エンパイアウォー⑰~不死者操る陰陽師は凶器を手に
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エンパイア・ウォーも佳境に差し掛かっている。
そんな中、鳥取城内にて。
「この世界はよく『似て』おりますな」
そう呟いていたのは、大きな水晶を背にした陰陽師『安倍晴明』だ。
彼は、自らの目的を「ただ『持ち帰る』事のみ」と語る。
「『業(カルマ)』の蒐集も興が乗りませぬ。……いえ、そうではありませぬな」
オブリビオンと化した自らに、晴明は思うことがあったのだろうか、些か自分自分にさえ興覚めしてしまっている感がある。
――戯れに、山陰を屍人で埋めてみましょうか。
――それとも、コルテスが崇める神の偽物でもこしらえて、信長の後釜に据えましょうか。
それですらも、自身の心を動かすものとなりえるのかどうか。
この地に血肉を受けてしまった陰陽師は、猟兵なる存在に僅かな期待を寄せていたようだった。
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グリモアベース。
続くエンパイア・ウォーの戦況は日々、変わっていく。
百面鬼『風魔小太郎』、大悪災『日野富子』が倒れ、さらに新たな魔軍将が発見されたとの知らせが入った。
「陰陽師『安倍晴明』ね」
戦争序盤、『水晶屍人』を操っていた彼は現在、鳥取城にいるらしい。
そこは戦国時代、鳥取城で餓死した人々の怨念が渦巻く場所。不気味な雰囲気を感じさせることだろう。
安倍晴明は、確実に先制攻撃を仕掛けてくる。
先制攻撃のタイミングで行う攻撃は、猟兵が使うものと同じ能力のユーベルコードだ。
彼に攻撃を加える為にはこの先制攻撃を防ぎ、反撃を繰り出す手段を考えねばならない。
下手に攻撃することだけ考えて特攻でもしようものなら、相手にダメージすら与えられず、返り討ちに遭ってしまうことだろう。
対策を講じても不十分であれば、苦戦に至る可能性もある。効果的な手段をできるだけ考えておきたい。
「その目的がよくわからないけれど……、あまりそれに執着していると戦いが疎かになるから、戦いに集中した方がいいかもしれないわ」
この陰陽師もまた、魔軍将の1人。
質問を投げかける余裕があるなら、攻撃を叩き込んで倒してしまう方がいい。彼に関する考察は後でもできるだろう。
「以上ね。それでは気を付けてね」
セレインは猟兵達を現地に呼び出す為、一足早く転移してその場から姿を消していったのだった。
なちゅい
猟兵の皆様、こんにちは。なちゅいです。
当シナリオを目にしていただき、ありがとうございます。
エンパイア・ウォー、陰陽師『安倍晴明』との一戦です。
こちらのシナリオは、1章構成のボス戦です。
以下の特殊ルールが適用されます。
●特殊ルール
陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
●シナリオフレームについて
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイア・ウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●執筆予定
できるだけ早く、全参加者一括執筆予定です。
現状は、他作業の予定に組み込みつつ執筆中。10名前後の参加を見込んでおります。
仮に、最初の参加者失効前日(だいたい3日後くらい)まで待って6名未満の場合、個別判定による執筆の可能性が高まりますので、ご了承願います。
シナリオの運営状況はマイページ、またはツイッターでお知らせいたします。
それでは、行ってらっしゃいませ。
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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ヘンペル・トリックボックス
因縁、悔恨、憎悪……思うところは多々ありますが、生憎と一人では勝ち得ぬ相手。如何なる形であれ私はお前を殺し尽くすぞ、晴明。
味方への補助・連携は積極的且つ紳士的に。五芒符への迎撃が主。
五芒符は直撃した場合の被害以上に、地形効果による超強化こそが脅威。で、あれば『外させない』ことこそが肝要……!
手持ちの五行符に【破魔】の気を籠めてUCを発動、無数の桜吹雪に変えた五行符を個別操作して、放たれた五芒符に対する障壁とします。
万一地形を侵食した場合は、金行符の効果を発現させた花弁で起点ごと抉り取るとしましょう。
晴明が大きな隙を見せた時のみ、火行符の効果を発現させた桜吹雪による炎【属性攻撃】を叩き込みます。
月山・カムイ
肉を斬らせて骨を絶つ、折角ですからお前との因縁もここで絶ち切っておきましょうか
初撃がこちらへ当たったその瞬間、コチラに刃が届くのなら間合いは既に射程範囲内の筈
ならば、二撃目の攻撃が来る前にこちらの神域剣技・絶華でヤツの顔面を抉り貫けばいい
結果、二撃目を避ける事はできないかもしれないが、その前にそのニヤケ面を吹き飛ばしてやろう
この世界は、この世界の住人達のものだ
それに無駄に手を出そうというのなら、骸の海へ還る前に手土産としてこの一撃を喰らっていけ
打ち込んだ突きの一撃から、更に傷を抉るように破魔の刃を縦に振り下ろしその存在を真っ二つにしてみせる
失せろ、過去の亡霊よ、此処はお前の居場所ではない
黒鵺・瑞樹
アレンジ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
まさか鳥取城内にいたとはな。
やってる事は相変わらずえげつねぇみたいだが。
相手の先制攻撃は【第六感】で【見切り】、黒鵺による【武器受け】で受け流す。
受け流すとはいえ城門槌と打ち合った頑強さには自信があるのでね。
そのまま可能なら【存在感】を消し【目立たない】ように移動、そのまま【奇襲】をかけ【暗殺】のUC剣刃一閃で攻撃。
確殺できなくとも動きの制限狙いで【マヒ攻撃】、かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
もしも受け流しきれなかったとしても【激痛耐性】で耐え、呪詛自体は【呪詛耐性】でしのぐ。
黒玻璃・ミコ
※美少女形態
◆行動
セイメイを冠するモノが生に飽きるとは笑い話ですね
チェーンソー剣には独特の駆動音が付き物です
耳を澄まし、肌で感じる空気の振動により斬撃のタイミングは判ります
そして所詮は人の姿をした存在の手による二刀流
尋常ではなくとも太刀筋が理を超えることはありません
故に避けることは不可能ではありません
以上を以って【黒竜の邪智】の証明としましょう
神をも殺すのはチェーンソー等ではありません、毒です
此の地を満たす私の致死毒をたらふく味わい、魂さえも腐らせて頂きます
うふふ、背後に隠した穴による逃亡
ましてやその翼で空を飛んで逃がすつもりはありません
必ずや此の地で確殺してみせましょう
◆補足
アドリブ歓迎
春乃・菊生
アドリブや共闘等、歓迎する。
[WIZ]
黄泉國に住まう者どもを、その承諾もなしに術で縛り扱き使う。
礼も弁えぬ痴れ者めが。
さて、奴が先手を打って攻めかかってくるは確かじゃが…、
かと言って、我に取れる手など限られておるからのう。
秘術ノ壱を為し、呼べる限りの武者の霊を呼び出す。
城攻めに際し、彼らに敵を討つべく攻めさせ、また同時に術者である我の身の守りを任せよう。
(【範囲攻撃】【なぎ払い】【鎧砕き】【援護射撃】【串刺し】【カウンター】【スナイパー】)
そして我は彼らに破邪の力を与え、さらに続けて霊を呼び出し続けよう。
(【破魔】【呪詛耐性】)
欲を言えば、我らだけでなく他の猟兵とも連携したいところじゃのう。
露木・鬼燈
チェーンソー二刀流とは…ロマン装備なのです。
反動とか考えると実用には程遠い。
それでも扱えてるってことは身体能力も侮れない。
明らかに術者タイプなのに!
魔剣でもあれとはまともに打ち合いたくないのです。
刃の側面を叩いて軌道を逸らす。
これしかないっぽい!
棒手裏剣を魔弾投擲法で刃の側面やエンジンを狙って連続投擲。
チェーンソーの制御を乱す。
棒手裏剣では軽い?
それならばルーンを刻んで強化した特製の棒手裏剣も投入。
投擲を続けながら全力で接近。
魔剣を戦槌に変形。
刃の側面に全力で叩き付ける!
チェーンソー同士が接触。
こうなれば流石に大きな隙が生まれるはず。
そこで<隠忍の見えざる手>を展開。
ラッシュを叩き込むっぽい!
エメラ・アーヴェスピア
別世界から来たのは、コルテスだけではなかったという事ね
というかまた「持ち帰る」…?一体どういう事かしら…
兎も角、今は倒すことを考えましょうか
どうやら、相手は水晶屍人を呼ぶようね
なら私もそれに対抗するとしましょうか
『出撃の時だ我が精兵達よ』
装備は魔導蒸気製の大盾と散弾銃よ
基本的に私や同僚さん達を【盾受け】で【かばう】ように展開、【援護射撃】の狙いも水晶屍人よ
札に対しても兵を当てる事で強化を防ぐ事も考えるわ
展開する隙を与えてくれないようなら…猟犬に【騎乗】して距離を取りつつ、浮遊兵器達で弾幕を張って【時間稼ぎ】よ
私自身が先制攻撃に弱いのは把握しているから、油断なく行くわよ
※アドリブ・絡み歓迎
イヴ・クロノサージュ
アドリブ◎
――
●心情
持ち帰る、ね...。
前にも聞いたね。ドクター・オロチも同じ事言っていたから
何かあるのでしょう
或いは、オブリビオンのみ知る……別の世界か――
考察は此処まで
彼には、退去願いましょう……
強敵には違いないのだから
●戦闘
まずは、五芒業蝕符の対策を
五芒符の攻撃は全力で避けなくちゃね。
発動時は大きく後退し、攻撃を【見切り】回避に専念
直撃は避けましょう
地形を斬り裂く威力、足元にも十分警戒を【地形の利用】
私は飛べるのだからとっさに飛んで回避する【空中浮遊】事もできるでしょう
溢れる怨霊は聖なる光で浄化して【破魔】
味方と連携してUC攻撃で突撃するわ
突撃する際は、正確に命中させる事を重視しましょう
●
サムライエンパイア、鳥取城。
猟兵達は陰陽師の討伐の為、数人の猟兵達が場内へと突入する。
この地で命を落とした人々の怨念が渦巻く中、メンバー達は城内に何とも言えぬ不気味さを感じながらも奥へと進む。
「まさか、鳥取城内にいたとはな。やってる事は相変わらずえげつねぇみたいだが」
長い銀髪、二刀流の青年、黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)は前方に見えてきた男にそんな感想を抱く。
「ここまで来ましたか……」
板張りになった城の広間で、待ち受けていた陰陽師『安倍晴明』。
その二つ名のイメージを大きく覆す、両手のチェーンソー剣が唸りを上げる。
「チェーンソー二刀流とは……ロマン装備なのです」
中性的な容姿をした赤髪の羅刹、露木・鬼燈(竜喰・f01316)はその装備に目を見張る。
反動などを考えれば、実用には程遠いその戦法。
「それでも、扱えてるってことは身体能力も侮れない。明らかに術者タイプなのに!」
鬼燈が言うように、晴明は術者として符術を操るだろうし、水晶屍人達を呼び寄せてくるに違いない。
「黄泉國に住まう者どもを、その承諾もなしに術で縛り、扱き、使う」
こちらも羅刹、紫の瞳と髪を持つ長身の美女、春乃・菊生(忘れ都の秘術使い・f17466)。
ただ、相手の所業もあってか、彼女の顔からは不快さが滲み出ている。
「礼も弁えぬ痴れ者めが」
だが、晴明はそんな罵りなど、まるで気に留めずに。
「……『持ち帰る』為の手段ですよ」
それが当たり前だと言わんばかりの敵を、菊生は睨みつける。
「というか、また『持ち帰る』……? 一体、どういう事かしら……」
コルテス同様、別世界からやってきたと思われる安倍晴明に、人形のような姿をしたサイボーグの少女、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は思う。
「『持ち帰る』、ね……」
白い長髪を揺らすミレナリィドールの少女、イヴ・クロノサージュ(《機甲天使》感情と記憶を代償にチカラを得た少女・f02113)のその言葉に着目して。
以前にも、ドクター・オロチが同じことを言っていたことから、何かあるのだろうとイヴは考える。
「或いは、オブリビオンのみ知る……別の世界か――」
ただ、仮にそれがあったとしても、おそらくは晴明が満たされるものではないのだろう。
「斯様な存在に成り果てた私に、私自身が飽いているのでありましょう」
「セイメイを冠するモノが生に飽きるとは、笑い話ですね」
そんな一言に、美少女の姿をとったブラックタールの黒玻璃・ミコ(屠竜の魔女・f00148)が鼻を鳴らし、そんな皮肉を口にする。
「肉を斬らせて、骨を絶つ……」
血肉を得たオブリビオンと成り果てた晴明へ、赤いメッシュの入った黒髪の月山・カムイ(絶影・f01363)は刃渡り二尺の小太刀『絶影・殺戮捕食態』の切っ先を向けて。
「折角ですから、お前との因縁もここで絶ち切っておきましょうか」
他のメンバー達も、この安倍晴明という男に様々な因縁を抱いている様子。
「因縁、悔恨、憎悪……思うところは多々ありますが、生憎と一人では勝ち得ぬ相手」
臙脂色のスーツを着用したお鬚のダンディ、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)は帽子を被り直し、敵を直視して。
「如何なる形であれ、私はお前を殺し尽くすぞ、晴明」
ヘンペルの言葉を涼しい顔で聞き流した晴明は早速、前方へと無数の水晶屍人どもを呼び出す。
「さて、いきましょう。せいぜい楽しませてくださいよ」
余裕ぶった陰陽師が臨戦態勢に入ったことで、イヴは思考を止めた。
「考察は此処まで。彼には、退去願いましょう……」
「ええ、兎も角、今は倒すことを考えましょうか」
エメラも同意し、この強敵へと立ち向かうのである。
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肩から水晶を生やし、そこに数字が刻印された水晶屍人。
そいつらはエメラを狙っていたようだ。
「なら、私もそれに対抗するとしましょうか」
応戦の為、彼女もまた詠唱を始めて。
「出撃の時だ。我が精兵達よ」
エメラがこの場へと呼び寄せたのは、左肩に数字が刻印された戦闘用【魔導蒸気兵】達。
それらに、エメラは魔導蒸気製の大盾と散弾銃を持たせていた。
「私や同僚さん達の盾になるのよ」
50体余りの兵達は向かい来る屍人達に対して盾を構え、食らいつきや爪での引っかきを防いでくれる。
一気に押し寄せてくる水晶屍人達。エメラは先制攻撃に弱いと自覚しているからこそ、その攻撃を防ぐ。
敵が水晶屍人の方に気を取られている間に、他メンバーも銘々に動く。
「さて、奴が先手を打って、攻めかかってくるは確かじゃが……」
ただ、菊生自身、取れる手が限られていることも自認している。
「――来れ」
そこで、彼女が黄泉の国から呼び寄せたのは、鎧武者の霊達。
城攻めとあって、菊生は呼べる限りの霊を呼び寄せ、敵を討つべく進軍させると同時に、自らの守りにも当たらせる。
「あなた達にはこちらでお相手しましょう」
晴明は水晶屍人から目を反らし、今度は五芒符を飛ばして攻め立ててきた。
菊生が霊に攻撃を防がせている間、五芒符は別メンバー達にも襲い来る。
「全力で避けなくちゃね」
イヴは大きく後退し、その攻撃の直撃を避けようと回避に専念する。
城内の破壊などまるで気にすることなく、切り裂いてくる晴明。
避けたとしても、広範囲を破壊してくることもある。
イヴは避けられないと判断すれば、機械天使の翼で【空中浮遊】して避けてみせた。
ただ、ヘンペルは逆に考えていて。
「直撃した場合の被害以上に、地形効果による超強化こそが脅威」
晴明が強化されることを懸念したヘンペルは敢えて相手の五芒符を受け止めに当たり、手持ちの五行符に【破魔】の気を籠めて。
「で、あれば、『外させない』ことこそが肝要……!」
ヘンペルはユーベルコード【祝天に舞え楽曄の風】で、その五行符を無数の花吹雪へと変えていく。
それらをヘンペルは個別に操作していき、飛んでくる五芒符を防ぐ障壁とする。
狙われた菊生やイヴも防いでくれ、広範囲の防御に当たるヘンペルだが、全てを封じるのは難しいらしく、数発は地面に激突してしまっていたようだ。
遠距離攻撃に当たるメンバー達と合わせ、近距離戦を仕掛けるメンバーも晴明の手を休めぬように攻め立てる。
とはいえ、敵の獲物はチェーンソー剣。
唸りを上げるその刃は、さすがの鬼燈ですらも『魔剣オルトリンデ』で直接打ち合うのを躊躇ってしまって。
「刃の側面を叩いて軌道を逸らす。これしかないっぽい!」
魔剣を手に近づいていく鬼燈だが、相手の刃を直接食らわずに済むよう、棒手裏剣を投げ飛ばす。
刃の側面やエンジンを狙うことで、鬼燈はチェーンソーの制御を乱そうとする。
しかしながら、晴明はその棒手裏剣すらも切り払ってしまい、効果があるようには見えない。
「棒手裏剣では軽い? それならば……」
彼はルーンを刻んで強化した特製の棒手裏剣を投入し、晴明に向けて投げ飛ばす。
晴明はそれも切り払おうとし、空中で火花を散らす。
連続して投げつける鬼燈はさらに敵の体勢を崩そうとするが、晴明はもう一方の刃で切りかかってくる。
近づいてきていたカムイ目がけて不意を突き、晴明が刃を振り下ろそうとすると、敵の気を引くようにミコが語り掛けた。
「チェーンソー剣には独特の駆動音が付き物です」
耳を澄ますことで、ミコには肌で感じる空気の振動により斬撃のタイミングは判るとのことだ。
「そして、所詮は人の姿をした存在の手による二刀流。尋常ではなくとも、太刀筋が理を超えることはありません」
故に、避けることは不可能ではないとミコは断言する。
「以上を以って、【黒竜の邪智】の証明としましょう」
「大した自信ですね……」
チェーンソー剣の切っ先を、ミコに向けた晴明。
真横に振りかぶったその刃を、瑞樹が食い止める。
彼は右手に月山派の打刀『胡』、左手に大振りな黒刃のナイフ『黒鵺』を持ち、直感を生かして左手のナイフで受け流す。
「受け流すとはいえ、城門槌と打ち合った頑強さには自信があるのでね」
そのナイフはヤドリガミである瑞樹の本体であり、実績もある。
瑞樹は敵の攻撃をやり過ごすが、体勢を崩しかけた晴明は高く飛び上がった。
自らの耐性で次の一撃を乗り切ろうと瑞樹は身構えるが、晴明が刃を振り下ろしたのはカムイだ。
「くっ……!」
体に食い込む回転する刃によって血が噴き出し、カムイは苦痛で顔を顰める。
「……この世界は、この世界の住人達のものだ」
流れるような生命の攻撃に、他メンバーもカムイへのカバーが間に合わない。
しかしながら、彼はその一撃を最初から避ける気はなく、援護しようとする他メンバー達を遮る。
「それに、無駄に手を出そうというのなら……」
間合いはすでに、自分の射程の範囲内。
彼が見据えていたのは、晴明のニヤケ面だ。
「骸の海へ還る前に手土産として、この一撃を喰らっていけ」
カムイは己の刃を構え、もう1本のチェーンソー剣が迫ってくる前に神速の突きを繰り出していく。
超高速、かつ大威力の一撃。
その刃は確実に、晴明の顔面へと突き入れられる。
「ぐっ……」
さすがの晴明も、これには大きく仰け反ってしまう。
その傷を抉るように、カムイはさらに破魔の刃を振り上げて。
「失せろ、過去の亡霊よ。此処はお前の居場所ではない」
しかし、それよりも、五芒符を命中させた床を切り裂き、業の怨霊を溢れる中で立っていた晴明のチェーンソーの刃が早く、カムイの体を切り裂いてしまう。
僅かに届かず、崩れ落ちるカムイ。
だが、彼は晴明に与えた傷も決して浅くはない。
「猟兵……やりますね……」
少しばかり楽しそうだと、晴明はその顔面を割られながらも笑ってみせたのだった。
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安倍晴明による初撃を乗り切った猟兵達は、さらに攻勢を強めていく。
主に魔導蒸気兵を使って、水晶屍人を押さえつける形となっていたエメラ。
彼女自身は油断なく立ち回りを続けているものの、屍人の数はなかなか減ることがなく、蒸気兵が倒されている状況にある。
そこで、菊生がさらに武者の霊を呼び寄せ、太刀、大薙刀、長弓といった武器で応戦させていた。
破邪の力を霊達に与える菊生が告げる。
「屍人はこちらでも請け負う」
その助力は、別の手段を講じたいエメラにとって、願ってもない申し出。
「協力、感謝するね」
おかげで、『魔導蒸気猟犬』へと騎乗する時間をもらったエメラは少し後方へと下がって。
「同僚さん達が攻める時間を稼いで」
そして、彼女は浮遊兵器を使い、屍人達が迂闊に前に出られないように弾幕を張っていく。
合わせるように菊生の霊達も攻め込むと、一転して水晶屍人達が押され始めていた。
一方、顔面を砕かれた晴明は、五芒符とチェーンソー剣、遠近合わせた攻撃で猟兵達を翻弄しようとする。
すでに、床を割った晴明は業の怨霊の溢れる場所に陣取り、自らの力を高めてしまっていた。
「――参ります」
「援護しますぞ」
それを無効化すべくイヴが特攻の構えをとり、200本余りの聖なる光を発して敵の周囲の怨霊を浄化していく。
ヘンペルもまた敵の地面の浸食の対策をと、『金行太白符』の効果を発現させた花弁で、敵の足元を抉り取ってしまう。
「気分はいかがですかな?」
「業を霧散させましたか……」
だが、晴明もヘンペルばかりに気を取られてはいられない。
イヴが召喚した聖槍を手に、肉薄してきていたのだ。
「神速の槍撃、……外しはしません」
正確に命中させるべく、イヴは敵目掛けてその切っ先を連続して突いていく。
その背後には、存在感を消し、目立たぬように接近していた瑞樹の姿が。
両手の刃で、瑞樹は相手の首を狙い、刃を振り上げる。
しかし、晴明も背の水晶でうまく受け止めて避けてみせるが、瑞樹も返す刃で相手の首から右肩にかけて大きく切り裂き、抉っていった。
瑞樹が持つ刃には麻痺も含まれているが、残念ながら麻痺の耐性は持っていたらしく、晴明の動きは止まることがない。
「ふふ、もっと、もっと楽しませてください。猟兵……」
全身が血で染まってきていたにもかかわらず、晴明は猟兵達を煽ってくる。
そこで、棒手裏剣を投げつけてきていた鬼燈が魔剣を戦槌形態へと変形させて。
晴明もそれをチェーンソー剣で防ごうとするが、鬼燈は構うことなく全力で刃の側面へと叩きつける。
振動し合うチェーンソー剣が接触し、晴明の動きが止まる。
そこを狙い、ヘンペルが『火行熒惑符』の効果を発現させた桜吹雪を浴びせかけ、晴明の体を徐々に炎で焦がす。
さらに、鬼燈も見えない5本の念動手を展開して。
「ラッシュを叩き込むっぽい!」
それらの腕で、彼は休みなく殴りつけていく。
ボロボロになる晴明へとミコが近づいて。
「神をも殺すのはチェーンソー等ではありません、毒です」
強力な毒使いであるミコはこの地を満たすほどの致死毒を、たらふく晴明目がけて注ぎ込む。
「足元や背後の穴や、翼で空になど逃がすつもりはありません」
勝利を確信したミコは毒を滴らせながら、さらに告げる。
「必ずやこの地で確殺し、魂さえも腐らせて頂きます」
水晶が、チェーンソー剣が、そして生命の体さえも、ミコが分泌する強力な毒によって溶けていく。
「ふふ、思った以上に心揺さぶられる一時でしたよ……」
体を崩していく晴明は自らの復活を疑わず、小さく笑いながら消えていったのだった。
メンバーによっては、因縁の相手だったと思われる陰陽師『安倍晴明』。
オブリビオンたる彼はまた復活するだろうが……。
それでも、一度仕留めたと手応えを感じながらも、猟兵達は次なる戦地へと出向いていくのである。
大成功
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