●
「めえ」
しろやぎさんは今日も決まった時間、決まった場所のポストへとやってきました。
一日に一度、赤いポストの裏を開け中に手紙が無いか確認する。
手紙があれば回収して、しろやぎマークの付いた鞄に仕舞い。そして。
美味しい手紙を口の中へ。舌の上でしゅわしゅわと溶ける、懐かしい感激を思い出して。
「めえぇ……」
しろやぎさんは、寂しそうに鳴き声を上げました。
傍らに立てた、古ぼけた看板には一言。
「おてがみ たくさん おまちしております。
やぎのゆうびんやさん」
●アルダワ魔法学園の不思議なポスト
「長きにわたるエンパイアウォーも無事に終わり、何よりです。皆様お疲れ様でした」
水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)は猟兵たちへ小さな頭を深々と下げる。
どんな形であれ彼にとって故郷でもある場所が平穏を取り戻せたことに、一言礼を言わずにはいられない。
にこり、と穏やかな微笑みを浮かべた悠里が差し出したのは、一枚の便箋。
「さて、私ばかり浮ついているばかりには参りません。皆様にひとつ、お願いがございます」
アルダワ魔法学園には、まことしやかに囁かれる「噂」がある。
増える階段、開かずの教室などなど。好奇心と探究心溢れる生徒達は、日々刺激に飢えていると言っても過言では無い。
その内の一つが「学園迷宮のポスト」である。
――学園迷宮の中にある不思議なポストに手紙を投函すると、届かないはずの相手にも手紙が届く。
「その真相は『やぎの郵便屋さん』が回収した手紙を食べてしまっているからなのです」
どうやら郵便屋さんは手紙に対し、とても思い入れが強く、そしてグルメなのだそうだ。
「『グルメなしろやぎ』さんたちは、手紙の内容ごとに違う味を楽しむ事が至上の幸福、なのだとか。
そこで皆様に、手紙を書いて頂きたいのです」
手紙の内容はどんなものでも構わない。友人や家族、大切な人への手紙。未来、または過去の自分へ宛てた手紙。
それらを郵便屋さんの前に差し出せば、彼らは喜んで近づいてくる。そして一口で手紙を食べれば、たちまち天へと昇る心地になるのだという。
「郵便屋さんに渡した手紙は、残念ながら食べられてしまいます。ですが言葉を解する郵便屋さんは、皆さんの手紙に込められた気持ちを感じ取ってくれるでしょう」
悲しい手紙は、涙の味。
恋の手紙は、甘酸っぱい。
「郵便局長である『上司のくろやぎ』さんは味に拘りがあるそうで、色んなお手紙の感想を言ってくれるそうですよ」
文字と文字の間、隠した思いは不思議な郵便屋さんが一緒に連れて行ってくれる。
「このままでは手紙を求め、迷宮の外へと飛び出してしまいそうなのです。その前に在るべき場所――骸の海へと帰して欲しいのです。
沢山の手紙が必要になりますが、どうかご協力をお願いします」
そう言って悠里は、今度は猟兵たちに協力を求め頭を下げたのだった。
●星空に近い郵便局にて
「その郵便局……といっても、やぎさんたちが勝手に『郵便局』と名乗っている小さなフロアなのですが。その天井には魔法で美しい星空が投影されているのです。
流星群やオーロラ。現実ではあり得ない幻想的な空が、そこに在るかのように見られるのです!」
薄暗い地下世界の中に、現実世界以上の星空が広がっている。
空気の薄い膜を取り払い、星が降るような空。その光景たるや筆舌に尽くし難い、まれなる美しさ。
未だ見ぬ光景を想像して、いつになく語気を弾ませた悠里は機嫌良く鼻歌を歌っている。
「星を眺めるも、誰かと語らうも良いですね。ポストは残っているので、新しい手紙を綴っても」
真っ新な便箋に、お好きなインクで思いを綴って。
その手紙が届くかどうかは、誰にも分からない。けれど。
「きっと届くと、私は思います」
こんな素敵な星空だから、奇跡の一つくらい叶っても良いじゃ無いですか。
些か傍若無人な願い事は、彼の鬼には珍しい。
「さあ、手紙の準備は出来ましたか」
――いってらっしゃい。
悠里がグリモアたる蝶が青く輝き、ゲートを開いた。
水平彼方
初めまして、もしくは再びでしょうか。水平彼方です。数あるシナリオの中から目に留めていただき、ありがとうございます。
5本目は再びアルダワ魔法学園。今回はお手紙が大好きなやぎさんが登場します。
第一章/集団戦『グルメなしろやぎ』
第二章/ボス戦『上司のくろやぎ』
第三章/日常『迷宮の天穹』
●第1章、第2章
手紙をたべるやぎさんたち。
動きはとても素早いですが、手紙を見つけた途端まっしぐら!
目にも留まらぬ早さで手紙を奪い取ると、食べてしまいます。
手紙を食べた後は満足して昇天して行きますので、攻撃しなくてもOKです。
美味しいお手紙、お待ちしております。
●第3章
戦闘後の郵便局にて。地下迷宮での天体観測です。
魔法で映し出された星空の下で、お好きな時間を。
思いを馳せるも良し、幻想的な星空に思いを馳せるも良し。
手紙を綴っても良し!
第三章のみ水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)が同行致します。お声かけ頂ければご一緒させて致します。
●プレイングについて
各フラグメントの【POW】【SPD】【WIZ】は行動の参考にお使いください。
プレイングについてはマスターページにてご案内させて頂いております。そちらを参照ください。
●シナリオ運用について
第1章のみOP公開後から受付開始となります。
その後につきましてはマスターページおよびTwitterにて告知致します。
告知以前に頂いたプレイングは場合によってはお返しさせて頂きます。
なるべく全てのプレイングを採用させて頂くつもりです。内容によってはお返しさせて頂きます。
それでは、皆様のプレイングを心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『グルメなしろやぎ』
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POW : めぇめぇじゃんぷ
予め【めぇめぇ鳴きながらぴょんぴょん跳ぶ】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : おてがみはりけーん
【カバン】から【何通ものお手紙】を放ち、【視界を埋める事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : めぇめぇタイム
【めぇめぇと、歌う様な鳴き声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
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●
今日も良い天気。雲ひとつ無い星空は、一片の光りすら漏らすこと無く郵便局の屋根にしとしとと降り注いでいました。
「めえ」
しろやぎさんは『郵便局』の前にあるポストへと走って行きます。
お手紙あるかな、今日はあるかな。
小さな足音を立てながら、走るしろやぎさん。しろやぎさんはとても足が速いので、あっという間にポストに着いてしまいました。
ぱかっ、と回収口の蓋を開けると、取り付けられた分厚い麻の袋をひとゆすり。
しかし、ごわごわとした麻が擦れる音しかしませんでした。
口を開けて覗き込んでみても、お目当ての手紙は入っていません。
「めぇ……」
残念、としょんぼりするしろやぎさん。袋を元に戻しそっと蓋を閉じて、蹄を使って鍵代わりの鉄の棒を器用に引っかけます。
誰かの思いの詰まったお手紙は、いつになればこのポストに投函されるのでしょうか。
「めええ」
誰か来てくれないかなあ。お手紙、くれないかなあ。
流れ星ひとつ。しろやぎさんは、そっと星にお願い事をするのでした。
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【プレイング受付期間】
9/4(水) 23:59まで
西条・霧華
「真実は別にしても、夢のある話ですね。私も想いが届くと信じて…。」
手紙の宛先は「喪った両親」
お元気ですか?
あの日からどれ位経ったのかわかりませんけれど、私はまだ何とか歩んでいます
お父さん、お母さん
二人が掛け替えのない人達だって、二人の愛情が当たり前のものじゃないって喪って初めてわかりました
それに気付けない位、私は二人の娘で幸せだったんだなって思います
もしかしたら「危ない事なんてするんじゃない」って怒られちゃうかもしれないけれど…
今私は「猟兵」という皆を助ける仕事(…なのかな?)をしています
だから、私はまだ二人に逢いに行けません
でもいつかは褒めてくれると嬉しいなって思っています
二人の娘 霧華より
●
『学園迷宮の中にある不思議なポストに手紙を投函すると、届かないはずの相手にも手紙が届く』
アルダワ魔法学園に流れる、不思議な噂。しかし噂の真相はまだ誰も知りません。
そうだとしても、興味を引かれればどうしても気になるもので。西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は、早速一通の手紙を認めたのでした。
「真実は別にしても、夢のある話ですね。私も想いが届くと信じて……」
大丈夫、いつも通りに。深呼吸をひとつして、霧華は最後の曲がり角を曲がったのでした。
その先に現れたのは、煌めく夜。常夜を敷き詰めた天井に星は瞬き、ぽつぽつと壁に掛けられた灯りすらも空と混ざり合った回廊でした。
「……めえ」
小さな鳴き声がした方を振り向くと、その角から白い影が頭がひょこりと顔を出し、霧華の様子を遠巻きに窺っているのが見えました。
「あなたが、しろやぎさんですか」
返事はありません。しろやぎさんは霧華をじーっと見つめた後、こくりと頷いて返事をします。
霧華は確かに「しろやぎさん」と呼んだのですが、しろやぎさんはいまいち信じられない様子。お手紙以外に興味が無かったしろやぎさんは、人と遭遇するなど考えもしていなかったのです。
どうしましょう、と悩んでいると霧華がしろやぎさんの方へと何かを差し出しました。
「この手紙を、届けて欲しいのです」
「めえ! めえ、めええっ」
やった、やりました! 待ちに待ったお手紙です!
手紙を見つけた途端、しろやぎさんは目に留まらぬ早さで霧華の目の前まで走りました。そして、もぎ取るように手紙を受け取ると。
――むしゃり。
鞄に仕舞わず、むしゃむしゃと食べてしまいました。
「めええっ」
美味しい、幸せ!
最後の一欠片を飲み込むと、しろやぎさんは元気いっぱいの鳴き声で鳴き、配達員のはとさんと飛びはね喜びを分かち合いました。
あまりに早い出来事に目を瞬かせていた霧華でしたが、しろやぎさんの嬉しそう な鳴き声を聞いて表情を緩ませます。
どうしてでしょうか。今はきっと宛先に届くと、信じる霧華がいるのでした。
「配達、お願いします」
しゅわしゅわと解けていく姿を見送る霧華に、しろやぎさんの言葉が聞こえたような気がしました。
その手紙は甘くてほろ苦い。しかし少しだけしょっぱい味がしたのでした。
『お元気ですか?
あの日からどれ位経ったのかわかりませんけれど、私はまだ何とか歩んでいます。
お父さん、お母さん。
二人が掛け替えのない人達だって、二人の愛情が当たり前のものじゃないって喪って初めてわかりました。
それに気付けない位、私は二人の娘で幸せだったんだなって思います。
もしかしたら「危ない事なんてするんじゃない」って怒られちゃうかもしれないけれど……。
今私は「猟兵」という皆を助ける仕事(……なのかな?)をしています。
だから、私はまだ二人に逢いに行けません。
でもいつかは褒めてくれると嬉しいなって思っています。
二人の娘 霧華より』
大成功
🔵🔵🔵
野良倉・飄々
しろやぎさんたら読まずに食べた
そんな歌があったような、なかったような……🤔
まさにそんなしろやぎさん達が居たんだねえ。
ただ食べるだけならまだしも、グルメときた、
何て書いたものかなあ……。
「拝啓、まだ見ぬ僕の奥さんへ……」
だめか、
「前略、お父さん、お母さん……」
あぁ、どっちも居なかったっけ。
「未来の僕へ」
うん、これで行こう。
どんな事をしているのかな、
今はハッピー?それとも、
僕の事だからきっとなんとかやっているはず
だって僕だもの。
そんな事をつらつらと。
さてさてこの手紙はどんな味がするのやら。
●
届いた手紙を食べてしまう、そんなやぎさんのちょっと間抜けで可愛いお話。
そういえば、こんな歌があったような無かったような……。
野良倉・飄々(のんべんだらり・f08569)は軽やかなメロディを歌い上げると、そこでうーんとうなり首を傾げてしまいます。
童話の中から飛び出したような、しろやぎさんのお話。創作物だと思っていた彼らが、まさか本当に存在しただなんて。
その上ただ食べるだけならまだしも、やぎさんはとってもグルメ。不味い手紙では受け取って貰えないかもしれません。
「何て書いたものかなあ……」
飄々は彼らのお眼鏡にかなう手紙が書けるのでしょうか。
そして、誰に宛てて手紙を書くのでしょうか。
誰でも良いのなら、これから出合う人ならどうだろう。
これは妙案だ、と飄々は喜びました。ならば早速忘れないうちにと、便箋に筆を走らせます。
「拝啓、まだ見ぬ僕の奥さんへ……」
はて、それは誰の事でしょう。どのような女性なのでしょう。想像してみた明確な姿が思い浮かばず、煙を払うようにぱっぱと手を振って払いました。
「前略、お父さん、お母さん……」
そこまで書いて、また筆が止まってしまいました。あぁ、どっちも居なかったっけ。
あれもダメ、これもダメ。はてさて誰に手紙を書こう。
「そうだ。うん、これで行こう」
するりと出てきた言葉が、飄々には妙案に思えました。
『未来の僕へ』
どんな事をしているのかな。映画を見てカレーを作って。あれ、今と変わらないかも知れないね。
今はハッピー? それとも、……ここから先は書くのは野暮だから書かないでおくよ。
僕の事だからきっとなんとかやっているはず。
理由なんて無いけど、だって僕だもの。
「僕がどんな風に変わったのか、それとも変わらないのかな」
どうであれ、この手紙を読んだ未来の自分がどんな顔をするのか。飄々にはそれが楽しみで堪らないのです。
「めえっ」
さあ書けたのならお手紙ちょうだいと言わんばかりに、しろやぎさんは蹄を差し出して催促します。
「はい、どうぞ」
受け取った途端に手紙を口に入れるしろやぎさん。その姿を見て、飄々はしろやぎさんの表情をじっと見つめていました。
さてさてこの手紙はどんな味がするのやら。
「めえーっ!」
それはとても香ばしい、バターと塩の効いた味。
人生の酸いも甘いも、喜怒哀楽も。全てを映し出す銀幕と共に味わう、ポップコーンの味なのでした。
満足したしろやぎさんの姿が朧気になっていくのを、飄々は光りで祝福し送り出したのでした。
大成功
🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
手紙か……
書いてみようかしら。過去のあたしに
それで可愛い郵便屋さんに食べて貰えたなら本望じゃない
手紙を書くのは苦手じゃないのよ
昔、何度も何度も書いていた事があったから
『拝啓、少し前のあたしへ
あなたは今も独りで頑張ろうとしているのかしら?
全部自分で何とかしないとって無理をしているのかしら?
だとしたら大丈夫よ
そんなに独りで頑張らなくてもいいって教えてくれる人たちにもうすぐ会えるわ
とても素敵な騎士たちがあなたを守ってくれるから安心なさい
それまでの少しの間は独りだけど無理はしないでちょうだい』
はい、シロヤギさん
過去のあたしに届けてくれるかしら
できればあなたの食べた手紙の味が幸福なものだといいんだけれど
●
「手紙か……」
真っ新な便箋に、ペンが一本。誂えたかのように、便箋と同じ柄の封筒が机の上に並べられていました。
それは鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)にとって、何度も目にした光景でした。
「書いてみようかしら。過去のあたしに」
あれ程書いていた手紙は、今は久しくなっていました。苦手ではないのですが、気がつけばこうして向かい合うのも新鮮な心地がします。
「それで可愛い郵便屋さんに食べて貰えたなら本望じゃない」
書いた思いが誰かに喜んで貰える、それは嬉しいことだと白雪は知っていたのです。
宛先は、すんなりときまりました。白雪は早速ペンを持つと、迷い無くさらさらと文字を綴ります。
『拝啓、少し前のあたしへ
あなたは今も独りで頑張ろうとしているのかしら?
全部自分で何とかしないとって無理をしているのかしら?
だとしたら大丈夫よ。
そんなに独りで頑張らなくてもいいって教えてくれる人たちにもうすぐ会えるわ。
とても素敵な騎士たちがあなたを守ってくれるから安心なさい。
それまでの少しの間は独りだけど無理はしないでちょうだい』
忘れていたわけではありません。忘れてしまう程の、沢山の幸福に白雪は出合ってしまったのです。
それを過去の「あたし」に伝えたい。
書き終えた便箋を丁寧に畳んで封筒に入れると、しっかりを封をします。
「はい、シロヤギさん。過去のあたしに届けてくれるかしら」
「めえっ!」
元気いっぱい返事をしたしろやぎさんは、ぱりぱりしゃくしゃくと小気味良い音を立てて、あっという間に白雪の手紙を食べてしまいました。
「めええー」
ありがとう、とっても美味しいよ。甘くてふわふわ、綿菓子みたいな幸せの味。
誰かの笑顔が見たくて手渡した綿飴の味は、不思議と格段に美味しいもの。ほんの少しの優しさのスパイスが、そうさせているのかも知れません。
星屑のような光が最後に一際眩しく輝いたのを見送った白雪は、その空にしろやぎさんが手紙を配達する姿が見えた気がしたのでした。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・明
アナンシ(f17900)と
あたしのいた屋敷は優しすぎるご主人様と
それを伝えられていないかわいそうな意志ある美術品と
あたしたちを世話するたくさんの使用人たちがいた
あの時はあまり素直になれなかったけれども
あの退屈な箱庭のような時間があったからこそ、いまのあたしがあると思うの
お手紙に感謝の気持ちをしたためてしろやぎさんに差し出しましょう
おいしいかしら? おいしくないかしら?
おいしいならばよかったわ
……アナンシには言わないわよ(つーん)
もう! 照れてないから! 照れてるわけじゃないから!
……気持ちは伝わっている、そうだといいわね
あなたも、お手紙の宛先に気持ちが伝わっているんじゃない
アナンシ・メイスフィールド
メイ君f12275と
記憶が未だ戻らないせいか手紙…と言うと悩むのだけれども
人狼の子の耳や犬を見る度何処か懐かしい不思議な気持ちになるからねえ
もしかすると人狼の友人…家族の様な者が私にも居たのかもしれないとそう思うのだよ
生きているのかも分らないけれど…もし帰りを待ってくれているのならば
必ず思い出し帰るとそう文字に綴り封をしてみようか
白山羊君がやってくれば私の手紙を渡してみよう
メイ君の手紙もだけれども…私の手紙も満足してくれた様で良かったのだよ
で、メイ君はどの様な手紙を書いたのかね?
ははは、照れずに教えてくれてもいいではないね
まあ、きっと気持ちは伝わっていると思うのだよ、うんうん
●
少女の思い出の風景は、大きなお屋敷から始まります。
優しすぎるご主人様と、それを伝えられていないかわいそうな意思ある美術品。
そして二人の世話をする、たくさんの使用人たち。
どんなに贅をこらした装飾品も、どんなに壮麗な調度品も。意思ある美術品にとっては、窮屈に閉じ込められたような暗鬱な気持ちにさせたのでした。
「あの退屈な箱庭のような時間があったからこそ、いまのあたしがあると思うの」
そう言った機械人形の少女――マラカイトの瞳に強い意志湛えた逢坂・明(絢爛エイヴィヒカイト・f12275)の手には、一通の封筒がありました。
その様子をアナンシ・メイスフィールド(記憶喪失のーーー・f17900)は隣で微笑みながら見守っていました。
「記憶が未だ戻らないせいか手紙……と言うと悩むのだけれども」
過去と呼べるものがないアナンシは、目覚めてからの記憶をかき集めて手がかりを探すうちにひとつのことに思い当たりました。
「人狼の子の耳や犬を見る度何処か懐かしい不思議な気持ちになるからねえ。
もしかすると人狼の友人……家族の様な者が私にも居たのかもしれないとそう思うのだよ」
彼らの寿命は、人より短いもの。今も生きているのかも分からないけれど……もし帰りを待ってくれているのならば、必ず思い出して「ただいま」と伝えたい。
未だ道の分からない帰路に、たどり着く場所があるのなら。そこがアナンシの帰る場所なのでしょう。
――あの時言えなかった、ありがとうを。
――いまだ言えない、ただいまを。
明とアナンシは、物陰からこちらを窺う二ひきのしろやぎさんに、手紙を差し出しました。
「さあしろやぎさん、手紙を持ってきたわ。ちゃんと届けてちょうだいね」
「めえっ!」
「めえ、めえっ! めええー」
やっと、やっと! 待ち望んだお手紙です。
しろやぎさんたちはすぐさま手紙に飛びつくと、小さい手を目一杯伸ばして宝物のように手紙を空へと掲げました。
封筒の端から差し込んだ星の光が眩しくて、じいんと震える心のままに目を潤ませるしろやぎさん。
配達員のはとさんも、一緒に感動の時をお祝いします。
「めえ」
「めえ!」
やがて二ひきは乾杯するように手紙をこつんとぶつけると、時を揃えて手紙を食べ始めました。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃむしゃ。
「めえっ、めええ……」
「めえ、めえっ」
あの時言えなかった気持ちは、甘酸っぱくてほのかに苦い。
いまだ言えない誰かへのただいまは、苦みの後に残る透き通った後味の一杯の紅茶。
旅のあと、誰かと一緒に飲みたくなるような。話のお供に欠かせない、喉を潤すもの。
「めえー……」
「めえ。めえめえ」
どちらも美味しかったのか、二ひきは満足そうに頷き在って幸せな鳴き声を上げました。
その姿はもう既に、光となって解け始めています。
「配達、よろしく頼むよ」
「めえっ」
任されましたとばかりに元気な返事が返ってきて、思わず笑顔になる二人。元気で愉快な郵便屋さんを、穏やかな表情で見送りました。二ひきが最後の一粒になるまで、ずっと。
「で、メイ君はどの様な手紙を書いたのかね?」
手紙を書いていると分かれば、その内容が気になってしまうもの。アナンシは明に尋ねてみましたが、つんと澄まし顔で顔を背けられてしまいました。
「……アナンシには言わないわよ」
「ははは、照れずに教えてくれてもいいではないかね」
「もう! 照れてないから! 照れてるわけじゃないから!」
「まあ、きっと気持ちは伝わっていると思うのだよ、うんうん」
からかうようなアナンシの言葉に、明はムキになって噛みつくと、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいます。
「……気持ちは伝わっている、そうだといいわね。あなたも、お手紙の宛先に気持ちが伝わっているんじゃない」
「だと良いのだが、宛先だけでは届かないかも知れない。でも不思議と不安は無く清々しい心地なんだ。しろやぎ達はメイ君の手紙もだけれども……私の手紙も満足してくれた様で良かったのだよ」
「そう、なら良かったじゃ無い。手紙を書いた甲斐があったというものだわ」
宛先は遠く、どちらも朧気な時の彼方。
もし宛先の扉をしろやぎさんがノックしたら、手紙を受け取ってくださいね。
――大切なお手紙をお届けに上がりました。
扉を開けた人に、鞄から取り出した手紙を渡すため。しろやぎさんはここまで来たのですから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
手紙を書くのは久しぶりだ
亡き祖父母への手紙、その便箋には祖母が好きだった花が描かれたもの
書きたいことは沢山あったはずなのに、便箋を前にあれも違うこれも違うと何度書き直しただろうか
手紙を出したところで食べられてしまうのは分かっているのに、そんな自分に思わず自嘲した
結局、手紙の内容は面白みもない近状報告
ただ短く「元気にやってるよ」と一言ほどしかないもの
猟兵になる前もなってからも色々とあったはずなのに、どうやら俺は手紙を書くのも苦手らしい
こんな俺の手紙でも美味しいと食べてくれるだろうか?
満足して昇天してくれれば、釣られるように僅かに笑い
彼らが喜んでくれるなら、たまにはこうして手紙を書くのも悪くないな
●
手紙を書く、そのこと自体が久しぶりなせいでしょうか。
それとも、何を伝えれば良いのか分からないからでしょうか。
祖母が好きだった花があしらわれた便箋に、何を書こうか。亡き祖父母へ何を伝えれば良いのか、ペン先が迷っては、薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)の脇に書き損じた便箋がこんもりと積み上がっていきました。
手紙を出したところで食べられてしまうのは分かっているのに、適当な文面で済ませてしまえば良いと思っているのに。
悟郎には、この手紙を軽く扱うことが出来なかったのです。
感傷的な自分に自嘲して姿勢を崩せば、腕に微かな感触が。沢山あった言葉は纏まらないまま、ころんとひとつ分が転げて落ちていきました。
「手紙、これでいいか」
書き上がった手紙は、何通目でしょうか。数えるのも止めた最後の一通を、悟郎はしろやぎさんに差し出します。
「めえ!」
お手紙、くれるのですか。
しおしおと打ちひしがれていたしろやぎさんは、みるみるうちに元気になり手紙を受け取ると――奪ったように見えますが勢い余っただけかも知れません、ぱくりと一息に口に入れてしまいました。
「美味しい?」
「めえっ!」
「そう、よかった」
もちろん、と言わんばかりに元気よく返事をしたしろやぎさんに、悟郎は目元を緩ませます。
子どもの頃に食べたお菓子は、きっとこんな味だった。優しくて懐かしくて、胸がきゅっと締め付けられる。
「めええー」
おいしいね、とめえめえ鳴くしろやぎさんをみて、ふと悟郎は手紙の内容を思い返しました。
結局、手紙の内容は「元気にやってるよ」と短く書いただけした。
それ以上に祖父母に伝えたい言葉は、悟郎の中に沢山たくさんありました。何で書けなかったんだろうな、と考える悟郎の目にしろやぎさんの嬉しそうな笑顔が脳裏の祖父母に重なって見えて、釣られるように僅かに笑顔を見せました。
――彼らが喜んでくれるなら、たまにはこうして手紙を書くのも悪くないな。
光の粒へと変わり天へと昇るしろやぎさんを見送りながら。その思いは誰にも言わずに、胸に秘めたまま。
悟郎は最後の一粒を見送りました。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
◎
アルダワってどうしてこう…ちょっと気が抜けるオブリビオンが多いんでしょうかね。
学園だからですか?
でも最終的に生徒たちに危害を及ぼすんですよね。災魔ですもんね。
というわけで持って参りました。
山羊さんたちが満足できそうなお手紙の山々です。
先刻の戦争で共闘させて頂いた猟兵様方に出そうとして、出せなかったんですよね。
──書き損じてしまって。
ここに持ち込むにあたって最後まで書いてきましたけど。
一回気が抜けると文字は乱れるわ誤字多発するわ二重線で消してしまうわで。
感謝と親愛はたっぷり込めてちゃんと封蝋もして来ましたけど……
しろやぎさーん? お手紙いかがですかー?
【苦戦歓迎】
●
思い返せば、何度も通うこととなった魔法学園。災魔が起こす事件を関わった分だけ指を折って数えれば、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)はふと手を止めて「あら?」と首を傾げました。
「アルダワってどうしてこう……ちょっと気が抜けるオブリビオンが多いんでしょうかね」
はてさて、それは何故でしょうか。もしかしたらそれも学園の不思議なのかもしれません。
「でも最終的に生徒たちに危害を及ぼすんですよね。災魔ですもんね」
如何に気が抜けようとも、可愛らしくとも。その本質は災魔――オブリビオンなのです。いずれアルダワ魔法学園に、よからぬ事をもたらします。
というわけでしろやぎさんも、学園に危害を及ぼすこと間違いなしな訳でして。
「というわけで持って参りました」
え、どういうわけで? と声のした方を振り返ったしろやぎさんは、こんもりとした白い紙の山に驚きました。
「先刻の戦争で共闘させて頂いた猟兵様方に出そうとして、出せなかったんですよね。
──書き損じてしまって」
悲しいかな手紙に修正の跡は失礼に当たります。たとえ相手が許しても神楽耶が許せない。ここまで調子よく書けたのに何故、なにゆえ此処で書き損じたのか! 自身を恨むこと数知れず、そこは机上という名の戦場でした。
郵便局に持ち込むにあたって、神楽耶は一通ずつ最後まで書いてきたわけですが。一回気が抜けると文字は乱れるわ誤字多発するわ二重線で消してしまうわで、戦傷よりも生々しい筆の跡は見るだけで心が折れるよう。
その分感謝と親愛はたっぷりこめて、ちゃんと封蝋もしてきた訳ですが……。
はたして、彼らのお口に合うのでしょうか。
「しろやぎさーん? お手紙いかがですかー?」
料理で言うところの焦げたり調味料を入れすぎたりしたものを人に――ここではしろやぎさんに出すわけですから、途中で吐き捨てられても文句は言えません。むしろその覚悟をしてきた神楽耶は、手紙の山の前でどうにでもなれと腹をくくる気分でした。
「めえっ」
「めえ、めええっ!」
「めーーっ!」
しかし予想を裏切って手紙、手紙だ! とばかりに群がるしろやぎさん。手紙に飢えていたしろやぎさんたちは、次々と手紙と手に取って食べては、めえめえと鳴いています。
「あら、思いのほか好評のようですね」
「めえ!」
当たり前では無いですか、としろやぎさん。
こんなに思いのこもった手紙が、不味いわけありません。
たくさんの「ありがとう」が籠もった手紙は、優しいミルクの味。
ほんのり甘く、身体中に染み渡る思いを受け取ったしろやぎさん達は蜂蜜のような黄金色の光となって、空へと昇っていきました。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
◎
手紙、手紙とな
誰かに向けて思いを込めて認めるものと聞いたが、書くのは初めてだ
どうしたものかなと思案し、ふと閃いて筆を執る
拝啓 最後の主殿
既に此の世の者では無い貴方へ「お元気ですか」と申すのも
些か不適当にてございますれば
貴方が此の地下迷宮で果ててなお大切に守ってくれていた懐中時計は
こうして驚くべき事にひとの身体を得て第二の生を謳歌しております
何時か必ず、貴方の眠る地へと至り、弔います事を約束しましょう
其れまで今暫くお時間を頂く事、平にご容赦下さいますよう
俺がヤドリガミに為るに至ったのも、代々の所有者が百年にわたり
大事に扱ってくれたからにて
今は其の名を思い出せぬ最後の所有者へと、此の手紙を出そう
●
「手紙、手紙とな」
果たしてそれは、いかなるものでしょうか。
何事も事前調査は大切なもの。ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)は生真面目に、まず手紙というものから調べる事にしました。その結果、得た答えは「誰かに向けて思いを込めて認めるもの」。成る程、そのようなものがあったとは。
もちろん知らないものは経験したことなど無く、手紙を書くのは今回が初めて。
どうしたものかなと思案すること、暫し。
かち、こち、かち、こち。心音代わりの秒針が、時を刻んでいきます。
考えるニコの脳裏に、一人の名前が光となって現れました。
そうだ、あの方に手紙を出そう。
書き始めてみれば早いもの、溢れ出る言葉を紙面に落とし込んで最後に封をすればできあがり。
『拝啓 最後の主殿
既に此の世の者では無い貴方へ「お元気ですか」と申すのも
些か不適当にてございますれば。
貴方が此の地下迷宮で果ててなお大切に守ってくれていた懐中時計は、
こうして驚くべき事にひとの身体を得て第二の生を謳歌しております。
何時か必ず、貴方の眠る地へと至り、弔います事を約束しましょう。
其れまで今暫くお時間を頂く事、平にご容赦下さいますよう』
ニコがヤドリガミに為るに至ったのは、代々の所有者が百年にわたり大事に扱ってくれたから。
「(今は其の名を思い出せぬ最後の所有者へ、此の手紙を出そう)」
「めえっ!」
任された、とばかりに手紙を食べながら返事をするしろやぎさん。
懐かしい思い出は、琥珀色の飴玉のように輝いて甘く溶けて。
ぼんやりと光るまろい輪郭が崩れ星空と同化するのを、ニコは見届けたのでした。
大成功
🔵🔵🔵
ネイムレス・ノゥネイム
マリアドール・シュシュ◆f03102
○暴走大歓迎
届かない相手にも手紙がとどくん!?
こりゃ乗っかるしかないで!
(手紙改変歓迎)
人気の神さんへ
前略
濡れ手で粟の真っ最中やろか?
ミーのような若い神にも、儲けるノウハウ教えてくれへん?
あかん?
ほいだらせめて友達の作り方でも...
ちゃうで?
ちゃうねん!
寂しいわけやないで?
小学生も友達百人からやんか?
ほなよろしくやで!
草々
手紙を仕上げたら、マリアとか言うねーちゃんが話しかけてきたで?
まだ手紙だしてへんけどご利益きた?
せや、気前良さそうやし、この友達契約書にサインもらお。
この契約書を後生大事に持ち歩いて、友達面しよ!
友達との最初の思い出が手紙出すとか素敵やな!
マリアドール・シュシュ
ネイムレス◆f21492
○
手紙捏造可
まぁ!アルダワにこんな不思議なポストもあるなんて
マリア知らなかったのよ
手紙…お友達に書くのだわ!
青紙に星色のインクで綴る
手紙に白の茉莉花を添え
香りも届ける
夏依頼について楽しかった事を語る
手紙を複数枚書く
トロピカルジュースを一緒に飲み水遊びした事
共に海を泳ぎ焼きそばを食べさせた事
花の腕輪を作って渡した事
ネモフィラの花に乗り宝石の洞窟へ行った事
どれも大切な思い出
夏の宝物が沢山
忘れられないわ
ネイムレスと遭遇
ごきげんよう
あなたはどんなお手紙書いているのかしら?
ふふっお友達?
マリアで良ければ!
サインは「マリア」のみ記す(契約書無効
最後はネイムレスと一緒に郵便屋へ渡す
●
「届かない相手にも手紙がとどくん!? こりゃ乗っかるしかないで!」
なんということでしょう! そんな面白い話をネイムレス・ノゥネイム(神のアリスナイト・f21492)が逃すはずありません。
まさに千載一遇、そうと決まればすぐさま実行。
ペンと便箋、封筒の用意よし。
さてさて、気になる手紙の内容とは。
『人気の神さんへ
前略
濡れ手で粟の真っ最中やろか?
ミーのような若い神にも、儲けるノウハウ教えてくれへん?
あかん?
ほいだらせめて友達の作り方でも……。
ちゃうで? ちゃうねん! 寂しいわけやないで?
小学生も友達百人からやんか?
ほなよろしくやで!
草々』
どうせ持ち上げられるなら、沢山にヨイショされたい。欲望渦巻く願い事は、果たして叶うのでしょうか。
「まあ! アルダワにこんな不思議なポストもあるなんて」
星のきらめきを閉じ込めた瞳を一層輝かせ、マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は足取りも軽やかにポストの方へと向かいます。
その先には、声に驚き振り向いたネイムレスの姿がありました。
「ごきげんよう、あなたはどんなお手紙書いているのかしら?」
もしかして、これはまさか。
「(まだ手紙だしてへんけどご利益きた? せや、気前良さそうやし、この友達契約書にサインもらお)」
まさかのチャンス到来に驚きつつも、ネイムレスはマリアへと一枚の紙面とペンを差し出しました。
「この契約書にサインもろてええ? ミーと友達になって欲しいんや!」
「ふふっお友達? マリアで良ければ!」
お友達が出来るだなんて思ってもいなかったネイムレス。目の前で流麗な文字が「マリア」と綴られます。
「(ふっふっふ、この契約書を後生大事に持ち歩いて、友達面しよ!)」
舞い上がるような心地で、ネイムレスはマリアドールから契約書を受け取ります。
「友達との最初の思い出が手紙出すとか素敵やな!」
大切な契約書を無くさないように両手で持ったネイムレスは、マリアドールの手に封筒があるのを見つけました。
「せや。マリアの手紙は、どんなことが書いてあるん?」
「それは秘密」
しぃーっ、と寄せた指の向こう側で、ネイムレスへと微笑むマリア。それは華やいでいながらも、ちょっぴり意地悪な少女の顔でした。
「マリアとこの手紙を読む大切なひとだけがわかる言葉で書いたのよ」
便箋と揃いの青紙に添えられた、白の茉莉花がありました。
立ち上るほのかに甘い香りが二人の鼻腔を満たして、しばしの無言。
マリアの脳裏には封筒に閉じ込めた言葉が、鮮やかな星の光で綴られているのが見えるようでした。
大いにはしゃいだ水遊びとトロピカルジュース。
手をつなぎ海を泳いで、焼きそばを食べさせた屋台。
打ち上げられた花で編んだ腕輪。
ネモフィラの花に乗って巡った宝石の洞窟。
花嵐の中、花に乗せ綴った願いと祈り。
マリアドールの中できらきらと輝く、忘れられない夏の思い出たち。沢山ありすぎて一枚にはとても収まりきらず、何枚にも分けて書くことになってしまいました。けれど、それだけ伝えたいことが、マリアドールにはあったのです。
『またあなたと、次の夏も一緒に過ごしましょう。来年は同じくらい――いいえ、もっと沢山の素敵で満ちあふれているのだわ』
「でもこれから食べられてしまうのですけれど」
ねえ、とマリアドールが視線を向けた先には二ひきのしろやぎさんの姿がありました。
「お手紙どうぞ、しろやぎさん」
「ちゃあんと届けてや!」
「めえ!」
もちろん! としろやぎさんは元気よく返事をすると、素早く手紙を受け取り早速一口。そのままむしゃむしゃと手紙を食べてしまいました。
あれもこれもを詰め込んだ、七色のドロップスたち。
欲張りな思い達は、星の欠片となってほろほろと蕩けていきます。
やがてそれは、光を捲き捲き天へと昇っていきました。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『上司のくろやぎ』
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POW : でりしゃすれたー
【『あまい』告白の手紙】【『しょっぱい』別れの手紙】【『からい』怒りのお手紙】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : ようしゃしないめぇ!
【『するどいきれあじ』の催促状のお手紙】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : そくたつぽっぽさんめぇ!
レベル分の1秒で【頭上にいる速達担当の相棒ぽっぽさん】を発射できる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●
おやおや、なにやらしろやぎさん達が騒がしいようです。
何かあったのでしょうか。くろやぎさんは速達便を担当するぽっぽさんを、見上げました。
「クルルッ」
いいや、知らないよ。ぽっぽさんも首を傾げます。
ぱたぱたと耳を震わせ、じっとそばだたせるくろやぎさん。めえ、としろやぎさんの声がまた聞こえました。
「おてがみ、おいしい。とっても、うれしい、めえ」
これは、これは。
「おてがみ、とどいためえ!」
郵便局の一大事! 一刻も早く、手紙を回収に行かなければなりません。
よいしょと局長の椅子から降りると、いそいで郵便局ののドアを開けるくろやぎさん。
「クルッポー!」
ぽっぽさんもそれに続いて、くろやぎさんの頭の上で嬉しそうに鳴き声をあげたのでした。
======================================
お待たせいたしました。第2章のプレイングを受付いたします。
前章に引き続き、今度はくろやぎさんがお手紙を待っているようです。
くろやぎさんは簡単にではありますが、受け取った手紙のお味、感想を言いたいそ様子。
たくさんお手紙が届くと良いですね。
プレイングの受付は下記の通りとなります。それではお待ちしております。
【9/11(水) 23:59まで】
鶴澤・白雪
あら、今度はクロヤギさんなのね
クロヤギさんにはどんなお手紙を届けてもらおうかしら
さっきは過去のあたしに手紙を書いたから
今度は天国にいる妹に届けてもらおうかしら
『拝啓、彩芽へ
嘘をつかせてまで身代わりにしてしまってごめんなさい
ずっと悔やんで向き合えなかったから手紙を書くのは久しぶりね
正直未だに何を書いたらいいのかは分からない
だけどやっと伝えられるようになったから筆を取ることにしたわ
あたしを守ってくれてありがとう
お姉ちゃん頑張るからもう少しだけ生きていさせて』
まだ悲しい気持ちはあるけど
昔よりずっと穏やかな気持ちで手紙を書けた気がするわ
クロヤギさん、この手紙お願いできるかしら?
大事な手紙だから頼むわね
●
扉の前で耳をパタパタと震わせながら、お手紙がその蹄に触れるのを待っているくろやぎさん。
「あら、今度はクロヤギさんなのね」
そんなくろやぎさんを見て、白雪は表情を綻ばせます。
どんなお手紙をくろやぎさんに配達して貰いましょうか。
先ほど手紙は過去の白雪に。
なら、今度の手紙は天国の妹へ。
『拝啓、彩芽へ
嘘をつかせてまで身代わりにしてしまってごめんなさい。
ずっと悔やんで向き合えなかったから手紙を書くのは久しぶりね。
正直未だに何を書いたらいいのかは分からない。
だけどやっと伝えられるようになったから筆を執ることにしたわ。
あたしを守ってくれてありがとう。
お姉ちゃん頑張るからもう少しだけ生きていさせて』
「めえ。届けたいおてがみ、ありますめえ?」
声にふと視線を向けると、白雪の前でくろやぎさんは首をかしげていました。頭の上では速達便のぽっぽさんも、くろやぎさんの真似をしています。
「ええ。クロヤギさん、この手紙をお願いできるかしら? 大事な手紙だから頼むわね」
「承知しましためえ!」
お手紙を貰った嬉しさのあまり、ぱくんと一息に口に入れてしまうくろやぎさん。
「めええ、しょっぱいめえ。でも甘くてちょっとほろ苦い……塩キャラメルめえ」
しょっぱい味に驚きながらも、後味の変化に上機嫌になるくろやぎさん。
「キャラメル箱から一個だけ、お裾分けしてもらったみたいだめえ」
ありがとめえ、おいしかっためえ。嬉しそうに話すくろやぎさんを見て、白雪も思わず笑顔になりました。
淡く滲んだ記憶の、苦い後悔。白雪が抱えていた思いは、便箋に閉じ込めた分だけ軽くなった気がしました。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
◎
どうやら、手紙の書き方の要領はしろやぎさんへと託した感じで
大丈夫と見て良さそうだな…ひと安心だ
次はしろやぎさんの上長が手紙を検分してくれるのか、緊張するな
最初の手紙は過去へと向けた、ならば次の手紙は未来へと向けよう
『親愛なる』
…困った、此処から先がどうしても文字に出来ない
そもそも彼奴は俺にとって如何なる存在として定義すべきか
友人?親友?悪友の方が近いか?
などと、いきなり書き出しから詰まってしまい頭を抱える
伝えたい事は山程あるのだ、共に暮らし共に生きていれば
感謝もすれば多少の文句も出たりする
少しだけ時間を貰って、何とか纏めてみせよう
不思議と〆の文言は決まっていた
『此れからも、どうぞよろしく』
●
ニコはしろやぎさんの反応を見て、手紙の書き方が間違っていないことに安心しました。
これでもう手紙はばっちりです。
「次はしろやぎさんの上長が手紙を検分してくれるのか、緊張するな」
「そうでもないめえー」
気を引き締めるニコに対し、くろやぎさんはのんびりと返事をしました。
改めて便箋に向かい合うニコ。
『親愛なる』
順調に書き出したかと思えば、ここでぴたりと筆が止まってしまいます。
「どうしためえ?」
「……困った」
その続きがニコにも分からなくなってしまいました。
生活を共にする今の主には、もの申したい事が山程ありました。
しかし彼との関係を表す言葉が『懐中時計とその持ち主』という枠に収まらないことに、ニコは気づいたのです。
「(そもそも彼奴は俺にとって如何なる存在として定義すべきか。友人? 親友? 悪友の方が近いか?)」
時間を使って何とか纏めた手紙は、前の主へ向けたものより少し不格好な内容になりました。
『此からも、どうぞよろしく』
いささか砕けた口調は、いつも主へ向けるように。初めから決まっていた締めの文言を書き終えたニコは、封をしてくろやぎさんへと渡します。
「ありがとうございます、めえ」
手紙を受け取ったくろやぎさんは、封を切ることなく手紙を食べてしまいました。
「はじめてのクッキーは不格好だけど、作った人の思いがたくさん詰まってるめえ」
そうだめえ、と一時考え込んだくろやぎさんは、やがて見つかった言葉にぱっと表情を明るくさせます。
「甘さは控えめだけど、作った人を見ればおいしいって言ってしまうめえ」
とびっきりの飲み物を一緒に出してあげると、もっと美味しい。
楽しそうなくろやぎさんの表情をニコは、懐中時計の蓋をそっと撫でたのでした。
大成功
🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
「お前もか、くろやぎさん」
期待に満ちたその瞳、俺如きの手紙を渡して良いのかと迷うが…
しろやぎさんを思い出せば、無いよりはマシだと自身に言い聞かせ差し出す
今度は数年前に世話になった隊長へ宛てた手紙
酒が好きな年上の女性
いつも酔っぱらっていて二日酔いになる事も多々あり…散々迷惑をかけられてきたな…
祖父母の時とは違ってうっかり愚痴に近い文章ばかりが並んだところで…いや、それでは駄目だろう
俺に酒も煙草も教えてくれた一応世話になった人だ
『ご自分の体に気を付けて、あまり飲みすぎないように』
今もきっと何処かで楽しくやってるあの人への手紙をくろやぎさんに託す
あの時、言えなかった気持ちも本当に届くような気がするな
●
星空の下、つぶらな瞳はゆったりと垂れ下がっていたのですが……。手紙の気配を察知したくろやぎさんは、期待に満ちた眼差しで悟郎を見つめました。
「お前もか、くろやぎさん」
自分如きの手紙を渡して良いものか。迷う悟郎が思い出したのは、しろやぎさんの喜ぶ表情でした。
無いよりましかと言い聞かせ、フードの端を摘まんで顔を隠す悟郎。ポケットに手を入れれば、かさりと音を立てて触れた一通の手紙。
その宛名に記されていたのは数年前、悟郎が世話になった隊長の名前でした。
お酒が好きな年上の女性はいつも酔っぱらっていて、二日酔いになる事も多々ありました。彼女に悟郎は散々迷惑をかけられてきたのです。
あんな事も、こんな事も。書いている内に思い出した記憶が溢れて積み上がって……気がつけば愚痴に近い文章ばかり。
「……いや、それでは駄目だろう」
一応がつくものの世話になった女性、悟郎に酒も煙草も教えてくれた人。
『ご自分の体に気を付けて、あまり飲みすぎないように』
少しでも長く、彼女には笑っていて欲しい。今はどこに居るのか分からない彼女が壮健であるよう、悟郎は手紙に願いを託したのでした。
「お手紙、配達ですかめえ?」
「ああ……」
あの人の事ですから、きっと何処かで楽しくやっているでしょう。
そんな彼女への手紙を、悟郎はくろやぎさん託します。
「いただきます」
そういって手紙を受け取ったくろやぎさんは、むしゃむしゃと手紙を食べ始めました。
「めえー、苦いアルコールがぱちぱち弾けるめえ! 体がぽかぽかして、楽しい気持ちになるめえ」
新食感めえ、と喜ぶくろやぎさんを見て、悟郎はあの時言えなかった気持ちも本当に届くような気がしました。
大成功
🔵🔵🔵
アテナ・アイリス
「未来のわたしへ」
あなたは、今何をしていますか。
子供のころからの夢だった、勇者のパーティーには参加できていますか。
参加できるだけの強さは身についていますか?
ううん、それは心配していないわね。だって、わたしならきっとやり遂げているって信じているから。
「才色兼備」を名乗ると決めた時から、技術については誰にも負けないように努力するって決めているから。
みんなの幸せを守るために、きっと最前線で戦っているわ。
でも、もうひとつ聞かせてもらっていいかな?
そして、今あなたは幸せですか?そばには誰がいますか。
わたしが想像している人と同じだったらいいなあ・・・。
さあ、くろやぎさん、わたしの想いを届けて頂戴。
●
星降る空の下、一人の女性が郵便局へとやってきました。
その手には一通の手紙。アテナ・アイリス(才色兼備な勇者見届け人・f16989)はポストを見つけると、投函しようと手を伸ばします。
「おてがみですめえ!」
声のした方を振り向けば、つぶらな目をきらきらと輝かせたくろやぎさんが。
「ええ、手紙を出したいのだけれど。どうしたら良いのかしら」
「めえ! それならおてがみちょうだいします、めえ」
差し出された蹄へと手紙を乗せると、嬉しそうに鳴き声を上げるくろやぎさん。
「宛先は……『未来のわたしへ』」
不安と期待が入り交じる、可能性の世界へ思いを馳せた手紙のせたひとつの夢でした。
『あなたは、今何をしていますか。
子供のころからの夢だった、勇者のパーティーには参加できていますか。
参加できるだけの強さは身についていますか?
ううん、それは心配していないわね。だって、わたしならきっとやり遂げているって信じているから。
「才色兼備」を名乗ると決めた時から、技術については誰にも負けないように努力するって決めているから。
みんなの幸せを守るために、きっと最前線で戦っているわ』
アテナが歩んだ奇跡は、その先でも実を結んでいると信じて。
『でも、もうひとつ聞かせてもらっていいかな?
そして、今あなたは幸せですか? そばには誰がいますか。
わたしが想像している人と同じだったらいいなあ……』
「めえっ、まろやかなチーズの味だっためえ。でも途中から……これは甘酸っぱいめえ」
「ホホーウ!」
「なっ……」
きらりん! と光る目にたじろぐアテナ。くろやぎさんとぽっぽさんは「青春めえー」「ホーウ」とどこ吹く風で手紙を食べています。
「作成に時間がかかるチーズは、それだけおいしい味になるめえ。そうなるといいめえ」
「そうね、そうなるように努力を怠るつもりは無いわ」
未来が楽しみだめえ、と語るくろやぎさんに、アテナはしっかりと頷いて返しました。
大成功
🔵🔵🔵
ネイムレス・ノゥネイム
マリアドール・シュシュ◆f03102
○暴走大歓迎
いずれのご利益のある神さんかわからんけど、ほんまにありがとなぁ。
お陰で友達できてん。
ほんまやったらお礼の手紙でも書かないかんのやろけど、今回は初めての友達に書かしてな。
堪忍やで。
「マリアへ」
あらためて、手紙にするで
なんや、てれるやんな
たまたま出会ったユーが
二分で友達になったのは
サギやと思ったわ、逆に
ちゃんと言うのははずいから
ありがとうの気持ちを
レターに込めるやで。
ユーの神さんより
なぁんて、ちょっと縦読みを隠してみたりして。
マリアが難しい顔して考えてる間に書いてしまお。
こんなん、万が一読まれたら地面の上で跳ねる鯉(恋ちゃうで)くらい悶絶出来るわぁ。
マリアドール・シュシュ
ネイムレス◆f21492
○
手紙捏造可
ネイムレスが嬉しそうでマリアもとっても楽しいのよ!
今度は…
忘れじの彼の人達へ手紙を認めるわ
最近よく、依頼でも”夢”を見るのよ
顔は思い出せないわ
けれど優しい声
温もり
綺麗な歌と音色
どうして…マリアは憶えていないの?
忘れているのは―
眸から金の雫が零れ文字がぼける
※育て親
銀の長髪の人魚の女と藁色の短髪の一角獣の獣人
マリアを慈しみ育ててた
獣人は鳩琴を奏で人魚は歌を聴かせ
獣人の戦闘理念をマリアは無意識に継ぐ
紛争で二人ともマリアを庇い死亡
その時から負の感情記憶回路が壊れる
ネイムレスの手紙も気になるの(読むかお任せ
くろやぎさんの味や感想を聞いて更に心があったかくなったのだわ
●
初めての友達に嬉しそうにするネイムレスを見て、マリアドールもも心を弾ませます。
楽しい楽しい、星空の下の郵便局。
ネイムレスの声と、くろやぎさんがめえと鳴く声。
その間に懐かしい旋律が聞こえた気がして、マリアドールは耳を澄ませます。
――最近、夢を見ることが増えました。
顔は思い出せないのですが、優しい声と温もり。そして綺麗な歌と鳩琴の音色。
「(どうして……マリアは覚えていないの?)」
忘れているのは――いったい何?
忘れてはいけない筈なのに、マリアドールの記憶からほろほろと抜け落ちてしまった大切な人たち。
銀色の髪と、藁色の髪。人魚と一角獣の獣人。
溢れた思いを、マリアドールは手紙へと閉じ込めます。
『顔も名前も分からない、大切な人へ。
マリアはとても幸せよ。たくさんの人たちと思い出を作って、今も新しい友達ができたところなの。
ねえ、あの歌は何という曲なのかしら。マリアも歌いたい、教えてくれるかしら?
マリアともう一度、会えるのかしら?
会いたいわ。たくさんお話しして、たくさん歌を歌いたい。それと――』
「どうして、忘れているの?」
眸から零れ落ちた金の雫が、ぽたりと落ちてインクを滲ませてしまいます。
「(このままでは手紙が読めなくなってしまうのだわ!)」
慌てて袖で拭うマリアドールの手元が、白い封筒に遮られました。
「マリア、見てみて!」
そっと指先で滴をすくい、顔を上げるとネイムレスの姿がありました。
「マリアが難しい顔して考えてる間に書いてしもてん」
虹色のインクで綴られた宛名には、
『マリアへ』
と書いてありました。
「これ……」
「へへへ」
もう一通の手紙を書く時に、友達をくれた神さまも候補にありました。
「(けど、友達にこんな顔されたらさき書いてまうやろ)」
どんなご利益のある神さまか分かりません。ネイムレスに友達をくれたお礼は、また今度。
「お手紙書けましためえ?」
「書けたで、これや!」
勢いよく封筒を振り回すネイムレス。その封筒が手から落ち、封をしていなかったせいか便箋がはらりと落ちて、
「これは……」
まるで読んでといわんばかりに、マリアドールの前に着地しました。
『なんや、てれるやんな
たまたま出会ったユーが
二分で友達になったのは
サギやと思ったわ、逆に
ちゃんと言うのははずいから
ありがとうの気持ちを
レターに込めるやで。
ユーの神さんより』
「あああ、アカーン! ストップ! なに、マリア、読んでもたん?」
「ええ、ごめんなさい。つい気になって」
「なんやて」
恥ずかしさのあまり、地面の上で跳ねる鯉――恋では無く、水を失った魚のようにのたうち回るネイムレス。
「たのしそうめえ」
二人を見てくろやぎさんとぽっぽさんは、めえめえ、ホーホーと笑いました。
「こっちの手紙は、忘れられないしょっぱい涙の味。こっちの手紙は、秘密のシロップがお口に広がるキャンディの味」
どっちもおいしいお手紙めえ、と食べてしまいました。
「ネイムレス」
「なに、マリア」
「――ありがとう」
「当たり前や! マリアはミーの大切なフレンドやからな!」
悲しみに沈んだマリアドールの心は、くろやぎさんと新たな友達に掬い上げられたのでした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
西条・霧華
「想いは繋がる…。そう信じる事も必要なのかなって思います。」
手紙の宛先は「喪った女友達」
今、あなたは何をしていますか?
私はあなたから沢山のものを貰ったのに、何一つ返せないままでしたね
それどころか、苦しむあなたを私は…
だから私は今でも自分自身を赦せません
赦せないから、あなたと同じ悲劇に見舞われる人が少しでも減る様に行動しています
いつかあなたに逢えたなら、その時も同じ友達でいてくれますか?
こんな私ですけれど、またあなたとお喋りしたり出掛けたり、そんな「当たり前」をもう一度送りたい
その日までは、もう少しだけ頑張ろうと思います
あなたもどうかお元気で
また逢える日を楽しみにしています
あなたの親友 霧華より
●
『今、あなたは何をしていますか?』
霧華が認めたもう一通の手紙は、その一文から始まりました。
『私はあなたから沢山のものを貰ったのに、何一つ返せないままでしたね。
それどころか、苦しむあなたを私は……』
「私は……」
あの日の光景が、また霧華を苦しめます。それでも霧華は、目をそらしませんでした。
たとえ苦しくとも、過去は捨てないと決めていたからです。
『だから私は今でも自分自身を赦せません。
赦せないから、あなたと同じ悲劇に見舞われる人が少しでも減る様に行動しています。
いつかあなたに逢えたなら、その時も同じ友達でいてくれますか?
こんな私ですけれど、またあなたとお喋りしたり出掛けたり、そんな「当たり前」をもう一度送りたい。
その日までは、もう少しだけ頑張ろうと思います。
あなたもどうかお元気で。
また逢える日を楽しみにしています。
あなたの親友 霧華より』
「めえー」
いま霧華の目の前で、くろやぎさんは手紙をぱりぱりとたべました。
「ときどきピリッ、からだがぽかぽか。局長も暑くなってきためえ」
「ホーウ……」
よいしょ、と袖で額の汗を拭うと、ぽっぽさんも翼で真似をします。
「想いは繋がる……。そう信じる事も必要なのかなって思います」
「きっと繋がるめえ。思いが繋がったから、いまこうしておてがみをたくさん貰えためえ」
くろやぎさんは幸せそうに、最後の一欠片を飲み込みました。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・明
アナンシ(f17900)と
お手紙が欲しいやぎさんがたくさんいるのね
あたしももう一通書いてみたわ
ちょっとだけ無茶をする、とあるドラゴニアンにあてて
クールかと思えば自己犠牲的でそのくせ間の抜けてる、あたしより年上とは思えないひと
危なっかしさもある彼だけれど、彼にはいつか彼なりの満足や幸福を見出して欲しいの
ひとのしあわせはそれぞれだから
血なまぐさい戦場ではなく、平和な中で
いつか笑ってくれたならば、いいわね
くろやぎさん、あなたはこのお手紙に何を感じるかしら
……なぁによ、その顔
イヤよ、見せたくないわ。特にあなたには。
イヤったらイ・ヤ!
ちょっ、追いかけてこないでよ!あんたに追いかけられると地味に怖いのよ!
アナンシ・メイスフィールド
メイ君f12275と
速達便かね?
直ぐに届ける相手は居無いのだけれども
そうだねえ…ではお世話になっている皆に書いてみようと思うのだよ
特に金の毛並みの狼の子には本当に世話になっているからね
これからも宜しく頼むのだよと、そう書いて行こう
…狼の子を見る度に懐かしい心持ちになるのとは別に、なんだね
大事な友人だと思って居るのだよとも続けてみようか
ん?恥ずかしく等ないのだよ?本人が居なければ解らない物だろう?
さて、メイ君はどの様な手紙を書いたのかね?
今度こそ見せてくれてはいいではないね…とははは、待ってくれ給えよ
嫌と言われると追いたくなってしまうではないね…!(黒山羊君に手紙を渡しいい笑顔で追って行く)
●
明とアナンシの前に、新しいやぎさんが現れました。
「お手紙が欲しいやぎさんがたくさんいるのね」
「めえー」
「この鳩は速達便かね?」
「ホーウ!」
ご利用なさいますか、とぽっぽさん。
「直ぐに届ける相手は居無いのだけれども……。ふむ」
「もう一通書けば良いんじゃない」
「そうだねえ……。ではお世話になっている皆に書いてみようと思うのだよ」
「そうしましょ」
こうして二人は、もう一通の手紙を書くことにしたのでした。
さて宛先を誰にしようかとアナンシが考えていると、ふと金色の毛並みをした狼の子が思い浮かびました。
「(あの狼の子には本当に世話になっているからね)」
これは名案です。さっそくアナンシはペンを取りました。
黄金の狼は、太陽のようにアナンシを照らしてくれました。それはこれからも、続いていくようにと願いを込めて。
『これからも宜しく頼むのだよ。
狼の子を見る度に懐かしい心持ちになるのとは別に、なんだね……。
大事な友人だと思って居るのだよ』
「ニヤニヤして、恥ずかしい手紙じゃないでしょうね」
ツンとした声に顔を上げれば、そこには胡乱げな目をした明が立っていました。
「ん? 恥ずかしく等ないのだよ? 本人が居なければ解らない物だろう?」
アナンシの言うとおり、この手紙は今からくろやぎさんに食べられてしまいます。そうじゃなくて、と明は言いかけて止めました。これ以上追求しても、のらりくらりと躱されてしまうことは明白です。
「さて、メイ君はどの様な手紙を書いたのかね?」
「……なぁによ、その顔」
嫌な予感がして、明は手紙を後ろへと隠します。
「今度こそ見せてくれてはいいではないね……と。ははは、待ってくれ給えよ」
「イヤよ、見せたくないわ。特にあなたには」
逃げ出した明を、アナンシは完璧なスプリントフォームで追いかけます。
「嫌と言われると追いたくなってしまうではないね……!」
「イヤったらイ・ヤ! ちょっ、追いかけてこないでよ! あんたに追いかけられると地味に怖いのよ!」
笑顔で迫るアナンシに叫びながら、明は絶対に見せてやるものか! と意地になって手紙を守り抜きました。
「(本人が居なければわからない。この手紙はその為のものよ)」
だから、誰にも見せたくない。誰かに知られてしまえば叶わない、幼いおまじないのような。そんな気がして。
宛名にあるドラゴニアンの彼は、ちぐはぐな印象だった。
クールかと思えば自己犠牲的。そのくせ間の抜けてる、明より年上とは思えないひと。
「(危なっかしさもある彼だけれど、彼にはいつか彼なりの満足や幸福を見出して欲しいの)」
『ひとのしあわせはそれぞれだから。
血なまぐさい戦場ではなく、平和な中で。
いつか笑ってくれたならば、いいわね』
「そんなに走らなくても、郵便局はにげないめえ」
「そうじゃ、ないの……」
「はは、年甲斐もなく、はしゃいでしまって、ね」
息を切らせた二人から手紙を受け取って、嬉しそうに「めえー」と鳴いたあとぱくん、と食べてしまいました。
「めえーっ、こっちは太陽の光をたっぷり浴びた、あまさたっぷりの果物の味がするめえ! こっちは……柑橘の酸味と苦みがあって、こっちもあまいめえ。突き抜けるような爽やかさめえ」
おいしいお手紙を食べたくろやぎさんは、二人に向かってぺこりと頭を下げました。
「すてきなおいしいお手紙を、ありがとうございますめえ」
ばいばいと手を振るくろやぎさんとぽっぽさん。
明は手を降って返し、小さくなるくろやぎの姿を見て、なんだか寂しくなりました。
くろやぎさんとのお別れの時間が、迫っていました。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
◎
=====
助けられなくてごめんなさい。
守れなくてごめんなさい。
届かせなければいけなかったのに。
救わなければいけなかったのに。
そう願われていたのに、果たせなかった。
……無力な身で、ごめんなさい。
=====
…こっちは、届いてはいけない手紙なんです。
謝ったって、壊れたものは直りませんし。
死んだ人が戻ってくることだってない。
得られるのはただ、「謝罪した」っていう自己満足だけ。
だから宛名も書いていなければ、記名もしていないんですけれど。
こんなお手紙でよろしければ。
くろやぎさん、召し上がってくださいますか?
●
その思いは、この身が砕けるその時まで秘めておくつもりでした。
――あまたの祈りを飲み込んで、炎が赤々と燃えている。
そのなかで神楽耶が取りこぼした数は、あまりにも多すぎたのです。
『助けられなくてごめんなさい。
守れなくてごめんなさい。
届かせなければいけなかったのに。
救わなければいけなかったのに。
そう願われていたのに、果たせなかった。
……無力な身で、ごめんなさい』
それは神楽耶が何度も繰り返してきた言葉でした。あの光景を思い出すたびに、神楽耶に込められた祈りが、喉元を突き刺すような苦しさでいっぱいになりました。
「……こっちは、届いてはいけない手紙なんです」
謝ったって、壊れたものは直りません。
まして死んだ人が戻ってくることもありません。
この手紙に綴られたのは、誰にも言えない神楽耶の柔らかく脆い部分でした。
「得られるのはただ、「謝罪した」っていう自己満足だけ。だから宛名も書いていなければ、記名もしていないんですけれど。
こんなお手紙でよろしければ。くろやぎさん、召し上がってくださいますか?」
「めえ!」
もちろん、とくろやぎさんは元気よく鳴き声を上げました。
「届いてはいけないお手紙なんて、ないめえ」
苦い手紙を食べながら、くろやぎさんは顔色ひとつ変えません。
「にがい味は、とびきりあまい味を教えてくれるめえ。だからにがいお手紙を書けたのは、あまーい味を知っているからめえ」
「ホーゥ」
珍しく殊勝な意見だな、と速達ぽっぽさんがくろやぎさんの頭を突きます。
「たまには良いことだっていうめえ」
お手紙のことに真剣なくろやぎさん。ふんっと胸を張る姿に、神楽耶はふと表情を緩ませました。
「ありがとう、ございます」
「こちらこそ、お手紙ありがとうめえ。次はあまいお手紙だと嬉しいめえ」
「さて、それはどうでしょうか」
悪戯っぽく笑った神様に、くろやぎさんは抗議の鳴き声を上げたのでした。
●
最後の一通を食べ終わったあと、くろやぎさんはとても幸せな気持ちでした。
たくさんのお手紙が郵便局に届いて、それをしろやぎさんとくろやぎやさんが食べて。とってもおいしい味ばかりで、もうお腹がいっぱいです。
「たくさんのお手紙と、たくさんの思いをもらっためえ」
だから、満足だめえ。
穏やかに笑うくろやぎさんの姿が、光の粒へとほどけて、空へと昇り始めます。
かつて神さまが人や動物を天へと昇らせ、星座にしたように。
「やぎの郵便屋さん、ご利用ありがとうございますめえ。これから配達に行ってきますめえ」
「ホーウ、ホーウ!」
相棒の速達ぽっぽさんも、元気よく羽をばたつかせています。準備万端のようです。
「これからも、お手紙をたくさんかいてほしいめえ」
いってきます、めえ。
そう言い残して、くろやぎさんは光の粒となって、星空と混ざり合い消えていきました。
これで「やぎの郵便局」と「不思議な郵便ポスト」のお話はおしまい。
きっといまごろ手紙を仕分けして、配達に向かっているに違いありません。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『迷宮の天穹』
|
POW : 星空をひたすら眺めよう
SPD : 流れ星を探そう
WIZ : 夜空の彼方に思いを馳せよう
|
●
「やぎの郵便屋さん」が手紙を配達しに行ったあと、郵便局はしん、と静まり返っていました。
おしまい。
そのフロアに残ったのは、手紙を届けにきた猟兵達だけだった。時折風が通り抜ける音がする以外、静かな夜。
そこは、満天の星空を投影した学園迷宮。
災魔はおらず、ただ穏やかな時間だけが流れている。
このフロアにあるのは、星空を写した天井と郵便局の建物、そして円筒状の郵便ポスト。
郵便局の中には、可愛らしいやぎさんの蹄を描いた消印がある。
星を見て語らってもいい。
新しく手紙を書いてもいい。その為の道具は全て揃っている。
もうポストに投函しても、届くことはないけれど。
『拝啓、星空の下より』
この星空を、誰かに伝えてもいいかもしれない。
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【プレイング受付期間】
9/17(火) 23:59まで
お待たせ致しました。第3章『迷宮の天穹』をお届けします。
この章では「やぎの郵便屋さん」があったフロアで自由にお過ごしください。
手紙を書いてポストに投函しても、やぎさん達はおりませんので、お届けは出来ません。
それでは、プレイングをお待ちしております。
またこの章のみ水標・悠里が同行いたします。その際はプレイングにその旨をご記載ください。
アテナ・アイリス
こんな穏やかなときには、いろいろ思いだしちゃうわね。
郵便局の建物によりかかりながら、UC「ファスシネート・ソング」を使って、「オルフェウスの竪琴」をつま弾いて
いままでの依頼についてのサーガを歌い始める。
辛かった依頼や、楽しかった依頼、そして自分の中では一番大切な思い出を思い出しながら歌う。
歌った後は、今後の方針について、星空を見ながら物思いにふける。
楽しかった時間はあっという間に過ぎていってしまう。でも、わたしにはそんなに時間は残されていないように思う。だとすれば、わたしは何をするのが最善なんだろう。
、、、ううん、まずは目の前の一日一日を大切にしないとね。
アドリブ・連携好きです。
●
先ほどまでの騒がしさが嘘のように、静かな時間が空間に横たわっていた。
「こんな穏やかなときには、いろいろ思いだしちゃうわね」
郵便局だった建物に寄りかかり、ゆったりと腰掛けるアテナ。その手に抱いた【オルフェウスの竪琴】をつま弾いて、旋律を唇に乗せる。
さあ、歌おう。
「これは、とある時代、とある場所の物語」
――ファスシネート・ソング。
聴いたものを夢へと誘うような、魅惑の旋律。共に歌い上げるのは、今までアテナが歩んできた依頼について。それらを一遍のサーガに編み上げ、紡いでいく。
辛かった依頼や、楽しかった依頼。アテナにとって一番大切な思い出。
誘われるのは聴衆だけではない。
旋律が眠っていた記憶を揺り起こして、アテナの内から言葉を溢れさせていく。
――あの時、わたしが見た世界。
歌にすれば、その時の景色や感情まで色鮮やかに光り輝き出す。
歌にしてしまえば、どれもがみな素敵な物語になる。
敵に苦戦したり、皆で力を合わせて勝ち取ったり。あの時の空はどんな色だった、わたしにはどう見えていたかしら。
最後の一音を弾くと、余韻が静寂に滲んで広がっていった。
「この後、どうしていくのかしら」
憧れの勇者様を見つけて、彼がその夢を叶える手助けをする。
その瞬間を見たいと願った、アテナの夢。
けれど賑やかに仲間と過ごす時間も、アテナにとって大切な楽しい時間だった。
楽しかった時間はあっという間に過ぎていってしまう。しかしアテナにはそんなに時間は残されていないと感じていた。
時間は有限だ。だとすれば、アテナは何をするのが最善なのだろう。
「……ううん、まずは目の前の一日一日を大切にしないとね」
きっとそれが未来への足跡になると、信じて。
大成功
🔵🔵🔵
エスパルダ・メア
白雪(f09233)と
ポストと星の天井…変わった場所だな
…手紙、書いてたのか?
そういや、ついこないだの事みたいだが
何となく手を伸ばして隣の頭を撫でる
少し変わったな、白雪
前より良い顔して笑ってる
…礼はとりあえず預かっとく
いつかお前が泣けたら、その時にな
…何もしねえって、ほら
言えば手を引いて、そのまま寝転がって笑う
礼って言えばオレもある
出来損ないでも最高傑作でも、呼び方は結構どうでもいいんだが
お前が嬉しそうに呼ぶ『エスト』は気に入ってる
白雪って名前も、オレは好きだぜ
素直に言えば子供っぽい笑みが浮かぶ
お前の名前だからな、白雪
価値は変わってくもんだ、オレも
生きてて良かったって、いつかお前が言えたなら
鶴澤・白雪
エスト(f16282)と
ポストがあったから一緒に星を見たくなったのよ
依頼で手紙を出したのがエストとの始まりだったし
懐かしいでしょ
さっき、妹にも手紙を書いたの
泣いてあげることはできなかったけどやっとお礼が言えたわ
自分に手紙を書いた時にエストの言葉を思い出して決心がついたの
だから報告とお礼を言いたくて
ありがとう、アンタのおかげだわ
今までのあたしだったら手紙すら書けなかった
この状況で悪さしたら性格疑うわよ
綺麗な星だし見なきゃ損って事には同意するけど
気に入ってるなら呼んでる甲斐があったわ
そうやって直ぐに価値観ひっくり返しにくるんだもの
貰っておけって言ったのはエストよ
変わらないわけにはいかないでしょ?
●
学園迷宮の中にある、ポストと星空。災魔の巣窟である事を思えば、穏やかなこの場所は変わっているだろう。
エスパルダ・メア(ラピエル・f16282)はこの組み合わせの意外さに辺りを見回すと、この場所に誘った彼女――白雪の隣に腰掛けた。
「ポストがあったから一緒に星を見たくなったのよ。依頼で手紙を出したのがエストとの始まりだったし」
懐かしいでしょ、と白雪がいつもとは違う表情で笑うのを見て、エスパルダは僅かばかり瞠目する。
「さっき、妹にも手紙を書いたの」
「……手紙、書いてたのか?」
エスパルダの声が僅かに揺れるのを感じ取った白雪は、手紙に書いた言葉を思い出し静かに笑った。
「泣いてあげることはできなかったけどやっとお礼が言えたわ。
自分に手紙を書いた時にエストの言葉を思い出して決心がついたの。だから報告とお礼を言いたくて」
静かに紡がれる白雪の言葉に耳を傾けながら、何となく手を伸ばして彼女の頭をそっと撫でる。あの時は現実に引き戻すために、お互い随分と乱暴をしたものだ。その時とはあまりにも違う優しい手つきに、白雪の唇から思わず吹き出してしまう。
「ありがとう、アンタのおかげだわ。今までのあたしだったら手紙すら書けなかった」
苛烈な心を冷たい瞳の奥に押し隠していた白雪の横顔を思い出す。
「少し変わったな、白雪。前より良い顔して笑ってる」
よかった、と心の中で安堵したことは今は言わない。だから今は過去に目を向けるのではなく、他のものを見よう。
こんな綺麗な星なのだから、確かに見なければ勿体ない。
エスパルダは白雪の手を引いて、そのまま寝転がる。
「……何もしねえって、ほら」
「この状況で悪さしたら性格疑うわよ」
「礼って言えばオレもある」
星を見上げたままの横顔を、今度は白雪が見つめた。
「出来損ないでも最高傑作でも、呼び方は結構どうでもいいんだが。お前が嬉しそうに呼ぶ『エスト』は気に入ってる」
「気に入ってるなら呼んでる甲斐があったわ」
些細な一言で、価値観が変わる。自分が隣にいて良いのだと、知らせてくれる。
その声で呼んでくれる名前が、一等好きだ。
「白雪って名前も、オレは好きだぜ」
「貰っておけって言ったのはエストよ」
そうかもな、とエスパルダが歯を見せて子どもっぽく笑う。
「お前の名前だからな、白雪」
御伽噺に出てくる、美しい姫君の名。エスパルダにとっては、たった一人の女性を指し示す固有名詞。
隣で星を見上げる彼女を彼女たらしめるもの、それが白雪という名前だからという以外に理由がない。
「……礼はとりあえず預かっとく。いつかお前が泣けたら、その時にな」
生きていて良かったって、いつか白雪が言えたなら。心から泣いたその日に、ありがとうと言って欲しい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アナンシ・メイスフィールド
メイ君f12275と
山羊君達は満足してくれた様だね…と
ん?道具を残して行ってくれたのかね
ならばもう一通書いてみようかとペンを取ろう
先の手紙は自由に書いてみたけれども
メイ君、手紙の作法等教えてくれないかね?
メイ君の言葉に頷きながらペンを走らせ書き終えれば封筒に入れればメイ君へ差し出そう
ははは、手紙の書き方を教えてくれたのは君に送らない訳ないではないね?
内容は依頼で共になる度
文句を言いつつ色々と教えてくれる優しさに感謝を綴ってみようと思うのだよ
後手紙を受け取れば一瞬驚いた様に瞳を見開きつつも嬉しそうに受け取ろう
ふふ、君は本当に素直でないねえ
その様な所も何だね、好ましいと思うのだけれどもね、うんうん
逢坂・明
アナンシ(f17900)と
やぎさんたちは配達に行ったのね
手紙の作法を問われて首を傾げ
好きに書けばいいんじゃないと思うけど……
定型としてはまずはあいさつ、相手の体調を気遣う一文、
それから自分の近況、そして自分の考えを書くものかしら
とは言え、手紙の書き方に厳密な正解なんてないのよ
そう話しつつあたしもペンを取って
アナンシに向けたお手紙を書こうかしら
変人だし大人のくせに好奇心旺盛だしやっぱり変人だけど……
まぁ、根っからの悪人ではないんじゃないかしら
手紙を差し出されればきょとんと
……ありがとう、と言っておくわ
したためた手紙を相手に手渡して
素直じゃないのは元からよ
あなたも大概にもの好きね、と不思議そうに
●
残された星空の世界は、寂しさを覚える程の静けさだった。
「やぎさんたちは配達に行ったのね」
「どうやら満足してくれたようだね……。ん?」
アナンシは残された郵便局跡を見回すと、そこには真新しいペンと便箋、そして封筒の一式が。
折角の機会だ、ここでもう一通書いてみようかとアナンシはペンを取る。
「先の手紙は自由に書いてみたけれども。メイ君、手紙の作法等教えてくれないかね?」
「好きに書けばいいんじゃないと思うけど……。そうね」
明はどうしたら伝わりやすいかと、頭の中でひとつひとつ丁寧に並び替える。
「定型としてはまずはあいさつ、相手の体調を気遣う一文、それから自分の近況、そして自分の考えを書くものかしら。
とは言え、手紙の書き方に厳密な正解なんてないのよ」
そう話す最中から、アナンシは手紙をすらすらと書き進めている。そんな彼を横目に見ながら、明もペンを取って手紙を書き始めた。なるべく文面が見えないように少し体の向きをずらして、明はアナンシへの手紙を綴る。
「(変人だし大人のくせに好奇心旺盛だしやっぱり変人だけど……。まぁ、根っからの悪人ではないんじゃないかしら)」
そうは言いながら、つい気になって手を焼いてしまう。明のことなど気にせず好きにやれば良いのに、と思いながらも、何かあったらと思う方が上回る。
それに急に人が変わっても、それはそれで心配だ。
「これでよし」
明は丁寧に便箋を折りたたみ、封をする。これでよし、あとは彼に渡すだけだ。
顔を上げた明の視界に、四角い封筒がずいと差し出される。明は驚いて僅かに顔を引くと、封筒を持つ白い手袋が見えた。その向こうにある、にやついた表情も。
「ははは、手紙の書き方を教えてくれたのは君に送らない訳ないではないね?」
陽気な声と笑顔で軽やかにそう言うアナンシに、キッと鋭い視線が突き刺さる。マラカイトの瞳は雄弁に、しかし言葉は裏腹に明の言葉を語る。
彼女は口では文句を言いつつも、アナンシが何かを聞けば色々と教えてくれる。その優しさへの感謝が、この封筒の中に閉じ込められている。
「……ありがとう、と言っておくわ。これは、私から」
これにアナンシも、先ほどの明と同じように瞳を見開いた。だがそれもまもなく嬉しそうな笑顔に変わり、手紙を優しく受け取った。
「ふふ、君は本当に素直でないねえ」
「素直じゃないのは元からよ」
失礼ね、とツンと唇を尖らせてそっぽを向く明を、アナンシは微笑ましく見守っていた。
「その様な所も何だね、好ましいと思うのだけれどもね、うんうん」
「あなたも大概にもの好きね」
こんな私に付き合うなんて、と言いかけて明は口をつぐんだ。
こんな私でも付き合ってくれるのが、彼だった。きっとそれは、この手紙を読んだ後も変わらないだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
災魔のいない迷宮がこれほど静かなものとは
普段の夜空とはまた違った雰囲気をもつ、満天の星空に思わず吐息を漏らす
この光景を目に焼き付けようとすれば、流れ星が見つかるかもしれない
そういえば…今回、水標・悠里が同行すると聞いたな
見かければ声をかけて、少しだけ俺に付き合ってもらおう
「男が一人、星を眺めているだけというのも寂しくてね。良ければ少し話し相手になってもらえないか?」
悠里は流れ星を見つけたか?
流れ星は願い事を叶えてくれると言うが、この迷宮の流れ星はどうなんだろうか
願い事なんて、子供の頃は沢山あったはずなのに今では全く思い浮かばん
悠里には流れ星を見つけた時、叶えてもらいたい願いはあるんだろうか?
●
静まりかえった迷宮に響くのは、この地を訪れた猟兵たちの会話や足音のみ。
星の瞬く音さえ聞こえてきそうな程静かな中で、悟郎は人知れず感嘆の息を漏らした。
地上の星空とは違う、ともすれば手の届きそうな空。普段見上げる夜空とはまた違う、雰囲気鮮やかな美しさ。
この光景を目に焼き付けようと目を凝らせば、流れ星が見つかるかも知れない。
暫くそうして眺めていたが、どうにも一人では心許ない。
「(そういえば)」
この星空を楽しみに語って聞かせた、少年に心当たりがある。心待ちにしていた彼ならば、そろそろここに来ているはず。
少しだけ彼に付き合って貰おうと、小さな姿を求めて悟郎は視線を巡らせた。
「誰かお探しですか」
随分下の方から声がかったのでそちらの方を向くと、探していた人物の姿があった。
「男が一人、星を眺めているだけというのも寂しくてね。良ければ少し話し相手になってもらえないか?」
「もちろんです、私でよろしければ」
そう言って悟郎と同じ方向を向いた悠里は、再び空へと視線をあげた。
隣の少年はよほどこの空が気に入ったのか、事あるごとに小さく感嘆の声を上げている。もし、悠里が流れ星を見つけたら、どんな反応をするのだろう。
流れ星は願い事を叶えてくれると言うが、この迷宮の流れ星はどうなのだろうか。
「悠里は流れ星を見つけたか?」
「いいえ、今日はまだ一つも」
笑顔のまま、しかしどこか寂しそうな表情で悠里は首を横に振った。
「悠里には流れ星を見つけた時、叶えてもらいたい願いはあるんだろうか?」
何か願い事があって、流れ星が見つからないのだろうか。
「実は、願い事もないのです。ただ見たいだけでして」
「そうか。実は俺も願い事が無くてな。願い事なんて、子供の頃は沢山あったはずなのに今では全く思い浮かばん」
なのにどうして、流れ星を探しているのだろう。
「きっと見られたその一瞬だけ、幸せになるからですよ」
流れた一瞬、それも広い空から人の視界の分だけ切り取った中に流れる星。
願わずともその数だけ、幸運が訪れるのではないだろうか。
そう語る悠里に悟郎は暫し空を見上げ、
「そうかもしれないな」
その視界の端に流れる星を一つ見送った。
大成功
🔵🔵🔵
西条・霧華
「星空に想いを馳せて…。とてもロマンティックですね。」
水標・悠里さんに声を掛けたいと思います
落ち着いて話すのははじめてですね
こうして星降る夜は、昔の事を想い出したりしませんか?
それが良い思い出ばかりではないかもしれませんけれど…
それでも、大切な誰かへ想いを伝える…そんな素敵な機会をありがとうございました
水標さんは、ヤギさん達に託したい手紙はありましたか?
…私は、最後の手紙だけはその時が来るまで持っていようと思っています
『未来の私へ』
あなたはまだ、理想を貫けていますか?
あなたが望む未来が得られている事を心から願っています
未来のあなたの為の一歩を、今の私が刻んでいきます
いつかあなたに追い付く為に…
●
どうして人は星を見上げ、そこに物語を見出したのだろう。
移ろう星の光は清かに降り注ぎ、答えるように瞬くからだろうか。
「星空に想いを馳せて……。とてもロマンティックですね」
手頃な石材に腰掛けていた悠里は霧華の声に目を瞬かせると、静かに笑い瞳を閉じた。
「太陽とは違い、この目で見える光だからかも知れませんね」
立ったままでは何ですから、と悠里が隣を指し示すと霧華はゆっくりと腰を下ろした。
「落ち着いて話すのははじめてですね」
グリモア猟兵である悠里との接点は、拠点となるグリモアベースのみ。出立前の僅かな時間しか顔を合わせたことがなかった。
「こうして星降る夜は、昔の事を想い出したりしませんか?」
「……思い出さない夜はありませんでした」
二人にとって、過去とは良い思い出ばかりではない。大切なものを喪った記憶は、今もまだ痛み続けている。
「それでも、大切な誰かへ想いを伝える……そんな素敵な機会をありがとうございました」
「そんなことは……。こちらこそ、やぎさん達のために手紙を用意して下さってありがとうございます」
きっと喜んだでしょう、と目にすることがなかった姿を見て、嬉しそうに笑う。
「水標さんは、ヤギさん達に託したい手紙はありましたか?」
霧華の問いに、悠里は静かに首を横に振った。僅かに伏せられた目に滲む悲しさを感じ取った霧華は、それ以上何も言わずに一通の手紙を取り出した。
「……私は、最後の手紙だけはその時が来るまで持っていようと思っています」
その封筒には短く「未来の私へ」と記されていた。
『あなたはまだ、理想を貫けていますか?
あなたが望む未来が得られている事を心から願っています。
未来のあなたの為の一歩を、今の私が刻んでいきます。
いつかあなたに追い付く為に……』
その封筒越しに真っ直ぐに未来を見つめる霧華を見て、悠里は眩しそうに目を眇めた。
「どうかそのまま、迷いなく理想を遂げられるよう願っています」
霧華は今確かに、未来への一歩を踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
手紙を書く、という良い経験が出来た事を
あの山羊達には感謝せねばならないな
礼と言えば、此の事件…うん、事件?まあ良い
案件を紹介してくれた水標にも御礼をしたい所
お手すきであればちとお時間を頂戴して、共に星空を眺めたい
此度はお陰で貴重な経験が出来た、どうも有難う
差し支えなければ、水標だったら誰にどんな手紙を書いたか
お聞かせ願えると嬉しい所だが…
人にはそれぞれ事情もあろう、気が向いたらで構わぬよ
水標との会話が一段落したら、時間が許す限り
用意された道具で最後の手紙を認めようか
『拝啓、星空の下より』
書き出しは此の文言で決まりだな、今日一日の体験を
未来の自分に宛てて書き記して蝋で封をする
有難う、また何時か
●
手紙を書くということ。それはニコにとって未知の体験だった。
文字にした思いが誰かに届くこと、それを受け取って喜ぶ誰かがいる事が手紙を書くことなのだと。
手紙を書くという得がたい経験ができたことを、ゆかいな郵便屋たちに感謝した。
「そういえば」
この場所に来ると行っていた、少年はどうしているだろう。
用事を思い出したニコは、人を尋ねて歩き始めた。
さほど広くないフロアを探し回れば、程なくして羅刹の少年が空を見上げているのを見つけた。
「こんばんは、いい夜だな」
「ええ、本当に」
「お手すきであればちとお時間を頂戴しても」
「構いませんよ。持て余す程あいておりますので」
良かったらどうぞと空いた隣を勧められ、ニコは隣に腰掛けた。
「此の事件……うん、事件? まあ良い。案件を紹介してくれて感謝する。此度はお陰で貴重な経験が出来た、どうも有り難う」
「いえ、お礼を言われる程のことでは。ですが、喜んでいただけたのなら何よりです。ありがとうございます」
始めは照れくさそうにしていた悠里だったが、素直に頷き返した。
「差し支えなければ、誰にどんな手紙を書いたかお聞かせ願えると嬉しい所だが……」
ニコの言葉に悠里はしばらくの間、星空を見上げて沈黙する。
「わかりません。まだ想像すら付かなくて。でもきっと、相手は決まっているのだと思います」
見上げたままの悠里の視線を辿り、同じ空を見上げる。
「そうか。いつか手紙を書けるといいな」
伝えたい言葉も、形にして初めて気づく事がある。
ニコが初めて気づいたことを、彼も体験するのだろうか。もしそうならきっと素晴らしいことだと、星空を見た。
暫く他愛のない会話を交わし、一段落したところで悠里と別れたニコは郵便局跡へとやってきた。
時間が許す限り、ここでの最後の手紙を書くために。
この手紙を読んだ未来のニコが、再びこの星空を目蓋の裏で見つけられるように。
そう願って書いた手紙に封をして、思いを閉じ込める。
遥か未来の、ニコへ。どうかこの星空の下で感じた、今と同じ気持ちが届きますように。
時を超え色褪せた文字が、色鮮やかな光景となって胸の中で蘇りますように。
書き出しの一文は、もう決まっている。
『拝啓、星空の下より』
未来のあなたが、その手紙を待っている。
有り難う、また何時か。未来で会おう。
大成功
🔵🔵🔵