●ちいさなあかりがきえないように
「魔物なんてみんないなくなればいいのになあ」
窓のむこうの星を見上げて、少年はぼんやり呟いた。
「そうなれば、街の人たちも困らなくて済むのにね」
「なーに言ってるの」
ロウソクの揺れる灯りを見つめて、少女は溜息を吐いた。
「そしたら私たち、何の仕事して生きてくのよ」
「どういうこと?」
「魔物が街の人たちを困らせるから、みんな私たちにお金を払うの。私たちが魔物を倒すから、今だって宿に泊めてもらえてるんでしょ」
「街の人たちが困ってるから、僕たちは生きてるの?」
返事をしかけて、少女ははたと言葉を止めた。それに頷いてしまったら、どんな意味になるのか気付いたようだった。――誤魔化すように、笑う。
「ごめんね、貴方には難しいこと言っちゃったね。忘れて」
「エルが忘れろって言うなら、そうする」
「ん。今日はよく寝なさいよ、アイン。……貴方なら、どんな魔物にだって負けっこないんだから」
●夏のさなかに雪の国
「皆には、アックス&ウィザーズの雪原地帯に向かってもらう」
猟兵たちが集まったのを見て、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は静かに語りだす。
「どの世界も夏真っ盛りだけど、この地方は一年中雪が降ってるみたい。避暑、……というには少々厳しすぎるかな。そんな気候の中、村々に大事な物資を届けてまわるキャラバンがオブリビオンに襲われる。……という、予知だったんだけど」
申し訳ない、と顔の前で両手を合わせ、困ったような笑顔で首を傾ける夏報。
「敵の正体も、襲撃のタイミングも、全然視えなかったんだよね……。だから、まずは情報収集をしてほしいんだ。周辺の地形とか、怪しい噂や言い伝えがないかどうか、とか。キャラバンが滞在している街に、ちょうどおあつらえ向きの酒場がある。皆をそこに送るよ」
つまり、最初の仕事は酒場での聞き込みとなる。キャラバンを護衛する計画も、敵オブリビオンへの対策も、情報が出揃ってからの話となるだろう。
……それだけなら、ごくシンプルな依頼なのだが。夏報は視線を落として、今回の『本題』を切り出す。
「敵の代わりに、ひとつ厄介な予知が視えたんだ。――地元の冒険者が、先にキャラバンの護衛を請け負っているんだよ。彼らは自分たちの仕事を取られることを良くは思わない」
つまり、冒険者同士の利得問題だ。
……もちろん、相手の言い分にも道理はある。彼らにも食い扶持というものがあるし、一度請けた仕事を他所に取られたとなると、信用の問題だって発生する。
しかし、オブリビオンに対抗できるのは自分たち猟兵のみ。――彼らに任せておけば、結果は目に見えているのだ。
「情報収集のついでに、その冒険者たちと折り合いをつけておいたほうがいいと思う。同じように酒場に滞在してるから、……ちょっと待って、念写するね」
夏報が人差し指を立てると、その上に一枚のポラロイド写真が浮きあがった。
「この二人。顔を覚えていって」
――写真の中身を見た猟兵の反応は様々だった。息を飲む者、眉をしかめる者、戸惑うように顔を見合わせる者。
「うん、見ての通りだ。……すっごく若いんだよね。お酒、飲めないんじゃないかな? 男の子のほうが剣士の『アインスト』、女の子のほうが魔術師の『エルフテル』。この地域では結構有名みたい」
寒さの厳しい雪原地帯で、少年と少女が二人きりで、明日をも知れない冒険者稼業。――それは確かに、目立つだろう。
「言っておくけど、腕は一流だそうだよ。子ども扱いすると痛い目を見る。……けど、なんて言えばいいのかな」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「予知で視た彼らは、やっぱり、若いんだ。自分達だけで生きていかなきゃと思い込んでいて……。周りの誰も信用していなくて……。もしかしたら、君たちだってあったんじゃないか? そういう時期」
どんなに腕が良くても、青いものは青い。
彼らがそのまま変わらなければ、今回のオブリビオンを倒したところで、同じことの繰り返しだ。どこかでまた無理な仕事を請けて、いつか死ぬのだろう。それを思って、夏報は声を落とした。
「今回大人しくしてもらうだけなら、お金を積んでもいいし、縛って転がしておいてもいいんだろうよ。でも、――夏報さんとしては、彼らと話をしてあげてほしいな」
八月一日正午
●
ほずみしょーごです! 今回はA&Wからじゅぶないる風味のシナリオをお届けします。
冒険(酒場で聞き込み)・冒険(キャラバンの護衛)・ボス戦となります。
今回の趣向として、地元の冒険者(ということになってますが、ゲーム的には一般人です)がふたり登場します。
彼らにノータッチで冒険パートを進めても、2章までは問題なく進行します(判定にペナルティなどはありません)。
ただし、3章開始時点でも彼らと友好的な関係を築けていないと判定した場合、3章のボス戦闘は「無力な一般人が乱入してくるので、彼らを守らなければならない」という条件がつきます。
……などと脅かすようなことを言いますが、ぶっちゃけ、才能はあるけど未熟な若者に対して先輩ムーブを思う存分楽しんでください! ということです。お気軽にどうぞ!
簡単なふたりのプロフィールを。参考にどうぞ!
『アインスト』くん……通称『アイン』。大柄な少年。素直で善良だがちょっとおバカで、言葉で聞かせても半分も理解してないとこがあります。
『エルフテル』ちゃん……通称『エル』。小柄な少女。損得勘定ができてわりと話が通じるけど、人間不信で怒りっぽいとこがあります。こんな名前だけど人間です。
第1章 冒険
『酒場での情報収集』
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POW : 腕相撲などの競技や、喧嘩などによって相手に力を示すことで情報を得る
SPD : ある時間にしか現れない事情通を捕まえる
WIZ : 魔法で困りごとを解決した対価に情報を得る、口車にうまく乗せて情報を得る
👑11
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――冒険者の酒場、『凍てつくニジマス亭』。
年を通して雪の止まない寒冷地帯、その厳しい山岳のなかで、比較的なだらかな峠に位置にそれはある。
他の酒場の例に洩れず、ここは人が集まる交通の要所。港からの物資を運ぶ大キャラバンと、僻地へ物資を届ける小キャラバンが交わり、荷の受け渡しを行う経由地点だ。周囲には従業員の家が立ち並び、小さな宿場町を形成している。
「まだ眠い……」
「朝だってば。貴方はちゃんと食べて筋肉付けないと」
軽口を叩きあいながら、小さな冒険者たちは階段を降りる。
二階に借りている寝床から、一階の酒場へと――向かおうとして、少女は踊り場で足を止めた、寝ぼけ眼の少年に『待て』の仕草。
「なんだか今日、見ない顔が多くない?」
「賑やかだねえ」
「気楽かっての」
溜息ひとつで、周囲の様子を注意深く伺う。……世界の認識修正力の影響を受ける少女には、それが異世界から集まった『猟兵』たちであることまでは読み取れないのだが。
「気を付けなさいよ、アイン。貴方すぐ知らない人に騙されるんだから」
「はぁい」
「――じゃ、あたしはお金の相談してくるわね。ちゃんと待ってるのよ?」
紅狼・ノア
こんな格好流石に怪しいよなぁ…マントくらいは羽織っておこう
この写真の子達、僕と同じか上くらいだよね?
会うのか楽しみだなぁ、どう遊ぼうかな♪
さで情報収集しますかね~
腕相撲や賭けで情報ゲットしますか【怪力】
賭けはトラップを使ったギャンブル
イカサマはもちろんするよ…【情報収集】のためにね(でもめっちゃ楽しむ)
【第六感・野生の勘】働かせ周囲も念のため【聞き耳】
ん?写真で見た子がいるな…【影の獣達】を召喚し話を盗み聞きする
賭けを楽しみながら情報収集…ある程度聞き終えたら一人でいる少年に話しかける
ねぇ君、僕と遊ばない?ババ抜きで(イカサマ無し・笑顔で話しかける)
●子供たちは荒野を生きる
冒険者の酒場『凍てつくニジマス亭』。その一階に、ひときわ賑やかな一角があった。
「……っかぁ! 敗けた!」
「ふふ、甘く見てると痛い目に合うよ?」
「すげェな嬢ちゃん、これで十連勝か」
幼い人狼の少女――紅狼・ノア(捨て子だった人狼・f18562)の姿は、屈強な男の多い酒場のなかでは特に目立つ。もちろん、彼女が注目を集めている理由はその外見だけではないのだが。
賭け勝負の演目は腕相撲。結果はノアの連戦連勝。
……小柄な細腕でこの怪力。もう少し訝しんでも良かろうが、むしろ冒険者たちは笑顔で彼女を称え合っていた。細かいことを気にしない豪放磊落な地域性なのかもしれない。
そうだとしても、油断は禁物。この寒さでいつもの軽装ではさすがに怪しいだろうから、マントぐらいは羽織っておく。
「さぁて――」
賭けを仕切っていた男が、周囲をぐるりと見渡した。
「ここらの力自慢は出尽くしちまったな。……お嬢ちゃん、冒険者か?」
「そんなとこかなぁ。僕みたいなガキって珍しいでしょ?」
「いや。ここいらには他にも居るからな」
……かかった。グリモアベースで見た写真の子たちの話に違いない。
「僕と同じくらいの子がいるの?」
「お嬢ちゃんよりは少し上、だろうな」
「会うのが楽しみだなぁ、どう遊ぼうかな♪ ね、その子たちのこともっと聞かせてよ」
ノアが愛くるしく手を合わせるのを見て、男たちは視線を交わしあう。……子供相手とはいえ、冒険者同士であれば情報は取引材料だ。
「高くつくほどの話じゃないが、タダってのは筋が通らんな」
「じゃ、次の賭けはカードにしようよ。力自慢はもう人がいないんでしょ?」
ノアが懐からトランプを取り出して見せると、男たちは陽気に笑う。
「乗った! ――さ、知恵自慢はどいつかな! 掛け金はこっちだぞ」
……相手の持参したカードをそのまま使うとは、なんて不用心な。このマントの下に、絵柄を揃えたもう一組のトランプが隠されているとも知らずに。
こちらの勝負も決まったようなものである。イカサマの算段を立てながら、ノアはにんまりほくそ笑んだ。
賭けトランプを思いっきり楽しんでいる間にも、情報収集は欠かさない。
酒場の客席の間をぬって、黒い子犬たちのような影が冒険者たちの足元を探る。ノアが召喚した『影の獣達(シャドウ・ビースト)』、彼女の目となり耳となる仲間たちだ。
『また子供の冒険者?』
『あの子も孤児院から逃げてきたのかね……』
囁き交わされる声のひとつひとつに、ノアはしっかりと聞き耳を立てる。
――それから、しばらく後。
「暇だなぁ……」
酒場の外、シラカバの静かな木立の下。身を刺すような寒風のなかで、少年がひとり伸びをしていた。
「でも、難しい話はわかんないしなぁ」
「――ねぇ君、僕と遊ばない?」
「え?」
少年が振り返ると、そこには見慣れない子供がいた。……相棒よりも一回り小さい、不思議な雰囲気の女の子。
「ちょうど、酒場から出てくのが見えたからさ。僕はノア。そっちは?」
「アイン……」
名乗りかけて、少年ははっとしたように周囲を見回す。
「あんまり他の冒険者と話してると、エルに、……ええと、友達に怒られるんだ」
「僕みたいな子供でも?」
「……んー、えっと、あ……。大人と話しちゃダメ! って言ってたかも」
「じゃ、大丈夫! ほら、ババ抜きしようよ」
広げられた紙の束を、物珍しげにまじまじと見つめる。これを使って遊ぶらしい。酒場の大人たちがやっているのを、横から見たことはあるけれど。
「わかんないなら教えてあげる。こうやって分けて……、数が同じのを捨てていくんだ」
「何の数?」
「そこからかあ……」
――ノアは知っていた。獣達による盗み聴きと、先程の賭けの勝利によって。
少年と少女の親はとっくに死んでいて、他に身よりもないということ。
そういった子供たちを保護するために設けられた、山のふもとの孤児院で育ったこと。
……その場所は、保護とは名ばかりの劣悪な環境だという噂。マトモな食事も教育も施されることなく、命からがら逃げてきた子供がふたり。
それからずっと、彼らは冒険者として日銭を稼いでいるらしい。
「あー! 自分の手札は見せないで、色は気にしなくていいから、数えてみて」
「いち、にい……」
少年と自分。似ているところも似ていないところもあるけれど、――とりあえず今は、同じ子供として遊ぼう。
この時くらいは、イカサマなしで。
成功
🔵🔵🔴
アルバート・グランツ
【SPD】連携、アドリブ歓迎
賑やかだな。
この辺りでは初めての仕事になるか。
馬を厩舎に繋いで酒場へ。
様々な者が居るようであるが、あれが件の2人組冒険者か。
2人組を見つけたら迷わず接触を図る。
奴らはこの辺りの事情に詳しいはず、直接聞いてみるとしよう。
この辺りの仕事の状況、討伐や護衛等の依頼、周囲の地形など。
私も傭兵だ、情報は飯の種である故な。
ただでは話さぬというなら朝食代くらいはくれてやろう。
ふむ、まあいい。どこかで一緒になったなら、せいぜい宜しく頼むぞ。
時間限定の情報通とやら、待ち伏せてみるか。
そのために酒場の主人へと接触しよう。
仕事の前に名を売りたい。情報通とやらを紹介してはもらえないか?
メルフローレ・カノン
まずは、酒場へ情報の聞き込みを行いましょう。
キャラバンの存在や行程、予測される危険など情報収集です。
一応、私も冒険者としてそれなりに腕は立つ旨
アピールしておいた方が自然でしょうか。
[礼儀作法][コミュ力][怪力]など使用します。
件の2人にも冒険者の礼儀として挨拶して
お互いのことを話し合って仲良くなりましょう。
私は普通のシスター(力技専門)ということで自己紹介です。
単純に若い(幼い?)冒険者というのも親近感ありますし。
[優しさ][鼓舞]など使用ですね。
なお、私には彼らを出し抜いたり上前をはねるつもり一切無いので
彼らのプライドを傷つけないよう護衛の話の展開には気をつけます
●押して駄目なら
「――賑やかだな」
愛馬・グリンガレットを厩舎に繋いで、アルバート・グランツ(遍歴の兵・f20074)は周囲を見渡した。数々の戦場を渡り歩いた彼ではあるが、この雪原地帯では今回が初めての仕事になる。
酒場を囲む宿場街は、質素ながらも活気に満ちていた。人が住む場所だけあって、いくらかは植物の緑も見受けられる。――しかし、街道の向こう、山岳の方角に目をやれば、一転、視界を覆うような白。
ここで最優先となるのは、周辺の地形についての情報であろう。この辺りの仕事の状況、討伐や護衛等の依頼も押さえておきたい。アルバートはまず、酒場へとその足を向けた。
朝食時の『凍てつくニジマス亭』には様々な顔ぶれが揃っていた。キャラバンの商人、屈強な男たち、彼らを目当てに集まる若い娘。
……そんな群衆の片隅に、目当ての人物はいた。
グリモアベースで見せられた写し絵と同じ少女。件の冒険者だ。ちょうど、外套を使って席取りをしている最中らしい。二人組だと聞いていたが、今この酒場にいるのは彼女だけか。
「――貴殿」
「な、なに?」
アルバートは迷わず接触を図った。
「この辺りの事情に詳しいはず。情報交換と行こう」
「えっ。わっ、私?」
大柄な男からの突然の申し出。大胆で朴訥な言葉。少女はさすがに動揺したようだった。
しばらくは年相応の子供のように周囲を見渡していたが、……しばらくすれば、腹を決めたようにこちらを見上げてきた。その時にはもう、彼女は一介の冒険者の目をしている。
「タダという訳にはいかないわ。この酒場にも道理がある」
「む。そうだな、朝食代くらいはくれてやろう」
「……私のこと、餓えた子ネコか何かと思ってるわけ?」
どうも子供扱いと解釈されたらしい。少女が見る間に警戒心を強め、アルバートを強く睨みつけた、その時。
「――すみません、私からもお願いしたいんです」
そんな二人のやりとりに、横から声をかける者があった。
シスター服を身に纏った、もう一人の猟兵――メルフローレ・カノン(世界とみんなを守る……かもしれないお助けシスター・f03056)である。彼女もまた、この酒場には似つかわしくない小柄な少女であった。
「エルフテルさんですよね? 酒場の方からお名前をうかがって」
優しくあたたかな笑顔で、メルフローレはその場を取りなす。
「お話、できません?」
「……え、ええ。話ぐらいは聞かないとね。私がエルフテル。エルでいいわ」
自分と変わらない年頃と見て、少女――エルはすっと肩の力を抜いた。
「メルフローレと言います。見ての通りの普通のシスターですよ? そちらの男性は私の仲間で」
「うむ、私も傭兵だ。情報は飯の種である故な」
アルバートが話を合わせると、メルフローレは改めてエルに向かって頭を下げた。……もちろん、武器のメイスを顔の高さに上げて見せ、実力をアピールしておくのも忘れない。普通のシスターとは一体。
「本当なら情報を交換したいんですけど、私たち、この辺りは初めてで……。話せることがないんです。だから、せめてご飯代だけでも出させていただきたくって」
こちらとしては、冒険者たちを出し抜いたり上前をはねるつもりは一切ない。あくまで近辺の情報がほしいという体にしておく。相手のプライドを傷つけないよう、自分たちを少し下げながら話を運ぶのも重要だ。
「ああ……。なるほどね。そういうことなら」
その話術が功を奏したのか、エルは納得した様子で席へ腰を下ろした。一度アルバートを相手に緊張を高めたことが、かえって今の彼女の態度を軟化させたようにも見受けられる。
ここまでくれば、商談は成立。
――運ばれてきた温かいスープを囲んで、冒険者と猟兵は情報交換を始める。
「この『凍てつくニジマス亭』で港からの物資を受け取って、雪山の向こうの『イーサの祝福』村まで届けるの」
エルが説明に用いるのは、酒場が貸し出している公正な地図だ。偽造やイカサマの心配はない。
「行きに六日、帰りも同じくらいね」
「結構な長旅だな」
「遠いけど、そこにしか鉱脈がないから。村の人たちはこの物資が頼りよ」
「大事な仕事ですね。……あっ、護衛をするからには、道中に危険があるんですよね?」
「ええ。問題になるのは、だいたいは野犬か熊。この道に盗賊はほとんどいないわ」
「人間の野宿には適さんだろうからな」
「そういうこと」
「……何か、強大な魔獣などが出るという話は?」
「なくはないけど、噂ぐらいね。ホラ話と区別がつかないわ」
得た情報を手元でまとめながら、アルバートとメルフローレは視線を交わす。
……猟兵であるこちらは、キャラバンがオブリビオンに襲われることを知っている。しかし、この段階でその話を切り出すのは早計だろう。嘘八百と思われ、警戒されては元も子もないからだ。
その上、思ったよりも道程が長い。数日間の旅路となると、敵が襲ってくるタイミングをもう少し絞ることができなければ厳しいかもしれない。
「――このスープで私が話せるのはこのくらい。どう?」
「ふむ、まあいい。どこかで一緒になったなら、せいぜい宜しく頼むぞ」
アルバートが席を立つ一方で、メルフローレはエルの正面向かいに座りなおす。
単純に、若い冒険者という親近感があるのだ。若いというより幼いと言ったほうが近い気がするが。……できることなら、もう少し仲良くなっておきたかった。
「エルさん、魔術が使えるんですよね?」
「ちょっとだけ。たまたま文字が読めたから」
「私も、ちょっとだけ。お互い頑張りましょうね! 私は十三歳なんですけど、エルさんは?」
「ちゃんと数えてないけど、まあ、貴女より上よ」
その返答に、メルフローレは小さな違和感を抱く。
改めてエルをまじまじと見ると、ひとつの事実に気がついた。……彼女は、運ばれてきたスープを汁だけ飲んで、肉を全部残している。
「食べないんですか? お肉」
「うちには剣士がいるからね、肉はそっちに回すの。私は呪文を唱えればそれでいいけど、向こうは体が資本だから」
そう言って笑う彼女は、メルフローレよりひと回りは小柄だった。
……正確な年齢がわからないのに『年上』と言い切る以上、少なくとも三つ四つは離れているはずなのに。
つまり、この人は子供なのではない。栄養状態が悪いから背が低いのだ。
「それは……」
目を伏せて、言葉を選ぶ。
「ものすごく、その人のことが好きなんですね」
「ぶ」
メルフローレの悪意のない言葉に、エルはスープを吹いて咳込んだ。
一方、その頃。
「情報通?」
首を傾げる酒場の主人の前で、アルバートは腕を組んで見せる。
「こういう酒場にはいるものだろう。いつも捕まるわけではない、物珍しい話を持った奴が」
交渉の席を立った彼は、更なる聞き込みに励んでいた。狙うのは、時間限定の情報通。
「うーん……。いるにはいるというか」
「仕事の前に名を売りたい。紹介してはもらえないか?」
店主が考え込んだ次の瞬間、――酒場の扉が勢いよく開け放たれた。
「凶兆じゃ!」
朝食時の酒場に乱入してきたのは、みすぼらしい老婆。
「もうすぐ、もうすぐ天に七色の光が――、凶兆じゃ! これは凶兆」
「はいはい婆さん、今食事中だからな」
周囲の男たちに引きずられ、老婆は扉の外へと放り出される。
その姿を見送って、酒場の主人は苦笑い。
「ここ数日は毎朝ああでね。時間限定っちゃ時間限定だが、ありゃあお探しのとは違うね」
「む……」
頷いて、アルバートは杯に視線を戻す。引き続き情報通とやらを待ち伏せようかと思うものの、……老婆の言葉が、何か脳裏に引っかかった。
「この雪原地帯で、天に七色の光、――か」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カイム・クローバー
『凍てつくニジマス亭』か。情報収集……の、前に。飯だな!
カウンターで給仕に頼むぜ。メニュー表あるか?あー…これとこれと…これ、後これも頼む。
飯を食べながら、ついでにUC使って情報収集。最近起きた事件とか、この辺りで消息不明になった連中、後はまぁ…馬鹿げた話だが、伝承なんてのもあるなら聞いとくか。
ああ、それと。冒険者の仕事が無いか?金払いの良い仕事がしたい。何せこの飯を最後に財布がスッカラカンになっちまうんでね。
他の冒険者が受けてるってんなら俺も混ぜてくれないか?報酬は山分け…っても納得出来ねぇか。じゃあ、俺の実力が足りるなら付いて行っても構わねぇよな?おーい、誰か訓練用の木剣貸してくれねぇか?
●男なら剣で語れ
「そう。その時、俺はゴブリンの群れの間を縫って、一直線にドラゴンの脳天を――」
酒場のカウンターで、青年が武勇伝を語る。
「――真っ二つ!」
「きゃあ!」
青年――カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の大げさな身振りに、給仕の女は黄色い声をあげた。
「面白いわねあなた! 顔もいいし。でも、さすがに本当の話じゃないわよねえ」
「ま、そこはご想像にお任せってことで」
……実際のところ、嘘と本当が五分五分である。実際にはゴブリンではなく邪神教団の信者であったし、ドラゴンではなくUDCであったから。――これも彼の『話術の心得』。この世界の住民にウケがいいように、嘘も方便という奴である。
「さ、注文の料理よ。これと、これと……これ、随分いっぱい食べるわね」
「後これも頼む」
「はぁい」
情報収集……の前に、まずは腹ごしらえであった。メニュー表を眺めて、気になった料理は一通り頼んでおく。
メインは『凍てつくニジマス亭』の名前通りの、寒さで脂ののった川魚の焼き物。保存用の熊肉を濃く煮込んだスープに、寒冷地帯らしい蜂蜜酒。
旅先でまずは食事としゃれこみながら、カイムは酒場の人々と陽気な会話を交わす。
「――なんせ、俺はこの辺りが初めてだ。まずは色々聞いておかないとな」
「新作の武勇伝のために?」
「そうそう。最近起きた事件とかあるか?」
カイムが探りを入れると、給仕の女は考えこんでみせる。……とはいっても、そこにあまり深刻な雰囲気はない。
「あんまりないわね。平和なところよ? 最近の事件といったら、うちのバカ親父が酒飲んで裸で暴れたってくらい」
「そりゃ大事件だ」
見たところ、女の表情に嘘はない。……この辺りで消息不明になった連中や、何者かに襲われる噂などがあれば押さえようと思ったのだが。この様子では空振りか。
「んー、じゃあ、――伝承とか、おとぎ話とか、そういう馬鹿げたのでもいいな」
「あー! それを元に話を作るんでしょう? ……あ、でも。そうね」
女はぽんと手を打った。
「さっきのあなたの話で思い出した。この辺りにもドラゴンの話があったわよ。勇者一行がドラゴンを退治して、湖の底に封印したーっていう、よくある話ね」
「……ドラゴンね」
与太話としては定番だが、――オブリビオンとしても定番だ。この情報は覚えておくに越したことはないだろう。
「ああ、それと。冒険者の仕事が無いか? ドラゴン退治じゃなくてもいいからさ」
そう言って、カイムは懐から取り出した財布を逆さに振ってみせる。
「金払いの良い仕事がしたい。何せ、この飯を最後に財布がスッカラカンになっちまうんでね」
「ええ、それなのにあんなに頼んだの?」
「美味そうで、つい、さ」
これも、半分は方便。
「うーん、出しちゃった以上お金は取らなきゃいけないし、忍びないわねえ……」
女が見せた今度の思案顔は、少々深刻な雰囲気だった。
「ここらじゃキャラバンの護衛が定番だけど、あいにく先約があるのよね」
「他の冒険者が受けてるってんなら、俺も混ぜてくれないか?」
「そう簡単にはね……。報酬を山分けって言っても、半分になったらこの土地では厳しいわ。それにあの子たち――」
――噂をすればというやつか。
外から続く扉をくぐって、大柄な少年がひょいと顔を出した。
「あの少年だろ? 直接話を付けるしかねえかな」
「待ってったら!」
「おーい、誰か木剣貸してくれねぇか? 訓練用のやつ」
カイムが軽く右手を挙げると、ノリのいい冒険者たちが望みの品を投げ渡してきた。――ひと振りして、少年に向ける。
「というわけで、勝負だ」
「ええ!?」
少年は面食らった顔で、うろうろと周囲を見渡した。まるで、誰かを探すように。
「人との勝負は危ないからエルが駄目って……」
「軽く打ち合うだけだぞ? 俺の実力が足りるなら、依頼に付いて行っても構わねぇかな」
「そ、それもエルに聞いてみないと駄目!」
――少年の態度に、思わずカイムは振り上げた木剣を下ろす。剣を交わすより先に、如実に見えるものがあったからだ。
「お前、……それでいいのか? こう言っちゃなんだが、男の子だろ?」
大成功
🔵🔵🔵
マイ・ノーナ
※連携、アドリブ歓迎
件のキャラバン、人を雇うくらいだからこの先に何かしらの懸念があるんだろう。
何を、どこまで知っているのか探る
それと、腕が立つと言っても子供は子供
単に腕を評価したのか、それとも他に理由があるのか……
知っておきたい
キャラバンも既に子供を雇った後だ、この姿で話しかけても不自然じゃない
例の二人組の噂を聞き付けた、子供の冒険者のていで事情を聴く
事前にダガーと地縛鎖をダウジングの要領で使い、周辺の*地形の利用法を把握しておく
それを話の種に*情報収集する
二人組には警戒されない様、依頼の横取りじゃない事、似た者同士協力できないか地形の話と身の上話で交渉する
…まあ、嘘と本当は使いようね?
雪・兼光
【SPD】連携、アドリブはご自由に
UDCがスゲェ暑いから依頼に飛びついたが。
寒い寒いなんだこの寒さは、あの暑さが恋しくなるな。
時間限定の情報通を待ち伏せするか。情報料として何か奢ろう。
…てかUDCの貨幣じゃ払えないからあらかじめ換金しておかねーと。
話をする時は必ず「コミュ力」を利用
目撃されているモンスターの種類、モンスターが活発になる時間帯、利用できる情報はなるべく欲しい。
後はアインストとエルフテルに挨拶と情報交換だ。
「コミュ力」忘れず、いつもどーりに変に笑顔だと疑われる。
先ずは情報のすり合わせ、知らない情報の交換と行こうか。
ま、ただでとはいわねーよ。さっきの情報屋と同じで何か奢るよ。
●忘れられたものがたり
「寒い寒いなんだこの寒さは」
元から鋭い目つきをもうひと回り剣呑にして、雪・兼光(ブラスターガンナー・f14765)はコートの前を合わせた。氷雪地帯の冷たく乾いた風が、切り株に腰掛ける彼をひゅるりと撫でていく。
「あの暑さが恋しくなるな……」
今頃、UDCアースは夏真っ盛り。気温というより体温に近い数字を叩き出す連日の異常気象。……そんな八月にうんざりしていた兼光は、迷わずこの依頼に飛びついた。
しかし、意気揚々と来てみたはいいが、結局寒いものは寒い。戦う前から体がおかしくなりそうである。
……このアックス&ウィザーズも暦の上では八月。この地帯の気候は、地球でいう緯度や標高の問題なのだろうか。そもそも、こっちの世界は丸いんだろうか。そんな空想にふけりながら、兼光は『その時』を待つ。
「そろそろだよな……」
大柄な背を丸め、酒場で買った熱い麦粥をすする。UDCの貨幣を換金するのに手間取っている間に、朝食の人気メニューはほとんどはけてしまっていた。まあ、温かいからいいか。
――この寒いのに外で待ち伏せなどしているのは、ここに来る人物に当てがあるからだ。
「おや、お若いの。こんなところでどうしたね」
現れたのは、柔和そうな老齢の男である。さきほど酒場の主人に聞いた、『期間限定の情報通』だ。
「……わしも昔はキャラバンで働いておったがね、この歳だからなあ。今はここだけ手伝っとるよ」
かつてのキャラバン隊員。……確かに、若い冒険者が知らないような事情に詳しいだろう。今は隠居しているが、大キャラバンが到着し、小キャラバンに荷を移し替える作業の間だけ、後進を手伝いに外へ出てくるらしい。
「爺さんも大変だな。麦粥、もう一つ用意してきたぞ。飲むか」
「若いのに気が利くねえ。――で、何が聞きたい」
こういった質問にも慣れているのか、話が早い。……見た目で誤解されがちな自分のことも、礼儀をわきまえた若者と受け取ってくれる。これも年の功という奴か。兼光にとっては有難かった。
「そうだな。目撃されているモンスターの種類、モンスターが活発になる時間帯……」
「――それは、私も気になる」
ふと、背後から声がかかった。――先程まで誰もいなかったはずの場所に、存在感の希薄な影が立っている。
「うわ」
「っと、……驚いたねえ、何かの手品か」
それは外套を羽織った小柄な少女――マイ・ノーナ(偽りの少女・f07400)の姿だ。同じくキャラバンで情報収集をするつもりだった彼女は、折よく兼光と老人が話し込んでいるのを発見したのだった。
「お嬢ちゃんも子供の冒険者かね? 今日は多いねえ、さっきも何人か見たよ」
「ここのキャラバンなら、子供でも雇ってくれるんでしょう。多分、他の子も、その噂を聞いて」
「ああ、なるほどね」
マイの並べるもっともらしい言い分に納得したのか、老人はすぐに笑顔を見せた。
「――で、噂は本当なの? 腕が立つといっても子供は子供でしょう。雇ってもらう前に事情を知りたい」
「待て待てお前さんら、順番に答える。……でもまあ、どちらも同じ理屈じゃよ」
兼光から受け取った麦粥に口を付け、老人は静かに語り始める。
「このあたりには元々強い魔物は出んのじゃよ。野山の獣に毛が生えたようなもんでな」
「元々、そこまで激しい戦いにはならないのね」
「ただ、雪と山が道を阻む。――エルフテルと言ったか、あの娘は雪と氷の魔法が上手い」
「私くらいの背の子?」
「そうそう。雪崩を押し返したり、吹雪を晴らしたり、夜風をしのぐ氷の壁を作ったりじゃな。実際、何度かキャラバンを救われたことがあるよ」
――つまりあの少女魔術師は、戦闘というより、自然の脅威から人々を守る魔法で生計を立てているようだ。この寒冷地域では重宝されるのだろう。
「思っていたのとは違うけど、……腕を評価されているのは間違いないようね」
「でも、それはちょっと妙だろ」
マイの横でしばらく考え込んでいた兼光が、顔を上げて言葉を挟んだ。
「大して危険じゃないなら、そもそもなんで大仰に護衛なんて雇うんだ」
「――危険じゃないというのは、あくまで今の話なんじゃよ」
空になった麦粥の器を膝におき、老人は頬杖をついた。……その目はどこか、遠い場所を見ている。
「十四年前、だ」
最近、と呼ぶには少々遠い年月。
「一晩で、キャラバンが全滅したことがあった。原因は今でもわからん。……若い者は、とうに忘れてしまっているがな」
――まさに、そういう情報が欲しかった。兼光も、マイも、真剣な目で頷く。
「日数と場所は?」
「行きの四日目、氷の湖のほとりだ。――マトモな死に方じゃあなかったよ。まとめて氷漬けにされて、粉々に砕かれていた。生き残りはほとんどおらん」
「生き残りってのは……」
兼光が続きを促そうとした、その時。
「あ、おじいさん! 荷物手伝うよ」
……ひょこりと顔を出したのは、冒険者の少年――アインだった。彼は子犬のように駆け寄ってきて、老人の前で声を弾ませる。
「そっちのふたりは……、キャラバンの人?」
「いいや、お前さんと同じ冒険者だそうだ」
「あ、……うーん」
迷うそぶりを見せるアインに、まずはマイが視線を合わせた。
「別に、依頼の横取りをしに来たわけじゃない。警戒しないで」
「……きみは、孤児院の子?」
「違うけど、貴方と似たような子供よ。……大人の都合で奪われて、滅茶苦茶にされて、今はこれ」
「……そっか」
互いの共通点を挙げ、見る間に少年の信頼を勝ち取る――マイ・ノーナ、51歳。……子供というのは、老いが止まる前の昔の話。嘘と本当は使いようである。
それにあやかって、兼光も軽く会釈をする。妙に笑顔を作って警戒されないように。静かに、マイの横につく。
「情報交換といきましょう。……キャラバンのルートの確認だけど、行程は六日ね。最初の二日は山を登って、峠を越えると氷の湖が見える。そこまで降りるのに一日。残り三日で湖の外周を時計回り」
「えっと、うん」
指折り数えて、アインは頷く。
「確かにそうだよ。どうやったの?」
「ダウジングの要領」
マイが手のひらをかざすと、外套の袖から鋭い切っ先が覗いた。……手首に巻いた地縛鎖と、それに繋がれたダガーである。これを用いて、周囲の地脈を読んだのだ。
「……氷の湖の周辺に、安全な洞窟がいくつかあるわ。その情報でどう?」
「えっと……?」
「危ないときに逃げられる場所を教えてあげる」
「ほんと! いいの?」
アインは目を輝かせて、……しかし、その目をすぐに寂しそうに足元に落とした。
「でも、エルに怒られる――って、僕は、そればっかりだなあ」
力なく、笑う。
「話せば悪い人たちばっかりじゃないって、僕は思うんだけどな。……エルは、そうは思ってくれないから」
「貴方は貴方で人が良さそうだから。……仕方ないところもあるんじゃないの」
「――いや」
無難に取りなすマイとは対照的に、兼光はそっと眉をひそめた。
「いつまでも姉貴分の言うこと聞いてばかりってのは、良くないだろ」
「そう……、なのかな」
「――ああ、悪い。余計な世話ってやつだな。それより、飲むか?」
自分でも、どうして急にそんな言葉が出たのやら。……首を傾げながら、兼光は三杯目の麦粥をアインに差し出すのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
イーファ・リャナンシー
申し訳ないけど、今回の仕事は譲ってもらえないかしら、ちょっと今回の護衛任務、やばいヤマだって噂があるの
あんたたちにはちょっと行ってほしくないかなって
もちろん、ただでとは言わないわ
護衛任務であんたたちが貰うはずだった報酬は迷惑料としてしっかり払うから…何なら前払いでもいいわ
あ、でも、嘘ついて水増しするのはなしよ
確認すればすぐに分かっちゃうんだから
今回のヤマは私たちでも危ない…もし、どうしてもって言うのなら私より強いって証明して
当然、戦ったりはしないけれど、【フェアリーズ・プリマヴェーラ】で250人の妖精を呼び出して見せたり、【全力魔法516】の威力を周囲に被害を与えない形で見せて諦めさせるつもり
安喰・八束
戦場にしか食い扶持を見つけられねえ奴は、随分見たが……
●wiz
一階酒場へ向かう。
丁度、お嬢ちゃんの方が居る筈だな。
「こっちの猟の方はどうだい」
「山向こうの猟師の間じゃ、こっちにでかい群れが逃げ込んだって噂でな。
ちょいと先まで同行させてくれんかね」
交渉相手はキャラバンの長。
ハッタリ交えながら周辺の情報収集ついでに、キャラバンに同行したい猟師の立場をとる。
雪の国じゃ革や肉は重宝するだろう。分けると言えば、無碍にはされまい。
お嬢ちゃんも、あくまで同業として扱おう。
「護衛はお前さんか。
仕事の邪魔はしねえよ。猟銃が必要なら呼んでくれ」
直に見て、どのくらいの力量だか見定めておきたい。(戦闘知識、情報収集)
●大人たちは目を伏せて
酒場の一階。入り口の扉の前に、少年と少女はいた。
「もうアインは! ――勝手に他の人と話さないでって言ったじゃない!」
「で、でも!」
言い淀むアインは、対する少女――エルに比べてふた回り以上背が高い。にもかかわらず、その態度はまるで弟のそれである。
「みんな色々教えてくれたよ。剣の勝負はちゃんと断ったし……、あの人だって悪い人じゃなさそうで」
「貴方、前もそう言って、シーフの連中にお金を盗られて!」
猟兵たちの小さな接触が積もり積もってか、ちょっとした言い争いが起こってしまっているようだ。……しかし、だからと言って彼らを放置しておくわけにもいかないのが、今回の事件の難しいところ。
「――ちょっといいか。嬢ちゃんのほうと話せばいいんだよな?」
猟師の出で立ちをした、壮年の男――安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は、気まずそうに耳の辺りを掻いた。
「気の立ってるとこ、悪いな。そう難しい話じゃあない」
「……次は、なに」
エルは深いため息をついて、八束のほうへ向き直った。……ついさっき、相方に勝手に話すなと怒鳴ったばかり。自分が話をできるというところを見せなければ恰好がつかない。
「見ての通り、俺はただの猟師だ。――こっちの猟の方はどうだい」
「猟というと、……熊?」
「鹿だな」
「ああ、鹿ね」
ほんの短いやりとりで、エルという少女は小さく頷いて納得を示してみせる。
――彼らの仕事は、野獣などの脅威からキャラバンを守ること。人を襲わない鹿を撃つだけなら、お互いの仕事は喰いあわない。
八束としても最初から用意していた筋書きだったが、相手の理解が思ったより早い。この少女が、こうした交渉ごとに慣れていることが読み取れる。
……まあ、年相応に気の短いところはあるようだが。
この歳でこれなら、十分才覚があると言える。あくまで同業として扱い、大人同士として接するのがよい、と八束は判断した。
「話に聞いている護衛はお前さんか。……仕事の邪魔はしねえよ。猟銃が必要なら呼んでくれ」
「それを決めるのはキャラバン長ね。紹介する?」
「おう、頼まれてくれるか」
手短な話を済ませると、エルは八束を連れて扉をくぐる。……黙り込むアインに、『待て』という仕草だけを残して。
――エルの口添えもあってか、キャラバン長との話は円滑に進んだ。
「山向こうの猟師の間じゃ、こっちにでかい群れが逃げ込んだって噂でな。……ちょいと先まで同行させてくれんかね」
「一緒に来るだけとなると、報酬などは出せませんが」
「そんな話じゃあない。――むしろ、持ちきれないほど取れる予定だ。この雪の国じゃ、革や肉は重宝するだろう?」
「いやいや! それは景気のいい話で」
ハッタリ交じりの八束の話運びに、キャラバン長は朗らかに笑ってみせる。商人という人種は、損得の話さえつけてしまえば基本的には陽気だ。
「――しかし、護衛だったか。あの嬢ちゃんは若いのになかなかのもんだ。もう一人の力量も見ておきたかったが――」
「ああ、あの二人」
……キャラバン長の表情に、ほんの少しの影が差す。
「苦労してますからね、あの子らも。……ここだけの話。元はうちのキャラバンの子なんですよ」
「――と、いうと?」
「十四年前に親が死んでね。連れまわすよりは良かろうと、ふもとの孤児院に入れたんです。……その結果が、あれで」
ぽん、と手をひとつ打って、キャラバン長は陽気な商人の顔に戻る。
「口が軽くなっちゃいましたね。今のは秘密ですよ! 当人たちが覚えとらんようですから」
「……だろうな。今それを言ったところで、あの娘さんが信じるかどうか」
――戦場にしか食い扶持を見つけられねえ奴は、随分見たが。
彼らには、心配してくれる大人もいるのではないか。八束が何か別の道を考え始めた、その時だった。
●それは、いつか来る嵐
「――申し訳ないけど、今回の仕事は譲ってもらえないかしら」
キャラバン長の元に、小さな妖精が降り立った。
「ちょっと今回の護衛任務、やばいヤマだって噂があるの」
イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)は、これまで猟兵たちが集めてきた情報をまとめ、一つの考えに至ったのだった。
「仕事を譲る、と言われましても。……子供相手とお思いでしょうが、こちらにも義理があります」
「当人たちを呼んで。直接話さなきゃだめよ」
キャラバン長も最初は訝しんでいたが、イーファの鋭い眼に見やられて、渋々と言った様子で商人たちに指示を出す。
……あたりに漂う不穏な雰囲気に、周囲の人々の視線が徐々に集まり始める。否が応にも、この話はキャラバン全体に広まることとなるだろう。
「まずは事実として、十四年前の事件。――氷の湖のほとりで、キャラバンがひとつ全滅したそうね。氷漬けにされて、とても野獣や災害が原因とは思えない状態だった」
「しかし、それは昔の話で」
「今まで大丈夫だったからって、明日大丈夫とは限らないわ。特定の日にだけ危険があるのかもね。たとえば……『天に七色の光が降りる時、災いが起きる』。あのお婆さん、調べたわ。十四年前の生き残りだった」
「……あの人は、事件でおかしくなってしまって。彼女の言うことを信じるのは少々……」
「あと、ここには勇者の伝説があるわね? ドラゴンを湖の底に封じたっていう。ちょうど事件の現場と近いでしょ」
「それはただのおとぎ話ですよ!」
「――これだけ状況証拠が揃っても?」
イーファは確信していた。――天に七色の光、いわゆるオーロラが出る日。その時だけ、湖に封じられたドラゴンが復活し、人々を襲うのではないか。
……しかし、その推論は、『グリモア猟兵がオブリビオンの襲撃を予知した』という一点に支えられている。これは自分たち猟兵にとっては絶対ではあるが、人々に説明するのは骨が折れる。
逆に言えば、あとはその隙間を埋めるだけ。
「――随分、好き勝手言ってくれるじゃない」
群衆の中から、少女がひとり進み出た。……もちろん、話の当人であるエルだ。それ以外にあり得ない。
「証拠は?」
「ないわ」
「……はあ?」
「証拠はないけど、真実味を見せることはできるわよ」
――イーファが右手を挙げた瞬間、空を、大気を、超常の気配が覆いつくした。
「フェアリーズ・プリマヴェーラ。みんな、ちょっとの間力を貸して……」
その詠唱と共に、百、二百を下らない、イーファの従える妖精たちの軍勢が、『凍てつくニジマス亭』の上空を踊って回る。
酒場から出てきた野次馬たちも、キャラバンの商人も、みな一様にその光景を見て息を飲み、押し黙った。
「これがこちらの実力。――今回のヤマは、私たちでも危ない。……もし、どうしてもって言うのなら私より強いって証明して」
できるわけがない。
アインは人間の肉体の範疇の剣士にすぎないし、エルは氷雪地帯で人々を守る魔法しか使えないのだから。
……しかし、それでも、エルの瞳はイーファに屈しない。
「つまり、貴女は仕事の横取りを隠す気もないわけ」
「ええ。あんたたちにはちょっと行ってほしくないかなって。……もちろん、ただでとは言わないわ」
指を一本、二本、おまけに三本立てて、イーファは続ける。
「護衛任務であんたたちが貰うはずだった報酬は、迷惑料としてしっかり払うから」
「こっちには来年や再来年があるのよ? 他の仕事での信用にも関わる」
「……何なら前払いでもいいわ。あ、でも、嘘ついて水増しするのはなしよ? 確認すればすぐに分かっちゃうんだから」
「言わせておけば――」
誰の目から見ても、エルの怒りが爆発寸前であることは明らかだった。その場の誰もが、次の瞬間に彼女が叫び出すことを想像した。
「――止めてよ!!」
けれど、叫んだのは、少年だった。
「っ、え、アイン?」
「もう止めてよ、エル。なんでいつも怒ってばっかりなのさ! ――この人たちの言うことが正しいんじゃないの!?」
「な、なに、えっ?」
……これまで、怒りっぽいながらも理性的な姿ばかり見せてきた少女が、目に見えて狼狽える。
自分に向かって歩いてくる少年の顔を直視できず、右を見て、左を見て、まるで助けを求める迷子のように。
「そうやっていつもエルが全部決めて!」
「わ、私だって貴方のために! ……貴方にはわかんないかもしれないけど! この小さいのが言ってることはおかしいのよ。証拠もないし、道理も」
「僕だって七色の光を見たもの!」
「な、何言ってるの、アイン」
……混乱するエルの代わりに、その言葉にいち早く反応したのはイーファでった。
「それは本当?」
「……父さんが、殺されたときの、こと。本当は覚えてる」
「十四年前の事件のこと? ふたりめの証人がいるなら、決まりね」
「――見てられん」
猟師役として静観に徹していた八束が、耐え切れずに腰を上げた。
……先ほど大人扱いすると決めたばかりの少女の背を、手のひらで支えてやる。軽い。やはり、子供は子供だ。
「妖精さんよ。……そこまで言う必要はあったか」
「彼らじゃオブリビオンは倒せない。それは事実よ」
「それはその通りだが――」
「もう、いい」
エルは、静かに八束の手を払う。
「わかった。……アインが言うなら、信じるわ。貴女達でも太刀打ちできない魔物が来る。私でも、アインでも、無理。そうなのね」
俯いたまま、言葉を続ける。
「――戦いには関わらない。湖の近くに、安全な洞窟があるって貴女の仲間が言ってたわね? そこへの避難誘導を私たちが手伝うわ。その分の報酬は、もらう。――これ以上は譲れない」
成功
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第2章 冒険
『隊商の護衛』
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POW : 不寝番で見張る。
SPD : 斥候や警戒を行なう。
WIZ : 守りやすいルートを提案する。
👑11
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――出立の日。
宿場町を出て少しもすれば、そこは一面の雪景色であった。
幸い、初日の空は晴れ模様。新しく降ってくる雪はなく、キャラバンの通る道には土が覗いている。
「けれど油断は禁物。そうでしょ」
ロウで固めた地図を広げて、エルは猟兵たちに語り掛ける。
「……空に輝く七色の光は不吉な予兆。かつて勇者一行が倒したドラゴンが、復活してキャラバンを襲う。この六日間の日程のどこかでね。――貴方たちの言い分は信じてあげる」
太陽に手をかざす彼女の顔は、雪のように冷たい無表情だった。ずっと張りつめていたものを失ったような、空虚な目をしていた。
「私たちやキャラバンの人たちも、寝ずの番や斥候くらいなら手伝えるわ。……協力が必要なら、声をかけて」
……そんな彼女の様子を、隊列の後ろから眺める者たちもいる。
列全体を見渡す位置のキャラバン長と、その隣を俯いて歩くアインだ。
「大丈夫そうですか、彼女。元気がなさそうに見えますが」
キャラバン長の問いかけに、アインは苦く笑う。
「うーん、……昨日も口聞いてもらえなかった。怒っちゃったのは僕だから、当たり前だけど」
――それぞれの思いを抱えて、キャラバンは進む。
紅狼・ノア
アインと遊んで楽しかった~♪
んにゃ?仕事っすかぁ面倒だな
えっと護衛だっけ?
ルート提案・周囲警戒とか他の仲間さんお任せしますよ
僕は見守りよガルムと共に【第六感・野生の勘・聞き耳・騎乗】をフル活動で周囲を警戒
見守るだけじゃつまらんなぁ…誰かお話しない?(アインとか)
おしゃべりしてでもちゃんとガルムと一緒に周囲を警戒してますよ~
何かの足跡や痕跡が見つかったら僕のみ【追跡】ガルムは合図があるまで護衛をよろしく
さぁどんな敵が現れるかね?楽しみだなぁ
●言葉にならない嘘もある
「んにゃ?」
出立の準備をするキャラバンを見て、紅狼・ノア(捨て子だった人狼・f18562)は首を傾げた。
アインと楽しく遊んで、酒場の冒険者相手にたっぷり儲けて、珍しい景色や食事を堪能してすっかり満足。もうお仕事終了気分で昼寝を満喫していた彼女だったが、ここに来て当初の任務に立ち返る。
……そういえば、グリモアベースで、キャラバンの護衛がどうとか聞いていたような。
「仕事っすかぁ、面倒だな……」
跳ねるように立ち上がって、ノアはキャラバンに続く。
「えっと、護衛だっけ?」
キャラバンの最後尾を見回しながら、ノアは己の手札を思案する。
頭を使ってルートの検討だなんて真面目なやつにやらせておけばよし。眠い目をこすって寝ずの番だなんて自分の柄でもなし。
「ま、僕は見守りよ」
ノアがひとつ口笛を吹くと、雪原に落ちた影から染み出るように――漆黒の獣が現れた。翼を持つ狼、漆黒の幻獣『ガルム』。ノアの忠実な仲間にして乗騎である。
「行くぞ、ガルム」
するりと飛び乗って、つややかな毛並みをひと撫で。一段高くなった視界からは、キャラバンとその周囲一帯を眺めることができる。
五感に加えて、野生の獣の第六感。全ての感覚を研ぎ済ませば、発見できない敵はないだろう。
「……とは言っても、何日もこれだけじゃあくびが出るなぁ」
ものの数分で飽きてきて、ガルムの後頭部に頬杖をつくノアであった。
もちろん、周囲への警戒は怠らない。木々のざわめき、獣たちの機嫌、標高が上がるほどに近づく雪の気配。……しかし、今最も気になるのは、目の前を歩いているしょぼくれた背中である。
「アーイーンっ」
「ひゃ!」
……いつの間にか背後に大型の獣。慌てて剣を構えるアインであったが、その背に乗るノアを見るとすぐに剣を下ろす。この間、絵札の遊びを教えてくれた女の子だ。
「そんな顔してどうしたのさ、腹でも壊したの?」
「ん……」
肩を落として、アインはガルムの隣に並ぶ。
「この前から、エルが全然口きいてくれなくて」
「相棒の子? じゃ、今はいいじゃん、ほっといて別の子と遊びなよ」
「君とか?」
「そっ」
にまりと笑ってみせるノアに、アインは申し訳なさそうな笑顔で首を振る。
「今はお仕事中だから」
「ちぇ。じゃ、お話だけね。……そんなにあの子が大事なの?」
数歩の間、無言が続いた。
少年と幻獣の歩調のリズムが、完全に合い始めるほどの時間だった。
「……ずっと、小さな頃から一緒だったんだ。エルは覚えてないみたいだから、話さないようにしてたけど」
「ドラゴンに襲われたんだっけ」
「んー、ドラゴンだったかはわかんない……。エルね、すごく泣いてたから。怖くて忘れちゃったのかも」
それを話さずにいたのは、優しさであったかもしれない。最初のうちはそれで良かった。……けれど、彼女は、ずっとそれを信じたまま来てしまった。自分たちは身寄りのない、二人ぼっちの子供なのだと。
「嘘吐いたのは僕だから、嫌われちゃっても仕方ないのかな」
「なんで?」
ノアは、きょとんとした顔をした。
「嘘ぐらい吐いてもよくない?」
――優しさがどうこうなんて、陳腐な話は一切関係なくて。
「別に嘘ぐらい吐いてもいいし、アインが好きな事すればいいじゃんか」
……予想外の答えに、アインは目を瞬かせた。
「――あ、気配!」
お喋りの最中にも、ノアは警戒を怠っていない。狼の耳をぴんと立てて、雪を踏む足音に耳を澄ませる。
「さぁ、どんな敵が現れるかね? 楽しみだなぁ……、って、これただの野犬だよ! あー、早くドラゴンと戦いたいな」
旅もまだまだ序盤、いきなり大物の敵とはいかない。退屈な警戒はまだまだ続きそうだ。
……口を尖らせるノアの横で、アインはその言葉の意味を考え続けていた。
成功
🔵🔵🔴
イーファ・リャナンシー
まずは地図ベースで検討するわ
見通しの良い、急峻な地形のないルートが良いわね
まぁ、いつも通ってるルートって言うのはそれなりに利便性やら安全性やら何かしら理由があって決めてるわけだから、いつもそこを通る理由、逆に通らないルートはなぜ通らないかをちゃんと確認しておかないと見当違いなアドバイスになっちゃうからそこらはしっかりキャラバンの人から聞いて検討材料にしたいわ
出発してからも、【フラッシュ・フライト】で空を飛びながら、高いところから周囲を警戒したり、場合によってはキャラバンの安全を確保した上で先行したりして行く手の安全の確認に努めるわ
もちろん、何かあった時はすぐ戦闘できるよう準備をしておくつもりよ
●そこに在る意味
一日目。
まずキャラバンは山を越える。最初の二日は山道を登り、最後の一日は反対側への下り坂。……つまり、旅の前半、しばらくは山岳の道が続く。
「山道はここしかないと思って。ルートを検討するなら、山を越えた先の盆地から」
淡々と説明しながら、エルは地図を広げて見せる。それを覗き込んだ妖精――イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)は、その全体図を見て思案顔。
彼女の言う通り、山道について検討することは少ない。猟兵だけで突破するなら森や崖を進むこともできるが、キャラバン隊を連れて通ることのできる整備された道は一本のみ。真に検討するべきは、氷の湖とその周辺の盆地である。
……数日後のこととはいえ、今のうちに決めておきたいところ。標高が上がって降雪が増えれば、こうやって地図を広げて検討するのも難しいのだから。
「見通しの良い、急峻な地形のないルートが良いわね」
「……見通しについては、貴女たち妖精軍団がいれば何とかなると思う」
「それもそうね。上空から警戒するわ」
「地形について言うことはある?」
エルが示したルート後半の地図を、イーファは改めて眺めてみる。盆地の中央に氷の湖があり、その淵にそって時計周り。
「――このあたりの平野。通れそうに見えるけど。迂回してるのはどうして?」
「ああ、これ」
ルートの線の歪みを示すと、エルは足元を指差してみせた。
「地図の上では平野に見えるけど、ぬかるんでるのよね。水溜まりが凍った上に土や雪がかぶさってて、酷い時には馬車が落ちる。……この地帯は避けて、石がちで水はけのいい川辺まで迂回することになってるわ」
「なるほどね」
キャラバンがいつも通るルートと言うのも、それなりの利便性や安全性、何かしらの理由があって決められているものだ。
いつもそこを通る理由、通らない理由をちゃんと確認しないと、見当違いのアドバイスになってしまう。――けれど、理由が分かれば考えようはいくらでもある。
「水溜まりの位置があらかじめ分かればいいのよね? じゃあ、私たち猟兵が先行して調べるわ。……ここを近道できれば、四日目の野営地を安全な洞窟の近くにできる」
「やれるならお願い。……キャラバン長もそれでいい?」
「え、ええ。お任せしましょう」
二人のやりとりを伺っていたキャラバン長は、ほっと肩を下ろして頷いた。……そして、少しだけ、声を落として。
「……貴女なら、もう少し意見するかと思ったんですが」
耳打ちされたエルは、憮然とした顔で畳んだ地図を抱きしめた。
「戦いはあいつらに任せて、私は貴方達を守るのに専念する。分かってる。――大丈夫」
話し合いが終われば、あとは見張りの仕事に集中だ。
「さて。――見せてあげるわ。この翅が飾りじゃないってことを」
詠唱とともに、イーファの背、透き通った翅が展開。小さな妖精は高貴なドレス姿の淑女へと姿を変える。花の腕輪≪プリムローズ≫が光り輝き、漂う燐光がキャラバンを、行く手の先の吹雪を照らす。
氷の湖はまだまだ先だが、天候や野獣がキャラバンの脅威となる。増幅した魔力のもたらす飛翔能力でキャラバンを先行、行く手の安全確保に努めよう。
――輝く光が、旅の行方を導いて翔ぶ。
成功
🔵🔵🔴
安喰・八束
……縄張りってもんがあらぁ、なあ。
●SPD
俺の立場が「ただの猟師」のままなら、それを通そう。
猟兵だとは言わず、護衛達の邪魔はしない。
ただ、狩りの下見…という名目で、彼らの偵察や警戒を手伝おう。
暇見て鴨でも撃つか。肉食うか肉。
このキャラバンとは随分長いのか。
なかなか気のいい奴らに見えるがね。
行商雇われの用心棒なんてのも故郷じゃよくある話だったが…
それとも嬢ちゃんは、弟とずっと二人っきりがいいのかい?
…猟師が言うことでもねえがよ。
お前さん達くらいの年なら、優しくしてくれる大人相手にゃちっと甘えても、バチは当たんねえと思うぜ。
何、大人の勘だ。
……キャラバン長、「お前さん達に弱い」気がしてよ。
カイム・クローバー
よっ。エル、隣良いか?ま、駄目って言われても座るけどな?
話はアインについて。他の話だと仕事以外じゃ、口聞いて貰えそうにないんでね。それに…ま、このまま仲違いしたまんまじゃ二人の今後にも影響が出るだろ?
…良い剣士だよな。思わずちょっと煽るような言い方しちまったが、言ってたぜ。人との勝負は危ないから駄目、だとよ。
冒険者ってのは血の気の多い連中が多い。喧嘩吹っ掛けられると買う奴もな。それが原因で命を落とす連中も居る。力の強さや剣の腕は経験でどうにかなるが、人を気遣ったり、持ってる力を誇示の為に振るわないってのは誰にでも出来る事じゃない。
…エルが相棒だったからああいう冒険者になったんだろう?
●少年と少女の運命の輪
二日目。
雪の山道を登り切り、キャラバン隊は高い峠に野営地を取る。
雲がもう、手を伸ばせば触れそうなほどに迫っている。その空模様は幸いにも落ち着いていて――いや、それは単なる幸運ではない。
野営地の中心で、少女がひとり、静かに呪文を唱えていた。雲を払い、吹雪を遠ざける儀式の一種である。
「――見事なもんだな」
引き続き猟師姿の安喰・八束(銃声は遠く・f18885)の声に、エルは小さく振り返った。見慣れた男の姿を認めると、張りつめた表情から力が抜ける。
「大したことないわ。そっちこそお疲れ様。……成果はどうだった?」
「上々だな。肉食うか肉」
「ん。助かるわ。……あ、凄い、青首鴨じゃない」
暇を見て撃ってきた鴨を渡すと、エルは微笑んでそれを受け取る。
……あの後。その場の話の流れもあって、八束は『ただの猟師』の立場を通していた。猟兵であることは告げず、その分、エル達の仕事の邪魔はしないよう心掛けている。もちろんその上で、狩りの下見という名目でさりげなく彼らの偵察や警戒を手伝っておく。
「……縄張りってもんがあらぁ、なあ」
共に仕事をするにあたって、守るべき領分というものがある。
そうした積み重ねが功を奏したのだろう。エルは八束に対して、幾分か心を許しているようだった。
携帯用の椅子に並んで腰かけ、ふたりは煮えたての鴨汁を啜る。
「しかし、凄ぇなその術も。俺には仕組みがさっぱりわからんが。どこかで習ったのか」
「……昔、孤児院で、こっそりね。なんでかわからないけど、私は本が読めたから」
湯気の向こうで、少女の表情が揺れる。
「あそこに入る前のことは、何にも覚えてないわ――」
孤児院というのは、要は身寄りのない子供を寺に集めるような場所のことらしい。……元より賢い娘だ。小さな子供の頃は、しっかり教育を受けていたのかもしれない。それが突然、記憶を失うほどの不幸に見舞われ、望まぬ場所に押し込められ、――どのような扱いを受けてきたかは、その年に見合わない小さな体躯が物語っている。
八束は、ここで迷う男であった。目の前に横たわる傷痕にもう一歩を踏み込むか、それとも。
「よっ。エル、隣良いか?」
そんな沈黙を破ったのは、青年の軽やかな声。
「ま、駄目って言われても座るけどな?」
トレンチコートの青年――カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、エルの隣に腰を下ろすと、遠慮なく鴨汁を器に取り始める。
「――貴方、確か、『猟兵』の仲間の」
エルは身を縮め、無意識にその背中を八束に寄せてきた。……子ども扱いにならない程度に支えてやりつつ、八束はカイムに無言で続きを促す。この青年であれば、おそらく任せても良いだろう。
「一度話しておかなきゃと思ってな。あの少年についてだ」
「アイン……?」
単刀直入に切り出すと、エルは息を飲んで目を泳がせた。
それは彼女の心にとって、今一番触れられたくない場所。しかし同時に、警戒心を解いていない彼女が唯一口を聞きそうな話題でもある。カイムはあえて、そこに踏み込んだ。
当人たちが避けるからといって、……このまま仲違いをさせたままでは、今回の任務にも、二人の今後にも影響が出るのだから。
「……良い剣士だよな」
「酒場で打ち合おうとしたらしいわね、貴方」
「悪い悪い。……思わずちょっと煽るような言い方しちまったが、言ってたぜ。『人との勝負は危ないから駄目』、だとよ」
あの日、アインはそう言って勝負を拒んだ。
それは言ってしまえばエルの受け売りかもしれない。一人では何も決められない、彼の弱気さかもしれない。――でも、それ以上に。
「冒険者ってのは血の気の多い連中が多い。喧嘩吹っ掛けられると買う奴もな。――それが原因で命を落とす連中も居る」
「そうよ。それが狙いの連中だって寄ってきたわ」
「だろうな」
力の強さや剣の腕なら、経験でどうにかなる。――しかし、このような厳しい土地で生きていくために実際に必要なのは、腕っ節だけではない。
周囲の人を気遣うこと。持っている力を、いたずらに誇示する為に振るわないこと。それは、誰にでも出来る事ではない。
「……エルが相棒だったから、ああいう冒険者になったんだろう?」
カイムの優しい問いかけに、エルは静かに視線を落とした。
小さな座椅子の上で体を丸め、膝を抱えて――、ゆっくりと首を横に振る。
「私はいつも、アインを叱ってるだけ。アインを傷つける連中が許せないだけ。――アインが優しいのは、最初っからよ。私が何かしたからじゃない」
「最初?」
「いちばん最初。……文字が読めるのが、孤児院にバレて。ご飯を食べさせてもらえなくなって。閉じ込められて、もう、死ぬんだなって時」
少女の淀んだ目は、記憶の中の遠い光を見ていた。
「アインが、一緒に逃げようって言ってくれたの」
「――お嬢さんよ」
今度の沈黙を破ったのは、八束だった。
「このキャラバンとは随分長いのか。なかなか気のいい奴らに見えるがね」
「そう、ね……」
行商雇われの用心棒なんて、八束の故郷ではよくある話だった。……これ以上、この子供たちが彷徨って、宛てのない日々を過ごす必要など、あって堪るものか。
「それとも嬢ちゃんは、弟とずっと二人っきりがいいのかい?」
膝を抱えたまま、エルは静かに話を聞いている。
「……猟師が言うことでもねえがよ。お前さん達くらいの年なら、――優しくしてくれる大人相手にゃちっと甘えても、バチは当たんねえと思うぜ」
それは言わば、大人の勘だった。
……絵に描いたような商人面で、笑顔を貼り付けたあのキャラバン長が、彼女たちの話をするときに見せたあの表情。彼らはきっと、このふたりに『弱い』。もう少し素直になって、寄り添いあうことができれば、きっと他にも道はある。
「そう、なんでしょうね」
さみしそうに笑って、エルは立ち上がった。
「きっと、アインだけなら上手くやっていける。キャラバン長はいい人の部類だもの。……もちろん、貴方たちも」
けれどね、と続けて、少女は立ち上がる。――雲払いの儀式の続きがそろそろ必要だ。
「私は駄目。やっぱり、どうしても、大人たちを許せないから」
二人の男に背を向けて、少女は野営地の中心へと進む。
……その小さな背中に、カイムはふと問いかけた。
「許せないのに、その大人たちを守るのか?」
少女は振り返って、当然のような顔をした。
「許せなかったら殺すの? それは違うでしょう」
――呪文は再開され、陰りかけていた雲が晴れていく。
その様子を見送って、男たちは鴨鍋を片付けにかかった。大人たちを許せないと語りながら、結局人を守ろうとする少女の言葉を思い出しながら。
「お前さんの言葉を借りるが、……お嬢ちゃんがああいう冒険者になったも、少年が相棒だったから、なんだろうな」
「だな。――なんとかなんねえもんかな」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバート・グランツ
【SPD】
アドリブ、連携歓迎
ふむ…あの娘、随分としおらしくなったものよな。
少年、戦場では気力が萎えた者ほど死に急ぐものだ。
弟ならばいざという時に姉を守ってやるがいい。
私は騎馬でキャラバンからやや先行しつつ進路の警戒を行うとしよう。
騎馬の機動力に物を言わせての威力偵察といこう。
なに、異状があれば[騎乗]技能を駆使して直ぐさま引き返し異変を報せる腹づもりだ。
ふむ、ともあれ兄弟が気掛かりではある。
自棄にならねば良いがな。
●それはまだ静かな亀裂
三日目。
頂を超えて雲の海を抜ければ、景色が一気にひらけて見えた。
雪に覆われた山岳に映える、一面のツンドラの低い草。――そして、盆地の中心で静かに青空を映すのは、巨大な氷の湖である。
下りの行程は丸一日。……荷を満載したキャラバンの旅において、下り道だから速く進むなどということはない。単純に、海面に近い港側の町より、盆地まわりの辺境のほうが標高が上なのだ。
「――む」
キャラバンを先行していたアルバート・グランツ(遍歴の兵・f20074)は、愛馬『グリンガレット』の手綱を引いて止める。
――獣の気配だ。
彼が買って出た役割は、キャラバンの進路の警戒。騎馬の機動力に物を言わせての威力偵察である。
「野犬の群れ、か」
眼前の敵は、さほど大物ではなかった。……アルバート一人であれば苦戦はしないだろうが、いかんせん数が多い。討ち漏らしが後ろに行っては困る。
ここで対処をするより先に隊列に知らせた方が良いだろうと、愛馬の進路を変えた、その時だ。
――少年の影が、引き返そうとする馬を追い越した。
「……僕が!」
あの気弱そうな少年が、鋭い動きで野犬の前に躍り出た。
先頭の一匹を叩き斬り、残りの群れに向かって血を払う。続いて飛び掛かる数匹を刃で受ける。二回目は、無駄な振りがない。攻撃的な獣たちの勢いを利用して、撫でるようにその顎を落とす。
「騎士さんは、みんなに知らせて」
「――良かろう。群れは任せる」
一瞬踏みとどまった馬を再び走らせて、アルバートは思案する。
少年の静かな気迫に、彼は複雑な感想を抱いた。――なるほど確かに、あの太刀筋は見事だ。この先いくらでも伸びるであろう才覚がある。だが、それ以上に。
今の少年の目は、危うく見えた。
……キャラバンに一報を入れ、少年のもとに戻ったときには、すべての始末はついていた。
「少年、……あれを一人で片付けたのか」
「あ、いや、残り半分くらいは追い払っただけで」
「獣相手ならそれが正しい。……貴殿を見直さねばならんようだな」
「……ありがとう」
アルバートの言葉に少年ははにかんで俯いた。褒められているのに、まるで叱られたような表情だった。馬に並んで歩きながら、剣についた血を拭う。
そんな少年の様子は、アルバートにとってやはり気がかりだった。
思っていたより腕は立つ。しかし、……少々、自棄になっているのではないか。そして、おそらく当人にもその自覚がある。
「姉のことか?」
端的な問いに、少年はそっと顔を上げる。
「……姉さんなのかな。どっちが上なのか、同じ家の子なのか、わかんないけど。僕にとって、エルはエル」
「ふむ。……あの娘、随分としおらしくなったものよな」
「やっぱり、そうだよね」
ここ数日の彼女の様子は、言ってみれば平穏そのものであった。周囲と衝突することもなく、一言目から反発することもなく、淡々と雪を晴らし、キャラバンを導く仕事をこなしている。
「エルは昔から頭が良くて。孤児院でも、口答えしては虐められてた」
「出る杭から叩かれる。よくある話だ」
「……それが無くなったのは、いいこと、なのかな」
そう言って迷う少年の表情が、既に彼の中の答えを物語っている。……あの利発な少女が黙り込んでいる様子は、誰から見ても不穏であった。
「少年、戦場では気力が萎えた者ほど死に急ぐものだ」
「死っ、え?」
その単語は予想外であったのか。まさか、と言いたげなぎこちない笑顔で、少年はアルバートに小さく手を振る。
――仮面に隠されたアルバートの表情は、彼に何も語って返さない。ただ、淡々と、己が戦場で培った経験と事実を告げた。
「けして大袈裟な話ではない。――弟ならば、いざという時に姉を守ってやるがいい」
成功
🔵🔵🔴
メルフローレ・カノン
なんか出発前に一悶着あったようですが……
私はひとまず護衛の仕事に専念します。
周囲の警戒や野営の見張りなど買って出ます
四日目に予兆の七色の光とか襲撃とかありそうと予想しつつ、
警戒には[第六感]も生かします。
さて……
エルさんはショックのを受けているようなので、
お節介は承知の上で[優しさ][コミュ力][礼儀作法]を活用して
話を聞きます。
私は聞き手になり、彼女の心に溜まったものを吐き出してもらえば
少しは楽になるかと思います。
その上で、エルさんもアインさんも励ましてあげたいですね。
お互いに知っている事と、お互いにどう思っているかを
お互い正直に話し合うことが大切だと私は思いました。
※アドリブ連携OK
●シスターは答えない
四日目。
山道を降りきったキャラバンの目の前には、広大な氷の湖が広がっていた。
「ここが、伝説のある湖ですね」
メルフローレ・カノン(世界とみんなを守る……かもしれないお助けシスター・f03056)は、その光景を見て表情を引き締めた。
アックス&ウィザーズにはありふれた勇者一行の伝説。退治されたドラゴンが封じられたという湖は、おそらくこの場所だ。……この水底に、『何か』が居るのだろうか。厚い氷が、その気配を閉ざしている。
そして、十四年前のキャラバンが壊滅したのは、この四日目。――天に七色の光が輝いた日。
「今夜の野営が、正念場になりそうです」
当初に立てたルートの予定通り、キャラバンはいくばくかの近道を進んでいた。普段は通らない、水溜りの多い道を、猟兵たちの注意のうえで突破するのだ。
「ここ、怪しくありません?」
「そう?」
「ちょっと、試してみますね」
メルフローレが手をかざすと、『神の見えざる手』がその先の地面を殴打する。――積もった雪の下で、氷が割れる音がした。
近くに寄って確認すると、膝まで浸かるほどに深いぬかるみがある。このまま上を通っていれば、荷馬車が足をとられたのは間違いないだろう。
それを横からまじまじと覗き込んで、エルは素直に感心した様子を見せる。
「大したものね……。どうしてわかったの?」
「第六感というものです」
「勘、ね……」
苦笑いをしてみせるエルの表情は柔らかいが、最初に『凍てつくニジマス亭』で話したときのような、鋭い光を欠いていた。
……出発前にひと悶着あったことは認識していたが、メルフローレはここまで、護衛の仕事に専念してきた。下手に彼女を刺激せず、その隣で、静かに、小さな信頼を積み重ねるように。
最初のうちはショックを受けていた様子の彼女も、少し落ち着いてきたように見える。
――そろそろ、シスターの本領発揮の頃合いだろうか。
「ねえ、エルさん。……たぶん、今夜は大変です。今のうちにお話ししておきません?」
「ドラゴンとか、洞窟の話?」
「いえ。何の話でも」
あくまで優しく礼儀正しいメルフローレの態度に触れて、エルは遠い空に視線を移す。
「私の話でもいいの?」
「構いませんよ」
――むしろ、その話を聞かなければならないのだ。
「旅、うまく行ってるわよね」
「ええ」
あくまで聞き手に徹して、メルフローレは相槌をうつ。
「私が何も言わなくても、……私が何も言わないから、上手く行ってる」
「そうでしょうか」
「そうよ。私ね、昔っからそう。最初に文句を言い出しては、叩かれたり、ご飯を抜かれたりね」
「辛かったですよね」
「その度に、アインが助けてくれた」
「それは、良かった」
「良かったのかな。……アインはもともと大人しかったから、私を庇ったりしなきゃ、そもそも叱られることなんてなかったの」
言葉の最後は、ひどく震えていた。今まで当たり前にあったものを疑い始めて、少女の心はひどく揺らいでいる。
「アインのことも、キャラバンも、――私が喋らなければ上手く行くのかな」
「――エルさん」
本当は、今すぐにでも彼女の言葉を否定してあげたい。
自信を失って極端な結論に走る彼女に、そうではないですよ、と笑いかけるのは簡単なことだ。――けれど、それは、メルフローレの役目ではない。
シスターの役割は、彼女の心に溜まったものを吐き出してもらうところまで。
「それを、アインさんと話しましょうね」
そこから先を彼女に与えられるのは、たぶん、この世で一人だけだから。
「ちゃんと、話せるかしら」
「話さなきゃ、駄目だと思います。お互いに知っている事と、お互いにどう思っているかを、お互い、正直に」
それが何より大切だと、メルフローレは思う。
並んで歩く少女たちの頭上に、――四日目の夜が迫っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァシリッサ・フロレスク
POW
※アドリブ大歓迎!
差し支えなければ、先のニジマス亭近辺でのやり取りは、麦酒片手に聴いていたテイで……
夜警(ナイトウォッチ)は任せな。夜目が利くんでね。
風に訊き、空と星を読み、気を視る。不審がありゃ、キチンと仕事するさ。
※【暗視】【情報収集】【野生の勘】【第六感】【世界知識】【スナイパー】
おや、少年?こんなイイ月夜に何辛気臭いツラしてんだい?
丁度良い。平和な行軍だ、退屈しのぎに話し相手になってもらうか。
※【言いくるめ】
――兎角、護るモノがあるってのは、シアワセなもんさ。
……ただ。そうと決めたら、絶対に離すんじゃないよ?
――失くしちまったら、一生、ジブンを、セカイを、許せなくなっちまうから。
●話は半分
四日目、夜。
黒い空は、不気味なくらいに晴れ渡って澄んでいた。
「夜警≪ナイトウォッチ≫は任せな。夜目が利くんでね――」
ダンピールの女――ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、不安定な岩場に腰掛けてその夜空を見上げていた。愛用する射突杭の照準は、今は冷たく光る月に合わせられている。
出発前の『凍てつくニジマス亭』では、麦酒片手に聞き込みに徹していた彼女。今はその種族特性を活かし、毎晩の寝ずの番を担当していた。
それは単なる宵っ張りというだけのことではない。風に訊き、空と星を読み、気を視る――彼女の五感の全てが、この夜という時間に最も適応しているからだ。
「しかし、全く眠くはないんだケドさ。こりゃアクビが出そうだね……」
これまでの行程の中で、とりたてて不審な動きはなかった。せいぜいハゲワシの類を数匹撃ち落とした程度である。
――他の猟兵たちの読みが正しければ、ドラゴンが眠るのはこの氷の湖。何かが起こるなら、これからだ。
彼女の研ぎ澄まされた聴覚は、敵より先に、誰かの憂鬱の気配を感じとる。
「――おや、少年?」
洞窟の入り口から姿を現したのは、どうやら件の少年だ。
……ドラゴンの伝説とやらを警戒して、キャラバンの面々は洞窟の中で今夜を過ごす。外で『予兆』を見張るのは、ヴァシリッサ一人の予定のはず。
夜風を浴びに来る人間というものは、往々にして要らぬ熱を抱えているものだ。……銃を大きく振って、シルエットの変化で少年に呼びかける。
「こんなイイ月夜に、何辛気臭いツラしてんだい?」
「あ、えっと」
「アタシが誰でも、別にいいだろ? それどころじゃないって顔してるよ」
沈んだ表情で視線をうつろわせる少年に、ヴァシリッサはにやりと笑いかける。
「――丁度良い。平和な行軍だ、退屈しのぎに話し相手になってもらおうか」
「エルがね、キャラバン長と話をしにきて」
「なんて?」
「難しくて全然わかんなかった」
「そりゃまた豪快だね」
ヴァシリッサが茶化しても、少年は表情を変えることなく膝を抱えたまま。
「なんだかね。自分はズルいってエルが言うんだ。でも、僕は言うこと聞いてただけだから、ズルくなくて、だから大丈夫だって。それでね、エルと僕は話さない方がいいんだって。その方が上手く行くって」
「なるほどね……?」
――ヴァシリッサは単純明快を心がけて装う女だが、その実、思慮すべきところはしっかり押さえる性質でもあった。
そんな彼女からしても、アインの話はいまいち要領を得ない。……これはかなりの重症。人の話を聞いても、半分も理解しないタイプという奴だ。
ただ、ひとつだけ確かに読み取れることがある。
「考えすぎるコの発想だねぇ、そりゃ」
エルとかいう少女は、アインとは対照的な手合いであろう。自分の世界に生じた矛盾を、閉じこもって黙り込むことでしか処理できない人間だ。そういう考え方をする奴は、放っておけばだんだんと削れて、いつかは壊れてしまう。
「僕はバカだから、きっとエルの言うことが正しいんだと思う。全然わかんないけど」
「――わかる必要、あんのかい。その屁理屈をさ」
ヴァシリッサの静かな問いかけの先で、少年は体を丸めて、――そっと、首を横に振った。
「わかんないよ。だって僕がそばで守らなきゃ、エルは死んじゃうよ」
「それだけ解ってりゃ上等じゃないか」
少年から視線を外して、ヴァシリッサは天を見上げた。
七色の天幕が、夜を覆いつくしていた。
「――来た――!」
射突杭『スヴァローグ』を担ぎなおして、ヴァシリッサは軽い身のこなしで立ち上がる。その視線の先で、一面のオーロラを反射するように――氷の湖が怪しく輝いているのが見えた。
「ぼ、僕、知らせて来るね!」
「――少年!」
走り去ろうとするアインに、振り返ることなくヴァシリッサは叫ぶ。
「――兎角、護るモノがあるってのは、シアワセなもんさ!」
それはいつかの幸福だった。
「……ただ。そうと決めたら、絶対に離すんじゃないよ?」
それはいつかの後悔だった。
「――うん!」
少年が理解するのは、最初の半分でいい。
「――失くしちまったら、一生、ジブンを、セカイを、許せなくなっちまうから」
最後の呟きは、誰にも届かずに消えた。
……紅く輝く彼女の瞳が、『敵』の姿を捉えつつあった。
大地が、氷が、鳴動する。
成功
🔵🔵🔴
マイ・ノーナ
※アドリブ、連携歓迎
まあ、隠しててもいずれ伝える手筈だったし、ここまでは想定内だ。
こちらから言うことは何もない。
あちらから話があれば相手はする。
今まで通り進行方向の*情報収集・*地形の利用法を探索、キャラバンとは常に連携が取れるよう、報告・連絡・相談に徹する。
予定通りとはいえ、ここから先は人の力が及ばない自然界。
オブリビオン相手にスムーズに事を運ぶ、その為にやれることはやる。
●ちいさなあかりが、きえないように
洞窟の中は、ラクリムランタンの柔らかな白色光に照らされていた。
広さは十分。キャラバンの人々と荷を受け入れて、更に狭さを感じない高さがある。ほどよく茂った苔の感触は、野営をするにも過不足なかった。
今夜を無事に過ごせれば、ここは平和な寝床だっただろう。
大地が鳴動する音。
不安そうに身を寄せ合う人々。
「――落ち着いて。皆。外で対処しているから」
マイ・ノーナ(偽りの少女・f07400)は、その中心に立っていた。
外套の裾から伸びる地縛鎖、その先端のダガーの切っ先にまで、マイは魔力を巡らせる。
この洞窟を発見したのと同じ要領。地脈を読んで、周囲の地形を把握する。――それをもっと近く、狭く、深く。
洞窟の地盤は、幸いなことに安定していた。天井の岩が落ちてくる気配はないし、足元が崩れることもないだろう。
「ここでじっとしていれば、大丈夫」
マイの言葉に、キャラバン長は静かに頷いた。
……ここ数日、こうやって、進行方向の情報収集や利用法の探索に徹してきたのだ。もちろん、キャラバンと常に連携を取り、報告・連絡・相談も欠かさずに。
その積み重ねが、マイが示してきた態度が、人々の今にも爆発しそうな不安をぎりぎりで抑え込んでいる。
マイは、それ以上の仕事には興味がなかった。
少年と少女の行く末にも、キャラバンとの間の真実にも、馬鹿みたいなすれ違いのいざこざにも、何の興味も抱いていなかった。
猟兵の存在も、オブリビオンの存在も、隠していてもいずれは伝える手筈だったのだ。ここまでは、想定内。
――だから、目の前に転がり込んで、息を切らせている少年にも、自ら言葉をかけることはしない。
「こちらから言うことは何もない」
冷たく、言い放つ。
「そちらから話があれば、相手はする」
洞窟の入り口から全速力で走ってきた少年は、呼吸を整えて顔を上げた。
「――エルは?」
「貴方が来るより前に、外に走っていった。氷の壁を作りに行くらしいわ」
「――キャラバンの皆は、任せられる?」
「私ひとりで十分」
「――ありがとう!」
今聞くべきことが分かっているのなら、マイから少年に言うことは、何もない。
●
雪の中。
――少女はひとり、呪文を唱えていた。
どうしても、大人たちのことは許せなかった。私が話すことを、文字を読むことを、私が私であることを認めなかった大人が許せなかった。手を伸べるふりをして騙してくる大人が許せなかった。心が凍り付いて騙されるのをやめてもなお、私の代わりに優しいあの子を騙そうとする大人たちが、絶対に許せなかった。
きっとこの想いは、彼らを殺したって晴れないのだ。言葉で、文字で、この呪文で、私の価値を認めさせたときだけ、ほんの少し胸がすく。
――そんな自分が、いつしか、あの子を縛る毒になっていたことぐらい、とっくの昔に気付いていた。
氷の湖が割れ砕け、――白く巨大な竜が、その首をもたげるのが見えた。
あれはどうやら、氷の力を使うらしい。……だったら逆手だ。洞窟の外側から、巨大な氷の壁を作ろう。氷は、氷以上には凍らない。きっと竜の凍てつく吐息を防いで、人々を護ってくれる。
こんなこと、きっと、あの猟兵とかいう連中なら朝飯前なのだろうけど。
それでも何か役に立つふりをして見せなきゃ、結局、私の腹の底は楽にならないのだ。これで最後にして、全部終わりにして、この醜い感情から、優しいあの子を解放してあげよう。
私さえいなくなれば。私がもう喋らなければ。きっとキャラバン長が、あの猟師や青年みたいな優しいひとが、アインのことを護ってくれるから――。
呪文が完成する直前。――後ろから、誰かに掴まれた。
●
「――何やってるの!」
少年は叫ぶ。
「えっと、壁を」
「知らない!」
足を動かそうともしない少女を、無理やり洞窟の中に引きずって、少年はなおも叫ぶ。
「エルが何考えてるかなんて、知らない!」
考えてみれば自分より随分小さな少女を、ぎゅっと抱えて。
「ウソついたってズルだって、僕はエルが居たほうがいい」
「でも、」
「知らない!」
理不尽なまでに重ねられる叫びに、少女は返す言葉を失って、――呼吸を止めて、喉にひっかけて、ぼろぼろと泣き始めるのだった。
「――言えるじゃない。少年」
そんな二人の横を、マイは通り過ぎていった。魔力で織られた彼女の外套は、その気になれば彼女の気配を世界から消すことができる。気付かれないように、洞窟の外へ。
……本当にさして興味はないのだけれど、彼らの邪魔はしないでおこう。
氷の壁など必要ない。この先の伝説のドラゴンとやらを、自分たち猟兵がさっさと倒せばいいのだから。
「貴方達は、ゆっくり休みなさいよ」
その声は、届かないけれど。
この子供たちに今夜必要なのは、役割でも、仕事でもないのだから。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『氷皇竜メルゼギオス』
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POW : アブソリュート・ゼロ
【物体を一瞬で分子レベルまで氷結させる冷気】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : アイシクル・ミサイル
レベル×5本の【標的を高速追尾する氷結】属性の【鋭く尖った氷の棘】を放つ。
WIZ : アイス・リバイブ
全身を【無限に再生する氷の鎧】で覆い、自身が敵から受けた【負傷を瞬時に回復し更に負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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七色の光が、天にひらめいた。
それは夢のような光景で、伝説の物語の幕開けにも似て――。
一面の氷が、弾けて砕ける。
雪山の盆地の深い深い湖の底から、ドラゴンの巨躯が身を起こす。
闇夜に溶けるような黒い鱗。その身と一体化した氷のひとつひとつが、オーロラの光を映して輝いた。
……『それ』は長い首をもたげて、今夜の犠牲者たちのほうへとその顔を向ける。
ここまでなら、これは十四年前の悪夢の再現にすぎないだろう。
――『氷皇竜メルゼギオス』。その物語を勇者一行の伝説の再現へと変えるのは、君たち猟兵の役割だ。
紅狼・ノア
ん?とうとう現れたな親玉が♪
さぁ楽しい狩りの始まりた
アイン達は安全な所に居ろよ…ん?もしかして戦う気?死ぬぞ?
まぁアイン達がどうしてもっでなら…しょうがない
アイン達を守りずつ戦う感じになるかな
これくらいの冷気なんどもないね【凍結耐性】
【第六感・野生の勘・オーラ防御】を駆使しあのミサイルをダガーやガルムの闇の矢で打ち消す
こんなスピードで僕に当てられると思ってるの?(笑)
ガルムに注意を向いてる間を狙い素早く【目立たない・忍び足】で背後に回り【怪力・部位破壊】ダガーで邪魔な所を切り裂く【二回攻撃】
アイン達は大丈夫?いちようガルムの闇で守ってるけど…
無理なら逃げろよ
●反撃の狼煙をあげて
「――ん?」
やわらかな苔に包まれた洞窟の奥の寝床で、紅狼・ノア(捨て子だった人狼・f18562)は目を覚ました。
遠い地響き。人々のざわめき。
本来、眠りを妨げる危険信号であるはずのその感覚は――彼女にとって、遊びの合図に相違ない。
「とうとう現れたな親玉が♪」
跳ねるように起き上がって、スキップ混じりの足取りで、しかし、敵の気配へ真っ直ぐに。
「さぁ、――楽しい狩りの始まりだ」
駆け出すノアの後ろを、洞窟の闇が、――その暗がりから召喚された幻獣たちが追いかける。
「――あれ、」
まさに洞窟から抜けようというその時、入り口の辺りに見慣れた少年の姿。
「アイン? もっと安全な所に居ろよ」
「あ、ごめん……」
すっかり顔馴染みとなったこちらを見上げて、アインは困ったように笑う。……昨日までと同じに見えて、どこか違う笑顔だった。
その違和感に、ノアは首を傾げる。
「……ん? もしかして戦う気? ――死ぬぞ?」
オブリビオン――『氷皇竜メルゼギオス』のもたらす冷気は、今や洞窟のすぐそばまで迫っていた。ここから先は、自分たち猟兵の領分。彼らが戦える敵ではない。
仕事だとか、十何年前の仇だとか、そんな下らないことを言い出しやしないだろうか。そうなったら面倒くさいな、と思う気持ちは、ちょっとだけ、世間でいう心配というものに似ていた。
「――ううん」
しかし、少年は静かに首を振る。……その腕に抱いた少女は、気が抜けたようにぐずぐずと泣き続けていた。
「エルの方が、あんまり動けなくて」
「あーそっちが無茶したのか。その子さあ、アインが思ってるよりずっとバカだよ」
「そう、なのかもね」
「ホントしょーがないな。守っててやるから、早く中に逃げろよ」
溜息ひとつで、ノアは洞窟の外に躍り出る。
その背後で――幻獣『ガルム』の尾を引く闇が、彼らを護るように包み込むのだった。
凍てつく風が、頬を撫でる。
けれどもノアは、心底楽しそうに牙を剥いて――逆にマントを脱ぎ捨てた。いつも通りの身軽なクロスホルター・ビキニ・スタイル。
「これくらいの冷気、なんともないね」
鋭く尖った氷の棘が、ノアを狙って矢継ぎ早に飛来する。こちらを追尾してくるということは――先読みはされないということだ。だったら簡単。それより速く真っ直ぐに、敵に向かって駆ければよい。
ノアの足跡を追うように、背後に、順番に、氷の棘が突き立っていく。
「こんなスピードで――」
二刀のダガーを引き抜いて、斜め十字に一閃。
「――僕に当てられると思ってるの?」
最後の一本を打ち砕いたと同時、背後で獣の咆哮が上がる。……洞窟のほうを狙う攻撃は、ガルムの放つ闇の矢が防いでくれている。
ノアの小さな体躯と、圧倒的な存在感を見せる闇の大狼。敵の注意は、当然ガルムの方へと引き付けられる。
その一瞬が勝負。
「こっちが、本命」
闇に紛れて、吹雪へ飛び込む。白くけぶる視界の先に、氷の竜の巨躯がある。
勢いはそのまま背後に回って、――その邪魔な足を、細腕の限界を超えた怪力で一突き。続く動きで、もう片方のダガーがひらめく。
「小さいからって、ナメないでよ……!」
氷皇竜の爪先が、力任せに千切り飛ばされた。
――切り落とす部位は最小限だが、足の先を失えば巨体はバランスを欠く。ノアの的確な一撃が、まずは戦闘の口火を切った。
大成功
🔵🔵🔵
安喰・八束
真の姿、黒狼の獣人の姿をとる。
こっちの方が目が良いし、足も速い。
ああ。俺も猟兵って奴だ。
……大事なものの為に、ついついくだらねえ嘘や誤魔化しをしちまうんだよ、大人ってのはな。
待ってろ。今、特大の"青首鴨”を仕留めてやる。
デカブツ向きの手管を持ってる奴に前線は任せ、後方に退いて目立たない位置から援護射撃。
氷の棘は「狼殺し・九連」で尽く撃ち落とす。寿命ごと全弾くれてやらあ。
氷も結晶だ。割れやすい目がある筈だな。
誰かが竜の鎧に傷を付けたらそこ目掛けて、傷口を抉るように撃ち込もう。
この氷の化物が死ねば、少しはこの辺の寒気も緩まんかね。
……なんてな。まるで御伽噺だ。
メルフローレ・カノン
アインさんは「事情も理屈も関係なく二人一緒でいたい」ことに気づき、
エルさんは「自分を心から心配してくれる人たちがいる」ことに気づいた。
あの二人はこれで大丈夫でしょう。
私が勝手に気を揉んでいただけなのかもしれませんが……
それでは、本来の目的でありオブリビオン撃破に移りましょうか。
全力で行きますよ!
私の得物はメインがメイス、サブが剣で、[属性攻撃)で炎を乗せます。
私自身は[氷結耐性][オーラ防御]で対抗します。
[怪力][力溜め][2回攻撃][傷口をえぐる]で攻撃です。
また、敵の巨体を【神の見えざる手】で押さえつけて
自分や他の人の攻撃に繋げましょう。
「神よ、その奇跡の御手を、暫しお貸しください……」
●この雪がとけたなら
「……ん」
「起きたか」
暗く暖かい洞窟の奥。
少女が毛布にくるまれるのを見届けて、安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は腰を上げた。その手に、愛銃”古女房”を携えて。
見慣れた得物。聴き慣れた声。エルはぼんやりと開いた目で、ここ数日行動を共にした男を見上げようとして、――その目を見開いた。
「あ、なた」
「――ああ。俺も『猟兵』ってやつだ」
その姿は、人間のものではなかった。
彼の身を蝕む病、狼の血が、八束の全身を夜の色に染め上げている。黒い毛並みの、巨躯の獣人。それが彼の真の姿。
……ここが決戦の正念場。
猟師という偽りの肩書はとっくに役目を終えている。この姿のほうが目が良いし、足も速い。たとえこの呪われた身を見られたところで、きっと二度と会うこともあるまいし。
だのに、彼女の無事を一目見ようと思ったのは――考えてみれば大層な矛盾だが。
「……大事なものの為に、ついついくだらねえ嘘や誤魔化しをしちまうんだよ、大人ってのはな」
鋭い爪を立てないように、そっと少女の頭に手を置いた。
彼女は黙って、拒まなかった。
「――待ってろ。今、特大の"青首鴨”を仕留めてやる」
一方。
雪吹きすさぶ氷の湖を前にして、メルフローレ・カノン(世界とみんなを守る……かもしれないお助けシスター・f03056)は己の武器を確かめていた。
利き手にはメインの武器であるメイス。もう片方には、無骨だが取り回しやすいサイズの両刃の剣。
「――あの二人はこれで大丈夫でしょう」
少年は、事情も理屈も関係なく二人一緒でいたいことに気付いた。
少女は、自分を心から心配してくれる人たちがいることに気付いた。
……今は噛み合わない歯車があっても、いずれは、上手く行くだろう。雪が、いつかは融けるように。
自分が勝手に気を揉んでいただけなのかもしれない、とメルフローレは思う。ほんの少しのきっかけがあれば、ここの人たちはみんな優しかったのだから。
あとは、この物語を明日の夜明けへ繋げるだけだ。
「――全力で行きますよ!」
少女の手には似合わない武器が、鮮やかな炎で包まれた。
絶対零度の冷気にも耐える、神の奇跡の炎。その揺らめきがメルフローレの全身を包み、聖なる護りの手が彼女を覆う。
数秒の集中。
少女のしなやかな肢体に力が漲り、――二振りの鉄塊の重量を乗せて、『氷皇竜メルゼギオス』へと跳躍する。
メルフローレはまず、竜の爪先を力任せにメイスで殴打した。
重い一撃ではあるが、これは本命ではない。――殴打の反動で、少女の身体が跳ねあがる。
そのまま空中で縦に一回転。竜の鱗に、セブンリーダブーツのかかとを噛ませてもう一回転。
「ッやあっ!」
更に高く跳躍。狙うは、肩だ。
彼女自身の怪力に加え、回転の勢いが乗ったメイスの一撃。――聖なる炎が、氷の竜の片腕を灼く。
『――――!!!』
地を揺らす咆哮。
それは竜の痛みであり、怒りであった。取るに足らない小さな命が己に盾突くなど、この巨獣は許さない。
――冷気よりも冷たい殺気が、メルフローレの首筋へ向けられる。
「さて、出番かね」
少し離れた後方、敵の注意から外れた位置で、八束は”古女房”を夜空へ向けた。
……その銃口の先。凍り付いた大気が鋭い氷の棘となり、空中の少女を狙うのが視える。研ぎ澄まされた獣の視界に、停まって視えるぐらいの速度で、だ。
八束自身が敵に近付けば、一瞬で凍り付いてしまうだろう。そもそも、巨体相手の手管も乏しい。前線は、あの少女に任せるしかない。
大の男の代わりに戦う彼女を、全力で助けずして何が大人か。
――『狼殺し・九連』。
狼の瞳が夜に輝き、標的のひとつひとつを捉える。銃弾は、猟銃の限界を超えた九発。
獣の衝動が、少女もろとも撃ち抜けと騒ぐ。呼吸を止めて、命を削って、昂る臓腑を押さえつけて――。
「全弾、くれてやらあ」
その全てが、氷の棘を撃ち抜いた。
「――神よ」
竜の肩の上で、メルフローレは祈った。
助けてくれた仲間への感謝なら、もう少しあとで伝えればいい。今、全力で呼ぶべきなのは、己の信じる神の名だ。
「その奇跡の御手を、暫しお貸しください……!」
突き立てられた直剣が、竜の鎧にひびを入れた。
……氷も結晶、割れやすい目と言うものがある。肩から生じた亀裂は氷の身体を進み、広がっていく。
当然、竜は咆哮とともに身をよじり、メルフローレを振り落とそうとした。……しかし、それは叶わない。『神の見えざる手』の力が、彼女の祈りが、竜の動きを封じていた。
亀裂が、腹にまで達する。
その傷口をえぐるように、狙いすました銃弾がその臓腑を貫いた。
「この氷の化物が死ねば、少しはこの辺の寒気も緩まんかね」
猟銃を下ろして、八束は一息を吐く。
「……なんてな。まるで、御伽噺だ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カイム・クローバー
(二人の様子を見やり)何だよ、アインの奴、やるじゃねぇか。少々強引なぐらいが丁度いいんだよ。石頭の相棒の手、今は離すなよ?(ウインク)
さて、俺達の仕事を果たすか
銃を撃ちながら、距離を調節。あの氷の棘は銃弾で撃ち落としながら、【見切り】と【残像】、【第六感】で躱す。
近距離に持ち込んで、炎から魔剣を現出するぜ。氷の棘が鬱陶しいから、黒銀の炎の【属性攻撃】を無造作に振るって【衝撃波】の【範囲攻撃】。棘を焼き尽くしてそのままUC。【串刺し】からの【二回攻撃】で攻撃回数を増やして、最後は斬撃からの炎で焼き尽くす。
寝起きのトコ悪いが、勇者伝説の再現ってのに協力して貰うぜ?最も今度は封印じゃ済まさねぇけどよ
●昼行燈も夜には
「何だよ、アインの奴、やるじゃねぇか」
少女の身体を抱える少年を見やって、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は小さく笑った。先程の少年の啖呵は、洞窟中に響いて彼の耳にも届いていた。
最初に酒場で見たとき、あの気弱そうな姿には、どうしたものやらと思ったものだが。ああ見えて、なかなかに情熱的じゃあないか。
……肝心なときに締めることが、一番大切だ。カイム自身の経験則として。普段はのらりくらりとしているくらいでちょうどいい。これも経験則として。
他の誰かの前で、どんな姿であろうとも。
女の子の前では、少々強引なぐらいが丁度いい。
「石頭の相棒の手、今は離すなよ?」
激励をこめたウインクを少年に投げて、カイムは進む。
――さて、自分達の仕事を果たそうか。
洞窟を抜ければ、すぐさま、凍てつく冷気と戦場の熱がカイムを出迎えた。
氷皇竜メルゼギオス。
……『凍てつくニジマス亭』で聞いたのは、確かそんな名前だったか。
既にいくらか手負いの竜は、苛立ちを隠せずに身を震わせている。もちろん、獰猛さは増しているのだろうが――攻撃も誘導しやすいだろう。ならば、好都合だ。
カイムが構えるのは『オルトロス』。黒い銃身に金色のラインが印象的な二丁銃。
まずは竜へと数発撃ち込んで、距離を調節。
――こうして敵の注意を引いてやれば、いかにも読みやすい殺気が押し寄せてきた。
氷の棘が夜空に浮かび、叩きつけるようにこちらへ放たれる。
「ったく、遊び心がないな」
攻撃のほとんどが、一直線にカイムを狙っていた。つまり、タイミングさえ見切って駆け出せば――氷の棘は全て、カイムの残像に突き刺さることとなる。
距離を詰めながら、第六感を研ぎ済ませる。第二波はもう少し芸のある撃ち方で来るだろう。
来た。
真っ直ぐに迫る数発は、先程と同じく駆け抜けて回避。バラけて面を制圧する攻撃は――
「そう来ないとな!」
速射力を活かした銃撃で、全弾を撃ち落とす。
途切れることのない動きで、カイムは『オルトロス』をホルスターに戻す。ここで遠距離戦は終わり。……間合いは既に、近距離の域に達していた。
右腕を軽く掲げれば、黒銀の炎が尾を引いた。
次なる魔具が、その手の元へと顕現する。――『神殺し』の魔剣。勇者伝説のドラゴンを狩るには、お誂え向きの異名。
この期に及んで、氷の棘がカイムを狙う。
「鬱陶しいな……!」
無造作な最初のひと振りで、――黒銀の炎が一面を薙ぎ払った。
炎が触れたところから、氷の結晶が灼き尽くされる。……それだけでは終わらない。目に見える炎以上の衝撃波が、氷皇竜の喉元を打ち据える。
「さぁ、」
咆哮すら上げられずのたうつ竜に、カイムは更に肉薄して。
「――踊ろうか!」
振り上げられた魔剣は、竜の胸を一撃で串刺しにする。そのまま振り抜いて、胸から喉までを縦に切り開く。
続けざまの斬撃は横薙ぎだ。その胴を覆う氷の鎧を砕く。
文字通りの、縦横無尽。
――最後の斬り払いと共に、黒銀の炎がその巨体を焼き尽くす。
「寝起きのトコ悪いが、――勇者伝説の再現ってのに協力して貰うぜ?」
酒場で語ったドラゴン退治を、嘘から出た真とやらにするために。
「最も今度は、封印じゃ済まさねぇけどよ――!」
次は氷の湖ではなく、骸の海に沈んでもらおうか。
大成功
🔵🔵🔵
マイ・ノーナ
アドリブ歓迎・できれば連携希望
長引くと面倒だ。早々に動く(先制攻撃)
こちらの攻撃の効果を最大まで上げる為に動きを止める。
改造ダガーを竜に向かって射出、締め上げるのに適した太さと長さにした地縛鎖を*念動力と*怪力で竜に巻き付け、地面に縛り付ける(麻痺攻撃)
回復魔法を使うようだが、無限じゃない。
魔力の大元から根こそぎ奪う。
UC発動。
奪い返されるなんて御免だからな。拘束はそのまま続け、鎖を伸ばして距離をとる。
竜の攻撃は*凍結耐性・*逃げ足・*見切り・*フェイント・氷雪系と風迅系の*属性攻撃で対応する。
他のひとも的が止まっていればやり易いでしょう?
まあ、元々当たらない大きさでもないけど。
ヴァシリッサ・フロレスク
※何でも歓迎!
――少年、確りアンタの仕事をしなよ?
こっちは、アタシらの仕事だ。
――絶対零度、ねぇ?オモシロいじゃないか。
焔も凍っちまうのかい?
攻撃範囲が広いのが厄介だけど、ヤツ本体から放射されてる以上、遮蔽さえ出来れば多少は凌げるだろう。なーに、【痛みにゃ慣れてる】さ。
【戦闘知識】を活かし、「刑戮者の外套」や【武器受け】、【地形を利用】して身を【かばい】ながら、接近を試みる。
――あのハト胸のド真ん中が急所か?
攻撃の隙を【見切り】、戦乙女式吶喊鎗で【捨て身の一撃】。あわよくば急所を、無理そうなら、ヤツの一番驚異になりそうな箇所の【串刺し】を狙う。
――あぁ寒ぃ。
そろそろ終いにしようじゃないか?
●極光よりもまばゆい夜明け
「――少年、確りアンタの仕事をしなよ?」
ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、見送った少年へ振り返ることもしなかった。言葉は、届かなくてもいい。彼らはきっとなるようになると、確信がある。
「こっちは、アタシらの仕事だ」
「ええ」
そんなヴァシリッサの傍らで、もう一人の猟兵――マイ・ノーナ(偽りの少女・f07400)もまた、少年たちの待つ洞窟に背を向けた。言い残したことなんて、何にもない。
――今向かうべきは、目前の敵。
竜は、手負いの肉体を震わせていた。
一度は砕かれた氷の鎧が、再びその胸を、肩を覆って――その結晶の下で、受けた傷が瞬時に癒えていく。
「回復魔法か。……長引くと面倒だ」
先に動いたのはマイだった。敵が回復に集中している、その一瞬を逃さない。
両腕を前方に掲げたと同時、外套の袖口から改造ダガーが射出される。細い手首と刃とを繋ぐ地縛鎖は、竜の巨体を束縛するために用意した特別仕様だ。太く、長く、無骨。
念動力で軌道を制御、鎖は一周、二周と氷皇竜に巻き付いて――地面の氷を深く穿つ。
「的が止まっていればやり易いでしょう?」
相手の動きを止めて、続く攻撃の効果を最大にまで上げるために。
「――まあ、元々当たらない大きさでもないけど」
「だねェ。動かなけりゃただのデカブツだ」
獰猛な笑みを浮かべて、ヴァシリッサがそれに続く。
マイの展開した鎖の間をかいくぐり、超高速で氷皇竜との距離を詰める。――動かない敵に接近するほど、簡単なものはない。問題となるのは、この冷気。
「――絶対零度《アブソリュート・ゼロ》、ねぇ?」
彼女の武器は射突杭『スヴァローグ』。身の丈を超える得物を、突進の間は盾として構える。冷気が竜の身体から放射されているなら、前面をかばうことで多少は軽減できるはず。
……あくまで、多少は、だが。
はためく『刑戮者の外套』の下、その白い肌にひびが入るような凍傷が生じていく。……しかしヴァシリッサは、その痛みを意にも介さない。
「面白いじゃないか。――焔も凍っちまうのかい?」
射突杭の内部機構、そこに注がれたダンピールの呪われた血液が、徐々にパイルを赤熱させていく。
照準の先で、竜は再び氷の鎧を再生させていた。もはや動けないと悟り、防御と回復に徹しようという心算だろう。――負け犬の発想だ、と、ヴァシリッサは無言で嗤う。
「――厄介だが、敵の魔力も無限じゃない」
一方のマイは、手首から繰るように鎖を伸ばし、徐々に後退していた。拘束は続けたまま、氷皇竜から距離をとる。
……鎖で繋がれた部分から、生命力が奪われていくのを感じる。単なる冷気では説明できない、芯から力を抜かれる感覚。このままでは、少々まずい。
呪われた力を行使するたびに、削り取られるこの命。
自己犠牲など、柄ではない。奪われたままになど、しておけるものか。
――生命強奪《ライフフォーススティール》。
敵がそうしようとする以上に、強欲に、地縛鎖を通じて魔力の大元を根こそぎ奪い取る。これ以上の回復も、自身への侮辱も、決して許さない。
竜の氷の鎧が、爆ぜた。
「……決めなさい、そこのニヤケ面」
「承知だよ」
露になった竜の身体、その直下で、ヴァシリッサは『スヴァローグ』を高く掲げた。
……あのハト胸のド真ん中が、十中八九急所だろう。
冷気が、氷の棘が、最期の抵抗のようにヴァシリッサに迫った。彼女は、それも顧みない。
「――あぁ寒ぃ。そろそろ終いにしようじゃないか……?」
ただ、捨て身の一撃を垂直に。
戦乙女式吶喊鎗《ヴァルキュリヤ・キッス》。
氷の竜が串刺しに貫かれ――注ぎ込まれた吸血鬼の血が炎と転じて、その身体を内側から灼き尽くす。
降り注ぐ氷の棘を自身の氷雪魔法で払って、――マイは、その向こうの光景を視た。
断末魔を挙げ、骸の海へ還っていく巨大な氷の竜。
そして、その背後に――。
「……もう、夜明けか」
炎のような朝陽が、氷の融けた湖の水面を映し出す、物語めいた光景を。
●
――キャラバンは進む。
湖は、再び凍ることはなかった。
もちろん、この辺りの気候は元々寒い。すべての氷雪が消えていくわけではない。けれど、水辺には土が広がり、少しずつ、背の低い草が顔を出している。
まるで、長い長い冬が明けたかのように。
……穏やかな湖畔の風景を、キャラバンは進む。
小さな荷馬車の上に、寄り添って眠る子供たちを乗せて。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴