●貪食
食べよう、食べよう、沢山、沢山。食べたい、食べたい、沢山、沢山。皆で一緒に、皆も一緒に。食べよう、食べよう。食べられよう。快楽は、そこにある。
塾を終えて家路に着きながら、男が歌う。あの学園では今何が起きているだろうか。報告が楽しみだ。楽しみだ。
狂気に唇を歪める。携帯端末で確認するのは簡単だが、今は我慢だ。今日の献立に胸を躍らせるように、男は家路をゆっくりと歩く。
粗野な言動、乱暴な所作。下卑た笑い声。群れて鈍器の類一つあれば、人のタガは外れるものだ。それによって欲が満たせるなら尚更だ。
噛ませた猿轡、自由にならない身体、怯えきった表情。彼等を狂乱に誘うのは、ほんの少しの後押しだけで良かった。
●グリモアベース
「UDCアースで事件が起きるのを予知したけー、皆に解決を依頼するな。」
いまいち決まりの悪い顔で海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)が日本茶を飲みながら、のんびりとした口調で猟兵に語りかける。
「この世界は、現地に組織がおるから、生活費や身分証明なんかは任せてええ。その辺りしっかりフォローしてくれるけーな。長期滞在になっても安心じゃ。それで、目的地は地方都市の学園っぽいんじゃけど……」
何せ地方都市の学園と一言で言っても無数にある。どの学園であるかまでは分からず、主犯格も明確に分からないと鎮は告げた。
「じゃけー、まずは手掛かりが欲しい。もう少し探ってみたんじゃけど。」
どうやら、邪教集団の一角が潜伏している建物が都市部から外れた田舎にあるようだ。そこへ、情報が有るだろうと猟兵に告げる。
「まずはここを探って欲しいのう。」
地形の障害は特に無い。コミュ【力】に自信があるものは気が合うふりをして仲間に入れてもらう、知覚力や器用さに優れる物は忍び込む、魔法や知能に自信がある物は迷彩などで侵入してみるのが良いだろう。勿論、他の方法を試してみても良い。
「この世界は正直、得意じゃないのう……はっきりせんでもやもやするけーなぁ。すまんが宜しく頼む……信頼しとるけーな!」
頭を悩ませながらも、笑顔を浮かべて、鎮は猟兵を送る準備をし始めた。
紫
●挨拶
紫と申します。3作目となります。1ヶ月弱ほどでしたでしょうか。短くはありますが、本年はお世話になりました。 来年も宜しくお願い致します。良いお年をお迎え下さい。
クリスマスはダークファンタジー。
大晦日からいあいあで狂気的な年越しと三が日。
何かがおかしい。
●シナリオについて
1章、2章共に捜査という、多分地味なシナリオ構成です。
●最後に
精一杯頑張ってお送りしたいと思いますので、宜しくお願い致します。
第1章 冒険
『潜入捜査』
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POW : 気が合うふりをして仲間に入れてもらうなどの方法。力仕事でサポート。
SPD : 見つからないように隠密に潜入するなどの方法。技術でサポート。
WIZ : 構成員や関係者を装って潜入するなどの方法。魔法でサポート。
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ステラ・ハシュマール
こういうとき、小さな体が役に立つんだよね。
見つからないように隠密しながら進むよ。
伊達に長いこと暗殺者やって来てないってところ見せてあげるよ。
ダクトから侵入して、通気孔越しに色んな話を盗み聞こう。
ばれそうになったらお約束のネズミの声真似でもするよ。キマイラだからさぞ似てる……といいんだけどねぇ。
ばれたらもうそそくさと逃げさせてもらうよ。
エグゼ・エクスマキナ
光学迷彩を駆使して潜入。
捜査用機材、もしくはともに潜入するものを
巨大レンチ型メイスで挟めるサイズのものであれば
一緒に一つ挟んで透明化して持ち込む。
「スニーキング、スニーキング。気分は暗殺者……。
や、潜入調査なんで別に誰かを暗殺するわけじゃないけど。」
楠瀬・亜夜
「さてさて、今回の事件は鬼が出るか蛇が出るか」
「……調査開始です」
そんな感じで年始の炬燵生活を少し惜しみながら
邪教徒の潜伏場所で向かいます
まずは対象の建物の付近と外見を少し調べてみます
「一見変わったような所は……」
見張りがいないのを見計らって
裏口があればそちらから優先的に侵入
施錠があれば【鍵開け】で侵入します。
「お邪魔しますよっ……と」
内部では極力人目を避けて【聞き耳】などで
信者達の会話の盗み聞きを試します。
こうやってこっそり忍び込むのは面白いんですけど
見つかってしまっては元も子もありませんからね
軽く情報を物色してから【逃げ足】を駆使して撤退です。
逢坂・宵
【WIZ】
邪教集団とは、これはまた穏やかではありませんね
まずは情報、これがなければ始まりません
少しでも多くの手がかりが得られるとよいのですが
「第六感」、時には「礼儀作法」を使用して
構成員または関係者として振舞うべき方向性を探り
そのように振る舞うのが僕には向いているでしょうか
時には少々演技などもしてみましょう
もしできれば
天星アストロノミーを使用して強化を図っておきましょう
何があってもよいように
ロア・ネコンティ
【SPD】
彼らはどんな邪神を崇めてるのでしょうね?潜入捜査開始です。
以下【コミュ力・言いくるめ】
邪教集団の建物へバイトの面接に来たと、正面から訪問する。貧乏な若者のフリをし、バイトが無いなら手伝いをするから何か食べさせてくれと交渉する。
潜入出来たら「ザリガニはカレー粉で炒めると美味しいんですよ。」等貧乏メシトークでコミュニケーションをとり、全力でお手伝いして信用を得るようにする。もし勧誘してきたらそれにのる。並行して【キャットウォーク】で建物内の構造、監視カメラの位置を把握し、邪教集団の会話に聞き耳をたてる。可能なら怪しい物をスマートフォンで【早業・撮影】し、他の猟兵達と情報共有する。
ヴィネ・ルサルカ
ふむ、邪神を奉る集団か。そんなものを崇めるよりワシを崇めた方がご利益があるわい。
一先ず、奴らの拠点に近付いて観察するかの。符丁や認証等、出入りの方法を入手出来れば良いの。特に無ければ複数人の信者共が出入りする際に紛れて潜入するかのぅ。
中では奴等の挙動を真似て行動、”学園”とやらに関する資料や物的証拠を漁るとするかの。
もし、捕らえられておる人間がおるなら隙を見て拘束を解放し、脱出。追っ手は七星七縛符で足止めすれば十分じゃろ。
●作戦会議
一固まりになって動くのは不味いだろうと言うこと、都市圏である方が組織(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)と接触がしやすく、物資の調達も円滑に進むだろうということで、目的施設への地図を渡され、猟兵達は一度、地方都市の一角へ送られた。
送られる前、楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)は、こたつ……と誰にも聞こえない小さな声でぼやいていた。新年は下半身をあの堕落の魔物に食われて居たのだろう。一度入れば泥沼なのだ。あの暖かさは。卓もセットなので、お茶請けと急須、電気ポットがあると、もう逃れられない。ポットの湯が切れた時でさえ、人をその口(炬燵布団)から逃さないのだ。
猟兵達は一度組織と顔を合わせ、互いを認識する。彼等から一通りの説明と所持していない物には身分証、滞在中に使用できる宿泊施設の案内を受け、最後に心強いと信頼の言葉を寄せた言葉を送られた。
案内された宿泊施設でチェックインを済まし、件の施設への潜入方針の共有を始めた。
「僕は隠密潜入かな。こういうとき、小さな体が役に立つんだよね。」
「じゃあ、それに噛ませて貰うぜぃ。」
「私もそちら、でしょうか。しかし、その前に施設の観察も必要かと……。」
特徴的な軍服風ゴシックロリータを着用したステラ・ハシュマール(炎血灼滅の死神・f00109)の言葉にエグゼ・エクスマキナ(エクスターミネーターソード・f00125)が提案に乗る。次に亜夜が好奇を潜ませた冷静な表情で提案する。
「では、ワシと物見と洒落込むか?」
少し暇だったのだろう、半ばから蛸のようになっている髪をうねうねと遊ばせながら、ヴィネ・ルサルカ(暗黒世界の悪魔・f08694)が鮫の様な歯を楽しげに釣り上げる。
「そうさせていただきます。此方の先見は私達、ですね。」
「その間の時間は僕らで稼ぎましょう。」
柔和な笑みを浮かべて逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が話に加わる。
「宵さんは僕と。」
ロア・ネコンティ(泥棒ねこ・f05423)が宵の背後からスッと顔を覗かせる。ロアは貧乏学生を装い正面からノック、友人という設定で宵もそれをバックアップしつつ、立ち居振る舞いが合っているか確認しながら中へ踏み入る、とするらしい。
「ふうむ、となるとワシは良さそうな方から潜入じゃな。」
先見のバックアップに宵、ロアが戸を叩く。遠目に位置する亜夜、ヴィネが先見で周囲を来客対応中に物見、潜入組のステラ、エグゼに亜夜が情報を渡す。先見組が信頼を稼ぐ期間、夜に邪教集団が活発化する可能性も含めて、1日、慎重に探りを入れる事にする。
正面から潜入するロアと宵は組織に依頼し、着込んだ様に見える現代の服と調達してもらい、ステラは念の為、ラッパ銃とメメント・モリの分解掃除に独自機構のチェックを済ませ、発注していた幾つかの弾薬を専用の袋に入れておく。
(念には念を入れておいて、損はないよね。)
怖いのは暴発、不発、不調。愛用のイヤリングが、微かに揺れた。
●貧乏な若者(猫にアストロラーベ)
目的地までは幸いなことに電車が通っていた。自動改札機もあった。だが、俗に言う無人駅だ。設置されてある自動販売機の発するノイズと、改札に切符を通す音だけが、駅の存在を知らせてくれる。
そこからは更に徒歩、現代風の衣装に身を包んだ宵とロアが連れ立って歩く。幾つか道を別れる事が出来そうだったので、他の2班とも別行動という形を取った。
程なく、目標の建築物が見えてきた。田舎に建築された地域密着型のコミュニティ・ハウス。良く手入れが行き届いていて、外見は綺麗だ。透明度の高いプラスチック製のホルダーに案内用のパンフレットやプリントが置かれてある。見張りらしき影は見当たらず、出入り口もガラス製の手押し扉だ。ここが邪教集団の一角と言うなら、正に地方の更に枝分かれした小規模と言って差し支えない。
白地に緑と黄の水玉で彩られた看板には、団体名である『彩食の会』という文字が入っている。チラシをぱっと取ってみても、そういった情報ばかりだ。
「……邪教?」
「入ってみましょう。」
入り口には受付と待機場所である事務室。それから待合用のソファが幾つか。特に変わった物は見えない。ロアは軽く目を走らせてみるが、監視カメラの類も見つけられなかった。
「こんにちは、若い方は珍しいですね。今日はどういったご用件でしょうか?」
清潔に整えられた髪、白黒スーツのシンプルな二十歳半ば程度の女性。ネームプレートには【彩色の会、支部長 渡瀬 美希】と書かれてある。
「丁寧に有難うございます。実は情けない話なのですが……」
少し話しにくそうに顔を伏せてから、貧乏な身の上であり、バイトで食い繋いでいるが先日首を切られ、明日を食うのも困る身だ。それは友人である彼も同じで、良い筋の生まれだが、親に嫌気が差して家を飛び出したが、どうすれば良いか分からず、友人である自身を頼ってきたのだと。
「お願いします。何か食べさせて下さい。働いて返しますから!」
「僕からも、お願い致します。」
「まあ……」
ロアは勢い良く、宵は礼儀良く頭を下げた。45度の最敬礼、相手から声が掛かるまでその姿勢を維持する。見た所、他に事務員らしき女性は居ない。人手には困っていると見て良い。身の上話は十分に女性の心を打っていた様だ。
「それはいけません! 若く健康な方々が、きちんとした栄養を採れていないというのを、みすみす放って置く訳には行きません! 私達『彩色の会』はその様な方の為にある団体なのですから。分かりました。まずは食事、ですね。右手側が会食用の部屋になります。少々お待ち下さい。」
「有難うございます……貴女が作るんですか?」
「はい。今、此処には私しか居ませんから! 他の皆は大体農作業してますね。土地柄、農家の方が多いんです。」
(ちょっと、調子崩れるね。でも。)
思っていた邪教集団とは少しノリが違うようだ。実際他に人気は無い。
(ロアさん、僕はちょっと探りを。)
(お願いするよ。)
受付の女性がキッチンに消えてから、宵はコミュニティ・ハウスの内部を探り始める。
(少しでも多くの手がかりが得られると良いのですが……)
ロアはその間、スマートフォンで仲間に報せを送る。
●先見(自称悪魔とダンピール)
「あ。」
携帯端末に着信。仲間からの簡素な報せ。亜夜がそれに気付き、少し離れたところにあった自販機でジュースを飲みながら、暫く暇を潰していた先見隊が動く。
「さてさて、今回の事件は鬼が出るか蛇が出るか……」
「調査開始、じゃな。」
これみよがしに鮫のような歯を剥き出して見せつけるように笑う。それは私の台詞です、とか台詞取られました、とか思ったかどうかは本人のみが知る。
「邪教か。そんなものより、ワシを崇めた方がご利益があるわい。」
「有るんですか、ご利益。」
「有るぞ。突然モテ期が到来したり、突然気に食わん者が溺れ死んだりな。」
「……只の良からぬコミュニティと実力行使では?」
「そうとも言うのう……と、着いたな。」
「一見変わったような所は……有りませんね。」
まずは裏手に回る。特に隠すことも無く2つの扉があった。軽くノブを回してみるとやはりというか、どちらも鍵がかかっている。
「下手に外すと怪しまれるぞ?」
「……怪しそうな物はこの先のみ、でしょう。」
確率は2分の1、早まって調査の痕跡を残せば状況は悪化するだろう。単純だが最大限の効果を発揮する方法だ。
「もう少し様子を見るしかあるまいて。」
「……はい。」
日中に人が居ないということは、動きがあるのは夜だろう。1度離れ、亜夜は潜入組に結果を報せる為に端末に手をかける。
●物見
先見の報告を受け取ったステラとエグゼは物見のツーマンセル交代制を提案。動きがあると思われる夜に侵入出来そうであればそうしよう。ダクトからの侵入を考えていたステラだが、コミュニティハウスの規模を見て、その線は諦めた。
「観察は大事だよね。」
しかし、面白く無さそうな表情で1回目の交代を請け負った。
「もう少し豪快に行きたいって顔に書いてるな。まあ我も、そうだが。」
「……一番つまらない作業だからね。でも、人間関係とか見えると面白いよ?」
二面性が見え隠れする。その思考は目標を殺す際ににどう利用しようかと考える嗜虐心から来るものだ。
「悪趣味……」
何となく勘付いたエグゼが、溜息の様に呟いた。
●調理と給仕
清潔感のある調理室に、炊飯器の電子音が炊きあがりを告げる。ザルに入れられ、水にさらされたキャベツ。鉄製の揚げ物の鍋の中では香ばしい音が響き、合わせ出汁に白味噌を溶かした味噌汁が静かにコトコトと音を立てている。小鉢用の小松菜のお浸しは一度タッパーに入れておいた。スーツの上からエプロンとビニール手袋を着用し、美希は見た目の印象そのまま、無駄なく調理を進めていった。後は盛り付ければ完成だ。
簡素な茶碗に、炊きあがったご飯をよそい、2枚の白磁の皿にキッチンペーパーを敷き、浅い緑色のキャペツを乗せてから、軽く寝かせるように揚げたてのトンカツを盛り付ける。
「何にとっても食事は大事な……大事な……行為ですからね。」
或いは自分自身すらも食べられる為に。そんな狂気を感じさせる笑みを一瞬、浮かべ。
「運びましょうか?」
後ろから穏やかな物腰の言葉を聞いて、一瞬背筋が凍る様な錯覚を覚えた。
「ではお言葉に甘えましょう。所で、どうして此方へ?」
「それが……雉を撃とうと思ったのですが……迷ってしまいまして。」
参りましたと、困ったような笑みを作って宵が言う。
「そうでしたか。運んだ後で宜しければ、ご案内しますが……如何です。」
「はい、有難うございます。」
長方形のお盆に食事を載せ、運んでいく。
●食事
ロアは会食部屋を一応探ってみるが、妙な物は見つからなかった。妙な置物もなく、掃除が良く行き届いた、清潔感のある空間に長方形の大きなテーブル、木製のしっかりした造りの椅子、目を楽しませる為の小さな造花が飾られるのみ。
(飽くまで表は、普通の団体ってこと。)
ただし、この空間は、妙な違和感を覚えた。ただしそれは非常に小さく、言語化は難しい。ただ、何かがあるのは確かだ。
「お待たせしました。お食事が出来ましたよ!」
「有難うございます!」
すぐに猫を被る。丁寧に盛られた食事は、それだけでも食欲をそそる。テーブルにお盆を置くと、宵がすぐに部屋を去った。献立は小鉢が小松菜のお浸し、汁物にお味噌汁。主菜は豚カツ。一汁三菜には一菜足りないが、十分に腹は満たせそうだ。
「彼には悪いですが、お先に頂きます。渡瀬さんは食べないんですか?」
「私はこの後の会食の時に頂きますからね。あ、食べ終わったら早速お手伝いをお願いしたいのですが。」
「約束通り、労働でお返しします! いえ、普段ザリガニが主食だったりするものですから、こんな立派な食事は久しぶりです。」
手を合わせてから、汁物、小鉢と一口ずつ順に手を付ける。
「ザリガニ、ですか……?」
「はい、きちんと下処理してカレー粉で炒めると結構美味しいんですよ?」
「……毎日でも、此処に来て良いんですよ! ご馳走しますから!」
「本当ですか……! 凄く助かります。有難うございます。」
手を取られ、握り返す。渡瀬は情に厚いタイプの様だ。盗賊として考えた場合、やりやすい。しかしその情熱がどうも妙に思える気もする。先入観のせいだろうか。
「この様子ですと……ザリガニのカレー粉炒めのお話でもされましたか?」
宵が部屋に戻ってきて、流麗な動作で卓に着く。
「正に。でも、モヤシに比べればマシだと思いませんか?」
「……1週間3食モヤシは、2度と経験したくありません。」
苦虫を噛み潰したような表情で、宵が呟いた。少しずつ宵が出された料理に箸を付ける。作法、所作に気を遣っている宵の動作は、確りと、育ちの良さを印象づけていく。
●会食
会食の準備手伝いは特に難しい事は要求されなかった。料理の下準備と言われた物を取って渡すだけ。ただし量はとても多かった。体力勝負となる。平気で寸胴鍋が出てくる。会食が始まったら休憩して良いと言われ、2人はそれを綱に、ひたすら皮を剥いたり、材料を切ったり、ボウルに上げたり、火の番をしたりした。渡瀬が席を立つのを見計らって、現状の情報共有。宵は軽く此処を探ってみたが怪しい物は無い。ただしあの食堂だけ何か胸がざわつく感覚がある。余り居心地が良くないと言い切った。小さい違和感のみだったロアは少し驚いた。勘はどうも冴えている様だ。
此処での情報収集は対人のみに限られるが、渡瀬からは何も得られそうにない。給仕の際に耳を使うしかないだろう。
給仕の際に軽く耳を立ててみた所、合言葉皆で食べよう。という一文だった。その後も2人は夕方まで中での手伝いを全うした。帰り際に渡瀬から会員にならないかと持ちかけられ、ロアが承諾。宵は断った。
「あまり、此方で甘えるのは良くないと思いますので。僕は友人からのお裾分けで我慢しようと思います。」
少し理由は不自然だと思われたかも知れないが、渡瀬は特に気にせず2人を見送った。
●接触
日が暮れ、夜の帳が降りる頃、ようやくこのコミュニティ・ハウスが動き出す。発見した裏口から数人が出入りしていく。しかし、左右どちらかと思われていた扉両方から出入りがあった。そこでヴィネが昼間、ロアが入手した合言葉で、構成員と思しき人に探りを入れてみた。
「すまんが少々良いか?」
「何だ?」
「……皆で食べよう。」
「……! 見ない顔だが、新入りか?」
「うむ。此処はどうなっておる?」
「地下に繋がる階段がある。両方共な。ただし一方は一般会員用で、監視カメラ、センサー各種、監視員も常駐してる。入る時は手錠と目隠しのおまけ付きだ。合言葉を知ってる正規会員には正しい方で案内してる。」
「ほう、中々面白いのう。」
「それで、入るのか?」
「そうじゃなあ、タブーはあるかの?」
「用心深い新人だな。気に入った。この通用口に入る時は必ず1人だ。通信機器、情報機器の類の持ち込みも禁止。出入りは夜のみ。この3つだ。破ったやつは、まともにお天道様は浴びれない。他はまあ、そう大したことはない。気にしなくて良い。」
「ふむ……厳しいのう。では日を改める事にする。」
「賢明な判断だ。新入りなら、その方が良い。供物も無いみたいだしな。」
「……ああ、忘れておった。」
「……? 用心深い癖に変な所で抜けてる新人だな。調理されている方が喜ばれるが、米でも肉でも野菜でも良いから、持ってこいよ?」
「そうするとしよう。それではまたの?」
「ああ、何時でも歓迎する。」
正解の扉は男の目線で何となく察した。ヴィネはわざと遠回りの路線を選び、その手の店が立ち並ぶ通りを楽しんでから、ホテルに戻ってきた。
「何が行われておるのかのう……?」
きっと碌でもないことだろう。不謹慎だが、少しだけ楽しみだ。昼間に一切人の出入りが無いということは、夜が来るまで、あの場所から出られないということだ。
●ワンモア作戦会議
「という訳じゃて。潜入するなら昼間となるのう。」
「僕と宵さんは依頼された仕事を蹴るわけには、いかないね。」
此処で蹴れば疑念が確信に変わるだろう。渡瀬はあの後、きっちりと人を使ってこちらを追って来た。恐らく昼の会食の時点で根回しをしていたのだろう。難なく撒けたことが救いだった。
「お主達のお蔭で重要な鍵を入手出来たのじゃから、仕方あるまいて。」
「後は私達にお任せを。」
「ようやく僕達の出番だね。本当に丸一日何も出来ないとは思わなかったよ。」
退屈だった、眠いと言わんばかりに欠伸をするステラ。
「我は、準備が出来て良かった。」
巨大レンチに挟める程度の地上用ドローンを作り上げたエグゼは余裕があってよかったと正反対の意見だ。
「それでは改めて方針の共有を……私がまず鍵を開けます。右の扉でしたね?」
「うむ。視線だけで語ってくれたからのう。ワシは振る舞いを見つつ紛れ、探る。」
「私は主に聞き耳調査、キミも同じ方針でしたね。」
「そうだね。見つかったらすぐに逃げるよ。」
「我は光学迷彩を張りながら、これと少し大胆に行くぜぃ。」
「皆さんの成果に期待しています。一先ず今日は、英気を養いましょう。」
かく言う亜夜本人が、大きいふかふかベッドをかなり楽しみにしていたことは、誰にも悟らせなかった。
●捜査(耳)
翌日、ロアと宵を除いたメンバーで、一応用心してツーマンセルでの行動とする。亜夜はステラと、ヴィネはエグゼと、目的が近い者同士で組むが、中では基本的に別行動だ。先行した聞き耳組は裏口にある右の扉の鍵を手早く外す。階段の為のスペースのみがあり、それも1人が降りる程度の幅のみ。階下はそれなりに人が居るのか、騒がしそうだ。ゆっくりと、足音を消しながら階段を降りていく。降りきった先にはまた廊下、幾つかの大部屋と繋がっているようだが、案内表示は特に無さそうだった。
「こうやってこっそり忍び込むのは面白いんですけど……」
「気が合うね。僕もこういうの楽しい派。隠れんぼみたいだよね。」
「それだと、見つかってしまったらゲームは終わりですね。」
「そうなったら、鬼ごっこにゲームを変えるんだよ。」
「納得です。」
「ここいらで別れようか。」
2人で気配を殺して、各部屋から聞こえてくる会話を盗み聞いていく。一つの部屋はどうも礼拝堂だったようで、邪教集団の不気味な祈りが聞こえてくる。食べよう、食べよう、捧げよう、捧げよう、我らが主、牙持つものに、食べられよ、食べられよ、捧げよう、捧げよう、我らが身体、牙持つものに。
(……情報はないけど、なるほどね。)
表で真っ当な活動が出来る理由も納得がいく。ステラはひとしきり聞いた後、次を目指す。亜夜も同様に聞き耳を立てていく。
「あの学園は今どうなってる。立地は良かったんだろう。送り込んだ奴がよっぽどやらかさない限り、スムーズに進むって聞いたが。」
「まだ、種を撒いてる所だよ。最近一般会員がドッと増えただろ?」
「ああ、あの連中か……ま、知らないまま食べてりゃいい。なんて言ったっけ?」
「確か……、英語だと、砂を噛む?」
ここまで聞いた所で、扉が開く。亜夜は、この時点ですぐに撤退を決断した。ステラの方も聞き耳では限界があると判断したのか、結局同時に足音を消しながら階段を登ることとなる。
●捜査(身を削る)
(スニーキング、スニーキング。気分は暗殺者……。や、潜入調査なんで別に誰かを暗殺するわけじゃないけど。)
聞き耳の間に潜入したエグゼは光学迷彩を起動しつつ、各大部屋を見て回りながら、同時に迷彩化した探査機を走らせる。人の出入りの時に空いた扉があれば操作して潜入させながら、自身も大部屋の中身を探っていく。行われていたのは大体が気の狂ったような暴食であり、それには色事も含まれていた様だ。なるほど、確かにそれも食である。同意でない物も散見された辺りで気分が悪くなった。求めている情報の束は見つからないが、この施設が狂っている事は伝わって来た。
ヴィネはこの施設の雰囲気に合わせ、巧妙に自分を装った。礼拝堂にはヴィネではない邪神像が大きく飾られ、会員達が様々な供物を置いて、祈りを捧げている。それに倣ってヴィネも供物を置いて、信者と同じ文句を口にする。見た目は敬虔に、狂っているように。
終わらせると、会員が勝手に語り掛けて来た。新人を食おうというハラなのだろう。適当に付き合って、部屋を連れ回してもらう。どの部屋もやっていることは変わらなかったが、雰囲気自体は好ましい。どうせなら崇めるのは自分にして欲しいとは度々思ったが。狂気に目を光らせ、料理と快楽を貪り食う様は、人というより、躾のなっていない獣を連想させた。
案内に飽きた所で、適当に言い寄ってきた男を袖にする。捕らえられたと思しき人物は居たが、助けるのは人数が半端に多い上に、ショーの様に扱われており、拘束を解くだけでは脱出は難しいと判断し、ここは耐えた。
それから、案内されていない部屋へ踏み込んで見れば、そこが当たりだった。最低限の資料が可視化され、保存されている。軽く漁る。学園に優秀な信徒筋である渡瀬の血を転校生として送り込んだ。主の顕現は時間の問題だろう。ということだけだったが、幸いなことに学園名と地図が残っている。ブラフの可能性もあるが、正規書類として残してあるならば確率は低いと考える。他に直接関係している書類も無く、ヴィネはこの書類を成果として、この場を後にした。ヴィネが去るのに合わせ、エグゼもその場を後にする。
●情報統合
教団を後にしてきっちり鍵を掛け直し、追手を警戒して遠回り。チェックアウトを済ませていたホテルから、次のホテルへ切替える。バイト中の2人が帰ってくるまでに得られた情報を統合していく。一つ、どうやら何らかの不良グループをこの教団が取り込んだこと。2つ、渡瀬は信者筋であり、同じ血筋の物が学園に転校生で送られたということ。3つ、事件の起きる現場は、どうやら地方都市の、私立学園の内の1つだった。軽くネットで検索をかけてみるとホームページと所在地の確認が出来る。
目指すべき場所は決まった様だ。
そして次はどうも、学生か教師を演じる必要があるらしい。
成功
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第2章 冒険
『潜入!秘密の学園生活!』
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POW : 学校でトラブルを起こしたり首を突っ込んだりして情報を炙り出してみる
SPD : 邪神の手がかりになりそうな場所や物品などを歩き回って探してみる
WIZ : 学校関係者(生徒や教師などなど)に扮して人から情報を集めてみる
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●Bite the dust
未成年はこの国では治外法権だ。何をやっても許される。そうだとしても、踏み入れてはならない世界がある。きっと、リーダーはその線を越えてしまった。
砂が口に入る状況は一つ。昔流行ったロックバンドが歌っていたナンバー、日本語訳だって、何を意味しているか、皆知っていただろう。
自戒の意味を込めていた事を、リーダーはもう、忘れてしまった。俺達は社会の最底辺だ。適当に皆で馬鹿騒ぎ出来れば、それで良かったんだ。それで。
●憧れの学園生活
「かどうかは分からんのじゃけど……まずは皆お疲れ様じゃ。ありがとうな!」
好物のわらび餅を摘みながら、鎮は猟兵を労う。
「それで、次にやることじゃけど……」
邪教の送り込んだ転校生を突き止め、邪神復活の儀式を阻止することが大きな目標になる。
「その為に皆には学園に教師か生徒として潜入してもらう訳じゃけど……」
教師を希望する猟兵には、今から地獄の特訓に付き合って貰う。まあつまり趣旨として、自分の担当する科目の教育カリキュラムだけでも、ある程度覚えて貰おうということだ。既に、組織の皆様に頼んで取り寄せて貰っているので、猟兵の皆様においては、存分にこの苦難を楽しんで欲しい。生徒側であれば、特に縛りはない。
「どう取り組むのか、楽しみにしとるけーな。」
少し悪戯っぽく鎮が笑い。それから、と付け加えた。
「……多分、この学園の女生徒が複数人の男性に襲われるじゃろうから、助けて欲しいのー。時刻は放課後の後、夜じゃな。多分まだ時間はあるけー、宜しくな。」
そろそろ必要ないかも知れないが、一応、最後にいつもの説明に入る。
力や気力に自信がある者は、学校でいろんな事に首を突っ込んでみると良い。
知覚力に自信がある者は、ひたすら足を使って校内を歩き回ると良い。
頭を回して、人に情報を聞いて集めてみるのも良い。
勿論、他の手を考得てみても良いと告げ、鎮は教師用の科目別教育書を大量に運んで、後方支援に戻っていった。
ヴィネ・ルサルカ
ふむ…あの邪教…ワシが乗っ取りたいのぅ…
さて、件の学園の調査ときたがワシは女学生に扮して…何?歳を考えろじゃと?むぅ…小娘共には負けんと思ったがのぅ…
という訳で教師に扮して潜入じゃ。手続きは組織に丸投げじゃの。
学園での行動は転校生の情報を獲ること、そして転校生に接近することじゃな。
転校生の情報自体はすぐ入手出来るじゃろ。転校生への接近は邪教からの協力者と称してコンタクトをとり、表面上は転校生に協力しながら奴等の目的を探るかの。
時折、他の猟兵と情報を共有しながら事を進めるとするかの。
あ、ちなみに担当教科は英語じゃ。
口調も「ハーイ!エブリワン!今日も楽しく勉強しまショーウ!」と陽気な女を演じるかの
●悪魔の功
「ワシは女学生に扮して…何?歳を考えろじゃと?むぅ……小娘共には負けんと思ったがのぅ…」…
ヴィネ・ルサルカ(暗黒世界の悪魔・f08694)は制服に着替えた後の突っ込みを受けて教員として紛れることを選択した。だが、積まれていく教科の本の束を見て、ホテルからさっさと脱走する。しかも用意された教員免許、身分証はきっちりせしめて、だ。正に自称悪魔に相応しい所業であった。流れる場は半ば決まっていたが……。
(子供のいたに、婆が首を突っ込むのは……流石に大人気ないのう。)
思春期の子供を拐かすのは良いが、子供同士の諍いに口と手を出すのは流石に気が引ける。血に飢えた獣の様な男であれば、或いは楽しめそうではあるが、多分違うだろう。結局、今夜は適当な色街で夜を越す事に決める。誘いに乗る者が居れば、退屈も紛れるだろう。
(あの邪教……ワシが乗っ取りたいのぅ……)
気に入ったと言って良い。あれはこの地方支部、末端も末端であり、現実的に乗っ取るのは難しいだろうと、考えながら。
●英語教師
「ハーイ!エブリワン!今日も楽しく勉強しまショーウ!」
「えー、と言う訳で教育実習生のヴィネ・ルサルカ先生です。今年は他にも数人の教育実習生の受け入れがありますので、皆さんもしっかり心の準備をしておいて下さいね。」
「ナイストゥミーチュー!」
あからさまにこのテンション苦手オーラを出しながら、先輩教師がヴィネの紹介を終わらせる。早速授業となるが……幾ら猟兵と言えど、万能とは行かない。人に物事を効率良く教えるなら尚更だ。生徒に今の範囲を指摘され、からかわれながらの授業進行となり、目論見通り明るく親しみやすい先生という好印象を与えるも、授業後に先輩教師から説教を受ける羽目となった。
充満する珈琲の匂い、真面目にパソコンと向かい合う教員が多数居る職員室。事務仕事と向き合いながら、他の教員に転校生について聞いてみる。成績平凡な私立に転校生など多い筈もなく、此方もすんなりと情報が手に入った。高等部2年、早生 望。人となりを聞いてみれば、容姿以外は特に秀でた所もない、目立たない生徒だという。
授業の合間を縫って、彼にコンタクトを取る。
「少し良いカナー!」
「何でしょうか? あ、今話題の……。」
「ハーイ! ヴィネですヨー。」
「僕なんかに何のご用でしょうか?」
「協力者デース。ワード、知ってますヨー。」
「あれ……おかしいな。全部僕に任せるって言われたんだけど……そうなると、先生、妨害か監視の類でしょ?」
「勘の良い子デース。貴方がちゃんとやっているか、他支部が心配みたいでネー。」
「いらない心配だよ。全く。ま、そうやって僕を見張っていると良い。」
先輩教師が、ヴィネを迎えに来ると、望はすぐに授業に戻っていった。
成功
🔵🔵🔴
ステラ・ハシュマール
これはこれは見事な学園で……さて、きな臭いところを探すとするか。
この見た目と身長なら学生って言ってもバレそうにないけど、念には念を入れよっていうし、厳重に警戒して潜入するよ。
SPD行動で、いろんな場所を歩きつつ探ってみるよ。
怪しげな情報があったら、そっちから調べるとするよ。
「藪蛇って言葉があるけど、鬼が出るか蛇が出るか……さて何が飛び出すかねぇ」
アドリブ歓迎です。
●炎の留学生
「これはこれは、見事な学園で……」
ステラ・ハシュマール(炎血灼滅の死神・f00109)は短期留学生という身分で、学内のクラスに編入された。
「短い間だけど、今日からここでお世話になるステラ・ハシュマールだよ。宜しくね。」
自己紹介を終え、届く感想は日本語が流暢、小さくて可愛い等。本人としては予想通りだろう。物珍しい転校生は囲まれる運命にある。
飛び交う質問を適当に返しながら、愛想の良い笑顔で相槌を打ち、無難に乗り切っていく。この辺りは経営で培った対処法だ。無碍にせず、かつ、飲まれず、自身の評価はけして下げない。
「ごめんね、皆との会話は楽しいけど、ちょっと席を外してもいいかな?」
ある程度聞いた所で少し困った様な曖昧な笑顔を作る。これだけで取り敢えず人の波は引いてくれた。
「ありがと。それじゃ、また後でね。」
(……さて、きな臭い所を探すとするか。)
義眼代わりの炎を眼帯の下で揺らめかせ、ステラが動く。当然授業は全てフケるつもりだ。
「あ……でも音楽と美術だけは気になるね。」
今日の授業にあっただろうか、高等教育でクラシックは流れるだろうか、流れるならば少し惜しい。軽く休み時間に探りを入れていく。そうしていると奇妙な感覚に襲われてくる。やけに、食べ物に目が吸い寄せられていく。何でも良い、肉でも米でも魚でもパンでもパスタでもいい。
「……食べたいなあ。」
ハッとする。今自分は何を口走った。腹など、減っては居ないのに。
(……ああ、この学園、大分ヤバいんだ。)
冷や汗が頬を伝う。情報収集の後、仲間が盗み聞いていた立地が良いと言うのは、この事だろう。恐らく一般生徒や教員は皆、大なり小なり、この狂気に呑まれている。後は勝手に増幅されていき、最後にそこへ一つ、起爆剤を投げ込んでやれば準備は完了だ。
「藪蛇どころじゃないねぇ。」
鬼や蛇ではなく、火気厳禁の融合炉。ならば火を放ってはいけない。火元を絶たなければならない。
「……ん?」
そうして廊下を歩いていると、やけに怯えた、不安そうな生徒が目に入る。見れば幾人かの生徒に絡まれており、暫くすると突き飛ばされて、呆然としていた。
「どうしたのかな?」
「……テメェは?」
「留学生のステラだよ。今はまだ休み時間だっけ?」
「チッ、女か。そんな細腕でじゃ頼りにもならね……ェッ?」
隠し持っていたラッパ銃を口の中に突き入れ、後頭部を確りと抑えつけ、これ見よがしに銃爪に指を掛けた。
「最近のモデルガンって、精巧なんだってねぇ。で、これが仮にガス銃や電動銃だとしてさ、口の中でBB弾が弾けるのって、かなり痛いと思うんだよ。ね、試してみても良いかな?」
君の悲鳴が聞きたいと言うような、悪魔の笑み。男は前言を撤回する様に首を横に振る。
「分かってくれて嬉しいよ。話を聞かせて欲しいな?」
口内の分泌液で汚れた愛銃を軽くハンカチで拭い、懐に隠し直す。此処では不味い。人気のない場所へ場所を移す。
「あいつと関わるのはもう止めようって、何度も言ってんだ……」
男はBite the dustという不良チームの一員だった。彼等なりのルールを作り、面白おかしくやっていたらしい。しかし、ある転校生が来てから状況が変わった。
連れられて会食に参加したリーダーを含むメンバーの様子がおかしくなっていく。その内、一般会員と言う立場に誘われ、メンバーの凶暴さは、更に手が付けられなくなってしまった。
「後ろ盾があるから、治外法権だからと、甘い言葉を鵜呑みにしちまう様になっちまった。」
「成程ねぇ。転校生の名前は?」
「なんだっけな。ああ、早生 望だ。」
「情報提供ありがとう。多分、もう少しの辛抱だよ。仲間が少し苛烈に痛めつけられるかもしれないけど、そこは許して欲しいな。」
「……少しくらい痛い目見るのが、スジってもんだろ。あんた……ナニモンだ?」
「平和とクラシックと芸術をこよなく愛する留学生さ。」
「……ぜってぇ嘘だ。」
「2分の1くらいは本当だよ。チャイコフスキーの弦楽セレナーデはお気に入り。一度聞いてみると良いよ。動きがあったらこの番号にコールを。」
「……わかったよ。」
大成功
🔵🔵🔵
楠瀬・亜夜
憧れの学園生活……!生徒としてはもちろんですが
教師として行動するのも興味ありますね!
……え、教育カリキュラム?
ああ、勉強の事ですね?とくに数学は得意ですよ
得意過ぎて常に赤かったですからね。という訳で数学を担当しますか。
実習生の身分で学園に潜入して
怪しまれないよう振る舞います。
食べ物が関係しているような気がするので
食堂と売店を調査してみましょうか
情報が無ければ家庭科調理室を調べるのも手でしょうか
一通り探索が終わったら襲撃を受けるらしい女生徒に
こっそりついていきましょう。
件の不良グループが関係してるかもしれませんしね。
杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎
「ふぅん、転校生が鍵っつーワケか。時間との勝負か。
しかし学園生活なんざ送ったことがねェからなァ…ちぃっと興味あんぜ。
地獄の特訓?上等だおらァ!やってやんよ」
教師に扮して学園潜入
眼鏡。胸元あいたシャツにスーツ
科目お任せ
事前にカリキュラムを丸暗記
放課後までに【情報収集・聞き耳】で最近よく聞く怪しげな噂や何か変わった事がないか女生徒に尋ねる
女生徒や女教師の好感度はあげておく
緊急時に連絡もらえる様に口は悪いが頼りになる先生オーラ醸し出す
トラブルや喧嘩事には積極的に首突っ込む
儀式阻止すべく邪神召喚に必要そうな物品がありそうな所には予め目星をつけておく(理科室や視聴覚室、体育館倉庫、図書室など
逢坂・宵
【WIZ】
学園、ですか
ヤドリガミなもので、僕は人の身の生活には疎いのですが……
担当できそうな科目が理科系だとか、特に天文学の方面に特化しているので
地獄の特訓が気が重いですね……いえ、頑張ります
無事に潜入できたら
生徒たちから情報を得て回りましょうか
『コミュ力』『礼儀作法』を使って情報収集を試みます
『第六感』も役に立てればいいのですが
どこか不思議な噂のある人や
いわれのある場所など、仲間とも協力して
情報を集めてみましょう
ロア・ネコンティ
常に【礼儀作法・コミュ力】使用
組織の方にトップになれる学力を授けてもらい生徒として潜入。
愛想よく、礼儀正しい模範生になります。モフられるのも我慢。イジメを見かけたらこっそり鋼糸の【早業・だまし討ち】でイジメっ子には下半身裸になってもらいましょう。僕っていい猫だなあ。
Bite the dustの事を人から聞いたり、【暗視・聞き耳・鍵開け】使用で校内をうろついて調べます。可能なら早生 望 君に接近して仲良くなって仲間に入れてもらい情報を聞きだします。猟兵でも狂気に襲われるならば、ギリギリまで狂えば、狂気の真実に近づけるでしょうか。
この狂気の先は"Bite the dust"=死。なのでしょうね。
●これらより少し前のお話
教師として潜伏することを選んだヴィネ以外の猟兵、楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は総出でグリモア猟兵の言っていた地獄の特訓に励むことになる。
「え、教育カリキュラム? ああ、勉強のことですね? とくに数字は得意ですよ。得意過ぎて常に赤かったですからね。」
「それってよ……不得意科目なんじゃねェか?」
「僕は人の身の生活には疎いのですが……クロウさんは詳しいんですね。」
「いや、然程詳しい訳じゃねぇけどよ。何となくな?」
現代学生の不在が悔やまれるシーンである。
「そういうキミは、得意な教科あるんですか?」
心なしか得意げに数学の教科書を自身の方へ寄せる。現大学生の不在が悔やまれるシーンである。
「俺に言ってんだよなァ! 上等だ、やってやらァ!」
現代社会を取ったクロウはこの勉強会が終わる寸前に気付く事になる。体育教師で良かったのだと。
「気が重いですね……いえ、頑張ります。」
大学部であれば、天文学知識豊富な宵の独壇場であっただろう。何とかなりそうな理科系に手を付けていく。方針はクロウは一夜漬け、亜夜、宵は地道に頑張ると言った様相だ。
「……えっと、これが、こうで、こうですよね?」
人に教えるにはまず自身がきちんと理解をしていなければならない。特に数学はその色が濃い。方程式を解き、模擬回答と合わせてみる。当然のように解が違う。
(さすが私、猟兵になっても、記憶が戻っても何にも変わりませんね!)
クールフェイスは崩さず、むしろ得意げに両目を瞑り、シャープペンシルを走らせながら鼻歌を歌う。気付いた2人がちらりと見て、やる気の炎を静かに滾らせる。この世界に詳しい猟兵が居ないので、やりたい放題だ。
実際、亜夜は本職にほぼ丸投げするつもりなので遊び半分の面が高い。全員教師とは言え、身分は教育実習生なので、ヤドリガミ組の作戦負けと言って良い。勝負する所ではないのは言うまでもないのだが。
「なるほど……これは面白いですね。」
化学の分野を発見すると、宵が関心深いと声を上げる。元々魔法使いはそちらの分野だ。
「科学の見地から見れば、世界はこういった風に見えるのですか……」
勉強になる、と特訓とか忘れ始めて没頭していく宵が居た。根っからの理科系、魔法使いの研究家気質はかくも恐ろしい。
一方でクロウは目を血走らせながら、必要な部分を片っ端から覚えていく。たまに掛け声のような音読が入る度に2人が少しびくっとする。
「……しゃァッ! 覚えたァッ! 次ィ!」
大体こんな感じである。ついでに段々息が荒くなる。一夜漬け特有のナチュラル・ハイを順調に駆け上がっていく、何と戦っているのだろうか。
「一息入れましょうか。」
「そうですね。」
「悪ィ、俺はもう少し覚えるわ。」
「分かりました。飲み物だけ近くのお店で買ってきましょう。珈琲と紅茶、どちらにしましょう?」
「私はミルクティーをお願いします。」
「コーヒー頼む、出来れば濃いブラックでな……」
3人の夜はまだまだこれからだ。
「……星が綺麗ですね。」
ボトルに入った熱々の紅茶を2本、小さい缶に入った濃いコーヒーを手に、ホテルへ戻る。
●もう少しこの幕間、続くんじゃよ
順調に範囲を覚えていく宵、ナチュラル・ハイで脳をフルスロットルで回し、一夜漬けを続行するクロウ、マイペースに範囲を解いて行く(解や式が合っているとは言っていない)亜夜。もうすぐ制限時間が迫っていた、その時。亜夜がクロウに声を掛ける。
「少々宜しいですか?」
「なンだ?」
ギラついた血を求める瞳、軽く目が赤くなっているせいで凶暴さが2割増しとなっている。特に物怖じせず、亜夜が言葉を続けていく。
「いえ、もう少し早く伝えればよかったと思っているのですが。」
「何でも良いから早くしろ、覚えるのに忙しいんだよ!」
「はい。では……言動や体力、気力から、キミには体育教師が似合うと思ったので。」
「体、育……?」
一冊の教科書を手に取り、クロウに見せる。体を育てると書いて体育、つまり体力を付ける授業だ。選択性となっている学園もあるだろうが、今回の場合、そちらの方が寧ろ、動きやすいだろう。
「……なんで。」
「……?」
「なんでもっと早く言わねェんだ……」
ナチュラル・ハイの後に来るのは猛烈な眠気と虚脱感。クロウはその一言ですっかり燃え尽きてしまった。とは言え、現代スポーツの知識は必須であるし、何より生徒の体力管理が重要だ。しかしまあ、現代社会を覚えるよりはずっと楽だろう。案の定、メジャーなスポーツのルールはさくさく覚えていき、実感や体感もあるだろうが、他人の体力管理は勘良く身に付けていった。
「それでは、そろそろ行きましょうか?」
「少し提案があるんだがよ……」
「何でしょう?」
「教師側が、生徒を正す様なからくりは無ェのか?」
「……生活指導、なるほど。良い提案です。」
生徒側として潜入している猟兵とも簡単に連絡が取れる。どうせ何かしら、やらかす事が前提の任務だ。此方に希望を入れておくのが望ましいだろう。
●教育実習生と書いてイェーガーズと読む。
「教育実習生の皆さんになります。今日から宜しくお願いしますね。」
その読みはイェーガーズ。生命体の埒外にある教育実習生。本当に種族に人間が居ない辺り、重みがある。
「数学にお邪魔させて頂きます。楠瀬・亜夜です。宜しくお願いしますね。」
「体育教師の杜鬼・クロウだ。宜しくなァ!」
「化学を皆様と一緒に解いて行きたいと思っております。逢坂・宵と申します。宜しくお願い致します。」
「生活指導担当でもありますので、皆さん良く覚えておいて下さい。」
こういった自己紹介を各々担当時限毎に済ませていく、授業風景は、亜夜は案の定というか、数学の正規教師からツッコミが入りまくった。だが、それしきでは動じない女性である。寧ろクールフェイスのままボケ役を楽しんでいくスタイルだった。
宵は話がたまに脱線しそうになる以外は大体無難に乗り切った。授業進行で分からない所は素直に先輩教師に頼り、彼からの信頼も厚そうな雰囲気だ。
クロウは見た目通りの熱血系で通す。口は乱暴だが、授業自体は無理をさせない、怪我の面倒を見る、と着実に生徒の信頼が固まっていく。
本題、これらの時限はバラバラであり、それぞれ空き時間は生活指導の立場を活かして、探索を行っていく。
まずステラが居合わせたあの場、あの後、生徒から情報を手に入れたクロウがステラと男を一緒に呼び出す。何だよ新任がとかいう男の言葉はより上位互換のクロウの脅しによって掻き消された。更に裏切るなと念を押され、男にとっては厄日かもしれない。いや、厄日だろう。その後、男は返され、ステラとの情報共有。
「どんなやり取りしたんだよ……」
「クロウ君よりはマシだと思うよ。」
「俺以下ってその時点で駄目だろうが。」
実銃をモデルガンと偽り、口へ噛ませて脅した等と、ステラが白状する筈もない。
「で、ヤベェのか?」
「ヤバイね。この学園。」
「……アイツの所属してるグループは?」
「種を撒いてるっていうのが本当なら、鍵じゃないかな、多分だけどさ。」
●制服を着た猫
「今日から少しの間ですが、お世話になるロア・ネコンティです。宜しくお願い致します。」
「ロアさんは短期留学生だ。皆宜しくしてやってくれ。」
制服を着た猫、もといロア・ネコンティ(泥棒ねこ・f05423)は無難に挨拶をこなす。担当教師が軽く頭にポンと手をやるとつやつや毛並みの心地良い感触が返ってくる。トップの成績を取る為の勉強は流石に時間が足りなかったため、今回は諦めてもらう他無かった。猫っぽいね、猫だよね、着ぐるみじゃないの? 猫だ、モフモフだ、先生羨ましい。という訳でステラと同様に囲まれていくが、此方も愛想良く質疑をかわしていく。彼にとって幸いだったのは触っても良いかと一度確認を取ってくれた事だろう。ある程度の所で校内を見て回りたいと申し出て、席を空ける。
そこらを歩いていると、丁度幾人かに囲まれた生徒を見つける。これはステラより少し早い時間だ。
「チッ、わーったよ。今夜のこと、誰にも言うんじゃねえぞ!」
「な、なにもわかってねえじゃねえか!」
「知るかよ! そうやって何時までも腰抜かしとけ!」
そう言って去っていく彼等を、ロアは尾行していく。後ろからステラの声が聞こえた。
「やあ。」
銀糸を密かに彼等に纏わりつかせ。
「何だテメェ!」
引く。
「いえ、その格好では、変質者と間違われてしまいますよ?」
「あ?」
下半身を覆っていた筈の上下の布が、何時の間にか地に落ちていた。
「あ……?」
通り掛かる男子生徒、女子生徒共にからかいの微笑。中には写真撮影を始める者も複数人確認できた。
「くそっ……覚えてやがれ。」
「身から出た錆を覚えておく必要はありませんから。」
僕っていい猫だなあと自画自賛をしながら、額の汗を拭う様な仕草。
●図書室の君
クロウと亜夜は合間合間に各所を探っていき、最後にクロウが図書室に立ち寄った。彼は所作は荒く服装も不真面目なものの、真剣に他人を気遣っている様子は狙い通り、校内の信頼を厚くしていく。校内で変わったことと言えば、元から居た不良グループが増長していること、どうやら人が何人か消えていたことだった。失踪の原因は家族も知らないとのことで、誘拐の線が強そうなものの捜索願は出されていなかったという。
「今時、此処に用なんて……珍しいですね?」
「少し探し物しててな。」
「そうですか。本をお探しでしたら、何時でも仰って下さい。」
「あんたは?」
「見ての通り、図書委員です。分かりやすくありません?」
三つ編みに大きいフレームの丸眼鏡。自虐だろうか。
「そうか。なあ、困ってることとか……無ェか?」
「……有りません。」
「そうか……邪魔したな。」
●尾行相談
「訳ありですよね。」
「訳ありデスネー。」
「訳ありだよなァ……?」
「訳あり、でしょうか?」
4人揃って昼休憩中に作戦会議。あの教育実習生仲良いなとか思われている所だろう。
「お昼が終わったら、私が尾行してみましょう。売店がちょっと気になるんですよ。」
「オメェ、手段と目的が入れ替わってねえか?」
「……食が関連している様ですし、純然とした調査欲です。この本も冒涜的なオーラが強まってますし。」
冒涜的な古本を取り出して指差す。何か本当に冒涜的なオーラが活性化している。
「……怖くねェ?」
「便利ですよ?」
「しかし、楽しいものですね。こういった生活も。」
「まあちょっと憧れてたから、思ったより楽しいもんだとは思えるけどよ……」
「私は物足りナイヨー!」
「オメェは流石に求めてるモンが違うだろ。俺も聞き込んでみるが、ロアにも頼んどこう。」
●ロアとステラの昼休み
ロアは早生と先にコンタクトを取ったヴィネから、取り付く島もなさそうだと聞き、そちらの線は諦めた。次にどうやら狂気に気付いたらしいステラにある相談を持ちかけてみる。
「狂ってみれば真実に近づけるんじゃないかって?」
「ええ、どう思います?」
「物好きだね。そこまでする必要、あるかな?」
「手っ取り早いでしょう?」
「納得。でも、真実なんて無いよ。強いて言うなら食べることがそれだ。その方向性以外持ってない。だからきっと、皆気づきにくいんだろうね。」
「……その先には?」
「食べる物が無くなったら、砂を噛めば良いよね?」
「なるほど。」
捕食する物が無くなれば、自身を食べるか、地を食べるか、どちらかのみだ。言葉通りとなるだろう。携帯に情報収集の要請が鳴る。
「有難うございます。結局。」
「地道に行くしか無いだろうね。」
●イェ活
ロアとクロウは情報収集を続けて行く。すると、複数人からあるウラが取れた。どうやら図書委員は件の不良グループに絡まれていること。
ロアはあの場に居た者達が件の不良グループの一員だということをステラとの会話の際に伝えた。では、と話が繋がり、あの会話の今夜決行というのは十中八九、彼等がそう動く、ということだろう。となれば、行方不明事件の首謀者はその彼等ということになり、隠匿は邪教集団が行っているということになる。
ウラが取れた所で亜夜は体調不良を装い、帰宅する旨を告げる。咎められようとした所を教師から信頼を得ていた宵がフォローした。変わりに宵、クロウ、ヴィネは放課後まで此方から抜けれないこととなった。まあいざとなれば宵が魔法で眠らせることも出来るので問題はない。と言っても図書委員自体は放課後が終わっても本の整理を続けており、気づかれぬように、図書室に居るだけでよかった。
それまでに手の空いているステラ、ロアが探索をしてみたが、祭祀場は見つからなかった。魔法陣らしき物も無く、簡易であろうとも儀式は何処でどうするのか、と考えた時、不良グループが校内に来る目的を推理すると合点が行った。そうなると早生を追うことは出来ないが、今回は任務外だ。この学園の状況では、深追いする方が危険だろう。
●件
ある程度図書室の整理が終わり、外へ出ようとした所で、何者かに捕われる。轡を噛まされ、目を隠され、暗闇の中で衣擦れの様な音がしたと思えば、気付けば身体の自由が効かない。目隠しを取られ、私はグラウンドで彼等に、怯えた表情を見せることしか出来なかった。粗野な言動、乱暴な所作。下卑た笑い声。少し前まで、此処まで酷くは無かったのに。
「……これだけはギリギリまで変える訳には行かないみたいだったので……申し訳ありません。」
「……え?」
すぐにそれが解かれ、私は彼女に抱き抱えられた。人とは思えない跳躍力で、夜空を飛ぶ。
「何だテメェ!」
複数のエンジン音、全員というわけでは無さそうだ、多分5台程。
「三下の台詞じゃな。」
「朝にも聞きましたからね。」
「手勢は20人だったかァ? 来いよオラァ!」
「MARVELOUS! その手勢で挑むなんて、勇気があるね。命知らずだ。」
「なんで……まさか!?」
「ええ、憂いていた仲間が居たでしょう?」
「アイツ……! 来ねぇだけならまだしもッ!?」
「彼にもやってみたのですけどね。今度は止めませんよ? 一応火薬は抜いている物ですけど、さぞかし……痛いんでしょうねぇ?」
口調が変わる、熱に浮かされた言動のまま、ステラが男の口の中にBB弾を放す。応急処置すればまあ、物くらいは食べれるだろう。今回はラッパ銃ではなく電動銃だ。
「あギッ!?」
「汚い声ですね。豚のようで……芸術には程遠いです。」
一瞬恍惚に身を振るわせるも、嬲り甲斐が無いとすぐにそう吐き捨てた。電動銃を投げ捨て、火薬を抜いた模擬弾頭をラッパ銃に装填。これが開戦の合図の形となった。手勢の武器は金属バット、鉄パイプ。狂気に多少呑まれていても、一般人は一般人だ。
「今朝は加減したんですけどね。」
銀糸を操り、バイクで疾走する男一人を引きずり下ろす。一応、致命傷は避け、それだけでも十分だが、おまけとばかりに腕一本を縛り上げて折っておく。肉が銀糸に縛り上げられ、ミチミチと嫌な音を立てた。
「ワシが出る幕じゃないじゃろこれ……というか子供のいたに付き合うのはのう……」
「舐めるなッ!」
言いながら、鉄パイプで殴りかかってきた、子供の直線的過ぎる動きを最小限の動きで避け、その腕を折る。
「おうおう、痛そうじゃなあ。可哀想になあ。この婆に挑むには、修練も狂気も覇気も足りん。まあ、その勇気に免じて、四肢骨折までは付き合うてやるからのう?」
「ひっ?!」
ヴィネはさっさとその子供の四肢を折り、傍観気味に戦場に立つ。こんな物は彼女にとって遊びですら無く、ただただ退屈な日常だった。色街の方がまだ退屈が凌げた。
「テメェは何ボーッとしてやがる!」
「さて、どうしたものかと。僕はこういった戦闘には不慣れでして……」
「じゃあさっさと死んどけっ!」
「良いのでしょうか?」
振り下ろされる鈍器を刃渡り180cmに及ぶ黒の大剣が遮り、弾く。明らかに人が振り回せる質量ではないそれを、クロウは軽々と振り回す。
「駄目だからな? オメェが一番加減効かないもんなァ……ステラもヤベェが弁えてるみてェだし。観察終わったら見切ってから最小限の動きでやるか、バイク壊せ!」
「そうしましょう。あの程度の装甲でしたら、詠唱も必要ありませんか。」
宵が指を天に掲げると、何筋かの流星が落ちて来る。詠唱交えれば85降り注ぐ流星の矢。即席にした場合は大分数が削れてしまうものの、そちらの方が都合が良かった。
天から注いでくる幾筋かの流星が、バイクを尽く破壊する。爆発に巻き込まれぬよう、一応ロアが全員の腕を一本折りながらケアをしていく。
「器用だよなァ! 猫の手ってやつかァ!」
クロウはクロウで防戦をしながら向かってくる子供を殴り飛ばす。流石にこの重量物が扱える相手ではなかった。ほぼステゴロだ。
バイクに乗っていたのは5人、ステラ、ロア、クロウ、ヴィネがやったので5人、ロアはバイクに搭乗していた1人をやったので、8人はさっさと退場の憂き目に遭う計算。残った手勢は彼女を抱き抱えた亜夜へ向かう。
「囲まれるのは……嫌ですね。なんて……私は逃げるだけで良いんですよ。」
先程と同じ様に上へ、ダンピールの筋力は常人のそれを遥かに上回る。着地地点の先には勿論。彼と彼女等が居る。グループが不利と見て逃げないのは何か、ルールでもあるのだろうか。
「意地くらいは張らせてもらうぜ。仕事なんだよ、一応。」
そう言ったのはきっとリーダーなのだろう。猟兵達は各々に暴れ、早生に貰ったのだろう、最後に残ったリーダーが簡易の魔法陣をグラウンドに置き、開放の呪を告げる。
「我らが主、牙持つものよ。食べろ、食べろ、食べられよ!」
狂気の笑みが、何処からか聞こえる。それはきっと塾の帰り、結果を待つ、彼の笑み。しかし、猟兵達の働きにより、全てが思惑通りとは行かなかった。この陣は失敗した時の簡易用、儀式は不完全に終わり、邪教の主が、不完全な状態で顕現する。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『牙で喰らうもの』
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POW : 飽き止まぬ無限の暴食
戦闘中に食べた【生物の肉】の量と質に応じて【全身に更なる口が発生し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 貪欲なる顎の新生
自身の身体部位ひとつを【ほぼ巨大な口だけ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : 喰らい呑む悪食
対象のユーベルコードを防御すると、それを【咀嚼して】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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●牙で喰らうもの
鯨の様に大きな口と鮫のように鋭い歯。口は肉体の場所を選ばず増殖し、きちきちと耳障りな音を立て、人には解せぬ言葉で吠え上げる。肥大し、ねじれたすぎた筋肉、夜に同化する紫。隠す気もなき、血に濡れたような赤き腕。副腕が更に異形を掻き立てる。牙で喰らうもの。
邪教の主、事件の源泉が、猟兵の前に顕現する。
●事件
「皆有難うな。それとお疲れ様……と行きたい所じゃが、もう一仕事じゃ。やはりこの世界は厄介じゃのー……状況は皆の方が分かっとると思うけど、軽く説明するな。」
邪神、牙で喰らうものが現れたのは校内のグラウンド。厄介なことに猟兵達が始末した20人の男が転がっている。基本的にこの状態はアウェイと思って良い。
「何せ、こいつの持っとるユーベルコードがなー。」
ユーベルコード・飽き止まぬ無限の暴食は生物の肉を食らい、全身に更なる口が発生し、戦闘力が増加すると言う物、しかも、これは戦闘終了後まで持続する。
「じゃけー皆はまず、この男達を避難させてほしいのう。」
と言っても半数を治癒すれば、後は足止めしながら強く避難勧告をすれば勝手に逃げてくれる。目安は校外。グラウンドからはそう遠くない。然程難しくはないだろう。
「なるべく負傷度が低いのを治癒するのが効率良いと思うけー。」
女の方は顛末から勝手に逃げてくれるので気にしなくて良い。治癒の方法は恐らく魔法が一番速いが、普通の応急処置でも良い。兎に角満足に動ける様になる方法を考えつつ、生徒を庇いながらの戦闘が良いだろう。
「まあ、不完全な召喚じゃから、あんまり緊張せんでも大丈夫じゃけ。宜しくな。」
後方支援に戻る前に鎮は改めて、この邪神のユーベルコードを整理する。
●ユーベルコード一覧
力を増加させる、飽き止まぬ無限の暴食。戦闘中に食べた【生物の肉】の量と質に応じて【全身に更なる口が発生し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
知覚による、貪欲なる顎の新生。自身の身体部位ひとつを【ほぼ巨大な口だけ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
魔力による、喰らい呑む悪食。対象のユーベルコードを防御すると、それを【咀嚼して】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
逢坂・宵
やれやれ、ついに引きずり出せましたか
頭からあふれそうなほど詰め込んだ勉学も、
居合わせた喧嘩の場面の仲裁も、
やった甲斐があるものです
……え、お前が言うな?
ふふ、なんのことでしょう
『天宙アストロメトリー』で
仲間の猟兵と標的を合わせて、
負傷度の低い対象から回復していきましょう
攻撃役の猟兵の妨げにならないよう、
庇いながら動くとしましょうか
出口から近く負傷もごく浅いなど、ほんの少しの応急手当でいい対象に対してはそのように
あの化け物からも目を離せません
回復のさなかに襲われたらたまったものではありませんからね
僕はあくまで救出と回復に専念します
引き付けと攻撃は仲間の猟兵にお願いします
ロア・ネコンティ
【SPD】避難誘導
転がってる男共をどかさないとね。
後方に下がり【カムパネルラ】で負傷度の低い奴から順に治癒。動ける者が動けない者を引っ張って後退してもらうよう伝える。敵の攻撃が奴らに及んだら【ダッシュ・早業】の【鋼糸】で防いで守る……けど、男共が何か言ってきたら手が滑るかもしれない。君らのモラトリアム期間の尻拭いをしているんだから、有り金をこっそり【盗み】されたり、パンツ一丁になっても文句言わないでよね。
避難誘導は全員逃げるのを見届けるまで続ける。
あんな奴らは食べられたっていいんだけど……目の前で死なれたら寝覚めが悪い。盗んだお金は飢餓を救う募金に全額振込む予定。
本当に、僕っていい猫だなあ。
●空に降る蠍の星
「ついに引きずり出せましたか。頭から溢れそうなほど詰め込んだ勉学も、居合わせた喧嘩の場面の仲裁も、やった甲斐があるものです。」
「片方は僕がやったことだよね?」
「さて、何のことでしょう。」
「分かりにくいジョークだなあ……頼もしいけどさ。」
異形を前に悪びれることもなく、穏やかに微笑みながら逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は魔導書のページを捲る。合わせてロア・ネコンティ(泥棒ねこ・f05423)彗星の杖を手にし、彼等を呼ぶ。
蠍よ蠍、また多くの命(もの)を奪うのか、その先を知らぬと言い張って。ならば、虚しく夜闇を彷徨うとしても、一時だけ、手を差し伸べよう。
「蠍の火よ、灯れ。」
流星は古来より、人々の望みをその身に受け、そして時には雨となって人々のもとへ降り注ぐ。
「さあ、あなたに光を捧げましょう。」
高速二重詠唱の声色が2つ、グラウンドに重なって響き渡る。呼応した精霊が空に童話のイフを語る。蠍がもし、後悔を覚えなかったとしたら。
橙色の流星は、さながら、密やかな怒りの火。宵が不良をどう思っているかは別として、ロアはあからさまに軽蔑していた。
(あんな奴らは食べられたっていいんだけど……目の前で死なれたら寝覚めが悪い。)
自身が手掛けた者は、先程の戦闘中に財布を抜いておいた。残りもきちんと浚う腹積もりだ。義賊の本気は実に容赦がない。
2重詠唱、複数同時治療を搦め、起き上がった不良は目標数である10人。それぞれ5人ずつの振り分けによる高速治療と書くと負担が大きいように聞こえるが、実際は二重詠唱で疲労は半減されている。
治療対象は主にクロウが殴り飛ばした3人と、宵のバイク破壊時にロアがケアした4人、ステラに口内へBB弾を打ち込まれた1人。リーダーと思しき人物はこの状況で起こすと面倒そうなので敢えて寝かせておいた。
「この状況は分かるよね! 動けない奴等を君等が引っ張って、此処から離れろ! 急げ!」
召喚された物を見て、恐慌状態に陥りそうになる不良に喝が入る。仲間意識が強かったのは幸いで、すぐに近くの者を引きずって校外を目指し始めた。
ヴィネが四肢骨折させた生徒と、ロア自身が引きずり下ろした1人は宵が改めて治療する運びとなった。油断なく敵を見据え、しかし仲間の行動を見るに、此方に専念出来そうだと、宵は一度、ゆっくりと瞬きのように目を閉じた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
杜鬼・クロウ
「もう少しエセ学園生活を楽しみたかったが、本来の目的忘れたら本末転倒だよなァ?実習生としてテメェらと画策した時間は忘れねェ。
ハ、キメェ面してやがる。
体育のセンセがきちっと指導してやんよ。物理的になァ!覚悟しろや」
スーツの上着を脱ぎ捨て指鳴らし戦闘態勢
連携意識
玄夜叉を構えて【先制攻撃】
【煉獄の魂呼び】使用
禍鬼は口を狙って棍棒を振り回す
霆で援護攻撃
仲間のピンチには自ら【かばう・武器受け】
それを好機にし【カウンター】
回し蹴りしつつ炎を宿した剣で【2回攻撃】で切り裂く
偽禍鬼が出たら睨み付け【フェイント】入れて剣で突き刺す
「回復すンなら動かなくなるまでぶっ叩く。
ち…クソがッ!立場の違いを分からせてやる」
楠瀬・亜夜
うわっ……相変わらずにすっごい見た目ですね
あまりお近づきにはなりたくないですけど
状況が状況ですしやるしかありませんね。
こちらには大勢の一般人……急がないと……
負傷した人達と敵との間に立ちふさがるようにして
【knife vision】を発動し大量のナイフを敵に向かって
飛ばし、同時に【クイックドロウ】を駆使し銃撃で牽制します。
【救助活動】を駆使しつつ負傷した人を順次応急手当しつつ
間を縫って味方達を【援護射撃】で援護します。
動ける人達にはさっさと此処から離れるように促して
ある程度の避難が終わったら本格的に
戦闘へ加勢しましょう。
攻撃対象を絞らせないよう素早く駆けながら
攻撃を仕掛けます。
●特攻(ブッコミ)
「ハ、キメェ面してやがる。もう少しエセ学園生活を楽しみたかったが……本来の目的忘れちゃ本末転倒だよなァ!」
杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は気炎を上げながら、スーツの上着を異形に向けて投げる。間に拳を手の甲で覆い、力を入れて指関節を豪快に鳴らす。
「体育のセンセがきちっと指導してやんよ。物理的になァ!」
あの流星を護るために前線に立つ。理解不明の鳴き声を上げながら、目視を封じられた異形がすぐに上着を噛み砕く。
「覚悟しろや。」
玄夜叉を構え、踏み込む。力任せに脳天唐竹で振り下ろし、叩き切る。肌は見た目よりは硬い手応えだったが、硬質、頑健には遠い。痛みに苦悶しながらも異形が副腕で殴りかかるのを辛うじて避けた。暫くは禍鬼を呼ぶ訳には行かなそうだ。
「チッ……」
あれを呼ぶなら避難の後。下手に便利な手勢を増やされると一般人への被害は免れない。先制攻撃の怯みから立ち直り、異形がクロウに狙いを定めた。膨れた四肢での殴打をどうにか避け、愛剣を盾代わりにして防ぐ。と思えば上体を伸ばし、頭から噛み砕こうとする。
(好き放題やってくれるじゃねェか……後で万倍にして返してやるからなァ……!)
彼等が逃げ切るまで、今はひたすら耐え忍ぶ時だ。
●探索者としての本領
「うわっ……相変わらずに、すっごい見た目ですね。あまりお近付きにはなりたくないですけど……」
状況が状況ですし、と近しい日常だと切り捨てて、楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)は生徒を庇うように立ち塞がった。
「急がないと、と思っていましたが、クロウさんのお陰で意識が取られているようですね。では……」
抱えていた女生徒は、あの後すぐに校外へと逃げ出した。
「大丈夫ですか。」
目標数まで後2人を素早く応急手当する。この速度は救助活動の知識が光る。
「何で……」
「少し事情がありまして。」
目標数の到達を見て、ロアはもう一度、亜夜もすぐさま避難を呼びかける。
「校外まで急いで避難して下さい! 此方は私達で食い止めます! さて……」
所持している投擲用ナイフと同一の形状のものが亜夜の周囲、中空に19本、それをクロウに当たらない様、異形に向けて解き放つ。
「夢か現か幻か、その身で味わって頂きましょう。」
ナイフを操りながら、クロウの動きに合わせ、戦場を駆ける。カートリッジを装填。愛用メーカーのセミオートマチックによるクイック・ドロウが3度火を吹く。足を狙う牽制。銃声が夜空を震わせた。
「全力で足止めさせて頂きますよ。」
大成功
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エグゼ・エクスマキナ
そんなに食らいたいな、喰らわせてやる我が地獄の経験を!! ユーベルコードにて、かつて自分が味わった物体X(人参、ジャガイモ、玉ねぎ、黒胡椒、ニンニク、ナマコ、コーヒー、チョコ等を 女子力ゼロの知り合いが煮込んだ物)の味覚データを悪性情報として凝縮して相手に撃ち込む。 なお、自分の寿命も削れかねないくらい不味い(味覚的に)データらしい。
●異形の感想
「足止めか。お誂え向きのがあるな。」
「と言うと?」
フル装備のエグゼ・エクスマキナ(エクスターミネーターソード・f00125)が戦闘用ヘッドギアと独自カスタムのサイバーアイで、何某かの情報を処理していく。
「過去、我が味わった地獄の味を再現する。食いたいのなら食わせてやろう。」
「詳細を聞くのは止めておきますね。」
「ああ、解除するまで毎秒寿命が削れる程の代物だ。その方が良いな。」
エグゼ式、大体1分以下ウィルスクッキング。素材情報インプット、基礎レシピ情報、カレー(人参、じゃがいも、玉ねぎ、黒胡椒、ニンニク)アドバンスド(ナマコ、珈琲、チョコ等)。手順追加。アドバンスドデータ、、閲覧女子力ゼロの知人、行動パターン解釈、手順、分量は何一つ守らない。悪性変異、リピート(煮込む)、リピート(煮込む)、リピート(煮込む)! データ圧縮……完了。
ウィルス作成の負荷によってカスタムされたサイバーアイが赤く染まる。別の意味でも赤く染まっている気がする。何故これが美味しくなると信じられたのだろうか。女子力以前の問題だろうと改めて思う。
「充填!!(チャージ!!)」
データをデバイス、アームドフォートに転送します。デバイスによるデータ蓄積に移行。
「蓄積!!(チャージ!!)」
アームドフォート、データ蓄積及び増幅を開始……完了。
「突撃!!(チャージ!!)」
ロック。コード・エレクトリック・インフォ・オーバードーズ。発射準備完了(オールグリーン)。
「我が地獄の経験、物体X。その暴食で食らってみせろ……!」
砲身から悪性データがフラッシュを伴い、異形に向かって射出される。命中。宙を裂く悲鳴、異形の理解不能な音の羅列。聞き取れないが意味する所は恐らくこうだ。血肉の味がしない。ふざけるなよ、食い出のない下等生物が!
クロウから注意が逸れ、力が自由にならない原因をそれと決め、異形がエグゼを狙い始め、そこをクロウが狙い撃つ。
●反撃(お礼参り)
「ありがとよ! お陰で、ようやくっ!」
エグゼを大剣で庇い、人の脚力を遥かに超えた蹴脚が、異形を元の距離まで蹴り飛ばす。亜夜が好機と見てナイフで地面に縫い付け、その僅かな時間をクロウが駆ける。
「宿れ、禍津火!」
黒の刀身に黒の焔、煉獄を宿した剣が叩き潰すように異形の胴体を二度裂いた。起き上がろうとする所をロアが更に糸で拘束する。
「流石に……重いか……! 時間稼ぎありがとう、避難は完了したよ。」
「よっしゃ! じゃあ派手に行くかァ! 」
「なるべく早い決着を頼む。あのデータウィルス、精製し直すだけで強烈な吐き気がする。ユーベルコード自体は封じれるが、我、多分戦闘機動はもう無理。」
「では私がキミの援護を。」
張った銀糸が持たないと見るや、ロアはすぐに糸を解除する。亜夜がすぐさま、両足を狙い撃ち、その後を19の白銀が追撃し、筋繊維を切り裂く。
「杜鬼クロウの名を以て命ずる。拓かれし黄泉の門から顕現せよ!贖罪の呪器…混淆解放(リベルタ・オムニス)──血肉となりて我に応えろ!」
禍鬼、災いの意味を持つ幽鬼が赤錆色の棍棒を持ち、雷霆を纏い、異形の前に顕現し、至る所にある口を狙って棍棒を振り回す。
「さァ……万倍にして返してやらァ!」
成功
🔵🔵🔴
ヴィネ・ルサルカ
カカカ!餓鬼共で退屈しておったが、漸く喰いでの在りそうな奴が顕れよったわい!
と、事を構える前に一つUDCに連絡して件のコミュニティハウスを封鎖するように要請しておくか。もぬけの殻になっておるかもしれぬが、保険じゃな。
さて、ワシは近接戦闘が苦手じゃて霊符とオーブで遠距離からあの化け物を削るとするかの。
化け物が弱りだしたら、止めに
暴食螺鈿怪口で喰ろうてやるか。暴食は奴の専売特許でないからのぅ。
餓鬼共の避難に関しては…まー他の猟兵に委せるとして、ワシが四肢を砕いた餓鬼は触手で掴んで適当に放るかの。喰われても目覚めが悪い。
戦闘が終わったら生徒と教師に別れの挨拶でもして去るかのぅ。
ステラ・ハシュマール
さて、お出ましといったところかな。ならば全力で排除させてもらうよ。
ボクも避難活動に参加するべきだろうけど、ボクのユーベルコードは全て戦闘用。役に立てそうにない。避難は仲間に任せて、奴が手出しできないように足止めさせてもらうよ。
「さあ邪神さん、こっちでワタシと一曲踊りましょう?」
炎血のミケランジェロを発動、愛用のメメント・モリを二本の炎剣に変化させ、【薙ぎ払い】を織り混ぜた16連撃を叩き込むよ。なるべく同じところを攻撃して【傷口を抉る】よ。
「さあ、あなたという楽器を演奏しましょう!醜いあなたでも、その死は芸術になる!!」
●歓喜は遠く
「カカカ! 餓鬼共で退屈しておったが、漸く喰いでの在りそうな奴が顕れよったわい!」
四肢を砕いた子供をさっさと宵の方に触手で放り投げながら、後方で闘争の歓喜に打ち震えたヴィネ・ルサルカ(暗黒世界の悪魔・f08694)が霊符数枚で結界を張る。
「■■■■■・■■■……我が眷属よ、顕現せよ。」
ヴィネの、人には不可能な発音に呼応してネクロオーブが明滅すると、四つ足の三角頭が呼び出され戦線に加わる。更に異形を追い込んでいく。
(始めはそう思ったんじゃがの……やはり不完全な召喚の所為かの?)
思っていたほど楽しめる相手では無さそうだ。体格は2m前後とイメージからは随分小さく、、力が封じられているとは言え、邪神の名を持つならば、。
「ま、腹の足しには丁度良いし、暇つぶしには十分じゃな。暴食はお主だけの専売特許ではないぞ……」
組織に連絡を入れた結果は、やはり裳抜けの殻だった。報告無しを失敗と捉え、早生がさっさと引き払うよう進言したのだろう。支部会長の渡瀬も行動から危機管理能力には優れている。
「カカ、強かじゃのう……やりおるわ。」
寧ろあれと敵対した方がもう少し、楽しめたかも知れない。
「ワシは楽させてもらうかのう。その時までな……」
●鎮魂歌(メメント・モリ)
「……うぷ」
「大丈夫ですか?」
「だい、じょうぶ。気絶だけは不味い、気付けだけは……頼む。」
「お任せ下さい。」
別方向での戦闘は継続しているが体調不良によって戦闘不能に陥ったエグゼは、宵の居る位置まで下がり、少し前に立つ亜夜と共に保護されている状態となる。
「立場の違いを分からせてやる。ここまで来たら動かなくなるまでぶっ叩く。なァ!」
クロウが気勢と共に踏み込み、一太刀を浴びせると、応えるように禍鬼が霆を落とす。更にヴィネの猟犬が噛み付き、そこで霊符結界の呪縛が弱まり、再び異形が動こうとする所を亜夜のナイフが切り裂かれた足を更に裂き、勢いを削ぐ。
「あら、随分と賑やかですね。さあ邪神さん、わたしとも一曲、お願いしますわ? 」
遅れて戦線に来たステラが混戦と化していく中、隙を逃さずメメント・モリを振るい、間に独自機構を活性化させる合言葉を紡ぐ。
業炎に抱かれ、鮮血に沈み、我が内に住まう紅蓮の醜き炎血よ。
「我は剣とし汝を携えん。」
メメント・モリがステラの血液を動力として吸い上げ、その姿を2本の炎剣へと変える。ツイン・ヘル・レクイエムの名をほしいがままにし、赤々と燃える焔は血炎と言うに相応しい。
「さあ、あなたという楽器を演奏しましょう!醜いあなたでも、その死は芸術になる!!」
クロウの与えた斬撃の後を目掛けて飛び込む。異形の肌を切り刻む焔の竜巻となって敵を16回、斬り、抉り、焼いていく。
(しぶといですね……っ!)
反撃に動く腕4本が逃げ場を塞ぐようにステラに飛んでくるのを。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ロア・ネコンティ
【WIZ】戦線復帰
奴らは善人じゃないけど、僕も善人(猫)じゃない。でもささやかな幸せを享受する権利はある。例えばザリガニ飯じゃない、愛情のこもった手作りご飯を食べることとか。だから未来を憚かる暴食の邪神は、屠らなきゃ。
両手にタガーで接近戦。傷は【激痛耐性】で我慢。仲間に攻撃をしようとした瞬間を狙い、死角から【だまし討ち】でなるべく気を引き続け、囮になる。
詠唱時間が確保できそうなら、後退し【エレメンタル・ファンタジア】を【毒使い・属性攻撃・全力魔法・高速詠唱】し、植物の精霊を呼び出して、毒を抽出。強酸の毒液を敵にぶち撒ける。食べてみろ、噛んでみろ、咀嚼してみろ。消化される様に溶けてしまえばいい。
逢坂・宵
さて、避難誘導が完了すれば皆暴れられるというものです
先程は詠唱を省略しましたが、今度こそはきっちり詠唱して僕の技を味わっていただきましょう
仲間の猟兵と連携しつつ
援護の合間に攻撃していきましょう
「属性攻撃」「全力魔法」、
そして可能なら「2回攻撃」も狙って
天撃アストロフィジックスを発動します
ふふ、標本にするにはいささか図体が大きいですが
少々不格好でもまぁなんとかなるでしょう
標本にしたら、あとは他の方々の出番です
しっかりとどめ、お願いしますよ
●例えば、それは些細なこと
「誰にだって、ささやかな幸せを享受する権利はあるんだ。」
それは例えば、愛情の籠もった手作りのご飯だったり、ふとした時に支えてくれたり、笑い合ってくれる仲間だったり。そういう気付きにくいが、当たり前の、小さなこと。
動き回り、死角に潜んでいたロアが、2色の短剣を持って膨れ捻れた腕3つを的確に切り飛ばす。残った一つは身体を捻ってギリギリで回避する。
「だから……屠らせてもらうよ。」
影のように走り、あえて目にうつるように動き、細かに斬撃を加える。全力で敵をひきつけ、前衛の動きを徹底的にサポートする。更にそこに亜夜の誘導ナイフと援護射撃が加わり、更に猟犬がかじりつき、禍鬼の落雷が響く。
●遊星
「さて、少しだけあちらに気を回します。」
「あ……ああ。」
吐き気を堪えながらウィルス生成を続けるエグゼにそう告げて宵が動く。
(標本に出来るほど原型が残ると良いのですが……期待薄でしょうか? ……次の機会を待ちましょう。)
太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。そして時には、彼らは我々に牙を剥くのです。
「さあ、宵の口とまいりましょう。」
二重詠唱。180の流星の矢が滞空。強い煌めきと同時に波紋のような天体を描き、宵の大半の魔力を割いた流星が異形に牙を剥く。残った腕を引き千切り、えぐられた傷口に風穴を開けていく。煌めく天体の裏の顔。ひたすらに敵を穿つ物理現象の側面。穴だらけになった異形が威嚇するように牙をかちかちと鳴らし、そこを禍鬼が棍棒で打ち叩く。
「大丈夫でしたか?」
「……宵って……結構……こっち側、なんだな。」
エグゼの言うこっち側とは脳筋とかクラッシャーとか、そういう意味だ。多分彼女の脳裏によぎっている単語はint脳筋とかぶっぱとか、そういう類。
「さて、何のことでしょう?」
「……はらぐ」
「回復を本格的に打ち切って援護に……」
「ごめんとりけすから。それだけはやめて。」
「冗談ですよ。」
冗談に聞こえなかったと表情で訴えつつ、エグゼはウィルスの再生成を続けていく。
●慈悲の焦熱、海の妖精
ロアが宵の魔法に合わせ、数度の跳躍で後退。同時に触媒の種を取り出して高速詠唱。毒性の強い植物の精霊は凶暴化しやすい傾向にあると言って良い。扱いを間違えてはいけない。慎重に言葉を選ぶ。
汝は何を憂う、優しき者、悲嘆が許せぬのか、弱肉強食の理であれば、いっそと、食らうのか、許そう、許そう。ただ一時、その慈悲を、貸し与えてはくれぬだろうか。その情熱を、ただ一時、私に、分けてはくれぬだろうか。
彼等が微笑む。種は触媒の役目を終え、彗星の杖に自然界の理を越えた酸毒が宿る。それは、とても良く澄んだ、綺麗な液体だった。彗星が振る
「皆、一度退いて! 食べてみろ、噛んでみろ、咀嚼してみろ……彼等の慈悲と情熱で、溶けてしまえば良い。」
彗星の光。毒性を持った全てを溶かす球形が彗星の様に上空から降り注ぐ。肉体のあらゆる所が気化したように白煙を上げていき、残った皮膚が爛れ、鮫の様な歯が歯茎からボロボロと零れ、虫が食った穴が開き、倒れる。ほぼ絶命となった異形を、肉体を変化させたルサルカが頭から丸呑みし、消化していく。
「……凡てを喰らい尽くせ。カカ、愉快、愉快。」
「うっわぁ……」
捕食シーンの光景を見て思わず亜夜が声を上げた。頭を元に戻したルサルカが、何事も無かったのように戻ってくる。
「食の狂気が捕食されて終わるって、何とも皮肉な芸術だね。一曲、弾いてみようか。」
「やめてくれ、流石の俺でも気分が悪ィ……」
「もう解除しても良いな? 良いよな! うぇぇぇ。」
「吐き気止めの術も試してみましょうか。」
「使う、じゃなくて試す、なんだね。怖いなあ。」
「ともあれ、一件落着ですね。疲れました。」
狂気とは関係なく、適度な疲労感に誰かの腹が鳴った。
●終幕(最後まで、有難うございました。)
組織は今回の礼として、夕食代を提供してくれた。ついでに周囲のお勧めグルメマップも渡してくれた。行く店を話し合って決めながら、地方都市を歩く。
「標本に出来なかったのは惜しいですね。」
「それは少し……悪趣味ではないでしょうか。」
「純然たる研究欲ですよ。」
「まあ……お近付きになりたいと言う人よりは良い趣味、でしょうか?」
「いらっしゃるのですか?」
「私達の界隈って、ちょっと特殊ですし……」
「良いことを聞きました。」
この世界に構えている宿にその手の者が訪れたら、話を聞いてみようと宵が心に決めた頃、ロアは浚った金を真っ当な募金団体に全額振り込んだ。良い行いをしたと毛繕いをするように片腕を顔に当てる。
クロウは満更でもなかった学園生活を惜しみ、食事の際に皆にこう語り掛けた。
「実習生としてテメェらと画策した時間は忘れねェ。」
熱い人だった。それに宵と亜夜が此方こそと礼を言う。ロアはもう一度、不良グループのことを思い返し、食事を進めていく。今回のことで懲りて、人を食い物にするのを、せめて止めてくれればと、願わずにはいられない。
「そう言えば、あの学園は放置しても良いのでしょうか?」
「多分大丈夫だよ。気づきにくいっていう事は、蓄積にも時間がかかる筈だし、埃みたいに積もるまで、多分何も出来ないんじゃないかな。」
学園の狂気に気付いていたステラは、そう読み解いた。邪神召喚に祭祀場が要らない代わりに、狂気を多量に消費する。そういうシステムだったようだ。次の活性化までは、何の問題もないだろう。
「道理だね。」
「そう言えばよォ、あれ何の精霊だったンだ?」
「ネペンテス、和名はウツボカズラだね。」
「……」
花言葉は甘い罠、熱い感動、名前の由来は憂い、悲しみを消すと言った外国語だそうだ。食中植物の姿を想像して、食事中に聞く話題ではなかったと、クロウが軽く突っ伏した。ご馳走様の唱和と共に、猟兵の長い任務は終わり、皆がそれぞれの日常に返っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵