金目の物を落としたら終わるダンジョン
●血も涙もねえ!
のどかな午後のひととき。
地下にひろがる迷宮への入り口に、幾人かの学生が固まっていた。
「くっ……はぁ……っ! はぁ……っ!」
「だ、大丈夫か!」
「はい、お水ニャ!」
今の今まで迷宮内でアドベンチャーしてきたっぽい男子学生が、ケットシーの子から差し出されたコップを受け取り、水分を流しこむ。
男子学生の息が整いはじめると、周りの学生たちは窺うような視線を彼に向けた。
「で、どうだった?」
「見つかった!?」
「い、いや……ダメだった……! すまねえ
……!!」
膝の上に置いた手を悔しげに握りしめる男子学生。わずかばかりの希望の光を目に湛えていた仲間たちは彼の答えを聞き、水を打ったように静かになってしまった。ケットシーに至っては猫耳がしゅん。
――学生の手に負えない事態が、迷宮内で起こっている。
打ちひしがれる彼らの沈痛な姿を見ればそれは明らかだった。
「くそっ!」
迷宮に挑み、返り討ちにされた学生が床を拳で打つ。
「このままじゃ記念日なのに彼女へのプレゼントが買えねえんですけどォォ!!」
「私もこのままじゃ毛繕い用の高級ブラシが買えないニャ!」
「あたしなんてルビーの指輪なくしちゃったのよォーー!?」
「おい迷宮この野郎! 俺たちの金を返せぇぇぇぇぇーーーーーーーーー
!!!!」
エー、エー、エー……と迷宮に木霊する学生たちの怒りと悲しみ。
これは猟兵たちの出番のようですね。間違いありません。
●グリモアベースにて
「アルダワ魔法学園でな、迷宮探索中に金品を奪われる事案が発生しているらしい。ひとつおまえたちで解決してきてくれないか?」
プルート・アイスマインドはそう言うと、人差し指と親指で輪っかを作る。
金品を奪われる――ということは迷宮内で通り魔的に学生を襲い、金目の物を奪ってゆくオブリビオンがいるということか。猟兵たちはまずそんな絵面を想像した。
だが、実際はそうではないらしい。
ダンジョン自体が学生たちの所持品を回収してしまうらしいのだ。
「実は迷宮内はベルトコンベアーやらパイプやらが入り組んでいてな、1度物を落としたら最後、迷宮の奥のどこかへと運ばれてしまうようだ。おそらくその終着点にオブリビオンがいるのだろう。ずいぶんと強欲な奴がな」
プルートの説明を受け、脳内の想像を修正する猟兵一同。
たとえば学生がずっこけて財布をぽろんと落としてしまう。
すると財布は工場の製造過程よろしくベルトコンベアーで無慈悲に流される。
流される末にどっかでパイプに投入され、その中を伝ってすいーっと運ばれる。
で、その終点で謎のオブリビオンがうはうは高笑いしている。
労せずして金を得るとは鬼畜! 鬼畜やないか!
「最初から金品を落とさなきゃいいじゃないかと思うかもしれんな。だが敵も馬鹿じゃない。ベルトコンベアーには高価な物が吸着する魔法的な何かが施されているのだ!」
なんだって、と猟兵一同がざわめく。
入った瞬間に金を落とすのが確定しているとは鬼畜! 鬼畜やないか!
「そう! だから見過ごすことはできんのだ! さあ行け猟兵たちよ! 学生たちの懐の寒暖はおまえたちにかかっているーー!!」
プルートのグリモアが、猟兵たちを光で包みこむ。
承諾も得ていない無作法な転移だ。しかし猟兵たちは文句を言うことはなかった。学生たちから金をむしりとる手口に、一同の胸は義憤で燃えていたからだ。
「おまえたちの持つ財も問答無用でベルトコンベアーに吸われるだろうが、その勇ましい顔を見れば何も心配することはないな。頼んだぞ!」
親指を立てるプルートに一同が頷きかけて、止まる。
おまえ今なんて言った?
星垣えん
簡潔に言おう。
このシナリオは迷宮によって各人の金品が巻き上げられ、それを追いかけてなんかこうてんやわんやする話だッ!! 以上!!
章構成は御覧の有様!
1章:まず金目の物をベルトコンベアーに吸われます。(大事)
金目の物とは言いますが、当人が死ぬほど大事にしてる物品でもいいです。
そして全力でそれを追いかけます。
迷宮内はベルトコンベアーが上下左右前後に複雑に入り組んだ構造になっており、もはやタチの悪い工場です。
2章:ベルトコンベアーゾーンからパイプゾーンに移ります。
落とし物は終点向けてすいすい移動してくので、全力で追いかけます。
パイプは人が入れるぐらい太く、長大で、これまた複雑に入り組んでます。
気分は配管工です。
3章:ぶん殴ろう。話はそれからだ。
てな感じです。
基本的には迷宮内をひたすら走り回ってるよ! お金は大事だからね!
それでは皆さんの落とし物をお待ちしております!
第1章 冒険
『ベルトコンベアー迷宮』
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POW : 気合でコンベアーをねじ伏せ進む
SPD : 速さでコンベアーの流れに打ち勝ち進む
WIZ : 知力でコンベアーの流れを読み、利用して進む
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うぃーーん。
迷宮へ踏み入り、変哲のない石の道をしばらく進んだ猟兵たちは、その不穏な音を聞いて足を止めた。
目の前には、学生の財産を奪う悪辣な道――ベルトコンベアーが埋め尽くす空間。
まっすぐ伸びてゆくベルトコンベアーが何レーンもあるかと思えば、そこを横切ってゆくレーンもある。そして上も下も同じようにベルトコンベアーが何重にも重なっている。
しかもレーンごとに進行方向やスピードが違う。
そのうえその方向やスピードも途中で変わったりしやがる。
ステージ構成すら鬼畜だった。
さすがに少しばかり躊躇が胸に生じる猟兵たち。だが退くわけにはいかない。ここで手を打たねばアルダワ魔法学園の多くの学生たちが涙を流すことになろう。
迷宮に入る手前で、
「頑張って転校生!」
「頼んだわよ転校生!」
「信じているぜ転校生!」
とか激励かけてきて逃げ道を封じてきた被害者たちのためにも――。
ここは体を張るときなのだ!
猟兵たちは意を決して、ベルトコンベアーゾーンに飛びこんだ!
烏護・ハル
最後の最後に爆弾発言聞いたような気がしたんだけど……。
(そそくさと財布の確認)……この中には明日のご飯代が。
死守しないと、ヤバい。
……割とホントに。
魔法的な何か。何か、かぁ。
解除とか妨害とか、ガードとか出来ればいいのに。
とにかく追いかけないと。財布を。
流れの向きが同じレーンを見極めたり、違う流れを利用してショートカットしたり、
最悪は呪詛耐性や破魔の力、雷の属性を乗せた七星七縛符で無理矢理止められないか試してみよっかな。
故障して流れが鈍ったり……なんて出来れば御の字なんだけど。
そう言えば、流れや早さも色々変わっちゃうんだね。法則性とかあるのかな……?
読めたら皆にもすぐ教えよう!
……食費!待って‼
見渡す限りのベルトコンベアー群。
そのひとつのレーンの上で、烏護・ハル(妖狐の陰陽師・f03121)は出荷される子牛の気分を味わっていた。
主に転移直前に聞かされた不穏な一言が原因である。
「あれが気のせいじゃなかったとしたら……」
ささっと財布を確認するハル。
決して重くはない財布だ。だがその中には、厳しい世界を生き抜くためのなけなしの資産――俗に言う『明日のご飯代』が詰まっている!
「死守しないと、ヤバい」
守りきる決意を固めるのと同時に、超自然的ななんかでポロッと手から滑り落ちる財布。
ちょうどハルのいるレーンの下のベルトコンベアーに落下し、そのまま左方向へ流されてゆく財布。
ハルはくすりと笑って、暗い天井を仰いだ。
「魔法的な何か、かぁ。解除とか妨害とか出来ればいいのに」
と言うなり、ぴょんっと左へ流れるレーンに飛び移るハル。
そして猛然と財布を追いかけたァ!!
「守り切らないと。私の明日!!」
遠くで迷子のように蹲っている財布(ハル視点)だけを見て、追跡するハル。フロアの全容を見渡し、財布の進路をイメージすると、ショートカットになる道を計算してパパッと軽快に移動してゆく。
だが迷宮も曲者である。
「あっ! 財布ー!」
もう数mと迫ったところで財布のレーンが逆方向へと回り出し、先回りしていたハルを欺いてみせる。ハルの伸ばした手は財布という明日を掴み損ね、ただ空を切る。
「くっ! でも諦めない!」
ポケットに突っこんでおいた護符を取り出し、ぺちっと財布のレーンに貼りつけるハル。すると止まりはしなかったものの、ベルトコンベアーの回転速度が半分ほどに鈍る。
距離はあるものの、これならば見失わない。
ハルは肩にかかる金色のウェーブヘアを後ろにまとめると、クラウチングスタートを切った。
「……食費! 待って!!」
大成功
🔵🔵🔵
揺歌語・なびき
金目の物かぁ、いやあおれには金目の物なんてああああー!!!
財布!財布返して!
そこにはおきにのスイーツ店マイレージポイントカードがァー!!!
1万2千点溜まってるの!やめっやめおまえ何処行きやがる逃げるな!!!(キレた
全力で走る、速さで勝負だ
時折コンベアーに飛び移りながらより速いコンベアーで追いかける
あとはもう、走るしかないよね…
転ばないように&見失わないよう注意はしつつ
なんでこの迷宮こんな入り組んでるの?
おれのマイレージカードがそんなに欲しいの?
自分でちゃんと溜めてよ!!!おれはそうしたもん!!!
【追跡、第六感、野生の勘】
上にも下にも伸びるレーン。
果ては傾いたベルトコンベアーまであちこちに見える中、揺歌語・なびき(春怨・f02050)は箱に入れられた子犬のようにぽつんと三角座りしていた。
「ああ、暗いなぁ。ちゃんと出られるといいけど……」
きょろきょろ首を回しながら、不安を口にするなびき。
だが大人しくしていても事は進まない。なびきは意を決して立ち上がり、自分の所持品を確認した。
「金目の物かぁ。でもおれには金目の物なんてああああー!!!」
ぽろっとポケットから零れ落ちた物を見て、なびきの桜色の瞳が見開かれる。
隣の隣の隣のレーンにぴたっと吸着してしまったそれは――財布。パンパンに膨らんで形の崩れたくたくたの二つ折り財布だった。
「財布! 財布返して! おきにのスイーツ店マイレージポイントカードがあるの!! 1万2千点溜まってるの!!」
恐る恐るレーンを飛び移りつつ、小市民は迷宮の主とかそこらへんに懇願した。破格の5桁に到達したポイントカードを見る目は、愛し子を見る母親のそれである。
だが、ベルトコンベアーは止まらない。
「やめっ、やめて!」
止まらない。
「ちょっホント待って、お願いだから!」
止まらない。
「行かないで止まって……!」
止まらない。
「おまえコラ何処行きやがる逃げるな!!!」
ぴーんと狼耳を立てたなびきが『ドウッ!』とか描き文字が見えそうな気迫で始動した。
小細工も計算もない。ただただ走り、ただただ勘を頼りにレーンを移ってゆく人狼。
だが何ということか!
迷宮を形成するレーンは複雑に絡み合い、財布に追いつきそうなところで絶妙に他のレーンが壁となって立ち塞がる!
「なんでこの迷宮こんな入り組んでるの? おれのマイレージカードがそんなに欲しいの? 自分でちゃんと溜めてよ!!! おれはそうしたもん!!!」
うおおお、と咆哮を響かせ、なびきは猛獣のように駆け抜けた。
大成功
🔵🔵🔵
パフィン・ネクロニア
なるほど、厄介なダンジョンじゃな。じゃが金目の物を奪われると解っておるなら最初から持って入らねばよいだけの話。
なのでこの囮用の小銭が入った財布だけを持ってわしは乗り込む!
それはそれとて何じゃよこの嫌がらせみたいなベルトコンベアーは。
こんなややこしいもの正攻法で攻略してたら財布を見失ってしまうではないか!よってここはスピード勝負。リトルを召喚して騎乗し一気に駆け抜けるのじゃ。
ベルトコンベアより早く走れば流されないんじゃから要は気合じゃよ気合。
さぁリトルよ。財布を見失わぬよう全力で追いかけるのじゃ!ハリーハリー!
迷宮内に響く誰かの叫び、足音。
それを遠くに聞いたパフィン・ネクロニア(ダンジョン商人・f08423)は、納得したように首を縦に振った。
「なるほど、厄介なダンジョンじゃな。じゃが金目の物を奪われると解っておるなら最初から持って入らねばよいだけの話」
そう言うなり、パフィンは手の中にある物をノリで天に掲げた。
乗っかっているのは小さな小銭入れだ。振ってみるとチャラチャラと音がするが、大した量は入っていない感じである。
「リスクを冒さずとも、この囮用の財布だけで事は足りるはずじゃ!」
ふふふ、とほくそ笑むパフィン。確実にその財布を生贄とするべく、普段背負ってる行商人リュックも今は彼女の背中にはない。
するとパフィンの狙いどおり、迷宮は小銭入れをターゲッティング。不可思議な引力を受けて、下の下を通るレーンに吸着した。
「これであとは追うだけじゃ! ……しかし」
腰に手を当て、勝ち誇ったように胸を張ったパフィンは、まるで今気づいたかのように辺りに視線を巡らせる。
空間にもはや隙間が見えぬほどに、みちみちに詰められたベルトコンベアーたち。どれがどっちに進んでいるのか、とか見ようとすると途端に頭がこんがらがる。
「何じゃよこの嫌がらせみたいなベルトコンベアーは。こんなややこしいもの正攻法で攻略してたら財布を見失ってしまうではないか!」
頭をわしゃわしゃやり、叫ぶパフィン。きっと彼女が誰かの叫びを聞いたように、誰かも彼女の叫びを聞いていることだろう。
――が、当面の問題は財布を見失わぬことである。
そろそろ米粒サイズになるまで遠ざかろうかという財布を見据え、パフィンは3m弱のずんぐりした鳥――白いドードーの『リトル』を召喚し、パッと騎乗する。
「さぁリトルよ。財布を見失わぬよう全力で追いかけるのじゃ! ハリーハリー!」
「ドゥードゥー!!」
主人の命を受け取り、大股で発進するリトル。
坂になったベルトだろうが逆走するベルトだろうが構わず突き進むその脚力をもって、パフィンは流れゆく小銭入れをしっかりと追走した。
大成功
🔵🔵🔵
黒木・摩那
【WIZ】
金目の物を吸い寄せる迷宮ですか。
すごい迷宮もあったものです。
しかし、大丈夫。
こんなこともあろうかと、財布には鎖のチェーンを付けてあります。
これで無問題……
ってなんか見慣れたお財布がコンベアに流れてるわね……
チェーン、……が切られてる
!!!!!
コンベアの流れ(とお財布)をスマートグラスで追跡します【情報収集】。
人がくぐれないようなところは先回りを試みて、財布の奪還を図ります。
ティエル・ティエリエル
WIZで判定
「わわー、うぃーーんって運ばれていってるよ!ボクも乗ってみるー♪」
上下左右に入り乱れたベルトコンベアがちょっと楽しそうでちょこんと飛び乗ってみるよ♪
金目のモノも置かなきゃねって今日のおやつ代を取り出そうとがそごそしていると……
頭上で交差していたベルトコンベアにピタっと頭のティアラが吸い込まれて運ばれていくよ!!
「あああー!ボクのティアラが!ボク、お姫様じゃなくなっちゃうよ!」
これは一大事だとティアラの運ばれていった方向に向かうベルトコンベアに飛び乗って突き進んでいくよ☆
翅で飛んでいく?ベルトコンベアに巻き込まれたら大惨事だよ!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
「どこかからドードーの声が……?」
ういーーん、と進むベルトの上で直立していた黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が、遠くかすかに響く野鳥の声に顔を上げた。
だが聞こえたのも一瞬。きっと気のせいだろう、と頭を振った摩那は改めて迷宮のマジぱねぇ景観に目を見張る。
「まったく。すごい迷宮もあったものです」
金目の物を吸い寄せるとは――そう胸の内に呟いて、自分の服に括りつけたチェーンを触る摩那。その先にはしっかりと財布がひっついている。
「こんなこともあろうかと、チェーンをつけていて正解でした。これで無問題」
瞑目してうんうん頷くその顔はどこか自慢げである。
と、そんなふうに自分の賢さに酔いしれていたら、ふとどこかから弾んだ調子の鼻歌が聞こえてきた。声の感じからして、幼い女子のものだ。
辺りに目を配る摩那。
すると、隣を並走するレーンの遠く後ろのほうに、小さなフェアリーがちょこんと乗っているではないか。
「わわー、うぃーーんって運ばれてるよ! 楽しいー♪」
などと言って右に左に盛大に体を揺らすフェアリーもといティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)。様々に入り乱れたベルトコンベアーに惹かれてたまらなかった彼女は、見事に工場出荷間際の妖精になっていた。
「こんにちは。楽しそうですね」
「あっ、こんにちはー☆ するーって運ばれるのも面白いね!」
速度差と高低差のおかげでちょうどティエルが顔の横に来たので、声をかける摩那。笑顔を弾けさせるティエルを見て、ダンジョンを満喫しているようで何よりですと摩那も少し笑ってしまった。
しかしそこで、ティエルはハッと口に手を当てる。
「いけないいけない。金目の物も置かなきゃね。おやつ代でいいかなあ?」
「あっ、前方にベルトが被さっているのでご注意を」
「大丈夫! ボクは小さいからね!」
頭がぶつからぬよう身をかがめる摩那をよそに、ごそごそと荷物を探りつづけるティエル。
しかしベルトが交差したゾーンを抜けた瞬間、不意に頭が軽くなるのを感じた。
「あれ? 何か……」
額らへんをぺちぺち触って、振り返るティエル。
すると何ということでしょう。彼女の大切なミスリル銀のティアラが、すれ違った上方のレーンに吸われて無情にも運ばれています。
ぷらぷらと。
クレーンゲームの景品のように。
遠ざかって――。
「あああー! ボクのティアラが! ボク、お姫様じゃなくなっちゃうよ! 返してー!?」
これは一大事、と全速でレーンを逆走し、ティアラの引っかかったレーンに飛び移るティエル。本来ならばぴゅーっと飛んで回収するところだ。しかしベルトコンベアーに翅が引っかかったときのどえらい未来図を想像すると、それだけはできなかった。
「待ってーー!」
なので小さい歩幅で懸命に追いかけてゆくティエル。
摩那はそれを見送り、小さく吐息をこぼした。
「やっぱり大事なものは落とさないように繋いでおくべきですね」
対策しておいてよかった、とチェーンに触れようとした摩那。しかしその手はあのじゃらついた感覚に触れることなく空振りした。往復させても空振りする。
「……?」
おかしい、と思った瞬間、摩那は左手のほうで稼働しているベルトコンベアーに気になる物を見つけた。
「なんか見慣れたお財布がコンベアに流れてるわね……」
しばらく、その流れてく見慣れた財布を見つめながら、チェーンがあったはずの場所に手をにぎにぎする摩那。
で、気づく。
「チェーンが切られてる!!!」
衝撃の事実。迷宮は物を吸うだけでなく、それ以外の悪さすらしやがる模様。
当面の全財産を失う緊急事態――摩那はその顔にかけた眼鏡、スマートグラス『ガリレオ』をコンマ1秒で起動する!
「逃がしません……!」
財布のレーンの速度や方向、フロア内の別レーンの進路、その他諸々の情報をレンズに投影――準備完了。
摩那は、ダンジョンの風となった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メメ・ペペル
ボクはそのひぐらしのてれびうむなので、かねめのものは、ほとんどもってないんです……ゆいいつのざいさんはこの500えんだまだけ……あっ、てがすべった……あああああボクの500えんだまーーー!!!
おのれおぶりびおん!ぜったいにゆるさん!こうなったら【ガジェットショータイム】で「ロケットブースターつきシューズ」をしょーかんし、すぴーどをくしして、いっきにとっぱします!
まっててくださいね、ボクの500えんだま!!!いまたすけにいきます!!!
(アドリブ・共闘歓迎です!)
瑞雪・梅花
これだけ期待されちゃしょうがないネ、我もいっちょやったるアルヨ
でも金目のものなんて我が恵んでほしいぐらいアル
昨日の夜からシャケおにぎり一個しか食べてなくて既に腹ぺこアル…
所持金はこの巾着に入った500円…これが無くなったら今日はメシ抜きアル
倍になって返ってくるなら万々歳アルけどネ…
とにかくこのワンコインは命綱アル、一旦盗られてやるんだから盗ったヤツは一発ぶん殴らねーと気が済まないアル
茶花《チャファ》、我を背中に乗せてあの巾着を追い掛けるアル!
茶花のメシ代も入ってるアルからぜったいに見失っちゃ駄目ヨ!!
身のこなしには自信あるからネ、遊具みたいに楽しんでやるアル
人々を絶望の中に叩きこむ暗黒のベルト群。
それらが織りなす闇模様を突っ切ってゆく大きなレーンに、メメ・ペペル(やせいのてれびうむ・f15302)と瑞雪・梅花(雪梅・f19230)となんか白い虎はちょこんと乗っかっていた。
「ものおとやこえがきこえてきます……みなさん、がんばってるようですね!」
「そうアルね。お金は大事アル。ノーマネーノーライフアル」
片眼を瞑った顔文字を映して聞き耳を立てるメメにしかと頷きつつ、傍らの白虎『茶花(チャファ)』の頭を撫でる梅花。金は天下の回り物、それは6歳のヤドリガミでも嫌というほど理解していた。
「金目のものなんて我が恵んでほしいぐらいアル。昨日の夜からシャケおにぎり一個しか食べてなくて既に腹ぺこアルヨ……」
「メイファさん……」
ぐぅ、と鳴った梅花のお腹の音を聞き、ぶわっと顔文字を泣かせるメメ。できることなら何か援助してあげたい。だが彼もまた人に施しを与えられる身ではない。
「そのひぐらしのてれびうむのボクには、メイファさんにあたたかいしょくじをおごることもできません……ゆいいつのざいさんはこの500えんだまだけ……」
メメの小さな手に500円玉の輝きがちらりと光る。アルダワではたぶん使いどころもないだろう日本硬貨、それがメメの全財産である。
「メメもアルカ……」
「? まさかメイファさんも……」
「我もこの巾着に入った500円で全部アル」
懐から赤い巾着を抜き出す梅花。口をひらくと中にはやはり日本硬貨の輝きが覗いた。おまえも500円しか持ってないんかい。
「……これが無くなったら今日はメシ抜きアル。死活問題アル」
「それはたいへんです! しっかりにぎってあああああボクの500えんだまーーー!!!」
きゅっと手を握る動作をしようとしたメメの手から、ころんと500円玉が落下。
ほのかに黄色い輝きはころころと転がり、隣の時速60kmぐらいのベルトコンベアーに吸われて急激に離れていった。
メメの顔文字の眉尻がくわっと吊り上がる!
「おのれおぶりびおん! ぜったいにゆるさん!!」
「今のはメメのミスに思えるアルが……」
「ついせきです! がじぇっとしょーかん!」
ぺぺーんと召喚した靴をいそいそと履き、走りだすメメ。踵に仕込んだロケットブースターが火を噴き、小さなテレビウムが圧倒的スピードで1枚の硬貨に追いすがる。
「まっててくださいね、ボクの500えんだま!!! いまたすけにいきます!!!」
「すごいやる気アルネ……」
ジェット機のように星になったメメを見送った梅花は、なんとなく自身の大事な財の入った巾着に目を落とした。
なかった。
手に持っていたはずの巾着がもうなかった。振り返ると、数十m後ろに置き去りにされて、それから別のレーンに放られて無慈悲にどこかへと送られてゆく赤い巾着(500円)が見受けられる。
「……盗ったヤツは一発ぶん殴らねーと気が済まないアル」
ぽむっ、と茶花の背中をぽんぽんと叩き、ぴょいっと跨る梅花。何だろうと見上げてくる白い虎に、主人は彼方の巾着を指差して叫ぶ。
「茶花、あの巾着を追い掛けるアル! 茶花のメシ代も入ってるアルからぜったいに見失っちゃ駄目ヨ!!」
「!!」
伏せていた茶花ががばっと立ち上がった。あれを見失えば空きっ腹のまま夜を越すことになる。そのあまりに残酷な事実が茶花の脚にかつてない力を与えていた。
手負いの獲物を見つけたかのような眼光で、駆けだす茶花。巾着とは逆に進む今のレーンから上のレーンに飛び移り、巾着のレーンを目指す。
「いいアルヨ、茶花! その調子アル!」
あちこちに飛び、体勢も傾く茶花に梅花は器用に乗りつづける。人馬一体ならぬ人虎一体となって、金欠少女はベルトコンベアーのジャングルをするすると抜けていった。
大成功
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第2章 冒険
『パイプ迷宮』
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POW : 力技・肉体で解決を図る
SPD : 速さ・技量で解決を図る
WIZ : 魔法・賢さで解決を図る
👑11
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猟兵たちは全力も全力で迷宮を駆け抜け、落とし物を見失うことなく追走した。
正直、その貧弱な落とし物ラインナップを見れば「おまえらもっとマシな物落とせないんか」とか迷宮の主あたりに怒られるかもしれない。だが多くの猟兵たちにとってはとにかくマジ大切な物であり、追跡模様は真剣そのものだった。
財布や財布、財布といった落とし物な物はやがてベルトコンベアー上から不思議な力でぽいっと壁面等に穴に吸い込まれる。当然、猟兵たちも逃してなるものかとその穴にためらわずに身を投じた。
ダストシュートっぽい狭い穴を、滑ってゆく。
滑ること約1分――猟兵たちはやがてプール施設の大型スライダーよろしく、しゅるーっと別のエリアに投げ出された。
見渡す限りにパイプだった。ガラス製っぽい透明で大きな筒が、天井から壁から床から……余すところなくびっしりと埋め尽くしていた。おまけにそのどれもが『ほらおいでよ!』と言わんばかりに入りやすい穴が露出している。
もちろんフロアの端だけでなく、空間もほぼパイプで占有されとる。歩いて進むのさえ半身にならねば叶わないほどだ。なんという事故物件。
だが猟兵たちは退くわけにはいかない。
その背中にはアルダワ魔法学園の生徒たちの希望が乗っかっているのだから。
あと落とした金品がするーっとパイプに吸い込まれるのが見えたから。
パイプにも魔法的な何かが施されているのだろう、何の動力もなしに金品はパイプ内を伝ってどこかへと運ばれてゆく。
……いかん! このままでは見失ってしまう!
一途にパイプ内を追いかけるなり、膨大なパイプ群を見切って先回りするなり、もう邪魔なもの皆ぶっ壊すなりして金品を追いかけるのだ! 猟兵たちよ!
烏護・ハル
財布……私の財布……あった!
ただのパイプじゃん!なのに、何、この吸引力!
世界でただひとつの吸引力もビックリだよぅ……。
ベルトコンベアーの時と同じく、破魔の力をたっぷり込めた七星七縛符をそこかしこにばらまきながら追跡。
せめて少しでも弱まって、吸引力!
あとは、できる限り財布から引き離されないように同じルートを辿るのみ!
途中で枝分かれしちゃったら、抜けられそうな穴がないか見渡して追いかける!
……でも、最悪流れ着く先で拾えるのかな。
……ダメダメダメ!
スッゴい疲れてきたけど、絶対諦めるもんかー!
……ま、まって、私の、晩ご飯の、お金っ……!
無事に取り返せたら、今日はちょっといいデザートも、付けるんだ……!
ティエル・ティエリエル
WIZで判定
「まてー!ボクのティアラ返せー!」
ベルトコンベアー地帯を抜けたらもう安全だと背中の翅で羽ばたいてパイプの中に飛び込んでいくよ!
パイプの中が幾重にも枝分かれして迷路みたいになってるから気がついたらパイプから飛び出しちゃってたよ!
むむむー、これはいけないと【妖精姫と子狼の鬼ごっこ】でお友達のオオカミくんを呼び出してパイプの外から追ってもらうね♪
五感を共有しているオオカミくんからの指示の元、もう1回パイプの中に飛び込んで追跡開始だー☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
佐藤・非正規雇用
【POW】
「なるほど……こんなに沢山パイプがあると
見失ってしまいそうだな……。
それなら……こうしてやる!!」
両替した大量の小銭をバラ撒き、
追いかけ易くする。
小銭がパイプに吸い込まれるのを見たら、
躊躇せず飛び込め!!
逆に、小銭の吸い込まれなかった
無関係のパイプがあれば叩き潰しておこう。
こうすれば、後続の人も探し易くなるだろ?
可能なら、ユーベルコードで分身を呼び出して
分業しよう。行くぞ、俺達!!
探索と選別を同時に行うんだから、最も効率的だな。
多分これが一番早いと思います。
みっちりと大型パイプの入り組んだ空間。
それはアトラクションのようで少し愉快に思える景観だろう。だがその中を進撃せんとする猟兵たちにとってはひたすら悩ましい障害コースでしかなかった。
「財布……私の財布……!」
透明なパイプの中にある財布をロックオンし、太いパイプの表面を並走するハル。
しかし走れども走れども詰まらぬ距離。
というかむしろ離れてゆく距離。
「た、ただのパイプなのに、何この吸引力……! 世界でただひとつの吸引力もビックリだよぅ……こうなったら最悪流れ着く先で合流すれば……ってダメダメダメ!」
言いかけた妥協案をハッと飲みこんだハルが、ぶんぶんと頭を振って気合を入れなおす。
「スッゴい疲れてきたけど、絶対諦めるもんかー!」
「まてー! ボクのティアラ返せー!」
「えっ、声?」
体に鞭打って再加速したハルの耳を打つ、少女の声。どこからだろうとハルが辺りを見回すと、ちょうどすぐ脇にあったパイプの穴からティエルがぱたぱたと飛びだしてきた。
「わっ!?」
「あれ……外に出ちゃったよ!」
驚いてのけ反ったハルの声で、自身がパイプから脱出していることに気づくティエル。ティアラを追って躊躇なくパイプに小さな体を滑らせ、翅を振って追跡していたのだが、あまりにパイプが枝分かれしていたために道を誤ってしまったらしい。
「むむむー、迷宮めー!」
「ティエルちゃんも大変だね……」
ぷんすかしてるティエルに共感するしかないハル。
「なるほど……こんなに沢山パイプがあると見失ってしまうのも道理だな……」
2人の背後にそっと忍び寄る佐藤・非正規雇用(ハイランダー・f04277)。
「怪しい人だー!!」
「トラップはパイプだけじゃなかったのね……!」
「待って! ぼく悪いドラゴンじゃないよ!」
近寄らないでーとレイピアとか杖とか振り回したティエルとハルに必死に弁明する非正規雇用。
もっと登場の仕方は考えよう。非正規雇用はこの日、パイプ迷宮で胸に刻みました。
「ご、ごめんね。ボク早とちりしちゃって」
「私もてっきり変質者かと……」
「いや、俺もちゃんと足音を立てて忍び寄るべきだった。悪かった。なので詫びとして、迷宮攻略に一手打たせてもらおう」
3人向かい合ってぺこぺこしてから、非正規雇用は懐からずっしり重い布袋を取り出した。じゃらじゃらという音を聞くに中身は大量の小銭のようだ。
袋の紐を解き、小銭を無造作に宙へ放り投げる非正規雇用。すると迷宮の魔法的な何かが反応し、床へ落ちるはずだった小銭が次々とパイプの穴に入ってゆく!
「いま小銭が入っていったパイプに落とし物も入っている可能性が高いだろう。どのパイプが稼働しているかも判別しやすくなる」
「なるほどー! じゃあボクのティアラも小銭の入ったどれかのパイプにあるはず!」
「小銭を吸わなかったパイプは邪魔だから潰していくか」
手始めに付近のダミーっぽい透明パイプを破壊する非正規雇用。殴りつけたパイプがガラス片と化して散ると、狭かった空間もいくらか広くなった感じがした。
「よし、このペースでフロアの整理にとりかかろう。行くぞ、俺達!!」
ユーベルコードにより、分身を果たした非正規雇用たちがボロマントを翻らせて駆けてゆく。がしゃーん、ぱりーん、と音が遠ざかってるから仕事は順調にこなしているっぽい。
「散らかしすぎて怒られないかな。敵に……」
「そのときはそのときだよ!」
ハルのこぼした不安をラブリーウインクで吹き飛ばすと、ティエルは「むむむむっ」と何やら集中を始め……「えいっ」と唱えて黒毛の子狼を召喚した。
「お、狼……」
「ボクのお友達だよ☆ オオカミくん、ボクと一緒にティアラを探してね!」
しげしげと子狼を見つめるハルを尻目に、ぴゅーっと飛び立ってティアラの捜索を始めるティエル。それを追って子狼もしなやかに走り、パイプ間を器用にすり抜けて注意深くティアラの姿を求める。
すると、共有する子狼の視覚越しに、ティエルは流れゆくティアラを視認した。非正規雇用の小銭で探すべきパイプも判別できたのも大きかった。
「やったー! もう見失わないぞー!」
同じパイプに飛びこみ、御機嫌でティアラについてゆくティエル。
「見つかったんだ。よかった」
目当ての物を発見できたようで何より、と胸をなでおろすハル。
しかし次の瞬間、ハルは気づいてしまった。
なんかごたごたしてたおかげで、自分の財布の姿が遥か遠くに流れていって、もはやゴマ粒程度にしか視認できないことに!
「い、いけない! ストップ! ストップしてパイプ!」
ポケットに手を突っこみ、ありったけの護符をばらまくハル。ベルトコンベアーの時と同じようにパイプの吸引力が見る間に低下してゆく。
これならば全力で走れば、まだ間に合う――ハルは床を蹴った。
遠い点となった財布へ、ひたすら。
「……ま、まって、私の、晩ご飯の、お金っ……!」
ついーっと移動し続ける財布との距離を、じわじわと詰めるハル。その目に映るのは財布ではない。財布の向こうの美味しいご飯である。
「無事に取り返せたら、今日はちょっといいデザートも、付けるんだ……!」
こんなに運動もしてるんだし――そう胸の内で唱えつつ、ハルは走りつづけるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒木・摩那
【WIZ】
待って! 私の財布!!
パイプの中が見えるのはありがたいけど、
ちょうどいい位置に来ないと手が届かないのがもどかしい……
何とかして穴のところまで財布を動かさないと。
【念動力】を使って、財布を穴のある位置までじりじりと動かします。
あと少し。
もうちょっとで手が届きそう……
え? そこで動くとか、ありえないんだけど!
待って! 財布!!
え!? あ、ちょっとやだー(どぼん☆)
瑞雪・梅花
次は筒アルか、でも意外と通れそうアル
我壁蹴りも結構得意ヨ、いざとなったら筒の中上に上れるアル
通れなさそうなら茶花にバリィィンってしてもらえばいいアル
茶花は強いアルからネ〜
行くアルヨ、茶花!
ところで我やメメみたいな小さいのばかりでも無かったと思うアルが、みんなどうやってくぐり抜けてるアルか…?
万一詰まってるようなのが居たら哀れだから助けてやるアル…ヒトがぎゅうぎゅうに詰まっているのを見るのは朝と夕方の満員電車だけで十分ネ…
おとと、巾着は見失わないように気をつけるアル…!
連携・アドリブも歓迎ネ
メメ・ペペル
ボクはからだがちいさいので、そのままぱいぷにすべりこんでおいかけることにします!
ただ、そのままおいかけてもみうしなうだけなので、よりすぴーどをだせるよう、またまた【ガジェットショータイム】でしょーかんした「ろけっとえんじんつきでんどーそり」にのりこんでおいかけます!ところどころにあるかーぶは、「操縦」をくしして、どりふとでかわしますよ!
500えんあったら、あの「こんぽたあじでぼうじょうのだがし」が50ほんもかえるんですよ!かならずおいついて、おぶりびおんをめっためたにしてやります!(ぷんすか)
(アドリブ・共闘歓迎です!)
パフィン・ネクロニア
ベルトコンベアーの次はパイプフロアか。これまた入り組んでて面倒な…
ほんと何なんじゃこのダンジョンは。まあとにもかくにも今は財布を追いかけねば。ええと、ここからあっちにいってこっちにいってそっちから出て……ええい、まどろっこしい!もう面倒じゃ、邪魔なパイプをぶったぎりながら進むぞぃ。さぁいくぞリトル。財布を見失わぬように駆け抜けるのじゃ。ハリーハリー!
「待って! 私の財布!!」
さながら迷路図を立体化したようなパイプゾーンを、摩那は必死に駆けていた。透明パイプの中をゆく自身の財布を追って。
「追いついた!」
財布が収まるパイプに飛び移る摩那。
が、それで解決ではなかった。財布が入っているパイプはちょうど空中を横切る形になっていて、下には数mという空間が空いている。不用意にパイプを破壊しようものなら財布がロストしかねない。
「どこか穴の開いてるところで、回収するしかないわね……」
財布の進行方向に目を向ける摩那。
何十歩か行った先に、手を入れられる程度の小さな穴があった。摩那は急いで駆け寄って、その穴に腕を突っこんで財布を待ち受ける。
「ちょっと手が届かないかもしれないけど、念動力を使えば何とかなるはず……!」
上腕までパイプに入れこんで、じっと財布が傍を通過するのを待つ。
近づいてくる財布に念動力を使い、少しずつ穴のほうへ引き寄せる。成功だ。財布は確かに寄ってきている。摩那の表情が安堵に綻ぶ。
しかしそのときである!
「おのれおぶりびおん! かならずやめっためたにしてやります!」
何だか気の抜ける幼げな声が、どこかから聞こえてきた。
何だろう――そう思った摩那がちらりと声のほうに視線をやる。
数十mぐらい遠くにある、くねり曲がったパイプの中を、小さな物体が猛スピードで突き進んでいた。
「500えんあったら、あの『こんぽたあじでぼうじょうのだがし』が50ほんもかえるんですよ! とてつもないたいきんです!!」
メメである。
激情に猛るテレビウムが、小型ロケットエンジンを積みこんだソリを駆り、とてつもない速度でウネウネとパイプの中を滑っていた。というかほぼ飛んでいた。
「パイプの中を追跡するとはまた思い切った……ってちょっと待って?」
急カーブすらドリフトで激走するメメを見た摩那が、ふと不安を覚える。あの暴走車が入っているパイプはどのパイプだろうか、と。
パイプが伸びる先を目で追ってゆく摩那。
――今まさに自分が手を突っこんでいるパイプだった。
念動力で繊細な作業をしている最中のここを通過する感じだった。というかロケットエンジンの振動が摩那の体にも伝わってきた。
どう考えても、終わる。
「ちょ、ちょっとストッ――」
「まっていてください! ボクの500えんだまーー!!」
「あーーっ!?」
ぶおぉぉーーん、とF1レース並みの速度でメメが摩那の横を突っ切っていった。その風圧で摩那の財布も煽られ、パイプ内をぴゅいーっと滑ってゆく。
もちろん、摩那の手にはかすりもしなかった。
「くっ……でもまだチャンスはあるわ!」
穴から手を抜いた摩那が立ち上がり、再びパイプの上を走る。今度も数十m先に、やはり小さな穴を発見した。メメに吹っ飛ばされた際のスピードも落ちているから、キャッチするのは容易なはずだ。
「今度こそ……」
ずぼっとパイプに腕を入れる摩那。
必殺の念動力を駆使し、じりじりと財布を手元に近づけてゆく。
しかしそのときである!
「ベルトコンベアーの次がパイプとは面倒な……ほんと何なんじゃこのダンジョンは」
「ドゥードゥー!」
少女の気だるげな爺言葉とドードーの鳴き声が聞こえてきた。
あ、またドードーの声――そう思った摩那がパッと顔を上げる。
隣を通るパイプの上に、巨大ドードーの背にちょこんと跨った少女がいた。
「ええと、ここからあっちにいってこっちにいってそっちから出て……」
パフィンである。
入り組んだフロア構造にやや閉口してるパフィンが、難しい顔でじっとフロアの全容を見通そうとしていた。こちらのパイプに正対しているのを見るに、どうやら彼女はこのパイプの向こう側に渡りたいらしい。
メメと違い静かにしているので、摩那はちょっと安心した。
「パフィンさんの落とし物もこちらに――」
「ええい、まどろっこしい! もう面倒じゃ、邪魔なパイプをぶったぎりながら進むぞぃ」
「ちょっと待って!」
すぐ思い直した。
すらりと銘刀『曇天』を抜いたパフィンさんは明らかにやる気だった。
「さぁいくぞリトル!」
「ドゥー!」
「待ってってばー!?」
暴虐を止めようとパフィンにつかみかかろうとした摩那だったが、遅かった。振りぬいた曇天によってあっさりとパイプは両断。それどころか衝撃が伝わってパイプ全体がバリィーンと崩壊してしまった。
「いやーーっ!?」
「さぁ、財布を見失わぬように駆け抜けるのじゃ。ハリーハリー!」
自身の落とし物(小銭入れ)を追い、最短距離をドードーに走らせるパフィン。その揚々とした声を聞きながら、摩那が財布ともども落下してゆく。
しかも落下先が悪かった。
「あっ!」
すぽっ、とパイプとパイプの隙間に鮮やかに入りこむ摩那。
普通であれば嵌まらないような小さな空間だが、痩せているのが災いして胸のあたりまで綺麗に囚われてしまった。
「くっ、出られない……!」
「摩那。いったい何してるアルか……?」
偶然通りかかり、何とも言えない顔で摩那を見ているのは――梅花である。
「い、いえ……」
茶花に跨り、やや細めた目でこちらを見てくる梅花から、摩那は顔を逸らすしかなかった。
何かに挟まって動けなくなっている。それは何物にも代えがたい恥ずかしさがあるものなのだ。きっとそれは嵌まった者にしかわからない……。
だが、挟まる者あれば救う者がいるのが人の世である。
「しょうがないアル。茶花、パイプをバリィィンってやっちゃうアル」
梅花の指示に頷いた白虎がのそのそと摩那に近づく。前脚を振りかぶると、茶花は軽い一撃で片側のパイプを破壊し、摩那をパイプという牢から解き放ってあげた。
「あ、ありがとうございます……助かりました」
「気にするなアル。ヒトがぎゅうぎゅうに詰まっているのを見るのは朝と夕方の満員電車だけで十分ネ……」
「何だかいやに実感がこもってますね……?」
「生きてればそうなるアル」
頭や肩からパイプの破片を払い落とす摩那の背を、ぽむっと叩く梅花。人の姿を得て6年というヤドリガミに重いため息をつかせるとは、日本社会の闇は深し。
が、今は世の中を憂いている場合ではない。
「おとと、そんなこと言ってる場合じゃなかったアル。巾着巾着」
「あっ、そうですね。私の財布!」
上を通過するパイプの中を巾着と財布が運ばれてゆくのを見つけ、それを追って駆けだす梅花と摩那。
そう、優先すべきは目先の財布。
ひいては迷宮の主を討つことなのだ。
アルダワの生徒たちを(財政的に)救うべく、梅花たちは迷宮の下層へと降りてゆく。
大成功
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第3章 ボス戦
『『強欲王』アヴィド・テゾーロ』
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POW : ディザストロ・ナトゥーラ
【金庫に収めたお宝から力を引き出すこと 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【無数の自然現象を自由に発生させること】で攻撃する。
SPD : アルメリア・フェスティヴィタ
【金庫に収めたお宝から力を引き出し、 】【分裂する剣、攻撃を反射する盾、超火力の砲】【等の様々な武具や兵器を自由に装備すること】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : ディストルツィオーネ
【金庫に収めたお宝から力を引き出すこと 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
👑11
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迷宮に次ぐ迷宮。
その苦難の道程を突破する猟兵たちの追跡行も、ついに終焉の時を迎える。大事な落とし物を追って、追って、追いつづけた末にとうとう狭っ苦しいパイプから、ひらけた空間に飛び出したのだ。
いや、ひらけたと表現するのは正しくないかもしれない。フロアには貨幣や宝石類が山と積み上げられており、その場にいる者にある種の圧迫感すら感じさせる有様だったのだから。
しかし――フロアの中央にどかっと腰を下ろしている存在は、その狭苦しさに愉悦すら覚えているようだった。
「おうおう、金だ金だ! これじゃ足りねえ足りねえ! じゃんじゃん奪ってじゃんじゃん運んで、俺様の周りを金銀財宝で彩るんだよォォ!!」
下卑た哄笑をあげるのは、大柄な竜骨顔の男だった。無造作に掴み上げた金を全身に括りつけている金庫にぶちこむと、その笑いはさらに大きくなる。
価値あるものは、すべてその手中へ。
それが、迷宮の主――『強欲王』アヴィド・テゾーロのただひとつの信条だった。その傍迷惑な収集欲が高じての、今回のクッソめんどくさいダンジョンである。
しかし、たったいま届いた金品はどうやら芳しくなかったようで……。
「おい何だこりゃあ! シケたブツしか入ってやがらねえ!!」
手元に届いたいくつもの落とし物を見て、吐き捨てるアヴィド・テゾーロ。
もちろん全部、猟兵のものです。
それをこのボーンヘッド野郎は『シケたブツ』と言いやがったのです。
「ん? なんだテメェらは! 誰の許しを得て入りやがった! 俺様の領域に踏み入ろうってんならそれなりの入館料を払ってもらうぜェ!?」
あまつさえ、やってきた猟兵たちに金の要求すらしてきやがったのです。
そんな強欲と傲慢が過ぎる奴を見て、猟兵たちはこう思いました。
よし、ぶん殴ろう。
烏護・ハル
……シケてるのか。
……でもねそれでも明日への活力と、自分へのご褒美なんだよね。
……私から美味しいご飯を奪おうというなら、粉微塵になるまでゴリゴリやっちゃうんだから!
入館料も欲しい?
いいよー、熱々でもよければ!
フォックスファイア、一点収束。
拳に纏ってゼロ距離から!
炎の属性攻撃マシマシ、熱さは破魔の力で相殺して、とにかくあの骨頭に一発叩き込まないと気がすまない。
相手の特大の一撃は盾受けで軽減させて、とにかく打ち合うよ。
その金庫も気になるよね。
破魔の力を込めて殴り付けたらどうなるのかな?
勝利したら溜め込まれてた金品の回収。
無事に返してあげよーっと。
もちろん自分のも回収ね。
会いたかったよ、財布……っ!
佐藤・非正規雇用
なっ!? 俺の小銭はともかく、
ペペルくんの五百円玉まで!?
野郎! ぶちころがしてやる!!
ユーベルコードで巨人を呼び出す。
【無数の自然現象を自由に発生させること】の能力を使われても、
この巨体を揺るがすことはできまい!!
ほらよ! 俺が持ってる中で、
一番金目のものをくれてやるぜ!!
と言って、巨人の大剣を振り下ろす。
五百円玉を奪い返し、キメ台詞を言い放つ。
「この貸しは、高くついたな!!」
ただし、五百円玉はペペルくんに返さない。
メメ・ペペル
あなたがはんにんですね!なんておっかねーことを!あ、いまのは「お金」と「おっかない」をかけたぎゃぐです!
……ってあれ!?さとーさん(f04277)もいるんですか!それなら、さとーさんをみがわ……しえんして、いっしょにたたかいますよ!
【エレクトロギオン】で、あの「こんぽたあじでぼうじょうのだがし」ににた、こがたほーだいをたいりょーしょーかんします!「援護射撃」を「一斉発射」でこーげきです!はっしゃー!
あーさとーさん!500えんだまかえしてくださーい!(わたわた)
(アドリブ・共闘歓迎です!)
黒木・摩那
コンベアに流され、パイプにはまり、本当にひどい目にあいました。
しかし、ついにマイ財布は目の前に!
『シケたブツしか入ってやがらねえ!!』
え?
人様の財布にこのオブリビオン、何言ったの??
入館料??
人の財布盗っておきながら、何言ってるかな……
激おこです!!
ここは敵にとって一番イヤな攻撃をしましょう。
UC【墨花破蕾】で金銀を黒蟻に変換して、
オブリビオンを襲わせます。
せっかく貯めた金が蟻になって、しかも自身が襲われるとか最高に楽しそうです。
ティエル・ティエリエル
WIZで判定
「むむむー!ボクのティアラ、かえせーー!」
ボクのティアラはシケてないぞー!と大抗議!えっと、ボクのおやつ1年分くらい?(実際はプライスレス)
背中の翅で羽ばたいて「空中戦」と「空中浮遊」を組み合わせて頭上からヒット&アウェイで攻撃だー☆
風を纏ったレイピアで「属性攻撃」をして、すぐさま30cm以内から逃げ出してディストルツィオーネの射程距離から逃げ出すね!
もし戦闘中に無事にティアラを取り戻せたら、テンション上がってトドメにどっかーんと【お姫様ビーム】をぶっ放しちゃうぞ☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
パフィン・ネクロニア
ふっ、どうやらおでましのようじゃな。思ってた通りたんまり貯めこんでおるようで結構結構。
貴様が学生達から奪い蓄えた金銀財宝そっくりそのままわしがいただき……いやさ、取り返させてもらうぞ。
引き続きリトルに騎乗して機動戦を仕掛けるのじゃ。
残像とフェイントを駆使して撹乱し相手の攻撃を誘い、攻撃の瞬間を見切ってダッシュで一気に距離を詰めて2回攻撃でカウンターを喰らわせてやるぞ。狙うは主に金庫とか金庫じゃな。
そんな感じで狙うはあの金庫じゃ!行くぞリトル!
とまれ、いくら相手がボーンヘッド野郎といえど金の力は侮れぬ。
他の猟兵と連携可能なら協力して戦うぞぃ。金品の回収とか金品の回収はわしに任せるがよい。うむ。
瑞雪・梅花
はは~ん、『シケたブツ』アルか…
まあ、どれもこれも、たしかに上等なものじゃないのかもしれないアル
ただ、どれもこれも、みんなの大事なものには違いないアル
人の大事なモノ盗っといて『シケたブツ』とは盗っ人猛々しいアルヨ!
そもそもお前の領域じゃねーアル!さっさとお家帰るヨロシ!
ところで我はむかし「一円を笑うものは一円に泣く」って聞いたアル
お前が盗んだのは、一体いくらになるアルか?
最低でも我の500円分は泣かせるアル、覚悟しろアル
行くアルヨ、茶花、こいつに一食の価値を分からせてやるアル
我の矛の一撃は高くつくアルヨ、そっちから払ってもらっても足りないくらいアル
あー…ところで骨から涙って出るアルか?
「はは~ん、『シケたブツ』アルか……」
目の前で傲然と嗤い立てるアヴィド・テゾーロを見て、梅花は静かに口を開いた。
「まあ、どれもこれも、たしかに上等なものじゃないのかもしれないアル。ただ、どれもこれも、みんなの大事なものには違いないアル」
「大事なものぉ?」
冗談めいて耳(と言っても穴だが)に手を当てるアヴィド・テゾーロ。
己が悪行に何ひとつ悪びれていない声だ。
「こんなシケたものが大事か! まったく貧しい奴らだなァ!」
「なにをー!」
よりいっそう笑声を強めるアヴィド・テゾーロに、ティエルはぷんすかその場を飛び回る。
「ボクのティアラはシケてないぞー! えっと、ボクのおやつ1年分くらい?」
「シケてるじゃねぇか!!」
「1年分もあるんだぞー! ぜんぜんシケてなーい!」
伸ばした腕をパタパタやって遺憾の意を発動するティエルだが、アヴィド・テゾーロはもう聞く耳も持たずティアラを無造作に懐に突っこんだ。
没交渉と終わったのを見て、茶花に跨る梅花。
茶花ともども鋭い眼差しで、悪辣な賊を睨みつける。
「人の大事なモノ盗っといて『シケたブツ』とは盗っ人猛々しいアルヨ! そもそもお前の領域じゃねーアル! さっさとお家帰るヨロシ!」
茶花の脚が地を蹴り、フロアを駆ける。
獣の足取りは軽く、速く、瞬く間にアヴィド・テゾーロとの距離を詰める。
「易々とは近づかせねェ!」
右肩の金庫が光るや、アヴィド・テゾーロの右手に現れるマシンガン。耳をつんざく銃声とともに、弾雨が梅花へと降りかかった。
だが、茶花の脚力が勝る。
迫る銃弾を左右に跳んで回避した茶花は、続く一足でアヴィド・テゾーロの懐に潜りこんでいた。
「なっ!?」
「我はむかし『一円を笑うものは一円に泣く』って聞いたアル。お前が盗んだのが一体いくらになるか知らないアルが、最低でも我の500円分は泣かせるアル。覚悟しろアル!」
梅花の操る矛が、アヴィド・テゾーロの胸を突き上げる。その威力に敵の足は浮き、次の瞬間には体が仰向けに倒れる。
「ティエル、今アル!」
「よーし、いくぞー! ボクのティアラ、かえせーー!」
梅花の合図を受けたティエルが、待機していた中空から発進した。背の翅をはためかせ、レイピアで風を切り、一気にアヴィド・テゾーロへと滑空する。
「それー!」
「ぐおおっ!? このチビ……ちくちくさせるんじゃねぇ!!」
頭上から連続でレイピアを突いてくるティエルに参り、ぶんぶんと手を振って払おうとするアヴィド・テゾーロ。だがちょこまかと飛び回るティエルはその手をひらひらとかわし、反撃の一振りで強風をぶつけた。
「ぬわああっ!」
「あっ、ティアラー!」
もんどりうったアヴィド・テゾーロの懐からミスリルのティアラが零れる。ティエルはそれを空中でキャッチすると、上昇しつつしばらくぶりの感触に頬ずりした。
「よかったー……!」
「こいつっ! 返しやがれ!」
「だからお前のじゃねーアル!」
「どわーっ!?」
ティエルに掴みかかろうとしたアヴィド・テゾーロに、梅花の矛が一閃。横っ腹を打たれた盗人はごろごろと地を転がり、棒立ちになった何かにぶつかって止まる。
「いててて……ん?」
見上げるアヴィド・テゾーロ。
ぶつかったのは、無言で立ち尽くしている摩那だった。
「コンベアに流され、パイプにはまり、本当にひどい目にあいました。しかし、ついにマイ財布は目の前に現れました」
「おい貴様、何を言ってぐげげっ!?」
ずごっ、と摩那の足がボーンヘッドを踏みつけた。ミシッ、と頭が軋む。
「き、貴様……!」
「シケたブツしか入ってやがらねえ? え? 人様の財布にこのオブリビオン、何言ったの??」
「いたたた! 止めろ足を上げろー!?」
「入館料? 人の財布盗っておきながら?」
「あががががっ!?」
フロアに小さなヒビが走る。摩那さんの怒気がパネェ。
「私、激おこです!!」
くわっと大迫力で両腕をひろげる摩那さん。周囲に拡散する怒りパワー(?)が、フロアに散乱する金銀財宝に染みわたり――なんと黒蟻の大群に変化した。
目も眩む輝きが一気に無価値な黒色に変貌した。
「NOOOOOOOOOO!!?」
「いやー。せっかく貯めた金が蟻になって、それに襲われるとか最高に楽しそうです」
笑顔で骨頭を足蹴にして跳躍する摩那さん。ぽつんと残されたところを黒蟻たち群がられたアヴィド・テゾーロは、痛みとおぞましさにごろんごろん。
「ぐぎゃー!? 離れろォーー!?」
「ティエルさん、今のうちに!」
「よーし、いくぞー!」(2回目)
摩那の目配せを受けたティエルが、かぽっとティアラを装着し、なんかしっくりくる感をしみじみ味わってぷるぷる身震い。
そして、その高まりをレイピアに乗せて凝集。
「どっかーーーーーん!!!」
「ぎにゃあああーー!?」
テンションにより形成された謎のビームが、アヴィド・テゾーロを爆炎に呑みこんだ。
すごいぞ、お姫様ビーム!
でもマジで何なんだ、お姫様ビーム!
「はぁはぁ……ひどい目に遭ったぜ……!」
床に手をつき、荒い息遣いのアヴィド・テゾーロ。その体にもう黒蟻の群れは引っ付いていない。元の財宝の姿を取り戻している。
「蟻のままだったら何の価値もねぇからな……よかったぜ!」
ちょうど手元にあった、きらきら光る円形の物体を摘まみ上げるアヴィド・テゾーロ。
五百円玉だった。
その記された製造年号はまぎれもなく自分が落とした五百円玉――メメは弾かれるように飛んでいった。
「あなたがはんにんですね! なんておっかねーことを! あ、いまのは『お金』と『おっかない』をかけたぎゃぐです!」
「なっ!? 俺の小銭はともかく、ペペルくんの五百円玉まで!?」
「あ、さとーさん!」
ススッ、と音もなく隣に現れた非正規雇用を見て驚くメメ。同じ旅団に属する仲間に今まで気づいていなかった。それほど五百円玉の奪還に必死だった。
だって全財産だから。
「野郎! ぶちころがしてやる!!」
「さとーさんがいるのならこころづよいです! えんごしますね!」
仲間をやられた怒りに震える非正規雇用の姿に、頼もしさを覚えるメメ。彼を援護するべくささーっと素早く真後ろに位置取りする。
もうほんと、真後ろ。
アヴィド・テゾーロから完全に隠れる、真後ろ。
「どうして俺の後ろに回るんだ! ペペルくん!」
「きにしないでください! だいじょうぶです!」
非正規雇用の反復横跳びに合わせ、反復横跳びするメメ。
「……そこから援護ができるのか! ペペルくん!」
「ボクをしんじてください!」
「本当か! なら信じるが俺を盾にする腹積もりじゃないよな、ペペルくん!」
「さとーさん! ボクをしんじてください!」
「その言葉を本当に信じても――」
「いつまでだらだら話してんだよォォーーーー!!!」
非正規雇用とメメのコントに耐えきれんくなったアヴィド・テゾーロが金庫から力を引き出し、突風を浴びせた。
あまりの風圧に、非正規雇用の足がこらえきれず浮きかかる。
「くっ、やるな。だが!」
天へと掌を向けた非正規雇用が、ユーベルコードを発動する。
――天井から、空間から大質量が顕現した。ゆうに3mは超える、鎧をまとった巨人が非正規雇用たちの前に降り立つ。
その足は、強風を受けてなお、微動だにしない。
「この巨体を揺るがすことはできまい!!」
「くっ、俺の力が通じんだと!?」
「ほらよ! 俺が持ってる中で、一番金目のものをくれてやるぜ!!」
かざした手を振り下ろす非正規雇用。するとその動きに鎧の巨人が呼応し、両手に握った大剣を振り下ろした。脳天から降ってくる超重量をまともにくらったアヴィド・テゾーロは、カエルのようにびたんと床に全身を打ちつけられる。
「くっっ
……!!?」
「えんごします! さとーさん!」
非正規雇用の後方で、メメが『こんぽたあじでぼうじょうのだがし』に似た小型砲台を大量召喚する。三桁を超える香ばしい砲台の口が、ガシャンとアヴィド・テゾーロへと向けられる。
というか、その間にいる非正規雇用の背中に向けられてる。
「ペペルくん! その射線だと俺も巻き添えになる!」
「ボクをしんじてください! さとーさん!」
「信じるも何も射線が」
「はっしゃー!」
「「ぐあああああああああああ
!!?」」
ちゅどーん、と雨あられと発せられる砲撃が非正規雇用もろともアヴィド・テゾーロを包みこんだ。巻き起こる白煙へ向けて次々と砲撃が走る。
きっと大ダメージだろう。
でなければ非正規雇用の犠牲が浮かばれ――。
「ふっ。この貸しは、高くついたな!!」
あ、無事だった。
その手にメメの五百円玉をしかと握り、颯爽と爆炎の中から姿を現す非正規雇用。
「さとーさん! ぶじでよかった!」
「ああ、危なかった」
自分が砲撃した仲間へ駆け寄るメメ。
非正規雇用は、五百円玉を高々と掲げた。
メメがジャンプしても取れない位置まで。
「あーさとーさん! 500えんだまかえしてくださーい!」
「ダメだ」
結局返してもらえたのかどうかは、わからない。
「ぜぇぜぇ……まさか仲間を犠牲にするとはな……」
クッソ厳しい砲撃を耐え抜いたアヴィド・テゾーロが、ぐでんと仰向けになって腹を上下させる。息切れが半端ない。
そんなだいぶ弱ったボスを尻目に、パフィンはフロアをじっくり見渡していた。眩しいほどの金銀財宝が積みあがるさまは、見る者を圧倒させる。
パフィンはにやりと笑った。
「思ってた通りたんまり貯めこんでおるようで結構結構。貴様が学生達から奪い蓄えた金銀財宝そっくりそのままわしがいただき……いやさ、取り返させてもらうぞ」
「貴様いま本音が――」
「ゆくぞ盗人め! わしが成敗してくれる!」
盗人さんの的確なツッコミをうやむやにするべく、リトルを駆って突っ走るパフィン。ドードーと鳴く白ドードーは、声に似合わぬスタイリッシュダッシュでしゅぱぱぱとアヴィド・テゾーロへと迫る。
「また騎乗攻撃か! しかし二度はくらわんぞ!」
梅花に応じたときと同様、マシンガンを召喚して撃ちまくるアヴィド・テゾーロ。銃弾がばらららっと床に穴をあけ、その軌道が蛇のようにリトルへと近づく。
が、その軌道が掠めたと思った瞬間――リトルは消えた。
「き、消えた!?」
「残像じゃ!」
「!?」
パフィンの声に背後を振り返るアヴィド・テゾーロ。彼が撃ったリトルは残像。射撃する前にリトルはとうに後ろへと回りこんでいたのだ。
「狙うはあの金庫じゃ! 行くぞリトル!」
「ぐおおっ!?」
振り上げたリトルの脚が、アヴィド・テゾーロの膝の金庫を捉えた。頑丈なはずの扉がしかりパフィンとリトルの気迫(欲望)に負け、がしゃんとひらいて財宝の山を吐き出す。
「お、俺様の宝が!?」
「リトル! 回収じゃ!」
全力で宝の回収に当たるパフィンとリトル。
当然、アヴィド・テゾーロも負けじと拾い集めようと屈む――が、屈んだ瞬間、目の前に誰かが立っているのに気が付いた。
「……ん?」
「……シケてる、か」
ハルである。
腕を組み、眉をつりあげ、言いようのないほど魂が燃えているハルである。
「……でもねそれでも明日への活力と、自分へのご褒美なんだよね」
「お、おい……?」
「私から美味しいご飯を奪おうというなら、粉微塵になるまでゴリゴリやっちゃうんだから!」
「ぐふーーっ!?」
ハルが腕組みを解いたと思った瞬間、豪炎を纏った拳がアヴィド・テゾーロのみぞおちにぶちこまれていた。
重すぎるボディブローに、盗人の膝が地に落ちる。
「ちょ、マジきつ……」
「入館料も欲しいんだよね? いいよー、熱々のをあげる!」
「ひぃーー!?」
連続して繰り出される拳に、アヴィド・テゾーロが戦慄する。左右から見舞われる拳が脇腹を、横顔を、どっかんぼっこんと打ちまくる。
「き、貴様! 貴様がそう来るなら俺様も」
「遅い!」
「ぶべっ!?」
金庫から力を解放して反撃しようとするも、むしろ懐に踏みこんでインファイトを仕掛けてきたハルに顔面を陥没させられるアヴィド・テゾーロ。いよいよ体の各所が黒焦げになってきた。
ハルはその拳をよりいっそう燃やし、そして破魔の力をこめる。
「消えちゃえー!」
「ま、待っ
…………!」
炎の拳が、打ちぬかれる。
それを真っ向から受けたアヴィド・テゾーロは糸が切れたように倒れ、続いて体の金庫がひらかれる。中からすべて財宝を吐き出したとき、盗人の姿は完全に消滅していた。
事件は解決。
パフィンは清々しい顔で、フロアの財宝を見つめていた。
「ふむ、悪は消えたようで何よりじゃな。どれ、学生たちに財宝を――」
「ちょっと待った」
ぐっ、とパフィンの肩をつかむハル。
「何じゃ?」
「全部学生たちに返すんだよ。ね」
「ぐっ……わ、わかったわい」
口惜しそうにするパフィン。
危なかった。学生たちの懐が、危なかった。
そうしてアルダワの平和を守ったハルは、フロアの財宝の中に手を突っこみ、目当てのあれを引き出した。
「会いたかったよ、財布……っ!」
ぎゅっと、胸に財布を抱くハル。
その夜は、きっと美味しいものを食べたことだろう。
大成功
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