エンパイアウォー⑰~血戦、賽のしめす先
●決戦、安倍晴明
サムライエンパイアでの戦いは熾烈を極めている。
先の一戦への礼とともに、息つく暇もないご相談で申し訳ないのですが、とはニュイ・ミヴ(新約・f02077)。
皆の奮闘の御蔭で、水晶屍人をつくりだした元凶と思わしき陰陽師、安倍晴明が捕捉されたのだ、と。
「場所は現在、強化体の水晶屍人が多数確認されているお城の天守ですね。近くへお送りしますので、どうぞ目の前の事象に集中を」
柱が、壁が崩れ崩壊しかかった城内は見通しこそ良さそうだが、それは相手にとっても同じこと。恐らくは既に勘付かれているのだから、"間合いに入った"時、一瞬の判断が命取りとなりかねない。
かの陰陽師の身体的特徴と考え得る攻撃手段を手短に説明して一拍。
「現地で目にした方もいらっしゃると思いますが……水晶屍人をほんとうに終わらせることができるのは、みなさんだけです」
他の脅威だって同じだ。
心模様は様々だとて、一路、セカイの終わりをひっくり返し駆け続ける猟兵らを敬い眺めるようにして。
緊急時の送還は任せてほしいと胸部を叩くニュイは、それ以上に強く「勝利を信じています」、そうドンと殴った。
溢れるように光が、弾ければ。
●血戦、賽のしめす先
瞬いた其処は嘗ての餓死者の怨念渦巻く、鳥取城。
繰り返し、繰り返しと幾重呪いが塗り重ねられゆく戦場に、またひとつ漂う人影の足取りはざり、ざりと覇気がない。
纏う異国風味の布切れは風に遊ばれている、まるで敗残兵。
ただ、その身から夥しいほど突き出た透き通る水晶の輝きだけが、同じ光に溢れたこの場になお異質だった。
「エンパイアの戦も、佳境の趣でありましょうか」
顔を上げた男は装いに反して血汚れひとつない頬を晒して、死肉のそれではない、生者の気配へ歩みを止める。
首までが結晶に覆われておきながら、屍人らと異なり理性を保って見える横顔――しかしまなこは血の池の如くに淀んでいて。
「これはこれは」
この鼻のよさは。 くつ、と、喉を鳴らして嗤う男。
飽いていた頃だ。"賽も振らずに勝つような存在"と成り果てた己自身に。
山陰を屍人で埋めるか。コルテスが崇める神の偽物でもこしらえて、信長の後釜に据えるか。
戯れに興ずるよりもはやく彼方から出向いてくれたというのだから、はてさて。
「猟兵とやらの怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら――」
御手並み拝見と参りましょう。
陰陽師よりも賭博師の貌。俄かに変わった風向きをこそ迎え入れるように、男は……安倍晴明は、握る刃を哭かせた。
zino
ご覧いただきありがとうございます。
zinoと申します。よろしくお願いいたします。
今回は、戦乱の最中にあるサムライエンパイアへとご案内いたします。
●特殊ルール
陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どのように防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるためご注意ください。
●その他
シナリオ公開時よりプレイング受付開始。導入はございません。
戦争日程上、問題のないプレイングでもお戻しが発生する可能性がございます。(目安まで、先着順ではなく~十名様ほどを想定)
基本的には個別判定となりますが、共同プレイングや展開次第ではその限りではございません。
補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:草彦
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
花剣・耀子
嗚呼、そうね。
怒っている。
あたしは、怒っているの。
この戦争は気に食わないことばかりだけれど――……おまえは、別格よ。
駆動音。空気の震え。刃が弾くひかり。
ねえ、その剣は良く知っているのよ。
初動の予兆を見逃さない。
此方の致命を狙う刃を機械剣で咄嗟に祓って、
続く一撃を残骸剣で逸らすわ。
死ななければ其れで充分。
傷を負わない事よりも、お前を斃すことのが大切よ。
振り切ったその時が一番の好機。
見目にはとらわれないわよ。
おまえ、どれだけの業を負ってきたの。
そこに在るすべてを斬り果たしましょう。
何が気に食わないって、まるで此処には居ないみたいな態度だわ。
在るなら観念なさい。
その手をここまで引き摺り降ろしてやる。
「嗚呼、そうね。怒っている。 あたしは、怒っているの」
戦い続きでズタズタのセーラーで。
よく似て非なる得物に寄り添って。
花剣・耀子(Tempest・f12822)は、佇んでいた。
「この戦争は気に食わないことばかりだけれど――……おまえは、別格よ」
『別格、と。惚れ込まれたものです』
それでは、私の"特別"とも為ってくださいますか?
チェーンソーの駆動音、空気に伝わる震え、刃が弾く、 ひかり。
襤褸はやわく揺れ首筋目掛け突き出された一太刀目。果たして耀子の意識が指に指令を飛ばすことと、ひとりでに核たるUDCが目覚めること――どちらがはやかったろう。
いずれにせよ"機械剣"により致命を逸れされた鮫牙に近しい刃は、肩から胸を惨く抉りながら突き抜けず止まって。
次が左。娘の視線はなだらかな軌跡に惹き寄せられるかの如く僅かも遅れず、
「生憎」
幾重にも封をされた"残骸剣"が受けて流すまでが、ひと呼吸のことだった。
どくどくと血が紺の色味を深めてゆく。
だとして、出力を上げたクサナギが求むは対峙する化生の穢れきった御魂のみ。二刀が振り抜かれた隙間に通す駆動刃は、今しがた刻まれた傷をそっくり刻み返し獰猛に咆える。
縮まった間合いの分幾らか深い――片手で足りぬなら両の手で。押して進める。護りを度外視した一振りが足元でからんと乾いた音を立てるのを、淀む赤目が見下ろした。
『気丈な御仁だ。痛みませぬか? ひとの、涙は零れぬのでしょうか?』
「貸しよ」
血も肉も痛みも。業の他になにも持たぬおまえに。すべて斬り果たし、最後に得るのはあたしだから。
射貫く眼差し。
『其れはまた』
もう一拍見つめ合うなら諸共ブツ切り肉。予見し晴明は、先に突き立てていた刃を捻りつつ引き抜き、弾き上げるため打ち合わせる道を選んだ。
「何が気に食わないって、その、まるで此処には居ないみたいな態度だわ」
在るなら観念なさい。
――その手をここまで引き摺り降ろしてやる。
飛び退く男へは空間を裂く白刃が追い立てる。なにをも厭わず腕を揮い、弾みで飛び散った耀子の血飛沫がてんてんと床に斑点を描いていた。
削れながらも躱した背で壁が砕かれ光が差し込めば、自らが散らされた水晶の方がずっと多いこと、肩口に手を触れる不死者は得心した風に吐息を零し。
『く、 』
成程、――成程。
幕引きには未だ惜しい、之があなたの怒り。
成功
🔵🔵🔴
鹿忍・由紀
人の怒りで心が動くものなんだね
俺にはよく分かんないなぁ
その気持ちも、怒りも
つめたいつめたい青い瞳
敵の先制攻撃は見切り、ダガーでの武器受けで流して致命傷は避ける
激痛耐性で動きを鈍らせず
この世界の人々の事は別にどうでも良いし、
アンタに恨みがあるわけでもない
…いや、あるか
今こうして面倒事を増やしてくれてるもんね
次の攻撃は学習力、カウンターで対応
その動き、さっきも見たよ
影朧による高速移動で避けるついで、瞬時に懐に飛び込む
ダガーでフェイントの一閃
追従する残像で本命の一閃
あーあ、こんなに硬くちゃダメになっちゃいそうだ
すぐに間合いを取って刃毀れを気にしながら気怠げにダガーを握り直す
ねぇ、心が動いたら教えてよ
いま、すこし笑ったろうか。
相対す安倍晴明とやらはああやって、ひとの怒りで心が動くらしい。
「俺にはよく分かんないなぁ。その気持ちも、怒りも」
つめたく水青の瞳はなにをも棲まわせず、鹿忍・由紀(余計者・f05760)の閃かせた短剣の方がよほど、猛り唸りながら風を裂いて巡り合った刃と表層を削り合う。
僅かに上振れした隙間へ猫に似てにからだを滑り込ませて、髪色とも近いコートのファーがさっくり風に舞うのをどうでもいいことのように考えていた。
この世界の人間のことと同じくらい。
眼前の男に対してだって、さしたる恨みなど持ちやしないし、と。
「……いや、あるか」
反転、ざりりと床が捲れて、軸足が板を踏み抜いた。腐ってるんじゃないかなぁなんて上の空だから、潜った先で握り直したダガーは無意識に近い。
――こうして面倒事に付き合わされていること、礼をしておかねば。
『それは僥倖。是非、ご披露なさってくださいませ』
「一度きりね」
錯覚とも思えるほどの半瞬限りふわと金糸が躍るのは、風ではなく帯びる魔力。
振り下ろされた初太刀を理外れた――まるで未来予知のような――踏み入る最小限の"ズレ"によってのみ由紀は躱す。
影朧。 ユーベルコードに引き上げられた潜在能力は瓜二つの残像を伴って……。
ぱち、
と、陰陽師が物珍しげに瞬いたそのときには身を抉り抜いていた。"実体"の一閃は綺麗に弾いていたものだから、まるい赤目は手品でも目にした童に似て。
『存外に、焼け付くようであらせられる』
そうしてゆるり細められた。
追い縋る駆動刃に切り捨てられる残像を捨て置き、荒らすだけ荒らし吹き過ぎた当の男は、蹴散らしてやった水晶が降りかかるのを余程迷惑そうに手で払ってダガーの握りを確かめる。
「あーあ、こんなに硬くちゃダメになっちゃいそうだ」
一度だなんて嘘ひとつも悪びれず、白んだ刃先を指で辿ったあと気怠げに向き直るのだ。
ねぇ――心が動いたら教えてよ。
割れた水晶の奥を眺め透かす。長い付き合いとなりそうな"理解不能"に、せめてものたのしさを見出すかの如く。
大成功
🔵🔵🔵
芥辺・有
悪いが私は怒りってほどのもんはないさ
私にあるのは旨い酒屋が減っちゃ困る程度のものだよ
それにわざわざお前の心を動かしてやる必要もないだろう
攻撃は致命傷のみを第六感で感じ、見切るように
血など溢れさせておけばいい
うじゃうじゃ現れる水晶屍人には道を開くように杭を振るい、蹴りを放つ
襲い来る屍人には、杭に繋いだ蚦蛇で捕まえた他の屍人を盾にして
一石二鳥ってやつ?
致命傷のみを避けてれば幾らか傷を負ってるだろう
流した血からずるりと烏を喚び出して
指差し向かわせる先は一人の男のみ
脇目なんか振らずに食い千切れ。その男だけを
屍人を振り切って男へ辿り着いたなら、よく動きを観察しながら
隙ができる瞬間をただ狙って……串刺しだ
悪いが私も怒りってほどのもんはないさ。
重ねたか継いだか、芥辺・有(ストレイキャット・f00133)。声が落ちると、その身が駆け出すは同時。
明確な殺意に浸された足首を掴むべく瘴気の濁る床下から亡者の手が突き出すのを、雑草同然踏み散らす。
「私にあるのは旨い酒屋が減っちゃ困る程度のものだよ」
わざわざその心を動かしてやる必要もない、そう、"肉壁"の向こうを見据えながら這い出来た罅割れ頭蓋に更なる罅を刻む黒塗りの杭。
別な手が割れた爪で腿を引っ掻いてゆくのに、叩き下ろしたそれが複雑に折り畳んだ。突き出た骨もうすべにの棘のようであったか。一瞥もくれず、女は道を切り開く。
オァゥ、ァ、と嘆きが間近に迫り伸び来た腕が背から抱き込む風に纏わったとて。
「お前たちもだ」
一度、死ねば神などと信じ切れぬように。
一度、死した者なら識らなくてはならぬ。
――生者に触れる禁忌がなにを意味するか。 あわや首筋に食い込まんとした牙を、振り上げた肘で打ち砕く有。杭は自然翳され、凹んだ頭蓋が中で骨を遊ばせてからから笑うのを塗り潰すのは黒に繋がれた鎖の音。
蛇が地を這うかの如くにざりざり這い廻ったそれは、宙を一周する頃には地面ではなく屍人らのからだに着地していた。
巻き上げる。 引き寄せる。
正面から両手を広げ迫る一体に、殴りつけるようにぶつける。腐肉同士が弾け乾いて響く横を突き抜け真っすぐと、周囲の、己の血の線を引き駆け来た女の道がそのとき、ずるりと蠢いた。
「……食い千切れ」
こんじきの双眸が指す。
ゆびの先で、見世物を眺むみたく手を叩く陰陽師の手と手が次に合わさることはない。三足烏――血の代償を支払って顕現した怪鳥が、矢の如く喰らい付いていたから。
『――これは』
「くれてやるよ」
手指とともに啄まれ、調子外れたチェーンソーの叫び!
それは、蹴り倒した屍人を足場に弾丸めいて飛び出した有の横腹にすうと吸い込まれるも。
刺し違える形でより深くへと突き立っていたのは、怒りなどとよりずうっと明快な――色付くほどの死に塗れた、愛無き杭であった。
成功
🔵🔵🔴
冴木・蜜
有りっ丈の毒を濃縮
晴明の挙動をよく観察
攻撃の癖などを分析しつつ
五芒符を全力で回避…するフリをしましょう
いえ、全力で躱しますが
直撃して脱落したと見せかけます
全力で回避したものの、失敗した体を装い
符をモロに喰らう直前に黒血を撃ち出し相殺
同時に『無辜』で体を気化
目立たなさを活かし
部屋の闇に紛れ一気に接敵
完全回避が理想ですが
まぁそう上手くはいきますまい
相殺に失敗してもその激痛を耐え忍びます
晴明の注意が逸れた隙に
頭上直近で気化を解き
液状化した毒腕で晴明を包み融かし落とす
私は死に到る毒
この一触れに全てを注ぎ込む
不死とは――言い換えれば
死ねないのでしょう?
ならば…存分に苦しんで下さい
鳥取城の彼らと同じように
エンジ・カラカ
アァ……そうかそうか。
お前が噂の。なんだっけ?
何でもいいや。
賢い君、賢い君、行こう行こう。
二つの武器。綺麗に切れそうな獲物。
まずは誘き寄せ。味方が攻撃しやすいよう敵サンの目を向ける。
両方避けれ無くてもイイ。片方に集中をするンだ。
片方の刃に集中して見切り。
片方は受けてもイイ。避けれたら避ける。
その隙に味方が攻撃を仕掛けるコトが出来れば万々歳。
出来なくても瀕死になれば君が力を取り戻す。
まそほ、出来るよなァ……。
アァ……そうだそうだ。
コレは勝たなければいけない。負け戦はダメなンだろう?
屍の数は数えておいた。
両手も両足も何度も指折り数えた。
墓も作った。
だから今度はお前の墓も作ろうカ。
もっとあーそぼ。
天之涯・夕凪
「持ち帰る」…以前の、あの、ドクターオロチも似たことを言っていましたね
さて、貴方がたの帰る先は何処かは存じませんが、其れをやらせる訳にはいきません
先ずは骸の海へとお引き取り願いましょう
敵の攻撃は敢えて受けます…が、さすがに直撃されると一撃で戦闘不能も有り得るでしょう
一撃目は、とにかく直撃だけを避けることに注力します
戦闘の続行が可能であれば、痛みについては耐えましょう
私の血肉は差し上げます
けれど、ここは痛み分けにさせて頂きますよ
骸津海を発動
今頂いた痛み…貴方が強いお陰で、その分、私も強くなれます
有難う
そして、これはお返しですよ
後に続く方のため、相手を地形から退かしましょう
聖痕を腕に
全力で殴ります
●
今しがた黒が駆け抜けた床に、新たな黒が飛び散った。
血よりもどす黒い。冴木・蜜(天賦の薬・f15222)のタールのからだ。
「お相手いただきましょうか」
先達に押し込まれた晴明の周囲には幾重もの符の壁が展開されている。
直後にそれが己へ向け撃ち出されることも、すべて避け切ることが叶わぬことも、蜜は理解していた。いいや。利用してやる考えでいた。
(「一片でも、私が私であればいい」)
ただ真っ直ぐに飛び込むひとの無謀さ、或いは、恐れを知らぬひとと程遠いもの。符の嵐に包まれるブラックタールは瞬く間に千々に裂かれてしまって――。
あとに残るは燻ぶる黒の霧。
一瞥した陰陽師は、興味の失せたかの如くに視線を外す。次なる伽の相手が迫っていた。
『千客万来とはこのことでありましょうな』
「さて。貴方がたの帰る先は何処かは存じませんが、其れをやらせる訳にはいきませんので」
持ち帰る。以前に戦った者の同じ台詞を頭の隅に浮かべながら、先ずは骸の海へとお引き取り願いましょう――しずかな物言いは天之涯・夕凪(動かない振子・f06065)。
迎えるは駆動音のみならず、新たに零れ出た怨霊伴う符の群れだ。
生きたいと、報いねばと怒るままに如何なる奇策を披露してくれるのか?
きっと好奇に輝いた陰陽師の期待は果たして裏切られ、なんといったって夕凪もまた、その整った頬に怨みの爪が食い込もうと腹に牙が立てられようと、眼差しを泳がせず突き進むのだから!
……罪も呪いももう飽くほど。
膝を砕かんと迫る薄暗闇に伸べる手を喰わせるのは、なにを捨てるべきか知っているから。
「今頂いた痛み……貴方が強いお陰で、その分、私も強くなれます」
ありがとう。符の間に視認できるほど詰めたとき、抉られた肉より露出した歯の並びは上機嫌な笑みに似ていた。
捲れた諸々などくれてやる。振り上げた刹那に飛び散った己の血肉を浴びながら、
「そして、これはお返しですよ」
ごうと湧き立つスティグマ。
導かれる風に彩られかたく握り込んだ残る拳を、突き出す。単純でいておよそ烈しく、暴力的な動作。
そこへ力を与えるものは、骸津海――現在に至るまでに屠ってきた者より引き受けた呪怨の類と、いま、"次に屠る相手"より与えられた新たないたみ。
殴打などというより突進に近かった。
ぐ、と、息を漏らして晴明の身が折れ曲がる。夕凪の視界の端には自らを覆わんと迫る符の雨霰も映ってはいたが、避けるよりも押し込む一瞬を選び、共に塗れる白の嵐。
はたはた騒がしく舞うから、鳥葬のようだ。
"鳥"が去れば残るは哀れな――けれども、抉り抜いた拳は胴を離れ、まだら模様となっても深々突き立ったまま。
その覚悟を継ぐか。
「不死とは――」
なにかが、崩れ落ちた青年の隙間を埋める。戦場に漂う、怨念と同化するほど昏い色香をした霧が直上より、質量を伴い晴明へ降ったのだ。
白いまま穢れぬ衣が躍って、それは気化を解除した蜜のおどろおどろしく膨れ波打つ毒腕。
『おや、』
「言い換えれば、 死ねないのでしょう?」
すこしぶりにひとの言葉を吐いたから、吐き出すものと相俟って、ごぽりとそれは淀んだ。
私は死に到る毒。
黒く黒く、包み融かして落としてしまえ。
……願って已まぬ生き方と対極に位置することを今このときは是として、戦えることを善として、おひとよしの怪物は捉えた術者の肉体を締め上げる。
「ならば……存分に苦しんで下さい。鳥取城の彼らと同じように」
『嗚呼――嗚呼。死にぞこないの多いこと。いけませぬ、斯様に死へ焦がれてしまわれては』
愉しみ甲斐がない。
"彼ら"とはまるで違う。 ごきりと骨だか石だかが鳴って。つと、嘆息する陰陽師の指が札を切っても。
蜜は最後まで解きも瞬きもせずに、その爪の先までが、確かな己の色に冒され染まるのを見ていた。
吹き飛ぶブラックタールの残滓に紛れながらひとりの獣がそこへ飛び込む。
よほどボロボロの装束。しかし、踏み込みは眼前に在る"死者"のそれよりずっと速い。
「アァ……そうかそうか。お前が噂の。 なんだっけ?」
覗き見る。
唸る刃へ間近にて首を晒して、唇よりもチリリ横線引かれた傷口が赤く笑うのだ。分けてあげよう、食べてご覧、地獄の底の果実を喰らえば戻れることはないけれど。――そう、
「何でもいいや」
エンジ・カラカ(六月・f06959)の身体が触れた刃以上に、噴き出す鮮血に押されるように大きく傾いだ。
二刀のうち片側の刃は目標を見失い、その頭上を過ぎてゆく。
言葉の最後はヒュッと掠れ、恨み事でも聴けたものをと惜しむかの如くに陰陽師の寒々しいまなこと交錯する。
「ま、そ ほ」
たすけて?
ごめんなさい?
ころさないで?
否、否。笑わせる。そんな言葉になんの意味もないこと、エンジは"故郷"でたくさん学んだ。
故に吐くならば、もっとあそぼう(ころしてやる)。
くすんだ赤。 割れた傷から蔦が炎が這い出るかたちでぶわりと紋様が広がる。
同時にそれは鳥の姿を成して、ふらと風に揺れる主を後にし羽ばたく先の晴明へ突き立つ。首のちょっと下、似たような痕、ニタリと次こそ満足げに笑う狼男のローブは尻尾同然はためいて。
「食べ た、なァ?」
ジュッと煙を立て溶け込むまほその鳥が、いらっしゃいませと燃ゆる毒をも馳走した。
死に近づいてこそ意義のあるユーベルコードは、さぞ甘美であったろう! 更にと晴明の刃が振り抜かれるも狙いは僅かにブレていて、自分産の血の池を転がるように滑るエンジには間一髪で届かない。
そういえば、これから死ぬものの名なんてものよりひとつを思い出した。
「コレは勝たなければいけない。負け戦はダメなンだろう?」
屍の数は数えておいた。
両手も両足も何度も指折り数えた。
墓も作った。 そうだ、そうだ。其処にひとつ足りぬのは。
「だから、今度はお前の墓も作ろうカ」
どろり、
溶ける水晶の首に映り込む四足のケダモノの血は、依然、遊び足りぬと赤々。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ジャハル・アルムリフ
長寿も利点ばかりではない、か
もはや漂うだけの生なら
いっそ潔く
残念ながら賢しい手など己の裡にはない
晴明を正面に捉え、黒剣を手に駆ける
地を蹴る脚にも怪力乗せ、加速を助け
晴明の一刀目が振るわれるに合わせ
越えられずとも防がんと、切っ先見切り
武器落としと破壊を狙い
全力で黒剣を打ち付ける
及ばずならば只耐え
刃の一部でも毀れさせるか一瞬でも逸らせたなら
僅かで良い、その反動も利用し二刀目から身体を躱す
凌げれば間髪入れずの【竜墜】
一撃では斃し切れずとも
あわよくば溢れる怨霊どもの亀裂なぞも砕き、塞ごう
退屈そうであるな
貴様よりも屍人らの方が余程「活きて」いたぞ
賽も振らず勝者を名乗るなら
如何様師と変わるまいよ
アルバ・アルフライラ
水晶の骸を操りし者
…よもや彼奴も同類であったか
五芒符なる紙片は極力避けたいが
然すれば彼奴に更なる力を与えてしまう
ならば――初撃は受けるしかない
破魔で叶う限り符の威力を削ぎ、呪詛耐性で業を凌ぐ
この身裂かれようとも激痛耐性にて気絶だけは避ける
自慢出来る事ではないが…砕ける事には慣れているでな
四肢の一本でも残っていれば、それで良い
それだけで勝利へ導く魔方陣は完成する
高速詠唱による、全力魔法の【愚者の灯火】
逃げられぬよう晴明を包囲する様に布陣
っは、地獄の業火なぞ貴様等オブリビオンには温かろう
――無辜の民を辱めた報い
その身に流るる冷血が燃え尽きようとも贖えると思わん事だ
貴様の為した不徳、骸の海で猛省せよ
●
五芒星を描く符が瞬く。
覆い潰さんと迫る宛はアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)。
(「水晶の骸を操りし者。……よもや彼奴も同類であったか」)
周囲へ転がる残骸に、いまは胸裡のみで瞼を伏せ。
"予定通り"に蝕まれながらも、迎え撃つべく、星追いのつるぎは紙片の合間より淡いひかりを零しながら宙を縫った。
砕ける音。 踏み出す足はブレず。
砕ける音。 膝をつけど逆の手が支える。
やがて輝くはイグニス・ファタス――灯火は爆発同然、一息にその熱量を広げすべてを呑み込む。一瞬、当人もろとも陰陽師そのものをも消し飛ばしたかの炎は術士たるアルバが全身全霊を込めての一手。
次にはぱちぱち燻ぶる音。
『なん、と』
「っは。地獄の業火なぞ貴様等オブリビオンには温かろう」
――無辜の民を辱めた報い。
その身に流るる冷血が燃え尽きようとも贖えると思わん事だ、そう、睨み据える瞳は数多の彩を取り込んで光る。
いまや這い蹲るばかりの姿は、また無茶をと窘められるだろうか。――それもよし。
呪符より喚び出された亡者の念に裂かれ砕けた身を引き摺り、尚も、アルバは腕を持ち上げる。
そうとも。 腕一本残れば構わぬとはじめからそう考えていた。這い、最後に、剣杖を打ち付けたその場にて、己が宝石粉で引く魔法陣は完成した。
――泳がせていた全弾を打ち込むために指し示す。
――すると灯火は、今日一番うまそうに晴明へと群がる。
そうしてアルバという男は罅の走った頬を軋ませ、ふふん、と。なんてことのない、いつもと変わらず鼻で笑うのだ。
「貴様の、為した不徳。骸の海で……猛省せよ」
『……口の減らぬお方であらせられる』
己のからだでできた輝石の海へ沈み、ついに瞳を開けてはいられなくなった気高き身へ、幽鬼の如く歩み寄る陰陽師の装束はもはや襤褸とも称せぬほど裂け、焦げ、燃え落ちていた。
奥に隠されていた水晶も同様、大小様々の穴に罅。あまりの高温に、垂れ落ちる成分が血か何かのようだ。
『お眠りになるのならば、より静かな閨へお連れいたしましょう』
さりとて微笑み。
永劫の、と、駆動刃が唸って宝石を砕かんと――。
した、 とき。
どっと確かな手ごたえ以上に、晴明の口元をずっと歪ませるものがそこにはあった。
『これは――くくっ、学びませぬなぁ。人というものは』
落ちたアルバに影を差し。
立ち塞がる竜人こそがジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)。
「長く生きたところで、届くと思わんことだ」
賢しい手など端から持たぬ。肩口から血が噴き出そうと、渾身で振り抜き、寸でで打ち合わせたつるぎを握り退かぬ愚かさが同時に男の美徳でもあった。
『好ましい、瞳をしておいでです』
燃え滾るような――覗き込む風に、受けた駆動刃に体重を乗せんとす晴明であったが、不意にその腕の力ががくんと落ちる。
僅かな間なれど先達らが、師が刻み付けた傷が鈍らせた証左。見逃すジャハルではなく、滑らせる所作で斜めへ打ち上げる黒剣で大きくその構えを崩した。
踏み込んだ足元で床板が砕け。
弾かれるでなく"放り捨てた"黒剣は円を描き、床を削りながら滑る。かわりに握る五指はなにをも掴まない。竜墜――覚悟の他にごうと湧き出る鱗と呪詛、のみあれば。
キィ、 。
哭いたつるぎが壁で跳ねたとき、突き出したジャハルの拳は、晴明の身へ埋まっていた。
『グ、 ゥ』
「……退屈そうであるな。貴様よりも屍人らの方が余程"活きて"いたぞ」
結晶がはらはらと削れ落ちる。
相も変わらず輝かぬまなこが瞬いて己を映したとき、自覚している男よりもずっと獰猛な竜が其処にいることを、ジャハルは知る。
不死だと云ったか。
「賽も振らず勝者を名乗るなら、如何様師と変わるまいよ」
爪を立て、抉り取るように引き抜いた腕にぞるりと骨か臓物めいた物体が続き、大量の組織液とともに地面へ落ちた。
視界の端で指が跳ねるのを見、殴りつけて広げる間合いをチェーンソーが袈裟に撫でてゆく。大幅に狂わされたそれは"つくりもの"の尖角を砕くこともできずに空を切って。
「貴様の敗けだ。安倍晴明」
……活きて。
血を零しながらも吐いた息は、いつからか、こんなにも熱かったらしい。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
メボンゴ=からくり人形名
屍人を作り出し使役するなんて命への冒涜だよ!
憤りを感じるけど今は冷静にならなきゃ
召喚された屍人に炎属性付与したメボンゴ波(メボンゴから出る衝撃波)を二回攻撃+範囲攻撃
一度に多くを巻き込むように
可能なら晴明も
できれば合体前に倒したいところだけど数字が大きくなった屍人を優先して狙う
敵からの攻撃は衝撃波をぶつけて勢いを削ぎながら武器受けやオーラ防御
呪詛耐性あるけどなるべく防ぎたい
晴明のUCを凌いだら早業でワンダートリートを二回攻撃で晴明の動きを阻害
距離を取り炎属性付与した弓矢で二回攻撃
逆効果なら属性なしに変更
後に続く猟兵たちの為に少しでも消耗させておきたい!
コノハ・ライゼ
ああ、あの水晶屍人とやらの――
怒りと呼ぶかは分かんないケド
どうにも、腹が満たされなくてネ
次に繋げる為敢えて攻撃を受けるヨ
モチロンただ受ける訳じゃナイ
攻撃の軌道読み『見切り』致命傷は避けつつ、『オーラ防御』で傷を最小限に抑えるさ
なんせパワーアップされちゃあ厄介だ
耐えたら即「氷泪」から血色混ざる紫電奔らせ喰らいつき『生命力吸収』
傷の穴埋め狙いつ同じ攻撃誘い
『カウンター』で影より【黒喰】生みぶつけていこう
この子は術が、オレはアンタらの命が、好物なんだよネ
物理攻撃は物理(柘榴)で受け弾き
先に刻まれた『傷口をえぐる』よう、また紫電を深く撃ち込もう
飽いただなんてつれないコト言わないで
もっとオレを満たしてヨ
神埜・常盤
かの高名な安倍清明と対峙できるとは
陰陽師冥利に尽きるなァ
さて、どんな技が出てくるのやら
五芒符はオーラを纏った護符による盾で防ぐか
影縫での武器受けを試みよう
溢れ出る怨霊は破魔の護符を投擲し無力化したいなァ
――さァて、僕の術もご覧にいれよう!
マヌカンの御婦人よ、準備は宜しいかね
奴に同じ技を喰らわせてやれ
サァビスだ、護符にはマヒの毒を滲ませてくれよう
序に僕からも護符を幾つか投擲してフェイントを
降り注ぐ護符の雨に紛れて接近すれば
闇を纏った影縫にて捨て身の一撃で串刺しを
叶うなら奴の身体を覆う水晶の一端を部位破壊したい
陰陽師は魔を払う者じゃないのかね
それが水晶屍人なんて邪法を生み出すとは
――恥を知り給えよ
●
「屍人を作り出し使役するなんて命への冒涜だよ! 絶対に……」
絶対に、許せないと握りしめてしまう拳に、儘、現れる憤り。
落ち着かせんと逆側の手で触れながら、同時にその指でメボンゴとの名を持つ愛らしい淑女人形に指示を伝え、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は迫る屍人へと立ち向かう。
生まれの旅空の黒を見上げて育った。いままで色んな世界で戦いをしてきた。
震えたり、泣いたりするほど弱くない。心は――それでも希望を求めること、弱さだなんて呼ばせはしない。
「おねがいっ」
こくりと頷いたメボンゴが舞台の上へあがるように、瓦礫の上へとぴょんと飛び出せば華麗なターン。ふわり、ドレスが膨らんで……そこから波の如く吹き抜けるのは、意外なほどにごうごうと燃え盛る炎孕む風であった。
『冒涜、冒涜……惜しいものです。同じ傀儡遣いとして、通じ合えそうなものでございましょうに』
「ひとつも分からない、お前の考えなんて。分かりたくもない!」
ちょうど屍らの足元の高さか。
鋭く、風に裂かれた肉塊は膝を折って前へと折り重なりながら倒れてゆく。それが山のように積もるのに、苦々しく唇を噛んでジュジュは駆け抜ける。
片手に糸を手繰り、もう片手には仕事道具。こと、投げナイフ。追い縋る腕がスカートの裾を掴むのを、ぐっと握る刃で断ち切って、そのまま投擲する先は陰陽師。
木製の柱はよく刺さる。
男が背にしていた柱に衣の端を縫い留められた一瞬、その隙に金の弓へ番える矢。日常へと心を寄せる風にひとたび深呼吸すればすうと狙いは定まり、
「――分かるべきなのは、そっちだ」
爪弾く。
一射目、間へ躍り込んだ屍の頭部を貫き落とす。その後続もまとめて床へ。
間髪入れず二射目。矢は宙を翔けるうちたちまち燃え上がり、振るい手の念を灯したかの如くに赤々と、罅の入っていた胸元の傷へ深く、深く傷を重ねた。
尾を引きながら揺れる炎。心の臓が其処にあるならば、この男の退屈ごと、酷く醜く燃え立っている筈の。
『多芸でいらっしゃる』
我が身を庇う素振りで後退した晴明より、屍人をも巻き込みながら代わって撃ち込まれんとした呪符の雨。
それは娘の後方より、同じだけ舞い込んだ護符の嵐により混ぜ返される。
「いやはや。完全防御とはいかないか、参ったねェ」
「常盤さん!」
まったくもって"参った"様子のない聞き馴染んだ声!
やぁ、と元より人を喰ったかの三日月をした瞳を更に細めて、ちょいちょい。神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は自分の頬を指し示すことで、ジュジュに付いた傷を伝え。
このくらい、と拳の腹で頬を拭うのに頼もしげに笑みを深めれば、今しがた撃ち落とした呪符らを足蹴にしては歩み出た。
「それにしても、かの高名な安倍清明と対峙できるとは。陰陽師冥利に尽きるなァ」
そうして前へ伸ばした手で、一枚を皺が寄るほどつよく掴み取れば破魔の力で塵へ帰す。
さらさらと灰が零れ、開けば空いたその手を恭しく取るように、ひとりの淑女が――淑女の姿をした無貌のマネキンが音もなく舞い降りるのは直後。バッスルラインのドレスは優美、流れるままにふたりはステップを踏んで、それから。
「――さァて、僕の術もご覧にいれよう!」
マヌカンの御婦人よ、準備は宜しいかね。
手を離し送り出す刹那、人形の隙間という隙間から溢れ出るのは符。符……、セーマン印の、すなわち"模倣"であった。サァビスだとそう滲ませた痺れ毒に、振り払う陰陽師は聡く勘付いた様子。
『ほう? ……奇術師の類でありましょうか、猟兵とは随分と賑やかしい生物でいらっしゃる』
「そうかい? そちらの屍人などとよほど騒々しいじゃあないか、ああ、まったく……」
――恥を知り給えよ。
陰陽師とは、魔を払う者である筈だ。
それが水晶屍人のような邪法を生み出す……、後にして久しい家だとて、外道を前に何も感じぬほど血は裏切れない。
胸元より引き抜いた護符で寄る辺なき怨念が降りかかるのを滅しながら、反対にその分ののろいが濃縮されたかの闇を纏う影縫を抜いて。
「そうだ」
転がる屍で躓く風に敢えて"崩して"懐へと転がり込む。
チェーンソーが頭上を薙いで過るのを、笑い、
「その得物もイメージを崩しかねんので、おすすめはしないな」
どっと肩で押し入れるかたちの体当たり。 黒の針が、突き抜けた背に蓄えられた水晶をも音を立てて砕いた。
陰陽師。
それと名高き男がヒュッと空気を鳴らしたのは、神殺しの二振り目による風鳴りか苦しさに漏れた呼気か。
だとて、次なる音は鈍く柔くは響かない。
「ウチの子たちが世話ンなってるネェ?」
真っ赤に熟れた色の柘榴は刃。捻じ込み、受けたコノハ・ライゼ(空々・f03130)がくつくつと笑うから。
奇縁に三者の目配せは束の間。
なにか――、疎むかの如くに、これまでの軌道より幾分荒く振り払わんとす清明の回転刃をみとめたとき、コノハはむざむざそれに身を晒した。
「まーぜーて。 楽しませてアゲル、骨になるまでな」
腹への横一文字。しかし計算され逸らした致命傷は次へのバトンに過ぎない。烈しく血が飛沫いて、東雲の髪に別な色を増やしても、顔色に青は増えぬのは。
――瞳に飛んだ赤と混ざり合ったようだ。
氷泪……、右目より紫電が迸り、真っすぐに陰陽師の喉元へ喰らい付けば。
「ごちそーさま」
間近に迫っていた唸る二刀目は肉でなく影が迎える。 ユーベルコード、黒喰。暴食の狐は、牙の並ぶ口をばくりと開けてチェーンソーの刃を大きく噛み砕いた。
『管、』
「かわいーデショ。――ネ」
この子は術が、オレはアンタらの命が、好物なんだ。
告げて今一度迸る雷光は、清明に贈った先の傷を抉りながら押し広げる。反対にいつだか血の固まったコノハが腹の傷をぽふと撫でる様が、食い足りぬ童がそうするよう。
水晶屍人とやらのこと――怒りと呼ぶかは分からねど。どうにも、満たされぬのは分かる。
だから。
「飽いただなんてつれないコト言わないで、もっとオレを満たしてヨ」
刃毀れしたチェーンソーの背を鈍器よろしくぶつけられ、妙な音とともにぐらり地に爪を立てながらも、尚も首は胴に乗っかったまま嗤う妖狐は時代が時代ならば陰陽師の退治すべき案件であったが。
いまは猟兵として。
よく似た影狐を伴いて、追い立てる狩人の爪牙は鋭く。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ヘンリエッタ・モリアーティ
【清暗】
あまり好みでないわ。どの辺がっていうと
人間を舐め腐ってるところ、とかかしら
冷静に【実行犯】で相手を。
Arseneのヘイト稼ぎが成功するまでは私も彼のそばで待つわ
それから心苦しいけれど、灯理の「右腕」を切り落とします
――はは、私のつがいの腕一本とお前の命一個じゃァ釣り合わない
此処で殺す。必ず、果たす
「フォン・ヘルダー」で怪力と二回攻撃を組み入れて
弱体化に成功した水晶屍人をすべて斬り伏せてやる
灯理、――背中は任せた
追いついてこいッ!!
壊して壊して、壊しつくしたら魔弾のお嬢さんの出番だ
さあ、――撃ち殺せッッ!
覚悟が違うンだよ、お前にもう一発だまし討ちで叩き込んでやる
絶滅だ。――絶えて死ね!
鎧坂・灯理
【清暗】
ハティ/f07026 Arsene殿/f01172 ミス・魔弾/f18713
なんだ、つまらなそうに見るじゃないか
馬鹿にしてくれる
屍人が量で来る内は念動力と『朱雀』で対処
Arsene殿が必ずうまくやるはず
合体したらハティがUCを使う
腕の痛みは脳をハックして麻痺させる
仲間割れと見て意表も突けそうだ
UC発動 代償は先の右腕
水晶屍人の水晶を怪物の頭部に変え、共食いさせる
吸収したエネルギーで私は腕を生やす
屍人さえなんとかすれば、あとはミス・魔弾の独壇場
…の、つもりだったが
ハティに言われたなら是非も無い
唸れ『白虎』 追いつき、並べ
全力の念動力で押し潰してやる
我が覚悟を見るがいい
地を染めろ、安倍晴明
式島・コガラス
【晴暗】
安倍晴明……自らの所業を悪と置くでもなく、明白な目標意識を持つでもない。
その凡庸さ、無自覚性こそがこの世で一番の害悪。必ず消します。
水晶屍人が現れても銃は撃ちません、最低限の護身術だけで対応します。
多少の負傷は構いません。ヴィクティムさんの引き付けが成功し、狙い通りに敵が水晶屍人を束ね始めたら頃合いです。
私は屍人ではなく、晴明自身を狙います。どれだけ合体しても所詮は屍、主を庇うような知恵など持ちあわせようはずもない。
五発、私が撃ちこめる全弾。その心臓に撃ち込んであげましょう。
私の【呪殺弾】は相手が何であっても傷を与える。逃がしはしません!
ヴィクティム・ウィンターミュート
【清暗】
テメェは必ず殺す
陰陽師を気取るな、紛い物が
来やがったな、水晶屍人
こちらは4人──なら、まずは数で押してくるだろう
全サイバネ【ハッキング】で強化、出力オーバーロード
【ドーピング】でコンバット・ドラッグを摂取
【挑発】と【おびき寄せ】で水晶屍人のヘイトを貰いながら
【ダッシュ】【早業】【フェイント】【見切り】【武器受け】で高速機動しつつ、いなす
【カウンター】適宜反撃を入れて、【毒使い】【マヒ攻撃】で弱らせる
攻撃に隙間ができたら、ナイフを一本投擲し──影矢の要領で、UCのウィルスを撃ち込む
召喚自体は防がない、が…
"合体"は後出しでも『反転』できる
合体すると数字が差し引かれ、弱くなる…ってな?
●
眼前には洪水のような人の群れ。
そのだれもかれもが腐っているなんて、B級ホラーかと寒々しく嗤ったのは誰だったか。
なにせもっと"低俗"なモノが其処にいる。
「テメェは必ず殺す。陰陽師を気取るな、紛い物が」
ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)が壁の向こうへ指を突きつける。と、奥底から湧き上がる高揚感は準備完了を告げていた。
カラになったドラッグの容器が床に落ち割れる。
出力、オーバーロード。
「はじめだ」
穴の開くほど力強く床板を蹴り上げ、最中へと飛び立つ男の背に続くヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)はとっと靴音こそ淑やか。
銃口を向け、ドラム缶に穴を増やすほどの冷然とした振る舞いでひとつずつ頭を撃ち抜く女は既にこのドラマに飽いたかの面持ち。
けれども肉の壁に引きこもった、件の男。
「あまり好みでないわ。どの辺がっていうと、人間を舐め腐ってるところ――とかかしら」
「つまらなそうなあの目だろう。馬鹿にしてくれる」
鎧坂・灯理(不退転・f14037)は続け、抱えていた朱雀……可変式銃器を肩に担げば、そんなヘンリエッタになにも持たぬ右の手を差し出した。
あくしゅ?
手を繋ぐ?
この地獄絵図を前に――二人を繋ぐものは、いまこうして、すぱんと断ち切られた腕から飛沫いた血よりもよほど濃いものだ。
「ん」
「……灯理」
ユーベルコード・暴食の牙には代償が不可欠。
術者である灯理はひとつ頷いて、血濡れたナイフを握りながらも難しい顔をする相方の横を通り過ぎ、何事もないかのように幾分小型へと変じさせた銃を構え直す。
銃声は、ひとつも鈍らず算術めいて規則正しいけれど。
なんたって彼女がそこまでしなくちゃならない?
あの腐れ外道のために――。
瞳の色深く。ヘンリエッタの"人格"に俄かに波が生ずるのと、水晶屍人の群れ一画、それから屋根が大きく弾き上げられるのはほぼ同刻であった。
「おーおー、なんだ? ケンカ売ってんのか?」
数メートルは伸び上がった水晶屍人らは文字通りの合体を遂げている。融合……、接合が近いか。ちぐはぐに生えた腕や足は滑稽で、とはいえその捨て置けぬ頭の高さもヴィクティムの沸点を刺激する。
狙い通りだとて。
――Attack Program, Reverse.
「イイぜ。秒でバラす」
反転ウィルス。
合体することで強くなる、なんて道理、捻じ曲げてしまえばいい。今しがたひとり眠らせたばかりの指が投擲したナイフはすとんとデカい的へ食い込んで、冒して。
次に直上より撃ち込まれた巨拳の圧ときたら、そよぐ風が気持ちいいですねってなもんだった。
「早かったな」
殴り返して打ち砕く雨を浴びる男の後方、ひとりごちる灯理。
綺麗な断面をした右腕の付け根が"時間"に疼き、かと思えば、視線を巡らせた先の背高屍の肩に生えた水晶が、ぽごん! 間の抜けた音を上げて、牙だらけの怪物に変わるのを見た。
視線を外す。
戻す。
その頃には、幾つものヒトガタが肩と頭とでなかよく齧り合う様も。
「さて。楽が出来そうだ」
間接的に吸い上げた生命力でにょきりと腕は元通り。
構える朱雀は途端逞しく組み変わり。吐く、大砲めいた銃弾は、ひときわ大きな屍人の頭を弾けさせた。
そうして頭上から落ちてくるぶよぶよとした肉やら骨やらの合間を、式島・コガラス(呪いの魔銃・f18713)が潜りながら駆け抜ける。
「ふっ」
振り下ろされた拳に浮いた体は前転して危うげなく床板を鳴らせば、軽やかに走り続けた。
年齢によらず小柄な体躯はこうしたとき便利だと、戦い慣れた女は知っていた。数歩先、落ち来た頭蓋の伽藍洞の眼窩が笑うのは、横合いから蹴り込んだヴィクティムが吹き飛ばす。
共に肩を並べる者がいることの心強さは、最近、尚の事。
それにぺこりと一礼して。
ひたりと馴染む魔銃のトリガーを無意識に指が確かめた。五発きりの弾丸すべてを懸けて、撃ち抜くものはもう決めている。
(「安倍晴明……自らの所業を悪と置くでもなく、明白な目標意識を持つでもない」)
その凡庸さ、無自覚性こそがこの世で一番の害悪。
「必ず消します」
起伏の無い、しかし覚悟……否、決定事項を読み上げるかの、呟き。
未だ距離がある筈だというのに、コガラスの醒めたまなこには肉塊らの奥、陰陽師の口端が吊り上がったかのように映った。
ばき、 ばき。
獣がそのまま咢で骨を齧るに似た音を立てて。
先までの平静さはどこへ?
「――はは、私のつがいの腕一本とお前の命一個じゃァ釣り合わない」
此処で殺す。
必ず、果たす。
ヘンリエッタが、かたまりになった屍人どもを手当たり次第に削ぎ落とすのはそんなコガラスの通り道にて。
多重人格者。
赤黒くぬめった指の合間からときに零れる剣までがあちらこちらと眉間を抉り、キョウキの名を欲しいままにしていた。既にどっぷりと濡れた袖口で滲む汗だか血だかを拭うので、余計に擦り付けることとなり、色の薄い頬を化粧めいて染めている。
しかし双剣。 いまよと向かい来た連中は振り向きざまの逆手の"牙"に貫かれ、死した今、女を飾る色のひとつとしかなれぬのだ。
まったく同時に見舞われた弾丸に、既にその肉は息絶えていたけれど。
「灯理、――背中は任せた。 追いついてこいッ!!」
「ハティに言われたなら是非も無い、か」
唸れ"白虎"。 追いつき、並べ。
命ずれば改造単車は咆哮を上げる。高くより見下ろす合体屍人にも及ぶ声だ。木切れを舞わせながら地を掻き上げて鋼の塊は、ハンドルを片手で掴みひらりと飛び乗る主を背に駆けだした。
次々に跳ね飛ばされる肉、肉、 肉!
"犠牲者候補"が揃って一層血祭。ただし染まる先は――……御覧の通り。
魔弾の娘のため敷かれた赤絨毯の先で、
さあ、――撃ち殺せッッ!
ヘンリエッタの檄が飛ぶ。その声はやたらとスローにコガラスの脳を過ぎてゆくのに、指はコンマ秒ほども遅れず引き金をひいていた。
「逃がしはしません」
それは回転式弾倉であった筈だが、"すべて一斉に"としか知覚できぬほど速く――磨き続けた一芸が、モノの限界をも超えるのか。魔銃とその使い手たる所以か。
一発目、外骨格めいて晴明の胸元を覆っていた水晶を砕き割れば。
次のみっつはすべて同じ箇所へと吸い込まれた。
『カッ、は』
「絶滅だ。――絶えて死ね!」
最後のひとつ。重撃に折れるからだもあったろうが、超常的な反応により身を捩った陰陽師のまさにその逃げを打った先に、覚悟が違うのだ、そうヘンリエッタがフォン・ヘルダーを振り上げていた。
ガッ!
押し戻すので、弾丸は定められた通り。二種の破片が目出度く砕けて散って。
『嗚呼……なんと手酷いことをなさいまする』
「因果応報ってんだよ、この世を去る前にひとつ学べてよかったな」
大きくよろめいた男の背にとんと手をつくはヴィクティム。
膨大なデータが詰まった己の頭部をとんとんと指先で叩いてみせる様は完全に小馬鹿にしたそれで、だが、指伝いに"流し込む"電撃になまぬるさは皆無。
ぐるるると手負いの獣じみて哭いたチェーンソーが周囲一辺にぐるりと輪を描いて過るのを、麻痺の仕上がりも相まって労せず飛び退く三人と入れ替わり。
死肉をごくごく平らに寝かしつけながら、やってくるのが白き虎。浸された念動力に異様なほど回転数を上げるタイヤ、手綱を握る灯理は逆光にきっとわらって、 ――我が覚悟を見るがいい。
「地を染めろ、安倍晴明」
黄泉の果てはきっと地続き。
そうと感じさせる轢殺ぶりで、すかした陰陽師の爪先から頭のてっぺんまでを丹念に轢き潰した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
晴明、嗚呼ようやっと
顔を拝めたな
駆けてきた、戦場
夥しい数の水晶屍人を見て
…終わらせると、斬った
あの時、鏡面の奥に鎮めた
煮え滾る怒りが溢れる
戦場、他の猟兵の戦闘も注視
晴明が放つ先手の符呪は
避ければ強化に結びつくなら
直撃だけは防ぎ、僅かでも威力軽減する為
見切り、軌道を追い芯をずらし
破魔の魔力込めた枯れ尾花を持たせた
瓜江のかばいによるガードで、邪の力を軽減できたら
攻撃を受けて動ければ
即、焚上の炎を纏い
この場に満ちる怨霊の無念喰い纏う炎と生命力吸収で、僅かでも回復と強化
君達の業の分も
瓜江の手を踏み台に跳び
近づき、反撃も覚悟で
斬り込む
お前がばら撒いた策が生んだ
無念、痛み
苦しみ、怒り
全てに、斬られ、消えろ
●
ちいさな村だった。駆けてきた"戦場"で、夥しい数の死を見た。
そのどれもに戻らぬささやかな日常があったこと、冴島・類(公孫樹・f13398)は知らぬ存ぜぬのモノでいることなど、できなかった。
できなかったのだ。
(「……終わらせると、斬った」)
あのとき。鏡面の奥、鎮めた怒りは煮え滾りながらいま溢れ出す。
「晴明、嗚呼。 ようやっと顔を拝めたな」
同じ手で、糸を手繰る。漂う火の粉がぱあっと散れば、応えるべく五芒符が舞った。
既に物言わぬ塊となった骸を飛び越える類の傍らには瓜江。暗闇からにじみ出たかの如くに音もなく寄り添う絡繰人形は主の刀を手にして。
符より漏れる怨念がひとの腕を形作った瞬間にそれを撫で斬る。
帯びる破魔の祈りは刀身に邪なる靄を寄り付かせず、空間ごとを断ち割るかの冴え。
そこをくぐり抜ける類が呼んだ焚上の炎はあちこちへ散った肉片を呑み、目には見えぬ無念をも溶かしながら、その業を取り込むかの如く術者の傷を塞いだ。
醜い痕だと思うか。
所詮玩具の、薄っぺらの命と。
『……あなたも、からくり師で御座いますか。どれ、どちらが傀儡か。近くで見せていただいても?』
乱れた呼吸にも明確な揶揄。
とともに塞がる端塞がる端と、悪趣味ないたずらじみて荒々しく毟り取られる肩が腹が、歪な音を己が耳へ届けども。
「言われ、ずとも……!」
前へと進む青年の隣。がくんと視界を外れる人形は崩れ落ちたのではなく、次なる務めに向けて。
踏み台だ。
隙間なく呪符に覆われようと、高く突き出したてのひらと枯れ尾花は類のため。その背を、手を踏み蹴ってヤドリガミは他のなにをも追い越し跳躍し――己が手に再び収まった愛刀を、振るう。
(「君達の業の分も」)
ギイィィ!
回転刃の勢いを殺すほど強く、ただ、強く叩きつける覚悟。
安倍晴明。お前がばら撒いた策が生んだ、無念、痛み、苦しみ、
怒り。
「全てに、斬られ、消えろ」
ぎりりと鳴り止まぬのはかち合った刃以上に、食いしばった歯。
爛々と燃ゆる炎が淡色の瞳に映り込んで、零れるほどに揺れるからまるで、ひと以上に人間のようだ。一瞬の交錯――真似た姿かたちを砕かれたとて貫き通す、刃(こころ)までも。
大成功
🔵🔵🔵
千桜・エリシャ
…あなた、本当に安倍晴明なのかしら?
陰陽師というには随分とハイカラなようですけれども
まあ、そんなことはどうでもいいですわ
私、あなたが齎した屍人の方々と戦いましたのよ
沢山、沢山
そうして大勢葬って
――儚く命を散らされた方々の、報いを受ける覚悟はお有りかしら?
先制攻撃の符は見切り、カウンターで鬼火をぶつけて同士討ち
その後も符は全て鬼火で対処して戦闘力を高めることを阻止
残った鬼火で撹乱しつつ隙を作り肉薄
墨染が喰らった魂
犠牲者の呪詛を表出させて
その刃で以て首を斬り落として差し上げますわ
やはり義憤よりも勝るのは強敵と相見える昂り
けれど私は
恨みを代行する術を持っていますから
それを為さない理由はありませんもの
ごぽ、と、泡立って落ちる組織液。
深々通り抜けた刃に柱へ縫い留められる晴明の口から、笑い混じりにそれは零れていた。
『……嗚呼、いまのも、 中々』
趣がある――とでも続ける気でいたろうか。
だがおしゃべりに興じるほどの余力は、涼し気なかんばせの裏、そう残されている筈もなく。
続く足音に並び放たれた符はいくらか数を減らし、たちまち薄紅に"燃え尽きる"を視界に収めながら二振りのチェーンソーが柱を叩き折る。
男が飛び退った直後に空間を舐めた業火は、半壊した壁を焦がしながら空の色へ解けて。
「私、あなたが齎した屍人の方々と戦いましたのよ。沢山、沢山」
そうして大勢葬って。
――儚く命を散らされた方々の、報いを受ける覚悟はお有りかしら?
春めく桜に染まりながら抜き身の大太刀が床を滑る。 まだ足りぬようですわね、と、肌に刻まれた傷も真新しく、千桜・エリシャ(春宵・f02565)は薄明に照らされ微笑んでいた。
『ご満足いただけなかったとは。この晴明、今生の未練となりかねませぬ』
女の周囲に渦巻いて漂うものが鬼火ならば、男のそれは呪符。互いに撃ち放った力は相殺のかたちで溶け合い、あとには花弁が降った。
ひとひら、縦真二つに割って。
床に刻まれた業の溝を斬り裂きながら、踊り狂う鬼火と混ざるエリシャの踏み込みは捉え難い。ゆら、ゆら、葉桜のようでいて、爛漫と咲き誇るには一閃。
「満足に至る術は只ひとつと決まっていますの」
あらゆる外野を過去に、刃と刃が触れあったとき。
妖刀・墨染の刀身を伝う……そのうちより立ち昇る呪詛は、地獄へ引き摺り込む無数の指がそうするみたく、欠けの止まらぬチェーンソーの切っ先を逸らした。
おや、と陰陽師の眉が上がる。
『私と――』
「揃いだなんて、仰らないでくださいませね」
返す刀に引き連れられ、余りの炎弾がしとど撃ち込まれれば二歩ほど後退する晴明。得物を構え直すよりも、その隙間を縫い振るわれたエリシャの一太刀が幾ばくか迅く――。
ズッ、
伝わるのは人間のそれを断つときと比べれば、重い手応えだ。
半ばほど進み駆動刃により止められた鋼を視認。逆方向へと回転をかけ、独楽めいて飛び退くエリシャの柔肌と装束を、瞬きののち大量の符が掠めていった。
「……ふふ、」
垂れた紅を舐めずったとて、去来するものはやはり、強敵と相見える昂り。
けれど。
「私は、恨みを代行する術を持っていますから。それを為さない理由はありませんもの」
血狂いの鬼とは堕ちず。
構え直した墨染は翳りない。
成功
🔵🔵🔴
ネライダ・サマーズ
この男が、あれを
あの、子供を
あの時以上の怒りが湧いても
それで先手は取れないし勝てる筈もない
だが大人しく負ける気もない
【荒海の追跡者】で喚び出した水鯱一体に俺を呑み込ませ
他は俺の周囲、層になるよう展開
外されて強化されるのも癪だ
水鯱の層でダメージを軽減…出来れば、と思う
五芒符側の水鯱の層を厚めに
晴明へ向かう流れに身を任す
一撃でいい
一撃でも与えて、次に、仲間に繋げたい
だから奴へ食い付く前に沈んでたまるか
五芒符に水鯱を破られたらまだ無事な水鯱をそこへ入れる
ダメージを受けようが息苦しくなろうが構わず突っ込む
ああする事でしかあれは終わらなかった
それを解っているから
二度と繰り返させない為に、ここに来たんだ
そうして散布された五芒符は、ネライダ・サマーズ(アイギス・f17011)のもとへも届いていた。
青く見開いた双眸が映すのは、しかし、迫る白以上にその奥の邪悪。
この男が、あれを。
――あの、子供を。
ひとつ長く息を吐いて。吸って、 杖を前へ。
「よかった」
ならば、終わりにできる。
一発ぶん殴ってやれるということ!!
こびりついた血汚れもすべて無に帰すほどつよく、穴の開いた天井まで届く水飛沫が上がる。それは鯱の姿をして、ネライダの姿を掻き消した。
正しくは"呑み込ませた"。
その一匹が姿をくらませれば、交代に数匹の水鯱が跳ね上がる。分厚く層を描く追跡者たちは、床へ落ちる前にと呪符を巻き込みながら一路、陰陽師へと迫る。
『……ク、ふふ。神隠しの真似事とは、乙なことを』
割れた水晶の首は据わらず、傾げられたまま。
それがどうにも揶揄うみたいで、ただ、ただ、そんなことはどうだってよかった――ネライダには。あの時以上の怒りが湧いたところで、いっそ頭は冴え渡る。
嵐の目へ飛び込む風に舞い集う五芒符に面する側の鯱を多くして、消耗覚悟で突っ込む。裂かれ、蝕まれただの水へ解けてゆく手札が。一、二、三…… 最後の一体となっても。
『みぃつけた』
「それはこちらの、台詞だ」
至近。咢をこじ開ける怨念の塊に、水が視界がひらけたそのとき。既に振りかぶっていた杖を、 薙ぐ。
ぱあんっ。
速度は落とさず、音も高く叩きつけられた水鯱が弾け誰もの視界をひととき阻んだ。
故に重ねたネライダの一振りは、己が心の震えのみがしるべ。
「――、ああ」
届いた。
お綺麗だった晴明の顔面が大きく凹むのを、確かに目にして――一拍遅れで荒れ吹きつける符に跳ね上げられ、大きく放り出された転がるヒーローは傷だらけで、痛み分けにしたって酷い有様。
だが生きている。……生きたくとも死んでしまった"彼ら"と違い、生きているのだ。
「二度と繰り返させない為に、ここに来たんだ」
ああすることでしか終わらなかった悲劇。
解っているから、 麻痺したって手は石めいて杖を離せずに、床に突き立てまた立ち上がらせる。
『……ツ、』
ひび割れた手指で頭を覆い、よろめく陰陽師を護るかたちで符が並べられた。
来る、
そう、再び空間へ漂わせはじめる水泡の合間を縫い黒影が二つ、床板を鳴らしてゆくのは。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
飢餓とは。
簡単に膨れ上がって、容易に暴走する。
呪詛に使うには強すぎるものです。
…分かっていて飢え殺しの再現を選んだんでしょうけど。
城内なら《忍び足》で身を隠せる場所も多いはずです。
《だまし討ち》で『幸守』『禍喰』を投射。敵の注意を明後日の方向へ引く。
―――言いましたよ。『呪詛に使うには強すぎる』って。
【神業・影暗衣】。
強さとは、多様性です。
多種多様な怨霊の中には、オレに味方してくれるようなのも、いる。
オレもご飯を食べられない辛さはよく分かるので…ちょっと怨霊さんサイドを贔屓したくなっちゃうっていうか。
ウソですけど。
使えるものはなんでも使う主義なんです。
これはホント、かもですね。
《暗殺》。死ね。
黒江・イサカ
よう
なあ、知ってる?僕、たくさん殺してきたの
君のつくるそれ、全員殺してきたんだ
だから君に辿り着いたんだぜ
ちょうど身体も暖まってきたところさ
世界だって線だらけでうるさいくらいで…
ところで、君は生きてるの?
随分冷たそうな身なりだけど、まあ旅行収めにはぴったりかな
どうぞ、先におつくりよ
腑にはまあまあ落ちないが、それもまた道程のひとつだからね
つくって、殺して、つくって、殺して、…殺して 殺して
―――― さあ、速さ比べしようぜ
宣言するよ
僕の刃は君に届くってね
僕の【炯眼】は死線を越えれば越えるほど加速する
つまり、殺せば殺すほどさ
【早業】【鎧無視攻撃】【激痛耐性】
止まりゃしないよ、折角のゴールだものね
――飢餓とは。
簡単に膨れ上がって、容易に暴走する。呪詛に使うには強すぎる代物。
「……分かっていて飢え殺しの再現を選んだんでしょうけど」
折れた柱を蹴り、軽々と梁上へ飛び移った矢来・夕立(影・f14904)の手より離れた蝙蝠が、その姿を模した式神が、主の代わりに湧き出た屍どもの相手をする。
金銀財宝でも求めるように赤茶けた手が群がり、引き摺り込み。羽音は力無く、二度と浮かび上がることはできぬけれど――精々玩具になってくれればよい。
こちらは地をゆきながら、彼らの頭をときに踏み砕く黒江・イサカ(アウターワールド・f04949)。視線の先には本日のお目当て。
よう、と、好青年がそうする風に帽子を持ち上げてみせてご挨拶だ。
「なあ、知ってる? 僕、たくさん殺してきたの。君のつくるそれ、全員殺してきたんだ」
だから君に辿り着いたんだぜ。
……物言いは物騒で。
肌色の剥がれ落ちた晴明がどんな顔をしているかいまいち分からないが、別段、二人が二人して興味などなかった。
したいこと、もひとつ。
「――――さあ、速さ比べしようぜ」
宣言するよ。 イサカはまた、懐っこく笑んだ。
僕の刃は君に届くってね。 ……銀のナイフを抜き取って。
『……して、そのご様子では不足で御座いましたか』
「不足どころか。 ――言いましたよ。呪詛に使うには強すぎる、って」
不意に、声とともに天井からひとつ零れた雫がイサカの頬を濡らす。
まだ熱い。雨ではない。
それは頭上、夕立の首より滴っていて、自ずから掻き切ったばかりでぬらりと濡れた刃もまた、その手にあった。 傾ぐ少年の体は頭から落ちる。
墜つ鴉のように宙で羽織が広がって――床を踏むと同時に、閃かせた雷花であたり一辺の屍を断つ。
神業・影暗衣。
鮮血、重ね来た悪事が呼びつけるは怨念と罪業。いまや間近に相対す蒐集者たる屍の王は、ひとたび、身じろいで見えたろう。
「オレもご飯を食べられない辛さはよく分かるので……ちょっと怨霊さんサイドを贔屓したくなっちゃうっていうか」
ウソですけど。
弾みで深く刺さった頭蓋骨を振り落として、夕立が一歩。だらだら流れ続ける首元の血を欲して亡者の手が伸びるのを、通りすがる際にイサカがすぱんと落としていった。
「あーあ。傷が残ったらどうするの」
「絆創膏でも貼っときましょう」
そのまま流れるように幾つもの腕が、足が、首が落ちる!
"ゴール"まで。ただ駆けている風でいて、痛みなくひとをバラす細やかな心配り。
イサカの手にはもう何本目のナイフか、そのうち鋭利に尖った骨片をも握り込んでいて、それで抉り抜いた屍人が倒れたときに「あら」と肩を揺らすのだ。
「持ち主さん? 違ったらごめんね、また今度返しといて。ところで、 」
君は、生きてるの?
……開いて伸ばした手がごく自然に晴明の襟首を掴む。
引き寄せる。
「随分冷たそうな身なりだけど、まあ旅行収めにはぴったりかな」
そうして逆の手が、ぱちんと最後のナイフを伸ばす。
舞い上がらんとした白き五芒符を、びしゃりと零れた夕立の血が赤黒く塗り潰した。否。それは何人分、何十人分――数え切れぬほど多くの者が、いつかここで流した、血だ。
到底、動く死体でないこと自体に違和感を覚えるほどの出血量をしながら、最後の"本物"を屠り終えては振り仰いで。
「不思議ですか? ……ああ。使えるものはなんでも使う主義なんです」
これはホント、かもですね。
滑らせる脇差は吸い込まれるように、未だ染まり切っていない白へ。
『やはり、あなた方は――』
「死ね」
がづ、と鈍い音で胸元を掻っ捌き尚も斬り上げるから、鋼打ち付けられた顎が上がれば。
ね。 届いたろう。
晒されたその首筋を、人間と化生の境目を、もう一本差し込まれた薄い刃がなぞる。 ――ミチビキのままに。
高く跳ねて、ぶつかった天井にすこしのシミだけ残して。
幾度目かの死に首は地面へ着くことなく、白炎の如く立ち消えた。繰り返し、繰り返し、出目の決まった賽を振り続けながら――――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴