●風鈴が呼ぶ
りりん、りりりん。
夕凪が解け、風が駆けてゆく。夏ももうすぐ終わる。日暮れは早まり宵闇の群青が空の端から登ってくる。
もうすぐ帰らなくては、そう思った時。
りりん、りりりん。
――ビルの隙間、その奥から聞こえた風鈴の音。それが、どこか懐かしくて。私は思わず足をそちらに向けてしまう。
夏になると思い出す、あの人の顔を。どうしても記憶から離れない、あの人の面影。
裏路地に捨てられた我楽多の群れをすり抜けた先、そこであの人は待っていた。
ああ、変わらない。やっぱり、あの人だ。手を伸ばす、伝えられなかったことがある、まだ、できなかったことがあるんだ。
そんな私を、僕を、俺を、あの人は笑って許してくれた。そして、優しく呼びかけてくれる。
――――「ひさしぶり」、と。
●かおなし
「みんなには、たいせつな人、いる?」
グリモアベースに集まった猟兵達に、そう問いかける津々雲・文聞(壊れた乙姫・f12087)。顔を見合わせ首をかしげるだろう彼らへ、彼女はへにゃりと柔らかく笑い掛けた。
「ゆーでぃーしーでね、おまつりがあるんだ」
その名は『風鈴縁日』。様々な風鈴の屋台が軒を連ねる、夏の末に実に風流な催しだ。しかし、そこが今回予知の対象となってしまった。それは、つまり。
「かいいが、でるの。たいせつな人のすがたになりすました、おぶりびおん」
先程までにこやかだったその表情は途端に悲し気なものとなり、それに合わせ訥々と詳細を語り始める。
その『風鈴縁日』に訪れた人の中で、「大切な人との別れを経験した」人が次々と消えていく。詳細は不明だが、何らかの形で人を誘い込むのだろう。
そうした怪異の悪意も風鈴の音にかき消され、消えたことに気付かれぬまま、失踪者は増えていく。そういう仕組みであるらしい。
情報が釈然としないが、詳細は不明なのだ。消えたとされる人々が……戻ってこないから。
だが、失踪している人々の傾向から、敵の正体はおおよそ推察できる。
――人の姿を模すオブリビオン、都市伝説の怪異、『ドッペルゲンガー』。
これより、猟兵達には『風鈴縁日』に向かってもらう。とはいえ情報は何一つない、風鈴の音を聞きながら、怪異の気配などを探る必要があるだろう。
何らかの手掛かりを得たら、すぐさま現場に急行し、怪異の原因であるオブリビオンを撃破、生存者がもしいれば、救助。それが、大まかな流れになる。
「……みんな」
出発の直前、文々は猟兵達へと語り掛けた。
「かいいは、たぶん……みんなの、たいせつな人のかおをしてくるとおもう」
それは、予感めいたものでしかない。しかし。
「みんなのたいせつな人は、そこにはいない。それを、わすれないで」
――グリモアによって、門が開く。
湿った夏の風と共に、茜の空が猟兵達の目の前を覆った。
佐渡
こんにちは、佐渡と申します。
今回は、心情重視のシナリオとなっております。
舞台はUDCアース、『風鈴縁日』なる催しで起きる失踪事件を調査し、原因となるオブリビオンを撃破して頂きます。
また先述の通り今回は心情シナリオとなっております。皆様の様々な想いを全力で形にしていきたいと思っておりますので、何卒よろしくお願い致します。
●※おねがい※●
迷子を避けるため、ご同行の猟兵の方がいらっしゃる場合には同行者名、あるいはチーム名等目印をお忘れないようにして頂けると幸いです。
またマスタープロフィールに御座います【シナリオ傾向】については是非一度目を通して頂くよう強くお願いいたします。
第1章 日常
『君を呼ぶ音に誘われて』
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POW : 重厚な音や、熱血的な色で選ぶか
SPD : リズム感のある音、涼しげな色がいい
WIZ : 澄み通った音を、柔らかな色を探す
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●『風鈴縁日』
大通りから少しばかり外れた、昔の風情を残す路地の一角。そこに足を踏み入れれば、道の先まで居並ぶ露店。
りりん、りりりん。
涼風に揺られ、心地よい音を立てる。色とりどりのびいどろや、古風な真鍮、形も音色も異なるそれらが、ぼんぼりに照らされ並んでいる。
夏の終わりに、胸を締め付けるような澄んだ音と共に。
――『風鈴縁日』は、そこにあった。
アスカ・ユークレース
一一とデート
恋人繋ぎで散策
照れながらも楽しそうに
すっごいですね……!見てください一一、風鈴がこんなに沢山!これ全部デザインも音も違うのよね?職人芸って感じがして素敵……!
と子供みたいにはしゃぐ
折角の記念にとお揃いの風鈴も買っていく
それにしても……この胸騒ぎは一体……?私や一一の身に何か起きなければよいのですが……
ま、今はデートを楽しみますか!
一一・一一
アスカ・ユークレースと一緒に行動します。呼び方は「アスカさん」喋り方はアスカさんには敬語、他の人には「○○っす」
アスカさんとデート。恋人つなぎしてますので顔が赤いヘタレが僕です。
行動としてはアスカさんと一緒に風鈴をみます、はしゃぐアスカさんをみて優しく微笑んでます。
記念の風鈴は大事にもってます。家に帰ったら早速飾るつもり
…楽しみながら怪異の気配を探ってます。
アスカさんが怪異にさらわれないように。
僕が怪異に惑わされないように。
もしも、別れた大切な人がでてくるならきっと僕の前には僕を救ったあの人がでてくると思うから
アドリブ等歓迎します
●夕景にふたり
まばらな人の行き交う中で、肩を寄せ歩くふたりがいた。
傍から見ると背格好も近く、仲の良いきょうだいのようにも見えるだろう。けれど、固く指を絡め組まれた手を見れば、その関係に気付くかもしれない。
朝空より輝く宝石にも似た二色の青の瞳で、あちこち視線を行き来させながら、弾んだ声音で手を繋ぐ相手へ彼女は語り掛けた。
「すっごいですね……! 見てください一一、風鈴がこんなに沢山!」
アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)のそんな底抜けに明るい調子は、感動や興奮に満ちている。けれど、胸中に確かに存在する照れ臭さ。意識はせずとも、無意識に大きくなる声は隠したい想いも滲ませるもの。
とはいえそれを鋭敏に知覚できるほど、声を掛けられた方も余裕があるわけでもない。じかに感じる体温も、固く握られた指の感触も、一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)の心をかき乱す。時季外れの長袖パーカー。絶対に出てしまう顔色を可能ならばフードを被り隠したかった。しかしそれをアスカに許されるはずもなく、今や空の黄昏よりよほど赤くなったまま口を金魚の様に開閉する。
「だ、大丈夫一一?」
「もっ、勿論ですよ!」
心配し、声を掛けるアスカ。気付かぬうちに近づいた顔に驚き素っ頓狂な声を上げる一一。目が合い、顔を見――どちらともなく笑顔が零れる。この強張りも、高鳴りも、互いに同じものだと。
そのまま、二人は屋台を順番に巡ってゆく。風に吹かれ靡く髪、珍しい形のものや清らやかな音を出すもの。うっとりと見入ったり、あるいは思わず関心の声を上げたりと表情を変えるアスカ。彼女のそんな姿に、意図せず口角の緩む一一。
年配の店主にからかい交じりの軽口を投げられれば、その瞬間意識してぎこちなさが復活するが……そんな様子もまた初々しくもあるだろう。
そして、時間をかけて選んだのは、先の店主の店の商品。揃いの硝子風鈴は、青の切子に桔梗の花をあしらったもの。
花に冠された言葉は、後に二人で調べることだろう。とはいえ、今の二人ならその甘ったるさに茹で蛸になるかもしれないが。
そうして、二人で揃いこの不思議な『風鈴縁日』を楽しみ……終えた、その時だった。
――りりん。
「……」
顔を上げたのは、一一。先程まで言葉を交わしていたアスカは、その表情の豹変に胸の奥の不安が今になってうぞりと這い上るのを感じる。
何か、何かが起きてしまうんじゃないか。何とも言えぬ悪い予感。しかし、一一もまた最初からそれを警戒していた。
自分や、アスカが何かに、「だれか」に惑わされぬように。けれど確かに彼の耳に届いたその音は、彼の奥底に潜んだ過去の残影の姿を脳裏の隅から引きずり出す。
「――行きましょう、アスカさん」
「わかりました、けど……」
彼らがここに来たのは、猟兵としての任務。甘い時間は、確かに残った。けれどここから先は違う。それでも、アスカはその手を解かなかった。
この手の温もりが繋がっている間は、決して何にも攫わせない。攫われないはずだから。
見つめる瞳に一一は、思わず笑顔が零した。真っすぐに、心配そうに、ずいと近づくその顔に、とても見覚えがあった。
「大丈夫ですよ、僕は」
固く、手を繋ぐ。そして二人は縁日から逸れ、暗い道へと歩を進める――。
大成功
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斬断・彩萌
【レイレイ(f00284)】と
風鈴ですって。こう、りぃんりぃんと響いて涼しいわね。風が吹いてるから当たり前なんだけど、暑い夏の爽やかな風物詩って感じ。風流だわ
あっこれ紫!硝子の透け感もあって綺麗~、まるでレイレイみたいね(きゃっきゃっと高い位置の風鈴を指差して)
良いわね~お気に入りのひとつ、買っちゃいましょ。今年の夏にはもう遅いけど、来年の出番を待つ……ってコトで!
ぢゃあ私は私色の赤銅のにするわ。音も綺麗で大満足、ふふっ
ええ、来年必ず来てね
さてと、オブリビオンの出処も特定しなきゃね
ドッペルゲンガーって言うくらいだから、やっぱり影から現れるのかしら?
現れるのは自分ぢゃないって話だけど……
レイラ・エインズワース
彩萌チャンと(f03307)
風鈴、こっちの夏と言えバなイメージダネ
澄んだ音が綺麗ですっごく涼しげでいいネ
フウリュウ……? なんだか強そうな言葉だネ
色も、素材も色々あるみたい
あっちの赤銅のヤツ、なんだかちょっと彩萌チャンの髪色に似てるカモ
明るい音が綺麗だよネ
ドレか記念に買っていってミル?
いいネ、きっと来年大活躍するカモ
もし、置いたら教えてネ
聞きに遊びに行きたいからサ
ア、お仕事も忘れないヨ
音に耳を澄ませテ、違和感がないかどうカ
影とか人気のないほうにいそうだヨネ
誰もいないノニ音がする、そんな方向はどっちカナ
本人が出るものダト、思ったけどネ
デモ、それが悪いモノなら、倒さなきゃ
●風物詩をめぐり
一方、こちらでは友人同士でこの縁日を満喫する猟兵達がいた。
眼鏡に季節感やトレンドを意識したコーディネートは正に今どきの女子高生といった風。事実そうではあるのだが、そのうえで猟兵という肩書も有するのは斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)。気分よく弾んだ調子の歩幅が、ロールする茶髪を揺らす。
彼女と共にきょろきょろと周囲を見回すのは、ドレスの様なフリルの多い衣装を纏う少女。紫の瞳に赤い瞳、隣を歩く彩萌とは雰囲気からして大きく異なるが、この風鈴の数多く並ぶ催しに胸弾ませるのは同じ。レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)は、ほうとため息をつきながら呟く。
「澄んだ音が綺麗ですっごく涼しげでいいネ」
風鈴の存在は聞いたことがあるのだろうが、こうして実際に夏の湿気た暑さの中で聞く冴え冴えとした音が生み出す感情までも知っていたわけではないはずだ。レイラの言葉に、にっこりと笑みを浮かべ彩萌は頷く。
「綺麗でしょう? 暑い夏の爽やかな風物詩って感じ。風流だわ」
どこか誇らしげに語った。同じものを見聞きして同じ思いを抱くというのは、なんとはなしに嬉しいものだ。慣れ親しんだものに肯定的な反応を返されるという状況も合わされば、表情が緩むのも無理はない。
「――フウリュウ? なんだか強そうな言葉だネ」
最後の最後で首を傾げられ、ずっこけたのだが。
その後も二人は和気藹々と会話に花を咲かせながら、屋台を練り歩く。
「あっこれ紫! 硝子の透け感もあって綺麗~、まるでレイレイみたいね!」
高い位置に提げられた、ぽってりとしたラインに波型の縁が際立つ菫色の硝子風鈴。それを指差し声を弾ませる彩萌。
「あっちの赤銅のヤツ、なんだかちょっと彩萌チャンの髪色に似てるカモ。明るい音が綺麗だよネ」
彩萌の袖を引っ張るレイラが見つけたのは、響く音色に特徴のある細かなろくろ目に銅色の噴かれた鋳物の小ぶりな風鈴。
折角の機会、記念にどれかを買おうと打ち合わせた二人は、巡り巡って再び同じ店へとたどり着き、先程両者が見つけた品を買う。見立ての良さににやりと笑い合いながら、それぞれの奏でた異なる音は、二人の心を癒すだろう。
夏は終わりに差し掛かり、今年はもう出番はない。しかし、夏はまたやってくる。その時、彼らはその音でうだる日差しを和らげてくれるに違いない。
「もし、置いたら教えてネ。聞きに遊びに行きたいからサ」
「ええ、来年必ず来てね!」
約束を交わす、きっとこうして、縁というのは繋がり強まるものなのだ。
……そんな二人の耳にも、あの音が届く。
……りりん。
同時に二人が振り向く先は、やはり縁日から外れたビルの合間。湿った影の奥、人通りなど微塵もない狭苦しいそこから、確かに風鈴の音がした。
現れるという怪異は、自分自身ではない。ドッペルゲンガーとは本来「自分と同じ顔の人間に会ったら死ぬ」というもののはず。それに、二人は違和感を覚えている。だが人に害を為すものであるならば、倒す以外に道はない。
互いの顔を見合わせ、影の中へと滑り込む。次の夏を、二人で迎えるためにも。
大成功
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ヘザー・デストリュクシオン
えんにちってお祭りよね?初めて来たの。まあ、お仕事なんだけど。
お父さんがいたころは自由に出歩けなかったから…わたしもあの子も。
…この風鈴の音、静かでやさしくてキレイで…あの子の歌声みたい。
行方不明の人を助けなくちゃいけないんだけど…にせものでもいいから、わたしはあの子に会いたい。
あやまりたいし、話したいことがたくさんあるの。
守りたかったのに、守るどころか死なせてしまった、妹のアリス。
2つ年下の兎と鳥のキマイラで、背中に天使みたいな白い羽があって細くて小さくて、お父さんに殴られてから上手く話せなくなった、顔や髪色はわたしとよくにている子。
あの子を見つけたらだれかに止められても迷わず追いかけるの。
●夕の暮れに誘われて
この事件を解決するため動く猟兵は、他にもいた。前髪を一文字に切り揃え、その頭の上からは大振りな兎耳が生える。当然のことながら、飾りではない。
ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)は、初めて訪れた祭りという空間にどのような反応をしてよいか戸惑いながらも、その大きな耳を揺らして四方に注意を飛ばす。
彼女の中にあったのは、並ぶ風鈴への興味ではなくこの事件そのもの。だからこそ、ヘザーは風鈴の群れの中を駆けてゆく。起こした僅かな風にさえ揺られ、音は彼女の後ろから追いかける。
(風鈴の音。静かでやさしくてキレイで……あの子の歌声みたい)
脳裏に浮かんで離れない存在。彼女もまた、大切なひとを失った一人。記憶の中で濁らず焼き付いた、消えない姿。
にせものでもいい、あの子にあいたい。
彼女の願いは、それだけだった。
りりん。りりりん。
はたと、足を止める。風鈴のように軽やかで、けれどどこか息遣いのような音。ああ、そうだ。これはあの子の。姿は見えない。直感でしかない。けれど彼女は理解できるだろう、その音が自分を呼んでいる――。
迷うことなく、ヘザーは縁日から外れ、影の路へと飛び込んだ。残した未練を果たす為、失った過去に出会う為に。
大成功
🔵🔵🔵
木鳩・基
風鈴の音ってちゃんと聞いたことなかったし、思ってたよりいい音してるなぁ
……ぼーっとしてる場合じゃないか
・WIS
柔らかな音を頼りに祭りを訪れた人たちの表情を探る
「大切な人を失っていること」が条件なら、音を聞いて何か思うところもあるはずだし
縁日の客を装って様子を伺い、それっぽいなら【追跡】してから【コミュ力】で声を掛けてみよう
もし何か惹かれるものがあるならその人だけ別の場所に誘導して、私はそっちに向かってみる
できれば、私からも何か元気づけられるよう【鼓舞】できたらいいな
私もそういう経験はあるわけだし、近づいたら自ずと引き寄せられたりするかも
実際、また逢えたら感動モノだよ
だからこそ、ほっとけないよな
●探り探られ
「風鈴の音ってちゃんと聞いたことなかったし、思ってたよりいい音してるなぁ」
縁日の流れる人混みからやや外れた場所で、風に流れて届く音を聞きながら、キャップのつばを持ち上げる少女。木鳩・基(完成途上・f01075)は注意深く、この場所を訪れる客の動向に目を光らせていた。
人を誘うような柔らかい音がないか、そして「大切なひとを失った人」が、その音に反応するのではないか。そんな予想の上で基は行動していた。
道行く人々の顔色を窺い、一人の気がかりな人物を見つける。
……物憂げに、俯きながら歩く少女。もし外れでも、何かがあるとみた彼女はすぐに追跡を始めた。過去は情報屋という肩書で呼ばれ、今は組織の情報収集を任されるほどの実力は遺憾なく発揮され――。
「や、どうしたの?」
人混みを潜り先回りした基はさも偶然のように、その少女に声を掛けたのであった。
――聞けば、少女は昨年を父を亡くしたのだという。喪失の哀しみは癒えず、気付けば毎年訪れていた思い出の縁日へ足が向いていた。まさに鈴に誘われる条件に当てはまる。
しかし、基は少女へ自分の身の上を話す事で宥めると、縁日の出口まで送り届ける。その背中を見送り、空を見上げた。
頭上にかかる電線の上で鴉が二、三羽群れ為し羽を揺らす。不吉を呼び込むその陰に眉根を潜める基は、落とし物などぶつけられてはかなわないと、場所を変えるべく凭れた電柱から離れ。
その音を、聞いた。
りりん。りりりん。
懐かしさを掻き立てる音。裏路地の先、人気など微塵もないはずのその場所に、確かに彼女は感じたのだ。喪った、父の声を。
少女が誘われ、犠牲とならぬよう言葉を交わした。自らの過去を語ることで前を向いてほしいと思ったのは本当だ。怪異を討つために、無辜の少女をしるべにするつもりはなかった。
けれど、それと同じ位に、胸の奥底で疼く再会への期待が、言葉にしたことで浮き上がり、基の脳内を縛り付けるだろう。もし逢えたら。何度思ったことか――。
駆け出すその直前、彼女は頬を叩いて我欲を冷ます。違う、今自分が為すべきは、そうじゃないだろう、と。
「やっぱり、ほっとけないよな」
冷静に、追跡者として振舞おうとしながら、似た境遇の人物との出会いで揺れてしまう心に苦笑しながらも、彼女は改めて黒々とした方へ踏み出す。
衝動に任せ追い縋るのではなく――痕跡を追う、収集者として。
大成功
🔵🔵🔵
葛籠雄・九雀
SPD
ふむ。風鈴であるか。オレの家は風も吹かぬ西洋屋敷であるからな、飾るには少々不似合いかとも思うであるが…興味はある。行ってみるであるぞ!
しかし別れた大切な者、であるか。オレにそんな者は居らぬのであるよなあ。というよりも、覚えておらぬ。辛うじて覚えのある大切な者は…オレが自分で『使って』おるであるしな。他に大切な者…うむ、わからん。
何が出るのか…と。
…あの赤毛と緑のジャケットは。
ああ、待て…待て。待て!
何だ、覚えがないのに、この、底なしの怒りは。
あの日の決着を、始末を、オレはちゃんと、ちゃんと『つけられなかったのか』。
大切?
大切だと?
…どうなのであるかな。もう何もわからんよ。
アドリブ連携歓迎
●薄れたにおいを揺り起こすは
ふらりと姿を現す男がいた。派手な赤茶の髪を結んで尾のように垂らし、その顔には木製の面を被った痩せ男。いや、違う、訪れたのは――「面」の方だ。
ヒーローマスク、葛籠雄・九雀(支離滅裂な仮面・f17337)は沸いた好奇の心のまま、この場所へと訪れた。自身のねぐらに似合うものがあると期待はしていない彼だったが、ここは『風鈴縁日』。白磁にアンティークを意識した模様を持つ豪奢な風鈴も並ぶ。千差万別、王道から邪道まで揃えて彼を迎えるだろう。
――それを正しく買ったかは、ここでは敢えて記さないでおく。
ともかく、予想外の出会いを受けつつも、それ以上に九雀に興味を抱かせていたのは、目的である怪異の方であった。
(れた大切な者、であるか。オレにそんな者は居らぬのであるよなあ)
記憶から抜け落ちたもの。忘れてしまったのか、或いは自ら捨てたのか、それすら定かでない。自己を確立する柱の一つである過去こそを喪っている彼にとっては、件の怪異が誰を、何を自分に見せるのかと。
……りりん。りりりん。
そんな彼の耳にさえ、その音は等しく訪れる。姿の無い、聴覚へ降りかかるそれが、九雀にずきりと痛みを与える。
怒り。枯れ枝が爆ぜたかと思えば、次には山が火に包まれるように。底なしの憤怒が彼を縁日より外れた陰へと誘った。
決着。赤毛。あの日。緑の上着。浮かんでは消え、油のように怒りの火を噴き上げさせるそれが、果たして「大切」ということなのか。
わからない。理解できない。故に彼は、身体を陰へと進ませていく。
その不明瞭を、拾うか、潰す為に。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『狂気のパレヱド』
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POW : 狂気に耐え、パレードと行動を共にする。
SPD : パレードから距離を取りつつ、追跡する。
WIZ : 魔法、機械等を使用した遠距離追跡を行う。
👑11
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●道案内
風鈴の音が聞こえたはずの裏路地。
離別の過去を掘り起こす音は絶え、手掛かりを求め音を求める者達の耳に届くのは……耳障りな騒音だ。
過去より溢れた敵が現れたのか、出所を探り、慎重に覗けば見える。
不法に棄てられた我楽多の群れ。ここまでの道すがらにも落ちていた有象無象が、群れ為し騒がしく列を組む。さながら、パレヱドのように。
時折列から外れた我楽多は、纏まって崩れ道を塞ぐ。まるで、舗装するように。
どこへ向かうかを暴くのならば、進み追うより道はない。
アスカ・ユークレース
一一と一緒
バッグワームと迷彩回路の合わせ技で隠れつつ追跡、ドローン召喚して映像を分析。何か違和感はないか注意深く観察、気づいたことは一一と共有
別れた大切な人ね……もし出てくるとしたら、彼女かしら?私の創造主。私を愛してくれた人。私を捨てた酷い人。私を作った凄い人…偽物とはいえどんな顔して会えば良いのかしらね。…まあそっちはともかく一一の様子が普段と違うのも気になるわ……
アドリブ可
一一・一一
「パレードか…あの中にあの人は…いやないな」
アスカ・ユークレースと行動を共にします
二人でパレードを追跡しましょう
アスカさんに予備のバッグワームを貸して二人でそれを着、探知などに引っかからないようにして、狙撃手の誇りで視力と第六感を強化して追跡します
さらにUCの隙間より覗き込む女で隙間女を召喚し、隙間を移動してもらい片目を共有しながら別角度で追跡します
…もしも、ピンク色のショートヘアで白いワンピースの少女がパレードにいれば、反応するでしょう
悪魔(両親)からの悪意(虐待)から救ってくれたあの人
それでも、今大切なのはアスカさんです。
なので今はただ追いかけます。
アドリブなど歓迎です
●パレードを追って
騒々しく音を鳴らしながら、身を引きずり左右に揺れ道を行く我楽多の列。それを、物陰に隠れじっと観察する猟兵がいる。
アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)と一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)。両者とも射手として、狙撃手としての技能を用いて気配を殺し、対象の動きをつぶさに観察する。既にその動きは任務に向かう戦士のそれだ。
感知の能力やレーダーなどの機械より捉えられなくなる特殊なマントを二人で纏い、アスカはドローンで撮影した上空からの映像とその解析及び精査。一一は二種のユーベルコードによる視覚と第六感の強化、そして召喚された都市伝説『隙間女』との視覚共有によってそれぞれ情報を獲得する。
「あれらからは、害意は感じないね」
「……そうですね、人の気配もない」
互いに知り得た情報を擦り合わせわかったことは、前方を進む廃棄物の群れが、ただ何かに引かれるようにしてどこかを目指し、そして目的地以外へ続く道を塞いでいるということ。同時に道を塞ぐためにパレードから外れたものたちはその時点で動くのを止め、ただのがらくたに戻る事も確認できた。
けれど、それ以外に異常な様子はない。こちらに対して何か攻撃を仕掛けるどころか、つけられている事にも気付いていないらしい。
がしゃがしゃと音を鳴らし道を進んでいくパレード。暫くそれを追いかけていた一一が、小さな声でぽつりと零した。
「あの中にあの人は……やっぱり、いないな」
彼の言葉を聞き洩らさなかったアスカは、進み続ける一一の背をじっと見つめた。
あの風鈴の音を聞いてから、彼の様子がどこかおかしい。それが彼女にとって大きな気がかりだった。
自分の失った大切な人。アスカにも、そういった存在に心当たりがある。既に人の絶えた世界で「電子の海」より編まれた彼女の創造者であり、彼女を愛し、棄てた人物――けれど、今の彼女には二の次三の次でしかない。
ずきりとした左胸に手を当て、目を伏せる。柔い眼差しが、いつになく鋭く尖ってなにかを睨むさまは、彼女のこころにも棘の様な不安を留める。
(大丈夫、なのかしら)
その言葉を口に出せないまま、彼女もまたパレードを追う。
一方一一は、強化と共有という別々のユーベルコードによって酷使した目を一度閉じ、大きく息を吐いた。
彼の耳に届いた風鈴の音が呼び覚ました記憶、瞼の裏でちらつく人の影。ピンク色のショートヘア。白いワンピース。脱ぐことのできない長袖の下に隠した忌々しい過去の悪意の残痕がじくりと熱を帯び、無意識にそこを庇うように固く握った。
渦を巻き、黒々としたものが頭蓋の裏で上げる言葉の形を持たない不快な叫びが、正気にナイフを突き立てる。それでも一一は目を再び開けた。
隣に立つ、割れ易い宝石のような瞳の乙女。今の彼の中で最も大切なひとは、彼女以外にない。それは決して揺るぎない事実だ、そして、これからも。
故に彼は歩みを止めずに進む。この先に待つだろう「もの」を、見定めるために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヘザー・デストリュクシオン
なにこれ?ガラクタ?
だれかに捨てられて、その捨てた人に会いたいのかな?
わたしと同じね。
…ちがう。わたしは捨てられたんじゃなくて、捨てた方なの。
お父さんもお母さんも、あの子も。わたしが壊して捨てたの。
あの子がいなくなって、もうぜんぶどうでもよくなったの。
あの子は。あの子だけは守りたかった。でもそう思ったのがまちがいだったの。だってそのせいであの子を死なせたんだから。
この子たちについていけば、あの子に会えるのかな?
それならいっしょに行くの。
…この子たちは捨てた人に会えたらどうするのかしら。
許してあげるのか、許さないのか。
…あの子はわたしを許してくれるのかしら?
あの子はわたしに、会いたいのかしら?
●焦がれ、憂えど
別の路地でも、同じように我楽多の行進は行われていた。それでも、やはり向かう先は同じ。誘われた猟兵、ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)は、並び歩くそれらを追いながらふと思う。
(だれかに捨てられて、その捨てた人に会いたいのかな?)
抱いたのは、親近感――ではない。彼女にとって、逢いたいと思う存在は、自分を捨てた存在ではない。彼女の会いたい存在は、彼女が守れなかったもの。
ごぽり、と。腐った沼から浮かぶ泡がはじけるように、傷ましい光景が脳裏から網膜へ幻視を齎す。自ら壊した家族の姿。その手にこびり付く、色を。
満月のように煌めく黄金の瞳が翳る。風鈴の音が記憶から引きずり出したものは、何も宝石の様な美しい過去ばかりではない。自らの過ち、後悔、そういった苦々しさを苦痛や後悔と共に反芻させる。
そして、それは、更に再開の願いを強め、駆り立てる。もう待てない、今すぐに会いたい、彼女は駈け出そうと顔を上げ――。
金属同士がぶつかる音で我に返ったヘザー。周囲を見回し、再び目の前を行く群れへと目を向ける。荒くなった呼吸を落ち着けると、再び列にじっとついて歩ていく。
焦れば事を仕損じる、自戒のように繰り返しそう念じながらも、ただ胸中には霧が立ち込める。このパレードに続けば間違いなく自分は目的の人物と再会できるはずだ。だが、同時にそれは別の不安を湧き起こした。
「……あの子はわたしを許してくれるのかしら」
あの子は、私に会いたいと。思ってくれているのだろうか。
呟くようなその声は、我楽多の奏でる不協和音に潰され、這い寄る夕暮れの闇に解けていくばかりだった。
成功
🔵🔵🔴
斬断・彩萌
【レイレイ(f00284)】と
りんりんぎりぎり
これ、何の音? 折角風鈴で涼んでるのに、煩いわね。
此処、我楽多だらけ。一体何のお祭り騒ぎの後?って感じ。
歩きにくいったらありゃしない……お、こっちちょっとわざとらしく道塞がれてるぢゃない。アヤシー、寄ってみましょう!
それにしてもよ、自分と同じ者がいるとしたら、今この瞬間にも私達入れ替わってるのかもしれないわよね
だとしたら、本物を見分ける自信、ある?
……中身かぁ、そうね、ガワだけ真似たって本質が違えば分かるわよね!(うんうん頷く)
大切な人って誰だろ、思い当たる節がいっぱいあって、ちょっと特定は出来ないかも。
ふふ、いっぱい出てきたらどうしよう?
レイラ・エインズワース
彩萌チャンと(f03307)
さっきまでと違ってなんだか変な音がするネ
がたがたごろごろ、コレが予兆の音なのカナ
コノ先に行けば相手がイル
って言っても確かに歩きにくいヨネ
いろんなモノが残されてて、コレも誰かに大事にされてたモノなのカナって
どんな姿にもなれるんだもんネ
でも、姿かたちは真似できテモ、中身までは無理だと思うカラ
ドコかできっと分かるカナ、なんて思ってるヨ
ソウソウ、ばっちり見破っちゃおうネ
……どんな姿で来るのカナ
本当に何でもらしいケド
大切なヒトの姿を取るんだヨネ
ワ、大切なヒトいっぱい? いいコトだネ
顔がそのヒトだとやりづらいケド、ちゃんとココで倒さないとネ
偽物を好きにさせるのはイヤだし!
●偽りを弾く友
「これ、何の音? 折角風鈴で涼んでるのに、煩いわね」
「さっきまでと違ってなんだか変な音がするネ、コレが予兆の音なのカナ」
縁日より外れた道へと歩を進めた二人の猟兵が眉を顰め覗いた先には、やはり我楽多が列為すパレードが見える。顔を見合わせる斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)とレイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)は、何かがあるに違いないとその群れの追跡を始めた。
二人は特に何か特別な方法で隠れたりはしなかった。先導する廃品の落とすネジや部品などによって歩きづらい事に不平を漏らす彩萌、転がるそれらや目の前を行く廃品どももかつては誰かに大切にされたものなのだろうかと想いを馳せるレイラ。
異なる思いを抱きながら歩む二人の目の前で、進むパレードの中の数体がわき道を塞ぐように崩れ落ちた。それを見た彩萌は眼鏡をきらりと光らせレイラの袖を引く。
「こんなわざとらしく道塞ぐなんてアヤシーし、寄ってみましょう!」
我楽多のパレードの音が離れ、封鎖を乗り越え二人は進む。ビル風が薄ら寒くなってきた日暮れの裏路地。不気味な静けさが襟口から背筋を冷やす中で、彩萌は半歩後ろのレイラへ何とはなしに話を振った。
「それにしてもよ、自分と同じ者がいるとしたら、今この瞬間にも私達入れ替わってるのかもしれないわよね。だとしたら、本物を見分けるにはどうしたらいいんだろ?」
話題の始まりは、この事件の元凶であるドッペルゲンガーについて。通常ならば己の顔を模すその怪異が、自分たちの記憶の中の恩人の顔を模すというのは珍しい。ともすればこうしている間に入れ替われているかもしれない、と。
けれど、レイラは微笑みを浮かべながらこう返した。
「どんな姿にもなれるんだもんネ――でも、姿かたちは真似できテモ、中身までは無理だと思うカラ」
その回答に、二つの巻き髪が跳ねる。
「そうね、ガワだけ真似たって本質が違えば分かるわよね!」
元々不安などない、根は楽観的な性分なのだ。しかし、未知の相手ともなれば、少々の心配は顔を出す。けれど共に歩くその友人からの言葉と支えを実感したならば、そんなものも遥か彼方へ吹き飛ぶ。明るい笑みで、彩萌はうんうんと大きく首肯し、そんな彼女の朗らかさにレイラの表情も一層和らいだ。
「ソウソウ、ばっちり見破っちゃおうネ」
その後も、二人は絶え間なく話に花を咲かせた。
もし恩人が出てくるのならば、果たして誰なのか。思い当たる節が多すぎると首をひねる彩萌に、大切な人が多いのはいいことだと感心しつつも、同じ顔をした偽物に好き勝手させてはいけないと拳を握った強く訴えるレイラ。
心を乱す風鈴の音の入り込む余地を埋めるように、言葉を紡ぐ。そして、「今」の絆を確かめる。それは簡単なようでいて、ひどく難しい事なのかもしれない。
――余談だが、二人の入り込んだ脇道は最終的に行き止まりだった。急いで来た道を戻ってみれば、我楽多の落としていった諸々が道しるべとなりすぐにパレードには追いつけるだろう。
風鈴の音の強い方へと我楽多たちは進んでいる。怪異へ繋がる道は、一つのようだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
木鳩・基
なんだこれ……
捨てられたものが歩いてるってこと?
リアル百鬼夜行は流石に初めて見たかもしれない……
・POW
下手に距離を取ったら置き去りにされるかも
無茶は承知だけど、最後尾にくっついてついていこう
被れるサイズのゴミで【変装】し、【目立たない】ように【追跡】
接近して追いかけるのは他にも理由がある
なんで列をつくって歩き出したか、何となく知りたいんだよね
たぶん狂気にもみくちゃにはされると思うけど、心配ないよ
ハトのバッジの【呪詛耐性】と籠められた【覚悟】で凌いでみせる
敵意があったら【逃げ足】で距離を取るけど、私さえ呑まれなきゃいい
人間が捨てたものなんでしょ?
なら大丈夫でしょ、元々は人の隣にいたんだろうし
●そして出逢う
「なんだこれ……」
件の行進を目撃した木鳩・基(完成途上・f01075)の第一声はそれだった。最も普通ならば、眼前の光景はそう信じられるものではあるまい。何しろ意思なきはずの廃棄された我楽多がパレード宜しく練り歩いているとなれば、動揺もするだろう。
とは言いつつも彼女もまた数々の奇異な事象を目撃してきた経験がある。これだけで正気を削りきるほどやわではない。
離れれば見失う危険もあると踏んだ基は、意を決してそのパレードの中に身を潜り込ませた。紛れるよう変装をし、正気を失わぬよう手の中に覚悟の証を握り締めながら。
勿論わざわざリスクを負ってこれほどまで接近したのは、見失う事を恐れただけではない。彼女は、これらの我楽多がなぜ列を作り歩き出したのかに興味を抱いていた。見知らぬだけで常にこのような事が起こっているわけでもあるまい。必ず何か理由がある、と。
幸か不幸か、理由はすぐにわかった。我楽多の列が立てる騒音。風鈴の音をかき消すようなその耳障りな軋み、擦れる諸々をよくよく聞けばわかるはずだ。
どこ。ぎし、どこ。どこ。ぎし、ぎし。
ぐずる子供の泣き声のように、一つの例外なく。「これら」も、「だれか」を求めていた。自らが歩む足取りに自分たちを呼び起こした音を聞き洩らし、道から外れればまた崩れ落ちる。再びあの音が聞こえるまで、ずっと。
――基は手の中のバッジを見つめた。年季の入った、小さな鳩のバッジ。彼女の心に立つ大きな柱。けれど今、彼女は揺らいでいた。
ともすれば、会えるのかもしれないのだ。記憶の隅に宝物として置いてあったそれが、目の前に差し出されてしまうかもしれないのだ。
「……私は」
その時自分は何を思うのか。どう感じるのか。そればかりは喩え「神出鬼没の情報屋」と呼ばれた基がどれだけ自分の内を探っても、答えを見つける事はできない。
ごつんと後頭部を固いものに打ち付けられ、顔を上げる。我楽多のパレードが終点へとたどり着く。暗い路地の奥、開けた一角。そこでついに、それは現れる。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『『都市伝説』ドッペルゲンガー』
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POW : 自己像幻視
【自身の外見】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【全身を、対象と同じ装備、能力、UC、外見】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : シェイプシフター
対象の攻撃を軽減する【対象と同じ外見】に変身しつつ、【対象と同じ装備、能力、UC】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 影患い
全身を【対象と同じ外見(装備、能力、UCも同じ)】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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枯れかけた朝顔の斑葉と茶に萎びた蔦這うコンクリートの壁。日陰の湿った匂いに混ざって差し込む血の様な夕の陽。そこにいた。
果たしてそれはどのような姿か。どのような声か。影法師の様な輪郭が歩み出せば、それは望む形となるだろう。そして、こう口にするのだ。
●「ひさしぶり」
ヘザー・デストリュクシオン
ああ、アリス……!
会いたかった妹の姿を見て、うれしくてでもこわくて笑いながら泣くの。
ごめんなさい、わたしはお父さんから守りたくてアリスを突き飛ばしたの。
川に落ちて流されてもどって来なくなるなんて思わなかったの……!
今はね、大切な人たちができたの。好きな人ができたの。
だから寂しくないの。アリスはいないのに。
ごめんなさい、わたしだけこんなにめぐまれて……わたし、がんばってつぐなうから、だから。
生まれ変わってもまた家族になって?
言いたいことが言えたら全力で壊すの。
首元のリボンを外して素早く立ち回るの。
ケガしても気にしない、捨て身の一撃で壊すの。
はなし聞いてくれてありがとう。でもわたし、帰らなくちゃ。
「ああ、アリス……!」
ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)の表情は雲が千々に砕ける晴天の如くに明るくなる。同時に眦には涙を湛えながら、笑顔は同じくらいに哀し気だ。
小さな身体も、曇りのない純白の翼も、何もかもが彼女の記憶のまま。そして、「喪った」あの日のままの姿でヘザーへと歩み寄る。
膝を付き胸の奥から只ぼろぼろと漏れ出す言葉。それは、懺悔。
「ごめんなさい、わたしはお父さんから守りたくてアリスを突き飛ばしたの。川に落ちて流されてもどって来なくなるなんて思わなかったの……!」
後悔してもしきれぬ離別の日。救うつもりが奪ってしまった、守るつもりが壊してしまった。自分が壊れたとしても助けたかった彼女に、自分がとどめを刺してしまったその過ち。けれど、ヘザーが妹へ伝えたい言葉はそれだけではなかった。
「今はね、大切な人たちができたの。好きな人ができたの。だから寂しくないの。アリスは――いないのに」
自身の心臓の上、肌に爪を立てるほど強く服を掴む。脳裏に浮かぶ情景は塗り替わり、とある人物の後ろ姿となるだろう。潤む瞳の意味するところは、先程までとは大きく違う。
ごめんなさい。ごめんなさい。私だけ生き延びて、恵まれてごめんなさい、そんな風に謝る彼女の目の前で、影の形は変わってゆく。雰囲気も顔立ちも同じ、けれど幼い身体はみるみるヘザーの年齢と同等のものへと成長し、その腕はキマイラとして混ざっていないはずの鋭い爪を姉へ近づけるだろう。
けれど……獣の、彼女の直感はそれよりも鋭かった。
ぶわり、と。その華奢な身体は優雅に宙へと躍り出、置き去りにした風が彼女の首を飾っていたリボンを攫う。妹の影を見下ろす黄金の瞳は、真っ直ぐにその姿を見つめ――ゆっくりと、墜ちていく。
――決着は、欠伸が出るほどあっけなかった。
心臓を狙い突き出されたはずのアリスの爪は結局、上着と薄く皮を割いた程度でしかなかった。喉を貫かれた影は、生々しく血を吐きながらヘザーに抱き留められる。
白い翼が錆びた鉄のような紅色で汚れ、肌は命を吐き出し彩度をなくしていく。姿と形を真似ただけのはずでしかないのに、失うのがひどく惜しく感じる。それでも、ヘザーは腕の中の彼女へ告げる。帰らなくてはならない、もう、ここで足を止めることはできない。
「わたし、がんばってつぐなうから、だから……」
生まれ変わっても、家族になって。そんな、夢の様な話。子供じみた願い。
最期にその小さな手が、ヘザーの頬へと触れた。
ただ慈しむように、気遣うように。少女は小さな花の様な微笑みを遺して――夕景の深まる陰に沈んでゆくだろう。
一握の粒さえ消え果てるのを見届けた白猫兎の少女は、夢中で気付かず走り抜けてしまった縁日の方から聞こえる、風鈴の微かな音に、静かに耳を立てるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アスカ・ユークレース
一一と行動
白づくめの女に反応
ホントにそっくりだわ……でも、偽物なのよね?だったら遠慮はいらない。
それに…例え本物だとしても過去にされたことを思うと素直に再会を喜べないだろうし
中遠距離から【千里眼撃ち】で援護射撃
一定以上の距離を取って動くことを意識、一一とメリーさんが前に出るらしいので巻き込まないようそれにも注意
攻撃は第六感フル活用でかわす
もしかして、あれが一一の……もしも本物に会えたら、お礼を言いたかったわ。
アドリブ歓迎
一一・一一
アスカ・ユークレースと共闘
おそらく出てくるのはピンクの髪の少女
現れた少女をみて一瞬泣きそうな顔をしますが、すぐにいつもの顔に戻ります
『赤いマフラー』を起動させて前衛に立ちます
そして閃光手榴弾をなげて相手の目をつぶしながら同時に携帯電話からメリーさんの声をきかせてメリーさんを召喚
『殺戮少女』を起動させてメリーさんの火力を増やしつつ、アスカさんの援護をもらいながら蹴り技と『スパイダー』で戦います
倒せたら相手に向かって「たとえ偽物でも、あえて良かった…。貴女のおかげで僕は生きてます」といって頭を下げます
アドリブ歓迎です
●ふたつの影、二人のこころ
影より現る姿は一つではない。異なる容姿の二つの影が、それぞれの関りが深い相手へ、しかし同じように穏やかな表情で再会を祝う言葉を口にしながら歩み寄る。
だが、アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)はそれほど動揺を見せる事はなかった。それは確かに彼女の記憶の中の姿そのものだろう。だが――彼女にとってその人物に抱く感情はただ美しい思い出というだけではない。紆余曲折があり、その終点も決して綺麗で失い難いようなものではなかった。それに、それが偽物であることも、最初から承知している。だからこそ、迷わない。不安なのは、もっと別の事。
アスカの隣で、同じように影法師から現れた少女の、その揺れる桃色の髪を見た一一・一一(都市伝説と歩む者・f12570)は、湧き上がる哀切に表情を歪ませていた。心中に巡る感情が今にも破裂しそうなのは、アスカでなくとも察するに余りある。
……それでも、彼は首に巻いた赤いマフラーへと手を掛け歩み出る。
「――援護をお願いします」
「わかったわ、一一」
短く言葉を交わすと同時に、投げ放つ小さな塊は地面にぶつかり、こつんと軽い音を立てたかと思えば夕景を劈く光と鼓膜の内で暴れる騒音を無差別に叩き付けた。思わず目を覆った二つの人影。瞼の裏に焼き付く光と激しい耳鳴り。それが薄れ、ようやく聴覚が回復してきたその時だった。
ざざ、というノイズのような音。耳鳴りがまだ続いていたのかと思った矢先に続けざまに聞こえる確かな声。
『わたし メリーさん いま あなたの めのまえに いるの』
飛び出す童女。その手には鋭い刃物。都市伝説の再現にして上演、蒐集し学んで力とする技、黄昏に喚ぶは怨嗟の【殺戮人形】。
恩人の姿のドッペルゲンガーたちは、しかしその手にいつの間にやら「メリーさん」と同じ刃物を手に応戦する。しかし、既に先手を取った一一とアスカの連携は十全だった。
女性に対し強力な効果を発揮する「メリーさん」の巻き添えを食わぬよう距離を取ったアスカは、先制の閃光の間に狙いを定め終えている。極限の集中が生み出す千里眼にも匹敵する百中の極技。放たれる矢は相手の武器と足を狙い、反撃と動きを封じ……瞬間、一一は未だアスカへと視線を向け続ける白い女の横面を狙い脚を振り切る。
一一は本人から、詳細か否かはさて置いて過去の話は聞いているのだろう。だとすれば、アスカの記憶からにじみ出たというこの女がどのような人物だったのか、聞いていないはずもない。
故にそれは、彼の叫びに等しい。愛する人を生み出したことへ。愛する人への仕打ちへ。そして、今、彼女の隣にいる者として。
万感を宿したその一撃は、間違いなく必殺。狙いは違わず炸裂し、そして影を影へ戻すのだった。
苦戦などせずあっさりと決着はついた。召喚された都市伝説によって既に骸の海へと還りかけた桃色の髪の少女。意識があるのかどうかもわからないが、一一は、偽物とわかっていながらも、深々と頭を下げる。
「たとえ偽物でも、貴女に会えて、良かった。貴女のおかげで僕は生きてます」
短く、そして簡素に纏めた言葉に、どれ程の想いが籠っているのだろう。アスカは、彼のその姿を見ながらそう考える。
もし本人ならば、感謝を伝えただろう。けれど、今目の前にいるのは所詮――そう、思った時だった。
もう八割がた姿を保っていないその影、僅かに消えかけたその瞳が、彼女と交錯する。
桃色の髪の少女は、困った様に微笑んだ。それは姉のようで、母のようで、何よりそんな関わりのないただのお人好しのようだった。
……それが何なのかはわからない。けれど、その瞬間だけは、確かに――。
「帰りましょう、一一」
そして、彼女は手を取る。ユークレースのような瞳は、夕の赤を跳ね返しきらきらと輝く。
「ええ、アスカさん。帰りましょうか」
頷き、その手を固く握り返す一一。今は今なのだと、確かに感じながら。
大成功
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木鳩・基
本当に、何年ぶりだよ
前も幻覚見せられたけど、そのときは爆破されたんだっけ
……そんなはずはないんだけど、どんな目に遭っても帰って来るって考える私はいるかもな
たぶん、話しかける
学校の話とか、冒険のこととか、在りし日の出来事とか、話せることはなんでも
でもそのうちに、別の何かだって気付けるはず
そいつは父さんじゃない
姿を真似ても、心までは真似られないだろ?
父さんに関する記憶をピースに籠めて、改変した手先からばら撒く
驚きの他に感情が何もないなら、やっぱりそいつは偽物だ
【覚悟】を決めて、カッターナイフで切り裂く
よかったよ、お前が偽物で
私はきっと、お前みたいな状態になった父さんを見たら、踏みとどまっちゃうから
「本当に、何年ぶりだよ」
目の前に現れた、父の姿に木鳩・基(完成途上・f01075)は小さく言葉を漏らした。別の際に、同じような幻影を見たこともある。
……そして、滔々と語り出すはずだ。父のいない間に起きた出来事、通っている学校の他愛のない平穏。話のネタを探すため始まった冒険から始まったUDCの調査員としての仕事や猟兵としての日々。それに、おぼろげに残る記憶の出来事も。
向けられる言葉の全てに、何らかの形で相槌を打つ。その姿は見紛うことなく父のものだ。疑う余地も、ないほどに。けれど、それが逆に基の中の推測を確信へと変える。
幼少の頃亡くなった父が、もし自分の話を聞いてくれたとしたら。そんな、一度は考えた理想。それを、この影は模倣しているだけ。覗き見た心の内から引きずり出した妄想を繰り返す、がらんどうの木霊でしかないのだと。
多くを語り、そしてふうと息を吐いた基。信じてくれたのだろうかと、一層距離を詰めた父の顔をした「なにか」。広げられた腕の中へ収まらんほどまで近づいたその影へ、基は額にかかった髪をくしゃくしゃと整えると笑顔を浮かべ……その両腕を突き付けた。
子供用のブロックのように組み替えられた身体の一部は、宛ら銃。言葉を、知り得た情報を、弾丸として放つ技。真正面から零距離で撃ち込まれるのは、彼女の持っていた「父」の記憶。
(ああ、やっぱり。こいつは偽物なんだ)
相手の猿真似から、心を透かして理想を形にして人を惑わすすべを得た怪異。理想ではなく、事実に基づく情報を全身へと撃ち込まれた今、浮かび上がるのは困惑と動揺。立てた予想が、間違いないという証。
ならば、自分がすることはただ一つ。
動きを止めた相手へ、か細い刃が振り下ろされた。画用紙を切るように、プリントを断つように。カッターナイフは薄っぺらな真似をし続けた敵を切り裂くだろう。
本当に、父だったら。きっと自分は踏みとどまってしまっていた。だから。
「よかったよ、お前が――」
偽物だったら、そう、口にしようとした瞬間。彼女の頭に手が乗せられる。大きくて硬いが、優しくて温かい、てのひらが。
基がはっと顔を上げた時には、既にオブリビオンは骸の海へと身を沈め、影も形も残っていない。
もし、もし彼女のユーベルコードによって与えられた情報によって、紛い物の影法師が、彼女の心の中の理想と、現実に遺された彼の手掛かりのどちらもを学んだとしたら。その瞬間、それは紛れもなく――。
徐々に深みを増し、橙の光は赤みを増していく。それは、夜の訪れを知らせる陽。濃くなる影の中で蹲る基の表情を、知る者はいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
レイラ・エインズワース
彩萌チャンと(f03307)
サテ、と楽しい思い出を楽しいままで終わらせるためニモ
ちゃんと倒さないといけないヨネ
……知ってるヨ
私の相手をする過去の幻は大体その姿を取るモンネ
狂気に堕ちる前のエインズワースの魔術師
私の製作者
デモ、幻なんかじゃ再現できナイ
その姿を取るノハ、やめさせるヨ
ユーベルコードで呼び出した魔術師と共闘
【高速詠唱】で詠唱を肩代わりして、【全力魔法】を叩きこむヨ
死霊が沸けば、角灯の焔を拡散、【呪詛】を籠めて地獄に還そうカナ
消えるのヲ見るのはやっぱりあんまり好きじゃナイ
でも、名前を付けてほしかったノハ、貴方にじゃないカラ
ん、こっちも大丈夫ダヨ
おつかれサマ
両手を掲げてハイタッチを受けるネ
斬断・彩萌
【レイレイ(f00284)】と
さぁて、いよいよ目的のドッペルゲンガー様よ
誰と対峙させてくれるのかしら、楽しみね
…アンタは…(顔はよく見えないが、この背格好は父だ。なるほど、そういえば父さんと最近会ってないっけ)
悪いけど、身内だからって容赦するほど甘い鍛えられ方してないわ
偽物だと分かってる以上、ボコボコにしてあげる
むしろ普段なら絶対出来ない分、憂さ晴らししちゃうからね!
影は影らしく、光に焼かれなさい
『光楼』で辺りを照らしながら逃げ場を奪いつつ、光で敵を取り囲んで攻撃
――ま、最近って言ってもほんの数週間だけどネ!
はーいい運動になったわ
レイレ~イ、そっちの首尾はどう? こっちはばっちり片付いたわ!
風鈴に惹かれた者の思い出。忘れがたい過去。それを引き出し、姿を真似る。そんな特性を持つオブリビオンにとって――正に、彼女らは天敵だった。
斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)の前に現れたのは、男性。しかしその姿はこれまでのものと比べ実に曖昧だ。顔など特に不自然な陰りによって隠匿されうかがい知ることはできない。しかし、彼女はそれを直感で己の父だと見抜くだろう。
だがそれによって動揺が生まれるかといえば、否であった。
むしろ嬉々として構えを取り、拳を平手に打ち付け冴えた音を立てる。
「悪いけど、身内だからって容赦するほど甘い鍛えられ方してないわ!」
寧ろどちらかといえば、彼女は名家の子女として時に甘く時に厳しく育てられた経緯がある。普段ならば到底できない父への反抗。模造品の影法師とはいえ、滅多にない機会に彩萌のボルテージは右肩上がりのまま止まる事を知らない。
一方、その友であるレイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)の前に現るその幻は、対照的に具体的な形を有している。しかし、彼女はそれに対して驚くことさえない。既に、予想がついていたからだ。自分の製作者、狂気へと堕ちる前のエインズワース家の魔術師。
だが如何に姿かたちを似せたところで、彼女を欺けはしなかった。そもそもが偽物であるという事前の情報を握っていたのだからなおさらに。
「その姿を取るノハ、やめさせるヨ」
再会の歓喜ではなく、沸き起こるのは確かな闘志。既にユーベルコードによって、自ら使役する事となった創造主の霊を傍に控えさせ戦闘の意志をあらわにする。
二者二様、異なる思いを抱きつつ戦いは始まった。とはいえ、どちらも戦いというにはいささか一方的ではあったのだが。
まず彩萌。超能力によって作られたオーラの弾丸、【光楼】によって視界と逃げ場を潰す。当然相手も同様の技で反撃を試みるだろうが……光と闇ならいざ知らず、光を光で打ち消すことなどできはしない。機敏な動きによってより多く、そしてより相手を取り囲むよう射撃を続ければ、影より生まれた者には逃げ場がない。
「影は影らしく、光に焼かれなさい!」
その決め台詞と共に、配置された弾丸によって哀れドッペルゲンガーは塵一つ残さず光の嵐に巻かれ消え失せる事だろう。そもそも彼女が父親とあっていないのは数週間程度、それで何か特別な想いを抱くはずもない。
一方のレイラは、呼び出された魔術師の詠唱を代行しながら魔法を叩き込ませる。当然二対一であるならば優勢なのは数の多い方。それだけでなく、彼女の召喚したのは、影法師の真似た存在そのもの。死霊となっていることを差し引いても、生中な再現では到底及ぶはずもないだろう。
しかしせめてもの抵抗にと繰り出された地獄の雷をその身にわざと受け、得た力で死霊術の再現を行おうとするが――それさえも彼女にとっては予想済み。手にしたカンテラが、片端からその魂を葬送の紫焔によって浄化する。
ここまで敵が哀れなほど圧倒してはいたものの、やはり、消える姿を目の当たりにするのはやはりちくりと胸を刺す痛みを齎す。しかしそれでも、彼女はこう告げた。
「でも、名前を付けてほしかったノハ、貴方にじゃないカラ」
焔と稲妻。呪詛より出でた二つの技が、影法師をあるべき場所へと返すだった。
「はー、いい運動になったわ。レイレ~イ、そっちの首尾はどう?」
ぐっと背を伸ばし、どこかすっきりした表情で問いかける彩萌。それに対し、呼び出した死霊を散らすと、友の声に笑顔を見せるだろう。
「ん、こっちも大丈夫ダヨ。おつかれサマ」
二人にとって、今日の出来事は決して過去を振り返る為のものではなかった。神秘的な風鈴の縁日。不思議なパレードを追いかけ、悪い敵を倒す。そしてそれらを纏めた、記憶に残る新しい思い出。それらを、満足のゆくものとして終わらせるために戦ったのだ。
健闘を称え、ハイタッチをする彩萌とレイラ。さわやかな音を最後に――その裏路地から、不可思議な音が鳴る事はなくなるだろう。
日は沈み、紺から黒へと移る空には、煌めく白の粒が見え始めていた。
●まつりのおわり
風鈴縁日の近辺で起こった一連の失踪事件は解決した。
後にUDC組織による調査によって、行方不明者は全員生存した状態で見つかった。全員記憶は曖昧だが、全員過去に亡くした人などに導かれたなどと言っていることから、精神的治療を受けることにはなるだろうが――そう遠くないうちに全員が元の生活に戻れるだろう。
しかし、今回の事件で起きていた、廃棄された我楽多の行進やドッペルゲンガーが相手ではなく記憶の中の人物に変化したことの理由は、未だ解明されていない。それだけは懸念材料ではあるが、既にその場所ではもう風鈴の音は聞こえない。調査を行うための存在も既に存在しないのだ。
――夏は終わり、季節は移ろう。それでもまた夏は来る。
けれどもう影法師は必要ない。軒先に飾られる風鈴の音が、誰かを悼み、偲ぶとともに、今日の出来事を記憶から呼び起こしてくれるはずだ。
夏の終わりに猟兵達が経験した、その不思議な縁日を。
大成功
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