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寛永三方ヶ原の戦い~まさか? 名将復活の危機!

#サムライエンパイア #【Q】 #寛永三方ヶ原の戦い #武田二十四将


●風林火山の旗
 それはあるいは、織田軍を示す織田瓜や永楽通宝の旗指物よりも、彼らの見たくなかった、遭いたくなかった意匠のそれである。
 『疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山』
 そう読めた。
 そうでない旗を見ても、そこには四つに割られた菱の紋、いわゆる武田菱が描かれている。
「勝てるわけがない……」
 誰かが、ぼそりと言う。
「神君家康公でさえ相手にならなかった敵だぞ。何で我らが勝てる道理があるものか」
「あの織田の魔王でさえ、せがれを破ることこそできたが、あれを相手にしては天命が尽きるのを待つしかなかった……」
「ええい、黙れ黙れ!」
 侍大将の一人が、弱音を垂れ流す味方に対して大喝した。
「うぬらはそれでも武士か!? 今は徳川の世ぞ! カビ臭い戦国の亡霊ども風情、恐るるに足らんわ!」
「――……」
 弱音は止まる。だが黙するばかりで、応の声は上がらない。
 無理はない。恐れぬ者などいるものか。
 風林火山の旗を。戦国最強と謳われた騎馬隊を。
 甲斐の虎・武田信玄。今なお天下に知らぬ者とてない、その威名を。

●事情によっては人気者の復活が歓迎されないこともある
「えー……」
 子供の背丈に大人の余裕がトレードマークの田丸・多摩(謎の裏方お姐さん・f09034)だが、この日ばかりは表情に焦燥がありありと見えた。
「サムライエンパイアにて少々、いえ、かなりまずい事態が進行しています」
 その事態が進行している現場は、遠江は三方ヶ原。そこに、かつてない規模のオブリビオンの軍勢が発生しているという。
 それは、これまで何度か確認されている織田信長の軍勢とは、趣が異なる。その軍勢を率いているのは織田ではなく、武田。甲州を、いや戦国時代を代表する雄、武田信玄麾下の軍勢だった。
「ただし、武田信玄本人はまだ復活していません。復活したのは、信玄配下のうち特に優れた二十名余りの将たちです。手勢と共に復活した彼らは三方ヶ原の地に集結し、信玄をオブリビオンとして復活させるための儀式か何かをするつもり、と考えられます」
 この目論見を阻止するため、復活した敵将の一人を討伐することが、今回の目的となる。
 現在、家光の号令によって全国各地から徳川の軍勢が集結し、武田軍を包囲しつつある。だが、戦国最強とも謳われた武田軍との合戦とあって、誰もが恐れおののいている状態だという。このままでは戦いにならないので、まずは猟兵たちによって彼らの士気を上げることが肝要となる。
 充分に士気を上げた後、合戦を始める。信玄の復活を阻止するには時間との戦いも重要であるため、雑兵は徳川軍に任せ、猟兵たちは復活した武田の将たちの元へ急行することになる。
 だが、どれほど戦いを避けつつ急行しようとも、敵陣中にいる将と戦う前に、彼らを守る直属護衛部隊との戦闘だけはどうしても避けられない。
 多摩の示すルートを進んだ場合に当たる部隊は、少女のような見た目をした剣客の集団だという。外見こそ可憐だが、その剣技の冴えは悪魔的と称してよい強敵で、見た目で油断なぞすれば瞬殺は免れない。
「不幸中の幸いと言いますか、将は儀式に注力している都合上、護衛部隊との戦闘には出てきません。ただ、護衛部隊は精鋭揃いですので、楽な戦いにはならないでしょう」
 そして護衛部隊を撃破した後、武田の将との戦闘に入る。
 二十余名のうち誰と戦うことになるのかは、出たとこ勝負なので今は何とも言えない。ただ、誰に当たるにしろ並外れた武勇を誇る猛将ばかりに違いなく、激戦、苦戦は覚悟しなければならない。
「武田信玄がどういう存在か、UDCアースの歴史しか知らないという方もいらっしゃるでしょうが、まあ、サムライエンパイアの信玄の事績もそう大差ありません」
 史上においては織田と対立していた信玄だが、オブリビオンとして復活してしまえばオブリビオン同士、信長と協力態勢を取るだろう。そんなことが実現してしまえば、徳川が三代かけて築いた太平の世の崩壊は、秒読みとなる。
 そこまで深刻な顔で説明をしていた多摩は、一度くるりと背を向けると、パン! と己の両頬を叩いた。
 そして猟兵たちに向き直ったときには、平生通りののほほんとした微笑を取り戻していた。
「ま、散々脅すようなことを言ってきましたけど、今まで幾度も危機的状況を打ち破ってきた皆様にしてみれば、そう気負うようなことでもありません。いつも通り、ビシッと始末してきてくださいましね」


大神登良
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良(おおかみとら)です。

 信長軍の「武田信玄を復活させて自軍の将にする」という目論見を阻止する依頼の一つです。

 第一章は、萎縮している徳川軍を鼓舞します。サムライエンパイアにおける猟兵たちの活躍を聞いている侍もいるでしょうし、そうでなくても天下自在符を持つ猟兵たちの話す言葉にはきちんと耳を傾けてくれることでしょう。
 第二章は、猟兵たちだけで敵陣深くに切り込んだ後、敵将を護衛するオブリビオンたちとの集団戦になります。雑兵は徳川軍が相手をするので、猟兵は護衛部隊との戦いに専心できます。
 第三章は、敵将とのボス戦になります。二十名余りを向こうに回していっぺんに戦うわけでなく、一人との戦いになります。しかし、一人でも強敵なので、注意と覚悟と確かな戦術は必須です。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『三方ヶ原の徳川軍』

POW   :    陣頭に立って力を見せつける事で、徳川軍の戦意を高揚させます

SPD   :    兵士一人一人への細やかな配慮や事前準備によって、士気を上昇させます

WIZ   :    演説や説得によって、徳川軍のやる気を引き出します

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フローリア・ヤマト
「なんでかわかんないけど、絶対に復活を食い止めた方がいい気がするわね…」
フローリアは周りを見渡す。
「緊張と焦燥…恐れ。
まぁ噂に聞く武田軍だものね。
そりゃ縮こまるのも仕方ないわ」
そう言いながらフローリアは指輪から小さな黒い人形を無数に生み出していく。
人形達はトコトコと兵士達の元へ歩み寄り、靴の中、甲冑の中へと入り込み、皆をこそばし始める。
戦場が急に笑いの渦に飲み込まれる。
「なんだ、みんな笑えるじゃない。大丈夫よ、化物級の奴らは私達猟兵達に任せなさい。群勢は任せたわよ」
人形を伝って兵士達へと言葉を届けるフローリア。
「あとは戦うだけね」
戦支度をし始めたフローリアの背中はもう殺気を背負っていた。


スコッティ・ドットヤード
【ネピアf20332と共闘 SPD アドリブ歓迎】
…戦準備か、よしわかった!俺に任せろ!
(持ち前のコミュ力で兵から情報収集 何を聞いてるかと言えば)
…腹が減っては戦は出来ねえって言うしな!陣中食は俺に任せとけ!
(好きな飯。食事で兵士の士気をあげようと)
(ユーベルコード【親愛なる料理】発動。本気の料理を見せてやる)
(兵糧丸なぞもはや過去。味が大切。信●のシェフ張りに保存食も含めて腕前を披露)
(全兵士に行き渡るほどの料理を、残像を生むほどの速度で作りまくる)
味噌カツに手羽先!ここいらじゃ名物なんだろ?そんで〆のデザートはこれだ!
(最後に信玄餅 その意図は)…信玄なんて喰っちまえ!勝とうぜこの戦!


ネピア・ドットヤード
【スコッティf20279と共闘 POW アドリブ歓迎】
ふっふーん。美味しいご飯はお兄ちゃんに任せた!
僕は陣地を作るのを手伝うね!武田って、馬防柵に弱いんでしょ?
(前線の工作、柵作りなどの手伝いをする)
(少女の身にそぐわぬ怪力。周囲から感嘆の声が上がった)
(丸太を10人分一気に運搬。拳一つで地面に突き刺す。人間重機かな?)
えへへー、いっぱい柵を作っておけば攻められても平気だね!
闘いが始まったら僕が一番槍を貰うから!みんなはその後で大丈夫だからね!
(それは少女なりの優しさなのだろう。だが三河武士には逆効果)
(少女に心配などされてたまるか、俺たちがむしろ守るんだ、と兵たちの戦意は昂揚するのであった)


待宵・アルメ
合戦の準備か。
雑兵はおまかせすることになるみたいだから、そのぶん先に元気つけてもらわないと!

腹が減ってはなんとやらって言うし、僕からは食事を差し入れる事にするよ。
ちゃんと栄養のあるもの食べれば身体も頭もよく動くようになるし、気持ち的にもお腹いっぱいってのは重要だ。
お腹減ってるとやる気出なくなっちゃうからね。

具体的にはおにぎりでも配ろうか。
遠くから来てくれた人達も栄養重視の保存食だけじゃ味気ないだろうし、やっぱり炊きたてのご飯を準備してあげられるといいな。

必要な物は持ち込めるだろうし、ガオナにも手伝わせてご飯炊いていっぱい握ろう。

懐かしいなぁ、路地裏時代もこんな風にご飯作って食べてたっけ。



●腹が減っては
 周囲を見回すフローリア・ヤマト(呪いと共に戦う少女・f09692)は、徳川の軍勢の中に満ちている嫌な空気をひしひしと感じ取っていた。緊張、焦燥、そして恐怖……先に聞かされた通り、兵たちは萎縮しきっている。
「まあ、相手は音に聞こえた武田軍だものね。仕方ないことかもしれないけど」
「でも、その武田の兵たちを引き受けてもらうことになるんだよね。元気がないまんまじゃ、どうにもならないよ」
 待宵・アルメ(路地裏のミュルクリエイター・f04388)が渋面を作りながら、言う。
 グリモアベースで聞かされた通りの状況ではあるのだが、徳川軍の士気の低迷ぶりは深刻だった。なるほど、放置していれば武田との合戦どころか、そこらの子供たちと殴り合いをしても負けそうな雰囲気さえある。
 どうにか士気を上げる思案をしなければならないわけだが……やはり、ぱっと思い付くものといえば。
「腹が減っては――」
「――戦は出来ねぇ、って言うよな」
 意図せず、思考とセリフがシンクロする。
 アルメが驚いて横を見ると、同様に驚いた顔をしている赤毛の少女――と見せかけて少年、スコッティ・ドットヤード(どこからどう見ても女の子な少年・f20279)が、アルメを見返していた。
 スコッティが驚いた顔をしていたのは、しかし、ほんの二、三秒のこと。彼はすぐに、ニィっと快活そうに笑った。
「気が合うな。俺は料理の腕にはちょいと自信があるんだが、あんたは?」
「ええと……そういうスキルは特に何も。せいぜい、おにぎりが作れるくらいかな? ただ……」
 アルメは【オルタナティブ・ダブル】を発動させ、隣にもう一人の自分――顔は瓜割らずしてそっくりながら、紫水晶の目を持つアルメとは異なり真紅の目をしている、ガオナを出現させる。
 そのガオナが、勝ち気そうに微笑しながら言う。
「こういうわけだから、まあ、普通の奴の二倍の速さで作れるってところだ」
「なるほど、上等じゃん」
 ぽん、とガオナの胸を軽く叩きながら、スコッティが言う。
「ふむ。それじゃあ私は、給仕をしようかしら」
 フローリアはそう言いながら、指輪に力を送る。途端、【人形黒子(カースアウト)】による小さな黒い人影がいくつも指輪からあふれ出てくる。フェアリーほどの大きさのそれらは、フローリアの操作に従ってキビキビと整列していった。
「こう見えて、おにぎりや料理の皿を運べる程度には力持ちよ」
「ますます上等!」
 今度は気楽に胸を叩くわけにいかないので、代わりにスコッティはびしりと親指を立てて、フローリアに見せた。

●堅陣
 拳が地面に突き刺さる。
 何かの比喩でなく、文字通りの意味で。人の領域を超越した拳の硬さと腕力があって、初めて実現する光景である。
 そうやって開いた穴に、丸太を刺しこむ。大の男が二人か三人がかりでやるような作業だが、一人で軽々と。
 そんなネピア・ドットヤード(サイキックゴリラパワー妹系幼女・f20332)の働きぶりを、足軽たちは目を丸くしながら見ていた。
 天下自在符を持つ存在、猟兵。各地で妖怪を討伐したり織田の部隊を潰走させたりしているという話は聞くものの、目にするのは初めてという者も多い。話半分以下に聞いていた者も、少なくなかった。
 だが、それらの噂は本当だった。ネピアの怪力なる様を見せつけられては、そう信じないわけにいかなかった。
「武田って馬防柵に弱いんでしょ? この調子でいっぱい作っておけば、攻められても平気だよね!」
「あ、ああ。まあ、そう、かな」
 戦国大名としての武田氏滅亡の契機となった、長篠の戦いと呼ばれる合戦がある。
 騎馬隊による抜群の機動力を誇った武田軍に対して、織田・徳川連合軍は馬防柵による足止めと、鉄砲、長槍のリーチをもって対抗した。結果、武田軍は散々に討ち破られたのである。
 つまりは、武田騎馬隊の攻略法とは何ぞやという問いに対しては、歴史が模範解答を示しているのである。
「ただ、それが今どこまで通用するのやら、わかったもんじゃないけどねぇ。復活して化け物になってるんだろ、あいつら」
「大丈夫! 合戦が始まったら、僕たちが一番槍を貰うから! みんなはその後を守ってくれればいいよ!」
「あははは……そりゃ、頼もしいなぁ。お願いするよ」
「……?」
 ネピアは首を傾げた。わずかでも笑えている以上は、多少なりと心に余裕ができた証左だろう。しかし、思ったほどの士気の上がりようではない。
 彼らの心情は複雑であった。人間離れした怪力を持つとはいえ、見た目は十代前半の少女に過ぎない者に明らかに気遣われ、武門の端くれとして情けないという思いもある。
 しかしその一方で、人知を越えた者同士の合戦で、自分たちがいる意味は何なのだろう、という気持ちもある。後詰めで良いとされるくらいなら何のための動員なのやら、これで死んだら犬死にではないか……そんな、やさぐれた気分もある。
 常ならば、ネピアの言い様にかえって発憤もしたかもしれない。だが、低すぎる士気はそれを許さなかった。
 むむむ、と難しい顔をするネピアの元に。
 ふと、鼻をくすぐる香りが届いた。鼻を通し、さらに腹をくすぐってくるような、美味そうな香り。同時に、ネピアにとってはかぎ慣れた匂いでもある。
「お兄ちゃんの料理の匂い!」
「おう、正解だぜ」
「お兄ちゃん!」
 いつの間にかすぐ側に歩み寄っていたスコッティに、ネピアは抱きついた。
「みんな、飯ができたぜ! ちょっと一息入れようや!」
「お、おう」
 うなずく足軽たちの元に、ざかざかと足音を立ててフローリアの黒人形たちが皿を運んでくる。
 足軽たちはその人形たちにまず驚き、そしてそれ以上に、皿に盛られた料理の数々を見て仰天した。
「な、何だ、こりゃあ!?」
「こんなところに、こんな豪勢な……!?」
「どうなってるんだ!?」
 方々で声が上がる。
 それも道理。手羽先、味噌カツ、根菜がたっぷり入った味噌汁、炊きたてご飯のおにぎり等々、およそ野営地で望める水準を遙かに超えたものばかりである。スコッティもアルメも「単なる保存食だの兵糧丸だの、そんな味気ない食事で士気が上がるものか」という見解で一致したため、持ち込めるだけのものは持ち込んで、温かく丁寧に調理された料理をこしらえていたのだった。
「まずは食べよう! 頭も体も働かせるにはまず食べなきゃいけないし、心の上でもお腹がいっぱいっていうのは大事だ!」
 アルメの呼びかけによって、足軽たちは我に返ったようになって、食事を摂り始めた。途端、あちこちから「すげえ!」「うまい!」といった賞賛の声が上がる。
「好評みたいだね!」
「へっへっへ、こっそりアンケート取った甲斐があったな。だが、まだシメのデザートが残ってるぜ!」
 スコッティが言うと、再び黒人形が陣中を駆けずり回った。
 それらが持つ小皿には、きな粉と黒蜜がまぶされた餅が載っていた。
「え。これって、もしかして……」
「ああ、信玄餅だ」
 足軽たちが一斉に、ぎょっとする。
 およそ彼らにとって、今、一番聞きたくないワードの入った代物である。豪勢な糧食に舌鼓を打っていた明るさはどこへやら、顔を青くしたり、息を呑むような悲鳴を上げる者もいる。中には、皿を取り落として黒人形にキャッチされるという光景も見える。
 その様を見たスコッティは、むすっとした。
「わかんねぇかな? つまり、こういうことだよ!」
 スコッティは皿の一つを引っつかむと、ざらっと一気に信玄餅を口の中に流し込んだ。
 そして。
「もぐーっ! もごもごもごご、もぐもぐっぐー!」
「――……?」
 表情がすさまじいまでのキメ顔である以上、何かしらキメ台詞を言っているのだろうというのはわかる。だが、まるで聞き取れない。
 それでも。
「……ああ、『信玄なんてこんな風に食ってしまえ』とか、そんなようなことを言いたいのかな」
 半ば山勘で、アルメが言う。
 その途端に、しんとしていた陣の中のあちこちから、「ぷっ」「くくっ」と吹き出す音が漏れ聞こえてくる。
 そしてしばらくの後、それは陣中を覆わんばかりの爆笑にまで膨れ上がった。
「そうだそうだ!」
「食ってしまえ!」
 あちらこちらから、そんな声まで上がる。猟兵たち到着以前の沈痛な空気は、もはや消失したといっても良い。
「笑えるようになったわね。これで、まずは一安心……かしら」
 フローリアも、自分自身笑顔になりながら言う。
 これにて、少なくとも彼らの周辺の徳川軍は、戦えるだけの余裕を取り戻したようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

幻武・極
うーん、ここにいる兵はなんて言われてここに召集されたのかな?
まさか、何も知らずに連れてこられたわけじゃないよね。
それに間違いなくみんな勘違いをしているよね。
それだけ旗印の効果は絶大というわけかな。

武田信玄はまだ復活していないことを中心に説得してみるよ。
眠れる獅子、じゃなくて虎かな。にビビっていて本当に甲斐の虎が目を覚ましたらどうするのさ。
まだ、虎は目を覚ましていない。
だけど、起こそうとしている人たちがいる。
だったら、その人達を止めに行かないとね。
取り返しがつかなくなるよ。


秋穂・紗織
戦の前に士気が挫けてしまっては、流石の武士たるものも仕方がありませんね
けれど、今は心折れていたとしても、武勇を抱くが士たる魂というもの
そこに再度、熱と刃の鋭さを取り戻させてみせましょう

例え、天下に武勇轟かせた者達とはいえ、それは過去の残影
如何なる災禍、災いの武威を誇れど泡沫に過ぎぬのだと


行うのは説得、演説というよりは演舞
陣地において、居合を用いて流れるように敵と見立てた的を切り捨てながら
流麗にと太刀を閃かせ、今の私達だから震える武があるのだと
決して微笑みは崩さず
昔の敵に屈するも恐れる必要もない

過去とは振り切るもので
囚われるものではないのだと

「そして貴方達の携える刀は、断ち斬るこそ本懐の筈です」


龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎

【POW】

もしかしたら、まだ帰還してない偵察兵が敵に追われているかもしれない。
兵から借りた馬に【騎乗】してすぐさま駆けつけて、追っている敵を【なぎ払い】ながら、偵察兵を助けるよ。

けがをしている兵がいたら馬に乗せて、ホムラといっしょに周囲を警戒しながら陣まで護衛するよ
おびえている兵がいるなら、他の猟兵たちが援軍として来ているわけだし【勇気】づけておかないとね


「大丈夫!!この地には、名のある猟兵たちが集結しているから負けるはずないよ」
「それにここで逃げたら、あなたの家族たちが一斉に襲われるかも知れないじゃない」
「あの武田軍に、昔の徳川じゃないこと見せつけてやろうよ!!」



●虎は眠る
「しかし、戦の前にこうまで士気がくじけてしまっては……武士の体裁を保てていませんね」
 予想していたよりもひどい徳川軍の士気の低さに、秋穂・紗織(木花吐息・f18825)は嘆息した。どこを見回しても、戦ってもいないうちだというのに、すでに大敗した後のような気配をにじませている。
「それなんだけど」
 紗織と同じように周囲を観察していた幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)が、眉間にしわを寄せる。
「何だか勘違いしてる人、結構いるような気がしない?」
「勘違い?」
「だってさ」
 首を傾げた紗織に、極は言う。
「何か、もう武田信玄が復活しちゃってるみたいな雰囲気になってない?」
「……あら」
 紗織が思わず目を見開く。
 言われてみれば確かにそうだ。
 現状、武田の配下の勇将たちは復活しているが、信玄はそうではない。しかし、周辺から聞こえてくる声に耳を傾けてみると、徳川幕府の祖である家康が勝てなかった、魔王信長も対決を避け続けた、といった言説がある。それはあくまで武田信玄その人のことであって、武田軍のことではないのに、だ。
「まさか、その辺の事情を知らされずにここに集められたってことはないと思うんだけどね。それを忘れちゃうくらい、風林火山の旗とかはインパクトあるってことなのかな」
「かも、しれません。その辺の誤解を解くことから始めてみますか」
「うん、そうしよう」
 極と紗織は、うなずき合った。

●今の世に
 徳川軍と武田軍、その睨み合いの最前線は今まさに馬防柵を建てているあたり――の、ように見えて、実はもう少し敵に近いところにある。即ち、目立たぬように潜みつつ敵の動向を探る、斥候部隊である。
 ときに情報というものは、刀槍よりも鋭き武器になる。そう考えるのは敵も味方も同様だ。ゆえに、双方から放たれた斥候部隊、潜んでいる者同士が思わぬ場所で不意に出くわすというシーンも、ままある。
 そして、今回のような場合でそれが起きると、一軍全てオブリビオンである武田に比べ、人間の足軽である徳川方は当然、圧倒的に不利となる。
「う、うわあぁ!」
 斥候部隊の一人である足軽が、悲鳴を上げながら逃げ惑う。同部隊の仲間も散り散りになって逃げていて、誰が無事で誰がそうでないのかなどわからない。また、今の己が無事といえるのかそうでないのかも、判然としない。今のところ生きてはいるが、逃げおおせる算段はないのだから。
 武田の兵――簡素な鎧を着た昏い人影が、槍をしごきながら迫る。万事休す――と思われた、そのとき。
「せいやぁっ!」
 鋭い気勢とともに振るわれた偃月刀から、漆黒の炎が飛ぶ。武田兵を押し包むのに一瞬、それを焼き尽くすのにもう一瞬。即ち、ただの二瞬にして足軽の絶体絶命は焼き払われてしまった。
 唖然とする足軽の元に、馬に乗った龍ヶ崎・紅音(天真爛漫竜娘・f08944)が駆けてくる。
「よかった、間に合ったわね」
 足軽がそちらに目を向けると、紅音の乗る馬にはさらに、斥候部隊の仲間たち三人がまとめて積み上げられていた。全員、怪我をしているらしいが、一見して命に別条のある者はないようだった。
 足軽の視線に気付いた紅音が、にこりと笑った。
「良い馬よね。武田の馬にも負けてないわ」
「た、武田の?」
「ええ。これだけ乗せてもしっかり走ってくれる。よく鍛えられてると思う」
 戦国最強と称された武田の騎馬に劣らぬ、と。
 人の枠を超えた武勇を誇る猟兵が、そう太鼓判を押した。
 それは少しではあるが、足軽の胸に希望の明かりをもたらす。
「あなたは怪我はないようだけど、一緒に陣に戻りましょう。この人たちには手当がいるし」
「え、ええ」

 足軽が紅音と連れだって陣地に戻ってみると、何やら人だかりができていた。
「……何だ?」
 見ると、その中心にいるのは青髪の羅刹の少女――極である。
「まだ、甲斐の虎は目を覚ましていない!」
 握り拳を振り上げ、少女だてらに堂々とした声を張り上げる、極。
「だけど、それを起こそうとする連中がいる! それを止めるために、ボクらが、みんなが、ここに集まっているんじゃないか! それなのに、まだ目覚めていない虎にビビッてどうするのさ!?」
 集まっている兵たちの間に、どよどよと騒ぎが広がる。
 信玄の復活前に手を打つことができていることは、もちろん、この場の誰もが聞かされていたはずのことである。だが、いざ武田軍を前にしてしまうと、『武田信玄』の名を意識せずにいることも、それに恐怖を覚えずにいることもできなかった。
 いわば、自ら作った信玄の幻に自ら怯えていたようなものだ。気付いてみれば、おかしなことだった。それを、極の言葉によって気付かされたのである。
「無論――」
 極の横に立つ紗織が、穏やかながらよく通る声で言う。
「天下に武名を轟かせたのは、信玄一人ではありません。今、あれに集っている将たちもいずれ劣らぬ豪傑ばかりでしょう。ですが」
 そこで、腰の刀に手が伸びる。手が伸びたと思った一瞬の後に、流麗な太刀筋を神速にてなぞり、刀は再び鞘の内に戻っていた。
 さらにその一瞬の後、周囲に置いてあった甲冑つきの巻き藁が、音もなく斜めにずれていく。そして、地べたに落ちて初めて、どさりと音を鳴らす。
 達人技、などという言葉でくくることさえはばかられる、人外の技の冴えであった。
「僭越ながら、皆様には我ら猟兵が助勢いたします。過去の残影に過ぎぬ敵を恐れる必要など、ありません」
 すると、いつの間にか人だかりの中に混じっていた紅音からも声が上がった。
「そうだよ! 私たちだけじゃない、この戦場に集まってる名だたる猟兵は、十や二十じゃないんだ! この戦い、負けるわけがない!」
 その声に触発されたように、次第にどよめきが大きくなっていく。
「そうか……そうだ、その通りだ」
「勝てる戦なのだ」
「いや、勝つのだ!」
「そうだ、勝つのだ!」
「勝つぞ!」
 声が声を招き、どよめきが大波を成し、気付けばそれは巨大な気勢となっていた。天を焦がさんばかりの気炎となっていた。

 もはやそこに、眠ったままの虎に怯えて縮こまる弱卒の群れはない。
 士気旺盛、精強を極めし武士(もののふ)の大軍勢は今や遅しと開戦の合図を待つばかりとなった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『異国の少女剣士』

POW   :    跳躍飛翔
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
SPD   :    縮地法
【瞬間移動】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【至近距離からの斬撃】で攻撃する。
WIZ   :    憑呪宿奪
対象のユーベルコードに対し【その属性や特性を奪い取る斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
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●白刃の壁
 人間とオブリビオンのいかんともしがたい差ゆえに、個々の膂力などでは徳川軍は武田軍に大きく劣る。
 だが、数においては大きく勝る。その数を活かした間断なき火縄銃の弾幕、絶えざる矢の嵐、隙なき槍衾の突撃は、個の武の差を凌駕し、押し返していった。
 やがて、敵の陣容の一点が薄まる。
 そこをすかさず、徳川軍の槍足軽隊の決死の吶喊が突き崩し、食い破った。
「猟兵方、今だ!」
「ご武運を!」
 応と答えた猟兵たちは、一丸の槍穂となって敵中に飛び込んだ。
 そのまま直進すること、いかほどか。
「むむ。あれほどの兵の壁を突破してくるとは、予想外デース」
「しかし、あなたたちのマーチはここで我らがストップさせマース!」
「覚悟しなサーイ!」
 明らかにそれまでの武田兵たちとは毛色の異なる一団が、猟兵たちの前に立ちはだかる。
 愛らしい顔立ちに、フリル付きのかわいらしい服、しかし手に握るは剣呑な白光を放つショートソード。間違いなく、グリモアベースで情報のあった、護衛部隊の少女剣客集団だ。
 本命はこの先。だが、その前にこの白刃によって成る鉄壁を突破しなければならない。
 猟兵たちの間に、緊張が走った。
フローリア・ヤマト
「少女×白い剣なんて、なんか出来過ぎの展開ね」
フローリアは自らの刀を呪いで覆っていく。
深黒化(ダークコンバート)
「こっちは少女×黒い刀…
なんか写真映えしそうな構図ね」
縮地法には黒腱(ブラックピアニスト)による超反射で対応

跳躍飛翔には紋黒蝶(ウィークフェイカー)で空中戦を行う。
隙を見せたら黒雹(アンチウォーカー)を相手の足場に打ち込んで、体勢を崩させた所にとどめを刺す。
「次は誰かしら?」
1体1体確実に潰していくフローリアの算段である。


スコッティ・ドットヤード
【ネピアと共闘・アドリブ絡み歓迎・WIZ】
さてと…少女軍団か。んー(難しい顔をして)
…可愛い女子を殺すのは無理です。お兄ちゃんには無理!
(その中途半端な優しさにすかさず妹からツッコミという名の鉄拳を受けるがすぐ回復して)
戦わないとは言ってねーだろ…基本的に戦闘は苦手なんだよ。
だからこうして攪乱すんのさ。後は任せたぜ腕自慢の皆様方ァ!
(【クライシスゾーン】発動。斬撃が武器?ならその斬撃を生む武器を奪えばいい)
(半径44m内の少女たちの武器を次々と超次元の竜巻に変化させ、混乱を生む)
(時間稼ぎと目潰しを含んだ念動力による範囲攻撃で味方を援護した)


ネピア・ドットヤード
【スコッティと共闘・アドリブ絡み歓迎・POW】
(兄にツッコミを入れてから)もー!僕だって可愛い女の子なのに!
でも戦いの場なら容赦はしないよ!剣を使おうが僕に敵うと思うなー!
(地上は他の猟兵に任せてもいいだろう…僕は僕のできることをする)
(すなわち空中。時折空中で跳躍を見せる身軽な少女たちに…)
ぶちぬけー!【ブレイブハート】!(ユーベルコードにより真紅に染まったマントを翻して、空中へ)
(その最高速度実にマッハ3。空中戦闘開始だ)
(超音速の衝撃波を放ちながら縦横無尽、さらに全身にバリアを貼ってオーラ防御)
(敵の武器を受けても勢いは落とさずに、傷つくことも厭わず、熾烈な空中戦を繰り広げるのだった)


秋穂・紗織
武運をと祈られたのなら、武勇響かせ、応えなければ
敵陣の壁崩し、道を作ってくれた兵士達の為にも
何より、過去の虚影に明日や希望、輝きを奪われたくないのですから

「来る全ての凶災、戦乱、惨劇――全て斬り祓う為に、推して参りますね」

厄介なのは縮地法による瞬間移動の攪乱
刃の間合いしか攻撃が届かないとはいえ、それは私も同じ事なれば
同じく妖剣解放による高速移動を、ダッシュと早業を用いて絶え間なく、戦場を駆け抜けていきましょう

一瞬も立ち止まらず、フェイントと2回攻撃を用いて、牽制の衝撃破を四方八方へと散らして攪乱しつつ
見切り、先制攻撃で動きが止まった者、隙が出来たその瞬間を見つけ、擦れ違い様に疾風のような剣閃を


龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎

【POW】

「現れたね…!まずは、ここを突破するよ!!」

まずは一番槍をいただくよ
まだ借りている馬に【騎乗】して、「黒龍焔月刀」で敵軍団を【なぎ払い】ながら【気合い】で突撃
後続のために大将首への活路を確保するよ

跳躍してくる敵には終わり際を狙って、焔槍形態の「ホムラ」を【槍投げ】で【串刺し】にするよ
跳べば避けられると思わないことね!
小竜形態時の「ホムラ」はすぐ投げれるように、私の近くで援護するよ

敵軍を壊滅させたら次はいよいよ敵大将の一人が相手だね…。
激戦になるかもしれないから、ここで借りていた馬を返しておくよ


待宵・アルメ
(第二人格ガオナに切り替わっての参加)
「女子を殴るのは気が引ける…って事もねぇか。オブリビオンだしな」
(と言いつつ攻撃時には無意識に顔を避けてボディ狙いになってしまう)

戦闘中は一体ずつ確実に仕留めていく方が俺向きだな。
愚者の複製拳でツギハギグローブを増やしながら接近。
狙いをつけた敵にインファイトを仕掛けつつ、操ったグローブで四方八方からもパンチを繰り出す。
これで行動も制限しつつ確実に攻撃できるはずだ。

攻撃中の敵や周りの奴らの「縮地法」に対しては【第六感】で反応して愚者の複製拳の一部を【武器受け】に回すことで防ぐか、せめて急所直撃は避ける。
最悪致命傷じゃなければいい、それくらいの【覚悟】はある。



●天を裂く
 額から落ちる汗が目尻に入り、痛みを与えてくる。だが、スコッティ・ドットヤード(どこからどう見ても女の子な少年・f20279)は目を閉じることなく、周囲を見渡した。どちら見ても、白刃を構えた少女、少女、少女……というか、美少女。
「無理だ……!」
 絶望し、うめく。
「可愛い女子を殺すのは、お兄ちゃんには無理です!」
「そぉい!」
 間髪入れずに放たれたネピア・ドットヤード(サイキックゴリラパワー妹系幼女・f20332)の右拳がスコッティの頬に突き刺さる。見事なタイミングで肩、肘、手首に捻りを加えられたコークスクリューブローに頬肉をえぐられ、スコッティは竹とんぼのように回転しながら吹っ飛んだ。
「もー! 僕という可愛い妹がいるのに、どうして敵にデレデレするかな!?」
「どっちかってーと、可愛い妹がいる『から』じゃないかって気もするが」
 待宵・アルメ(路地裏のミュルクリエイター・f04388)――いや、目が真紅に変わっているからには、ガオナと呼ぶべきだろうか――が、肩をすくめながら言う。
 居並ぶ異国の少女剣士たちの背格好は、ネピアと同じか多少上かくらいだろうか。妹を連想させる分手を出しづらいというのは、なるほど兄たる者に湧き起るに無理のない気持ちである。妹思いであれば、なおさらのこと。
「ま、俺は相手がオブリビオンなら、女子だろうが何だろうが気にしねぇでブン殴れるけどな」
 廃材をつなぎ合わせて作ったグローブを装備した右手をぐるぐると回しながら、ガオナが宣言する。
 すると、スコッティも大したダメージもなさげにぴょんと跳ね起きて、言う。
「俺だって、戦わないとは言ってねーだろ! どっちみち、ガチガチの斬った張ったは苦手分野なんだよ」
「へえ。じゃあ何ができるんだ?」
「ふふん、見てろ。こうやって……」
 言いつつ、スコッティは【クライシスゾーン】を発動させる。
 狙う対象は、少女剣士たちの剣。剣を竜巻に変えてしまえば、剣を失った剣士の群れのできあがり。敵戦力は大幅減――と、目論んでいたのだが。
 特に敵が何をした、という動きもなくして、ユーベルコードが不発に終わった気配だけがする。
「……あれ?」
「フッフッフ。今の気配、この剣に何か仕掛けたかったようデースが……」
 少女剣士の一人が嘲笑する。
「我らの剣は、我らの体の一部みたいなもの……言わば、オブリビオン由来の謎パワーの結晶なのデース」
 つまり、この世ならざる物体であって、有機物だ無機物だという括りで囲える物ではないゆえに、クライシスゾーンの対象になり得なかったということだろう。
「だったらプランBだ!」
「あ? ネーだろそんなモン!」
「あるわい! 別名、行き当たりばったり!」
 叫ぶスコッティが次に標的にしたのは、少女剣士らの足下の地面。目に付く範囲で確実な無機物といえば、土や石ころだった。
 足場が急に超次元竜巻に変換され、しかし流石の精鋭少女剣士らは慌てず、空中跳躍で逃れてみせる。
「ふっ、甘いデース! 我らは空中戦は得意なのデース!」
「そりゃ奇遇だな。実は、うちの妹もそうなんだ」
 得意げな顔の少女剣士に届いたのは、スコッティの声が先か、あるいは【勇気の証明(ブレイブハート)】の緋色のマントを翻したネピアの拳が先か。
 ともあれ、先のツッコミの万倍速で放たれた右ストレートが少女剣士の腹に炸裂し、錐もみ状に吹っ飛ばされた先で二人ばかりを巻き込んだ上で、塵となって消えた。
 そして体勢を崩した二者に対し、さらにモノクロの疾風が迫る。黒蝶の羽で全身を包んみ、さらに【深黒化(ダークコンバート)】の黒い影を纏った刀を振りかざした銀髪の少女、フローリア・ヤマト(呪いと共に戦う少女・f09692)だ。
「ガッ!」
「デム!」
 悲鳴を上げつつも二人は剣を構えフローリアの横薙ぎの一閃を受け止めた。
「……白い剣に黒い刀の鍔迫り合い。何だか写真映えしそうな構図だと思わない?」
「知ったことじゃ――」
「ありまセーン!」
 怒号と同時、一方が鍔迫り合いを引き受け、もう一方が【憑呪宿奪】の斬撃を放ってくる。斬撃に叩かれたフローリアの倭刀は、纏っていた黒影を雲散霧消させられ、元の鈍色の輝きを露わにした。
「くっ――!?」
「もらった!」
「ダーイ!」
 フローリアの刀が押し返され、二人の少女剣士が左右から絡みつくように剣を振るってくる。
 しかし。
「ぶちぬけー!」
 全身に薄桃色のオーラを纏ったネピアが、ライフル弾並の速度で割り込み、一人を弾き飛ばす。
 さらに同時、鈍色の倭刀が神速の閃きを見せ、もう一人の胴を両断した。
 目を見開く少女剣士は、最期に気付けたかどうか。深黒化の破壊力こそ失ったものの、刀本来の切れ味までなくなったわけではなかったことに。
「ありゃ、手助けは余計だった?」
 あっさり敵を斬り伏せてみせたフローリアを一瞥し、ネピアはばつが悪そうに頬をかく。
「いや、そんなことは」
 フローリアは微笑しつつ、首を横に振る。
「それより、敵はまだまだいるわ。のんびりしてられないわよ」
「みたいだね」
 二人を包囲するように跳び回る少女剣士たちに対峙しつつ、フローリアとネピアは背中を預け合った。
「押し包んで潰すのデース!」
 少女剣士の号令に、二人は口の端を上げた。
「できるものなら――」
「やってみろ!」
 ユーベルコードにより飛行が可能になっているフローリアとネピアは、速度において少女剣士らを大きく凌駕していた。少女剣士たちの跳躍も決して遅いわけではないし、小刻みな連続ジャンプによって小回りの面では上回ってはいるものの、包囲陣形を速度に任せて容易に突破してみせる二人に、ショートソードの刃を届かせることがなかなかできずにいる。
 負ける気は、まるでしなかった。

●地を薙ぐ
 純粋に移動する速度が速い者と、速度の概念を無視して瞬間移動できる者とでは、普通は後者の方が有利であるはずだ。
 だが、瞬間移動ができる少女剣士たちは、【妖剣解放】による高速のダッシュを繰り返す秋穂・紗織(木花吐息・f18825)を捉えられずにいた。捉えたつもりで【縮地法】で斬りかかっても、既にそこに紗織はいない。気配を察知して回避しているというよりは、立ち止まらずに動き続けているために結果的に回避できている、と称した方が正しいだろうか。
 一方の紗織も、なかなか決定打を生み出せないでいた。動きつつも愛刀天峰白雪から衝撃波を放っているものの、瞬間移動を繰り返す少女剣士たちの捕捉は困難であった。
「ええい、ちょこまかとうっとうしいデース!」
「お互い様です」
 怒声を流しつつ、紗織は動き続けた。決定打のない膠着状態は、数で勝る相手に有利である。どうにか隙を見つけるなりこじ開けるなりして、突破口を作りたい。だが、焦って一瞬でも雑な動きを見せれば、たちまち袋叩きに遭って一巻の終わりであるのも、紗織にはわかっていた。
 思案を巡らせていると。
「っでやあぁッ!」
 裂帛の気合いとともに、筋骨隆々たる黒鹿毛の馬に騎乗する龍ヶ崎・紅音(天真爛漫竜娘・f08944)が突進してくる。リーチを長くして右手に持った、薙刀めいた形状にした黒焔竜剣、即ち弐式黒龍焔月刀を薙ぎ払うように高速で振り回しながら。
 黒色の竜巻が突っ込んでくるような光景に、さしもの手練れ揃いの少女剣士たちも驚いた表情を見せる。しかし、それも一瞬のこと。
「そんなラフなアクションで我らを捉えようなどと――!」
 跳躍によって暴風圏の外に逃れようとした少女剣士を、しかし紅音は見逃さなかった。
「甘いよっ!」
 すぐ側を伴走ならぬ伴飛していた槍焔竜ホムラを左手でつかむや、スピア型になったそれを手も見せぬ速度で投擲、見事に少女剣士の胸を刺し貫いた。
 目を剥いた少女剣士が、落下する。地面に、というより、紅音の【煉獄黒焔斬(レンゴクコクエンザン)】によって生み出され延焼する、漆黒の炎の中に。
「ワッ、ザ……!」
 炎に呑まれた少女剣士が灰になると同時、胸に刺さっていたホムラが小竜の姿に変じて紅音の傍らに舞い戻る。
「おのれっ!」
 他の少女剣士たちが色めき立つ。その足並みの乱れた機を逃す紗織でもない。
 紅音に目を向けている一人に一足で迫り、袈裟懸けに一閃。少女剣士のお株を奪うような縮地じみた神速である。
「っ!?」
 少女剣士が気付いたときには手遅れ、紗織の剣閃を受け止めようと半端に構えたショートソードにかすることもない。肩から脇へ掛けて両断された少女剣士の体は、服や剣ごとたちまち砂のように崩れて消えた。
「よし、これで突破口はでき――」
 紅音が一息入れた刹那。
「将をキルならまず馬をキィルゥ!」
 地を這うような低い姿勢の踏み込みから、黒鹿毛の喉元を狙って剣を突き出してくる少女剣士が一人。
 この馬は紅音の持ち物ではなく、徳川軍から借りたものである。選りすぐるの駿馬ではあるが、それでも現世のそれという枠組みの内にあるものに過ぎず、超常存在たるオブリビオンを相手に勝ち目のあるような馬ではない。
「まず……!」
「おっとぉ」
 少女剣士の刺突の先に、ガオナが【愚者の複製拳(フールボッコ)】で複製したツギハギグローブの一つが飛ぶ。
 間一髪、甲高い金属音と同時に切っ先が逸らされ、黒鹿毛は肩を浅く裂かれるにとどまった。
「臨時のもんとはいえ、戦友が馬刺しになるのは見過ごせないってばよ」
 言いながら右拳を振りかぶって突っ込んでくるガオナに、少女剣士は舌打ちした。
 突きを外した体勢から切り返し、斜めに打ち下ろすように迎撃の一閃を放つ。剣閃はガオナのオーバーハンドフックと真正面から激突し、拮抗状態になる。
「くっ……生意気デース!」
「その見た目の奴に言われたくねぇよ」
 ぼやきつつ、複製したグローブに少女剣士を包囲させる。
 少女剣士はとっさにそれらを斬り払おうとして、剣がびくともしないのに気付く。
 見ると、堅牢なグローブに護られたガオナの右手が、いつの間にか少女の剣をわしづかみにしていた。
「ブルシッ――!」
 操作されたグローブに四方八方から襲いかかられ、回避も迎撃も叶わない少女剣士はなす術なく粉砕され、灰となって骸の海に溶けた。
「……ふぅ、助かったよ」
「困ったときは何とかってね」
 礼を言ってきた紅音に、ガオナはひらひらと手を振った。
「この子は潮時か。これ以上の激戦には付き合わせられないものね」
 紅音は黒鹿毛から跳び降りた。そして、「お疲れ、気を付けてお帰り」と言ってお尻をポンと叩く。
 流石の名馬、紅音の意図をすぐに理解し、ブルルッと軽くいなないて引き返していく。
「さて……もう一息ってところかな」
「だね」
 ガオナ、紅音が周囲を見回すと、次の標的を目指して駆けた。

 大勢は決した。
 空中戦、地上戦、いずれでも猟兵優勢。序盤こそ数的有利に立っていた少女剣士たちだったが、じわじわと確実に数を減らされていき、数の上で互角になってからは一気に押しまくられた。
「こ、こんな……こんな簡単に、我らが……!?」
 最後の一人が、絶望的にうめく。
「簡単でもありませんでしたが」
 紗織は言いながら、鋭く踏み込む。
「虚ろな過去の影に、未来の輝きを害されるわけにいきませんので」
 神速の片手突きが少女剣士の胸の中心を捉える。破れかぶれに振られたショートソードはリーチが足りず、紗織に傷を負わせることなく地に落ちた。
 これにて、敵将への道を阻むものはなくなった。
 あとは、最後の一戦に挑み、勝つのみである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『戦国武将』

POW   :    合戦具足
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【自分の城の一部もしくは武者鎧】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD   :    乱世斬
【日本刀による衝撃波を伴う斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    戦国兵団
【自分に従う兵士達】の霊を召喚する。これは【火縄銃】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●時既に遅し……!?
 精鋭少女剣士の護衛部隊を撃滅し、武田軍が将の元へ駆け込んだ猟兵たち。
 その目に映ったのは――信じがたい、信じたくない光景だった。
「ふ、ふ、ふ……遅かったのう、猟兵諸君よ」
 それは、肖像画などで見たことがある顔であった。特徴的な白いたてがみめいた毛を蓄えた兜も、赤を基調とした鎧具足もそうだ。手に持っている風林火山の軍配など、決定的といっていいだろう。
「武田信玄、これ、この通り復活したぞよ」
 馬鹿な!
 誰もが思った。可能な限り急いで突破してきた。徳川軍の奮戦凄まじく、自身らの進軍も順調だったと胸を張って言える。
 それでも、間に合わなかったのか……武田信玄の復活を許してしまったのか!?
 絶望しかけたそのとき、ふと、気付く。
 眼前の将、確かにただ者ではない。なまじのオブリビオンよりはずっと使うだろうという凄味は感じる。しかし、サムライエンパイアの滅亡を決定づけるほどの者か? スペースシップワールドやキマイラフューチャーで戦ったあれらほどのプレッシャーを、感じられるか?
 否、だ。
「……ふはは。その様子だと、やはり簡単にだまされてはくれなんだか」
 ニカッと悪童のような笑顔を浮かべ、信玄に似た将が言う。
「拙者は武田信廉……あー、逍遙軒と名乗った方がわかるかの? 顔や形はこの通り兄上にそっくりなんじゃが、まあ、あれほどの化け物ではないわさ。安心して掛かってくるがよいぞ?」
 軽い調子で言ってくる敵将――武田信廉。信玄の実弟にして、姿が似ていたことから影武者を務めていたという説がある将であった。
 なるほど、見た目は信玄に似ていても、本物ほどの力はないわけだ。しかし、武田二十四将の一人であり、武田一門衆の重鎮として活躍した人物であるには違いなく、安心して戦えるような弱敵であろうはずもない。
 見た目の重圧に呑まれぬよう気を引き締めつつ、猟兵たちは身構えた。正念場は、ここにある。
スコッティ・ドットヤード
【ネピアと共闘・アドリブ絡み歓迎・WIZ】
躊躇いなく本気が出せそうな相手だけど…ヤバそうだ!
(タイマンは望まぬところ…妹を、周囲を支援してこその兄)
よし!…かかってこいオラァ!やれるもんならやってみろ!
(兵士の霊をかいくぐりダッシュ、挑発しながら破れかぶれに突撃、かと思えば)
(フェイントを織り交ぜ必死に避けて脱兎のごとく自慢の逃げ足を披露)
(両掌より放つサイコエナジーで応対しつつ、反撃がくれば)【インビジブル・ディストーション】ッ!
(透明になり、目測を誤らせて難を逃れる)
(だが注意して観察すれば足音、体温…スコッティのいる位置が分かるだろう)
(それが狙いだ。敵が自分に意識を割いている内に──)


ネピア・ドットヤード
【スコッティと共闘・アドリブ絡み歓迎・POW】
お兄ちゃん!(兄の挑発と動きに、妹はすべて理解)
(自ら囮になることで一撃を期待している…なら僕は)
……(無言で【ブレイブバースト】発動。体が大きくなりさらなる怪力を持って)
(己の内に力を貯める。兄の決意を無駄にはしたくない)
……(兄が透明に。…当然その能力も把握済み。この後自分の身に起きることもわかってる)
(ただ単純に後ろから突撃しても、確実じゃない)
(だが兄の能力は、その目に映る人間を一人まで。透明化できるのだ)
(兄の瞳には自分の姿 すなわち今自分が透明になった…ここだ)
(出来る限り音を殺して、気配を消して。渾身の一撃を背後から叩き込む)


フローリア・ヤマト
接近戦は黒腱(ブラックピアニスト)の超反射で戦いながら耐え、
合戦具足で大きなロボになった場合、
紋黒蝶(ウィークフェイカー)で上空を羽ばたき、
人形黒子(カースアウト)
をかなり小さく出現させて
鱗粉のように風に乗せて
関節などへ飛び移らせて
目詰まりを起こさせ
転倒、束縛を狙う。
ロボを乗り捨てる事があれば
侵黒(シンクロ)で操って戦う。


秋穂・紗織
おやおや、これは嘘つきな武将さんが相手ですか
とはいえ十分過ぎる程の力と、詐術に長ける知性のある将
一筋縄で通しては頂けないでしょうかせ

「私達も、そう簡単に相手出来る者ではないのですよ」

常に日本刀の動きを見て、制し、攻撃へと転じる隙を与えないように疾風のように攻勢を
先制攻撃で敵より先んじ、早業と2回攻撃で一気呵成、疾風迅雷のように
寿命の対価は気にせず、全ての斬撃を敵へと向けていきましょう

疾きこと風の如く、と敵の名乗りをも奪い、斬るように
旋風のように迅く、そして、自由で止まる事なく斬撃繰り出しながら

無理に衝撃破を放とうとする動きには、見切りで瞬間の隙を見つけ、カウンター+捨て身の一撃で追加の剣閃を


龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎

【POW】

「武田信玄の影武者とはいえ、武田二十四将の一人…油断できないね…。」
でも、ここで倒さなきゃ本物の信玄を復活するかもしれない
…だから武田信廉…いざ尋常に…勝負!!」

「黒焔竜剣 弐式」の突きと「ホムラ」との連携で牽制しながら、【力溜め】の【なぎ払い】で確実にダメージを与えるよ

だけど、相手は自分が危ういと思ったら『合戦具足』で形勢逆転を狙ってくるはず
「ホムラ」で胴体辺りを【槍投げ】で【串刺し】にして、それを足場に跳躍
急ぎ「黒焔竜剣 壱式」(その際、一度黒焔竜剣が黒き焔に包まれる)に形態変化
その大剣形態で、焔【属性攻撃】の『地裂岩断撃』でその具足ごと叩き割ってあげる!!


待宵・アルメ
「ナントカ軒とやらは知らないし誰だろうと関係ないね!学校行ってれば習ったのかい?」

仮に信玄本人だったとして、僕のやる事は変わらないけどね。


戦闘に入る前に、召喚したスクラップをグローブに組み込んで巨大化させておく。
可能な限り接近したら【鎧砕き】も視野に入れながら奇妙な拳骨(ゼルトザームアームハンマー)で思いっきりぶん殴る!

向こうの合戦具足の攻撃は【ダッシュ】と【第六感】で回避しつつ、躱せなさそうな攻撃は【覚悟】決めてグローブパンチで打ち合って(【武器受け】)【激痛耐性】で気合で耐える。

間違ってたり、悪いことをするオブリビオンには正義の拳骨を食らわせる。
悪い奴には誰かが叱ってやらなきゃ。



●疾きこと風の如く、徐かなること林の如く
「武田信玄の、影武者……?」
 龍ヶ崎・紅音(天真爛漫竜娘・f08944)はそうつぶやいて、ほっと安堵の吐息を漏らした。ここに至るまで迅速に進んできたという自負があっただけに、間に合わないという事態に陥るなど考えたくもなかったし、命がけで奮戦してくれた徳川軍の皆に申し訳が立たなかったところだ。
「まあ、誰でもいいけどね。仮に信玄本人だったとしても、やることは変わらないし」
 待宵・アルメ(路地裏のミュルクリエイター・f04388)は軽々と言い放ちつつ、肩をすくめてみせる。
「そもそも、ナントカ軒とか聞いたことないんだけど、学校行ってたら習ってたかい?」
「かっかっか、ない、ない!」
 信廉は手をはたはたと横に振りながら大笑いした。
「それなりに戦国時代に詳しい者でも、なかなかピンと来ぬ名前であろうさ。目立つ軍功があるわけでなし、中堅未満、一山集めたところでいくらにもならんという凡将よ」
 一種の自虐というのか、そんなことをあっけらかんと言う。軽口をぶつけたアルメの方が、どんな反応を返せばいいのやらわからず困惑するはめになった。
「何か、調子狂うな」
「まさにそれ……こちらの調子を狂わせることが狙いなのでしょう。現れ方もそうですが、この方、詐術に長けた知将と見えます」
 秋穂・紗織(木花吐息・f18825)の信廉を見る目は、口より雄弁に「だまされんぞ」と語るかのような、じっとりとした半眼となっている。
 なるほどこの信廉、自称する通り、武略面にせよ知略面にせよ目立った軍功を挙げたという記録はない。だが、信玄亡き後、影武者として他国の使者を見事にだましおおせ、外征させる隙を与えなかったという逸話も持つ。紗織の読み通り、恐らく詐術においては一定以上の技量があったのだろう。
 そして紅音も、引き締まった表情で信廉を睨んでいる。
「うん。武田二十四将の一人、その肩書きを考えなくたってこのプレッシャー……油断できる相手じゃないのは感じられる。でも、本物の信玄が復活するのは阻止しなきゃいけない。だから……武田信廉、あなたはここで倒す! いざ、尋常に勝負!」
 黒龍焔月刀の切っ先を向け、颯爽と告げた。
「かはは……やれやれ、少しは油断してくれてもよかろうに、真面目な奴らめが。まあ、良いわさ。兄上には及ばぬながら、武田が采配を見せてやろうかい」
 言うが早いか、信廉が右手の軍配を一振り薙ぐ。同時、彼の前に二段構えの人の列が出現した。前列は、黒い泥を人型に固めた上で黒の甲冑を着込み、中腰で火縄銃を構えた、武田兵の亡霊たち。後列は姿形は前列のそれと同様だが、立位にて鉄砲ではなく弓矢を構えた兵たちであった。
 猟兵たちの間に緊張が走った、刹那。
「撃――」
「上等だ! かかってこいオラァ!」
「てぇ?」
 絶妙のタイミングで、スコッティ・ドットヤード(どこからどう見ても女の子な少年・f20279)が声を張り上げた。
 バランス良く的確に猟兵たちを狙っていたはずの兵たちの照準の大半が、その誘引にはまってスコッティに向く。
 まず、放たれたのは矢のみであった。ほぼ直線に近い鈍角の軌道を描き、十数の矢が鋭く飛来する。
 スコッティは挑発の勢いのまま、破れかぶれに突撃する――と見せかけて、残像を残しつつ九十度に横っ跳びした。
 その跳んだ先を見定め、鉄砲隊が照準を改める。矢の速さ程度ならば見切ってしまうであろう猟兵に対してならではの、緩と急の隙なき二段構えであった。
 隙なき、と信廉は思っていたのだが。
 スコッティの姿がにわかにかき消え、鉄砲隊は照準の合わせ所を失った。
「縮地か!?」
 とっさに、己が護衛部隊を務めていた者たちの技を思い出し、信廉は身構えた。が、スコッティが至近に瞬間移動してきた様子はない。
「――ぬ、隠形の方か?」
 だとすれば、パーペキにターゲットロストしてしまったぞよ、と信廉が思っている隙をすかさず、紅音と紗織が攻勢を仕掛ける。
「でぇっ、りゃあ!」
 とっさに自分に向けられた火縄銃を偃月刀で突いて逸らしてから、紅音は勢いよく踏み込んで豪快に横薙ぎを放った。武田兵らはしっかり甲冑を身に着けていたが、重さ、鋭利さ、速さの揃った一撃はそれらをせんべいか何かのように容易に砕き、五、六人ばかりをまとめて薙ぎ倒した。
「ふッ!」
 紗織が放つは、【斜陽斬奏(シャヨウザンソウ)】の斬撃、その一息で実に十八閃という神速ぶりである。八閃で鉄砲隊を斬り伏せ道を拓き、八閃で弓隊を斬り伏せ道を拓く。この時点で武田の亡霊兵を壊滅させ、さらに残る二閃で信廉に迫った。
「ほ、風の如き疾さよ!」
 信廉は一閃を軍配で弾くと同時、腰に佩いた太刀を左手で逆手持ちにして抜き打ちにし、もう一閃をがっちりと受け止める。
 信廉がほっとする間もなく、紅音の偃月刀が風を斬り裂いて迫ってくる。
「おわぁ!?」
 驚いたような声を上げつつも、軍配を構えてその一撃を受け止める。紅音の刃は軍配を半ばまでは斬り進んだが、そこで止められた。
「肝が冷えたわ、川中島の謙信公を思い出すのう。もっとも、謙信公は二人もおらなんだが」
「謙信と一騎打ちを演じたのは信玄でしょうに」
「かはは、見栄を張ってもダメかい!」
「それより――」
 不意に、紅音でも紗織でもない女性の声が差し挟まれる。
「誰が二人で終わりだなんて言ったかしら?」
 右手の軍配で紅音の黒龍焔月刀を、左手の太刀で紗織の天峰白雪を押し止めているため、半端な万歳の姿勢のようになっている信廉を、唐竹割りにするような軌道で。
 フローリア・ヤマト(呪いと共に戦う少女・f09692)が真正面から斬り込んできた。
「どおぉぅ!?」
 パックステップ、というより後方にすっ転ぶような格好で、信廉はその致命の一撃を回避した。フローリアの倭刀は切っ先を獅子の前立にかすらせて両断するにとどまり、信廉そのものを断つには至らなかった。
「――動作が愉快な割に、ことごとく防いでますね」
「調子が狂うわ、本当に」
 紗織に同調しながら、フローリアは歯がみした。どこまでが計算された詐術でどこまでが素なのか境界がわかりづらいが、どちらであっても大差ないといえば大差ない。『調子が狂う』という点に置いて、どっちみち変わらないのだから。
 一方、信廉は姿を消したままのスコッティの行方を懸念していた。純粋に正面切っての戦闘でも大いに手こずっている上、奇襲の心配もしなければならぬとあっては気が気でない。
「林の如き徐かなる奴め。ならば騒がせてやろうかね」
 信廉は左手の太刀を順手に持ち替えると、独楽のごとく体を回転させながらやらたに振り回した。
 途端、空中含めた数十メートルの圏内に【乱世斬】の衝撃波が乱れ飛んだ。
 当たるを幸いとする弾幕作戦であった。何を狙っているということもないでたらめな乱撃、有効打一つ与えられるかどうかさえも賭けだが、対集団戦で細かに気配だのを探っている余裕がない以上、最善策だという自信が信廉にはあった。
 加えて、避けるなり防ぐなり何かしらのアクションを強いることができれば、相応の音が鳴るはず、という読みもあった。
 だからといえよう、信廉は真後ろで鳴った、ザッ、という地を蹴る音を聞き逃さなかった。
(――来たか!)
 とっさに軍配を盾のように構えて振り返り、襲いかかってくるプレッシャーに備える。
 不可視ながら読み通りの軌道をなぞってきたそれを、信廉は受け止めた。
 だが。
(何じゃい、これは!?)
 軍配に掛かった衝撃に、度肝を抜かれる。先に目にしていたスコッティと比して、明らかに質の違う力を持つ何かがぶつかってきている。
 その一撃――自身の【勇気の奔流(ブレイブバースト)】によって大柄な体と戦闘力を獲得し、さらにスコッティの【インビジブル・ディストーション】によって体を透明化していたネピア・ドットヤード(サイキックゴリラパワー妹系幼女・f20332)の大拳骨は、信廉の軍配を粉々に砕いてさらに胴丸を突き破った。

●侵掠すること火の如く、動かざること山の如し
 スコッティが信廉や武田兵を挑発するように立ち回りをした時点で、ネピアは彼の意図を読み取っていた。兄が注意を引き、隙を突いて己が背後から信廉に一撃を与える。その際、兄がユーベルコードによって自分を透明にしてくれるだろうことも予想できた。
 兄は、その目に映る人間を一人まで透明化できる。ゆえに、兄の目に自分の姿が映ったとき、自分は透明になったと知れる――という手段でタイミングを把握するのが不可能だと気付いたのは、スコッティ自身が透明になって、彼の目がネピアからも見えなくなってしまった直後のことだった。
 であれば、自分の目で自分の体が透明になる様を認めればよいだけの話だが。気配と音を殺し、力を溜めていたネピアは、無差別攻撃でスコッティをあぶり出そうとする信廉に危機感を覚え、「叩くなら今」と一撃を見舞った。
 十全の一撃だった。信廉を討つに充分な一撃を放てたはず、と思った。
 だが、軍配によって多少なりと勢いを減じられたそれは、信廉の身に至ったときには一歩足りぬものと化していた。
「――火の如き一撃、だが!」
 腹に拳のめり込んだ状態で、信廉は左手の太刀を握りなおす。
「まだ、倒れてはやれんよ!」
「うぁっ!?」
 逆袈裟の一閃。それは頑強になっていたネピアの体を断つまでは至らなかったものの、弾き飛ばす程度のことはしてみせた。
 だが、確実に大ダメージは入っている。腹に穴を開けられた信廉は、けふっと一つ血塊を吐き出した。
「さてさて……こりゃ、やれることはやり尽くさにゃならんな」
 信廉は言うと、力士が四股を踏むような動作で、ドンと地面を踏み鳴らした。
 直後、地面のあちこちからボコンボコンといくつもの甲冑が飛び出して、信廉の元へ集っていく。
「あれは……!」
 誰がともなく、そうつぶやく。
「砦を築く余裕なんぞはなかったが、これくらいならそこらから集めることができたわ。見よ、これぞ拙者の【合戦具足】よ」
 集った甲冑はバラバラになりつつ、また結びつき合いつつ信廉を取り込み、原形を留めぬようなそうでもないような、何やら複雑怪奇な合体変形を遂げていく。そしてしまいに、それは四メートル弱の、鎧武者に似た人型ロボとなった。
 その巨体に見合った風林火山の軍配を両手持ちにし、安物のスピーカーを通したような声で信廉ロボが叫ぶ。
「かっかっか、でかきこと山の如し! 猟兵諸君よ、いざ最期の血戦と参ろうぞ!」
「風林火山の山のパートって、そんなんだったっけ?」
 首を傾げつつ、アルメが前に出る。
「まあどうでもいいや。でっかくなれるのが自分の専売特許だなんて思うなよ!」
 そう言うアルメの体は、全体的に見れば別段巨大化しているわけではない。ただ、右腕だけ、正確には右腕に装備しているツギハギグローブだけが、倍か三倍ほど大きさにまで膨れ上がっていた。
 アンバランスなそれを、しかしアルメはがっちりと拳を握りしめて振りかざし、信廉ロボに突進する。
「ぬん!」
 信廉が軍配を斧のように振り下ろすのを、アルメは横っ飛びに回避する。
 と、今度はそれを追って、蠅叩きよろしく広い面でもって横殴りにしてくる。
(――かわしにくい!)
 瞬時に判断したアルメは、軍配を引きつけたところで【奇妙な拳骨(ゼルトザームアームハンマー)】を叩き付けた。
 ドゴォ! と、超重と超重が豪速でぶつかり合う鈍い音が轟く。
「……その小兵ぶりで、この一撃を止めるかよ!」
「当然! 正義の拳が、負けるもんか!」
 強気に言い放つアルメではあったが、腕から全身に響く衝撃はすさまじかった。それでもその激痛に耐えつつ、もう一度拳を振りかぶる。
「おぉおぉぉッ!」
 裂帛の気合いとともに、アルメの魂の剛拳が軍配の根元あたりに炸裂した。今さっきの轟音のさらに倍する音が響き、軍配は見事に圧し折れた。
「ば……馬鹿な!?」
 信廉ロボが、驚愕の声を上げる。
 その動揺を見逃さない者がいた。
「出てきなさい!」
 その声は、上空から降ってきた。声の主は【紋黒蝶(ウィークフェイカー)】によって黒い蝶の翅を身に纏い、飛翔能力を得ていたフローリア。その声に応じて彼女の呪いの指輪から数十の小さな黒人形をが生成され、わらわらと信廉ロボに取り付いていく。
「ぬ、な……何!?」
「動かざること山の如し、が正しいのよね。山みたく動かずにいなさいな」
 鎧の隙間、関節部分などに入り込んだそれらのせいで、止まるとまではいかないものの、大きく動きが鈍る。
 その動きの鈍ったところを見逃さない者がいた。
「その具足ごと――」
 信廉ロボの腹あたり、胴と草摺の間に短槍型のドラゴンランスが突き刺さる。間髪入れずにそれを足場に駆け上るように跳んだのは、紅音。黒龍焔月刀から禍焔の大剣へと形を変じさせ、黒い炎を纏ったそれを大上段に振りかぶり、そして。
「叩き割ってあげる!」
 縦一文字に【地裂岩断撃(チレツガンダンゲキ)】を打ち下ろす。甲冑が重なり合い、堅固を誇った信廉ロボだったが、紅音の剛腕と黒焔竜剣の破壊力の前には抗すあたわず、唐竹割りよろしく真っ二つになった。
 それは中の信廉ごと、と思いきや。
「我が合戦具足が、こうもあっさりと……!?」
 しぶとくも、信廉はすんでのところでロボから脱出していた。しかし。
「逃がしません」
「ぬ……!」
 逃げた先には既に、風のように迅速に紗織が迫っていた。
 信廉は、最後に残った武器、太刀でもって破れかぶれの乱世斬を放とうとするが、それを察した紗織のさらに速度を上げた踏み込みの方が、半歩だけ速い。
「――ふ。やはり兄上のようにはいかんか」
 ちょん、と。
 流麗な剣閃が信廉の首を通り過ぎ、そして、斬り落とす。
「……武田信廉、討ち取りました」
 紗織が宣言すると同時、武田信廉を構成していたモノはざらりと黒い塵のような何かに変じ、そして空間に溶けるように消えていった。

●知り難きこと陰の如く
 かくして武田二十四将が一将、武田信廉は跡形もなく骸の海へ還ったのだった――と、思いきや。
「……何だ、これ?」
 信廉ロボを形成していた甲冑――これらは元々この世界にあった鎧だったらしく、骸の海に道連れにはならなかったようだ――がボロボロに崩れた中から、スコッティが奇妙な物を発見した。
 それは、巻物だった。題を示す付箋を見てみると、『第六天魔軍将図』と読める。
「第六天魔軍……え。それ、信長軍って意味じゃないの?」
 兄の手元を覗き見たネピアが、若干緊張した声で言う。
 サムライエンパイアにてオブリビオンフォーミュラと目されているのは、第六天魔王・織田信長。字面からするとこの巻物は、その織田信長軍の将軍を記したものということになるだろう。
「こりゃまた、何つーか……妙なもんが手に入っちゃったんじゃないか?」
「と……取り敢えず、グリモアベースに持ち帰ってみようよ」
 織田の企みを潰しに来たところで、また新たな企みの臭いのする物にぶち当たる。予測の外のことではあったが、とにかく戦勝のことも含めて報告しなくてはならない。猟兵たちは帰路についた。
 この巻物が後に猟兵たちに、あるいはサムライエンパイアに何をもたらすのか。それは、まだ誰にもわからなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年07月30日


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#サムライエンパイア
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#【Q】
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#寛永三方ヶ原の戦い
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#武田二十四将


30




種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト