艷やかな床板の回廊と、開放的なホール。
学生達もいない筈の夜の講堂に、優美なワルツを踊る影がある。
ゆっくりとしたターンと、静かなステップを踏んで。
燕尾服とドレス姿で上品に舞う男女の姿──否、男女の形をした蝋人形達。
「ああ、なんと優雅な時間でしょう」
最奥に控える女王は、踊る人形を見つめて悦に入る。
俗世の全てが気品のある社交場へと変わりゆけばいいと、そんな願いを抱きながら。
今まさに、その目的を果たそうと世界に侵食しながら。
「ああ、なんと素敵な舞踏でしょう」
静かに響く弦楽と共に、美しきダンスを眺めていた。
「アルダワ魔法学園において、迷宮の上にある学園内で災魔が確認されたようです」
グリモアベース。
千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は猟兵達に説明を始めていた。
この夜、突如オブリビオンが出現し、各所を危険に陥れているという。
「原因は不明ですが、敵は複数箇所で確認されています」
夜間とは言え学園内に残っている学生もいるが、反面、オブリビオンに抗う力を持たない教員もいる。
学園の力だけで持ちこたえるには限度があるだろう。
「そこで皆様には学園へ赴いて頂き、敵の討伐、及び元凶の排除をお願いいたします」
「学園内各所で見られるのは花のオブリビオンです」
それが『葬彩花』。
主に屋外に出現しているようで、淡く発光していることもあり発見するのに苦労はしないだろう。
移動力は高くなく、鈍重と言っていい。
「ですので、素早く退治していくことも可能でしょう」
この敵を倒しつつ移動し、異常の発生地点までたどり着くのが目下の目的だ。
「その場所ですが、今の所どこかの建物だということが判っています」
異常の元凶に近づく程葬彩花の数も多くなっていくはずなので、それを頼りにすれば迷わずに済むはずだ。
「それと、葬彩花の他に空を翔ぶ敵がいることも判っています」
それが『佇む巨竜像』。竜へと変身する能力を持つ石像の災魔で、おそらくは元凶の護衛役のようなものだろう。
この敵を見つけて退けられれば、元凶を見つける事ができるはずだ。
「元凶となった敵もおそらくは強力なオブリビオンでしょう。注意して進むようにしてくださいね」
学園を守るということは、この世界を守ることにもなる。
そのためにも、とレオンはグリモアを輝かせた。
「さあ、参りましょう」
崎田航輝
ご覧頂きありがとうございます。
アルダワ魔法学園での討伐シナリオとなります。
●現場状況
夜の魔法学園内。
●リプレイ
一章は集団戦、敵は『葬彩花』です。
主に屋外に分布しています。
こちらは校庭に降り立ち、この敵を倒しながら異常の発生源を探して移動していくことになるでしょう。
夜ですが学園には生徒もそれなりにいます。指示をして力を借りることも可能です。
二章は集団戦、敵は『佇む巨竜像』です。
空を飛べる能力を持った敵となります。
この戦いでも生徒の力を借りることができます。
三章はボス戦、敵は『蝋人形デビュタントの支配人・キャンドリア』です。
強力な敵なので学生の力を借りることはできなさそうです。
第1章 集団戦
『葬彩花』
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POW : 寄生準備
【自爆により催眠効果のある花粉】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 養分吸収
【花弁から放たれる極彩色の炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【周囲の生気を消費して燃え続ける】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 捕食行動
【花弁】が命中した対象を爆破し、更に互いを【絡みつく茨】で繋ぐ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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ヘンペル・トリックボックス
……ふむ。かなりの数の葬彩花が放たれているようですねぇ。同心協力適材適所、ここは我々よりも学園を知っているであろう、未来ある若者達を頼るとしましょうか。私に出来るのは、仕込み刀を振るうくらいですとも。
UCを発動。学園を高速で走り回りつつ、既に交戦中の生徒たちを中心に声をかけ、協力を紳士的に仰ぎます。
了承してくれた生徒たちにも、韋駄天疾走符でエンチャント。高速戦闘で敵の数を確実に減らしながら、人数とスピードを活かして元凶の居場所を突き止めるため奔走します。
ご心配なく!今のキミたちの反応速度なら、あの炎が放たれるのを目視してからでも十分回避できます。速度に引き刷られることなく、落ち着いた対応を!
空を淡い蒸気が彩る夜。
何処かの機械が校舎へエネルギーを送り、仄かな駆動音を宵の間に響かせる。魔法学園の校庭は深い夜が降り始めた時間でも、微かに賑やかな印象を抱かせた。
けれど何より、降り立ったヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)の目を捉えたのは──。
「……ふむ。かなりの数の葬彩花が放たれているようですねぇ」
視界に無数に垣間見える、花。
異形というには美しく、自然と言うには奇怪すぎる──不可思議な灯りでぼうと校庭を照らす光花。
その妖しさは何処か芸術品をも想起させる──だがその一つ一つが、学園を破壊し人々を傷つける力を持った過去の骸だ。
ヘンペルは顎をさすり視線を巡らせる。
無論、一つ一つを潰していくしか方法は無いが──それでもここは他でもない学園の只中。見れば夜とはいえ生徒の姿も少なくなかった。
「同心協力適材適所、と行きましょうか」
誰より学園を知っているであろう、未来ある若者達を頼ることにしよう、と。
決めれば行動は早く、指先に挟んだ呪符を自身に貼り付けている。
──オン・ケンダヤ・ソワカ。
韋駄天疾走符。
薄く光り霊力を巡らせたそれは、強力な加護により尋常を越えた速度をヘンペルへ与えていた。
風を裂くように疾走し始めたヘンペルは、まずは校庭の生徒に声をかける。
「失礼いたします。ご協力をお願いできますでしょうか」
にこりと慇懃に。
手早く事情を説明し、共に戦ってほしいと頼んだ。
生徒達にとっても、猟兵の存在が今は何より心強い。すぐに了承すると、その場の数人でまとまって行動を始めた。
そうして彼らが近場の葬彩花を魔法で焼き払っていくと──ヘンペルはその間に彼らにも韋駄天疾走符でエンチャント。高速移動を可能にしていく。
つぶさに観察すると、校庭からいくつかの校舎が密集する場所へ向かって、葬彩花の数が増えていることがわかった。
「広大ではありますが、道筋は確かに存在するようですね」
行きましょう、と。
ヘンペルが奔ると、生徒達も皆頷いてついていく。そのまま校庭の一つを抜け、植木が明媚な景色を作る通路を通過。体育館や魔術実験棟といった建物を横目に剛速で進軍を続けた。
道中、確かに段々と葬彩花の密度は増えていたが──鈍足の敵に比べれば、ヘンペル達はまさに嵐。通り過ぎざまに風を放ち、礫を繰り出し素早く撃破していく。
中庭に着くと、正面に壁のように密集した花が、焔を撃とうと花弁を輝かせていたが──。
「ご心配なく! 今のキミたちの反応速度なら、あの炎が放たれるのを目視してからでも十分回避できます」
速度に引き刷られることなく、落ち着いた対応を、と。
ヘンペルが声で背を押せば、惑っていた生徒達もすぐに気を取り直した。そうして飛来してくる炎を全て回避すると、斜めの方向から魔法を放って退治していた。
「私に出来るのは、仕込み刀を振るうくらいですが」
と、言いながらヘンペルも花を斬り捨て、道を切り開いている。そこを抜け、更に石畳の道を進めば──明らかに校庭とは違った気配を感じ始めた。
「そろそろ、と云ったところでしょうか」
その先の建物に、何かがある。確信と共にヘンペルは前進していった。
大成功
🔵🔵🔵
コイスル・スズリズム
POWアドリブ連携歓迎
魔法学園の生徒であるすずが
もっともお気に入りの場所
それは夜の、それも屋上
そこを汚そうとされると
少しばかり
静かに
すずの靴音は強くなる
すずのUC攻撃が届く範囲である「50mごと」に
生徒や教員さんに、情報をきく
数が多い場所を辿っていく
「茨」があればそれをヒントに
相手POWが届く場合
相手が近くにいるということ
最優先は戦闘能力がない教員や生徒をかばうこと
防御は「見切り」からの「12のランスで武器受け」
1つより2つある場所があれば、数の少ない対象は
「ドラゴン、遠慮せずすずの怒りごと食べな」
UCで全力魔法をありたけこめて潰す。防御は上述
周囲学生や猟兵と確認し合い敵のいる方向へ進んでいく
こつんと建物の上に降り立つと、校庭に沢山の光があるのが見える。
ブロンドとフリルを仄かに揺蕩わせる夜風──学園に吹く静かなそれが、あの花達をも微かに揺らがせていた。
「……さっきまでは居なかったのに」
宵を映したような藍の瞳で、コイスル・スズリズム(人間のシンフォニア・f02317)はその異形の灯火を見据えている。
授業を受けてから、さほどの時間も経っていない。
学園の生徒であるコイスルにとっては、グリモアベースを介して再びここに舞い戻ってきたといってもいい形だった。
ほんの短時間で、学園の空気は一変している。妖しい光と、花とは別の災魔も居ると感じさせるだけの不穏な気配。
葬彩花は今も増え続けている。
他の敵もじっとはしていないだろう。
いつか学園全体を覆い尽くしてしまうかも知れない。
コイスルはもっともお気に入りの場所がある。それが夜の、屋上だ。きっと、放っておけばそこも汚されてしまうのだろう。
だから、かつり、と。
少しばかり、静かに。コイスルの靴音は強くなる。
──やらせないから。
直後、校庭に降りたコイスルは素早く生徒の姿を見つけて尋ねた。
「この花が沢山集まってる場所、知ってる?」
「向こうの道──中庭に続くところは多いみたい。応戦してる人もいるって」
その女子生徒はそう応えつつ、周りに目をやっていた。
近場の葬彩花が、蠢いて自爆をしようとしていたのだ。
それに気付いたコイスルは──無論やらせない。即座に生徒との間に割って入ると、十二本のランスを操り盾と成す。
瞬間、爆発による衝撃を正面から受け止めて、花粉を一切寄せ付けなかった。
「大丈夫?」
「ありがとう」
彼女がほっとした顔をするのに頷きを返すと、コイスルは周囲を見渡し──周りの花もあらかた絶えたことを確認。教えてもらった方へと奔り出す。
すると確かに、敵の数が増しているのが判った。応戦している生徒達もいるが、流石に多勢に対しては苦戦の様相を呈している。
故にこそコイスルは迷わない。
地を蹴ってそこへ守りに入り、全ての攻撃を受け止めてみせると──真っ直ぐに花の姿を見据える。
そして魔力をありたけこめて、そこへ放った。
「ドラゴン、遠慮せずすずの怒りごと食べな」
刹那、疾風の如く飛んだランスが花の一体を貫くと、もう一体を別のランスが貫通。その後方にさらなる複数体がいれば──ドラゴンがその形を成し、魔力の暴風を吹かす。
“袖から靴まで、ダンスする人と龍”(アルダワ・トゥウェルブランスツアー)。
全武装を攻撃にあてるその魔法は、眩い煌きと衝撃の奔流を生み出す。一瞬遅れて静寂が帰ってくる頃には、その場の敵は跡形も残っていなかった。
風だけが頬を撫でる中、コイスルは再び前進。さらに情報を聞きながら進んでいく。
その最中、敵に不意を取られることは決してなかった。自身の攻撃の届く範囲ごとに聞き込みを行うことで、敵を射程に収めた状態を保っていたからだ。
そうして進行しながら、密集する敵を退けていけば──目的地と思しき建物を遠方に見つける。
「あの中……ううん、それより前に、出てくるものがあるかな」
新たな敵の気配を感じ取り、コイスルはそれでも速度を落とさず奔りゆく。
そこへたどり着くのは、まもなくのことだった。
大成功
🔵🔵🔵
ジズ・レオリー
夜の学園――闇に浮かぶ灯りの花
ともすれば「美しい」と感じるかもしれないが
…結論。害なすものとあらば討伐すべきだ
【不待ノ礫】で範囲攻撃
なるべく群れているところを狙いながら移動
他の猟兵と会えば連携
学生及び教員を見つけた場合は声を掛けておく
個体で学生でも無理なく対処できそうであれば任せ
戦う術の無い者・負傷者は積極的に守る
感謝。力添えは心強い。
だが、貴殿らは己の安全を優先した方が良いだろう
攻撃は見切りと第六感で躱すかオーラ防御
多少の負傷は想定内
茨に繋がれようともそれを逆手に取り
引き寄せ確実に仕留めよう
負傷度が高まったらオーブを掲げ手近な敵から生命力吸収
ここで手間取るわけにはいかない
可及的速やかに排除を
フィオレッタ・アネリ
あの光ってる花、すごく不気味…
わたしの呼び掛けにも答えてくれないみたい
とにかく数の多い方にいってみよ!
葬彩花の中を駆け抜けながら
高速詠唱で《メリアデス》の樹の盾をたくさん作り出して
念動力で操って炎を受け止めるよ
受けきれなければゼフィールの吐息の援護射撃で逸らしてもらうね
炎を受けきったら燃える盾を槍の形に変え
さらに範囲攻撃で数を増やして
念動力で花たちの頭上から降らせて串刺しに!
炎が自分たちに返ってきて、花が攻撃を躊躇ったり混乱したりしたら《春の祝福》!
降り注いだ槍を繋いで樹壁に変え
花たちを囲って風を逃さないようにしたところに
《ファヴォーニオ》の大竜巻を起こすよ!
※アドリブ、連携 歓迎です!
暗がりに茫漠と耀く朱の光。
淡い蒸気の中をくぐって校庭へ降りると、ぽつぽつとそれが点在しているのが見て取れた。
夜の学園。その闇に浮かぶ灯りの花。
ともすれば「美しい」と感じるかもしれないが──。
「……結論。害なすものとあらば討伐すべきだ」
二彩の瞳を周囲に巡らすジズ・レオリー(加護有れかしと事有れかしと・f13355)は、ただ冷静に敵を敵と認識する。
既に蠢き始めている葬彩花は、放っておけば全てを破壊することだろう。
ならばその前に摘むのが自身の役目。
すらりと手をのばしたジズは、そこに陽炎を固めたような揺らぎを生成する。
「論証付与」
──此の礫は雨垂のごと、待たず。
圧縮された魔力の塊──不待ノ礫(ペブル・ショット)。
刹那、無数の礫となったそれは弾丸を凌駕するほどの速度で飛び、三体程の花の群れを穿って四散させていた。
同時に自身も動き出し、近場の生徒達を見つけて声をかける。
「警告。危険な敵のようだが、問題はないだろうか」
「大丈夫です、今のところは」
と、応えた生徒は複数人で行動しており、少々の敵であれば対処は出来ているようだ。
ジズ自身、素早く彼らの実力を見取って任せても問題ないと判断。警戒を欠かさぬことだけ注意を促すと自身も移動を始めていた。
花があれば素早く撃ち抜き、数が多い方へとたどって行く。徐々に敵影の密度が高まっていく中で、単独で対処を試みて負傷をしている生徒を見つけると──。
「……対処。ひとまず後ろへ」
素早く入り込んで敵の動線を塞ぎ、礫を飛ばしその花を貫いた。
それから可能な範囲でその生徒の応急処置を行い、自分がやってきた方向を指す。
「貴殿は己の安全を優先した方が良いだろう」
向こうへ、と。
その言葉に生徒は素直に頷いて、礼を述べて去っていた。
ジズはその背を見送り、自身はさらなる敵地へ踏み込んでいく。
無数の花があるのに、そこには季節の香りが漂っていなかった。
色彩だけならば鮮やかだけれど、そこに内在される光は、世界を滅ぼすための煌きなのだろう。
「あの光ってる花、すごく不気味……」
とん、と。
薔薇色のパンプスで校庭の地を踏んだフィオレッタ・アネリ(春の雛鳥・f18638)は、咲き誇る異形の花々を見つめている。
花と春、そして豊穣を司る女神にとって、花は友人であり、敬うものであり、また自分自身の一端とも言える存在だ。
けれど。
「わたしの呼び掛けにも答えてくれないみたい」
それが花であれば、フィオレッタの唇から紡がれる言葉に必ず耳を傾ける。春の生まれでなくとも、夏も冬も、秋もまた近しい存在だから。
なのに葬彩花は、無方向の敵意を見せるだけ。
風竜ゼフィールも静かに警戒するように、フィオレッタの傍に寄り添っていた。それが既に花とは言えぬ存在であることを、気付いているかのように。
それは確かに、過去に還さねばならぬ骸。
故にフィオレッタは、早々に動き出す。
目指すは敵の数の多い方向。葬彩花の中を駆け抜けてゆくと、敵も花弁から眩い焔を放ち始めてきていた。
けれどフィオレッタは焦らない。精霊魔術《メリアデス》によって樹精を喚び──数多の樹の盾を顕現している。
それを念動力で操ることで、無数の焔を受け止めていた。
とはいえ、敵もその間をかいくぐり炎を撃ち当てようとしてくるけれど──そこへゼフィールが飛翔。吐息を鋭い風として、焔を逸しながら消滅させている。
だけではない。雨のように注ぐ炎に対して──彼方から魔弾が飛んできてそれを霧散させていた。
視線を向ければ、そこに駆けてくるのはジズだ。
「救援。無事だろうか」
「うん! ありがと!」
ぱっと明るい笑みを返したフィオレッタは、言葉通り健常。自身も炎を次々に受け止めて防ぎきっている。
ジズも小さく頷きを返すと自身の前の敵へ。三体程が一斉に花弁を奔らせてくるが、一つを素早く見切り、もう一つを第六感で察知し回避していた。
もう一つは避けられぬと判断すれば、オーラで自身を覆って防御する。ダメージはなくとも茨に繋がれる形にはなるが──。
ジズはそれを逆手に取って、茨を掴んで敵の体を引き寄せていた。
そのまま至近から魔力の塊を撃ち当てて、花を爆散。手早く他の個体にも放って撃破していく。
その頃には、フィオレッタも反撃の態勢が整っていた。
「それじゃ、いくよ!」
ゆらゆらと揺らめかせるのは盾に燃え移った炎だ。
その火を消さず、盾を槍の形へと変容させたフィオレッタは──燃ゆる矛をさらに複製。念動力で天へ昇らせ、炎の雨として注がせていく。
串刺しになった花は身動きが取れず、掠めるに留めた個体も、自分達の炎が脅威となって返ってきたことに混乱していた。
その隙を逃さずに、フィオレッタは神性の一端を顕す。
──春と豊穣の恵みあれ。
与えるのは《春の祝福》(ベネディツィオーネ・プリマヴェリレ)。
春の風が吹き抜けて、清廉な花弁が仄かに舞った。するとそこに瑞々しい生命力を得たように、槍が繋がり巨大な樹壁へと生長する。
葬彩花を囲んだその空間は、風も外に逃げられないほどに隙間が無い。フィオレッタはそこへ《ファヴォーニオ》──風精の力を借りて巨大な竜巻を起こした。
暴風に切り裂かれ、舞い散る葬彩花。逃げ場のない衝撃の奔流に、その場の敵は全滅していた。
「このまま、どんどん進もう!」
「了解。進行を再開する」
ジズも頷き、気配の濃い方向へ。元凶へと一歩一歩近づいていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【SPD】
迷宮の中じゃなくて学校の方に災魔が出たんか。そりゃ一大事ってもんだ。
いっぱい出た敵を倒すんは大変だし怖ぇけど、なんとかしねーとな。
《我が涅槃に到れ獣》でクゥを呼び出して、校庭に出たっていう花の災魔を潰しに行く。
クゥの背中から〈援護射撃〉を飛ばして上手く攻撃できる隙を作りつつ、弱っている奴を優先的に叩いて数を減らしていくようにするかな。
相手の攻撃は〈見切る〉なり〈火炎耐性〉で耐えるなりして凌ぐ。
元凶に近いほど花の密度が上がるらしいし、それを頼りに元凶が居そうな場所も予測できればいいかな。
途中で学生を見かけた場合は、協力して花を潰すなり、或いは避難の手伝いをするなりしておく。
蒸気の中に巻き上げられた砂が混じって視界をぼやけさせる。
風が強くなったか、先刻よりその度合いが増していた。
それでも、花の灯は消えずに視界にはっきりと明滅している。すたりと校庭に着地した鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)はそれを目にしてなるほどな、と呟いていた。
「迷宮の中じゃなくて学校の方に災魔が出たんか。そりゃ一大事ってもんだ」
つぶさに視線を巡らせる。
すると遠くには生徒達の姿も垣間見え、混乱が波及していることが判った。
生徒達は戦闘能力を持っている分、簡単にやられはしないだろう。けれどいつまでも持ちはしないはずだ。
「だったら急がないとな」
ポンチョの砂を軽く払って、嵐は奔り出す。
視界に映るだけでも、数え切れぬほどの敵がいる。そんな存在を相手にするのは間違いなく大変だろうし、考えるほどに恐怖の感情が生まれた。
それでも。
「なんとかしねーとな」
何もしないでいれば、それだけ自分と、自分以外の者の命に危険が及ぶ可能性が高くなっていく。ならば少しでもそのリスクを下げるため、出来ることを最大限にやるしかなかった。
「さあ、力を貸してくれ、クゥ」
走り出しながら、喚び出すのは仔ライオンの姿をした可愛らしいバディペット。
その基底状態の姿が励起状態へと変わると──体躯にして嵐の二倍を誇る成獣となる。
我が涅槃に到れ獣(ア・バオ・ア・クゥ)。地を駆け出したその背に騎乗した嵐は、高速で葬彩花へ距離を詰め始めていた。
さりとて至近にまでは寄らず、スリングショットを構えて狙いを定める。そのまま敵が焔を放つより一手早く、礫でその身体を貫いていた。
こちらの姿に気付いた花達は、焔を偏差で放ちこちらを捕らえようとしてくる。けれどクゥも曲線を描くように疾駆を続け、その大半を振り切ってみせていた。
それでも焔が迫ってきたら、嵐は無理な回避は試みずに身体をオーラで覆って防御。強烈な熱を感じながらも耐えきってみせ──射撃を返して一体一体を確実に倒していく。
「よし、このまま先を目指すか」
周囲の敵が片付くと、校庭から通路へ。花を撃破しながら、その数が多い方へと進み始めた。
建物に挟まれた細道や植木に彩られた小路。曲がりくねった経路を経て中庭を通り抜けると、また幾つかの建物が集まった場所へたどり着く。
「この辺は、特に多いな」
まるで篝火でも焚いたかのような眩さ。
その灯りは全て異形の花の輝きによるもの。校庭よりも明らかに密度は高く──近くにいる生徒達も、容易には攻めかねているようだった。
嵐はそこへ駆けつけて声をかける。
「無事か?」
「ええ。ただ、敵が炎を絶え間なく放ってくるので、こちらも中々──」
と、その生徒は苦慮の表情を見せる。
花が焔の弾幕を張っているため、近づくことも簡単ではないようだった。
嵐は頷く。
「じゃ、協力して一気に攻めるか」
密集する敵を見て、震えそうになる自身の手を今一度握りしめて。
自分が道を切り開くからと、嵐はクゥで駆け抜け礫を放ち、焔を紙一重で避けながら敵の数を減らしていった。
そうして敵の弾幕が途切れたところで、生徒達が魔法を放ち花を灼いていく。嵐がその場の最後の一体を倒せば、気配のする建物はもうすぐ近くだった。
嵐は生徒達に礼を言うと、真っ直ぐにその方向へ。気合を入れ直し疾走していく。
大成功
🔵🔵🔵
セツナ・クラルス
光の道しるべとは、これはまた風流だねえ
小さな灯火を供に、葬彩花の多く咲く方向に進もうか
この灯火は攻撃として使用するだけではなく、
孤立してしまった学生さんや教員さんが
私を見つけやすくするという目的も兼ねているよ
葬彩花は戦闘は不向きなようだが
油断していい理由にはならないね
見つけ次第、灯火を葬彩花にぶつけ攻撃
速やかに焼いてしまおう
花粉や茨も焼くことで無効化
葬彩花の放つ炎は…純粋に魔力勝負になるのかな
属性魔法で灯火の炎を強化したら対応できるだろうか
学生さんがいたら援護を頼もう
すまないが、魔力を貸してくれないかい
この灯火に魔力を足して…ああ、綺麗な色だね
増幅された魔法の炎を見て目を細めて
紺青の夜に茜色の光が瞬く。
見渡せばその輝きが増えていく方向があって、見るものを導いてでもいるかのようだ。
宵風が静かに黒衣を撫でる中、学園に降りたセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、視線でその灯りを瞳で追っている。
「光の道しるべとは、これはまた風流だねえ」
ならばそれに案内されるとしようか、と。
柔らかに一つ笑みを零すと、指先に小さな灯火を揺らめかせていた。
原初の灯火(ハッピーバースデー)。
風に仄かに揺れるそれは、まばゆくも温かい。セツナはそれを灯したまま、光を辿り始めことにする。
その姿に気付いた葬彩花は、自分達と違う灯火に敵意を抱いたろうか。微かに蠢いて花弁を飛ばそうと身構えてきた、が。
「させはしないよ」
セツナは柔和に言ってみせると、指先を動かして灯火を宙へ。そのまま花の身体へと触れさせて燃え上がらせた。
焔は小さくとも鋭い熱量を持っている。光と共に燃え尽きたその一体は、跡形もなく消滅していった。
花は鈍重で、戦闘には不向きなようだ。
(それでも、油断していい理由にはならないからね)
すぐ近くに別の花がいると見れば、そちらへ灯火を飛翔させ。前方に複数体が立ちはだかっていれば、その数だけ焔を操って撃破していく。
所作は流麗。対処するなら速やかであるに越したことはないと、セツナは無駄のない動きで視界に映る花を灼いていった。
同時に、灯火はただ敵を討つためのものではない。
まばゆい焔が夜の中に立ち上れば大きく目立つ。それを頼りに、孤立してしまった者がこちらを見つけることを期待できるはずだった。
程なく、助けを求める声が届いてきて──セツナは素早くそちらへ。複数の花へ追い詰められていた教員を見つけた。
教員は災魔と戦うだけの力を持たない。放置しておけば、きっと餌食になっていたろう。セツナはすぐに焔を飛ばしてその敵群を一掃した。
「さあ、安全な屋内へ避難を」
「ありがとうございます……!」
丁寧に礼を言って去った教員を見送りながら、セツナはすぐに元の進路へ進む。
すると徐々に花の密度が増して、その攻撃も激しくなってきた。けれどセツナは花粉を焼き、茨を燃やし、決して止まらず災魔を退けていく。
石段を登る道で、上方に敵が集まっている一帯があると、容易には抜けられないだろうと判断できたが──。
そこには応戦しようとする生徒も複数いた。
ならばとセツナは彼らに声をかける。
「すまないが、魔力を貸してくれないかい。この灯火に魔力を足してほしいんだ」
焔を翳すように示してみせると、彼らはすぐに頷いた。
そして手を伸ばし、威力を増幅させるように魔力を注いでくる。すると焔は一層まばゆく、一層鮮やかになっていた。
「……ああ、綺麗な色だね」
目を細めるセツナは、これならば敵の焔にも負けまいと確信を抱く。
仰ぐと丁度、花の集団が焔の雨を降り注がせてきていた。セツナはそこへ、強化された灯火を放つ。
すると炎の雨が地に到達する前に、消滅していく。
たった一つ空に昇る灯火が、その全てを焼き払っていたのだ。その明るさで光の線を描きながら飛翔した灯火は──着弾するとともに大きく燃え上がり、集団を殲滅させた。
「ありがとう」
セツナは生徒達に言うと、石段を登り、その先にある建物を目指していく。
大成功
🔵🔵🔵
ユノ・フィリーゼ
社交場で織り成される優美なる舞踏会
その世界が輝いて見えるのは、
踊り手達が楽しんでいるからこそ
侵食し作られた世界に輝きは灯らないわ
空中浮遊で宙に踏みだし淡く光る花を探す
見つけ次第、蒼刃を狙い撃つ様に投擲し
速やかに地へと降りて
銀剣片手に葬花と剣のダンスを興じる
学生や教員の方と会えたら、安全な所へと一声を
もし余裕が在れば、
異常について心当たりのある場所が無いか尋ねてみよう
花が多い場所では剣琴を爪弾き盟約の歌を奏で
鋼鳥を咲き乱れる葬花へと
天に舞うは鋼の翼
彩なす炎でも溶かせはしないわ
自由なる空の盟友と共に、
踊る炎さえも切り裂いて
はらりひらりと踊る様に花片散らす
ねぇ、お次は何方がお相手して下さるのかしら?
何処かで誰かが、ステップを踏んでいる。
招かれざる者達が、夜のホールで自分の世界を広げようと雅に舞っている。
遠くから吹く風がそれを教えてくれる気がして、ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)は夜を見つめていた。
「ダンスを眺めるのはきっと、楽しいことでしょう。けれど」
社交場で織り成される優美なる舞踏会──その世界が輝いて見えるのは、踊り手達が楽しんでいるからこそ。
「侵食し作られた世界に輝きは灯らないわ」
だから、それは止めなければならない。
そして宵の学園に見える茫洋とした花もまた、摘まねばならないと。
ユノは静かに宙に踏み出し、空へと舞い上がっていく。
仲間達の戦いによって、既に異光の花達は斃されつつあった。けれど遠くを望めば未だ妖しい光に満ちた場所があるから──そこへとユノは空を奔る。
蒸気を蹴って、風の流れに滑り。花を見下ろすと、身体を翻しながら蒼刃を投擲。狙い撃つように一体を裂いていた。
そのままひらりと降り立って、周囲に葬花がいると見れば──その手に握るのは夜闇にも美しく耀く銀の刃。
花が焔を放とうとする、その一瞬の間隙に地を蹴ると、孤月の剣閃を描いて一体を両断。二体目が飛ばしてきた焔は身体をずらして躱し、本体を刺突で貫いていく。
蒼空の風を彷彿させる、疾くも鋭い剣のダンス。周囲の敵を退けると、ユノは前進を再開した。
生徒の姿が見えれば、避難を促しながら異常の心当たりを尋ねる。
「中庭の方に沢山の敵がいると聞きました」
その生徒が方向を教えると、ユノは礼を言って空へ跳んだ。
風に乗ってそこへ降り立つと、確かに中庭から先は敵が密集している。
これを刃だけで斃すのは簡単ではないだろう。
故にユノは、剣の柄の竪琴を爪弾いた。
鋼鳥の戯れ(カプリス・ルードゥス)。爽やかで美しい、柔い風の如き音色が満ちると──鋭刃の翼を持つ鋼鳥が羽ばたいていく。
花の光を反射する、鋭利な翼達。
葬花はそれを敵だと察知して、焔を昇らせてきた。けれど天に舞う鋼は──。
「彩なす炎でも溶かせはしないわ」
ユノの言葉に違わず、焔にも落とされない。鋭角で滑空すると、速度のままに翼で花弁を裂いていった。
ユノ自身もそこへ奔り、剣を振るう。
正面から焔が来ればくるりと廻って動線をずらし、そのまま横一閃に斬り裂いて。横から紅炎が飛んでくれば直走って追いつけさせず、逆に背後から剣撃を見舞った。
自由なる空の盟友と共に、踊る炎さえも切り裂いて。
はらりひらりと踊る様に花片を散らせていく。
敵が全て塵と消え、夜の昏さが戻ってくると──ユノはその先にひとつの建物を見つけた。
「きっと、あの場所に」
その中で災魔の夜会が開かれていると確信があったから、止まらず駆けていく。
けれどその中へ入る前に、待ち受けるものがあるとも感じ取っていた。
「ねぇ、お次は何方がお相手して下さるのかしら?」
故にユノは──言葉とともに視線を上げる。
そこに新たな敵影があった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『佇む巨竜像』
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POW : 石化解除
【石化状態】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【「雷」と「風」を纏い操る巨竜】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 石化解除
自身に【「炎」と「冷気」】をまとい、高速移動と【翼から「炎」と「冷気」】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 石化解除
対象の攻撃を軽減する【「水」と「岩」を漂わせる巨竜】に変身しつつ、【「水」と「岩石」の放射】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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●翼を持つ門番
猟兵達が見つけたのは、美しき建物だった。
外観は洋館にも似ていて、周囲の建造物の中ではひときわ造形の麗しい一棟。
平素は演奏会や講演が開かれるであろう、そこは大きな講堂だ。この時間帯は閉まっている筈の建物だったが、その内部には確かに災魔の気配が感じられた。
けれどその扉へ続く道に、守護者がいる。
柱や屋根に置かれた、一見すると石像に見える竜──それが俄に翼を羽ばたかせ、空に飛び上がっていた。
──巨竜像。
迷宮の侵入者を排除するための災魔も、今では学園に築かれた侵略地を守る門番。
招待状無き者は館への入場を許さぬというように──猟兵達へと飛びかかる。
ジズ・レオリー
厳粛。本来なら心地よい静寂が在るだろう
守護者として造られた貴殿らも
その一端を担っていたはずだ
…宣言。生憎、ジズの手に招待状は無いが
平穏を取り戻すため、元凶を討たねばならない
道を開けてもらおう
石像と人形――接近戦は不利と判断
【不避ノ雨】範囲攻撃・2回攻撃で牽制
距離を取りつつ敵の動きを観察し戦闘知識として学習
余裕があれば他の猟兵の援護射撃を
仮説。力を軽減されようとも、それを上回れば問題無い
隙を見計らい高速詠唱で矢を幾重にも束ね
属性攻撃力上昇
全力魔法展開
破魔の祈りを込めた矢を以て射抜こう
貴殿らが命を削ってまで護るべきもの
それは災魔ではなかったはず
故に道を正そう
学園を、貴殿らを、在るべき姿に戻すために
石の翼が色づいて、水流と岩石の属性を纏ってゆく。
たった今まで動かぬ像であったシルエットは、夜空を回遊する竜へと変貌しつつあった。
それも全て、自身らの背後へ踏み入らせることを拒むため。
変質した敵意を目にしたジズは、静かにそれを仰ぐ。
「厳粛。本来ならそこに心地よい静寂が在るのだろう。守護者として造られた貴殿らも、その一端を担っていたはずだ」
ふと目を閉じる。
深き迷宮の奥。
水底のようなその静謐に、本当は佇んでいる筈の石竜だったのだろう、と。
けれど学園に侵略した元凶の災魔がその因果を捻じ曲げ、居るはずのないものを喚び出した。それはきっとあの花もそうであったに違いない。
けれどそれが立ちはだかる敵であるならば。
「……宣言。生憎、ジズの手に招待状は無いが。平穏を取り戻すため、元凶を討たねばならない」
故に──道を開けてもらおう。
ジズは手元に五彩が揺蕩う空気のゆらぎを作り出している。
魔力の濃密さ故に、空間が歪んで見える陽炎だ。
刹那、腕を払う動作で魔力を固め、ゆらぎを鋭利な形に固めていた。
一つは碧の旋風を纏い、淡き光を纏ったもの。
一つは弾ける光を抱き、眩い雷へ変じたもの。
不避ノ雨(レイン・アロウ)。
思う侭の属性の力を抱かせることを可能にする魔法の矢は、放たれた瞬間、文字通りの雨のごとく降り注ぐ。
空を舞っていた巨竜は、纏う水を雷撃に蒸発させられ、巌の身体を風で切り裂かれ、首のない体で微かに苦悶の身じろぎを見せる。相性の悪い属性を突かれる形で攻撃を受け、数体がその高度を落とし始めていた。
こちらの攻撃が有効と判断したジズは、間合いを取りつつ連続攻撃。
さらに矢を見舞いながら、麗しき瞳でどこまでも冷静に敵の動きも観察していく。
(理解。頑強だが決して素早くはない)
ただ、その分魔力と攻撃の威力は相応のものを持っている。
敵が岩石を含んだ水流で一帯を飲み込むようにしてくると、事実、ある程度の距離を取っていても完全に避けきることは難しかった。
そしてそれに触れれば魔力に力を奪われ始める。
とはいえ、ジズはその事態は予見していた。
「仮説。力を軽減されようとも、それを上回れば問題無い」
元より直撃を受けたわけではないから、軽減の度合も低い。
「──論証付与」
その上で高速詠唱。矢を幾重にも束ねて攻撃の密度を増大させ、属性も増強。
さらに可能な限りの魔力を注ぐことで──減った攻撃力等ものの問題とならぬほどの、強大な魔法の嵐を形成していた。
魔の風が吹き荒れて、激しき雷が明滅して瞬く。その塊を叩き下ろすようにして浴びせることで、最前にいた巨竜をまとめて爆砕していた。
前進して僅かに建物に近づくと、後続の石竜達が再び路を塞ごうと飛来してくる。
ジズは相対した彼らを見つめた。
そこに相貌がなくとも、ジズには敵の一途さが理解できる気がした。或いは、彼らが像であるからこそ。
だから、彼らがこの場にいることが間違っているとだと断じて言える。
「貴殿らが命を削ってまで護るべきもの。それは災魔ではなかったはず」
──故に道を正そう。
「学園を、貴殿らを、在るべき姿に戻すために」
風が舞い、雷が突き抜ける。
ジズは怜悧に、容赦なく。
真っ直ぐに敵へ矢を降らせ、その体を穿ち貫いていった。
大成功
🔵🔵🔵
フィオレッタ・アネリ
わっ、石像がたくさん飛んでる…!
当たり前だけど、このまま素直に通してはくれないよね
風と雷を纏ってるなら、近づかないほうがよさそうかな
まずわたしの神性であたり一帯を花園にするね
そこに溶け込み存在感を消して、第六感で攻撃を避けながら、《メリアデス》で作った蔦付きの銛を念動力で撃ち込んで、上空の巨竜像たちを範囲攻撃
命中したら、蔦を一気に短くして花園に落としちゃう!
花園に落ちた巨竜像たちの前に姿を現し、距離をとって《誓花》
ルールは「動いちゃダメ」!
あとはまた花園に潜って、《メリアデス》の槍や《ファヴォーニオ》の風による属性攻撃、ゼフィールの援護射撃で巨竜像を倒していくよ!
※アドリブ・連携、歓迎です!
「わっ、石像がたくさん飛んでる……!」
フィオレッタは目をまあるくして空を見上げる。
風景の一部としてそこにあった、荘厳な彫刻のような像達。その翼が今や風を掴まえ、柔らかに羽ばたいて宙へと飛翔していた。
だけではない。
翼の先端から徐々に色づいたかと思うと、薄い緑の部位には風を渦巻かせ、金色に煌く箇所は雷に覆われて。魔力に満ちた魔竜へと変貌している。
「当たり前だけど、このまま素直に通してはくれなさそうだね」
フィオレッタの呟きに、ふわりと横に浮くゼフィールも肯定の鳴き声を返す。
前方も、そして空も巨竜のテリトリー。
一筋縄では、押し通れない。
ならばフィオレッタも自らそこへ飛び込もうとはしなかった。こちらからは近づかないほうが良い、なら向こうから来てもらえば良いのだと。
こつん、と丸いトゥで小さく地面を鳴らし、ひらりと淡白い薄帛を揺らす。
踊るように軽く一歩だけステップを踏むと──女神はそこから鮮やかな神性を溢れ出させた。
踏まれた地面に蕾が芽吹き、大輪の花となる。
絨毯のように広がった色彩が、春の風に撫でられ生長してゆく。
数歩フィオレッタが歩んでいけば──そこは広大な花園となっていた。
石竜達もその景色に瞠目したことだろう。秋の宵下に、美しいほどの春の世界が広がっていたのだから。
その一瞬の間に、フィオレッタは花園に溶け込むように存在感を消していた。
竜達はすぐに居場所を探るよう、風雷を無方向に放ってくるが──標的も定めていない攻撃が命中する可能性は低い。
元よりフィオレッタも第六感を駆使して常に移動していた。だから敵の攻撃を全て躱すのに苦労はなく、既に次の行動に移っている。
「お願いね」
喚んだ樹精の力で、蔦付きの銛を形成。念動力で空に撃ち上げるように放っていた。
風を切る無数の矛は、狙い違わず石竜達を穿って捕らえる。同時にその蔦を一気に短くして──強烈な速度で引き寄せるように敵群を花園へ落とした。
大音が響く中、竜は起き上がり体勢を直そうとする。
けれど、その頃にはフィオレッタが姿を現していた。
決して、無為に隙を見せたわけではなく。距離をとった上で、花園に朗々と響き渡る爽風の声音で。
「動いちゃダメ」
《誓花》(イストルツィオーネ)のルールを宣言。花の中に居る敵の全てに有効な枷をその魂に嵌めていた。
無論、その法は破ることも出来る。だがそれと引き換えに襲うのは深いダメージ。一体が無理矢理に動こうとすると、直後に大きな咆哮を零して身悶え息絶えていった。
竜達は容易に動くことが出来ない。
少なくとも、その動作は数秒は止まった。
その隙さえあれば、攻撃するには十分。
フィオレッタは《メリアデス》の槍を花園から突き出させ巨体を縫い止めると、そこへ《ファヴォーニオ》による風の刃を放っていた。
宙を翔ける突風は、一瞬の内に竜を裂いていく。
そこへゼフィールも低空を飛翔し、鋭い吐息を奔らせれば──吹き荒ぶ突風となったそれが跡形もなく敵陣を散らせていった。
「どんどん進むよ!」
講堂まで、着実に近づきつつある。フィオレッタはゼフィールと共に、気を抜かず真っ直ぐに駆けていった。
大成功
🔵🔵🔵
コイスル・スズリズム
キレイな建物ね
これが全部飴細工だったとしたら
すずは全部建物ごとこれを全部食べつくしてしまいたい
【アドリブ歓迎】
侵略するってことは侵略されるってことなの
招待状はもちろん貰ってない。でも、学生証ならあるわ
……たぶん?
初手に「残像」を「範囲攻撃」で複数まく
袖口から取り出す12のドラゴンランス
竜に竜をぶつけるって
・・・、楽しい。
「全力魔法」を込めて、目に入る敵対象「全て」UC
まどろっこしいさっきのはナシ。今は全部。すずの全力、ありたけよ。
優先順位は全体
全体を攻撃して、全体の体力をまんべんなく減らすイメージ
防御は巻いた「残像」を餌に「おびき寄せ」させるが
本体にあたりそうなら「見切り」「ランスの武器受け」
綺麗に湾曲したアーチも、鮮やかなくらいの壁も。
計算され尽くした造形の屋根も、その全てを硝子のような瞳に映して。
「キレイな建物ね」
コイスルは呟き、唇に少し指先を触れさせる。
これが全部飴細工だったとしたら、建物ごと全部食べつくしてしまいたいと。
美しい洋館は甘やかな心にそれ程の興味を抱かせた。
ただ、それが艷やかなお菓子だったとしても、まだ手は届かない。それを邪魔する石像達が悠々と空を翔んでいるからだ。
つい、と少女は視線を動かしてその敵影を見据える。
身じろがぬ像だったそれは、今や巨竜となってこちらの行く手を阻んでいた──その奥にいる学園の侵略者を護るために。
だからコイスルはブーツをリズミカルに鳴らして歩み寄る。
「侵略するってことは侵略されるってことなの」
招待状はもちろん貰ってないけれど。
「学生証ならあるわ」
これでいいでしょ、と小首をかしげて見せながら。
くるりと廻ったコイスルは体をちかりと明滅させると、残像を無数に形成。ばらまくように展開して自身の居場所を不確定にさせていた。
その上で、袖口から取り出すのは色も形も性格も、全てが違う十二のドラゴンランス。
巨竜となった像達が空から舞い降り、幾つかの残像に惹き寄せられていく。その隙にコイスルは薙ぎ払うような動作でその槍の全てを放っていた。
一本も出し惜しみせず。
込めるのは全力の魔力。
──まどろっこしいさっきのはナシ。今は全部。
「すずの全力、ありたけよ」
刹那、空に踊ったのは虹にも見える矛の雨。魔力を纏って高速で飛び交うそれは、像の体を抉り貫いてゆく。
目に映る全ての個体に攻撃を放っているため、中には与えた傷の浅い敵もいた。そういった竜は反撃をしようと、下方へ羽ばたいて雷撃を飛ばしてくる、が。
それに貫かれるコイスルは尽くが残像。
判別の出来ぬ人影が無数にあれば、本人に直撃を与える可能性は低くなるのは当然。無傷に終わったコイスルはその間に、再びランスを宙へと舞わせていた。
矛先が像の硬い鱗を穿ち、属性の力を吹き飛ばして四散させてゆく。
衝撃の雨霰にも倒れない石像竜がいれば──槍にドラゴンの姿を取らせて飛びかからせて。爪を奔らせ牙を立てさせ、流麗な鳴き声までもを矛と成して。石像竜を打ち砕き、塵としていった。
コイスルは仄かに笑んでいる。
──竜に竜をぶつけるって。
「……、楽しい」
と、淡くも華やかな喜色を声音にも浮かべながら。
敵がコイスルの本体を探り当てると、当然攻撃も向かってくる。けれどコイスルは襲ってくる風の刃を、しかとランスで受け止めて。そのまま近距離から槍の応酬。全身を貫いてその一体を粉砕していった。
「通させて、ね」
残滓が塵と消えゆく中を、コイスルは歩みゆく。美しいその館はもう目と鼻の先だった。
大成功
🔵🔵🔵
セツナ・クラルス
石の竜ということだから純粋に火力の勝負だと想定していたのだが…
魔法勝負ならまだ付け入る隙はありそうだね
ふふ、属性魔法なら少し得意だよ
謎の対抗心を滲ませ魔力を表出
様子見を兼ねて、序盤は攻撃しない
敵の放つ属性に反対の属性魔法をぶつけ相殺
相殺しきれない攻撃は可能な限り見切り、ダメージ軽減に努める
…これは…
一撃でもまともにくらったらひとたまりもないね
元々の魔力の量の違いもあるだろうが
これだけの火力を維持する装置とかがあるのかもしれないな
防御に専念している為、敵の観察が捗る
今後の自分にプラスになる戦い方を学んでいこう
防戦一方ではお話にならないね
次は私の番だよ
隣人で敵の技を使用
それに自分の魔力を乗せ反撃
空に描かれる灯りは、水流の蒼と岩石の褐色。
瞬いては濃密な色彩を見せるそれは、紛うことなき魔力の賜であることが窺えた。
「──成程」
セツナはゆるりと飛翔する像の群れを仰ぐ。
石の竜ということだから純粋に火力の勝負だと想定していたが──。
「魔法勝負ならまだ付け入る隙はありそうだね」
ふふ、と零すのはやわい笑み。
「属性魔法なら少し得意だよ」
ぶつけあってみようじゃないか、と。
なだらかな声音の中に、少しばかり対抗心を滲ませてみせながら。ゆらりと夜闇が滲むほど、深い魔力を自身の周りに表出させ始めていた。
ただ、様子見も兼ねて無為に攻めはしない。まずはゆっくりと歩むように進み、竜達の姿をしかと見据えている。
竜は水と岩の二つの属性を揺蕩わせ、操っていた。
近距離にも遠距離に強力な攻撃を可能とするだけの魔力を持っているだろう。間違いなく、直撃を受ければ無事ではすまぬ程の力。
だが一度に二つの属性しか行使しないというのは、セツナには取っては護りの態勢を作りやすい状況でもあった。
何故ならば、それに合わせた属性をこちらも操ればいいから。
単純と言えど容易ではない技術でもある。ただ、セツナはそれを可能にするだけの力があった。
刹那、竜がこちらを見下ろして滂沱の水流を放ってくると──セツナはそこへ掌を翳す。瞬間、夜闇が明るく照らされるほどの雷光が弾けて、空に稲妻が奔った。
水流にぶつかった輝きが、それを千々に散らせていく。
微かに驚愕の様子を見せる竜は、それでもすぐに岩石の雨を降らせてきた。するとセツナは反対の腕を突き出し、風の塊を撃ち出した。
魔力によって圧縮されたそれは、岩石にぶつかると同時に破裂するように爆発。無数の風の刃を踊らせて岩の全てを斬り裂いていく。
複数の竜が攻撃を合わせ、相殺しきれぬほどの魔法を降り注がせてくれば──無理せずその動きを見切り、的確に回避してみせた。
とは言え、地面を抉るその衝撃は強烈なものだ。
表情を崩さぬながら、セツナは感心の色を浮かべる。
「これは……一撃でもまともにくらったらひとたまりもないね」
元々の魔力の量の違いもあるだろうが──或いは何かの絡繰りがあるのかもしれない。
防御に専念していることは、敵に傷を刻めないことと同義だ。ただその分、敵の観察は十二分に捗る。
周囲をよく見回し、何かの異常がないかと思考を巡らせるだけの猶予はあった。
するとある一つの事象に思い至る。
魔力の源泉は、敵と別の形でどこかにあるわけではない、が。
攻撃を休めている他の個体からある程度の魔力の橋渡しを受けることで、強大な力を実現していることが判ったのだ。
(魔力を生む装置を仲間が兼ねているわけだね)
現在進行形で敵の攻撃を受けている以上、休んでいる個体を狙うのも容易ではない。故に即座に供給源を断つことは出来ないが──。
(攻撃の機を定めるのには、使えそうだ)
こちらに攻撃を仕掛ける個体数が増えれば増えるほど、供給源が減る分、その直後の攻撃は緩くなる。
そこが狙い目だと、セツナは即時に理解した。
「防戦一方ではお話にならないと思っていたところだ」
次は私の番だよ、と。
敵の攻勢が緩まったと同時、セツナは意識の中に戯画化された竜の形──仮の隣人(コピーキャット)を描いていた。
そこから力を引き出して顕現するのは、竜が使った能力そのもの。
激流を形成する水の魔力と、岩石の雨を形作る土の魔力──揺蕩うそこへ自身の魔力を上乗せして、属性渦巻く衝撃の嵐を作り上げていく。
放たれたそれは、敵の放つ岩を粉砕し、水流を弾き飛ばし。とっさに石化して身を守ろうとした竜でさえも、灼いて、貫いて四散させていった。
「さて、着実に進んでいこう」
残り火のような風がさらりと長髪を撫ぜる。
セツナは決して油断すること無く、さりとて焦りを浮かべること無く。静かに、そして颯爽と前進していった。
大成功
🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
飛ぶ石像か。……竜の姿ってのがなんとなくヤだな。ドラゴンってのは大体みんな強ぇし、怖ぇからさ。
とは言っても元凶がこの先にいる以上、迷ってる暇なんて無ぇか……!
相手の動きや攻撃を〈第六感〉も交えて予想しながら〈目潰し〉で妨害して攻撃そのものをしくじらせたり、〈見切り〉で躱しながら反撃。場合によっては《逆転結界・魔鏡幻像》で相殺したり、〈オーラ防御〉で被るダメージを軽減する。
攻撃は基本的に弱っている奴から叩いて数を減らすのを優先で。もし他に連携できそうな仲間とかがいるなら、そいつに適宜〈援護射撃〉も飛ばして戦いやすいように支援する。
羽ばたく石の翼が巨体を宙に泳がせる。
その群が生み出す風が、肌に圧迫感を覚えさせるようで──嵐は暫し仰いでいた。
「飛ぶ石像か。……竜の姿ってのがなんとなくヤだな」
ほんの少しだけ、声音に苦渋の色を交える。
夜空を周遊するそれは、石像であると同時に魔力を纏う巨竜でもあった。宙で翼を動かすたびに、魔力の残滓の交じる風が蒸気を灼いている。
それが微かに心を粟立てさせた。
竜というのは強者の種族だ。
だからそれを意識するほどに、恐怖の感情も湧いて出てくる。あの像が弱くないこともまた容易に想像できたから。
嵐はそれでも、下がるわけにはいかないと理解している。
「元凶がこの先にいる以上、迷ってる暇なんて無ぇか……!」
学園、或いはこの世界そのものの存亡にだって関わるかも知れない。選択の余地が無いのなら、怖くても立ち向かう他になかった。
だから嵐は迅速に奔り出す。
こちらの姿を認めた石像竜は、漂う魔力を収束させて水の刃を放ってくる。けれど距離の近い敵が自身を狙ってくるだろうことは、嵐も既に予測していた。
故に見切るのは難しくない。刹那、横っ飛びに跳ねて転がり回避。石畳が抉れるほどの衝撃を紙一重で躱していた。
直後に起き上がり、スリングショットを引き絞り一撃。礫を天へ奔らせて、強烈な衝撃で膚を貫通して一体を撃ち落としてみせる。
「……やっぱくるよな」
嵐は油断なく見上げる。一体が落ちると、他の個体も次々に嵐へと敵意を向け始めていた。
数では敵の方が圧倒的に上。けれど嵐は自身を叱咤するように動きを止めない。
第六感を働かせて攻撃のタイミングを窺い、魔法を放ってきそうな個体を見つければ──そこへ一手先に射撃。妨害して攻撃を空振りに終わらせながら、他の個体から撃たれる魔法もつぶさに回避していく。
ぎりぎりの戦い、けれど決して乗り越えられない壁じゃない。
(だったら、やるしかねえからな)
微かに体に魔法を掠めさせつつも、転がりながら射撃を繰り返し一体一体を確実に落としていった。
苦慮した敵がタイミングを合わせ、複数体で一斉に攻撃を仕掛けてくると見れば──嵐は無理な回避をせずそこへ相対。耀く光円から魔法の鏡を召喚していた。
逆転結界・魔鏡幻像(アナザー・イン・ザ・ミラー)。
飛来してくる魔法に対し、眩い鏡面に映した魔力を反転させた魔法を撃ち返す。
水は炎に、土は風に。滾る嵐の奔流となって宙を奔ったそれは、敵の魔法の全てを相殺して打ち消していた。
嵐は気を抜かず、敵が惑った一瞬の隙に自身の魔法も重ねて追撃。残った敵へも射撃を繰り返し、行く手を阻む敵を殲滅していた。
「……何とかなったか」
小さく整えた呼吸に交じるのは少しの安堵。
けれどその先にもっと危険な敵がいると判っているから──気合を入れ直し、真っ直ぐに奔ってゆく。
大成功
🔵🔵🔵
ユノ・フィリーゼ
災い渦巻く夜会はすぐ其処に
けれど簡単には通して下さらないのね
羽ばたく彼等を仰ぎ見て笑み揺らし
恭しく挨拶を
大いなる守護者様
夜会への招待状は貴方達から貰い受けるとするわ
淑女らしからぬ行動だけれど、今は手段を選んでいられないから
――どうかご容赦を
風の祝福を身に纏い
空へと踏みだし一気に加速
大翼を狙って蒼刃による早業の一撃を見舞う
炎と冷気による堅牢な守りは
衝撃波と烈風の刃で掻き消し
放たれた炎達は宙と地を足場にしながら踊る様に躱しゆく
嗚呼、大空の覇者とのダンスはこんなにも心が躍る
…でも、そろそろお終いにしないとね
今一度空へ駆け、揺らぐ事無く蒼刃を振るう
この学園は私達が必ず守るから
少しの間ゆっくり休んで、ね
夜気とは違った風が髪を揺らして頬を撫ぜる。
仰ぐと赤と蒼の光を纏った翼が空を翔け、宵空にまばゆい光を描いていた。
空の蒸気が淡くそれらを反射して、月明かりにも似た煌きの残滓を空中に形づくる。
ユノはそれを見つめていた。
災い渦巻く夜会はすぐ其処にあるけれど──。
「簡単には通して下さらないのね」
招かれざる者達を退ける、館の守り人。
そんな雄大な竜達を見つめて──ユノは笑みを揺らしてひとつ、恭しく挨拶を送る。
「大いなる守護者様。夜会への招待状は貴方達から貰い受けるとするわ」
ここで背を向けて、帰るわけにはいかない。
淑女らしからぬ行動だけれど、今は手段を選んでいられないから。
「──どうかご容赦を」
夜に満ちる蒸気に、仄かに清らかな空気が混じる。ユノが風の祝福を身に纏い、透明な気流を渦巻かせていたのだ。
瞬間、空へと踏み出して加速。ふわりと風に導かれるように、一息で石像竜達と同じ高度にまで昇っていた。
宙へ躍り出た少女の姿に、竜は見惚れでもしたろうか。微かに反応を遅らせてから──それでもすぐに炎を揺蕩わせて攻撃を仕掛けようとしてくる。
けれどユノはもう一度空中を蹴って加速。竜の至近にまで迫っていた。
そのまま蒼刃を流れるように振るうと一撃、早業で斬線を閃かせて大翼を斬り裂いていく。
一体が地に落ちて消えていくと、周囲の竜達は警戒心も持ったことだろう、炎と冷気を纏うようにして守りを固めていた。
けれど後方へ宙返りしたユノは、そのまま衝撃波を放つ。同時に烈風の刃も重ねることで波状の衝撃を与え、その魔力の塊を掻き消していた。
炎を滾らせても、氷雪を着ようとも。
風と共に踊れば届かぬことはないと。
無防備になった竜へ、ユノは肉迫して一刀。翻りながら曲線の剣撃を放ち数体を両断していく。
防戦は不利と悟ったか、竜達は一斉に攻勢に移って炎を撃ってきた。
けれど天を蹴って高度を下げたユノは、一気に地面に着地して方向転換。羽が風に舞うような、滑らかに踊るような動きで躱しゆく。
竜が高度を下げてくれば、振り返って衝撃波で応戦しながら。距離を詰めるとターンするように横合いを取って斬り伏せていった。
ついて、離れて。
時に空でもポルカを刻むように。
(嗚呼、大空の覇者とのダンスはこんなにも心が躍る)
でも、とユノは小さく瞳を閉じる。
「そろそろお終いにしないとね」
そして幾重にも束ねた風を、一気に解くようにして上向きの力を得て飛翔。空を駆け、虹を架けるような軌道を取って刃を奔らせ、空の竜の全てを斬っていった。
「この学園は私達が必ず守るから。少しの間ゆっくり休んで、ね」
優しく声を落とし、消えてゆく竜を見送る。
ふわりと降り立つ頃には、建物の守護者はもういなくなっていた。
「──行きましょう」
ユノは静かに歩み出す。
その先に、昏き夜会が開かれている。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『蝋人形デビュタントの支配人・キャンドリア』
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POW : 蝋人形の宴
【戦場全体に蝋人形デビュタント空間】の霊を召喚する。これは【レベル×1体の剣士型蝋人形の召喚】や【レベル×4体の踊る貴族型蝋人形の召喚】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 永久への招待状
【女王の精神侵食波を受けた対象が新しい自分】に覚醒して【近侍蝋人形により礼服やドレスを着た蝋人形】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 不敬への罰則
【礼節を欠いた者へと向けられた手】から【対象を罰し矯正する呪いの篭った光】を放ち、【礼服やドレスを着た蝋人形へと矯正する事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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●果て無き円舞
聞こえたのは、艷やかな弦楽の音色だった。
建物の中へ入った猟兵達は、広い講堂を目にしている。
響く旋律と共に、開かれているのは舞踏会だった。
弦楽器を奏でる者、ワインを運ぶ者。
そしてワルツを踊り、静かな靴音を鳴らす無数の影がある。穏やかなメロディに身を任せている、紳士と淑女の姿が。
気品に溢れる社交場──そう空目してしまうほどの空間。
ただ、その全ては表情の無い蝋人形。夜会を夜会たらしめるために生み出された、災魔の一部だった。
その空間を作り出した女王は、最奥の椅子に座ってダンスを眺めている。
猟兵達は歩み寄って、気づく。
彼女もまた蝋人形であることに。
「雅やかな舞踏がいつまでも続けば良いと、そう思うでしょう?」
女王はそう猟兵達に声を向けた。
「美しい社交の場がいつまでもそこ在ればいいと、そう思うでしょう?」
自分と同じように、彼らは永遠に生き続ける。
人形であるが故にいつまでも踊り続け、永劫に美しくいられる。
だから、と。
女王は立ち上がり猟兵を見据えた。
「あなた達もまた人形となって──共に社交の時間を愉しみましょう?」
フィオレッタ・アネリ
女王さま、舞踏会へのご招待ありがとう
でも、蝋人形にされちゃうのはゴメンかな
貴女のために永遠に同じルーティーンを繰り返すなんて、ぜんぜん胸が高鳴らないもの
風を纏って舞うように跳躍
蝋人形たちを飛び越えつつ、戦いを邪魔されないようホールに《メリアデス》の蔦の結界を
社交場にそぐわない舞踏だったかな
《花映》の読心で光の軌道を避けながら接近
近づいたら読心を攻防に
花びら纏う掌と脚で攻撃の頭を抑え、歩む先には樹槍を、避ける先には風刃を、死角からはゼフィールの吐息を、まるで女王さまとステップを踏むように
最後は属性攻撃と全力魔法の花風で吹飛ばし
――わたしは誰にも縛られず、わたしの鼓動のまま、心のままに踊りたいの!
人形達が奏でる旋律は、ウインナワルツ。
拍を僅かにずらして、水の流れのような、或いは風に戦ぐ花のような不均衡で美しい抑揚を作っている。
その響きの中で多くの影がダンスを踊る空間は、優美でもあった。
ともすれば、差し出される手に自分の手を伸ばしてしまいそうになるくらいに。
けれどフィオレッタはそっと首を振る。
「女王さま、舞踏会へのご招待ありがとう。でも、蝋人形にされちゃうのはゴメンかな」
春色のワンピースが、仄かにふわりと揺れる。
フィオレッタの周囲にやわくあたたかな気流が渦巻いていたのだ。
風精の手助けによる、春の匂いを含んだ風。それが歪な社交場の中に華やかな香りを漂わせていた。
「貴女のために永遠に同じルーティーンを繰り返すなんて、ぜんぜん胸が高鳴らないもの」
例えば、季節が巡るたびに新しい思いを抱くように。
幾度と春が訪れても、同じ景色が二度生まれないように。
全てが過ぎ去ってゆく時間の中にあるからこそ、楽しく思えることがある。
「踊って、楽しむって、そういうことでしょ?」
まるでそのお手本を見せるように。
フィオレッタは纏った風を活かすよう、舞うように高く跳躍していた。
蝋人形達は感情のない表情で、それでも一瞬見惚れでもしたかのように、宙へ踊るフィオレッタの姿をただただ仰ぐ。
その遥か頭上を越えながら、フィオレッタは《メリアデス》によって蔦を射出。
壁を描くようにして結界を形成し、戦いを邪魔されぬようホールの中にもう一つの空間を作り上げていた。
優しく床に着地する頃には、視界の先に居るのは女王唯一人。
「これで、わたしたちだけだね」
「……舞踏会を分断するなど、嘆かわしい」
女王は見回すと、声音に嗟嘆にも似たものを浮かべる。
そのまま感情を形にするように、矯正の呪いを光にして撃ち出してきていた。
それは文字通りの光の如き速度。だがフィオレッタはそれが自身に届く前に、ひらりと身を躱している。
社交場にそぐわぬ舞踏だと女王が判断すると予想はしていたし──何より花の精霊を先んじて召喚していたから。
《花映》(レットゥーラ・デッラ・メンテ)。
可憐な囁きで敵の内奥を語ってくれるその声によって、女王の動きをほぼ完全な形で推測していたのだ。
故に女王が連撃を仕掛けてきても、右に左に、流麗な動線を描いて全てを回避する。
女王が直接手を伸ばしてくれば、そこへ花びらを纏った掌を打ち据えて逸らし、女王が大きく下がろうとすればその先に樹槍を突き出させて。
こちらから逃れようと横に動く様子があれば、そこに風刃を飛ばして足先を切り裂かせ──それに惑って女王がふらつけば、その隙にゼフィールが吐息を放っていた。
疾風の塊となったそれは女王の四肢に傷を刻んでたたらを踏ませていく。それでも女王が反撃を狙ってくれば──フィオレッタは花を纏う脚と掌でそれをあしらい、攻撃動作を取らせなかった。
靴音を鳴らし、可憐に翻って。その姿はまるで優美なステップを踏んで見せるよう。
それ故に女王は苦渋を顕す。
「これは、私が望む永劫の舞踏ではないわ」
「判ってるよ。だから、やめない」
踊りを、楽しむことを、一方的に押し付けられたくはないから。
フィオレッタは明朗に言ってみせると、花弁を含む風を吹かせ始めていた。
それは徐々に巨大に、そして鮮やかに色づいていく。
「わたしは誰にも縛られず、わたしの鼓動のまま、心のままに踊りたいの!」
花々が自然と爛漫に咲き誇るように。
風が踊り、春の色が空間に満ちみちる。
全ての力を注ぎ込んだ花風は、足並みを崩させ、リズムを失わせ、その野望までもを砕くように──女王を大きく吹き飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
コイスル・スズリズム
アドリブ大歓迎
驚くほど相手を見ると冷静になれる自分がいる。
ええ、すずとも上手に踊って。
ただし踊りそこなったら一言だけいわせてね。
他所でやって?
あ、もう先にいっちゃった。
じゃあ、はじめよっか。
袖口から取り出すは12のランス
この空間を踊りつくした後に、すべて潰しちゃうかも
だから、ちゃんと踊ってね
初手は「範囲攻撃」をのせた複数の「残像」をまいて「おびき寄せ」
本体は相手の攻撃を「見切り」ながら、礼節はなるたく崩さずに振る舞う
防御は本体にあたりそうならば12のランスで「武器受け」
攻撃は全力魔法を込めた【UC】
建物ごと壊しても、あなたと過ごすため
続くのは
私と
あなた
どっちだろう?
人間の全力もいいもんでしょ?
三拍子に合わせて、フロアに靴音が響く。
くるりくるり、ゆらりゆらりと命無き者達が踊る。
それは麗しいダンスであると同時に、侵略の舞いだった。
だからコイスルはその景色を前に、驚くほど冷静になれる自分がいることに気づく。
本当なら今自分が見ているのは学園の夜空。
屋上から覗く平和なひととき。
なのに、この社交場が全てを飲み込んで消し去ろうとしているから。コイスルは女王の誘いにそっと声を返している。
「ええ、すずとも上手に踊って。ただし踊りそこなったら一言だけいわせてね」
──他所でやって?
「あ、もう先にいっちゃった」
じゃあ、はじめよっか、と。
憚らず言ってみせたその言葉を引き下げることもなく。本心から、彼女らを退けることにいささかの迷いも見せずに。
コイスルは袖口から12のランスを取り出して“踊り”の準備を万全にしていた。
「この空間を踊りつくした後に、すべて潰しちゃうかも。だから、ちゃんと踊ってね」
「──いいでしょう」
それを見た女王は、できるものなら、とでも言うように。
手をそっと翳して、剣士に貴族、無数の蝋人形達をコイスルへけしかけようとしてくる。
けれどコイスルは惑わない。なぜなら彼らにはきちんとパートナーを与えてあげるつもりだから。
瞬間、ほんの微かに自身を明滅させた後、無数の残像をばら撒いた。
丁度一人に一つずつ。淡い輪郭を持ったコイスルの残滓が、彼らをおびき寄せて足止めする形を取る。
剣士型人形は、残像を剣で切り裂こうとしてきた。
が、残像も確かにコイスルの一部なれば、簡単にやられはしない。小さく横に跳んで躱してみせると、踊りに誘うように靴を鳴らしていた。
貴族型人形に対しても同じ。
近づかれれば一歩距離を取り、そしてまた惹き寄せる。弦楽に合わせたステップを相手に踏ますよう、軽々とあしらっていた。
「素敵な踊りね」
と、女王は半ばそれに感心の色を見せていた。けれど見紛わず、その瞳はコイスル本人を見据えている。
「あなたも、踊りましょう?」
そうしてリズムを取り始めるよう、一歩踏み寄っていた。
けれどコイスルは相手にリードを譲らない。しかと距離を保ち、間合いを狭め過ぎないようにしながら靴音を刻んで隙を作らなかった。
それもまた美しい舞踏。
故に女王は惜しむように声を零す。
「美しい人形となれば、永遠にそのままでいられるのに」
「本当に続けられるのなら、ね」
コイスルはそっと声を紡ぐと、ランスの全てに魔力を込めて、矛の渦巻きを形成。衝撃の大波を生み出していた。
“袖から慎重キャンディー”(アンプラグド・ラウンジ・アンプ)。
刹那、放たれた矛が舞い、竜が踊る。
場に生まれた庭から、貯水池の水が荒れ狂い。流れた川から氷が暴れ出す。暗闇の灯りから響くビートが円舞曲を掻き消して、響くベースが空間を煙らせる。
靴音がかき消えて踊る人形が吹き飛ばされ、豪雨が降ればそれらが押し流されて。虹が架かる頃には床が穿たれ、天井から夜天が覗いていた。
女王は僅かに息を呑む。
「この空間を破壊するつもり?」
「そうなったら、続くのは、私とあなた──どっちだろう?」
踊りを望みながら、踊り損ねるのはどちらだろうと。
コイスルが言ってみせれば、女王はそれを阻止しようと踏み寄ってくる。けれどコイスルはそこへまたランスを放ち床を爆砕。女王の体ごと大きく吹き飛ばす。
「人間の全力もいいもんでしょ?」
そう言ってみせるコイスルの声音には、どこまでも静かな温度が宿っていた。
大成功
🔵🔵🔵
シエナ・リーレイ
■人形館
■アドリブ絡み可
みんな!舞踏会だよ!とシエナははしゃぎます。
舞踏会という童話において重要なイベントにシエナは大喜び
だけど、シエナは舞踏会の作法については詳しくありません
なので舞踏会の参加者達と仲良くなる序でに作法について聞いてみる事にします
作法について教えて欲しいな。とシエナはお願いします。
支配人により作法を教えて貰った上に素敵なドレスまで着せて貰ったシエナ
早速、猟兵や紳士淑女達との楽しい舞踏会に繰り出します
支配人の力と舞踏会に参加できるという気分の高揚により異常なまでの戦闘力と速度を得たシエナ
生半可な攻撃はものともせず猟兵や舞踏会の紳士淑女、支配人相手に[怪力]交じりに踊り狂います
シトー・フニョミョール
■人形館
■アドリブ絡み可
ようやく追いついたと思ったら舞踏会ですか。
確かに毎日踊って暮らすというのも悪くないですね。シトーも石のお人形だからその気持ちはわかりますぬ。でもシトーは大きな変化がないのは嫌いです、いろんな変化あってこそ楽しめるってものです。多様性大事。
と言ってたらシエナさんがさっそく踊り狂ってらっしゃる。おふざけが過ぎるとドロドロにしてしまいますぞー!って感じで蝋人形たちに攻撃を加えますよ。鉤付きフックで動きを止めて、支援しますよ。
そうすると来ますよねやはり。対抗手段は……考えてなかった。(蝋人形にされ
うぅぅ、この状態で精神侵食波でも浴びようものなら、何かに目覚めてしまいそうですぬ…
水野・花
■人形館
■アドリブ絡み可
おとなしく舞踏会に参加する振りをすればうまいことキャンドリアさんに近づけないかな?
という訳でまずはダンスしてる蝋人形に紛れてキャンドリアさんに近づいて行きますよ。
蝋人形達とダンスをしつつ近づけば警戒されないはず……。
その時に蝋人形にされちゃった人がいるなら「呪詛吸い」で回復してあげましょう。蝋人形にされちゃった人もダンスに参加させられちゃってるだろうから一緒に踊りつつ回復してあげればキャンドリアさんにはづかれないはずです。
そして、ダンスしながら近づいて不意打ちを仕掛けます!私の【呪詛】を拳に乗せてキャンドリアさんに叩きつけてやりましょう。
赤嶺・ふたば
【人形館で参加】
確かに楽しい事はずっと続いて欲しいモノだな。だが、生憎こちらも仕事でね。
蝋人形に変えられた場合水野さんが助けてくれるというからまずはこちらが突入して爆発魔法制圧で活路を開く
ん・・・あれはシエナさん?あっ、なんか自ら進んで蝋人形になろうとしていない?このまま蝋人形にでもなられたら困るから引き止めなきゃ。・・・えっ、何かに当たった?身体が蝋人形になってる!
(アドリブ、絡みOKです)
破損しながらも、未だ数多の蝋人形が円舞を踊るホール。
その中へぱたぱたと駆けてくる一人の姿があった。
「みんな! 舞踏会だよ! とシエナははしゃぎます」
愉しげに灰髪を揺らがせて、見回す瞳に無垢な色を浮かべる少女人形、シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)。
喜びを隠さないのは、そこに居るのが自身と似た存在──だからだけではないだろう。
舞踏会と言えば童話でも重要なイベント。
沢山のお友達となり得る者達と、とても楽しそうな遊び場。その中に自分が居ること、そこに参加できることが嬉しいのだ。
「ようやく追いついたと思ったら舞踏会ですか」
と、シエナに続いて講堂内に入ってくるのはシトー・フニョミョール(不思議でおかしなクリスタリアンの従者・f04664)だった。
ホールを照らす眩い明かりに、オニキスの髪と肌をほんのりと艶めかせて。興味深げに周囲に視線を巡らせている。
「敵は相当数いるようですが……本体は奥の一体だけのようですな」
「まずはあそこまで近づかないと、どうにもならなさそうですね」
水野・花(妖狐の戦巫女・f08135)も頷きながら、冷静に状況を観察している。
本体に比べれば、周囲の蝋人形達は強力な戦闘力を持っているわけではないだろう。
だがそれもオブリビオンの一部であるが故に──容易に無視できる存在で無いことだけは確かだった。
それでも進まねば話にならないと、花は皆へ向く。
「仮に攻撃を受けたりした場合は、私がなんとかします。まずは距離を詰めていきましょう」
「判りました」
と、こくりと同意を示すのは赤嶺・ふたば(銃と魔法が好きな傭兵魔術師・f15765)。花の言葉にも心強さを得て、舞踏会の中へかつんと踏み出していた。
無論、ふたばも無防備にその渦中に飛び込むつもりはない。
元より、対集団の戦いの心得もあるから。
魔法服をゆらゆらと揺らめかせるほど濃密な魔力を湛えると──およそ二百を数える魔法弾を形成し宙に浮遊させていた。
「さて、行こう」
刹那、それを正面へ発射。着弾と共に大音を上げて巨大な爆破を巻き起こす。
──爆発魔法制圧射撃。
強烈な爆風と爆炎が吹き抜けて、前面の蝋人形達が散り散りに吹き飛んでいく。空いたスペースへ飛び込むようにして、ふたばは敵陣に活路を開いていった。
それを機に皆も前進を始める。
付近の蝋人形達は当然、ふたばを通すまいとしたが──ふたばはさらに魔法を重ねて突破していく。
その間に、花も別方向から前進していた。
周りがふたばにある程度気を取られている隙に、自身は舞踏会に参加する振りをして目立たぬよう注力。攻撃はせずに、手隙の蝋人形の誘いに乗ってゆっくりとダンスを始めていく。
緩やかなワルツは動きを合わせやすく、周りに溶け込むのも容易だ。
(このままうまいこと、進んでいけそう──)
一段落したらダンスを終えて、また別の人形の手を取って。静かにステップを踏んで、踊りながらフロアを着実に進行していった。
そうしてふたばと同じ程度の距離に進むまで、特に問題はなかったが──。
数歩先を行くそのふたばが、ふと前に目をやっていた。
どうやら更に前方に、シエナの姿を見つけたらしい、が。
「あっ、シエナさん──なんか自ら進んで蝋人形になろうとしていない?」
三人に先行していたシエナは、一足先に女王の元へたどり着いていた。
というのも、シエナは女王の誘いを断らず、言われるままに舞踏会に参加しようとしていたからだ。
女王に招かれつつ、わくわくとしながら話しかける。
「作法について教えて欲しいな。とシエナはお願いします」
「難しく考えることはないわ。淑女はただ上品に、紳士から誘いを待てばいいの」
応えながら、女王は幾つかの簡単な心構えを教えつつ──それからこちらの服装にも目をやっていた。
「その衣装は可憐ではあるけれど、ダンスには相応しくないでしょう」
言うとシルエットの美しいドレスを用意して、シエナを着替えさせる。
シエナはわぁ、と鏡を見ていた。
「とっても素敵なドレス。とシエナは感嘆します」
「見目が美しくあってこそ、社交の場では映えることでしょう」
女王は言って、シエナをホールへと招いていく。
シエナは言われたとおり紳士の誘いを受け、一歩二歩と、徐々にステップを踏み始めた。
そうして蝋人形の間に加わっていくその姿を──ふたばは少し離れた位置から見つめている。
「大変だ、あのままじゃそのうち蝋人形にされちゃう」
今はまだ無事なようだが、踊りを踊るうちに本人も気づかぬまま人形とされる──その女王の狙いが見える気がした。
「何とかないと……」
「ひとまず、周りの蝋人形だけでも倒しておきましょうか」
と、前を見据えているのはシトー。自身も蝋人形を退けながら進んできていた。
踊っているシエナを見れば、そう簡単にやられはしないと判る。けれど女王にたどり着かねばどうにもならないもまた事実。
故にシトーはシエナの方向へ前進。行く手を阻む蝋人形を撃退しながら、その傍まで駆け寄っていた。
「おふざけが過ぎるとドロドロにしてしまいますぞー!」
複数体の敵がかかってくれば、鉤付きフックを放って引っ掛け、拘束するように固定する。それでも抵抗する敵にはUDC液体金属をばら撒いて確実に斃していった。
そのうちにシエナを囲む人形の半数程度を撃破していくが──。
「そうすると来ますよね、やはり」
と、シトーは女王から放たれる強烈な光に命中。足元から、自身の体が蝋人形していくことに気付いていた。
「対抗手段は……考えてなかったですね。うぅぅ」
段々と、体の自由が奪われていく。
同時に意志に反して、自身の体が踊りを始めていた。
ふたばもまた、爆発魔法を繰り返して確実に進撃を続けていたが──その途中で女王からの呪いの光をその身に受けている。
「何か当たった……わっ、自分も蝋人形に……?」
人の膚と違った感触を覚えて、その直後には自由な動作ができなくなっていた。
「──さあ、皆で踊りの時間を愉しみましょう」
女王は目に見えて脅威だった二人を人形としたことで、優位を確信したように淑やかな声音を聞かせていた。
事実、ふたばもシトーももはや抵抗する術はなかった──けれど。
そこにまだ、蝋人形に紛れて隠れている花がいる。
ダンスを続けながら少しずつ移動してきていた花は、未だ女王にその存在を捉えられてはいなかった。
それも時間の問題ではあろうが、少なくとも今はまだ敵とは見られていない。
その自由を活かし、ふたばへゆっくりと接近。一緒にダンスを踊る形で密着しながら、仄かな青い光を顕現して呪いを解き始めていた。
それは“呪詛吸い”の力。
呪いのコントロールが出来る花だからこそ実現できるその力が、覿面に効果を発揮し──ふたばを元の体へ戻していた。
踊り続けたままでいれば、見目には大きな差もなく気づかれにくい。花はそのままシトーの呪いも素早く解いていく。
そこまで来ると、女王も何かの違和感を覚えたろう。蝋人形化した筈の二人を見やり、その体が戻っていると気づくと再び攻撃を目論む──が。
その瞬間。
近くにいた蝋人形達が業風に巻き込まれたかのように吹き飛ばされた。
踊りに加わっていたシエナが、その怪力を十全に発揮して──相手を次々に投げ飛ばしていたのだ。
「とっても楽しいね! とシエナは喜びます」
笑顔と共に振るわれる容赦のない暴力。
シエナが敵を“お友達”と見て心から楽しんでいるのは事実だった。
ただその無意識下にある、呪殺人形としての本能は決して無くならない。それに突き動かされるように踊り狂えば、一挙手一投足が相手を殺す暴力へと変貌していく。
穿たれ、砕かれ、へし折られ。
いつしか女王までの道を阻む人形は殆どいなくなっていた。
「舞踏会を壊すつもり? 愚かなことを──」
その光景を目にした女王は嘆きを顕にしていた。
或いはそれは静かな怒りでもあろうか。これ以上はやらせまいと、シエナ達へと攻撃を仕掛けようとしてくる。
が、その直ぐ側へ迫っている影が一人。
蝋人形に紛れて踊りを続けていた花だ。最後まで目立たぬように注力して、ようやく女王の至近にまでたどり着くと──そこで踊りを終えて。
「これでも喰らってくださいっ!」
拳に濃密な呪詛を含めて、最初からの狙いであった不意打ち。全力を込めて腕を振り抜き、女王の腕の一端を砕いてみせた。
「──!」
女王ははっとして、初めて花の存在に気づく。
ふらつきながらも手を伸ばして光を放とうとしてくる、けれどその頃にはシトーもふたばも、シエナも距離を詰めて女王を包囲していた。
女王は手を止めて見回す。
動かぬ表情にあるのは、悲しみの色でもあった。自身を否定されること、そしてこの社交場を否定されることに対しての。
「あなた達には、この楽しさがわからないの? この社交場があれば、永遠に踊り続けて、愉しみ続けていられるのに」
「確かに毎日踊って暮らすというのも悪くないですね。石のお人形だからその気持ちはわかりますぬ」
シトーは今一度ホールを見回してから応えた。
でも、と首を振る。
「シトーは大きな変化がないのは嫌いです、いろんな変化あってこそ楽しめるってものです。多様性大事」
「うん。何より──生憎こちらも仕事でね」
だからそこに敵が居るならば討たねばならないのだと。
ふたばは言ってショットガンを向ける。そのまま躊躇うこと無く引き金を引き、無数の弾丸で女王の体を穿った。
たたらを踏む女王は、それでも呪いの光を返してくる。
けれどふたばやシトーの体が蝋となっても、花が再び治癒すれば元通り。自由を取り戻したシトーは素早くフックを放ち、逆に女王の動きを止めてみせた。
「今ですぞー!」
「支配人とも踊れるんだね! とシエナははしゃぎます」
そこへ笑顔で踏み込むのがシエナ。
その表情の中に敵と戦うという意志はない。ただ今までと変わらずお友達と遊べることに喜びを浮かべるだけ。
だから純情に、無垢に。
イノセントな心のずっと奥に、呪殺の本能だけを内在させて。
戯れるように組み付くと、ステップを踏むように女王の足先を砕き、腰を支えるように背を抉り。
「凄く楽しくなってきたよ! とシエナは気分の高揚を訴えます」
手を取るようにして関節を破損させて、惹き寄せながら一撃、腹を深々と貫く打突を見舞っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セツナ・クラルス
ダンスのお誘いはとても魅力的ではあるが
…すまないね、遠慮するよ
私には連れがいる
おいで、ゼロ
ダンスの時間だよ
…うん、私もダンスは得意ではないのだが
ここの主の願いなのだよ
つみとる前に叶えてやりたいと思って、ね?
我々はダンスは苦手だが、息を合わせることだけは得意でね
二人分に広がった視野を生かして、
敵の攻撃を見抜いて、避けて、時間を稼ぐ
稼いだ時間で聖なる属性を目立たぬように練り上げておこう
支配人の隙を見つけたら、躊躇なく破魔の力を叩き込もう
社交というのは誰かがいて初めて成り立つものだろう?
独りで無限の時を過ごすなんて、悪夢としか思えないのだがね
……ゼロのいない世界など、耐えられない
蝋の欠片が散って、溶けるように消滅していく。
戦乱の渦中に倒れた人形達は、一体、また一体と倒れていっていた。それは命なき者と言えど、永遠には程遠いという証左でもあったろうか。
「──まだ、踊りは終わらないわ」
それでも女王はフロアを闊歩し、新たな人形を呼び寄せていく。
無ければそこに永遠を作れば良いのだというように。流麗な音楽を再び響かせて、手を差し伸べていた。
「争い程愚かなことはないでしょう。さあ、共に舞踏を」
踊って頂けるでしょう? と、そういざなうように。
けれどそれを前にしたセツナは──首を縦には振らない。
「ダンスのお誘いはとても魅力的ではあるが」
物柔らかに返すと、それでも瞳を伏せて。
「……すまないね、遠慮するよ」
私には連れがいるからと、と。
言いながら自身の内奥に短い時間、意識を沈めた。
色のない、或いは色に溢れた海のような深層。
自己の奥深く。水底のようでありながら、宇宙のようでもある心の中に、“セツナ”とは違うもうひとりの人格がいる。
セツナはそこへ手を伸ばしていた。
「おいで、ゼロ。ダンスの時間だよ」
「ダンス?」
三白眼のような金色の瞳、少しだけ違う目つきと口ぶり。それ以外はセツナを鏡写しにしたようなその人格──“ゼロ”は言葉を返す。
「戦いの真っ只中だろ? 大体、ダンスなんて踊れないぜ? それはそっちも同じだろ」
「……うん。確かに、私もダンスは得意ではないのだが」
と、セツナは返しながらも、同時に現実にも視線を向けていた。
「ここの主の願いなのだよ。つみとる前に叶えてやりたいと思って、ね?」
「──なるほど」
ゼロもそちらへ目線をやってから頷く。
「それが救いになるんだったら、まあ、やってやるさ」
言いながら、自身を包む水のようなものの中を泳いで、高くへ翔んでいく。
その先に在るのが現実の表層。
「さあ、共に行こう」
セツナも共にそこから泳ぎ出る。水面のような心の表面を通り抜けると、そこは精神の外の世界だった。
次にセツナが現実に意識を向けた時、二つの人格は同時に現し世に顕れていた。
──共存共栄(フタツデヒトツ)。
隣に降り立ったゼロは、少々講堂内を見回して、改めて環境を確認している。
「確かに舞踏会、って感じだな」
納得するように零すと、それから蝋人形の女王へ視線を戻していた。
女王は、自身の誘いを断ったものは既に敵と見なしているからだろう。現れたゼロにも敵意を向けて、杖を突き出そうとしてくる。
けれど、ゼロはそれを予見していたかのように──ひらりと横に跳んで避けていた。
もう一人の人格が現れたと言うことは、視野が二人分に広がったのと同義。動きをつぶさに見やっていれば、単純な攻撃を躱すことに苦労はない。
僅かに苦渋の息を零した女王は、呪いの光を扇状に放つ。けれどそれもまた、セツナとゼロは同時に跳躍、縦方向に動いて回避してみせた。
「簡単には、当たらないよ。我々はダンスは苦手だが、息を合わせることだけは得意でね」
「──ならば」
これはどう、と。女王は二人同時への狙いを捨てて、セツナにだけ集中するように複数の光を連射してくる。
「同じさ」
だがゼロが、素早くセツナの腕を掴み──そのまま引き寄せる形で回避。無傷に終わらせている。
互いが互いを助け、支え、補助し合うように。
セツナとゼロは敵の攻撃の全てを見切り、無為に終わらせていく。
それでいてただ逃げているだけではなく。始めから聖なる属性を練り上げ、濃密な破魔の力の塊を生み出していた。
そうして女王が僅かな隙を作った、その一瞬。
「行くよ」
「ああ、分かってるさ」
二つの人格は全く同時に床を蹴って肉迫。躊躇なく、練り上げた力を眩い衝撃として女王の体に叩き込んだ。
「……!」
体の一端を粉砕されて、女王はくずおれる。それでもすぐに起き上がるけれど──その様相は苦渋混じりだった。
微かに造形の崩れた顔で、訴える。
「この美しい社交の場を──永遠の時間を否定するというの」
「……社交というのは誰かがいて初めて成り立つものだろう?」
セツナはこつりと歩み寄り、見回した。
そこには未だ数多の影があるが、同時に生きた温度は存在しない。
有に偽装された無。
孤独の箱庭。
だからセツナは決して、それを肯定する気にはなれなかった。
「独りで無限の時を過ごすなんて、悪夢としか思えないのだがね」
少なくとも自分は、そんなところにはいられない。
(……ゼロのいない世界など、耐えられないから)
ちらりと目をやると、ゼロはただ軽く視線を返すばかり。
それでも互いの心は分かっているから──魔を滅する力を再び溜めて、発射。永劫の時間を吹き飛ばすように、女王を聖なる輝きで包み込んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
綺麗なモンは嫌いじゃねえし、ずっと在ってほしいと思わないでもねえ。
けど、お前の言ってるんはなんか違う……違うと思う。
上手く言えねーけど……停滞してるみてえで、なんかイヤだ。
〈フェイント〉を織り交ぜながら〈目潰し〉や〈武器落とし〉で相手の攻撃を妨害しつつ、本命の攻撃を当ててダメージを稼ぐように戦う。
呪いの光線は〈第六感〉も使ってタイミングを〈見切り〉ながら躱したり、《逆転結界・魔鏡幻像》で相殺して、なるべく喰らわねえように心がける。
他に手伝えそうな仲間がいるんなら、そいつに〈援護射撃〉を飛ばして、少しでも有利に戦えるようにしてやりてえな。
静かに響く弦楽に、女王の嘆きの声が交じる。
永劫の時を刻むはずであった舞踏会は俄に滅びつつあって──永遠の命を持つ筈の人形も、次々と崩れていっているから。
「美しいものが永遠に続く。それを、あなた達はどうして肯定しないの」
女王の呟きは訴えにも似ていたろう。
心無き存在である筈の、それは心からの声だった。
だからこそ嵐はそんな姿を少しだけ見つめてから、言葉を返す。
「綺麗なモンは嫌いじゃねえし、ずっと在ってほしいと思わないでもねえよ」
誰だって美しいものには魅力を感じる。
何かが永遠であってほしいと願うことはある。
ならば、と女王は視線を向ける。
「なぜ、あなた達はそれを破壊するの」
「……明確な理由なんて、わかんねーけど」
と、嵐は少し視線を落とす。
敵のその言葉が切実な物に思えたから。嵐は自然とそれに真っ直ぐと、思うままに応えていた。
「けど、お前の言ってるんはなんか違う……違うと思う。上手く言えねーけど……停滞してるみてえで、なんかイヤなんだ」
「美しいものが……素晴らしいものがそのままで在るというのなら、それは停滞じゃなく、完成でしょう?」
「そうかも知れねえよ。お前にとっては。でも」
全てのものにとってそうかは判らない。
少なくとも嵐自身は、それに完全な肯定を出来ない。理屈なんてわからないけれど、自分の心がそう言っている。
だから、全てを永遠の中に閉じ込めるわけにはいかないんだと。嵐はスリングショットを握り、意志を行動に移すように礫を撃ち放っていた。
強烈な衝撃が蝋の体を穿つと、女王はよろめきながらも反撃に、呪いの光を放とうとしてくる。
けれど嵐はその手元を正確に穿って阻害。女王が移動しようとすればその足元を貫き、的確にその動きを阻害していた。
「やらせないさ」
「──」
女王が微かに惑う。その瞬間を狙い、嵐は本命の連射。腹部を穿ち、胸部を貫き、一弾一弾が苛烈な威力を持った射撃を命中させていく。
苦悶する女王が、距離を取ろうとすれば──その足元を狙う、と見せかけたフェイント。同じ攻撃だと踏んで回避の動きをとった女王に、さらなる礫を叩き込んでいた。
粉のように砕けた蝋の欠片が、破損した講堂の隙間風に流されて消えてゆく。
女王は守りを捨てて、攻撃を受けながらも呪いの光を輝かせてきた。しかし嵐はその輝きと全く同時に魔法陣から魔鏡を喚び出している。
その鏡面が、光と真逆の闇を放つと──衝撃と呪いが相殺されて消滅。
女王が二の手に移る前に、嵐はスリングショットを引き絞っていた。
敵の問に対する答えは、簡単に出るものではない。
けれど今、護るべきものがあり──自分も此処で倒れるわけに行かないことだけは事実だから。
「手加減は出来ないからな」
瞬間、放った一撃が女王の体を貫き、命の灯を薄めさせていく。
大成功
🔵🔵🔵
ジズ・レオリー
永久にあれかしと願う心
「千年」を冠するジズにはまだ不明だが
この空間が間違っていることは理解している
学園の夜に静寂と安寧を取り戻さねば
Zの書を携え【不濁ノ魂】でルーンの力を解放
我が身に刻まれし「アルジズ」の銘よ、輝け
破魔の力を纏う翠鹿にて敵を翻弄
己は高速詠唱で属性織り交ぜ魔法攻撃を展開
浸食された講堂は普段より魔力が満ちているはず
生命力と共に吸収しカウンターで利用しよう
攻撃は最低限第六感で見切るかオーラ防御で凌ぐ
可能ならば女王へ攻撃を
回顧。嘗て、病に蝕まれし我が主はジズに説いた
終わりがあるからこそ万事は美しく輝く、と
ジズもいつか…それを真に理解する日が来るだろう
蝋人形を統べし女王よ、昏き宴に終焉を
弦楽の音色が止まり、講堂に一瞬だけ静寂が訪れる。
女王が死に近づくに連れて、明滅するように蝋人形の存在が不安定になっていた。
永劫の存在も、それを司る者の命に依っているという証左。
故にこそ、女王は命を絞るかのように魔力を増大させ、再び社交の空間を広げる。復活した奏者に四重奏を奏でさせ、ホールで舞う貴族達はワルツを続けさせて。
これこそが正しい姿だと嘯いてみせた。
「決して、失わせはしない──永遠こそ真理なのだから」
「……反抗。それを侵略の理由には出来ない」
と、ジズは碧と薄紅の瞳でただ、静かに返す。
永久にあれかしと願う心。「千年」を冠するジズにとって、その全てを解するには至らなかった。
それでも、この空間が間違っていることは理解しているから。
「学園の夜に静寂と安寧を取り戻さねば」
命を脅かされる者がいて、侵食されている世界がある。
ならば元より迷う余地はなく──ジズはZの書の頁を繰っていた。
古びた羊皮紙に銀のインクで散りばめられている魔法の文字。ジズはその一節をなぞることで──ルーンの力を解放していた。
「我が身に刻まれし「アルジズ」の銘よ、輝け」
不濁ノ魂(サモン・エルハズエラポス)。
傍らの空間が碧色に輝いたかと思うと、その輝きが優美なシルエットを取り始める。
召喚されたそれは──エメラルドの角を持つ美しき鹿。破魔の力を纏いながら、床を蹴って跳び立ち始めていた。
やわらかな軌道を取りながら、行く手を塞ぐ蝋人形達に触れていく。魔を砕くその力にあてられた人形達は、瓦解するように消滅していった。
それでも人形はまだ無数に居るが──翠鹿が人形達を翻弄する間に、ジズ自身も眩い魔力を収束し始めている。
紅に輝くのは滾る炎の魔法。撃ち出されると広範囲の人形を溶解させた。翠に明滅するのは鋭き風の魔法。放たれると渦巻く刃となって人形達を千々に斬り裂いていく。
人形達もそれをかいくぐろうとするが──ジズは決して魔法に間隙を作らない。
浸食された講堂は普段より魔力が満ちている。それを吸収し、自身の魔法へと利用することで、敵の侵攻に対するカウンターと成していた。
それでも敵の接近を完全に防げるわけではなかったが──多少の攻撃は第六感を働かせることで回避。命中しても自身をオーラで覆うことで負傷を最小限に抑えている。
いつしか人形の多くを退けて、女王を再び視界に捉えていた。
「前進。斃すべきものを、斃す時」
翠鹿がその思いに呼応するように、こちらへの攻撃を目論む女王を阻害し翻弄している。
その間に、ジズは女王を破壊するだけの魔力を手元に収束させていた。
猟兵達皆の攻撃によって、女王は既に大きく傷ついている。
だからこそこの一撃が、決め手。
女王は退避することさえままならず、苦渋の声を零した。
「あなたもまた、人形なのでしょう。不変に近い存在ならば、私達の心が判るはず」
だから永遠の時間の素晴らしさが誰より判るはずだと、訴えてみせるように。
「……」
それに対し、ジズは一度だけ瞑目する。
昔の事を、過ぎらせていた。
(回顧。嘗て、病に蝕まれし我が主はジズに説いた)
──終わりがあるからこそ万事は美しく輝く、と。
その言葉の意味するところを、自分は全て呑み込んではいないけれど。
(ジズもいつか……それを真に理解する日が来るだろう)
それが近くはない未来だとしても──終わるべきものがあることだけは判るから。
「間違った空間を消滅させる。蝋人形を統べし女王よ、昏き宴に終焉を」
刹那、手をのばしたジズは魔力の奔流を放って女王を貫く。
灼かれ、裂かれた蝋人形の主は、跡形もなく散って消えていった。
音楽も靴音も立ち消えて、訪れるのは静寂。
オブリビオンの姿が完全に無くなると──ふたばはその場を見下ろしていた。
「何とか、倒せたか」
「みんな、遊び疲れちゃったのかな? とシエナは見回します」
周囲に視線を巡らすシエナは、変わらぬ笑顔。そんな二人を見やりつつ、シトーも息をついている。
「とにかく、無事で良かったですな」
「ええ。本当に」
こくりと頷く花も同じ。決して弱い敵ではなかったから、その分安堵の気持ちもあった。
と、フィオレッタが何かに気付いたように仰ぐ。
「空気が、綺麗なものに戻っていくみたい」
それは永遠の魔力に満ちた空間が無くなっていく感覚。
見ると戦いの痕も、踊りを踊っていた人形の破片も──この空間を形作っていたあらゆるものが、塗り替えられるように元の講堂の姿へと戻っていっていた。
残ったのは、ほんの少しの建物の破損だけ。
セツナも暫しそれを眺めている。
「魔法が解けた、といったところかな」
「これで学園も平和だな」
嵐は少し肩の力が抜けたように呟く。守るべきものを守れた、そして生きて帰ることが出来る、それが自分にとっては何よりだった。
皆で外に出ると、そこも今では静かな夜の風が吹くばかり。
コイスルはそんな空を見上げていた。
「全部、元通り」
学園も、屋上も、この空も。それが穢されず終わって良かったと、そう思った。
ジズは宵の中を歩み出す。
「帰還。学園に報告し、帰るとしよう」
その言葉に皆も頷いて、歩を踏み出していく。
穏やかな夜にはもう、ワルツは響いていなかった。
大成功
🔵🔵🔵