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エンパイアウォー⑧~満ちぬ飢えを、何とする

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー


「こ、こっちに来るんじゃねえ!?」
 それは月夜の晩のこと。小ぢんまりとした農村で起きた……いや、起きる惨劇。
「ぐっ……やめ――ア……が……」
 薄い月明かりに揺らめく幾つもの影。前触れなく農村へとやってきた悪鬼たち。
 それらは住民である老父の一人に群がり牙を立て、皺深い肉を喰らい、命を啜る。まるで抗いがたい飢えに突き動かされているかのように。
 『水晶屍人』。奥羽地方にて確認された、『安倍晴明』が造り出したオブリビオン。
「ひっ……!? にっ、逃げろぉ! あっちだ! 城の方まで逃げるんだ!」
 騒ぎは小さな村を瞬く間に伝播していく。
 只の農民たちがその原因に抗う力を持つはずもなく、生き伸びたければ住処を離れるほかない。
 ゆらゆらと覚束ない足取りで歩み来る屍人たちは統率がとれていないように見えてしかし、一つの方向からやって来る。農民たちはそちらに背を向けて唯々、一心不乱に走った。
 ――あの灯りまでたどり着けば、きっと助けてもらえるはずだ。
 誰もがそう願い目指す先。それは遠くからでも目につく灯り、城に高々と掲げられた灯火。
 ……しかしその灯りは、彼らを更なる惨劇へと導く誘い火だった。

「忙しない中よく集まってくれたね、ありがとう皆」
 静かな、水のように澄んだ徒梅木・とわ(流るるは梅蕾・f00573)の声がグリモアベースの空気を伝う。たっぷり毛並の尻尾も今日は大人しいもので。
「さあ、早速だけれど話に入るとしよう。……また水晶屍人だ」
 エンパイアウォーの渦中にあっては、広く知られたオブリビオンの名。肩を突き破るように水晶を生やしたその異容を直に目にし、そして蹴散らした猟兵もこの場に居るかもしれない。
「奥羽の時は、猟兵たちにとっちゃあ有象無象と言って差し支えない奴らだったけれど……今回のは戦局がひっくり返りかねない」
 放置すれば、だけれどね。そう付け足して、うんざりしたようなため息を一つ零し、とわは話を続ける。
「安倍晴明がさ、とびきり強い屍人を作ろうとしているようなんだ」
 その戦闘力、既存の屍人に比べ十倍以上。数こそ奥羽に出現した屍人たちと比べれば少なくなるそうだが、
「手を打たなければ山陰道を通る者は尽く命を落とすことになる」
 数に質が揃ってしまえば強大な脅威となりえる。それがどんなに知恵のないものであってもだ。
「幕府軍も、猟兵も、関係なくだ」
 何故なら予期される強化された屍人は、十体程集まれば猟兵一人とも十分に渡り合えるほどの力を持つというのだから――。

「ではどのようにこれを阻止するかだ」
 予知された、大きな、余りに大きな脅威。しかしそれに怯んでいる暇はない。とわはそれに抗するための方策を猟兵たちへと語り出す。
「そもそもだが、この強化された屍人は簡単に作れるものじゃあないんだ。それが出来るなら最初からやっているだろうしね。……必要なのは酷い死を迎えた者、その怨霊らしい」
 曰く、死に目が酷ければ酷い程にその能力は向上するのだとか。
「それに利用されようとしているのが、鳥取城と、近隣の住民たちだ」
 鳥取藩は久松山に聳える山城、鳥取城。その地と住民たちに迫る危機。少女は眉間に小さく皺を寄せ、猟兵たちに問いかける。
「キミたちはさ、『鳥取城餓え殺し』って、知っているかい?」
 それは戦国時代、徹底的に、完膚なきまでに行われた兵糧攻めの話。
 四ヶ月を越える兵糧攻めは城に立て籠もった兵を、そこに逃げ込んだ領民を飢え死にさせ、……あまりの、耐え切れないほどの飢餓から仲間の死体さえ口にしたという、凄惨な歴史の話。
「――と、こういう事があった場所でね……。その時に亡くなっていった人々の怨霊を利用し、更に……そこでまた新たな餓死者を出して、屍人にするようなんだ」
 放っておけば乱れそうになる心を少女は意識的に深呼吸して制し、
「幕府軍の道を切り開くためなのはもちろんだけれどさ、同じくらいに、こんなことは繰り返させちゃあいけない。今からならそのどちらにも間に合わせられる」
 爪が掌に食い込むほど拳を握りしめ、真剣な眼差しを猟兵たちへと向けた。
「キミたちに向かってもらいたいのは鳥取城の近くにある小さな農村だ。ここに水晶屍人が現れ、その攻撃性と恐怖とで住人たちを城へ追い立てようとする」
 今からその農村へと駆けつければ、被害者が誰一人出る前にこの事件に介入することができ、十数匹程の――それでも既に強化が施された――屍人を倒す事が出来れば、この農村は安全になるのだそうだ。
「どうか住人を屍人から、そして晴明がやろうとしている鬼畜生の所業から守ってやってほしい。頼んだよ、皆」
 とわの手に浮かぶグリモア。梅浮かぶ水面のそれは、惨劇を止めるためにと猟兵を導く誘い水。
 淡く光を放ち、月夜の農村へと転移が開始される――。


芹沢
 あちらに脅威、こちらに魔軍将と忙しい戦況。皆さんは如何お過ごしでしょうか。
 芹沢はエンパイアウォーの規模の大きさに圧倒されるばかりです。

●特記事項
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●各章について
 第一章:『水晶屍人』との戦闘(集団戦)

 のみで進行します。
 奥羽屍人戦線に出現した『水晶屍人』たちよりも強くなっており、出現数は十数体。採用プレイング数にもよりますが、猟兵お1人当たり2、3体の『水晶屍人』を相手取る事になるでしょう。
 どの様な行動であっても結果はプレイング内容とそれによる判定にのみ依存します。ですので自由な、猟兵の皆さんのらしさ溢れる発想で戦いに臨んで頂ければと思います。

●その他
 公開され次第プレイング募集中となります。
 また、プレイングを8月12日20時頃までに(勿論それ以降、システム上締め切られるまでは大丈夫ですが)送って頂けますとスケジュールの都合上大変ありがたいです。同じくスケジュールの都合で採用人数は5名前後になる見通しです。
 募集期間内であれば先着順ではありませんが、送っていただいたプレイングを流してしまう可能性があります。何卒ご了承いただければ幸いです。

 以上、芹沢でした。
 皆様のらしさ溢れるプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『水晶屍人』

POW   :    屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
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天御鏡・百々
強力な手駒を作るために飢え死にさせるとは、まさに外道の所業だな
救えぬならば、せめて清明の術より解放してやろうぞ

屍人相手であれば、我が破魔の力が良く効くというものだな
破魔69を乗せた『天鏡破魔光』を放ち
近づかれる前に浄化してくれようぞ

敵が『水晶閃光』によって呼び出すものも霊の類い
しからば、こちらも破魔の光で浄化できるであろう
いけそうならば、我が本体の鏡で閃光を反射し
屍人の目潰しを狙ってみるのも良さそうだな(目潰し5)

速く清明の居場所が判明すると良いのだが
民を犠牲に手駒を造り更なる被害を出す
このような外道は絶対に許せぬ

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎
●本体である神鏡へのダメージ描写NG


紅呉・月都
屍人…これ以上犠牲を増やしたりはさせねえ
人に危害加えてねえでさっさと成仏してろ!!

テメエらにくれてやるもんはねえんだよ!!
閃光の発動を妨害するために【鎧砕き】の要領で水晶の破壊を狙う
また【マヒ・気絶攻撃】で相手を怯ませ、その間に【串刺し・鎧無視攻撃】でトドメをさす。

テメエらが数で来るならこっちも同じ手を使わせてもらう
普通の人間をそっちに引きずり込むなんざ虫酸が走る
住人は俺達猟兵が護る!!
複数の敵を同時に相手取る場合は召喚した狼と連携しつつ【なぎ払い・範囲攻撃】で攻撃


敵からの攻撃は【野生の勘・見切り】で回避を試みる
回避出来ないなら【武器受け・敵を盾にする】ことで対応し、重傷を負うのを避ける



「こ、こっちに来るんじゃねえ!?」
 それは月夜の晩のこと。小ぢんまりとした農村で起きた――、
「屍人共……これ以上犠牲を増やしたりはさせねえ……!」
 戦いの話。
「人に危害加えてねえでさっさと成仏してろ!!」
 薄い月明かりに踊る紅の髪。前触れなく農村へとやってきた猟兵――紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)が腰を抜かした老父の前に立ち塞がり、同じくやってきた水晶屍人を睨めつける。
「突然の事でさぞ驚いているだろうが、もう大丈夫だ」
 老父に手を差し伸べるのは一人の少女。
「あんたらは……」
「今は些事よ。皆の者、暫く物騒になる。少しの間ここを離れていてくれ。あそこなら安全だろう」
 問いかける村人をそっと制し、少女、天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は農村で比較的大きい一つの家屋を指す。
「くれぐれも鳥取城には行くんじゃねえぞ!! わかったな!!」
 油断なく刀を構え、屍人たちから視線を切らず、故に背後の人々に確りと伝わるように声を張って。恐慌状態の村人には月都の声が怒声に聞こえたかもしれない。月光に黒く輝く美しい刀を見て、名のある武士と思ったかもしれない。
 兎にも角にも、彼らは月都に追い立てられるように迅速に脚を動かし、百々の指示に導かれるように示された家屋へと逃げ込んでいく。
「さて……」
 住民の一先ずの安全を確保し、
「(強力な手駒を作るために飢え死にさせるとは、まさに外道の所業だな)」
 百々は腐乱した……喰い千切られたであろう傷口をそこかしこに持つ屍人の身体を見やる。
「……救えぬならば、せめて晴明の術より解放してやろうぞ」
 少女は携えた鏡――ヤドリガミである彼女の本体にして、さる神社の御神体――をそっと撫で、月都に並び立つのだった。

 猛進。
 そこに駆け引きなどない。ただ飢餓を満たしたいという欲だけに突き動かされ、屍人たちが走る。
「テメエらにくれてやるもんはねえんだよ!!」
 赤黒く変色した爪を躱し、月都の振るう刀が目指すは透いた結晶。
 気迫と共に振り抜いた一閃は水晶を斬るでなく砕き、勢いのままに首に迫るが――、
「退がれ!」
「……ッ」
 横合いからまた別の屍人。数瞬前まで月都の腕があった場所で黄ばんだ歯が打ち鳴らされる。
 彼らが相手にする屍人、その数四。
 統率するは満ちぬ飢餓。全てが全力であり全開。最短にして最速。
 ……かといって、搦め手を使わないわけでもない。
「目眩ましとは……!」
 月明かりに照らされるばかりだった屍人たちの水晶が自ずから閃光を放つ。
 白に染まる視界。土を蹴る足音。百々の身体に腕が伸びる。
「鏡! しっかり抱えろ!!」
「言われずとも――……!?」
 しかしそれは彼女の身体に爪を立てるでなく、力任せに押すだけで。
 閃光が失せれば、そこには頭蓋を割られて崩れ落ちる屍人が一体。
「……見えていたのか?」
「だったら突き飛ばして、ねえよ! 勘だ……勘ッ!! ……悪かったな」
「いや、気にすることはなかろう。感謝する」
 体勢を立て直す百々を庇い、月都は更に刀を振るう。
「しかし我に光をぶつけるとは」
 再びの閃光。しかしそれは百々の抱く神鏡から。
「いい度胸だな」
 放たれるは陽光にも似た魔を祓う光。
 屍人たちの視界を奪うに留まらず、
「ここからは、近づかれる前に浄化してくれようぞ」
 その身を焼いていく。
 ――そして眩い光の中から現れる、数多の銀光。幾多の焔。
 百々が目には目をとするならば、
「普通の人間をそっちに引きずり込むなんざ虫酸が走る……」
 月都は歯には歯を。そして数には、数を。
「ここの住人にも近づかせねぇよ!!」
 それは喰らうためでなく仕留めるための牙。
 月都の感情に呼応するように現れたのは銀狼の群れ。灼熱に燃える四肢で土を焦がし屍人に襲い掛かる狩人たち。
 四肢に腹にと牙を突き立てられ苦しみ踠く姿は、或いはいまわの際の再現か。
「……このような外道は、絶対に許せぬ」
 百々は屍人たちから目を逸らさず、せめてもの抵抗と出鱈目に放たれる閃光にさえ瞼を降ろさず、彼らの行く末を見届ける。……いや、還るべき場所への旅路を見送る。
 神鏡から放たれる光が一層強まり、水晶光を、屍人たちの命の灯りを上から塗りつぶしていった。
 夜という事を忘れそうなほどの光を裂くのは、黒の一閃。
「次は飢えねえ世に生まれて来いよ……」
 狼たちの唸り声を頼りに放たれた刃が、未だ抗おうとする屍人の首を刎ねるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

祇条・結月
……こういうのは苦手
でも誰かがやらないといけないことなら
他の誰かにって思うよりも
自分でやった方が、まだ気楽だから

……うん。できることを、するよ

あらかじめ【罠使い】で銀の糸をを張っておいてそこで迎え撃つ
糸にからめとって動きを止める……っていってもゾンビじゃ無理やり抜けてくるかもしれないね
それはそれで、ダメージを与えられればいいよ
接近するまでに苦無の【投擲】でダメージを与えていく
それでも倒せないようなら……敵の攻撃をギリギリまで引き寄せて≪鍵ノ悪魔≫を降ろす
透過して躱して咎人の鍵の【精神攻撃】
……飢えに起因する、遺された心を砕く

……痛い
痛い、
けど

体の痛みが、心の痛みを和らげてくれるから


クロト・ラトキエ
あなた方とて、元は民。
敵将の無惨な所業、あまりに哀れ
…と、言ってしまうのは簡単ですが。

家々、木々…取っ掛かりには事欠かない。
標的は近付いて来る屍人。
敢えて武器に応じた射程ギリギリに踏み入り攻撃を誘発、
腕の振り上げ、体捌き…初動を“見切り”抜いて、回避。
“カウンター”よろしく鋼糸をその頸へと。
近場にそれ一体なら、引いて滑らせ斬り払い…
もし多数なら。
そこは軸、起爆点。
向かい来る敵の体、或いは進路を阻むよう他の取っ掛かりへと鋼糸を張る。

檻の内、この眼に映る全てへ。
UC――拾式。

偽り無き情けは、
けれど何の意味も齎さない。
故に、残るは果たすべき役目だけ。
恨んでどうぞ。
今度こそ『正しく』死んでくださいませ



 遠くで温かな光が瞬くのはまだ少し先の事。
 農村外縁部に人の気配が二つ。
 折しも揃って、夜闇に溶けるような黒い出で立ち。
 最も顕著な違いがあるとすれば――、
「…………」
 気配の一つ、祇条・結月(キーメイカー・f02067)が思い詰めたように浮かない顔をしていることだろうか。
「――良い手並みですね」
 それに慮ってか、もう一つの気配の主、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が気さくそうな笑みと共に声をかける。
「あ、ええと……ありがとう」
 ……そしてまた、沈黙。
 ふ、と小さく息を吐き、クロトが再び口を開く。
「彼らとて、元は民。敵将の無惨な所業、あまりに哀れ」
 それはつい踏み込みたくなる性分故か、はたまた彼の掲げる『勝利』をより盤石にするための手回しか。
「……と、言ってしまうのは簡単ですが」
「…………正直、こういうのは苦手で」
 訥々と、結月がそれに応じる。
「でも誰かがやらないといけないことなら、他の誰かにって思うよりも……自分でやった方が、まだ気楽だから」
 凄惨な死を迎えただけに留まらず、その死さえ利用された、亡者と変えられた魂たち。
 少年は思う。
 誰かが幕を引かねばならないと。
 その誰かになるために来たのだと、改めて想いを手繰り寄せる。
「……うん。できることを、するよ」
 撓みかけた糸が、張りつめていく。

 血の滴り。骨の軋み。
「ここまでは順調ですかね」
 人並みを遥かに超えた腕力が銀糸を伝い木々を揺らす。
 農村外縁部に施されたのは、『良い手並み』と称された結月とそれに勝るとも劣らないクロトの手腕で作り出された糸の結界。
 腹を空かせた野生動物が狩猟罠にかかるように、糸は結月とクロト目掛けて猛進した水晶屍人たちを絡め取って縛り上げる。
 肉が裂ける事も厭わず暴れる三体の屍人。二人の糸が断たれることはなかったが――、
「いや……あー……なんと豪快な」
 それを支える木々が、先に悲鳴を上げる。
 思い知らされる安倍晴明の呪力。そして彼らの飢餓と怨念の深さ。濃さ。
 しかし苦笑こそ浮かべどクロトに動揺はない。いつも通りが始まるに過ぎないと、グローブの具合を確かめる。
 彼の脇を翔けるのは乱れ撃たれた苦無。
「ここから先へは行かせない」
 結月の放ったそれは木々を傾けながら、肉を削ぎながら、強引に糸の包囲を抜けた屍人たちの身体に突き立っていく。
「けど……必死、だよね」
 それでも屍人たちの勢いは緩まない。その身体に痛覚はなく、機能不全を聞き入れる思考さえ存在せず、命を喰らいたいという欲求のみが存在していた。
 彼らの動きは一念にのみ因る。雑念なき攻撃を実現させる。
 故に――、
「そんなに美味しそうですか、僕」
 クロトは軽く身を捻るだけで、そっと後退するだけで、彼らが振るう鍬や鋤を躱して見せた。
 雑念がないからこその素直さ。起こりから終わりへの間に一切の変化がなく、初動を見逃さなければ――生還をこそ第一義とする彼の観察眼にとっては――避ける事は易い。
「彼の方が若くて美味しいと思うんですけどね」
「えっ、いやっ、そんなこともないんじゃないかと……」
 男は軽口交じりに身体を動かし、思わぬ冗談に晒されながらも苦無の狙いを過たない結月に感心し、
「――まあ、味わえることはないのですけれど」
 屍人の頸に鋼糸を掛ける。
 続けざま、後退から転じての前進。屍人から屍人へと縫うように動き、巧みに十指を動かせば、再び張り巡らされる、屍人たちを阻む糸の檻。
 しかしそれは彼らの身体を絡め取るためでなく、
「断截」
 断つための。
 精緻なパズルを解くように動くクロトの指が数多の鋼糸を疾走らせ、檻の中の獲物を斬りつけていく。
「恨んでどうぞ。今度こそ『正しく』死んでくださいませ」
 慈悲と絶え間のない全方位からの攻撃は徐々に身体を動かすための構造を破壊し、屍人たちの動きを鈍らせていった。
 されど彼らの命は未だ尽きない。失った肉の分だけ、血の分だけ一層獰猛に開かれる咢。
「攻撃は、そのままで」
 夜に響く、結月の声。
 彼は風切り音鳴り止まぬ檻に向かって駆け、
「……おや」
 そして踏み込む。
 クロトの指にはしかし、新たな手応えはない。そのままでと言われても結月を避けるように糸を操ってみせたが、糸をから伝わる檻の中の感覚に少年の存在が感じられないのだ。
「こんな解放の仕方しかできないけれど……」
 結月の存在はそこにあって、そこにない。
 その身に宿すは『鍵ノ悪魔』。あらゆる境界を開き、渡る存在。
 その力/鍵は、心にさえ、魂にさえ干渉することを可能とし、
「…………これで、終わりだよ」
 少年はそれに直に触れて、砕く。
 ……役目を果たしたというのに結月の顔が苦しげに歪んでいるのは、
「(……情け深い子ですね)」
 全てを割り切りきれない若さ故か。
 力の行使による身体の痛みが、心の軋みを薄めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
クソッタレ晴明の野郎…
どれだけ屍人を作れば気が済むってんだ
しかも最終的には飢え殺しだと?
ふざけやがって…何が陰陽師だよ
俺の知ってる陰陽師は……いや、考えても仕方ねえか

村にも住人も被害は出させねえし…猟兵も傷付けさせない
セットアップ『VenomDancer』
俺だけを見ろ、俺だけに殺意を向けろ
俺と踊ってくれ──

強烈なヘイト稼ぎながら、デバフと猛毒を振りまく
【ダッシュ】【ジャンプ】【フェイント】【早業】【地形の利用】でパルクールしながら高速機動、攻撃を躱しつつ人的被害が出ない方向へ誘導
【時間稼ぎ】さえすれば奴らは加速度的に弱くなっていく

──この戦争、どれだけ命を削っても
必ず、勝つ。失敗は認めない。


安喰・八束
話にゃ聞いた事があるさ。
……餓え殺したぁ、ぞっとしねえな。
どいつもこいつも、狼の縄張りでいきがってんじゃあねえよ。

用心棒(ヴィジランテ)、安喰八束。
此れより、貴殿等を御守り致す。

屋根の上等の高所に陣取り、屍人と猟兵の布陣を確認しながら動こう。(目立たない)
農具の振り回しは当たりにくくなるし、指示や援護射撃もし易かろう。(戦闘知識、援護射撃)

武器を狙撃して取り落とさせ(スナイパー、武器落とし)
「狼殺し・九連」を急所に叩き込もう。(鎧無視攻撃)
狙撃手としては悟られんよう動きたいが、どうしても近づかれたら……"悪童"で斬り結ぶしかねえなあ。(咄嗟の一撃)



 遠くで年老いた男の声がする。
 それを掻き消すほど大きな若者の声が聞こえて来る。
 この村に最初の水晶屍人たちが入り込んで程なく、
「クソッタレ晴明の野郎……どれだけ屍人を作れば気が済むってんだ」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は別方向からの屍人たちの相手をするためにと農村内を行く。
「しかも最終的には飢え殺しだと? ふざけやがって」
 思い出されるのは出発に際し説明された、この事件の概要。そして凄惨な歴史。
「話にゃ聞いた事があるが、ぞっとしねえな」
 『鳥取城飢え殺し』。安喰・八束(銃声は遠く・f18885)にとっては生まれ育った世界の昔話。編み笠の奥で目元を隠しながらも、その声音からは苦さが隠し切れない。
「ったく、どいつもこいつも、狼の縄張りでいきがってんじゃあ……」
 しかし彼は成すべき目的から目を逸らさない。
 決して標的を見逃さない。
「ねえよ」
 徐に構えられた猟銃が火を噴く。
「ひっ、ひィィィっ!?」
 方々で悲鳴が上がり、非日常の喧騒が広がっていく最中の銃声。
 見慣れぬ二人組が音の出どころと知れば、腰を抜かす者もいるし警戒する者もいたが、
「用心棒/ヴィジランテ、安喰八束。これより、『奴等から』貴殿等を御守り致す」
 最低限の収束は成果を以って。
 八束の指さす先、そこには漸く住人たちの瞳にも形が捉えられる程になった、水晶を撃ち砕かれた屍人の姿。
「ほら、後は任せて行った行った。あそこに他の連中も逃げてるから、一緒に暫く隠れてな」
 明らかに人ならざる者と比べれば、何を信じるかは自明。
 住人たちは言われるがままに、ヴィクティムの示した家屋へと駆けていく。

「……しかしよく動くな」
 照門から照星を抜け、一直線に走る八束の視線。そこには腐乱しながらも動く屍と、
「ま、前線を張ってくれるのはありがてえが」
 一心不乱に攻め立てる彼らの攻撃を引き付け、躱す、ヴィクティムの姿。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へってな」
 目まぐるしく動き回る彼がさぞ甘美な御馳走に映るのだろうか、屍人たちは遠く屋根上の八束には目もくれず、
「俺だけを見ろ。俺だけに殺意を向けろ」
 少年から視線を逸らさない。
「――俺と踊ってくれ」
 Extend Code『VenomDancer』。それは己が身を最適な囮に変えるためのプログラム。
 ほんの小さな腕の振りが、土を蹴る脚が、夜風に靡く髪でさえ、屍人たちの飢餓感に作用し食欲を刺激する。
 それだけに屍人たちからの攻撃も苛烈を極めるが、
「まるで獣だな」
 八束の狙撃がそれを許さない。
 本能の赴くままに動く屍人たちは、或いは痕跡を辿りその姿に辿り着く必要がない分獣より狩り易いか。外した所で逃げ果せてしまうこともなく、
「ヘッ、スワッグ/やるじゃねぇか」
 そもそも外すこともなく。
 ヴィクティムからすればただ屍人の注意を引き、その場に留めるだけで敵戦力が減っていく。空を斬り土を穿っていた農具は柄に受けた鉛玉に折られ、今や粗雑な棒きれ。それさえ撃ち弾かれ、程なく路傍の塵となり。
「さあ、俺から視線を切らさなかった褒美だ」
 木片が地に落ちる乾いた音は、同時に少年と鬼たちとの舞踏の終幕も告げる。
「終わりをくれてやる」
 屍人たちの獰猛な動きは今や見る影もなく、B級ホラーの有象無象が如く。
 僅かでも新鮮な血肉に近づきたいと腕を伸ばし、覚束ない脚で緩慢に歩むが、そのどちらもがヴィクティムに辿り着くことはない。
「八束の腕ならこいつは要らなかったかもしれないが」
 それは舞台に上がる為の代価。ステップを踏む度身体を蝕む疲れ。
「……この戦争、失敗は認められないからな」
 ――少年の命を削り生成された毒。
「至れり尽くせりだな、まったく」
 薄曇に覆われた月のように、灰の瞳が朧に輝く。
「こいつがお前等の御迎えだ」
 響くは長き遠吠え。連なった九つの銃声。作られる銃創と倒れ伏す亡骸は、三つ。
 八束の放った弾丸は屍人たちの眉間を抉り、突き進み、貫徹してみせる。
「……眠れ、獣にされた者共よ」
 月明かりに照らされ、徐々に静寂を取り戻していく小さな農村。
 夏の生ぬるい空気の中で、サムズアップと頷きが交差する。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐倉・理仁
凄惨な過去。そうかい、そりゃ死霊使いとしちゃ都合がいいね。相手のやる事もだが……全く俺の術も大概だな。


あんまり今回の戦闘はあんまり見せるもんじゃねーべな『呪詛、オーラ防御』併用で闇の結界
呼び出すモノは「腐食」の亡者。
……誰だって死にたくはなかった、誰だって生きていたいだろ。
かつてすべてを奪われた怨念達は、あの屍兵ですら羨むだろう。その身体が欲しいってよ。

腐り落ち溶けて消えろ。生を失い死を忘れろ。お前らはもう休んじまっていいんだ。
こいつでひとつ終わってくれればいいんだが……命あるモノの【災厄の日】よ。

アドリブ絡み等歓迎


依神・零奈
……よくこんな手間暇かけて悪趣味な外法をやろうと思えるね清明
オブリビオンの性質故かどうかは知らないけど……
これじゃ道満の事を言えたもんじゃないね

……今回の屍人は前回より手ごたえがありそうだけど
原動力は怨念……なら元を断ってしまえばいい
【破魔】の力で周囲一帯の地を浄化
謂わば怨念の塊である奴らは力を発揮できない筈

その上でUCを発動し禍事による呪詛を周囲に屍人に放ち
その体を蝕んでいくよ

「キミ達の運命は此処に確定した」
「体は地に縛られ土へと還る」

素早く一体の敵へ接近して無銘刀を抜き放ち首を狙い撃つよ
仕留めたら最も近い敵へ帰す刃で斬り掛かり連撃を狙う
動きに【フェイント】を加え【だまし討ち】を狙ったりする



「よくこんな手間暇かけて悪趣味な外法をやろうと思えるね、晴明」
 農村を挟み、鳥取城から距離を取るように歩く人影が二つ。
「オブリビオンの性質故かどうかは知らないけど……これじゃ道満の事を言えたもんじゃないね」
 最終的に城へと追い立てる事が目的ならば、水晶屍人たちがやって来る方向は絞る事が出来る。依神・零奈(忘れ去られた信仰・f16925)は疎らに茂る木々の中、辟易したように言葉を紡いでいた。
「…………ああいうモノを造るには、都合がいいからね」
 凄惨な過去。座して待てば程なく訪れる、惨憺たる未来。
 佐倉・理仁(死霊使い・f14517)が表情に影を落とし、そっと零す。
「(相手のやる事だけじゃなく……俺の術も大概だけれど)」
 彼は死霊術士故に、零奈の言う手間暇と悪趣味、外法の意味を確りと理解していた、
 だからだろうか、大きな歩幅は今日はゆったりと。自然の中の道行き、その先頭を少女に譲り、その足取りは重い。……お蔭で迷子にならずに済んだのは、期せずしてだが。
「……居た」
 草木の影に、零奈が輝くものを見つける。
 それは悍ましい姿との取り合わせに薄気味の悪ささえ覚えるような、澄んだ水晶の輝き。
「始めよう……」
 止まる足音と少女の声に顔を上げ、理仁もまた彼らの姿を黙視する。
「いや、終わらせよう」
 その表情に、少なくとも今は陰りはない。
 魔本の表紙を静かに撫で、開き、頁を捲る――。

 月明かりが阻まれる。
「今回の戦闘は……」
 夜さえ覆われていく。
「あんまり見せるもんじゃねーべな」
 降りたのは暗黒の帳。理仁が周囲に張り巡らせた呪詛の結界。
 やや距離があるとはいえ好奇心が猫を殺さないとは限らないと、闇が農村からの視界を遮る。
 何より、
「腐り落ち、溶けて消えろ」
 これから幕を開ける戦いを見て、愉快な心地になる者は居ないだろうから。
 男は喚ぶ、底深き闇に澱のように沈んだ亡者たちを。
 立ち込めるは腐臭。生ぬるい空気がそれを膨らませ、肺腑にじくりと忍び込む。
「生を失い、死を忘れろ」
 現れたのは醜く腐食した魂。誰に看取られることもなく息絶え、腐り果てた者たちの更なる果て。
「――命あるモノの『災厄の日』よ。……こいつでひとつ終わってくれればいいんだが。そら、彼らはその身体が欲しいってよ」
 亡者たちは屍人の身体を羨むように纏わりつき、恨むように腐敗を撒き散らす。彼方此方を喰い千切られ、食い破られた身体に成す術はなく、亡者たちが辿ったように腐り落ちていく。
「キミも随分とおっかないものを使うようだね」
「はは……奴らに対するには彼らが一番と思ってね……」
 零奈の言葉に理仁は苦い笑みを浮かべ、亡者たちを操る。
「ふうん。一緒に弱ってしまわないといいけど……」
 そんな彼を尻目に零奈は膝を折り、土に掌を這わせて意識を傾ける。
「ああ、それなら大丈夫」
 邪魔をしないように、声音はそっと。
 理仁には彼女のしようとすることに察しがついていた。
 彼女の身体から――否、彼女という存在から発せられる清らかな気配を彼は感じ取っていた。
「彼らはこの地の亡者ではないから」
「なら心置きなく」
 気配が掌を介して土に染み込み、辺り一面に、周囲一帯に広がっていく。
 それは魔を祓い清める浄化の力。零奈の――守り神としての力の一端。力は不可逆を飛び越え、屍人たちが生まれ出でた凄惨な過去、それが根付くこの地に作用し、根本を断つことで彼らの力を減じていく。
「キミ達の運命は此処に確定した」
 ゆらりと立ち上がり、刀を構える零奈。構えて紡ぐは神の託宣/禍言。刃のように鋭い言葉に乗って、漂う腐臭さえ斬り裂くように地を滑る。
 鉱物にさえ浸食してみせる腐食と祓魔の力の前に、水晶から放たれる光も今は弱々しく闇に飲まれ、
「体は地に縛られ土へと還る」
 ぐずぐずと解された首が刀の一閃で刎ねられる。
 後に続くのは水気を含んだ、聞くに堪えない音。
 落下した頭も崩れ落ちた身体も、土に触れた衝撃で血肉を落とし、後に残るのは白い骨。
 過ぎる程に柔らかな感触は少女と刃の勢いを欠片も削ぐことは出来ず、返す刀の前に次なる首が刎ねられる。
「お前らはもう休んじまっていいんだ」
 やがて土に溶け込み根に吸われるだろう屍たち。理仁は零奈の振るう白刃と屍人たちを見守り、
「この地に還って、今度こそゆっくりするといい」
 最後の屍人が倒れるのを見て瞑目するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月15日


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト