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そんな彼女の末路には

#ヒーローズアース


「大変です大変です! みなさん! さっそく出動の機会ですよ!」
 どこか嬉しさも混じった様なその報告に、みなさんと話しかけられた猟兵達はいぶかしむ。
 声の主はラック・カルス。猟兵達に仕事を持って来たグリモア猟兵であるが、どこか雰囲気が雑なので、持って来る仕事もきっと雑なのだろうと猟兵達は考えるかもしれない。
「ヒーローズアースで事件なんですよ! 例によってヒーローがオブリビオンの集団に襲われていて、放っておけばオブリビオンに殺されちゃうっていう予知がですね、僕の脳裏にビビビっと来たと言いますか……聞いてます?」
 猟兵達は聞いていないかもしれない。ただ、とりあえず先を話しては? とジェスチャーするのみだ。
「ううーん。なんか扱いが雑ですね。ほら、大事件じゃないですか。ヒーローが死んじゃうんですよ? 助けなきゃ! これは俺達にしか出来ないぞ! って思うじゃないですか!」
 勿論、正義感に溢れる猟兵達の中には、そんな使命感に燃える者もいるかもしれない。
 が、概ね、ラックの口から出て来る言葉にその意義を見出せない可能性が高い。
「そんな面倒くさい奴が面倒くさいことを言ってるみたいな顔したって駄目ですよ? ほら、こう、ヒーローズアースの世界でヒーローの危機が……え? なんですって? 情報量がさっぱり増えてないですって?」
 猟兵達の中から誰かが指摘すると、ラックは少し、というかかなり所在無さげな様子に変わる。
「そ、そうですね。確かに、情報は少ないですね。こう、伝えられる内容も、グリモア猟兵一人では限界があるというか、そういう事もあったりなかったり」
 少し怪しい話になってきたなと猟兵達の誰かがラックに詰め寄る。すると彼はあっさり口を開いた。
「わわ! ご、ごめんなさいです! じ、実はですね、どこかのヒーローがオブリビオンに殺されるって予感はするんですが、どういうヒーローなのかがさっぱり分からなくて。現地でどういう人と合流すればなんて、今は謎のままって言うか」
 やはり雑な仕事だったかと、猟兵達は話を聞き流す姿勢に入る。
 猟兵達だって命あっての物種だ。不確かな戦いになど挑みたくは無いだろう。
「待ってくださいってばー! ほ、ほら、オブリビオンが街を襲うのは事実なんですから、とりあえずそれに対処すれば、自ずと次の展開が見込まれるますよね? そうだ。ですからみなさんは、街を襲うオブリビオンと戦ってみればどうでしょうか! ええ! その方が良い! 思わぬ出会いがあるかもですよ!」
 と、言われても、何が良いか分からない。
 こんな曖昧な仕事を受けていられるかとこの場を立ち去っても良いし、出会いがあるならと仕事を受けても良いだろう。
 何にせよ、ヒーローズアースでまた一つ、騒動が起こっているのは事実なのだから。


ゴルゴノプス
 こんにちゴルゴノプスです!

 今回はヒーローズアースでの戦いとなります。
 内容は初っ端から情報量が少ない分、自由に挑んでいただければ幸いです。
 諸事情により、一日一人か二人程度のリプレイが限界なので、ゆっくりめの進行となります。
 採用されずに期限が過ぎたとしても、再度のプレイング提出歓迎しております。
 是非是非、参加していただければなと考えております。

 それではこれからよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『プルトン人』

POW   :    フルメタル・スキン
全身を【地球には存在しない未知の金属でできた装甲】で覆い、自身が敵から受けた【攻撃を学習し、味方全体で共有。その蓄積】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    ブラックアイド・ヒューマンズ
【眼以外は完璧に地球人に擬態した潜入工作員】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ   :    アンノウン・ウェポン
【未知の科学技術で作られた光線銃やその銃剣】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
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 街へと降り立った猟兵達の目に映るのは、暴れ回るオブリビオンの姿だった。
 牛かカバが人間に化けたと思わせるその姿は、外見通りの暴力性でもって、街を襲っている。
 一方、こういう時に街を救うはずのヒーローの姿はどこにも無かった。
 いったい何をしているのか。猟兵達の中には苛立つ者もいるだろうが、今、優先すべきは、このオブリビオンを倒す事だろう。
 遠慮する必要は無い。オブリビオンの姿は一体では無く複数。その力を発揮する機会は幾らでもある。
 もっとも、街にはまだ一般人が取り残されている。彼らの救出を優先したって構わない。何にせよ、早急に、騒動を収めるのが猟兵達の仕事なのだから。
オルカ・ディウス
■心情
いまいちよくわからなかったが……仮にもグリモア猟兵の予知というならば見過ごせぬ、か
では、盛大に暴れるとしよう

■戦闘
大神海で敵をまとめてなぎ払う
見たところ、この星のものではないようだが……どんな攻撃をしてこようと、この海のうねりに逆らえるはずもなかろう
さぁ、この惑星(ほし)の力の一端、とくと味わうがいい!!!

■その他
アドリブ等は大歓迎だ



 立ち並ぶビル群。その挾間から風に乗り、オブリビオン『ブルトン人』の破壊音と、人々の悲鳴がビルの屋上へと届く。
 ブルトン人は街の下層で主に暴れているらしく、ビルの上にはまだ侵攻してきていなかった。
 街の狂乱はどこか遠いところで。そんな風にここは思わせてくるなとオルカ・ディウスは一人思う。
「いまいちよく分からない状況であるが……いや、良くは分かるな。暴徒が弱者を襲っている」
 ビルの上からなら良く分かる。まったくもって醜悪な光景だ。ビル上層の風は気分が良いものだが、聞こえて来る音は気分を害するものばかり。
「見たところ、暴徒連中はこの星の存在ではあるまい。ならば暴徒と言うより侵略者の類か。許し難い」
 この惑星(ほし)を蝕む様な輩を放っておくのは、オルカの性には合わなかった。
 早急に排除する必要があるだろう。
 彼女はそう考えるや、下層のオブリビオンに対して、自らの力を振るう事を決意する。
 決意したからこそ、行動は素早い。彼女のユーベルコード【大神海(ゴッデス・オケアノス)】は周囲数十mにある物質を超次元の津波に変えるという代物。
 彼女は握る杖を踊る様に振り回すや、まず津波となったビルの屋上が波立ち、オルカをその波の上に乗せ、動かして行く。
 彼女が発生させたその無機物の波は、彼女が操るままに彼女を動かし、そうして動かした場所で新たに波が発生し、一気にビルの上からブルトン人が暴れ回る場所まで彼女を運び―――
「これよりここは我が神域! 荒ぶる海よ、吠えたてろ!」
 鉄とコンクリートの街並を我が場所であるとばかりに海として扱い、その波でもってブルトン人を飲み込み始めた。
 波打っているとは言え、それはまさに鉄とコンクリート。その質量はオブリビオンとは言えど逆らう事など出来ず、次々と飲み込まれて行く。
 そんな光景の中心にはオルカがいる。
 場に不釣合いとも言える水が形になった様な美しい羽衣を纏い、超常的な力を振るう彼女を、周囲の人間は神か何かかと思ったかもしれない。
「な、なにあれ! すごい! すごいすごい!」
 実際、どこかから、自分を称える少女の声が耳に届いて来てたのをオルカは聞いた。
 その言葉は不快なものではなかったが、どこか気恥ずかしくも感じる。
 かつては真に守護神として崇められた事のある彼女。だが、人の世は移り変わるものであり、今となれば称賛もまたどこかズレて感じてしまう。
 自らの神域と見立てたこのビル街も、かつての自分の故郷とは似ても似つかぬ光景だ。故に、むしろ崇められる事に違和感を覚える。
「まあ……良い。どんな形であろうと信仰は信仰。答えてやらねば廃れるというもの」
 何が廃れるのか。オルカ自身も分からなかったが、何にせよ、、手は抜かずに力を込める。それが今の彼女が出来る事であり、彼女は発生させた津波でもって、オブリビオンを飲み込み続ける。
 そんな彼女を見つめる、とある少女に、信仰に似た興奮を与えながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

アイリ・ガングール
 いやぁ、行き当たりばったり。それはそれでまぁ、ええやろうてな。
 さて、豚か牛か知らんが、肉なら焼くに決まっておるでな。
 光線銃や銃剣の攻撃は、【金狐霊糸】使って周囲の障害を利用してジャンプやらスライディングに地形を利用して避けてゆくよ。いやぁ、いいねヒーローズアースは障害が沢山あって。
 そいで攻撃の切れ目を狙って、残りの金狐霊糸で敵を縛り上げてフォックスファイア。
 何やら金属の肌があるらしいけど、中は肉やろうて。炙り、焼き殺してやろうねぇ。
 コココココ。さっさと出てきてほしいもんじゃが……



「おやおや、ようやっておるのう」
 他の猟兵の豪快な戦い方を見ながら、アイリ・ガングールは一人呟いた。
 彼女の周囲にも数体のブルトン人は存在しており、金色の糸でそれらを絡めとりながらの台詞だ。
 糸は時に、周囲の道路標識や立て看板に絡みつくや、アイリを引っ張り、ブルトン人が放つ光線を避けるのにも役立っていた。
 そうして、今は糸はブルトン人に巻き付き、その装甲を締め上げている。
 トドメとばかりにアイリが力を込めると、彼女のユーベルコード【フォックスファイア】が金色の糸より発生し、ブルトン人を焼いて行く。
 他の猟兵に負けず劣らず、彼女の戦い方も苛烈なものであったと言えるだろう。
 ここは戦場だ。それくらいのやり口が丁度良い。そんな風に思ったかもしれない彼女の耳に、戦場には似合わぬ声が聞こえて来た。
「な、なにあれ! すごいすごい!」
 女の、それもまだ若々しい声。それがアイリの狐耳に届くや、彼女はそれをぴくりと反応させた。
「むぅ。怯えていないのは上等じゃが、こういう場所で上機嫌になるのはいかんねぇ」
 声の主であろう少女はすぐに見つかった。
 短い髪が快活さを感じさせる、それ以外はどこにでも居そうなそんな少女の姿が、道の端にあったのだ。
 残念ながらアイリの戦いに興奮しているのでは無く、別の猟兵の戦いに憧れの様な目で見ている様子。
 他の猟兵よりは自分の戦いを見るべきだ。
 などとアイリが考えるわけでも無く、ただ、どう見ても戦う力の無さそうな彼女に心配混じりで話し掛ける事にした。
「いやぁ、いいねヒーローズアースは障害が沢山あって。こんなところに、救わなあかん人もおる」
「ひえっ!?」
 心外な事に、心配して話し掛けたと言うのに驚かれてしまう。背後から話しかけたのはこちらが不躾かもしれないが、場に不釣合いなのはそちらの方だろうに。
「なんじゃなんじゃ、いたいけなおなご一人に話し掛けられて、ひぇっも何も無いじゃろうに」
 彼女を知る人間がいれば、いたいけなどという言葉がどこから出て来るかと問い掛けるところだが、幸か不幸か、ここにそんな人間はいなかった。
 ただ、おずおずとアイリを見つめ始めた少女が一人。
「えっと……あ、すみません……っていうか、あなたも、もしかしてヒーローさんですか!?」
 アイリの戦いを見ていたわけでも無いだろうが、特異な格好と、周囲の倒れているブリトン人を見て、そう判断したらしい。
 その判断はほぼ正解だろう。猟兵とヒーロー。この世界においては、そう大きく変わるものでもあるまい。
「コココココ。ヒーローなんてものがいれば、さっさと出てきてほしいもんじゃが……まあ、似たようなもんじゃよ」
 確かこの戦場にはヒーローがいるとの話であったが、未だその姿を見ていない。
 いったいどこへ行ったのやら。アイリ達がその代わりを務めていなかったら、目の前の少女だって、こんな風に笑えてはいないたはずだが……。
(むぅ? 笑っている?)
「や、やっぱりヒーローさんなんですね! 私、私もヒーローを目指しているっていうか! 将来の夢は1位がヒーロー、2位がヒーロー、3位が動画配信者で4位からまたヒーローが復活します!」
「お、おう。それはその……奇特な身の上じゃの?」
 少女の勢いに押されるアイリ。これが若さだと言うのか。これこそが若々しさと言うのか。こんな馬鹿な勢いなんて、自分は何時から忘れてしまったのか。
 何だか悲しくなって来たため、とりあえず冷静さを取り戻すアイリ。
「ところで、はしゃいでいるところ悪いがの、ここは危険じゃし、離れておいた方が良いと思うが?」
「むむむ。ヒーローらしい正義感溢れる台詞ですね? それはその通りなのですがその……周囲をもう一度伺ってみてください。どう思いますか?」
 言われてアイリは回りを見渡す。
 派手に戦っていたせいか、既にブルトン人達の姿は無い。あまり勢いの感じなかったオブリビオン達だ。倒すにしても手応えを感じなかった。
「どうにも一仕事……終えてしまったようかの?」
「その通りですね! さっすがヒーローは仕事も早い! すごい! 絶賛憧れ中です!」
「あんまり他人様を褒めるものではない。世辞も過ぎれば失礼が極まるぞ?」
「わっ……これまた失礼しました!」
 元気な返事で結構な事である。
 ブルトン人連中が姿を消した以上、わざわざ避難させる必要もあるまい。二本の足で元気に立っているのだから、そのまま家へ帰って貰うが肝要だ。
「それでは、みどもはここより立ち去るが、瓦礫には注意する様にの。せっかく助けたのに、転んで頭をぶつけてさようならなど洒落にもならん」
「了解でっす! あ、さよならする前に一つ、良いですか?」
 別に答える義理も無いが、あまりの勢いと若さに対して、まあ質問一つくらいなら良いかとアイリは頷いた。
「なんじゃ、言ってみよ」
「えっと…・・・わ、私も、ヒーローになれるって思いますか?」
 思ったより、夢と希望に溢れ、若干の気恥ずかしさが混じるその質問。
 どう答えたものかと少し悩むものの、アイリは微笑みながら少女に答える。
「まあ、頑張り次第とでも言っておくよ。夢が人一倍大きければ、それだけでヒーローと言えるかもしれんしのう」
 自分て言っておきながら、どこか夢見がちな言葉だったなと思ってしまう。
 だからアイリは、少女が何かを言ってくる前にこの場を去った。仕事をしていると、こういう事もあるものだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

灯火・紅咲
くひっ、うぇひひひっ!
こういうとこでは運命の出会いがある確率が上がると!
急上昇だと、本で読んだんですよぉ!

でもでも、まずはお邪魔虫さんから、ですよねぇ?
まずはー、あのカバ? 牛? さんが呼びだした潜入工作員さんに【シリンジワイヤー】で【吸血】!
その血液で【万物は流れ転ず】!
工作員さんに変身!
そしたら、あとはーお仲間のフリをして、カバさんに近づいたら、ぶすりと【だまし討ち】でやっちゃいましょぉ
ふひひひ、数が多ければ多いほど紛れやすいんですよねぇ
攻撃したら、紛れて、また攻撃してーってのを繰り返していきますよぉ!

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】



 事件は解決した。
 とあっさり行かないのが猟兵達にとっては辛いところだ。
 猟兵達の強襲により、ブルトン人達は街を直接的に襲う戦力を喪失した。
 だが、些か彼らは厄介な能力を残してもいた。
 それは人に擬態する工作員を召喚する能力。
 戦力的に不利だと考えた彼らは、街に潜み、再び逆襲の時を待つ事に決めたのである。
 最初に猟兵達が戦ってから数日。
 街では人が突如、ブルトン人達の犠牲になる事件が多発していた。
 そんな事態に対して、勿論、動き出すのは猟兵だった。
 彼女、灯火・紅咲もそんな、新たなブルトン人の動きに対応した猟兵の一人である。
「くひっ、うぇひひひっ! ごちそーさまでしたっ」
 どこか楽しそうに笑う彼女の前には、一体のブルトン人が召喚した工作員が倒れている。彼女により吸血された哀れな工作員の姿だ。
 囮として、ブルトン人絡みの事件が起こっている場でうろついていた彼女。
 そんな彼女を襲おうとして逆襲された、自業自得な工作員がそこに倒れている。
「こうやって虱潰しにって思いますけどぉ、工作員さんって多分、あくまで眷属とかそういうのですよねぇ。倒したってキリが無いって言いますかぁ。ですからボク、思い付いちゃいました!」
 灯火は倒れて聞いてもいない工作員に話し掛け続ける。若干、不気味なその光景だが、さらに事態は変化して行った。灯火の姿そのものが変じたのである。141cmの小柄で細身な彼女の身体が大きくなっていく。
 肉体はやや筋肉質になり、髪は短く、しかも服装だって変化する。
 暫く経てば、すっかりその姿は、倒れている工作員の男そっくりになっていた。
 彼女は【万物は流れ転ず(ドレスアップ)】により、血を吸った対象の姿へと変化する能力を扱えるのだ。
 そうして、彼女の次の狙いは、味方のフリをして事件を起こしているブルトン人を発見する事。
 人間に擬態した工作員を召喚する、ボスの様な位置のブルトン人がまだ、この街に潜んでいるはずだからだ。
 彼女はとりあえず、倒した工作員を近くにあったゴミステーションへ投げ込むや、素知らぬ借り受けた顔で、周囲を歩き始めた。
 果たして、結果はすぐにやってくる。
「おい、お前。ここはお前の管轄じゃあないだろう」
 灯火が吸血した工作員と、良く似た雰囲気の男が、遠慮もせずに話し掛けて来たのだ。
(くひひ、油断だってしなきゃ良いのにっ)
 内心で笑いながらも、顔には出さず灯火は口を開いた。
「悪い。ちょっと厄介な事があってな……相談したい事があるんだが……」
 とりあえず、話し掛けて来たこいつも工作員だろうと考え、彼もまた路地裏に誘う事にする灯火。次々に襲っていれば、何時かはブルトン人本体と出会えるだろうとの判断だった。
 だが、少しばかり彼女は幸運であった。
「だったらボスに話せ。俺の判断じゃあなんとも言えない」
(おや? おやおや?)
 まさかいきなり、ブルトン人と接触できる機会が来るとは思わなかった。
 この幸運を逃がす手は無いと灯火は話を続ける。
「いやけど……ボスに何と言えば良いか……なぁ、お前も付いて来てくれないか?」
「付いて来てって、子どもじゃあるまいし」
「頼む。一人じゃ緊張して、禄に話せないかもしれないんだよ」
 自分で言っておいて、かなり無理筋な説得にも思えたが、無理なら無理で襲い掛かれば良いかと灯火は判断した。
 これで相手が人を襲う化け物の眷属でなければ、自分の方が悪人染みた考えを持っているなとも思いつつ。
「分かった。いや、分からないが、ボスはすぐ近くだ。そこくらいまでなら付き添ってやるよ」
 男はそういうと、先に歩き始めた。面倒な事をさっさと終わらせたいという様子だが、これも灯火にとっては幸運であった。
 自分は居場所を知らないのだから、誰かに案内してもらう他無いのだから。
 ただ、そこで彼女の幸運は途切れたらしい。
「そ、そこまでよ!」
 どうにももう一人、この場に現れてしまったらしい。
 しかも、襲ったって大丈夫な相手ではない、一人の少女だ。
「なんだ? お前?」
 灯火を案内しようとしてくれていた工作員が、訝しむ様に、現れた少女を睨み付ける。
(ううーん。せっかく順調だったのにぃ。いったい誰ですかぁ?)
 少女はどうにも震えている様子だった。そんな風に震えながら、それでも灯火と工作員を睨み付けている。
「なんだじゃない! あなた達が最近、この路地裏で人を襲っているっていうヴィランね! 私はまるっとお見通しなんだから!」
 どうにも少女は、正義感に富むタイプの人間らしかった。
 もしかしたら、こうやって本当に誰かを襲う犯人を見つけ出せるくらいに、情熱と捜査力を持っているのかもしれない。
 これでヒーローか猟兵であれば凄い、カッコいいとはしゃぐところであるが、震えている様子から、一般人に思えて仕方ない灯火。
「……で? 見通してどうなる? 俺がその暴漢か何かだったとして、どうするって?」
 工作員が脅しながら少女に近づいて行く。少女は慌てた様子で、腰に下げたポーチから手に握れる程度の黒い機械を取り出した。
「こ、これを見て、何も思わないかしらっ」
 恐らく、スタンガンなのだろう。護身用としては使えるだろうが……。
「で? だから、それでどうするんだって聞いてるんだよ」
 工作員は、少女が握るスタンガンを、正面から握り込む。
 猟兵にとっては、一人でも対処可能なブルトン人の、さらにその眷属である工作員であるが、それでも、一般人にとってはその力は脅威だ。
 単なる護身用のスタンガン程度なら、効きもしないくらいの耐久性を有しているらしい。
「あっ……あ……」
 少女は最初から怯えていたが、今はより酷い状況だ。もしかしたらもっと酷くなるかもしれない。これから工作員のターゲットとして見られる事になるのだから。
「はぁ……ここで見捨てるっていうのも後味悪いですしねぇ」
「は? うおっ!?」
 灯火は、変身を解いて姿を現すや、袖下に仕込んだ小型のワイヤーを射出した。
 ワイヤーの先端には注射器が付いており、それが工作員の首元へと突き刺さる。
「それじゃあさっそく、いただきまーすっ」
「があああああ!!!」
 注射器は工作員の血を吸い、その身体を崩れ落とさせる。
 猟兵の力ならば、この程度の敵を倒すのは一瞬だ。怯えるだけの一般人とは違う。
 そんな、怯えたままの一般人の少女に対して、灯火は話し掛けた。
「もー、せっかく良い感じに相手のボスに近づけそうでしたのにー。ヒーローの真似事なんて、危ないからしちゃ駄目ですよ? 思わぬところで、誰かの足を引っ張っちゃったりするんですからね?」
「う……え?」
 まだまだ戸惑っている様子の少女であるが、灯火は忠告もしたからと、この場を去る事にした。
「そんな……あのっ」
 少女が何か、背後から話し掛けて来ていたが、あえてそれを無視した。少女を安心させないためにだ。
 正義感があるのも結構であるが、伴う実力が無いのならば、恐怖に従って、安全な場所で震えているべきだと実感させよう。そんな風に、灯火は考えたのかもしれなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
この世界のヒーローであろうが、ただの人であろうがオブリビオンに殺されるなら、それは止めなくちゃいけないよね。

【SPD】
本体の退治も重要だけど、工作員をばら撒かれるのも看過できないし、
釣って集めてまとめて海に還してしまおうかな。
オブリビオンが現世の人に害為す事は見逃せないからね。

一般人を襲う者を主として、鞭や釘など痛み等挑発込みで範囲攻撃
追いかけてきた物を【UC】で再現した館に閉じ込める

犠牲者は招かれた異星の住人
犯人は僕
共犯者は館の住人
疑心暗鬼と恐怖を与え自滅と他殺を与える

討伐対象以外が紛れ込んだ場合は隠し部屋へ

この世界には似合わない雰囲気かもしれないけどね

アドリブアレンジ大歓迎



 ブルトン人の残党を狩ろうとしている猟兵は、何も一人だけではない。
 例えば、囮となって相手の懐に潜り込もうとする猟兵もいれば、むしろ誘い込もうとする猟兵もいる。
 どこへかと聞かれれば、とある館とでも言えるだろうか。
 夷洞・みさきが自らの力で作り出したその館は、ブルトン人とその眷属である工作員を招き寄せる館であった。
「そう考えると、なんだかオブリビオンホイホイみたいな物に見えて来るね? どう思う? 君達?」
 夷洞は館のホール。豪勢な絨毯と、それを染める赤々とした血。そうして何体も転がるブルトン人が召喚した工作員達を見つめながら尋ねた。
「う、うあ……いったい、何が……どうなって……」
 工作員達の内、まだ息のある一人が言葉を返して来た。いや、もしかしたら、息を引き取る前の嘆きかもしれないけれど。
「さて、どうなってと言われてもねぇ。道をただ漫然と歩いているだけの君達だったけれど、突如として謎の女に襲われる。避難する様に辿り着いたこの館に閉じ込められた君達を含む何人もの人間達。だが、惨劇は館の内側でこそ起こる」
 まず誰かが屋敷から消え、違う誰かが殺される。疑心暗鬼の中で、館にまつわる不思議な伝承。それにまつわる連続殺人事件。
 まあまあ、そんな事が続き、結果として、事件は関係者のほぼ全員が命を落とすという結末へ転がろうとしていた。
 今は事件の最後、一応の黒幕である夷洞が、トリックを明かす必要があるだろうと姿を現すタイミングでもあった。
「すべての種明かしだけれど、この館はね、僕が戦っている輩が入ると、そういう輩にとってあまり良く無い事が起こる、そんな場所でね? 招かれた君達は犯人と共犯者……まあ、僕と僕が召喚した屋敷の住人なんだけど、それらに煽られて、誰かに殺されたり自滅したりする、そういう荒唐無稽な場所なのさ」
 これが小説であれば三文にだってならぬ種明かしだろうが、残念ながらここは仮にも戦場だった。そういう事だって起こる、そんな夷洞の戦場だ。
「ああ、安心して。敵意のないものは、隠し部屋に放り込んでるから。最初に行方不明になって、君達が疑心暗鬼になった原因の人達って、つまりそういう人達で……あっちゃあ。もう喋っても意味が無いか」
 倒れて、言葉も発せなくなった工作員達をみやる。その中にブルトン人の姿は無く、外れだったかと夷洞は頭を掻いた。
 そうして、自らの力を解く。
 先ほどまで館の中だった光景は、ただのビル街の挾間。ちょっとした空き地へと戻る。工作員のついでに巻き込まれた一般人達はその空き地へ放り出される形になるが、とりあえず後で説明なりなんなりしておいて解放しよう。
 この世界ではヒーローという存在が有り触れているから、そういう力で悪人を退治していたと言えば、納得してくれるだろう。
 そう思って、適当な一人に話し掛けようとする夷洞であるが……。
「あのっ……これ、やっぱりあなたがしたんですか……?」
 館に巻き込まれた一般人。その一人の少女が夷洞に話し掛けて来た。確か不安そうな顔をして、ビル街をふらふら歩いていた少女だった事を夷洞は憶えている。
 そんなふらふらな状態だからか、自分から館に迷い込んで来たので、夷洞もどうしたものかと、とりあえず事が終わるまでは隠し部屋に放り込んでいたのだ。
「悪かったね。悪かったよ。本来は事前に説明させれば良かったのだけれど、館に迷い込んでくれなければ、敵意があって僕が戦うべき相手かも分からなかったのさ。で、そういう連中は全部退治できたから、君達は解放だ。安心して家に帰ると良い」
 結構、文句を言われそうな戦い方だったかもしれないが、館にさえ迷い込んでくれれば、工作員かそうでないか判断できるため、こうするより他が無かった夷洞。少しばかり趣味が混じっているかもしれないが、そこは内緒だ。
「私はっ……あ、足手まといだったって事ですか? 放っておけなかったって……」
 少女の言葉の意味が分からず、夷洞は首を傾げた。
「足手まといも何も……君は一般人だろう? なら、守られる事は恥じゃあないよ。僕だって放っておけない」
「それでも……私、ヒーローに憧れてて、ヒーローになりたいって思ってるのに……何の、力も……」
 気落ちするヒーロー志望の少女。励ますべきなのだろうかと悩む夷洞。悩んだ上で、出て来たのは在り来たりな言葉だった。
「ヒーローであろうが、ただの人であろうが、誰かが殺されそうになら、それは止めなくちゃいけないよね。止める側だって、ヒーローでも、ただの人でもだ」
「それは……」
 恥ずかしい事を言っている。そういう自覚はあれ、少女が少しだけ顔を上げてくれたので、夷洞は言葉を続ける事にした。
「今、気落ちしているのは、誰もやらないなら自分が戦いたいって、そう思うからだろう? なら、その気持ちを捨てなければ、大丈夫さ。きっと。今は戦えなくてもね」
「……!」
 感極まったのか、少女は泣きそうになっている。
 こんな臭い台詞で泣かれるのは、本当に気恥ずかしいので、さっさとこの場を去る事にする。少女との会話を、他の人間も聞いているだろう。状況把握くらいは出来る程度に説明はした。
「それじゃあ、諦めるなよ。未来のヒーロー」
 気恥ずかしさついでに、言葉も残していく。その言葉を少女がどう受け止めるかまでは、ちょっと冷静に見ていられそうになかったが。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒川・闇慈
「ふうむ、ヒーローの危機と言われましても、肝心のヒーローの姿が見えないのはどういうことなのでしょうねえ……クックック」

【行動】
wizで対抗です。
何はともあれ、まずはオブリビオンを排除せねばなりませんか。
呪詛、高速詠唱の技能をもってUCを使用。がしゃどくろを召喚します。
銃剣で接近戦を挑んでくる相手は範囲攻撃の技能を活用した呪爪で対応し、光線銃を使用する相手は全力魔法の技能を活用した呪力砲撃で薙ぎ払いましょう。

「しかしどう形容すべきか悩む外見のオブリビオンですねえ。牛なのかカバなのか……クックック」

【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】



 努力を続ければ、おのずと結果は出るものだ。
 工作員を地道に倒していた猟兵達は、遂にブルトン人の残党がいる場所の情報を掴む事が出来ていた。
「クックック。と言っても、努力というよりかは脅し続けたと言う方が正しいかもしれませんねぇ」
 笑う猟兵、黒川・闇慈は、とあるビルの玄関口に立ちながら、これまでの経過を思い返す。
 散々に人に擬態し、慎重に街を襲おうとしていた工作員達の悉くが、猟兵達のあの手この手でその消息を絶ち、焦ったのか明らかに質の悪い工作員が現れ始めたタイミング。
 そこで単なる撃退から、話を聞く方向に指針を変更した猟兵が、きっとここへ辿り着いているのだろうと黒川は考える。まあつまりその、拷問関係を行った猟兵がだ。
「いやはや、あくどい手をなどと思わないでいただきたいものです。こちらとて、あなたを探すのに必死だった。手段を選ばないのはその証明と言うところで……聞いてます?」
 猟兵が玄関口までやってきた事に、敵だってとっくに気付いていたのだろう。
 黒川がビルの中に侵入するより早く、多くの人間が銃やら鈍器やらで武装した状態で、彼を睨んでいた。
 そんな人込みの奥には、明らかに他とは輪郭の違う人影があった。
 むしろ人より牛に近い。工作員を幾ら呼べても、本体は化けられないらしい。
 それはまさしく、探し続けたブルトン人の姿。
「しかしどう形容すべきか悩む外見のオブリビオンですねえ。牛なのかカバなのか……クックック」
 挑発のつもりは無かったが、黒川のその言葉はブルトン人の逆鱗に触れたらしい。
「ブオオオオオオオ!!!」
 ほら貝でも吹いた様な音をブルトン人が発すると、工作員達が一斉に襲い掛かって来た。
「おおっと、さっそく決戦開始ですか? よろしいですね。では、こちらも……怨敵呪殺、皆敵鏖殺、急急如律令!」
 自らへ敵の攻撃が届く前に、黒川はそれの詠唱を終えていた。
 現れるのは巨大な髑髏と骨の爪。それらは黒川の意思によって動くや、まず黒川の身体を貫かんとしていた銃弾を弾き飛ばす。
 勿論、そこで終わらせる程、黒川は甘くは無い。
「そぉれ!」
 黒川は指示を出せば、その巨大な髑髏は巨大な爪を振るい、工作員達を切り裂いて行く。
 圧倒するその勢いは、工作員を次々と吹き飛ばして行くが、そこで黒川は違和感を覚える。
(あの牛かカバ……笑っている?)
 化け物の表情など、理解し難いものであるが、それでも、どこか余裕が見えた気がした。
 おかしい。奴は仲間の大半を初戦で葬られ、今は雑魚とも言える工作員によって守られるのみだ。だというのに、まだ、何かがあると言う風で―――
(雑魚? ああ、そうだ。彼らは雑魚であるはずだが……)
 工作員の弾き飛ばされる数が減って来ている。彼らは黒川が召喚した髑髏の攻撃に受け身を取り始め、間合いを把握し、的確に攻撃を加え始めていた。
「戦闘経験を……共有している?」
 もし、敵にそういう能力があるのなら。受けた攻撃を全員が学べるのだとしたら。戦闘が長引くはこちらの不利だ。
(なるほど、一体逃がした時点で、少々厄介な事態になったと、そういう事ですか)
 恐らく、最初、集団で街を襲ったのが第一目標なのだとしたら、それが失敗した時点で、少なくとも一体のブルトン人は隠れ潜み、工作員に破壊工作を続けさせ……そうして敵に倒される事で敵に対して何かを学ぼうとする事を次の目標に変えたのだろう。
 そうする事で、この侵略者はより侵略者としての力を増す。
 今、こうやって余裕を見せているのは、黒川程度なら倒せる程に力を増したと考えているからか。
「ならば……それは少々腹立たしい」
「……っ!?」
 ブルトン人が、一瞬だけ困惑するのを見た。それは黒川と彼を守る髑髏の動きが変わったからだ。骨の爪はなおも黒川を守っているが、髑髏はその空虚な口を大きく開いた。
 その空っぽの口の中には、禍々しい光が溢れー――
「さあ! 再び怯え、竦んで貰いましょうか!」
 髑髏の口から、砲弾の如き呪砲の光弾が発射された。
 速度は十分。その大きさも、威力もブルトン人を消滅させるに足る代物だ。
 だが、残念な事に、ブルトン人は逃げ慣れているらしく、みっともなく転がりながらも、その光弾を避けていた。
 一方、他の工作員は光弾に巻き込まれた者もいれば、その爆風に吹き飛ばされ、動かなくなった者もいる。
 それくらいの威力を叩き込み、ビルに大穴を空けた黒川は、ブルトン人に微笑みかけた。
「それで……まだ戦いますか?」
 笑う黒川に反して、ブルトン人は明らかに怯えていた。こちらの表情については、化け物であろうとも実に良く分かる。
 ブルトン人は戦う事を放棄し、黒川に背を向けて走り始めた。向かう先には、黒川がわざわざ空けた穴。
 黒川もブルトン人を追おうとするも、数少なく生き残っていた工作員達がその道を甲斐甲斐しく塞いで来た。
「やれやれ、彼らを片付けるのが先ですかね。あれを追うのは……私一人だけではありませんし」
 黒川は他の猟兵が、逃げるブルトン人を追うであろう事が分かっていた。
 こうやって、本拠を見つけ、わざわざ破壊したのだから、自分は十分に仕事をしたと言えるだろう。
 後はただ、後片付けを行うだけ。
「あなた達も、さっさと諦めてくれれば有難いのですが……おやぁ?」
 残った工作員達を髑髏の餌食にしながら、黒川はふと、空けた穴の向こう側を覗き込んだ。
 そうして、そこに何かを見る。
「ふうむ。ヒーローの危機があり、けれども肝心のヒーローの姿が見えない……どういうことなのかと思いましたが……クックック」
 何かに気が付いた黒川であるが、改めて、残りの工作員達に向き直る。
 そろそろブルトン人との戦いは終わる。であるならば、その終わり方は、綺麗さっぱりと行きたいところであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

安喰・八束
思わぬ出会いって何だよ…
ラックの話は下手な辻占いみてえに要領を得ねえなあ。
まあ、用心棒(ヴィジランテ)の仕事は熟すさ。

擬態していようが、荒事を起こそうって奴は動きゃ解る。(戦闘知識)
此方も目立たんように街に伏せ、紛れた敵を「千里眼射ち」で狙撃しよう。
……人ならぬ目玉を撃ち抜くのは造作もねえよ。(スナイパー)
誰か、他の猟兵が的を釣りだしてくれるなら益々好都合。支援する。(援護射撃)



 走る。走る。走る。
 逃亡するオブリビオンに向かって、猟兵は走る。
 それは字面通り、猟兵の本質かもしれない。
 安喰・八束は走りながら、逃げるブルトン人に対して、古女房たる自らの猟銃を構えた。
 本来ならば地に足を付け、身を隠し、震えを止めて獲物を撃つが常道であるが、今はそうも言っていられない。
 逃げる獲物は逃がせば厄介だ。また工作員どものを召喚され、隠れ潜まれては、すべてが振り出しに戻ってしまう。
 故に今日は猟師では無く、荒々しい猟兵。アスファルトを踏みしめ、石ころを蹴飛ばし、敵との距離を縮めようとする一猟兵だ。
 そうして、例え走りながらでも猟銃が当たる距離まで接近した。
「そろそろ大人しくしなよ?」
 構えた猟銃の、引き金を引く。慣れ親しんだ武器への動作は流れる水の様で、なんら感慨も無く、息を吸う様に銃身から、命へ届かせる弾が射出される。
 何も無ければ、それは当たり前の様にブルトン人の身体へと食い込むだろう。が―――
「グオオオ!!」
 ブルトン人は、背中が狙われているのに気が付いていたらしい。避ける事が出来ないタイミングで安喰は弾を放ったが、ブルトン人はここでさらに工作員を召喚したのだ。
 召喚された工作員の役目。それは恐らくただの盾。ただ安喰とブルトン人の間に挟まり、その攻撃を阻害するだけのために召喚された、哀れな命。
 確かに安喰の銃弾は命へと届いたが、残念ながら獲物のそれではなかった。
(ちっ。また弾を込めるか。構えるか。狙いを絞るか。その時間はあるものか?)
 ブルトン人は囮にした工作員の命を対価として、さらに遠くへ逃げようとしていた。
 その間に、安喰は再度の攻撃を加えようとするが、稼がれてしまった時間と距離のせいで、確実な一撃を加えるには些か不安が残るものとなる。
(一か八かと賭けでもしろって? それほどの相手でも無いってのに)
 所詮は正面から戦えば勝てる相手だ。ただ奴は逃げるのがひたすらに上手い。そんな相手に賭けに出なければならないというのは、猟兵としてのプライドが傷ついた。
 もっとも、それでも選択肢が無ければ行動に出なければならないが―――
「てやあああ!!!」
 一瞬の後に状況が変わる。
 逃げるブルトン人の脇側の路地。そこから一人の小柄な少女が飛び出して来たのだ。
 彼女は無謀にも、全身でブルトン人にぶつかり、ブルトン人の体勢を崩した。
 よろりと揺れるブルトン人。全力で走っていたところにぶつかられたのだから、完全に虚を突かれた形だろう。
 その場をゆらりと揺れて…・…そこで終わった。
 たかが少女の体当たり。転んで無様を晒すまでには至らない。
 そうしてブルトン人は怒りだす。行動を邪魔してきた少女に怒りを向けて、その手を伸ばし、命を刈り取ろうとして……。
「良くやった。童女」
 にぃと笑って、安喰は間に合った攻撃をブルトン人に向ける。
 一か八かではない。ブルトン人を一瞬でも足止めしてくれた少女のおかげで、それは再び、確実に当てられる攻撃となって、安喰の手元からブルトン人の元へ。
 安喰の【千里眼射ち】は矢を放ち、ただブルトン人刺し貫いてくれた。
「きゃっ……あれ?」
 聞こえて来たのはブルトン人ではなく少女のそれ。別に少女が攻撃を受けたわけでもなく、目の前でブルトン人が倒れたのを見た驚きに寄るものだろう。
 確かに安喰の攻撃はブルトン人へと届き、ひたすらに面倒を掛けて来た最後のブルトン人を倒す事に成功したのだ。
 仕留めた獲物はどんなものかと、安喰は倒れたブルトン人へと近づき、そうして、まだその場でぼーっとしている少女方も見た。
「よう。どうしたい?」
「え? いえ……あ、そうだ! わ、私、必死で。今、逃げられれば、大変な事になるかもって、一生懸命追って……けど、私じゃ無理だから、あなた達みたいなヒーローの助けになろうと考えて、そ、それで―――
 明らかに少女は混乱していた。そりゃあそうだ。目の前で起こった命のやり取り。慣れぬものでは無いだろうが、彼女なりに、先ほどまで必死に対応しようとしていた。その緊張がぷつりと切れるタイミングが今だ。
 状況の整理が追い付かない。そんな状態になっているはず。
「ふぅ……さて、こりゃあ危ない事をするなと叱るべきか。そんなになるなら、無理するなと心配するべきか。どっちだろうな?」
 混乱を続ける少女を見て、安喰が呟く。
 そんな安喰の言葉に対して、慌てた様に彼女も安喰を見返して来た。
「そ、その! それは……すみません! で、出過ぎた真似っていうか、向こう見ずって言うか! や、やっぱり迷惑だったっのかなていうか……」
「おっとそうだ。それより前に言っておきたい言葉があったな」
 安喰は少女の方へと手を伸ばす。
 その手に対して、びくりと震える少女であるが、安喰の手は、少女の肩にぽんと置かれた。
「助かったよ。おかげでこいつを倒す事が出来た」
「え?」
 自分の肩を少女は見るものの、既に安喰はそこから手を放していた。
「頑張ったじゃないか。勇気を出したなら上等な結果だ。けど、今度からは親御さんに相談してから危ない事をするんだぞ?」
「あっ……は、はい!」
 元気な声を出して少女の返事を聞いた安喰は、次の仕事だとばかりに、ブルトン人を見つめた。
 とりあえず倒す事は出来たが、後始末をしてくれる他の猟兵はいるだろうか。
 一人であれば大変な作業であろうが……。

成功 🔵​🔵​🔴​

月山・カムイ
行く前から全てがわかっていると面白味には欠けますが、せめてもう少し情報が欲しかったところではありますね
とはいえ、まずはこの眼の前の牛だか河馬だか豚だかわからないオブリビオンを片付けてから、でしょうか?

逃げ惑う一般人を助ける為、そちらを狙うプルトンどもを優先的に排除する
この手の自己進化するタイプは、数で押すよりも確実に屠る必要がある訳で
大気圏内モードの宇宙バイクZX650を駆り、動き回りならが切って捨てていく
取り囲まれるようなら敵の包囲が薄い箇所を見切って捨て身の一撃による強行突破
一般人、特に子供やお年寄りを助ける事に集中しましょうか

さて、これを倒しきれば今度は鬼が出るか蛇が出るか
はてさて……



「いやまあ、しますけどね、後始末。ほんっと面倒な敵だったなぁ。事前にもっと情報が欲しかった」
 ブルトン人が荒らした路地裏で、倒れた工作員だったりブルトン人だったりを処理する猟兵がいる。
 月山・カムイ。彼はブルトン人との戦いで一般人の命を優先する様な動きをしていたため、戦いの後も、一般人への影響を考え、この様な後始末を続けていた。
 と言っても、倒れた侵略者を脇へと退ける程度の処理だ。それ以上は、この世界の警察なり自警団なりがしてくれると信じたい。
 このまま放置されっぱなしというのも、後味が悪い。早めになんとかしなければ衛生面で心配になってくるし、何よりー――
「ふんっ……」
 【剣刃一閃】。月山は背後に迫っていた男を、自らの小太刀で両断する。
 無論、一般人相手では無く、ブルトン人が召喚した工作員の残りと言ったところか。後始末というのは、こういう残り連中も全部排除して終わりになるのだろう。
「こういう場所では、こういう輩も寄り付いて来る。まったく、いろいろと後に残してくるんですから」
 悪態を吐きながらも、自分が作ってしまった新たな障害物も、道の脇に退ける律儀な月山。
 作業は重労働と言えるが、内容はシンプルなので、いちいち色んな事を考えてしまう。
(確か、依頼の段階では、何か出会いがあるかもなどと言う話でしたが、結局、そんなものはありませんでしたねぇ)
 それについては残念だ。他の猟兵から聞いた話では、戦闘の最中に、巻き込まれた一般人の少女だったりを見たらしいが、それが出会いと呼べるかどうか……。
「巻き込まれ系女子という奴でしょうかね。何人かの猟兵が見たと言ってましたし、確かヒーロー志望で……んんん?」
 ふと、首を傾げる月山。
 彼はまだ近くに転がっていたブルトン人の死体へ近づくと、口元に手をやって考え始める。
(この巨体を……走っている最中であろうと、一般人がそのバランスを崩せる……?)
 事の顛末を一通り聞いた後だったので、ブルトン人との戦いがどの様に行われたものか、月山は理解していた。
 故に、戦いの最中に起こった出来事に対して、疑問点が幾つか浮かんでくる。
「ちょっと、別の個所も見てみましょうか」
 月山は自らの宇宙バイクZX650へと乗り込み、ブルトン人が拠点にしていたビルまで走る。
 そこまで距離は無かったものの、バイクで数分と言ったところ。
「件の少女がブルトン人の隙を突けたと言う事は、ブルトン人を少女も追っていたという事でしょう。恐らくはここらあたりから……」
 猟兵の攻撃に寄って、穴の空いたビルを見つめる。このビルから、少女がブルトン人にぶつかった場所までの距離。バイクでの移動だから、それほどとは思わなかったが、普通、猟兵でも無ければ追いかけられない距離であるはずだ。
「いや、ブルトン人を直接追っていた猟兵は、追い付く前に背中を撃とうとしていたそうだから、それよりも早く、ブルトン人に少女は追い付いた?」
 再び、ビルから、ブルトン人が倒れている場所へと移動する。今度は、少女が移動したであろう経路を使って。
 すると、目に付くものが幾つかあった。
「何かに焼けた跡? なんでしょうね。ずっと続いていますが……」
 壁や地面が焼けた跡。それはずっと続き、辿り着くのはブルトン人が倒れた場所だ。
(ふむ。これは……どういう事なんだ?)
 頭の中に案を浮かばせ、有り得ない可能性を消していく。
 そうして残るのは、とても単純な結論一つ。
「ヒーローがオブリビオンに襲われて、殺される未来。もし、私達が介入しなければ、一般人が巻き込まれ、そうして、その中に……」
 一般人にしか見えないヒーローがいたとすれば。
 本人すらも、自分がまだ一般人だと考えていたそれがいたとすれば、一連の戦いに、ヒーローが現れなかった事にも頷ける。
「いえ、違いますね。現れてはいたんだ。けれど、力足らずで、そうして……最後の最後で、漸く……」
 猟兵がブルトン人を倒そうとした時、僅かながらも手助けする形になった少女を思う。
 思わぬ出会いはあったのかもしれない。
 月山はそう考え付いて……とりあえず、後始末を再開する事にした。
「何にせよ、戦いは終わった。考えたって、そこからの続きがあるわけでも……無いですよね。そのはずだ」
 一抹の不安を残す言葉を呟きながら。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 日常 『ヒーローの秘密を守れ!』

POW   :    威圧することで時間を稼ぐ

SPD   :    退路を見極めて先導する

WIZ   :    話術や魔法で煙に巻く

👑11
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 少女は路地裏を歩いている。
 先ほどまでの戦いに対して、どこか昂揚する感情と、無謀な事をしたという後悔と恐怖。それらが綯交ぜになって、身体をふらふらとさせていた。
 とりあえず、家に帰って落ち着かなければならない。
 そんな思いで歩いていたが、ふと、手のひらが熱くなるのを感じて、彼女はそちらを見た。
「あれ? 何? これ……」
 少女が見つめる自分の手の平。
 そこには、黒と白で彩られた炎があった。



 オブリビオンの一件から数日後。ヒーローズアースの世界で、猟兵の誰かが、ふと雑誌を手に取った。
 何枚か捲ったところには、新たに現れたと噂される、謎のヒーローの記事が載っていた。
 このヒーローが今、相手取っているのはヤクザやチンピラなどであるらしく、目撃者の証言によると黒と白、二色の炎を扱う存在とのこと。
 記事で仮に名付けられた名前は、もヒーロー『モノクローム』。
 記事を書いた記者は、このヒーローをこれから探ってみるらしく、そこで記事は終わっていた。
 この記事を見た猟兵は、この記者を追ってみるも、ヒーロー『モノクローム』を探してみても良いだろう。
 もしくは……その『モノクローム』の正体を知っているのであれば、直接会ってみる事だって出来るかもしれない。
夷洞・みさき
こっそりオブリビオンの残党を海に還しつつ、この世界に居残っていた
現世の咎人は決して殺さない、恐怖を与えるだけ

この世界は良いよね、咎人を殺して称賛と名誉が得られるのだから
恐れもされず嘲りもされず

このヒーローも僕が会ったあの子だったりするのかな

あの時は判らなかったけど、もし、あの子が現世の人でないのなら、見逃すわけにはいかないからね。

【WIZ】
記者、もしくは前回の事件で出会った少女を館に招く
血腥い事は禁止
確かめるべきは、犠牲者の情報かヒーローが現世の人間であること

例え犠牲者が悪人であろうとも彼等を殺していいのは現世の人だけなのだから
僕の妄想が外れる事を祈るよ

ちなみに僕は咎人殺し、ヒーローじゃないよ



 少女はほんの少しだけ、わくわくしていた。
 自分に芽生えた力。今まで、ヒーローに憧れながらも、ただの一般人でしかなかった自分に訪れた、変化の兆し。
 彼女がその力を使い、自分なりの善行を始めたのは、やはりヒーローへの憧れからだ。
 きっと、一般人とは違う力を手に入れた者は、そういう事を勤めとしなければならない。そう考えて、手に入れた力を使い、扱い方も学んで行く。
 そんなものが、ここ最近の彼女の日常。
 そうして、変化とは一度訪れれば、止め処の無い川の水の様に、次々とやってくるものらしい。
 今日もまた、街の治安的なものを守るために巡回を続けていた彼女であったが、そんな彼女の目の前に、以前、一度見た事がある、妙な館が現れたのである。



「やぁ、ようこそ。また会ったね。ヒーロー志望の女の子。いや、今はヒーロー、モノクロームと言うべきかな?」
 オブリビオン達との戦いから暫く。
 まだこの世界に留まっていた猟兵、夷洞・みさきは、オブリビオンとの戦いで出会っていた少女を、自らの力で作り上げた館へと招待していた。
 招待状も無く、突然、目の前に館を召喚するという無理矢理な方法であるが、好奇心旺盛であろう目の前の少女は、躊躇も無く館へと足を踏み入れて来る。
「あ、やっぱり! 前にヴィランと戦ってたヒーローさんだ! あの! あの時はありがとうございました! で、良いんですかね?」
「う、うん? あ、ああ。そうだね。その通りだけれど」
「じゃあじゃあ、名前とか教えて貰っても良いですか? あっ、本名とかが駄目って言うのなら、ヒーローネームだけでも!」
 若いからこそ勢いが良い。
 しかもこちらを敵ではなくヒーローだと思っているから、ぐいぐいと来る。
(それでもって……僕への敵意は無い……か)
 館はただの館のまま。戦う相手に反応して事件を起こすこの館の仕組みも作動しない事を考えれば、大凡、彼女が現時点では敵対者で無い事は分かる。
(さて……じゃあそんな彼女に対して、今はどう接するべきかな?)
 夷洞の今の目的は、目の前の少女が、猟兵にとっての敵とならないかを探る事。
 オブリビオンとの戦いは終わったが、その後に生まれた微かな不安。それを払底するためにこそ、今、夷洞は働いている。残業代など出るかは怪しいが。
「……夷洞だ」
「へ?」
「夷洞・みさき。教えて欲しいと言っただろう?」
 とりあえず、話を続ける事で、新しい展開を待つ事にする。目の前の少女の真価はまだまだ分からないのだから。
「ええっと……夷洞・みさき……さん。それって、どっちですか?」
「どっちって?」
「ヒーローネームか本名か」
「本名だけど? そんなにヒーローっぽい名前に聞こえた?」
「はい! とっても独創的で!」
「そうかな。独創的かな? ずっと一般的だって思ってたんだけどね?」
 真価を測るつもりなのであるが、何故か世間話染みた会話になってしまった。
 それは兎にも角にも、少女の雰囲気が剣呑なそれでは無いからだ。
 やはり若さが感じられ、どこか興奮していて、全体的に浮かれている。そんな彼女を、夷洞は今のところ、危険な存在と見る事は出来なかった。
「あー……えっと、ところでだ。君が雑誌に載ってる事は知っているかい? やんちゃする新米ヒーロー的な書かれ方をしているんだけど」
「わっ! それ! それですよね! 私、雑誌に載っちゃって、びっくりです! 正体とか隠さなきゃいけませんよねぇ。バレたら回りからどんな目で見られるか分かんないですし」
「んー、そうだね。そこは気を付けるべきなんだけど……それより僕は、君がどういう目的で動いてるか、知りたいな?」
 探る様に少女を見る。きょとんとした顔は、やはり気を抜かしてくるタイプの顔立ちであったが、これが演技だったりすれば厄介な相手である。
「えへへー。ちょーっと恥ずかしいんですけど、やっぱり悪いやつをやっつける! そんな事が目的ですね! やっぱりヒーローは!」
「そ、そっか。すごく単純なわけだ」
 少女に深い考えはないらしい。見れば見るほど、ヒーローとしての力に目覚めたばかりの、ただの少女にしか見えなくなる。
「あんまり長々と話しても、それほど変わった展開にはならなさそうだし……そうだね。うん、今日は一旦、これでお別れにしておこうか」
「ええー! せっかくヒーロー夷洞さんと再会できたのに、ちょっと話しただけで終了ですか?」
「君がヒーロー稼業を続けていれば、まだ出会う事もあるかもね。ああ、けれど訂正が一つだ」
 別れの前に、とりあえずの忠告だけはしておかなければいけない。これは彼女と自分にとって大切な事。
「僕はヒーローじゃないよ」
「ええっ!? じゃあ、もしかしてヴィラン……」
「いいや。そういう輩を倒す側なのは変わらないけれど……僕は咎人殺し。悪い事をした奴を、ヒーローよりもっと酷いやり方で倒す存在さ。ヒーロー志望の君も、気を付ける事だ。悪い事をした奴には、怖いものがやってくるんだよ?」
「うぇえ!? は、はい! 分かりました! 気を付けます!」
 冷や汗を流しつつ、元気に辞儀をする少女。
 これまでの会話では、彼女に悪意がある様には見えなかった。なら心配はいらないのか?
 夷洞は首を傾げつつ、彼女を館から解放した。とりあえず、モノクロームと呼ばれ始めた少女との会話は、そんなものであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アイリ・ガングール
 んー。追ってみるかのぅ。そのモノクロームがどこの地域から行動し始めたか。【情報収集】と【世界知識】を使って。
 とはいえ指標がないのは困るし、この記事を書いた記者に【誘惑】でも使って聞き出してみようかね。
 ちょいと肌をちらつかせて男の口を軽くする業はようよう心得ておるからねぇ。
 にしても先日の件、ヒーローがなんやらっていう件、結局何にもなかったわけじゃし、それにつながりがあるかもしれんしの。



 ヒーローズアースでのその後の動向について、気になっている猟兵の一人、アイリ・ガングールは、適当なファミレスで雑誌や新聞記事を見つめていた。
「ふぅむ。どれもこれも、大した話は載っておらんのう」
 注文したメロンソーダのストローを咥えながら、テーブルに自ら並べた記事を見つめる。
 どれも他愛の無い記事だ。
 新しいヒーロー登場か? まずは地元の治安を守る事から! 正体は子どもか?
 どれもこれも、それほど紙面も割かれず、内容だってどこにでもありそうなそれ。
 それでも、どうしてか気になるのは、以前のオブリビオンとの戦いで少しだけ会話した、少女の件があるからか。
「そこまで感傷的では無いつもりじゃが……気になるところがあるのは事実じゃな」
 記事の取り扱いは小さい。扱いだって相応だ。
 しかし、しかしである。そもそも、街の自警団程度の行動しかしていない相手に対して、なんで幾つかの媒体で記事になっているのか。
「恐らくは特定の記者かの? それがわざわざ、なんでも無い様な新米ヒーロー一人、記事にする事がおかしい……気がするの」
 あくまで現段階は気がするだけ。地元密着型の奇特な記者だっているだろうからこういう状況も有り得るだろう。
「よーし。いちいち悩んでおってもしかたないしの。こちらから突撃してみようか」
 席から立ち上がるアイリ。向かう先は雑誌裏に乗っていた、出版会社の住所であった。



 決めたのなら行動は早く。さっそく出版会社へのやってきたアイリ。
 目の前には、お世辞にも立派とは言い難い、汚れた4、5階程度のビルがあった。
「雑誌の方もまさに雑多な見出しが多かったし、こんなものなのかのぅ」
 呟きつつ、アポイントを取る程の会社でも無いだろうと遠慮なく足を進める。
 中に入れば一応の受付。うらぶれた中年男性が、姿勢も正さずカウンターに肘を突いているのは、やはりそういう場所なのだろうと実感させられる。
「ん? ああ、何か御用ですか?」
 アイリがビルに入って、反応するまで数秒。とりあえず歓迎はされていない様子。面倒臭い客が来たというより、客なら誰でも面倒臭いと思っているタイプだろうと判断する。
 アイリはそのままカウンターへと近づくと、手に持った雑誌を見せる。
「失礼するが……この雑誌に載っている、モノクロームというヒーローの記事について、聞きたいんじゃがのう」
「ん? 記事へのお問合せは、電話かメールでお願いしたいんですがねぇ」
 客への対応はそれしか行っていないと返して来る男であるが、であればカウンターでお前は何をしているのかと問い掛けたいアイリ。
 もっとも、空気を悪くするつもりも無いので黙っておく。
「んー。参ったのう。こちらも急ぎというか、ここで聞けたら一番手っ取り早いと思うとるが……」
 言いつつ、アイリもまたカウンターに肘を突く。必然的に男と顔が近くなるし、今日はやや、胸元が見え隠れする服装であるため、大胆な行動と言えばそうなるだろう。
「そりゃあ……答えられるものがあれば答えますけどね」
 男は何でも無い様を装っているが、視線が時たま、アイリの胸元辺りに向かっているため、それなりに気を逸らす事は出来ている様子。
「なんでも良いんじゃよ。この記事の記者さんなんぞを紹介してくれれば一番ではあるがの?」
「いやぁ。そりゃあちょっと難しいっていうか、うち、あくまで記者さんからの持ち込みの記事、編集してるだけなところがありましてね?」
「じゃから、記者の名前は明かせんと? しかしのう。であれば、この記事について誰にも聞けんという事になるが……どうしたもんかのう?」
 さらに顔と胸元を男に近づけるアイリ。さすがにこうなると、男の方も照れを見せ始めた。
「あっ……そ、そうだ。その記事を書いた記者。仕事用の電話番号があったから、そこに掛けてみると良いですよ。ええっと、確か……」
 男がカウンター奥の棚から、名刺の様なものを取り出し、メモに電話番号を書いて行く。
「ほうほう。では、そこに電話してみれば良いのじゃな。ふむ。大変に助かる」
「は、はぁ」
 電話番号が書かれたメモを受け取ると、さっさとカウンターから離れるアイリ。
 あまり長居したくない雰囲気の場所であるから、やる事が終われば次の行動に移りたかったのか。
 とりあえずアイリは辞儀だけしておいてビルから出た。
 その次にやる事はと言えば、まだこの世界に残っている猟兵に対して、こういう情報が手に入ったが、好きに使ってみればどうだと言う連絡を行う事。
(みども一人があれこれ動くというのも、疲れるしの。足は多い方が良い)
 そんな事を考えながら、アイリは先ほどの電話番号を他の猟兵へと伝える事にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

月山・カムイ
黒と白の「炎」を扱うモノクロームという存在、ですか
まさかとは思いますが、続きがあったなんてことは……いや、あっても良いとは思いますが問題は、相手取っているのがヤクザやチンピラである、というところでしょうか

ヒーローに憧れてヒーローになった筈の少女が相手にするには、少し何かが歪んでしまっている気がする
ヒーローからヴィランへ堕ちるのではないか、という少しの不安
記事が記名記事であるのなら、その記者にコンタクトを取ってみる

何、少し新しいヒーローというのに興味が湧きましてね
そんな風にコンタクトを取り、記者に協力する形でその彼女について追ってみる

……この予感が杞憂である事を願いますが、どうにも



「へぇ、で、あんたが新しいヒーローに興味があるって言う奇特な旦那かい?」
 適当な喫茶店。外からはむしろボロく見えるその場所で、驚く程に薄いアメリカンコーヒーを啜りながら、月山・カムイは、話し掛けて来たその男に言葉を返した。
「ええ。少し新しいヒーローというのに興味が湧きましてね」
 とりあえずは笑いながらの挨拶。
 その笑いの裏でお互い、きっと別の感情を隠しているのだろうなと感じ取れるのが、こういう場所でのやり取りだった。
 目の前に男……モノクロームというヒーローの記事を書いた記者が机を挟んで座る。
 他の猟兵が聞き出した電話番号で、事前に連絡は取っていた。思ったよりは若い、それでも30代は越えているだろう無精髭が目立つ男だ。
 背は低く、やや腰が曲がり、記者らしいと言えば記者らしいが、その場合の記者という言葉には良い印象が無い。そんなタイプの男。
 月山・カムイは内心でそんな事を考えながら、やはり笑みは崩さない。
 一方で、記者の方はそうでも無いらしい。
「俺はてっきり、俺の記事に文句でもあるのかと思ってたがね。ヒーローかヴィランが」
「……私がそういう類だと?」
 警戒……にはまだ一歩遠いが、気を抜くべきでも無さそうだ。月山はそう考えて、漸く愛想笑いを止めた。だいたい、何時までも続けていると口角が痛くなるのだ。
「違うかい? これでも人を見る目はあるんだ。人かそうでないかを判別できる目がな。伊達にヒーロー関連の記者はやってないってところだ」
「当たらずとも遠からずってところですね。確かに鋭い。随分と自分の能力に自信を持っている様子でもある」
 実際、猟兵である月山に対して、そういう目で見る事が出来るというのは鋭いと言う他無い。もっとも、それがどれほどのものかについては疑義ありだが。
「引っ掛かる言い方だな? 他人様がどれだけ職業に適性があるか分かる性質か?」
「いえ。そんなものが分かれば苦労はしませんが……その、自負する割には、書いているのが新人ヒーローのマイナー記事なのはどうしてかな……と」
 自負する割に地味な仕事だと思う。彼がヒーローを見る目の一人者だと言うのならば、もっとド派手な事件が世の中に起こっているし、そちらを追えば良いと思うのであるが。
「それはまあ……そりゃあ、いろいろあるんだよ……」
 引っ掛かる言い方である。何かあるが話せない。そんな風であるが、頬を掻いているところ見るに、どこか気恥ずかしさも混じっている様に思える。
「そのいろいろ、当ててみせましょうか?」
「何?」
 隠し事のある記者に対して、こちらから提供できるものはない。金銭でも積めば乗って来るかもしれないが、そんなものに余裕があれば日頃苦労はしていない。
 だからこそ、記者側の興味を惹く話題で話を続ける必要があった。
 記者の仕草や様子を見て、彼が何を考えているのを大凡、予想する。
「あなたが記事にしたヒーロー、モノクロームですが……若干、歪だ。違いますか?」
「ほう? その心は?」
 記者がニヤリと笑いこちらを見つめて来る。最初にあった時に見た愛想笑いより余程自然な笑顔だった。
「相手にするのがチンピラにヤクザ……初めてのヒーロー活動としては少々不健全だ。不適切でもある」
「……そうでもねぇさ」
 月山の言葉に対して、何かを納得した風であるが、返って来たのは意外な事に否定の言葉だった。
「新人ヒーローは、そういう連中を相手にするのが常識だと? この界隈ではそういう認識なのですか?」
「真っ当にヒーローになる奴なら、確かにそりゃあ不健全だがね? だが、この世界、突然に力に目覚めて、良い事しようと考え始める奴は少なくない。そうして、そういう連中の中には、麻疹みたいに厄介なもんに掛ったりする奴もいる」
「病気?」
「心のな。なあ、あんた。多分、筋者なんだだろうから聞くがね。そういう類の力を手に入れた時、どう思った?」
「それは……」
 一言では言い表せない……と、月山は考えるかもしれない。猟兵としての力は、良くも悪くも自分に影響を与えている。力を手に入れてどうだったかなど、人生を一言で語れと言われている様なものだ。
「多少なりとも、その力で誰かを見返せる。そう思った事は一度もないか?」
「見返すべきが誰かも分からない」
「そうかい。なら、あんたはまさにヒーローなのかもな。だが、心がまだヒーローじゃないってのに、ヒーロー染みた力を手に入れた奴は、そう思っちまう時がある。で、自分のそんな感情に気が付かないまま、誰かに力を見せつけようとするのさ」
「……」
 どこか、理解出来てしまう話かもしれない。
 力を振るって構わない相手。社会的に悪と言える存在。それらに対して、力を振るい、懲らしめてやろう。
 誰も文句は言わない。感謝だってされる。もしかしたら、本当に自分は良い事をしているのかも。そんな風に考える。
「けれど……それは単に……」
「弱い者いじめさ。そうだろう? あんたなら分かりそうだ。相手が違うだけで、気に入らなくて、自分より弱いって思える奴をとっちめる。若い連中にとっては、学校のいじめとやる事がそんなに変わりゃしねぇ」
「それがいじめともなれば……往々にして行き過ぎる事もあると」
 それはつまり、制御できぬ感情のまま、持て余している力を振り回しているのに似ている。
 本人にそのつもりが無くても、何時か、大変な結果を引き起こしてしまう。
「ま、だからそんなヒーローをだ。今のうちから記事にしていれば、何か起こった時に、特ダネとしてだな―――
「なんだ。ただ心配だったんですね、あなた。若者が道を違えない様に、こういうのがいるから注意して見てやってくれと、そういう事でしょう」
「べ、別に、そんな殊勝な心持じゃねえって」
 恥ずかしがらないで欲しい。年齢を考えろ。そんなナリで可愛らしい事を言われたところで、月山は喜ばない。
「ま、そんな意見があったという事は、心に控えて置きますよ。ちょっと、注意して見る必要がありそうだ」
 言いながら、月山は立ち上がる。そのまま店を去るつもりであった。
 記者をわざわざ呼び出した形であるが、ここまでは世間話の範疇を越えないし、終わる時も世間話を終えた程度の事である。
「おおい。ちょっと待ってくれよ」
「なんです?」
 立ち上がり、机から離れたタイミングで呼び止められて、顔だけ振り返る。
「俺なんかは世の中じゃあ碌な大人じゃねえし、出来るのはここまでなんだが……あんたが立派な大人だって言うのなら、危ない事をする子どもは、ちゃんと止めて欲しいって思ってる。ああ、言いたい事はそれだけだよ」
 記者は本当にそれだけ伝えて来て、彼は彼の分のコーヒーを啜り出す。薄い味であるが、もしかしたら苦味は強い、そんなコーヒーを。
(さて、では私は、どうするべきなんですかね)
 猟兵としての事件なら、オブリビオンの件でもうとっくに終わっていて、これから関わるのは、なんでも無い様な話かもしれない。
 そんな中、猟兵として何をするべきなのだろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒川・闇慈
「モノクローム、黒と白ですか。私は黒の方が好きですが、まあ他人の趣味にとやかく言うものではありませんか。クックック」

【行動】
wizで行動です。
さて、モノクロームはヤクザなりチンピラなりを狙っているそうで。そういう方々の多そうな……繁華街の路地裏をぶらついてみるとしましょう。
もし炎を使っているのであれば、焦げ跡や焼け残りのようなものも見つかるかもしれませんし。
見つけたなら、まあアドバイスの一つでも差し上げましょうか。炎を扱う者の心得は、自らの炎に焼かれないことです。物理的にも、精神的にも。

【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】



 少女は今日も何時も通り、ヒーローとしての活動を行っていた。
 最近は学業が疎かになり、両親からは叱られ気味であったが、そこはそれ、なんとかそろそろ、日常との折り合いを付けていかなければならないなと考えている。そんな段階。
 今日の活動に関しては、何時もとはちょっと違う展開があったが、そういう事もあるだろうと、気分を入れ替えるために頭を横に振り、とりあえずは道を歩いている。
 あまり人通りの無いその道を、一人、ぽつぽつと歩く。力に目覚める前までは、こういう場所は恐怖を感じる場所だった。
 だけれど今は違う。自分には、そういう恐ろしいものと戦える力がある。そう……とても強大な力だ。自分の想像以上に恐ろしい、そんな力―――
「おや、これはこれは」
「っ……」
 少女は肩をびくりと動かした。誰もいないと思っていた、薄暗闇があるそんな小道から、突然に、黒ずくめの男が現れたのだ。
 警戒するべきだろうか。少女は構えを取り、そうして、何時でも自分の力を使える様にと心を覚悟させるものの、現れた男は、妙な事に名乗り始めた。
「私の名前は黒川・闇慈。まあ、見ての通りの怪しい人間です。ただの人間ではありませんがね?」



 黒川・闇慈にとって、その少女は初対面の相手と言える。
 以前、オブリビオンとの戦いにおいては、彼女の姿をチラリと見た程度。なんでも、何度か戦いの場で姿を見せ、最後にはオブリビオンに突進するという行動力を見せたらしいとの話も聞いてはいる。
 そうして今は、モノクロームと呼ばれる様な、ヒーローとしての活動を始めているとも。
「あなた……もしかしてヴィラン……?」
 ヒーロー活動を始めたばかりの少女にこんな事を言われてしまう。これも聞いた話であるが、彼女は他のヒーローに憧れているらしく、猟兵をヒーローと勘違いして、興奮して話し掛けてくる時もあるそうだが、黒川に対してはそうでも無いらしかった。
「いやはや、残念な事に、そんな面白おかしい存在では無いのですよ」
「ヴィランを面白おかしいって……」
「違いますか? 大層な力を手に入れたのに、その力を妙な事件で使うという……個人的には、愉快な存在だと思っているのですが」
 冗談でも言ったつもりだったのだが、少女は黒川を警戒し続けていた。
 どうにもヴィラン関係の話はお気に召さないらしい。だったら、黒川の事もヴィランなどと勘違いしないで欲しいのであるが。
「あなたは……悪い人? 良い人?」
「妙なことを聞きますね? こんな薄暗い道で、あなたみたいな少女に話し掛ける人間など、悪い人に決まってるでしょうに?」
「なら……!」
「おっと、まだ待っていただきたい」
 今にも少女が飛び掛って来そうだったので、黒川はそれを手で制した。
 そして制したその手を人差し指一本だけ立たせたまま握り、少女の前で横に振る。
「悪い人ですが、敵対するつもりでここに来たわけではありません。むしろ、忠告しに来たのですよ?」
「忠告ですって? そんなの、あなたなんかに―――
「炎を使うみたいですね。今、そうやって興奮していると、そういう炎が出て来る癖がある様だ。黒と白の炎……モノクローム。黒と白ですか。私は黒の方が好きですが、まあ他人の趣味にとやかく言うものではありませんね。クックック
 率直な意見を言ったつもりだが、どうにも少女の警戒心は増しているらしい。まったくもって不可解だ。
「私もね、多少は炎を使える。こんな風に」
 パチリと指を鳴らせば、何も無い空間に炎が現れ、その炎はその場で、爆竹の様な音を立てて弾け飛んだ。
「な、なにをっ!」
 弾けた火の粉が少女の眼前まで届き、少女は慌てる。そのまま放置していれば、それこそ敵対してしまう事になるだろうから、黒川はすぐさまに続けた。
「熱かったですか?」
「え?」
「熱く無かったはずですよ。そういう風に、きちんと制御出来ていれば」
 黒川の力は、黒川のものだ。黒川がそうしたいという程度に、その力を発揮してくれる。
 一方の少女はどうだろう。傷つけまいと力を発揮したところで、制御できぬ力はそれでも人を傷つける。
「アドバイスの一つでも差し上げましょうか。炎を扱う者の心得は、自らの炎に焼かれないことです。物理的にも、精神的にも。注意した方が良い。本当に、炎は簡単に、大切なものを焼き尽くす」
「あ、あなたに、何が分かるって言うの!!」
 少女は叫ぶや、逃げ去る様に路地裏を走って行く。
 その背中をわざわざ追う程、黒川は律儀な性格では無かった。
 代わりに、少女が歩いて来た方へと向かう。
 彼女は、黒川が想像するより、些か不機嫌だった。その理由がもしかしたら分かるかもしれないと、そんな事を考えて。
 果たして、黒川は辿り着く。
 少女が力を使った痕跡だ。黒と白の炎で焼かれた跡がそこにある。
 強い力だ。先日までただの一般人だった少女に過分な程に圧倒的な力。
 その力の痕跡が、そこには広がっていて―――
「なるほど。親切心から忠告をしたつもりだったのですが……」
 黒川は眼前の光景を見ながら呟く。
「もしかしたら、少々遅い忠告だったのかもしれませんねぇ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

安喰・八束
……電話。電話番号な。
よく解らん。すまねえ。
そっちは得意な奴に任せる。

つまりチンピラヤクザ者の集まる場所にモノクロームあり、ってこったな?
このツラだ、そっちから当たった方が目立つまい。
後ろ暗い者が集まりそうな歓楽街、裏街を回って情報を集めよう。
なるべく穏便に……行きたいところだが、ヤクザ者に警戒されて敵対するようなら
「スキルマスター「スティール」」で何か目ぼしいものをスッて逃げる。
ああ、それとも「ヒーロー」の助けを待った方がいいかね?

出来ればお手並み拝見したいところだ。
……親御さんにきちんと相談したかい、嬢ちゃん。



 少女は走っていた。
 ひたすらに常人離れしたその身体。ヒーローとして目覚めた力。
 それらを使い、ひたすらに、恐怖から逃げていた。
 どうして? どうして? どうして?
 思いが心の中で濁流となり押し寄せる。
 どうして、どうしてこんな事になったのだろう。自分はヒーローだ。ヒーローになれた。そのはずなのに。
 ヒーローに憧れ、ヒーローと共に戦い、そうして、漸く目覚めたその力。大切な力。そのはずなのに……。
「悪い事をした奴には、怖いものがやってくるんだよ?」
 脳裏にそんな言葉が木霊する。どこかの誰かに言われて、ついさっきまで忘れていたそんな言葉。
 その言葉が少女の心に食い込んで―――
「おい! 見ろ! あいつだ! あのガキが“舐めた真似”を!」
 道を走る内に、聞き捨てならない言葉を聞いた。
 声の主は男のヤクザだった。こちらを指差し、何やら叫んでいる。
 怖くはない。今の少女なら、逃げる事も、倒してしまう事も可能だ、どこにでもいるただの一般人でしかない。
 けれど、少女は男の言葉に立ち止まった。酷く、恐怖を感じて。
(舐めた真似……? 見られた?)
 男を見る。いや、何人かがそこにいて、少女を囲もうとしていた。
 全員が少女を怒り顔で見つめている。何人いるだろうか。そんな数に、少女は知られてしまった。
 知られるわけにはいかない。ヒーローなら、知られてしまうわけには行かない。 
 少女は呆然とした心の中で、それでも何かに突き動かされて、その力を振るった。
「なっ!? なんだこりゃあ!」
 男達が悲鳴を上げる。少女を中心として、黒と白の炎が渦巻き、その火力を増しながら広がる。
 それは……きっと男達を焼き尽くす。手加減など出来ない。すべてを焼かなければいけない。
 空に近い心の中で、そんな感情だけが肥大化していく。炎は広がり、そしてこの場にいる何もかもを焼こうとして―――
「やんちゃはそこまでだ。親御さんにきちんと相談したかい、嬢ちゃん」



 安喰・八束の行動。それは単なる気まぐれから始まっていた。
 オブリビオンとの戦いから、新たに現れたヒーロー。その件に関して、他の猟兵はいろいろと動いているらしかったが、安喰にとっては良く分からない話だったので、とりあえず自分の興味を優先して動いていた。
 単純に、その新しいヒーローとやらと会って、話でもしてみたかったのだ。
 新人ヒーローはヤクザやチンピラを相手に戦っているらしいので、そういう輩が出没する場所に、自分も顔だした。
 癪であるが、安喰自身の雰囲気、顔は、そういう場所に馴染み安い。どこかの組の人間か便利屋か。その辺りと思われ、何故か他のヤクザ連中と共に駆り出される事になる。
 ここ最近、ヤクザやチンピラ連中を倒して回っているという、舐めた真似をする少女。
(ま、ヒーローとして力が目覚めてるってのなら、何人束になっても敵わねぇだろうし、こうしてりゃあ何時か会えるだろ)
 その程度の、安喰にとっては、本当にその程度の話だったのだ。
 何かを企んだわけでも無ければ、何かを察したわけでも無い。
 予想通り、ヤクザ連中はそのヒーローを探し当てた。それまでは良かった。
 後はヒーローの戦い方を見るなり、ちょっと危なっかしいところがあれば手助けくらいはしてやるつもりだった。
 その程度の事であったのにー――
「やんちゃはそこまでだ。親御さんにきちんと相談したかい、嬢ちゃん」
 自分達を“焼き殺そう”とした、目の前の少女に安喰は尋ねた。
 とりあえず、他のヤクザ連中を守る形になった。炎に恐れおののいたヤクザ連中はとりあえず逃げ出して行く。結果、安喰は少女と一対一で相対する事になる。
「っ……あなたも……見たのねっ!?」
 何の事かさっぱりだったが、少女の様子は明らかに正常とは言えなかった。
 そうして、分からないなりに、安喰には少女の様子の理由を、何となく察する事も出来た。
「嬢ちゃん。あんたもしかして……一線を越えたのか?」
 尋ねてしまったその言葉は、少女を激高させるに十分だった。
 願わくばその怒りが、云われも無い罵倒への怒りであって欲しかった。だが……。
「私はっ……ただ悪い人を懲らしめようと!」
 少女が放った炎が舞う。それを安喰は避け続けた。
 まだ戦いの時ではない。まだ聞かなければならない事がある。
 だから安喰は足以外に口だって動かした。
「何時からだ? 嬢ちゃん。どこからだ? 前に俺を助けてくれた時は、キラキラしてただろ。誰かを口封じに燃やそうとする様な奴じゃあなかった。そこらへんのヤクザを……燃やし殺してしまう奴じゃあなかったはずだ!」
 聞かなければならない。
 少女が、どんな風に道を踏み外したのかを。
 安喰は、少女の様子で気が付いてしまったからだ。
 少女は人を殺した。その力で。どうしようもない、自らの、ヒーローとしての力で。
「何時も通りだった! 今日だって! 少し力の調子が良くって、良い日が始まるって、そう思ってた! なのに!」
「力の扱い方が慣れて来たんだな? もう少し上の力を発揮できる様になったんだな? それで……何時もと手加減の仕方を間違えた!」
 安喰は問い掛ける。すべてを聞かなければならない。でなければ、この少女とは戦えない。だって、まだこんなにも未熟だと言うのに、未熟なままに、取り返しのつかない事をしてしまった。
「私は……私はぁ!」
「嬢ちゃん。悪い事は言わねぇ。警察なりに自首しろ。まだ若いなんだ。犯しちまった罪を償う時間ならまだ十分にあるんだぜ?」
 そうだ。まだ戦えない。少女には贖罪の機会がある。若いというのは、そういう事だ。人生だって、やり直す機会があるはずだ。
 大人としてするべきなのは、間違ってしまった若者を諭してやる事。
 だが……。
「違う……違う違う。私は憧れたヒーローになった! 私は、悪い人としか戦ってない。私は……私はヒーローとして戦って、悪人を倒した。それだけ!」
「っ……!」
 少女の炎が、さらに火力を増した。
 追い詰められた少女、極限まで精神をガタつかせた彼女。その作用に寄るものか、皮肉な事に、少女の力を増す事へ繋がった。
「……どうしろってんだ」
 安喰は愚痴に似た言葉を零す。
 少女は、戦うつもりだった。
 かつてはヒーローとして憧れた猟兵に対して、自らの業火をぶつけるために。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『白黒鳳凰』モノクローム』

POW   :    純白の救済、漆黒の断罪
【罪を犯した者を焼き尽くす断罪の炎を纏う姿】に変身し、武器「【罪裁大鎌イグニスセイヴァー】」の威力増強と、【近づくモノを蒸発させて防ぐ、黒と白の炎翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
SPD   :    救済の断罪
【敵の罪に応じて燃え盛る炎を纏った大鎌】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を悪を許さぬ断罪の炎で炎上させ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    断罪の救済
レベル×1個の【ユーベルコードを焼き尽くし無効化する断罪】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
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 ヒーローとしての少女の名前は『モノクローム』。
 白と黒の炎を使うヒーロー。
 悪は絶対に許さぬその断罪の炎は、簡単に悪とされるものを葬って、燃やし尽くしてしまう。
 見る者が見れば、それはヒーローとしては酷く歪であっただろう。
 いや、歪になってしまったと表現するべきかもしれない。
 少女はヒーローとしての道を踏み外し、ヴィラン……オブリビオンとさえ呼べる程に歪んでしまっている。
 そんな彼女が起こした騒動に、聡い猟兵ならば気が付くだろう。
 少女、いや、モノクロームが戦い始めた事に。
 始まった戦いに駆けつける事は十分に可能だ。
 そこから何をするのかについては、猟兵達が決める事だった。歪んでしまった、少女の末路に対して。
アイリ・ガングール
 なるほどのぅ。つまるところ、力に溺れたってやつやね。
 いやさ、みども嫌いじゃないよ?綺麗な子が穢れるのって。何よりその在り方、復讐にまい進したかつてのみどもと、どれほど在り方に違いがあろうか。
 ならば咎めるべきはそれをお天道様に見つかるようにやらかしたお主の不手際じゃてな。
 お天道様に見つかったなら、こわーい猟兵がやってくるのも道理。さて、みどもの断罪の救済なんて程遠く。作るはほかの猟兵達が戦いやすいような一瞬の隙。桃源の芳香にて、己が讃えらえる様にでも酔うがいいよ。



「燃やさなきゃ……悪いものは……燃やさないと……」
 少女の弱弱しい呟き反して、彼女が発した炎はさらにその火力を増して行く。
 場所は狭い路地裏。そんな場所に溢れんばかりのその炎は壁となり、この場にいる猟兵の攻め手を欠いている状況だった。
 少女は明らかに暴走していた。精神も、その力も、取り返しのつかぬ領域へと一直線で向かっていた。
 だが、それを阻む声もある。
 弱い少女の声に対する様な、強く、響く様な声。
「なるほどのぅ……なるほどのぅ。つまるところ、力に溺れたってやつやねぇ」
 少女の目線は定まらない。その声は路地裏のどこからか聞こえ、反響し、場所を特定させてはくらない。
 それでも少女は火を絶やさない。目に映るものすべてを焼き尽くそうとする様に。
「おや、おやおやおや。その力は誰かを燃やせても、記憶も記録も消せるものではないじゃろうに」
「……誰? あなたも、私を追い詰める悪い人?」
「ふふふ。どうじゃろうねぇ? いやさ、みども嫌いじゃないよ? 綺麗な子が穢れるのって」
 まるで炎の狭間を拭う様に姿を現したのは、アイリ・ガングールだった。
 一度、目の前の少女と出会った事もあるが、少女の方はアイリの事を思い出してはくれないらしい。
 目に映るモノすべてが、消し炭にしなければならないモノに見えているのだろう。
 そんな彼女を見つめながら、くすくすとアイリは笑っていた。
「かつてみどもも、復讐にまい進した。その時の在り方と、今のそちら。いったいどれ程の違いがあろうか?」
 アイリの声は誘う様な響きを持っていた。
 それは同情か共感か。今、心の弱さを周囲にぶつけんとする少女にとっては、何より擽られる響きを持つ。
「そ、そう。私は、悪くは―――
「悪いじゃろう?」
 まるで裏切る様に、アイリの言葉少女に告げる。
「咎めるべきは……お天道様に見つかるようにやらかしたお主の不手際じゃてな?」
「っ!」
 挑発に近い言葉。ただそれだけで、少女は反応し、アイリに対して自らの炎を向けた。
 既に、少女の感情の動きだけで炎も動き回り、そうして敵意を向けたものを滅ぼそうしていていた。
 放置して良い存在では無くなっている。猟兵のだれしもがそう思う事だろう。
 アイリもまた、そうだったのかもしれない。だから少女に炎を向けられ、なお笑う。
「お天道様に見つかったなら、こわーいこわーい物がやってくる。猟兵と言うてなぁ。ほーれ、悪い事を続けていると、どんどんやってくるよ?」
「なら! もう全部っ!」
 炎がぶつかる。少女の感情のままに炎はアイリへとぶつかり、巻き付き、そうしてすべてを燃やし尽くそうとして、アイリそのものが霧散した。
「なっ……」
 少女は絶句した。今、すぐ傍にいたはずのアイリが霧をまき散らす様にかき消えてしまったから。
「おお、怖い怖い。みどもが断罪するには大きな業じゃ。みどもの様な者が救済するなどほど遠い。出来る事はと言えば、これくらい」
 少女は何時の間にか、自身の炎の他に、霧に包まれていた。
 振り払おうとしても、どうしても目に留まり続けるそんな、どこか甘い匂いのする霧。
 それは少女に生まれた微かな隙に、アイリが刺し込んだ桃源の芳香。
 ただ少女から、その自由を幾らか奪う、ただそれだけの力。
 アイリは少女を倒すつもりも、裁くつもりも無かった。
 彼女は少女に何を思うのだろう。
 ただアイリはその役目を他者に譲り、ただ今は、少女を惑わせる様な言葉と力を発し続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルカ・ディウス
■心情
ヒーローであるならば、手段の是非を問答でもすることができた
ヴィランであるならば、改心の芽はあったはずだ……我のようにな
だが、オブリビオンになってしまったと言うのならば、それはもうどうしようもなく『終わってしまった』存在よ
他の者がどうにかしたいと言うのならば好きにするがよい
我が取る手段はたったひとつ……引導を渡してやることだ

■戦闘
スーパー・ジャスティスで迎え撃つ
罪を犯した者を焼き尽くす?やってみろ
我はかつてヴィランだった身
人の世に照らし合わせた罪ならば数えきれぬ程あるだろうて
だが、我が神海の力……舐めるなよ?

■その他
アドリブ等は大歓迎だ



 幻惑されるモノクロームに対して、それこそが隙であるとばかりに猟兵が攻撃を加える。
「引導を渡してやろう」
 金色のオーラを纏うオルカ・ディウスが、他の猟兵が作った炎の隙間へと入り込み、モノクロームに接近した。
「ぐぅ……!」
 接近する猟兵に対して、炎を鎌の様な形に変じさせた彼女は、オルカの攻撃を受け止めて来る……が。
「ヒーローであるならば、手段の是非を問答できた」
 モノクロームの鎌に対して、オルカの杖が鍔ぜり合う様にぶつかり、押し合う。
「ヴィランであるならば、改心の芽もあっただろう」
「うぅ……」
 杖と、それを握る手を通じて、モノクロームの力が少しだけ弱まるのをオルカは感じた。
 だからこそ、オルカの方はさらに力を込める。
「そうしてオブリビオンになってしまったと言うのならば……それはもう終わってしまったものだ」
「やめて……やめて!」
 今一度、モノクロームの炎は強くなるが、それでも込められた力は弱いまま、炎が迫るのも構わず、オルカは杖をさらに押し込んだ。
 バランスを崩すモノクローム。そんな彼女の脇腹に、オルカは金色のオーラを纏ったままの四肢の内、その足に蹴りを入れる。
「ぐぅあっ!」
 悲鳴を上げたモノクロームが、自らを守る炎の渦から跳ね飛ばされ、路地裏を転がっていく。
 その距離からして、オルカの攻撃の衝撃は相当なものだったのだろうと分かる。
 オルカの方はと言えば、残った炎に焼かれつつも、まるで埃でも払うかの様にその炎を自分の身体から消していく。
 やや焦げ臭さと黒い煙を残しつつ、とりあえずは消火させたオルカは、ゆっくりと転がったモノクロームへと歩き、近づいて行く。
「我が神海の力……舐めるなよ? この程度の炎に焼き尽くされる身ではない。例えこの身体に、幾つものも罪があったとしてもだ」
「罪……罪……?」
「我とて、かつてはヴィランだったという事だ」
「ヴィラン……ヴィランなら!」
 倒れていたモノクロームが、オルカの言葉に反応して立ち上がり、再び炎を吹き上げ始めた。今度は自らの周囲を燃やすだけの炎ではなく、明確にオルカを狙う、蛇体の如く伸びて来る黒と白の炎だ。
「急に元気になったな? そんなにヒーローとしてヴィランを倒すのが好みか? それとも……我をその炎で焼く正当な理由が出来た事への喜びか?」
「私は……私はそんなのじゃあない!」
「なら、力を誇る前に、心の方を鍛えておくべきだったな」
 炎がオルカにぶつかり、火柱となって彼女を包む。だが、弱い心で放たれた力など、自らを揺るがすに足らずとばかりに、彼女は悠然とそこの立ち続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒川・闇慈
「やれやれ……忠告は差し上げたはずなのですがねえ……ままならないものです。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
属性攻撃、全力魔法、高速詠唱の技能を活用し炎獄砲軍を使用します。
相手の炎はUCを無効化するようですし、ただ撃ち合っても分が悪いでしょう。
まず相手を挑発してこちらに攻撃を集中させましょう。
「炎の使い方をご教授差し上げましょう」だとか、そんな感じでよいでしょう。
相手の炎をこちらの炎で迎撃しつつ時間を稼ぎ、炎を四つほど回り込ませ、背後から一斉起爆します。

「黒とは本来、絶対に揺らがぬ自己を確立するもの。あなたの黒はどうにも濁っていていけません。クックック」

【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】



「どうして……どうして、どうして! なんで焼く事が出来ないの? 焼いて消す事が出来れば、何もかも……!」
 猟兵達に炎を向けるモノクロームであったが、その炎は猟兵を傷つける事はあっても、世界から消す事は出来ていなかった。
 その現実に、嘆く様に苛立つ彼女。そんな彼女を嘲笑う言葉がまた、どこからか聞こえて来た。
「やれやれ……忠告は差し上げたはずなのですがねえ……ままならないものです。クックック」
 その言葉と共に、モノクロームがまき散らした炎に、違う炎が混じり始める。
 モノクロームの黒と白の炎とは色も様子も違う、爆音を放つ炎の塊が現れ始めたのだ。
 これはモノクロームの力か? いや、違う。彼女が扱う炎とは質の違う炎が、その場に広がり始めていた。
「こ……これって……」
 モノクロームの身体が震える。それはまさしく恐怖に寄るものだ。
 モノクロームの黒い炎よりなお黒いその姿で、その男は現れた。
 黒川・闇慈は再び、モノクロームにとって恐怖の対象になり、ここに現れたのだ。
「黒とは本来、絶対に揺らがぬ自己を確立するもの。あなたの黒はどうにも濁っていていけません。クックック」
 黒川は何もかもを焼けぬとの嘆きを言葉にするモノクロームに対して笑いながら、一歩、近づく。
「こ、来ないでっ!」
 黒川が近づくと、モノクロームは一歩後退し、続けざまに炎を放つ。
 幾つもの炎の塊が黒川へ殺到するものの、黒川はまるで炎の扱い方を教授するかの様に、モノクロームの炎と自身が放つ炎をぶつけ合う。
「おやおや、どうしました? 目の前に敵が現れたというのに、勢いが鈍いですよ? 狙いだって直線的に過ぎる。それでは敵を捉える事などできやしない!」
 黒川のそれは、本当に、教師が教え子に何かを教える様なやり方だった。
 先達者としての矜持か、それとも単なる挑発か。モノクロームはと言えば、後者であると取ったらしい。
「そのくらい、私の力ならっ」
 数と火力を増した炎の塊が、また黒川へと向かう。確かに数も増していたが、黒川の表情は変わらない。
「いけないいけない。そんな風に勢いだけに身を任せていると―――
 黒川に狙いを付けたその炎の塊は、黒川のすぐ傍を通り過ぎ、背後へと流れて行った。
 モノクロームが狙いを外したのだ。それは単なるミスではなく、黒川は引き起こしたもの。
 彼はモノクロームの炎を自らの炎で迎撃する間、散って行った火の粉を再び宙でまとめ上げ、モノクロームの背後に仕込んでおいたのだ。
 後はモノクロームがこちらに狙いを付けるタイミングで、それを爆発させるだけ。耳に響く轟音と熱波がモノクロームを襲い、その攻撃の狙いを大きく逸らす。
「思わぬところから奇襲を受ける。力は勢いも量も大事ですが、細やかさも重要です。例えばそう、今のタイミングで、先ほどの爆発を、あなたにもっと近い場所で引き起こしたり……ねぇ?」
 技量が違う。それを見せつける黒川。さらに言えば、手加減をしている姿も彼女に示す。
 それは、未熟者であるモノクロームに対する慈悲なのだろうか。
「さぁ、次は……ああ、またですか」
 モノクロームは、また黒川に背を向けて走り始めていた。勝てないと、判断したのだろう。
 自身の凶行を目撃した猟兵達を残したまま、遂に彼女は逃げ出したのだ。
「まったく……だから言ったでしょうに。未熟な炎の力は、心だって焼きかねないと」
 逃げる彼女を追いもせず、黒川はぽつりと呟いた。
 彼女が行き着くであろう末路を、なんとなく感じ取って。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
ちょっと見ない間に大変な様になってしまっているね

まだ海の向こうに行っていないのなら、人を殺すのも守るのも彼女の権利だ
だからオブリビオンとして裁くわけにはいかないね
現世の咎は現世で禊ぐべきなのだから

でも約束通り、怖いものはやってきたよ

【SPD】
【UC】にて無力化、戦意喪失を狙う
自身の業に従い、傷つけはするが決して殺しはしない【医術】
骸の海から拾い上げた【呪詛】を纏って【恐怖を与える】
反撃は【激痛耐性】にて何気ない風を装う

僕の罪?悪?
僕は咎人殺しだ。罪悪なんて海の向こうに棄ててきているさ
そんな風に嘯く

心配しなくても僕は君を殺さない
あぁ、でも


痛いのは覚悟してくれるかい

アドリブアレンジ絡み歓迎



 モノクロームは走っていた。
 ヒーローとしての力に目覚めてから、幾ら走っても疲れない。誰よりも早く走れた。
 けれど、だというのに、どうしたって、心の中の恐怖から逃げ切れない。
 炎で焼き尽くそうとしても、どこからともなくその思いは忍び寄って来て、モノクロームを苛んで来る。
「なんで……どうして……こんな……」
 走りながらも、嘆き続けるモノクローム。だが……。
「ちょっと見ない間に大変な様になってしまっているね」
 恐怖は、何時だって、気が付かないうちにすぐ傍までやってきている。
 モノクロームは立ち止まる。いや、立ち止まらずを得ない。
 道の真ん中に、洋館の様なものが立っていた。
 明らかにあるのが不自然なその館。それでも、モノクロームは二度、その館を見た事がある。
 その館の前には、やはり二度、見た事のある女。
 その女の名前を、夷洞・みさきと言う。
「やってきたよ。怖いものが」
 夷洞の言葉に、モノクロームは警戒する。ああ、そうだ。とても怖い。モノクロームは怖かった。
 先ほどまでに戦ったものと同種のナニカを夷洞からも感じている。
 モノクロームはまた逃げようと、一歩、足を後退させるも、その足に何かが巻き付いた。
「うあっ……あああ!」
「そんなに怯える事は無いだろう? それはただ、君の咎を具現化した様なものさ」
 モノクロームの足に巻き付く手枷やロープ。それは自らの意思を持つかのようにモノクロームの逃走を許さぬとばかりに雁字搦めに巻き付いていた。
「私の……私の罪? 私は……ただ悪い人だけを相手にしていただけで―――
「ああ、そうかもしれない。君には君の正義がある。そういうものだろう。けれどね……それでも咎は積み重なるものさ。禊ぐべき咎を重ね続ければ、君は本当に取り返しの付かない場所へと至るだろう」
 だから……まずは自覚させる必要がある。何の罪も罪と感じぬナニカへと至る前に。
 夷洞がそう願ったからかは分からないが、モノクロームに巻き付いたモノは片足だけでなく四肢へと伸び、自由を封じて行く。今の、咎に塗れた彼女に自由があったのかどうかも怪しいが。
「あなただって……あなただってきっと何か、罪を犯してる! 悪い事をしているでしょう!?」
「僕の罪? 悪? 僕は咎人殺しだ。罪悪なんて海の向こうに棄ててきているさ」
 そんな風に嘯いてから、夷洞は館の扉を開き、ロープで縛り付けたモノクロームを、そのまま館の中へと放り込んだ。
 モノクロームの悲鳴がどこからか聞こえた気もするが、ただ夷洞は館を見つめ、呟くだけであった。
「心配しなくても、僕は君を殺さない」
 それはただ、罪を自覚だけの行為。咎を重ね続けさせないための行動。
「ああ、けど……」
 モノクロームというヒーローになれなかった彼女に対して、夷洞は聞こえぬだろう声を向ける。
「痛いのは覚悟してくれるかい?」

成功 🔵​🔵​🔴​

安喰・八束
こうなっちまっちゃ、ヒーローの力とやらも人狼の病も大して変わりゃあしねえなあ。
……ろくでもねえ、身を焼く病だ。
せめてお前さんの心と体が健やかに育ってりゃ、別の道もあったかも知れんが。

「狼殺し・九連」全弾で炎の大鎌を弾き返す。(見切り、武器落とし)
そいつはお前さんの罪を量ってくれねえのかい?
燃えねえなら、嘘っぱちだぜ。
お前さん言ったじゃねえか。見たのか、と。真っ黒な台詞をよ。

……人の道にはどうしたって戻れんもんかね。
どうしようもねえなら、せめて苦しまんように撃ち抜こう。
猟師は得意なんだよ。そういうのはな。



 猟兵が作り出した館へと放り込まれたモノクローム。
 警戒する彼女であるが、館の中には意外な事に、モノクローム以外の人影はいなかった。
 咎を禊ぐための場所と言っていたが、いったい、ここに何があるというのか。
 こんな場所は、自分には合わない。自分にはもっと、相応しい場所があるはずだ。
「それなのに……どうして私はこんなところに来ちゃったんだろう……」
「そりゃあ、お前さんが、道を違えちまってるからさ」
「誰っ……!!」
 モノクロームの言葉に反応したわけでは無いだろうが、その男は現れた。
 館の中にはその男だけしかおらず、男こと安喰・八束は、モノクロームをひたすら睨み付けていた。
「せめてお前さんの心と体が健やかに育ってりゃ、別の道もあったかも知れんが……こうなっちまっちゃ、ヒーローの力とやらも人狼の病も大して変わりゃあしねえなあ」
 表情とは裏腹に、安喰の言葉には哀れみの感情があった。
 どうしてこのモノクロームという少女は、ここに至ってしまったのか。その事を考えると、只々、哀れと思ってしまうのかもしれない。
「私は、私は間違えてなんかいない。私は正しい事をしていた! 私はっ……私は!」
「その叫びの感情なんざろくでもねぇ! 身を焼く病だってのがなんで分からねぇ!」
 そんな安喰の言葉も、モノクロームには届いてくれない。この期に及んで、モノクロームは自らの炎を放ち始める。他人を焼き、自らもを焼きかねない哀れな炎だ。
 モノクロームの炎は大鎌の形を取り、安喰へと迫る。
 その大鎌に対して、安喰は猟銃を構え……引き金を引く。
 それはただの射撃ではなく、尋常ならざる力を用いた獣殺しの魔弾だ。味方を撃たなければ自らの寿命すら縮める対価のある力。
 それこそが力と言うものだ。何の対価も無く、常人を超える力を得られる事など無い。それをまず、彼女は実感するべきだったのだ。
 力を得れば、何かを失う。その危機感こそ、人をヒーローや猟兵などというものへ変える。その実感無くして、ヒーローなど目指すべきでは無い。
「なあ嬢ちゃん。この炎は……嬢ちゃんの罪は量っちゃあくれないのかい?」
 安喰の弾丸により、モノクロームの炎は彼に届く前に散って行った。
 残されたのは、依然変わらず安喰とモノクロームの二人。
「私の……ヒーローとしての力が……」
「その力が、誰かを助けたり、誰かを裁くものだって言うのなら、まずお前さんに向かわないと嘘の力になるぜ。そんな便利な力じゃあない。ただ、転がり込んで来ただけの力を……誰かに振るうもんじゃねぇ」
「それでも……私は……私は! 私は、あなた達みたいになりたかった!」
 モノクロームの敵意は消えてはいない。ただ安喰を睨み付け、再び力を振るおうと立っている。
 だが、やはりそれが安喰は悲しい。
 この館を作った猟兵曰く、この館は敵意あるものに牙を剥くというものらしい。
 けれど、明らかにこちらを敵として見ているモノクロームに対して、館は動かない。それは多分……モノクロームを倒すべき存在が既に館の中に存在するからだ。
 このモノクロームという少女を、倒さなければならないと考える猟兵がここにいる。
 そんな自分の考えなど、館の方が否定して欲しかった。安喰がモノクロームを倒す事は筋違いだと誰かに証明して欲しい。
 だが、ここには安喰とモノクロームしかおらず、銃を握り、モノクロームを狙う安喰がいる。
「お前さん言ったじゃねえか。見たのか、と。真っ黒な台詞をよ」
「どうして……どうして私は、あなた達と違うの? いったい何が違って、ここでこうしているの!」
 既に、モノクロームとは会話も続けられない。だから安喰も、嘆きを言葉にするのだ。少女には届かない、そんな言葉を。
「……人の道にはどうしたって戻れんもんかね。どうしようもねえなら、せめて苦しまんように撃ち抜こう。猟師は得意なんだよ。そういうのはな」
 館に銃声が一発聞こえる。
 事件の終わりは、とある少女の末路は、そういう類のものであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灯火・紅咲
おや?
あの子はどこかで見たことがあるような……?
まぁ、別にどうでもいいですねぇ
思い出せないんですから、きっとどうでもいいことに違いないですぅ

まずは分かりやすいように真正面から駆けてきましょぉ
駆けながら、【ブラッドサンプル】の中からひとーつ血を選んでこくりっ
そのまま血液の持ち主に変身!
変身するのは小さな、小さな女の子
ボク、知ってるんですよぉ?
正義の味方さんはこういう子が相手だと動きが鈍るんですよぉ!
鈍った動きを伸縮する体で避けたら、こそっと【シリンジワイヤー】で【だまし討ち】気味に【吸血】
次は貴女の姿!
そこに動揺したら、もう一回血を頂いちゃいましょぉ

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】



「わぁ! アイスありがとうございますっ」
 とある公園。
 アイスを売る露店で、何段か重ねられたアイスクリームを受け取る少女。
 彼女は明らかに小学生程度の幼さであり、本来は親子連れ目当ての小学生以下割引のアイスを、苦々しげな様子の店員から受け取りながら、露店から離れて行く。
 そうして露店から見えなくなったところで、適当なベンチに座る。
 瞬間、その姿は少女から大きくなっていく。顔立ちも変わり、しかし大人へは至らず、幼き少女は、幼く無い少女へと。
 その少女の姿は灯火・紅咲へと変わり終えた。
 本来の姿を取り戻した彼女は、ベンチに座ったまま、安く購入できたアイスを食べ始める。
「うーん。暦の上ではもうすっかり秋深しですけど、まだアイスの美味しい季節が続きますねぇ。安く買う事もできましたしぃ」
 彼女は自らの力により、血を摂取する事で、その血の持ち主の姿へと変じる事が出来る。
 つまり、アイスを購入する前に、そんな幼い少女の血液を入手していた事になるのだが、それを彼女はわざわざアイスの購入のために使用したのである。
「わざわざ手に入れた血も、無事、建設的な理由で無駄に使わずに済んだって事で。はい。そういう事にしておきましょうねぇ」
 本来ならば、そんな下らない事に使うためのものではなかったが、残念ながら使う機会を逸してしまったので、ちょっとだけお得な買い物に使う結果になった。
 損はしていない。灯火はそんな風に自分に言い聞かせていた。
「あー、アイス美味しいですねぇ。ほんと美味しい。買った甲斐があったと言う事で……あいたたた……」
 少しばかり早く食べ過ぎた。季節も夏をすっかり過ぎている。まだまだ暑い時期とは言え、涼しさだって感じる季節だ。意趣返しをする様にアイスを無理に頬張ればそうもなるだろう。
「んんんんー……ふぅ、なんとか落ち着きましたー」
 今度はゆっくりとアイスを食べ始める灯火。必然的に、心にも余裕が出来る。
 広い心で世界を見ていると、座ったベンチの横に、誰かが置き忘れた雑誌を発見した。
 別に狭い心だって見つけられるだろうと思わないで欲しい。少なくとも、その中身を見てみるなどは、心に余裕が無ければ出来ない行為だ。
「あ、結構最近の雑誌ですねぇ。本当に置き忘れなのかな?」
 ペラペラと流し見していく灯火。そんな彼女の手は、とあるページでふと止まった。
 そこには大きな見出しでこう書かれていた。
【ヒーローを目指した少女の悲しき末路】
 それはとある少女の特集記事だ。
 ある少女はヒーローとしての力に目覚めた。だが、その力の使い方を間違え、殺人を起こしてしまった。そんな、後味の悪い記事である。
「おや? この少女さんの写真、未成年だから顔はモザイクが掛けられてますけど、どこかで見たことがあるような……?」
 全体的な雰囲気しか分からない。明るい未来だと思っていた道の先に、深い落とし穴があった、そんな少女の雰囲気は、どこかで見たかもしれない、灯火の記憶の端に残る少女とダブっている様な。
「まぁ、別にどうでもいいですねぇ。思い出せないんですから、きっとどうでもいいことに違いないですぅ」
 別に、思い出したところで、碌な感情は湧いて来ないだろう。
 そう結論を出した灯火は、雑誌を元の場所に置き直し、ベンチから立ち上がる。丁度、アイスも食べ終わった頃合いだ。
「~♪」
 鼻歌を歌いながら、灯火は去って行った。
 雑誌の最後を締めくくる記事の言葉だけを脳裏に残しながら。



 その記事にはこうあった。
【凶行を続ける少女、他のヒーローとの死闘を繰り広げ、重傷を負うも確保された。命に別状は無く、これから罪を償い続ける事になろうだろう。そうして罪を償い続けた先で、善良な人生を送って欲しいと祈る。若い彼女の未来は、まだまだ先があるのだから】

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年09月25日


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#ヒーローズアース


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は蒼焔・赫煌です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト