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銃撃、剣閃、そして狂える不信

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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 突然だった。
「来たぞ……!」
「……!」
 オブリビオンが占拠する領主館、そこからの警戒の念を含んだ声は、夜空を揺らすほどの咆哮によってかき消された。
 そしてその直後。咆哮に負けず劣らずの勢いが、追加でやって来る。
「――!」
 激震だ。
 館の正面玄関が、否、建物の前面と言える部分全てが、大質量によって強打されたのだ。
 質量の正体は、体高十メートルに至る黒い獣だった。
「……!」
 歪みを得た館から身を剥がし、六足の獣がさらなる打撃を加えようとするが、
「――これ以上の攻撃を許すな!」
 響いた声を合図に、館の内部や周囲から複数の影が飛び出した。
「我ら、狂える獣を正す狂狼なり……!」
 影は、黒鎧に身を包んだ人狼の部隊だった。銃剣を取り付けたマスケット銃を手に、狼の脚力で接近していく。
「――!」
 館の前で一斉の銃声が響き、単発式ゆえの装填の隙を埋めるため部隊の一部が前進。銃剣による刺突を敢行する。
 が、
「……!」
 獣も動いた。
「ぐぁっ……!」
 迫りくる人狼達を四肢で踏み潰し、尾で薙ぎ払っていくのだ。
「…………」
 そんな光景を、館のバルコニーから見ている存在がいた。
 白髪の老人姿は、最初に人狼達へ命令を発した者だ。
「”同族殺し”め……」
「……!」
 老人の忌々しい呟きと獣の咆哮が、戦場に走った。


 猟兵たちの拠点、グリモアベースに一つの声が聞こえる。
「皆様、出撃をお願いしますわっ」
 ベースに響くのは、グリモア猟兵であるフォルティナ・シエロによるものだ。
「現場である世界は、ダークセイヴァー。そこで今回、奇妙な事が起こったようですの」
 それはなにか。
「オブリビオンがオブリビオンを殺す……。所謂“同族殺し”ですの」
 立てた指、そこにオレンジ色のグリモアを浮かばせながら、言う。
「私が予知したのは、オブリビオンが住まう領主館が他のオブリビオンに襲撃される瞬間ですわ」
 これはチャンスですわね、と言葉は続く。
「だって普段はオブリビオンによって厳重な警備がされている領主館が、件の襲撃で弱体化しますもの。これを逃す手はありませんわ」
 そう言って、あるものを出した。地図だ。
「現場の状況を説明しますわ。現地にいるオブリビオンは三種類」
「一つ目は、領主館を警備する銀狼軍。二つ目は、オブリビオン領主である、アーネスト・クリフォード」
 そして三つ目は。
「“同族殺し”……、名前をノクト・ヴァニタスと言いますの。容姿は、体高が十メートル程で六足の黒い獣ですわ。
 皆様には、この三種のオブリビオンを撃破してもらいたいんですの」
 グリモアの輝きを強くしながら、言葉を続ける。
「今から私が、グリモア猟兵の能力で皆様を戦場へテレポートさせますが、そこでは皆様とオブリビオン、そして“同族殺し”の、三つ巴の現場となることが予想されますわ」
 一人ひとりの顔を見て、言う。
「“同族殺し”は狂気をまとったためか、とても強大なオブリビオンですの。けれど、それに対して即座の迎撃を放った領主館の警備もまた、強固ですわ」
 これはつまりどういうことか。
「“同族殺し”を上手く利用すれば、領主館突破の助けになり、そして“同族殺し”の疲弊も狙えると、そういうことですわね」


シミレ
 シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
 今OPで19作目です。ダークセイヴァーは3回目です。
 不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。

 ●目的
 ・三種類のオブリビオンの全撃破。

 ●説明
 ・ダークセイヴァーで、狂ったオブリビオン“同族殺し”が領主館を強襲したので、それに乗じて猟兵達も攻め込み、館の警備をするオブリビオン、領主のオブリビオン、そして“同族殺し”の全てを撃破を狙います。
 ・一章は集団戦で、“放棄する銀狼軍”が相手です。場所は領主館の正面で、“同族殺し”が暴れています。
 ・二章はボス戦で、“アーネスト・クリフォード”が相手です。
 ・三章もボス戦で、“同族殺し”、ノクト・ヴァニタスが相手です。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これ言ってますが、私からは相談見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
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第1章 集団戦 『蜂起する銀狼軍』

POW   :    シルバーバレット
自身の【命】を代償に、【他の構成員を超強化。彼ら】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【銀の弾丸】で戦う。
SPD   :    決死の覚悟
【自ら頸動脈を切断する】事で【最終戦闘形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    抹殺の意思
【戦闘後の確実な死】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【高速連射形態】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達が転移した先で得たものは押し寄せてくる轟音と風圧、振動だった。
「もう始まっている……!」
 誰かがそう言ったとおり、現場は戦場となっていた。
 領主館の前、そこにある広場でノクト・ヴァニタスと銀狼軍が衝突しているのだ。
「――!」
 館の窓から突き出たマスケット銃が散発的に火を吹き、ノクト・ヴァニタスの足元では銃剣による刺突が。
 そしてそれらを振り払うように、ノクト・ヴァニタスが巨体を振るい、回していく。
「介入するぞ……!」
 オブリビオン同士の戦い。そこに猟兵達は身を投じていく。
ツェツィーリエ・アーデルハイト
同族殺し!同族殺し!
まさかあなた方のような汚らしい化物に同族意識があるだなんて思ってもみませんでした。本当に、本当に気持ちが悪いですね
本当に、頭に来ます。なんででしょうね?
それに、狂気!あぁ素晴らしい話ですね?
そんなものが無ければこんなことにならなかっただなんて、本気でお思いで?
そこまで高尚な存在だとでも?
その傲慢さが気に食わない、その慢心が気に入らない!
その汚泥のごとき「人間性」が!化物のくせにッ
私の憎悪を、うけとれッ
(呪詛、封印を解く)




 「……?」
 異変に気付いたのは銀狼軍の内の一人だけだった。
 音……?
 微かな音だと、そう思ったが、
 否、違うな……。
 自分達は狼としての聴力を有しているが、轟音が鳴り響く戦場だ。そんな中で聞こえるものはそう多くない。
 轟音を差し置いて、己の聴覚がその音を“拾った”のだ。
 異質だ。
 その思いを軸に、聞こえる音に耳を澄ませば、己は気付いた。
「笑い声……!?」
 弾かれるように身を飛ばし、マスケット銃を警戒の先に向ける。
「――――」
 いた。
 夜とは黒の色が支配する空間だが、そんな中でも浮き彫りになるほどの黒衣を身にまとった影だった。


 ツェツィーリエは笑っていた。
「――同族殺し?」
 耐えきれないと、そんな風な思いすらも得る。
「――猟兵がいる!!」
 眼前、オブリビオンがこちらに銃を突きつけて叫ぶが、構わない。
 だって、それ以上に不愉快なことがありますもの……。
 “それ”を、己は幾度も口にする。
「――同族殺し!
 そうだ。“それ”だ。
「同族殺し! 同族殺し……!」
 確かめるように、何度も告げる。
「まさかあなた方のような汚らしい化物に、同族意識があるだなんて……」
 そんな風なことを、己は思ってもいなかった。考えたこともなかった。
 しかしそんな正しく予想外な結果が、眼前にある。
「……!」
 戦場の中央で暴れまわっている獣型のオブリビオンに、周囲に配置された他のオブリビオンが攻撃を加えているのだ。
「本当に……」
 オブリビオンがオブリビオンを殺している。そんな光景を見て、己の感情は一つだ。
「――本当に気持ちが悪いですね」
 こちらの言葉に、オブリビオン達は答えない。しかしそれにすら構わず、己は言う。
「あぁ、本当に頭にきます。何ででしょうね?
 それに狂気! あぁ、素晴らしい話ですね?」
「……!」
 獣の咆哮を聞きながら、言葉を続ける。
「そんなものが無ければこんなことにならなかっただなんて、本気でお思いで? そこまで高尚な存在だとも?」
 そこまで言って、己は身を折った。
 額を腹につけるほど身を折り、喉から漏れる声に合わせて肩を揺らす。
 笑っているのだ。
「――その傲慢さが気にくわない!」
 だが、次の瞬間には顔を挙げ、叫んでいた。
「――その慢心が気に入らない!」
 だってそうでしょう? と、唇が呟く。
「その汚泥のごとき“人間性”が! 化物のくせにッ……」
 そこまで言ったとき、気付いた。
「“同族殺し”撃破に利用できるかと、そう思ったが、狂獣を狂人を呼び寄せるか……!」
 銃を向けていたオブリビオンが、いつの間にか複数になり、こちらを半包囲する陣形を敷いていたのだ。
「構わん! 殺せ!」
 人狼達が、引き金にかけた指に力を込めるのを見て、
「――――」
 己は、口角を引き絞るように上げた。
「私の憎悪を、うけとれッ……!」


 黒の色が視界を埋め尽くした。それが、銀狼軍が第一に得た感覚だった。
 猟兵のユーベルコードかと、そう思った次の瞬間に、全員の身体が得たのは、
「……!?」
 高温だ。身を焦がすほどの熱が身体を走っている。
「――!!」
 戦場に気管を焼かれた絶叫が追加された。
「黒炎だ……! 総員、猟兵から離れろ! 奴の身体から――」
 それを見ていた誰かが警戒の声を挙げたが、しかしそれ以上続かなかった。見れば、声の主は炎から離れた位置にいたはずなのに、
「――――」
 胸を押さえ、膝をつき、そして地面に倒れ伏せた。
 絶命したのだ。
「――私の本性は、憎悪」
 近くにいたものは炎に焼かれ、そうでなくとも命を奪われ、辺りは死体の山だ。そんな中を、猟兵が歩く。
「――――」
 肌の上に描かれた術式から、黒の炎を零しながら。
「――燃え猛る怨嗟の炎」
 女が、一人また一人と、戦場を死体で埋めていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
……さて、久々に身体を動かすとするか。
狙撃は楽で良いんだが……まあ、こういう乱戦も懐かしくて良い。


つまり――"同族殺し"を狙うのは後回しにしろ、という事か。
……上手く扱えば格好のデコイになるな。

気配を消して敵陣へ奇襲。
重要なのはスピードと対応力。
敵の銃口が向く前に距離を詰め――或いは銃をクイックドロウして応射。
脳の性能が許す限り個々の敵の挙動を把握し見切って常に最適な戦闘を心掛ける。
一切無駄無く最小の労力で最大の戦果を。
銃術、暗殺術、ナイフ術、剣術、柔術etc. 手札は豊富。




「…………」
 華乃音は離れた位置から戦場を見ていた。
 乱戦だな……。
 戦場の様子だ。強化された己の視力だとよく見える。
 領主館の前にある広場で“同族殺し”が暴れており、それを包囲するように銀狼軍が配置され、銃撃や刺突を加えているのだ。
「そしてそこに、俺達猟兵が加わる……」
 乱戦だ。三つ巴は混乱の様相を呈すだろう。
「……“わたしは、あなたの前にわたしの恐れを送り、あなたが入って行く土地の民をすべて混乱に陥れ、あなたの敵をすべて敗走させる”……」
 聖句だ。自分で諳んじたが、その内容に思わず鼻で笑ってしまう。
 だが、
「――久々に身体を動かすとするか」
 狙撃は楽で良いが、こういう乱戦も懐かしくてまた“良い”。そんなことを考えながら、己は掌に意識を向ける。
「――――」
 すると次の瞬間には、黒の短剣が手に握られていた。
 “to be vengeance.”。通称、“Gespent.”の名を有する、己の武器の一つだ。
 それを一度手の平で回し、構えると、
「――!」
 身を前に倒し、大地を蹴った。
 行くのだ。


 銀狼軍は最初、異変に気づかなかった。
「――おい! 味方の損耗が激しくなってきてないか!?」
 そんな中、疑念を感じた一体が声を挙げる。
 だが、
「あの巨体だぞ! こっちを紙屑みたいに吹き飛ばしてくる!」
 そうだ。敵はノクト・ヴァニタス。巨大な獣なのだ。一度身体を振り回せば、こちらを大きく削ってくる。
「だけど――」
 それにしたって多すぎる、という言葉は続かなかった。
「!?」
 隣にいた仲間が突如膝をつき、倒れ伏したからだ。
 その首からは、噴水のように血が吹き上がっている。
 敵襲……!
 急ぎ身体を回し、銃口をノクト・ヴァニタスから剥がす。
 ……そこか!
 見えた。剥がした銃口を向ける先にいるのは、襲撃者だ。
 だが、
「疾い……!」
 視えたのは一瞬で、それも銀という色だけだ。銃口を向けるこちらの射線から逃れるように、高速で戦場を駆けている。
「クソ……! どこだ……!」
「て、敵襲! 敵襲! 新手、――ぐぁっ……!」
 もはや気付いているのは自分だけではない。襲撃者は高速で駆けながら、その手に持つ刃でこちらを削り取っているからだ。
 一人、また一人と削られていけば、こちらの身体を遮蔽物にして駆け回っていた襲撃者の姿がだんだんと露わになる。
 見えていた銀の色は一部で、それは襲撃者の頭髪だ。黒の装束から伸びる腕には、同じく黒の短刀が握られている。
「猟兵か……!」


 華乃音は、己の持つ全ての技術を発揮していた。
「敵は一人だ……!」
 離れた位置にいる敵の集団が吠え、こちらに銃口を向けようとマスケット銃を回す。
 だが、
「――――」
 己の方が速い。
 強化された視力と、それを受け止める脳の処理能力によって、何もかもが把握できる。
 周囲にいる銀狼軍の表情や、引き金にかける指の力の強さまで、視界に映る光景全てがコマ送りのように感じられ、
「いない……!?」
 敵が銃口を向けた時には、すでに自分はそこにいない。
 回る。
 地を蹴り、膝が胸につくほど姿勢を低くし、一迅の風となって戦場を回っていく。
 疾風。戦場に生じるのはその一語だ。
「くっ……!」
 こちらを捉えきれず、銃口を左右に振り回す敵達に距離を詰めていき、
「ぐぁああっ……!」
「ガッ……!?」
 その首に、胸に、おおよそ人体の急所と言える部分へ“Gespent.”を突き立て、
「――!」
 掻き切っていく。
 血飛沫の紅が吹き上がるように夜闇を彩るが、それすらも背後に捨て置き、己は行く。
 しかし、
「捉えたぞ……!」
 敵がこちらを包囲するように陣を敷いた。
 次の瞬間、
「――!」
 陣にいる全てのオブリビオンが、自分の頸動脈に銃剣を突き刺したのだ。
「ぉおお……!」
 多数による大量の出血は、戦場の一角を血煙で埋めた。そんな濃霧の中を獣の吠声が聞こえた。
 来るのだ。
 銃剣、爪、牙。ありとあらゆる武器をこちらに向け、代償によって得た爆発的なスピードで押し寄せる。
「――だが遅い」
 己の超視力は、敵が行う自傷の予備動作も見切っており、血の霧の中であっても、全ての敵の位置を把握していた。
 ならばどうなるか。
「――終わりだ」
 手に持った黒艶の短剣を正面に投じるのと同時、逆の手に現れるのは一丁の自動拳銃だ。
 “to be silence.”。静寂の名を持つそれを己は手繰り寄せると、
「――――」
 回った。
 低く屈んだ身を独楽のように回し、引き金を連射していったのだ。
 銃は全方位から迫りくる敵に向けて、全くの無音で弾丸を叩き込み、
「…………」
 己が立ち上がるころには、全ての敵が倒れ伏していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

才堂・紅葉
【連携改変歓迎】

「堅牢無比と名高き領主館を陥すこの好機。必要経費が嵩んでも仕方ないわよね♪」
笑顔と【コミュ力】で経費交渉し、虎の子の特殊詠唱弾を装填する。
紋章の力を上乗せしたマグナムは地形すら破壊する威力だが、この館の守りを抜くには一押し足りない。

蒸気バイクで戦場を駆け、自動小銃の【援護射撃】で味方を援護。
本命は【戦闘知識、情報収集】で戦場と戦況を俯瞰し、敵防衛線の弱みの探索だ。
「こっちよデカブツ!」
狙い目を見つければ榴弾を同族殺しに放ち【おびき寄せ】。
バイクで逃走しつつ、紋章の【封印を解いて】リボルバーでUCを壁に発射。
即ターンで離脱しつつ、【地形を利用】しデカブツを銀狼達に突っ込ませたい。


ニトロ・トリニィ
アドリブ・協力歓迎です!

オブリビオン同士が戦ってくれるなら、お互い消耗して討伐し易くなるんだけど…
うーん、楽観視し過ぎかな?
とにかく、今はこの銃撃戦をどうするのかを考えなくちゃね。

敵は自分の頸動脈を切って強くなるUCを使う様だし、《第七感》と〈情報収集〉を使って敵UCの発動を予知しつつ、強化される前に対物狙撃銃【血煙丸】で狙撃して仕留めてみようかな。
本来この銃は装甲車を攻撃する為の武器だから… もしかしたら、壁の向こうにいる敵も狙い撃てるかも?

前に出て戦う仲間がいるのなら、〈援護射撃〉で援護するよ!


アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)
オブリビオン同士で殺し合うんだ。おかしいこともあるんだね
どうして狂っちゃったのかは知らないけど…
確かに、利用しない手もないよね

【新緑、始まりの息吹を此処に】を使用
”獣化形態”になって、銀狼軍の相手をするよ
同じ速さでなら体躯が大きほうが有利…なはず。戦場を駆け抜けながら、爪や牙、尻尾で薙ぎ払いながら戦うよ。攻撃ついでに生命力も一緒に吸収できたら良いよね

銃とかでの攻撃は動体視力に聴覚、野生の勘で反応して避ける。同族殺しの方に攻撃を押し付ける事も考えておく
…出来れば、程度にね。あんなに暴れ回っていると、わたしも危ないもの




 戦場から離れた場所、そこで突き立つような影がある。
 影は、高い。二メートルを優に越す影の主は、アウルだ。
「…………」
 地上から高い位置にある緑の双眸で、興味深そうに戦場を眺めていたと思えば、
「へぇ〜……」
 瞬きを数度。
「オブリビオン同士で殺し合うんだ。おかしいこともあるんだね」
 どうして狂っちゃったのかは知らないけど……と、付け加えると、
「――お互いに戦ってくれるなら、消耗して討伐し易くなるね」
 別の声が飛んできた。声は横、アウルの肩より少し低い程度の高さからだ。
 そこにいるのは、黒い粘性の肌をミリタリー風の防寒具で包んだニトロだった。
「ニトロくんの言う通り、確かに、コレを利用しない手もないよね」
「自分でも、楽観視し過ぎかな? って思ったりもするけどね。でも……」
 アウルを見上げてた視線を戦場へと戻し、ニトロが言う。
「とにかく、今はこの銃撃戦をどうするのかを考えなくちゃね」
「バンバン撃ってるねー」
 そこまで言ったときだった。
「――あれ? もう始まってます?」
 背後、そこからの声に振り向いてみれば、転移の残光を散らした影がある。
 大きな物に跨ったシルエットの人影は、紅葉だ。
「ちょっと寄るところがあって。そのままバイクで来ました」


 グリモア猟兵から依頼を聞いた紅葉は、転移を行う前に立ち寄ったところがあった。
「ええ、そうです。今回の依頼はダークセイヴァーで……」
 UDCアース。そこにあるUDC組織の支部だ。
 今回の依頼の内容説明と、そして何より、
「相手は、堅牢無比と名高き領主館……。これを陥すこの好機だもの、必要経費が嵩んでも仕方ないわよね?」
 経費交渉だ。戦闘で生じる出費のフォローを頼みに来たのだが、
「――え? あまりに高すぎる? いえいえ、だってオブリビオンが支配する館で、それに」
 それに、
「出現した“同族殺し”は十メートル級の獣。生半可な相手ではないわ。つまり、これは超高い詠唱弾の中でも特殊な詠唱弾を用意するしかない……。――そういうことよね?」
 鈍い汗をかく職員に対し、己はとびきりのスマイルを送った。


 ともあれ戦場だ。
 紅葉は聞く。
「――!」
 咆哮だ。その中心にいるのは、暴力の化身で、それを囲む大軍もいる。
 対するこちらは三人。寡兵だ。
「そんなときの戦法は、古今東西で一つよね」
 戦場に向かって歩いていく姿を見送りながら、言葉を送る。 
「――――」
 鼻歌交じりで歩いていくアウルだ。
 しかし、その姿が徐々に変化していっている。


 アウルは大地の上を歩きながら、自分の身体を変えていった。
「ちょーっとだけ、カタチを変えるよ」
 それは草花に包まれた足裏から始まり、やがて身体全体にまで波及していく。
「――敵襲! 新手だ!」
 ……お? 気付いた?
 銀狼軍がこちらに気付いたのだ。二メートルを越す己は遠目からでもよく分かると、そういうことだろう。
 だがそうしている間にも身体の変化は進む。
 地を踏む足が二足から四足となり、首は長く、胴は太く、
「――――」
 爪牙が鋭利に発達する。
 そんな姿を何というか。
「獣が増えたぞ……!」
「当たり……!」


 アウルは大地を蹴った。一歩目から全力だ。
 走るというより、蹴り跳ぶって感じだよね……。
 踏みしめ、力を送り、背後へ蹴り跳ばし、跳ぶ。一歩が数メートルを優に超えるストライドだ。
 そんな走りでただ前に加速していけば、衝突を恐れた敵が様々な行動を選択する。
「――!」
 側方にいる者達は銃撃のために小銃を構えた。
 正面にいる者達はもはや衝突は必至だ。なので銃剣を構え槍衾を。
 そしてそれら即席で出来た防衛陣の後方では、
「速度に食らいつくぞ……!」
 残りの銀狼軍が、ユーベルコード発動のために、銃剣を己の首に向けた。
 だが、
「させないわよ……!」
 高く、吹き抜けるような音と共に、己の左後方から飛び込んできた影がある。
 紅葉だ。
 蒸気バイクを唸らせながら、戦場を駆けていく。


 紅葉は行く。アクセルを捻り、前へ。
 獣化したアウルを遮蔽として隠れ進んでいたが、双方の衝突間際。そこをタイミングとして己は飛び出した。
 現状、己がいる位置は銀狼軍とアウルの中央、その左手側だ。
「近づけさせるな!」
 正面、向かって陣の左側に配置された銃撃部隊が応射を加えて来るが、
「――!」
 こちらの方が速い。右手一本で構えた自動小銃を抜き打ち気味に乱射し、牽制。その頃になれば、
「行っくよー?」
 アウルと敵の防衛陣地が正面衝突、否、あれは、
「――降ってくるぞ!?」
 敵の悲鳴通りの結果が生じた。


 銀狼軍はそれを見た。
 残った銃撃部隊からの射撃を見切り、跳躍で回避した獣が、金の鬣をたなびかせ、上空から落ちて来るのをだ。
 二メートルを越す巨体の踏み付けだ。正面にいた槍衾部隊は頑丈な蹄で砕かれ、
「楽しいねー!」
 陣地の中で、暴風が吹き荒れた。
 陣の中央まで文字通り“踏み込んで来た”相手が、爪牙と尾を振るい、こちらを吹き飛ばしていくのだ。
「――!!」
 黒と蔓草。双獣の咆哮が戦場に響く。そんな中、さらなる異変に気づく。
「まずいぞ……! ――全員、攻撃を加え続けろ! 草の獣は吸収能力持ちだ!」
 草の獣が身に纏う蔓などが、攻撃に合わせて勢いを増しているのだ。
「なら……!」
 再生を上回る攻撃速度を得るために、再度ユーベルコードを発動しようとした小隊がいたが、
「遅いわよ!」
 蒸気を吹く機馬に跨った女が、縦横に駆け回りながら、こちらの攻撃の初動を潰していく。
 草の獣が中央で暴れ、外周を回るように機馬が征く。
 どちらかに意識を向ければ、どちらかに突かれる。連携だ。
「このままでは磨り潰される! ――館まで退くぞ!」
 館の前では以前、“同族殺し”が猛威を振るっているが、ここに残るよりは勝算がある。そう判断し、
「撤退支援を頼む!」
 館にいる仲間に向けて合図を送るため、館へ振り返る。そこでは、既にこちらの状況を把握していたのか、一部が“同族殺し”から射線を変更し、その銃口を、否、銃剣を己の首に向けていた。
 ただの射撃ではなく、ユーベルコードによって強化された射撃を送ろうと、そのつもりなのだ。
 だが次の瞬間には、館にいた仲間の首から上が弾け飛んでいた。
「――!?」
 攻撃だ。猟兵によるものなのは間違いない。
 一瞬、機馬に跨る女の銃撃かとも思ったが、それにしては様子がおかしい。
 揺れる機馬の上から、離れた位置にある屋敷の窓を、それも頭を撃ち抜けるとは思えないし、現に女は今も、崩壊した防衛陣地であるこちらに向けて連射の真っ最中だ。
 そして何より、威力が女のものとは桁外れだ。今のは頭を穿たれたのではなく、弾け飛んだのだ。血煙を上げて。女に殺された仲間達の傷とは違う。
 そうして意識を巡らせながらも、屋敷の中の血煙は増えていく。
 だが、血煙の数が増えるに連れて、同じく増えるものもあった。
「――――」
 低く、重く、しかし空気を破るような勢いを持った長音。それが血煙が出来てから一拍の間を置いて、響いて来る。
「――狙撃だ!」
 それも超長距離からの。


 あー……、バレたかな……。
 ニトロは転移された場所からほとんど動いていなかった。
 小高くなった丘で身を伏せ、持ってきていた長物を身体に密着させるように横たえると、その上部に瞳を近づけ、手で長物を動かす。そして右手の人差し指を
「――――」
 引き絞る。
 先ほどから自分が行っているのはそれだ。それだけだ。
 だが“それ”を行うとどうなるか。
「……!」
 引き絞りと同時。雷鳴のような音が轟く。するとレンズによって増幅された視界の先で、
「――ヒット」
 銀狼の首から上に、花が咲いた。花の色は紅で、咲き誇ったかと思えば、霧のように散っていく。
「血煙だね……」
 己が今持つ長物、“血煙丸”。狙撃銃であるそれは、自身の名前通りの現象を生じさせた。
「――――」
 右手を引き金から離し、スコープ近くのボルトを引き、薬莢を排出。すかさずボルトを押し戻すことで、次弾を装填。
 そしてスコープを覗き込めば、
「――あれ、いない」
 館の中の敵が、いなくなっていたのだ。
 しかし、
「でも、いけるよ」
 己はそれに構うこと無く銃口を向け直すと、引き金を絞った。
 発射された弾丸は、紅葉やアウルがいる防衛陣地の上を突っ切っていく。そして館の窓ではなく、その横の壁に弾着すると、
「――!」
 石で出来た壁と、その裏に隠れていた銀狼が砕かれた。
「これ、対物狙撃銃だからね」
 口径にして二十ミリだ。スコープの先では、遮蔽物が無効化されたことを知った銀狼軍が慌てふためいている。
 一矢報いようとこちらに射撃を送ってくるが、マスケット銃の射程距離では到底たどり着かない位置にいる。
「――ヒット」
 そうしてまた壁を砕き、銀狼軍を仕留める。
 もはや防衛陣地は、館からの援護射撃は望めないだろう。
「頼むよ二人共……!」
 作戦が、次の段階に移行していくのだ。


 行こうと、アウルは思った。
 こちらの勢いに押され、目の前の敵は後退しており、館からの煩わしい射撃もニトロの狙撃で無くなった。
 つまり己を妨害するものは無く、次の一手を打てるということだ。
「“同族殺し”の方へ……!」
 自分も行くが、己だけではない。狙いは銀狼軍だ。
「駄目だよ逃げちゃ。そっちじゃなくてこっち!」
 敵の後方から追い込むことで、銀狼軍を同族殺しの方へ向かわせるのだ。
「――!!」
「ク、クソ……!」
 “同族殺し”が吠え、暴れ狂っている中へ敵を押し込むようにしていく。
「っとと……。あんまり近づけ過ぎたらわたしも危ないよね……。――わっ、危ないな……!」
 “同族殺し”に吹き飛ばされた銀狼軍を自分の尾でさらに弾き返しながら、己は進撃を緩め、
「こら、逃げちゃ駄目だよー」
 自分からも“同族殺し”からも逃れようと必至の銀狼軍を追いかけ、
「ぐぁあ……!!」
 爪で弾き、牙で貫き、尾を連続で叩きつけていく。
「」
 銀狼軍を掃討するにつれてその生命力を吸収し、頭の蔓草も好調。つまりはいい気分だ。
 これ以上の接近は危険なため己は進撃を緩めたが、しかしむしろ加速する者もいる。
「おぉー……。何だっけ、ウィリーっていうんだっけ? アレ」
 紅葉だ。
 スピードを緩めず、敵の群れの中に突っ込んでいく。


 荒れるわね……!
 戦場の場所が移った際の紅葉の感想はそれだった。
 “同族殺し”と接近したことは勿論のことだが、路面もまたしかりだ。
 “同族殺し”が暴れまわった大地は抉れ、吹き飛び、定常な場所を探す方が困難で、そんな路面の悪化は現在進行形だ。
 大地はノクト・ヴァニタスの生み出す振動で揺れ、銀狼軍の死体や武器がそこら中に散乱し、何より大量の血でぬかるんでいる。
 タイヤが空転する。周囲には敵がいるため、速度を落とすのは命取りだ。なので身を低くすることで重心を押し下げ、押さえ込む。それでも足りなかったら己が持つ重力制御だ。
 サイドミラー。そこで後方を確認すれば、獣化状態のアウルは路面に捕われることなく、四肢で元気に蹂躙している。
 四駆……!
 そんな単語が脳内に浮かぶが、ともあれ周囲を確認。
 館の前の防衛戦は未だ健在だが、所々に綻びが生じている。
「――!」
 その一点に向けて、己は持っていたアサルトライフルを撃ち込む。石壁を弾き、硬音と火花が散る。
「――!!」
 それを目印に、次の瞬間にはそこへ向けて、後方から狙撃が飛来する。ニトロだ。
 あっちはニトロさんに任せて……!
 ライフルの前部にあるもう一つの引き金に指をかけ、
「――こっちよデカブツ!」
 撃った。
 銃口の下、マウントされた発射器から放たれた榴弾が“同族殺し”の身体に命中し、
「――!」
 炎と爆風が表皮の上を包んだ。
「……!!」
 今までとは別種の攻撃に怒りを露わにした“同族殺し”が、こちらに向けて突撃してくる。
「成功……!」
 こちらとしてはスロットルを全開にして、逃走だ。
 前輪を浮かし気味の始動で、一目散に離れるが、“同族殺し”も追ってくる。
「そのままついてくるのよ……!」
 向こうは十メートルを越す巨体だ。全速で逃げないとこちらが踏み潰される。
 一瞬見えたメーターは時速百キロ超え。転倒すればただでは済まない速度だ。
 そしてそんな高速で接近していく前方にあるのは、先ほどからニトロが狙撃し続ける館の外壁だ。
 二十ミリによって威勢よく削られた外壁。周囲はひび割れている。
「そして極めつけはこいつよ!!」
『――コード:ハイペリア承認。高重力場限定展開ランク2実行』
 低い、男の声が響くのと同時。ライフルから手を離して負い紐に流すまま、右手でリボルバーを抜き取り、
「――――」
 引き金を引いた。銃口から飛び出した特殊詠唱弾はまっすぐに亀裂が走る壁に向かって行ったが、
 見てる暇無いわよ……!!
 外壁前の鉄柵に衝突する前に、刻印の残光残る手でブレーキを握り締め、身体を傾けて高速でターンすることで回避。
 背後となった外壁で、爆発にも似た弾着音が響く。放った詠唱弾だ。
「!?」
 一方、急に方向転換したこちらについていけなかった“同族殺し”は、そのまま鉄柵をへし曲げながら、館に激突。
「――!!」
 対物ライフルと特殊詠唱弾によって積み重なっていたダメージに、ノクト・ヴァニタスの突進が合わさればどうなるか。
「爆砕するぞ……!!」
 外に残っていた銀狼軍の悲鳴にも似た叫びも、岩山が砕けるような破砕音と粉塵が周囲にぶち撒けられることで、聞こえなくなった。


 巻き上がった粉塵が次第に治まり、その結果を戦場にいる全員へと露わにした。
「――――」
 堅牢な石造りで出来ていた領主館は、その端から端までが瓦礫と化し、積み重なるそれらの間からは、多数の銀狼軍の身体の一部が見えていた。
 そして瓦礫の上には、突進の勢いのあまり転倒していた“同族殺し”が起き上がり、
「……!!」
 再起の咆哮を轟かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノエル・マレット
魔力開放。砲陣展開。龍創……収斂。全弾装填良し。

統率された軍のようですが……“同族殺し”に目が向いている今こちらとしては好都合でしょうか。
こうして、いつもより魔力を練るのに集中できます。
他の猟兵の方々、それに“同族殺し”への誤射を「第六感」で回避。
着弾後の混乱に乗じて私自身も切り込みます。決死の体制を取られたら厄介ですので速やかに、確実に。

――放て!【噛み砕け、金龍の牙】!!




「――魔力開放」
 他の猟兵より後方、その位置でノエルは集中していた。
 攻撃のためだ。
 己の身体を中心に魔力光が派手に発光するが、構わない。
 現場はそれどころじゃありませんよね……。
 敵が防衛の拠り所としていた領主館が崩壊したのだ。それによって残存した銀狼軍を大きく混乱している。今も、砕きの結果である粉塵は館の跡地を霧のように包んでいた。そして何より、
「――!!」
 “同族殺し”だ。霧の向こう側で、大きなシルエットが暴れ狂っている。館に激突した興奮を引き金に、周りの物を無差別に破壊して回っているのだ。
 つまり、
「統率された軍のようですが、好機です……!」
 銀狼軍は混乱が最高潮の中、“同族殺し”に蹂躙されているのだ。
 こちらに注目が向いていないのであれば、攻撃の準備にも意識を強く割ける。
「――砲陣展開」
 告げた言葉に合わせ、解き放たれていた魔力が形を作る。
 魔力光をインクに、空中をキャンバスとして描かれた平面図形は円系だ。
 その数、百七十五。それら全ての円は、前方にある霧の方へ向き、内部に微細な呪文と幾何学的な模様を張り巡らせていた。魔法陣だ。
 直後、
「――――」
 全ての陣の表面に、上書きされるような流動が生まれる。流動の正体は、金色の、細い糸状の魔力光だった。
「…………」
 金の魔力光は最初、陣の表面をただ無秩序に駆け巡っているだけだったが、その本数が徐々に増加していき、陣の中でひしめき合うようになった糸は、次第にそれぞれが集合を、
 否、
「――収斂」
 そうだ。その言葉通り、互いに引き寄せ合い、一体となった魔力がその形を変えていく。
「――龍創、収斂」
 龍だ。
 もはや陣の表面を野放図に暴れ回るどころか、中央にその身を静止させた魔力は、一体の金龍へと姿を変えていた。
「――――」
 その数、百七十五体。
「――放て! “噛み砕け、金龍の牙”!!」
 それら全てが叫びに押し出されるように発射され、霧の中へと飛び込んでいった。


 銀狼軍の大半がいる領主館跡地は、地獄の様相を呈していた。
「総員、体勢を立て直せ……!」
「――!!」
 塵埃の霧に覆われた周囲で知覚できるのは、館の破壊から逃れたアーネストが出す指示の声と、霧の中で暴れ回る“同族殺し”の影と咆哮と震動だ。
 視界は不確かで、次の瞬間には狂気がすぐ隣にやってくる。
 だがそんな地獄に、追加が来た。
 追って、加わる。その言葉通りの存在がやって来たのだ。
「――!!」
 金の光だった。霧の外からやって来る百を超すそれらは、まるで生きてるかのように空中を流れ、“同族殺し”の影を回避。
「クソ……!」
 逃げるこちらを正確に追尾し、地獄に加わってきたのだ。
「――!!」
 すると叫びが聞こえた。“同族殺し”ではない。複数の咆哮は、金の光からだった。
「龍か……!!」
 霧の中、咆哮の正体を見る頃には衝突は必須だ。
「ぐぁ……!!」
 霧のあちこちから聞こえる叫びを押しのけるように、アーネストが叫んだ。
「――総員、抹殺せよ!」
 合図だ。戦闘後の確実な死を代償とした自身の超強化。それを自分達に命じたのだ。
「……!」
 指示に従い、ユーベルコードを発動しようとしたそのときだった。
「――させませんよ!」
 最後の追加は猟兵だった。
 霧の中から自分達の正面に現れた女は、手に持っていた魔法剣を振りかぶり、
「やぁあっ……!!」
 尽くを斬り伏せていった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『『堕落せし者』アーネスト・クリフォード』

POW   :    穢れし刃
自身の【古びた手記】が輝く間、【長剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    一時撤退
小さな【鍵束】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【出現位置を任意で変更できる脱出経路】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    従属の血
【他者を貪り喰らう疑似吸血鬼】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニレッド・アロウンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 領主館の破砕によって生み出された塵埃の霧は、やがて風に吹き飛ばされ、現場の様子を露わにした。
「――――」
 大地の上には倒れ伏した銀狼軍があちこちに存在し、もはやそのどれもが動く事はなかった。
 静寂。その一語を感じさせる風景だったが、しかしそこは未だに戦場であった。
「――!!」
「狂える獣何するものぞ……!」
 “同族殺し”とアーネスト。オブリビオン同士が死闘を繰り広げていたのだ。
 そして、その死闘に参加しているのは猟兵達もまた同じだった。
 “同族殺し”、アーネスト、猟兵。
 三つ巴の戦場を打破するために猟兵達が選んだのは、領主館の主、アーネスト・クリフォードの撃破だった。
ツェツィーリエ・アーデルハイト
ご自慢の、かどうかは存じませんが…まぁ普段の厳重な守りもこの程度ということですね。たかが獣に破られる程度では、いずれはこのざまというのも納得です。そうではありませんか、貴方たち?
【UC起動】
あぁ、胸が高鳴りますわ。普段は届かぬ御方を、その澄ましたご尊顔が歪むさまを見るのは、素敵なことですわ。その表情をしておられるほうが、ずぅっと魅力的ですよ、反吐が出ます。

それでは、領主さま、でよろしいのですかね
まぁいいでしょう。手札は配られ、今宵の賭場は開かれた
さぁさ、貴方は貴方にどれだけの値打ちを込められたのか、見せてくださいまし。そのすべてを、踏みにじって海に沈めて差し上げますね
(呪詛、鼓舞、封印を解く)




 怒涛だった。
「――!!」
 吠声をそのままに“同族殺し”が暴れ回り、
「……!!」
 アーネストが迫りくる暴風から身を翻して回避。反撃の一太刀を浴びせる。
 戦場を包むそんな流れの中で、しかしそれとは真逆の存在がいた。
「――――」
 ツェツィーリエだ。吹き荒れる戦場の波を全身に浴びながら、しかしまるで意に介さない。
 “同族殺し”と相対するアーネストに顔を向け、言葉を紡いでいく。
「ご自慢の、かどうかは存じませんが……。まぁ普段の厳重な守りもこの程度ということですね」
 見上げる。そこにいるのは“同族殺し”だ。
「たかが獣に破られる程度では、いずれはこのざまというのも納得です」
「くっ……!」
 アーネストはこちらに対しても攻撃を送ろうとしているが、“同族殺し”からの攻撃が絶えない。
「――そうではありませんか、貴方たち?」
 なので己は、悠々と召喚を果たした。


 アーネストが見たのは、二体の影だった。
「…………」
 片方は、プレートアーマーを着込み、その上から宗教的なシンボルが描かれたサーコートを羽織った姿だ。
 そしてもう片方は、同じ紋章を携え、杖を持った僧衣姿だった。
 “神殿騎士”と““聖職者”だ。どちらも顔の部分はメットとローブに覆われ、窺い知れず、身動き一つ取らない。
 ただ、彼らから能動的に感じられる部分があるとすれば、
「――――」
 低い、地を這うような呻き声が本当に微かに聞こえることだった。
「あぁ、胸が高鳴りますわ」
 そんな二人の様子を気に留めず、女は言葉を続ける。
「普段は届かぬ御方を、その澄ましたご尊顔が歪むさまを見るのは、素敵なことですわ」
 慇懃な態度だ。明らかにこちらを挑発してきているが、実際こちらは劣勢で、それは表情にも出ているのだろう。
「その表情をしておられるほうが、ずぅっと魅力的ですよ、反吐が出ます」
 女の表情は能面のように笑みで固定され、言葉は朗々と紡がれる。
「それでは、領主さま、でよろしいのですかね。まぁいいでしょう。手札は配られ、今宵の賭場は開かれました」
 女は今、この場を賭場と言った。ならば賭け金は何か。
 決まっている……!
「さぁさ、貴方は貴方にどれだけの値打ちを込められたのか、見せてくださいまし。――そのすべてを、踏みにじって海に沈めて差し上げますね?」
「……!」
 唯一の存在を賭けて、女が戦場に乱入してきた。


 ツェツィーリエは“騎士”が駆けるのを見た。手に持ったメイスと盾を構え、一直線にだ。
「――!」
 位置関係的には別角度からだが、“同族殺し”の巨体故、戦場を突っ切ろうとすれば干渉され、その進撃は困難を極めるが、
「……!」
 後方に控えていた“聖職者”が加護を“騎士”に送り、衝突や干渉の緩和が果たされる。
 そんな激風に揉まれるように、転がるように突破してみせた騎士は、
「……!」
 メイスを振りかぶり、アーネストへ打撃を加えていく。
 大きく振り回し、かと思えば持ち手を短くスイッチし、小回りの効く打撃を送る。
「傀儡共が……!」
 敵の反撃もやってくるが盾で防ぎ、防ぎ切れないものは加護の術式で凌いでいく。
 しかし、
「小癪な……!」
「!?」
 次の瞬間、アーネストの様子が変化した。
 瞳は紅く、その唇からは尖った犬歯が見え、
「――!!」
 一切の理性を感じさせない咆哮が響いた。
 尋常ではない様子は一見にして解る。
「まぁまぁ。ご自身を吸血鬼に……、いや、正確には紛い物ですわね、それ。どちらにせよ貴方達のような存在にはお似合いですけれど」
 しかしと、眉をひそめながら、アーネストの顔を見る。
「せっかく歪んだ、気持ち悪い顔でしたのに、理性を失ってしまえばそれも退屈ですわ」
 歯を向き、目は血走り、荒い呼吸で、獣のようだ。只々目の前の“騎士”と“同族殺し”に猛攻を放っている。
「ご自身の値打ちは獣相当と、そういうことでしょうか」
 残念、というよりは退屈、その念で溜息をつく。
「……!」
 そんな中、“騎士”は強化されたアーネストに押され、今にも膝を屈しそうだ。
 それにはさして意識を向けず、己は言う。
「早く終わらせて下さります? ――心優しい者たちよ」
 己がそう告げた、そのときだった。
「……!!」
 “神殿騎士”と“聖職者”が一瞬震えたかと思うと、咆哮を挙げ、その活動を盛んにした。
 打撃は激しさを増し、加護の術式はその出力を上昇させる。
「我らに私心なく、また私身なし……」
 己が言葉を風に乗せるだけで、二体はさらなる力を手にしていく。
 封印を解いているのだ。
「――さぁ、逝きましょうか」
 紡いだ直後。
「ガァァァッ……!!」
 “騎士”のメイスが、アーネストの身体を強打し、吹き飛ばしていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋翠・華乃音
この後にもう一戦控えているとはいえ、直感を鈍らせたままでは苦戦しそうな相手だからな……異理の能力を少し解放しよう。

先ず対応に必要なのは長剣及び攻撃範囲の間合いを読むこと。
他の猟兵が戦闘しているのならそれを『視る』だけで済むが、そうでないのなら身を以て体感するしかない。
心掛けるはヒット&アウェイ。
間合いの外では拳銃、接近されたなら懐まで潜りナイフやダガーで応戦。
攻撃を完全に『読んだ』のなら攻勢に転じる。
悉くを見切る事で敵の動揺と焦りを誘い、致命的な一瞬の隙をも逃さず攻撃。
呼吸、脈拍、視線や手足の動き、利き手効き目、守勢や攻勢に至るタイミング、筋肉の収縮……オブリビオンとはいえ、人ならば『視える』




 華乃音は銀狼の血で濡れた短剣を振り払い、変化した戦場を見る。
「…………」
 アーネストと“同族殺し”が激突を繰り広げ、戦場の状況は強大な個と個の激突となっていた。
 まずはアーネストを撃破することが優先だが、その後には“同族殺し”との戦闘も待っている。
 強大な相手だ。相対する際に油断は許されず、ともすればこちらが押しつぶされかねない程の重量差だ。
 直感を鈍らせたままでは苦戦しそうな相手だからな……。
 次戦を見越しての戦い。そのような意識に切り替えると、
「――――」
 己が見ている景色が一変した。
 否、正確には景色が変わったのではない。
 変わったのは俺の方だな……。
 そうだ。景色だけでなく、周囲の音も大気の感触も、何もかもが先ほどまで変わったとしか思えないのは、己の方が変質したからだ。
「――――」
 大気、音、景色、光、風、声、何もかもが掌の上にあるかのようだ。そんな圧倒的な情報量に、しかし脳は圧されることなく、全てを知らせてくる。
 前方、そこにいる二体のオブリビオンの動きは共に絡み合い、嵐のようだったが、
「――そこだ」
 大地を蹴り、前方の戦場へと飛び込んでいった。


 嵐の外側、そこから飛び込んできた敵影にアーネストは最初、反応出来なかった。
「……!?」
 つい先程まではそこにいなかったはずの存在が、いつのまにか姿を現しており、
「――!!」
 その手に握った短剣を高速でこちらに浴びせ掛けてくるのだ。
 猟兵だ。
「いつの間に……!」
 対する自分はそれらを長剣で受け流し、ときには身を翻して回避し、何とか難を逃れる。
「おのれ……!」
 反撃を送ろうと長剣を翻すが、その時には既に猟兵はそこにはいない。代わりにとでも言うように、こちらへやって来るのは、
「!!」
 無音で射出された、複数の弾丸だ。
 慌てた動きで剣を振るうが、遅い。何発かはこちらの身体を削り、背後へと流れていく。
「逃さんぞ!」
 だが己は傷に捕らわれず、“同族殺し”を躱しながら、猟兵の元へと距離を詰めていく。
 接近し、斬撃を浴びせ掛け、次の瞬間には後退し、射撃。たった数度のやりとりだが、敵の戦法は明白だ。
 一撃離脱だ。その目的が“同族殺し”と戦ってるこちらへの妨害なのか、それとも、
 こちらを測っているのか……。
 定かではないが、このまま敵を放っておいて良いはずもない。
「仕留めさせてもらうぞ……!」
 そう言って、敵に距離を詰めた瞬間、
「――――」
「!?」
 後退し、距離をとっていた向こうも、こちらに踏み込んできた。
「くっ……!」
 完全にこちらののタイミングを見計らった踏み込みだ。懐に潜り込まれたため、長剣はその優位性を失い、防戦一方だったが、
「――!」
 “同族殺し”が吼える。
 尾を振り回し、こちらも猟兵も、自分にとっての全ての敵を排除しようと動いたのだ。
「――――」
 丸太のように太い尾の薙ぎ払いが、地表を高速で吹き飛ばしていくのを、己と猟兵は後方の宙返りを叩き込むことで回避。
 貰った……!
 宙返りにて僅かに稼いだ距離と時間を使い、己はユーベルコードを発動する。


「――――」
 華乃音は、アーネストが左手に握る古い手記が、輝き始めるその一瞬の瞬きすらも見逃さなかった。
 次の瞬間には、光は膨れ上がり、その光に押されるように、アーネストが長剣を振り上げ、
「はぁっ……!」
 一本だったその太刀筋が、九つの銀閃へと変わる。それは、こちらの身体を包み込むようにして降り注いできた。
「――だが視えている」
「なっ……!?」
 己は手に持つ短剣、“Gespent.”を翻すと、その銀閃全てに刃を押し当て、逸し、弾き飛ばした。
「……!」
 だが敵も速い。弾かれた長剣を、次は下段に構え、やはり九閃。
「――――」
 そしてそれも弾いた。
 視える……。
 先ほどまでの数度の接触で、己の強化された知覚と脳の演算処理能力は、敵の全てを把握したのだ。
 剣と剣がぶつかり合うこの距離だ。相手の呼吸や脈拍は音として聞こえ、視線や手足の動きはその筋肉の収縮まで視覚として感じられる。
 それらを踏まえ、相手の守勢や攻勢に至るタイミングといった動きの癖を収集していけば、
「馬鹿なっ……!?」
 相手が次に取る一手も予測できる。
 こちらの完璧な迎撃に動揺した相手は、致命的な隙を露わにし、
「お……のれ……!」
 黒艶の刀身を、その身に深く突き刺していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

才堂・紅葉
【アドリブ・連携歓迎】

さて、まずは城主様を倒したい所だけど。
この局面ではあの【一時撤退】が厄介ね。

方針としては【戦場知識】で戦況を把握しつつ、少し離れた距離から【援護射撃】を行い、機会を見て【忍び足】で気配と姿を消したい。

本命は追い込まれた城主が鍵束を取り出す瞬間。
【野生の勘】で機を計り【ガジェットブーツ】で跳躍し【鍵束】に触れたい。
「ごきげんよう、おじさま」
内部にて【先制攻撃】のローからの裏STFで。【封印を解いた】紋章の力を重ね敵UCを打破したい。
「そして、さようなら」
現実世界に帰還すれば技を解いて城主と距離を取り、錬金手榴弾で光【属性攻撃、マヒ攻撃】。
同族殺しの【おびき寄せ】も狙う。


ニトロ・トリニィ
アドリブ・協力歓迎です!

彼がこの館の主人か…
うーん、期待した程は消耗していないみたいだ…
無傷で乗り切る事は出来ないかもね。

相手は剣を使った戦いをする様だし、僕も接近して戦うしか無いね!
おや?銃はどうしたのかって?
あはは… もう弾切れなのさ…

剣士としてはまだまだ未熟だ… 彼には敵わないね… でも、触手を操る技術なら誰にも負けない!… とは少し言い過ぎかな?
腰から生やした蒼き灼熱刃を攻撃に使って、〈盾受け/激痛耐性〉を合わせた蒼き灼熱盾と《蒼炎の剣》で剣撃を防ぐ感じになるかもね。
敵に隙が生まれたら〈カウンター/シールドバッシュ〉を狙っても良さそうだね!




 突然、戦場に新たな要素が加わった。
 射撃音だ。大気を破り裂くような勢いを持った連射のそれは、一人の猟兵が音源だった。
「……!」
 紅葉だ。片膝をつき、先ほどの戦闘から引き続き使用しているアサルトライフルでアーネストに射撃を送っている。
 落ち着いて……。
 相手は離れた距離にいて、人間大の大きさだ。トリガーを引く指は断続的で、銃のセレクターもそれに準じている。
「――!」
 スコープで増幅された視界の先、アーネストが長剣を振るい、迫りくる弾丸を叩き落としている。
「ま、コレで倒せるとは思ってないけどね……」
 できることなら、簡単に仕留めたい。というのが己の感想だ。
 厄介なユーベルコードを持っているようだもの……。
 事前に仕入れた敵の情報は、十分に警戒に値する内容だった。
 今、自分が与えている射撃は、その“ユーベルコード”に対する牽制といった要素も持っているが、一番は別だ。
「――援護射撃よ。行って、ニトロさん」
 ライフルの射線と垂直に交わるように、人影が一直線に飛び出した。
 夜闇に染み込むような黒はニトロの姿だ。
 アーネストと“同族殺し”がいる地点目掛けて、駆けていく。


 うーん……、期待した程は消耗していないみたいだね……。
 アーネストと接触したニトロは高速で距離を縮めていく中、敵の状態を分析する。
 他の猟兵達によって与えられたダメージは見られるが、銀狼軍攻撃の際のダメージと思しきものはほとんど見て取れなかった。
「無傷で乗り切る事は出来ないかもね」
「笑止! 生かして帰すと思うか!?」
 こちらが零した言葉に、アーネストが歯を向いて答え、
「――!!」
 次の瞬間には剣戟が来た。
「容赦ないな……!」
 対するこちらが構えるのは、腰部から生やした蒼い触手、“蒼き灼熱刃”と“蒼き灼熱盾”だ。
 僕も接近して戦うしか無いね……!
 両方とも物質化した蒼炎で創り出した、超高温を放つ斬撃用の触手であり、相手の攻撃を凌いでる今では、それを発揮する機会を見出すのが最優先目標だ。
 だが、
「くっ……!」
 敵が放ってくる剣は苛烈の一言だった。右腕一本、それも老人のもので振るわれる長剣は、重く、速く、重なるようにこちらに与えられていく。
「問うぞ!」
 すると、優勢故の余裕か、敵がこちらに言葉を投げかけてきた。
「あの銃で、わしを撃ち抜けばよかったのではないか!」
「ああ……」
 疑問だ。あの銃というのは、己が持つ“血煙丸”のことだろう。
「何故そうしなかった!?」
 しかしあれを使うことが出来ない理由はある。
 それは何か。
「いや……実は……その……」
「?」
 言う。
「――アレもう弾切れなのさ……。あはは……」
「正直に答えるやつがいるか……!」
 聞かれたから答えたのに怒られるのは、ちょっと理不尽じゃないかな……。


 そうよねと、紅葉は夜闇の影から影へと、身をを運びながら、思う。
「二十ミリで遠距離からズガァンッ! って出来たら、まぁ楽よね……」
 あ、でも“同族殺し”に当たったらマズいか……、とそんな風にも思うが、実際に通用するかはどうかはともかく、もしそれが出来ていたら、今の戦況も少しは変わっていただろうかとも思う。
「…………」
 見る。もはやニトロとアーネストがクロスレンジで接敵したことにより、不要となったライフルのスコープで、だ。
 傷が増えてるわね……。
 ニトロのことだ。
 敵は手練で、戦闘のイニシアチブは向こうだ。ニトロは触手の“盾”で受け、“剣”で反撃、というのが一連の流れだが、全体的に防戦を強いられている。
 刻一刻と、ニトロの腰部から生み出された“蒼き灼熱盾”の表面に刀傷が増えていっている。
 だが、
「――あの様子だったら、いけそうね」
 己は戦場への介入を選択せず、次の一手の準備を進めていった。


 押し切る……!
 アーネストはその思いを確信し、長剣を振るう手を緩めなかった。
「くっ……!」
 今、己の目の前にいる黒肌の猟兵は、先ほどからこちらの攻撃に対してあまり有効打を返せず、身体から生やした触手の“剣”と“盾”で凌ぐので精一杯だ。
 いける、とそう思う。
 ならば……!
 己は長剣による攻勢をそのままに、左手に意識を集中させる。
「そろそろ終わりにさせてもらうぞ、若造……!」
 速攻だ。
 ……こいつだけにかまけている暇は無い!
 今、戦場にいる猟兵は目の前の相手だけではないのだ。“同族殺し”は勿論、最初にこちらへ射撃を寄越してきた者もいる。
 今は流れ弾による誤射を防ぐためか、射撃は治まったが、
 そうすると今は逆に静かすぎる……。
 防戦一方の味方がいれば、救うために介入するのが普通だ。もしそれが出来ないのであれば、やはり何かしらの動きがあるはず。
 今がその動きの最中なのかどうか知ることは出来ないが、敵がこちらに対して無策で突っ込んでくる筈もない。
 危険だ。
「我が刃を受けよ……!」
 故に、その危険を排除するため、己はユーベルコードを発動した。
 次の瞬間だった。
「……!?」
 己が放った九重の攻撃全てが、猟兵に届かず、弾き飛ばされていた。


「うーん、僕は剣士としてはまだまだ未熟だね……。貴方には敵わないや」
 ニトロは腰部から生える“盾”の表面を眺める。そこにあるのは、先ほどまでの戦いでついた無数の刀傷だ。その上にある一番新しい傷は、たった今生じた、九重の斬撃によるものだ。
「――でも、触手を操る技術なら誰にも負けない! ……とは少し言い過ぎかな?」
 自分で放った言葉に気恥ずかしくなり、頬を掻くが、敵はそれどころではないようだ。
「――今までは、触手として十全に使っていなかったな!?」
「うん。剣士として敵わないか、って判断するには、剣士として戦わないとね。まぁ、本当に敵わなかったわけだけど……」
 そう言ってる間にも、“剣”と“盾”は、触手としてのその特製を遺憾なく発揮していく。
 すなわち、
「――柔軟性だね」
 直後、
「――――」
 “蒼き灼熱剣”はそのシルエットを鞭のようにしならせ、“蒼き灼熱盾”はその盾の表面から、四本の斬撃用の触手は、まるで花弁が開くように自身を露わにしていった。
「さぁ、それじゃあ次はこっちからいくよ」
 そう言って、大地を蹴り、まっすぐに距離を詰めていく。
「――!!」
 アーネストを射程に捉えた“蒼き灼熱剣”は、空中を泳ぐように、刺すようにして、その灼熱の刀身を運ぶと、
「くっ……!!」
 上段、中段、下段。ありとあらゆる方向からしなりを持った斬撃を連撃し、迎撃をされても、その弾性で跳ねるように戻り、威力を何倍にして返していく。
「おのれ……!」
 このままでは“剣”に追い込まれると察知したアーネストが、こちらの懐に踏み込むことで、その間合いから逃れようとするが、
「甘いよ……!」
 正面から来るアーネストに向けて、“盾”が、まるで加速されたように押し出される。相対速度は一瞬で、
「がはっ……!?」
 次の瞬間には、アーネストの胴が超高温で強打されていた。
 シールドバッシュだ。


 激突。その一語が相応しいほどの衝撃を身に受けたアーネストは、空中を吹き飛ばされていく。
 ぁ……。
 あまりに強烈な打撃と高温によって揺れる意識と視界の中、それでも理解できることは幾つかある。
 一つ、己の意識が不明瞭であること。
 一つ、それは猟兵の攻撃が原因であること。
 一つ、現在は、周囲に猟兵と“同族殺し”がいること。
 そして最後の一つは、
 己には“脱出経路”があること……!
 半ば本能的に左手が振れたのは、懐にある鍵束だ。
 これで助かると、そう思い、ユーベルコードを発動していると、気付いた。
 手……!?
 鍵束に、誰かもう一人が触れていることが解った。
 霞む視界をこらして見てみると、
「――ごきげんよう、おじさま」
 宙に浮いているというより、吹き飛ばされている己に追随している女がいた。


 敵のユーベルコードで転移した先の光景は、どこか街中の路地裏然とした場所だった。
「――まぁ、どうでもいいんだけど」
「ぐぁっ!?」
 紅葉はそう言うと、ニトロのシールドバッシュで依然フラついているアーネストを、ガジェットブーツの重量が乗ったローキックで沈め、
「――――」
 アーネストの片足を曲げさせ、己の足の間に挟み込む。
 そして地面と相手の背中の間に、己の身体を差し込み、
「――はっ!」
「ガァ、アァァァッ!!」
 自分の腰で相手の腰を押し上げるようにしながら、首に回した肘で喉を締め上げれば、一つの技が完成する。
 裏STF……。
「ァアアアアアアッ……!!」
 自分が持つ紋章の力をも乗せた一発だ。オブリビオンといえど、まともに耐えられるはずもなく、
 どうでもいい周囲の景色が……!
 変わったと、そう思った瞬間には、自分は血に濡れた大地の上で裏STFをかけていた。
「……な……せ……!」
 腕の中、アーネストが呻く。離せと、そう言っているのだろう。
「し……き……か!?」
 死ぬ気か。その言葉の意味は、自分でも解っている。
「――――!!」
 すぐ近くで、“同族殺し”が咆哮をぶち上げているからだ。
 流石に自分もオブリビオンと心中するつもりはない。
「ごきげんよう、おじさま」
 最初に告げた言葉を再び繰り返し、己はアーネストを開放する。
「……! ……!」
 咳き込みながら、転がるようにしてこちらから距離を取ったアーネストが、再度鍵束に触れようとするのを見ながら、
「――そして、さようなら」
 己は、懐から取り出した錬金手榴弾をアーネストの顔の前に落とし、
「……!」
 己はガジェットブーツの跳躍機能をフル稼働させた。


 夜の闇の中、光の華が地表に咲いた。
 色は白で、花弁は放射状の広がりだ。
「――!?」
 突如、近くに生じた閃光に興奮した“同族殺し”は、その巨体を運び、まるで光を埋めるように、
「――!!」
 その六本の足で爆心地を踏み鳴らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウル・トールフォレスト
(※好きに(ry)

狼の次はおじいさん。黒い獣は相変わらずで…
だいぶ楽しくなってきたね!
わたしも温まってきちゃった!

【侵緑、熾烈なる混沌を呼べ】を発動
速さの獣化形態から、胞子を纏う防御の混沌状態へ
痛みを気にせずにおじいさんに殴りかかるよ!

爆発する胞子は、死体を苗床に更に増殖する…周囲に罠を作りながら戦うよ

おじいさんのユーベルコードには、“同族殺し”を利用して
わたしはあまり動かずに、さっきと同じように攻撃を押し付ける。その為の防御に特化した混沌状態
両方の消耗を待ちながら、ジッと耐えてるよ




「――!」
 揺れる。
 景色も、大気も、地面も、何もかもが等しく振動の結果を得ている。
 狼の次はおじいさん。黒い獣は相変わらずで……。
 振動の原因は、オブリビオン同士の戦闘によるものだ。そんな戦場の上で、アウルは獣化した首をもたげていた。
 高い位置からの視線の先では、“おじいさん”と“黒い獣”の二体のオブリビオンが争っているのがよく見える。
 双方と共に随分傷つき、これまでの戦いがどれだけ激しかったかを如実に表していた。
「だいぶ楽しくなってきたね……! うん、わたしも温まってきちゃった!」
 昂ぶる感情が胸中に湧くのを自覚する。前脚で大地を数度掻いてしまうのはその発露だろうか。解らない。
 しかし、
「――――」
 その感情に逆らわないことにし、その姿を再び変化させた。


 夜の戦場は、月光によって全てのものが照らされるが、
「――――」
 戦場のある部分だけが、ほんの数分前とは決定的に違っていた。
 無数にある銀狼の死体も、荒れ狂う巨獣も、灰の外套に身を包む老剣士も先ほどとは変わっていない。
 変わったのは一点。
「――――」
 蔓草の獣が立っていた場所に、別のものが存在しているのだ。
「…………」
 その姿は全体的に曖昧で、その姿を見る者がいれば、不定形な印象を受け取ることは必至だった。
 中心や、核と、そう言えるような部分は、朧気に人のシルエットを映しているが、具体的な言葉で形容できるのはそこだけだ。
 “それ”を包む外皮とも言うべき部分は胞子の集合体であり、あまりに流動的だった。色も形も、一時たりとも定まったものを維持していないのだ。
「――――」
 外皮である胞子は、“それ”から盛り上がるように生じると、震えたり、さらに膨らんだりといった動きを見せ、同じく盛り上がってきた他の胞子と集合したり、かと思えば分裂し、
「――――」
 剥がれていく。
 小さな球体や、それよりも細かい粒子状になった胞子が、風に流されるように散っていく。
 そしてまた、新たな胞子が生まれ、外皮となって無秩序な膨張を見せる。
 絶えず、定まらず、発散していく。
 混沌。草蔓の獣の後に生まれたものには、その形容が相応しかった。
「…………」
 やがて漂う胞子が、地表にある銀狼軍の死体の一つに付着すると、
「――――」
 瞬く間に、死体の表面を覆い尽くすほど増殖した。
「――あはは! イイ感じっ」
 人型のシルエットの頭部、そこにある二対の赤の色は、胞子にまみれた銀狼軍の死体に向けられていた。


 アーネストは自分が見たものが何か解らなかった。
 何だあれは……!?
 “同族殺し”との攻防の最中、それが視界に入った。
「――――」
 こちらに接近してくる不定形の存在だ。
 その曖昧な姿は風に揺れ、周囲に霧散していたので最初、進行方向というものが解らなかったが、間違いない。あれはこちらに近づいてきている。
 高さにして約二メートル半。先ほどまでいた、猟兵である蔓草の獣と同じ高さであり、その獣は現在、周囲に姿を確認できない。
「同一と、そう見るべきだな……」
 接近してきたことによって胞子のような表面と、その内部の人型のシルエットがよく確認できる。恐らく“本体”はそこだ。
「……!」
 “同族殺し”の攻撃から飛び退ることで逃れ、その勢いのまま件の猟兵へ距離を詰めると、
「何をするつもりか知らんが、絶たせてもらうぞ……!」
 相手に攻撃させる機会を与えず、手に持つ長剣を横薙ぎに振り払った。
「……!」
 身長差がある相手だ。斬撃が走り行く先は相手の腰部、そこだ。
 回避か、防御か……。
 霧のような見た目の相手だ。もしかすれば幻影かもしれない。相手がどのような選択しようとも対応する。そう、意識を改めて強めたときだった。
「――それじゃ、こっちはパンチでいこっかなー!」
 声が聞こえ、シルエットが拳を、斜め打ち下ろしの軌道で振り下ろしてきた。
「……!!」
 こちらの剣が、相手の腰部へ。
 相手の拳が、こちらの身体へ。
 二つの衝突はほぼ同時であり、
「――!!」
 次の瞬間には、己の身体だけが殴り飛ばされていた。
 否、正確には、
「……!?」
 己の身体だけが、吹き飛ばされていた。


 敵が吹き飛んでいったのが、打撃によるものだけではないことは、吹き飛ばしたアウル自身がよく解っていた。
 受けた斬撃をものともせず、己は胞子で覆われた手でガッツポーズをする。
「よーし! 爆発の方もイイ感じ……!」
 胞子の特性による爆発。オブリビオンを襲ったものの正体はそれだ。
「ガッ……、ハッ……!!」
 視線の先、衝撃によって地面を転がったオブリビオンが、肺から押し出された空気を求めて喘ぎながら、立ち上がろうとするが、
「――その辺りにもあるよね?」
「なっ……!?」
 オブリビオンの周囲、地面の上に転がる銀狼軍の死体達は、その尽くが胞子にまみれていた。
「――!!」
 爆発が連鎖していった。
「――――」
 多重の衝撃によって地表が水柱のように吹き上がり、視界が遮られる。
「――あっ。何だか危ない予感……」
 そう呟いた瞬間、吹き上がる土砂の壁が切り払われた。
「ぉおおおおお……!」
 ユーベルコードによって、己を強化したオブリビオンが土砂の向こうからやってきたのだ。
 強化された身体能力は、爆発によって吹き飛ばされた距離など、一瞬の内に縮められていく。
「それっ! それそれっ!」
 己は迫りくる敵の周囲を順次爆発していき、その進撃を止めようとするが、
「おぉお……!」
「駄目っぽいね……」
 相手の勢いが止まらない。さてどうしたものかと、そう思っていると。
「あっ」
 来た。目の前の相手のことではない。
「……!!」
 “同族殺し”だ。
 爆発に刺激され、両者の間に割って入るように爆心地に向けてやってきたのだ。
「――それじゃ、後は任せるね〜」
「……!!」
「おぉあぁ……!!」
 オブリビオン同士の攻防は、こちらにも無視できない余波が及んでくるが、膨大な数の胞子に包まれた己には、有効打足り得ない。
 ……おぉう、揺れるね〜……。
 戦場の激震に揺られるがまま、己は両者の消耗を待った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノエル・マレット
三つ巴の形ですが――先に叩くのは領主ですね。
九倍の手数で攻撃してくるならこちらも手数を増やして対処します。
【色彩よ巡れ、紫陽の剣】展開。攻撃回数を強化して周囲に従えて切り結びます。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ。足りないぶんの攻撃は『ルケイオス』と『アルケー』で更に受けます。[盾受け、オーラ防御]
……一本少ない、ですか?正解です。先程“同族殺し”に向けて射出しましたので。
さあ、来ますよ!([属性攻撃]で炎を放ち目くらましをしつつその場から飛び退く)




「クソっ……! 傷が深い……」
 夜の戦場、そこに突如出来た空間の裂け目から、転がるようにしてアーネストが姿を現した。
 地面に手をついて立ち上がり、背後を振り返る。
「ともあれ大分離れることが出来た……」
 “同族殺し”だ。猟兵達のみならず、巨獣の攻撃はこちらの身体に著しいダメージを与えた。
 咄嗟にユーベルコードを使用しなければ、“同族殺し”にあのまま嬲られ、無事では済まなかっただろう。
 態勢を立て直せねば……。
 そう思い、戦場から離れようと身体を引きずって進み始めたときだった。
「――――」
 突然、視界に光が入った。光は色を持っていた。
 空と大地の間、黒に挟まれた位置にあるのは青の色だ。
 淡く光るそれは、視界の中で次第に大きさを増していく。
 接近してきているのだ。
「猟兵……!」


 ノエルはアーネストとの戦闘を開始した。
「――!」
 相手を撃破する。そのために己が選択した手段は単純だが、それ故、強固に行くことが出来た。
「お相手願います!」
 剣による接近戦だ。片手には“ルケイオス”、もう片方には“アルケー”を構え、敵に正面から突撃をかけていく。対する相手は、杖代わりにしていた長剣をこちらに構え直し、迎え撃つ。
「おぉ……!」
 魔力で作られた剣と、鋼の刀身が正面から衝突し合い、夜の戦場に火花が生じる。
「……!」
 互いは衝突に動きを止めることなく、弾かれた反動を次の一撃に乗せて繰り出す。繰り出し続ける。もはや音と光は多重で、途切れない。
 このまま凌ぎます……!
 戦闘の火蓋を切ったのは己だが、そこからの戦法は防御重視だった。
 周囲、光源は月光と己の武器に宿る魔力光、あとはせいぜい舞い散る火花程度だ。そんな状況では相手の表情などはあまり読めないが、解る。
 こちらが突撃した時、相手は長剣を杖代わりにしていました……。
 猟兵と“同族殺し”、双方による攻撃はアーネストに無視できないダメージを蓄積していたのだ。
「くっ……!」
 あまり攻め込まず、しかしユーベルコードによる撤退は阻止する。
 満身創痍の相手は、そんな戦法を取られればどうするか。
「――押し通らせてもらうぞ……!」
「……!」
 来た。
 否、来るのだ。こちらを突破するために。
 戦場に変化が生じる合図は、やはりまた光だった。
 アーネストの左手、そこにある手記が光り輝いている。
「はぁあ……!」
 攻撃回数の九倍強化。敵がそれを実行するため、長剣を振りかぶった。


 しかし、
「!?」
 新たな光は、己だけではなかったことをアーネストは知った。
 眼前、猟兵の周囲に漂う光は、やはり魔力で出来た剣で、複数。そして色もまた青だけでけではなかった。
 赤と紫……。
 そして紫。濃淡はあるが、全ての魔力剣とも見た目はその三色だ。移ろうように、巡るように、その刀身の色を変えていく。
 紫陽花かと、そう思っていたら、気づいた。
 猟兵が新たに生み出した魔力剣の数は、七本だったのだ。既に手に持っている剣と盾を合われば、相手の手数は上限が九となる。
 そしてこちらも九つの斬撃を同時に放てる。すなわち、
「どちらが勝つかと、そういうことか……!」


 斬撃と斬撃が激突した。
 一手目は上段だった。脳天、そこを断ち割ろうとした一閃は、真横から払われた横薙ぎの魔力剣に阻まれ、叶わない。
 二手目と三手目は袈裟斬りだった。鳩尾辺りで交差する斜め打ち下ろしの軌道は、下からかち上げられてきた双剣に阻まれ、叶わない。
 四手目は刺突だった。先ほどの交点である鳩尾目掛けた高速の突き込みは、同じく高速の刺突に阻まれ、叶わない。
 五手目と六手目は中段だった。二刀で挟み込むような攻撃は、手に持っていた剣と盾に阻まれ、叶わない。
 七手目と八手目は下段だった。両膝狙いの斬撃は、姿勢を崩すはずだったが、真上からの叩き込みに阻まれ、叶わない。
 そして、
「おぉ……!」
 九手目は断頭だった。首を断つ。その一念での攻撃は宙を切って進んでいき
「!?」
 しかし魔力剣が迎撃に来なかった。
 否、それどころか、
「――一本少ない、ですか?」
 猟兵の言う通りだ。最初、魔力剣は七本あったはずだが、その内の一本が今、見当たらない。
 どこだと、そう思っていると、猟兵が言った。
「正解です」
 言葉は続く。
「――最後の一本は、先程“同族殺し”に向けて射出しましたので」
「!?」
 瞬間、猟兵の周囲を漂う魔力剣から開放されたような勢いで、火炎が一斉に放たれ、こちらの視界を埋め尽くした。
「待――」
 待て、というこちらの言葉は続かなかった。
「……!!」
 その時には既に、大地を踏み鳴らす足音と夜を揺らす咆哮が、真後ろまで近づいていたからだ。
 
 
 下からの光で照らされたアーネストの顔は、多量の出血で蒼白だったが、その目には未だに闘志が灯っているのを、ノエルは見た。鬼気迫る、正しくそのような雰囲気だ。
 老体で、満身創痍だが、突破されてもおかしくない。
「……!」
 次の瞬間、アーネストの顔が見えなくなった。己の視線を遮るように、長剣を振り下ろしてきたからだ。
「――――」
 

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『ノクト・ヴァニタス』

POW   :    (世界に選ばれた者?そうなんだ、すごいねえ)
単純で重い【尾】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    (ボクの前で好きに動けると思ったんだ?)
【視界を奪う黒い霧】【呼吸を阻害する白い風】【抑えきれない怨念】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    (キミ達なんか、だいっきらい!)
【凝り固まった人類への不信感】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はサンディ・ノックスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達はそれを見た。
 銀狼軍とアーネスト、二種のオブリビオンとの戦闘を得た“同族殺し”、ノクト・ヴァニタスの姿をだ。
「――――」
 その体表には弾痕や火傷といった傷が無数にあり、その長大な尾は所々が千切れ、傷ついていた。
 体躯を支える六足は一番に攻撃を受けたためか、斬撃の痕や、爆発による抉れがいたるところにあり、出血が止まらない。
 もはや撃破は間近と、そう言える雰囲気だが、
「――!!」
 “同族殺し”は吼える。傷などで己を止めることは出来ないと、そう喧伝するように。
 大地と空を揺らす絶叫。猟兵達はそれを合図に、最後の戦闘に挑んでいった。
才堂・紅葉
【アドリブ連携歓迎】

「さて、それじゃあ詰めに入りますか」

【戦闘知識】で冷静に相手の負傷を見極める。
手負いが一番危険なのは鉄則だ。
そして手負いはやはり手負いでしかないのも鉄則だ。

蒸気バイクを駆って円の動きで周囲を巡り、傷ついた足に銃撃と榴弾を叩きこんで味方の【援護射撃】も行いつつ、後ろ足の一本に念入りな【部位破壊】を試みる。
狙い目は【尾】の一撃。
【封印を解く】で【オーラ防御、グラップル】の十字受けを狙う。
「馬鹿ね。腰が入ってないのよ!」
地形は破壊されても自身はUCを発動し、質量の軽減した尾を【気合、怪力】で受け止め、【カウンター】の投げ飛ばしでダウンを狙う。
後は他の猟兵に託す。

「追撃お願い!!」


ニトロ・トリニィ
アドリブ・協力歓迎です!

へぇ、大きいね。
さっきの老剣士とは違った迫力があるかな。
ふふ… 少しだけど、楽しくなって来たよ!

今回は敵のUCの被害を最小限に防ぎつつ戦いたいかな!
《第七感》で敵の行動を予測しつつ、視界を奪う黒い霧・呼吸を阻害する白い風には技能〈念動力〉で何とか吹き飛ばしたいね!
これで消しきれなければ、蒼き灼熱刃をバタつかせてどうにか…
怨念には〈呪詛耐性〉で対抗しよう!

あの巨体… 倒す為にはかなりの火力が必要だよね… 攻撃には僕の戦車であるメルカバMk.Ⅴ-FXで行うよ!
敵の隙を突いて強力な一撃を叩き込みつつ、〈援護射撃〉や〈鼓舞〉なんかで味方の行動を助けても良いかもね!




 咆哮によって打撃された大気が、波のように周囲へ押し寄せていく。
「――――」
 そんな波を切って進んでいく姿がある。
 紅葉だ。
 行く道は依然イレギュラーで、押し寄せる波濤が横合いから殴りつけてくる。
「……!」
 揺れる。バイクの進路が不確かになるが、それを押さえ込んで安定させると、己は首を回し、戦場の中で塔のようにそびえる巨体を見る。
 手負いね……。
 高速で流れていく視界だが、敵が連戦によって傷を負い、疲弊しているのは見て取れた。
「厄介と、そう言えるわ……」
 追い詰められた敵がどれだけ危険かは、自分もよく知っている。だが、
「好機とも、そう言えるわよね!」
 あの巨獣をここまで追い詰めたということでもあるのだ。
 もう一押し。その思いを胸に、己はアクセルを捻った。


 紅葉が切るハンドルの角度は常に右だった。すなわち、
「回るわよ……!」
 “同族殺し”を中心点として、時計回りの大きな円を描いていったのだ。
 顔を振り返って見てみれば、己の右手側後方に常に“同族殺し”がいる。そして敵に向けるのは視線だけではなかった。
「喰らいなさい!」
 ライフルの銃口だ。直後、そこが火を吹いた。右手で抱えた小銃が、弾丸を連続で吐き出していく。
 揺れる車体の上であってもその弾丸の群れは正確に“同族殺し”の後ろ足の一本に吸い込まれていき、
「……!!」
 そこにあった傷口を穿ち、広げていった。
「――!」
 攻撃に対し“同族殺し”が怒りの声を挙げ、こちらに突っ込んでくるが、
「っ……!」
 己は身体をインに傾けて転回。敵の突進軌道から退避したことを確認すると、
「次はこっちよ!」
 銀狼軍との戦闘の際にも用いた榴弾。それをライフル下部のランチャーから射撃した。
「――――」
 短い、だが高らかな音が一瞬鳴ったと思えば、榴弾は放物線を描いて宙を飛んで行き、
「――!!」
 先ほど穿った足の傷に着弾。爆音と共に広がった衝撃波と破片によって“同族殺し”の傷を深くする。
「……!?」
 その衝撃とダメージによって、“同族殺し”思わず体勢を崩す。
 よし……!
 そこへさらなる追撃を送ろうと、引き金に指をかけ直したそのときだった。
「……霧?」
「――――」
 “同族殺し”の身体から発せられた黒の霧が、白い風に乗ってこちらへやって来るのだ。
「ユーベルコード……」
 銃撃で動きを止められたとしても、こちらを追う手段はあると、そう示すかのように、風が迫ってくる。
「いや、それだけではないわ……」
「――――」
 よく耳を澄ませば、霧や風の中から何か低い音が聞こえる。呪詛や怨念、そういった印象を与えるものが、確かにそこにあった。
「食らったらマズいのは明白よね……」
 徐々に速度を上げてきている存在を振り切ろうとターンを叩き込むが、
「――――」
 相手が追ってくる。
 不定形の存在と言えど、慣性を全く感じさせないその軌道はこちらに対して最短距離で迫り、徐々に追い詰めてくる。
「くっ……」
 敵との距離が開いてしまうが、直線で振り切るか。
 そう思った次の瞬間には、しかし状況が全て変わっていた。
「……!?」
 “同族殺し”が、ユーベルコードとして放ったはずの霧や風が、正しく周囲に霧散していたからだ。
「……!!」
 何故かと、“同族殺し”が、疑念と憤怒の叫びを戦場に放つ中、聞こえてくる声もあった。
「――よしよし、上手くいったね」
 己とは別の位置からの声は、ニトロだった。


 自分が行ったことは単純だったと、ニトロはそう思った。
「――――」
 敵が放った霧。それがある場所に対して己はただ両掌を向け、
「……!」
 念動力を放った。それだけだった。
「いや、だけど成功してよかった」
 方法としては単純であっても、成功すると信じ切るには対象の範囲が桁違いだったのだ。
 巨獣から生み出された霧と風の集合は戦場の一角を包むほどであり、生半可な規模ではない。
 なので己は、対象となる空間そのものではなく、それ以外の空間に干渉した。
 イメージ的には“掴んで、押し付ける”って感じだね……。
 霧の周囲にある空間、そこの大気を大量に“掴んで”、コントロールを確かにすると、
「……!!」
 一斉に押し付けたと言うべきか、一斉に衝突させたと言うべきか。恐らく表現はどれも適切であり、結果もまた同様だ。
 黒の霧も白の風も、一方向からの多大な衝撃に耐え切れず周囲に吹き飛ばされ、散り散りとなっていったのだ。
「だけど、まだ残っているものもあるね」
 視界の中、念動力の源であるこちらを察知し、高速で接近してくるものがある。
 怨念だ。
 自分が引き起こしたのは物理的な干渉であり、霧と風には十全に発揮されたが、怨念は違う。
 物理的には影響されない、超自然的な存在である怨念は、やがてこちらに達すると、
「――!!」
 透明だが、しかしそこに何かがあると感じさせる雰囲気を持った大きな波が、己を飲み込んでいった。


「――!!」
 “同族殺し”の吼声が戦場に響いた。敵を打倒したことによる、歓喜の叫びだ。
 今、視界の中では、こちらのユーベルコードへ干渉した猟兵が、吹き飛ばしきれなかった怨念に全身を飲み込まれている最中だ。
「…………」
 そう、怨念だ。かつて人を信じ、しかしその人に打ち倒された獣の、狂乱の炎によって増幅されたそれを身に受け、無事であるはずがない。
「――」
 再度の吼声を、そう思ったが、しかしそれは叶わなかった。
「――!?」
 猟兵が、未だに立っているのだ。


「…………」
 怨念の波が身体を通り抜け、やがて背後へと過ぎ去ってから、ニトロは閉じていた目を開けた。
「……ふぅ」
 己は呪詛に耐性を持っている。そのため、迫りくる怨念に対して正面から相対したのだが、
「――どうやら勝負はこっちの勝ちみたいだね」
 脳や心、身体を蝕む波であったが、己は耐え、“誰かに対してぶつけられた”ことによってその効果を発揮し終えた怨念は、もはや消失している。
「――!!」
 ユーベルコードでは叶わないと判断したのか、“同族殺し”がこちらに目掛けて突進してきた。
 後ろ足を引きずりながらの突進だが、未だ十分なエネルギーを有している一撃だ。


「――だけど、させないわよ!」
 霧が消え失せてから、“同族殺し”の足元を駆けていた紅葉が、残った足に向けて銃撃を引き続き送っていく。
「……!」
 痛みに叫びを挙げ、徐々にスピードを落としていった“同族殺し”だったが、
「……!!」
 もはやこれ以上の突撃は叶わないと悟ったのか、残った足で大地を踏みしめ、バイクで駆けるこちらに狙いを定めると、その巨大な尾による打撃を放ってきた。
「――!!」
 見る。尾の軌道はこちらの正面、上方からの打ち下ろしの一発だ。
 数百キログラムは越すであろう重大な一撃が大気を割り、バイクに乗るこちらごと叩き潰そうと迫る。
「――馬鹿ね」
 そんな一発に対し、己はハンドルから手を離し、頭上で交差するように腕を構えると、
「――!!」
 その腕で、正面から尾を受け止めた。
 大気が激震し、地表にあった領主館の残骸が吹き飛ぶか、圧壊されて粉塵となるほどの衝撃だが、
「――腰が入ってないのよ!」
「!?」
 陥没した大地の中心、己も、バイクもそこに無傷で存在していた。
「――――」
 夜闇の中、手の甲にある紋章が燦然と輝いている。つまりは己が持つ重力制御の能力はフル稼働しているということだが、
 向こうも足が一本使えないものね……。
 腰に力を込めるために必要な後ろ足は、銃弾と榴弾によって破壊されているのだ。尾による打撃は力が入らず、また、
「踏ん張れもしないわよね!」
「!?」
 腕の構えを解き、頭上に残る尾を抱えるようにすると、
「ぁ、ああっ……!」
 身体を捻り、足を踏ん張り、全身を使って“同族殺し”を大地から引き剥がすと、
「せぇやぁあっ……!!」
 こちらの身体の上を飛び越すような軌道で、投げ飛ばした。
「――――!!」
 “同族殺し”は背中から大地に激突し、その落下の衝撃は投げ飛ばしたこちらも、側にあったバイクも地面から浮き上がるほどだったが、己はそんなことは気にせず、叫ぶ。
「――追撃お願い!」


 へぇ……、やっぱり大きいね……。
 夜空。そこにあったものを見て、ニトロはそう感想した。
「……!?」
 そこにいるのは、月光を余すことなく受ける“同族殺し”だ。空中で藻掻くように足を振り回している。
 さっきの老剣士も迫力があったが、こちらもまた違った迫力がある。アーネストが気迫と言うものだとするならば、こちらは単純に、莫大な大きさと質量が生み出す、圧倒だ。
「ふふ……。少しだけど、楽しくなって来たよ!」
「――!!」
 やがて、“同族殺し”が地面に墜落する。その地響きはこちらにも届き、己の“足の下にあるもの”も揺らす。
 これほどの巨体だ。倒す為には並大抵の火力では足りないことは明白であり、それはこの戦場に来る前から解っていたことだ。
「――だから準備しているよ」
 そう言って自分は、今まで立っていた足の下、そこにあるハッチを開けると中に滑り込むように入っていった。
 ハッチの中は狭く、多種多様の計器や機械、そして己が座るための座席が存在していた。
「――メルカバMk.Ⅴ-FX」
 厚い装甲に包まれた機体の中、各種操作機器を手繰っていけば、砲塔が唸りを挙げて旋回し、主砲の照準を確実としていく。
 照準を示す画面の中、敵は未だ大地に伏し、落下の衝撃から立ち直っていない。
「百二十ミリ滑空砲……。その身に受けてみて!」
 次の瞬間、砲身の奥から高速で飛び出した砲弾が、その衝撃波で血に濡れた大地を巻き上げる。
 着弾するまでの数秒にも満たない時間の中で、その道中にある全てを吹き飛ばしながら、宙を突っ切った砲弾はやがて、
「――!!」
 “同族殺し”の身体を貫通し、衝撃を受け止め切れなかった身体の一部が周囲に弾け飛んでいった。
「――――」
 “同族殺し”の絶叫と、主砲の轟音。その開戦の合図に後押しされるように、戦場にいた他の猟兵達も続いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ツェツィーリエ・アーデルハイト
可愛そうに可哀そうに。用済みですから、」もう終わらせて差し上げますね。
貴方のその存在が、罪深いのですから……。

少しばかり危険ですので、皆様は下がっておられた方がよろしいかと
別段、神の御許に送らせていただくことを忌避しているわけではありませんが、後々が面倒ですからね。。それに彼らの痕跡が此処にあることが許せません。総てを、灰にします


アウル・トールフォレスト
ようやくあなた。長かったような、短かったような

狂っていても挨拶はしておくよ
わたしはアウル。『高き森』のアウル
最後だもの。少しくらいはお話したい。だってわたしが気になっちゃったから

お話聞けても、聞けなくても、
結局戦うことには変わりないのだけれどね

楽しかった時間はもうお終い
それじゃあ、殺してあげる

【深緑、底知れぬ恐怖を育め】を発動
同じ体躯じゃきっと足りない…だから相手よりも、より大きく、より高くなり続ける
必要なのはたった一瞬。そこに両腕の全力を叩きつけるよ

恐ろしい怪物は、いつか倒されるもの
だからわたしはこう言うよ

さようなら、もうおやすみ
あなたが怪物である必要は、もう無いの


緋翠・華乃音
……アーネストのような人型なら殺りやすいんだが、サイズの大きい敵は苦手だ。特に近距離戦ともなれば尚のこと。
――まあ、それでもやるしかない。

本格的な戦闘に移行する前に気配を消して逃げ回りつつ観察。
さながら夜闇に蝶が舞うように。
特殊能力はともかく動きに関しては『視る』だけで事足りる。
当然の事として足があるのなら移動に用い、筋肉に類する組織がそこには存在している。
筋肉の動きというのは読みやすい。何せ魔法のようにそこには出鱈目が介する余地などない。――少なくとも、一般常識に於いて。
それに隙も多そうだ。
物理攻撃が全てという訳では無さそうだが『死角』が無い筈はない。
勝機を見出だすならそこだな。




「……!」
 猟兵達の攻撃によって大地の上でのたうち回っていた“同族殺し”は、痛苦に苛まれ、周囲に立つ一人の影に気づくことが出来なかった。
「――――」
 華乃音だ。
 夜の闇の中、“同族殺し”から少し離れていたところに立っている。
 人型なら殺りやすいんだが……。
 見る。大地から何とか起き上がった獣は、その巨大な足で一度二度と大地を踏み鳴らしている最中だ。
「…………」
 サイズの大きい敵は苦手な自分だ。特に今回は近距離戦ともなれば尚のこと。
「――まあ、それでもやるしかない」
 そう言った己だったが、今まで近距離戦に使っていたダガーナイフを仕舞い、
「――――」
 その身体を、別の姿に変えていった。


 “同族殺し”が襲撃者に気付いたのは、己の身体が焼かれてからだった。
「……!?」
 敵襲。脳内に浮かんだその言葉に突き動かされるように、己は高速で身を回した。尾が周囲の空間全てを薙ぎ払っていく。が、
「……!」
 高速で振り回している最中の尾にすら、炎が追加されてしまう。
 遠距離か、近距離か。この傷を与えた敵はいったいどこにいるのか。そう思い、周囲に意識を向けたとき、見つけた。
「――――」
 蝶だ。数は複数、否、無数か。群れとなってこちらの周囲を目まぐるしく飛び、
「――!!」
 纏う瑠璃色の炎でこちらの身体を焼いていく。
 猟兵の手によるものだと、瞬時にそう思考しながら、しかし敵の攻撃はそれだけではなかった。
「……!?」
 瑠璃の炎の中から零れ落ちるものが見えた。蝶の翅から落ちた鱗粉だ。
 鱗粉はこちらの身体に付着したかと思えば、付着した箇所から、こちらの身体に高速に浸透すると、持っていた毒性でこちらの身体を蝕んでくるのだ。
「……!」
 火炎と毒による蝕み。身体が内外からのダメージによって、そのパフォーマンスを著しく落としていく中、
「――――」
 こちらに比べて遥かに素早く動き続ける敵が、翻弄するようにさらに攻撃を加えていく。
 こちらとしては、蝶の群れの位置を捕らえるのもやっとの状態だ。だが、己は巨体を持つ。相手のいる位置を点ではなく面で把握し、
「……!」
 そこへ目掛けて駆けていった。突進だ。
 衝突によってこちらの身も焼かれるだろうが、相手は所詮蝶だ。その翅は打撃によって歪み、飛ぶことはそれ以上叶わなくなるだろう。
 そう思考し、駆ける複数の爪で、振り回した尾で、何もかもを押しのける巨体で、その全てによって、蝶の群れがいた空間に打撃を与えていった。
 蹴散らしたと、そう思っていた。
「!?」
 しかし蝶の猟兵は健在で、
「……!」
 こちらの身体を飲み込むようにして包み込み、身体を焼いていった。


 華乃音は思う。やはり解りやすいな、と。
 自分が今行っているのはアーネストと戦ったときと同じだ。
 “視る”だけだ……。
 六足の獣という異形であれど、敵は移動にその六足を使うのだ。
 前に駆け始めるときは、前傾の姿勢となって足裏で大地を蹴り飛ばす。
 横や背後に飛び退るときは、身体を運ぼうとする側とは逆側の足に重心を傾ける。
 制動するときは、身を低く沈めることで重心を大地側に落とし、安定を得る。
 そのどれもが“同族殺し”が持つ筋肉や、骨といった生理的なものに由来するのだ。
 己の強化された視力は、“同族殺し”の皮膚の上からでも、それらの動きを見抜き、対応していく。
 もっと出鱈目な存在だったら面倒だったがな……。
 敵の動きは、筋肉の収縮というミクロなレベルでも常識的だ。そこから繰り出される動作を読み取るのは至って単純で、
 何より死角が多い……。
 蝶となったこちらとのサイズ比ではそれが顕著であったが、
「――――」
 相手がさらにその差を広げた。
 ユーベルコードで巨大化したのだ。
「――!!」
 無数のこちらに対して、押し切られることを恐れた敵は、さらなる巨大と、怒涛の攻撃で応じる。
 長期戦になりそうだな……。
 そう思い、死角の最たる部分である足元側へ回り込んだときだった。
「――ようやくだね」
 大地から、声が聞こえた。
 胞子を散らす声の主は、アウルだった。


 アウルは、“同族殺し”の正面に立ち、言葉を繰り返す。
「――ようやくだね」
 そう、ようやくだ。この戦場に転移してからずっと、目にしてきた存在が今、目の前にいるのだ。今まで長かったようにも感じるし、短かったようにも感じる。
 見れば、戦闘を経たことで、相手は初めて見たときから相手は随分と姿が変えている。傷つき、血を流しているのは勿論だが、
「さっきも大きくなったよね」
 華乃音の攻撃に刺激され、その姿は更に大きくなっている。十五メートルか、もしくは二十メートルか。
「……!」
 しかし、その叫びは変わっていない。
 他のオブリビオンに向けて放ち、そして今、己を囲む猟兵達にも放つ咆哮は、戦場を揺らすが、そこからは痛みや苦しみ、怒りといった感情が乗せられているが、叫びの芯となる部分は空虚で、複雑な感情を感じることはできない。
「狂っているんだよね」
「……!」
 ただ叫び、吠えるだけだ。
 こちらに向けられて、ひっきりなしに響く吠声を耳にしながら、
「狂っていても挨拶はしておくね」
 己は言葉を送る。
「わたしはアウル。“高き森”のアウル」
「――!!」
 しかし敵は、そんなこちらを撃破しようと、前脚を振り上げ、爪で薙ぎ払っていく。
 が、
「最後だもの。少しくらいはお話させてよ」
 胞子の爆発に弾き飛ばされ、届かない。
「だってわたしが気になっちゃったから」
「……!!」
 次は踏み潰そうと、相手は突進してきたが、
「お話聞けても、聞けなくても、結局戦うことには変わりないのだけれどね」
 空気中や、銀狼軍の死体に付着した胞子の連続爆発で突進を阻まれる。


 それから先は、攻防の連続だった。
「ねぇ――」
 自分が問いかけ、相手が攻撃をもって答えとし、こちらは爆発でそれを実現させない。
「あなたは――」
 自分が尋ね、相手は咆哮で応じ、こちらは次の問いでそれを覆う。
「それで――」
 問いは尽きず、相手の抵抗も不断だ。
 だがやがて、どちらからともなく動きを止める。
「結局、お話あんまり聞けなかったね……」
「……!」
 痛みや苦しみが乗っていた叫びは、いまや疑念や憤怒を感じさせるが、やはり依然として空虚だ。何かに突き動かされているだけのような叫び声が、戦場を走る。
「でもさ、楽しかった時間はもうお終いだよ」
 こちらがただ問いかけ、相手が狂気に暴れていただけの時間だが、そうだ。楽しかったと、己は確かに思う。
 己は話をするのが楽しかったし、狂気に包まれた相手にとっては、もはや暴れることが楽しみであり、怒りであり、苦しみであり、またそれ以外だろう。
 そんな思いを胸に、己は一度頷くと、
「――それじゃあ、殺してあげる」
 姿を混沌から、別のものへと変えていった。


 戦場の景色が変わった。
 しかしそれは、何か人や物が増減したわけでも、地形が変わったわけでもない。
「――――」
 光だ。戦場に落ちる月光が、以前とは様子が変わっている。
 ある一角では、先ほどまで光で照らされていたが、いまや影で覆われている。
 しかしまたある一角では、先ほどよりも強く照らされている。
 影と光の変化。これを生み出した原因は“同族殺し”の目の前にいた。
「……!?」
 先ほどユーベルコードによって巨大化した己ですら、見上げねばならないほどの存在だった。
 あまりの巨大さに、目の前の存在が何か一瞬解らなかったが、
「――怪物だよ」
 声が、降ってきた。
「――――」
 見上げる。はるか上空、月光を戦場に反射させるほどの白の長衣の先には、金の髪と枝角、そしてこちらを見下ろす黄金の瞳があった。
「恐ろしい怪物は、いつか倒されるもの」
 瞳の下、唇が開き、遅れてこちらに声として届いて来た。
「だからわたしはこう言うよ」
「――――」
 合わせて大気の鳴動が聞こえてきた。
「さようなら、もうおやすみ」
 目の前の猟兵が、否、怪物が、その両腕を天高く振り上げていくのだ。
 両の掌は組み合わされ、やがて一体となった拳が天上に達した時、
「――あなたが怪物である必要は、もう無いの」
 言葉と共に、破壊が振り下ろされた。


 天上からの破壊の一撃は、打撃地点であった地表を破壊し、その衝撃は地殻に至るほどだった。
 土砂や石、銀狼軍の死体といったその上にある構成物全てが、上空に吹き飛ばされていく。
 周囲一帯に残っているのは、轟音と衝撃。ただそれだけに覆われていた。
 すると、
「――可愛そうに、可哀そうに」
 戦場から離れた位置から、声が聞こえた。
 巻き上がった土砂によって月光が遮られた薄闇の中、そこを見ているのは、黒衣の女だった。
 ツェツィーリエだ。


「――可愛そうに、可哀そうに」
 ツェツィーリエは、戦場を見ていた。否、元戦場と、そう言うべきか。大地は巻き上げられ、もはや“争った形跡”というものを見つけるほうが難しい。
 そんな中で己が視線を向ける先は、破壊の一撃が振り下ろされた爆心地だ。
「……!」
 そこに、僅かだが、蠢く影がある。“同族殺し”だ。
 打撃によって身体の大部分が砕かれ、身じろぐことすらも満足に出来ない状態だ。
「可愛そうに……」
 ええ、と己は頷きながら、言葉を続ける
「――だって、もう“終わり”ですもの」
 そうだ。終わりだ。
 不気味で、唾棄すべき、汚らわしいもの。それも、そんなものすらも殺すほどの存在が、今、目の前で“終えよう”としているのだ。
「ええ、ええ。もう終わらせて差し上げましょう」
「……!」
 相手が何か叫んでいるが、解らない。だがそれで良いと思う。
 だって、
「――貴方のその存在が、罪深いのですから……」
「……!!」
 血の混じった叫びに眉をひそめながら、己は腕を振り上げる。もはや上空にある土砂の落下は目前だ。
「ああ……」
 と、思い出したかのように周囲に目を向ける。
「少しばかり危険ですので、皆様は下がっておられた方がよろしいかと」
 声が届いたのか、他の猟兵達が下がっていく。
 別段、神の御許に送らせていただくことを忌避しているわけではありませんが……。
 魂を御許へ。それは己の理念だが、だからこそ後々の活動に影響を残すのは望む処ではない。
 やがて彼らが完全に退避したのを確認した後、
「――ああ、可愛そうに」
 己はそう最後に一度呟き、身体に刻み込まれた術式から、一斉に黒炎を零れさせた。
「――――」
 黒炎が大地に落ちるのと、土砂の落下は同時であり、
「……!!」
 “同族殺し”だけではなく、全ての土砂が黒炎に包まれたのはその直後だった。
「彼らの痕跡が此処に残ることが許せませんもの」 
 “同族殺し”を中心に、土砂の中に混じる銀狼軍やアーネストの死体、それらが持っていた武器に弾丸、血痕に至るまで、
「――総てを、灰にします」
 その言葉通りのことが起こった。
 降り積もった土砂や地表を火炎が舐め、火で出来た海や山を形成していく。黒い炎は全てを燃やし、溶かし、そうして最後に残っていたのは、灰だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月24日
宿敵 『『堕落せし者』アーネスト・クリフォード』 を撃破!


挿絵イラスト