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闇の救済者<ダーク・セイヴァー>

#ダークセイヴァー #【Q】 #闇の救済者

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#闇の救済者


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●絶望を夜に捧げよ
 夜という1文字の単語で想像する景色は人により異なる。この世界を生きる彼らにとっては、それは真なる闇であったであろうか。あるいは、どんよりと渦巻く昏迷そのものか。
 人類は、敗北者であった。
 100年ほど前に蘇りしヴァンパイアに敗れ、支配されている彼らには、立ち上がる気力はなかった。只、搾取され虐げられ生命を摘み取られるのみの時間が、余りに長かった。時と共に彼らの心には敗北が積み重なり、いつしか支配されている状態が当然となっていく。100年という時間は人にとってはそれほどに長い。
「ククク」
 喉奥を震わせ、蝙蝠男爵が哂う。皮膜翼を羽搏かせて此の夜を愛でよう。我らが狂乱の宴は永遠(とわ)に続くのだ。
「民よ、我輩に絶望を捧げよ、愉悦を捧げよ、薄汚れた臭い血酒を捧げることも許してやろう」
 視線の先では炎が今まさに燃え上がらんとしていた。皮肉に夜を照らす炎の明かりは希望の光ではなかった。光は、森を舐めるように舌を伸ばし、人の皮膚を焼き悲鳴を呑み込む絶望の齎し手であった。
「クク、ハハハハ!!」
 嗚呼、森が燃えていく。森に生きる草花も、動物も、そして人間の村も為すすべなく、あっけなく、全てを奪われていく。楽しい夜だ。心地よい闇だ。嗚呼、あの炎の揺らぐ様の麗しく明るい事と言ったら! 世界はこれほどまでに残酷で美しい。美しいのだ。生命の散る宴は。

 遠く凍える星が分厚い雲に覆われる空のずっとずっと下、地上が炎で明るんだその時に。
「――行くぜ、野郎共!」
 声と共に影が動いた。1人、2人、3人……、ちっぽけな、痩せた野郎共だ。襤褸を纏い、栄養も足りちゃいねえ。肌は乾いてカサカサだ。眼球は落ち窪み、ギラギラして――前を視ていた。仲間を見ていた。炎を見ていた。地を這う虫ケラのような野郎共が、炎を睨んだ。
 先頭の長身が声をあげる。開けた口からは真珠のような鋭い牙が覗いた――混ざり者(ダンピール)。
「お前らの中に吸血鬼を怖れるヤツはいるか! 炎が怖えヤツはいるか! 人に差別された過去を引きずるヤツがいるか! いねえな」
 最後の言葉は確信であった。ずっとずっと遥か頭上の大空には、星が凍えるほどの冷気が渦巻いている。冷たい空は、彼らに何もしてくれなかった。雨ひとつ降らせてやくれない。どんよりとした曇空は震える星さえ隠してしまい、――けれど地上には熱がある。
 じりじり、と木肌が焦げて火をあげる。木の葉が燃える。鳥が羽ばたき、虫達が静かに命を燃やし尽くして灰となる。
 燃える。燃える。燃えていく。
 世界には悪意が満ちている。この世界は、すでに負けている。人類は負けてしまった。人類は支配されていた。長く。長かった。
「水を運べ」
 影が動く。
「急げ。守るんだ、俺達が」
「できるわ。できるわ。みんなで戦うの、このどうしようもない現実と、世界と。――あの噂の人達のように!」
「圧政から解放する! この闇の地に人類の希望を取り戻す!」
 近くの川から水を運んでは燃え滾る炎にぶっかける『野郎共』は、どいつもこいつも混血だ。歪だ。時には、人間に差別された事もあった。そんな奴らが人間を救おうと今、汗を流し、歯を食いしばり、肩で息をして頬を真っ黒の煤で汚して――目をギラギラさせている。共通しているのは、夜に反抗する心であった。人々を守ろうという意志であった。決して諦めぬという誓いであった。
「やるんだ。やるんだ、やってやるんだ」
 世界は長く色褪せていた。光さえも希望ではなかった。人類は家畜で、虫ケラだった。其の盤面はもはや誰も覆せぬと思われていた。
「そうじゃない。そうじゃないんだ」
 誰かが言ったのだ。
 救われた民がいた。
 猟兵が救った。各地で、掌に救えるだけのそれらを少しずつ、少しずつ、掬った。

 ――そして、希望は生まれたのだ。

「ほう、可笑しな者共が出て来たな……」
 蝙蝠が愉快愉快と体を揺らす。嗤う。哂う。
「よろしい、ならば潰してやろう、へし折ってやろう、その心。ハハハハハ!!」
 芽吹いた芽を幾度も摘み取り、闇は支配を強めてきた。それは、此度も同じなのだと男爵は疑わぬ。
「世は勝者のもの。盤面は何を以てしても覆らぬ!!」

 ――其の絶望を、麗しき夜に捧げよ。

●夜
「ダークセイヴァーに行って欲しいのです」
 ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)がそう言って頭を下げる。顔を上げた少年は依頼の説明を始めた。
「御存じの通り、ダークセイヴァーの人々は、100年にも及ぶヴァンパイアの圧政によりその強固な支配体制に抵抗する者は殆ど現れませんでした。
 ですが、猟兵達の戦いにより希望を得た人達が少しずつ、出現し始めたのでございます」
 ふぁさり、と地図が広げられる。示された場所は北の大地だ。
「彼らは、『闇の救済者(ダークセイヴァー)』と名乗っています。過去に滅び、圧制者から忘れられた廃墟都市の地下に拠点がございます。人知れず密かに、虐げられた民衆を救う活動を始めているその『組織』を支援してほしいのでございます」
 ルベルはそう言って現地での支援内容を説明する。

「この森の中に、村がございます」
 地図の森林地帯を指さして語る予知は、森が燃えてしまうというものだった。
「村は、残虐な吸血鬼領主により虐げられています。領主はちょっとした気紛れで森ごと村を燃やしてしまおうと思ったようです。
 『闇の救済者』が消火に向かう動きも予知ができております。そして、村に圧政を敷いている領主の配下が彼らと戦う未来も予知しております。
 彼らは一般人より訓練を積んでいますが、猟兵ほどの能力を持ちません。ゆえに、彼らだけでは厳しい結果になってしまうでしょう……ですから、彼らを助け、手伝ってあげてほしいのです」
 ルベルはそう言い、領主の配下についての情報を共有する。
「配下は、消火中は高みの見物と洒落こんでいるようです。配下はワイリー男爵という蝙蝠のぬいぐるみに似た吸血鬼。狡猾さと残忍さを持ち合わせ、絶望に染まり切った瞳と苦痛に歪んだ表情が大好物な吸血鬼でございます。
 吸血鬼は一体だけではなく何体も分裂しています。敵の群れとの戦い……集団戦となることでしょう。
 ワイリー男爵の群れを全滅させてしまえば領主に報告を出す者もおらず、領主も全ての領土を把握している訳ではないので、報復はありません。一体残らず倒してくださいませ」

「そして、戦いが終わった後ですが、『闇の救済者』達は猟兵を尊敬しているようなのです。ですから、彼らに言葉をかけて鼓舞してあげたりしつつ、彼らの帰還までの痕跡を消したり、拠点の強化の手伝いをしてあげてほしいのでございます。いずれくるであろう『戦い』において、今回の支援が良い影響を及ぼすことでしょう」
 どうぞよろしくお願いします、と付け足してルベルはもう一度深く頭を下げるのであった。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回はダークセイヴァーでの冒険です。なんとダークセイヴァーの世界に、進展がありました。猟兵達の戦いによって希望を得た人達が現れ始めたのだそうです。今回はそんな現地の『闇の救済者』達を支援するシナリオとなります。
 プレイングは9月6日(金)8時31分から募集させて頂ければと思います。

 1章は冒険です。『闇の救済者』と一緒に消火活動をしてくださいませ。
 2章は集団戦です。『ワイリー男爵』の群れが襲って来ます。全滅させてくださいませ。
 3章は日常です。『闇の救済者』拠点の周辺に存在する数少ない木々や石材、食糧を確保し、拠点の物資を充実させよう、という内容になります。ご指名頂ければルベルも働きます。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『燃える森』

POW   :    川から大きな桶に大量の水を汲んでイッキに運ぶ。

SPD   :    足の速さを活かして川を何往復もして水を運ぶ。

WIZ   :    川から水を運ぶ以外の方法を考えて火を消す。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヘンリエッタ・モリアーティ
私たちの活躍で少しでも希望を見出してくれたのなら
責任もって最後までお手伝いをしないとね
この炎の有様を愉しんでいるという輩がいるのなら見せつけてあげる

――【苦界包せよ円環竜】。

『応龍』にこの地形一帯をまずサーチさせます
炎を効率的に消すルートを教えて頂戴。
それから消火活動は基本的に水を使わないわ
私の得意な魔術分野ではないし、手ごろな岩や砂を電磁誘導でひきよせて
空気をまず与えない――圧で消します

逃げ遅れた人はいないかしら
ああ、ごめんなさい。怖い顔してたかしらね――大丈夫、まだ『若葉マーク』のヒーローです
信じなくてもいいけど、でも助かることだけは願っていて
――私は、『勝手』に助けるから。


穂結・神楽耶
【アドリブ・連携歓迎】

……ええ、わたくしにも覚えがございます。
炎はすべてを奪っていく。
そうやって、虐げられて当然だった闇の世界で、
生まれた僅かな希望を絶やさぬ為にも。
この刃、如何様にもお使いください。

森林火災は水だけで対処しきれません。
ですので【神遊銀朱】を起動。
炎の進路の先にある樹を先んじて伐採してしまいしょう。
燃料がなければ炎は燃えません。
こうした村では水も貴重でしょうし、節約に越したことはありません。

救済者の皆様には…
溝を掘るのをお手伝い頂けますか?
地面を這って進む炎は、溝があればある程度止められるそうですので。

……怖いなぁ、炎。
けれど、だからこそ。
此度は燃やさせない。救ってみせます。



●揺らぎ
 猟兵達が少しずつ現地に到着し、『闇の救済者』と接触している。村を救うために動く者、火を消すために動く者、その動きは様々だ。

 そんな中。

 薄紅の花弁がひらと荒風に震え、紅の房飾りが幽かに揺れた。
「……ええ、わたくしにも覚えがございます」
 熱い呼気が震えて言葉と為る。胸奥でトクントクンと鳴るのは鼓動の音。夜陰の中掌を胸元でそっと広げて握る。

 嗚呼、燃えていく。
 町が。燃えていく。
 ちりん、清浄な鈴鳴りて震える手の指の間を風がすり抜けて地表低くを這うように舐めるようにして。火を広げる風だ。

 ――こころなんてないモノであればよかった。

 数えた星は幾つだったか。それは全く異なる空で、けれど見上げるひとの心の在り様によってはきっと、そんなに異なることもないのだろう。
「炎はすべてを奪っていく」
 さあ、と風が吹き上げて乾いた草花が巻き上げられる。朱の柄糸がか細く舞っている。穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)はゆるりと結ノ太刀の黒塗りの鞘から白銀の刃を抜いた。
「そうやって、虐げられて当然だった闇の世界で、生まれた僅かな希望を絶やさぬ為にも。この刃、如何様にもお使いください」
 瞳は静謐に真心を伝え、相対する『闇の救済者』達は何処か厳かな面持ちで神楽耶に頭を下げ、道を譲るのであった。

「偽りなれど、彼の色は真となりて」
 神楽耶が刀の先をひたりと炎の進路に待つ樹木に向ける。刹那、銀色の刃が複製されて樹木に躍りかかりすらりばさりと伐採していった。神刀が虚空に遊び銀が線を引く。これより先に進むこと叶わず、と。
「燃料がなければ炎は燃えません」
 神楽耶はそう言って人々に少し悲しげな瞳を見せた。
「こうした村では水も貴重でしょうし、節約に越したことはありません」
 人々は縋るような眼で神楽耶を見ている。『闇の救済者』達が必死の目を向けている。
「救済者の皆様には……溝を掘るのをお手伝い頂けますか? 地面を這って進む炎は、溝があればある程度止められるそうですので」
「わかった!」
「感謝する」
 指示を受けて『闇の救済者』達が走り出す。


 炎が未だ燃えている。


(……怖いなぁ、炎)
 神楽耶はふと胸元で拳を握る。握った指先が冷たく凍えて幽かに震えていた。
「けれど、だからこそ。此度は燃やさせない。救ってみせます」
 背筋を伸ばし、言葉を口に出して言えば胸奥から込み上げる熱さがあった。
 ――生きて。
 燃え行く世界。その町に祀られていた二柱は、嘗て災厄に勝つことは出来なかった。ちりん、ちりん。鈴が鳴る。
 荒ぶる風に抗うように、鳴っている。

 そして、気配に気が付いた。

 暗澹たる地に人々の熱が渦巻いていた。俯瞰する耳朶にはびゅうびゅうという魔笛に似た風鳴音が届いている。
 嗚呼、炎が燃えている。
「私たちの活躍で少しでも希望を見出してくれたのなら責任もって最後までお手伝いをしないとね」
 その地に降り立ったのは夜の漆黒に在りて一層深い黒を窺わせるヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)。黒とはこの色であると全身が物語るような教授の怜悧な瞳がその美しさに拍車をかけていた。
 視線を周囲に彷徨わせ、ヘンリエッタは影の中の陰、陰の中の翳へと目を留める。
 『視られている』。
 唇が薄く開く。囁いた。
「この炎の有様を愉しんでいるという輩がいるのなら見せつけてあげる」
 嗚呼、闇が飛び立つ。ざわり、ざわり。かさり、かさり。怖気の奔るような悪が満ちている世界に、今。
 『観られている』。
 蠢く地の翳。上を風が吹き抜ければ風音は悪罵の幻聴を齎した。戦域、森一体を俯瞰するようにヘンリエッタは透徹とした瞳を彷徨わせ、ほんの一瞬だけ驚いたように瞳孔の奥にあたたかな光をちらつかせ――すぐに抑え込む。今は。雑音を背景にユーベルコードを綴りて世界に干渉する。
 ――Shall we Dance?
 風が囁く。返事をする必要はなかった。只、ぬるく微笑みを浮かべてやればそれでよい。
 自立型解析支援AI『応龍』は淡々と仕事をしてくれていた。地形情報を把握しながらヘンリエッタは『応龍』へ追加オーダーを発する。
「炎を効率的に消すルートを教えて頂戴」
『了解、ボス。少々お待ちください――』
 眼鏡の奥の瞳が情報を咀嚼するように瞬いた。最適ルートを辿りながらヘンリエッタは岩や砂を引き寄せて炎を圧で消していく。

 神楽耶はそんなヘンリエッタを見つめて柔らかに微笑んだ。姿を見せ、声をかければ相好を崩して大型犬のように「神楽耶さん!」と駆け寄ってくるだろうか。
 けれど、今は仕事中――互いに。
「神楽耶様? この一帯は完了しました」
 『闇の救済者』が進路を問う。
「それでは、あちらに参りましょう」
 神楽耶はそう言ってヘンリエッタと異なる方角へと人々を導く。
(そちらは、任せましたよ)
 心の中でそぅっと、声を向けながら。脳裏に過るのは、声。

 ――色んな理由がありますよ。

(逃げ遅れた人の気配がするわね)
 ヘンリエッタは道を逸れて進んでいた。熱気に炎をあげそうな緑葉が闇の中でカサリカサリと擦れた音を立て、深みを増した森の茂みの中に――人は、いた。
 小さな悲鳴をあげるその影は、ひどく小さく頼りない。ああ、簡単に死んでしまう。そんな、生命だ。
「ひっ」
 怯え切った人影は現地を生きる村の子供であった。枯れ木のような腕が必死に抱きかかえるのは継ぎ接ぎだらけ、木に布の切れ端をかろうじて纏わせただけの人形であった。震える呼気にヘンリエッタが視線を合わせてしゃがみこむ。
「ああ、ごめんなさい。怖い顔してたかしらね――大丈夫、まだ『若葉マーク』のヒーローです」
 ひ、と空気が震えて音が出る。
「……ぃ、ひー、ろー?」
 小さな子供の頬にこびり付いた煤をそっと拭い、ヘンリエッタが微笑んだ。
 あ、と子供が吐息を漏らす。夜陰の中でその双眸の放つ光がとても神秘的だったから。――銀の光に薄く感情を揺蕩い、『ヒーロー』が微笑んだ。

 ――ヒーローのほうが儲かりそうだし、クリーンであるということは「疑われない」ということだし、「救ってもらった命」だから「誰かを救う」ことで恩返しをしようというのも、ある。

「信じなくてもいいけど、でも助かることだけは願っていて――私は、『勝手』に助けるから」
 其の夜、死せる定めにあった子供の運命は変わったのだった。

(――助けるほうが、壊すよりも難しいでしょう?)
 難しい問題は、取り組み甲斐がある。こんな夜は特にそう思うのだ。
「あり、がとう」
 ヘンリエッタが差し出した手を、子供がしっかりと掴んだ。小さな手は汗と涙と泥で汚れ、――けれど、温かい。

 生きているのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴェル・ラルフ
ダーク、セイヴァー…
この、暗い故郷にも…立ち上がる人たちが、現れたんだ…
泣きそうなほどに嬉しい。きっと、成功させてみせる

SPD
【雄凰】、手伝って。

雄凰に[騎乗]、上空から鎮火しやすそうな場所の[情報収集]
火の勢いの弱いところから確実に消火
周辺の燃えてない草木にもかけて、延焼を防ぐ

上空は熱いだろうけど、多少[火炎耐性]があるし…うん、なにより、役に立ちたいんだ

圧政に反抗する気力も無かった人々の、希望の芽。
決して、摘み取らせはしない。

★アドリブ・連携歓迎



●夕映
 地上で人の熱が高まっている。
 作戦区域に少しずつ猟兵が現れ、同時に動いている。混乱の現場で、昏い夜の中、誰が作戦に参加しているのかさえ、今は定かではない。
 けれど、『闇の救済者』達も猟兵も、皆が同じ未来を求めている。そのために動いているのだ。

「ダーク、セイヴァー……この、暗い故郷にも……立ち上がる人たちが、現れたんだ……」
 ――泣きそうなほどに嬉しい。
 夕焼け色の瞳がゆらりと揺れる。ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)が胸の内から溢れる想いを噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「きっと、成功させてみせる」

 世界は夜に染まっていた。
 見慣れた故郷へと視線を巡らせ、遠く小さな『同胞』を見つけて揺れる瞳が温かに煌めく。
 空を見れば、いつもと変わらぬ昏闇だ――ああ。故郷を等しくする者にとって、この闇が毎夜毎晩どれだけ暗く見えたことか。
 ――叶わない。けれど、願わずにいられない。
 そんな望みがずっと、あった。それが、ヴェルだけではなかった。
「雄凰、手伝って」
 夜闇に向けて聲を放てば、ふわりと姿を見せる『雄凰』――気まぐれで我が儘、大喰らい、睫の長い美しい雄の蛇食鷲一羽。朱色に隈取された瞳は今宵、厳しくも何処か微笑ましげに使い手を見下ろした。背に飛び乗れば一声喉を震わせて優美に風を掻く。ばさりと羽音鳴らして天翔ける鳥姿を地上で幾人もの『影』が見上げていた。
「火を、消すよ」
 声は笑みを含む。上空の空気と風は陰鬱と暴虐が具現化して牙を巻くようだった。強風に煽られて、けれど雄凰の飛翔には陰りがない。羽搏きは力強く誇らしく繰り返され、使い手ヴェルの思い通りに上空を舞う。
 夕焼けの瞳は真剣に森を視る。
「あの一帯の火は止めないとだめだね」
 風上で燃え上がる炎に目をやり、ヴェルが消火に動く。地上の仲間にも合図を送り、情報を共有させながら。
「確実に消していこう。周りにも水をかけて、延焼を防ぐんだ」
「あんた、大丈夫なのかい。燃えてる中をあんな風に無茶しちゃ火傷しちまうよ」
 飛翔ぶりを見ていた中年のダンピールが案じる色を瞳に浮かべて薄汚れた布を差しだした。ぽたり、と水を滴らせる布の意図はわかろうもの。逆に言えば、彼らは火傷を負った仲間や燃える木々に対して水で濡らし冷やすぐらいの対処法しか持ちえないのだった。ダンピールは自身の全身を煤で汚し、水で袖と履き物を濡らし、手と頬に火傷を負っている。それでも差し出された布と手は、瞳はヴェルを案じてくれていた。
「うん、なにより、役に立ちたいんだ」
 薄汚れた布を受け取り、ヴェルが微笑んだ。夕映の瞳は同志に優しくあたたかな色を見せ、次の瞬間には空を睨む。
「雄凰」
 再び空へと戻る手には布があった。見る見るうちに水気を飛ばし、渇いていく布はまるで――抗うことの虚しさを象徴するかのようだ。そう思いながら、けれどヴェルは首を振る。
「圧政に反抗する気力も無かった人々の、希望の芽。決して、摘み取らせはしない」
 ラウンドカットされた朱殷色のピアスが耳元できらりと輝いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
――すばらしい!
困難に屈せず、立ち向かうキミらの姿に敬意を払おう
運命に抗う者の強さ、見せつけるといい

やあ、私の名はエドガー!通りすがりの王子様であり
悪しき者の敵――つまり、キミらの味方だよ

消えない炎なんてものはないさ
負けぬ意志の炎を除いては、ね
……あ、カッコつけてる場合じゃないね
ハイ、解ってるぜ、レディ

私も桶を使い、水をたくさん運ぶとしよう
《早業》がすこしは活きるだろうか

もし、体格のいい動物を森の中で見かければ《動物と話す》
水を運ぶのを協力してくれないか交渉してみよう
ダメ元だけど、キミたちだって住処が燃えるのはイヤだろう?

手が多いほど、運べる水の量は増える
こういうの、百人力って言うんだろう?



●『王子様』
 世界は旅するに応じて多様な顔を魅せる。
 乾いた風がちりちりと肌を刺激した。鼻腔を擽るのはその世界の臭い。土の薫り、炎の香り、人に匂い。
 今宵の月は雲に覆われて視えない。旅人の道標たる星もまた隠れてしまっている。
 シャイだね、と仄かに笑えば金糸の髪がふわりと揺れた。青の瞳はよく晴れた昼空のように曇りなく澄んでいた。

「こんな桶の水で、炎が消せる? ううん、消すんだ」
 肩で息をしながら桶を手にする『闇の救済者』の少女が眼に滴る汗をぐいと拭った其の時、横からすいと出てきた手が少女の手から桶を掬い取った。
「あ……」
 少女が吃驚して目を見開く。瞳に映ったのは1人。薄汚れた襤褸を纏った『仲間』ではない。
「え?」
 ひらり、とマントが風に揺れる。まるで高貴なる純血貴族のような上流階級の気品を漂わせた貴公子が其処に立っていた。働いたりなんかしないような優美な貴公子が少女の手から桶を受け取り、自信に溢れた表情で。今。

 少女を、見た。

「あ……」
 その目は、ひどく穏やかだった。襤褸に眉を顰めることもない。蔑むでもない。次いで発せられた声は、まるで御伽噺に出てくる幻想の王子様のように穏やかで優しい声だった。
 エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)があたたかな声をあげながら『闇の救済者』達を見廻し、声をあげる。
「――すばらしい! 困難に屈せず、立ち向かうキミらの姿に敬意を払おう。運命に抗う者の強さ、見せつけるといい」
「何」
「味方か、敵か」
 年嵩の『闇の年長者』達が余裕のない瞳で謎の貴人を見た。エドガーは探るような視線の数々を平然と受け止め、輝くような笑顔を向けた。
「やあ、私の名はエドガー! 通りすがりの王子様であり悪しき者の敵――つまり、キミらの味方だよ」
 どんよりとした夜溜まりの暗雲を軽やかに吹き飛ばすような微風が一陣、吹き抜けた。

「消えない炎なんてものはないさ、負けぬ意志の炎を除いては、ね。……あ、カッコつけてる場合じゃないね。ハイ、解ってるぜ、レディ」
 エドガーは笑い、桶を運ぶ。
(誰と、しゃべっているのかな?)
 少女は一緒になって桶を運びながら、そわそわと『王子様』を気にした。
(だって、とっても格好良い)
 おっかない吸血鬼や圧政者と違う。物語の中でしかいなかったような夢のような存在が今、近くにいるのだ。少女はそっと胸を抑えた。弾む息は疲労のためばかりでは、きっとない。
「疲れたかい?」
 ああ、『王子様』が優しくそんなことを言って心配そうな眼を向けている。今までの少女の人生でそんな存在が近くにあったことは、なかった。少女は夢の中にいるような気分で夢中で首を振った。
「だ、大丈、夫!」
 今が夜でよかった、と少女は思う。きっと、恥ずかしい顔をしていたから。

 エドガーの“Ready ”レディは左腕に宿る。狂気の薔薇にそっと独り言をかけながら、エドガーはふと川に逃れていた痩せた鹿の家族に交渉を試みた。
「水を運ぶのを協力してくれないか」
 鹿が黒く円らな瞳をひたりと向ける。瞳には理知的な輝きが宿っていた。
「キミたちだって住処が燃えるのはイヤだろう? 森を守るためなんだ」
 エドガーが柔らかな柳のように言葉を紡げば、鹿達はおっとりと頷いた。
「どうやら交渉は成立だね、よかったよかった」
 『闇の救済者』の少女が驚き見つめる中、エドガーは鹿に桶をくくりつけ、水をどんどんと運ばせた。
「貴方、動物とお話ができるの!」
「こういうの、百人力って言うんだろう?」
 人だけではなく、動物も共に。エドガーはそう言って微笑んだ。
(この人はきっと、物語の世界から飛び出してきた奇跡なんだわ)
 少女はそう思い、夢心地で『王子様』のマントを見つめた。
「さあ、行こうか」
 『王子様』はそう言って前を視る。その言葉のなんと気負いなく晴れやかなことだろう! まるで現実味のない――けれど、紛れもなく現実に、エドガーという猟兵は其処にいて、森の影達と一緒に炎と戦ってくれるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリア・サヴェージ
人々が吸血鬼の支配に抗うために立ち上がって戦おうとしている。私たちの活動で人々に希望を与えることができた、ということでしょうか……喜ばしい事です。彼らをここで終わらせはしません!

この黒き鎧姿を彼らに吸血鬼の手先と勘違いされないとも限りませんが、今は言葉より行動で示す時。それに、彼らもダンピールであるならば私も同じ存在だとすぐ気がつくでしょう。

桶に水を汲んで運ぶ……地道な作業になりますがやるしかないでしょう。
【念動力】【範囲攻撃】で複数の桶を同時に運んで一気に消火します。
UC【深淵に至る門】で消火活動中の仲間の元へテレポートすれば時間の短縮にもなるでしょう。


ノワール・コルネイユ
混ざり者に半端者、それに交雑種やら…
そんな類の言葉を何度投げかけられたか
石や泥が飛んで来たことだって少なくはない

似たような身分だろうに、それでもヒトの味方をしようと言うんだから…
嗚呼、お人好しなもんだな

消火活動にお誂え向きな術の持ち合わせはない
だから連中に混ざって地道に水を運ぶとしよう
序で、焦って無茶をするものがいないように目配せもしておく

大きな力やら術やらを見て焦る必要も無ければ委縮する必要も無い
各々が自分に出来ることをやればいい
集団の強みっていうのはそういうもんだろ

私はそう望まれ、そう育てられ、それを受け入れただけだが
彼らは自ら立ち向かう道を選んだのだと云う

…どいつもこいつも、眩いものだ



●『お人好し』
 銀色のチャームが闇の中で煌めいた。夜風に揺れる草を踏みしめ、ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)が超然とした瞳を世界に向ける。
 熱を瞳に宿し、声に出して意気を吐き互いに互いを鼓舞しあうような『闇の救済者』達が至るところで走り回っている。猟兵もまた、共にいた。

(混ざり者に半端者、それに交雑種やら……そんな類の言葉を何度投げかけられたか。石や泥が飛んで来たことだって少なくはない)
「似たような身分だろうに、それでもヒトの味方をしようと言うんだから……嗚呼、お人好しなもんだな」
 お人好しがもう一人。
 視線の先に現れている――ノワールはその猟兵を見た。

「人々が吸血鬼の支配に抗うために立ち上がって戦おうとしている。私たちの活動で人々に希望を与えることができた、ということでしょうか……喜ばしい事です。彼らをここで終わらせはしません!」
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が暗黒鎧に身を包み作戦区域に姿を現していた。現れた暗黒騎士に対し、『闇の救済者』達は身構えるようだった。
「吸血鬼の手先か!?」
「いいえ」
 セシリアは素っ気なく言葉を残し、桶を川に浸けて水を汲む。
「あ、あんた火を消すつもりか」
「そうです」
 問いかけに応える声は最低限だ。無言で桶を運び、セシリアは川と森を往復した。
(このペースでは焼け石に水ですね)
 柳眉を寄せたセシリアは念動力で複数の桶を同時に浮かばせ、一気に水を放って火を消すことにした。ここに至り、ふわりと浮いた桶を操るのが黒鎧の騎士であることは誰の目にも明らかであった。
「あの人、仲間だ」
 ダンピールの娘がふと呟いた。
「ああ」
「仲間だな」
 ダンピール達はセシリアが味方であることをもはや疑わない。沢山の桶を周りの宙に浮かべる騎士は言葉少なく研ぎ澄まされた剣のように鋭い気配を放っていたが、一心不乱に森を救おうと動いていた。

「ふん……」
 ノワールは血腥い神など一切信じていなかった。世界が堕落している事を骨の髄まで熟知していた。時に聖職者や神ですら不浄であり人の敵であった。
 けれど、闇に閉ざされた世界で人の生命が続く事も知っていた。ノワールは結局のところ、反抗する者だった。故に、ここに居る。
「桶は沢山あるようだな」
 ノワールは川辺に転がる一つを手に取った。
 全身を黒に染め上げたような娘は、何者にも傅かぬ。従わぬ。その黒を染めることは何人にも許さぬ。只己が望むまま。
 火炎と煙に巻かれる森と奔走する人々を遠くに何処か別世界のような静かな川が流れていた。ひたりと桶を満たせば、冷えた水が流れ込む。右隣で、左隣で、猟兵や救済者達が同じように水を汲んでいた。
 その多くは名を知らぬ。どういう者なのかを知らぬ。『闇の救済者』達は時折「あれらは噂の猟兵という者達では」と囁きを交わし、時には肯定を得て感激するようだった。
 桶の水を火にかけて駆け戻るノワールは身に余る桶を抱えてふらつく少年を見咎め、ひとつをひょいと取り上げた。
「焦るな」
 転んで零すよりは確実に運べ、そう言葉短かに言い含めるノワールへと少年は頷いた。
「派手な事ができなくてもいい。各々が自分に出来ることをやればいい。集団の強みっていうのはそういうもんだろ」
 独り言めいた声には周囲の『闇の救済者』達が確りと頷いた。
「ああ!」
「そうだ!」
 ノワールが血薔薇色の瞳で見守る中、救済者を名乗る者達は互いに互いを励まし合いながら桶を運び、辛抱強く消火を続けている。彼らは――、
(私はそう望まれ、そう育てられ、それを受け入れただけだが
彼らは自ら立ち向かう道を選んだのだと云う)
「……どいつもこいつも、眩いものだ」
 ノワールはそっと呟いた。

(味方がどんどん増えているのが感じられます。これならば)
 セシリアが周囲を駆けまわる仲間達の存在を感じ取り、僅かに目元を和らげた。
 凛々しく紡がれる言葉はユーベルコードを綴り世界へ働き掛けている。
「現れろ門よ。我が同胞の元への道を示せ」
 味方の元へ。セシリアが望むと深淵に至る門が現れた。門をくぐると門もセシリアも消えてしまう。その場には最初から何もなかったようだ。人々は唖然としてそれを見守り――しばし待てば、またセシリアが戻ってくる。
 セシリアが虚空から現れ、門を出してまた消えていく。それは不思議な技だった。
「猟兵、っていう人が、そういう技を使うらしいと聞いたことがある」
「噂の猟兵か」

「お邪魔します!」
「!」
 桶の水を木にぶちまけるノワールのすぐ隣にセシリアが突然現れ、水を追加して消えかけた火にトドメを差した。
「助かりました。それでは失礼します!」
 返事も待たずにセシリアがまた消える。門をくぐり、今度は川辺の仲間の元へと消えるようだった。仲間がいなくてはできない事も、ある。セシリアはそれを自身の能力で示していた。
「ありがとうございます!」
「お邪魔します」
 仲間達に律義に断りを入れて飛び回る同胞の姿にノワールは軽く肩を竦め、自身も川辺と森とを忙しく往復するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冥門・残士郎
【POW】
圧政への反逆者ですか……いいもんですね。エエ、すごくいい
町の衆を虐げてばっかだった前の冥門に一寸の間反逆してたことを思い出します

桶は【怪力】でもって持てる限り持ちましょう
火事と喧嘩は……とも言います、どういうトコをまず消すべきかは心得てますよ

持ち上げられてるのは、やはり照れがありますね…これはあたしらのやるべきことですし
ま…懐かしいこと、思い出させてくれましたしね
消火の最中ではありますが…【コミュ力】で彼らと会話しつつ、彼らの希望の火ってやつを暖めてやりましょう。あたしゃそういう暖かさが好きです


それに……そういう所に悪鬼は寄り付いてくるもんだ
クク…まるで釣りの気分だねェ…


ロカジ・ミナイ
キャー!
火じゃないの!消さなきゃ!
森の動物と江戸っ子は火事に敏感なんだよ!

斧あるかい?斧っぽい道具ありったけ持ってこい!
何するって、伐採よ
燃えるモノが無けりゃ燃えないってのは火消しの基本
火より先回りして木やら建物を倒すのよ
キャー!あっついお洋服が焦げちゃう

まどろっこしいから蛇ちゃん出すかい?
あの子らも火は嫌いなんだけどね
こういう時のバケモンは役に立つんだ
長い首で薙ぎ倒すくらい造作もなかろうよ
じゃなきゃデッカい口に水貯めて放水するとかさ、出来るでしょ?
ビビってねーで働くんだよ!餌を弾むからさぁ

全く、ここの領主は嫌な手を使いやがる
放火は大罪、死をもって償ってもらわねーと


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

『闇の救済者』…ですか。
この世界でこのような活動をしている人々が現れるとは驚きです。
正直いまだに信じられないです。
……ですが、嬉しくは思う。
こちらも最大限の力を尽くしましょう。

それにしても、今回の敵。
森ごと村を燃やしてしまおうだなんて、悪辣極まりない。
必ず処刑する…と心の中で【覚悟】を決めて、消火活動にのぞむ。

水を召喚するユーベルコードなどが使えればよかったのですが、生憎とそのような力はないのでシンプルに。
大きな桶いっぱいに水をはり、それをたくさん運んで消火。
【怪力】なので、見た目より力はあるほうかと……。
もしも炎で火傷をした人がいたら、簡単な手当てを【救助活動】



●釣り人
 薄緑の髪がふわりと風に靡く。
 その鮮血を思わせる紅い瞳が闇を見通すように巡らされれば、『闇の救済者』達は一瞬動きを止めて目を奪われるようだった。彼らに手を差し伸べたのは、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)という猟兵だった。
「『闇の救済者』……ですか。この世界でこのような活動をしている人々が現れるとは驚きです」
 夏介はそう言って周囲に集まった顔ぶれを順に見る。

「圧政への反逆者ですか……いいもんですね。エエ、すごくいい」
 冥門・残士郎(人斬り義侠・f21843)が漆黒の瞳を笑ませた。夜闇の中にあって尚際立つその輝きはさながら黒の金剛石。吐息に乗せ、声は懐かしむように。
「正直いまだに信じられないです。……ですが、嬉しくは思う。こちらも最大限の力を尽くしましょう」
 人形のような白皙が紡ぐ言葉に残士郎がゆるりと頷いた。
「町の衆を虐げてばっかだった前の冥門に一寸の間反逆してたことを思い出します」
 冥門は用心棒であった。エンパイアは一都市を預かりて、名は強者を示す。残士郎は義侠心を有する男であった。

「キャー! 火じゃないの! 消さなきゃ!」
 彼らの耳にロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)の華やかな声が届く。すぐ傍に転送されたロカジは転送一番に森の燃える様を見て特徴的な眉と眦をきりきりと釣り上げていた。
「森の動物と江戸っ子は火事に敏感なんだよ!」
「まったく、困ったもんです」
 残士郎が頷き、協力する姿勢を見せた。
「手を貸しましょう、共に火を消そうじゃありませんか」
 怪力で桶を持てるだけ持った残士郎が色白の肌を炎の灯りに彩られながら笑う。
「火事と喧嘩は……とも言います、どういうトコをまず消すべきかは心得てますよ」
 桶を運び的確に水をかけていく残士郎。ロカジは『闇の救済者』達に声をかけている。
「斧あるかい? 斧っぽい道具ありったけ持ってこい!」
 言われた連中は突如現れた男共が何者なのかをまだ理解せぬまま、しかしなんとも抗いがたいロカジの勢いに負けて泡を喰って道具を運んでくる。
「ど、どうすんだ」
「何するって、伐採よ。燃えるモノが無けりゃ燃えないってのは火消しの基本じゃない」
 ロカジが指示を出す。ピンク色の洒落た髪と傾奇衣装は暗い中でも独特の存在感を放ち、不思議と陽気な気配が周囲のダンピール達を魅了していくようだった。――憎めない、と。
「火より先回りして木やら建物を倒すのよ。ってキャー! あっついお洋服が焦げちゃう!」
「だ、大丈夫か!」
 炎が燃え移りそうになって騒ぐロカジにダンピール達がおろおろと集まり、ばたばたと火を消してくれる。
「なんとも可笑しな奴だ」
「うーん、前からの知り合いみたいな気分になってくるぞ」
 そういえば、と『闇の救済者』の中の数人が思い至ったように猟兵を視て聲をあげる。
「あちこちで人を助けて吸血鬼を倒してるっていう連中が、あんた達みたいな連中だと聞いたことがあるぞ」
 3人は一瞬顔を見合わせ、肯定した。依頼を受ける際にも聞いている事だった。――猟兵達の活動が現地の人々に希望を与えたのだと。
「あたし達、あんた達の噂を聞いて、其れで」
 夏介は1人1人にゆっくりと頷いた。医師を志したこともあり、ダークセイヴァーの地で人々の治療にも当たったことのある夏介は言葉や気持ちを受け止める事の効能を理解している。集いし『闇の救済者』達が猟兵に憧れているならば猶更だ。
「それにしても、今回の敵。森ごと村を燃やしてしまおうだなんて、悪辣極まりない」
(必ず処刑する……)
 人々が希望の灯を目に宿し息巻いて消火に当たる中、夏介は表情の変わらぬ心の奥で処刑人としての覚悟を決めた。

 そんなやりとりを交わしつつも、彼らはせっせと体を動かして消火に努めていた。
 夏介はざぶりと大きな桶いっぱいに水を張り、地道に水を運ぶ。一見中性的で繊細な容姿だが、夏介は見た目よりもずっと力があった。

「ふう、やれやれだよ」
 ロカジはぽふぽふと服について煤を払い落し、肩を竦めた。
「まどろっこしいから蛇ちゃん出すかい?」
「へ、へびちゃん?」
 言葉の意味を理解できていないダンピールに頷き、ロカジが虚空に向けて聲をかける。
「かわいいオロチたち、ご褒美の時間だよ」
 ずるりと現れたのは七つの首をゆらりと揺らしくねらせる大蛇だ。『素戔嗚(キツネノカイヘビ)』はロカジの若さをほんの僅か代償にしながらオロチを呼び寄せ、従わせる。
「なんだ、蛇!?」
「ば、……」
 何かを言おうとした『闇の救済者』の1人が口を噤む。彼らは、「ばけもの」という言葉が自分に向けられたことのある者ばかり。自らが痛みを知る者達は、言葉にはそれなりに慎重であった。
 ロカジは人の心の機微を知る男であった。煙管をくるりと廻してロカジは快活に笑う。暗澹たる
「この子らも火は嫌いなんだけどね。こういう時のバケモンは役に立つんだ」
 オロチの鱗際立つ身体をぽんと叩けば、蛇首が微妙な反応を見せていた。
「長い首で薙ぎ倒すくらい造作もなかろうよ」
 ふるり、なんとも楚々とした仕草で蛇首が振られる。人々がぽかんと口を開いてその姿を見ている。
「じゃなきゃデッカい口に水貯めて放水するとかさ、出来るでしょ?」
 蛇の眼が微妙そうな色を湛えていた。
「ビビってねーで働くんだよ! 餌を弾むからさぁ!」
 ぽんぽんと叩いて押し出すようにすれば、オロチはようやっとやる気を奮い起こしたのか豪快に大首を振り木々を薙ぎ倒していった。
「おおー」
「すごい」
 人々が驚嘆の声をあげ、ロカジと残士郎に声を掛ける。
「あ、アンタ達、噂の猟兵さんか」
 『闇の救済者』達がそう言って憧憬と尊崇の入り混じる熱い眼を向けてくる。彼らにとって猟兵とは昏迷の世に垂らされた一筋の蜘蛛の糸に似て奇跡の体現者、夢想家が描いた物語から飛び出てきた英雄のような存在であった。

「救護場所を儲けましょうか、怪我人もいるようですからね」
(持ち上げられてるのは、やはり照れがありますね……これはあたしらのやるべきことですし)
 残士郎は頬を軽く掻き、怪我人を一箇所に集めた。人々からは常に熱い眼差しが注がれている。なんとも面映ゆい心地を自覚しながらも、残士郎の表情は朗らかだ。
(彼らの希望の火ってやつを暖めてやりましょう)
 ――あたしゃそういう暖かさが好きですよ。
(ま……懐かしいこと、思い出させてくれましたしね)
 闇を生きる者達に必要なものは、希望であった。残士郎は持ち前の社交性を発揮して友好的な視線を返し、あたたかに言葉を紡ぐ。
「なあ、この世界はさ」
 荒い息を吐きながら全身に火傷を負った男が起き上がる。
「救える、だろ」
 起き上がる全身は酷く痛み、呼吸もままならない様子ながらその目は爛々としていた。
「エエ、エエ。そうですよ。あたしらは――、」
 視線をぐるりと広く巡らせれば、方々で仲間達が動いている。その一人一人を順に見て、残士郎は笑った。
「どいつもこいつも本気でさ、この世界を救ってやろうってな連中でね」
 『闇の救済者』達が表情を明るくしている。
「医術の心得があります」
 夏介が駆け寄り、慣れた仕草で男の状態を診て処置を施していく。
「ああ、火傷にはこの薬が効くよ。痛み止めはこれ。塗り薬はこれ」
 ロカジがくすり箱から薬を提供してくれる。
「症状の重い人から診ます、怪我人を見つけたら連れてきてください」
 残士郎は消火活動をしながら怪我人を見つけるたびに救護場に運び、ロカジの薬を用いて夏介が手際よく治療を施していく。

「噂に聞いてたのと、同じだ」
「どんな噂なのやら――、ああ、イエ。想像はできますがね」
 夢心地で目を瞬かせる男に肩を貸して歩きながら残士郎が微笑む。

(暖かでいいじゃないですか)
 希望を語り合う救済者達が怪我の痛みを忘れたように目をキラキラと輝かせている。動ける者は力の限り消火に当たり、火勢が少しずつ弱くなっている。
「……そういう所に悪鬼は寄り付いてくるもんだ。クク……まるで釣りの気分だねェ……」
 残士郎が自然な仕草で闇を示す。かさりと葉を擦らせて飛び立つ影は、蝙蝠に似た。
「全く、ここの領主は嫌な手を使いやがる。放火は大罪、死をもって償ってもらわねーと」
 ロカジはそう呟き、煙管を吹かせる。紫煙が薄く空に立ち上り、独特の香りがふわりと周辺に揺蕩えば闇が煙のヴェールにゆらりと退かされるようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

栗花落・澪
応援してくれる人が増えるのは、嬉しい事だよね
ただ…無理はしないでほしいかな

というわけで【指定UC】発動
…正直どこから湧いて来てる人達なのか自分でもわからないんだけど
今は人手は多い方がいいよね!

というわけで親衛隊男衆には水汲みや運搬を含む消火を手伝わせ
女性陣には【優しさと医術】を駆使して【救助活動】を任せる
急にこんな事になったんだもん
万一があったら困るからね

そして僕も翼で羽ばたく【空中戦】!
自ら場所を移動しながら
★Staff of Mariaから放つ水の【高速詠唱、全力魔法、範囲攻撃】で
消火活動のお手伝い!
全体を見渡せるメリットを活かし
確実に火元を【見切り】燃え広がらないようにします!


蛇塚・レモン
連携アドリブ◎
全技能活用

<POW>
それじゃ、盤上をひっくり返しちゃおっかっ!
まずは消火活動だねっ!

勾玉を媒介に蛇神様を召喚
蛇神様の神通力(属性攻撃)で川の水を操って巨大な水球を生成するよっ!
あたいも魔法の辞典で術式を展開、水球の形状安定に努めるね

次にUCで水球を一睨み
不可視の霊力鎖で水塊を掬うように絡めて、そのまま炎の中へ放り込むよ!
あたいの霊力鎖は何本も操作可能
バケツリレーならぬ鎖リレーで川の水から水球を作ってどんどん運搬っ!
(視力+念動力+範囲攻撃+ロープワーク+属性攻撃)
近場が消化できたら、今度は水球を遠くへブン投げちゃうよっ!
念動力で空を飛んで、水球を炎の真上から落とすのもいいかもっ?



●お空をいっしょに
「応援してくれる人が増えるのは、嬉しい事だよね。ただ……無理はしないでほしいかな」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が優しい瞳を見せながら後ろに控えていた男達を振り返る。
「……また人数増えた?」
 澪に熱い視線を送る男女は腕に「澪ちゃん親衛隊」と書かれた腕章をつけていた。彼らは熱狂的な澪のファンなのだ。
「……正直どこから湧いて来てる人達なのか自分でもわからないんだけど今は人手は多い方がいいよね!」
 澪が困ったような笑顔を浮かべると親衛隊がその愛らしさに悶えている。
(こ、困った人達だなぁ~~? 大丈夫かな?)
 そして、ふと「あれ?」と目を瞬かせた。親衛隊の中に一人、華のある女の子が混ざっている。目が合えば女の子はニコッと笑った。まるで向日葵のような笑顔に澪は釣られて笑顔になってしまう。笑顔の澪を嬉しそうに見つめ、女の子――蛇塚・レモン(黄金に輝く白き蛇神オロチヒメの愛娘・f05152)が明るい声をあげた。
「それじゃ、盤上をひっくり返しちゃおっかっ! まずは消火活動だねっ!」
「は、はい!」
 年上のお姉さん相手に背伸びするように姿勢を正して折り目正しい返事をする澪に親衛隊が微笑ましい視線を送っている。

「蛇神様、お願い!」
 力を貸して、とレモンがおねだりをすると、レモンの親代わりを自称する子煩悩な蛇神オロチヒメが優美な姿を現した。
「あ、あれは?」
「異形……」
 人々がざわざわと遠巻きにして蛇神を見ている。その存在が愛しそうに守るレモンに視線をやれば、レモンは元気溌溂といった表情でピースサインをしてみせた。
「大丈夫! あたい“たち”にぜぇ~んぶまっかせなさ~いっ!」
 大きな蛇神が川の水を操り巨大な水球を生成しながら、レモンを優しく守っている。レモン(女の子)が特別な存在なのだと人々にはすぐにわかった。
 人々の視線が集まる中、レモンは慣れた様子で魔法の辞典をめくり術式を展開している。
「蛇神様、あたいは水球の形状安定に努めるね!」
 愛らしい声を聞く人々は「異形は神様と呼ばれる類の存在なのだ」と悟り、畏敬交じりの視線を向けるのであった。

「えっと、じゃあ。男の人達は、水汲みや運搬、消火をお願いします。女の人達は、救助活動をお願いできますか? 急にこんな事になったんだもん。万一があったら困るからね」
 一方、澪は眉を下げて親衛隊におねだりをしている。親衛隊は全力で頑張ってくれた。
「ありがとう……よろしくね」
 ふわり、と背の羽を舞わせて澪は空へと飛びあがる。羽搏き空に舞う澪の下で親衛隊が懸命に手を振って応援している。はらりと舞い降りた羽を偶然手に取った1人が大喜びで懐にお宝を隠そうとし。
「おいっお前! 澪さんの羽根を隠そうとしたな」
「えっ、な、なんのことか」
 地上でささやかな揉め事が勃発していた。
「え、ええ~~」
 澪はちょっと脱力しながらもStaff of Mariaに清浄な光を宿し、水を地上に降らせた。
「消火、お手伝いしまーす!」
 澪は空から全体を見渡せるメリットを活かし、火元を見つけては的確に水をかけていった。そして、地上のレモンが水球をじっと見つめている様子に気が付いてふと羽を止めた。
「これが本当の蛇睨みだよっ!」
 明るい声と共に虚空を何かが動いていた。

「あれは……鎖? かな」
 澪は不可視の霊力をなんとなく感じ取り、興味深く仲間のユーベルコードの動きを観察した。地上では滞空する澪に気付いた親衛隊が一生懸命手を振り、「澪さーん! 順調ですよー!」と報告をしてくれている。
 レモンの周囲にもまた、不思議な水球と蛇神様に目を奪われる人だかりができていた。

「こうやって使うんだよー!」
 ひときわ明るい声があがり、どよめきが起きる。
 レモンが霊力の鎖で水球を絡め取り、ポイポイと炎の中に放り込んでいた。
「わっ、面白い」
 澪が眼をまんまるにして声をあげるとレモンが上空の澪に気付き、手を振った。
「面白いって言ってくれてありがとーっ!」
 元気いっぱいの声はひたすら好意的だ。澪はニコリと微笑み、手を振り返した。
「バケツリレーならぬ鎖リレーだよっ、どうかな?」
 蛇神様とレモンは息ぴったりの連携を見せて川の水から水球を作っては運搬し、作っては運搬し、火を消していく。

「あのね、あとね! あたいも空飛べる!」
 レモンはそう言ってふわりと空を飛び、嬉しそうに澪の傍に舞い上がった。この『お姉さん』はとても活発でフレンドリーなのだ。
「一緒に水降らせよっか!」
「う、うん」
 『お姉さん』が澪をリードするように先を飛ぶ。澪はぱたぱたと一生懸命羽を羽ばたかせてレモンについていき、レモンと共に水を放って火を消して回るのだった。

 上空から見下ろす世界はどんよりとしている。地上では、仲間達が一生懸命動き回っていた。
「けほっ、けほっ」
 ふと煙を吸い込み、澪は咳き込む。
「だいじょうぶ!?」
 レモンが慌てた様子で傍により、あわあわと背中を摩ろうとして。
「あっ、は、羽があるから触っちゃだめだよね!? ごめん!」
 その瞳は心の底から澪を案じる光を宿しているのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
お友達のコノさん(f03130)と
一緒に希望を守りにいこう!

いつかこうやって抗う人達が現れてくれると信じてた!
猟兵だけじゃなくこの世界の人が立ち上がることが重要なんだと思う
民衆に芽生えた希望が広がって夜の闇を払うんだ、きっと

他者を助けようとする闇の救済者達に感動し、彼らを鼓舞しながら消火活動
水属性付与した衝撃波(メボンゴから出る)を範囲攻撃+二回攻撃
早業で何度も繰り返し、広範囲に勢いよく水を撒く
全力ウォーターメボンゴ波ーっ!

流石だね、コノさん!
これなら延焼しないし、早く消火できそう

みんな、もう一頑張りだよ!
でもあまり離れないで、なるべく猟兵の近くにいてね
絶対一人にはならないように!


コノハ・ライゼ
アドリブ等歓迎
ジュジュちゃん(f01079)と

ジュジュちゃんの輝く前向きな瞳を見て目を細める
彼女のような正義感は持ち合わせちゃいないケド
闇の中にも咲く小さな笑顔を知らぬ訳でもない
それがこんな風に輝いてこの世界に広がるなら、悪くはないかもネ

ハイハイ、緊張感は大事ダケド力み過ぎは厳禁ヨ
視界を広くもって、効率的にいきましょ

そんじゃオレは【彩雨】で氷の盾を張ろうか
ジュジュちゃんら見習って『範囲攻撃』に『2回攻撃』
延焼しないよう周囲からぐるっと炎の範囲を狭めていくヨ
氷で勢いを止めてる間にどんどん消しちゃって

それで彼らがあまりばらばらに動かなくていいようにしましょ
怖ぁい輩が見てるかもだから、念には念をネ


夢咲・向日葵
【絵里香と同行】
●心情
・ここがダークセイヴァーなんだね。うーん…暗いの。
・人の心を楽しい夢の光で照らすのが、大地の魔法王女であるひまちゃんの役目だってシャチえもんも言ってたの。
・だったら、ひまちゃんがここでやることは一杯ある筈だよね。
●消火活動
「火事対策なら水だよね。ってことで人型気象兵器(シャチえもん談)の師匠、お願いなのー」
・最近武術を教えてもらっている巫女さんにお願いするの。
「お師匠ー、ひまちゃんはどうすればいいの?」
「成程、延焼対策でこれ以上燃え広がらないように土壁で森を覆えばいいんだね」
・魔法王女に変身して大地を操って(地属性攻撃)土の壁を作ってこれ以上燃え広がらないようにするの。


神宮寺・絵里香
【向日葵と一緒】
●心情
・誰が気象兵器だ。どうせ余計なことを吹き込んだのはあの馬鹿女神だろ。
 後で〆るか…。
・なんか気合が入ってる奴らがいるな。まあ…良いんじゃないか。
・さて、向日葵の実戦経験を稼ぎに来たんだが、少しでも骨のある奴がいればいいんだがな。
●消火
「オレが広範囲に雨を降らせて消火をするから、延焼対策をしろ。大地の力で壁でも作れば燃え広がらないだろう」
・戦闘知識と世界知識で向日葵に指示だし
・全力魔法からの範囲攻撃UCで広範囲に雨を降らせる。
「さて、少しでも燃えている木を切り倒して早く消えるようにするか」
・水属性を纏った薙刀で焼けている木を消火しながら薙ぎ払い斬り倒していく



●恵み
「一緒に希望を守りにいこう!」
 ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が頬を薔薇色に染めてコノハ・ライゼ(空々・f03130)の腕を引き、走っている。真白のスカートがふわりと広がり、青色のフリルが可憐に揺れた。
「いつかこうやって抗う人達が現れてくれると信じてたんだ!」
 嬉しそうに振り返るジュジュの瞳がエメラルドの宝石のようにキラキラと輝いて前を視ている。牧歌的な世界の片隅で青空を見上げる若草のように生命力に満ちている。
「イイね」
 薄氷の瞳が微笑むように細まれば、其れを見た少女が一層嬉しそうな顔をした。片腕で抱く白ウサギの耳がぴょこりと体の動きに合わせて揺れる。
「猟兵だけじゃなくこの世界の人が立ち上がることが重要なんだと思う。民衆に芽生えた希望が広がって夜の闇を払うんだ、きっと」
 胸の内に燈る想いを嬉しそうに語るジュジュを見ながらコノハは頷いた。

 ――彼女のような正義感は持ち合わせちゃいないケド闇の中にも咲く小さな笑顔を知らぬ訳でもない。

(それがこんな風に輝いてこの世界に広がるなら、悪くはないかもネ)
 コノハが雲に覆われた世界と炎に視線を向ける。手を引くジュジュの体温があたたかな夜だった。いつものように見上げる瞳に、いつものように綺麗な笑顔を返して。
「ハイハイ、緊張感は大事ダケド、力み過ぎは厳禁ヨ。視界を広くもって、効率的にいきましょ」
「うん!」
 ジュジュは元気よく『闇の救済者』達に向け、声をあげた。
「私達は、味方だよー! 手伝いにきたよー!」
 禍乱に相対する人々に、その声は不思議とよく通って聞こえた。溌溂とした声は日常にある人々を非日常へと誘う事に長けた声だった。
 ジュジュが周囲を鼓舞しながらメボンゴを元気よく掲げ、叫ぶ。
「全力ウォーターメボンゴ波ーっ!」
 激しい勢いで白ウサギから水が噴き出すと、『闇の救済者』達が眼を限界まで見開いて「ぬいぐるみから水が!」と驚いている。ジュジュは視線を集めるのにも慣れた様子で彼らを勇気づけるように笑顔を浮かべ、何度も水を放ち広範囲にメボンゴ波を放つのだった。

 そんなジュジュの様子に目元を柔らかにしながらコノハは周囲に透明な氷の盾を浮かべていた。水晶針は、氷の冷気を有する特殊な針だ。火の粉舞う中を飛ぶ270本もの針の遊色がきらりとして炎を寄せず、延焼を防ぎ、炎の進路を阻むようにぐるりと炎域を囲い込む。世界の彩が揺らめいた。世界に、鈴は鳴かぬ。片側だけの耳飾りが幽かに揺れて影を落とした。
「氷で勢いを止めてる間にどんどん消しちゃって」
 言いながら瞳の奥では油断なく周囲を探る。悪逆の気配が密やかに場に『ある』。
「彼らがあまりばらばらに動かなくていいようにしましょ。怖ぁい輩が見てるかもだから、念には念をネ」
 冗談めかした言葉とは裏腹に、それは確信でもあった。
「「流石だね、コノさん! これなら延焼しないし、早く消火できそう」
 ジュジュは感動した様子で目を丸くしてコノハを見上げ、すぐに『みんな』に向けて声をかけた。
「みんな、もう一頑張りだよ! でもあまり離れないで、なるべく猟兵の近くにいてね。絶対一人にはならないように!」
 紫雲に染めた髪が少し焦げ付いたような風に吹かれて目元を揺れる。そして、染めぬ茶色の髪を風に靡かせてまっすぐな声をあげるジュジュを見た。


「ここがダークセイヴァーなんだね。うーん……暗いの」
 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)が周囲のどんよりとした空気に眉根を寄せ、シャチえもんを思い出していた。
 ――ひまちゃん。いや、シャイニーソレイユ。人の心を楽しい夢の光で照らすのが、大地の魔法王女であるひまちゃんの役目なんだ。
 シャチえもんは、そう言ったのだ。
「だったら、ひまちゃんがここでやることは一杯ある筈だよね、シャチえもん」

 向日葵はきりりと前を向き、隣に立つ神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)を見た。絵里香は最近向日葵に武術を教えてくれているのだ。
「火事対策なら水だよね。ってことで人型気象兵器の師匠、お願いなのー」
(誰が気象兵器だ。どうせ余計なことを吹き込んだのはあの馬鹿女神だろ。後で〆るか……)
 神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)が黒い瞳の奥で物騒な事を考えながら頷いた。
「オレが広範囲に雨を降らせて消火をするから、延焼対策をしろ。大地の力で壁でも作れば燃え広がらないだろう」
 戦巫女(絵里香)の耳には『闇の救済者』達の声が聞こえてくる。
(なんか気合が入ってる奴らがいるな。まあ……良いんじゃないか)
「あの人達、現地の人なんだね。ちょっと耳が尖ってる人とか、牙がある人もいるね」
 向日葵がそう言って人々を見ている。
(さて、向日葵の実戦経験を稼ぎに来たんだが、少しでも骨のある奴がいればいいんだがな)
 絵里香は慎重に周辺の気配を探り、澱むような昏い悪逆の気配を察知した――『観ている』。
「ならば、見せてやる」
 絵里香が一歩を踏む。それは神聖な儀礼に似て意味のある歩足だ。白と朱が凛然と風孕み、舞う。
「大いなる水を司りし白蛇の神よ! 汝が巫女たるこの我に恵みの雨を与え給え!」
 峻厳に祝詞を捧げながら巫女装束が踊れば、周囲にゆらりと立ち上るは薄い白煙にも似た蛇の輪郭だ。
「急ぎ定めの如に施よ(急急如律令)」
 霊気が渦巻き、鬼気迫るほど。今や白の蛇身が輝くように光を放ち、絵里香の全身周りを明るく照らしあげていた。
「神々しいな~」
 向日葵は師匠を誇るように胸を張り、『闇の救済者』を見た。突如として神々しい光を放つ巫女姿に驚き眼を瞠っていた彼らは、ふと掌を天に向け。
「雨、だ」
 呟いた。
 ぽつり、ぽつり。
 地面を濡らし、染みを作った雨雫が徐々にその範囲を広げ――勢いを強めていく。
 ざ、ざ、ざあ。
「ああ……」
 恵みだ。
 掌を濡らす滴から上へと視線を移し、頬を伝う雨雫に紛れてあたたかな涙を混ぜる彼らは、やがて桶を手に。
「天は、――敵じゃない」
「ああ」
 そう言って再び消火活動を再開するのであった。


 ――我等雨雲と共に舞い踊る巫女也。


 黒の瞳は闇を見通すように静かに空を観た。
 雨に全身を濡らしながら背筋正しく佇む絵里香へと、向日葵が首を傾げる。
「お師匠ー、ひまちゃんはどうすればいいの?」
 弟子の向日葵をちらりと見て、師匠・絵里香は未だ燃える炎と森の木々に視線を向けるよう促した。
「さて、少しでも燃えている木を切り倒して早く消えるようにするか」
 絵里香はゆるりと掌を薙刀にあて、水気を纏わせた。白蛇の意匠がついた薙刀・叢雲は神宮寺家に伝わる神器の一つだ。
「成程、延焼対策でこれ以上燃え広がらないように土壁で森を覆えばいいんだね」
 向日葵は師匠の指示に安心した様子で頷いた。慣れている者が行動指針を出してくれるというのは不慣れな向日葵にとってとても安心する事なのだ。
(まだ、経験が浅い――指示されないと動けないか)
 そんな向日葵を見て絵里香は「もっと経験を積ませなければ」と心の中で考えるのであった。
「それじゃあ」
 師匠の心知らず向日葵はそっと胸の前で手を組み、グランドハートにお願いをする。
「お願い、グランドハート、ひまちゃんを魔法王女に変身させて!」
 煌く光が向日葵の全身を優しくあたたかに包み込んだ。光の中で向日葵が変身していく。髪と瞳が黄色に変わり、ポニーテールになり。
 頭には王女であることを顕す繊細で愛らしいティアラが輝いた。ふわり、成長途中の全身を包むのは向日葵の花モチーフの鮮やかな黄色のドレスだ。
「母なる大地に咲く、一輪の大花! 輝く大地の魔法王女! シャイニーソレイユ!」
 愛らしいポーズを決めた向日葵は、ふりふりのドレスを揺らして大地を操る。
「お、おい、王女とか言っているぞ」
「どこの国のだ」
 『闇の救済者』達がざわざわとしていた。
 向日葵はぴんっと姿勢を正して凛とした空気を纏う。足元に地面を感じる。靴の裏がしっかりと地に着いている。だから、向日葵の心には無限の勇気が湧いてくる。
 土の壁がず、ず、ずとせり上がり壁となる。
「これ以上は、燃やさせないよ」
 炎に向かって言い放つ向日葵は立派な魔法王女だった。
「上出来だ」
 弟子の姿に僅かに目元を和らげながら、絵里香は叢雲を峻烈に奔らせて木を薙ぎ払い斬り倒し、延焼を防ぐのであった。


「雨だ!!」
 ジュジュが嬉しそうな声をあげ、コノハを見上げる。その嬉しそうな目といったらコノハが釣られて満面の笑みを浮かべるほどだ。
「ね! 天も味方してくれてるんだよ!」
「そうネ」
 コノハはくすりと笑う。彼には、猟兵がその雨を齎したのだということがわかっていた。一人だけでない。同時にあちらこちらで数人が似たようなユーベルコードを発動させていた。

 ――種も仕掛けもありませ~ん!

『やったー!』
 メボンゴが可愛らしい声をあげている。ジュジュが腹話術で喋らせているのだ。
 ジュジュがショータイムをする時の気持ちが少しわかった気がしてコノハは一層やわらかに瞳を和ませた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アンコ・パッフェルベル
あやや…火急の事態とはこのことですね。
とりあえず盤面に水ぶっかけてやるです。

ええ。見ての通りです。
だから貴方のお力が必要でして。

…と木陰から姿を見せた雨降小僧に語り掛けます。
あ、加減は要らないですよ。
後でエンパイアのお寿司奢りますからどざーっといっちゃってくださいです。
雨が降り始めたら私も微力ながら水を運びましょう。
…服が濡れるのは必要経費ということで。
戦闘前に着替えるのでよしとするです。

はあい、お疲れ様ですっ。
こちらは猟兵。アンコちゃんは雨をお届けに参りましたです!
闇の救済者の方々にもそんな感じにお声掛けです。
皆で協力しあってパパっと消火したら、
ヴァンパイアの悔しがる顔を拝むとしましょー!


ロースト・チキン
ヴァンパイア共は鶏の血の好むという噂を聞いたことがある。

ヒャッハーーー!?
オレを丸ごとおいしくいただこうとする圧政者からの解放だ!!

何かに感化され、違和感あるけど違和感なく野郎共に紛れているロースト。

や、奴ら、ついにやりやがった…!?
いくらオレが美味しそうだからって、こんな手を使ってくるなんて!!
今晩の食卓はローストチキンにオレの血のワインで乾杯だと!?
冗談じゃねーーーー!!

この世界には、夢や希望……光ですらないのか!

こうなりゃ、人海戦術しかねぇ!!

迫りくる火に貞操の危機を感じたローストは、【群れる世紀末】で召喚されたモヒカンたちで、世紀末的な消化活動を行います。

ヒャッハーーーー水だ水ーー!!



●雨と鶏
「ヴァンパイア共は鶏の血の好むという噂を聞いたことがある。ヒャッハーーー!? オレを丸ごとおいしくいただこうとする圧政者からの解放だ!!」
 ロースト・チキン(チキン野郎・f03598)が真っ白ふわふわの鶏の羽根をぱたぱたさせて慌てていた。
 なんとローストは『闇の救済者』の一団に紛れ込んでいた。世界の加護のおかげもあってか、はたまたギャグ補正か、違和感あるけど違和感なく『野郎共』に見事に紛れている。
「や、奴ら、ついにやりやがった……!? いくらオレが美味しそうだからって、こんな手を使ってくるなんて!! 今晩の食卓はローストチキンにオレの血のワインで乾杯だと!? 冗談じゃねーーーー!!」
 ローストが大騒ぎしてようやく周囲の『闇の救済者』が「あれ? こんな奴いたっけ」的な反応を見せ始めた。
「おい、こいつ仲間だっけ」
「知らねえ」
「コケーッ!!」
 周囲の反応ももはや耳に届かぬ。ローストは森の中で大混乱に陥っていた。なにせ、周りがボウボウゴウゴウと燃えている。このままではローストがローストされてしまうではないか!

「この世界には、夢や希望……光ですらないのか! こうなりゃ、人海戦術しかねぇ!!」
 迫りくる火に貞操の危機を感じたローストはモヒカン達を召喚する!
「ヒャッハーーーー水だ水ーー!!」
「「ヒャッハーーーー!!」」
 こうして森の中にモヒカンの軍団が現れ、世紀末の群れが消火活動を始めたのであった。

「あやや……火急の事態とはこのことですね。とりあえず盤面に水ぶっかけてやるです」
 アンコ・パッフェルベル(想い溢れるストライダー・f00516)が木陰に視線を向ける。木陰から控えめにちらっと姿を見せたのは傘を被った雨降小僧だ。
「ええ。見ての通りです。だから貴方のお力が必要でして」
「あい」
 雨降小僧はつぶらな瞳をぱちぱちさせ、こっくんと頷いた。
「あ、加減は要らないですよ。後でエンパイアのお寿司奢りますからどざーっといっちゃってくださいです」
「あい」
 雨降小僧が萎れた草を踏みしめてトテトテと木陰から姿を見せる。
「あめ~あめ~」
 ばんざーい、と大きくゆったりと両手を振り上げ、雨降小僧が可愛らしい声を放つとざ、ざ、ざあ、と雨が降り始める。
 アンコはにっこりとした。
「猟兵は群れで戦う生き物。各方面のプロが集まればどんな困難だって乗り越えられるですよ。頼りにしてますよ、あいぼー!」
 雨は森全体を守るようにざあざあと降り注ぎ、アンコの全身、会心コーデの衣装もしとどに濡らしてしまう。
「……服が濡れるのは必要経費ということで。戦闘前に着替えるのでよしとするです」
 アンコはそう言って雨降小僧を労い、よしよしと傘を撫でた。傘をつたって滴がぴっちゃん、落ちていく。
 アンコも雨降小僧もずぶ濡れだ。足元の草も濡れている。世界が水気を含み、火勢が和らいでいく。

 ――声をかけるなら、元気に明るく、笑顔で。

 アンコが雨雫を滴らせながら力強く歩を進める。足音は湿っていた。地面が濡れている。
 火勢が穏やかになり地上照らす光が控えめになって、少し仄暗い世界。影がたくさんある。揺れて、振り返る。
 だから、アンコはとびっきりの笑顔で元気に声を放った。
「はあい、お疲れ様ですっ。こちらは猟兵。アンコちゃんは雨をお届けに参りましたです!」

 『闇の救済者』達は一瞬目を見開き、驚いた気配を見せていた。

「皆で協力しあってパパっと消火したら、ヴァンパイアの悔しがる顔を拝むとしましょー!」
 声は光そのもののようだった。先刻まで地上を照らしていた炎とは異なり絶望の齎し手ではない。希望の齎し手としての光だ。

(それにしても、この雨)
 アンコはふと視界いっぱいに降り注ぐ雨を視る。
(他の猟兵さんも、降らせてくれたみたいですね?)
 雨降小僧がウンウンと頷いている。数人の力が合わさり、地上に恵みの雨が今、降っている。

「っくしゅん!」
「くしょ! ちくしょ!」
 モヒカン軍団がくしゃみをしていた。
「てめぇら気合が足りないぜ! コケーッ!」
 ローストがずぶ濡れの羽をぱたぱたさせながらモヒカン軍団にヤキを入れていた。
「風邪、引かないようにしましょうです」
 アンコは雨降小僧を撫でながらくすくすと笑った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ステラ・エヴァンズ
いつかこう言う日が来るのだと思っておりました
育ったのはA&Wなれど、私もまた混ざり者
片親はこの世界にいるかもしれないヴァンパイア…
体のいい言葉を宛がわれ、異形故に化物と蔑まれながらも人に利用された過去もあります
だからこそ、彼らが立つと決めたのに手を貸さないわけがありません

まずは『闇の救済者』の方々と味方全員に護星結界を
これで火傷などの心配をせずに消火活動にあたれるでしょう
私は水属性の衝撃波を放ちながら広範囲に水を散布
彼らを引き連れ先頭をきるようにして、
外から中心に向かって消化を
念の為、先んじて村に伝令を送り
避難ルートの確保と必要があれば救助を
焼けるのが森だけですめばよろしいのですけれど


カイム・クローバー
…俺はこの世界の出身だ。猟兵となって世界を渡る中でこの世界の絶望感を思い知らされていた。少しでも力になれれば、と依頼を受けちゃ居たが…そうか。まだ、希望は終わっては居ないんだな。

UCを使ってもう一人の俺を作り出す。色々と口煩い奴だが…人手が必要なら役に立つはずだ。
おい、ごちゃごちゃ言ってねぇで働け。この世界に希望が灯ったんだ。俺達が気張らねぇでどうすんだよ。…だろ?
水を汲んで走るぜ。片手に一つずつ。両手に持ちゃ、倍の速度だ。
本当なら水なり氷なり使えるUCがありゃ良かったんだが…そういった系統は苦手でね。肉体労働で手伝いをさせて貰う。地味なんて言うなよ?俺が派手にやるのはこの次なんだからよ?



●救済
「いつかこう言う日が来るのだと思っておりました」
 さあ、と風が吹き抜けてステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)の髪を後ろへと流していく。

 雲に隠されて空に星は視えない。

 ステラは、国王の所有物だった。
 力が必要とされ、道具として生かされていた。
 生活に不自由はなかった。
 けれど、親の顔も知らず友もいなかった。
 あの頃。幽閉されていた頃のステラの世界は、閉ざされていた。

 袖が揺れる。散りばめられた星模様が空に向けて仄かに煌めいた。その雲の向こうに仲間がいるのだろうと信じるような、淡く清廉な光だった。
 『闇の救済者』達がステラに気付き、数瞬手を止めて息を呑む。雪白の肌はきめ細かく、衣装は布量もたっぷりとして優美。背に流れる髪は火の粉舞う夜森の中でいっそ幻想的な艶を放つ。月の無い闇夜、悪意の炎が照り付ける朱黒の世界で浮かび上がるその姿は神秘的な美しさを有していた。ステラが彼らを助けると言えば、全員が驚いた。
「助けてくれるって言うのか」
「私もまた混ざり者」
 繊麗な睫の下で琥珀色の瞳が幽愁に揺れる。育ったのはアックス&ウィザーズの世界であったが、ステラの片親はこの世界にいるかもしれないヴァンパイアなのだ。
「あ、あんたが?」
「はい」
 温和な声に重なるように遠くで木が炎に呑み込まれて倒れる音が聴覚を塗り潰した。
「体のいい言葉を宛がわれ、異形故に化物と蔑まれながらも人に利用された過去もあります。だからこそ、貴方達が立つと決めたならば手をお貸ししようと思ったのです」
 ステラはそう言い、結界を張るために袖を舞わせ、守護星に祝詞を唱える。
「守護星よ、その御力にて彼の者を護り給え」
 瞬間、爽風と共に星の護りが森林近くで活動する猟兵達と『闇の救済者』達を覆った。
「こ、これは」
「これで火傷などの心配をせずに消火活動にあたれるでしょう」
 俄かに目の前に降った奇跡に驚くばかりの『闇の救済者』。彼らの視線の先でステラは水気を操り、勢い良く水を散布して火を消している。
「ありがてえ。おい、ボケっとするな。やるぞ」
 リーダー格と思われる長身が勇ましく声をあげる。
「よ、よし。俺達も」
 『闇の救済者』達は視線を交差させ、再び動き出した。

「外から順に消火しましょう、ついてきてください!」
 ステラは彼らを引き連れ、先頭を切るようにして消化活動を指揮する。
「そういえば、村に知らせを送った方がいいんじゃねえか」
「あたし、行ってくるよ!」
 ふと気づいた様子で『闇の救済者』達が言葉を交わし、年少のダンピールが駆けだそうとするのをステラはそっと引き留めた。
「先に村に伝令を送ってあり、既に避難が始まっています」
「そうなのか」
「ですが、風向きと火の勢いを見ますと避難ルートに火が回りかねない勢いです。これは……先回りして道の確保をするべきでしょうか」
 『闇の救済者』達は現れた猟兵の手回しの良さに舌を巻く。
「それじゃあ、あたし一緒に行く」
「おれも行くぜ」
 数人がステラと共に避難ルートの確保に動き出すのであった。


 火の粉はチラチラと明滅し、消えていく。燃え盛る炎とは対照的にそれは儚い光であった。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の銀色の髪に炎の朱色が映り込む。頬を撫でるのは熱気を含んだ乾いた風だ。何かを駆り立てるように耳元を通過して空へと駆けあがる。空に、何があるだろう。カイムはそれを知っている。猟兵となって世界を渡る中で、否応なく知ることとなった。
 UDCの便利屋であるカイムは、故郷と他世界との両方を知っている。落差を知っている。他の世界の戦いに幾度となく参加して水際で過去の侵略を食い止め、ふと思う。猟兵達の手が間に合わず、既に敗北してしまった世界の事を。
「少しでも力になれれば、と依頼を受けちゃ居たが…そうか。まだ、希望は終わっては居ないんだな」
 拳を握り、吐く声はそれ自身が世界の行方を定めるようだった。カイムは世界に選ばれし猟兵であった。
「――終わらせねえ」
 それは宣言であった。

 ステラと『闇の救済者』達がカイムの目の前を横切り、駆けていく。ほんの一瞬、視線が交差した。互いに同じ決意に満ちた目をしていた。

「よし」
 広い作戦区域の至るところで仲間達が動いている。誰がどこで何をしているのか把握し切れたものではないが、ひとりではないのだ。全員が出来ることをして、一つの方向へと世界を動かそうとしている。それが2人にはわかる。それぞれの道を2人は駆ける。

「働くぞ!」
 カイムはそう言ってユーベルコードを発動させ、もう一人の自分を呼び出した。
「なんだ? 今夜の仕事は火消しかよ」
 応える声は、全く同じカイムの声色だ。
 カイムは陰から現れて何やらぼやいているもう一人の自分に向けて頷いた。
(色々と口煩い奴だが……人手が必要なら役に立つだろう)
「おい、ごちゃごちゃ言ってねぇで働け。この世界に希望が灯ったんだ。俺達が気張らねぇでどうすんだよ。……だろ?」
 UDCアースから持ってきたバケツを両手に持ち、水を汲んで2人のカイムが消火活動に加勢した。
「おーい、これ消せんのか? 地道すぎねえ?」
 もう一人のカイムがぼやきながらも手を動かしている。
「本当なら水なり氷なり使えるユーベルコードがありゃ良かったんだが…そういった系統は苦手なんだよなあ」
 オリジナルのカイムはそう言って笑い、自身も水を運んだ。周囲では何人もの『闇の救済者』達と猟兵達が動いている。皆汗を流し、水を運んで消火に勤しんでいる。仲間だ。

「地味なんて言うなよ? 俺が派手にやるのはこの次なんだからよ?」
 カイムはそう言って水をばしゃりと燃木にぶっかけた。弱まった火勢にもう一人のカイムが水を追加すれば火が収まり、完全に沈黙する。
「よし、次だ」
「何往復すりゃ終わるんだこれ?」
「さあな!」
 夜は長そうだ。カイムはそう思いながら森を駆ける。

(でも、希望がある)
 周囲には、同じ想いを抱く仲間がいるのだ。何人も――何人も!
 頬にぽつりと滴が落ちる。手をやる余裕もないが、頬は緩んだ。口の端が持ち上がる。――雨が降ってきたじゃねえか!

「これは、雨……」
「恵みの雨だ!」
「やった! 雨が降ってきたぞ」
 ステラと『闇の救済者』達が顔を見合わせ、破顔した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレニア・ファンタージェン
エリィ、悪趣味な火祭りって好きじゃないわ
でも、諦めの悪い人たちは……嫌いじゃない

「……力仕事って、エリィ、嫌いなの」
重いものを運ぶなんて無理!
UCで蛇達を召喚
桶に水を汲んで運ばせるわ
蛇達自身にも水属性攻撃を付与
水を掛けるついでにちょっと火の中で暴れて来て頂戴
…ああ、もしかしてこっちの方が早い?

蛇達が働く間エリィは暇だからAdam&Eveにも水属性攻撃を纏わせて、お散歩でもしましょうか
小さな火も埋み火も残さず消すわ
炎ってあんまり好きじゃないし

…何だか、『組織』の人たち、すごく頑張るのね
人手が足りなさそうなところを手伝ってあげても良いかも
エリィもバケツリレーにちょっとだけ興味が湧いて来たのは内緒よ


ジャック・スペード
過酷な運命に抗う人々は、とても眩しいな
俺もアンタ達の力に成りたい
当機で良ければ、幾らでも手を貸そう

機翼を展開して空を駆け、川と森を何度も往復し水を運び
飛翔スピードを活かした消火活動が出来ればと思う
上空から被害状況を都度確認し、仲間との情報共有も行えたら
効率的に消化が出来るだろうか
水での消化が間に合わない規模の火柱を見つけたら
涙淵から氷属性の衝撃波を飛ばして凍らせてしまおう

闇の救済者達のフォローも意識
倒れてくる瓦礫が有れば此の身を盾として庇い
炎に巻かれそうな者がいれば、怪力で抱えて安全な場所へ
彼等は此の世界の希望だ、1人も欠けさせはしないさ
消火活動中の損傷は、火炎耐性と激痛耐性で乗り切ろう


シャルファ・ルイエ
わたし達猟兵は、抗うための手段を持っていますけど……。
相手との差が大きければ大きい程、その手段に乏しいまま立ち上がることは、とても勇気が要ると思うんです。
その意思と勇気に、心からの敬意を。
誰かを助けようと手を伸ばしている人達を、潰させたりはしません。

わたしは、空から燃えている場所や逃げ遅れた人が居ないかを確認しますね。
高い所からの方が全体が良く見えますから。
逃げ遅れている人を見つけたら声を掛けて救済者の人達がいる川の方へ誘導して、火の手が残っている場所には水の《属性攻撃》を《範囲攻撃》で撒いて消火をしていきます。
火傷や怪我をした人も居ると思いますから、ある程度火が消せた後には【慈雨】を。



●幻想歌
 炎が踊っている。
 黒闇の中揺らめく炎は蕩けるような色をして焦熱の舌を伸ばしていた。まるで――全てを染めてやろうと黒と赤が競うような夜。
 かつん、と軽い杖音を地に響かせれば火の粉舞い、繊手がそれを優雅に振り払う。
「エリィ、悪趣味な火祭りって好きじゃないわ」
 黒と赤に染まろうとする世界の中で白がぽつりと佇んでいた。ふわりと流れる白絹の髪、透き通るように白い肌。朧げなレースのファシネーターが夢視るように微風に揺れればなににもにも染まれぬ白が煙るように視線をあげる。『影』へ。
「でも、諦めの悪い人たちは……嫌いじゃない」
 幼心の君エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)はそう言って睫を揺らし、虚空へと語り掛ける。
「水を汲んで運んで頂戴ね」
 潤んだ瞳が瞬く間に視えない何かが蠢き、川へ向かっていく。
「な、何かいるぞ」
「気を付けろ、異形が出たかもしれん」
 ぼんやりと朧な夜景色の中で『闇の救済者』達が騒めく声。エレニアは優婉に微笑んだ。
「エリィの蛇達よ。桶に水を汲んで運ばせるわ」

 其の時、エレニアを守るように黒い巨体がずしりと昏迷の大地に降り立った。
「過酷な運命に抗う人々は、とても眩しいな。俺もアンタ達の力に成りたい」
 硬質なボディを夜気に晒してジャック・スペード(J♠️・f16475)が今まさに転送されて現場に到着したのである。
「当機で良ければ、幾らでも手を貸そう」
 スペードのジャック。ダークヒーローとしての彼の通り名だ。堂々たる佇まいに圧倒されたように人々が口を開ける中、涼風が上から舞い降りた。
「みなさん! 協力して火を消しましょう」
 霞草が闇濃い風に幾つも揺れる。清楚な白に飾られるのは、清廉に緩く波打つ水のような長髪だった。
 やわらかな白の羽根がぱさりと風を打つ。天使のような白い羽を清らかに羽ばたかせて空から降り立ったのは、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)だった。
「わたし達猟兵は、抗うための手段を持っていますけど……。相手との差が大きければ大きい程、その手段に乏しいまま立ち上がることは、とても勇気が要ると思うんです。その意思と勇気に、心からの敬意を」
 清浄な杖に下げられた硝子のベルが神秘的な蒼色に煌めいている。

「あ、あんたは……俺達に手を貸してくれるのか」
 『闇の救済者』達が眼を見開く。エレニアはマイペースに頷いた。不可視の蛇達は彼らの目の前でしゅるしゅると桶に水を汲んで運び、燃える木々へと水をかけていく。
「桶が動いてる」
「蛇がいるらしい」
 小さなダンピールの少年が目をまんまるにして桶を指さし、兄と思われるダンピールが教えてあげている。
「よし、俺達も頑張ろうな」
「うん、兄ちゃん」
 ダンピールの兄弟が意気を上げ、桶を手に走る。

「あちらに火勢の強い一帯があります」
 シャルファは上空を飛び周囲を見て回っては地上に戻り、仲間達に声をかけていた。
「行こう」
 『闇の救済者』達が意気ごみ、火を消しに走る。
「俺も手伝おう」
 黒い機翼を展開して重量のある機体で天翔けるジャックは川と森とを幾度も往復して水を運び、火を消していく。シャルファとジャックが上空で互いの進路を視ながら相手のカバーしきれない領域へと自然と担当を分け、被害状況を確認して情報を共有した。
「あちらに、救護場ができているようです」
「怪我人は俺が運ぼう」
 ジャックが怪我人を抱えて空を飛ぶ。途中で涙淵から氷の衝撃波を飛ばして被害の大きな場所を凍らせながら怪我人を運べば、救護場には薬と医師が揃っているようだった。
「彼等は此の世界の希望だ、1人も欠けさせはしないさ」
 全員、守ってみせる――ジャックがそう言えば。
「もちろんです」
 救護場の猟兵達もそう言って微笑むのであった。

 エレノアはそんな彼らの様子におっとりと微笑みながら蛇達に水気を付与していた。
「水を掛けるついでにちょっと火の中で暴れて来て頂戴……ああ、もしかしてこっちの方が早い?」
 血色を透かしたような紅榴石の眸が雪白の睫にぱちりぱちりと瞬きを齎される。
 蛇達が働く間エレノアは影より這い出し二匹の大蛇Adam&Eveにゆったりと乗り、周囲に水気を纏わせた。
「お散歩でもしましょうか」
 微睡むように微笑み、蛇達の調子はどうかしら、と巡らせる視線の中で蛇達が炎の中に入っていきパシャリパシャリと水跳音を響かせて火を打ち消していくのが見えた。
「やっぱり、暴れて貰った方が早かったのね」
 エレノアはくすりと笑い、茫洋とした世界に未だ燻ぶる炎禍に溜息をつくようにいった。
「小さな火も埋み火も残さず消して頂戴ね。炎ってあんまり好きじゃないし」
 鼓膜にはチリチリと何かが炎の舌に絡め取られる音と『闇の救済者』達がバケツリレーをしている声が聞こえる。

「……何だか、『組織』の人たち、すごく頑張るのね。人手が足りなさそうなところを手伝ってあげても良いかも」
 ――エリィもバケツリレーにちょっとだけ興味が湧いて来たのは内緒よ。
 エレノアはそう囁き、何物にも染まらぬ白の微笑みを浮かべるのであった。
 そんな彼女へと倒れ込む木に咄嗟に体を割り込ませて守ったジャックは、一言断りを入れたのち安全なところへとエレノアを抱きかかえる。
 エレノアの視界にはぼんやりとした夜の塊のようなジャックが映っている。ウォーマシンの機体は夜の中に溶け込むようで、けれどどことなく明るくも見える。そっと目を眇め、機体に手を寄せて存在を確かめるようなエレノアへとジャックは「目があまり視えないのか」と確認するように囁くのであった。


「えーん、えーん」
「大丈夫よ、大丈夫」
 小さな子供が泣いている。母親らしき女性が懸命に子供を励まし、けれど自身も不安げな顔を隠せていない。

 炎に取り巻かれて逃げるうち、森の中で進むべき道を失ってしまったのだろう。彼らを見つけたシャルファはするりと地上に舞い降りた。
「だいじょうぶですか」
「きゃっ」
 母子が舞い降りた天使のような娘に驚いたようだった。
「助けにきました。もう、だいじょうぶです」
 シャルファが優しい青い瞳を向ける。澄んだ泉のような瞳だった。母子は吸い込まれるように瞳に目を奪われ、『天使様』を拝まんばかりに感謝の目を向け、誘導指示に従った。分厚い雲の隙間からちらちらと珍しい星がちらついて見える。奇跡が目の前に降って湧いた――母子にしてみればまさにそんな夜だ。子供は未だ母に縋りつくようにして泣いている。
「大丈夫、お薬もありますし、お医者さんもいますし……仲間がたくさん、います」
 シャルファはそう言ってふと空を見る。

 ぽつり、ぽつり。
「雨ですね」

(これで、火が収まるでしょうか)
 安心した様子で肩から力を抜いたシャルファは、泣きじゃくる子供を安心させるように優しく歌をうたいはじめた。

(あなたを願う。――どうかこれ以上、傷つくことがありませんように)


 それは、幻想的な光景だった。
「水と光が降っている、のね」
 雨が降り注ぐ中、ジャックに抱きかかえられたエレノアが不思議そうに呟いた。
「それに、とても優しくて綺麗な歌」

 柔らかな光の雨と共に透き通るような歌声が響いている。シャルファの歌だ。不思議な歌に聞き惚れる人々を光が優しく癒していく――皆の心身が、癒えていく。

 消火活動中に損傷した機体が癒えていくのを確認し、ジャックが呟いた。
「これならば、継戦には問題がなさそうだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。今は微かな光かもしれないけれど、
私達の、猟兵の今までの戦いは無駄では無かった。

100年前に奪われた人の歴史を奪還する。
その為にも彼らをこんな所で終わらせはしないわ。

事前に自身に“火避けの呪詛”を付与
全身を火属性攻撃を弾く火炎耐性のオーラで防御した後、
空中戦を行う“血の翼”を広げて燃えている森の上空に向かう

…火を司るならば、火を鎮める事もできるはず。

“呼符”に魔力を溜めた後、森に向けて【朱凰炎帝】を発動
火気を操作する結界で森を覆って消火できないか、
あるいは他の猟兵の側に炎を誘導できないか試みる

…その後は上空で第六感や暗視を頼りに警戒を行い、
敵の接近を発見したら上空に銃を撃ち皆に知らせるわ



●指
 悪魔の舌が蠢くように焔が地表を這い、餌に喰らいつくように木々を燃やしていく。朱と金が揺らめき、熱気を放ち。

 ――灰。

 ふと風に紛れるそれに指を向ける。薄く色づく爪先に幽かに付着した灰燼を少女は己の口元に運び、ぺろりと舐めた。
 双眸は静かに夜を視る。見慣れた景色だ。リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)にとっては日常だ。けれど、黄昏を過ぎた今宵此の晩は新鮮な声が入り混じる。
「……ん。今は微かな光かもしれないけれど、私達の、猟兵の今までの戦いは無駄では無かった」
 月の滴を集めたような銀の髪を黒フードの奥に隠し、夜と同化するようなリーヴァルディが誓いの言葉を口にする。

「100年前に奪われた人の歴史を奪還する。その為にも、彼らをこんな所で終わらせはしないわ」
 少女が炎に近づけば、不思議と炎が避けていく。事前に施した“火避けの呪詛”の効力に寄るものだ。
 道を退けるように消えていく炎を睥睨し、リーヴァルディは背に深紅の翼をゆらりと広げた。翼は、血色の魔力で出来ている。本物の血ではない――尤も、もし周囲に血の香りが満ち満ちてもリーヴァルディが吸血衝動に襲われることはなかった。愛しき恋人が術者にのみ吸血衝動が向かう魂の呪痕を残しているのだ。
 ふわり、夜空に舞い上がれば慣れた夜気が全身に感じられる。此の景色を彼が見れば――リーヴァルディはふとそんな事を考えながら森を視る。笑うだろうか? 笑い声を思い出し、少しあたたかな心を抱えてリーヴァルディは呼符の表面を控えめに撫でた。少しだけ、力が込められている。念じれば、願えば、呪痕と呼符はあたたかに呼応して輝いた。その輝きのなんて美しさ。リーヴァルディは彼の操る不思議な文字と符が光る様に一瞬目を奪われ、睫を震わせた。光の軌跡描く指すらも鮮麗に思い浮かぶような気がして。

「二十八の一、焔を司る一端を此処に示せ」

 声に薄く感情が燈る。
 こんな事は、以前はなかったものだ。少女の紫水晶の視線の先で幻想的な火気結界が森をやわらかに覆っていく。
「炎よ、退きなさい」
 火に命じれば、結界がきらりきらりと光って何かの効果を齎している。
「退きなさい、眠りなさい」
 リーヴァルディはもう一度告げた。
 可憐な鈴鳴りの声に結界は幾度も応えて輝き、そのたびに少女の心にはくすぐったいような感覚が湧く。やがて、結界の内側で炎は鎮められるようだった。
(よかった)
 少女は明確な成果に安堵の吐息を漏らし。

「……ん」

 ふと臭気に気付き、瞳を冷たく眇めて周囲を警戒する。濃厚な気配はよく識るもの――ヴァンパイアの気配。死刺弾を撃ち上げてリーヴァルディは仲間に敵の襲来を知らせるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『ワイリー男爵』

POW   :    我輩に鮮血を捧げよ
【手下である蝙蝠の大群】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    我輩に愉悦を捧げよ
【手を叩く】事で【全身を緋色に染めた姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    我輩に絶望を捧げよ
【両掌】から【悪夢を見せる黒い霧】を放ち、【感情を強く揺さぶること】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:いぬひろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●悪罵の波
 真夜中、煙雨の森。
 シャルファの歌が優しく穏やかに風に乗り、皆の傷が癒えていく。
 救護場でロカジの薬を使い人々の治療をしていた夏介が安心した様子で汗を拭う。
 そんな時だ。リーヴァルディの銃声が作戦区域に響き渡ったのは。滂沱の涙に似た雨の中を灰色絨毯に似た蝙蝠の群れが押し寄せたのは。

「雨を呼ぶとは驚いたぞ」
 無数の羽音の中、蝙蝠が口々に言葉を吐く。一体が嗤い、一体が舌打ちをし、また一体は奇声をあげた。

「ヴァンパイア!」
「ヴァンパイアだ!」
 地上の『闇の救済者』達は武器を抜き、敵意に瞳を燃え上がらせた。
「ひ、ひぃっ!!」
「もうお終いだ」
 村から避難した人々は真っ青になって震えあがった。

「キヒヒヒ!」
「ククク」
「ハハハハハ!」
 蝙蝠が哂う。嗤う。無数の嗤いが音の波となって世界が悪意で塗り潰されていくようだ。
「問おう。諸君」
 無数の声が合わさり、大きな声が空を震わせる。

「人類が敗北を喫する以前に、諸君らのような者がいなかったと思うかね? この100年の間、諸君らのように希望に胸を熱くして旗を持ち立ち上がった者どもがいなかったと思うかね?」

 ケタケタケタ、
 クスクスクス、
 ヒヒヒヒヒ、
 ヒャハハハハハ!!

 幾つもの嗤いが渦巻いた。村の人々が耳を塞ぎ全身をガタガタ震わせる。『闇の救済者』達は奥歯を噛みしめるようにして空を睨んだ。

「総、べ、て! 殺して犯った! 潰して殺った!」
 雨が激しさを増していた。その中を奇怪な蝙蝠は愉しそうに舞い踊っている。哂っている。
「我輩らは観てきた。何人も、何十人も。何百人も! 純粋無垢な夢想に取り憑かれた『英雄気取り共』は何れも諸君らのような眼をしておったものだ。諸君らの父や母、祖父や祖母もあるいは。だが諸君、『結果はどうだった』?」
 ワイリー男爵は幾つもの『英雄気取り』達の逸話を話し、笑う。其れは何れも『圧政者に立ち向かわんと絶望的な状況で立ち上がった者達』、そして最後には『やはり現実には叶わず、夢破れて死んでしまった』のだ。

「――過去に潰されていった英雄気取りどもと、諸君らの何が違うと言うのかね。断頭台に向かう道を意気揚々と進軍する様は実に愉快である。さあ、夢見る時間は終いにしよう――、」
 蝙蝠達が大音量で空を震わせる。

 ――『我輩に、絶望を捧げよ』……と。
アンコ・パッフェルベル
慌てずに、慎重にっと。
(手鏡をぽちぽち。一瞬で学園服姿に)

さて。気取りとは心外ですね。
これでも昔は強さを求めて戦い続け奈落(えんどこんてんつ)まで潜ったものですよ。
そのせいで修羅だの廃人だのと揶揄されたですけどね。
(証明は最早出来ない。だから空言)

そして落雷。ドラゴン出現です。

シュガール。彼らは恐れを知らぬようです。
教えて差し上げましょう。私達で。

竜は電撃放射、或いは雷に変じ蹂躙することで敵の動きを封じ…
私は時空弦で楽器演奏。ハープ・メタルを掻き鳴らし降り注ぐ粒子弾で撃破です。
適宣お互いの隙をフォローしたり盾で受けたり、堅実に戦いましょう。

…奏でるは希望の調べ。
救済者達を、人々を鼓舞するです。



●その調べを耳に
「慌てずに、慎重にっと」
 アンコ・パッフェルベル(想い溢れるストライダー・f00516)はおしゃれスイッチャーの契約証を軽く振り、手鏡を取り出した。
 おしゃれで可愛い手鏡はとってもフシギなチカラを持っている。アンコの髪型や服装を登録しているコーデに一瞬でチェンジできるのだ。
 一瞬で変わり、身を包むのはアルダワ魔法学園の制服姿。裏生地が暖かみのある赤色のローブは軽く羽織るようにして知識の探究者に相応しき落ち着いた雰囲気を醸し出し、しかし少女にとっては聊か布量がたっぷりすぎて引き摺るほどだ。ローブの下にはティーンズに相応しい健康的な長さのスカートの清潔感溢れる制服。

「さて。気取りとは心外ですね」
 赤縁眼鏡の奥の瞳に大人びた表情を浮かべ、アンコが男爵へと言葉を放つ。
「これでも昔は強さを求めて戦い続け奈落(えんどこんてんつ)まで潜ったものですよ」
「なん……だと……」
 男爵が騒めいた。
「そのせいで修羅だの廃人だのと揶揄されたですけどね」
 証明は最早出来ませんが、と語る少女の瞳は遠き日の戦いの数々を思い出すようであった。それは、まさに死闘。終わりのない戦い。遊びではなかった。
「この小娘が、どれだけの死線を掻い潜り深淵を覗いてきたというのか!」
 男爵が何かを感じ取って戦慄していた。戦慄に合わせてタイミング良く雷が轟き――ドラゴンが現れる。

「な、――ドラゴン!?」
 灰蝙蝠の群れを押しのけ、我こそが空の王者とばかりに咆哮するのは紛れもない威風堂々としたドラゴンだった。その巨大な身体のなんと優美なことか、なんと圧のあることか。瞳は誇り高く敗北を知らぬ。口を開けば獰猛な牙がずらりと並び紅い舌が炎よりも熱い殺意を伝えて粘気のある唾液を滴らせた――捕食者は我だと主張するように。

「シュガール。彼らは恐れを知らぬようです。教えて差し上げましょう。私達で」
 ドラゴンが電撃をびりびりと奔らせ、蝙蝠の群れを駆逐していく。尾を振り爪を振り、悪意を蹂躙していく。

 アンコはそんなシュガールへと頼もしげな目を向け、時空弦を掻き鳴らした。
(……奏でるは希望の調べ)
「救済者達を、人々を鼓舞するです」
 光の弦が夜に朧に浮かび上がり、少女のたおやかな指が滑らかにたどれば音が生まれる。丸みを帯びた音は――竪琴の音だ。その旋律の美しさといったら、怯えていた村の人々が耳を澄ませてうっとりとしてしまうほど! 救済者達の心が鼓舞され、鬨の声をあげ勇ましく蝙蝠に躍りかかるきっかけを与えるほど!

 ああ、音が戦場に響き渡る――希望を持て、勇気を奮い立たせよとアンコ・パッフェルベルが皆を鼓舞する!

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
父が言っていた。力を持つ者は、正しい心を持たねばならないと
力は時に自己を増長させ、過ちを犯し、国に不幸を齎すのだと
……やはり、父の教えは正しかったらしい

口を慎みたまえ
彼らの尊厳を踏みにじることは私が許さない

迫る蝙蝠には、この剣で対抗しよう
私の矜持にかけて、奴らを退けてみせる

痛みには鈍くてね、傷は気に留めないよ《激痛耐性》
戦いのなか、『闇の救済者』の人々が攻撃されることがあれば
私は身を挺しても《かばう》
ノブレス・オブリージュというやつかなあ

私の身の回りに蝙蝠が集まってきたなら、その時に“Jの勇躍”
こちらの間合いに入ってきたのが運の尽きさ

絶望はくれてやらない
見たまえ、この希望の灯る瞳の数々を!



●勇躍
 蝙蝠の群れが空を覆っている。戦場には、仲間が奏でる気高い旋律が響いていた。周囲には無数の敵と、味方がいる。雨が降っていた。皆が等しく濡れていた。

 エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は其の夜、其の闇黒の戦場にいたのだった。額に張り付く金髪から雨雫が垂れて滴る。拭う事すらせず、エドガーは只前を視ていた。
「父が言っていた。力を持つ者は、正しい心を持たねばならないと」
 蝙蝠の群れが蠢いている。ケタケタと嗤っている。

 エドガーは晦冥の中、父の眼差しを思い出していた。父の声を思い出していた。その言葉を聞いた時の自分を思い出していた。
 大事に使っているマントが濡れて垂れ、けれどそれを重荷とはエドガーは決して思わない。
 ――noblesse oblige.
 エドガー・ブライトマンには輝きがあった。それは容貌の美しさではない。それは洗練された衣装ではない。それは高貴なる血統でもない。――それは、心だ。
「力は時に自己を増長させ、過ちを犯し、国に不幸を齎すのだと……やはり、父の教えは正しかったらしい」
 エドガーは腰に手を伸ばした。常に携える“運命”――レイピアは暗闇の中、いつもと変わらぬ感触を手に伝える。この剣は矜持のためにある。
 王子の誇り高き靴が一歩を踏み出した。
 それはほんの一歩だった。だが、不思議な存在感があった。現に――周囲の蝙蝠達がエドガーに気付き、胡乱な目を向けている。
「口を慎みたまえ。彼らの尊厳を踏みにじることは私が許さない」
 レイピアを真っ直ぐに前に向け、青い瞳は上空覆う雨雲が空に隠し忘れた星のように煌めいた。

「尊厳などはない。それを教えてやろう!」
 男爵が雲霞の如く押し寄せる。白手袋を履いた手を叩き、全身を鮮血の如き緋色に染め――疾い!

「――私の矜持にかけて、奴らを退けてみせる!!」
 エドガーが気高き宣言と共に弾丸のように突進し、レイピアを突き出した。人に傅かれ、紅茶を遇されるのが似合う優美な青年の負傷を怖れぬ突撃に蝙蝠達が驚いている。
「小僧!」
「痛みには鈍くてね、傷は気に留めないよ」
 レイピアを操る手の動きに合わせて体が滑らかに重心を移し、体全体が雷霆と化したようだった。洗練された脚運び。肩が大胆に前に倒れしなやかな腕の筋肉がぐっと締まり手首が柔らかに全体の勢いを活かして蒼き刺突となる。湿ったマントがびゅうと風を切る。小さな水滴が飛散した。蝙蝠が悲鳴をあげている。
 追撃をしようと脚が動き。
「――!」
 くるり、突然エドガーは進路を変えて飛び込むようにして別の蝙蝠の群れに突っ込んだ。
「ああっ」
 悲鳴をあげたのは、集られて今にも群れに圧殺ようとしていた『闇の救済者』。エドガーは救済者を突き飛ばし、一瞬無防備になった体を蝙蝠の牙により傷つけられた。
「何故そんなものを庇う? お前は高貴な血統を持つ者であろうに」
 蝙蝠が不思議そうに問いかける。
「ノブレス・オブリージュというやつかなあ」
 エドガーはゆるりと笑った。誇りのレイピアを横に薙ぎ、「それにね」と呟きながら。


「こちらの間合いに入ってきたのが運の尽きさ」


 逆の手でマントをひらりと脱ぎ捨てれば、背後の無辜の民を狙おうとしていた蝙蝠が飛来したマントに打たれて地に沈む。
 ――さあ、ご照覧あれ。
 『Jの勇躍』の発動と共に加速した神速の清閃が周囲に集いし敵を討つ!
「絶望はくれてやらない。見たまえ、この希望の灯る瞳の数々を!」

 ――其の気高き声は戦場に高らかに響き渡る。

成功 🔵​🔵​🔴​

蛇塚・レモン
<WIZ>
真の姿:額の第三の目、開眼
技能全活用
激昂中

夢を笑わわないでよ……
この世界を救いたい、打破したいって、志半ばで散っていった多くの命から受け継いだ夢を、希望を受け継いで『今』があるんだ!
それを今回も踏みにじれると思ったら……大間違いだよっ!

憑装(ソウルユニゾン)、蛇塚シロオロチ神楽
お願い蛇神様、あたいと一緒に踊って!
眩い光を放ち、黄金霊波動を纏った半神の巫女へ変身!

念動力で空中戦!
蛇腹剣クサナギから風属性の刃の衝撃波の範囲攻撃を全方位へ踊りながら放出っ!
黒い霧ごと鎧無視攻撃の斬撃で蝙蝠達を薙ぎ払って吹き飛ばすよっ!
同時に生命力吸収して負荷軽減

あたいの命を揺らすよっ!
みんなで希望を繋ごう!


カイム・クローバー
スペースシップワールド、キマイラフューチャー、サムライエンパイア。
…これが何を意味するのか分かるか?クソッタレ共から、俺達『猟兵』が勝ち取ってきた世界だ。
英雄気取り、上等じゃねぇか。俺は英雄なんざ、柄じゃねぇし、興味もねぇが…世界を救おうとする本物の英雄達の露払いくらいは出来ると思うぜ。…なぁ、空飛ぶぬいぐるみ野郎?

こっからは俺の本領発揮。闇の救済者──『英雄』達の露払いの助力をさせて貰うぜ。バケツの代わりに二丁銃を持ち、もう一人の俺と共に銃撃のコンサート会場だ。
【二回攻撃】に紫雷の【属性攻撃】、広範囲の【範囲攻撃】と火力を高める【一斉発射】。
合わせろよ?俺。コンサートはタイミングが命だぜ?



●星
「夢を笑わわないでよ……」
 震える声は蛇塚・レモン(黄金に輝く白き蛇神オロチヒメの愛娘・f05152)が発したものだった。薄金の髪が雨に濡れ、覗いた前髪の隙間――額に第三の目が開眼している。
 ――激昂。
 其れを感じ取り、傍にいたカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が一瞬息を呑む。常は和む娘だと思っていた、陽だまりのような娘の熱に。

 レモンの彩の異なる双眸が天を視ていた。蝙蝠を睨んでいた。絶望の齎し手を射抜くように見つめていた。
「この世界を救いたい、打破したいって、志半ばで散っていった多くの命から受け継いだ夢を、希望を受け継いで『今』があるんだ!」
 少女の声は感情をありのままに乗せ、放たれた。柔らかなラインを描く優しい頬はまだ幼さが残り――それなのに。暗雲の中、豪雨の中で全身を濡らして空に激情を解き放つ姿は決して負けぬと世界に宣言するようだった。
「――それを、今回も踏みにじれると思ったら……大間違いだよっ!」
 
(ああ、そうだ)
 カイムが無言のままに二丁銃を手に取る。慣れた感触だ。最初は、なんのために戦い始めたのだったか。カイムはそっとオルトロスの片割れを口元に運び、キスをした。神聖な儀式のように。
 視界の隅でレモンが蛇神に声をかけ、眩い光に包まれている。
「――お願い蛇神様、あたいと一緒に踊って!」
 その声は激情に震えて。
(泣きそうじゃねえか)
 カイムにはそう思えたものだ。

 その少女は、選ばれた者だった。
 己の使命を知っていた。
 沢山の運命を視てきた。
 抗う者達をよく知っていた。その想いを。
「知ってるんだよ……」
 揺れる瞳を柔らかに撫でるように光のヴェールが包んでくれる。黄金色だ。豊穣を象徴するような温かい光だ。光に包まれ、半神の巫女に変じたレモンが空へと翔ける。

 天翔ける少女を妨害せんと迫る蝙蝠の群れへとカイムが紫雷の銃撃を降らせた。地上から。
「スペースシップワールド、キマイラフューチャー、サムライエンパイア。……これが何を意味するのか分かるか?」
 銃撃が地上から空へと降る。紫光が視線の先で幾つも幾つも爆ぜ、蝙蝠野郎を蹴散らしていく。コンサートだ。
「我輩に愉悦を捧げよ! 我輩に愉悦を捧げよ! 我輩に愉悦を捧げよ!」
 壊れたように絶叫が耳を劈く。拍手の音が耳障りだ。飛翔したレモンはどうなったか――目で追う暇を惜しみながらカイムは銃撃を放ち続けた。視界一杯に弾幕が張られ――銃撃のコンサート会場だ。カイムは口の端を釣り上げ、ニイと笑った。
「なあ、」
 ――聞けよ。

 紫の瞳が静かな圧を放つ。蝙蝠たちが気配に呑まれたように視線を集めた。
「スペースシップワールド、キマイラフューチャー、サムライエンパイア。……これが何を意味するのか分かるか?」
 その言葉は周囲にいる敵も現地の民も救済者達も聞きなれない単語ばかりであった。だが、猟兵達にはわかる。

「――クソッタレ共から、俺達『猟兵』が勝ち取ってきた世界だ!」

 それは、彼らが救ってきた世界だ。
 共に戦場を駆け、勝利してきた世界なのだ。

「英雄気取り、上等じゃねぇか。俺は英雄なんざ、柄じゃねぇし、興味もねぇが……世界を救おうとする本物の英雄達の露払いくらいは出来ると思うぜ。……なぁ、空飛ぶぬいぐるみ野郎?」
「ぬいぐるみだと! 吾輩を愚弄するかッ!」
 『ぬいぐるみ野郎』の群れが吠えた。

 ――地上から、音楽が聞こえる。

 レモンは蝙蝠の群れの中を風と一体化したように吹き抜けていた。

 ――地上から、仲間の声が聞こえるんだ。

 ケタケタと嗤う敵の群れが黒い霧を放っている。前方に待ち受ける霧の中へとレモンは迷わず突っ込んだ。
(悪夢だって)
 頬が緩む。そんなの、いつも『みてるよ』。何度も、予知をして。みんなが助けてくれたよ。
「……いつもだよ!」
 蛇腹剣クサナギを両手で振り上げれば、風が渦巻く。黄金の風が全方位へ。ふふ、と笑いながらレモンは空中でダンスを踊るようにくるりと廻った。独楽のように廻れば、黒い霧ごと蝙蝠達が吹き飛んだ。雨雲が少し隙間を開けて――星がちらりと、観えた。
 力が湧いてくる。ううん、吸い取っているんだ。あたいにはそれが出来る。――出来るんだ。

「あたいの命を揺らすよっ! みんなで希望を繋ごう!」
 レモンが元気一杯の声を放つ。
「無事そうだな」
 カイムが微笑んだ。上空から聴こえてきた声は、聴きなれた声だ。
「合わせろよ? 俺。コンサートはタイミングが命だぜ?」
 バケツを運んでいた時同様にもう一人の自分と視線を交差させ、背を合わせるようにしてカイムは一層激しく紫雷を撃ち放つ。バケツの代わりに二丁銃を手に。

 なあ、派手にやるって言っただろ。

 雨が全身をずぶ濡れにして、水も滴るなんとやらだ。どれだけ水に体が冷やされても――、

 この戦場には、熱が溢れているんだ。
 笑う気配は、背合わせの自分から。楽しいだろ、と余裕の笑みを浮かべ、カイムはコンサート会場にオルトロスの咆哮を響かせ続けた。

 空には、背後に浮かぶ蛇神の霊体に抱きしめられるようにして飛翔する黄金の巫女がいる。周囲には――仲間達が。皆、動いている。戦っている。一人一人が、輝き放つ星のような……夜だ。カイムはぐい、とこめかみを流れる汗を拭う。拭っても拭ってもびしょ濡れで拭いきれない。けれど、――悪くない気分だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ステラ・エヴァンズ
来ましたか…
皆さんは後ろへ、村の方々を守って差し上げてください

私にとっての悪夢と言えば、
やはり一番大切な人を喪う夢でしょう
それこそ動揺して息がつまって動けなくなるに違いありません
…でも、それはすぐに憎悪になる事なるでしょう
仇をとらんと衝撃波で霧を打ち払い
全てが悪夢であると知れば
憎悪は消えても怒りに変わりましょう
故に、断じて許しは致しません

先程『英雄気取り』と言いましたね?
自分を英雄などと思った事はありませんよ…
私は、ただ自分に出来る事を精一杯してきただけですので
高速詠唱で唱え、全力魔法で氷属性の精霊彗星を広範囲に落としましょう
雨も降って湿度も抜群
内外から凍り付き、そのまま潰されて砕けなさい…!



●悪夢
「来ましたか……皆さんは後ろへ、村の方々を守って差し上げてください」
 ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)が慎ましやかに言葉を紡げば周囲の『闇の救済者』達は僅かに逡巡する気配を見せて視線をステラに向けた。
「……」
 慎ましやかな声と裏腹に、その佇まいには恐ろしく隙がない。静かな気配は紛れもなく『闇の救済者』達よりも格上で、彼らが束になっても太刀打ちできぬ明確な壁を感じさせるものだった。
「従おう」
 救済者達はそう言ってステラの後ろへと下がっていく。

「ほう。ダンピール」
 男爵が一群向かってくる。
「仲間はお前を置いて逃げていったな、ハハハ!」

「そう見えるなら、……貴方は、寂しい方ですね」
 ステラはふとそう思った。
 人の心とは、鏡の様であった。
 己の心の在り様しだいでものの受け取り方は変わる――ステラは、それを知っていた。

「何を言う。何をほざく」
 男爵の群れが両の掌を合わせ、開く。ぶわりと広がるのは黒い霧だった。

 翳す掌さえ見えない深い黒霧がステラを包み込む。一瞬ののち、静寂が訪れた。
「え……?」
 先ほどまでの戦場の熱気が嘘のように周囲が静まり返り、冷えていた。空には清らかな月がある。瞬く星がある。けれど、自分の体は濡れていた。雨に――濡れて。
 そっと袖元を抑えて腕をあげ、確認するように手を翳し。手首を伝ってぽたりと滴が落ちる。落ちた先でつま先が何かに当たるようだった。
(何)
 視線を落とす。喉奥が引き攣るような短い音を立てた。ひゅっ、と空気が鳴る。草むらに倒れているのは愛しい人だ。大切な人だ。青ざめた頬が土に着いて目蓋は硬く閉じられている。胸元に何かが刺さって――、流れ出ているそれが何なのかわからぬステラではない。手が力なく開かれて固まっている。掌にぽつりと滴が落ちた。
「ぁ……っ」
 早鐘のように鼓動が鳴り、治まる気配がない。ガクガクと膝が哂って足が自分のものではないようだ。頭の芯がじんと痺れ、息がうまく吸えない――、動くべきだと、名を呼ぶべきだと思ってもそれがままならない。身体が硬直してしまっていた。怖い。怖い。怖い。

「いや……!!」

 叫びと共に衝撃が奔る。悪夢。悪夢だ。ステラは肩で息をしながら敵を睨む。胸の奥で激情が蜷局を巻いて体の外へ暴れでようと狂おしいほどの熱を昇らせていた。

 許さない!
 許さない!
 あのような光景を――戻ってきた現実世界を取り巻く悪意に向かってステラが激情を乗せた衝撃の波を放つ。放ち、蹴散らして。放ち、打ち落とし。放ち、――、

「断じて許しは致しません」
「ヒッ」
 蝙蝠の群れが慄いた。それほどまでの烈しさであった。先刻までのたおやかな女性と同一人物だとは男爵には理解がお呼ばぬ。それほどまでの怒りであった。

「先程『英雄気取り』と言いましたね? 自分を英雄などと思った事はありませんよ……」
 ステラがくるりと指先を廻し、手首を返して舞うように祝詞を紡ぐ――世界に働きかけるコードを綴る。
「私は、ただ自分に出来る事を精一杯してきただけですので」
 琥珀の瞳は、もう揺らがない。天上に幾重にも魔法陣が展開されていく。清らかな声が戦場に響く――高速詠唱。
「速いッ」
 男爵の群れが退避しようと羽搏いた。
(逃がしません!)
「星の源 根源を織り成すもの 我が声に応え……」


 ――墜ちろ。


 空から何かが降り注ぐ。
 風が唸り、大地が余りの衝撃に揺れて草も木も震えあがるようだった。砂礫や土が宙を舞う。蝙蝠が悲鳴をあげて散華する――氷の彗星が降り注ぐ!
 胸の奥には未だ悪夢の残滓が残り、強烈な光景を思い出すたびに眦が熱くなる――敵を滅ぼせと全身が叫ぶ。
「雨も降って湿度も抜群。内外から凍り付き、そのまま潰されて砕けなさい……!」
 声は氷のようだった。

 闇の救済者達は村の人々を守りながら凄まじい光景に言葉を失っていた。それは、『力』だった。間違いなく闇の勢力に対抗し得る、世界から選ばれた者のチカラだった。それが目の前で振るわれ、恐ろしい吸血鬼を屠っていく。人々はその光景に口を開け、ただ見惚れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロースト・チキン
ヒャーーッ!?
もうお終いだぁ!!
終わりなんだ!終わりなんだよぉぉーー!!
もうこの世紀末には絶望しかねぇ!!!

先程の火消しの件で、精神的に落ち込んでしまったローストは、
胸に秘めた決意を皆々に表明します

おい、皆、聞いてくれ!
オレは決めたぜ!
もう、こんな所にはいられない!
大人しく鶏小屋に帰らせてもらう!!
コケーーーーッ!!!

しかし、逃亡先を間違えたローストは、敵の真っ只中に突っ込んで逝き、そのまま見えなくなってしまいます。果たして彼の犠牲は無駄ではなかったのか?
しかし、希望はまだある!
代わりに火炎放射器を担いだナイスガイな絶望的な世紀末からの救世主【世紀末救世主棟髪伝説】が召喚されたのです。


神宮寺・絵里香
【向日葵と一緒】
【心情】
・飛んでいる奴相手か。向日葵の訓練には丁度いいな
 向日葵は強力な地面の力を持つが、それ故に飛んでいる奴を
 苦手にしているからな
・ま、こういう輩は嫌いだから容赦なくぶち殺すが
【戦闘】
・戦闘知識を駆使して向日葵に指示を出しながら戦闘
「飛んでいる相手の対処その①だ」
・高速詠唱の範囲麻痺攻撃UCで頭上から痺れる雷を落として叩き落とす。
「後は、こういうリーチのある武器だな」
雷の魔力を付与した黒剣を伸ばし空中を薙ぎ払う。
・敵の攻撃は第六感で見切り、武器受けして対処。近づいてきた所に
 カウンターを入れる。
「自分の力を思い返して最善の方法を想像して創造しろ。お前の魔法ならそれができる」


夢咲・向日葵
【絵里香師匠と一緒なの】
【心情】
・うわっ。飛んでるの。うーん…。どうしようかな
 ひまちゃんの大地の力でどうにかなるかな…
・まあでも弱気になっちゃ駄目なの
 シャイニーソレイユは無敵の魔法王女なんだから
【戦闘】
・強い【覚悟】を持って自分の力を信じ抜くよ
・属性攻撃(地)で周囲の土を隆起させて敵の攻撃ルートを絞る
 地形を利用して攻撃ルートを絞ったら、後は敵を捕まえればいいだけ。
・地面にプリンセスチェインの魔方陣を沢山創造して、地面から鎖を射出してコウモリさんを捕まえるよ
・重力によって大地に縛られたらシャイニーソレイユのターン
 大地にの魔力を込めた鎧通しパンチでやっつける
「どうかな?師匠。こんな感じで」



●其の戦場
「ヒャーーッ!?」

「もうお終いだぁ!! 終わりなんだ! 終わりなんだよぉぉーー!! もうこの世紀末には絶望しかねぇ!!!」
 ロースト・チキン(チキン野郎・f03598)が嘆きの声をあげた。なにせ、空を覆い尽くさんばかりの敵の大軍――ワイリー男爵が悪声を何十男百と重ねて気が狂いそうなほど。

「我輩に鮮血を捧げよ」
「我輩に鮮血を捧げよ」
「我輩に鮮血を捧げよ」

 ぶわり。鳥肌を全身にたててふわふわの毛を逆立たせるローストの脳には警鐘が鳴りやまない。先程の火消しの件でも精神的に落ち込んでしまったローストは、胸に秘めた決意を皆々に表明する。
「おい、皆、聞いてくれ!」
 声に仲間達の注目が集まった。敵もまた、余興とばかりに見入っている。
「オレは決めたぜ! もう、こんな所にはいられない! 大人しく鶏小屋に帰らせてもらう!! コケーーーーッ!!!」
「ええっ!!」
(すまねえ!! 皆。オレは! オレはもうダメだ、すまねえッ)
 仲間達の声を背に涙目のローストは戦場から逃げ出した!

 勇気。
 それはたった2文字の単語だ。
 皆がそれを美しきものだと褒め称える。だが、それはそんなに簡単なものじゃない。簡単なものじゃないからこそ、尊いのでもあったが――、

「皆が皆勇者じゃねええんだよおおおおおおっ!! オレは、勇者じゃねえんだっ!!」
 鼻水を垂れ流し、ローストは熱い目を拭う事も忘れて無我夢中で逃げた。逃げた。逃げた。自分より幼い者が戦っている、それがなんだ。自分より弱い現地の者が留まっている。それがなんだ。無理なものは、無理なんだ!!

「だめっ、ローストさん!」
「そっちは敵の――」
 仲間が慌てた声を放つが、ローストは運悪く逃亡先を誤って敵の真っ只中に突っ込んでいった。

 沈黙。

 しばしのち、蝙蝠が嗤い出した。手を叩き、楽しそうに。
「アッヒャヒャヒャ!!」
「愉快、愉快! 最高の余興であった!!」
「そんな、ローストさ……」
 仲間達がショックを受けた顔をした。

 しかし、其の時。
「ああん?」
 声が敵の群れの中から響き、群れが四散した。
「なにぃっ!?」
 驚愕する敵の声を遮るように炎が放射される。ごう、と。

「おい、」
 現れたのは、胸に傷のある男だった。火炎放射器を放ち、敵を滅する男は――

「オレの名を言ってみろ」

 ……伝説のモヒカン世紀末救世主だ!!


 そんな混沌を背景に神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)と夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)の師弟コンビが敵の群れを見ていた。

(飛んでいる奴相手か。向日葵の訓練には丁度いいな。向日葵は強力な地面の力を持つが、それ故に飛んでいる奴を苦手にしているからな)
 絵里香が向日葵をちらりと見る。なだらかな肩は華奢で、およそ戦いに向かなそうな娘だ。けれど、戦う力がある。
(うわっ。飛んでるの。うーん……。どうしようかな。ひまちゃんの大地の力でどうにかなるかな……)
 向日葵は悩んでいるようだった。
(ま、こういう輩は嫌いだから容赦なくぶち殺すが)
 使い物にならないなら、勝手に倒してしまってもいい。絵里香がそう心に決める。だが、見守る視線の先で向日葵の表情に覚悟が窺えることに気付いて整った眉が少し動いた。
(なら、指示をだしてやる)
 向日葵は遠くで暴れているモヒカンを別の世界の出来事のように清らかにスルーしながら愛らしく首を傾げている。
(まあでも弱気になっちゃ駄目なの。シャイニーソレイユは無敵の魔法王女なんだから)
 夢見る心、信じる気持ちが向日葵の力となる。だから向日葵は覚悟を胸に大地の息吹を調律した。

「向日葵」
 落ち着いた声が導いてくれる。
「飛んでいる相手の対処その①だ」
「わかったよ!」
 向日葵は頷いた。傍に師がいる。それがどんなに向日葵の心を勇気づけることだろう、どんなに向日葵の心を安心させてくれることだろう!
 周囲の土が水を滴らせながら隆起する。土は、綺麗だ。ぬるりとして、水を流して――生命の気に満ちている。このなんだか『ちょっと暗い』世界の中でも、土は。
「ひまちゃんの」
 ――大好きな、土だ。向日葵は師匠の声に誘導されながら敵の攻撃ルートを絞っていく。

「この世界も、そんなに変わらないでしょ」
 向日葵はそう思った。
 だって、ものは大地に引かれてる。
 雨が下に降る。落ちた葉が地面に向かう――重力がある。
「捕まえ、た、……よ!」
 プリンセスチェインの魔法陣が明るく光を放つ。ステージみたい、キラキラ、キラリ。魔法王女だもん、夢と希望に溢れているんだよ! 向日葵が夢見る瞳を微笑ませ、耀かせ、地面から鎖を射出した。
「ほらね!」
 師匠は褒めてくれるかな? と嬉しそうな目を向けると、絵里香は指先を天の群れに向けていた。
(あっ、今真剣だ)
 邪魔しちゃいけない、と向日葵は口を噤む。絵里香が呪文みたいな言葉を紡いでいた。ゲームに出てくるみたいな、アニメに出てくるみたいな格好良いやつだ。向日葵はそれが好きだった。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ! 神々の王の裁きよここに! 魔を滅ぼせ因達羅の矢よ!!」
 天から青白い稲妻が迸る。びしゃーん、ずばーんと物凄い勢いで光って、空が割れたみたい。向日葵はドキドキした。

 ――絵里香師匠は、すごいの。

 どこか誇るような気持ちで周囲を見て、向日葵はニコニコした。自慢の師匠だ。みんな、見て。ひまちゃんの師匠なんだよ。

「後は、こういうリーチのある武器だな」
 絵里香が雷の魔力を付与した黒剣を伸ばしている。漫画みたいだ。伸びすぎてまともに振れやしないと思いそうなくらい長く長く伸ばしたそれを、絵里香は冗談みたいに軽々と降って『空を薙ぎ払う』。空にいた灰色の絨毯みたいな群れをごっそりと薙いで、叩き落しちゃった!

「すごい!」
「自分の力を思い返して最善の方法を想像して創造しろ。お前の魔法ならそれができる」
 師匠がちらりと視線をくれる。向日葵の存在をちゃんと忘れてない。面倒を見てくれる。

「よーし! シャイニーソレイユのターンなの!」
 向日葵は明るい声をあげ、大地の魔力を拳に籠めた。地を蹴って、走って。濡れた髪が後ろに流れる。気持ち良い。
 拳を敵に突き出して、ちょっと硬い衝撃の感覚に「負けないよ」と力を籠めて、押して――打ち勝った。蝙蝠が吹き飛んでいく!
「どうかな? 師匠。こんな感じで」
 キラキラ輝く瞳で師匠を視れば、絵里香師匠ははっきりと頷いて。
「上出来だ」
「やったー!」

 ――上出来だって!

 向日葵は嬉しい気持ちを全開に蝙蝠の群れと戦った。戦う最中、横からごうっと炎が吹いてきて師匠がぐいっと向日葵の腕を引いて守ってくれる。
 炎は――「ヒャッハー!!」という声を放つ男の人が放っていた。
「混戦では味方の攻撃に巻き込まれないように気を付けろ」
 師匠はそう言って向日葵の全身に視線を配り、火傷がないか確かめてから、再び敵陣に向かい修羅と化すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレニア・ファンタージェン
よく鳴くのね
最近はね、倒される圧政者も多いのだけど…貴方も死んでしまうから
このお話は広がらないわね
残念ね

自身と手近な味方に不染の呪詛を施し、精神への干渉に備える
「悪夢くらいならエリィが何とかしてあげる」
闇の救済者達には特に念入りに

さて、害獣駆除よ
【死者たちの残夢】で幽鬼を召喚
「吠え猛りなさい」
生を諦め切れないもの達の怨嗟を見せてやれ

敵、多いのね
エリィは幽鬼とは別に戦う
攻撃は第六感で見切り、躱すか、自身の周りに螺旋状に廻らせたAdam&Eveに防がせる
接敵したら蛇達に敵を搦め取らせ、噛み付かせて生命力吸収
短刀で傷を抉る
「夢見る時間はお終いよ」
とどめは闇の救済者達に譲るの
「さあ、英雄になりなさい」


ヘンリエッタ・モリアーティ
『結果はどうだった』?――こうなってるだけでしょ
都合よく現実を捻じ曲げるんじゃないわ
確かに先駆者たちは犠牲になった
だけれど、無駄ではない
こうして立ち上がる誰かが出てきてる
――明日はもっと数が増えるわよ。その次の未来にもね
過去のあなたには考えられないでしょうが
悪党気取りもその辺にして頂戴
『悪』として――恥ずかしいの、そういう歯抜けだらけの理論

【暁光】で村人を護りながら戦います
かばいもするし身を挺してもいい
護れば護った数だけ――強くなる。
『永縁刀「紫衣紗」』で斬り祓う
『英雄気取り』?ええ、そうね
でも、成功すれば――『英雄』よ
絶望を語る割にはあなた全然絶望を知らないわ
教えてやるよ
――よく味わえ。


穂結・神楽耶
【アドリブ・連携・負傷歓迎】

逆にお聞きしますが…
どうして過去と同じことが繰り返されると、無根拠に信じておられるのでしょうか?
未来は変わるものです。
たった今、ここから。

救済者の皆様と共にオブリビオンに立ち向かいます。
彼らを鼓舞し、戦闘知識による助言を施しながら決定的な攻撃をかばう立ち回りを。
この身は宿神、肉体の損傷など意に介すものではありません。
ただ、希望の証明を。
救済者が立ち上がったことは正しかったのだと、彼ら自身にも実感して頂く為。
男爵殿には「噛ませ犬」になってもらいましょう。

この世界に怯える闇夜は不要なのです。
だから、絶望の運び手よ。
燃えて弾けて、灰と散れ。
――【鉛丹光露】!



●越常の宴
「よく鳴くのね」
 朧な世界に首を傾げて、白の睫が羽ばたくように上下する。蛇の絡んだ杖、蛇のを掌で挟むのは、エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)。
 蛇の絡んだ杖をあえかに地に立て、杖の頭部を掌で挟むように五指を合わせて。幼心が咲き綻ぶように微笑めば、緊迫した戦場の空気がそこだけ和らぐようだった。
「最近はね、倒される圧政者も多いのだけど……貴方も死んでしまうから、このお話は広がらないわね。残念ね」
 エレニアは雪のように儚く冴えやかに微笑んだ。そして、小さく首を傾げる。黒い霧が仲間とのピクニック会場にひたひたと忍び寄っているからだ。

 ――何にも染まらない色は、何色かしら。

 くす、と空気を震わせてエレニアは笑いを零した。染まらずの呪詛を周囲のお友達に施せば、煙るような白霧が悪夢を退けていく。けれど、お友達の色をエレニア走っていた。それが染まらぬ色だとエレニアは知っていた。
 とても、楽しい事がある。
 ――エリィが好きって言ったことが、そのひとも好きだと言って。
 ――エリィが嫌いって言ったことが、そのひとも嫌いだと言って。
 ――ね、言っちゃいましょう。言っちゃだめな事なんて、ないわ。

 『だって、自由だもの』。

「悪夢くらいならエリィが何とかしてあげる」
 視界の隅で『闇の救済者』達が各々の武器を振り蝙蝠と戦っている。

 薄く煙るように霧が立ち込め、仲間達が護られている。
「『結果はどうだった』? ――こうなってるだけでしょ
都合よく現実を捻じ曲げるんじゃないわ」
 霧の中で視界は不思議と妨げられることなく敵を見通せる。不思議な――エリィの守り。ヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)はそれを感じながら出来の悪い学生に筋道立てて辛抱強く教え諭す教授のような顔をしていた。
「確かに先駆者たちは犠牲になった。だけれど、無駄ではない。こうして立ち上がる誰かが出てきてる」
 視線を動かす必要はなかった。周囲の至る処で、仲間達が勇ましく声をあげ、戦い。今、自分の周囲には誰がいるかをヘンリエッタはふと強く意識した。意識して、より丁寧に言葉を重ねた。
「――明日はもっと数が増えるわよ。その次の未来にもね。過去のあなたには考えられないでしょうが」
 ヘンリエッタは白い霧にそっと指を伸ばした。そっと虚空を撫でた指は己の唇に戻し、唇の形を辿るように滑らせ、止まった。
「悪党気取りもその辺にして頂戴。『悪』として――恥ずかしいの、そういう歯抜けだらけの理論」
 濡れた髪が頬にへばりついていた。そっと剥がしてちらりと視れば黒がしっとりと濡れている。

 後ろには、救護場がある。
 先ほど助けた子供を送り届けようとしていたのだ。震える小さな気配を庇い、ヘンリエッタが永縁刀を振る。紫衣紗には魔術回路が宿っている。紫の瞳を思い出し――蝙蝠の血が飛散し――声を思い出し――手応えが軽い――薄い皮だ、薄い肉だ――薄い悪夢ね。それが悪?
「――竜がお相手しましょう」

 ――これが正義?
「『英雄気取り』? ええ、そうね。でも、成功すれば――『英雄』よ。絶望を語る割にはあなた全然絶望を知らないわ」
 護れば護った数だけ、近付いていく気がする。強くなる気がする。何に? 何かに。
「教えてやるよ――よく味わえ」
 悲鳴を生み出して悪を嘲笑うように蹂躙して散華させながらヘンリエッタの耳には子供が鼻を啜る水音が聞こえていた。怪我は。ちらりと視た子供に、怪我はない。
「いきましょう」
 子供を抱きかかえ、ヘンリエッタは悪意の死骸に背を向けた。このぐっしょりと濡れた震える子を安全なところに届けなければならない。そう思えば、力がまた湧いてくるようだった。


 そんな一幕を静謐に見守り、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)が雨に濡れた髪を掻き上げた。
「逆にお聞きしますが……どうして過去と同じことが繰り返されると、無根拠に信じておられるのでしょうか?」
 ヒトはよくそのようであった。
 例えば、罪を犯した者が罪を繰り返すであろうと。故に死刑にせよと頑なに主張するように。
「未来は変わるものです。たった今、ここから」
 神楽耶は導きの灯めいた瞳を敵から味方へと移した。周囲の『闇の救済者』達は、それだけで意図を察して前に出る。白銀の刀身を真っ直ぐに振れば、ダンピール達が地を蹴り吠える。
「白い霧がわかりますね?」
 それは味方の加護なのだとヤドリガミは語る。
「ならば、恐れることはありません」
 鼓舞と共に授けた戦術はダンピール達個々の能力を活かしたものだった。弓持つ者が空の群れを牽制し、盾持つ者が味方を庇い敵を抑え、剣持つ者が抑えられた敵を討つ。
 混戦の中神楽耶は時折舞うように身を翻して危機に晒された仲間を庇い、微笑む。

 ――この身は宿神、肉体の損傷など意に介すものではありません。

 ヤドリガミとはそういうものだ、と語る瞳は穏やかだった。『闇の救済者』達はヤドリガミという概念を知らないが、彼らの指揮を執る巫女が超常の存在、神聖な存在であることを理解して尊崇の念を深め、一層士気を高めるのであった。


 ――ただ、希望の証明を。
(救済者が立ち上がったことは正しかったのだと、彼ら自身にも実感して頂く為。男爵殿には「噛ませ犬」になってもらいましょう)
 神楽耶の心が伝わる。
(ええ、エリィも同じ事を考えているわ)
 白い掌がするりと下に降り、杖の柄を優しく執る。
「さて、害獣駆除よ」
 エレニアが杖を優雅に操り、世界に呼びかける。還る場所なき者達を呼び集める。エレニアを中心に縋るようにして気配が集まってくる。

「夢を見ているのね?」
 おっとりと微睡むようにエレニアが微笑む。白くたおやかな腕は優しく差し出される。差し出された手に導かれるように怨霊が。幽鬼が。

「吠え猛りなさい」
 一言。

 ――生を諦め切れないもの達の怨嗟を見せてやれ。

 赦しを得て、けしかけられて、命じられて。怨嗟が風となる。

「敵、多いのね」
 エレニアはぼんやりとした空を見上げる。そこに敵がいるのだとエレニアにはわかった。雨降り注ぐ中、時折ドラゴンに引き裂かれ、黄金の少女に散らされて。
「味方も多いわ」
(ピクニックは、賑やかなほうが楽しいわ)
 迫る一羽に空気が釣られて、エレニアは「いいわ」とステップを踏んだ。軽やかにダンスを、貴方と。
 両の足は踊ることができて、腕は空気を撫でることができて、声は――、自由に囀ることができる。自由ならざるを知るからこそ自由を知る。エレニアは世界をあまり映さぬ眼に自由を視ていた。

 アダムとイヴがダンスの相手を搦めて締める。
 ――差し上げる。
 するりと滑らせた刃は鮮やかに、淑やかに。

 けれど、とエレニアは身を引き、双蛇が抑える敵を『闇の救済者』に示すのだ。促され、小さなナイフを手に取るのはまだ戦いの経験が浅い様子の少年ダンピール。決死の覚悟でナイフを構え。
「さあ、英雄になりなさい」
 頷く顔はよく視えない。けれど、燃え上がるような気焔をエレニアは見守り、夜にそっと声を捧げた。
「夢見る時間はお終いよ」

 敵にトドメを刺した少年に迫る蝙蝠を感じ取り、けれどエレニアは静かに杖の柄を握っていた手を上に滑らせた。

 味方の動きがわかっていたから。

「この世界に怯える闇夜は不要なのです。だから、絶望の運び手よ。燃えて弾けて、灰と散れ――【鉛丹光露】!」
 神楽耶が刀を鋭く突き出し、炎の魔力を注ぎ込む。灰の体が内と外で爆ぜて悲鳴すら許されず散っていく。

 ぱちぱちぱち、
 やわらかに手を叩き、エレニアは無垢に微笑んだ。誇り高き眼差しを湛えて佇む英雄達が歓声をあげる。少年は手をじっと見つめ、肩で息をして――やがて他の敵へと斬りかかっていく。
「ええ、それでいいのよ」
 朧な輪郭に微笑む声は微睡むように穏やかに雨音に掻き消され――、世界はぼんやりとした熱が篭るような夜の只中にある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
アドリブ等歓迎
ジュジュちゃん(f01079)と

まあべらべらと煩いコト
彼女の朗とした声を遮らぬ様、救済者たちに声掛けとこ
さあさ、聞かれもしない事よく吠えるナンて小物そのものヨ
永遠の夜ナンて無いと、見せてあげマショ

より多くを巻き込む位置『見切り』影狐を放ち
範囲攻撃で【黒嵐】吹かせる
霧を晴らしてよぉく捕まえておこうか
誰の心も揺さぶらせやしないヨ

攻撃はオーラ防御で凌ぎ
彼女らや救済者たちに害が及ばぬ様留意しとくわネ
もしもの時は盾になってかばうヨ
受けた傷は向かってくる敵へカウンターで傷口をえぐるよう生命力吸収で埋める

言ったデショ、誰も、揺さぶらせやしない
呪詛籠め返したげる
夢見る時間はお終いヨ――ってネ


ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
お友達のコノさん(f03130)と

希望が消えることはないよ
人は何度だって立ち上がる
過去に敗れた英雄達の想いも一緒に
そしていつかこの世界の闇を晴らす
次に敗れるのはお前達だ
今それを証明してあげる

大きな声ではっきりと
人々の心に届くように

白薔薇舞刃に光属性付与し二回攻撃
なるべく多くの敵を巻き込むように

見切りや第六感で敵の攻撃を察知
オーラ防御やメボンゴを操り武器受け
庇われたらお礼を

黒い霧はホーリーメボンゴ波(メボンゴから出る衝撃波+光属性付与+範囲攻撃)で散らして薄め、狂気耐性や気合いで乗り越える

私は、私達は、絶対に絶望なんてしない!
悪夢に怯んでる暇なんてないの
希望を守るために戦うんだから



●ショータイム

 ――まあべらべらと煩いコト。

 皆が空を見ている。コノハ・ライゼ(空々・f03130)がそれを感じながら冷めた瞳を地上に滑らせた。
 ふと、1人と目が合う。全身を黒衣装に包んだダンピールと。声が出ていたのか、それとも。コノハはへらりと笑った。
 そして、つつと人差し指を唇に寄せる。可愛らしちお嬢サンのショーを邪魔しちゃぁいけないのだ。

 (声をあげるデショ、ジュジュちゃんなら)と思いながら視線を向ける事はない。それは確認するまでもない事。ジュジュ・ブランロジエがこんな局面で見せる顔、魅せる声はもはやコノハには解りきっていた。
 ほら。
「希望が消えることはないよ」
 ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が大きな声を。


 ――響かせた。


 それだけで。それだけで? コノハは無言で笑った。
 それだけで! 視線は彼女に集まったのだ!

 たった一言、その一言で注目を引くだけの天賦と技量を備えているのだ、このジュジュという娘は。

「すごいわネ」
 足元の影で微かに動く気配がある。黒き管狐が周囲を窺うようにチラリと顔を覗かせ、すぐに引っ込んだ。周囲の闇の救済者達は武器を手に必死の目を見せている。コノハは軽く眉をあげた。そして、軽い調子で声をかける。喫茶店で何かを悩む客の前に横から芳香の湯気立ち上る珈琲を置くように。天気の話でもするかのように、声には気負う気配が全くない。
「さあさ、聞かれもしない事よく吠えるナンて小物そのものヨ。永遠の夜ナンて無いと、見せてあげマショ」
 繕わぬ者達だ、皆が皆。集団に向けて黒霧が忍び寄るのを誰より早く察知してコノハはゆるりと声をかけて影狐を躍らせた。
「遊びたかった?」
 黒の嵐がコノハの周囲に吹き荒れる。耳朶を打つのは嬌声に似た風音だ。待ちかねたように躍動する影が燥いでいるようだ。コノハとその背後の人々に忍び寄る悪意の霧を物ともせず玩具のように蹴散らして、アア楽しそうネ。コノハはニコリとした。

 悪意が前方から押し寄せる。少し静かにしてもらわなければならない。だって、ジュジュのショーが始まっているから。コノハは悪意に対峙する――ショーの最中は、お静かに、と言い含むように黒嵐を静かに静かに暴れさせ。

 背に守る集団の中、少女が言葉を続けている。背を向けていて姿は視えないが、きっと煌めく若草の瞳で人々を魅了しているのだろう。可愛いウサギのメボンゴのおみみがひょこりと揺れる様さえ想像できてコノハは優しく微笑んだ。

「人は何度だって立ち上がる。過去に敗れた英雄達の想いも一緒にそしていつかこの世界の闇を晴らす」
 声は希望そのもののようだった。その声を、少女を人々は決して忘れまい。

 夜に希望の声が花開く。柔らかで、可憐で、決して容易に摘み取られぬしたたかな花だ。強い生命だ。
 それが皆の心に種飛ばし、次々と同じような花を咲かせるのだ。
「次に敗れるのはお前達だ。今それを証明してあげる」
 高らかな宣言は、喫茶店でコップを手にメボンゴを喋らせていたあの少女が放ったのだ。コノハは悪夢に包まれそうになった意識を振り払う。悪夢の代わりに観るのが平穏そのものの日常風景、喫茶店で過ぎていった時間なんて。楽しいワネ――もっと魅せて。声をあげて笑いたくなりながら、薄い氷が耐えた。そして、ふと眉を寄せる。霧が黒嵐を潜り抜けジュジュにも迫ろうとしている。その軌道へと身を晒したのは咄嗟のことだ。

 真紅に濡れる刃を霧に滑らせれば中に紛れていたらしき蝙蝠が悲鳴をあげる。
「言ったデショ、誰も、揺さぶらせやしない」
 ジュジュちゃんも案外喫茶店の楽しい夢を観るかもネ、と僅かに想い。そんな自分を、どこか他人事のように自分が観ていた。喫茶店の楽しい空気に塗り替えられる前、ほんの少し、けれど確かに悪夢らしきものはあったのだ。
 背にあたたかな空間がある。
 希望の齎し手が一生懸命にショーをしている、最中。ダカラ。
「呪詛籠め返したげる。夢見る時間はお終いヨ――って」
 コノハはへらりと笑う。生命力が流れ込んでくる。だから、へらりと笑おう。

「ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョンを!」
 ジュジュがいつものように溌溂とした声を響かせていた。
 戦場に白薔薇と光の粒子が舞い踊る。人々は自分の近くに舞う清廉な花びらに思わず手を伸ばし、不思議な現象に目を瞬かせた。舞う薔薇が、触れると光になってしまうのだ。

「綺麗」
「不思議……」
 美しい光は蛍にも似て可憐にゆらりと揺れ、空に溶けるように消えていく。総身を震わせていた人々はその幻想に夢心地で見惚れて。蝙蝠が白薔薇に刻まれて地に堕ちていくことすら気付かない。ジュジュが黒霧に抗う瞳を向けてメボンゴから神聖な光砲を放っていた事にも気付かない。黒霧が人々を狙ってひっきりなしに噴霧されている事にも、気付いていなかった。しかし。

「私は、私達は、絶対に絶望なんてしない! 悪夢に怯んでる暇なんてないの。希望を守るために戦うんだから。……ホーリーメボンゴ波!」
 勇ましい声と不思議な技名がふと聴こえて数人が目を向けると、ジュジュが黒い霧を睨みウサギのメボンゴを翳している。
(思ってたより霧は薄い。これなら、大丈夫そう!)
 霧を睨んでいたジュジュが表情を和らげる。
「す、すごい」
 人々はというと、迸る清らかな光に目を丸くしていた。

 そんな人々の様子にジュジュは安堵の息を吐き、くるりと振り返り傍らに笑顔を向けた。
「ありがとう、コノさん」
 そこには、痩身を防波堤のように晒して黒霧からジュジュと人々を密やかに守り続けた青年がいる。

 ジュジュは黒霧の悪夢に襲われる覚悟を決め、気合いを入れていたのだ。だが、悪夢はその身を少しも苛むことはなかった。人々に届くこともなかった。危険が迫っていたこと。危険から守ってくれていた人がいたこと。それは、人々はきっとわかっていない。彼らは、ショーに心奪われて高揚するのみだったから。

 けれど、ジュジュにはちゃんとわかっていたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノワール・コルネイユ
所詮は過去の産物か
埃被った昔話に付き合う程、私も暇じゃないんでな
さっさと済ませようじゃないか

蝙蝠やらが鬱陶しい様だが
それなら纏めて薙ぎ払うまで
銀の長剣を一対、羽開く様に構え
弾丸より速く、火砲よりも荒々しく斬り込む
さて…巻き込まれてくれるなよ

背中の守りは周りの者に任せ
男爵とやらの懐まで深く斬り込み、追い回してやろう
何なら、地獄の果てまで追いかけてやるさ

貴様らは歴史に染み出した過去の存在、過去そのものだ
故に過去にしがみ付き、過去を繰り返す
そして、今を知らず…未来を視ない

まだ解らないのなら、はっきりと言ってやるさ
先ほど貴様が自慢げに語っていた昔話は、世界ごと覆りつつあるってことだ。この阿呆め



●NOIR
 悪意が渦巻き、ケタケタと愉悦の波となって空気を震わせている。


 ああ、煩い。


 ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は双眸を爛々とさせた。
「所詮は過去の産物か。埃被った昔話に付き合う程、私も暇じゃないんでな、さっさと済ませようじゃないか」
 視線はちらりと周囲の同胞に向けられる。
「さて……巻き込まれてくれるなよ」
 地を蹴る背は守らぬと物語る。
(他の者に任せる)
 守るだろう、という確信があった。
(それに、)
 己を育てた武侠達をふと思い出す。彼らも吸血鬼狩りを生業として――己の身は己が守るものだ、この闇の大地では特に。笑う。――そうだろう、と。

「舐めるな!」
 ほら、背後で猛き声が『抗っている』。
 ノワールは紅色の瞳に只、敵を映した。灰色の過去。男爵と言うらしい。
「男爵? それがどうした」
 何時の時代のヴァンパイアか。
「只の過去だ」
 輝く瞳の奥に宿るのはその辺の若造が宿すような甘っちょろい志などではない。陽の光が射さぬ宵闇に閃き空を裂くのはお行儀の良い鋼線などではない。贖えと圧し掛かり存在をへし折るような銀の輝きは空想の星月よりも美しい。けれど、決して観賞用ではない。一振りは一方的に生の道を閉ざす暴力、一振りは悲鳴求める飢えた獣、其の刃は何者にも縛られぬ。烏の娘は何者にも染められぬ――羽開く様に構え、弾丸の速度を越え只管に疾く。火砲よりも荒々しく斬り込む唇がふと声を零す。待て、と。
 逃れようと羽搏く蝙蝠羽に線が走り、次の瞬間ズレて落ちる。哄笑が悲鳴に変わる瞬間は独特の酩酊を誘う。追い回してやろう、ノワールは薄く微笑んだ。
「何処へ行く」
 地表を這うように這いずる一帯を踏みつけ、潰し、悪夢の齎し手は今やこの娘となっていた。狩人が縦横無尽に剣閃を
放てば血華舞い散らすは悪夢が如く。

「い、ひ、ヒィッ、ヤメロ!」
「アアアアアアアアアッ!!」
 やはり、煩い。
 瞳を眇めれば殺意が閃いた。一つの熱が消え――弧を描く――声が途絶えて――足がぐしゃりと何かを踏み――、
 耳障り。
 ――けれど、狩りはこれでいい。
 宵闇が朗々と声を放つ。
「貴様らは歴史に染み出した過去の存在、過去そのものだ。故に過去にしがみ付き、過去を繰り返す。そして、今を知らず……未来を視ない」
 言葉は絶対零度の温度を以て殺意をストレートに伝えるようだった。
「まだ解らないのなら、はっきりと言ってやるさ」
 朱の瞳が潰した一体を見下ろし、蹴り上げた。灰の吸血鬼が襤褸雑巾のように空を舞い――あれはもう、死骸だ。塵だ。狩人は興味を失った。獲物はたんとある。
「先ほど貴様が自慢げに語っていた昔話は、世界ごと覆りつつあるってことだ。この阿呆め」
 口元が歪む。眼は只管に赤い。
 吊り上がった口の端――、


 人はこれを、笑顔と呼ぶ。

 NOIRが最高級の笑顔を浮かべ、悪夢を撒き散らす。世界の夜とはこうであれ。驟雨の中で蝙蝠は無数の悲鳴をあげ、無残な死骸の山を夜空は冷たく見下ろしていたのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャルファ・ルイエ
何が違う、と問われましたけど……。
違いますよ。だって、今はわたし達猟兵が居ます。
過去に叶わなかった人だって、英雄になりたかった訳ではなくて、きっと守りたい何かがあっただけです。
その人達から今に繋がっている何かだってあるはずです。

相手の数が多いですから、【星を呼ぶ歌】を《範囲攻撃》で流星群にして敵に降らせます。
《高速詠唱》と《全力魔法》も交えて、なるべく相手に反撃のチャンスを残さない様に。
それでも黒い霧を向けてくるなら、氷の《属性攻撃》で凍らせて落として、残る様なら《見切り》や《オーラ防御》で防ぎますね。

この世界では、確かに雲で空が見えません。
でもあの雲の上には、ちゃんと星があるんですから!


ヴェル・ラルフ
了見が狭いね
志を後世に継いだって結果もあるの、忘れないでくれる?

暗澹たる思いが無かった訳じゃない
でも、人は希望を棄てない
変えていく力があるって教えてもらえた
だから、世界もきっと変わる
きっと、ね

雄凰に乗ったまま仲間の様子を判断して抜けのないように位置取り【残照回転脚】
殲滅作業もきっちりと

なによりも、確実に仕留めることを念頭に
幸い夜目は利くし敵の速さにも[早業]でついていけるかな
[暗視]を生かして逃がすことの無いように
決して報告はさせない
敵が形勢不利と判断して撤退する前に退路を塞ぎ、ナイフを用いた[暗殺]で確実に息の根を止めたい

さよなら男爵、覚えておいて
人って、すごいでしょ?

★アドリブ・連携歓迎


栗花落・澪
英雄気取りとか正直どうでもいいよ
確かにそういう人も中にはいるのかもしれないけど

でも、自らの手で希望を掴もうとする覚悟は
きっかけがどうあれ、賞賛に値するものだと思う
その思いを踏み躙るつもりなら
いくら可愛い子でも許さないよ

★Venti Alaに宿した風魔法で【空中戦】
敵の合間を縫うように素早く移動しながら
【破魔】を宿した光の【高速詠唱、属性攻撃】で
確実に仕留めていく

更に【呪詛耐性のオーラ防御】で身を守りつつ
【指定UC】発動

どんな悪夢にだって僕は負けない
護れた筈の命を取りこぼしてしまう事が
今の僕には一番の悪夢だから

足元に★どこにでもある花園を広げながら
【催眠歌唱】で破魔の花弁を操り
斬撃の【範囲攻撃】


リーヴァルディ・カーライル
…ん。そうね、夢見る時間はもう終わり。
過去の残滓は夜明けと共に消え去りなさい。

“血の翼”を維持して敵と空中戦を行い【断末魔の瞳】を発動
左眼の聖痕に魔力を溜め、目立たない霊魂の残像を暗視して吸収
全身を接近した者の生命力を吸収する呪詛のオーラで防御する

…英雄気取り、ね。
嘲笑されているけど、貴方達はそれで良いの?

…いまだ魂が鎮まらないならば私の下に来なさい。
力を貸してあげる。奴らを討ち果たす力を…。

【吸血鬼狩りの業】で敵の動きを見切り、
霊魂の呪詛を収束した大鎌を怪力任せに振るい、
斬撃を飛ばす闇属性攻撃で敵をなぎ払い仕留めていく

…貴方達の志は私達が受け継ぐわ。
さようなら、英雄。眠りなさい。安らかに…。



●空
「何が違う、と問われましたけど……」
 シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)が澄んだ泉のような瞳を真っ直ぐに男爵に向けた。
 声は、無垢な小鳥が囀るに似て迷いも何もない。ただ当然のことを指摘するように。
「違いますよ。だって、今はわたし達猟兵が居ます」
 周囲には、猟兵達が集まっている。

「了見が狭いね。志を後世に継いだって結果もあるの、忘れないでくれる?」
 ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)が陽光が蕩けるような瞳をひたりと敵に向けている。
「暗澹たる思いが無かった訳じゃない。でも、人は希望を棄てない」
 ヴェルは17歳になる。生まれるよりとっくの前に人類は敗北していた。

 世界に猟兵は選ばれたのだという。

「変えていく力があるって教えてもらえた。だから、世界もきっと変わる。きっと、ね」
 雄凰が力強く風を叩く。双翼のゆったりとした動きには周囲に集る敵への恐れなどは全くない。

「英雄気取りとか正直どうでもいいよ。確かにそういう人も中にはいるのかもしれないけど」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が胸のあたりを軽く押さえるようにしながら言葉を紡ぐ。とくん、とくんと心臓が脈動している。
「でも、自らの手で希望を掴もうとする覚悟はきっかけがどうあれ、賞賛に値するものだと思う。その思いを踏み躙るつもりならいくら可愛い子でも許さないよ」
 澪は、あまり無理はするなと言われていた。そんな自分が、できることをできる範囲でいつも、している。仲間と共に。
 琥珀色の瞳には、強い光がある。

(僕は、あまり体がつよくないけど、できることがある)
 澪はそれを知っていた。だから、顔を昂然と上げてトン、と地を蹴る。靴が風纏い、翼を生やす。軽やかに空へと舞い上がる澪の視線の先には、夜空を背負うリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)がいる。背に血の翼を羽搏かせ、睥睨するは敵の群れなり。
 彼女の敵は常に『吸血鬼』であった。その敵が夜に無防備に燥いでいる。リーヴァルディは静かに声を降らせた。

 空に現れるのを忘れた月が今ようやく気まぐれに顔を魅せたのだと言うように、冴えやかに。
「……ん。そうね、夢見る時間はもう終わり。過去の残滓は夜明けと共に消え去りなさい」
 銀色の髪が一筋ローブから零れてふわりと揺れた。滴がしたたり落ちる流れは清らかで、どこか冷たく――断末魔の瞳が敵を視る。左目が煌々とする。
「……汝ら、この瞳をくぐる者、一切の望みを棄てよ」
 うぞり、うそり。
 空気が蠢く。全身を左眼の聖痕が吸収した死霊や怨霊の魂が覆っていく。
 敵の悪意すら吸い取るオーラがゆらゆらと周辺の空気に揺らぎを生み出し、夜に君臨する銀月の女王のようにリーヴァルディは語り掛けるのだ。
「…英雄気取り、ね。嘲笑されているけど、貴方達はそれで良いの?」

 呼びかけられたのは、霊魂だ。闇を見通す娘の瞳は世界に忘れられた哀れなる霊魂のヒトカケラすらも見出して拾い上げようとしていた。ふるりと震えるそれに手を差し伸べるようにして、抱きしめるようにしてダンピールの娘は囁いた。
「……いまだ魂が鎮まらないならば私の下に来なさい」
 戦う娘が空気を震わせる。声は蜜のように甘やかで、雪解け水のように清らかで、優しい温度を宿していた。
「力を貸してあげる。奴らを討ち果たす力を……。いまだ魂が鎮まらないならば私の下に来なさい。力を貸してあげる。奴らを討ち果たす力を……」
 その声に答えぬ霊がこの世界にいようか。この英雄の声に集わぬ英霊が此の世界にいようか。
 忘れられた霊が歓喜の声を上げ、敗北した霊が涙を流し、手を差し伸べられることが終ぞなかった霊が恐る恐る――リーヴァルディの周囲に集まって黒い霧を喰っていく!

「ん。ありがとう」
 言葉少なに少女が呟き、大鎌を振り上げた。フードがはらりと後ろに流れ、長い流麗な髪が顕わになる。
 大鎌に霊魂達が呪詛を籠める! 力を集結させていく! リーヴァルディは其れを感じて一層気配を尖らせた――殺意に。
「……貴方達の志は私達が受け継ぐわ。さようなら、英雄。眠りなさい。安らかに……」
 無数の英霊が敵を滅ぼす力を籠める。ありったけを籠めて力尽きて消える霊に代わり、別の霊が力を注ぎ、その霊が消えれば次が。
 リーヴァルディは一振りごとに消える霊を感じながら特別な一撃を振るい続け、敵の群れを仕留めていく。

 地上では、シャルファが言葉を続けている。
「過去に叶わなかった人だって、英雄になりたかった訳ではなくて、きっと守りたい何かがあっただけです。その人達から今に繋がっている何かだってあるはずです」
 学園で問題の問いを求められて応えるが如く、あどけない声が澱みなく考えを話す。背には清らかな白い翼が広がっていた――オラトリオ。天の御使いとも呼ばれる神秘的な種族だ。其の存在は、人から生まれるのであった。

 シャルファが空に舞い上がる。高く。高く。どんな悪夢も捉えられぬほど、上へ。昇りながら背後に氷気を放てば、悪霧も凍っていくようだった。

 ――空を見て、手を伸ばして。今なら星にだって手が届く。
 そっと腕を伸ばせば、果てがない。ソラにはちっとも果てがない。どこまででも昇っていけそうな気がしてシャルファは少し身震いした。そして、敵を見下ろした。視界の中で仲間達が次々と空へ昇り、散っていく。散った仲間達が高速で飛翔しながら敵の群れを落としていく。
 地上では別の仲間達も戦っている。空は任せたぞと声がした。誰の声だかもわからず彼らは頷いた。
 猟兵達には得意不得意がある。空を飛べるものもいれば、飛べないものもいる。
 今回の敵は一体も逃すことはできない。敵の首魁に報告されれば、どうなってしまうことか。

 ――全てを滅ぼさなければならない。

 それは、空を覆い尽くすような群れの前で一見途方もない事のように思えた。ほんの一体を逃すことさえ許されないのだ、彼らには。
 故に、空を舞う彼らはいつしか連携した動きを魅せるようになっていた。勿論、先に飛翔していた娘やドラゴンも共に!
「確実に仕留めるよ!」
「逃せば報告されちゃうからね」
 ヴェルと澪が上空で交差する一瞬で声を掛け合っていた。
 澪は敵の合間を縫うように素早く空中戦を展開している。灰色の絨毯の隙間をスイスイと泳ぐようにしながら光を放ち、清らかな光は破魔の力を発揮して絨毯の構成員を地に落としていくのだ。その全身には薄っすらとしたオーラが纏われている。
 黒い霧が待ち構える前方へと躊躇いなく突っ込みながら澪はすうと息を吸った。

 ♪満ちたりし 肥沃な地
 ♪花が天を向き 蜜滴りて 果実は煌めく……

(幸せのままに眠れ)
 少女めいた瞳が蕩けるように微笑んだ。甘やかな――けれど、明確に敵を滅ぼす意思を見せる澪は、普段と異なり今は少年らしさを覗かせた顔を魅せている。
 無数の花弁が空に舞い、悪夢の霧に対して刃を剥き出して斬り裂いていく。悪夢はそれでも押し寄せて――、

「味方の邪魔は、させません!」
 シャルファが氷を放ち、霧と蝙蝠を凍らせていく。空中の猟兵戦力は少数だ。広い空域を飛び廻る仲間達の状況を必死に把握しながらシャルファは歌を紡ぐ。

 戦場を広く飛翔する雄凰の背上にいるヴェルは敵味方の動きを把握しながら高度を下げた。夜目の効くヴェルにとって夜戦は得意分野だった。素早い身のこなしで知られるヴェルにとって敵の速度などたかが知れたものだった。
 下げると言うよりは落ちるという方が近い速度で味方に迫る敵の群れへと寄り、最後は跳んだ。
「染まる緋、灰と化せ!」
 雄凰がぐるりと旋回して下へ向かう中、空に飛び出したヴェルが放つは『残照回転脚』。宙空で放たれた必殺の一撃と爆風が敵を蹴散らしていく。地獄の炎がヴェルの蹴撃と共に花火に似た輝きを見せ蝙蝠を燃やしていった。
「雄凰!」
 おいで。
 囁くような聲の下に応える白い影。空に飛び出したヴェルを再び背に受け止めるヘビクイワシ。背にふわりと受け止められ、ヴェルは優しく雄凰を労い、首元を撫でた。

 シャルファの唇が可憐に開かれ、旋律が響く。

 ♪水が流れるように 天の光を呼びましょう

 穢れを、流すのだ。シャルファは星を呼ぶ。星に訴える。過去がこの羽搏きの下、天の下で蠢いている。味方が戦っている。
 腕をそっと差し伸べれば、分厚い雲の隙間から何かが応えた。不思議な星が降り注ぐ。流星群が雨に混じって敵を打ち落としていく。

「綺麗……!」
 澪が流星群に嘆美する。声は年頃相応の無邪気な感動を伝えて、シャルファがニコリとする。
 絶景の中、澪は先刻の黒霧の中でほんの一瞬だけ自由を得る前の悪夢を垣間見たことを思い出し、すぐに振り払った。
「どんな悪夢にだって僕は負けない。護れた筈の命を取りこぼしてしまう事が今の僕には一番の悪夢だから」
 天翔ける足元に花園が広がっていく。それは幻想的な光景だった。地上でその光景を視る者達は皆ぽかんと口を開け、語り継ぐことだろう、その見た事も無い神秘的な花園を――我こそは奇跡だと華やかに笑うが如き麗しき奇跡を。甘やかな歌声は少女のようであり、少年のようでもある。その歌が響けば花弁は鮮やかに舞い踊り、敵に向かっていく。

 流星と花舞う不思議な空は、まるでここがダークセイヴァーであることを忘れてしまいそうになるほど幻想的だ。夢物語よりもよほど夢のようだ。
「この世界では、確かに雲で空が見えません。でもあの雲の上には、ちゃんと星があるんですから!」
 シャルファがそう言って清廉な翼を優雅に羽ばたかせた。その姿はまるで天からの使い。地上の人々はその姿に間違いなく天意を得たと思ったことだろう。奇跡の流星が男爵を地に押し流していく。オラトリオの少女がそれをしているのだ。

「こんなはずでは」
 ――こいつらは、並みの反抗者ではない!!
 男爵が慄いた。
「報告を!」
 一体がそう言い、一群が慌ただしく空を逃げ出し。

「何処へ、行くの?」
 血色が行く手を遮り、駆け抜けた。英霊の大鎌を振るいしリーヴァルディが逃亡者達を狩り獲り、消して存命を許さぬと冷えやかな殺意満ちた瞳を向ける。

「ヒ、ヒ、ヒィィッ!」
「決して報告はさせない」
 雄凰に乗ったヴェルが更に逃れる一団の退路を完全に塞ぎ、冷たいナイフの光を夜に走らせた。
「さよなら男爵、覚えておいて」
 暗殺者が哂う。
「人って、すごいでしょ?」
 ひどく静かな微笑みだった。穏やかで透き通る声だった。どこか儚く、夕焼けのような――男爵は状況を忘れ、生命討取られる一瞬その少年に何故か目を奪われ、逃げることを忘れたのだった。
「よそ見?」
 鎌が振り下ろされる。三日月のようにシャープなラインを描き、輪郭を霊力の揺らぎがぶらしながら。切断する刹那歓喜する魂には、ふと眦を和らげて。
「……ん」
 応えは常と同じき短さで。

 ――血色と銀色煌めく美しき断罪劇。その瞬間、世界が祝福するに似て風がふわりと微笑んだのだった。

「あ……」
 空に揺蕩う彼らは、ふと風に釣られて視線を向けて目を見開いた。雲の隙間に、とてもピュアな光を放つ星が覗いていた。世界には、星があるのだ。曇りがちな空模様のせいで余り視る機会がないだけで、忘れてしまいそうなだけで、それは常に空に輝いている。彼らはそれを知っていた。そして、その現実を今、再確認したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
おや、アンタ
夢破れた者を嗤うタイプ?
へぇ

ところで
とっても芸達者な蝙蝠だね
どうやって躾たんだい?いいな、それ
どうだい、僕のオロチよ
コイツら食ったらお前らの芸もマシになるんじゃないの
愛蛇の地上五階程の身の丈を晒し、さぁオヤツだよ、と嗾けて
好き嫌い言うとご褒美無しよ

僕はと言うと高みの見物と行きたい所だけども
僕や、なんかそこの暑苦しい闇の救済者さん達に
降る火の粉はテメェで払うさ
背負った長い妖刀、長身の男が振り回せば
周囲三軒くらいは火事知らず

英雄ってさ
死んでからもなれる珍しいポジションなのよ
語り継がれて、色が付いてね
さっきアンタから教えてもらった事だし、僕も彼らを語り継ごうじゃないの


冥門・残士郎
アドリブ連携歓迎

来なすったねぇ…この世界には戦おうとした人がそんなにいたんだね。逞しいことだ、覚えとこう
サ、死合だ

怨嗟により一切を断つ【夜叉の刀】、これを【怪力、】により操り、【部位破壊】を狙いつつ蝙蝠の大群を正面より斬る


【恐怖を与える】

ああ―昂る!!

幾重の命を一太刀に掻っ裁く…群れ殺しなんぞサシと比べりゃ屠殺と変わらねえと思ったが中々どうして、昂る!!!
暇があるなら刀に付いた血ィ、指で掬って吟味してみたいもんだ…死合時の癖さ

アアア…やはりあんたらは良い…
その高慢に義憤できる
その戦いには惨殺が通る
…一匹一匹生欲を漲らせな?そしたらもっと感じれる筈だ

刀を通して伝わる―生気灯る肉の感触がさァ…



●断刀廻り
 雨の匂いが世界を包んでいる。音を立て草が打たれ濡れて、まっすぐ、真っ直ぐ。針が降るように雨が視界を流れて。夜だ。
「おや、アンタ夢破れた者を嗤うタイプ? へぇ」
 ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)がお道化るように大仰に眉あげて。こめかみから頬に張り付くピンク色をちょいと摘まんで整えた。ふう、と吐く息は湿った世界に相応しきウェットなもので。けれど瞳は晴れやかだ。からりと晴れたエンパイアの空だってこんなに澄んじゃいないだろ――なにせ白雲の一つも浮かんでやいない。
「ところで、とっても芸達者な蝙蝠だね。どうやって躾たんだい? いいな、それ」
 思い出したように視線を戻せば、蝙蝠がわさわさと寄ってくる。
「我輩を何と心得るか、我輩は我輩である」
 男爵はそう言ってロカジの周囲に群れ集う。

「吸血鬼め!」
 数人の『闇の救済者』が真っ直ぐな剣を手に駆けつけてロカジに群れる灰の塊を薙ぎ払おうと勇猛果敢に戦い始めた。
「俺達の『仲間』は傷つけさせん!」
「『同志』を守れ!」
 ――暑苦しいねえ、と頬を緩めてロカジが影に笑みを向けた。およそ人という生き物が思い描く幽界冥府よりは明るいだろう世界の底。下に引かれる物体を受け止める地面が確りと足元に広がり啼くが如きこの涙雨が止まず倦まずの暑苦しい野郎共と芸達者共の牙をしとどに濡らして舞台は華やかに飾られている。
「どうだい、僕のオロチよ。コイツら食ったらお前らの芸もマシになるんじゃないの」

 さぁオヤツだよ、と嗾けるロカジに応えるように愛蛇が身を晒す。地上五階程の身の丈の蛇は降っかかる豪雨に滑らかな鱗を煌めかせて人々の視線を攫っている。
 雑音めいた言葉の数々は雨と聞き流し、蝙蝠の羽搏きもどこ吹く風。頬伝い顎に落ちる水滴を流れるがままに滴らせ、ロカジは背の長物に手をやって人々が畏れる怪異に朗らかに笑いかけるのだ。
「好き嫌い言うとご褒美無しよ」
 蝙蝠達が蛇に牙を突き立てようとして悲鳴をあげていた。欠けた牙にぎゃあぎゃあと騒ぐ群れを喜劇のように愉しむ目は降りかかる灰火の粉をひと睨み。

 暑苦しい闇の救済者達を押しのけるように前に出て。
「降る火の粉はテメェで払うさ」
 背負った長い妖刀を長身の男が振り回せば周囲三軒くらいは火事知らず。火事より喧嘩だ、舌を廻しな下駄を舞わしな。ロカジの足元でじゃりりと雨濡れの砂踏むは洒落た飾崩スニーカーだけれど。
「これ動きやすいのよ」
 妖刀が雲を斬る。雲の如き灰を斬る。遠心力って言うんだっけ、と呟きながら振る軌跡は無数の水滴を弾いて剣風というより竜巻に近い。

「英雄ってさ、死んでからもなれる珍しいポジションなのよ。語り継がれて、色が付いてね」
 愛蛇が生み出す悲鳴が耳を擽る。雨音よりも軽快に湿った空気を震わせて。風まき起こすはあやかしの一刀、そうれそうれと魅せてやればギャンギャン唸る風音に周囲が圧倒されている。
「さっきアンタから教えてもらった事だし、僕も彼らを語り継ごうじゃないの」
 ロカジは笑い、哂い。
 その派手な立ち回りによって、他ならぬ自身が語り継がれることになるのである。


 仲間達が派手な立ち回りを見せている。

「来なすったねぇ……この世界には戦おうとした人がそんなにいたんだね。逞しいことだ、覚えとこう。サ、死合だ」
 冥門・残士郎(人斬り義侠・f21843)が禍々しき瘴気・屍気を刀に乗せ斜めに構える。反る刃は自身を剥いて己が頬に触れそうなほど近い。濡れた刃に滴る水滴は酷く色めいて心騒がせる妖艶さ。
 ――乗る怨嗟は一切を断つ。
 ゆったりとした足元は着物と濡草に隠れて挙動を窺わせぬ密やかさ。影が伸びるが如く。太刀筋は袈裟に奔り、かと思えば斬り上がる。鋼線軌跡の閃くさまは火が揺らぎ昇るが如く、金翅鳥が天翔けるに似て血の花を闇に咲かせて悲鳴産む。達人の技量で振るわれる剣は闇に忍びやかに無数の生命を刈り取って、仮に明るいうちであったとしてもその仕業を視認し対応するは至難であっただろう。撓たわめた足を延ばして横振りにあわせ斜めに奔らせる一閃に合わせて細い草がはらはらと舞い天からの水滴を弾いている。斬撃はぎょっとするほど残酷で刃は冷たく冷え切り、斬られた刹那の蝙蝠の全身は灼熱の如き痛みが支配して一様に悲痛な声を漏らし息絶える。囁く――斬られねば勝ちと思え――斬られぬ者があるものか! 蝙蝠が怖気に竦んでいる。

 ああ――昂る!!

 狂気すら思わせる壊れ声が剣風に紛れて風震わせる。
「幾重の命を一太刀に掻っ裁く……群れ殺しなんぞサシと比べりゃ屠殺と変わらねえと思ったが中々どうして、昂る!!!」
 慄く蝙蝠と――夜。
 濡れた刀に指這わせ、掬った血を舐めとり哂うその男の双眸には歓びが濃く浮かぶ。こうでなくてはと高揚し昂る胸の内をありありと伝える声は箍が外れるようだった。その腕にまた一つ肉裂き骨断ち血飛沫上げる感触が伝われば人斬りは恍惚と息を吐く。
「アアア……やはりあんたらは良い……」

 雨が降っている。
「その高慢に義憤できる」
 悲鳴が満ちている。

 何処に? ――刃の先に、風唸らせる道の先に、剣鬼の殺気迸る視線の先に、――世界に!
「その戦いには惨殺が通る」
 斬ろう、腕振り。
 殺ろう、踏み込み。
 死合おう、熱をぶつけて、
「……一匹一匹生欲を漲らせな? そしたらもっと感じれる筈だ」
 断つ。
 肉がずるりと。肉がぬるりと。かちりと刃止めようとする骨は香辛料に似て味添えて、けれど勢いを削ぐには脆すぎる。噴出する濡れた臭気――皮膚奥に秘匿された臓器――、涎垂らさんばかりに其れを想い、幾つも斬り伏せた過去のそれらを思い出し、声は舌舐め擦りするが如く。
「刀を通して伝わる―生気灯る肉の感触がさァ……」
 うっそりと笑う剣鬼人斬りが死骸の山を築いていく。

 ――ヒュウ。
 残さん、と呼ばれるこの義侠の笑顔の底を垣間見てロカジがヒュウと口笛吹いた。雨と悲鳴に紛れて果たして届いたか。
「旦那、ご機嫌じゃないの」
 妖刀を愉悦に揺らして此の薬屋は暢気に笑いかけるのである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

(……俺がこんなこと言う資格、本来はないのだが……。)
「過去は過去。今は今」です。
英雄気取りがなんですか。お前達に彼らを笑う資格などありはしませんよ。
断頭台への道は処刑人の私が示します。
その道を進むのは……もちろんお前達ですけどね。
蝙蝠達を一瞥し【恐怖を与える】

「お茶会セット」から針を取り出し両手に装備
敵の攻撃を【見切り】で回避しつつ敵の位置を把握し、蝙蝠達に向けて針を【投擲】
慌てず、冷静に、冷徹に。
できるだけ多くを攻撃範囲にいれるために誘導しつつ移動。

絶望するのは俺達じゃない。
「……お前達だよ」
至近距離で【何でもない今日に】を発動し範囲内の敵に全てに一斉に攻撃。



●行詰の灰
(……俺がこんなこと言う資格、本来はないのだが……)
 有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は白皙に変わらぬ無表情を湛え、蝙蝠男爵に視線を向けた。
「「過去は過去。今は今」です」
 それは正しい言葉だ。夏介は選んだ言葉の正しさをよく識っている。それは理性だ。空を覆い尽くさんばかりの悪意と空が激情を吐くような雨と、全身を水滴が打ち流れて、感情が波打つようだった。

 数多の命を燈篭に想った。流れていくあの灯り。その日、夏介は思ったのだ。そういう生き方しか知らない、と。


 『あの時、命令に背いて居れば?』


 ――もう遊べないんだ。
 花を摘み、茎を搦めて愛らしい冠を作る。その作り方を教えてくれた人を処刑したのは私だ、と告白ができなかった日。心が殺せない。けれど、表情はいつものように静かであった。
 声もきっと、そうだろう。

「英雄気取りがなんですか。お前達に彼らを笑う資格などありはしませんよ。断頭台への道は処刑人の私が示します。その道を進むのは……もちろんお前達ですけどね」
 首がある――、目が視る。
 処刑人の眼がぐるりと巡る。
 首が、ある。
 其の瞬間空気が一段冷えたようだった。瞬間冷凍された場に充ちるのは純然たる恐怖。蛙が蛇に睨まれたが如く敵が紛れもない恐怖を感じ取り、震える。
 其れは処刑人の目だと誰もが識る。抗う者達も守られし者達も、皆が処刑が始まるのだと感じ取る――其の予感を覚えずにいられない! 嗚呼、此の戦場に判決は下ったのだ。其れが今、知らされたのだ。

 夏介はお茶会セットを取り出していた。懐では、雨から守るべく庇うようにしていたぬいぐるみが震えるようだった。濡れてしまっているだろうか。そう思いながら汚れた跡を思う。思いながらお茶会とは名ばかりの暗器のセットを一瞥する瞳は「それはそうとして仕事をするのだ」と物語る。そう、其れは仕事である。
「し、」
 しね、と敵は言ったようだった。空気が幾重もの絶叫を伝えている。蝙蝠の羽搏き。恐怖を感じつつも敵は逃亡ではなく夏介を倒す道を選んだようだった。
 処刑人のブーツが踊るような足取りで右へ移動しながら総身を廻転させる。蝙蝠の群れが一瞬前にいた空間を通過する刹那、夏介の腕が緩慢にすら思えるほど優雅に持ち上がる。細く煌くのは一切の私心を削ぎ落し冴ゆる殺意のみを尖らせたような針だ。五指に挟んだ其れを自然な動作で放てばすれ違い後方に流れた群れが落ちていく。続き迫る上空の群れへは逆手に用意していた針をさらに投げ、天からの雨を逆行するように昇る銀滴が敵を狩る。
 ――できるだけ多くを攻撃範囲にいれるために。
 夏介の歩武に迷いはない。慌てず、冷静に、冷徹に。湿った人の感傷を心の奥の奥に追いやって変わらずの貌には透明な処刑人の仮面が被られているかのように無機質だ。けれど、完全なる其れではない事を夏介は自覚もしている。雨が全身を濡らし、至近に迫る悪徳悪逆に紅玉の瞳が執行の刻を告げる――告げよう。


 ――絶望するのは俺達じゃない。


「……お前達だよ」
 無邪気に哂い、愉しむ時間は過ぎたのだ。
 茶会に招かれた敵が墜ちていく。断頭台は此処にあり――処刑人はそのように告げ、今宵罪禍はかく裁かれき。
 この『何でもない今日に』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
「英雄気取り」なんかじゃ無い
理不尽な運命と戦った彼等は立派な英雄だ
其の尊い意思を、犠牲を、笑わせて堪るものか

蝙蝠の大群は厄介ではあるが……弱点も有る
撃ち落として其の個体数を減らせば良い
光の弾丸を広範囲に放ち、蝙蝠達を殲滅してみせよう
取り零しはスナイパーの技を活かし
一体ずつ狙撃していけたらと

蝙蝠の攻撃は刀で武器受けして防ごうか
救済者達が巻き込まれそうなら、此の身を盾にして庇う
損傷は激痛耐性で堪えてみせよう
残念だったな、ワイリー
お前に捧げる血など此処には一滴も無い

――さて、証明完了だ
確り掴まえておけ、フェルナント
ワイリー本体へ呪殺弾をお見舞いしてやる
断頭台に送られるのはお前だ、絶望を知ると良い


セシリア・サヴェージ
お前たちの言う、吸血鬼の支配を終わらせるために立ち上がった『英雄気取り』の人々、その総てが私にとっては正しく『英雄』です。そしてまた新たな『英雄』たちが現れた。今度こそ成し遂げるために……彼らを、全てを護ってみせる!

UC【血の代償】を発動。暗黒の力を解放したこの姿でお相手しましょう。
悪夢を見せる黒い霧……このダークセイヴァーの現状以上の悪夢などあるものか。【気合い】で耐え抜き、暗黒剣による【なぎ払い】で反撃します。さあ、この姿に恐怖しながら逝くがいい!【恐怖を与える】

『英雄』はこの世界の希望、光です。ならば私は彼らを支える影……闇の騎士としてこの世界を救済してみせる。



●Last/Rast
「お前たちの言う、吸血鬼の支配を終わらせるために立ち上がった『英雄気取り』の人々、その総てが私にとっては正しく『英雄』です」
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は決然とした瞳を黒霧に向けていた。昂然と顔を上げ、セシリアが凛然と誓いを放つ。
「そしてまた新たな『英雄』たちが現れた。今度こそ成し遂げるために……彼らを、全てを護ってみせる!」

 ああ、と肯定するのは仲間だった。夜闇に浮かび上がるようなウォーマシンの巨躯が重厚な声を朗々と響かせる。
「「英雄気取り」なんかじゃ無い。理不尽な運命と戦った彼等は立派な英雄だ。其の尊い意思を、犠牲を、笑わせて堪るものか」
 ジャック・スペード(J♠️・f16475)が光の弾丸を撃ち放ち、蝙蝠を落としていく。常人であれば持ち上げる事すら至難であろう大きな銃は、『闇の救済者』達の目には刃のない鐵の塊に見えたものだ。だが引き金を鋼の指が引いた時、飛び出したのは眩い光。光とはこのようなものであると主張するような閃光が一瞬煌いて敵を落とす様は絶望に抗う事はできるのだという希望を象徴するかのようだった。
 ――ダークヒーローの聴覚センサーは救出すべき声を聞き逃さない。
「来ないで!」
 弓手ダンピールが蝙蝠に矢を浴びせるも掻い潜られ接近されつつあるのを確認したジャックは矢と蝙蝠の機動上に躊躇うことなく身を滑らせた。
「あっ」
 悲鳴が上がる。背には味方の矢、前からは蝙蝠の牙。損傷は軽微に過ぎないが、大きな動作で金色柄を握り涙淵を抜きジャックは天に一刀を突き出した。上空を飛翔して弓手に向かう一体を串刺しにしたのだ。
「な、なんだこの体はッ」
 身に張り付いた最初の一体が金色の目を驚愕に染めている。
「残念だったな、ワイリー。お前に捧げる血など此処には一滴も無い」
 其の体は肉に非ず。鋼鉄は表面を覆うのみならず――告げる黄金は淡々とした。
「――さて、証明完了だ。確り掴まえておけ、フェルナント」
 必要なプロセスを経てフェルナントと呼ばれる鷲獅子がジャックの眼前に出現する。金色の鉤爪が確りと男爵を抑え込み、ジャックは呪殺弾を撃ち放った。
「断頭台に送られるのはお前だ、絶望を知ると良い」
 断末魔を聞きながら、ジャックは味方を包む黒霧に視線を向ける。

 暗黒騎士は黒い霧の中で暗黒のオーラを全身から迸らせていた。そして、人々の声を聞いていた。

「化け物ではないか」
 遠く、噂をする声。
「い、いや! 近寄らないで、許して」
 ガタガタ震えながら怯える年上の女性。
「すまないが、立ち去ってくれんか」
 救った村の長がそう言って。
 炎が渦巻き、村が燃える。
「あの騎士がやったのだ。追い出された腹いせにやったのだ」
 助けに駆けつけた夜、石が飛んできて額に当たり血が流れ、燃える家屋から抱きかかえた子供が力なく引き取った。セシリアの流した血が頬を穢してしまい、拭った指先が震えて――ああ、冷たい。望みを棄てよと世界が哂うようだった。どの世界が? ……この世界だ。

 暗黒の気が高まっていく。
「悪夢か」
 騎士は瞳に冷えやかな殺意を浮かべて暗黒剣を横に薙ぐ。風が吹き荒れるように霧が晴れていく。
「このダークセイヴァーの現状以上の悪夢などあるものか」
 おぞぞ、と蝙蝠達の全身に悪寒が奔る。其れはダーク・スレイヤー。闇を斬り滅ぼす剣。血の代償を得たダンピールの騎士は暗黒の気を纏い、闇を滅ぼすと世界に告げる。
「さあ、この姿に恐怖しながら逝くがいい!」
 セシリアが地を爆ぜさせんばかりに蹴り、幽鬼めいた形相で剣を振る。悲鳴と共に蝙蝠が散らされ、落ちていく。
「『英雄』はこの世界の希望、光です。ならば私は彼らを支える影……闇の騎士としてこの世界を救済してみせる!」
 峻厳な声は切実な響きを伴っていた。救った民に石を投げられようと、その功績と誠意が理解されようとも、彼女は人々と世界の救済を心から望んでいるのだ。
(救われる中に自分がいなくても、いい)
 セシリアはそのような娘であった。身体が傷ついても、心が傷ついても――その戦いは自分以外のために。

「……」
 弓手が手から矢を落として凄まじい斬撃を見ている。その顔には恐怖のようなものが宿っていた。
「味方だ」
 ふと、そんな声がした。
「え……」
 弓手が顔をあげる。黄金が見つめていた。穏やかであたたかな温度を宿した光は、このウォーマシンの機械仕掛けの心を不思議とありありと伝える。
「彼女は、味方だ」
 声はどこか不服そうだった。何故怯えるのか。怯える事はない。そう訴えるようだった。
「知ってるぜ」
 一人、やりとりを見守っていた戦士が声をあげる。
「俺も、さっき消火してるのを見てたし」
「助けてもらったわ」
 次々と声があがる。弓手はこくりと頷いた。そして、小さく謝罪するようだった。不思議な黄金の瞳は、それを観て安心したようだった。そして自らの胸元にそっと手を当てた。鼓動はない。ただ黒い装甲に守られ、ウォーマシンのコアがある。彼は、ヒトがそのような仕草をするのを何度か見ていた――それがどういう心境なのかを今は少し解った気がした。


 その戦場に、アンコ・パッフェルベルのドラゴンが飛び。希望の調べが響いていた。
 エドガー・ブライトマンが気高きレイピアを繰り出しながら、「希望灯る瞳の数々を見よ」と言った。
 蛇塚・レモンが太陽のように輝き飛翔し、熱く呼びかけた。
「みんなで希望を繋ごう!」
「スペースシップワールド、キマイラフューチャー、サムライエンパイア。……クソッタレ共から、俺達『猟兵』が勝ち取ってきた世界だ」
 カイム・クローバーがそう言った。
 ステラ・エヴァンズが激情を解き放ち、彗星を降らせた。
 ロースト・チキンが其の身を犠牲にして希望を召喚した。
 神宮寺・絵里香と夢咲・向日葵が蝙蝠を捕らえて地に落とした。
「さあ、英雄になりなさい」
 エレニア・ファンタージェンは味方を守り、闇の救済者に勇気を齎した。
「『英雄気取り』? ええ、そうね。でも、成功すれば――『英雄』よ」
 ヘンリエッタ・モリアーティが人を護るヒーローとなった。
 穂結・神楽耶が闇の救済者を指揮し、希望の証明をした。
「希望が消えることはないよ。人は何度だって立ち上がる」
 コノハ・ライゼとジュジュ・ブランロジエは人々を鼓舞し、悪夢の黒霧から守り通した。
「先ほど貴様が自慢げに語っていた昔話は、世界ごと覆りつつあるってことだ。この阿呆め」
 ノワール・コルネイユが吸血男爵に斬り込み、脅かした。
「今はわたし達猟兵が居ます」
 シャルファ・ルイエは星呼ぶ歌で流星を降らせ、
 ヴェル・ラルフが報告に向かう一群を殲滅し、
「自らの手で希望を掴もうとする覚悟はきっかけがどうあれ、賞賛に値するものだと思う」
 栗花落・澪がそう言って空に花園を生み出した。
「貴方達の志は私達が受け継ぐわ」
 リーヴァルディ・カーライルが英霊達と共に夜を狩る。
 ロカジ・ミナイは英雄を語り継ぐといい、妖刀振り回し自らも語り継がれる事となる。
 冥門・残士郎は修羅剣鬼の太刀で悪夢斬り裂き嗤ったものだ。
「過去は過去。今は今です」
 有栖川・夏介は刑を処し。

 ジャック・スペードが戦場を広く見渡した。そして、暗黒の気を薄めて静謐な表情を浮かべるセシリア・サヴェージに手を差しだした。
 敵は全滅していた。蠢く影は、もういない。

 雨が全てを流すように降り続けていた。地表は、濡れていた。徐々に明るむ空が彼らの戦いの終わりを告げるようだった。
 焼け焦げた森は傷跡を残しながら見事に鎮火されている。村の家屋はというと、無事な様子だった。領主の心の内では、この村は今夜滅ぼされている。明日には村を燃やしたという記憶や村の存在すら忘れているかもしれなかった。なにせ、報告に向かおうとした一群も殲滅されたのだから。

 セシリアはジャックの手を取った。周囲に集まりつつ仲間達を見た。出身もまちまちで、背負うものも違う彼らは互いの事を深くは知らぬ。あるいは、名前すら此の場で初めて知った者もいる。

 だが、誰もが知っている。
 ここに居る全員は、一夜を共に戦った戦友であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『生き続けるために』

POW   :    拠点近くにある木々や石材を片っ端から確保する。

SPD   :    食糧や水など、生存に必要不可欠な物資を片っ端から確保する。

WIZ   :    ユーベルコードや知識によって効率的に資材や物資を確保する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●生きるため、戦うため
 夜が明け、戦闘の後始末を終えた猟兵達は『闇の救済者』の拠点を訪れる事となった。彼らが救った森を川に沿って北上すれば、瓦礫のような倒壊家屋の並ぶ滅亡都市が視えてきた。
「この拠点にあんた達を招く日が来るなんて」
 リーダー格の長身がそう言って嬉しそうな笑顔を浮かべ、都市を先導する。
 圧政者から忘れられた廃墟都市の地上には人の気配は窺えない。全く手入れされることなく荒むまま放置されている都市。ふらりと気紛れに吸血鬼が都市上空に飛来しても、何もない廃墟だと感想を抱いて興味を失い去っていくに違いない。そんな風景を進んでいけば、以前は広場だったという伽藍洞の空間に頭部を落とされた英雄像がポツンと佇んでいた。
「何箇所か入り口があるんだ」
 長身がそう言って案内した場所は英雄像の足元、倒壊家屋の床、半壊した教会の壁。それぞれ目立たぬよう地下への入り口が隠されている。入り口を通り細い階段を下れば、地下空間が広がっていた。

「英雄を連れてきたって?」

 先に帰還した数人が猟兵の話をしていたらしい。『闇の救済者』達が口々に明るい声をあげて駆け寄ってくる。中には年老いた者、傷付き包帯を巻いている者、体調が優れないのか咳をしている者、まだ幼い者もいた。
「この拠点は行き場のない連中や戦う気になった連中を細々と集めててな」
 地下空間には襤褸布で仕切った個人居住空間が設けられている。あまり清潔とは言えない空間だった。武器の扱いや戦い方を訓練するための訓練場もある。皆が集まる広場がある。広場では作戦会議をしたり食事を摂ったり、各地の情勢について情報交換したり、夢を語り合うこともあるようだ。
 リーダー格の長身はそっと眉根を寄せる。
「これから冬が来るから越せるようにしねえと。寒さ対策と、食糧の確保と」
 普段食糧は近隣の森や山で獲得したり遠くの街や村に出かけて仕入れてくるのだという。
「活動するうちに鼻の利くヴァンパイアに追跡されて拠点の場所がバレちまう可能性もある。今見つかってねえのは奇跡みたいなもんだ。人を増やし、狩りや買い出し、あるいは今回みてえに集団で戦いに出れば、危険性は高まる一方だろう」

 神妙に話を聞く猟兵の袖を、くいと引く小さな者がいる。あんぐり開けた口の端から可愛らしい牙を覗かせる子供のダンピールだ。
「なあ! 俺達、コードネーム名乗るんだ」
「コードネーム?」
「そう。あんたら、よく人を救う時ダークセイヴァーっていうだろ? それで、俺ら組織も組織名としてそれを名乗ってるんだけど」
 視線を向けると長身が頷いた。
「ああ、俺らもそうだし、他の地域で活動してる同胞達もそう名乗ってるようだぜ。その、格好良いだろ……、俺らはあんたらの話を交換し合ってさ、胸を熱くしてんだよ」
 子供のダンピールが注意を引くように袖を引く。
「組織の名前と別に、俺達ひとりひとりもコードネーム名乗ることにしたんだ。だから、名前を考えてよ。かっこいーやつ!」
 少し離れた場所で子供の血縁者と思われる年配の者が静かに頭を下げていた。
 彼らは元々名を持っている。だが、それとは別に作戦任務時に互いをコードネームで呼ぶのだという。コードネームは決まっていない者が多い、とリーダーと年配者が説明を加えた。名前とは人を表す記号である。希望の齎し手たる猟兵が自分のために考えてくれた名前。もしそれを得られれば、今後彼らは誇りをもって名乗り、より一層勇ましく戦う事だろう。

 猟兵達は広場の一角でしばし休んだ。
 広場には椅子なんて気の利いたものはなかった。床に座り、申し訳程度に出された飲み物――あまり綺麗とは思えない水を沸かして飲めるようにした湯の入った器を手に取り、辛うじて体を暖める程度の休息。空気は乾燥して少し寒い。

『メボンゴだよーっ』
 ジュジュがウサギのメボンゴを裏声で喋らせ、人形劇でダンピール達を楽しませている。コノハはダンピールと一緒になって人形劇を楽しそうに観て、拍手をしていた。
「わーっ、かわいい」
 向日葵が人形劇に目を輝かせている。絵里香は隣で「やれやれ」と息をついていたが、やがて劇に出てきたトカゲの人形を見て僅かに目元を柔らかにした。

「ヒーロー名みたいなものかしら」
 ヘンリエッタが人差し指を唇にあてて思案気に呟く。
「エリィが考えていいの?」
 エレニアが優艶に微笑んだ。
「可愛い名前でもいいのかな~?」
 澪が眼をぱちぱちとさせて愛らしく首を傾げる。
「あたい、エモい名前考えちゃうっ!」
 レモンがにっこりとしていた。

「この拠点で冬を越せるだろうか」
 エドガーが声を顰めて問いかける。
「わたくしは、拠点の防衛をもっと手厚くした方が良いように思います」
 神楽耶が案じるような視線を周囲に巡らせた。
「居住区をもっと快適にできないかな」
 ヴェルが首をかしげた。

「ねえねえ」
 ノワールとセシリアにやんちゃな少年が声をかける。
「訓練付けてよ!」

「英雄像の首壊されちゃったの? 吸血鬼が壊した? ひどいことするねえ」
 ロカジが煙管を吹かせている。
「反逆者の拠点ってやつですか、いいですね。しかし色々足りてないみたいですねえ」
 残士郎が夏介に視線をやれば、夏介は無表情に頷いた。
「衛生面でおおいに改善指導が必要でしょう」
「ここでずっと暮らしていたら、風邪ひいちゃいそうですもんね」
 アンコがそう言って「何があったらいいでしょう」と支援内容を考えていた。

「ひどい目にあったぜ……危うく食卓に並ぶところだったんだ」
 ローストは壁際で文句を言っていた。
「なんにせよ、私達は支援するために来たのです」
 ステラはそう言って立ち上がる。出来ることをしようと心に決めて。
「結構な大所帯だが、食糧もやべえし護りも万全じゃねえのか。どうしたものかな」
 カイムは訓練場を覗き、「武器ももっとマシなのが増やせるといいかもな」と呟いた。
 ジャックはなぜか子供達に纏わり付かれていた。その大きな体を上ろうとするチャレンジャーまでいる。
「今は、周囲に敵の気配はありません。それと、上空からは都市は無人の廃墟にしか見えませんでした」
 飛翔して周囲を観てきたシャルファが戻ってきて報告をする。
 無口なリーヴァルディは「ん」と頷き、するべきことを一つ一つ頭の中で整理し、優先順位をつけていく。

💠
 3章のプレイングは9月12日8時31分から募集させて頂きます。
 猟兵は、自由に行動する事が出来ます。
 地上や地下に猟兵ならではの能力を活かした防衛仕掛けを施すもよし、食糧や医療品、毛布などを提供するもよし、居住空間や広場を快適にリフォームするもよし。怪我人や病人の看病をしたり、訓練を付けたり熱い演説で人々を鼓舞するのもよいでしょう。物資は異世界から転送により運ぶのもOKです。
 名前を考えてくれた猟兵がいれば、名前を得たダンピールは今後の戦いで名前のある闇の救済者として登場する可能性があります。(読者投稿キャラみたいな感じです)
 猟兵は、一人でなんでもこなす必要はありません。周囲には他の仲間もいます。どの仲間がどんな活動をするか想像しながら、自分に出来ることに挑戦し、皆で楽しく支援活動をしてみましょう。
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
お友達のコノさん(f03130)と

日の当たらぬ地下でも育てられる薬草を他の世界から持ち込み、栽培の仕方や使用法をメボンゴと一緒に解説したり実演して教える
ガーゼや包帯など医療用品もたくさん持ち込む

この薬草は磨り潰して傷につけると化膿止めになるよ
こうやってガーゼに塗って患部にぺたり
包帯をぐるぐるっと
外れにくい包帯の巻き方やテーピングについて説明しながら怪我している者達を治療

こっちは栄養満点の食べる薬草
そのままだと美味しくないけど大丈夫
コノさーん!
と、コノさんのところへ持っていき調理してもらう
コノさんの料理は美味しいからね
料理苦手だけど私も手伝うよ

ほら、食べてみて
元気いっぱいになれるから


コノハ・ライゼ
アドリブ◎
ジュジュちゃん(f01079)と
(不都合あれば別描写可)


食糧、香辛料を持ちこむ
ケドこれは今日だけの特別
自分らの手で良い環境が継続出来るようになるとイイわネ

食事の基本は水!
布や小石等で出来るろ過装置を取水場所に設置しない?
実験みたいで楽しいヨ、君(子供ら)も手伝って頂戴な
体調悪いコいた、ジュジュちゃん達の方へ促すわネ

あと保存食の作り方ネ
肉は元気出すのに必要なの
狩りで得た獣の無駄のない捌き方
部位ごとの干したり漬けたり煮込んだりの加工
薬草使って臭み抜きや柔らかくしたりも出来るわ

暖かな食事は体だけでなく心の栄養
最後に今日ばかりは無事を祝って
持ちこみ食材でとびきり美味しいスープをご馳走しましょ


ヴェル・ラルフ
地下なら冬は地上より暖かいし、いい拠点だね
居住区を快適にするために…
なにができるかな

個人空間を布でしきる、のもアリだけど…ボロボロだなぁ
冷たい空気は下を這うから
床には煉瓦を積んで仕切りを
上の暖かい空気は籠るように天井は新しい布を張ろう

煉瓦は廃墟から運ぶとして
【雄凰】、新しい布を確保してこよう
そうだな、毛布なんかもほしいね
翼なら街へは直ぐだし大量に運べる
猟兵の仕事で稼いだお金のいい使い道だね

…お前の羽毛も、すいたら少し抜けないかな…クッションにどうだろ…

(雄凰は人の言葉を理解します。使い手には厳しいですが、子どもには優しい性格です)

★アドリブ・連携歓迎


ロカジ・ミナイ
僕に出来る事なんてそんなにないよ
お薬と、家庭の医学と、剣術と、人形の作り方と、
女の子の扱い方とかそんなもんよ
…結構あるね!ハハハ!

そうだな…そしたら、お薬の話をしようか
興味のある子はいるかい?

この世界には何度か来てるからね
使えそうな薬草や資源なんかは調べてある
それを伝授しようじゃないか

薬草って言ったってこの世界じゃ超貴重だろう
採集にも一苦労だ
そういう時は増やせばいいのよ
畑の大根の横っちょとかでさ

ほらメモって!
メモれない?じゃあ僕がメモる!
絵の方がいいのかね、なるほど?

あとはそうね
消毒液と脱脂綿、包帯やらを大量に仕入れておこう
UDCアースの可愛い絆創膏も付けとくよ
在庫が切れない事を祈ってる


ステラ・エヴァンズ
コードネーム、ですか…
私の名は星と言う意味を持つのですが、
その星から『ポラリス』と言うのは如何でしょう?
北極星を意味し、遠い昔、航海する人が自分の位置を見失わない為の標として使われました
皆さんの道標のような人であれるようにと

まずは星天光雨で人々を治療
一通り終えましたらどこか一室を掃除
衛生面を整えた部屋を作り、今後はそこで治療をする事とセラピストの重要性を説いておきます
また戦巫女として薬草の扱い方と効能を教えましょう
その都度探すのも大変かと思いますので、苗を持ち込んで栽培の提案を
他の皆さんのように訓練をしたりはできませんが、知識ならば伝える事ができます
これは老若男女問わず、誰でも扱える力ですから


エドガー・ブライトマン
瞳に光の灯る人間ほど、頼もしいものはないね
彼らの光を守る手伝いが出来て良かった
ねえレディ?今日は留守番だったから、少々退屈だったかい?

――と、一緒に火消しを頑張った、あの少女はいるだろうか
ああ、よかった。無事なようだ

やあ、お疲れ様。無事に事が済んでよかったよね
怪我はないかい?勇ましいキミは立派だけれど
女性の手が傷つくのは見ていられないな

彼女が傷ついていたなら、手持ちの包帯を巻いてあげよう
旅で使っているマッチも少々分けてあげる

そうだ、コードネームとやらはあるのかい?
なければ、私がつけてあげよう。――“エクラ”はどう?
かつて旅で訪れた国で、“輝き”を表すことばさ

キミのその輝き、どうか忘れないでね


セシリア・サヴェージ
子どももいるのですね。彼らのためにも拠点の改造は急務……え?子ども扱いするな、ですか。
失礼いたしました。貴方も立派な闇の救済者……一人の戦士として訓練を付けましょう。

対ヴァンパイアの【戦闘の知識】や【拠点防御】の方法を伝授いたしましょう。もちろん剣術の訓練も。
貴方もコードネームを?でしたら『ルミエール』はいかがでしょう。私の故郷の言葉で光を意味します。どうか、この世界の光として消える事なく輝いてください。

訓練が終わったら仲間を手伝います。拠点のリフォームには人手がいることでしょう。何なりとお申し付けください。私に出来ることならば喜んで力を貸しましょう。


アンコ・パッフェルベル
まあ、色々出来ますが…私ならではとなると。
…手先の器用な方は?

裁縫は妹の専門分野ですが、服飾ならちょっとしたものでして。
と言いつつ赤光刃でシジルを描くです。喚ぶのは72の魔神の1体、ダンタリオン。
裁縫に関する知識を彼らに授けて下さいです。
そんな分野を求めるのは私くらいですって?まあいいじゃないですか。
ヒーローズアースの中華テイクアウト箱を6種類?おっけーです。

というわけで。革製防寒着…アノラックとかですね。
作り易いものを教えるです。お試し素材と道具は別世界から持参っ。
おしゃれに冬を越しましょうね。
上手に出来たらシュナイダーの名を与えるです。

…私のハープをもう一度聞きたいです?ふふ、では後ほど。


ロースト・チキン
ヒャッハーーーーー!!
さぁ、野郎共! 働け、働け!!
オイ、お前ら絶対に逃げるんじゃねーぞ!!
逃げた奴は、コイツ(火炎放射器)で消毒だ!!

【群れる世紀末】で、モヒカンたちを率いて、前回の自分の行動を棚に上げて、みんなが逃げないように見張っておきます。つまり、何が言いたいのかというと逃げるのは自分一人で十分だと、気が利くだろ?(要は警備してます)

オイ、そこのダンピール働いてるか? あぁん?
名前なんていうんだタンドール?壺みたいな名前だな!
どおれ! オレたちが燃える洗礼をしてやるぜ!
ヒャッハーーー!!
コレでお前もモヒカンの、世紀末初心者の仲間入りだ!!

見込んだダンピールさんをモヒカン族にしてみます。


蛇塚・レモン
コードネームかぁ~!
それじゃあ……『花の名前』はどうかな?
ノバラ、カトレア、デージー、ナデシコ、ヤマブキ、ウメ、それにサクラ!
この暗黒の世界だと見たこともない花ばかりだと思うけど
闇が晴れたら、草花も一斉に芽吹くと思うんだよねっ!
UDCアースの花の図鑑を見せて選ばせてみるよっ!

あたいは、みんなの健康状態が心配だなぁ……
UDCで買った栄養ドリンクやエナジードリンク、栄養サプリメントや栄養補助食品、鎮痛剤や風邪薬、包帯や消毒液、それに絆創膏!
あたいの背負ってる救命救急リュックに入っている品々をみんなに提供して使い方を丁寧に解説するよっ!
あと歯ブラシ!
虫歯は万病の原因だから、しっかり歯を磨いてねっ!


カイム・クローバー
…とりあえず、食料と武器か。飯と水は転送でキマイラフューチャーから送ってくるか。飯に困らねぇからな。上手く行きゃ、食料なんざ無尽蔵で手に入る。それが無理なら普通にUDC頼りで転送だな。

んで、武器だ。んー…俺は鍛冶屋じゃねぇから武器を作るって事は出来ねぇし。かといって下手に銃なんざ握らせて暴発なんぞされても困るしなぁ…。
あるのは槍とか剣か。此処の連中は武器はどうやって調達してんだ?
吸血鬼の拠点でも潰れてるのがありゃ、幾らかマシな武器があるよな?可能ならそこに案内してくれ。UCで軽く中を探索してくる。知恵のない化け物だけなら使った形跡も無いだろう。
武器には拘れ。命を預けるモンだ。手入れしとけよ?


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

私は処刑人ですが……、たまには医療従事者の真似事でもしましょうか。
まずは怪我人や病人がいないか診てまわります。
該当する人がいれば、処置を施す。
プロではないので、簡単な応急処置しかできませんが…。
そうだ……。
「処置の仕方、せっかくだから覚えておいてはいかがでしょうか?」
『闇の救済者』たちにそう声をかける。
他人に手順を教えるために、丁寧に応急処置をすすめていく。

応急処置が終わったら、後はこの場の環境改善に努めます。
まずは清潔に。悪い環境では、大したことのない怪我や病気でも長引いてしまうおそれがありますから。
他の猟兵や、周囲の元気そうな人を巻き込んで、掃除をしましょう。


ヘンリエッタ・モリアーティ
コードネーム、ねえ
「ウロボロス」もつがいに貰ったものだけど
それに恥じぬ働きはしたいつもり

……よって、私が与える限りはそれ相応の働きを為せる人でないといけません
取り敢えず、訓練をつけましょうか。シンプルに組手で。私は素手で
負け犬の名前になるのは許しませんよ
私が与えるのだから、――勝ちにこだわって貰わないと
殴る蹴るばかりが戦いではなくて、冷静に視る事も大事
軸足はどちらか等を相手の癖を一瞬で判断する
全身を使って察知して、全身で斃す。それが闘争ですから
覚悟があるかどうかも大事ですね
生き抜かねば勝利もないし未来もない。
指先ひとつでも私に触れれたら、名をあげましょう
――雷の申し子らしく、ヴァジュラ、とかね


神宮寺・絵里香
【向日葵と一緒】
【心情】
・さて、生活基盤の補助でもするか。時間があればま、向日葵への稽古を兼ねて少し武術の面倒を見ても良いが
・生活に水は絶対に必要なものだ。水源関係を綺麗にしたり使いやすくすうるか。向日葵、お前の大地の力は便利だ。手伝え
【支援】
・水周りの支援を行う。UCを使って水源の浄化を行ったり、向日葵の大地操作で石の溝を作らせたりして綺麗に水が流れるようにする
・どうしても水が足りなそうならば、【白蛇神域】で一時的な水源として沼を作ることを検討
・武術の訓練については…道具がなくても出来るような格闘術とその辺の木の棒でも出来るような棒術をメインに教え」る
「ま、何もしないよりもマシ程度だろうがな


夢咲・向日葵
【絵里香師匠と一緒なの】
【心情】
・ほぇ~。猟兵ってこんなこともするんだねー。そういえば…前に街を作ったっけ。
・シャイニーソレイユの大地の力で何かできることあるかなー。師匠についてって何かひまちゃんでも出来ることを聞いてみよう。
・後は格闘術の訓練もちゃんとしないとね。無敵の魔法王女は、日々の訓練から作られるのよー
【支援】
・大地の力で石の溝を想像して創造する。綺麗なお水じゃないと病気になっちゃうからね。大地操作は土だけじゃないわ。石や地中の金属も…大地を構成する要素なんだから、きっとソレイユの呼びかけに答えてくれる筈よ。
・何であんな小さいのに師匠の攻撃はあんなに重いんだろうなー。鍛錬・鍛錬なの


栗花落・澪
僕達も、貴方達のような人がいてくれて心強いよ
お礼に少しでも力にならせてね

怪我人、病人達の傍にそっと腰かけ
【祈り】を捧げるように【優しい歌唱】で【指定UC】発動
部屋中に響かせ人々に癒しを
せめて少しでも癒してあげられたら

あとは食料は他の人に任せるとして
子供もいるのなら
煮沸消毒した器に★Candy popの中身を開ける
足りなくなっても蓋を叩けば補充されるから少し多めに
辛い時やおやつ代わりにでも食べて
あ、食べ過ぎには注意だぞ?
1日1個まで!

コードネームかぁ…
ラテン語で勇気を意味する単語から取って
ウィルなんてどう?
あとはエトワールで希望の星、エト、なんて
その笑顔を忘れずに
皆の希望になってあげてね


ジャック・スペード
俺は力仕事が得意なので、拠点のリフォームを行おう
良ければルベルも一緒に如何だろう
取り敢えずは……危ないので
当機の肩に登らせた子を降ろして貰えないだろうか

此処に集う皆が冬を越せるよう、拠点に薪ストーブでも作ろうか
トランプ兵達にアドバイスを貰いながら組み立てて行こう
ブリキで骨組を作ったり、煉瓦を積んで形の形成を
力の必要な作業は俺が担当しよう
然し当機は些か不器用なので……
ルベルには細かい作業を手伝って貰えると有難いな

自身の作業が終わったら仲間の作業も手伝おう
皆が安心して過ごせるよう、俺も全力を尽くしたい

彼等――闇の救済者達の英雄譚は
此処から始まって行くんだな
そう思うと何だか胸が躍るような気がする


冥門・残士郎
訓練指導…ですかね。強いてやれることと言えばこれくらいしかありませんからねぇ……
剣を習いたいってぇ子には攻撃を躱す足の捌きの技術を重点に教えます、生き残ることが肝要ですからね
訓練付けられるお相手がいるんなら大歓迎です
残さんの【コミュ力】も見せてやりましょう、ええ

……この人らも血を流さにゃならん時が……来るんだろうねぇ
ああ嫌だ、流れる血なんぞ俺や悪鬼羅刹の沸き血で十分だろうに、笑えもしねぇ

侍の剣に最も付き合った一人の子に「陽炎(かぎろい)」という名を与える
意味は……【夜明けの光】だ
あんた、光を背負うなら…決して沈んじゃいけねぇよ?
戦えぬ者を思い、生きる意志を漲らせな。それが剣を冴えさしてくれる


穂結・神楽耶
わたくし達がこの拠点を守り、支え続けることは不可能です。
それをするのが救済者と立ち上がった方々なれば。
猟兵がすべきは、彼らではし得ぬ支援と心得ました。
…と、なると……

どなたか、術式系を得意とする方は?
ああいた、よかった。ではこの木札をどうぞ。
ふふ、何だと思います? 解析してみてください。
そして、あなたの力にしてください。

…これね、友達からの貰い物なんです。
わたくしの道を照らしてくれる灯りのひとつ。
だからあなたの、あなた達の未来も。
明るい光が照らしてくれますように。

コードネーム「ルーチェ」。あなたの活躍、楽しみにしていますよ?


ノワール・コルネイユ
自分以外のダンピールを見る機会が増えたのはつい最近のことだったが
…居るところには居るもんなんだな

訓練を付けるってもな…
私のは真っ当な剣術ではないし、教えられるものでもないぞ

まあ、戦訓を少しばかり教えることは出来るだろう

どんな武器を使うにしたって、闇雲に振り回せば良いものではない
正しく扱うから斬れるし、射ることが出来るんだ

お前達みたいなガキが誰かを護る為に武器を取るべきではない
だが、いつかは誰かを護るべく武器を取る時が来るかもしれない
その時に死にたくなければ、誰かを護りたいのならば

学ぶ技、その基礎中の基礎を蔑ろにはするな
自分と誰かの命を預ける武器の手入れを怠るな

私が教えられるのはこれぐらいだよ


リーヴァルディ・カーライル
…ん。これだけ猟兵がいれば、
物資の問題や看護の問題はどうにかなりそうね。

…なら私は志願者を募って戦闘訓練でもしようか。
もっとも、私の訓練はとても厳しいけれど…やる?

…事前に狂気耐性を強化するオーラで志願者を防御し、
対象の第六感に干渉して洗脳する“暗示の呪詛”を発動
自身の戦闘経験の中から有用と判断した知識や光景を、
存在感のある残像として暗視、追体験する精神攻撃を行う

その後、1人1人と手を繋いで私の生命力を流し込み、
吸収した生命力を溜めて怪力を練る感覚を刻みつける

…貴方達はダンピール。私と同じ半人半魔。
ならばこそ、まず鍛えるべきは血の使い方に他ならない。

…コードネーム?
ん…光をもたらすもの…とか?


シャルファ・ルイエ
何をするにしても身体は資本ですし、まずはさっきの戦いでまた怪我をした人や、地下に居た人達で怪我をしている人達を改めて【慈雨】で癒しますね。

とりあえず、ないものはある所から調達してきましょうか。
食料はあって困らないでしょうから、狩りが出来なかったりした時の為にUDCアースの日持ちのする総合栄養食みたいなものを持てるだけ買い込んで来ようと思います。さくさくしたのとか、ゼリーみたいなのとかたくさんあったはずですし!
あとは子供もいますから、駄菓子屋さんで同じく日持ちのするお菓子をたくさん買っておきますね。
きなこ棒とかおいしいですし、小さな子達にあげたいです。

足りない様なら往復して買いに行ってきます。


エレニア・ファンタージェン
勝利したわね。祝杯をあげたいわね
でもやることが山積みみたいね?

食料ってどんなもの?見せて頂戴
なるほどなるほど…
蛇達に覚えさせて探しに行かせましょう
これと同じのを出来るだけたくさん取ってくるのよ、良いわね?

コードネームって、何それ格好良い!
エリィの好きな名前をあげるわ
月の子(モンデンキント)とかどう?
闇夜を照らすお月様、希望があると思わない?
…うそ、単にエリィのお気に入りなだけ
呼びにくい?うーん、他のにしようかしら

あら、さっきエリィが戦った蝙蝠にトドメを刺した子がいるわ
頑張ったわね、貴方
エリィがご褒美をあげるわ
恐怖を感じない呪詛(おまじない)
効果は…そうね、貴方が信じる限り、ずっと



●有栖川の処刑人には医師がいる
 拠点内に淡い光が瞬いた。
「とりあえず、ないものはある所から調達してきましょうか」
 シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)が食糧を買いに異世界に飛ぶ。行き先はUDCアースだ。見送る仲間達の中から、もう一人が歩み出て。
「食料と武器は支援したほうがいいよな」
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)も後に続き、こちらはキマイラフューチャーへと飛んでいく。
「私は処刑人ですが……、たまには医療従事者の真似事でもしましょうか」
 医術の心得を活かし、有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)は拠点内を歩いて怪我人や病人を診てまわる。以前、医者を目指していた時を思い出しながら。
「プロではないので、簡単な応急処置しかできませんが……」
「ありがとうございます、お医者様!」
「いえ、プロでは……」
「お医者様! こっちもお願いします」
「……はい」
 夏介は次々と手際よく患者を捌いていき。
「そうだ……。処置の仕方、せっかくだから覚えておいてはいかがでしょうか?」
「あ、ああ」
「はい」
 処置を見守る数人に手順を教え始めた。
 他人に手順を教えるためにゆっくり丁寧に応急処置をすすめていく夏介の周囲に徐々に人だかりができていく。皆真剣な面持ちだ。

「センセイ、重傷の人も頼めるかい」
 長身がそう言って頭を下げる。夏介は慎重な瞳で応えた。自分の手に余る患者というものはいるものだ。無責任に二つ返事はしない。それが夏介が医師を目指していた時学んだ事だった。医療行為は奇跡とは違うのだ。
(けれど、奇跡に似た力もある)
「仲間がユーベルコードを使えますから、症状を診て重い人はユーベルコードで治療しましょう」
 夏介はそう言って人々を診て、「治療が必要な人を、一箇所に集めませんか」と提案した。
「そうだな」
 こうして仮の治療スペースが作られ、夏介の見立てにより症状別にグループ分けされた人々が猟兵の治療を受けることになった。

●トランプ兵はスペードと踊りて
 時を同じくして。
「俺は力仕事が得意なので、拠点のリフォームを行おう。良ければルベルも一緒に如何だろう」
 ジャック・スペード(J♠️・f16475)がそう言い、床に正座したルベルが従順に頷いた。
「なんなりとお命じください。僕は何でもいたします」
 ジャックを見上げる瞳は肩に登って燥ぐ子供達を見て微笑むようだった。
「ジャック殿、子供達のヒーローでございますな?」
「取り敢えずは……危ないので当機の肩に登らせた子を降ろして貰えないだろうか」
「えーっ」
 子供達が残念そうに声をあげ、降ろされていく。
「大人のお仕事を邪魔してはいけないのでございます」
 年長ぶって子供を諭す声を聞きながらジャックは薪を運び込む。
 いつの間にかその周囲には薇仕掛けのトランプ兵が召喚されていた。
「ストーブを作りたい。助言を頼む」
 48体のトランプ兵が代わる代わるアドバイスをしてくれる。
「ブリキで骨組を作ろう」
「煉瓦を積もう」
 ジャックはアドバイスをくれたトランプ兵に丁寧に礼を告げ、煉瓦を積んでいく。
「力の必要な作業は俺が担当しよう。然し当機は些か不器用なので……ルベルには細かい作業を手伝って貰えると有難いな」
「うむ。泥船に乗った気分で僕にお任せください」
 ――いつもお世話になっております、ルベルはそう言って積み上げられていく煉瓦に楽しそうな目を向け、組み立てを手伝うのであった。

●その友ぞ優しく
 その頃、広場では。
「わたくし達がこの拠点を守り、支え続けることは不可能です。それをするのが救済者と立ち上がった方々なれば。猟兵がすべきは、彼らではし得ぬ支援と心得ました」
 穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)が柔らかに言葉を紡ぎ、朱花めいた瞳をあたたかに微笑ませた。
 人に添いながら出過ぎた真似はせず――、嘗て人の望みはそのようであったから。
 神楽耶は己の手をそぉっと胸の前で握る。そして、木札を取り出した。
「どなたか、術式系を得意とする方は?」
 神楽耶が「います……?」と少し不安げに視線を彷徨わせれば、やがて一人が名乗り出る。
「得意というほどではありませんが、他の者よりは知識があります」
「ああいた、よかった。ではこの木札をどうぞ」
 神楽耶は安堵して木札を見せた。おずおずと手を出す相手へと札を渡せば、相手は戸惑いの視線を木札と神楽耶に交互に行き来させ。
「これは?」
「ふふ、何だと思います? 解析してみてください。そして、あなたの力にしてください」
「か、解析」
 数人が見物する中を術者ダンピールが木札を矯めつ眇めつ解析しようと試みる。

(ちょっと難しそうでしょうか)

 思いながら神楽耶は眉を下げて笑った。

「……これね、友達からの貰い物なんです。わたくしの道を照らしてくれる灯りのひとつ」
 友を思い出し、瞳はあたたかに瞬いた。
「だからあなたの、あなた達の未来も。明るい光が照らしてくれますように」
 神楽耶がそう言葉を紡げば、居合わせた闇の救済者達は(その友はきっととても優しげでにこやかで明るい人なのだろう)と想像するのであった。

●生まれ変わるように
 神楽耶の声が優しく鼓膜を震わせ、どこか優しい空気が広がるような広場。
「コードネームって、何それ格好良い! エリィの好きな名前をあげるわ」
 エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)はそう言ってにっこりした。
 あなたにするわ、と一人を選べば、真正面からじっと不思議な瞳が見つめる様子に相手はそわそわするようだった。
「月の子(モンデンキント)とかどう? 闇夜を照らすお月様、希望があると思わない?」
 静かでやさしい声がそう言って、冗談めかして睫を伏せる。
「……うそ、単にエリィのお気に入りなだけ」
「モンデン……」
 響きを味わうように相手がそれを口にする。
「呼びにくい? うーん、他のにしようかしら」
 エレニアはそよ風のように微笑み。
「いいえ。それがいいです」
「あら、そう?」
 気に入った様子のモンデンキントに嬉しそうにほほ笑んだ。

「コードネーム、ですか……私の名は星と言う意味を持つのですが、その星から『ポラリス』と言うのは如何でしょう?」
 ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)がそう言って一人と視線を合わせた。選ばれた一人は真剣に話を聞いている。なにせ、自分の名前が決まるのだ。
「北極星を意味し、遠い昔、航海する人が自分の位置を見失わない為の標として使われました。皆さんの道標のような人であれるようにと」
「俺が道標!」
 ポラリスはパッと顔を輝かせ広場に声を響かせた。
「俺はポラリスだ、みんな! 俺の名前決まった!」

「続々と名前が決まってるね〜!」
 蛇塚・レモン(黄金に輝く白き蛇神オロチヒメの愛娘・f05152)がまるで自分の事のように嬉しそうな顔で喜ぶ声を祝福し、人々の輪の真ん中で溌溂とした声を響かせた。
「コードネームかぁ~! それじゃあ……『花の名前』はどうかな?」
 レモンはそう言って目をキラキラさせて。大切に、大切に名を呼ぶ。
「ノバラ」
 キラキラの目で見つめられた一人がハッとする。レモンはにっこりとした。うん、貴方の名前だよ! と。
「ありがとう!」
 ノバラが花のように微笑む。レモンはその笑顔が嬉しくてどんどん名前を考えた。
「カトレア」
 大きく口を開け、ゆっくり言えば一人は誇らしげに胸を張る。レモンはそんな様子を見て嬉しそうに目を細め。
「デージー、ナデシコ、ヤマブキ」
 順に名を付けていく。
「ウメ、それにサクラ!」
 名を与える度、光差す新しい道を示されたようで人々がパッと明るい顔をする。
「この暗黒の世界だと見たこともない花ばかりだと思うけど闇が晴れたら、草花も一斉に芽吹くと思うんだよねっ!」
 レモンはUDCアースの花の図鑑を広げ、まだ名のない者達に選ばせる。彩鮮やか、個性豊かな花々は眺めるだけで人々の心を和ませ、異世界を知らぬ彼らは見たことのない花を見て「こんな花もあるのか」と未知と出会った喜びを見出し、見覚えのある花を見て「これは知っているぞ、故郷に生えていた」と何故か誇るようであった。
 レモンはその光景にふと農園を思い出す。そこも、廃村だった。

 ――廃村となってしまったここを、猟兵たちの農園に生まれ変わらせよう!

 ――また枯れてる~!?

 ――あっ芽が出てる。えっと、水をあげたらいいのかな?

「あたい、知ってるんだ」
 うまくいかない事があっても、諦めなければきっと。
「実るから」

 ――実ったんだ。

●君を探す
 時は少し遡り。
「ほぇ~。猟兵ってこんなこともするんだねー。そういえば……前に街を作ったっけ」
 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)がアリスラビリンスでの不思議なひとときを思い出しながら拠点を眺めている。
(シャイニーソレイユの大地の力で何かできることあるかなー)
 きょろきょろと拠点見学をしていた向日葵は師匠の姿を見つけてトテトテと近づいた。
「師匠~~、ひまちゃんに出来ることあるかなー」

「さて、生活基盤の補助でもするか」
(時間があればま、向日葵への稽古を兼ねて少し武術の面倒を見ても良いが)
 冷静に支援計画の算段を付けていた神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)は暢気な向日葵の声に視線を向け。
「ある。来い」
「あるんだ! さすが師匠~!」
 向日葵を連れて外に向かうのであった。

 そんな2人に「仲が良いんだね!」と声をかけて見送り。
「瞳に光の灯る人間ほど、頼もしいものはないね。彼らの光を守る手伝いが出来て良かった」
 エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)が育ちの良さそうな笑顔を浮かべ、左腕に碧眼を向ける。
「ねえレディ? 今日は留守番だったから、少々退屈だったかい?」
 左腕に宿る淑女は愉しい声を返してくれる。エドガーはにっこりとした。
「そうかい、それならばよかった」
 そして、ふと思い出す。
(――と、一緒に火消しを頑張った、あの少女はいるだろうか)
 エドガーは少女を探して拠点を彷徨った。ひらり、ひらり。優雅にマントを翻して。

●裁縫
「何かお困りでしたら手伝います? っと、もう行ってしまいましたです」
 通路の奥に見えなくなったマントを見送り、アンコ・パッフェルベル(想い溢れるストライダー・f00516)が気を取り直したように眼鏡をかけ直す。
(まあ、色々出来ますが……私ならではとなると)
「手先の器用な方は、こちらに」
 人を集めたアンコはケーキナイフとサーバーの双剣を取り出した。赤光刃(ダブルウェディング)が虚空にシジルを描く。心臓の前に箱を描くようにカクリカクリと折線描き、箱を閉じずに線の端を緩くもたげ。箱の上に十字めいた線が描かれ異様なる威容が顕現する。手に叡智の本を携えしその姿に知識ある者こそ畏れるだろう、かの者こそダンタリオンと呼ばれる悪魔なのだから。

 けれど召喚者アンコは極自然に視線を向け、頼むのだ。
「裁縫に関する知識を彼らに授けて下さいです」
「裁縫? 世界の真理でも常人に知り得ぬ術式でもなく?」
 悪魔は驚くようだった。この悪魔に強請るには小さすぎる願いであると。
「そんな分野を求めるのは私くらいですって? まあいいじゃないですか」
 アンコが物怖じせず悪魔と話をしているのを周囲の人々は緊張して見守った。少女が呼出し話しているそれは恐ろしい存在に思えてならない。
「ヒーローズアースの中華テイクアウト箱を6種類? おっけーです」
 ゆえに、少女がそう言ったのをきき、「出てくる単語はさっぱりわからぬが凄いものに違いない」と人々は生唾を飲んだ。この少女、一体どれほどの対価を払うのか、と。
「我らのために、ありがとうございます」
 ひれ伏さんばかりに人々がそう言ってアンコは不思議そうな顔をする。ちょっとお店でテイクアウトするだけなのに、と。

「というわけで。革製防寒着……アノラックとかですね。作り易いものを教えるです」
 アンコはそう言い、持ち込んだお試し素材と道具を並べ、裁縫講座を開催した。
「おしゃれに冬を越しましょうね。一番上手に出来た人にシュナイダーの名を与えるです」
 猟兵から名前が貰えるというのを聞き、人々は必死の形相で知識を頭に叩き込み、腕を動かした。やがて1人のダンピールがシュナイダーの名前を勝ち取ると裁縫集団は拍手でそれを祝うのであった。

 拍手の中、くいくいとローブの裾を引く気配「アンコが目をやれば1人が目をキラキラさせている。
「あう、あう」
 この者はどうも言葉が不自由なようだった。けれど、世界の加護受けしアンコにはその意図がちゃんとわかってニッコリとする。
「私のハープをもう一度聞きたいです? ふふ、では後ほど」
 約束です、と言えば相手は嬉しそうに頷いた。

●居住区は快適が良い
「ハープの演奏か、楽しみだね。昼食をみんなで食べて、その後ぜひ聴きたいかな」
 ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)が明るく瞳を微笑ませ、呟いた。
「地下なら冬は地上より暖かいし、いい拠点だね。居住区を快適にするために……なにができるか」
 ヴェルが居住区を見て思案顔をする。ペラリと仕切り布の端を持ち上げれば、擦れてぼろぼろだ。
「個人空間を布でしきる、のもアリだけど……ボロボロだなぁ」
 ヴェルは近くにいる仲間と一緒に居住区を改善しようと動き出す。
「今手の空いてる人は誰かいるかな」
 アンコが「裁縫講座をダンタリオンに任せて手伝えますよ」と名乗り出て。
 薬草や物資を運んでいたロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が可愛らしい絆創膏をポロリと床に落としながら「ちょっとなら手を貸せるよ」と手を貸してくれる。
 通りかかったエドガーは絆創膏を拾い、「やあ、可愛らしいね」とロカジに返してまた何処かへ。
 レモンが「なになにっ? あたいも混ぜて!」と明るく輪の中に混ざり。
 神楽耶が「人手が必要ならば」と微笑んだ。
 そんな彼らの横をエレニアの蛇が食糧を抱えて通り過ぎていき、通過したはずのエドガーがふらりと戻ってきて「さっきはうっかり聴きそびれたのだけれどどうも何かするようだね、何をするんだい?」と興味津々の顔をした。

 こうして、リフォームが始まった!
「冷たい空気は下を這うから床には煉瓦を積んで仕切りを」
「上の暖かい空気は籠るように天井は新しい布を張ろ」
ヴェルが提案すると、皆が頷き廃墟から煉瓦を運び出し、作業を進めていくのであった。

●武闘派の宴
 リフォームと並行して、訓練も進められていた。
 リーヴァルディ、セシリア、ヘンリエッタ、残士郎、ノワールの5人が訓練をしようと名乗り出たのである。

「……ん。これだけ猟兵がいれば、物資の問題や看護の問題はどうにかなりそうね」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が理知的な瞳を人々に向け。
「私の訓練はとても厳しいけれど……やる?」
 志願者を募り、戦闘訓練をするのだと言えば人が集まってくる。

「子どももいるのですね。彼らのためにも拠点の改造は急務……え? 子ども扱いするな、ですか」
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が見上げて不満顔をする少年に真面目な顔で頷き、頓着なく頭を下げる。
「失礼いたしました。貴方も立派な闇の救済者……一人の戦士として訓練を付けましょう」
 セシリアが生真面目な表情で真面目そうな少年に訓練をつけていると、徐々に人が増えてくる。自分達も猟兵に訓練をつけてほしい、という顔をして。

「コードネーム、ねえ。「ウロボロス」もつがいに貰ったものだけどそれに恥じぬ働きはしたいつもり」
 眼鏡の奥の瞳を細く笑ませるのはヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)。
「……よって、私が与える限りはそれ相応の働きを為せる人でないといけません。取り敢えず、訓練をつけましょうか。シンプルに組手で」
 訓練場に行列ができる。
 ヘンリエッタは両手をぶらりと自然に下げたまま瞳を開き、『視る』。
「負け犬の名前になるのは許しませんよ」
 向かおうとしていた一人の喉がぐうと鳴る。極自然な構えから溢れんばかりの圧を感じて。視線の先ではヘンリエッタが緩く構えてみせるのが見える――誘うように。
「――私が与えるのだから、――勝ちにこだわって貰わないと」
 足が止まった一人が頷き、ぎりりと歯を食いしばり拳を握って立ち向かっていく。
「わああああああああああっ!」
 決意と覚悟を乗せた大振りの右拳がヘンリエッタの胸元へ真っ直ぐ繰り出され――赤子の差し出した手を優しく愛でるようにヘンリエッタが微笑み、すいと避けた。
「わああああああああああっ!」
 ヘンリエッタにまた一人、向かっていく。右の蹴りを繰り出した相手をゆったりと避けている。
「殴る蹴るばかりが戦いではなくて、冷静に視る事も大事よ」
 ヘンリエッタは立ち上がる余力なくへたりこむ『闇の救済者』達に静かに教えを諭している。
「軸足はどちらか等を相手の癖を一瞬で判断する。全身を使って察知して、全身で斃す。それが闘争ですから」
「強いてやれることと言えばこれくらいしかありませんからねぇ……」

 冥門・残士郎(人斬り義侠・f21843)が柔和な表情でそう言い、数人に訓練を付けている。重点的に教えているのは、攻撃を躱すための足捌きだ。
「生き残ることが肝要ですからね」
 笑い上戸の残さんはそう言って笑い、真面目に取り組む人々を目に焼き付けるようにした。
(……この人らも血を流さにゃならん時が……来るんだろうねぇ)
「せいっ」
 攻め手役の一人が斬り込み、躱し役が指導された通りに足運びを見せている。指導し、覚えさせ――けれど、一瞬で生命は散ってしまうものだった。残士郎はそれをよぉく知っている。
「ああ嫌だ、流れる血なんぞ俺や悪鬼羅刹の沸き血で十分だろうに、笑えもしねぇ」
 けれど、表情は穏やかに静かに――笑っていた。

(自分以外のダンピールを見る機会が増えたのはつい最近のことだったが……居るところには居るもんなんだな)
 ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)はやんちゃな少年に引っ張られるようにしながら訓練場に向かい、訓練用の一振りを軽く振る。
「訓練を付けるってもな……私のは真っ当な剣術ではないし、教えられるものでもないぞ」
「ねーちゃん! 行くぞ! いいか」
 やんちゃな少年が一振りを手に跳ねるように仕掛ける初手を呆れた様子で弾いてノワールは軽くため息をついた。
(まあ、戦訓を少しばかり教えることは出来るだろう)
「次はこうだ!」
 少年は刃が潰れた剣をジャンプしながら大振りにする。ノワールがワンステップで避ければタンッと軽い音を立てて着地し、悔しがる様子。
「避けたかーっ」
 言いながらも身をくるりと回転させ、剣を横一閃させて一撃取ろうと狙ってくる。

 訓練場は活気に溢れ、活気に釣られて更に訓練希望者が訪れる。

●タンドリィ、タンドール
 そんな訓練場からは距離を取り。リフォームに乗り出す一団からも距離を取り。
「ヒャッハーーーーー!!」
 ロースト・チキン(チキン野郎・f03598)は世紀末な雄叫びを上げていた。

「さぁ、野郎共! 働け、働け!! オイ、お前ら絶対に逃げるんじゃねーぞ!! 逃げた奴は、コイツ(火炎放射器)で消毒だ!」
 自分が昨夜逃げた事は見事に棚に上げ、火炎放射器をアピールするローストに雄叫びで応えるのはモヒカン達だ。
「トリ頭じゃねえ、覚えてて棚にあげてんだ。逃げていいのはオレだけだ!」
 一切の迷いない雄々しい声が響き渡る。
「どういうことなんだぜ? 俺には理解できない」

 訓練場に向かおうとしていたダンピールが1人真面目な顔をして考え込み。
「オイ、そこのダンピール働いてるか? あぁん? 名前なんていうんだ」
「えっ」
「オラっ、ローストさんが聞いてるだろうが!」
 なんとローストとモヒカン軍団が真面目なダンピールあんちゃんを囲い込み尋問を開始した!
「カツ丼買ってきやした」
 パシリモヒカンがカツ丼を差し出し。
「名前は、タンドールです」
 カツ丼を食べるローストを見ながら(他の人には分けてくれない!)答えるダンピール。
「タンドール? 壺みたいな名前だな! どおれ! オレたちが燃える洗礼をしてやるぜ! ヒャッハーーー!」
 数分後、そこにはモヒカンになったダンピールがいた。
「「ヒャッハーーー!! コレでお前もモヒカンの、世紀末初心者の仲間入りだ!」」
 モヒカン仲間達が手を差し出し、順に熱い握手を交わす。こうしてこの日、1人のダンピールがモヒカンになったのである。

●おばあちゃんときなこ棒
 闇の救済者達の中に一人のモヒカンが誕生した事はつゆ知らず。シャルファは異世界にいた。
 先ほどまで居た世界とくらべものにならないほど明るい光が満ちた店内。清潔な身なりの人々が商品を選び、カートに入れていく。
「食料はあって困らないでしょうから」
 買い出しに来たシャルファは広い店内を見て回り、日持ちのする総合栄養食を幾つも棚から取ってカートに入れた。
「こっちはウェハースで、こっちはぷるぷるのゼリーなんですね。これなんでラズベリークリームがサンドされてて美味しそうです」
 子供が喜びそう、と呟いたシャルファはふと拠点にいた子供達の事を思い出し。
「そうだ、お菓子もたくさん買いましょう」
 会計を済ませたのち別の店へと飛ぶ――どこか安心できるあたたかな雰囲気の漂う小さな店へ。
「日持ちするお菓子がほしいんです」
 シャルファがそう言えば、駄菓子屋のおばあちゃんはニコニコしながらお菓子を選んでくれる。玩具のような小さなカートに個性豊かなお菓子が集まって。
「小さな子にあげたいんです」
 きなこ棒を優しい瞳で見つめるシャルファにおばあちゃんは頷いて、一本サービスしてくれるのであった。
「あたしの孫もね、きなこ棒が好きなのよ」
 おばあちゃんは孫について語り始めた。話は長くなりそうだった。

●衛生面の改善を目指して
 シャルファがおばあちゃんと話し込んでいる頃、拠点では。
「環境を改善しましょう」
 無表情の中の瞳に断固とした意志の光を窺わせ、夏介が衛生指導をしていた。
「はい、先生!」
「まずは清潔に。悪い環境では、大したことのない怪我や病気でも長引いてしまうおそれがありますから」
「はい、先生!」
 すっかりお医者さんの先生だと崇められた夏介は若干眉を下げながらも衛生観念を説き、他の猟兵や周囲の元気そうな人を巻き込んで掃除を開始する。
「皆が安心して過ごせるよう、俺も全力を尽くしたい」
 ジャックがそう言って力仕事を手伝っている。
「ジャックさん、手伝ってくださるのは助かりますがストーブの方は大丈夫ですか?」
 夏介が自身も雑巾掛けをしながら問いかければ、汚れた水を交換するためにバケツ数個を持ち上げたジャックがストーブを出来を語る。
「地上に煙を吐く煙突に魔術の仕掛けをしてもらった」
 煙が濛々と出ても敵の目にはとまらないのだと言えば、夏介は安心したように頷いた。

「このお部屋、今後使えるようにしましょう」
 ステラが一室を選び、掃除をしている。衛生面を整え、一室を今後専門に医療行為をするための部屋にしようというのだ。
「セラピストを置かれてはいかがでしょう」
 ステラはその重要性を説き、志望者を指導する。
「夏介さんも、お詳しいようですし指導をお願いできますでしょうか」
「私にできる範囲でよければ」
 夏介が雑巾を片付けながら首を縦に振り。
「しかし、セラピスト……」
「医術の心得があるから、僕も手伝おうか、いえ、手伝ってもいいですか?」
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が控えめに手を挙げ、協力を名乗り出た。

●影に踊らば
「勝利したわね。祝杯をあげたいわね。でもやることが山積みみたいね?」
 エレニアはそう言ってなよやかな首の上の頭をちょっとかしげた。きれいにくしけずられ肩から背へと波うつ髪は、雪のように白い。
「食料ってどんなもの? 見せて頂戴」
 エレニアの声を聞き、作戦中に目が不自由らしき気配を感じていたジャックが食糧庫へとエスコートする。エレニアが躓いたりしないようにさり気なく気を利かせるジャックに対してエレニアはふわふわと宙を舞う蒲公英の綿毛のように自由な様子でのびのびと歩を進めていた。
「なるほどなるほど……」
 エレニアは食糧に視線を向け、蛇達に言い含めるように柔らかに微笑んだ。
「これと同じのを出来るだけたくさん取ってくるのよ、良いわね?」
 蛇達の気配が遠くなる。食糧を捜しにいったのだ。
「ここに運んでね」
 エレニアはそう言い、広場へと戻っていく。

●水源の秋
 拠点内外の猟兵達が慌しく動いている。
「師匠、あの木の葉っぱ、ちょっと紅葉っぽくなってる。もうすぐ秋だね」
 絵里香と向日葵は外にいた。
「生活に水は絶対に必要なものだ。水源関係を綺麗にしたり使いやすくするか。向日葵、お前の大地の力は便利だ。手伝え」
 絵里香が水神権限にて水に働きかけ、水源を浄化していく。
「綺麗なお水じゃないと病気になっちゃうからね」
 世間話をスルーされてもめげない向日葵は師匠の考えを理解して大地に働きかけて石の溝を造り、綺麗に水が流れる通りを作っていく。
「大地操作は土だけじゃないわ。石や地中の金属も……大地を構成する要素なんだから、きっとソレイユの呼びかけに答えてくれる筈よ」
 大地に手を翳しそう呟く向日葵の姿には成長が窺え、凛然として高貴に見える。絵里香はそんな姿に僅かに目を細め、頷いた。
「秋だな」
「今!?」
「楽しそうだね!」
 そんな師弟のやり取りにくすくすと笑い、拠点から出てきたヴェルが手を振った。
「僕は街に行って布を買ってくるよ」
 ヴェルは雄凰に乗り街へ飛ぶ。絵里香と向日葵は揃ってその姿を見送った。

●もいっかい、もいっかい
「ん。集中して」
 リーヴァルディは訓練参加者達に狂気耐性を付与し、呪詛を放っていた。暗示の呪詛が見せるのは、リーヴァルディが選択した知識や光景。
 まるでそこに自分がいたかのような追体験。
「これは……」
 追体験に声を漏らす一人一人の手をひんやりとした手が包み込み、現実へと意識を返してくれる。同時に流れ込むのは不思議な活力だ。リーヴァルディが生命力を流し込んでいるのだ。
「……貴方達はダンピール。私と同じ半人半魔。ならばこそ、まず鍛えるべきは血の使い方に他ならない」
 リーヴァルディはそう言って数人に怪力を練る感覚を刻み、教えていった。

(精神攻撃で訓練を……血の使い方、ですか)
 セシリアはそんなリーヴァルディ達の訓練に驚きながらもヴァンパイアと戦う時の身の守り方や敵の動き方の傾向を伝授し、剣の訓練を付けている。近くではヘンリエッタや残士郎も訓練を付けていた。
「ん。危険はない」
 リーヴァルディは仲間の視線に気づいて安心させるよう頷いた。
「興味深い訓練方法ね。追体験とやらには若干興味を覚えるわ」
 ヘンリエッタがそう言って思案顔をし、残士郎は笑いながら肩を竦めた。
「混ざり血ならではの訓練ってわけですか」
 と、そこへ。
「おじゃましまーす」
 明るい声が響く。絵里香と向日葵がやってきたのだ。
「ひまちゃんも訓練するの」
「場所を借りるぞ」
 向日葵が「外でこんなことをしてきたよ」と誇らしげに語り、絵里香が数人を募って格闘術と棒術を叩きこむ。
 拳を突き出した一人の腕に絡めるようにして受け手を斜めにあげて攻撃を流し。
 蹴り放つ一人の足裏の腱を転身した足の甲で絡めとるようにしてバランスを崩し。
「ま、何もしないよりもマシ程度だろうがな」
 呟く絵里香の視界の端で向日葵が格闘の型を繰り返して体に覚えさせている。数人が一緒に覚えようと型を真似ていた。
「無敵の魔法王女は、日々の訓練から作られるのよー」
 向日葵は時折聞こえる師匠の訓練音にチラチラ目をやり。
「何であんな小さいのに師匠の攻撃はあんなに重いんだろうなー。鍛錬・鍛錬なの」
 不思議で堪らない、と呟いて訓練に勤しむ。

(なんとも賑やかになったな)
 ノワールはそんな中、少年と訓練を続けていた。
「どんな武器を使うにしたって、闇雲に振り回せば良いものではない。正しく扱うから斬れるし、射ることが出来るんだ」
 ノワールは後ろに一歩引いて剣を空振りさせてやり、笑む。
「お前達みたいなガキが誰かを護る為に武器を取るべきではない」
「!!」
 キッと睨む少年は反発する色を濃く浮かべていた。ああ、ガキだなと鼻で笑いノワールは向かってくる我武者羅の剣を掬い上げるようにして飛ばしてやった。
「あっ」
 驚く少年の喉元にノワールの剣が突き付けられる。刃を潰した訓練用のそれでぐい、と顎を持ち上げるようにして。
「だが、いつかは誰かを護るべく武器を取る時が来るかもしれない。その時に死にたくなければ、誰かを護りたいのならば」
 瞳の奥に燻ぶる揺らめきに少年が息を呑む。
「学ぶ技、その基礎中の基礎を蔑ろにはするな。自分と誰かの命を預ける武器の手入れを怠るな」
 ノワールはそう言い、剣を引くとくるりと少年に背を向け、歩いていく。壁際の武器置き場に剣を戻して。
「私が教えられるのはこれぐらいだよ」
 そう言って訓練場を出ていこうとして――、
「もいっかい」
 声が引き留めた。
「うん?」
 見ると少年が剣を拾い、構えている。なっちゃいない、とノワールが肩を竦めると少年は大声で。
「同じの持って」
 有無を言わせぬ響きにノワールが剣を持つと、少年はそれを視て真似をする。
「振って」
「ああ」
 促されるままに振れば、少年は真似をする。二度、三度。どうやら言葉は要らなかった。

「私のは真っ当な剣術ではないぞ」
 ノワールが呆れたように笑い、けれど少年は飢えた獣のような眼で唸る。
「でも、つええ」
 勝手に真似しろ、とノワールは気まぐれに剣を振る。ほんの僅か、気が向いて。その動きを目に焼き付けてたどたどしく繰り返す気配を隣に感じながら、短い時間は過ぎていく。

「しかし、向日葵さんの訓練を真似してる連中は特に真似しろといわれてないのに真似するんですね」
 残士郎が不思議に気づいてニヤニヤとする。魔法王女の周りには男ばかりが集まって。
「あの真ん中で変身したら喜びそうね」
「訓練……ですよね?」
「訓練じゃないのか。こっちは訓練してるが」
 仲間達が緩く言葉を交わすのだった。

●薄氷は微笑んで
(たまに蛇がモノを置いていくワネ)
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は食糧や香辛料を持ち込み、人々に感謝されていた。視界の隅では時折エレニアの蛇が食糧を運び、置いてまた探しに出て行く。
「……ケドこれは今日だけの特別。自分らの手で良い環境が継続出来るようになるとイイわネ」
 蛇に軽く手を振りながら、コノハがやんわりと言う。猟兵は常駐ではない。無くなるたびに無償で提供し続けるわけにも、いかないのだ。人々にもそれは理解できていた。
「ああ、本当に感謝する」
 『闇の救済者』達はそう言って「この支援に甘えすぎず、自分たちで生きていけるようになろう」と心に誓い。表情からそれが伝わり、コノハはニッコリとする。
「食事の基本は水! 布や小石等で出来るろ過装置を取水場所に設置しない?」
「ろ過?」
「そうヨ、実験みたいで楽しいヨ」
 コノハが明るい声でそんな事を話せば、何やら面白いことをしようとしている、と子供達が寄ってくる。
「君も手伝って頂戴な」
 大人と子供が一緒になってろ過装置を設置する。作業の途中でふと顔色の悪い子を見付けてコノハはそっと傍にしゃがみこむ。どうしたの、と囁けばウウンと首を振り。強がる様子の子供は、他の者にはわからないかもしれないがコノハの目には明らかに体調を崩している。
「じゃあネ、あっちにいるジュジュちゃんにこの薬草届けてくれナイ?」
 こっちの荷物に混ざっちゃったみたいで――そう言って薬草の入った包みを渡せば、子供は頷いてジュジュの方へと向かっていく。

●空から舞い降りた少年
「猟兵の仕事で稼いだお金のいい使い道だね」
 爽やかな風を受けて、雄凰が優雅に羽を羽ばたかせている。街に買い出しに出たヴェルは背から街を示し。
「そのまま降りたらびっくりさせちゃうからね。少し離れたところに降りて――雄凰ったら」
 雄凰は真っ直ぐに降りていく。仕方ない、と地上近くでひらりと飛び降りれば、すわ吸血鬼の来襲かと街の人々が怯え混じりに注目している。
「驚かせてごめん、買い物に来たんだ」
 そう言って笑い、ヴェルはにこやかに欲しいものを告げる。整った容姿と人当たりの良さに人々は緊張を解き、店へと案内してくれるのであった。

●おかえりなさい
 淡い転送の光が輝いて。
「買い物をしてきました!」
「おかえりなさい!」
 シャルファもUDCアースから戻り、買ってきた商品を並べれば子供達が寄ってきてお菓子を奪い合う。
「あっ、また買って来ますから。焦らないでください」
 元気な子供達にシャルファはそう言って慌ただしく再び買い物に行くのであった。

●その薬屋
 リフォームをひと段落させ、ロカジは「おっと、本題を忘れるところだったよ」と人を集める。リフォームを手伝っていた仲間達も手を休めて見物をした。
「お立合いのうちにご存知のお方もいるだろうけど」
 ロカジが外郎売りのように滑らかに言葉を紡ぐ。一夜明け、きっちり髭剃りピンクの髪も整えて。薬屋ロカジに疲れは無い。
「僕に出来る事なんてそんなにないよ。お薬と、家庭の医学と、剣術と、人形の作り方と、女の子の扱い方とかそんなもんよ……結構あるね! ハハハ!」
 呵呵と笑う。取り出したる段々重ねの箱からは独特の香りがふわり漂って。
 人々の注目集まる中をロカジの指が箱の表層をつつと撫でる。指先の爪染める色は桜に似た可愛い可愛いピンク色。
「そうだな……そしたら、お薬の話をしようか。興味のある子はいるかい?」
 薬といえば病に傷となくてはならぬ、けれど貴重なものだった。噂では薬と銘打ち怪しい白粉売り捌く悪徳商人もいるらしい。
「あんたは、薬師か商人か」
 ダンピール達は身を乗り出し聞き入る姿勢。
「使えそうな薬草や資源なんかは調べてある。それを伝授しようじゃないか」
 そう言って視線をやれば、皆が緊張の面持ちだ。ここで「お手に入れまする此の薬」と取り出せばそれだけで薬は売れるだろうと思い巡らせ、ロカジは笑う。
「薬草って言ったってこの世界じゃ超貴重だろう。採集にも一苦労だ」
「此処には薬草と間違って毒草持ってくるような奴しかいねえしな」
「俺なんて薬草だと思って近づいた異形に尻齧られたことあるぜ」
 嘘か真かわからぬ声色に大仰に「そりゃ大変」と驚いてみせながらロカジは指で上を指す。
「そういう時は増やせばいいのよ。畑の大根の横っちょとかでさ」
「畑か」
「目立たない所に作るか」
 人々が顔を見合わせる。
「実は、私も苗を持ち込んでおります」
 ステラがそう言って栽培を提案し、持ち込んだ薬草について説明した。戦巫女であるステラは薬草の扱い方と効能にも詳しいのだ。
「知識は、老若男女問わず、誰でも活かせますから」
 ステラはそう言って微笑んだ。

「よぉし、決まりだ。植えて、育てよう」
 ロカジの声が響く。
「ほらメモって! メモれない? じゃあ僕がメモる! 絵の方がいいのかね、なるほど?」
 ステラが一緒になって覗き見れば、ロカジは半紙広げて墨を磨り。さらさらさらりと筆を動かし必要なことを描いている。
「絵で表現するのは、難しそうですね」
 ステラはそう呟きながら興味津々で見守り、その出来に「わかりやすいです、ロカジさん」と拍手をするのだった。
「ストーブの煙突にしたように目立たないように工夫すれば、地上に畑を作るのもいいんじゃないか」
 ジャックがアドバイスをして。
「あたい、畑作りはアドバイスできるよ! 任せてっ!」
 レモンが元気いっぱいにそう言って地上に向かう。神楽耶はレモンと数人のダンピール達が拠点の外に向かうのを見て、保護者よろしく後からしずしずとついて行った。

「あとはそうね」
 ロカジは仲間達を見送り、大量に仕入れた物資を次々と出していく。消毒液に脱脂綿、包帯に可愛らしいUDCアース製絆創膏。さっきエドガーに拾ってもらった一枚も健在だ。
「在庫が切れない事を祈ってる」
 そう言って人々を見る目は陽気で優しく穏やかで。人への愛に溢れているのだ。
「その絆創膏は実に愛らしいね、……おっと、私は人を探していたのだったよ」
 エドガーはそう言って再び少女を探すため、歩き出す。マントをゆらゆら揺らめかし。
「見つかるといいね」
 ロカジはそう言って目を細め、一服一服と煙管を蒸かした。
「僕も畑、見てこようかなあ」
 と、そんなことを呟きながら。

「ロカジさん!」
 そんなロカジにジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が手を振った。
「薬草ショー対決! なんちゃって!」
「へえー、どれどれ」
 ジュジュも持ち込んだ薬草の使用方法をウサギのぬいぐるみ・メボンゴと一緒に実演している。
『メボンゴいたーい』
 メボンゴを裏声で喋らせて動かせばロカジは大袈裟なほど楽しそうに笑い、手を叩いてくれる。
「アッハハハハ! 可愛いじゃない!」
「ゲストのロカジさんがアドリブで薬草の使い方を教えてくれまーす!」
 持ち込んだのは、日の当たらぬ地下でも育てられる薬草だ。栽培の仕方を教えれば人々は懸命に覚えて。
「これね、うん。わかるよ」
 ロカジは一瞬真剣な顔をして、とてもとても優しい目をして微笑んだ。いい薬草持ってきたね、と。
「これも、上で育てるといいよ」
「ああ。大切に育てるよ」
 そう言って人々も真剣な目を向ける。
「この薬草は磨り潰して傷につけると化膿止めになるよ。こうやってガーゼに塗って患部にぺたり」
 ジュジュは怪我をしていた一人の患部にぺたりとガーゼを貼って見せ、ぐるぐると包帯を巻く。
「包帯をぐるぐるっと」
「ぐるぐる」
 真剣な表情で呟く少女ににこっと笑顔を向けたジュジュは怪我をしていない者に道具を渡す。
「一緒にやってみよう」
 お手本を見せながら外れにくい包帯の巻き方やテーピングについて説明していく。ロカジはそんな人々に笑顔で手を振り、地上へと出て行った。
「あの、これを届けてって向こうのお兄さんが」
 おずおずと包みを持ってきた子供にジュジュが手を差しだし、包みを受け取る一瞬触れた指先の冷たさに目を瞬かせる。一見体調が悪そうには視えないが。
(きっとそういう事なんだ、だってこんな包みしらないもの)
「ありがとう! そうだ、ちょっとこっちに来て」

●sanctae orationis
 ジュジュが子供を連れてきたのは、ユーベルコードによる治療が必要な人々の部屋だ。

「何をするにしても身体は資本ですし」
 買い物を済ませたシャルファが再び歌を歌い、人々を癒していた。柔らかな光の雨が降り注ぎ、癒していく。
「わあ」
 子供が目をまんまるにして光を浴び、繋いだ手が暖かくなるのを感じてジュジュはニコリとした。
「よし、もどろ。シャルファさん、ありがとう!」
『ありがとーっ』
 ジュジュとメボンゴがぺこりと頭を下げて部屋を出て行く。不思議そうな子供を連れて。
「具合が悪い子だったのですね」
 シャルファはニコニコしながら元気な3人を見送った。

 ユーベルコードでの治療が必要と診断された者達に、次々と癒し手達が治癒の力を揮っている。
「僕達も、貴方達のような人がいてくれて心強いよ。お礼に少しでも力にならせてね」
 澪が優しい瞳でそう言って傷病者の集まる部屋を訪れ、寝かされた怪我人の側に腰かける。
 そっと手をあてた額が熱い。薄い駆け布の下には包帯に覆われた体があった。
「この拠点に数日前に連れて来たばかりの奴なんだ。結構な傷を負ってて」
「そうなんだ」
(せめて少しでも癒してあげられたら)
 澪はそっと目を伏せ、祈るように歌を口ずさむ――sanctae orationis。人々の幸せを願い、祈りを込めた暖かな歌声は苦しむ人々に安らぎを与え、癒していった。
「う……」
 薄っすらと目を開けた怪我人に気付き、澪は優しく微笑んだ。やわらかな頬のラインは幼さを多分に残して少女のよう。頬に軽くかかる髪は細く艶を放ち、不思議とあたたかい空気を醸し出している。琥珀色の瞳が蕩けるようにやわらかだ。
「天使、様」
「生きてるよ」
 自分が死んだのかと呟く怪我人の手を取り、『天使様』は頬にあてる。そのあたたかさに怪我人はパチパチと目を瞬かせ、しばし夢と現の間を彷徨うようであった。

「あまねく星々その輝きよ癒しの光となれ」
 ステラが厳かに呟けば、その麗しい姿が淡く耀いて。そのどこかあたたかで神聖な星の光は治療を必要とする者へとタンポポの綿毛のようにふわりと飛んでいく。ふわ、ふわ、ふわり。
 そぉっと優しく撫でるような光が触れた者は安心したように目を閉じ、息を吐く。とても心地よい――思い、一息ついて。驚く。

 一呼吸の間に傷が癒えていた。

「もう、大丈夫です」
 ステラが優婉に微笑めば、癒された者は笑顔に一瞬見惚れてぼうっとしてしまう。
「……大丈夫のはずですが。大丈夫ですか?」
 惚けた様子の相手を案ずるように問いかければ相手は焦った様子で頷き、大丈夫と応えるのであった。

●格差(disparity)
「よお、ただいまー」
 カイムが転送で世界を渡り、戻ってくる。
「飯と水はキマイラフューチャーからどんどん運ぶぜ。食料なんざあの世界でコンコンコンすれば無尽蔵で手に入る」
 どんどん運ばれる食糧と水に人々は驚き、感謝の目を向ける。
「これだけのものを、一体どこから」
「金かかってないから気にしなくていいぞ」
 カイムがそう言って笑えば人々は夢を観ているような顔をした。
「こうやってさ」
 カイムはコン、コン、と壁を叩いた。
「こうやったら――、」
 モノが出て来るんだ、と言いかけ。カイムは言葉を飲み込んだ。
「いや、なんでもないんだ」
 カイムは自分が異世界に渡り見てきて景色の数々を思い出す。豊かな自然や豊富な物資。見るたびに故郷との違いを思ったものだ。首を振り、話を変えた。
「んで、武器だ」
 カイムは拠点の訓練場と武器庫をざっと見て眉を寄せ。
「んー……俺は鍛冶屋じゃねぇから武器を作るって事は出来ねぇし。かといって下手に銃なんざ握らせて暴発なんぞされても困るしなぁ……」
 カイムはブーツの音をカツカツと鳴らしながら颯爽と武器を見て歩き、やがて外に出た。
 外は僅かに曇っていたが、雲の隙間から太陽が覗いていてあたたかだ。
「今日は天気がいいな」
 カイムはそう言って両腕を伸ばして伸びをして。
「吸血鬼の拠点でも潰れてるのがありゃ、幾らかマシな武器があるよな? 可能ならそこに案内してくれ」
 カイムは転送され、潰れた吸血鬼の拠点に向かうのだった。

●畑
「いいね、順調じゃない」
 外に出たロカジは交代するように拠点に戻るレモンとハイタッチを交わし、ニカっとした。
「きっと育つよ!」
 空がゆったりと雲を浮かべ、彼らを見守っている。
「悪くない」
 ロカジはそう言って紫煙を薫せ、人々と共にいる神楽耶の姿を見つけて微笑んだ。そして、神楽耶が何かに気づいて上を見上げる様子に釣られて空を見て。
「おや、おかえり」
「おかえりなさいませ」
 いっぱいの荷物を運び拠点に戻ってきたヴェルを迎えるのであった。

●充実する物資
「あたいは、みんなの健康状態が心配だなぁ……」
 拠点に戻ったレモンはUDCアースで買った物資を並べていく。
「栄養ドリンクやエナジードリンク、栄養サプリメントや栄養補助食品、鎮痛剤や風邪薬、包帯や消毒液、それに絆創膏!」
 救命救急リュックからも医療品を取り出して提供し。
「これを使わないことが一番なんだけど」
 言いながらレモンは使い方を丁寧に解説し、歯磨きの仕方も伝授する。
「虫歯は万病の原因だから、しっかり歯を磨いてねっ!」
 お日さまのように明るい笑顔でそう言えば、人々は貰ったマイ歯ブラシを宝物のように見つめて頷くのであった。

「ただいま、布を買ってきたよ」
 ヴェルが戻ってきて布を運び、子供達に人気の雄凰を見てぼそっと呟く。
「……お前の羽毛も、すいたら少し抜けないかな……クッションにどうだろ……」
「わっ」
「とりさん、怒った! あはは」
 雄凰が羽根をばさばさと羽搏かせ、ヴェルに不満を伝えるようだった。子供達が明るい声をあげて宥めるように雄凰を撫でている。
「清潔なものは、こっち」
 掃除をしていた者達が清潔なものとそうでないものを分けている。
「捨てた方がいいものは、こっち」
「このテープからこっちは、掃除済! こっちは、これから」
「それ、使ってもいい?」
 澪が煮沸消毒した器を一つ分けて貰い、魔力の籠められた可愛らしい小瓶を開ける。蓋をトントン叩けば中身が増える不思議なCandy pop――飴玉を多めに取り出して器に入れて。
「辛い時やおやつ代わりにでも食べて。あ、食べ過ぎには注意だぞ? 1日1個まで!」
「飴だー!」
 子供達が歓声をあげ、飴を取り出して燥いでいる。
「ほ、補充しとくね」
 減った飴を補充しながら澪は「何日保つかなぁ」と笑うのだった。
「はい!」
「うん?」
 一人が飴を差しだし、澪は眼を丸くした。
「僕の分?」
「うん」
「お姉ちゃん、いっしょに舐めよう」
「お兄ちゃんだよ?」
 どっちだろう、と子供達が不思議そうにしながら澪の周りで明るい表情を見せている。澪は若干複雑な笑顔を浮かべた。
「名前つけてー」
 子供が一人そう言って強請れば、澪は少し考える。耳には、子供達の楽しそうな声が聞こえる。
「コードネームかぁ……ラテン語で勇気を意味する単語から取ってウィルなんてどう?」
 子供が大喜びで『仲間』に自慢する。
「おいら、ウィルって名前になったぞ! 勇気って意味なんだ」
 わたしも欲しい、と少女が澪の側で正座して期待に輝く目を向けている。
「エトワールで希望の星、エト、なんて」
 どうかな、と言えば少女は満面の笑みを浮かべる。
「その笑顔を忘れずに皆の希望になってあげてね」
 澪がそう言えば、少女は全力で頷くのであった。

●探索するカイム
 一方、どこかに向かっていたカイムはというと。どこかの暗闇の地下道を探索をしていた。昨日は南極、今日は暗極。便利屋とは忙しいものである。

 ピチャン、と水音が響き渡る。
 そこは、地下道。盗賊の極意で足音を消すカイムは扉の前で聞き耳を立て、鍵開けをする。音もなく扉を開け、隙間から身を滑らせるようにし――扉が閉じる音もなく、潜入した先は。
「此処、何処だ?」
 カイムは地下通路を抜け、秘密の出入り口から豪華な屋敷の中に潜入していた。床に敷かれる赤絨毯は毛足が長く如何にも金が有り余ってる貴族の趣味。
「貴族の家?」
 人の気配も化け物の気配もない、ただ何もない屋敷は潰れた吸血鬼の拠点のはずだった。そう指定して案内されたのだから――しばし歩けば、武器庫があった。
「持っていくか」
 数本を見繕い、カイムは拠点へと戻るのであった。上質な武器は軽く魔法の気配を纏い、不思議と軽い。力の弱い者でも扱えることだろう。

●栄養満点、コノちゃズキッチン
 カイムが一人探索を進めていた時、拠点では昼食だか朝食だか微妙な時間の料理が準備されつつあった。
「こっちは、なんだ?」
 闇の救済者の一人がまだ使われていない薬草に目をやり尋ねて。
「こっちは栄養満点の食べる薬草。そのままだと美味しくないけど大丈夫。コノさーん!」
 ジュジュは薬草をコノハのところに持っていく。
「わ、良い匂い!」
 近付くにつれ香ばしい匂いがふわりと漂ってくる。空腹じゃなくても食欲がぐんぐん湧いちゃう、魔法みたいな空気。空間を仕切る薄布の隙間から覗きこむようにして数人が中を見ている。
 狩りで得た獣の無駄のない捌き方や部位ごとの干したり漬けたり煮込んだりの加工を教えてくれているのだという。
「ハァイ」
 薄布をめくり隙間から中を覗けば、コノハが料理をしている。壁を添い昇る薄っすらとした湯気がゆらゆら揺らめき、優しげだ。

「肉は元気出すのに必要なの」
 落ち着いた声色と慣れた手つきを皆が見守っている。近くにいる者が「保存食の作り方だって」と囁いて、ちらりとアイスブルーの瞳がジュジュを見た。パチり、ウインクをひとつ、して見せて。
『コノちゃ! 好い匂い!』
 メボンゴに喋らせれば、くすくすとコノハが肩を揺らし。
「待ってて」
 今食べさせたげる――、その声にジュジュは思い出したように薬草を差しだし、自分も手伝うと言うのであった。
「この薬草で臭み抜きや柔らかくしたりも出来るわ」
 コノハはそう言って実演してみせる。
「とびきり美味しいスープをご馳走しましょ」
「コノさんの料理は美味しいからね。料理苦手だけど私も手伝うよ」
 ジュジュはまるで自分の力量を誇るかのように自慢げな顔をして、「すごく美味しいから!」と繰り返すのであった。

●再会の少女と王子様
 拠点内に美味しそうな香りが漂ってきたころ合い。
「ああ、よかった。無事なようだ」
 エドガーはホッと安心した。ようやっと、捜していた少女の後姿を見つけたから。

「やあ、お疲れ様。無事に事が済んでよかったよね」
 驚かせないようにと柔らかに声をかけ。けれど少女はびくりと肩を震わせて振り返る。少女にとってその声が特別な存在だったから。
「あ、う、うん」
 少女はぎこちなく返事をして顔を真っ赤にして俯いた。昨夜と違い、明るい場所で見るエドガーが実に眼に眩しい美青年ぶり。対する少女は思うのだ。
(なんて貧相な私だろう)
 美しい貴婦人や花や宝石を愛でるのが相応しい碧眼に自分のみすぼらしい姿が――明るい光のもとで視られてしまった。少女はそれが恥ずかしく、居たたまれない気持ちになって襤褸服の裾をぎゅっと摘まむ。
 けれど、『王子様』はそんな少女に優しい声をかけるのだ。
「怪我はないかい? 勇ましいキミは立派だけれど女性の手が傷つくのは見ていられないな」
 エドガーはそう言って少女の隣に座り、少女の腕に火傷があることに気付くと手持ちの包帯を取り出した。少女は全身を硬直させつつ、されるがままに包帯を巻かれ。
「旅で使っているマッチだよ。少しになるけれど、差し上げよう」
 使ってほしい、と言ってマッチを渡す手を少女は恐る恐る受け取り。指が冷たく小刻みに震える様子にエドガーは心配そうに眉を寄せ。
「体調が悪かったりするかい? 風邪だろうか」
「いいえ」
 少女はふるふると首を振る。真っ赤な頬の上、潤む眸に力を籠めて。
「ありがとう、慣れてないだけだから」
 すん、と鼻が鳴る。うっかり垂れてしまいそうな鼻を啜り。潤む眸は滴をしたたらせたりはしていない。泣くのは、弱い子のする事だ。負け犬のすることだ。少女はそう思うのだ。混血の憎き少女を泣かせるために、周囲の大人達は色々な事をしたし、泣けば嬉しそうに笑い、さらに泣かせようとしたものだった。けれど、この人は何か違う。少女はそれを感じていた。
「貴方、変な人ね」
「そうかい?」
 エドガーはふわりと笑った。春風のようにあたたかく柔らかな空気が周囲一帯を和ませるような優しい笑顔だ。
「そうだ、コードネームとやらはあるのかい?」
 ふと、エドガーが問いかける。そういえば、ないわ、と少女は首を振り。
「なければ、私がつけてあげよう。――“エクラ”はどう? かつて旅で訪れた国で、“輝き”を表すことばさ」
 少女は眼をぱちぱちさせ、ぽろりと透明な涙を零してしまった。
「ど、どうしたんだい、傷が痛むのかな」
 慌てふためくエドガーに少女は必死に「そうじゃない」と伝え、笑顔めいたものを作ろうと努力する。
「嬉しくて」
 感激したのだ、と。思いがなんとか伝われば、エドガーはにっこりとした。
「キミのその輝き、どうか忘れないでね」
(違いすぎるんだ)
 少女は気づき、けれど微笑んだ。名にふさわしき笑顔を想像して、無言で精一杯微笑んだ。

●訓練の終わり
 一人また一人、外に出ていた者が拠点に戻り、仕事を終えた猟兵達と闇の救済者達が広場に集まってくる。
「なんか豪邸に行ってきたぜ」
 カイムが武器を数本仕入れて帰ってきた。
「武器には拘れ。命を預けるモンだ。手入れしとけよ?」
「そろそろ、食事の時間ですね」
 訓練場でも、セシリアがそう言って訓練を斬り上げた。
「す、すまないが」
 呼び止められた。見ると、少女剣士が肩で息をしながら頭を下げている。
「頼みたい。あたしに名前をくれないか、あんたに付けて欲しいんだ」
「貴方にコードネームを?」
 セシリアは肩で息をする少女剣士にタオルと水を差しだし、考える。
「でしたら『ルミエール』はいかがでしょう。私の故郷の言葉で光を意味します。どうか、この世界の光として消える事なく輝いてください」
 銀色の瞳は祈るような願うような色を宿し、紳士に『ルミエール』を見つめていた。ルミエールは自分の名を何度も繰り返し、やがて光の名に恥じぬ喜色満面の笑顔を浮かべた。
「さあ、広場に行きましょう」
「ああ」
 そんなやりとりにふと微笑む様子を見せながらヘンリエッタも手を止める。
「そろそろ時間ね」
 立ち上がる者はもういない? と視線を巡らせれば――いた。
 じっと視線を注げば、疲労に震える膝をガクガクさせながら立つ様子。だから、ヘンリエッタはニコリと微笑みを向けた。柔らかく、けれどただ優しいだけとはいかない笑みを。
「名を欲するなら……覚悟があるかどうかは、大事ですね」
 言いました? と声が地を這うように低くひそめられる。
 生半可な方には、名付けしたくないんです、と。
「生き抜かねば勝利もないし未来もない」
 ヘンリエッタが言葉を続ければ言葉を吐く余力すらなく乱れた息の下で相手は鼻に皺を寄せ、牙を剥く。熱い唾液の糸を引く口腔に並ぶ歯は欠け、汚れを付着させ。清潔ではない襤褸で乱暴に汗に濡れる拳を拭い。
「勝利? 未来?」
 驚くほどの憎悪に塗れた言葉だ。瞳は血走り赤い。殺意すら覗わせるほどの。脚の筋肉が激情を含んで膨らむようだった。爆発するような疾走、突進。
「――覚悟?」
「指先ひとつでも私に触れれたら、名をあげましょう」
 ヘンリエッタは突進をくるりと転身して避けながら思いつく。
(――雷の申し子らしく、ヴァジュラ、とか)
 ヘンリエッタは名を思いつき、相手を見る。なかなか似合いなように思えたのだ。
「ヴァジュラ」
「!」
「名乗りたくば」
 相手は噛み付くような目をして速度を増した。猟兵の目にも鮮やかな会心の速度は雷の名に相応しく、ヘンリエッタを満足させたのであった。
 やがて名を得たヴァジュラとヘンリエッタは汗を拭い、食事に向かう。共に。

(へえ、よかったじゃないですか)
 ヘンリエッタ達見守っていた残士郎が緩く笑う。
「ありがとうございました」
 挨拶をして人々が訓練場を後にしていく。後片づけをする残士郎の耳に素振りと踏み込みの音が届き。
「あんた、まだやるのかい」
 残士郎が眉をあげると、居残る様子の一人は手を止めて体全体で残士郎に向き合った。
「やっちゃいけないかい」
「いや」
(上等だ、骨がある)
 残士郎の脳裏に先刻のヘンリエッタとヴァジュラが蘇る。俄然、興が乗った。
 相手をしよう、と訓練用の刀を執れば相手は疲れを吹き飛ばしたような顔で向かってくる。剣戟の音が高く鳴る。時間がひどくゆっくり過ぎるようだった。一太刀、容易く跳ね飛ばせそうな衝撃。我武者羅な相手へと戯れのように太刀滑らせれば獣のように飛びずさる。牙を剥き、低く駆け――、

「陽炎(かぎろい)」
 残士郎は微笑んだ。名をやるのだ、とその瞳が語れば獣が吠えるように陽炎が雄叫びをあげる。
「意味は……夜明けの光だ」
 陽炎の突進を受け止めて鍔迫り合いをしながら語れば、至近の瞳が頷いた。無言。
「あんた、光を背負うなら……決して沈んじゃいけねぇよ?」
 他に誰もいなくなった訓練場に2人の熱が残っている。いつまでも終わらぬと言うような剣戟は鋭さを増し激しさを増し。けれど、声は閑かだ。
「戦えぬ者を思い、生きる意志を漲らせな。それが剣を冴えさしてくれる」
「……おお」
 陽炎が意志を漲らせ、吠える。
「おおおおおおおおおおおっ!」
 びりびりと壁震わせる聲と共に奔る切っ先は酷く屈折した魂を思わせ――熱に溢れた。
「――避けてみな」
 人斬りがせせら哂うように刀を繰り出す。夜を切り抜く三日月のような冷たい軌跡が熱に迫れば、足は勝手に動き覚えた動きをなぞるようだった。
 訓練とはそのためにするのだ。残士郎は薄く微笑んだ。

●『皆で食事を』
 広場に食事が並べられる。ジュジュが元気溌剌としたウェイトレス姿で皿を運び。コノハが持ち込まれた食材の数々に追加の料理を作り出す。
「人も多いし、戦勝会みてぇにパーッとやりまショ」
 元から拠点にあった食材とエレニアの蛇が持ってきた日持ちしないものが主に使われて、全員の食事が一層充実したメニューになる。
「約束の中華テイクアウト箱です」
 アンコはニコニコと箱を差し出し、ダンタリオンを喜ばせて。
「それと、ハープも。約束しましたからね」
 アンコのハープが鳴り響き、人々が穏やかな表情で聞き惚れている。
「あう、あう」
 演奏をおねだりした者はとても心地好さそうに演奏に聞き入り、夢心地。シュナイダーがその隣で誇らしげに制作物を見せている。
「遅くなっちまいましたね」
 残士郎が陽炎を伴い広場に戻り、暖かなストーブと空気に居心地よく目を細めた。
「ずっと訓練? お疲れ様。居住区快適になったんだよ。あとで見てごらん」
 ヴェルが訓練組を労い、微笑んだ。
「女の子の扱い方を教えてほしい? よし来た、教えてやろうじゃないの。ちなみにどの娘が目当てなのよ」
 ロカジがひょろりとした痩身ダンピール青年と談笑している。
「肉だけ入れて!」
「ポラリスは野菜は苦手なのですか? とても栄養があるのですが」
 ステラは肉ばかりのポラリスの皿に野菜を足している。
「あ、……身体的事情で受け付けないとかでしたら、無理にとは申しませんが」
「ええい、食べるよ!」
 どうやら単なる好き嫌いだったらしい。

「エクラはまた何処かに行ってしまったみたいだ。どうも恥ずかしがり屋さんなのかな」
 エドガーがレディと話しながら皿を受け取る。
「おや、本当だ」
 レディに促されて見てみれば、エクラは前掛けをつけて料理皿を運ぶのを手伝っていた。一緒懸命に笑顔を浮かべ、ぎこちなく「どうぞ」と声掛けしながら。

 セシリアはルミエールと共に広場に戻り、二人分の皿を選び運んで。
「ルミエール、他に食べたいものはありますか。持ってきましょう」
「こ、子供扱いするな。自分で持ってこれる」
 ルミエールはそう言いながらステーキの乗った皿を二つ持ってきて一つをセシリアに渡すのだった。

「ヒャッハー! ご馳走だぜー!!」
「「ヒャッハー!!!」」
 タンドールをモヒカン仲間に加えたローストとモヒカン達は皿を並べて大喜びだ。
「ノバラ、カトレア、デージー、ナデシコ、ヤマブキ、ウメ、サクラ!」
 レモンは花の名をつけた皆に囲まれ、大切に名を呼ぶ。
「みんなで、ご飯食べよっ!」
「名前かー、名前は思いつかねえな。うん」
 カイムはそう言いながらオルトロスの手入れをしていた。
「無理に考えることもないでしょうから」
 夏介はそう言って小さなウサギのぬいぐるみを撫でる。遠くでチラッとジュジュのメボンゴが耳を揺らし、『仲間だね!』と手を振るのを見て薄く残る跡をそっと隠しながら。

「ヴァジュラ、貴方無口ね」
 ヘンリエッタは反抗期の子供のように顔を背けるヴァジュラの前に皿を置く。クンクンと鼻で匂いを嗅ぐヴァジュラは子供というより獣めいていた。

 絵里香と向日葵は二人並んで作戦を振り返り、ふと気づけば向日葵がノートに大量の名を書いている。
「ひまちゃん名前とか設定考えるの得意だよ」
「設定とは何だ……」

 澪はハープに合わせて微かにハミングしている。エトはそんな澪に眩しそうな目をしながらうっとりとした笑顔で聞き惚れていた。

(賑やかネ)
 猟兵達と、闇の救済者達と。この広場に今集いて個性を綺羅星のごとく光らせる面々は、全く同じメンバーが一堂に会する事は二度とはないものとコノハには思われた。彼らは皆、絶望的な戦いに挑もうとする者達なのだ。人とは儚い者、拠点を取り巻く自然が数年後に同じ顔を見せていても、拠点の中身は全く変わっている事だろう。もしかしたら、拠点ごと潰えているかもしれない。
(次にここを訪れた時この闇の救済者達の何人と再び言葉を交わす事ができるカシラ)
 コノハはニッコリと微笑んで、音頭をとる。

「暖かな食事は体だけでなく心の栄養。最後に今日ばかりは無事を祝って」
 明るい声には、皆が唱和した。
「「全員の無事を祝って!」」

「ほら、食べてみて。元気いっぱいになれるから」
 ジュジュが満面の笑みで料理を勧め、人々は嗅覚に訴えかける芳香に喉を鳴らして見た目にも美味しそうな料理に手を伸ばし。
「――美味しい!!」
 笑顔の花を咲かせる。
「彼等――闇の救済者達の英雄譚は此処から始まって行くんだな。そう思うと何だか胸が躍るような気がする」
 ジャックは明るい表情の皆を見て、そう呟くのであった。
「食後のデザートもたくさんありますよ。色々買ってきたんです」
 シャルファがゼリーやアイスを配ってニコニコしている。
「なあなあ、名前はーっ!?」
 ノワールは少年に懐かれていた。
「他に付けてもらえ」
 肩をすくめてノワールが示すのはちょうど近くにいたリーヴァルディ。
「……コードネーム? ん……光をもたらすもの……とか?」
 リーヴァルディは訓練を付けた者達に名付けを強請られて考え込んでいた。うーん、と考える横に座って少年をちらりと見て。
「光をもたらすもの、か。ルキフェルにしよう」
「ん」
 名はこのようにして決まった。

「神楽耶様」
「はい?」
 デザートを味わっていた神楽耶が声をかけられて振り向けば、ずっと解析を試みたのだという術者ダンピールがそこにいた。
「解析は、できたようなできないような」
 あまり自信がなさそうに言う少し疲れた顔の術者ダンピールから札を受け取ると、ダンピールは頭を下げて背を向けた。それがモノに働きかけ、直すものなのだとダンピールは理解して、似た術を使えないかと何度か試した。だが、できなかったのだ

 ――期待に応えられなかった。

 そう思っているのがありありと伝わるトボトボとした歩調。
 神楽耶が名を呼ぶ。
「コードネーム「ルーチェ」。あなたの活躍、楽しみにしていますよ?」
 一瞬ぽかんとした『ルーチェ』は自分が名を与えられたのだと気付き、驚き――振り向く。振り向いた先には、咎めるような瞳はなかった。落胆するような色も瞳には浮かべていなかった。そして、もう一度木札を差し出したのだ。
「ありがとうございます」
 ルーチェは感激して、何度も何度も頷くのであった。
 名前はとても特別なものですね、と神楽耶は微笑んだ。そして、とうの昔に滅んだ故郷を想うのだった。

(あら、さっきエリィが戦った蝙蝠にトドメを刺した子がいるわ)
 ふとエレニアは覚えのある少年を見付け、呼び止めた。
「頑張ったわね、貴方。エリィがご褒美をあげるわ」
 エレニアはそう言っておまじないをかける。
「恐怖を感じない呪詛(おまじない)。効果は……そうね、貴方が信じる限り、ずっと」
 静かでやさしい声は、眠りの中で聞く小鳥の歌のよう。きゃしゃで小柄な体は、少年の知るかぎり一番しろい雪の白さもくすんで見えるほどの純白。
 その双眸が神秘にみちた宝のように思えて、少年は生唾を呑み込んで真面目な顔で頷く。

「ずっと、信じる」

 この名前を持たない少年はこの日以来筆を執り、彼が出会ったうつくしい白い姫を題材に物語を綴ることになる。(Aber das ist eine andere Geschichte und soll ein andermal erzählt werden.)

 穏やかで希望に満ちた時間が過ぎていく。猟兵達と闇の救済者達はあたたかな拠点で同じ時間を過ごし、和やかな声と空気が場を満たしていく。
 敗北者とは、勝負が終わった時に敗北している者である。勝負が終わった時に勝利していれば、それは途中苦戦したが勝利した者と歴史は記す。世界一つを巡る戦いが最終敗北をスコアに残す時とは、いつであろうか。
 人類は、敗北者であると言われている。けれど、その盤面はいずれ覆るのだと今、全員が確信していた。そして、勝つための準備をしている。ならば、そのゲームはまだ終わりではないのだ。

「お疲れ様、またね!」
「また一緒に戦いましょう」
 だから、猟兵達は戦友と笑顔を交わし、作戦を終えるのであった。集いし彼らの最終的に目指すところは、同じなのだ。

 各々の世界へと戻る猟兵達を見送る人々は、あの猟兵という存在こそが『闇の救済者<ダーク・セイヴァー>』の名に相応しき英雄達だと語り合い、尊敬する猟兵から名を授かった者達は名に相応しき振る舞いをせんと誓うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月15日


挿絵イラスト