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冒険者たち

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索


●冒険者の酒場
『帰って来るまでが冒険だよ』
 ……思い起こせば、お師匠さまがマルクゥに話してくれたさまざまな「勇者の伝説」は、それぞれがとても勇敢だったり、聡明だったり、笑ってしまうほど運が良かったりしたけれど。
 結びの言葉は、だいたい同じだったように思う。
『彼らは正しく還って来て、伝説になった。
 冒険者はね、行って、帰ってこないといけない。誰か、何か、真実のひとかけらでもいいから、もと居た場所に還り着かなければならないんだ。
 ……でないと、誰も語れないだろう? 残された者たちは想像するだけ。それではだめなんだ』
 お師匠さまの言葉通りなら。
 いまマルクゥの目の前にいるひとたちは、ちゃんと帰って来れるかしら?
 マルクゥは首を傾げる。あごのあたりで切りそろえられた髪もゆれる。差し込む陽の光に照らされて、子どもの頭はまるで金色の麦の穂のような色になった。
「乾杯! 次討ち取るモンスターの首に乾杯!」
「あらたなる勇者に、泡滴る次の一杯をたのむ!」
「賞金首があの街に潜伏しているらしい」
「なあ、腕のいい癒し手を知らないか?」
 威勢の良い声、声。打ち交わされる杯は、マルクゥの頭のはるか上にある。
 屈強な蛮族の戦士、しゅっといかにも洗練された風の騎士に、周囲のお祭り騒ぎにわれ関せずと書物を拡げる魔法使い……。
 ここは冒険者たちの酒場。
 そして、旅人たちが足を休め、ひととき憩うのに最適な場所だ。
 テーブルに席を確保して、マルクゥの村の雑貨屋のおじさんはメニューを一瞥して、軽く顎鬚を撫でた。
「わしは鱈と芋のフライに、おすすめのゴールデンウィート・エールを一杯頂くとするか。マルクゥはどうする?」
「ゆで卵入りライスコロッケと、豚のハムステーキがいいです」
 育ちざかりの食欲は軽食にも手加減がない。
 注文を取りに来た少女はにっこり笑って、マルクゥに酒以外のメニューを示してくれた。
 そこには見たこともない名詞がずらりと並んでいて、どれもこれも、とても美味しそうだ。
「―――ライムとミントのソーダ水、を、お願いしますです!」
 幾つもの選択、たくさんの逡巡を一瞬ですませて、マルクゥは一息に告げた。
 交易の便の良いこの地域のこと、繁盛する酒場には行商人の姿も多い。どこかの席ではもう商談が始まっていて、誰も彼も口を忙しく使っている。
 ……お師匠さまの『兄弟子』さんは、どんなひとなんだろう?
 物怖じしない性質の子どもは、きょろきょろと、興味津々で店を眺めている……。

●はじめてのおつかい
「アックス&ウィザーズの案件です」
 グリモアベースのその小部屋は、湿度も温度も人体にほど良く、ある意味、快とも不快とも言えないどっちつかずの状態だった。
 ローズ・バイアリス(アリスが半分色を塗った薔薇・f02848)はカウチから身を起こして集った猟兵たちの顔を見やる。
「どこから見ても文句のつけようのない『冒険者の酒場』で……ある村からおつかいで出てきた、世間ずれしていない子どもが、厄介な目にあいそうだ」
 どういう経緯でかはわからないが、最終的にオブリビオンに遭遇する光景が見えるのだという。
「敵は複数だ。外見はまともで人を信用させるが、オブリビオンだから当然、中身は腐りきっている」
 純真な子どもにとっても、すれた大人にとっても近づきたくない相手。
 そして猟兵ならば骸の海へと還すべき相手だった。
「まあ、対処は単純で、その子どもの行きと帰りを見守っていればいい。どこかの段階で必ず姿を見せる敵を討つ。……敵は、そんなに強くない。猟兵なら苦も無く倒せるだろう」
 それでもその悪性はちいさな子どもには致死量だ。
 子どもの身体と、そして心を守るためにも。
「護衛を、よろしくお願いします」
 口調をあらため、ローズは猟兵たちに軽く頭を下げた。


コブシ
 OPを読んでくださってありがとうございます。コブシです。
 以下は補足となります。

●フラグメントについて
 第1章【日常】、
 第2章【冒険】、
 第3章【集団戦】、
 の予定です。

●行動の指針のようなもの
 ・いわゆる『冒険者の酒場』です。お酒と食事の美味しいことで近隣の村々にまでその名が鳴り響いています。
 ・事件や困りごとに関する依頼の紙が貼りだされています。
 ・マルクゥはある村の医者の弟子です。もうすぐ街で下宿して、医者のたまごたちの私塾に通う予定です。今回はおつかいで、医者の兄弟子に薬を届けに来ました。馴染みの村の雑貨屋さんと一緒です。
 ・雑貨屋のおじさんは善人です。マルクゥや村を裏切ることは絶対ありませんが、誰かにだまされたり、勘違いする可能性はあります。
 ・店に集った冒険者たちの情報収集に専念するもよし、自分が好きな料理を注文して舌鼓を打つもよし、マルクゥと話したり、またある明確な意図をもった行動に出てもよし、です(※公序良俗に反したりシナリオが破綻するようなプレイングは採用しません)。
 ・ゆるーい感じの章です。お酒やお喋り、『冒険者の酒場』の雰囲気を楽しむぞー!でOKです。

●プレイング受付について
『【一次受付】6/27(木)朝8:30~7/1(月)朝8:30』
 ・この間に届いたプレイングをマスタリングし、プロットを組み立てます。
 ・プレイングは一度すべてお返しします。
 ・その後、「全採用できるか否か」をマスターページやツイッターでご報告します。
『【二次受付】7/5(金)朝8:30~』
 ・上記の内容でも構わないとお思いであれば、プレイングの再送をお願いします。

 いろいろと、お手数だと思いますが、何卒よろしくお願い致します。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
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第1章 日常 『冒険者の店で大宴会!』

POW   :    肥沃な大地で育った肉料理で乾杯!

SPD   :    澄んだ清らかなる川や海で捕れた魚料理で乾杯!

WIZ   :    大自然の恵み!お野菜や果物で乾杯!

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ヴァルダ・イシルドゥア
マルクゥさん、ごきげんよう
……ふふ!そうです、『きんいろ』です

おじさまも、お元気そうでよかった
ええ、ええ
あの場にいた皆さまのことを覚えております
……近くに座っても?

まあ、マルクゥさんは街でお勉強を?
お師匠さまという目標、ゆめを追うこと
とても誇らしく……そして、嬉しく思います
みなの『あい』があったからこその、今
なんて……なんて、いとおしいのでしょう

会話に花を咲かせる傍
声を落として、雑貨屋のおじさまだけに聞こえるように

じつは……この付近ですこしよくない噂を耳にしたのです
子ども連れを狙う、冒険者のふりをした悪漢がいるのだと
もし……
もし、よければ
ヴァルダに、また『おせっかい』をさせてくださいませんか?


玖・珂
縁あった者の息災が知れるのは嬉しい限りだが
悪い便りが伴うのは戴けぬな

先の事を思えば酒は呑めぬ
店主へ酒の次に高い飲み物を頼み、情報収集しよう
オブリビオンと同様の手口を使う者は昔からごまんとおろう
近頃勢力を伸ばした者達の特徴が分かれば
医者の弟子と雑貨屋へ注意するよう伝えるぞ

マルクゥは久方振りだな
お師匠さまは元気だろうか

野暮用で此方に来たのだが、二人は如何してここに?

どちらかと言えば私も計略は見抜けぬ方だが……
悪い感は存外当たるものだ
親切だが何か村の者達とは違うと思えばそれはきっと正しい
近寄らず直ぐに立ち去るがいいぞ
薬を届ける使命もあるのだしな

ところで其のハムステーキ美味しそうだな
私もひとつ頼もうか


鵜飼・章
未来の宝物を失う訳にはいかないな
事態を説明しても通じないだろうし
たまたま再会した体でいこう
【コミュ力/優しさ】を最大限活用

やあマルクゥさんに雑貨屋のおじさん
僕のこと覚えてる?
相変わらずハムが好きなんだね
相席をお願いして僕も何か注文
珍味や名物があれば食べてみたい

僕の身分は旅の動物学者って事にする
珍しい魔物を探して旅してるんだ
これまでの冒険譚を話したりしつつ村の近況を訊く
ちゃんと勉強してる?
お師匠さまは元気?
マルクゥさん達もここに何か用事?

うまく聞きだせたら
前みたいな事があるかもしれないし
僕も一緒に行こうか?と提案
少しは役に立つよ
他にも二人に話しかける仲間がいたら
全員信頼できる知人だと紹介しておく


ザハール・ルゥナー
ルカ(f14895)と

こういう店は本当に食事が美味いな。
ご当地食材的なもので何か、色々出して貰おう。
ん? 酒は呑まない。君に付き合うと決めたからな。
(反応にわかっているのかいないのか、笑いつつ)

普通に食事をとりつつ、周囲に注意を向ける。
マルクゥと雑貨屋の男をカモのように見ている視線がないか。
見出せれば、ルカに報せる。

ルカの諜報中は気配にだけ注意しつつ。
あくまで私は食事を続けながら、話の調子に合わせて視線を向けて相槌。
危険な仕事を欲する、青い冒険者だと。

暴力沙汰になりそうなら動き、身を挺して庇おう。
……うむ、美味いな。

それと焼き菓子系統のデザートを注文して包んで貰おう。
後でルカを労うために。


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として参加し連携
SPDを選択

現地文化を調べて旅の僧侶に(変装)
ハヤトさんと休憩中の旅仲間を装って
店内で監視につきます。

一緒にハヤトさんが聞き込んだ話について
「なるほど知らない事が多いですね~・・・・あ、飲み過ぎはダメですよ」
などと雑談しながら周囲を協力して監視し(聞き耳・見切り・情報収集)
武装を隠そうとしてる感じがあったり顔を隠すような人が居れば、
それとなくハヤトさんや団長へ目立たない様に目配せ&ハンドサインで
報告し暫定脅威をリストアップ

少年が来たらコード発動し店内の猟兵を除いた
人間の視界を順次奪って少年達の様子をうかがう
人間が居るか調査。いる場合は即時に警戒連絡。

アドリブ歓迎


ユキ・スノーバー
マルクゥさん久し振りだねっ。
(雑貨屋のおじさんも含めて、無事に帰れるようにこっそりひっそり頑張るぞーっ)
届けるお薬ってどんな効果の物なのかな?
話の流れで聞いても大丈夫なら、これから起こる事に対して対策が立て易くなるかもだから可能な範囲で確認するっ

今の段階で後出来そうとなると、マルクゥさんと雑貨屋のおじさんが接触している人達の会話をこっそり聞き耳立てておいて
根拠のない噂が無いかとか、上手過ぎる話が無いか等をチェックをしておくよ?
何も食べずにあれこれしてたら、ぼくの方が怪しいから…食べつつ移動しても大丈夫な軽食系のを注文。
腹ごしらえも大事な準備!だけど食べ物に気を取られ過ぎないようには基本だよねっ


ハヤト・ノーフィアライツ
【SIRD】の面々と参加だ。
とりあえずPOW分野で。
俺自身は流れ者って事にしておこう。

店内がよく見える席に座ってエールで一杯やりながら、様子を見るかね。
灯璃お嬢さんと話をしたり、
適当に近くにいる奴に【コミュ力】でオススメの料理とかを聞きながら情報収集するとしよう。
最近の情勢、変わった出来事、なんでもいいんで、とりあえず気持ちよく話してもらえるように
合間合間に相槌とか聞いてほしそうな質問とかを押し込んでいこう。

坊主達が入ってきたら、【視力】【聞き耳】を駆使しながら気にしておく。

で、それとは別に飲んだ酒は指定UCの毒耐性で無効化しとく。勿体無いが、飲酒運転になっちまうんでね。

アドリブ・連携は歓迎さ


ケイ・エルビス
★所属旅団「特務情報調査局」仲間と参加
連携アドリブ台詞等大歓迎
ソロ避けたい


肉料理食べながら客を装い店内に紛れ
不審なヤツがいないか目立たないよう偵察 


不測の事態に備え
店の出入口をチェックし仲間への目印に
その近くの席に自然な感じに座って確保しておく
地形の利用で手近に使えそうなナイフやフォーク
椅子やテーブルなども微調整して手元に寄せておく


コミュ力、聞き耳、優しさ、礼儀作法と合わせて
UCも活用し
テーブルの裏側や天井の隙間など目立たない場所に
影のトカゲを忍ばせ死角を減らしておく


客の会話を聞いたり
機会がありそうなら話しかけて気になる事に探りを入れてみたりして
マルクゥと雑貨屋の男も観察しておくぜ


カルペ・ディエム
家に帰るまでが冒険…そうだね
どの様な偉業を成し遂げようと、家に帰らなければ意味が無い

…然し
周囲を見渡してみる
こういった酒場に来るのは初めてかも知れない
うん、決して喧騒が嫌いな訳では無いよ
寧ろ好ましいとすら思える
折角の機会だ
中に混じり様々な冒険譚を聞いて回るも一つかも知れない
きっと僕の好奇心も満たされる筈
骸の乙女は鞄に仕舞い、冒険者に憧れる、
只の幼い旅芸人を装い接触
飲み物、飲み物……その、ミルクで

冒険者達の話に耳を傾け、軽食に舌鼓を打ちつつ
視線に不自然のないようマルクゥ達を探す
いつ、どんな輩が現れるか分らない
何より注意すべきは雑貨屋の御店主だろう
彼と接触する者がいる場合
その姿を記憶、後に皆に共有


ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

匂いだけで美味しそうなのがよく分かりますね
ふは、どーぞ。食事選びは任せます
酒は良かったんですか?色々あるみたいですけど

ーそういうとこ、ずるいんですよ。ザハール

普通に食事をしながら周囲を観察しましょう
ザハールの知らせに、視線だけで頷いて
俺はその相手に声をかけましょうか

黒礼鳥を使用
誘惑を瞳に乗せて…ザハールの前でやるのは初めてでしたね(気まずい

ここ、良いですか?
あ、俺も相棒も冒険者としては駆け出しで
此処も初めてで。小さな子も来ているみたいだし、色んな話が聞けるんじゃないかって
経験も積みたくて仕事、探していて…

誘惑にかかるようなら身を寄せ
噂でも良いんですが、何かあります?


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと一緒に参加

この手の任務、張り込みもしくは監視は、過去に何度も経験ありますからお手の物です。とはいえ、油断せずにしっかり任務を果たしましょう。

客として店内に入店。対象である2名の座っている席から近過ぎず、かといって遠過ぎない席に座ります。
魚料理を軽いアルコール飲料を頼み、無線と目立たないイヤホンで他のSIRDメンバーからの報告を確認しつつ、対象の2人の会話を【聞き耳】を使って会話を確認。他の客が話かけてきたら人を待っていると答えて追い払います。2人には監視されていると気づかれない様に留意します。無論、2人に危険が迫ったらその限りではありませんが

※アドリブ・他者との絡み歓迎


ラムダ・マルチパーパス
【SIRD】団員と一緒に行動。

おお~、ここがいわゆる冒険者の酒場という所ですな。
賑やかで活気があって、興味深いですねぇ。いいデータがとれそうです。
とはいえ今回は任務ですから、惜しいですがそれは次回に。

わたくしは酒場の出入り口付近にて、賑やかに楽器を演奏していましょう。いわゆる、吟遊詩人的という奴ですね。楽器はどうせ弾けませんから、適当に選んでおきます。後はわたくしのアーカイブデータから、適当な音声ファイルを選んで再生。
それと同時に店内に入ってくる客をチェックし、無線で皆に伝えます。
身長性別体重はもとより、体格に装備、更にIRパターンもチェック。用心に越した事はないですからね。

アドリブ・絡み歓迎


木鳩・基
アドリブ・連携歓迎
【SIRD】
皆と連携して動く
わかったことがあったら随時報告していこう

・SPD
店の裏から侵入
服を借りてウェイトレスに【変装】でなりすます
そっからは料理を【運搬】しながら【聞き耳】で漏れてくる会話を聞く
……まぁバレないでしょ
ヤバそうだったら【コミュ力】で流してもらうか

マルクゥたちが入店してきても基本接触はなし
遠巻きに見守りつつ、周囲の状況を伺っておく

怪しい奴がいたら、立ち位置を利用してそれとなく近づいてみる
何か大事なことを話してるかもしれないし
無理はしない程度に

できれば私も魚料理とジュース飲み食いしたいんだけど、店員役だとそうもいかないよな……
親切な誰かにつまませてもらいたーい!


アンジェリカ・ヘインズビー
お仕事です、頑張りましょう。
護衛という事なので彼らが見える位置にいるべきですね。
彼らの近くの席を確保して魚料理とサラダを頼みます、…何も頼まないで居座る訳にもいきませんのでこれもお仕事です。
その後は料理を食べつつ彼らの様子を伺います…特に彼らに近づく人に対してはしっかりと観察を。
外見がまともなオブリビオンだという事なので見極める為にも顔を覚えるつもりで見ていきましょう。
…このサラダのドレッシング美味しいですね、何を使っているのでしょうか?(嫌いな野菜をしっかり脇に避けながらサラダを食べている)

【アドリブ歓迎】


アノルルイ・ブラエニオン
こういう酒場は私くらいになると背景に溶け込めるぐらい自然に馴染む

私はエールと木苺のパイ、冷肉とスープを頂こう、チーズもあるなら。

ところで勇者の伝説を語る吟遊詩人はこちらに居られるかね?
私は各地を回って伝説の勇者の伝説を聞いている者だ

是非こちらでもと思ったのだが

あと私も吟遊詩人のはしくれ、こんな酒場に似合った笛の音色を奏でたいと思うのだが【楽器演奏】

(マルクゥと話すきっかけを掴みたい)
「ひとかどの人物と見た。お目にかかれて光栄だ。
……ご師匠が勇者の伝説をご存知と?
是非とも私に拝聴させて頂けまいか」

「ソーダ水でも果汁でも好きな物を頼むといい」



●少し前の出来事
「はーい、ご注文の鳥ささみサラダ、チーズ春巻き、トマトリゾットです!」
「ラズベリーとヨーグルトのムースはどちらさま?」
「名物のゴールデンウィート・エール3杯、おまちどおさま!」
「牛肉サイコロステーキ盛り合わせ、ねぎ塩とレモンの特製ソース、お好きな味付けでどうぞ!」
 とん、とん、ととんっ。
卓上に皿が、杯が並べられ、「わっ」と伸ばされた何本もの手が、すぐさま器を空にしていく。
 次の給仕が追加の皿を持って来ても、下げる皿のほうが多くなることも珍しくない。
 『冒険者の酒場』は繁盛している店だ。
 にも関わらず、切り盛りする店主一家はわずか3人。忙しくなれば常連客が手伝うことも多い。いまは最高に忙しい時間帯のようだった。
 木鳩・基(完成途上・f01075)も忙しく立ち働いていた。給仕用のエプロンは、清潔さを感じさせる白で、動きを邪魔しない仕立てだ。
……基にしてみれば、忙しく働く今より、このエプロンを貸してもらえるまでが大変だった。
『あなただれ?』
『初めて見る顔だな?』
『何でここで働こうと思ったの?』
 給仕の服を借りたい、と申し出た基に、店の常連客・兼・ウェイトレスおよびウェイターたちはまず問うた。
 ……料理を提供して賃金を得ているのだ、料理の衛生面には気を遣って当然。どこの誰ともわからない人間を簡単には働かせられない。もしも、なにか混ぜ物をするような不届き者を働かせていたとなれば、客は誰も来なくなる。店はおしまいだ。
矢継ぎ早の質問と、疑いの目。堂々巡りの議論に四苦八苦したあげく、基は店主の娘とサシで話合い、ようやく許可が下りたのだ。
(「丁々発止になるかと思ったけど」)
猟兵について熟知していた店主に「猟兵です」と一言告げたら即許してもらえたのは、なんとも拍子抜けなことだった。
(「……まぁ、上手くいったからいいでしょ」)
 給仕として、皿を運んで。基は客たちの会話を聞く。

●出来事
(「おお~、ここがいわゆる冒険者の酒場という所ですな」)
 店の入口のすぐそばの座椅子に自分の席を決め、ラムダ・マルチパーパス(ドロイドは電気羊の夢を見たい・f14492)はそのモノ・アイで店内を素早く精査していった。
 席数、客数、食事内容。それらの詳細画像。
(「賑やかで活気があって、興味深いですねぇ。いいデータがとれそうですが……」)
今回は【SIRD】団員としての任務だ。惜しいがより個人的なデータ収集はまた別の機会にまわすことにする。
 内心の全く窺いしれぬ機械の身体で、ラムダは楽器を奏でる素振りを見せた。
 振りだけ。楽器は『いかにも吟遊詩人らしい』という適当な理由で選んだリュート、もちろん弾けない。
 音色、歌声は、ラムダ自身が持つアーカイブデータから、これまた適当に選んだ音声ファイルを再生すれば事足りる。
 会話を邪魔しない適切な音量で、ラムダの音曲は店内を流れていく。
(「この適当さは、本職の方には不興を買ってしまいそうですが」)
 任務なのだ、ここは許してもらいたいところだった。
今のラムダの役目は店に入ってくる客をチェックし、無線で皆に伝えること。
身長・性別・体重は当然のこと、体格に装備、更にはIRパターンもチェックして。変装などで欺かれることの無いように。
(「用心に越した事はないですからね」)
 音楽が流れることで、より人の耳を気にせず話せるのか。ざわめきはラムダがいない頃よりも明らかに大きくなっていた。
 そして、音楽などものともせず、嫌でも耳にはいってくるのは。
「だからな、名をあげるならば今が絶好の機会ぞ!」
 どん!と特大のジョッキを卓に叩きつけるように置いて、その大男は声を張り上げた。
いちばん大きなテーブルを囲む一団の、中心にいる男だった。
 奇妙に時代がかった喋り方だ。容貌から蛮族の出だと察せられたが、騎士のような鎧をまとっている。
 大男を囃す仲間も似たような風貌・出で立ちで、同じデザインの食器を大小取り揃えたような印象があった。
 基やラムダだけでなく、店に入り込んだ猟兵たちは皆それとなく彼らをチェックしていた。
 大男らの一団は、店にいる他の客たちからもちらちらと視線を向けられていて、その様子を窺うことでわかることもあった。
 ――一団は、避けられている。
 その理由を、ケイ・エルビス(ミッドナイト・ラン・f06706)は身を以て知ることになった。
 椅子やテーブルをさりげなく自分に優位に配置して……卓上のナイフやフォークも相手からは手を出しにくい位置に並べ替えていた……そんなケイを、一団は、大男は見逃さなかったのだ。
「ややや、お主、こんなところでも気を抜かぬとは! やるのう!」
 ケイは、香味野菜の千切りをさっと炙った肉で巻いた肉巻を一口かじったところだった。普通の客を装っていたケイの背中を、大男は遠慮なしにばんばん叩く。
(「ちっ」)
 ケイの思惑は完全に外れた。
 だが、嫌なそぶりなど微塵も見せず、ケイは笑って見せた。
「いつ何があるかわからないからな。用心に越したことは無いだろ?」
「それでこそ『冒険者」よ!」
 一団がわらわらとケイの卓に寄ってくる。入り口近くなので妙に窮屈な印象になった。
 『目立たない』を諦めたケイは、逆にこの大男たちに突っ込んでみることにした。
「威勢がいいな。何か、良い話でもあるのか?」
「うむ! 賞金首だ! まさに今、我らの力が求められているのだ!」
 両手を拡げ、店中に響き渡る声で大男は吠えた。
 その声に応えるように。
「……へえ、そいつは俺らもちょっと聞かせてもらいてーなぁ」
 かたん、と。
ハヤト・ノーフィアライツ(Knight Falcon・f02564)は名物のゴールデンウィート・エールの杯を片手に椅子から立ち上がり、挨拶のようにくい、と帽子のつばを上げて見せた。
『うまい話にありつきたいと思っている冒険者』を装ったそれは、ちゃんとハヤトを『どこの馬の骨ともわからぬ冒険者』に見せていた。
 大男は、そういったある意味うさんくさい雰囲気こそ、正しい冒険者だと思っているようだった。
 数年来の仲間のように、「うむ!」とケイとハヤトに向かって親しげに話しはじめるのだった。
 曰く。
「ここからしばらく行った先に、砂の街がある。流砂の街よ。
流砂といっても水を含んだものではないぞ。さらさらとした砂がまるで川のように流れておるのだ。街は、その砂の川の中州にある」
「その街から、さらにしばらく北に行った先に、岩山があってな。そこを根城にした盗賊がいる。なんでも、自分は『盗賊の王』だと。とんだうつけものだ。そいつが賞金首だ!」
 大男は、入り口から続く壁面を指差した。
「ほれ、そこの掲示板にも募集の紙が貼ってあるはずだ」
「あ、本当ですね」
 ハヤトと相席していた灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)が、いつのまにか立ち上がって掲示板を見上げていた。
 掲示板の中央近く、灯璃の目線より少し高い位置に、ひときわ目立つ大きな白い貼り紙。
 書かれてからまだそんなに経っていないのだろう。文字のインクの跡も鮮やかだった。
「『求む、冒険者! 盗賊の王を討つための討伐隊に、君も加わらないか。我々は君の力を必要としている』……」
「へえ、俺らすげー求められてるなぁ」
 エールの杯に口をつけながら、ハヤトは適当な合いの手を入れた。
 貼り紙の内容を読み上げながら、灯璃は心の中で呟く。
(「扇動的な文体ですね……。具体性にも欠けている。きちんとした募集計画に基づいたものとは思えません」)
 これに応じるのは、後先考えないタイプの冒険者だろう。帰還計画なしに戦場に特攻するタイプ。
 灯璃は己の感情を全く見せず、貼り紙の後ろの方に書かれている募集条件ものこさず律儀に読み上げる。
「年齢・性別問わず。報酬は………あ、ハヤトさん、飲み過ぎはダメですよ」
 灯璃の注意に、ハヤトはからっぽの杯を掲げて見せた。
傍目には相当な飲酒量に見えるだろうが、飲んだそばからUCフルメタル・ボディの【毒耐性】でアルコール成分を分解しているので、酔いは全くない。
納得したように灯璃は読み上げを再開する。
「報酬は……出来高払いに加えて、『盗賊の王』のお宝を、そっくりそのまま?」
「難敵相手の依頼には、よくあること!」
 大男が哄笑する。
 灯璃は無邪気なやや高い声を心がけた。
「なるほど。まだまだ知らない事が多いですね~」
(「敵が文字通り盗賊ならば『盗賊の王』のお宝とは誰かから奪ったもの。奪われた物資を、持ち主が諦めたりするだろうか?」)
 全体的に、この募集は見通しが甘いと思えた。
「名を上げるにも、金を稼ぐにも、街ではごちゃごちゃ規則があってかなわん! こういうわかりやすいものが、いちばん助かる! のう、お主たち? これは参加するしかあるまい!」
 一団は、ばんばん!とハヤトとケイの背中を叩いていく。
「景気づけだ! 好きなだけ飲むといい」
 大きな杯が幾つか回されてくる。
 乾杯の杯が交わされる。そのタイミングで、ラムダは威勢の良い曲を流した。
 酔わないのをいいことに、ハヤトは勢いよく杯を傾ける。
「おお、いい飲みっぷりだ!」
「幸先が良い!」
囃す声は、酔いを帯びてきたのか、すこし呂律が回っていない。
 と。
 店の奥の席で。
すらりとした出で立ちの騎士が、大男らの一団を冷ややかな視線で見ていた。
それをケイはしっかりと目の端に留めた。

●同刻、一瞬の出来事
 店の外の看板はおおきな木彫りだったが、中にも看板が掛けられていた。
壁面の天井近くにあるそれを、カルペ・ディエム(クロノスヘア・f19494)の深紅の双眸が見上げている。
七宝製だろうか、明るい色調だ。窓から差し込む光の照り返しが、『冒険者の酒場』の文字を下から輝かせている。
店名の下に、警句のような文言が飾り文字であしらわれていた。
『無事のお帰りをお待ちしております』
(「……家に帰るまでが冒険」)
 カルペは視線をおろす。掲示板には、板地がみえないくらい沢山の貼り紙がされている。
 迷子。失せ物。捜し人。護衛の依頼。お尋ね者。宝探し。モンスター退治。
 他愛ないものから、危険なものまでとりどりだ。
(「……そうだね。どの様な偉業を成し遂げようと、家に帰らなければ意味が無い」)
 カルペはゆっくりと周囲を見渡した。思えば、こういった酒場に来るのは初めてかも知れなかった。自分でも意外だったのは。
(「うん、決して喧騒が嫌いな訳では無いよ。寧ろ好ましいとすら思える……」)
 少し離れた大きめのテーブル席で、蛮族の大男らが酒を酌み交わし、大騒ぎしている。
 音楽も鳴り響いて、近くの席ではひそひそ話なんかは出来ないに違いない。
 それも、悪くない。それがこういった店にふさわしい振る舞いなのだから。
折角の機会なのだ、冒険者たちの中に混じり、様々な冒険譚を聞いて回るのもいいかも知れない。カルペは店の雰囲気に気分が弾んでいるのを自覚した。
(「これが、僕の好奇心」)
骸の乙女、よびかける名前すら空白のままのからくり人形を鞄に仕舞い、カルペは『冒険者に憧れる只の幼い旅芸人』を装うことにした。
「あの。冒険者の方ですか?」
 騒がしい一団ではなく、少し離れたカウンター席の、3人連れの軽装の男女に向かって、カルペは努めてあどけない声を掛ける。
「そうだけど……?」
「少し、お話を聞いてもいいですか?」
 カルペのいかにも幼い風貌に、3人は驚き、「誰かと一緒?」「ちゃんと食べてる?」と心配してくれる。基本的に善人なのだろうな、とカルペは思った。
「冒険者だけど、あたしらそんな大層なものじゃなくてさ」
 近辺の何でも屋のようなものだ、と彼らは苦笑した。力仕事や荒事もするが、切った張ったを主な仕事にはしていないのだ、と。
「がっかりさせちゃった?」
自分たちで自嘲気味に言うだけあって、彼らの経験談は地味なものばかりだ。だが、だからこそ初心者には大いに役立つに違いない。
(「地に足がついている。きっと彼らのような冒険者が、きちんと家に帰ってくる……」)
「何が飲みなよ。おごるからさ」
 メニューを差し出してくる彼らに頭を下げる。
「飲み物、飲み物……その、ミルクで」
「チーズケーキあるから食べなよ。表面焦げたみたいに黒いけど、中はしっとりしてて美味しいよ」
堅実な冒険者達の話に耳を傾けながら、カルペは軽食に舌鼓を打った。
と。
頭上で、「がちゃり」と金属の音がした。
 見上げれば、食堂ホールを見下ろせる2階の回廊。そこに並ぶ扉がひとつ開いて、ちいさな子どもが顔を出したところだった。
 『冒険者の酒場』の2階は『冒険者の宿』でもあるのだ。
 連れを待っているのか、子どもは回廊の手すりに両手でつかまって、片足をぶらぶらさせながら階下をのぞきこんでいる。
 その子どもに、鋭い視線が密かに集中した。
 ネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)は、その子どもの特徴を仔細に記憶する。
この手の任務、張り込み……もしくは監視……は、過去に何度も経験がある。お手の物と言ってもよい。とはいえ、油断は出来なかった。
客として、魚料理と軽いアルコールを頼んだ後、他の【SIRD】メンバーからの報告を無線と目立たないイヤホンで確認する。
 オブリビオン――なし、オールクリア。
 怪しい人物?もなし。情報としては『砂の街』『盗賊の王』『討伐隊の募集』をピックアップする。
 これが今後、子どもとどのように関わってくるかわからない。
 カルペは、地道な冒険者らとの会話を終えて、一人の席に戻っていた。
ふと、上を見上げる。子どもが出てきた部屋の隣から、壮年の男性が出てくるところだった。
彼が雑貨屋に違いない。
カルペはその視線を注意深く追った。
(「何より注意すべきは彼、雑貨屋の御店主。彼が鍵だ」)
雑貨屋は階下の何かに気付いたように、微かに手を動かした。
 手ぶり……あれは、見送りだ。
カルペはぱっと入り口に視線を向ける。
ホールで食事を終え、いま席を立って出ていこうとしている男。
 中肉中背、とりたてて目立つところの無いフードの旅装、背負い袋。人ごみにまぎれれば一瞬で見失いそうな出で立ち。
(「あえて『自分自身』を消し去っている」)
 追うか、と立ち上がりかけたカルペは、目の前の席に座り、人差し指を口元にあてたネリッサと目が合う。
 特徴的な指の動きは、誰かへの指示。
 カルペは了解したように軽く頷いて、先程おすそ分けされたチーズケーキの最後のかけらを口の中に放り込んだ。
 ――ネリッサが指示したのは2人。
 1人は、入り口近くで壮麗な曲を流すラムダ。店を出ていくフードの男のデータを確認させる。
 特徴に乏しい顔つきでも、今後ラムダに照会させれば見間違うことは無い。さらに、すれ違いざまに新たな情報が記録される。
 フードの男は、ずっと手を握りこんでいる。中に、何かを握りしめているようだった。
 指示したもう1人は。
「……ヤツを追ってくれ。うまくやれよ」
 囁きとともにケイの手のひらから送り出された『影で出来たトカゲ』は、極めて優秀なシークレット・エージェントだ。ケイと五感を共有して、対象を追跡する。
 店を出たフードの男を、トカゲは(ケイは)追いかける。
 だが、追跡は予想外に早く終了することになった。
 軽装の一人旅のように見えたのに、店を出たフードの男の前に、荒っぽい走りの馬車がやってきたのだ。大きく車体を弾ませて、しかし一度もきちんと止まることなく走り去っていく。
 ……そして、後にフード男の姿はもう無い。
馬車は、男を迎えにきたのだろうか。
 ケイは「ふっ」と眠りから覚めたように顔を上げた。
店内だ。トカゲと共有していた感覚の残滓を振り払う。背後から、「わっ」と大きな歓声が圧力を持ってのしかかってくる。
 大男が、別の冒険者グループを勧誘していて、その一環としての酒の酌み交わしが行われていた。
「おう、もう一度、威勢の良い曲を頼むぞ!」
「はいはい、リクエストにお応えして、わたくしめのアーカイブから、賑やかな凱旋の曲をひとつ」
 店の奥に向き直り、ラムダはまた別の曲を流し始めた……。

●ほぼ同刻の出来事
 騒々しさは、別に誰か特定の一団だけのものではない。
 美味しい食事に舌鼓を打てば、自然と歓声があがり、単身で訪れた者ですら誰かと感想を分かち合いたくなる。それがこのように繁盛した店であれば、なおさらだ。
 初対面同士の商人が、話を弾ませているカウンター席からほど近い、小さなテーブル席で。
ザハール・ルゥナー(赫月・f14896)もまた、自分の鼻先をかすめる芳しい香に軽く満足の吐息を漏らしていた。
「こういう店は本当に食事が美味いな」
相席の相手を慮り、酒を控える選択をしたザハールが試しに、と頼んだのは、アスパラガスを薄く切ってパスタのように仕立て、チーズベースのソースを絡めた一品と、鶏肉のぶつ切りを塩とトウガラシだけで味付けた串が何本か。これらの小皿を手始めに、まだいくらでもいけそうだった。
「匂いだけで美味しそうなのがよく分かりますね」
 相席のルカ・アンビエント(マグノリア・f14895)は食欲をそそる匂いのおすそ分けをもらって、一口ずつしみじみと味わっているザハールを感心したように眺めた。
 小皿をたいらげ、ザハールは気を良くした風でルカに提案する。
「つまみ以外も美味いに違いない。ご当地食材的なもので何か、色々出して貰おう」
「ふは、どーぞ。食事選びは任せます」
 食事に本腰を入れる体勢のザハールに苦笑して、ルカはメニュー表を相手に差し出す。
 手招きに応えてやってきた給仕に次々注文を出すザハールに、ふとルカは疑問を感じた。
「酒は良かったんですか? 色々あるみたいですけど」
 なんといっても『冒険者の酒場』なのだ。
 しかしザハールはメニューをぱたんと閉じ、給仕への注文を終えてあっさりと告げる。
「ん? 酒は呑まない。……君に付き合うと決めたからな」
 その言葉に対するルカの反応を待たず、ザハールは笑って新たに供された料理を迎え、さっそく口にして「うん、美味い」と頷いた。
 ルカは視線をそらす。
「――そういうとこ、ずるいんですよ。ザハール」
 呟きは少し早口で、ルカの口の中で消えていくようだった。
普通に食事を摂りながら。ルカは周囲を観察する。
 騒がしい一団は、他の猟兵らが情報収集にあたっている。別の猟兵も、別の冒険者らに交じって話を聞いているようだ。
他に注意すべき人物はいないか。
ザハールの目に、その騎士は『孤高』を自分に課している、と見えた。
数人で囲むサイズのテーブル席に、相席を断ってひとりで食事をしている。立派な体躯。他人に席を譲りそうもない気配。
 ザハールは視線でルカに騎士の存在を報せる。ルカもまた、視線と頷きだけで了解を伝えた。
――ルカの瞳に、不可思議な魅力が湛えられる。底が知れぬ湖のように、ひとを捉えて離さない。
UC、黒礼鳥(イズラーイール)。
諜報部だったルカにとって、生き抜くため不可欠だった技能。
抗いがたい誘惑を瞳に乗せ、それとなく騎士のもとへ…………。
(「……ザハールの前でやるのは初めてでしたね」)
 気まずさを感じながら、注がれる視線をあえて気にしないようにする。
「ここ、良いですか?」
 声を掛けられた騎士は、うたた寝の最中に突然頬を張られたような、そんな顔つきをした。
「あ、俺も相棒も冒険者としては駆け出しで、此処も初めてで。小さな子も来ているみたいだし、色んな話が聞けるんじゃないかって」
 ろくに返事もできないでいる騎士の隣の席に座って、ルカは騎士の顔を下から覗きこむように身をかがめた。
「俺、経験を積みたくて。仕事、探していて……」
(「かかった」)
 軽く身を寄せる。
「噂でも良いんです。……何かあります?」
「あ、ああ。ああ?」
 騎士の息が整うまで、ルカはしばらく待つことになった。
 そんなルカの諜報活動中、ザハールが何をしていたかというと。
気配にだけ注意しつつ、あくまで食事を続けていた。絶品料理を前に、食べないでいるという選択肢はない。
たどたどしい騎士の話は、それとなく耳に入ってきた。
「……『砂の街』に行くつもりだ。腕の立つ戦士を募集していると話に聞いた」
「腕のよい医者がいるらしい。同輩の騎士が、落馬で大怪我をしたのだが、その医者のおかげで命拾いした」
「人間の、腕のよい医者に頼んでいいことなのかわからないが……私の馬の調子が良くないのだ。ついでに馬も診てもらいたい。そのためにも、『砂の街』に行く」
「馬が無ければ騎士とは呼べん。……あんな鎧をつけたところで、誰も誉めそやしたりはしないだろう……」
 最後の呟きと冷たい視線は、店で大騒ぎする一団に向けられていた。
「……うむ、美味いな」
 表面はこんがりと黒く、中はしっとりとした黄色の濃厚なチーズケーキの最後のひと口を食べ終えて、ザハールは満足した。
これと、あと何種類か焼き菓子系のデザートを包んで貰おう。後でルカを労うために。
騎士から情報を引き出しているルカは、何か言いたげにザハールを見た。
その緑の瞳に、魅了の色は欠片もなかった。

●マルクゥ
 部屋から出て、連れの雑貨屋を待つあいだ。
 下を覗きこんでいた子どもは、突然、何かに気付き、前のめりで手すりの上に顔を乗せた。
 そして弾かれたように体を離して、一目散に階段へ向かう。
 タタタタ、タン。
 早足で階段を下りる音はリズミカルで、旋律はなくとも、再会の伴奏として申し分ない。
 かつて子どもと会ったことのある猟兵の顔に、一様に笑みが浮かぶ。
 村の風景が一緒に思い出される。……それは、素敵な経験だった。
 最後の2段をひとっ跳びして、子どもは面識のある猟兵たちの集うテーブルへと一目散に駆けてくる。
「―――猟兵さん!」
「……やあ」
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は少し目を細めた。
あけはなしの好意を真正面から浴びるのは、すこしまぶしい。
 ぴょこんと卓から顔をのぞかせるように跳ねて、ユキ・スノーバー(しろくま・f06201)は子どもに手を振った。
「マルクゥさん、久し振りだねっ」
「はいっ! ユキくん、じゃない、ユキさん!」
 テーブルの縁に手を掛けて、マルクゥは満面の笑顔のまま言い直した。
 卓を見回す子どもの頬は紅潮したりんごの様だ。
「玖珂さん!」
 ゆったりと座す玖・珂(モノトーン・f07438)へ向けた子どもの視線は玖珂の肩のあたりで少しとどまる。そこに、白く美しい鳥がとまってはいないか確認したのだろう。
玖珂は、先の事を考えて頼んだ『酒の次に高い飲み物』……紅茶の香りのするノンアルコールカクテルの杯を卓に置いて微笑んだ。
「久方振りだな。お師匠さまは元気だろうか」
「はい! お師匠さまは、いつもと同じくらい忙しいです。迷子にもなってないです。それと、えと……」
 横の席の人物を見上げ、マルクゥはすこし言いよどんだ。最初に思い浮んだ名前が、呼び掛けるのにふさわしいものかどうか思案したのだ。
 ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)は微笑んで、先に挨拶する。
「ごきげんようマルクゥさん」
「! きんいろの、ヴァルダさん!」
「……ふふ! そうです、『きんいろ』です」
 ほっとしたように胸を撫で下ろし、マルクゥは「お師匠さまが皆さんの話をするときの呼び方がうつっちゃってるですよ」と呟く。
「僕のこと覚えてる?」
 脇から自分の顔を指差す章には、
「もちろんです! 鴉の、章さん」
「鴉が頭につくかあ……」
 章はまんざらでもなさそうな顔つきだった。
順繰りに猟兵らを見回して、マルクゥは他意なく尋ねた。
「皆さん、どうしてここに?」
 猟兵らは視線を見交わし、息をはかって、それぞれ用意していた台詞を述べる。
 章は。
「実は僕は、旅の動物学者なんだ。珍しい魔物を探して旅してる」
 玖珂は。
「私は野暮用で此方に来たのだ。……2人は如何してここに?」
 2人という言葉に、マルクゥは背後を振り返る。
 やってきたのは、遅れて階下におりてきた雑貨屋だった。彼に目線で挨拶をして、玖珂は椅子を勧めた。
 章は自分の顔を指差した。
「雑貨屋のおじさん。僕のこと覚えてる?」
「忘れられるものではないでしょうに」
 苦笑しながら雑貨屋は椅子に座る。そして隣席になったヴァルダに向かって、今度は雑貨屋のほうが「覚えておられますか?」と自分の顎鬚におおわれた顔を指差した。
 ヴァルダはひとつひとつの言葉を愛おしむように答える。
「ええ、ええ、あの場にいた皆さまのことを覚えております。おじさまも、お元気そうでよかった」
「はは、嬉しいですね」
 久闊を叙して、雑貨屋はここに来た理由を話しはじめる。
「先生に頼まれたんです。この先にある『砂の街』に、先生の兄弟子にあたる医者がいる。その人に自分が作った薬を届けてほしいと」
 雑貨屋は仕入れの為にたびたび『砂の街』を訪れることがあった。だから頼まれごと自体は不自然なことは何もない。
「……マルクゥが来た理由はね。マルクゥはもうすぐ、街の学校に通うことになるんですよ。だからなんというか……社会勉強のため、ですかね」
 この子どもの警戒心の無さは、村人たちも気にしていることらしい。
「マルクゥさん、ちゃんと勉強してる?」
章の問いに、ぴぴぴと背筋を伸ばし、子どもは唇を尖らせて言う。
「毎日、毎日、毎日! 勉強してますです!」
「偉いね」
 村の未来の宝物は、毎日自分を磨いて、輝きを増しているのだ。
「まあ、マルクゥさんは街でお勉強を?」
 ヴァルダは胸もとで両手を合わせる。先のこととはいえ、拍手で送りだしたい気分だ。
「はい。お師匠さまも通ってたところです。お師匠さまのお知り合いがたくさんいるって、だから……」
 悪い成績見せたくないです、と子どもは言った。
 ヴァルダの瞳は潤む。
「……お師匠さまという目標、ゆめを追うこと。とても誇らしく……そして、嬉しく思います」
(「みなの『あい』があったからこその、今。なんて……なんて、いとおしいのでしょう」)
瞳の橙色が――濃い金色が、思いとなって溢れるようだった。
 再会を喜び合う中、玖珂は、ほんの少しの憂いを感じずにはいられない。
(「縁あった者の息災が知れるのは嬉しい限りだが……悪い便りが伴うのは戴けぬな……」)
 この子どもの笑顔を曇らせることがあってはならないのだ。
 玖珂は憂いを振り払うように声を上げた。
「ところでマルクゥ。この店に漂う美味しそうな匂いに抗うのが、そろそろ難しくなってきたのではないか?」
 う、ん、と子どもの目は揺れた。答えも歯切れが悪い。
「腹ごしらえは大事だよっ!」
 ユキはメニュー表をまとめてマルクゥに差し出した。
ユキ本人は、食べ物に気を取られ過ぎないように気を付けている。
「……じゃあ、鶏ハム盛り合わせ」
「相変わらずハムが好きなんだね」
「私もひとつ頼もうか」
 わいわいと、料理を品定めする声があがった。
 そろそろ良いだろう、と章は切り出した。
「『砂の街』に行くんだよね。前みたいな事があるかもしれないし、僕も一緒に行こうか?」
 子どもより、雑貨屋の目がきらりと光ったような気がした。
「少しは役に立つよ。実は今、この店に、何人か他にも仲間が来ていてね」
「え、玖珂さんやユキさんやヴァルダさん以外でですか?」
「そう。全員信頼できる知人だ」
 言って、卓の下で人目につかないように猟兵の姿を指す。
 はあー、とマルクゥは感心したように嘆息した。
マルクゥの注意がそちらに向いている隙を見計らって、ヴァルダは雑貨屋にだけ聞こえるよう落とした。
「おじさま。じつは……この付近ですこしよくない噂を耳にしたのです。子ども連れを狙う、冒険者のふりをした悪漢がいるのだと」
 雑貨屋の表情が変わった。落ち着かせるよう頷いて、ヴァルダは誠意をこめて頼み込む。
「もし……もし、よければ、ヴァルダに、また『おせっかい』をさせてくださいませんか?」
「……こちらから、お願いすることですよ。どうかあの子を、村の宝を守ってください」
 一時的な保護者たちの思いなどまったく関係なく、店内の猟兵全員を密かに紹介された子どもは、
「たくさんの人と一緒だと安心です」
 とあっさり言っている。一瞬で、見も知らぬ人間に全幅の信頼を置いてしまう。その様子に、玖珂は忠告めいたことを言わざるを得ない。
「……親切だが、何か村の者達とは違うと思えば、それはきっと正しい。近寄らず直ぐに立ち去るがいいぞ。薬を届ける使命もあるのだしな」
「? 玖珂さんたちも村の人と違うです?」
 そうではなくて、と玖珂は章やヴァルダ、雑貨屋と視線を交わす。
『身体だけではなく、子どもの心も護る』――その困難を、共有したのだった。
料理の皿が出てくる前に、ユキはマルクゥに質問した。
「聞いていい? 届けるお薬ってどんな効果の物なのかな?」
 これから起こる事に対して対策が立て易くなるかもしれない、そう思ってのユキの質問に、マルクゥは身を乗り出した。
「あたらしいお薬です」
 嬉しそうに、薬を扱う手つきなのか、胸もとで手を動かす。
「消毒薬……おっきな怪我をしたとき、縫ったり、傷が塞がるまでばい菌が入らないようにするお薬です。それと、痛いのを一時、痛くなくしてくれるお薬」
 にこにこと、マルクゥはユキを覗きこむ。
「お師匠さま、ユキさんのこと、すごい技を使うんだ、って手放しで、すっごく褒めてましたよ。それでいて、ちゃんとお医者のことも価値があるって認めてくれるいい子なんだって。感謝してるって」
「えーっ、嬉しいなっ!」
「お師匠さまがお話してくれる『伝説の勇者』も、一瞬で怪我を治せるんですよ。だからきっと、ユキさんが使う技って……」
 勢い込んで話す子どもの言葉が、不意に途切れた。
 子どもだけでなく、店のその一角が一瞬、沈黙を選んだようだった。
ピルル……ル、と、高く澄んだ音が鳴り響いていた。
 美しい、だが耳慣れない音だ。人里に、場違いに紛れ込んでしまった小鳥の鳴き声のような。
振り返って、マルクゥは驚きに軽く口を開ける。
そこにいたのは、この場に溶け込んで、風景の一部と化してしまったような人物。
エルフだ。肩に斜めに背負うは弓矢。手には笛。あの音は、この楽器で奏でられたものか。
彼の眼前、卓上に並ぶのは、木苺のパイに冷肉のパテ、とろりとしたスープの皿。
まるで『旅するエルフ』の肖像画だな、と章は思った。
 エルフ……アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)は首尾よく子どもの注意を引けたことを確認して、かるく会釈した。
「さて。ここからお話を聞かせてもらっていた。どうやらひとかどの人物のようだ」
 マルクゥは周囲を見回して、アノルルイの言う『ひとかどの人物』を探した。だが、みな肩をすくめたりにっこりしたり。どうやら自分のことを言っているらしい、と気づいて、マルクゥは驚いて身を引き、ふるふると首を振った。
「ひとかどって、今まで話したこと、ほとんどお師匠さまから聞いたことですよ」
「ほう、お師匠は勇者の伝説をご存知と?」
 あらためて身を乗り出して、アノルルイは笛を一撫でした。
「私も吟遊詩人の端くれ。各地で『伝説の勇者』の伝説を尋ね回っている。是非こちらでも、と思っていたところに、キミの言葉が耳に入った」
「ああ!」
 吟遊詩人さんだったですか、と納得したようにぽんと手を打つ。それでもう、アノルルイの存在を許容している。だまされやすい以前の問題だ。
子どもはすこし首を傾げた。
「でもお師匠さま、知ってる伝説をいくつかくっつけてお話しますよ。そのほうが覚えやすいからって」
「ほう。似た内容なのかな?」
「えと。何個か話してくれたあと、この勇者とこの勇者はお友達で、一緒に海を渡っていったそうだよ、とか。この勇者はこの勇者に恋していて、とか」
「それは興味深い」
 言って、アノルルイは給仕を呼びとめた。マルクゥに向かって飲み物のメニューを差し出す。
「ソーダ水でも果汁でも、好きな物を頼むといい」
「えっ」
 嬉しさを押さえつけるためか、ぐっと真剣な顔つきになる子どもに、ヴァルダの口元から笑みがこぼれる。
本当に、この子どもが、この純粋さを保ったままおとなになってくれたらいいのに。
そう思っているようだった。

●掲示板の前で
 十分に大男たちとの仲を深めたところで。
 ハヤトは、自分たちの元いた席を振り返った。
 自然と、近くのネリッサの席も目に入る。
ネリッサの卓上……薄くスライスされ、パステルカラーのソースで彩られた鮮魚の上に盛られた艶めく魚卵の粒は、結構お値段が張るものではないか?
傍らの細長いグラスに注がれ、細かな泡が光る酒にしてもそうだ。
(「アルコール分軽めの酒、って注文してたが……それ、お値段は決して軽くねぇやつだろ?」)
 席に戻っていた灯璃のほうを見ると、その前にちょうど基が厨房から持って来たばかりの牛ほほ肉のパイ包み焼きがあって、いままさに包みを解かれんとしているところだった。
 ハヤトは基に訴える。
「おい、この店どうなってんだ。酒場ってレベルじゃねーぞ」
「厨房の、あの『のれん』は神秘のベール。奥は謎!」
 皿を下げながら、真面目くさった顔つきで基は言う。
「オーダーが入って、しばらくすると出来上がった料理の皿が出てくるんだ。でも一度だって中が見えたことが無い……」
「まじかー」
 ぼやくハヤトを置いて、基はあちらこちらのテーブルを片づけるのに忙しい。
 客は移動しながらも飲み食いするし、どこでだって乾杯する。給仕が一息つく暇はない。
(「できれば私も魚料理とジュース飲み食いしたいんだけど……この調子じゃそうもいかないよな……」)
(「親切な誰か、ちょっとつまませてもらいたーい!」)
 基の心底からの願いは、意外な形で叶えられることになる。
 ……店の片隅、目立たない席。だけど護衛ということなのだから、マルクゥたちのテーブルは見える位置。
 アンジェリカ・ヘインズビー(寡黙でサイボーグなバーバリアン少女・f11144)は、いくつもの皿を前に、まったく表情を変えずにいた。
 注文したのはプチトマトやオリーブと一緒に煮込んだ白身魚と、小海老のサラダ。
(「……何も頼まないで居座る訳にもいきませんので。これもお仕事です」)
 そう考えたのだ。他意はない。
 敵は、外見はまともに見えるオブリビオンだという。敵を見極める為にも、アンジェリカは店内の客の顔をしっかり覚えるつもりで見ていった。
 もちろん、食事を頼んでおきながら、一口も口にしない客は目立つ。
ちゃんと食べるつもりだ。やるべきことをやり終えてから。
 ――追加で頼んだ未使用のナイフとフォーク、それを使って、小海老サラダからアンジェリカの嫌いな野菜をしっかりと別皿に取り分ける。丁寧に、注意深く。綺麗に盛りつけたその仕上がりは、まるで別メニューの一皿のようだった。
 取り分け終えてからアンジェリカはようやく料理を口にする。
「……このサラダのドレッシング美味しいですね、何を使っているのでしょうか?」
 アンジェリカは通りすがりの給仕……基に、何気なく尋ねてみた。
「オレンジとピンクペッパーだって」
「なるほど……」
本当に美味い。大胆で、繊細。加減が丁度よいのだ。
この美味さは客の舌を滑らかにし、結果として普段は言わないことまで口を滑らせてしまうのだろう。
「……ちょっと。あんなメニュー、あったっけ?」
 アンジェリカのテーブルの上を目にした、別の給仕が呟いていた。
 ちょっと面白くなった基に対して、アンジェリカはフォークを添えてその『新メニュー』の皿を差し出した。
「えっ。つまませてくれるの!?」
「全部どうぞ」
「ありがとうー!」
 基はうまうまとサラダにありつく。サラダで腹が膨れるか心配だったが、ドレッシングの効いた小海老が口の中でいい仕事をしてくれていた。
 基がアンジェリカの『作品』に舌鼓を打っていると、誰かがとん、と腕をつついているのに気がついた。
何だろうと思って振り向くと、それは店主の娘で、基にそれとなくある人物を示していた。
……掲示板の前で、首を傾げるおじさんの姿。
なで肩で、気弱そうな顔つきをしていた。
「こんな噂、あったかなあ?」
 呟く声さえ弱々しい。
 だが、その言葉を待ち構えていた猟兵らにとっては、力強く耳に飛び込んでくるようだった。
ユキは本当に耳をぴくぴくさせて、するりとおじさんの隣に滑り込んだ。
おじさんが見つめているのと同じ貼り紙を見上げて、読んで、おじさんに声をかける。
「これって、『根拠のない噂』ってこと?」
「わっ、いつの間に。ええと、そうだね」
「なんでそう言えるんだい?」
 わっ、とおじさんはのけぞる。ユキとは反対側にハヤトがいて、掲示板を眺めて顎を撫でていた。
「ああびっくりした。ええとね、わたしはこの間まで『砂の街』に居たのだけれども」
「その頃にはこんな噂は聞かなかったと?」
 わっ、とおじさんは背後を振り返ってまたのけぞる。カルペがおじさんの脇から掲示板を覗きこんでいた。
「……冒険者は、求められていない、と」
 ユキ、ハヤト、カルペに囲まれたおじさんは……(囲まれたと言ってもばらばらの背丈なので威圧感はない)……掲示板前でわけがわからない風だった。
 アンジェリカはもぐもぐしながらそれを注視している。
 ネリッサのグラスはようやく空になったところだ。静かに、男の言葉の続きを待つ。
「……ああ。そりゃわたしは全ての噂を知ってるわけじゃない……でも、『砂の街』で、『盗賊の王』だなんて。それに『討伐隊』だなんて。こんな話、聞かなかった」
 気づけば、店内の視線はおじさんに集中していた。
 視線に実体が在ったら、おじさんは串刺しになってしまっていただろうな、とマルクゥは思った。
「………聞いたのは、『行商人たちが次々と行方不明になる』って話だったよ……」
 ピルルルル、と澄んだ音色が響いた。
 おじさんの声はどんどん小さくなる。その沈黙を埋めるように……あるいはまったく関係なく……アノルルイが、笛の音を奏でていた。

 ――冒険は、これからだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『砂の海をゆけ』

POW   :    行商隊列に同行してみる

SPD   :    地元で情報を集める

WIZ   :    砂漠で何者かの隠れ家になりそうなところを調べる

👑11
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●『砂の街』で待つ
 甕の水を、手桶一杯分すくいあげて玄関先にまく。
 軒石の表面の上を、さああと水が砂埃を連れて流れて行った。
 疲れた、暗い顔つきをした男たちを見送ったあとだ。
 ゴドーは……『砂の街』で一番腕利きとして知られる壮年の医者は、コキ、と軽く肩を鳴らして溜め息をついた。
 知り合いの若者を診るのは気が重い。重篤で、意識が戻らない。幼い頃からやんちゃをして、打撲や脱臼は何度もあった。だが、今のあの傷は。
(「誰かに攻撃されたのは明らかだ。最近、若い行商人が突然姿を消すという。それに関係しているのだろうか」)
 仕事場である施療所の室内に戻り、ゴドーは薬の瓶や箱の中身を確認する。
 ……足りない。
 備蓄はあったはずだった。付近で冒険者たちの刃物を使った喧嘩沙汰がいくつか続いて、減りが早いな、と感じ始めたところだった。
 そんなとき、ひさびさに昔なじみの弟弟子から便りがあった。懐かしくなって、弟弟子の近況を尋ねるついでのように、よい薬があれば送ってくれと手紙を出した。
(「その『ついで』が今、喉から手が出るほど欲しい」)
 窓から外を見やる。
 瑞々しい緑が、陽光を弾いて、ゴドーは思わず目を瞑った。
 流れる砂に囲まれたこの街は、初めて来た誰もがおどろくほど緑ゆたかだ。
 中州部分は固い地盤の上にあり、地下水脈からの水が豊富なのだ。
 と、施療所からすこし離れた一角、木陰の下で、さきほどまでここにいた男たちが顔を突き合わせて話しこんでいるのが目に入った。若者の父親を、数人で慰めているのだろうか。
 そのうちの1人、フードを目深にかぶった男が、若者の父親の肩をたたく。
 最近、行商人ギルドでよく見るようになった顔だ。……よく見るようになったのに、なぜか顔が覚えられない。
 このフードの男に、ゴドーは、この街に向かっている「弟弟子の使い」を急いで探してきてくれるよう頼んでいた。見つからないなら、宿屋や酒場に伝言の貼り紙を。
 そういったことを、ゴドーは他の行商人たちにも頼んでいた。だが、まだ芳しい返事はない。「弟弟子の使い」の来る気配もない。
 緑滴る『砂の街』の医者は、もう一度深くためいきをついた。

●『砂の街』へ向かう。
 さらさらと流れる砂は、陽の光を受けて、ときたま表面がきらきらと光る。
 硝子質の、半透明な砂のせいだろうか?
 あまりに水と同じ流れ方をするので、うっかり飛び込んでも平気だと勘違いしそうだった。
 だがもちろん無事では済まない。
 マルクゥは、赤茶色の岩で出来た手すりから身を離した。さすがにすこし、こわかった。
 馬車が何台もすれちがえるほど大きな橋だった。材質は、手すりとおなじ赤茶色。
「マルクゥ、砂埃が多いから、できるだけ橋の真ん中をとおりなさい」
 雑貨屋の呼び掛けに「はい」と頷いて、子どもはスタタタと行商の隊列に戻る。
 ……ここまで、大勢での移動だった。
 猟兵たちも多かったし、忠告を受けた雑貨屋のおじさんは、『砂の街』に向かう大人数の行商隊列にお願いして、一緒に行動するようになっていた。
 行商人、以外にも。
「見ておれよ、我が名が『砂の街』に轟き渡るのを!」
「前祝は、どこにする?」
 相変わらずの蛮族の大男たちと。
「………」
 無言で、いかにもそれを苦々しく見ながら、馬には乗らず徒歩で行く騎士と。
「この街に戻ってくるのひさびさだなあ」
「あいつ元気してるかねえ」
 地道な冒険者たちの姿もあった。
 目指すは、緑滴る『砂の街』。
 砂埃にかすんで、しかし見まごうことなき緑に覆われた赤茶色の街並みが、一行を静かに待っている……。

====================
 ここまで読んでくださってありがとうございます。コブシです。
 以下は第2章『冒険』についての補足となります。

●行動の指針のようなもの
 ・今回は、
 (1)大男たちと一緒に『討伐隊』に参加してみる
 (2)施療所の近くで情報を集める
 (3)『盗賊の王』の根城だという岩山を先回りして調べる
  の、3つからメイン行動をお選び下さい。
 ・マルクゥは素直にお師匠さまの兄弟子であるゴドーの施療所に向かいます。常に見守っていなくても安全です。マルクゥの心身が危機にさらされることはないでしょう。雑貨屋も一緒です(これは第1章での結果によるものです)。
 ・大男たちは前祝でまた、別の酒場で飲み食いします。
 ・騎士は、馬を連れて施療所へ行きます。
 ・地道な冒険者たちは、冒険者ギルドのようなところに顔を出しにいきます。
 ・第2章でどの選択肢を選んでも、第3章開始時に出来なくなる行動はありません。別の場所にいたからその場にいるのは無理、等はありません。
 ・『砂の街』は商人ギルドが治めている街です。交易中心の街で、非常に豊かです。
 ・岩山は、徒歩で数時間です。健脚であれば日帰り可能です。
 ・砂の川は徒歩では渡ることは難しいでしょう。馬などの四足動物も沈みます。流れに方向性のある、乾いた底なし沼か蟻地獄のようなものです。
 ・ゴドーは腕のいい医者です。もと冒険者の戦士で、膝に矢を受けてしまって引退し、そこから医者を志して私塾に通った変わり種です。お師匠さまとは気の合う仲でした(2人そろって、他の生徒とは気が合いませんでした)。
 ・ゴドーの施療所で、怪我人を治癒することを選んだ場合。特に誰を治癒するのか、またその成否やタイミングによって、第3章の展開が大きく変化します。

●プレイング受付について
『【一次受付】7/22(月)朝8:30~7/25(月)朝8:30』
 ・この間に届いたプレイングをマスタリングし、プロットを組み立てます。
 ・プレイングは一度すべてお返しします。
 ・その後、「全採用できるか否か」をマスターページやツイッターでご報告します。
『【二次受付】未定』
 ・7日程度を目安に、マスターページやツイッターでご報告します。
 ・上記の内容でも構わないとお思いであれば、プレイングの再送をお願いします。

 いろいろと、お手数だと思いますが、何卒よろしくお願い致します。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
アノルルイ・ブラエニオン
(1)
この街には怪しい点がありすぎる

砂の街から来たという男性が言っていたこと……
行商人が行方不明になるという噂も気になるが……
逆に盗賊王の噂は聞かなかったと言っていた
酒場にあった依頼の張り紙も怪しいことだしな

とはいえ忍ぶのは得意ではない
正面から行くか!

何か企んでいるものがいたとしたら、猟兵の存在は想定外になるかもしれんだろう?
あえて罠に飛び込むぞ

こいつは何かある、と疑った上で討伐隊に参加
救える命もあるかもしれぬ

(3)の猟兵がいれば接触して情報を得たい

こちらに危害を加えようとする者にはUCと弓矢で対応するぞ

オブリビオンと思しき存在がいれば積極的に注意を惹き対応だ


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと一緒に参加

件の盗賊王とやらの根城の先行偵察に向かいます。
ここまでの情報を総括した限り、どうも盗賊王とやらの情報自体が、偽情報の可能性がありますが・・・その辺をはっきりさせる為にも、先回りして調べておく必要性がありますね。もし偽情報だった場合、可能ならその物証を得たいところです。

捜索時にはUCの夜鬼を召喚。岩山周辺に展開して、根城と思しき場所(洞窟や廃城、砦等)を捜索。根城の位置を特定出来たら侵入を試み、可能ならば敵の根城の構造、敵戦力及び配置、盗賊王とやらの人物の特定等を確認。
あくまで情報収集が優先なので、敵との交戦は可能な限り避けます。

※アドリブ・他者との絡み歓迎


ラムダ・マルチパーパス
【SIRD】団員と一緒に行動。

噂には聞いていましたが、ここは砂ばかりですねぇ。わたくし、見ての通り機械ですから、隙間に砂埃が入らないか心配です。それは兎も角、岩山の捜索ですね?微力ながら皆さんのお手伝いをさせて頂きましょう。

捜索において、わたくしの索敵能力をフル活用。光学、電波、熱源、音声、その他ありったけのセンサーを使用して、盗賊王の根城とやらの探索に活用します。
根城と思しき場所を発見したら、わたくし自身は、根城の外部にて待機。外部から音響センサーやIRセンサーを駆使して、内部の状況を把握、局長以下他の面々にリアルタイムで伝えます。わたくしの図体では、返って足手まといですしね。

アドリブ大歓迎


木鳩・基
【SIRD】
アドリブ・絡み歓迎

岩山に先回りして調査
【目立たない】よう慎重に
調べるからにはヒントを掴んで戻らないと
……数時間歩いて足が棒になりかけだけど

岩山までの道のりや侵入に足場とかが必要になったらUCを発動
適当な岩を殴ってピースに変えて積み上げたり、壁に穴を空けたりして地形を組み換えて進んでいく
ワイヤーを【ロープワーク】で垂らして仲間のサポートも忘れずに

探索自体は【聞き耳】を立てたりとかしか役立てそうにないかな
隠し扉の気配があったらUCで壁を取り払う

敵と交戦しそうになったら仲間に逃走を促す
【挑発】して【おびき寄せ】てから
UCで敵と自分たちの間に壁を築いて【時間稼ぎ】
その隙に私も逃げよう


ハヤト・ノーフィアライツ
【SIRD】の面々と岩山へ。
さて何が出るかね。
【中折れ帽】の【迷彩】機能を使いながら、【目立たない】よう周辺の調査をする。
味方の動きも見ながら、指定UCと【クライミング】でぱっぱと登ろう。
必要であれば、【ロープワーク】を使って味方のサポートも行う。
現地についたら強化された【視力】と【聞き耳】で遠隔から確認。
気になるものがあったら、UCで垂直に多段【ジャンプ】、上空から確認する。
【戦闘知識】も生かしつつ【失せ物探し】で怪しいモノがないか見て回る。

基本偵察を主とするが、怪しい人物を近くで発見し、交戦不可避な場合は灯璃お嬢さんと連携、速やかに【グラップル】でボコって【ロープワーク】でふん縛る。


ユキ・スノーバー
届けるお薬の内容的に、痛み止めだと大きな怪我だったり
普段から備蓄しておきたい消毒液の要求となると…
お届け先は大分大変な事になってそう
…よしっ、施療所に一緒に付いていくねっ

ご挨拶してから、治療のお手伝いが出来るから協力させて欲しいと申し出て
生まれながらの光で、重篤な人の治療を最優先(先生の精神的な負担軽減大事っ!)に
不調のお馬さんは、最近行った所とか食べた物とかの確認をして、原因不明な場合は、有事に備えて治してあげたいな
時折バテないよう(襲撃に備えての警戒も兼ねて)休憩を挟みつつ
消毒+包帯等で応急処置をするよー
患者さん対応より、薬の調合(作成)補助の方が良さそうなら一声かけてから用意していくねっ


ザハール・ルゥナー
ルカ(f14895)と

道中、何事も無くて結構。
しかし、すごいな。砂が鬱陶しいと思っていたら、この瑞々しい光景か。
砂の街への興味は色々とあるが、まずは施療所に異論は無い。
そうか――美味かったのなら私も嬉しい。

施療所では手伝いを申し出る。
……ルカの言い分には取り敢えず黙り。
私は応急手当か力仕事しかできんが、出来ることなら手伝わせて貰いたい。
それと……手が足りないのなら、馬は後回しになりそうだな。
ああ、相棒なのだろう。放置しては彼が哀れだ。

動物会話で、馬に不調について尋ねてみる。
答えで無くとも、ヒントになればいい。

ルカに伝え、外傷なら治療を試み。
ダメなら、医者に意見を聴き、薬草でも採りに行くか。


ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

無事に街にはつけましたね。
羽に砂が入ってざりざりするんですけど…中はこれほど美しい街とは。

ひとまず、話も聞いた騎士の一緒に施療所に向かいましょうか
…さっきの焼き菓子、美味しかったです。

施療所では手伝いを申し出て
もし良ければ何か手伝わせていただけませんか?
相棒がよく怪我するんで、色々覚えたんですよ(黙ったザハールを見つつにこり

そうですね…少し馬の方を見てみましょうか
騎士にとっては相棒のようなものでしょうし…失うよりはきっと良い
彼にも断りを入れ

ザハールが聞いた内容で、一先ず癒使の帳による回復を
ダメだったら…、医者に話を聞いてですが
騎士殿、薬草を一緒に探しに行きませんか?


アンジェリカ・ヘインズビー
現地では噂にもなっていない『盗賊の王』…気になりますね。
彼らは施療所に向かうようですし、他の方もいる以上恐らく安全…不安の芽を摘む意味で、『盗賊の王』の根城を調べに行きましょう。

移動に関しては徒歩で、障害がある場合は【スカイステッパー】で飛び越えていきます…無理そうなら迂回も視野に。


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】の仲間と岩山偵察

装備の機能(迷彩・目立たない)で岩山に溶け込み
周囲警戒しつつ接近、仲間の登山開始まで後方警戒し
登り始めたら自身も追従

途中々々、見通しの効く地点で伏せて
狙撃支援準備(スナイパー・戦闘知識)し仲間の動きと
進行方向遠方と後方を警戒監視
指定UCと熱線暗視装置(暗視・追跡・罠使い)も利用し
襲撃者・仕掛け罠・足跡・拠点等無いか静穏性重視で捜索

異常発見時は即時に報告

接敵し交戦不可避時はハヤトさんと視線で呼応し
互いに死角をカバーしつつ接近。消音器等も利用し素早く静かに
制圧・確保するよう連携して動き可能ならば尋問し情報収集する

不審物は手を出さず報告
簡易的な地図も作製しマーキングを実施


ケイ・エルビス
★所属旅団「特務情報調査局」仲間と参加
連携アドリブ台詞等大歓迎
ソロ避けたい

POW

オレは大男たちと一緒に討伐隊に参加してみる

岩山を先回りして調べる特務のメンバーが多いみたいなんで
こっちも抑えて保険をかけておく

普段から運び屋やってる怪力で重い荷物の運搬を手伝いながら

持ち前のコミュ力や気さくな礼儀作法で大男や行商隊から情報収集

仲間たちの位置を装備のトランシーバーで目立たないよう適宜確認しておきながら

野生の勘で急襲に警戒しておく


もし戦闘になったらUCを活用し

猟兵仲間>大男を
早業の援護射撃でサポート

範囲攻撃で時間稼ぎ

特務の仲間と合流できるまで時間を作って
皆で無事生還できるよう努めるぜ



●別行動
 夜が明ける前、行商隊列は出発する。
 今から行けば『砂の街』での市に間に合うからだ。
 マルクゥや雑貨屋、猟兵たちも身支度をして、一見するとすぐ目の前にあるような赤茶色の街並みを目指す。
 マルクゥも、タタッ、と赤茶色の地面に……砂の流れに架かる橋のような道に……靴底をおろす。
 頬を撫でる風は強くもなく、弱くもない。……すこし、乾いている?
 と。その風とは別種の風が子どもの頬をかすめた。
 ちいさめの風。鋭い、鳥の羽ばたきのような。
 その連想は正しかった。
 玖・珂(モノトーン・f07438)が空に差し伸べた手の先に、ひらりと真白の翼もつ鳥が舞い降りてくる。その、最後のひと羽ばたきが生んだ風だった。
「羽雲さん!」
「――『羽雲さん』、か」
 確たる人格のようなものを感じさせる子どもの呼びかけに、玖珂は微かに苦笑する。
 その頭上が翳り、また別の翼が生んだ風が周囲のひとびとの衣服を大きく揺らした。
 ――巨大な隼。
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)のUC、【相対性理論】によって召喚された黒翼……巨大なハヤブサだ。
 着地して、ふるると身を震わすハヤブサの首を軽く撫で、章はマルクゥを振り返る。
「怪しい噂を聞いたから、先回りして見てくるよ」
 その子に向けて言葉を飾る必要はない。章は素直にありのままを話す。
 え、と一瞬子どもの表情が曇ったので、「必ず戻るから大丈夫だよ」と、やさしく付け加えるのも忘れなかった。
 子どもが心細くなるのは、「置いていかれる」という感覚になるからだろうか。
 数としては、別行動を選択した猟兵の方が多い。
 選択の理由はさまざまだ。
玖珂としては。
『盗賊の王』に対する『討伐隊』は不要、しかし当の砂の街では『行商人たちが行方不明』だという点。
さらに言えば、「酒場に貼り紙をした者」……気になることを挙げればきりがない。特に最後の点は、砂漠で針を探すようなものだろうか。
(「…………うむ、考えても分からぬ。百聞は一見に如かずだ、根城を視てみよう」)
 そう、思ったのだ。
「同道できて楽しかったぞ、また逢おう」
 玖珂はマルクゥと、その背後で見守る雑貨屋に言葉をかける。
ちいさく指を曲げ、マルクゥは手を振る。「ちゃんと見送らなければ」という気持ちと「さびしい、引き止めたい」気持ちがそのまま外に出てしまっていた。
岩山に向かうのは、章と玖珂、そしてアンジェリカ・ヘインズビー(寡黙でサイボーグなバーバリアン少女・f11144)。それにネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)以下【SIRD】の面々。
 猟兵の数が多い。出来ることはいろいろある筈だった。
「………先に『砂の街』に行って、皆さんを待ってますね」
子どもは彼らをぐるり見渡して、ぺこり、と頭を下げた。
 章は、マルクゥらに同行する猟兵たちに目線で挨拶する。この猟兵らがいるからこそ、安心して別行動を採れるのだ。
「行こう隼くん」
友人へ呼び掛けるように言う。
(「光より速くとは行かないまでも、徒歩よりは断然速いだろう」)
 隼に乗り、章は砂の川を越え、最短距離で岩山へ向かう。
 ネリッサらは「討伐隊に先行しての偵察」を重視した。情報収集はお手の物だったし、拠点を調べれば謎の『盗賊王』とやらの正体も見えてくる筈だ。
 目指す場所は同じ。
 あるものは空を飛び、あるものは橋を渡り、流れぬ砂地を歩む。
 日差しが砂に朝日の色を刷かせるまでは、もうすこしかかる。
 ――ばさり。
 またも、風。
「さあ。それでは私は、『砂の街』までみなを空から先導しましょう」
 ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)が、とん、と軽やかにまたがるのは仔竜・アナリオン。その翼がつかんだ空を翔けるための風が、マルクゥの身体を強く押す。
 竜が、飛ぶ。
 眼下に小さくなる一行の姿にヴァルダは微笑んでから、視線を前に向ける。
(「出来るだけ早い到着が望めれば……」)
 ゆるやかに空が白んでいく。

●『砂の街』・内観
 先行して空を行くヴァルダは、まっさきにその街を見下ろすことになった。
 「砂の川の中州に出来た街」そう話に聞いていた。
 理解はしやすいが、見るのと聞くのとでは全然印象が違う。
 砂の川は、近づくと嘘のように広かった。
 本来流れるべきではないものが、見渡す限りに広がってうごめいている。
 これはもう『砂の海』だ。
 最初に渡った赤茶色の橋は、単にこの海の入り口に過ぎなかったのだ。
 ここまで近づけば橋の数も増え、幅も広くなる。……広くなったのに、この砂の海の前ではとても頼りなく見える。
 そして橋以外の移動手段だろうか、砂上に浮かぶ小船がいくつも姿をあらわす。
 小船は薄い金属製で、比重が軽いのがよいのか、人を数人乗せてすいすいと砂上を移動している。船尾の舵をあやつる船頭のうごきは独特で、水の上とはまた違った操船技術なのだと思われた。
 ……砂の海に、ぽつんと浮かぶ緑交じりの島。
 それが、目指す街だった。

 橋の終点は、小船の渡し場だった。
 徒歩であれ砂上の舟であれ、入り口は同じということだ。
 街の外壁は大きく外に向かって反り返っていて、花びらが開いたようだ。外敵ではなく、砂の侵入を防ぐためだろう。
 そこからゆるやかな上りの道が続いていた。
 ヴァルダはそこで仔竜を降下させる。空からの客人は流石にめずらしいのか、行商人も手を振ってくれた。
 マルクゥらと合流して……「ヴァルダさん! アナリオンさん!」……賑やかに、和やかに赤茶色の石の敷き詰められた坂道を上る。
 ザハール・ルゥナー(赫月・f14896)は反り返る外壁をしげしげと眺め、いかめしくない素朴な門を通り抜けてから、ようやく大きな息を吐いた。
「道中、何事も無くて結構」
「無事に街にはつけましたね」
 ルカ・アンビエント(マグノリア・f14895)の返答にも安堵の色があった。
 街に足を踏み入れて、また色相は変化する。
 ザハールは紫の目を細め、街の景色を見晴るかす。
「しかし、すごいな。砂が鬱陶しいと思っていたら、この瑞々しい光景か」
 建物も、地面を覆う敷石も、基本的には同じ素材で出来ている。例の赤茶色が町全体の基調となっている。
 だが、道が敷石で覆われていても、四つ角には必ず植物の為に土を露出させた箇所があり、木陰を作ってくれる樹が中心ですっくと立っている。
 店という店、家という家の窓辺には明るい色の素焼きの鉢が並んで、さまざまな諧調・濃淡のみどりを生やしている。
 圧倒的に、『緑』の印象が強い。
 ザハールの感嘆に、ルカは自分の背中を気にしたように何度か振り返ってから、同意する。
「羽に砂が入ってざりざりするんですけど……中はこれほど美しい街とは」
 オラトリオの羽には、道中で降り積もった砂が気になる。だが水がふんだんにあるというなら、砂を落とす機会も多いだろう。
 ルカは、雑貨屋らと連れ立って施療所に向かう騎士の背中を見つめる。
「ひとまず、話を聞いた騎士の彼と一緒に、施療所に向かいましょうか」
「そうだな。この街への興味は色々とあるが、まずは施療所。異論は無い」
 門を入ってすぐ、開けた広場になる。
 市からのものだろう、砂糖が焦げる甘い香り、何かを油で揚げるにおい、焼き上がったバター入りの何かのにおいが、それぞれの特性を強烈に主張しながら漂ってくる。
 思い出した、という風に……努めて何気ない風に、ルカは呟く。
「……さっきの焼き菓子、美味しかったです」
「そうか――美味かったのなら私も嬉しい」
 視線はにおいの源に向かいながら、ザハールはルカのささやかな謝辞を聞き流さない。
「ここで、市場が立つんだよ」
 来たことがある雑貨屋は、以前のことを思い出しながら説明してくれた。
「ついたばかりの行商人も、木陰で品物を拡げてね。それは賑やかなもので……」
「美味しいもの、いっぱいあります?」
 勿論だよ、といったマルクゥと雑貨屋の会話を聞きながら、ヴァルダは街のひとびとの声にも耳を澄ませていた。
 市が立つ前の、軒先でおしゃべりする老人たちや、店の準備中の女将たち。
 『最近の若いもんは……』『こんなに恵まれた街で、何が不満なのやら』『恐いわねぇ』『いつまで反抗期やっとんじゃ』『ひとり、見つかったらしい』『大怪我だって……』『ありゃあ、もうダメだな。怪我は治っても、おかしくなっちまったもんは戻らんだろう』『――悪霊憑き』。
(「悪霊?」)
 ……目下の街の話題は、あまり楽しいものではないようだった。
 広場からほうぼうに道が分かれている。ここがこの街の中心街なのだと察せられた。
 ケイ・エルビス(ミッドナイト・ラン・f06706)は、ここでいったんマルクゥらとは別行動をとることにした。
「オレは大男たちと一緒に討伐隊に参加してみる。ほかの特務のメンバーが岩山を先回りして調べるみたいなんで、こっちも保険をかけておく」
 ケイの所属する【SIRD】の面々は情報収集に秀でている。そちらのことに心配はなかった。
 アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)も別行動組だ。アノルルイには、自分が隠密向きではない……(特に性分的に!)……という自覚があった。
 この街には怪しい点がありすぎる。そこにあえて正面から向かうつもりだった。


●医師
 目指す施療所は、市場からほんの鼻の先といったところにあった。
 簡素な石造りの門を抜けて、玄関の軒石の前に立つ。風通し良くするためか、板の扉は開いたままで、代わりに薄い緑色の織物が掛かっていて、奥への視線を遮っている。
 雑貨屋やに背を押され、同行の猟兵らが見守る中、緊張でやや頬を上気させたマルクゥは、せいいっぱいの声を上げた。
「ごめんください! 医師にして薬師のルークスの使い、マルクゥです! ゴドー先生に御届け物にあがりました!」
 言い終わるかどうかというところで。
 ばたばたと感覚の短い足音が近づいてきて、織物がバサリとはねあがる。
「来たか!」
 がっしりとした大柄な男だった。これが先生の兄弟子さんかあ、とユキは見上げた。
 しっかりと筋肉の付いた腕に刀傷が幾本か見える。医師と言うよりは歴戦の兵士めいていた。
 医師は挨拶をかなり省いた。
「ゴドーだ。まずは薬を受け取りたい。重篤患者がいる」
 簡潔な言葉に、差し迫ったものを皆が感じた。マルクゥはぱっと薬の箱を差し出した。
「これが痛みを止めるお薬で、これが」
「ありがたい。さっそく使わせてもらおう。こっちだ、来てくれ」
 さっさと奥へ向かう。歩きながら、医師はマルクゥに尋ねた。
「患者の検診に立ち会ったことはあるか」
「……お産なら、何度か」
 ふむ、まあいいだろう、と呟いたゴドーに、ようやく猟兵は口を挟む機会を得たと思った。
「ゴドーさま」
ヴァルダは胸もとに手を当て、礼儀正しく手伝いを申し出た。
「ヴァルダ、と申します。父は植物を慈しみ、いのちを巡らせ、母は巡る草木から薬を作り、いのちを繋ぐことを生業としておりました」
 自己紹介するヴァルダを、医師は頭から爪先まで検分するようだった。
「化膿止め、熱を取り去るもの、それから……けして多くはありませんが、薬になる植物をお持ち致しました。どうか、お手伝いをさせてください」
 ユキ・スノーバー(しろくま・f06201)も医師の足元から飛びあがって主張した。
「ユキ・スノーバーというよっ。治療のお手伝いが出来るから、協力させて欲しいなっ」
「お主たちは……そうか、癒しの技が使えるのか!」
 かつて冒険者だったという医師は、弟弟子に話を聞いていたらしい。医師は足を止めて、すこし躊躇ったように言う。
「だが、謝礼の持ち合わせは無いぞ。それに癒しの技は負担があるだろう? 誰彼となくほどこすものではないと聞くが……」
「重篤な患者さんだけだよっ。あと、軽傷の患者さんには、お薬もあるし、先生の医術もあるしっ」
「はい、軽症の方は医術で」
「……ならば、お願いするか。いや、是非お願いしたい。正直、薬が足りたとして、治療は五分五分の賭けだったのだから」

●悪霊という病
「ここだ」
 そう言った医師が、部屋の扉を開けて。
 真っ先に入った者たちが感じるのは、血のにおい。腥いにおい。内臓の、体の中からのにおい。
 そしてそのにおいから想像した通りの惨状の患者の姿。
 包帯でぐるぐる巻きで、でも白い部分はほとんどなかった。ずっと血が止まらないのだろう。切り傷だ。それも全身。これを行ったものは、よほど彼が憎かったのだろうか?
マルクゥから聞いた薬の内容的に、大変な事になっていそうなことはわかっていた。
 ユキは患者の横たわる寝台の横にちょこんと手を突いた。
「……頑張ったね。もう大丈夫、『生まれながらの光』をお届けするからね」
 ほわほわと、ユキの身体が光に包まれる。その光は粒になって、ゆっくりと患者の身体を取り巻いた。
 光が強まる。
 ユキの身体から力が抜けて、ほっ、と吐息が聞こえて、ヴァルダもマルクゥも、それが成功したことを知った。
「あ……ゴドー先生……」
 包帯の隙間から無傷の口がのぞき、無事の目が、信頼する医師を見つめている。
 医師はユキとヴァルダ、それぞれの肩に手を置いて、「ありがとう」と万感の思いを込めて言う。一度は、安楽死の考えさえよぎったのだ。
 ユキはぴょん、と一度飛び跳ねてみた。体が軽い。癒しの技は負担が掛かるものだが、さきほどのものはかなり上手くいったようだった。
「ん……えっと、先生これ」
 ぐるぐる巻きの包帯のせいで身動きできない彼に、ゴドー医師はあわてず処置していく。
「こちらの方のおかげでお前は治ったのだ。酷い傷だった、一体何があったのだ?」
「……あっ! そうだ大変だ!」
 包帯を解かれ、育ちのよさそうな顔立ちを見せる若者は、ゴドーに取りすがった。
「大変です! 岩山にあるっていうお宝、ぶんどろうぜ、って皆が! それを僕が止めようとしたら、皆でバカにして! むかついたけど、でもやっぱり皆が心配だったらから、止めてもらいたくて顔役のあのフード男に話をしに行ったら、いきなり」
「攻撃されたのはフードの男にか?」
「? いいえ、知らないやつです。剣持ってて……怖かった……」
 若者は寝台の上にへたりこむ。怪我が治っても、疲労は残っているに違いない。
「皆も恐かった……皆して僕をあざ笑って、馬鹿にして。まるで別人みたいだった」
 ――おかしくなった若者たち。
 ――『悪霊憑き』。
 街のうわさ話の一端を、ユキとヴァルダは思い出していた。
「そういう病もある。……さあ、お主の父君にもお伝えしなくては」
 医師は若者を横にならせた。
部屋の外から、医師の名を呼ぶ声が聞こえてきている。若者以外にもたくさん患者はいるのだ。医師は立ちあがって返事を返す。
 ユキとヴァルダ、それにマルクゥは顔を見合わせた。
 そして同時に、医師に手伝いを申し出るのだった。

●騎士とその愛馬
「あちらはもう大丈夫のようですね」
 血のにおいのこもる屋内から、日差しのある裏庭に出て、ルカは肩の荷をいったんおろすように呟きを漏らした。部屋に立ち入らず、患者の様子をそれとなく観察していたのだ。
 癒し手の数はもう充分足りているだろう。そう考えたのだ。
 庭の端に設えられた水の湧き出す洗い場で、軽く手や羽を清める。
 ふと視線をあげると、屋根のある場所……納屋が見えた。
 そこに、例の騎士が所在無げに立っていた。
 重篤患者が危機を脱し、いったん落ち着いたとはいえ、施療所は今でも忙しく立ち働いている。
「………馬は後回しになりそうだな」
「そうですね……」
 ルカは立ちあがる。
「こちらは、馬の方を見てみましょうか。騎士にとっては相棒のようなものでしょうし……失うよりは、きっと良い」
「ああ、相棒なのだろう。放置しては彼が哀れだ」
 騎士と、その愛馬に向かって、ザハールは歩み寄る。
「騎士殿。こちらが貴殿の愛馬かな?」
「あ……ああ」
 騎士は夢から醒めたようにザハールに答える。
「いい毛並だな」
「気立ても良さそうですね」
 続くルカの褒め言葉を隠れ蓑にして、ザハールは『動物会話』で馬に直接不調について尋ねていた。
『いったいどこが悪いのだ?』
 答えでなくとも、ヒントになればよい。そのくらいの気持ちでいたのだが。
 問いかけに、返ってくるいななきを聞き分けて。
「……」
 ザハールは驚きの表情で、軽く口を開けた。
 ルカは、目にしたザハールのその様子が、あまりに見覚えのないもので、気になって仕方がない。
 ザハールは驚きの名残りを口の端に留めたまま、騎士を振り返る。
「騎士殿。……騎士殿には何か、悩み事がおありのようだ」
「え……」
 不審げな騎士をよそに、ザハールは馬の鼻面を優しく撫でてやる。
「愛馬も気付いているから元気がないのだ。仲間を捨て、自暴自棄で……乗り手の荒んだこころを、馬というものは不思議なくらい察する」
 心当たりがあるのだろう。騎士は口をつぐんだ。
 ルカはそっとザハールに尋ねる。
「外傷ではないんですね?」
「身体ではない。こころの病だ。それも、馬よりその主が重篤のようだ」
 騎士は呻いた。
 切なげに愛馬を見る。黒目がちの馬の目は、ずっと騎士を見ている。
 騎士は、告解するように2人に向かって語り始める。
「私は……誘惑に弱い人間だ……」
「そのようだな」
あっさり頷くザハールの、足先を踏んづけて黙らせたいとルカは思った。
そこは「そんなことはない」と続けた方が相手も喋りやすくなるだろうに、尋問のイロハをザハールは全力でぶった切っていく。
「ゆ、誘惑に弱いというのは、全てにおいてではない。とある……女性に関して、なのだ」
「ほう」
「なるほど」
 話の行方が見えたな、とルカは思った。
 「女性の誘惑に弱くて」、だから馬が心配するように「仲間を捨て」たり、「自暴自棄」になったりするのだろう。
「あんな者たちは騎士様のお連れ様としてふさわしくありませんわ、とか、わたしは愛しく思っておりますが、親が『あの程度の騎士ではふさわしくない』と反対するのです、とか。名を挙げるような勲があれば、とか。言われたんでしょう?」
「何故そこまでわかる!?」
 腐るほどある話だからですよ、とはルカは言わない。それくらいの情けはある。
「とにかく、馬の不調の原因は、あんたの精神の不安定さです。それが治れば馬も元通りですよ」
 ルカの癒しの技が出るまでもない。
「心……精神を安定させるには……どうしたら」
「まずは、街の名物の美味いものでも試してみたらどうか」
「ザハール!」
 女性問題はややこしいんですよ、と耳打ちして、ルカはその場を去ろうとする。
 馬はそれを静かに見つめていて、だが自分の意が通じたのがわかるのか、どこかほっとした様子だ。

馬と騎士。ルカ、ザハール。
赤茶色の壁から、そっと真白の半身をのぞかせて、ユキは安堵したように呟く。
「もう大丈夫みたいだねっ」
「ですね!」
ちいさいユキのあたまの上から、同じように小麦色のあたま半分のぞかせたマルクゥが頷く。
 マルクゥのあたまの上には、さらに金色の髪をのぞかせたヴァルダがいて、もし別世界でそれを知る者があれば、とても可愛らしいトーテムポールだと思ったことだろう。
「馬はとても愛情深い生きものですから。長らく旅を共にしてきた騎士様ならば、家族も同然。その家族の変調に心を痛めるのは当然なのでしょう……」
 ほかの患者への応急処置も終えて。
先ほどの治療済の若者の家族や、ほかの患者の家族にも知らせが行ったのだろう。にわかに施療所近辺は慌ただしくなる。
 ヴァルダは、今のうちに、と病室から肩を回して出てきたゴドーをつかまえた。
「今、この街を覆っている違和感はいったい何なのでしょうか?」
 漠然とした問い掛けに、医師は真摯に答えてくれた。
「よくある話ではなるのだ」
 庭の敷石に座り、苦い表情で語り始める。
「若者であれば、ときに邪まな声を聞くときがある。邪霊とも言う。実際は、誰もが持つ負の感情の塊だ」
「『自分は他人よりも優れている、だから自分が多くのものを得て当然だ』『どうしてあいつばかり良い目をみて、俺ばかり酷い目に』『努力などつまらない』……そんな、流行病のような、逃れようのない感情だ」
「それに捕らわれてしまうと手が付けられない。本当に悪いのは、『もうダメだ』『もう戻れない』と諦めてしまうことなのだ」
マルクゥが納得したように呟く。
「……ご病気、なんですね」
 それまでぴんと来ていなかった様々な事柄を、子どもはその一語に収束させたようだった。
「こころがご病気で、だから、たくさんお休みしたり、美味しくて栄養のあるもの食べたりして、治すんですね」
「それだけで全部が治るとは限らんが……まあたいていの場合、それがなによりの薬だな」
 ゴドーは苦笑した。そして笑いを収め、真剣なまなざしで子どもらを見る。
「邪霊は他人を道連れにするのが好きだ。自分と同じ目に合わせようとする。自分と同じ目に遭ったことのない人間を憎むし……同じ目に遭いながら、ちっとも挫けない人間を、とても嫌がるのだ」

●『砂の街』・遠景
 大地には固有の色がある。
 大地から生まれたものたち……たとえば岩石、土、砂。その色合いもさまざまだ。
 街を形作る石材は赤茶色で、周囲を流れる砂は黄味がかった白色。
 うねり、流れていく砂の川を、黒い小舟が猛然と進んでいく。
 こんなに無軌道な砂の流れを操舵する術を身につけたのだ。厄介な川を移動手段として利用する、『砂の街』のひとびとのなんと逞しいことか!
「すごいですね……」
 架けられた橋の上から、アンジェリカも感嘆の声を漏らした。
 別行動で岩山に向かうことを選んだ猟兵が進む道は一本ではない。方角さえわかっていれば、採る道は行く通りかあった。
 橋の上でアンジェリカとすれ違った行商人らは、自分たちを瞬く間に抜き去って街へと向かう小舟を、羨望と感嘆を込めて見送っている。
 どこにも緊張や恐怖の色は無い。
 小舟にも、外敵を警戒するような動きは無い。
アンジェリカは先だっての酒場でのやり取りを思い出す。
(「現地では噂にもなっていない『盗賊の王』。……気になりますね」)
 この齟齬はどこから来るのか。
 橋から橋へ、いくつかを【スカイステッパー】で飛び越える。街から離れるにつれ、飛び地のような地面も、橋も姿を消して、やがて砂の川の大きな流れが目に入るようになった。
 ……そして川の流れの先に岩山があった。
 色調は流れる砂と同じ、黄色味を帯びた白だ。
 遠目にはなだらかな形をしていた。
 ――近くで見ると。
「これは難しい」
 隼に乗って、誰よりも早く岩山に着いた章は、しかし上空で未だ着地できそうな場所が見つけられないでいた。
 鋭い岩の集合体。それが岩山の山頂の光景だ。
 脆い岩肌が崩れていったのだろう。風化によって出来たヒビが溝となり、幅の狭い崖になっている。
 そこは砂の海と同じで、生き物の姿はどこにもなかった。
(「聞いた話を総合した限り、『盗賊王』の実在は疑わしい」)
 この『討伐隊』の依頼は罠の可能性が高い。
 一度岩山のふもとに戻ろうとした章は、視界の先に、徒歩でやってきた猟兵たちの姿を見出す。
 さらに、ネリッサが周囲に情報収集のための夜鬼を展開していくのが見えた。
 ここは合流して情報を集約するのがよいか、と、章は隼を地上へと向かわせようとして……気が付いた。
 『砂の街』の住人が操っていたのと同じ小舟。それが幾つか、岩山のふもとに停留していた。
 来るときは大岩の影になって見えなかった。
 少なくとも、誰かが以前、ここに来たことがあるのだ。


●岩山・内部
 玖珂の放った羽雲は岩山の上空へ。
 そして章とほぼ同じものを目にしていた。
 生き物の姿はないこと。
 そして大岩の影に、停泊する小舟があること。
羽雲はさらに、狭い崖のひとつになんとか滑り込むことが出来ていた。これは羽雲のサイズが丁度よかったからであって、かなりの幸運と言ってよい。
滑り込んだ羽雲はしかし、すぐに入り組んだ岩によって視界が遮られてしまったが……そこが迷路のようになっていることを教えてくれた。
「『隠れ家』があるとすれば、山の内部か」
「地上から探した方が早えーんじゃねえかな」
 玖珂の呟きに、ハヤト・ノーフィアライツ(Knight Falcon・f02564)は帽子のバイザーを軽く上げ、岩山を仰ぎ見る。
「舟を下りたんなら、こっからは徒歩だろう」
「徒歩ですか……」
 ラムダが気乗りしない様子で俯く。
「わたくし、見ての通り機械ですから、隙間に砂埃が入らないか心配です」
 宇宙での戦いを想定したウォーマシンなら、砂など何ほどのものかとも思うものもいたが、そこは気分というものなのだろう。
 ふる、とラムダは首を振る動作をした。
「……兎も角、岩山の捜索ですね? 微力ながら皆さんのお手伝いをさせて頂きましょう。
わたくしの索敵能力は、光学、電波、熱源、音声、その他ありったけのセンサーを使用できますよ」
「……それなら」
 岩のせり出した崖を思いだし、章は提案してみた。
「ラムダさんに隼くんに同乗してもらって、上からの捜索は無理かな?」
 ラムダの重量を考えると、隼の速度はかなり減殺されるだろうが、頭上に『目』を持つことの有利さはその比ではない。
「局長、それなら……」
 ラムダはネリッサに視線を向ける。
【夜鬼】によって情報を集約する役目のネリッサは、瞬時に判断してゴーサインを出す。
「それなら、はい、わたくしめにお任せください」
 ラムダの明るい声。章のハヤブサに乗れば、砂地から離れることが出来る上に、自分の力を最大限に発揮できるのだ。
こうやって、幾つかのUCが合わさって、出来ることは何倍にも増える。
 灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)は装備の迷彩機能をオンにした。岩山登山の準備だ。いや、登るではなく、潜る、になるのだろうか?
 玖珂も目立たぬ色調の外套をまとう。白と黒のはっきりとした衣装は、砂の色から浮き出てしまう。
 いつどこで罠や、オブリビオンに遭遇するかわからない。
『行方不明の行商人』を探して、ミイラ取りがミイラになるのは避けたいところだった。
 章とラムダがハヤブサに乗り……心なしか羽ばたきの音は大きくなっている……空へ。
 先陣は灯璃とハヤトが勤める。基と玖珂、それにアンジェリカが続いて、中継のネリッサは最後尾だ。
 ネリッサは一同に軽く声を掛ける。
「あくまで情報収集が優先です。敵との交戦は可能な限り避けましょう」
何度か頷いて、木鳩・基(完成途上・f01075)は一度伸びをした。これから狭い場所に潜るのだ。
「調べるからにはヒントを掴んで戻らないと。……数時間歩いて足が棒になりかけだけど」
 本番は、これからだ。
 徒歩の一行は、岩山へ、ひび割れた岩の迷路の中へと入って行った。

●調査
『――生体反応あり』
『複数の生体反応があります』
 上空からの目は、求める情報を即座にもたらしてくれる。
『すみません、岩山の成分が均質ではないので、わかる内容にムラがあります。生体反応の位置は示せますが、そこまでの道程が……』
「大丈夫です」
 灯璃の暗視は闇を物ともせず、身体は狭い隙間をするりと移動する。
 銃撃には向かない場所だ。射線はほぼ通らない。それでもハヤトと互いに死角をカバーしあって前へ進む。
 ネリッサの【夜鬼】経由で示された場所は、いま一行が徒歩で進む場所よりも高い位置にある。どこかに進入路があるはずだった。
 アンジェリカはふう、と息を吐いた。
 登ると思っていた岩山には潜ることになって、どうなることかと思ったが、ラムダのナビの存在もあって危険はぐんと減っていた。
(「罠はないようですね」)
 目下の灯璃が気を払うのはそれだ。生体反応が敵であれば、罠を仕掛けるのは当然のこと。だが人の手によるものは何も見つからず、天然の要害だけが灯璃らの行く手を阻む。
 狭い道を、肩をこすりつけるように抜けて新たな空間に出る。縦にも横にも、いままでにない広がりを感じた。それだけではない。異常に灯璃はすぐ気が付いた。
 岩に触れた肩に、風が触れた頬に。これまでにない『熱』を感じ取っていた。
 同時にラムダは叫んでいる。
『熱反応あり! 近づいています、これは、』
「砂です!!」
 灯璃は鋭く背後に注意を促す。
 目にした空間の端に、砂の瀑布が落ちてきていた。その氾濫が向かってきている……!
 基は前に出た。基のUCを今使わずにいつ使うというのか。
 腕を組み換え、巨腕を構築する。その腕で思い切り地面をたたいた。
 地面は細かなピースに分解され、基の意のままに再構成される。
「解は無理やり捻り出す! ――やりたいようにやらせてもらうぜ!」
基のUC、反規範パズル(アウトパズル)が造り上げたのは、狭い入口を覆う壁だ。
 この場所を砂から守るためのフタと言ってもいい。
 ドドドドド!
次の瞬間、その壁に砂の流れが押し寄せてくる。
すさまじい圧力に、その壁は何度も耐えた。壁の上に立つ基には、その耐久力もよくわかっている。ずっとこのままではいられない。
 基が壁の上から見回す空間に、わずかな隙間が見えた。やや高い位置にある。
 そこがこの窮状から抜け出す道であり……そして『生体反応あり』の場所だと、直観的に基は悟っていた。
「あそこだ! 皆、あそこに逃げ込むんだ!」
「了―解!」
 しゅる、と鋭い音がした。幾本かのロープがその隙間に向けて張り渡される。
 一本ならそのまま滑り落ちてしまうところ、ハヤトと基の協業で、他の岩も巻きこんで張られたのは、ロープ製の橋だった。
 壁をよじのぼって、ロープの橋に向かってアンジェリカは軽やかに跳躍した。
 玖珂は爪を岩に突き立て、身を支えるようにしてロープの橋から隙間へともぐりこむ。
 ……全員が隙間に避難し終えて、眼下に流れる砂の瀑布の音を聞きながら、口を開いたのはネリッサだった。
「貴方がたが、行方不明の『砂の街』の行商人ですね?」
「…………はい」
 消え入りそうな声は、おそらく相手の体力が限界だったせい。
 隙間に身を横たえた若者が数人、疲労の土気色をした顔でこちらを見つめていた。

●若者の語ることには
 ――お宝があるのだ、と。
 最初、行商人仲間のひとりが、いかにも耳寄り情報だというふうに話を持ってきたのだ。
 ……わくわくした。
 お宝という言葉はどうしたって気持ちが動くし……お宝があるというのは、街の大人たちがずっと「あぶないから近づくな」と口を酸っぱくしていた岩山だ。
若者たちは、既に富を得ている親世代に対してうっぷんが溜まっていた。
 あそこでお宝を見つけて持ち帰れば、大人たちの鼻を大いに明かしてやれることだろう。
「やめたほうがいい」という仲間もいた。話がうますぎる、信用できない、と。
だが仲間内で盛り上がって、引き返せないところまで来ていた。
 だからそいつを置いていくことにした。……結局はそいつが正しかった。
 岩山で、話に聞いた道を辿って着いたここは、危険な砂の通り道だった。1日の決まった時間に砂が通り抜ける。砂の瀑布から逃れるため、この隙間に入り込んだまではよかったが、皆どこかしら怪我を負った。なんとか動けるのは、自分くらいだ。
 水の備蓄はあったおかげで今も生きているが、疲労で動けそうにない。
「ここに……逃げ込もうと言ったのは……俺なんです……だから……」
後悔のためだろうか、話すことさえ辛そうになってきた若者を制して、ネリッサは心の中だけで呟く。
(「それでいいのでしょう」)
(「大丈夫、貴方は助かり、仲間も助かった。貴方は仲間を見捨てなかった。……見捨てれば傷を負いますから」)
 見捨てられた人間は死に、見捨てた人間もまた、決定的に何かが変わってしまう。
 それを乗り越えられるかどうか。
 若者は、乗り越えれられない自分を想像し……乗り越えられず堕ちていく自分を、心底恐れたのだ。
 灯璃は最後に、と尋ねる。
「最初にこの耳寄り情報を持ってきたのは、誰でしたか?」
「……街の顔役の男だ。いつも……フードをかぶってて……」
 頷いて、灯璃は若者の口元に軽く手を当てる。
安堵したように瞼を閉じる若者の様子に、早期の治療と静養の必要性をみて、ネリッサは【夜鬼】を通じてラムダや章とやり取りする。
『うん。小舟を隼君に繋いで、曳いてもらえばなんとかなりそうだ』
 放置してあった小舟まで若者を運び、そこから章の隼で曳航してもらう。2人ならなんとかなるだろう。
 玖珂はやや表情を曇らせた。
「放置してあった小舟の数は、2つではなかったな」
 生体反応は、若者たちのもの以外は無かったという。
 ハヤトは舌打ちした。
 『盗賊王』は存在しない。あるのはその話を餌に人をおびきよせ、殺そうとする邪まな意思だ。
「その隼が疲れてきたってーんなら、宇宙バイクで交代できるぜ」
『いざとなったら、お願いするよ』
『重くて申し訳ありません、わたくしめはウォーマシンとしては小柄な方なのですが……』
『ラムダさんのせいじゃないよ』
 猟兵たちのどこか和やかな帰路の相談に、目を瞑ったままの若者の口元に笑みが浮かぶのを、アンジェリカは確かに見た。
「仲間はだいじ、ですものね」
 アンジェリカは若者の身体を抱きかかえる。ここから岩山を抜けて小舟まで、重みは倍以上になったはずなのに、帰路の方が断然足取りが軽かった。

●熱病
 討伐隊を募集している場所は、尋ねなくてもわかる。
 もともと同じ行商隊列にいた大男たちは、なんとなく同時に『砂の街』の門をくぐったのだし……わいのわいのと騒ぎながら酒場に消えていく姿は、周囲にしっかりと記憶されていた。
 ケイがその酒場に一歩足を踏み入れたとき、すかさず「おう!」と乱暴な挨拶が飛んできた。
「お主も来たか! 偉い、偉いぞ!」
「名を上げるには行動あるのみ!」
 前祝と称しての酒盛りで、蛮族の大男らは聞けば何でも答えてくれる勢いで酔っていた。
 ケイは酒場の内部をあらためる。
 ごく一般的な店だ。奥まったほうの席を、アノルルイが既に占めている。
 その位置をケイは装備のトランシーバーで目立たないように確認する。この場には猟兵が2人。そして大男らの一団のほかに客はいない。
(「まあ、こんな早くから酒を飲もうって奴は多くないな」)
 と。店の奥から、1人の男が姿を現した。フードをかぶっているが、体型が以前見かけた男とはやや異なる。こちらのほうが小柄だ。
「皆さん、お揃いで」
「おうさ! 準備は万全よ」
 さらなる盛り上りを見せる一団のひとりに、ケイは後ろから問いかける。
「誰だい、あいつは?」
「この依頼を持ってきたヤツさ」
 この依頼、『盗賊王』の討伐。
 うさんくささの元凶だ。
 それを聞きつけ、アノルルイはゆっくりと膝を組み替えた。
 ……何か企んでいるものがいたとしたら、猟兵の存在は想定外になるかもしれない。そう考えて、あえて罠に飛び込むつもりでここまで来たのだ。
 垂らした釣糸の先に、ようやく動きがあった。
 猟兵2人の注視する先で、依頼主はにこやかな声をあげていた。
「皆さん、いける口のようですね。これは奢りです。……今ならまだ大丈夫ですよね?」
「もちろんだ!」
 樽でまわされた酒を、蛮族の男らは大きな杯で酌み、一気にあおる。
 勧められた杯を、アノルルイは辞した。視線はフードの男から外さない。
「乾杯!」
「かんぱい!」
 いつものような威勢の良い乾杯の言葉は、しかしすぐに変調をきたしていった。
「われらの……勝利ぃ……に……」
「見れろよ、すぐぅに……」
「力を見へてやる……」
 呂律がまわっていない。
 もう酔ったのか?とケイは訝しんだ。冒険者の酒場でもどこでも、あきれるほどの鯨飲ぶりを見せても、こんな風にはならなかった。自慢するだけあって酒の強さには舌を巻いたものだったのに。
 ケイは樽の中を覗く。
 ここに来て、アノルルイも倒され、こぼれた酒を注視した。手で仰いで、香りを確かめる。
「………一服盛ったな」
 その一言で、依頼主は身を翻した。
「待て……!?」
 追いかけようとして、ケイは自分に倒れ込んできた大男を慌てて避けた。
 大男の身体はどすん、と床に倒れ込む。
 その背後。
 鞘に納めたままの武器を手にした蛮族の一団が、無表情でこちらを見つめていた。
 鞘に納めたまま、武器で大男の後頭部を殴打したのだ。
「るせぇんだよ……なぁにがホマレだ」
「俺は金がほしいんだよ」
「俺は故郷に帰って嫁を貰う」
「箔をつけるための冒険なんだ、ほどほどでいいんだよ」
 次々と、大男への不満を口にする。
 語る内容はよくあるものだ。だが、直に聞かされるその言葉には、耳を覆いたくなるような悪意が乗せられていた。
「いつだって空威張りで、皆を振り回す」
「いっぱしの騎士きどりで。俺たちは所詮、学のない蛮族だぞ?」
「こいつがいたら、討伐隊だって上手くいくものか」
「いっそこいつ抜きで」
「こいつがいなければ、きっと上手くいく」
 言葉は徐々に不穏になり、そして刃が鞘から走り出ようとする……!
 ――だが。
『♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪……』
 美しい音色が迸った。
 清冽な笛の音。すっくと立つアノルルイの手元、銀色のバールのようなものから、それは発せられていた。
 その音色に、蛮族の一団は一瞬、動きが完全に止まった。
 思い出したのかもしれない。その音に、かつて大男と共に過ごした楽しい日々を。
 ケイはその隙に大男の具合を見た。
 呻いている。頑丈な奴だな、とケイは胸を撫で下ろした。
「お前たちのリーダーではないのか? 何故こんなことを?」
 アノルルイの問いに、一団はもごもごというばかりだ。本人たちも、悪酔いから醒めた風だった。
(「不満があったのは確かなのだろう。それを抑えられなくなったのは、やはりあの酒に何か入れられていたのだろうな」)
 そのうちに、大男が起き上がる。
「……おう? わはは、どうやら酔ってしまっただ。いかんな」
 笑って言う。目は仲間が中途半端に構えた武器をとらえているが、それには何も触れない。
「酒はこれまでにしたほうがよいな! さあ、『討伐隊』、出発するとしよう!」
 大男の、「何かを察しているが、ここは水に流そう」という態度に、一団がみなうなだれ、逡巡しながらも声をかけようとした、そのとき。
「あ?」
 大男の胸もとに、大きな赤い線が生まれていた。
 線――赤い赤い刀傷!
 今度こそ、どう、と大男は倒れた。
 同時に銃声が轟く。
 ケイ愛用のアサルトライフルだ。
「のこのこと……!」
 銃身の先、鋭い視線の先にいるのは、剣を携えた戦士―――猟兵ならば見間違えようのないオブリビオン!
 だが剣の戦士は何も言わず、素早く身を翻す。
 目的は猟兵ではない、そしてもうそれは達せられたとでも言うようだった。
 突然現れて、突然攻撃して、速逃げる。
(「行動が早いな。計画的なのか、それとも衝動的なのか」)
 アノルルイは追うのをやめ、血だまりに斃れる大男の様子を見た。
 すでに一団が取り巻いて、大きく声を掛けていた。
「大丈夫か!」
「しっかりしろ! いま医者に連れて行ってやるからな!」
 ふむ、医者か、とアノルルイは思った。
 結局はそこに向かうことになるようだ。
(「救える命もあるかもしれぬ」)
 ケイとアノルルイは2人して大男を抱え、街の中心に近い施療所へと足を速めた。

●招かれざる客
 ざわざわとした施療所で、マルクゥがその女性に気が付いたのはたまたまだった。
スタタタと玄関先に走り、「いまは治療でみなさん忙しいです、ごめんなさい」と頭を下げる。
「あら、かわいらしい坊やね」
 女性はとても美しいひとだった。
 流し目をくれて、すい、と指先でマルクゥの顎先を撫でる。
「坊や、いくつ?」
「? 坊やじゃないです」
きょとんとして、気負いなく返すマルクゥに、女は一瞬戸惑った風だったが、すぐに理解の色がその面に浮かぶ。
「ああ、そうなのね。ごめんなさい。……騎士様はいらっしゃる?」
「あっちです」
 庭を指差して、すこし考えて、「でも今はちょっとお休み中です、ごめんなさい」と頭を下げる。
「眠っておられるの? 怪我をなさったのかしら」
「騎士様、こころがご病気だったですよ」
 はきはきと子どもは告げる。
「でも、お馬さんのお蔭で、よくなってきて。討伐隊もやめにします、って」
「……そうなの」
 なにを考えてるのか、感情の読めない顔つきの女性だった。
「……ねえ。貴方は何故ここにいるの?」
「お師匠さまのお使いです」
 勉強しているの? 偉いわねえ。でも、お勉強大変じゃないかしら?
 そう続けられ、マルクゥはぷくっと頬を膨らませた。
「勉強は大変です。でも、大変だけど、大変だから必要なんです」
「それを、貴方がやる必要があるのかしら?」
「? やりたいから、やるんです?」
 子どもは自分の村のことを思った。故郷で医者になるのが子どもの夢だ。
「村……ね。つまらないとは思わない? もっと楽しくて、いいことがこの世にはいっぱいあるのに」
 街に出て、気ままに好きに暮らすのはとてもいいわよ。
「でも、家は村にありますから」
 ふと、マルクゥは女性のことが気になった。
「おねえさん、帰らなくていいんです?」
 女性はぴたりと黙った。かわりに子どもの声は途切れない。
「おねえさん本人が帰るんじゃなくとも、お手紙とか、お知らせとか、しなくていいです?」
「………」
「じゃないと誰も、おねえさんのこと、知らないままです。外に出たおねえさんがどうなったか、何を感じたか。誰か伝えたいひと、何か伝えたいこと、ないですか?」
「マルクゥ! ちょっと来てくれるか」
 遠くからゴドーの呼び声がして、マルクゥは「はい!」とすぐに反応した。
 いつもの調子でスタタタと駆けていく。
 ……「岩山で、行方不明だった行商人が見つかった」「酒場でいきなり剣で刺されて」「治療が必要だ」……。
 そういった声に紛れて。
「……嫌な子ね」
女の呟きには、滴るような悪意が満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『堕落者たち』

POW   :    【悲嘆】の盾と【失望】の剣(人間)
【自分の悲嘆話、或いは失望感を込めた盾】が命中した対象に対し、高威力高命中の【自分と同じ目に合わせようと振るう剣撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    【強欲】なる斧と【執着】する腕(ドワーフ)
【装備している高級な斧】から【価値ある物を狙う為の一撃】を放ち、【怯んだ対象から価値の高い武具を強奪する事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    【情欲】の弓と【嫉妬】の矢(エルフ)
【麻痺毒、または媚毒を塗った矢】による素早い一撃を放つ。また、【服を脱いで、相手に素肌を見せびらかす】等で身軽になれば、更に加速する。
👑11
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●いわゆる『フードの男』について
 もうすぐだ、と男は逸る心を抑える。
 最近はこればかり繰り返している。もうすぐこの街の実権を握れるのだから、下手に出るのは今のうちだけだ、と自分をなだめている。
 『砂の街』は商人たちの街だ。裕福な、街の古顔である行商人の合議ですべてが決まる。
 特殊な立地のおかげで、モンスターや盗賊からの襲撃もない。砂の川をわたる小舟の操船技術も独自のもので、街の地位は安泰だった。だから商売ものほほんとしたもので、殿様商売だった。
 男はそれがどうにも歯がゆい。
 もっともっと、儲けられる。
 関税を課せばいい。需給をみて、品物の流れを押さえればいい。垂れ流しの情報を、もっと制御して、もっと上手く使えるだろう、自分なら!
 だが男は街ではまだまだ新顔だ。よそ者だ。街の商人として受け入れられていても、大きな顔はできない。
 だから、平地に乱の種をまく。
 不満を持つ若者たちに優しい顔で近づいて、「君たちの気持ちはよくわかるよ」「歳をとると冒険をしなくなるものさ」「君たちなら出来る」とおだてにおだてた。
 酒と、すこし理性のタガをはずす効き目のある薬。街の古顔の後継者たちの評判が落ちていくのは時間の問題だった。
 ……そんな時だ。
 いつの間にか、男が気が付かないうちに知らない女が隣にいて、「そう、希望に満ちた若者たちは、すぐに失意と悲嘆を知ることになるのよ」と囁いていた。

●『悪霊憑き』について
 ……施療所では、重篤患者が運び込まれる部屋は決まっている。
 ついさっきまでそこで生死の境を彷徨っていた若者は、猟兵によって癒されはしたものの、まだへにょへにょと力の入らない、頼りない足をどうにか動かした。あたらしい重篤患者のためにベッドを空ける。
 赤黒く染まった包帯もまとめてどかして……ゴドーや、手伝いのものたちが新顔を手当てをするのを、複雑そうな表情で見守る。
 彼らの手当てを受けているのは、若者を嘲り、罵って、酷い仕打ちをした同じ年頃の青年だ。
 親がおなじように裕福な行商人で、悩みも不満も、似たようなものだった。だから心を許せる友人だと……若者は思っていた。
 あんなに止めたのに、勝手に岩山に行って。酷い目にあっても当然だ。
 若者は目をそらし、よたよたと病室を出ていこうとする。
 と。
「……待ちなさい。彼が何か、言いたいようだ」
 ゴドー医師の声に、若者は口元を曲げる。今、謝られたら……どんなに不満でも、赦すしかないじゃないか。
 それでも若者は振り返り、ベッドのそばまで近づいた。このあたりが育ちの良さかもしれなかった。
 相手は、まるで一度からからに干乾びた後、水をかけられて元に戻っていく途中のように見えた。
 顔のそこかしこ、まぶたや唇にまで細かい亀裂が入っている。その傷を開くように、相手は何かを言おうとして……。
「あ……う……」
 何も言えなかった。流せる水分があるなら泣いていたのだろう。表情で分かった。相手が泣くときの表情を、若者はよく知っている。付き合いは長い。
 だから若者は言った。
「どこにも行かないから。また後で話そう」
 ベッドの上、重篤患者の喘鳴が、すこし緩やかになった気がした。
 と。
「先生! また患者です、重傷です!」
 手伝いの人員の叫ぶ背後から、鎧姿の男たちがわらわらと部屋になだれ込んでくる。
 抱えているのは、誰より大きな鎧を着た大男だ。
「血がとまらないんです! お願いします、助けてやってください!」「ああ、俺たちが出来ることなら何でもします!」「お金も、後で絶対払いますから」……。
「医の心得がある者以外はこの部屋から出ろ!」
 ゴドーの叱責に、若者はまるで自分が叱られたように「ひゃあ」と跳びあがった。
 懐かしい血腥さを後にして、若者はほかの戦士たちと一緒になって部屋を出た。

●『砂の街』の状況について
 市場で、雑貨屋は馴染みの行商人を目にして、軽く挨拶を交わした。
 『砂の街』の市場には頻繁に出る男だったので、雑貨屋としては、気になる話題を幾つか確かめておきたかったのだ。
「行商人が行方不明になるって噂を聞いたよ」
「ああ、あれなあ」
 男は大きく頷いて、まるで内緒話をするように口元に手を当てる。
「行方不明って言っても、家出みたいなもんじゃないかって、もっぱらの噂だあ。街のお偉いさんの、やんちゃ息子ばかりがいなくなってるんだから」
「『ドラ息子』じゃなくて『やんちゃ息子』か」
「そうさあ。皆がよく知ってる坊主どもさあ」
 『砂の街』の外にまで出ていく類の噂ではなかったということか。
(しかし、本当に『盗賊の王』の噂など欠片もないな」)
 内心をつゆとも感じさせず、雑貨屋は相槌をうちながら話の先を促す。
 男はさらに声を低めた。
「だが、それがどうも様子がおかしくなっててなあ。目つきもやさぐれてきてね。まさか悪い薬でもやってるんじゃないかって、そっちのほうを心配されてる」
「薬か」
 雑貨屋は顎を撫でた。
「薬といえば。うちの村のお医者さまが、それは腕利きでね。お薬も作りなさるんだ。これが抜群に効く」
「へえ」
「しかもあまり値段が高くない」
「ほう!」
 行商人らしく、男は居住まいを正した。
「客足が増える前に、詳しく話を聞きたいなあ」
 日差しを避ける木陰に手招きする男についていこうとして――雑貨屋は、背後で高い悲鳴がひびくのを聞いた。
 振り向けば、大きな斧を振り上げた、ドワーフと思しき騎士姿の男がいて……フードをかぶった大小2人の男に、斬りつけようとしているところだった。

●『堕落者たち』について
 例えるなら、「底でつながった3つのコップ」だと思えばいい。
 1つのコップに許容量めいっぱいまで注いだとしても、底から分散していって、意外とけっこう入る。
 だが、逆に言えば。目の前の1つから突如あふれだす、ということも起こる。

 『堕落者たち』はそれを我慢できない。
 けして仲間を裏切らない、だとか。
 1人はみんなのために、だとか。
 自分で決めたことだから後悔しない、とか。
 ――必ず帰る、だとか。
 そういう、希望に満ちた言葉。

 『堕落者たち』はそれを我慢できない。
 我慢しない。他のやつらの理性も崩して、堕落させて、自分とおなじようなものに変えてしまいたい。後先なんて考えない。全部めちゃくちゃにしてやりたい。

 斧使いは思った。
 宝物はすべて自分のものであるべきだ。フードの男たちは、行商人の若者たちから手に入れた、ほんのささやかな宝物を、「新たな謀の材料にする」とか言って自分から取り上げようとしている。そんなことは許さない。そうだそれに市場にはたくさんの光物宝物があってそうだそれは自分のもの自分だけのもの。
 剣使いは思った。
 輝かしい冒険譚にあこがれる者たちはすべて死に絶えるべきだ。勇者なんてのはまぼろしだ。自分についてきたあいつらは全滅した、最後に「お前のせいで」と自分に呪いの言葉を吐いて死んだ。皆、自分と同じ目にあえ。仲間など、裏切るためにある。そうでない者たちは……この剣で斬り刻んでしまえばいい。
 弓使いは思った。
 戦闘や交渉に、自分が努力するなんて、馬鹿げている。そんなことをしなくても、誰かをたぶらかして、意のままに操った方がずっと楽で、思い通りにいくの。努力なんてつまらないもの。ずっとそうやって、自分が一番楽なようにするのが一番よ。

 ……ああ、それなのに。

「□□□□□□□□□□□□」

 ……クリティカル。
 その子どもの言葉は致命的で、許容量の限界を越え一気に溢れた。
 3つのコップから同時に溢れだしたそれは、他者の嘆きと失意を求め、3人はそれぞれの武器を無辜の相手に突き付けた……。

====================
 ここまで読んでくださってありがとうございます。コブシです。
 以下は第3章『ボス戦』についての補足となります。

●戦闘に関する諸注意
・戦闘開始時点で、『砂の街』内部であれば猟兵は(相応の理由があれば)どこにいても構いません。何をするのも自由です。理由部分を考慮に入れて判定し、描写します。
・敵『剣使い(人間)』は、酒場から市場経由で施療所へ向かってきます。主な狙いは蛮族の大男と、助け出された行商人の青年、それに治癒してもらった若者です。
・敵『斧使い(ドワーフ)』は、市場で無差別に一般人を攻撃します。主な狙いはフードの男(大小2人)です。雑貨屋もちょっと危ないです。
・敵『弓使い(エルフ)』は、施療所の玄関口から内部に侵入します。主な狙いは騎士と、そしてマルクゥです。
・敵はそれほど強くありませんが、一般人には脅威です。
・蛮族の大男と、助け出された青年、ゴドー医師は病室にいます。
・治癒してもらった若者と、騎士、マルクゥは施療所内のどこかにいます。移動しています。
・ゴドーは敵の攻撃を1回はかわすことが出来ますし、誰かへの攻撃を防ぐことも1回は可能ですが、その2つを同時には出来ません。
・運び込まれたばかりの患者や、回復したばかりの患者、それにマルクゥは攻撃を避けられません。
・ややこしいですが、「斬って斬って斬りまくった」的なプレイングも大歓迎です。
・戦闘後、『砂の街』で何かちょっと、したいことがあればお書きください。判定の上、可能であれば描写します。
・特に指定が無ければ、マルクゥが村に戻るまで一緒についていくことになります。

●プレイング受付について
『【一次受付】9/9(月)朝8:30~9/16(月)朝8:30』
 ・この間に届いたプレイングをマスタリングし、プロットを組み立てます。
 ・プレイングは一度すべてお返しします。
 ・その後、「全採用できるか否か」をマスターページやツイッターでご報告します。
『【二次受付】未定』
 ・マスターページやツイッターでご報告した後、適宜お手紙でお知らせします。
 ・上記の内容でも構わないとお思いであれば、プレイングの再送をお願いします。

 いろいろと、お手数だと思いますが、何卒よろしくお願い致します。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
====================
ハヤト・ノーフィアライツ
SIRDの面々と参戦。
ま、俺は俺のやれることをするさ。
指定UCを使用。施療所の周囲にロボ軍団47機を展開させ、
うち7機を騎士とマルクゥの護衛につける。
【戦闘知識】を生かして敵の進行ルートの予測を立てつつ、【中折れ帽】の迷彩機能で姿を隠しつつ、
バイクごと高所に登って強化された【視力、失せ物探し】による目視索敵も行う。
敵さんが来たらロボ軍団で攻撃を仕掛け、注意を引き、
頭上から宇宙バイクで【空中戦、踏みつけ】で攻撃を仕掛ける。
以降は軍団の半分は施療所の人間を【かばう】ように行動させる。
灯璃嬢と連携しつつ、自分は【早業、2回攻撃、グラップル】等を駆使し、熱線銃と格闘を使い分け交戦。

アドリブ連携歓迎


木鳩・基
【SIRD】アドリブ連帯歓迎
遭難者は他の人に任せて、一足先に噂の元手のフードの男を探してたんだけど
……マズいな、これ

走って斧使いと男たちの間に【覚悟】して突っ込む
斧が当たる瞬間にUC発動、無効化してその場を凌ぐ

目の前で砕けて元通りになる技、流石に相手も見慣れてないでしょ
硬直したところへワイヤーを【早業】で放ち【ロープワーク】で斧の柄に結ぶ
引っ張って、短時間でもいいから斧攻撃を使えないようにする
その隙に避難を呼び掛けよう

頃合いを見て戦闘離脱、フードの男を捕まえる
岩山のことを街中に伝えると【恫喝】して真相を聞き出す
有利な情報を拾ったら仲間に共有
ま、後で全部バラすけど
お喋りの私に吐いたのが悪いよ


ケイ・エルビス
SIRDのメンバーと参加
アドリブ連携歓迎

POW

剣士をダッシュで追跡
施療所へと大男を抱え急ぐ

途中
装備のメディックツール
医術と救助活動で手早く応急処置しておく

敵の話は戦闘に集中して聞き流す

経験上ただの時間稼ぎやフェイントだ
聞いてやる必要はないさ

敵の面構えから察して
コミュ力、演技で挑発
動きや考えを単調にさせる

「お前みたいなヤツは長生きできねえよ」


盾や剣は野生の勘、早業の見切りで回避

避けきれない場合
武器受けと体さばきで防御し急所を守る

回避や防御から早業で接触し
怪力、グラップルで相手を掴み
UC「ブレイク・スター」で
複数回投げ地面に叩きつける

一般人と仲間ピンチ時は咄嗟の一撃で援護射撃や移動してかばう


ヴァルダ・イシルドゥア
【施療所】
ゴドーさまのお手伝いで病室に

アナリオン、マルクゥさんのそばにいてください
何かあれば一番に知らしめてくれるから
騒ぎを聞きつけたなら
ゴドーさまにお声がけして向かいます

――アナリオン!

堕ちた乙女が矢を番えるよりも早く
芽吹く翠で彼女を拘束
一瞬でも隙を作れば槍を手に、距離を詰めるは容易い
流星槍で応戦、一般人のみなに向いた攻撃を庇うことを最優先に

……ここは、いのちを繋ぎ止める場所です
奪わせません、何一つとて!

戦闘後は施療所のお片付け
きっと、みな怖い思いをしたはずですから
ひとりひとり、ことのはを届けましょう

マルクゥさん、立派におつとめを果たせましたね
……ふふ、ええ
あなたのみちゆきに、幸あらんことを


アンジェリカ・ヘインズビー
市場で斧を持ち暴れているドワーフを発見、…オブリビオンと認識し攻撃を開始します。

まず周囲の人とドワーフの間に割って入り、敵の斧をマジックハンマーで受け止め、周りの人への攻撃を止めます。[武器受け16]
後は隙を見て敵の斧に【軟化薬】を投擲、斧を柔らかくした所に全力でマジックハンマーを叩き込みます。[力溜め17][怪力72]
「…こんな町中でそんなもの振り回さないで下さい


ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

彼らに今を奪わせる訳には行きません。
仕事と行きましょう

診療所を守りましょう
騎士殿には、明日を生きてもらわなければ
入り口で押しとどめたいですね

俺は中距離からの雷属性の霊符で援護攻撃を。
えぇ、任されました。ザハール

戦場で薄着になるとは基徳ですね
貴方があの女性ですか。騎士殿は随分と話してくれましたよ?
えぇ、俺にもね。

煽るように口にして、紫苑の楔を使いましょう
捕われる気分は如何です?

避雷針って…。ザハール、あんたはそういう
ですが効果的なのは認めましょう
ま、後で説教です

盛大に霊符を使い、ザハールのナイフに雷を落としましょう

終われば、街を巡りましょう
…甘いものでも欲しいですね


ユキ・スノーバー
居場所がない人に、当たり前に有ると言える人の言葉は刺さっちゃう

施療所内を看て回ってたけど、敵の襲撃防ぐとなると部屋の前で防衛が一番かな?
通路に居る人を部屋へ避難させつつ、扉付近に盾になるようにバリケード出来そうならしておいて
ちょっと危ない人が居るから、部屋から出ないでねと注意しつつ
病室の窓から侵入してきそうなら、助けを叫んでもらうようにお願いして襲撃を迎え撃つよっ
未来を奪うなんてさせないもんっ!

はいはーい!治療の邪魔しちゃ駄目なんだよーっ?と、避難遅れした人が居たら間に入る様にし
華吹雪で敵との接近戦に持ち込み、部屋に避難するまで惹き付け応戦
完了次第、扉破壊されない様吹雪で雪壁生成して通せんぼっ


鵜飼・章
僕はマルクゥさんの側にいる
必ず帰るって約束したから
皆無事に帰る迄が冒険だ

対峙するのは弓使いかな
マルクゥさんには仲間や遮蔽物の影に隠れるよう指示
僕は弓を殺す為【早業】で敵に接近
多少の傷は承知
【激痛耐性/毒耐性】で耐えられる
悪いね
人の雌には興味ないんだ

弦をメスで切断し攻撃力を奪う
でも僕も良い子には見せられない技ばかり…
闇の賭博王になって華麗に倒すのが一番マシかな

人の心を操るのが楽なんて酷い思い違い
僕は凄く人間を勉強して漸くこれだ
才能あるのに努力しなくて勿体なかったね
必要なら他の敵にも対応

気になるのはゴドーさん
怪しい薬の存在に元冒険者という経歴
悪霊に憑かれたのは…
後で人のいない時にそれとなく話を振る


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として連携

診療所は患者の為の施設だっていうマナーを
しっかり教えてあげましょう

即時にUC「オーバーウォッチ」を発動
施設周辺の視覚共有し(戦闘知識・情報収集)で
内外の不審者探査及び敵近辺に民間人が居ないか
確認し仲間に無線報告

民間人が居る場合は敵に牽制射撃かけつつ
診察室に避難誘導しその後は仲間と連携して
火力で敵を外に押し出す

敵が外でハヤトさんのロボ部隊と接敵したら
指定UCで狼達を召喚。ロボの動きに連携し
交互に襲撃させ狙いを絞れないように攪乱

同時にハヤトさんの動きにあわせ
【スナイパー・援護射撃】で敵の武器を持つ
手・腕と足関節等を狙撃し相手の反撃態勢を崩して
攻撃を支援し戦う。

アドリブ歓迎


玖・珂
帰る場所、迎えてくれる者があるのは幸福な事だ

行商人の様子を確認するため施療所に戻ったが
治療の邪魔になる故、建物の外に居るぞ

敵に合わせたUCの花を咲かせて対応
市場が手薄なら高速移動で馳せよう

戦う術を持たぬ者を庇うよう立ち回り
攻撃は軌道を読み躱すが
回避した際、護衛対象が負傷するなら受け止めるぞ

敵の武器を吹き飛ばす、或いは破壊して攻撃力を削ぐ
隙あらば2回攻撃で追い込もう
お主の冒険は終いだ、結末は私が覚えておこう

心は揺らぎやすく、壊れやすい
だからこそ子の真っ直ぐな心は貴く、……眩いな

戦闘後、力仕事があるなら手伝うぞ

余裕があればゴドー医師に私塾での話を訊いてみようか
マルクゥの参考に……なるかは分からぬが


ザハール・ルゥナー
ルカ(f14895)と
夢破れたものの残滓に今を生きるものを奪わせるわけにはいかぬ。
ここで掃除する。

診療所を守る。
騎士殿の憂いを晴らす糸口を見たのだ。此処で終わらせぬ。
極力入口で止められるといいのだが。

戦闘においては接近戦を担おう。
刃嵐で加速、牽制に斬撃を放ちながら距離を詰め、懐に潜り込む。
ルカ、援護は任せた。

ほう、彼女が騎士殿の言っていた?(首傾げ)
それにしても戦場で薄着となるのは無謀だな?

雨と注ぐ雷の中、私は避雷針のようなもの。
芯に撃ち込まれる雷はなかなか堪えるものだぞ。
ナイフを突き立て、一応離れる。
……なかなか紙一重だ。

終われば、巡れなかった街を見ていく。
説教の前に誤魔化せる菓子を探すか。


アノルルイ・ブラエニオン
施療所
弓使いと対峙

…同族か
だが、立場は違う

まず何かを投げて視線を遮り
弓を射るのを妨害

その後射線を遮り言葉をかけ注意を惹く
「何の用かね、怪我人に弓を向ける同族は初めて見たが」

努力は無意味、楽をするのが一番という

賛同できるか?

確かに苦しいのは嫌いだ
しかし

「私はこれでも日々努力しているぞ
自由である努力をな!
誰の言葉にも流されず生き方を自分で決める…決して楽なことじゃないのさ

それでも私はそうしたい
なぜなら私は吟遊詩人だから!」

「君のことを歌ってやろう…」
即興で「堕落者の歌」をつくる
語ることで敵の攻撃を再現するUC
撃つのは、あえて己の弓で

「堕落者は勝利しない
残酷だが…これが世の中だ」


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動。

岩場で助け出した若者達を搬送して診療所に来た訳ですが・・・SIRDメンバーの連絡によると、どうやら敵は複数、そしてここにも招かれざる客が来たようですね。
他のメンバーと連絡を取って状況を把握しつつ、まずはエルフをマルクゥやゴトー達から引き離すのが先決。G19Cで、エルフに牽制射を加えて注意をこちらに引きつけ、そのまま診療所の外へ誘導し、UCを使用。

当然、建物外というフィールドならエルフは得意の弓を使用してくるでしょうけど・・・こちらにとっても都合がいいですね。何故なら、私がこれから召喚するのは、室内では不都合であり、また普通の人間は目にしない方がいい存在ですから。


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆さんと行動

おや、何やら騒ぎが起きてる模様ですねぇ。
情報を総合すると、どうやら町の各所で暴れ回ってる輩がいる模様ですね。
一般人にも危害を加えてる模様。これは看過できませんねぇ。

とゆー訳で、わたくしは市場に向かいます。
目標を発見したら、まずは警告を発します。一応、手順として踏むべきですよね?

(機械的な平坦な声で)「警告します。あなたの行いは重大な傷害及び器物破損に該当します。直ちに行動を止めなさい。警告に従わなかった場合、実力で排除します」
まぁもっとも、素直に聞くとは思えませんけどね。
戦闘自体は一般人の保護に重点を起き、UCなどで相手の攻撃を無力化。後は、他の猟兵の方に期待しましょう。



●市場・1
 悲鳴は物が壊れる音に似ている。
 『日常』が、『平穏』が壊れる音。
 ぱりん、と陶磁器類の割れる高い音がつぎつぎと続く。物騒な破壊音をまとめあげるのは、誰かの悲鳴だ。
 咄嗟に、機敏に動くことのできた商人たちの何人かは、物影に隠れる。

雑貨屋は、日差し除けの街路樹の影に飛びこんだ。
隠れて、息を殺して。自分の身の安全を計ってからようやく音の源を探った。
「ひぃぃあぁ!」
 悲鳴の在り処はすぐにわかった。女性だ。
 両の拳を口元にあて、あらんかぎりの金きり声をあげている。見開かれた目は、ひたと広場の中央付近に向けられている。
逃げ遅れた人々は、彼女の視線を一緒になって追いかけた。
 視線の着地点は斧だった。剣呑な白い光を放つ斧。
ドワーフの戦士が身の丈近くある斧を振りかぶっていた。

 ……フードの男は、そのドワーフの戦士に見覚えがあった。
 自分に謀を囁きかけてきたエルフ女の連れの1人だ。ぎらついた目をして、招き入れられた部屋の調度や、壁にかかった武具を無遠慮に品定めしていた。
 そのぎらついた目が――理性を失った、血走った眼が、間近にある。
 ごつい手が握りしめた斧に装飾は無いが、その刃は幾多の宝飾品を集めたよりも強い輝きを放っている。
 一直線に向かってくる。
 ……避けられない。
 だが、轟音は身動きできぬフードの男の耳元をかすめて通り過ぎた。
 彼を『フードの男』たらしめていたフードだけが切り裂かれてどこかへいった。
 もはや識別記号を喪った男の袖を、強い力が引き倒していた。
 見れば、彼の手下の小男が……自分を真似てフードを着用した小男が、自分と一緒に地面に倒れ伏している。
「アニキィ……!」
 小男は喘ぎながら立ち上がる。ドワーフの戦士が彼を睨み付ける。
 2人は総毛だった。斧という武器が持つその気配、その重量、それだけで身がすくんだ。
 再度、斧が振りかぶられる。別の誰かの悲鳴が遠ざかる。
 誰もが終わりだと思った。
 その白刃の正面に、滑り込む人影を見るまでは。

●市場・2
 少女だ。小柄で動きは俊敏、一瞬こちらを見やった瞳は、生き生きとした焦げ茶色。
 わずかの緊張が窺えたとしても、少女は気負いない風に斧に対して軽く両手を拡げて……片頬だけで笑って見せた。
 斧が、少女の肩口を粉砕する!
「ひぃっ!」
 フードの小男は我が事のように声を上げてしまった。
 だが。
「!?」
 ぱらぱらと、パズルのピースのように少女の肩口がばらけていく。斧の切っ先はばらけたピースの向こう側に。目的を失った斧の力に振り回され、ドワーフは大きくたたらを踏んだ。
 ピースはぱたぱたと再構成され、いつしか少女――木鳩・基の身体は元通り、傷一つ、血一滴たりとも零れていない。
「どうよ? ビビった?」
 どん!と斧の横合いから体をぶつけてドワーフの身体を押しやる。
 鎧に包まれた体が倒れ込んだ先から、がらがらがっしゃん!と金物類が地面に墜ちる音が派手に響いた。
 基は倒れたままのフードの男……(既にフードを失った男に対してその呼び名はふさわしくないのだが)……の首根っこを掴んで移動させる。
「……うん、私もビビってる」
 鍋や釡を押しのけて、ドワーフが立ち上がる。ゆっくりと斧を構え、抜け目なく基と周囲に視線を走らせる。
 見慣れぬ妙技に用心している風だった。基はそこから目を離さない。斧の一撃を無効化したUC『ブレイクスルー』は毎回必ず成功するという訳ではない。
(「……マズいな、これ」)
 戦闘力に関してではない。戦場がいかにもまずい。
 まだ沢山の人々が、動けないでいる。
緊迫の時間を、機械的で平坦な声が破った。
「警告します」
 ドワーフの血走った目が、市場の入り口近くの屋台の影に佇む金属製の人影……ラムダ・マルチパーパスを探り当てる。
「あなたの行いは重大な傷害及び器物破損に該当します。直ちに行動を止めなさい」
 ラムダの背後には、四つん這いで逃げていく商人一家がいた。彼らの姿を隠すように、無造作にラムダは敵の前に立つ。
 猟兵には、ドワーフの戦士がオブリビオンであることが明確にわかる。
 だけでなく、ラムダの各種センサーは、壊れ、砕かれた数々の物品の詳細を伝えてくる。
 これは『合法的な商業活動を行っている一般人に危害を加えようとする、明らかな違法行為』。
 だとしても。
(「一応、手順は踏むべきですよね?」)
 文字通り機械的に、ラムダは言葉を続けた。
「……警告に従わなかった場合、実力で排除します」
 この非常時に悠長な、とも思えるラムダの警告への答えは、振りかぶった斧で――。
(「まぁ、素直に聞くはずありませんね」)
 ラムダは不動。
 相手の斧をまともに身に受ける。……かに見えた。
『モード・ツィタデレ起動。電磁防御フィールド、出力強化。機体内エネルギーを優先的に供給』
 金属の表面に叩きつけられようとしていた白刃は、激突の瞬間に不可視の力によってはじかれる。
 UC『特火点展開(ワンマン・ピルボックス)』。
ラムダの全身は高密度の電磁防御フィールド展開状態となる。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるのだが……代償に、ラムダ自身は全く動けない。
 ドワーフは一歩下がった。立て続けに自分の斧の攻撃を無効化されたのだ。用心して当然だ。
だが、躊躇はそんなに長くなかった。用心とは、理性のたまもの。理性を吹き飛ばしたドワーフは一瞬の用心をかなぐり捨てて、もう一度今度は別の方向から斧を向ける。
振りかぶって、重力と遠心力で威力を高めて――。
「!?」
 がくん、と斧が動きを止める。
その柄に、一筋のロープが巻き付いていた。
不敵な笑みが基の顔に浮かぶ。
街路樹の幹をも巻き込んだロープの先端のもう一方は、基の手の中に握りこまれている。
 基のロープワークによって、ドワーフは一時、斧を上げることも下げることも完全にできなくなっていた。
「皆、今のうちだ! 早く逃げて!」
 基の避難の呼び掛けに、固まっていた人々がわっと動き出す。
 ラムダは市場からの避難路を確保するように、幾つかある市場の出口近くに陣取った。その出口の先には、たしか施療所があるはずだった。
 ドワーフの戦士は、ちりぢりに駆けていく人々の背中から目を離す。
 ……狙いは定まったらしい。
 いったん斧から手を離し、ぴんと張った基のロープをたわませ、即座に持ち替える。
 地面に落ちるロープを、基はしゅるん、と回収した。
「……宝は、すべておれのものだ」
 睨み付ける基の足元には、まだフードに縁ある大小の男2人が転がっている。
(「さて」)
 ラムダは思案する。攻撃をうけとめるなら幾らでも出来そうだが、攻撃の一手には欠ける。
(「そうですね、後は……他の猟兵の方に期待しましょう。きっとすぐ……」)
 ドワーフは基と、その足元の男たちに向かって突進する!
「ひっ!?」
 悲鳴をあげる男2人とは真逆に、ラムダは納得の念と共に頷いていた。
(「――ほら」)
 凶刃の前に、新たに少女が……アンジェリカ・ヘインズビー(寡黙でサイボーグなバーバリアン少女・f11144)が、ひらりと割り込んでくる。

●市場・3
「罪のないひとびとにこの振る舞い……まちがいなくオブリビオンと認識します」
 生真面目に告げて、がっきと自分の得物のマジックハンマーで斧を押し留める。
 ぐぐぐ、と拮抗する力に、アンジェリカはほんの少しだけ眉をひそめた。
 案じたのは自分ではない。
「……こんな町中で、そんなもの、」
 えいっと石畳を踏みしめ、ドワーフよりも重心を低くする。
「振り回さないで下さい!」
 真正面からの力比べに打ち勝って、アンジェリカはドワーフを弾き飛ばす!
 どこかの屋台に乗り上げたのだろう、ドワーフは派手な音を立てて転がっていく。
「よし、今だよ、おばあさん」
 基は、石畳の上で動けないでいる老婆を抱え、出口の方に送り出してやる。老婆が抱えた籠の中から、干した果物が盛大に零れ落ちるのを少し残念に思いつつ、基は油断なく戦闘を注視している。
ドワーフは守勢だった。
 市場の端まで追いやられ、住宅の壁を背に、アンジェリカのマジックハンマーの打撃をなんとか斧で押し留めている。
 アンジェリカはドワーフに向かって、小瓶のようなものを投げつけていた。何個かは命中し、何個かは避けられて地面に落ちる。
 何度か打ち合って、反転の機をうかがうドワーフの背が、壁以外の障害物にぶつかってよろめいた。
 振り向いた先には機械の身体がある。
 不動のままのラムダだ。いつのまにかドワーフは市場の出口まで来ていた。
 ラムダの姿と自分の位置に、ドワーフが「これはまずい」と焦ったのか見て取れた。
それが隙を生んだのか……ドワーフは、斧を持つ手を振り上げるでもなく、防御の体勢になるでもない、実に中途半端な状態になっていた。
 すかさずアンジェリカは奥の手を投擲する。
 ドワーフはとっさに斧を身体の前にかざしていた。遅ればせの防御態勢は、この場合かなりの悪手となった。
 かしゃん!
投げつけられた小瓶はあえなく割れる。ここまでは今までと同じ。
だが薬には、効果をあらわす用量というものがあるのだ。
「なに……!?」
 ドワーフはうめいた。
 手の中の斧が、くにゃりとその金属の特質を失っていく。
 アンジェリカは無表情のままだったが、跳ねるような動きが微妙な内心の動きをあらわしていた。【軟化薬】の効果はてきめんだ!
「街中で、その斧は硬すぎです」
 頭上で一度回転させて――アンジェリカは、マジックハンマーを慣性の力と共にドワーフに叩きつける。
 斧は、もう護りの武器足りえない。やわらかくたわんだ斧ごと衝撃がドワーフの胴体を襲う。
「これくらいの固さで丁度いいです」
 観客たちは皆、終わりを予測した。
 呆然とした表情のドワーフと、マジックハンマーを振り上げるアンジェリカと。
 しかしここでまたも舞台は転調する。
 はっ、と何かに気付いたアンジェリカは、攻撃態勢のまま地面に自ら倒れ込んだ。
 ―――ヴンッ!
 それまでアンジェリカの頭部があった箇所を、厚みのある衝撃波が通り過ぎていく。
 ガッ!と石壁をえぐる音が続く。盾だ。重く分厚い盾。
 基とラムダが振り向いた先、市場につながる別の入り口のそばで、剣士と思しき男が投擲姿勢のまま冷たい目でこちらを睨み付けていた。

●市場・4
 盾の狙いを外した剣士は、気にした風もなく残るただひとつの武器を構えてこちらに向かってくる。
(「まずい」)
 それはその場の猟兵たちに共通の思いだった。そこにはまだ、逃げていない一般の人たちがいる。
 例えば、そう、樹の影に隠れていた雑貨屋であるとか。
 剣士はそれが最初からの目的であったかのように樹に向かって剣を振るった。
 間一髪で、雑貨屋は樹の影から飛び出した。ザリザリザリ、と樹が倒れて枝がさまざまなものを引っ掻く音がした。
 石畳の上に転がった雑貨屋は起き上がろうとして、次の瞬間足に鋭い痛みを感じて再び屈みこむ。
 顔だけ上げた先に、剣士の顔が恐ろしいほど間近に見えた。
 ……猟兵たちから「この旅は危険なものになるかもしれない」とは聞いていた。だがこんな街中で、昼日中に。「まさか」という思いは、ここまできてもまだあった。
 剣士の表情は面のようにぴくりともしない。人に剣を向けること、刃を突き立てることに心動いたりしないのだろう。
(「こういう風に人は死んでいくのか」)
 雑貨屋が思った、そのとき。
 絶望を、諦念を吹き去る風がやってくる。
「―――無事か?」
 その風の色を問うなら白だ。
 最後の一歩は跳躍で、剣戟を弾く爪は黒い。
 ちら、と雑貨屋の驚いた顔を確認して、玖珂は着地の片足を軸にくるりと身を翻す。見る者の目に、それは戦場に白い花を咲かせたように映った。
 体勢を整え、玖珂は剣士の前進を遮る。
「戦う術を持たぬ者に対して躊躇いなく剣を向けるその行い。見過ごしはせぬぞ」
 剣士の剣先はほんのわずか揺れた。
 ゆらぎは誘いだ。
 次の瞬間には、凶刃がこちらを――玖珂ではなく、玖珂が背にする無力な雑貨屋めがけて放たれる。
 一撃は黒爪で弾き、二撃は躱した。雑貨屋への攻撃にはあえて玖珂自身の身を晒す。
 相手は標的を変えない。その徹底した戦い方に、歪んだ執着に、玖珂は何か思わないでもなかった。なかったが……そこに思いを馳せるのは、相手を倒してからでいい。

●市場・5
 新手の敵が登場しても、ドワーフから注意を逸らす者はこの場にいなかった。
 無力化された斧は軟体動物のようでも、使い手のドワーフはまだ頑健で、闘志も、憎しみも消えてはいなかったから。
 盾を避けるために倒れ込んだアンジェリカは、石畳の上をそのまま転がってドワーフの素手の一撃を避ける。
 すかさずラムダが走りこんで壁を作る。無防備に見えて、それがラムダの技を無効化する体勢なのだとドワーフはもう知っている。舌打ちしそうな顔で、ラムダから退いた。
 攻めあぐね、逃げるという手にも出られず、ドワーフは3人の猟兵たちの輪の中に足止めされる。
 基は一見何もしていない風に見えた。そかし基はある確かな意図をもって、視線をドワーフに固定していた。
 ……ようやくドワーフは次の一手を思いついた。
 くにゃくにゃの斧を、それでも鞭のように使おうというのか。再度手に掴んだ斧を、ドワーフは高く振り上げる。なるほど、ドワーフの膂力を持ってしてなら、新たな武器となりえたかもしれなかった。
 その腕が無事であるなら。
 ――ぶらん。
 突然、ドワーフの身体までも先ほどのアンジェリカの技を受けたように、芯を失った。
 斧だけでなく、腕が骨を失ったように垂れ下がる。ドワーフの瞳がぐるり、と一回転して白目になる。表情は完全な空白だった。
 その目尻から赤いものが流れていく。脚腰も力を喪う。身はくずおれて、その拍子に鎧が石畳にぶつかり耳障りな音を立てた。
 ……ドワーフは、最後まで己の身に何が起こったのか理解することはなかった。
 【SIRD】の面々にはわかっていた。
 広場に近い、施療所の屋根の上。
 灯璃は狙撃銃の銃口を市場に向け、腹這いの姿勢でいた。
 頭上高くにはハヤトが飛ばしたファルコン・フォースたちがいる。敵の位置を複数角度からとらえ、灯璃にリアルタイムで伝えてくれている。
 さらには、同じ【SIRD】の基の視界をUC【Overwatch(オーバーウォッチ)】で拝借して、ドワーフの動きも子細に把握できた。
 それが、『肘から肩に抜ける精緻な角度で』『鎧の隙間から運動中枢を破壊する』狙撃という神業を可能にしたのだ。
 灯璃は基の目から、市場の人も物も何一つ傷つけていないことを確認する。一度静かにまばたきをして、灯璃は同旅団の面々に無線で成功と礼を伝えた。
 ……【SIRD】内で確認したことがある。
 それはこのミッションの本質が『護衛』だということ。
 時が経つにつれ護衛対象の数が加速度的に増えていく、という問題はあったが、やることに変わりはないのだった。

●市場・6
 ドワーフの最後は剣士にも、剣士と対峙する玖珂にも見えていた。
 攻撃の応酬の最中だ。剣士は顔色ひとつ変えない。
 ただ狙撃の危険性を知り、樹や屋台に隠れる位置に移動する。
 一度体勢を立て直し、そして剣士はそこから強烈な斬撃を繰りだすべく一歩大きく踏み込もうとした。
 そしてばっと横に避ける。
 剣士の背後で。
 相手の頭部を掴み損ねた手を握りしめ、ケイが不敵に笑っていた。
「ようやく追いついたぜ」
 剣士は酒場からここに至るまで、手当たり次第に人や物に斬りつけていった。軽傷とはいえ手傷を負った者にすばやく応急手当を施しつつ剣士を追いかけ、ケイはここでようやく元凶に辿り着いたのだ。
「仲間を助けるなんて馬鹿馬鹿しいんじゃなかったのか?」
 くい、と倒れたドワーフを指で示すケイに、初めて剣士の表情が動いた。
「…………誰が、あいつの手助けなど!」
 突き出された剣先に、激しさはあっても正確さはない。ケイは易々とその動きを見切った。足元は動かず、身の動きだけで躱す。
「言ってることとやってることがちぐはぐだ」
 無為となった一撃に引きずられる剣士にそう言い捨て、ケイはその懐から相手の身体すれすれを移動し、背中を取る。
「だから――」
 言い置いて、ケイは剣士の胴を後ろからがっちりと掴む。そのまま思い切り身を反らせる!
「――お前みたいなヤツは、早死にするのがオチさ!」
 UC『ブレイク・スター』。早い話がバックドロップ、ただし、これ以上なく強烈な。
 むきだしの石畳に、剣士の頭部が叩きつけられる。
 砕けた石畳の破片が宙を舞った。
「ぐ……うっ……」
 すかさずケイは剣士の手元から剣を蹴り飛ばす。剣士の顔が歪む。剣に伸ばされた手を、ケイは踵で踏みつけた。
 屈みこみ、膝をつく剣士の首元に、ひたりと黒く鋭い爪が添えられる。
「お主の冒険は終いだ」
 玖珂の目に、既に藍色の花は無い。先程のケイの技で剣士が瀕死なのだとわかっていた。花を咲かさずとも事足りる。
「……結末は、私が覚えておこう」
 何か訴えたいように開いた口。見開かれた目。剣士の脳裏に、最後に去来するものは何だったか――。
 漏出した過去は変化しない。おそらくずっと「こんなはずではなかった」と思い続けていた。最後まで、ずっと。
 そのどうしようもない妄念を、玖珂は骸の海に送り返す。
 骸は瞬時にヒトガタの塵と化し、『砂の街』の風に吹かれてちりぢりになって――消えうせた。

●市場・7
「危険人物は退去しました。皆さん、もう大丈夫です」
 ラムダはざっくりと状況を説明した。この場合は要点だけ伝わればよいのだ。
 アンジェリカは己の衣服に付いた砂埃をはらった。ついでに倒れた樹の幹や枝を撤去し、傾いた屋台の柱を元に戻す。
 ついでの範疇をはるかに越える働きに、雑貨屋は目を丸くした。
 そんな雑貨屋に玖珂は声をかける。
「怪我はないか?」
「腰が抜けそうでしたよ」
 雑貨屋は玖珂に手を貸してもらって立ち上がる。
「せっかくの市が台無しになってしまったな」
「なに、きっと皆すぐに戻ってきます。全財産を置いて逃げてしまったようなものですから」
 その言葉の正しさを証明するかのように、市場の出入り口から、また今まで身動きせず隠れていた人々が恐る恐る姿を現しはじめる。
 ふと違和感を感じ、ラムダは自分の足元を見下ろした。
 「おや?」と声が漏れる。
 ラムダの股下で、子猫が3匹、身を寄せ合いながら目を丸くしてラムダを見上げていた。
 騒ぎの中、動かないラムダを生き物とは思わず、『安全な隠れ家』と見て、じっと隠れていたのだろう。
 ラムダが移動すると、子猫たちは一列になってとことこと後をついてくる。
 基はぷっと噴き出した。
「砂がじゃりじゃりしそうだって、気にしていたみたいだけど。猫の毛はどう? 気になる?」
「……この程度はどうということはありません」
 微笑ましい光景に笑顔のまま、基はさっとフードの男のフード(いつの間にか被り直していたようだ)を引っ掴んだ。
「ほのぼのな雰囲気に紛れて逃げようってつもり? そうはいかないよ。岩山のことから何から、全部話してもらうから」
 アニキィ、と情けない声で近づいてくる小男も含めて、まとめて縛るロープの長さはどれくらいかな、と基は心の中で考えていた。
 そんな、一段落ついた風のある市場から、玖珂は雑貨屋にひとこと告げて施療所へと急ぐ。雑貨屋の表情が固くなる。
「施療所のマルクゥが心配だ」
 その言葉に、この旅に猟兵が加わったそもそもの理由を思い出したのだ。
 玖珂が市場が手薄と見てこちらに駆け付けた、その判断はけして間違いではない。むしろ正解だ。
 だが施療所での戦闘は未だ終わっていない。むしろこれからだった。

●施療所・1
 敵がいる。
 ハヤトのファルコン・フォースも含めて、こちらの『目』はかなり多い。敵の存在は既に感知されていた。
 だがこちらの『守るべき対象』の多さもかなりのものだった。身動きできない重傷者も含めて、施療所内で立ち働く者がどれだけいることか。
 屋根の上で全体の把握に努める灯璃の銃口は、下を向いたままだ。
 敵は、玄関のひさしの下、外に置かれた廃材などの影を素早く移動しているようだ。
 相手は弓使い。飛び道具を使うだけあって、射線を切る位置取りをする。
 そのモットーが如実に見て取れる。
 『強い相手とは戦わない』『無理をしない』……『苦労はしたくない』。
 弓使いは経験から知っているのだ。どんなに強い相手でも、弱くて脆い個所がある。戦いが長引けば、そこからほころびていくのだから、と。
 その敵は、種族を言うならエルフだった。
 美しい髪をなびかせ、森を旅するように施療所の周囲を駆ける。
 弓使いがすべきは、時間を稼いで、脆い個所に近づくこと。
 例えば、そう。施療所の、風通しを良くするために鎧戸を開け放たれ、布一枚だけが内と外とを隔てている窓であるとか。
 弓使いのたおやかな繊手が布を払いのけようと伸ばされ――。
「!?」
 ガチッ、と、固い音がして、弓使いの美しい爪が欠ける。
 指先から伝わってくるのは固さと、冷たさだった。
(「凍っている……」)
 部屋の内側で、「間に合ったーっ!」という安堵の声がした。
 その窓は、重症患者の部屋だ。
 ゴドー医師らが救助された若者を手当てしている。敵襲があるとの報をうけたユキがまっさきに行ったのが、彼らの居場所を安全なものにすることだった。
 通路に居る軽傷の患者や、手伝いの人を部屋へ避難させて、扉を……扉がわりに垂らされた綴れ織りを『固める』。
 えいっとばかりに愛用のアイスピックを振り下ろして、猛吹雪で綴れ織りを即席の氷壁に仕立てあげる。
「ちょっと危ない人が居るから、部屋から出ないでね」
 そう言い置いて、次は向かいの部屋へ……というところで、ユキはばったりと若者と鉢合わせした。さきほどゴドー医師に部屋から追い出された若者だ。
 先を急ぐユキはぴょんぴょん跳ねてアピールした。
「はいはーい! 治療の邪魔しちゃ駄目なんだよーっ?」
「え、いや、その」
 手当を受けている最中の青年がやはり気になるのか。あまりその部屋から離れたくはないようだった。
 ……施療所を十字にはしる長廊下の真ん中だった。
 ユキが来たのは裏口側。若者は玄関側を背にしている。
 そして2人の間をはしるもうひとつの廊下の先。ユキからみて左手の通用口に垂らされた綴れ織りが、ふわりとおおきく揺れる。……ばさりと跳ねのけられる!
 ユキは跳びあがって若者の腰を突き飛ばす。
 しゅっ、と鋭い音がした。
「いてて……? あっ!?」
 若者の身体があった場所に、矢が突き刺さっている。
 矢じりの鋭さ、飛んできた勢いを示すように尾羽の大きく震えるさまに、若者の顔にさあっと恐怖の色が刷かれる。
「なんで、施療所のなかに、なんで矢が」
「伏せてっ!」
 ユキがちいさな身体ごと飛び乗って、若者の頭を下げさせる。
 パキン、しゅっ、ばしゅん!
 若者が今まで聞いたこともないような音が立て続けに響く。
 そして、低くゆるやかなこれは……歌?
 顔を上げようとした若者は、白いユキの身体越しに、はためく衣服の色を見た。
 濃い赤系統だ。衣服の主が動くにつれ、たくさんのアクセサリーがじゃらん、と鳴った。

●施療所・2
 射線を遮るように廊下の中央に立ち塞がって、アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)は彫刻のように秀麗な眉をひそめた。
「………同族か」
 アノルルイがつがえる矢もまた、鮮やかな色合いの羽根があしらわれている。
『あの矢で、敵の矢を撃ち落したんだよっ』
 こっそりとユキが若者に耳打ちしてくれる。
 敵、と若者は呟く。
 通用口のむこうに誰かがいる。ゆれる垂れ布の端に人影が落ちている。警戒してか、まだ中に入って来てはいない。
「あら、同族ね」
 外から掛かってきたのは、ものやわらかな女性の声だった。
「同族はひさしぶりよ」
「同族だ。だが、立場は違う」
 アノルルイは油断なく状況を判断した。
 敵は1人だ。戦闘力は恐れるに値しない。だがこちらは、何ひとつとして傷つけられてはいけないのだ。
「施療所に何の用かね。怪我人に弓を向ける同族は初めて見たが」
「そう? わたくしはよく怪我人に弓を向けるわ。怪我人は身動きしないから。よく矢があたるの」
 ゆっくりと垂れ布が引き上げられる。
「……何事も、楽なほうが良いと思わない?」
 隙間からのぞくのは、細く美しい指だった。
 アノルルイは自然な動きでユキが凍らせた布を通用口に向かって投げた。
(「努力は無意味、楽をするのが一番という。賛同できるか?」)
 内心で自分自身に問う。答えは意外とすぐに出た。
「確かに、苦しいのは嫌いだ」
 凍った布が射抜かれる。
「……しかし。私はこれでも日々努力しているぞ。自由である努力をな!」
 アノルルイの唇から即興歌が紡がれる。
 弓を構え矢を放つ。若者には知る由もなかったが、外の弓使いの動きを寸分たがわず再現したものだった。
 アノルルイのUCは語ることで敵の攻撃を再現する。アノルルイは、あえて己の弓でそれを為していた。
 矢と矢が空中でぶつかる。対消滅する。
 矢という実存在は消えたりしない、破片が飛び散り、欠片が細かな廊下に、床に、いくつもの傷を生んだ。
 だが若者は無事だ。頭部はユキにしっかり守られ、全身はアノルルイによって敵の攻撃から遮られている。
「……自由?」
 弓使いが皮肉げに声を掛ける。矢はもう飛んで来ない。
「その言葉が好きなひとって多いわよね。自由に生きる、って言っておけば、とりあえず許されるものね」
「誰の言葉にも流されず生き方を自分で決める……決して楽なことじゃないのさ」
 歌の援護なく、再現ではなくアノルルイは自分の決めた一矢を敵影に向ける。
「それでも私はそうしたい。なぜなら私は吟遊詩人だから!」
 放たれた矢は垂れ布の向こうに消えていく。影はもうない。
 ユキはぱっと立ち上がった。
「……襲撃なんだよーっ!」
 大きな声で施療所中に呼びかけて、ユキは通用口へと駆ける。
 揺れる垂れ布に、ユキはまた、アイスピックを振り下ろす!
「未来を奪うなんてさせないもんっ!」
 吹雪は念入りに、通用口に垂らされた布は雪壁となって固まる。
「うんっ、これで通せんぼっ」
 とりあえず、今はこれが精いっぱい。そしてこれで充分だった。

●施療所・3
 弓使いは不快げな表情を隠さない。
 もともと我慢は得意ではない。
 通用口も、窓も、このぶんでは裏口も、氷の壁で固められているだろう。
 本気で破ろうと思えば出来ないことはない。だがそのために弓を構え強く引き絞るとなると、一瞬だが立ち止まる必要がある。そうすると……。
(「ちっ。また来た」)
 すかさずハヤトのファルコンたちがまわりこんでくる。
(「いったい何体いるの……」)
 小窓から離れ、弓使いは別の侵入口を探す。
 生垣を抜けて、そこで彼女は格好の獲物の群れを見つけた。
「?」
「どうした?」
 ゴドーに一喝されて施療所内から追い出された、蛮族の戦士たちだ。
 通用口から裏庭に続く菜園のそばで、所在無げに顔を突き合わせていた。
「お姉ちゃんも怪我人かい?」
「今、ちょっと忙しいみたいだぜ」
 皆、気取らない普通の口調だった。いつもの時代がかった口ぶりがわざとなのがよくわかる。
 組み易しと見て、弓使いは微笑した。弓矢は強力だが彼女の最大の武器ではない。
 笑顔。素肌。言葉。それによって相手を操ることこそ彼女の本領だ。
 だが、弓使いが何かを言うより早く、ハヤトのファルコンたちがやってくる。
(「うるさい蠅!」)
 一瞬鬼の形相を見せ、弓使いはファルコン・フォースに矢をつがえる。
 その腕に、大きな咢が食らいつく!
 黒い霧から生まれた影の如き狼たち。灯璃のUC『Schwarzwald Wolfsschanze(シュヴァルツヴァルト・ヴォルフスシャンツェ)』。
「あぁっ!」
 悲鳴は悲嘆にくれる姫君のようであっても、憎々しげに睨み付けてくる瞳は悪鬼のそれだった。
 施療所の屋根の上から、灯璃は黒い霧から生じた獣たちに指令を飛ばす。
『Sammeln! Praesentiert das Gewehr! ………仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!』
 蛮族の男たちは狼狽えた。一見するとかよわい美女が恐ろしい野獣に襲われている状況にしか見えない。「今助けるぞ!」と武器を手に救助に向かおうとする。
「違えよ」
 彼らの眼前に、ハヤトが宇宙バイクの機体の横腹を見せて下りてくる。機体で視線を遮り、面倒な弓使いの誘惑の技を未然に防ぐ。
「こいつがお前らの大将を襲ったヤツの仲間だ、敵だ!」
「えぇ……?」
「よく見ろ、あれが普通に見えるか?」
 頃合いをみて、ハヤトは宙に浮かぶ。
 蛮族たちの目の前にあるのは、矢を直接握りしめ、己の腕に牙を立てる狼の目に突き立てる弓使いの姿だ。
 ドン引き状態の彼らに頷いて、ハヤトはファルコン・スターを増援に出す。
 ほうほうの体で、弓使いは狼からもロボからも逃げて行く。その逃げ足の速さは見事なものと言ってよい。
「……ま、俺は俺のやれることをするさ」
 灯璃とハヤトは揃って蛮族の戦士たちを見る。
 「見たかあれ!」「こっわー!」「可愛い顔してあんなの反則だ」……実に、好き勝手に騒いでいる。
 灯璃は人差し指を口元にあてた。
「施療所は患者のための場所です。『お静かに』」
 蛮族の男たちは一斉に口をつぐむ。彼らにもそういった知識はあるのだった。

●施療所・4
 腕を負傷した弓使いが逃げ込んだのは、馬小屋の前。
 そこには、馬の主である騎士が佇んでいた。
「誰だ!」
 不穏な気配を察して腰の剣に手をやったのは、さすがに騎士というところか。
 愛馬も慣れたもので、いななきはしない。ただ腹が激しく上下して、息が早くなっているのが見て取れた。
 弓使いは嫣然と嗤った。
 ゆっくりとその身を晒す。
 笑顔を向けられた騎士は、あからさまに身を強張らせた。
 既に弓使いの術中にはない。だが、一度はその笑みの為に堕ちた。記憶はまだ鮮明だった。
「ああ。騎士様」
 しなを作り、繊手で自分の首元をおおって、ゆっくりと弓使いは近づいてくる。
「やはり、貴方様はわたくしの味方。貴方様だけが」
 するりと手をほどくと、不思議なことに弓使いの上着もするりと脱げた。
 はらり、と肩口がずりおちる。
 騎士の頭がくらり、と揺れた。腰の剣を抜こうとしたはずの手はおぼつかなく、魅入られたように下がっていく。
 ヒヒン!と、愛馬が初めて高くいなないた。
「本当に賢い馬だ」
 ぎっ、と弓使いがきつい視線を送ってくる。
 玄関側からまっすぐ馬小屋へとやって来て、ザハールとルカは悠然と弓使いと対峙した。
「ところで騎士殿。彼女のことをご存じなのかな?」
「あ、ああ……!」
 まさしく騎士は目が覚めたようだった。
「あの……彼女は、お話した例の」
「ほう、彼女が騎士殿の言っていた、例の?」
 あらためてザハールは弓使いを見やる。そしてわかりやすく首を傾げてみせた。
「なるほど。に、しても……戦場で薄着となるのは無謀だな?」
「というより、奇特ですね」
 一言の元に切り捨てるルカを、弓使いは一層憎々しげな視線で刺した。
 それをルカはそよ風のように受け流す。
「騎士殿も落ち着いて考えてみれば、おかしいとわかるでしょう?」
「あ、ああ……」
 弓使いの誘惑の術を、『理に合わない突然の脱衣』であると解説され、騎士は頭を冷やされたようだった。
 そんな騎士を引き留めようと、弓使いはけなげな声で縋った。
「ああ、騎士様! なぜこのような者らの言葉を信じ、わたくしを遠ざけられようとするのですか? こんな、わたくしたちのことなど何も知らぬ者たちに」
「え? 騎士殿は随分と話してくれましたよ?」
 しらじらと言って、ルカは薄く嗤った。
「心の内を、己の恥も含めて打ち明けてくれました。そんな素晴らしい騎士殿を、まさか自分の都合で動かそうなんて、ありえませんよね」
 弓使いの顔から表情が消えた。
 心惑わすための繊手が背中の矢をさっと取り出す。誘惑の手段としてはだけられた胸元に特に注意も払わず、矢を弓につがえて弦を引き絞る。
 騎士の愛馬の呼吸が激しくなる。戦場を駆ける馬らしく、危機を察して、主人を守りに行こうというのか。馬と騎士とを優しく見やって、ザハールは弓使いに告げる。
「騎士殿が自ら憂いを晴らす糸口を見たのだ。その場に居合わせた者として、此処で終わらせる訳にはいかぬ」
「騎士殿、こちらへ」
 ルカは騎士を小屋の裏手に導く。
「すまない、やはりどうしても、彼女とは戦えない……!」
「それを臆病だとは思いませんよ」
 それが偽りであったとしても。騎士には確かに、彼女を愛しんだ時があったのだから。
「夢破れたものの残滓に、今を生きるものを奪わせぬ」
「ええ」
 ザハールの言葉にルカは頷く。
 確かに、騎士は誘惑に弱い。
 だが騎士は、弱い自分から目を逸らしはしなかった。堕落した自分を受けとめ、恥じ、過去のものとすることができた。その強さこそ、堕落者たちには持つことが出来なかったもの。
「騎士殿には、明日を生きてもらわなければ」
 戦場と言っても、所詮は施療所の庭。
 弓使いには戦いにくい場所だった。
 最初の一矢を外せば、二矢をつがえる前に眼前にザハールが迫っているのだから。
「ここで掃除する」
 『刃嵐(ブーリァ)』。風がザハールの背を足を押しだす。
 無防備な懐に入られ、弓使いはまた手にした矢を直にザハールの顔面に押しこもうとする。
 素早く身を躱す。
 なるほど、素早さも彼の女の武器のひとつか。
 一歩ごとに迫る矢を舞踏のような身のこなしで躱していく。さすがに連撃を躱し続けるのは骨が折れる。
「ルカ! 援護は任せた」
「任されました」
 ピシャアァァァァン!
 軽く請け負ったルカが放った霊符は蒼き雷を生み出し、場に拡散する。
 ザハールを狙った矢は雷撃に触れた瞬間に消し炭になった。
 守勢にまわった弓使いに、今度はザハールがナイフの刃を向ける。周囲には蒼の稲光が満ち、だがけしてザハールに触れようとはしない。
「私は避雷針のようなものだな」
「避雷針って……」
 ふたたび高速移動。ザハールは雷光のまぶしさに目を細める弓使いの肩口に、すとんとナイフの刃を突き立てていた。
 同時に、ザハールの肩からも矢が生えている。
 尾羽は稲妻で焼け落ちて、残る矢尻をこともなげにザハールは抜き取った。
「また……ザハール、あんたはそういう」
 ルカの言葉は途中で途切れる。見ているのは敵に突き刺さったザハールのナイフ。効果的なのは認めざるを得ない。
(「ま、後で説教です」)
「芯に撃ち込まれる雷はなかなか堪えるものだぞ」
 予告するザハールの声を遠くに聞いて――。
 弓使いの胸もとに、恐るべき雷が撃ち落される。
「ぎゃああああぁ!」
 美しかった胸元は黒く焦げ、髪の毛先からちりちりと焼かれていく。
 余波を浴びたザハールの肌もわずかなしびれを伝えてきていた。
「……なかなか紙一重だ」
 弓使いは逃げる。
 無理をしないのがモットーらしいが、無理をしてもどうにもならない場面に追い込まれたらどうするつもりなのだろう。
 ザハールとルカは、騎士とその愛馬の護りにつく。

●施療所・5
 ……こんなはずではなかった。
 数えきれないほど繰り返した言葉だ。繰り返し過ぎて、言ったそばから意識から零れて記憶から消えていく。
 かつて自分は、もっと美しかったのではなかったか。
 もっと狡猾で、堂々としていなかったか?
 片腕をだらりと下げ、焦げた胸元をそのままに、弓使いがやってきたのは裏庭の奥。
 水を吐きだす壁泉。
 そこに、マルクゥがいた。
 くもりのない、ぴかぴかの、汚れない子どもがいた。

 子どもは手に、赤黒く染まった布切れや、空になった水桶を抱えていた。
 施療所は、いちど重症患者の手当てとなると、そこで人が爆発したのかとおもうほど床が血まみれになる。それをきれいに掃除するのも大事な役目だ。
 空になった桶を水で満たすために、裏庭の壁泉までやってきたのだろう。
 ごく当然の理由で子どもはそこにいた。
 猟兵が護りたいと思うものは、弓使いが消し去りたいと思うもの。
 無垢なる者、堕落者たちが最も憎しみ恐れる者。
 ……それは、「かつて、確かに自分たちもそうだった」と思い出させてしまうから。
 体をむしばむ苦痛よりも心の苦痛が弓使いの顔を歪ませる。
 憎しみではない、苦悶の相貌。
 マルクゥが見たのは、そんな顔だった。

「嫌な子」
 ぽつりと弓使いは呟いた。マルクゥはびくりと身をすくませる。
「わたしとお前と、どう違うの」
「え……」
 弓使いはふらふらとした足取りで子どもに近づく。
 蛇に睨まれた蛙のように、マルクゥの足は動かなくなってしまったようだった。
「守られて。大切にされて。愛されて。わたしもそうだった。何が違うの。何が違ったの。どこが分岐点なの」
「え、と……おねえさん……?」
「いいえ。きっと同じね。みんな同じ。同じにしてあげるわ」
 たおやかな腕だ。噛み痕が痛々しい。その手がマルクゥの首に向かって伸ばされる……。
「――アナリオン!」
 その名は竜のもの。
 そしてヴァルダが手にする槍のもの。
 どちらも弓使いの片手を弾き飛ばすに足りる鋭さと速さを備えている。この場合は槍だった。
 堕ちた乙女が次の手を取るより早く、ヴァルダは樹木の精を召喚する。
『木々よ、慈しみ深きものたちよ。彼の者を捕らえ給え!』
 芽吹いた翠が、弓使いの四肢を拘束する!
「大丈夫?」
 固まったままのマルクゥの耳が、懐かしい声を捉える。
 ぎこちなく見上げてくる顔はいつもよりずっと蒼褪めている。子どもを抱きかかえ、章はいつもの口調で、それでもほんのすこしだけ優しげに声を掛ける。
「僕はマルクゥさんの側にいる」
 子どもが細かく震えはじめる。息が早い。よほど怖かったのだろう。
「必ず帰るって約束したから。……皆無事に帰る迄が冒険だ」
 章は遮蔽物を探す。――なし! 自分の身の後ろ以外に、子どもを守る場所はないときた。
 多少の傷は承知で自分が壁になることを章は決意した。なに、激痛も毒も、なんとか耐えられるだろう。
「……大事にされているのね」
 甘くて、毒が滴るような声。そんなものがあるのだとマルクゥは知った。
 束縛されたままの弓使いは、言葉だけは滑らかだ。
「それも今だけよ。きっともうすぐお前は大事にしてくれる人を自分から捨てることになるわ。でも気にしないでいいのよ? そういうものなの。みんなそう」
 言葉を武器に人の心を操るらしいと聞いた。
(「人の心を操るのが楽だなんて。きっと才能があるんだろう」)
 自分とは違って。
「努力すればもっと人を自在に動かせたかもしれない。勿体なかったね」
 ぐぐぐ、と弓使いを拘束する翠が伸びた。たわんで、引きちぎられる。
 脱兎のごとく跳んで、獣のような前傾姿勢で獲物を見据える。
 獲物を、マルクゥを。
 子どもを背に、章は悪意の漏出をせき止めにかかる。
「さて。――証明しよう、僕が僕であると」
 UC≪嘘つきのパラドックス≫。
 見かけを裏切る素早さで章は手にしたメスを振るう。狙いは弓使いの弓の弦。す、と虚空に一本を線を引く動作で切断し、攻撃力を奪う。
(「ああ。僕も良い子には見せられない技ばかり……」)
 その隙に、槍を手にしたヴァルダが滑り込んでいる。距離を詰めるのは容易い。まして、最大の武器を失ったばかりの相手だ。
 流星槍で弓使いが背負う矢籠を弾きとばす。もう一般人を襲うことさえ出来まい。
「……ここは、いのちを繋ぎ止める場所です。奪わせません、何一つとて!」
 ふふふ、と弓使いは笑った。
 痛いのは嫌だけれど、怖くなかった。むしろ怖いことを忘れるために、痛みを歓迎することすらあったのだから。
 弓使いは子どもから目を離さない。
 遮ろうとする章やヴァルダを、心底憎らしいと思った。
 その、とき。
「まさに、『招かれざる客』のようですね」
 ネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)だ。
 ネリッサはずっと、【SIRD】の他のメンバーから情報を得ていた。
「ずっと貴女を監視していました」
 呟き、表情。そんなものから、ネリッサは弓使いの目標を推察した。
「あなたの今の環境は、思ったほど良いものではなかったのですね。だから他のひとを道連れにしようとする。あなたのようなひとは、自分が本当に良い環境にいるのなら……他のひとを誘ったりはしませんから」
 後悔しているのだろう。もと居た場所に戻りたいのだろう。それが出来なくて苦しむ。「こんなはずじゃなかった」と繰り返して泣く。
 それが『堕落者たち』の正体だ。
 ネリッサは両手を拡げた。己の魔力が横溢するのがわかった。
 建物の外というフィールドは非常に都合がよかった。弓使いも得意の武器を使ってくると覚悟していたが、仲間たちの連携の妙のおかげで、弓使いは無力化されている。安全に、確実に相手を葬り去ることが出来る。
 ネリッサは章が子どもの目を塞いでいるのを確認した。
(「良かった。私がこれから召喚するのは、室内では不都合であり……また、普通の人間は目にしない方がいい存在ですから」)
『The Unspeakable One,him Who is not to be Named ………』
 詠唱とともに気温が下がり、日が翳る。
 ネリッサのUC、『邪悪なる黄衣の王(ザ・ウィキッド・キング・イン・イエロー)』
 相手の恐怖を、彼は決して見逃さない。
「もう元には戻れない。もと居た場所に帰れない。それが、あなたの恐怖の源」
 弓使いの顔は極限の恐怖を湛え、目と口があり得ないほど大きく開かれる。
 召喚された王は不定形。黄衣を纏った魔王の触手はうねうねうねと広がってそして一か所に収束する。……弓使いの存在を中心にして。
「■■■■―――!!!」
 断末魔と、轟音と。
 どちらも同様に不吉で、おぞましくて、しかし両手でマルクゥの目を塞いでやっている章には、耳を塞いでやることが出来ない。
 だからヴァルダがそれをした。4本の手はそれぞれいい仕事をした。
 やがて、禍々しき音の洪水は去っていく。
 きゅる、と、場違いに高く美しい音がした。
 手を外してもらったマルクゥがぱちくりと瞬きする。
 アノルルイは手にしたリュートを奏でながら、ゆっくりと同族の骸を見やる。
「堕落者は勝利しない。残酷だが……これが世の中だ」
 旋律は明るく、どこか物悲しいものだった。

●ことの終わり・1
「……不思議なこともあるものだ」
 あらためて水を撒いて血の痕を消して、ゴドーは低く呟いた。
 施療所の裏口近くだ。
 もと冒険者だけあってか、ゴドーは「敵は倒しました」と聞くや否や、すぐにその亡骸を確認しようとした。裏口の凍ったままの綴れ織りを「よいしょ」と剥ぎ取り、棍棒を手に出てきた姿は、頼もしいと言えなくもない。
 そのゴドーの目の前で、弓使いの亡骸はほろほろと灰のように砕けていった。
 砕けて、舞い上がり風に流されていく。
 ゴドーが驚いていたとしても、ほんの一瞬のことだった。すぐに周囲に向かって「怪我人はないか」と声をかける。
 敵の亡骸が、ほんの少しのあいだでも残ってくれたことに、猟兵たちは感謝した。
 なにせ、街のひとびとへの説明もゴドーが率先して行ってくれたのだ。
 酒場での騒ぎ。白昼の市場での狼藉。フードの男らの奸計に、岩山に仕掛けられた罠のこと。その他諸々について。
 面倒ごと一切をかぶってくれて、猟兵たちは流石に悪いと思ったのだ。
 責任を感じた猟兵たちの幾人かは施療所の片づけを手伝い、また幾人かは市場の片づけを手伝っていた。

 市場にあらたな動きが起こる。
 『砂の街』に、隊商の第二陣が到着したのだ。
「さっきまで凄かったんだよ!」
「まあ、屋台がおじゃんになったところもあったようだけど。売り物は無事で」
「そりゃよかった」
「これ、その騒ぎでも無事だったんだ。幸運の塊だよ、いっこどうだい?」
 第一陣がさきほど遭遇した騒ぎについてしきりに語り、続けざまにその口で商品を売り込む。
 シナモンの特徴的な香りがして、ザハールは少し足を止めた。
「ふむ。シナモンに加えて、他のスパイスの香りも少しするな。これは何という菓子かな」
 戦いを終えたザハールとルカは、『砂の街』をゆっくり巡っていた。行動は観光客とさほど変わらない。市場での買い物は、狩猟や収穫の楽しみにも似ていた。
「……甘いものが欲しいですね」
「いいな」
 ルカの説教の前に誤魔化せる菓子を探していたザハールは、ルカのリクエストに少し笑みを見せる。甘いものも、そうでないものも、市場ではいくらでも手に入りそうだった。

「灯璃お嬢さん、何か土産でも買っていくかい?」
 宇宙バイクにまたがり、市場を見下ろしたハヤトは、後ろに乗せた灯璃に聞いた。
「特には……。弾薬類の補充はここでは無理ですし」
「だな。新しいフォーメーションのヒントが土産かな」
「そうですね」
 眼下の市場のそこかしこに、見覚えのある顔があった。
 ネリッサは黄金の色をした細い酒瓶を一本胸に抱いていた。
 あれも高そうだな……とハヤトは思うが、この世界の酒の価格帯はわからず、また、帰ってもご相伴に与るれるかどうか。
 アンジェリカは直してあげた屋台がたまたまクルミやアーモンドのペーストを包んで焼いたパイ菓子の店だったので、パイ菓子が山盛りの袋を胸に抱え込んでいる。
 「あんたがいなけりゃうちは丸坊主だったよ!」と女店主に感謝されたが、アンジェリカとしては倒れたものを縦に直したくらいの気でいたので、かなり得した気分だった。
 ラムダは、意図していないだろうがまるで『だるまさんがころんだ』をしているようだった。ラムダが進めば3匹の子猫たちも進む。ラムダが止まって振り返ると子猫たちも動きを止めてそろりとラムダの様子を窺う。
 止まったままでいると、とことことやってきて足にすりよったり体に登ってきたりで、懐かれたというより、動く家だと思われているのかもしれなかった。 

●ことの終わり・2
 マルクゥは、もちろん施療所で手伝いに忙しく立ち働いていた。
 スタタタといつものように駆けていく子どもの背中を視界におさめながら、章は壊れた木箱の破片を拾う。何気ないふうでゴドーに尋ねる。
「……悪霊たちに憑かれた者が街にいる、という噂があったみたいですね」
 マルクゥが部屋を出たので、いまはゴドーと章の2人だけだ。
 明るい日差しが綴れ織りを外した窓から降り注いで、洗い流された床を照らしている。
「ああ……」
 医師は気のない返事をした。かまわず章は続ける。
「実はそれは、『怪しい薬』のせいなんだとか。悪霊よりは真実味があるなあと、僕は思います」
 廊下からは忙しげな足音が、窓の外からはユキの「凍っちゃったものはこっちに持ってきてーっ!」という呼び掛けが響いてくる。
 隣室から漏れ聞こえるのはヴァルダの声だろうか。怖い思いをした患者ひとりひとりの話を聞き、ひとりひとりに安心するような言葉を届けている。
 それでも、部屋の中は奇妙な静けさで満ちていた。
 ゴドーは動きを止めた。その口から、「薬、」という言葉が漏れる。
 章はその様子をじっと窺う。もと冒険者という経歴。薬を扱うことに長けた医師という立場。どうしても、気になるのだ。
 時が止まったような部屋。……そこに、明るい声が掛かる。
「その説明は、こいつらがしてくれるんじゃないかな」
 基だ。ロープで要所を戒められた2人の男を、部屋の中に押しだして、無邪気かつシニカルという絶妙な笑みを見せていた。
 基を見て、そしてその背後を見たゴドーは、思わず声を漏らしていた。
「お前は……!」
 縄をかけられたフードの男たち2人だ。
 その姿に、ゴドーは思い当たるものがあったようだ。
 主犯格のフードの男は、ふてくされたように顔を背ける。基はそれを気にした風もなく、すらすらと自分の口で全て語った。
 曰く、フードの男(小)が、『砂の街』に来た旅人相手にわざといさかいを起こしたこと。
 そして施療所で治療を受ける振りをして、主犯格から指示されていた薬を盗み出したこと。
 薬の在り処を確認できたので、仲間に抱きこんだならず者に諍いを起こさせ、怪我を負った者を施療所に運び込み、隙をみて盗みを働いたこと。
 フードの小男が基に抗議してくる。
「バラさないって言ったから喋ったのに!」
「お喋りの私に吐いたのが悪いよ」
 基の口ぶりはぺろっと舌でも出しそうに悪気がない。
 ゴドーはそれで納得がいったようだった。
「道理で薬の減りが早いと……」
 そしてフードの男たちの顔を見比べる。似たような服装をすれば特徴がなく、身長の差のほか見分ける術がゴドーにはない。印象がかぶって、顔の記憶がごっちゃになる。
 今後はもっと薬の管理に気を付けなければな、と、床に散らばった薬包を拾い集めながら、ゴドーは溜め息をついた。
 一般に、痛み止めの薬は意識を朦朧とさせ、理性の抑えを効かなくなせる。
 どうやら本当にゴドーに裏はないらしい、と章は肩の力を抜いた。
 空気がゆるんだのが契機になったのか。
「ゴドー先生、いますか?」
 マルクゥや片付けが一段落した猟兵らが、ゴドーの確認や指示を求めて一斉に部屋に入って来る。
「……? 何か、お話してたんです?」
 覗きこんでくる小麦色の頭に、ゴドーは「何でもない」と首を振る。基はフードの男たちを別室に押しやった。子どもには不向きな話もある。
 マルクゥはタタタ、と無言の章に近寄った。
「……あのおねえさん。ご病気でした?」
 猟兵たちは顔を見合わせる。
 何を、どこまで話すべきか?
 マルクゥは少し俯き加減で、胸の前で両手の指先をあわせて、言葉を選んで言う。
「心も病気になるって、教えてもらいました」
(「そう。心は揺らぎやすく、壊れやすい」)
 玖珂は微かに目を細める。
(「だからこそこの子の真っ直ぐな心は貴く、……眩いな」)
 マルクゥはとつとつと話し続ける。
「『嫌な子』って、言われました。そんな長いことお話しませんでしたけど。何か、だめなこと言ってしまったんでしょうか。おねえさんが病気になったのは、そのせいなんでしょうか?」
 マルクゥに、ユキも、一所懸命に適切な言葉を探そうとする。
「うーん……居場所がない人に、当たり前に『誰にでも居場所はあります』って言っちゃうのは……そう言える人の言葉は……刺さっちゃう、かな……?」
 ゴドーも口を出す。
「さまざまな患者がいる。具合もさまざまだ。簡単に『誰でも』『みんな』と括ってしまっては、正しい診察は出来んぞ」
「……はい」
 しゅん、とマルクゥは俯く。
「おねえさん、『わたしとお前とどう違うの』って言ってました。お師匠さまがいなかったら、僕も……」
「そんなに気にする必要はないぜ」
 淡々とした声が掛かって、マルクゥはきょと、と部屋の入り口のほうを見上げる。
 蛮族の大男らの無事を見舞ったあと、通りがかったケイが軽く肩をすくめていた。
「経験上、ああいうのはただの時間稼ぎやフェイントだ。聞いてやる必要はないさ。いちいち聞いてやっていたら、今ここに無事でいないだろ?」
 ちゃんと自分を大事にするんだぜ。それだけ言って、ひらひらと手を振ってケイは去っていく。
「ヒトの心は、とても難しいんだ」
 虚を突かれた様子だったマルクゥの頭上から、章の、常よりは随分とやさしい声が降ってくる。
「僕は凄く、ほんとに凄く勉強したけど、全然自信がない。勉強して漸く『これ』だよ」
 軽く手を拡げ、自分自身を症例のひとつのようにマルクゥに見せてやる。
 マルクゥは首を傾げる。
「章さんは良いひとです」
「……うん。マルクゥさんはとても良い子だね。僕にもわかるよ」
 その様子をみて、「ふむ」とゴドーは呟いた。
「そこの君は、人間がきらいかね」
 章は首を傾げる。きらいと言えるほど知ってはいない、と言いたげだ。
「なるほど。……自分がきらいかね」
 これにも無言。ゴドーも答えがあるとは思っていなかっただろう。視線を章から手元の破片に移し、独り言のように続ける。
「好きでも嫌いでも、自分からは逃げられない。自分とは死ぬまで付き合わなければならない相手のことだ。それなら好きになれるほうがずっと、……健康に良い」
 医者らしい言葉に、玖珂は少し笑った。
 連想が働いて、玖珂は前から尋ねてみたかったことを口に出した。
「マルクゥの参考に……なるかは分からぬが。ゴドー医師、良ければ私塾での話を聞かせてもらえないだろうか」
「うん?」
「マルクゥのお師匠さまと一緒だったとだけ聞いている」
「私塾でのルーファスなあ……」
 ばっとマルクゥが顔をあげた。
 顎を撫でるゴドーを、食い入るように見上げている。
 ゴドーの答えは苦笑交じりだった。
「……あいつはとても真面目で、器用で、物覚えも良かったが。どうしてか、珍しく失敗するときは、必ず大惨事を引き起こしてなあ……」
 マルクゥは乗り出した身を元に戻した。
「お師匠さま、今と変わんないです」
「ほんとだねっ」
 同意したユキがぴょん、と跳ねる。
 以前の事件を思いだした猟兵は、完全に納得していた。
 玖珂は莞爾と笑う。
「そう……きっと村ひとつ、山ひとつ壊しかねないくらいの、大惨事だったのだろうな」
 なごやかな雰囲気が流れ、マルクゥも気が落ち着いたのだろう。ついでに自分も、と医師に尋ねる。
「今度、お師匠さまのお師匠さまのおうちにご厄介になるんです。どんな方なんです?」
「………何?」
 ゴドーの声、表情が一気に緊張したものになる。
「マルクゥ、お前は何も聞いていないのか」
「? はい」
 医師は何度か口を開け閉めし、そして低く唸る。
「そうだな……あいつにはあいつの考えがある、か」
 マルクゥは雲行きが怪しくなってきたのを感じながら、再度尋ねる。
「……どんな方なんです?」
「……もし過去に戻って、あの師匠のもとでもう一度修行しなければ医者になれんといわれたら。わしは医の道を諦めるな」
「……!」
「いや、詮無いことを言った。忘れてくれ。あれから随分経った。人間、丸くなるということもあるかもしれん」
 動きの固まった子どもの肩に、ヴァルダは優しく手を置いた。
「マルクゥさん。『冒険』は、いつまで続くのでした?」
「! そうでした、『帰るまで』です!」
 明るい声で、子どもは言う。
「村に帰りたいです。……お師匠さまも心配ですし」
 
●帰郷
 青い空に煙が細くたなびいている。
 庭の生け垣は葉の色を赤みを帯びたものに変え、うたた寝をしていた犬はこちらを見つけ、おざなりな挨拶のように「バウ、」と一声吠えた。
 すこし湿気を帯びた風が頬に心地よい。
「ホー、ヨー、ヘー、フム!」
 リュートを鳴らし、エルフの吟遊詩人が気ままな歌を歌う。
「なんとも長閑だ。吟遊詩人にはうってつけの村だね」
「すてきな村でしょう?」
 自分が褒められたようにヴァルダが微笑む。初めてここに来た時のことを思い出しているのかも知れなかった。
「マルクゥさん、立派におつとめをこなせましたね」
「はい! お薬もお届けしましたし、勉強もしました」
 玖珂は山の稜線を懐かしく見た。
 あのとき出会ったこの村の宝は、いま目の前ですくすくと成長している最中だ。
 村の入り口、宿屋の軒先に、懐かしい医師の姿があった。
「……やあ。お帰り」
 きっと帰りを今か今かと待っていたのだろう。
 診察はきっと口実だ。
 マルクゥは走る。無言で医師の腰に飛びついて、それが「ただいま帰りました」の挨拶だった。
「せんせー! ひさしぶりっ」
「やあユキくん、久しぶり。と、こちらの方は初めまして」
 挨拶と名乗りが交わされて、和やかな雰囲気のなかで、マルクゥは意を決して質問する。
「お師匠さま! 質問です!」
「突然だね? 何だい?」
「こんどご厄介になる、お師匠さまのお師匠さまって、優しいひとですか?」
「――――」
 医者は完全に沈黙した。
 息を吸い込んだきり動かない。猟兵たちも、村人たちも、察してその沈黙を守り、息を殺して答えを待った。
 医者はそのままたっぷり数十秒は沈黙した。……沈黙の果てに、ようやく口にしたのはしかし、なんとも弱々しい声と表情での、
「とても……素晴らしい方だよ……」
 という、何も信用出来ないものだったから。
 マルクゥはショックを受けた。
 「やだ――――!!」とその場から走り去る。
 引き留める医師の声と、やんやと騒ぐ村人たちに、章は空を仰ぐ。
(「ああ、やっぱりここの人たちは『いいひと』だなあ」)
 澄み渡った青空に、たなびく人家の煙は平和の象徴だ。
 ヴァルダはその沁みるような青を心に刻む。
(「あなたのみちゆきに、幸あらんことを」)
 祈りが、歓声が、空に吸い込まれていく……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月06日


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30




種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト