エンパイアウォー⑥~血を啜る者
●血を啜る者
人の群れが進む、その姿は千差万別だ。若い男もいれば年老いた老婆もいる、中には子供すらいる。その人の群れは一様に同じペースで一糸乱れぬ行進を続けている。
見た目も服装も違うその人間達は、しかし一様に同じく『右手に長槍』と『左手に大盾』を持ち構えていた。その異様な群衆の丁度真ん中に一人の女がいた。
美しい女だった、豊満なその身体を恥ずかしげも無く着崩し乱れた着物から晒している。その手には一振りの刀が添えられている。
美しい女だった。しかしその美貌をも超える殺意が、悪意がその身を包んでいた。明らかにこの世の者では無かった。
「ふふ、あぁ、なんて素敵、こんなに人間が沢山、沢山……あぁ、殺したい、殺したいわぁ……斬って、刺して、抉って、沢山吸いたい、沢山血を吸いたいの…ふふふ、ふふふ……」
すぐ隣を無心で歩く一人の男の、その頬に指を伸ばし触れる女。そのままつま先に力を籠めれば、男の頬は傷つき僅かに出血をする。
女は指に付いたその血を、頬を染めて見つめ、口に含んだ。ゆっくり、ゆっくりと味わう。甘露。若い男の、逞しい命そのものの、あぁ、もっと、もっと味わいたい。
「あぁ、でもだめ、ダメよ……弥助アレキサンダー様に怒られてしまうわ……この人間達は幕府軍にぶつけるのだもの……ええと、そう、『ふぁらんくす』、だったかしら?」
そう、あと少しの我慢だ、この関ケ原で幕府軍にこれをぶつけるのだ。そうすれば、自分は直接斬れなくても多くの血が流れる。半数が斃れて自分の所までくればそれこそ遠慮なく幕府軍を斬り放題だ。なんでも未だ10万の軍勢は欠けていないのだとか……10万人! 10万人も斬っていいのだ! 血を啜っていいのだ! なんたる僥倖! ならばこの『ふぁらんくす』の為に集められ操られている農民達を我慢することくらい出来る、あぁでも、早くしてほしい、早く、早く、血を、血を……。
●奪われし『物語』
「お手隙の猟兵の方、力をお貸しください」
真月・真白(真っ白な頁・f10636)はグリモアベースで声を上げた。日々信長軍との戦況が更新され、あわただしく猟兵が行き交うこの狭くも重要な世界で、それを聞き届けた猟兵達が集まった。
「ありがとうございます。皆さんにはサムライエンパイアの関ケ原に赴いて頂きたいのです」
深々と礼をした真白は、本体である本を開き説明を開始した。
開戦して幾ばくかの日が過ぎたエンパイアウォー。サムライエンパイアの未来を書けた一大決戦。現在はまだ幕府軍の損害はない。だが信長軍も次なる脅威を次々とけしかけてきた。
関ケ原においては、魔軍将、軍神『上杉謙信』と、大帝剣『弥助アレキサンダー』の二将がそれぞれ大軍を指揮している。
「貴方達が立ち向かうのは大帝剣『弥助アレキサンダー』によって洗脳させられ集められた畿内全域の農民達によって形成される『ファランクス』です」
洗脳!? 農民達と戦えと? 良識ある猟兵の上げる疑問や不満の声に、真白は首を振り謝罪と訂正をする。
「誤解をさせてすみません。貴方達が戦うのはあくまでオブリビオンです。ですがかのオブリビオンはファランクスの中央におり、農民達を無視してたどり着くことは不可能なのです」
故に戦うのではなく立ち向かう。どうにかしてファランクスの陣形を突破し、オブリビオンと直接会いまみえなければならないのだ。
「洗脳されただけの彼らには何の罪もありません。また、洗脳を施した大帝の剣の中継器としての役割を果たしているオブリビオンさえ倒せば、洗脳は解除され無力化されます。なので可能な限り農民達は殺さずにお願いします」
農民たちの攻撃で猟兵が傷つくことは無いといっていいだろう。だが無策で挑めばオブリビオンに辿り着くのは難しくなり戦闘が不利になる可能性がある。
右手に槍、左手に盾を持ち、16×16の256名からなる対人間用の陣形であるファランクス。であるが故に様々な力を持つ猟兵ならば、農民を殺さず突破出来る対処法はあるはずだ。
「貴方達が向かう部隊の中央に居るオブリビオンは妖刀のヤドリガミです。己の刀で人を斬りその血を啜る事を至上の楽しみとするので、貴方達が相対すれば農民たちを操って襲わせる事はしないでしょうから、そこは気にしなくて大丈夫です」
必要なのはたどり着くまでの対処策だ。
「幕府軍に被害を出させるわけにはいきません。同時に洗脳をさせられている農民達こそが、この戦争で守られるべきサムライエンパイアの民です。彼らは『物語(じんせい)』を理不尽に奪われた被害者です。どうか、貴方方の手で彼らの『物語』を取り戻してあげてください」
真白は本を閉じると、どうかよろしくお願いします、と再び頭を下げて転送準備に入るのだった。
えむむーん
閲覧頂きありがとうございます。えむむーんと申します。
●特記事項
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●幕府軍の被害
8月20日までに必要成功数を達成できなかった場合、幕府軍5万人が関ヶ原で壊滅して、戦線を離脱します。
●シナリオの概要
関ケ原で幕府軍を壊滅させるために信長軍の大帝剣『弥助アレキサンダー』が、その大帝の剣の持つ洗脳能力で、大量の農民を洗脳し、ファランクス陣形を築いています。
これを崩すには中継器となっているボスオブリビオンを撃破する必要があります。
ボスオブリビオンは陣形の中央に位置しているため、前方半分の農民達をどうにか突破しなければなりません。
農民達の生死は成否には関わりません、が、洗脳させられているだけなので、なるべく殺さず無力化や、上手く身を隠してやりすごしたり、ファランクス陣形の想定外な突入ルート等で突破してあげてください。
●合わせ描写に関して
示し合わせてプレイングを書かれる場合は、それぞれ【お相手のお名前とID】か【同じチーム名】を明記し、なるべく近いタイミングで送って頂けると助かります。文字数に余裕があったら合わせられる方々の関係性などもあると嬉しいです。
それ以外の場合でも私の独断でシーン内で絡ませるかもしれません。お嫌な方はお手数ですがプレイングの中に【絡みNG】と明記していただけるとありがたいです。
それでは皆さまのプレイングをおまちしております、よろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『辻斬り『花簪のおりょう』』
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POW : 血染め狂い
【妖刀・血染め雲による斬撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 紅時雨
自身が装備する【自分の本体である妖刀】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 奥義・鬼血解放
自身に【妖刀が吸ってきた鬼の血の呪詛】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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オズ・ケストナー
戦いたくない人を戦わせるなんて
ぜったいにせんのうをとくからね、まってて
いくよ
ガジェットショータイム
空から降ってくるのは底のない大きな鳥かごがいくつか
地面に突き刺さって農民たちをまとめて閉じ込める
ごめんね
すこしがまんしてね
動きを止めたならあとは走っていけばいい
あとの農民のひとも避けて進むよ
もし避けきれなければシュネーの一撃で気絶を試みる
妖刀のところにたどり着いたら
相手の攻撃は武器受け
そこからカウンター
せーのっ
ざんねんだけど
わたしは切っても血が出ないんだ
でも無視されたら困るからないしょにして
全力で攻撃
他のひとや農民に攻撃が当たりそうになったら武器受けで守るよ
きみの相手はわたしだよ
よそ見しないでねっ
シリン・カービン
【SPD】
夏風が 血染めの雲を 吹き散らす
【シルフィード・ダンス】を発動。
高空へと駆け上がってファランクスを一気に飛び越え、
おりょうの直上へ。
自由落下状態から矢継ぎ早におりょうを狙撃。
距離が開いている間は、複製された妖刀の撃破も容易に
撃破できるでしょう。
地上が迫ったら再びUCを発動。
自由落下の加速は殺さず妖刀は空中ステップで回避。
流星の様におりょうへ突っ込み、
フェイントの一跳躍でかすめるように背後へ。
残りの跳躍回数全ての足踏みで急制動をかけ、
慣性に耐えながらおりょうの背中に撃ち込みます。
可能な限り一点に集弾。
妖刀と言えど一点穿てば砕ける筈。
もうこれ以上、血は啜らせない。
アドリブ・連携可。
ガイ・レックウ
(POW)で判定
「貴様が花簪か…ここで会うとはな…斬るぜ、てめぇを!!」
【忍び足】と【逃げ足】のスキルをつかい、ファランクスを潜り抜けるぜ。
戦闘になれば【オーラ防御】で防御を固め、【戦闘知識】による的確な【見切り】で避けるぜ
【怪力】を乗せた【なぎ払い】と【鎧砕き】の【2回攻撃】とユーベルコード【二天一流『無双一閃』】で斬り捨てるぜ!!
サンディ・ノックス
UC【解放・日蝕】で背を竜に
つまり翼を生やし空を飛んでファランクスを越える
邪魔な位置に居る農民は仕方がないから朔を投擲して転倒させる
ボスの元に着いたらUCでの変異部位を背から腰にして尾を生やし
黒剣をロングソードサイズに変形
「斬りたいんだろう?相手してあげる」
俺も敵を殺し魂を啜りたくなることがあるから斬って血を啜りたい気持ちはわからなくもない
斬られてやるつもりはないけどね
複製された刀を剣と尾で叩き落としながら敵の行動の癖を【見切る】
守りに徹すると消耗するだけだろう、敵の守りの薄い部分を見極めたら攻撃の隙を突いて【カウンター】
チャンスは一度と考えて力任せに一撃、攻撃の勢いのまま回転して尾でもう一撃
黒影・兵庫
自分で殺したがりなのは少し助かりますね、せんせー
(【教導姫の再動】発動)
【誘煌塗料】を体に塗って敵の軍勢を【誘惑】します!
敵の攻撃は【第六感】【見切り】【ダンス】【武器受け】で回避、防御しながら
【皇糸虫】を【念動力】【ロープワーク】【罠使い】で長槍をまとめて縛って奪取し【衝撃波】で折っていきます!
ある程度、上空のスペースを確保できたら俺をつかんで棒高跳びの要領で【衝撃波】を使ってボスのところまで飛んでください!
敵がせんせーの体を攻撃するよう誘導するので攻撃したら抱き着いて逃がさないようにしてください!
俺が【衝撃波】でそのまま攻撃します!抜け殻だから好きにしていいんですよね!?せんせー!
木元・杏
ん、『物語』取り戻してくる
【うさみみメイドさんΩ】でメイドさんを50体
5体一組、各組に漁業用の投げ網を用意して
おりょうの位置を確認
そこに行きつく前方の農民達を数人ずつ投げ網で捕らえ、
身動き取れないようにしていって
絶対に死なせちゃだめ
基本わたしは農民の対応、他の猟兵が素早くおりょうに到着するお手伝い
おりょうに向かう時は
メイドさん達を呼び戻し、妖刀対応
大桶剣にした灯る陽光でオーラを纏い防御して
メイドさん(本体)と一気に近接
刀を第六感で見切り、横なぶりに剣で斬りつける
避けられても、メイドさん、剣を台にしてジャンプ
おりょうの顔面を蹴って目潰して
残念ね?
貴女は斬られ、そして自分の血を呑んで、消えて
アルファ・オメガ
「がう、大帝の剣かあ」
なんか聞き覚えあるようなないような
とりあえずファランクスを攻略しなきゃね
技能的に活かせそうなものがなかったので
ボク(身長40cm弱)がすっぽり隠れる深さの穴を掘って中に入って蓋をして
農民たちが通り過ぎるのを待ちます
花簪のおりょうが通るタイミングは野生の勘できっとわかる
「がう、ここだー!」
タイミングがあっていても間違っていても
あわてず落ち着いて、すーぱー・もふもふぱわー!
おりょうがまだ遠いなら飛翔して上から接近
そして手の届く範囲におりょうがいるなら
ぶらっく・せいばーで攻撃だー!
なお、血染め狂いは武器受けでなんとか
ダメージ負っても負けないぞー!
「もふもふは正義!」
●集いし七人
一糸乱れぬファランクスの陣形が見晴らしの良い野原を征く。その姿を遠くに見ていたのは七人の猟兵達だ。彼らは簡単に言葉や視線を交わした後、各々陣を突破するべく動き出した。
●空を行く者達
初めに風が吹いた。熱された肌に心地よい突風は、どこからか漂う血の臭いを吹き消し、雲すら散らした。それは風の乙女達の通った跡だ。
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は駆け出す。その長くすらりとしつつも引き締まった、女鹿を思わせるような足に力を込めて、大地を蹴る一歩。その次の一歩が再び大地に刻まれる事はない。
「風に舞い」
腿を上げる、両手を高く天にかざす、呼びかける様に。
「空に踊れ」
誰もいない空で、誰かがその手を掴んだ、踊りを請われた姫君が、麗人のその手を取るように。再び一歩。風の乙女はシリンを抱きしめ、その身に絡まる大地の鎖を切り離す。
何物にも縛られる事のない空という名の舞台でシリンは舞い踊る。風の乙女と共に自由の舞を。さらなる一歩。圧倒的な解放感、シリンの心は沸き立つ、あぁ、いつまでもこうしていられたら……。
いいじゃない、一緒にいつまでも踊っていましょう? そんな重くて汚い肉の入れ物なんて棄ててしまって……
それは風の乙女の誘惑。乙女に悪意はない、それはあくまでシリンへの純粋な好意の言葉だ。だが、人ならざる者の好意が肉持つ者達の幸福になるとは、必ずしも限らない。
只人であれば精霊の誘惑に呑まれ、その肉を大地に投じたかもしれない、しかしシリンは精霊術師だ、森で精霊と共に生きる者だ、彼女達の危険性も扱い方もよくわかっているのだ。
「ありがとう。でもごめんね。私には狩らなければいけない獲物がいるのよ」
空を舞い駆けた事で彼女の目は獲物を補えていた。
意思無き兵にされた者達の中央にたたずむ一人の女。
風の乙女達は残念がりながらもシリンの身を離した。その突端彼女達は先ほどまでの執着すらも忘れ、自由気ままに飛び去って行く。風の乙女の干渉が消えた事で、シリンの身体はすぐさまに大地の鎖に包まれる。翼持たぬ者は大地に繋がれるべし、この世の理に従い落ちるシリンは、秒刻みで増すその速度に恐れることなく愛銃を構え狙撃の体勢に入った。
「あらまぁ、そんな所からくるなんて」
オブリビオンはやや驚いたように空のシリンを見た。けれど直ぐにその顔を笑みに歪めた、ようやく欲望を果たせると悦ぶ禍々しい笑みだ。
オブリビオンの周囲に、彼女が携える刀と同じものが幾本も生み出される。それらは狙い過たずシリンへと襲い掛かる。けれど、遠い。他の者ならいざ知らず、狩人たる彼女にとっては、その全てを猟銃で撃破するのに十分すぎた。
しばし時は遡る。風の乙女たちによって空を駆けていくシリンを見送りながら、サンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)もまた空を行く選択をした。しかし彼には精霊を使役する術はない。彼が選んだのはあくまで自力で飛ぶ方法だった。
「仕方ないなあ。少しだけ俺の本当を見せてあげる」
翼持たぬ者は大地に繋がれるべし、ならば翼を持てばいいだけのこと。と、彼が考えたかはわからないが、サンディのマントに隠された背中が二つの盛り上がりを生む。それは成長し、やがてマントの下から一対の翼が顔を覗かせたのだ。
それは鳥のような毛を持つ翼ではなかった。硬い鱗、ピンと張られた被膜。竜の翼だ。
「目的が果たせるなら安いよね?」
サンディは、その中性的な顔をしかめ、その青い瞳を細めながら言った。その顔色と声色には、不快そうな、そして疲労しているのか、やや辛そうな色が滲んでいた。
そうして生まれた竜の翼を羽ばたかせ、サンディは大地に別れを告げた。風が頬をくすぐり、明るい茶色の髪を撫ですぎ行く。
生身の人間が味わう事叶わぬ体験だが、サンディにとってはただの手段でしかない。特に楽しむ気も無くファランクスを飛び越え、目的のオブリビオンを視認する。互いの目が合う。歓喜の色を浮かばせる瞳。
それに対してサンディもまた笑みを浮かべる。普段の彼が見せる笑みとは全く異なる表情、しかしシリンは彼の前に居たためにそれに気づかない。オブリビオンはその表情を見てさらに笑みを深くするが語る事は無い、故に誰にも気づかれず、またサンディ自身も知る事は無い。
オブリビオンとある程度の距離を置いての着地、すぐ傍にいる農民には、新月を意味する名前を刻んだ愛用のフック付きロープを投じて転ばせる。一応頭を打たないように加減も付けた。
大地に足を付けばもはや翼は不要。腰に携えた剣を抜き放ちながら翼を消し、代わりに腰から一振りの尾が生える。
「斬りたいんだろう?相手してあげる」
僅かな朱色のアクセントを残し、刀身、柄、鞘全てが漆黒で統一されたその剣は、サンディの腕の中でまるで生物のように大きさを変えていく。長剣程の長さになったそれを構え、彼はオブリビオンと対峙した。
●捕える者達
一刻も早くオブリビオンを討ち、農民達を解放する為に空を飛ぶ二人に対し、農民達をそのままにしておけないと感じる猟兵達もいた。彼らは迫りくるファランクスの前に立ちはだかる。
「戦いたくない人を戦わせるなんて」
普段柔和な表情を浮かべる事の多いオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、しかし今その全てで悲しみを表現していた。オブリビオンへの怒りよりも、その非道の犠牲となった農民達に共感し同情擦る心の方が強かったのだ。
「ぜったいにせんのうをとくからね、まってて」
ぐっ、と拳を握るオズ。衆目美麗な美男子然とした彼であるが、その言動はどこか幼子のような純粋さを持っていた。
「ん、『物語』取り戻してくる」
オズの決意に応えたのは木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)だ。物静かな少女ではあるが、その内面では騒がしい事やお祭り事も楽しむ彼女にとって、己の意志を奪われ無言で操られる農民達の姿は、見るに堪えない物だったのだろうか。可愛らしいその眉を顰めていた。
「まぁしかし、自分で殺したがりなのは少し助かりますね、せんせー」
二人の背後で発言したのは黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)だ。しかし彼の言葉はオズ、杏のどちらに向けられたものでもない。彼の脳内には教導虫と呼ばれる寄生虫がいるのだ。教導虫は幼い頃から彼を教え導いてきた、故に彼にとってはせんせーと呼び慕う存在なのだ。
滅私奉公、品行方正、公明正大を美徳として育った彼にとっても、罪無き農民を殺す事を良しとはしていない。もしオブリビオンが彼らを対猟兵の為に積極的に動かしていたら、傷つけずに対処するのは難しかったかもしれない。
兵庫の呼びかけに応えたのか、彼の隣に新たな人影が現れる。それはスーツに身を包んだ一人の女性だった。美しい金髪を長く伸ばした彼女の、クールな印象を与える細目の美女だ。しかしその頭には蜂の触覚が付いている。
《アタシの抜け殻だから好きに使っていーよ♪ by せんせー》
そのように書かれた看板をもったその女性は、懐から『誘煌塗料』とラベリングされた瓶を取り出し、兵庫の望む通りに己の身体にふりかけ塗り付けた。
その工程が終わると、抜け殻は兵庫の脳内にいるせんせーによって操作され、ファランクスの方へと向かう。その身に帯びた物品の影響か、自信の意思を奪われた筈の農民達が反応し、抜け殻へ向けて槍を突き出し始める。
「よいしょっと!」
抜け殻が迫りくる槍を見切り華麗に避けるのに合わせて、兵庫が一本の糸を取り出す、それは自らの意思で動き、兵庫をアシストしながら長槍を絡めとりしばっていく。
「でえいっ!」
とどめとばかりに警棒を叩きつけ、生み出された衝撃波で長槍を折っていく兵庫。
武器を奪われた農民達は負傷兵と認識されたのか、後列の者と交代を始める。そこに介入したのはうさみみメイドさんの群れだった。
「いってらっしゃい」
杏に見送られた総勢50体にも及ぶうらみみメイドさん軍団は5体一組のチームを編成、各組が杏の持ち込んだ漁業用の投げ網を装備して進み出る。杏はオブリビオンの位置を確認し、そこまでの間に立ちふさがる農民達へ網を投じさせた。
折角交代した農民達が網に囚われる、長槍が災いし完全に絡まってしまう。そして力任せにずりずりと引きずられる。うさみみメイドさん、可愛らしいがその力は十分なのだ、それが五体もおれば抵抗する数人を引きずることなど造作も無かった。
勿論後続はまだいる。しかし、武器を奪われたり捕縛されればその分損耗はする。鉄壁のファランクスは徐々に削られ薄くなっていく。
後は兵庫の連れてきた皇糸虫と杏が持ち込んだ網の残数が足りるかという勝負であったが、そこにダメ押しと加勢したのがオズだ。
「いくよ」
オズは優しく静かに宣言すると、利き手で点を指さした。
「ガジェットぉ、ショータイムっ」
彼の声に従い、時空を超えて魔導蒸気文明の産物、ガジェットが出現する。先ほどの夏風が通った雲ひとつない空に異物が現れる。それは、大きな鳥かごだった。底の無い、柱と上部だけの鳥かご。
オズにはそのガジェットの使い方が既に分かっていた、これは非常に簡単だ。掲げた腕を降ろし、天を刺していた指を、農民達へと向ける。ターゲット、ロックオン。
使用者に指示を入力されたガジェット鳥かご達は、蒸気を吹き出しながら駆動する。自由落下ではなく制御された落下。柱はファランクス陣形の、杏のうさみみメイドさん軍団によって削られ隙間へ的確に突き刺さる。農民を押しつぶすどころか欠片も傷つけない脅威のマジカルスチームメカニズムである。
傷つけられはしないが、決して逃しはしない。鳥かごの中の農民達が長槍を叩きつけても、鳥かごの柱には傷1つつかない、そもそもすし詰めで槍を振り回す事も出来ない者が多かった。
「ごめんね。すこしがまんしてね」
彼らを救うためとはいえ、そのような狭い場所に押し込めてしまっている事にオズは申し訳なさそうにしながら走り出す。動きを止めたならあとは恥って行けばいいのだ。残った農民を避けるくらいの立ち回りは彼には造作もない。
また数を減らされた農民達には、オズだけにかまけていられない理由もあった、彼らの頭上にそれはあったのだ。
「さすがです、せんせー!」
ある程度捕縛しスペースを確保できたのを確認した兵庫は、せんせーに頼んでせんせーの抜け殻と共に跳んだ。飛んだのでなく跳躍だ。棒高跳びの要領で抜け殻に抱えられたまま跳ねた。その兵庫にも対応しなければならなかったのだ。
杏はそんな二人を見送っていた。自身がオブリビオンの向かわない、というわけではないが、網を全て投じて捕縛するまでは他の猟兵が素早く到着するためのお手伝いをするつもりだったのだ。
戦いは激しい物になるかもしれないが、既に信頼できる緑の狩人の飛び舞う姿を見ていた杏にとっては心配は無かったのだ。
●隠れる者達
対人の為に構築されたファンクス陣形の想定外である上空からの侵入、そして猟兵達の持つ異能の力による人員の捕縛による層の減少。これらが陣にもたらしたダメージと混乱は無視出来る物では無かった。それが残された二名の猟兵達への助力となって働きかける。
「……っ」
陣形の中央、そこにいるであろうオブリビオンの気配を感じたガイ・レックウ(相克の戦士・f01997)は僅かに顔をしかめる。望まずその身に浴びる事となった妖刀の呪詛が彼を苦しめるのだ。
詳細はわからない、だが、決して無視してはいけないものがあそこに在る。そう確信出来るだけのものが彼にはあった。突き動かされるように走り出す。
彼が身に着けたその歩行術。足音や気配を消し去り対象の死角を潜り抜け、また、発見されれば素早く走り逃げ切る。他の猟兵達が行った行動により、鉄壁の陣形には既に彼ならば潜り抜けられる隙間がいくつも生まれていたのだ。
そしてついに彼は辿り着いた。空からの仲間が放つ攻撃に相対する妖艶な美女。美しい顔を愉悦に蕩けさせるその姿を見た時にガイは確信した。
「貴様が花簪か……ここで会うとはな…斬るぜ、てめぇを!!」
ガイはその名前だけは知っていた。彼が追い求める者に至ると信じているいくつかの断片、その一つが花簪という名前だったのだ。
オブリビオン……辻斬り『花簪のおりょう』もまたガイを見た。彼が抜いた妖刀を視た。
「あら、ふふふ、あらあら。まぁ、懐かしいわ……」
おりょうはそのまま、まるで古い知り合いに再会したかのような気安さでガイへと歩を進めた。一歩、二歩、三歩、その時だ。
「がう、ここだー!
おりょうの足元が突然爆発した、いや、土中に潜むなにものかが勢いよく飛び出したのだ。アルファ・オメガ(もふもふペット・f03963)だった。
彼は待ち続けていた。堅牢なファランクスを突破する為に仕えそうな技術を、運悪く彼は持っていなかった。考えた末に至ったのが、小柄なその体躯を活かしたものだった。すなわち、穴を掘って隠れよう。気づかれないように体がすっぽり収まる深さまで掘り、蓋もしっかりした。その結果農民達は誰も気づかずにその上を通過していった、
彼は待った、他の仲間を信じていた、自分が飛び出した時、他の猟兵達もきっとその場にいるはずだと。
暗闇の中で息を殺しながら彼は待った。多くの気配が過ぎるがあれは違う、人間味の全くない、統率されすぎた足音群、それに……。もう一つの理由を思い浮かべた時、変化にアルファは気づいた。来る、オブリビオンが、おりょうが近づいてくる。
独特の足音、そして何より、血なまぐさい気配。先ほどの洗脳された農民達からは一切しない、染み付いた、人の血肉の臭さ、それを彼の鼻は、野生の勘はしっかりと感じ取っていたのだ。
「がう、ここだー!」
そして彼は飛び出したのだ。おりょうにとってこれは完全な不意打ちだった。
不意打ちを受けたおりょうへ、地上に降りたシリンが迫る。再び招いた風の乙女たちに包まれながら、落下した時の加速をそのままに、乙女達の力を借りて避ける。そして真っすぐに、地上を走る流星となって突っ込む。
「うふふ、貴女から斬られたいの?」
アルファの不意打ちによるショックから直ぐに立ち直ったおりょうは、風を纏って迫るへ妖刀の複製を投げつける。
念動力で誘導される刀にシリンは一度右へ体を傾けて直ぐに左へ、風の乙女の力を借りた驚異的なフェイントをかける。そしてそのままおりょうの横を通り過ぎた。
「あらあらとまれなかったの……くっ」
おりょうが振り返る前に響く銃声。そしてその背に銃弾が浴びせられる。おかしい、あの勢いで走って背後になった私を、あんな長物で正確に撃ち抜くだなんて。振りむいたおりょうが見たものは、完全に己の方に体勢を向けて猟銃を構えたシリンだった。
シリンはすさまじい速度でおりょうの脇を抜けた、そのままではおりょうが振り返るまでに攻撃態勢はとれなかっただろう。しかし、周囲をただよう風の乙女達全員に頼んだのだ。乙女たちは一斉にシリンの足を支える。大地をえぐりながら本来ならあり得ないほどの急制動をかけるシリン。
「ぐっ、くうぅ……」
激しい慣性に呻きを漏らしつつ耐えるシリンは、慣れた手つきで銃を構え直し、捉えた。
既に戦いの火ぶたが切られた所で、杏も合流し、ついに七人の猟兵は斃すべき相手と相対したのだった。
●決戦
「うふふ、いえいがあねぇ? ふふ、素敵、みんな強そうねぇ……強そ?」
ダメージを負いながらもおりょうに焦りの色はない。自分達を取り囲む猟兵達を見回りながら舌なめずりをする。そして最後に土中から飛び出したアルファを見つめて首を傾げた。ケットシーである彼は全身もふもふ、血に酔う狂った妖刀にとっても、その姿は愛らしいものに映ったのだろうか。
「なんの! もふもふだって戦えるんだ! いっくぞー!」
アルファはその全身を不思議なもふもふぱわーで覆い、腰の刀を引き抜いた。黒い刀身に、紅が入った刃紋が煌く。低い頭身を利用し、おりょうの下から切り上げる刃。おりょうは本体でそれを真っ向から受ける。激突。刃と刃がせめぎ合う。女性の姿をしていても、相手は恐るべき妖刀、数多の命を奪ったおりょうは尋常ではない怪力で、アルファを刀ごと両断せんと力を籠める。アルファの体にかかる重圧は増し、刀を持つ腕に引きちぎられそうな激痛が走る。
「くううぅ……も、もふもふは正義ぃ!」
ダメージを負っても負けるものか、もふもふは正義なんだ。そんな彼の心に、全身を覆う不思議なもふもふぱわーは応えた。少しずつ、少しずつアルファの刀がおりょうを押し返し、ついにはその刀をはじいて。
「ええい!」
おりょうの左肩に傷をつけると、後方に飛び距離をとった。
「まぁ……ごめんなさいね、猫さん。見た目で侮った事を謝るわ。ふふふ、貴方も斬って血を啜りたくなっちゃった」
だから、今から斬りに行くわね。
距離をとったアルファへおりょうが複製妖刀を飛ばす。オズはそれを見て身の丈もほどもある巨大な斧型ガジェットを振りかぶった。内部機関が駆動し、激しい蒸気を吹き出して斧が加速し、複製妖刀を蹴散らした。
「あら、ふふふ、渡来人の優男だと思ったのだけれど。面白い獲物を使うのね」
おりょうは自分の攻撃を防いだオズの、特にそのこの国では見かける事の無いプラチナブロンドの髪に注目した。
「ふふふ、綺麗な髪ねぇ……でも赤をいれたらもっと綺麗になりそうね。私渡来人ってまだ斬った事ないのよぉ。ふふふ、渡来人の血も赤いのよね?」
次なる獲物を己に定めたらしい様子に、オズは内心でざんねんだけど、と舌を出した。
オズは切っても血が出ないのだという、つまりおりょうの関心は無駄骨だ。だが、だからこそそれはおりょうにはないしょなのだ。
「ひーみつっ!」
「ふふふ、斬って確かめてみてね、ということね」
おりょうは複製妖刀をさらに増やし、オズを取り囲むようにして、時間差で切りかかる。
「えい。とー!」
オズは巧みに武器を振り回して攻撃を受け止めるが、数が増えた事で段々と劣勢に立たされ始める。
「ふふふ、もうちょっと増やすわね」
そこに二度目の複製妖刀の追加、対応しきれないオズだったが、そこに杏とサンディが割り込んだ。
「ん、誰も傷つけさせない」
「オズさん、守りに徹すると消耗するだけだね」
杏は変幻自在な愛剣を大剣のように巨大化させ纏ったオーラでオズを狙う刃を防いだ。さらにうさみみメイドさん軍団をけしかけて、他の複製妖刀も破壊してまわる。
サンディは黒い長剣を携えて、そのひと振りと尾の一撃で複製妖刀を叩き折る。
「(血を啜りたい気持ちはわからなくもない、斬られてやるつもりはないけどね)」
彼も、殺した敵の魂を啜りたいという衝動に駆られる事がある。倒した獲物を取り込みたいというおりょうの在り様に、彼は一定の理解を示した。だが、それはそれ、これはこれ。理解はしても許すつもりは一切ない。
「そろそろお前の癖、わかってきたな」
それはブラフか、それとも本音の言葉だったのか。右から左から飛来する複製妖刀の群れを全て避け切り、カウンター気味に走り込み、袈裟懸けに剣を振り下ろす。彼はその一度きりのチャンスを無駄にせず、その勢いのまま体を回転させて尾で殴りつけた。
「きゃああっ!?」
肩から腰にかけて大きく切り裂かれたおりょうは、かつて己が数多の人にしたのと同じように、赤い血を吹き出しながら尾の一撃で大きくのけぞった。。
そののけぞったおりょうに向かって走ったのはオズと杏、そして彼女の繰るうさみみメイドさん人形の本体だった。
杏は大剣を片手で振るい、横なぶりに斬りつける。避けようとしたおりょうだったが、崩された体勢では不可能だった。それでも腹に僅かなかすり傷程度には抑え込む。
「まだっ」
杏の一撃は避けられる事すら想定したものだった。だからかすり傷だけも十分だったし、なによりその次の手を考えていた。彼女が片手で剣を扱った理由、反対の手には人形繰の糸が付いている。
うさみみメイドさんが杏の剣に飛び乗る。さらに踏み台にしてジャンプ。おりょうの顔面にとびついて目潰しとなる蹴りを放ったのだ。
「ぎゃっ!」
さすがに人形に目を蹴りつぶされた経験は無いおりょう、思わず叫びながらうさみみメイドさんを手で振り払う。閉じられた目、完全な隙ができた。
「残念ね? 貴女は斬られ、そして自分の血を呑んで、消えて」
「せーのっ」
オズが大きく振りかぶって斧を振るう。蒸気で加速した斧の一撃は、おりょうの腰に命中し、おりょうは吹き飛ばされて遂に地面に転がる。
「くああっ! く、はぁ……やるわね……でも、ふふふ、隙あり」
おりょうは倒れたままの体勢から鋭い斬撃を放った。それは偶々傍に立っていた誰かの片腕を斬り飛ばす。
「ふふふ、あはは! やったわ、斬ってあげたわ!」
おりょうはそのまま立ち上がると片腕を無くしたその人物、女の胸に深々と本体である妖刀を突き刺した。
その一撃は心臓を貫いた、即死したのか、女は力なくおりょうに抱き着いた、長い金髪がおりょうの頬をくすぐる。
「ふふふ、貴女も渡来人なのね、ふふ、さっきの坊やじゃなくて貴女から味わってあげるわね、貴女の血を……血を……血?」
そこでようやくおりょうは異常に気付く。腕を斬り飛ばした時出血はあったか? 胸を貫いた時この女の心臓は動いていたか? いくら啜ろうとしてもあの甘露な血が出てこないのはどういうわけだ?
既に死んだはずの女が動いだ、腕をおりょうの背中にまわす。がっしりと抱きしめてくる。
「せんせー! 完璧です! おりゃあ!」
女に抱きしめられて動けないおりょうへ衝撃波が飛んでくる。おりょうは女もろとも吹き飛ばされる。
「かはっ! 貴方、まさか仲間を犠牲にして……?」
「ん? 何をいってるんですか? せんせーはここにいますよ」
衝撃波を放った張本人。兵庫は会心の悪戯が決まったとでも言いたげに笑いながら、自分の頭を指さした。
「せんせーの体はただの抜け殻だから好きにしていいんですよね!? せんせー!」
兵庫の言葉にせんせーが何と答えたかはわからない。だが、おりょうを抱きしめて押さえつけるせんせーの抜け殻は、斬り落とされていない残った手の親指を立てた。満点ということだろうか。
おりょうは突き刺したままの本体妖刀を動かしてせんせーの抜け殻を上下二つに両断し脱出する。そこで響く銃声。シリンだ。しかしおりょうは本体妖刀でなんなく銃弾をはじく。再びの銃声。それも弾く。
「ふふふ、最初は不意打ちされたけど、もう貴女の弾は通じないわよ」
「……」
シリンはその声を無視し、距離を取ったまま三度発砲する。勿論それも本体妖刀で弾かれる。お変えしとばかりに複製妖刀を投げつけるが、杏の白く輝く剣とアルファの黒い刀に切り払われる。
「花簪」
ガイが妖刀を構えて前に出た。おりょうと再び視線が交わる。
「ふふふ、可哀想、その子ももっと沢山、人間の血を啜れば、私みたいになれたかもしれないのに」
「やはりお前はこの妖刀ヴァジュラを……これを打ったヤツの事を知っていやがるのか」
「さぁ? どうだったかしら?」
ガイには一つだけ確信出来る事があった。自分が追っているオブリビオンとの繋がりがあるかはわからない、だが、この女と己には、何らかの因果が繋がっていると。そして、今ここでならばそれを断ち切れると。
「いくぜっ!」
赤い瞳を細めたガイはおりょうへと迫る。おりょうもまた、シリンから未だ続く銃撃をはじきながらガイを迎え撃つ。
「ふっ!」
おりょうの放つ斬撃を、ガイは己の刀で受け止める。並の刀なら豆腐の様に切り裂くその一撃も、ヴァジュラなる妖刀は炎おのオーラを纏って防ぎきる。
「ふんっ!」
ガイは恐るべき膂力でもって振り下ろされたおりょうの刀を押し返す。そして腰から二振り目の刀を抜く。
「花簪よ、見せてやる。これが俺の奥義!!くらえ、無双の一撃を!!」
ガイの両手からそれぞれ別の斬撃が放たれる。しかしそれはどうしたことか、全く同時、全く同じ軌道を描く、そしておりょうの本体妖刀を叩き斬り、勢いを殺さぬままにその首を刎ねた。二刀にて同時に斬撃を放つ。、二刀でありながら双つと無き一閃の技。これがガイの奥義だった。
「あ、あ、どう、して……?」
どさりと、首を失った体が大地に倒れる。オブリビオン故か、胴体を失ってもまだおりょうの意識は残っていた。彼女はきょとんとした顔でガイに問いかける。何故斬れたのか、鍛え上げられた本体は、いかに同じ妖刀といえど、そう簡単に刃が通るようなものではないはず……と。
「妖刀と言えど一点穿てば砕ける筈」
答えたのはガイではなくシリンだった。彼女はおりょうの人型を撃とうとしていたのでは無かった。体を狙うようにみせかけて、その陽動に対しておりょうが刀で防ぐ事を予測し、刀の同じ位置に着弾するように計算していたのだ。一発では無駄、二発でも届かない、ならば三発、四発……シリンはこの『獲物』を狩るために執拗に粘りついにはおりょう本人が気付かないような摩耗を与えていた。
そしてガイの観察眼はそれを捉えていた。彼の戦闘に関する知識と経験がそれを好機と捉えた。果たして彼は見事血染め狂いの妖刀を斬り捨てたのだった。
「あぁ……もっと、斬りたかったわ、啜りたかったわ……残念、ね……」
その言葉を残しておりょうは消えた。後には、さび付いてみるも無残な姿になった、半ばから断ち切られた一振りの刀だけが残った。
そして周囲の農民達が一斉に騒ぎ出した。大帝の剣の力を中継していたおりょうが死した事で、その洗脳から解放されたのだ。無茶な行軍等で疲弊したり、擦り傷のような軽傷を負った者はいるが、後遺症が残ったり、命に関わるような傷を負ったものは誰もいない。それは、全てここに集った七人の猟兵達の、気配りと行動がもたらした誇るべき結果だ。
もはや血の臭いはどこからもせず、天には夏の心地よい日差しが猟兵達を称賛するかのように輝いていた。
成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月17日
宿敵
『辻斬り『花簪のおりょう』』
を撃破!
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