3
エンパイアウォー㉖~凍結屋敷の捕縛劇

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー


●夜、ある豪商の屋敷にて
 真夏の月下、数人の男たちが街路を駆けていく。草鞋と地面の擦れる音が鳴り、彼らが持つ提燈は不規則に揺れた。
 目当ての屋敷が見えると、集団を率いる町奉行が指示を出す。一度身を潜めて様子を伺ってみるが、不気味なことに、周囲に守衛は見当たらない。十手を握り締め、一群は門を潜った。
 町奉行は玄関戸を開け放つ。直後に感じ取ったのは、冬を思わせるような冷気だった。
 天井、壁、床。視界のすべてが氷に閉ざされている。氷柱が場を蹂躙し、こちらを徹底して阻んでいた。
「御役所さま、お待ちしておりました」
 氷の裏から声がする。幕府が捕縛を命じた、この屋敷の主の声だ。
「これが如何なる術かは知らぬが、貴様は包囲されている! 大人しくお縄につけ!」
「おや、まだ食ってかかりますかな。互いに退くのが賢明だというのに」
 主の商人は息を吐き、嫌々ながら、といった口調で続けた。
「先生、お願いします」
 玄関戸の裏に生えた氷柱の裏から何者かが飛び出し、ぐいっと町奉行の着物の袖を引っ張った。体勢を崩しつつも、町奉行は十手で相手へと殴り掛かる。
 しかし、攻撃は空を切る。敵を明確に認識し、彼は唖然とした。
「子どもの、雪女……?」
 空振ったのは大人を想定していたからだ。白い肌、白い着物。日頃聞く雪女を小さくしたような娘が、目の前に立っている。
 雪女は口を尖らせ、息を吸い込む。
 その息が吐き出されると、強力な吹雪が町奉行を包み込んだ。みるみるうちに身体は氷に覆われ、そして動かなくなった。雪女が掴んでいた袖をぱっと放す。新たな氷塊と床の氷が打ち鳴り、硬い音がした。
「流石です先生。見習いとは思えませんね」
「でしょー?」
 雪女は腕組みをした。顔には自慢気な笑みを浮かべている。
「こうやってお仕事してるんだし、もう見習いじゃないよね!」
「勿論ですとも。それでは、私はずらかりますので」
「うん! ……みんな! 一人前ってところ、見せつけるよ!」
 商人が奥へ引っ込んだ後、氷の裏からぞろぞろと子どもの雪女たちが現れる。彼女らは一様に、残った役人たちを見つめていた。

●グリモアベース
「みなさん、お疲れさまです! 活躍はいろいろと聞いてますよ」
 エンパイア・ウォーの始動から数日。戦況はめくるめく変動している。
 なかでも、不足していた補給物資の問題を短期間で解決したことは記憶に新しい。木鳩・基(完成途上・f01075)は手帳をめくり、再度戦況を確認した。
「それで、新しい事件なんですが……みなさんには、悪徳商人を捕まえてほしいんです」
 補給物資の問題は、大悪災『日野富子』による買い占めが原因だった。この買い占めの際、彼女の手先となって働いていた『悪徳商人オブリビオン』の暗躍があったというのだ。
 徳川幕府によると、この悪徳商人たちは未だ拠点の屋敷から逃走していないらしい。これも猟兵たちが問題を早期解決してくれたおかげだ、と基は役人たちからの感謝を伝達した。
「悪徳商人たちに戦闘能力はありませんが、資金力があるのは確かです。捕まえて財産を押収できれば、戦いの備えにできます。また物資が足りなくなるかもしれませんし……」
 そうならないことを祈りますが、と付け足して、話を続行する。
「でも、悪徳商人たちもただ捕まるつもりはないみたいです。戦えるオブリビオンを雇って、幕府の役人たちを返り討ちにする気ですね」
 このままでは役人たちはなす術もなく倒され、悪徳商人は逃げ果せてしまう。そこで、猟兵たちがオブリビオンと戦い、商人も押さえる。悪徳商人は一見すると普通の人間のような姿をしているそうだが、オブリビオンであることに変わりはないので、攻撃して討ち取っても問題はない。
 そこまで話したところで、基は手帳を猟兵に突き出した。可愛らしい娘の絵が描かれている。
「今回現れるのは、この見習いの雪女です。集団で現れるそうですが、他にも気を付けておきたいことがあって……雪女の冷気のせいで、屋敷の中が氷の柱だらけになるみたいです」
 氷柱は屋敷への侵入を阻むだけでなく、背丈の小さい雪女が身を隠す陰にもなる。室内戦を想定するなら、何らかの対策が必要になるだろう。
「悪徳商人が屋敷の奥に引っ込んだのを考えると、屋敷のどこかから外に脱出する手筈なんでしょうけど……それを追うにしても、氷が邪魔ですね」
 基はうーんと唸ったが、少ししてまた猟兵たちに笑顔を見せた。
「きっと解決してくれるって信じてますから。それでは、よろしくお願いします!」
 力強い断言。それから、彼女は転送を開始した。


堀戸珈琲
 どうも、堀戸珈琲です。
 戦争中ですが、涼しいシナリオをご用意しました。

=============================
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================

●最終目標・シナリオ内容
 『悪徳商人オブリビオン』の討伐または捕縛。
 『雪女見習い』を倒し、悪徳商人を捕まえてください。
 リプレイは「先生、お願いします」あたりからの乱入になりますが、最初から役人たちに同行して侵入します。(勿論、それ以外の侵入方法を取っても構いません)

●地形について
 商人の屋敷が舞台となります。
 全体的に広いので戦う分には困りませんが、雪女の息吹によって内部が凍結し、行動を制限させるような氷柱が生えています。

●悪徳商人について
 屋敷の中を通って外に脱出しようとします。
 一人です。戦闘能力はありません。

●プレイング受付について
 今回、プレイング受付に締切を設ける予定です。
 オープニング公開後、マスターページにてお知らせします。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしています。
60




第1章 集団戦 『雪女見習い』

POW   :    ふぅふぅしてみる
【くいくいと対象を引っ張る動作】が命中した対象に対し、高威力高命中の【凍てつく氷の吐息】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    とにかくふぶいてみる
【全力で吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    みようみまねのゆうわく
予め【足を魅せる等の誘惑行動をとって赤面する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
塩崎・曲人
「クックック……カチコミ、もとい討ち入りだぜぇ。いっぺんやってみたかったんだよなコレ」
雪女達が戦闘態勢に入った直後、【切り込み隊長】で塀を越えて戦場に乱入するぜ
現地調達出来る乗り物は、まぁここだと馬だよな

戦場に乱入できたらそのまま暴れて雪女達を蹴散らしつつ、商人を追うぜ
…って、雪女ども混乱して無差別に吹雪ぶちまけてるじゃねぇか
「これ商人が巻き込まれてたらちょっと笑うわ」
馬で蹴り飛ばしつつ自分は鎖振り回して戦うぜ

で、商人に首尾よく追いつけたら
問答無用で殴って捕縛しよう
「オメーは謀反に協力したとか幕府転覆を狙ったとかそんな感じの咎でとりあえず死刑な」

【アドリブ歓迎】


鈴木・志乃
※人格名『昨夜』で参戦
……邪魔
去れ、過去の者共
志乃の邪魔をするなら、たとえ何であろうと潰す

突入前に簡易罠の設置をしても宜しいだろうか【罠使い】
なので、このように敵を誘導したいのだが……と
話を通しておく

敵攻撃は【第六感で見切り】【オーラ防御】、もしくは【早業念動力】で手近な物を盾にする
初手を防げるかどうかが分水嶺っ……

志乃、少し力を借りる
きっと貴女は嫌がるだろうけどね
可能であれば突入時から常時UC発動
聖痕から噴き出る炎でありとあらゆる物を焼く
状況も鑑みるがどんどん周囲を延焼させる
……財産は押収出来るようにしなければね

まだ逃げるか!!
光の鎖で【念動力ロープワーク罠使い】で敵を縛り上げる




 月だけが江戸の町を照らす仄暗さの中、町奉行は屋敷の玄関戸に手を掛けた。
 勢いに任せて開く。屋内が氷に包まれているという事実を目の当たりにし、踵を返して門へ走る。石畳とその両脇に植わった松、門の周辺に控える部下たちの姿が視界に映った。
 背面で、商人の声がした。
「察しが良いようで。しかし、御役所さまを生かしておいても私に利潤はないのです……先生、お願いします」
 玄関戸を破壊して、冷気漂う屋敷から雪女たちが飛び出した。熱気を消しながら、余った裾を引き摺って侵入者を追う。
 松の横を跳び上がって通過し、町奉行は再び屋敷の玄関へ振り返る。
「こちらにも策がないわけではない……猟兵さん、お願いします!」
 雪女の一体が前のめりにすっ転んだのは、それが言い切られるのと同時だった。先陣を切っていた者が次々と倒れ、前が詰まったことで後続までもが転倒。大多数が積み重なり、白い饅頭にも似た一塊となった。
「簡易な罠だったが、掛かったか」
 短い白髪が夏の夜風に吹かれて揺れる。一本の松の裏から、鈴木・志乃(生命と意志の守護者達・f12101)――の肉体を借りた、『昨夜』が現れた。
 雪女たちが足を引っ掛けたのは、二本の松に結びつけただけの縄だ。役人から縄を頂戴して仕掛け、夜闇に紛れた罠に敵が掛かるよう誘導する。突入前にそう話を通しておいたが、事は上手く運ばれたらしい。
「……邪魔」
 赤い目で敵群を一瞥すると昨夜は左腿を軽く摩り、足先を敵へ向けた。殺意を感じ取り、未熟な雪女たちは焦燥に駆られる。
「ひっ!? は、早く、どいて――」
「待ってよ! 暴れても崩れないって!」 
「去れ、過去の者共。志乃の邪魔をするなら、たとえ何であろうと潰す」
 志乃、少し力を借りる。きっと貴女は嫌がるだろうけどね。
 大親友が自分を止めようとする姿はありありと想像できた。しかし、それでも。
 光が零れる聖痕から、火炎は噴き上がった。眩い炎は真っ直ぐに雪女たちへと放たれ、包むようにして罪を焼いていく。命中を目の端に捉えたら即座に横を過ぎ、最期を見届けず屋敷へ駆けた。
 氷に覆われた屋敷に対しても、昨夜は躊躇なく炎を飛ばす。木造の屋敷そのものは当然として、炎は氷までも燃やし尽くし、往く手を阻む巨大な氷柱すらも融解させた。
 軽快に突破していくと、焔と冷気を突き破って雪女が飛び出した。この攻撃は初手を防げるかどうかが分水嶺。つまり、初手さえ防げれば。
 周囲へ視線を巡らせる。まだ溶け切っていない氷柱を見つける。淡く光る鎖を喚ぶと、振るって氷の根を砕く。手早くこなし、念動力によって自身の前に引き寄せた。
 氷塊に阻まれ、雪女の手は届かない。昨夜は敵の脇から回り込むと、そのまま鎖で縛り上げてから床に叩きつけた。
 まだ伏兵は潜んでいるだろう。一人で相手しながら進んでいくのは手厳しい。
 そう考えている最中、暴れ馬の鳴き声が戦場に差し込まれた。
 雪女の一体もそれに反応し、壁に耳を当てた。蹄が地面を蹴る音が近づいてくる。次第に音の発生源は真横に変わっていった。
「切り込み隊長参上ォ!」
 炎によって脆くなった壁が蹴破られ、傍らにいた雪女が吹き飛ばされる。その様子を見て、馬に跨った塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)はクックックと鋭い歯を覗かせて笑った。
「カチコミ、もとい討ち入りだぜぇ。いっぺんやってみたかったんだよなコレ」
 サムライエンパイアで現地調達可能な乗り物といえば、馬。時代劇ような強襲が成功し、ぱしぱしと馬の頭を満足そうに撫でて数秒、曲人は屋内をざっと流し見た。
 炎が延焼し氷は剥がれているが、まだ隠れられそうな場所は残っている。雪女たちは警戒しながらも自分に接近しそうな気配がある。商人は今も奥へ逃げている。
 顎に手を添えて一考。軽く頷き、結論を口にした。
「全部壊せば問題ねぇなァ!」
 拳に軽く巻いて垂らしただけの喧嘩用チェーンを握る。手綱を強く引けば、馬は後ろの二脚だけで立ち、前脚をじたばたと振った。
「ぶん殴られる覚悟しとけェ!」
 雪女たちが集合している地点へ馬を走らせ、情け容赦なく蹴り飛ばす。手綱を持たぬ一方の手でチェーンは振り回され、側面から攻めようとする敵を打った。
 攻撃に理論や秩序はない。やりたい放題やっている。それだけだ。
 なんとか命中させようと雪女たちは凍てつく息を吐く。しかし、狙いをどんどん変えていく馬には当たらない。その間も、曲人は商人を追って進む。
「あーもう! こーなったらヤケクソだーっ!」
 一体がヤケを起こしたことで混乱は伝播していく。馬が来ているという突飛な状況も手伝い、最後には曲人を待ち構えていた雪女にまで、無差別な吹雪を起こさせた。
 屋敷を駆け抜けた曲人は吹雪を切り返しで躱す。ヤケクソな雪女を撃破し、苦笑を漏らした。
「完全に役割忘れてんじゃねぇか。これ商人が巻き込まれてたらちょっと笑うわ……ん?」
 噂をすればなんとやら。凝視してみると、積もった雪を進む影があった。随分と歩きづらそうにしている彼に狙いを定め、曲人は馬を走らせる。鎖は風を切って回り、近づいていくにつれ回転は早くなっていった。
 異様な気配を感知した商人は直後、横殴りの鎖によって雪上を飛んだ。一旦曲人は馬を降り、地面に倒れた商人の襟を掴んだ。
「雇う奴を間違えたな。言っとくが、こんなモンで済ます気はねぇぞ」
「クソッ……こんなはずでは……!」
 曲人の手を払って立ち、それでも逃げ延びようとする商人の背を、今度は鋭い声が刺した。
「まだ逃げるか!」
 昨夜の声が届くと同時に、光の鎖が商人に巻き付く。仄かな光は罪人を照らし、自由を奪った。
 昨夜が鋭く睨む横で、曲人は拳を鳴らした。
「オメーは謀反に協力したとか幕府転覆を狙ったとか、そんな感じの咎でとりあえず死刑な」
「死、か……いや、まだだ」
 瞬間、猟兵たちは至るところに敵の気配を察知した。ある方向を見れば、またしても雪女が吐息によって屋敷を氷に覆っていく。その隙を突いて、商人は雪女たちの手を借りて鎖の拘束を抜けた。
 各々が武器を構え、雪女との戦闘は再開される。商人との距離はまた生まれていくが、振り出しに戻ったのではない。やはり猟兵からは逃げられないという悲観を敵へ植え付けたからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
※人格名『昨夜』で継戦
アド連携大歓迎

ああ、確かに綺麗だなその体
燃やし甲斐がありそうだ
本当はこの手合いは志乃の得手だけれど……
力だけ貸しなさい、志乃
貴女はまだ休みが足りない

懲りずにまだ氷を撒き続けるのか……
それではこちらも数に頼ってみよう
祈り、破魔を籠めてUC発動
260本の大花火、せいぜい逃げてみせなさい
火花もさることながら、その衝撃波によるなぎ払いも相当なものでしょう

個の攻撃は第六感で見切り光の鎖を念動力で操り武器受け
そのまま鎖をしならせカウンターなぎ払い攻撃
オーラ防御は常時発動

さて、今度こそロープワークでお縄について頂きましょうか
締め上げろ
息の根を止める寸前までやらないとダメだ


メンカル・プルモーサ
…悪代官か…ええと…逃げ足速いなぁ…
ひとまず【縋り弾ける幽か影】を召喚。撃破の必要のある商人を追わせるよ……死にはする程度の爆発にするから安心安心(?)

…さて、こっちも追いたいんだけど…確かに氷が邪魔。
雪女本人の吹雪も脅威だし…まずは【彩り失う五色の魔】で耐性を高めて…
【尽きる事なき暴食の大火】を発動して氷を溶かすと同時に延焼……そのまま雪女も巻き込んでいこう…
…誘惑行動に対しては普通に「?」という感じで首をかしげる(そも、同性だし…)
…戦闘力が増えるのを感じたら炎の術式や暴食の大火を繰り出して妨害はする…

…遠くでガジェットの自爆音が聞こえたら「死んだかな?」という感じで確認に向かうよ…


火土金水・明
「見習いといっても相手はオブリビオンですから、油断しないよう気を引き締めていきますか。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃は、他の方に合わせて【援護射撃】にして【高速詠唱】した【破魔】を付けた【属性攻撃】の【全力魔法】の【サンダーボルト】を【範囲攻撃】にして、『雪女見習い』さん達を纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】で、ダメージの軽減を試みます。
「最初は燃やそうと思いましたけど、屋敷が火事になっても困りますから。」戦闘後は残っている『悪徳商人オブリビオン』の捕縛をします。
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。




 雪女が息を吐く。冷えた吐息に伴って氷が縦横に伸びる。だだっ広い屋敷に変則的な壁が構築されていく。
「懲りずにまだ氷を撒き続けるのか……」
 眼前で生える氷に、『昨夜』は苛立ちを零した。商人は鎖を抜け、奥へと逃げた。少なくない数の同胞を炎に包んでも、向かってくる姿勢は変えないらしい。
「見習いといっても相手はオブリビオンですから、油断しないよう気を引き締めていきますか」
 ウィザードハットを持ち上げ、火土金水・明(人間のウィザード・f01561)が呼びかけた。心を整えるために改めて戦闘の姿勢を取る。ブーツのヒールが氷を叩き、鋭利な音を立てた。
 その脇で、場の有様をゆったりと観察するのはメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)だ。
「……悪徳商人か、ええと……逃げ足速いなぁ……」
 直線に伸びた廊下をじっと見つめても目標は見当たらない。このまま雪女に時間を稼がれてしまっては元も子もないだろう。
 そう考え、メンカルは静かに呟いた。
「忍び寄る破滅よ、潜め、追え。汝は炸裂、汝は砕破――」
 求めるは、対象を追う自走機械。
 唱え終わって、掌に収まる車に似たガジェットが氷上に現れた。認知の外側から、車両は自動で目標を追尾する。五十余台ほどが一斉に蒸気を吹いて飛び出し、氷の隙間や雪女をすり抜けて走り出した。
 よし、と成功を小声で喜んだところで、氷の向こうからこそこそと話す声が聞こえてきた。雪女たちの会話らしいが、モロに聞こえている。
「そういえば、猟兵相手にしちゃってるよね……長引くとマズくない?」
「ここらで混乱させよっか……みんな! アレやるよ!」
 号令により、氷を張る雪女たちが一点に集合。
「くらえっ! みようみまねだけど!」
 一体が大きく叫び、布を捲って足を露出した。汚れのない白い肌だが、状況に変化はない。他の雪女も続く。袖で顔を隠すなどそれぞれが思う姿勢を取るうちに、凍ったような空気が一帯を包んだ。
「もしかすると、誘惑なんでしょうか?」
 頬を掻き、苦笑いで明が予想を口にした。気の毒さから思わず目を逸らした彼女へ、言われるまで首を傾げていたメンカルが答える。
「……でも、誘惑になってないような」
 彼女自身が同性である以前に、相手には圧倒的に色気がなかった。黙って見つめ続けると、次第に雪女たちの顔色は白から赤に変わっていく。
「ああ、確かに綺麗だな、その体」
 彼女らに近づきつつもぽつりと言い放ち、昨夜は目の前に手をかざす。光の玉から煌めきを保持する鎖を取って振るい、威圧的に氷を砕破した。
「燃やし甲斐がありそうだ」
「やっぱり逆効果だったー!」
 ぎらついた視線を受けて再度パニックに陥り、雪女たちは赤面したまま駆け出した。走りながら息を吸うと、頬に空気を溜めて突進する。幼く未熟でも数が多い。最前線で迎え撃とうとする昨夜の前が白い影に埋まった。
 本来なら、この手合いは志乃の得手だ。けれど、今は彼女を働かせるわけにはいかない。
 力だけ貸しなさい、志乃。貴女はまだ休みが足りない。
 語りかけるように心で発してから、昨夜は自身も数に頼ることを決めた。
 祈れば、魔を破りし力が宿る。鎖を持たぬ手を虚空へかざした。乾いた音が連続して起こり、火花が滅すべき存在を敵と定めて飛散する。炸裂は残存する思念から生じ、周囲の空間全体を巻き込んで花開く。その数、二百六十発。
「せいぜい逃げてみせなさい」
 昨夜に接近していた個体が爆破に巻き込まれ、直撃を免れても破裂の衝撃によって壁に叩きつけられた。光の大花火は止むことを知らぬまま鳴り続ける。源とする思念が変われば、微かながらに散る花も変わる。百人百様、百花繚乱。死人送りの花は咲き乱れた。
 花火の開花とともに、猟兵たちは前進する。
「……さて、こっちも追いたいんだけど……」
 メンカルは前方へ視線を送った。この場で雪女を迎撃するにせよ、商人を追うにせよ、確かに氷が邪魔だ。少し思案し、杖を掲げた。五色の攻撃術に対する防護魔法を唱えて氷結への耐性を得ると、それまで氷を見ていた目を瞑った。
「貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火――」
 呪文の詠唱と同時に、足下に淡い青の魔法陣が展開される。幾何学模様は不可思議に変動し、記号の欠片が宙を舞った。陣に立つ彼女もまた青に包まれ、掲げた杖から垂れる鎖は魔力を受けてふわりと揺れる。
「――魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔」
 生み出されたのは、白色の火炎だった。勢いを持って放出され中空へ飛び出していく。やがて炎は氷に触れると即座に燃え移り、熱によって溶かし、延焼する。万物を燃料とする火は瞬く間に広がって、何体かの雪女にも着火した。
 氷の障壁は崩れ、液体になって溶ける。気付けば炎は天井を焼き切り、一同の頭上に夜空が広がった。
「今ですね!」
 追い詰めるなら今が好機。そう悟った明はどこを指すでもなく、指先をただ前方に向けた。大花火や白炎の間を縫うような瞬間だった。
「受けよ、天からの贈り物!」
 はっきりと宣言すると、夜空が一瞬だけ輝いた。直後、空を雷光が馳せ、天井の穴をくぐって屋内へ降り注いだ。広範囲の電撃は他の猟兵の攻撃を埋め、それまで安全圏だった地点を含めて押し潰すように襲いかかった。
「最初は私も燃やそうと思いましたけど、屋敷が火事になっても困りますから」
 氷に炎は効くだろうが、熱や炎を使った攻撃は他がやってくれているし、延焼を操作できない技でなければやはり危険だ。
 しかし、妥協して雷を落としたわけではない。体勢を立て直そうとする雪女たちに、明は静かに告げる。
「まだ終わってませんよ?」
 天が輝き、再び雷が落ちる。
「油断はしませんし、見習いであっても、手を抜くわけにはいきませんからね」
 全力で放たれた魔法は二回攻撃。消えゆく敵に放った言葉は、氷の剥がれた正常な空間に沈んでいった。
 度重なる高範囲攻撃により、周囲一帯はなんとか片付いた。そう思えた。
 床下で何かが移動する気配を感じ取ったメンカルが、真っ先にその方へ杖を向けた。
「……そこ!」
 床を突き破って三体の残党が現れたのと白色の火炎が放たれたのはほぼ同時。詠唱を挟めなかったために弾数は大幅に減少したが、炎はうち一体を焼き尽くした。
「随分と、往生際が悪いらしいな」
 自ら前に進み出た昨夜へ、雪女は息を吹きかけた。攻撃を直感すると一歩引き、構えた光の鎖を念動力で操作して盾に。息が止んだ瞬間に鎖を掴み、鎖をしならせて弾き飛ばす。薙ぎ払われた敵との距離を詰め、もう一打をさらに振り下ろした。
「こちらにもいますよ!」
 残った一体に向け、明が誘導をかける。こちらも吐き出したのは氷の息。冷気は明を包み込み凍結させたように見えたが、そこにあるのは実像ではなく残像だった。戸惑う敵へ、明は横方向から銀の剣を振るう。剣は闇を絶ち、それが雪女のトドメとなった。
「これで全部か?」
「……流石に、これ以上はいないかな――」
 声を遮って、爆発音が鳴り響く。警戒する猟兵たちをよそに、メンカルが反応を示した。
「あ……死んだかな?」
 物騒な一言を残し、彼女は音のした方へ歩いていった。

 音の発生源に辿り着くと、そこには当初の目的である悪徳商人のオブリビオンが黒焦げになって突っ伏していた。
 戦闘再開の頭にメンカルが放った『自爆機能付き』ガジェットはきちんと役割を果たしたようだ。だが、死にはする程度の爆破に消滅せず耐えているあたり、並以上の耐久力はあるらしい。
 冷めた視線を送り、昨夜は再度、光の鎖を喚んだ。
「さて、今度こそお縄についていただきましょうか……締め上げろ」
 鎖は商人の身体に巻き付き、骨が軋む音が鳴る。息の根を止める寸前まで――一度逃がしたことから、締め付ける力は増していた。持続するうちに、商人は弱々しい声を吐いた。
「こうまでしてやられるなら、最初から幕府を敵にすべきではなかったか……」
 その後悔も時すでに遅し。捕縛されたことで役割を失った商人オブリビオンは、しばらくして消滅した。
 かくして、猟兵たちは悪徳商人の成敗と財産の押収に成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月13日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー


30




種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト