エンパイアウォー②~その男、剛力の士なり
「ゴッツァン!」
野太い気声と共に、その雄大なる一掌は繰り出された。
てっぽう――それは、力士の繰り出す突っ張りの事である。“てっぽう”であって、“鉄砲”にあらず。
なぜならば。
その威力は鉄砲のような優しいものでは無いのだから。門を破り城を砕く、大砲もかくや。
その証に、力士の掌は固く閉じられた山門を跡形もなく消し飛ばした。
堅牢な要塞をも兼ねるはずであった古刹は今や丸裸。
ぞろぞろとなだれ込んで行く、水晶を生やした奇っ怪な屍共の姿を満足げに見れば、その右足を美しく、天へと伸ばしたのだった。
「為政者の政権争いなど、俺には関わり無い事だ」
しかし、と続ける馮・志廉(千里独行・f04696)の背後に、廃墟と化した古い寺の風景が映る。
「見逃せば、ただ暮らす者達が更に犠牲となる」
サムライエンパイアを揺るがす“エンパイアウォー”において、信長軍が奥州の押さえとして配置したのは、陰陽師・安倍晴明の手による、水晶屍人。
これは人間に咬みつく事で、咬まれた被害者を水晶屍人に変える力を持つ。
この力により民衆を次々と襲い、その数をねずみ算式に増やしているのだ。
とは言え、水晶屍人の力は弱く、武装した諸藩の軍勢であれば十分に対応出来る戦闘力である。
その指揮官である、強力なオブリビオンさえ排除出来れば、の話ではあるが。
「頭を務めるオブリビオンは、力士。醜名を天楓(てんふう)と言うそうだ」
天楓は信長に絶対の忠義を誓う御抱え力士衆の一人である。これさえ討てば、水晶屍人の進軍は止める事が叶おう。
しかし天楓は多数の水晶屍人の中に紛れつつ進軍しており、まずはその居所を確認する必要があり、また近づくことも容易では無い。
何か手だてを講じる必要はあるだろう。
「幕府は魔空安土城とやらの攻略を優先して、奥州は後回しだ。軍を割いたとしても、江戸を守るのが精々だろう」
民衆を守るために、必ず止めなくてはならない。
志廉はそういうと、転送の準備に入った。
鉄錆
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
鉄錆と申します。とうとうサムライエンパイアで戦争ですね。
今回は一章構成でボスオブリビオンの討伐をして頂きます。屈強な力士を打ち破りましょう。
第1章 ボス戦
『信長お抱え力士衆』
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POW : 正々堂々、行くぞ!
予め【四股を踏む】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 小手先の技など通じぬわ!
【巨体に見合わぬ軽快な動きで】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 体一つでかかってこんか!
【怒号】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
👑11
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才堂・紅葉
「……ったく。こう言うのは柄じゃないんだけどね」
迫りくる無数の水晶屍人。その中に紛れた力士が厄介だ。
迅速に対処せねば諸藩の軍勢に被害が出るだろう。
業務手順はアサルトライフルの【援護射撃】で敵軍を牽制しつつ、【戦闘知識、情報収集】で力士の居場所に見当をつける。
当りがつけば、水晶屍人を派手なプロレス投げで倒し【存在感】を発揮。
「信長の兵は随分と非力ね。力のある奴はいないのかしら?」
【パフォーマンス】で四股を踏んで見せて力士を誘う。
出てきたら銃を捨て白兵を挑み、【気合、怪力】に加えてUCで力士を受け止め、マワシを掴んでの【グラップル、カウンター】でいぞり投げを狙う。
【アドリブ、連携歓迎】
伊佐名・才
アドリブ連携歓迎
……なんとも不気味な光景だ
だからこそ放っておく訳にはいかない
早々に退治してしまおう
水晶屍人は諸藩の軍勢に任せられるとはいえ数は減らしておきたい
ヤツらはひたすら刀で切り刻んでいくが、その最中に指揮官の【追跡】は忘れない
屍人の数は多くとも指揮官のような強者の気配が全く無いという事はないと判断する
多少の損傷は覚悟の上だ
自分はヤドリガミ、傷ならあとでいくらでも癒せる
指揮官を前にしたなら再び刀を構えて対峙する
相手の動きは予想以上に軽快だ
ならばここぞというタイミングで【妖剣解放】
【フェイント】も交えた高速移動と衝撃波で一気に攻める
予想外の角度で一気に攻撃出来るといいんだが
フィロメーラ・アステール
「巨大な力士なんて、見ればわかるんじゃない?」
敵の数が多いせいかな?
手分けして探してみるか!
【紲星満ちて集いし灯光】を発動!
光精たちを呼び出して空から【情報収集】だ!
ボスが隠れているなら【物を隠す】時の知識を利用し、探す!
見つからなけりゃ【破魔】の光を浴びせて屍人を撃退しまくり、敵が阻止しに来るのを誘うのも手かな?
ボスとの戦闘ではルールに乗ろうか!
光精は横槍の阻止に専念させ、一人で戦うぞー!
【空中戦】が織り成す【ダンス】の動きで攻撃をかわす!
これは敵の目を上寄りにする【パフォーマンス】だ!
敵がひっかかったら【残像】に速度で地面スレスレに!
【気合い】を込めた【スライディング】で足元を刈り取るぜ!
それは、軍勢と呼ぶに十分過ぎる数。
その数を把握するのも難しいほどの水晶屍人の群れ。それはつまり、同数の人が、犠牲となった証でもある。
「……ったく。こう言うのは柄じゃないんだけどね」
愛用するアサルトライフルの最終チェックを行いつつ、そうぼやくのは才堂・紅葉(お嬢・f08859)。日頃の彼女の仕事に対するスタンスからすれば、スマートでは無い相手だ。
「どうだろうと、早々に退治してしまわなくては、この不気味な光景が全国に広がってしまう」
伊佐名・才(一擲乾坤一刀両断・f15008)は、ぶっきらぼうにいい放つと、抜刀する。放置すればするだけ、その被害は増大して行くのだ。
止めるにはこの軍勢の首魁、力士の天楓を討つ事だが。
「巨大な力士なんて、見ればわかるんじゃない?」
フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)はきらめく光の軌跡を描きつつ、よく目を凝らしてはみるが、それらしき影は見当たらない。
一体どういうからくりなのか?
ともかく、見つからないならば炙り出すまでと、三人は視線を交わしたのだった。
先陣を切って水晶屍人の群れに飛び込むのは、才。
その手の妖刀を以て、一体一刀、次々と斬り捨ててゆく。
その足取りは軽やか、まさしく当たるを幸いとばかり、斬って、斬って、斬りまくる。
今回は水晶屍人を全滅させる必要も無いし、その数を考えればそもそも困難である。
しかし、いずれこの場で逃した屍共は諸藩の軍が相手取る必要があると思えば、可能な限りその数を減らしておいて損は無い。
その判断と、強引に力士の居所を割り出すという両得を目指して、斬る。
紅葉の手際は鮮やかだ。
斬り込む才が存分に働けるよう、どの位置をどの順で撃つか、的確に割り出して掩護射撃を行う。
まるで決まった業務手順でもあるかの様に、紅葉の判断には迷いが無い。
そしてその目は、冷静に戦場を分析する。牽制はこの群れに一石を投じ、その影響は波紋が広がる様に、軍勢全体へと伝わる。
小さな波紋が広がり行くのを確認したフィロメーラが何事かを唱えると、その回りに無数の光球が現れた。
その光球は――否、ただの光では無い。眩い光のその中に、妖精の様な姿が見える。
それらは、フィロメーラのユーベルコード『紲星満ちて集いし灯光(スターダスト・シンクロニシティ)』により現れた光精。
光精は流星群の様に、戦場に散り広がった。
光は、才の突撃、紅葉の射撃で混乱する屍人達の中にあって、一際磐石な所を探し……それは、見つかった。
どのようなからくりかと思えば、何の事はない。
信長の御抱え力士、天楓が見つからなかったのは、彼の背が低くなっていたからだ。
その巨体を屈め、深く腰を割り、回りの水晶屍人に紛れるほどに小さくなって――彼は、すり足をしていた。
主君を戴く力士にとって、行軍すらも稽古なのだ。
位置さえ知れてしまえば、やり様はいくらでもある。
紅葉は、天楓からも十分に見える位置まで移動すると、一体の屍人に対し、おもむろにロックアップ。その力量を見切れば口許には笑みが浮かぶ。
腹部に蹴りを一つ飛ばして相手を屈ませれば、互いの腕を首に巻くように組み直し……紅葉は、己の首を支点に、高々と屍人を担ぎ上げた。
ブレーンバスター。屍人の足は天に向けて一直線に伸びる。その滞空時間は長く、天楓に見せつけるようだ。
そして多数の屍人を巻き込んで、大地に打ち付けられた。
その様に我慢ならんと天楓は腰を伸ばす。鍛練では無い、相撲の構え。
直立では無いがその体躯の偉大さは十分に判る。
その背に対し、電光の如く近づいた才が斬りかかるが――かわされた。
なおも一太刀、二太刀、死角に移動しつつ浴びせかけるが何れも紙一重で届かぬ。
その巨躯からは到底想像もつかぬ機敏さで、四方八方飛び回る力士。
このままでは届かない。『賭け』が必要だ。
すぅと一息、集中すれば、才の手に在る刀からは妖気が立ち上ぼり、その身を覆って行く。
その様に、奥の手在りと見抜いた天楓。次なる一刀に賭けるのならば、それを逆手に叩き潰すまで。
殺気は肌を刺し、触れれば弾けるまでに高まった時。両者は動いた。
天楓は、信じられぬ速度で振り向いた。振り向いただけでは無い。その丸太の如き腕が、死角を突いて来る才を薙ぎ払――空振り。
これまで常に死角を突いていた才が、此度は。考える間もなく、天楓はその背に熱を、次いで激痛を感じることになる。
才の賭けは当たった。死角を突く様子をしばらく見せておいて、肝心な所で正面から斬る。
奇を衒うと言うほどの詐術では無い。しかし、実行するとなれば、命を賭けねばならぬ。
単純な賭けに、肝心要の所で命をも賭ける。それこそ、才のギャンブラーとしての真骨頂であろう。
激痛に顔をしかめる天楓に、すかさず紅葉が組み付いた。その手の紋章が輝き、天楓を浮かせんとするが――まだ、足りない。その磐石の足を浮かせるには。
天楓が組み付いた紅葉の素っ首を叩き落とさんとしたとき、その眼前を光が過ぎ去った。
目も眩む輝きに怯んだ天楓が見たのは、眼前を煩く飛び回るフィロメーラの姿。
回りの水晶屍人に任せようにも、数多の光球がまるで土俵の様に空間を作り、入り込めないのだ。
目で追っても、追いきれない。光の粒子は縦横に舞い、手で払おうともとても間に合わぬ。
心を落ち着けた天楓は、宙を凝視し機を見計らう。一撃で、叩き潰すために。そして。
「ゴッツァン!」
ねこだまし。動作で言えばそうだが、この両掌に挟まれれば鉄塊とて伸し板になるだろう。
無惨、フィロメーラも……しかし、その掌が離れたとき、そこには何も無い。
困惑する天楓。それも当然。フィロメーラが空を舞ったのは、その意識を情報に向けさせるため。本命は、超低空に在り。
「突撃ぃー!」
フィロメーラは、凄まじい速度で地面すれすれに飛ぶ。
その勢いのままに、天楓の右足にその身をぶつけて刈り払う。相撲で言えば、蹴返しにでもなろうか?
その巨躯はよろめき、足を滑らせた形で膝を着く天楓。相撲で言うならば、既に負けか。
愕然とする天楓。心が浮わつけば、自然その身も浮わつくもの。
いまだ確りと回しを握っていた紅葉は、この機を逃さずに背筋をフルに活用。
美しいブリッジと共に、居反りでもって、投げ捨てたのだった。
大成功
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シャノン・ヴァールハイト
心情:身体一つでかかって来い? 良いだろう。惰弱で脆弱で他愛も無い、非力な人間の暴力…剛力自慢のオブリビオンに教えてやるとしよう
戦闘:【怪力】418と言う技能値があるので、正直から相撲(古式相撲)を挑ませて貰う。ただし、相手に古式相撲だとは教えてやらぬし…そもそも、合わせられぬ方が悪いのが本来のルールだ。問題無いだろう
通常の攻撃には、技能【怪力】を利用して攻撃を反らしたり受け止めて対処を行う。ただし、四股を踏もうとしたら隙を見せたと考えて全力でUCを使用して殴る
アドリブ等、気にせずやっていただければと思います。
宜しくお願いします
ニコ・ベルクシュタイン
ふむ、敵の大将が斯様な巨体であるならば
屍人の群れの中に居ようと一目で分かりそうなものだが
陸路を行軍してくるのだろう、では【時計の針は逆さに回る】で
喚び出した空飛ぶ箒にまたがって敵の頭上を取り
スモトリ…いや力士の姿を眼鏡で矯正した「視力」で目視確認だ
力士の姿を確認したら急降下で大将首を狙いに行くが
得物はユーベルコードの力で威力を増した「Bloom Star」にて
――勢いをつけて思い切り殴ってくれる
武器を使うなとは成程一理あるな、何しろそちらも身体一つ
だが、此の杖は俺の手足とも言える程に馴染んでいてな
そう易々とは手放せぬ、分かってくれるか
何? ならぬと?
如何ともし難ければ「オーラ防御」を試みよう
三条・姿見
SPD/※アドリブ、連携可
これほどの軍勢を相手取る日が来ようとは…
だが、親玉は必ずこの渦中に存在する。
猟兵として務めを果たそう
敵の数こそ厄介だが…【変貌自在】で水晶屍人になりすまし
無傷で内部を探るには、かえって都合が良いだろう。
この規模の軍勢を動かすには、単独では限界があるはずだ。
指揮系統を足掛かりに、屍人に紛れて中枢…敵の本拠地を目指したい
指揮官発見後はフック付きワイヤーと構造物を活用した
【地形の利用】、【迷彩】【忍び足】で高所に潜み、
先手、頭上からの【撃剣】投擲による奇襲を狙う。
刃には【マヒ攻撃】の薬を仕込む。…回避行動は追撃の好機だ。
薬が効けば尚、僥倖。抜刀し肉薄、【2回攻撃】を仕掛ける
御抱え力士たる自分が、投げられた。受け入れ難い事実に、暫し呆然とする天楓。
しかし、未だ戦いは続いている。仕切り直さねば。天楓は左腕を伸ばす。そうすれば、水晶屍人の中でも幹部格と言うべき、最初に付けられた部下が力水をさしだす筈だった。
しかし、来ない。
これは異なことと回りを見回せば、何体もの屍人が居るには居る。しかし、肝心の者の姿は無いのだ。
突如、樹上より飛来するものがあった。
「ぬん!」
腕で防ぐも、それは一本、突き刺さる。見れば、擊剣と呼ばれる飛刀の類いか。
即座に放たれた位置を察知した天楓は、その突っ張りを木に見舞う。それなりに大樹と言える木だったが、轟音とともに根本より吹き飛んだ。
ひらりと地に降り立ったのは、水晶屍人……?否。
その顔を掴み、ずるりとその皮膚を引き剥がせば、現れたのは、三条・姿見(鏡面仕上げ・f07852)。
ユーベルコードの域にまで高められた変装術『変貌自在』を以て、水晶屍人に化けていたのだ。
そしてただ紛れていたのでは無い。これだけの大軍、意思伝達も容易では無かろうと、主要な屍人が居ると見た。
それらは既に彼の手により討ち取られ、天楓は軍勢としての手足を失っていたのだ。
彼が的確に仕事をこなせたのにはタネがある。
それは、遥か上空より戦場を俯瞰する赤き魔法使い、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)の目。
ニコは空飛ぶ箒にまたがって空に舞い、全軍の様子をつぶさに観察し、その指揮系統を見抜いて逐一地上に連絡をいれていたのだ。
首尾よくいった様子に眼鏡を光らせれば、自身も戦闘に加わるべく、急降下の準備に入る。
「ふむ。スモトリ…いや力士の首、取るとしよう」
天楓も、ただ待ってはいない。腕に突き立つ擊剣を抜いて捨てれば、凄まじい怒号を放つ。
「体一つでかかってこんか!」
戦場全体に響いたか。この影響を受けずに済んだものは居ない。居ないが、その言葉の通り、体一つで立ち向かう者がある。シャノン・ヴァールハイト(死者の声を聞き、招く者・f10610)だ。
「望み通り、体一つだ。非力な人間の、暴力と言うものを教えてやろう」
その体格を見比べれば、まるで大人と子ども。大木と小枝。無論シャノンとて人間としては長身の部類。しかし、相手はあまりにも強大だ。
その相手に向けて、シャノンは無謀にも正面から相撲で挑もうと言うのである。
互いに見合う。行司は居らずとも互いに息を合わせて……ぶちかまし!
驚くべき事に、互角。怪力と怪力とが、筋骨を軋ませて拮抗する。
急降下するニコもまた、天楓の怒号の影響を免れなかった。
しかし、その手に握られた愛用の杖、『Bloom Star』を離す様子は無い。離す積もりも無い。
加速を続け、天楓に近づくにつれてその身を襲う電撃の如き痛み、痺れ。
彼の力士の判断基準では、どうやらこの杖も武器のようだ。しかし。
この杖はもはやニコの手である。足である。そして今から見舞う一撃に、無くてはならぬものである。
ニコの身から立ち上るオーラが僅かなりとも天楓の怒号の力を遮断する。それでも残る痛みも痺れも、全て飲み込んで。
ニコは、一筋の赤い流れ星と化した。
全く余裕の無い力比べの中、天楓は天より迫る驚異を悟る。
やむを得ぬとシャノンと組み合っていた両手を離し、頭上で交差。
ニコの杖による一撃を、受けた。
天楓の筋繊維が、千切れる音がする。骨が、砕ける音がする。
その一撃は、力士の命たるその腕を奪ったのだ。
しかし、まだ天楓には肩もある。頭もある。それをぶちかませば、十分な殺傷力がある。
落着して体勢を立て直さんとするニコめがけて天楓が進まんとしたとき、腹部に激しい衝撃が走る。
シャノンの強烈な前蹴りが炸裂したのだ。彼が標榜するは、相撲は相撲でも、古式相撲。当然、打撃も想定すべきものだ。
腕は、砕けた。腹も、痛む。天楓は、既に満身創痍だ。しかし、それでもなお気力は萎えぬ。萎えぬ筈だった。
不思議と力が抜けて行くのだ。何故……。
天楓は悟る。砕けた筈の片腕の、痛みをまるで感じぬ事を。まさか。
そのまさか。姿見が放った擊剣には、強力な麻痺毒が仕込まれていた。力が抜ければ、その怒号も効力を失う。
この機を待っていた姿見が、隙を見逃す訳もない。
即座に抜刀すれば、無防備な天楓に斬りつける。
天楓も機敏にかわそうとするが、その足は縺れる。避けきれるものではない。
姿見の手にする名刀『封刃・写』は、対に力士の腕を斬り落とした。
よろめく天楓を、更に追撃が襲う。
「俺の手足を奪おうとしたのだ。報いは、受けてもらおう」
天楓の向こう脛に、杖による強烈な一撃。鍛えようにも鍛え得ぬ箇所を打ち砕かれた天楓。片足ではその巨躯を支えきれず、地響きとともに、仰向けに倒れ――。
その横に、シャノンは立った。天楓も、既に覚悟は決めている様子。
古式相撲。サムライエンパイアではいざ知らず、UDCアースに残る最古の記録は紀元前とされる。
そこに記される、相撲最古の決まり手は。
大地が、揺れた。
大地とともに、信長御抱え力士は、水晶屍人の将は、踏み砕かれた。
残るは、将を失い指揮系統を失った、烏合の衆。
もはや、奥州諸藩の軍勢によって殲滅されるのも、時間の問題だろう。
成功
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