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エンパイアウォー㉙~吾亦乞

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー


●咲かず実らず
 嗚呼、うれし、うれしや。
 わっちにややが出来た。
 わっちだけのやや子ができた。
 あの日、水晶の様に煌めいた、美しい人は言いんした。
 わっちの胎の中には神の御子がおると。
 この子はいつか、日の神を喰い、新たな神に成り替わると。
 その姿はわっちの願った通りに、わっちの望んだ通りの形になると。
 嗚呼、ああ、うれしや。
 裏切った同胞などもう忘れんした。捨てた男などもう要りんせん。
 わっちを縛った檻は、既に紅蓮の炎の彼方。
 ここには腐った手足も無い、醜く崩れたかんばせも無い。
 あの人が買うてくれた愛しい金魚もほら、この通り。
 わっちは、わっちの思うまま、わっちだけのややを産み落とすんだ。
 この子ならきっと、わっちを裏切らないでくれる。この子ならわっちを捨てないでくれる。
 嗚呼、うれしや。
 このしあわせは、誰にも邪魔などさせやせん。
 そのためならーー。
「母は子の為なら神にも鬼にも、なりましょうぞ」
 喩え屍の山を築こうと。
 手足を捥がれて血反吐を吐こうと、泥水を啜ろうと。
 わっちの命に代えても、この子は守ってみせようぞ。

 だから、だから、どうかお願いだから。
 わっちを……あたしを見て。
 あたしだけを愛してね。
 あたしだけのーーかみさま。

●化し花
「晴明ってヤツはとことん外道だな。とんでもねぇ置き土産を残していきやがった」
 四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は苛ついた様子を隠すこともなく、タブレットを机の上に投げ置いた。
 画面に映るのは、奥羽の地方で見つかった晴明の拠点と思わしき研究施設の資料。そこには大きく『偽神降臨の法』と見出しが書かれていた。
「どうもやっこさん、人為的に新しいオブリビオンフォーミュラを作り出そうと考えていたようだぜ」
 晴明自身を含め、魔軍将やコルテスの持ち込んだ神の力を宿らせ、その胎内の中で神を育て、出産させる。簡潔にいうと、そういった術法だ。
「既に何体か術を施されたオブリビオンがいるようで……さらに悪いことに、それらは研究施設を脱出済。目下逃走中だ」
 胎内に子を宿したオブリビオンはそれを『神の子』と認識しており、何に代えても守り、無事にそれを生み落すことに最善を尽くそうとしている。その為、各地に散らばり身を潜めているらしい。
 元々実験段階の術式だ、成功する可能性は高くはないし、生まれるまでは十月十日を必要とする。此度の戦争に大きく影響はでることはないだろう。
「それでも、面倒な敵になることは間違いないだほう。厄介事は大きくなる前に片付けちまうのが良いだろうさ」
 そこで一息ついて、鏡は画面をタブレットの画面をスライドさせた。映るのは、沢山の地蔵に囲まれた、古ぼけた寺院。
「今回倒してもらいたい敵はここに潜伏している」
 それは、煌びやかな着物を着た女のオブリビオンだという。ゆったりと靡く帯や赤い着物の裾は、どこか水中を泳ぐ金魚を思わせる。
 けれどその紅の色は、人の血と恨みの炎の色。
 一度牙を向けば、眷属と思しき金魚を操り、自身の縁を辿って人の亡霊を呼び出し、けしかけてくるだろう。
「ただ、先にも言ったがコイツは戦うことを優先としねぇ。生き残ることが何より重要としている」
 敵は自身の胎に宿る子を第一に優先する。猟兵が襲いかかれば応戦はするも、隙あらば逃げようと動くだろう。
「寺院はさほど広くねぇし、出入り口も正面の一つだけだ。が、廃屋同然の建物だ。その気になりゃあ壁だってブチ破れるな」
 作戦の内に、いかに敵の逃走を防ぐかの対策も入れておく必要があるだろう。
「オブリビオンの過去は知らねェし、興味もねェ」
 ただ明確であるのは、その腹の中には偽りの神の雛が宿っていること。そしてそれは厄災の種になりうること。
「……人の手で神を産み落とそうなんて馬鹿けた話、所詮は夢枕での語り事さ」
 自身も仮にもカミと呼ばれる種族の末端であるからなのか。それとも人の手によって作られたモノであるからなのか。
 あくまで冷淡に述べる鏡の瞳はそれでも、どこか複雑な色を宿していて。
「そう笑って、終わらせようぜ」
 そう打ち切り、鏡は目を伏せる。そして無言で、グリモアを起動させたのであった。


天雨酒
●注意●
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 フレームを見た瞬間、書かねばの衝動に負けました。天雨酒です。
 文字通り、晴明の置き土産を根絶させましょう。

●寺院について
 かなり前に潰れ、廃屋寸前の建物です。
 周りには崩れかけた地蔵が無数に立てられています。
 女はそこで身体を休めていますが、時が経てばより安全な場所へ逃げてしまうでしょう。
 戦闘には影響はありませんが、壁は脆いです。いざとなれば女は蹴破ってでも逃走を図るでしょう。
 逃走阻止の策を一計案じてみてください。

●敵について
 OPにある通りです。
 何かに縛られて、何かに焦がれていたことは確かでしょう。
 しかしそれも過去のこと。
 今は腹に宿るなにか縋り、何に変えても守ろうとするだけのものです。

●受付期間について
 断章追加後よりプレイング募集予定です。
 募集のご連絡はTwitter・MS紹介ページより行いますので、お手数ですがそちらご確認をお願いします。
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第1章 ボス戦 『徒花太夫』

POW   :    傘妖扮人魚
【烈々たる炎の雨を降らす人魚態】に変身し、武器「【傘『開花芳烈』】」の威力増強と、【炎の海を泳ぐこと】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
SPD   :    指切立心中
自身の【切り落とした指】を代償に、【馴染みの客の亡霊たち】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【各々の職業に即した武器や青白い幽鬼の炎】で戦う。
WIZ   :    怨魂着金魚
自身が【怨み、辛み、妬み】を感じると、レベル×1体の【決して消えぬ怨讐の炎で創られた金魚】が召喚される。決して消えぬ怨讐の炎で創られた金魚は怨み、辛み、妬みを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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 かつてあたしにも、運命の糸というものを信じていたことがあった。
 例えば、友との友情。
 例えば、素敵な殿方との恋。
 そういう、絆しというものは人を信じてはじめて生まれて、そいであたしを結んでくれるって思っていた。
 だが、真実はどうだった?
 必ず添い遂げようと、言ってくれたあの人は幾らまでども来てやくれない。助け合ってたと思っていた友は消えてしまった。
 ーー知ってたよ。二人が、連れ合って歩いていたのを見ていたから。
 それでも待って、待って、待って。
 宙に腹を向けた金魚が醜く腐り果てるまで、それでも信じて。
 全てを信じて、火にくべた。
 今なら知っている。そんなものは所詮まやかしだ。
 それはきっとひとときの夢。叶う時もあるけれど、叶わない方がずっと多い。そんな脆いもの。
 真の糸というものは、消えないアイというものは、きっと身の内から生み落とすものなのだ。
 この胎の中に棲まう、神なるもののように。

 今にも崩折れそうな寺院の中から子守唄が響いていた。
 襤褸となりかけた茣蓙の上、広げた傘を手で遊びながら、女は胎の御子へ向けて唄を紡ぐ。
 その周りには、金魚の姿をした鬼火がぽつり、ぽつり。
 訪れるもの気配を感じたのか、唄が止んだ。ゆるりとした動作で女が振り返る。
「使いも無ければ、宴も無い。そいでわっちの元に通おうなんぞ、野暮なお方」
 もっとも、正式な先触れを出したところで応じる気など女には無い。
「帰ってくんなまし。わっちはどなたともつれ合う気はありんせん」
 膨らみの兆しも見せない腹を一つ撫ぜ、女はにたりと嗤う。
「わっちのは、もう此処にありんすによって」
 その幻想に濁った瞳は、きっとその場にいる誰よりも、幸せそうであった。
鹿村・トーゴ
太夫を名乗る女なら世の辛酸知り尽くしてるだろうに
只一つに縋る幸せ…難しくないか?
でも身重の母親ってそんなもんなのかね…
オレには一生解りっこねーからなー

さて女にも腹の子にも罪はない
けど存在は災いなんで産ませる訳にはいかない
敵ならば同情もしない
…奴の策もこの応戦も狂気の沙汰だな
悲しいもんだ

UCで寺の内外に呼んだ鳥に
敵の動向の見張り、外に出た場合追い詰めやすい場所を確認させる
敵に懐くように唄い纏いつき行動の邪魔をさせ仮に外に出ても続行し居場所を皆に知らせる役目を

自分は鳥と反対側から【暗殺/投擲/激痛耐性】で
手裏剣、クナイで攻撃

ガキのオレが太夫に直にお目通りなんて貴重だね
折角だ
最期まで見送らせてよ


向坂・要
こいつぁ三度通っても馴染みにしてくれそうにありやせんねぇ

そいつぁ幸せなのか、幸せと思いたいのか
お前さんはどっちなんですかね

あちらさんの事情や過去を自身の経験から察しつつ同情はせず
哀れと思うか幸せと思うかは人それぞれですからねぇ

指切りはご遠慮しますぜ
暗殺の要領で気配を消して奇襲を試みつつ
亡霊やその攻撃を第六感も生かし見切り
からのカウンターを狙いますぜ
ユルとウルのルーンを宿したクイックドロウによる毒と追尾の属性攻撃

同時に相手が逃走などしないように警戒
必要なら敢えて腹部をスナイピングの要領で跳弾も含め狙い相手の怒りや注意を誘ってみますぜ

連携
アドリブ歓迎



●小夜啼鳥は唄わない
 にべもなく追い返そうとする女の様子に、向坂・要(黄昏通り雨・f08973)は苦笑を浮かべた。
「こいつぁ三度通っても馴染みにしてくれそうにありやせんねぇ」
 ゆるりと笑みを浮かべる女は答えない。しかしその目ははっきりと拒絶を告げている。
 こりゃ困ったねぇ。嘯きながらその容姿を観察する。
 女の周りで揺らめく金魚。その鱗を借り、張り付けたような女の肌。借りなければならないだろう、理由。
「帰っておくんなまし。わっちはお前さま達に用は無い」
 何よりも女の、独特な言い回し。
 長い時を人の傍らで見守り、見届けてきた要は知っていた。
 きっとまるで同じ、という訳ではないだろうけれど。彼女の様にひと時のユメを売り、花と咲く。そんな強くて気高くて、なによりも脆い女達がいるということを。
「太夫、って言いやしたかね。そういうヒトのことを」
「……昔の話でありんす」
 そう言いながら、女は『その言い回し』をやめようとはしない。それがどのような一体意味を持っているのか。
「太夫を名乗る女なら、世の中の辛酸を知り尽くしているだろうに……」
 要の言葉に続けるように鹿村・トーゴ(鄙村の忍者見習い・f14519)も自身の考えを気付けば零していた。
 辛酸を嘗め尽くしたが故に、今の彼女があるのか。それに耐えきることができなかったから、彼女は藁にも縋ったのか。
「ただ一つに縋る幸せ……難しくないか?」
 きっと泡と消えてしまえば、もう立てなくなる。心の拠り所とするが故に、それが壊れば崩れ去るのは早い。身重の母親とは皆してそのようなものなのだろうか。
 そんな今にも切れそうな綱渡りをしようという心情が、トーゴには理解できなかった。
「……坊主にはわかりんせん」
 太夫の瞳に微かに敵意が宿る。それ以上触れてくれるなと、言わんばかりの語調だった。
「そういうのは人それぞれですからねぇ」
 それを人は哀れと呼ぶか、幸せと呼ぶか。
 恐怖ととるか、安堵を得るか。
「……オレには一生解りっこねーからなぁ」
 男として生まれ、男として生きていくトーゴには分からない。だって自分は同じものには決してなれない。
「それでいいんじゃないですかねぇ。……ほら、あちらさんもそろそろ痺れを切らしたそうだ」
 要が注意を促すのと、太夫が両手を広げたのは同時だった。
「嗚呼、忌々しい。早く、あれをわっちから離しておくれ。ーー愛しの旦那様や」
 指切りした仲だろう、その言葉とともに、太夫の右手の指がぽろりと墜ちた。
 血は吹き出ない。まるで始めからそうあるもののように、指は腐りかけた木の床を転がり、五人の男の屈強な姿へと変わった。
 ゆびきり、げんまん。うそついたらはりせんぼん、のます。
 女がわらべ歌を口にする。侍のような出で立ちをした男たちはその歌声を聞きながら刀を抜いた。
「おお、怖ぇ。指切りはご遠慮しますぜ」
 亡霊が刀を振り下ろす。要はそれの間合いを正確に見切り、微かに状態を傾げるだけでそれを躱した。返す刀が飛んでくる前に、愛銃のリボルバーを構えて発砲。
 刻まれたルーンは着弾と共に発動し、木となり毒を撒き散らす。毒を吸い込んだ亡霊たちの苦悶の声があがった。
「おお、汚らわしい。こんな場、わっちの御子に相応しくない」
 それらを後方で見遣りながら、太夫は即座に立ち上がる。彼が亡霊を相手にしている間に、この場を立ち去ろうという算段だ。
 幽霊を打ち抜きながら要はそれを見ていた。しかし敢えて、動くことはない。
 何故ならその頭上を、鳥が飛んでいたから。
 そして鬼の角持つ少年が、影に潜んでいることに気付いていたから。
 太夫が踵を返す。
 その時。なきごえがした。
 ーーおぎゃぁ、おぎゃぁ。
 その声を聞き捨てる母など何処にいようか。女は出そうとした足を止める。両の手は自身の胎にあて、きょろきょろと周囲を見渡した。
「坊や……わっちを呼ぶのかい?」
「残念、呼んだのはこいつだよ」
 女の死角へと回り込んでいたトーゴが手裏剣を投げ、足元を攫う。その周りを彼が呼び出した鳥が唄い飛ぶ。赤ん坊の声を真似ながら鳥は女に纏わり付き、その逃走の意思を削いだ。
 たたらを踏んだ女はとっさに自身の胎を庇った。その動きに、トーゴは胸の内に苦い思いが宿るのを感じる。
 女にも罪はない。腹の子にも罪はない。
 しかし、その存在は災いを呼ぶ。故に産ませるわけにはいかないのだ。
 母になれと騙して利用して、子を宿して。
 母は子に縋り、親子の縁を盾として。
 自分たちはあくまでそれを討つ側だ。同情もない、迷いもない。あってはいけない。
 ーー果たして悪生は、何方か。
「……とんだ、狂気の沙汰の一幕だよ」
「それでも、それを哀れと思うか、幸せと思うかはヒトそれぞれですからねぇ」
 思い声に応えたは飄々と嘯く声だった。
 要の弾丸がトーゴの真横を通過する。太夫を外れると思われたそれは、しかし柱の装飾に跳ね返り、抑えていた彼女の胎へ。
「……おのれっ!」
 咄嗟に指を失った手の甲で受けた。初めて、女の身体から血が流れる。
「ただ、お前さんのは幸せなのか、幸せと思いたいのか。どっちなんですかね?」
 女が求めるものは、果たして何であるのか。紫の隻眼が細められた。
 きっとその答えは女自身にも、もう答えられはしないのだろう。
 続けてトーゴが太夫に向けて一歩踏み込んだ。どん、と手を抑える太夫の身体を付き飛ばす。
 狂気でも、不幸でも、幸せでも。それが幕であるならば、下ろさなければ。
 それが、心あれと決めた自分に出来ることだ、と。
「折角だ。最期まで見送らせてよ」
 ふっ、と女の足元が掻き消えた。地面を失った女は真っ逆さまに墜ちていく。
 その先は、奈落の迷宮ーー。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三上・チモシー

分かってるんだよ、倒さなきゃいけないって
自分は猟兵で、あの人はオブリビオンなんだから
それでも
あぁ、嫌な気分

敵がいるのを確認できたら、【極熱沸水】を使用
屋内も含むとあんまり複雑な迷路にはならないだろうけど、閉じ込めるだけならこれで充分
出口には自分が立つことで塞ぎ逃走阻止

敵が出口付近に現れたら接近、【怪力】を込めた拳で攻撃
炎の金魚は【見切り】でかわし、難しければ【火炎耐性】で耐える
狙うのはお腹
庇おうとするだろうけど、構わず【鎧砕き】の一撃を叩き込む

あぁ、本当に嫌な気分


ユエイン・リュンコイス
アドリブ連携歓迎

既に終わったモノが、これから始まるモノを産み落とす。本当に可能なのだろうか。
…単に、より多くのオワリを生み出すだけだと思うけどね?
それを幸福だと謳う事を、否定はしないけれど。

出口は物理的に塞がず、其処への移動を阻害する様に立ち回る。退路を断つよりもまだ動きを御し易いだろう。

機人を前衛に格闘戦。今回はボクも『焔刃煉獄』を手に前へ。

火雨は【火炎耐性】で軽減し、傘撃は焔刃煉獄で凌ぐ。炎海を泳ぎ、空を舞う?
…ならば、それすら踏み潰す。煉獄とUCによる昇華の焔を叩き込もう。

無常の焔に母御は消えて、泡子はそのまま河原へと。せめて骸の海原ならば、怨讐の焔も消えるだろうか。

…これも感傷、かな。


アリサ・マーキュリー


フォックスファイアで神社を燃やして逃さない様に、味方や神社以外には燃え広がらない焔のリングを作る


私は…貴女と話しに来た。
貴女は…子供を産みたいんだよね。宝を守りたいだけなんだよね。その気持ちは、私にも分かる。私も、そうだったから。
貴女と私は似てる。

でも、私はまだ信じてるの。ううん、信じていたいんだ。人間を、未来を、この世界を。

そう話していたのは、焔で形作られた偽物で

ーーだから、ごめんなさい。

忍び足で気配を消し、騙し討ちを用いた背後からの暗殺。それは、刹那の速さで行われる居合斬り

そして、骸を抱く女は泣いた。
声を上げて、嗚咽を漏らした。
ごめんなさい、生まれさせてあげれなくて。産んであげれなくて。



●涙はとうに涸れ果てた
 暑い。熱い。
 いつから自分はここにいたのだろうか。
 確かあの子供に突き飛ばされて、と思ったら足元が消えて。
 気付けば女は石造りの迷宮の中にいた。石は熱く焼けていて、試しに一度触れてみたら肌が焼けた。
「わっちから御子を奪う忌々しい猟兵どもめ……」
 早くここを出なければ。こんな場所にいつまでもいては、胎の子に障る。
 どうして幸せになってはいけないんだ。あたしが何をしたっていうんだ。
 むっとする蒸気が漂うなか、女は出口を求めて歩き出す。
 この程度では怯まない。怯むわけがない。
「こんなもの。あの地獄に比べたら、たいしたことはありんせん」
 自ら放った炎に巻かれ、生きながら焼かれる地獄に比べたら。この程度では生ぬるい。
 本当の絶望を知らない奴らに、この足は止められないーー。
 
 あついな、と独り言ちた。
 この熱は敵だけを焼くという。体に影響がでるわけではないけれど、どうしても暑さだけは拭えない。
 迷宮の通路の中で、アリサ・マーキュリー(God's in his heaven・f01846)は来るべき時を待っていた。
 寺院の中に展開したそれはあまり広くは無いと聞いた。なら、いづれ彼女と逢うことは叶うだろう。もしそうでないとしても、出口には仲間達が控えている。どちらにしても、間違いはない。
 アリサは女を待っていた。どこか自分と似ていると感じる、哀しい女を。
 そしてその希望は叶えられる。
 右の指を失くし、その手から血を流し。それでも足取りは意外にもしっかりとして。
 仇花の名を冠する太夫は、アリサの前にやってきた。
「どいてくんなまし」
「いいえ、それは出来ない。私は……貴方と話にきた」
「わっちは、お前さんと話すことは何もありんせん」
 取り付く島もない太夫の言葉を無視して、アリサは彼女の進路上に立つ。業を煮やした太夫の舌打ちが響く。
「ああ、どいつもこいつも……!」
 ぴし、と音がして太夫の身体が変じた。赤い鱗が浸食し、足が魚のそれとなる。
 周囲を泳いでいた金魚が解け、石の迷路を火で炙った。
 瞬時に広がる炎の海を見て、人と魚と合いの子のような姿となった太夫を見て。それでもアリサは対話の態度を崩さない。
 振るわれた傘を、持っていた刀で受け止めた。
「貴女は……子供を産みたいんだよね。宝を守りたいだけなんだよね」
「そうさ! わっちが望むのは、わっちの宝だけ!」
「その気持ちは、私もわかるよ」
 私も、そうだったから。
 赤い炎の海、火の雨。それは地獄のような光景だった。
 ここではあの時のように、鉛の雨は降らないけれど。
 その地獄の中で舐めた苦みは、きっと同じで。全てを怨んで、憎んで。絶望の中に墜ちて。
 彼女は己の中に縋り、生きることを見出した。
 なら、私はーー?
「……でも、私は信じてるから。ううん、信じたいの。人間を、未来を、この世界を」
 その為に、太夫の縋るものを切り捨てる。そう、決めていた。
「……ならば、お前さまも他とお人と同じでありんす」
 火の雨が降り注ぐ。刀で傘を受け止めるアリサは、動けない。
 雨に撃たれた少女の身体は瞬時に炎に炙られ――同じ炎へと還った。
「何……?」
 アリサの髪も、炎も、服も刀も。紛い物。狐の炎で化かされた虚像。
 本物は、いつの間にか、太夫の背後に忍び寄っていて。
 鞘鳴りの音がやけに大きく響いた気がした。
「ごめんなさい」
 刹那に走る銀の光。転瞬、赤い鱗が飛び散り、太夫は地べたに墜ちた。
 炎の雨の中、アリサは涙する。地べたを這い、懸命に逃げる女を見る。
 あれは自分だ。背中合わせの、決して交わらない自分。
 ごめんなさい。生まれさせてあげれなくて。
 嗚咽が漏れる。
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 ーー産んで、あげられなくて。 
 
●灰燼の向こうで逢いましょう
 背中から溢れた血溜まりに手をついて、肌が焼け焦げるもの気にせずに焼けた石に凭れかかり、女は立ち上がる。
「まだ……腹の御子は無事じゃ。ならどうとでもなる」
 あとすこし、と傘を杖代わりにつき、光の差し込む出口を目指す。
 しかし、そこに二人の影があった。
 出口が一つであるのなら、敵は自ずとそこを目指す。ならばそこだけを守っていれば動きを先回りすることも容易い。そう考えるのは至って合理的だった。
 しかし、迷宮を作り出した本人、三上・チモシー(カラフル鉄瓶・f07057)の表情は暗かった。
 あぁ、嫌な気分。
 彼の心情を一言で表すならそれだった。
「分かってるんだよ……倒さなきゃいけないって」
 自分は猟兵で、彼女はオブリビオンだから。だったら見逃す理由はない。
 分かってるよ。もう一度繰り返す。まるで自分に言い聞かせるように。
 傍らで相棒の【黒鉄機人】を控えさせるユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はそれを気遣わし気な目で見ていた。
 黒鉄の機甲人形を手繰るこの身もまた、人ならざる人形ではあるけれど。彼女にだって喜怒哀楽の感情は備わっている。
 だからこそ、考える。目の前でこちらを睨む、幸福だと自ら宣言した女のことを。
「既に終わったモノが、これから始まるモノを産み落とす……」
 いま彼女がやろうとしていることはそういうことだ。本当に可能なのだろうか、そんなことが。それは、一つの命の理を曲げる行為だ。
 そしてその先に待つのは。
「……単に、より多く終わりを生み出すだけだと思うけどね?」
「終わりたいものは終わればいい。わっちには何の関係もないことよ」
 より多くの命の終焉を、太夫は興味がないと嗤った。
 なるほど、と納得する。彼女は自分の周り以外のことは意に介さないらしい。
「それ幸福だと謳うことを、否定はしないけれど」
 どちらにしても、ユエインとチモシーが行うことは変わらない。
 彼女を倒すこと。それが自分たちに課された使命。
「邪魔などさせぬ!」
 鬼女の面相で、女が再び異形へと姿を変える。炎の金魚が海を広げんと迷宮を地獄へと変えていく。
 猟兵達を傷つけない筈の迷路が二人を炙った。
 しかし二人は怯まない。吸えば肺腑が焼かれるからーー呼吸を止め、走る。
 チモシーは拳を構え、ユエインは黒鉄機人と共に、前へ。
 太夫が炎を纏った傘を振るう。次の攻撃へと繋げるために、ユエインはそれをあえて受け止める選択をした。
 同じく焔纏う打刀、【焔刃『煉獄』】。それは使い手の意思により、絶えず熱を生み出す。
 仇の炎と、人形少女の覚悟がぶつかり合う。二つの炎は石造りの部屋の天井まで昇り、爆ぜる火花が二人の身体を炭へと変える。
 それでもユエインは引かない。何故なら、自分達は二人、いや三人なのだ。
 真っ向から攻撃を受けることによって生じた隙。絶好の機会にチモシーが拳を固めて回り込む。
 狙うは――女の腹部。
「ひッーー」
 初めて、太夫から悲鳴があがった。傘を放り捨てて、腕で腹を庇う。それによって炎の刃に切り裂かれることも気にしていないかのようだった。
 知っている。女がそれほどまでに大切にしていることを。
 だから、チモシーは狙った。
 女の腕ごと渾身の一撃を叩き込んだ。柔らかい女の肉に、拳がめり込む。
「……あぁ本当に、嫌な気分」
 渇いた唇から漏れた声は掠れていて。きっとこの感触はしばらくの間、忘れることはできないだろうと、思った。
 焼けた壁へと叩きつけられる太夫をユエインが追う。
「無常の炎に母御は消えて、泡子はそのまま骸へと」
 刀を持ちながら十指で糸を手繰り、機人の右手で掌底を叩き込む。同時に、自身の焔刀を水平に構え、刺し貫く。
 じゅ、っと女の傷口から煙が立った。
「絶対昇華……欠片も残さす、無に還れ」
 機人の掌から、刃から炎が爆ぜる。劫火が女を飲み込んだ。
 怨嗟に狂った母と、生まれることはない命。逢えば必ず、全てを呑み干し灰と化す。
 彼女の怨讐の炎が消えるとすれば、きっと骸となり、母なる海へ還る時だろう。
「その時には、きっと……」 
 先の言葉は続けない。
 それが只の感傷なのは、分かっていたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ

オブリビオンとはいえ。
母子を倒さねばならぬとは、なぁ。
許せぬのは晴明の所業であって、彼女らではないはずなのだが。
……嗚呼、気が重い。

まずは逃げにくくしておこうか。
『艶言浮詞』。廃屋同然だというのなら、土塊やらなにやら、あるだろう。精霊に変換し、使役して徒花太夫の逃走を妨害する。纏わりつかせるなり、進路を塞ぐなりすれば足止めにはなるはずだ。
……元に戻せるとはいえ、神仏を手荒に扱うわけにはいかない。地蔵はそのままにしておく。

太夫からの攻撃は地形を利用して避け、進行方向を限定して弾丸で撃ち落とす。ついでに、太夫に攻撃できそうなら撃つ。

──彼女らを殺すことでしか救えない僕を、地蔵菩薩は許すだろうか。


ディオ・マンサニー
どれだけ罵られてもかまわぬよ。吾人はそれだけ酷い事を貴殿にするのだから。鬼だと、悪魔だろうと言われても止めてやれぬ、見逃せぬ。

戦闘中、蔦髪を使いなるべく死角や足元を狙って捕らえようと常に動かし、意識の分散を狙う。
徒花太夫のUCに対し、サモン・アリエスを使うことで、逃げ場を潰してゆく。寺の中へなら氷の弓を。森なら水の斧で

優先目的は、敵を逃がさず、確実にとどめをさすこと。
 その為なら、ある程度の傷等やむを得ない。

のう、本来は赤子を身籠る女に傷なんてつけたくない。殺す等、尚更だよ。
罪を受けよう、罰も更に被ろう。罵声すら甘んじよう。
すまぬな。貴殿の恨みも悲しみも、吾人が受け止めよう。



●吾も亦、赦しを乞うて
 迷宮から放り出された時、女にはもう逃げだす力は残ってはいなかった。
 煌びやかだった衣装は焼け、煤で汚れ目も当てられない。綺麗な簪はどこかで失くしてしまい、振り乱れた髪が顔にかかる。腹の子は無事だろうか。先程、守り切れて上げなかったけど。
 床についた手は焼け爛れ、真っ赤に染まっていて。身体のあちこちに痛みが走る。
 ああ、まるであの時のようだ。
 それでも、オブリビオンとなった彼女の頑強な体はまだ死なない。死ぬわけにはいかない。
 だってあたしは、何の夢も叶えてない。
「どうして……」
 血を吐くように、いや、実際血を吐きながら、叫ぶ。
「なんで、あたしの好きにさせてくれないの!」
 それはもう、太夫ではない。そして、一人の母でもない。
 たった一つの者に縋って、それすらも奪われた哀れな女だった。
「あたしはただ、愛したかった、愛されたかった! それだけ、それだけでも叶わないのッ!」
「すまないが……神はそれすらも叶えてやれなんだ」

 シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は寺院の入り口に控え、その様を見ていた。
「どれだけ罵られてもかまわぬよ。吾人はそれだけ酷いことを貴殿にするのだから」
 女は絶望の眼差しで声の主、ディオ・マンサニー(葡萄酒の神・f17291)を見上げている。
 シェーラは逃走阻止の為にとあたりの土塊を精霊に変え、出口へ控えさせていたが、今の彼女にはそんな余力は残っていないだろう。
 それでも念のため術は解除せずに、自身はディオの隣に並んだ。
「……嗚呼、気が重い」
 オブリビオンとは言え、まさか母子を倒さねばならぬとは。
 シェーラが許せないのは、あくまで晴明の所業。彼女らではない。
 彼女とてオブリビオンだ。きっとどこかしらの破綻はしているのだろうけれど。
 彼女はただ、自分の望むものを掴みたかっただけ。たったそれだけの、願い。
 しかしそれは叶えられない。晴明の所業を打ち砕くには、彼女を殺めなければならないからだ。
「お前なんか……かみさまじゃない」
 立ち上がることもできない中で、それでも気丈にふるまうだけの気力を取り戻したのはせめてもの矜持だろうか。それとも、母だったものとしての意地だろうか。
 深い絶望と憎しみの炎が魚の姿をとる。
「お前らが、炎に墜ちろ。焼かれてしまえ」
 あたしの代わりに。灰となれ。
 呪詛の言葉と共に金魚が宙を泳ぐ。咄嗟にシェーラが放った弾丸が数匹を撃ち落とすが、距離が近すぎる。全ては撃ち落とせない。
 襲ってくる猛火にシェーラは後方へ退き精霊を盾にして身を守る。そして彼より前にいたディオはーーその場を退かなかった。
「鬼だろうと、悪魔だろうと言われても止めてやれぬ、見逃せぬ」
 炎がディオを炙る。植物が絡んだ髪が熱風に煽られる。シェーラがいくらか数を減らしたとはいえ、それなりの数だ。熱くない訳ではないだろうに、それでも彼は一歩踏み出す。
 ーー神という種族であっても、彼には女を救ってやることはできなかったから。
 偽りの神を生み出すことはあってはならない。だから、彼女はここでその命を終えなければならない。
 それが彼女の一番の願いを打ち砕くことになっても。その行いだどれだけ非道であっても。
 だから。
 この行いが罪であるなら受け入れよう。罰であるなら被ろう。
 恐怖の視線も、恨みの視線も、罵声もすべて甘んじよう。
 ディオが牡羊の頭を持つ戦士を呼び出す。その手には磨き上げられた斧が握られていて。
 斧が振るわれるのと、女の絶叫はほぼ同時だった。
「嫌だ……いやだいやだいやだ!!」
「……すまぬな。貴殿の恨みも苦しみも、吾人が引き受けよう」
 ごとり。重い何かが落ち、転がる音がする。糸が切れたように、女だったものの身体が倒れて、動きを止めた。
 ーーこうして、晴明の遺産はまた一つ、潰えたのだった。

 そういえば、とディオはシェーラに問う。精霊を受肉させる際、何故土塊の他に地蔵や仏像は材料に使わなかったのかと。
「元に戻せるとはいえ、神仏を手荒に扱う訳にはいかないからな」
「はは、ありがとう。神などーー何も救えはしないのだけれど」
 本来は、赤子を身籠る女に傷なんてつけたくなかったよ。殺す等、尚更。今更ながらに懺悔するディオの声は少しだけ震えていた。
 シェーラは敢えてそんな彼から視線を外し、顔を見ることを避けた。代わりに寺院の外に並ぶ地蔵達を見遣る。
「それでも、見届け、何かを赦すことはできるだろう」
 何の手入れをされていない地蔵達は汚れた顔でこちらを見返していた。
 きっと彼らはそうやって、シェーラ達を、女の最期を見届けていたのだろう。
 ――彼女らを殺すことでしか救えない僕らを、地蔵菩薩は赦すだろうか。
 胸の中に留めた問いの答えは返ってこない。
 もし返す者がいたとしたら、それは自分でしかないのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月26日
宿敵 『徒花太夫』 を撃破!


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々良・円です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト