流れ作業の労働者のパワハラ被害者のアリス
●時給490円(ノルマ達成時ボーナス有)
「アリスが不思議の国でパワハラを受けている」
炎を纏うブラックタール、ギャリソン・ハイオクバーナーが告げた一言に、グリモアベースに集まった猟兵の何名かが『なんだって?』と聞き返した。
「俺様もテメーらのそう言いたくなる気持ち分かるけどよぉ! アリスがパワハラ受けてんの! 助けてやってくれ!!」
頭(らしき部分)を抱えながら叫ぶギャリソン。体を包んでいる炎が叫ぶ度に燃え盛る。
とあるオウガの作り出した不思議の国。そこはアリスを苦しめて苦しめて、苦しめてから喰らうことを目的としたオウガの巣である。
そこに攫われた不幸なアリスは、オウガに無理矢理課せられた労働と、それに伴うパワハラを受けて辛い思いをしているという。
『一体、アリスはどんな重労働を課せられているのか』と猟兵の誰かが挙げた質問にギャリソンが答える。
「刺し身の上にタンポポ乗せる仕事」
『馬鹿にしてるのかガソリン野郎!』
『お前がいるとグリモアベースが蒸し暑くなるんだよ!』
『ハゲー!』
『軽油ー!』
「オイ誰だ軽油って言ったやつ前に出ろゴラァ!!」
軽油呼ばわりだけは許せないらしい。
それはともかく、不思議の国の構造はベルトコンベアがひたすら並ぶ広大な工場の中。そこに流れてくる刺し身へタンポポを乗せる作業に従事させられたアリスが、一人だけ菊を渡されるイジメ等のパワハラを受けてノルマが達成できず、延々と作業を続けさせられている。
『いや刺し身に乗せるのは菊で合ってるだろう』と一人の猟兵が突っ込むが。
「不思議の国だからな」
バッサリ切るギャリソン。不思議の国なら仕方ない。
「まー、こんなオウガとっととぶっ飛ばして終わりにしてーんだけどな……腐ってもオウガが作り上げた世界だ、正面から殴りにいっても地の利を活かして逃げられちまう。 最後にオウガをぶっ倒すのは前提として、先にパワハラを受けているアリスを助けてやってほしい」
とはいえ、オウガの作り出した世界でアリスを連れて逃げるのは困難である。
まず猟兵たちはアリスの関係者となり、アリスを理不尽なパワハラから守るのだ。
「いきなり行って初対面のアリスと関係者になれるのかって? 大丈夫だ、不思議の国だから」
大丈夫らしい。自身で言い張れば、アリスの同僚だろうが上司だろうが友達だろうがペットだろうが、何にでもなれると考えて良い。
「アリスも労働やパワハラ被害による疲労と混乱で訳が分からなくなっているんで、何を名乗っても特に否定することは無いだろう」
『酷い理由だな』
また誰かが突っ込むが、ギャリソンはスルーしてパワハラの内容について説明を続ける。気にしたら負けなのだろう。
アリスに用意されたタンポポを菊とすり替えている同僚たち。刺し身の上に菊が乗っていたとアリスへクレームを入れにくる顧客。ノルマが達成できていないことを怒鳴る上司。パワハラの主犯はこれらだ。
この内、上司はオウガ自身が化けたもの、同僚と顧客はオウガの作り出した幻影である。
「この上司の前でユーベルコードを下手に使うと、こっちが猟兵だとバレて逃げちまう。 使わずなんとかするか、バレないように使うか…… 同僚や顧客相手でも、派手に使うと結局オウガにバレるから上手くやってくれ。 嫌がらせから庇ってやるとか、そもそもの嫌がらせを妨害するとか、アリスを慰めて元気づけてやるとか…… 方法はテメーらに任せるぜ」
ひとまずの説明を終えて、転移の準備を開始するギャリソン。
「まぁアホみたいな話ではあるが……何にせよ、このままじゃアリスは苦しんだ後にオウガの腹の中だ。 そんな馬鹿な話にならないようしっかり助けてやってくれ。 頼んだぜ!」
らけ
らけと申します。
運営様が申すにこのフレームはアホシナリオだそうです。
一応1章の注意点としては、ユーベルコードの使用はオウガにバレると逃走される危険があるので、使わないかバレないように使うか上手く立ち回り、パワハラを受けるアリスを助けてあげて下さい。
以上です。それでは皆様のプレイングお待ちしております。
第1章 冒険
『嫌な現実の国』
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POW : 嫌な奴の嫌がらせに対して、「アリス」を正面から庇う
SPD : 素早く細工や手回しを行い、嫌な奴の嫌がらせをわかりやすく妨害する
WIZ : 親身になって「アリス」の話を聞き、慰めてあげる
👑11
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●理不尽な嫌がらせ、神様のクレーム、心無い暴言
とある不思議の国。立ち並ぶベルトコンベアの群れが延々と刺し身を運び続ける風景。
労働者(の幻)が刺し身にタンポポを乗せ続ける中、一人の少女が上司に怒鳴られていた。
「何やってんだアリスぅ! またお前タンポポと菊を間違えて乗せてるじゃねえかぁ!」
「ひぃぃ! ごめんなさいごめんなさぁい!!」
作業衣を着た巨漢の大男(オウガが化けた姿だ)にひたすら頭を下げるアリス。
「テメェ何年この仕事やってんだ! プロの自覚あんのかぁ!?」
「昨日ムリヤリ連れてこられたばかりですけどぉ!!」
「言い訳してんじゃねえぞバイト風情がぁ!!」
「さっきプロって言いませんでしたかぁ!?」
理不尽な物言いに、いたいけな少女の心はキリキリと痛む。あと突っ込みに叫ぶ喉も。
しかし、記憶も無く自分の扉も見つからないアリスがオウガに叶うはずもない。なぜか食べられないだけでも良しとしなければならないのだ。
散々怒鳴り散らして満足した上司が大股で歩いていくのを見送り、自分に配られた分のタンポポが詰まった箱を見る。
「あぁっ! また菊に変えられてる!?」
周りを見渡せば、同僚(の幻)がこちらを見てニヤニヤと笑っている。怒られている隙にまたタンポポを奪われてしまったのだ。
「あぁっ、どうしよう…… まだ全然ノルマが終わってないのに。 お客様からもクレーム入れられちゃう……」
どうすればいいかも分からず、味方のいない四面楚歌な状況でアリスは一人おろおろするばかり。
下手に逆らえばオウガに食べられてしまうだろう。だがこのままで助かるとも思えない。他の不思議な国へ逃げ出す?周りが敵ばかりのなか、一体どうやって!
「うぅっ……誰か助けてぇ……!」
半泣きになりながら、それでも少女は刺し身にタンポポを……いや、菊を乗せ続ける。
いつかこの苦行が終わることを祈りながら。
二天堂・たま
……アリスラビリンスに工場なんてあるわけないだろう。
つまりこの工場はオウガが見せる、実体を伴う幻なのだろう。
とりあえず目立たないよう同僚っぽい雰囲気でアリスに接触するか。
怯えさせないよう、コミュ力を活かして優しく話しかけてあげよう。
「キミが昨日から工場の配属になった子だね?仕事の手本を見せるように言われて来たんだ」と。
身振り手振りのフェイントで菊の花から注意を逸らしている間に、こっそりUC:アルダワ流錬金術で菊の花をタンポポに変化させる
でもって料理のセンスと早業で刺身の上に乗せて手本を見せるのだ。
アリスを脱出させるためにも、とりあえず逃げ出す気力を沸かせないとな。
雪華・グレイシア
【SPD】
ツッコミどころが多い……!!
いえ、まぁ、ここまで来たんですし、やることはやりましょうか
まずは【変装】して同僚の中に紛れ込みましょう
次は入れ替えられた菊を逆に【早業】でタンポポへと戻していきましょう
勿論その間は【目立たない】ようにこっそりと
菊はまたこれを使われたら元も子もないので【破壊工作】としてまとめて処分してしまいましょう
嫌がらせ用の菊を見つけたらそれも勿論【盗む】
これも入れ替えた菊と一緒にまとめて処分と
なんか怪盗というより工作員とかスパイっぽい感じの仕事になってきましたね……
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「むむむー、アリスをいじめるなんて許さないぞー」
アリスのためにボクがお刺し身の上に乗せるたんぽぽを集めてくるよ!
こそこそと隠れながらアリスの同僚が乗っけたたんぽぽを「物を隠す」技能を使ってささっと取って隠しちゃうよ♪
ある程度隠したら、「ああーっ!このお刺し身にたんぽぽ乗ってないよ!あいつがさぼってるんだ!」とアリスの同僚を指さして大騒ぎしちゃうぞ☆
ふふーん、アリスをいじめた因果おほーなんだよ♪
それで、隠しておいたたんぽぽを回収したらアリスの元に届けてあげるね!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●労働環境改善作戦
「ツッコミどころが多い
……!!」
労働者に紛れ込むよう作業着姿に変装した雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)が、ため息交じりに一言呟いた。多くの猟兵の内心も似たようなものだろう。
「……アリスラビリンスに工場なんてあるわけないだろう」
この世界はオウガの作り出した幻影だと、認識を新たにするのは二天堂・たま(神速の料理人・f14723)。彼もグレイシアと同様、同僚として現場に潜り込む算段だ。
「むむむー、アリスをいじめるなんて許さないぞー!」
ぷんぷんと頬を膨らませ、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が可愛らしくも憤慨を顕にする。普段は天真爛漫を絵に描いたような彼女だが、オウガの所業にはいたくご立腹の様子。
「さて、まずはどうしましょうか。 アリスはタンポポと菊をすり替えられているとのことですが」
「思うに…… 作業のミスにかこつけてパワハラを受けているのなら、そのミスの原因自体を無くせば、言いがかりも減るだろう」
「それじゃあ、やることは簡単だねっ♪」
簡単な打ち合わせの後、やるべきことを決めた三人はそれぞれ労働者の中へ紛れ込んでいく。
パワハラからアリスを救うべく、猟兵たちの作戦開始である。
●たんぽぽ怪盗、参上
労働者の群れに紛れ込んだグレイシアは、アリスの元にあった菊の一部を手に現場を歩いていた。
アリスが仕事を問題なくこなすためにはとにかくたんぽぽが必要だ。
すり替えられていた菊は膨大な量になるため、目立つことを避けたグレイシアは少しずつ菊を処分していくことにする。
「おいおい、また随分と豪快にたんぽぽを持ってきたもんだな」
「あのガキ、ずっと半泣きだからな。 パッとすり替えちまえば簡単なモンさ!」
「……!」
不意にそんな会話が聞こえてきて、グレイシアは作業しているフリをして足を止め耳を澄ます。
「まだ菊もこんなにあるからなぁ、アリスからギッたたんぽぽでノルマを大量にこなせば、俺らもあっという間に大金持ちよ!」
横に用意された大量の菊とアリスから奪ってきたたんぽぽの山を前に、ゲハゲハと三下丸出しの笑い声を挙げる男たち。
(時給490円って聞いたけど……)
ここではそれでも大金持ちになれるらしい。不思議の国だからね仕方ないね。
そんなことはさておいて、彼らはアリスのたんぽぽを横取りする主犯格の一部であるのは明白だ。
(では、アリスを虐めた罰として、少々痛い目にあってもらいましょう)
笑っている男たちの横を、何気なく通り過ぎるグレイシア。傍目から見れば不自然な点は何も無い。
だがその実、怪盗たる彼の窃盗技術と早業が、男たちのたんぽぽの箱と菊の箱を瞬時にすり替える。
男たちのたんぽぽを奪い去った上で、余った菊は速やかに近辺のゴミ箱へダイレクトシュート。
結果として男たちに残るのは中身が菊へとすり替えられた、元たんぽぽの箱だ。
それに気がつくこともないまま、男たちは作業に戻ってたんぽぽだと思いこんでいる菊を乗せていく。
ほどなく警報が鳴り響いてベルトコンベアがストップする。怒鳴り込んでくる上司のオウガ。
「何やってんだテメェら!! それはアリスに使うはずの菊だろぉ!?」
「えぇっ!? い、いつの間に!? 俺のたんぽぽは!?」
「知るかボケェ! テメェらの今日の給料は、俺の飲み代に使うからなぁ!」
ガミガミと上司に怒鳴られる部下たち。バカにしていたはずのアリスのように、半べそをかくのは彼らの番だ。
「こういう嫌がらせをする側は、得てして嫌がらせを受けることは想定していないものですよね」
男たちの様子に笑みを浮かべ、手元のたんぽぽをもてあそぶグレイシア。
菊の処分もはかどっている。この調子でアリスへの嫌がらせを妨害していこうと足取りを進める。
「……なんか怪盗というより、工作員とかスパイっぽい感じの仕事になってきましたね……」
微妙に自分のアイデンティティを問いながら、他にも菊が残っていないか調査を続けるグレイシア。菊の処分は順調である。
●妖精の取り分
「おいおい、なんだぁ? たんぽぽの乗ってない刺し身が流れっぱなしだぞ」
「担当どいつだよ、またアリスかぁ~?」
「お前のところだけど……」
「あれぇ!? なんで!?」
ところ代わって別の現場では、にわかに騒動が起きていた。
労働者たちが刺し身に乗せたはずのたんぽぽが、次々にその姿を消していというのだ。
「やべぇぞ、上の人にバレたらただじゃ済まねえ……!」
普段はアリスをいじめているくせに、いざ自分に火の粉が降りかかろうとなると途端にあたふたする。醜い人間性である。
「ふーんだっ! アリスをいじめるオウガたちなんて、絶対許さないんだからねっ!」
刺し身の上のたんぽぽを隠してまわる犯人は、ところ狭しと労働者の合間を縫って飛び回るティエルである。意地悪な労働者たちが慌てているくらいでは、まだまだ怒りは収まらない様子。
菊の処理を主とするグレイシアと分かれて、ティエルはたんぽぽの確保に飛び回っていた。ティエルが調達先として目をつけたのはある種の盲点、たんぽぽを乗せ終わった刺し身である。
すでに商品として完成した刺し身に気を払う労働者などほとんどいない。ノルマ達成のために次の刺し身へと取り掛かるのだから当然だ。これ幸いと素早くたんぽぽを回収し、ティエルにしか分からないよう物陰に隠してたんぽぽを順調に集めていく。
妖精らしい悪戯めいた所業だが、ノルマをこなせなければどやされる彼らからすればたまったものではない。
徐々にたんぽぽの神隠し騒ぎは広まり、あちらこちらで混乱が広がっていく。
「それじゃー、そろそろいいかなっ☆」
頃合いと見て、すぅぅぅっ、と小さな体で大きく息を吸い込む。たっぷりと溜めを作った後。
「ああーっ! このお刺し身にたんぽぽ乗ってないよ! あいつがさぼってるんだ!」
遠くまで通る綺麗な声で、思いっきり告発してやった。
「げぇぇっ!? な、何いってんだテメェ!?」
「どこのどいつだサボってるヤツはぁぁぁ!!!」
大声でサボり(捏造)を告発する妖精姫の溢れる存在感は、小柄ながらも広い工場内の隅々まで届く。
悲鳴をあげる同僚たち、憤怒の形相でこちらへやってくる上司。彼らが悲惨な目に合わされることはもう確定したも同然だ。
「ふふーん、アリスをいじめた因果おほーなんだよ♪」
上司に怒鳴られる労働者たちの様子に多少は溜飲が下がったようだ。ティエルはご機嫌な様子で胸を張り、騒ぎに巻き込まれないようその場から飛び立つ。
あとは集めたたんぽぽをアリスの元へと持っていくのみ。
「待っててねーアリス♪ 絶対助けてあげるからっ☆」
労働者たちへ見事大混乱を招いたティエルはたんぽぽの隠し場所へと飛んでいく。
やがて大量のたんぽぽを届けられたアリスと共に、喜びの笑みを浮かべるのであった。
●彼の名は――
「す、すごいです! 先輩! これだけたんぽぽがあればノルマなんて楽勝ですよ!」
「うむ、これで問題の一つは消えたな」
ぴょんぴょん跳ねて喜びを表現するのはアリスで、彼女が先輩と呼ぶのはたまであった。彼は先輩として彼女の作業を指導しに来たフリをして、直接アリスに接触していた。
ティエルの持ち帰ったたんぽぽの山、そしてたまの『アルダワ流錬金術』によって、残っていた菊もたんぽぽへと変化していた。膨大な量の菊を全て変化させていれば時間もかかったろうが、グレイシアが菊の大部分を処理してくれたおかげで順調に済む。
ユーベルコードを使う際にオウガの目を気をつける必要はあったが、そこはグレイシアとティエルが引き起こした騒動の隙を突くことでどうにでもなった。
菊は処分し、たんぽぽは確保した。残る課題は、揚げ足を取られないためのたんぽぽの乗せ方である。
「では先輩としてお手本を見せてあげよう。 あのマグロを見るがいい」
ベルトコンベアから流れてくる刺し身のひとつ、ややくたびれた感じの暗い色をしたマグロを指差す。
「……あんまり食べたくない感じのお刺身ですね……」
「いいや、そうでもない」
アリスの正直な感想に、しかしたまは首を横に振る。
「料理とは口で味わい、食感を噛み締め、香りを楽しむだけのものではない。 見栄えもまた重要なのだ。 そしてその見栄えが、時として料理本来の味を蘇らせる」
流れてくるマグロに、何気ない所作でたんぽぽを乗せるたま。見る人が見れば、その何気なさにも熟練の料理経験が垣間見える。
「こ……これはっ!」
くたびれたマグロの上にたんぽぽを乗せた。ただそれだけのことのはずなのに――アリスの目には、たんぽぽを乗せられた刺し身が光り輝いて見えた。疲労とストレスによる幻覚かもしれないが。
「お刺し身が……生き返った……!」
暗い色合いに映える、とびきり明るい色のたんぽぽ。太陽のような黄色に照らされた暗色の赤みは、むしろマグマのような生命力を感じさせる。
刺し身の上にたんぽぽを盛り付ける。この飾り付けの真なる極地に辿り着いた者は、この広い世界においてまだ存在しないとすら言われている。誰もやらないからだ。
しかし、たまの料理技能と早業は前人未到の領域に届かんとする。世界中の歴史上、類を見ないレベルでの刺し身の上にたんぽぽを乗せる技術に直面したアリスは、胸に何か熱いものがこみ上げてくるのを感じる。
感情が、動く。これこそが感動――!
(私も――こんな感動を、人に与えたい)
何かが間違っている気もするが、アリスの胸に火が灯る。
「……良い顔だ。 どうやらワタシの役目は終わったようだな」
アリスの表情に生気が宿ったことを確かめ、たまは静かに踵を返す。
もう心配はいらない、既に彼女の目は輝きを取り戻した。
アリスを脱出させるためには、彼女自身にも逃げる気力を沸かせなければ。そう考えていたたまの内心の目標も、これにて見事達成である。
その立ち去る後ろ姿へ、アリスは慌てて声をかける。
「あのっ! すいません先輩、お名前を!」
「ワタシの名か?」
問われて彼は思い出す。忘れていた自らの名を。
しかして彼は忘却する。名前を告げるその瞬間。
ゆえに彼は、こう名乗るのだ。
「ワタシは……『ケットシー』だ!」
「ツッコミどころが多い
……!!」
その様子を眺めていたグレイシアは、冒頭の呟きを繰り返すのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クーデリア・カトラリエ
アドリブ・複数歓迎/SPD使用
ふっふっふ。お困りのようね。クーちゃんに秘策があるわ!困ったちゃんなバイトに説教という体でパワハラするなら!もっと困ったちゃんなバイトを演じればいいのよ!というわけでアリスちゃんの菊も流れてきたもお刺身も全部クーちゃんが【大食い】で食べちゃうわ!これはアリスちゃんを助ける為であってクーちゃんが食べたいからでは無いのです。無いったら無いのです。道化を演じているだけなのです。何を食べているんだーって?お刺身よ見たらわかるでしょ。クビ?ふははははー!それしきでクーちゃんが止められるかー滅茶苦茶にしてやんぜーひゃっはー!さぁアリスちゃんこの隙にタンポポを載せるのよ!
ミネルバ・アレキサンドリア
POWで行動
■心情
パワハラだなんて許しがたいですわね。労働者の権利は手厚く保護されるべきですわ。権力を盾に弱者から搾取する
......まさに吐き気を催す邪悪ですわね。
私も態度の悪いお客さんを1発しばいただけでクビになるというパワハラをよく受けるので、パワハラの辛さは分かりますわ。
■行動
新人バイトとして潜入しましょう。
アリスに嫌がらせをしているオウガを見かけたら、つまづいて転んだフリをして、フライングクロスチョップを叩きこんでやりますわ。
「あら、ごめんあそばせ。足が滑りましたの」
ちなみにお時給の490円は後でちゃんと受け取れるのかしら?
弥久・銀花
アドリブ、他の人との絡み、ピンチシーン歓迎です
私は新人アルバイトの弥久銀花です。
アリス先輩ですか? 宜しくお願いします。
今回のミッションの作戦はアリスさんを庇う事です、これに徹します。
立ち向かうのが正道なのですが、そんな余裕も無い人の場合はちょっと立ち上がるまで守ってあげないといけません。
なので、先ずは積極的にオウガ先輩の方に作業指導をお願いしに行きます。
作業ラインに入ったらアリス先輩の隣に入って作業の仕方を観察しながら仕事をしますが、どうも教えられたのと違うような……?
オウガ先輩、これっておかしいですよ!
殴られても理不尽に対しての抗議は止めません!(御局オウガに服を破かれてもです!)
空葉・千種
アドリブ絡み歓迎
大丈夫?疲れてない?
私もこの前、うっかりたんぽぽが入ってた折りたたみコンテナを並べちゃってね。
同じ黄色だからね、そっちも間違えないように…え、また折りコンが流れてる?
…はい、私です…。はい、三回目…ごめんなさい、四回目でした。はい、この間シフト忘れて寝坊したの忘れてないです…。
話が途切れたね。大丈夫、人が増えたらシフトも楽になるからそれまで……
(他の猟兵を見て自分の仕事を思いだす)
…実は私、先輩として潜入していたの!
だから…雰囲気に流されて一緒に作業させられてたわけじゃないし、ミスしてラインを止めたのも仕事を減らすためで…。
だから「助けに来たのこいつかよ」みたいな顔しないで…!
●パワハラに立ち向かえ!
猟兵たちの活躍によって生気を取り戻したアリス。溢れるやる気でお刺身の上にタンポポを乗せていく。
「くっ……違う! あのお刺身のタンポポは、もっと光り輝いていた……!」
……少々熱が入りすぎていた。
「大丈夫? 疲れてない?」
作業に熱中しすぎているアリスに空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)が声をかける。
「でも、私はさっきのようなお刺身が作りたくて……! 今までの失敗を少しでも取り戻さなきゃ!」
「力を入れすぎても逆効果だよー、何事もほどほどが一番!」
やる気が空回りしているアリスを落ち着かせるため、千種は言葉を続ける。
「私もこの前、うっかりたんぽぽが入ってた折りたたみコンテナを並べちゃってね」
恥ずかしそうに頬を指で掻きながら、失敗談をアリスに語る。
先輩(という設定)らしく、失敗しても気にすることは無いんだよ、と優しく言い聞かせているようだ。
「だからアリスちゃんも……」
「オイテメェ、また折りコンがコンベアに流れてんだが」
そんな千種に後ろから声をかけたのは、怒りで顔を真っ赤にした上司姿のオウガ。
振り返る千種。小さく「あっ」と声を漏らす千種。どうやら身に覚えがあるらしいぞ千種。
「はい、私です……」
「オマエ……ここに入ってから同じことするの何回目だ?」
「はい、三回目……」
「あ゛ぁ゛!?」
「ごめんなさい、四回目でした」
先輩というのはあくまで作られた設定であるため、これらの失敗をしでかしたのは不思議の国へやって来てからの短い間になる。逆に凄いぞ千種。
ねちねちと上司に叱られる千種。真の姿になると巨大化する彼女だが、今の背中は小さく見える。
「話が途切れたね。 大丈夫、人が増えたらシフトも楽になるからそれまで……」
「テメェもだアリスゥ! どこから拾ったか知らねえが、いつの間にかタンポポで仕事しやがって! 俺が集めた菊をどこにやりやがったぁ!?」
今日は他の同僚たちも問題を起こしていて(大体他の猟兵の仕業だが)機嫌が最高に悪い上司。こんな日はパワハラでストレス発散するに限るとでも思っているのか、まっとうに仕事をしているアリスにも難癖をつけ始めた。
「待って下さいオウガ先輩! これっておかしいですよ!」
「パワハラだなんて許しがたいですわね。 労働者の権利は手厚く保護されるべきですわ。」
そんなオウガの理不尽なパワハラからアリスを守るべく立ちふさがったのは、弥久・銀花(隻眼の人狼少女剣士・f00983)とミネルバ・アレキサンドリア(ポンコツドラゴン・f17280)の両名、共に新人アルバイトとして潜入した猟兵たちである。
「あぁ!? 新人バイトごときが俺に逆らおうってのかぁ!?」
「権力を盾に弱者から搾取する……まさに吐き気を催す邪悪ですわね」
傲岸不遜に振る舞うオウガへ嫌悪感を顕にするミネルバ。淑女然とした言動と立ち振る舞いにふさわしい姿だ。
「私も態度の悪いお客さんを1発しばいただけでクビになるというパワハラをよく受けるので、パワハラの辛さは分かりますわ」
……そこまで淑女でもなかった。
さて、一方で銀花はこう考える。
(本来ならばアリス先輩自身も立ち向かうのが正道なのですが、そんな余裕も無い人の場合はちょっと立ち上がるまで守ってあげないといけません)
アリスが多少元気を取り戻したところで、オウガに立ち向かうのはさすがに難しい。ゆえに銀花はアリスを庇うことに徹することにしたのだ。
「アリス先輩はちゃんとお刺身の上に、菊ではなくタンポポを乗せているんです! ちゃんと仕事をしているのに、そんな言いがかりをつけるだなんておかしいですよ!」
真正面から正々堂々と正論をぶつける銀花。正しいことを言っているのだがそもそも内容自体がどこかおかしいのは不思議の国だから仕方がない。
「うるせぇー! 俺に逆らうならこうしてくれるわ!」
耳を貸す気ゼロの上司は太い腕を振りかぶり、銀花を力任せになぐりつける。
「ぐ、ぅっ……!」
「きゃぁっ! なんてことを……!」
殴打のダメージに膝をつく銀花だが、しかし背後で悲鳴をあげるアリスを庇うべく立ち上がる。殴られただけのはずなのになぜか服の一部が破れているのは不思議の国だからだろう。
「くっ……! こんな理不尽な暴力には負けません!」
「いい度胸だ……なんで服が破れたかは知らねぇが、素っ裸になるまで殴り続けてや……」
ゴキゴキと拳を鳴らしにじり寄るパワハラ上司。だが、その後ろからカッ飛んでくる一つの影が。
「フライングクロスチョップですわ!!」
「うごおぉぉっ!?」
パワハラ上司を後ろから強襲したのはミネルバであった。上司が銀花へと気を取られている隙を突いて助走を開始、素早く、そして高く跳躍。その勢いのままクロスした両腕を上司の脳天へと叩き込んでいた。やはり淑女らしからぬアグレッシブな攻撃である。
あまりにも予想外だった反撃をモロに受けた上司は、もんどり打ってベルトコンベアに突っ込む。宙に舞うお刺身。
ミネルバは空中でくるりと一回転し、優雅な着地を決めてから一言。
「あら、ごめんあそばせ。 足が滑りましたの」
「技名まで叫んでたよなテメェ!?」
ベルトコンベアから起き上がって叫ぶ上司。怒りっぱなしでそろそろ頭から湯気でも出そうな勢い。
しかし上司もすっかり猟兵たちのペースに巻き込まれ、アリスへのパワハラなど頭から吹っ飛んだようだ。アリスを庇う猟兵たちの狙い通りの展開と言えよう。
「オウガ様、大変です!」
そんなところに慌てた様子でやってくる労働者。
「ええい、なんだ今度は!!」
「完成した刺し身を食い荒らしてるバカがいます!」
「どうなってんだよ今日はよぉ!?」
怒りを飛び越えて悲鳴をあげる上司。部下が指差す先を見れば、そこにいたのは口いっぱいに刺し身を頬張る兎耳の少女だ。
「ふっふっふ、お困りのようねアリスちゃん。 クーちゃんに秘策があるわ! 困ったちゃんなバイトに説教という体でパワハラするなら! もっと困ったちゃんなバイトを演じればいいのよ!」
小さな問題は大きな問題で誤魔化せば良い。そんなパワー溢れる作戦を実行するのはクーデリア・カトラリエ(三度の飯より飯が好き・f20874)であった。
ベルトコンベアを流れてくるマグロも玉子も唐揚げもミニパフェも紙パックのジュースも、添えられたたんぽぽごと口にしていく。ラインナップがファミリー向けの回転寿司だ。
「これはアリスちゃんを助ける為であってクーちゃんが食べたいからでは無いのです」
無いったら無いのです、と繰り返すクーデリア。刺し身が詰め込まれて膨らんだほっぺたで言っても説得力は無い。
「ふざけやがってぇ!! テメェなんざクビだクビ! 今すぐ出ていけぇ!!」
「クビ? ふははははー! それしきでクーちゃんが止められるかー滅茶苦茶にしてやんぜーひゃっはー!」
クビ宣告などなんのその。流れる刺し身をむっしゃむっしゃと貪り喰らう。クーちゃんはまるで人間火力発電所だ。
ベルトコンベアの上をところ狭しと駆け回り、上司や同僚の迫る手から逃れ続ける。ぴょんぴょん器用に飛び回るのは、なるほどウサギらしい。
「オウガ様、大変です!」
「まだ!? これ以上まだなにかあるのか!?」
「あのガキがまた折りコンをコンベアに乗せてます!」
「いい加減にしてくれよぉぉぉ!!?」
ここに来て千種の再登場である。先ほど上司に怒られていた頃は、半ば雰囲気に流されて一緒に作業させられてたのだが……他の猟兵たちを見て本来の仕事を思い出したらしい。
折りコンを流して作業をストップさせて、アリスへ向く目線を更に他所へと移す。結果的に、クーデリアと共に更に現場に大混乱を招くことに成功した。
(だからお願い、「助けに来たのこいつかよ」みたいな顔しないで……!)
当の本人はそんなことを願っていたが。
「さぁ、今だよアリスちゃん!」
「このひゅきにヒャンホホをのへるのひょ!(この隙にタンポポを載せるのよ!)」
今のうちだと合図を送る千種とクーデリア。良い子は口にものを入れながら喋ってはいけません。
「ありがとうございます皆さん! 私、頑張ってお刺身にタンポポを乗せます!」
猟兵たちの助けを受けて、ノルマ達成を目指すべくタンポポを手に取るアリス。その動作に迷いはなく、タンポポを乗せられたお刺し身は色合い鮮やかに食欲を誘うものとなり、ついでにその一部はクーデリアの口の中へと収まっていく。
完全に立ち直ったアリスは、この場にいる誰よりもバリバリに仕事をこなしていくのであった。
「見事な手際です、アリス先輩……!」
その様子に胸を打たれたらしい銀花。しかしそれは、文字通りアリスの盾となってパワハラから庇った彼女たちがいてこそでもあるのだ。
「……ちなみにお時給の490円は後でちゃんと受け取れるのかしら?」
「クビに決まってんだろぉぉぉ!?」
首を傾げたミネルバの一言に再びブチギレる上司。猟兵たちに滅茶苦茶にされた工場は、もはや収集がつく様子はない。
大成功
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第2章 集団戦
『たのしいおとぎばなし』
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POW : 残飯
レベル×1体の、【眼球】に1と刻印された戦闘用【人体模型】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
SPD : たすたすけたすけたすけにきたよ
【王子様と白馬の成れの果て】と共に、同じ世界にいる任意の味方の元に出現(テレポート)する。
WIZ : おいしかったもの
【プリンセス】の霊を召喚する。これは【恐怖を呼び覚ますけたたましい悲鳴】や【【溶ける体を見せつける事】で攻撃する能力を持つ。
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●ブラック工場、崩壊開始
「うおぉ!? お、俺の不思議の国がぁぁぁ!?」
悲鳴をあげるオウガが、地震のように揺れる工場内で膝をつく。揺れに合わせて工場の壁や天井には亀裂が走っていく。不思議の国が崩壊を始めたのだ。
この不思議の国は、オウガがアリスを苦しめてその後美味しく食べてしまうために作り上げた世界だ。
だが猟兵たちの活躍によって、パワハラで疲れ果てていたアリスは元気を取り戻し、工場内部はまともに機能しないほどの大混乱に陥った。
本来の役割を完全に失った不思議の国が自己崩壊を始めるのは当然の帰結なのだろう。オウガが作り上げたいびつな世界でもあったのも大きな要因だ。
「おのれ…… よくも俺の世界を壊しやがったな、猟兵ども!」
先ほどまでは猟兵各自が名乗っていた役割に騙されていたが、さすがにここまでくれば彼らが何者なのかは分かるらしい。……もっと早く気付いても良さそうなものだが。
「アリスはもっと苦しめてから食う予定だったが…… こうなったら、テメェらもアリスもここでまとめて食ってやる!」
怒声を張り上げるオウガに呼応するように、崩壊する工場のあちこちのヒビ割れからぐずぐずと青白い液体が滲み出してくる。
やがて球状に変形したその液体はゼラチンのように固まり、充血した真っ赤な目玉が一組浮かぶ。
工場のあちこちから出現したそれらがぽよんぽよんと跳ねる姿はギリギリで可愛らしいと言えなくもないが、ギョロリと動かした目は獲物である猟兵たちをじっと見つめている。やっぱり怖い。
「さぁいけテメェら! まずは邪魔な猟兵どもを片付けろぉ!!」
まずは配下をけしかけて猟兵たちの力を削ぐの魂胆なのだろう、オウガ自身は高みの見物を決め込む様子だ。
背後にアリスを庇いながら、あらわれたオブリビオンの群れへ各々武器を構える猟兵たち。
あらわれた敵の数はそこまで多くはない。オウガ退治の前哨戦に丁度良いと、彼らは不敵に微笑んで見せるのであった。
弥久・銀花
アドリブ、他の人との絡み、ピンチシーン歓迎です。
(前回に引き続き何故か服は破れたままです。)
おやおや、今度は切れて思い通りにならなくなった職場の破壊活動を行う役ですか、セ・ン・パ・イ?
とりあえず、私も役割変更です。
次の役は近くで農家をやる近隣住民をします。
工場の汚水の漏洩は重罪です大迷惑なので殴りこみに来ましたので覚悟してて下さい。
私は愛刀の白嵐玉椿でゼラチンを斬り付けてみます、刃が届くなら目玉もです。
相手からの攻撃はオーラ防御でやせ我慢です。
(また服が少なくなります)
位置関係がよければユーベルコードのワイルドエールで一網打尽に木っ端微塵にしてみましょう。
ポーラリア・ベル
おさかなにたんぽぽのせるお仕事しにきましたー!(ばぁん)
…え?もう遅い?
そんなことないわ。
だってそこに、見るからに海鮮ものみたいなのがあるじゃない。
わ、お姫さまだわ!でもこのお姫様…腐ってきてる?
【属性攻撃】の氷を【全力魔法】で
速やかに冷凍保存しちゃうよ!鮮度が大事!
このお姫様、綺麗でお花みたい…
分かったわ!このお姫様がタンポポなのね!
魔法の【アート】でタンポポ型の氷に整えて
愛用のスノードームに片端から入れて
添えるよー!(敵の液体生物に【怪力】でたんぽぽ氷姫様を投下)
―見て。見るからに食用じゃない海洋目玉生物さんが
氷のたんぽぽでぐしゃってなって、飛び散った液体で…姫様が…
生き返ったらいいな。
●砕け散るスノー・プリンセス
「おさかなにたんぽぽのせるお仕事しにきましたー!」
フェアリーの小さな体で工場の扉に体当たり。ばぁん!と派手な音を鳴らして登場したのはポーラリア・ベル(冬告精・f06947)。
「うるせぇ今それどころじゃねえ!! 大体もう遅いんだよ、見りゃ分かるだろうが!!」
キレっぱなしのオウガが叫ぶ。崩壊する自分の世界とその原因を作った猟兵たちに大層ご立腹だ。
「そんなことないわ。 だってそこに、見るからに海鮮ものみたいなのがあるじゃない」
とある一点を指差して言ってのけるポーラリア。指差されたゼラチンの生物は「え、俺?」と言わんばかりにぷるんと震える。半透明のぷるぷるした体をクラゲと言い張れば海鮮と言えなくも……いや無理がある。
……そこに再び、ばぁん!と開かれる工場の扉。
「すいませーん! 近所で農家をやってる者ですがー!!」
「またかようるせぇなぁ!? 今それどころじゃねえって言ってんだろ!?」
新しく飛び込んできたのは弥久・銀花(隻眼の人狼少女剣士・f00983)だ。今度は近隣農家という設定でのご登場。先ほどまで工場内にいたというのにわざわざ一度外に出たらしい。ついでに服も破れたままだ。
「工場の汚水の漏洩は重罪です! 大迷惑なので殴りこみに来ましたので覚悟してて下さい!!」
「刺し身にタンポポ乗せる工場でどんな汚水が出るって言うんだテメェ」
割と冷静に返すオウガ。機材用の薬品や油などはあるだろうが、恐らく銀花の想像しているであろうザ・工業廃棄物といったすごい色の汚水はなさそうだ。
「大体、農家だろうが俺の国にあるってことは俺の物だ! 猟兵どもに文句を言われる筋合いなんざねぇんだよ!」
身勝手なことを喚き散らすオウガにけしかけられ、ゼラチン目玉のオブリビオンたちがぶよんぶよんと跳ね回って猟兵たちへと向かってくる。
「おやおや、今度は切れて思い通りにならなくなった職場の破壊活動を行う役ですか、セ・ン・パ・イ?」
オウガへと挑発しながら愛刀の白嵐玉椿を握りしめ、迫りくるゼラチンへと斬りかかる銀花。あわよくば不気味に浮かぶ目玉ごとたたっ斬ってやろうと深く踏み込む。
「……っ!?」
しかし、愚鈍に跳ね回るだけかと思ったゼラチンの姿が突如かき消えた。攻撃は虚しく空を切ってしまう。
素早く周囲に目を走らせれば、錆びて朽ちた王冠を被る骸骨と、皮膚が爛れ落ちている元は白馬だったものに跨ったゼラチンが、別のゼラチンの元へと出現していた。味方のいる場所へとテレポートするユーベルコードを用いたのだろう。
そうして空振った攻撃の隙へと、別のゼラチンが飛び出して銀花へ体当たりを敢行。
「くぅっ……!」
銀花は力を漲らせて展開したオーラで受け切る。大きな痛痒は無いものの、強力なオーラで守られた肉体と違い服は更に破られてしまう。これ以上は色々な意味でまずい。
猟兵が怯んだところを好機と見たゼラチンたちは次の手を繰り出す。背後に次々とあらわれる、豪奢なドレスを纏った女性の姿。いずれも後ろの風景が透けて見える、プリンセスの幽霊たちだ。
……そしてその体が、腐り落ちて徐々に溶け出していく。
「「アァ、アァァ……」」
生前に体が溶かされた苦しみを想起するのか、それらが苦痛混じりの声を漏らす。猟兵たちに恐怖を煽り、動きを鈍らせようという策であろう。
「わ、お姫さまだわ! でもこのお姫様……腐ってきてる?」
「これを見てその反応はおかしくねえか!? ガキならもうちょっと怖がれよ!!」
見たままを素直に言葉にしたポーラリアにオウガがツッコミを入れる。
「このお姫様、綺麗でお花みたい……」
腐り落ちる姿に囚われず、お姫様のドレス姿にそう言えるのは10歳という年齢ゆえの純粋さ……なのかもしれない。
「分かったわ! このお姫様がタンポポなのね!」
「あぁ? テメェ何を……」
「そうと分かれば…… そーれっ!!」
しかし、子どもの無邪気さは時に大人よりも残酷だ。彼女たちこそが刺身の上に乗せるタンポポだと認識したポーラリアは、鮮度が大事とばかりに全力の氷の魔法をあちらこちらへと放ちだす。
「ア、アァァ……」
氷像となりうめき声をあげる霊たち。その氷を更に魔法で削って形を整えれば……綺麗なドレス姿で閉じ込められた、氷のタンポポの出来上がり。怖い。
「さぁ! どんどん集めていくよー!」
次はスノードームを片手に飛び回り、氷の花と化した幽霊たちに『フリーズコレクション』を発動。身動きできず抵抗できない霊を次々にスノードームの中へとしまっていく。
「な、なにをする気だ……? ええい、さっさとあのガキを始末しろぉ!!」
凍らせた幽霊を花の形に整えて集める、という行動が理解できないオウガ。得体の知れない相手を止めるべく、ゼラチンたちに命令を出すが……空中を機敏に飛び回る小さな姿を捉えるには、跳ねて回るだけのゼラチンには荷が重い。
だが大勢で一斉に飛びかかれば空から落とすことはできるだろう。集合を始めたゼラチンたち、そして好都合とばかりにその上に現れるポーラリア。
「……ま、まさか」
そしてオウガは思い出す。彼女は最初、ゼラチンたちを何のようだと形容しただろうか。プリンセスの霊を何の花だと言っただろうか。
ここはお刺身の上にタンポポを乗せる工場。たくさんの海産物たちが集まったところに、乗せるものは一つだけだ。
「添えるよー!」
大量に集まったゼラチンたちの真上で解放されるフリーズコレクション。降り注ぐタンポポ……の形に整えられたプリンセスの氷像。
どさどさばきばきぐちゃぐちゃばりん。
見るからに食用じゃない海洋目玉生物たちが、氷のタンポポプリンセスに押しつぶされていく。圧力に耐えきれず弾け飛ぶゼラチンの中身。怖い。
「飛び散った液体で……姫様が……生き返ったらいいな」
「そんな童話があってたまるかぁ!?」
凍りついた霊と下敷きになってもがきうごめくゼラチンの群れ。結構凄惨な光景が出来上がった。これを為したのが虫も殺さぬような見た目のポーラリアなのだからギャップが凄い。
「何はともあれチャンスですね! 一網打尽に木っ端微塵にしてみましょう!」
そこに駆け出していく銀花。ゼラチンたちもああなってしまえばテレポートで逃げる余裕も無いだろう。
生き残って氷像の下から這い出てこようとするゼラチンを逃すまいと、駆け抜けながら息を大きく吸いこむ。
「ウゥォォォオオオオオオオン!!」
工場内に銀花の『ワイルドエール』がこだまする。人狼の雄叫びが巻き起こす嵐が、周囲を無差別な破壊に巻き込んでいく。
幽霊の氷像が砕け散り、ゼラチンたちが弾け飛び、ベルトコンベアがめくれあがる。
雄叫びが収まるころには、氷像の下敷きになったゼラチンたちは跡形もなく蒸発していたのであった。
「あらあら、残念でしたね! セ・ン・パ・イ!」
してやったりと笑みを浮かべる銀花。残るゼラチンたちもあと僅か、大勢は猟兵たちへと傾いている。
大成功
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二天堂・たま
青白いゼリーに浮かぶリアルな目玉…なんとも愛らしい外見とはかけ離れているな。
まぁそれはいい。かわいらしい見た目より倒しやすいというものだ。
そういえばオウガって、不思議の国とかおとぎ話よりもホラーが似合う見た目な奴ばかりだな。
とにかくアリスに敵を近づかせるわけにはいかん。
あのゼラチン目玉には糸を使った罠は効果が薄そうだ…。
大人しくUC:ケットシーインパクトで強化された武器“ケットシーの肉球”で攻撃しよう。
飛び道具が来ないのであれば、このUCのデメリットはほとんど無い。
手の肉球も足の肉球もフルに活用して戦うとしよう。
空葉・千種
アドリブ絡み歓迎
なんか気持ち悪いのいっぱい出てきた!?
うぅ……工場の備品を使えば直接触れずにたおせるかなぁ?
UCで無理矢理巨大化して【怪力】で攻撃するよ!
荷物を載せた台車やかご車を蹴り飛ばして敵を撥ねたり折りコンを投げたり……
できる限り散らかして模型が合体しないようにしつつアリスちゃんへの接近を防ぐ!
……倒したはいいけどゼリーみたいな残骸も模型も視界に入れたくないよぉ。
そうだ、電柱で敵をコンベアの上に【吹き飛ばし】て出荷すればいいんだ……!
あなたたちがたんぽぽの代わりになれぇーっ!
●人体模型の残骸出荷工場
あっという間に数を減らされていくゼラチンのオブリビオンたち。既に大勢は決したも同然だが、オウガの諦めは悪い。
「まだだァッ! お前たち、あれをやれぇ!!」
オウガの命令と共に激しく震えだすゼラチンたち。振動とともに体内から吐き出されていくのは、眼球に数字を刻まれた人体模型の群れだ。
「なんか気持ち悪いのいっぱい出てきた!?」
ただでさえ気色悪いゼラチン目玉が更に気持ち悪いものを増やし続ける光景に、空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)が悲鳴をあげる。触れるのも嫌な見た目の敵がどんどん増えていく状況に鳥肌が立ってしまう。
「……そういえばオウガって、不思議の国とかおとぎ話よりも、ホラーが似合う見た目な奴ばかりだな」
人体模型を生み出し続けるオブリビオンを改めて観察し、二天堂・たま(神速の料理人・f14723)がもっともな感想を呟く。
「まぁそれはいい。 かわいらしい見た目より倒しやすいというものだ」
遠慮する理由も必要も無しと、静かに臨戦態勢を取るたま。
「よぉしテメェら、さっさとアリスを俺のところに連れてこい!」
直前の戦いで敵の数は少なくなっていたが、次々に召喚されていく人体模型の群れがその有利を覆していく。猟兵相手の戦いの分が悪いならば、今度はアリスを狙おうという算段のようだ。
工場内部に溢れかえる、数十体の人体模型。その荒波からアリスを守ろうとたまが立ちふさがる。
(とにかくアリスに敵を近づかせるわけにはいかん。 だが、あのゼラチン目玉には糸を使った罠は効果が薄そうだ……)
携帯するボビンケースに鋼糸やカーボン繊維など様々な糸を用意しているたまだが、今回の敵には少々分が悪い。人体模型には通じるだろうが、それを生み出しているゼラチン目玉を倒す決定打にはできないだろう。
「ならば、今回はシンプルに事を運ぶとしよう」
策士策に溺れるべからず。有象無象を蹴散らすために必要なのは単純な力である。雪崩を打って押し寄せてくる人体模型の群れへ躊躇なく飛び込んだたまは、そのうち一体に腕を伸ばす。
「ぐれいとぉ!」
独特の掛け声と共に、ぷにっ、と可愛らしい音を立てた肉球が人体模型へと押し当てられて……次の瞬間、空気が震える衝撃とともに、後続を巻き添えにして吹き飛ばされていく人体模型。
近距離の相手に大威力の一撃を叩き込む『ケットシー・インパクト』。オブリビオンにも大打撃を与えるユーベルコードに、多少動ける程度の人体模型が耐えられる道理も無い。
手足二対の肉球を人体模型の群れに次々と叩き込んでいくたま。遠距離からの攻撃手段もない敵には効果絶大だ。溢れんばかりの敵の波ということは、近づくための労力も飛び込むだけで済むというもの。
「アリスを狙う雑兵はワタシに任せたまえ! キミはあのゼラチン目玉どもへの道作りを頼む!」
「はいっ! やってみます!」
声をかけられた千種は『叔母さんに(無理矢理)取り付けられた巨大化装置』を起動する。千種の体がみるみるうちに巨大化し、工場の高い天井に頭をぶつけんばかりまでの威容へと変貌する。スカートの端を抑えるのは乙女の恥じらいゆえか。
「あれは……折りコン流しのガキか!? テメェら、あっちを足止めしろぉ!」
突如あらわれた巨体に慄くオウガがゼラチンたちに指示を出し、ゼラチンたちが操る人体模型が集合を始める。ユーベルコードの能力で合体して立ち向かおうというのだろう。
「さ、させないっ! アリスちゃんにも近づかせないんだからぁ!」
しかしその行動を予測していた千種は、すかさず足元の台車を蹴飛ばし、手近な荷物を拾い上げ投げつけ始めた。工場内を滑走する台車や中身の詰まった箱が、合体するために集まっていた人体模型たちに襲いかかる。バラバラに砕いてただの破片へと変えられては合体も何もあったものではない。ついでに気持ち悪い敵に触れずに倒せる、一石二鳥の攻撃だ。
それでも人体模型の残骸と蠢くゼラチンが眼下に散らばる惨状。千種としては少々……というか大分、視界には入れたくない光景だ。
「そうだ、コンベアでみんな出荷しちゃえばいいんだ……!」
そんなことを呟いて、どこからか電柱を取り出し……本当にどこから出したのだろう。ちなみに近所から借りてきたものらしい。……ともかく、それを模型の群れと一部のゼラチンへとバットのように構える。
「あなたたちがたんぽぽの代わりになれぇーっ!」
豪快な風切り音とともに電柱をフルスイング。単純かつ巨大な質量が人体模型と一部のゼラチンたちを襲い、広い工場内をかっ飛んでベルトコンベアの上に落ちていく。刺し身の代わりにどこかへと運ばれていく残骸たち。より大惨事になった気がしないでもない。
「うおお!? 俺の工場で滅茶苦茶するんじゃねえ!? 畜生、テメェらどうにかしろぉ!!」
飛んでくる破片に悲鳴をあげるオウガ。どやされたゼラチンたちは更に人体模型を吐き出し続ける。人体模型をいくら破壊しても、これでは切りがない。
ところが、千種が敵に向かって物を投げつけるのを見て、たまが一つの案を思いつく。
「ああ、これは都合がいいな。 少々腕を貸して頂こう」
「わかりましたっ、いきますよぉ!」
折りコンのひとつに潜り込むたま、狙いを察した千種がそれを掴んで振りかぶる。投げつける先は後方の人体模型を吐き出し続けるゼラチンたちだ。空を切り裂いて飛んでいく折りコン。
「では、もう一度ご覧頂こう…… ぐれいとぉ!」
そんな空中を走る折りコンから飛び出したたまが、急接近を果たしたゼラチンたちへ再びの『ケットシー・インパクト』を叩き込む。
ばちゅん、ばちゅんと残滓を残して弾け飛ぶゼラチンたち。跡に残るのはただの水たまりだけだ。持ち主が倒された人体模型の群れも、途端に行動を停止してその姿を消していく。
「わぁっ、やったぁ!」
「これでおおむね、片はついたようだ」
ぴょんぴょんと(ずしんずしんと)飛んで喜びを表す千種と、酷使した肉球を労るように擦るたま。
残るゼラチンたちも残り僅かだ。それでも抵抗するオブリビオンたちに、猟兵たちは残党狩りを開始する。
大成功
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雪華・グレイシア
元々はキミの物ではないと思うのだけれどね
ま、どの道キミのような輩に食べられるのは御免被る
ボクの前に液体の体を持つ敵だなんて……ただの鴨だよ?
呼び出すのは冬将軍
どこに現れたって関係ないさ、むしろ固まってくれるのなら好都合
離れて逃げるのならともかくも、向かってくるならボクたちの射程範囲だ
液体の体なんて持っていたのが運の尽き
氷嵐による氷の【属性攻撃】でその液体を凍らせてしまおうか
凍ってしまえばその体、もう自由に動けないだろう
嵐を凍らずに抜けてくる敵が居たら、凍った敵へと【ワイヤーガン】を発射、引き寄せて【敵を盾にする】よ
スマートに仕事をこなしていこうか、怪盗らしくね
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「むむむー?」
ティエルは考えていた。なんでオウガ達はこんなめんどくさいことをしてアリスをいじめていたのか?
タンポポを乗せられたお刺し身を見て一つの結論に達した
「わかったぞー!お前たち、アリスのたんぽぽをお刺し身に乗せる才能に嫉妬していじわるしてたんだな!」
お姫様のティエルの目から見てもアリスのたんぽぽは光輝いて見えた!
この才能、失わせてなるものかと全力で戦うよ!
オブリビオン達が反論してこようとしても問答無用と背中の翅で羽ばたいて、上空から【妖精の一刺し】でぐさーっと突撃するね♪
テレポートしてきた奴らも一網打尽で貫いてやるぞ☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●白銀の世界に妖精は踊る
「お、おおお……俺の世界が、がが…… アリスを美味しく食いまくる、俺の国があぁぁ……!」
膝をついて慟哭するオウガ。ただでさえ崩壊を始めていた工場が、猟兵たちの大暴れで更に大惨事となっている。もう廃墟と言っても差し支えない。
「この世界自体、元々はキミの物ではないと思うのだけれどね」
俺の国だのアリスを食べるだの、オウガの横暴さに呆れ果てる雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)は深いため息をつく。なんだかこの世界ではため息ばかりついてしまっている気がするような。
「ま、どの道キミのような輩に食べられるのは御免被る」
負けるつもりなどはさらさら無いという自信含んだ言葉を、怪盗のシルクハットを被り直しながらそう口にする。
「俺だってなぁ、こんなやけっぱちになった食い方趣味じゃねぇんだよ……」
グレイシアの言葉に、更に項垂れて答えるオウガ。共感などできるはずもないが、随分強いこだわりがあったようだ。
「特にアリスは、もっともっといじめ抜いてから美味しく食いたかったんだ……!」
「むむむー?」
その様子を眺めながら、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は疑問を抱く。なんでオウガ達はこんなめんどくさいことをしてアリスをいじめていたのか?
ふと、ティエルの視界に何かの光が映る。否、光でない。光っているように見えたそれは、先ほどまでアリスが作っていた刺身の上に乗せられたタンポポ。それを見たティエルはひらめいた!
「わかったぞー! お前たち、アリスのたんぽぽをお刺し身に乗せる才能に嫉妬していじわるしてたんだな!」
「えっ」
いや違うけど……なんて振りをしているが、お姫様のティエルは騙されない!彼女から見てもアリスのタンポポは光り輝いて見えた!
この才能、失わせてなるものかとティエルは羽ばたきレイピアを構える。
「アリスにいじわるして食べようとする悪いやつなんて、ボクたちで懲らしめてあげる☆」
「やかましいッ! どうにかしやがれテメェらぁっ!!」
醜く喚き立てるオウガだが、もはや残りも数少ないゼラチン目玉たちではどうにもなるまい。それでも主人の言うとおりに猟兵たちに向かっていくのは、果たして忠誠心なのかオウガに逆らう方が怖いのか、そもそもそこまで考えるだけの知性が無いのか。
「もんどー無用! いちもー打尽にしてあげるっ♪」
ぽよんと跳ねて向かってくるゼラチンたちをティエルが睨んだ次の瞬間、彼女は流星のように軌跡を残し宙を翔ける。空中の戦いにおける彼女の戦闘能力は一級品だ。不幸にもターゲットにされたゼラチンに逃げる隙など与えない。
「いっくぞーーー!! これがボクの全力全開だよ☆」
ゼラチン内部の目玉がティエルの残像を追ったのもつかの間、レイピアを構えた全力の突撃『フェアリー・ストライク』がゼラチン目玉を貫いていく。
「うげぇっ
……!?」
ゼラチンたちが抵抗する間もなく、あっさりただの水滴へと還元されていく様子に絶句するオウガ。生き延びたゼラチンは再び向かってくるティエルから距離を取ろうと、味方の元へとテレポートするが……もはや敵の数もたかが知れたもの。空中を自在に飛び回る妖精姫から逃れられはしない。むしろテレポート先の味方ごと串刺しにされるだけである。
それでもティエルの攻撃から必死に逃げ惑うゼラチンたち。その姿はいっそ哀れにも思えるが、しかしオブリビオンに容赦するほど猟兵たちは甘くない。
「スマートに仕事をこなしていこうか、怪盗らしくね」
ティエルが敵を翻弄している間に、グレイシアは勇猛なる戦士たちへ捧ぐ行進曲を歌い上げる。半分廃墟と化した工場内に響き渡る、その歌声に誘われるように姿をあらわすのは、氷の身体と鎧を纏う巨大な将軍の姿だ。
「ボクの前に液体の体を持つ敵だなんて……ただの鴨だよ。 凍ってしまえばその体、もう自由に動けないだろう?」
歌声とともに召喚された『アイシング・ジェネラルフロスト』の冷気が、逃げ惑うゼラチンたちへと吹き荒れる。その液体の体はたちまち白い霜をおろし、やがて動くことも出来ない氷の塊へと変えてしまう。グレイシアの言う通り、こうなってしまってはテレポートもなにもない。ただ砕かれるのを待つばかりの哀れな氷像が立ち並ぶ。
それでも氷嵐を抜けてくる敵がいればと、グレイシアはワイヤーガンを構えていたが……どうやらそれすら必要はなさそうだ。
「うお、おおお……こ、こんなバカな話が……!」
「すごい……綺麗……!」
もはや部下を全て失ったも同然のオウガは汗を流してうろたえて、工場内部にあらわれた白銀の世界にアリスは感動の声をあげる。あとはもう、ゼラチンたちの氷像を砕いて回るだけだ。
「……お手を煩わせて恐縮ですが、そちらはお願いできますか?お姫様」
「ふふん、くるしゅーなーい♪ まっかせてねー☆」
凍てつく怪盗の歌声に導かれ、氷の将軍が振り下ろす一撃が冷凍ゼラチンたちをまとめて粉砕。氷の粒で白く染まる空中を、踊るように翔ける妖精姫が他のゼラチンたちに風穴を空けて止めを刺していく。
……こうして猟兵たちは、完膚なきまでにオウガの手下どもを打ち倒してみせた。
崩壊が続く工場内部、残る障害はオウガ、ただ一人。
大成功
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第3章 ボス戦
『人喰いピアノ』
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POW : 死の旋律
【見えない破壊音波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : メメント・モリ
【自身が喰い殺したアリス】の霊を召喚する。これは【聞いた者の生命力を奪う童謡】や【生きているアリスに憑依し、操ること】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 闇の幻想曲
【物悲しいピアノの曲を演奏すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【臨死体験の白昼夢による精神攻撃】で攻撃する。
👑11
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●悪食なオウガを討て!
「よくもよくもよくもヨクモヨクモォォォッ!!!」
巨漢のオウガが半ば正気を失った様子で絶叫する。自分の作った工場の国は台無し、手下たちもことごとく敗れ去った。
「もう何もかも知ったことかぁ! 俺がテメェら全員ぶち殺して食ってやればそれで終わりだぁぁぁ!!!」
巨体ではあるがまだ人間の姿を保っていたオウガの身体が、徐々に異形へと変貌を遂げていく。
まず、口が大きくなる。大きく割けた口は、巨漢だった体よりも横に長い。
次に、口が大きくなる。白い歯が口のサイズに合わせて膨れ上がり、鋭さが増していく。
更に、口が大きくなる。噛み砕いたものを飲み込む舌が肥大化し、口から飛び出した。
「食う、くう、クウ……! テメェら全員、噛み砕いて腹に詰め込んでやるぅっ!!」
バリバリと作業衣が裂けて、肉体は角張ったフォルムへと変形を遂げる。腕は消えて脚が増え、体色は黒く変貌。
……やがてあらわれたのは、一台のグランドピアノ。廃墟とはいえ工場の中にあらわれたそれは場違いな印象を与えるが……上顎と化した屋根の姿は不気味そのもの。巨大な口がガチャンガチャンと歯を鳴らす。正しく人食いピアノの姿だ。
確かに、その巨大な口はアリスを苦しめてから食うという悪食なオウガにふさわしい異形だろう。口から今も滴らせる鮮血は……もしや、かつてのアリスのものなのか。
「…… めっちゃ舌噛んだ……」
やっぱりただの馬鹿かもしれない。
……しかしながら忘れてはいけない、このオウガは自分の国を作り上げるほどの力を持った強大なオウガだ。その戦闘力とてあなどれない。このふざけた工場の主を滅ぼさなければ、アリスはその口の中で生涯を終えてしまうのだ。
3個のキャスターをガリガリと鳴らし、猟兵たちへと突貫してくる人食いピアノ。アリスへのパワハラから始まった戦いが、今終わろうとしている。
ミネルバ・アレキサンドリア
■心情
出ましたわね。貴方がこの工場のボスですの?なんとも横暴そうなオウガですわね。貴方にはわたくしが本当のパワハラというものを教えてさしあげますわ。
こんな工場があるからいけないのですわ!わたくしが木っ端微塵に吹き飛ばしてさしあげますの!工場ごと潰れて死になさい!
■戦闘
ユーベルコードで巨大化して暴れ、廃工場を粉砕する。オウガは踏む。
※服は一緒に巨大化する特別仕様
※アドリブ連携大歓迎
弥久・銀花
アドリブ、他の人との絡み、ピンチシーン歓迎です。
おや、今度はピアノ工場ですか。
では仕事に取り掛かりましょう。
先ずはユーベルコードの鋭刃線閃で蓋を取り外します。
その後は、ピアノの上に飛び乗り愛刀をピアノの中に突き入れて、弦を調律してあげましょう。
大丈夫です、今の私は天才調律師(の役)!
きっと生まれ変わった気持ちにさせてあげますので安心して身を委ねて下さい!(突き入れた刃をグリグリ、ねじねじと動かしつつ)
こらっ! 舌を暴れさせないで下さい!
はっ……! まさか、服を破いたのは私の素肌を舐める為……!?
セクハラですね、間違いないです。
セクハラは私刑です、とりあえずこの悪い舌は滅多刺しでお仕置です。
二天堂・たま
さてと、ようやく工場長の化けの皮を剥がせたか。
アリスラビリンスのオウガはそろいもそろってホラーテイストなのだな。
深夜に女学生を食べるピアノという学校の怪談風なタイトルがよく似合う。
とりあえず、SPDのUCを誘発させるとしよう。
生命力を奪う童謡よりも、厄介なのは生きているアリスを操る能力だ。
アリスがピアノに襲われかねんが、ワタシのケットシーの肉球とUC:ケットシーインパクトは触れた者の悪意・負の感情を浄化する。
彼女に憑依した、過去に犠牲になったアリスの霊にこびりついた悪感情も消し飛ばすのだ。
念の為にボビンケースの絹糸でアリスの足元に網を敷く。
ピアノの突貫や、アリスの危険行動を抑制するのだ。
●鉄脚制裁
「貴方がこの工場のボスですの? なんとも横暴そうなオウガですわね」
ミネルバ・アレキサンドリア(ポンコツドラゴン・f17280)は悪食だとひと目で分かるオウガの正体にそんな感想を呟く。不気味な音色を撒き散らして走る人食いピアノ、それを睨む瞳は怒りに燃えている。
アリスに苦痛を与え、それが邪魔されれば部下をけしかけ、今度はアリスと自分たちを喰らおうと喚き散らす醜いオウガの姿。そんな身勝手なオウガの姿に……ミネルバはキレた。
「もう、あったま来ましたわ!!」
怒りに任せて叫んだと同時、巨大化を始めるミネルバの姿。怒りの大きさに比例して己の身体を巨大化させる『銀竜激怒』だ。ちなみに体に合わせて衣服も大きくなる。どんどん巨大化するミネルバの体が途中で天井に頭をぶつけ、破片が地面に落ちた。
「もう、邪魔な天井ですわね! それもこれも、こんな工場があるからいけないのですわ!」
「自分でぶつけておいてそれは言いがかりじゃねえ!?」
「パワハラしていたあなたが言えたことじゃありません! 貴方にはわたくしが、本当のパワハラというものを教えてさしあげますわ!」
多少の理不尽も混ざっているが、とにかく怒りを増すミネルバの体は更に巨大化する。もはや工場の天井を突き破り頭を出すほどだ。
「工場ごと潰れて死になさい!」
その巨体で暴れ回り工場を更に粉砕していくミネルバ。頭から角が生えた巨体が暴れる姿は、もはや怪獣映画のようだ。巨大な足を振り上げて、オウガを狙って踏み潰してやろうとする。
「あぁぁぁたるかよぉぉぉ!!」
しかし、腐ってもこの世界を作り上げるだけの力を持つオウガだ。そう簡単に潰されるものかと、足場の悪い床を三脚キャスターで器用にドリフトし、その足踏みや降り注ぐ瓦礫を躱していく。
「黒光りしている上に素早い……! うぅっ、なんかイヤなのを想像してしまいますわ」
ズシン、ドシンと暴れまわり攻撃を繰り返すが、すばしっこく逃げ回るオウガには中々当たらない。
「おや、今度はピアノ工場ですか。 ……いや、確かにもっと気色悪いのが思い浮かびますが」
ミネルバの言葉を聞いてちょっと鳥肌が立つ想像をしてしまった弥久・銀花(隻眼の人狼少女剣士・f00983)。相変わらず服は破けたままだ。
ミネルバの踏みつけから逃げ回る人食いピアノの逃げ先へと回り込み、叫び声と共に鋭く抜刀。
「研ぎ澄まされた刃に斬れぬ物無し! 鋭刃線閃!」
ミネルバの踏みつけを躱して崩れた動きでは、目の前の剣戟からは逃れられない。当たれば斬れるという単純明快で強力な一閃が人食いピアノを襲う。
「ぐぅっ、オォォォッ!!」
オウガの苦悶の声と共に、ピアノの蓋と一体化した上顎が半分ほど断ち切られる。そのまま縁へと飛び乗った銀花は更なる追い打ちを仕掛けるべく、オウガの口内へと刀を突き刺す。
「グオォォ!? クソが、離れろォッ!!」
「大丈夫です、今の私は天才調律師(の役)! きっと生まれ変わった気持ちにさせてあげますので安心して身を委ねて下さい!」
「ギイィィィッヤァァァ!?」
突き入れた刃の先をグリグリねじねじ、差し込み捻り上げかき回すたびに人食いピアノが苦痛に絶叫をあげる。だが。
「調子に乗ってんじゃねえぞ、猟兵どもオオオォォォッッッ!!!」
「ぐぅぅっ!?」
憤怒に満ちた人食いピアノの絶叫、それが不可視の破壊音波となって周囲に撒き散らされる。至近距離で受け止めた銀花はオウガに突き刺した刀にしがみつくのがやっとだ。
「ハッハァッ! やっと力を緩めたな!」
「しまっ…… うぅっ!?」
その隙を突いて、自らの血でより赤くなった舌が銀花を絡め取る。生温かくナメクジのように重い湿り気を帯びた巨大な舌が、破れた衣服の隙間から直接乙女の柔肌へと張り付き穢していくという冒涜的行為。身の毛もよだつ感触に銀花も思わず悲鳴をあげてしまう。
「ひいぃぃぃっ!? このっ、やめろ…… はっ……! まさか、服を破いたのは私の素肌を舐める為
……!?」
「いやあれはお前が勝手に破れたんだろ、なぜか」
オウガは味見とばかりにべろりべろりと銀花を舐り回し、その大口で飲み込もうと――。
「銀花様を離しなさいな!」
「うぉぉっ!? アブねぇ!!」
囚われた仲間を助けようと再度ミネルバが巨脚を振り下ろすが、荷物となった銀花をぽいっと放り投げ、オウガは必死に攻撃を躱す。
「やべぇやべぇ、あんなもん喰らったらお終いだからな…… ここはやはり、アイツを利用させてもらおうかぁ!!」
ガバッと開かれた人食いピアノの口から飛び出してくるのは、下半身を食いちぎられて失った少女の霊。このオウガが過去に食い殺したアリスの霊だ。
「さぁぁぁアリスぅぅぅ! 俺に食い殺されて悔しいかぁ苦しいかぁ!! そこのガキに取り憑けば、テメェは体を取り戻せるぞォォォ!!!」
『ウ、ウグゥゥ
……!!』
オウガの悪辣な誘いに、無念と苦しみに苛まれ正気を失った霊魂がアリスへと飛んでいく。猟兵たちがアリスを庇おうとするも、先ほどの破壊音波からまだ立ち直れていないものばかりだ。
「きゃああぁっ!?」
生きる者への執着を見せるアリスの霊が、怯えて悲鳴をあげるアリスへと触れようとする――その直前。
てしっ。
『ア、アァ……?』
いつの間にか足元よりあらわれた二天堂・たま(神速の料理人・f14723)の肉球が、霊に優しく触れていた。
「キミの無念はワタシたちで晴らそう。 どうか安らかに眠ってくれ」
その肉球から放たれるユーベルコードは、先ほどゼラチン目玉たちに放ったものとは別種の『ケットシー・インパクト』。肉球から放つ衝撃波が、受けた者の悪意や殺意を浄化する。
柔らかく触れるように放たれたそれに威力はほとんど無い。だが、だからこそアリスの霊に苦痛を与えず浄化することができるのだ。
『アアァ…… ありが……う……』
狂気から解放され、光に包まれて薄くなっていくアリスの霊。穏やかな瞳から涙を一筋零しながら、か細い声でそう呟いた。
「礼には及ばんとも、そちらでゆっくりと休みたまえ。 ……さてと、ようやく工場長の化けの皮を剥がせたか」
アリスの霊を見送った後、迫り来るオウガへと向き直るたま。
「アリスラビリンスのオウガはそろいもそろってホラーテイストなのだな。 深夜に女学生を食べるピアノという学校の怪談風なタイトルがよく似合う……と思ったが、これは少々醜悪に過ぎるな」
かつて喰らったアリスを悪霊としてけしかけるなど、悪趣味を通り過ぎて下劣極まりない手段をとったオウガに対し、たまの語気が鋭くなる。いつも柔らかな表情のケットシーに、怒りが垣間見えるのは気のせいではないだろう。
「うるせぇ! もう少しだったのに邪魔しやがってよぉ!」
ガリガリガリとキャスターが床を削る勢いで人食いピアノがたまを、そして後ろにいるアリスへと向かってくる。二人まとめて喰らいつこうという算段らしい。
「仲良く俺の腹の中に……いっ、ぎいぃぃっ!?」
しかし突進中、突如バランスを崩すオウガ。なにごとかと困惑の声をあげるが、その足の一つに白い縄が絡まっているのが分かる。
「うむ、思ったとおりにかかってくれたな、単純な頭で助かる。 そもそも、頭があるのかは知らんがね」
指先でボビンケースをくるくると回しながら、そのオウガの姿に満足気なたま。よくよく見れば、アリスの足元を中心に白い縄が張り巡らされていた。ミネルバの大暴れや銀花が攻撃を仕掛けている間に、たまが仕掛けた絹糸の網である。先ほどアリスの足元からあらわれたのも、この仕掛けを施していたためである。
「こ、このっ……ふざけたマネをぉっ!」
たまの狙い通りに転んだピアノは無様にひっくり返り、じたばたと三脚を動かして必死にもがいている。
「その形状では立ち上がるのも容易ではあるまい。 さて、ワタシも一発入れてやりたいところだが…… キミも鬱憤が溜まっているだろう、ここは若者に譲ることにしよう」
「あら、それではお言葉に甘えさせて頂きますわ」
「うげえぇっ!? て、テメェッ
……!?」
たまの申し出を受けて近づいてくるミネルバ。巨大化した彼女が歩く度、廃墟と化した工場内に地響きが立つ。何をするつもりなのかは火を見るよりも明らかだ。
「に、逃げっ……! ぐげっ!?」
ひっくり返った亀が自分の首を伸ばして体を起こすように、人食いピアノは舌を伸ばして体を元に戻そうとする。だが、必死に足掻いて暴れる舌に鋭い破片が突き立てられた。
「さっきのセクハラ、忘れてませんから。 セクハラは私刑でお仕置きです」
オウガから伸びる舌に、瓦礫の先端を突き刺して床へと縫い付けたのは銀花だ。オウガの逃走手段を奪ってから「じゃ、あとは任せました」と巻き添えを食わないように素早く離れる。
「随分手こずらせてくれましたわね…… お覚悟はよろしくて?」
ミネルバの『銀竜激怒』は怒りに比例してより巨大になる。攻撃を躱され続けて鬱憤の溜まりまくったミネルバの怒りは物理的にも反映される。先ほどは工場の天井から頭を出すほどだったのが、すでに天井の位置は胸のあたりまで迫っていた。
「ま、待て、待ってく……!」
問答無用。ミネルバの振り上げた足から破片がパラパラと舞い落ちて……。
――ズ、ドォンッ……。
「ごぺっ」
凄まじい衝撃音とともに、工場内の物や猟兵たちが一瞬宙に浮くほどの地響きが走る。
ミネルバは鬱憤を晴らすように、底の厚いブーツでグリグリグリグリと念入りに踏み躙る。
足がどかされてあらわになったピアノの姿は……陥没して抜けた床の底に埋まっていた。底板が割れて歯は砕け、ピクピクと三脚が痙攣している。しぶといことに、かろうじてまだ生きているらしい。
「ふぅ…… スッキリしましたわ!!」
そのミネルバの表情は、今日一番の良い笑顔だったという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「そんな大きな口したって、アリスを食べさせたりしないぞ!」
背中の翅を羽ばたいて「空中浮遊」、空中から襲い掛かってくるピアノからアリスを守るよ!
【メメント・モリ】でアリス達の霊が現れたら、ティエルちゃん怒髪天!
ママが持たせてくれたお守りの「呪詛耐性」で童謡から身を守り、アリスに憑依しようとする霊を風を纏わせたレイピアの「属性攻撃」で追い払うよ!
痺れを切らしてオウガ本体がこっちに寄って来たら反撃だ☆
むむむー、足が増えたけど1本折ればバランス悪くなりそうだ!
3個あるキャスターの1つを狙って「捨て身の一撃」で【妖精の一刺し】をお見舞いしちゃうぞ!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
クーデリア・カトラリエ
【POW使用】アドリブ・絡み歓迎
モグモグ‥‥あら、お刺身食べてる間に工場が何だかエキセントリックな事に。違うのよ、クーちゃんはただ食べてただけじゃなくてこれは自己強化に必要な事なのよ。お刺身が食べたかっただけでは無いのです。
あの足、速いけど安定悪そうだしいろいろ絡まりそうね。なんか落ちてるぷよぷよしたのにお刺身のツマを混ぜたのをバラ撒いて、トラップに。足を取られて動きが止まったところに【指定UC】で強化した、渾身の一撃をお見舞いしてやるわ!カウンターがあるかもしれないし、一回そのへんの人体模型やらベルコンの残骸を投げつけて反撃を吐き出させてから本命の一刺しを舌にぶすりと。
ドゥイット・ナウ
共闘、行動アレンジ可能
労働基準な監督署の方から来ました…なんてな。
もはやパワハラを超えて
会社での不始末を秘密裏に処理するようなブラックな状況だな。
困ってるアリスがいれば
助けるのが一般的な猟兵の務め。
それではいつも通りオブリビオンを『普通』に殺すとしよう。
戦闘中は主に拷速球による投擲攻撃で
味方を援護を中心に攻撃に徹しよう。
人喰いピアノの「死の旋律」に対し、
【見切り】や【武器受け】で致命傷を避けつつ
【激痛耐性】で攻撃に耐えよう。
敵の攻撃の隙を突き
敵の死角を突くよう接近し「蹴炎」で蹴り燃やす。
「燃えやすそうな姿で助かるよ」
最大の目的は、戦闘を有利に進め、勝利に導くことだ。
その為に全力を尽くそう。
●普通の猟兵と、怒った妖精姫と、お刺身パワー
「……もはやパワハラを超えて、会社での不始末を秘密裏に処理するようなブラックな状況だな」
無精髭を生やしたシャーマンズゴースト、ドゥイット・ナウ(一般猟兵・f04358)があたりを見渡して素直な感想を漏らした。
天井は落ち、床には巨大な足跡が穴となっていくつも残る。ベルトコンベアの残骸や転がっている折りコンなどが、かろうじてここが工場であったということを教えてくれた。
「あら、お刺身食べてる間に工場が何だかエキセントリックな事に」
そんな状況でまだ刺身を食べていたのは、クーちゃんことクーデリア・カトラリエ(三度の飯より飯が好き・f20874)。どこからか手に入れた大皿に無事な刺身を確保していたらしい。いつの間にやらボロボロとなった工場の様子に動じることなく、刺身を口に運んでいる。もぐもぐ。
「ぐうぅ…… め、滅茶苦茶やりやがって、猟兵どもぉ……!」
文字通り踏みにじられてボロボロになった人食いピアノが、瓦礫の底から這い上がってきた。半分に断ち切られた上顎の隙間から、巨大な舌がでろんと溢れている。息も絶え絶えといった様子だが、アリスを食うことはまだ諦めていないらしい。
「もう一度、もう一度アリスを、オォォッ!!」
雄叫びとともに巨大な口から吐き出されるのは、またしてもかつて喰らったアリスの霊。苦痛に嘆く悲鳴をあげて、哀れなアリスが生者を求めて浮遊する。
霊が再びアリスへ襲おうとしたその時、一陣の風となってあらわれたティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)がその行く手を塞ぐ。
「ごめん、さっさとあいつをやっつけちゃうから、もう少しだけ我慢しててねっ!」
風鳴り音とともに振るわれたレイピアが突風を吹かせ、アリスの霊を傷つけないように追い払う。
「どうした、まだテメェにはアレがあるだろう!!」
『ウゥゥ、アァァ……!』
オウガの口汚い怒鳴り声を受け、アリスの霊が恨めしげな声音で童謡を歌い始める。光の下で生きる者たちへの嫉妬にまみれたその歌は、聞いた者の生命力を奪う呪われた歌だ。
「アリスにそんなつらい歌を歌わせるなんて…… でもボクには、そんなの効かないんだからっ!」
呪いの童謡がティエルの生命力を奪わんとするが、しかし彼女の持つお守りの宝石がその邪気を打ち消していく。
「そんな大きな口したって、アリスを食べさせたりしないぞ!」
霊となったアリスを召喚し生者を襲わせるなどという人食いピアノの行為に、普段は無邪気なおてんば妖精姫も怒髪天。小さな体で空を駆け、アリスには近づけさせまいとオウガとアリスの霊を牽制する。
「ガアァァッ! 邪魔するんじゃネェェェッッッ!!!」
逆上したオウガが破壊をもたらす絶叫を叫び散らす。その余波で工場の残骸が吹き飛ぶ中、破壊音波の前に出たのはドゥイットだ。
「一般的な猟兵として、アリスや仲間が傷つけられるのは普通に見過ごせないな」
不可視の攻撃といえど、この廃工場ならば巻き上がる残骸の様子から威力を予測して見切ることは普通に可能だ。致命的な一撃は武器を盾にして普通に衝撃を受け止めて、体に走る激痛は普通に耐える。
「そんなマネが普通なワケねえだろぉ!?」
オウガにとっては必死の反撃であるにも関わらず、普通に凌がれてしまっては溜まったものではない。相手が悪いと判断したオウガはキャスターを唸らせ大きな瓦礫を壁にして、隠れながらアリスへ回り込もうと試みるが。
「うおぉぉっ!?」
だがしかし、先ほど猟兵たちにけしかけたゼラチン部下の残骸が、瓦礫の陰に仕掛けられていた。ゼラチンに滑る三脚を必死に踏ん張ろうとするが、なぜか上手く動かせない。
「な、なんだ!? 何かがキャスターに挟まってやがる
……!?」
「もぐもぐ。 それは……お刺身のツマよ!」
「まだ食ってんのオマエ!?」
その罠を仕掛けた張本人、クーデリアが瓦礫の山の上から登場する。片手に握るのは相変わらず刺身。
「違うのよ、クーちゃんはただ食べてただけじゃなくてこれは必要な事なのよ。 お刺身が食べたかっただけでは無いのです。」
ぱくりと刺身を頬張りながらそう言うが、幸せそうに緩んだ頬は刺身の美味をとっても楽しんでいるようにしか見えない。だが彼女の言うことが偽りかと言えばそうではない。
「それじゃあクーちゃん、食後の運動はりきっちゃうわ!」
おーっ、と片腕を振り上げて発動した『フードファイト・ワイルドモード』は、食べた肉の量と質に応じた自己強化を行うユーベルコードだ。戦闘が始まってからもずっと食べてばかりの彼女が、それを発動すればどうなることか。
足元に積み重なる瓦礫から、人体模型の破片やベルトコンベアの残骸を掴み取ると、それを人食いピアノに向けて途轍もない勢いでぶん投げる。
「ウオオオォォォッ!!?」
ピュン、などと空気を切り裂く甲高い音を立てて飛んでくる残骸を前に、慌てて破壊音波を撒き散らすオウガ。あわやというところで弾き返すが、キャスターにはツマが絡まり反撃にユーベルコードを発動した今、オウガの足は完全に止まった。
「そこだ」
一般的な猟兵はそんな隙を見逃さない。攻撃を仕掛けたクーデリアの援護に回り、ドゥイットが人食いピアノに鉄球を投擲する。攻撃の隙間を縫って放たれたそれは、見事にオウガへと命中し……そしてそれが猛烈に回転を始めた。
「うぐおぉぉっ!?」
ドゥイット愛用の鉄球型拷問具は、血液を浴びることで激しい回転を起こす特性を持つ。既に傷ついて己の血に塗れたオウガはめり込んだ鉄球に更に体を削られて悲鳴をあげる。
「ヤツの足は止めた、今のうちだ」
「ナイスフォローよ! さぁ、渾身の一撃をお見舞いしてやるわ!」
ドゥイットに促され瓦礫の上から軽やかに跳躍するクーデリア。腹ペコウサギは両手に身の丈ほどのフォークを握りしめ、狙う先は……。
「ぶすりっ!」
「ぐ、げえええぇっ!?」
だらしなく伸びた人食いピアノの舌、その先端に突き刺さった。先ほどの戦いのように、またしても地面へと縫い付けられるオウガ。そこに近づくのはドゥイットだ。
「それではいつも通り、オブリビオンを『普通』に殺すとしよう」
「ぐえっ!?まっ、まっひぇくれ……」
そんな命乞いに貸す耳など、一般的な猟兵は持ち合わせていない。
「燃え尽きろ」
「ウゲハァッッッ!!?」
ドゥイットの蒼炎を纏った蹴りが、下から上へと人食いピアノを叩き上げるように打ち込まれる。肉の裂ける嫌な音とともに、フォークで縫い付けられた舌が耐えきれずに切断され、オウガの巨体が宙へと舞い上がった。ドゥイットの『蹴炎』が放つ青白い炎は彼の意思で自由自在に操作可能だ、当然オウガの全身は炎に包まれる。
「後は……普通に任せた」
「はーい! フツーに任せて!」
そしてオウガの蹴り上げられた空中は、妖精姫のホームグラウンドだ。身動きを取ることも、舌をもがれて破壊音波を出すこともできない火だるまと化した人食いピアノにできることなど何一つ無い。
「ひいっ!? やめっ、やめろぉっ!?」
「同じことを言ったアリスを助けたこと、ないでしょっ! アリスをいじめた因果おほーなんだよ!」
この工場では二度目の台詞を、今度は小さな胸にこみ上げてくる怒りとともに吐き出し、オウガへ向けて空中を疾走。ティエルの素足に巻かれた赤いリボン、その残像だけを糸のように空中へと残しながら、目にも止まらぬ妖精姫の一撃が人食いピアノへと炸裂する。
「う、グウオォぉぉっっっ!!!」
捨て身で放たれた全力全開の『フェアリー・ストライク』が、人食いピアノの三脚のうち一つを叩き折る。重力に逆らう術もなく、音を立てて床へと叩きつけられるオウガ。
「ふふーん♪ どうだ、まいったか☆」
怒りを込めた一撃を叩き込み、ティエルはぶいっ、とピースサインを決めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
空葉・千種
アドリブ絡み歓迎
巨大化したまま前衛で参戦するよ!
このサイズならかじられても致命傷にならないはずだからみんなをかばう位置に立つね!
…でも念の為相手の口に丸太を差し込んで噛まれないようにしとこ。
噛み千切らないサイズ差でも噛まれたら痛いし…。
破壊音波は大声で破る!
えっとー…何叫ぼう?
…食べ物で遊んじゃだめー!
……最低賃金は守りなさいー!!
………あの時折りコンのミス五回目だから貴方も間違えてるでしょーっ!!!
……叫んだらちょっとスッキリしたな。
アリスちゃんもね、元の世界に戻ったら言いたいことはちゃんと言ったほうがいいよ?
そうじゃないと、新聞とかダイエット用品とかいっぱい契約させられちゃうからね…。
雪華・グレイシア
食事はもう少しお行儀よくするもんだぜ、キミ
聞く耳なんて持ってはいないだろうけれど
キミを倒して、さっさとアリスを頂いていくとしようか
ボクが次に呼ぶのは霜の巨人
あの音は厄介そうだし、巨人を盾にまずはやり過ごそう
巨人の咆哮で目の前に氷の壁を
巨人は腕を組んで身を固めさせて、ボクはその後ろへ隠れて破壊音波を巨人たちで防ぐのを試みる
巨人の体が残っていれば、そのまま彼を進撃
組み付かせて、抑え付けてしまおう
跡形もなく壊れたのなら、壊れていく破片に紛れて、【ワイヤーガン】を射出
足の一本に引っ掛け引っ張ってバランスを崩させるとしよう
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
ポーラリア・ベル
【アドリブ・連携歓迎だよ】
アリスのお姉ちゃん
―大丈夫だよ。みんな嫌な時は、嫌になったみんなが助けてくれるの。
お姉ちゃん、お仕事さんするの凄いから、今度また素敵な職場に出向くのよ。
いくよー!【楽器演奏】「冬告げのベル」と手拍子で、
物悲しいピアノの曲をポジティブな明るい曲に変えちゃうよ!
リズムに乗りながら、【属性攻撃】で作る、繁殖力を莫大に上げた【ウィンターライブ・アニミズム】の
雪マグロさんをピアノにぽーい!ぽーい!
えへへ、美味しい?その子―増えるよ
お刺身さんの前で乱暴したらねー、お魚さんがお怒りするの。
古文書にもそう書いてあったよ。
あ、たんぽぽ忘れてた!まだある?ない?じゃあいいや
●暴食のオウガ、その末路
「うご、おごごおぉぅ……チクショウがぁぁぁ
……!!」
上顎を半分斬り裂かれ、身動きを封じられた状態で巨大な足に踏み躙られ、舌の先端を引き裂かれながら全身を燃やされ、三本足のうちの一本をへし折られた。それほどまでの攻撃を受けて、それでも二つとなった足で地面を這う人食いピアノ。巨大な口から漏れ聞こえるのは猟兵たちへの怨嗟の声だ。
「殺す……殺してやるぞ猟兵どもぉぉぉ……! 食い殺してやるぞアリスぅぅぅ!!!」
「ひっ……!」
残された上顎に並んだ歯が不気味に輝く。死に体の状態で、なおもアリスを食うことに異常な執着を見せるオウガ。その様子に恐怖を覚えたアリスは思わず身をすくめてしまう。
「アリスのお姉ちゃん。 ――大丈夫だよ」
そんな怯えるアリスへ優しく語りかけるのはポーラリア・ベル(冬告精・f06947)。妖精はひらひらと飛びながら、アリスを励ますように、あなたは一人では無いのだと語りかける。
「テメェみたいなチビに、何ができるって言うんだよぉぉぉ!!!」
オウガは調律の狂った耳障りな音色を奏で出す。それは聞いた者へ臨死体験の白昼夢を見せつける闇の幻想曲だ。支離滅裂な演奏でありながら、どこか悲壮な雰囲気のメロディに精神が削り取られる。
「そんな悲しいのだめ! 私が素敵な曲に変えてあげる!」
オウガの音色に負けない明るい声で、ポーラリアは愛用のベルを取り出して自らも奏で始める。
「コ……コイツ、俺の演奏に合わせてやがる!?」
死の悲壮感を煽るピアノのメロディに負けず、冬妖精のベルの音が混ざり合い……しんしんと降り積もる、冬の雪と静けさを想起させる合奏へと昇華された。そしてポーラリアは主導権を握るべく、更なる旋律を加える。
「さあ、皆さんもご一緒に! いくよー!」
ベルを鳴らしながら器用に手拍子を加えていく雪妖精。パン、パン、パン!
「あ、これ……聞いたことある!」
人食いピアノの旋律に飲まれないようにと、両手で耳を覆っていた空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)が聞き覚えのある手拍子のリズムに顔を上げた。その体はゼラチンと戦っていた時の大きな姿のままだ。記憶を頼りに、その大きな手で手拍子に加勢する。
「なるほど、そういうことか、面白いじゃないか」
雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)は、いち早くポーラリアの狙いに気がつく。氷を操る凍てつく怪盗にとっては、そのリズムに多少の親近感を覚えるのかもしれない。ポーラリアに合わせて手袋に包まれた両手で手拍子を重ね、演奏に協力していく。
パン、パン、パン! パン、パン、パン!
「!? こいつは、まさか……!」
冬妖精の手拍子に先導され、猟兵たちも一緒にリズムを作っていく。楽しげで思わず笑顔を浮かべてしまうそのリズムは、冬の夜と空に舞う雪にぴったりなクリスマスの定番ソングであった。オウガが演奏した物悲しい曲の印象は、クリスマスのポジティブで明るく楽しい雰囲気へと完全に覆されていく。
「やめ……やめろぉぉぉっ!? こんな曲、俺の趣味じゃネェェェッッッ!!!」
思わぬ形の妨害で逆に耐え難い曲にされたオウガは、我慢できずに半狂乱で破壊の音波を繰り出す。
「アリス! 俺はアリスをぉぉぉ!!! 食う、クウ!! クワセロォォォッッッ!!!」
「食事はもう少しお行儀よくするもんだぜ、キミ。 聞く耳なんて持ってはいないだろうけれど」
マナーのなっていない人食いピアノに向けて、呆れた口調で呟くグレイシア。この世界と人食いピアノの横暴さにため息をつくのは、一体これで何度目だっただろうか。
「せっかく気分の良い歌だったんだ、それにふさわしい住民を呼ぶとしよう」
グレイシアが破壊音波の前に召喚するのは『アイシング・ヨトゥンヘイム』。霜の巨人が腕を組んで登場し、不可視の破壊から猟兵たちを庇う。しかし、その巨体を持ってしても凍てついた体はどんどんと砕かれていってしまう。
「……窮鼠猫を噛むとは言うけれど。 あの口で噛まれるのはごめんだね」
体も精神も追い詰められた人食いピアノも必死なのであろう、死物狂いで放たれている破壊音波の威力は馬鹿にならない。霜の巨人一人では限界があるようで、その体に入るヒビが大きくなっていく。
「それなら、私もお手伝いするよ!」
グレイシアに加勢すべく、霜の巨人に負けない巨体と化している千種も前に出る。人食いピアノの攻撃を妨害するべく思考を巡らせて……。
巨大な体ならば声も大きく出せるはず、ならば破壊音波には大声で対抗しよう。
そう考えた千種は胸を反らし、すうぅっと大きく息を吸い……何を叫ぼうか一瞬考えた直後、お腹に力を込めて叫ぶ。
「………食べ物で遊んじゃだめぇぇぇーーー!」
まったくもって至極まっとうな意見であった。人食いピアノの絶叫に負けない音量が廃工場内を突き抜けて、破壊音波とぶつかり合う。それに対抗すべく人食いピアノもも声を張り上げる。
「知るかァァァー!!! 俺に取っちゃ食い物はテメェらだぁぁぁー!!!」
「最低賃金は守りなさぁぁぁーーーい!!」
「テメェらに金を使う先なんかねえんだよォォォ!!!」
「あの時折りコンのミス五回目だから貴方も間違えてるでしょぉぉぉーーーっ!!!」
「えっ…… マジで? あの短期間でそんなに……?」
「…… …… 隙ありーっ!」
「ウゴォォッ!?」
思わず聞き返した人食いピアノの隙を突き、千種はどこからか取り出した丸太をオウガの大きな口へと差し込む。それはつっかえ棒のように人食いピアノの半欠け顎を固定して、死の旋律を封じ込めることに成功した。
「……叫んだらちょっとスッキリしたな」
千種は千種で、一時的にパワハラオウガの元で働いた経験に思うところがあったらしい。彼女の胸のつっかえは取れたようだ。
「アガァッ、こんなモン、噛み砕いてェ
……!!」
「やれやれ、本当にしぶといな。 引き際をわきまえることも大事だよ?」
顎に力を込め、ミシミシと丸太を噛み砕こうと足掻くオウガだが、それを黙ってみているグレイシアではない。破壊の音色が消えてしまえば、霜の巨人を止める手段はオウガに無い。人食いピアノへと歩を進める霜の巨人。
「アガガッ!? クソッ、クソッ! 逃げ……」
「逃がすわけないだろう?」
「グェェッ!!」
動き出した巨人を見るや否や、残った二本の足で必死に動き出す人食いピアノだが、グレイシアはその内の一本をワイヤーガンで狙い撃つ。足に絡めた硬質なワイヤーを引っ張れば、這々の体のオウガなど転倒させるのは容易い。そうしてバランスを崩したオウガを霜の巨人が抑えつける。
「はっ、離せェ!! おっ、俺はテメェらを、アリスを喰うんだァァァ!!!」
身動きを完全に封じられて、オウガはもはや見苦しく喚くことしかできない。そんな状況でも食への執念を見せる様子は完全に錯乱している。
「じゃ、食べさせてあげる!」
「……は?」
ポーラリアの思いがけない言葉に、オウガが口をポカンを開ける。既に丸太がつかえているので開きっぱなしだが。
「アリスのお姉ちゃんやあたし達じゃないよ! お腹が空いてるなら、お刺身さんを食べさせてあげる!」
そう言ってポーラリアは冬告げのベルのリズムに乗せて、操る冷気からマグロの雪像を作り出す。雪マグロはポーラリアの発動した『ウィンターライブ・アニミズム』によって生命を与えられ、ビチビチと勢いよく跳ねた。
「はい、どうぞっ!」
「モガッ!?」
霜の巨人に抑えつけられ、丸太がつかえて閉じることすらできないオウガの口に、生まれたばかりの雪マグロが突っ込まれた。ビチビチと口内で跳ね回る雪マグロ。
「えへへ、美味しい? その子――増えるよ」
「モガァ!?」
『ウィンターライブ・アニミズム』で生まれた命は、選んだ一つの要素を強化されている。ポーラリアの作り出した雪マグロが強化されたのは、繁殖力。
「モガァ……うごごっ!? モグゴオォォォッ
!!?!?」
やがて雪マグロは、一匹が二匹に。二匹が四匹に。分裂して増える勢いは正しく雪だるま式だ。いくら悪食なオウガと言えど、胃袋に限界はある。際限なく体内で増え続けるマグロを噛み砕くこともできずに受け入れ続けることしかできない。
斬撃にも、全身を潰されるのにも、舌を引きちぎられても、燃やされても、足を奪われても足掻き続けたオウガだったが。
(この俺が、よりにもよって…… 満腹になって死ぬだとぉぉぉ!?)
「モガ、ガアアアァァァッッッ
……!!!?」
声にならぬ慟哭を叫びながら、悪食極まるオウガの最期は望まぬ満腹で幕を閉じたのであった。
「あ、お刺身さんにたんぽぽ乗せるの忘れてた!」
オウガが消滅した廃工場に、ポーラリアのそんな声が響いた。
●そして伝説が始まった
「…… ふぅ、最期までマナーのなっていないオウガだったね」
暴れる人食いピアノを抑えつけていた霜の巨人を還しながら、グレイシアはこの世界に着いて初めて、ようやく安堵の息をついた。雪マグロを突きこまれたオウガの死物狂いの抵抗を御しきれたのは、彼の巨人によるものも大きい。
「皆さん、ありがとうございました……! 私、もうどうなることかと……」
自分を助けてくれた猟兵たちに向けて、感謝を口にするアリス。
「私もう、上司たちが怖くて何もできなくって……うぅ、自分が情けないです……」
「オブリビオンが相手だもん、仕方ないよ。 でもアリスちゃんもね、元の世界に戻ったら言いたいことはちゃんと言ったほうがいいよ? そうじゃないと、新聞とかダイエット用品とかいっぱい契約させられちゃうからね……」
自己の体験に基づいたアドバイスを送る千種。彼女が元いた世界にそういうものがあるかはともかく、このパワハラ経験が原因で損をしないように気遣う姿勢は性根の優しさから来るものだろう。
「お姉ちゃん、お仕事さんするの凄いから、今度また素敵な職場に出向くのよ」
ポーラリアからも、この事件を引きずって次への一歩が踏み出せないことがないように言葉をかける。
「ありがとうございます……! 私、元の世界に帰ったら…… 皆さんに教えてもらったことを胸に、頑張っていきます!」
パワハラに心折られていた暗い表情はもうアリスから消えた。明るい未来を信じる笑顔の彼女に、もう心配は必要ないだろう。
不思議の国の支配者であったオウガが消えて崩壊する世界の中、猟兵たちは自分の扉をくぐるアリスを見送った。
……後日。とある世界にありとあらゆる料理へたんぽぽを盛り付ける職人が誕生した。その見事な見栄えは人々を魅了し惹きつけて、時には料理元来の味すらも変えてみせるという。
謎の凄腕たんぽぽ乗せ職人、その正体は少女であったそうだが……それはまた別のお話である。
大成功
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