る。
「忘れたい過去……そんなもの、私にはないはずですわ」
微笑を浮かべたサリアは優雅に歩を進めた。
それならば自らの目にはこの街で起こったという凄惨な光景が見えるはず。そう、思っていたのだが――。
まず、浮かび上がったのは月明かりが差し込む石造りの牢獄。
鎖の鳴る音。
そして、『誰か』の体が引き裂かれる姿。
見ているだけで痛みが伝わってきそうな酷い光景だ。
明らかにあの廃都からは連想できぬ情景が視えたことで、サリアは思わず辺りを見渡してしまった。
すると景色が滲み、違う場所が浮かび上がってきた。
それはどこかの屋敷のようだ。
だが、其処には血の海が広がっており、もう動かぬ亡骸と化して横たわる使用人達の姿が見えた。ただの幻影だとは分かっていたが、まるで血の匂いまでもが伝わってくるような鮮明な光景だ。
サリアは伏して床に転がる者達から一歩、後ずさった。
違う。これは、廃都の記憶ではない。
「……これは……私の……?」
先程まで、サリアは自身に忘れたい記憶などないと思っていた。だが、これこそが忘れてしまいたいと願った結果、自らの記憶から消し去られたものだとしたら。
「でも……」
サリアは頭を振り、彼らが一体誰なのかも思い出せないと感じる。
それに彼らを引き裂いていたモノは――。
(白い、女の手)
屋敷が見える前に視たそれを思い返してみる。言葉には出さず、サリアはあの手と自分の掌を見比べてみる。手袋越しに見える白い肌。
(あの手は、もしや、自分……の?)
幻影の中に見えた血に染まった指先と自分のそれが重なって見えた気がした。
たった独り、血塗れの屋敷内の幻影で佇むサリア。
「私は一体……何、を……して……?」
問いかける相手は自分しかいない。それゆえに答えてくれる者は誰もいなかった。
一瞬、脳裏に何かが蘇る。
しかしそれを振り払うようにサリアは頭を振った。
まだ、駄目。まだ、ここでは。そんな警鐘を鳴らすような、ざわつく嫌な予感を覚えた人狼の令嬢は駆け出した。
「――私は何を、恐れて……?」
其処には常の彼女が決して浮かべることのない、こわばった表情が浮かんでいた。
そして、サリアは追憶と呼ばれるその光景から目を逸らし続け、たったひとつであるという迷路の出口を目指す。
大成功
🔵🔵🔵
樹神・桜雪
※絡み、アドリブ歓迎
迷宮をさ迷う前にUCで相棒を呼び出しておくね。
中に入ったら出口を探すの手伝ってくれるかな?
出来るなら忘れてしまいたい記憶…。
僕、昔の事は何も覚えていないんだよね。
……でも、たまに見る「名前も覚えていない誰かが消えてしまう」夢は忘れたいかな…。
覚えていないのに忘れてしまいたいなんておかしな感じだね。
何度手を伸ばしても届かなくて、必死に名前を呼んでるんだけど目の前で消えてしまうんだ。
名前?名前も忘れちゃってるよ。
ただ、その夢を見ると胸が痛くて何故か悲しくて苦しいから忘れたいだけ。
そんな記憶を何故か泣きそうになりながら通りすぎるかな。夢なんだから、起きたら霧散してくれれば良いのに
●夢の世界
寂れた廃墟。崩れ落ちた屋敷や店の残骸。
石畳は割れ、何処かの壁だったらしき煉瓦が辺りに散乱している。
樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は遥か遠く、廃都の最奥に見える教会の尖塔を見据えながら、腕をそっと掲げた。
「この先が迷路になってるんだって。出口を探すの手伝ってくれるかな?」
其処に喚んだのは愛らしいシマエナガ。
自らが相棒と呼ぶ鳥にそう願い、桜雪はゆっくりと一歩を踏み出していく。
魔力が揺らぐ先。
其処がきっと吸血鬼が施したという迷路のはじまりなのだろう。
境界を超えた途端に世界が揺らいだ気がして、桜雪は無意識に目を閉じる。
次に瞼をひらいた時、其処には惨劇の夜のが繰り返されている廃都の景色が見えるのだろうか。それとも――。
(出来るなら忘れてしまいたい記憶、か……)
けれども自分は昔のことを何も覚えていない。以前に向かった手紙の迷宮でも記憶を探してみたが、過去の謎は深まるばかりだった。
でも、と桜雪は頭を振る。
記憶がなくとも、たまに見る夢があった。
名前も覚えていない誰かが消えてしまう、そんな夢。あのことは忘れてしまいたいのだと感じた桜雪は目を開けた。
そして、其処にあった光景は曖昧に揺らぐ夢の世界。
「やっぱり、この夢が見えちゃうんだね」
桜雪の前に投影されていたのは廃都の景色ではなかった。
覚えていないのに忘れてしまいたい。
おかしな話だと僅かに自嘲しながら桜雪はその幻影を見つめていた。
あの夢のように、誰かに手を伸ばす。
でも、届かない。
「――――」
必死に名前を呼ぶ。けれども目の前でいなくなってしまう。揺らぐ海の泡のように、空に昇っていく煙のように、擦り抜けて消える。その誰かはそんな存在。
自分がどんな名前を呼んだのか、音すら分からない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
その夢を見ると何故か胸が痛くて、悲しくて苦しくなること。だから忘れたいだけ。今の自分にもその気持ちが巡っているのだと感じて泣きそうになる。
夢を晴らすように駆けた桜雪の傍らで相棒がちゅん、と鳴いた。
「大丈夫だよ、行こう」
目の端を拭いながら相棒にそう告げた桜雪は進む。
夢なんだから、起きたら霧散してくれれば良いのに。願っても叶わぬことを胸に抱き、桜雪は相棒と共に先を目指していった。
大成功
🔵🔵🔵
風見・ケイ
【SPD】
過去を見るのは、夢で慣れている。
母娘二人
慎ましくも穏やかな日常
一緒に彗星を見た思い出
大好き、だった
色に狂い借金
縋った先はカルト教
「願いを叶える星」(UDC)を呼び出す儀式
皆一緒に宙ぶらりん
――あとをつけるんじゃなかった
逃げるように飛び出して星空の下
「星」が降ってきて
私の心臓が三つに割れて
「私達」は「星」と一つになった
十五の夏だった
何を願ったのかもわからなかった
私は母の特別じゃなかった
あの女の世界から、私はいなくなっていた
――私も銀河鉄道に乗せてほしかった
誰かの特別になりたいと強く想うようになった。
大好きな人の特別になったせいで、その人を失ってしまうまでは。
二十三の夏まで、あと八年。
●彗星
立ち並ぶ昏い廃墟。
其処に一歩踏み入れば、景色が歪んで揺らめいた。
一瞬だけ視えた凄惨な殺戮の光景が一変したかと思うと、風見・ケイ(The Happy Prince・f14457)の目の前には違う光景が現れている。
ケイは其処に映っている過去の景色を見遣り、肩を竦めた。
感情を然程揺らす事なく歩を進めていくケイの横には嘗ての日常が流れていた。
それは母と娘、二人で慎ましくも穏やかに過ごしていた日々だ。
横目に見えたのは一緒に彗星を見た思い出。
あれほど綺麗に、美しく星が流れていくのだと知った日。星空が遠く、果てしなく広く見えていたあの夜の出来事。
――大好き、だった。
されどそれも過去。
慎ましやかな日々の光景が様変わりしていく中、ケイは歩き続ける。
色に狂い、借金を背負い、縋った先はカルト教団。
そう、あれは『願いを叶える星』を呼び出す儀式。
母を追って、後をつけて、見た景色は教団の皆が一緒に宙ぶらりんになって揺れている、何とも不思議で悍ましいものだった。
――あとをつけるんじゃなかった。
後悔と、恐怖と、後はなにかよく分からないぐちゃぐちゃとした感情。
逃げるように其処を飛び出せば、彗星を見た日によく似た星空の下に辿り着いた。
澄んだ夜空。
尾を引く星のひかり。でも、あの夜とは違った。
その『星』は消えるのではなく直ぐ目の前にまで降ってきて、ケイの心臓が三つに割れて――。慧と、螢と、荊。『私達』は『星』と一つになった。
それが、十五の夏。
星に願いをかければ叶う。そんな迷信がある。
でも、何を願ったのかもわからなかった。
――私は母の特別じゃなかった。あの女の世界から、私はいなくなっていた。
それがいつからだったのか、いつまでだったのか。それとも、最初からそうであったのか。考えても答えは出ず、導き出せるとも思えない。
――私も銀河鉄道に乗せてほしかった。
懐いたのは、そんな思い。
この心を、命を、預けられる。誰かの特別になりたいと強く想うようになった。
大好きな人の特別になったせいで、その人を失ってしまうまでは。
二十三の夏まで、あと八年。
そんな光景と記憶が夜を疾走る列車のように速く深く流れていった。
はたとしたケイは自分が出口に辿り着いていたことに気付く。過去を見るのは、夢で慣れていたはずなのに。ただ、通り過ぎただけだというのに。
右腕が何故か震えた。
左手で右肩をそっと押さえたケイは再び、ゆっくりと歩き出した。
歩みを止める心算はない。
今はただ、この先に進むと決めているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
緋翠・華乃音
――きっと、
どんな惨劇を目の当たりにしても、心に波風の一つも立つ事は無いのだろう。
それが、真に他人事であるならば。
視界を鎖す闇の中、夥しく積み上げられた屍の上に少年が立ち尽くす。
あれは幾つくらいの頃だろうか。
まだ十にも満たない年齢だった気もする。
人の命など引き金よりも軽く、
どれだけ奪ってもそれが尽きる事はなくて。
命令されていたと言い訳をするつもりは無いけれど、
この手は少しばかり血に塗れ過ぎた。
だから――そう。
罰なのだろう。
共に戦った仲間も、大切に想っていた人も、
気付けば周りには誰も居なくて。
ふっと、酷薄な笑みが零れた。
人の道を歯牙にもかけない。
氷で作られた魔物みたいな、うつくしい笑みだった。
●凍てついた心
空に赤い月が見えた。
その彩が紅に滲むのは此処が血に濡れた場所だからか。
緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は歩を進め、空虚なる廃都に踏み入った。
此処では凄惨な光景が繰り返されているという。伝え聞いていた話を思い返した華乃音は軽く頭を振り、僅かに口をひらいた。
「――きっと、」
どんな惨劇を目の当たりにしても、心に波風の一つも立つ事は無いのだろう。
それが、真に他人事であるならば。
これ以上は言葉として紡がずに華乃音は進む。すると、ある境界を越えた辺りから景色が歪みはじめた。
視界を鎖す闇の中。
夥しく積み上げられた屍の上に少年が立ち尽くしている。
その光景を目にした華乃音は薄く目を細めた。
あれは幾つくらいの頃だろうか。まだ十にも満たない年齢だった気もする。
そうだ、あの頃だ。
人の命など引き金よりも軽かった。
どれだけ奪ってもそれが尽きる事はなく、あのように屍を積み上げるのも容易かった。
命令されていたから。
そんな言い訳をするつもりはない。
始まりが命じられていたゆえの行為だとしても、この手は血に塗れ過ぎた。罪だと自覚するには十分な程の命が目の前で潰えていった。
だから――そう。
これは罰なのだろう。
華乃音は胸中で独り言ちながらも、幻影の光景を通り過ぎていく。
闇が歪み、立ち尽くす少年の姿は滲んで消えていった。まるで過去として捨て去ったものであるかのように遠く離れていく。
共に戦った仲間。
大切に想っていた人。
気付けば周りには誰も居なかった。もう、誰も――。
華乃音の周囲に深い闇の帳が降りていく中で或る思いが浮かんで、消えた。
いつしか辺りの闇が晴れた。
顔を上げた華乃音は此処が出口なのだと気付いて後ろを振り返る。もう其処には何も視えず、ただ崩れ落ちた家々があるだけだった。
壊れた街の情景には何の感慨も浮かばない。
そして、其処にふっと酷薄な笑みが零れた。
人の道を歯牙にもかけない。
赤い月の下で揺らめく――氷で作られた魔物のような、うつくしい笑みだった。
大成功
🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
アドリブOK。
血を求めて匂いに誘われれば、因縁めいた交わりを果たすものだな。
忘れてしまいたい記憶より、リウが起こした廃都の惨劇への興味が強い。
互いに闘い合い一瞬散らす血は美しいと感じるが、一方的な虐殺を、それを何度も繰り返させるのは美しくないな。似て非なるものだ。
私が善人だとは言わないが、これは腐っていると感じてわずかに怒気を孕む。
しかし過去の幻影、どうこうできるものでないなら、道を急ごう。まだこの先に濃厚な血の気配が漂っているのだから。
●繰り返される過去
血のように紅い、緋色の月が見えていた。
昏い世界の空を振り仰いだネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は妙に色濃い血の匂いを感じる。
薄く笑んだネフラは眼前に続く廃都への道を見遣った。
「血を求めて匂いに誘われれば、因縁めいた交わりを果たすものだな」
曰く、この都では過去が視えるという。
しかしネフラにはそういったものよりも、リウ・メイファが起こした廃都の惨劇への興味が強かった。
望めばそれを垣間見ることが出来るだろうか。
ネフラは腰に携えた血棘の刺剣に触れ、その柄を撫ぜた。
そうして、歩を進めていく。
静まり返った廃都には人の気配はない。
いつ滅びた都市なのかは分からないが、朽ち具合から惨劇があったのが相当前だということが判断できた。地面に染み込んだはずの血の色も、散乱した荷物や家具などの様子からもはっきりと分かる。
やがて、或る街角を境にして周囲の景色が変わった。否、変えられたと言ったほうが正しいだろう。
歪む光景。耳に届きはじめた泣き叫ぶ声。
「成程、これが――」
ネフラが一歩進むと、近くにあった建物に血飛沫が散った。鮮血が壁を汚した理由を知ろうと振り返ったネフラが見たものは斬り伏せられた少女が横たわる姿だった。
幼かろうが関係ない。
そう語るような太刀筋で、ヴァンパイアの騎士らしき影がそのはらわたを刃で抉った。腹から零れ落ちた少女の中身は無残に撒き散らされている。
『お、が、あ……さん……』
血を吐きながら少女が呟き、事切れた。
その臓物を駆けてきた魔物が喰らう。少女だったものが呼んだ先には母親らしき影――とはいっても、ただの肉塊に成り果てた何かが転がっていた。
その光景を作り出すヴァンパイア達は笑っている。声をあげて、これほど愉しいことはないのだというような嘲笑を浮かべていた。
悍ましい。
ただ、そうとしか言い表せない光景だった。
「……」
ネフラは手を伸ばしそうになったが、此れは過去の幻影だ。触れることも叶わず、変えることだって出来はしない記憶。
互いに闘い合い、一瞬を散らす血は美しいと感じる。
だが、一方的な虐殺を、それを何度も繰り返させるのは美しくない。この光景は血を好む己の求める事とは似て非なるものだ。
「……腐っている、こんなこと」
自分が善人だとは言えないがネフラにも情はある。わずかに怒気を孕んだ言葉が落とされたが、その声は過去の惨劇の中に紛れて消えていった。
助けて。
助けて、誰か。
声が聞こえた。だが、其処に干渉することは出来ないと知っている。
そして、また人が喰らい殺されていく光景がネフラの前に広がる。刺剣の柄をきつく握り締めた彼女は先を急ごうと決めた。
進まなければ。まだ、この先に濃厚な血の気配が漂っているのだから。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
何が見えるかは想像が付きますが……惨劇を好む吸血鬼、放っておくわけにもいきません。
※見える光景
かつての自分の主でもあった吸血鬼が支配する無法の町、その町中で12,13歳の過去の自分が隠れて銃を構えている。狙う先には1人の男――確か女子供など、弱者を襲い何人も殺害していた強盗。
私が吸血鬼に命令されていたことは食料集め。食料を取って来なければ食料になるのは自分だと知っていたから、少しでも良心が痛まない相手を狙い、撃ち、獲物として領主の館に持って帰った。
思い出したくない過去ですが……同時に、忘れてはいけない過去。
【氷の狙撃手】で男を撃ち抜いた過去の自分を見送り、吸血鬼のもとへ向かいましょう。
●銃口を向ける先
揺らぐ境界。
誰も居ない廃都の向こう側。
過去を繰り返し続けるという迷路の入り口らしき箇所を見据え、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は僅かに俯く。
「何が見えるかは想像が付きますが……」
此処まで来て進まないわけにはいかないと己を律し、セルマは顔をあげる。
忘れてしまいたい過去と記憶。
それらを前にしているとしても、惨劇を好む吸血鬼がいると知った以上は放っておく選択は出来なかった。
そして、セルマは歩を進める。境界を超えた先に待つものに覚悟を抱いて――。
進んだ先には町の景色が見えた。
だが、それはこれまで歩いていた廃都のものではない。かつてのセルマの主でもあった吸血鬼が支配する無法の町だ。
懐かしいとは素直に思えなかった。
何故なら今のセルマの目の前には過去の自分の姿があったからだ、
十二、三歳頃だろうか。
町中の陰に隠れた幼いセルマは銃を構えている。
思わずセルマは其方に手を伸ばしたが、指先が触れ合う前に手が幻影をすり抜けてしまった。やはり干渉はできないのだと改めて知り、セルマは幼い自分が見据えている方向を見遣る。
其処に見えたのは一人の男。
確か――そうだ、女子供など、弱者を襲い何人も殺害していた強盗だ。
幼い自分は今、あの男を狙っている。
嘗て命令されていたのは食料集め。ただしヴァンパイアにとってのものだ。
食料を取って来なければ餌食になるのは自分だと知っていたから。やらなければ、死ぬのは自分。
だからこそセルマは銃を誰かに向け続けた。
少しでも良心が痛まない相手を狙い、撃ち、獲物として領主の館に持ち帰るのがあの頃のセルマの日々だった。
そして幻影として映されたその日も、セルマは銃爪を引いた。
銃弾が男を穿ち、その身を貫いた瞬間をセルマはただじっと見ていた。幼い自分はその男に駆け寄り、いつものように連れ帰る準備をしていく。
自ら生きていたのではない。
それこそ、生かされていただけの日々だ。
それはもう二度と思い出したくはないと感じた過去だ。
しかし同時に、決して忘れてはいけない過去でもある。
「……過去は過去です」
そして、現在は正しく今として巡っている。そう自分に言い聞かせたセルマは歩き出す。今はあの男でもなく、食料とする相手でもなく、ましてや過去の自分に目を向けているようなときではない。
ただ進み、この廃都に潜む吸血鬼と対峙する。
それが今の目的だとして、セルマは過去の光景の中を通り過ぎていった。
大成功
🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
忘れてしまいたい過去、心当たりが多すぎます
あぁ、やっぱりそうだ
これはボク……いえ、私が忌み子となったときの
周囲の村人が冷めた、恐怖と怒りに満ちた視線を向けてくる
私が道を歩けば視線が突き刺さる
誰かが石を投げれば、それをきっかけにたくさんの石が降ってくる
傷つく私を救うものは誰一人いない
そうして私は幽閉されたのだから
ただ普通とは違う翼だから
それだけのことなのに
歌おう
ボクは歌おう
私の心が壊れないように
歌を奏でて音を辿れば過去の幻影なんてきっと受け流せる
心が痛んでも壊れはしない
ボクは前に進む目印を既に思い出している
無くしてしまった本当の名前
本当の家族、私の半身
それを見つけるまでは立ち止まれない
アドリブ◎
●忌み子の記憶
空を振り仰ぐと、妙に赤く染まった月が見えた。
それが何だか不吉なことを示しているように思えるのは、此処が寂しく悲しい廃都であるからだろうか。
忘れてしまいたい過去。
それには心当たりが多すぎて、踏み入るまでは何が見えるか分からなかった。
アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)は魔法の迷路と化した廃都を進み、前方を見つめた。
其処はもう既に先程までの景色はなく、村の光景が広がっている。
「あぁ、やっぱりそうだ」
アウレリアは予想していたことのひとつが当たったと気付き、辺りを見回した。
周囲には村人達。
彼等は一様に冷めた、恐怖と怒りに満ちた視線を向けてくる。
(これはボク……いえ、私が忌み子となったときの記憶)
アウレリアは光景の中心にいる過去の自分を見つめる。通り過ぎる村人達は今のアウレリアの身体を擦り抜けていく。
自分が道を歩けば鋭い視線が突き刺さる。
誰かが石を投げれば、それをきっかけにたくさんの石が降ってくる。
傷つくアウレリアを救うものは誰一人いない。
忘れてしまいたい。
あんなに冷たい視線も、束ねられた悪意も、何もかも。
(そうして私は幽閉された……)
ただ普通とは違う翼だった。
それだけのことなのに人は異端を認めない。自分とは違うものを排他して己を守り、正当化する。どうしてそんなことをするのかと問えたとしても誰もきっと答えなど持っていない。
アウレリアは周囲の光景を払うべく首を振って目を閉じた。そして、花唇をひらく。
――歌おう。ボクは、歌おう。
響かせる音は過去から自分を救うための歌。
ボクは此処にいる。
私の心が壊れないように、ただ歌い続けよう。
歌を奏でて音を辿れば、過去の幻影なんてきっといつか消えてしまうはず。
心が痛んでも壊れはしない。
(ボクは前に進む目印を既に思い出している。だから、進む――)
無くしてしまった本当の名前。
本当の家族、私の半身。それを見つけるまでは立ち止まれない。
歌を紡ぎ、取り戻すべき過去に思いを馳せ、アウレリアは前に進む。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
やっぱりここの薄暗い空が一番慣れている…
さて、行きましょう
迷路に入って魔術の流れを肌と羽で感じながら進む
そこにあるのは…できるなら、もう二度と思い出したくない過去
広大な魔術空間、魔法陣を描かれた台座、そしてその中心にいる『器』
どこに間違えたのかは知らないけれど
呼んではいけないモノを呼び出した
銀糸の髪も白い翼も染められ、汚され、もう使い物にならない
あの事件がなければ、今は違う人生を歩いているかな…
と、嫌でも、何度も想像していた…
けれど、今の自分と『この子たち』を受け入れるしかない
泣きたい時も、彷徨う時も、確かにあるけれど
もう戻れるわけがない…
このまま進むしかない、よね…
●死霊の器
薄暗い空、静謐な空気。
浮かぶ月。それは冴え冴えとしているのか淀んでいるのか、単に美しいだけとは言えぬ妖しい光を大地に落としていた。
やはりここの薄暗い空が一番慣れている。
胸中で独り言ちたレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は空を振り仰いだ後、廃都に目を向ける。
「さて、行きましょう」
先に揺らぐ境界線が視える。そのことから、彼処を越えれば迷路内だと分かった。
一歩、踏み入れば景色が歪む。
レザリアは妙な感覚をおぼえながらも魔術の流れを肌と羽で察知しながら進んだ。
やがて周囲が揺らぎ、廃都ではない景色が見えてくる。
其処にあったのは云われていた通りのもの。
そう――できるならもう二度と思い出したくない過去の光景だ。
広大な魔術空間。
魔法陣を描かれた台座。
妙に禍々しい空気が満ちる場所。そして、その中心にいる『器』
レザリアはその光景を俯瞰するようにただ見つめていた。
あれは魔術暴走が起こった日のことだ。
どこで、何を間違えたのかは知らないし、今更知る術もないのかもしれない。過去の光景が映し出される其処には、呼んではいけないモノが呼び出されていた。
元あった銀糸の髪に白い翼。
美しかったそれらは闇の色と不吉の汚い灰色に染められ、汚された。
――もう使い物にならない。
術の器としては役に立たぬと烙印を押され、資格を失った。そのまま家から追放されたあの事件がなければ、今はもっと違う人生を歩いていたのかもしれない。
嫌でも、何度も何度も想像していた。
あの日のことがなければ、あれが呼び出さなければ――。
けれど、とレザリアは俯く。
目の前に広がる魔術空間よりも、今の自分を見るかのように掌を見下ろした。
過去には戻れない。この忌々しくも思える空間にだって触れることは出来ず、干渉はできないのだと分かっている。
今はただ、この自分と『この子たち』を受け入れるしかない。
泣きたい時も、彷徨う時も、確かにある。それでも、とレザリアは顔を上げた。
「このまま進むしかない、よね……」
自分に言い聞かせるように呟く。
忘れてしまいたい。けれども忘れられない記憶に背を向け、レザリアは歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
コーディリア・アレキサンダ
吸血鬼とダンピール……今は無意識に重ねてしまうね
良くない、とは思うのだけれど
それじゃあ、行こうか。屍山血河こそボクの、魔女の進む道だ
忘れてしまいたい記憶――それこそ悪魔に憑かれた友人、知人、名前も知らない人たち
71人を手に掛けた記憶なんだろうけれど……いや、ボクがそれを忘れはしない
……忘れるわけにはいかない
だからたぶん、ボクの場合はこの街の出来事が写るのかな。たぶん、きっとね
映る光景が何だろうと、ボクはそれから目を逸らさない
辛かっただろうね。痛かっただろうね。……間に合わなくて、ゴメン
心は熱く、だけど頭は氷のように冷静に
彼らの無念を、悲嘆を、恨みを、死を。全て引き連れて前に進もう
夜を終わらせに
●嘆きの都
廃都に潜むは吸血鬼。
血を好み、血を求め、血を愛する――。
コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は廃都に巡る静謐な空気を感じ取りながら、その存在について思う。
「吸血鬼とダンピール……今は無意識に重ねてしまうね」
良くない、とは思う。
けれども今の自分は血というものと、ひいてはダンピールに深い関わりを持っている。ふと思い浮かんだのは二人の姿。
しかし、彼女達をこのような場所に重ねるのも憚られた。
「それじゃあ、行こうか」
――屍山血河こそボクの、魔女の進む道だ。
そう独り言ちたコーディリアは箒に乗り、先に進んでいく。
忘れてしまいたい記憶。
そんな光景が映るという迷路に入れば、それこそあの記憶が思い浮かんでくる。
悪魔に憑かれた友人、知人、名前も知らない人たち。
七十一人を手に掛けたときの記憶だろう。だが、コーディリアは首を横に振った。
「……いや、ボクがそれを忘れはしない」
忘れるわけにはいかない。
だからあの光景は此処には映らないはずだ。そう予想して進んだ迷路の向こう側から、悲鳴が響いてきた。
はっとしたコーディリアが其方に目を向けると、倒れ伏した母子の亡骸が見えた。
この街の出来事だ。
そう察したのはそれがこれまで通ってきた廃都の景色そのものだったからだ。
燃える炎。
引き裂かれる肉。
男の首が飛び、幼子の腕が踏み潰され、少女の胸から心臓が抉り出される。
吸血鬼が振るう鎌が、引き連れられた魔犬の牙が、それぞれに街の人々を容赦なく襲い、その身体を切り刻んだ。
死した者もたくさんいた。だが、それ以上に多いのは命を奪われなかった者だ。
『痛い、いたいよ、ああ、あああ……』
『はは……僕、お腹の中身がこぼれてる……あは、あはは……』
『もういっそ殺して、ころしてよ――殺してよぉおおお!!』
腕を落とされ、腹を割かれ、血を吐いても死に至ることが出来なかった者達。
その苦痛の声が、嘆きが、叫び声が響く。
「……これ、は」
コーディリアはその光景から目を逸らせなかった。否、逸らさなかったと言ったほうが正しいだろうか。手を伸ばしてもその景色には触れられない。ただ、確かにあった過去のものとして流れていくだけ。
「辛かっただろうね。痛かっただろうね。……間に合わなくて、ゴメン」
心は熱く、だけど頭は氷のように冷静に。
彼らの無念を、悲嘆を、恨みを、死を。全て引き連れて前に進もうと決めた。
「行くしかないね」
もう一度、決意を言葉にしたコーディリアは進む。
――この夜を、終わらせに。
大成功
🔵🔵🔵
グラナト・ラガルティハ
過去の惨劇を追憶として繰り返す…か。
殺戮遊戯など俺の好むところではないし終わらせたいところだな…。
俺は人間はあまり好きではないが死したものに関しては平等でありたいと思っている。
俺にとっても気に入らない殺戮遊戯に巻き込まれて繰り返すというのなら救ってやりたいとも思える。
なかったことにしたい過去…結局はこれか。
幼い頃叔母の可愛がっていた神獣でもある犬を俺が殺した。たまたま機嫌が悪かったのであろうそれに襲われて咄嗟に身を守ったがゆえに俺の炎で殺した…。
それ以来叔母は俺を嫌って…ますます弟を可愛がり俺の居場所は…。
だがこんなものいまさらだろう?
今は他に居場所もできた。
だからこの記憶に揺るぎはしない。
●罪火
昏い夜空は妙に淀んでいた。
浮かぶ月は赤く、大地に届く光も妙に禍々しく感じられる。
グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は進む先を見据え、此処に巡らされている吸血鬼の力を思う。
「過去の惨劇を追憶として繰り返す……か」
殺戮を遊戯とする所業。
そんな行為も思想もグラナトが好むところではなく、早く終わらせたいと感じた。
慎重に歩を進める先には妙な歪みが見える。
魔力の揺らぎだろうか。きっとその境界が件の迷路の入り口だ。そう察したグラナトは静かに身構えた。
神たるグラナトは人間があまり好きではない。
だが、死したものに関しては平等でありたいと思っていた。
きっと視える景色は己が忘れてしまいたいと願う光景なのだろう。だが、この廃都に息衝いていた命の記憶も此処で繰り返され続けているという。
元より気に入らぬ殺戮遊戯。
そんなくだらないものに巻き込まれているという、彼等を救ってやりたかった。
そして、グラナトの周囲の景色が急速に形を変えていく。
彼にとってなかったことにしたい過去。
それは――。
「……結局はこれか」
彼が呟き、見遣った先では炎の残滓が燻っていた。
あれは幼い頃の記憶。
其処には嘗て、叔母の可愛がっていた神獣が其処に転がっている。
かの犬はグラナト自身が殺したものだ。あの日はきっと、たまたま機嫌が悪かったのだろう。神獣が襲いかかってきたことでグラナトは咄嗟に身を守った。
迸る炎は獣を焼き、その生命を奪った。
殺す気はなかったのだと、自分がその牙を受けていたのかもしれないのだと告げたとしても、叔母は信じてくれなかっただろう。
あれ以来、叔母はグラナトを嫌った。そしてますます弟を可愛がり、彼の居場所はなくなっていった。
「……あの事さえ無ければ、」
ふと自分が思わずそう呟いていたことに気付き、グラナトはかぶりを振った。
しかし、グラナトは知っている。
過去が視えたとて其処にはもう触れることも干渉することもできない。もし変えられたとしても今の自分には繋がらないだろう。
「だが、こんなものいまさらだろう?」
今は他に居場所もできたのだと、グラナトはあの館で過ごす日々を思い返した。
だから、こんな記憶に揺るぎはしない。
過去から目を逸らすのではなく、ただ文字通りに背を向けたグラナトは歩き出す。
この先に待つ災禍と対峙し、人々を弄ぶ者を討ち倒す為に――。
大成功
🔵🔵🔵
セシリア・サヴェージ
私がまだ幼い頃にヴァンパイアに殺された母。
……助けを求める母に私はなにもしてあげられなかった。
暗黒騎士になった後も護ることができなかった人たち。
……私にもっと力があればと何度悔やんだことか。
私を呪われた血と力を持つ者と迫害してきた人々。
……もはや世界に私の居場所はないのかと挫けそうになった事もありました。
『出来る事なら忘れてしまいたい記憶』はいくらでもあります。
今一度それらを見れば歩みが鈍くなるかもしれません。ですが、私は決して歩みを止めません。
世界に光を取り戻すその日まで……どんなに辛いことがあっても進み続けると決めたのです。
【覚悟】はできています。何が現れようとも怯まず、前進しましょう。
●深き闇
殺戮と追憶の迷路。
其処に一歩踏み入れば、後悔や禍根に満ちた世界に迷い込むという。
それは出来れば忘れてしまいたい記憶の渦。
セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は覚悟を決め、吸血鬼の魔力が巡る廃都へと踏み入った。
空に浮かぶ月は妙に禍々しく、寒気すらする。
だが、セシリアは歩を進めた。
すると行く先の景色が歪み、嘗て見たことのある光景が浮かび上がってくる。
――助けて。
不意に母の声が聞こえた。
セシリアがまだ幼い頃、ヴァンパイアに殺された母。聞き間違うことのないあの声と、助けを求める言葉が空間内に響く。
だが、あの頃のセシリアは彼女に何もしてやることができなかった。その結果か、それともこの世界に生まれた因果か、母は還らぬ人となった。
――助けて。
次に景色が歪んだとき、聞こえてきたのは誰かが助けを乞う声だった。
それはセシリアが暗黒騎士になった後、護れなかった人達のもの。
(……私にもっと力があれば)
何度、幾度も悔やんだ苦悩は忘れられない。それでも、忘れてしまいたいと心の何処かで思っているからこうして幻影として現れているのだろう。
呪われた血。
悪しき力を持つ者。
そういってセシリアを迫害してきた人々の姿までが幻影として現れる。
(もはや世界に私の居場所はないのか……)
そんな風に思った記憶がセシリアの中に蘇ってきた。
その感情と境遇に挫けそうになったことも幾度もあった。セシリアはいつしか俯き、それまで止めることのなかった歩みを止めてしまいそうになる。
一歩、一歩、鈍くなった歩み。
しかしセシリアは止まらない。ゆっくりと、確実に前に進もうと動き続けていた。
忘れてしまいたい記憶など幾らでも浮かぶ。
此処まで歩いてきた道こそが苦難と苦痛、不幸に塗れていたのだから。それでも、セシリアは誓っていた。
どんなに辛いことがあっても進み続ける。
この世界に光を取り戻すその日まで――。
「覚悟はできています」
それゆえにこの先に何が現れようとも怯まず、前進し続けると決めた。
浮かんでは消える過去の幻影から目を逸らすことなく、セシリアは混迷の出口に繋がる道をしかと見据えた。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
――嗚呼。不思議、ね
ナユには、あの景色が視えているの
“忘れたい”と思ったことなんて、ない
けれど、何故、ナユの瞳に映るのでしょう
こわれた指輪を、爆ぜた柘榴の彩をぎゅうと握り
先に待つ惨劇へと、歩を進めましょう
やわい風が頬を撫ぜる、麗らかなる日
薄紅が咲き、藤色が連なる春の出来事
ふたつの色が交わる境目
『あなた』の姿と、鬼のわたし
鋭利な牙が白肌を穿いて
清廉なる眞白の衣が鮮明な“あか”に歪む
なんて甘くて、狂おしい
頬に散った『あなた』の“あか”を指に絡めて
紅を点ずるよう、一線を描く
――嗚呼。愚か、ね
忘れることも、忘れるつもりも、無いというのに
何度繰り返したとしても、わたしは
幾回もの罪を、重ねてゆくのでしょう
●あかいろ
冴えた光を宿す紅い月の下。
先程まで歩んでいた廃都の光景は今、妙に歪んでいる。
蘭・七結(戀紅・f00421)の瞳には此処に在ってはならぬ景色が映っていた。
「――嗚呼。不思議、ね」
七結はぽつりと、視えている光景への言葉を落とす。
“忘れたい”と思ったことなんて、ない。
そのはずだった。けれど、何故いま、この瞳にこの光景が映っているのか。
七結はこわれた指輪を見下ろす。
そして、爆ぜた柘榴の彩をぎゅうと握って幾度か瞼を瞬いた。裡に漣が立ちはじめたかのように、僅かに揺らぐ心。
もしかすれば、わたしはあの記憶を――。
其処まで考えかけた七結だったが、それでも、と顔を上げた。
そうして七結は一歩を踏み出す。この先に待つ惨劇をもう一度、確かめるために。
薄紅が咲き、藤色が連なる春。
あれは、そんな日の出来事だった。
やわい風が頬を撫ぜた。その感覚まであのときと一緒だ。麗らかなる日の景色は一見穏やかに見えた。けれども、其処にはふたつの影がある。
紅と藤。
その色が交わる境目。
『あなた』の姿と、鬼のわたし。
ふたりが立つ姿を、今の七結が見つめている。それはとても不思議な光景だ。
まるであの日に還ったかのようで、七結は思わず其処へ手を伸ばした。しかし、『あなた』に触れそうになったところで指先がするりと擦り抜け、はたとした七結は緩く唇を噛む。
そして、あの日と同じようにふたつの影は動き出す。
鋭利な牙が白肌を穿いた。
清廉なる眞白の衣が鮮明な“あか”に歪む。
それはなんて甘くて、狂おしい。
頬に散った『あなた』の“あか”を指に絡めて、紅を点ずるよう一線を描く。
気付けば、幻影の光景は消えていた。
それは鮮烈な記憶。
忘れることも、忘れるつもりも、無いというのに。此処に在り、視えたということの意味を七結は考えた。
でも、あれはそう。吸血鬼が見せるただの幻影だ。
何も変わらない。ただ、現にあったことしてこの胸に残り続けているだけ。
(それにたとえ何度繰り返したとしても、わたしは……)
きっと幾回もの罪を重ねてゆくのだろうと自ら断じ、七結はそっと花唇をひらく。
「――嗚呼。愚か、ね」
零れ落ちた言の葉は、昏い夜の底に沈んで消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
楠樹・誠司
あかい、あかい
此れは、――炎、だ
《私は、唯》
《みなを慈しむことさへ出来たなら》
《其れ以上を望みはしなかつたのです》
『――けて』
《嗚呼》
《如何して、彼等が奪われなければならなかつたのでせう》
『――たすけ、て』
《何故――》
《私には、見守る事しか、》
『かみさま、嗚呼、かみさま』
《私には》
《自由に歩く為の脚も》
《差し伸べる為の腕も》
《何一つ、持ち得なかつたから、》
――う、あ、
息を飲む
溢れそうになる喘鳴、奥歯を噛み締め堪えた
『糸』を掴んだと自覚出来たのは、刹那の間
景色が廃都の錆びた色へと移り変われば
晴れぬ靄が再び、胸の奥底までを包んでしまつた
其れでも尚
忘れたくはなかつたと、詰まらせて居た侭の息を吐いた
●請ひ、乞ひ、戀ひ
其れは過去。
決して変えることの出来ぬ、確かに存在した記憶。
楠樹・誠司(静寂・f22634)は佇んでいた。此れが幻影の見せるものだと解っていながらも、其の場に只々立ち尽くしていた。
あの日のように。あの頃ように。ただ其処に在るだけだった時の如く。
あかい、あかい。此れは、――炎、だ。
誠司は目の前に広がる光景からそんなことを思った。
《私は、唯》
《みなを慈しむことさへ出来たなら》
《其れ以上を望みはしなかつたのです》
声にならぬ思いが裡に廻っていく。その中で或る声が聞こえた。
『――けて』
幽かな声。けれども、確かな意志を持って紡がれる言葉。
『――たすけ、て』
救いを求め、手を伸ばすかのような声。
それをただ見ているだけしか出来ない。浮かぶ思いを伝えることすら、叶わない。
《嗚呼》
《如何して、彼等が奪われなければならなかつたのでせう》
声は己を呼ぶ。
『かみさま、嗚呼、かみさま』
縋り、恃みとして、依り処として求められるのは救い。
《何故――》
《私には、見守る事しか、》
赤い焔が燃え上がる幻影の中で、誠司は思いが上手く声にならぬことを感じた。
今は身体が、手足が、音を紡ぐ器官があるはずだというのに。この光景を前にした今、己があの頃に戻ってしまったかのようだ。
《私には》
《自由に歩く為の脚も》
《差し伸べる為の腕も》
《何一つ、持ち得なかつたから、》
「――う、あ、」
やっと絞り出した声に意味は伴っていなかった。
息を飲み、溢れそうになる喘鳴。奥歯を噛み締めることで堪えた誠司は、無意識に腕を上げる。その瞬間、糸を掴んだ。
そう自覚できたのは刹那の間。
傍とした誠司は眼前の景色が元に戻っていく様に気が付いた。炎のいろは消え去り、廃都の錆びた色へと移り変わっていく。
晴れぬ靄が再び、胸の奥底までを包んでいくような感覚が巡った。
あれが、己の忘れてしまいたいと願った記憶なのか。
――其れでも尚、忘れたくはなかつた。
追慕の思いと共に、詰まらせて居た侭の息を吐いた誠司は、天涯を振り仰ぐ。
其処には燃えゆく炎を思わせるような、紅い月が浮かんでいた。
大成功
🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
害なす忌み子と呼ばれていた頃にいた地下牢の中
死に至らない程度の食事だけで生き、制御出来ない呪詛がこの体を切り刻まんと襲い掛かって来るさま
ただ暗くて、足に繋がれた鎖が冷たくて、時間も外の世界も知らなくて
呪詛は助けてくれと煩かったしな
あの頃のことなんざ痛いと苦しい以外は碌に覚えちゃいない
……他の辛い思い出は、忘れたいわけではないからなァ
出来ることなら忘れちまいたいというと、これになるのか
それでも過去は過去だ
あのときと違って出口はある、帰る場所もある
腹が減ろうが痛くて苦しかろうが、死にやしなかったからここにいるんだ
全部抱えて生きていくと決めたのだから
絶対に、忘れてやりはしないよ
●灰燼
昏く沈む空気。
静謐と云えば聞こえはいいが、其処は闇に包まれている。
廃都に足を踏み入れたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が見ている景色は、錆びた匂いのする地下牢だった。
それは害なす忌み子と呼ばれていた頃の記憶。
ニルズヘッグの目の前には狭い牢の中で蹲る過去の自分がいた。
死に至らない程度の食事。
制御出来ない呪詛がこの体を切り刻まんと襲い掛かって来る。
それこそがまさに思い出したくはない、忘れてしまいたいと願った記憶だ。
手を伸ばしてみる。
だが、解っていた通りに牢の鉄格子にも、壁にも触れることができない。
――助けてくれ。
死者の怨嗟と生者の情念。
それらを映す呪詛が騒ぎ、煩く呼び掛ける。
強く拳を握った過去の自分はそれに耐えるように俯いた。
空腹か恐怖か、痛みか絶望か。
感情の境界すら曖昧になってしまったような不可思議な感覚が、今のニルズヘッグの裡にも蘇ってくるようだ。
ただ暗くて、足に繋がれた鎖が冷たくて、時間も外の世界も知らなくて。
ああ、とニルズヘッグは肩を落とす。
(あの頃のことなんざ痛いと苦しい以外は碌に覚えちゃいなかったってのに)
こうして過去を見せられ、再び思い出すことになるとは。
「……他の辛い思い出は、忘れたいわけではないからなァ」
ニルズヘッグは呪詛が再び自分を切り刻む光景を映す幻影を見下ろした。苦しみに堪える過去の己を見るというのも妙な気分だ。
あの頃は永遠にこの苦しみが続くのかとも考えていた。
しかし、そうではなかった。今の自分はこうして此処に立っている。
過去は過去だと識っている。
あのときと違って出口はある、帰る場所もある。
「後少しだ」
苦しみ続ける過去の幻影に向け、ニルズヘッグは呼びかける。幻だと分かっていてもあの頃の己に告げてやりたかった。
腹が減ろうが痛くて苦しかろうが、死にやしなかったからここにいる。
全部抱えて生きていくと決めた。
だから絶対に――。
「忘れてやりはしないよ」
過去の記憶に、そして自分にそう伝えたニルズヘッグは幻に背を向ける。
歩き出すその横顔には未来を見据える強い意思が宿っていた。
大成功
🔵🔵🔵
鵠石・藤子
は、悪趣味なこった…迷宮だろうが何だろうが、「オレ達」に通れねえ道はねぇよ
(強気に廃都へ踏み入れる藤子)
(見えるのは暗い夜、純和風の屋敷、長い廊下
一番奥の部屋だけ、障子の向こうに微かな灯り
白い和装の、まだ少し幼さを残す容貌の藤子は廊下を歩み
障子の向こうには白装束の母親と、刀)
ーーっ
藤子が浮かべるのは動揺の表情
ーーオレは、わたしは、この人を?(斬る?)
(ふいにふう、とため息をついて
藤子は表情を変える)
「忘れたい」わけではありません、「忘れている」のです
わたしの藤子さんを傷付けるのはやめてくださいな
でないと…許せなくなってしまいます
トーコは、幻の女の白い着物が赤く染まるのをただ一瞥して、通り過ぎる
●封じられた記憶
「は、悪趣味なこった」
空虚さが満ちる廃都を前にして、零れ落ちたのは侮蔑めいた言葉。
鵠石・藤子(三千世界の花と鳥・f08440)は吸血鬼の魔力に支配されているという廃都を見据え、拳を握る。
「……迷宮だろうが何だろうが、『オレ達』に通れねえ道はねぇよ」
強気な言葉を口にした藤子は歩を進めた。
魔力渦巻く境界を越えれば其処は過去を映すという迷路の中だ。だが、そんなものに惑わされはしないとして藤子は口端を薄く緩めた。
そして――。
廃都の景色が歪み、暗い夜が広がっていった。それは吸血鬼が支配するこの世界の風景ではない。
純和風の屋敷。長い廊下。
その一番奥の部屋にだけ、障子の向こうに微かな灯りが灯っていた。
其処を目指して歩いているのは少女。
白い和装を身に纏う、まだ少し幼さを残す容貌をした過去の藤子だ。
後ろから昔の自分を見るという不思議な感覚に奇妙さおぼえながら、藤子は進む背を見つめていた。否、目が離せないと表した方が相応しい。
辿り着いた最奥。
ひらいた障子の向こうには白装束の母親がいた。そして、刀が目に入る。
「――っ」
それを見た藤子が浮かべたのは動揺の表情。
これまでの余裕は何処かに消え去っていた。震えそうになる手を握った藤子は思わず一歩、後退った。
(――オレは、わたしは、この人を?)
(……斬る?)
そんな思いが浮かんだ瞬間、その顔から動揺が消えた。
ふいにふう、と溜息をついたのはトーコ。瞬間的に移り変わった人格が藤子に次の光景を見せまいとしたのだ。
「……『忘れたい』わけではありません、『忘れている』のです」
過去の惨劇を淡々と瞳に映しながら、トーコは首を振る。
ただの幻影であるとしても、あのことを思い出させるにはまだ早い。トーコは女の白い着物が赤く染まるのをただ一瞥して通り過ぎてゆく。
そして、幻を作り出している者への思いを言葉にした。
「わたしの藤子さんを傷付けるのはやめてくださいな。でないと……許せなくなってしまいます」
静かな言の葉が紡がれ終わった後、トーコは迷路の出口を目指して歩き出した。
大成功
🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
こ、これはエルフの・・・故郷の森?
私の忘れてしまいたいものとは、故郷・・・なのですか?
私はただ、外の世界を見たかった。
掟や伝統を貶してはいません。
皆さんに迷惑をかけないために、一人で行くと言ったのに。
決められた未来に、限られた世界、私はそれが嫌でした。
もう戻れないのは解っています。
森を出ようと決めた時、家族にそう告げた時。
誰よりも伝統を重んじ、掟を守る弟は私を殺してでも止めようとしました。
確かにそんな嫌な記憶です。思い出すだけで胸が・・・。
でも、忘れたいわけでは・・・。
この森を歩いて抜けろ、と言うことですわね?
そう・・・。
私にとって故郷とは、こんなにも重く、忌々しいものだったのですか・・・。
●森と掟
一歩、踏み出す。
空虚な廃都の光景から一変して、広がっていったのは緑に満ちた森。
「こ、これはエルフの……故郷の森?」
ティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)は口許に手を当て、懐かしくも感じる故郷の風景を見渡した。
どうして、何故、この場所が視えるのか。
ティーシャの裡に巡るのは困惑と疑問。そして、慄くような妙な気持ち。
「私の忘れてしまいたいものとは、故郷……なのですか?」
思わず疑問を言葉にしてしまうが、答えてくれる者は何処にも居ない。
できることなら、忘れてしまいたい記憶。
そんな光景が映るという幻影の迷路に森が現れるだなんて考えてもいなかった。ティーシャは俯き、足元で揺れる草を見下ろす。
その匂いも感触も、森に吹き抜ける風もあの頃のままに思えた。
――私はただ、外の世界を見たかった。
独り言ちたティーシャは胸の前で掌を強く握り締める。
掟や伝統を貶してはいない。
皆に迷惑をかけないために、一人で行くと言ったのに。
それでも許しては貰えなかった。
ただ決められた未来に、限られた世界。あの森には自分が嫌だと感じるものしか遺されていなかった。だからもう、戻れないのは解っている。
森を出ようと決めた時、家族にそのことを告げた時の光景が蘇っていく。
目の前で、弟の姿が揺らいだ。
誰よりも伝統を重んじ、掟を守ろうとしていた弟。彼はティーシャを殺してでも止めようとした。あの時の記憶が、幻影の光景として視えている。
ティーシャは気付けば其処に背を向けていた。
確かにあれは嫌な記憶でしかない。思い出すだけで胸が痛むというのに、目の前でまた同じことを繰り返されたくなどなかったからだ。
「でも、忘れたいわけでは……」
故郷と家族。
それは捨て去りたいものではなかったはずなのに。今こうして此処にあるということは、ティーシャの心が過去を拒否しているということだ。
「この森を歩いて抜けろ、と言うことですわね?」
そう、と呟いたティーシャは目の前に広がり続ける幻影の森を見つめた。
いつまでもこの幻の中に居るわけにもいかない。
「私にとって故郷とは、こんなにも重く、忌々しいものだったのですか……」
知りたくはなかった自分の奥底の感情。
燻るような思いを抱きながら、ティーシャは再び歩き始める。
いつか辿り着けるはずの出口を目指して。ゆっくりとでも一歩ずつ、確かに――。
大成功
🔵🔵🔵
アオイ・フジミヤ
雨の迷路を歩く、歩く
優しい雨が降る
幼少の砌
人身売買で富を得る領主様の商品だった私を救ってくれた人がいた
強い猟兵で先生と呼ばれていた私の想い人と、そんな彼の愛し人
愛し人はあかりという名があったけれど
彼も私も彼女の桜色の虹彩が好きで”桜”と呼んでいた
桜は私を愛してくれた
姉の様に親友の様に
降頻る優しい桜雨のような慈しみで
けれどあの日些細な口論から
具合が悪い彼女を知ってて私は見捨てた
だから
彼女はひとりぼっちであの夜、命の灯を静かに消したのだ
迷路なんかなくたって
あの日から私はずっと迷ったまま
それでも
愛する人がいるから
メイさんに逢ってみたい
涙雨が降る、降る
―――ねえ、赦されることが怖いのは何故?
●迷い仔
雨の迷路を歩く、歩く。
空虚な廃都から様変わりした幻影の迷路の中、優しい雨が降る。
まるで記憶の波が寄せるように景色は揺らぐ。
アオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)は其処に映されていく光景を、ただじっと瞳に映し続けていた。
まず見えたのは幼少の砌。
人身売買で富を得る領主。その商品だったアオイに手を差し伸べてくれた人の姿が見えた。おいで、と呼ぶように差し伸べてくれる手。
その手を取った時から、アオイの世界は変わった。
先生と呼ばれていたアオイの想い人。そして、そんな彼の愛し人。
続いて光景は幸せな日々に移る。
愛し人には、あかりという名があった。けれど先生もアオイも、彼女の桜色の虹彩が好きで、親しみを込めて『桜』と呼んでいた。
桜はアオイを愛してくれた。
嬉しいことがあれば共に喜び、悲しいことがあれば分かち合ってくれた。
姉のように、親友のように、そして家族のように。降頻る優しい桜雨のような慈しみで、アオイに安らぎや幸福を教えてくれた。
(でも――)
過ぎゆく過去の光景を見つめるアオイは僅かに俯く。
自分はこの日々の後に続く未来を知っている。あの瞬間が来るのだと覚悟したときにはもう、場面は移り変わっていた。
あの日の口論。
今思えば些細でしかない言葉の遣り取り。それが要因でアオイは具合が悪い彼女を知っていながらも見捨てた。
あの夜、彼女はひとりぼっちで命の灯を静かに消した。
桜を散らせたのは、自分だ。
思い知らされたような気がしてアオイは唇を噛み締める。
できることなら、忘れてしまいたいなんて思っている自分が此処にいるから。
こんな迷路なんかなくたって、あの日から――。
私はずっと、迷ったまま。
それでも、と頭を振ったアオイは顔をあげた。
今は愛する人がいる。そう思ったとき、それまで見ていた桜の幻影は消えた。
(だから、メイさんに逢ってみたい)
アオイは歩を進め、この先にあるはずの出口を目指してゆく。
涙雨が降る、降る。
でも――ねえ、赦されることが怖いのは何故?
大成功
🔵🔵🔵
クールナイフ・ギルクルス
厄介な仕事
覚悟して進むが足は重い
響く咆哮に閉じた目を開くと
あいつらの背中と漆黒の巨体と炎
はっ、マジで悪趣味
冷汗は気付かぬふりして
幻だと言い聞かせ前へ
師匠のトグを越して雷を纏う女魔法剣士、レイリーに並ぶ
遠慮なく叩いてくるやつ
強いやつ
――綺麗な人
違和感
俺が逃げるときもあんたは女王を構えていた
なぜ、俺の首にある
我に返ると鉄片やどす黒い染みが広がる焦げた大地に立っていた
ああ――
俺は戻ってきたのか……あの後、ここに
そして彼らの装備の一部を持ち帰った
それしか残っていなかったから
思い出した記憶
力が抜けそうになるのを指輪を剣に戻し拒絶を受けることで自分を保つ
でないと、あのとき枯らした物が溢れてきそうになるから
●炎
空に浮かぶ赤い月と空虚な廃都。
厄介な仕事だ。
そう思うに相応しいことがこの先に待ち受けている。覚悟して進むにしても足は重い。そんなことを確かに自覚しながら、クールナイフ・ギルクルス(手癖の悪い盗賊・f02662)は深く肩を落とした。
既に境界は越えている。
間もなくこの廃都の景色は自らの記憶の幻影を映すのだろう。
クールナイフは目を閉じ、息を吐く。そして――。
響く咆哮。肌を焦がすような熱。
目をひらくと、其処には“あいつら”の背中と漆黒の巨体と炎が見えた。
忌々しくも思える終わりの日。そう、あの日の光景だ。
「はっ、マジで悪趣味」
クールナイフは精一杯の強がりを落とし、自らの背に伝う冷汗には気付かぬふりをする。確かに記憶の光景かもしれない。感じる炎の熱も、彼らの背もあの時と変わらない。でも、幻だ。
己に言い聞かせたクールナイフは前に進む。通り抜けてしまえば何も見ず、何も考えなくてもいい。
だが、現実はそうさせてはくれなかった。
師匠のトグ。その背を越して雷を纏う女魔法剣士、レイリー。
彼女は遠慮なく叩いてくるやつで、強いやつで、それから。
――綺麗な人。
そう感じてしまったのは久方ぶりに彼女を見たからか。クールナイフはいつしか幻影に目を奪われていたことに気付いた。
しかし、違和感が巡る。
(俺が逃げるときもあんたは女王を構えていた。なのに――)
なぜ、俺の首にある。
そんな思いが浮かんだ瞬間、過去の光景が一気に闇に包まれた。何も視えない、何も探れない、何も分からない。
暗転した世界からは熱すら消え、クールナイフの意識も沈む。
幾許かして、我に返った。
いつしかクールナイフは鉄片やどす黒い染みが広がる、焦げた大地に立っていた。
ああ――。
声にすらならなかった感歎が裡に零れ落ちた。
「俺は戻ってきたのか……あの後、ここに」
確かめるように呟く。
そして理解したのは、自分がこのまま彼らの装備の一部を持ち帰ったということ。
其処にはもう、それしか残っていなかったから。
思い出した記憶。
力が抜けて膝を付きそうになるのを堪え、指輪を剣に戻して拒絶を受けることで自分を保った。
そうしなければ、あのとき枯らした物が溢れてきそうになるから。
「どうして――」
落とした疑問に答えてくれる者はやはり何処にもいない。クールナイフは暫しその場に立ち尽くし、忘れていた記憶の光景を虚ろな瞳に映し続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
夏目・晴夜
ダークセイヴァーの極寒の街
皆飢えて痩せ細り、なのに領主を心から崇め称えている
この世界では欠伸が出る程に有り触れた街ですね
さっさと通り過ぎますか
大嫌いな幼い頃の私と、一緒にいる白い犬
見てると息苦しく腹立たしい
私は上背も肉も学も名前もありませんでしたから
拾ったお前に名を付けるなんて考えすら浮かばぬ愚図でしたから
名前をあげていれば
可愛いお前と遊んで過ごしたあの時、もっと楽しかったのかも
急に消えたお前を探し回ったあの時、見つけ出せていたのかも
骨だけになったお前を埋めたあの時、名を呼んで泣いてあげられたのかも
名前をあげていれば
それかいっそ僕が食べてあげてたら良かったのかなあ、なんて
ああ下らない
反吐が出る
●君に名前を
冴え渡る夜色の空気と、不気味に光る赤い月。
廃都の境界を越えた先で歪んだ景色は見る間に様相を変えていった。
「ここは……」
廃都とは全く違う景色。夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は周囲をゆっくりと見渡し、この光景が過去の幻影なのだと理解する。
ダークセイヴァーの極寒の街。
其処にはぽつりぽつりと行き交う人々の姿が見えた。決して裕福ではなく、皆飢えて痩せ細っている。それなのに、彼らは領主を心から崇め称えている。
歪でおかしな世界。
だが、常闇が座すこの世界では欠伸が出る程に有り触れた街の光景だ。
「さっさと通り過ぎますか」
普段通りに表情を変えぬまま、晴夜は歩を進めていく。
だが、目を逸らしたいはずの幻影は無慈悲に過去の光景を映し出していった。
ああ、と思わず声が零れ落ちる。
進もうとした晴夜の目の前にはふたつの影があった。
幼い頃の自分。
そして、白い犬。
大嫌いな過去の己の傍に白い犬が寄り添ってくれている。
一緒に居てくれた。きっと、多分――ともだち、と呼べるもの。
息苦しい。
同時に腹立たしくも感じた。
あの頃の自分は上背も肉も学も、名前すらもなかった。
「拾ったお前に名を付けるなんて……」
そんな考えすら浮かばぬ愚図だった、と晴夜は嘗ての自分をそう評した。
お前、としか呼べない。
だから記憶の中のそれは、ただの白い犬という認識のままだった。
もし、名前をあげていれば。
可愛いお前と遊んで過ごしたあの時、もっと楽しかったのかも。
急に消えたお前を探し回ったあの時、見つけ出せていたのかも。
骨だけになったお前を埋めたあの時、名を呼んで泣いてあげられたのかも。
「お前を……、お前に……」
晴夜は幻影に向けて腕を伸ばした。分かっている、この手が容易く擦り抜けてしまうことなんて最初から解っていた。
それでも、其処に少しでも触れることが出来たなら。
もし、名前をあげていれば。
浮かんだ思いをもう一度繰り返す。だが、次に晴夜の中に浮かんだのは違う思い。
――それか、いっそ僕が食べてあげてたら良かったのかなあ。
裡に過ぎった思いを振り払うように晴夜は緩く頭を振った。
やがて晴夜の前から過去の自分と白い犬が消えていく。記憶の波が寄せては返すように様々な過去の光景が蘇っていったが、晴夜はそんなものは今更だと断じた。
そして、晴夜は出口を目指して極寒の街を進む。
「ああ下らない」
反吐が出る、と呟いた彼の眼差しには僅かに揺らぐ感情が映っていた。
大成功
🔵🔵🔵
シルヴィア・グリッターホーン
オズ(f23052)と参ります
なぜこんなことをするのでしょう
つよい力とはよわきをまもるためにあるものだと
女神さまがおっしゃっていましたのに
わたくしには、その都のかなしみしかみえませんが
オズにはなにがみえているのです?
おまえのこころがここでないどこかにあるのなら
その手を優しくとりましょう
だいじょうぶですよ
わたくしのあとをついておいでなさい
もしくは、わたくしがおまえをかかえてゆきます
おまえのひとりやふたり、あさごはんのまえというものですからね
むん、と力持ちアピールです
よかった、もういつものおまえです
ちょっとさびしい気もしつつ微笑んで
背を追い隣に並びます
でも、あるけなくなったらいつでもいうんですよ?
オズワルド・ソルティドッグ
レディ(f22341)と
たぶん生物が全部角生えたもふもふじゃないのと同じ理由だろ
どんな形であれ間違いってのは起きるんだ
…どこにでもな
年の割にいたいけなレディには
お前の方が酷いモンを見てるよ、とだけ
行く手には
奪われる前に奪うことしか知らないくせに
英雄気取りの獣と食い荒らされたモノ
恩讐の重奏
そして誰かが言ったんだ
誰にとっての正しさだ?
……判ってるよそのくらい。判ってるっつってんだろ!
叫んだのは獣か、俺か
不意に人でない手の感触が現実を呼び戻す
恐ろしいことを宣いながら息巻いてるのを一笑に付し
握り返したくなるのを殺して手を離す
ガキじゃねぇんだ、一人で歩けるさ
追憶は置いて行く
この先のギグには必要ないからな
●獣の追憶
繰り返される過去。
ただの幻影と成り果てても尚、凄惨な景色が続く迷い路。
この廃都には無為にも思えるそんな光景が巡り続けているのだという。
「なぜこんなことをするのでしょう」
シルヴィア・グリッターホーン(輝く角の・f22341)は渦巻く魔力の境界を見つめ、疑問を落とした。
その傍ら、オズワルド・ソルティドッグ(火に入る・f23052)も其方を見遣る。
あの境界を越えれば件の迷路に入ることになるのだろう。その間もシルヴィアは不思議そうに首を傾げていた。
「わたくしには、わかりません。つよい力とはよわきをまもるためにあるものだと、女神さまがおっしゃっていましたのに」
「さあな、たぶん生物が全部角生えたもふもふじゃないのと同じ理由だろ」
シルヴィアの言葉に答えたオズワルドは肩を竦めた。
そういうものなのだろうかと腑に落ちていない様子を見せるシルヴィアに対して、オズワルドは言葉を続ける。
「どんな形であれ間違いってのは起きるんだ。……どこにでもな」
そして、二人は歩を進める。
この先に待つ記憶と追憶の世界へと踏み出すために。
世界が不意に暗転した。
そんな感覚が巡る中でシルヴィアは辺りを見渡した。
現れた景色は今までと同じだが、其処には先程までは居なかった者達の姿がある。
『……ああ、ぼうや。私の可愛いぼうや……』
『痛ぇよ、いてぇ……いっそ殺してくれ……殺せ、殺せぇッ!』
『おかあさん! おかあ、ざ……おっ、が、あああ――!!』
ただの肉塊となったモノを抱きしめる母の姿。腹を抉られて致命傷を受けながらも死にきれぬ男の姿。肉親の名を呼びながら八つ裂きにされていく少年の姿。
建物の壁や地面は血に塗れ、色濃い鉄めいた匂いが充満する。
凄惨としか表せぬ光景。
シルヴィアに見えているのは、この都で実際に起こった襲撃の日のことだ。
そんな中、オズワルドは違うものを見ていた。
其処はこれまでの廃都から一変した景色だった。行く手に見えているのは彼の過去の記憶そのままの光景。
奪われる前に奪うことしか知らないくせに、英雄気取りの獣と食い荒らされたモノ。
恩讐の重奏。
そうとしか呼べぬものを前にしたオズワルドは幻影を振り払うように首を振る。
誰かが言った。
――誰にとっての正しさだ?
瞳に映り、耳に届くのは自らが忘れたいと心の奥底で願った光景と言葉。
「……判ってるよそのくらい。判ってるっつってんだろ!」
叫んだのは獣か、俺か。
今と過去とが曖昧に混ざりあったかのように思えた。
しかし、そのとき。
不意に感じた、人でない手の感触がオズワルドを現実に呼び戻す。
それはシルヴィアが差し伸べ、そっと握った手だ。
「オズにはなにがみえているのです?」
わたくしには、この都のかなしみしかみえない。そう話す彼女は問う。するとオズワルドは年の割にいたいけな彼女を見下ろし、敢えて口端を吊り上げた。
「お前の方が酷いモンを見てるよ」
それだけを告げた彼の心はまだ、遠い何処かに囚われているようだ。
そう感じたシルヴィアは更に手を握った。いつも振るう怪力とは違う、優しくあたたかな慈悲のような思いを込めた獣の掌。
「だいじょうぶですよ」
わたくしのあとをついておいでなさい、とシルヴィアは告げる。
シルヴィアの周囲には虐殺の光景が。
オズワルドの周りには恐ろしいことを宣いながら息巻く嘗ての獣が。
それぞれに違うものを見ながらも、二人はすぐ傍に立っている。握られた手から伝わる熱に意識を集中させ、オズワルドは幻影を一笑に付す。
繋いではいても一方的に握られただけの手。
それを握り返したくなる感情を押し殺し、オズワルドは手を離す。
「どうかしましたか。わたくしがおまえをかかえていったほうがいいですか?」
何か気に障っただろうかと思ったシルヴィアはオズワルドを見つめた。そして、むん、と力持ちをアピールしてみせる。
「おまえのひとりやふたり、あさごはんのまえというものですからね」
「ガキじゃねぇんだ、一人で歩けるさ」
断る、と素っ気なく返したオズワルドはもう過去に目を向けていなかった。
「よかった、もういつものおまえです」
何だかさびしい気もしたが、シルヴィアは微笑んだ。
先を往く彼の背を追い、隣に並ぶ。けれどもまだ少しばかり心配もあった。
「でも、あるけなくなったらいつでもいうんですよ?」
「だから歩けるっての。まだ、な」
自分を見上げるシルヴィアをそっと一瞥したオズワルドは行く先を見据える。
追憶は置いて行けばいい。
きっと、この先のギグには必要ないのだから――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フラム・フレイ
こんな迷路、まどろっこしい。
さっさと出口を見つけて終わらせたい。
生まれてから今の今まで全てを忘れてしまいたいですね。
主の為に、主の為に。
皆口を揃えてそう刷り込んで、従順に従って……。
正直、馬鹿みたいなんですよね。
僕は違う。
僕は主の為に命を捧げるつもりなありません。
僕は僕のやりたいように殺ります。
だから今ここで起こっている煩わしい記憶は全て無視をしましょう。
主の為に、主の為に。
みんなみんな五月蝿いな。
今日はいつも以上に頭が痛い。
この記憶に手をかける前に元凶をさっさと殺しましょう。
あーあー、頭が痛い。
●黒き衝動
迷い込んだ追憶の路。
自ら踏み入ったとは云えど、此処に巡っていく景色は不愉快極まりなかった。
痛む頭を押さえフラム・フレイ(黒煙・f14545)は頭を振る。
「こんな迷路、まどろっこしい」
思わず零れ落ちた言葉にはただただ、嫌悪感だけが滲んでいた。
さっさと出口を見つけて終わらせたい。それだけを思いながら進む彼が幻影として見ているのは果てしない記憶の波。
生まれてから、今の今まで。
それらを忘れてしまいたいのだと懐くゆえ、記憶のすべてが対象に成り得る。
――主の為に、主の為に。
皆が口を揃えて云う。そう刷り込まれいるだけだというのに、従順に従う。
「正直、馬鹿みたいなんですよね」
溜息を零して呟く。
その言葉にはやはり厭忌の感情が現れていた。
僕は違う。
僕は主の為に命を捧げるつもりなどない。
僕は僕のやりたいように、殺る。
胸中に沸々と浮かんでくる思いと衝動。
親愛なる誰かの為に、少年だった者は隠れ里ごと名前を燃やしてしまった。あの頃の記憶から作られる景色は忌々しい。
皮肉ではあるが、だからこそ今を歩き続けることができるのだとも感じられた。今ここで起こっている煩わしい記憶は全て無視をしていいのだとフラムは断じる。
――主の為に、主の為に。
まだ声は聞こえる。飽きもせずによくああも口を揃えられるものだ。
「みんなみんな五月蝿いな」
ただでさえ優れない機嫌が更に悪くなっていく。
フラムは顳顬を押さえながら、追憶とは名ばかりの光景から目を逸らすようにして歩を進め続けた。無視をして、無いものとして見ずにいたいというのに、今日はいつも以上に頭が痛くて仕方がない。
ただ、静かに生きたいだけなのに。
この痛みも裡に巡る思いも、ちっとも大人しくしてくれない。
だから、この記憶に手をかける前に元凶をさっさと殺してしまわなければ。
「あーあー、頭が痛い」
少しばかりふらつきながら歩くフラムは奥歯を噛み締めた。
迷い路の出口に辿り着いたとて真に終わるわけではない。不快な光景が更に待ち受けているのだと知りながら――。
大成功
🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
忌まわしい…
忘れたい過去なんてありすぎるわ
見えたのは嘲笑しながら絶望するあたしを笑う白髪の男
妹はお前のせいで死んだと可哀想なものを見る目をして囁く姿
それに激昂して全てを燃やしたあたしの業火
火の海、助けを叫ぶ声、抑えきれなかった負の感情が炎を更に燃え上がらせたあの時の記憶
この空間は所詮まやかし
だったら相手をする必要はないわ
胸は痛むけどあたしの中でもう決着はついてることだから
それにあたしじゃこの炎は消せない
どこまでいってもあたしの炎がインフェルノであることは変わらない事実
でも、そうね
悪趣味すぎて腹は立つから抵抗くらいはさせてもらおうかしら
UCの清冽な蒼焔を放って業火を搔き消しながら出口へ向かうわ
●蒼の焔
冱え冱えとした月。
それに反比例するかのように淀んだ空気。
虚ろな廃都を前にして、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は独り言ちた。
「忌まわしい……忘れたい過去なんてありすぎるわ」
僅かに俯けば、黒玉髄を思わせる射干玉の髪が幽かに揺れる。ありすぎるからこそ何が見えるか未だ分からない。
それでも、と顔をあげた白雪は紛い物の追憶が眠る場所へ踏み出した。
揺らぐ視界。歪む世界。
不意に耳に届いたのは嘲笑する声。其処には絶望した様子で蹲る白雪。更にはそれを見下ろす白髪の男の姿が見える。
これは過去だ。紛れもない、自分の記憶。
そう感じながら俯瞰するようにその光景を見つめる白雪は或る声を聞いた。
――妹はお前のせいで死んだ。
可哀想なものを見る目をして囁く男。
そして、それに激昂した過去の白雪は其処に業火を解き放った。
全てを燃やしてしまえばいい。
絶望に落ちた嘗ての白雪は紅い瞳に炎を宿していた。
火の海。
助けを叫ぶ声。
抑えきれなかった負の感情。
それらが炎を更に燃え上がらせた。あの時の記憶そのままの光景と結末が、此処に映し出されている。
だが、白雪の瞳はしかとそれを映し続けていた。
目を逸らすことも、あの日のような絶望に陥ることもない。何故なら、この空間は所詮まやかしだと識っているから。
「こんなもの、相手をする必要はないわね」
確かに胸は痛む。
しかし自分の中でもう決着はついてることでしかない。それに今の白雪に過去の幻影たる炎を消すことが出来ないとも知っている。
――どこまでいっても、あたしの炎がインフェルノであることは変わらない。
事実を胸に抱いた白雪は先を見遣る。
「でも、そうね」
振り返った白雪は嘗ての光景を一瞥し、害意を持って尖晶石の瞳に映した。
「悪趣味すぎて腹は立つから抵抗くらいはさせてもらおうかしら」
その言葉と共に清冽な蒼焔が迸った。
消せぬはずの過去に猛る紅炎を打ち消すが如く、一面の蒼が巡る。
そして――白雪はそれから一度も振り返ることなく、追憶の迷路の出口を目指した。
大成功
🔵🔵🔵
三咲・織愛
忘れてしまいたい記憶……
たぶん、私には無いけれど
出来るなら思い出したくないものはある
蹴られて、殴られて、ただただ痛くて辛かった時のこと
大切なおねえちゃんが亡くなってしまった時のこと
お義父様がいなくなった時のこと
思い出すと悲しくなるから、出来るだけ思い出さないようにして
でも忘れてしまいたいとまでは思えなくて
それが無くなってしまったら、私が私じゃなくなってしまうから
……それでも、忘れたら何かが変わったりするのかしら
目を閉じて、耳を塞ぐ
忘れたいと思っているものが、自分にあって欲しくないの
何も見えて欲しくないから、弱い気持ちに気付きたくないから
何も見えないことを願って、出口を探します
●私が私である理由
「忘れてしまいたい記憶……」
この廃都では、その光景が見せられるのだと聞いていた。
すぐ先には迷路の入口らしき境界あった。渦巻き、いざなうような魔力の壁を目にしながら、三咲・織愛(綾綴・f01585)は胸元に両手をあてる。
――たぶん、私には無いけれど。
出来るなら思い出したくないものがないというと嘘になる。
だったらきっとそんな光景を見ることになるのだろう。確かな覚悟を抱けたとは云えぬまま、それでも織愛は一歩を踏み出した。
途端に世界が歪み、記憶が滲み出すような感覚に陥る。
思わず目を閉じ、再びひらいた時にはもう、それまでの廃都の景色は消えていた。
代わりに移り変わっていったのは苦しかった時の記憶だった。
痛い。甚い。痛かった。
鈍い衝撃、揺れる視界、身体に刻まれた痛みと痣。ただ、痛いだけ。
悲しい。哀しい。悲しかった。
大切なおねえちゃんにもう二度と会えなくなったと知った時。ただ、苦しいだけ。
苦しい。心憂い。苦しかった。
お義父様がいなくなったあの日のこと。全部がただただ、悲しいだけ。
あの思い出達は思い返しても胸が痛むだけ。
出来るだけ思い出さないようにしていた。けれど忘れてしまいたい、とまでは思えないものでもあった。
きっと――それが無くなってしまったら、私が私じゃなくなってしまうから。
でも、と織愛は思い至る。
だったらどうして今、忘れたいものが巡る迷宮にこの記憶が浮かんでいるのか。
もしかしたら、そう。
「……忘れたら何かが変わったりするのかしら」
零れ落ちた言葉にはっとした織愛は、自分の中に生まれた感情に気付きかけてしまった。しかし織愛はその思いに蓋をするように首を横に振る。
駄目、そんなのは駄目。
だから目を閉じて、耳を塞いだ。
忘れたいと思っているものが自分にあって欲しくない。
何も見えて欲しくないから、弱い気持ちに気付きたくないから。
織愛は駆け出した。
もう何も見えないことを願い、追憶とは形ばかり迷い路の出口を探して――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『屍血流路』
|
POW : 再び動き出さないよう、ひたすら破壊し燃やせばいいだろう。。
SPD : 最奥にいる元凶を倒せばあるいはすべて解決できるだろう。
WIZ : 再生の仕組みを解明すれば怪物を生み出せなくできるだろう
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●嘆き
廃都の記憶、己の記憶。
各々に過去の追憶という名ばかりの光景を視ながら、猟兵達は出口に辿り着く。
其処に見えたのは墓地だった。
中央には慰霊塔。周囲には十字の墓石。
だが、それらは殆どが罅割れ、崩れ落ち、鎮魂や供養の意味を成していない。
そして、墓地周辺には鼻を衝くような匂いが充満していた。その血と腐臭の主は、かろうじて人間のかたちをしているというだけの化け物達だ。
『ああ、あああ、あああああ』
『人、ヒト、ひど……だ……』
『助けて、たす、助け………』
彼らは其々に苦しげな声をあげ、こちらに手を伸ばしてきた。
手といってもそれらはすべて普通ではない。
少女の身体に男の腕が生えているもの。顔半分は女、もう半分の顔は男であるもの。細い足に屈強な男の身体がくっついているもの。少年の声を紡ぐ老人。継ぎ接ぎだらけの身体を蠢かせる、年齢も性別も不詳なもの。
どれもが濁った血を纏い、蠢いている。
これこそが屍血流路。吸血鬼の実験の結果だ。
化け物と成り果てた者達は騒ぎ、群がり、猟兵達の行く手を阻む。地面を埋め尽くす程の無数の化け物達を斃さねば、墓地の向こうにある教会には辿り着けない。
『苦しい、ぐる、ぐるじい……いぃ……』
『お母さん、おがあざん、お母さ――』
『お前もら我らと、同じ、同じ、同じに成れ……』
『殺して、コロ……シテ、殺せ、殺せ、殺せェッ!!』
苦痛と怨嗟の声がこだまする。
悍ましいほどの光景。彼らを終わらぬ苦悶から救う方法はひとつ。
かつて人であった者達を屠り、この世界から解放してやることだけだ。
グラナト・ラガルティハ
酷いものだな…まさしく惨劇だ。
俺が彼らに出来るのは燃やしてやる事だけだ。
跡形もなく消えてしまえるような弔いの炎を…。
【封印を解く】で神の力を限定解除。
石榴石の指輪と蠍の剣を中心にUC【我が眷属の領域】を発動。【属性攻撃】炎で威力を上げる【破魔】を重ねて弔いの力を。
文明には火は欠かせないものだ。
だと言うのに人は時に使い方を間違ってしまうな…今はただ正しき炎をここに。
アドリブ連携歓迎。
セシリア・サヴェージ
わたしが見た幻影よりもこれは……。
このようなことが赦されるはずもありません。リウ・メイファ……必ず断罪します。
UC【闇炎の抱擁】で【範囲攻撃】を行い、彼らを焼き払います。
心苦しいですが、彼らを苦痛から解放するためにもやらなくてはなりません。……助けることができなくて、ごめんなさい。
せめてこれ以上の苦しみを生まぬよう【全力魔法】を使って最大出力で実行します。
そしてこれ以上苦しむ人が現れないように、急ぎ吸血鬼の待つ教会に向かわねば。
●救いと灼滅
「酷いものだな……まさしく惨劇だ」
目の前に広がる惨状に首を振り、グラナトは蠍の剣を構える。
嘆きと苦しみの声、怨嗟や苦悶に満ちた表情。混ぜ合わされた人間だったもの達は泣き叫び、または此方に向けて手を伸ばし、蠢いている。
「わたしが見た幻影よりもこれは……」
セシリアも悍ましい光景を見据えながら暗黒剣を握った。
人の尊厳すら奪われた者。
ただ、人だったとしか呼べぬ存在に成り果てたそれらは、襲いかかってくる様子を見せると同時に助けを求めているように見えた。
偶然にも隣に立つことになったグラナトとセシリアは僅かに視線を交わしあい、それらを屠る決意を其々に抱いた。
「俺が彼らに出来るのは燃やしてやる事だけだ」
「このようなことが赦されるはずもありません。リウ・メイファ……必ず断罪します」
封印を解き、神の力を限定解除するグラナト。
そして、この実験場を作ったという首魁への思いを強めるセシリア。
死角を取られぬよう、互いに補い合う形で二人は力を紡ぐ。
刹那、屈強な身体に少女の脚をつけられた屍人が殴りかかってきた。その動きに気付いたセシリアは暗黒の炎を剣に与え、刃を振り上げた。
「……ごめんなさい」
謝罪の言葉と共に斬り裂かれ、千切れ飛ぶ腕。
其処に漆黒の焔が纏わりつき再生すらできぬよう焼き払う。
敵として立ちはだかる彼らの個々の力は弱い。蹂躙するように剣を振るうのは心苦しいが、これも彼らを苦痛から解放するための一手だ。
同時にグラナトも炎を放ってゆく。
「――我に属するものたちの領域とする」
詠唱と共に周囲の墓石を媒介にしたグラナトは巨大な火炎柱に変換した。近付く化け物達を炎で薙ぎ倒し、その身体を燃やす。
だが、苦しみ悶える少年と女性が混ぜ合わされた屍人は見る間に再生していった。おそらく、その再生力こそが彼らを苦しめる一番の要因だ。
「ならば跡形もなく消えてしまえるような弔いの炎を……」
グラナトは柘榴石の指輪と蠍の剣を中心にして火炎柱に力を注ぎ、其処に破魔の効力が宿るよう魔力を巡らせていった。
これが弔いとなるように。
二人が放つ炎は赤々と、そして闇のように戦場に揺らぐ。
そんな中でセシリアは少女めいた姿をした屍人を見据え、僅かに目を伏せた。きっと彼女も生前は可愛らしかったのだろう。だが、今のそれは継ぎ接ぎだらけの腕と足を奇怪に動かして襲い来るのみ。
『たす、げ、助け、て……』
少女は呻く。淀んだ声で血を吐きながら、懸命に。
「助けましょう。本当の死を以てして」
真の意味での救済には程遠いと分かっていたが、セシリアは化け物少女にそう告げた。永遠の苦しみよりも、一瞬の痛みによる終わりを。そうすることでしか、彼女達を助けてやることは出来ない。
そして、セシリアは暗黒の炎を更に激しく燃え上がらせた。
其処にグラナトによる紅蓮の焔が重なり、周囲のものを蹴散らしていく。
「文明には火は欠かせないものだ。だと言うのに人は時に使い方を間違ってしまうな……だが、今はただ正しき炎をここに」
屍血流路を進むべく、葬送として放つ炎は鮮烈に。
せめて、これ以上の苦しみを生まぬよう。
そして、これ以上苦しむ人が現れないように。
「――招かれざる者よ、闇に抱かれ骸の海に還るがいい」
凛と響くセシリアの声が紡がれ終わった刹那、最大出力で解き放たれた黒炎が激しく燃え上がった。これが自分のできる精一杯の救いだと示すように強く、強く――。
吸血鬼の待つ教会は未だ遠い。
されど、屍血の道を切り開いて進み続ける。それが今の自分達が抱く使命だとして、二人は炎の力を振るい続けてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
樹神・桜雪
【WIZで判定】※絡み・アドリブ歓迎
酷いことする…。
ごめんね、ボクにはあなた達をもう一度殺す事でしか救えない。
UCでもう一度相棒を召喚。再生する仕組みを探ってきて。判ったら無理せずに戻ってきて。
…ボクは大丈夫。相棒が帰ってくるまで頑張るから、さ。
『範囲攻撃』や『凪ぎ払い』で可能な限り数を仕留めようとしてみる。
一撃で終わらせてあげられたら良いのだけど数が多いし、一度に相手した方が良さそう。
相棒が戻ってきたら、一気に仕掛けにいこう。
…こんな風に弄ぶなんて、本当に悪趣味だよ。
哀れな犠牲者に安寧を。
今度こそ安らかにと『祈り』を捧げよう。
●祈りと願い
酷い、本当に酷いことするものだ。
惨劇の最中に肉体を壊され、それでも死にきれなかった者の成れの果て。
それらが今、桜雪の前にいる。
「……ごめんね」
桜雪は彼らに静かに告げ、相棒のシマエナガを空へと解き放った。
彼らは再生能力を持っている。その仕組みを相棒に探ってもらう為だ。
「このままにはしておけないからね。判ったら無理せずに戻ってきて。……ボクは大丈夫。相棒が帰ってくるまで頑張るから、さ」
相棒に呼びかけた桜雪は華桜の名を冠する薙刀を構え、目の前の者達を見つめた。
「ボクにはあなた達をもう一度殺す事でしか救えない」
だから、戦う。
そう宣言した桜雪は華桜の刃を相手に差し向け、一気に薙ぐ。
其処から生み出された衝撃波が戦場を駆け抜けながら、敵として立ちはだかる者を貫いていった。
『痛い、痛い痛い……!』
『やめ、ろ……苦し……あ、ああ』
周囲から苦悶に満ちた声が響き、桜雪の耳に届く。
少女や少年の声。男や女の声。嗄れた老人に、まだあどけなさを残す声まで、様々な苦痛を示す声が聞こえてくる。
吸血鬼にそうさせられたとはいえ、今現在の苦しみを与えたのは桜雪だ。
本当は一撃で終わらせられれば良かった。だが、相手がこれだけ多く、再生能力を持っている以上はそれは叶わない。
斬り裂かれた腹を押さえて呻く者。肥大化した腕を振るって襲いかかってくる者。しかし、桜雪はそれらから決して目を逸らさない。
一度に多くの相手を穿ったからか、桜雪に攻撃が集中していく。
その攻撃は殴る、蹴るなどの単純なものであったが、徐々に彼の力を削っていった。それでも、と身を翻した桜雪は果敢に戦い続ける。
幾度も攻防が巡った先、不意に相棒のシマエナガが彼の肩に止まった。
そして、桜雪ははっとする。
「そっか、あの人達の身体の繋ぎ目……あれを引き剥がせばいいんだね」
再生を遅らせることが出来ると気付いた桜雪は狙いを定める。それが分かれば後は一気に仕掛けにいくだけ。
「……こんな風に弄ぶなんて、本当に悪趣味だよ」
継ぎ接ぎの身体を刃で斬り、素早く千切りながら桜雪は思う。この廃都に潜む者はなんと残酷で悍ましいのか。
そうして桜雪は刃を振るい続けていった。
哀れな犠牲者に安寧を。今度こそ安らかに、と深い祈りを捧げながら――。
成功
🔵🔵🔴
風見・ケイ
むせかえるような死の匂い。
何度嗅いでも、慣れることはありませんね……。
前職でも、猟兵となってからも、きっとこれらかも。
折角あの先を見ることなく済んだのに、少し思い出してしまいそうだ。
私を庇ってあの人が死んだときも、こんな匂いがしたな。
……いや、今は私の使命を果たすとしましょう。
【死と眠りは兄弟】
ひとりひとり……いや、ひとりではないか。
「彼ら」を抱きしめて、夢に誘います。
この苦しみの前では、血など、呪いの声など、気にならない。[覚悟]
歩き続けて向こう岸に辿り着くまで、私の手が届く限り、眠りという安らぎと、死という解放を、彼らに。
せめて最期には、優しい夢を見れますように。[優しさ]
●慈愛の抱擁
むせかえるような死の匂い。
紡がれる怨嗟や苦しみ、助けを求める声とざわめき。
何度嗅いでも、何度聞いても、決して慣れることのないものたち。
「今までも、これからも、きっと――」
ケイは以前に見て感じた光景を思い返しながら、一歩を踏み出した。目の前には蠢く屍人が迫ってきており、肥大化した腕を振り下ろそうとしている。
だが、それが近付く前にケイは拳銃を構え、銃弾で腕を貫く。
『あ、あああ! いだい、痛いぃい!!』
耳を劈くような声が化け物の姿をしたそれから響いた。痛みにのたうちまわるそれからも漏れなく腐臭と血の匂いがした。
折角あの先を見ることなく済んだのに、少し思い出してしまいそうだ。
そんなことを思いながら相手との距離を取ったケイはもう一発、銃弾を放った。
次は心臓に。
相手は再生能力を有しているらしい。ゆえに其処を貫くことで死に至らせるとは思えないが、狙いは正確無比に巡った。
(私を庇ってあの人が死んだときも、こんな匂いがしたな)
ふと浮かんだ思い。
鼻を衝く匂いがどうしてもあの時を想起させてくる。駄目だと首を横に振ったケイは化け物と化したものの足を貫いた。
「……いや、今は私の使命を果たすとしましょう」
自分に言い聞かせながら、ケイは化け物に近付いていった。これまで動きを封じるように銃弾を撃ち放ったのには理由がある。
『うあ、あ、ああ……』
動けずに苦しむ対象の傍にそっと膝を付いたケイは腕を伸ばした。
痛みを与えたことは申し訳なく思う。だが、そうしなければ永遠に再生し続けるという地獄を味わわせるだけ。
ケイは倒れ伏した化け物を抱き締め、そっと告げる。
「おやすみ」
――死と眠りは兄弟。
それは慈愛を示す行為。腕を、胸を、足を貫くことと動けなくさせた対象にしか出来ない、やさしい抱擁。そうでなければきっと、振り払われていただろうから。
ひとりひとり、否、ひとりではない。継ぎ接ぎされた『彼ら』を抱きしめたケイは終わりを告げる夢に誘う。
この苦しみの前では、血など、呪いの声など、気にならない。
歩き続けて向こう岸に辿り着くまで、自分の手が届く限り――眠りという安らぎと、死という解放を、彼らに。
どうか、この腕の中で。
「せめて最期には、優しい夢を見られますように」
そっと告げたケイの言葉と同時に、眠りにいざなう炎が灯った。
そして――死を迎えられなかった者達に今、本当の安らぎが宿されてゆく。
成功
🔵🔵🔴
夏目・晴夜
いいですよ、優しく殺してあげます
化け物の首や余計な部位なんかも妖刀で斬り落とし、
できる限り一人の人間に戻しながら殺して参ります
救いの神がいるのかどうかはあまり興味は無いですが、
このハレルヤがあなた達を地獄から救って差し上げますよ
あなたに名前はあるんですか?
あるなら墓標に刻んであげてもいいですよ
今の私には上背も肉も学も、名前だってありますからね
きっと、多分――ともだち、と呼べたあの白い犬
今の私ならお前を食べた街の奴らの腹を掻っ捌いて肉を取り出して、
残されていた骨と一緒に埋めてあげられたんですがねえ
お前のために何一つ成しえなかった幼い頃の自分、あの愚図
度胸も救いようもない、あのガキが一番大嫌いです
●刻む名前
『痛い、苦しい、いだい、痛……』
『助けて、たす、殺し、て………』
少女らしきか細い声。嗄れた老人の声。苦しみに満ちた人々の声が響く墓地。
晴夜は僅かに肩を竦めた後、それらに語りかける。
「いいですよ、優しく殺してあげます」
悪食を手に取った晴夜はその刃の切先を少女めいた者へと向けた。少女だと断定できないのは片腕が肥大化し、腹部より下が明らかに男のものであるからだ。だが、顔と声は確かに少女だった。
「まずはその腕からですね」
重そうに片腕を引き摺るそれを見据え、晴夜は地を蹴る。
宣言通りに妖刀でまず腕を斬り落としてから刃を切り返し、次に首を落とした。転がり落ちる塊には目もくれず、更に踏み込んで腹部に悪食を突き刺す。
吹き出る血を浴びる晴夜。
その姿は残酷にも見えたが、その実は結合された部位を切り離しているだけ。継ぎ接ぎだらけの屍を元の人間に戻すように丁寧に、そして容赦なく。
『あ、ああ、あ――かみ、さま……』
別の屍人に向き直った晴夜は、男と女の身体が半々に繋げられた形のそれが手を伸ばしてきていることに気が付いた。
神に助けを求めているのだと察した彼は首を振る。
「救いの神がいるのかどうかはあまり興味は無いですが、」
そうですね、と一拍置いた晴夜は刃を振り上げた。
そして、ふたつの身体を両断するように妖刀をひといきに振り下ろす。
「このハレルヤがあなた達を地獄から救って差し上げますよ」
言葉が紡がれ終わった刹那、目の前の影が地に伏した。これで左右が切り離せただろうかと相手を見遣ったとき、晴夜は違和感をおぼえる。
再生している。
確かに斬ったはずの身体が蠢き、結びつきはじめていた。
「やれやれ、そういうことですか」
それらの攻撃は愚鈍で、此方の一閃を避ける判断力もない。だが、その驚異的な再生力が彼や彼女らを生き長らえさせているのだ。
「あなたに名前はあるんですか?」
『名前、な、なま、え……ジェ、シ――』
晴夜が不意に問いかけると男だか女だか分からない声が返ってきた。上手く聞き取れはしなかったが、あるなら墓標に刻んでやろう。今の自分には上背も肉も学も、名前だってあるのだから。
屍を斬り裂き、千切りながら晴夜は思う。
きっと、多分――ともだち、と呼べたあの白い犬。
今の自分ならあの子を食べた街の奴らの腹を掻っ捌いて肉を取り出して、残されていた骨と一緒に埋めてあげられた。
もうそれは叶わないから、今は目の前の存在をそうしてやろう。
「気に入りませんね」
この状況を作り出した吸血鬼も、そしてあの街の奴らも。
だが、一番大嫌いなのは――何一つ成しえなかった幼い頃の自分、あの愚図。度胸も救いようもない、あのガキ。
それにしても空腹だ。ああ、空腹だ。
胸中で呟いた晴夜は再び悪食を振るい、死すべき者に仮初の救いを与えていった。
大成功
🔵🔵🔵
フラム・フレイ
ええ。人ですよ。
それにしてもなんだこの光景は……。
気持ち悪い。頭痛が酷くなりそうだ。
易々と殺されるわけないでしょう。
僕が殺す。
お前達もかつては人だったのでしょう。
一度殺してもう一度人として生まれて来るのが良いと思います。
僕はそう思います。
だってこんな場所で化け物として生きるのは辛いでしょう。
痛みすら感じないくらい一瞬で
辺りに氷属性の雷を降り注ぎます。
空から氷の槍ですよ。
急所を貫かれたら一瞬でしょう。
痛みすら感じない、考える暇もなくお前達は生まれ変わるんだ。
殺しても頭痛は治らない。
嫌な物を続けて見るからこうなるんだ。
さっさと終わらせよう。
●死なずの屍
人だ、人だ、人間だ。ヒトだ。
ざわめく声が口々に此方を呼び、暗い眼孔の奥に鈍い光を宿らせた。
「ええ。人ですよ」
答えたフラムは蠢くもの達を見遣り、口許を押さえた。聞いていたとは云えど実際に目にすると悍ましいとしか言いようがない。
「それにしてもなんだこの光景は……気持ち悪い」
自分に呼びかけたものだけではなく、見渡したすべてにそういったもの達がいる。顔半分が老人の女性。両腕が別々の人間のものであり、バランスが取れず上手く歩けない少年。足だけが肥大化したもの。
そんなものを見せられている現状、普段から患う頭痛がもっと酷くなりそうった。
そして、それらは此方を苦しみのままに襲いかかってくる。
『お前も同じ、に、なれ……!』
「易々と殺されるわけないでしょう」
振るわれる腕をとっさに避け、フラムは首を振る。振り下ろされた腕が地面を穿つ中、フラムは魔力を紡いでいった。
「僕が殺す」
彼らもかつては人だったのだろう。
ならば一度殺して、もう一度人として生まれて来るのが良いはずだ。こんな場所で化け物として生きるのは辛過ぎる。
自分はそう思うのだと断言して、フラムは力を解き放った。
――痛みすら感じないくらい一瞬で。
氷を思わせる鮮烈な雷の一閃が標的を貫き、化け物と成り果てたものを崩す。
それは喩えるならば空から振る氷の槍。そんなもので急所を貫かれたら一瞬で果て、塵と化すような一撃だ。
「痛みすら感じない、考える暇もなくお前達は生まれ変わるんだ」
これで彼らを倒していけばいい。
そう考えたのも束の間。
『お前も、同じ、に……なれ……』
先程聞いた言葉が繰り返されたかと思うと、倒したはずのものがぐずぐずと奇妙な動きをして再生しはじめたではないか。
「……そういうことですか」
フラムは理解した。
彼らの力は弱い。それゆえに倒すのは簡単だ。しかし、驚異的な再生能力を付与されているからこそ死にきれない。
肩を竦めたフラムはもう一度、氷雷槍を降らせてゆく。
制御しづらいこの力がたとえ暴走したとて、死なぬのならばこの力で何度でも殺すだけ。そうすればいつかは完全なる死を与えることが出来るはずだ。
だが、殺しても殺してもフラムの頭痛は治らない。
嫌な物を続けて見るからこうなるのだろう。きっと、そうに違いない。
「さっさと終わらせよう」
落とした言葉は虚空に消える。
そうして、フラムは更なる魔力を振るっていった。
成功
🔵🔵🔴
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
……吸血鬼のやることは大概にして悪趣味だが、これはまるで地獄の体現だな
そうなってしまっては、どうしようもなかろうな
救いとは言うまい。命を奪って救いだなどとは宣えん
だが、安心しろ。『生きる』苦痛は終わらせてやる
起動術式、【呪纏】
ありったけの呪詛を叩き込んで焔に変えて、出来る限り焼き払う
終わらない苦しみとは違って、熱いのはすぐ終わる
……幸か不幸か、呪詛を作り出すに必要なものは揃っているからな
救われたいとはいえ、本当ならば死にたかないだろう
私とて、死にたくなかったからここまで生きて来たのだ
だが、悪いな。これ以外には方法も思いつかん
全て終わった後で、せめて弔ってやれりゃあ良いが
●弔いには程遠く
蠢くもの。それは嘗ては人間だったもの。
殺す、助けて、お前も、痛い、苦しい、殺せ――。
木霊する様々な声を聞き乍ら、ニルズヘッグは呪詛より呼び出す赤い剣を構えた。
「……吸血鬼のやることは大概にして悪趣味だが、これはまるで地獄の体現だな」
よく話に聞く地獄。
それに形があるのかは分からないが、あるとすればこのような光景なのだろう。
人の姿を成してはいるが、決して人ではないもの。ふらつきながら此方に近付き、肥大化した腕を振り下ろそうとする人影。
それを剣で受けてから身を翻し、ニルズヘッグは鋭い眼差しをそれらに向けた。
『殺して、コロ……シテ……』
縋るように手を伸ばす者は悲痛な面持ちでそう告げた。元は女性だったらしき顔。その眼窩には何も残っておらず、満足に物を見ることもできないだろう。
「そうなってしまっては、どうしようもなかろうな」
ニルズヘッグは暗い瞳の奥を見据える。
今から行うことを救いとは言うまい。命を奪って救いだなどとは宣えない。そう自覚しているからこそ、冷静でいられる。
「だが、安心しろ。『生きる』苦痛は終わらせてやる」
――起動術式、呪纏。
宣言したニルズヘッグは自らに溜め込んだ呪詛を解放していった。振るわれた腕を斬り裂き、ありったけの呪詛を叩き込む。
呪詛は焔に変え、刻んだ傷口からすべてを焼き払うが如く迸らせた。
終わらない苦しみとは違って、与えられる熱は一瞬。
「……幸か不幸か、呪詛を作り出すに必要なものは揃っているからな」
焼き払われ、塵と化した影を見遣ったニルズヘッグは静かに呟いた。己に宿るもの、そしてこの惨状。
穢れも呪いも更に積み重なっていくかのようだ。
そして、ニルズヘッグは再び呪詛を巡らせてゆく。たった一体だけではなく、未だ苦しむ異形達に終わりを与えるために――。
救われたいとはいえ、本当ならば死にたくはないだろう。
自分とて死にたくなかったからここまで生きて来たのだと、先程の幻影を視てから改めて感じていた。
「だが、悪いな。これ以外には方法も思いつかん」
燃やし、滅ぼし、跡形もなく葬る。
ただこうすることしか今は出来ぬだと告げ、ニルズヘッグは力を紡ぎ続けてゆく。
「全て終わった後で、せめて弔ってやれりゃあ良いが」
待っていてくれ、と亡骸に告げながら行く先を振り仰ぐ。其処には荘厳な雰囲気を纏う教会の尖塔が見えていた。
ニルズヘッグは黒炎を纏い、道を塞ぐ者を焼き尽くしていく。
きっと、間もなくだ。
惨劇を生み出した吸血鬼が潜むという彼処に辿り着くまで、後少し――。
大成功
🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
アオイ(f04633)と合流。
二人同じくここに引かれるものがあるのだろう。
しかし全く度し難い光景だ。アオイに見せたいものではないな、悲しい顔をするだろうから。
私は血の匂いは好むが、腐臭はそうではない。すぐに終わらせよう。
アオイの援護を受けつつ、おもむろに跳び込めば踊るように刺剣を繰り出す。歪められた者たちの死の間際をせめて美しく、血の花を咲かせてやろう。そして葬送黒血の炎で燃え上がらせる。
あれは悪戯好きなのだろう。だがそれで済むものではないな。
首を洗って待っているがいい。
アオイ・フジミヤ
友達のネフラ姉さん(f04313)と
惨劇、だなんて言葉では伝えきれない悪夢のような悍ましさ
命を玩具みたいに繋ぎ合わせ
歪ませて
悪戯に苦しめるだけの空間
早く終わらせてあげよう
前線のネフラさんをサポート
Kanaoaの虹の霧で彼女の周りの敵の目くらまし
霧を氷の粒に変えて敵を巻き込み凍結させる、もしくは動きを鈍らせる
避けきれない攻撃は霧を氷の板へと変えて盾代わりに
Naluで自分も攻撃しつつ
悲しい敵の手を払うのも苦しくて
少しくらい傷ついてもいい、危険にならない限り触れさせたい
私には生きる理由があるから
大事な人がいるから
一緒には行けない
でも最後に少しのぬくもりがあってもいいと思うから
骸の海でおやすみなさい
●虹の霧に花を手向けて
同じく、この場所に引かれる由縁があるのだろう。
ネフラとアオイは今、背中合わせになりながら周囲の墓地を見渡していた。
「大丈夫だったか、アオイ」
「ええ、ネフラ姉さんこそ」
「問題ない。だが……真に問題であるのはこやつらだな」
互いの無事を確かめあった二人の周囲には、何体もの蠢く実験体――嘗てはヒトであったもの達が近付いてきている。
一度は血棘の刺剣や七節棍で切り裂き、薙ぎ払った。
だが、すぐに再生を始めたそれらは死なぬまま襲いかかってきたのだ。
『いだい、痛い、いた……』
『う、うう、ぐあああ……』
それらは継ぎ接ぎだらけの身体から、少女の声や男の声を紡ぎ出した。どれもが苦悶に満ち、この世に絶望しているような声色だ。
惨劇、だなんて言葉では伝えきれない悪夢のような悍ましさ。
命を玩具のように繋ぎ合わせ、歪ませた存在。それらをただ悪戯に苦しめるだけの空間からは目を逸したくなるほどだと、アオイは感じていた。
「全く度し難い光景だ……」
ネフラも肩を竦め、周囲の者達の悍ましい容貌を見遣った。
本当は背を預けているアオイに見せたいものではない。今は見えないが、きっと悲しい顔をしているだろうから。
「……早く終わらせてあげよう」
「ああ、やるしかないな」
アオイが落とした声に頷き、ネフラは地を蹴った。
ネフラとて血の匂いは好むが腐臭はそうではない。彼女が語ったようにすぐに終わらせようと決め、ネフラは屍人の中に飛び込んだ。
其処に迸ったのはアオイが全周囲に向けて放った虹の霧。周りの敵の目くらましとして放たれた力が巡る中、ネフラは踊るように刺剣を繰り出す。
一瞬で一体を突き刺し、次の一瞬で二体目を斬り裂く。虹の霧の中でうまく此方を捉えられない様子の異形達は次々と倒されていく。
同時にアオイも七節棍を構えて敵を穿ちに向かった。
碧、藍、紺と色を変える棍は容赦なく振るわれる。途中、敵の腕が振り下ろされたがそれを払うことすら苦しかった。
だが、此処で自分が倒れてはいけないことも分かっている。
アオイは霧を氷の板へと変えて盾代わりにすることで一撃を防いだ。そして七節棍を振るう勢いに乗せ、霧を氷の粒に変えて敵を巻き込んだ。凍結させ、動きを鈍らせた敵へとネフラの一閃が解き放たれる。
だが――。
「また、再生してる……?」
「そのようだな。気をつけろ、アオイ」
倒したはずの異形が蠢きながら立ち上がってきたことで二人は警戒を強める。すると化け物達は泣き出しそうな声を絞り出した。
『助……け、て……』
『もう、生きたぐ、ない、もう……』
その言葉に胸が痛んだ。
それらから伸ばされる腕は攻撃のためではなく、救いを求めるための手だ。
「そうか、分かった」
ネフラは頷き、歪められた者の死の間際をせめて美しく彩れるように刃を振るい返し、血の花を咲かせてゆく。そして、葬送黒血の炎でその身体を燃え上がらせる。
まるで、赤い花が墓地に手向けられたようだった。
アオイは怯まずに立ち向かったネフラの姿勢に後押しされた気がして、自らも敵へと飛び込んだ。伸ばされる手をそっと握り、思いを込める。
ごめんね。
告げた言葉と同時にアオイは虹の霧で異形を――嘗て少女だった者を葬った。
生きたくない、と少女は言った。
そう思うに至るほどの苦しみから解放してあげたい。けれども、自分には生きる理由があるから、大事な人がいるから、一緒には行けない。
それでも最後に少しのぬくもりがあってもいいと思うから。
「骸の海でおやすみなさい」
アオイが告げた言葉と同時に異形の少女が倒れた。其処にネフラが重ねた血の炎が燃え盛り、死にたいと願った者を葬った。
周囲に群がっていた者すべてを倒した二人は、先を見据える。
「行こうか、アオイ」
「……行きましょう」
見つめる先には荘厳な教会に座す尖塔が見えた。彼処に、リウ・メイファがいる。そう感じたアオイが掌を強く握り締める中、ネフラは歩き出す。
「あれは悪戯好きなのだろう。だが、それで済むものではないな」
――首を洗って待っているがいい。
そう呟いたネフラに続き、アオイも一歩を踏み出していく。
未だ、この墓地には救われぬ者が蠢いている。それらを屠り、葬送しながら進む先に待つものへの思いを馳せながら。しっかりと、地を踏み締めて――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
葬ってあげるのが優しさってことかしら?
そんな優しさ持ち合わせてないんだけど仕事なら仕方ないわ
いち早く死にたい子からあたしの前に立ちはだかりなさい
一思いに貫いてあげるから
全力魔法のUCで一気に串刺しにするわ
必要なら2回攻撃と組み合わせて1度の苦痛で済むように、確実に
でもそうしてあげられるのは死にたがってる子だけよ
祈りを捧げてあげるのもその子たちだけ
此方を同じ化け物に引きずり込もうとするなら足蹴にするわ
可哀想だって同情はするけど巻き込まれてあげるほど親切じゃないの
ごめんなさいね
貴方達をそんな身体にした元凶は撃ち抜いてあげるわ
必要以上にあたしの行く手を阻まないでくれるかしら
まだ大勝負が残ってるのよ
●唯、迷わずに
蠢き、呻き、助けを求め、死を与えようとする者達。
それらは嘗ては人間だったもの。即ち、もう人間ではないものとも呼べる。
「葬ってあげるのが優しさってことかしら?」
白雪は此方に群がろうとしている異形達を見渡し、軽く肩を竦めた。生憎、自分はそんな優しさなど持ち合わせていない。
しかしこれが仕事だというのならば致し方ない。
『助けて……助け、て……』
『殺してくだ、さい……お願い……』
投げかけられる声は敵意ではなく懇願だった。そう、と頷いた白雪は黒剣を手にする。その切先を差し向けた彼女は目の前の存在に告げる。
「いち早く死にたい子からあたしの前に立ちはだかりなさい」
一思いに貫いてあげるから。
そんな言葉が落とされた刹那、影雪を思わせる尖晶石の棘槍が白雪の周囲に現れた。迫りくる一体には自ら黒剣を向け、助けてと願う他の者には槍を解き放つ。
ひといきに串刺しにして斬り裂く。
白雪は一片の容赦もなく、異形達を葬るために動いた。
胸を抉り、腕を千切り、再生すら出来ぬようバラバラにする。それは一度の苦痛で済むようにと考えたゆえの行動だ。
少女だったものや、少年だったもの。倒れ伏したそれらを一瞥してから白雪は別の方向に目を向けた。其処にはこれまで屠ったものとは違う行動に出ている、暴れ狂う異形がいる。
お前らも自分達と同じになれと告げ、襲いかかってくる者だ。
「退きなさい」
迫ってきたそれを足蹴にした白雪は無慈悲な言葉を掛けた。
一思いに殺してあげられるのは死にたがっていた子達だけ。祈りを捧げてあげるのも、無害だった者だけ。
化け物に引きずり込もうとするならば、何の感情も要らない。
「可哀想だって同情はするけど巻き込まれてあげるほど親切じゃないの」
冷ややかに告げながら、白雪は力を紡ぐ。
尖晶石の棘槍は肥大化した腕を振り上げた者を串刺しにし、地面に縫い付けていった。暴れる異形に黒剣を突き刺し、白雪はそっと口をひらく。
「ごめんなさいね。貴方達をそんな身体にした元凶は撃ち抜いてあげるわ」
だから、邪魔をしないで。
必要以上に行く手を阻むのならばただ切り裂き、貫くだけ。白雪は冷徹にも思える動きで以て、苦痛を与えようとしてくる異形に痛みを与え返した。
「まだ大勝負が残ってるのよ」
そう言って白雪が見遣る先――。
其処には、苛烈なデスゲームを好むという吸血鬼が控える、教会が見えていた。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
うっ、なんという匂い…なんという、光景…
これは、ひどすぎる…
救うことはもうできないけれど、
せめて、安らぎと解放を…
墓地を歩いて教会へ目指す
途中に出会う「者」に、炎の矢を紡ぎ、貫いて、焼き尽くす
灰にでもなれば、この悲しき再生の地獄から解放されるでしょう
攻撃する時は頭部、胸部とかいろいろな部位を狙ってみて、再生の具合を観察
それとも、コアらしいものがあれば、そこを狙ってみる
可能ならあまり苦しめたくないけれど…
声には耳を傾げない
あまりの苦痛に、記憶と理性を失った者だから
さっさと倒すのは、唯一の救い方ですね
アドリブ歓迎
連携を心がける
セルマ・エンフィールド
(無言で屍血流路の化け物を見やる)
※思想
「人を喰らう」ということに関しては悪とは思っていません。私たちが動物を食べるように吸血鬼は人を食う、そういう生き物、それだけのことです。
無論、そういう生き物であるからこそ、私たちが生きるために討つ必要はありますが。
……ですが、苦しめることを目的とし、怨嗟を楽しむ者は……見ていて、非常に不快です。
あなたたちと同じに成ることも浄化することも私にはできませんが、せめて一瞬で終わらせましょう。
【絶対氷域】を発動、半径60m以内のものを瞬時に凍てつかせ、きっちり全てを銃で撃ち砕いていきます。
……ここに来てよかった。
あまり表情が変わらないながらも殺気を滲ませ進みます
●貫く炎と送る氷
噎せ返るような腐臭。
夥しい血。蠢く異形。助けて、殺せ、と響く様々な声。
「なんという匂い……なんという、光景……」
思わず口許を押さえたレザリアはふらつきそうになり、咄嗟に地面を踏み締めた。
これは、ひどすぎる。
ただそんな思いが胸を衝き、レザリアは息を吐く。その近くではセルマがただ無言で凄惨な光景と化け物達を見つめていた。
『ぐ、苦し……痛い、い……』
『殺せ、殺せ、殺せェ……』
少年の声をした老婆が呻く。ぜえぜえと肩で息をしながら手を伸ばしてくる少女が苛立った言葉を投げかけてくる。片腕がないもの。左右の足が互い違いに縫い付けられ、継ぎ接ぎの身体とされているもの。
様々な異形がレザリアとセルマの前に迫っている。
地獄絵図だ。
ただ、そうとしか思えない中でセルマは銃を構えた。
人を喰らう、ということに関しては悪とは思っていない。自分達が動物を食べるように吸血鬼は人を食う、そういう生き物。
ただそれだけのこと。無論、そういう生き物であるからこそ自分達が生きるために討つ必要がある存在だ。
ですが、と小さく口にしたマスケット銃の先にある刃を異形に向ける。
「苦しめることを目的とし、怨嗟を楽しむ者は……見ていて、非常に不快です」
その言葉は彼らではなくこの状況を作った吸血鬼に向けられていた。
はたとしたレザリアは手にしていた杖を握る。
いつまでも、この光景に心を揺らされていてはいけない。助けて、と呼ぶ声だって聞こえる。それならば此処で望み通りに葬るだけだ。
「救うことはもうできないけれど、せめて、安らぎと解放を……」
立ち塞がる者を見据え、レザリアは魔法の矢を解き放った。その炎は首魁が待つという教会への道をひらくように鋭く、異形達を貫く。
セルマもレザリアの援護になるよう絶対氷域を発動させていった。
刹那、辺り一帯が瞬時に凍てつく。
「あなたたちと同じに成ることも浄化することも私にはできませんが、せめて一瞬で終わらせましょう」
凍りついた異形は動きを止められてゆく。
だが、みれば彼らはじわじわと再生していっているようだ。一時的に斃すのは簡単だ。しかし、驚異的な再生力が彼らを死に至らせることを許さない。
それなら、とセルマは銃口を向けた。同じくレザリアも再び炎の矢を放っていく。
凍らせ、砕き、焼き尽くす。
炎と氷。
相反するようであっても二人の力は相互に作用しあっていく。
凍らせて痛みを鈍らせ、其処から灰にする。
そうすればこの悲しき痛みと再生の地獄から解放されるはずだと信じて、レザリアは力を振るってゆく。
頭部、胸部、腹部。再生されても様々な部位を狙い、穿つ。
「可能ならあまり苦しめたくないけれど……」
「誰がどうやっても再生するのなら、致し方ありません」
セルマもまた、苦しむ者達を撃ち貫いていった。助けて、苦しい、と叫ぶ悲鳴。耳を塞ぎたくなるほどの声にもしかと応えるように――。
反して、レザリアは声に耳を傾けない。
その理由は相手があまりの苦痛に、記憶と理性を失った者だから。
「早く、終わりを……」
レザリアとセルマは全く正反対の姿勢を貫き続けているが、それもまた其々の在り方だ。二人で共に屍血流路を切り開いていく中、セルマはふと思う。
(……ここに来てよかった)
何故なら、葬ることが出来るから。この場に満ちる苦痛も、怨嗟も、そして――それを引き起こした者も、すべて。
殺気を滲ませ進む先。
吸血鬼が待つ教会への道は少しずつ、されど確かに拓かれていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
緋翠・華乃音
――蝶とは、還る魂の象徴である。
還りたいと願う場所まで連れて往き、そこでその魂を解放する。
かつて目の前で命の灯火が消えつつある友に、たった一つ託されたものだ。
多くの命を奪い、それと同じくらい仲間も奪われた。
だから――俺は蝶の役割を担った。
十字は切らない。
祈るべき神は、もういない。
この人であった者達はこの場で全て解放してやろう。
後は俺の知った事ではない。
俺が本当に気に掛けるのは、かつての友や仲間だけだから。
瑠璃色の蝶の群れが舞う。
人であった者を、その身体の焔で灼いていく。
安らかな眠りを一々祈りこそしないけれど、
誰にでもせめて苦しみから解放される権利はあるだろう。
心に一瞬、鈍い痛みが過った。
●瑠璃と星焔
――蝶とは、還る魂の象徴である。
還りたいと願う場所まで導いて往く。そして、そこでその魂を解放する。
それは嘗て目の前で命の灯火が消えつつある友に、たった一つだけ託されたもの。
多くの命を奪い、それと同じくらい仲間も奪われた。
だから――と華乃音は目の前の者を見据える。
「俺は蝶の役割を担った」
ただ事実を宣言するように、告げた言の葉。
それはこの墓地で蠢く悲しき異形達を屠ると決めた思いの顕れでもあった。
十字は切らない。
何故なら、祈るべき神はもういないから。
『助けて……もう、いや……』
『生ぎ、生きたく、ない……』
『……殺せ、殺して、くれ――』
異形達は口々に救いを求め、こんな場所には居たくないと嘆くかのように腕を伸ばしてくる。それは即ち、蝶としての役割を求められているということだ。
分かった、と静かに頷いた華乃音は腕を伸ばし返した。だが、その手で彼らに触れることはない。
代わりに周囲に広がったのは瑠璃色の蝶の群れ。
「解放してやろう」
人であった者達はこの場で、全て。
それはただ望まれたから行うこと。後は俺の知った事ではない、と華乃音が胸中で独り言ちる理由はたったひとつ。
己が本当に気に掛けるのは、かつての友や仲間だけだから。
そして、瑠璃色の蝶は舞う。
嘗ては人であった者を。今は人とは程遠い者の身体を、焔で灼いていく。
赤い月の禍々しさが満ちる昏い世界。其処にひとときだけ、星空のような瑠璃の炎が舞い上がった。
全て燃やされ、塵となっていく。
其処に安らかな眠りを一々祈りこそしないが、それでも――誰にでも苦しみから解放される権利はあるはずだ。
そのとき、華乃音の心に一瞬、鈍い痛みが過った。
されどそれを無かったことのように振る舞った彼は歩き出す。
背を向けた彼はもう振り返らない。
後は瑠璃の蝶が、死を望んだ彼らを還りたいと願う場所まで連れて往くだろう。
成功
🔵🔵🔴
アウレリア・ウィスタリア
ヒトがこんなにも……
えぇ、殺しましょう
ボクが焼き尽くしましょう
【蒼く凍てつく復讐の火焔】
鞭剣に火焔を纏わせ、周囲を凪ぎ払いましょう
全てを凍てつかせましょう
ボクにできるのはせめてこれ以上の苦しみがないよう
そう祈りを込めて一瞬で凍りつかせ一瞬で砕くこと
鎮魂の舞を奏でるように
鎮魂の歌を響かせるように
せめての祈りを込めて前に進みましょう
ボクは復讐者
だけど今だけは救済者となりたい
この地に縛られ汚された人々
彼らの魂が安らかに眠れますように……
復讐の火焔、今だけは救済の灯りとなれ
アドリブ歓迎
●凍てつく屍路の先
「ヒトがこんなにも……」
人が混ぜ合わされ、異形とされてただ生かされる実験場。
片腕が肥大化した者。細い足では上半身の屈強な体を支えきれず、幾度も転びながら這い蹲る者。腹部が抉れている者や、目が潰されている者まで。
どうしてこのような非道が行えるのか。
残酷だと表わすだけでは足りないほどのものが、此処にはあった。
その光景を見つめるアウレリアの裡には暗く重い感情が浮かんでいる。しかし彼女は決して目を逸らさず、紡がれ続ける苦痛の声を聞いていた。
『ああ、あ……殺して、くれ……』
『痛いよ、痛いよ、痛いよぉ……』
苦しみに暴れる者もいた。ただ苦悶に耐えるように蹲る者もいた。
皆それぞれに違うが、ただひとつ共通しているのは、死を望んでいるということ。
「えぇ、殺しましょう」
頷いたアウレリアは一歩、静かに踏み出した。
それが望まぬ生であるというのならば、還りたいのだと願うのなら。
「ボクが焼き尽くしましょう」
蒼く凍てつく復讐の火焔――フリージングブレイズ。
言葉と共に鞭剣に火焔を纏わせたアウレリアは一気に周囲を薙ぎ払った。絶対零度の蒼は炎でありながら、全てを凍てつかせながら迸る。
それによって異形達が燃やされ、次々と倒れていった。
しかしその冷たさは痛みを鈍らせている。痛い、苦しい、という苦悶の声すら零れさせぬまま、アウレリアは彼らを屠っていった。
彼らを真に救えたとは言えない。
自分にできるのはせめてこれ以上の苦しみがないよう、祈りを込めて一瞬で凍りつかせて一瞬で砕くことだけ。
鎮魂の舞を奏でるように。
鎮魂の歌を響かせるように。
ささやかでも、精一杯の祈りを込めてアウレリアは前に進んでゆく。
――ボクは復讐者だ。
そのように自覚するアウレリアだが、この瞬間に齎していく蒼の火焔には持てる限りの慈悲を込めていた。
今だけは、彼らにとっての救済者となりたい。
「この地に縛られ汚された人々よ、アナタ達の魂が安らかに眠れますように……」
どうか。
嗚呼、どうか。
復讐の火焔、今だけは救済の灯りとなれ。
願い、祈り続けるアウレリアは力を振るい続ける。この先の教会に待つ諸悪の根源に辿り着くために、ただ懸命に――。
成功
🔵🔵🔴
ニコラス・エスクード
死した都、滅びた街
その過去が狂乱の儘に踊り狂っているのだ
惨劇は色濃く、非運に悲運が追い重なる
だが全ては在った事だ
過去は過去に過ぎない
そう、過去は過去にて終わらねば為らぬ
彼奴等は廃都の遺物か
彼奴等は理無き化け物か
否だ
その姿形が保たれていなくとも
人だ、人間だ
人は人として死なねばならぬ
死者は過去へと戻らねばならぬ
この身は報復者の盾であり、刃である
故に、確と殺してやろう
正しく死者へと戻してやろう
蹂躙された人としての尊厳を取り戻す為
嘲弄された魂の慟哭を晴らす為に
その怨嗟も、その悲哀も
ただの一片すら残さず
ただの一人すら遺さず
人が人足らん為に
我が刃にて、喰らい尽くしてやろう
●断つべきもの
死した都、滅びた街。
その過去が狂乱の儘に踊り狂っている。
敵の力によって過去の凄惨な記憶が映された迷路。其処を抜け、その光景を見てきたニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は出口である墓地に辿り着いた。
嘗て、過去にあった惨劇よりも酷い。
そう感じたのは死すよりも恐ろしい運命に囚われた人々が此処に蠢いていた故。
惨劇は色濃く、非運に悲運が追い重なる。
だが全ては在った事だ。
過去は過去に過ぎないのだとして、ニコラスは無骨な両手剣を握った。
『ああ、誰か……助けてくれ……』
『いや、嫌、もう嫌ぁ、あああ……』
『痛い、苦しいよ、お兄ちゃん……』
目の前に立ち塞がる異形達は口々に苦しみを言葉にしていた。あれは過去に殺されていたはずの者達だ。望まぬ生を与えられ、今に生かされている者。
「――そう、過去は過去にて終わらねば為らぬ」
静かに呟いたニコラスは鎧兜の奥からそれらを見据えた。
彼奴等は廃都の遺物か。
彼奴等は理無き化け物か。
否だ。
その姿形が保たれていなくとも人だ。確かに、人間だ。
なれば人は人として死なねばならぬ。死者は過去へと戻らねばならぬ。死した者が眠る墓地で生き続けるという矛盾した苦しみは取り払わねばならぬ。
ニコラスが刃を向けた先。
其処には此方も同じ屍人の仲間にさせようと襲い来る異形がいた。
彼らも苦しいのだろう。暴れる他に感情の向ける先を見つける事が出来ない儘でいるのだろう。ニコラスは首落としの刃を向け、その人を迎え撃つ。
敵の動きは鈍い。
振るわれた肥大化した腕を断頭台の刃が断った。其処から刃を切り返したニコラスはその首を落とす。それは苦しみより解放する慈悲の一断ちだ。
――この身は報復者の盾であり、刃である。
そう自覚するニコラスはそれ故に、確と殺してやるのだと心を決める。
正しく存在せぬのならば、正しく死者へと戻してやるのみ。
蹂躙された人としての尊厳を取り戻す為。
そして、嘲弄された魂の慟哭を晴らす為に。
「その怨嗟も、その悲哀も、ただの一片すら残さず、ただの一人すら遺さず――」
ただ、人が人足らん為に。
振るい上げた首落としも亦、その名に相応しく彼らの首を落とす。
何体もの異形が襲い来ようとも彼は決して怯まずに剣を振るい続けた。今はただ最後の一人になるまで戦い続け、この刃で正しき姿に戻していくだけだ。
「我が刃にて、喰らい尽くしてやろう」
戦場に落とされた言葉は低く、重く――されど確かな意志を宿して響いていった。
大成功
🔵🔵🔵
サリア・カーティス
【POW】
……っ!
(人狼の嗅覚には堪える血と腐臭に顔を顰める)
(それだけではなく、目の前の光景は、先程見た館の幻影を想起させて)
……私はこの先のオブリビオンを殺しに来たのですわ。今は、その事だけを考えなくては。その為にも、まずは……
ネクロオーブを変化させ【地獄華乱舞】で化物を燃やし尽くしましょう。それでもまだ動いたり取りすがってくるのであれば【怪力】で引き剥がすなり鉄塊剣を振り回して【薙ぎ払い】ますわ。
多少の痛みや燻る炎は【激痛耐性】で耐えましょう。
今は、進むことだけ考えなければ。
(いつもなら向ける犠牲者への最低限の憐憫すらなく)
(見えた記憶らしきものを振り払うことしか彼女の頭にはなかった)
●苦しみの記憶
「……っ!」
その光景を見た時、サリアは思わず顔を顰めた。
異形の人、ひと、ヒト。それだけではなく、人狼の嗅覚には堪える血の匂いと腐臭が鼻を衝いたからだ。
更に目の前の光景は、先程に見た館の幻影を想起させてくる。
重なる記憶と景色。地獄絵図とも呼べるそれらはサリアの心を酷く揺さぶった。
だが、怖気付いてはいられない。
「……私はこの先のオブリビオンを殺しに来たのですわ」
今は、その事だけを考えなくては。
掌を握り締めたサリアは自分に言い聞かせながら前を真っ直ぐに見つめた。
本音を言えば未だこの腐臭に慣れてはいない。
それでもこのままただ立ち尽くしているだけではいけないことも分かっている。
『苦しい、ぐ、るしい……』
『助けて……助け――』
蠢く屍人達は口々に告げ、腕を伸ばしてきた。彼らは苦しみの中で暴れているが、同時に言葉通りに救いを求めているようだ。
「斃すことが救い。その為にも、まずは……」
サリアは決意を抱き、ネクロオーブを胸の前に掲げた。
炎の彼岸花になったそれは目の前に迫りくる異形達を包み込み、燃やしていく。その光景はまさに地獄華の乱舞と呼ぶに相応しい。
だが、焼かれながらも蠢く者達はじわじわと再生している。
『あ、が……あああ……」
『もう、生きたく……ない、よお……』
相手から零れ落ちた言葉は悲痛に満ちていた。縋るように近寄ってきた異形をサリアは引き剥がし、鉄塊剣で薙ぎ払う。
再生するのならば、それが止まるまで打ち倒すだけ。
そうすることしか出来ないと察したサリアは一気に周囲を薙ぎ払った。
その際に肥大化した腕で殴りかかってきたものもいたが、サリアはぐっと耐える。
(……今は、進むことだけ考えなければ)
いつもなら向けるはずの犠牲者への最低限の憐憫。それすらなく、サリアは敵を薙ぎ払いながら進み続ける。
戦いながらも脳裏にちらつく先程の記憶。
今はただ、それを振り払うことしか彼女には出来なかった。
成功
🔵🔵🔴
クールナイフ・ギルクルス
ビリッ
ピシリ
パシッ
指輪は剣のまま変わらず怒りを撒き散らす
男を主と認めぬ剣は持ち主にさえ電撃を放つ
女王を使いこなそうと何度も試し
衝撃に手放さないくらいには慣れているつもりだが
持ち続ければ熱を帯び痛みも蓄積する
眉をひそめたのはそれだけじゃない
放つ臭いが
姿が
声が
全てが弱った心に突き刺さる
倒して進めと言ってたか……
向かって来る者を
女王の怒りで止まった物を
邪魔なモノを
ダガーで切って突いて裂いて
いつもより鈍足で雑な動きに汚れる左側は気にも留めず
それでも女王に汚れ仕事は似合わねえと持つ右側は庇って
あいつらが死んだ事実は無意識に存在し
生き残っているという希望を消していたのか
最期にあいつらはなにを思ったんだろう
●Dalsein Ris
雷鳴が手元で鳴り響くような音が耳に届く。
同時に鋭い痛みと、拒絶の意志のような感覚がクールナイフの中に巡った。
指輪は剣のまま変わらず怒りを撒き散らしている。彼を主と認めぬ剣は持ち主にさえ電撃を放った。クールナイフも女王を使いこなそうと何度も試し、衝撃に負けて手放さないくらいには慣れているつもりだった。
だが、持ち続ければ熱を帯び、痛みも蓄積していく。
ダガーを構え、眉を潜める。
しかし、そうした理由は痛みが巡っているという事柄からだけではない。
目の前の墓地に蠢く異形。
それらが放つ臭いが、姿が、声が――全てが、弱った心に突き刺さるようだった。
「倒して進め、と言ってたか……」
此処に来る前に聞いた話を思い返したクールナイフは剣を握る。痛みは離れない。身体だけではなく胸の裡にまで響くような痛みだ。
しかし、クールナイフはそれを振り払いながら地を蹴った。
『痛い、痛、いだ、い……!』
『お前も、同じに、おなじ、に……』
悍ましくも苦しげな声をあげる異形達が襲いかかってくる。肥大化した敵の腕を刃で斬り裂き、薙ぎ、クールナイフはそれらを打ち倒していく。
向かって来る者を、女王の怒りで止まった物を、そして邪魔なモノを――。
手にした刃で切って、突いて、裂く。
吹き出した血が飛び散る。
肉片が宙に舞い、地面に落ちて潰れる。
確実に仕留めているとはいえ、普段の彼と比べるとその動きは随分と鈍足で雑だと云えた。汚れる左側は気にも留めず、それでも右側は庇う。それは女王に汚れ仕事は似合わないのだと思う意志のあらわれだ。
クールナイフはただ目の前の存在を屠っていく。それが死すべきものだと云われ、彼ら自身もまた死を迎えたいと望んでいるからだ。
『もう、生きていたく、ない……』
『ああ、熱い……助けて、助けて、誰か……』
異形は呻く。
一瞬、トグに似たシルエットが見えた。レイリーに似た声も聞こえた気がした。其処に仲間が居る気がして、慌てて周囲を見渡した。
されどただ異形がいるだけだ。
はっとしたクールナイフは首を横に振る。まだ過去の幻影に心が引き摺られているのだろう。そう感じて、己を律したクールナイフは痛いほどにダガーを握った。
あいつらが死んだ。
その事実は無意識下には存在していたのだろう。
だから自分は、生き残っているという希望を消していたのか。
今更に気が付いた思いを胸の奥に仕舞い、クールナイフは異形を見据えた。更に踏み込み、継ぎ接ぎだらけの身体を引き千切るように刃を振るう。
苦しい。痛い。
異形は口々に呟いている。
(――最期にあいつらはなにを思ったんだろう)
勝手な感情でしかないが、目の前の彼らのように苦しみだけを抱いていたのではないと願いたい。ただ、そう思った。
そして、クールナイフは女王から齎される痛みに耐えながら戦い続ける。
終わりのない苦しみから、彼らを解放するために――。
成功
🔵🔵🔴
ティーシャ・アノーヴン
鵠石・藤子(f08440)さんが助けて下さいました。
これは、こんな・・・。
し、死者が、自然に還るはずの命が・・・酷い・・・!
祈りを以て彼らを、今度こそ本当の安らぎを・・・。
くぅ・・・戦いませんと・・・!
でも、声が、彼らの苦しみが頭を支配して・・・!
う、うぅ・・・頭がくらくらします。自然の声が、酷く歪で・・・!
あ、貴方は・・・?
ありがとうございます、助かりました。
本当に危ないところでした、情けないですわね・・・。
私はエルフのティーシャ、よろしければお名前を伺っても?
彼らの魂を癒すために、今一度、墓標を作ります。
手足や体が汚れるのは気になりません。彼らを清き眠りに導きましょう。
・・・お休みなさい。
鵠石・藤子
ティーシャ・アノーヴン(f02332)の元へ助けに入る
チッ、頭がクラクラする…何だってンだ
(迷宮で混濁した意識を振り払いながら)
…これまた酷い有様だな
(様相に、臭いに、顔を顰めながら)
立ち竦む様子のティーシャを目に留め、
彼女を狙う敵へ藤花円月で斬り込む
死人に口無しって言葉を知ってるか?
死んでも喋らなきゃいけねェたァ、
よっぽどの吹聴屋でも無いと辛いだろうさ
しかもそれが怨嗟や嘆きとくりゃ尚更だ
…オレが休ませてやるから静かに寝てろ!
戦闘後にティーシャのする事に異存は無いようで
ふーん、と言う様子で手伝う
オレは藤子、鵠石藤子だ
ま、何かの縁だ
全部終わったら茶でも飲もうぜ
(血と泥に汚れながらカラっと笑って)
●邂逅
「チッ、頭がクラクラする……何だってンだ」
記憶の迷路で混濁した意識を振り払いながら、藤子は出口から墓地へと向かう。
何だか記憶が飛んでいるが、きっとこれも敵の力の所為なのだろう。ふらつきそうになる身体を廃墟の壁に預け、藤子は息を吐く。
ほんの少しだけ呼吸を整えよう。そして次に目をあけた時には目的地に向かうのだと決め、藤子はひとときだけ瞼を閉じた。
同じ頃、ティーシャは墓地で立ち尽くしていた。
「これは、こんな……」
ティーシャは未だ眼前に広がる光景が信じられないでいる。蠢く幾つもの影。それらが皆、異形の姿をしているからだ。
「し、死者が、自然に還るはずの命が……酷い……!」
吐き気がするとはこのことなのだろう。腐臭や血の匂いもそうだが、彼らをこのような姿にした者がいると思うと酷く心が掻き乱されてゆく。でも、とティーシャは紅玉を宿す長杖を強く握り締めた。
祈りを以て彼らに、今度こそ本当の安らぎを。
そう心に決めたティーシャは天からの光を放とうとして指先を相手に差し向ける。しかし、其処に声が響いた。
『あああ、ああ、あ、ああああ』
『助けて、たす、助けで………』
苦痛に満ちた呻き。
彼らの苦しみが、頭を支配していくかのような感覚が巡った。
「くぅ……負けずに、戦いませんと……! けれど、うぅ……頭がくらくらします。自然の声が、酷く歪で……!」
眩むような苦しさに耐えるティーシャ。
だが、其処に肥大化した腕を振るって襲い来る異形が迫り――。
そのとき、藤子が其処に割り入った。
「させるか!」
回転により展開する太刀による薙ぎ払いが異形を裂き、腕を切り落とす。はっとしたティーシャが見たものは自分を守ってくれたらしい凛々しい女性の後姿だった。
「……これまた酷い有様だな」
墓地に駆け付けたばかりらしき藤子はティーシャを背に庇いながら、その様相や臭いに顔を顰めた。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。ありがとうございます。助かりました。あ、貴方は……?」
「自己紹介は後だな。来るぞ」
頷いたティーシャが問いかけると、藤子は首を振ってから地面を蹴りあげる。その言葉通り、別の異形が此方に向かってきていた。
藤子はふたたび藤花円月で以て相手に立ち向かい、ティーシャも次は怯まないと決めて光の一撃を降らせた。
「死人に口無しって言葉を知ってるか? 死んでも喋らなきゃいけねェたァ、よっぽどの吹聴屋でも無いと辛いだろうさ」
『うああ、ああ……お前も、同じに……』
藤子が異形に呼び掛けると、虚ろな瞳をしたそれが同じ言葉を繰り返す。しかもそれが怨嗟や嘆きとくれば尚更だ。そう肩を竦めた藤子はもう一撃を繰り出した。
「……オレが休ませてやるから静かに寝てろ!」
そして、斬り伏せられた異形が地に倒れる。されどそれだけでは終わらないのは藤子もティーシャも分かっていた。
太刀で斬り、天の光で穿ち、二人は連携して次々と屍人を打ち倒していった。
そして周囲に動くものが居なくなった頃。
ふっと肩の力を抜いたティーシャは藤子に歩み寄った。
「本当に危ないところでした……。私はエルフのティーシャ、よろしければお名前を伺っても?」
「オレは藤子、鵠石藤子だ」
「藤子、さん……。ええと、少しだけ墓標に祈ってもいいですか?」
「良いぜ。好きにしな」
名前を聞いて頷きを返したティーシャは墓石の前に向かう。ふーん、とその様子を見遣った藤子はそれが終わるまで待つことにする。
本当は今一度、墓標を作りたかった。しかし行く先にはまだ蠢いている者達がいる。それらは別の猟兵が相手取っているようだが、まだ戦いは完全には終わっていない。墓標を新たに作り直すのは戦いが全て終結した時が相応しい。
墓標の前に膝をつく。手足が汚れるのは気にせず、ティーシャは彼らを清き眠りに導くように、暫しの祈りを捧げた。
「……お休みなさい」
「終わったか?」
「はい……」
死者に別れを告げた彼女が浮かない顔をしていることに気付き、藤子は手を差し伸べる。そして、血に汚れながらもカラっと笑ってみせた。
「ま、何かの縁だ。このまま一緒に行くか。で、全部終わったら茶でも飲もうぜ」
「そう、ですね……。本当に、無事にすべてが終わったら――」
その笑みに少しだけ救われた気がして、ティーシャはその手をそっと握り返した。
そして、二人は先を目指す。
この墓地の向こう――吸血鬼が待ち受けるという教会へ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シルヴィア・グリッターホーン
オズ(f23052)とまいります
なんて、ひどい……
さきほどはまぼろしでしたが、これは…ほんもの、なんですよね
襲ってくる相手を怪力で投げ飛ばし身を護ります
でも、このままにしておくのは…
オズのいう「救い」
むつかしくて、やっぱり腑には落ちませんけれど
ここでたちどまるわけにはいかないのでしょう
彼らのつらくくるしい言葉よりも
オズの奏でる曲を聞きながら
覚悟を決めて、びったんびったんで道を開きます
なるべくたくさんをまきこんで
すこしでもはやく、すこしでもまえへ
…ええ、こんどはわたくしがたすけられてしまいました
いそぎましょう
…でも、みなさん、ごめんなさい
きっとすぐに、ほんとうのいみでかいほうしてさしあげます
オズワルド・ソルティドッグ
レディ(f22341)と
作ったやつはいい趣味してるぜ、ホント
さすがの酸鼻には俺も眉を顰める
化物たちはT.orT.に仕込んだ短機関銃の【制圧射撃】で迎え撃つ
っつっても、こんなもんいちいち相手してたらキリがないけどな
忍びないって言いたいんだろ
こいつらだって無視して通り抜けるのを
許しちゃくれねぇさ
なら、やることは一つ
レディ、お前はなるべく景気よく暴れてやれ
この状況じゃどうしたってそれが救いだ
UCを使用
歌うのは俺でなく、サウンドウェポン――サックスだ
吹き込むのは鎮魂には明るい曲
珍しく弱気な輝く角の騎士に贈る一曲を
道が開けたら教会へ急ぐ
この胸糞悪い会場の主催者に
きっちり演奏代を払ってもらうためにな
●救いのギグ
呪いを吐く言葉や、生を厭う声が昏い墓地に木霊する。
「なんて、ひどい……」
屍血流路の光景を目にしたシルヴィアから零れ落ちたのは、驚愕と戸惑いが入り混じった声だった。オズワルドも彼女の隣でその光景を見つめ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「作ったやつはいい趣味してるぜ、ホント」
「さきほどはまぼろしでしたが、これは……ほんもの、なんですよね」
「間違いないな、幻なんかじゃねぇ」
シルヴィアが確かめるように呟くとオズワルドが静かに頷いた。
蠢く異形の数々。
それらは此方の存在に気付き、ゆっくりとした動きで近付いてきた。肥大化した腕を振り上げて襲い来ようとする者。たすけて、と少女の声で繰り返しながら這いずってくる継ぎ接ぎだらけの巨躯の者。
か細い足が折れていながらもふらふらと歩いてくる者までいる。
酸鼻をきわめる状況にオズワルドも眉を顰めた。
だが、ただこの光景を眺め、振るわれる殴打を受けるだけではいけない。
「レディ、いけるか?」
「はい、なんとか……もんだいありません」
オズワルドから呼びかけられた声に答え、シルヴィアは一歩踏み込む。振り下ろされた異形の腕が自分に痛みを与える前に掴み取り、その勢いを利用して投げ飛ばした。
どしゃりと地面に叩きつけられた異形に向け、オズワルドがトランク型の楽器ケースを向ける。其処に仕込んだ短機関銃が敵を撃ち貫いた。
更に向かってきた相手に銃口を向け直し、弾丸で以て迎え撃つ。
『うああ、ああ……苦しい……』
『おまえら、も、苦しみを味わえ……』
敵は次々と二人に向かって迫り来る。だが、シルヴィアの持ち前の怪力とオズワルドの機関銃が近付くことを許さない。
「っつっても、こんなもんいちいち相手してたらキリがないけどな」
「でも、このままにしておくのは……」
頭を振ったオズワルドに対し、シルヴィアは僅かに俯く。其処に巡る感情を察したオズワルドは軽く肩を竦めた。
「忍びないって言いたいんだろ」
分かってる、と告げた彼は銃撃を止めぬままシルヴィアを見遣る。彼女は敵を投げ飛ばして蹴散らしながらも逡巡した様子を見せた。
「はい。ですが、どうすれば……」
「こいつらだって無視して通り抜けるのを許しちゃくれねぇさ。それなら、ここでやることは一つしかないな」
「ひとつ、ですか?」
「レディ、お前はなるべく景気よく暴れてやれ。この状況じゃどうしたって、それが救いにしかならねぇ」
敵を見据えて示すオズワルドに、シルヴィアが首を傾げた。
救い。
本当にそうなのかはむつかしくて腑には落ちなかった。だが、彼がそういうのならきっと今はこれが正解なのだろう。
「わかりました。ここでたちどまるわけには、いかないのですから――」
シルヴィアは獣の拳をきゅっと握り締めた。
それでいい、と首肯したオズワルドは次の一手に入る。己が持つサウンドウェポンたるサックスを掲げ、奏でるのは明るい音。
吹き込まれていく曲は鎮魂を示すには程遠いもの。
だが、珍しく弱気な輝く角の騎士に贈る一曲だからこそ、この選曲にした。
その音色によって、これまで聞こえていた異形達の苦しげな声が掻き消されていく。本当は彼らがまた何かを言っているのだろうとも分かる。けれど、異形は同じ言葉と苦しみを繰り返すのみだとも知っていた。
シルヴィアはオズワルドが奏でる曲を聞きながら、しかと覚悟を決める。
これまでは投げ飛ばすだけだったが、相手を掴み取ったシルヴィアは異形を全力全開で振り回し、出来る限り少しでも敵を巻き込みつつ道を拓いてゆく。
――すこしでもはやく、すこしでもまえへ。
そうして進む中で、ひとときだけ演奏を止めたオズワルドが問う。
「大丈夫か、レディ」
「……ええ、こんどはわたくしがたすけられてしまいました」
こくりと頷きを返したシルヴィアは前を見据えた。その向こうには荘厳な教会の屋根と其処に建つ尖塔が見える。
駆け出したシルヴィアは一度だけ、地に伏した異形達を見下ろす。
ごめんなさい。
そっと落とした言葉は暗闇にとけてきえていった。
「きっとすぐに、ほんとうのいみでかいほうしてさしあげます」
「そうだな、行こうぜ」
シルヴィアの言葉を聞き、オズワルドは双眸を鋭く細める。
間もなく、吸血鬼が待ち受ける教会の前に辿りつける。シルヴィアは更なる覚悟を抱き、オズワルドに呼びかけた。
「いそぎましょう」
「ああ、この胸糞悪い会場の主催者に、きっちり演奏代を払ってもらうためにな」
答えた彼もまた、シルヴィアと同じ決意を胸に秘めていた。
そうして二人は進む。
血と呪いが続くこの路の先。其処に巡る戦いに其々の思いを巡らせて――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
劈くような声たちがきこえる
継ぎ接いだ負の感情がみえる
眼前に拡がる光景から、目を逸らさないわ
木霊する怨嗟たち
嗚呼、なんて、嘆かわしい
――大丈夫、すべて終わるわ
憂いも、嘆きも、苦しみも
ひとつ残らず、蕩かせましょう
“満つる暗澹”
複製したとっておきの香水瓶たち
黒鍵の刃にて一閃を引いて
甘い毒の雨を降らせましょう
もう苦しむ必要はないわ
その苦痛から、その怨嗟から解いてあげる
どうか、安らかに
死こそが彼らにとっての幸福
彼らを送ることが彼らへの救い
ナユは、正しい行ないが出来たかしら
ねえ、『かみさま』
爆ぜた柘榴石を閉じ込めた小瓶をぎゅうと握る
何度問い掛けたとしても
何度願ったとしても
あなたの聲は、もう聴こえないのに
●甘い毒と救いの雫
耳に届くのは劈くようなこえ、声、聲。
この眸に映るのは継ぎ接いだ負の感情。
七結は眼前に拡がる光景から決して目を逸らさず、呻く屍人たちを見つめ続ける。
『苦しい、ぐ、るしい……』
『嫌だ、イヤだ……いや、だ……』
木霊する怨嗟。
苦悶に満ちた嘆きをしかと聞き、七結は首を横に振る。
「嗚呼、なんて、嘆かわしい。けれども、」
――大丈夫、すべて終わるわ。
甘やかな声を異形達に向け、七結は片手をそっと伸ばした。
憂いも、嘆きも、苦しみも、ひとつ残らず、蕩かせてゆくために。
その掌の上から広がっていくのは満つる暗澹。静かに複製していく、とっておきの香水瓶たち。そして、七結は奪罪の名を冠する黒鍵杖にて一閃を引く。
周囲に散るのは甘い毒の雨。それは蠢く異形に終わりを与えるように降り注ぐ。
「もう苦しむ必要はないわ」
その苦痛から、その怨嗟から解いてあげる。
どうか、安らかに。
願いの入り交じる思いを差し向け、七結は道を切り開いていく。
助けて、と呼ぶ声。
それはきっとこの苦しみから解放されたいと告げている。だからこそ七結は加減など一切しない。半端な慈悲は更に彼らを苦悶の底に落とすだけだと知っているからだ。
死こそが彼らにとっての幸福。
彼らを送ることが彼らへの救い。だから、と七結は顔をあげる。
振り返れば墓地には彼女が通った道ができていた。動かなくなった異形が倒れ伏した光景を少しだけ見つめた七結は胸元に掌をあてる。
「……ナユは、正しい行ないが出来たかしら」
ねえ、『かみさま』
そういって呼びかけたのは爆ぜた柘榴石を閉じ込めた小瓶。それをぎゅうと握った七結はひとときの間だけを閉じた。
小瓶が空に浮かぶ赤い月の光を反射して煌めいた。でも、何も答えは返ってこない。
何度問い掛けたとしても。
何度願ったとしても。
あなたの聲は、もう聴こえないのに。
瞼をひらいた七結は先を目指す。かみさまの言葉は聞こえなくとも、今の自分がやるべきことは分かっている。
見据えた先、視界に入った教会。
今はただ其処で待ち受ける吸血鬼の元へ向かうだけだとして、七結は歩き出した。
成功
🔵🔵🔴
三咲・織愛
ひどい臭い……
悲痛な叫びが心に突き刺さる……とても、痛い……
でもここで立ち止まる訳にはいかない
強く竜槍を握り、心を奮い立たせる
今出来ることは、ただ早く安寧を与えてあげるだけ
かつての私にはそれが出来なかった
死しか救いがなく、長引く苦痛を断つことが、唯一の出来る事だったのに
一番大切な人に出来なかった。深い後悔がある
今は、今は違う。出来ると思うのは、知らない人達だからかもしれない……でもそれだけじゃない
そうしなければならないと思うから。やってみせる
攻撃は見切り、武器受けで躱しながら、急所を見極めて串刺します
苦痛は一瞬で終わらせたい 渾身の力籠め、覚悟を胸に
怯まない、立ち止まらない
疾く終わらせましょう
●死という救い
酷い腐臭と血の痕。
其処に響き続ける悲痛な叫び声。
巡る感情はまるで棘のように、もしくは針のように心に鋭く突き刺さる。
「……とても、痛い……」
織愛は思わず胸元を押さえ、幽かに呟いた。
直視するのも立ち向かうことも憚られるような光景を前にして、心が揺らがない訳がない。でも、と織愛は首を横に振った。
ここで立ち止まる訳にはいかない。目を逸らすなんて、できない。
強く竜槍を握り締めた織愛は心を奮い立たせる。
「私が今、出来ることは――」
織愛は思いを言葉にしながら地を蹴った。この手に、この脚に全力を込めて。迫りくる異形の懐へと潜り込むように距離を詰める。
「ただ、早く安寧を与えてあげるだけです!」
凛と響いた声と共に異形の喉元が槍によって貫かれた。
星夜を彩る刃が横に振るわれれば、その継ぎ接ぎだらけだった首が転げ落ちる。肉体が脆くなっているのだろう。いとも簡単に落とせた首に一瞬だけ目を瞑ってしまった織愛だが、すぐに身構え直した。
『あ、ああ……ありが、と……』
倒れゆく異形は最後にそんな言葉を告げたように思えた。
聞き間違いだったかもしれない。だが、斃したそれはもう二度と起き上がってくることはなかった。
これが、彼らにとっての救い。
織愛の中に奇妙な感覚が巡る。それは嘗ての自分には出来なかったことだからだ。
死しか救いがなく、長引く苦痛を断つ。そうすることが唯一の出来る事だったのに。一番大切な人にそれが出来なかった。
深い後悔を思い出した。
命を断つということは生半可な覚悟では出来ない。
けれど――。
「今は、今は違う」
気付けば胸の内から思いが言葉として溢れてきていた。
出来ると思うのは、相手が知らない人達だからかもしれない。でも、それだけじゃないのだと思っている自分がいた。
そうしなければならないと思うから。やってみせる。
織愛は覚悟を懐く。
『たすけ、助け、て……誰か……』
少年の声で語る肥大化した異形が近付いてきた。織愛は頷き、竜槍を差し向けた。
「わかりました。お命、頂戴します」
その望み通りに。
次の瞬間、彼女の周囲に身も竦むほどの殺気が放れる。
苦痛はたった一瞬。恐怖すら感じる前に苦しみの生を断ち、救う。そんな思いと共に放たれた槍の一閃が異形の胸を貫いた。
相手が倒れ伏し、救いを求める声も其処で止む。
怯まない、立ち止まらない。覚悟を抱き続ける織愛は次の標的を見据えた。
「疾く終わらせましょう」
織愛は静かな声で、自分に言い聞かせるように語る。
屍血流路に囚われた彼らを解放し、救うために。早く、速く、疾く――。
大成功
🔵🔵🔵
楠樹・誠司
殺しきる事さえもせず
こんな……、……意識だけを、
血の澱み、腐敗臭に眉を顰めた
其れは嫌悪からではなく
至る迄の時間を、否応なく理解してしまったから
『たすけて』と耳に木霊する
過日の、あゝ
重なる音に、顳顬が酷く傷んだ
我が身はとうに『うつろ』也
然れど今は
差し伸べる腕がある
歩み寄る為の脚が、ある
唯見守るだけの己はもう居ない
其の哀しみ、痛み、恐怖――全て、すべて『此れきり』に致しませう
刃を抜き、同時に残月を奏で狗神を喚ばう
血の澱み、蠱毒の底より生まれしお前ならば
彼等の『核』を、澱みを、見付け出す事が出来る筈
狗神が此方に報すやうに吼えたならば
一閃の元に両断して見せませう
せめて此の眠りが、安らかでありますやうに
●救いは何処へ
死も、生すらも冒涜する光景。
たすけて。
手を伸ばして告げられる言葉は、己を殺して欲しいと願う故の、聲。
「殺しきる事さえもせずこんな……、……意識だけを、」
眼前に広がる凄惨な景色に対面した誠司は眉を顰めることしか出来なかった。
血の澱み、腐敗臭。
苦悶と怨嗟に満ちた人々の呻き。
不快感を示したのは異形と化した彼らに嫌悪を抱いた故ではなく、其処に至る迄の時間を否応なく理解してしまったからだ。
たすけて。
耳に木霊する声と音。
今、聴こえているのは此処で紡がれるものか、それとも過日の残響か。
あゝ、と誠司から声が零れ落ちた。
両方だ。現在と過去、何方からも救いを求める声が響いてきているのだ。
たすけて。
重なる音に、顳顬が酷く傷む。誠司は片手で頭を押さえ乍らも刃を抜き放った。
――我が身はとうに『うつろ』也。
然れど今は差し伸べる腕がある。歩み寄る為の脚が、ある。
唯見守るだけの己はもう居ない。故に、
「其の哀しみ、痛み、恐怖――全て、すべて『此れきり』に致しませう」
裡に宿った思いを言葉に変え、誠司は残月を奏でた。
喚ばう狗神が駆ける。
血の澱み、蠱毒の底より生まれし狗神たるくくりならば彼等を解放する為の綻びや淀みを見付け出す事が出来る筈。
そして、先んじて異形に喰らいつく狗神は本能的に継ぎ接ぎの部位を狙った。
少女の身体に縫い付けられた肥大化した腕を引き剥がしながら、狗神は誠司に報せるように吼えた。
其れに応えた誠司も地を蹴った。
血に濡れた汚泥を駆け抜け、自らが汚れることも躊躇わずに刃を振り上げる。
狙うのは継ぎ接ぎされた胴体。少女であった者を元の形に戻すかのように、魔を斷いし刄で以て、一閃の元に両断する。
『あ、あああ――、り、がと……』
その瞬間、少女の声で幽かな言葉が紡がれた。
不明瞭でよく聞き取れはしなかったが、その声を聞いた誠司は伏した異形を見下ろした。気の所為かもしれない。だが、その死に顔は何故だか安らかに見えた。
永遠に続く苦痛から解放されたからだろうか。
もう二度と動くことのない亡骸から視線を逸し、誠司は次の標的に刃を向けた。
澄み清く在ると云う名を懐く此の太刀。
此の名に恥じぬよう、刃が届く限りは彼らに終わりを与え続けよう。言葉にはせぬ思いを抱き、誠司は苦しむ異形達を然と見つめた。
――せめて其の眠りが、安らかでありますやうに。
願い、祈る。
そして、誠司は闘い続ける。
自らの痛みなど顧みずに唯々、持てる限りの力を揮うのだと心に決めて。
たすけて。
耳に届く声は未だ、消えていないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
コーディリア・アレキサンダ
灰は灰へ、塵は塵へ
死者の魂は、あるべき場所へ
この街の地獄を視たボクが、責任を持って送るよ
……こんな格好しているけれど、昔は神に使える身だったわけだしね
――全智の書よ
我が最愛にして忌まわしき72の“隣人”に問う
この不快な式を紐解けるものはいるか?
この美しくない式を破れるものはいるか?
破り、蹂躙し、全てを終わらせて見せろ、72の悪魔たちよ
それがボクが彼らに出来る唯一の手向けだから
……お疲れ様。手荒な方法しか取れなくてゴメンね
主よ。恨み、憎しみはボクが。……彼らの魂に、どうか救いを
●死の路を越えて
灰は灰へ、塵は塵へ。
死者の魂は、あるべき場所へ還るのが世の理。
コーディリアは今、異形の者達が蠢く屍血流路を見つめていた。
この光景は先程通ってきた迷路で見せられた惨劇の続きだ。彼処で死した者の方が幾らか幸福だったとも云える。そんなことを考えてしまう程に、死にきれなかった者達は死よりも恐ろしい生き地獄を味わっていた。
「この街の地獄を視たボクが、責任を持って送るよ」
コーディリアは、蠢き苦しみ続ける人々に言葉を掛けた。
『たすけて、たすけ――』
『もう嫌だ……嫌だよ、こんなの……』
『苦じい、あ、があああ――』
少女の身体に屈強な脚が縫い付けられた影が、少年の声で嘆く老人が、人間としての形すら成していない肉塊が、叫ぶ。
一人ずつに視線を向けていったコーディリアは昔を思い返し、ぽつりと呟く。
「……こんな格好しているけれど、昔は神に仕える身だったわけだしね」
そして、彼女は眼を閉じた。
――全智の書よ。
詠唱の言葉と共にコーディリアは書をひらいて魔力を巡らせてゆく。
我が最愛にして忌まわしき七十二の“隣人”に問う。
この不快な式を繙けるものはいるか?
この美しくない式を破れるものはいるか?
「破り、蹂躙し、全てを終わらせて見せろ、七十二の悪魔たちよ」
紡いだ言の葉に応えるように力が解放されていく。
コーディリアが狙うのはただ異形を斃すことではない。再生し続け、死ねずにいる者達の呪縛を解く方法を探っているのだ。
――それがボクが彼らに出来る唯一の手向けだから。
そんな思いを抱くコーディリアの前に、隠された物事に関する質問に正しく答える力を持つ悪魔、オセが現れた。
それが示したのは屍血流路の中央。
其処で身動ぎもせずに立ち尽くしている異形だった。それは腕をもがれた少女の姿をしていた。だが、その足元には見慣れぬ魔法陣が敷かれている。
あれがこの異形達の楔だ。
そう感じたコーディリアはあの陣を壊せば再生が止まると察し、大鷲の翼を振るいあげた。そして、少女の異形ごと魔法陣を貫き――この場に満ちる術式の効果を消す。
「……お疲れ様。手荒な方法しか取れなくてゴメンね」
コーディリアが杖を下ろした時、死にきれなかった者達が倒れていった。
後は死を求める者達に幕を下ろすだけ。きっとこの場で戦う猟兵達が担ってくれると信じ、コーディリアは祈る。
神に仕えていた頃のように、そっと――。
「主よ。恨み、憎しみはボクが。……彼らの魂に、どうか救いを」
そうして、屍血流路の異形は――否、人々はすべて屠られた。
猟兵達はただ彼らを無慈悲に斃したのではない。本来ならば死んでいた者を、そして、死にたいと願った者達の望みを叶えたのだ。
これが正義だとは決して言えない。
それでも救われた者が居るという事実だけは、確かなこととして巡っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『リウ・メイファ』
|
POW : 殺戮遊戯
【炎で出来た騎馬軍団】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 鏡想遊戯
戦闘用の、自身と同じ強さの【相手が嫌う相手自身】と【相手の大切なヒトやモノ】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : 追憶遊戯
戦場全体に、【出来る事なら忘れてしまいたい記憶】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「シン・バントライン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●殺戮と鏡想の遊戯
空虚なる廃都の奥。
屍血流路と化した墓地を抜けた先。
其処に佇む荘厳な教会の扉を開くと、印象的な紅の衣を纏う女性が猟兵を出迎えた。
背には罅割れたステンドグラス。
射し込む月の光が、彼女を静かに照らし出している。
「貴方達はあれを抜けてこれたのね」
あれ、と示さたのは過去の光景が繰り返される廃都と、墓地に仕掛けられた術式のことを言っているのだろう。
まるで、よくできましたと言わんばかりに薄く笑みを浮かべる彼女こそが――リウ・メイファ。この廃都を根城とするヴァンパイアだ。
彼女は壊れた祭壇の前から、一歩踏み出す。
「素敵だったでしょう。あれは私にとっても、忘れてしまいたいほどの記憶……」
薄く笑むリウ・メイファは不可解なことを語った。
嘗ての惨劇を引き起こしたのは自身とその軍勢であろうというのに、忘れてしまいたいとはどういった意味なのか。
猟兵達が疑問を浮かべたことに気付き、彼女は更に笑みを深めた。
「だって、あんなに苛烈なデスゲームだったのだから――出来るならば忘れて、もう一度愉しみたいでしょう?」
ただの遊戯だった、と彼女は言った。
あの凄惨な光景を。死者を冒涜する行為を。
彼女を野放しにしてはおけないことは十二分に解った。それならば後は此処で行うべきことは決まっている。
ヴァンパイアと戦い、屠る。それが猟兵としての役目だ。
此方が身構えるとリウ・メイファは指先に炎を宿し、静かに花唇をひらいた。
「さあ、ゲームをしましょう」
そして――その言葉と共に廃教会の中に魔力の迷路が巡った。
それは猟兵達の過去を再び呼び起こすもの。忘れてしまいたいと願った記憶や、光景を其処に映し出すだろう。
だが、廃都の状況と違うのは目の前にリウ・メイファが立っていること。
まやかしに惑わされず彼女を斃さねばならない。
そうしなければきっと、自らも永遠に此処から抜け出せなくなるのだから――。
レザリア・アドニス
またこれか…本当に飽きないわね…
先に見たばかりなので動揺もせずに、ただ目の前の敵に専念
自分のすべてを受け入れるので、嫌う自身がない
一番大切なのも、やっぱり自分自身です
愛しい子たちを呼び出し、色褪せたように本来に在るべきの姿に戻る
髪の福寿草も散って、代わりに待雪草が芽吹いて、咲き乱れる
騎馬軍団には、死霊騎士が盾になってくれる
そして敵が嫌がらせ用の鏡像を呼ぶのを見計らい、(自分向きなら騎士を対峙させながら)蛇竜を影に潜ませて、不意打ちに噛みつかせる
落ち着いたら、炎の矢で敵を攻撃’
他の猟兵との連携を心がける
今までなかった事を楽しんではどうかしら…?
たとえば…貴女自分自身の、死を…
●自分自身
教会の景色が歪み、揺らぎ、幻影の世界になってゆく。
レザリアは周囲に渦巻きはじめた過去の光景に肩を竦め、敵を見遣った。
「またこれか……本当に飽きないわね……」
広大な魔術空間。
そして、魔法陣が描かれた台座。
それらはもう先に見たばかりなので動揺することなどない。それに今は其処に居るはずのない人物が立っている。
リウ・メイファだ。彼女はレザリアの様子を窺うように薄く笑みを浮かべていた。彼女はこの光景において異物でしかない。それゆえに周囲の景色は無視して、ただ目の前の敵に専念すればいいと思えた。
敵を見据えたレザリアが片手を掲げると、周囲に死霊達が現れる。
同時に色褪せたように本来に在るべき姿に戻った。髪の福寿草は散り、代わりに待雪草が芽吹き咲き乱れてゆく。
「行って、愛しい子たち」
レザリアが告げると死霊騎士が盾となるように立ち塞がった。敵は指先で鏡のような円を形作ると、其処に鏡像を映し出す。
現れたのはレザリア本人を模した者だ。
だが、既に自分のすべてを受け入れているので嫌う自身がない。それにやはり一番大切なのも自分なので動じることはなかった。
影に潜ませていた蛇竜に噛みつかせることで鏡想の像は打ち消されていく。
「あら、面白みのない子ね」
するとリウ・メイファが言葉通りにつまらなさそうな顔をした。レザリアが苦しむとでも思っていたのだろうか。指先で炎を描いた彼女は溜息をつく。
「そんな妙な期待になんて……答えてあげない……」
なんと言われようと心を乱されることはない。
敵が放った炎の騎馬軍団に死霊騎士を向かわせながら、レザリアは其処に炎の矢を重ねてゆく。的確に敵を攻撃し続けるレザリアは不意に敵に語りかけた。
「つまらないのなら、今までなかった事を楽しんではどうかしら……?」
「……例えば?」
リウ・メイファは双眸を鋭く細めて問い返す。
「たとえば……貴女自身の、死を……」
「貴女、冗談も面白くないのね」
皮肉混じりの声が返ってきたことでレザリアは首を横に振った。勝手に言っていればいいとして、レザリアは死霊達に敵の力を打ち消すよう願う。
炎の騎馬の残滓が散り、矢や炎が飛び交う中で両者の視線が鋭く交錯した。
そうして、戦いは巡っていく。
成功
🔵🔵🔴
セルマ・エンフィールド
※見える過去
約1年前の風景。
豪勢な部屋の寝台に腰掛ける、一見令嬢にしか見えない吸血鬼が首輪を付けた自分に話しかける
「お腹が空いたわ……そういえば、最近街で仲良くしている子がいるようね?」
逆らい死ぬか、友人を差し出すか。暗に選択を迫られた屈辱の記憶。
デリンジャーで自身の肩を撃ち、激痛で幻覚を祓います。
私には許せないものが3つあります。1、吸血鬼、2、他者の苦痛を楽しむ者、3、私の過去に無断で踏み入る者……あなたは、ここで殺す。
真の姿【氷炎嵐舞】の溢れる冷気と熱気、氷と炎の弾丸で騎馬ごと殲滅します。
あの後、私が選んだものを教えてあげます……あの吸血鬼を殺し、生かされるのではなく生きることです。
●あの日の選択
『――お腹が空いたわ』
そのような声が聞こえた気がした。
はっとしたセルマが顔を上げると、其処には豪奢な部屋の光景が映し出されていた。そして、寝台に腰掛けた影が見える。
『そういえば、最近街で仲良くしている子がいるようね?』
セルマに問いかけているのは吸血鬼の令嬢。首輪を付けた自分に話しかけた彼女が告げた言葉の意味は、痛いほどに解っていた。
友人を差し出すか。
逆らい、自ら死ぬか。
暗に迫られた選択。その記憶に宿る感情は屈辱でしかなかった。あの日の光景が目の前で移り変わる中、佇むリウ・メイファがくすりと笑んだ。
記憶に取り込まれそうになっていたセルマは其処で現実に引き戻される。
銃口を自らの肩に押し当てたセルマは一瞬だけ目を閉じ、一気に自らを撃ち抜いた。激痛が走ったが、同時に幻覚も祓われていく。
「……!」
「まぁ、見上げた根性ね」
痛みに耐えるセルマに向け、リウ・メイファは更に笑みを深めていく。
まるで面白い見世物でも眺めているような視線。
この高圧的で見下すような視線をセルマは知っている。人を人とも思わぬ吸血鬼は皆、このような眼差しを向けるものなのだろうか。思考に意識を向けることで痛みを誤魔化しながら、セルマは言い放つ。
「私には許せないものが三つあります」
「へぇ?」
口をひらいたセルマの言葉を待つようにリウ・メイファが首を傾げた。
「一つは、吸血鬼。二つは、他者の苦痛を楽しむ者」
語るセルマの身体が次第に冷気と熱気に包まれていく。同時に撃ち貫いたはずの傷口が癒え、周囲に鋭くも重い圧が満ちはじめた。
「三つ、私の過去に無断で踏み入る者」
セルマの眸が左右で違う色を映したかと思うと、次なる言葉が紡がれる。
「だから……あなたは、ここで殺す」
解放された真の姿を言葉にするならば氷炎嵐舞と呼ぶに相応しい。冷たさと熱さを同時に宿すセルマは手にしている銃を敵に差し向けた。
其処から放たれるのは氷と炎の弾丸。
「そう、なかなか楽しませてくれそうね。貴女とのデスゲームは面白そう」
されど敵は怯まず、炎で出来た騎馬軍団を解き放った。
もう周囲に幻影は見えておらず、セルマは弾丸で以て迫りくる騎馬を撃ち抜いていく。敵から視線を逸らさぬまま、セルマは凛と言い放った。
「あの後、私が選んだものを教えてあげます……。あの吸血鬼を殺し――」
一瞬、脳裏に令嬢の最期の姿が浮かぶ。
主よりも友を選んだ。そのことは今も間違っているとは思わない。
そして、セルマは銃爪を引いた。
「生かされるのではなく、生きることです」
その声が響いた刹那、更なる力が戦場に解き放たれていった。
成功
🔵🔵🔴
夏目・晴夜
幼い私と、白い犬
いやはや会いたかったですよ
特にお前、そこの愚図
私の人生の最大の汚点
ハレルヤにあってはならぬ過去
忘れたいと感じた事はありませんでした
ただ、ずっと消したかった
ずっとこの過去を、このガキを殺したかった
お前に名前はあるんですか?
私にはありますよ、ハレルヤと申します
いい名前でしょう?自分で付けたんです
故郷の奴らが毎日領主へ捧げていた言葉、
私とお前が生まれて一番最初に覚えた言葉です
『喰う幸福』の呪詛を伴う衝撃波を放って牽制し、
高速移動で接敵し妖刀でヴァンパイアのみ【串刺し】に
ダメですねえ、消したくて殺したくて憎くて仕方ないのに
それでも幸せだった僅かな過去の思い出まで捨てる事ができないのです
●Hallelujah
世界が歪み、景色が渦巻いていく。
追憶の迷路が再び過去の光景を映し出していく中、晴夜は帽子を目深に被り直した。
見据える先に現れたのは幼い自分と白い犬。
「いやはや会いたかったですよ」
それが単なる幻影にしか過ぎず、リウ・メイファが作り出した鏡想遊戯の力だとは理解している。だが、だからこそ晴夜は語りかける。
嫌う自身と、大切なもの。まさにそれは目の前にいる存在でしかない。
「特にお前、そこの愚図」
晴夜が呼び掛けると過去の自分の姿をしたものが視線を返してきた。
あれは己の人生における最大の汚点。
このハレルヤにあってはならぬ過去だと晴夜は断じた。
『…………』
少年だった自分は何も言葉を返してこない。白い犬は彼に寄り添い、じっと晴夜を見つめてきている。
それを忘れたいと感じたことはなかった。
けれど、ただずっと消したかった。
ずっとこの過去を、このガキを、何も出来なかった自分を、殺したかった。
だからこれは好機だ。
何も持ち得ていなかった自分。形だけでもそれを消し去れるのならば――。
「お前に名前はあるんですか?」
『…………』
少年は答えない。厳密にいうならば答える術を持っていない。
しかし晴夜は返答を待たずに更に告げてゆく。
「私にはありますよ、ハレルヤと申します」
いい名前でしょう、と掌を自分の胸元に添えた晴夜は態と大仰に語った。それは自分で付けた名だ。
故郷の人々が毎日、飽きもせずに領主へ捧げていた言葉。
そして――。
「私とお前が生まれて一番最初に覚えた言葉です」
ハレルヤ。
主に賛美を。褒め讃えよ。
それは晴夜にとって皮肉でもあり背負うべき言葉でもあった。この名を抱いた故に自分はそれを求め、相応しく振る舞おうとする。
晴夜は地を蹴り、呪詛を伴った衝撃波を一気に解き放った。それによって過去の自分の姿をしたものが掻き消え、白い犬も霧散するように消滅する。
だが、晴夜は止まらない。
真に斃すべき者はあの幻を作り出したヴァンパイアだ。悪食の刃が向く先は過去ではなく現在。鋭い一閃がリウ・メイファに放たれ、斬撃がその身を襲った。
だが、敵は更に鏡想の像を生み出す。
「ふふ、可哀想に。貴方の心は縺れた糸のようね」
哀れみの混じった視線を向け返したリウ・メイファの前には少年と犬が立っていた。されど、晴夜は動じる様子を見せずにそれらを見据える。
「ダメですねえ、消したくて殺したくて憎くて仕方ないのに――」
それでも、思う。
幸せだった僅かな過去の思い出までは捨てきることはできない。
そうして晴夜は悪食を振るい続ける。消し去りたかったものが二度と目の前に現れぬように。幽かな幸福を己の胸の中だけに仕舞い込む為に。
すべてこの刃で斬り伏せるのだと、静かに決意しながら――。
成功
🔵🔵🔴
樹神・桜雪
【WIZ】※連携・アドリブ歓迎
そう、あなたがあの人達をあんなに…
さすがに少し頭に来たかな。
うん、これでもボク、怒ってるんだ
追憶は少し寂しいけど優しいものだよ
ボクはそう、思っている
『2回攻撃』と『なぎ払い』で攻撃を仕掛ける
回避は『第六感』でなんとか避けてみる
ダメならお札を『一斉発射』してなんとか振り払うか相殺してみるよ
相手の追憶遊戯に対してはUCで相棒を呼んで出口を探す
相棒、お願い。出口を探してきて
この人は倒さないと
ボクはその人を覚えていない、名前すら言えない
夢を見た後は何故か悲しくて忘れてしまいたいとすら思うこともあるよ
でも、忘れたくなかったから悲しくなる
これはあなたの玩具じゃない。弄ばないで
グラナト・ラガルティハ
WIZ
あの虐殺は遊戯だったと言うのだな…。
まったくもって腹立たしいことだ。
楽しかったから忘れたい?
そんな風に言うのはお前だけだろうよ。
お前に殺された者たちの苦しみは決して消えはしないだろうからな。
お前がそれを忘れることはなんであれ許されない…。
あぁ、またこの幻か…言っただろういまさらだと。
今の俺には他に大切なものがある。
UC【リヴァイアサン召喚】
その証が紺碧の指輪…俺は炎を司るものだが指輪の縁を辿れば氷雪を操ることもできる。
少しは油断したのではないか。
アドリブ連携歓迎。
●過去と今
「そう、あなたがあの人達をあんなに……」
リウ・メイファの話を聞き、桜雪の感情は揺らいでいた。
心を惑わされたのではない。あの言葉を聞き、許せないという思いが宿ったのだ。
「あの虐殺は遊戯だったと言うのだな……まったくもって腹立たしいことだ」
近くに立っていたグラナトもまた、リウ・メイファへの怒りを禁じ得なかった。彼が蠍の剣を構える中、桜雪も身構え直す。
「うん、これでもボク、怒ってるんだ」
感じる思いは同じ。
周囲は迷路のように入り組み、過去の光景が様々に移り変わっていっている。心の何処かで忘れたいと願った記憶。そして、この廃都で起こった凄惨な過去。
それらを見つめたグラナトは首を振る。
「楽しかったから忘れたい? そんな風に言うのはお前だけだろうよ」
「あら、そうかしら」
グラナトがリウ・メイファに語りかけると、彼女はくすくすと笑った。
「お前に殺された者たちの苦しみは決して消えはしないだろうからな。お前がそれを忘れることはなんであれ許されない……」
「貴方なんかに許して貰えなくても構わないわ。そういう風に動いてないもの」
両者の視線が交錯する。
これで互いが相容れぬ者同士だとよく解った。
凄惨で陰鬱な景色。これが追憶だとは認めたくはなかった。桜雪は華桜の刃を敵に差し向け、真っ直ぐな眼差しを向ける。
「追憶は少し寂しいけど優しいものだよ。ボクはそう、思っている」
次の瞬間、駆け出した桜雪が敵との距離を詰めた。刃でリウ・メイファを薙ぎ払おうとした桜雪だが、相手は炎を巻き起こしてそれを受け止める。
周囲には彼女が追憶と呼ぶ迷路が展開され続け、此方を惑わせようと揺らめいた。
グラナトは力を紡ぎながら首を横に振る。
「あぁ、またこの幻か……言っただろういまさらだと」
周囲の幻を斬り裂くように剣を振るい、グラナトは心を強く持った。追憶も過ぎればただの思い出。
過去を事実だと認めた今、グラナトが揺らぐはずもない。
そしてグラナトはリウ・メイファへと狙いを定める。その間に桜雪が身を引き、相棒のシマエナガを飛び立たせた。
「相棒、お願い。出口を探してきて」
それは迷路となったこの教会内を調べさせる目的だった。だが――。
「邪魔ね、その子」
リウ・メイファが此方の動きに気付き、炎で出来た騎馬軍団を解き放った。宙を駆ける騎馬によってシマエナガが穿たれ、地に落ちる。
「相棒が……」
「待て、下手に動くな」
とっさに桜雪が駆け寄ろうとしたが、グラナトがそれを制止した。見れば騎馬は此方にも向かってきている。グラナトは紺碧の指輪を掲げ、リヴァイアサンを召喚する。
二人の前に立ち塞がる形で顕現したそれは炎の騎馬を見事に防いだ。
大丈夫だったか、と問いかけたグラナトは更に指輪に魔力を込めてゆく。
「今は戦いに専念したほうが良い」
「……そうだね、あの人を倒せば迷路も解けるよね」
グラナトには礼を、そして相棒にはごめんねと告げた桜雪はリウ・メイファに刃を差し向けた。彼女はまだ余裕の笑みを浮かべている。
されど、グラナトも桜雪も決して負ける気などなかった。
揺らいでいる過去の景色も、思い出せない記憶の欠片も、自分達を脅かすものには成り得ないのだと分かっている。
「今の俺には他に大切なものがある」
リヴァイアサンの力を解き放ち、グラナトは凛と宣言する。
その証がこの紺碧の指輪。
そう示すように腕を掲げれば、氷雪の魔力が戦場に迸った。炎の騎馬を打ち消すほどの力は容赦なくリウ・メイファを穿っていく。
「……へぇ、なかなかやるじゃない」
「俺は炎を司るものだが、指輪の縁を辿れば氷雪を操ることもできる。少しは油断したのではないか」
グラナトが更なる力を紡いでいく中、桜雪も気を引き締めた。
周囲の幻影はまだ見えている。自分はその人を覚えておらず、名前すら言えない。夢を見た後は何故か悲しくて忘れてしまいたいとすら思うこともある。
「でも、忘れたくなかったから悲しくなるんだ」
忘れたいと願ったのは事実だ。それでも、心に残り続けることであるのも事実。
それを勝手に幻影として、名ばかりの追憶にさせられるのは許せない。それゆえに最後まで戦い抜くと決めた。
「これはあなたの玩具じゃない。弄ばないで」
桜雪はもう一度、地面を強く蹴る。
そして、距離を詰めると同時に振るった透き通る刃がリウ・メイファを斬り裂いた。其処にグラナトのリヴァイアサンによる氷雪が激しく舞う。
戦いはまだ続くだろう。
それでも攻撃の手は決して緩めぬと心に決め、猟兵達は敵を強く見据えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フラム・フレイ
とても苦痛な術式でしたよ。
もう二度と見たくもない景色ですね。
あれをもう一度。それなら僕は降ります。
そんなくだらないデスゲーム、疲れるだけだ。
悲鳴も五月蝿い。
そうだ、ここでお前を殺してしまえば全てが終わる。
僕の頭痛を治すために協力してくださいね。
雨と泡を合成。
全力魔法で泡の牢をお前にぶつける。
五月蝿すぎる。その中で藻掻き苦しめ。
あとは串刺し。
牢の中で藻掻き苦しむお前をそのまま串刺しにしてやる。
悲鳴はあげないでくれるかな。
頭に響くんだ。
デスゲームの勝者だからなんだ。
そんなちっぽけなゲームで満足しているお前が可哀想だよ。
だから今すぐ黙れ。
あーあー、五月蝿い五月蝿い。
鶴澤・白雪
成程、忘れてまたデスゲームがしたいなんてロックね
その気概は結構好きよ
でも方法が非人道的だから論外だわ
また【忘れてしまいたい記憶】?一辺倒ね
効果的な子はいるでしょうけどあたしには無意味よ
見えたものが火の海だろうが関係なく敵を見据えて引鉄を引く
出口探しなんて後回し
倒してからゆっくり探せばいいわ
あたしもね、焔を扱うのよ
貴方に贈るインフェルノは業火の炎ではなく消えぬ焔
清冽な蒼の焔でその身を貫かれるのも演出としては面白いんじゃないかしら?
全力魔法のUCで貫きにいくわ
口で何と言おうがこっちはゲームじゃないのよ
墓場で葬った子達の分まで撃ち抜くって決めてるの
冷気の属性を込めた弾丸でその炎ごと消してあげるわ
●焔棘と水牢
「成程、忘れてまたデスゲームがしたいなんてロックね」
「とても苦痛な術式でしたよ」
白雪とフラムは其々に件の幻影や光景を思い、感じたことを言葉にした。対するリウ・メイファは笑みを浮かべ、猟兵達を金の瞳に映し出す。
「そうでしょう。素晴らしいと思わない?」
対するフラムは首を横に振った。
「もう二度と見たくもない景色ですね。あれをもう一度? それなら僕は降ります」
そんなくだらないデスゲーム、疲れるだけだ。
悲鳴もただ五月蝿かっただけなのだと示したフラムが肩を竦める中、白雪は僅かな肯定の意思を見せる。
「その気概は結構好きよ。でも――」
しかしそれも一瞬のこと。
言葉にすればロックであっても、リウ・メイファのやり方は気に入らない。
「方法が非人道的だから論外だわ。それに、また忘れてしまいたい記憶?」
一辺倒ね、と揶揄する白雪。
すると敵は薄く口許を緩め、それでいいの、と答えた。
「同じ物を何度も見ることでどうなると思う? 追憶はもっと素敵な記憶になるの」
忘れたい、けれど忘れられない。
そういった記憶になるのだと話したリウ・メイファは楽しげだ。きっとそれは受け取り方によって様々な感情を引き起こすだろう。
凄惨な光景が記憶に残り続ければ心が壊れる。切なさが宿る記憶ならば、胸の痛みはより酷くなる。またそれに慣れきってしまえば、その記憶からは何も感じられなくなる。どのようになっても面白い。彼女はそう告げた。
「そうですか」
「効果的な子はいるでしょうけどあたしには無意味よ」
だが、フラムも白雪も動じることはなかった。フラムは魔力を紡ぎ、白雪は尖晶石の眸を敵に差し向ける。
周囲に揺らぎ続ける幻影は消えることはない。
きっといくら打ち消そうとも、何度でも張り巡らされていくのだろう。
堂々巡りになるのは目に見ているので、白雪もフラムも迷路をどうにかしようという思いには至っていない。
「そうだ、ここでお前を殺してしまえば全てが終わる」
僕の頭痛を治すために協力してくださいね。そう告げて、片手でこめかみを押さえたフラムは雨と泡を合成していく。
白雪は黒銃を手にして、引鉄を引いた。
見えたものが火の海だろうが、これまでの記憶全てだろうが、今の二人には関係がない。ただ敵を見据えて魔力と銃弾を放つだけ。
出口など後回し。所詮、敵を倒しさえすれば解ける迷路だ。
「殺されるのは貴方達の方よ」
対するリウ・メイファは炎の騎馬軍団を解き放った。だが、フラムが巻き起こす泡の牢が騎馬を包み込んで相殺する。
「五月蝿すぎる。その中で藻掻き苦しめ」
次に囚われるのはお前だと示すようにフラムが告げる中、白雪が力を紡ぎ始めた。
「あたしもね、焔を扱うのよ」
悪業の紅と壮麗な蒼。
彼女に贈るインフェルノは業火の炎ではなく、消えぬ焔だ。
「清冽な蒼の焔でその身を貫かれるのも演出としては面白いんじゃないかしら?」
「そうね、紅も蒼が入り交じる様はとても綺麗」
リウ・メイファは炎を受け止めながら薄く口端を吊り上げた。炎を盾代わりにした敵と、白雪の力が拮抗しあう。
それはまさしく引き遭う火花。
炎と焔が衝突しあい、熱気と冷気が戦場に弾けた。
「ふふ、楽しいゲームになりそう」
「デスゲームの勝者だからなんだ。そんなちっぽけなゲームで満足しているお前が可哀想だよ。だから今すぐ黙れ」
リウ・メイファがくすりと笑むと、フラムが再び雨と泡の力を放った。
其処に合わせて白雪が蒼焔の棘を周囲に巡らせてゆく。この状況でもまだ楽しいと云える彼女に付き合ってやる義理はない。そう語るかのような焔が広がっていった。
「口で何と言おうがこっちはゲームじゃないのよ」
思い返すのは、墓場で葬った子達。
彼らが、彼女らが抱いた無念の分まで撃ち抜くと白雪は心に決めていた。冷気の属性を込めた弾丸は容赦なく敵に襲いかかっていく。
「あなたのいうゲームとやら、その炎ごと消して潰してあげるわ」
「そう簡単に出来ると思って?」
リウ・メイファは弾丸や泡牢を避け、弾きながらくすくすと笑んだ。フラムは全てが面倒で忌むべきものだと感じながら、敵を胡乱な目で見遣る。
「あーあー、五月蝿い五月蝿い」
早く彼女を黙らせ、この戦いを終わらせる。
そうすればこの廃都の弔いにもなるだろう。しかしリウ・メイファから放たれる騎馬や幻影の力も強い。
白雪達は強く敵を見据え、ここから更に巡っていく攻防への覚悟を決めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アオイ・フジミヤ
ネフラさん(f04313)と
私は……彼女のことを好きなひとから聞いて知っている
美しくて可憐な紅牡丹のひと
でもあなたはあの人の貴女ではないのね
WIZ
UCの波でメイさんを覆う
炎も、私の過去も、偽物の大切なひとも
友人を守るためにも全て覆って流す
心を鼓舞し、2回攻撃・衝撃波を放ち動きを止めて意識を逸らし距離を詰め、Naluで打ち払う
ここに来る前
彼はメイさんをただの敵だと言ってくれた
目が覚めた気がした
でもなぜこんなに胸が痛むんだろう
ねえ、ネフラさん
切なくて苦しいんだ
なんでだろうね
知りたかった
知らないままではいたくなかったから
オブリビオンでも、彼女に逢いたかった
今はただ…早く好きなひとに逢いたいと思うだけ
ネフラ・ノーヴァ
引き続きアオイ(f04633)と共に
白いドレスは赤く返り血に染まり
全く、くだらぬ前戯に付き合わされたものだ
自分に似るからこそ違いが気にかかる
しかし奴と相見え、戦の高揚に浮かべるは笑み
そして大切なアオイを傷付けさせないためにも前衛に躍り出る
どんな手で来ようが戦場に於いては如何なる時も躊躇い無しだ
刺剣を繰り、UCはアオイの波と同時に使う
悲劇で流された血を、Kai'uraの肉食魚と変じさせメイを急襲する
幻想と共に溺れるがいい
乗じてその腹に刺剣を突き立ててみせよう
きっと奴は最期まで余裕の笑みを浮かべるのだろう
戯れに接吻でもすれば一瞬でも驚く顔が見れるだろうか?フフッ
●血と廃都の彼女
「あなたはあの人の貴女ではないのね」
アオイはリウ・メイファを見つめ、静かな言の葉を落とした。
自分は彼女のことを、好きなひとから聞いて知っている。美しくて可憐な紅牡丹のひとだと記憶している。
だが、目の前の存在は違う。
オブリビオンとして過去から染み出し、世界を破滅に導く者のひとり。
嘗て誰かと深く関わったとて記憶を有しているとは限らない。その存在は、或る時は本人そのものであるかもしれない。しかし、同時に別の意識や目的を持つ違う何かに変容する可能性があることを忘れてはいけない。
敵を見つめるアオイの傍ら、ネフラは軽く頭を振った。
白いドレスは返り血で赤く濡れており、ネフラがどれだけの異形を葬ってきたかが一目で分かるほどだ。
「全く、くだらぬ前戯に付き合わされたものだ」
大丈夫か、とアオイに呼びかけたネフラは周囲に広がっていく幻影には目もくれず、前方に佇むリウ・メイファを見据えた。
彼女と自分は妙に似ているからこそ相手との違いが気にかかる。
しかし、この廃都をああした元凶である者と相見えた今、戦の高揚がネフラの裡に浮かんでいた。其処に浮かべる笑みは深く、紅く染まった双眸も細められている。
されど、ネフラは大切なアオイを護るために動いた。
心も、そして身体も。どちらも傷付けさせないと決めたネフラは前に躍り出る。
「……平気。寧ろ目が覚めたかな」
アオイは頷き、そっと掌を胸の前に掲げた。
其処から解き放つのは海の鬼。それが具現化した瑠璃色の波を戦場に解き放ち、アオイは敵を見つめる。
波に合わせてネフラが血棘の刃を振るいあげ、敵を斬り裂いた。
だが、リウ・メイファは咄嗟に避ける。肌が僅かに傷付けられただけの彼女は未だかなりの余裕を持っている。
「貴女、私になにか幻想を抱いていたの? 私は今、此処に居る『私』として顕現したの。それをただ否定しにきただけだっていうのなら、失礼極まりないわ」
相手はアオイに向けて揶揄うような眼差しを向け返した。
ここに来る前、彼は彼女をただの敵だと言った。その意味がわかった気がすると感じたアオイは更なる力を紡ぐ。
炎も、自分の過去も、偽物の大切なひとも――そして、友人を守るためにも全て覆ってしまえば良い。心を鼓舞したアオイはただ目の前の存在を屠ろうと決めた。
彼女の心が揺らいでいることを感じながらも、ネフラは刺剣を振るい続ける。
周囲に映される廃都の記憶。
それらは未だ見えているが戦いの手を止める理由には成り得ない。どのような手で来ようが、此処が戦場であるならば如何なる時も躊躇いはない。
それがネフラの矜持であり、戦い方だ。
そして悲劇で流された血を変幻させ、肉食魚へと変えたネフラは指先をリウ・メイファへと向けた。
従うように宙を泳いでいった魚達は一気に敵に襲いかかってゆく。
「幻想と共に溺れるがいい」
「ありがとう、ネフラさん」
彼女が自分を支えようとしてくれていることが分かり、アオイはそっと礼を告げた。そう、あの敵は偽物で関わりなどないと思った方が良い。
けれど――なぜ、こんなに胸が痛むんだろう。
思わず俯いてしまったアオイは胸元を押さえ、前線で戦うネフラの名を呼ぶ。
「ねえ、ネフラさん。切なくて苦しいんだ。なんでだろうね」
「……それはまやかしだ。そう思えばいい」
彼女の心境を慮ったネフラは敢えてそう告げ返した。
胸の痛みはきっと本物だろう。しかし今は戦いの最中。勝って帰還する為にも戸惑っている暇は与えられない。
「貴女とじゃゲームにもならない。さっさと目の前から消えてくれないかしら?」
現に、敵が放った炎の騎馬軍団がアオイに向けて解き放たれていた。くすりと笑むリウ・メイファはどうやらアオイを甚振るつもりのようだ。
「アオイ!」
「――全部、流そう」
ネフラからの呼びかけに頷いたアオイは再び波を解き放った。大丈夫、と自分にも言い聞かせるような言葉を紡いだ彼女の力は炎を打ち消していく。
案ずるまでもなかったかと呟いたネフラはアオイに信頼を寄せ、自らも更なる肉食魚を解き放つことで敵を穿っていった。
そして、その強襲に乗じてリウ・メイファの腹に刺剣を突き立てる。
「……っ、なかなか」
やるじゃない、と呻いた彼女はネフラから距離を取る。それによって敵から血が滴ったが、まだ戦う力が相当に残っているようだ。
アオイはここからも戦いが続いていくのだと悟り、強く身構え直した。
仮令、落胆するとて知りたかった。
知らないままではいたくなかったから。オブリビオンでも、彼女に逢いたかった。そのために此処まで来たのだから――。
「今更、引けはしないな」
「……ええ、もちろん」
思いを代弁するようにネフラが言葉を落とし、アオイも真剣な眼差しを向ける。
そして、幻影渦巻く戦場での闘いは巡ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコラス・エスクード
些些たる生き様だな
在りし日の過去に陶酔し繰り返し
剰え、また同じ過去を体験したいと
児戯にも劣る、空虚な遊戯だ
だがそうにも過去に拘るのであれば
彼奴自身を過去へと変えてやろう
今を生きぬ、過去に残り続ける骸へと
忘れ去られるだけの記憶へと
この地を滅ぼした騎馬の群れか
この身を、我らを以って迎え撃つ
錬成カミヤドリにて我が身を写し、
盾の群れを壁と成して受け留める
勢いをそぎ彼奴への道が開ければ十二分
我が身は報復者の盾であり、刃である
この身にて、刃にて
この地の怨嗟を、悲哀を、喰らってきた
今もなお残り続ける汚辱を雪げと
この穢れた地を正しき姿へ戻せと
我が身に宿した報復の意思を
『報復の刃』にて其の身へと呉れてやろう
●復讎の盾刃
ゲームをしましょう。
彼女はそのように語り、周囲の景色に幻影を映し出していった。廃都の惨劇が繰り返される光景を前にして、ニコラスは静かに言葉を紡いだ。
「些些たる生き様だな」
在りし日の過去に陶酔し、繰り返すのみ。
剰え、また同じ過去を体験したいと語るリウ・メイファ。彼女に対してニコラスが抱いたのは呆れにすら届かない些事たる思いだった。
「児戯にも劣る、空虚な遊戯だ」
「あら、子供の遊びだって侮れないと知らないのかしら」
対するリウ・メイファはニコラスを揶揄うように薄い笑みを浮かべる。
ニコラスが纏う剣呑な雰囲気と敵が向ける鋭い眼差しが交差した。その瞬間、相手が指先で炎を描き、焔の騎馬軍団を解き放つ。
吶喊してくる騎馬の勢いは激しい。
あれがこの地を滅ぼした騎馬の群れだろう。そう感じたニコラスは自らの器物たる盾を周囲に展開した。
「この身を、我らを以って迎え撃つ」
己身を写した数多の盾が壁と成り、騎馬を防ぐ一手となる。盾から逸れた騎馬がニコラスを穿ち、黒獅の甲冑が炎に包まれていく。
されど彼は穿たれる痛みと衝撃に耐えきった。そして鎧兜の奥からリウ・メイファを見据え返し、重く言い放つ。
「そうにも過去に拘るのであれば、その自身を過去へと変えてやろう」
今を生きぬ、過去に残り続ける骸へと。
ただ、忘れ去られるだけの記憶へと。
それこそが忘れたくないことを忘れたいと願った愚かな者に与えられる末路だ。
ニコラスは身構え、その身に力を巡らせてゆく。
「我が身は報復者の盾であり、刃である」
静かな声色で紡がれていくのは此処から解き放つ力への宣言めいた言葉だ。
これ迄、見てきた物。
この身にて、刃にて、斬り伏せてきた者。
廃都に満ちる怨嗟や悲哀を喰らってきたニコラスであるからこそ解る。
今もなお残り続ける汚辱を雪げと、この穢れた地を正しき姿へ戻せとこの都の人々や魂が嘆き、告げていた。
そして、ニコラスはその身に宿る力を一気に解放する。
この地に巡っていた呪怨が、惧れが、怒りが、悲歎が。それら総てが報復の刃へと変わり、戦場に広がった。
くだらぬ遊戯など止めてみせると告げるように、深く、重く――。
成功
🔵🔵🔴
ティーシャ・アノーヴン
藤子(f08440)さんと引き続き共に。
あれが貴方の快楽であるならば、私とは生き方が異なります。
自然界において、生き方の違う生物同士が相容れないのは多々あること。
責めも問いも致しません。
ただ自然の掟に従うまで、です。
また故郷の森ですか。
そう・・・生き方が違うのです。自然なことです。
今、理解しました、私は故郷に淘汰されたのですわね。
ですから、私はここにいます。
藤子さん、大丈夫ですか?
苦しいのならお手を。今度は私もきちんとフォロー致します。
古代の大鰐を呼び出し、リウさんの脚を狙うように命じます。
同時に、足元に注意を向けさせ、藤子さんが動き易いようにサポートします。
迷路は第六感を信じて進みましょう。
鵠石・藤子
他人が何を愉しむかは自由だけどな
オレ達が断罪するのも自由ってェ事だ
刀を構えるものの、再び現れた幻に首を振り
…何――
差し伸べられた手を取ろうと言う時には
トーコに人格を変えて緩く微笑む
――ありがとうございます、ティーシャさん
…わたし達の過去は、貴女の様な意味のない物ではありません
第六感と追跡で敵を追い、討ちます
妖刀解放にて力を解放し、斬り込む
わたしと藤子さんは"同じ"
だから想いは同じですよ
精々愉しんでください、リウ・メイファさん
これが貴女の最後の闘いでしょう
ティーシャさんのフォローに感謝しつつも
遠距離から衝撃波、高速移動からの攻撃で翻弄を狙う
見たことのない動物ですが…
動きに合わせて上を狙いましょう
●過去に懷う
追憶の遊戯に屍血流路。
廃都に満ちる怨嗟や嘆きに触れ、凄惨さを感じ取ってきたティーシャと藤子は今、怒りにも似た感情を覚えていた。
「あれが貴方の快楽であるならば、私とは生き方が異なります」
「他人が何を愉しむかは自由だけどな。オレ達が断罪するのも自由ってェ事だ」
二人はそれぞれにリウ・メイファに感じたことを告げ、身構える。
ティーシャは思う。
自然界において、生き方の違う生物同士が相容れないのは多々あること。それゆえに責めも問いもしない。
ただ自然の掟に従うまでだと自分を律し、ティーシャは長杖を強く握った。
藤子もまた刀を構える。
だが、彼女達の周囲に張り巡らされた迷路はふたたび過去の幻を映し出した。
「確か貴女達の片方はあの迷路で随分と惑わされていたようね」
きっとあのとき、何処かから様子を見ていたのだろう。リウ・メイファが藤子を見遣った瞬間、その周りに廃都内で見た屋敷と障子が見えはじめた。白い和装の自分と、白装束の母親の影が揺らめく。
「……何――」
一瞬、藤子の動きが止まった。
はっとしたティーシャには、彼女が何を見ているのかは分からない。だが、何か心を揺らがせるものが映っているだろうことは理解できた。
「藤子さん、大丈夫ですか?」
苦しいのならお手を、と伸ばした腕。
その手を藤子が取ったときにはもう、彼女の人格はトーコへと変わっていた。
「ありがとうございます、ティーシャさん」
大丈夫です、と微笑んだ藤子は幻影から目を逸らす。
様子が先程までとは違うことが気にはなったが、平気だと告げられた言葉に嘘はないようだった。一先ずほっとした様子のティーシャだが、自分の周囲にも過去の景色が揺らいでいることも認識している。
「また故郷の森ですか」
ぽつりと呟いたティーシャは自分が戸惑いを覚えていないことに気が付いた。当初は忘れてしまいたい記憶がこれだということに心がざわついた。
それでも、二度目となると胸中の思いも静かに凪いでいるようだ。それは先程、リウ・メイファへと感じた思いにも通じている。
「そう……生き方が違うのです。自然なことです。今、理解しました、私は……故郷に淘汰されたのですわね」
紫の眸が薄く細められ、一度だけ瞼が伏せられた。
しかし、すぐに顔を上げたティーシャは首を横に振る。
「ですから、私はここにいます」
「ティーシャさんは、乗り越えられたようですね」
トーコは傍らに立つ彼女が決意を抱いたことを察し、そっと頷いた。そして此方の様子を窺っていたリウ・メイファへと黒嗟鵠石を差し向ける。
「……わたし達の過去は、貴女の様な意味のない物ではありません」
其処から妖刀の力を解放したトーコはひといきに敵へと斬り込んでいった。
「忘れたいと願う、けれども忘れない……その思いを弄ばないでください」
ティーシャも魔力を紡ぎ、大鰐霊を召喚する。
呼び出された古代の大鰐は敵の足元を狙うようにして戦場を駆け、巨体を活かして吶喊していった。
彼女が前線で立ち回る自分のフォローをしてくれていると感じたトーコは感謝を抱く。戦場で暴れまわる大鰐は物珍しかったが、トーコはすぐにその動きを把握した。
「見たことのない動物ですが……いいですね、合わせます」
鰐が下を狙うのならば自分は上を。素早く駆けたトーコは跳躍し、大鰐がリウ・メイファに襲いかかると同時に刃を振り下ろした。
きゃ、と相手から短い悲鳴があがる。
どうですか、と自分達の連携を示したトーコは敵を見据えた。
「わたしと藤子さんは“同じ”だから想いは同じですよ。精々愉しんでください、リウ・メイファさん」
「そうね、貴女達とのデスゲームは楽しめそう」
体勢を立て直したリウ・メイファはトーコからの呼びかけに薄い笑みで答える。ティーシャは彼女の言い分に違和を覚えたが、それもまた相容れぬ故の違いだと感じた。
「戦いを楽しむなんて……いえ、それもあなたの生き方なのですね」
それならば、互いの思いと正義をぶつけあうだけ。
この勢いのまま行きましょう、と告げたティーシャの声にトーコが頷きを返し、二人は更なる攻勢に入っていった。
まだ戦いは続く。それでも決して惑わされはしない。
各々の思いを強く抱いた二人は全力を振るい、激しい戦いに身を投じていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
風見・ケイ
大好きな人の特別になれた
その幸福に気づいた私は、
彼女が死ぬというのに笑顔を
――忘れるものか。
毎日のようにその幸福で目が覚めて
心が擦り減っていくのだから。
嫌いな自分といったら、君だろうね。
その笑顔を見ていると死にたくなってくる。
……残念ながら、その願いは叶わないけど。
(たぶん、ね)
胸に拳銃を当てる
幽明境の暮れ泥みに、此岸も彼岸もありはしない
……ッ、ほら、ね。
覚悟して耐える。
屍血流路の彼らの痛みは、苦しみは、こんなものではないだろう
彼らの弔いのためにも、なんて偽善かな
胸の痛みを甘受して、あちらの私に銃口を向ける。
大嫌いな私の笑顔と
吸血鬼の下卑た笑顔
みんな消えてしまいますように
そう願って引鉄を――
●嫌いな笑顔
幻が、廻る。
それはあのときのこと。忘れもしない、あの人のこと。
大好きな人の特別になれた。
その幸福に気づいたケイは、彼女が死ぬというのに笑顔を――。
幻が、振り払われる。
「――忘れるものか」
顔を上げたケイは垣間見えた過去の光景から目を逸らし、前方に立つリウ・メイファへと視線を向け直した。
忘れたい記憶などとは思いたくなかった。それゆえに幻に抵抗した。
毎日のようにその幸福で目が覚めて心が擦り減っていくのだから。胸に手を当てたケイは首を横に振る。
対するリウ・メイファはケイを更に弄ぶように鏡想遊戯の力を発動した。
すると其処に影が現れていく。
ケイが嫌う相手自身と大切なヒトを模したそれらは敵の代わりに襲いかかってきた。だが、ケイは少しも動じる様子を見せることなく淡々と告げる。
「嫌いな自分といったら、君だろうね」
現実を認識しつつ静かに呟いたケイは拳銃を握った。
その笑顔を見ていると死にたくなってくる。けれども、残念ながらその願いは叶わないことも知っていた。
(たぶん、ね)
そんなことを思いながら、ケイは自分の胸に拳銃を押し当てる。
銃爪を引いた刹那、心臓が撃ち抜かれた――ように見えた。されどそれはUDCの防御反応を引き起こし、『願いを叶える星』の力を更に強くさせるためのものだ。
そう、幽明境の暮れ泥みに、此岸も彼岸もありはしない。
「……ッ、ほら、ね」
覚悟をして、耐える。
死ねないことを示すようにケイは息を吐いた。
呪縛は重く、彼女自身を苦しめる。それでも、その代償に反して星の力はより深く強く巡っていくのだ。
きっと屍血流路で蠢くことしか出来なかった彼や彼女達の痛みや苦しみは、こんなものではないはずだ。ケイは自ら屠ってきた彼らを思い、拳銃を強く握り直す。
「彼らの弔いのためにも、なんて偽善かな」
「弔いなんて必要ないわ。あれは楽しい遊戯だもの」
するとケイの言葉を拾い上げたリウ・メイファがくすくすと笑った。尚も彼女が呼び起こした偽物の自分達はケイ自身に襲いかかってくる。
だが、ケイは怯まない。胸の痛みを甘受して立ち回り、攻撃を避けながら向こうの自分に銃口を向けた。
大嫌いな私の笑顔と、吸血鬼の下卑た笑顔。
(みんな消えてしまいますように)
星に願うように、ケイは銃爪に掛けた指先に力を込めた。
そして――。
二発分の銃声が続けて鳴り響く。
その瞬間、ケイの前に現れていた影達は跡形もなく消え去っていった。
大成功
🔵🔵🔵
コーディリア・アレキサンダ
オブリビオンのような魔の因子の強いモノが好んで食したがる体質
ボクの悪魔はそれを「魔性」と呼んでいるけれど
どうやらボクはその「魔性」というやつらしい
だから他の誰かに血を飲ませちゃダメって言われているんだよね。スバルに
そういうわけだから、最初から全力で行かせてもらうよ
――バーゲスト。ボクの敵意を糧に、吸血鬼を喰い破れ
大丈夫。キミは猟犬だ。迷宮であろうと容易に突破していけるはずさ
ボクを食べに、近くまで来てくれているかもしれないしね
ボク? ボクは……自前で努力するよ
忘れてしまい記憶――本心でそう思っていても
ボクはそれを糧に前に進むから
さあ、罪を精算するといい
……ボクも、何れその時が来るのだろうけれど
●過去は過去へ
繰り返される幻は廃都の光景。
それらは一度、既に目にしたものだ。コーディリアは周囲に巡る景色は意識せず、吸血鬼に眼差しを向けていた。
オブリビオンのような魔の因子の強いモノが好んで食したがる体質。
コーディリアが宿す悪魔はそれを『魔性』と呼んでいる。そして、彼女自身はどうやらその魔性に属する存在らしい。
それゆえに、先程から吸血鬼たるリウ・メイファの視線がコーディリアに向け続けられているのだろう。
この戦いに敗北すればきっと彼女はコーディリアの血を求めるはずだ。
「他の誰かに血を飲ませちゃダメって言われているんだよね」
あの子に、と呟いたコーディリアは片手を掲げた。紡ぐ魔力と同時にリウ・メイファへと敵意を向けた彼女は静かに告げる。
「そういうわけだから、最初から全力で行かせてもらうよ」
――バーゲスト。
その名を喚べば翼を持った猟犬がコーディリアの前に顕現した。
「ボクの敵意を糧に、吸血鬼を喰い破れ」
命じた言葉に忠実に従うように猟犬は地を蹴ってリウ・メイファの元へ駆けた。入り組む迷宮の路は敵への路を阻むように思えたが、バーゲストは難なく真っ直ぐに敵を目指していく。
「大丈夫。キミは猟犬だ。容易に突破していけるさ」
「それはどうかしら?」
猟犬の牙が吸血鬼に迫ったが、敵は容易に身を躱した。そして炎の騎馬がコーディリアに向けて解き放たれた。
リウ・メイファはくすりと笑む。
その仕草は猟犬など眼中にないのだと示すような動きだ。
コーディリアは咄嗟に箒に乗って上空に飛びあがり、騎馬の突撃を避けた。壁に衝突した炎はくしゃりと歪み、リウ・メイファの手元に戻っていく。
周囲に揺らいでいる景色は、彼女が別の意味で忘れたいと願った遊戯の記憶だ。
それを見遣ったコーディリアは緩く息を吐いた。
「ボクは……自前で努力するよ」
その言葉は忘れてしまい記憶についてのもの。たとえ本心でそう思っていたとしても、自分はそれを糧に前に進む。そのように決めたから。
コーディリアはバーゲストに魔力を注ぎ、これまで以上の敵意を吸血鬼に向けた。
「さあ、罪を精算するといい」
――ボクも、何れその時が来るのだろうけれど。
続く思いは言葉には乗せず、コーディリアは猟犬を一気に飛び掛からせた。
今の彼女が求めるのはただひとつ。
あの紅い吸血鬼の最期が訪れる刻、ただそれだけだ。
成功
🔵🔵🔴
アウレリア・ウィスタリア
ボクの……私の、過去?
えぇ、忘れ去りたい
いえ、忘れていた記憶を、私自身が紡ぎましょう
どんな幻も私には関係ない
目に映る光景を、今まさに……
私自身が思い出しているのだから
【空想音盤:絶望】
頭痛も吐き気もする
でも動けない訳じゃない
この絶望を敵に、
絶望を振り撒く側だと自負する強者に突きつけるまで、前に進む
目の前に立つ敵に知らしめてやりましょう
弱者の痛みを、苦しみを、絶望を
さぁ、どうですか?
私の絶望の記憶は、絶望をその身で体験した気分は?
魔銃を構え敵に狙いを定める
ボクは非力な弱者でした
でも弱者だからこそ、強者を倒す刃となれる
破魔の力を込め、呪殺の弾丸を放つ
敵は全て消えて無くなってしまえ
アドリブ歓迎
●還す絶望
周囲に張り巡らされていく迷路の魔力は過去を映し出していく。
恐怖と怒り。突き刺さる視線。
それらは何度体験したとて慣れぬものだ。負の感情は留まることを知らず、心に深い闇を宿していく。
「ボクの……私の、過去?」
アウレリアは俯き、周囲に廻っていく記憶から一時的に目を背けた。
忘れ去りたい。
違う、そうではない。
「……いえ、忘れていた記憶を、私自身が紡ぎましょう」
顔を上げたアウレリアが見つめたのは記憶や過去ではなく、この廃都の惨状を作り上げた張本人――リウ・メイファだ。
「ふふ、いつまでも過去に浸っていればいいのに」
敵は妖しく笑み、アウレリアを揶揄うような眼差しを向けてきた。
変わらず周囲には幻影が浮かんでは消えていっている。しかしアウレリアは敵に向けて首を振ってみせ、そんなものは通じないと示した。
どんな幻も今の自分には関係がない。
何故なら、目に映る光景を、今まさに自身が思い出しているのだから。
アウレリアは返す言葉の代わりに力を紡ぐ。
――理想を抱き幻想に溺れ、現実を想起し絶望に染まる。
其処から放たれてゆくのは捨て去ったはずの苦痛と絶望の記憶から生み出される力。拷問され、汚され、痛め付けられた絶望に塗れた思念。
幻を見せる力があるのはリウ・メイファだけではない。
アウレリアから放たれた記憶の奔流は敵に向かって解き放たれていく。
頭痛も、吐き気もする。
けれど決して動けない訳ではなかった。アウレリアはこの絶望を以てして、絶望を振り撒く側だと自負する強者に突きつけてやろうと決めていた。
そして、自身は前に進む。
「知らしめてあげましょう。弱者の痛みを、苦しみを、絶望を」
「――!」
リウ・メイファは与えられた記憶の衝撃に声なき声をあげた。アウレリアは魔銃を構えながら相手に問いかける。
「さぁ、どうですか? 私の絶望の記憶は、絶望をその身で体験した気分は?」
「……ええ、素敵ね」
だが、吸血鬼は愉しげに微笑んだ。まるで気に入った、と言わんばかりの笑みだ。
されどアウレリアとて動じた様子を見せはしない。そのまま構えた銃に破魔を込め、動けぬリウ・メイファに向けて呪殺の弾丸を撃ち放った。
「ボクは非力な弱者でした。でも弱者だからこそ、強者を倒す刃となれる」
だからこそ、負ける心算などない。
そして――続く戦いの中で、更なる弾丸が解き放たれてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
楠樹・誠司
……遊戯と言い捨てるか、死を運ぶ者よ
人々の營み、生命の息吹を愚弄する者よ
嗚呼、理解出来てしまつた
おんなが輪廻を待つ影朧とは根本的に『違う』存在なのだと云ふ事を
御相手仕る
我が諱は『静寂』也
貴様には、永遠の忘却こそが相応しい
鏡写し
目前に聳えるは、嘗ての
見守る事しか出来ずに居た己の姿、そして
『神木』に救ひを求むる人々の、
一つだけ思ひ出せる事がある
あの日。星詠みは確かに、微笑んだのだ
――『明けぬ夜は無いのだ』と!
残月を奏で太陽の御使いを呼ぶ
魔を見通す其の力を以ちて
我を虚ろなるおんなの御許へと導き給う
接敵すると同時に抜き身の刃で薙ぎ払う
罪も業も、全て、全て
全て此の一太刀のもとに斬り伏せて御覧にいれませう
●黎明を告げるもの
其れを唯の遊びであり、戯れだと語る吸血鬼。
彼女が薄く笑む姿を然とした瞳に映した誠司は奥歯を食縛り、言葉を紡いだ。
「……遊戯と言い捨てるか、死を運ぶ者よ」
「ええ、これが私の愉しみだもの」
対するリウ・メイファは笑みを絶やすことなくその声に答える。己が成したことに一片の悔いもなく、改める心算すらないらしい。
誠司は太刀の柄を強く握り締め、無慈悲な吸血鬼を呼ぶ。
「人々の營み、生命の息吹を愚弄する者よ」
「それは褒め言葉かしら」
ふ、と嘲笑うような吐息が相手から零れ落ちた。其処で誠司は悟る。
嗚呼、理解出来てしまつた。
そう感じた誠司は刃の切先を相手に差し向けた。
此れは己の世界に潜む闇とは違う。このおんなが輪廻を待つ影朧とは、根本的に『違う』存在なのだと。
「御相手仕る。我が諱は『静寂』也」
「ご丁寧にどうも、シジマさん。貴方も絶望に堕ちるところを魅せて頂戴」
くすくすと笑いながら揶揄う姿勢を崩さぬリウ・メイファ。彼女も身構え、円を描くように炎の軌跡を目の前に描いた。
すると其処に嘗ての誠司と同じ姿を模したものと、人々の影が現れてゆく。
宛ら其れは過去の鏡写し。
見守る事しか出来ずに居た己の姿と、『神木』に救いを求むる人々。
此れまでは顳顬が酷く傷むゆえに輪郭しか見えなかった景色が――最も己が嫌う姿であるそれと、大切であった者達の幻影がはっきりと見えた。
「此れ、は……」
未だ其れは未だ靄が掛かったように遠い存在のように思える。
然れど一つだけ思い出せる事があった。
そう、あの日。
星詠みは確かに、微笑んだ。穏やかにも思える声で信じて已まぬ言葉を告げた。
――『明けぬ夜は無いのだ』と!
誠司は地を踏み締め、無意識に逃れようとしていた幻影に確りと目を向ける。そして幻影を一太刀のもとに斬り伏せて散らした。
更に其処から残月を奏で、傍に太陽の御使いである八咫を喚ぶ。
「魔を見通す其の力を以ちて、我を虚ろなるおんなの御許へと導き給う」
誠司の声に応えた黎明の力を宿す烏の群れは、リウ・メイファに向かって羽撃いていく。その後を追うように駆けた誠司は接敵すると同時に、抜き身の澄清で以て標的を薙ぎ払った。
「あの力が破られるなんて、ね」
吸血鬼は残念そうに肩を竦め、錬成した炎で刃を受け止める。
炎と刃。其れらが鍔迫合うように暫し拮抗した。そんな中、逃れるようにして先に後方に下がったのはリウ・メイファの方だった。
誠司は敵から目を逸らさぬまま間合いを測る。そうして静かに告げる。
「全て此の一太刀のもとに斬り伏せて御覧にいれませう」
罪も業も、全て、総て――。
意志は強く、必ず吸血鬼を屠らんとする思いが其の言の葉に込められていた。
成功
🔵🔵🔴
クールナイフ・ギルクルス
現れたレイリーと俺の姿
いいように操られやがってと自分に腹が立つ
ギル
彼女に呼ばれ反応してしまい
視線を移した瞬間
背後に回った俺に動けぬよう首にダガーを当てられる
クソ、俺だけなら楽なのに
私の指輪、返してもらっていい?
赤い髪を揺らし、にっこりと差し出される手に抗えず
微かに震える手で指輪を落とす
大切に持っててくれてありがとう
お礼に楽にしてあげるね
指輪を剣に変えた瞬間
主を侮辱するでないと言いたげに拒絶を放った
女王に気付かされる
コイツは偽物だと
女の悲鳴に後ろの意識が移る隙を逃さず
外套を脱ぎ投げ後ろの視線を遮る
同時に地を蹴り狙うは吸血鬼
アナタを倒せば消えるのでしょう
探す物ができたのです
遊びは終わりにしましょう
●雷の女王と夜の霧
巡る、廻る、鏡想と追憶の遊戯。
過去の景色が映し出される最中、クールナイフの前には二つの影が立っていた。
片方はあの日の自分。
そして、もう片方はレイリーの姿をしている。
いいように操られやがって、と幻影の自分に憤りを覚えながら、クールナイフは相対すべく身構えた。だが、不意に彼女の声が耳に届く。
「ギル」
はっとしたクールナイフはレイリーの影に意識を向けてしまう。しかし視線を移した瞬間、自分の影が背後に回った。そのまま動けぬよう首にダガーを当てられ、クールナイフは歯噛みした。
「クソ、俺だけなら楽なのに……」
ぼやく間もなくレイリーが自分の前に歩み寄ってくる。
美しい顔立ちに凛とした雰囲気。赤い髪を揺らした彼女はやはり、あの日々の記憶のままの姿をしている。にっこりと笑った彼女はクールナイフに向けて手を差し出し、無慈悲に告げた。
「私の指輪、返してもらっていい?」
「……レイ、リー……」
途切れ途切れながらも思わず彼女の名を呼ぶ。そうだ、これは自分の物ではない。彼女にしか扱えず、彼女だけを主と認めるものだ。
クールナイフはそれ以上は何も答えられず、微かに震える手を差し出し返した。
その指先から指輪が落ちる。
からん、とちいさな金属音が辺りに響いた。相手はただの幻影だ。それは分かっているはずだというのに、クールナイフは指輪を手放すほかなかった。
「大切に持っててくれてありがとう」
レイリーは微笑む。
ありがとう、だなんて言葉は一番今に相応しくない言葉だというのに。
「お礼に楽にしてあげるね」
そして、言葉を続けた彼女の影は指輪を拾ってそれを剣に変えた。だが――。
途端に弾ける雷鳴。
鋭い音と響く悲鳴。
主を侮辱するでない、とでも言いたげに雷の女王が影を拒絶した。
(女王……そうだ、彼女は――いや、コイツは偽物だ!)
頭では分かっていたというのに心が認めてくれなかった事実を思い出す。
クールナイフは本当の彼女が叱咤してくれたように感じながら、即座に身を低くした。女の悲鳴に対して後ろの自分もまた油断したらしく、その隙を突いて逃れようと狙ったのだ。
首に押し当てられていた刃が肌を薄く裂くことも構わず、クールナイフは外套を脱ぎ捨てる。思いきり身体を捻って背後の影を蹴り飛ばし、同時に視線を遮った。
雷の女王から弾けた雷撃が偽物の影達を穿ち、散らす。
次の瞬間にはクールナイフは地を蹴り、諸悪の根源たるリウ・メイファの元へ駆けていった。
そのときにはもう、いつもの彼に戻っていた。
己を律して冷静に振舞う彼はひといきに敵との距離を詰め、拾いあげた黒剣を構えて振り上げる。女王から爆ぜる雷はクールナイフ自身も貫いていったが、そのような痛みなど今は些細なことに思えた。
「アナタを倒せば、忌まわしき光景も消えるのでしょう」
「あらあら、残念。記憶のお友達といつまでも遊んでいればよかったのに」
リウ・メイファは刃を炎で弾きながら距離を取り、くすりと笑った。それが挑発だと分かっている故に答えはしない。
代わりに敵を鋭く見据え、次の一手を放つ好機を探ることに専念していく。
「探す物ができたのです。遊びは終わりにしましょう」
静かに告げたクールナイフ。
その言葉はまさに、冴えた刃のように鋭く敵に突き刺さった。
成功
🔵🔵🔴
シルヴィア・グリッターホーン
オズ(f23052)とまいります
いのちをもてあそぶことをあそびなどと
わたくしはおまえをだんじてみとめません
女神さまにいただいた盾を構え
放たれる騎馬軍団をシールドバッシュで蹴散らします
わたくしがおしまけるとおおもいですか!
けれどもオズが狙われたらその前へ踊り出て
無敵城塞で盾となりましょう
真に強い力とは弱きを護る力のことですから
動けないわたくしを追い越していく背には
何だか悲壮なものを感じます
…いいたいことは、たくさんありますけれど
うまくまとめられません
その代わり、戦いが終わったら
人に戻ったオズを助け起こすため手を差し伸べましょう
互いに、ひとりで為したことではない証として
よいせっしょんでしたね?
オズワルド・ソルティドッグ
レディ(f22341)と
同じ手を二度食うと思ってるなんざおめでたい奴だ
正しさ?知らねぇよ
だが自分が何者で何をすべきかは、今の俺は知ってる
【挑発】で攻撃を引き付け隙を作る
何がゲームだ、と鼻で笑い
ルールのない遊びをゲームとは呼ばない
さてはお前ゲームしたことないな?
レディが攻撃を引き受けると同時にUCを使用
お前ならそうするだろうと思ってたさ
俺の本質はどうせ奴と同じ外道だ
だから小さく眩しい背を越えて
人であることも棄て
リウ・メイファに【捨て身の一撃】を叩き込む
出し惜しみはなしだ
払うもん払ってとっとと帰んなお嬢ちゃん
差し伸べられた手は
全てが終わった後なら取ってもいい
レディなりの気の利いた台詞に敬意を表して
●人為らざる者
命が奪われ、食い荒らされていく景色。
教会だったはずの場所に広がる幻影の光景は揺らぎ、歪み、様々に移り変わっていく。
シルヴィアはこの廃都の惨状を。オズワルドは嘗ての獣を。
それぞれに見ているものは違うが、二人はもうそれらに意識を向けることはない。
「同じ手を二度食うと思ってるなんざおめでたい奴だ」
「いのちをもてあそぶことをあそびなどと、わたくしはおまえをだんじてみとめません」
オズワルドはリウ・メイファを見据え、シルヴィアも首を横に振って彼女がしてきた行為を断じた。
「あら、それが狙いなのに」
くすくすと笑う敵はオズワルド達に告げてゆく。
過去の忘れたいと思った光景。それは少なからず心に残っている記憶だ。それを何度も見せることで、起こる心の揺らぎを見たいのだ、と。
凄惨な光景が記憶に残り続けるなら心が壊れる。切なさが宿る記憶なら胸を打つ痛みはより酷くなる。またその記憶に慣れきってしまえば、何も感じられなくなる。どのようになっても面白い。彼女はそう語った。
「そんな……」
シルヴィアが盾を構える中、オズワルドは再びあの言葉を耳にした。
――誰にとっての正しさだ?
自分にしか聞こえぬ幻影の声に対してオズワルドは僅かに俯く。だが、すぐに顔を上げて敵を睨みつける。
「知らねぇよ。だが自分が何者で何をすべきかは、今の俺は知ってる」
「オズ、やはりこのままにしてはおけません。彼女をたおしましょう」
「……ああ」
シルヴィアの呼びかけに頷き、オズワルドはリウ・メイファを挑発するべく次の言葉を紡いでいった。
「何がゲームだ」
鼻で笑う彼やシルヴィアに向け、敵は炎の騎馬軍団を解き放つ。
しかしその吶喊は即座に飛び出したシルヴィアが構えた、崇敬の名を冠する盾で受け止められた。女神からの賜り物で以て騎馬を蹴散らし、シルヴィアは凛と言い放つ。
「わたくしがおしまけるとおおもいですか!」
「なかなかやるわね」
リウ・メイファはシルヴィアの果敢な行動にくすりと笑み、称賛の交じる言葉を送った。オズワルドも炎の残滓を振り払いながら更に敵を煽る。
「ルールのない遊びをゲームとは呼ばない。さてはお前ゲームしたことないな?」
「私の決めたルールは簡単よ。生きるか、死ぬか。それに気付けない貴方もゲーム慣れしていないのではなくて?」
そして、リウ・メイファは更なる騎馬を生み出していった。
次の狙いはすべてオズワルドに向けられている。
そのことに気が付いたシルヴィアはすぐさま彼の前に踊り出ると、無敵城塞の力を解き放った。総て受けて、耐える。
真に強い力とは弱きを護る力のこと。
その姿からはそんな意思が伝わってくるかのようだ。
「――オズ」
「お前ならそうするだろうと思ってたさ」
オズワルドは名を呼ぶ彼女の隣を追い越し、自らの血を覚醒させた。共に往く者であっても盾として利用する。己の本質はどうせ奴と同じ外道だと、胸中で独り言ちたオズワルドは真紅の瞳にリウ・メイファを映す。
小さく眩しい背を越えて、人であることも棄て――。
動けぬ自分を追い越していくオズワルドの背に何だか悲壮なものを感じながら、シルヴィアは駆ける彼を見守る。
(……いいたいことは、たくさんありますけれど、うまくまとめられません)
言葉にできぬ思いがある。
でも、今は身を賭して敵に向かう彼を信じるほかない。
そして――オズワルドはリウ・メイファに向けて捨て身の一撃を叩き込んだ。
「出し惜しみはなしだ。払うもん払ってとっとと帰んなお嬢ちゃん」
「……っ!」
それによって吸血鬼の体勢が大きく崩れ、その表情が歪む。それまでは余裕を保っていたリウ・メイファの態度にも変化が出てきたようだ。
しかし敵はオズワルドから距離を取り、更なる炎の乱舞を巻き起こそうとしている。
「まだ、このちからをふるいつづけないと――」
シルヴィアは何度でもこの盾で受け続けると決め、オズワルドを見つめた。
「レディ、頼んだぜ」
「……はい」
言葉を交わす二人は続く攻防への意思を強く持つ。
吸血鬼は強いが形成は此方の有利だ。きっともうすぐ、この闘いは終わるだろう。そう感じたシルヴィアは思う。
これが終わったら、人に戻ったオズワルドへと手を差し伸べよう。
互いに、ひとりで為したことではない証として――。
だからこそ、こんな遊戯になど屈しない。押し負けたりもしない。静かに秘めた思いを胸に、シルヴィアは盾を構え続けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セシリア・サヴェージ
あなたの遊びはもう終わりです。リウ・メイファ、暗黒に飲まれ消え去るがいい。
UC【血の代償】を発動。迷路内でどんな記憶を見せられたとしても、哀しみが私を強くする。
そして彼女に対する怒りが暗黒の力をより高めるのです。
暗黒に包まれた私の前に現れるのは、きっと暗黒騎士を快く思っていない人々でしょう。
とても悲しい事ですが……命がけで助けた人にすら、この姿を怖れられ拒絶されたこともありました。
ですが、ヴァンパイアを倒す……そのために私はこの力を求めた。
それが叶うのならば、どれだけ拒絶されようと、いくら傷つこうとも構いません!
惑うことなく進み、そして迷路を抜けた後に、全霊を込めた暗黒剣の一撃を届けましょう。
●闇と生きる
「あなたの遊びはもう終わりです。リウ・メイファ」
廃都に君臨する仮初の主。
紅く燃ゆる炎を操る彼女の名を呼び、セシリアは己の身に暗黒の力を纏わせていく。
くすくすと笑むリウ・メイファは周囲の景色を歪ませ、これまでの凄惨な光景や過去の景色を此方に見せてきていた。
だが、セシリアがそんなものに怯むはずがない。
「暗黒に飲まれ消え去るがいい」
敵へと鋭い言葉を差し向けたセシリアは暗黒剣を振りあげ、一気にリウ・メイファへと斬りかかった。
しかし素早い身のこなしで以て一閃を避けた彼女は炎を巻き起こす。
其処から生み出した炎の騎馬で他の猟兵諸とも巻き込むつもりだ。そう察したセシリアは身を翻し、暗黒の力で焔を弾き返した。
その間も周囲に投影された記憶は揺らぎ、歪み続ける。
暗黒騎士を快く思っていない人々の視線。蔑みや畏怖、恐怖に拒絶。それらが容赦なくセシリアに向けられている。
だが――。
(哀しみが私を強くする。そして彼女に対する怒りが暗黒の力をより高めるのです)
セシリアの身体が、そして心が痛めつけられるたびに宿る力は強くなる。
これこそが暗黒。
命がけで助けた人にすら己の姿を怖れられた。それでもセシリアは戦い続けると決め、今此処に立っているのだ。
「ヴァンパイアを倒す……そのために私はこの力を求め、貴女を屠りに来ました」
「それは見上げた根性ね。けれど、勝てると思って?」
対するリウ・メイファはセシリアを嘲笑うように口端を緩めた。されどそれが挑発だということも分かっている。
セシリアは再び剣を差し向け、敵へと言い放った。
「それが叶うのならば、どれだけ拒絶されようと、いくら傷つこうとも構いません!」
惑うことなく進む。
ただ一閃、確実にこの刃を叩き込むために。
駆けるセシリア。炎を盾として身構えるリウ・メイファ。両者の視線が交錯した、刹那。全霊を込めた暗黒剣の一撃が炎ごと敵を穿ち、赤い血を散らせた。
「しまった……!」
油断した、と呻いて下がった吸血鬼は自分が展開した炎が打ち破られたことに唇を噛む。セシリアは更に刃を構え、次なる一手を放つ機会を窺った。
きっと間もなく、この戦いも終わりに導かれる。
成功
🔵🔵🔴
蘭・七結
残酷なほどにおぞましいこと
この悲劇に幕を降ろしましょう
迎えるのは終幕、その果てよ
繰り返すのは何度目かしら
鬼のわたしと、眞白の『あなた』
幾度と重ねても色褪せぬ想い
清廉なるひとをあかくひずめたこと
わたしは『あなた』を奪ったわたしがうらめしい
ふたつの残華の刃で、その首筋に一閃を咲かす
散る一華に、溢れる血(あか)に、くちづけて
“許血の罪咎”
あ――あ、あ。いたい
四肢が裂かれるような感覚
いたくて、いたくて、たまらないのに
このいたみさえ、いとおしい
あかく、あかく染め上げてゆく
もう一度
いいえ、何度でも
わたしは『あなた』を屠り喰らうわ
おかえりなさい、愛しきひと
ステキな光景をありがとう
あなたも、ナユが攫ってあげる
●何度でも
炎が揺らめく戦場に映し出されたのは更なる過去の光景。
「残酷なほどにおぞましいこと」
再び巡った追憶の力による幻影を見渡し、七結はちいさな溜息を零した。先程の廃都と違うのは見据える先にリウ・メイファが立っていること。
彼女は此方が幻影に惑うのを見学するつもりなのか、先程から薄い笑みを浮かべて猟兵達を見つめていた。
もしかすれば、彼女にだけは自分にしか視えぬ各々の過去や記憶の景色が見えているのかもしれない。そうであるならば実に悪趣味だ。
「この悲劇に幕を降ろしましょう。迎えるのは終幕、その果てよ」
七結は静かに告げ、リウ・メイファへと宣戦の言葉を送る。
そして、幻影に意識を向けた。
いつしか、其処には二つの影が立っていた。
敵の力によって生み出された影。それを見て、繰り返すのは何度目だろう。
(――鬼のわたしと、眞白の『あなた』の姿)
七結は声には出さず、影を見つめる。
それは幾度と重ねても色褪せぬ想い。清廉なるひとをあかくひずめたことは、たとえ消したいと願っても決して消えぬ記憶。
(わたしは『あなた』を奪ったわたしがうらめしい)
嫌いな自分。大切な人。
それらに向けるのは残華の刃。七結は惑うことなく、まずは己の姿を模す影の首筋に一閃を咲かせた。
散る一華に、溢れる血。
其処にくちづければ、罪咎の力が七結の身体に巡ってゆく。
「あ――あ、あ。いたい」
四肢が裂かれるような感覚に、思わず声が零れ落ちた。
いたくて、いたくて、たまらないのに。けれど、このいたみさえ、いとおしい。
そして、七結はもうひとつの影へと刃を向けた。
周囲の光景は今、廃都で見た過去の映像を映している。
鋭利な牙が白肌を穿いて、清廉なる眞白の衣が鮮明な“あか”に歪む――。
奇しくもそれと同じことが今、この教会の中で行われようとしていた。
あかく、あかく染め上げられる指先に肌、身体のすべて。
「もう一度。いいえ、何度でも、」
眞白の影に向けて七結は手を伸ばした。それが偽りであっても構わない。そうしたからこそ今の自分が此処にこうして立っているのだから。
「わたしは『あなた』を屠り喰らうわ」
――おかえりなさい、愛しきひと。
その言葉と共に更なる血が散り、戦場に揺らめく影が更に紅く染まった。
成功
🔵🔵🔴
三咲・織愛
人の命を弄ぶ事が、あなたにとって遊戯なら
ゲームはここで終わりにしましょう
あなたという存在の消滅をもって、終わらせます
犯した罪の贖いなど求めません
そんなものを求めたところで無駄でしょうから
苛烈なデスゲームが愉しみだというのなら
ほんの少しでも愉しませてなるものですか
ただ敗北感を与えて葬ってやりましょう
愛槍を手に、強く握って
怪力籠めて、一振りごとに全力で穿ちます
見切りと武器受けを駆使し攻撃をいなしながら機を狙う
炎を消す術はありませんから、騎馬軍団は回避に専念します
槍投げで敵の隙を作れたら、【打ち砕く拳】を、一撃にすべてを籠めて叩き込みます
●遊戯に終わりを
炎の騎馬が戦場を駆け、紅い焔の軌跡が巻き起こされる。
熱気を孕む衝撃の余波を受け止め、織愛は痛みを堪えた。周囲の景色はリウ・メイファの力によって歪められている。
それらは彼女にとって目を逸らし、耳を塞ぎたくなるような光景だった。それでも織愛はただ真っ直ぐにリウ・メイファを見つめている。
「人の命を弄ぶ事が、あなたにとって遊戯なら――」
静かに告げる言の葉には織愛なりの決意が宿っていた。たしかに苦しくて、胸が痛くて堪らない。先程から齎される炎の衝撃だって無視できるものではなかった。
それでも、少女は決意を言葉に乗せる。
「ゲームはここで終わりにしましょう。あなたという存在の消滅をもって終わらせます」
思いが紡がれ終わった刹那、更なる攻防が巡り始めた。
リウ・メイファへと駆けた織愛は闘志を纏う。手にした愛槍を強く握り締め、その刃をひといきに振り下ろす。対する敵は炎を盾にして織愛の一撃を受け止めた。
巡る熱。炎によって走る痛み。
されど、織愛がリウ・メイファに与えた衝撃もかなりものだ。
「……く、う――」
「犯した罪の贖いなど求めません。そんなものを求めたところで無駄でしょうから」
呻く敵に対し、織愛は告げてゆく。
苛烈なデスゲームを好むというのなら、ほんの少しでも愉しませてなるものかと決めていた。それゆえに自分が苦しむ姿は見せない。
ただ敗北感を与えて葬ってやるだけだ。
織愛は表情を動かすことなくその手に力を籠め、一振りごとに全力で敵を穿っていく。対抗するリウ・メイファも殆どを炎で受けていたが、徐々に力が削られていくのが自分でも分かっているようだ。
そして、何とか織愛との距離を取った敵は炎を騎馬へと変えていく。
「強がって向かってくる貴女も悪くはないわ。でも、そろそろ消えて貰えない?」
呼吸を整えながら、リウ・メイファは織愛に指先を向けた。その途端、数多の騎馬兵が一気に迫ってくる。
その炎を消す術はない。それゆえに織愛は騎馬軍団の動きを見極め、それらをしっかりと回避していった。だが、避けられぬ個体もいた。
「これで――!」
どうですか、と槍を強く投擲した織愛。
その一閃は炎馬を貫いて打ち消しながら、リウ・メイファに迫った。
されど槍は囮のようなもの。即座に敵へ駆けた織愛は拳を握り、槍を避けることに注力してしまった吸血鬼の懐に潜り込む。
「……!」
「負けません、勝つまでは」
そして、金剛石の如く硬く強く迫る拳がひといきにリウ・メイファを貫いた。
よろめいた敵が完全に倒れるのも間もなくだろう。織愛は戦いの終幕が近付いている感じ取り、更に拳を強く握った。
大成功
🔵🔵🔵
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
……今の「嫌いな自分」というと、こうなるのか
他人に縋り頽れて、その癖、誰かに受け入れられれば相手を拒絶し傷付けようとする
我ながらどうしようもない自覚はあるが、まァ、それも真実よな
だがその程度で揺れる心など持ち合わせてはいない
幻想展開、【悪意の切断者】
この迷宮と幻影ごと、ヴァンパイアを壊してくれよう
あァ、そうであろうな
私の嫌いな私であるなら、竜の力なぞ厭わしくて仕方があるまい
それでも、竜のままで良いと
そのままの私と、共に在ると誓ってくれる者がある
拒絶ばかりの刃に、敗けやせんよ
さァお返しだ、リウ・メイファとやら
貴様の作ったデスゲーム、それが生み出した全ての呪詛を
――その身で喰らうが良い
●忌避と許容
炎が迸り、魔力が巡り、戦いが繰り広げられる戦場。
其々に猟兵が過去や吸血鬼に立ち向かう中、ニルズヘッグの前に立っていたのは自分を模した影だった。
「……今の『嫌いな自分』というと、こうなるのか」
思わず溜息混じりの言葉が零れ落ちる。
その影はまさしく自分だ。他人に縋り頽れて、その癖、誰かに受け入れられれば相手を拒絶し傷付けようとする、どうしようもない己の姿。
我ながらどうしようもない自覚はある。だが――。
「まァ、それも真実よな」
ふ、と口端を緩めたニルズヘッグは目の前の影を見つめる。
されどそれがどうしたというのか。リウ・メイファはこれで此方を脅かせると考えたのだろうが、その程度で揺れる心など持ち合わせてはいなかった。
そして、ニルズヘッグは力を紡ぐ。
「この迷宮と幻影ごと、ヴァンパイアを壊してくれよう」
幻想展開――悪意の切断者。
邪竜の血統に覚醒した彼の姿は見る間に竜の四肢を持つ姿へと変化していった。吼えるように鋭く、ニルズヘッグは影を睨みつける。
すると相手は忌避するような表情を見せた。
「あァ、そうであろうな」
その理由はニルズヘッグにもよくわかる。
自分の嫌いな自分であるなら、竜の力なぞ厭わしくて仕方がないだろう。紅い剣を以てして竜である己を斬り裂こうとする影に対し、ニルズヘッグは容赦なく力を振るう。
すると偽物でしかない相手の紅剣が瞬く間に崩れて消え去る。
この姿とて完全に受け入れているものではない。それでも、ニルズヘッグがこの力を使える理由も同時に存在していた。
竜のままで良いと――そのままの己と、共に在ると誓ってくれる者がある。
「拒絶ばかりの刃に、敗けやせんよ」
そう告げたニルズヘッグは一気に勝負をつけるべく距離を詰めた。殆ど零距離で穿たれた影は一瞬で屠られ、消えてゆく。
そして、ニルズヘッグはこの力の根源である吸血鬼に目を向けた。
此れまでに巡った攻防によって相手もかなり疲弊しているらしい。邪魔をする影や幻が徐々に薄らいでいくことを感じ取り、ニルズヘッグは身構え直した。
呪詛が、嘆きが、そして無念が。
この廃都に渦巻く負の感情を纏めて、諸悪の根源へと叩き込むべく――。
「さァお返しだ、リウ・メイファとやら」
強く地を蹴り、駆けたニルズヘッグは強く言い放った。
そして、戦いは終局に向けて巡ってゆく。
●追憶遊戯の終わり
「貴様の作ったデスゲーム、それが生み出した全ての呪詛を――その身で喰らうが良い」
転機となったのはニルズヘッグの一閃だった。
切断者の名に相応しく、邪竜の力が宿った一撃がリウ・メイファを鋭く貫く。それによって敵の身体が大きく傾ぎ、夥しい血が地に散った。
「そんな、こんなことって……」
「私達を甘く見過ぎていたからね」
呻くリウ・メイファに対し、淡々と告げたレザリアは死霊達を解き放っていく。もう周囲に幻影はおらず、過去を映していた景色も教会のものへと戻っていた。
彼女の力は確実に弱くなっている。
そう感じたセルマは銃弾を撃ち放ち、ネフラも一気にリウ・メイファとの距離を詰めていく。そして、ネフラは戯れに手を伸ばす。
「お前は最期まで余裕の笑みを浮かべるのだと思っていたのだがな」
「……触らないで」
唇が近付く程に近付いたネフラ。肌が触れ合う前に彼女はネフラを振り払い、金の瞳を鋭く細めて睨みつけた。
其処から炎の騎馬が解き放たれるが、アオイによる翡翠の波がそれを打ち消す。
もう、彼女が彼女ではないことは解っている。
今はただ、早く好きなひとに逢いたいと思うだけ。力を振るうアオイにはもう何も特別な感慨は残っていなかった。
「……もう、終わらせるから」
ただの吸血鬼を倒し、ネフラと共に無事に帰還することだけが目的だ。
今こそ皆の力を合わせるときだとして、桜雪も衝撃波を解き放っていく。地に落ちた相棒は既に自分の懐に保護し、大切に守っていた。
惑わせる迷路はもうない。
後はただ全力を揮っていくだけでいい。
桜雪に続いて七結も最期を与えるための力を紡いでいった。
「ステキな光景をありがとう。あなたも、ナユが攫ってあげる」
鮮血。そして生命を屠り食らう花時雨が戦場に舞い、吸血鬼の力を奪い取っていく。
其処に重ねられていったのはグラナトの命を受けて動いたリヴァイアサンが巻き起こす、氷雪の奔流だ。
冷たき嵐に乗じてティーシャとトーコが打って出る。
「今度は私もきちんとフォロー致します。行きましょう、藤子さん」
「……はい。きっと、これが貴女の最後の闘いでしょう」
ティーシャの呼びかけに応えたトーコは続けてリウ・メイファへの言葉を紡いだ。大鰐の突撃と妖剣の一閃が敵を貫き、更に力を削ぐ。
まだ、ちゃんとあの墓地の墓石を建て直せてはいない。あの場に戻ってきちんとした弔いを行うことこそが最後の仕事だ。
ティーシャ達が決意を更に強める中、白雪と晴夜が攻撃を重ねる。
「悪業の紅と壮麗な蒼。さあ、穿て――」
「次は貴女の番ですね。このハレルヤが、残さず食べて差し上げます」
紅炎と蒼焔が敵に向かって迸り、其処に暗色の怨念が入り混じって彩を揺らがせた。吸血鬼を穿った炎と念の威力は合わさることで凄まじいものとなる。
シルヴィアとオズワルドも防御と攻撃に分かれ、終わりを見据えて戦い続けた。
ケイも仲間達の力に合わせ、自分が宿す星の一閃を解き放っていく。
幽明に揺らぐ光は燃え尽きることはない。ただ、リウ・メイファの命が終わるまで迸り、巡ってゆくだけ。
「今だよ、お願い」
「はい、全力で行きます!」
「これはどうも。行きましょうか」
ケイの呼びかけに応えたのは織愛とクールナイフだ。織愛は拳を、クールナイフはダガーを構え直して敵へと駆けてゆく。
左右から同時に挟まれれば敵に逃げ場はない。貫く一閃と斬り裂く一撃がリウ・メイファに与えられ、悲鳴が上がった。
「あ、あああっ!!」
「その苦しみとて、この街の民の痛み比べれば未だ遠い」
「貴女の身を以て味わいなさい……!」
叫びを聞いたニコラスとセシリアは、廃都に生きていた人々を思う。二人が放つのは苦しみや負の感情を糧とした鋭い衝撃波だ。
これが罪を償う痛みになるとして、彼らは容赦なく負の力を解き放っていった。
そして、コーディリアは猟犬に命じる。
「――喰い殺しなさい」
この都の人々が受けた痛みよりも、更なる苦痛を。与えてきたものの痛みを知ると良い。そう告げるような視線がコーディリアから吸血鬼へと向けられた。
其処に好機を見出したフラムは魔力を紡ぐ。
今こそ、水牢にリウ・メイファを閉じ込められる絶好のチャンスだ。
「悲鳴はあげないでくれるかな。頭に響くんだ」
解放された水と泡が標的を包み込み、その中に女を囚えた。後はお願いします、と告げたフラムは頭を押さえ、敵が逃げぬよう魔力の制御を始める。
それに頷いたアウレリアは空想音盤の力を再び巡らせた。
――敵は全て消えて無くなってしまえ。
そんな思いを込めて破魔の力を宿した呪殺の弾丸が、苦痛の記憶と共に放たれる。
もはや自分で動くことも叶わぬリウ・メイファに、誠司は鋭い視線を差し向けた。
「貴様には、永遠の忘却こそが相応しい」
水の牢ごと斬り裂くような、迷いも衒いもない一閃が敵を穿つ。
それが終わりの合図となった。
セルマは銃口をしっかりとリウ・メイファに向け、銃爪を引いてゆく。
「貴方は、ここで殺す」
そして――宣言が落とされた刹那、炎と冷気を纏う力が吸血鬼を貫き、遊戯という名の戦いを終幕させた。
「あ……あぁ、私の……ゲーム、が――」
地に膝をついたリウ・メイファは虚空に向かって手を伸ばす。それが何を求めてのものだったのかは誰にも分からない。
その身が崩れ落ちるように消えていく中、オズワルドはサックスを手にして、一小節だけ静かな曲を紡いだ。
それは吸血鬼に贈るものではない。この廃都への葬送曲だ。仲間達が、そしてシルヴィアがその音色に耳を傾ける中で吸血鬼は骸の海に還っていく。
「よいせっしょんでしたね?」
「そりゃどうも」
シルヴィアから差し伸べられた手を取り、オズワルドは肩を竦めた。
そして、戦いを終えた猟兵達は天井を振り仰ぐ。
幻影はすべて晴れ、教会の割れたステンドグラスから月の光が降りそそぐ。それまで妙に紅く染まっていた月の彩はいつしか、穏やかな色に戻っていた。
こうして猟兵達は役目を果たした。
もうこの街に凄惨な過去の光景が映し出されることはないだろう。
確かに此処には悲劇が巡りすぎた。だが、死は死として認められ、骸は骸として葬られる。それが現在――今という時間にあるべき正しい姿だ。
追憶はただ静かに。
空虚なる廃都に、静寂と忘却という優しい終わりが齎された。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年11月15日
宿敵
『リウ・メイファ』
を撃破!
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