スクールライフ・スライムパニック!
●ランチタイムの乱入者
広大なアルダワ魔法学園の数ある学級のひとつ、シルヴェストリ組の教室にて。
「んーー……っ」
午前の授業を終えた赤い髪の少女が、椅子に腰掛けたまま猫のように伸びをする。彼女がこの学園に入学してはや数ヶ月。緊張もほぐれてくれば、眠たい授業も出てくる。
「リリィ、今日のお昼はどこで食べる?」
「あたしもうお腹ペコペコー」
話しかけてきたのはクラスメートの友人たち。教室を見回せばその場で弁当箱を広げる者や学食に向かう者など、各々が午後の授業に備えての腹ごしらえに突入している。
「そうですね。じゃあ、私のお気に入りの喫茶店があるんですけど……」
そう言って少女が仲間たちとランチに向かうため、席を立った時だった。
ぽよん。ぽよん。ぷよん。ぷよん。
教室の窓から。半開きのドアの隙間から。ぽよっとしてぷよっとしてぷにっとした、丸っこくて柔らかそうな軟体状のイキモノが姿を現す。
「え……あれってスライム、ですよね?」
「なんでこんな所に?」
少女たちはそれに見覚えがあった。迷宮の一般的なモンスターのひとつ、フラスコスライム。弱いが回復力に優れ、経験を積むことで強力な魔物に進化することもあるという、学生にとって馴染み深い災魔だ。
だがそれは、あくまで迷宮内での話。迷宮の上にあるこの学園の、それも教室の中にまで、災魔が現れるとはいったいどういう――。
ぽよん。ぽよん。ぷよん。ぷよん。
ぷよん。ぷにぷに。ぽよーん。ぺとっ。
ころころ。ぴょんぴょん。ぽよよーん。
「なっ、なっ、な……ちょっと、多すぎませんか?!」
「どうしてこんなにいっぱい居るのよ!」
教室内を埋め尽くさんばかりに次々と現れる、大量のフラスコスライムの群れ。いかに弱いモンスターといえども、数の暴力は立派な脅威だ。
安全なはずの学園内で、突如大量の災魔に遭遇した学生たちは混乱状態に陥る。
平和だったはずの昼休みは、風雲急を告げようとしていた。
●
「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(人間の精霊術士・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「アルダワ魔法学園にて、学園内に突如としてオブリビオン――災魔の群れが出現する事件が発生しました」
予知によれば幸いにも出現した災魔はそれほど強大な個体ではないようだが、迷宮の中ではなく学園内で、それも予期せぬ大量発生ということもあって、学生たちは右往左往しているのが現状だ。
「皆様にはこの混乱を収拾して学生たちの統率を取り戻し、災魔の討伐をお願いします」
出現した災魔、フラスコスライムはすでに学園のあちこちに散らばって悪さをしているが、いったいそれが何処から現れたのかは不明である。
先ずは兎にも角にも混乱の収拾が先決。救援に駆けつけた猟兵たちがうまく指示や命令を行えば、学生たちも落ち着きを取り戻して共に戦ってくれるようになる。
「一般の学生はあくまで一般人なので、過度な期待は禁物ですが……大量の災魔に対抗するには、こちらも数の力に頼るのが良いと思います」
彼らも迷宮の災魔と戦うために集められ、日々研鑽を積んでいる戦闘要員だ。猟兵たちの指揮と統率次第では、十分な戦力として貢献してくれるだろう。
無事に暴れている災魔を駆逐できれば、次はその発生源を特定する必要がある。
現在、フラスコスライムの出現情報が集中しているのは、この春から学園にやって来た新入生が多く通う学級棟らしい。もしかすればこの近くに何かがあるのかもしれない。
「とはいえ深く考えずとも、現れた災魔を片っ端から倒していけば、自然と発生源に辿り着く可能性も高いでしょう。リムはサーチ・アンド・デストロイを推奨します」
災魔の出現地点を特定できれば、あとは乗り込んで発生源を潰すだけ。だがそこにはフラスコスライムとはレベルの違う、より強大な災魔が待ち受けている可能性が高い。
「最後まで油断は禁物です。どうかご注意ください」
そう言ってリミティアはグリモアを手のひらに浮かべると、魔法学園への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回のシナリオはアルダワ魔法学園にて、学園内に突如出現した災魔を学生たちと協力して倒していく依頼となります。
第一章では災魔の出現に学生たちの混乱を収拾して、共にフラスコスライムと戦います。学生たちは一般人ですが多少の戦闘能力はあります。個人では猟兵に及びませんが、うまく指揮すれば十分に戦力となってくれるでしょう。
無事にフラスコスライムを駆逐できれば、二章以降では判明した災魔の発生地点に突入し、発生した災魔のボスの討伐を目指します。
一章でうまく統率が取れていれば、学生たちはボスの配下までならそれなりの戦力になるでしょう。流石にボス戦では足手まといなので無理はさせられません。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『フラスコスライム』
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POW : スライムブレス
【ねばつく液体のブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : スライムバイト
自身の身体部位ひとつを【奇妙な獣】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : フラスコアブソープション
小さな【自分のフラスコ】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【フラスコ空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
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フレミア・レイブラッド
久しぶりね、リリィ。元気にしてたかしら♪
【血統覚醒】を発動。
強化した能力と魔槍【怪力、早業】で生徒達を襲うスライムを優先して高速でなぎ払ったり、生徒を【念動力】で守りつつ、【ダッシュ】と【残像】で校内を高速移動し登場。
生徒達を【催眠術】と効力を抑えた【魅了の魔眼】で『落ち着くように』と『バラバラに対処するのではなく、他の生徒と連携して対処するよう』指示。『数が多いとはいえ、相手はスライムよ。みんなで対処すれば圧倒できない相手じゃないわ』と鼓舞もしておくわ。
リリィ、再会をゆっくり喜びたいところだけど、また後でね♪今は特訓の成果の見せ処よ。頑張ったら、またご褒美あげるわ♪(楽しそうにウインク)
「ねぇ、どうすればいいのよ!?」
「と、とにかく落ち着いて……」
「落ち着いていられないわよ、こんなの!」
フラスコスライムの襲撃を受けたシルヴェストリ組の教室は、混乱の坩堝に陥っていた。安全だと思っていた学び舎への突然の奇襲に、戸惑うもの、騒ぐもの、逃げ出すもの。中には立ち向かおうとする者もいるが、その動きはバラバラでまったく統制が取れていない。
このままでは為す術なく、災魔の大群に押し潰されてしまうかに見えた。
――その時、校内を駆け抜けた一陣の紅い風が、学生たちに襲い掛かるスライムの群れを吹き飛ばした。
それが真紅の魔槍を携えた金髪紅眼の女性だと気付いた一人の女学生が、思わず声を上げる。
「フレミア先輩!」
「久しぶりね、リリィ。元気にしてたかしら♪」
フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は目を丸くしている赤髪の少女に笑顔を向ける。この二人は以前、学園で行われた迷宮新歓コンパでの親交があった。
「どうしてここに? って、あ、危な――」
少女が警告を言い終えるよりも速く、真紅の魔槍が再び閃く。【血統覚醒】によりヴァンパイアの力を解き放ったフレミアの槍捌きは、常人には見切れぬ速度と膂力を以て背後から迫っていたスライムを貫く。
心配は無用。余裕のある笑みをもう一度見せながら、フレミアは少女に告げる。
「リリィ、再会をゆっくり喜びたいところだけど、また後でね♪ 今は特訓の成果の見せ処よ。頑張ったら、またご褒美あげるわ♪」
「ご、ご褒美って……」
楽しそうにウインクを残して駆けていくフレミアの背中をかあっと顔を赤くしながら見送った少女は、すぐに表情を引き締める。
自分はもう、守られてばかりだった新入生の時とは違う。そのことを示すために自らも剣を取り、臆することなくスライムに立ち向かっていく。
「落ち着いて、バラバラに対処するのではなく、他の生徒と連携して対処しなさい」
フレミアは学生たちを襲うスライムを魔槍で薙ぎ払い、念動力のバリアで彼らを守りながら【魅了の魔眼・快】を使って呼びかける。効力を抑えているとはいえ、与えられる強烈な快楽と魅了の魔力は、混乱と恐怖を塗り潰すのに十分だった。
「そうだ、落ち着いて……」
「皆で戦えば、勝てない相手じゃない!」
吸血姫の催眠術にかかった学生たちは彼女の指示通りに、学び舎で身につけた技や魔法を駆使してスライムと戦い始める。慣れない状況ゆえのぎこちなさはまだ消えないが、その戦いぶりは悪くはない。
「数が多いとはいえ、相手はスライムよ。みんなで対処すれば圧倒できない相手じゃないわ」
「「はいッ!!」」
フレミアの鼓舞に力強く応えた学生たちの部隊は、少しずつ災魔の大群を押し返していく。その中にはリリィの姿もある。
満足気に目を細めながら、フレミアは彼らの先頭に立って敵を駆逐していく。
成功
🔵🔵🔴
ヴィサラ・ヴァイン
あれ?
リリィさんもこの騒ぎに?
それじゃカッコ悪い所は見せられないね…
【頂点捕食者】で学生達の恐怖の感情を食べて落ち着かせるよ
緊張感が無くならない程度にね
これだけじゃスライムへの対策は不十分
【血生まれの群れ】で鼻と[第六感]の効く狼の群れを生み出しスライム達を探して襲わせるよ
スライムバイトで反撃されるだろうけど《ゴルゴンの血》から生まれた狼に噛み付いたら、猛毒の血液が体内に入るよ[毒使い]
[恐怖を与える]のに成功したら【頂点捕食者】で恐怖を喰らい魔力を再生
更に【血生まれの群れ】で狼を増やすよ
「さ、狼さん達。どんどん食べちゃって」
動きが鈍ったスライム達は、生徒さん達に確実にとどめを刺してもらうね
「あれ? リリィさんもこの騒ぎに?」
「あっ、ヴィサラ先輩。お久しぶりですっ」
スライムと対峙する学生たちの中に、覚えのある顔を見つけたヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)。相手のほうもヴィサラを見つけると嬉しそうな笑みを浮かべる。
「迷宮新歓コンパの時は、お世話になりました!」
そう言いながら堂々と敵と立ち向かう彼女は、以前抱えていたスライム恐怖症は完全に克服できたようだ。
「それじゃカッコ悪い所は見せられないね……」
先輩としての勇姿を示すためにも、ヴィサラは戦場となった学び舎を駆け回りながら、学生たちの抱く恐怖の感情を【頂点捕食者】の力で食らっていく。適度な恐怖心が生み出す緊張感まで無くならないよう、ほどほどに。
「冷静に考えたら、スライム相手にこんなにビビる必要ないな……!」
「大丈夫、あたしたちならやれる!」
落ち着きを取り戻した学生が少しずつ敵を押し返していく。しかしこれだけでは、膨大な物量で襲ってくるスライムの対応は厳しいだろう。
「それならこっちも数を増やそうかな」
食らった感情のエネルギーを魔力に変えて、ヴィサラが次に発動したのは【血生まれの群れ】。召喚されたのは優れた嗅覚と第六感を持つ狼の群れだ。
くんくんと鼻を鳴らしながら校内に散っていった狼は、物陰に隠れていたスライムを見つけるとすかさず襲い掛かる。
「ぴきー!?」
鋭い牙で噛み付かれたフラスコスライムは、お返しとばかりにその身体を奇妙な獣の頭部に変形させて反撃する。
しかし猛毒であるヴィサラの「ゴルゴンの血」から生まれた狼に噛み付くのは、その猛毒の血液を体内に取り込むということ。たちまち赤黒く濁ったスライムは、毒に侵されピクリとも動かなくなった。
「ぴきぃー!?」
そんな仲間の死に様を見たスライムたちは、悲鳴を上げながらぴょいんぴょいんと狼から逃げていく。そんな災魔の恐怖を糧として食らう【頂点捕食者】のヴィサラは、再び感情を魔力に変えて更なる血狼を召喚する。
「さ、狼さん達。どんどん食べちゃって」
粘り強い持久力と群れの結束力で獲物を追い立てるウルフパックは、逃げ疲れて動きの鈍ったスライムから順に食らいつくと、遠吠えを上げてその位置を知らせる。
「こっちにもいたぞ!」
それを聞きつけて駆けつけた学生が、弱った敵にしっかりととどめを刺す。
ヴィサラの指揮する狼と学生たちの連携は、学校中に散ったスライムを順調に狩り出していった。
成功
🔵🔵🔴
英・明夜
突然だもん、びっくりしちゃったよね。
まずは、落ち着くところから始めよう!
生徒さん達が戸惑ってるところに出くわしたら、手をパンパン!って叩いて、
落ち着いて! って声を掛けるね。
皆、いつものお勉強を思い出したら、きっと大丈夫だよ!
一人で行動したら、囲まれた時にまた困っちゃうかも知れないでしょ。
だから、何人かでチームを組んで、災魔たちを倒して行くのが良いんじゃないかな。
明夜は、困ってる班が居たら助けに入る。
もし人が少ない時は、明夜も入れて1つの班になるね。
戦いでは、なるべく生徒さんを後ろに庇って、神桜爛漫で敵の数を減らして行くね。
出来た隙間を埋めて来る災魔は、生徒さん達にお願いしようかな。
「落ち着いて!」
まだ事態を飲み込めずに戸惑っている学生たちの元にやって来た英・明夜(啓明・f03393)は、パンパン! と手を叩いて彼らに呼びかける
「突然だもん、びっくりしちゃったよね。まずは、落ち着くところから始めよう!」
明るい笑顔を見せながら放つのは【神桜爛漫】。神の力を宿す山桜の花吹雪が、スライムの群れを吹き飛ばす。
頼もしい援軍が現れたことで、学生たちに安堵と落ち着きの波が広がっていく。
「皆、いつものお勉強を思い出したら、きっと大丈夫だよ!」
次の群れが現れるまでの僅かな間に、明夜はてきぱきと学生たちに語りかける。
「一人で行動したら、囲まれた時にまた困っちゃうかも知れないでしょ。だから、何人かでチームを組んで、災魔たちを倒して行くのが良いんじゃないかな」
「確かに……迷宮に潜る時もパーティを組むことが多いもんな」
迷宮と学園で戦う場所の違いはあっても、相手は同じ災魔。それを再認識した学生たちは明夜の提案どおりに数人のチームを組み始める。どうやら普段から迷宮でチームを組む者が多いようだ。
「人が少ない班はない? それじゃあ行こう!」
薙刀を掲げて号令を出すと、おおっ!! と元気な鬨の声を上げて、学生チームはスライムの群れに突撃を開始した。
「やられっぱなしじゃいられないわよ!」
「お前らなんて、迷宮で何度も倒してるんだからな!」
チームでの連携という戦い方の基本を取り戻した学生たちは、それまでとは見違えるほどの動きでスライムを撃破していく。
元より彼らはこの学園の地下で、毎日のように災魔と戦っているのだ。落ち着いて立ち回れば一対一でスライムに苦戦するような者はほとんどいない。
「いい調子だね!」
明夜の役目はピンチになった班が居れば助けに入ること。個々の実力では学生たちが上でも、数では圧倒的にスライムが勝っている以上、僅かな油断が命取りとなる。
「やばいっ、囲まれたっ!?」
うっかり深入りしてしまい、敵の群れの只中で他班から孤立してしまったチーム。
すぐさま明夜は薙刀を振るいながら駆けつけると、彼らを後ろに庇って再び【神桜爛漫】を放つ。
「御神木の裔よ、霞の如く嵐の如く、桜花咲かせませ!」
故郷の里の山桜から作られた薙刀が、無数の花弁へと変わってスライムを吹き飛ばし、群れの中に空白を作る。
「今だよ!」
「あ、ああっ!」
出来た隙間を埋めようと押し寄せるスライムを学生たちが蹴散らし、隙間を押し広げていく。キリがないように思われた災魔は、徐々にその数を減らしていく。
成功
🔵🔵🔴
トール・ペルクナス
なるほど、教導も兼ねればいいのか
知識だけはあるこの身、使えるモノは使っていくとしよう
【戦闘知識】を元に学生たちに指示を出そう
元よりよく知った世界だが【世界知識】も併用して学生たちが最も力量を発揮できる陣形を構築
「私が前に出る。だから君たちは気にせず攻撃するんだ。心配はいらないこれでも君たちの先輩だからな」
前衛は私が勤めよう
学生たちはその後方からスライムを狙ってもらう
UCを発動し電界の剣5本と学園内の備品を操りスライムの攻撃は全て【見切り】、【武器受け】して後方には通さない
トドメも学生たちに決めさせるように私は【属性攻撃:雷】を伴った電界の剣による【マヒ攻撃】の【範囲攻撃】で足止め
「さぁ決めろ」
(なるほど、教導も兼ねればいいのか。知識だけはあるこの身、使えるモノは使っていくとしよう)
後輩であり、前途の輝きに満ちた若人たちの未来を守り導くために立ち上がるのはトール・ペルクナス(雷光騎士・f13963)。
この世界のことは元よりよく知っている。出現中のモンスターの特性や学園内の構造も鑑みて、学生たちが最も力量を発揮できる陣形を彼は考案していた。
「一度、敵の進軍を限定できる場所まで退く。そこで陣地を構築して敵を迎え撃とう」
「わっ、わかりましたっ」
若い外見にそぐわぬ不思議な威厳と落ち着きを見せるトールの指示に、学生たちはつい従ってしまう。
トールは追ってくるスライムの進路が一方向に絞られる地形を選んで、鶴翼の陣を学生たちに敷かせる。陣の正面から突っ込んできた敵を、正面と左右から集中攻撃する陣形だ。
ただしこの陣形は、多勢かつ勢いのあるスライムの群れに、中央を突破される恐れがあるが――。
「私が前に出る。だから君たちは気にせず攻撃するんだ。心配はいらないこれでも君たちの先輩だからな」
スライムの突撃を食い止める前衛に、トールがたった一人で勤めるという。その表情は有無を言わせぬ自信に満ちていた。
そして陣形を整えてから間もなく、ぽよんぽよんと音を立ててスライムの大群が押し寄せてくる。その正面に立つトールは、雷電による光の刃を発生させる五本の「電界の剣」を滞空させ、迎え撃つ。
「万物を操る雷の理をここに」
電磁力によってコントロールされた電界の剣は、五羽の鳥のように自在に宙を飛び回り、スライムの群れを斬り裂いていく。
「ぴっきー!」
怒ったスライムたちは粘液状のブレスを当たり一面に撒き散らす。その被害が学生たちに及ばぬよう、トールは近くにあった学園の備品を電磁力で纏め、即席の盾としてブレスを防ぐ。
「トール先輩すげぇ……」
「あたしたちもやるわよ!」
たった一人で大群を押し止めるトールの力に感嘆しながら、学生たちは魔法やガジェットによる遠距離攻撃を行う。
有利な陣形から一方的に攻撃されるスライムたちは、みるみるうちに数を減らしていく。
(そろそろトドメだな)
そう判断したトールは五つの電界の剣をスライムの群れを取り囲むように配置し、それぞれの刃から激しい雷撃を発生させる。
「ぴぴぴぃー?!」
五方向からの逃げ場のない電撃を浴びて、身体がマヒして思うように動けなくなるスライムたち。そこでトールの号令が下る。
「さぁ決めろ」
『はいッ!!』
学生たちによる一斉攻撃。敵陣目掛けて降り注いだ炎が、氷が、風が、銃弾が止んだ時――この区画を襲ったスライムの群れは、跡形もなく消滅していた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
これは災魔を封じた封印が弱まっている前兆なのでしょうか?
ですがまずは目の前の混乱の収拾です
スラスターでの●スライディング移動で最前線に突入
スライムの攻撃から学生を●盾受けで●かばいつつ、肩部、腕部、頭部の格納銃器での●なぎ払い掃射で応戦しつつUCの電磁バリアを展開、戦列を構築し態勢を整える猶予を生み出します
UCは無くとも混乱を収めれば学生は戦えるはず
まごついているようであれば此方から隊列を組ませる指示
精霊術士、シンフォニアは後方から支援
ガジェッティア、ビーストマスターは前衛の補助を
そして竜騎士、マジックナイトは私と共に前線の押し上げ
(バリアを解除し抜刀して)……日ごろの成果を見せる時です!
学園内に突如として出現した災魔の群れ。そこから連想される不安をトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はふと漏らす。
「これは災魔を封じた封印が弱まっている前兆なのでしょうか?」
真実は分からない。だが、これまでに無かった事件のパターンから、迷宮に何かが起こっている可能性を危惧するのは自然なことだ。
しかし今はその真相を探る前に、目の前の混乱の収拾が先決だった。
今だ学生たちとスライムの激しい戦いが繰り広げられている戦場へと駆けつけたトリテレイアは、脚部のスラスターによるスライディング移動で戦いの最前線に突入する。
「きゃぁぁぁっ……あれ、痛くない?」
「ご無事ですか?」
飛びかかってくるスライムの体当たりやブレスから身を挺して学生を庇った彼は、構えた重質量大型シールドで攻撃を弾きつつ、肩部、腕部、頭部に搭載された格納銃器による掃射で応戦。弾幕に怯んだスライムたちの攻勢が緩んだ隙を突いて【攻勢電磁障壁発振器射出ユニット】を起動する。
肩のハードポイントから射出された杭状の発振器は、学生とスライムの戦線の境界上に突き刺さると、たちまち光の壁のような電磁バリアを展開した。
「今のうちに態勢を整えてください」
「わ、わかりましたっ」
スライムの進撃をバリアが阻んでいる間に、一時の猶予を得た学生たちはまだ戸惑っていた気持ちを落ち着けて、戦列の再構築を始める。
トリテレイアは学生たちの混乱を収めるために彼らを鼓舞し、まごついている者には隊列の指示を出す。
「精霊術士、シンフォニアは後方から支援、ガジェッティア、ビーストマスターは前衛の補助を。そして竜騎士、マジックナイトは私と共に前線を押し上げます」
これまでの数々の戦闘経験を元に、学生たちの能力に合わせた配置を指示。淀みのない整然とした振る舞いは、指示される側にも安心感を与える効果があった。
「猟兵のようなユーベルコードはなくとも、貴方達学生は戦えるはずです」
この学園に通う学生は皆、そのために集い研鑽を続ける戦士なのだから。滔々としたトリテレイアの言葉によって、学生たちの瞳に火が灯る。
やがて戦闘配置が整うと、トリテレイアはずらりと並んだ学生たちの先頭に立つと、バリアを解除し抜刀して、叫ぶ。
「……日ごろの成果を見せる時です!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
鬨の声を上げて敵陣に突っ込んでいく前衛。それを支援する中、後衛の学生たち。
高まった指揮と統率の前に、所詮は烏合の衆でしかないスライムの群れは、為す術なく殲滅されていった。
成功
🔵🔵🔴
フィロメーラ・アステール
「大変なことになってるな! 助けにきたぜ!」
よし、楽しいランチタイムを邪魔した敵を討てー!
まずはわかりやすい理由で反撃だ!
各所へ【残像】のスピードで駆けつけて【救助活動】するぞ!
【生まれいずる光へ】で、生徒達の戦闘力をアップだ!
【オーラ防御】バリアを付与してあげれば敵の攻撃を防げるので、落ち着いて考える時間が生まれるんじゃないかな?
バリアがあればフラスコ接触判定も回避できそう!
生徒達が立ち直り始めて、士気が上向きになったら【念動力】のテレパシーを送って皆を【鼓舞】するぞ!
落ち着いてみれば簡単だろ?
そう、罠や探索を気にしなくていいイージーモードだ!
新入生はやる気を、先輩は技を見せるチャンスだぞ!
「大変なことになってるな! 助けにきたぜ!」
キラキラと輝くような笑顔を浮かべて、流れ星のように颯爽と現れたのはフィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)。
まだ苦戦している学生のいる所に猛スピードで駆けつけた彼女は、光の粒子を放ちながら学生たちを応援していく。
「よし、楽しいランチタイムを邪魔した敵を討てー!」
「はっ……そうだよ、俺メシまだだったんだよ!」
反撃の理由はわかりやすい方がいい。そのほうがシンプルに相手の心に響くから。
フィロメーラに応援された学生は、身体の奥から湧き上がるような力を感じて、普段以上の戦闘力を発揮できるようになる。それが彼女のユーベルコード【生まれいずる光へ】の力だった。
「ついでにバリアも付与してあげちゃうぞ!」
学生の頭上からパラパラと光の粒子を浴びせると、それは薄い光の膜となってスライムの攻撃から彼らを守る。ブレスや噛み付きはもちろんのこと、フラスコ空間の中に吸い込まれてしまうことも無い。
「おおお……? なんか思ったより楽勝?」
ダメージをある程度防げると分かれば、学生の方にも余裕が生まれる。落ち着いて戦えば勝てる相手だという実感が、彼らを奇襲のショックから立ち直らせていく。
ひとつの戦場が安定すれば、また次の戦場へと。学園中を飛び回っては救助活動を続けるフィロメーラは、戦況が学生側の有利に傾いていることを肌で感じていた。
援軍に駆けつけた猟兵たちの活躍もあって、学園の各所でフラスコスライムの群れは掃討されつつある。
同時に学生たちの士気も上向きになってきている。そう感じた彼女は皆を鼓舞するために、念動力によるテレパシーを学園中に送る。
『落ち着いてみれば簡単だろ? そう、罠や探索を気にしなくていいイージーモードだ!』
ここは謎と危険に満ちた迷宮ではなく、勝手知ったる日常の学び舎。いつもは自分たちが災魔の棲家に挑戦する側だが、今回は逆なのだ。
「……そう考えると、なんだか気が楽になるな!」
「なら、私たちの学園で、これ以上好き勝手させていられないわね!」
気持ちも新たにより一層の奮起を見せる学生たちを見下ろして、フィロメーラは楽しそうに学園の空を舞いながら小さな拳を突き上げる。
『新入生はやる気を、先輩は技を見せるチャンスだぞ!』
「「オォーーッ!!」」
入学したての新入生も、ベテランの先輩も一緒になって。気合の入った学生たちの雄叫びが、学園中に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
空廼・柩
オブリビオンが学園内まで出てくることなんて、今迄あったっけ?
…どうも雲行きが良いとは言えないね
兎に角、スライム達を何とかするのが先決
眼鏡を外し、拷問具を手に
【咎力封じ】で拘束を試みる
縄の一つでも巻き付けられたら、それを振り回して範囲攻撃
その際、近くに人がいたら注意しないと
獣の頭部は拘束具で雁字搦めにする事で噛みつきを阻止
難しければ拷問具を盾として攻撃を受け、その侭カウンターを繰り出そう
逃げ遅れた学生がいたら保護も忘れず
無事?
…そう、なら良かった
怪我をした子には簡単な応急処置を施して
後は他の学生に合流させる
さて、元凶は何処に居るのかな?
第六感を用いて捜索
早めに見つけてしまわないとこっちがジリ貧だ
「オブリビオンが学園内まで出てくることなんて、今迄あったっけ? ……どうも雲行きが良いとは言えないね」
拷問具を手に学び舎を歩き回りながら、胸の内の疑問を吐露する空廼・柩(からのひつぎ・f00796)。
少なくともこれが日常茶飯事であれば、学生たちはこんなに慌てないだろう。他の世界と同様に、このアルダワにも何らかの変化が起きている可能性はある――そこまで思考を巡らせたところで、視界の前方に学生たちを襲う災魔の姿を捉える。
「兎に角、スライム達を何とかするのが先決か」
眼鏡を外し、青き「彩」の右目を露わにしながら駆け出す柩。気怠げに振る舞いながらもその実お人好しな彼は、目の前で窮地に陥る者を見捨ててはおけなかった。
「う……ぁ、来ないで……」
その傷ついた女学生は弱々しい声で助けを求めていた。風体からして恐らくまだ新入生だろう、経験の浅さゆえに不覚を取ったといったところか。
しかしスライムたちはそんな相手の事情など斟酌しない。ぽよぽよのボディを獣の頭部に変化させ、弱った相手をむさぼり食おうとする――その時、何処かから飛んできた一本の縄が、一匹のスライムに絡みつく。
「ぷにっ?」
それは柩の放った【咎力封じ】の拘束ロープ。彼はそのまま捕縛に成功したスライムを思いきり振り回す。
遠心力に従って、勢い良く仲間のボディに叩きつけられるスライム。勿論、近くにいる学生には当たらないようしっかりコントロールされている。
「「「ぷににー
!?」」」
仲間を武器にされて薙ぎ払われるスライム。当然そんなことをされれば彼らも怒る。
攻撃の矛先が学生から自分に変わったのを見た柩は、ロープに続いて猿轡や手枷を射出。変形した獣の頭部を雁字搦めに縛り上げ、噛み付き攻撃を阻止する。
「~~~!!」
口の開かなくなったスライムたちにできる攻撃は、せいぜい体当たりくらいのものだ。棺型の拷問具を盾にすれば、ぽいーん、とあっさり弾き返されていく。
あとは手も足も口も出なくなった(口以外は元から無いが)スライムを、一匹ずつ反撃で駆除していくだけのお仕事だ。
「無事?」
この場にいたスライムを一掃した柩は、襲われていた学生に声を掛ける。ほうっとへたりこんでいた少女は、それではっと我に返る。
「だ、大丈夫です。助けてくれてありがとうございます……痛っ」
「……そう、なら良かった」
冷めたような眼差しで相手を見つめながらも、柩はてきぱきとケガをしている学生に簡単な応急処置を施す。幸いにも大したケガではなかったようで、傷の消毒や止血程度で事は済んだ。
「あっちにまだ戦ってる学生のチームがいる。早く合流しなよ」
「本当に、何から何まで助けて貰ってしまって――」
「お礼はもういいから。ここに居残られても迷惑なんだよ、俺が」
むず痒そうに言って、ふいとそっぽを向く柩。何度も頭を下げながら遠ざかっていく学生の気配を背中に感じつつ、さて、と意識を切り替え、第六感を研ぎ澄ませる。
「元凶は何処に居るのかな?」
学園に出現したフラスコスライムの大群は、学生たちの協力もあって大方駆逐されつつある。この事件が起きた原因を排除しなければ、再び彼らは現れるだろう。
「早めに見つけてしまわないとこっちがジリ貧だ」
出現する災魔の動向を探ってここまでやって来た柩は、やがて、今は使われていないらしい古い実験室に辿り着く。
人の気配はない。だが、人ならざるモノの気配をはっきりと感じる。
ここが災魔の発生源だと直感的に悟った彼は、この情報を他の猟兵たちに伝えるために駆け出した。
成功
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第2章 集団戦
『ネバメーバ』
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POW : はじける
【攻撃された際、飛散した肉体の一部 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : からみつく
【ネバネバ 】【ドロドロ】【ベチャベチャ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : ふきつける
レベル×5本の【酸 】属性の【自身の肉体の一部】を放つ。
👑11
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猟兵と学生たちの協力によって、フラスコスライムの群れは無事に撃退された。
だが、まだ事件が終わったわけではない。どうして学園内に災魔が現れたのか、その原因を突き止めなければ、本当の意味で脅威を排除したとは言えない。
災魔を駆逐する過程で猟兵たちが怪しいと睨んだのは、学級棟と併設されていた、今は使われていない旧い実験室だった。
学生たちによると、この実験室には自殺した学生の幽霊が出るとか、実験の失敗で大きな被害が出たとか、そういった様々な噂があるらしい。どこにもある「学校の七不思議」のようなものだろう――この学園の"不思議"が7つで収まるとは思えないが。
さておき、スライムの出現がこの辺りに集中していた事など、様々な要素から考えて、ここが災魔の発生源になっているのはほぼ間違いない。
「私たちも戦います!」
さっそく実験室に突入しようとした猟兵たちの前に、数十名ほどの学生が現れる。スライムとの戦いを潜り抜けた者の中でも、特に士気と練度の高い者たちだ。
「足手まといにはなりません。無理だと思えばすぐに撤退します。私たちの学園が危険なのに、このまま見ているだけなんてできません!」
彼らの意思は固く、ここで何を言っても引き下がりそうにはない。無理に拒絶するよりは目に届くところで共に戦ったほうが、猟兵たちにとっても益になるだろう。
戦闘中は猟兵の指示に絶対に従うよう約束させてから、猟兵たちは彼らと共に実験室に突入する。
思ったよりも広かったその部屋は、長く閉鎖されていたからだろう、ホコリとカビの臭いで満ちていた。
咳き込みそうになる澱んだ空気をなるべく吸わないようにしながら、室内の薄暗さに目を慣らす――すると、闇の中で何かが蠢くのが見えた。
「あれは……ネバメーバです!」
学生の一人が声を上げるのとほぼ同じタイミングで、ずるり、ずるりと這い寄ってくる毒々しいピンク色の粘液の塊。不定形であるところは先のフラスコスライムと共通だが、より粘度の高そうなこちらはスライムよりも名前通りアメーバに近い。
ソレが這いずった後の床がジュウジュウと音を立てて溶けているのを見るに、危険性もフラスコスライム以上のようだ。
間違いなくこの先に、この事件の元凶がいる。この災魔は猟兵たちを食い止めるための配下、と言ったところか。
ここで足止めを受けている暇はない。猟兵と学生は実験室に蔓延るネバメーバの群れを排除するために武器を取った。
英・明夜
生徒さん達と一緒に戦うんだね。
信じてくれてる気持ちを裏切らないように、気持ちを引き締めないと!
移動するだけで、ジュッとさせちゃう敵だもん、怪我しないで倒すのは難しそう。
遠距離攻撃の方法が無い人も居そうだし、明夜は攻撃しつつ、
怪我した人が増えて来たら、UCで治療するね。
攻撃は、敵から少し離れたところから。
薙刀で攻撃するけど、もしジュっとしちゃったり、咄嗟の時には霊符を投げて攻撃。
攻撃の弾みで体の一部?が飛んで来るかも知れないから、攻撃したらその場から下がったり
横に避けたりするね。
目は絶対守る!
戦いに緊張するより、夢中になっちゃう方が怖いと思う。
生徒さんがのめり込み過ぎない様に、注意して見てるね!
(生徒さん達と一緒に戦うんだね)
戦いの先陣を切った明夜は、その背後に闘志と熱意に満ちたいくつもの視線を感じながら、心の中で想う。
(信じてくれてる気持ちを裏切らないように、気持ちを引き締めないと!)
猟兵たちを信頼し、その上で共に戦うと決断した学生たち。その想いに応えようと、薙刀を握る手には自然と力が籠もる。
敵は強酸性のボディを持つ災魔ネバメーバ。その粘液の肉体は危険だが動きは鈍い。明夜は薙刀のリーチの長さを活かし、相手との距離を保ちながら斬撃を放つ。
戦巫女の霊気を纏った刃がネバメーバを斬り裂くと、その肉体の一部が強酸の飛沫となって周囲に撒き散らされた。
そうなることを予期していた明夜は素早く後退して強酸の飛沫を避ける。特に目だけは絶対に酸を浴びないよう、着物の袖でしっかりと守りながら。
ノーダメージで敵の反撃を凌いだ明夜だったが、彼女よりも実力と経験で劣る学生たちはそうもいかなかった。
「うわぁっ?!」
「あつっ!!」
遠距離攻撃の手段がなく、ネバメーバに接近戦を挑んだ学生たちは、反撃に強酸の飛沫をふきつけられ手痛い被害を受けていた。
「移動するだけで、ジュッとさせちゃう敵だもん、怪我しないで倒すのは難しいよね」
明夜は傷ついた学生の元に駆けつけると、彼らのために癒やしの祝詞を唱える。
「神様、神様。頑張ってる皆に、癒やしをお与え下さいませ……!」
【巫女人間に祈り、声天に聞こゆ】――少女の祈りは暖かな光となって学生たちの身体を包み、焼けただれたような酸の傷跡はたちどころに消えた。
「あ、ありがとうございます……クソッ、まだまだ……!」
傷を癒やされた学生たちは、明夜への感謝とともに悔しそうな表情を浮かべると、剣を握り締めて再びネバメーバに挑もうとする。
猟兵たちの力になるつもりが、逆に助けられてしまったこと。失敗を挽回しようとする焦りが、彼らの視野を狭めていた。
だから彼らは気づかない。側面から別のネバメーバの群れが強酸の飛沫をふきつけようとしていることに。
「危ない!」
学生の窮地に気付いた明夜が咄嗟に放ったのは、かわいらしいファンシーな装飾が為された霊符。ぺたりと粘液の塊に張り付いたそれは、込められた霊気によって敵の攻撃を一時的に封じる。
明夜はその間にさっと距離を詰め、力いっぱい薙刀を振るってネバメーバの群れを薙ぎ払った。
「あ……俺たち、また足を引っ張って……」
立て続けに二度も助けられたことに気付いた学生たちは、不甲斐ない、という思いから肩を落として意気消沈していた。
しかし明夜は、優しい笑顔を見せて彼らを励ます。
「戦いに緊張するより、夢中になっちゃう方が怖いと思う。一人で前に出ないで、皆で戦おうよ」
勇気と勇み足は違う。血気に逸るあまり周囲への気配りや連携が疎かになってはいけない――冷静に連携を取って戦えば、ネバメーバは決して学生たちが太刀打ちできない敵ではないのだから。
「皆ものめり込み過ぎない様に、注意してね!」
「「はいっ!!」」
励ましとアドバイスに力強く応える学生たち。彼らがまた勇み足にならないよう目を配りながら、明夜は薙刀と癒やしの祝詞で戦線を支えるのだった。
成功
🔵🔵🔴
フレミア・レイブラッド
なるほど…スライムよりも粘度が高そうだし、学生達には遠距離戦ができる子は遠距離から支援させた方が良さそうかしらね。
近接型の子には【念動力】で膜を張って酸等の対策しておくけど、複数人で組んで相手をする事で酸や絡み付かれた際のフォローができる様にさせるわ。
自身は【ブラッディ・フォール】で「蘇る黒き焔の魔竜」の「黒焔魔竜・ヴェログルス」の力を使用(フレミアにヴェログルスの角や翼、尻尾等が付いた人派ドラゴニアンの様な竜人の姿に変化)。
【生ヲ貪リ喰ラウ黒キ焔蛇】でネバメーバ達を攻撃し、【禍ツ黒焔ノ息吹】で一気に焼き尽くすわ!
わたしの力…魅せてあげるわ!
わたしの焔に巻き込まれない様、注意なさい!
「なるほど……スライムよりも粘度が高そうだし、学生達には遠距離戦ができる子は遠距離から支援させた方が良さそうかしらね」
戦いが始まり、敵の動きや能力をその目で確認したフレミアは、真紅の魔槍の穂先を掲げて学生たちに指示を飛ばす。
「近接型の子は複数人で組んで相手をしなさい。酸や絡み付かれた際のフォローができる様にね」
同時に前に出る学生には念動力の膜を張り、酸による腐蝕への対策を講じておく。
「また一緒に戦えて嬉しいですっ」
「先輩にいいところを見せなくちゃ!」
この戦いに参加した学生の中にはフレミアと知己の者や魅了を受けた者もおり、その士気は総じて高い。後衛たちの遠距離攻撃による支援を受けて前衛が突入。指示された通り複数人での連携で、一体ずつ確実に敵を倒していく。
「いい調子ね」
学生たちの戦いぶりに満足気な笑みを浮かべるフレミア。遅れを取るまいと彼女が発動させるのは、過去に討ち倒したオブリビオンの力をその肉体に顕現させる【ブラッディ・フォール】。
地獄の業火のような黒い焔が彼女の体を包み、角や翼、尻尾等が生えた人派ドラゴニアンにも似た竜人の姿へ変化していく。それはアルダワの迷宮の深部に潜む強大なる災魔『黒焔魔竜・ヴェログルス』の姿を模したものだ。
「わたしの力……魅せてあげるわ!」
かざす手の動きに合わせて現れるのは【生ヲ貪リ喰ラウ黒キ焔蛇】。禍々しい黒焔の蛇の群れが、鎌首をもたげてネバメーバの群れへと襲い掛かる。
焔によって形作られた蛇は、ふきつけられる強酸の飛沫もものともせずに標的に喰らいつき、焼き焦がしていく。その様はまるで蹂躙に等しい。
「すごい……!」
思わず目を見張る学生たち。災魔の力すら我が物とする猟兵の力は、常人の想像を超えるものだ。
だがこの程度では終わらない。フレミアは焔蛇にネバメーバの包囲を行わせると、前衛の学生たちに一時後退を指示する。
「わたしの焔に巻き込まれない様、注意なさい!」
射線上と範囲内から味方が離れたのを確認してからすうと息を吸って、万物を燃やし尽くす【禍ツ黒焔ノ息吹】を放つ。
学園内ということもあって範囲と威力は少し加減したものの、高位のドラゴンのブレスを再現した禍々しい黒焔の奔流は、焔蛇に取り囲まれていたネバメーバの群れを焼き払い、粘液の一滴も残さず蒸発させた。
その恐ろしくも凄まじき光景に、学生たちは身震いすると同時に、その力の主が仲間であることに心強さを覚える。
「さあ、この調子でいくわよ!」
「「はいっ、フレミア先輩!」」
激を発する竜人の吸血姫と共に、士気の高まった学生たちはネバメーバを次々に駆逐していくのだった。
成功
🔵🔵🔴
ヴィサラ・ヴァイン
次の相手はいわゆる酸のスライム
真っ当な物理攻撃が効かない、触れるだけで溶かされる危険がある、装備もボロボロにされる可能性がある…厄介な相手
でも私達なら対処できるはず
【宝石の谷】で実験室と学生達の装備を、耐酸性に優れた不滅の宝石に変換して被害を抑えるよ
『恐怖を与える』事で強化された《魔眼『コラリオ』》で石化させ、ネバメーバの【ふきつける】攻撃は防ぐよ
石化後は学生達に砕いて退治してもらう
物理攻撃が通らないスライムでも、対処法はあるって事
炎で蒸発させる、冷気で凍らせる、電気で分解する…それぞれ学生達の得意技で対処してもらうよ
あ、わざと自分の身体を取り込ませて、体内の毒で倒すのはやめてね、凄く痛いから
(相手はいわゆる酸のスライム。真っ当な物理攻撃が効かない、触れるだけで溶かされる危険がある、装備もボロボロにされる可能性がある……厄介な相手)
戦いの様子を眺めながら、ヴィサラは心の中で敵の注意すべきポイントを挙げていくの。同じスライム系の災魔でも、その危険性は先刻のフラスコスライムとは比較にならない脅威である。
「でも私達なら対処できるはず」
彼女はそう言ってユーベルコード【宝石の谷】を発動する。敵の持つ最大の武器である酸、その驚異を封じ込めるために。
「あれ? 私の剣が……」
「俺の盾も……!」
その変化に真っ先に気がついたのは、前線でネバメーバと切り結んでいた学生たちだった。彼らの持つ武器や防具が、キラキラと美しく輝く宝石製へと変化したのだ。
さらに物質の宝石化それだけに留まらず、戦場となった実験室の備品や床や壁などにも及んでいく。
「これで酸の腐蝕の被害は抑えられるはず」
ヴィサラのユーベルコードによって変換された宝石は、【不滅】と【願い事の成就】をを約束する、彼女の想いの結晶。
それによって形作られた宝石の防具は、ネバメーバが飛びかかろうとも酸を浴びせようとも輝きを曇らせず、キズひとつ付かず。そして宝石の武器は何度ネバメーバを斬っても刺しても、酸によって腐食することも刃毀れすることもない。
「これ、凄いです!」
武具に優れた耐酸性と耐久性を付与され、装備の損耗を気にする必要がなくなった学生たちは、喜び勇んでネバメーバに立ち向かっていく。
劣勢に立たされつつあるネバメーバたちは、自身の肉体の一部を細かく分裂させ、強酸性の雨として降り注がせようとする。
いかに耐酸性の宝石の盾といえども、細かい無数の酸の雫のすべてを防ぎ止めることは難しい――だが、対処する術はある。
赤い燐光を放つヴィサラの魔眼『コラリオ』。その輝きに射竦められたネバメーバが、ビクッと怯えたように体を震わせ――そのまま動かなくなる。
恐怖を糧とする彼女の魔眼の力は、神話に語られるゴルゴンそのもの。その視界に捉えられたものは、酸の雨だろうとスライムだろうと、例外なく石化する。
「物理攻撃が通らないスライムでも、対処法はあるって事」
ヴィサラはそう言って、石の塊となったネバメーバを学生たちに砕いて退治してもらう。粉々になったスライムは、砂塵と散って骸の海へ還った。
「炎で蒸発させたり、冷気で凍らせたり、電気で分解したり……それぞれの得意技で対処してね」
「分かりました!」
ここはアルダワ魔法学園。殆どの学生はそれぞれに得手とする魔法の心得があった。ヴィサラの実演を見た彼らは、各々に工夫を凝らしながらネバメーバへ有効打を与えていく。
いい調子、とその様子を眺めていたヴィサラは、ふと思い出したように口を開く。
「あ、わざと自分の身体を取り込ませて、体内の毒で倒すのはやめてね、凄く痛いから」
「それはやりたくても無理ですよ先輩!?」
いくらアルダワの学生が多種多様でも、体内にオブリビオンさえ殺せる猛毒の血が流れているヴィサラのような者はそういない。
それもそっか、と頷いた彼女は再び魔眼を輝かせ、学生に襲い掛かるネバメーバを石化させていくのだった。
成功
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フィロメーラ・アステール
「うひゃあ、これはひどいネバネバだなー!」
ネバネバだけじゃなくて触ったら大変な事になるな!
じゃあ、触らなくていいようにしよう!
【日輪の帷帳】を使うぞ!
【破魔】の【オーラ防御】の炎を放ち、みんなを包み込んで守る!
聖なる加護で敵味方を判別する炎にするぜ!
酸っていうのは要するに腐食性のある毒?
【毒耐性】の力も付与すれば浄化パワーが上がるかな!
これで敵から飛んでくる色々は、だいぶ防げると思う!
スライムには炎が効くっていうし、その仲間ならたぶん効くはず!
粘液生物に普通の物理攻撃は効果が薄いかもしれないけど、炎の結界をまとって攻撃したらいい感じだと思う!
地味なポイントだけど、武器の劣化も防げるぞー!
「うひゃあ、これはひどいネバネバだなー!」
実験室の床や壁を這いずるネバメーバを見て、思わずそう叫んだのはフィロメーラ。単にネバネバなだけではない、強酸の塊でもあるそれは近付くものに酸の雨をふきつけ、攻撃されればはじけて酸の飛沫を散らす。
「触ったら大変な事になるな! じゃあ、触らなくていいようにしよう!」
流れ星の妖精は学生たちを護るために、その身に宿す聖なる加護を解放する。キラキラ光る星くずの輝きは、煌々と燃える星の炎に。
「燃え盛る星の護りよー!」
顕れた炎は学生たちを包み込むが、決して彼らを傷つけることはない。それは破魔の力を宿した護りの炎、【日輪の帷帳】の守護結界である。
「おおお、なんだこれ?」
突然自分たちの身体を包んだ炎のオーラに驚く学生たち。その間にもネバメーバは自身の肉体の一部を切り離し、酸の雨をふきつけてくる。だが、学生たちを襲った無数の飛沫は、守護結界の炎に触れるだけでジュッと音を立てて蒸発した。
それを見たフィロメーラはにんまり。酸というのは言い換えれば腐食性のある毒。それを見越して毒耐性の力を結界に付与したことで、浄化パワーが向上したらしい。
「これで敵から飛んでくる色々は、だいぶ防げると思う!」
「ありがとう妖精さん!」
厄介な酸による攻撃を防げるのなら、もう恐れるものはない。ふよふよ上空を飛び回るフィロメーラにお礼を言って、炎を纏った学生たちは攻勢に転じる。
「スライムには炎が効くっていうし、その仲間ならたぶん効くはず!」
次は学生たちの攻撃を援護するために、フィロメーラは炎を操作する。彼らが操る武器の刃や穂先にも【日輪の帷帳】を付与。言わば即席のファイアウェポンだ。
振り下ろされた刃が斬り裂くのと同時に、聖なる炎が傷口から敵を焼く。単純な物理攻撃には構造上の耐性があるネバメーバも高熱には弱いようで、燃え上がったネバネバの塊はそのまま灰になって動かなくなる。
攻撃の際に弾ける肉体の一部による反撃も、酸が飛散する前に傷を焼いてしまえば問題はない。
「地味なポイントだけど、武器の劣化も防げるぞー!」
「地味だけど助かる!」
大事な武器が腐食して使い物にならなくなるのは、学生たちにとってはたまったものではない。人によっては肉体的なダメージ以上に大きな損失だろう。
しかし炎の結界が酸から武器も守ってくれるなら、遠慮なく全力で攻撃ができる。
妖精の幸運と加護を得た学生たちは、炎と共にネバメーバを次々に撃破していく。その進撃の勢いはもはや止まることがないように思われた。
成功
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トリテレイア・ゼロナイン
このスライムは下手に攻撃すると飛散した酸で学生達にも被害が及びそうですね。自身の巨体と大盾の●盾受けを活かし【無敵城塞】を活用しつつ学生たちを●かばうことで、即席の安全地帯を作り出しましょう
学生達に攻撃させ、すぐに自分の陰に隠れさせることで反撃から身を守ってもらいましょう。攻撃に移るタイミングはこちらで指示を出します
……飛散したアメーバを頭部格納銃器での●スナイパーで撃ち落としたり、直立不動でUCを使う以外、することが無いですね。それだけ学生達が優秀という証左なのでしょうが……
(酸で塗装が剥げてきたことにようやく気付いて焦り)
……すいません、なるべく飛散させないよう倒していただけますか!?
果敢に災魔の群れに挑む学生と、それをフォローしながら主力として戦う猟兵。彼らの連携はネバメーバの群れを圧倒していた。
だが追い詰めればそれだけ敵の反撃は激しさを増す。そして勝ちの目が見えてきた時ほど、人の気は緩みやすいものだ。詰めを誤って学生たちが思わぬ被害を被らないよう、最前線で味方の戦線を支える猟兵がいた。
(このスライムは下手に攻撃すると飛散した酸で学生達にも被害が及びそうですね)
そう判断したトリテレイアは今回、自ら進んで攻撃するのではなく防御に徹して、学生への被害を抑えることに専念していた。
重質量大型シールドを構えて、ネバメーバの前に立ち塞がる。敵が酸の肉体を飛散させたタイミングで【無敵城塞】を発動させると、味方に下がるよう合図を送る。
通常の金属程度であれば容易く溶かす災魔の強酸も、守りを固めた彼の前には通じない。トリテレイアの巨躯と大盾がカバーする後方は、この戦場で最も信頼できる安全地帯だった。
「今です、攻撃を」
「はいっ!」
酸の飛沫が止んだタイミングで再び合図を送ると、トリテレイアの陰に隠れていた学生たちが姿を現し、各々の武器や魔法でネバメーバに集中攻撃を仕掛ける。
戦いが始まってからのこの短い間に、学生たちはもうネバメーバとの戦い方を学習していた。複数人での連携や、物理攻撃の効き辛い相手への対処法といった、猟兵からのアドバイスもしっかり教訓にしている。
猟兵と協力して強敵に挑むこの戦いは、彼らの大きな成長の糧になったようだ。
「……することが無いですね」
順調に敵の数が減っていくのを確認しながら、トリテレイアはぽつりと呟く。いや、実際にヒマなわけではない。こうしている間も彼は直立不動で【無敵城塞】を発動させ、相次ぐ敵の攻撃から味方を守り続けているのだから。
盾だけでは防ぎきれないような激しい酸の雨には、頭部に格納した機銃を展開し、鉛の弾幕を張って撃ち落とす。範囲攻撃に対する備えも抜かりはない。
ただ、それ以外――特に攻撃に関しては自分が手を出すまでも無いほど、戦線が安定しているのも事実だった。
「それだけ学生達が優秀という証左なのでしょうが……」
――だが、そこで彼ははっと目のセンサーを発光させる。すべては順調、そう思い込んでいた自分がずっと見落としてきた、途轍もない窮地に。
「迂闊でした……なぜこうなるまで気付けなかったのか……!」
機械騎士たるトリテレイアの姿を形作る象徴的な、優美な白の装甲と大盾。その塗装が――剥げかかっている!
たとえダメージは皆無であっても、戦闘の開始からこれまでに何十何百と浴びた酸の雫は、じわじわと彼の装甲を蝕んでいたのだ。
――いや、それでもようやくちょっと塗装が剥げた程度なのだが。
「……すいません、なるべく飛散させないよう倒していただけますか!?」
「えっ? いや先輩、ぜんぜん平気そうですけど……」
初めてトリテレイアの焦った声を聞いた学生たちは、何事かときょとんと首を傾げたものの、ともかく言われたとおりにしてみる。
酸の飛び散りやすい武器攻撃は控え、炎で燃やす、もしくは冷気で凍らせるといった手段でネバメーバの無力化に専念。
鉄壁のトリテレイアと、臨機応変な対応力も身に付いてきた学生たちの奮闘の甲斐もあって、戦いの被害は(塗装含め)最小限に抑えられたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
トール・ペルクナス
なかなかどうしていつも若人の輝きは素晴らしい
これは私も雷電の輝きを見せなければな
実験室で大規模攻撃をするのもマズい
ここは速度を活かすことにしよう
【空中戦】の要領で室内を飛び回り
両手に持った電界の剣による【二回攻撃】の【先制攻撃】でアメーバを斬りつけていく
刀身が雷の我が剣ならば酸も関係はない
しかしこのままでは少々威力が足りん
ここは後輩たちの力を借りるとしよう
「雷の魔法を使える者は私へ向けて撃て。心配するな私の実力は先程見せただろう?」
学生たちの雷魔法をUCを発動し電界の剣で吸収
電力を吸収し刀身を巨大化させた電界の剣に私自身の【属性攻撃:雷】も加え
周囲のアメーバを【範囲攻撃】で薙ぎ払う
戦いの趨勢は決しつつあった。猟兵の力と、それに肩を並べようと奮戦する学生たちの力によって。
「なかなかどうしていつも若人の輝きは素晴らしい」
個々の力では決して猟兵には及ばないが、互いに力を合わせ、未熟さを勇気と情熱で補って、果敢に強敵へと立ち向かう。その光景に満足げな声を漏らしたトールの身体が、電界の剣と共に宙に浮かび上がる。
「これは私も雷電の輝きを見せなければな」
その身に雷光を纏えば、彼は一条の稲妻のごとく宙を翔け、残された災魔の駆逐すべく動き出す。
「実験室で大規模攻撃をするのもマズい。ここは速度を活かすことにしよう」
室内を自在に飛び回るトールは、追随する電界の剣から両手に二振りを構えて、上空よりネバメーバに斬り掛かる。
鮮やかな光の軌跡を描いて、雷の刃が災魔を断つ。そして飛び散った肉片が降り注ぐ前に急速離脱。一滴で肉を焼く強酸の雫は、彼のマフラーの端にすら届かない。
触れるたびに通常の武具を腐蝕させる強酸性のボディも、刀身そのものが雷電で構成された彼の剣には関係のないことだ。
「すごい……」
学生たちの口から思わず感嘆の声が漏れる。彼らの視力ではトールの動きはとても追い切れず、凄まじいスピードで雷光が翔け抜けたかと思えば、周囲の災魔が消し飛んだようにしか見えなかった。
雷速で災魔を圧倒するトールだったが、このままでは少々威力不足を感じていた。
まだこの先に事件の元凶が控えている以上、だらだらと時間をかけるのは得策ではない。一気に敵を一掃するための決定打が欲しい所だった。
「ここは後輩たちの力を借りるとしよう」
そう判断したトールは全ての学生たちからよく見える高度に滞空すると、電界の剣を天高く掲げながら呼びかける。
「雷の魔法を使える者は私へ向けて撃て。心配するな、私の実力は先程見せただろう?」
自分に向かって攻撃しろという、意図を理解できなければ耳を疑うような指示――だが、学生たちは迷わなかった。この戦いの中で成長した彼らは、トールならば何か狙いがあるのだろうと考え、躊躇うよりも即座に行動すべきだと判断できたからだ。
「全力でいきますよ!」
僅かなりとも雷の魔法を使える者たちは、自らの技量と魔力のありったけを込めた電撃を一斉に放つ。その一瞬、落雷が直撃したかのような閃光が実験室を真っ白に染め上げ――その中心でトールは静かに目を細めた。
「―――その雷、使わせてもらう」
ユーベルコード【避雷針】。電界の剣に搭載した電力吸収機構が、学生たちの雷魔法を吸収していく。
剣に取り込まれた莫大な電力によって、雷光の刀身は巨大化し。その輝きはまるで星のように戦場を明々と照らす。
「これで終わりだ。雷電の輝き、その身に刻め」
学生たちの雷の魔力に自らの電力も上乗せし、自身の身の丈よりも巨大に膨れ上がった電界の剣を、一閃。
戦場を薙いだ光の大刃は、生き残っていたネバメーバの群れを一瞬の内に蒸発させ――後には焦げた異臭と静寂だけが残る。
そして遅れて轟いたのは、勝利を祝い讃える学生たちの、割れんばかりの喝采だった。
大成功
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第3章 ボス戦
『イグニス・インヴィディア』
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POW : 生ある者へのルサンチマン
自身が戦闘で瀕死になると【巨大な炎の渦】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 心焼き尽くす嫉妬の焔
レベル×1個の【青白い人魂】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ : 緑色の大罪
【瞳から嫉妬の感情で心を蝕む緑色の光】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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最後のネバメーバが倒され、戦場となった実験室に静寂が戻ってくる。
あれほど膨大な数がいた災魔の群れは、ついに一匹残らず駆逐されたのだ。
「やった、やった!!」
「勝ったぞー!!」
猟兵たちと力を合わせて、自分たちの学園を守ったのだという事実を胸に抱き、喜びに沸き立つ学生たち。
しかし猟兵たちは臨戦態勢を解いてはいない。研ぎ澄まされた彼らの直感は、まだ終わっていない、と告げていた。
「――ああ、煩い、煩い。妬ましいったらありゃしないわ――」
歓声が響き渡る中、その気配は実験室の奥の闇から、ぼうっと揺らめく青白い炎と共に顕れた。
一見すると透き通った少女のような姿をした人影。しかし良く見るとそれは青白い炎によって形作られている。
イグニス・インヴィディア――嫉妬の炎。満たされぬ想いを抱えながら没した女の無念が、現世を彷徨う姿とも伝えられる、世界各地に見られる鬼火伝承の一種だ。
「どいつもこいつも、楽しそうに笑っちゃって。こんな学園、壊れてしまえばいいのよ――!!」
じっとりと嫉妬に濁った緑色の瞳で学生たちと猟兵を睨みつける少女。その叫びに呼応するように、幾つもの青白い人魂が周囲を漂い始める。
この少女こそ、学園内に災魔を発生させていた元凶――学生たちも肌で感じたようだ。この災魔はこれまで戦ってきたスライムやアメーバなどとは、格が違う。
「……私たちはここまでみたいです。どうか皆さん、ご武運を……!」
力の差を悟り、猟兵たちの足手まといにならないように後退していく学生たち。
「逃がすもんですか……あんたたち全員焼き尽くしてあげるから!!」
青白い炎を昂ぶらせて、鬼火と共に襲い掛かるイグニス・インヴィディア。
学園を巡る猟兵たちの戦いは、遂に決戦の時を迎えるのだった。
フィロメーラ・アステール
「とうとうボスのお出ましかー!」
スライム達より力は強いみたいだけど!
内心がダダ漏れだぜ!
【内なる星海の羅針】を発動だ!
念動……いや、受信と共感を重視した【第六感】のテレパシーで!
思考と感情を【盗み】見て、行動を予想するぞ!
動きがわかれば後は簡単!
【空中戦】テクに物を言わせて空中【ダンス】の相手をするだけ!
ムキになって炎操作してくるなら曲芸飛行【パフォーマンス】を交えて意識を逸らし、スキを作るぜ!
操作を止めるなら、支援をする余裕ができる!
【火炎耐性】の【オーラ防御】バリアを飛ばしたり!
【破魔】の閃光を放って【目潰し】を仕掛けたり!
【念動力】の【衝撃波】で体勢を崩したり!
状況に応じて使い分けるぞ!
トール・ペルクナス
嫉妬か……見苦しいな
そんな貴様の一感情で若人の学び舎を燃やされてはたまらん
妬むのならば独りでやれ
戦闘開始と共にUCを発動
雷電となりて教室を【空中戦】の如く飛び回る
迸る雷電の【先制攻撃】でまずは相手の動きを奪おう
「雷VS炎か……」
炎相手に雷では効果が薄かろう
であれば後は単純な力押しだ
電界の剣を両手に携え【属性攻撃:雷】を纏った雷刃で【二回攻撃】
たまにはこういうのもいいだろう
飛来する人魂を二刀の乱舞で斬り落とす
そのまま相手の身体を斬りつけ炎を散らしていこう
なに、少しずつで構わんさ
「いつかは届く!」
斬り続けながら迫る攻撃は籠手で【武器受け】
最後は【力溜め】した突きをお見舞いしてやろう
「嫉妬か……見苦しいな。そんな貴様の一感情で若人の学び舎を燃やされてはたまらん」
災魔の動機を一蹴し、開戦と同時にトールが発動したのは【雷電王】。その身は眩い雷電と化し、重力の軛から解き放たれる。両手に携えるのは二本の電界の剣。
「妬むのならば独りでやれ」
翔ける雷光。それと同時に飛び出したのは、星の輝きを宿す妖精フィロメーラ。
「とうとうボスのお出ましかー!」
例えこれまで以上の強敵が相手だろうと、彼女の笑顔に陰りなく。為すべきことは変わらない。戦いに臨む者たちを応援し、支え、全力でサポートすることだ。
「先手は貰うぞ」
雷速にて距離を詰めながら、トールは全身より迸る雷電をイグニスに向けて放つ。
これまでに現れた下級災魔であれば一撃で屠れるだけの電力。しかし少女は軽く顔をしかめた程度で受け耐えた。
「眼の前でキラキラピカピカと――それが妬ましいって言うのよ!」
戦場を翔ぶ雷光と星光。その輝きは彼女の嫉妬を掻き立てるに十分だったらしい。
最初の標的をトールとフィロメーラに絞ったイグニス・インヴィディアが放つのは【心焼き尽くす嫉妬の焔】。青白く燃える無数の人魂が、彼女の情念に呼応するかのように二人に襲い掛かる。
「雷VS炎か……」
飛来する人魂を電界の剣で斬り落としながら呟くトール。肉体そのものが炎で構成された相手に、単純な電撃のみでは効果が薄いようだ。
であれば彼に打てる手は単純な力押しのみ。しかし次から次に押し寄せる人魂の炎は、接近する隙を彼に与えない。
「ここはあたしに任せなー!」
そこで颯爽と囮役を買って出たのはフィロメーラ。彼女はテレパシーの粋まで研ぎ澄まされた第六感を以て【内なる星海の羅針】を発動する。
「スライム達より力は強いみたいだけど! 内心がダダ漏れだぜ!」
受信と共感を重視したテレパスの力で、敵の思考と感情を盗み見る。そうすれば攻撃が飛んでくる軌道やタイミングを予測するのも容易い。
『ああ妬ましい妬ましい死ねばいいのに燃えろ燃えろ全部灰燼に成り果てろ!!』
――それは同時に、現実の炎よりも激しく燃え滾る少女の心情を垣間見てしまうことでもあるが。その程度のことで妖精の輝きは陰らない。
「動きが分かれば後は簡単! ほらほらこっちだぞー!」
ひらりひらりとダンスを踊るように、華麗な身のこなしで空中を飛び回り、炎の人魂を回避していくフィロメーラ。ドヤァ、と得意げな笑みを浮かべながら相手を手招きし挑発するのも忘れない。
嫉妬深く感情的な鬼火の少女は、呆気ないほどあっさりとその挑発に乗った。
「このっ、チョロチョロと虫みたいに……!」
炎の操作に集中して、ムキになって妖精を追い回すイグニス。対するフィロメーラはアクロバティックな曲芸飛行も披露して、さらに敵の注意と攻撃を己に集中させる。
――そこに生じる隙をトールは見逃さない。戦場に雷鳴を轟かせ、雷電そのものとなった彼は一気に標的の懐まで肉迫する。
「しま……っ!」
フィロメーラ一人に気を取られる余り、他への注意が疎かになっていたことをイグニスが自覚した時にはもう遅く。振るわれた雷刃は少女の肉体を斬り裂き、青白い火の粉が血飛沫のように舞い散った。
「たまにはこういうのもいいだろう」
電界の剣による二刀流スタイルを取り、目にも留まらぬ乱舞で攻め立てるトール。その身から迸る電撃を剣に纏わせ、増強された雷の刃が炎を斬り払う。
近接戦闘が得手ではないらしいイグニスには、雷刃を躱すほどの体術の心得はない。しかし彼女の炎は何度散らされようとも、すぐにまた再燃する。
「この程度の攻撃じゃ、あたしの炎は消せないわよ!」
「なに、少しずつで構わんさ。いつかは届く!」
一太刀がもたらすダメージが微小でも、何十と刻めば大きなダメージとなる。
少女の体力も炎も無尽蔵ではないだろう。必ず限界が来ることを信じて剣を振るい続けるトールを、忌々しそうにイグニスは睨み。
「絶対に諦めない、って顔ね――そういうのが、一番ムカつくのよッ!」
その怒りに呼応するように、イグニスの頭上に集結していく人魂の炎。それは一つの巨大な火球と化して、トールを焼き尽くさんと襲い掛かる。
トールの速度であれば躱すこともできる。しかしここで距離を取ってしまえば、また一から間合いの詰め直しだ。
ならば、この攻撃はあえて受け止める――覚悟を決めて両腕の機械籠手で防御の構えを取ったトールを、青白い炎が包み込んだ。
「やった――!」
渾身の一撃が直撃した瞬間、イグニス・インヴィディアは自らの勝利を確信する。いかに猟兵と言えども、一点収束した嫉妬の炎の熱量に耐え切れるものではないと――だが、彼女の確信はその直後に裏切られる。
雷刃によって炎を斬り払い、その中から姿を現したのは今だ健在のトール。火球を受け止めた機械籠手の表面は焼け焦げ、全身にも軽度の火傷が見られるが、その瞳に宿る意志の輝きに陰りはない。
「一体、どうやって耐え――」
「私一人では、あるいは危うかったかもしれないが」
「ギリギリ間に合ったな!」
火の粉を払う彼の身体は、よく見ればキラキラと輝く光の粒子に包まれている。この粒子が火炎を遮るバリアとなって、火球のダメージを軽減したのだ。
粒子を放った主はフィロメーラ。イグニスがトールへの攻撃に全火力を集中した結果、今度は彼女がフリーとなり、支援を飛ばす余裕が生まれていた。
「クソ……ッ!」
少女の表情に焦りが浮かぶ。凌がれることを想定していなかったために、今の攻撃で人魂を使い切ってしまった。そして彼女が新しい人魂を召喚するまでの時間を、目の前の相手が待つはずが無い。
「貴様の嫉妬はここで終わりだ」
好機を掴んだトールは再び電界の剣を構え、ありったけの電力を籠めていく。雷電を纏って一回り巨大化した雷刃は、嫉妬の炎をかき消すように明々と輝く。
「まず……っ!」
「おっと、逃さないぞ!」
チャージが完了する前に剣の間合いから逃れようと後退する少女に、フィロメーラが放つは星の閃光。破魔の力を宿した光が、嫉妬に濁った災魔の瞳を灼く。
目潰しを食らった少女の体勢が崩れたまさにその瞬間、全電力を収束させたトールの渾身の刺突が放たれ――雷光の剣閃が少女を貫き、嫉妬の炎を吹き飛ばす。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
戦場に響く少女の絶叫。その炎の熱量は、出現時よりも大幅に弱まっている。
雷光の騎士と星光の妖精の連携は、災魔の力を着実に削り取っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
嫉妬の炎と涙が滲んだ緑の目……
生ある者が妬ましい、ですがその炎で全てを燃やし尽くされるわけにはいきません
騎士として、全力で阻止させていただきます
飛来する炎は●怪力で振るう剣で打ち払い(●武器受け)
緑光は●盾受けで防ぐなどして仲間を●かばいます
炎の渦が召喚されたなら被害を抑え、止める為あえて中心に飛び込みます
ダメージは自身を●ハッキングして無理矢理無視
命の輝きが妬ましい
ですが妬ましいと感じているほど、貴女の目には眩く美しい物として映っているはずです。それを壊せば貴女の心すら壊してしまいます
どうかその輝きを消すのではなく、優しく照らしてはくれませんか
ハンカチは噛むものではなく、涙を拭うものですよ
英・明夜
自分の周りを居心地良くしたいなら、自分が変わらなくちゃ。
気に食わないからって壊してばかりなのは、自分を一番、苦しめることになるんだから!
まずは、「天地鳴動神鼠一匹」!
神鼠様をお呼びして、背に乗せて頂いたら、ちょこまか移動して、狙いを定め難いようにするね。
何でも妬ましいみたいだから、明夜と神鼠さまが力を合わせて戦っていれば、
もっと逆上して、技の制御とか、出鱈目にならないかな?
第六感や視力で攻撃を見切ったり。上手く避けて近付けたら薙刀で突く!
他の傭兵と連携できるなら、こっちに狙いを集中させられるようにするね。
本命の攻撃はお任せして、移動しながら霊符を投げたり、後ろに回り込むような動きで気を引くよ!
フレミア・レイブラッド
あら?悪いけど、手は出させないわよ。可愛い後輩達ですもの♪
【念動力】の壁で学生達へ向かうのを阻み、こちらへ注意を向けさせるわ
【属性攻撃】で槍に氷と水の魔力を纏いつつ、攻撃を【見切り、第六感、残像】で回避、切り払い接近。
魔力を纏った魔槍【怪力、早業、残像、串刺し】を叩きつけ、追い詰めつつ、最後に【吸血姫の覚醒】を発動。
格の違いを見せつけ、学園に手を出した落とし前をつけつつ、魔力を集中させた全力の魔槍の一撃で仕留めるわ!
一件落着ね。そういえばお昼時だったわね…リリィ、近くにお勧めのお店とかあるかしら?
解決祝いに食べに行きましょ♪最近の話も聞きたいしね。
みんなもいらっしゃい。わたしが奢ってあげるわ♪
ヴィサラ・ヴァイン
妬ましい…か
ん、なら【緑色の大罪】を正面から受けて立つよ…ああ、この感じ知ってる
嫉妬してる時って、本当に辛いんだよね
悔しいとか、悲しいとか、イライラするとか、色々な感情が綯交ぜになって…ああとにかく酷い味
でも、それで立ち止まる程ゴルゴンはやわじゃない
自ら湧き出る感情も、イグニス・インヴィディアの嫉妬心も、全部【頂点捕食者】で喰らって力に変え、肉体も魔力も再生するよ
[恐怖を与える]事で力を増した《魔眼『コラリオ』》で【メドゥーサの魔眼】を発動するよ
…そういえば私も瞳を使うUCなんだよね。案外似た者同士?
貴女にも、その『嫉妬』さえも好きって言ってくれる人が居たなら、もっと違う未来があったのかもね
「うぅ……痛い……妬ましい……何もかも妬ましいわ……」
ふらふらと空中をよろめきながら漂うイグニス・インヴィディア。炎の肉体ゆえに外傷からは判断し辛いが、相当のダメージを負っているのは確かだ。
しかし、彼女の内より燃え上がる嫉妬の炎は収まる気配を見せず、寧ろ窮地に陥ったことで更に激しさを増しているように感じられた。
「友達と一緒に勉強して、遊んで、仲間と一緒に冒険して、戦って……笑いあったり、喜びあったり……楽しそうに生きているやつらが、みんなみんな妬ましい! だからみんな燃やし尽くして、ブチ壊してやるんだからッ!!」
血を吐くような絶叫と共に、青白い人魂を召喚する少女。
――嫉妬に燃えるその緑の目に滲む涙を、トリテレイアは見逃さなかった。
「生ある者が妬ましい、ですがその炎で全てを燃やし尽くされるわけにはいきません」
動揺しなかったと言えば嘘になるだろう。しかし今、彼はその背に守るべきものを――この学園を謳歌する学生の命運を背負っている。ならば為すべきことは唯一つ。
「騎士として、全力で阻止させていただきます」
この身は災禍を防ぐ守護の盾――騎士としての誓いを鋼の心臓に秘めて、機械人形は炎の前に立ちはだかる。
「自分の周りを居心地良くしたいなら、自分が変わらなくちゃ」
それと並んですっと前に出たのは明夜。曇りのない金の瞳で炎の少女をまっすぐに見つめる彼女は、びしりと指を突きつけながら告げる。
「気に食わないからって壊してばかりなのは、自分を一番、苦しめることになるんだから!」
それは人助けの旅の中で、多くの涙と悲しみと、その理由を見つめてきた彼女だからこそ言える言葉。
これ以上の苦しみを広げないために、明夜はぎゅっと薙刀を握りしめる。
「同情に、お説教のつもり? 何も知らないヤツらが、偉そうにッ!」
オブリビオンと成り果てた少女に、猟兵たちの想いと言葉は届かない。逆上したイグニスは召喚した嫉妬の人魂を一斉に放つ。
トリテレイアは儀礼剣を振るって自らに飛来する炎を打ち払い、明夜は【天地鳴動神鼠一匹】を発動。召喚された神鼠に飛び乗って、機敏な動きで炎を回避する。
「神鼠様、宜しくお頼みします!」
明夜の請願に応えるようにちゅう、と鳴いた神鼠は、降り注ぐ炎の狙いを定められないよう、ちょこまかと戦場を駆け回る。
「すばしっこいわね、こいつ!」
縦横無尽な挙動に翻弄されるイグニス。その隙を突いて神鼠は敵の懐に飛び込むと、騎乗している明夜が薙刀の刺突を放つ。
「やあっ!」
「くっ……!」
破魔の霊力を帯びた刃が少女を切り裂き、火の粉が散る。巫女と神鼠の見事な連携を見せつけられたイグニスは、またも嫉妬の炎を燃え上がらせ。
「そーゆーの、見せつけるんじゃないわよっ!!」
もはや何にでも妬ましさを覚える状態のイグニス。昂ぶった感情は彼女の火力を増大させるが、反面技の制御や狙いは荒くなる。
「そんなの当たらないよ!」
執拗に襲い掛かってくる嫉妬の炎をひょいひょいと見切りながら、明夜は反撃の霊符を投げつけ、中距離からじわじわとイグニスのダメージを蓄積させていく。
明夜と神鼠の狙いは敵の攻撃を自分たちに集中させて、仲間の攻撃のチャンスを作ること。そのために彼女たちは付かず離れずの距離を保ちながら、敵の気を引き続ける。
「このっ、ちょこまかと……だったら、こいつも避けてみなさいよ……!」
炎では明夜たちを捉えられないと判断したイグニスの瞳が、緑色の光を放つ。
嫉妬の感情によって標的の心を蝕むユーベルコード【緑色の大罪】。"視界"と"光"という性質上、一度範囲内に入ってしまえばこの攻撃を避けることは困難であり、危機を察知した神鼠が退避しようとしても間に合わず――。
しかしその瞬間、横合いからばっと飛び出した一人の少女が、彼女たちを庇って嫉妬の光を浴びた。
「何っ!?」
イグニスにとっても予想外だった乱入者の正体はヴィサラ。正面から【緑色の大罪】をその身で受けて立った彼女の心に湧き上がるのは、身を焦がすような昏い炎。
「妬ましい……か。……ああ、この感じ知ってる」
それは、ヴィサラにとっても覚えのあるものだった。例えば、大切な人が他の誰かと楽しく過ごしているのではないか――そんな想像をした時にふと感じる胸の痛み。
今、眼の前の敵から感じるものは、その時の感覚とひどく似ていた。
「嫉妬してる時って、本当に辛いんだよね。悔しいとか、悲しいとか、イライラするとか、色々な感情が綯交ぜになって……ああとにかく酷い味」
胃がひっくり返りそうなむかつきを覚えながらも、ヴィサラは前を向く。自分自身から湧き出る感情も、炎の少女が放つ嫉妬心も、全て喰らって力に変える。それが【頂点捕食者】たる彼女の能力だった。
「な……なんで動けるのよ
……!?」
驚愕の表情を浮かべたのはイグニス。嫉妬の権化である彼女は、嫉妬がもたらす辛さも苦しさも誰よりも理解している。だからこそ【緑色の大罪】を受けて極大の嫉妬心に蝕まれているはずのヴィサラが戦意を喪失しない理由が分からなかった。
「貴女にも、その『嫉妬』さえも好きって言ってくれる人が居たなら、もっと違う未来があったのかもね」
それがヴィサラの立ち止まらない理由。共に歩んでくれる大切な人がいるからこそ、彼女は嫉妬を受け入れて前に進むことができる。
だが、その理由はイグニスには――"過去"に囚われた亡霊には、決して理解できないものだ。
「何よそれ……わかんない……わかんないわよ、あんたの言ってることは!!」
自らの理解を超えたもの、それは即ち恐怖に通じる。恐れを抱いてしまった少女に向けてヴィサラが放つのは、万物を石化させる【メドゥーサの魔眼】。
嫉妬と恐怖を糧にして力を増した魔眼は、実体の無い炎すらも石化させていく。
「なっ……なによこれぇっ!?」
絶叫するイグニスをじっと凝視しながら、ヴィサラはふと思ったことをポツリと呟く。
「……そういえば私も瞳を使うユーベルコードなんだよね。案外似た者同士?」
そうは言っても、過去の亡霊たるイグニスと、未来へ向かうヴィサラの生き様は、どこまでも対照的だったが。
「学園に手を出した落とし前はつけてもらわないとね」
半身を石化させられ、動きの鈍ったイグニスに挑み掛かったのはフレミア。その手に構えた真紅の魔槍には、嫉妬に炎に対抗する氷と水の魔力が纏わされている。
「く……っ、来るなぁっ!!」
思うように動かない身体を引きずるイグニスは、新たな敵に向かって人魂を放つ。しかしフレミアは残像を描きながら流れるような身のこなしで炎を躱し、魔槍で人魂を切り払っていく。
「明夜たちのことも忘れないでね!」
「ッ!?」
不意に敵の視界の端をかすめるように駆け抜けたのは明夜と神鼠のコンビ。そのまま背後に回り込む動きを見せた彼女たちを思わず目で追ってしまったことが、イグニスの失策だった。
「あら、よそ見はいけないわね!」
敵が明夜たちに気を取られた一瞬のうちに、フレミアは槍の間合いに踏み込んでいた。目にも留まらぬ早業で閃いた魔槍の穂先がイグニスを貫き、氷と水の魔力が炎の肉体と相殺する。
「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ
!?!?」
まるで獣のような叫びが少女の口からほとばしる。それは紛れもなく彼女の命に届く一撃だった。
「これで終わりかしら。少し物足りないけれど――」
このまま一息に決着をつけようと、魔槍に力を込めた瞬間――至近距離で膨れ上がる熱量を感じ、フレミアは咄嗟に魔槍を引き抜いて飛び退く。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ
!!!!!!」
その直後、叫び続けるイグニスの身体から迸ったのは、これまでにないほど巨大な嫉妬の炎の渦。それは少女の最後の切り札――【生ある者へのルサンチマン】。
瀕死にまで追い詰められて初めて発動するこの力は、彼女が死ぬか、全てを焼き尽くすまで収まることはない。
炎の渦は少女を中心としてたちまち戦場全域へと燃え広がり、猟兵たちに――さらには安全圏まで後退していたはずの学生たちにまで襲い掛かった。
「きゃぁぁぁっ!?」
まるで洪水のように押し寄せた業火を前に、悲鳴をあげる学生たち。その熱量は、彼らの実力で耐え凌げるレベルを遥かに超えている。
彼らと仲間を守るために瞬時に判断し行動に移れた猟兵は二人。フレミアとトリテレイアだった。
「あら? 悪いけど、手は出させないわよ。可愛い後輩達ですもの♪」
「全力で阻止させていただくと言ったはずです」
フレミアは学生たちの周囲に念動力の防壁を張り、トリテレイアは大盾を構えてその身を仲間たちのための防壁とする。二人が炎を阻んだことで、他の猟兵と学生たちはほとんど被害を受けることなく、炎の渦から距離を取ることができた。
しかし、このままでは防戦一方だ。イグニスを中心に渦巻く炎はなおも勢いを増し続けており、このままではいつか耐え切れない時が来る。
「……行くしかありませんね」
トリテレイアは覚悟を決める。彼はこの炎を止めるために、あえて火の海と化した戦場の中心に飛び込んだ。
いかに頑丈なボディを誇るウォーマシンでも、この業火の熱量はその耐熱限界を超えている。危険を訴えるアラートが脳内で鳴り響くが、トリテレイアは自分自身にハッキングをかけて警告を黙らせ、ダメージを無視する。
「あぁぁぁぁ……っ、来るなぁっ!!」
炎に焼かれながらも一歩一歩、中心へと近付いてくる敵を見たイグニスは、怯えたように緑の閃光を放つ。
嫉妬をもたらす眼光を、大盾で遮って。ついに彼女の元までたどり着いたトリテレイアは――その前ですっと膝を付く。相手との目線を合わせるために。
「――え?」
攻撃が来ると思い身構えていた少女は、予想外の行動に戸惑う。そのままトリテレイアは剣を納めると、穏やかに彼女に語りかける。
「命の輝きが妬ましい。ですが妬ましいと感じているほど、貴女の目には眩く美しい物として映っているはずです。それを壊せば貴女の心すら壊してしまいます」
彼が信じたのは、少女の心の奥底に眠る善性。世界の美しさを知らない者は、嫉妬を抱くこともない。オブリビオンと成り果てた今でも、命の輝きを愛する純粋な想いが、まだ欠片でも残っているのなら――。
「どうかその輝きを消すのではなく、優しく照らしてはくれませんか。ハンカチは噛むものではなく、涙を拭うものですよ」
そう言ってトリテレイアは兜の奥のセンサー光を揺らめかせる。まるで優しく微笑むかのように。
「――あんた。まさか、それを言うためにここまで……?」
「騎士として当然のことをしたまでです」
唖然とした――あるいは呆れたようなイグニスの問いに、トリテレイアはきっぱりと答える。たとえ敵だろうと、どれだけ不利な行動だろうと、少女の涙を拭わぬ者に騎士を名乗る資格があるものかと。
「…………ヘンなやつ」
少女は小さく苦笑を浮かべる。余りにもブレない"騎士"の行動に、思わず毒気を抜かれてしまったように。
それと同時に周囲の炎の勢いが弱まっていく。本体であるイグニスの嫉妬心が薄らいだことで、炎の渦の力も衰えたようだ。
「話は終わったみたいね」
そこに――勢いを失った炎の渦を吹き飛ばして、真の力を解放したフレミアが現れる。
【吸血姫の覚醒】を果たした彼女は先程までとは外見も内面もまるで違う。背中には4対の真紅の翼が生え、容姿や身長も17、8歳程に成長。そして内より溢れ出る爆発的な魔力が、周囲の空気をビリビリと震わせていた。
「……なによ。さっきまで本気じゃなかったってワケ? まったく妬ましいったらありゃしないわね」
一目で"格の違い"を悟ったイグニスは皮肉げな笑みを浮かべながら、その頭上に人魂を集束させる。
――彼女はオブリビオン。失われた過去の残滓であり、不変の存在。トリテレイアの言葉が彼女を嫉妬から解放したとしても、それはほんの一時のことに過ぎない。
勝てないと悟っていても。無意味だと分かっていても。彼女にはこの感情を叩きつけることしか出来ない。
「ああ、妬ましい、妬ましい、妬ましい……この想い、全部、持っていけッ!!」
放たれた巨大な人魂は、正真正銘、イグニス・インヴィディアの最期の一撃。
今のフレミアならばそれを避けることは容易だったろう。しかし彼女はあえてその一撃を正面から迎え撃つ。
「格の違いを見せつけてあげるわ。これで最後よ!」
迸る魔力を集中させた魔槍による、全力を込めた一撃――吸血姫の膂力と速度を加えた神速の刺突は、嫉妬の人魂を弾け飛ばすと、そのままの勢いで炎の少女を貫く。
「――ほんとうに、妬ましい。でもちょっとだけ、羨ましいわ、あんたたちのこと」
それが、学園に災魔をもたらした亡霊、イグニス・インヴィディアの最期だった。
炎が消え、同時に災魔の気配も消える。
戦いの終わりを悟ったフレミアは魔槍を納めながら、見守っていた学生たちに微笑みかけた。
「一件落着ね。そういえばお昼時だったわね……リリィ、近くにお勧めのお店とかあるかしら?」
「え? ええっと、それじゃあフレミア先輩と最初に出会った喫茶店とか……」
急に尋ねられた赤髪の女学生が、びっくりしつつも答える。いいわね、と笑みを深めたフレミアは他の学生や猟兵たちにも呼びかけ。
「解決祝いに食べに行きましょ♪ 最近の話も聞きたいしね。みんなもいらっしゃい。わたしが奢ってあげるわ♪」
「明夜もいいの? じゃあ神鼠様にも捧げ物をね!」
喜色を満面にしてその話に飛びついたのは明夜。戦闘中ずっと駆け回っていた神鼠はすこしお疲れのようだが、捧げ物と聞いて心なしか嬉しそうにも見える。
「じゃあ私も……」
人見知りのヴィサラは、ギリギリ声が聞き取れる程度にこっそりと便乗。そこに他の学生たちも我も我もと加わっていく。
「あなたはどうするかしら?」
「私は、もう少しここに居ることにします」
トリテレイアは少女が最期にいた場所に佇むと、センサー光を伏せて黙祷する。
供える物は無かったが、せめて彼女が骸の海で安らかに眠れることを願って。
――こうして、学園に突如として出現した災魔襲撃事件は幕を閉じた。
学園の平和を守った猟兵と学生たちの祝勝会は、それはそれは賑やかで、盛大なものだったという。
大成功
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