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エンディング・デュエット

#UDCアース

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#UDCアース


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●海が緑色に変わる瞬間を見たことがあるだろうか。
 そう質問されると、首を振るのが当たり前だ。海は基本的に青色だ。赤潮やエメラルドブルーの海岸、他様々な自然現象で海の色の一部が変わるということはまああるだろう。しかし基本的には、海はそう色がころっと変わるものではない。
 だが、それが偶発的……0.00000001%などという宇宙的確率で起こるような事象が発生した。その結果、海の色がころっと緑色に変わったとしたら?
「ままー、あれなーに?」
「早く来なさい!逃げるわよ!」
「海が!海が緑色に!」
「なんだアレ……ひぃぃ!」
 たまたま海沿いの道を歩いていた親子は、海から反対側へと逃げ出す。他に近くにいた人も、野次馬すらも命の危険を察知し逃げ出した。
 海が緑色に変わる。それは比喩ではない。海の水が、海水を構成する分子が植物性細胞に書き直され、生命を与えるはずの素子が生命となり、植物と化す。海だけではない。泳いでいた魚から枝が生え、地面に潜っていた貝類は種となって木を生やし始め、プランクトンは木々を優しく包む苔に変貌していく。
 それはまるで、生命の神秘。植物誕生の瞬間だった。
 そして、滅びの始まり。UDC招来の瞬間でもあった。

●地球への不幸はまだまだ続く。
「……あ」
 東京湾海上。美しい白い翼を生やした少女は、ピンと何かを探知し、辺りを見渡す。
「……ギャラルホルン」
 彼女は落とし物を探していた。ふよふよと浮く彼女は、初めて骸の海に還った際、絶対に手放してはいけないものをこの近くに落としてしまったのだ。
 彼女が思わず口にした"ギャラルホルン"。そう、"黙示録のラッパ"を。
 人類に六度目の終末を告げる審判者。地震と災害を巻き起こす天使の一柱、『黙示録のラッパ吹き』セクは、ようやく探し求めていた落とし物の手がかりを見つけた。
 ただし、
「……?」
 感じ取れたものはたった一瞬。繋がりは霧散してしまう。
 しかし存在は察知した。
「──この近くにある」
 セクは察知した繋がりのある場所へ向かう。たった一瞬、されどその一瞬が手掛かりとなった。
 別の気配がし、オブリビオンとなった自身が何よりも嫌うUDCエージェント──猟兵たちに協力する者たちの匂いもする。罠という可能性も拭いきれない。
 だがセクが進む方向は変わらなかった。

●ブリーフィングルームにて。猟兵の妖狐は頭を抱え盛大に溜息をついた。
「…………地球の危機です」
 いつも強気な彼、ヘクター・ラファーガ(風切りの剣・f10966)が敬語を使うほどの危機とは。
 それはモニターに映し出された二体のオブリビオンが、彼が頭を抱える理由を示唆していた。
 一体は、海底2000メートル以下の場所に封印されていた"星辰の彼方からの存在"による創造物。旧き神の一柱、『翠翁』。
 もう一体は、終末を告げる七柱の天使、その六番目。『黙示録のラッパ吹き』セク。
 これら災害クラスのオブリビオンが同時に、しかも同じポイントに出現したのだ。
「いやその、マジ……勘弁してほしい。せめて一体ずつ出してくれよ……」
 嘆く彼を追い立てるように、一人の猟兵が質問する。なぜ同時に出現したのか?と。
「それなんだけどな。まず、記録によるとセクは役目を終える前に"黙示録のラッパ"を地球のどっかに落としちまったらしい。いわゆるギャラルホルンだな。
 落ちた場所はUDCエージェントたちにもわからなかったみたいだが……それがつい最近、落ちた場所が判明したんだ」
 どよめきの中、ヘクターはモニターの映像を切り替える。
 日本列島の地図だろうか。経済水域の中でひときわ青が近い箇所に赤の点がつく。何度もズームを繰り返し、衛星カメラは地上ではなく海中を映し、さらにズームし、深海2000メートル以下までズームし……、
 ちょうど『翠翁』が封印されている石盤の少し隣に、ぽつんと砂を被ったホーンラッパがあった。
「いやぁこのラッパ、小さいながらかなり重量があったらしくてな。エージェントらはちゃんと専用の機械用意して回収つもりだったらしいんだ。けど回収作戦前日に地震があって……」
 映像はタイムラプスに切り替わり、紙芝居のように写真がめくられてゆく。彼の言う通り地震があったのか、途中で映像が傾いたり、ブレたりし……ラッパの先端がちょんと石盤に触れた。
 その瞬間、石盤は黄色い輝きを放ち、そしてタイムラプスはそこで途切れた。
「……こんな感じで、ギャラルホルンの力に共鳴して翠翁が復活。そしてその力を察知したセクが襲来。そんなわけだ」
 魂すら吐き出してしまいそうなほどの長い溜息。ヘクターは絶望感に苛まれながらも、狐火のグリモアを顕現させた。
「まずは翠翁から止めてくれ。観測データから奴には火属性がかなり有効みたいだ。その後セクを撃破だ」
 グリモアは世界を繋ぐ扉となり、グリモアベースからUDCアースの入り口に変わる。
 この先は、恐らく地獄だろう。平和に暮らす人々が住む街は、二体の災禍に挟まれ混乱に覆われている。
「こんな緊急事態だからな。エージェントらもヤツカド式神霊存在捕獲機出して対抗してるんだが、どうやら何機か暴走してるらしい。厄介ごと増やすなよ……」
 災禍を止められるのは、猟兵のみ。
 気怠そうにぼやく彼だが、猟兵としての役目は十分に理解している。それは皆も同じ。
 世界を破壊するオブリビオンを止める。たとえそれが神であっても、必ず──。


天味
 天味です。
 今回のシナリオは偶発的邪神召喚。難易度は最初だけ高いです。

 第一章では、『翠翁』の討伐。
 第二章では、暴走した『ヤツカド式神霊存在捕獲機』の鎮圧。
 第三章では、翠翁が召喚された原因となった『『黙示録のラッパ吹き』セク』の迎撃。

 となります。
 それでは、皆様の活躍をお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『翠翁』

POW   :    縺ソ繧薙↑縺ゥ縺薙∈?
【意識】を向けた対象に、【対象の内部を植物に変えること】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    蝸壼他縲∝履蜻シ縲∝履蜻シ窶補?輔?
自身からレベルm半径内の無機物を【土壌に、猟兵を問答無用で植物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    縲主卸荳悶?繧ィ繝シ繝?Ν繝ッ繧、繧ケ縲
全身を【エーデルワイス】で覆い、自身の【周囲にある植物の数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 海が蠢く。
 緑色は絵具のように広がり、海水では生きていけないはずの植物が生まれ大地を生み出す。
 その上に立つのは、旧き神『翠翁』。
 全長10メートルほどの牡鹿だ。エーデルワイスを髭のように生やし、全身に苔を纏う骸骨のダイダラボッチは、藻の大地を悠々と歩きその神聖さを星に見せつけていた。

 生命の転輪を司る神、ここに降臨す。
 しかし此度において、生命の転輪は文明を破壊する暴力なり。

 ──世界を賭けた戦いが始まる。
火奈本・火花
「……偶発的とは言え邪神が2体か。どこかの組織が準備した上での出現では無かっただけ、まだ対処のしようがあるな」

■戦闘
しかし植物を操る邪神とは縁があるな
UDCを誇るわけではないが、私のヤドリギとどちらが厄介か比べるとするか

植物に触れては危険だな
ヤドリギの力で高速移動し、奴が土壌に出来ないらしい有機物、植物の上を移動しよう。現存する植物には何も出来ない、という事になるのだろうか?
その上でヤドリギの蔦を飛ばして少しづつ無力化を試みよう

9mm拳銃での『2回攻撃』も試すが、奴の能力の対象になる範囲、物質となるなら放棄しておこう。付け入る隙は排除しておく

「UDC終了後の記憶処理も大規模なものになりそうだ」



「……偶発的とはいえ、邪神が二体か」
 猟兵のUDCエージェント、火奈本・火花(エージェント・f00795)は波止場から数百メートル離れた海上にいる翠翁を見据え呟く。
「どこかの組織が準備した上での出現ではなかっただけ、まだ対処のしようがあるな」
 ゆっくりと、だが着実に陸地へ向かってくる翠翁。翠の邪神は、海を侵食し植物に変えながら道を作り歩いている。
 アレが陸地に上がる前に倒さなくてはならない。しかし倒しようにも、ここからでは距離があり過ぎる。
 ならば、自分も足場を作るまで。火花は胸に手を当て、深呼吸をし体内に宿る根に呼びかけた。
「さて、動くぞ」
 心臓付近に根を張る"ヤドリギ"が活性化する。
 火花の体はドクンと大きく脈打ち、一度全身が震えあがった後、体温が異様なまで上昇する。血流は早まり、僅かに露出した肌からは血管が浮き出ているのが見えた。
「植物を操る邪神、か。何かと縁を感じるな──!」
 靴底から根が出始めたのを確認し、火花は波止場から飛び出す。
 その先にあるのはまだ青色の海。そこに、靴底から生えた根をスキー板のように伸ばし、着地する。
 今の火花にとって、海はハイウェイと同じ。ヤドリギの力をエンジンに、彼女は海を駆け抜ける。水面を足先だけで走るアメンボのように、沈む前に足を前に出し水面を駆ける忍者の如く、僅か数秒で火花は翠翁が肉眼でよく見える距離まで詰める。
 先ほどまで遠くを見据えていた彼の顔が、こちらを向いた。
「──菴輔°譚・縺!」
 エーデルワイスの髭が揺れる。
 翡翠色の瞳から光が放たれた瞬間、火花が先ほど通ってきた海が緑色に染まり始めた。水滴は植物細胞に、たまたま流れていたプラスチックゴミは花になり、流木はもう一度木となって命を吹き返す。
 翠翁は火花を見つけた。だが、彼女の姿が見当たらない。
 あの一瞬で、どこへ逃げたとうのか。
「なるほど、鈍いな」
 火花は、翠翁の背後で冷静に観察する。
 彼が無機物を植物に変える閃光を放つ寸前、彼女は上へと跳んだ。9mmパラベラム弾丸を二発、ヤドリギの蔓を上空から一発。攻撃を加えつつ、彼女は翠翁の閃光から逃れ背後に着地したのだ。
 結果は、パラベラム弾丸は全て無力化。着弾する2メートル手前で苔むし、藻になって消えた。
 だが、ヤドリギの蔓だけは通った。体の基礎であろう背骨にヒビを入れ、皮のように覆う苔が海水に戻ってゆくのを見た。
「問題は、無機物に対しては完全に無敵ということか」
 翠翁に痛覚はない。彼の体表から2メートル以内にある無機物は植物化してしまう。だが有機物や、生命体に限り先ほどの閃光を使う必要がある。
 確認できた結果と、割り出された推測。火花はこれを職員用スマートフォン越しに報告しつつ、顔を後ろに向けようとする翠翁にさらにヤドリギの鞭を叩きこんだ。
「終了後の記憶処理も、大規模なものになりそうだッ!」
 疲労感が募る。肉体が急激に衰え始め、ハイテンポで鼓動を鳴らしていたはずの心臓の動きが鈍くなり始めた。ヤドリギに体を委ねた影響で縮んだ寿命の影響が出始めたのだ。
 ヤドリギの一撃で首が傾いた翠翁の顔がこちらへ向く前に、火花は撤退を決める。
 ここからの対処は、報告を受けた猟兵たちが行うだろう。二色の海に沈む前に、ヤドリギがまだ制御できる間に、彼女は海を駆け抜けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

火奈本・火花
「動きの鈍さは我々が突ける弱点になり得るな。植物化も奴の意識が関係ない自動防御に近い物なのか、ただ植物に変えるだけで植物そのものでの攻撃が出来るのか……試す必要があるな」

■戦闘
9mm拳銃での牽制は続けよう
奴に当たる軌道は勿論――奴に当たらない軌道の弾丸も植物化するのか、植物化するならどのタイミングなのか知りたい

今度は記憶消去ペンライトでの『目潰し』と『催眠術』を併用して接近する。複雑な催眠は難しいだろうが、最大威力で一瞬でも忘我させられれば有利にはなるだろう
その間にジャケットを脱ぎ、少しでも身軽になって接近する

私がヒビを入れた箇所への追撃と同時、私の武装も植物化するか探ろう
必要なら武装も捨てる


アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)

すごいや。広い海が緑で覆われてる…
よかった、海の底を歩かなきゃダメなのかなと思ってたの
水中だと、動きづらいからね

【深緑、底知れぬ恐怖を育め】を発動
強い相手だって分かるもの。なら対抗出来る身体が必要
最初から手加減無しだよ

踏みしめる緑地をわたしの領域に、『高き森』に書き換えながら、
真正面から立ち塞がって通せんぼするよ
爪で緑を引き裂いて、骨を掴んで関節を外し、バラバラに砕く

攻撃、反撃は気にしないよ。わたし自体、おっきな植物みたいなものだもの

そうでなくとも
あなたの様な旧い神性に、負けるようなわたしじゃ無いから
あなたの居場所は何処にもないの
そのまま、海に、かえって、欲しいなぁ…!



 翠翁討伐に参加したアウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は、波止場から討伐対象の姿を見て感嘆する。
「うわぁ……すごいや。歩いたところが緑で覆われてる……」
 彼女はバイオモンスター。それも、数百メートル先に存在する邪神と同じ、植物を司る者だ。同じ植物を司る者として、彼女は海を緑に改変する邪神に、純粋な賛美を送る。
 しかし、褒め称えることはない。なぜならあの邪神は存在するだけでこの世界を脅かす。
「報告は見たよ。で、今度は検証に行くんだっけ?」
「推測ばかりでは情報にはならないので。今回はあなたの力を借りたいと思い、もう一度ここに来ました」
 完全武装、というには少しほど遠い。だが最初に来た時よりも多めに弾丸や道具を持ち込んできた火奈本・火花は、自動式9mm拳銃にカードリッジを装填しアウルの手を掴む。
 彼女たちの身長だが、火花は155cm、アウルは252cmと約1メートルもの差がある。客観的に見れば巨人と人間とも言うべきか。
 今回火花は、数分前のようにヤドリギを使って移動しない。すでにヤドリギを使うだけの寿命を払ってしまったからだ。ではどう移動するのか。それは、
「さあ行こう!」
 巨人──瞳を黄金色に輝かせ、かつて『高き森の怪物』と呼ばれた姿になったアウルの肩に乗る。
 『深緑、底知れぬ恐怖を育め(スケアリーロード・フワワ)』。純然たる森の支配者はむくむくと2メートル半で収まっていた体を巨大化させ、5メートル、10メートルと身長を伸ばしその存在を辺りに知らしめる。
 そんな真の姿を見せたアウルの手のひらに乗った火花は、UDC職員用スマートフォンを拡声器代わりにし彼女に呼びかけた。
「アウル!先に私が降りる。その後は自由に暴れていい!」
「うん。お先にいってらっしゃい」
 ズゥン!ズゥン!と、アウルが一歩歩く度に、海が大きく波打ち地響きを起こす。
 アウルは歩く。歩き、足を速め、そして走る。海の上ではなく海の底を蹴り、水遊びでもするかのように楽しく、笑いながら。
 彼女は藻と根にまみれた緑の海を、アリの群れでも見つけたかの如く思い切り踏みつぶした。
『繧上◆縺励?螟ァ蝨ー?』
 地響き、津波、領域侵犯、そして自身とほぼ似たような全高の同族を見つけ、翠翁は吼えた。
 その声は怒りか。強く、訴えかけるように木霊する叫びと、翡翠色の眼球から放たれた光が、アウルに直撃する。その光は無機物だけでなく有機物、元からしっかりと構築されている生命の基盤までも植物へと改変する、転生の光だ。
 だが、効かない。
 なぜなら彼女は、高い森の怪物。今の彼女は翠翁と同じ、"植物"が神格化したものだからだ。
「やはりあの光を照射した後は数秒クールタイムがあるな。護送感謝する!」
 そして、手のひらに姿を隠していた火花もまた動き出す。
 飛び出し、翠翁の真正面へ。手にあるものは記憶消去ペンライト。彼女はそれを拳銃のように構え、照射した。
『逵ゥ縺励>?』
 記憶消去という名前が付いているだけあって、当然照射されるのはただの光ではない。そして、翠翁用に照射する光は強めにしてある。ペンサイズの利器から放たれるサーチライトレベルの極光は、翠翁の目を通じてコアまで反射し、記憶層にもやを作りだす。
 さらに9mm拳銃を抜き、四発発砲。どれもバラバラの方向に撃たれたが、これは検証の一つ。
「……ふむ」
 四発のうち、二発はわざと当たらないように撃ったものだ。残りは全て胴体を狙った。その結果見えたのは、外した弾丸のうち一つは体表から2メートルの範囲を掠め、表面にだけ苔がつく。完璧に外したものは影響なし。胴を狙って撃ったものは完全に植物化し翠翁の体に取り込まれた。
 植物化する範囲はやはり体表から2メートル圏内。そして、植物化のタイミングは即時。
 つまり、入ればすぐに無機物は植物に変わってしまう。神威のバリアだった。
「ちょうどいい、くれてやる!」
 藻と根にまみれた海に、着地する。ぬかるみのようなぬめった感触があるが、足をつけることはできるようだ。火花は、ジャケットを脱ぎ捨て、翠翁に突っ込んだ。
 メキメキと体を覆う衣服が軋む。白かったはずのカッターシャツは瞬く間に緑の侵食を受けて葉に似た繊維に変化し、メガネのフレームが木の枝へと変わっていくのを感じた。だが止まることはない。エーデルワイスの髭をワイヤーロープ代わりに掴み、『格闘術(エージェント・マーシャルアーツ)』の応用で翠翁の足を蹴り高く飛び上がった彼女は、苔で覆われた背骨の上に立つ。
「下着までチクチクするな、これは……ここだアウル!」
「はぁい。わたしの出番だね」
 隠してもわかる。火花が今立っている場所は、自身のヤドリギで傷を入れた箇所。翠翁の弱点となったポイントだ。
 そこへ、検証の終わりを待っていたアウルが両手を伸ばす。
 ショベルカーのように両手を曲げ、それを傷口に引っかける。爪が食い込むのを感じたアウルは、ニィと笑い力を入れて指を突っ込んだ。
『──逞帙>逞帙>逞帙>??シ』
 その時の翠翁の咆哮は、威厳のあるものではなかった。
 肉体が引き裂かれる感触。数本のメスを背中に刺され、麻酔も無しに切開手術が始まるような悪夢。
 何度光を放っても、植物化を促しても効かない。むしろ抵抗する様子を、彼女は楽しんでいた。
 背骨に両手を入れられ、そこから真っ二つにされようとしている。
 もはや神と猟兵との戦いではなく、怪獣による神への蹂躙だった。
「そーれっ!」
 ボキンッ!と、二度と聞きたくないような破砕音が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火奈本・火花
「植物化は自動防御……というよりは、2m付近の無機物全てか。スーツ代までUDC組織の経費で降りれば良いが」

■真の姿
胸から左腕にかけてが樹木化
浮き上がった血管のような根が、顔や腕、脚に張り巡らされている
服が植物化して使えなくなっても、ひとまず安心な程度

■戦闘
植物そのものを使って攻撃する事は無さそうだ。
無機物の武器は捨て、ヤドリギの根のみを装備として決着を急ごう

仲間の手で体も裂かれて体内が露出しているし、追撃によって破壊すればUDCの終了に繋がるだろう
意識的な攻撃を向けられれば肉体自体を植物化されるだろうが、私も『激痛耐性』がある
体の上に立ったまま『捨て身の一撃』のつもりで、攻撃を叩き込んでやろう


吾唐木・貫二
でっけぇな
こっちもでかくなんねぇと攻撃も効かなそうだな!

UC【涙の痛みを拭う者】を経由してUC【Tears pein/to lament】を発動

UC【厄災の騎士】とUC【邪鬼葬送】で強化しUC【邪勝の騎士】を攻撃回数重点のUC【聖勝の騎士】とUC【聖戦の騎士】にのせて顔に牽制《誘導弾、鎧砕き、鎧無視攻撃、範囲攻撃》



隙をみて一気に懐に入り侵食されきる前に本命のUC【極限浄化術式】《捨て身の一撃、カウンター、鎧無視攻撃、だまし討ち》

浄化ッ!!の声と共に術式解放し凍らせ斥力で粉々に砕く

これはいい!いあいあ!

そんなことを言って死骸をUC【MAG EATER】で吸収する存在が刻印内にいるが俺は気づかんな



『縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠??シ?シ?シ』
 理解不可能な声でも、その音量、響きから翠翁が何を叫んでいるのか何となく理解できる。
 背骨が真っ二つに割れ、翡翠色のコアが露出した。人間でいう心臓が、空気にすら触れることを許されない弱点が、こうして光に当てられたのだ。
「植物化は自動防御……というよりは、2m付近の無機物全てか。スーツ代までUDC組織の経費で降りれば良いが」
 一気に討伐するチャンスだ。火奈本・火花は今、割れた背骨の上に立っており、コアからの距離は一つジャンプすれば届くほど近い。
 だが今の彼女の姿はまるで森の精霊とも言えるような姿だった。着こんでいたスーツは全て蔦と葉でできた自然の拘束服になっており、メガネは使い物にならなくなったがために、とっくに捨てていた。体に一切変化が出ていない分、際どいコスプレとも言えるだろう。
 これを仲間が見たらどう思うか。後先のことを考えてしまいそうになった火花だが、今はそれどころではない。
「恐らくこれは武器を奪うための力。だが」
 拳銃もスマートフォンも、その他様々な道具を持ち込んでいたが、全て植物に変わってしまった。
 だからと言って手がないわけではない。最初に戻り、自分がこれまで使ってきた武器をもう一度呼び起こすだけだ。
 火花はその場で膝をつき集中し始める。心臓に宿るモノに呼びかけ、そこから根を成長させる。それは触手のように体内を這い、人の肉に着床し成長してゆく。
 森の精霊は、ヤドリギの女神に変わる。白く何も穢れの無い肌に禍々しい根が絡みつき、侵食した証を露出させる。頭からつま先、局部に至るまで、ヤドリギの根は火花を真の姿へと進化させた。
「植物には植物が有効だろう」
 自身の左腕を見ながら、彼女は覚悟を決める。
 ヤドリギと一体となった今、彼女の左腕は大樹の枝のように鋭利なものになっている。先端からは淡く光る蔦が伸びており、それはあらゆるものを切り裂く鞭として機能する。
『縺輔○縺ェ縺??ゅ&縺帙↑縺?シ√&縺帙↑縺?シ?シ』
 二度目の死の恐怖を感じ取った翠翁が動いた。
 翠翁は悟ってしまった。彼女は既に植物と同じ。自分の攻撃は一切通らないだろう、と。それならばせめて、陸に上がりこの灰色に蝕まれた大地を取り戻そうと、邪神は走りだした。
「くっ!?動くな、このッ!」
 背骨が割れているにも関わらず、翠翁は一切速度を緩めることなく走る。船と違い揺れの激しい生き物の上では、様々なUDC討伐経験のある火花でさえも立ち続けることは用意ではなかった。
 コアを切る前に足止めする必要がある。鞭を振るうポイントを変えようと、火花は背骨にしがみつき思考を張り巡らせる。
 だが、
「ローターリッタァァ……ツヴァイッ!!」
 突如、火花の頭上を何かが貫通した。
 焔を纏いオレンジ色になるほど熱を帯びた槍。否、それは大剣とも言えるだろう。大剣は翠翁の雄々しい頭部を貫き、動きを止めた。
「無事か!」
「ギリギリだ!あつつ!」
 大剣を持つ白銀の鎧を纏った巨神『涙の痛みを拭う者(ティアーズペイン)』。これと合体し搭乗しているのは、吾唐木・貫二(BRASS EATER・f03189)。サイボーグの青年だ。
 彼もまた翠翁を討伐しようとこの作戦に参加し、自身も巨体となって戦おうとしていた。しかし肝心の相手は物質による攻撃を無効化し、さらに意識を向けた対象を植物に変えてしまう。
 サイボーグという無機物の塊である彼にとって、相性は最悪だった。
「矢も弾丸もダメだったからな、思い切って剣にしたんだ。そしたら効果抜群だったぜ!」
 ならば、燃えている物質を植物化できるのだろうか。
 答えは今の光景の通りだった。『聖戦の騎士(ローターリッター・ツヴァイ)』によって放たれた剣は熱を帯びており、植物化しようにも熱がそれを許さない。さらに翠翁は火が弱点ということもあって、頭部を貫通され断面を焼かれた翠翁は、もはや瀕死の状態だった。
 なお、頭部から突き出た剣は背骨の上を通り過ぎており、植物化している火花は翠翁に続いて一瞬だけだが死の恐怖を感じた。
「……私ごと燃やす気だったんじゃないだろうな?」
「い、一応生体反応を避けるように突いたからな。ま、なんにせよ……」
 あとはコアを破壊するだけ。体表から2メートル圏内の無機物が植物化するフィールドは既に解けており、彼らはゆっくりと己の武器を構えた。
 貫二は頭部に突き刺した剣を引き抜き、火花は立ち上がり鞭を伸ばす。
 涙の痛みを拭う者は鋼の拳を握り、
 ヤドリギの女神は一閃を放った。
「光射す世界に汝等、暗黒住まう場所なし!!」
「使いたくない技ではあるが──今は気分がいい」
 『極限浄化術式(パンゲア・ゼロ・ブラスト)』。絶対零度の冷気と次元の歪みを纏った掌底打ちが、翠翁の肉体に直撃する。触れた面から緑色だった体が白色へ変色し、頑丈で芯のある神々しい雄鹿の肉体がボロボロに砕けてゆく。
 コアへ直接放たれた『ヤドリギの一閃』は一秒置いて翡翠色の結晶を真っ二つにし、その後冷気と異次元からの波が結晶を白色へ変え塵に還していった。
 翠翁は討伐された。変色した海は戻らないが、これ以上ここで生まれた植物たちが成長することはない。
 第一の脅威は去ったのだった。

「浄化完了ッ!!すがすがしい気分だ!」
「さて……どう連絡をしたものか」
 立派な陸地に変わってしまった海に着地した火花は、大らかに笑う貫二を他所にどう陸へ戻るか考え始めた。
 塵となった翠翁の肉片を吸収する刻印を、面倒くさそうに一瞥しながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ヤツカド式神霊存在捕獲機』

POW   :    発見
【サーチライト 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【記憶消去光線】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    捕獲
レベル×1体の、【眼球 】に1と刻印された戦闘用【の装備を整えた機動部隊のロボット】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    収容
小さな【収容作業用ロボットアーム 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【対象の願望を発散させる設備の整った収容室】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

火奈本・火花
「次の邪神が来る前に、我々の不始末にも片を付けて置かないとな」

■戦闘
翠翁の終了によって少しでも時間の余裕は出来たはずだ
……一先ず、スーツや武装関係は新調しておきたい

その上で、暴走した捕獲機に対して先手を取りたいな
現場は植物が成長したままになっているだろうし、『地形の利用』で樹木などに身を隠しての『暗殺』を狙おう

機動部隊とは別行動での奇襲を行い
9mm拳銃による『クイックドロウ』での『先制攻撃』で、捕獲機のターゲットを私に向けた上で別動の機動部隊による側面攻撃を浴びせられれば作戦は成功だな

捕獲機の呼び出すロボットに近付かれたら、グローブの鋼糸で捕獲し返して『敵を盾にする』事で同士討ちを狙うつもりだ



「……ふぅっ」
 海岸に停められた大型トラック。そのコンテナから、一人の女性がネクタイに手をかけながら出てきた。
 傍から見れば輸送トラックからスーツの女性が出てきたと見えるだろう。しかしこの周囲に彼女の姿を拝む住民はいない。皆UDCエージェントの"手回し"により避難しているからだ。
 そしてそんな彼女も、UDCエージェントの一人。そして猟兵でもある火奈本・火花(エージェント・f00795)は、未だに緑色から変わらない海の上に浮遊する物体の群れに息をついた。
「所持品の補填、スーツも新品……これでようやく落ち着いて対処できる」
 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ──。
 まるで自分から動い面を揃えようとするルービックキューブ。それは自在に空を飛び、サーチライトを子供のように辺りに照らしている。
 ルービックキューブの正体は『ヤツカド式神霊存在捕獲機』──いわゆるクリーチャーの方のUDCを捕縛するオービット兵器だ。UDCエージェント側の兵器だったが、これらは自律稼働なため鹵獲されやすく、よく邪神教団の本部や、暴走した邪神たちが振りまく"敵"である。
 しかし今回ばかりはそんな不名誉な理由で敵に回っているわけではないようだ。
「だが壊すことに変わりない」
 もう一台、運送トラックが近くまでタイヤを回し、停まる。コンテナが開き降りてくるのは、火花と違い強化プラスチック鎧とヘルメット、小銃やコンバットナイフと完全武装した黒の兵隊。 胸の部分には小さく『ひー4』と白く描かれており、それが示すのは"四つ葉のクローバー"。
 彼女直属の機動部隊だ。
「機動部隊、隠密行動をしつつ前へ。私が奇襲をかけ、一体ずつ破壊します」
『了解』
 部隊全員が足を揃え、なおかつ足音も揃えながら海岸を降りて緑の大地に足を踏み入れる。
 翠翁が残した爪痕は大きいが、同時に海上に戦いやすいフィールドを作った。
 マングローブ林のように根と根が絡み合い僅かな床を作っているおかげで足場は最悪だが、それさえ気を付ければ隠密行動を行う場としては最高。
 土のない森林というべきか。肝心の捕獲機は空中を飛んでおり、下からでは葉や日光に遮られ銃では狙えない。
 火花もまた緑の大地に足を踏み入れながら、根と根の間に足を入れないよう気を付けつつ走る。
「……ここからでは見えないが、逆にちょうどいい」
 グローブに仕込まれた鋼糸。それを投射し樹の先端に巻き付ける。
 こちらが上にいる捕獲機を狙えないように、宙を飛ぶ捕獲機もまた下にいるものを認知できない。しかしそれは互いに距離があり、生い茂る葉や日光という障害物があるからだ。
 葉が生い茂る枝のところまで登った彼女は、葉と葉の間から空を覗き──おもむろに拳銃を宙を飛ぶ一体に向けた。
『目標座標受信。『≪支援要請≫銃撃実行(アタックコール・バレットオペレーション)』』
 刹那、銃口を向けられた捕獲機が、下からとてつもない量の銃撃を浴びせられた。一瞬で捕獲機は火山岩のようにボコボコに変形し、そして浮力を失い墜ちていった。
 まずは一体。枝の上で隊員からの撃破報告を聞きつつ、次に狙えそうな獲物を探す。
 ──しかし、すぐに火花の計画は崩れた。
『脱走オブジェクト確認!脱走オブジェクト確認!』
 無機質でノイズまみれの音声。それと同時に頭上から迫りくるもの。
 火花が気づいた時、それは彼女の真上にいた。
『緊急プロトコル、『収容』を開始』
「……撃てッ!!」
 ルービックキューブの一面が分離し、折り畳まれたロボットアームが姿を現す。
 腕の先端にある術式には触れてはならない。それはUDCオブジェクトを封印するユーベルコードが設定されたもの、人が入っていいものではない。
 グローブを手から抜き、枝からわざと足を離す。ロボットアームが迫りくる前に、火花は背中から落ちた。
 9mm拳銃を、ロボットアームを向けた裏切り者に突き出しながら。
「我々は、我々の総力を持って戦う!」
『我々は、我々の総力を持って戦う!』
 二度目の凄まじい銃声。ブチブチと枝葉が千切れ、金属が炸裂する音の雨。
 指揮者と部隊が叫んだ誓いと共に、裏切り者は粛清の炎を浴びた。

成功 🔵​🔵​🔴​

火奈本・火花
「初撃は成功か。……やはり無機物が無効化されないだけやりやすいな。数が多いのは厄介だが」

■戦闘
互いに敵を視認しづらい状況も、まだ上手く利用していきたいな
『地形の利用』での『暗殺』は続け、今度は銃ではなくグローブからの鋼糸で直接捕縛していこう。なるべく音を立てないよう、1機づつだ
捕縛したら至近距離での9mm拳銃の射撃か、『怪力』で鋼糸を締め付けそのまま切断して仕留めていく

サーチライトでの探索が私の居場所に近付いてきたら、偽装爆弾を無関係な方向に投擲して注意を逸らす
すぐに爆破するのではなく、捕獲機が爆弾に接近してから爆破するように弄っておけば、爆風での攻撃も期待出来るだろう
鋼糸による追撃も怠らない


アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)

神様の次は、鉄の塊…
沢山やることがいっぱいで忙しいね…!
疲れて…ううん!わたしはまだまだ大丈夫。疲れてないよ!

今度は力よりも速さが必要そう…
【新緑、始まりの息吹を此処に】を発動
細長い、狼にも似た獣化形態に変容して、走り回るよ!
パワーは下がるけど、それ以上に速くなる。それに爪も牙もより鋭くもなってる
人形だろうと、鉄の塊だろうと、引き裂いたり、噛み砕いたりして、壊していく

兎に角、数をこなさないとね
まだ、まだ。無茶できるから。みんなの役に立てるから
『怪物』でも、守ってみせるから

それはわたしのため。身も蓋もない自己保身
…それでも、わたし、頑張るよ



 一度に二機落とされたことで、他の捕獲機も捜索モードを止める。
 シャカシャカとやかましく鉄の体をシャッフルさせていたのを止め、サーチライトの数を増やし襲撃者を探し始めた。
 上空だけではなく、森の中へ。せまく暗い大樹の林をくぐり抜けてゆく。
 ──その影に、火奈本・火花は身を潜め様子を見ていた。
「初撃は成功か。……やはり無機物が無効化されないだけやりやすいな。数が多いのは厄介だが」
 見ただけでも三体、見えないところで数十体といったところか。一体どれだけの数がいるか正確には把握できない。だが努力すれば掃討できるほどの数だというのは、四つ葉のクローバー部隊からの報告で把握していた。
 先ほどまでは木々と葉に覆われた地上と、何もない空中とでアドバンテージがあったが、こうして森の中へ侵入された今は自然の壁を利用できそうにない。
 しかし大黒柱のようにこの森に点々と生えている大樹であれば、障害物にすることはできる。
「機動部隊、捕獲機に見つからないよう分散してください。私の命令が来るまで待機を『脱走オブジェクト確認!』──!?」
 またあの音声だ。ノイズにまみれているが、辛うじて聞き取れるアナウンス。それは捕獲機から発せられるものだ。近くでこの音声が聞こえたということは、場所がバレたか?
 右手に持っていた9mm拳銃を咄嗟に構える。上、右?左?背後には木の壁がある。下は……根と海水だ。
『確認!確認!』
「……見つかっていない?」
 よく声を聞けば、アナウンスは徐々に遠く離れ、ドラップラー効果を伴い音程を下げながら、まっすぐ別方向へ飛んで行く捕獲機と共に消えてゆく。
 どうやら違うものを発見したようだ。
『どうされました?』
「私の勘違いでした。何も問題ありません」
 通信中だった機動部隊に返事をしつつ、火花は捕獲機が飛んで行った方角へと足を進める。
 今のところ部隊から緊急連絡が来ていない。つまり発見されたのは分散した四つ葉のクローバーの誰かではない、という可能性が高い。となれば候補は二つ。
 一つは、この作戦に参加した猟兵の誰かが発見された。
 もう一つは、例の『セク』というオブリビオンがここに入ってきたか。
「……前者だと思いたいが」
 どちらにせよ、この目で確認しなければ。
 火花はエージェントグローブを手に通しながら、先を急いだ。

『脱走オブジェクト確認!脱走オブジェクト確認!』
『脱走オブジェクト確認!緊急プロトコル、『鎮圧』を開始』
『緊急プロトコル、『鎮圧』をかi──「グルァアアアッッ!!」
 全長五メートルを超える、金色の狼がいた。
 狼は木の枝を思わせる角を生やし、手足には苔を纏い、タンザナイトを思わせる瞳を持っていた。
 ──まるでこの森の主。しかし、この狼は海に自生した森に生まれた新たな命でなければ、狼を囲む無数の鉄塊が放つ"脱走オブジェクト"でもない。
 アウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)。『新緑、始まりの息吹を此処に(シフトフォーム・ビギニングフワワ)』によって狼となった彼女は、激情のままに捕獲機を襲っていた。
 五メートルという巨体であるにもかかわらず、走り、跳ぶ速度は異様。UDCを捕獲するために造られた捕獲機ですら視認できない身のこなしで彼女は地を駆け、大樹の壁を蹴る。
 捕獲機らに浴びせられるのは、彼女の手足に生えた鋭利な鉤爪や、あらゆる命をかみ砕く顎。本来の姿よりもパワーは低いが、彼女はそれを速度だけで補っていた。
「ウオォォォォォオオオオン!!」
 壊す。砕く。引き裂く。七機もの捕獲機を叩き潰し、彼女は咆えた。
 それが自身に害を与える脅威なら、この世界を脅かすものならば、たとえ人であっても、鉄の塊であろうと容赦はしない。
 与えられた寿命を代償にしても。
「グルル……ガァッ!!」
 生きている鉄の匂い。それらがだんだん強く、濃い匂いの塊となって近づいてくる。
 捕獲機はこれで全部ではない。むしろ先ほどの遠吠えでここに集まりつつあり、次は十、それよりも多く二十機は相手をすることになるだろう。
 しかし数は関係ない。
 寿命がある限り、この肉体を維持できる限りは皆の役に立てる。『怪物』であってもなすべきことをこなせるなら、その手段を取るまで。
 結果どう言われようとも構わない。それが自分の選んだやり方なのだから。
 ──大樹の間を抜け、枝を破壊しヤツらがやってくる。
「一塊になって来るとは、好都合だ」
 目の前にある枝が折れ、やってきた捕獲機の一団と対面した瞬間だった。
 突如、視界がオレンジ色に染まる。激しい炎と光、そして耳が裂けそうになるほどの強い衝撃。
 一体何が起きたというのか。咄嗟に閉じてしまった目を開くと、そこに広がっていたのは赤。燃え盛る木々と、空中でギチギチと不快音を鳴らし動けなくなっている捕獲機らだった。何機かあの衝撃で墜落し動かなくなっているが、殆どは何か見えない糸のようなものに雁字搦めにされ、鉄の体を回転させて抜け出そうと抵抗している。
 先ほどの光はやはり爆発。そして、その爆発を起こした者、火花は燃え盛る木々の間を抜けて姿を現した。
「……やはり燃えてしまうか。だが、これで二十」
 ボールペンに偽装した爆弾を使い、互いに鋼糸で結ぶ。攻撃系に見せかけた捕縛系ユーベルコード、『≪捕獲工作≫爆弾投擲(キャプチャーミッション・フェイクボマー)』を発動させた彼女は、目の前にいる金毛の狼を見上げた。
「こほん……多分ですけど、先ほどの戦いで協力してくださったアウルさん、で合ってます?」
「……!」
 覚えている?それに、この姿なのに。
 推測とはいえ、彼女は狼のことを"アウルさん"と呼んだ。
 皆のためなら無茶できる。寿命を削ってでも、人ならざるものとしてオブリビオンらの脅威になろうとも、その時だけは「人になれる」。
 ──嘘だ。自己保身、単純にオブリビオンよりも恐ろしい"ふつうの人々"から自分を守るエゴでしかない。だからこそこのような破滅的な戦い方ができた。
 しかしこれでは。こんな姿になっても名前で呼ばれるのであれば、
「……ゥ、うぅ……ぐるる」
「わっ!?ちょ、ちょっと待ってください!まだ敵が残ってます!」
 『怪物』になっても、意味がないじゃないか。
 狼はその巨体を火花に擦りつけ、恐ろしい形相を緩め途端に甘えだした。
 溢れそうになる涙を隠すように、しかし涙を隠すことはできなかったのか、はたまたこの自然が海水をたっぷりと吸い上げ水分を多く含んでいたためかは分からないが──いつの間にか火は消えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

火奈本・火花
「こうして一緒に戦ってくれる仲間がいる……とても心強いですね」

■真の姿
解放

■戦闘
だが感謝は後だ。まだ捕獲機は残っているし、『セト』も姿を見せていない
次のUDCが現れる前に片づけたいな
捕獲した分は9mm拳銃で脅威とならない程度に数を減らし、仲間への通信機能だけは残るように破壊しよう

その間『≪緊急要請≫機動部隊投入』で、待機させていた機動部隊に散開して貰う
機動部隊による通信への割り込みや声の誘導で、周辺の捕獲機を私の元に集める

私も敢えて姿を晒し、捕獲機達を『おびき寄せ』るつもりだ
十分な数か、集められる限界まで集めたら、奴らに大人しく捕獲される『演技』で近付かせ
ヤドリギを解放して一気に叩いてしまおう


アウル・トールフォレスト
そうだね、まだいっぱい残ってるもんね
わたし、頑張るよ!

わたしは、わたしに出来る役割を
引き続き【新緑、始まりの息吹を此処に】を使用しての獣化形態で戦う
今度はただ走り回るんじゃない。あえて相手に見つかるように、けれど攻撃には捕まらないように。緩急をつけながら走って気を惹きつける

それと同時に【祝福・怪物領域】も使って攻撃
ここには既にあの神様は居ない。なら、乗っ取るのは簡単
周囲を『高き森』に、霧深く、けれども光に満ちたわたしの『領域』に変えて、わたし自身の力を強めながら、みんなの戦闘のお手伝いをするよ


ぽかぽか、ふわふわ。不思議な気持ち
…やっぱり、”人”は羨ましいや

…えへへ
今ならわたし、何でも出来そう



 捕獲機の残りはまだ分からない。しかし目に見えて数が減っているのは把握していた。
 ここに集まった火花とアウルは、"最後の仕上げ"に取り掛かることにした。
「こちらリーダー、応答を」
 その前に、仕上げに必要な"四つ葉のクローバー"に連絡を行う。新品のスマートフォンを使い、フェイスカメラを付けて発信した。
 受信できたのは四つ。散開した部隊全員だ。
『こちらα、妙に静かだが問題なし』
『こちらβ、ターゲットが上でグルグル回っている。ついに回路まで壊れたか?』
『こちらγ、捕獲機の群れを発見。命令に則り現在観察中』
『こちらδ、ただいま隠密待機中。ようやく通信できてホッとしました』
「……一斉に喋られると困ります」
 手早く先ほど起きたことと、現在の状況を報告する。隊員の様子からして、部隊に損害は今のところなさそうだ。そして、ちょうど仕上げを行うにふさわしいシチュエーションが揃っている。
 隣にいた金毛の狼……アウルは、その様子を不思議そうに覗いていた。
『隊長、その……隣のダイダラボッチみたいなのは?』
「こら、そう言わない。この子は猟兵です。今は狼の姿になっていますが、とでも心強い仲間ですよ」
「きゅぅん♪」
 ふかふかの毛で覆われた頭をすり寄せるアウルを撫でながら火花は本題に入った。
 ──実行したい作戦がある、と。

 まだいっぱい残ってる。まだやることがある。
 けど今のわたしなら頑張れる。ふわふわで温かい、不思議な気持ちを受け取ったから。
 やはり"人"は羨ましい。
「ウオオォォォォォオオンッッ!!」
 火花ちゃんのトモダチはすごく優秀で、この森の地図を見せてくれた。わたしでさえ把握できなかったこの領域。今なら頭の中でふと地図を思い浮かべれば、どこに誰がいるのかよくわかる。
『脱走オブジェクト確認!脱走オブジェクト確認!』
 鬼さんこちら。
 見つかっても問題ない。むしろ見つかることが重要だ。
 火花ちゃんの"仕上げ"のために、わたしは陽動を引き受けた。彼女のトモダチが見つけた鉄くずたちが集まってるところに、あえて踏み込んでたくさん惹きつける。
 できるだけ森の海沿いを、外周するように。
『緊急プロトコル、脱走オブジェクト確認!』
『プロトココココココココココココ』
『脱走オブ、~???~~?~~~~??』
 あぁ、走れば走るほど耳障りな声が大きくなる。
 でもこれが彼女のためになる。そして、
 ──わたしが提案した"仕込み"が終わる。
「グルッ……」
 鉄くずがヘンテコな腕を伸ばして、わたしを捕まえようとする。その数は多分、二十匹以上はいると思う。けど、そんな鉄くずたちにも隙がある。
 太い木を壁にして蹴る。飛び上がり、枝と枝の間を素早く見つけわたしは空へと跳ぶ。
 この森にはたっぷりとわたしの楔(かぎづめ)で痕を付けた。今この森には主がいない。主を守護し、庇護を受ける動物たちさえも。そしてこの森は"生まれる場所を選べなかった森"だ。きっとこの戦いが終われば消えてしまう、儚くて、かわいそうな場所。
 だから、ほんの少しの間だけど代わりになってあげる。
 大きく息を吸い込んで、この森に合う"息吹"を、肺からたっぷりと!
「フゥゥゥゥーーーーー…………!!」
 ──活性化が始まった。
 『祝福・怪物領域(テリトリー・ミストブレス)』。わたしが吐き出した息は森全体に広がり、森はわたしを助けようと動き出す。
 命の鼓動だ。静かでずっと困惑していた森が、わたしを主だと認めてくれた。命という光に溢れて、今まさに追いかけられているわたしを助けようとしてくれる。
 空中に漂うわたしは、森の中心へ──火花ちゃんがいるところへと飛び込んだ。

「もうすぐ来る」
 森の中央。木々があまり生えておらず、海上に生えた森であるというのに淡水の泉が存在していた。どうやら、木々が海水を循環し淡水を森の中心に排出しているらしい。詳細な原理が気になるが、今は後にした。
 泉の中心に立ち、心臓に根付くヤドリギに呼びかける。
 翠翁戦と同じ、あの真の姿を呼び起こす。今度は服が消えたり、備品が植物化することはない。既にメガネとスーツの上を隊員の一人に預けているからだ。
「一瞬だけだ、暴れるな……ん?」
 左腕が根に覆われる。侵食するように、あるいは火花の体を取り込むように、ヤドリギが人間の肉体という殻をやぶり根を生やした。だが、痛みはなぜか薄い。
 まるで、ヤドリギが気を使っているようだった。
 『宿木乱舞(ミストルー・スタンピード)』はこんなに紳士的だったか?しかしそれなら都合がいい。
 ちょうど、森に蔓延る捕獲機全てを引き連れたアウルがこちらへ飛び込んできた。
「グルァッ!」
「あぁ、あとは任せろ」
 アウルは頭上を飛び越え、捕獲機の群れはイナゴのようにこちらに触腕を垂れ下げて喰い散らかそうとする。
 だが今だけは気分がいい。それに、この森もやる気に満ちているのがよくわかる。
 収容されるギリギリまで近づけて、自身とアウルの姿が捕獲機の群れで見えなくなるほど間近に。この瞬間を待っていた。
 ヤドリギと同化した左腕を、泉の底に叩きつける。
「暴れていいぞ……思いっきり、全力で!!」
 ──命が、鉄くずに牙を向けた。
 ヤドリギは一瞬で泉の水を飲み欲し、まるで爆発が起きたかのように急成長、間欠泉の如く噴き出したヤドリギの根が捕獲機の群れを巻き込み、取り込んで圧殺してゆく。
 根からは一機も逃れられない。急成長し、根を触手のように伸ばし必ず捕まえる。命を貪り喰らうヤドリギの根は、今だけ鉄くずを壊すためだけに動く。
 枝葉や蔦といった生ぬるいものは出さない。根そのものが、アウルを主と認めた森と結託し最強の一撃を放った。

 そして、ヤドリギの成長が止まり、泉があった場所に一本の大樹が生まれた時には、もう捕獲機はどこにもいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『黙示録のラッパ吹き』セク』

POW   :    あれ?何処にあるの?
レベル分の1秒で【探索用の念波】を発射できる。
SPD   :    『ラッパ』を悪用するつもり?
【不思議な力】による素早い一撃を放つ。また、【相手をラッパ泥棒だと思い込み思考停止する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    召喚-アイ・セカ・トリ・フォス・フィア・セプ-
【自分以外の六人の黙示録のラッパ吹き】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 この下にある。主を手に入れ喜びの宴を奏でる森が教えてくれる。天を貫くほど大きく聳え立つヤドリギの樹が教えてくれる。
 エネルギーの流出元。深海奥、翠翁が封印されていた海底遺跡から根付いた森から、『ギャラルホルン』のエネルギーを感じるのだから、間違いない。
 落としたものは拾わなければ。
 もう一度天に還るために、もう一度終末を告げるために、もう一度──役目を果たすために。
 でも、役目はなんだったっけ。

 現代に降りた天使は、今となっては悪魔そのもの。たった一つの忘れ物が呼び起こした終末は、これから始まる。

 ──『セク』接近。海上森林北から、南下中。
火奈本・火花
「一つ一つは偶然の産物だという事は分かっているが、こうも悠々と登場されてはな。……これより『セク』の無力化、『ギャラルホルン』の収容任務に移行する」

■戦闘
折角の大樹だ、利用しない手はないな
グローブの鋼糸による『ロープワーク』で大樹を昇り、『地形の利用』で葉の影に身を潜めよう
『聞き耳』でセクの接近を測り
『暗殺』を狙うつもりで、セクに飛びかかった上で攻撃力を重視した【格闘術】を仕掛けよう

だが奴の念波の威力も想定し難い
身を隠しても発見された場合は、9mm拳銃で攻撃する。発見されて私の方を向いた瞬間を見計らい、『クイックドロウ』の『先制攻撃』で奴の翼を打ち抜くつもりだ。『2回攻撃』で左右の翼を狙いたい


アウル・トールフォレスト
最後は、天使様
いつもならお空を飛ぶ相手は厳しいけど…

今ならば
生命息吹く、力に満ちるこの森の元でなら、
わたし、見たこともない姿になれそう…!

【深緑、畏れ多き大樹と成りて】
真の姿を初めて開放
『高き森の怪物』よりも、より巨大に聳え立つ姿へ…

わたしの存在を、魔力を、光輝を、広範囲に広げて探索用の念波の邪魔をする
相手の気を惹きつけて、探し物を探させないように
真正面から立ち塞いで、時間を稼いでいくよ

隙を見て攻撃も。この大きさだもの。軽く腕を振るうだけでも、ダメージを与えられる筈だよ

わたしはアウル。『怪物』のアウル
けれど今だけは、この森の主。『守る者』
…立ち入るのなら、容赦はしないよ



 結局のところ、この事件は偶然の産物だ。
 たった一つのくしゃみで起きた大火事。蝶が羽ばたいたから台風が発生した。そんな偶然が、定められた運命の流れを激化させる要因だったに過ぎない。
 セクが落としたギャラルホルンもそうなのだろう。
 うっかり落としてしまった黙示録のラッパは、主人の手に無くとも終焉を呼んだ。偶然であれ、UDCアースに恐怖が訪れかけていた。当然落ちた場所が海の底、深海数千メートル下の海底遺跡となれば、誰も知る由もない。
「……こうも悠々と登場されてはな」
 ここから北、正確には太平洋北西からやってきた"天使(あくま)"。
 "黙示録のラッパ吹き『セク』"がこちらにやってくる。
 そんな中、火奈本・火花は、海上の森の北側にいた。セクが今上陸しようとしているポイントのすぐそば、海沿いに並ぶ大樹の枝の上である。
 一見すれば可愛らしい少女だ。絵にある天使のように白い翼があり、光ではないが花の輪が冠のように頭の上に浮かんでいる。手は祈りのカタチで結ばれており、スカートや肩鎧から垂れるストラをふよふよと揺らしている。
「さてと──これより『セク』の無力化、『ギャラルホルン』の収容任務に移行する」
『おっけー!──迎撃、始めるよ』
 スマートフォンの電源を切り、火花は背後の森を見た。

 森は既に自分を主と認めている。
 その中心、海水が淡水へと変わる泉の中にアウル・トールフォレストは立っていた。
 今は元の姿、金髪の女性のカタチをしているが、これからまたカタチを変えてゆく。
 今度は友のために。"自分が見たこともない姿"へと変わる。
「──わたしはアウル。"怪物"のアウル」
 泉を中心に森のエネルギーがアウルに集中する。
 造られた森はこの時を待っていたのだろう。葉が枯れ始め、そこら中に垂れていた蔦が土に還り抱えていた養分をアウルへと手渡す。
 本来存在しないもの。そして海の上に立つ、幻想の森だ。
 それが今、ようやく生まれた理由を知り現実から立ち去ろうとしている。
「けど今だけは、この森の主──"守る者"」
 大樹は枯れずとも、葉や体表に宿した苔を吸収しアウルへと送り込む。
 ──今、この森はわたしと同じだ。同じ意思をもって、天使に対抗するための力を分け与えて貰っている。
 肉体がドクンと脈打ち、巨大化と概念化が平行して始まった。
 まさに神が顕現したというべきか。一秒ごとに風船のように全身が成長し、植物たちの覚悟を受け取り神威を纏う。今ここにいるのは全長100メートルを軽く超える超越存在。森の主、神話において"ダイダラボッチ"と呼ばれた巨人そのもの。
 地を作り運び、そこに跡(テリトリー)を残すもの。神でありながら生命を喰らう"怪物"であり、生命を死守する"守り人"。
「立ち入るのなら、容赦はしないよ」
 あらゆる穢れを弾く光輝なる"女神"、『深緑、畏れ多き大樹と成りて(メラム・エンリル)』。
 森に、二度目の神が顕現した。

「──!?!?」
 デカい。いやデカすぎる。
 火花は事前に、アウルから森の中心で巨大化すると聞いていた。彼女の真の姿には、セクが持つという探知能力を阻害する力があると聞いていたからだ。
 実際にスマートフォンを見れば圏外表示になっており、トランシーバーも砂荒らしで繋がらない。おそらくもう目前にいるセクも自慢の探知能力がやられ困惑しているだろう。
 ──ではなにがデカいのか。それは"壁のように立ちはだかる純白のドレス"だ。
 見上げても顔が見えない。胸部が、おっぱいもデカすぎてそれが遮りになっている。辛うじて特徴的な角と金髪が見えるためアウルと把握できるが、ここまで巨大になるとあの捕獲機が血眼で「収容!収容!」とバグを起こすのも理解できた。
 一目見て理解できる。"アウルは女神だ"と。
「……圧倒されている場合ではない」
 そして、アウルが女神になってから起きた変化があった。
 一つは、まるで冬の森林のように、葉や蔦が枯れ落ちてしまっていた。森を飾る緑のほとんどが消失し、今やこの森は骸骨のような状態と言ってもいいだろう。この状態ではいくら入り組んでいるとはいえ、緑のカーテンという自然の隠れ蓑はもう使えないと言ってもいい。
 さらに、セクが森の一歩手前で停止していた。
「……見えない。見えない。見えない。見えない。見えない。見えない。見えない。見えない。見えない」
 より正確に言えば、バグを起こしていた。
 彼女の探知能力は、ギャラルホルンを探すためだけに備えられたものだ。それを女神の存在で無力化された今、自分がなぜここに存在しているのかの定義を演算しなおしている。
 これはチャンスだ。
「ふッ!」
「見えな──!?」
 火花は大樹を蹴り、勢いよく飛び出した。
 ほぼ正面からになってしまったが、奇襲としては十分。セクに向かってダイブし、そのまま抱きしめるようにホールドをかける。
 視認されたところでもう遅い。そして彼女が人のカタチをしていたことが唯一の救いだ。素早くセクの体を這い背後に回り、そこから四肢を柔軟に使い関節を逆方向へと誘う。
 武器が無くとも、人には手足がある『格闘術(エージェント・マーシャルアーツ)』はそのための戦術。
「うぎ、ィ……ッ!!」
「墜ちろ……クソッ、硬いなコイツ!」
 セクに組み付いたはいいが、想像を遥かに超える硬さで関節をへし折ることができない。金属用接着剤で固定されているかのような、異様な硬さだ。
 苦しんではいるが、その苦しみを解放させるまでに至れない。
「手伝おうか?」
「待てっ、もう少しだ。もうほんの少し力を加えれば……」
 頭上からアウルの声が響く。セクの頭越しから海と枯れ大樹の森が震えていたのが見えていたが、それほど大きな声であるにもかかわらずすんなりと耳に声が入って来る。
 手伝ってもらえるのならありがたいが、今この状況で"手伝う"と言われれば、それは最悪な想像しかできない。
 例えば、虫を払うようにペシッとビンタをするとか。
 それでは二人諸共海の底だ。……むしろ名案かもしれない。
「……いや、頼む!今だ!」
「わかった!」
 火花は間接技を解除し、するりとセクから離れ自ら海に落ちる。
 そして解放されたセクはせき込み、締め上げられた関節を戻そうと震える手で肩に触れた。その時だった。
 ──セクの全身を余裕で超える大きさの手が、虫を叩き潰すように彼女の体を殴り飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

火奈本・火花
「機動部隊やDクラスと協力する事はあるが、猟兵との連携はまた違った頼もしさがあるな」

■戦闘
一連の事件も区切りだ。理念への決意をより強くしよう
殴り飛ばす一撃でセクも少しは遠くに行っただろうし、『地形の利用』で【金枝の落とし仔】をヤドリギの大樹や森に忍ばせる
セクが仲間を呼ぶなら、ヤドリギの蔦は7本づつ相手をさせるつもりだ。これだけでは時間稼ぎにしかならないかも知れないが、最も無力化に成功した個体に『ロープワーク』でグローブの鋼糸を飛ばし拘束、引き寄せて『呪殺弾』の『2回攻撃』を至近距離から当てよう

だが蔦は3本残る
可能なら大樹を通じ、海中のギャラルホルンを無力化した上で利用できる場所に隠しておきたい



「機動部隊やDクラスと協力する事はあるが、猟兵との連携はまた違った頼もしさがあるな」
 海から水飛沫という名の柱が立つのを、火花は大樹の根元で見ていた。
 セクは新たな森の主によって殴られ、そして今柱の真下にいる。神の一撃、天罰とも言えるだろう。物理的ではあったが、アレは確かに神罰とも言えるようなものだった。
 なおその相手は天使の一人。神の使いがなぜ主たる神から罰を受けなければならなくなったのか。
 言わずもがな、海底に沈むギャラルホルン。それが原因である。
「あぁ、私の……私のギャラルホルンを盗んだなぁぁああああああ!!」
 柱が消える寸前、また柱が立つ。その上にいるのは天使。しかるべき罰を受けてもなお没しないセクだった。
「ギャラルホルン?確か……」
 浮上し叫んだセクに対し、火花は大樹に触れつつどこか訝し気に辺りを見渡す。
 そもそも彼女がここに降臨したのは、ギャラルホルンというアーティファクト──収容し厳重に管理すべき『黙示録のラッパ』を落としてしまったからである。大体の目星はついており、この海上に生えた森を中心に探せば見つかるだろう。森を生やした主、『翠翁』はギャラルホルンと接触したことで封印が解かれたため、確証はある。
 顎に当てていた手を離し、火花は下を指した。
「この下に沈めた」
 当然嘘であり、同時に真実を教える。
 が、曖昧かつどこか信憑性にかける情報は、天使にとっては不服だったようだ。
「──返せ」
 セクが放ったのはたった一言。
 しかし一言の後瞬きをすれば、なんとセクの周りに同じ姿をした天使がいた。否、衣服や背から生えた翼は同じだが、顔立ちや髪型はそれぞれ違う。
 セクを中心に降りてきた六人の天使。彼女たちの手には、ラッパがあった。
「私は大地に温かさと冷たさを教えます」
「私は海に命の温度を教えます」
「私はもう一度星に誕生した日のことをを教えます」
「私は光の大切さを教えます」
「私は人々を剪定し罪の有無を教えます」
「私は神に修了を告げます」
 セク以外の天使が、同時に答えた。
 黙示録の天使とは、世界に終わりを告げ終末を実行する使徒。にして、第二次世界大戦で用いられたUDC兵器である。終末の大地ハルマゲドンで戦争の火蓋を切らせる彼女たちが今、こうして島国の海上に集結しラッパを吹こうとしている。
 が、無意味だ。ラッパは必ず順番に、七人連続で完璧にその音色を響かせなければ終末は訪れない。
 そして、それがわかっていながらも、火花は終末を止めんと大樹に触れていた右手を沈めた。
「今更天使などこの世に要るものか!」
 今や枯れ木となった大樹から、勢いよくヤドリギの蔦が飛び出し、セク含む七人の天使にその先端が伸びる。
 火花は様子を見つつ、予め仕込んでいた。『金枝の落とし仔(アンディファインド・クリーチャー)』。この世に蔓延る"世界にいてはならないもの"を捕縛する、神の鎖。それがこのヤドリギの蔦だ。
『!?』
「終末を告げる役目は遥か昔に終えただろう。大人しく収容され……!?」
 蔦の数は七本。どれも自律的に動いており、一本ずつ天使を拘束せんと蠢く。
 ただし天使らもただで拘束はされない。一人目の天使『アイ』は吐息から炎と冷気を出し、二人目の天使『セカ』は念力で海底から岩を引き寄せそれを蔦にぶつけた。三人目の天使『トリ』は蔦の内側から毒を生成し侵食し始め、四人目の天使『フォス』は蔦の自律行動を止めようと光を浴びせる。五人目の天使『フィア』は自らの翼を獣の頭に変えて対処し、七人目の天使『セプー』は自ら蔦を掴み拘束されながらも一切減ることのない力で引きちぎろうとする。
 セクはただ見つめているだけだが、伸ばした蔦がなぜか反応しない。
「あなた、やはりギャラルホルンの場所を知っている」
 殆どが無力化できていない。対処しきれていないことに、火花は内側から焦りが滲みだす。
 蔦を出した狙いは天使ではなく、その下。森の根を辿りヤドリギを侵食させ、海底にあるギャラルホルンを探し自身が利用できるよう場所を移す。その予定だった。確かにギャラルホルンはこの真下にあり、深海ともいえる場所に沈んでいた。
 だが、今ギャラルホルンを動かせば、この森を失ってしまう。翠翁が鎮圧されてもなおこの森が現界し続けているのは、ギャラルホルンがエネルギーの根幹になっていたからだ。
「……実は今気づいたところ、というのが事実だ」
「返して。私のために」
 セクだけが蔦の拘束を受けず、ゆっくりと浮遊し近づいてくる。
 ──敵は増え、収容対象であるギャラルホルンは動かせない。状況が振りだしに戻るどころか悪化してゆく中、火花は次の対処方法を思案する。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アウル・トールフォレスト
――いけない。少し意識が飛んでいた
慣れない姿だと、やっぱり無理が生じるみたい

遅れた分を取り戻さないとね

●引き続き真の姿を維持
いつの間にか天使様が増えてる…邪魔だなぁ
再度、光輝を広げて動きが止まるか試してみる。ダメだとしても探し物の邪魔は続けられるよね

でもこんなに”小さい”と幾ら止まったとしても面倒…
だからお願い、エンキドゥ
服の下に隠しておいた『人形兵器』を飛ばして、一体一体仕留めて貰うよ

エンキドゥが戦っている間に、わたしは別の事を
深海にあるギャラルホルンを腕を伸ばして回収して…
…そうだ、飲み込んじゃえ
森を維持するには、エネルギーを供給するものが居続ければ良いのでしょう?
なら、わたしがソレになる


アレクシア・アークライト
・UDCからの応援

海中深くのラッパをどうにかするか、天使をどうにかするか。

ラッパに近付いたら、天使がそれを見つけて接触されるおそれがあるわよね。
ってことは、天使をどうにかするしか選択肢がないってことじゃない。

【能力中和】で天使のUCを無効化するわ。
私も他のUCを使えなくなるけど、6体の天使を消せるなら、取引としては十分よね。
それにこっちには仲間がいる。彼女達がいるなら、あの天使に勝てる筈。

・3層の力場を情報収集用に展開し、敵の動きを把握。
・残りの力場を防御用に展開しておくとともに、念動力で敵の動きを阻害。
・身体に雷を纏わせ、攻撃を行う。

四人の御使いともども、骸の海で永遠に眠ってなさい――!



 ──ふと気が付くと、天使が七人に増えていた。
 寝ぼけたか。それとも幻影……否、全て実体を持っている。アウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は彼女たちから感じる聖の香りから、セクが仲間を呼んだのを察した。
 彼女らにもう一度"神威(ジャミング)"を放つか。少しだけ考えて、使用を止める。恐らくこれを使ったところで、セクはギャラルホルンを探すのを止めはしない。むしろより血眼になって探しに行くだろう。
 なにより、セクを囲う六体の天使。アイ、セカ、トリ、フォス、フィア、セプ-、彼女らは皆セクと同じ『黙示録のラッパ吹き』。各々能力は違うようだが、セクが七人増えたと言っても過言ではない。
「……よし」
 今の姿では、小さい彼女たちに対処するのは難しいだろう。既にセクには物理的だったが攻撃を仕掛けた後であり、下にいる仲間と戦っていながらも警戒心をこちらに向けている。
 自身の手で攻撃はできなさそうだ。しかし、直接ではなくとも"手"はある。
「やっちゃって、エンキドゥ」
 アウルの身を包むマーメイドドレス、その裾部分がガサゴソと動き出す。褐色の赤い刺青が入った手が伸び、顔を出し辺りを見渡した。
 裾から出てきた小さな少年の名は"エンキドゥ"。神の"人形兵器"にして、アウルのもう一つの"手"である。
 赤い剣のような形状の右腕を慎重に裾から出すと、エンキドゥは早速彼女の指示に従い飛び出す。
 狙いはセクではなく、六人の追加された天使。

「そりゃあッ!」
 碧色の炎を吐く天使アイ。その鳩尾に、サイボーグの少女、アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は赤い雷を纏った拳を打ち込んだ。
 『能力中和(アンチ・サイ)』。彼女の纏う雷はユーベルコードを対消滅する力が込められており、さらに雷はユーベルコードに纏わりつき再使用を不可能にさせる効果もある。
 サイボーグでありながらサイキックを主として利用する超能力者、フォースナイトであるアレクシアは、フゥッと排熱を行い拳を構え直す。
 先ほどのパンチで召喚された天使の一人、アイは消滅した。再召喚はユーベルコードが止めている。残る天使は五体。ターゲットのセクはなぜか傍観している状態だが、視界から外れないよう警戒し続ける。
「次は来ないの?怖気づいたのかしら」
 煽るように手招きするアレクシアだが、襲い掛かろうとする天使は一人もいない。
 彼女のユーベルコードはもちろん、今五体の天使は動きが鈍いからだ。アレクシアを中心に広がるのは、強烈な力場を伴う"念動力(サイコキネシス)"。透明だが力を持つそのエネルギーは五体の天使の四肢に泥のように絡みつき、動きを鈍くさせていた。
 今彼女へ飛び込めば、先ほどのように一発殴られて終わる。だが、動かなければ彼女を止める者はいなくなる。
 ジレンマを起こし一歩踏み出せない天使たちに、アレクシアは迷わず踏み込んだ。
「じゃあ次は──」
「──!!」
 アレクシアが狙ったのは、翼を悍ましい異形へと変化させ戦っていた天使フィア。彼女の懐へと飛び出し、目に見えぬ速さの左フックを繰り出す。
「っ、フィア!」
「させるか……ァッ!!」
 すぐさまそれに気が付いたセカとセプーは、各々の能力を即座に発動させる。
 セカは再度海底から岩を引き寄せアレクシアを下から吹き飛ばそうとし、セプーは念動力に阻害されながらも自らの筋肉を絞り彼女に組み付こうとした。
 しかし、これこそが彼女の狙い。
「ふッ!」
 フィアの顎に入れるはずだったフックを寸止めし、その場で振り向きざまに体を回転させセカに回し蹴り。背後から飛びついてきたセプーに対して、右腕を勢いよく後ろ方向へ振るい、セプーの首下に裏拳を穿った。
 最初からフィアなど狙っていない。一瞬で風船のようにはじけ飛んだ二人の同胞の姿を見て、フィアは驚愕し震えだした。
 これでもう、セカとセプーは再召喚されない。
「残りは三人ね」
 トリ、フォスは慌てふためく。
 フィアはもはや戦闘不能とも言っていい。戦意が失われているからだ。残るトリとフォスは動揺しているものの、彼女たちは間接的な攻撃を行う。近接戦を主軸にするアレクシアに対抗できる存在と言ってもいいだろう。
 気を引き締め狙いを定めた時──空から何かが落ちてくるのを念動力が察知した。
「ッ!?」
『問題ない』
 彼女の肉体に毒を植え付けようと腕を伸ばしたトリ。その腕を、赤い一筋の光が貫通した。
 ここから数十メートル上空。赤い光を放ち高速でこちらに向かって飛来する少年、エンキドゥが応戦に来たのだ。
『『蛮戦技巧・剣刃掃射(オウガバトル・ソードストーム)』──射出』
 空中からアレクシアの隣に落ちるまでに、エンキドゥは剣状の右腕にエネルギーを溜める。神が生み出した原初の泥人形の名を冠する彼は、変化自在の肉体を持つ人形だ。常に内部で流動し続けるエネルギーと、アレクシアが撒いた念動力を右腕に巻きつかせ吸収。
 より血を思わせる赤黒い輝きを右腕に纏い、彼女の隣に着地すると同時にトリへ斬撃を放った。
「主よ、どうか助け……──」
「トリ!!」
 生命の誕生を罪とした天使トリは、罰を受け入れた。
 フォスは叫びながらもエンキドゥの光をギリギリで回避しつつ、空に昇る太陽と月の光を操作。自身の翼を鏡とし、照準を彼に合わせたソーラークッカーを作りだす。三秒時間はかかるが、日と月の光を融合させた一撃は神の人形である彼にかなり有効的だ。
 これで勝たなければ終わる。脳裏によぎった言葉に従い、フォスは三秒を耐えしのぐ。
 ──予定は一秒にも満たぬ早さで終わった。
「よそ見なんて余裕ね」
 爆砕。
 フォスの真横に回り込んだアレクシアは、脇腹から右ストレートの掌底打ちを発射した。拳よりも打撃力と衝撃波があり、打たれた衝撃だけで内臓を破裂させる拳法。アレクシアはこれに念動力を混ぜて破壊力を上げている。
 一瞬、何が起きたのかフォスは理解できなかった。そして、フォスが脇腹から攻撃を喰らったことを理解した時には、既に肉体は砕け炸裂していた。爆発とも言っていいだろう。
 これでもう六人の天使はいない。
「…………」
 残るはセクのみ。
 少し離れた場所で浮遊する彼女に、表情の変化は見られない。だが湧き出る"気"から相当苛立っていることがわかる。
 アレクシア、そしてエンキドゥは恐怖に屈したフィアを放置しセクの前へ立つ。
「あなたの御使い、もう戦えないようだけど?」
『天使とは聞いたが、アレでは名折れだろう。あなたはどうだ?』
 反応はない。そして目線も合わせず、どこか遠くを見ているように思える。
 戦闘中ずっと目を離さず警戒していたアレクシアは一度拳を降ろし構え直すと、セクに一歩詰め寄った。
 瞬間、海底からクジラの呻きのような音色が響いた。
「『!?」』
「──見つけた」
 枯れて死滅しかけていた灰色の森に、緑が施され始める。急速なエネルギー循環と、生命分配。死にかけていた森を土に、森はもう一度大樹の群れを作りだす。
 アウルを、彼女の足から生えた根が絡み取った『ギャラルホルン』を中心に。
 終わりを告げるラッパ。世界に破壊をもたらすエネルギーは、同時に再誕をもたらすエネルギーである。生命とは生まれてから死滅し、死から誕生するもの。理からただ一方のエネルギーを供給できるギャラルホルンは永久機関と言っても差し支えない。
 天使が血眼で探していた理由も今ならわかる。これは誰かに拾わせてはならないものだと。
「私の、ギャラルホルン……!」
 二人の小人が森の再生に驚愕する中、セクはもう一度森へ向かって飛び出した。
 森の中へと侵入した彼女に気づいた二人は、すぐさまその後を追う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

火奈本・火花
「持ち主が手にしていない、アーティファクト単体でこの力か……恐ろしいな」

■真の姿
胸から左腕にかけてが樹木化
浮き上がった血管のような根が、顔や腕、脚に張り巡らされている

■戦闘
『≪防衛制圧≫UDC捕獲・収容技法』を使う
「仲間も居ない今、ラッパを手にしてどうするつもりだ? あれは以前お前が落とし、今は我々UDC組織が収容するべきものだ。お前の手に渡る事はない」

奴がラッパを手にしないよう、『演技』でラッパ泥棒のように振舞って意識を私に集中させよう
『クイックドロウ』で牽制・攻撃を与えつつ
奴の攻撃を『激痛耐性』で耐え、私自身の『捨て身の一撃』によるヤドリギの蔦、及び関節技で拘束
機動部隊にセクを狙撃させよう


アウル・トールフォレスト
これがギャラルホルン…終末の権能
…くやしいなぁ。今のわたしでも手に余るみたい

でも森が戻って、利用できるだけのエネルギーは引き出せた
もう、おしまいにしましょう?

●真の姿にて
まずはエンキドゥが戻ってくるまで時間稼ぎ
天使様がこちらに近づいてきたなら、再度、光輝を放つ。今度はジャミングでない、魔力の衝撃波を伴った傷つけるための攻撃
不思議な力が何かわからないけど、わたしの光輝だってよくわからないものだもの。神秘同士で干渉し合えるはず

エンキドゥを回収したら、『龍脈』を取り出し【破光・森羅龍輝】の準備
森を、命を、今ここにあるだけの全てのエネルギーを、光の槍として叩き込む

最後だもの。全部、綺麗に片付けないとね


アレクシア・アークライト
ラッパを見付けられた?
あいつがラッパと接触することだけは避けなきゃ……!

・力場を広域に展開してセクの居場所を探知し、【瞬間移動】で先回りする。
・念動力で身体の動きを、【能力中和】でUCを阻害し、仲間が来るまでの時間稼ぎと仲間の攻撃のサポートを行う。
・セクの力が弱まったなら、そのまま念動力で圧潰させることを狙う。

壊れた天使に最後の審判をもたらされたりしたら、たまらないわ。
ラッパが吹きたいなら、後でレプリカを送ってあげるから骸の海で好きなだけ吹いていてちょうだい。


あのラッパはUDCで保管することになると思うんだけど……。
どっかのアニメみたいに、UDCに天使が攻めてくるようになるのかしらね?



 ギャラルホルンの場所は、やはりこの森の真下にあった。
 『翠翁』が封印されていた海底遺跡。その蓋の空いた先、さらに奥。何百人も入ることができそうな広い空間の中に、ギャラルホルンは落下していた。
 拾い上げたのはアウル・トールフォレスト。の、足だ。樹木の根に変化させた足が海中でも星の如き輝きを放つビューグルを絡めとり、地上へと運ばれてゆく。
 これから始まるのは『収容』だ。かつて世界に七度の終末を齎し、この星の神々に終わりを告げる七柱の使徒、"トランペッター"がいた。やり方は単純、一柱ずつラッパを吹き、各々が世界を確実に終わりに導く災害を起こすことだ。その中でも、第六のラッパを持つセクは"新たに四柱の使徒を呼び出し人類を虐殺"する『ハルマゲドン』という史上最悪の災害を起こす。
 ギャラルホルンは、四柱の使徒を呼び出すための媒介でしかない。しかし使徒を呼び出す故に、ただならぬ力を内包する永久機関でもあった。そしてセクにとって、命よりも惜しいもの。
 ──人類にとっては、厄介極まりない核爆弾。それ以上の異物だろう。
「…………」
 今まさにその力の上澄みを全身で体感しているアウルは、静かに目を伏せた。
 神である自分にさえ手に余るアーティファクト。終末の権能は愚か、誤ってアクセスしようとすればすぐに力に呑まれてしまう。
 悔しいが、今の自分には手に余るものだ。だが、上澄みだけで取れるエネルギーで、もう役目は十分果たすことができた。森は復活し、泉はまた海を浄化し淡水に変え新たな生命を生もうと働き始めている。
 今ここにある力を全て使って。
 迎撃に向かっていたエンキドゥが肩へと戻ってきた。変形し、また服の中へど戻ってゆくのを肌で感じながら、アウルは両手を掲げる。手首が重なるようにクロスし、手を広げ森に呼びかける。かき集めるのはマナ。森に宿る生命力ではなく、魔力を。翠翁が遺した淀みの残滓をかき集め、手の中で増幅と浄化を繰り返す。
 その中には、猟兵が出したユーベルコードの痕跡や、魔力の残滓も含まれている。
 長い戦いはここで終わり、森もようやく眠りにつくことができるだろう。
 『破光・森羅龍輝(ワイルドレイジ・インパクト)』。この天罰を以て。
「おしまいにしましょう」

「私の、ギャラルホルン!!」
 想像以上に速い。木々が入り組む中、翼を広げ鷹の如く飛びぬけてゆくセクの背中を、火奈本・火花とアレクシア・アークライトは追っていた。
 ラッパの位置を感知された。否、ラッパから場所を教えられたのだろう。先ほどの海から轟いた呻きのような音色は、恐らくギャラルホルンから発せられたものだ。アウルがひっそりと引き上げていたようだが、逆にそれが仇となった。
「見つけた!見つけた見つけた見つけた見つけた!!」
 もはや猟兵など眼中にないのだろう。ギャラルホルンのある森の中心へと、セクは飛んでいる。セクにとって、ギャラルホルンの『奪取』はUDCアースに対しての破壊宣言。オブリビオンの勝利を意味する。
 これは競争だ。収容か奪取、どちらが先にギャラルホルンという旗を手にするかの勝負。走り、根を蹴り追いつこうと躍起になるアレクシアは躍起になって叫ぶ。
「作戦決まった!?」
「えぇ、決まりました!皆さん準備は!?」
『問題ありません。簡易狙撃場配置完了、海上からいつでも狙撃できます』
 火花もまた、耳に取り付けたインカム越しに機動部隊へ通信を送りながら走っていた。やることは捕獲機に対して行ったことと同じだが、今回はタイミングが鍵となる。
 そもそもここは森の中だ。海上から狙撃はまず不可能──だがここには主がいる。
「アウルさん、本当にいいんですね?」
『もちろん。あなたの頼みだし、それに……この森も穏やかな眠りを望んでる』
 インカムのチャンネルを切り替え、彼女の声を聞いて息を呑む。
 この作戦はセクの討伐とギャラルホルンの回収を同時に実行する。必要なのはタイミング、暴走する使徒をいかに止め、骸の海へ還すかが胆になる。
 火花が即興で組み込んだ作戦(スコア)通りに。終末を告げるエンディングを改竄する。UDCアースに危機を齎した二体の存在に、エンディングなど奏でさせない。
 作戦名『トリオ』。これから始まるのは、三人の力を合わせ行われるエンディング。
 終わりを告げるのではない。これで"終わり"にするための銃声だ。
「──開始」
 合図と共に、火花は力を解放する。オブリビオンと猟兵が残したユーベルコードの残滓を、体内に巣食うヤドリギに吸わせ活性化──胸元から左腕をヤドリギが覆う、真の姿へと変わる。
 アレクシアもまた動く。右腕をセクへ向けて突きだすと、展開していた念動力の力場を移動。セクへと集中させる。
 第一章。
「止まり、なさいッ!!」
 空間が歪曲するほど強く、拳を握りしめることでセクの座標を固定。力場という壁が彼女を拘束した。
「がッ、ぁ……!?」
 彼女の体を覆う念動力には『能力中和』が含まれており、この時点でセクの無力化には成功している。ユーベルコードが出せず、強力な念動力がコンクリートのように固まり空中で押さえつけているからだ。
 だが、これでは足りない。
 第二章。
「仲間も居ない今、ラッパを手にしてどうするつもりだ?」
 火花は右手に自動拳銃を取り、セクの正面へと立つ。
「あれは以前お前が落とし、今は我々UDC組織が収容するべきものだ。お前の手に渡る事はない」
 セクにはまだ意識があり、諦める様子はない。倒さなければ永遠に、終末を告げるまでギャラルホルンを追い続けるだろう。
 だからこそ煽動し、彼女にあえて本気を出させる。
 生半可な状態でへし折るより、本性を晒してねじ伏せる方が遥かに有効的だからだ。
「……が、う……ち、がう、ちがう、違う違う違う違うッ!」
 空間の歪みが、ユーベルコードを相殺する念動力の壁が、揺れる。
「ギャラルホルンは、私のものだァッ!!」
 転調。
 セクの激怒と同時に、力場が破裂し念動力が吹き飛んだ。翼は大きく広がり、使徒としての力と威厳を発し空中に佇む。
 彼女は今、目の前にいる火花をラッパ泥棒だと完全に思い込んだ。
 思い込むこと。脳内を一つの執念で埋め尽くすことで疑似的な思考停止状態を作りだし、肉体の反射速度を上昇させる。だが動かすのは体ではない。
 不思議な力を。翼から発せられる"威厳"を、火花にぶつける。
「アレクシア!」
 第三章。
「わかってる!」
 念動力とは違う概念エネルギーの濁流。火花に、それを防ぐ手はない。
 だが防げる手段を持つ者はいる。アレクシアは瞬間移動で火花の前に立ち、右手に力を入れ盾のように構えた。
 目には見えない。しかし肌では感じることができる。互いにエネルギーをぶつけ、鍔迫り合いが起きていた。
 かたや使徒が放つ威厳のエネルギー。かたや猟兵が持つ正義のエネルギー。
 木々が揺らぎ、一瞬も集中を切らすことのできない戦いが始まる。
「──今だ」
 第四章。
 終わりはすぐに"始まった"。火花の合図、その一秒後に世界は変化する。森を飾る緑は茶色に染まり、枯れてエネルギーの余波で容易く飛び散ってゆく。大樹は白化し生命から物質へと変わり、海面を覆う根以外の全てが朽ちて土へと還る。
 ──マナの奔流の源は、オド。つまり生命と大地を統べる龍脈にある。
 森の主となったアウルが放つ、最後の"役目"。安らかな眠りを与えるための介錯は、迸る光の槍となってセクに降り注いだ。
「!?」
「だあらっしゃァッ!!」
 眩い光の存在に気づき、自身に本格的に命の危機が迫ったことを、セクは感知し振り向いた。
 そして、その隙をアレクシアは見逃さない。
 瞬時に散乱していた力場を収束。持ちうる念動力全てを一つの弾丸のように固め、それを解き放つ。
 気づいた時にはもう遅い。
「これは──!!」

 最終章。
 光と念動力。セクはエネルギーを二分割にし二つのエネルギーを押し返そうと抵抗する。エネルギーの炉である翼が軋み、徐々に光と念動力が圧殺せんと押しつぶしてくる。だが、耐えられないことはない。
 数十秒、いや数分耐えることができれば、後は森の力を使い果たした主からギャラルホルンを手に入れればいい。ギャラルホルンを絡めとる根を操る権限は、もうアウルには存在しない。
 ──なら、この体に絡みつく異形の根はなんだ?
『照準良し』
 エネルギーを放つことに集中していたためか、それとも最初から仕込まれていたのか、今度は物理的に拘束されていることに気づいた。指や足先は動かせても、それ以外が動かせない。
 磔のつもりか。それでも今この場で自身を屠らんとする光と念動力は防げている。
 であれば、この拘束に何の意味があるのだろうか。
『森の消滅と信号を確認』
 ふとセクは思う。ギャラルホルンを落とし、骸の海を彷徨い、そして今落としたはずのものが目の前にある。
 だが、届かないのはなぜだろう。世界を終わらせてしまうから?自分がオブリビオンだから?
 それとも、ギャラルホルンを手に取る資格など、もう自分にはないから?
『撃て』
 ──セクの問いは、胸元を貫く一筋の鉛が答えた。

「……いよっ、と」
 "四つ葉のクローバー"部隊が狙撃ポイントとして建造した簡易フロートの上。
 アレクシアは念動力を使い拾い上げたものを、その真ん中に置いた。
「……これが」
「うんうん、これだよ!」
 金色に輝くビューグル。終末を告げる黙示録のラッパ、ギャラルホルンである。
 実物を見た火花はしっかりとその姿を観察し、元のサイズに戻ったアウルは目を輝かせた。
 何しろ、今回の騒動の原因はこのギャラルホルンであり、火花やアレクシアたちUDCエージェントはこれを収容しに来たのである。
 存在するだけで膨大なエネルギーを発し、吹けばどこかに存在する四柱の使徒を呼び出すというアーティファクト。本来は破壊すべき代物だが、収容し研究が進めば、UDCエージェントの基本武装強化と、新たな兵器やユーベルコードを生み出す鍵にもなる。
 ──今回捕獲機が暴走した原因も一部ギャラルホルンにあるため、今後改良するにあたっても、研究は必要だ。
 奏者であるセク、そして萎縮し取り残されたフィアもまた収容される。彼女たちはオブリビオンだが、UDCアースにおいては"とてつもなく素晴らしいサンプル"であり、ギャラルホルンと共に抹消されるのは当分先のことだろう。
「終わったな……ありがとうございます、二人とも。アウルさんも、森の処理が楽になりました」
「うんうん。いいんだよぉ♪」
 収容方法が決まった連絡を受け、機動部隊が乗るボートを背に、火花はアウルへぺこりと礼をした。
「あの森はどのみちダメだったの。場所が場所だから……せめて、苦しまないように」
 目を伏せ、アウルは森があった場所へ顔を向けた。
 白く濁り、土の塊が海中を漂っているのが海面からでも見える。『翠翁』が遺した爪痕は大きく、強引に海に生まれた森は自ら淡水を作らなければ繁栄できないと判断するほどに、苦しんでいた。
 その終止符を打ったアウルは、どこか悲しそうに、しかし悔いはないと示すように微笑んだ。
「それで、ラッパはここで保管することになるんだよね?」
 ふと、二人のやり取りを他所に職員の手によって運ばれてゆくギャラルホルンを見送りながらアレクシアは思った。
 セクとフィアの他、黙示録のラッパ吹きはまだ五柱存在している。そして、セクが目覚めさせる予定だったであろう、四柱の使徒。現時点での脅威は去ったとはいえ、水面下に潜む脅威はまだ存在している。
「どっかのアニメみたいに、UDCに天使が攻めてくるようになるのかしらね……?」
 今日のセクのように。
 大切なものを取り返すために、使徒は襲来するのだろうか。
 ──そうなったとすれば、きっと"後日談(エピローグ)"が訪れるまでこの戦いは終わらない。何度も繰り返し、取り返し、奪われ、時にはうっかり落としてしまう。そんな大切なものをかけた戦いが。
 だが、それも面白い気がしてきた。
 三人は各々の方向へ歩き出す。船と、グリモア。そして潮風を添えて。
 オープニングは、これから始まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月03日


挿絵イラスト