35

#ダークセイヴァー


●声
 歌が響いている。女の声だ。
 黒の竜が眼を開ける。
 歌が響いている。竜は羽を羽搏かせた。暗き空へと飛翔する竜は気付いた。

 歌が止まっていた。

「――……、」
 呟く声の周囲で死霊が啼いている。

●声
 夜。
「ダークセイヴァーでございます」
 グリモア猟兵がそう言った。手には賽が握られている。

「難民の受け入れに積極的な領地。其処は、以前ヴァンパイア事件に遭い猟兵の手により救われた地でございます。若き領主殿は、最近詩人アレクサンドルを召し抱え、歌姫ソフィーヤを娶ったといいます」
 グリモア猟兵は現地について軽く説明をし、頭を振る。
「現地の事は、知らなくても依頼の遂行には支障がございません。依頼内容は、イラースという名のドラゴンの撃破でございます」
 グリモア猟兵はその竜について語る。
 其れは、憤怒を司る異端の神の眷属になってしまったドラゴン。世界や神への怒り、憤怒の感情しか残っていない自分への憤り、それら憤怒の感情を強大な炎に変えて放ち、世界を焼き尽くす。そんな存在だと語り、地図が広げられる。

「転移先は先ほど申し上げた領地でございます。現地では領主主導によりドラゴン討伐のための騎士団が編成されて準備中です。しかし、騎士団が向かっても歯が立たず、壊滅することでしょう。皆様が向かって頂き、討伐していただきたく」
 グリモア猟兵はそこまで話し、賽を転がした。
「闇の満ちる世界。状況が必ずしも猟兵に味方するとは限りません。かの世界では特に、足を使い手を使い言葉を操り、世界に働きかけていく具体行動が運命を引き寄せる力となることでしょう」

 グリモア猟兵が地図を指す。
「ドラゴン討伐も急ぐ必要があるのですが、同じ領地内のこの墓地に怨嗟が満ちております。討伐の前の寄り道となってしまいますが、立ち寄って頂きたく存じます」
 ルベル・ノウフィルは賽を拾い上げながら言った。
「毎夜世を呪う怨嗟の声が聞こえるという墓地でございます。死霊術士でなくとも聞こえるその声は、死霊の声でございます。かの世界の残酷な現実により亡くなった犠牲者達の声でございます。沢山の声に聞き入って精神を削られ、発狂してしまった者もいるのだとか」

「声を聞いてください。そして、どんな方法であっても構いませんゆえ、彼らを黙らせてください」
 グリモア猟兵、ルベル・ノウフィルはそう言うとグリモアを淡く光らせながら頭を下げた。深く、深く。

「場所は、ダークセイヴァーでございます。瞬きする間に人が死に、掬おうとした掌から生命が零れ落ちていく、そんな世界でございます。どうぞ、お気をつけて」
 声が遠くなる。
 世界が目の前に広がっている。其の墓地が。
 夜の墓地には怨嗟の声が満ちている。死霊の声だ。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回はダークセイヴァーでの冒険です。
 同MSの過去シナリオ『幽寂の禍に歌姫は囀る』『老詩人に幕は降り』と舞台を近くしております。勿論、過去シナリオを知らなくても問題なく依頼ができるシナリオとなっておりますのでご安心ください。
 プレイングは6月14日(木)8時30分以降の募集となります。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
315




第1章 冒険 『墓地に満ちる怨嗟』

POW   :    死人は黙れ。生者の力や可能性を見せつけて黙らせる。

SPD   :    感傷は不要。理路整然と説き伏せる。

WIZ   :    彼らの未練を聞き届け、死者の為に祈る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●始まり
 夜。
 領主ヨジフには双子の弟君がいる。兄弟はここ1ヶ月ほど同じ空間に揃って姿を見せた事がない。不仲なのだという。
 ソフィーヤの腹には赤子がいるという。めでたいはずなのに、ソフィーヤの顔色は優れない。
 ドラゴンのせいだ。ソフィーヤの側仕えであるノンナはそう思った。恐ろしいドラゴンが付近に現れたのだ。すでに幾つかの村が焼かれたと聞く。いつこの館に飛んでくるか。
 すでに今朝早く騎士団が発っていた。ドラゴンを討伐しに行くのだというその一団の指揮は、弟君が執るらしい。
「あら」
 何気なく窓の外を見たノンナは目を瞬かせた。教会から館へと向かってくる人の列が見えたのだ。人々が手に持つ篝火が煌々と光り夜闇を照らしている。

●猟兵
 墓地。
 猟兵の周囲には赤い花が溢れていた。彼らは転移前に見た地図を思い出す。北西に教会があり、北東には領主の館がある。
 周囲には死者の声が溢れていた。
 彼らは気付いた。
 南の方角で山1つが燃えている。それはドラゴンによるものだと猟兵の勘が告げる。
 彼らは気付いた。
 薄汚れた鋼を身に纏いし現地騎士団が近くにいた。騎士団は、死者の声に惑わされ混乱に陥っていた。

●第1章行動
 出現地点では死者の声が聞こえてきます。なんらかの方法で黙らせるのがメイン目標です。
 付近にいる混乱状態の騎士団に接触する事が可能です。その猟兵の能力的に可能と思われる範囲であれば、他の場所に行く事も可能です。
浮世・綾華
黒羽(f10471)と

聞こえた声は誰かに似ていた
嘆く声、助けを求める声
嗚呼、あの頃の自分かと気づき自嘲

へらりと向けた視線の先
いつもと変わらぬ顔の少年に目を細めた
強がんなくてもいーのにと思いながらも

そうやって生きてくるしかなかった彼の強さなのだろう
そう考えれば愛おしくもあり

素直に頼むなんて珍し
――いーよ
お前の笛の音は好きだから

瞼を閉じて、耳を貸す
大丈夫、貴方達の無念はきっと晴らすから

手を滑らかに持ち上げて
指先からつま先まで繊細にそして大胆に
ひらり翻す唐紅の羽織り
纏う菊花は手向けの花

安らかに、あるべき場所へお帰り

呪いの声が薄く消えていく
最後に残るその音は耳に優しく
嗚呼、やっぱりお前の音は綺麗だな


華折・黒羽
綾華さん(f01194)と

この世界を呪う声が聞こえてくる
何故、どうして、と
この世の理不尽を嘆く気持ちは
苦しい程によく解るから

問い掛けるような言葉が思考を絡め取ろうとしてくる
呑み込まれぬよう頭を振って
篠笛『揺』を手に
情けない顔を見せぬよう
連れ立つその人へ声を掛ける

…綾華さん
手伝って、もらえますか

全てを救える程に強くは無い
己に出来る事はきっとこれくらいだから
俺が笛を吹き
綾華さんが舞う

以前に少しだけ見たことのある綾華さんの舞なら
さ迷う魂を導く事が出来るんじゃないかと思った
本人には決して言わないけれど

少しだけでも構わない
どうか世界を呪うこの魂達が
その楔から解放されるよう祈りながら
俺は笛を吹く



●笛舞
 暗闇の中を赤い花が揺れている。
 『花は贈るもの。愛しい人に贈るもの』
 揺れる赤色は笑顔を思い出させる。嬉しそうな顔。

 耳を擽るのは無数の声だ。小さな声が幾重にも重なり波のように怨嗟が満ちる。嘆く声、助けを求める声。それが誰かに似ていると思い、浮世・綾華が冷たき瞳を瞬かせた。

(嗚呼、)
 気付く。

 消失。幽閉。閑闇。泣きじゃくる自分。

(似ているのか)
 あの頃の自分に。そう気付き綾華は自嘲する。へらりと向けた視線の先には外套のフードを目深に被りいつもと変わらぬ顔の少年がいる。

 ――この世界を呪う声が聞こえてくる。何故、どうして、と。

 華折・黒羽は口を一文字に結ぶ。視界を掠める己が手をそっと握りしめ、黒羽は周囲を窺う。常に警戒深い青の瞳が慎重に辺りを探り、揺れた。周囲には闇が満ち、炎のように花が揺れ咲き誇る。南の方角では本物の熱を持つ炎が揺らめいていた。

 『くろ、』
 『逃げて』

 ほんの一瞬そんな声が聞こえそうな気がして黒羽は息を吐く。
 黒の尾がせつなく揺れた。この世の理不尽を嘆く気持ちは苦しい程によく解る。問い掛けるような言葉が思考を絡め取ろうとしてくる。呑み込まれぬよう頭を振り、黒羽は篠笛を手に取った。

 『熱い、熱い』
 はっきりと聴こえた死霊の声にどきりとした。
 『燃えている、燃えている』
 それらは村を焼かれたのだと言って今尚焼かれる苦しみに嘆いている。
 
(助けたい)
 黒羽はそう思う。死して尚苦しむ死者。これから失われようとしている生者。
(助けたいんだ)
 だけど、全てを救える程に強くは無い。黒羽は傍らに在る温度を意識した。その人を相手にすると何故か対抗心に火が燈る。そっと瞳を向ければ、少し冷たさを含んだ赤色がじっと黒羽を見つめていた。

「……綾華さん。手伝って、もらえますか」
 篠笛の揺(ゆらぎ)を手に黒羽は傍らの綾華へ視線を向けた。
(強がんなくてもいーのに)
 静かに風が吹き抜けて黒闇に朱が揺れる中、青色の想い秘めた双眼がひたりと自分に据えられている。結ばれる口元は少年らしき頑なな気配。冷たい風に擽られる黒の毛並みが柔らかだ。綾華は口元に指先をあてて目を細める。
 そうやって生きてくるしかなかった彼の強さなのだろう。そう考えれば愛おしくもあり。『おにーさん』は微笑う。
「素直に頼むなんて珍し――いーよ。お前の笛の音は好きだから」

(己に出来る事はきっとこれくらいだから)
 黒羽は軽く息を吸い、笛に口付ける。舞手の力量は知っていた。見合うだけの演奏を――意識しながら奏でる音は温かな低い音をゆったりと天に捧げる。猫の手が繊細に動き、優しく吹き込まれた吐息に音が燈る。高く、長く。繊細な旋律が風に乗る。
(以前に少しだけ見たことのある綾華さんの舞なら、さ迷う魂を導く事が出来るんじゃないか)
 黒羽はそう思ったのだ。
(本人には決して言わないけれど)
 青色の瞳はほんの僅か素直になり切れない想いを滲ませていた。

 ちらりと視る『世界』で今まさに綾華が舞っている。

 黒羽の奏でる音に合わせ、死霊の嘆きを耳に。
 黒き絶望の闇揺蕩う世界の地表で遠き炎と近き朱花を背に。

 唐紅の袖がすいと滑らかにあがり、括り紐が踊る。指先からつま先まで繊細に洗練された型を魅せ、かと思えば大胆にひらりと唐紅の羽織りが翻され。
(綾華さんらしい)
 吐き出す言葉と不釣り合いな表情をみせる事のある彼らしさを感じさせる舞に黒羽は几帳面に音を返す。黒羽が共に音を跳ねさせる必要はない。基本に忠実な安定した調べこそが自由なる舞手を引き立てるのだ。其れを黒羽はよく理解していた。

 此処は墓地なのだ。
 舞いながら綾華は再認識した。死して尚此の地に縛られ、想いに縛られて苦しむ霊達。其れはまるで籠に囚われし鳥に似て。

(俺は鳥籠を開けるために生まれたんだ)
 ふわり、纏う菊花は手向けの花だ。

(少しだけでも構わない。どうか世界を呪うこの魂達がその楔から解放されるよう)
 祈りながら黒羽が音を一層優しく響かせた。音に聞き惚れるように声が静まっていき、舞手綾華の指が虚空を慰めるように撫でれば死霊が其の影を薄めていく。

「安らかに、あるべき場所へお帰り」
 幽かに呟かれる綾華の声に合わせて黒羽は笛音を低く温かに奏でた。呪いの声が薄く消えていき、やがて笛音が残る。
 消えゆく者達へ捧げるように黒羽は高く細く笛を啼かせた。

「嗚呼、やっぱりお前の音は綺麗だな」
 艶やかに濡れ羽色の髪を夜風に揺らし、綾華はそっと呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノーラ・カッツェ
(抑えきれない【殺気】が外へと溢れている)
死が満ち溢れてるこの感じ…。良いね。凄く心地いい。
それにあの燃えてる山…。今回の獲物もなかなか手ごたえがありそうで楽しみだわ。えぇ、本当に…楽しみ。

フフッ…。私は今とっても気分が良いから…。あなた達の望み…聞いてあげる。
あなた達は何を怨んでいるの?あなた達を殺した相手?それともこんな世の中?
あなた達はどんな死に方をしたの?相手に望む死に方はなに?
余すことなくぜーんぶ私に教えて。そしたら私が全部壊してきてあげる。

それとも…。消してほしいのはいつまでも未練がましく残り続けているあなた達自身だと言うのなら…。
今度は私がちゃんとあの世に送ってあげようか?



●領主ヨジフ
 少女が土を踏む。冷鋭な刃に似た気配が空気を伝わり死霊の声を誘う繊細な容姿を持つ少女は抑えきれないその殺気を全身から溢れさせていた。
「死が満ち溢れてるこの感じ……。良いね。凄く心地いい」
 薄花色の瞳が世界を捉えて長い睫を震わせる。繊細な指が柔らかにぬいぐるみを撫でる。少女ノーラ・カッツェはゆらりと周囲に視線を巡らせた。死が世界を埋め尽くさんと溢れている。外界を愛でるように鑑賞してノーラは花唇に人差し指を寄せた。呟く声は鈴に似て軽い。
「それにあの燃えてる山……。今回の獲物もなかなか手ごたえがありそうで楽しみだわ。えぇ、本当に……楽しみ」
 山一つ燃ゆる光景に戦意を昂らせノーラは墓地に揺蕩う死霊へとチロリと視線を投げた。薄紅が誘えば死霊がザワリと寄ってくる。
「フフッ……。私は今とっても気分が良いから……。あなた達の望み……聞いてあげる」
 少女の甘やかな声に死霊が啼く。
 哀しいのだ、怨めしいのだ、と。

「あなた達は何を怨んでいるの? あなた達を殺した相手? それともこんな世の中? あなた達はどんな死に方をしたの? 相手に望む死に方はなに? 余すことなくぜーんぶ私に教えて。そしたら」

 ノーラが死霊達に囲まれながら声を向ける。
 瞳は薄く色を乗せる。
 ぼんやりとした少女の瞳に浮かぶその色は何処か歪で、けれど不思議な純粋さを湛えていた。声は細く高く透明に夜気に染み込むようだ。

「そしたら、私が全部壊してきてあげる」
 少女がそう言えば、何体かの死霊が進み出た。

「教会の読師が娘の身体を求めた。娘が断ると教会の異端審問官と祓魔師が娘を魔女だと言い、娘は魔女として磔にされ焼かれた。教会が憎い」
「領主の命で教会の鐘が潰されて農具とされた。これは神への冒涜である!」
「食べるものがない……食べるものがない……」
「農村に帰りたい。訓練は厳しいし騎士団の先輩達が新入りを虐めるんだ。農地が不足しているからって異形が闊歩する未開の地を切り拓くのに派兵され、何人も死んでいる……次は俺の番だ……」
「難民が蝗のように麦を喰う。難民が鼠のように病を運んでくる。あんな連中焼き払ってしまおう」
「私は領主ヨジフ。弟ミハイルが私を弑逆し、私の死を伏して領地をいいようにしている。真実を明るみにして欲しいのだ」

 ノーラは興味深く死霊の声に耳を傾けた。

「貴方達は?」
 未だ声を発せず俯く気配を見せる死霊へと視線を向けると、死霊が迷うようだった。
「死霊にも色々いるのね。自分が死んだとわかってない者、わかった上で生者を怨む者、そしてあなた達は」
 怨みを吐くことのない死霊の内を読むように瞳が注がれている。
「消してほしいのはいつまでも未練がましく残り続けているあなた達自身だと言うのなら……。今度は私がちゃんとあの世に送ってあげようか?」
 死霊の何体かがノーラに跪いた。

「消してくれ」
「楽にして欲しい」

「いいわ、送ってあげる」
 ぬいぐるみの眼がそれを視ている。
 その光景は、何処か神聖な儀式のようでもあった。

「そういえば、さっきさりげなく領主を名乗る死霊がいたけれど」
 ノーラはふと声を思い出し、周囲を視る。死霊はまだまだ沢山いた。沢山の死霊に埋もれてしまい、その死霊が浄化されたのか、まだここにいるのか、あるいは別の場所に移動してしまったのか、ノーラにはよくわからなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
本音を言えば、結ばれたお二人、アレクサンドル様や孫娘ゾフィー様、懐かしき方々に挨拶を告げに行きたい

ですが騎士団の混乱を収め、領主様の弟君をお救いし、死者の嘆きを収める
そうでなければ、私は皆様に合わせる顔がありません

機械馬に●騎乗、●礼儀作法●世界知識を使い歴戦の遍歴の騎士を名乗り、騎士団に後退を促します
場合によっては●怪力での示威も考慮
……領主様と面識があることは弟君には伏せた方が良いかもしれません

機械の私ですら認識出来る程の怨嗟、悲嘆、行き場の無い八つ当たり…武器を捨て、跪いて只管聞き届けます

私はこれ以上の怨嗟を増やさぬよう、この地を訪れました
その可能性を示すため、その悲嘆をお聞かせください



●ミハイルとヨジフ
 騎士の小隊が方々で混乱を呈している。
(本音を言えば、結ばれたお二人、アレクサンドル様や孫娘ゾフィー様、懐かしき方々に挨拶を告げに行きたい)
 北の方角で闇空の地平付近が茜色の光によって押しのけられているように思えた。人の手による光だろう。其処に、人がいるのだ。

(ですが騎士団の混乱を収め、領主様の弟君をお救いし、死者の嘆きを収める――そうしなければ、私は皆様に合わせる顔がありません)

「落ち着け! 死者は啼いているだけだ、具体的には何もして来ん! 耳を貸すな、惑わされるな!」
 指揮官と思しき男が声をあげている。
 本隊と見定めた隊列に向かえば、声に心を揺らされて膝を突く騎士や声に惑わされて剣を取り指揮官に斬りかかろうとする騎士、其れを抑えようとする騎士とで大混乱が生じている。

「――加勢に参りました! 騎士団の皆様、私は味方です!」
 白き機械馬の手綱を操りトリテレイア・ゼロナインが声をあげる。事前に世界知識のデータベースを漁り、地域の情報は調べてある。
「お静まりください! 私は遍歴騎士トリテレイア・ゼロナイン。悪しき竜を討伐に参りました者。皆々様、どうか落ち着いて剣をお治めください」
 死者の声に負けじと声を張り、荒ぶる騎士の剣を丁重に抑えながら説得すれば徐々に騎士達は落ち着きを取り戻した。

「私は黒き沃土の開放領主ヨジフの弟ミハイル・ゼノレイ」
 騎士の中に一際壮麗な鎧を纏った男がいた。フルフェイスヘルムを身に付けた男が顔を露わにすると深い紫水晶の瞳が真っ直ぐにトリテレイアを見つめる。
(よく似ていらっしゃいますね。双子と言う事ですが……ああ、でも瞳の色が若干違うでしょうか?)
 前領主と面識があるトリテレイアはそう思った。前領主ヨジフは青色の瞳をしていたが、弟君は紫がちの色をしている。
(不仲との情報ですが)
 弟君は兄領主と不仲という情報を掴んでいたトリテレイアは慎重に対応を探る。
「トリテレイアといったか。その名は知っているぞ」
 だが、弟は彼を知っていた。
「歌姫が英雄譚を歌っていたのでな。それに、詩人のアレクサンドルもよく『猟兵』なる存在の話をしてくれるのだ」
 ミハイルは闊達に笑い、騎士の礼を取る。
「民が苦難に喘ぐ時その者達は現れる――御伽噺のような話だと思っていたが、本当に来てくださるとは。我ら正鐘騎士団は『猟兵』殿の助力に感謝する!」
 その瞳は猟兵への信頼の色を濃く浮かべていた。

 トリテレイアは死霊へ声をかける。
「私はこれ以上の怨嗟を増やさぬよう、この地を訪れました。その可能性を示すため、その悲嘆をお聞かせください」
 浮遊する死霊が数体寄ってくる。声を聞かせようと言うのだ。

「騎士団の皆様には後退を進言いたします――、」
 トリテレイアが騎士団へ進言した時、北方から使者が走ってきた。使者は猟兵の存在に気付き、ミハイルに耳打ちをする
「ミハイル様! 領主館に難民の一団が迫っています――教会に唆されたのでしょう。奴らは本気かどうかわかりませんが火を掲げて魔女を焼くと言っているようです」
 小声で齎された囁きは人の耳であればわからなかったが、機械のセンサーには捉えることができた。
(領主館が襲われている……!?)
 知らせを理解し驚愕するトリテレイア。だが、ミハイルは大きく動じた様子なく頷き静謐な視線を猟兵に向けた。
「猟兵殿。私はお言葉に甘えて一度退かせて頂きましょう」
 しかし、とミハイルは周囲を見渡す。本隊は統制を取り戻したものの、広い花園の至るところで未だ小隊の混乱が続いている。
「本隊のみ私に続け。小隊は体制を整え、猟兵殿の指示に従うように」

 領主館を護りにいくのであろう本隊。
 其れを見るトリテレイアに味方猟兵の情報が届く。
 あわせてその耳には死霊の声が聞こえるのであった。

「領主ヨジフは最近変わられた。前は税金など要らぬと言っていたのに領地経営には税が必要だと言い出した」
「領主ヨジフは教会の鐘を潰して農具にした」
「領主ヨジフは領地を守るためにといって農村の働き手を徴兵していった」

 死霊達は領主ヨジフに恨みを抱いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
人の生き死になんざ、この世界じゃ日常茶飯事だ。よっぽど世界に未練を残したか、それとも死にきれなかったのか、そもそも死んだことに気付いていない可能性だってある。自分はまだ生きてる、なんてそんな風に思っちまってるのかもな。

【SPD】
死者の声を黙らせるか。こっちの声は聞こえるのかい?空中に向けて銃を一発。
……聞こえるかい?あんた達はもう死んだ身だ。この世界の何処にもあんた達の居場所はない。……残酷な現実には同情するが、生者までその声で引き込もうってんなら、あんた達は俺達の敵だ。容赦はしない。それが嫌なら黙ってるんだな。
これで静かになれば良いが。さて、騎士団とやらと接触して情報収集でもしてみるか



●炎
「人の生き死になんざ、この世界じゃ日常茶飯事だ。よっぽど世界に未練を残したか、それとも死にきれなかったのか、そもそも死んだことに気付いていない可能性だってある。自分はまだ生きてる、なんてそんな風に思っちまってるのかもな」
 呟き一つ。
 UDCの便利屋カイム・クローバーは死霊の声に紫の瞳を瞬かせた。そより、と吹く風が頬を撫でていく。北から吹く風には血と炭の香りが混ざっているように思えた。風を追うようにちらりと首を巡らせれば南では山が燃えている。

(ドラゴンか)
 そこでドラゴンが暴れているのだ。

「あの皿に毒が盛られているからそう言ったの。なのに、わたしが毒を盛ったことにされてしまったの」
 しくしくと泣く女。
「かーちゃんが病気だったんだ。だから食べ物が必要だったんだ。仕方なかった。盗まないと死んじゃうから。仕方なかったんだよお」
 盗みを働いて親子ともども私刑にされたという子供。

(ひとまず死者を黙らせるか)
「こっちの声は聞こえるのかい?」
 死者の発言内容にはそれほど気に留めずに常日頃お喋りするのと同じノリで軽く声をかけるが、死霊達はそれぞれの想いを嘆くのみ。
「ふむ?」
 カイムは夜空に向けて銃を撃つ。黒に金ラインの双魔銃オルトロスが吠えれば死霊達が静まり返る。
「……聞こえるかい?」
 聞こえないようならもう一度撃ってやろうと意思籠めて見廻せば、死霊達はしずしずと頷いたようだった。
 満足げに口元に笑みを湛えてカイムが語る。
「あんた達はもう死んだ身だ。この世界の何処にもあんた達の居場所はない。……残酷な現実には同情するが、生者までその声で引き込もうってんなら、あんた達は俺達の敵だ。容赦はしない。それが嫌なら黙ってるんだな」
 死霊達がその言葉に静寂で応えた、その時。

「ヨジフ様は亡くなられた! ミハイル様は領民を欺いているのだ!」
「領主館に行きあの女の腹を掻っ捌け! 吸血鬼の種を宿しているぞ」
「落ち着け、落ち着け!」

「おっと」
 騎士団が混乱していた。
 小隊が一つ互いに剣を向け合い乱闘している。

 同僚に向け剣を振りかざす錯乱中の騎士に体当たりし、ダガーを手に別の騎士の剣を受け止めてカイムは歯を見せて笑った。
「加勢するぜ」
 報酬は割高だが腕は確か。便利屋『Black Jack』はUDCアースではそう言われていた。
「あ、貴方は――」
 昏迷の世界を生きる騎士にとってその青年は突如として現れた手練れの戦士。この世界では人々にまだ猟兵と言う存在は広く知られてはいない。だが、カイムの卓越した身のこなしを間近で視た騎士は思い出すのだ。
 歌姫が歌いし『何処からともなく現れた勇士達』。それにとても似た存在なのではないかと騎士は思い、尊崇の眼差しをカイムに向ける。
「我らを助けてくださるのですか」
「そうだぜ!」
 カイムが自信に溢れた表情で請け負えば、昏き夜に一時太陽が舞い降りたかのごとく騎士達の心に希望の灯が燈るのだった。

「それにしても、」
 カイムは北に視線を走らせる。
「火の手があがったな」
 北の方角に新たな炎があがっていた。炎は黒煙を立ち上らせ、夜空を赤く照らし出していた。
「領主館が燃えているのか」
 呟きに答えを返す者は、ない。

成功 🔵​🔵​🔴​


●北の炎
 北の空を赤く染めて炎が燃えている。教会に唆された難民が領主館を襲っているのだという。混乱から立ち直った騎士団の本隊が対応すべく向かった。ここまで集めた情報によれば、この領地は問題を多く内包してあるようだった。
 手を伸ばせば守ることはできる。届く距離に炎がある。
ルク・フッシー
ルークさん(f06946)と同行します

心情◆も、物凄い怨念、ですね…ううっ!
…ルークさんは、怖くない、ですか…?
ぼ……ボクも、がんばります!せめて、助けられる人は助けなきゃ…

行動◆死霊対策として、あらかじめルークさんの武器にボクが紋様を描いて、【神聖属性】を付与します

現地の騎士団に接触しようと思います

【神聖属性】と【祈り】を込めて【安心塗装】を撒いて攻撃していく方針で行きます

その際、騎士団の人が歩きやすいように地面を『神聖属性がこもった石畳』に材質変化させます

備考◆(怨嗟の声を聞いているうちに、無力感に苛まれ泣き出してしまう。しかし人々を守る意思と【覚悟】で再起する)


ルーク・アルカード
ルク(f14346)と一緒。

・心情
今すんでる世界のてれびって奴でみたことはあるけれど、幽霊とかに会ったのは初めてかも。
んー……普通に斬れるかな?
斬れるんなら怖くないや。だって、首を落とせばみんな、動かなくなるんだもの。

・行動
ルクに属性付与してもらったら、背後から試しに斬ってみる。
倒せたら、そのまま攻撃。

武器に自分の血を『吸血』させて『生命力吸収』。それで『武器改造』して、倒しやすそうな形状に。
相手の数が多いときは血晶の刃を飛ばして『範囲攻撃』する。

『呪詛耐性』が役に立つかも?

・他
死霊を見ても怖がりません。
ただただ敵を狩りとっていく作業を行います。



●道
 血のような発色の花弁が艶やかに咲き誇る。花に囲まれて夜闇に溶け込むようにしているのは墓石だ。幾千の花と暮石を照らす夜の月は冷たい。

「も、物凄い怨念、ですね……ううっ!」
 ルク・フッシーが気弱な瞳を動揺に揺らしていた。死霊が啼いている。

「魔女では、私は魔女ではありません」
 女の死霊が悲痛な叫びを放っている。この領地で声明を落とした民だろうか。
「子供は何もしていないではありませんか。その子を殺さないで」
 男の死霊が傍で啼いている。
「魔女め、我々の社会に紛れ込みすぐに人々の心に毒を流す」
「魔女では、私は魔女ではありません」
「人々を誑かす魔女が私を陥れた! 同情を引いて私を罪人に仕立て上げたのだ!」


「今すんでる世界のてれびって奴でみたことはあるけれど、幽霊とかに会ったのは初めてかも」
 ルーク・アルカードは赤色のマフラーにそっと顔を埋めた。白色の毛は柔らかに風に揺れる。
 風に乗り、傍らのドラゴニアンの啜り泣きが聞こえた。ルークはそっと瞳を向ける。ルクが青色の瞳から透明な涙を流し、泣いていた。

 ――大丈夫? と。
 声に乗せようとして、ルークはしかし、沈黙を選んだ。
 
「……ルークさんは、怖くない、ですか……?」
 悲痛な涙を流すルクがそう問いかけたのだ。

「んー……普通に斬れるかな?」
 言いながらルークは死霊を斬った。悲鳴すらあげずに死霊が消えていくのを見て、ルークは尾を揺らす。
「斬れるんなら怖くないや。だって、首を落とせばみんな、動かなくなるんだもの」
 アルビノの人狼は、狩人であった。殺しの道具として飼われていた。『斬れる』とわかったからには、怖れるものではない――その瞳が想いを湛えて瞬いた。

「食べるものがない。食べるものがない」
「寝ていても弱っていく。起きて動けばなお弱る」
 死霊達が啼いている。

 ルクは無力感に苛まれて青い瞳を切なく伏せた。
(だけど、まだ助けられる人がいる)
 それは間違いないことなのだ。
 ルクは眼を開いてしっかりと『世界』を見つめた。

「――ルク、この塗装すごく死霊に効果あるよ。斬りやすい」
 ルークがそう言いながら死霊を斬っている。ルークの手には血晶刀が握られている。金盞華の名を持つ妖刀は使用者の血で刀身を形作る。その刀身には今回、あらかじめルクが描いた破魔の紋様が煌めいていた。
「ぼ……ボクも、がんばります! せめて、助けられる人は助けなきゃ……」
 ルクはゆらりと緑色の尾を揺らした。駆け寄る先には膝をついて呻く騎士がいる。数人の小隊だ。隊長と思われる男が特に苦しそうにしていた。

「ああ、許してくれ! 許してくれ! 教会の鐘を潰してはいけないとわかっていた――おれは敬虔な信徒だ。だが、あれは領主様の命令だったんだ」
 周囲には薄っすらと死霊が取り巻いているのが視える。
「助けに来たよ! って、僕の声わかるかな……?」
 血晶の刃を飛ばしてルークが死霊を蹴散らした。死霊の声が途絶え、小隊長がゼエゼエと荒い息をつきながら徐々に精神を落ち着かせていく。ルークが淡々と死霊を消していけば、小隊長の周囲にいた騎士達も次々と正気を取り戻していった。

「ボクが道を整えます」
 目元を拭い凛とした表情を浮かべたルクは色とりどりの塗料を地に塗りこみ、地面を神聖な霊力の宿る石畳に変化させていく。これはユーベルコード『安心塗装』の力によるもので、ルクが世界に愛されし特別な芸術家であることを証明するものだった。
「……ええと、こっちでいいでしょうか」
「この小隊は今後猟兵殿の指示に従いましょう、行き先もなんなりと」
「騎士の人達に行って欲しい場所……」
 ルクとルークが顔を合わせる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャック・スペード
――此処に咲く花は随分と赤いのだな
綺麗ではあるが、物悲しく感じる

俺は騎士団に接触し彼等の混乱を収めたい
――アンタ達を助けに来た
死霊は今に宥めよう、だから落ち着いてくれ
俺の声は聞こえないかも知れないが、それでも声を掛け彼等を鼓舞したい
少しでも安心させられたらと、そう思う

死者への語り掛けも忘れずに
ヒトでは無い此の身で何を語れるだろうか

――死霊となるほどの心残りが、お前達には有るのだな
何も成し遂げられず機能停止する口惜しさは、俺にも分かる

輝くいのちを持つ者が憎くても
死者が生者の歩みを止めるべきでは無い
其の恨みも辛みも痛みも総て、此の身で受け止めよう

――全て受け止めた暁には、お前達もゆっくり休んでくれ



●死者
「――此処に咲く花は随分と赤いのだな。綺麗ではあるが、物悲しく感じる」
 ジャック・スペードが鮮麗な朱色満ちる墓地を見渡した。花景色を鑑賞するのも何度目か――、だが、同じ花なのに場所によりその景色はジャックの心に様々な波紋を投じさせる。
「花とは興味深いものだ」
 あるいは、心とは。
「……騎士がいるな」
 視線は小隊を捉えた。混乱に陥っているのを確認し、ジャックは小隊へと接近する。
「おい、大丈夫か」
 ジャックの黒色のボディが闇の中に在りて一層存在感を放っていた。

「難民だ。難民がいけないんだ」
 死霊がさざめいている。
「食べるばかりでろくに働けやしない。寝て弱っていくばかり、食べるだけ食べて死んでいく。食料や薬を消耗するだけの」
 死霊が叫ぶ。
「難民のために何故我らが負担を負わなければならない! 我らの村はそれでも真面目に増えた税を治めていたのに悪鬼が攻めてきた時には護って貰えず真っ先に滅びたのだ。働きもしない難民は定住区で護られていたというのに」
「我が父は異形犇めく森に入り帰らぬ者となった。我が息子は徴兵され帰らぬ」

 死霊が次々と声を放つ中、騎士達は狂気に陥ったのか同士討ちを始める始末。
「黙れ、黙れ――おい、何をするっ? 俺は味方だぞ」
「俺の父だって死んだんだ! 許さない、許さない」
「乱心したか!」
 もはや死霊が叫んでいるのか騎士が叫んでいるのかも皆目つかぬ混乱が場を支配いていた。

(これはいけないな)
 ジャックは交戦する騎士の間に割って入り、騎士の剣を黒腕で打ち払った。剣はひと目でわかる粗雑な出来で、ジャックのボディに傷ひとつ付けることができないナマクラだ。
「こんな剣でドラゴンと戦えると思うのか――いや、この剣を頼りに戦わなければならない状況なのだな、この地の人民は」
 思わず呟きを漏らし、ジャックは騎士達に声を張る。
「――アンタ達を助けに来た。死霊は今に宥めよう、だから落ち着いてくれ」
(錯乱している耳に声が届くだろうか?)
 思いながら声を掛け続け、攻撃をただ防ぎ続ける。同時にジャックは死霊にも語り掛けを試みた。

(ヒトでは無い此の身で何を語れるだろうか)
 胸の内にはそんな思いもある。ジャックは心を知るものだったが、おのれがヒトではない、ヒトとは違うものだと自覚をしているのだ。

「――死霊となるほどの心残りが、お前達には有るのだな。何も成し遂げられず機能停止する口惜しさは、俺にも分かる」
 死霊に語り掛ける声は低くゆっくりと夜の風に乗る。死霊がその声を聞き口を閉ざしていくと、小隊の騎士達もまたひとり、またひとり正気に戻っていく。

「要するに死者とは、生者であるお前達を羨み足を止めようとしているのだ」
 騎士に向かってそう言えば錯乱していた者達が青ざめた顔で頷いた。

 死霊が啼いている。
「怨めしい、なぜ儂が死んだのにお前達が生きている。怨めしい」

 そんな声を拾い上げ、ジャックが語り掛ける。
「輝くいのちを持つ者が憎くても死者が生者の歩みを止めるべきでは無い。其の恨みも辛みも痛みも総て、此の身で受け止めよう」

「――全て受け止めた暁には、お前達もゆっくり休んでくれ」
 そう言いながら死霊を宥める姿を、騎士達が神妙な面持ちで見守っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒玻璃・ミコ
※スライム形態

◆心情
ほうほう、無力さ故に世界を呪う声ですか
それならば私が話を……聞くと思いましたか?

◆行動
【POW】で判定です

見知らぬ亡霊に愚痴を聞かされるつもりはありません
竜殺したる私が来たのは世界を救う為でも
ましてや貴方達の無念を晴らす為でもありません
それは黒き魔竜を屠る為

そう宣言したら【気合い】を入れて大地に愛用の魔槍を【串刺し】
この地に染み付いた負の想念を【生命力吸収】で
忌まわしい声と一緒に力を吸い上げてしまいましょう

まぁ、私の力の一部となれば貴方達が否定したかった
この忌まわしい世界を変える一助となるかもしれませんけどね
結果的にでは、ですけど

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブ歓迎


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
死者の恨みつらみを聞く……か。
正直どんなんか想像もつかねえけど、やらなきゃならねえならしょうがねえ。

……おれはまだ17年しか生きてねえ青二才だから、きっと全部を受け止めることは出来ねえと思う。
ここは残酷な世界で、他の世界ではそうそうお目にかかれない辛い現実が当たり前で。
きっとおれみてえな若僧は打ちのめされてもしょうがねえんだろうけどさ。

……それでもおれは、どんなに辛い現実でも、〈覚悟〉して真正面から向き合う以外の方法を知らねえんだ。
もうおれの祈りなんて届かねえかもしれねーけど。
……せめて、ひとかけらでも救いがあるといいな。



●闇夜のスライム
 暗闇に沈む墓地。死者の怨念渦巻く世界にポヨンポヨンとスライムが歩みを進める。プルルン、ツルンとした艶姿は夜に溶け込むように黒い。スライムはやがて口を開く。屠竜の魔女の称号を持つスライムの名は、黒玻璃・ミコ。

(ぽよんぽよんしてるなあ)
 同時に近くへと転移した鏡島・嵐は其の姿を恐る恐る追いかける。近くに猟兵仲間がいるというのはとても頼もしい事だった。特に戦いに恐怖心を抱く嵐にとっては。
「えっと、おれも一緒についてっていいか?」
 背に問いかければ、スライムな黒玻璃・ミコはぷるぷると体を震わせぴょこんと跳ねる。
(いいってことかなぁ)
 嵐はその艶やかな姿を見ながらのんびりとついていった。

「ほうほう、無力さ故に世界を呪う声ですか」
 スライム・ミコが声を発した。その声は愛らしい響きで空気を震わせ、死霊達が釣られた様子で口々に声に乗せ怨念を解き放つ。
「嗚呼、嗚呼、哀しい、呪わしい……」
(死霊の声、だ)
 嘆声が暗闇に蠢いていた。鏡島・嵐はぞくりと背筋に伝うものを感じながら拳を握る。
「死者の恨みつらみを聞く……か。正直どんなんか想像もつかねえけど、やらなきゃならねえならしょうがねえ」
 旅人の外套が風に揺れた。
 南の山は燃えていた。ふと見れば、北も燃えている。
(あちこち燃えてるじゃねぇか)
 一体どうすればいいんだ。嵐は一瞬途方に暮れた。

 嵐の琥珀色の瞳がぐるりと暗闇を見つめ、底に犇めく存在を感じて目を眇める。
「……おれはまだ17年しか生きてねえ青二才だから、きっと全部を受け止めることは出来ねえと思う。ここは残酷な世界で、他の世界ではそうそうお目にかかれない辛い現実が当たり前で。きっとおれみてえな若僧は打ちのめされてもしょうがねえんだろうけどさ」

 ざわりざわりと死者が囁く。
「収穫間際の畑を魔性の群れが食い荒らしてしまった」
「川に落ちたあの子を何故誰も助けてくれない。私が行くぞ! 嗚呼、流れが速すぎる。助けてくれ、助けてくれ、何故助けてくれない。私は助けるために川に入ったのに」
「羽振りの良い時はあれほど周囲にいた者が病気一つ得た後は寄り付かぬ。……怨めしい」
 死霊が啼いている。

(他の猟兵なら、どうしただろうな。チカラでぶちのめして黙らせるとか? 浄化の力で安らかに眠らせてあげるとかかな?)
 嵐はそっと目を伏せた。
 握っていた拳をぎこちなくひらけば、指と指の間を風が通り過ぎていく。

「……それでもおれは、どんなに辛い現実でも、覚悟して真正面から向き合う以外の方法を知らねえんだ」
 嵐は死霊に祈りを捧げた。
「もうおれの祈りなんて届かねえかもしれねーけど。……せめて、ひとかけらでも救いがあるといいな」
 ざわりざわりとした死霊の声を聞きながら、嵐はそう呟いた。

 一方、スライムなミコはというと、やはり死霊に囲まれていた。

「子供が弱っていた。食べ物を与えなければ死んでしまうと思った。なのに、食べ物を与えることができなかった」
「うちの爺が自分から姿を晦ませてくれたんだ。口減らしのために。探さなくていいと言われた。何処を死に場所に選んだのか俺はわかっていた。行こうと思えば迎えに行けた。でも俺は探さなかった」

 死霊は口々に嘆きを口にしていた。
 プルルン、と黒いスライムが揺れ、微笑みの気配を漂わせる。
「それならば私が話を……聞くと思いましたか?」
 スライム――ブラックタールの黒玻璃・ミコが死霊の声を遮るように言葉を放つ。
「見知らぬ亡霊に愚痴を聞かされるつもりはありません。竜殺したる私が来たのは、世界を救う為でも、ましてや貴方達の無念を晴らす為でもありません」
 ひと目で業物とわかる魔槍が高く掲げられ。
「それは黒き魔竜を屠る為」
 声と共に大地に突き立てられる。

 ――ただその為に来たのだ、と。
 それは、世界への宣言にも似て――

「嗚呼、嗚呼……」
 死霊達の負の想念が声を共に槍に吸い上げられていく。

「まぁ、私の力の一部となれば貴方達が否定したかったこの忌まわしい世界を変える一助となるかもしれませんけどね。結果的にでは、ですけど」
 黒玻璃・ミコはプルルンとしたスライムの身体を揺らしてそう呟いた。

「死霊は静かにできたみたいだな」
 嵐がそっとミコに声をかける。
 ミコはぷるるんと揺れ、跳ねた。
(ぽよんぽよんしてるなあ)
 嵐はもう一度そう思うのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

仁科・恭介
※アドリブ等歓
【携帯食料】を食み脳細胞を活性化して【学習力】を強化する
これは霊の話を聞くためではない
霊の話を総合して今後の展開をどうするか考えるため

それともう一つ
ドラゴンが現れたタイミングが良すぎる
弟を亡き者にしようとする勢力があり、その手段としてドラゴンが呼ばれたとしたら誰が得する?
霊達はそのことについて何か知っていないだろうか

墓地につくと倒木を探して椅子代わりにする
「とりあえず君達の声を聴かせてくれ。それから考える」
と、一言つぶやきUC対象を霊達に定め声を待つ

霊達の声を聴いた
「そっか。ならその願いを聞き届けよう。同じ空の元に生まれた身としてね」
【覚悟】を決める
霊達と約束した
さてどう動こうか



●約束
 仁科・恭介は現地に着くなり小さな袋を取り出した。倒木に座り込み死霊の声を背景に齧り付くのは袋に入れて持ち込んだ干し魚。フードファイターである恭介が程良い塩気の干し魚を食めば脳細胞が活性化されて学習能力が強化される。霊の話を総合して今後の展開をどうするか考えるための食事。食の気配に飢えた死霊が釣れる。

「魚……」
 寄ってきた歯抜け婆の死霊に魚をくれてやれば死霊は喜んだ。

(ドラゴンが現れたタイミングが良すぎる。弟を亡き者にしようとする勢力があり、その手段としてドラゴンが呼ばれたとしたら誰が得する? 霊達はそのことについて何か知っていないだろうか)
 恭介が死霊と食事をしていると、飢えた気配を帯びた死霊がどんどんと集まってきた。

「とりあえず君達の声を聴かせてくれ。それから考える」
 干し魚を配りながら頼めば死霊は恭介が求める情報に絞って声を返してくれる。

「教会は領主に最近蔑ろにされていてずっと揉めてるんだ。領主は前は敬虔な信徒で教会にべったりだったのだが、最近は教会の鐘を農具にしちまったり領主館の聖具を溶かして農具にしてるらしくて聖職者どもは神への冒涜だ罰当たりだ、悪魔が憑いたのだとお冠さ。奴らは領主一族を潰す気だ」

 死霊が魚を食い付きながら教えてくれる。

「ほう、ちなみに教会にはあのドラゴンを召喚したりできる術者がいるのかな?」
 恭介が共に魚を食めば死霊達は親しげな視線を寄せる。共に飯を食った仲間だとでもいうのか。恭介は微かに眦を和らげた。
「いんや。そんなのいるわけがない。あの教会のエクソシストは詐欺師みたいなもんよ。おら達死霊を見て震え上がって逃げてくんだかりな」

「オレは悪鬼から逃げる時に盾にされて死んだんだ!あの生臭坊主め」

「元々南の山森には悪食とかいうでかいやばい異形が住んでたんだ。そいつがちょっと前に居なくなって、穴を埋めるようにドラゴンが姿を現したんだよ」

「息子夫婦が森に住んでいたのだけど、今はどうしているかしら」

「騎士団がドラゴン討伐に向かう話を聞いて教会は留守を狙おうと思い付いたんだろう」

 死霊からの情報を頭の中で整理しながら恭介は仲間の猟兵達が獲得した情報と合わせて咀嚼する。
(教会と領主が対立関係にある……。別の猟兵が獲得した情報によれば領主は死んでいて弟がそれを伏せている。教会が難民を……)
「あたしはねえ、お二人とも愛らしいお子さんだと思っておりましたのよ」
 歯抜け婆の死霊が魚を飲み込み、言葉を発した。
「ヨジフ様とミハイル様は不仲と言うけれどあのお二人は仲の良いご兄弟でいらしたのよ。お二人とも領民に優しいお子でしたとも」
 婆は領主一族を案じ、家の継続を願うようだった。
「かの一族は代々この地を治めてきたの。正当なる尊き血を旗頭に掲げているというだけで人々は纏まれるもの……」

「そっか。ならその願いを聞き届けよう。同じ空の元に生まれた身としてね」
 恭介は覚悟を決める。

(霊達と約束した。さてどう動こうか )
 恭介は思案する。そして、その間も世界は時計の針を進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
【WIZ】

自己主張の激しい死霊ですねえ。
まずは騎士団の人たちに声をかけて落ち着かせましょう。

ハイハイ大丈夫ですよー。ただのBGMですって。
死んでる人より生きてる人の方が強いと思いません?
落ち着かないなら【催眠術】で落ち着かせます。どうどう。

さてさてメインのお仕事に取り掛かりましょう。
【呪詛】の声を【情報収集】。【呪詛耐性】で一手に引き受けます。
もしもし怨みごと相談室の死者窓口です。

理不尽に殺された?フーン。
フンフン世が憎いと。なるほどなるほど。
あとは?憎い?それさっき聞きました。

取り憑く力もないなら留まるだけ無益ですね。
私も怨嗟なんてものを連れ行く趣味は無いし。
成仏してくださいね。ナムナム。



●はい、こちら怨みごと相談室
 冷たい夜空の下、春色がふわりと現れた。琥珀色の瞳が困ったように柔らかに笑む。耳朶を擽る死霊の嘆きにふと眼差しを閉ざし、狭筵・桜人が言の花を咲かせる。
「自己主張の激しい死霊ですねえ」
 白い襟元でリボンが揺れ、耳には気紛れにつけたピアスが光る。その外見は線の細い優しげな学生といった風情。だが、死霊の怨念を物ともしない表情からは彼の実力が窺える。

「騎士団長殿を討て! 領主の命だ! 何処へ行った!」
 騎士がそんなことを言って血走った眼で剣を放ち本隊を追おうとし、近くにいた別の騎士に止められていた。
「乱心したか!」
「死霊が言ったのだ。乱心したのは俺ではないっ」

 錯乱する騎士に向かって桜人が場違いに暢気な声をかける。
「ハイハイ大丈夫ですよー。ただのBGMですって。死んでる人より生きてる人の方が強いと思いません?」
 桜花めいた優しい微笑みを向けながら密やかに催眠術をかければ、騎士は剣を収めた。
「死霊め、俺を惑わすとは……いや、あれは果たして」
 騎士はぶつぶつと独り言を言いながらも心を落ち着かせていく。

「さてさて。死霊が何を言ったのやら……まあ、メインのお仕事に取り掛かりましょうか」
 桜人は周囲の死霊へとにこやかに声をかける。
「もしもーし。怨みごと相談室の死者窓口です」
 死霊達が怨みごとを抱えて押し寄せる。
「あ、ちゃんと並んでくださいね」
 桜人が言えば、壁のない相談室には沢山の死霊が列を作った。意外に行儀のよい死霊達である。

 鍛冶屋の死霊が相談する。
「聞いてください! 騎士団が無料で剣を研げというから無料では無理だと言ったら斬られたんです。しかもあっし事故で死んだ扱いにされてるんですよ酷くないですか」
「理不尽に殺された? フーン」
 桜人はとても親身に話を聞き、相槌を打っていく。

 病で死んだ難民が相談する。
「世の中が憎いとです。ぼくは病気になってしまって。働けなかったとです。働けないからごはんが食べられなくて、どんどん弱っていったとです。でも、働ける人を優先して生かすからごはんがもうあげられないって言われちゃったとです」
「フンフン世が憎いと。なるほどなるほど」
 桜人はとても親身に話を聞き、相槌を打っていく。

「あとは? 憎い? それさっき聞きました」
 だいたいどの死霊も「憎い」と言っていた。

「取り憑く力もないなら留まるだけ無益ですね。私も怨嗟なんてものを連れ行く趣味は無いし。成仏してくださいね。ナムナム」
 桜人はとても親身に相談に乗り、死霊達にそんなことを告げるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
この世界は悲しみで満ちている。生活は困窮し、病が流行り、ヴァンパイアによる圧政と暴虐で辛く苦しい生き方を強いられている。そして、死してなお彼らは苦しみ続けている。

私は彼らに何をしてあげられるのでしょうか。彼らのための【祈り】も、世を恨み生を憎む死霊となった彼らには届かないかもしれません。それでも彼らの声に向き合わなければ。

騎士団の方々も捨て置けません。死者のために共に祈ることを提案します。そして誓うのです。彼らの無念を晴らすと。この世界に希望と光を取り戻すと。
しかし、皆さん混乱しているので私の言葉に耳を貸さないかもしれません。柄ではないですが大喝して【存在感】を発揮し落ち着くよう促しましょう。



●それは夢物語を語るに似て
(この世界は悲しみで満ちている。生活は困窮し、病が流行り、ヴァンパイアによる圧政と暴虐で辛く苦しい生き方を強いられている。そして、死してなお彼らは苦しみ続けている)

 セシリア・サヴェージは昏迷の空の下で佇んでいた。そわり、乾いた風が銀糸の髪を掬い上げるように吹き抜けていく。
「私は彼らに何をしてあげられるのでしょうか」
 ぽつりと声が零れた。繊麗な眉が憂いに弧を描く。

『痛い、痛い』
『見棄てられた。置いて行かれた』
『将来を誓い合った恋人が異形に襲われた時、私を囮にして逃げた』
『憎い、憎い』
『ヴァンパイアが俺の死体を操り俺の死体が妻子を殺したんだ…』

(彼らのための祈りも、世を恨み生を憎む死霊となった彼らには届かないかもしれません。それでも彼らの声に向き合わなければ)
 セシリアはそっと目を伏せ、祈りを捧げる。
『女、お前は何をしているのだ』
 死霊が問いかける。
「弱き者を護る剣となり盾となる――それが私の志です。今、此の場に敵はいません。皆さんはすでに生命なき方。私にできるのは祈る事だけなので、」
『我らのために祈るというのか』
『我らの声を受け止めるというのか』
 死霊が寄ってくる。ふと視線を落とせば足元に這いずるようにしてセシリアを見上げる死霊もいた。
「はい。私は、多くの救えなかった生命を知っています。この世界に満ちる悲しみをよく知っています」
 セシリアはそっとしゃがみこんだ。死霊と目線をあわせ、そっと祈る。
「誓います。皆さんの無念を晴らします。この世界に、希望と光を……取り戻します」
 それは神聖な誓いであった。
 死霊が口をつぐみ、少しずつ周囲の声が収まっていく。セシリアはそれを哀しい瞳で見送った。

 立ち上がり数歩進んだところで、耳朶に荒ぶる騎士の声が届く。
「あの歌姫は領主に邪悪を吹き込む悪女――吸血鬼の子を宿す魔女だ!」
「落ち着け、死者に誑かされるな!」

「あちらでは騎士団の小隊が混乱しているようですね」
 遠くで騒ぐ一団を発見し、セシリアは騎士団のもとへ駆ける。
「ドラゴンを討伐しに来た者です。この領地を助けにきた者です。落ち着いてください」
 混乱する騎士達は全く聞き耳を持たない。
(柄ではないですが……)
 セシリアはすうと息を吸い、大喝した。
「――落ち着いてください!!」

 騎士達がその大音量にハッとして視線を向ける。
 暗き昏迷の空の下で赤色の花に囲まれ、薄っすらとした月明かりに其の身を浮かび上がらせし暗黒騎士は峻烈な空気を纏い、どこか哀しげで麗しい。
「共に、死者のために祈るのはいかがでしょうか」

「そして誓うのです……、彼らの無念を晴らすと。この世界に希望と光を取り戻すと」
 人類は闇の勢力に敗北して久しい。人々は世界の隅で縮こまりながら見通しの利かない闇から伸びる魔手を怖れ、あるいは吸血鬼の圧制下で無残に生き、死に。
「世界に、希望と光を」
 セシリアはもう一度言った。
 それは夢物語を語るに似て、しかし本気なのだと言っている。
 それが空気を介してひしひしと伝わり、騎士達はごくりと唾を飲み頷いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮落・ライア
例えどんな理由があろうと死者が生者を惑わしていい理由にはならないよ。
どんな最期を迎えたのだろうとしても、今を生きる人々を害するのは悪だよ。
かなり手荒だけど…死者はまた眠る時間だよ。

演出真の姿+【星剣の担い手の継嗣】+【星の加護】

ずかずか騎士団の中に入っていっておもむろに【星の加護】
を解放。
死者の声、厳密に言うなら悪意と邪気だけを星の加護の範囲の外に放逐し、発動している間は安全圏を作る。

混乱で武器を向けてくるようなら【殺気】と一睨みで黙らせる。
あ?



●教会は腐っている
 血色の花が揺れている。
「騎士団は腐ってる!」
 死霊の声に錯乱した騎士が鈍剣を手に同僚に斬りかかり死霊が歓ぶ。
「そうだ、恨みを晴らすのだ」
「教会は腐っている!」
 別の騎士がそう叫び、死霊が嗤う。
「殺し合え、もっと殺し合え」

 ふわり、星が瞬いた。
 其の刃が高い音を鳴らせて同僚の騎士剣と衝突した瞬間に放ち手の力が弱くなる。
 夢想的な星の光が小隊をふわりと包み込んでいる。柔らかな光は邪気を駆逐し悪意を遠のかせていった。其れは『星の加護』。

「例えどんな理由があろうと死者が生者を惑わしていい理由にはならないよ。どんな最期を迎えたのだろうとしても、今を生きる人々を害するのは悪だよ。かなり手荒だけど……死者はまた眠る時間だよ」
 長い銀髪を背に流し白マントがふわりと風に舞う。星剣の担い手の継嗣、宮落・ライアが透き通る刀身の大剣を手に騎士団の小隊を守るべくユーベルコードを発動させたのだ。

「むう、此の小隊に近寄れぬ」
 死者が星の加護に眉を寄せ、忌々しげに呟き離れていく。
「一体なんだこれは。教会の者か? いや、あいつらにはこんな芸当できないだろう」

 星の加護の内側に安全圏をつくりながらライアが離れていく死者にちらと視線を向けた。
「恨み言、喋りたいんじゃないの? 聞いてやるから其処からお喋りしてごらんよ」
 死者は加護の外から苛立たしげに声を向ける。
「小娘め、儂の話を聞くと? 儂は納棺師。幾多の死者と触れ合い真実に辿り着きし者よ」

 ライアは血色の瞳を冷たく向けて加護の外に軽く一歩を踏み出した。

「辿り着いたのだ、此の世界に人の神などいないのだと。人を見棄てて神は去った! 残された人の子を見よ、互いにいがみ合い己が身可愛さに他者を踏みにじり出し抜く事ばかり考え、スプーンが転げ落ちただけで争い始めるわ。なんと醜い……そもそも神の慈愛も恵も奇跡とやらも此の世に存在しないというのにあいつらは」
「うるさいよ」
 声一つ。
 透明な剣撃が峻烈に空を斬る。

「……」
 声は静まった。死霊は一撃で其の存在を消されたのだ。
 ふう、と腰に手をあてて一息つくライア。
 その耳に今度は騎士の声が届く。

「こ、これは聖戦……」
「あ?」
 未だ混乱する騎士が一人鈍らの刃を上段に振りかざし、気配に気づいたライアは一睨みして黙らせた。
「聖……いや」
 なんと一睨みで騎士がサッと青ざめて正気に戻ったではないか。
 それほどまでにその一睨みは、
「あ?」
 ――なんでもありません。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーナ・ユーディコット
【POW】
私は聖者ではないわ
だから、貴方たちの為に祈らない
私は学者ではないよ
だから、説き伏せる能はきっとない

だから私は生者として
今を生きて、力を振るうことがかなうものとして
何時までもこの世に留まる貴方たち死者に文句がある
「土の下からヤジを飛ばすだけなら……さっさと昇天して」

力は示すよ
墓が無い位置に……或いは破壊しても問題ないだろう何かがあればそれにドラゴニック・エンドを叩きつける

貴方たちの怨嗟より余程強い力が、生きる私たちにはある
だから、この世に干渉せずにあの世に行くか、黙っててほしい
死者が生者を脅かすのはおかしいから



●声
 声が世界に溢れている。

「金を求め女を抱き私怨で魔女を裁く聖職者達の何処が神聖たるか」
「嫁が葡萄酒に毒を盛ったのだ。なのに世間の同情は嫁に集まっている。なんと腹立たしいことよ」
「難民は病を運んでくる。拒否するべきだ」
 死霊達が恨み言を溢れさせている。
 その声は生者の心に染み込み、伝播していくのだ。

 人狼の耳が幾多の声を聞き、白絹の髪がさらさらと繊細に揺れた。
「私は聖者ではないわ。だから、貴方たちの為に祈らない。私は学者ではないよ。だから、説き伏せる能はきっとない」
 ルーナ・ユーディコットが微睡むように声を紡ぐ。
 少女は、元は只の村娘であった。
 その魂を安らげたり浄化するようなことはしないのだと。
 その感情の向きを変えるような演説もしないのだと。
 そう少女は言う。
 花が風に揺れ、言葉を静かに聞いている。
 言葉を掻き消すように死霊達が騒いでいる。
 だが、声は不思議とよく通った。

「だから私は生者として、今を生きて、力を振るうことがかなうものとして……」
 灰交じりの風が鼻腔を擽る。
 金色の瞳が高き藍穹から降臨した月の如く煌く。
 少女の声を聞く死霊達は、その耀きに一瞬見惚れた。

「何時までもこの世に留まる貴方たち死者に文句がある」
 ルーナがそう告げると、死霊達は一歩後退るようだった。
 ふわりと月桂樹に似た香りがルーナの周囲に漂い、緑色のドラゴンが少女の頬に鼻を寄せる。やわりとドラゴンを撫でるルーナの手は小さく、細い月明かりのもとでいかにも頼りなかった。だが、その全身から死霊を圧する確固とした意志を放ち、ルーナはユーベルコードを発動させる。 

「土の下からヤジを飛ばすだけなら……さっさと昇天して」
 ドラゴンがルーナの声にあわせてクゥと鳴く。暖かみのある声にルーナが眦を和らげる。頬に赤みが増すのをドラゴンが愛し気に見つめ、すりと身を寄せた。
 赤いマフラーがふわりと舞い、墓石の無い位置を狙った槍撃が放たれる。華奢な少女が放ったとは思えぬ苛烈な鋼線が轟音を立て地を抉り砕くと、ドラゴンが猛き心を速度に変えて宙を走り、槍を追い地形を破壊した。

「貴方たちの怨嗟より余程強い力が、生きる私たちにはある。だから、この世に干渉せずにあの世に行くか、黙っててほしい」
 ルーナは赤いマフラーをあげ、口元を覆った。
「死者が生者を脅かすのはおかしいから」
 ドラゴンが尾を揺らして宙を舞い、褒めてほしそうにしている。ルーナはちらりと其れを見て幽かな頷きを返した。

「燃えている……」
 金色の瞳は空を観る。
 微睡む獣の瞳が世界を視る。
 ぴょこりと耳が揺れ、

「行かなくちゃ」
 呟く声は闇に吸い込まれるように消えていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャルファ・ルイエ
――、此処が。
ううん、呆けている場合じゃありません。

声には声を。

……死者が世界を呪うのは、助けて欲しくて、でも誰もこの人達を助けられなかったからじゃないでしょうか。
それなら、きっとまだ助けて欲しいって気持ちは怨嗟の声の底に残っている筈ですから。
【慈雨】を歌って死霊を宥めて、彼らの声より歌を響かせます。
間に合いませんでしたけど、せめてもう、穏やかな眠りにつける様に。
『歌唱、範囲攻撃、優しさ、祈り』

死者に助けや救いを願う想いに共感して貰えるのが一番良いですけど、歌で騎士団の方に死霊の声が届き辛くなれば混乱も落ち着けられるかもしれませんし、混乱の中で怪我をした人が居るならその人達にも癒しが届けば。



●淡雨
 清らかな青色がふわりと闇に躍り、華奢な足が地に着いた。
 少女がたった今世界に降り立ったのだ。

 シャルファ・ルイエは自身を取り巻く世界に蒼い瞳を瞬かせた。耳には煩いほどの声が聞こえる。鼓膜を震わせる不思議な声。死霊の嘆きだ。

 『嗚呼、死んでいる。死んでいるではないか、自分が。それなのにあいつは、あいつらは生きているではないか。なんて憎らしい現実だろう?』
 『私のいるべき場所にあの娘がいるわ。私の事を皆が忘れていくわ。哀しい、悔しい』
 『真実を知ってほしい、それは可笑しな望みだろうか』

「――、此処が」
 少女はパチパチと目を瞬かせ、そっと二の腕を摩る。そして、ふるりと首を振った。
「ううん、呆けている場合じゃありません。声には声を」

(……死者が世界を呪うのは、助けて欲しくて、でも誰もこの人達を助けられなかったからじゃないでしょうか)
 シャルファは硝子製のベルが下げられた杖を握る手に僅かに力を籠める。
(それなら、きっとまだ助けて欲しいって気持ちは怨嗟の声の底に残っている筈ですから)
 軽く息を吸えば灰交じりの空気がひんやりと鼻を抜け喉を通る。
 シャルファは何処か神聖な気持ちで歌を紡ぐ。

 ――あなたを願う。

 ――どうかこれ以上、傷つくことがありませんように。

 透明な歌声が地表を満たし天へと昇っていく。空気を震わせる声は切なく優しく世界に語り掛けるようだった。
 歌声と共にやがて空から柔らかに光が降りた。ゆらり、ふわりと細い光の筋はひとつ、またひとつ。闇を淡く照らしあげ、少女の周囲の墓石を優しく撫でて埃を洗い流すように滑り降りていく。

 ――嗚呼。

 ――歌が、聞こえる。

 ――光が。

 死霊達がぼんやりと光に手を差し伸べ、光に溶かされるように消えていく。
(間に合いませんでしたけど、せめてもう、穏やかな眠りにつける様に)
 金の星と月長石が揺れ、少女シャルファが歌う声が花の間を吹き抜け、墓地を浸す清らかな湖水のように広がっていく。震える声を全て閉じ込め、眠らせる歌が光と共に世界を満たす。

「こ、この歌は」
「聞いたことのない歌だ」
 付近で死霊の声に苛まれていた騎士が数人声をあげる。錯乱するうちに同士討ちとなり傷を負っていた者達が次々と光と歌に癒されていく。

「なんて清らかな光だろう」
「なんて可憐な」
 騎士達は死と悲しみ満ちる闇の中、その少女を見る。
 その姿は昏迷の大地に伝わりし聖女の如く騎士の眼には映るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月鴉・湊
死者の声、ね。さてさて、どんな未練が残っているのやら。

何を聞いてほしい?怨みつらみなら俺に仕事を依頼しろ。
お前達の恨み、晴らしてやろう。

声が集まってきたら妖刀「影楔」を抜き、高く掲げる。

その代わり、お前ら、「力」を貸せ。
この影楔の力になれ。
この恨み、俺の力で晴らすだけじゃない。
お前らの力で、晴らすんだ。
お前達の恨み、お前達で晴らせ。俺はそれに協力してやろう。

だからこの刀の力となれ。連れていってやる。



●血色の儀
 魔笛のように風が鳴る。
 風音の中、低い声が紛れる。
「死者の声、ね。さてさて、どんな未練が残っているのやら」

 血糸羽織が風に揺れ。
 染物屋の烏は夜に起つ。
 月鴉・湊は夜陰に紛れ『世界』に其の一歩を踏み出し、鷹揚に周囲に声をかけた。
「何を聞いてほしい?」
 死霊の嘆きを物ともしない声は笑うように謳う。
「怨みつらみなら俺に仕事を依頼しろ。お前達の恨み、晴らしてやろう」

 『恨みを』
 『晴らして欲しい』
 声に惹かれたように死霊がそろりおぞりと集まってくる。

(来た来た)
 緋色の瞳は機嫌よく瞬く。そして、その刀がすらりと抜かれた。
 刀が抜かれた瞬間、周囲にほんの僅かに緊張が走る。
 それを嗤うように湊は妖刀「影楔」を高く掲げた。首元では薔薇飾りが不思議と温かに揺れた。

 影楔は美しい刀身を冴やかに夜に晒し、煌めいた。その刀身には死霊が惹きつけられる何かがあった。惹かれた死霊が見惚れればそれを感じたように刀がより一層存在感を増す。
 共振。
 彼らの間には、互いを昂らせる何かがあった。

 湊は妖刀を掲げ、厳かに告げる。
 いつしか辺りは静まり返り死霊の群れは湊へと視線を注いでいた。
 大勢の死が取り巻く中、その中心で男が宣言する。
 高らかに。
 決然と。

「その代わり、お前ら、「力」を貸せ。
 この影楔の力になれ。
 この恨み、俺の力で晴らすだけじゃない」

 死霊がその光を縋るように見ている。
 這いずる者、高く揺蕩う者。
 縛られし者、引き摺られる者。
 全ての眼を惹き付け、耳を引き寄せるように湊は声を放つ。

「お前らの力で、晴らすんだ。
 お前達の恨み、お前達で晴らせ。
 俺はそれに協力してやろう」

 その瞬間、死せる世界の中心は其の男であった。

 さわさわと風が吹く。死の香りを濃く乗せた風は血色のマフラーをひらりと弄び逃げていく。
 頰を微かに緩め、湊は言った。
 鮮烈な血色の瞳は何処か優しく死霊に注がれ、死霊が固唾をのんで声を待つ中、男は欲する声を与えてやった。

「だからこの刀の力となれ。連れていってやる」

 言葉は通り過ぎた風さえも振り向かせるような強い意思がこめられていた。
 教会を恨む者、領主を恨む者、難民を恨む者、騎士を恨む者、異形や吸血鬼を恨む者、ドラゴンを恨む者。無数の死霊が魅せられ、一体また一体と前に進み出て首を垂れる。頷き、湊は死霊を刀に取り込んでいく。死霊が吸い寄せられていく。

 死の満ちる中、死者に囲まれ、
 其れは何故か神聖な儀式にも似て。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノワール・コルネイユ
亡霊の声に耳を傾けてやろう
だが、その声に引き込まれることもないようにはしておく
死霊が抱える苦痛も狂気も、生者には耐え難いものだからな

語りたければ好きに語れ
お前達が望む祈りをくれてやれるかは分からんが

最早お前達は過去の残滓
終わった命を終われぬまま現世に留まれば、
何れ必ず生者に害を成すことになるだろうさ

お前達が愛したものとて、その犠牲の例外にはなるまい

お前達が望むこと、知ること…全てを吐き出して、今度こそ眠りに就くがいい
その全てを代わりに叶えてやれるとは言わんが
それで変わる未来だってあるかもしれんだろうよ

中々どうして、一筋縄では行きそうにもない気配だな
ただ、竜を仕留めればという話にはなりそうにない



●睥睨
 ――興味と関心はただ、この人類が敗退した世界の滅びに抗うことに。

 ノワール・コルネイユは紅玉の瞳をじっと闇に向けた。闇の中無数の嘆きが満ちている。死がそこに溢れていた。

 騎士達が膝をつき耳を抑えて苦しんでいる。
「ああ、許してくれ! 見捨てたくて見捨てたわけじゃない!」
「わかってくれ、夢のような地なんてあるわけがないだろう。俺達は現実世界を生きているんだ」

(死霊が抱える苦痛も狂気も、生者には耐え難いものだからな)
 一体どんな死霊に絡まれているのか屈強な騎士が情けなく震える姿をノワールの瞳が捉え、静かに睫毛が伏せられた。

 さわり、さわり、
 風が高木の葉を掠め擦れさせて低く咲く花を柔らかに揺らす。
 ひたひたと死霊が這い寄るのを烏の娘が睥睨する。

「語りたければ好きに語れ。お前達が望む祈りをくれてやれるかは分からんが」
 ぽつりと地に雨雫が落ちるかの如き言葉に死霊が声を返す。

『祈り……祈りなんてまやかしだ』
「そうか」
『祈りでは腹が膨れないんだ』
「そうだな」

 死霊が思い思いに囀るのをノワールは時折気紛れな相槌を挟みながら尊大に見守った。現実とは非常なものだった。ノワールは其れを知っている。夜風が灰を交えて吹き抜け、其の黒髪をのろのろと掬い上げて去っていく。乱れた髪を撫でつけながらノワールはぽつりと声を投げてやる。

「最早お前達は過去の残滓。終わった命を終われぬまま現世に留まれば、何れ必ず生者に害を成すことになるだろうさ」

 混血の娘は無意識に銀のチャームを弄る。陽の光が射さぬ宵闇。彼女は今其処に居た。夜の眷属を識る娘は深い紅を幾多の死に向ける。

「お前達が愛したものとて、その犠牲の例外にはなるまい」
 声は、やはり尊大に響く。
 この少女は死霊に君臨するかのように世界を見下ろし、声を紡ぐのだった。

「お前達が望むこと、知ること……全てを吐き出して、今度こそ眠りに就くがいい。その全てを代わりに叶えてやれるとは言わんが、それで変わる未来だってあるかもしれんだろうよ」
 その声には仄かな温度が燈っていた。

 『望む事……』
 『全て……』
 死霊達が望みを口にする。
 難民の声は教えてくれる。領地に希望を抱きやって来たのに現実は思っていたのとは違っていたのだと。
 聖職者の声は教えてくれる。奇跡の粉が人を狂わせ、精神と体を壊していったのだと。奇跡などなかったのだと。
 騎士の声は教えてくれる。異形蔓延る地を人の手で護ることが如何に困難かを。

「中々どうして、一筋縄では行きそうにもない気配だな。ただ、竜を仕留めればという話にはなりそうにない」

(もっとも、依頼自体は竜を仕留めるだけでも済むのだろうが)
 ノワールは北の空へと思いを馳せた。

成功 🔵​🔵​🔴​

草野・千秋
この世を呪う気持ち、ですか
ヒーローを名乗る者の口から出る言葉ではありませんが
気持ちはわからなくもない、です
(やや俯きつつ)
僕もサイボーグ改造手術をされ、家族を殺され
「どうして僕だけが」って……自分を呪い続けました

でも猟兵になってから気づいた
そんな目にあった人は僕だけじゃないって
過酷な現実に立ち向かう人達ばかり
過去に捕らわれず現在と戦う人達
時にそんな人が眩しくも見える

でもあなた方は過酷な現実に耐えられなかった
それも仕方ない事でさぞかし辛かったでしょう
その気持ちに寄り添うことしか出来ませんが
せめてもの手向けに歌を歌いましょう
UDCアースの子守唄です
母から習った歌です
(黙祷し)
――どうか、安らかに



●子守唄
「この世を呪う気持ち、ですか。ヒーローを名乗る者の口から出る言葉ではありませんが、気持ちはわからなくもない、です」
 草野・千秋はやや俯きがちにそう呟いた。薄い色の髪が繊細にはらりと頬にかかる。穏やかな瞳が眼鏡の奥で複雑な感情に揺れていた。

「僕もサイボーグ改造手術をされ、家族を殺され「どうして僕だけが」って……自分を呪い続けました」
 夜の空気は少しだけ気持ちを解き放ち、内に秘めた想いを表へと誘い出してくれる。千秋は夜と死霊の嘆きに誘われるようにその感情を吐露していた。
 風が冷たく感じられて千秋はそっと自らの肩を抱いた。抱く体は無機質な機械が混ざったサイボーグの体だ。それは、自ら望んだ体ではなかった。自身に起きたその出来事を思い出すたび、その心にはどうしようもない絶望と恐怖が思い出される。

「でも猟兵になってから気づいた。そんな目にあった人は僕だけじゃないって」
 千秋はそっと睫を伏せる。
 日々、彼の周囲には沢山の猟兵仲間がいた。その歩んできた道のりを知る者、知らぬ者。いずれも笑顔を向ければ笑顔を返し、温かな言葉には温かな言葉を返す、そんな仲間達。
 笑顔の裏に思いもよらぬ過去を背負っている者は驚くほど多い。千秋は其れを知っていた。

「猟兵のみなさんは……過酷な現実に立ち向かう人達ばかり。過去に捕らわれず現在と戦う人達。時にそんな人が眩しくも見える」
 それがどんなに難しい事か、千秋は知っていた。
 傷の辛さを知るのは傷を負う者。千秋は人の痛みを想像することができ、共感することができた。優しい青年は他者の痛みを想像してはそれに耐えて笑う友の強さを理解するのだ。
 繊細な青年は、その心で死者の気持ちにも寄り添うことができた。

「でもあなた方は過酷な現実に耐えられなかった。それも仕方ない事で、さぞかし辛かったでしょう」
 それが仕方のない事だと言えば、死霊がすすり泣く。
 その声が哀しくて、千秋は瞳をじわりと潤ませた。

「その気持ちに寄り添うことしか出来ませんが、せめてもの手向けに歌を歌いましょう」
 歌い手でもある千秋の歌が今は死霊のためだけに捧げられる。
 優しく純粋な心を乗せた声は闇の中にふわりと揺蕩い、死霊の傷ついた心を優しく慰め。

「UDCアースの子守唄です。母から習った歌です」
 歌い終えた千秋が黙祷する中、死霊が静かに消えていく。

 『……と……う』
 其れが感謝の言葉なのだと青年は感じ取り、哀しく微笑む。
(こんな状態になる前に、救いたかった)
 本当は、そう思っていたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。皆、元気にしているかしら?
まだそこまで時間が経っていないのに、久しく思うのは…。
それだけ私の中で変化があったからでしょうね。
さて、積もる話は後にして今は…。

…私は声無き声、音無き嘆きを聞き届ける者よ。
どうか教えて欲しい…。
何故、死の安息を受け入れないのかを…。

…そう。貴方達は竜に気付いていたのね。
…死してなお、故郷を護るために声をあげていたのね。

…ならば、私が手を貸してあげる。
怨みでも憎しみでも無い。
この街の人々を護る為に。
そして貴方達の魂の安息の為に。
一緒に往きましょう。

【断末魔の瞳】を発動
怨霊の呪詛は呪詛耐性と気合いで弾き、
魔力を溜めた左目に死者達の魂を受け入れ、
心の中で祈りを捧げる



●瞳
 其の領地に出現したリーヴァルディ・カーライルはかつて依頼で生命を救い、言葉を交わした領地にいる人々へと思いを巡らせる。
「……ん。皆、元気にしているかしら?」
 北の空は明るく炎に照らし出されている。出現したばかりの彼女には、其れが何を意味しているのかがまだ分からなかった。

「まだそこまで時間が経っていないのに、久しく思うのは……。それだけ私の中で変化があったからでしょうね」
 其れは、冬だった。数か月の時間が経っていた。
 リーヴァルディは思い出す。思い出すついでに変態吸血鬼が脳をちらついてリーヴァルディはそっと思い出を封印した。数か月の間に彼女も変わっていた。あの頃は飾り気のなかった下着も最近ではおしゃれを意識するようになったぐらいだ。

「さて、積もる話は後にして今は……」
 宝石めいた瞳が闇を見通すように眇められる。
 そこに嘆く者がいた。

「……私は声無き声、」
 リーヴァルディがそっと吐息に乗せて言葉を紡ぐ。
 彼女は決して饒舌な猟兵ではなかった。
 だが、必要なときに必要な声を放つことのできる猟兵だった。
 声はその年齢ならではの愛らしい響きを伴い可憐に空気を震わせ――だが、声そのものが魔力を秘めるかのように不思議と死霊を惹きつけるのだった。――あるいは、その生きざまが死霊にも垣間見えたのかもしれぬ。
「音無き嘆きを聞き届ける者よ。どうか教えて欲しい……。何故、死の安息を受け入れないのかを……」

 銀紫の少女が囁くように空気を震わせれば、深き嘆きが返される。リーヴァルディの瞳には死霊の姿が映る。

 首のない衛士姿の男が鍬を手に訴える。
 全身を炭と化した牧師が涙を流す。
 小さな子供が干からびた果実を手に親を探している。
 下半身をなくした女が這いずり、我が子を探している。

 口々に話すのは彼らの村を焼いたドラゴンの話、その脅威。

 『恐ろしいドラゴンが棲みついた。あれはだめだ、人間がどうにかできる存在じゃない……この領地はもうだめだ』
 『戦えるものではない。この地にしがみついていては、皆死んでしまうだろう』
 少女に声を放つ死霊達は皆そう告げる。

「……そう。貴方達は竜に気付いていたのね。……死してなお、故郷を護るために声をあげていたのね。
 リーヴァルディは銀の睫をそっと伏せ、しばし想いを噛みしめるようにして再び瞳を見開いた。その銀の髪を冷たい夜の風がふわりと揺らし、背後へと流していく。赤い花が同じ方向へと揺れて戻った。

「……ならば、私が手を貸してあげる。
 怨みでも憎しみでも無い。この街の人々を護る為に」
 断末魔の瞳が死霊を見つめる。
「そして貴方達の魂の安息の為に」


「一緒に往きましょう」

 魔力を溜めた左目に死者達の魂を受け入れ、リーヴァルディは心の中で祈りを捧げる。その胸には以前と変わらぬ誓いがある――。

成功 🔵​🔵​🔴​

守宿・灯里
怨嗟の声が聞こえます
花の赤が、まるで流された血のよう

この世界の絶望によって命を落とされた犠牲者の皆様…
どうかお声をお聞かせ下さい
それが例え、怒り、哀しみ、苦しみに満ちたものあっても
一言も聞き洩らさないように致します
その想い、私には聞き届けることしかできないかもしれませんが…
そうであったと、そのような想いがあったと、
いつまでも忘れずに致します

その怒りが和らぎますように
その悲しみの慰めとなりますように
その苦しみに安らぎが訪れますように

そう全霊の祈りを捧げ、
檜扇を桜に変え、花の赤を浄めるように、
一時でも覆い隠せるように舞わせます

深く昏く哀しい世界ですが、必ず光ある世界に――

誓いを込めて



●浄め
「怨嗟の声が聞こえます。花の赤が、まるで流された血のよう」

 空気を震わせる声は清らかに。
 闇においてなお艶を放つ黒髪を揺らして守宿・灯里が其の地に降り立った。

「この世界の絶望によって命を落とされた犠牲者の皆様……どうかお声をお聞かせ下さい」
 楚々とした声は死霊に対しても礼儀正しい。
(それが例え、怒り、哀しみ、苦しみに満ちたものあっても)
 夜に控えめに咲く春花の如き戦巫女は紫の瞳を優しい色で溢れさせていた。全身から薫り立つような神聖な霊気、心根の清らかで優しきが空気を介して死霊に伝わると、死霊の中でも特に繊細な気配を纏う者がしずしずと進み出た。啜り泣き、その死霊が声を寄せる。

「わたしは歌が得意だったのよ」
 小さな声がしゃくりあげ、鼓膜を震わせた。
 ぼんやりと透明な姿の娘。死霊がしくしくと泣いていた。

「けれど、どんなに頑張って歌ってもみんなわたしの歌を聞いてくれないわ。同じ歌を歌っても違う歌を歌っても、みんなソフィーヤと比べてソフィーヤを褒めるの」
 灯里は姿勢を凛と正し、声に耳を傾ける。
 瞳はやはり礼儀正しく死霊をまっすぐ見つめていた。注がれる視線の温かくまっすぐな気配に死霊は己を恥じるような貌をみせる。

「「わたしも叶わないって思うのよ。歌を聞けばわかるわ。どうしてかしら。同じ年に同じ土地に生まれて、どうしてこんなに違うのかしら。……わたし、醜いわ。とても、醜いわね」
 そんなことはない、と灯里は首を振る。
「そのお辛い想い、哀しき声。私には聞き届けることしかできないかもしれませんが……そうであったと、そのような想いがあったと、いつまでも忘れずに致します」
 死霊が啜り泣き、澱んだ気配を薄めていく。
「わたしを知ってくれるのね」


 ――その怒りが和らぎますように。

 その悲しみの慰めとなりますように。

 その苦しみに安らぎが訪れますように――


「花神楽が一差、奉納致します――」

 舞いにて魂を慰め、浄化を試みるのだと言い、灯里が檜扇をゆらりと優雅に舞わせれば、無数の桜の花びらが夢のように吹き踊る。
 舞う耳にか細き歌が聞こえた。

 消え入りそうな死霊の声が歌を歌っている。

 花の赤を浄めるように桜が薄紅の吹雪となりゆらりふわりと優しく舞う。紐飾りを揺らし、艶髪を靡かせ、灯里が桜吹雪の中を鮮やかに舞う。
 か細い歌が空気を震わせ。

 ――深く昏く哀しい世界ですが、必ず光ある世界に――

 誓いを込めて舞う灯里の耳に其の声が届く。


「わたし、歌が好きだったわ。

 それを、思い出したわ」



「ありがとう」


 名もなき娘が消えていく。
 桜の中を、消えていく。

 灯里は夜闇の中でひとり、それを見送り――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アムレイド・スヴェントヴィット
【架華】
アドリブ◎
「生を尊び死を遠ざける人の感情では、怨嗟が生まれるのもままならぬ事。されば我々が慰めましょう。生ある我々が」

持ち歩いているサンザシの小枝を、マリアを中心となるよう方々へ配置。
彼女の鎮魂歌、そしてシンフォニック・キュアーー癒しの歌。その力へ添え支える為に。

怨嗟の声へ耳を傾けることはない
それは宗教家の仕事
私は、断じるのみ


「生死の表裏一体を、どうか理解してください。死は生の一側面。それを踏み越える機会は自ずと訪れる。貴方方の怨嗟で、無為に踏み越えさせるべきではないのです」

死霊を鎮める彼女の歌声、その高潮に合わせ、解き放つ【クラタエグス・エヴァンジェ】

「炎が……急ぎましょう、マリア」


マリアドール・シュシュ
【架華】
アドリブ◎

救うわ
諦めたくないのよ
総てを
マリアは猟兵だから

元凶は悲しみの連鎖(わ)を生み出したこの世界そのもの
ドラゴンでさえ憤怒の情に憤りを感じて…(緩く首降り

彷徨う死霊に聖奏の詩(うた)を(祈り・歌唱
路を見失う生へ救いの手を
導きの光となりマリアの歌が浄化するのだわ

アムレイドとの対比で嘆きを最後まで聞き受け入れ死霊へ鎮魂歌を(おびき寄せ
星芒の眸で覆い隠され忘れる前に

アムレイドや騎士団と共に館を防衛(オーラ防御
指揮する弟へ何故兄と不仲か理由聞く
血を分けた兄弟同士仲良くして欲しい
難民へ【シンフォニック・キュア】
無駄な血を流さぬ様に説得

ええ
この争いは無意味だもの
炎が完全に回る前に止めましょう



●救援

 ――救うわ。

 諦めたくないのよ
 総てを
 マリアは猟兵だから

 時間が過ぎていた。
 マリアドール・シュシュとアムレイド・スヴェントヴィットはそれを理解していた。

 「吸血鬼狩り」を生業とする一族の生まれであるアムレイドは眼鏡の奥の瞳に厳しい色を湛え、その世界に対峙する。
「生を尊び死を遠ざける人の感情では、怨嗟が生まれるのもままならぬ事。されば我々が慰めましょう。生ある我々が」

 時間はない。
 彼らは其れを知っていた。

 アムレイドは持ち歩いているサンザシの小枝をマリアドールを中心となるよう方々へ配置し、姫君を守る騎士の如く少女を見守る。


(元凶は悲しみの連鎖(わ)を生み出したこの世界そのもの。ドラゴンでさえ憤怒の情に憤りを感じて……)
 マリアドールは緩く首を降り、そっと手を胸の前で祈りの形に握る。ただそれだけで少女の周囲には神聖な気が起る。それはとても神秘的な光景だった。

 ――♪

 聖奏の詩が彷徨う死霊に捧げられれば、其の特別な歌は遠く黒竜の元まで届く。

 ♪路を見失う生へ救いの手を

 可憐な歌声は声そのものがキラキラと星の瞬光を帯びるかのようだった。歌を聞く死霊が虚空に手を伸ばし、導かれるように浄化されていく。

「生死の表裏一体を、どうか理解してください。死は生の一側面。それを踏み越える機会は自ずと訪れる。貴方方の怨嗟で、無為に踏み越えさせるべきではないのです」
 アムレイドは理知的に道を説き、死霊を宥めていく。
 対してマリアドールは嘆きを最後まで聞き受け入れ、道理と感情の両方面から死霊達は説得され、浄化されていくのだった。

 マリアドールが鎮魂歌を捧げる。
 星芒の眸は切なく揺れて瞬く。清らかな浄化の光柱が闇の大地に立ち上る――、

「炎が……急ぎましょう、マリア」
 アムレイドは死霊に心に沿わせて歌い続けるマリアドールをそっと促した。マリアドールは確りと頷き、ドレスの裾を摘まみ北に向けて走り出す。


 北の領主館を難民達が炎を掲げて包囲していた。正鐘騎士団の本隊は炎の放たれた領主館へと迫る。
「奥様と子息は逃れてございます」
 伝令がミハイルに告げる。ミハイルの妻子は避難を済ませているのだと。
「ソフィーヤ様は」
「未だ中にいるものと」
 ミハイルは頷き、盾を掲げた。

「あれは民である。我らが不徳に怒る民である。ならば剣を向けることはならぬ。盾のみを掲げよ」
 騎士団の副団長へと指示を出し、ミハイルは数人を共に盾を掲げて難民を蹴散らし、燃え盛る館内へと駆け抜ける。炎の取り巻く館の中へ入った彼らを追って難民が迫るのを後続の騎士達が壁となり道を断った。


 炎に炙られ焼かれる肉体。身に纏う鋼鉄はその熱を何倍にもして肉を熱する。それがふと和らぎ、騎士達は驚いた。
「この争いは無意味だもの。炎が完全に回る前に止めましょう」
 場違いなほどあどけなく、どこか超然とした響きを伴う少女の声が耳を擽る。彼らの知るどんな貴族の姫君よりも麗しい銀髪の少女が炎に紅く照らされ、凛々しい黒騎士を伴って彼らの前に立っている。

 アムレイドとマリアドールが北の救援に駆けつけたのだ。

(ぎりぎり、だわ)
 マリアドールは館を見る。すでに火が放たれ、館は燃え上がっていた。

「私達は救援に来たのだ」
 アムレイドが眼光鋭くも丁寧に言葉を向ければ、その洗練された気配に騎士が居住まいを正して礼をする。
「こちらの姫君は――」
「マリアも加勢しに来ましたのよ!」
 マリアドールが難民に向けて清らかな歌を紡ぎ、無駄な血を流さぬ様訴えれば聞いた者は皆心を打たれ、頭を抑える。
「うう、頭が……俺は何をしていたんだ」
「おかしい、記憶がないぞ」
(正気を失っていたのか……?)
 アムレイドは難民の様子を見て目を眇める。

「教会の振舞う奇跡の粉――白い粉だ。兄もあれに精神を冒された」
 小声で呟くのはミハイルだった。
「ソフィーヤ様が未だ館にいる。彼女は兄の御子を宿しておられる。ソフィーヤ様と兄上の御子をお守りせねば」
 ミハイルはふたりの猟兵へと真剣なまなざしで助力を希う。

「まぁ! もちろん、マリア達は加勢しますわ。けれど、教えて頂戴? マリアは、貴方達ご兄弟が不仲だというお話をきいたの。何故かしら」
 血を分けた兄弟同士仲良くして欲しいのだとマリアドールが純粋無垢に呟けば、ミハイルは逡巡する気配を見せた。
「真実を知らず悪事に加担することは望ましくない。生命を賭して加勢するからには事情を知りたいものだな」
 アムレイドが低く言葉を放てばミハイルは背を伸ばす。
「お二人は猟兵殿、だな。これは一部の者しか知らぬ秘匿情報。他言は控えて頂きたいのだが」
 ミハイルは告げた。
「兄は、既に事故で他界しているのだ」
 その瞳は真っ直ぐに二人に向けられていた。
「兄は政治には不向きなほどのやさしさを持ち、少し頼りないが人徳者で知られる者だった。私は兄を支えたいと思い剣の腕を磨いてきたのだ。この領地には、恥ずかしながら問題が多い。私は人望がない。兄の死が知られればどうなることか……、それに、私は」
 現在二歳になる己の子ではなく、兄の御子を次代の領主にしたいのだ――ミハイルはそう呟いた。その言葉には嘘はないように思え、マリアドールとアムレイドは視線を交差させる。

(しかし、一部の騎士は死霊から真実を吹きこまれてしまっているのでは)
 此処に駆けつける前に聞いた情報を吟味し、アムレイドは眉を寄せる。真実をいつまでも隠し通すのは難しいだろう、と。

「何はともあれ、ソフィーヤ様を!」
「ええ」
 彼らは未だ燃え続ける館の中をひた走る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『迷い込んだ墓石の並ぶ花畑で』

POW   :    とにかく探索、行動あるのみ

SPD   :    罠やヒントが無いか、注意深く探索

WIZ   :    墓の並びや花の種類など、ヒントになりそうなものを探る

イラスト:みささぎ かなめ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●道を往く
 死霊の声はやがて収まり、墓石の並ぶ花畑には静寂が降りた。猟兵達の視る世界で炎が上がっていた。
「往こう」
 誰かがそう言った。

 ――何処へ?

●行き先
 北西に教会がある。
 北東で領主館が燃えている。
 南で山が燃えている。

 花畑を離れ、猟兵は其処へ往く。
 其処を選んだ者だけがその景色を知るだろう。

【1】北西
 腐敗した教会。
 難民を集めて聖職者が葡萄酒を振舞っている。葡萄酒には『奇跡の白い粉』が混入されており、それを呑んだ者は精神に異常をきたすのだという。
「汝らは神に選ばれし者。悪しき領主と魔女を打倒し神の名のもとにこの地を真に開放するのだ。人々は皆平等となるだろう。これは、聖戦である!」
 難民達は其れを飲み、領主館へと向かっていく。

【2】北東
 救援に駆けつけたマリアドールとアムレイドが正鐘騎士団のミハイルと数人の騎士を連れ、燃える館の中をソフィーヤを探して活動中。
 館の外では盾のみを掲げる騎士団員が正気を取り戻した難民達を抑え、消火活動も始まっている。

【3】南
 ドラゴンがいる。
 山は全体が燃え、火の海の中をそのまま進みドラゴンの元に向かうのは困難に思える。炎に対策するか、消火するか、あるいはドラゴンをおびきだすか。なんらかの手を打つと討伐は楽になるかもしれない。
 なお、山に行けば焼き焦げ炭のようになった木々や火に焼かれ煙に巻かれた魔獣や動物達の死骸が目に付くだろう。

【4】他
 自由

💠2章行動
 2章は上記1~3の中から一つ行き先を選び、「選んだ場所でキャラクターがどう行動するか」を送信してください。
 1章に獲得した情報は作戦に参加する猟兵全員が共有し、情報を知っている前提で行動することができます。
 プレイングは6月17日(月)8時30分~6月19日0時頃までの受付となります。
ルーク・アルカード
ルク(f14346)と一緒。

・行先
北西

・心情
危ないお薬ってお仕事以外じゃ使っちゃダメなんだよ?

今回は教会の人を捕まえれば良いんだよね。
生きたまま捕まえるのはやったことないけれど頑張ってみる。
……生きてるのなら、ちょっとくらい怪我させてもいいよね?

・行動
『目立たない』ように気配を遮断し、足音を立てないように『忍び足』で行動。


『吸血』させ武器に『生命力吸収』させて『武器改造』を行う。
今回は刃先を潰した峰打ち用バージョン。
背後から相手の弱点を『見切り』、『早業』で一撃で意識を刈り取る。

・他
お仕事なら手段には躊躇しません。
頼まれ事を唯々こなします。


ルク・フッシー
方針◆ボクとルークさん(f06946)に従ってくれるという騎士団の人と共に、北西の教会に向かいます

行動◆ルークさんには聖職者の捕縛を担当してもらいます

ルークさんが活動しやすくするために、ボクは騎士団の人と共に教会にいる難民の人を引き付けます
「ひ、人同士で争うなんて、やめてください!」
「戦う前に…話をしましょう!あなた達は…人なんですから!」

【オーラ防御】や絵筆による【武器受け】で攻撃を防ぎ、難民の人を傷つけないように押し留めます

心情◆麻薬で人を狂わせるなんて…もしかして、オブリビオンが黒幕?でも…
「今は…この人達を助けないと!」

ルークさん…信じてます!


一之瀬・紫苑
【鴉と英雄】で連携

急な依頼と言う事でやってきましたが…
なんだか嫌な感じのする所ね…

とりあえず北東に向かいましょうか
燃える館の様子を見て取り残されてる人が居るなら放置できないから探しに行きましょう

「空を何か飛んでいますが…何アレ…」
なんてこと考えてたらこちらに向かってきたわね。人なのは予想外だったけど
どうやら南に向かいたいとの事なので素早く向かえるようにお手伝いしましょう
【魔力増幅】で思い切り力を出せるように筋力強化してから大剣の横薙ぎのフルスイングの一撃でお手伝い
「遠くに飛ぶ手伝いだなんて無茶を言いますね全く」
「失敗して両断されないようにしなさいよ!」


ジャック・スペード
【2】北東へ

解決すべき事は色々あるが……俺は人命優先で動くとしよう
ソフィーヤは身重との事だったな、ならば人手が必要だろう
此の地との縁は浅い身だが手伝わせてくれ

機械仕掛けのウォーターガンを召喚し、館の炎を消しながら探索を
火炎耐性があるので俺は積極的に奥へ向う
道中に邪魔な瓦礫の類があれば怪力で退けよう
仲間やソフィーヤ、それから騎士たちに
瓦礫や火の手が及びそうなら此の身を盾にしてかばい
怪我人や動けない者は怪力で運ぼうか

燃え盛る炎の中、大した機能を持たぬ当機に何が出来るだろうか
――此の胸には勇気と覚悟が在る
皆が無事に脱出できるよう尽力すること、其れが俺の使命と心得た
動ける限り此の躰を存分に使い潰そう


黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
せわしないですね
本当なら怒りに溺れた竜を滅ぼしに行くところですが

◆行動
【1】の教会
【POW】で判定を

聖職者が葡萄酒に混ぜ物をしようとは困ったものです
ですが・・・私以上に【医術】に秀でていますか?

【毒使い】により体内で精製した嘔吐を引き起こす成分を
【念動力】で風に載せて難民達へと運びましょう
胃の中を引っ繰り返せば頭もすっきりするでしょう?
悪いものを吐き出し視線を上げたら抑揚をつけて
【催眠術】の様に魂を【誘惑】する甘い声で群衆に語り掛けましょう

貴方達の背後に隠れる聖職者さん
煌びやか過ぎませんか?
この世界を生きる者にしては肥えていませんか?

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブ歓迎


トリテレイア・ゼロナイン
領主のヨジフ様は……身罷られていたのですね……

オブリビオンが直接手を下さずとも、救った命が零れゆく程に闇は深い
ですが涙する事なき鋼の身、悲嘆に暮れて立ち止まるなど許されない

…………北東へ、館へ、ソフィーヤ様の元へ!
●騎乗した機械馬を●ハッキングし、片道前提の駆動リミッター解除
乗り潰してでも一秒でも早く館へ

火炎対策等の防具を改造している暇など無し。UCに従うまま館に突入
生存者の捜索にセンサーを…熱は効果が低い、音響センサーを頼りに行動
炎と煙を避けるため閉所に逃げ込んでいる可能性も鑑み、●怪力で障害を排除しながら助けを求める声を頼りに生存者を捜索

意識があれば声をお返しください!すぐにお助けします!


カイム・クローバー
俺は【1】の北西に向かうとするか。領主館は知り合いの猟兵が多い様子だったし、放っておいても問題ねぇだろう。匂いを断つには元からってな。教会に行ってみるとするか。

着いたら軽い感じで声を掛けてみるぜ。よっ!何飲んでんだ?へぇ、葡萄酒?美味そうだな、俺にも一杯奢って貰って良いか?
白い粉の正体を確かめるために僅かに口に含む。んで、すぐに吐き出すぜ。どうせロクな代物じゃないんだろ。薬物の類だろうが…んなモン使って難民をそそのかすたぁ、腹の中、真っ黒じゃねぇか。
生臭坊主を取り押さえるぜ。久々に素手で喧嘩だ。【二回攻撃】使って【見切り】と【残像】UCで回避。一人も殺しはしねぇ。気を失う程度に留めてやるよ


リーヴァルディ・カーライル
【鴉と英雄】で連携

…駄目ね、私達だけだと手が回らない。
ゾフィー達、無事だと良いけど…ん。どうしたの湊?

…無茶苦茶な作戦だとか、力技にも程があるとか。
言いたい事は色々あるけれど…ありがとう皆。

作戦通り行動し鍵箱の中で準備を整える
“皆に正気に戻ってほしい”と祈りを捧げ【変成の輝き】を発動
精神を浄化する光を放つ宝石剣を召喚して両手を繋ぎ、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収し魔力を溜めておく

目標地点についたら周囲を剣光で照らしてなぎ払い、人々を正気に戻す
…後、竜を目視したら気合いを込め怪力任せに剣を投擲
光属性攻撃で邪神の呪詛を抑え時間を稼げないか試みる

…再会の挨拶はまた後でね。
今はこの騒ぎを終わらせるわ。


月鴉・湊
【鴉と英雄】で連携
この数の恨みを晴らす約束。これは大仕事だ
リーヴァ君と共に行けば出来るかもしれない。この負の連鎖を終わらせる事を。
だが二人では難しい。ま、持つべきは仲間だな

通信機で呼び出した仲間とリーヴァ君と一緒に作戦開始
通信機を十六夜君に渡し、移動手段は任せる
そして各所でUCで死者達を呼び出しリーヴァ君の手伝いをさせよう。
リーヴァ君のUCで正気に戻った者達へ死者の口から真実を語らせる。領主、教会、全ての元凶の真実を。
竜には人海戦術で時間稼ぎをしてもらおう

ただし、教会の先導者には俺が自ら手を下す。
彼女にはこんな汚れ仕事はさせられないしな。

さあ、全ての恨みを晴らして見せようじゃないか。


アマータ・プリムス
【鴉と英雄】で連携

湊様に急に呼びだされたので何事かと思えば……
良いでしょうその願い、当機が完璧に叶えてみせます

秘書装置を湊様の通信機と同期
これでいつでも連絡可能
皆様の準備が整いましたら作戦の宣言
「それでは皆様、オペレーション『キャノンボール』存分に堪能して下さいませ」
UCを発動し投擲用の道化人形を作成
【学習力】で目的地までの距離を計算し必要な角度と速度を算出
そして十六夜様を乗せてれっつすろーです

その後の移動は十六夜様にお任せ
当機は通信越しに指示を出します
「滞在時間は最小限に。お急ぎください」
「次の目的地へ行くには? 近くにいる方に手伝ってもらってくださいな」
「最後は頼みましたよ、アリス」


月代・十六夜
【鴉と英雄】で連携。

よっし、なんか良くわかんねぇけど、二人を全部の場所回らせりゃ良いんだな。
了解了解、そういうことなら超速宅急便と行きましょうか。

花畑で月鴉さんから通信機を受け取って連絡手段を確保。
二人を【鍵のかかった箱チェック】で鍵箱に収納。
アマータ嬢の指示に従い味方の補助を貰って【超過駆動:肉体】で強化した身体能力で【韋駄天足】を使用して、高速で二人を運搬する。
現地に着いたら二人を贈りだしてその場で待機。その間に他の面子も追いつくだろう。

二人が戻ってきたら、また収納してアマータ嬢の指示に従い、仲間に手伝ってもらって次の場所へ。
現地で何かあって移動の必要があったらその辺はアドリブアドリブ!


アリス・レヴェリー
【鴉と英雄】で連携
ご連絡に応じて参上よ!
任せておいて!思いっきり飛ばしてあげる!

まずは三人が他の場所で動いている内に、【友なる金獅子、勇猛の調べ】で喚び出した黄金の獅子、ダイナに乗って南の山に急行するわ

大地と炎を自在に御せるダイナなら燃えてる山もへっちゃらよ。炎は吸収して消して、焼けてしまったモノは大地に還しましょう

「こんなことしか出来ないけれど、せめて安らかにね」

そのまま三人が来るまで竜のいる山の火を消しながら待機するわ

こちらに飛んできたら此処での動きのサポート。やることが終わったら、思いっきり足場の大地を隆起させると共に火の力でブーストして射出よ

「角度北西!それじゃあ、いってらっしゃい!」


浮世・綾華
黒羽(f10471)と【1】

はぁい。じゃ、そっちは任せた

侵入前にそっと物陰に身を隠し
聖職者ごと黒羽に惹きつけられている隙
素早く移動し早業、盗みを使って彼らの手から
ボトルとグラスを奪い取る

随分と美味そうな葡萄酒じゃねーの
――俺にもちょっと貰えるか?
嗚呼、良い香りだなぁ…で?
奇跡の白い粉なんて、胡散臭いにもほどがあんだろ
葡萄酒を落下させぶちまける
言葉で煽り仕草で誘惑

反抗はフェイントでよけ
彼らが気づいた頃には鬼火は妖艶に漂って

あっちでバケモンが暴れてんの、見える?
お前らはそれすらも制御できない
怯まなければ軽く衣服を燃す

悪いことは言わねぇ
此処で大人しく、してな?

そ?その言葉、そっくり返すよ


華折・黒羽
綾華さん(f01194)と
【1】

…色々と、入り乱れてるみたいですね

情報提供者の烏達に礼を告げ
綾華さんにも顛末を伝える

少し、寄り道していいですか?

人が人を陥れる地へ

相手はただの人間
“得体の知れないもの”を見せれば大人しくなるだろうと

聖職者の方は綾華さんに任せ
飛び出そうとする難民の前に
人には当たらぬ様地に屠を突き立て
囲むよう氷花織を展開
氷花の壁と寒さで人であれば止まるだろうと
両翼を広げ圧す様に

──領主館に手を出すな

憶測を招くだろうが今は侵攻を止めることが最優先
この先の説得はきっと誰かが

もう動かないだろうと判断すれば
すぐにドラゴンのいる南へ

綾華さん、随分と様になってましたね

なんて軽口を投げ掛けながら


仁科・恭介
※アドリブ等歓迎
1.北西の教会
【目立たない】ように難民に紛れる
(もの凄く嫌だが)精神異常をきたした難民から数滴血を舐め、【吸血】本能で血と異なる白い粉を【学習力】で理解
それを全て「奇跡の白い粉の短剣」に変える
難民はこれで目が覚めるだろう

薬の効果が切れ、慌てた聖職者達へ【携帯食料】を渡した桜と声を上げる

神の声が聞こえなくなった
イカサマじゃないのか
数人だが、それが広がれば波になる

そこに助け船として封のついた葡萄酒を渡そう
封がついていれば警戒も緩むはず
白い短剣で封を切りながら少しずつ薬を溶かす
そして聖職者全員へ配る

全員が飲むのを見計らったら館へ促す
「隠している事を話に行こうか。ヨジフの事も含めてね」


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
まっとうに理路整然と説得されるよりはマシだけど、それでもヘンな薬で心を壊すってのはダメだろ。

……とは言え難民の人たちを傷つけるわけにも行かねえし、《幻想虚構・星霊顕現》を使って無力化する。
複合させる属性は光と風。難民たちに強烈な光の竜巻(実体は無いので勿論傷はつかない)を浴びせ、ついでに風の振動で轟音を発生させる。
薬の効果で判断力が下がってるところに強い光による〈目潰し〉で目が見えねえ、轟音で耳も利かねえなら、ほとんど何も出来なくなるだろ。
あとはその隙に手足縛って転がしとけばいいか。ちゃんと後で解放してあげねえとだけど。

もし他の仲間がいるんなら、協力して無力化できればいいかな。


アムレイド・スヴェントヴィット
【架華】
アドリブ◎
2

外套を振るい、熱と炎からマリアを守る
壊れそうな館の諸々へは先んじて対処し安全を図る(先制攻撃

「ミハイルさん、館の構造を。ソフィーヤさんが居られるなら、思いあたりは?」
(あるいは、怨嗟の中に語るものがいたか……? 思考を止める暇はなさそうだ)
騎士方々の声にも耳を傾けつつ、可能な限り進行を早める

ソフィーヤが見つかれば即座に退路を検討
マリアの言葉を遮ることはなく、ミハイルらを先に脱出させる

「……さて、ソフィーヤさん。じっとしていてくださいね」
【血統覚醒】を用い、吸血鬼としての力を導き出す

「私はダンピールの黒騎士――ですが、護る為に戦う者です」
ソフィーヤとマリアを抱えて出口を目指す


マリアドール・シュシュ
【架華】
アドリブ◎
2

呼び掛けてソフィーヤ捜索&保護最優先(情報収集
ケープで火の粉を払う(オーラ防御

ミハイルの気持ちは分かったのよ
けれどマリアは他の猟兵が聴いた声を聴いたわ
ヨジフ…あなたの兄が暴君のように言われていた事を(鐘を農具にしたり農民を徴兵にした
領主の死も既に…

民の疑心を払うには真実を告げ正しき道へ導く他ないわ
困難であろうとも
諦めないで
ソフィーヤと共に…
真摯な行動と言葉は人の蟠りを溶かすわ(剣を見て

本当は
兄弟仲睦まじかったのでしょう(微苦笑

歌姫発見後はケープを羽織らせ抱き締める

また、辛い思いをさせてしまったの(お腹の子も見つめ
(吸血鬼に脅された経緯は読了済

もう大丈夫
マリア達が守るわ(脱出


ルーナ・ユーディコット
【3】南
燃える山の果てに、ドラゴンが居るのね
人狼咆哮で挑発……やってみよう
ドラゴン自体は攻撃の射程には入らないだろうし、
音が耳に入るかは怪しいけど
炎も憤怒の一部だというのなら、干渉されたら気がつくかな
私から全てを奪った埒外への憎悪を憤怒に変えて
燃え盛る炎を射程に入れて私自身の憤怒を込めて咆哮をあげよう
私の未来を蝕んだ人狼の力を使い
燃え盛る憤怒の炎を消し飛ばし、生者の怒りに塗り替える

全てを焼き尽くそうとする憤怒に、憎悪交じりの憤怒を叫んだ私はここにいる

まあ、手応えがなかった場合は、この山を登るしかないか
心構えは、しておこう


ノワール・コルネイユ
【1】へ

聖職者だか詐欺師だか知らんが
馬鹿な真似は止めねばなるまい

説得やら呼び掛けは弁舌が立つ者に任せ
奇跡の白い粉とやらが仕込まれた葡萄酒に対処
周囲の騒ぎや人混みに紛れ【目立たない】様に接近
酒樽に【破壊工作】を仕掛けるか、振る舞っている者には寝ていて貰う

奇跡の白い粉とやらがそんなにありがたいものなら
アンタが自分で呑んで見せろ
その奇跡がどの様に表れるのか、大衆に見せてやるがいいよ

だから奇跡だの平等だのを謳う奴は嫌いなんだ
甘い言葉で惑わせて、その癖、自分の手は汚しやしない

多くが救いを求めて嘆く、この世界だと云うのに
その嘆きを食い物にしようというのなら…
…喩え人間相手だろうと、私は容赦はしない


守宿・灯里
【2】北東へ
アドリブ◎

領主館の皆様が心配です
急ぎ戻ります!

戻ったら状況確認しつつ、怪我をした方にUCにて癒しを
私もソフィーヤ様を救いに全力で飛び込みたいのですが…
ぐっと我慢して――
救いに行って下さった猟兵の皆様を信じて待ちます

その代り、救出された後のことを考えて事前の行動を
騎士団の方と協力して、食糧や水、館の代わりに休める場所の手配等
お腹のお子のためにも、早く横になれるよう、休めるようにしてあげたいと思います

またソフィーヤ様が安心できるまで、寄り添ってあげられたらと
もう大丈夫。私達猟兵がついていますよ

不安や心配事があればお話を聞き励まし、
少しでも不安を和らげてあげられたらと思います


シャルファ・ルイエ
北西へ。
そこで館に向かう人達を抑えられればあちらの負担も減るでしょうし、怪しい粉入りの飲み物なんて飲まない方が良いですから。

翼で飛んで教会の屋根の上辺りから少し様子を確認したら、葡萄酒を配っている付近へ降下をして【鈴蘭の嵐】で葡萄酒の入ったコップや瓶なんかを壊してしまおうと思います。《範囲攻撃》
もう飲んでしまっておかしくなっている人が居るなら、【慈雨】を歌って治療できないかも試してみます。
それと、聖職者の人には白い粉を何処で手に入れたのかの確認を。

難民の人達にも、此処に集まった理由があるんでしょうけど……。
向かって来る相手に剣では無く盾を掲げた騎士さん達の話は、伝えてみようと思います。


ノーラ・カッツェ
【1】教会へ

領主の真実は…他の人に任せて…。
私は私が出来る事をしようかな。
難民、教会の人間。どちらも死霊が怨み、破壊を望んだ相手…。
叶えてあげるって言ったし、その願い…叶えてあげないとね。

なにより…。
教会という場所は…私にとって孤児として引き取られて育ててもらった大切な場所。
そこを隠れ蓑にして悪事を働くなんて許せないのよね。
壊しても…壊しても…。まだ足りない程に…。
だから…。腐敗しきった教会の人間も…。良いように利用されてる愚者の難民も…。
その身体を【串刺し】にして…【傷口をえぐって】…。
確実に…全部ぜーんぶ…。壊シテアゲル。

それを拒むなら…。
本当の『魔』の女を…。その手で殺して見せなさい。


セシリア・サヴェージ
【1】
魔女と呼ばれる女性と私は面会したことはありませんが、闇の力を操る黒い鎧を纏ったダンピールよりもその方のほうが魔女の称号に相応しいとは思えませんね。
ともかく、人間の領主打倒を掲げて人々を扇動するなど、聖職者にあるまじき行い。この苦難の時代を協力しあって生きていかなければならないはずなのに。

領主館を襲うのをやめるよう説得を試みますが、難民たちは正気を失い、聖職者も応じるとは思えません。最悪の場合、彼らを取り押さえる・【気絶攻撃】で大人しくさせる等の必要があるかもしれません。事態を収拾できるならば難民の方々に魔女だ悪魔だと罵られようとも構いません。

私は、もう人同士で争ってほしくない……。


宮落・ライア


ふぅむ?
さて、何処に行くべきか。
……。
一番臭いがくさい教会かな。

別にさぁ。
他者に害を及ぼさないのなら、
信仰に縋るのも頼るのも依存するのもその一個人としては
ボクは構わないと思ってるんだよ。
人はどうしようもなく弱いのだからね。
けれど、縋る人頼る人依存する人をそれが悪徳と分かった上で
煽動し偽りを吹き込む事は許されない。それは悪だ。

とりあえずとっとと教会の扉蹴り開いて押し入ってやめさせるか。
振舞おうとしてるタイミングなら聖職者に白い粉入りの葡萄酒を無理やり飲ませる。
それが奇跡の産物で正しい物なら自らで証明しろ。

その後は【嗅覚】と【追跡】で在庫を探し当てる。


狭筵・桜人
【1】北西

あっちでドラゴンがどったんばったんしてるってのに
余計なことしでかしてくれましたねえ。

乗り込んで聖職者をUDCで優しめに拘束してから
難民達の洗脳を解いていきます。
大忙しなのでスピーディに。
黒幕も殺しはしません。人間なら、ですけど。

神に選ばれてないし悪しき領主も魔女も居ないし聖戦などない。
気のせいです。悪い夢ってやつです。
落ち着いてーほらほら落ち着いてーと【催眠術】と【言いくるめ】。
暴れるなら気絶させます。

そういえば死霊がなにか言ってましたね。
身体が弱ってる人はご飯貰えないんでしたっけ?
飲み水くらいならわけてあげますから、葡萄酒薄めちゃってください。
怪しげな白い粉も回収しておきましょう。



◆北西の空は昏く
 空。
 時間は、夜だった。

 蒼き翼が羽搏いた。
 ひらり、舞い降りる羽根は清らかに、柔らかに。

 羽根をひとつ手に取り、ノーラ・カッツェが首を傾げる。さらりと繊細に髪が揺れ、やわらかな頬にかかる。
「領主の真実は……他の人に任せて……。私は私が出来る事をしようかな」
 どこかぼんやりとした瞳は花霞に似て北西の空を観る。
「難民、教会の人間。どちらも死霊が怨み、破壊を望んだ相手……。叶えてあげるって言ったし、その願い……叶えてあげないとね」
 ノーラの胸の内には教会が思い出されていた。
 ところどころがボロボロな古びた教会。まだ只の人間だった頃に住んでいた場所。これから向かう場所と異なり、そこは善良な教会だった。質素な暮らしぶり。多くは望めなかった。けれど、温もりがあった。

 ――もう、戻ることのできない場所。

 薄花の瞳は夜を視る。


●北東の空は茜に燃ゆ
「領主のヨジフ様は……身罷られていたのですね……」
 トリテレイア・ゼロナインが機械馬の駆動リミッターを解除しながら呟いた。
(オブリビオンが直接手を下さずとも、救った命が零れゆく程に闇は深い。ですが涙する事なき鋼の身、悲嘆に暮れて立ち止まるなど許されない)
「…………北東へ、館へ、ソフィーヤ様の元へ!」
 ロシナンテの名を持つ白き機械馬は黄金の鬣を靡かせ、無機質な緑眼を耀かせて地を蹴った。ガリ、と音を立てて大地が抉られ、次の瞬間には馬影は高く跳んでいる。大きく跳んだ馬は風を切り半月の白き弧を描きながら地を再び蹴り、一瞬ののちには遠く距離を稼いでいる。馬躰には大きな負担がかかっているが、片道前提の疾駆は翠色の光の残滓を残して流星の如く北東へ駆けていく。

 味方の駆ける姿を見送り、黒影が動き出す。
(解決すべき事は色々あるが……俺は人命優先で動くとしよう)
 『スペードのジャック』はヒーローであった。機械仕掛けの胸に「こころ」を宿すジャック・スペードは領主館へと視線を巡らせた。
「領主館の皆様が心配です、急ぎ参りましょう!」
 守宿・灯里が共に往く。2人は視線を交差させ、どちらからともなく頷いた。

「急な依頼と言う事でやってきましたが……なんだか嫌な感じのする所ね……」
 凛とした雰囲気のお姉さん、一之瀬・紫苑が全身を覆い隠す外套を揺らめかせ、歩いていく。
「とりあえず北東に向かいましょうか」


◆北西へ向かう猟兵団
 北東へと向かう者達と時刻と同じくして、北西へ向かう一団があった。

「あっちでドラゴンがどったんばったんしてるってのに余計なことしでかしてくれましたねえ」
 狭筵・桜人が肩を竦めて歩き出す。

(領主館は知り合いの猟兵が多い様子だったし、放っておいても問題ねぇだろう。匂いを断つには元からってな。教会に行ってみるとするか)
「……スライムだなぁ」
 カイム・クローバーが教会に向かいながら呟いた。
「私は悪いスライムではありませんよ? ……黒いですが」
 ぷるるん。スライムは震えて胸を張る。
「選ばれしモノはそのカラーからして違うのです」
 ぽよんと黒色ボディを震わせたスライムは――次の瞬間、人の姿へと変じていた。
「それにしても、せわしないですね。本当なら怒りに溺れた竜を滅ぼしに行くところですが」
 白髪サイドテールの美少女、黒玻璃・ミコはそう呟いた。

 そんなやりとりを背景に、黒い烏が舞っていた。
 バサバサ、と。烏は柔らかに翼を羽搏かせる。
 烏は痩せていた。
 太陽の恵み薄く痩せた大地。魔獣や異形の闊歩する世界。そこは人だけでなく動物にも恵み薄き地なのだ。
 華折・黒羽はそっと目を伏せた。
(……色々と、入り乱れてるみたいですね)
 情報提供者の烏達に礼を告げ黒羽は此度の作戦におけるパートナー浮世・綾華にも顛末を伝える。
「綾華さん。少し、寄り道していいですか?」
「俺はいーケド?」
 へらりと笑い、綾華は北西に視線を向ける。
 予想していた返答に黒羽は外套の裾をそっと摘まむ。

 ――人が人を陥れる地へ。

 ペアが1組北西へ向かうのを視ながら、暗黒騎士はその後に続く。
「魔女と呼ばれる女性と私は面会したことはありませんが、闇の力を操る黒い鎧を纏ったダンピールよりもその方のほうが魔女の称号に相応しいとは思えませんね」
 暗黒騎士――セシリア・サヴェージがぽつりと呟いた。暗黒の鎧は黒く禍々しく、呪いにより着用者の精神を蝕む。人々はその戦う姿に恐怖し、彼女を魔女と呼ぶこともあった。

 ――吸血鬼よりも余程恐ろしい。

 風に乗り、そんな声が聞こえそうな気がしてセシリアはゆるゆると首を振る。
「ともかく、人間の領主打倒を掲げて人々を扇動するなど、聖職者にあるまじき行い。この苦難の時代を協力しあって生きていかなければならないはずなのに」
 声はもどかしい想いを訴える。
 ただでさえ人の生きにくい世界、それなのに人は協力し合うことができない。
「……苦難の時代だからこそ、でしょうか」
 セシリアは悲しく呟いた。

 教会に向けて猟兵達が移動していく。
「ふぅむ? さて、何処に行くべきか」
 宮落・ライアが猟兵仲間達の動きを見送りながらしばし考え。
「……。一番臭いがくさい教会かな」
 のんびりと行き先を決め、仲間の一団についていく。

 ルーク・アルカードとルク・フッシーが騎士団を引き連れ。
 仁科・恭介は目立たないように気配を抑えながら歩き出し。
 ノワール・コルネイユは四振りの銀の剣を手に黒衣を靡かせて歩いていく。
 鏡島・嵐は「他の仲間と協力しよう」と思いながら一団に続いた。


◇オペレーション『キャノンボール』
(この数の恨みを晴らす約束。これは大仕事だ。リーヴァ君と共に行けば出来るかもしれない。この負の連鎖を終わらせる事を)
 月鴉・湊はリーヴァルディへと視線を向けた。ダンピールの少女は難しい顔をして考え込んでいる。
「……駄目ね、私達だけだと手が回らない。ゾフィー達、無事だと良いけど……ん。どうしたの湊?」
 リーヴァルディ・カーライルは視線を向ける湊に気付き、湊を見つめ返した。
「二人では難しいが……ま、持つべきは仲間だな」
 周囲では大勢の猟兵達が動いていた。
「ん。仲間は沢山いる」
 リーヴァルディはこくりと頷き湊に背を向けるが、湊が呼び止めた。
「おじさんな、仲間呼んじゃった。チーム名【鴉と英雄】な」
 悪戯っ子のように言い、パチリとウインクしてみせる湊へとリーヴァルディは紫水晶の瞳をぱちぱちと瞬かせる。湊の手には通信機が握られていた。この通信機は湊が作戦の説明中に居眠りとか話を聞いてないことが多いので無理矢理持たされた通信機なのだが、今は女性の声を届かせていた。
「十六夜君、こっちこっち」
 手招きをすれば今まさに転移されてきた新たな仲間がやってくる。愛用のコートと一つに纏めた後ろ髪を靡かせ月代・十六夜がいかにも身軽な様子で二人の元へと駆けてくる。
「この依頼はあえて避けてたんで内容頭に入ってないんだけどなー!」
 快活に笑う十六夜はしかし、周囲へとぐるりと視線を巡らせて通信機を受け取ってくれる。
「っし、なんか良くわかんねぇけど、二人を全部の場所回らせりゃ良いんだな。了解了解、そういうことなら超速宅急便と行きましょうか……さてここに取り出しましたるは~先日アルダワで溜めて置いた水を抜いて快適にした箱!」
 他の依頼で水をぶちまけて来たばかりなのだ、とパチンとウインクしてみせ、十六夜は湊とリーヴァルディの2人を小さな鍵のかかった箱へと収納した。
「こちら~花畑~。アマータ嬢、アドリブアドリブ」
「最初からアドリブですか」
「それは冗談だけど。そんじゃお仕事と行きますか」
 通信機に向かって明るく声をあげれば、若干呆れ気味な声が返ってくる。
 そう、その通信機の向こうには綺麗なメイドさん姿のアマータ・プリムスがいるのだ。
(湊様に急に呼びだされたので何事かと思えば……良いでしょうその願い、当機が完璧に叶えてみせます)
 どこぞの天才が作り上げた人形であるアマータは基本コンセプトが「ヒトのために働く」ことであった。コンセプトに忠実に世話好き気質で奉仕姿勢のアマータは携帯秘書装置を湊の通信機と同期させていた。

「それでは皆様、オペレーション『キャノンボール』存分に堪能して下さいませ」
「んっ?」
 通信機と話していたの十六夜はすぐ傍から聴こえた声にぎょっとして目を向ける。なんと離れた場所から通信で指示を出していると思っていたアマータはいつの間にか十六夜の近くに転移していたのだ。
「? よろしいでしょうか?」
 不思議そうに十六夜を見上げる瞳はネオンピンクスピネルの輝きを放っていた。純白のホワイトブリムが風にやわらかく揺れる。
 十六夜が頷くと、アマータがユーベルコード『Ab uno disce omnes』で造り出した投擲用の道化人形で目的地までの距離を計算していく。
「角度算出、速度は……適当でなんとかなるでしょう」
「今適当って言った?」
「れっつすろーです」
 十六夜がひゅーんと空を飛ぶ。

 夜色のメイドスカートをふわりと摘まみ上げ、人形遣いの人形は深々と礼をする。
「演者は揃いました。これより舞台の始まりです。どうぞお楽しみください」
 宝石めいた瞳をぱちりと瞬き、天を見るとそっと一言を付け足した。
「……未来とは自分の手で掴み、生み出すものです」


●北東・白き機械騎士は炎の中へ
 白き機械馬と騎士が流星の如く人々の間を駆け抜けて館に駆けこむ。駆けこむ寸前、ガクリと馬は崩れ落ちた。トリテレイアは馬を乗り捨てて館へと入っていく。周囲の柱が音を立てて崩れ、馬を埋めていく。黄金の鬣が炭となる。灯籠の如き柱の隙間から視えていた緑色の馬の眼は奥へと駆けていく主を見ているようだったが、やがて光を途絶させ、物言わぬ鋼の塊となった。炎が柱ごと赤い舌を伸ばし、燃やしていく。
 黒煙が視界一杯に広がる。四方は尋常ならざる熱気を帯びていた。空気そのものが燃えているような館の中、炎がその場を制していた。トリテレイアの白きボディは火炎対策をする暇がなく、全身を熱された機械は内部温度上昇に放熱が追い付かず熱暴走を起こしかけていた。全身から唸るような排熱音を鳴らし機械ブレインにはアラートが響いていたが、ウォーマシンはユーベルコードを発動させた。
「御伽噺に謳われる騎士たちよ」
 それは希うような誓いの呟きであった。
「鋼のこの身、災禍を防ぐ守護の盾とならんことを」
 音響センサーは上下左右360度から人々の苦悶の聲と肉が焼かれる音を拾い上げる。


◆北西・難民達は声をきく
 蒼き翼のシャルファ・ルイエがふわりと教会の屋根上に浮いている。オラトリオの青い瞳は晴れた青空のように人々を見守った。

「これは聖戦である」
 教会から出てきた難民達はギラギラとした目で歩きだす。手には、鍬や鋤、檜の棒、木の枝。在り合わせの武器を手に彼らは十数人ごとに一団を形成し、準備が出来た団から順に領主館へと出立するようだった。各グループのリーダー格の一人は葡萄酒の瓶とグラスを手に士気の低い民を焚きつけるように赤雫を垂らす。
「これは神の血、神の涙。汝らを憐れむ神の愛である」

 そこに、猟兵達がいた。

「綾華さん」
 黒羽が声をかければ、綾華がひらりと手を振り木陰に身を隠した。
「はぁい。じゃ、そっちは任せた。気を付けろよ~」
 作戦を共にする猟兵達もそれぞれ顔を見合わせ、物陰へと身を隠して行く。

(相手はただの人間。“得体の知れないもの”を見せれば大人しくなるだろう)
 眉間に皺を寄せ、黒羽は黒剣・屠(ほふり)を突き立てた。

 難民達が驚愕し足を止める。
「花が枯れ堕ちるまで、──動くな」
 人々の耳には少年――黒羽の聲が確かに届いた。
 同時に、もう一人の少年が囁く。
「起きろ化物。餌の時間だ」
 短く言い放ったのは桜人だった。

「ンッフフ。リーダーさんは聖職者さんです? 拘束しちゃいますねぇ」
 桜人がスピーディにリーダー格の男達を縛り上げていく。
「黒幕も殺しはしません。人間なら、ですけど」
 男の耳にそっと囁く。少年の瞳は反応を窺うように相手を見ていたが、やがてふっと笑んだ。
「はい。何も知らない~、と」

 どこかのんびりとした声を背景に、難民達の視界には氷が現れていた。
 少年・黒羽の声と共に氷花織が展開される。割れた地からパキリピキリと音を立て透き通る結晶――氷の花が美しくも冷たく咲き誇る。
 花の中心に少年がいる。
 平素は目立つのを厭い隠しがちの両翼を広げ、圧す様にして黒羽が立っている。足止めの為だ。

「な、なんだこれは!!」
「異形だ、異形が」
 猟兵は世界の加護を受けていた。
 常であれば違和感を感じさせず、今は人々を圧するだけの存在感を。
(空気が冷えていく)
 黒羽はそれを感じた。

「──領主館に手を出すな」
 低く言えば、寒さと恐怖に人々が後退る。足止めは成った。
(憶測を招くだろうが今は侵攻を止めることが最優先。この先の説得はきっと誰かが)
 自分の言動が及ぼす影響に思いを巡らせながら、黒羽は優先順位を定めて有効な手札を選んでいた。
「きれーだと思うけどネ、俺は」
 綾華はくすりと笑い、他の猟兵達と共に教会へ入っていった。

「神に選ばれてないし悪しき領主も魔女も居ないし聖戦などない。気のせいです。悪い夢ってやつです」
 桜人はニコニコとしながら手を振った。
「はーい。夢から覚めましょう~?」

「ふむふむ、氷で足止めですか。お見事ですね。じゃあ、ミコさんも張り切っちゃいますよー」
 美少女モードのミコは天使のような微笑みを浮かべ、薄い胸を張る。
(聖職者が葡萄酒に混ぜ物をしようとは困ったものです。ですが……私以上に医術に秀でていますか?)
 漆黒の瞳がきらりと輝く。
 仲間の手並みに称賛の瞳を向け、ミコが白髪を風に靡かせて黒粉を念動力で風に乗せて難民の鼻先へ運んでいく。
「っ、くしゅ」
 最初はくしゃみだった。
 鼻を擽り、粉は体内へと入っていく。そして、難民達が嘔吐し始めた。
「げ、げえっ」
「うぇえっ」
 黒粉はミコが体内で精製した嘔吐を引き起こす成分だったのだ。
「胃の中を引っ繰り返せば頭もすっきりするでしょう?」
 風に乗り鼓膜を擽る少女の声。それは幻想を鏖殺せし極黒の魔女の聲だ。嘔吐を繰り返す難民達にミコは甘やかに穏やかに語り掛ける。長い髪を束ねるリボンは愛らしく風に靡いた。

「貴方達の背後に隠れる聖職者さん……」
 声は、囁くように、ふと、ひそめられた。
「煌びやか過ぎませんか?」

 難民達が眼を瞬かせる。
 深い夜のような瞳が星の如き煌きを魅せる。
 ミコは高らかに問いかける。
「この世界を生きる者にしては、肥えていませんか?」
 数人が俯いた。何を言わんとしているのかを理解したのだ。
「神にお仕えする尊い方々だから……」
「それで、その方は平等を口にしながら――煌びやかな衣の端の端でも、あなたたちに分け与えましたか」

 自身の纏うボロ布と手を見つめる。
 そして、ふと気付くようだった。
「さっきまで聞こえていた神の声が」
「神が遠くなっていく……」

「ね? 夢なんですよねー、落ち着いてーほらほら落ち着いてー」
 桜人は催眠術をこっそり使いながら人々を宥めていく。

「神、か」
 難民に紛れていた仁科・恭介が難民の血を摂取し、嫌そうな顔をしながらユーベルコードを発動させる。『輝石の鼓動』により真っ白な短剣が形造られ、恭介はそれが奇跡の白い粉の短剣だと言って掲げる。
「この粉は奇跡でもなんでもない。摂取しても身体が強靭になることもなければ神に祝福されることもない。単に気分を高揚させて思考能力を奪い、催眠にかかりやすくするだけの代物だよ。身体への作用としては毒に近いが、中枢神経に作用して依存を引き起こす薬物だ」
 理知的な瞳は静かに人々を視る。
「神の声が聞こえなくなった? それは幻聴だ。イカサマじゃないのか」
 動揺が広がり、波となる。

(まっとうに理路整然と説得されるよりはマシだけど、それでもヘンな薬で心を壊すってのはダメだろ)
 鏡島・嵐はその光景を視ながら光の竜巻を生成する。光の奔流は夜を鮮烈に照らしあげ、周囲を一時真昼の如く染め上げた。
「か、神の、き、奇跡が目の前に」
「これ、神の奇跡じゃねえんだ」
 嵐は眉をへの字にしながら困ったように言葉を紡ぐ。
「おれのユーベルコード……って言ってもわかんねえよな」
「奇跡はあるじゃないか、神はいるじゃないか」
 難民達が縋るように声をあげ嵐の起こした光を拝んでいる。

(辛い世の中を生きる人達にはそういうのも必要なんだ)
 ライアがそっと心に思う。
 青色のリボンが風にふわりと揺れた。

 嵐は拝む人々へと申し訳なさそうな顔を向けた。
「もしかしたら、神サマも奇跡も本当にあるかもしれないけど、これは違う。アンタ達が崇めてるようなものとは違うよ」
 嵐はそっと声をかけた。
「おれの能力だ。自然の力を借りたんだ。神さまに祈って奇跡を起こしてもらったんじゃない。自分が努力をして得た力を、自分で頑張って使ってるんだ」

 ――嵐の性格は占い師には向かないかもしれないねえ……

 祖母から言われた言葉がふと思い出され、嵐はそっと苦笑した。琥珀の瞳は光の風の中でひときわ明るい色を放っていた。
「何かに縋りたい時って、あるよな。目の前に「これが奇跡だ」って言われれば縋っちまう気持ちもわかるよ」
 光を収め、嵐は静かに呟いた。
「だけど、おれは奇跡に縋るだけじゃなくて、自分の力でも、この世界を生きて欲しいと思う」
 風が光っている。
 人々の耳に、その言葉は溶け込むようだった。

 光風が収まると、夜の暗闇が戻ってくる。その闇の中をひそやかに白い花の嵐が舞い踊る。シャルファの操る鈴蘭の嵐だ。

 ――ガシャン、カラカラ。

 葡萄酒のグラスや瓶が白い花に破壊されていくと、人々は夢から覚めた顔をした。
 シャルファは人々の前にふわりと姿を現した。少女は身の内から輝くような聖気を纏い、人々の目には天使のように映った。だが、シャルファはふるりと首を振り、己も奇跡の存在ではないのだと丁寧に説明した。
「けれど、私は願います。身体を冒された方々が正常な身体に戻りますように」
 シャルファはそう言って治療を試みるといい、歌う間際にそっと付け加えた。
「そういえば――騎士の方々は、向かってくる難民に剣を向けるのをよしとせず、盾のみを掲げているのだそうです」
 それを告げる事で、人々の心を再びこの領地で民として生きる未来へ繋げる事ができないか。祈るようにしながら愛らしい声が紡ぐ旋律は人々の心をじわりじわりと癒し、温めていく。歌に心を落ち着かせていくにつれ、人々は猟兵が語る言葉を少しずつ頭の中で理解し、咀嚼し、考えるようだった。

「皆さんはこの領地に逃れてきたのですね」
 セシリアが人々を怖がらせぬようにと自身に言い聞かせながら懸命に声を紡ぐ。
(あまり、こういうのは得意ではありません……)
 薄く銀の瞳が緊張を浮かべ、けれど声は――すこし固くなりながら、言葉を選ぶ。
「元居た場所では、どんなことがありましたか……私は、沢山の領地を巡り吸血鬼や魔獣、異形、時には天使が人々の命を脅かすのを見てきました」
 難民達は自らの故郷を思い出すようだった。
「支配する吸血鬼のほんの気まぐれで人が死に、夜寝ている家が魔獣に暴かれて食われ、道を歩けば異形に遭い、」
 指元の指輪を慈しむように撫で、声は語る。
「希望などないのだと思った……」

「ここに希望があるのだと思った」
 難民がそう呟く。
 小さな声は、とてもよく通った。
「それはどんな希望だったのでしょうか。この地がどんな夢のような地だと思ったのでしょうか」
 人々は思い思いに口にする。

「バケモノがいない」
「食べ物が貰える」
「家がもらえる」
「同じような境遇の人がたくさんいて」
「吸血鬼に支配されていなくて」
「圧制が敷かれていなくて」

 セシリアは哀し気に目を揺らす。
 人々がそれを見て気圧されたように口を噤んだ。
 注目が集まる中、セシリアは考えた。セシリアは演説が得意ではなかった。ほんの少しの沈黙ののち、セシリアは人々にぽつりと言った。
「私は、もう人同士で争ってほしくない……」
 聖職者の紡ぐ言葉と異なり、それはほんの短い心からの一言だった。そして、切実な感情が何よりも籠められていた。滲み出る感情はその過去と想いを人々に伝える。

 猟兵達の声が人の心を動かしていく。
 少しずつ、少しずつ。
 それは、雨雫が少しずつ乾いた地面に染み込むのに似て。


◇【鴉と英雄】
 その頃、【鴉と英雄】のメンバー達も動いていた。

「こちら十六夜、今空の上。寒い」
 通信機器からはそんな十六夜の声が聞こえてくる。

 黄金の獅子ダイナにちょこんと座り南に走るアリス・レヴェリーはくすりと笑む。
 青い瞳を瞬かせ、御伽噺の世界からほんの少し現世に遊びにきたような小さなアリスは、湊に呼ばれて手伝いに来た【鴉と英雄】チームのオペレーション『キャノンボール』に参加する仲間だった。
「ご連絡に応じて参上よ! 任せておいて! 思いっきり飛ばしてあげる!」
 南の山は囂々と炎を上げて燃えていた。山に続く道でアリスは止まり、炎に対応していく。
「ダイナ、ぶわーってしちゃだめよ。すううーってするのよ」
 大地と炎を自在に御せるダイナは勇壮なる鬣を揺らして炎を吸い取っていき、焼けたモノを大地へと還していく。
「こんなことしか出来ないけれど、せめて安らかにね」
 アリスはそっと呟いた。


●北東・燃える館内に星はあり
 アムレイド・スヴェントヴィットとマリアドール・シュシュはミハイルの率いる騎士団の精鋭数人と共に館内を捜索していた。
 夥しい煙に数人が咳き込み、アムレイドは布を鼻にあてて姿勢を低くするよう指示を出しながら問いかける。
「ミハイルさん、館の構造を。ソフィーヤさんが居られるなら、思いあたりは?」
(あるいは、怨嗟の中に語るものがいたか……? 思考を止める暇はなさそうだ)
「上の階の私室に、おそらく……」
 一行は炎の中を進んでいく。

 アムレイドは闇の呪詛が籠められた外套で火の粉からマリアドールを守るようにしながら駆け、マリアドール自身のケープも星の輝きを塗したようなオーラを纏い、その身を守っている。
「しっかりして頂戴」
 マリアドールが心配そうに声をかけ、騎士達に護りのオーラを巡らせる。煙と熱気に膝を折る数人はぽたぽたと汗を垂らしながらもよろよろと立ち上がり――再び膝を折る。中には限界を迎えた様子で床に倒れてゼエゼエと荒い息を繰り返す者もいた。
「我々は置いて行ってください。なあに、少し、休めば……動けるように、なります」
 ミハイルは自身も顔色を悪くしながら部下達と猟兵を見比べた。


◇空の上・鍵箱の中
「……無茶苦茶な作戦だとか、力技にも程があるとか。言いたい事は色々あるけれど……ありがとう皆」
 鍵箱の中のリーヴァルディは微かに眦を和らげ、はにかむような気配を見せた。
「世界を照らしうる光を……」
 鍵箱の中でリーヴァルディはユーベルコード『変成の輝き』を発動させ、祈りを捧げていた。
 捧げる祈りは、“皆に正気に戻ってほしい”というものだ。
 精神を浄化する光を放つ宝石剣を召喚して両手を繋ぎ、吸血鬼化した自身の生命力を吸収してリーヴァルディは魔力を溜める。


●北東・燃える館の捜索行
「意識があれば声をお返しください! すぐにお助けします!」
 炎の中、トリテレイアは呼びかける。
 無数の聲が反応する。蜘蛛の糸に縋るような必死の聲を辿るように白き腕は倒れた柱で塞がった通路を怪力で開通させ、炎に半身を焼かれて這いずる娘を発見した。呼吸すらままならない娘は口をぱくぱくと動かして何事かを訴えていたが、機械の腕に抱かれると瞳から一筋の涙を伝わせて息絶えた。

 外にはジャックと灯里が到着していた。
「人手が必要だろう。此の地との縁は浅い身だが手伝わせてくれ」
 機械仕掛けのウォーターガンで館の炎を消しながらジャックは館の中へと入っていく。黒いボディは火炎への耐性を有していた。
 炎の中に消えていくジャックの背を見送り、灯里は白い手を固く握る。
(私もソフィーヤ様を救いに飛び込みたいのですが……)
「皆様、お気をつけて」


●北東の空の下
 灯里は中で活動する猟兵を信じ、ユーベルコードを発動させる。聖者の小さな身から溢れる神聖な光が視界にいる傷を負っている者へと降り注ぎ、癒していく。
「救護場所を作りましょう。食糧、水、休める場所の用意を」
 館の外で忙しなく活動する騎士へと声をかけ、灯里は救護場の設営を開始した。

「手を貸すわよ」
 紫苑が設営を手伝う。こうして救護場が用意されたのだが。

「空を何か飛んでいますが……何アレ……」
 紫苑が空に視線を向けて目を丸くした。
 なんとぐんぐんと人が飛んでくる。【鴉と英雄】チームの十六夜が飛んできたのだ。
「ちょいとごめんよ! とうちゃ~」
 く、と言う前に鍵箱から湊とリーヴァルディが飛び出した。
 出現したリーヴァルディは周囲を剣光で照らして薙ぎ払い、湊が死者を呼び出して真実を語らせる。
「死者の聲が聞こえるか? 知り合いの死者は何と言っている?」
「えっ、何?」
 周囲の者達が吃驚していた。

「滞在時間は最小限に。お急ぎください」
 通信越しにアマータの声が響く。

「吾らの声を聞いてくれ」
「おう、お前。覚えているぞ」
「久しぶりじゃのう」
 死霊達が騒いでいた。
「ひっ、な、なんだあ!?」
 北西からやってきた新たな難民一団が死者の聲にざわめき、動揺を見せる。騎士団が盾を手に勢いの削がれた難民達を抑えに行き、縛り上げていった。

「……再会の挨拶はまた後ね。今はこの騒ぎを終わらせるわ」
 湊とリーヴァルディは素早く鍵箱の中へと戻っていく。
「あれ? でも此処から次どうしたらいいんだ?」
「次の目的地へ行くには? 近くにいる方に手伝ってもらってくださいな」
「グリモアの転移とかは」
「当機は現在地点から動けません」
 なんということだ、作戦が行き詰ってしまった。と、十六夜は紫苑へと視線を向けた。
「ちょうどいい所に!!」
「へっ」
 十六夜が頼み込み、紫苑が眉をへの字にしながらも魔力を増幅する。このクールな空気を纏ったお姉さんは意外とフレンドリーで優しいのだ。十六夜はニコニコと礼を言った。
 銀髪を靡かせ、お姉さんが魔力を増幅させていく。
「遠くに飛ぶ手伝いだなんて無茶を言いますね全く」
 紫苑は魔力を増幅し筋力を増大させ、大剣を振る。
「失敗して両断されないようにしなさいよ!」
 古代文字が描かれた雷の力を宿す何か凄い大き剣は何か凄い勢いで横薙ぎフルスイングのクリティカルヒットでその人を夜空の星として飛ばしてやった。南の方角へ。

 ひゅーん。キラッ☆

 お姉さんは腰に手を当てて星が遠くなる姿を見送るのであった。


◆北西の空の下
(あれは……流れ星だろうか)
 空を高速で流れる何かを見て、女は目を瞬かせた。
「さて、聖職者だか詐欺師だか知らんが、馬鹿な真似は止めねばなるまい」
 ノワール・コルネイユは騒動の隙に教会へと入っていく。
(ヒトは強いものばかりではない)
 ノワールはそれをよく知っていた。

「別にさぁ。他者に害を及ぼさないのなら、信仰に縋るのも頼るのも依存するのもその一個人としてはボクは構わないと思ってるんだよ」
 ライアは鐘のない教会をじろじろと見つめ、ノワールに続いていく。
「人はどうしようもなく弱いのだからね。人が死んだ時に墓を建てるのも、教会に集まって祈ったりするのも意味のない事のように思えても意味があるんだ」
 教会の扉を開ければ人の燈した光に照らされた空間が迎える。肌をふわりと包む人の暮らす温度が。建物の外にいた時と違い、建物の入り口を一足越えるだけで人は安心することができるのだった。
「けれど、縋る人頼る人依存する人をそれが悪徳と分かった上で煽動し偽りを吹き込む事は許されない。それは悪だ」

 其の教会には鐘がなかった。
 内部にはやせ細りボロを纏った難民達が集まっていた。誦経者が聖文を語る。司祷者が見守る中、清廉な乙女が葡萄酒を手に捧げ持ち、難民達が列を成して並んでいる。

「神よ我罪人を浄め給え」
「吸血鬼と戦う勇士にご加護を」
「これは聖戦である……」

 漂う酒精の香。腹を鳴らしながら神に縋るように手を組み祈る者達。その隙間を縫うようにして色黒の肌の青年がひょこりと明るい顔を覗かせた。
「よっ! 何飲んでんだ?」
 青年・カイムは並んでいる者達と違い、好奇心からといった風体で乙女に声をかける。
「へぇ、葡萄酒? 美味そうだな、俺にも一杯奢って貰って良いか?」
 乙女は頬を染め、しかし警戒の色を浮かべて葡萄酒を持ち、後退る。
「あの、でも……」
 そこへ、他の猟兵が加わった。
「随分と美味そうな葡萄酒じゃねーの。――俺にもちょっと貰えるか?」
 ひょいっとボトルとグラスを奪い取ったのは綾華だ。2人の猟兵はとても人懐こい空気を纏っており、その場にいた人々は思わず警戒を解いてしまう。
「嗚呼、良い香りだなぁ……」
 綾華が香りを楽しむように目を細めてみせれば、カイムが手を伸ばして僅かに口に含んだ。
「で?」
 綾華が周囲にぐるりと視線を巡らせた。
「うーん、これはやばいやつだな」
 カイムは即座に葡萄酒を吐き出していた。床に赤い汁が垂れて薄く広がる。
「薬物の類だろうが……んなモン使って難民をそそのかすたぁ、腹の中、真っ黒じゃねぇか」
「っ、あははっ! いやあ、ちょっとびびった。やばいってわかってて口に入れるか? スマン。なんかツボった。なんでだ。体ヘーキ?」
 綾華が屈託のない笑顔で笑い、カイムが肩を竦める。
「大丈夫だ、問題ないぜ。多分な!」
「はあー、いやあ、奇跡の白い粉なんて、胡散臭いにもほどがあんだろ」
 笑う二人へと聖職者達が顔を赤くしてにじり寄る。

「奇跡の白い粉とやらがそんなにありがたいものならアンタが自分で呑んで見せろ。その奇跡がどの様に表れるのか、大衆に見せてやるがいいよ」
 目立たないように葡萄酒の樽を確保していたノワールが声を発した。赤い瞳は嫌悪の色を濃く浮かべている。

「そ、それは」
「飲めないだろうが」
 鼻白む聖職者へと嘲るように笑み、ノワールは葡萄酒の入ったグラスを揺らす。濁った赤色が血のように教会の灯の中で揺れている。
「だから奇跡だの平等だのを謳う奴は嫌いなんだ。甘い言葉で惑わせて、その癖、自分の手は汚しやしない」
 グラスの中身を床へと撒き、ノワールは樽を蹴り倒した。白粉交じりの濁った葡萄酒が床を汚す中聖職者達が悲鳴をあげる。

「なんということを!!」
「それはこちらの台詞だ」
 向けられるノワールの眼は冷えていた。

「神だの、信仰だの、救いだの……そんな偶像、この世界では唾棄すべきものに過ぎん。十に満たないガキですら理解していることだ」
 言葉の裏には世界を生き、戦場を駆けた経験がある。

「多くが救いを求めて嘆く、この世界だと云うのにその嘆きを食い物にしようというのなら……喩え人間相手だろうと、私は容赦はしない」
 漆黒の娘は銀の剣に手を伸ばす。剣の光には聖職者達が気圧されたように一歩後退る。

「吸血鬼であろうと、異界の神であろうと、人間相手だろうと――悉く斬り捨てる」
 私はどうせこれしか能がない女だ、と凄んでみせれば聖職者達が気圧されたように後退る。

「暴れていいなら暴れるけど」
 足元に転がる瓶をつま先で蹴り上げてポーンと浮かし、パシッと右手でキャッチしてライアが笑顔で聖職者をひっ捕まえる。
「よかったね、まだ葡萄酒あったよ」
「ひ、ひいっ」
「それが奇跡の産物で正しい物なら自らで証明しろ」
 無理やりに瓶を口元へ運び飲ませながら、ライアは教会の奥へ赤い視線を向ける。
「在庫、まだあるよね」
 それは確信だった。

◇道拓く者
 南の山付近ではアリスがダイナのブラッシングをしながら待機していた。ダイナは尾をゆらし、目を柔らかに閉じて心地よさそうに喉を鳴らしながら周囲の炎を吸収している。
「ごろごろ♪」
「最後は頼みましたよ、アリス」
 通信機からアマータの声がする。
「そろそろかしら? ――来たみたい」
 気配に気づき、アリスが北の空を観る。

 ひゅるるるる……、

 十六夜が飛んできた。
「この山では何をすればいいんだっけ」
「ん。ドラゴンは……」
 リーヴァルディが周囲を探る。
「姿が見えない……」
「時間です」
 アマータが通信機越しに声を届ける。
「もうOK? 次いく?」
「早く次に行かないと出番が無くなっちゃう」
「急いでください」
 バタバタと準備をする【鴉と英雄】チーム。

「角度北西!それじゃあ、いってらっしゃい!」
 アリスは足場の大地を隆起させ、火の力でブーストして仲間を射出する。再び十六夜が空を飛――、
「――っくしゅん!」
「風邪ひかないようにね」
 空は寒かった。


◆北西に星は集いて
「い、行きます」
 ルク・フッシーが騎士団の小隊を率いて教会に突入した。

「ひ、人同士で争うなんて、やめてください!」
 ルクは懸命に声をあげる。気弱な少年のあげた精一杯の声に視線が集まる。
「騎士団だ」
 連れている騎士を見て聖職者達が敵意を高める。
「お。エングーン」
 先に来ていた猟兵達が仲間へと手を振る。

(先に味方が。頼もしいですけど……なんで笑って)
 ルクは少しだけ戸惑いながら手を振り返した。

「皆の者、ここに悪魔の手先が現れた! 聖なる鐘を潰せし神の冒涜者が今度は聖なる儀を妨げに来たのだ」
 ゆったりした聖衣を纏った男が大声で喚いている。
 未飲の難民達は壁際で怯えていたが、既に葡萄酒を口にしていた者達はぎらぎらとした目を向けてルクと騎士団に農具を向けた。

「戦う前に……話をしましょう! あなた達は……人なんですから!」
 椅子で殴りかかってきた難民へとルクは必死な瞳を向け、なんと絵筆で椅子を受け止めてみせた。
「なっ!?」
 細い絵筆が軽々と椅子を受け止め、全く力で押し切れない。其の様子に人々は目を限界まで見開いた。

「生臭坊主を取り押さえるぜ。久々に素手で喧嘩だ!」
 カイムが袖を捲り拳を握る。どこか楽しげに格闘するカイムはひょいひょいと難民達の攻撃を回避して聖職者に殴り掛かる。
「そーれ!」
 右ストレートを繰り出せば快音と共に禿げた太っちょの牧師が吹っ飛んでいく。
「ふんぬぁー!!」
「おっ、根性見せるか」
 なんと牧師はたぷんたぷんと腹肉を揺らして体当たりをしてくる。
「でもそんなんじゃ当たらねぇぜ?」
「むあああ!!」
 ズザーッと床に倒れる牧師。
(ユーベルコードも使ってるしな)
 元々の身体能力に加えて『絶望の福音』により相手の動きを予想しているカイムは悪戯っぽく微笑んだ。

「あんた、楽しそうじゃん。ちょっ、俺の分も残しといて?」
 綾華がふわりと声をあげる。
「お? なんだこりゃ」
「火、火だ!!」
 緋色の鬼火が妖艶に漂っていた。ゆらゆら、ゆぅら。
 教会の壁をじりじり熱し火影を投じ、鬼火が嗤えば人は恐怖に駆られてガタガタとその身を震わせる。

 綾華が炎よりも鮮やかな瞳を向ければ、もう目を離せない。
「あっちでバケモンが暴れてんの、見える?
 ――お前らはそれすらも制御できない」
 恐怖を一身に受け止めながら美しき晴天は囀る。
「悪いことは言わねぇ。此処で大人しく、してな?」

 ノワールとライアもそれぞれが聖職者や荒ぶる難民相手に乱闘している。
「味方が多くて頼もしいです」
 ルクは騎士達に指示を出し正気を保っている難民を保護させ。
「あの、外に仲間がいて……少し手荒なんですけど、精神を冒された人を治療できるので……」
(たぶん、来るときに見たあれ。治療、ですよね)
 困ったように目を瞬かせ、ルクは葡萄酒を飲んだ難民達をミコのもとに連れていくように指示を出した。

(麻薬で人を狂わせるなんて…もしかして、オブリビオンが黒幕?でも……)
「今は……この人達を助けないと!」
 ルクはそう言いながら教会の奥にちらりと視線を向けた。
(ルークさん……信じてます!)
 仲間が潜入しているのだ。


◇幕間
「当機の役割は終わったようですね」
 アマータが北西の空を観る。墓と花に囲まれ、メイドはもう一度深く礼をする。
「―――カーテンコールのお時間です。アンコールはありません……でしょうか」

「アマータさん、作戦は完了かしら?」
「ええ、お疲れ様です」

 通信機越しに会話するアリスの後ろを一人の猟兵が駆けて行った。


◆北西の空の下
 北西の空から鼻を啜りながら十六夜が大地に降りる。先ほどから空を飛んでは大地にすたりと降り立っている身のこなしは超過駆動:肉体の強化の賜だ。普通の人間が真似をすると最初のフライトで死んでいる。
「これが猟兵パワー! 不可能を絆の力と気合とあれこれでなんとかするんだぜ」
 地面にめり込みながら十六夜が笑っている。
 鍵箱からは湊とリーヴァルディが出現していた。
 領主館と同様に二人は死者の口を借りて真実を語らせ――、

「さあ、全ての恨みを晴らして見せようじゃないか」
 ふらりと湊が姿を消していた。教会の中へ。


●北東の救出行
「こういうのを焼石に水と言うのだったか」
 ジャックはウォーターガンを周囲に放ちながら進んでいく。
「だが、しないよりはましだろう」
 道を塞ぐ柱を退かせば、黒炭に埋もれた鈍い鋼馬の残骸が目に付いた。
「乗り潰されたか」
 センサーの途絶えた馬の目元にこびり付いた煤を拭い、ジャックは先へと進んでいく。
 壁が倒壊し、天上が崩落し、歩む隙間もなくなりつつ館内にはもはや言葉を発さない人の死体がある。
「生きている者は……」
 ジャックは生存者を探して進んでいく。

 一方、先に侵入して生存者を捜索していたトリテレイアは金庫を盗み出そうとして焼死した男の死体を乗り越え、手を握りしめて壁際で事切れた執事夫婦の前を通り過ぎ、鋏を握りしめて震える庭師から鋏を取り上げて抱え上げ、声を聞いた。

「助けて!」
 崩れ落ちた天井の残骸の下で隙間から手を伸ばし、女が助けを求めていた。
 手を伸ばし、残骸を退かして見れば女の下に折り重なるようにして子供がいた。口元を赤く染めた痩せた使用人の子供の上から手を伸ばす女の形相は人というよりも幽鬼に似ている。
「助けて。この餓鬼はもう死んでる。私はまだ助かるわ。こいつじゃなくて私を、助けて。――はやくして!」
 半狂乱で喚き散らす女に炎が舌を伸ばしていた。
 生体反応を確認すると、子供もまだ生きていた。トリテレイアが2人に手を差し伸べた時、背から勢いよく水が迸り2人の全身を水に濡らした。
 トリテレイアが振り向くと、ジャックが片腕に数人を抱えウォーターガンを周囲に放っている。
 ぐらりと傍の柱が倒れれば黒いボディが間に割り込み、女と子供を抱え上げた。
「まだ生きているな」
 ジャックは両手一杯に人を抱えて来た道を引き返す。黒い背は去り際に提案した。
「なんならその庭師も俺が運ぼうか」
「いえ――」
 首を振ろうとしたトリテレイアは、ふとセンサーを瞬かせて首肯した。
「いえ、やはりお願いします」
 庭師を任せて足早に駆ける先には、床に倒れてぐったりとする騎士がいた。
「しっかりなさってください」
 救助のために突入した騎士が数人脱落していた。
 燃える館の中、点々と鎧姿が横たわる。
「マリアドール殿が炎から身を守ってくださった。大丈夫だ……休めばすぐ治る。我々よりも、他の者を」
「そうだ。我らは肉を食い、スープを飲み、鍛えている。其れは何のためか。このような時に肉体を酷使し、民のため戦うためだ……なのに、身体が言うことを……くそっ、」
 騎士達は煙に咳き込み這いずるようにしながらそう言った。その瞳には強い意思が宿りつつも、眼は焦点が定まらないのが見て取れる。
「炎熱から守られても、煙は人体には害悪なのです。ご無理はいけません」
 人である以上は限界があるのだ。そう言ってトリテレイアは騎士達を抱え上げ、外へと運び出していく。

「吸血鬼、魔獣、蝗、大雨、大雪、洪水、炎……我らは何て無力なのだろう」
 運び出される騎士は悔しそうにその身体を震わせるのであった。


●北東の脱出行
 意外なほどその部屋は質素だった。
 装飾の少ない家具が煙をあげ燃えている。床では紙の束が炎をあげ。
「ソフィーヤ様!」
 咳き込みながらミハイルが声をあげる。
 壁に寄りかかるようにして其の娘が倒れていた。赤墨の髪が何処かくすんで見える。。ソフィーヤは薄っすらと目を開け、息を吐く。
 マリアドールがケープを羽織らせその身を優しく抱き締める。華水晶は無垢な光を零して炎を牽制するように部屋にあたたかな空気を振り撒いた。
「また、辛い思いをさせてしまったの」
 星芒の雫は哀し気に瞬く。お腹に宿る子も見つめて囁く声は優しく包み込むようだった。
「もう大丈夫、マリア達が守るわ」

 背ではアムレイドが脳裏に館内構造をイメージし、炎の回り具合と照らし合わせて退路を検討していた。
「……さて、ソフィーヤさん。じっとしていてくださいね」
 アムレイドの瞳が深紅に変じると、ソフィーヤは一瞬ビクリと体を竦めた。
「ヴァンパイア……」
 声には隠しきれない恐怖が宿る。
「私はダンピールの黒騎士――ですが、護る為に戦う者です」
 丁寧な声は人の温度を帯びていた。それを感じ取り、ソフィーヤは頭を下げる。そして、そっと自らの腹に手を遣った。
 アムレイドは軽々とソフィーヤとマリアを抱えて駆け出し、ミハイルと数人が其れに続く。
「ソフィーヤ様と兄上の御子をお守りする!」
 ミハイルの聲に騎士が士気をあげていた。共にアムレイドに抱えられるマリアドールは其の言葉にソフィーヤが顔を曇らせるのを見ていた。

 ――脱出が始まる。


◆北西の血
「騎士団が……」
「奴ら、今度は何を持っていくつもりだ。金目の物を隠せ」
 人の声がする。
 白い耳をぴこりと揺らし、ルーク・アルカードが息を潜める。共に行動するルクに表を任せ、注意を引いてもらった隙に潜入したのだ。

(危ないお薬ってお仕事以外じゃ使っちゃダメなんだよ?)
 組織に飼われていたルークは白い粉を彼が以前仕事の際に見てきた薬と似た性質のものだと踏んでいた。
 殺しの道具としての自身の在り様に慣れた子供は気配を遮断し、足音を立てないよう移動する。ルークにとってはたいした仕事でもない。慣れた身には容易い潜入行だった。

(今回は教会の人を捕まえれば良いんだよね)
 ルークは頼まれた仕事を内心で確認する。手には吸血させた血晶刀・金盞華が鈍い赤色の刃先を潰し峰打ち用に形造られている。

(生きたまま捕まえるのはやったことないけれど)
 ルークは刀を巧みに操り、次々と教会の人々を気絶させ、縛り上げていく。そして、ふと気付いた。
(……血の臭いがする)
 ルークは赤い目を瞬かせた。ひくりと鼻をひくつかせ、その部屋に入る。そこには猟兵のノーラがいた。
 血が床に広がっていた。
 可憐な娘が大切そうにぬいぐるみを抱きながらレイピアを突き立てている。

「許せないのよ」
 声は、冷たい部屋の中で氷のような殺気を振り撒いていた。
 薄花色の瞳に血が映っている。けれど、その瞳は目の前の映像ではなく何処か遠くを見ているようだった。

 ルークはそれをじっと見守った。白きアルビノの子供には、生奪への忌避感はない。ルークにとって人が人を殺すという現象は、樹木に実る林檎が熟れて地面に落ちるのを見るのと同程度の現象であった。

 ノーラが串刺しにする男は聖印を握っていた。ノーラにはそれが不快で堪らない。教会という場所は、少女にとって特別だった。少女を孤児として引き取り育ててくれた大切な場所なのだ。そこを隠れ蓑にして悪事を働くのは少女にとって許せない事だった。
「壊しても…壊しても…。まだ足りない……」
 ザクリ、ザクリ。
 びしゃり。
 血が噴出して部屋の壁に飛び散り、汚していく。悲鳴を上げる者はもういない。とうに息絶えているのだ。
「拒むなら……。本当の『魔』の女を……。その手で殺して見せなさい」
 ルークは赤いマフラーに顔を埋め、部屋を後にした。止める必要を彼は感じない。只、自分が頼まれた仕事をきちんとすればいいのだ。
(それが、仕事だから)
 白い子供が後にした部屋の中、少女は血海の中で頬に血をつけて作業を続ける。

「……全部ぜーんぶ……」


「壊シテアゲル」
 そのレイピアは悪夢の名を持つ。悪夢が血脈を掘り、抉り、赤い液体のシャワーを生み出せば穢れた聖職者の肉がじっとりと朱に濡れて輝いている。
 少女に抱かれたぬいぐるみは硝子めいた瞳で世界を視ていた。


●北東・救護場
 館の外では騎士団員が川や井戸からくみ上げた水を桶を使い炎にかけての消火活動が為されていた。
 灯里の元にジャックが数人の負傷者を連れて戻ってくる。ついでとばかりにその手には動かなくなった機械馬の残骸も引き摺られていた。
「ご無事でしたか……」
 灯里が汗を拭い、息を吐いてすぐにユーベルコードでの治療に取り掛かる。
「また行ってくる。負担をかけるが他に癒し手がいない。頼んだぞ」
 ジャックが灯里に生存者を託し、ウォーターガンを手に館へ走っていく。
「お気をつけて……」
「救護施設はこちらですか?」
 ジャックと入れ替わるようにトリテレイアが騎士達を運んできた。
「私も直ぐにまた館へ」
 踵を返す白騎士は救護施設の隅に置かれた残骸に気付き、一瞬だけ視線を遣った。
「ジャック様が運んできたのです」
「そうでしたか」
 声は淡々としていたが、センサーには人の宿すような感情の色がチラついたように灯里には思えた。


◆北西・教会の奥
「……生きてるのなら、ちょっとくらい怪我させてもいいよね?」
 ルークは気絶させた聖職者を一箇所に纏めていく。
「在庫みっけ!」
 ライアが葡萄酒の在庫を探し当てた。
「そういえば死霊がなにか言ってましたね。身体が弱ってる人はご飯貰えないんでしたっけ?」
 桜人が軽い足取りで酒樽に歩み寄る。
「葡萄酒、アブナイ粉入る前のないです? 飲み水くらいならわけてあげますから、葡萄酒薄めちゃってください。怪しげな白い粉も回収しておきましょう」
 のんびりと酒樽を見ていけば、手の空いている猟兵達が頷き手分けして葡萄酒を混入前と混入後のものに分けていく。
 同時に白い粉も慎重に集められた。
「白い粉は、何所で手に入れたのでしょうか」
 白い小竜のウィルベルを抱っこしながらシャルファがそっと問いかける。小竜が主と同じ綺麗な瞳でじっと聖職者を見つめると、聖職者達はその清らかさを怖れるような顔をした。
「色々な土地を巡っているという商人が勧めてくれたんだ」
 猟兵達は視線を交差させる。
 ウィルベルは白い足をばたつかせ、シャルファの髪を飾る霞草にじゃれたそうにした。それを優しく撫でながらシャルファは心配そうに呟いた。
「この世界の事は詳しくありませんが……その商人は他の土地にも薬をばら撒いていそうですね」

 気絶した聖職者を起こし、恭介が封のついた葡萄酒を差し出した。白い短剣で封を切り、聖職者が飲むのを見計らい、恭介は彼らを促した。
「隠している事を話に行こうか。ヨジフの事も含めてね」


●北東の脱出行
「ミハイルの気持ちは分かったのよ」
 マリアドールは脱出行の内、ミハイルと言葉を交わす。
「けれどマリアは他の猟兵が聴いた声を聴いたわ。ヨジフ……あなたの兄が暴君のように言われていた事を。領主の死も既に……」
 言葉を切り軽く咳き込むマリアドールをアムレイドが気遣わし気に見つめる。

「おい、無事か」
「こちらに!」
 脱出に向かう一行へと猟兵仲間が気付き、声をあげる。ジャックとトリテレイアだ。ジャックがウォーターガンで周囲の炎を弱め、道を塞ごうと倒れ込む柱と壁をトリテレイアが退けている。

 外へと逃れてる一行。
 ミハイルは走りながら自嘲気味に話す。
「兄は優しき人だった。病持つ難民も受け入れ、働く力のない者に食糧を配布し、養った」

「噂を聞き、余所の地から人がどんどん押し寄せて来た。領地は難民で溢れた」

 炎から逃れて出た外の空気はからりと乾いていた。

「病が伝染した。伏して動けぬ民を、兄は見棄てなかった。食糧を配り、命途切れるその瞬間まで養おうと言い――食料は尽きた」
 ミハイルは血を吐くように言った。
「食糧は、限りあるものだ。無限ではない」

 騎士達はミハイルと猟兵達が出て来た事に気付き、歓声をあげた。それに頷きを返しながら言葉は続いていた。

「収穫物にも近隣の森や川で獲られる自然の恵みにも限りがあった。自然の気まぐれでそれも減り、吸血鬼や異形魔獣が襲えばせっかく育てた農地も人の口に渡る前に潰された」

「畑を起こし、作物を育てる。家畜を育てる。森や川で食糧を得る。全て人の手を必要とする。働き手は自身が食うだけでも精一杯だ。働けぬ多くの者を養う、それは兄の善良な志であったが――負担は民が背負った。異形の闊歩する未開の地を開拓するにも人手が要り、異形と戦い騎士は死に、未開の地を開く一方で既存の領土も守らなければならない。我々は夜に囲まれて生きているのだ」

「民にとっては、自らの手で地を守り切り開き食を得ろと言う指導者よりも……祈れば救われるという教会の声が耳に心地よかったのだろう。兄の死後、私は兄に代わり指示を出してきた。民に暴君と呼ばれる正体は私なのだ」
 その言葉は悔しそうな響きを溢れさせていた。
「私が、兄上を暴君にしてしまった……」

 救護場では灯里が忙しなく人々の手当てに動いていた。ソフィーヤが灯里
 マリアドールはそっとミハイルに言葉をかける。
「民の疑心を払うには真実を告げ正しき道へ導く他ないわ。困難であろうとも諦めないでソフィーヤと共に……真摯な行動と言葉は人の蟠りを溶かすわ」
 苦笑気味に囁く声は、やはり優しい響きを伴っていた。
「本当は兄弟仲睦まじかったのでしょう」
 声には、僅かな首肯が返された。

「もう大丈夫。私達猟兵がついていますよ」
 一方、灯里はソフィーヤに癒しの力を送りながら柔らかに微笑み、寄り添っていた。
「不安事、心配事があれば仰ってください」
 声は温かく、ソフィーヤは数か月前に自身を救ってくれた猟兵達を思い出しながら感謝の言葉と共にその憂い事を打ち明けてくれる。
「自信がないのです」
 教会が言うようにお腹の子は吸血鬼の子なのかもしれない。ソフィーヤはそう打ち明け、俯くのであった。


◆北西の烏
「ハア、ハア」
 荒い息を吐き、腹肉をたゆんたゆんと揺らして太った男が走っていた。男は手に聖印を握り、背には金品の詰まった荷を背負っている。
「あの商人め、万事うまくいくと言いよって。全然うまくいかないではないか」
 男は脂汗を拭い、すでに別の地にわたっているであろう商人へと恨み言を吐き――、足を止めた。

「あ――」
 否。足が、なかった。

「アアアアアアアッ!!?」
 激痛に喚声をあげ、男が床を転がる。白い聖衣が赤く濡れる。濡らしているのは男の血だ。ごろりと足が床に転がっていた。
 低く通路に張り巡らされていた極細の血糸が走ってきた男の足を切断したのだ。
「あ、あああ、あし、あしぃっ、わだしのあ」
「足元には注意しないといけないな」
 死者が嗤っている。
 血溜まりを転がる男に冷えやかな視線を投げかけるのは、湊だった。

「彼女にはこんな汚れ仕事はさせられないしな」
 染物屋の烏はそう言って優しく微笑んだ。



◆南へ
「ここは、もう大丈夫そうですね」
 黒羽が南へ向かいながら軽口を叩く。

「綾華さん、随分と様になってましたね」
「そ? その言葉、そっくり返すよ」
 肩を竦め、へらりと綾華は笑う。

 彼らの向かう先、山はアリスの消火活動により炎を弱めていたが――再び、燃え上がった。


○南の山麓
 ルーナ・ユーディコットは1人南の山に向かっていた。
「燃える山の果てに、ドラゴンが居るのね」

 アリスとダイナにより山へ続く道と麓の炎は大幅に吸収され、鎮火されていた。接近し、山の麓で見上げる景色は新たに燃え上がった煌々とした朱炎に照らし出されている。
 美しささえ感じる炎の中では幾つもの命が奪われたのだろう。
 ルーナはじっと山を見る。

「ドラゴンは、視えない」
 呟く声は炎に呑み込まれるようだった。

(音が耳に入るかは怪しいけど、炎も憤怒の一部だというのなら、干渉されたら気がつくかな)
 少女はそっと瞳を伏せた。

 少女は元は人間だった。
 髪は黒く、瞳は赤かった。

(心は戻らない、寿命も延びない)
 敵は、ドラゴンだった。周りには誰もいなかった。
 ルーナに恐れる気持ちがないわけではなかった。
(恐れる気持ちは咆哮で塗りつぶす……私は強い!)
 心を奮い立たせ、少女は過去を想う。

「私から、全てを奪った」
 声は熱風の中、掠れた。
 埒外の存在はある日唐突に奪い、変えてしまった。
 憎悪。憤怒。
「奪い続けている……」
 世界の至る処、また別の世界。
 過去は暴れ続けている。犠牲者は増えている。
 見えるところで。視えないところで。

 ゴウ、と炎が唸りあげて頬を熱気が炙る。
 胸の奥からせり上がり喉を熱くし、瞼を赤くする熱い想いがある。
 すう、と息を吸えば肺を熱が巡り、激情を駆り立てる。

 ルーナは咆哮をあげた。
 炎に挑むような激情の咆哮は、人の身であれば出せない獣の聲。自身の咆哮を自覚し、怒りはさらに膨れ上がる。

(私の未来を蝕んだ人狼の力……)
 瞳は爛々と燃えていた。
 生者の怒りが山の炎を塗り替えていく。

 憎悪交じりの憤怒には、応える気配があった。
 ざわり、と肌がそれを察知する。
 山の上から飛翔した巨大なドラゴンが一体、ルーナの上空で停止した。
 その瞳はじっと少女を視る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『憤激魔竜イラース』

POW   :    燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:FMI

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●『黒き竜』
 北西の教会、北東の領主館は共に猟兵団の活躍により騒ぎを収めつつある。

 南の山麓では、ルーナと竜が対峙していた。
 其処に続く道に炎はない。アリスにより道は拓かれていた。

 其れは、闇夜を背負い世界に臨む。
 其れは、巨大な竜だった。
 其の竜は、其の心を象徴するような歪に捻じれた黒い躰をしていた。

 猟兵達は竜についての情報を思い出す。
 其れは、憤怒を司る異端の神の眷属になってしまった者。世界や神への怒り、憤怒の感情しか残っていない自分への憤り、それら憤怒の感情を強大な炎に変えて放ち、世界を焼き尽くす。

 其の黒き竜の名は、イラースという。

💠3章行動
 戦場はルーナさんが誘き寄せた南の山麓となります。
 各猟兵が戦場に到着したところからシーン開始となります。
 竜と戦ってください。

(おまけ要素)
 プレイングに「領地の今後の政策に関しての助言」を書けば、猟兵を信頼するミハイルは今後の領地経営に助言を活かすことでしょう。もちろん、書かなくても大丈夫なおまけの要素です。

 プレイングは6月20日(水)8時30分~6月22日0時頃までの募集予定です。
ジャック・スペード
怒りに我を忘れた姿とは、斯うも歪な物なのか
その怒りが何に起因するにせよ、ヒトに仇を為す竜は倒さねば

どのみち接近しないとアレは仕留められないな
それならばと召喚するのは氷で出来た大盾
――其の燃え滾る怒り、この盾で受け止めてやる

火炎耐性を活かし、前衛に立つ仲間を盾で庇いながら戦う
喩え途中で氷の盾が朽ちたとしても、カバーが必要な仲間が居たら
覚悟と勇気を胸に此の身を盾にして守ろうか
多少の損傷は激痛耐性で堪えてみせる

守りだけでなく仲間の援護も確りと
マヒの弾丸で援護射撃を行って龍の動きを封じたい
吠え続けるのも疲れるだろう、少し休んだらどうだ

領地の今後か
色んな立場の者と話し合う場を定期的に設けてみてはと


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
……ッ! 見るからに強そうだ。いや、強ぇんだろうな。
恐い、怖い、コワイ。
身体の震えが堪えられねえ。歯の根ががちがち鳴るのを止められねえ。
気を抜くと泣き叫び出してしまいそうだ。

――それでも、逃げんのは、イヤだ……!

炎の攻撃は〈第六感〉〈見切り〉で可能な限り躱す。躱せそうにねえなら〈火炎耐性〉〈オーラ防御〉でダメージを減らす。あとは《大海の姫の恋歌》で自分や皆をとにかく癒す。
近くに味方がいるなら、そいつを助けるために〈援護射撃〉も撃つし、〈鼓舞〉で自分も味方も励まし続ける。出来そうなら〈目潰し〉〈フェイント〉でドラゴンの攻撃のタイミングを狂わせるのもやってみる。

……負ける、もんか。


ルーナ・ユーディコット
此処で今更正義のためにとか、私は言えないから
朱い憤怒には私の命を燃やす青で、埒外への憎悪を込めて挑む

何時か、憎悪以外の動機で武器を握れる時が来たら
私は何かが変わるのかな
今は関係ないか

今は挑むんだ、捨て身の覚悟で
未来を奪う埒外はここでまた一つ、終わらせないといけないから

飛んでいるなら叩き落すことを狙い
既に地にいるならその命を絶つ事を狙い
ただ攻める

寿命を削って戦っている最中で、この期に及んで傷の一つ二つで止まる気はない

過去が今の前に立ちはだかるな……未来を塞ぐな
そこは生きる人が進む道

真の姿を使う
髪は黒く、瞳は赤く。体は成人まで成長

領主への助言
特には、でも遺体は火葬したほうがいいと思う



●ファーストアタック
(此処で今更正義のためにとか、私は言えないから)
 ルーナ・ユーディコットは朱い憤怒と対峙していた。命を燃やし、孤狼は青い炎を纏う。埒外への憎悪を双眼に宿し、闇を切り裂く彗星が駆ける。駆けるうち、其の姿は真の姿へと変じていた。靡く髪は黒。瞳は赤く、身体は成人まで育ち。人間の姿なのに、人狼の姿より力が湧きたつなのはなんて皮肉なんだろう――ルーナは口元を歪ませた。

(何時か、憎悪以外の動機で武器を握れる時が来たら、私は何かが変わるのかな。今は関係ないか)

 青き炎が穹へ跳ぶ。弾丸のように鋭く、高く。重力の楔から逃れるように、物理法則を超越して炎が敵へ迫る。高穹で迎え撃つ黒竜は吠えた。空気が震える。鼓膜が震える。だが、ルーナは怖れない。双眼はひたりと巨体を捉え、ぶれることがない。
「地へ」
 落としてやる、と狙い定めた時、炎が黒竜より放たれる。
 負傷は覚悟の上だった。

 ――寿命を削って戦っている最中で、この期に及んで傷の一つ二つで止まる気はない。

 表情を変えることなく炎に突っ込むルーナの前方に氷の盾が滑り込み、一瞬で溶けた。
(これは、味方?)
 ほんの一瞬そう思いながら溶けた氷の果てへルーナは飛び込んだ。目の前に黒き竜躰がある。
「過去が今の前に立ちはだかるな……未来を塞ぐな」
 ルーナの一撃が届いた。
 生命と燃やしてのファーストアタックに圧され、黒竜が地に落ちる。
「そこは生きる人が進む道」
 自らも巨体を追うように――重力に惹かれるように地表に堕ちながらルーナは武器を構える。


 味方猟兵が戦闘を始めている。

「……ッ! 見るからに強そうだ。いや、強ぇんだろうな」
 戦場に駆けつけた鏡島・嵐が眼を見開いた。暗黒を背負うように竜がいる。飛翔する黒竜が怒りを吐いている。烈しい咆哮に空気がビリビリと震える。その存在感を全身で感じる。

(恐い、怖い、コワイ)
 脚が棒のように頼りない。気を抜けば膝が折れてしまいそうだ。全身がガクガクと震えている。
(身体の震えが堪えられねえ。歯の根ががちがち鳴るのを止められねえ。
気を抜くと泣き叫び出してしまいそうだ)
「あ……」
 ゴウ、と熱風が吹き抜けて炎が迫る。新手を見て放たれたか、それとも戦いの余波か。脳が恐怖に固まる。身体が動かない。喉がひくついた。碌な悲鳴も出せないまま、瞳がその熱がグングンと自身に迫るのを見――熱の前に黒い影が躍り出た。
 闇に溶け込むような漆黒のウォーマシン。ダークヒーローのジャック・スペードが嵐の前に立ち、炎をその身を持って受け止めている。自然ならざる猛火は火炎耐性のボディにすらダメージを与えるが、漆黒から紡がれる低い声は冷静さを伝える。そのボディには激痛への耐性も備わっているのだ。
「下がっているといい。戦場に立つばかりが戦いではない」
 ジャックは背に庇う嵐へと声をかける。
 その声は低く機械的であったが、温かな温度を感じさせた。人を守るために其の男は戦っているのだと感じさせる声色。
「あ、あ……ありがとう」
 嵐はカチカチと歯を鳴らしながらようやく礼を言う。そして、拳をぎゅっと握った。握った拳は汗に濡れ震えている――、下がっていいのだ、そう思い。

「怒りに我を忘れた姿とは、斯うも歪な物なのか。その怒りが何に起因するにせよ、ヒトに仇を為す竜は倒さねば」
 嵐を背に庇ったまま、ジャックが高き穹を見上げる。怒りが空気と熱を介して伝わる。再び炎を吐くべく黒竜が牙を剥き。
「接近しないとアレは仕留められないな」
 ジャックはユーベルコードで氷の塊を生成した。ならすように手を滑らせれば氷が巨大な盾の形となる。がっしりと盾を構え、ジャックは穹に吠えた。
「――其の燃え滾る怒り、この盾で受け止めてやる」

「お、俺も、」
 嵐は声をひねり出した。

(――それでも、逃げんのは、イヤだ……!)
「――戦うから!」
「そうか」
 震えながら発せられた声は、ひっくり返っていた。だが、ジャックは一瞬嵐を振り返り頷いた。
「よろしく頼むぞ」
 未だ震える様子に気付きつつ、ジャックはそう言い軽い調子で嵐の肩を叩く。
「頼りにさせてもらう」
 機械的な声でそう言い、氷の盾を左手に、右には回転式拳銃を構えたジャックは「援護する」と告げる。嵐は一瞬息を飲み頷いた。この猟兵はガタガタと震えている嵐を戦力として頼るばかりか、「自分の援護をしろ」ではなく「自分が援護する」と言ってくれているのだ。
「ああ……頼りに、していいぞ」
 震えながらぎこちなく駆ける嵐をジャックは影のように追走する。炎が放たれれば氷の盾を投げて相殺し進路を守り。
 辿り着いた黒竜の足元では敵の大きさに対して余りに小さな猟兵・ルーナが傷を負いながら生命を燃やすようにして戦っている。黒竜の炎から護るべくジャックが猛進し、ルーナの前に躍り出た。
「え――援護するよ!」
 嵐はスリングショットで援護射撃を入れ、声を出す。声は――腹の底から出た声は、よく通り、絞り出した勇気を伝える。
 援護射撃を挟みながら嵐は謳うように呟いた。
「その調べは哀しく、その詞は切なく、……」
 闇の中、ちゃぷりと水音が反響する。
 地が水のように渦を巻き現れたのは麗しき人魚だった。人魚は尾鰭を優雅に揺らし、切なく儚い歌声を響かせる。声を聞き、ジャックとルーナの負った傷が静かに癒されていった。

「ありがとう、と言うのだったな。こういう時は」
 ジャックが麻痺弾を放ち黒竜の動きを封じながら嵐に声をかけた。
 未だ震える身体を叱咤しながら嵐は歯を食いしばり、顔を上げ続ける。
「……負ける、もんか」
 呟く声に仲間は力強く頷く。
「その氷の盾」
 ルーナが眼を瞬かせた。青い炎がゆらりと揺れる。
「……さっき、」
 黒竜が熱風を巻き起こし、再び炎を放つ。
「後ろへ」
 黒きヒーローは仲間を護り、嵐はそんな仲間へと護りのオーラを纏わせ、人魚が治癒の歌を響かせる。

 背後からは他の猟兵達の気配がする。各所に散らばっていた仲間達が戦場に続々と集結しつつあるのだ。
 黒竜は咆哮し、羽搏いた。
 其の叫びは「貴様らはなんなのだ」と憤るようであり、己自身の在り様を嘆き怒りを持てますようにも見えた。
「吠え続けるのも疲れるだろう、少し休んだらどうだ」
 ジャックが飛翔する黒竜に声をかけ――頭上からの炎を氷盾で防いだ。

 黒竜と猟兵達の戦いは、このようにして始まったのであった。

◆幕間
 猟兵が戦う南の空を人々が遠くから見上げている。燃えているのだ、ということしかわからないその空の下、戦っている者がいるのだと人々は知っていた。
 戦いに向かう猟兵は人々の未来に方向を示した。
 人々と共に南を視るミハイルは黒きヒーローの言葉を思い出す。
「色んな立場の者と話し合う場を定期的に設けてみては」
 そして、ヒーローは思い出したように言葉を加えた。
「仲間が、「遺体は火葬したほうがいいと思う」……と言っている」
 離れた地点にいる仲間とやりとりができるのだ、という不思議な猟兵の言葉に、ミハイルは丁寧に頭を下げ、礼を告げたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ノーラ・カッツェ
…そうだったわ。元々はあなたに惹かれて来てたのよね。私は…。
歪み…捻じれたその身体…心…。なるほど…。惹かれたのも納得だわ。
似ているのね…。私たちは。

そうよね。壊したいわよね…。全て…全て…全て…。
わかる…わかるわその気持ち。
だから…一緒に暴れよう?
私の悪夢による斬撃と刺突の嵐と…あなたの炎…。
只々感情に任せて破壊するだけの力をぶつけ合って…。どこまでもどこまでも…。
コワレアイマショウ…。

※真の姿でも見た目に変化なし
Sehnsuchtがぬいぐるみ→からくり人形化して動き出し、安全圏から肉球型魔法弾で援護射撃しています。



●其の映し出す世界で、少女は
 空を高速で巨体が駆ける。
 翼を羽搏かせるごとに熱風が地表に奔り、木が発火し草が炭と化し地が抉られて石礫が巻き上がる。喉から血を吐くような全身から溢れ出すような雄叫び。

「……そうだったわ。元々はあなたに惹かれて来てたのよね。私は……」
 ノーラ・カッツェは上空からビリビリと伝わる其の気配に視線を投げかけた。
「歪み……捻じれたその身体……心……なるほど……。惹かれたのも納得だわ」
 炎が波のように地上へ押し寄せ、何もかも燃やしていく。分厚い雲を背負うかのように空に君臨する黒竜は只管に歪んでいた。身を捩り、震わせ、燃やす。声なき声が伝わる。心が判る。
「似ているのね……。私たちは」
 猫のぬいぐるみ『Sehnsucht』がその手からするりと地に降りた。ノーラの全身から凄まじい殺気が放たれる。
 黒竜は殺気に気が付いたようだった。
 高穹からひりつくような視線が注がれる。血走った目がノーラをひたりと見据える。
「そうよね。壊したいわよね……。全て……全て……全て……」
 竜が咆哮をあげながら急降下する。ノーラへと向かってくる。
 忿怒の塊と共に熱波が押し寄せる。ノーラは舞踏の如き軽い足取りで熱へと向かっていく。熱に煽られて頬が薔薇に染まり、艶髪が後ろへと靡く。
「わかる……わかるわその気持ち。だから……一緒に暴れよう?」
 地表すれすれを這うような滑空をして敵が接近する。竜が牙を剥き、赤い口腔と舌を覗かせる。目視できる距離。喉奥に炎が燻ぶっている。
 ノーラは竜のブレスに合わせて地を蹴った。駆け引きは必要なかった。ただ本能が肉体の動きを導いた。命を奪うため。それだけのために。
 跳んだつま先の下を炎が通り過ぎ、それを猫のSehnsuchtが放った魔法弾が迎え撃っていた。
 炎がドレスの裾を焼き、火を付ける。風を切り燃える裾を押し付けるように竜に身を当てながらノーラはレイピアを突き立てた。ジュッと音がして己が肉が灼け竜の鱗が貫かれる。硬い。だが、狂気の力がレイピアの刺突と同時に発せられる。竜が悲鳴をあげ、全身から炎を放った。
「暴れよう、暴れよう、暴れよう」
 ざくり、ざくりとレイピアを突き立てノーラは繰り返す。
 少女を振り落とそうと竜は身を捩り、翼を羽搏かせる。
 Sehnsuchtが肉球型魔法弾を撃ち翼の動きを阻害しようとしていた。『憧れ』の名を持つ猫は、少女のために戦っているのだ。

 猫の視線の先で少女はもはや敵しか見ていなかった。

「何処へ行くの?」

「まだ終わっていないでしょう、もっともっとぶつけ合って……。どこまでもどこまでも……」

 否。少女は今や己と猫以外の全てを敵と認識している。

「コワレアイマショウ……」

 炎に晒され全身を燃え上がらせながらノーラは悪夢と殺気をもって竜の身を傷つけていく。今や視界に入るものすべてが少女の敵であった。戦闘狂の貌を全開にして敵に斬撃と刺突の嵐を繰り出す少女の姿をその瞳に映し、Sehnsuchtは懸命に支援していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーク・アルカード
ルク(f14346)と一緒。

・心情
すっごくおっきい。
斬りにくそう。少しずつやるしかないかな?


・行動
『吸血』による『生命力吸収』で『武器改造』を行う。
攻撃は『見切り』でギリギリで避けて、避けきれなかったら『武器受け』でガード。
『早業』で攻撃の手を休めず、連続で行う。

大ダメージを受けた際は『捨て身の一撃』を決行。

・他
ルクとコンビネーション。
ルクが作った鎖の道を駆け抜けてドラゴンに攻撃。


ルク・フッシー
心情◆「うっ…」(びくびく)
こ、こわいです…
でも、この世界の人を守らなきゃ…!
「ルークさん(f06946)、その…お気をつけて…!」

行動◆あらかじめルークさんの武器に紋様を描き冷気と光【属性】を付与
イラースへの直接攻撃はお任せします

何十発かのオーラを発射し、【ドラゴニアン・チェイン】により鎖の束でできた道を作ります
拘束は難しいと思いますが、少なくともルークさんがイラースに接近するための足場にはなる筈です



●血花
 戦場に到着したルーク・アルカードとルク・フッシーの目に上空広範囲を旋回する巨竜が映る。数組の猟兵達が同時に到着している。空を舞い、時に地に落ち、黒い巨体が炎を怒りを撒き散らしながら暴れている。今相手をしているのは――殺意を振り撒きながら戦う少女。
 少女を振り切り、竜が高く空へと揚がる。

(あの味方……接近すると多分、斬りかかってくる)
 白き毛並みを熱風に撫でられながらルークはじっと空と地上を観る。
「……」
(竜。すっごくおっきい。斬りにくそう。少しずつやるしかないかな?)
 敵の『調理方法』について思いを巡らせ、ルークはマフラーに貌を埋めながら軽く首をかしげた。保護者が贈ってくれたマフラーはいつもと変わらない感触と温もりを白き子供に伝えてくれる。思考する事数秒、白き手にはユーベルコード『告死・奪命乃誅戮』で封印を解かれた血晶刀がある。自らの血を吸わせ処刑執行形態に改造された血晶刀を引っ提げ、ルークは静かに歩を進める。

「うっ……」
 背後ではルクが緑色の尾を縮ませるようにして丸めながらびくびくと怯えていた。猟兵として幾度となく強敵と戦ったルクといえどその本質は臆病な少年。目の前で暴れ狂う敵にはやはり恐れを感じてしまう。
(こ、こわいです……でも、この世界の人を守らなきゃ……!)

 背後の気配を察してルークがちらりと振り返る。無言のアルビノは目で問いかけるようだった。無口なルークがじっと見つめる目にはルクを案じる色が薄っすらと浮かんでいた。
 ――大丈夫? と問う気配。
(い、いけない。ルークさんの足を引っ張らないようにしなきゃ)
 ルクはカクカクと首肯して応える。
「ルークさん、その……大丈夫です」
「地上は同士討ちが怖いから、ソラで一撃を入れるよ」
 無口なルークが必要最小限を口にすればルクが確りと頷いた。
「はい、作戦開始です、……お気をつけて……!」
 ルクが絵筆を舞わせ、黄色と水色をメインに使ってルークの刀に紋様を描いていく。たっぷりの塗料は水を多めに含み、よく伸びる。アーティストの絵筆が優しく毛先を撫でつければ細い紋様がさらさらと流麗に描かれていく。

(……綺麗)
 ルークは赤い瞳を瞬かせ、じっとそのペイントに見入った。
「もうちょっとです! ……できました、ルークさん!」
「ありがと、ルク」
 光と冷気を帯びた刀を軽く振り、ルークは白い尾をふわりと揺らした。ルクはルークの駆ける道を創るべく黒竜にオーラを発射する。
 ユーベルコード『ドラゴニアン・チェイン』のオーラの鎖が上空を旋回する黒竜へと放たれた。
「だめだ。あ、当たらない……、でも足場になら」
 飛び回る黒竜にはなかなか鎖を絡めることができない。だが、ルークは地を蹴りルクの鎖へと軽やかに飛び乗った。
「ルークさん、いけそうですか?」
「大丈夫」
 口数少ないアルビノが赤い目をルクに向けた。瞳はほんの少し柔らかな気配を見せ――すぐに前を見る。天に伸びる鎖を足場として白い狼姿が駆けあがっていく。
(ルークさん、お任せします!)
 ルクは目を潤ませながら手を握る。見守る中、接近するルークに気付いた黒竜が炎を浴びせる。
「ルークさん!」
 悲痛な叫びがルクから放たれる中、ルークは冷静に炎を見つめ、ギリギリで鎖を蹴りポーンと宙を舞う。一瞬前に居た場所を炎が通過して空気を焦がす。
(当たったら熱そう)
 冷静にそんな感想を抱きながら、ルクは羽搏く黒竜の羽根骨を掴み素早くよじ登る。激しく揺れる羽根を勢いよく蹴れば巨体がぐらりと傾き呻き声をあげる。
「あっ危ない……」
 地表で見守るルクはハラハラと鎖を操りルークが落ちた時に掬えるようにと備えていた。
(ルクがフォローしてくれようとしてるのがわかる)
 ルークはそれを感じてほんの僅かに目元を和ませた。
 炎を吐いた直後の首を目掛けて白い風のように接近したルークは炎への意趣返しとばかりに空中ですれ違い様に連続の刃を浴びせかける。ルクの紋様が仄かに機能し、光と冷気が地表からもわかる色鮮やかな光を輝かせた。
 ガツリ、と鈍重な音と共に刀を握るルークの手が痺れる。竜の鱗は恐るべき強靭さを有していた。だが、暗殺者は其の一瞬で巧みに刃を返し鱗を剥ぎ取り、くるりと手首を返して剥ぎ取った鱗の隙間目掛けて繰り出す二の刃は光と冷気を持ってその下の筋肉を貫き、血花を咲かせ確実にダメージを与えた。
 黒い血を避けながらルークが地表へと落ちていく。
「ルークさん!」
 地表のルクが鎖を操り、その身体を受け止めた。
「怪我は、ありませんか、ルークさん?」
 真っ青になって尻尾を上げ下げしながら心配するルクへとルークは耳をぴこぴこして無事を告げるのであった。
「刃、届いたよ」
 常は無口なルークが呟く声は純真な響きを宿していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒玻璃・ミコ
※美少女形態

◆心情
あー何と言いますか徹底してますね
文字通りに怒りの炎で其の身を焦がしているとは

◆行動
【黒竜の騎士】を使います

馬鹿正直に近付けば
焦げたタールの様なものが出来上がるだけです

黒竜騎士の甲冑を身に纏い【空中戦】による
ヒットアンドアウェイを挑みましょう
纏うは【念動力】による暴風と愛用の黒剣九振り
そして【戦闘知識】と【第六感】で
タイミングを見計らい【気合い】と
墓地で【生命力吸収】した様々な思いを込めた【槍投げ】で
文字通り【串刺し】にしてみせましょう

私は所詮稀人
この地に生きる人々に語る言葉は持ちませんが
竜と戦う姿を見て何か心に響くものがあれば良いですね

◆補足
他の猟兵さんとの連携、アドリブ歓迎


仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
【携帯食料】を食み対象を竜へ
細胞を通して怒りが届く
呼応するように筋肉がせり上がる
怒りの方向にブレスが来ると【学習力】で覚え、来ると感じた瞬間【ダッシュ】で死角に回り込み【鎧無視攻撃】
攻撃後は【残像】を残し、ブレスの範囲外まで距離を取るを繰り返す
「お前も休みたいよね…だから全力で」

●ミハイルへの助言【学習力】
・ヨジフの件は聖職者の証言も合わせて早々に公表し、教会も領主管理とするのはどうか
・教会の不正蓄財を元手に先ず食料。また、ドラゴンの肉で当座を凌げないか
・次は生産力向上と焼けた山の回復
「失敗は誰にでもある。その時は自ら率先して動くものだ。自ら土と戦うのも一つの方法ですよ」



●共鳴
「黒竜イラース、か」
「暴れてますね」
 味方を相手に暴れ狂う黒竜の姿と燃え盛る戦場を見て猟兵達が呟いた。

 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

 耳を劈く雄叫び。
 ゴウ、と熱風が駆け抜ける。
 視界は赤く染まっていく。
 炎と熱と怒りと。世界が其れに染め上げられていくようだった。

「啼いて、いる」

 其の咆哮は身の内から体を揺さぶるような激情を拡散する。狂乱の黒竜が衝動に突き動かされるがまま獄炎を喉奥から溢れされ、熱が全身から迸る。皮膜一枚隔てた外界全てに憤り拒絶するかのような雄叫びは聞く者の心に悲痛を齎す。
 炎が空気を燃やして波となる。炎熱の波が地に押し寄せた瞬間、仁科・恭介の眼前の立木が炭と化し熱された石飛礫が無数に飛んでくる。
 距離を取りつつ恭介の全身にじっとりとした冷や汗が滲む。

「あー何と言いますか徹底してますね。文字通りに怒りの炎で其の身を焦がしているとは」
 美少女姿の黒玻璃・ミコが双眼に黒竜を映し、一歩踏み出した。
「いあいあはすたあ……」
 細い指が虚空を滑るように印を結び、その術式を解放する。

「黒き混沌より目覚めなさい、第捌の竜よ!」
 禍々しい黒竜騎士の甲冑がミコの全身を包み込む。『第八圏:悪意者の地獄』それは、最も悪意ある者。始まりの黒竜の騎士。三千世界の竜を屠ると言う執念が禍黒を通してミコの戦闘力を増大させる。
 竜がミコの気配を察した様子で目を向けた。血走った目は理性の欠如と歪んだ情炎を伝える。
「馬鹿正直に近付けば焦げたタールの様なものが出来上がるだけですね」
 ミコの言葉に恭介は焦げ焦げになったスライムを想像しながら携帯していた干し肉を食む。
「おや、最後の晩餐ですか?」
 冗談めかしてミコが笑う。
「いやいや、これが私のユーベルコードなので」
 恭介は肩を竦めた。
 ユーベルコード『共鳴』は食べた肉と竜のテンションの量と質に応じて呼応するかのように全身の細胞が活性化し、戦闘力が増加する。細胞を通して竜の怒りが届き、呼応するように恭介の筋肉がせり上がる。
「準備OKみたいですね」
 2人は互いに視線を交差させ、共に前線へと駆ける。
「地に誘導しましょう、待っているといいですよ」
 ミコはニコリと笑み、飛翔する。
「あのタイプにはヒットアンドアウェイでしょう」
 竜種との戦いに長けたミコは戦術を定め、愛用の黒剣九振りを手に空を駆ける。飛翔するにつれ周囲には暴風が纏われる。

(私は所詮稀人。この地に生きる人々に語る言葉は持ちませんが、竜と戦う姿を見て何か心に響くものがあれば良いですね)
 タイミングを見計らい腕を引けば、墓地で剣に吸収した想いが視認できるほどに強く渦巻いて剣身を取り巻く。
 投擲した剣は黒竜の歪な鱗を突破し、その下の肉を切り裂いた。地上へと舞い降りるミコを追うように怒れる竜が降下し、口を開く。赤き炎の光が口元から迸り――ミコは大きく軌道を変えて飛翔したままブレスを逃れる。地表ぎりぎりを飛び、さりげなく剣を拾い上げ。
「連れてきましたよ!」
「助かる」
 地表の恭介はミコへと言葉短かに礼を告げつつ恐るべき脚力で地を爆ぜさせんばかりに蹴り、一瞬で竜の腹下へと潜り込む。その一撃には相手の装甲を無視してダメージを通す力が宿っている。
「お前も休みたいよね……だから全力で」
 恐るべき筋力での渾身で腹を打ち据えられ、竜は堪らず悲鳴をあげて高度を上げる。
「連携プレイですね~」
 上空からミコが竜の背へと拾い上げた剣を突き立てた。上と下とで激しい攻撃が展開され、竜が徐々にダメージを蓄積させていく。だが、まだ沈む気配はない。
「先にこっちが疲労し切ってしまいそうですね」
「体がでかいだけあって耐久力が凄まじいな」
 二人は上空と地上とで声を掛け合った。互いに細かく傷を負い躰に火傷を負っていたが、もはや痛みは感じなかった。ただ、熱さのみがある。
 黒竜を挟み、生命を賭けて戦いながら戦友が笑う。
「でも、私達もまだまだ動けるでしょう?」
「当然だ――それに」
 他にも仲間はいる。
 2人の周囲には仲間が加勢に駆けつけていた。


 その猟兵は領地経営に以下の献策をし、戦場へと向かった。

「ヨジフの件は聖職者の証言も合わせて早々に公表し、教会も領主管理とするのはいかがでしょうか」
「教会の不正蓄財を元手に先ず食料の確保と提供を。なんなら、これから私達が狩るドラゴンの肉で当座を凌ぐのもよいでしょう」
「次は生産力向上と焼けた山を回復させたいですね」

 明るい色の瞳は真っ直ぐに未来へと向いていた。
 声は丁寧に告げた。
「失敗は誰にでもある。その時は自ら率先して動くものだ。自ら土と戦うのも一つの方法ですよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
憤怒の化身か。世界を焼き尽くす黒い竜…カルシウム不足だぜ?近所迷惑だから火吹きの曲芸は骸の海でやるんだな。

【SPD】
的がデカくてやり易そうだ。銃を撃ちながら距離を詰めていく。火を吹くのは厄介だが、永遠に吐き続けられる訳じゃないだろう?火の吐き終わりに一気に距離を詰めて剣を叩き込む。
【二回攻撃】【属性攻撃】【衝撃波】【串刺し】【範囲攻撃】技能を使ってUC。歪な形状だが翼の一本でも叩き斬れりゃそのデカイ図体も飛べなくなるだろ。火炎攻撃は【見切り】【残像】【第六感】で回避。完璧に躱すのは難しいが、これが反撃のチャンスになるはずだ。
政策ってのは俺には分からねぇが、困ったときはまた俺達が来る。約束するぜ


狭筵・桜人
うわ、おっかない。目合わせたくないですね。

なあんて、気付かれようが気付かれまいが
炎はこっちにも飛んでくるわけでー……

UC発動。重ねて【呪詛】を。
動きを止めますのでその隙にどうぞ。
……私?
やだなぁ、近付くわけないじゃないですかってうわ熱ッ!

この技あんまり連発出来ないので
早めに倒れてくれるとありがたいですね。無理か。

しかし領主ってのも大変なんですねえ。
難民を受け入れて食糧不足とは。
……ときにオブリビオンの唯一好きなところは
死体が残らないところですが、
今回に限ってはお肉落としていってくれないですかね。ダメか。

ま、一先ず教会の連中を絞り上げれば
多少の食糧は行き渡るんじゃないですか?
肥えてたのだし。



●片翼
 上空と地上で猟兵が竜相手に激しい戦闘を展開している。

「うわ、おっかない。目合わせたくないですね」
 狭筵・桜人が呟いた。
 呟く声を呑み込むように豪火が向かってくる。
「なあんて、気付かれようが気付かれまいが炎はこっちにも飛んでくるわけでー……」
 春色の髪をふわりと揺らし、少年が炎から逃れる。

「憤怒の化身か。世界を焼き尽くす黒い竜……カルシウム不足だぜ? 近所迷惑だから火吹きの曲芸は骸の海でやるんだな」
 カイム・クローバーが黒竜に向かって挑発的な笑みを浮かべた。
「的がデカくてやり易そうだ」
 紺色のトレンチコートが熱風に煽られてふわりと揺れる。今宵は此の戦場こそが蒼い便利屋の舞台である。
「さぁ、躍ろうか」
 手には銀の銃弾が装填された双魔銃オルトロスが握られていた。双頭の魔犬が高らかに銃声を響かせ、巨体に吸い込まれるように銃弾が闇に消えていく。距離を詰めるカイムの視界で巨体がのたうっている。
「美味いだろ――おっと」
 笑ったカイムは軽やかに右へステップを踏む。ゴウ、と炎の渦が左の空気を灼いて通過した。残像が生じるほどの速度で為された緊急回避に黒竜が憤り唸りをあげる。
「はは――怒るなよ!」
 カイムは笑いながら高く跳ぶ。足下を熱気が通過していくのを感じながらくるりと空中でオルトロスを鳴かせ、くるりと回転して着地すればそこにも炎が押し寄せる。

「カイムさーん。手伝いますよー」
 背後から桜人が声をかけ、ユーベルコード『虚の孔』で体内に宿したUDCの邪視を放てば目に見えて黒竜の動きが鈍くなる。
「動きを止めますのでその隙にどうぞ。……私? やだなぁ、近付くわけないじゃないですかってうわ熱ッ!」
 呪縛に怒り狂うように咆哮し炎を吐く黒竜。炎に飛びずさり桜人は再び邪視を向ける。
「この技あんまり連発出来ないので早めに倒れてくれるとありがたいですね。無理か」
「いいや。倒してやるよ!」
 桜人のぼやく声にカイムが快活に応える。

「火を吹くのは厄介だが、永遠に吐き続けられる訳じゃないだろう?」
 隙を見て一気に地を蹴り接近するカイムの手にはオルトロスに代わりMarchociasが携えられていた。黒と銀の業物で翼持つ狼が姿を変えた大剣は、契約者の意志により銀色の炎を燃え上がらせて死の舞踏を披露する。
 黒竜の足元へ潜り込んだカイムはバネのように跳ね、身ごと回転させて銀に燃える大剣を翼に叩きつけた。叩きつける手に伝うのは竜の鱗の硬さ。半端な刃であれば折れてしまったことだろう――その鎧へとカイムは剣撃から衝撃波を発生させながら眼にも止まらぬ連続斬りを繰り出す。身を捩り暴れる竜躰に押し込むように二度、三度。同じ場所へと叩きつけられた剣戟は確実に傷を深め、片翼を斬り落とすことに成功した。

「おー、有言実行ですねぇ!」
 ぱちぱちと拍手し、桜人が片手をあげる。戻ってきたカイムがパシンと手を打ち合わせ、ハイタッチを交わした二人は黒竜に視線を向ける。
「有言実行……、あれ。でもまだ動くみたいですねえ」
 のんびりとした口調は若干うんざりとしていた。歪な竜は体を捻じ曲げるように不自然に動かし、飛翔を続けるようだった。
「タフな奴だな。まあ、今のを繰り返せばいけるんじゃねぇか? 両翼落とせばさすがに飛べないだろうし――他の猟兵も同時に攻撃してるし」
 カイムが余裕の笑みを浮かべて再び前線へ走ろうとし。
「あ、でも疲れるなら無理しなくていいぜ」
 ひらりと手を振る。
「あー、そう仰っていただくと助かりますぅー。まあ、まだいけますけどね」
 琥珀色の瞳はふわりと余裕を滲ませた。
「そうだろうと思ったよ! んじゃ、頼んだぜ!」
 カイムは弾むような足取りで駆けていく。
「元気な人ですねえ」
 桜人は眉を下げて笑い、仲間を援護するべく再びユーベルコードを発動させた。

「しかし領主ってのも大変なんですねえ。難民を受け入れて食糧不足とは。……ときにオブリビオンの唯一好きなところは死体が残らないところですが、今回に限ってはお肉落としていってくれないですかね。ダメか」
「この硬い肉、食えるのか?」
 前線で刃を叩きこみながらカイムが笑う。
「煮込んだりしたらいけませんかねえ――うわ、目が合いました」
 黒竜が憤怒の瞳を向けていた。

「ま、一先ず教会の連中を絞り上げれば多少の食糧は行き渡るんじゃないですか? 肥えてたのだし」
 少年は肩を竦めて緩く笑った。
「他の猟兵と協力してなんとかしましょう、あれ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
【架華】
アドリブ◎

マリア達は南へ往くわ
此処はミハイル達に任せるのよ
戻ってくるわ
必ず全員無事に
信じて(彼女の曇り顔見て浮かぶ疑問は押し止め、ケープはソフィーヤへ預け

イラース…あなたはマリアの在り方と少し、似ているわ
感情は正反対だけれど(楽しい、幸せ
ずっと辛く苦しい思いをしていたのね
でももうおしまい
行き場のない靄は、マリアが総てすくうわ(哀しげに

後衛
アムレイドの支援
竪琴構え
麻痺の糸絡め星海の交響曲を竪琴で綺麗に奏で攻撃(マヒ攻撃・楽器演奏

高速詠唱で【茉莉花の雨】使用
竪琴を花弁へ
咲き馨る旋律で洗い流し癒しの詩を

戦闘後ソフィーヤの元へ
あなたは一人ではないわ(お腹の子と見比べ手握り
導きたいの
光ある方へ


アムレイド・スヴェントヴィット
【架華】
アドリブ◎

◆戦闘
前衛
背中をマリアに預け、剣を抜き放ち正面から向かう
「望まぬ在り様に嘆くなら――私達が断じましょう」

先制攻撃+衝撃波による先手
そのまま接近、剣撃を見舞う
「マリア、旋律を」

彼女へ炎が向かうなら、己の身を盾にする事も厭わない

ワイヤーを放ち、炎が自分へ向かうように
そのまま上方へ。空を焦がす炎は、誰も傷つけない
彼女の【茉莉花の雨】に合わせ、小さな山査子の枝を投げ放つ
「一片の終焉を――【クラタエグス・エヴァンジェ】」


◆ミハイルへ
民へは包み隠さず伝えましょう――貴方の兄についても
いい機会です。貴方の気持ちを、ありのままに

……そうだ、歌にでもしてみるのは如何でしょう
きっと、素敵でしょう




 南の方角で戦いが繰り広げられている。其れを知る人々はじっと南の空を見つめている。

「マリア達は南へ往くわ。此処はミハイル達に任せるのよ」
 声を残し、その二人は南へ往った。何処かの国の姫君とその御付きの騎士――人々には、二人はそのように映った。
 神秘的に耀く宝石花の瞳を持つ姫君は凛とした声で告げた。
「戻ってくるわ、必ず全員無事に」

「信じて」
 北風がふわりと銀髪を揺らし、可憐な少女を人々が熱の篭った眼差しで見つめる。凛とした少女。その姿はまるで天使が降臨したかのように彼らには思えた。
「マリア、そろそろ」
 柔らかに騎士が促し、姫君が頷く。
 騎士は人々に向けて丁重に礼をし、姫君を連れて戦いの地に向かった。

 預けられたケープをそっと見て、ソフィーヤは祈るように穹を見る。

●星海の交響曲
「イラース……あなたはマリアの在り方と少し、似ているわ。感情は正反対だけれど」
 片翼を失った黒竜が歪に体を捻じ曲げ、ぎこちなく飛翔し続けている。
 華水晶が灯ったランプを片手にマリアドール・シュシュが黒竜を見上げる。星の瞬きをこさえた優麗なドレスが熱を孕んだ夜風に切なく揺れた。その星芒は楽しい事以外は忘れてしまう穢れなき高貴な花――、
「望まぬ在り様に嘆くなら――私達が断じましょう」
 アムレイド・スヴェントヴィットが姫君を守る騎士の如くマリアドールの前に立つ。すらりと抜かれる銀色に耀くフェルニゲシュの浄牙は黒竜の牙より削りだされた浄化の剣だ。先制とばかりにアムレイドが剣を斬り上げれば衝撃波が黒い巨体へと奔り、体表の鱗を傷つける。

「マリア、旋律を」
 アムレイドの言葉は短いながら決して乱暴ではなく、丁寧さを伴っていた。マリアドールは竪琴を爪弾く。一音一音が綺麗な音階が滑らかにメロディを生み出し、星海の交響曲が黒竜を絡めとるように響き渡る。

 交響曲を耳にしながらアムレイドがワイヤーを放つ。竜の注意を引くようにしながら騎士が上方に跳びあがる。空を焦がす炎に身を晒しながらアムレイドは小さな山査子の枝を投げ放つ。枝は炎を上げて燃えていくが、
「一片の終焉を――【クラタエグス・エヴァンジェ】」
 燃え行く枝が鱗を掠めれば、鮮烈な光の柱がその枝を起点として立ち上り、歪な黒竜を灼き悲鳴をあげさせた。
 炎に包まれながらアムレイドが地へと落ち、転がりながら自身を灼く火熱を消していく。
「ハルモニアの華と共に咲き匂いましょう舞い踊りましょう──」
 マリアドールが謳えば茉莉花の花びらがひらりひらりと舞い踊る。竪琴を花弁に変え、咲き馨る旋律を少女が歌う。アムレイドへと復讐の炎を吐こうとした黒竜の眼前に白花が嵐となれば、黒竜は忌々し気に咆哮しながらさらに高みへと昇って行った。

「アムレイド、問題なくて?」
 そっと問いかけるマリアドールへと頷き一つを返しアムレイドは黒竜を追い浮上する。
「身体が動けばどうにかなるものです」
 枝の端さえ掠めればアムレイドの技は通るのだ。
「一撃で斃れぬというなら何度でも」
 その瞳には猛き戦意が宿っていた。


「民へは包み隠さず伝えましょう――貴方の兄についても。いい機会です。貴方の気持ちを、ありのままに」
 騎士アムレイドはそう語り、背を向けた。

 南を視るソフィーヤはマリアドールの温もりを思い出す。
「あなたは一人ではないわ」
 お腹の子とソフィーヤ自身とに順に視線を向け、手握った姫君。
「導きたいの。光ある方へ」
 向けられた声と眼差しの温かさを。

「……そうだ、歌にでもしてみるのは如何でしょう。きっと、素敵でしょう」
 マントを靡かせ、立ち去る騎士がそう告げたのを思い出し、歌姫はそっと歌を紡ぐ。

 ♪憤怒の炎纏いし黒竜イラースに立ち向かうため昏迷の地に降り立ちし勇士たち……

「憤怒の炎纏いし黒竜イラースに立ち向かうため昏迷の地に降り立ちし勇士たち……♪」
 戦場ではマリアドールが高らかに歌を歌う。マリアドールの紡ぐ清らかな歌は透明な美しさを持ち、聞く者全てに勇気を奮い起させるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セシリア・サヴェージ
領主館のほうは一先ず安心でしょう。しかしあのドラゴンを倒さなければこの地に平和が訪れることはありません。民たちの為に護りましょう。

放たれる憤怒の炎にどこまで耐えられるかは定かではありませんが、暗黒の【オーラ防御】を展開し、炎に対抗する術を持たない味方を【かばい】つつ身を護ります。
しかし防御一辺倒では勝利を得ることはできません。UC【闇の解放】を発動し、【覚悟】を決めてオーラ防御を展開しながら【ダッシュ】で炎の中を突撃し【ジャンプ】してドラゴンの頭へ暗黒剣を叩き込みます!

※助言
襲撃に加わった難民に寛大な措置をお願いします。甘いのかもしれません。ですが彼らにもう一度この地で生きていくチャンスを…。


守宿・灯里
世界を、神を、そして己自身さえ変えてしまう程の激しい怒り…
それは想像を絶する程の怒りなのでしょう

けれど――
私は世界を、人を、全てを慈しんだ方の想いから生まれた宿神
この光は想いの光
その憤怒の炎を、慈しみの光にて抱きしめましょう――

『生まれながらの光』を使用
戦場の全ての猟兵の皆様を癒し続けられるよう、
全力を尽くします!

願わくば――
ほんの少しでも、ほんの一瞬でも…
憤怒以外の想いを感じてほしいと――そう思います


どうか民と話し合って下さい。そして信頼を築いて下さい
それはとても難しく、厳しいことだと思います
でもそれこそが、これからも続いていく営みの、
全ての礎となるのだと――私は思います



●癒しの光
「世界を、神を、そして己自身さえ変えてしまう程の激しい怒り……それは想像を絶する程の怒りなのでしょう」
 守宿・灯里が黒竜に向かい一歩踏み出す。
「けれど――私は世界を、人を、全てを慈しんだ方の想いから生まれた宿神。
この光は想いの光。その憤怒の炎を、慈しみの光にて抱きしめましょう――」
 灯里の全身から神聖な光が溢れる。光は戦場全域に散り、負傷していた仲間猟兵達の傷を癒していく。
 竜は猛々しく雄叫びをあげ、狂気に彩られた瞳を向けた。
 己を狩る者が次々と現れ、生命を削っていく。激憤に心を侵食された竜にもそれがわかった。
 大きく熱風を放ち身近にいた猟兵を一息に吹き飛ばした黒竜は迅雷の如く灯里へと向かってくる。口が大きく開かれ、口腔に鋭い牙がずらりと並んでいるのがはっきりと見え、灯里は身構えた。喉奥から炎が溢れて吐き出され。
「領主館のほうは一先ず安心でしょう。しかしあのドラゴンを倒さなければこの地に平和が訪れることはありません。民たちの為に護りましょう」
 灯里を庇って炎の前に身を躍らせたセシリア・サヴェージの手には黒き盾が構えられていた。暗黒のオーラを圧縮して形造った盾は炎と衝突し熱気を吸い込むようにしながら使い手であるセシリアと背後の灯里を守ってくれる。
「ありがとうございます」
 礼を告げ、灯里は聖なる光を継続して操る。ぴょこん、と茂みからうさぎが飛び出した。汚れた毛皮のうさぎは聖なる光により癒され、ぴょこんぴょこんと戦場の外に向かって逃げていく。
 同時に、戦場の至るところから野生の動物達が現れ、走り出した。いずれも毛皮を汚していたが――怪我を負い、火傷を負い、瀕死だった小さな生命達が灯里の光の恩恵を受け、回復して逃げることができるようになったのだ。
「あの子は……」
 ふとセシリアは切なく瞳を揺らした。
 動かぬ親の背をぺろぺろと舐める野狐の仔が視界に入ったのだ。
「間に合わず救えなかった生命もいますが……生かすことができた生命がひとつでも増えれば」
 灯里は睫を伏せ、呟いた。

「……防御一辺倒では勝利を得ることはできませんね」
 セシリアは盾を持つ手に力を込め、一歩踏み出した。

「暗黒よ……」
 囁く声一つ、セシリアは暗黒の力を覚醒させて闇の化身へと姿を変えた。寿命を削りながら全身から研ぎ澄まされた刃のような闇の気配が溢れれば、周囲一帯にいる者にはその戦闘力が爆発的に増えている事がわかる。

 黒竜に向かってセシリアが駆ける。無視できない気配が己に向かってくる事に気付いた黒竜は炎を吐いた。炎がその侵攻を妨げんと放たれ、だが闇の化身は真っ直ぐに炎に飛び込んだ。
「私が、癒します!」
 灯里の光がセシリアの全身を包み込んでくれる。炎の熱とせめぎ合うようにしながらセシリアを癒し、守ってくれる。それを全身の肌で感じながらセシリアは吠えた。
「この程度の炎、私が止まると思うのか!!」
 炎を突破して跳躍する瞳は爛々と敵を見る。全身が刃と化したような闇の化身は暗黒剣を押し込めるように黒竜の頭部へと全身を叩きつけた。
 痛撃を浴びせられた竜の咆吼が戦場に轟く。硬い鱗をぐいと押し切るようにしてセシリアは渾身の力を籠め、剣を押し込む。
「く、硬い……、ですが!」
 もがく竜の骨を叩き割ろうと力を入れ――竜の頭部から黒炎が溢れる。
「無理を――なさらないでください!」
 灯里が心配そうに声をかけるのを認識しながらセシリアは剣を押し斬った。ちらりと視れば、灯里の顔が青白く疲労を滲ませていた。癒しの力の継続使用で疲労が蓄積しているのだ。その様子を見てセシリアはさっと退く。
 頭部から激しく血を撒き散らし今や瀕死の竜がブレスで2人を追い――、灯里を颯爽と抱きあげ、セシリアは横に大きく跳んでブレスを避け、距離を取った。
「お互いに、ですね」
 地に灯里を降ろして言えば、灯里はこくりと頷いた。


 猟兵は出立前にミハイルに言葉を掛けていた。
「襲撃に加わった難民に寛大な措置をお願いします。甘いのかもしれません。ですが彼らにもう一度この地で生きていくチャンスを……」
 凛然とした暗黒騎士がそう言い、
「どうか民と話し合って下さい。そして信頼を築いて下さい」
 負傷者を幾人も治療した聖者はそう言った。
「それはとても難しく、厳しいことだと思います。でもそれこそが、これからも続いていく営みの、全ての礎となるのだと――私は思います」
 その言葉を心の中で反芻しながら見る南の空は今、一段と激しく燃えている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ
自分の意思でなくずっと怒っているのって、とても辛いことなんじゃないでしょうか。
このまま放っておくことは出来ませんし、わたし達に出来るのは終わりにすることくらいですけど……。

相手の攻撃は他に燃えてしまう物が無い空中で受ける様にして、《空中戦、第六感、オーラ防御》でなるべく防ぎますね。
暴れられると被害が広がるばかりですし、反撃が来ない間に他の方達が攻撃できるように少し動きを封じようと思います。

周囲をすべて燃やしてしまう、あなたに花を。
たとえ炎に覆われても、【白花の海】の幻なら燃えてしまうことはありませんから。
《歌唱、全力魔法》

終わったら、【慈雨】で領地の人達の怪我や病気くらいは治して行きたいです。


トリテレイア・ゼロナイン
現実は、世界は時に無慈悲で改めて我が身の力が如何に矮小であるか思い知りました
イラース、世界や自身への憤りや憤怒……今なら共感できるような気がします
いっその事ベルセルクトリガーで怒りも嘆きも何もかも放り出してしまいたい程に
ですが、機械の合理と騎士の意地がその選択に否を告げる
貴方が憤怒のままに世界を壊すならば、私は理性と感情を持って世界に抗い光明を切り拓きましょう!

仲間に付いてくるよう指示し、UC使用
炎を予測し避け、防ぎ、切り拓き仲間を竜の喉元まで導きます

悲惨な結果を招きましたが信仰は人々に希望を齎す存在
政教癒着は行き過ぎですが、教会に信用できるか繋がりがある方を指導者に
据え民を導く手がございます




 ほぼ時を同じくして2人の猟兵が戦場に到着し、黒竜を見る。竜は片翼を無理やりに動かして徐々に高度を下げて地に降りようとしていた。頭からは夥しい血を流している。怒りしか感じていない様子の竜が猛々しく吠えるたび血と炎が噴出し、熱風が戦場に吹き荒れる。

「自分の意思でなくずっと怒っているのって、とても辛いことなんじゃないでしょうか。このまま放っておくことは出来ませんし、わたし達に出来るのは終わりにすることくらいですけど……」
 シャルファ・ルイエが杖状のウィルベルを手に呟いた。表情がくるくる変わる16歳の娘は今――竜に痛ましげな視線を向けている。

 ふらふらと地に落ちた黒竜は血を吐くような雄叫びをあげ、頭部からは炎と鮮血を撒き散らした。
「現実は、世界は時に無慈悲で改めて我が身の力が如何に矮小であるか思い知りました。イラース、世界や自身への憤りや憤怒……今なら共感できるような気がします。いっその事ベルセルクトリガーで怒りも嘆きも何もかも放り出してしまいたい程に」
 シャルファの前にて大きな盾を構えるトリテレイア・ゼロナインの脳を自身の精神構造を戦闘を最優先とするモードへの切り替えという選択が過り――だが、機械の合理と騎士の意地がその選択に否を告げる。
「貴方が憤怒のままに世界を壊すならば、私は理性と感情を持って世界に抗い光明を切り拓きましょう!」

 シャルファがふわりと翼を羽搏かせ、空へと飛翔する。地表はトリテレイアが駆けた。地表に降りた黒竜の足元には他猟兵達も集まり、攻撃を加えている。竜は高らかに吠え、四方へと炎波を放った。
「コード入力【ディアブロ】!、演算機能リミット解除……」
 トリテレイアが嘗て相対した帝国のウォーマシンの再現とばかりに未来予測演算能力に覚醒する。失われた記憶を探る過程で発覚した共通設計はその運用を可能としていた。駆けながら炎を避けていく。

「暴れられると被害が広がるばかりですし、反撃が来ない間に他の方達が攻撃できるように少し動きを封じようと思います」
 シャルファが鈴を鳴らすような声で宣言し、息を吸う。可憐な声で紡がれるのは、歌だ。

「周囲をすべて燃やしてしまう、あなたに花を」
 それはとても――優しい声だった。

 少女の青色の瞳はダークセイヴァーの民が忘れた快晴の色。人々が分厚い空の向こうに夢見る色だ。晴れやかな瞳は優しく哀しく竜を見つめながら伸びやかな声を震わせる。

 歌を聞く竜の周囲に、一面の白い霞草の花畑の幻が出現した。

 敗北世界の夜の深い闇の下、悲憤の炎燃え盛る戦場で白い霞草が儚く、けれど炎を物ともせずに――揺れている。ゆっくり、微かに、ゆらゆら、ゆらりと。どれも皆同じ方向に揺れ――見つめていると、たまに一輪二輪と余所を向く。そんな夢。

 それが、黒竜を止めた。
 それは、黒竜の痛みと怒りを止めた。
 それは、奇跡のような光景だった。

「今です――、」
 トリテレイアが儀礼用の長剣を高く掲げた。
 其の姿は悪しき竜と戦う御伽噺の騎士に似て。

 仲間達が一斉に呼応する。

 シャルファはその歌を最期まで歌い続けた。
 黒き姿が赤に染まり、やがて動かなくなるその時まで。


 ジャック・スペードは弾丸を撃ち込み。
 鏡島・嵐はスリングショットを放ち。
 ルーナ・ユーディコットは青炎を纏い捨て身の覚悟で。
 ノーラ・カッツェはレイピアを突き立て。Sehnsuchtが魔法弾で援護する。
 ルーク・アルカードはルクの紋様付き武器を振り下ろし。
 ルクはドラゴニアン・チェインで竜躰を拘束する。
 セシリア・サヴェージは暗黒剣を横に入れ。
 黒玻璃・ミコは死霊の想いを籠めた黒剣を投擲し。
 カイム・クローバーは大剣の連続攻撃を繰り出した。
 守宿・灯里は全ての仲間を癒し続ける。
 狭筵・桜人がさりげなく呪視で敵の動きを止めた。
 マリアドール・シュシュは茉莉花の雨を注ぎ。
 アムレイド・スヴェントヴィットは光柱を打ち立てながら剣撃を見舞う。
 仁科・恭介は共鳴の一撃を叩きこみ。



 ――歌が響いている。女の声だ。



 黒の竜はそれを聞きながら生命を削られていった。

 黒の竜は、眼を閉じた。
 最期に視たのは、白い霞草の花畑。
 痛みも怒りも消え、竜は死に向かう意識の中、羽を羽搏かせた。
 肉体という枷から解き放たれた竜の心は花畑に相応しい空へ、海へと飛んでいく。



 大地を盛大に揺らし、やがて竜は斃れた。
 猟兵達は肩で息をしながら顔を見合わせ、しばし沈黙した。
 空は薄く明るみ、夜明けを迎えようとしていた。


 分厚い雲の下、薄暗い朝を迎えた領地。
 シャルファが慈雨を降らせ、人々の怪我や病気を治療していた。

「悲惨な結果を招きましたが信仰は人々に希望を齎す存在。政教癒着は行き過ぎですが、教会に信用できるか繋がりがある方を指導者に据え民を導く手がございます」
 トリテレイアがそう献策し、ミハイルは真っ直ぐな目をして頷いた。これより数か月、この地は猟兵の献策を取り入れながら経営されることだろう。

「政策ってのは俺には分からねぇが、困ったときはまた俺達が来る。約束するぜ」
 カイムが笑った。

 それぞれの世界へと戻るべく民に背を向け歩き出す猟兵達には、人々からの感謝の声が向けられるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月21日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


30




種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は須藤・莉亜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト