エンパイアウォー⑦~道切り開く者たち
茹だるような暑気の中、グリモアベースでは猟兵達が見知った者を見つけては駆け寄り、無事を喜びあって情報交換をしている。
「幕府軍が最大の難所、関ヶ原に集結したらしい」
「信長軍を突破しないといけないですね」
語る内容は、サムライエンパイアで起きている戦争に関するものだ。
そんなグリモアベースの片隅で、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)がひっそりと身を縮めるようにして正座していた。
「戦場は関ヶ原。上杉謙信率いる上杉軍の精鋭部隊との戦いでございます」
床には地図が広げられていた。
「上杉謙信は、軍神車懸かりの陣を運用しています。軍神車懸かりの陣は、上杉謙信を中心に、切支丹武者が円陣を組んで幕府・猟兵陣に突入し、まるで全軍が風車の如く回転しながら最前線の兵士を目まぐるしく交代させるという、上杉謙信のずば抜けた統率力が可能にした「超防御型攻撃陣形」です。
上杉軍の切支丹武者は軍馬に騎乗し、雷撃を落とし、切支丹女武者の霊を召喚して鉄砲で援護射撃をさせてきます。
敵は常に万全の上杉軍と戦わねばならないにも関わらず、上杉軍側は充分な体力の回復とバフの時間を得ることができる……なかなか厄介な戦場と言えましょう。
また上杉謙信は、自身の復活時間を稼ぐ為にもこの陣形を使っているため、上杉軍を倒さなければ、謙信を倒すことはできません」
ルベルはそう説明し、別動隊について触れる。
「皆様が上杉軍の陣を抑え、破り。切り拓いた血路を味方別働隊が駆け、敵将上杉謙信の首級を狙う。部隊を分けての大作戦でございます。皆様の役割は、別働隊の刃が上杉謙信に届くよう道を切り拓き、其の戦いが邪魔されぬよう上杉軍を抑え込むこと。そして、味方が倒した上杉謙信が復活する時間を与えず、完全に滅ぼすために上杉軍を撃破することです」
縁の下の力持ち、という言葉がある。部隊の仕事は正にそれであった。
「最前線の上杉軍は、『防御力アップ&自動回復(特大)』の効果を得た、最高のコンディションで襲いかかってきます。並大抵のダメージでは、耐えきったうえで回復してしまうでしょう。 敵の防御を撃ち抜くような大ダメージの攻撃で、一体づつ確実に撃破していくようにしてくださいませ」
「味方を信じ、車懸かりの陣の外縁部の集団敵を撃破する事に集中してください」
ルベルはそう言うと深々と頭を下げた。
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
⑱が上杉謙信と戦うシナリオなのですが、それとセットになっていて「⑱と同じ戦場に在り、⑱で戦う別動隊のための道を切り拓き、共に勝利を獲得するために戦う」というシナリオです。「味方の駆ける道を切り拓く!」といった熱いシチュエーションだなと思います。他の戦場で戦う知人を心配したり、仲間のために戦う! という心情やセリフがあればぜひ活かしたいと思います。シナリオの性質上、「みんなで戦おう!」という雰囲気で野良連携が多めになるかなと思います。よろしくお願いいたします。
キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
第1章 集団戦
『切支丹武者』
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POW : 騎馬突撃
自身の身長の2倍の【軍馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD : 後方支援
【切支丹女武者】の霊を召喚する。これは【鉄砲による援護射撃】や【一斉掃射】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 主の裁き
【ハルバード】を向けた対象に、【天からの雷】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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ルク・フッシー
…ボクはもう十分戦った、なんて思う事もあります
…だけど、まだ戦い続ける人がいる
…だったら、ボクも、やらなきゃ…!
戦いに赴く猟兵の皆さんに【紋様描画】を行います
力で挑む人には【怪力】の紋様を描き決して屈しない力を
速さで挑む人には【ダッシュ】の紋様を描き決して負けない速さを
魔力で挑む人には【全力魔法】の紋様を描き決して尽きない魔力を宿します
全ての猟兵に描き終わったら、ボク自身に【捨て身の一撃】の紋様を描きその力を宿します
そして、全力で突撃します
ボクが毒に侵されようが、血反吐にまみれようが、呪いを受けようが
痛くても苦しくても逃げたくても
負ける訳にはいきません
ボクだって…みんなを守りたいですから…
月凪・ハルマ
「一撃で大ダメージを決めろ」って点がちょっと困るなぁ……
いや俺、基本的に手数で勝負するタイプなんで
とはいえ、手が無い訳でもないけど
◆SPD
まずは【瞬身】を使用した後、【忍び足】【迷彩】を使って
【目立たない】様、敵集団の中へ紛れ込む
そして【早業】と【防具改造】で、敵の防具を脆くしていく
要は敵の『防御力アップ』の効果を消していこうって話だね
これなら俺だけじゃなく、他の猟兵も
敵にダメージを与えやすくなるだろう
まぁ、流石にこんな事して回れば敵にも気づかれるだろうが、
そこは強化した技能で頑張って逃げ回ろう
一通り防御力アップの効果を解除する事ができたなら、
後は破砕錨・天墜で【捨て身の一撃】を打ち込むだけだ
デナイル・ヒステリカル
集団を纏め上げ、指揮にて驚異を引き上げる
流石は歴史に名を残す名将といったところでしょうか…
これまで遭遇した中でも類を見ないタイプです
しかし手を拱いている訳にはいきません
陣の奥へと対上杉謙信の部隊を案内するため、道を開くのが今の僕の役割であると判断します
彼らの消耗を極力抑えるため。上杉謙信との戦いの邪魔をさせないため
打倒しますよ、切支丹武者
幸いにしてこの敵と僕の相性は悪くありません、彼らが雷による攻撃を使用することは悪手です
それはVCである僕自身を構成する、最も馴染み深い要素の一つですから
UC:ノイジーレイニーを出力
敵が放つ落雷を空中に形成した槍で防御・吸収してコチラの威力に上乗せし、射出します
ユエイン・リュンコイス
連携アドリブ歓迎
人間大の敵が?密集陣形を組んで?集団戦をしている?
……そっかぁ。
まずは機人と共に敵陣へと斬りこもう。【グラップル、フェイント、カウンター】で機人が殴りあいながら、ボクはその後ろから追随。
ただし、敵殲滅よりも肉薄することを優先。そして、十分に距離を詰めたらUCを起動。
地面やその中の石塊なんかも無機物だよね? 範囲内のそれらを根こそぎ奪い取り、戦場の地形をガタガタにして陣形を崩しつつ、機械神を形成。
防御力上昇に自動回復、か。さて、この重さと大きさに耐えうるものなのかな?
【範囲攻撃、衝撃波】を交えた拳打蹴撃を敵陣へと叩き込もう。
散兵戦術でも取られてたら厄介だったけど…これなら的だね。
レフティ・リトルキャット
※詠唱省略やアドリブOK
車懸かりの陣かにゃ?大ダメージなら16代目様の力だけど。リスク大きいからにゃあ…先ずは数でのサポートから始めてみるかにゃ。
30代目様の力【ガイアキャット】で配下子猫を増やしつつ、味方の傍につけて、配下子猫達と連携し敵の交代を妨害したり、雷に飛び込ませたり高さのある組体操で避雷針代わりになって落雷から味方を守らせるにゃあ。
そして立場的に配下子猫達の上に立つ意味での、リーダー効果で自身の戦闘力を高め、最終的には配下子猫達が増えて高まった一撃で撃破を狙うにゃ。
基本戦法:子猫に変身し、髭感知で動きを見切り、盾たる肉球・武器たる爪で攻撃を受け捌き、爪や肉球バッシュで攻撃。
ステラ・アルゲン
(アドリブ・連携OK)
敵将を討てば敵の戦力も落ちるというもの
その為の道、我が剣にて斬り開きましょう!
【赤星の剣】を発動し炎【属性攻撃】を【オーラ防御】の波に乗せて壁のように展開
敵の動きや攻撃を止める事はもちろんの事、壁を狭めることで攻撃とする
【全力魔法】の【高速詠唱】で炎を絶えぬように燃やし続けましょう
少しでも倒しやすいよう【呪詛】の力も込めて回復を阻害
もちろん、味方を巻き込まないように気を付けておきます
遠呂智・景明
アドリブ・連携歓迎
ここぞとばかりに謙信公のとこへ何度も突っ込んでる後輩がいるし、何より俺もまだ謙信公と斬り合い足りねぇ。
邪魔だ、お前ら。
悪いが通してもらうぞ。
とはいえ、単身で突っ込むのも限度がある。
謙信公のとこたどり着いて疲れ果てたんじゃ目も当てられねぇ。
うし、とりあえず馬の脚を削るか。
風林火陰山雷 雷霆の如く。
狙うのはアイツらの脚元だ。
雷撃に合わせて俺自身も前に出るぞ。
黒鉄で敵の攻撃を●武器受けしつつ、●カウンター気味に俺自身でぶった斬る。
回復?上等。防御力?●鎧無視攻撃で抜けねぇなら、斬れるまで何度も斬ってやるよ。
あと、俺にばっかり構ってると精霊の一撃はかわせねぇぞ。
どけ。
草野・千秋
軍神車懸かりの陣、恐ろしいですね
手ごわい上杉謙信自身と戦う皆さんの為にも
僕たちがここで踏ん張って頑張らないと、ですね
戦う戦場は違えど心はいつもひとつ!
エンパイアに平和をもたらすんですよね!
どこの世界の猟兵さんも願ってることですよ
UCで攻撃力支援
これで少しでも僕も力になれたのなら
勇気をもってしてこの戦いに挑む
戦闘序盤は2回攻撃とスナイパーと範囲攻撃をメイン
敵勢力ある程度削れたら
前線に出て接近戦に挑む
怪力を使って思い切り殴る蹴る
敵の攻撃は第六感でかわましょうか
避けられない場合武器受け、盾受け、激痛耐性で耐える
仲間はかばえるのならかばう
みなさんが無事なら僕の鋼の身などどうなったって構わない
華折・黒羽
戦場を駆け続けるあの人の背を
無理はしていないと浮かべた笑顔を
思い出す
俺とて思いは同じ
育ったこの地を侵す事など許さない
けれど
…多少の休息くらいは、取ってもらいたいものだけど
吐いた溜め息は空虚に消えて
戦場の風受け鳴く屠を諫める様に柄を強く握った
駆け続けると言うのならば
俺はその道を、切り開くだけだ
呼び出した黒帝の背に乗り敵の元へと
屠に纏わせた縹の冷気による氷の属性攻撃で雷を払い
援護射撃が来るならば武器受けにてなぎ払う
多少の傷など厭わずにただ、前へと
─黒帝に、道を開けろ
そして、駆け続けるあの人に─道を
黒帝がいる事で強化された互いの力は己の四肢に宿る
力の限りの一閃が切り開く道の一柱と成り得るようにと
ナトゥーア・クラールハイト
固くて耐えて回復するなんて、面倒なことしてくれるねぇ。
まぁでも、削り切ったらいいんだろう?
さぁ、撃ち込むわよ。
術式展開――
耐えた所で、攻撃出来なければこちらのものよ。
魔力装填――
さぁ、行くわよ!
臨界突破、Galaksias!
高速詠唱で多量の魔法陣を瞬時に展開し、ビームと爆裂光弾の弾幕を張るわ。
全力魔法による範囲攻撃で、敵陣を纏めて崩すわ。
まあ、これで沈めば良し。
でなければ、次を撃つわ。
どれほど形が残ってるかしらね?
対象認識――
まあ、立つのならいいけど。
目標補足――
その鎧ごと、蜂の巣にしてあげるわ。
――一斉追跡、Analambi!
防御無視のビームの誘導弾、存分に浴びなさい?
リヴェンティア・モーヴェマーレ
ジノーヴィーさん(f17484)と一緒
※ジノさん呼び
▼アドリブ大歓迎
▼wiz
はわぁ…これがよく本で読むシチュエーションの一つ『オレの事は良いからお前らは先に行け!』と言う状況なのですね!
私、先へ進む方々の為に道を切り拓くお手伝いしますよ!
ジノさん、一緒に頑張りましょうネ!
わぁ!ジノさんやる気満々ですネ!
私も負けてられまセンね!
「目には目を雷には雷を!」
天から雷が落ちてくればUCを使用して雷の鞭を作り出して対抗でス!
全力魔法をブレンドして叩き落とす気概でぶつけ、あわよくば押し返したい気持ち
周りの方々に被害が起きない様な立ち回りを心がけつつ戦闘
他の参加者さんとも連携して道が拓けるように行動しマス
ジノーヴィー・マルス
リヴェンティア(f00299)と
呼び方:センパイ
アドリブ歓迎
SPD
ったく面倒臭ぇ作戦考えてくれるよな。このキリなんとか武者共はよ。
しかも後方支援の銃撃まであるときた。まぁいい。だったらこっちは弾幕勝負で行くしかねぇ。とにかく【2回攻撃】【範囲攻撃】【一斉発射】を駆使して「分身使って楽する」としますか。
どこかで戦う誰かとか、そういうのより、俺は一緒に戦ってくれるセンパイを守りてぇ。
失った記憶と向き合う勇気をくれたセンパイに報いるやり方なんて、これしか分からねぇんだからな…。
●道切り開く者たち
戦場に猟兵が集まっていた。
ぷにっとした緑色ドラゴニアン、ゴッドペインターでアルダワ魔法学園の学生、ルク・フッシー。
黒い帽子がトレードマーク、適応性に優れたヤドリガミの化身忍者、月凪・ハルマ。
暖かみのある茶髪と眼鏡のバーチャルキャラクター、英明なるデナイル・ヒステリカル。
感情に乏しく、孤独に過ごしてきた過去を持ち、時折依頼でアイドルになったりイケメンにちやほやされる幻影を見ることもあるユエイン・リュンコイス。
フェアリーにして子猫、実際よりだいぶ幼く視られることの多い愛らしいレフティ・リトルキャット。
アストルム王国の英雄クレム譲りの騎士道精神と正義感を持つ、流星剣のヤドリガミ、清廉なるステラ・アルゲン。
かつて零落した神である大蛇を斬った妖刀・大蛇切のヤドリガミ、奔放なる遠呂智・景明。
弱きを助け、悪を挫くヒーローを目指す熱き志を胸に戦場では勇ましく戦う一方、駄菓子屋では春風のように繊細で穏やかな青年、草野・千秋。
半人半獣、猫の獣人の姿をいつも外套に隠しがち、人との距離感を慎重に測りがちな黒猫の華折・黒羽。
グラマウスな身体に清潔感のある白と青の衣装を纏い、長い琥珀色の三つ編みも艶やか、三度の飯より酒が好きな飲兵衛魔砲使いのナトゥーア・クラールハイト。
賑やか可愛い動物達といつも一緒のほわほわポン娘、リヴェンティア・モーヴェマーレ。
改造の後遺症で少々忘れっぽく、身なりと口調に気怠さを装うチェーンスモーカーのジノーヴィー・マルス。
◆
広い戦場の片隅、猟兵達は集まっていた。
転送されてきた仲間達はそれぞれの想いを胸に前線を見つめる。
2人組の男女、リヴェンティアとジノーヴィーは影を寄り添合わせて共に敵を視ている。
「はわぁ……これがよく本で読むシチュエーションの一つ『オレの事は良いからお前らは先に行け!』と言う状況なのですね! 私、先へ進む方々の為に道を切り拓くお手伝いしますよ! ジノさん、一緒に頑張りましょうネ!」
リヴェンティア・モーヴェマーレ(ポン子2 Ver.4・f00299)が傍らのダルそうな青年をキラキラした目で見上げた。
視線の先のジノーヴィー・マルス(ポケットの中は空虚と紙切れ・f17484)は煙草を吸いながらふうと息をつく。
「ったく面倒臭ぇ作戦考えてくれるよな。このキリなんとか武者共はよ。しかも後方支援の銃撃まであるときた。まぁいい。だったらこっちは弾幕勝負で行くしかねぇ」
ジノーヴィーはとてもダルそうにぼやいている。
「とにかく、「分身使って楽する」としますか」
ダルそうにしながらも方針は定まったようだった。その様子を見てリヴェンティアが目をまん丸にして「もう作戦が決まったデスカ!」とびっくりしていた。
「わぁ! ジノさんやる気満々ですネ! 私も負けてられまセンね!」
ちらり、とジノーヴィーの茶色の眸がリヴェンティアを見た。リヴェンティアセンパイはいつも通り、ほわほわニコニコとしている。
(どこかで戦う誰かとか、そういうのより、俺は一緒に戦ってくれるセンパイを守りてぇ。失った記憶と向き合う勇気をくれたセンパイに報いるやり方なんて、これしか分からねぇんだからな……)
本人に向けて言うことはない。が、ジノーヴィーがダルそうにしながらも付き添い、戦いに臨む理由は『それ』だった。
赤い布をたなびかせるヤドリガミの青年は戦意高く戦に臨む。
(ここぞとばかりに謙信公のとこへ何度も突っ込んでる後輩がいるし、何より俺もまだ謙信公と斬り合い足りねぇ)
迷家の庭の端、木々が立ち並ぶ場所、切り株の近くで時間が許す限り鍛錬する後輩とその言葉を思い出す。
――いずれ折れるその時まで、立ち止まることなく刀で在り続けると。
白雪の羽織を風に揺らし、遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)が漆黒の鞘を軽く撫でる。天気は快晴、足元では草が幽かに揺れている。
常在戦場。彼もまた刀なり。否、彼こそが刀なり。
「集団を纏め上げ、指揮にて驚異を引き上げる。流石は歴史に名を残す名将といったところでしょうか……これまで遭遇した中でも類を見ないタイプです」
智能で識られるデナイル・ヒステリカル(架空存在の電脳魔術士・f03357)が電脳デバイスでもある眼鏡の奥の瞳を冷静に分析するようにしながら敵軍に向けていた。思案は軍勢の向こう、姿の見えない大将へと巡らされている。
「しかし手を拱いている訳にはいきません。陣の奥へと対上杉謙信の部隊を案内するため、道を開くのが今の僕の役割であると判断します」
声は案内役然としていた。D-9Lは己が役割を判じたのち、速やかに作戦行動へと移行する。
かさり、草葉踏む音を鳴らしながら華折・黒羽(掬折・f10471)は別部隊で戦う人を思い出す。その背中――無理はしていないと浮かべた笑顔。
(俺とて思いは同じ。育ったこの地を侵す事など許さない)
いつも目深かに被っている外套のフードが夏風に揺れる。そっと押さえる手は半人半獣の特徴を備えていた。風に混じる血を感じて黒羽は微かに眉を寄せる。
「……多少の休息くらいは、取ってもらいたいものだけど」
吐いた溜め息は空虚に消える。
笑顔を浮かべつつ駆け続ける人。身を置くは最前線――、
黒羽は戦場の風受け鳴く屠を諫める様に柄を強く握った。
(駆け続けると言うのならば、俺はその道を、切り開くだけだ)
「敵将を討てば敵の戦力も落ちるというもの。その為の道、我が剣にて斬り開きましょう!」
陽光の下で清廉さの際立つ白絹の髪を風に揺らし、白き騎士服の背に威風の青マントをはためかせてステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)が凛然と声をあげる。
白銀の騎士は凛々しい面持ち、一見すると御伽噺に出てくる白馬の王子様のようだ。だが、その実は麗しい乙女であった。
「「一撃で大ダメージを決めろ」って点がちょっと困るなぁ……いや俺、基本的に手数で勝負するタイプなんで」
月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が飛天柳風を風に靡かせ、戦場を見晴るかす。ヤドリガミの化身忍者である少年は、素早さと機智に富む幅広い対応力で知られる猟兵だ。
「とはいえ、手が無い訳でもないけど」
そう言ってハルマは己の全身に周囲と溶け込む迷彩を施していく。
「人間大の敵が?密集陣形を組んで? 集団戦をしている?
……そっかぁ」
夜色に白き月の意匠が映える礼装服に身を包んだ少女、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)が水月の識眼越しに戦場を見つめる。暑気の中、顔色は色白を通り越して青白い。戦場の風に銀の長髪がふわりと揺れた。十の絹糸と魔力により操られる黒鉄の機甲人形、豪壮なる黒鉄機人がひたりとユエインに随従している。
「軍神車懸かりの陣、恐ろしいですね」
草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)がミルクティー色の髪の下で使命感に満ちた瞳を昂然と前に向けている。
「手ごわい上杉謙信自身と戦う皆さんの為にも僕たちがここで踏ん張って頑張らないと、ですね」
千秋は仲間達を見た。個性豊かで、互いに互いの事をそれほど深く知らない。けれど皆同じ志を胸に集まった仲間達だ。
「戦う戦場は違えど心はいつもひとつ!」
千秋が明るく声をあげれば、まるでヒーローショーが始まったかのように周囲が明るさを増したようだった。声一つでムードを明るく盛り上げることができるのが千秋の不思議な持ち味だった。
「エンパイアに平和をもたらすんですよね! どこの世界の猟兵さんも願ってることですよ」
(終わったら酒宴とかあったらいいねぇ)
「固くて耐えて回復するなんて、面倒なことしてくれるねぇ。まぁでも、削り切ったらいいんだろう?」
髪に6枚花弁の白花を咲かせ、花色の眸を鷹揚に微笑ませてナトゥーア・クラールハイト(飲兵衛魔砲使い・f16843)が身に纏う衣も軽やかに戦場に歩を進める。
(塵一つ、残さないわ)
瞳は自信に溢れている。そして、それに見合う実力も備えている。魔砲使いのナトゥーアは派手にぶっ放すのが好きだった。今回も派手に暴れられそうだ、と魔力は楽しげに練られていく。
そんな仲間達を見て。
(……ボクはもう十分戦った)
愛用の大きな絵筆を握りしめ、ルク・フッシー(ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346)が気弱な瞳を揺らす。エンパイアの戦争が始まってから、ルクは幾つもの戦場を転戦し続けてきた。十分すぎるほどだ。休んでも誰も咎める者はいまい。
「……だけど、まだ戦い続ける人がいる……だったら、ボクも、やらなきゃ……!」
つるつるすべすべな鱗が日射しを浴びて鮮やかな艶を見せる。緑色の尻尾をむんと振り、ルクは味方猟兵に紋様を描いていく。ユーベルコード『紋様描画』の絵の具がカラフル・ハッピーに虚空を舞えば色が踊って猟兵達の全身がやわらかな光に包まれる。
「力で挑む人には決して屈しない力を」
ルクが猛々しい力を表す紋様を描き。
「速さで挑む人には決して負けない速さを」
風の如き疾走を表す紋様を描き。
「魔力で挑む人には決して尽きない魔力を宿します!」
奔流する魔力を練り上げる魔術師の紋様を描く。
一通り描き終わったルクの額から汗が一筋流れ落ちる。日は高く、戦場は暑かった。目に入りそうな汗をぐいと拭い、ルクは絵筆を再び操り、自身に捨て身の紋様を描いた。円らな瞳には決意が満ちている。
「行きます!」
ルクが勇しく猛々しい声をあげ、果敢に敵軍に突撃する。
「レフティも手伝いにきたにゃあ」
薄やわらかなヴェールのような羽をふわふわさせて、子猫めいた姿をしたレフティ・リトルキャット(フェアリーのリトルキャット・f15935)が可愛らしく首を傾げた。
「車懸かりの陣かにゃ? 大ダメージなら16代目様の力だけど。リスク大きいからにゃあ……先ずは数でのサポートから始めてみるかにゃ」
大きな瞳がぱちぱちと瞬き、レフティがぷにぷにの肉球を敵に向けていた。当てること自体が目的ではない。躱されて肉球がぺたっ、ぷにっと地に付けば、なんと配下子猫が錬成されてレフティの力を増大させていく。
隠れ里を故郷に持つ、呪われたリトルキャット家。レフティのユーベルコード『ガイアキャット』はその30代目の力だ。30代目は猫々の平和を守る為、配下達と共に世界征―したのだとか。
「にゃーん?」
「うみゃー!」
配下猫達、46匹はまるまるころころのもふもふだ。小さく短いあんよでてちてち戦場を走っていく。味方と共に走ってくれる!
「ふにゃぁーっ!」
「みぁー!」
「ね、ね、ねこぉっ!?」
敵も吃驚している。そして、『猫はもう一匹いた』。
黒羽が幼き頃より共に育った黒獅子、黒帝にひらりと跨り敵の元へと駆けていく。宿主に依存し共存する黒剣、『屠』には氷属性付与の呪印を記した符『縹─白姫─』が冷気を纏わせている。
切支丹女武者の霊が鉄砲で援護射撃をしている。黒羽の青の双眸はひたりと敵に据えられた。
黒帝が弾丸の雨を掻い潜り、俊敏に戦場を駆ける。背の黒羽の見つめる世界が大きく跳ねる。跨る黒帝が低く身を沈め、バネのようにびゅんと飛び周囲の景色がぐんと後ろへ流れていく。風が耳元でざっと鳴りひゅんと風を置き去りにして黒帝と黒羽がぐんぐん先へ進んでいく。
雷が空から降ってくる。瞬きする暇さえないその光を、黒羽は冷気纏いし屠で無造作に斬り払う。四方からの銃撃を薙ぎ、多少掠めた傷には眉一つ動かさず――全く、こんな傷ぐらいたいしたことはないのだ。
――だって、あの人はもっと。
「──黒帝に、道を開けろ」
(そして、駆け続けるあの人に──道を)
力の限りの一閃が切り開く道の一柱と成り得るようにと、黒羽は熱き灼熱の戦場を只駆け続けた。
景明は道を自ら切り開き、どんどんと先に進んでいく。
「邪魔だ、お前ら。悪いが通してもらうぞ」
黒鉄の鯉口を切れば只ならぬ殺気が全身から放たれ、思わず敵兵が一歩後退るほど。しかし、敵兵も要の戦場に立つだけあって覚悟が胸にある。ぐっと奥歯を噛みしめ、退いた一歩を恥じるように決死の覚悟で前に出る。
「上杉軍の誇りを見せよ」
「我らが後ろには一歩も行かせぬ!」
兵達は剛健な軍馬を呼び、人馬一体の構えを見せた。
と、そこへふんわりと温かな歌が聞こえてくる。
『あの澄んだひろい空、まっしろな雲のもっと向こうに なにがあるかな……♪』
戦場にゆったりとした穏やかな歌声が響いていた。千秋が戦いに臨む味方のために喉を震わせているのだ。
『さぁ、君を連れて行こう……♪』
ふわり、優しく囁くように声を顰めて。動画界隈で歌い手raduとして人気の歌声は透明感のある高音を玲瓏に響かせ、聞く者をうっとりとさせる。歌は『Cloud cuckoo land』。「夢の国」「おとぎの国」、千秋はふと切なく睫を伏せる。そんな国どこにもないけれど、と。
(けれど、だからこそ歌うんだ)
夢があっていいんだ、夢を歌うんだ。
raduの歌には沢山のコメントが日々寄せられていた。コメントをしてくれる人たちは、どんな人たちだろう――千秋は偶に思いを馳せる。
忙しい日常の合間。疲れている時。これから憂鬱な仕事に行く人。嫌な事があった人。歌を聞いて、ほんのひととき心が休まり、現実から解き放たれて夢を見れる――。
『僕が、見せてあげるから……♪』
――夢を。
瞳が一層優しさを増し、千秋は思う。少しでも僕も力になれたのなら、と。歌は、味方の能力を大きく引き上げていった。
琥珀色の三つ編みがご機嫌に揺れる。夏陽にきらきらと輝いて。
(気分よく魔砲が撃てそうね)
「さぁ、撃ち込むわよ。術式展開――」
淡い光の魔法陣がナトゥーアの周囲に描かれる。膨大な魔力に琥珀色の三つ編みがゆらりと揺れた。魔力が装填されて魔法陣が力を増していく。爆発しそうなほどに膨れ上がった魔力をナトゥーアは。
「臨界突破(ファイア)!」
――解き放った。
ゴウ、と空を灼く光の筋が着地と同時に爆ぜて敵陣を揺さぶる。ビームと爆裂光弾の弾幕が無尽蔵の魔力を糧にして永遠に続くかのようだ。
「な、なんだこの弾幕は!」
敵にとっては悪夢の光景であった。
(まあ、これで沈めば良し。でなければ、次を撃つわ)
ナトゥーアが光の弾幕の先へと強気な視線を向けていた。
「どれほど形が残ってるかしらね?」
ふわりと淡い光線が新たな魔法陣を描く。対象認識――、
「まあ、立つのならいいけど」
目標補足――、白色の花瞳がふわりと微笑んだ。
「その鎧ごと、蜂の巣にしてあげるわ――一斉追跡、Analambi!」
徐々に加速しながら追尾する破壊光線が実に120本、敵陣に流星の如く降り注ぎ壊滅させていく。鉄壁の防御、堅牢な守りにこそその光は絶大な効果を誇る。相手の防御一切を無視する無慈悲な光は、いっそ悠々として生命を摘み取っていった。
(混戦、ですね)
ステラは流星剣に炎を纏わせる。深い青色の清冽な輝きを放つ剣身が赤に照らされる。灰の隕鉄が天より深海に堕ちた時のようだ。
「赤く燃えろ、我が星よ」
紅蓮の炎波がステラの意志により壁のように展開される。
同時に、秩序の崩壊の音が反響する。千秋が援護射撃をしていた。
「炎だ、燃えてるぞ!」
「退避、退避!」
敵陣がさらに混乱している。ステラの炎は味方を護り、敵を囲い込むように苛烈に展開されていった。
(軍神)
ステラはその者を想う。
ステラは、人々が完璧な偶像をよく求める事を知っていた。歴史に名を残す軍神には嘗て人心が荒れる様に辟易して世を離れ仏門に下ろうとした際に配下に引き留められ、結局俗世で将たる生を過ごしたという。ステラもまた、人々に理想の英雄を求められたことがあった。
(けれど、今は)
――違うのだ。
混乱極まる戦場を機人に守られユエインが進んでいく。
「機人、行こう」
ユエインが黒鉄機人と共に敵陣へと斬り込む。ずん、と地を高く踏み鳴らし漆黒の装甲に覆われた右手が切支丹武者のハルバードをがっちり掴む。
「く、な、なんだ」
武者が戦慄する。
「放せ、はな、」
ぐしゃり。
機人がハルバードをへし折り、左拳を武者へと突き出した。
「ッくぅ!?」
武者が狼狽え避けようと横に跳ぼうとし――ガツリ、と折れたハルバードが横から叩きつけられる。
「気を付けろ、手練れ揃いだ」
敵勢が警戒を強めていた。敵味方の剣戟の音と銃声が引切り無しに鳴り続いている。炎の壁、煙――時折空から雷が落ちている。
「迎え撃て!」
後方に薄っすらと姿を浮かび上がらせる切支丹女武者の霊達が鉄砲を一斉に撃ち放つ。音だけで心臓が竦み上がるような破裂音が断続的に響き。ルクは拳を握りしめ、脚を緩めることなく駆け続けた。
(みんな、戦ってる……!)
「僕も一緒に!」
千秋がルクの背を守るように走っていた。ハルバードを構えて雷を呼ぼうとしている敵を発見しては体当たりするようにして拳を突き入れて止め、ルクの背後に迫る敵に跳び蹴りを放つ。
「危ないっ!」
ルクへのハルバードを咄嗟に身を挺して受け止め、千秋はきりりと眦を釣り上げた。
(みなさんが無事なら僕の鋼の身などどうなったって構わない!)
手の届く範囲全て、味方を守って見せるという強い意志が瞳を色濃く彩っていた。
「千秋さん!」
千秋に向けられたハルバードを今度はルクが守る。
――痛くても苦しくても逃げたくても。
「負ける訳にはいきません」
少年は懸命な眸で前を視る。
「ボクだって……みんなを守りたいですから……!」
2人は刹那視線を交差させた。太陽の下でキラキラ輝き、生命力に溢れている、すぐ近くで同じ意志見せる目は――戦友の目だ。2人はしっかりと頷きを交わし、背を預け合って戦った。
「作戦は順調のようですね」
半透明の電子パネルとモニターで戦況を把握しながらデナイルが真剣なまなざしをしていた。
現場は混乱を極めていた。前線で戦っていれば、戦うだけで精一杯になってしまっていたかもしれない。だが、後方で広く視界を取り情報を冷静に処理していたデナイルは味方が敵を抑え、陣を乱して道を切り拓き、別動隊がその道を通って進軍する様子を把握していた。
「彼らの消耗を極力抑えるため。上杉謙信との戦いの邪魔をさせないため。打倒しますよ、切支丹武者」
デナイルの穏やかな緑色の眸が切支丹武者の予備動作を見咎めた。両の手が繊細な動きを見せれば、虚空で半透明の電子パネルが煌めいた。電脳魔術師のプログラミングが一弾指で完成する。
「雷」
ハルバードが高く掲げられ、稲光が走る。
(それはバーチャルキャラクターである僕自身を構成する、最も馴染み深い要素の一つです)
デナイルのコードに一切の無駄は無い。天雷を空中に形成した槍が避雷針の如く吸収し、デナイルのユーベルコード『ノイジーレイニー』の威力に上乗せし、射出する。
「対象を穿て」
端的な声を発動キーに、雷雨が騒然と世界に降る。衝撃が地を揺らし雷鎚が空気を焦がす。雲は千々に吹き飛び、空から光が差し込む様はいっそ神々しいほどだ。
「なっ、雷が」
「敵に術者が――」
切支丹武者が放ったより数倍強力な雷撃が敵陣を襲い、数体が一瞬で黒焦げとなった。
(効果が想定より大きいですね。これは――)
デナイルが味方の工作を知る。
忍びの特技をフルに活かして支援工作をしていたのは、ハルマだ。
ハルマは素早く化身忍術の印を結び、『瞬身』を発動させていた。世界が遅く視える――否、凄まじい集中力によりハルマ自身の速度が増大したのだ。輪郭がぶれるほど疾く、残像を結ぶほど速く、敵の警戒網の隙を完全に突いてハルマは敵集団内部へと身を忍ばせた。草むらに潜む直ぐ近くを切支丹武者が通過していく。だが、ハルマは手裏剣を投げる事も魔導蒸気式旋棍を振る事もない。息を殺し気配を消し、眼にも止まらぬ早業にて敵の甲冑に仕掛けを施した。敵陣を走り回り鳩尾板や草摺に工作しながらハルマが息をつく。
(これなら俺だけじゃなく、他の猟兵も敵にダメージを与えやすくなるだろう)
ハルマは防御力を増大させている敵に対して、ならば弱めてやろうと考えたのだ。視線の先で仲間の放ったペイント弾が防御の弱った一体を打ち据え、地に倒している。ハルマは満足げに頷いた。
「おい! 工作員がいるぞ」
「忍者だ、忍者がいる」
敵が異常に気付きつつあった。
「気付かれたか、思ってたより遅かったな」
切支丹女武者の霊が鉄砲の砲口を一斉にハルマに向けていた。耳を劈く銃声ののち、猟兵の姿は消えていた。
「何処へ行った!」
「探せ、忍びがいるぞ」
敵群が騒然とする。
「危ない、危ない」
一体の背に音もなく滑り込み、ハルマは破砕錨・天墜を渾身で打ち込み、一体を地に引き倒した。
「大丈夫ですか!」
「工作は助かりました」
ルクと千秋が囲まれそうになるハルマの救援に駆けつけた。3人の周囲に半透明の平面・電子戦場マップが現れ、デナイルが敵味方の配置を教えてくれる。
「その付近から南へ移動し、道を確保してください」
「了解!」
デナイルのガイドに従い3人は南の敵に向かっていく。
猟兵達と敵兵達の足元では、子猫達が元気よく戦場を走ってさりげなく支援をしていた。
「子猫達も頑張ってるにゃあ」
レフティはリーダーとして高めた力を纏い、敵に迫る。敵がハルバードを振っても、ピンとしたおヒゲの感知するままに敵の動きを視切って軽やかに避けてしまう。ふわふわ尻尾を揺らしてぴょんっと跳ねれば可愛らしさにハルバードも鈍ってしまうではないか。
「レフティは殴るのも得意なのにゃ!」
爪で引っ掻き、肉球バッシュを放てば敵が恍惚として倒れていく。敵は……猫好きだった。
「景明さんは謙信公の元へ? ルートはこちらです」
デナイルが景明に道を示してくれている。言葉みじかく礼を言い、景明は一気に敵軍馬を崩して先へ進む決意をした。
(この後が本番だし、謙信公のとこたどり着いて疲れ果てたんじゃ目も当てられねぇ。うし、とりあえず馬の脚を削るか)
景明の紅の眸が馬脚を視る。
「風林火陰山雷 雷霆の如く。狙うのはアイツらの脚元だ」
声に応え、精霊がひらりと戦場に舞えば雷撃が巻き起こる。ジグザグに空を走る白光が一瞬周囲の者の視界を眩く奪い、雷霆と同時に景明が黒鉄を抜き放っている。
「下がれ、下がれ!」
雷に穿たれた兵が入れ替わる。
「上等」
突っ込んできた軍馬の馬上から振り下ろされたハルバードを黒鉄が受け止める。景明の足元の地がぐっと沈んだ。
「傷を癒して出直してきても何度も斬ってやるよ」
ニィ、と口の端が持ち上がると同時に黒鉄がハルバードを跳ね返し、力で圧倒するように敵兵を甲冑ごと易々と斬り飛ばした。
「あと、俺にばっかり構ってると精霊の一撃はかわせねぇぞ」
精霊が雷光を轟かすとビリビリと空気が震撼した。
「どけ」
短い声に兵が馬脚を乱す。決意、誇り――そんなものでは埋められない圧倒的な強者の威。それを感じて兵達はごくりと喉を鳴らすのであった。
皆が切り拓いた道を別動隊が決死の覚悟で駆けていく。道の先には、軍神と呼ばれる強敵がいるのだ。
「皆さんの、武運を祈りマス!」
リヴェンティアが祈りをこめて声をあげ。
仲間がまた一人道の先へ進のを見て応援するように大声を送った。
「頑張ってキテ、クダサイ!」
「もう少し――道を支えなければ」
ステラは水が流れるが如く流麗に詠唱を紡いで炎を燃やし続けていた。
「我は剣にして星。未来を斬り開く葬送の剣。空と海の境界にて耀く白銀の流星」
麗しの瞳は一瞬瞬く。それは、星が瞬くに似て。
「燃えよ、赤く。赤く燃えよ、我が星よ」
血と土煙、炎と雷、銃声。悲鳴――混迷の戦場の中、瞳は透徹に煌いていた。青空のように澄み渡り、深海のような奥深さを秘める。呪詛籠めし炎は敵勢のみを対象として加護を打ち消し、回復能力を大きく下げていく。
「味方が先に行けたんなら、あとは残った上杉軍をじっくり倒すにゃあ」
レフティが大きな瞳をにっこりとさせた。
「味方を信じつつ、ボク達はボク達の仕事を、だね」
ユエインがレフティを機人の影に隠し、敵のハルバードから守った。
「ありがとうにゃあ!」
耳をぴこぴこさせて礼をするレフティへとユエインは無言がちで表情も動きが少なかったが、幽かに微笑むような気配を見せた。レフティはそれで十分、少女があたたかな心を持つことが伝わり、柔らかにヒゲを揺らした。
(この世に力は必要だけど、力がこの世の全てでない)
ユエインの瞳は軍勢の先、味方別働体が駆けて行った道の先を数瞬見つめた。瞳には嘗ては宿さなかった温度が宿っている。
(あの墓場と化していた小夜鳴鳥での出会いを始めとして、数多の冒険がボクに中身をくれた)
少女は、大切なことをもう知っていた。そのことは少女にとって誇りであった。過去の上に積み重ねて獲得した、とても大切で誇り高き、ユエインの本物はその胸の奥、心の中にいつも燈り、歩む道を照らしてくれる。
「にゃあ、もうちょっとにゃ」
「うん、そうだね」
真っ白な雲が見守る中、敵の数が減っていく。
(この戦いを終わらせ、エンパイアに平穏を取り戻す!)
「炎よ、躍れ!」
ステラが凛々しく声をあげながら炎纏いし剣で敵を斬り裂いている。
マントの靡く背を狙いハルバードを突き出した敵兵へと静かな声と冷えやかな黒刃が閃いた。
「すまないが、黒帝に道を開けてくれ」
がくりと膝をつき地に倒れる敵兵。
「ありがとうございます!」
爽涼な風が吹くが如き笑顔を向け、ステラが礼を言いながら黒帝を狙う銃弾を薙ぎ払った。
黒羽は静かに控えめに顎を引き頷くと、颯爽と次の敵へと向かっていった。
「そろそろ頃合いかな」
ユエインが機人の背を優しく撫でて労った。華奢な少女を守るべく傍に立つ機人に安心感を覚えつつ、ユエインはユーベルコードを発動させる。
「叛逆の祈りよ、昇華の鉄拳よ、塔の頂より眺むる者よ。破神の剣は我が手に在り――機神召喚!」
愛らしい声が詠唱を進めるにつれて周囲の地面が盛り上がり、石塊が根こそぎユエインの眼前に集められて巨大機械神の姿を組んでいく。黒鐡の機械神に無機物を吸収された周囲の地形はガタガタになっていた。
「陣形が――崩れるッ!!」
敵が悲鳴をあげている。
「防御力上昇に自動回復。さて、この重さと大きさに耐えうるものなのかな?」
ユエインは巨大機械神に乗り、地上を睥睨した。
(散兵戦術でも取られてたら厄介だったけど……これなら的だね)
変わらぬ表情の中、漆黒の眸が僅かに笑みの花を咲かせる。
機械神が地を爆発させるような音をたて地を割り、拳打つ。ただ一撃。それだけで地が爆ぜて敵が吹き飛ぶ。
「い、いかん……! あんなモノに対抗できるかぁッ」
「下がれ、下がれ!」
混乱する敵陣に機械神がおもむろに回し蹴りを放つ。回し蹴りというにはおよそダイナミックに過ぎる一撃は旋風をまき起こし、敵陣をズタズタに斬り裂いた。
「すごいにゃ」
レフティがにこにこしながら讃えていた。
「おのれ、猟兵どもめ!」
切支丹武者がハルバードを振りかざし雷を呼ぶ。
「にゃーん」
「にゃーん」
「にゃーん」
な……なんと レフティの配下子猫たちが……!?
配下子猫たちが どんどん 組体操していく!
なんと 避雷針代わりに なってしまった!
ピシャーン!
「ええええええ!?」
戦場にいる全ての者が眼を疑う。避雷針代わりに雷を吸い込んだ猫たちは数瞬後、何事もなかったかのようにバラバラに地に戻り、毛繕いを始めたのだった。
「ふにゃー(ちょっとピリッとしたにゃ)」
「にゃー(お仕事は大変にゃあ)」
「ふわわ……ねこさんたち、可愛いデス」
「センパイ、仕事中ですよ」
リヴェンティアとジノーヴィーがいつものようにのほほんとした空気を醸し出しながら、その実は勇猛にちゃんと戦いをこなしていた。
「終わったらネコカフェとか、行きたいデスネ」
ジノさん? とチラリと甘えるような何か求めるような視線を向けるリヴェンティア。きっと付き添うことになるだろう。そんなほぼ確定的な予感を覚えながらジノーヴィーは紫煙をくゆらす。
「ほら働け働けー」
ジノーヴィーは当初の方針通りもうひとりの自分を使ってMcManusの一斉掃射により広範囲に弾幕を張っていた。一見やる気のなさそうな声を出しているが、その仕事ぶりには一分の隙もない。当然だ、後ろにはセンパイがいる。敵を通しはしないのだ。
「目には目を雷には雷をデスっ!」
リヴェンティアが愛らしく両手を付き出し、『Phainomenon・Archean』で「属性」と「自然現象」を合成して眼前に雷の鞭を作り出した。
「全力でぶんぶんスル気持ちデス!」
ひゅんひゅんパチパチと雷の鞭が揮われれば敵兵のハルバードが感電して地に落ちていく。
「危ない武器は取り上げるに限る、デス♪」
パチリとウインクする姿には余裕があった。
「……それで、いつ行きます?」
「!! いつにしまショウ!」
戦場にほんわかと温かな風が吹く。
やがて、最後の敵が倒された。
別動隊は全員が道を駆け抜けて、敵将謙信へと刃を届ける事に成功している。こうして猟兵達は、昏迷の戦場にて立派に作戦を成功させたのだった。
茹だるような暑気の中、猟兵達はやがて別動隊の戦果を知る。そして、歓声をあげるのだった。
グリモアベースに帰還すれば猟兵達が見知った者を見つけては駆け寄り、無事を喜びあって情報交換をしている。
「上杉謙信と戦ってきたよ」
「倒せましたよ!」
「苦戦しちゃった」
その戦いを陰で支えた存在を皆がちゃんと知っている。それは、両方の戦場で戦った仲間達が共に力を尽くし、それぞれの役割を果たした結果の戦果なのだ。
大成功
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