きらきら、きらきら、星がふる。
無限の大きさを持った宝石箱のような、眩しい空から光が零れてきていた。
それは星を象った氷であろうか。
星色の精霊が舞わせた燐光の残滓であろうか。
あるいは風に吹かれてきた、淡く光る小さな花であろうか。
それはこの丘に満天の星が耀くときにだけ起こる、少し特別な天気。
だからそんな日は星の雫の降る夜だといって、この美しい眺めを知る数少ない人々が訪れようとすることもある。
森を抜けて、少しだけ長い距離を歩いて……それでも、きっとそれに見合うだけの景色がそこにはあるから。
けれど、その光に惹かれるのは、或いは現在を生きる命だけじゃないのかもしれない。
燦めく氷晶の風を吹かせて、その丘に降り立つ大きな影があった。高らかな鳴き声を上げて星を浴びる、鷲獅子の姿。
耀く景色の中で、暫し飛び回ったそれは──羽ばたいて大空を翔けてゆく。
「とても美しい夜だといいます」
グリモアベース。
千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は猟兵達に説明を始めていた。
話はアックス&ウィザーズにある、とある自然の中にある丘でのことだという。
「星の雫が降る夜──見たことのある方は、そんなふうに呼ぶのだとか。まるで星のような光が、優しく注いで眩しいほどだと」
今宵は丁度、そんな夜になるらしい。
けれどそこに呼び寄せられたように、オブリビオンが現れるのだと言った。
「まだ、人々の被害はありませんが……放っておけばその限りではないでしょう」
そうなる前に討伐をお願いします、とレオンは言った。
こちらが出発する時刻は夜の帳が降り始めた頃。
「丁度、空に星が見え始める時間でしょうか。辺りは少々暗くなりますが、皆様には森の中を歩いていただくことになりそうです」
レオンは地図を示して説明する。
丘は森と隣接しており、敵に辿り着く最短の道が、その森を真っ直ぐに抜けることなのだという。
「翠の豊かな、昼間だけでなく夜でも美しい森ですが……今回は注意をしてください。丘だけでなく、道中にも進行を阻む形で敵がいます」
それがイービルスピリット。
澄んだ夜の中では一瞬、精霊とも見間違えてしまう可能性もある姿だが──それは邪霊の類であるという。
「明るく光っていても、危険な敵です。空を飛びますから、高所にも追ってくるはずなので警戒をしておいてください」
森を抜ければ、すぐに今回の目的であるオブリビオンと遭遇するだろう。
「氷雪の鷲獅子──景色を独り占めしようというのでしょうか? 発見したものを無差別に攻撃しようとしているようです」
戦闘力も高いのでご注意を、とレオンは言った。
「このオブリビオンを倒すことができれば、皆様もゆっくりと星の夜を楽しむことが出来るはずです」
そのてのひらに降る星の正体は、何だろうか?
「星の雫は掬う本人によって、花であったり、氷であったりすると言います。その目で確かめるのが良いでしょうから──」
平和な星の夜を取り戻すために。
参りましょう、とレオンはグリモアを輝かせた。
崎田航輝
ご覧頂きありがとうございます。
アックス&ウィザーズの世界でのオブリビオン討伐となります。
●現場状況
森から続く丘。
夜の帳が降り始めた頃で、戦闘後には丁度満天の星空となりそうです。
●リプレイ
一章は集団戦、敵は『邪霊』イービルスピリットです。
森を進みながらの戦いとなります。
二章はボス戦、敵は『氷雪の鷲獅子』となります。
美しい氷を行使する敵で、見たものを無差別に襲うようです。
三章は丘で過ごします。星を眺めたり、星の雫と言われるものを見て過ごすことになるかと思います。
第1章 集団戦
『『邪霊』イービルスピリット』
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POW : 怒りを誘う霊体
【憤怒・憎悪・衝動などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【怒りを増幅させる紅顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
SPD : 欲望を促す霊体
【情欲・執着・嫉妬などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【欲望を刺激する黄顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
WIZ : 悲しみを広げる霊体
【失望・悲哀・恐怖などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【心の傷を広げる蒼顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
👑11
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ハーモニア・ミルクティー
【wiz/アドリブ歓迎】
星が降る夜だなんて、とってもロマンチックじゃない!
星の雫はどんなものなのかしら?とっても気になるわ!
早くオブリビオンを倒して、星空を取り戻しましょう。
【Titania】で翅の生えた人間女性に変身するわ。
飛翔しながら、技能の【目立たない】や【追跡】を駆使しましょう。
邪霊を見つけたら、矢をつがえた【Astraea】で邪霊に向かって【先制攻撃】ね。
星空が待ち遠しくて、とってもワクワクしているの!負の感情なんて、抱くわけないじゃない?
邪霊と空の追いかけっこになっても、大丈夫よ!
飛ぶことに関しては、とっても自信があるもの!
一気に加速して、上空から矢を降らせるわ!
透明な夜が降りてくる。
柔らかいオレンジの時間が過ぎ去ってしばらく。
地平線の向こうに落ちた太陽が、淡いブルーアワーを残したその後に、世界に宵がやってきていた。
今日の夜天はいっそう澄み渡っていて不思議なほど。
暗いけれど、深すぎる闇とは少し違う。澄んだ夜気を無限に重ね合わせたら、自然に夜色に彩られていたような、そんな空気。
だからこんな空に星が降る夜だなんて──。
「とってもロマンチックじゃない!」
ふわり、ふわり。
華やいだ声音と共に、森の前へ舞い降りてくる可憐な影があった。
光に透けた翅をぱたりと羽ばたかせ、きらりと燐光を瞬かすハーモニア・ミルクティー(太陽に向かって・f12114)。
星の雫が見られるというから心は少し浮き立って。爛漫な表情も期待の心を表す。
「どんなものなのかしら? とっても気になるわ!」
もちろん、それを見るために少しの旅路をゆかねばならない。
何より、そこに敵がいるというから。
「早く倒して、星空を取り戻しましょう」
ライラックの瞳をぱちりと閉じて、一度宙でふわんと廻る。そうすると妖精の体が淡い光に包まれて、そのシルエットを大きく成長させていた。
──Titania(ティターニア)。
光の晴れたその姿は、翅の生えた人間女性。
麗しくも可憐さを残した姿はそのままに、空飛ぶ力と戦う力を高めた真の姿。
風を大きく掃いて、まるで宙を滑るように翔んだハーモニアは──そのまま自然の楽園へと入り始めていく。
(まあ! 森もとても綺麗なところね!)
思わず見回してしまうのは、そこが花と翠に溢れた世界だったからだ。
瑞々しく色づいた葉っぱ。大輪を夜風に揺らす花々。夜になって明るさは減ったけれど、その分色彩が濃くなったような気がした。
とはいえ、そこに迷惑者はいる。
ハーモニアは自身の気配を薄めながら、同時に別の気配を追跡することでそれを見つけていた。
焔の体で宙をさまよう邪霊、イービルスピリット。
夜は精霊でも妖精でもなく、自分達の時間だと言ってみせるように。五体ほどが悠々と光を明滅させている。
こちらを見つければすぐに敵意を向けてくるだろう。
しかし、ハーモニアは気づかれる前に既に美しいハープボウの弓弦を引いている。
星空と海をあしらい、鏃も星のように耀くAstraea──瞬間、その弦を弾いて矢を飛ばし、暗い森に光の直線を描いてみせた。
高速で通り過ぎる衝撃に、邪霊達は一気に穿かれて消滅していく。逃れた一体が接近して攻撃をやり返そうとしてきたが──。
悲しみを誘うような、薄暗い炎の揺らめきを目の前にしても。ハーモニアの天衣無縫な心は全くその光を失わない。
「哀しんでほしいのかしら? でも、ダメよ!」
首をふるふると振って、まだ光の無い天を仰いでみせる。
「だって、星空が待ち遠しくて、とってもワクワクしているの!」
──だから負の感情なんて、抱くわけないじゃない?
濁らぬ心で、ハーモニアはお返しの矢を放つ。眩しい光を携えたそれは、たがわず邪霊を貫いて消滅させた。
戦いに気づいて、他所にいた邪霊達も複数飛来してくる。
左右から挟むようにして、一気に追い詰めるつもりだろう。けれどハーモニアはその翅で風を切り真上へ。敵の挟撃から逃れるように飛翔した。
邪の焔達も、追うようにして浮上してくる。
「追いかけっこかしら? それも、とっても自信があるのよ!」
ハーモニアははきはきとした表情を見せながら、木立の上まで昇っていく。邪霊達も、餌を追う海の魚のようについて来ようとしたが……追いつけない。
一気に加速して大空へ躍り出たハーモニアは──くるりと回って弓を向けて。矢の流星雨を降らせて敵を一掃した。
そのままゆるく下降しながら、ハーモニアは前進していく。
「夜の空気は、涼しいわ」
その風が心地良くて、だから星が出るのがいっそう楽しみだった。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
星空の雫、ね。興味あるな。猟兵としちゃ、様々な世界の情景見られるのは役得ってモンだ。それを活かさない手はないぜ。
ついでにオブリビオンもぶっ飛ばして万事解決。ハッピーエンドだ
【POW】
ハッ。どっかで見た事ある面だな。辛気臭ぇ面してっと不幸が寄ってくるぜ?
二丁銃にて【二回攻撃】しつつ雷の魔力を込めて【属性攻撃】。一体じゃないんだろ?じゃあ、乱射しながら【範囲攻撃】とUCを交えて広範囲に銃撃をぶちかますぜ。
負の感情だって?やれるもんならやってみな。【残像】を残して移動。【第六感】で予知しつつ、勘で【見切る】ぜ。
空を飛ぶって情報だが、そんな連中はごまんと見てきた。撃ち落とすぐらいは訳ないと思うぜ
木々の間に漂う空気はひんやりとしていて、けれど冷たすぎない。
数多の緑の中だからだろうか。植物達に撫ぜられて吹く風は、どこか優しい肌触りでもあった。
「しかし、自然の豊かな森ってのは本当だな」
さらさらと枝葉が揺れる中を、すたりすたりと歩みゆく青年が一人。
微風に銀糸の髪を揺らしながら、景色に視線を巡らせるカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。
敵への警戒は欠かさまま、立ち並ぶ木立や珍しい花にも目をやっていた。
この森の眺めも充分に美しいとは言える。
故に空にいっそうの期待を抱くよう、カイムは紺藍の瞳で上方を仰いでいた。
「星空の雫、ね」
輝きながらも不可思議だという景色。
それが如何なものかと、待ち遠しい気持ちがあったのだ。
傭兵の仕事として様々な世界の情景を見られるのならば、それは役得というもの。
「折角なら、それを活かさない手はないからな」
それからついでに、と。
グローブを嵌めた手を腰元のダブルホルスターに近づける。そこに挿した二丁の銃に触れながら──視線を薄暗がりへと注いでいた。
「オブリビオンもぶっ飛ばして万事解決。ハッピーエンドだ」
その声が木々にエコーして、空気に消えたちょうどその時。
森の奥から焔の塊の如き影が出現してきている。
妖しい揺らめきに茫洋とした温度を宿し──精霊とは真逆の印象を与える邪霊。
怒り、哀しみ、欲望。昏い感情を想起させて止まない、心の裏側を灼くような炎を湛えた陽炎達。
カイムはそれを間近にしながら、後ろには退かず。
「ハッ。どっかで見た事ある面だな。辛気臭ぇ面してっと不幸が寄ってくるぜ?」
ブーツで地を踏みしめると、素早く双魔銃オルトロスを握って。
まずは正面を狙いをつけて──眩いマズルフラッシュを閃かせていた。
そのまま最初の銃声の残響が消えぬ内に、速射力を発揮して次弾。瞬く内に、合わせて四発の弾丸を放っている。
雷の魔力を籠めたそれは、空間にばちりと光の軌跡を描いて。苛烈な破壊力をもって命中し、一体を雷光で爆散させた。
「まずはこんなモンか。でも、一体じゃないんだろ?」
カイムの不敵な笑みに応えるかのように、後続の邪霊が次々に現れる。
飛来してきた五体は燃えたぎったままに散開して、複数方向からカイムの感情を逆なでしようというつもりらしかった。
「やれるもんならやってみな」
涼しげに言ってみせながら、カイムは惑わない。
何故なら、鋭敏な第六感で既に敵の動きを予見していた。浅く膝を落とし、素早く横っ跳びに跳躍すると──その場に残像だけを置いて敵の標的にさせる。
邪霊達が、それがただの空虚な空間だと気づいたときには、カイムは緩やかに宙返りしながら銃口を二方向に向けていた。
瞬間、閃光が踊る。
ばら撒いたのは紫雷の銃弾(エクレール・バレット)。耀くその銀弾が、光の直線を無限に描くように空間を満たしていた。
邪霊を穿ち、貫き、千々に散らして。広範囲を襲った乱射は、その場の敵を一息の内に一掃してしまう。
トレンチコートを翻し、カイムが着地する頃には周囲は静寂。雷の残滓だけが暗がりを仄かに照らしていた。
「さて、真っ直ぐ進めばいいんだったな」
表情には変わらぬ余裕を含んだまま。銃をくるりと手元で回転させて、カイムは颯爽と歩を進めていく。
大成功
🔵🔵🔵
イシャ・ハイ
「La、La」
暗くなる森、静かな世界
てのひらに降る星が
私は見たいの
夜の森はすきだから
連れた小鳥達も一緒なら
なんにもこわくない
その光は人々を惑わす偽物だから
わるい光は、消してしまいましょう
ひらり霊体の憑依攻撃を避けるよう意識して
距離を置いて、うたう
悲しみを誘う蒼顔が
ここに居る皆様を傷つけぬよう
勇気を紡ぐ歌をうたう
「La、La」
負の感情をのせた闇が覆い尽くしても
皆様の心が折れることはないのよ
あなた様の勇気が、この夜の光
霊体が私を傷つけても
狂気におかされることはない
あの人に逢うことができるまで
私ができるのは歌うこと
【歌唱、狂気耐性】
※表情豊かな無口、意思表示はジェスチャーとただ歌うだけ
紅狼・ノア
*アドリブ・絡み歓迎
この森を抜ければ例の美しい星空があるだって?
それは楽しみだなぁ
ん?…なんかいるね…【第六感・野生の勘】
あれは…スピリット?なんか邪悪な感じだね
これっでさある感情になったら憑依してくるパターンじゃね?
もしそうならめっちゃ厄介じゃん!面倒~
パッと見…怒り・欲望・悲しみ?…その感情に違い状態にならなければ大丈夫かな?
なら『喜び』か『無』はどうかな?【演技・歌唱・演奏】で喜びの感情になるよう作る
怯んでる隙があればそれを見て攻撃
おっと念のため【オーラ防御】しとかないと
実体を持たない奴らだから倒してもまだ湧いてくるよな
なので僕はサポート側に回ります
攻撃は仲間に任せるよ
イーファ・リャナンシー
星の雫が降る夜…見てみたいわね
そんな綺麗な場面を見られたら、今度こそ忘れずにいられるかしら…
もしかしたら記憶喪失になる前、ここに来たことがあったりしてね
どこで敵に遭遇するか分からないし、一応、物陰に身を隠しつつ進むわ
単純に視覚で生き物を探してるんだとすれば、私の身体の小ささは武器になるかもしれないし
出来れば、敵から不意討ちされるよりは不意討ちする方にまわりたいところね
戦闘になって、敵が霊体を飛ばしてくるようになったら【フェアリー・リング】でどっかに飛ばして打ち消すわ
周囲に誰か仲間がいるようなら、同じ要領で仲間が精神攻撃されるのを邪魔できるといいけど…
攻撃する時は【全力魔法456】を使うつもりよ
夕刻だった翠の森が、ほんのりと、少しずつ暗さを帯びてくる。
鮮やかな色彩で描いた木々の間に、上から夜色の空気が流し込まれたように。しっとりと、涼しい心地が景色に満ちていく。
そうするといつしか静けさも一緒にやってきて。
そこはもう太陽の居た頃とは違う宵の時間。何か悪いものだって漂ってはばからないであろう、暗い世界だった。
けれどそんな夜の中を少女──イシャ・ハイ(星追鳥・f19735)は前へ歩みゆく。
「La、La」
艶やかに、清らかに歌いながら。
羽が撫でるような足取りで、心のおもむく先へ進みゆく。
明るさも賑やかさもなくなった景色は、夢に似ていて夢とは違う。
それでも色素のないましろの髪をふんわり棚引かせ、迷わず前を目指すのは……夢じゃなくてもそこに星空があるから。
耀く雫。
てのひらに降る星。
それが私は見たいの、と。
「La、La」
不穏な気配もあるけれど、寂しい静けさは清澄に響く歌によって優しいしじまに変わる。
それに、一緒に連れた小鳥達も戯れるように羽ばたいているのだ。
綺麗な赤の子、優しい黄色の子、純な青の子。色とりどりのみんなが唄に游ぶように、踊るように、思い思いに囀り少女と離れない。
だからイシャは、なんにもこわくない。
木々を通り過ぎていくと、ぽつ、ぽつ、と。焔が形をとったような霊が現れる。
時に朧に、時に眩しいくらいに滾って、心の中に入り込もうとしてくるこの世ならざるもの達。
けれどイシャは少しの間、確かめるように見つめて。邪霊達が空中を進んできても、ひらりと後ろにステップするようにその攻撃を避けていた。
周りを見れば焔もいるけれど、それと戦う仲間の姿も見える。
だからイシャはすぅ、と涼やかな空気で呼吸して。
始めは囁くように、そして次に伸びやかに。沢山の色を含んだような魅力的な声で──皆へと届く唄を歌い始めた。
その光は人々を惑わす偽物だから。
わるい光は、消してしまいましょう、と。
深い緑の森は、広大だ。
遥かに天を衝く木立。無限の葉っぱ達に、自分の体くらいに大きく開いた花。
漆黒とは違う美しい夜だけれど、木々の奥は終わりが見えない──そんな森の中を、ひとりの妖精は翔んでいた。
イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)。美しい蒼穹か、或いは波紋に揺れる水面のような髪をそよそよと揺らしながら、淡い虹を刷いた羽で進んでいく。
「それにしても──」
と、呟いて見上げるのは、木立のずっと上方に覗く空。
「星の雫が降る夜……見てみたいわね」
琥珀の瞳に、まだ星は一つも映らない。
だからこそ、もうすぐやってくるというその時間が楽しみでもあった。
そっと自分の胸に触れる。
(そんな綺麗な場面を見られたら、今度こそ忘れずにいられるかしら……)
透明な部分ばかりが目立つ自分の記憶。そこに美しい感動とともに、思いの形がしっかりと残ってくれるだろうか?
勿論、初めて行く場所だからこそ、自分が何を感じるかは想像が出来ない。
(それとも……もしかしたら記憶喪失になる前、ここに来たことがあったりしてね)
一度だけ目を伏せて。
今はただその景色をこの目で見てみたいと、そう思った。
「だからこそ……ここで止まってはいられないわ」
羽ばたいて幹の陰から枝の裏、ときに花の下に身を隠しながら進んでいく。敵が視覚を頼りにしているのだとすれば、この体の小ささは武器にもなるはずだから。
果たして思惑通り、イーファは先んじて敵を見つけた。
大きな葉から顔を覗かせると──前方に邪霊が三体ほど浮遊している。
こちらには気づいていないが、時折索敵するように周囲を巡っていた。このままではこちらも見つかるだろう。
けれどイーファはその猶予を与えはしない。
「ひとまず、倒させてもらおうかしら」
後方へ回り込み、三体を視界に収めたイーファは──真っ直ぐに手を翳していた。
すると花の腕輪が微かにだけ光る。その直後、眼前に虹が広がったように綺羅びやかな輝きが空間を満たした。
それは魔力を注いで発現させた衝撃の塊。膨大なまでの威力を有したそれは、邪霊を一瞬で消滅させていた。
その気配を察知して他の邪霊達も集まってくるが、イーファは焦らない。光の輪──『フェアリー・リング』を顕現すると、敵の放った霊体を亜空間へと飛ばして打ち消した。
敵に隙ができれば再び魔力をぶつけて倒す。攻撃を受けることもなく、イーファはすいすいと前進していった。
と、その先に仲間の姿を見つける。
それは、イシャだ。
敵と充分に距離を取っているようだったが──イーファは念を入れてフェアリー・リングを発射。その煌めきで、敵の攻撃を早い段階から吸い込んでいった。
光の残滓が舞う中で、イシャは唄う。
言葉無く、小さな身振りでイーファにありがとうを示しながら。あとは燦めく歌声を風に乗せて、イーファや仲間達の心を助けていく。
「La、La」
悲しみを誘う蒼顔が、ここに居る皆様を傷つけぬようにと。
イシャが編んでゆくのは勇気を紡ぐ歌だった。
例え負の感情をのせた闇が覆い尽くしても、心が折れることはないと。あなた様の勇気がこの夜の光なのだと、そう言ってみせるように。
唄は確かに空気を彩って、皆の背中を支えるように意志を強くさせる。
心につけ込ませず、惑わせず。憂いを断った猟兵達は歌声に勇気を得て邪霊を斃していった。
悪き光達もただではやられまいと、必死にイシャの心へ潜り込もうとする。
けれどどれだけ心に触れられようとも、少女は狂気におかされることはなかった。
声音が踊って、お友達だって一緒にいるから。
そうしてあの人に逢うことができるまで。
できるのは歌うこと。
「La、La」
唄が場の哀しみを拭い去ると、その焔は敵わぬと思ったのだろうか、逃げるように離れて消えていった。
夜の暗さが戻る中、イシャは歌ってまた歩む。
その声は少し、まろやかな輝きを帯びていた。
仄かに夢の中のことを想像して、それから空を見上げていたのだ。
天には星は一つも出ていない。けれど、イシャの瞳には星空を映したように沢山の煌めきが宿っている。
漆黒の中に星が踊るような、美しい、あの輝き。
だからイシャは早くその目で星を見たかった。それは夢に似ているだろうかと、少しだけ思いながら。
「La、La」
麗しい唄が響く。遠くない場所にある、星空を目指して。
森は中腹を過ぎて、一層自然の色が濃くなってきたようだ。
花は密度が増し、葉はより瑞々しくなって。見上げれば木立が空を完全に隠してしまう瞬間もある。
「中々、広い森だね……」
時折地面を覆う花の絨毯を避けて歩んだりしつつ、紅狼・ノア(捨て子だった人狼・f18562)は行軍を続けていた。
決して短くはない道のり、だがノアにとっては森を歩くことなんて、いくらでも経験してきたこと。だからまだ疲れた様子もなく、すたすたと歩み進んでいる。
「この森を抜ければ例の美しい星空があるんだっけ。楽しみだなぁ」
今はまだ大空は望めないけれど。
きっとその景色は美しいに違いない。そんな楽しみを想像すれば、足取りも少しばかり軽くなろうというものだった。
と、ノアはそこで少し立ち止まる。
野生の勘とでも言うべき第六感。それが何かを察知していた。
「ん? ……なんかいるね……」
静かに左右を見回す。未だ何も見えていない段階だが、そこに敵の気配があることを確かに感じ取っていたのだ。
ノアは木の陰に隠れてながら進み、それを見つけた。
少しばかり開けた空間に、ふわふわと浮かぶ焔のような塊だ。
「あれは……スピリット? なんか邪悪な感じだね」
昏い色味の光を、目を細めてノアは見つめる。
一見不思議な光としか見えないそれは、尋常のものが見れば単に何か危険なものとしか思われないだろう。
けれどノアは短時間の観察で、必要な情報を読み取っていた。
「こっちの心に干渉してくるみたいだね。んー、そっか、これって、ある感情になったら憑依してくるパターンじゃね?」
手を打ちつつも、一旦軽く腕を組んで頭をかしげる。
「もしそうならめっちゃ厄介じゃん! 面倒~」
けれど、それは八方塞がりの合図ではない。ノアは一瞬後には獣奏器を取り出して、既に対抗策を練り上げている。
「パッと見……怒り・欲望・悲しみ? ……その感情にならなければ大丈夫かな?」
即ち、それと相対する『喜び』か『無』。
その感情を上書きするように、或いは前もってその心を作り上げられるようにすれば、敵の能力の介在する余地もなくなるはずだと。
ぽろん、ぽろん、と。
演奏するのは喜びを描く明朗な曲。それが昏い空間に朗々と響くことで、場を包む雰囲気そのものを変えてしまっていた。
邪霊達は無論、こちらに気づいて飛来してくるが──曲に怯んでだろうか、一瞬その場で静止して攻撃に迷う素振りを見せていた。
その隙があれば攻撃するのにも苦労は要らない。
オーラによる防御で念を入れ、ノアは素早くダガーを抜き放って一閃、霊を霧散させた。
着地するとふうと息をついて、見回す。
「実体を持たない奴らだから倒してもまだ湧いてくるよな……」
実際のところ、消えた敵がどうなるかは分からない。ただ、演奏を続けながら攻撃を兼ねるのは簡単ではないだろう。
見れば、新たな敵も出現してこちらに向かおうとしている。
と、そこへ別方向から美しき燐光と共に翔んでくる姿があった──イーファだ。
木々の間を静かに吹く風のように、イーファは陰から陰へと飛行していた。
その先に邪霊がいれば不意を討って倒し、仲間がいれば協力して。妖精には巨大ともいえるこの森林地帯を、確実に進み続けている。
「……あら」
と、その道中で見つけたのがノアだ。
ひとりで複数の敵を前にしていたから──イーファは羽を少しだけ折りたたむ。そのままゆるく錐揉みするように降下して、一息に接近していた。
そして耀くリングを放ち、敵の攻撃を無力化。連続で苛烈な魔力の炎を撃ち出してその敵陣を撃破していた。
「ありがとう。少し、攻撃は頼んでもいいかな」
「ええ。どのみち敵がいれば、戦うつもりだったから」
ノアの声にイーファは応え、後続の敵へ攻撃を続けた。
その間、ノアはサポートに回り演奏に徹する。
空気を明るく保つメロディは、イーファだけでなく近くにいる猟兵達へも効力を発揮して。敵に惑わされぬ戦いを支え、その前進を速めていった。
森から出るまでには、おそらく長い時間はかからないだろう。
イーファはその向こうにある景色を、心に描いてみた。
「どんな眺めなのかしら」
見たことのない場所の綺麗さは、やっぱり上手く想像することが出来なくて。だから早くそこにたどり着きたいと、そう思った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋翠・華乃音
この世界は本当に美しい景色が多い。
……さて、景色を眺めに行くついでに敵の排除といこうか。
気配を消して森へと侵入。
可能な限り地面は歩かず、木々の枝上を素早く縫う様に移動。
足音や物音は最小限に留める。
暗視と優れた視力、聴力、直感を用いて敵よりも早く姿を捉える。
攻撃方法はヒット&アウェイ。
遠距離なら狙撃銃、中距離なら拳銃、近距離ならナイフとダガー。
状況と戦況に合わせて戦闘スタイルを変化。
常に敵の行動を見切り、予測して自分のペースと土俵に相手を引き摺り込む。
UCは必要と判断した場合に使用。
森の踏破や戦闘に有利となる技能は適宜使用。
無駄な感情は一切排し、淡々と敵を処理していく。
空が淡い藍色に変遷していく。
夜のヴェールがかかった世界は、数分前とまるで様相を異にするようだ。
全てが色濃い世界。
宵がただの暗闇と違うのは、全てを閉ざしてしまうのではなくそこにあるものを鮮やかに見せるからかも知れない。
「この世界は本当に美しい景色が多い」
瑠璃の瞳に天を映し、緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)は涼風に呟いていた。
木々も花も美しい。
だから、森の先にある景色もまたそうなのだろうと想像できる。
故に華乃音は夜色の外套をゆるく靡かせて、前に踏み出していた。
「……さて、景色を眺めに行くついでに敵の排除といこうか」
言うとあとは声音にも表情にも、無駄な感情を含ませず。
静かに──そして疾く疾駆し始めた。
木立の間に入ると、まずは素早く視線を左から右へ。地形と植生を一瞬で見て取って、幾つかの木々に当たりをつけた。
同時に、頭の中で経路を描きながら止まらずに跳躍。太い枝を階段にするよう、高所へ駆け上がっていた。
周囲を俯瞰で見られる高さに着くと、そのまま枝上を素早く縫うように前進。枝のきしむ音すら立てず、足場を軽々と踏み渡っていく。
まるで一陣の風。
木から木へと吹き抜けるように、華乃音は気配を消したまま移動を続けた。
その間にも暗視の能力と優れた視力、聴力、そして直感を頼りに、周囲の情報を逃さず捉えている。
故に視界の端に揺らめく紫を見つけると──すぐに動きを止め、大木の陰に隠れた。
(……敵か)
怜悧に、その瞳で見るものを分析する。
距離は五十メートル。
向こうはこちらを発見しておらず、高度の面でもこちらに理がある状況。
それは浮遊しており、こちらを見つければすぐに距離を詰めてくるだろう。だがそうなっても交戦までには時間の余裕がある位置関係だ。
それだけ判れば充分。
元より、華乃音には猶予も要らない。すぐに狙撃銃を手に取り、照準をその敵──邪霊に合わせていた。
超長距離の狙撃を可能にする武器をもってすれば、この程度の距離は零と大差ない。
遠距離の敵はそもそも見つけにくい環境だが──見つけてしまえば苦労はない。
引き金を引くと、僅かな反動が体を揺らす。同時に弾丸が真っ直ぐに飛んで、違わず邪霊を散らせていった。
その近くにいた邪霊は、遅れてどこかから攻撃を受けていると気づく。
けれど敵は既に遅きに失しているのだ。次の瞬間には華乃音が二射目、三射目。容赦なき弾丸で次々に敵を砕いていった。
「次だ」
華乃音は表情ひとつ変えず移動を再開。飛び石を渡るように森を駆け抜けていく。
無論、邪霊達は地面付近にだけいるわけではなく、空中にも存在する。だから不意に現れた複数体と、華乃音は至近距離で遭遇するが──。
「……」
迷いなく、既に黒艶のナイフを抜き放っていた。
まずは縦に廻転して一撃、疾風の如き斬撃で一体を散らす。そのまま対面の枝に着地すると、滑るようにして一段下の枝へ。素早く向き直り敵全体を視界に収めた。
敵の動線を確認すると、夜闇に蝶を舞わすよう、ダガーを投擲。同一直線上にやってきた二体を貫く。
直後には自分自身もその方向へ跳んで、幹に刺さった刃を回収。振り返りざまに更に二体を切り払った。
戦いは終始、華乃音のペース。
縦に横に翻弄され、邪霊は華乃音の土俵の上で踊らされているに過ぎない。僅か数秒の後にはその数体は全滅。再び静寂となっていた。
ふっ、と。
華乃音はごく小さく、息をつく。
ただそれだけで、あとの感情は表さない。淡々と、ただ敵を処理しながら夜風のように森を抜けていった。
大成功
🔵🔵🔵
カーティス・コールリッジ
土に、草に受け止められる感触
風にのるみどりのにおい
それは星海の人々が焦がれ夢見たもの
おれはいま、その只中にいる
視て、得て、識った、このせかいのきらめきを
母艦で待つ仲間たちに伝えなくちゃいけない
目に、脳にしっかりと焼き付けよう
星の民の希望が、ここにはすべてあるのだから
被験体XX、目標地点に到達しました
CC、出ます!
――”Open fire!”
バトルインテリジェンスで能力値を向上させたのちクイックドロウで応戦
零距離射撃で不確かな敵をひとつずつ撃ち抜いていく
相手が与えんとする負の感情
それよりも、もっと、もっと
この胸に満ちるゆめと希望で塗りつぶしてしまおう
こっちにおいで!
まとめて撃ち抜いてみせるから!
夜空を滑る蒼銀の魚影が、ゆるい旋回軌道を描いて地面に近づいてくる。
密度の濃い空気の中を、泳ぐように森へ接近した空陸両用高速戦闘機──Stingray。そこから降り立った少年は、自然の景色に少し見惚れた。
カーティス・コールリッジ(CC・f00455)。視線を巡らすようにぐるりと眺め、その世界の彩を瞳に吸い込んでいく。
──なんて、色にあふれた世界。
土に、草に受け止められる感触。
風にのるみどりのにおい。
それは、星海の人々が焦がれ夢見たもの。
(おれはいま、その只中にいる)
果て無い宇宙や、無限の星々といった、自分をつくりあげたところの広大さとはまた違う、雄大さとでも言うべきもの。
命が息づいて、触れている地面すら呼吸しているかのようなあたたかさ。
視て、得て、識った、このせかいのきらめきを。
自分は母艦で待つ仲間たちに伝えなくちゃいけない。
だから少年は小さな体で踏み出していく。しっかりと目の前を切り開くための、武器を携えて。
この景色を、薫りを。目に、脳にしっかりと焼き付けよう。
──星の民の希望が、ここにはすべてあるのだから。
唇を一度だけきゅっと引き結んで。あとはもうためらわず。
「被験体XX、目標地点に到達しました。CC、出ます!」
まっすぐ進めばそこは、深い翠が織りなす木々の迷宮。
カーティスは見据えながら熱線銃を握り締めて。
「──“Open fire!”」
瞬間、戦術ドローンを飛翔させ、素早く警戒と戦いのための陣を敷く。同時に駆けて、奔って、緑の中を突き進んで。
そこに邪霊の影が見えれば、銃口を向けて一撃。超高温で構成された加粒子波動砲を発射した。
ひらめいた光は一瞬だけ夜を明けさせしまうほどの光量。認識させる暇もない速度で命中したその温度は、焔の体すら蒸発させていった。
敵から逃げはしない。
邪霊の姿が見えたのなら、零距離射撃で確実にひとつずつ。その不確かな存在を貫いて、灼き尽くしていく。
「うん、このまま進めそうだ」
手応えに、自身で頷きを一つ零して。
この世界にも確かに存在する、世界そのものを蝕んでしまうもの。それを正面から退けて、倒して、駆けていった。
敵もカーティスを脅威と感じてだろうか、奥から十を超える数を引き連れて、数の暴力で以てその心に這い寄ってこようとする。
それでも少年はまだ見ぬ未来への歩みを止めたりはしない。
敵が与えんとする負の感情。
それよりも、もっと、もっと明るくて、楽しくて、わくわくするような。
この胸に満ちるゆめと希望で塗りつぶしてしまおう。
「こっちにおいで! まとめて撃ち抜いてみせるから!」
きらりと耀く瞳で見据え、カーティスは銃を向ける。
その心で敵の攻撃を弾き返し、無に帰してしまうと──そのまま射撃。突き抜ける光で敵の群を消滅させて、森の静けさを取り戻していった。
初めてくる場所だけれど、敵を倒すたびに風がきれいになっていくのが判る。自然が元の平和を取り戻していくのが判る。
だから少年は前へ、前へ。
この場所も、この先にある場所も。
きっと守ってみせるんだと思いを抱き、奔り抜けていく。
大成功
🔵🔵🔵
神宮時・蒼
…神秘。…星が、綺麗に、見える、時期、でした、ね、そういえば
…自然の、中、だから、なのか、より一層、綺麗に、見えそう、です
…空気が、綺麗だから、でしょうか
【WIZ】
…それは、さておき、邪霊とは、また、場に、そぐわないものが、います、ね
…負の、感情。…人の身を、得てから、何か在った、ような、気も、しますが、…もう、忘れて、しまい、ました…
邪霊なのでしたら【破魔】が、効く、でしょうか
【白花繚乱ノ陣】に柳薄荷の白い花びらを混ぜましょう
浄化の花びら、いかがでしょうか
相手が空へと移動したのなら【空中戦】で対応しましょう
…そのまま、星空を、魅せる、闇へと、お帰り、なさい
透明度の高い琥珀色の瞳が、夜を透かして微かな紫を刷く。
地平線と中天で僅かなグラデーションを描く空を、神宮時・蒼(終わらぬ雨・f03681)は見上げていた。
「…神秘。…星が、綺麗に、見える、時期、でした、ね、そういえば」
そっと声を響かせて。
見つめる夜天はすべらかで、まだ光の粒は姿を現さない。
けれどその時刻が訪れれば、きっと美しいに違いないと蒼は思う。
豊かな自然の中だからなのか、或いは空気がとても綺麗だからだろうか。もし星が出たら──より一層きれいに見えるのだろうと。
「…それは、さておき」
と、蒼は瞳を正面に向ける。
森に歩み入って、それほど距離を進んでない場所。静寂に揺れる木々の中に、蒼は既に異様な気配を感じ取っていた。
緑と花と、現在の時間を生きる動物達。その景色に似合わぬ、骸の海から生まれ出た過去の香り。濃色の焔で昏く周囲を照らし、喰らうための獲物を求める異形。
「…邪霊とは、また、場に、そぐわないものが、います、ね」
すた、と。
蒼が足を踏み出す、その遠くない前方にそれはいた。
三体程が集まった霊達。蝕むべき心を探していたのだろう、蒼を見つけるとすぐに浮遊して距離を詰めてきた。
ぽっ、ぽっ、と。
小さく点滅するように、火花を散らすのは暗い想いを想起させる合図。
それを見たものは、明滅に呼応するように心を抉られて、濁流のような自身の感情に飲み込まれてしまうのだ。
けれど、蒼はその静やかな表情を変遷させない。
希薄な心は、投じられた石に波打つ水面と言うよりも、刺激そのものを表面で弾いてしまう氷晶の塊。
その敵が何を求めているのかは、ぼんやりと判る。
でも蒼は、薄紅に色づいた髪の毛先をゆるく揺らがせて。小さく首を振るった。
負の感情、そう呼べるものは──。
「…人の身を、得てから、何か在った、ような、気も、しますが、…もう、忘れて、しまい、ました…」
少なくとも、この敵に与えられるものはないのだから。
月白の外套を、ふわりと靡かせて廻転すると──蒼は細い杖先を踊らせて円陣を描いていた。
その淡く光る紋様が美しい光を湛えると、瞬間。
そこから夜風が吹き抜けるように、月色の花吹雪が生まれて敵の只中に舞い乱れる。
白花繚乱ノ陣(ハナフブキノジン)。
そこに交じる柳薄荷の白い花弁は、花嵐に含ませた破魔の証。
「…浄化の花びら、いかがでしょうか」
清廉なる輝きに含まれる、一層強い聖なる力。
邪の塊である霊達が、その衝撃に耐えられるはずもない。祓われるよう、濯われるよう。花風の中に跡形もなく消え去っていった。
「…まだ、いる、よう、ですね」
蒼が目を向けるのは、木立の伸びる方向──空だ。
花弁の届かぬ距離を取ろうとしてだろうか、邪霊達は蒼の上方を取るようにして攻撃を目論んでいるようだった。
けれど、蒼の心は惑わず静謐の中にある。
とん、と。
軽く垂直方向に力を入れた蒼は、その反作用によってまるで浮かび上がるように空に近づいていた。
真っ直ぐに自分達へ向かってきた蒼に、邪霊はすぐに対応が出来ない。
「…そのまま、星空を、魅せる、闇へと、お帰り、なさい」
その頃には、蒼は空中に術陣を輝かせ、月花を顕現。全てを白に染めてしまうように、焔を飲み込み消滅させていった。
小さな音だけを響かせて着地した蒼は、前へ歩み出す。
星空は近いという、そんな気がした。
同時に、森を抜けた先に獰猛な気配があることも感じながら。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『氷雪の鷲獅子』
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POW : 極寒の風
【両翼】から【自身を中心に凍てつかせる風】を放ち、【耐性や対策のないものは氷結】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 爪による連撃
【飛翔してからの爪による攻撃】が命中した対象を切断する。
WIZ : 凍てつく息吹
【氷の息吹】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を凍らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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●空求む翼
森を抜けた先は広い丘だった。
なだらかで、何を遮ることもなく。ただ優美な稜線だけを描いて景色を彩っている。
表面に生える草も、夜の中で深い青緑に染まって目を惹いていた。
ただ、木々の群生地を抜けた皆が一番に見上げたのは空だ。
ひとつ、またひとつと。
時間が深くなって、星が見え始めていた。
それに従って、何かが高空で煌めくのも見える。
あれが星の雫なのだろうか?
まだ手が届かないし、数える程しか見えないからそれが一体何なのか確認はできない。ただ、星の数が増えるに従ってその煌めきも多くなっていた。
きっとそのうち、謂れに聞くような美しい天気となるだろう。
──けれど。
そこに羽ばたく、大きな猛禽の影がある。
森から出て、ほんの数歩を進んだところでそれは現れた。
鷲というにはあまりに強大で。
獅子と表現するにも足りないところがあまりに多い。
ぱり、ぱり、ぱり。
磨かれた硝子のような、清冽な氷を生み出して。無差別の敵意を見せるそれは──氷雪の鷲獅子。
翼には凍てる風。脚には鋭利なる爪。そして湛えるのは氷の息吹。
獰猛な力をもって、全てを零下に閉ざして退けてしまおうというその敵意は──或いは、丘から邪魔者を排除したいという我儘な心。
顕れ始めた星と雫を、誰にも渡さないという純粋な欲望。
鷲獅子は一度、高らかな声で吼えてみせると──こちらへと滑空してきた。
紅狼・ノア
ふぅ、なんとか森を抜けだな
ん?…何かが近づいてくる【第六感・野生の勘】
(どっさに身を隠す)
あれは…鷲獅子⁉さらに厄介なの来たな…
こんな格好だけど寒さは効かないよ【氷結耐性】
なので凍結の心配はなし!
鷲獅子はいいよね、是非仲間にしたいんだけど無理だよねなぁ
さでどうしますか…空を飛ぶし素早く攻撃をして来る…厄介すぎる
特に翼かね…切り落としてしまおうか?
【オーラ防御】し【闇の幻獣『ガルム』】を召喚(同じく凍結はしない)
ガルムの爪・牙・闇の力を駆使して戦う、ダガーを投げたりして邪魔するよ
そして厄介な翼を【部位破壊】
翼での攻撃と空中戦を封じることができるはず
(罪悪感で心を痛める)ごめんね…
カイム・クローバー
…これ、まだ始まってねぇんだろ?ははっ…こりゃスゲェわ。期待できそうだぜ、なぁ?(右手に剣を顕現させ鷲獅子に向けて)
【POW】
これが雛を守るとか、そういった生存本能みてーなモンなら討伐にも同情って感情が生まれるんだが。こいつにそんなモン有る訳ねぇか。
凍てつかせる風ね。ならこっちは炎で対抗するぜ。滑空時を狙って黒銀の炎【属性攻撃】を纏わせた大剣で【二回攻撃】。飛行時には【早業】で腰元から銃を【一斉発射】で【二回攻撃】。
風に対してはUCにて正面からぶつける。狙いはここだ。UCの炎を【衝撃波】として撃ち出し、空中の鷲獅子を焼き尽くす。範囲をカバーする為に大きく振るって【範囲攻撃】でこの空に弧を描くぜ
イーファ・リャナンシー
この景色を独り占めですって?
そんなわがままはまかり通らないわ
もちろんこの空も、景色も、私たちのものではないけれど…同じようにあんたのものでもないんだから!
【フラッシュ・フライト】で空中戦に応じるわ
小さな体を活かして敵の死角に入りながら戦うつもりよ
凍らせた地形の上に立つことが敵の強化に繫がるなら地に足を付けさせなければいい
逆に敵が着陸しているようなら自分だけが飛んでいるメリットを最大限に活かすわ
個人の戦いはこんなイメージだけれど、敵が飛んでることが仲間の不利になるのなら、臨機応変に対応するわ
攻撃は【全力魔法480】を使ってするつもり
知ってたかしら?
体の大きさと魔力の大きさとは比例しないものなのよ
緋翠・華乃音
銀のグリフォンというのも夜空の星々に劣らず美しいものだな。
君に何一つとして恨みはない。――だが、敵対するというのなら狩らせて貰おう。
他の猟兵が鷲獅子に戦闘を開始した時点で行動開始。
近接戦闘を避ける為、先ほど踏破した森へと潜んで狙撃の準備を行う。
最初は敵を観察。及び情報収集をしつつ攻撃パターンや回避行動等の情報を収集・分析し、見切りを行う。
どれだけ強靭な生物にも隙というのは必ず存在するものだ。
気配を消して気を窺うのは慣れている。
一瞬の隙を見逃さず急所へとUCで狙撃。
以降は適度に位置を変えつつ狙撃を繰り返す。
仮に接近を許すようなら下手な近接戦闘は仕掛けず、森の中で逃げ周って敵を消耗させるのみ。
カーティス・コールリッジ
それは、冬
まだ見ぬ、冬だ
凍りついていく息
過酷な環境でも応じられる改良宇宙服越しでも伝わる冷気
生身のままでは危険だと肌で感じ
Stingrayを呼び戻してコックピットに乗り込んだ
そらはおれの領域でもある
これ以上、すきにはさせないよ!
初手ゴッドスピードライド
制空権を取られぬように軌道を変え、対象の上へ、上へと
その翼を、脚を
地上の猟兵たちが狙い易いよう
自由を奪うようにクイックドロウで撃ち抜いていこう
自分が対象より下になった際
射線がそらに移り変わり、周囲を壊さないと判断した時だけSparkles
おちるばかりが星のありかただとおもった?
Yup!じゃあ、これはセンベツだ!
――いっけぇ!"Surprise!"
イシャ・ハイ
「La、La」
まだ届かないけれど
どんどんかがやく星の群れ
行かなくちゃ、行かなくちゃ
氷の色をした大きな翼
すてき、ね
きっとあなた様の翼なら
星にだって手が届くのでしょう
凍る息吹は自分の勘を信じ
小鳥達と共に軽やかに空中を歩いて避け
【第六感、空中浮遊】
「La、La」
私にも我儘を言わせてね
歌で硝子の迷宮を創りあげ
小鳥達、あの子を迷宮へと誘ってあげて
宙を飛んでいても
ちゃんと出口を見つけてね
【動物と話す、動物使い】
あの子が迷っている間に
傷ついた皆様のこころのために、うたう(シンフォニックキュア
凍てつく風がつめたくても
心はもうあたたかい
だって季節は夏なのだから
夏の夜は、さむくないのよ
【歌唱、楽器演奏】
星が見え始めて、星が零れ始めた宵の刻。
空に一つ二つと光が増えるたびに、夜は少しずつ仄かな明るさを増していく。
丘はぼんやりとその灯りに照らされるようで。同じ緑でも森の中とは違った色合いの景色だった。
その美しさを目にしながら、森を出た直後のノアはふぅと息をついていた。
「なんとか森を抜けたな……ん?」
と、そこでふと気づいたのが、丘の空にいる気配。
「何かが近づいてくる──?」
人狼の少女はまだそれが完全に見え始める前から、それが尋常のものでないと勘付いている。
だからとっさに翻って身を隠し、上方を窺っていた。
「あれは……鷲獅子? さらに厄介なの来たな……」
ノアの瞳が捉えたそれこそが言葉に違わぬ存在──冷気を纏う大きなシルエット。
仰いだカイムは、その巨影と共に、開けた宵空を視界に収めていた。
森の中では決して見えなかった、星を抱く天球。
空自体が光り始めているような、不思議な眩さを感じる天気。
端正な顔をほころばせ、カイムは思わずははっ、と笑みを零してしまう。
「……これ、まだ始まってねぇんだろ? ……スゲェわ」
ほんの少しの時間を待てば、あの空に耀く光の粒が手元にまで落ちてくるという。
一体、その雫はどんなものだろう?
「期待できそうだぜ──なぁ?」
声音に愉快さを含ませて。
黒銀の焔と共に右手に大剣を顕現させて。カイムはそこで始めて問いかけるように上方の影に視線を向けていた。
その言葉に如何な感情を抱いたろうか。毛並みを夜風に戦がせて、鷲獅子は朗々と啼き声を響かせている。
或いは、空の美しさに関してはカイムと同じ心を共有しているのかも知れなかった。
だが同時に、その景色を誰にも渡したくないという欲望が獰猛な戦意を掻き立てる。
変質した狩猟の習性か。
星の煌きに魅せられたが故か。
大きく羽ばたくと、鷲獅子は高く上がって攻撃の助走を取り始めていた。
カイムは息をつくようにその敵影を仰ぐ。
「これが雛を守るとか、そういった生存本能みてーなモンなら討伐にも同情って感情が生まれるんだが──」
一度だけちらと視線を降ろして、首を振った。
「ま、こいつにそんなモン有る訳ねぇか」
判っていたことだ。
頭上のあの敵はただの動物とは違う。鋭利な意志をもって現在未来を喰らおうとしている骸の海の漂流者。
故にその行く末はひとつ。
黒く燦めく陽炎を棚引かせ、カイムは剣を構える。
「さあ、来てみろよ」
瞬間、空気がしんと冷める感覚があった。遥か上方より鷲獅子が飛来して、翼に風を纏った状態のまま豪速で滑空してきていた。
速度と質量の塊。けれどカイムは退かない。
大剣を強く握り込むと、その黒銀を激しく滾らせて。掬い上げるように刃先を滑らせ、炎に耀く斬撃を繰り出していた。
相手が凍てつく風ならこちらは炎。間断を作らず剣を振り下ろし、二連の焔で迎撃。敵の勢いに燃え盛る剣圧で応え、軌道を逸しながら傷を刻み込んでいく。
鷲獅子は火の粉の散る中、僅かな声を零しながら高空に退いていた。自身を冷気で冷やしながら、同時に距離を取る算段だろう。
だが、カイムに対遠距離の策が無いわけではない。
握る武器を素早く双魔銃に持ち替えると、弾丸を連射。上空の相手にも外すこと無く全弾を命中させていく。
すると、鷲獅子も射程内で逃げるだけでは不利になると悟ったのだろう。即座に反撃に打って出てきた。
至近には寄らず、あくまで空中を保ったまま、翼に風を纏って。それを大きく羽ばたくようにして射出してくる。
それは強烈で、鋭い風。
小さな細氷を含み、光を点滅させるような美しい冷気の塊だった。
「ありゃまともに受けらんねぇな」
高速で迫る風圧を見つめて、カイムは正直に零す。細氷の一片一片が刃のようなもの、真正面からあれを喰らえば吹き飛ばされるだけでは済むまい、と。
けれどカイムは、狙いはここだと当たりをつけてもいた。
敵が一瞬でも静止したこの瞬間は間違いなく好機だから。それを逃さず、カイムは刃の炎を巨大なまでに燃え盛らせている。
刹那、それを灼熱の衝撃波として撃ち出して、迫りくる風にぶつけていた。
無慈悲なる衝撃(インパルス・スラッシュ)。
それは防御と痛烈なカウンターを兼ねた一撃。
意のままに燃えるその衝撃波は、細氷を溶かし風を貫く。
減衰もない勢いで飛んだそれは、空中に弧を描きながら鷲獅子の全身を燃え上がらせた。
甲高い啼き声が夜空に反響する。
鷲獅子は氷の欠片の軌跡を描いて、一度天空へと昇っていた。
氷をいだく翼には、炎は熱くて堪らなかったのだろう。故にこちらの攻撃の届かぬ高度に一度退避していたのだ。
けれど妖精にとっては、広き空も逃げ場とは言えない。
イーファはふわりと羽ばたいて、鷲獅子の姿を捉えられる位置に昇ってきていた。
「それにしても、綺麗ね」
と、意識せずとも見回してしまう。
地上で見るよりそこは星に距離が近くて。ともすれば空に注ぐ雫に触れられそうだ。
鷲獅子もそれを間近に感じていたからかも知れない。体勢を立て直す為に戻った空ではあったけれど、そこを飛ぶ姿は何処か喜ばしげにも見えた。
だからこの星空は誰にも渡さないのだというように。
イーファの姿をみとめた鷲獅子は、牽制のような啼き声を響かせてきていた。
まあ、とイーファは小さく瞳を見開く。
「この景色を独り占めですって? そんなわがままはまかり通らないわ」
ぴしゃりと否定するように言ってみせると──澄んだ翅を大きく広げて。自身の体を燐光と同じ色彩の光で包んだ。
「もちろんこの空も、景色も、私たちのものではないけれど……同じようにあんたのものでもないんだから!」
瞬間、くるりと廻って顕現されたのは美しいドレス。
フラッシュ・フライト──淡い光とともに、イーファが淑やかながらも麗しい姿へ変身。プリムローズに膨大な魔力を巡らせて、燐光を眩く瞬かせていた。
それは空を舞う戦いの合図。
瞬間、光を棚引かせて飛翔したイーファは、山なりの軌道で天空へ。上方から鷲獅子の死角を取るように、後背側へと移動していた。
ここまで僅か一瞬のこと。
鷲獅子はイーファを見失って左右に視線を彷徨わす。けれど自身に比べて遥かに小さい妖精の姿を、即座に発見するにはいたらない。
その頃にはイーファは手を伸ばし、一撃。巨大な魔力を煌きの塊として発露し、鷲獅子の全身を衝撃で飲み込んだ。
灼けるというより、自身の存在が直接消滅させられるような、そんな危機感を抱いたことだろう。あまりに強い威力に、鷲獅子は逃れるように下方へ羽ばたく。
そうなればイーファも追い縋るだけ。
燐光を眩く光らせて飛翔能力の全てを引き出すことで、一瞬にして鷲獅子の隣へと並んでいた。
鷲獅子は驚きを覚えたろうか、僅かな啼き声を響かせる。
それでも息吹を放とうとするが……直後にはイーファは螺旋軌道を描き、再び死角に入っていた。
外れた息吹が地に落ちて、丘の一端を凍らせるが──この高度ではそれも意味無きこと。
イーファは斜め下方の位置から、プリムローズを星と見紛うほど美しく光らせた。
「知ってたかしら? 体の大きさと魔力の大きさとは比例しないものなのよ」
可憐なる妖精の煌きは、暴虐なる鷲獅子の氷にも劣らぬ鋭さ。
敵が再び離れて逃げようとする前に、イーファは魔力を発射。閃光の如き一撃で巨体を貫いた。
氷の残滓が光って輝く。
空の星はまだ地面に落ちてきてはいないけれど、鷲獅子もまた美しい光の粒を零しながら飛んでいた。
鷲獅子自身の姿も、まるで氷か星の色のようで。
「銀のグリフォンというのも夜空の星々に劣らず美しいものだな」
華乃音は木々の葉の間から、その敵の姿を見つめていた。
戦いが始まった時点から、数歩引き返して森の中に潜んだのは近接戦闘を避けるためだ。
敵が強力なのは間違いないのだから、まずは観察する。
そうして可能ならば狙撃する。
敵の特異なフィールドにわざわざ乗っかることはない。それは怜悧な思考で導き出した、華乃音にとっては当然とも言える戦い方だった。
深い緑の間から視線を覗かすと、判るのは敵の動きの激しさだ。
「──よく飛ぶ」
端的に、華乃音が零す言葉の通り。
鷲獅子は攻撃が狙えると見れば即座に滑空し、距離を詰めて力を活かす。逆に反撃が手痛いと判れば空に上がり、自身の舞台に相手を引きずり込もうとしていた。
魔物であって動物ではない。けれど獣の本能にも似たものを備えているのか、常に自身が危険かどうかを反射的に判断して行動しているようだ。
(逃げ、飛び、好機に攻撃する)
注意深い狩猟動物、といったところか。
景色に惹かれている辺り、知能自体は高そうだ。だが戦いにおいては決して、こちらが優位を取れない相手ではない。
「──どれだけ強靭な生物にも隙というのは必ず存在するものだ」
ならばそこを突けばいいだけのこと。
木々の間から狙撃銃の照準を向けたのは、敵がイーファと交戦して高度を落としてきた頃。
あの鷲獅子は、一瞬後にはまた距離を取ることに全力を注ぐはずだ。
そうして予想通り、逆方向への加速を始めて静止した──その一瞬。
完全に、敵の注意が森からそれたその瞬間に、華乃音は引き金を引いた。
美しき弾丸が空中を翔ける。
瑠璃の銃弾(バレット・オブ・ラピスラズリ)──銀と瑠璃色を刷いたそれは、まるで流星が奔るように光を靡かせて。
痛烈なまでの威力と速度をもって敵の胴部を正確に穿った。
鷲獅子は想像外の方向からやってきた衝撃に、軌道を崩してふらつく。
その頃には華乃音が、敵に感づかれぬままに森の間を疾駆。位置を変えてさらなる銃撃を見舞っていた。
気配を消して気を窺うのは慣れている。
二発三発と、氷の破片が散り、鷲獅子の体に風穴が開く。
苦悶の啼き声を零した鷲獅子は──そこで攻撃が森からやってきたことに気づいたらしい。そのまま羽ばたいてこちらへと方向を変えてきた。
「──来るか」
予想できたことことではある。
丘も空も猟兵がいる。故に鷲獅子にとっては、安全さの度合いで言えば森も他の場所と変わらぬと判断したのだろう。
華乃音への反撃と他の猟兵からの退避。二つを兼ねた行動、だが。
易々と、華乃音もやらせるつもりはない。
体勢を低くして、高速で森を駆け──木々の深い場所へ。鷲獅子の飛びにくい環境へ入り込んで敵を消耗させる作戦をとった。
鷲獅子も、その機動力を活かして確かに華乃音の気配を追ってくる。
けれど本来そこは得意な地形ではないのだろう。華乃音へと距離を詰めるのには時間を要し、その間に確実に体力を減らしていた。
華乃音はその好機を逃さない。
敵の速度が緩まった瞬間に、銃口を真っ直ぐに向けていた。
「君に何一つとして恨みはない。──だが、敵対するというのなら狩らせて貰おう」
翠の中を星が飛ぶ。
突き抜ける弾丸の衝撃に、鷲獅子は森の外にまで吹き飛ばされてゆく。
「La、La」
小さく動く唇からメロディが生まれて空に昇る。
森の中では、音が枝葉の天井に跳ね返ってさわさわとした輪唱に生まれ変わっていた。
けれど無限の天蓋の下では、どこまでも声が伸びやかに響く。
音も色も、森から大きく変わった景色。
その中をイシャは歩んでいた。
少しだけ手を上に差し伸べてみると、やはりまだ届かないけれど。既にその瞳にはひとつふたつと瞬く光が見えている。
──どんどんかがやく星の群れ。
行かなくちゃ、行かなくちゃ、と。小さな翼達と共になだらかな丘を登っていた。
惹き寄せられるように。いざなわれるように。
そして追い求めるように。
こうしていると落ちない星に、一歩でも近づけるような気がしたのだ。
無論、それ故に少女は星以外の存在を瞳に映している。風を掃いて大空に戻り、丘を眼下にしている氷雪の鷲獅子。
その整った美しさが、ほんの少し少女の心を捉えるようで。イシャは短い時間、星球の瞳でそれを見つめていた。
氷の色をした大きな翼。
──すてき、ね。
きっとあなた様の翼なら、星にだって手が届くのでしょう、と。
ただ羨むというよりも、澱みのない心で純粋にそう感じるように。
対する鷲獅子は、そんな視線を誇らしげに思ったのだろうか。大きく羽ばたいてみせながら空を回遊し始めている。
そして丘にいる者達に降りかかるよう、同時に氷の息吹を撒いてきてもいた。
空からの冷気。ただ、それを見上げるイシャも決して空に届かないわけではない。
たん、と。
そっと地を叩くように脚を動かすと、白妙の髪がふわりと揺れる。まるで体重も重力も失せたように体が浮かび上がる。
小鳥達を誘うように。また、誘われるように。
軽やかに戯れるように──イシャは空中を歩み出していた。
羽ばたくようでも、泳ぐようでもありながら。時おり仰向けになり、また一回転して。散歩するように風の上をステップしながら鷲獅子の息吹を避けていく。
だけじゃなく、鷲獅子の姿をしかと目に捉えながら少女は唄っていた。
「La、La」
私にも我儘を言わせてね、と。呼びかけるような色を旋律に含め、声音を大きな翼の飛ぶ空域に響かせてゆく。
それは透明で、澄んでいて、けれど綺羅びやかさをもつ歌。
時に複雑に、時に乱高下した音域に寄って紡がれる美しい音律が、まるでそれを形にするかのように硝子の路を創り上げていた。
天空を透かす壁と床は、高く伸びながら入り組んでいき、空の迷宮となっていく。同時に、イシャは小鳥達を飛び立たせていた。
──あの子を迷宮へと誘ってあげて。
宙を飛んでいても、ちゃんと出口を見つけてね、と。
その思いに応えるよう、小鳥達は鷲獅子の周りを飛び交い、硝子の中へと迷わせていく。
透明色で出来た迷宮は、一度彷徨うと中の道筋がほとんど見えない。進みたいと思うほど、その方向を艷やかな表面に阻まれて、回り道を余儀なくされて。その内に自分の居場所も見失ってしまうような迷路だった。
そうして鷲獅子が迷っている間に、イシャは仲間の元へと歩み降りて──歌っていた。
──傷ついた皆様のこころのために。
それは癒やしの歌だ。
やさしくて、無垢な程に清らかで。遠いいつかには許されなかったような、ひとを祝福するための祈りの歌。
凍てつく風がつめたくても、心はもうあたたかい。
だって季節は夏なのだから。
夏の夜は、さむくないのよ。
氷に冷えた仲間達は、季節を気づかせてくれる声の音色に柔らかな心地を覚える。そうして傷が癒えるのを感じて、心を新たに戦いに向かっていった。
「La、La」
イシャはそれを歌で見送って、また星を見つめる。
それが空を満たすのを、待ち遠しく思いながら。
仲間は強い。
志を共にするみんなが、とても心強い。
カーティスは広い夜の中で、皆の戦いを目にしながらそう思わずにはいられなかった。
きらきらと光り始めた空の下、それに影を落とす大きな姿は今なお健在だけれど。それでもこの自然の景色を守り切ることも無理じゃないと改めて感じた。
「……!」
ただ、カーティスははっとして少し目を見開く。
空にいる鷲獅子が、迷宮を抜け出して──暴風のような激しい風を纏い始めていた。
翼から生み出す冷たい風を、自身の周りに取り巻かせて。巨大な氷雪の壁を作り出してしまうように、自分を守り始めたのだ。
「うわ……っ!」
カーティスは腕で顔を隠して何歩か下がってしまう。
鷲獅子は遥かな高度にいたけれど、それでも地面まで氷と突風が降り掛かってくるのだ。
──それは、冬、
まだ見ぬ、冬だと。
カーティスは強く思った。
凍りついていく息。過酷な環境でも応じられる改良宇宙服越しでも伝わる冷気。
人とは、寒さに弱い生き物だ。それを自分の身で直に感じ取るようにカーティスはぶるりと体を震わせていた。
生身のままでは危険だ。肌で感じたカーティスは、即座にStingrayに呼びかけて飛んでくるように伝えている。
すると、流線の美しき蒼銀が即座に森の上空から滑り降りてきた。
常にコントロール下にある愛機は、こういう時何よりも頼りになる。軽くねぎらって乗り込んだカーティスは、コックピットから戦いに赴くことにした。
スクリーンが映し出す風景を眺めながら操舵を始める。
システムはグリーン。調子が良好なのは、そうでなくても感覚で判る。
だから、さあいこう。
瞬間、少年は高速で星穹へ踊り出す。
「そらはおれの領域でもあるんだ。これ以上、すきにはさせないよ!」
風を切るように魚影が飛翔した。凄まじい加速を見せたStingrayは、一瞬にして鷲獅子の飛ぶ空域までカーティスを運ぶ。
一帯は鷲獅子の吹かす氷雪が吹きすさんでいるが、それにも勢いを弱められず、カーティスは上へ、上へ。
遥かな天空まで突き上がるように、敵の上方の位置を取っていた。
そのまま宙返りして機体を下方向に向けると、鷲獅子へ機銃で射撃。一撃一撃に光の流線を描かせて、翼を撃ち抜いていく。
風穴を開けられた鷲獅子は、衝撃も相まって高度を落とすしかない。
カーティスはその隙を逃さずに愛機を駆って。急加速して更に弾丸を連射。脚を穿って確実に負傷を蓄積させていった。
その一弾一弾が、例え致命の痛手を与えずとも。地上にいる猟兵達が少しでも戦いやすく、そして狙いやすくなるようにと、敵の機動力を奪っていた。
鷲獅子は空泳ぐ蒼影に何を思ったろう。空は自分のものだと反抗するように、真上に向けて風を撃ち出してくる。
けれどカーティスも、そしてStingrayも──もっともっと、遥かな宙だって泳いできているのだ。
「横だ!」
思い切り舵を切らせ、水平方向に慣性を生み出しその風を避けて。そのまま縦方向の速度は落とさぬまま肉迫し、ゼロ距離で火力をお見舞いしていった。
鷲獅子は煙を上げながら空中でふらつく。
ただ、カーティスがそれを追う形で地面方向へ速度を上げるのを見ると──それをチャンスだと思ってだろうか、鷲獅子がとっさに上に羽ばたく。
こちらの上に移動して制空権を取り返すつもりだろう。
だがカーティスもそれを予期していないわけじゃなかった。
シミュレータは時に、現実の戦いにあまり役に立ってくれないこともある。けれどあらゆる状況を経験しておくのはいいことだ。
今それを、カーティスは強く感じる。
角度を百八十度変えるように急制動。空中での縦軸Uターンは簡単ではないが、それを実現するだけのポテンシャルがこのStingrayにはあった。
一瞬後にはカーティスは真上を向いて、鷲獅子の姿を捉えている。
そして加粒子砲を眩く輝かせ始めていた。
景色を壊す心配がないからこそ出来る攻撃もある。
「おちるばかりが星のありかただとおもった? Yup! じゃあ、これはセンベツだ!」
荷電粒子が磁力の力で収束される。
刹那、星を間近で目にしたかのような煌きが生まれた。
「──いっけぇ! “Surprise!”」
撃ち出した光はSparkles(ナガレボシ)。
プリズムのような色彩が一瞬明滅した後、長大な衝撃の奔流が命中。宇宙にまで伸びるほどの光線となって鷲獅子を貫いていく。
ぽつ、と何かが落ちてきた気がして、ノアは少し視線を落とす。
雨だろうかと思って見回すけれど、何も見つからない。
「もしかして今のが星の雫ってやつかな?」
仰いでも次に何かが降ってくる感じはしなくて、今のは早めに落ちてきた一粒だったのかも知れないと思った。
刻々と、星の雫の時間は近づいている。
しかしまだまだ鷲獅子は斃れてはいなかった。
眩い光を浴びて、体の端々に灼けた跡を残してはいる。その証拠に高高度は飛べなくなったのか、丘に近い低空に降りてこざるを得なくなったようだが──。
「全然、油断はできないなぁ──」
高空にいないことが、こちらに有利になるとは限らないとノアは知っている。あの敵は接近戦だって得意なはずなのだから。
「さて、どうしますか……」
既に鷲獅子は地面の猟兵に狙いを定め始めている。こちらに気づくのも時間の問題だろう。
「まだまだ飛べるだろうし、素早い攻撃もするなら……やっぱり厄介すぎるなぁ。特に翼かね──」
こちらが狙うなら、いっそそれ切りとしてしまおうか、と。
敵に接近しなければいけない分リスクもある行動だ。それでも、やるだけの価値はあると思った。
決めると、ノアは眼前の空間に昏い光を揺らめかせ、闇の幻獣を召喚していた。
ガルム──漆黒の毛並みと翼を持つ大狼。
鋭い翼と牙を持つそれはこの戦いにおいても頼れる仲間だ。
「さあ……やるよ、ガルム」
吼え声を返した幻獣は、弾かれるように疾駆し敵に向かい始めていく。
無論、ノア自身もそれを追って共闘の構え。ダガーを両手に握り、鷲獅子との間合いに突入していった。
近くで見る敵の姿は美しさと力強さを兼ねていて、傷ついて尚威厳を失っていない。
ノアはそれに一瞬だけ見惚れた。
「鷲獅子はいいよね、是非仲間にしたいんだけど──無理だよなぁ」
息をつくのも仕方のないこと、鷲獅子は既に攻撃の姿勢に入っている。
ただ、吹き付けられる冷気に対してノアは一切の苦痛を見せなかった。
「こんな格好だけど──寒さに強いんだ」
自然の中で育てば、自然と季節の洗礼を受けて寒暖にも慣れが生じてくるものだ。故に退かず、ノアはガルムをけしかけ強烈な爪撃を繰り出させた。
足元を裂かれた鷲獅子は僅かにバランスを崩し、ふらつく。それでも自分も爪での反撃をしようと目論むが──。
「させないからね」
そこへ飛ぶ刃。ノアがダガーを正確な狙いで投擲し、行動を阻害していた。
「さあ、今だよ」
応じて駆けるガルムが牙で噛みつき、闇の力を流し込めば、加速度的に鷲獅子の生命が摩耗されるように減じていく。
ノアはそこで、丘の傾斜を駆け上がるように助走をつけていた。
同時、高く跳躍すると──至近に迫って一閃、全力の斬撃で鷲獅子の片翼を斬り飛ばす。
慟哭の如き咆哮が空に響いて、巨体が地面に落ちた。
ノアは少し目を閉じる。自然児だからこそ、それを冷徹な心で済ますことは出来なかった。
「ごめんね……」
罪悪感で心が痛むのを自覚しながら。
それでもこの世界を守るため、いま一度刃を握りしめる。
零れる星の距離が、近くなった気がした。
ふと視線を空に誘われる猟兵達は、雫と言われるそれが触れられそうなところまで落ちてきているのを見た。
まだ正体の見えない光の粒。
空を失った鷲獅子もまた、その雫を手中に出来ないでいる。
それは少しだけ、悔しさにも似た啼き声に表れていたけれど──それゆえに鷲獅子はすぐに戦意を奮わせた。
星がこのまま降ってくるのなら、飛べずともそれを独り占め出来ると。鷲獅子はそのまま片翼で速度を得て攻撃に出てきていた。
だがそこへ光の滝が押し寄せる。イーファが魔力を注ぎ前進を阻止していたのだ。
「これ以上はもう、させないわ」
「ああ。ここで、仕留めてやる」
カイムも炎を湛えた斬撃をそこへ放ち、半身を灼いていく。
鷲獅子は退く体力も無くただ真っ直ぐに攻めてくるしかない。それを逃す華乃音ではなく、撃ち放った弾丸で爪を、脚を、砕いた。
暴れるように風を撒く鷲獅子。だがイシャの聴かせる歌が皆に苦痛を与えさせない。
「La、La」
丘に美しく声音が反響する中で、鷲獅子はそれでも息吹を放とうとしていた。けれど──。
「そこまでだよ!」
舞い降りるカーティスが銃撃を見舞い、その暇すら与えない。
駆け抜けるノアが、そこへ刃を奔らせた。
「せめて静かに眠って……」
両断された鷲獅子は、細氷と共に散っていく。過去に消えたその存在は、跡形も残らず風に吹かれて失くなった。
大成功
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第3章 日常
『星の雫の降る夜に』
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POW : 星を見上げる
SPD : 零れる星を追う
WIZ : 掌に掬う
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●星の雫
ぽつり、ぽつり。
何かが降ってくるのに気づいて皆は空を見上げる。
そこに満天の星が広がっていた。
丘の稜線のずっと向こう、遥かな地平線から、真上の中天。そうして振り返って森と空の境目まで、全てがきらきらと光っている。
その光を浴びたように自然の翠色も仄かに輝いて、世界のすべてが淡い眩しさに感じられた。
そしてその光の空から、何か光るように見えるものが零れてくる。
所々で光の具合が強かったり、弱かったりして。
時に儚げで、時にぴかぴかと輝くそれは、何だろうか?
自分の導かれたところへ歩み、その光を掬ってみれば、雫の正体がわかるかも知れない。
それは、見たこともないような氷の結晶だろうか。
それとも、淡く光る小さな花だろうか。
幻想や温度を与えてくれる魔力の欠片──或いは、精霊が落とした燐光の残滓?
どうやら雫は、穏やかな風に吹かれてやってくるものもあれば、本当に空から落ちてきたものもあるらしい。
だから掬う人や時によって、全てが違う。
優しく注いできた光は、期待はずれなものだろうか。それとも何かを与えてくれるものだろうか。
丘を進み、あなたが目にした星の雫は──。
イーファ・リャナンシー
綺麗ね…ほんとに星が落ちて来てるのかと思うくらい…
雫が空から流れ落ちてくる様子を見てるとため息が出るくらい綺麗で、ずっと見つめてたいなって思うくらい
そんな風に思いながら眺めていると、私のところにも近付いてくる星の雫があったみたい
ゆっくり、柔らかな軌道で近付いてくる雫をうっとりしながら眺めていると、光はどんどん大きくなってきて
ちょ、ちょっと待って!?このままじゃ、掬宇どころか激突しちゃう!
結果から言えば杞憂だったわけなんだけど…まさか自分の体が雫の中に収まっちゃうなんて
他のみんななら掬えたんでしょうけどね
光の中にいるのに眩しくないし、液体に入ったような感触がしたのに呼吸はできるから不思議な感じね
時にまばらで、時に集まって、時に川のような流れを描く。
空の星はどこをとっても同じ眺めが無くて、それでいてどこを見つめても壮麗だ。
一つ一つ、明滅する具合も大きさもほんの少しずつ異なって、それが天を覆うことで遠大な燦めきの群を作り出している。
見つめていると果てのないような、不思議な気持ちになる──そんな景色を仰ぎながら、イーファはひらりひらりと翅で空を揺蕩っていた。
「綺麗ね……」
呟きながら、風に任せるようにゆるりとした軌道を描く。
この空が美しいのは、満天の光に加えて輝く雫が落ちてきているからだ。
それは雨とは違うけれど透き通っていて。
単なる光とは違うけれど確かに眩しくて。
「ほんとに、あの空の星が落ちて来てるのかと思うくらい……」
薄く軌跡を靡かせて、流れ落ちてくる──その様子を見ているとため息が出るくらい綺麗だった。
(ずっと、見つめてたいな──)
それこそ純粋にそう思ってしまうくらいに。
それでも、夜が明ければ星は消えて、きっと雫も零れてこなくなるのだろう。だから夜の間だけのこの景色を存分に見ていようとそう思った。
「……あら?」
と、そんなふうに仰いでいたイーファは風の中で止まる。
落ちてくる無数の光の中に、自分に近づいてくるものを見つけていた。
ここを訪れるものはそれぞれに違う雫を発見するという、そんな謂れをふと思い出す。
あれが自分の星の雫なのだろうか?
柔らかな軌道で近付いてくるそれに目を凝らしてみた。星そのもののように清らかな光を帯びていて、同時に雨粒みたいに空を透かしている。
美しいと素直に思える、そんな雫だった。
だからうっとりとしながら、視線を注いでいたけれど──。
「ちょ、ちょっと待って!?」
それはぐんぐん近づいて、どんどん大きくなってくる。
こちらに向かってきているのは判っていたが、思いのほか速度を落とさず一直線にやってきていた。
「このままじゃ、掬うどころか激突しちゃう
……!?」
あわあわと左右を見回して、羽ばたこうとするけれど。雫の落下は存外、速い。
だからイーファが視線を彷徨わせている内に、それは衝突する位置に迫ってきた、が。
「……って、これは……」
結果から言えば、激突するというのは杞憂だった。
雫は抵抗の少ない柔らかさを持っていて、体で触れても水のようにすべらかで、決して痛みを運びはしなかった。
──だけではなく。
「……まさか自分の体が雫の中に収まっちゃうなんて」
イーファは大きな雫の中心で……まるで透明な球体に入ってしまったかのように、その内部を見回していた。
決して、雫は巨大というわけではない。イーファが真っ直ぐに手を伸ばせば、脱出することもできそうだ。
「他のみんななら掬えたんでしょうけどね」
小さな妖精だから、これほど綺麗に収まってしまったのだろう。
とは言え、中にいても苦しくはない。
「光の中にいるのに眩しくないし……液体に入ったような感触がしたのに呼吸はできる。何だか、不思議な感じね」
同時に、体に感じるのは浮遊感だ。
外を見てみると、水の膜がかかったように小さく波打つ景色が窺えるが──その景色がゆっくり動いている。
雫自体が浮力を持ったように風に漂っているのだ。
少しの力にも反応するようで、イーファが身じろぐと、まるで空を飛ぶように移動する。
「このまま少し、飛んでいってみようかしら」
丘や森を見ながら、雫で空中散歩してみるのも楽しいかも知れない、と。イーファはすいすいと高空に飛び出して、雄大な自然を眼下にしていく。
自分自身が流れ星になったような感覚で。
しばし、星の中のひとときを過ごしていった。
大成功
🔵🔵🔵
紅狼・ノア
*アドリブ歓迎
(ガルムと共に空を見上げる)
はぁ、終わったな…
あの鷲獅子とはこんな風に出会いたくなかったな…こんな辛い戦いをしなくで済んだのに…
にしでも綺麗だなぁ、こんなに綺麗だと独り占めしたくなるわな
そういえばレオさん言ってだな星の雫は掬う本人によって違うって
僕らの場合どうなんだろうね?ちょっとワクワクするな!
そうと決まれば行きますか!星の雫を見に!
(ガルムと共に向かう)
気付けば、空は星でいっぱいになっていた。
夜がより深まったせいだろう、肌に触れる風は涼しくて快い。本来の夏宵の温度が戻った中、ノアはその空をガルムと共に見上げていた。
「はぁ、終わったな……」
一つため息をついてしまうのは、やはり自分達が倒すこととなってしまった敵のこと。
星を求めた魔物、鷲獅子。
ノアは一度だけ視線を落として、その姿を思い出す。
今はもう、丘には敵の残滓すら残っていない。どこまでも平和な空気ばかりが漂っていて……もう季節外れの冷気も吹いていない。
それが少しだけ寂しくも感じた。
「あの鷲獅子とはこんな風に出会いたくなかったな……」
鷲獅子は純粋な動機で動いているだけだったのかも知れない。形さえ違えば、こんな辛い戦いをしなくて済んだだろうと、ノアには憂う気持ちがあった。
勿論、オブリビオンである以上は倒さなければならなかったのは知っている。自分達が討たなければ、無辜の一般人が被害に遭っていただろうから。
それでも、あの鷲獅子と共に仲良く星を眺める景色を、少しだけ想像してしまうのだ。
「……」
ノアは星を眺めるのを再開した。せめて、鷲獅子が魅了されたこの景色を存分に眺めようと思って。
「にしても綺麗だなぁ」
見つめる程に、そんな言葉が自然と口をついて出る。
星も決して一色ではない。
仄かに赤色を刷いたもの、うっすらと緑の色素を持ったもの……大きな星は虹色のような輪郭を持っていて、透明な宝石が白光しているかのようだった。
そこに更に雫がはらはらと降っているから、一層美しいのだ。
「こんなに綺麗だと独り占めしたくなるわな……」
呟きながら、ふと思い出す。
「そう言えば、星の雫は掬う本人によって違うって言ってたっけ……」
沢山の星が今も空から注いでいる。
手元にはまだ落ちてきていないけれど、少し歩けばそれも見つかるだろう。
「僕らの場合どうなんだろうね? ちょっとワクワクするな!」
考えると、心が浮きたって。
ノアはガルムを見て一緒に走り出す。
「そうと決まれば行きますか! 星の雫を見に!」
ガルムもひとつ鳴き声を返して、その心に応える。
そうしてノアとガルムは丘の上に登り、また降りては平坦なところを進んで──雫が沢山降ってきているところを見つけた。
「あっ、降ってきた──」
ノアは吸い込まれるように零れてくるそれを、そっと手にとった。
確かに星と言っていいくらい綺麗で、仄かに輝いている。それは──。
「……氷の結晶、かな」
きれいな六角形を描く、ひんやりとした煌き。宝石のように艷やかだったけれど、手に触れる温度は間違いなく氷だった。
不思議なのは、涼しいと言えど夏の気温の中でも溶ける様子がないこと。
まるであの鷲獅子が生み出していたような、美しい冬の氷だった。
「鷲獅子が冷たい風を吹かせたから、空の温度が下がったのかな……」
導かれるように自分へと降ってきたのは……あの鷲獅子が望んだからだろうか?
それは誰にも判らないけれど。
でも、綺麗なこの星を持って帰ろうと、ノアはそう思った。
「行こうか、ガルム」
ノアはじっとそれを見つめてから、大事に握ったまま歩み出す。
その結晶から立ち上る冷たさが風に交じって、心地良いなと、そんなふうに感じながら。
大成功
🔵🔵🔵
ハーモニア・ミルクティー
【wiz/アドリブ歓迎】
わぁ…とても、とっても幻想的な光景ね。
星空が落ちてきているわ。
今なら、星に手が届くかもしれないわね。
星空と星の雫に近づけるなんて、またとない機会じゃない。
【Titania】で変身して、夜間飛行にレッツーゴーよ!
本当に星の雫が降っているのね。
飛びながら星の雫が掬えないか試してみるわ。
わたしには綺麗な星に見えるのだけれど。
人や時によって、皆違った星の雫になるのよね?不思議だわ。
掬った星の雫、持ち帰れないかしら?
溶けて消えたりしなかったら、アクセサリーにしたいわね。
あと、他の形をした星の雫も見つけられないかしら?
もう少し飛んで探してみましょう!
きっと忘れられない夜になるわね!
沢山のきらきらが降り注ぐ。
空に満ちた無限の星々が、風に誘われてころころと零れ落ちてくるようで。
いつもはただ遠くで見ているだけの光との距離が、特別に縮まったような気持ちだ。
「わぁ……とても、とっても幻想的な光景ね。星空が落ちてきているわ」
風に踊る妖精──ハーモニアは表情まで星の光のように煌めかせて。わくわくとした心で夜を仰いでいる。
「今なら、星に手が届くかもしれないわね」
星に触ることが出来るなんて、夢を語っているようだけれど。今夜だけはそれが本当になることを知っているから。
ハーモニアは柔らかい光で自身を纏い、翅を持つ人の姿へと変わってゆく。
またとない機会。
だったら、それを心から楽しもう。
「さあ、夜間飛行よ!」
ふわりと翅を動かして、ハーモニアは夜空に舞っていく。くるりと宙返りし、優美な軌道を描いて、時に風に寄り添うように。
そのまま高い空まで昇ってくると、その光が間近に見られた。
「本当に星の雫が降っているのね」
僅かに色味がついたような、眩い光の線がすぐ傍を流れていく。
それは文字通り触れられる位置にあって……今、ハーモニアは流星群の只中にいるような心持ちだった。
とはいえ、落ちてくる速度は緩やかで、雫という表現がぴったりと合う。そっと両の手のひらを器のようにすると──そこにきらり、と光が落ちてきた。
「まあ。星をこの手で掬ったわ」
ハーモニアは瞳を瞬かせて、それを見つめる。
落ちてきた雫は、本物の星のように美しい光を湛えていて、形も綺麗な星型だった。
とても綺麗な宝石か。
或いは澄んだ光の塊そのもののように見えた。
その清らかさは氷にも似ていたけれど、溶けて消える様子はない。
「とっても綺麗……人や時によって、皆違った星の雫を掬うのよね? 不思議だわ」
つまり、これはハーモニアだけの唯一の星。
そう思うと愛着も湧いて、大事にしたくなって、そっと握った。
「アクセサリーにしたいわね」
それに、まだまだ色んな雫を見たい。
決めるとハーモニアは飛行を再開。さらに高い空に昇りながら、別の星も探してみた。
そうすると──次に掬ったのは、ころんころんと転がる小さな星の集まり。
金平糖のように可愛らしい形をしていて、赤色に青色、緑色と様々な色が燦めいている。
「可愛いわ。色んな色があって……」
赤色と青色を一緒に手のひらに転がすと、光が混じり合ってほのかに紫色に見える。光同士が影響しあって、色合いを作っているかのようだった。
これも飾りに使うととても美しくなりそうだ。
「遠い空にあっても綺麗だけれど……こうして降ってきても綺麗ね!」
きっと忘れられない夜になる。
そう思いながら、ハーモニアは朗らかな笑みで飛んでいく。光の中を飛んでいると明るくて、涼しくて、とても楽しかった。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
…想像以上だ。星をこんなに近くで眺められる事も。まして落ちてきた星を拾うなんざ、考えもしなかった。俺はロマンチストって訳じゃないが、気の利いた台詞の一つでも言ってみたくなるような光景だぜ。
適当な場所に腰を下ろして空を見上げるか。過去や未来、今の自分、成すべきこと、目指すもの…そんなつまんねぇ事、考えながら光景に圧倒されて俺は空を見上げてる。
不意に落ちてきた星の欠片を拾い上げてみるぜ。溶けて消えるのか?それが…何であれ、この光景が残したモンなんだろう。
ホントに、世界は俺が想像しているより遥かに広いってのが良く分かったぜ。寝転がって空を見る。いつか…あの空を掴んでやるぜ(右手上げて、空にグッ)
星は小さくて遠い。
眩しい分だけ遥かな高さを持っていて、美しい分だけその姿はよく見えなくて。
それが当たり前のことだと知っていたけれど。
「……想像以上だ」
カイムは丘をゆったりと歩みながら空を見る。
永劫の位置にある輝き達。それが今、目に見える場所に降ってきて、触れられそうな位置に輝いていた。
宇宙にでも出ない限り星は比喩で、概念で、夢のようなもの。確かにそこにあるけれどそれ以上のことは望めないもの。
それをこんな近くで眺められる事も──。
「まして落ちてきた星を拾うなんざ、考えもしなかったな」
零れる雫を目で追うと、どこか遠くの稜線に転がって視界から消えていく。それが何とも不可思議で珍しい眺めだ。
(俺はロマンチストって訳じゃないが──)
気の利いた台詞の一つでも言ってみたくなるような光景だ、と。美しくも愉しい景色を見てふと思ってしまうほど。
自身の思いに軽く笑みを零して、カイムはゆるい坂を登り、降りていく。そうしていると丘の緑も星に照らされて、より明るくなっているのだと気づいた。
そんな傾斜に腰を下ろして、ゆっくり空を見上げることにする。
そうしているとこの遠大な眺望が、普段は思考に上らぬことまで不意に考えさせた。
過去や未来。今の自分。
(今の俺は、昔とは……そりゃ変わったろうな。未来ではどうなってる?)
成すべきこと。
(この仕事の後は、どんな敵と戦ってるかね)
目指すもの。
(とにかく、戦いをこなすには今より強くなる必要はあるだろうな。それ以外は──)
きっと思い返せば、つまんねぇ、とそう思ってしまうようなことを。それでも光景に圧倒されながら考えて空を見上げている。
「お、星が──」
ふと、空から降る雫の一つがカイムのすぐ傍に落ちてきた。
それを拾い上げてみる。
「これが雫か。さて、なんだろうな……」
見てみると、それは星の欠片とでも表現しうるもの。
うっすらと光を纏っていて、物質としては何と言えるものではなく。
大きさは手のひらに収まるくらいで、例えば装飾品によく合う美しさだった。
或いは、加工すればもっと別用途にも使えるかも知れない。何にでもなるというような、柔軟な輝きに見えた。
見たところ溶けて消える様子はない。
「ま、これが何であれ……この光景が残したモンなんだろうさ」
人によって出会う雫が違うのと言うのなら、これはカイムだけに降ってきた雫。それを手に握り、カイムは寝転がってまた夜を仰いだ。
剣と魔法の世界。そんな場所だからこそ見られた眺め。
「ホントに、世界は俺が想像しているより遥かに広いってのが良く分かったぜ」
見れば見るほど終わりが無くて。
探れば探るほど底が無い。
猟兵として仕事をするたびに、それを強く実感する気がした。
「いつか……あの空を掴んでやるぜ」
右手を真っ直ぐに上げて、グッとする。
きっとそれだって叶うと、カイムは快活に笑む。だってこの手は今、星さえ握っているのだから。
大成功
🔵🔵🔵
イシャ・ハイ
「La、La」
ああ、ああ、綺麗な星空
どこまでもどこまでも、ひかる世界
こんなにすてきな空から
おちてくるのはだぁれ?
くるり、まわり、うたい、おどる
そろり、降る星を掌に掬う
あたたかいような、でもひんやりした
あわくてやさしい温度
きっとこれは、魔法のちから
まだ私の知らない、この世界のカケラ
今にも消えてしまいそうなのに
どこにも行かない気がするの
「La、La」
ねぇ小鳥さん達
この子を連れて帰ってもいいかしら
私の夢見た星ではないけれど
ここに来た証を連れて
もっとたくさんの世界を見に行きたいの
「La、La」
くるり、まわり、うたい、おどる
出会えた星の雫が、皆様の糧になるように
私の糧になるように
丘と穹の境は、夜にほんのり地平の緑が交わった花浅葱。
星に誘われて、少しだけ視線を上げると見えるのは夜気の密度の高い深縹。
そしてきらりと雫が光り始めた中天は、星の輝きで明るく染まった、澄んだ瑠璃色だった。
「La、La」
星を追う少女は沢山の色を抱く天を見つめて、歩を游ばせる。
──ああ、ああ、綺麗な星空。
ずっと遠方から響く星の音。
きらきらころころと、触れ合って弾ける氷のような音。
そこへ歌を昇らせるように、協奏させるように。声音を紡いで仰げば、見えるのはどこまでもどこまでも、ひかる世界。
──こんなにすてきな空から、おちてくるのはだぁれ?
だからイシャは翠の上を歩みながら歌っていた。問いかけるような、そこに近づきたいという想いも声に乗せながら。
遥かな空は遠大で終わりがなくて、本当なら音がどこまでも届きはしないはず。
けれど今宵は空から注ぐ雫が唄を反響させて、空鳴りに変えてゆくように。高く高く、少女の可憐な声を伝えていた。
だからだろうか、その声にいざなわれるように、惹かれるように。沢山の星が少女のいる丘にまで降ってくるのだ。
そんな淡い光の雫に、イシャもまた導かれるように。
くるり、まわり、うたい、おどる。
ぴんと地面につま先を立てて、涼しい風にましろを靡かせながらプロムナードを踊って見せるように。ふわりと一回転すると、また丘を少し進んでくるんと繰り返す。
そんなときの歌声はどこか弾むようで、それでいて降ってくる星を招き入れるような優しさも含んでいて。
そろり、落ちてきた雫を掌に掬うと、少女は星の瞳でそれを見つめた。
感じるのはあたたかいような、でもひんやりした……あわくてやさしい温度。
ああ、と少女はそれを少しいだくようにして、またくるりと廻る。
──きっとこれは、魔法のちから。
まだ私の知らない、この世界のカケラ。
夜天を見ながらステップを踏むと、自分の真上を中心にすべての星がゆっくり廻る。とても高い空、とても広い世界。けれどその一端の光に自分は触れている。
雫を見下ろすと、優しいくらいに仄かに明滅していた。
今にも消えてしまいそう。
なのに、どこにも行かない気がする。
不思議で、魅力的で、どこか可愛らしい星の欠片。
「La、La」
イシャは囀るように歌って小鳥達に瞳を向ける。
──ねぇ小鳥さん達。この子を連れて帰ってもいいかしら。
この光は、自分の夢見た星ではないけれど。
ここに来た証を連れて、もっとたくさんの世界を見に行きたいの、と。
穏やかに瞬く光に、興味深げな様子を浮かべている小鳥達に語りかけるように。
小さな鳴き声を聞かせ、小鳥達は星の周りをくるんと周遊するように飛ぶ。そんな友達の姿に、イシャは小さく頷くように首を動かした。
それからまた星を抱きしめて、歩を再開して。
くるり、まわり、うたい、おどる。
手のひらから薄く零れる光の残滓が、ステップの軌跡を描くから。イシャはそこに歌声を乗せて、音律をかたちに残すように燦めかせた。
「La、La」
光と一緒に、ゆこう。
──出会えたこの星の雫が、皆様の糧になるように。
──私の糧になるように。
きらきら、きらきら、星がふる。
それはとても眩く、とても綺麗な輝きだった。
大成功
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