夏の海の一大決戦! in アリアケ号
夏だ! 海だ! お祭りだ!
「ええ、何も間違っていませんね」
照りつける夏の日差し! 噎せ返るほどの熱気! 吹き付ける潮風の匂い!
「ええ、何も間違っていません」
ごった返す人波! その割に統制の取れた長蛇の列! 走らないでください!
「そう、夏の海の上で行われるお祭りです」
戦士達は握りしめる! 宝の地図を! あらかじめ崩したお金を! 全ては、そう――!
「新刊のために――!」
織戸・梨夜(ミズ・オルトロスの事件簿・f12976)は高らかに叫んだ。
その目はどこか血走っていた。
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スペースシップワールドには観光産業に特化したリゾート船がたくさんある。
ここ、アリアケ号はそのうちの一つだ。
頂上に逆三角が二つ連なっている特徴的なフォルムはよく目立つ。
中はいくつものホールが区切られた構造になっており、展示会などで使われることを主目的としているらしい。
「今更説明するまでもないとは思いますが、こういうのは形式が大事です。改めて私から説明させて頂きます」
そのうち、比較的小規模な会議室に集まった猟兵たちを見て、梨夜は大仰に両手を広げる。なんかやたらテンションが高い。そう思ったのもつかの間。
「原稿間に合わせんぞオラァーッ!!!!」
キャラが、壊れた。
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アリアケ号が担当している「観光産業」には、いくつか種類がある。
そのうち特に大規模なものが――。
「我々にとって夏祭りとは海でキャッキャするのみにあらず! そう、即・売・会! その開催がもう目の前に迫っています! そして皆さん、進捗どうですか!」
いつもの淑女然とした態度はどこへやら。梨夜は完全にテンションの高い司会者と化していた。
「答えなくてもいいです。ネームが真っ白とか、下書きまでは出来たとか、通話で『全然出来てないわー』と言いながらトーン貼ってるとか、既に入稿終わってるからコピ本に取りかかるわとか、人それぞれですからね!」
――そう、同人誌即売会である。
自費出版の本を頒布しあう同士の集いだ。現在は漫画が主流となっているためそのイメージが強いが、小説、評論、ハウツー、独自研究――何でもありである。
これがいつの間にかアリアケ号の主要産業の一つとなり、特に夏と冬の時期に活性化する。その参加者は年々加速度的に増加しており、現在では五十三万人を超えるとかなんとか。
そして梨夜を初めとしたここにいる猟兵は、基本的に「作る側」である。
いくら趣味で作る本とはいえ、イベントまでに仕上げなければならない。製本を業者に頼むならなおさらである。
つまり――。
「この会議室! 作業に必要な道具は揃っています! 皆さんの本を仕上げて、最高の夏にしましょう! ええ、これもまた水着イベントです! 同人パワーを集めてひたすら七日間をループすることを考えれば楽勝ですよね! ハワイでUDCがこんにちは、とかしませんし!」
なんのことをいっているのかさっぱりわからない! テンションが極まりきっているようだ!
ともあれ、表現したいものがある猟兵にとってこれまた一つの機会だ。
君の思いを解き放て!
むらさきぐりこ
『このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります』
(夏コミの進捗ヤバいので)初投稿です。
なのになんでOP投稿したの? バカなの? Yes, ルナティック!
なんかOPでは切羽詰まった雰囲気が出ていますが、基本的には「環境の揃った部屋で本を書く」だけのシナリオです。
つまり「自分のPCならどんな本を作るか」を考えて頂ければOKです。
基本的には「書き手側」です。作家や物書きの趣味を持つPCさん向けと言えるでしょう。
なお本のジャンルは問いません。
もちろんグッズなどでもOKです。
作家以外でも作業のお手伝いをするという選択肢もありますので、その辺りは柔軟に絡んで頂ければなるべく採用します。
最終的には「イベントを楽しんだ」で締めますので、文字数に余裕がある場合はイベントを楽しむプレイングもアリです。
以上、よろしくお願いします。
(※8月8日~8月13日の夏コミ期間については不在にしておりますのでプレイングを頂いても対応出来ません。あらかじめご了承ください)
第1章 日常
『猟兵達の夏休み』
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POW : 海で思いっきり遊ぶ
SPD : 釣りや素潜りに勤しむ
WIZ : 砂浜でセンスを発揮する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エル・クーゴー
火器管制システム、ロック
L95式アームドフォート全搭載武装展開補助用マニュピレーター群・アーム部を執筆作業用途にチューニング(メカニック+武器改造)
躯体番号L-95
これより、原稿余白部分の完全制圧まで――『執筆作業(ワイルドハント)』を開始します
・ジャンルは「評論&独自研究」
・タイトルは「鎧装騎兵の無重力下三次元機動(プラズマジェット推進による)に於けるアームドフォート運用時の質量弾投射の有用性について」
・タイトルっていうかもう内容だこれ
・「ビームもいいが質量弾もね!」って感じの内容が「ビーム2:質量弾8」くらいの贔屓度合で、銃構造図解イラストのすごい描き込み量と共にガッツリしたためられている
――宇宙は爆発によって生まれたという一説がある。
スープ状のエネルギーが何かのきっかけではじけ飛び、それが宇宙となったのだ。これを『ビッグバン』という。
そして、この会議室には宇宙の源がある。
混沌とした情熱と妄想が渦を巻き、それらは弾け出すのを待っている。
すなわち『真っ白な原稿』という地平線に、『完成した原稿』という宇宙が描き出されるのを待っている――!
だから何だと聞かれれば、俺も何を言っているのか分からない。原稿中ってこんなもんだよ(※個人差・諸説あります)。
『>躯体番号L-95。状況を把握しました』
そんな狂気が渦巻く中、エル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)はいつも通りの淡々とした口調で独り言つ。
いや、独り言というよりは、システムメッセージを読み上げていると表現した方が正しいのだろう。
『>もしかして:修羅場モード』
実際、周りには大幅に遅れて泣きを見ている書き手もいる。進捗どうですか? どこまでも続くよ、真っ白な原稿は。どこまでも苛むよ、見積もりの甘さが。
『火器管制システム、ロック。L95式アームドフォート全搭載武装展開補助用マニュピレーター群・アーム部を執筆作業用途にチューニング』
そんなこんなを尻目に、エルの武装は『戦場』に対応していく。攻撃力はアイデア力に、回避力は構想力に、スピードは作業力にそれぞれ変換。
この場合、焼き尽くすべき敵とは。
『――これより、原稿余白部分の完全制圧まで――『執筆作業(ワイルドハント)』を開始します』
もしかしなくてもすっげえノリノリで執筆を開始するエルであった。
ところで作業環境は基本的に液晶タブレットである。だってここSSWだし。
『お風呂に浸かるとぷかーっとトーン屑が浮いてくる』というどこかで読んだシチュエーションに思いを馳せながら、エルは表紙の作業をする。
『鎧装騎兵の無重力下三次元機動(プラズマジェット推進による)に於けるアームドフォート運用時の質量弾投射の有用性について』
はて、この文字数をどう収めよう。せっかくだから少しデザインを凝りたい気もする。
「タイトル長い……長くない?」
ふと、休憩中らしい他の参加者が、エルの画面を見て、ふとそんな呟きを漏らした。
『>調査の結果、最近はタイトルであらすじを現すのが主流のようなので』
「文章硬い……。これじゃ論文ッス……」
『>_』
はーい、人の作業に割り込まない覗き込まないマナー違反! と引きずり出されるモブ参加者。みんなも気をつけようね!
『>_ティンと来た』
だが、その短いやりとりが、何か天啓をもたらしたようだった。
イベント当日。評論スペースにて。
「よく分かっておりますな! ビームは確かにロマン! しかし質量弾こそ真のロマン!」
「質量で殴ればあいてはしぬ。真理ですぞ」
「シヴいねぇ~まったくシヴいねぇ~。もしかしてこのレイアウト、学会用のマークアップ言語使ってる?」
『>_(グッ)』
親指を立てて同士達に答えるエルである。
本の内容をざっくり言うなら『鎧装騎兵の武装はやっぱりビームより質量弾だよね!』という主張である。
贔屓とではない。これは愛である。微に入り細を穿つ銃の構造図、ビームと比較して実ダメージがどのくらい出るのかの検証結果、それらがいかにもな文体と共にまとめられている。
そう――開き直って『完全な論文のレイアウト』として!
ガチすぎて一見さんには厳しいものがあるにせよ。
ガチだからこそ、マニアの心を掴んで離さぬ愛の形であった。
大成功
🔵🔵🔵
自動・販売機
イベント会場というのは戦場だ。
誰がそれを最初に言ったのかは分からない、だがそれは人口に膾炙し当然のごとく参加者達に浸透している。
さて、戦場と言えば戦争であり、戦争といえば兵站である。
どんな武器もどんな乗り物もどんな兵士も、弾薬が無ければ撃てず燃料が無ければ走れず食料がなければ働けないのだ。
補給線の維持というのは古来から今の今までに続く命題だ。
そしてこの戦場でもそれは変わらない。
圧倒的な熱量の中では兵士達の損耗は激しい。それを補うべく多目的補給装置である自動販売機はこの場所に設置されていた。
一手に多くの補給を行うこの設備の稼働率は高い。果たして戦線を維持する事ができるだろうか。
*苦戦でも大丈夫
これはUDCアース(ないしそれに酷似した世界)で実際にあった恐ろしい話である。
男はアルミ缶飲料、ペットボトル飲料をベンダーマシンに補充する業務に従事していた。
その日、男はアリアケ号に酷似した大規模な展示場の担当だった。
通常、ベンダーマシンは売り切れることがあまりない。長く蓄積されたデータとノウハウにより、場に適した量を納品するように出来ているからだ。
まして、用事がなければ入ることもない展示場という空間においてはなにをか況んや。男はいつも通りにドリンクの入った段ボールを、カートで引きながら担当場所に向かった。
――何も無かった。
目を疑った。そこにあったのは、一面点灯する『売り切れ』のランプ。ベンダーマシンには『何も残っていなかった』のだ。
何かの間違いだと思いながら、男は運んできた飲料をベンダーマシンに補充する。そういえば、やたら暑いし人が多い。男は汗だくになりながらも仕事をやり終えた。
十分後。
男がそのベンダーマシンをなんとなく確認すると、そこには『売り切れ』のランプが全て点灯して――。
つまりどういうことかと言うと、このアリアケ号でも似たような事が起こっているという話である。
イベントとは戦場である。冗談のように見えて、当事者にとっては的確な比喩と言えよう。
夏の気温、押し返す人の熱気、効かない空調、通信障害、エトセトラエトセトラ。
『おさない、かけない、しなない』の『おかし』が参加者の鉄則として膾炙していることもそれを裏付けていると言えよう。
いいですか、水分補給はこまめに行ってください。熱中症は命を落としかねない、重篤な後遺症が残る可能性もある症状です。
どうしても欲しい本があっても、倒れては意味がありません。
みんなとの約束だぞ!
とはいえ、とはいえだ。
補給線の数には限界がある。先の展示場の故事(故事?)通り、通常の何十倍にもふくれあがった参加者によって、アリアケ号内部の飲料は壊滅的状況であった。
入れたそばから買われていく。飲料は冷えておらず、それでも人々は補給する。言うなればこれは燃料であり兵糧だ。
ちなみに生ものは傷むので差し入れにはやめましょう。
補給状況は極めて不利。あわや完売、最大手となりうるところであった。
それでも――それでも。
『本日のイベントを終了します――』
終了のアナウンスがアリアケ号に響く。
やりきったのだ。
渇きに嘆く者を最小限に押しとどめることが出来たのだ。平穏無事に、死者を出すことなく、戦場を乗り切ったのだ。
その成果を確かめながら、自動・販売機(何の変哲もないただの自動販売機・f14256)は、ただ静かに燃え尽きていた。
都合、ノンストップ八時間以上のハードワーク。
今は、ただ身体を休めるときだ――。
大成功
🔵🔵🔵