●
まだまだ日差しが照り付ける中、人里から人里へ、荒野を横切る集団がある。
馬車をひく一人の商人と、金で雇われた護衛が数名。互いに手慣れた商品の運搬だ。
それでも一人旅は心もとない。商人がそう思うのも無理はない。早いうちに人里に着きたいものだ、そう考えていると。
「おっちゃん! やばいのが来る! 逃げるぞ!」
傭兵の一人が声を荒げた。頭上の遥か上から猛烈な速度で直下してくる影。それを認め、理解するまでの間に、とうにその影は眼前にあった。
「ワイバーン!?」
名高きドラゴンの亜種、ワイバーンである。赤き脅威を前にして恐怖を抱いたころにはワイバーンの爪が商人の腹を貫いていた。
●
「事件だ、事件! 新たな事件を予知したから集まって!」
グリモアベースにあわただしい声が響き渡る。グリモア猟兵が一人、黄柑・王花(オラトリオの精霊術師)だ。
せわしなくも懸命な呼びかけの甲斐あってか、あるいは事件とあっては黙っていられない猟兵たちの使命感か。
王花の周りに猟兵たちが集いだす。そんな様子に満足げな王花は、予知した事件について話し始める。
「今回、みんなには『アタック&ウィザーズ』の世界に行ってもらいたいんだ」
そこは剣と魔法が織りなす幻想的な世界。この世界もまた強大な敵が跋扈している。今回の事案も、その強大な敵を退けるものだ。
「赤い体のワイバーン。これが近々悪さをするそうだから先んじて撃退して欲しい。敵もきっと手ごわいだろうけど、みんななら倒せるはずってあたしは信じてるよ」
言い切るも王花は顔を伏せた。ばつの悪そうに頬を掻きながら言葉をつづける。
「ただね、申し訳ないんだけど、今回ワイバーンが出現する具体的な場所は掴めなかったんだ。あたりは付けてるから馬鹿みたいに遠くへテレポートはしないはずだけど……」
明確な目的地がはっきりとしない以上、今回の任務では、危険地帯の探索、ないしは調査が数日単位で求められる。
おそらく探索にかかる時間は決して短くない。必要とあらば、キャンプ道具やトラップなどを事前に用意しておくのも大切だ。
「最初に降り立つ場所は人里から離れた荒野! そこで仮の拠点を設営しつつ探索しよっか。場合によっては野獣とか盗賊とか出るかもしれないけど、逐次対処していって」
野獣や盗賊なども、場合によっては手がかりとなりうる。見つけたらあえて接触するのも、考えられる一つの手だ。
「それでね、近くにどうやら洞窟があるらしいんだ。深さの規模はちょっと分からないけれど、雨風を凌ぎたいときとか活用してね。なにか痕跡が落ちてるかもしれないし」
語り切ったところで、王花は言葉を止める。んー、と一度悩んだ様子を見せるも、その直後には猟兵たちに朗らかに笑いかける。
「ワイバーンを見つけて倒すのがそりゃ最優先事項だけど、みんなには仲良く調査をしてほしいな。それじゃあやることも多いだろうけど、よろしく頼んだよ!」
叶世たん
はじめまして。叶世たんと申します。
オープニングを読んでいただきありがとうございます。
今回のシナリオはワイバーンの討伐、ならびにそれに伴う探索でございます。
舞台は人里離れた荒野となり、近くに洞窟があるそうです。
とてもシンプルですが、その分みなさまも思うように動いていただけたら心強く思います。
執筆に際する方針ですが、速筆ではないため、期日ぎりぎりになる恐れがあることだけはご承知おきください。
また、それに伴い、集まれば複数人のリプレイをまとめて提出する形をとるかもしれないことも併せてご理解いただきたいと思います。
いろいろと初めて尽くしで至らぬ点もあるかもしれませんが、付き合ってくださると嬉しいです。
みなさまの刺激的なリプレイ、心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『荒野のキャンプ』
|
POW : 寝ずの番で警戒する
SPD : キャンプ技術や美味な料理で環境を整える
WIZ : キャンプ場所を探す、敵を誘う細工をする
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
ビードット・ワイワイ
寝ずの番を担当しよう。
我は機械がゆえに睡眠は不要なり。
故に我の目が届く範囲に来る汝は破滅を望みし者也か。
【ガジェットショータイム】で予め重火器を設置。
【属性攻撃】で氷を付与し足元を凍結。
言葉を解すならワイバーンの居所を尋ねる。
最初に言葉を発したもののみを助けよう。
信じないのならと一番ひ弱そうなのを【踏みつけ】踏みつぶす。
こうなりたくはあるまい?価値を示さねばこうなりけり。
正直な発言を引き出すことが出来れば全員処分せし。
最初に我はもうしたぞ。破滅を望みは汝なり。
弦月・宵
オレは寝ずの番で警戒する。
まずは偵察が大事って話なんだから、拠点を作るための設備と食料と水をロバに積んで運んでもらおう。
キャンプを張るときは、火元は寝どこから少し離すこと。
番をする人数が少ないなら、休む時は必ずロバに体を着けておくこと。
動物は警戒心が強いから、絶対オレより早く気づいてくれるハズ。
…仲良く、できるかな。人見知りはするけど、そこは強がりで押し切る!
大丈夫大丈夫、やればできる。
気持ちを和ませるのに、飴玉も持っていこう。
もしも戦うことが必要になったら、すべてを焼き尽くすカクゴだよ。
暗闇は別に怖くないけど、深さの分からない洞窟にいきなりってのはちょっと抵抗がある。
そこは慎重に、行きたい。
●
辺りを見渡すも街はなく、あるのは岩山の連なる荒野だ。
遠くに、グリモア猟兵が言及していた洞窟の入り口が確認できる。
とはいえ、深さもわからない洞窟に飛び込むのは抵抗がある。
それはかつて護るはずのものだったすべてを失った経験ゆえか、はたまた、彼女の性分がそうさせているのか。
弦月・宵(マヨイゴ・f05409)はそのように提案した。
すると、ウォーマシンのビードット・ワイワイ(戦争は娯楽・f02622)が賛成の意を示す。
「我は機械がゆえに睡眠は不要なり。寝ずの番は任されよう」
そうした一連の流れがあり、当面の役割分担が出来上がった。
夜を迎える前にキャンプ設営のめどが立ち、初日の夜はキャンプで過ごすこととなる。
次の日に備え、猟兵たちはキャンプの中で眠る中、キャンプから少し離れたところに焚きつけた炎の前でビードットは警戒の糸を張り巡らせていた。
外敵が現れようものなら、【ガジェット・ショータイム】で顕現させた重火器をもって、ただちに戦闘態勢に移行できる。
彼――という呼称が正しいのかビードット自身定かではない、ともあれ彼の言葉に嘘はなかった。実際、眠くなどない。むしろ、段々と感覚が研ぎ澄まされる。
だから、背後から鳴るふとした物音にも瞬時に対応できた。
「誰だ」
「お、オレです。弦月・宵です。やっぱりオレも寝ずの番やらせてください。ほら、洞窟は後回しって言いだしたのオレですし」
いたのは、同じ猟兵の宵と、彼が任務のために引き連れていたロバだった。飲食を運搬するため、加えて夜番のために連れてきた。
宵は身体をロバに預け、ビードットの隣に立つ。並べて立つと、その背丈は倍ほど違う。
ビードットの威容に内心びくびくしつつも、みんなと仲良くしたいという気持ちを捨てたくはない宵はこうしてビードットに接触した。
「我は構わぬが、汝とて明日以降があろう」
「これぐらい大丈夫です。え、と。飴、舐めますか?」
「機械の身体ゆえ、我には不要なり。汝の食料としてとっておくとよい」
「……ま、そうだよね」
少ししょんぼりした様子の宵を見かねてか、赤き眼を向けつつ言葉を投げかける。
「案ずるな。我とて此度の縁は大事にしたいと考えている」
その言葉を聞いて、口元を緩めた宵は手元に二つあった飴玉の内一個を口に含んで調子はどうかと尋ねる。
「現状、問題はない」
むしろ静かすぎるぐらいだ。
ぱちぱちと鳴る焚火の音が、やけに耳に残る。
迷う素振りを見せてから宵は言う。
「そうですか。なら、少しお話しませんか? ほら、これから連携をとるためには互いを知る必要があるよね」
「……我が話せることなど限られている。警戒を緩めるわけにもいくまいて」
言葉に偽りはない。過去の記憶を失っているビードットに語れることは多くないのかもしれない。
話をしていると、意識が散漫とするのもあり得ないはなしではない。
それでも宵はかぶりを振る。対話を強要したいわけではない。ダメならダメで退くけれど、一つだけ言いたいことがあった。
「警戒を緩めるわけじゃあないです。ただ、気を張り詰めすぎても毒だと思うし、相手を知るって大事だと思うから」
宵の言葉を咀嚼し、幾ばくか考える。それからビードットは頷いて。
「我にその心配は無用だ。……だが、そこまで言うならば汝の話に付き合おう」
宵もまた大きく頷いて、何から話そうかと考えを巡らせた。
●
それから数時間後、外敵が近づくのを感じ取った。
意図は不明だが間違いなくこちらに近づいている。足を引きずるような音だ。
足音から予測される敵は人型。火を目印にしているのだろうか。
「仕事だ」
「うん」
二人の準備は万全だった。
まもなく、盗賊が単独で姿を現す。
ただその姿はすでに満身創痍の様相で腹のあたりが血にまみれている。
ナイフなどで斬られた傷とは到底思えないほど、荒れた傷跡。
とはいえ油断は出来まい。ビードットは【ガジェット・ショータイム】でガジェットを召喚する。
自走するネズミ捕りのようなガジェットは、盗賊に足に噛みついた。
たまらず盗賊は膝を折り、地に這うようにひれ伏す。立ち上がる気力さえ、もはや残っていないように思える。
慈悲を与えるつもりはなかった。ビードットは冷徹に言い放つ。
「汝のために提言する。ワイバーンについて知りうる限りの情報を吐け」
なにをされるかわからない、想像だに出来ない未来をかすめる言葉に、すでに虫の息であった盗賊も慌てたように吐き出す。
「知りうるも何も! はぁはぁ……俺たちはワイバーンに襲われたんだよ! その辺を歩いてたら、急に! 腹が減ってたのか知んねえけど、相棒が食われちまった!」
だから俺は逃げ出して、と盗賊は続けるも、その先にさしたる情報はなかった。洞窟が関係しているかどうかも、よくわからない。
どうであれ、このまま盗賊を放逐するわけにもいかない。宵は【ブレイズフレイム】で盗賊を焼き尽くす。
弱っているとはいえ将来の大敵となりうる。芽は摘めるうちに摘んでおいた方がよい。
10歳の少女であるとはいえ、敵をすべてを焼き尽くすカクゴはとうに出来ている。
盗賊の言葉を噛み砕いて、得た情報をまとめた。
「ワイバーン、腹空かせているのかな」
「さもありなん。ここまでワイバーンの食料足りうるものを見た覚えがない」
グリモア猟兵の言及していた野獣も今のところ姿を現さない。
この枯れ果てた荒野に適応できる生物はもとから少ないことは予見できたが、もしかしたら腹を空かせたワイバーンが狩りをしているのだろうか?
「じゃあ、なにか餌になるもので気を引けないかな?」
「妥当な判断だ。なにであれ、一度相談が必要となる」
そんな一幕がありつつ、夜は明けていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ソーニャ・ロマネンコ
他の皆が安心して準備出来る様に周囲の警戒をしよう。
幸い私の得意距離は遠〜中距離だからな、何かあれば各種銃火器や弓で早めに応戦可能だ。
明かりや火が必要ならばフォックスファイアを使おう、洞窟内のクリアリングついでに敵対生物がいた場合は火で追い払い、襲いかかってくるならそのまま燃やしてしまえば良いからな。
それに、手を塞がない複数の光源があるだけで皆の負担を軽減出来るかもしれんな。
スピレイル・ナトゥア
SPDを使います
ワイバーン……大きいトカゲさんでしたっけ?
私、大きいトカゲさんを見るのが凄く楽しみです!
先に行ったみなさんは、もしかしたら食糧がなくて困っているかもしれません
遊牧民の私が故郷の生活で得た狩猟の知恵を使って、みなさんの食生活をサポートしてあげましょう
【第六感】で動物を探して、精霊樹の弓による【スナイパー】で倒して解体しようとします
精霊信仰の巫女姫として火の精霊を召喚できるので、お肉を焼くことだって出来ます
一緒にキャンプするみなさんとはぜひ美味しいご飯で仲良くなりたいところですし、楽しい楽しいキャンプのために精一杯頑張ってみるつもりです
知らない場所での共同生活って、ドキドキしますね
雛菊・璃奈
ん…ここまでの情報使ってワイバーンを誘き出そうかな…。
出現情報があった方角へ向かいつつ、誘き寄せた際に交戦しやすそうな適当な立地を探すよ…。敵の攻撃から身を隠したり、敵の機動力を封じれる様に大き目の遮蔽物が多い岩場とかが良いかな…。遮蔽物の無い平地だと飛行能力のある方が視覚や機動力的に有利だし…。
後は誘き寄せる餌だけど、近くの人里かその辺の野生動物を狩ってお肉を調達かな…。
…残酷だけど、また盗賊とかいる様なら、誘き寄せに使っても良いかも…。
後は餌の周囲を広く間隔を開けて囲む様にして、空中から見えない物陰の位置に罠代わりに狐火を分散して配置…。
ワイバーンが誘き寄せられたら一斉に攻撃するよ…。
赤星・緋色
今回はワーバーン探しなんだね
見つかるまでの数日間を荒野でキャンプだと、食べ物必要だよね
よっし、みんなの分の食べ物も私が探して料理しちゃうよ!
持っていく分にも限界があると思うから、現地調達するよ!
という感じで、荒野の食べ物だと野生で見つかるのは豆類とかかな
狩りでお肉とか、水も見つけなきゃだよね
川とか泉とかも探してみるけど、近くになかったら簡易の井戸でも掘らなきゃ
水とか食べ物の位置が分かったら地図を作成しておこうかな
それあれば何かする時に他の人も便利だと思うし
食べ物が多く見つかったら調理後乾燥させて保存食にもしておこうかな
後から来る人もいるかもだし、ね
シホ・エーデルワイス
子豚の香草丸焼き料理で周辺に臭いを漂わせて敵を誘き寄せてみます。
まず、台車に子豚等や調理道具等の材料を載せて
先行して拠点を作られている方々の所へ挨拶に行きます。
着いて挨拶が済んだら風向きを計算に入れて焚火を起こし
子豚の香草丸焼きを作り始めます。
料理が完成してもワイバーンが来なければ
焚火に大量の落ち葉や生木の枝で蓋をして狼煙を上げます。
後は…祈りを捧げるぐらい…かな…
子豚さん、私の都合ですみませんがワイバーンを誘き出す力を貸して下さい。
どうか安らかな眠りを…
あと、洞窟の入り口付近にワイバーンの爪痕が無いか調べてみます。
もしかしたら住処だったりして…
敵は鈴蘭の嵐で容赦なく撃退
野獣は呼んでませんよ
●
どうやら、ワイバーンは腹を空かせているのではないか。
ビードット・ワイワイと弦月・宵とが寝ずの番をしている間に得た情報はそのようなものである。
盗賊による証言というのは心もとないが、盗賊自身の負傷の具合を鑑みるに、ワイバーンに遭遇したそのこと自体は間違いないだろうとのことだ。
今回討伐する赤いワイバーンの嗅覚、視覚をはじめとする五感がどれほど発達しているかは定かでない。ただ、餌を撒くというのはひとつ有効な手段として挙げられよう。
「そういう話をグリモア猟兵さんにお聞きしたので、子豚さんを連れてきました」
先行組とは遅れて参じたシホ・エーデルワイス(オラトリオの聖者・f03442)は台車をひき、その中に載せた数匹の子豚を他の猟兵たちに見せる。
「ワイバーンさんって大きなトカゲさんですよね? はい、気を引くにはいいと思います!」
とある遊牧民族の巫女姫――とされるスピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)はシホの土産に目を輝かせつつ頷く。
とはいえ、まずはやるべきこともあるだろう、とソーニャ・ロマネンコ(妖狐の戦場傭兵・f03219)は周囲を見渡して問い掛ける。
「ただ、いずれにせよこの一帯の生態系を探る必要はあるかもしれないな。動物の巣なんかがあればそこにワイバーンがやってくるかもしれない」
ワイバーンが本当に腹を空かすような状態にあるのか、それを探る手掛かりにもなろう。
猟兵たちはそうした指針に賛同し、周囲を探ることとなった。ワイバーンの手がかり、動物たちの気配、よりよいキャンプ地点があればそこを伝える。
これが今日の仕事となりそうだ。ソーニャは改めて意を決すると、同じ探索班となったシホ、スピレイルと共に洞窟を目指し歩みを進める。
「とはいえ、今日は深くまで潜りません。前に話があったようですが、深さの分からない洞窟を突貫するのは無策と言えましょう」
「了解です! 私の【第六感】で動物の居場所を察知してみます」
「ならば私は二人が探索に集中できるよう、周囲の警戒に集中しよう。【フォックスファイア】で洞窟内もクリアリングしていこうと思う」
「はい、ありがとうございます。それでは私は、ワイバーンの痕跡がないかを中心に探してみたいと思います」
三者の方針も決まった頃、件の洞窟、その入り口にまでたどり着いた。道中、生物らしい生物は見当たらなかった。
なるほど、確かに枯れた土地なのかもしれない。あるいは、すでにより上位の、それこそワイバーンに狩り尽された後なのだろうか。
「だとしたら、空の覇者であるワイバーンが攻めあぐねるであろうこの洞窟が最後の生命線なのかもしれませんね」
「まあ私たちが動物の巣を見つけきっていないだけかもしれないが……」
判断材料の少ない推測もほどほどに。スピレイルは洞窟をのぞき込む。あるのは暗闇だけだった。
「それにしてもこの洞窟、奥が見えません」
「そうだな。とりあえず私たち一帯のクリアリングは任せてくれ」
「気を付けてまいりましょう」
三人は一度顔を合わせ、意を決すると洞窟内へと踏み込んでいった。
●
「視界が芳しくないのでないと断言はできませんが、今のところワイバーンの爪痕などは見当たりませんね」
「でも、私の勘では近くに動物たちの気配は感じるかも」
「ならばそれを確認でき次第一旦キャンプに戻るか」
「それがいいかもしれませんね。しっかりと準備を整えてから、改めて洞窟は探索いたしましょう」
探索の目途を立ててから数分後、三人は異臭を感じ取る。
端的に言うならば、死臭だ。自然としては当然のもの、されどあまり心地よい臭いではない。
臭いの元を辿り、見つけたのは腹を食い破られた猪だ。三人は顔をしかめつつも検死を始める。
「一口に食い破られてますね」
「ああ、この洞窟でなにが出没するかまだ分からないが、相手は相当でかいだろう」
「見たところ……死してからそれなりの時間は経ってますね」
「そいつが洞窟の奥へ進んだのか、既に去っているのかまだ判断しかねるな」
奥に進んだというのであれば話は早いが、確信はもてない。
「ただ、奥にいる可能性は高いんじゃないか? 猪を外から連れてきたのなら、洞窟内に巣に近いものがあるのだろう」
「そして、洞窟に住んでいた猪を狩ったというのであれば更なる獲物を探して奥へ進んだ、ということですか」
「うーん。でも結局のところ決定打があるわけじゃないし、一回情報はキャンプへ持ち帰りましょう。この猪とは別に、さっき感じた動物は近くにいるみたいです!」
スピレイルの【第六感】を信じ、洞窟を少し進めば確かにそこには狼の群れがいた。
向こうもこちらの気配を察知したのか、一匹が雄たけびを挙げると、群れ全体がその場から離散する。
「追いますか?」
「シホ殿が子豚を持参してきてくれたとはいえ、私たちの食料も無尽蔵ではないし、狩れるに越したことはない」
「それに、私の連れてきた子豚さんたちも、ワイバーンが食いついてくれるとは限りません。残酷なようですが……選択肢が多いに越したことはないでしょう」
「わかった。じゃあやろうか」
スピレイルの声を皮切りに、三者とも攻勢に入る。
ソーニャは10の狐火を展開し視界を保ちつつ、ロングボウを構える。極寒の地を故郷とし、歴戦を生き抜いた卓抜とした腕前に仕損じなどありえまい。
スピレイルは精霊樹の弓を携え矢を射出する。【スナイパー】の技能をもつ彼女だ。放たれた矢は、見事に狼を射抜く。
シホは祈りを捧げつつ【鈴蘭の嵐】を巻き上げる。半径10m圏内に残った狼を鈴蘭の花びらが襲う。いくつか仕留めきれないものがあったものの、三匹ほど捕獲することができた。
「うん、上々かな」
「それじゃあこの狼さん? を連れて一度戻りましょうか」
「帰り道の目印は残してある。それを頼りに戻ろう」
そうして三人は一度帰路に着くのであった。
●
一方、雛菊・瑠奈(魔剣の巫女・f04218)と、赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)とはビードットらが遭遇した盗賊が襲われた、と言及していた場所にいた。
盗賊の住処などがあるんじゃないかという懸念もあったが、既に離れたのか、はたまた襲われた盗賊が一人このあたりを彷徨っていただけなのか。定かではないにしろ、杞憂に終わりそうだ。
「ねーねー、なにか見つかった?」
瑠奈に向かって緋色は話しかける。自由気ままな口調だが、ふざけているわけではない。実際ここまで彼は真剣に手がかりなどを集めようと励んでいた。
瑠奈とてそれは理解している。なので感じたことをぽつりぽつりではあるがそのまま伝える。
「ん……。そう、だね。今のところおびき寄せるのにいい場所は見当たらない、かな……」
「へー、そんなこと考えてたんだ。私も食料になりそうな豆は見つかったけど、水はまだだしなー」
持参した紙に記した簡易的な地図――方位や食べ物、キャンプの位置を記したものではあるが――を眺めながら、緋色はぼやく。
実際水を見つけることは重要だ。生命線ともなりうるのだから。グリモア猟兵がいる以上最悪なにかしらの手法で転送してくれるかもしれないが、何が起こるか分からない。
保険を見つけておくことは、こうした探索において何よりも欠かせない。探しては見たものの、グリモア猟兵が言っていたように本当に近くに人里は離れているらしい。
そんなこんなで行軍を進めていると、瑠奈はなにかを発見した。
「あ、あそこに、……なにかの死体がある」
「わー! ホントだ! 猪かな? ……でもちょっと腐っちゃってるね。何かに捕食されたみたいだけど」
見るとそれは食い散らされた猪だった。死後からそれなりの時間が経過しているようで腐敗が見て取れた。
その捕食された痕跡を見るに、どうやら大きな口で一口に食われたように考えられる。
「あっちにもそっちにもあるね。元々群れだったのかな?」
辺りを見渡すと、最初に見つけた一体を皮切りに、猪の死骸がこの辺りに点在していた。
どれも似たような捕食跡。同一犯とみて間違いなさそうだ。
「犯人はワーバーンかな!?」
「ワイバーン……、ね」
「そうそれ!」
「可能性、は高い……。どれも一方的に……食べられてる……。力の差は……歴然」
魔物ですらないただの猪では反撃すら叶わなかったのだろうか。
それがドラゴンの亜種、ワイバーンであるというならば、納得のいく話だ。
もっとも、この世界にはワイバーンに限らずとも手ごわいモンスター、すなわちオブリビオンはたくさん存在する。
決めつけることは出来ないが、この一帯にワイバーンが出るであろうと予知されている以上、可能性として挙げるのは妥当かつ的確だ。
「……問題は、……まだこの辺りにいるか」
「グリモア猟兵さんが予知したのは荒野のただ中なんだよね。だったらこの辺にいてもおかしくはないけど」
「でも、この猪を食べたのは、結構前……。違う狩場を見つけている、……かもしれない」
事実、猪の死骸を見つけるまで、生物らしい生物は見当たらなかった。愛想を尽かして違う狩場を探しに飛びだったのかもしれない。
とはいえ、二人がやるべきことは変わらない。
「それならそうで、おびき出せそうな場所は必要だよね!」
「うん……、水も、確保したいところ……」
だから、二人の足は止まらなかった。
●
ワイバーンは空を飛ぶ。
敵の攻撃から身を隠したり、敵の機動力を封じれる様な立地というと限られてくる。
「大きめの遮蔽物が多い岩場とかが良いかな……。遮蔽物の無い平地だと飛行能力のある方が視覚や機動力的に有利だし……」
瑠奈の目的とする場所を探し始めて数時間、ようやく条件に合致しそうな土地を見つけ出せた。
キャンプ地点から北へ進んだ先にあるそこは小ぶりな岩山が連なっており、ワイバーンの目をくらますぐらいのことなら可能だろう。
立地を有効に活用すれば、かの飛竜相手とて後れを取ることはないはずだ。
付け加えて、あるものを発見した。
「……廃村」
「見たところ、廃れたのはここ最近じゃあないみたいだね」
小ぶりとはいえ岩山に囲われた立地というのも栄えるためにはよくなかったのだろう。
家屋の数も数えるほどしかない小規模な村跡ではあるが、それも使い方次第である。
「キャンプ地点の代わりに代用できそうだね」
「……あるいは、この村そのものを戦場として、活かせないかな……?」
村を戦場にすることにためらいがないでもないが、既に使われていない場所だ。
成すべきことを成すためならば、そうしたことも辞さない。
ただし、いずれにせよ共通した問題が残っている。
「問題はどうやってワイバーンをここにおびき出すか、だよね」
「そう……。食べ物でおびき出すにしたって、限度がある……」
そもそも、ワイバーンに食べ物の存在に気付いてもらわない以上は罠の意味をなさない。
そして、ワイバーンに気付いてもらえるように餌を配置するには、やはりワイバーンの住処や現在の行動範囲を見極める必要があるだろう。
もしかすれば他にも有用な手はあるかもしれないが、見極めていくのが、今一番明快かつ妥当な方策だ。
「……他のみんなは、……なにか手がかりをつかんだのかな?」
「どうだろう。一度戻ってみるのもいいかもしれないね」
瑠奈や緋色が探した範囲内では一番理想的な戦場は見つかった。
ならば後は、他の猟兵たちの成果に期待する。二人は踵を返し、キャンプ地点へと駆け出した。
●
その日の夜は、祭りのようだった。
事の発端は瑠奈が、ワイバーンをおびき寄せるためにはやはり上等なものが必要だろうという勘案だった。
とはいえ、今日の料理がそのままワイバーンの餌となるわけではない。それは後日用意する話であり――つまるところ、猟兵たち自身が美味しくご飯を頂戴するということだ。
餌となるもののたたき台、という名目ではあるものの、多くの猟兵たちにとって美味しいご飯にありつけるのに気分が高揚しないわけがない。
少なくとも、スピレイル・ナトゥアは興奮している。
「ぜひ美味しいご飯で仲良くなりたいです!」
遊牧民である彼女は、故郷の生活の中で得た知恵を活かし、捕らえた狼を捌く。精霊信仰の巫女姫として火の精霊の力を借り、肉を焼く。
シホが持ち寄った調味料などを用いつつ、手始めと言わんばかりにまずはシンプルなステーキが完成した。
「美味しい……」
「ありがとうございます! 楽しい楽しいキャンプのために精一杯頑張ります!」
瑠奈はスピレイルの調理した肉を頬張る。本当に狼の肉か疑わしいほど柔らかく仕上がっていた。
甘いものが好きな瑠奈ではあるが、スピレイルの腕前に加え、彼女自身が熱意に燃え上がっている姿を見ていると微笑ましい気持ちも湧き出て、より一層美味しく感じられる。
「子豚さん、私たちの都合で申し訳ございません。力を、貸してください」
シホは祈りを捧げ、それから子豚に刃を入れていく。
祈りの甲斐もあってか、比較的安らかに眠ることのできた子豚を前に、シホは感謝の念を込めつつ香草丸焼きの準備を整える。
ワイバーンをおびき寄せるためには、香りの強いものが良いだろうという判断で持ち込んだ調味料であった。とはいえ、こうして香りが立っていく丸焼きを前にすると、自然と自分のおなかの音も鳴る。
「美味しそう!」
結局、道中で水源を見つけられなかった緋色は、ならばと言わんばかりに井戸掘りに着手し、見事成功していた。
体力を使った彼にとって、立ち込めんばかりの香りは非常に危険だった。とはいえ彼もありつくばかりではいられない。
「じゃあ私は豆を使ったスープでも作ろうかなー」
彼自身が掘り当てた水源もある。スープを作るのにも問題はなかった。
「今のところ、ワイバーンの姿は見当たらないな――ってなんだ、今日はえらい豪勢だな」
料理に誘われてワイバーンが来ても困らないように、とみんなが安心出来るよう周囲を警戒し見回っていたソーニャも戻ってきた。
「ちゃんとあとで保存食も作るから安心してね!」
「心強い……。いや、私にも出来ることがあるならば言ってくれ」
「はい、ですが今日は調理担当が三人もいらっしゃいますし、そうですね……感想なんか言ってくださると嬉しいです」
シホの提言に、そんなことでも構わないのならば、とソーニャは頷く。
こうして夜は更けていく。今日の寝ずの番を任された猟兵は、シホの提案で設けられた、ゆらゆらと上がる狼煙を眺めつつ警戒に当たるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 冒険
『荒野の探索』
|
POW : 荒野を虱潰しに強行軍で探索する
SPD : 標的の痕跡を探して追跡する
WIZ : 地形や気候、目撃情報から居場所を推理する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
スピレイル・ナトゥア
WIZを使います
赤星さんたちも私たちも別々のところで猪の死骸を発見した……もしかしたら、ワイバーンの好物は猪なのかもしれません
赤星さんたちが見つけた廃村を目指しながら、ついでに猪狩りも狙うことにします
ワイバーンが昔から居たのなら、廃村になんらかの資料が残っているはずです
昔の村人さんが残した目撃情報のなかから、ワイバーンの居場所を推理しようと思います
それにしても、餌もないのにワイバーンはなぜこの場所に留まっているのでしょうか?
盗賊を襲っていたことから考えると、まだ長旅に耐えれないぐらいの子供が居て、その卵か雛を盗賊に奪われたのかもしれません
なんて、こんなふうに考えるのは物語の読み過ぎでしょうか?
シホ・エーデルワイス
先の探索で得た情報を地図と照らし合わせて
ワイバーンの移動経路を推理し探します。
多分
猪の骸(腐敗している順)⇒予知の商人襲撃場所
の順に線を繋ぐと大体の行動範囲は絞り込めると思います。
上手くいったら皆さんにも伝えます。
でも間違っているかもなので参考程度にお願いします。
あと、手分けして探す事になりましたら
ワイバーンから襲撃された時用に信号弾
(もしくは笛か鏡)を皆さんに配ろうと思います。
相談して必要そうであれば
私は連絡役も兼ねて皆さんが索敵しに行く先の中心地域で白い狼煙を挙げつつ
周辺を探索しようと思います。
これでワイバーン発見の知らせが届いたら、
ビニール袋を大量にくべて黒煙を挙げ皆さんに知らせます。
ビードット・ワイワイ
彼奴めはイノシシを一口にて食すほどの大物。
周辺の物を傷つけずの生活は無理であろう。
【情報収集】にて大物が潜めし洞窟もしくは巣となりし開けた場所の情報を集めし。
我が【存在感】と言葉にて大抵のものは【言いくるめ】られよう。
荒野に合うように我が体躯を目立たぬように【変装】。
遠目には岩や地面に見間違おう。
聞きし場所を巡りて傷つけられし場所を探そうぞ。
見つけられし時は彼奴めを追跡しよう。彼奴目の行動範囲を見極めよう。
【ガジェットショータイム】にて小型の発信機を製作し地面に設置。
奴が巣穴より飛び立ちしときにそれを踏ませ取り付けよう。
これにて彼奴の動きは丸裸よ。
雛菊・璃奈
各種情報から居場所を推理…。
まずはこの近辺の地図等を近隣の人里等で調達できれば調達…。
できなければ、ここまで参加した猟兵のみんなからの話を総合して自力で簡易的な地図を作成…。
そこから、ワイバーンが襲った動物の食べ残しの後や盗賊等の証言を元に地図にワイバーンの出現地点を明記して、現在確認できてるワイバーンの行動箇所、範囲と各所で見つかった襲われた動物の腐敗状況から移動経路を整理するよ…。
後は地形的に移動している方向から、獲物となる動物が多そうな森林や平原…そして人間が通る街道等がありそうなら、その辺を中心に捜索すると良いかも…。
手頃な野生動物がいれば誘き寄せの餌用に狩っておくのも良いかな…?
ソーニャ・ロマネンコ
さぁて、それじゃ周辺を探索しようか。
といっても…手当たり次第に虱潰しというのも些か効率が悪いか?
目的はワイバーンの生息地、ならば生物の少ない方向を探り、その方角を重点的に調べてみよう。
装備品の探索での定番【双眼鏡】と機動力確保の【バイク】、技能の【視力】【騎乗】あとは【第六感】で良い感じに攻めていこう。
赤星・緋色
はーいっと
キャンプも無事完成したし、ワイバーン?を探しに行かないとだね
グリモア猟兵さんの予知内容からだと、昼間に傭兵さんと商人さん襲われてるっぽいし、夜行性じゃないよね
んじゃー無理せず昼の間で探していこ。視界も昼間の方がいいしね!
というわけで、痕跡探し開始!
前回ハズレだったところは避けて、別の所を探そう
ワイバーンの獲物になったのは動物とかはそのまま残ってたから、新し目のが落ちてれば近いと思うんだよね
痕跡が見つかったら技能追跡で追跡開始
スカイステッパーで邪魔な地形とかも飛び越えていくよ
一応、技能罠使いでおびき寄せに使えそうな獲物も捕っていこうかな
所々に配置して、戦闘場所まで誘導できないかなって
弦月・宵
美味しい夕飯をご馳走様でした。
片付けは手伝えるよ。
火の側では寝ない・夜間ロバと過ごす、を継続。
夜が明けたら、皆の集めた情報を地図に書き出して居場所を掴みたい。
【世界知識】使って、地形気候の他にワイバーンの生態や好みも推理材料に。
広い…電波って通じる?
でも今日こそあいつの面を拝んでやる!
…もし発見したとして、思い通りに餌に食い付くかな。
シホさんの狼煙は空からでも目立つし、人(餌)がいる印になると思う。
狼煙を廃村の入口へ移して、オレ達の野営地もそこから遠くない場所へ移動するのは?
もちろん野営地は目立たなくしておいて、
エサは狼煙の周りに盛大に撒く。
ダメならワイバーンの巣へ突撃する、しか浮かばないな。
●
宴もたけなわ、といったところで、その日の活動は終わりを迎える。
ご馳走になった弦月・宵(マヨイゴ・f05409)は片づけを任されていた。緋色の掘り当てた井戸も活用しつつ食器を洗う。
引き続き寝ずの番を任されている。初日の夜とは違い、盗賊が現れることもない、静かな夜だった。ロバの呼気が聞こえる。異変は、なさそうだ。
最後の食器を洗い終えれば、合掌するように手を合わせる。
「美味しい夕飯をご馳走様でした」
と、シホ・エーデルワイス(オラトリオの聖者・f03442)たちへの感謝を述べつつ、改めて今後のことに関して考える必要があるだろう。
当然、明日の行動そのものもさることながら、先ほどふと、一つの疑念がよぎった。今日のご飯は確かに美味しかった。
「でも、思い通り餌にありついてくれるかな?」
罠に気付いてくれるか。そもそも本当にワイバーンは血眼になって食料を探しているのだろうか。考えていくと、とりたてて、今のところ餌に絶対性などないように思えた。
宵の【世界知識】によれば、確かに肉を好む傾向があることにはあるけれど、果たして。
「むしろ彼奴めの関心――否、敵愾心は我らに向いているのではなかろうか」
宵の言葉に思わぬ返答があった。同じく寝ずの番を任されていたビードット・ワイワイ(スクラップアンドビルド・f02622)である。
「我らが誅した盗賊なるものであれ、未来襲われるとされる商人であれ、彼奴めは間違いなく汝らのような人型に害を成す」
「食欲に勝る何かがあるってなのかな?」
「然様――と断言すべきではあるが、それを見定めるのも明日以降の仕事なり」
「そう、だね。違う人とも相談してみる」
ビードットの告げたことに対する異論は特になかった。如何なオブリビオンであれ、こちらに敵意を抱いているのは間違いない。ゆえにこそ、こうして討伐任務が開かれている。
「いずれにせよ、持ちうる手駒を腐らすわけにもいくまいて。肉を使った計略も、また別に実行すればよかろう」
「うん。今のところ猪を食らった奴は、ワイバーンが最有力には違いないわけだし」
調査の中で大きな口をもった魔物と遭遇でもしない限り、その前提は揺るがないように思える。
うまく事が進んでくれるにしろ、しないにしろ、罠を設置すること自体は無駄ではないだろう。
「明日こそ、必ず顔を拝んでやる」
決意を込めて、前を向く。狼煙は今なお立ち上っている。
●
夜も明け、猟兵たちは今後の指針を決めている。目下の目標はワイバーンを発見すること。
そのためには引き続き、散開して調査を進める必要がある。
「といっても……手当たり次第に虱潰しというのも些か効率が悪いか?」
ソーニャ・ロマネンコ(妖狐の戦場傭兵・f03219)の指摘はもっともなものだ。ゆえに、赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)の手によって記された草案をもとに、周辺の地図を書き起こす。
可視化されたこの一帯を眺め、要点を押さえながらシホはワイバーンの移動経路を推測する。
「前日までの調査の成果として、私たちは洞窟内で、瑠奈さんたちは盗賊が言及した場所付近で、共通して猪の死骸を発見いたしました」
地図に書き込まれたそれぞれの地点を指し示す。そして、シホはもう一か所指を差す。
「予知した光景を伺うに、この辺りが商人が襲撃に合うと思しき場所になるでしょう」
指し示した三点を線で結び、三角形を描く。
「……ん、じゃあとりあえず、この三角形を意識して探索、すればいいのかな」
雛菊・瑠奈(魔剣の巫女・f04218)の言葉にシホは頷く。他の猟兵たちからも表だって異議を唱えるものはいなかった。
「なら……食い残しの腐敗状況を見比べてみる必要がある……、かも」
「そうですね。腐敗している順を明快にしていけば、それでワイバーンの行動範囲も絞り込めるでしょう」
「そういうことなら私が廃村に向かう道中にあった猪を見てみます」
スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)が挙手をしながら提案する。スピレイルは洞窟で猪の死骸を発見した一人だ。見比べるというのであれば適材と言えよう。
このような調子でやらなければならないこと、やるべきこと、やりたいこと、と優先順位をつけながらも、各々役割分担がされていく。
シホは猟兵たちに、笛を手渡していく。ピンチとなった時はこれで応援を呼ぶという寸法だ。
猟兵たちは笛を手に、それぞれ決められた場所へと向かい始める。
●
スピレイルは宵とともに廃村へ向かう。
予知された期日まで猶予こそあるが、自然と足が速くなる。
最中、宵がこちらに問いを投げかけてきた。
「ねえ、本当にワイバーンはお腹空かしているのかな?」
昨夜ビードットと話した通り、その問いかけの正否にあまり意味はない。
食べ物を使った罠は、相手が動物であるならば基本的に効果を発揮する、ベーシックなものである。満腹というのも困るけれど、空腹の度合はあまり考慮する必要がない。
ただ、スピレイルとしてはその疑問について、もう少し踏み込んだところまで考えが及んだようだ。
「それに関して、私も少し考えました。そもそもなぜ、獲物のいない――餌のないこの荒野にワイバーンは留まっているのでしょう?」
「……確かにそうだね。お腹が空いているのなら、移動すればいい。飛べるわけだし」
宵は知りうる限りの【世界知識】において、とりたててワイバーンは土着にこだわる生物というわけではないはずだ。
「はい。ですので、なにか理由があるのではないでしょうか」
例えばですけれど、と前置きをしてスピレイルは推測を論じる。
「盗賊がワイバーンに襲われたそうですが、まだ長旅に耐えれないぐらいの子供が居て、その卵か雛を盗賊に奪われていたのかもしれません」
襲われた盗賊とは別人かもしれませんが、と付け加えつつ、話を展開していく。
「だとすれば、馬車を引いていた商人を襲う理由もできますし、獲物の少ないこの一帯に固執する理由もあるんじゃないでしょうか」
なんて、こんなふうに思うのは考えすぎでしょうか? 宵に問い掛けるようにして、スピレイルは推測を語り終えた。
宵は首を横に振りながら、スピレイルの話も、あるいは一理あるのかもしれないと伝える。
「昨日寝ずの番をしていた間、そういう話もしたんだけど、ワイバーンは食欲に勝る何かがあるんじゃないかって」
それが、我が子を盗まれた憎しみや恨みの類だとするならば、確かに大事だ。
あくまで仮定の話ですけどね、と言いつつ歩みを進めていると、件の死骸に行きあたった。
「こちらの方が――多少腐敗が進んでいるように見えます」
「なら、ここから洞窟の方へ進路を向けた、ってことかな」
「単純に考えればそうですね。そういう方向で話を進めてみましょう!」
更なる歩みの末、廃村へたどり着いた。ワイバーンはオブリビオン――過去の残影だ。それ故にかつてこの村にいた人が何かしらの手がかりを遺しているかもしれない、と考え探索したが、残念ながらめぼしいものは見つかれなかった。
代わりに近くの岩場において、ワイバーンを招きよせる場所、すなわち罠を設置する場所も目途を立てることはできた。
加えて宵たちの調査の結果、ある場所も発見する。
「ここなら拠点も設営できそうだね」
「はい、そちらも併せて報告してみましょう!」
この辺りを戦場とするのであれば、これまでの拠点は少し遠い。移動するのも一考する価値はある。二人はキャンプ地にするための準備を調えつつ、調査を進めた。
●
乾いた更地を駆け抜ける影があった。ソーニャは緋色を乗せて【軍用バイク】を走らせる。
悪路でも構わず耐え、加速度と最高速とをウリにするだけあり、その走りは中々の物だった。
彼女らが走るのは、地図上に描いた三角形の内側。その中でもまだ調査の及んでいない場所を中心的に捜索する。
「あそこになにあるみたいだ」
時折バイクを停めては【双眼鏡】で辺りを見渡す。そんな折、ソーニャは何やら痕跡を発見した。
「猪の死骸……だな」
「うん、だけど今回はそれだけじゃないね」
傷跡を見ると、これまでのような乱雑に捕食されたもののように思えない。何か、大きな爪に掴まれたかのような綺麗な切り口で出来た風穴があいている。このえぐるような穿ち方、この満ち満ちた強大さには覚えがある。
「猪殺しの犯人はワイバーンで決定かな?」
「近くに足跡なんかも見当たらない。少なくとも飛行型の生物と見て問題なさそうだ」
「私たちが見た、廃村の近くにあった死体より新しめに見えるけど、どう?」
「洞窟のそれよりも……うん、新しく見える」
じゃあ、最近はこの辺りを狩場にしていたのかな、と緋色は立ち上がる。右、左と確認するように視界を一巡させると。
「ソーニャさん、あっちに行ってみよう」
「なにか分かったのか?」
「あっちの方にかすかだけど血の跡が見えるんだ。それを辿ってみたいんだけど、どうかな?」
緋色の指摘するように小さな血痕が落ちている。なるほどと得心のいったソーニャはバイクにまたがる。
「じゃあ【追跡】は緋色殿に任せよう。私はこの【視力】で、ワイバーンを捉えてみせる」
「任された! バイクで横断するのが難しそうな土地に出くわしたら私に任せて。【スカイステッパー】で飛び越えてみせるから!」
グリモア猟兵の予知の中で、商人は真昼に襲われたという。ならば、活動時間であると思しき真昼の内に動いておきたいのが道理だ。
バイクがブルルッ、と嘶くように音を挙げる。向かうは洞窟のある方角だ。
疾駆する中、二人はまたしても猪の死骸に遭遇する。ただし今度の死骸は、あまりにも見るからに――。
「新しいな」
「きっと近いね」
未だ血が滴っている。こちらの死骸もまた爪で貫かれている。ソーニャは双眼鏡にのぞき込む。空を仰ぐように見渡す中に、赤い影はあった。
「ワイバーン!!」
その影は旋回するように空を駆けている。まるで探し物をしているかのようだが、真意は定かではない。いずれにせよ一見して隙はあるように思える。
「そうとはいえ、このまま突っ込むわけにはいかないな」
「……そうだね。流石に二人じゃ荷が重いかな。しばらく様子見をしてみよ」
しばらく様子見をしていると、ワイバーンは洞窟の中へと姿を隠していく。
「あそこに巣があるのかな?」
「あるいは、単に餌を探しに潜っただけかもしれないが……」
ここは深追いをせず、情報を共有すべきだろう。二人はそう判断して、帰り道に罠になりそうなものを探しつつも、キャンプへと足を向けるのであった。
●
雛菊・瑠奈は、地図で言い表すと描いた三角形の外側の探索も欠かしてはならないと考えていた。
ワイバーンは空を飛ぶ以上、具体的な移動経路を突き止めるのは難しいだろう。だが、目指す地点はおおよそ限られる。例えば森のような、餌が安定してとれる場所だ。
加えていくらがここらの地域が枯れた土地とはいえ、実際に商人たちが行き来している以上、街道のようなものもあるはず。これらを中心とした探索も必要だ。
「……これが街道、なのかな」
少し探索した後、断続的に設立された木製の柵で示された道に行き会った。ここらの足場は、確かに他と比べて踏み込みやすく、歩きやすいと言えば歩きやすい。
とはいえ、瑠奈は人里そのものを目指しているわけではない。街道を中心にしつつ、道の外れたところを探索していると、それらはいた。
「へいへーい。嬢ちゃん、金貨は持ってるかぁ?」
盗賊の一味だ。数にして4人。どうやらこの辺りは盗賊たちの根城となっていたらしい。おおよそ、街道を行きかう商人らを襲うのが彼らの生き様なのだろう。
「とはいえ、今は金はいいけどな! なんたってワイバーンのガキをうっぱらったらこれが結構な金になったのよ。ぎゃっはっは!!」
「……。……そのワイバーンのこども、は、……どこで見つけたの?」
「あぁ? てめぇ見たところ冒険者だろうが。知らないのか? ――情報が欲しけりゃ金出しな!」
下品な哄笑が響き渡る。不愉快な輪唱に、とりたてて我慢を利かせるつもりもなかった。どの道、害を振りまくオブリビオンを放置する義理もない。――手になじむ【妖刀】を引き抜く。
「……魔剣や妖刀に好かれる自覚はあるけど、……あなたたちに好かれたいとも思わないし、手短にいく」
明快な【殺意】が溢れ出る。盗賊たちがたじろぐ一瞬を、瑠奈は見逃さない。一閃が、盗賊の内一人の首を狩る。盗賊の実力自体はさしたるものではない。盗賊たちの理解が及ぶ前に、二撃目を繰り出す。
「て、てめぇええええ!!」
二人目も仕損じることなく、【薙ぎ払う】ように三人目も刈り取る。最後の一人も腕を切り裂く。豆腐でも斬るかのように滑らかな切り口には惚れ惚れするほどではあるが。当の盗賊からしてみれば溜まったものではない。
「……あなたの知っていることを言って」
「だから洞窟の中だよ! あいつは洞窟の中で巣を作ってるんだよ!」
言ったんだから助けてくれよ――そうとはいえ、やはり助ける義理は残念ながらない。災害にでも遭遇したと思って諦めてもらうほかにない。
「……子供をさらわれた、か……」
オブリビオンに家を滅ぼされ、奴隷として過ごした過去をもつ瑠奈としては複雑な思いがなくもない。だが、先の盗賊たちと一緒だ。ワイバーンがオブリビオンである以上、見逃せるはずもない。
早く、不幸なる未来を断ち切らなければ。決意を新たにして、再び探索を再開するのだった。
●
ビードットとシホとは洞窟の探索をしていた。シホは手にたいまつを持ちながら、以前に残した目印を頼りに歩みを進める。
ビードットは巨体を隠すように【変装】をしている。遠目には岩肌と見まがうほどのものではあるが、攻撃がしづらくなる難点があった。
だが変装の甲斐あってか、あるいはシホの持つたいまつの火を恐れてか、動物たちに襲われることは極めて少なく、順調に進むことが出来た。
「して、この先は未開なりしか」
「はい。気を付けてまいりましょう」
ソーニャ達や瑠奈の情報収集もあり、ワイバーンは洞窟内に巣を持つことが判明した。ならば、その巣を探るのはある種必須ともいえよう。
洞窟での探索は視界の不明瞭さもあり、あまり効率的には進まない。とはいえ、奥へ進むにつれ、ワイバーンの痕跡となるものがいくつも発見された。
「爪痕、食べ残し、ワイバーンのものと思しき赤い鱗――流石に巣に近いとあって色々見つけられますね」
「彼奴めと遭遇するのも近い。用心されたし」
それから間もなく、ワイバーンの巣を発見した。宿主はいないが、それは想定通りであり好都合だ。ビードットは【ガジェットショータイム】を展開する。
今この場に必要なガジェット――今回の場合では、小型の発信機のようなものだ。これを巣穴となる地面に設置する。
これでワイバーンが立巣穴より飛び立ちしときにそれを踏ませ、取り付けることができたのであれば、ワイバーンの動きは丸裸も同然だ。
「ワイバーンがそのガジェットを踏んでくれるように、餌でも用意いたしましょう」
シホは言うが否や、用意していた餌を置く。今回の下準備としてはそれぐらいだ。キャンプ地へと戻るとしよう。
「宵さんの発案でキャンプ地を廃村の近くへ移すことにはしましたが、準備は終わった頃でしょうか?」
「然様、だが、終わっておらずとも我らが手伝えばすぐに片付こう」
「ええ、そうですね。……もう少しで、ワイバーンも討伐できそうです。頑張りましょう」
二人は踵を返し、新しい拠点へと足を運ぶ。決戦の日は近い。最後の準備を調えよう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『ワイバーン』
|
POW : ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
●
ワイバーンの姿を捉え、各々己が信じる方策や、話し合った結果有益と判断した方策を仕掛けた。
例えばそれは戦いやすい舞台へ誘導する餌の配置であったり、ワイバーンの行動を把握するための仕掛けであったり、それぞれあるだろう。
ここからはワイバーンを直接叩くこととなる。
初手に最大火力を叩き込むのもよし、攻撃しながら誘導するもよし、理想的な戦場にたどり着いてから攻撃するもよし。
各々の思う立ち回りで、ワイバーンを制す。それが猟兵たちに課された、最大の目的だ。
ビードット・ワイワイ
我は戦場は選ばず。されど戦略があれば従おう。囮が必要とあれば石を組み合わせ人型へと【変装】させ不自然な部分を【目立たない】よう偽装しよう。
進路が分かりければ奇襲も容易き。【ガジェットショータイム】にて作りし我が飛翔せし刃で奴の翼を切り裂き我らが場所に引き込もう。回避しようともそれは追跡し続けよう。空からの強襲も【残像】を作り【カウンター】で返そうぞ。口を開けようものならば【怪力】にて口を閉じさせよう。
見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり。翼はあれど子を無くし力はあれど知恵は無し。空を翔て何をする?己が愚行の挽回か?最早それは叶うまい。汝の破滅はここにあり。
●
各々が集めてきた情報をまとめ、交代しつつ準備を整えている間に夜は過ぎる。ワイバーンが昼行性という推測は的を射ていたのか。夜中に動きはなく、おかげで順当な用意は出来た。ならばあとは、任務を全うするのみだ。
薄明もとうに過ぎ、日の光があたりを照り付ける。その中で、ビードット・ワイワイ(スクラップアンドビルド・f02622)は洞窟の入り口付近で神経を尖らせていた。
石を組み合わせ、人型のように【擬態(へんそう)】する。その機械仕掛けの巨体ゆえにどうしても生じる違和感は【目立たない】ように偽装し、物陰に潜む。
少なからず人語も理解できないワイバーンに、その擬態を看破するのは難しいだろう。今の彼は『人』なのだ。ワイバーンの子をさらったかもしれぬ、その存在と同じように。
「来たり」
鍍金が剥がれ落ちないように注意をしながらも、彼はゆらりと身体を起こす。ワイバーンが、巣を離れた。
遠からずこの洞窟から現れるであろう敵を、迎え撃つ。【ガジェット・ショータイム】で己が武装を展開する。現れたのは、さながら手裏剣のような三つ刃の得物。ひとりでに旋回するその様はチェーンソーのようでもあった。
威容を目撃する前に気配が近づいてくるのが自然に理解できる。敵は間違いなく強敵だ。――だが、負ける気など、一切ない。
「――GUUAAAA!!」
洞窟を出るころにはもしかするとこちらの気配には気付いていたのかもしれない。声に乗せた怒りが空に満ちる。咆哮轟くその刹那、ビードットにもその赤き姿が目に映る。ビードットよりも遥かに巨大なその姿はまさに予見していた通りの姿だ。イノシシを一口で食すほどの大物だけはある。なるほど、周辺の物を傷つけずの生活は無理なはずだ。
さりとて、巨躯が過ぎるというのも考え物だろう。ビードットは自身が生み出したガジェットに意識を向ける。瞬間、三つ刃のガジェットが弧を描きながら飛竜に突貫する。
「見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり。翼はあれど子を無くし力はあれど知恵は無し。空を翔て何をする? 己が愚行の挽回か? 最早それは叶うまい。汝の破滅はここにあり」
それは予言ではない。そのような不確実なものではない。これは事実だ。すぐに迫る事実である。ビードットは確信めいた思いを胸にワイバーンに突きつける。
されど、ワイバーンとて生半可な存在ではない。亜種とは言え、かのドラゴンに類するものだ。ひらりと自転する刃をかわす。逼迫する脅威を逃れ、ビードットに向けて今度はワイバーンが突撃せんと身構える。
「浅はかなりし、その赤き姿は怒りにまみれている。それで我らに勝とうなど思うなかれ」
赤は人を刺激する――ビードットはその赤き姿に何を見たのだろう。冷酷に告げた直後、ワイバーンの片翼がなにかで切り裂かれた。刃だ。飛翔せし三つ刃の得物が進路を変え、再びワイバーンへと迫ったのだ。
「GUUUUAAAA!!」
ひと際大きな雄たけびがこだまする。ワイバーンは切り裂かれた傷を無視するかのように翼を閉じるようにして、ビードットへその身を食らわんと口をあけながら突進を仕掛けた。
「機械なりし我を食らわんとは、いよいよ眼も腐り落ちたか」
いくら人に変装した姿をしているとはいえ、それを見抜けぬようでは飛竜の名も廃る。そう言わんばかりに彼はワイバーンの突撃を迎い入れ、その両腕でワイバーンの口を受け止めた。そのまま強引に口を閉じさせ、【カウンター】と言わんばかりに敵の下顎に蹴りを入れる。
「――とはいえ、一度ここまで、か」
さすがに、ワイバーンと猟兵一人とでは地力が違う。現に翼を傷つけた程度ではものともしないようだ。長引けば長引くほどビードットの不利に傾くのは自明の理。
彼のここでの役割は、ワイバーンに『人』が近くにいること、そして敵対視していると分からせることにある。そうすれば自然、ワイバーンはこちらを探さんと躍起になってくれるだろう。
それはここまでの調査で得た情報の中で、推測が立つ。
『――――ピィィイイ!』
どこかで笛の音が鳴る。おそらくは後方支援に徹してくれていた猟兵の誰かだろう。気付けば、ここから遠くもない場所。方角的には廃村がある方に、狼煙が立っている。狼煙とは、人がいる目印ともなりうる。
ワイバーンとて、それは理解している。理解しているからこそ、ここでまごついているわけにもいかなかった。オブリビオンなりし身なれど、事情があるのだろう。
すでにビードットには目もくれず、ワイバーンは飛び立つ。狼煙のあがる方へと翔け抜けるのであった。
成功
🔵🔵🔴
ソーニャ・ロマネンコ
それじゃ、私は警戒と後方支援に回ろう。
【スナイパー3、2回攻撃2、援護射撃2、武器受け1、鎧砕き1、戦闘知識1、激痛耐性1、第六感1、鼓舞3、毒耐性2、目立たない2、視力2】
使う技能はこの辺りか…
攻撃は【スナイパー】【2回攻撃】【援護射撃】【戦闘知識】【視力】を用いての後方射撃だ、対物ライフルや弓を使った【千里眼射ち】等で前線をアシストする。
防御面は【激痛耐性】【毒耐性】【目立たない】【第六感】辺りを使い、耐え抜こう。
奴が私に気を取られているという事は、他の誰かが攻撃するチャンスだという事だ。
勿論、その逆も然り…余所見をしたらその五月蝿い舌を私が射抜くからな?
さぁ、楽しいゲームを始めよう。
弦月・宵
人型を見て襲ってくるなら、準備万端で空を見上げてる。
戦場は皆と一緒の所。希望なければ廃村で。
囮であり、一番気を引けると考えた結果だよ。
ワイバーンと対峙したら
真っ直ぐに眼を見て、漸くの邂逅に喜びを感じるな。
大きい…それでも災悪は降りかかるんだね。
無くしたモノは見捨てなければ、次は自分の番ナンダヨ?
ゆるゆら
貫通性を重視して針状の金剛石を召喚
真の姿はまだ見た目変わらない
ちょっと戦闘狂になる程度かな
分析とか有効打とか全部任せるからさぁ
何も考えず我武者羅に戦場に立つ機会を頂戴
召喚中も隠れたり防いだりは無し
この絶望感が、まだ生きてるって感じ。
このまま消えてもいいけど、お父様達の所にはいけそうにないしなぁ…
スピレイル・ナトゥア
WIZを使用します
「あれがワイバーンさん……凄い迫力です」
爆風の勢いに、思わず髪飾りを手で押さえるとしましょう
風にはためいた振袖が、自分の衣服ですがなんとも面倒です
……スカートのなかは覗かないでくださいね?
「あんな爆風を繰り出されると、うかつには近寄れませんね」
ここは、精霊樹の弓による【スナイパー】で【援護射撃】をしつつ、敵の隙を伺うとしましょう
相手の急降下の最中に隙を見つけたら、すれ違いざまに『蒼色の螺旋』で攻撃します
部族の信仰のシンボルとしてではない、忌み子の証である本物の『精霊の眼』を使用しての切り札
ワイバーンさんのような強大な敵にこそうってつけの一撃です
私の力を見せてさしあげましょう!
赤星・緋色
よーっし、やっと引きずり出したよワイバーン!
みんなが協力してやっとここまでこれたし、しっかり討伐成功させて帰ろーね
ほいほいっと、今回は相手が飛んでるし蒸気ガトリング『ミニさん』の出番かな
何か相手は回避重視のビルドだから技能のフェイントを使って牽制していくよ
そして仲間の攻撃に合わせて技能の援護射撃で追撃する感じ
攻撃タイミングや回避タイミングで必ず隙は出来るかなって思うし、2種類の急降下攻撃は降下中に動きが直線的になるはずだから、そこを狙っていくよ
私の攻撃で倒せなくても、誰かが最終的に倒せればいいんだもんね
ワイバーンがちょろちょろ動くときは私が牽制するよ。そのタイミングでみんな攻撃頑張って!
シホ・エーデルワイス
今回の依頼で仲良くなった方が我武者羅に戦う姿を見て
心強さと不安を感じます
だから
私は盾になります
戦場や誘導方法は皆さんと打合せて協力
必要であれば私が鏡で光を当てたり聖銃を撃ったりしながら飛んで誘導します
戦闘中は常時飛行状態で敵の眼前に立塞がり
【かばう】で敵の前に割込み【オーラ防御と武器受け】で防御
隙を見てユーベルコードで治療します
攻撃できれば使える技能は全て使う
竜の鱗は顎の下に1枚だけ逆さに生えた逆鱗があるそうです
今対峙しているワイバーンにもあるならそれを狙って気を惹きます
真の姿は幻の鎖(罪悪感)が体中を覆います
ごめんなさい
あなたの怒りと悲しみは当然です
その無念私が受止めます
最後は冥福を祈ります
コロッサス・ロードス
戦闘時は『武器受け』『盾受け』『オーラ防御』等の防御技能を活かす為、また仲間を『かばう』事で被害を抑える為にも、集中攻撃を受ける『覚悟』で敵に肉薄して『おびき寄せ』攻撃を誘う
但し闇雲な突出はせず、他の猟兵達との連携を重視し、遊撃よりも確実な隊列維持に重点を置いた闘いに徹す
「この痛み、この苦しみが……我らに勝利を齎す!」
【ワイバーンダイブ】【ワイバーンブラスト】に対しては、両技に共通する急降下の動作を素早く『見切り』、適宜【無敵城塞】使用して仲間の盾となる
技を防いだ後は【無敵城塞】を解き、再び肉薄して攻撃を誘う
「もはや貴様に喰わす肉……否、命はない。最後の晩餐は我ら猟兵の刃と心得よ」
●
「間もなく、ワイバーンがこちらに到着する!」
現況を伝えるべく、この場にいる猟兵たちに告げる。
ソーニャ・ロマネンコ(妖狐の戦場傭兵・f03219)は【双眼鏡】を片手に、廃村や岩場から少し小高い場所にある岩肌に腰を下ろしながら戦況を見守っていた。
いくつかの狼煙を罠に、順当にワイバーンはこちらに引き寄せられてくる。いい具合だ、と赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)たちが見つけた戦場に利用できる岩場に双眼鏡を合わす。そこには特に手を施してない猪の死骸と香草焼きとが一つずつ配置されていた。
結局のところ、荒野には動物が少ないという条件に食い違いはなかったのか群れらしい群れは発見できなかったが、かろうじてその二匹だけは仕留めることが出来た。
それらを最後の罠にして、こちらの持ちうるすべてを撃破に向ける。ワイバーンの襲来まで、もう、間もなくだ。
(さあ、楽しいゲームを始めよう)
対物狙撃銃を構えながら、彼女はその時を待っていた。
そんなソーニャを眼下に、廃村の近くにあるキャンプから抜け出してきた猟兵たちがそれぞれ所定の配置に着く。
とりわけ、シホ・エーデルワイス(オラトリオの聖者・f03442)は最前線に立つこととなる。当然、不安も大きい。
一方で、周りにいるみんなが心強くもあるのだ。唯一つの思いを遺し、すべての記憶を失った過去をもつ彼女。そんな彼女でも仲良くなれた人たちがここにはいる。
負けてなど、いられないのだ。大切な、思い出の為にも。
「――来ます!」
ワイバーンが翼をはためかすたびに逆巻く風。どうやら餌めがけて降りて来たらしい。猟兵たちは物陰に隠れている。気付かれているのかどうかは定かではないが、ワイバーンは幾度かにおいを嗅ぐと、一口香草焼きの方に食らいつく。一口とは言うものの、ほとんど丸呑みのようなものだ。
骨なども噛み砕く勢いで咀嚼するワイバーンを見つめる。ワイバーンの真意は読めないが、肉に気を取られている今が好機だ。シホは号令を挙げる。
「行きますっ!!」
その言葉を皮切りに、総員、攻撃を開始する。
一番に踏み込んだのは、コロッサス・ロードス(金剛神将・f03956)だった。2mを超える偉丈夫である彼は勇ましくワイバーンに肉薄する。
身体の大部分を占めているんではないかと思しき筋肉を振り上げてれば、その手には顕現せし神火と払暁の光を湛えた剣が握られていた。
「我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ――去ね。もはや貴様に喰わす肉……否、命はない。最後の晩餐は我ら猟兵の刃と心得よ」
その一撃は、裁きの鉄槌のごとくワイバーンの首を撃つ。ただ、仕留めきれない。とはいえそれは想定内だ。
コロッサスは後ろに下がり、シホと視線を交わす。
「シホ、俺らが攻撃を食い止めるぞ!」
「はい!」
そんなシホの横を、ゆらりと何かが横切った。あれは、金剛石だ。光輝く、針状のダイヤモンド。そんなダイヤモンドの群れが、音もなくワイバーンに飛来する。
「漸く会えたね、ワイバーン。でもね。無くしたモノは見捨てなければ、次は自分の番ナンダヨ?」
続いて、現れたのは弦月・宵(マヨイゴ・f05409)だ。今、彼が思うのはなんだろうか。かつての自分なのだろうか。されど、投影の先にあったのは、迷いなんかではない。ただ純粋な熱狂だった。
針がワイバーンを責め立てる。鱗さえも貫通し着実に傷を与えている。だが、まだ足りない。足りないならば、自分で下すまで。
「ああぁぁあ!」
両の腕を朱墨が這ったような痕がほとばしる。瞬間、地獄より呼び起こされし紅蓮の炎が宵を纏った。熱量は十分だ。身体に纏った【ブレイズフレイム】を空へ飛びあがらんとする竜めがけて解き放つ。
「GUUUUUU!」
呻きのような声が聞こえるも、ワイバーンの猛攻は止まらない。炎を纏いながらも空高く舞い上がり、【咆哮】とともに【衝撃波】をまき散らしながら【急降下】してこちらへ襲来する。
「宵さん!」
直撃する、そう思える攻撃だった。このまま消えてもいい。そう思った自分がいることは否定できない。お父様達の所にはいけそうにないのだから。しかし、直撃とはならなかった。シホが【かばい】、攻撃を食い止める。【オーラ防御】をしていたとはいえ、攻撃は決して浅くない。それでもシホは笑い、問い掛ける。
「大丈夫ですか?」
「……うん、ありがとう。助かった。まだ生きてるって感じだ」
「はい、宵さんはまだ生きています!」
【生まれながらの光】で自身を回復しながらシホは笑いかけてくる。それでもやはり、シホの顔には疲弊の色が浮かんでいた。
一歩間違えば死ぬかもしれない。この絶望感が、生きてる実感を与えてくれる。まだまだ死ねない。かばってくれている、仲間たちの為にもだ。
そんなことを抱きつつ、【ゆるりらゆらりや(ユルユラ)】での攻撃を継続しつつ、宵は再び戦場へと身を投じる。
宵とワイバーンとの一幕を観察しつつ、スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)は考えていた。
「あんな爆風を繰り出されるとうかつには近寄れませんね……」
宵との交戦の中で生じた衝撃波などではためく振袖やスカートを抑えつつ、考える。自身の必殺技を活かすために、いかにしてかいくぐり、相手の動きを止めるか。
最中、緋色とコロッサスがこちらに話を持ち掛けてきた。
「スピレイルさん、要は動きを止めればいいんだよね?」
「はい、そうですけど……スカートの中、覗かないでくださいね?」
スカートを殊更強く抑えつつ、スピレイルはじとりと見やる。戦闘中とはいえ、そこは乙女のプライドなのだ。
「見ないよ! 任せて! それでね、私がワイバーンの動きを牽制して誘導する」
「そして俺がこの身体で奴の動きを食い止める。その間にスピレイルの技を仕掛けてやれ」
分かりやすい作戦ではあるが、いささか二人の負担が重いようにも思える、スピレイルは問い掛けるも。
「大丈夫大丈夫。最終的に誰かの攻撃で倒せればいいんだから、スピレイルさんたちに託しているだけだよ」
「ああ、むしろ俺が期待しているところだぜ」
期待されていては、断るのも野暮というものだ。スピレイルは大きく返事をすると、作戦はただちに開始された。
「行くよ! 【ミニさん】!」
魔道蒸気で駆動する蒸気ガトリングを構え、おおざっぱにワイバーンに向けて標準を合わせる。敵は人間に対して極めて短絡的に行動してくれるのは先までの行動で理解できた。
ならば、大きな刺激を加えれば、すぐさまこちらに疾駆してくることは容易に想像がつく。事実、ワイバーンはこちらに向かって翔け抜ける。
「お願い、コロッサスさん!」
「ああ!」
風すら纏うその突撃を前に、コロッサスは躍り出る。
決意は十分。ならば、あとは受け止めるのみ。ワイバーンは飛翔し、数々の獲物を屠ってきたであろう爪を振りかざしながら迫りくる。
鋭き一撃であろうことは間違いない。だが、コロッサス・ロードスの肉体を前に、そのようなものは無力も甚だしい。
「この痛み、この苦しみが……我らに勝利を齎す!」
【無敵城塞】を展開して、ワイバーンの猛攻を受け止め、身体を硬直化させる。ワイバーンの尻尾による攻撃もまるで通じない。まさに無敵。コロッサス自身も一歩も動けないことが気がかりではあるものの、この場合においては、それも問題はない。
「二人とも、ありがとうございます!」
なにせ、スピレイルが後ろに控えているのだから。
スピレイルは青き瞳をワイバーンの巨躯へと向けて、己が持てるうってつけの一撃を解き放つ。部族のシンボルではない、忌み子としての証である本当の【精霊の眼】をもってして!
「いま真の眼を開きましょう。私は運命を視る忌み子。何人たりともこの御手からは逃れられない……!」
視える、視える、視える! 【蒼色の螺旋】が、【運命】が、スピレイルの瞳の奥で瞬いている! なればこそ、ワイバーンはもう、死からは逃れられない!
どんどんと死に近づいていく。近づいていく。――人間に仇を成す飛竜の運命が刻一刻と消費されていく。
――ドゥン
低く、脳の奥で響き渡るような、鈍く重い音が鳴る。
銃声には違いない。だが、ここまで重たい音を出すのは誰か。
「……ゲームは終わりだ。ワイバーン」
対物狙撃銃の構えを解く。見ればワイバーンの頭蓋は吹き飛び、もはや跡形もない。
小高い丘で、ソーニャは一つ、息を零す。岩場では事態を把握した猟兵たちもどっと息を吐きしていた。
そんな最中、シホ・エーデルワイスは手を合わせ唱える。
「さようなら、ワイバーン。あなたの無念や怒り、私が受け持ちます。どうか安らかに」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵