幻想に囚われたモノの末路
「あぁ、死にたくない」
「死にたくない」
「生きていたい」
「見つけたい」
『永遠の命』
「永遠を」
「永遠を」
「永遠を」
「永遠を」
繰り返し、繰り返し。
叫ばれる言の葉。
それは声を聴いたものの精神を蝕むほどに、延々と繰り返される。
永遠を 永遠を 永遠を 永遠を 永遠を 永遠を 永遠を―――。
。
「死」とは、基本的に万物のすべてに訪れる終着点である。それが無機物であろうと、訪れる。
躯の海より這い上がってくるオブリビオンでさえ、猟兵の手によって終着点を与えられる。
「死」は永遠の謎であり、その謎が解き明かされるときはすなわち、その者の終着点であるとさえいえよう。
なれば。
その終着点たる「死」を拒絶するものは、どうなるのだろうか。
「死」を安寧と唱えるものは少なくない。その中で、執拗に「死」を憎み、拒絶し、生に縋り付こうとするものは。
あぁ、きっと。
気が付いていないのだろう。
「死」という終着点がない「永遠」を、盲目的に追い求めるその者たちは。
留まることは、終着点であることに。
「永遠」が、終着点であり、イコール「死」であるということに。
。
――グリモアベースにて。
「聞いてほしいのです」
助けを求むように声を上げる少女が一人。
グリモア猟兵の一人たる赤凪・風珀は、ぴょこぴょこと頭を飾る赤いリボンを揺らしながら猟兵たちを呼び集めた。
「ある場所で、魔術師が徒党を組んで人々を襲っているのです」
なんでも虹色の何かが人々を捕らえるという事件が起きているらしい。
そして、繰り返し叫ばれる呪いのような言葉。
冒涜的な言の葉は、偽りの幻想を生み出しているという。
「その魔術師たちは、どうやら亡霊――オブリビオンのようなのです」
赤凪のその言葉に、猟兵たちの目付きが変わる。それもそうだろう。事件の元が討ち果たすべきオブリビオンとあれば。
赤凪は持っていた地図をばさりと開き、猟兵たちに見せる。
「此度、予知にてやつらの居場所が絞り込めました。どうか、討伐に向かっていただきたい」
大きく赤い丸の付けられた地。その地に、今もなお虹色の何かが漂っている。
「偽りの幻想は、なんでもすでに一つの世界と成っているそうです。討伐後、おそらく崩壊していくと思われます。…崩壊まで、そこで遊んだり休んだりするといいと思うのです」
きっとそれは戦事の束の間の安寧ですから、と微笑み。
赤凪は依頼を受ける意思を示す猟兵を送り出すのだった。
時巡聖夜
どうも、こんにちはこんばんはおはようございます。時巡ともうします。
三作目です。至らぬ点は多々あるかと思いますが、よろしくお願い致します。
さて、今回の題材は『死と幻想』です。
第一章では、オブリビオンたる虹色のなにかを討伐していただきます。
複数いますが、異常なほどの数ではございませんので、各個撃破も可能でしょう。
第二章では、元凶となる魔術師の亡霊を討伐していただきます。
こちらも複数いますが、片手で足りる程度の数です。が、各個撃破するのは少々苦戦するやもしれません。
第三章は討伐完了後、偽りの世界が崩壊するまでの間の安寧となります。危険は一切ありませんので、ごゆるりとお過ごしいただけるかと思います。
◎→アドリブ・連携OK。
○→アドリブのみOK。
△→アドリブ等控えめ。
それでは、どうぞよろしくお願い申し上げます。
第1章 集団戦
『虹色雲の獏羊』
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POW : 夢たっぷりでふわふわな毛
戦闘中に食べた【夢と生命力】の量と質に応じて【毛皮が光り輝き、攻撃速度が上昇することで】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 眠りに誘う七色の光
【相手を眠らせ、夢と生命力を吸収する光】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : ふわふわ浮かぶ夢見る雲
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
👑11
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無事に目的地へと降り立った猟兵たちの視界に、虹色の雲が映る。
そちらを見やれば、それは揺蕩う雲――ではなく、獏羊。
複数匹の虹色雲の獏羊は、のんびりまったりと漂い、一見人々の心を癒すような外観だった。
しかし、猟兵たちは悟る。それがそのような生易しい存在ではないということを。
さぁ、まずはこの虹色雲を霧散させてやろう。
天神・希季
うわーすっごーい、虹色の雲だー!
目に悪いね!あれ、違う?
えっとーとりあえず伸せばいいんだっけ?
なんでもいいや、ぶった切っちゃえば同じこと!
雲ってことは相手さんも空中だろうしあたしも群青の地獄の炎の翼で接敵するよ!
まずはフェイントを織り交ぜた攻撃で出方を伺おうかな!
あたしのフェイントに騙されて行けそうなら、敵さんの初撃からカウンター叩き込むよ。銃機構で全力魔法、高速詠唱も交えつつ敵さんを纏めるように弾幕も作ってこうか!
ある程度纏まって敵さんの戦い方も理解したら、あとは指定UCだよ!
範囲攻撃や2回攻撃を始めとした攻撃に回せる技能も合わせて使って、纏めて屠ってあげる!
(UC形状は七色の極太ビーム)
「うわーすっごーい、虹色の雲だー!」
ふわふわ、ふわふわ。視界に入っては出ていく虹色に、声を上げたのは天神・希季(希望と災厄の大剣使い・f13462)。長い桃色の髪を靡かせて、笑顔で飛び跳ねるようにしながら虹色の雲を見つめる。
じっと見つめていた希季は、一つうなずいた。
「うん、目に悪いね!」
心なし、虹色の雲が困惑したように揺れる。それに対して首を傾けて希季は「あれ、違う?」なんて言う。ふわふわと漂い揺れるだけだった虹色の雲が希季に向かって視線を向けた――様な気がした。
もこもこと揺れていた虹色の雲から、いくつかの塊が飛び出してくる。
お?と瞬きをする希季を、虹色の隙間からモノトーンの『羊獏』が開かれることのない目でまっすぐに見つめていた。ふわふわ、体毛の雲が揺れる。ふわふわ、頭の上にちょこんと乗ったナイトキャップが揺れる。
しばらく見つめあっていたが、数秒の間は緑色の瞳をきらめかせた希季が地を蹴ったことで破られた。単純明快な回答を持ち、彼女が踊るように宙へ飛び出す。
「ぶった切っちゃえば同じこと!」
ぶわりとその背に広がったのは鮮やかな群青。地獄の炎は力強く羽ばたき、希季を空へと連れて行った。
くるりと宙を舞う彼女に、負けじと『羊獏』たちも踊り出す。トットッと空中で空気を蹴るたびに『羊獏』の虹色雲が軌跡を描く。
その軌跡を真っ向から打ち向かえるように振るわれた攻撃にも俊敏に反応して空気を蹴った。
――それが彼女の思惑通りとも気付かずに。
「カウンター、だよ!」
きゅっと勢いよく角度を変える斬撃。薙がれた虹色雲が欠片を散らす。ふわふわとした欠片を見たのか感じたのか、『羊獏』たちの纏う空気が変わる。
それを見た希季は、口元に笑みを宿した。
「案外チョロいね?」
言葉とともに、光が集う。光に危険を感じる『羊獏』たちが四方へ散ろうと空気を蹴るも、わずかに遅い。
ズダダダッと放たれる全力魔法は四方に散ることも許さないほどに『羊獏』たちが逃げる方向を塞いだ。
弾幕を張りながら様子を伺い、彼女は首をかしげる。
反撃できるほどの強さはないのだろうか。必死に空気を蹴って逃げようとするだけで、反撃に出てはこない。
首を傾げたまま、ゆっくりと目を細める。群青の炎を散らして、空中から見下ろすその姿は、断罪せんと舞い降りた天使か神のよう。
「…ふぅん」
UCが発動し、彼女の力を増幅させる。さらには『羊獏』たちを包囲する攻撃によりさらに力を増幅させ、希季のとどめの準備を整えた。
瞳がひかり、好戦的な笑みで『羊獏』たちを捉える。
「なら…纏めて屠ってあげる!」
それは、まさしく虹のようだった。
彼女の放った極太のビームは包囲されていた『羊獏』たちを屠り、大きな虹をかける。
その虹が消えるころには、希季のほうに来ていた『羊獏』は一匹もいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
◎
死は確かに恐ろしいものだけど
大切なものを知ってしまった今
僕には永遠の方が恐ろしく感じるよ
いつか…多くを失う事になるんだから
夢は、終わらせないとね
翼の【空中浮遊、空中戦】で敵と同じかそれより上空を位置取り
動きを【見切り】ながら氷の【高速詠唱、属性攻撃】で
敵を順に凍結、動きを封じ落下狙い
更に定期的に地に足を付けては
★どこにでもある花園を複数生成し
折角の綺麗でふわふわな毛
痛めちゃうのは勿体無いけど
さぁ獏羊さん
もうおはようの時間だよ
【指定UC】を発動
花園達から咲き誇る【破魔】の力を持った花弁を
風の【全力魔法】の広【範囲攻撃】で一斉に巻き上げ
【催眠歌唱】の音魔法と組み合わせる事で自在に操作
獏羊達に斬撃
アルマニア・シングリッド
……よりにもよって、私が1番嫌っていることを用いている魔術師軍団が最終目的ですか
◎
1つの世界を作り出せるくらいなら
もっとマシな幻想を生み出せたでしょうに
いいでしょう
空想召喚師が、そのまやかしを打ち砕かさせていただきます
呪砲
空想するは『あらゆるものを切り刻む空気の刃』
獏羊の毛を丸刈りし、解体屋よろしく各肉の部位に切り分けて行きます(スナイパー・戦闘知識・世界知識・学習力・部位破壊
消えなかった分は有難く頂戴しましょう(運搬・念動力で回収
何処へ逃げようととも
空気に触れている限りは
この空想からは逃げられませんよ
はい、UCのおかわりです(高速詠唱・クイックドロウ・空中戦・空中浮遊
ふわふわと漂う虹色の雲。それは屠られた同種を気にも留めない様子で今なお漂っている。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)とアルマニア・シングリッド(世界≪全て≫の私≪アルマニア≫を継承せし空想召喚師・f03794)は隣同士に立ってそれを目で追っていた。
「…大切なものを知ってしまった今、僕には、永遠のほうが恐ろしく感じるよ」
「…そうですね。それに、ここまでの力があるならもっとマシな幻想を生み出せたでしょうに」
ひそひそと交わされる言葉。互いに此度の魔術師に否定的な心持で、ここに立っている。
虹色の雲から、いくつかの塊が二人のほうへ飛び出してくる。それは否定的な言葉を聞きとがめたのだろうか、心なし不機嫌そうで。
目をそらすことなくそれをみながら、二人は構えた。
「いいでしょう。空想召喚師が、そのまやかしを打ち砕かさせていただきます」
「夢は、終わらせないとね」
その言葉を皮切りに、それぞれが行動を開始する。
アルマニアは空想を召喚すべくその黒い瞳を白い瞼の奥に閉ざし、澪は翼をはためかせて『羊獏』の意識を引き付けて空中へと舞い上がった。
後を追うように、越えようとするように飛び上がっては眠りに誘う七色の光を放とうとする『羊獏』たち。しかし琥珀色の瞳がそれを的確に捉えて、その光からの攻撃を瞬き一つで【見切り】ながら、攻撃に転じる。
囁くような【高速詠唱】から繰り出される氷の属性攻撃は『羊獏』を一匹ずつ凍結させ、それは地に落ちて砕け散った。
「…折角の綺麗でふわふわな毛、痛めちゃうのは勿体無いけど…」
仕方ないよね、と呟いて地に足をつけた彼を追って生き残っていた『羊獏』が急降下してくる。
――それを迎え撃ったのは、アルマニアの呪砲だった。
空想された『あらゆるものを切り刻む空気の刃』は、急降下しているのも相まって威力が増す。
閉じていた黒い瞳が『羊獏』を見つめて、狙いを定める。
「折角です。その毛も肉も、頂戴しましょう」
ざくざくとその毛が、肉が、空気の刃に触れて刻まれる。
逃げようにもすでに急降下を開始してしまっていた『羊獏』は逃げに転ずることもできない。
否、たとえ四方八方へ飛び逃げようとも、空気に触れている限り彼女の空想する『空気の刃』からは逃げられない。
「さぁ羊獏さん、もうおはようの時間だよ」
それでも必死に肉を絶たせずに回避した『羊獏』に待っているのは、彼の声。足元から広がる美しい花畑の上で、澪は歌っていた。
花畑から舞い上がる破魔の花弁は歌声に操られて無数の刃となり、併せて発動される風の【全力魔法】にて『羊獏』を捉えた。
逃げられない。何とか空気の刃から逃れても、また別の刃にからめとられてしまう。
たとえこの花弁の刃を潜り抜けても、待つのは空気の刃。決して逃げられない。
――そうして二人のもとへ飛び出してきたすべての『羊獏』を切り裂き終わると、二人は顔を見合わせた。
ふるふると揺れる白い翼。切り裂かれて集められた虹色の羊獏の毛。
やわらかなもふもふを互いに持ち、繋がった視線。
戦闘の一区切りに、多少はもふもふ堪能時間があった、かもしれない。
二人の手によって確実に数を減らしてなお、虹色の雲の塊はまだ残っている。
ほかの人たちは、と、二人はそちらの様子を伺った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
◎
永遠の、命…
…知っているよ、旅生活も長いから
そういうものを、ずっと追い続けていた人も
そういう人がたどる末路も
夢を持つことは、悪いことではないけれどね
まあ、まずはその、夢に出てきそうな羊退治か
遠距離からの援護射撃を行う
なるべく、相手の攻撃範囲外から攻撃して行きたいところだけれども
難しそうなら、放たれる光は絶望の福音を駆使して避ける
ソロで戦場で寝るとか、死を意味するからね
同じように寝てしまっている人がいるならば、なるべく援護射撃でそれ以上、攻撃を受けないように
起きて、朝だよ
後は、倒せそうなやつから順番に敵の数を減らしていく
可愛いは可愛いと思うけれどもね、あの羊
でも案外目が開いたら怖かったりしそう
もくもくふわふわ、変わらずに漂い続けている虹色の雲を遠目に見ながら、此度の依頼のことを考えてリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は帽子のつばをつまみ目元を隠す。
長いこと旅をしていたからこそ、彼は"知っていた"のだ。永遠を追い求めるモノのことを。そして、その末路を。
「…夢を持つことは、悪いことではないけれどね」
ぽつりとした呟きを聞き留めたのか、眠くなるほど漂っていた虹色の雲が振り向いた。モノトーンの閉じた目が、リュカを捉える。その視線にいったん思考を止め、銃を構えた。
素早く弾が打ち出され――それはパッと飛び上がった『羊獏』に避けられる。
動揺することなく射撃を行い続ける彼に向け、避けながらパッパッと距離を詰めて来ると『羊獏』はふるふるとその虹色の雲毛を震わせた。
リュカは青い瞳を光らせユーベルコードを発動する。瞬いた刹那、彼の眼には『羊獏』の次なる手が映りこむ。再び瞬いた時にはそれに対する対処を始めていた。
『羊獏』を直接狙っていた狙撃は、〈次に『羊獏』が距離を詰めて来る地点〉を狙い撃つ。バシュッと音を立て、その狙撃は的確に『羊獏』の胴体を打ち抜き、僅かに放たれた光を打ち消した。
「…うん、いい感じだね」
己の戦法が効率よく進み、リュカはわずかに声音を明るくつぶやく。協力者を集うことなく単騎で訪れている彼は、その光による睡魔が死神たりえることを正しく理解していた。
念のためと素早く周囲を見渡し、眠ってしまった人がいないかを確認する。一瞬でも光が射抜いていたなら眠ってしまってるかもしれないと危惧して。
されど、彼の狙撃のおかげか、その心配は杞憂に終わった。眠った人がいないことを確認し、リュカは再び『羊獏』に向き直る。
「さて、各個撃破、かな」
可愛らしい姿の眼を見つめ――…開いたら、怖いかもしれない、というよりも。見てはいけない深淵を見てしまいそうだ。
あの目、開いたりしないといいな、なんてことを頭の片隅で考えたりしながら銃を構えなおし、隙を見せることなく彼は射撃を再開した。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィオレッタ・スノーベル
◎
WIZ【シンフォニックキュア】使用
偽りの幻想……って、どんなところなのかしら
偽りでも、幻想は幻想…きっと、不思議なところよね。
それにしても、ねむたくなるひつじさん…なんだか親近感が……
…っと、考え事、してる場合じゃ、なかった。
空を飛んで逃げるなら、こっちも飛んで追いかけるまで…よ。
負傷した仲間がいたら、【歌唱】による【シンフォニックキュア】を使ってサポートしながら、
隙を見て、わたしは大鎌でひつじさんを【なぎ払い】つつ、追撃で【傷口をえぐる】わ。
……ちょっとかわいそうな気も、しないでもない…のだけれど。
イーファ・リャナンシー
◎
なんだか見てるとすごーく和むんだけど
もふもふだし
もふもふに悪い子は…ううん
ほんとは分かってるわ
オブリビオンである以上は、どんな方法にせよ、放っておけば世界にいずれよくない影響を与え始めるのよね
偽りの幻想をそのままにはできないし…
だったらせめて苦しい思いをしないようにしてあげないと…!
【フラッシュ・フライト】を使って高速で飛び回りながら撃破していくわ
どれだけ上に跳ぼうとしても、こっちにだって翅があるんだから
とはいえ、馬鹿正直に正面から突っ込むなんてしないの
小さな体を生かして、可能な限り敵の死角方向から肉薄、そのまま攻撃を仕掛けるわ
攻撃する時は、【全力魔法516】を積極的に活用するつもりでいるわ
幾人の猟兵の手によって数を減らされ、残る『羊獏』もあとわずか。
それでもなお、まるで何もなかったかのように漂い微睡む虹色の雲を見つめてヴィオレッタ・スノーベル(白き野に咲く・f18000)とイーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)はほわりと和んだ。
「ねむたくなるひつじさん…」
「見てるとすごーく和むね。もふもふだし」
「…なんだか親近感が……」
「…あー…」
ゆるやかに交わされる二人の会話もだいぶふわふわとしており、ここが戦場であることを忘れさせる。二人の姿も柔らかくきれいなことも相まって、とても心を穏やかにする空間と化していた。
ドンパチしていたとは思えない空間は、イーファの心を知らず惑わせる。
もふもふだし、悪いことをするようにも見えないし。悪い子ではないのではないか。
そんなことを一瞬考え、慌てて首を振る。心の中で、自分に言い聞かせる。
(分かってるわ。オブリビオンである以上は、どんな方法にせよ、放っておけば世界にいずれよくない影響を与え始めるのよね)
その様子を隣で見ていたヴィオレッタが、どうしたの、と声をかけた。ハッとするイーファにヴィオレッタが『羊獏』を指さして囁くように告げる。
「…考え事、してる場合じゃ、なかった」
「…そうよね」
この後に控えている魔術師も、偽りの幻想も、放っておくわけにはいかない。それは二人とも理解していることであった。
深呼吸を一つして、イーファは意識を切り替える。様子をうかがっていたヴィオレッタは、やわらな翼を羽ばたかせた。いつでも空に追いかける準備を済ませた彼女に、イーファも透き通った翅をはためかせる。
その空気を震わせる音に『羊獏』が反応した。
即座に地を蹴って宙に飛び出す虹色の雲を、まずはイーファが飛び追いかける。並行して発動されたユーベルコードにより、その身に纏っていた服は高貴なドレスへと姿を変え、女神の名を冠する10の燐光が彼女の飛翔をサポートする。その飛翔は、ただ空気を蹴る『羊獏』の死角に回ることを容易にさせた。
「せめて苦しい思いをしないようにしてあげるから…!」
彼女のその思いに比例して放たれる全力魔法は、跳び続けている『羊獏』を滅する。
滅されなかった『羊獏』がイーファの全力魔法から逃げた先には――同じく空を舞う、ヴィオレッタの大鎌が待ち構えていた。
菫を思わせる紫の瞳は『羊獏』を逃がさない。
思い切り振るわれる大鎌は『羊獏』を薙ぎ払う。さらに、とどめを刺すべく大鎌で傷口をえぐる。
「…わぁ」
「…なんか…ちょっとかわいそうな気も、しないでもない…のだけれど」
「まぁ…ちゃんと終わらせてあげることも、必要、なのよね…?」
あっちへいったら全力魔法。こっちへ行ったら大鎌。打ち合わせたわけではないが、たしかに執られた連携に、逃げることもかなわず『羊獏』たちは数を減らす。
初めの和やかさはどこへやら、可憐な少女二人の手によって、最後の『羊獏』までもが、その地から姿を消すこととなったのだった。
大成功
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第2章 ボス戦
『『死』の冒涜者』
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POW : 生命を貪る蒼炎の衣
全身を【生への妄執たる青き炎】で覆い、自身が敵から受けた【死に体する恐怖】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : 不死たる十三の蛇
自身の身体部位ひとつを【十三の首を持つ蒼炎のヒュドラ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : 永遠の楽園
戦闘用の、自身と同じ強さの【何度でも蘇る蒼炎の落し子】と【落し子を生み続ける不死たる母体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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夢に誘う虹色の雲が無くなると、ゆらりとその地の空気を揺るがせる漆黒の闇が一つ。
それは、初めからそこにいたかのように立ち尽くしていた。
否。立ち尽くしているわけではなかった。耳を澄まさずとも、猟兵たちはそれを聞くだろう。
「死にたくない」
「死にたくない」
「生きていたい」
「見つけたい」
『永遠の命』
「永遠を」
「永遠を」
「永遠を」
「永遠を」
『永遠の命を』
繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し――。
誰かは、気が付いたかもしれない。
あの虹色の雲『羊獏』は、猟兵がこの地に現れた時点で【夢に取り込んで】いたことを。
誰かは、気が付いたかもしれない。
“彼ら”もまた、その【夢】に取り込まれていたのかもしれないことを。
「永遠」
「永遠」
「永遠の命」
繰り返される言葉。その、裏に。
『奪わなければ』
そんな言葉が潜んでいた。
誰もが悟るだろう。追い求める永遠の命の、その代償を奪うというのならば。
それは、他者の死を意味することを。
さぁ、哀れな咎人に、終焉を。
イーファ・リャナンシー
永遠に生きていたい…死にたくない…そんな気持ちが分からないとは言わない
ただ…そのために人の命を奪おうって言うのが気に食わないの
悪いけど、そんな企みは私達が止めさせて貰うわ
そりゃ…なにか事情があるのかもしれないけど
敵の身勝手さに対して沸いた怒りを糧に【リアライズ・スピリットビースト】を発動するわ
怒りの対象は敵本体
敵の落とし子が増えると困るし、可能な限り早い段階で
私自身も【全力魔法516】を駆使しながら戦うわ
精霊獣たちを陽動に、小さな体を活かして敵の視線をかいくぐりながら戦うわ
精霊獣たちを敵の落とし子や不死の母体が阻むようなら、その妨害をこじ開けたり、逆に私自身が敵本隊を狙いに行ったりするつもりよ
「永遠を」
「永遠を」
繰り返される言葉に、イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)は目を伏せ、手を胸に押し当てた。
彼女はその気持ちを、すべて否定することができなかった。一から十までその気持ちがわからないわけではなかったから。永遠に生きていたい、死にたくない、そう思うことが一度もなかったわけではなかった。
されど、イーファは伏せた琥珀色の瞳を、意思を込めてあげる。引き結ばれていた小さな唇がゆっくりと言葉を紡いだ。
「悪いけど、そんな企みは私達が止めさせて貰うわ」
その願いを叶えるが為に人の命を奪うことが、気に食わなかった。
何か事情があるのだとしても、他者を犠牲にするその身勝手さに怒りが沸き立つ。
激情を纏い、琥珀色がきらめく。ゆるりと何かに揺さぶられたように瑠璃色の髪が戦慄き、彼女の周囲の空気が揺らぐ。
魔術師の亡霊たちが、そのいくつもの空虚な眼窩が、イーファを見た。ぎぎぎと軋む肉と皮を失った頭部が動く。カチカチと骨の顎が音を立て、変わらず同じ言葉を繰り返し続けても、彼女の周囲では空気が揺らぎ続け――不意にその空気の揺らぎが収まった。
「絶対に、止めさせて貰うわ」
そこにいたのは、50体にも及ぶ精霊獣たち。三メートルを超える精霊獣たちは、イーファの激情に呼応して雄叫びを上げる。それぞれが地を蹴るが、狙いは等しく魔術師の亡霊たちに向けられていた。
襲い来る精霊獣の牙に爪――それは確かに「死」を思わせた。ぐぎ、と何かが歪む音。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ
"!!!!!!!」
「し"に"た"く"な"い"い"い"い"い"い"い"い
"!!!!!!!!」
軋む音が響く魔術師の亡霊たちが、一斉に叫ぶ。立ち昇る、青き炎。その炎はイーファの視界を焼き焦がさんばかりに激しく燃え上がり、飛び掛かっていた精霊獣の内数体はその炎に焼き消されてしまう。
飛び退く精霊獣の陰で、イーファは目を見開きその姿を見ていた。青い炎は摂氏1000度程の熱さだという。それは、彼女の纏う風になびく柔らかな服も、風を受けて輝き揺れる翅も、いや、彼女自身すらも焼き尽くしかねない。しかし。それでも。
「許すわけには、いかないわ」
むしろ、こうして精霊獣に敵の意識が向いている今がチャンスかもしれないと、イーファは空高く飛び上がった。
上空、魔術師の亡霊たちの意識の外から、両腕を突き出して手のひらを差し向ける。彼女の中にある力を集めて【全力魔法】を放つべく、意思を強く持って。
心の中で、炎に焼き尽くされてしまった精霊獣を思って。すでに犠牲となってしまった誰かを思って。
その全力は水として具現化する。
激しい炎を掻き消す激しい流水となって、それは魔術師の亡霊たちに降り注いた。
滝のように降り注ぐ流水はその炎を掻き消し、少なからずダメージを与える。精霊獣たちが空気に溶けるようにその姿を消した。
上空にいたイーファは、敵の意識が完全に己を捉える前に前線を退かるを得なかった。
成功
🔵🔵🔴
リュカ・エンキアンサス
他人の命を奪ったら、
不死になれるんだろうか
そういう事も…あるのかもしれない
でも、生きていたいのは俺だって同じだから
あなたを、殺すよ
俺が生きるために。条件は一緒だろう?
しっかりと銃を構えて
敵の体。骨の辺りなら銃弾が通りそうだから、その辺狙って撃つ
もしヒュドラが攻撃を加えてくるようだったら、適宜その頭部を吹き飛ばしていく
UCを使うのはここぞというときに、一度だけ
あなたの願いの先に何があるのか
俺の願いの先に何があるのか
どっちか生き残ったほうだけが、先へと行けるのだろうな
…死にたくない、永遠がほしい、その気持ちは、俺には間違っているとは思えないんだ
俺だって、生きていく為に何かを殺しているから
鎮火した魔術師の亡霊たちは、流水のもとを見つけられず空虚な眼窩を彷徨わせる。
その視線は、次いでそこにいたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)を捉えた。青い瞳でそれを真っ向から受けたリュカは、その目をそらすことなく囁くように口を動かす。
「他人の命を奪ったら、不死になれるんだろうか」
問いかけるようでいてあくまでも独白であった彼の言葉に、魔術師の亡霊たちは是を唱えるように骨の軋む音をさせる。
静かにそれを聞き――リュカは銃をしっかりと構えた。そういう事も、あるのかもしれないけれども。
「でも、生きていたいのは俺だって同じだから。あなたを、殺すよ」
俺が生きるために。その言葉が音になりきる前に、魔術師の亡霊たちが雄叫びを上げる。バキバキ、ゴキリと不穏な音を響かせると、腕を【十三の首を持つ蒼炎のヒュドラ】へと変形させて、魔術師の亡霊はリュカを狙う。先の戦中に受けたダメージを他者の命たる彼で補おうと襲い来る。
前方から上下左右と狙い来るヒュドラ。それを簡単に通す彼ではなかった。
彼自身はその場から一歩も動かず、安定した姿勢でダンッダンッと正確にその頭部を撃ち飛ばし攻撃を妨害する。
「永遠を、永遠をおおおおお"お"お"お
"!!!!」
「…、…それが、あなたの揺るがぬ願い?」
静かな声は、十三の頭部を吹き飛ばし終えたときに空気を震わせた。
【十三の首を持つ蒼炎のヒュドラ】を失い、自暴自棄になったようにリュカへと愚直に突撃してくる魔術師の亡霊に、彼の銃口が向けられる。
細められる青い目、風に揺らぐ黒髪。それはどこか“夜”を彷彿とさせ、魔術師の亡霊はその揺るがぬ願いを刹那、忘れる。
“夜”は“死”を連想させ、その“死”を冒涜せしモノを揺さぶる。それは一瞬であろうとも、リュカにとっては十分な刹那の時だった。
彼の願いの先へ、向かうために。
「生き残ったほうだけが、先へと行けるのだろうな。――……星よ、力を、祈りを砕け」
銃に込められる魔術と蒸気の力に、リュカはユーベルコードを発動させる。“夜”から飛び出すように、打ち出される弾丸。
夜空から魔術師の亡霊にまっすぐ飛んでくる星の弾丸に、その亡霊は何を思い浮かべたか。
…星は、死せる生き物の魂の果てだという。なればこそ、思い浮かべるのは。
――明確な、鮮明な"死"。
その骨を、願いを、幻想を、打ち破る。現世へと呼び戻された幻想の塊たる魔術師の亡霊は、魂が星へと還るように粉々に砕け散る。いくつもの命を奪ったまさに命のきらめきを最後に残して、消え去っていく。
それを見届け、リュカは目を閉じた。
術を大きく違えていただけで、過った存在であっただけで。『死にたくない、永遠がほしい』というその気持ちは間違ってはいなかったと思う彼は、そっとその願いを想う。
「俺だって、生きていく為に何かを殺しているから」
嗚呼、生きていく為に何かを殺している。生きているだけで、罪を背負い続ける。それでも、激しく道を踏み外して、現実を捻じ曲げてしまうよりも。
その罪を抱えて願いの先へと向かう事を、彼は選ぶのだ。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
◎
死を恐れる気持ちも今ならわかる
皆とこれからも一緒にいたい
だからまだ死にたくない
でも、仮に永遠を手にしたとして
共に過ごせる人がどれだけいるの?
全てに置いていかれて、結局一人になるのなら
その方がよっぽど怖いと思う
貴方を独りにしたくない
【空中戦】で常に動き回りながら
足元に【破魔】の★花畑を複数生成
風の【高速詠唱、属性攻撃】魔法で花弁を舞い上がらせ
斬撃や味方の盾として使用
【指定UC】発動
お願い…もう眠らせてあげて
数体の炎で落とし子達を足止めしながら
迎撃に参加しない本体を見極め一斉攻撃
風の【全力魔法】で舞い上げた花吹雪にも炎を燃え移らせる事で火力増加
花畑に燃え移らないよう延焼範囲調整しながら浄化攻撃
魔術師の亡霊たちは、一人欠けたからか死を間近に感じておびえるように軋み雄叫び、青く蒼く火を纏う。火はうねりおぞましき姿の女性と思しき形を成しうごめく。散る火の粉はポツリポツリと地に落ち、そのまま歪んだ落し子へと成り代わる。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はそれをみて、切なく眉根を下げた。小さな吐息はその死への恐怖を理解したのかわずかに震える。
「…皆とこれからも一緒にいたい…だからまだ死にたくない…」
囁く同調の言葉。昔なら死を前にしても何も思わなかったかもしれない。されど今は、共に在りたいと思う人がいる。失いたくない時を抱えて生きている。"死にたくない"という願いを、心から理解する。
そう思うのは、共に過ごせる人がいるからだ。
永遠は、そんな人たちをおいて行ってしまう。否、永遠を手に入れたなら、在る全てのものに置いて行かれてしまう。共に在りたいと願った人も、ずっと見ていたいと思った光景も、世界も、時さえも。
その末にあるのは永遠という名の孤独。終わることのない孤独。
それは、とてもとても怖いことだろう。きっと、想像しえないほどの恐怖だろう。
だからこそ――。
「…貴方を独りにしたくない」
まっすぐな声。凛としたその声は、軋む音や雄叫びに掻き消されることなく、産み落とされる落し子たちに遮られることなく、魔術師の亡霊たちに届く。
寄り添う声は、その心に届くだろうか。羽搏く翼は、その身を包むだろうか。澪の願いは、その幻想を掬うだろうか。
琥珀色は、願いを纏い空へ舞う。地を蹴ればそこには花が咲き、死への恐怖を和らげるかのように揺れる。組み合わせた両の手は願う天使の如く、唱う言の葉は亡霊たちを送る祈りの如く。
彼の操る風は花弁を舞い上がらせ、鋭くありながら寄り添うように落し子を切り裂く。
動くことをしない魔術師の亡霊を、僅かに潤んだ琥珀色の瞳が捉える。
「お願い…もう眠らせてあげて」
どうかその永遠にすがる冒涜的な願いが、怯えることなく眠る時が来るように。死の冒涜により産み落とされた呪いが安らかに浄化されますように。
澪の発動するユーベルコードは【浄化と祝福】――彼の願い。
優しく、水を掬いあげるように差し伸べられる両手。生成されるは【あらゆる種の鳥の姿を模した飛翔する破魔】の炎。舞う鳥たちは落し子を包み、浄化の火で包み燃やす。
周囲にあった花弁は延焼しながら浄化を促し、火花吹雪となり祝福の火を成す。
「さぁ、鳥たちよ、どうかあの人を導いてあげて」
永遠を求む声は、いつの間にかおさまって。死を拒絶する叫びは小さくかすれていく。
降り注ぐ浄化と祝福の火はその蒼火をも包み送る。行き先は選べずとも、導かれたその先で安らかな眠りを得られるように。
その幻想は、終焉へと導かれた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィオレッタ・スノーベル
◎
いいえ、いいえ、それは違うわ
死は安らかな眠りへと誘う抱擁
苦悶の生を終えた人の最後の安寧であり、
幸福に生ききった人へ送られる勲章なの
否定されるようなことではないし
誰かのエゴで与えられてはいけない
わたしはそう教わったわ
……?……そういえば、誰から、教わったのだったかしら?
空に飛びあがって【空中戦】を仕掛けましょう
極力注意を引きつけようかしら
ナイフ《願い星》をUC「流星群」で23本のナイフを召喚
わたし自信を囮に飛び回り、ナイフを回り込むように飛ばすわ
全て撃ち落とせるものなら、撃ち落としてみて?
多少齧られたって【激痛耐性】と【ドーピング】があるから平気よ
どうか、あなたにも幸福で満ち足りた『死』を
最後に残った魔術師の亡霊――核とも思われる、一際大きな亡霊が叫んだ。
「永遠ノ命ヲ寄越セ…命ヲ…死ナド要ラナイ…!!」
咆哮は空気をびりびりと揺るがし、ヴィオレッタ・スノーベル(白き野に咲く・f18000)の柔らかな白い髪を揺らす。微睡みの中にある菫色の瞳はそれを受けながらも、その言葉を否定するように閉じられた。
「嗚呼、嗚呼、死ニタクナイ。永遠ガ欲シイ…死ニタクナイ…」
「いいえ、いいえ、それは違うわ」
眠たそうな気だるげな様相とは裏腹にはっきりとした声で彼女は否を唱えた。ましろい翼を強くはためかせ空へ飛びあがると、宙から亡霊を見下ろす。胸に手を押し当ててその内にある"それ"を思い出す。忘れていない、欠片。
死は安らかな眠りへと誘う抱擁だと教えてもらった。
苦悶の生を終えた人の最後の安寧であり、幸福に生ききった人へ送られる勲章なのだと。
「否定されるようなことではないし、誰かのエゴで与えられてはいけない。…わたしはそう教わったわ」
きし、と頭の奥で記憶の欠片が音を立てた。瞬く菫は虚空を見る。誰から、教わったのだったか。忘れていない、忘れてしまった、誰かの、教え。一瞬、視界が雪原に埋まり――次の時には、その欠片の音も、雪原も消え失せて。
目の前の魔術師の亡霊を改めて見つめ、ヴィオレッタは己の持っていたナイフ≪願い星≫を構える。
どこまでも死を冒涜し、永遠を願い祈るというのならば。
「…流れ星に祈る?…そんな時間、あげないけれど」
「ウルサイイイイイイ
!!!!!!!」
叫びはバキバキと骨を歪ませ、その懐が変形する。肋骨はそれぞれが肥大化して歪み続け、【十三の首を持つ蒼炎のヒュドラ】の頭部へと形成す。まるでその縋り続ける生に喰らい付かんとする魂のように、醜悪な姿。
見下ろしながら空を飛び、ヴィオレッタは襲い来る数多のヒュドラの頭部からするすると逃げて回る。
命を奪い生を繋げようと固辞し続ける亡霊は、一心不乱にその姿を追いかける。
翼を食いちぎり、菫を食いつぶし、その微睡みも欠片もすべてを喰らいつくそうとし続ける。
故に、気付かない。
彼女がユーベルコード「流星群」を発動していたことも。それにより召喚された己の変形した頭部を裕に上回る23ものナイフが取り囲んでいることも。
ヒュドラの頭部の一つが、ヴィオレッタの足を掠める。
ぱっと散る血。彼女の命のしずくを受け、魔術師の亡霊はいびつに笑う。――ヴィオレッタも、かすかに笑みを浮かべた。
彼女に微かな痛みなど意味はなく。【激痛耐性】と【ドーピング】によりその速度を僅かに落とすことすら叶わず。
次の瞬間、風を切る音に亡霊がナイフに気が付いても遅い。
ヴィオレッタの足を捉えた頭部以外のすべてを駆使しても、23の内のたった12を打ち落とすことしかできず――のこるナイフを、避けることはできない。
「どうか、あなたにも幸福で満ち足りた『死』を」
天使のような菫色の微笑みは、ナイフに刺され切り裂かれえぐられる亡霊を、冥府へと送るのだ。
冥府の底で、死の眠りが包む日が来るのか。誰にもわかりはしない。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『幻想の楽園』
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POW : あちこち歩き回り散策してみる
SPD : 野生動物達と楽しく触れ合う
WIZ : お昼寝など静かに過ごす
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最後の亡霊が消え去ると、その地が歪んだ。
空間のひずみはまるで門のように猟兵たちの前に広がる。
その先にあるのは、偽りの幻想により生み出されてしまった、幻想の世界。
崩壊が待ち構えている、永遠の世界。幻想の楽園。
四季の花々がすべて咲き誇り、空は朝焼けに染まりながら澄んだ青空を広げ、夕日に赤く揺らぎながら常闇の夜を映し。
きれいな蝶が舞い優しい風が吹き、あらゆる“楽園”を具現化したような世界。
ここにはすべてがあるようで、ここには何もない。
その内に確かにあるものだけが反映される、虚夢の世界。
――楽園は、転ずれば奈落となる。
しかし崩壊する幻想の楽園は、奈落へと転ずる前に消え去るのだろう。
魔術師の亡霊が存在し続けていたなら、奈落になっていたであろう世界。
崩壊するまでのひと時を、安寧を、全ての猟兵たちへ。
天神・希季
アドリブ連携歓迎
SPD
あれ、あれあれ?
永遠がどうとか言ってたような奴……まぁいっかー!
すっごい綺麗だねーここ、何しよっかなー。あ、動物さん達がたくさん!
朱雀に白虎に青龍と玄武もまともに遊んだことってなかったよね!
せっかくだしあの野生動物さん達と一緒に遊ぼうか!
おいかけっこしたりかくれんぼしたり、たまにはね!(動物使い、動物と話す
けどなんだろう、なんかすごく虚しさもあるなー
やっぱり友達の一人くらい、連れてくればよかったかな?
以下設定
朱雀は姉御「~か、かよ、だよ、~か?
白虎は妹系「だ、だね、だろう、だよね?
青龍は兄系「です、ます、でしょう、ですか?
玄武は老紳士系「じゃ、のう、じゃろう、じゃろうか?
『羊獏』の殲滅に勤しんでいたところふと気が付くと目の前に広がる世界。元凶たる魔術師の亡霊が見当たらず、天神・希季(希望と災厄の大剣使い・f13462)はきょとんと首を傾げた。
「あれ、あれあれ?永遠がどうとか言ってたような奴……まぁいっかー!」
一瞬悩むように独り言ちるも、切り替えは早く彼女は幻想の楽園へと足を踏み入れる。咲き乱れる色とりどりの花に数多の色を宿す空。どこまでも“綺麗”な世界の中で少し歩き回り、希季は何をするかうきうきと考える。
その足元でチチ、と鳴き声がした。
見下ろせばそこにいるのは何匹かの子リス。希季を見上げて鳴く子リスや足元をくるくると駆け回る子リスと、どうやら懐いているような様子でいた。その鳴き声に呼ばれたようにどこからか子ウサギや小鳥も近づいてくる。
「動物さん達がたくさん!」
幼い声は喜びにさらにワントーン高くなり、顔を輝かせてしゃがみ込む姿はとても楽しそうだった。
ちちち…ぴちゅちゅ…と動物の鳴き声がする。ふんふん、と理解を示す声がする。希季は【動物使い、動物と話す】ことで、確かに互いに会話をしていた。
そうして小声のお話をすること数分。いよっし!と張り切った声を上げ、彼女は立ち上がった。
「朱雀に白虎に青龍と玄武も、まともに遊んだことってなかったよね!」
『…え?』
急に呼びかけられ、四神たる朱雀・白虎・青龍・玄武は一瞬反応が遅れたようだ。朱雀の気の抜けた声が聞こえ、希季はにっと笑って見せる。
とっておきを見せる前の子供のような、無邪気な笑顔。両腕を大きく広げてこの世界を、何匹もの動物たちを指し示すように見せつけた。ぶわりと風が吹き、彼女の桃色の髪までもが大きく広がる。
「せっかくだし、野生動物さんたちと一緒に遊ぼうか!」
『わ、いいねいいね!あそぼー!』
『…まぁ、たまにはいいでしょう』
「やったぁ!ね、遊ぼうよ。朱雀、玄武も!」
心の底から嬉しそうな声で喜びを示す希季。その様子に一呼吸、逡巡の間が開いた。
『…ま、いいか』
『ワシもいいじゃろう。して、何をして遊ぶのじゃろうか?』
朱雀と玄武も同意の声を上げ、みんなで遊ぶことが決まる。おいかけっこしたい!あと、かくれんぼとかしたい!と楽しそうに語る希季と四神、そして幻想の動物たちの遊びの時間が訪れた。
長い永い遊びの時間。その最中、希季がふと寂しそうな表情を浮かべる。優しく吹く風に靡く髪を片手で押さえ、空を仰いで。日の差していた新緑が陰るように、その緑色の瞳をわずかに伏せた。
とても楽しい。楽しいのだ。それは嘘ではない。
ただ、どこまでも優しい風が、幼子の明るい日々のような時間が、<虚構の上に成り立っている>ことを無意識に理解していたからか。まるで、夕方に大切な人と別れて一人で帰る時間のように。虚しく、寂しかった。
「…やっぱり友達の一人くらい、連れてくればよかったかな?」
その小さな声は、風に攫われ霧散し、動物たちにちょっかいをかけられている四神達にも届くことはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィオレッタ・スノーベル
◎
さて、かじられてしまった、けれど…
……この傷なら…治癒で何とかなりそうね
もし他にも、けがをした人がいたら、UCでの治癒を
いつの間にか足元にすり寄って来た白猫を抱き上げるわ
…アルバ、ついて来てしまったの?
そうね、最期の眠りには、手向けのお花が必要だもの
きれいなお花畑…摘んでしまうのは、少し勿体ない気もするけれど
消えてしまうのなら、花輪にして送りましょう
白い花…がいいかしら、探してみましょう
花輪が完成したら、それを亡霊さんが消えたあたりに、おそなえしましょう
……それから、どうかその苦痛が癒されることを願って
つたなくて申し訳ないけれど、安らぎを願う唄を
おやすみなさい。どうか、よい夢を
直前まで魔術師の亡霊と戦っていたヴィオレッタ・スノーベル(白き野に咲く・f18000)は、最後にわずかとはいえかじられた足の傷を診ていた。
痛みはほとんどないものの、今も少々出血はしている。それでも重症ではない傷に目を細めて。
「……この傷なら…治癒で何とかなりそうね」
そう呟く声は、亡霊と対峙する前の眠たそうな声音に戻っていた。まったりとした空気感があたりを満たす。
不意ににゃぁ、と猫の鳴き声がした。傷から少し視線をずらせばそこにいるのは白猫。綺麗な毛並みの白猫は、ヴィオレッタの傷に障らないようにしながらも足元にすり寄ってくる。
破顔一笑したのち、彼女はその白猫を抱き上げた。
「…≪アルバ≫、ついて来てしまったの?」
優しい微笑みで白猫に語り掛ける姿は、先ほど死を与えたばかりとは思えないほどに柔らかく。
にー、と鳴き声を返す白猫を見つめ、彼女は何を読み取ったのか。ヴィオレッタはゆっくりと毛並みに沿ってその頭を撫ぜて目を閉じた。
想い馳せるのは先の亡霊。消えゆくその姿を鮮明に思い起こして――彼女は再び菫色の瞳を覗かせる。
次いであたりを見渡し、何かを探すしぐさを見せた。
「最期の眠りには、手向けのお花が必要だもの」
死が、最後の安寧であり勲章であるならば。残される側からも手向けがなければ。
ほんのわずかであろうと心を傾ける刹那の時が、生けるものから死せるものへと捧げる最期の贈り物なのだろうと。
にゃうっと声を上げて、腕の中から白猫がするりと抜け出す。目で追えば、白猫はヴィオレッタを導くように少し先で立ち止まって振り返っていた。
消えゆく定めを持つきれいな花畑。そこから摘み取る花輪を手向けようと考えていたその思考を読み取ったように、白猫がヴィオレッタを呼ぶ。
ゆっくりとついて行った先には、色とりどりの花畑とは違う花畑が広がっていた。
木々の隙間から入り込めば、そこには淡い色の花々。目を瞠るヴィオレッタの足元に、また白猫がすり寄った。
「…アルバ。いい子」
しゃがんでその頭をなでて、彼女はあたりを確認する。
そして、優しい手つきで淡い花畑から花を摘み取っていった。
。
数分後、ヴィオレッタの姿は亡霊と戦っていた地にあった。その手には純白の花輪。そっと捧げ置かれるそれは、彼女からの手向けの花。
黒い服の裾が風に靡く。まるで喪に服したようにさえ見える純白な菫色の天使の姿。跪き両手を組み合わせ祈るように目を閉じると、ヴィオレッタは口を開いた。
その口から紡がれるのは安らぎを願う唄。優しく柔らかく、空気を震わせ心を安らげる唄。
白猫だけが、その隣で静かにその歌を聞いていた。
長くはないけれど、まるで永い時を歌うようなその唄がゆっくりと空気へ溶けて消える。
「…おやすみなさい。どうか、よい夢を」
最期に手向けた言の葉。立ち去る彼女の背後で、白い鈴蘭とカモミールの花輪が風に揺らいだ。
大成功
🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
んー…
散策も楽しそうだけれど、
折角だから、昼寝でもしようか
寝転がって、
美しい花を眺めて
空の移り変わりを、ぼんやりと眺める
若干うとうとはしても、寝入ってしまうことはないけれども
こういう、何もしない時間って、実は結構久しぶりだから
…綺麗な景色だな
偽りだったとしても、綺麗なことには変わりない
俺は好きだよ
…どうして、やり方を間違えたんだろうか
どうして、が、ほんの少しだけ気になる
永遠を望むこと自体は、間違ってないはずなのにね
そうやって、世界が終わっていく瞬間まで、
ぼんやりと空を見続ける
俺はこの世界を楽園だとは思えない
だって人が住んでいないから
けれど、この世界の空は、こんなにも綺麗だ
俺は、忘れないよ
遠くから楽しそうな声が聞こえたりどこからか静かな気配がしたりする幻想の楽園で、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はごろりと花畑の中で転がった。
散策することも考えたが、たまにはゴロゴロと休息するのもありだろうと思い、彼は視界を花と空で埋める。
目に痛くない程度に色とりどりで華やかな美しい花を緩やかな風が揺らし、さわさわと心地よい葉擦れの音を鳴らす。そんな音を聞くこともせわしない日々では滅多にない。
視界の大部分を埋めている空は澄んだ青空から夕焼けの茜色に染まり、赤と青のコントラストを描いたかと思えば緩やかに急速に藍色へと姿を変え、星月がきらめく傍らで紫色を帯び、朝焼けの光を介して再び青空へと舞い戻る。その空の移り変わりは現実ではありえないほどの速さでありながら心を震わせてくる。
ぼんやりと眺めているリュカは、微睡むような心地よい空間に身を委ねた。
「…綺麗な景色だな」
ぽつ、と言葉が口をついて出る。たとえ虚構でも、虚像でも。過ちの末の幻想でも、思わず音にするほどに綺麗なことは真実だった。
ゆっくりと空へ向けて片腕を伸ばして手のひらを太陽へ向けると、指の隙間から零れる日の光がキラキラと視界を輝かせる。その景色が嫌いではない。――否、はっきりといえば好きなほうだな、とリュカは思った。
持ち上げていた手の人差し指先に光を透かす翅をした蝶が止まり、彼の思考を見透かすようにゆっくりと揺れる。
それをしばし見詰めて、目を閉じる。
「…どうして…、…」
どうして、あの魔術師の亡霊は間違えてしまったのだろうか。芽吹いた小さな疑問を解消する術はすでに躯の海へ再び沈んでいる。それでも気になってしまったのは間違いが“やり方”だけであったと感じるから。
永遠を望むことはきっと誰でもあり、それを追い求める人もきっと数多くいる。それ自体は間違っていないと感じるから。
なにより、生を求むことは彼自身がしているのだ。でなければ、生きるために殺しなどしないだろう。そこに間違いなどない。
ならば、どうしてやり方を間違えたのか。
消えない疑問を頭の片隅に残してなお、この幻想は綺麗なまま終焉への時を刻む。
ふわりと指先から飛び立つ蝶を見送り、腕を花の海のような地に戻して、移ろい続ける空を眺めて。
ふっと吐いた息はどこか感嘆をはらんだ。
たとえ崩壊しないとしても、この世界に居続けたいとは思わない。それは、人が住んでいないこの世界をリュカが楽園だと思えないからだった。
けれど、この世界の空は心に刻み込まれるほどに、こんなにも綺麗で。楽園ではなくても、綺麗な幻想の世界であることは確かなのだ。
だからこそ、彼は誰にともなく告げるように、言った。
「俺は、忘れないよ」
。
。。
。。。
猟兵たちが見届ける中、その偽りでありながら作り出された確かな幻想の楽園は緩やかに崩壊した。それは、砂糖が紅茶に溶けるように自然な崩壊――死――。
嗚呼、その世界はまさしく砂糖だったのだ。少量ならば日々を彩る微かな欠片で、多量になればそのうちに秘められた有害"毒"に侵され道を踏み外す。
オブリビオンは、その幻想の毒に侵されていたのかもしれない。それでもわずかな幻想は未来へ進むために必要な欠片だった。
何はともあれ、猟兵たちの手によってその地にあった事件は解決したのだ。それぞれの心に、僅かな欠片を残して。
―――fin.
大成功
🔵🔵🔵