「くそ、くそ、くそ! ここには絶対の防壁があったはずだ! これじゃあ、丸見えじゃないか!」
彼が見出し、彼が所有し、彼が支配した城の、その全貌を見渡せる装置を前に、彼は頭を掻きむしって臍を噛む。
誰にも見つからない濃い雲の防壁。それがあったからこそ、彼は研究の場としてここを居城とした。
だが、彼がこの城の研究を進め、それが最終段階を迎える手前になって、急激に雲のヴェールが晴れ始めたのだ。
こんな、空に浮かぶ城なんてものが人の目に触れたなら、奴らはきっとやってくる。
それがわかるからこそ、彼は苛立っていた。
「ここにある財宝の研究、それが完成すれば僕の復讐は成る筈なんだ。なあそうだろう!?」
暗闇の中で喚き散らす彼の言葉にいくつかの影が、
「はい、その通りです」
と従順な声を上げる。
「そうだ、そうだよ。お前たちは僕に借りがある筈だ。逆らえない! だから、そうだ……。もしもよそ者がやってきたら、そいつらを……殺せ!」
尋常ではない血走った視線を向ける彼はもはや人間的な理性など残っていないようであった。
「はい、主様の御心のままに」
機械的に返事をする従僕たちもまた、人間的なものを感じさせず、影の中に溶けるように消えていく。
「アックス&ウィザーズにおいて、クラウドオベリスクを多数破壊したことで、また世界が広がったらしいね。今度は空に浮かぶ城が発見されたようだ」
グリモアベースはその一角、リリィ・リリウム(異端者狩り・f13586)は自身の報告書を手に、ちょっと面倒そうに眉を寄せる。
彼女自身、予見した内容を書類にまとめてはいるものの、どうやら今回はちょっと面倒なものを見てしまったようである。
先述の通り、クラウドオベリスクをいくつか破壊したことにより、「帝竜ヴァルギリオス」が世界に掛けていた、群竜大陸の所在地を隠す巨大幻術「クラウドヴェール」が破れはじめた。
それにより世界のあちこちに、浮遊する「天空城」を中心とする、浮遊する巨岩群が幾つも出現した。
今回の予知もまたその一つであることは間違いない筈だが、どうやらアックス&ウィザーズに伝わる「かつて戦乱に明け暮れていた古代帝国が、魔力の暴走により天空に放逐された」というおとぎ話を裏付けるかのようなもののようだ。
「今回はその空飛ぶ城の一つに赴いて、クラウドヴェールの術の一部となっている核を破壊しなくてはいけない……んだけどな。
城の今の持ち主であるオブリビオンが、それを許すとは思えない。それを撃破することになるだろう」
今現在、天空城を支配しているのは、謎の錬金術師という話である。
かの者がどういった経緯で城を得るに至ったかは不明だが、その錬金術師の撃破が今回の最終目標となりそうである。
「まあ、主な目的はそういうわけだが、何は無くとも、まずは城に乗り込まなくてはならないな。何しろ道はあってないようなものだからな。
細かな方法は任せるが、大体は周囲に浮かぶ巨岩を渡っていくしかないだろう。
空を飛ぶ能力を持つ者なら幾らか楽はできそうなものだが、それでも気を付けたほうがいい。
何しろ、岩が浮かぶような環境だ。魔術的な力場や気流が入り乱れている可能性も十分にある」
有利にはなっても過信はするな。一応は魔術師でもあるリリィは、私見を交えて説明を終えると周囲を見渡し、
「この度の戦いを勝ち抜けば、群竜大陸への道がまた一つ開かれることだろう。少々の大冒険になると思うが、力を貸してほしい」
そう締めくくると帽子を脱いで一礼するのだった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじです。
新しい展開を思わせるフラグメントということで、さっそく使わせていただきました。
今回のシナリオは、冒険→集団戦→ボス戦という構成です。空飛ぶ岩を渡って天空に浮かぶ城へ入城し、ボスを倒しに行くというシンプルな内容になると思います。
リリィは説明しておりませんが、こういう世界なので、空飛ぶ城に攻め入ってボスだけ倒すというのもなんだか勇者として物足りないような気もしますね。
ある程度、何か拾って帰るとか財宝を見つけるとか、そういう展開があっても面白いかもしれません。
その辺りをあれこれ書いてしまうと、なんだか道を定めているようでアレなので、詳しくは皆さんのプレイング次第という感じになるかと思います。
とはいえ、書くのは私なので、責任は私にかかってくるわけですが。
……み、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作れれば幸いです。
第1章 冒険
『天空城をめざして』
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POW : 気合や体力で気流に耐え、巨岩を足場に進む
SPD : 素早く気流を切り抜け、巨岩を足場に進む
WIZ : 気流を見極め、回避したり利用したりしながら巨岩を足場に進む
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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レフティ・リトルキャット
※詠唱省略やアドリブOK
にゃ、空のお城かにゃあ。先に27代目様の「魔法の試練(UC習得の儀)」をクリアしておいてよかったのにゃ。フェアリーはフェアリーでも滑空は兎も角、僕の翅では空を飛べないからにゃあ。
早速いくにゃよ。27代目様の力、【子猫の魔法使い】に変身し、魔法の箒を召喚。気流や魔力を見切りつつ、箒に乗って飛翔するにゃ。
この箒、もう一人ぐらいなら乗れるから相乗りは歓迎するにゃ。飛翔能力半減するけどコレは仕様にゃ。キミが重い訳じゃないからにゃ?。
取れる手段、あとは巨大な肉球型魔法弾で、ぷにっと岩場を逸らしたり受け流すぐらいかにゃあ?。(元々、破壊や火力系のイメージなし。気絶攻撃系魔法弾。)
リーキー・オルコル
隠されていた空の城
宝の匂いがするね
ま、一番の宝は情報だ
世界の鍵になる
重たくないからな
まずは乗り込むとするかね
まずは城までの道を見渡して楽そうな道を探す
ロープに杭、小型のハンマー、フック付きのロープを持っていく
フック付きのロープを隣の岩に引っかけて風に気を付けながらロープに掴まって次の岩に移動していく
フックを引っかける場所がない時は【つむじ曲がりの落ち葉】を使いロープを縛り付けたナイフを投げて岩の割れ目に突き刺してからロープを伝って先に進んでいく
必要なら岩壁に杭を打ちこみ命綱を用意しながら進む
「大胆細心ってヤツだ
杭も刺さったナイフもそのままにしておくからな
後から来るヤツは上手く使うんだぜ」
空に浮かぶ巨岩群を望むようにそり立つ高台の断崖は、既に周囲を見渡せるほどの高度を誇っていたが、巨岩はさらにその上を掠めるように漂っている。
岩が浮かんでいるというだけで奇妙な光景ではあったが、それは空間に固定されているというよりかは、まるで岩にかかる重みを消されたかのように空を漂う岩の幾つかは、吹き抜ける風に任せて流され、規模の小さなものは他の巨岩に衝突したりもしている。
それを眺めると、幻想的な光景も一気に物騒なものを帯びてくる。
天然のそれとかけ離れた現実味のない情景に、小動物たちは接近することさえしなくなる。
そんなすごく危ない断崖に佇むは、二人の男性。
「こりゃあまた随分と……難儀な仕事をよこしたもんだなぁ」
見上げる拍子にこぼれそうになるテンガロンハットを抑えつつ、リーキー・オルコル(ファスト・リー・f05342)は、言葉とは裏腹にワクワクとした面持ちで巨岩群と、その奥のほうにそびえる空の城のシルエットを望む。
「にゃ、空のお城かにゃあ。僕の翅じゃあ、あそこまで滑空は無理っぽいにゃあ」
リーキーの隣、同年代だが身長はその六分の一程度しかないフェアリーであるレフティ・リトルキャット(フェアリーのリトルキャット・f15935)もまた同じように巨岩群の奥に控える城を見上げ、その偉容にため息をつく。
可憐な少年のようにも見える彼の背にはガラスのような翅が生えているが、不思議な力で浮いたり風に乗って滑空したりはできるものの、羽ばたいて空を自由に飛び回るというのは苦手である。
まして、入り組んだ巨岩の先にある城までは、とてもとても飛んで届くようには思えない。
「さあどうしようかね兄弟。登攀用の装備は幾つか用意しちゃいるが、こりゃあ骨が折れそうだ」
「にゃ、そういう割に楽しそうにゃ」
「そりゃあ、あんなのを前にしちゃな。隠された空の城だぜ? お宝の匂いがプンプンするぞ」
牛追いのような格好のリーキーの手にはロープや杭が握られ、雰囲気に似合うものがあるが、彼自身からはお宝の匂いよりも酒の匂いがプンプンしている。
「ま、今一番欲しいお宝は情報だな。世界の鍵になる。それに、重たくならないしな」
気さくで、どこか風に吹かれそうなほどの軽薄さすら思わせながらも、リーキーは手慣れた様子でフック付きのロープを手先から垂らして振り回し始める。
風を切る音を立てて回り続けるロープが十分な加速を得ると、やがて放られたロープは、一番付近を浮遊する巨岩のくぼみへとフックの切っ先を食いこませた。
「よぉし、まずは一番乗りだ」
引っかけたロープに体重を乗せて、つたって登るのに十分な状態かを確かめると、リーキーの顔に笑みが浮かぶ。
「乗ってくかい、兄弟?」
小さな仲間にも声をかけるが、レフティはそれに応じる代わりに一本指を立てると、にひっと自信ありげの笑みで応える。
「我が箒を以て、私は空を翔け「魔法」を織り成す……」
魔法の言葉を紡ぐレフティの白い髪や手先、白い尻尾が白銀の輝きを帯びていく。
その手の内からは愛用の魔法の箒が生じると共に、魔法の発動を確認したその瞬間に、妖精の身体は見る見るうちに毛羽立ち、白い髪と同じ毛皮に覆われていき、その在り様を子猫の姿へと変じていく。
──そう、それが子猫の魔法使い。
彼の身に課せられた呪いは、その身を子猫へと変貌させるものだが、それさえ許容してしまえば、その魔法の力は万能の力を宿している。かもしれない。
少なくともレフティ本人は、代々受け継がれてきた呪いと、それに準ずる力を嫌っているわけではない。
そうして呼び出した魔法の箒の先端にちょこんとお座りする子猫のレフティは、それにより安定した飛行という力を得るのである。
ついでに魔法弾も撃てるよ! というか、そっちがメインだよ。
「ふふん、乗っていくかにゃ、兄弟?」
どこか誇らしげに胸を張りつつ箒に乗って浮かび上がり、ロープをよじ登るリーキーを追い越していくレフティ。
「なるほど、それも正攻法だな。けど──」
レフティを見送りつつ、登った巨岩に杭を打ち、改めてロープを括り付けると、次に移れそうな巨岩を探し出す。
今度の岩は、見たところフックをかけるようなところが見当たらない。
だが、リーキーは笑みを崩さず、愛用のナイフを手に、
「俺はとっても素直でね」
放り投げたナイフは、狙いを外すことなく巨岩に突き刺さった。すかさずそこにロープを投げてフックを掛けると、それを伝い、同じように杭を打ってロープを掛けなおしていく。
「いちいち、ロープを残していくのにゃ?」
「うお、びっくりしたぁ! 先に行ったんじゃないのかよ」
「こっちはちょっと風が強すぎて、引き返してきたんだにゃ」
命綱がわりにしていたロープを岩場に残して次の足場を探していたリーキーに、引き返してきたレフティが話しかけてきた。
ロープもそれはそれで重量があるし、有限でもある。
回収して再利用しながら使う方が、総合的な重量は軽くできる筈だが、リーキーはそれらを設置しなおして、敢えて残していっている。
「これから他の仲間が登ってくることを考えりゃ、こういう足掛かりがあった方がいいだろ。大胆細心ってヤツだよ。できるだけ残しておくから、うまく使ってくれればいい」
「なるほどにゃあ。リーキーはいい子いい子なのにゃ」
「おおい、やめろ。むず痒くなる」
目を細めて笑うレフティに、リーキーは苦い顔で拳を振り上げるが、足場の悪いところで空を飛べる相手にしても、それは照れ隠しにしかならない。
そうして二人は、方法こそ違えどお互いの長所を活かして、浮遊する岩場を地道に攻略していく。
空を飛べるとはいえ、既にかなりの高度に達しているほか、巨岩の合間には不規則な気流が生まれ、巨岩を浮かしている不可思議な力場は魔力による浮遊を阻害する流れも少なくない。
リーキーの登攀ペースは遅くはないが、空飛ぶレフティとは比較にならない。
それでも二人の攻略速度にそれほど違いがないのは、飛行して通り抜けられる場所が目に見える以上に少ないことが関係している。
無鉄砲に飛んでいるようで、レフティは慎重に飛行ルートを選択し、駄目そうなら引き返して別の道を探すようにしているため、進みは然程早くはないものの、安全なルートを構築していくため、ある意味地上ルートを行くリーキーにとっても、安全な道を行く助けになっている。
それに、一人で黙々と無機質な岩場をくぐるよりかは、二人で悪態をつきながら登り続ける方が、いくらか楽な気分になれた。
「ん、こっちはダメだにゃ」
「だなー。足場のコンディションも悪い。変に足をついたら崩れそうだ」
「こっち側に回り込めばどうかにゃ?」
「そうだな。こっちは岩が固いから、杭を打っても崩れないから、無理矢理足場を作っていくか。ちょっと石ノミ持っててくれ」
「しょうがないにゃあ」
いつしか二人は協力して岩場の攻略を試みていた。
ほぼ絶壁のような岩盤に杭を打って足場を確保しつつ、次の岩へと飛び移っていく。
「うーん、今度は上の方に岩があるけど、細々としたのが邪魔だな。いくつか除けていくかな?」
「任せるにゃ。変に殴って砕いたらゴミが増えてしまうにゃ」
そういうと、レフティは差し出した手の平から肉球状の魔法弾を撃ち出す。
非殺傷性の肉球弾は、目の前の障害となっている小さな浮遊岩を砕かず、ぶみょんっというファンシーな効果音と共に岩を押しのけて移動させる。
「便利だなぁ。俺にもできるかな?」
「肉球が欲しいのかにゃ?」
「いや……肉球は別にいらねぇな」
触ると気持ちいのは知っているが、自分の手に欲しいかと言われれば、微妙なところである。
小首を傾げるレフティをスルーして、リーキーは手早くロープを掛けて登り始める。
ずいぶんと登った気もするが、そういえば今はどれくらいだろうか。
視界はあまりいいとは言えない。空の切れ間は見えるものの、見渡せば空に浮かぶ巨岩の方が多いのである。
それでもその切れ間を注意深く探るように見渡してみると、やけに大きな影がすぐ近くにあることに気づいた。
当たりかもしれない。
そう思い、そろそろロープを握る手に疲労を感じてきたところに気合を入れなおすと、その手元に赤いものが滑り込んでくるのが見えた。
最初は血か何かかと思ったが、手に取ってみるとそれは枯葉のようだった。
こんな場所に枯葉だって?
「よう兄弟。この上の岩場に木でも生えてるか?」
「ん? そういうのは無いみたいだにゃ……でも」
「でも、なんだ?」
言葉を止めるレフティの様子が気になってそちらに目を向けると、リーキーの視界にひらひらと舞う枯葉がよぎった。
思い至るものがあり、急いでロープを登り切って岩場に立つと、それは探すまでもなく、上方に黒く空を覆うように影を落としていた。
「結構、近くまで来てたみたいだな」
岩場に座り込んで、リーキーは改めてそれを見上げる。
まだまだ上に行かなければ侵入は難しそうだが、それが目的地の天空城であることには違いなさそうである。
だがそれにしても、遠景では図りかねていたその大きさは、思った以上の規模であり、少し圧倒されるものがあった。
そう思っているのは、すぐ隣まで来ていたレフティも同じようだった。
「……すこし休憩してから、ラストスパートと行くかい、兄弟」
「うん……」
しばしその偉容に身体を休めつつ、二人は再び登攀を再開することにする。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ネフラ・ノーヴァ
【WIZ】アドリブOK。
友のスズ(f02317)と同行。呼ぶ時は「スズ」
「ほう、天空に浮かぶ城とは、まさに幻想的じゃないか。」
初めて見る光景だ、感嘆も覚える。いっそ乗っ取りたいものだな。
観光気分もつかの間、これを昇って行くのは容易ではなさそうだ。
ストレリチア・プラチナを纏い、失礼してスズを抱えるが、スズのUCに合わせて手近な岩へ跳び慎重に進める。
時折スズの問いかけ応じよう。アイス?城の主が好きならもしかするとだが、食べ物の期待はできなそうだよ。
コイスル・スズリズム
WIZ・アドリブ歓迎
友人のネ姉さん(f04313)と一緒に
一緒に依頼に行くのははじめて
この世界はあんまり慣れてないんだよね、ネ姉さんは?
うわ~飛べるんだ!すずびっくりしたよ!!
ってかなんかいい匂いする。ミントスイーツ食べた?
情報収集をしつつ
見かけためぼしい岩を
「ものを隠す」+【ガーデン・ライツ・ガーデン】を用いて、
文字通り袖口の中に一度隠す
それを取り出して岩を次の足場に使ってもらう
こうすることでどんどん探索するよ!
岩が邪魔になって進めないところは
上述の動きで隠してこの後ろには何かあるのかな?とかいいながら
城の手がかりをネ姉さんと共有して動く
ねえねえネ姉さん
城って何があるのかな?アイスだといいな
「うわぁ、話には聞いていたけど、すごい光景だね!」
「確かに、聞いた話と実際見るのとでは、やはり違う」
地上と、空飛ぶ巨岩群とを隔てる断崖にやってきた新たな猟兵、コイスル・スズリズム(人間のシンフォニア・f02317)は目の前いっぱいに広がるその圧倒的な光景に息を呑み、連れ立ってやってきたネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)もまた、腕組みをしつつ感慨深げに連なるようにそびえる巨岩群を見上げる。
冒険は初めてではない。これまでに死線をくぐってきたことなど、それこそ数えきれないほどある。
とはいえ、今回はちょっとだけいつもと違う。
「ふむ、まだ遠いな……もう少し近くで見たいな」
「あ、ひょっとして、ここからもう見えちゃうの? どこどこ?」
「こらこら、あまりはしゃぐと、足を踏み外すぞ」
視界の端、巨岩たちの隙間から見え隠れする天空城の片鱗を追って、立っている場所が崖っぷちだというのも忘れ背伸びしたり飛び跳ねたりしてネフラの目線を追おうとするスズリズムを、ネフラはやんわりと窘めつつ、いつでも体重を支えられるようその背に手を添える。
「うーん、よく見えない……。やっぱり、もう少し登ってみないとダメかな」
「まあこれだけ障害物があっては、そうだろう。さて、どう攻略しようか」
しばらくあの手この手で視界を確保しようと、二つ結びの髪を揺らしながら幻想的とも言える光景を矯めつ眇めつしていると、ようやく落ち着いたらしいスズリズムはそれでもわくわくしたような目でネフラの話を見聞きする。
二人して連れ立って参加したものの、一緒に冒険に参加するのは今回が初めてのようであり、プライベートでの付き合いこそあるものの、こういったケースでどういう行動を取るのがベターなのか、お互いに測りかねる部分が無いとは言えない。
とはいえ、いつものようになついたり可愛がったりしていても、目の前の巨岩たちが道を譲ってくれるわけでもない。
「うーん、そうだね。やっぱり地道に登っていくのがいいかな? ホラ、先に来てた人たちが、道しるべを残してくれてるみたいだよ」
そういってスズリズムが指さす巨岩の一つには、真新しい鉄杭とそれに結わえられたロープが垂れ下がっていた。
それをつたって登れば安全であるということを示すかのように、ややわざとらしくも見えるくらい目立つ場所に矢印まで刻んである手の込みようである。
「ふむ、それも正攻法か。でもどうせなら、もう少し楽をしてみないか?」
「んんー? それはつまり、何か面白いこと思いついちゃった感じ?」
「ふふ、質問に質問で返すのは感心しないな。だが、思いつきだけあって、ちょっと力技だ」
自信ありげに胸を張るネフラの視点は、目の前にそびえる巨岩群よりもはるか上の方を向いている。
「眩き白金の輝きに抱かれよ」
そうして僅かな逡巡も待たず、ネフラが世界に約束された合言葉を告げると、ユーベルコードに定められた決まり事が、彼女の肉体を構成する宝石と白金を融和させたような鎧を生み出し、その身に纏わせる。
白金の姫騎士を思わせる鎧は、乳白色の光沢を帯びた羊脂玉のような、その緑色を帯びた瞳とも合わせれば玉髄のような独特の気品がある。
「わわ、いきなり戦う準備?」
「うむ、ある意味戦いはこれからだ。さあ、掴まれスズ」
「え、う、うん……」
「かなり揺れるから、しっかり掴まってるんだぞ」
ネフラの意図が読めず、ちょっと困惑しつつ言われるままにネフラの甲冑に抱き着くようにしてしがみつくと、ネフラもまたスズリズムを手放すまいとその背を抱く。
そしてお互いがしっかりとくっついていることを確認すると、ネフラは思い切り地を蹴り、その鎧で空を切り裂くように飛び上がった。
「わわわっ、うわぁぁぁ!! と、飛んで、飛んでるっ!」
凄まじい向かい風、或は暴風そのものと化したようなネフラは、その全身を纏う鎧の力によって、空を飛ぶことが可能である。
それはさながら光り輝く風。自身で発光するようなプラチナのドレスが空を駆け、巨岩を飛び越えようとする様は、神話の1ページのようですらある。
「うわ~飛べるんだ! すずびっくりしたよ!!」
「うん? 風でよく聞こえん」
「すずビックリ! 飛べる! スゴイ!」
「うん? なんでそんなカタコトなんだ?」
「んもー!」
上昇するスピードもだいぶ落ち着いたあたりで、猛烈な風を受けながら懸命に言葉を交わそうとするスズリズムに、ネフラは聞こえているのかいないのか、何度も疑問符を投げかける。
「ホントにすごい。すず冒険っていったら、だいたい学園地下に潜ることが多かったから、こんな風に空飛ぶ経験ってあんまりないんだ。ホント言うと、この世界もあんまり慣れてないんだよね。ネ姉さんは?」
「どうかな。いろんなものを見た気がするし、戦いの思い出のほうが強いかもしれない」
「ん、そっか」
「……空を飛んだ感想はどうだ?」
「……髪が滅茶苦茶」
すこしだけしんみりした空気を察して、ネフラが話を振ると、ちょっとだけ苦い感想が返ってきた。
このまま順調に上昇を続けるかに思えたが、ネフラの鎧は唐突に不調を訴え始める。
がくりと、急激に風を切る手ごたえを失い、支えを失ったかのように二人は落下をし始める。
「このままあわよくばと思っていたが、そう上手くもいかないな。ストレリチアで行けるのはここまでのようだ」
「ええ、おっこっちゃう?」
「うん。だが、だいぶ高度は稼いだぞ。近くの岩に飛び移ろう」
そうして二人して浮遊岩に着地すると、青一色に思えた空の光景がすぐに岩にまみれたものに変わる。
できるだけ安全な場所を選んだつもりだったが、改めて見てみると人が乗れるような岩に加えて、持ち歩けそうな径の小さな岩も浮かぶ岩礁のような場所らしく、足場は広いがとにかく障害物と視界がよくない。
「どうやら、岩を浮かべているカラクリが、ここいらはおかしいみたいだな」
「うーん、それはどうだろ。普通の岩を魔法で浮かしているのもあるみたいだけど……、ここで浮いてるのは、岩自体が浮く性質を持ってるものに感じるよ」
スズリズムの分析を借りれば、けっこうな長い時間、浮遊する環境にあった岩は少なからずそういう性質を持つものもあるようである。
アルダワ魔法学園で魔法技術やその成り立ちを学ぶ身としては、その辺りの環境依存の魔法もよくある話ではあるようだ。
「とはいえ、邪魔だな。浮いていても、見た目通りの重さではないから、迂闊に押しのけるのも面倒だ」
「あ、じゃあすずの出番だね。ちょっと待ってね」
辺りに際限なく浮かぶ浮遊岩をよけながら進むネフラの前に出ると、スズリズムは意識を集中して、片腕だけ長い袖口を広げる。
「あまねくくべくべくくべく」
歌うような言葉を口ずさんだかと思えば、広がる袖口に触れた浮遊岩が吸い込まれるように姿を消していく。
「おお、消しているのか?」
「違うよ。実はすず、袖の中にお庭を持っているのです」
興味深そうに覗き込むネフラに応えるように、袖の中からしまい込んだ拳大の浮遊岩を取り出して見せる。
スズリズムのユーベルコードによって作り出された文字通りの庭は、その袖口と繋がっており、抵抗しないものを取り込んで、好きに出入りすることが可能なのである。
取り出した浮遊岩を放り投げると、再び浮遊する力を発揮して空中に留まる。
「こうして、足場にできるくらいの岩を集めていけば、登るのも楽になると思わない?」
「なるほど、確かに。ここから先は、慎重に行った方がいいだろうから、スズに任せよう」
「えへへ、やった」
そうして今度はスズリズムが先導する形になり、時にはネフラの飛行能力も駆使しながら、二人は岩場を渡っていく。
「ねえねえ、ネ姉さん。城って何があるのかな。アイスだといいな」
「アイス? 城の主が好きならもしかするとだが、食べ物の期待はできなそうだよ」
魔法と蒸気機関を合わせたアルダワ魔法学園ならば、気圧差を応用した冷却機構を作るのも不可能ではないだろうが、古代の遺物に近い建造物に果たしてそういうものがあるだろうか。
ただ、アイスに賞味期限は無い。もしかしたらもしかするかもしれない。
「ふ、私も少し毒されてきたかな」
「うん? どうかした?」
「いや……話してると、退屈しないと思ってな」
「へ? ってか、いい匂いする! ミントスイーツ食べた?」
「? いや……」
苦笑を漏らすネフラをよそに、先を行くスズリズムは衝動のままなのか、探索に気を割いているのか、何かに気づいたように岩場を飛び越えて駆け出していく。
足場が安定しないとは先に言っておいたが、今まで以上に軽快な足取りのその様子に、何かを感じたらしいネフラもそれを追いかける。
「見て、ネ姉さん! 花が咲いてる!」
「む、そうか……いや」
立ち止まったスズリズムが見つけたのは、強い芳香を放つ草花が咲く浮遊岩の一つだったようだ。
おおよそ植物が育つような環境ではないように思えたが、ここだけは日当たりなどの環境が揃っていたらしい。
だが、ネフラが言葉を切ったのはそれが理由ではない。
野生に飽かして好き勝手に伸びた草花のその向こうに、大きな建造物の影を見出したからだ。
スズリズムもまた、ネフラの視線を追って、ようやくそれに気づく。
「わ、もうこんな近くにまで来てたんだ……!」
「ああ、天空に浮かぶ城。まだ全容は見えないが……まさに幻想的じゃないか」
草木をかき分け、その全貌を視界に収めようとするが、やはりというか、まだ高度的に足りないためか、その大部分は城を支える地盤のようだ。
とはいえ、その不可思議な光景は、これまでの巨岩地帯より群を抜いて、まさに幻想的だった。
「どうする? ここからなら、持ってる岩とネ姉さんの鎧で飛ぶっていうのも手だよね」
「うむ……いや、一休みしてから行こう」
「へ?」
「思ったよりスケールが大きいからかな。圧倒される。それに……ここは一休みするには丁度いいじゃないか」
言うが早いか、ネフラは柔らかい草の生す岩場に腰を下ろして、近くに生えている爽やかな香りを放つ花を摘んでその香りを楽しむ。
唐突と言えば唐突だが、考えてもみればスズもまた、この香りに誘われるようにしてやってきたようなものだ。
ポカンとしていたのも一瞬、ネフラの隣に腰かけて同じように花を摘む。
「うーん、やっぱりいい匂いがするなぁ。アイス食べたくなるよー」
「袖の庭に氷室でも置いてみたらどうだ? 持ち運びできるかもしれない」
「ああ……いいかも!」
花の匂いに囲まれ、巨大な城の片鱗を望みながら、二人はしばり他愛ない会話に花を咲かせるのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ニコリ・ニッコリ
古代帝国時代のお城って浪漫だよね。大昔の財宝や素敵なアンティークなんてワクワクしちゃう。オブリビオンを倒すのも核を破壊するのも大切だけど、価値あるものが戦いに巻き込まれて壊れちゃったら、世界にとっての損失だよ。ここは、僕が責任をもって持ち帰らないとねー。
とはいえ、まずはお城に入り込まないとね。空を飛べたら便利だろうけど、ボクは飛べないからね。うまく気流を読んでる人を見つけて、その人に素早くついて行こうかな。
アドレイド・イグルフ
(WIZを選択します)
ワタシは飛ぶことは出来ない…先に行くため、岩岩を飛び移って登っていこう……。…まるで宇宙空間じゃあないか?
しかし、重力があるとないとでは…大違いだ。
足場や、岩の上りやすさ……もちろん気流も、ワタシが読める範囲でしっかりと情報収集を行いつつ、クライミングを行おう。
高いところは好きだが……下はあまり向きたくないなア。
足場がなくなっても、次の岩に飛び移れるような距離なら、勇気を出して行く。……下は見ないぞ。上と前を、見る。
見渡す限りに草木と呼べるものはほとんど生えておらず、ひとたび迷い込んでしまえば、景色に惑わされてしまうほどの荒涼とした岩場と空の切れ間しか見えなくなる巨岩群の中に、はるか遠くに影のみを見え隠れさせる天空城を目指し歩みを進める猟兵たちの姿があった。
その登攀は決して他の猟兵と比べて早いものではないが、同時に慎重であるがゆえに危険も少ないものとなっていた。
「ふう……だいぶ登ってきたつもりだが、ずっと同じような光景だと、飽きてしまうな。なあキミ、疲れてはいないかな?」
「ボク平気だよ。これでも体力はあるんだ」
やや顔色が青白く見える長身の女性、アドレイド・イグルフ(スペースノイドのシンフォニア・f19117)が、どこか芝居がかったような声色で気遣わしげに声をかけるのは、彼女の少し後ろをついてくるもう一人の猟兵である。
それに応じるニコリ・ニッコリ(人間のシーフ・f21084)は元気よく満面の笑み、なんなら巨岩を登り始めた頃と何ら変わらない様子である。
体力的には、二人ともそれほど疲れるような事は無かった。
なぜならば、彼女たちが選んできたルートは既にリーキーやレフティが地道な登攀によって、足場や移動を補助する杭やロープを残してあったからだ。
それでもアドレイドはしきりに後ろをついてくるニコリに声を掛けながら、何かと気にかけているのは、彼女が寂しがりや気質でもあるのも起因しているが、ひとえにニコリがまだ小さな子供だからである。
若干十歳の少年とはいえ、彼は立派な猟兵である。それは十分にわかっている。
幼い部分を残しながら、屈強な他の猟兵と遜色ない働きができることは十分に理解しているつもりなのだが、それでもアドレイドは庇護せずにはいられない。
ニコリの愛嬌などといった外面の良さは、まさに愛嬌を振りまくために象られたものである。いわば、自分自身の年齢すらも彼にとっては隙を作らせる武器に過ぎず、品行方正も時折見せる無邪気さも、若干の天然は働くものの多くは打算によるものである。
「しかし、依頼とはいえ、よくもこんな危険なところを選んだなア……」
「そうかな? 古代帝国時代のお城なんて浪漫だよ。大昔の財宝や素敵なアンティークなんてワクワクしちゃう。おねーさんはそうじゃない?」
「うーん……ワタシには、まだ浪漫は感じられないな。お城はまだ遠いし、ここはまるで宇宙空間、暗礁地帯みたいじゃあないか?」
他愛ない会話を交えつつ、いくつかの浮遊岩を渡り、不思議な力で浮かぶ岩の下を潜ったり避けたりしながら、着実に巨岩を踏破していく。
それぞれに育った環境や、そもそも世界が違うというのもあり、お互いの話題には事欠かないが、理解が追い付くかというとそういうわけでもない。
踏み入れる部分には限りがある。
まだ見ぬ古代の建造物に胸躍らせる少年と、隕石群の集積する無重力帯を想起して身も心もブルーになる少女は、無限に続くかのような巨岩群にそれぞれ異なる感慨を抱きながら、ゆっくりと歩を進める。
「ふむ……、道が途切れてしまった。とび越えるしかないみたいだなア」
「うわぁ、けっこう距離があるなぁ……こういうところだけよく見えるのは、困るなぁ」
やがて二人は唐突に断崖のように隔絶された岩間に差し掛かる。
周囲に他の道を探しても登れそうな道は確認できず、少し死線を下げればやや下る方向ながら、飛び移れそうな岩場が見て取れた。
つまりまぁ、飛び降りろということなのだろうが……。
「大丈夫、おねーさん。先に行こうか?」
「だ、大丈夫……下を見なければ……あー見えない。あーみえなーい」
「いやいや、ちゃんと見ないと危ないと思うけど」
発声練習もかくやというようなやたらいい声で喚きつつ自身を誤魔化して勇気を奮い立たせようとするアドレイドを、ニコリはほんわかとした笑みで見守る。
アドレイドが先導しているように見えて、ちゃっかりニコリに誘導されたりと、打算が見え隠れしながらも、それなりにお互いに助け合いながら登攀するうち、二人はほんとうにそれなりに打ち解ける程度にはなっていた。
「よっ、と、は……! よーし、ワタシはやったぞ! 上と前を見ていれば平気だ」
「うんうん、よく勇気を出して跳んだね。えらいよ、おねーさん!」
なんだかんだと意を決して断崖を飛び越えると、達成感に打ち震えるアドレイドにすぐに追いついたニコリがぽんぽんと肩を叩いてその健闘を称える。
それこそアドレイドが意識する間もないほどの早業である。彼女が奮い立たせた勇気などまるで意に介した様子もないところに、少年の中に勇気を見た! というよりかは、若干の腹の黒さを垣間見た様な気がした。
「うーん……少しずつだが、キミという人間がわかってきた気がするぞ」
「えへへ! お宝の存亡がかかってるからね。オブリビオンを倒すのも核を破壊するのも大切だけど、価値あるものが戦いに巻き込まれて壊れちゃったら、世界にとっての損失だよ。ここは、僕が責任をもって持ち帰らないとねー」
すたすたと素早い足取りで先導するニコリは、悪びれる様子も見せず尚も明るい口調で告げる。
言っていることは盗人だが、迷いのない朗らかな調子で言われれば、それはいっそのこと清々しい。
延々と続く岩場に暗鬱とした感慨を抱いていたアドレイドからすれば、障害を楽しんで乗り越えようとするニコリの考えは、尊敬に値するものがあった。
困ったような笑みを浮かべつつ先を歩く少年を追いかけていくと、やがてその道はたいした障害に遭うこともなく、またも断崖のような途切れ方をする。
だが、今度はすぐ目の前に明確な道があった。
「跳ね橋だ……そしてこれが」
「ああ、これが天空城か……」
いつの間にか目の前に出現したような天空城の門。その入り口を示す跳ね橋は既に降りており、どこにも続いていない虚空へと投げ出されたように口を開くそれは、開門していながらも侵入者を拒むかのようにも見えた。
「さあ、また跳ばなきゃいけないね。いけそう?」
「行くさ。子供を一人で行かせるわけにはいかないよ」
意を決して、二人は巨岩を蹴りつけるようにして跳び、跳ね橋へと足を向ける。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『エルフのクノイチ』
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POW : ニンポー・クナイ分身の術
レベル×5本の【の数に分身する毒】属性の【毒の塗られたクナイ】を放つ。
SPD : ニンポー・変わり身の術
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【身代わりにした物】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : ニンポー・房中術
【色仕掛け】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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踏み入った天空城の門を抜ければ、そこに広がるのは緋色の世界だった。
年を通して赤いままなのであろう木々を植え付けられた庭園には、その落ち葉で赤く染まったで敷き詰められ、そこが高度にある城であることを思い出させる風切り音が抜ければ、さらさらと掃くように石畳を拭っていく。
巻き起こる赤と、心地の良い水路を流れる水音。
今までの巨岩に比べて踏み心地のいい石畳も合わせて、なんとも風流ではあったが、人の気配は感じられない。
侘しさを思わせるからこその風流なのだと感じ入る寂滅を味わう一同の進路を遮るかのように、
それはいつの間にか影のように佇んでいた。
物陰から朱が染み出たかのような黒装束に身を包んだ異国の井出達。
長い耳はエルフと呼ばれる種族を想起させるが、手にした黒い得物と剣呑な視線は、明確な敵意を放っていた。
「無粋な侵入者どもめ……。お前たちを、主様の場所まで行かせるわけにはいかぬ──」
生物でありながら美術品のように美しく整った鼻梁に冷たい殺気を滲ませながら、少女たちは武器を構える。
「──排除、開始」
リーキー・オルコル
宝の埋まった城だ
そりゃ敵くらいいるよな
技ってのは心が大事だ
どうやって使うかのな
形だけ真似ても意味はないぜ
細かく移動しながら遮蔽が取れる位置を確保しつつ戦う
目線、体重移動、投げるふりなどフェイントを織り交ぜ
つむじ曲がりの落ち葉を使い
真っ直ぐ飛ぶナイフ、タイミングを遅らせてくるナイフ、軌道が途中で変わるナイフの3種類を使い分け相手の間合いをずらそうとする
「俺のナイフは速いからね
お前にはなにもさせないぜ」
相手スレスレにナイフを投げ込み軌道を憶えさせた後で
目の前で曲がるナイフを投げたり
タイミングを遅らせたナイフを数本投げた後で速いナイフを投げたりして敵を惑わそうとする
必要なら仲間をサポートする
レフティ・リトルキャット
※詠唱省略やアドリブOK
風流にゃねぇ。ごろごろしたいにゃ。それはさておき。
ここは、15代目様が繋いだ縁【キャット・ドール】でいくにゃ。
子猫に変身した僕は、猫ラブな乙女サキュバスにゃんを召喚し、乙女サキュバスにゃんの応援を受けて自身を超強化。髭感知で動きを見切り、肉球や爪で攻撃を受け捌き、肉球バッシュや猫ぱんちで反撃するにゃあ。更にサキュバスにゃんの「猫限定の着せ替え魔法」で敵の感情を揺さぶり隙を作るにゃあ。
色仕掛け、20年もの子猫生活に乙女サキュバスにゃんの着せ替え魔法や魅了ブーストされたねこじゃらしで遊ばれる日々に比べればまだまだにゃ。普通じゃない猫じゃらしやマタタビでも持ってくるんにゃね。
ニコリ・ニッコリ
やっと着いたよー!ゆっくりお茶会をしたくなるような、素敵な場所だね。お城の中にアンティークの茶器なんかがあったらいいけどなー。古代帝国の食器ってどんな感じなんだろ?
でもまずは、お城の中に忍び込むために敵を倒さないと駄目みたいだね。あんまり戦うのは得意じゃないから、味方の支援をするために沢山の妖精型の炎を使って、出来るだけ多くの敵を攻撃するよ。致命傷を与えるためじゃなくて、炎に意識を向けさせて集中力を削ぐための攻撃だね。わざと相手の視線に入らせたり顔の近くでクスクス囁かせたりしながら攻撃するよ。
降りたまま錆び付いてしまった城門の跳ね橋からびょうびょうと風を切る音が聞こえる。
巨岩を渡る時にも聞いた風の音が、荒涼とした岩場の光景を思い起こすが、この庭園はその風すらも風景の一つとしてしまうほどに美しい。
「やーっと着いたよー。ゆっくりお茶したくなるような素敵な場所だねー」
「う~ん、風流にゃねぇ。ゴロゴロしたいにゃ」
「確かに、写真に撮って絵ハガキにでもしたいとこだぜ」
勝手知ったるというわけではないが、踏み入るための大義名分を手にした猟兵たちは目の前の光景にそれぞれの感想を述べつつ、油断なく周囲を観察している。
ニコリ・ニッコリは朗らかに微笑みつつ背筋を伸ばし、
レフティ・リトルキャットもつられるようにほうとため息をつけば、
リーキー・オルコルもまた素朴な感想を漏らす。
「手紙なんて送る相手が居たんにゃねぇ」
「おいおい、何気に失礼じゃねぇか?」
「あはは、でも画角に収めたくなる気持ち、僕にもわかるなぁ。
この庭、建物を見れば、誰だってワクワクしちゃうよ。
お城の中にアンティークの茶器なんかがあったらいいけどなー。古代帝国の食器ってどんな感じなんだろ?」
他愛ない雑談の中にありつつ、少年らしからぬ観察眼と価値観を覗かせるニコリのはしゃぎように、一応年長組の二人は少しだけ渋い顔をする。
だがほのぼのとした時間もすぐに終わりを告げる。
ひと気の感じられない庭園の中に、いつのまにか張り詰めた空気がこもり始めていた。
赤木とその落ち葉で朱に染まる石畳に風が吹き抜け、かさかさと乾いた羽音を奏でれば、巻き上がる落ち葉の飛沫に佇む異国の装束がいくつか並んでいた。
緊張が猟兵たちの脳裏を冷たいもので撫でつける。
「まあ、だろうな。宝の埋まった城だ。そりゃ敵くらいいるよな。……にしても、なんだありゃあ。コスプレか?」
「アイエッ、くノ一だにゃ!」
警戒しつつも、帽子に手をやりつつ呆れたように嘆息するリーキーと、わざとらしく驚いて見せるレフティ。
特にリアクションは見せないものの、笑みを抑えぬまま腰をやや落として備える姿勢のニコリは、もはや10歳の面持ちとは思えない。
「無粋な侵入者どもめ……お前たちを、主様の場所まで行かせるわけにはいかぬ……」
静かな怒りを湛えるクノイチは手に手に黒塗りの暗器を帯び、冷たく鋭い殺気を猟兵たちにあびせてくる。
ざわりと肌が泡立つような感覚に身構える一同を制するように、リーキーが一歩前に出ると、帽子の位置を直すようにつばを指で切りつつにやりと口角を上げる。
「随分とご執心じゃねぇか。そのコスプレは、おたくのパトロンの趣味かい?」
「貴様──っ!?」
煽るような口上に合わせて、反応したクノイチの一人を牽制するようにリーキーの手元から滑るようにナイフが擲たれる。
機先を制し、相手の心理を巧みに利用し放たれたナイフは、しかし激昂したクノイチの頬を掠めるだけにとどまった。
「おっとぉ、外しちまったか。だが──次は外れない」
銃のジェスチャーで撃つような仕草を向けながら、リーキーは他二人を放り出すようにして一人道を外れて並木道の方へと駆けていく。
先手を仕掛けて牽制の手があるのを見せつけつつ、身を隠すということは、不可視の位置から奇襲をかけられるということでもある。
それと同時に戦力を分散させて、攪乱させるという理由もあったのだが、先に精神を逆撫でされたクノイチはそれどころではなく、
「待て!」
まんまとリーキーの誘導に乗って追いかけてきた。
赤木の陰から複数のナイフが飛んでくるのを、くノ一は手にした暗器で叩き落す。
「そんなものが当たるものか!」
「俺のナイフは速いからね。お前には何もさせないぜ」
お互いがお互いの姿を見ないまま、風を切るナイフの音だけが飛んでくる。
馬鹿な、とクノイチは鼻白む。
なぜお互いに見えない位置に居る筈なのに、ナイフを投げる音が聞こえるのか。
ただの牽制だというのか。それを考える間もなく、クノイチの腿に鋭い痛みがはしる。
直線上にリーキーは居なかった。ナイフを投げて刺さるような場所ではなかった。
いつの間にか死角に回り込まれたのか?
「くっ……!」
とにかくこの場所に居ては危険だ。そう判断し、クノイチは並木の陰から飛び出すが、そのタイミングを見計らったかのようにリーキーもまた木の陰から飛び出していた。
目が合う。擲たれるナイフ。
流石に見えていれば、それは脅威に成り得ない。先ほども撃ち落としたばかりだ。
奴のナイフの軌道はもう見切った。もう一度叩き落せばいい。
本当にそうだろうか?
ふと湧いた疑問に心がささくれ立つものの、自身の技量に任せるまま、クノイチの暗器は、リーキーのナイフの射線上を塞ぐ。
が、その軌道は暗器に触れる前に折れ曲がり、黒塗りの暗器は空を切れば、曲がったナイフはその切っ先をクノイチの喉元へと食らいつかせる。
「ぐっ、がっ!? あ、は……」
ユーベルコード【つむじ曲がりの落ち葉】によって複製されたリーキーのナイフは、その意志の赴くままに軌道を変える。
「技ってのは、心が大事だ。どうやって使うかのな」
リーキーの意志によって複製されたナイフが霧のように消えると、傷口からは血が溢れ、クノイチは膝を折る。
致命的な線と気道を切り開かれた喉からは、空気の漏れる音が悲鳴のようにひゅうひゅうと無意味な呼吸を繰り返す。
「言ったろ。次は外れないって。俺はとっても素直なのさ」
仲間の元へ戻るべく背を向けるリーキーを引き止めるように、クノイチは血だまりの中で手を伸ばそうとするが、震えるその手もやがて力なく血だまりに沈み動かなくなった。
一方のレフティとニコリはというと、二人のクノイチに囲まれ、じりじりと間合いを詰められつつあった。
「うーん、僕はどちらかというと、喧嘩は苦手なんだけどなぁ。猫さんは、何か手はあるの?」
「うぬぬ、気が進まにゃいけど助けを呼ぶアテがあるにゃ。けど、ちょっとしたお時間が必要になるんだにゃあ……」
「ふぅん……じゃあ、その時間を稼げばいいんだね」
まさに猫の手も借りたい状況、レフティが冷や汗にべったり濡れつつある毛並をぺろぺろと舌先と手で撫でつけつつ油断なく視線を巡らせていると、ニコリは思い立ったように両の手で火種をはぐくむようにして小さな火の玉を生じさせる。
「何をするつもりだ。子供や猫と言えど、容赦はせぬぞ。だからその、早く帰った方がいいんじゃないのか?」
「いや、生かしては帰さぬ。たっぷりモフモフした後、皮を剥いでくれる」
子供や子猫の姿をしているとはいえ猟兵。得体のしれない力を感じる相手を前に攻めるべきか帰ってくれるまで威圧すべきかという、妙に人の好いところのあるクノイチたちは、ニコリの手の内に生じる火に改めて身構える。
と、危機感が勝り攻撃に転じようとしたその瞬間、ニコリの手の内から灯された火が消える。
「なんだ、驚かせる……むっ!?」
拍子抜け、と気を抜いたクノイチの視界の端を何か光るものが横切った気がした。
そして、すぐ背後でくすくすと含み笑いが聞こえ、慌てて振り向くと、それは居た。
揺らめく炎。手のひらほどのそれは、トンボの翅を生やした少女の姿をした炎のようだった。
「くっ、なんだこれは」
思わずクナイでそれを切り裂くと、炎でできた妖精はあっさりと掻き消える。
だが、妖精は他にもいるようで、またも耳元で笑い声が聞こえ振り向くと、
いつの間にか辺り一帯を囲うようそこら中に火でできた妖精が飛び交っていた。
「ね、この子達可愛いでしょ?もっと近づいて見てごらんよ」
乾いた様な上っ面の笑みの後ろで枯葉が風に巻き起こり、妖精が息吹を与えたかのようにそれらに火が燃え移る。
一つ一つは小さな火が、風と共に燃え上がって火の嵐のようにクノイチたちに襲い掛かる。
それはたいした威力を持たないものの、触れることを躊躇させるには十分な迫力を持っていた。
「さ、これで時間は十分でしょ?」
「ありがたいにゃ。こっちも準備は完了。15代目の縁、イグニッション! キャット・ドール!」
人懐こく笑うニコリに末恐ろしいものを感じつつ、次は自分の番とレフティがユーベルコードを起動させると、どこからともなく謎の煙が生じ、その中から、
「キャー、猫ちゃーん! 会いたかったぁーん!」
黄色い声と共に現れたサキュバスによってあっという間に拘束されたレフティはあらん限りの愛撫にも似たモフモフ堪能の刑と暴力的な猫じゃらしに両の頬を殴打され、当の本人は物凄く迷惑そうに眉根を寄せる。
「イタイイタイイタイイタイ……わ、わかったから、後にするにゃ! 今はそれどころと違うにゃ。アレを頼むにゃ!」
冒涜的な愛情表現に辟易しつつも要件を告げると、それを聞き受けたサキュバスは名残惜しそうにレフティを開放して、おもむろに指を鳴らす。
すると、またも謎の煙が現れ、レフティを包み込むと、次の瞬間には羽根つき帽子とレザーブーツに身を包んだどこかの賢そうな直立する猫を彷彿とさせる服装に変わっていた。
「さあ頑張って、猫ちゃん。とっておきの一張羅よん!」
「感謝するにゃ! うみゃあっ!」
魔法の装束とサキュバスの鼓舞により身体能力を大きく強化されたレフティはその小さな体を躍らせて、火の嵐を抜けたクノイチに飛び掛かる。
火にまとわりつかれていたとはいえ、迎え撃つクノイチはクナイを構えるだけの余裕こそあったものの、飛び掛かってきたレフティの姿に一瞬だけ心を奪われてしまう。
「ふん、こんな見掛け倒しの炎など……うわ、かわゆ」
「とりゃあ!」
「ぶぐわぁっ!?」
気が付いた時には、視界いっぱいに巨大化した肉球の掌底が打ち込まれ、クノイチの一人が地面に打ち付けられる。
そしてもう一人はといえば、仲間が一瞬にしてやられたことなど忘れ、こちらもレフティの姿に一瞬心を奪われたものの、すぐに正気を取り戻してその背後を襲おうとする。
だが、
「一瞬止まれば、十分だよ」
「な、があっ!?」
火の妖精が覆いかぶさるようにして、クノイチの顔面に組み付く。
相手を焼き尽くすような強力な炎ではないが、気道を通じて鼻や喉へ入り込んで粘膜を焼く、生きる火を生物相手に最も厄介な使い方で動きを封じるのは、低い火力を補って余りあるえげつなさであった。
「そんで、二拍もあれば、命も取れるんだよなぁ」
さらにダメ押しとばかり、急所にリーキーの放ったナイフが突き刺さると、クノイチは崩れ落ち、黒い霧となって消えていく。
唐突に戦場を移したかとおもえば、戻って手助けとばかりとどめを持って行ったリーキーは、ニコリやレフティに目を向けられると、
「逃げたわけじゃないぜ? これも戦略さ」
軽薄な笑みを浮かべつつ肩をすくめるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コイスル・スズリズム
引き続きネ姉さん(f04313)と参加
アドリブ歓迎
頼りにさせてもらいます、姉さん
NINJA!ってやつだね
じゃこっちも戯れに
範囲攻撃をのせた残像で複数の残像を作る
本体は「目立たない」と「学習力」「情報収集」「見切り」を用いて
ネ姉さんと残像が戦ってる相手の攻撃をしっかり確認
一通りチェックしたら
吸い込めそうだな
今度はこっちの番だね
ネ姉さんを狙った相手攻撃の前へ走ってく
「高速詠唱」で
『テクノブルース』
袖口へ吸い込んだわ
返す刀で相手に「二回攻撃」「全力魔法」
うまく決まったら勢いにのりつつ「二回攻撃」「全力魔法」
すずもネ姉さんの戦い方も
なんか相手から奪ってばっかりだね
この調子でお城のお宝も奪えそうかなっ!
ネフラ・ノーヴァ
アドリブOK。真の姿は赤い瞳。
引き続きスズ(f02317)と同行。
「エルフのニンジャ?サムライエンパイアであるまいし。コスプレか。」
隔絶された天空城とあれば、動く全身鎧といったカラクリを想像していたが。
だがこれ幸い。その血を頂こうか。
基本は接近、フェイタルグラップルで掴んで離さず、刺剣で大腿の出血を狙う。よく詰まってそうじゃないか、吸収させてもらおう。
飛んで来るクナイはスカートを翻して払い退けるが、スズのユーベルコードも頼ってみよう。
さて、城内の方は何かめぼしいものはあるかな?
アドレイド・イグルフ
退廃的な空間に…エルフ!だがニンジャ!?そう、きたか……格好いいな…!!
後衛で弓での援護射撃を行う!仲間が投擲物で被弾しないように、狙撃して撃ち落とす…!
こちらにターゲットが移れば、逃げながら戦うぞ…敵の間合いには入りたくないからな…!敵もワタシの間合いには入りたくないだろう…。……おそろいだな…!?
さて…ニンジャが平らな地で戦い続けるか…?思わぬ奇襲には警戒したい……
敵を目で追うことを忘れずに、見失ったら身を隠せそうな建造物に気を配ろう……情報収集はしっかりと、だ…
どこか遠くの庭でごうっと、火柱が上がったのが見えた。ような気がした。
「なるほど、あちらでも似た様なのが現れたのかもしれないな……」
戦闘の気配を傍目に、しかしすぐに目の前の障害へとネフラ・ノーヴァは向き直ると、かすかに眉を顰める。
「侵入路を変えたとて、同じこと……。ここへ踏み入ったことを、後悔させてやろう」
庭園の片隅は、城の日陰に隠れるようにして佇む離れのような館を見つけたところ、不意に人のような気配がこちらを察知したという訳だ。
吹き抜ける風に巻き上がる落ち葉。それに紛れて登場した異国の装束のエルフたちを目の当たりにして、ネフラは軽く頭痛を覚えたのである。
「ワーオ、NINJA!ってやつだね。西洋風の城にしちゃ、庭園が寂しいと思ったら、そういう演出なんだねぇ」
木枯らしと共に現れたクノイチたちの物言いなど意に介した風もなく、恋する・スズリズムは感慨深げに周囲を見回し、うんうんと一人納得したように首肯する。
「エルフのニンジャ? サムライエンパイアであるまいし。コスプレか」
「ここへやってくる数少ない侵入者の誰もが、皆揃ってそういうことを言う。そして、そういう奴らは、後悔と共に死んだ。我らの忍術を侮ったためにな」
訝しむネフラの言葉が気に障ったか、離れた位置からクノイチの一人が手元の暗器を振りかぶる素振りすら見せずに投げつけてくる。
さすがに真正面からの攻撃に反応できないということはなかったが、それでなくとも、飛来するはずのクナイはネフラに届く前に横合いから撃ち落された。
「ふむ、クリスタリアンに人間の魔術師……それに、エルフの忍者? どっちが敵だ?」
高所から撃ち込まれ、石畳に突き刺さる矢を見下ろす形で言葉を投げかけたのは、天空城を囲う城塞の一つから身を乗り出して構えた弓に新たな矢をつがえるアドレイド・イグルフだった。
「判断を下す前に撃ったのか? 豪気だな。そういうキミは、宇宙生まれのように見受けるな。その青い顔には、覚えがある」
「なるほど、それなら信用できるな……。じゃあ、そっちの忍者軍団が敵ということかな……はは、こんなところでエルフ、忍者! そう来たか……格好いいな!」
仮にも猟兵同士、通じるものはあるとはいえ、弓を向けられながらも冷静に応対するネフラを信用したらしいアドレイドは、なぜだか退廃的な古城にエルフの忍者というワードにいたくテンションが上がってしまったらしい。
そのテンションのまま放たれる矢は、高所ということもありクノイチたちの動きを制限するものとなった。
「くっ、なんなんだあの弓使いの女は……!」
「すごい声量……きっと、名のある歌手に違いないよ、ネ姉さん!」
「そうかな……聞いたことがないんだが……」
どうやら敵味方をちゃんと判別して撃っているらしい矢の雨を傍目に、なぜかスズリズムも目を輝かせているのがよく理解できないネフラは、それでもこの機を逃すまいと刺剣を抜いて戦闘態勢に入る。
ちなみに故郷でのアドレイドは、たしかに優しく人に寄り添うような美しい歌声の持ち主だが、テンションが上がり過ぎるとハチャメチャになってしまい自らのステージを破壊してしまうことである意味有名だったりするのだが、そこいらの界隈にあまり詳しいわけではないネフラは知らない世界である。
閑話休題。
戦闘態勢に入ったネフラの瞳は、翠玉のような美しい緑色が血の色に染まり、その視界をもレッドアウト。
それが当たり前の世界のように色彩を失い、その代わりに際立つのは生物の脈打つ感覚。
驚くべきことに、血の通いを意識するほどに、彼女の視界は他者の血の巡りすら見透かしてしまう。
それはしばしば、予知のように行動の兆しを読むに足り、虫の知らせのように機を想起させるのである。
「さて、舞台を用意してもらったからには、応えてやらねばならんな」
「頼りにさせてもらいます、姉さん」
刺剣を顔の前に、まるで口づけする様に構えると、その傍らにスズリズムが少しぼやけた様な姿で付き従う。
それを見やれば、不思議なことに血の巡りが感じられない。が、やや後方を見て納得する。
同じような姿のスズリズムが複数人。なるほど、残像を幾つも残す幻術のような魔法らしい。
「ならば、付いてくるがいい」
そうして二人は複数人となって素早くクノイチたちに肉薄する。
クノイチたちと言えば、アドレイドによる矢の牽制によって、ほぼ攻勢に転ずることもできなかったようだ。
「ふん、そちらから近づいてくるとはな!」
「あ、まってまって、こっちが相手するよ!」
「む、なんだ!?」
素早い踏み込みで肉薄するネフラに向かって一斉に飛び掛かろうとするクノイチとの間に割り込む様に、スズリズムの残像が滑り込む。
咄嗟にクノイチが手にしたクナイで斬りつけるが、手ごたえは無く、残像はあっさりと霧散する。
だが、すぐに次の残像が姿を現す。
「あー残念、そっちは偽者だよ! こっちこっち! あー、そっちも偽者! 惜しかったねぇ!」
クナイの一閃、或は格闘、毒を塗ったクナイを投げつけるなどの攻撃を加えるも、わらわらと消しては新たに現れるその幻影の中に、スズリズムの本体は一つも存在しなかった。
そしてクノイチたちが彼女の幻影にてこずっているうちに、やがてそのうちの一人が、首を掴まれる。
「分身、という訳ではないようだな」
紅く光彩を放つネフラの瞳が、細腕からは想像もつかない膂力で以てクノイチの身体を持ち上げる。
こちら側も幻術を使ったことから、忍者である相手側もそれを使っている可能性も考えたが、実際に手を出してみれば、そういうわけでもないようである。
それでなくとも、隔絶された天空城とくれば、出てくるのは動く全身鎧や人食い箱などといったカラクリめいたものを想像していただけに、ネフラの視界の中で脈打つ命の息吹は紛れもなく生物のそれだ。
「だがこれはこれで幸いだ。その血を頂こうか」
「あ、が、あぁ……」
戦好きのする加虐の笑みとともに、露出した太ももに愛用の刺剣を刺し入れていくと、その剣の魔性がクノイチの体内に流れる血液を啜り上げ奪っていく。
血は魂の対価、体温、生命そのもの。
それが吸われるたびに、クノイチの全身からは熱と共に存在そのものが奪い取られていくようなおぞましい感覚に襲われるが、拘束を逃れようにも、ユーベルコードにより掴み取られた首は、どうやっても外せない。
「う、ぐ、い、いやだ、いやだ……」
命が、存在が奪われていく、その喪失感に耐え切れず、クノイチはネフラの腕をつかみながら、その手の力すら失われていくのを涙をこぼしながら成す術もなく見送るしかできなかった。
やがて完全に脱力した亡骸を引き払うように投げ捨てると、当然のようにネフラの周囲に殺意が覆っていた。
同胞を惨たらしく殺されたのならば、そういうこともある。
当然の事のように迎え撃つ姿勢のネフラに、一斉に擲たれるは毒のクナイ。
「うふふ、それはもう見たよ」
いつからそこに居たのか、ネフラの傍に寄り添うようにして、スズリズムが自らの袖口を広げていた。
いつから。それは最初から。幻術による残像を作り出してから、自らは認識から外れるようにしてネフラの傍にいながら、幻影が受ける攻撃を見て、学び、見切っていた。
全ては、ネフラに一斉に攻撃が向く瞬間のために。
「寒いよになるべるが想像するよな華やぐ川渡るその時,」
歌うように涼やかな詩歌を紡ぐスズに呼応するように、袖口から延びた夜空のような黒い空間が、飛び込んでくるクナイを吸い込んでしまう。
「馬鹿な
……!?」
「それじゃ、お返しするね」
ぱちん、とウインクするとともに、吸い込んだクナイが今度は逆にクノイチたちに向かって射出される。
擲たれた時と同じスピード、同じ数だけ。
それらは正確にクノイチたちに帰るように撃ち返された。
急所を狙ったものは急所に、末端を狙ったものはまたそのように。
カウンター気味に撃ち返されたクナイは、ほぼ一撃でクノイチたちの命を奪ったが、ある意味で一撃で死ねた者は幸運である。
忍者が使う毒は様々であるが、その殆どは自然毒を応用したものであり、刃に塗った程度で即死するような毒は稀で、いわゆる神経毒のようなものは少ない。
たとえばクサリヘビなどから抽出できる出血毒を用いれば、傷口が凝固せず出血が止まらなくなるなどもあるが、
今回のクノイチが用いたのは、イラクサに含まれるギ酸やハンミョウに含まれるカンタリジンなどといったものであったらしい。
簡単に言えば、これらが傷口に触れると激痛を伴う。
「ぎゃああっ、ああ、嘘、嘘……こんな、ことって……」
足に突き刺さったクナイとその毒に悶絶しながら、クノイチは恐怖と苦痛に顔を歪め、更に血の滴る剣を手に迫るネフラを目の当たりにして後ずさる。
そのすぐ隣では、同じように体に毒のクナイを受けて、その激痛に身体を跳ねさせる同胞が、飛来する矢によって今しがた動かなくなった。
終わりだ。このままでは、全滅してしまう。
「い、いやだ……死にたく、また殺される……」
痛みを訴える足を引きずるようにして逃げ惑うクノイチの背中に、更にアドレイドの放った矢が突き刺さるが、急所は逸れたらしい。肩口を矢で貫かれたまま、クノイチはそれでも必死に城の中へと逃げていく。
「参ったな、仕損じてしまった……」
城塞から降りてきたアドレイドがクノイチの逃げた先を遠くに見やりつつ、ネフラ達に合流する。
「あえて急所を外したんだろう。あの手傷で案内役を頼むとは、なかなか酷いことをする」
「あ、そっかぁ! あれだけ出血していれば、追いかけるのもそう手間じゃないね」
戦闘態勢を解いて納刀するネフラが肩をすくめて見せると、スズもまた感心したようにぽんと手を打つのだった。
アドレイドも、ただ援護の為に無鉄砲に矢を放っていたわけではなく、この後の事を一応は考えていた。
彼女たちがこの城を占拠していたとは考えにくかったし、だとするならばクノイチたちの上役というのが確実に存在し、それはこの城を支配している者かもしれないし、それに通じることには違いない筈だからだ。
アドレイドなりに状況と城を観察し、その結果として判断を下したのだが、この冷静さを保っていれば、城に入った時点で同行していた猟兵とはぐれることもなかったはずだが、彼の事はまたあとで考えるとしよう。少しだけ腹の黒い彼のことだ。きっと無事である筈だろう。
さて、残すは、クノイチの遺した痕跡から、城の主へ通じる道を辿るだけだが……。
「よし、次を探す目途も立ったことだし、少しこの建物を見ておこうか」
「そうだね。すずもずっと気になってたんだ」
追跡に移ろうとしたアドレイドの意図とは異なり、ネフラ達二人は城の陰になるような館が気になるようだった。
「え、追わないの……?」
「この城の、何らかの遺物があったら、それはそれで気になるだろう。気にならないか?」
「えぇ……」
「アドレイドさんも一緒に探そうよ。それから、歌の事も聞かせて! すず、気になってることがいっぱいあるんだよ」
「うーん、そう言われると……まあ、追いかけるのは後でもできるかなア……」
後ろ髪引かれるものはあるものの、歌の話を出されると好奇心の方が勝ってしまう。
結局、誘われるままに三人一緒になって、離れの館──城の使用人が使っていたような建物の探索に移る事にした。
「さて、なにかめぼしいものは見つかるかな」
「うふふ、そういえば、すずもネ姉さんも相手から奪ってばっかりだね。
この調子でお宝も奪えそうかな!」
「やってること、完全に盗賊だな……!」
ちなみに、使用人の館にはそこかしこに生活の痕跡が残っており、どうやらクノイチたちが暮らすのに使っていたようであった。
高級そうなものは見当たらなかったが、使い込まれた食器類などの一部は、格式の高そうな古風の意匠が興味深いものだったようだ。
お宝としてはイマイチなものの、普段使いにはとてもよさそうなものだけに、持っていくかどうかはかなり悩んだらしい。
大成功
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第3章 ボス戦
『『孤独の錬金術師』アルキテクトゥス』
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POW : BOOST AXE
【魔法で加速させた右腕の斧】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : SPIDER GOLEM
レベル×5体の、小型の戦闘用【クモ型のゴーレム】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ : TARANTULA
【背嚢の中に格納した各種素材】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【クモ型の魔法生物】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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薄暗い広間に通ずる両開きの扉が弱々しく開かれると、湿った布を引きずるような音がその付近で倒れて止まる。
もはや立ち上がる事すらできないほど衰弱した身体を引きずるようにして冷たい床板を掻くと、クノイチの血の気の引いた顔に僅かな希望が刻まれる。
「あ、主様……力及ばず……申し訳ありません……」
法衣の男が、傷だらけのクノイチを抱き起す。
この男こそが、城の主である孤独の錬金術師アルキテクトゥス。
冒険者として、かつては仲間と共に世界を駆け巡ったのも、もはやどれほど昔の話になろうか。
裏切られ、一人絶望の淵に立たされたかの者に残されたのは、復讐の二文字だった。
放浪の末に偶然が重なり、半ば事故同然にたどり着いた天空城。
人が迷い込む事は珍しくなかったらしいこの城には、既に先客のクノイチたちが居た。
彼女たちもまた、事故によって死の淵を彷徨い、気が付けば城に居たという。
古代の城ということもあり、ここは宝の山だった。
だが、その殆どの価値を知らないクノイチたちは、彼にとって邪魔者とも言えたが、共に生活するうち、城の機能や生活の術を共有するうちに、懐かしくも思い始めるようになった。
彼女たちもまた、一度は存在を否定された存在。言うなれば、捨てられた自分と同じようなものだった。
同情など欲しくはなかったし、彼女たちもそうなのかもしれない。
いつしか長い共同生活を送るにつけ、城の機能を使いこなせるアルキテクトゥスは、主と慕われるようになった。
それは悪い気分ではなかったし、それ以上に……同じ痛みを知るからこそ、今度はうまくいくかもしれないと思った。
復讐を忘れたわけではない。いつか彼らを見返すために、自分は存在するのだと信じて疑わないし、それを遂げるために十分なものはここにある。
だがもう少しだけ、この安穏を享受してもいいと思っていた。
そんな矢先に、雲の防壁が突如として機能を失った。
嫌な予感がした。そしてそれは、真実味を帯びることとなった。
大切な仲間を失うという、嘗てとは違う、同じ痛みを伴って。
「にげ、逃げれば、こうなる前に、逃げればよかったんだ……僕の事なんて放っておいてさ……あいつらみたいに、僕を捨てればよかったんだ……」
身勝手なことを言っているのは解っている。
何しろ、侵入者がきたら殺せと命じたのは、他ならぬ自分自身なのだ。
そんな自分が、裏切れと言ったのだ。人生何が起こるかわかったものじゃない。
「そんなことを、仰らないで……。貴方を置いて、行くことなど……」
息がずいぶんと薄くなったクノイチが、絞り出すように言葉を紡ぎ、手を伸ばす。
そうだろう。そうなのだ。彼女たちの誰もが、こういう答えを持ってくることを、アルキテクトゥスは知っていた。
彼女たちは自分を裏切れない。それを知っていたから、無茶を聞いてくれると信じていた。
それがこのざまだ。
ならば、彼女たちに、自分に対する罰とは、自分が成す事とは何なのか。
「……僕と一緒に戦ってくれるか?」
「……この上ない、名誉です」
黒い髪が張り付くほどの脂汗を滲ませるクノイチの額を拭ってやりながら、痛みに耐えるような顔で、アルキテクトゥスは魔術の篭められた石を宛がう。
くぐもった悲鳴。
もんどりうつ肢体にもはや人の意志は無く、魔石が埋もれていくその体は灰色にくすんで別のものに変質していく。
やがて人の皮を脱ぎ捨てて体を起こしたのは、もはやクノイチのそれではなく──、
八つの脚を支えに立ち上がる蜘蛛を従えて、絶望と憤怒を湛えながら、孤高の錬金術師は、猟兵、或は冒険者に近いそれを迎え討つ。
コイスル・スズリズム
ネ姉さん(f04313)と引き続き
アドリブ大歓迎
それこそ、文字通り
あなたたちの城
いや、この場所こそが、宝?
を、荒らす
“賊”の気分
袖口から取り出すのは
錬金術師のあなたへ
魔法学園の生徒として、敬意を払った
私の本気。ドラゴンランス
初手で範囲攻撃で残像をまいた後
本体は常に10m以上の距離をとって動く
攻撃はUC。指定する対象は敵、「すべて」
ネ姉さんの攻撃って、痛そうだわ、いつも……。
防御は「テレビウムグミの袋で武器受け」
これはただの貰ったグミの食べ終えた袋だよ!とネ姉さんに笑って
魔法を極めるとグミの袋で防御できる
錬金術師さん、外の世界もけっこうおもしろいものあるでしょ?
心配しなくても
中身はもう、食べたわ
ネフラ・ノーヴァ
アドリブOK。真の姿は赤い瞳。
引き続きスズ(f02317)と同行。
私自身、善人より悪人だと思っているが、そんな目で見られると私が極悪人のようじゃないか。
術師の得物に合わせて近接、刺剣を繰り出そう。
「復讐が望みか、恨む相手が血に沈めば満足か?このように
...。」
言って自ら刺剣で腹を刺してドレスを赤に染めれば、UC「瀉血剣晶」とし、赤い刃を振るう。
ふむ、私がスズにあげたグミはいたって普通のものだったつもりだが、どうもそうではなかったらしい。
さて、核の破壊が目的だったが、壊れたら城が落ちるとかはないよな?
その時はまたストレリチア・プラチナを纏ってスズを抱き、ゆっくり降りていこう。
ぎちぎちと、金属が擦れるような音が大きくなる。
クノイチたちとの戦いが一段落し、城の探索をしながら彼女たちの残した痕跡を辿っていたネフラ・ノーヴァとコイスル・スズリズムは、聞き慣れない騒音を聞くようになる。
それは痕跡を辿るほどに近くなり、人やそれとは異なる生物の鳴き声とは大きく違う、かといって人工物の城の機構、或は自然現象が城に作用する天然の現象とも……そのいずれとも異なっていた。
例えるならばそれは、金属や鉱物がぶつかり合うような不規則な、刃物を研ぐようでもあり……。仮にもしも、生物の表皮が金属のようであったのなら、躍動するたびにそのような音を立てるのであろうことが、肌をなぞるような冷たい敵意と共に二人の感覚を剣呑なものにしていた。
これが、この先に待ち受けているこの城の支配者なのだろうか。
聞いていた話とは少し異なるような気がするが……。
警戒の度合い深めた二人は、お互いに目配せをすると、意を決してひときわ大きな扉を開いた。
「想定より遅かったな……侵入者どもめ」
今や独りになってしまった孤独の錬金術師アルキテクトゥスが、敵意の篭もった目を向けてくる。
城の支配者というには、痩せて煤けた法衣の姿はみすぼらしくすら見えるが、尋常のそれではない輝きを湛える双眸は、なるほど確かに人というには外れたものを持っているようであった。
その瞳の奥に燃えるのは、復讐だろうか、或は義憤であろうか。そんなことはどうでもいい。
「ひどい面構えだ。私自身、善人より悪人だとは思っているが、そんな目で見つめられたら、まるで私が極悪人のようじゃないか」
今までにいろいろな目を向けられてきたし、色々な目をした相手を屠ってきた。
ネフラにとって、相手の思惑など然したる問題ではない。だいたいは、行動の指針が多少異なる程度で、戦う上で大きなアドバンテージになるほどの意志を持った相手には、すでに存在から異なる威を帯びているものである。
侮るわけではない。ただ、余裕のない相手には違いない。
ネフラは一目見て、そう判断した。
「そうだな。僕をさんざん利用して捨てていった連中も、そういう目をしていた。極悪人というのなら、そう見えているのかもしれないな」
瞳に浮かぶ静かな怒りはそのままに、アルキテクトゥスは穏やかな口調でネフラの言葉に応じる。
それが冷静かどうかは判断がつきかねるが、
「ネ姉さん、危ない!」
横合いから殴りつけるような暴風のような何かを、後ろに控えていたスズリズムが袖から伸ばした槍が弾く。
奇襲に失敗したらしい銀色の暴風が質量を伴って跳び退くのと入れ替わるように、スズが前に出てそれと改めて対峙する。
アルキテクトゥスを守るようにして佇むそれは、まさに金属で編み上げられたような八本脚の虫、蜘蛛の形をしていた。
人の身の丈をゆうに超える大きさと、いかにも作りものであるかのように金属の光沢を放つ造形は、まさに生まれたばかりのような真新しさとは別に、わずかに表皮のように被さっていた布が零れ落ちる。
それはクノイチたちが身に着けていた共通の異国の装束のようにも見える。
いや、これが猟兵たちが敢えて手傷を残して逃がしたクノイチの最後の一人だとするならば、なるほど、確かに彼は独りになってしまったというわけだ。
「──それこそ、文字通り、
あなたたちの城、
いや、この場所こそが、宝?
を、荒らす……。
“賊”の気分」
もはや、敵対していたクノイチの彼女たちもまた、彼の住みかとして選ばれたこの城の生活の一部となっていた。
彼の怒りも尤もだとは思う。
死に際のクノイチを、そんな風にしてまで使おうというのは、彼なりの或は彼女なりの意志の表れなのかもしれない。
スズの詩歌のような言葉が、どこにでもいる少女らしいあどけなさを奪い、魔法学園に通う魔術師、戦う者のそれへと変じさせる。
握りなおすドラゴンランスに、咄嗟の防御のそれではなく、錬金術師への敬意という志が宿り力となる。
オブリビオンである限り、それは倒すべき敵に他ならない。
だが、それでも、過去に何かを残したからこそ、彼らはオブリビオンになる。
その善し悪しはともかくとして、おおきな存在であることに違いはない。
だからこそ、スズは自分自身を彼の前でこそ試したくなる。
ざわりざわりと、スズの輪郭を示す像がわずかに歪むと、それが枝分かれするように複数体の残像となり四方へと散って、巨大な蜘蛛へと襲い掛かる。
それは残像に過ぎないために、ましてユーベルコードとしての影響力も持たないために質量を得るものではないが、生物として確立された金属の蜘蛛にとっては像として映る障害物になる。
鋭い顎や足先が振るわれるたびに、スズの残像は姿を維持できなくなって消えていくが、それでも一瞬の足止めとしては十分である。
幻術の類で用意した残像の中に、本物は一つもなく、最初からネフラの傍を動いでいない。
最初の奇襲を受けて見せたのは、それを実物と思わせるための偽装に過ぎなかった。
「一つ、二つ、そっから中略して、十二つぶん。―――女からの誘いよ。受けきってくれる?」
広げた袖に夜空が広がる。許可なきものには知覚できないスズだけの世界が詰まっている袖口にしまい込んだありったけの武器が、今回の場合は彼女の全力の証であるドラゴンランスがメインとなって、ユーベルコードの詠唱と共に一斉射出される。
放ったのは目に映る敵全てだったが、その主な的となったのはアルキテクトゥスを守るように立ちはだかる金属の蜘蛛だった。
残像の攪乱によって無防備になっていた蜘蛛は成す術なく力任せに飛び来る槍を全身に浴びることになり、強固な金属の装甲も貫かれ、そのままの勢いで大広間の壁に叩きつけられ、完膚なきまでに破損することになったが、
その陰に居たアルキテクトゥスには一つも攻撃を許さなかった。
威力が不足していたという訳ではないだろう。ただ、金属の蜘蛛の守る意思が勝ったに過ぎないのだろう。だがそれでも。
「奴を守るものは、もうないな」
ネフラと錬金術師との間に遮るものはもうない。満足げに笑みを浮かべるネフラの手元で愛用の刺剣が踊り、逆手に握るその剣の切っ先は自分へと向く。
「復讐が望みか、恨む相手が血に沈めば満足か? このように……」
自らを貫く剣を伝い、ネフラの白いドレスが赤く染まる。
ユーベルコード【瀉血剣晶】による儀式が完了すると、自らの血に染まった剣とその身が欲求に応えるかのように解放される。
その様を横目に、スズは自らも傷ついたように眉を寄せる。
「ネ姉さんのそれって、いつも痛そうだわ……」
それが必要とわかっていても、知己が自らの血に染まる姿はあまり見たいものではない。
とはいえ、多少は無茶の利くクリスタリアンが、それに似合わぬ闘争心に酔うように紅潮した笑みで熱い吐息と共に抜き放った細剣には、血の飛沫をそのまま固着させたかのような刃が纏い新たに力を解放された剣としていた。
「さぁ、我が血の刃を受けるがいい……!」
「いいとも。二度と血が流れないほど、切り刻んでやる」
素早く踏み込むネフラに応じるように、アルキテクトゥスもまた作り物の右腕に引き摺るような斧を振り上げる。
斧に剣は勝る、というのはあくまでも幻想であり、筋量や技量などを加味すれば、用いる得物の有利不利など、然程の問題ではない。
その点で言えば、剣の使い手であるネフラにとって、あくまでも錬金術師であるアルキテクトゥスの振るう斧など、たいして問題ではないはずである。だが、
「チッ……面倒な腕を持っているようだな」
袖に隠れて見えにくかったとはいえ、魔法で動いているらしい彼の右腕には当然血は通っていない。
血流を見て行動をある程度予測することはできないし、さらに言えば普通の腕と違って、関節もおおよそ人間のそれとは違うらしく、不自然なところで曲がる腕の動きから繰り出される斧は、対人用の剣術では容易に対応できるものではない。
比類なき剣術があろうと、速さと重さを兼ねた自動攻撃を可能とした斧の応酬は、その技量差を補うに十分なものがあった。
だが、容易な相手など面白くない。悪態をつくネフラの口元にはしかし、相変わらずの笑みが浮かぶ。
どういった相手でも、復讐を持たれても恨みを抱かれてもいい。問題でない。
その相手が楽しければ何よりだ。
夢中になれるということは素晴らしいことなのだ。
打ち合いに躍起になるネフラの傍らで、けたたましい金属音が鳴るが、そんなものはどうだっていい。
目をやる事ができれば、そこにまだ動こうとする金属の蜘蛛の鋭利な前足が迫っているのに気づけたろうが、ネフラの視界を覆うのは猛然と迫る斧の嵐である。
だが彼女も一人ではない。
その間に割り込む様に、思わずスズが飛び込んでいた。
しかし先ほどとは状況が違う。スズが咄嗟の防御に使った槍は先ほどの大技で全部使ったところだった。
「あ、っちゃぁ……」
飛び込んでから気付いたスズの手元には、食べ終わって取っておいた「テレビウムグミの袋」くらいしか残っていなかった。
半ばやけくそ気味にそれを盾に、思いを込めて思いつく限りの守護を込める。
「む、うおっ!?」
金属同士のぶつかるような轟音が響くと、スズはネフラを巻き込んで吹き飛ばされてしまう。
まさかお菓子の袋に一撃に弾かれるとは思わなかったろう、金属の蜘蛛は今度こそ動かなくなった。
そして弾き飛ばされたスズはネフラによって支えられて、なんとか態勢を整える。
「ふむ、私がスズにあげたグミはいたって普通のものだったつもりだが、どうもそうではなかったらしい」
「これはただの貰ったグミの食べ終えた袋だよ!」
にこりと笑って袋を見せると、袋はもはや見る影もなくズタズタになってしまっている。
咄嗟に媒体に使ったため、状態が維持できなくなっているようである。また買っておかなくてはならない。
「錬金術師さん、外の世界もけっこうおもしろいものあるでしょ?」
「驚いたな……だが、食べ物を粗末にするのはいかがなものだろう?」
距離が開いたことで、それまで打ち合っていた斧がボロボロに刃こぼれして使い物にならないのに気付いたアルキテクトゥスは、興味なさげに問いつつ斧を捨てて、足元に転がる折れ飛んだ鋭利な蜘蛛の脚を手に取る。
「心配しなくても、中身はもう食べたわ。あってもあげないわ!」
「……そうか」
戦力は幾らか削いだものの、錬金術師の手にはまだ武器がある。
ネフラの攻撃による手傷も致命的なものにはなっていないようだ。
他愛ない問答の中にあっても、二人は冷静に戦いを続けるべく戦況を分析しつつ、距離を取る。
まだまだ戦いは始まったばかりだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レフティ・リトルキャット
※詠唱省略やアドリブOK
にゃんとなく悪役っぽく振舞った方が良いのかにゃあ?。うんうん(悩)
子猫に変身し正義と悪は表裏一体の、30代目様の【ガイアキャット】で地形を素材に配下子猫達を錬成し、立場的に上に立つリーダー効果で戦闘力を高めるにゃね。
正直、コッチは賭けにゃけど「地形の影響を無効化する」は元々溶岩だって錬成出来るようにする為の耐性。敵のクモ型生物が「蜘蛛の巣」を作り出すなら「蜘蛛の巣」を地形扱いで無効化できるかにゃあ?。流石に直接糸を吐いてくるのは避けるべきにゃね。
戦法:髭感知で動きを見切り、肉球や爪で受け捌き、配下子猫達の組体操で盾にしたり、素材特性を活かした配下子猫達との連携攻撃で反撃
リーキー・オルコル
恨みは恨みを生むだけだ
俺なら遠慮するね
恨みがましく死んでいったヤツに同情はしない
生き抜くことをやめただけだろ
死んじまうとしても俺は恨み言を言うくらいならどうやったら生き抜けるかを考えながら死にたいもんだね
安心しろ
お前をかわいそうなヤツにはしないぜ
柱や調度品を遮蔽にして様子を窺いながら戦う
場所を特定されたらすぐに移動する
機構があるなら弱いところがあるはずだろ
繋ぎ目とかな
クモを引きつけてからナイフを投げて急所を突いて倒していく
相手を観察して錬金術師の癖を探しながら戦い
誰かに攻撃を仕掛けたときに隙ができるようにナイフを投げる
攻撃する距離は攻撃される距離だからな
仲間が反撃してる隙にナイフで頭を狙う
ニコリ・ニッコリ
一人でこっそり建物の中を物色してても良かったんだけど、みんなと協力してここまで来たから流石に気が引けるしね。猟兵としての信用にも関わるし、ちゃんと戦うよー。
とはいえ、面と向かって戦うのは苦手だからね。味方が作ってくれた隙をついて「Terrible mischief」で錬金術師を攻撃するよ。質問されたら集中しづらいだろうし、答えられなかったらダメージを与えられるし。
質問は金目のものがある場所……んー、それは後で城の中を見て回ればいいか。「錬金術師の一番大切なもの」にしようかな。錬金術師が大切にしてるものってちょっと興味あるしね。珍しい金属や希少な書物、それとももっと別の何かかなぁ?
アドレイド・イグルフ
このクナイは窃盗じゃあない。ここで使い果たせば借り物であるとワタシは思う。ようは持ち帰らなければいいんだ。
よし。
さて……エルフニンジャはこの先にいるようだが……
ニン……ジャはどこだあ!?なんだあのクモ!…ヘンゲノジュツってやつだな!?
城主には…嫌がらせを行う。
手始めに、銃声で恐怖を与えてみたいところだ。一瞬の怯みがあれば……そこから済し崩す。…動揺を誘えるかはわからないが、クナイを投擲もしてみよう……。
銃で狙い撃つは左腕!主力は破壊されたくないだろうからな…それに、右腕と比べれば装甲も薄いとみる…!!
敵対心がこちらに向けば上出来だ。後は逃げ回る!!
絶対に間合いには入らない…入りたくないぞお!!
クノイチたちの痕跡を追っていたアドレイド・イグルフは、一人またもはぐれてしまっていたが、他の猟兵と合流することによって、他の猟兵たちを誘導することにした。
というのも、自分が戦ったのと別の場所で戦闘を繰り広げていたニコリ・ニッコリの事が気がかりだったのである。
ナルシストで高慢ではあるが、なんだかんだで少しの間とはいえ旅をした少年が危ない目に遭っているかもしれないと考えると、先行した二人について行くより、そちらに合流したほうが良いような気がしたのだ。
正直なところニコリに対しては、あまり子供らしいような印象は抱いていないのだが、それでも体格や根幹の邪気のなさは、やはり子供らしい。それだけに危うげにも感じたのである。
長々と書くようなことでもないが、要するにまぁちょっとしたお人好しなのである。
「大きな騒音がしたな……もうおっぱじめてるらしい」
城の大広間に繋がる扉を目前にした辺りで、最後尾を警戒していたリーキー・オルコルが一気に前に出ると、体当たりするようにして巨大な扉を蹴破りつつ大広間へと躍り出る。
相手が臨戦態勢なら、扉を悠長に開けているところを狙われる可能性がある。
素早い入室で自分を的にしてそれを絞らせないよう動くことによって、後続を狙わせない技術である。
最初に目についたのは、巨大な蜘蛛の残骸というべきだろうか。金属でできた何かの骸と、その傍に佇む痩身に大荷物の男性だった。
「あんたが、ここの城主で間違いなさそうだな」
「そういうお前たちは何だ? また僕たちから奪いに来た冒険者か。まあなんだっていい。簒奪者を、一人だって生かして帰すつもりはない」
ナイフを構えて問うリーキーに、孤独の錬金術師アルキテクトゥスは静かに怒りをあらわにしつつ言い放ち、返答を待つことなく何かを召喚する魔方陣を周囲に展開する。
が、そこに割り込む様に耳を劈く銃声が鳴り響く。
銃の文化が育っていないこの世界に於いて、とりわけ大振りな散弾銃の炸裂するような銃声は、それだけで周囲の注目を浴びるものだった。
「……あれ、エルフニンジャがいたはずだけど……ニン、ジャはどこだぁ?」
召喚のタイミングを阻害するにしても突拍子なく散弾銃をぶっ放し、ついでにひと財産くらいにはなりそうなステンドグラスを破損させた張本人のアドレイドは、急に周囲の注目を浴びたことで少々心臓の鼓動が跳ね上がったりもしたが、それはともかくとして、追跡していた筈のクノイチの姿が見当たらないことが今更になって気になったらしい。
「彼女は、彼女たちはもう居ない。お前たちがやったんだろう……!」
壁にもたれかかるように崩れ落ちた金属の蜘蛛の残骸を一瞥したアルキテクトゥスが、口惜し気に手にした鋭利な蜘蛛の前足をアドレイドに向ける。
そして忘れたころに召喚陣が再起動し、粘土を焼き上げたような蜘蛛のゴーレムが数体呼び出された。
「なんだあのクモ!? ヘンゲノジュツってやつかな?」
「アホ言ってる場合か!」
飛び掛かってくる蜘蛛のゴーレムを散弾銃で迎撃しつつ距離を取るアドレイドに突っ込みを入れつつ、リーキーは手近な柱などに身を隠しつつ投げナイフで牽制を入れるものの、アルキテクトゥスの召喚するペースの方が速い。
この状況でアドレイドが注意を引き付けつつ距離を置いて散弾銃を撃つという、いわゆるヘイトを一手に引き受けていなければ、もっと忙しいことになっていたが、術者であるアルキテクトゥス本人も、義手に持たせた武器がことごとくリーキーの牽制を打ち払っている。
このままで相手の手数だけが増えていくばかりで埒が明かない。
「よーし、いい時に来たにゃ。主役、ん、もとい、悪役は遅れてやってくるにゃ」
「僕としては、他の部屋を物色してるとかでもよかったんだけどねー。流石にみんなと協力してやってきた以上、お手伝いしなきゃ猟兵としての評判に関わるし、ちゃんと戦うよー」
ニコリのトレードマークであるキャスケット、その上に鎮座したいつもよりいたずらっぽい笑みを浮かべた子猫の妖精レフティ・リトルキャットが、満を持して戦場に到着した瞬間だった。
「チッ、そんな子供まで駆り出すのか。最近の冒険者というのは。ギルドの正義なんてやっぱり何処にもないじゃないか。こんな子供にまで盗みを働かせるなんてな」
「うーん、なんだか勘違いしてるみたいだね。僕は冒険も好きだけど、ちょっとお仕事としては違うんだよね。まぁ、戦うのは苦手だから……ちょっと意地悪するけどね。君たちは何のために存在するのかなー?」
吐き捨てるようなアルキテクトゥスの言葉にも涼しい顔で、ニコリが簡単な質問と共に呼び出したのはハロウィンのカボチャを模した顔にマントをかぶせた様なお化けだった。
ユーベルコードによって呼び出されたそれは、質問を浴びせることによって発動する。
単純な質問ほど効力が強く、いくつかに分かれて、物言わぬ蜘蛛のゴーレムたちに対してぶつけた問いに答えるものは居ない。ということは、蜘蛛たちにはそれに成す術がないということである。
「馬鹿な……!」
一方的に蹂躙される蜘蛛のゴーレムたちの惨状に舌を巻くところだが、ニコリ一人の対応できる範囲はそれほど広くはない。
大勢で囲んでしまえば、子供一人の対応できる数ではないはずだ。
手始めにニコリの動きを封じるべく、蜘蛛のゴーレムたちは糸を吐き始める。
「そう来ると思ったにゃ。正義と悪は表裏一体。30代目の【ガイアキャット】を今ここに!」
ニコリのキャスケットから飛び降りたレフティが、紡ぎ出された蜘蛛の糸を一手に引き受けるようにしてユーベルコードを発動する。
多くの先祖より継承した秘術の一つであるそれは、その先祖の能力を用い、肉球で振れた地形を子猫に変じさせるという、恐怖の魔術である。
浴びせられた蜘蛛の巣もまた、障害となり得る地形と言えなくもない。
「うおおおっ!」
猛然と蜘蛛の巣に絡まれながら肉球を押し当ててくのは、いかにも悪役……というより、毛糸玉にじゃれついて絡まってしまった猫のようにしか見えない。
うっかり冒頭で敵に肩入れするような事を書いてしまったせいで悪役を気取ってくれはしたものの、可愛らしい姿で悪役を演じるのは土台無理があったのである。
とはいえ、流石に直接浴びせかけられるものを相手にするのでは、ちょっとばかり手が追い付かない。肉球で触れられない部位はどうしようもない。
「あーもう、仕方ない猫さんだなー」
「うにゃあ……流石に直接糸を吐いてくるのは避けるべきにゃね……」
見かねたニコリに抱きかかえられて救出されると、なんとか振りほどいた蜘蛛の糸を次々と子猫に変えるという奇妙な現象を起こし、ついでに大量に生み出した子猫で蜘蛛のゴーレムたちに対抗することにより、大勢は決しつつあった。
「くそ……こうなったら、直接やるしかないか」
小さな二人の活躍により戦況を覆されたアルキテクトゥスは、手にした蜘蛛の脚で直接手を下そうと前に出るが、その行く先を読むかのように、アドレイドの銃撃が、リーキーのナイフが飛来し、往く手を阻もうとする。
高性能の義手を使うとはいえ、もともと前に出られるようなタイプではないため、片側に防御を集中すれば無理が生じる。
それにいくら強靭とはいえ、先の二人の猟兵に加えてリーキーとアドレイドの攻撃を受け続けた義手は限界を迎えていた。
だが、アルキテクトゥスには最後の秘策が残っている。
クノイチに施したような、特定のものを媒体に魔石を埋め込んで魔法生物にする秘術である。
彼女のようなオブリビオンでなくとも、特別製の義手を供物とすれば、戦力として申し分ないものになるはずだ。
勢いが猟兵側に傾きつつある今でこそ、それは窮地を招くと同時にこの窮地を脱する手立てでもある。
忍ばせた魔石を義手に捧げようと手を添えるアルキテクトゥス。そんな彼に、ニコリ・ニッコリは、それまでと変わらぬ笑顔で尋ねる。
「ねえ城主さん。金目の物……は、後で探せばいいとして……うーん、そうだなぁ、あなたは錬金術師だよね。錬金術師の一番大切なものってなに?」
「なんだって? それは……」
唐突な質問。無邪気なようで、核心を突くような質問に、アルキテクトゥスは思わず口ごもる。
錬金術師として。この城を見つけて、主人のように振舞うようになってから、それなりの時間が経った。そりゃあ、それよりも前には思い出したくもないものがいくつもあった。それでも、失えない物があったから死んだはずなのに生きていたし、その燃料でもあったように思うが、それが今はあまり思い出せないような気がする。
錬金術師として……。思えば、今になって思えば、あれから大切なものがたくさん増えた気がする。
何が一番なのだろうか。
「く、ぐぅ
……!?」
気が付けば、手にした武器でカボチャの化物を押し留めていた。
特殊合金の義手が悲鳴を上げる。そのお化けの重さは、アルキテクトゥスの苦悩そのもののようにすら思えた。
その義手の継ぎ目に差し込む様に、リーキーの投げたナイフが突き刺さり、ついに義手は致命的な音を立てて崩れ始める。
「く、そぉ!」
崩れる腕を抑え込む様にして魔石を忍ばせた左手を伸ばすも、それもアドレイドの散弾銃が吹き飛ばす。
撃ち抜かれ倒れた拍子に、背負った鞄から集めに集めた貴重な素材が散乱する。
最早何でもいい。義手の魔術媒体になるなら、なんでもいい。
動きの鈍い義手がのろのろと素材の一つに手を伸ばすも、あちこちから湧いて出てくる子猫にまとわりつかれてそれもうまくいかない。
「月並みだけどよ。恨みは恨みを生むだけだ」
俺なら遠慮するね。そう嘯きつつ、リーキーはジャケットやポケットのあちこちをまさぐる。
今までに幾つナイフを放ったかはもう覚えてはいないが、流石にいくら何でも使いすぎたらしい。
「恨みがましく死んでいった奴に、俺は同情しない。
死んじまうとしても、俺は恨み言を言うくらいならどうやったら生き抜けるかを考えながら死にたいもんだね」
「……お前に、何がわかる……」
ひどく疲れたような声で、絞り出すように言葉を紡ぐアルキテクトゥスには、もはや復讐や妄信に捕らわれた、被害妄想のそれではないように思えた。
ただ、いつかやってくる終わりが思ったよりも早く、それが悲しいようにも見て取れた。
「こういうのがあるんだが……」
「こいつは……お前さん、いい趣味してるぜ」
投げるためのナイフを探していたリーキーの目の前に差し伸べたのは、アドレイドが拾っていたクノイチのクナイであった。
もしもの時はこれを投擲して攻撃する予定だったが、ちょうど得意とするリーキーのほうが確実と考え、手渡したのである。
「このクナイは窃盗じゃあない。ここで使い果たせば借り物であるとワタシは思う。
ようは持ち帰らなければいいんだ」
「物は言いようだな……だが、ホントにいいタイミングかもな」
そうしてリーキーは改めて孤独の錬金術師に向き直ると、投げるにはやや大振りなクナイを縦に構える。
「安心しろ。お前をかわいそうな奴にはしないぜ」
狙うまでもない。ここにいる全員の協力と、観念したような錬金術師により、
クナイは返却された。
黒く霧散する城の主を見送った一同は、はたと本来の役割を思い出す。
「そういえば、城の核ってどこにあると思う? それを壊せば流石にクラウドヴェールは壊せると思うんだが……ついでに城も落ちそうじゃねぇか?」
難しい顔をするリーキーの言葉に、猟兵たちは顔を見合わせる。
夕暮れがヴェールを落としたように、巨岩の合間を滑り落ちていくように沈んでいく。
それを崖の淵で眺めながら、一同は感慨に耽る。
「なんだ、我々が最後か。色々と物色していたら、遅れてしまったなすまないなスズ」
「ネ姉さんってば、色々目移りしてたもんね。すずも人の事はいえないけどね!」
ある者たちは空飛ぶドレスによって優雅に、その片隅に色々と詰め込んだ袋を抱えつつ。
「こいつはなかなかスペクタクルな光景だねぇ。岩に追われるような事にならなくてよかったぜ」
「その格好で言われたら笑えないにゃ。結局、猫をしまうのに忙しくて、あんまり見て回れなかったにゃあ……」
ある者たちはテンガロンハットを脱いで感慨深げに沈む城を眺め、疲れた風に嘆息して自身で呼び出した空飛ぶ箒に寝そべる。
「うーん、ほくほく……。いっぱい、いい買い物。いや買ってはいないけど、いい仕入れになったなぁ。いくらになるかな」
「うーむむ……あれだけの品を、一体どこにしまったんだァ
……!?」
ある者たちは愛用のキャスケットが風で飛ばないよう抑えつつ、終始満足げな笑みを浮かべ、それをあちこちから矯めつ眇めつ不思議そうにちょっとやばげな視線をあびせるなど……。
色々と語れないことはあるが、それは本人たちの胸に秘めたる冒険譚となるだろう。
血肉通うとはいえ、相手はオブリビオン。冒険の果てに栄えた先にも、彼らの行く果てには世界の破滅が待っている。
普通の営みを構築することが仮にあるとしても、そこに善悪は無く、彼らの終着点があるだけなのである。
その関係性には、一抹ほどの疑問はあれど、世界によって選ばれてしまった猟兵たちは、それらを倒し、世界を破滅から救う宿命にある。
……。というのは、今だけは忘れよう。
あの城に生きた者たちは、そのまま沈みゆく城を墓標として、今を生きる者たちの胸に一つの存在として胸に刻まれたことだろう。
そこには寂しい別れもあるが。それが新たな出会いでもある。
高地に抜ける一陣の風が、彼らの行く道を示すかのように、頬を撫でて吹き抜けていった。
谷底に沈んだ城は、もう見えなくなっていた。
成功
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