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客神異聞~苗床

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 おとなは皆、『かみさま』を喚びたがっていた。
 悲願なのだと云う。それを為し遂げるのが我ら血族に課せられし、尊き宿願なのだと云う。誰がそれを授けたのと尋ねると、旧き昔にかみさまがそう仰せになったのだと母は説いた。
 おとなは皆そう云っていた。こどももそれを疑わなかった。我らは神を喚び下ろす為に存在し、喚ばれし神はこの世を知ろし食した後、遍くすべてを篩に掛けられ、選ばれしものと共に新たな世界をお創りになる。成し遂げられた後、我らは新世界を先導するものとなるのだ。
 そういう家だった。それが基盤で土台で、どうしようもない苗床だった。
「喚び奉る為の、形代が必要だ」
 ある日血族の子らがひとところに集められ、御年九拾六になられた御当主様はそう仰った。
 何でも、最近この邸に出入りをし始めた商人が、とても『よいもの』を齎したらしい。御当主様はそれを甚く気に入られ、我ら血族の子らの為に、大枚をはたいてそれを御手許にご用意なさった様だ。
 こどもはそう多くはないが、少なくもない。全員に――が配られ、御当主様は嗄れた声で厳かに囁く。
「神の隨に我らは生きる。さあ、驗せ」
 ――とは、言ってしまえば――――を可能にする為の人為的な手段だ。
 けれどこれには――――が在るから、誰しもが――――が可能な、御当主様の言葉を借りるのならば『形代』になれる訳ではないらしい。
 こどもたちは皆、それを――――で直ぐに苦しそうに呻き、吐き戻し、畳の部屋を好き放題に汚し始めている。わたしは。大丈夫だ。
 おお、と御当主様がちいさな眸を見開いてわたしの前によぼよぼと進み出る。おお、おお、なんと、――したと云うのか。そなたなのか。
 別室に連れられ、わたしには更に――が與えられ、拒む権利など在ろう筈もない。
 段々怖くなってくる。このまま――を――続けたら、『わたし』はどうなってしまうのだろう?
 怖い。考える暇なくわたしには――が與え続けられる。泣いて乞うたが許して貰えなかった。おとなたちは神を喚べると信じていた。わたしは神になる。なってしまう。させられる。
 そのうちうまくかんがえられなくなってきて、けれど動けるうちに逃げだそうとおもって、食餌の隙を突いて逃げ出した。当然連れ戻されて、にげなければよかったとおもえるくらいの折檻を受けた。
 腕を折られ足を折られ、神の母体或いは苗床として、ただただ――に――を與えられる。もうだめ、ひとのことばが、――――が、――きれい、――――。
 ころして。

 ――やあ、巧くお育てになりましたねえ、データは充分取れそうです。
 いやいや然し、ちょっと『人』の儘で入れすぎましたかね。余計な感情なんかが一欠片でも残っておりますと、この様に暴走するんです――あれ、お伝えしておりませんでしたか。
 嗚呼でも申し訳御座いませんお客様! 僕もこの説明、ちょっと遅かったですねえ。
 このお邸、もう僕のお話を聞ける状態のお人、いらっしゃいませんものねえ。


「UDCアースの、日本だな。――山奥の寒村にひとつ、大きな邸が在る。旧い日本家屋で、その周囲の土地含め、爲定と云う一族のものだ」
 集まった猟兵たちを見遣ってから、斎部・花虎はそう切り出す。途端に彼女の背景が、言葉で示されたその土地のものへと移り変わる――データは少し前のものなのだろう、山桜が咲き乱れる、長閑な日本の田舎らしい田舎の風景だ。今は葉桜が瑞々しく翠を誇っているのやも知れない、と誰かが思う。
 邸は一見して広大だ。母屋がひときわ大きく、その周囲に幾つか離れと思しき大小様々な棟が在り、渡り廊下で繋がれている。
「爲定は旧くを辿れば祭祀の家系であったんだが、何代か前から邪神に傾倒していてね。一族郎党巻き込んで、血族ぐるみで邪神崇拝にのめり込んでいる――その復活を、悲願と掲げて」
 UDCアースではよくある話だ。邪神復活を掲げ、同調した信者を手足とし広く活動する教団は多い。その解決は、猟兵たちの仕事のひとつだ――そのようなものだろうかと、居並ぶひとりが予知の先を促す。
 花虎はひとつ瞬いた。
「この爲定家が、過日、全滅した」
 しん、とひとつ水を打った様に静まり返る。
 碧翠の双眸を眇め、花虎は継いだ。
「惨憺たる有様だったそうだ。丁度儀式か何かで、全員がこの邸に集まっていた様でね。老若男女問わず、その全員が隈無く丁寧に殺されていた。……そして、解っているのは此処までだ」
 猟兵のひとりが眉間に皺を寄せる。どういうことだと問う声に、すまない、と花虎は淡々といらえた。
「全容が汲み取りきれなかった。強いて云うなら、被害は未だこの爲定家のみだ。今から向かえば、他の一般人に被害が出るのは防げるだろうよ。そこにどんなに穢いものが、待ち受けていたとしても」
 故に急ぎこの邸に向かって欲しい、と花虎は添えて告げる。
「恐らく邪神は復活しかけている段階だ。これを仕留め、完全なる覚醒を断ってくれ。――……それが多分、望みだろうから」
 最後の声だけはちいさく、そしてひっそりと結ばれた。
 虎色の髪がふわと揺れて、掲げた掌から砕けた硝子が零れ落ちる。碧翠の燐光を得るそれが、かの世界へ猟兵たちを送り出す為に顕になる。
「――そう、もうひとつ」
 ささやかな声色が、それでも確かに猟兵たちを呼び止めた。
「揚がった死体はおとなばかりで、こどもと呼べるものはひとりも居なかったらしい。気に掛けておいてくれ。……救えるか救えないかは、別として」
 送ろう、と華虎は表情の色なくそう括った。


硝子屋
 お世話になっております、硝子屋で御座います。
 ご覧頂き有難うございます、UDCアースでのお仕事です。
 こちらは『客神異聞』シリーズシナリオの第二弾となりますが、第一弾をご存知なくとも問題なくご参加頂けます。

 状況により、プレイングに問題がなくともお返しする可能性が御座います。悪しからずご了承下さいませ。
 また、プレイング受付期間を区切る場合があります。大変お手数ではありますが、マスターページの雑記をご確認頂けますと幸いです。

 ・第一章:爲定邸の探索になります。
 ・第二章:現時点で不明です。
 ・第三章:現時点で不明です。

 !第一章について!
 OP公開後、爲定邸の現状況や探索に関する前提部分を含めた情報提示を行います。(恐らく公開当日の夜になります)
 そちらを御覧頂いた上でプレイングを掛けて頂けますと幸いです。
 また、第一章の冒険パートについてはお一人か、多くともお二人まででの行動を推奨致します。

 それでは、ご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『暗渠を孕む邸』

POW   :    片っ端から扉や家具を調べていく

SPD   :    機動力を生かし間取りや構造の把握に努める

WIZ   :    直感に頼り違和感があるところを探る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●爲定邸
 転送された先は、爲定邸の正門前となる。
 ぐるりと高く白い塀が敷地を取り囲み、目に付く出入り口はその重たげな正門のみの様だ。裏手に回れば別の入口も在るのやもしれないが、そこを探してまで正門を避ける必要も無いだろう。既に根回しが行われ、猟兵たちが動きやすい様に警察の介入が一時的に遠ざけられている。
 正門から一歩踏み入れば、猟兵たちは否が応でもそれに気付くだろう――曰く、拭い切れないほどの血臭、死臭、そんなものだ。
 現場は遺体が回収されている以外、なにひとつ事件発生時と変わっていない、と案内役の女が付け加えていた事を、猟兵たちは思い出す。荒れ果てた室内、撒き散らかされた臓物の痕、夥しい血液の流れた跡、そういったものがすべてそのまま遺っている。
 調べ上げるには充分だろう。

 正門を潜れば鬱蒼と樹々の生い茂る庭が在り、配されている飛び石を渡ればすぐに母屋だ。誰かが開けて逃げようとしたのだろうか、赤黒く変色した手形が幾つか内側から着いており、人ひとり分と思しき血痕が猟兵たちを出迎える。
 上がり框から向こうは、――その殆どが血の海に沈み、見る影もない。廊下、壁、襖、扉、調度品、そのどれもに何かしらの血痕が付着している。無事なものを数える方が早いかもしれない。見つかれば、の話だが。
 母屋の他には恐らく居住区画なのだろう小規模な離れが、渡り廊下で繋がれ、母屋から見て北と東、そして西の計三つ在る。どれも水回りを供えた、暮らすには充分な広さの棟だ。
 敷地内の南西の隅には、納戸にされているらしき小さな棟がひとつ見つかるだろう。

 どれだけ惨たらしい場所で在ろうと、猟兵たちは征かねばならない。
 被害は未だこの邸のみに留まっている。という事は、この惨劇を招いた存在は、まだこの邸のどこかに潜んでいると云う事だ。
 然し単純に呼び掛けたり、何らかの方法で誘き出そうとした所で、『それ』は早々に姿を現したりはしないだろう。巧妙に隠れている筈だ。暴き立てるのが肝要だ。
 死体の見つかっていないこどもたちや、今回の発端となったのは何だったのか、介在しているものが何か在りはしないのか――そのすべては、この血塗られた邸に詰まっている。

 ※マスター補足
 行動例はお気になさらず、お好きなようにプレイングを掛けて頂ければと思います。
 敵の出現は在りません。ユーベルコードや技能も勿論ご活用頂ければと思いますが、どのように使うか、という仔細な指定が在れば判定に加味します。
 能動的に調査をする、或いは何か別の行動をするプレイングであれば、基本的に何かしらの手応えがある様に運営する予定です。あまり気負わず、気軽にご参加頂ければ幸いです。
閂・綮
【WIZ】【アドリブ歓迎】
◾︎心情
一一、

(溢れかけた声を、飲み込んだ。
喉を通る空気にすら死臭を感じ、息苦しさを覚える。瞼を一度閉じることで其れを制し 一一 前を、見据えた。)

大人ばかり、か。
身の隠し方については、子が一枚上手故。験す価値はあるだろう。
ああ、だが 一一 、

( ……反吐が、出る。)

◾︎行動
「儀式を行う大人」を装い、あえて足音を立てて移動。
「儀式の時間だ。何処に隠れている?」と声を上げながら調査。

・何かが動く気配がある
「白寿」に【騎乗】、【ダッシュ】【追跡】で追う。
・閉ざされた場所を発見
【封印を解く】【鍵開け】を使い調査。自身の技能で突破が不可能であれば、他の猟兵に報告。


メドラ・メメポルド
血の、におい。
ああ、おなかがすいてしまうわ。
でも、まずはやるべきことをやらないと、ね。

【POW】
メドは、そうね。
こどもたちを探してみようかしら。
かくれんぼは苦手だけど。
ふすまを開けたり、箱を開けたり、
隅っこや狭いところもメドなら入れるもの。
母屋から順番にあちこち探すわ。
他の猟兵さんがいたら、探し終わったところも教えてもらって、
まだ探してないところに行ってみるね。
もーいいよ。出ておいで。

ああ、なんでいないのかしら。
かみさまは、こどもたちだけ神隠ししたの?
……メドがかみさまなら、そうね。
みんなおんなじところへ閉じ込めるわ。
まとめて、メドのおなかの中に。
嫌いなおとなは食べてあげないの。

……冗談、よ。



●敷地内・捜索
 眼前に広がるは唯の地獄だ。そこが日常を営める場で在ろう筈がない――否、そうで在ったのかもしれない。けれど今はもう、穢れ果てた別のなにかに相違ない。
 閂・綮は息を呑む。溢れかけた声を咄嗟に呑み込んだが故だ。喉奥で呼吸が拉げる。
 呼吸ひとつ、瞬きひとつの隙間ですら、その場に満ちる死臭が入り込んで来るのが生々しく綮にも識れるだろう――息苦しい。それら総てを絶つ様にして、一度だけ瞼を閉じる。
 夕陽の融けた眸が、前を見据えた。
「……大人ばかり、か」
 身の隠し方は子供の方が一枚上手だ。何処ぞへ巧く隠れ込んで、動けずに居るのやもしれない。
 ならば、それを――いま綮が考えている事を験すのだって価値は在るだろう。
「(……反吐が、出る)」
 それでも。ならばこそ。迷いを振り切る様に、綮は務めて声を作って大人の素振りを繕うのだ。
 儀式を行う大人を装えば、隠れた子供が出てくるのではないか、と。
「さあ、時間だ。出ておいで、――何処に隠れている?」
 母屋の内部、敷地内、それぞれ声を掛けながら探してみる――が、返ってくるのは植わる樹々のざわめきばかり、空飛ぶ小鳥の鳴き声ばかりだ。
 他の猟兵たちも続々到着し、敷地内へ踏み込んだ上で調査を始めている。賑やかさの増した邸内で、けれどやはり探すべき子供の声は聞こえない。
 眉宇を曇らせ、綮は少し考え込む。
「――聞こえていない?」
 子供が一人きりという事も無いだろう。複数人いるなら、誰かひとりくらいは人の声に釣られて出てきたっておかしくはない。けれどそれが無いという事は、そもそもこの声が、喧騒が届いていないのではないだろうか?
 考え込んだ所で、ふわりと空気の揺れる気配がした。そちらを向く――血に濡れた雰囲気にはそぐわない、いとけなく揺蕩う存在がそこに佇んでいる。
「あなたもこどもたちをお探しなの?」
 メドラ・メメポルドはそう尋ねる。ああ、と綮が頷いた。
「呼びかけてみたが、出てくるどころか声が届いている手応えすら無い」
「ああ、やっぱり。メドもね、襖を開けたり、箱を開けたり、狭いところや隅っこを探してみたのだけれど――だめね。いないわ」
 それに、と愛らしい顔立ちが密やかに笑む。つと何でも無い素振りで唇を拭う指先が、年端の行かない少女らしくはない色香を湛えて華を添えた。
「血のにおい。……あまくて濃くて、おなかがすいてしまうわ」
 けれどその前にやるべきことをやらないと、とメドラは微笑む儘に囁く。
「きっとすぐに手の届く様な、そんな場所にはいないのね。――ねえ、あなた」
「……何か?」
 水を向けられ、綮はメドラの方へと向き直る。
「かみさまは、こどもたちだけ神隠ししたの?」
「――――、」
 質問か、それとも彼女の中で生まれた疑問が水泡として浮き上がってきたに過ぎないのか。
 どこか浮世離れした少女へと、綮は何も応えない。
 探る様な彼の夕陽色の眼差しを受けて、地獄を背にしたメドラが微笑む。
「……メドがかみさまなら、そうね。みんなおんなじところへ閉じ込めるわ」
 唇を辿る指先が、自身の喉をなぞって胸部を伝い、腹部へと落ちてゆく――平たいそこを擦る様にして、ふふ、と愉しげな声が漏れた。
「まとめて、メドのおなかの中に。嫌いなおとなは食べてあげないの。――冗談、よ」
 こわいかおだわ、とメドラが囁く。すまない、と強張った顔色の儘で綮は告げる――眼前の少女の事だけではない。
 彼女の言わんとする所を彼もまた、理解した為に過ぎない。
 答え合わせをするが如くに、メドラが零す。
「もしかしたらここのこどもたちも、そんな風に。……おんなじところへ、閉じ込められているのかもね」

 子供が生き残っているとすれば、多少声を張り上げた所で、それが聞こえない様な場所に居る可能性が高い。
 ――【見つかっていないこども・1】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雪月花・深雨
信仰とは、人の価値観に根差すもの。生き方を指し示す存在なのだと思います。
それが狂気にすり替わる恐ろしさを今、目の当たりにしている気がします…。こわい…。

すでにどなたかが、遺体を回収されたのですね。
それでも、新たな被害が確認されていないということは、ここに潜むものはあまり攻撃的ではないのでしょうか。

怖れ…怯え…人里に迷い込んだ獣のような…
そういう気配を感じます。

母屋の屋根裏に入り込んで、対象を捜索しようと思います。
相手を刺激しないよう、音を潜めて屋根裏を這っていきます。
もしも近くに血の臭いを感じるようなら、ユーベルコードを使って感覚をとぎすまし、詳細な方向を探ります。



●母屋・屋根裏
 こわい、と彼女は幾度となくその言葉を喉奥に飲み下す。
 信仰とは、ひとの価値観に根差すもの。生き方を指し示す存在――それが雪月花・深雨の捉え方だ。だからこそ、それが狂気に摩り替わる瞬間が恐ろしい。今彼女の眼下に広がる、この邸内の様に。
 屋根裏に潜む深雨は、神経を研ぎ澄ませてその内部を渡ってゆく。旧い邸だ、思わぬ所で家鳴りを起こしてしまってもいけない。どんな音が、何を喚び起こすか解らないのだから。
「――すでにどなたかが、遺体を回収されたのですね。でも……」
 新たな被害は出ていないという事は、ここに潜むものはあまり攻撃的ではないのだろうか。
 屋根裏から逐一各部屋を具に観察しながら、深雨はそう思う。
 ――それは怖れだろうか。或いは怯えやもしれない。人里に迷い込んだ獣がそんなものだったと、深雨は思う。
 それでも脳裏に細く傷を付ける様な、この違和感は何だろう。
「母屋内、見える場所には居ませんね……」
 それが解っただけでも上々だ。居ないのならば、別の場所に絞って探せるだろう。或いは母屋内でも、屋根裏からは観測出来ない、隠されたスペースが在るのかもしれない。
 他の猟兵たちへ報告に、と向かおうとして、けれど深雨の動きが止まる。どうしたって、あの小さな違和感が気になる――室内を順繰りに見てきて、拭い切れないちいさな曇り。
 暫し逡巡して、あ、とその唇から呼気が漏れる。
「――……血の広がり方、が、」
 それによく似たものを、深雨は見た事が在る気がした。
 嘗ての虐殺を――唯殺す為だけに殺された、同胞たちの姿を。憎悪を持って潰し殺される、あの時の遺体もこんな風に血を流してはいなかっただろうか。
 恐れも怯えも無いのかもしれない、と深雨は思う。胃の腑からそっと冷えてゆく。
 突き動かすものは、もっと単純なものかもしれないと考えた。

 おとなたちは、確かな殺意と憎悪とで殺された様だ。
 ――【死んだおとなたち】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルイーネ・フェアドラク
組織でマークをしていた名の中に、見たこともあったか
事前の介入で、防ぐ手段でもあればいいんですが……
儘ならない

今更血痕や死臭で怯みはしないが、場の凄惨さには眉を寄せ
私は母屋を調べましょう
家の造りから当主の部屋を推測し、情報収集を
書き付け、持ち物、手懸かりならば何でもいい

荒らさぬよう、また感染の危険も鑑み、手袋着用
眼鏡のサイバーアイ機能をオンに
熱源反応までの期待はしないが、間取りや情報の記録を
錠のかかったものは鍵開け

血により連綿と繋ぐ邪神崇拝、か
子は生まれも親も選べない
環境が形作るものは多大で、深く、根強い
とはいえ……何時、どのようにして歪んだものか
無事であれば、いいんですが
嫌な予感がしてならない



●母屋・当主の居室
 爲定の名を、そう言えば機関での資料の中に垣間見た事も在ったか、とルイーネ・フェアドラクは僅かに双眸を伏せる。
 幾つも列挙される、邪神教団の名の中のひとつだ。事前に何か介入出来ていれば、防げたものも在ったろうか――儘ならない、とルイーネはそこまで考えて顔を上げた。
 視界には地獄が広がっている。否、地獄の中に自分が佇んでいるのやも知れなかった。凄惨を極めるその場に眉目を寄せ、母屋の中を進んでゆく。
「(旧い造りだ。ならば、大事な場所は奥に据える筈――)」
 錆びた赤が染め上げる廊下を、可能な限り無事な場所を選びながら奥へと向かう。
 大事そうに構造の最奥へ抱えられたその部屋の扉は大きく開け放たれ、内部もまた、血で汚れていた。誰かがここへ逃げ込んだものの、それは最期の場所を挿げ替えただけに過ぎなかった様だ。
 室内を一瞥して、ルイーネは慣れた手付きで手袋を嵌める。同時に音なく眼球のデバイスが起動する――熱源こそ感知しないものの、室内中央の文机に違和感が宿る。
 跪いて抽斗を開ければ、デバイスの走るルイーネの眸に看破は容易い。外観に対して底が浅いそれは、更に下に何かを抱えているに相違ない。全て引き出せば、案の定二重底の板を外す為の窪みが見えた。
「――……、これは。契約書、でしょうかね」
 収められていたのは簡素な茶封筒で、中を開けば紙が一枚きり。物品売買契約書、と記載が在る。
 乙の名前には爲定源三郎と入っていた。これが当主だろう。甲にはエルピス製薬株式会社と書いてあるだけで、特に担当者などの併記は見当たらない。
「製薬、――そう、『薬』ですか」
 ルイーネの銀が、つと眇められる。機関でもこの製薬会社の名を見た覚えはない。余程慎重に潜って動いていたか、それとも何かしらの隠れ蓑として、つい最近用意されたものか。
 取引されていた商品名には、『ギフト』とだけ簡素に記されていた。

 当主は『エルピス製薬株式会社』と取引を行っていた。
 記載事項により、『ギフト』と呼ばれる薬がどこかで使用されていると思われる。
 ――【介在する存在・1】【薬について・1】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴木・蜜
…こどもが見つからない、か
五体満足だとしても小さいでしょう
姿を隠すのは簡単そうですが

一族で崇拝していたとはいえ
周囲の目もある
堂々と邪神崇拝はしてないでしょう
まして召喚儀式となれば
隠し部屋や地下室くらい
あっても不思議はない

まずはぐるりと爲定邸の周囲を回り
外観を頭に叩き込む

それから内部を歩いて
間取り図を描きながら
外観と矛盾がないか調べましょう

差異があればその周りを重点的に調べます
床下や天井裏も忘れずに
必要とあらば体を液状化し
隙間や鍵穴に身体を捻じ込み抉じ開けます

隠し部屋が無いなら無いでいいでしょう
いま行ける場所を探せばよい
それが確定するだけですから

それにしても
どこもかしこも血塗れ

…まるで地獄ですね



●母屋内
 手元の端末へと、画面を指先でなぞって邸内の構造を点と線とで落とし込んでゆく。
 先程歩いて把握してきた母屋の構造を思いながら、冴木・蜜はふと足を止めて息を吐く。邸内にはどこも嫌になる位の血臭が充満し、どこへ目を背けても悲惨な残痕が横たわる。
「……まるで地獄ですね、」
 悍ましい死の概念が自身の四肢に絡み付く様な気さえして、蜜は緩い所作でかぶりを振った。
 ここに居るのは一族のみとは言え、周囲の目が全く無いと言う訳でもないだろう。堂々と邪神信仰はしていない筈だ――ならばどこかに、隠し部屋や地下室、それに準ずるものが在っても不思議ではない。
 そして秘されるものが在るのなら、大抵がそんな所へ据えられるだろう。特に子供の様なちいさな体躯であれば、尚更だ。
「さて、差異は導いてくれるでしょうか――」
 頭に叩き込んだ外側からの構造と、いま手元に完成した見取り図とを見比べる。そのずれが、きっと真実或いは真相へと繋がっている――蜜は改めてその眼差しで邸内を見遣りながら、母屋内を移動してゆく。
 が、足取りはすぐに緩やかに停止した。あれ、と浅く首を傾ぐ。
「床下の小窓の位置が、……?」
 合わないな、とふと思う。母屋内の部屋の位置と、外側に在った換気口と思しき小さな地面近くの窓の位置とが、噛み合わない。
 もしやあれが隠された場所の為のものなのであれば、入り込む事が叶えばひといきに調査が進むのではないだろうか。
 指先程度の太さで漸く入りそうな小さな窓では在ったが、蜜ならば然程問題にはならないだろう。その身は死毒であり、液状化は意志ひとつで叶うのだから。
 行ってみよう、と踵を返す――返した所で、蜜は躓く様にその動きを止めた。
 地下に意識を向けた途端、強烈な怖気が足許から這い上がる。それははっきりとした殺意でも敵意でもなく、まして言語化されたもので在ろう筈もない。けれど。
 ――ほんとにくるの?
 ――なにしにくるの?
 ――ほっといて。
 ――みないで。
 仄暗い何かの念が、唸る様に蜜の意志へと喰らいつく。少なくともいま、ひとりで行くべきではないだろうと判断するには充分だった。
「……これ、は。――足並みを揃えて、入る方が良さそうですね」
 少なくとも足許のどこかに地下施設が在り、そこに『何か』は確かに居るのだ。
 他の猟兵たちへの周知の為に、改めて蜜は顔を上げた。

 母屋内のどこかから通じていると思しき、地下施設が在る様だ。
 そしてその施設内に、悍ましい何かが潜んでいる。
 ――【地下座敷牢・1】【かみさま・1】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユエイン・リュンコイス
さて、何が起こり何が為されたか、それはまだ判然としないけれども…ああ、匂いで分かるよ。極めて胸糞悪い淀みをね。

兎にも角にもまずは調査だ。この手の旧家屋、それも後ろ暗い面のある一族なら、大抵あるものだろう…土牢や座敷牢、蔵牢といった、何かを閉じ込める場所がね。
母屋に複数の離れが繋がっているんだよね? であればまずはそこを虱潰しにしようか。
[塔の頂きより〜]で全体を俯瞰。怪しい場所を『水月の識眼』の【視力、暗視】で観察しつつ【情報収集】。鍵が掛かっていれば、強引だけど【破壊工作】で突破しよう。内部に呪いや電子機器等があれば適宜【呪詛耐性・ハッキング】を使用。

ーー邪が出るか、鬼が出るか。



●敷地内
 母屋内の地下に部屋と思しきものがある、という連絡を受け、ユエイン・リュンコイスはごくちいさく微笑んだ。自らの読みに間違いは無かった様だ。
 敷地内、離れの群れ立つその隙間をそぞろ歩く風体で進みながら、ユエインはすんと鼻を鳴らす。
 死により滞るもの。蔓延るもの。こびり着いた憎悪に血臭。
「……ああ、匂いで分かるよ。極めて胸糞悪い淀みだ」
 囁いて、彼女の指先が空を辿る――その所作に従う様にして、巨躯が現出する。眺むる者と呼称されるそれは、ユエインが望む通りに周囲の様子を具に拾い、汲み取るだろう。
 母屋内に地下室が在るのならば、他の離れにもそれらが在る可能性は高い。旧い一族、それも後ろ暗い歴史を持つのならば、大抵はそういうものを供えている筈だ。
「――うん、やっぱり。『そこ』にも、在るんだね?」
 塔守の眼に映るものを垣間見て、ユエインは満足げに息を吐く。
 敷地内、北の離れに違和感が宿る――けれど、思うよりはっきりとしたものは見えない。旧く辿れば祭祀の家系だ、何らかの撹乱の為の保護が為されているのだろう。
 呪術的なそれは、強引に破ろうとすれば何を齎すかは解らない。地下室と思しきものがあると云う事は、少なくともそこに何か大事なもの抱え込んでいると云う事に相違ない――あまり無理をして開けるべきではないな、とユエインは慎重に考える。
「旧い一族であれば、考え無しにそういう術を施すとも思えないな。……他の場所から、突破する為の鍵やそういうものが出てくるだろうかね」
 用意していた手段をひとまず抑えて、他の調査が進むのを待っても遅すぎる事は無いだろう。
 それらに手を貸すべく踵を返し、――そうしてユエインは、ふと背後を振り仰ぐ。
 青々と寝そべる初夏の青空の下に置いておくには、この邸はあまりにも枉々しかった。
「――邪が出るか、鬼が出るか。さて、どちらになるかな」

 北の離れにも、地下室と思しき施設が存在する様だ。
 ――【見つかっていないこども・2】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

紅葉・雨燐
正門から入ってすぐ死臭を感じ「うっ」と口元を押さえる
(やっぱり、私じゃ…!)
その臭いを遮るように紅い香水を取り出し一嗅ぎ
「だらしねぇなぁ、オレの出番かよ」
主人格から“燐”へ人格を変更
さらに蒼い香水を一嗅ぎUC使用でもう1人の自分“雨”を召喚
「えぇ、我々の出番でございます。手分けして調査と参りましょう」

燐と雨で調査を行います
力仕事を燐が、状況を調査を雨が担当
「どの居住区でも状況は変わんねーのか?」
「場所により被害状況が違うか確認致しましょう」
一区画を丹念にではなく、全体を見て何か大きな差があるのか調査していきます

アドリブ連携歓迎



●敷地内
 正門から一歩踏み入るだけで容赦なく鼻腔を擽る耐え難い死臭に、う、と呻いて紅葉・雨燐は思わず口許を抑えた。
「(やっぱり、私じゃ……!)」
 立っている事すら難しい程のそれに指先を戦慄かせ、引き攣る様に紅い香水を取り出し鼻先に持ち上げる。助けを求める様にそれを嗅げば、忽ちだ。
 紫色を湛えるその眸が、燃える様に紅く染まる。
「だらしねぇなぁ、オレの出番かよ」
「――えぇ、我々の出番でございます。手分けして調査と参りましょう」
 次いで青い香水を同じ様に煽げば、冴えた蒼の眸で笑う少女がもうひとり。
 宿主である少女の名を別ち、燐と雨を名乗る彼女らは、手筈通りにふたりで敷地内を動き始める。どこもかしこも血で汚れに汚れた邸内は、けれど具に見ればきっと得られるものがある筈だ。
「どの居住区でも状況は変わんねーのか?」
 体力を生かして身軽に歩き周りながら、燐は思案する様に片眉を持ち上げる。
 彼女が気付いた事、そして自分が気付いた事を手許の端末に纏めながら、ええ、と雨もいらえて見せた。
「場所により被害状況が違うか確認致しましょう」
 ひとりでは難しい事も、同じ人物を依代とするふたりであれば何の障害も在りはしない。
 予定通りに母屋を含めそれぞれの離れを見回った彼女らの視界には、やはり母屋がいちばん酷い状況である、というのはまざまざと知れた事だろう。
「でも、ここ」
 燐が端末に浮かぶ地図の上を指先で叩く。北の離れに当たる部分だ。
 ええ、と雨が頷く。
「他の離れや納戸でも、誰かが殺されたのであろう血痕が在りました。逃げ込んだ先なのか、それとも最初からそこに居て逃げ損ねたのかは解りませんが。……でもこの北の離れだけ、それも比較的少なかった様に思います」
 たまたまそこに逃げ込んだものが居なかったのか、それとも別の理由が在ったのか――そこまで推察は及ばなかったが、状況の把握と云う点では充分だろう。

 北の離れに、少し引っ掛かる点が在る様だ。
 ――【状況把握】の結果を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジナ・ラクスパー
…酷い
だから尚更目を背けたくないのです
命を食べ散らかすものを望んだ方々の
同情の余地の有無は後でいい
少しでも早く終わらせたい
…かみさま、叶うならひとりでも
祈った目を開いたらもう逸らしません

血の匂いに慣らされないよう香袋を嗅ぎながら
血量に対し不自然に匂いが強い場所がないか巡る
…巧妙にというなら
汚れや破壊の過ぎる場所も気に掛かり
厭わず触れ違和を感じ取る

殺戮の手、…それとも救い求める手、を
邪神が外に向けたいと思ったならと
屋内から庭へ
森を庭として育ちましたから
人や獣の手の入った違和感には敏い方だと思います
踏み拉いた跡、折れ跡、匂い、音、色
小鳥や虫など命の気配の有無など
四方を見渡し進み、全ての感覚で視る


終夜・嵐吾
血の匂いか――逸ってしまうの
まぁもう少し、眠っておれよ
虚が逸る時はええことないんよなぁ
腕一本くらいは覚悟しとこ、一人じゃから多少間違えても心配させる相手もおらんし

母屋、一番匂いの濃い場所に向かうとしよう
……血だらけの、屋敷か
わしのおったとこはこんな血の匂いは無かったが、あれはあれでなぁ
匂いが、無かったからの
思い出して舌打ちする程には、嫌なものよ

潜んでいるのを暴く、か
そういう大事なものがおる相場は中心か……地下か
だが、もう大事にされているわけではない
ひとりで好きに動いとるかな

母屋から血の跡をたどって、勘を頼りに
どこに隠れとるん?
かくれんぼは終わりにしよや
出てきたら、次は鬼ごっこに付き合ったげよ



●母屋・祭祀場
 ――酷い、と、赤黒く汚れた儘の母屋内を視界に据えて、ジナ・ラクスパーは浅く呼吸を零した。
 だから尚更、目を背けたくはない。少しでも早く終わらせたい――どこかで誰かが、もしもまだ生きているのなら。
「(――かみさま、叶うならひとりでも、)」
 瞑った眸に祈りを宿して、そうして覚醒める様に押し開く。それは既に逸らされる事なく、眼前に広がる地獄へと挑むのだろう。
 細い指先が、拠り所を手繰る様に香袋を握り締める。ともすれば溺れてすらしまいそうな血の臭いにそうならぬ為の、それはきっと蜘蛛の糸だ。
 邸内を征きながら、ジナは状況にそぐわず不自然に匂いの強い場所を探る。矢張り中央、儀式が行われていたと思しき祭祀場か――いや、違う。名状しがたいほど変貌を遂げた祭祀場よりも、尚強い気配がジナの首筋をつと撫ぜる。
 祭祀場のその奥――恐らくは何か物入れなのだろう、ちいさな観音開きの扉がそこに見えた。
「血の匂い、か」
 逸ってしまう、と、そこまでは音にせずともそう囁いたのは終夜・嵐吾だ。
 いつの間にか傍らに立っていた彼の姿に、ジナは詰めていた息を少しだけ緩め、僅かに強張らせていた肩を柔く下ろす。
「……嵐吾様も、ここが一番、と?」
 問われて嵐吾は浅く頷く。
 そうしてつと、いらえる前に眸を眇める。虚が逸る時はええことないんよなぁ――内心の呟きは、矢張り隣に立つ彼女に聞こえぬ様に零されて。
「血だらけの邸じゃ、どこも酷いがの。ここが殊更、匂うのよ」
 嵐吾の脳裏には旧い記憶が蘇る。嘗て身を置いた場所を思い返せば、鼻の奥に当時の記憶が舞い戻る。血の匂いどころか何の匂いも無い、厭うべき記憶だ。
 追憶しては思わず零れそうになる舌打ちを仕舞い込んで、序に云うなら、と嵐吾は付け加えた。
「わしは血の跡を辿って来たんじゃ。ひとつ逆向きの足跡が在っての、気になるじゃろ?」
「そうですね、この状況で、逆と云うのは――……、」
 そんな風に喋りながら、ジナとふたりで祭祀場へと踏み入れる。
 惨事の一番の中心は、矢張り此処なのだろう。一層濃い血臭に、自然とふたりは一端口を噤んだ。
 嵐吾の口許は、それでも薄く笑んで次ぐ。
「大事なものがおる相場は中心か、地下か。……既に大事にはされておらんかもしれんがなぁ」
 肩を軽く竦める所作と共に、彼はそう呟いた。血溜まりの隙間に僅かな足場を見つけて進みながら、観音開きの扉を開ける。
 籠もる空気の匂いが流れ出す――祭祀場のそれよりも酷い、凝る様な死臭に、ジナは香袋を携えた掌で口許を覆った。
「ええ、私もそう思います。……淀んでいますね、」
 ふたりの視線はそれと指し示す事もなく、自然と床へ落ちる。
 大人一人程度であればゆうに通れそうな程度の扉が、硬く口を閉じてそこに在った。既に他の猟兵から報告が上がっている、母屋の地下施設への入り口だろう事は想像に難くない。
「――駄目じゃな、鍵が要る。閉めると勝手に鍵が掛かるタイプな上に、……あー、」
「封印、ですか? ……正規の手順を踏まないと、というものでしょうか」
 でもそれなら、と瞬く。
 意図はどうであれ、中に何か在るからこそそんな封印が施されているのだろう。何かが居るのは間違いがない。
 ふむ、と嵐吾は検分していた姿勢を正し、顎を擦る。邸内に在った遺体は、どれも確かな憎悪と殺意で以て殺されていたらしい――ならば。
「隠れんぼの果てに、ここへ押し込められたんかな。いやしかし、そうなると誰が此処へ追い立てたんじゃろな。子供、でも無かろうし――」
 思案する嵐吾の横顔に、ふとジナが眼差しを据える。
「――……庭が、綺麗なんです」
 唐突な言葉と共に、す、と真っ直ぐに立ち上がって、ジナはいちど室内を出る。歩き出した彼女に倣って、嵐吾も物言わずそうした。
 調査の為、母屋内の扉や襖、障子の類は所々が開け放たれている。祭祀場から少し遠くに透かし見る庭の一部は、そこだけ別世界の様に穏やかに、その梢を風に揺らしていた。
 森に親しみ生きてきたからこそ解る樹々の声、自然に在るものの発する囁き――けれどここに居る彼らからは、考えていた様な悲壮に暮れる色のそれなど聞こえないのだ。
「少なくとも、故意に傷付けられた箇所は無い様に思いました。……ねえ、嵐吾様」
 彼女の言わんとする所を理解して、嵐吾はそうじゃな、と低く相槌を打つ。
「この扉は外からの戒めではのうて、中に居る何かの砦なのやもしれんの。拒絶、と云うた方が早いか」
 惨劇を成し遂げた存在とは、もしかしたら手当たり次第を薙ぎ倒し、そのまま外へ出る事だって叶ったのやもしれない――けれどそれをしなかったのは、さて。
 共有しましょう、とジナが連絡用の端末を手に取る。嵐吾も否やはなく、ひとつ頷いた。

 母屋内にて地下施設への入り口を発見した。中に何か居る様だが、入り口を開けるには専用の鍵が必要そうだ。
 中に居るものは、もしかしたらそこに閉じ込められているのではなく、自ら籠もったのかもしれない。
 ――【地下座敷牢・2】【かみさま・2】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花剣・耀子
旧い家。旧い家なら。
隠された扉や、封じられた部屋を探しましょう。
陽の当たるところに、秘されたものがあるとは思えない。

当主が居た場所が判ればそこから。
判らなければ、人死にが多かった場所から。
残る血痕のうち、外へ出ようとしているわけではなさそうな痕跡を辿ってゆくわ。
最期に縋ろうとするもの、隠そうとするものが見つかれば上々。
何も無いことが判るなら、それも無駄ではないわ。

呪詛には多少慣れているのよ。
慣れているからこそ、あたしが通って重く感じる場所があるのなら、
其方がより怪しいのではないかしら。

……――できれば、生きている子が残っていればよいけれど。
残っていてよかったと、思える状態なら、いいのだけれど。


星鏡・べりる
うっわ、酷い状況だなぁ
これほんとに匂いがさぁ……
うう、息止めて調査しよ

それじゃ調査を始める前に分霊を呼ぼうかな
コード・ミサキガミ、《御先》
分霊【霊犬】をここに

よろしくね、霊犬ちゃん
……物凄いしかめっ面してるね、キミ
やっぱここ匂いが霊的に凄すぎるのかも
それでも頑張って、魔力だとか呪いの残り香を嗅ぎ取ってね
残り香を覚えて、今一番匂うところへ向かおう

私は霊犬ちゃんに付いて回りながら、周囲を視よう
何か尻尾を掴めるかもしれないし、破壊痕や血液の付着してる高さなんかで相手が見えてくるかもしれないし

多分、特異な能力者なんだろうなぁ、相手するのイヤだなぁ

……とにかくさ、早く帰ってお風呂入りたい



●母屋内
「凄い顔してるわね、べりるちゃん」
「だってすっごい匂うじゃん!」
 普段と変わらない様相で佇む花剣・耀子にそう声を掛けられ、思わず星鏡・べりるは頓狂な声を上げた。めっちゃ匂うじゃんよーこの鼻大丈夫? とまで聞きかけた。
 調査の為に、とべりるは自らの傍らに分霊を編み上げる。霊犬の姿をしたそれもまた、物凄い顰めっ面で喚び主たるべりるの指示を待っている。
 宜しくね、とその鼻の頭を掻いてやってから、ほら、とべりるは耀子へその評定を示して見せた。
「見てよ霊犬ちゃんのこの顔……やっぱここ匂いが霊的に凄すぎるんだよ」
「呪詛には多少慣れているのよ」
「呪詛ってこんな匂うの!?」
「うーん、あんまり」
 血濡れた凄惨な場所には似つかわしくない、賑やかな会話が重なってゆく。ふたりはそういうものだったし、だからこそこんな場で、普段と変わりない自分を保てているのやもしれなかった。
 地獄をふたりと一匹で歩いてゆく。先導する様に少し先を征く霊犬は、べりるから魔力や呪いの残り香を嗅ぎ取ってね、と言い付かってちょっと誇らしげだ。
「――旧い家なら、隠された扉や封じられた部屋が在るのでは、と思っていたけれど。やっぱり在ったみたいね」
 猟兵たちの間で情報は恙無く共有され、絶え間なく各方面からの調査結果が上がっている。
 祭祀場奥、それから北の離れ――予想していた通りにそれらに地下施設が存在している事が告げられて、耀子はそんな風に口にする。
「じゃあ、他を探した方が良いのかなぁ」
「そうとも言えないわ。現に、その子は母屋を離れようとはしないのでしょう」
 手を広げ、隈無く調査をする方が良いだろうかとべりるの声で綴られる思案に、耀子は訥々静かにそう返す。その子、と呼ばれた霊犬は、やっぱり匂いに顔を顰めながらも母屋内を進んでいた。
 向かう先はどうやら祭祀場だ。視界の先に、血と臓器の破片で盛大に汚れたかつての斎場が見えている。
「やっぱりあそこ? そうだよねぇ、」
 衣服に、髪に、重たい死臭が纏わり付く。お風呂に入りたい、とべりるはそう零した。けれどその為には、しっかり仕事を完遂しなければならない――エメラルドの眸がくるりと煌めいて、祭祀場へ向かう廊下の壁に散った血痕を辿る。
「何か気になる?」
 耀子が尋ねる。うん、とべりるは肯いた。
「子供は見つかってない筈なのに、私よりちょっと低い位置に、私よりちょっと小さい手形が着いてるなぁ、って」
 少しだけ足を止めてそれを見つめる。べりるが手を広げて重ねる様にすれば、彼女の言う通りに赤黒い掌の跡が少しだけ小さくそこに在った。
「この方向で残っているのなら、……外に逃げようとしていた訳では、なさそうね」
 向きを確かめた耀子が零す。子供のサイズ。
 瞬く目蓋の裏には懸念がちらつくのだ――子供たちは生きているのだろうか。
 できれば、生きている子が残っていればよいけれど。
 ――残っていてよかったと、思える状態なら、いいのだけれど。
 けれど恐らくこの手形は『違う』のでは、とも思う。これだけの規模の一族で、子供がひとりきりと云うのも考え辛い。べったりと濡れた手で捺されたのだろうそれは、この手の持ち主が多量の血に濡れていたのだと容易に推測出来る。
「――、あれでも、んん?」
 それを辿っていたべりるが、唸る様な声を零して首を捻った。
 尋ねる代わりに、耀子もそれを覗き込む。
 視線の先には先程のと同じ人物のものだろう手形が続いていて、――けれど途中でその軌跡がぐにゃりと歪む。いびつに。悍ましく。
 体躯がいきなり膨れ上がったかの様に、掌の位置はずり上がっていた。ついでに五指の影も消えて、人間とも獣とも付かない奇妙な跡に摩り替わっている。
「これ、あれだよね。――相手するのイヤだなぁ」
 その跡が何を意味するものか悟って、言葉通りにべりるは嫌そうな顔を浮かべて見せた。
 そうね、と密やかに息を吐いて耀子は顎を引く。
 邸内を殺し尽くし、けれど外へ向かわず裡へと戻ったこの化物は、何に縋られ何の為に生まれたのだろう。呪詛はきっと、これを強く縛っていた。
「……最期に縋った側は、こちらだったのかも知れないわ」
 ちいさく紡ぐ耀子の言葉は、地獄の際に融けてゆく。

 壁に残る奇妙な手形を発見した。恐らく、今回の惨劇を引き起こした存在のものと思われる。
 ――【かみさま・3】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

忠海・雷火
何が起こったのかも判らないけれど、どうせ碌な事じゃない
調べられるだけ調べてみましょうか


子供が見つからないという事は、連れて行かれた、或いは自分で歩いていった……?
これだけ血痕が多いと、敵を含めた生存者も、血溜まりを避けての移動はし難かった筈
大人の痕跡は除外。足跡、何かを引き摺った跡、敵が人型で無い可能性も考え得体の知れない跡などを探し、辿る
痕跡が何処まで続いているかにもよるけれど、少なくとも向かった場所や方角は絞りたい

痕跡が無い、或いは途切れているなら、第六感やコンタクトの情報収集機能で呪詛や魔力などの手掛かりを探す
とはいえ現場の広範囲に残っていそうだから、新しい、或いは濃い残滓に絞って捜索



●母屋内
 歩けども地獄の果ては見当たらず、凡そすべてがそうだった。
 何が起こったのかは解らない。けれど、どうせ碌な事ではない。
 この世界で起こる事はいつだってそうだ――忠海・雷火は顔を顰め、軽く拳を握って邸内を進む。薄暗い過去が懐くようにその背を撫ぜた気がするけれど、振り返ってなどやらない。
 酷い有様の邸内が、雷火の双眸に宿る深紅を穢す。それでも目を背ける様な事はしない。見据えねば何も解らない――その先に在るものに、手を伸ばす事など叶わないのだから。
「子供が見つからないという事は、連れて行かれた、或いは自分で歩いていった……?」
 指先を口許に添え、雷火は口を噤んで沈思する。
 これだけの血痕だ。そして事件発生時、当然、ある程度の困惑は在った筈。そんな中で大人は兎も角、子供が自分の痕跡に気を使って移動するなどと云う事は考え難い。
 ならば足跡程度は見つかるのではないだろうか――そうでなくとも、ちいさな何かを引き摺った様な痕跡が。
 注意深く雷火はそういった痕跡を探す。壁に跳ね返った血痕の低い部分から、床に散った血飛沫を踏んだと思しき足跡の大きさ。具に調べ上げたが、けれど、――見つからない。
「……おかしいわね。無い、だなんて」
 そもそもそういったものが、一切無いのだ。
 少ない、という訳でもない。どこにも無い。おかしい、と雷火の裡で第六感が告げている――逸る胸を抑えつつ、雷火はその裡に耳を傾ける。
「そもそもこの母屋内に、居なかった……?」
 浮かぶ言葉はそのまま零れ落ち、疑問となって解けてゆく。
 懸念はやまない。過去が遠くから嘲りながら、雷火の中に仄暗い考えばかりを産み落としていくのだ。
「どうしてかしら、……儀式とは別に、何かが行われていた――?」
 そうだ、とも、ちがう、とも、誰も応えてはくれない。邸内には変わらず、死の匂いが横たわる。

 姿の見えない子供たちは事件発生時、誰ひとりとして母屋内には居なかったのではないだろうか。
 ――【見つかっていないこども・3】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴島・類
経緯への憤りは
今は…胸に沈める

在った人の命
至らせた何か
先入観捨て探り
孵化する前に、止める
子らを見つける為にも

母屋の中で
最も血の匂いや量が多い場が
儀式が行われていた場かもと調べ
痕跡
儀式の手掛かりがないかの調査

その後
第六感生かし
子らの痕跡探しながら
納戸に移動
抜け道やもの隠す場がないか探査

大人を…
憎しみで殺したなら

鳥や鼠らは無事でいるかな
付近にいたら
動物会話で自分達がくるより前に
子供の姿を見なかったか
見たらどの辺りにいたか位置を聞いて
礼に持参した餌を分け

母屋、納戸どちらでも
一見してはわからずとも
怪しいと感じれば
血に濡れても微塵も気にせず
地に伏せ
破魔の魔力流し
残滓感じる場がないか探知
封印を解くのも試す



●母屋・祭祀場
 血の海に沈むかつての邸の影など終ぞ解ろう筈もなく、木目の麗しい床が赤黒く変色し乾いた血潮に塗り込められるのと同じ様に、冴島・類はこの惨劇を招いた経緯への憤りを心中へと沈ませる。
「(――孵化する前に、止める)」
 それが何を孕んでいたのかは解らねど、孵るものはきっと災厄を喚ぶのだろう。
 行方知れずとなっている子らを見つける為にも、と、邸内を歩んでいた類の爪先が部屋前で立ち止まる。祭祀場と目されているその部屋は一際大きく、そして一際酷かった。
 宗教施設の主要な部屋と云うのは、大概が似たような構造だ。大きな祭壇が据えられ、多くの人数を収容する為に柱は極力少なく設計されている。本来ならば清々しくひらかれた、厳かな空間で在ったのだろう。
「……見る影もない、か」
 類は囁く。
 少なくとも、元は神秘の儀式を行う為のある程度の清浄さを保っていた筈だ。今やそんなものは残滓すらなく、床は足の踏み場も無いくらいに乾いた血が覆っている。
 祭壇、と云うより供物台めいたものが、部屋の前方部には残されていた。が、あれ、と類はふと首を傾ぐ。
「これだけ、あまり汚れていないな。……、」
 出来うる限り場を荒らさぬ様に、そっと少ない挙動でその供物台に近寄る。
 返り血と思しきものが跳ねてはいたが、この上で誰かが殺された、と云う事は少なくとも無さそうだ。ならば何の為の台だったのか。周囲を確かめるが、供物として極一般的である果物や食物らしきものの破片も見当たらない。
 意味なくそこに置かれる訳でもないだろう。それなら、と類は口許にそっと思案する形で指を添える。
「――、……ここに捧げられたものが、邪神となった……?」
 呟いて、緩くかぶりを振る。全てが殺されている以上、現状から真実を推し量る事は難しそうだ。
 邸の外、庭の樹々を、雀ばかりは気儘に飛び回っている。邸内の惨状には我関せずと云う自由な風体に、そちらへ出向いて類は尋ねた。
「無事だったんだね。――ねえ、ここに僕らが来る前に、子供の姿は見なかった?」
 樹の枝の先に停まった雀の一羽が、ちょんと首を傾げて瞬いた。
『みてない』
『さいきん、あんまりみかけなくなってた』
 もう一羽が小さく跳ねながら寄り添い、ぴいぴいと賑やかに嘴を突っ込んでくる。
 その言い様に、少しだけ眉を上げて類は問いを重ねる。
「見掛けなくなってた? 以前は居たのに、という事?」
『そだよ』
『すこしまえから、そとであそぶこがすくなくなってた』
『きのうくらいから、おそとにはいなかったよ』
 なんかちょうだいよと雀たちはぴいぴい鳴いて喚いてねだってきたので、類は手持ちの餌を感謝と共に置いてやった。あっという間に他所からも雀が飛んできて、一時期庭の傍が賑やかになる。
 美味しそうに餌を貪る雀たちから視線を外し、周囲を見回す様にして、類はその眼差しを僅かに眇めた。
「――生きて、無事に、と願ってしまうけれど」
 仄暗い何かが、予測の向こうに差し掛かっている気がしてならなかった。

 少し前から、外で遊ぶ子供の数が少なくなっており、直近では外を歩く子供自体が居なかったらしい。
 ――【見つかっていないこども・4】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

烏丸・千景
派手にやったもんだねぇ
ま、俺としてはびっくり仰天って光景でもないし
たぁんと探し物でもしましょ

血の多いところに人が集まってたんだろうねぇ
儀式ってことは、供物があって祭儀があったか
ひとまず、血の方向からどっちから逃げようとしてどっちから襲われたのかも見てみようか
起点が分かれば拾うべきものも分かる、かねぇ

これが、ただの人がやったって事件なら
血飛沫の高さとかで色々分かったりもするもんだけどねぇ
儀式となれば、たのしー終わりは見えそうもない

調度品や襖の中、見れそうなら一応床も見ておこうか
儀式っていうからには、万全に整えた筈だしねぇ

しかしまぁ何を喚んじゃったんだろうねぇ
何が何処まで狂わされちゃったのか



●母屋・祭祀場
「派手にやったもんだねぇ」
 室内を視線で以て一瞥して、最初に出る言葉と云えばそんなものだ。
 烏丸・千景は特にそれを忌避する事もなく、首元のネクタイを緩めながら祭祀場へと踏み入る。
 血の多い場所、と云えば誰もがここだと告げるだろう。祭祀場、恐らくそこが儀式の行われた場所だった。
 べったりと床を汚す血潮の跡から得られるものはそう多くはないが、千景の求めるものは読み取る事が可能だろう――殺された者は皆、祭祀場前方部の供物台と思しき台座から遠ざかろうとしていた様だ。
「供物台……然し、何が載せられてたかははっきりしないねぇ。……嗚呼、でも」
 烏丸・千景はこの惨憺たる現場を目にしても、冷静さを失わない。それは彼にとって、そんな光景がそう縁遠いものでもないからに相違ない。
 ――丁度、ひとの身体がひとつ載るくらいだな、と千景は思う。この邸内から回収されたのは遺体のみで、あとは全てその儘の筈だ。ここへ極一般的な供物――食品や神酒といった類のものだ――が並べられていたと云うのなら、喩え薙ぎ倒されたとして、その残骸が残っていなければいけない。
 そう、供物台は、ひとの身体が載りそうな程度の大きさだった。
 子供ひとりならば、楽に安置が出来るだろう。
「……に、してはこの台が綺麗だな。上で何かされた訳ではない、と。――なら、」
 捧げられたものが、変異したか。
 音にはせずともうっそり双眸を眇めて千景は逡巡する。
 儀式、と云うからにはもっと周到にそれらしい物品が遺っているかと考えていたが、祭祀場は驚くほど簡素だった。祭壇には形ばかりの飾りが在るには在るが、特別に何かをした、という風には感じられない。
 つまりこの供物台だったのだ。大事なものは。肝要なのは。
「しかしまぁ、何を喚んじゃったんだろうねぇ」
 激しい憎悪で死した大人たち。未だ見つからない子供たち。
 供物台に捧げられていたのは恐らく子供だ――それは何に変わり果てたのだろう。殺して殺して殺し尽くして、果てにその眸に映したのは底無しの絶望だろうか。
 真実は未だ分厚い靄に包まれて、その全容は杳として知れない。
 浅く笑って、千景はそっと供物台を撫ぜた。
「何が何処まで狂わされちゃったのか。――或いは、君が狂わせたか」
 死ばかりの満ちるその場で、千景の言葉にいらえる者は何もない。

 祭祀場の供物台には、恐らく子供と思しきものが載せられた上で、儀式が行われた様だ。
 ――【儀式】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアドール・シュシュ
【鉄と華】
アドリブ連携可

源次から協力要請が来て承諾
ケープ羽織り爲定家へ

えぇ、大丈夫よ
マリアの歌と音色で皆を導くわ
邪神が怖いなんて言ってられないの
消えた子供達の行方が気になるのよ
子供の死体が一つも無いなんて不自然だわ
他にも何か、違和感が…
どうか間に合って頂戴(生贄になっていたら…

厳重態勢
手薄な母屋を出来る限り探索(情報収集
子供の居場所、敵の目的の手掛かり兼ねる
壁と壁の切れ目や色違い、風の流れ等見つけたら制止
怪しい調度品を発見後は重点的に調査

マリアも何かあると思うのよ
邪神復活の鍵…ヒントになり得るかしら

隠し通路や隠し部屋あれば向かう
怪しい人物の気配感じたら【クリスタライズ】で源次に抱きつき様子見


叢雲・源次
【鉄と華】

すまないなマリア。少々陰惨な事件かもしれんが…子供達を救出した際のメンタルケアを頼みたい

俺は歌が歌えん。

探索
母屋にて何者かが逃げ出した痕跡を発見
これを辿り調度品のある区画に辿り着きインタセプター起動。区画をスキャンし、異物や邪神の反応があるかどうか確かめる
血塗れになった調度品を見つけ、疑問が浮かぶ
「何故、調度品に血痕が付いたのか」
扉や廊下は分かる、逃走経路だ…しかし調度品の目の前で殺されなければこうも血痕は付くまい
偶然ここで殺されたのか…それとも
「この調度品に何か用があったのか」
マリア、どう思う?調べてみる価値はあると思うのだが…
もし調度品に何らかのギミックがあればそれを解除したい



●母屋・室内
「すまないな、マリア」
 不意に向けられた叢雲・源次の声に、マリアと呼ばれた少女――マリアドール・シュシュはきょとんと瞬いた。被るケープを少しだけずらして、蕩ける様な金の眼差しが彼を仰ぐ。
「少々陰惨な事件かもしれんが……、子供達を救出した際のメンタルケアを頼みたい」
 俺は歌が歌えん、と苦い声で添えられたそれを聞いて、まあ、とマリアドールは花咲く様に軽やかに笑った。
「えぇ、大丈夫よ。マリアの歌が役に立つなら、嬉しいもの」
 死臭満ちる穢れた邸内を、ふたりは警戒を怠らず進みゆく。
 もしも子供たちの声が聞こえたなら、気配を捉える事が出来たなら、けしてそれを掴み損ねる事のない様に――邪神が怖いだなどと言ってはいられない、と、マリアドールはそのちいさな胸に掌を重ねた。
 どうか間に合って頂戴、と祈らずにはいられない。ちいさな子供たちが犠牲に、生贄になるだなんて、想像するだけで息が出来なくなりそうだ。
 ひとつひとつの部屋を丁寧に確かめながら進んでいた源次が、けれどふとその動きを止める。
「――……あれは掛け軸、だよな」
 源次の眼差しの先には、元は客室だったと思しき居室が在る。スタンダードな和室だ。床の間に掛けられている掛け軸には、大きく赤黒いものがべったりと染みていた。
「……? ええ、そうね。特に可笑しい点はない様に思うけど――」
 マリアドールも足を止め、恐恐室内を覗いてそう相槌を打つ。
 部屋に踏み込んだ源次が、その掛け軸をつと撫でる様に指先で辿って彼女を振り返った。
「何故、掛け軸の前で殺されたんだろうな。逃げるならば部屋の隅とか、廊下だとか――そういう場所じゃあないか? マリア、どう思う」
 源次が疑問をそうやって口にすれば、マリアドールの眼差しがきりと引き締まる。源次の勘付いたそれが何かへの取っ掛かりとなるだろう、そんなものを予感させる表情だった。
「確かにそうだわ。――……その掛け軸を、守りたかったのかしら」
「調べてみよう、」
 マリアドールを背後に庇う様にしながら、慎重に源次が掛け軸を捲る。旧い日本家屋、そして邪神を崇拝する祭祀の血族――何が仕掛けられていても可笑しくはない。
 警戒する姿勢を説かぬ儘に源次が掛け軸の裏を注視する。そこにはちいさく、壁に穴が開いていた。中には、紐で結わえられたちいさな把手らしきものが揺れている。
 引くべきか、と一瞬躊躇する源次の横から、ついと嫋やかな手が伸びた。
「えい」
 可憐な声と共に、マリアドールの指先がその把手を引っ張る。
「っ、マリア、」
 僅かに焦る様な源次の声に、ふふ、と笑んだマリアドールが口端を持ち上げて彼を見上げた。
 くん、と軽く引いただけの把手は、それだけで充分だったようだ。建物の構造のどこかでがちん、と何かが外れる様な音がひとつ響いて、それきりまた静かになる。ここで何かが起こる訳ではないらしい。
「折角一緒に居るんですもの。マリアにもやらせて」
「――……心臓に悪い」
 罠でなくて良かった、と息を吐く源次に、マリアドールは愉しげにまた笑って見せた。

 邸内のどこかで連動する仕掛けが外れた様だ。
 ――【仕掛け解除】を行った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴァン・ロワ
アドリブ歓迎

ああこの匂い
色々…昔を思いだしちゃうなぁ
うっすら笑って息を吸う
ただ何かに殺されただけ?
それとも別のも混じってるか?
『毒』の匂いはしないかなと確かめて
もしするなら…匂いの強い方へ

あとはそうだな想像してみようか
あの血の跳ねかたは?
何処から来た?
何処へ行く?
自分の過去を、殺した記憶を辿り
『野生の勘』も合わせて想像上の獲物を『追跡』する
逃げたのとは違う血のあとがあったら
ソイツが本命かもね
兎に角跡を追ってみよう
血の海で見失ったまたそこから

追いかけっこもかくれんぼも―こういうのは、得意なんだ



●母屋・室内
「――嗚呼、この匂い」
 ヴァン・ロワの口許は薄ら笑いに歪んで崩れる。
 思い出すのは昔の事だ――口許に浮かぶ笑みは消えない。
 ちいさく息を吸えば、肺を満たす死の馨がそこに在る。噎せ返るほどの濃い血の臭い、感覚が麻痺してしまいそうなほどの非道徳極まりないその空気は、子供時代に浸っていたそれに良く似ていた。
 灰の眸が眇められる。すん、と嗅ぐ様にして空気を探るのは、その向こうに探すものが在るからだ。
「『毒』の匂いはしないかな、……どこもかしこも酷い匂いだが」
 怪しげな製薬会社が関わっているとの情報も共有されている。毒が使用されている可能性は大いに在るだろう。
 血に汚れた邸内を、黒髪を揺らして狼が征く。その鼻先は過去に似たものを識っているからこそ、その中に潜む目的を嗅ぎ分ける事が叶うのだ。
 血潮の中に潜む、異種のそれを辿ってゆく――居並ぶ部屋の一室の前で、ヴァンの両脚が立ち止まる。
「――みいつけた、」
 からりと押し開く襖の、その奥もまた血で汚れている。おそらくは一人分。逃げ込んだ風でもなく、元からのこの部屋に居た人物のものの様だ。
 儀式の最中もこの部屋に在中していたのなら、大事なものが仕舞われている。その筈だ。
 乾いた血の跡を遠慮なく踏み付けながら、ヴァンは室内を探る。とは言え一直線だ――室内の隅に安置されている階段状の桐箪笥に、その指先が絡まった。
「上から三段目、左から二番目。……最後の一本、ってとこか」
 何か仕掛けが施されているかと警戒していたが、特に引っ掛かりもなく呆気なく抽斗は抜ける。何かの絡繰らしきものを解除した、という情報も流れて来ていた。もしかしたらどこか別の場所の仕掛けと連動していたのかもしれない。
 さて、すらりと引き抜く抽斗の、その中にはアンプルが大事そうにひとつ、安置されていた。ラベルらしきものが簡素に貼り付けてあって、『GIFT』の刻印が見て取れる。
 ぴんと指先でそれを跳ね上げて、掌中にしっかりと握り込んでヴァンは笑う。
 毒の匂いは甘美で妖艶だ。きっと誰もが群がるのだろう。群がったが故に決壊して、果てにこの血の海を招いたのだから始末に負えない。
「ばかだね」
 アンプルには薄いエメラルドグリーンの液体が満ちている。陽に透かすそれは悍ましいほど美しかった。

 ギフト、と呼称されていると思しき薬を手に入れた。薬と云うより、半ば毒に近しい様だ。
 ――【薬について・2】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

隠・イド
随分と楽しげなパーティがあったようですね
凄惨な現場を前に愉しげに笑い

声の届かぬ場所
後ろ暗い儀式なぞしていたというなら
秘密の地下室の程度ありそうなものですが

特に忌避感を覚える事なく部屋の見聞
飛び散る臓物などを手で摘みながら、残留物が無いかのチェック
殺され方などから敵の正体を探る糸口が無いか
吐瀉物などあれば、それにも注目

『ギフト』、といったか
邪神を降ろす鍵となる『なにか』、その残留でも見つかれば良いのだが

一箇所での調査には拘らず
手掛かりが無ければ邸内を散策
邪神降ろしに関する手記など漁るのも楽しそうだ

のんびり気ままに観光気分

大人を憎み這いずり回る邪神
自我を残すという事か

ふふ、俄然興味が沸いてくる



●母屋・室内
 勘付いていた通り、矢張り邸内からは地下施設が発見されたらしい。
 端末を通して入ってくる猟兵たちからの情報に、隠・イドは浅く口端を持ち上げる。そぞろ歩く母屋内の室内は、どこを覗いても血と臓物の破片がこびり着いて死臭ばかりが留まっていた。
「随分と楽しげなパーティがあったようですね」
 愉しげに笑ってイドは云うのだ――遺されたものから読み解くこの遊びは、何とも知的で面白い。
 厭う事なく屈んで、畳を汚す臓物の破片を摘み上げる。すっかり腐り落ちて異臭を放つ肉片だ。付随して何かが見つかる事は無かったが、ふむ、とイドの眸が眇められる。
「どれもこれも轢き潰されたかの如く。憎悪、と云うのは真実の様だ。……いやしかし、人間の身体を刃物も用いずこれだけ千千に潰してみせますか」
 紛うことなく人外の力がそこに働いている。
 肉片をぽいと元あった場所に戻し、別の部屋へと動こうとして――ふと、持ち上がる視線が中途で止まる。部屋の隅の小さな洋箪笥の上に、一冊の冊子らしきものを見つけたからだ。
 立ち上がって歩み寄る。躊躇う事なく手に取れば、それは何かの記録簿らしかった。頁を捲れば、鉛筆で簡素に付けられた記録が並んでいる。
『投薬一日目、心身ともに変化なし』
『投薬五日目、変化なし』
『投薬七日目、情緒がやや不安定』
『九日目、服用拒否の意志が見える。説得により規定通りの服用』
『十四日目、泣き喚いて服用拒否。午堂氏に連絡を取り、問題ないとの事で鎮静剤を併用。経口での投薬から静脈注射へ切り替え』
『十六日目、昼食準備の折に脱走したが無事確保。必要と認識した為、説得及び遺憾ながら折檻を行う』
『十七日目、頭と臓器が無事であれば構わないとの助言アリ。残念ながら脱走の意志が残っていると判断、両腕及び両脚を折る処置』
『二十日目、記憶に混濁』
『二十四日目、幻視、幻聴、起きている間は常に譫言。交信の予兆では。期待が膨らむ』
 ――最後の数行は、被験者たる誰かの不調を書き連ね、そんな風に何かへの期待が添えられているばかりだ。記録は二十九日目が最後になっていた。
『二十九日目、骨折が治癒されているのを確認、自己治癒力が異様に発達していると思われる。媒体として申し分ないと判断、明日を決行日とする』
「……今日が三十日目だった様だ」
 冊子を閉じる。ひと一人が投薬により悍ましく狂わされてゆくその記録は、この一族が確かに邪神に傾倒し、喚び降ろそうとしていた事の証左に他ならないだろう。
「『ギフト』、といったか。――これの事でしょうかね」
 狂気を綴るその表紙を手の甲で軽く叩いて、イドは薄く微笑んだ。

 ギフトを投薬されたと思しき被験者の記録を見つけた。
 ――【薬について・3】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

犬憑・転助
相棒の【御代燕三】と行動
UDC組織の外部協力者な立ち位置

カバー:小説家
ホラー、歴史、オカルト系の売れない小説家
いつも着物で出歩いている

俺のユーベルコードは超嗅覚、キナ臭さだって嗅ぎつけるぜ?
【第六感】も超嗅覚の効果(演出)
風下に回って塀の上に立ち匂いに集中する

ユーベルコード≪超広範囲嗅覚≫で人の匂いを嗅ぎ分ける
特に生き残っててくれりゃあ……って思う子供達を見つけたい

あったぜ、だいぶ細い糸みたいな匂いだが……
チッ、とりあえずこっちだ!

隠し扉か知らないが道が行き止まりなら二刀で斬り裂き破壊して進む

燕三の作戦で俺がフォローできそうなら少しでも手伝って成功率を上げる

苦労人ポジは望む所
アドリブはご自由に


御代・燕三
相棒の【犬憑転助】と行動。呼び捨て

UDC組織の外部協力者的な立場。
カバー:小説家の担当編集者。
清潔感あるスーツ姿。出来る男風。

話を聞ける人が居れば良いのですが。または人でなくとも何かが存在していれば……。この物語が先へ進む道を見つけましょう

UC「算術式:先見の章」を使用。視界を共有でき通話も可能な紙人形を
最大展開させ部屋という部屋、通路、屋敷、外周のありとあらゆる場所へ放つ。視覚・聴覚で子供たちの調査を進めます。電脳魔術師としての演算も併用させ手掛かりを探します

嗅覚や勘に頼るのは転助にお任せしましょう。探索にて鍵開けが必要であれば解除を物理でも電脳からも挑戦します。

アレンジ・他猟兵との絡みOK



●敷地内
「――どうですか? 転助」
 糊の利いたスーツに身を包む御代・燕三は、塀の上に颯爽と立つ相棒を見上げてそう声を掛ける。
「まあ、待て」
 問われた犬憑・転助はその口許をにやりと歪め、笑って返す。
 風の流れを読んで風下を選び、序に塀の上まで乗り上がれば、転助の鼻に嗅ぎ分けられぬものなどそうは無い。ユーベルコードが展開すると共に、嗅覚は何よりも鋭利に研ぎ澄まされて武器にも成り得るのだ。
 空気の流れを嗅ぎ分ける――その奥に潜まれしものを暴き立てる。
 ――生き残っててくれりゃあ良い。願うのは、未だ見つかっていない子供たちの事だ。
「話を聞ける人が居れば良かったのですが。……期待は出来そうにないですしね」
 転助が気配を嗅ぐのを仰ぎ見ながら、燕三はちいさくそう呟く。
 敷地内、生きていると思しき人間など誰一人居なかった。行方知れずの子供も早々簡単には見つからず、それ故の嗅覚だよりだ。
 けれどそればかりに寄り掛かるつもりもない。燕三の手許で式が編まれ、紙人形がふわりと浮く――仮初の命を與えたそれらが、意志持つものの如くに敷地内の各方面へと散ってゆく。
 着物の裾の翻る音が頭上に鳴る。転助の身動いだそれだった。
「――あったぜ、」
 集中していた彼の琥珀の眼差しが、ぐっと押し開かれて先を見る。
「だいぶ細い糸みたいな匂いだが――……、然し、」
「式を向かわせましょう、」
 言い淀む彼に片眉を跳ね上げるも、一先ずサポートが必要だろうと燕三はそう告げた。どこですか、と言外に問う様に転助を見ると同時、彼の姿がひらりと塀の上から降りて来る。
「北に在る、離れだ」
「ああ、地下施設があると言っていた場所ですか。……歯切れが宜しくない様ですが?」
 いつもの彼らしくない、と瞬いて燕三は語尾を上げた。
 どうしたのだと尋ねる様な口振りの相棒に、転助は顔を顰めて嗅ぎ取ったものを言葉にするべく、口をひらく。
「死体じゃあなさそうだ、が……、」
「なら、生きているのでしょう。あなた直感で動くタイプなんですから、考えすぎると転びますよ」
「うるせえ!」
 思考を手助けする様な燕三の軽口に、こちらも軽く返して転助はがしがしと頭を掻く。
「……感じが悪い。良くはねえ」
 生きているから助ければ良い、と、少なくともその様な状態ではなさそうだ――転助の嗅覚は、細い糸を手繰り寄せてそんな感覚を得た。
 ふ、と燕三が笑う気配を纏う。操る紙人形達に気を遣う分、それは希薄では在ったけれど。
「それでも、自分の目で確かめないと気が済まないでしょう」
「――ま、そうだな」
 双眸眇めて転助が肯いた。往くか、と軽く口にして、ふたりの姿が駆けてゆく。

 見つかっていない子供たちは、生きて北の離れの地下施設に居る様だ。
 ――【見つかっていないこども・5】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨乃森・依音
邸に踏み入れる足が竦む
歌う以外脳がねぇ戦力外もいいとこの俺でも
ここで出来ることはあるのか…?
…ああ、くそ!しゃらくせぇ!
それでも
救える命があるなら行くしかねぇだろ
行くんだよ!

とは言え俺は探し方なんて
…ああ、そうだ
邪神には邪神だ

――ソテル、頼む

共依存関係である邪神
てるてる坊主を喚び出して
お前の仲間を探して欲しい
邪神同士なら、なんかわかるだろ?
匂いとか、気配とか、行動パターンとか…
なんでもいい
小さな緒から探っていく

ソテルにそう頼んだなら
普通のてるてる坊主サイズにして
先行してもらいつつ、邸内を探索だ
俺も音には十分に気をつけつつ進む
獣の耳だから人間の耳よりかはマシなはず

――頼む、まだ誰か生きててくれよ



●敷地内・北の離れ近く
 淀む死臭に、その人を遠ざける様な臭気に、雨乃森・依音は自らの膚が総毛立つのをまざまざと感じていた。
 この邸に踏み入れる時から足は竦んでいたのだ――歌うしか取り柄のない自分に、ここで出来る事などあるのだろうか。
「(それでも、救える命があるなら行くしかねぇだろ)」
 子供が見つかっていないと皆が云う。それなら探さねばと皆が云う。
 手はひとつでも多い方が良い。だからそこに手を添える。足が竦む儘に、喉が震える儘に佇んでいる暇はないのだ。
「――行くんだよ!」
 吼える声ひとつは自分への発破に相違ない。
 掲げる掌の上に、白い化身が蟠る。ソテル、とその神様の名をちいさく呼べば、いらえる様にてるてる坊主の白い裾が柔く揺れた。
「お前の仲間を探して欲しい」
 人ならざる者同士、何か通じ合うものが在るかもしれない。或いはどこか縋る様にソテルを見上げてそう願えば、返事の代わりにてるてる坊主は小さくなる。
 掌に収まってしまいそうなサイズに戻ったかの存在は、音なくすいと空を泳いで依音の前を先行してゆく――淀みはない。願うものに導く姿は躊躇なく、その姿を見失わない様に、早足で半ば駆けながら依音は浅く唇を噛んだ。
 喉の奥がいやに乾く。良くない予感がする。救える命であってくれと願ってばかりだ。
「(俺が、音を聞き逃す訳にはいかない)」
 ひりつく喉に空気を通して、探索する猟兵たちの音の行き交う向こうに見出そうとする。
 白い獣の耳は戦慄いて震える――音は、音楽はいつだって自分の武器で、味方で、感情の発露の技法だった。あまりにも身近なそれを通して伝わる気配に、気付かない訳にはいかない。
 乱れかけた自らの呼吸すら邪魔だった。それでも必死に手繰り寄せて引き戻して、依音は『それ』に辿り着く。
『――――……、ふふ、――……ら、ら、』
 こどもの。笑い声に似ていた。
 辿々しくうろ覚えの歌を伝う、そんなあまい声が揺れた気がした。
「ッ、ソテル、待っ……」
 先を行っているだろうてるてる坊主を引き留めようとして、そちらに視線を向けた依音は気付く。
 異形の気配を辿って先行していた筈のソテルは、ほんの直ぐ眼の前でふわりと浮いて停まっていた。
「……、違うだろ?」
 思わず依音は尋ねる。声は震えていただろうか。このてるてる坊主には、同種と思しき人ならざるものの気配を辿る様に頼んだ筈だ。そこまでの案内を。
 子供の声が聞こえた場所で、立ち止まって良い筈はないのだ。
 ――だってそれは、子供の声と人ではない何かが、イコールで繋がってしまう事なのだから。
「生きててくれ、――」
 ふたりの足は、北の離れの前で留まっている。
 半ば衝動の様に零す言葉は、たぶん旋律がついていないだけの、感情の発露だ。

 子供の声が聞こえた気がした。そしてそれは、少なくともいま、人ではない。
 ――【こどもたち】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

カタラ・プレケス
アドリブ歓迎

……何を呼ぼうとしたらこうなるんだろうねぇ~
いくら邪神でも神の一柱
数人ならともかく徒に信者を減らすことはしないだろうに
まっとりあえず頑張って探そうかぁ~

探索箇所は屋敷のちょうど中央
地動観測と天動観測を使って占星術
呪槍蒐監とあわせてどこに呪が集まってるかを探るよ~
あとはいくつかは魂が彷徨ってるだろうし
その子達から何が起きたかを聞けそうなら聞こう
聞けなかったなら問答無用で成仏させるよ

それにしても子どもがいないねぇ~
……七つまでは神のうち
あんまり考えたくはないけど多分呑まれたか招かれた
どっちにしても人の世に帰ってきても普通には生きれないね~
……はあ、地元とこの世界どっちがましなのやら


クロト・ラトキエ
しんと水打った心で邸に立つ。

傭兵ですから。
場に呑まれるほど初心じゃない。
今の所は現場保全…と気には留めながら。

戦闘(ころしかた)の知識はあるつもり。
血痕の有り様で何人分か推測し。
中でも、飛沫。大きさ、飛んだ向き、形、範囲…
或いは遺体の状況を知るなり出来たなら。
加害者の凡その背丈。獲物の形状、大きさ、そもそも物であったか術か何かか。
凄惨さに目が眩み易い現場こそ、多く情報が潜む。

殺して、殺しきって。尚も邸に留まるのは。
“なぜ”
思い入れ?待っている?ただ動けない?
理由から行動を逆算し。
体や武器…質量は、時に潜伏の幅を絞る。
得た情報を加算する。

そのどこかで。
「神を呼び奉る…」
例えばそう口にしたなら――



●母屋内
「……何を呼ぼうとしたらこうなるんだろうねぇ~」
 手許を覗き込んでのんびりと零すカタラ・プレケスに、彼を振り仰ぐ形でクロト・ラトキエは振り返り、そうして立ち上がる。
「――解りません。強い憎悪によってこうなった、というのは情報として入って来ましたが、……」
 ふたりの周りには、見るも無惨に血の海に沈んだ室内が横たわっている。
 殺された大人たちは皆、強い憎悪によってそうされている――先駆者から共有されてきた情報ではあるが、それにしたって、とクロトは唇を浅く噛んだ。
 知識は在るつもりだ――『ころしかた』の。どの部屋の、どの部分の血痕をどれだけ見た所で、そのすべてが訴えてくる事はただひとつだ。
 ――暴力にも似た強大な力で以て、ただひたすらに、『ころされて』いる。
 ただただ命を潰されている。譬えば頭を潰されたらしき、脳漿が撒けた様な跡の残るもの。臓物を砕かれたらしき、肉片がこびりついていた調度品。全身の血をジュースの様に絞り出したかの様な、滴る程に濡れた畳。
「悲惨、と、言ってしまえばそれに尽きます。――化物でも喚んだのでは?」
「強ち間違いでもなさそうだよねぇ。だって邪神と言えど、曲がりなりにも神の一柱だ」
 ここまでごっそり信者を減らすかねぇ、と緩い声でカタラは紡ぐ。
 そうしてしゃら、と金属の触れ合う微かな音を響かせて、彼の手許に鳥籠が下げられる――呪いを貯め込むその綺麗な檻を媒介に、彼の術式が展開されてゆく。
「――嗚呼、うん。呪が集まってるのは、やっぱり祭祀場の奥だねぇ」
「地下施設への扉が見つかった、あそこですか」
 四肢を伝わる悍ましい呪の気配に、俄に泡立つ膚を衣服の上から撫で摩りながらカタラが囁くと、確かめる様にそうクロトが問う。うん、と肯定するかたちでカタラは肯いた。
 次いで、この忌まわしき場に留まるであろう魂に、慰撫する様に指先を伸ばす。意思の疎通を図ろうとして、――けれど、閉口した。
 一連の動作を眺めていたクロトが、訝しげに双眸を眇める。
「どうしました?」
「……彷徨っている子に話を聞いてみようと思ったんだけどねぇ、これは……、」
 難しい、と口許を手で覆いながら、薄く笑ってカタラはいらえた。
「そう、ですね。僕もあまり、この場に良い感覚は持てません。――こんな場を彷徨うと云うのは、最早悪霊の類ではないでしょうか」
 その様相に顔を顰めた儘、周囲への警戒を怠らぬ様にクロトは囁く。
 仰る通り、とカタラが笑う。
「話の聞ける状態じゃあ、ないなぁ。……根源をどうにかしないと、下手に手も出せない感じだ」
 根源。根差すもの。恐らく今は祭祀場の地下に身を潜め、そこに息衝くもの。
 ――ふ、とクロトが息を吐く。ここまで凄惨にこの爲定と云う一族を殺して、殺し切って。
 尚もこの邸に留まり続けるのは。
「(なぜ、)」
 逃げられなかった? 否、外には逃げようとした気配が無かった。庭は美しく手入れをされた儘で、逃げるべく踏み荒らされた気配もない。
 何かを待っていたのだろうか。それとももっと別の思惑が在ったのだろうか。それはまだ、杳として知れないけれど。
「神を呼び奉る、……否、」
 囁かれる様に落ちるクロトの声に、傍らのカタラが笑う様に気配を揺らす。
「そうだねぇ。引きずり降ろされたのかもね、」
 そうしてふと、カタラの眼差しが淡く伏せられる。気懸かりはまだ幾つか在って、――そう、子供たちの姿は、相変わらずどこにも見えやしないのだ。
「……七つまでは神のうち、」
 吐息混じりに密やかに紡がれる言葉に、クロトも苦い色を表情に交えてふ、と視線を逸らす。
「旧い家ですから。――有り得ない話では、ないでしょうね」
 喩え無事に帰って来たとして、人の世に立ち交じって生きていく事は叶わないのやもしれない。
 ふたりの胸中を、薄暗く立ち込める暗雲が撫ぜてゆく。

 大人たちはその誰もが、異形のものと思しき力に依り、無惨に殺された様だ。
 ――【邸内に満ちるもの】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

遙々・ハルカ
いいねェ、人知れず起こった惨劇、その謎を追え!みたいなヤツ
古典ミステリみてェ~でテンション上がるわ

堂々と靴のまま上がり込み、血痕などを跨ぎつつ
上機嫌鼻歌まじりに先ずは軽く『無事な場所』を先に確認
惨劇以外の痕跡や第六感・シャーマン的に気になる物品などを物色
情報を頭に入れ

オレ今から頭使うからさァ
《オルタナティブ・ダブル》でトヲヤを呼ぶ
医術、戦闘知識、学習力、第六感、辺りの併用で
血痕の方向とかから『犯人』がどっちから来てどう殺したとか見て追い掛けてよ
心理と行動のプロファイリングってやーつ
オレは考えながらお前の後ろついてくし
不審な痕跡なり何かあったらちゃんと教えろよ
眉間に皺を刻みつも大人しく頷くトヲヤ



●母屋内
 ごつ、と厚い靴底が床に擦れる音がする。
 黒いスニーカーが乾いた血潮を跨いで歩く。遙々・ハルカはくるりと周囲を見回して、鼻歌混じりに軽やかに部屋を覗き込んでゆく。
「いいねェ、人知れず起こった惨劇、その謎を追え! みたいなヤツ」
 古典ミステリみてェ、と密やかに呼気で笑えば、その舌先のピアスが光を弾いた。
 探し歩くのは『無事な場所』だ――とは言えどこも返り血塗れで、汚れていない箇所など在りそうにない。けれどそうやって部屋のひとつひとつを精査すれば、見えてくるものだって無論在る。
 ふむ、と愉しげに双眸が眇められた。
「……まーじで殺す事にご執心だったかね。家探しされてる形跡がねぇな」
 家具や調度品にはそう大きな差異もなく、どれも大概血痕が付着しているが、物品自体に手が着けられた様子は何処にもない。
 見境なく暴れたが故に壊れたもの、と云うのも殆ど見当たらなかった。恐らくその場で誰かが殺されたのだろう衝撃で薙ぎ倒されたものは幾つか散見されたが、言ってしまえばその程度だ。
 成る程、と有様を視線で浚ってから、ハルカは浅く頸を後ろに倒して声を放る。
「――オレ今から頭使うからさァ、」
 それに呼ばれたかの如く、或いはいらえる為に、何も無かった傍らにずるりと人影が現出する――トヲヤと呼称されるそれは、正反対のもうひとりだ。
 何をさせるのかと、無表情なトヲヤの眼差しが物言いたげにハルカを見遣る。
 金の眼差しが出迎える様に彼を見た。薄く笑む唇が、軽口めいて次を継ぐ。
「心理と行動のプロファイリングってやーつ」
 血痕や残る痕跡から、『犯人』と目されるものの行動を想定してその跡を追い掛ける――委ねた判断はそれだ。ひとりでは為し難いものも、ふたり居ればハードルはぐっと下がるものだ。
 眉間に皺を刻みながらも、言われた事にトヲヤは黙って従った。動き出すその背を追って歩きながら、ハルカは思案を巡らせる。
 出発地点は祭祀場――恐らくここから儀式は始まり、そこに生まれた何かが一族を虐殺せしめたのだろう。憶測は容易だった。何せ、この場だけが他に比べて桁違いに穢れている。
「……、後は虱潰し、ってとこ? 逃げたのも丁寧に追ってる、が、――……」
 離れに逃げる者も在った様だ。遠目に見えるその建物も、変わらず血に汚れている。けれど。
 ふと、視界の端に北の離れが引っ掛かる。そこだけ、やけに血痕が少ない様に思えた。努めて荒れない様に気を払ったのでは、と、何となく思う。
 言葉無く少しだけ見つめて、は、と吐息を零してハルカは笑った。
「――面白ぇモン、在んのかねェ」

 大人たちを殺した存在は、北の離れに何か思う所が在ったのかもしれない。
 ――【かみさま・4】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

七厶・脳漿
亮(f11219)と一緒に来たけど
俺は生死も不明な子供には興味無いんだよね

【午後三時~】の蝶は強い『感情』へ群がる
その辺に残された恐怖や憎悪なんかの残滓を辿り
ヒントに辿り着ければ上々
或いは邪神に心があれば反応するかな
蝶が誤反応するから、正義厨のお巡りさんは下がってて

大事な儀式が行われたなら母屋かな
ひらひらりその翅の向かう先へ【情報収集】
壁や床の血痕や傷は注意して観察
血の飛散した方向、逃げる足跡の向き、物の散乱の仕方は
邪神がどこから来てどこへ行ったのか教えてくれる

それが分かれば、向かうは起点
其はどのように生まれたのか
戦う際の助けや対策となるものはないか
蝶の導と共に、必要な物は【盗んで】しまおう


曽根・亮
ナナ(f12271)とは珍しく意見が合わない
子供の保護が最優先だ、と釘を刺しつつ
下がって蝶の発現を遠目に見守る

邪神の「来た方」にナナが行くなら、俺は断固「行った方」に向かう
まだ救える命があるなら確実にそっちだ
考えたくねェが、子供達は既に邪神の側で動けない状況かも知れねえ

危険な事はすんなよ、とナナを見送ったら
【刑事の勘】フル活用で邪神及び子供の捜索
借りれるなら蝶も一匹連れてこう
ナナの言ってたように血の痕等よく観察しつつ
密室になり得る場所には特によく探す
入れねェ場所は戸や障害物を壊して押し入る
警察だけは最後まで諦めちゃいけねェだろうが
せめて、手がかりだけでも

もし、生存者を見付けられたら【救助活動】



●母屋~北の離れ
 ふたりにしては珍しく、意見が合わなかった。
「俺は生死も不明な子供には興味無いんだよね、」
 七厶・脳漿は小さく吐息すると共にそう零し、その掌には蝶が群れ集う。強い感情を好んで喰むそれらは発現すると同時、思い思いに翅を震わせ翔んでゆく。
「子供の保護が最優先だ」
 僅かに苦いものを表情と声色に滲ませながら、曽根・亮がそう釘を刺す。蝶が翔び立つのを眼差しで追う彼をちらと横目で見て、脳漿は双眸を眇めた。
「はいはい。――蝶が誤反応するから、正義厨のお巡りさんは下がってて」
「言われなくとも。……俺は生存者を探しに行く、危険な事はすんなよ」
「お節介」
 亮は当然の様にそう告げて、小走りにその場を離れてゆく。僅かに唇を尖らせて、掛けられた科白に脳漿はいらえた。
 彼が邪神の行った先へ向かうなら、自分が探るのはその袂だ。かの存在はどこから来たのだろう。由来の根本に埋まるものは、きっと呪詛に塗れている。
「大事な儀式が行われたなら――」
 やはり母屋だろうか。祭祀場方面へと足を向ける脳漿の行先を、そこに横たわる血の海の端々を、舞い飛ぶ蝶が踊っている。
 強い憎悪はこれを為した存在――恐らくは邪神、それの発するものなのだろう。人ひとりが死したと簡単に解る血溜まりに、蝶は喜んで群れている。強い感情が、今も尚そこに蔓延っているのだ。
 祭祀場がいちばん酷い。けれどその酷さ故に、何かが移動した跡ははっきりと残っていた。逃げてゆく人々だろう幾つもの足跡、それを塗り込める様な何かが引き摺った跡、――脳漿はそれらを丁寧に辿る。
「歪んだ願いから生まれたものは、どこから来て――どこへ往くのかな、」
 結論から云えば、『それは何処へも往かなかった』。
 辿る血痕はぐるりと敷地内に巡れども、終ぞそれは塀の向こうへと向かう事は無かった。蝶はひらひらと翔んでゆく。始まりの場所へ、あの祭祀場へ。その奥へ。
「恐い?」
 蝶は祭祀場奥、地下施設への扉に懐く様に留まっていた。
 尋ねた脳漿の声に、返るものは何もない。ただしっかりと閉じられ封の施された扉が、此岸と彼岸を隔てる様に在るだけだ。殺せるだけ殺し尽くして、人あらざる存在はそこに戻った――もしかするとまだ理性が、分別を付けるだけの何かが遺っているのやも知れない。
 ――扠、自らの勘を研ぎ澄ませてフル稼働させながら、亮は敷地内を横断する。
 猟兵たちの情報共有により、北の離れに子供と思しき存在が居るらしい、というのは勿論亮も把握していた。邪神と目されるものが籠もっている場所とは違う、という事も。
 ならば他の場所にまだ子供が隠れ潜んではいやしないか、それを浚ってみるのも有用ではないか、と逡巡する。居なければ居なかったで良いが、もしも居るのを見逃してしまっては事だ。
「警察だけは、最後まで諦めちゃいけねェだろうが」
 唸る様に呟く。この身体に宿る精神が、そんな風にずっとがなり立てている。
 逃げた者を追ったのか、それとも元よりそこに誰かが居たのを識っていたのか、他の離れにも血痕はそれなりに残されていた。亮が足を踏み入れた西の離れも、そのうちのひとつだ。
「詰め所、みてえな感じかね」
 すっかり乾いた血痕が、畳を黒く汚している。起居するスペース、と云うよりも、不特定多数がよく出入りする詰め所の様な雰囲気を感じ取った。
 ――ふ、と、視線がその和室の中、背の低い卓袱台に止まる。有り触れた茶菓子が盛られた菓子籠の傍に、一枚の紙が伏せられている。何かの裏面の様で、うっすらと表面が透けて見えた。
「何だこりゃ。チラシ、か……?」
 手に取って捲る。文章だけを素っ気なく打ち出したその紙片の一番上には、「新商品のご提案」と題が打ち出されていた。
『個体としての経験や記憶の蓄積が少ない子供の方が、適合率が高いという調査結果』
『従来の薬品タイプは高い効能を誇る代わり、体質の合うお子様がたいへん少なかった』
『内部から作り変えるのではなく、外部からの刺激により適合を促す画期的な新商品!』
『テレビ・ゲームを模した造りにより、信仰への興味が薄いお子様でも手に取りやすい形状です』
 ――概ねそんなような事が、美辞麗句で装飾されて書き連ねられていた。一番右下には、エルピス製薬株式会社、と文字も見える。そうしてその横の空いたスペースに、丸で囲んだ『7』と云う数字が大きく書き込まれていた。
 精読して、亮の喉がちいさく鳴る。血の気が引く。これは何だ。子供を対象にした何らかの実験が行われていたのではないか。数字の意味は何だ。よもや。まさか。
 未だ全容が見えた訳ではない。それでも居ても立ってもいられなくて、亮は踵を返す。

 母屋内の地下に籠もっている存在には、もしかすると理性と呼べるものが遺っているのやもしれない。
 子供たちに向けた何らかの実験的な新商品が、エルピス製薬株式会社より在った様だ。
 ――【かみさま・5】【介在する存在・2】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
他の猟兵の向かわない、手薄な方面を埋めよう
加えて別の方面へ向かう猟兵の一人を【影の追跡者の召喚】で追尾
向こうに何かあれば知覚できるよう、備えておく

内部構造を把握しながら歩き回る
不自然に隠された区画がないかは一応確かめておこう

これだけの数を殺したというなら
「それ」にも痕跡は残っているだろう
足跡や、引きずったような血痕、血の臭い――
究極的には「ひと」ではないものの気配、か
感覚を研ぎ澄ませて僅かの異変も見落とさぬよう

血の色も、臓腑の臭いも
そこに充満する死の気配にも、もう慣れたはずなのに
咽喉の奥に何か
重苦しいものが引っ掛かったような心地で

――そんな感情(もの)を、俺は、知らない
知らない、はずなんだ



●西の離れ
 母屋内や北の離れには、充分な人手が在る様だ。
 些細な事でも取り零しは見逃せない。鳴宮・匡は西の離れへと足を向ける。
 つい先程、ここで怪しげな文書が見つかったとも情報が入って来ている。詰め所の様だと言い表せるならば、他にも何か置いてはいないだろうか。
 匡の手許には他の猟兵たちと情報を共有出来る様に端末が支給されており、他の領域を探索する誰かに添わせた追跡者も在る。敷地内の把握に事欠く事は無いだろう。
 ――母屋内には地獄が敷かれている。憎悪と殺意で以て大人たちを屠った存在は、けれど本当に彼らを屠っただけなのだ。
「庭の樹々も、建物も、室内の家具も。……どれも故意に害されているものはなし、か」
 惨劇は確かに、『人でない』ものに依って為された筈だ。あんな風に人間を虱潰しに殺して回る芸当など、こんな小さな教団に身を置く無名の誰かに出来るものではない。
 それでもどうしても、考えれば考えるほど、その行動には違和感が付き纏うのだ。
 ――まるで、人が心を砕くかの様な。
「……慣れてる筈なんだがな」
 それを他でもない自分が飲み下しきれない事を疑問視すらする声色で、匡は呟く。
 辿り着いた西の離れに上がり込めば、そこも矢張り地獄を担う一端である事に相違はない。畳に染み込み乾いた血痕、こびり着いた死臭。
 慣れた筈だ。遺された臓器の肉片が人知れず朽ちてゆく異臭も、満ち満ちる死の気配にも。だと云うのにどうして飲み下せないのだろう――喉の奥に何か、重苦しいものが引っ掛かった儘なのだ。
 本人すらそれと気付かず、奥歯を噛み締める。それでも眼差しだけは眼光鋭く室内を具に検分するのだ――それが匡の在り様だ。
「これ、……キーボックスか」
 どうやらこの施設には、敷地内の予備電源やら配線盤が集中されている様だった。注意深く壁を探っていれば、何かの仕掛けが作動して把手がぽこんと飛び出してくる。
 それを摘んで引くと、小さな四角い扉が開いた。覗き込んで匡はそう呟く。
 鍵はその殆どがきちんと掛けられ並べられていたが、「地下座敷牢」と小さく書かれた部分の鍵だけは見当たらない。恐らく儀式に当たって誰かが持ち出し、そのまま有耶無耶になったのだろう。
 他の猟兵たちに共有を、と端末を持ち出した所で、匡の指先が重たく鈍る。
 喉の閊えは未だ取れない。
 そんな感情は、そんなものは、俺は知らない筈なのに。
「――知らない、筈なんだ」

 施設内の鍵が保管されている場所を発見した。北の離れの地下は、これで開くだろう。
 ――【離れの鍵】を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒蛇・宵蔭
さて、かの一族の心境は理解できません。
ただ使命に殉する気持ちは少しだけ……理解できないこともありません。

納戸を調査。
まずは死体の痕跡の有無で駆け込んだ何者かがいるなら、その行動を手がかりに。
丁重に扱われていそうなもの、最近収納された・取り出された場所などを調べる。
魔術的だったり、呪術的な気配を探りつつ。
面白いものを探しましょうか。
空振りも情報ですから。

人が居る可能性は考えていませんが物音への注意を払い警戒は怠らず。
話の出来る相手なら対話を、出来ぬ相手なら拘束を狙う。
いずれにせよ、催眠術が効けばいいんですが。

私には亡者の無念を汲み取る力はありませんが、存在する相手ならば阻めるでしょう。



●納戸
 かの一族の心境こそ理解出来ねど、その中枢たる使命に殉ずる気持ちであれば、ほんの僅か――僅かであれど、理解できない事もないな、と目蓋を伏せる。
 黒蛇・宵蔭は納戸の前に音無く立った。引き戸になっている扉部分を見やれば、血で汚れたと思しき赤黒い手型が乱雑に付いている。
 そのまますらりと戸を開くと、ひとり分の血痕が派手に床を汚していた。邸内に充満する空気と同じものが、この場にもまた満ちている――死臭は肺を穢してゆく。
「あなたは、何に縋りたかったのでしょうね」
 無闇に踏み荒らさぬ様にそれを跨いで、宵蔭は納戸の中を見回した。
 物品は綺麗に残されている。この血痕の主を殺した存在――恐らくは邪神と目されるものは、この中の品々を壊す事はしなかったらしい。
 壊す必要もないものなのだろうか。否。
「興味すら、無かったのかもしれません」
 恐らくそれは、邸内に生きるものが只々許せなかっただけなのかも知れない。
 考えた所で詮無い事だ。既に事件は起き、姿の見えない子供以外は全滅の一途を辿った一族だ。どれだけ過去の事に思いを馳せたとて、それが覆る事など在ろう筈もない。
 棚に並べられた物品を、丁寧に目視で確認する。一見して解る様な、神秘に纏わるものは見当たらない――もっと奥だろうか。
 所狭しと並べられた棚を、更に向こうへ入り込もうとした時だった。
 ――ちゃりん、と、何かが落ちる音がひとつ、宵蔭の鼓膜を打つ。
「ッ、何が、」
 警戒は怠っていなかった筈だ。瞬時に全身を強張らせて臨戦態勢を取り、直ぐにも対応出来る様に意思を固めて宵蔭は背後を振り返る。
 けれどそこには何も無い。ただ開かれた儘の扉の向こうから入り込む初夏の薫風が血痕を撫で、室内の饐えた匂いを掻き混ぜているだけだった。
 ――否、何も無い、という訳でもない。『それ』に気付いた宵蔭が、片眉を跳ね上げそれに近寄る。
 乾いた血痕のその上に、鈍く金に皓る古めかしい鍵が、落ちていた。
「……どこの鍵、と、聞くのも野暮でしょうね」
 現状、見つかっていない鍵はただひとつ。邪神が籠もっていると目される、母屋内祭祀場奥から通ずる地下施設――地下座敷牢のそれだけだ。
 誰が齎したものかは、結局解らない。唯、何らかの意志が宿っている様な気がして、宵蔭は祈る様に双眸を臥せた。

 母屋内の地下施設のものと思しき鍵を発見した。
 ――【地下座敷牢の鍵】を入手した。

成功 🔵​🔵​🔴​

月居・蒼汰
…救えないのはいつだって苦しい
ましてや、子供達まで犠牲になっているのなら、尚更
血の臭いも死の臭いも、知らないものじゃない
でも、慣れるようなものじゃない
早く全てを終わらせて、綺麗にしてあげたいと思う
失われた命は戻らないけど、それでも

東の離れを調査
皆、色んな所を探してるだろうから
出来ればここには何かあるより何もないことを確かめたい
何かあったらその時はその時
大声で助けを呼ぶなり何なりする

…静かすぎて、心臓の音が聞こえそうだ
時折聞き耳を立てて、妙な…壁の向こうとか、地下、とか
そういう所から聴こえるような、変な音が拾えないか試しながら
一つ一つ、しっかりと確認
一応、隠された部屋とかも…なければいいんだけど


サフィー・アンタレス
邪神宗教…
何かにすがる程の祈りなんて、そんなものは全く理解が出来ないが
成し遂げるなら、自身の力でどうにかするべきだ
自身の意思も尊重されなかった子供達には
同情の気持ちが、無いわけでは無い
だからこそ、全て残さずに終えたいところだな

色濃い血の匂いには顔をしかめ
…分かってはいたが、あまり気分の良いものでは無いな
いつだって犠牲は無力な存在、か

東の離れを捜索
何かしらの痕跡を調べるつもりで
何も無いなら無いで、その情報が得られたと云うところだろう

何があるかは不明な以上、常に警戒をしながら
扉を開ける時等は特に注意をするか
引き出しの中とか、何か情報になりそうなものは無いか?
あったら持ち帰るなり、端末に記録するなり



●東の離れ
 ――救えないのはいつだって苦しい。
 表情は顔ではなく指先に出る。東の離れに踏み込むと同時に鼻腔を擽る酷い死臭に、月居・蒼汰は震える手指を握り込む様に力を籠めた。
 血の臭いも死の臭いも、知らないものではない。けれど、慣れる様なものでもない。
「早く全てを終わらせて――綺麗にしてあげたい、」
 独りごちる様な彼の声に、共に離へと踏み入ったサフィー・アンタレスが彼を見遣る。
「……そうだな。自身の意思も尊重されなかった子供達には、同情の気持ちが無いわけでは無い」
 だからこそ、全てを残さずに終えたいと、それは口にはしなかったけれど。
 東の離れにも矢張り、人の殺された跡がまざまざと残る。逃げ込んだ者がここで命を絶たれたのだろう――走ってきたと思しき乱れた足跡が、廊下を伝って此処まで点々と残っていた。
 然し、元は客間の様な使われ方をしていた様だ。あまり生活感の見えない室内には、上等そうなどっしりした黒檀の低いテーブルが据えられており、向かい合う様に座椅子が設けられていた。
 濃い血臭に顔を顰めながら、サフィーは室内をざっと検分する。『それ』に気付けば、蒼汰を手招きしながら囁いた。
「もしかしたら最近は、定期的に同じ人物とここで会っていたのかもしれないな」
「それ、――ファイル?」
 黒檀のテーブルから少し離れた隅には、電話台を兼ねた小さな物入れが置いてあった。
 テーブルに着座する位置から、少し手を伸ばせば届く距離だ。サフィーはその物入れから、『それ』――事務ファイルを一冊取り出して見せる。特段、ラベルの様なものは付いていない。
 成る程、と蒼汰が頷く。
「遣り取りしたものを、そこに纏めていた。……頻繁に出し入れするなら、手の届きやすい所に置いておきますね」
 いらえる代わりに頷いて、サフィーがファイルを捲る。文書と思しきものが、何枚かそのスリーブに収められていた。
「薬――『ギフト』の記録か」
「取扱説明書、の様なものでしょうか」
 ワードプロセッサ・ソフトで簡易に打ち出されたらしき形式だ。白い紙に、ずらりと文字列が並んでいる。
 タイトルらしく、一際大きな文字が一番上に踊っている――『新型薬品・通称ギフトについて』。
『旧名「パンドラ」として流通していたものに、我が社が独自に手を加え改良を重ねた待望の新型薬品』
『従来のものより各主成分を高濃度で配合。これを約一ヶ月間投薬する事により、更に効果発現に期待が持てる様に』
『身体が出来上がってしまっている大人に投与しても、効果は望めない。七歳~十五歳までが好適』
『副作用として、幻覚、幻聴、言語不明瞭、意識の混濁等が見られますが』
『規定量投与の後、上記副作用がトリガーとなり』
『――邪神を降ろすに相応しい身体が完成致します』
 文書には凡そ、そのような事が回りくどく丁寧に記載されていた。
 ふたりの間に、重たく冷たい沈黙が横たわる――姿の見えない子供たちが全員この薬を継続投与されている訳では無いだろうが、ひとつ、間違いなく言える事が在った。
「……今回の『邪神』の正体は、これを投与され変質させられた誰か、という事だ」
 いつだって犠牲は無力な存在だ。嫌だと拒否をする事すらきっと封じられ、年端もいかない誰かが人柱となり祀り上げられた。
 サフィーは訥々そう落とす。その傍らで、込み上げる激情を押し込める様に蒼汰の拳が勁く握られた。爪が食い込む事も厭わない様なその所作に唇を開きかけて、けれどもう一度サフィーは閉じる。
 湧き上がる感情を押し殺しながら、努めて冷静に蒼汰は囁いた。
「――救える、でしょうか。……それとも、」
 そう、救えないのはいつだって苦しいのだ。苦いものが迫り上がってくる。眩暈が光を塞いでいる。
 ファイルを抱えて立ち上がりながら、さあな、とサフィーは簡素にいらえた。
 踵を返してしまえば蒼汰からは背しか見えなくなるが、ほんの少し垣間見る事の叶った眼差しは、複雑そうに歪められていた様に思えてならなかった。
「完全に邪神として覚醒したら、きっと今度は無関係な誰かを害しに往くだろう。少なくともそんな未来は、――摘んでしまわなければならない」

 邪神と成り果てた誰かは、『ギフト』と呼ばれる薬を投与された子供のひとりの可能性が高い。
 ――【薬について・4】の情報を入手した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

イア・エエングラ
かみさまかみさま、いらっしゃるなら、
僕の願いも叶えてくださる?
そんでも捧ぐ血もないものな
僕ではきっと、だめかしら

穢しやしないかとちょいと摘んだ裾曳いて
そうなあ一番きれいな、ところを探そうか
ねえ、僕とお話する気は、あるかしら
呪詛の名残は、死の気配へと声かけて
伏す骸はもう起こせないけれど、蔓延る残滓を眺めやり
最期にご覧になったのは、いったいどんな、景色だろね
欹てるのは死霊は声の痕、供と歩くのは彼岸の路

きっとひとりでは寂しかろ
だから探しに、いきましょな
それともお友達のいらっしゃるかしらな
大きなひとでは、だめかしら
流れ尽きた生命の痕に伏せど足取りの軽いまま
信じたあなた方はそうしてきっと、満足かしら



●庭
 母屋を、そしてそこから繋がる離れたちを取り囲む様に植えられた日除けの樹木は、そのどれもが美しく手入れされて瑞々しい緑を誇っていた。
 敷地内で汚れていない場所を選べば、自然と建物の外になる――邸内はどこもかしこも血と肉片とで穢され果て、綺麗な場所など見当たらない。
 イア・エエングラは摘んでいた裾を離し、その緑を眼前にして眩しげに双眸を眇めた。
「かみさまかみさま、いらっしゃるなら、――僕の願いも叶えてくださる?」
 透き通る様な声が願う様にそれを喚ぶ。
 応えるものは、けれど無い。唯彼を慰める様に、駆けてゆく風に揺らされる梢がさやと鳴く。
 だめみたい、と甘く笑って、イアはくるりと夜裾を翻して肩越しに背後を見遣る――踏み越えてきた邸内が、そこに変わらず横たわっていた。
 憎悪と殺意で成し遂げられた、血と臓物の海。
「ねえ、僕とお話する気は、あるかしら」
 呪詛は死の気配へと絡み付く。手を伸ばして引き寄せようと声で招くも、骸は一言たりとて喋らない。
 ふ、と緩やかに息を吐く。それを期待していた訳でもないのだけれど――やっぱり少し、つまらない。それでも死霊たちの声を拾えやしないかと欹てる耳許に、擽る様な感触が生まれた。
『ころして』
 それは甘やかな声だった。
 それはねだる様なあどけなさだった。
 ふと聞こえた自分ではない誰かの声に、イアの眸が僅かに揺らぐ。水底から何か、きらきらしいものを見つけた時の様な色をして。
『もうすぐわたしじゃなくなるの』
 尚も声は囁いた。
『ばけものに。かみさまに』
 繋いだ手がひとりでに滑り抜けて離れてゆく様な感覚に、イアの吐息も溢れて毀れる。留めようがない、と本能が諦念を編み綴るのだ。
「きっとひとりでは、寂しかろ」
 尋ねたかった訳ではない。ただそんな風に思っただけだ。
 声はもう応えない。ほんの一瞬、あの僅かな隙間に、何かしらの波長が合っただけなのだろう――きっともう聞こえないのだろうな、とイアは理解する。
「――往きましょか、ね」
 朽ちた生命と屍の海を踏み越えて、さあ。
 かみさまに、逢いに行こう。

 ――誰かの【声】を聞いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

八坂・一路
POW
・感情
惨たらしい有様と事件のあらましへの恐怖、不安感
出来るだけ「見られる」状態の場所に行きたい

・行動
ひッ……ごめんなさい、ごめんなさい……
……怖い、見ていられない。目を覆いたい。
血の海に沈んだ母屋を抜け北の離れへ。
居住区画なら、生活の痕や、何か手がかりが残っているかも知れませんから。
サイバーアイを起動させながら内部を調査します。
……母屋より良い状態でありますように……
あてはないので【第六感】で片っ端から調べます。
開くところも開かないところも開けて、隙間もくまなく見て。天井裏や床下も、可能なら。
サイバーアイは視覚情報を分析するもの
【世界知識】に照らしながら主に目で【情報収集】を。


黒江・イサカ
やあ、派手にやったな
かくれんぼは得意なんだ、特に鬼役はね
神様ごっこよりこっちの方がさぞ面白かろう わかるよ
お付き合いしよう

正門からお邪魔するけど、なるほどなあ
手形は……大人のものなのかな
子供は見つかってないらしいしね、順当にいけばそうなんだろう
しかしモツまでほったらかしとはね グロ

さて、子供が隠れる所と言えば心当たりがいくつかある
高い所よりは低い所、広い所よりは狭い所だ
神様がどうかは知らんが、その辺を当たってみよう

……納屋にでも行ってみようかな

子供は秘密基地ってやつも好きだからね
【見切り】【失せ物探し】【呪詛耐性】
呪いはひとの死に触れるから、UCも使っていこうかな
さあ、誰の死線があるのやら



●北の離れ
 母屋より良い状態でありますように、と云う祈りは少しは通じたのかもしれない。
 八坂・一路の踏み入った北の離れは、他の区画よりかは随分とまともな状態で保たれている――血痕が全くない訳ではないが、母屋に比べればとても少ない。
「……う、いえまあ、さっきよりかは……」
 デバイスを眼球に走らせながら、一路は眉尻を下げながらもそう呟く。怖い、見ていられない、と泣き言を連ねながら通り抜けてきた母屋に比べればまだマシだ。
「やあ、全くだ。派手にやったよな」
 軽やかな調子で言葉を添えるのは黒江・イサカだ。彼もまた惨状としか言い様のない母屋を通り抜けてきている筈だが、一路とは対象的に飄々とした態度は崩れない。モツそのままとかグロいよな、と明るく笑い飛ばす彼に、一路は僅かに顔を青褪めさせながら相槌の様にこくこくと首を振る。
 さて、と切り替える様にイサカは切り出した。
「子供が隠れる場所と云えば納戸かなと思ったんだが、どうにもこっちに居るそうなのでね」
 恙無く共有される情報を受け取っているのは、イサカと同じく一路もそうだ。
 ええ、と彼もまた相槌代わりに頷いて、デバイスを装着した眼差しをイサカへと向ける。
「地下施設が、ここにもあると……その様に聞いてます。それを、探そうかと」
「入り口はまだ見つかってないんだっけか。――にしても、」
 ぐり、とイサカの黒い眸が興味たっぷりに室内を見回した。
 北の離れもまた居住区画では在るようだが、少し趣が違う。開けた和室には長机が出されていて、その周囲には幾枚かの座布団がこれもまた出しっぱなしにされている。
 どっかでこういうの見た事あるな、とイサカは視線を投げ上げた。考える。
「……あー、塾っぽいんだ」
 軽く指を弾く所作と共に、思い出した光景を口にした。
 言葉にされれば一路も合点がいって、そういえば、と頷いて見せる。
「じゃあここは、子供たちの勉強場所……、の、ようなものだったんでしょうか。……でも、」
 それにしては、と一路は眉宇を曇らせる。
 そうだね、と彼の言わんとする所を理解して、イサカはにんまり口端を持ち上げた。
「勉強道具が何ひとつ出てない。――よしんば勉強をしない日だったとして、大人たちが儀式で出払っているってのに、遊び道具も与えず子供ばかりで置いてくシチュエーションってのも不思議だよな」
 逡巡し、言葉を巡らせながらふたりは室内を探索する。
 机の下やら畳やらを注視しながら歩き回っているうちに、キッチンの方まで足を伸ばす――在った、とはどちらからともなく漏れた言葉だ。
 一見すると地下貯蔵庫の扉に相違ない。一路がデバイスの走る眸でそれを観察して、罠が掛かっていない事を確かめた。
 幾度か強めにノックすれば、空洞に音の響く気配がする――恐らく大きめの空間が、この向こうに広がっているのだろう。扉には鍵が掛かっていた。
「……ああ、もしかしたら、持ち込んでいるんでしょうか」
 既に他所で発見されている鍵の到着を待ちながら、ふと一路はそう呟いた。傍らでイサカが浅く頸を傾いで彼を見る。
「持ち込むって、地下に? 子供が?」
「はい。あの、遊び道具、とか。だから大人しくしてる、とか……」
 嗚呼、とイサカも納得する。外で騒動があっても出てこない理由としては、充分だ。
「ゲームかなんか持ち込んで、案外遊んでたりしてね」

 ――【地下折檻室】への扉を発見した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

境・花世
綾(f01786)と

血の匂いに怯みもせずに
喪われた右目で暗がりを凝視する

こっちの目はね、失せたもの程“視”えるんだ

なんて、と薄く笑ってみせて
きみの裾引き行く先は離れのひとつ
踏み入れば今も漂う恐怖、怨嗟、狂信
そう、まるで地獄みたいだ

無惨に散らされた痕にふれれば、
ふと感じる違和感
これだけ力があるUDCなら
簡単に、一撃で命を奪えたろうに

報復だったのか、それとも――
殺める手がふるえてた?

現を映す左目も瞑りながら、
第六感研ぎ澄まして惨劇の気配を辿ろう
境を踏み越えそうになるたびに、
きみの声が今在る場所を教えてくれる

……早く、見つけてあげなくちゃ

化け物をあの凪いだ海へ送るため
これ以上何も、失くさせないために


都槻・綾
f11024/かよさん

禍々しさに瞳を逸らす事も
眉を顰める事も無く
身に着けしヒトガタの依代が
ざわめく方へと足を運ぶ

視得ると言うのなら疑うべくもなし
淡く笑み返して共に地獄への道行きを

儀式の場は最も濃い血の香りがするだろうか
第六感を研ぎ澄ませ
呪詛耐性が報せる僅かな肌の粟立ちや
床や壁に滲みる血赤の重なり具合など
些細な違和も逃さずにいよう

子供部屋も見ておきたい
未来を紡ぐ筈の魂達が生きた証を
胸に焼き付けたくて

拾い上げた玩具などを
大事に馨遙で浄化する

沢山の死のしるし、と纏めるには痛ましい
其の一つ一つに、確かな命があったのだから

傍らのひとへと眼差しを向け
呼び掛ける

えぇ
疾く参りましょう

きっと終焉を――希っている



●北の離れ
 満ちる死の気配に、その麗しき花が怯む事など在りはしない。
「こっちの目はね、失せたもの程“視”えるんだ」
 花塞ぐ喪った右目で厭う事なく惨状を見つめながら、境・花世はそう告げて薄く笑む。
「信頼しています。他ならぬかよさん、貴女の事だ」
 彼女が視得ると云うのなら、それを疑うべくも無い。
 傍らに在る都槻・綾もまた、淡く笑みを返して前へと向き直る――邸内は何処も地獄の只中に踏み入る様な有様だった。
 ふたりが足を向けた、この北の離れもそれに外れるものではない。ただ、ここだけ他の箇所よりかは、ひとが死した形跡は僅かに少なかった。
 通り過ぎてきた母屋内を思えば、血の臭いも死の気配もここは随分と薄い。それでもそこに在るは底無しの恐怖と怨嗟と狂信に他ならない。根差すものは仄暗かった。
「……まるで地獄みたい。嚥まれて、」
 しまいそう、と。続く筈だった花世の言葉は、けれど呼吸のあわいに散って消える。
 言葉の先を塞ぐ様に、綾の指背がそっと花世の頬を撫でては離れてゆく。此岸と彼岸とが曖昧なこの領域で、傍らの彼だけが確かだった。
「現し世に咲く花を、みすみす地獄へ手向けるつもりは在りませんから」
「――うん、」
 穏やかに紡ぐ綾に笑い返して、花世はそっと跪く。
 足許には誰かの死が広がっていた。すっかり乾いた赤黒い染みに触れれば、言い様のない悍ましさが膚を伝って這い上がる――たったひとつ、一撃で命を奪う事など容易だったろうに、執拗に幾度も殺したと思しき跡だ。
 憎悪と殺意がそこには在った。一族の大人を手に掛ける時、『それ』は何を想っただろうか。未だ解らねど、そっと花世は眸を臥せて馳せずには居られない。
 残る眸も閉じてしまえば、一層鋭敏になる感覚が非ざるものの気配を嗅ぎ分ける。
「……早く、見つけてあげなくちゃ」
 勁い意志と共に囁く花世の傍で、綾もまた屈んで何かを床から拾い上げる。
 ちいさなテディベアだ。掌に乗るくらいのそれは、ちいさな子供が抱き抱えて大事にするには丁度良いだろう。持ち主はまだ生きているのやもしれない――それでも今、テディベアはこの死の海にひとりきりだ。
 そのベアに馨を託し、そっと手近な棚の上に置いてやってから、綾もまた、いらえる様に頷いた。
「えぇ。疾く参りましょう」
 儀式に依りて喚び下ろされた『かみさま』を湛え、年端もいかない子供がいまもどこかで蹲っているのだ。
 ばけものを、あの凪いだ海へ送る為に。
 だってきっと、それは終焉を希っているのだから。

 ――がち、と。少しだけ硬い硬質な音は、少し離れたキッチンの方面からだ。
 別の場所に保管されていた鍵で以て、先程見つかった此処の地下施設の扉が開け放たれたらしい。
 これは、と、誰かが昏い声で中を検めて呟いた。応援を、と別の誰かが素早く端末を操作して猟兵たちの周知する――子供たちが見つかった、と。
 扉の奥から無邪気な笑い声がする。誰かは思うかもしれない――嗚呼、無事だった! 救えるかもしれない!
 生きてはいる様だ。そう、最低限、生きてはいる。
「うふふふ、ふふ、ぅえ、えぇぇ、いたい、いたいよぉ、」
「――お、おとうさん、おとうさん! おかあさん! あぁ、ア、」
 ひとりは狂った様に笑いながら痛がっている。
 ひとりは泣き叫びながら既に亡いだろう両親を捜している。
 機嫌良く歌い続ける少女も居た。
 涎を垂らしながら頭に装着された何かを掻き毟って外そうとする少年も居た。
 全員、生きてはいる。但し、尋常ではない。
 既にどこかしらが、壊れている。

 ――出迎えるこどもの数は、七人居た。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『『ジャガーノート』寄生未完了体』

POW   :    《Now Loading...》
戦闘力のない【電子データ】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【寄生完了を加速させるプログラム】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD   :    助けて、誰か
【寄生された子供の生存願望を叫ぶ悲痛な声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    《緊急防衛モード、作動シマス》
【寄生対象者の生命力】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【自身を緊急防衛モード】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●現在の状況
 猟兵たちの仔細な調査、及び敷地内の踏破により、重要施設である【地下座敷牢】及び【地下折檻室】が開放されている。座敷牢は母屋内祭祀場奥から通じており、折檻室の方は北の離れから通じている。
 今回の惨劇を引き起こした存在は、恐らく一族内の子供のひとりであり、【エルピス製薬株式会社】より齎された特殊な薬物【ギフト】によって強制的に邪神の依代とされた様だ。未だ理性と呼べるものは残っていそうだが、それも時間の問題だろう。これは座敷牢の方に隠れていると目されている。
 また、邸内には生存者、或いは他の人間の姿はなく、エルピス製薬株式会社との橋渡しを行っていたと思しき「午堂」という者は居なかったが、代わりに残された薬品のアンプルを入手した。
 薬品とは別に、子供向けの「新商品」なるものが納入されていた形跡が在った。テレビゲームを模した形式だと云うこれが、残っていた子供に与えられていた様だ。子供たちは既にこれを使用した後であり、全員が何らかに侵食された様な状態で、折檻室にて発見されている。
 敷地内で回収出来る情報は、取り零す事なく入手出来たと考えて良いだろう。

 ――さて、発見されたこどもたちは全部で七人。
 一見して、既に『尋常ではない』。自我が既に壊れた者、壊れる寸前の者、身体に支障を来していると思しき者、様々だ。
 全員それぞれ、頭部、及び心臓部に機械の部品らしき者が癒着している。猟兵たちであれば、倒さずに剥がそうとするのは無理だ、と理解できるだろう。逆に云えば、倒す時に気を付ければ、命を奪わず機械だけを壊す事も可能そうだ――但し、『子供たちの状態は元に戻らない』。
 心身に重篤な異常を来している、現状の儘でただ機械の支配から逃れるだけだ。それでも命を救い、身寄りもなくなった彼らを日常の世界へ送り返したいと云うのなら、相応の覚悟と展望が必要になるだろう。
 普通に戦うのであれば、撃破と同時に機械諸共、子供たちは息絶える。仮に案内役が口を挟むとすれば、こちらを強く勧めるだろう。

 同時に、母屋の方面から大きな咆哮が轟いた。敷地内全域に、それは長々と響き渡る。母屋方面に留まっている者は、咆哮が祭祀場奥の地下から響いたものだと判断できるだろう。もう時間がない、とも。
 どちらも放ってはおけない。どちらも倒さねばならない。
 但し、どちらにも駆け付ける事は難しい。

●マスターより
 第二章、及び第三章の戦闘について、今シナリオに限り、『どちらか一方のみの参戦』となります。第二章にて書かせて頂いた方から第三章のプレイングを頂戴しても、反映致しませんのでご留意下さい。
 第一章の調査に加わっていない方でも勿論ご参加頂けますが、全員にこの制約が加わります。
 第一章ご参加の方は、調査終了時の立ち位置に関わらず、どちらでもご参加頂けます。子供が気になっていたから北の離れに行く、やはり邪神を放っておけないから母屋に行く、等、ご自由にご移動下さい。

 第二章の戦闘について、上記の通り、子供たちを機械ごと殺すか、機械だけ壊して生かすかの判断が可能となります。想定及びマスターからの推奨としては『機械ごと殺す方』となります。
 子供たちを救う方は難易度が高くなります。具体的には助けた後の処遇まで書いていなければ、命が助かったとしても後味のたいへん悪い結末となります。プレイングは好意的に解釈しますが、厳しめに判断致します。
 生かすか殺すかの記載がなかったり、倒す等の曖昧な表記の場合は機械ごと殺す様に処理致します。また、戦う子供は選べません。
 生殺与奪に関与出来るのは、自分が相対する子供一人のみです。この為、場合によってはこの子は生かしたが他の子は死んだ、と云う様な状況が発生し得ます。
 殺す場合は通常の集団戦と同じ難易度です。

 第三章は座敷牢での戦闘となります。詳細については開始後にアナウンスをさせて頂きます。
 また、第二章について達成数が足りない場合は、改めて雑記にてご案内をさせて頂きます。煩雑となりますが、どうぞ宜しくお願い致します。
ユエイン・リュンコイス
●子供の対処へ。

さて、普通に戦えば死ぬと。よしんば助けたとしても、心身壊れ元には戻らぬと。
…知ったことか。彼らが幸福になれる確率が幾ら低かろうと、0と1の間に在る差は1と無限よりも尚隔絶しているのだから。

機人を前衛に白兵戦を。多少の被弾損傷は無視して、子供より機械部を優先に狙う。仕掛け時と判断、ないし暴走を始めた場合には【叛逆せよ~】を起動。機能を封じて機械を引き剥がす。この環境下なら、この技は刺さるはず…ッ!

心は一朝一夕で治るものじゃない。UDC組織の支援の下、少しずつ治療するしかないだろう。だが、体なら。人型を動かすという分野なら。ボクが人形遣いとして蓄えた知識と技術が役立つはずだ。


御代・燕三
相棒の【犬憑転助】と行動

事件の関係者を探る
子供たちは生存させUDC関連病院で治療。長期のケアを依頼
また治療する際の手助けとなる情報を入手する
頼みますよ転助、狙うのは機械だけです

UC「算術式:真実の章」を最大展開で利用
子供に関わる過去を呼び起こし事件の情報を探る
黒幕まで入手出来るか分からないが顔や特徴的な物は覚え、絵に残す

相対する子供と、出来るなら他の生存した子の過去も呼び起こす。
子供たちが元気な頃のお気に入りの品、心の拠り所にしていたモノを探り、UDC職員に伝え治療に役立てる

彼らにも考えるための場所と時間を作りましょう
戦闘後に子供たちに『算術式:献身の章』で治療する

アレンジ・他猟兵との絡みOK


犬憑・転助
【御代燕三】と参加

胸糞悪い事しやがって……
子供の命が助かるようチャンスを狙って機械を破壊

子供を助けた後はUDCに関連病院での治療を依頼
実施は退院後も何年も精神ケアが必要だろうし、保護観察処分にもなるだろう
それでも……生き続けて欲しいって俺は思うよ
1人で良きるにゃ辛すぎる世の中だが、そんな世界でも生きてて良かったって思える事はあるからな

◆戦
第六感も嗅覚の効果として扱う
回復や援護は燕三に任せて戦う

超嗅覚で自身への攻撃や奇襲を察して回避、仲間にも知らせる

超嗅覚で敵の弱点(キナ臭い場所)を嗅ぎわけ仲間に伝える

戦いが硬直したら燕三に指示を仰ぐ
考えんのは燕三、手前ぇの役目だろう?

苦労人ポジOK
アドリブ歓迎



●爲定・惟斗
 その少年は、機械を繋がれた儘でぴくりと動こうともしなかった。
 まだ十にも満たなさそうな、そんな年頃に見受けられる――彼を眼前にして、ユエイン・リュンコイスは眦に決意のいろを差す。
 ――知ったことか。彼らが幸福になれる確率が幾ら低かろうと、0と1の間に在る差は1と無限よりも尚隔絶しているのだから。
「……君、」
 人形の嫋やかな指先が、そっと少年の方へと伸ばされる――が、不意に少年の躰が震えてユエインは動きを止めた。
 機械が烈しく明滅する。その度にびくん、びくん、と少年の四肢が大仰に跳ねる。まるで電気を流されているかの如く、或いは触れられた神経が過敏に反応するが如く。不出来な人形がそこでプログラムを調えられる様に、少年は尚も跳ねる。
 暫く在って漸くそれが落ち着いて、弛緩した躰を四肢が無理矢理に動かす様な具合で少年は立ち上がる――最早その躰に少年の意志は宿っていないのかもしれない、と誰かは思った。薄くひらいた唇の端から、だらりと涎が細い顎を伝ってゆく。
「――嗚呼、胸糞悪い」
 犬憑・転助は喉奥で唸る。
 その身が解りやすく怒気を孕むのを、彼の傍に並び立つ御代・燕三がいち早く感じ取って双眸を眇めた。手許に式札を準備しながら、彼は囁く。
「頼みますよ転助、狙うのは機械だけです」
 こんな時に彼が手許を狂わせるとは勿論思ってもいない。けれど、そうやって呼吸を合わせるのが相棒だ。
 機を読むそれぞれの耳朶を、声変わりすら迎えていない少年の咆哮が殴りつけてゆく――獣の如きそれは理性などもう欠片もない癖に、本能で叫んでいるからこそ三人には解る。解ってしまう。
 嗚呼、これは――生きたいと足掻く少年の末期なのだ、と。生きて戻ったとして絶望しか無いその先を、それとは知らず無垢に願う、執着と願望だ。
 そんなどうしようもない慟哭に、三者の裡で火が熾る。
「それを幸せとは呼べずとも。――ボクは、諦めたくない。聞いてしまったら、尚更……!」
 唇を噛み締めて、ユエインは己が機人を前へ進ませる。四肢を我武者羅に動かしながら襲い掛かってくる少年のそれを、黒鉄がすべて受け止めた。当然弱い子供の手足は音を立てて折れ、絹を裂くのと同じくらい容易に肉が裂けるけれど、少年は動じる様子もない。
 きっと動じる事など、もう出来ない。
「――呼びおこせ、我が呪に従いて」
 低い声が呪を紡ぐ。燕三を操る式神が、機械を通して過去を覗こうと式を拡げる。
 これを仕掛けた者を見定めようと深くまで探るが、けれど目的のものは巧妙に隠され見えはしないだろう。代わりにひとつ、柔らかな光景が燕三の瞼の裏に滲んで浮かぶ。
 ――そう遠くはない、過去の寧日。勉強机に齧り付いて、熱心に何か読む少年の姿がそこには在る。分厚い物語の様だ――煌めく眸で一頁ずつ捲られるその本は、きっともう二度と開かれる事はないのだろう。彼が奪われてしまったものが、その光景に綴じ込まれていた。
「過去も、今も、未来すらも。……すべて、奪われてしまったのですね」
 苦い囁きを零す燕三の傍らを、ひとつ駆け抜けてゆく影が在る。
 転助の軽やかな身のこなしは、成熟しきらない少年の躰を翻弄するには充分だ。すん、と鼻を鳴らして嗅ぎ分ける攻撃の軌道からほんの少し逸れてしまうだけで、彼は転助に追い付けなくなる。
 大きく外れた所を薙いでゆく機械の触手に、転助の眼差しが苦しげに歪んだ。間近で見ればよく解る――この少年は、繋がれた機械に強引に使われているだけに過ぎない。
「ッ、真っ直ぐ狙って真正面から突っ込んでくるぞ!」
 掠めてゆくその馨に、転助の声が怯む事なく仲間へと伝える。
 間断なくユエインの指先が少年へと差し向けられた。その手はもう迷わない――ユーベルコードを起動すべく展開する彼女が、鋭く差し込む様にふたりに告げる。
「威力を削ぐ、――そのまま行ってくれ!」
 想念の残滓も嘆きの残響も、いまの少年には満ち満ちていた。概念となって突き刺さるその技に、大きく少年の躰が仰け反って震える。
「支えるのはわたしが担いましょう。……転助、」
 彼の命までそれが及ばぬ様に、そうやって支えるのは燕三の癒やしだ。式を操り呪を紡ぐ彼もまた、ひとつの命を救うべく、その淵を見極めている。
 呼び掛けられるのに応える様にして、転助の唇が戦慄いた。
「――起きろよ、なあ。……一人で行くにゃ辛すぎる世の中だが、生きてて良かったって事は、きっと――在る、」
 囁きは、届いただろうか。
 ただ――祈りを籠めた一撃だけは、少年に届いた。心臓部に命中したそれが罅を走らせ、頭部のパーツと共に砕け散って解けてゆく。
 あとに残るのは、襤褸切れの様に崩れ落ちた少年だけだ。

 少年は猟兵らの要請を受けたUDCの職員により、事件収束後に関連の病院へ収容されるだろう。
 燕三により、読書が好きだった様だ、と告げられた事で、彼の病室には幾つかの物語の本が置かれる事にはなる。けれどそれが開かれる日が来るかどうかは、まだ解らない。
 身体の傷が癒えたとしても、壊れた心は一朝一夕で戻るものではない。転助が予測した通り、長い年月を掛けて彼の治療は行われるのだろう。ユエインが身体の動かし方を教えに来るのなら、意志があるのかも読み取れない燃え滓の様な少年が、車椅子に揺られるのを幾度も目にする事になる。
 ――それでも、命だけは繋がれるのだろう。彼に相対した猟兵たちが、望んだ通りに。
 ただ身寄りもなく、帰る場所も失くした彼が、心を取り戻した所でその環境をどう受け止めるかは――矢張り、解らないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

遙々・ハルカ
あ~あァ、可哀相に
そんなことちっとも思っちゃいない
あるのは徹頭徹尾好奇心だけ

こりゃもう人間じゃねェ~な
ナイフを構えるにも躊躇無く
早業・先制攻撃の《しらはの汚辱》で動きを封じ
先ずは子どもに纏わるコード等を重点的に
あんま怪我させんのは、ねェ

抵抗さえ弱まりゃイイんだよ
帯で封じられた小さな身体へ更に関節技の要領で組み付いて
癒着した箇所へ突き刺す切っ先
傷口をえぐる・医術を駆使し、無理矢理機械を引き剥がさんと
大丈夫ダイジョーブ
痛いのなんか今だけだって
満たしたいのは『どうなっているか?』という疑問
寄生途中の“それ”が見たいだけ

介錯は喉斬りゃイイよな?
血に噎ぶ耳元でやわく囁く
大丈夫、お父さんお母さんに会えるよ


鳴宮・匡
◆方針:殺害


目の前の子供を眺める自分の胸中には
驚くほどに「何もない」

ああ、
かわいそうだ、とか
なんとしてでも助けなきゃ、とか
俺が「人間」ならそんな風に思えたのかな

でも、そうは思えなかった
こうなった以上はただの「敵」で
だから、することはただ一つ

【確定予測】で敵の攻撃を躱しながら接近
避けきれない分は武器で受けるか打ち払う
叫び声を上げようとするならば喉を撃ち抜いて
近づくことが叶えばナイフで胸部の機械部品ごと心臓を穿ち抜く
叶わなくとも、銃で狙撃
いずれにせよ、一撃で終わらせるつもりで狙う

胸の裡に浮いたものを、言葉にできないまま
瑠璃唐草の飾りを指で触れる

人間らしく、か
……ああ、まだ
約束には、こんなに遠い



●爲定・彌彦
「おっ、おとうさん、おかあさん……どこに、どこにいったの……」
 まだ学校にすら通っていなさそうな、そんな幼い少年がしきりに泣きじゃくっている。
 その細い手足には、機械を中心としてコードの様な模様がびっしりと走っている。恐らくは何かプログラムが働いていて、機械を引き剥がせたとて何か支障が残るかたちになるのだろう。
「あ~あァ、可哀相に」
 少年の様相を見遣り、微塵もそんな事を思っていなさそうな声色で遙々・ハルカはそう言った。
 その裡を満たすのは好奇心、それだけだ。
「こりゃもう人間じゃねェ~な」
「そりゃあそうだろ」
 好奇に塗れた色彩豊かなハルカの声に反して、鳴宮・匡の声は酷く静かだ。
 何も無い――何も無いのだ。泣きじゃくる幼い子供が機械に侵食されつつあるのも、そんな状態の子らが幾人も居るのも、何も匡の心には爪を立てられない。
 だって柔い部分がない。彼は「人間」ではないのだから。
「違いねェ。――ンじゃ、まァ」
 反応の薄い匡をちらと横目で垣間見て、ハルカは浅く笑ってナイフを構える。正反対の様に見えて、彼らふたりにもこの場に於いての共通点は在るのだ。曰く、躊躇が無い。
 ハルカの声に応じる様に、醜悪な天使が現出する。輪郭の崩れ落ち続ける化物じみたそれが、穢れた白帯で以て少年の体躯を絡め取りに掛かる。
「ぁあッ、あっ、やだ、あガ、ひ、――ッッ、」
 白帯がコードごと躰を縛り上げるのに、少年の矮躯がびくんと大仰に揺れた。奥底に眠るものが引き出されるかの如く、膚を陵辱するコードが不気味に光を得る。
 防衛機構が作動しそれを発現する前に、ハルカの両腕がするりと伸びて少年の四肢を抑え込んだ。
「だァ~めだめ、そういうのはダメだ。めんどくせェでしょ?」
 耳許に唇を寄せ、甘やかす様にハルカは囁く。
 構えたナイフの切っ先が、そうやって柔く宥め賺す言葉に併せて機械と心臓との癒着した部分に差し込まれる――少年の白い喉が仰け反るのに双眸を眇めてまた笑って、ハルカは尚も囁いた。
「大丈夫ダイジョーブ。痛いのなんか今だけだって」
 好奇と疑問はハルカの裡を大きく占める。だから眼前の『それ』をきりひらく。満たしたいのはいつだって、飢えてそれを求めるからっぽの中身だ。
 機械と心臓を繋ぐ皮膚に一層ナイフの先を沈めれば、とうとう少年が大きく息を吸い込んだ。鞴の様に膨らむ薄い胸板に、絶叫を予感する。
 ――けれど先に響いたのは、乾いた銃声ひとつきりだ。
「……今いいトコだったのになァ、」
 喉を貫く弾丸の出処を視線で伝って、つまらなさそうにハルカは呟く。
 薄く硝煙を上げる銃口を掲げた匡は、ちいさく息を吐いてそれをいなした。
「遊んでる時間はないだろ。片付けないといけないものは、まだ在るんだ」
 匡の中で、最早機械に侵されたそれはひとではないのだ。
 こうなった以上は唯の『敵』で、それならする事はただ一つ――屠る事だけ。今ままで幾度も、否、数を数える事すらしなくなった、呼吸にも同義のその行為。
 喉を撃ち抜かれた所為で、少年の周囲には血溜まりが大きく広がってゆく。機械の所為でまだ辛うじて生きてはいるものの、それもあと数分も保たないだろう。
 自らの血で溺れ喘ぐちいさな躰を、匡の眸がじっと見下ろす。透き通る硝子の様だった。
「(――俺がもしも、『人間』なら)」
 可哀想だとか、助けなければとか、そんな在り来たりな感情を懐く事も叶ったのだろうか。
 思えどもいまの匡の裡にそれは無いのだ。どこかへ置いて、置いた事すら忘れてしまった。だからこんな時にやるべき事はひとつだけで、それを為し遂げるのがいまの匡に赦されたものだ。
 銃声はもうひとつだけ、少年の躰を貫いた。頭部の機械ごと頭蓋を砕けば、もう生きていられる寄す処も無い。
「人間らしく、か」
 胸の裡に浮かぶ何かを顕す術は、きっとひと一人殺すよりも難しい。
 指先に瑠璃唐草の飾りを掠めて、匡は瞑目する。
 ああ、まだ――約束には、こんなに遠い。

 死出の道ゆく少年の耳朶を、甘い声色が擽った。
「大丈夫、お父さんお母さんに会えるよ」
 少年はもう喋らない。喋る事が叶わない。
 ――ただ、酷く幸せそうに、嬉しげに微笑んだ儘で、事切れた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒蛇・宵蔭
千景さん(f11414)と

……座敷牢。懐かしいです。
どんな姿、精神であれ、生存する権利はあると思うのですけど。
優しさですかね?
状態問わず殺すより生かす方が得意なだけで(笑いつつ)

素直に哀れだと思いますよ。
恨みならば私も請け負います。呪われるのには慣れていますから。

……私はつくづく楽にしてあげるのが下手なので。
真紅を振るいましょう。苦痛が少なくなるように。

傷を厭わず距離を詰め肉を削ぐ。
あの機械がある限り、腱を切っても動くのでしょうか?

大蛇、首まで食いちぎってあげてください。
そこが離れてしまえば、お終いです。

彼らに曾ての自分を重ねる節もある。
いえいえ、比べれば私なぞ、幸福ですとも。
自由ですからね。


烏丸・千景
宵蔭(f02394)君と

宵蔭君は優しいねぇ
生存の権利、か。何処までもある筈なのに、そいつまで奪われてまだ心臓が残ってるなんてねぇ
なぁに、俺はね。どんな状況でも結局、殺す方が得意だからねぇ
だから機械ごと、殺してあげよう

わんこ達仕事だ。あの悪趣味な機械を焼いといで
トドメは古き楔を血で変化させたナイフで

整えられていたのは供物の方で
君らは此処から飛び立てもしないのか。

俺が自由にしてあげよう、とは言わないよ
たーんと、お兄さんを恨みんさい
けど、それっきりだ。そこで終わりにして、次の世界でも何処でも魂を運びんさい

で、宵蔭君。大丈夫?
確かに、自由はおっきいからねぇ
この子らも、これでちょっとは自由になれるでしょ



●爲定・雛菊
「――うふ、うふふふ、ふへ、ぇへへ、いたい、ぃたいよ、あぅ、あぁ、いたい、いたいの……」
 たぶんきっともう、壊れていた。
 その少女は細い三つ編みのおさげをふたつ垂らして、機械の癒着した頭を重たげに揺らしながら笑っていた。笑いながら、ずっと痛い痛いと泣いている。口の端からは笑うばかりで閉じれない為の涎が漏れていて、正気でない事は容易に知れるだろう。
「……どんな姿、精神であれ、生存する権利はあると思うのですけど」
 相対する少女を見つめて、黒蛇・宵蔭はそう静かに呟いた。どこか懐かしさを覚える地下の光景に、その蕩ける様な深紅の眸が眇められる。
 彼の傍らに居た烏丸・千景は、それを聞いてふと笑った。
「宵蔭君は優しいねぇ」
「優しさですかね?」
 曖昧に笑う儘、宵蔭の眼差しが千景へと向けられる。それを出迎える様に彼もまた宵蔭を見つめて、ふふ、と控えめに笑みを零す。
 眼前には生存の権利すら奪われたのに、今だ心臓の残る哀れな少女がひとり。
「なぁに、俺はね。どんな状況でも結局、殺す方が得意だからねぇ」
 ――だから機械ごと、殺してあげよう。
 きっと特別な科白ではなくて、いつもの彼と地続きにある様なその声に、宵蔭もまた呼吸の拍をそっと彼に寄せていく。僅かに波立っていたものが、撫ぜられた様に凪いでゆくのだ。
 哀れな少女だった。素直にそう思う事が出来た。
「恨みならば私も請け負います。呪われるのには慣れていますから」
 その手には柄に呪言の刻まれた剣が握られる。
 呪われるのには慣れている。だから楽にしてやるのはあまり、得意ではないのだ。
「さぁ、仕事だ。わんこ達、あの悪趣味な機械を焼いといで」
 宵蔭が武器を握るのを横目で見遣って、千景は自らの周囲に炎の狗を呼び起こす。黒を得て最果てより現出するその狗の、頭を撫ぜてやる様に掌で空を切ってから、穏やかな声で少女へと差し向けた。ごうと音を立て、花柄のワンピースを身に着けた少女の躰が焔に巻かれる。
 長く尾を引く悲鳴が響いた。痛い、熱い、たすけて、うふふ、ふふふ――。
 意志を受けたかそれとも機械が判じたか、伸びるコードが蛇の様にぐにゃりと歪んでふたりの方へと飛び掛かる。それらを油断なく構えた真紅で以て叩き落としながら、宵蔭は少女へと距離を詰めてゆく。
「だめ、だめなの、うふふ、たのしい、ぁ、いたい、だめ、いたい、ふへへ、」
 感情の栓はとっくにどこかで弾け飛んでしまっていて、きっともうどうする事も出来ないのだろう。
 壊れた儘で合切ここに捨て置かれた子供たち。選ばれて入念に調えられる誰かひとりになれなかった、幸運で不幸な子供たち。
 きっともう飛び立てはしない。その為の羽根は、きっととっくにもがれてしまって取り返せない。
「たーんと、お兄さんを恨みんさい」
 自由にしてあげよう、だなんて言うつもりは無かった。千景は穏やかに笑って、掲げた片手に古く美しいナイフを握る。
 そうして宵蔭の拓いた場所に飛び込んで、彼女の心臓を犯す機械へとナイフを突き立てる。
 ――けど、それっきりだ。恨んで恨んで恨み尽くしたら、きっと。
「そこで終わりにして、次の世界でも何処でも魂を運びんさい」
 宵蔭君、と千景が呼ぶ。意図を正しく理解して、少女の抑えに回っていた宵蔭が肯いた。
 張られた符を目掛けて、呪いがそこに顕現する――震える少女の足許から、穢れし大蛇がずるりとその身を引き摺り出す。
「大蛇、首まで食いちぎってあげてください」
 宵蔭の声色には慈しみが微かに滲む。
 そこが離れてしまえば仕舞いなのだ。命をひとつ絶つのに、きっとそれなら苦痛も少ない。大蛇ががぱりと口をおおきく開けたところで、
「ありがと」
 ――可憐な声がひとつ聞こえて、少女の頸が鮮血で染まった。
 ふたりが声に惹かれて閉じる間際の大蛇の口許を覗いたのならば、そればかりは――少女のいとけない口許がいびつに、けれどほっとした様に微笑み緩んだ光景ばかりは、見得たのかも知れない。
 重ねてしまった様な気がした。重ねられないと思った様な気もした。死した少女の躯の上には、嘗ての自分が横たわっている。
 言葉無くそうやって見下ろす宵蔭の背を、ぽんと叩く掌が在る。千景だ。
「この子らも、これでちょっとは自由になれるでしょ。――で、宵蔭君。大丈夫?」
 痛がる少女の声はもう聞こえない。しんと静かになったその場に佇みながら、千景は宵蔭を見つめてそう尋ねる。
「いえいえ、比べれば私なぞ、幸福ですとも。ええ、」
 その仕草も声も、いつもと変わりない宵蔭のそれだ。
「自由ですからね」
 浅く笑って、踵を返す。
 自分の足でこの地下から出るなど、今の宵蔭には造作も無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジナ・ラクスパー
最初は生かしてあげたかった
不自由な生でも家族がいなくても
幸せな時はある筈
終わりを決めるのも私じゃない筈だって
でもこの子たちはもう、自分でそれを選ぶことも…

防御強化のエンハンスで防戦しつつ
嵐吾様(f05366)の言葉を頭に巡らせる
…だめです
迷う間に、守れる筈の仲間まで傷つけたくない
…自分の心に任せて助けた後、私には何が出来るの?

これ以上苦しませないよう、雨花で眠りを呼ぶ
理想叶える技量も命担う力も足りなくて
私は助けたかった子たちを殺すんだ
私にはどちらの選択も楽ではなくて
後悔は絶対にします
でも
生きたかったも死なせてくれてありがとうも
悔しさも悲しさもずっと覚えています

瞼が熱い
笑う嵐吾様の強さに届きたい


終夜・嵐吾
ジナの嬢ちゃん(f13458)と共に

わしはこういう時、助けるを選ばぬ
ここで救われたとしてはたして、この後生きていけるのかと言えばそう思えん
続く一生をわしがすべて世話してやることもできん
責任が、もてん
ならばここで、その命を終わらせる責を背負う方が楽じゃ
楽な方を選ぶのは――狡い事、じゃが

わしはそう思うも嬢ちゃんは違うかもしれん
が、心は定まるじゃろう
ならば、心決まるまで守ってやるのがわしのすべきことかの
攻撃してくるならば嬢ちゃんの前にたって庇いだてる
なぁに、傷は後ですぐ治るし気にするな
――そうやって、決める事できる嬢ちゃんは十分強いと思うがな

虚、手を貸しておくれ
この爪で、一撃で終れるように



●爲定・一臣
 少年は獣の様に蠢きのたうち呻きながら、必死に機械の上から頭を掻き毟っていた。
 声は既に言葉にすらなっていない。時折、蟲が、蟲が、と譫言の様に零すそれだけが、唯一意志のあるものとしてジナ・ラクスパーの耳許へと届くだろう。
「……っ、」
 譬え不自由だとしても、既に家族が居なくとも、生きてさえいればきっと、きっと幸せな時は在る筈だ。
 誰かの生の終わりを決めるのも自分ではない筈だ。
 ――けれどもう、眼前のこの子供たちは、その終わりを自分で決める事すら叶わないのだ。
 爪が喰い込む程に強く拳を握り締め、そうやって密やかに息を詰めるジナの様子に、傍らに並び立つ終夜・嵐吾が唇をひらく。
「ここで救われたとしてはたして、この後生きていけるのかと言えばそう思えん」
 続く一生を世話してやる事など出来はしない。
 命に責任を持つ事が如何に重たいか、良く良く承知している。
「ならばここで、その命を終わらせる責を背負う方が楽じゃ」
「――でも、だって、」
 穏やかな嵐吾の声を、悲愴な声が縋る様に追い掛ける。
 頭では解っているのだ。けれど心がそれでは駄目だと首を振る。そんなの、そんなのは、と戦慄くジナの唇がその先を紡ごうとするのを、彼女の頭に柔く掌を置いた嵐吾がそっと遮る。
「楽な方を選ぶのは――狡い事、じゃが」
 殊、誰かの命が関わる分岐に於いて、誰しもが同じ選択をする事など叶わないだろう。
 嵐吾はそう思えども、ジナはそう思わないやもしれない。けれど彼女の揺れる心を定める為の、何かにはなれる筈だ。
「……あ、あ゛ァ、蟲、蟲を取って、――……!」
 咆哮がふたりの沈黙を劈いてゆく。悶えるばかりだった少年に機械が先を急かしたか、嫌がる様にかぶりうを振る少年が、それでも四肢を大きく薙がせながらこちらへと突っ込んでくる。
 口を噤んで、嵐吾はジナを背に庇う様に前へ出た。歪な強化を得た少年の手足が容赦なく皮膚を裂いてゆくのも構わずに、それらを受け止め少年を組み伏せに掛かる。
 力と力が烈しくぶつかり合う音に、ジナははっとしてエンハンスを編む。防御強化を施し防戦へと持ち込みながらも、彼女の中に渦巻くのは先程の嵐吾の言葉だった。
 ――自分の心に任せて助けた後、私には何が出来るの?
「……だめです」
 迷ってはいけない――迷える時間は、とっくに終わったのだ。
 迷えば迷うほど、きっと嵐吾が傷付くだろう。救えぬものを救うべきかと悩む前に、守れる筈の仲間まで傷付けたくはない。
 麗しい剣を振るって雨を喚ぶ。雨花が齎す優しい眠りは、きっと苦しみを彼から遠ざけるだろう――眼前で機械に侵食され、永劫苦しみ続ける少年から。
「(嗚呼、私は)」
 理想は遠く、叶える技量には未だこの身は至らない。
 命を担う、力も足りない。
「(私は助けたかった子たちを殺すんだ)」
 胸の奥で雨と共に湧き出す感情が、唇を割り開いて言葉を押し出しそうになる。
 けれどきっと、それだけは言ってはいけない。謝ってはいけない。何もかもを否定しかねない――だから強く唇を噛み締めて、泣き出しそうな声でジナは呼んだ。
「嵐吾様、」
「任された」
 眠り喚ぶ雨花のそぼ降る音に、ジナの選択を読み取って嵐吾は双眸を臥す。
 灰の耳がぴんと立ってはためくと共に、つと片腕が持ち上げられる――喚び招く様に、或いはその身の上這う事を、許す様に。
 花の香が、ひととき絶える。
「虚、手を貸しておくれ」
 身の最奥にてそれが頭を擡げるのを知る。
 黒き茨の獣に己が身の一部を明渡しながら、清々しい声色で嵐吾は告げた。
「この爪で、一撃で終れるように」
 機械の侵食があるとは言え、もとは成長途中の子供だ。狙い澄まされ穿たれる獣の力に、それをいなして立ち回る事など到底出来る筈もない。
 真っ直ぐに少年の心臓を機械ごと貫く力の奔流が、確かにそれを砕く音をふたりは聞いた。
「――……もう、へいき」
 束縛と呪いから逃れ、弱々しくも屈託なく零された、少年の最期の言葉も。
 儚く少年の躰が崩れ落ちれば、片側を失くした頭部の機械も砕けて外れる。少年の頭は見るも無残な事になってはいたが、顔ばかりはそのままだ――涙を滲ませ少しずつひかりを失いゆく両の瞼をそっと下ろさせてやってから、嵐吾はジナへと向き直る。
 促す事はしない。ただ彼の視線を受けて、ジナは震える唇を浅く噛んでから、そっと解いた。
「後悔は絶対にします。……でも、」
 押し寄せる感情を激流に、ともすれば言葉も何もかもを手放して泣いてしまいそうになる。
 それでもそれらを全て堪えて、ジナは気丈に背筋を伸ばした。きっとそうしなければいけないと、そう思った。
「生きたかったも、死なせてくれてありがとうも、悔しさも悲しさも。ずっと覚えています」
 視線の先で、それを聞き届けた嵐吾がふと笑う。
 明るい笑みだ。何もかもを幾度も噛み締め噛み砕いて飲み込んだ、だからこそ身につけた笑顔なのだろうと、ジナは思った。
「――そうやって、決める事できる嬢ちゃんは十分強いと思うがな」
 その強さに届きたい、と密やかに願う。
 けれど今は、彼を見ていられる気がしなかった。
 とても眩しかったし、瞼が熱くて仕様がなかったから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒江・イサカ
―――…ああ、そう
僕を呼んだのは君らだったんだね
【地下折檻室】へ
僕の役割はこっちさ

目的は7人の子どもの殺害
最初からそう、それだけを考えてた
僕を呼ぶってことはそうなんだろ?
大丈夫、僕は君たちの味方だよ

邪魔をされないなら、ひとりひとり優しくしてあげたいな
手を握って、招いて、痛くないように
しっかり行きたい場所を望んでおくんだよ
其処まで、連れていってあげるから
…望みがないなら、そうだな 僕のことでも想っておいて
産んであげるよ、今度 幸せにしてあげよう

…ああ、約束まみれのまま死ぬと重たくて可哀想だからね
僕が全部引き受けてあげる
君たちの小指は全部僕のお腹の中へ
食べれなくともポケットに入れて持って帰ろうね



●爲定・遙華
「ごめんなさい」
 幼い少女だ。ふつうの子供ならば、まだ幼稚園か保育園か、そんな育児施設に通っている頃合いだろう。
 頭部と心臓部に癒着する機械は、どの子供たちのも同じ大きさだ。それ故に少女にとっては重たいのだろう、ちいさな頭におおきな機械を乗せてぐらぐらと揺れながら、少女は尚も謝り続ける。
「ごめんなさい、……ごめんなさい。わたしがわるいんです。ごめんなさい……」
 少女に相対する黒江・イサカは、にっこりと人懐こい柔らかな笑みを浮かべてその前へと跪く。
 壊れたレコードの様に謝罪と自身の悪さを零し続ける少女の手を、イサカの指先がそっと掬い取る。ちいさな子供の手をそのまま柔く握り込んでやって、イサカは告げた。
「大丈夫、僕は君たちの味方だよ」
「わからないんです。わたしがばかなんです。ごめんなさい」
 イサカの言葉も理解しているのかいないのか、少女は逃げる様子や攻撃に移る様子こそ無かれども、会話は一切が成り立たない。何を告げても謝り続けるだろうし、自分が悪いと詰り続けるのだろう。
 痛ましげに眉尻を下げ、イサカは握る手に籠める力をほんの少し強くした。
 なんと哀れな事だろう。意識までこうやって阻害され、自分で立って歩く事すら出来なくなってしまったのだ。
「どこか行きたい場所はある? 僕が連れていってあげる」
「ごめんなさい、ごめんなさい。……すみません。ほんとうにはんせいしています」
 会話が成り立たない事など、最早イサカの中で特段の問題になりはしない。
 またにこりと笑って、掴んだ手を擦る。もう離れる事など無いのだろう。
「望みがないなら、そうだな。僕のことでも想っておいて」
 おいで、と言葉が手招く。運命が音を立てて少女を振り返り、刃がその命の端を捉えるのだ。
「産んであげるよ、今度」
 微笑む儘に、手を繋ぐ儘に、イサカは慈愛に満ちた言葉を連ねる。
 同時に少女の細い体躯が仰け反った。その心臓に、頭部に、機械ごと貫く様に刃が連なる――間違いなく命を絶つ様に、深々と。
「幸せにしてあげよう」
 繋がれた手を起点にして、だらりと少女の四肢が弛緩し崩れ落ちる。
 悲鳴も上げず謝り続けながら旅立った少女を、イサカは見つめて囁いた。
「僕が全部引き受けてあげる」
 約束まみれでは、きっと旅立つにも死出の道には重かろう。
 だから全て引き受ける。命も含めて、遍くすべてを。

 遺骸を回収しに来たUDC職員たちが、死した少年少女のうちのひとりから小指の先が無くなっている事に気付くのは、もう少しだけ後の話だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアドール・シュシュ
【鉄と華】生かす

諦めたくないのよ
まだあの子達は戻れるわ
光を取り戻せるわ
本当は誰も望んでいないのかもしれない
戻っても一人ぼっち
寂しいのはいやだものね

けれど
今は無理でも
時間が掛かっても

源次の力が必要なの(源次の服の裾掴み
一緒に、すくって(星芒の眸が隠す前に

まず竪琴でマヒ攻撃付与した演奏攻撃で動き封殺

邪魔させないわ
子供達の命を摘み取らせはしないのよ!

【シンフォニック・キュア】で癒しの歌を(祈り・歌唱

お願い
お願いよ
届いて

生きていてほしい
世界があなたに優しくなくても
マリアが何度だって手を差し伸べるわ
約束よ
しばらくお休み

小さな芽を包み込む

助けたら一緒に屋敷脱出
茉莉花の花束持ってお見舞いへ
手握り子守歌を謳う


叢雲・源次
【鉄と華】

かつて…このような状況があった事を無感情に思い返しながら打刀の柄に手をかけ…しかし、背中に感じる意志が踏み止まらせる

そうだ、今は…
「マリアドール・シュシュ…援護…頼む。」

【ダッシュ】【早業】で素早く子供に接近
攻撃は【激痛耐性】で凌ぐ
頭部を押さえ「インターセプター」による【ハッキング】開始
マリアの歌を俺を介して直接流し込む
聞こえるかこの歌が
取り戻せお前の意志を

子供の自我に語りかけた後、【見切り】電磁抜刀にて寄生機械のみを斬る

ここまでか…マリア、撤退だ
この子を何とかせねば…目の前の命しか手が届かぬのは歯がゆいが
子供を抱きかかえ屋敷から脱出を試みる
UDCへ連絡、然るべき医療機関へ搬送せねば


雨乃森・依音
子ども達の惨状に
呼吸が上手くできない
駄目だ、これが現実なんだ
受け入れろ
受け入れて、どうするか考えろ!

…まだ、生きているんだ
生きているなら
絶対に見捨てない
俺はあの女――母親に捨てられた
あいつとは一緒になりたくない
だから


――ソテル、こいつらを救ってくれ


息を整えて祈り歌って邪神を支援
なるべく傷つけないよう隙を狙ってソテルの触手で拘束
機械だけ壊してやる

機械と分離できたら
「届かないと知っていても」を歌って回復に務める
俺は倒れても構わない
この歌が標となるよう
頼むから、目を覚ましてくれよ…

子どもが助かったらUDC組織関係の病院へ
何か必要ならいくらでも援助はするつもり
根気よく面会にも行く
俺は最後まで見捨てない



●爲定・のばら
 それを地獄と呼ぶのだろう。
 呼吸が巧く出来ない。歌う為の声は今は引き攣れて、何を紡ぐ事も叶わない。それでも受け入れなければならない――雨乃森・依音の眼前に広がる、これが現実だった。
 壊れた子供たち。きっと此方の言葉も意志も、まともに受け取る事など出来ないだろう。
 いつかこんな状況に遭った事も在る――過ぎし日に置き去りにして来た過去を無感情に思い返しながら、側近くに音無く立つ叢雲・源次は、腰に佩く打刀の柄に手を掛ける。
「だめ」
 それでも直ぐにそれを抜かなかったのは、その背に言葉と意志とが触れたからだ。
 マリアドール・シュシュは源次の衣服の裾をそっと引いて、その力が必要なのだと言外に説く。
「一緒に、すくって」
 諦めたくない、と云う彼女の思いはエゴイズムなのかもしれない。
 だってもしかしたら、誰もそんな事は望んでいないのかもしれない。生きて戻った所で一人ぼっち、永劫の寂寞を抱えて生きていく――そんな風に。
 それでも。望まずには居られないのだ。
「――らら、……ららら、――ふふ、ふ、」
 三者の前には壊れてしまった少女がひとり。
 機械に繋がれた儘、重たげに頸をぐらぐら揺らして調子外れに歌い続けている。機嫌良く。嘗てそれは幼い子供なら誰でも知る様な童謡だったのやも知れない――それすらも今は、壊れ果ててしまっていた。
 小学校に上がったばかりの頃だろう、まだまだ幼い印象の方が強い面立ちは、今は頭部のパーツが昏く影を落としている。
 拙くいとけないその歌に、依音の顔がほんのひととき、泣き出しそうに歪む。
「……まだ、生きているんだ」
 零した声の輪郭はほんの僅かに震えていた。
 感情を振り絞る様につよく眸を瞑れば、瞼の裏に母の姿が鮮やかに躍る。俺を捨てた女。あいつとは一緒になりたくない。
 だから、絶対に見捨てない。
「――ソテル、こいつらを救ってくれ」
 たぶんそれは祈りを寿ぐ声に似ていた。
 依音の傍らに、その力を宿すてるてる坊主が現出したのを横目で見遣って、源次もまた改めて刀の柄に手を掛けそれを抜く。
 マリアドール・シュシュ、と彼の声が彼女を呼んだ。ええ、と可憐な声がいらえて寄り添う。
「……援護、頼む」
 応えたのはハープの音色だ――黄昏色に輝くそのハープはマリアドールの嫋やかな指先に爪弾かれ、少女の四肢へと絡み付く。機械干渉し麻痺を仕掛けるその音色に合わせる様にして、依音の喚びしソテルの触手が音なく密やかに伸ばされてゆく。
 細い四肢は呆気なくそれらに捉えられるだろう。融通の効かない少女の身体に寄生側たる機械の方が焦れたのか、夥しい量のコードが蛇の様にうねりながら源次の方へと飛び掛かった。
「すくって、とねだられたからな」
 ――然し、それも特段の問題にはならないのだ。
 頬を、肉を裂いてゆく痛みを物ともせず、源次はその身のこなしを生かして少女へと肉薄する。そうして大きく片手を伸ばして、その頭部へと接続された機械のパーツをがしりと掴んだ。
 彼の装着する腕時計を媒体として、強引に接続が開始される――回路が、ひらく。
「――、」
 それを肌で感じ取ったマリアドールは、す、と息を吸い込んだ。
 それは歌う為の所作。自らの中で練り上げた感情を、強い意志を、音楽と云う尊い手段に乗せて伝える為の御業の前兆。
 同じく歌を生業とする依音にも、無論それが歌う為のものだと容易に知れた。
 だから当然――雨乃森・依音も歌を唄う。だってそれが生きる為の彼の手段で、存在理由たるものなのだから。
 ふたり分の音色は呆気なく調和を経て融和して、癒やしと祈りとを編み込んだそれは源次のひらいた回路を伝い、真っ直ぐに少女の中へと流れ込んでゆく。
「(届かないかも知れないなんて、そんな事は解ってる)」
 ――依音は悲痛にそう叫ぶ。音色で、歌で、それを為す。届かないと知っていても、だからこそそれを唄うのだ――届くのなら、自分は斃れたって構わない。
「(生きていてほしい――世界があなたに優しくなくても)」
 届いて、と喉が裂けんばかりにそれを願うマリアドールもまた、溢れそうな感情を吐き出す傍から詞に歌に変えてゆく。
 何度だって手を延べる覚悟は出来ている。だからここに立って、源次にそれを願いもした。
 感情の奔流たる歌をダイレクトに脳髄へ受け、少女の唇からとうとう壊れた歌が途切れて消えた。脱力する四肢を見遣って、そのパーツを抑えて回路を拓いていた源次は囁く。
「聞こえるか、この歌が」
 少女を横たえ、滑らかな所作で刀が構えられた。
「取り戻せ――お前の意志を」
 そうして、少女を侵食していた機械だけが砕け散る。

 三者に連れられ、少女――爲定・のばらはUDCの関連病院へと収容される。
 栄養と適切な治療を受け、身体の方は程なくして、元の調子を取り戻すだろう。けれど心の方はそうもいかない――強く乱暴な精神干渉を受け続けた所為で、健常な状態へと戻る見込みはとても薄い、と医師は語る。病院を訪えば、禄に喋れもせずに機嫌良く歌ばかりを口ずさむ姿が見られるだろう。
 治った所で、帰る場所が在る訳でもない。いずれ治る目処が付かないと医学的な最終判断が下れば、居所は適切な施設へと移される手筈だ。自分の事すら解らずに、擦り切れたレコードの如くに同じフレーズを口ずさみ続けながら。
 それでも。
 ――それでも猟兵たちが根気良く、幾年掛かっても彼女の許を訪れ続けると云うのなら。
 いつか誰かが歌った歌を、気まぐれに口にする事も在るのやも知れない。
 砕け散った心の隙間を埋める事は叶わずとも、そこから何か芽吹く為の土壌を作る事ばかりは、望めるのやも知れなかった。
 土壌には標が立っている。いつか誰かが、謳った歌が。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

閂・綮
【機械ごところす】
【アドリブ歓迎】

…此処に、いたのか。
見つけてくれた猟兵には、感謝をせねばな。

いずれ、朽ちて斃れる身の上。
お前の命を抱えることは、出来ん。

咎を受けるべき者は皆、死んだ。故に、

一一 恨め。恨め。我を恨め。
共に逝けぬ代わりに、その苦痛に寄り添おう。

…眠くなったのか?
では、一一 眠りゆくお前に、歌を。

(錆びた手のひらがこどもを抱え)
(小さな歌声が、響いていた)

◼️戦闘
「花翼」による【範囲攻撃】【武器落とし】で応戦。
【生まれながらの光】で子どもの苦痛を和らげながら、【生命力吸収】で静かに命を奪う。


イア・エエングラ
どうしてひとは、かみさまの、詞を識れると、思ったかしら
それとも信じて、いないかな、お前は
――知りたくなどは、なかったろうな

お人形では、悪趣味ねえ
かみさまを御するのもおんなじかしら
憤るのか哀しいのかそれともただただ残念だろか
届かないのを悔やんだだろか
僕にはよくよく、分からない
落とした視線と息吐いて上げたらいつものとおり
ご挨拶も未だだけれども笑ってお別れいたしましょ
手伸べるように差し出してひとつふたつと数えたら
てのひらに星を浮かべてくらい夜へと還しましょう
赫辜の星は声も願いも貫いて
瞬きの間のお仕舞をおくるよ

ひとつと目を逸らさずに
その拍動の止まるまで
夜の海に鎮めましょう
おやすみ、佳い夢を



●爲定・颯太
「あそぼうよう!」
 幼い少年が、重たげな機械を嵌められた身体を揺らして嬉しげにはしゃぐ。
 但し、その四肢は血に塗れて見るも無残な有様だった。痛覚が麻痺しているのかそれとも怪我に気付いていないのか、少年はへらへらと笑って遊ぼうよと誘うばかりだ。
 細い手足は、まるで内側から圧が掛かって裂けた様に弾けていた。肉の向こうに骨が見えて、嗚呼、と密やかに息を吐いた閂・綮がその少年に相対する。
「お前の命を抱えることは、出来ん」
 いずれ朽ちて斃れる身の上ならば、誰かひとりの生を背負い込む事など出来はしない。
 少年は、綮から向けられた言葉を理解しかねる様子だった。子供には少しばかり難しい物言いだったから、と云うのもあるかもしれない――けれどそれ以上に、もう思考する力が残っていないのだ。
「……? わかんない! あそぼ、あそぼう!」
 ずたずたの身体で笑みを浮かべて、少年は尚も言い募る。
 側近くに佇んでいたイア・エエングラは、それを見つめて揺れる眼差しを緩く上へと投げ上げる――かみさまを喚び下ろそうとして、失敗した何か。
 ――かみさまの詞など、ひとの身で識れる訳もないのに。
「お人形では、悪趣味ねえ」
 緩い声色で紡がれるそれに、そうだな、と綮が低く返す。
 感情の発露の方法こそ違えど、両者にはきっと似たような意志が宿るのだ。
 理解のしがたいもの。理解など到底し得ないもの。きっと手を出さぬ方が穏やかでいられただろうもの。その処断がいま、この猟兵たちの手に委ねられていること。
「僕にはよくよく、分からない」
 星宿す眸はそっと伏せられ、眼差しは地に落ちる。
 それでも迷いや逡巡を紛れ込ませた息を吐いてしまえば、後は元通りに笑むだけだ。否、笑んでいるかも曖昧なかんばせを持ち上げて、イアはその掌に星を掬う。
 昏がりの地下と夜空は同義にならねども、きっと美しく明るいものが死出の道を照らすだろう。
「咎を受けるべき者は皆、死んだ。――故に、」
 遊ぼうよ、とはしゃぎながら纏わり付いてくる少年の躰を、その血が衣服に滲むのも気にせず綮は柔く受け止める。受け止めた上で、それを告ぐ。
 抱えてやれない。背負い込んでやる事など叶わない。
 ならば。
「共に逝けぬ代わりに、その苦痛に寄り添おう」
 どうかこの身を恨めと彼は云う。
 おとなに遊んで貰えるのだと思っているのか、腕の中で少年は愉しげにきゃあきゃあとはしゃいでいる。その度に四肢から血が滲むのに、少年はそれを気にも留めない。
 恐らく彼の意志ではないのだろう、機械のパーツから伸びるコードが触手の如くに蠢いて、綮とイアとへ差し向けられる――が、それよりも早くにイアの掲げた星のひかりがそれを穿つ。
 ひとつひとつが弾けて千切れ、夜よりもなお昏い地へと還ってゆく。星がひとつ瞬く度に、少年の生もまた穿たれ削れて散り消える。
「あそんで、――……あそんでよう、……」
 少年の声色は、段々静かに弱りゆくのだ。
 彼を抱える綮の腕から、その生命が静かに吸い上げられて昇華される。とろりと眠たくなった様に重くなる少年の瞼に、綮はその細い躰を抱えた儘に腰を下ろした。
 錆びた掌が、こどもの頬を撫でて慈しむ。
「もう、たくさん遊んだでしょう。お仕舞いの時間、ね」
 イアの声色は擽る様に末期を告げる。
 星は昏い地下を柔く照らし出していた。宛らそれは遊び疲れた子供を寝かし付ける、夜の如くに。
 鼓動が段々と弱くなる。
 ひとつひとつが覇気を失い、確かに輝いていた命が終焉を迎える――きっと今度はたくさん遊んで大きくお成りと、優しい誰かが甘く囁く。
「眠りゆくお前に、――歌を」
 綮は腕中の少年にそう言った。低く滑らかな、けれど小さな歌声が、彼ひとりの為に紡がれて揺蕩う。
 星宿すイアの眸はそれを溢す事なく、逸らされる事なく見届けるだろう。
 そうしてすべてを抱え、いつか夜の海に鎮めにゆこう。
「おやすみ、」
 夢紡ぐ声が、帳を下ろす。
「佳い夢を」

 行方の知れなかったこどもたちを発見した。
 ――生存者、二名。
 ――死亡者、五名。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『翠翁』

POW   :    縺ソ繧薙↑縺ゥ縺薙∈?
【意識】を向けた対象に、【対象の内部を植物に変えること】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    蝸壼他縲∝履蜻シ縲∝履蜻シ窶補?輔?
自身からレベルm半径内の無機物を【土壌に、猟兵を問答無用で植物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    縲主卸荳悶?繧ィ繝シ繝?Ν繝ッ繧、繧ケ縲
全身を【エーデルワイス】で覆い、自身の【周囲にある植物の数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●地下座敷牢
 母屋に向かった者達は、咆哮を聞いて祭祀場の奥から通じる地下へと向かう事になる。
 古く朽ち掛けた狭い階段を降りれば、少しだけ広い空間があって――そこは、酷い臭いに満ちていた。
 錆びていて、黴びていて、饐えていて、凡そひとの生きていて良い場所でない事は容易に知れるだろう。矢張り錆の浮いた鉄格子は壊れており、向こうの昏がりにひとつ、白いものが蹲っている。
 それは確かに、ひとだった。
 滑らかな白い膚をした年若い少女が、纏うもののない身体をぐったりとそこに投げ出してそうしている。
 猟兵たちの気配に、気怠げに少女の目蓋が持ち上がる。
「たすけて」
 それは、虐げられた誰かの願いだ。
「ころして」
 これは、かつてひとだったものの最期の祷りだ。
「もう、わたしが、いなくなる――」
 そうして、それが終わりの始まりだった。
 少女の身体がびくりと震え、鈍く何かが折れる音と共に背中が不気味に膨れ上がる。胎がおおきく膨れ上がり、弾けたそこから蹄が生まれる。喉の奥から大きく開かされた口を伝って、獣の頭が生えて来る。
 贄たる娘の身体を苗床に、與えられた薬剤を養分として、いま、旧き『かみさま』がそこに咲き誇っていた――呪詛の翠が、顕現する。

 けれど、それは未だ不完全だ。
 まことの覚醒に至る前に、殺さねばならない。
 翠の獣は再び轟く様な咆哮を上げ、ひらりと身軽に跳ねて低い天井を突き壊す。そのまま地上へと踊るように跳ね上がり、惨劇で穢された祭祀場で立ち止まるだろう――そこには午后の陽射しが、そればかりは清浄に燦々と降り注ぐ。
 麗しいきんいろの陽のなか、産まれ落ちたばかりの神がいま、凛然と猟兵たちに対峙していた。

●マスターより
 第二章、及び第三章の戦闘について、今シナリオに限り、『どちらか一方のみの参戦』となります。第二章にて書かせて頂いた方から第三章のプレイングを頂戴しても、反映致しませんのでご留意下さい。
 第一章の調査に加わっていない方でも勿論ご参加頂けますが、全員にこの制約が加わります。

 苗床となった少女の救出は叶いません。
 ボスとの純然たる戦闘となります。
 猟兵たちが立ち向かってくる限り、祭祀場から逃げる事はありません。また時刻は昼過ぎとなり、晴天の為、足許等を気にする必要も御座いません。
サフィー・アンタレス
月居(f16730)と

調べた情報で
いや、此処に訪れる前から覚悟はしていた
だから俺は、元から倒すつもりでいた
迷いは無い
それが本人の望みでもあると理解した

けれど、目の前の月居には重い覚悟な気が
大丈夫か?
大丈夫では無いだろうが、言葉を掛ければ現実に返るだろうから
アイツはもう救えない
現実を突き詰めるようだけれど、それが俺達の役割だ

せめて前線で、直接手を下すのは俺が
蒼炎を剣に纏わせて、出来る限り致命傷になるよう狙っていく
せめて痛みを感じる時間が短くなれば

神だ何だ、俺は信じない
救われる奴が居ることは認めるが
その盲目な信仰で、傷付く奴が確かに居る
それが…いつになってもなくならないのは、なんでだろうな


月居・蒼汰
サフィーくん(f05362)と

殺すことでしか救えないなんてあんまりだ
心のどこかではわかっていたつもりだけど
いざあの子を目の前にしたら
きっと、俺一人だったら迷ってたと思う
だから居合わせたのがサフィーくんで良かったとも
だってサフィーくんなら迷わず言ってくれるから
あの子は、救えないって
…ありがとう
大丈夫、やれるよ。だって俺は猟兵で、ヒーローなんだもの

俺は後ろからサフィーくんを援護
邪神の動きをよく見て、攻撃の気配を知らせたりしながら
炎を交えた願い星の憧憬で攻撃を
…この臭いは、いのちの匂いだ
ここでどれだけの命が奪われ、歪められてきたのか
そうでもしなきゃ存在できないかみさまなんか、初めから居ないほうがいい



●青と蒼
「大丈夫か?」
 掛けられる声に、月居・蒼汰の両肩が震える様に揺れた。
 ――覚悟はしていた。そうする事が本人の望みであると、理解もした。
 故にサフィー・アンタレスに迷いは無い――だが、傍らに居る彼はどうだろうか。彼の肩に、その覚悟は重くはないだろうか。
 だからそうやって、声を掛けたのだ。
「……殺すことでしか救えないなんて、あんまりだ」
 いらえる蒼汰の声は少しだけ掠れていて、ほつれる感情の糸がそこに垣間見えた気がした。
「だから、居合わせたのがサフィーくんで良かった」
 心のどこかでは理解をしつつも、きっと一人ならば迷っていた――だからいま、こうして傍らに在って声を掛けてくれるサフィーの存在が、蒼汰にとって鎹にも等しい。
 眼鏡の奥のサファイアン・ブルーを少しだけ眇めて、微かに頷くサフィーが継ぐ。
「アイツはもう、救えない」
 ほんの少し、蒼汰の顔がくしゃりと歪んだ。
「……ありがとう」
 その顔を、眼差しを見遣って、サフィーが蒼汰の横をするりと抜けて邪神へと向かう。
 青白い炎が纏い走る剣を携え、極僅かな力で以て地を蹴った。炎纏う抜身の剣が、金の陽射しを弾いて蒼汰の視界の端で煌めき残像を描いてゆく――嗚呼、またこうしてひとつ支えて貰ったのか、と蒼汰の心中に浮かんで消ゆる。
 軽やかな身のこなしと共にサフィーが振り翳した剣で斬り掛かれば、苔生す邪神の躰に炎が這う。文字通りに身を焼く炎に、頸を振るって邪神たる獣が嘶いた。
 虚ろな眼窩の奥がゆらりと灯る。その意識が確かにサフィーへと向けられたのに気付いたのは、蒼汰の方が先だった。
「ッ、危ない!」
 彼の片腕を強く引いて獣の眼差しから逃がすと共に、その指先が強い意志と共に苔生す邪神へと向けられる。炎を纏て彼方の空より来る星が、幾筋も尾を引きながら翠の巨躯へと降り注いだ。
 体幹が崩れバランスを取ろうとするサフィーの剣が、祭祀場の床へと音高く突き立てられた。すっかり乾いた血潮が、今も尚当然の様にその清浄だった場を穢している。
「神だ何だ、俺は信じない」
 乱れた呼吸は言葉を紡ぐと共に調えられてゆく。
 響くサフィーの声に、蒼汰の金が彼を見る――サフィーの青は、邪神へと据えられた儘で逸らされる事はない。
「その盲目な信仰で、傷付く奴が確かに居る」
 この穢れた邸が何よりの証拠だ。
 盲たおとなたちの手によって、罪なきこどもがその生命を散らしていった。何も知らず儀式に参列させられ、何も知らない儘死んでいったおとなだって居るかもしれない。
 は、と息をひとつ吐いてサフィーは剣を引き上げる。軽やかに構えるその姿を、眩しい、と蒼汰は思った。
「それが、いつになってもなくならないのは――なんでだろうな、」
 いのちの燃えてゆく臭いがする。ここで奪われ、歪められてきた命はいったい幾つ在ったのか。
 堪える様に双眸を瞑り、蒼汰は両眼を見開いた。
「そうでもしなきゃ存在できないかみさまなんか、初めから居ないほうがいい」
「そうだな。同意見だ」
 浅く笑う気配が在った。その背中が陽射しを背負って駆けてゆく――青白い炎が揺らめいて、剣の軌跡を彩り邪神の翠へと再び振り下ろされる。
 サフィーをサポートすべく自分もまたゆらりと腕を擡げながら、蒼汰もそれを見据えるのだ。
「大丈夫、やれるよ」
 だって俺は猟兵だ。
 ヒーローに、違いなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴木・蜜
意識を残したまま
別の何かに作り変わる
塗り潰される恐怖は如何ほどでしょう

自我を保っていられぬ最期とは
無辜の少女にはあまりにも

…終わりにしましょう

体内毒を濃縮
身体を液状化し
攻撃力重視の捨て身の『毒血』

翠翁を逃がさぬよう
脚に縋り付き
蕩かしてやりましょう
私はただ触れるだけで良い

体内が植物に作り変わる感覚があれば
限界まで毒を更に濃縮し
植物化を食い止めつつ
体内の芽を融かします

私を苗床に選んだのは失敗です
私は死に到る毒
この毒の身に根を下ろすことが出来るとでも?

彼女がいた証なら兎も角
彼女でなくなった証を残すのも
望むところでないでしょう

ならば跡形もなく
全て融かし落として差し上げます



●毒花
 自分でないものに造り変わる。
 得体の知れないものに塗り潰される恐怖は如何程だったろう――名すら知れぬ無辜の少女の最期を思って、冴木・蜜は痛ましげにいちど、瞼を臥せた。
「……終わりにしましょう、」
 その細い体躯の中で、澱の様に毒が練られ煮詰められてゆく。
 爪先が邪神へと向けられ、一歩一歩距離を縮めてゆく――ひとつ踏み出す度に、蜜の身体は輪郭を揺らがせ融け落ちる。
 肉体を液状へと変化させながら近寄る蜜は、そのまま獣の足許へと縋り付く。纏い付く様なその感触に、初めて邪神はその眼差しを蜜へと向けたがもう遅い。
 ――蕩かすのに、特段の準備など要りはしない。ただ、触れるだけだ。
 蜜の絡み付くその箇所から、じわりと滲出する毒が邪神の苔生す巨躯を融かしゆく。それは恐らく鋭い痛みと為って邪神の四肢を苛むのだろう、咆哮めく悲鳴が空間を劈いた。
 同時に、その意識が蜜へと向けられる。
 即ちそれは、苗床になると云う事だ。
「――成る程、」
 体内に芽吹く様な気配を感じて、蜜はそっとそう零す。邪神の虚ろな眼窩に灯る幽玄に見下されれば、そこから作り変えられているのだと背筋が粟立った。
 それでも、それが植物で在るのなら――蜜にはそう意味のある事ではない。
 だって、蕩かしてしまえば良いのだから。
「私を苗床に選んだのは失敗です」
 それは死に至る毒。
 身体の裡で芽吹く端から、濃度を高めた毒で包み融かしてゆく。生まれては死に征く輪廻を繰り返す体内は痛むけれど、蜜は構いなどしなかった。
「この毒の身に根を下ろすことが――出来るとでも?」
 少女を苗床に生まれた獣は、彼女が彼女でなくなった証に他ならない。苗床となり朽ち果てた少女に少しだけ思いを馳せて、蜜はちいさく息を吐いた。
 ならば、自らに出来る事を為そう。
 ならば、――全てを融かし落とそう。

成功 🔵​🔵​🔴​

八坂・一路
POW
・感情
子どもを生かす責任も殺す責任も負えない、邪神を倒す方がいい
探索時よりは薄れたが恐怖・不安感は健在 

・行動
子どもを生かすとか、殺すとか……お、俺には重すぎて背負えません
……だから邪神を倒す方に参加します。ここから、逃げます。
【地下折檻室】を離れて母屋の祭祀場へ。

怖いのも、目を覆いたい気持ちも変わりません
だけど……子どもに銃を向けるよりずっと、気が楽だ。

記憶消去銃と自動式拳銃を併用
両目のサイバーアイでリアルタイムに敵の【情報収集】
分析をしつつ【視力】で狙いをつけて【援護射撃】
攻撃は可能な限り『第六感』で回避、もしくは軽傷で済ませられたら
ユーベルコードは俺が瀕死になったら発動させます



●少年
 ――背負えない、と思った。だから逃げた。
 心の中に巣食う不安と恐怖に駆り立てられる様に、八坂・一路は地下折檻室を離れて祭祀場まで戻って来た。
 恐怖も、目を覆いたくなる気持ちも変わらない――それでも子供に銃を向けるより、
「……ずっと、気が楽だ」
 仄暗い声色でそう零す。
 支給されている二挺の拳銃は良く手に馴染んだ。重たげに前髪の隙間から視線を擡げれば、人間と変わらない精巧なつくりの眸に演算が走る。
 四肢を炎に焼かれ、毒に融かされた翠の獣は、苛立った様にその蹄で地を掻いて頭を振るう。
 虚ろな眼窩に灯るものが何を考えているかは解らねど、その意識は確かに一路へと向けられる――その体内から苗床に貶さんと、不気味に薄くひらいた口から呪詛めいた呻き声が漏れ落ちた。
「――それ、俺にも花、咲かせられるんですかね」
 そこらの人間よりかは余程の頑丈さを誇る自身の身体を思って、ふとそんな風に零す。
 自分へと向けられる獣の意識が、体内から植物に創り変えようとしているのだと演算を続けるサイバーアイが伝えてくれる。
 同時に身体へ宿り始めた違和感に喉を鳴らして、一路は二挺の拳銃を滑らかに構えた。瞠る眸が弾丸を撃ち込むべき座標を違える事なく教えてくれる――相対するのがこどもでなくて本当に良かった、と一路は思う。
 泣き喚くこどもであれば、きっと遂げる事は難しかっただろうから。
「あなたが獣の姿で、良かった」
 最適化されたその身体が、示された座標を外す事など有り得ない。
「俺は、背負わずに済む」
 昏きを灯す眸で以てそう告げると共に、放たれた弾丸が邪神の身体を貫いていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メドラ・メメポルド
ああ、そう。
死んでしまうのね、たすけられないのね。
なら、あとで食べてあげましょう。

【WIZ】生まれながらの光
あのかみさま、いやなことばかりしてくるんだもの。
痛いのはいやよね、苦しいのはいやよね。
なら今日のメドはお手伝いに回りましょう。
つかれたひと、傷ついたひとがいたのならメドがいやしてあげるわ。

もしもこの光だけで痛みが消えないというのなら、
苦痛を消す毒も与えてあげましょう。
心配しないで、あとでその毒は取り除いてあげる。
今は、がんばってたたかってね。

もし、メドを狙ってきても気にしないで。
やって来たなら、食べてあげるわ。
つまみ食いくらいは赦してくれるでしょう?
ね、かみさま。


ヴァン・ロワ
アドリブ◎

毒や呪詛
そんなもので産み出されたものが神様何て言えるのかな~?
それとも、だから、神様なのかな?
まあ例え本物でも、俺様には関係無いけどね

峨嵋刺を構えて先制
回転させたそれで切り裂く様に2回攻撃
内部を植物に変えられても…痛いのも苦しいのも慣れてるんだ
ああ、でも破られても厄介だなぁ
出てこないように【命の逆さ時計】を発動
闇で無理矢理抑えつけよう
そうしたら月蝕―魔の手を敵の後ろに回して意識を反らす
その間に宙を駆け
逃げられないように近距離からモール・フルールを投擲
やられっぱなしは趣味じゃないからね~
アンタの奥深くに花をお返ししてあげる
その花は特別製でさ
大好きな毒が入ってるから
精々苦しんでね



●遊戯
 誰かの身体を苗床にして産み落とされた不完全な存在とて、身体を貫かれればまっとうに痛みが在るらしい。
 弾丸に肉と骨とを抉られて、虚ろな口から轟く様な咆哮が放たれる。
 異形を見遣って、ヴァン・ロワは口端を笑う様に持ち上げた。薬剤と呪詛と誰かの犠牲とで創り上げられた、少女を苗床に咲き誇る悪辣の神――そんなもので生み出された存在が、けれど果たして神様などと言えるのだろうか。
「それとも、だから、神様なのかな?」
 例え本物だとしても、ヴァンに関係するものではない。
 黒耳を揺らして軽やかに跳ねるその指先には、峨嵋刺が構えられる。痛みに苛立ち暴れるばかりの愚鈍な邪神を切り裂くのは容易で、流れる様な所作で連撃を刻む。
 が、それで漸く邪神の意識もヴァンの方へと向いた様だ――その裡の肉が花となり、がは、と吐く息には翠の気配が入り交じる。
 そのまま苗床へと創り変えられようとする所で、不意にその気配が消えた。
「あのかみさま、いやなことばかりしてくるんだもの」
 そこには光が零れ落ちる――メドラ・メメポルドはゆらりと佇む儘にそこに在り、抱いた光をヴァンへと分け与えていた。
 痛いのも苦しいのもいやでしょう、と少女は囁く様に笑うのだ。
「もっと苦しまないようにもしてあげられるわ。でもね、毒なの」
 勿論終われば毒は抜いてあげるけれど、と嫋やかにメドラはヴァンへと問い掛ける。
 癒えてゆく身体の調子にひとつ確かめる様に掌を握り締めてから、問われたヴァンは灰の眼差しを彼女へと向けた。
「良いよ。動ける様にはなったから」
 笑い返して、またその身体が軽やかに駆ける――命の粒が落ちてゆく砂時計を逆さに回せば、そこはヴァンの独壇場だ。
 闇を滴らせ操れば、不完全な邪神を抑え込むなど造作もない事だろう。穿つ得物から手向けられる花は、身体の裡に巣食って命を喰らい咲くものだ――特別製だよ、とヴァンが甘く囁いた。
 肚の底で咲く毒花に、大きくかぶりを振って邪神が吼える。その全身を覆う様にエーデルワイスが咲き誇り、苔生す蹄が血に汚れた祭祀場の床を荒く掻いた。
「――ほら、こっちよ」
 蕩かす様な声が招く。
 翠の獣はひらりと飛び跳ね、招く声に応えんとそちらへ駆けた。無論その声の主すら、自らの翠の養分とする為に。
 けれど獣の中で、仕込まれた毒花がもうひとつ開花する――メドラの許へと辿り着く前に、その前足が衝撃を受けて崩れ落ちた。
 白く細くあどけない指先が、跪く獣の身体からエーデルワイスの花弁を千切る。
「つまみ食いくらいは赦してくれるでしょう?」
 白い花弁は少女の――メドラの唇を彩るには、あまりにも可憐に過ぎていた。
 薄くひらいた唇が、それを食んでは咀嚼する。恨み辛みに呪詛の絡む、諦念に塗れたその味は、きっとどんな毒より刺激的だった。
「ね、かみさま」
 飲み下したメドラはそう微笑んで、小首を傾ぐ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴島・類
君を
見つけたなら

出来うることなら
助けたかった
望むように、と

虐げられ、奪われ
君以外の何かになること
更に奪うことを嫌だと言ったのなら

わかった
ころそう
君が欠片もなくなる前に

獣の跳躍力、行動と
攻撃手段を注視
瓜江を操って
フェイント、残像を用いた陽動で注意ひき
植物に捕らわれそうになれば
薙ぎ払いで断ち、突破狙う

味方が捕らわれそな際は庇い
植物の魔力の流れ、特質を探る

光を受けて育つ緑
動きや勢い僅かでもころし
捉え、燃やせないかと

動きながら
操り糸を突き崩された瓦礫に単純な罠のよに張り、仕込み
相手が飛びかかる際に引き、軌道逸らし
隙を狙い、UCで首か脚狙う

全て終わり
遺体が残ったなら
埋葬に回したい
君の名を、知りたかったよ



●弔いの火
 吼えては跳ねて祭祀場を蹂躙する翠の獣を、具に観察する眼差しが在る。
 見定めると共に細く息を吐き、影から滲む様な人影をそこに置いた。それは彼の――冴島・類の十指と糸で繋がれる、濡羽色持つ人形だ。
 ひかりの中にぽつんと佇む昏いそれは、嘸かし邪神の意識を惹き付ける事だろう。虚ろな眼窩に宿る灯りが、ぼう、と人形を見遣る。
「(――出来うる事なら、助けたかった)」
 苗床と成り果てた少女が願った様に、望んだ如くに。
 類の指先が流麗に糸を操れば、瓜江と呼び名されるそれはゆらりと揺らめき邪神を誘う。予測のし辛い動きで邪神の意識をそこに釘付けている間に、次を仕掛ける為に類はひらりと祭祀場を駆け回る。
 残骸を利用し仕掛けた罠へと、瓜江を用い邪神を呼び寄せる――光の中を踊る様に動く濡羽色に、翠の獣はすっかり執心している様子だった。
「きっと、よくよく燃えるだろう」
 その身が苔生す翠で覆われているのなら。
 その身が誰かの犠牲を苗床にして咲き誇る、呪詛で育った花ならば。
「君が欠片もなくなる前に、」
 ――ころそう。全てを燃してしまおう。
 機を読んで糸をくん、と軽く引けば、張った罠が邪神の四肢へと絡み付く。それを見過ごす事なく指先を向ければ、糸を伝って這う炎がその翠をあっという間に舐めて包み込んだ。
 鳴き声の様な咆哮が尾を引いて、絶叫の色を為しながら邸を震わせ散ってゆく。
 邪神の中に、もう少女の残滓は無いのだろう。苗床たる彼女は一方的に與えられたその役割を果たし、全てを奪われ消えてしまった。
「君の名を、知りたかったよ」
 亡骸に添える名を、そう言えば知らないなと類は思って呟く。
 名も無い儘に死んでゆく少女を悼んで、彼は穏やかに瞼を臥せた。

成功 🔵​🔵​🔴​

境・花世
綾(f01786)と

殺してあげる、
枯らしてあげる、
終わらせてあげる、

優しくやさしく囁けば
この身を覆い咲き誇る百花の王
もうひとではないのはおんなじだね
だからわかるよ、きみが何を望むのか
何がほんとうの救済なのか――

死だ、

かつてひとだった彼女のもとへ
敵の攻撃を受ける覚悟で真直ぐに駆け、
その白い花を薄紅で侵食するように穿とう
見てごらんよ、今日は葬送にはぴったりだ
餞の花束が青空にこんなによく映えるから
ひとひらも残さずに散らしてあげる

断末魔の悲鳴が聞こえても
血塗れの躰はすこしも痛くなくて、傷まなくて
隣のかみさまを見ないままあえかに咲う

……ねえ、綾、
わたし、今、「ひと」に見えるかな


都槻・綾
f11024/かよさん

禍々しく痛々しく遣る瀬無い神楽舞台よ

其れでいて――ねぇ、かよさん
いのちを苗床に咲き誇る花の、翠の煌きの、
何と美しいことだろう

「ひと」でも「ひとにあらず」でも
いのちは掛け替えなき、ひかり
そして其れは
限りがあるからこそより輝く

終焉を希う君に
救済を求める君に
澄んだ蒼穹に映える、いっとう眩い「死」を贈ろう

高速詠唱で紡ぐ七縛符
かよさんへ向かう攻撃を捕縛で相殺
身を削る技を敢えて用いたのは
昏き黄泉路を
骸海への澪を
弾けあういのちで燈し標す為

私は端から
ひとでは無きモノ、故に
覚えた感情は誰かの写しでしかなくて

齎された問いも
あえかな笑みも
彼女が「ひと」だからこそだと、思える

――えぇ
違うことなく



●舞台上
 ころしてあげる、と優しくあまく囁いた。
 それを引鉄とするかの如く、境・花世の身に百花の王が咲き誇る。
 ひとでなし、互いにそうだ。最早人に非ざるもの――故に苗床たる彼女の望みも理解出来る、だから枯らしてあげるし、終わらせてあげる。
 道を外れ様とする彼女をここに繋ぎ留めるのは、傍らに在る彼の存在だった。
 ――ねえ、かよさん。都槻・綾が柔くそう呼べば、或いは呪縛の様にそれが花世をひとへと留める。
「いのちを苗床に咲き誇る花の、翠の煌きの、何と――美しいことだろう、」
 嗚呼と吐息する。痛々しいほど美しい、その獣。
「それでも死を望むから、わたしはあれを枯らしに征くよ」
 無論、と綾がいらえて微笑む。
「ひとにせよ、ひと非ざるものにせよ、いのちは掛け替えなきひかりだ」
 そうしてそれは、限りがあるからこそより輝く。
 美が有終で在る様に、花はいつか枯れゆく様に、少女を苗床に咲き誇ったあの翠の獣もまた、死に征くからこそ美しい。
 綾の青磁が獣を見遣る。猟兵たちから融かされ穿たれ、それでも未だ終わりには至らぬ凛とした旧き神のまがいもの。
 終焉を希う君だった。
 救済を求める君だった。
「澄んだ蒼穹に映える、いっとう眩い『死』を贈ろう」
 きんいろの陽射しばかりがそこに降る。
 邪神の虚ろな眼窩に幽玄が宿り、怨みを籠めて高く嘶く――蹄が音高く祭祀場の床へと打ち付けられれば、そこから土壌が呪いの様に広がるのだ。
 ともすれば、一瞬で猟兵すらをそこに咲く花に変生させてしまうのだろう。けれどそれは為されない――それよりも尚疾く、綾の紡ぐ七星宿す符が獣の四肢へと絡み付く。
 身命すら賭すその手段を選んだのは、燃え尽きゆくいのちが燈し標すものを描き出す為だ。
 昏き黄泉路を、骸海への澪を。ただ一筋、そこに見出す為に。
「――ねえ、見て御覧よ」
 夢見る様に囁く花世の姿は、其処に無い。
 ひといきに距離を詰めた彼女は、その衣服の裾を、髪を、それこそ百花の王たるものに相応しく空に委ねて散らしながら、翠の獣の側近くに在った。
 穹は抜ける様に蒼かった。初夏の夏空が、出迎える様に寝そべっている――葬送に似つかわしいものとして。
「餞の花束が、青空にこんなによく映えるから」
 ――ひとひらたりとも、遺さずに。
 苛烈にいのちを啜り上げる花弁を受けて、旧き神が咆哮を上げる。断末魔にも似たその声色は、尾を引き総てを劈くのだろう。血濡れた花世の身体が震えたのは、けれど痛みの為ではない。
 隣を、『かみさま』を見る事など出来やしなかった。
 ただ、あえかに咲うのだ。
「――ねえ、綾。わたし、今、『ひと』に見えるかな」
 鏡写しの様に汲み取っては受けた分だけ返してきた、だから綾がそれにいらえる迄に少しだけ間が空いた。
 ひとでは無いからこそ、覚えた感情はどこかですれ違った誰かのものだ。
 それでも。齎された問いも、あえかに笑むその表情も。
「えぇ、」
 彼女が紛うことなく『ひと』たるものであればこそだと、尊い感情が生まれて皓る。
「違うことなく」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

隠・イド
ヒトだのバケモノだの以前に、元の存在とは『別物』と言う方が相応しそうですね

まさに苗床

元の少女を贄として芽吹いた邪神か

UCにてナイフを複製
それらは一斉に敵の胸元の核を狙う

自身が植物と化そうがお構いなし
この身が植物と化そうが石と化そうが金属と化そうが、それは材質の違いに過ぎませんので

全身が植物と化そうが御構い無しに、ナイフを繰る

ナイフまで植物と化すのであれば、それらを束ねて植物性の巨大な刃に


随分と手間を掛けていたようですが
成果は出来損ない一匹を生み出しただけ
古くから続く家柄とやらも、意外と大したことがない

暇潰しにはなりました
それではお別れです

さようなら、爲定家の集大成
哀れな歴史の被害者



●器物
 それが元は人間であった事など、最早察せられる部分も残っては居ない。
「まさに苗床、」
 ひとでもない、化け物ですらない。元の存在とは乖離した、別物と呼ぶべき歪なそれは、隠・イドの眼前にて本能の儘に吼えている。
 つと双眸を眇めて呟けば、その手の中にばらりとナイフが錬成さるる。與えられた捕食の特性はそれひとつひとつにも及んでいて、故に強欲に敵の核たる胸元を狙い澄ますのだ。
 空を滑る様に放たれるナイフの群れは、違う事なく邪神の胸を穿つ。その刃が苔生す身体に喰い込む度、悲鳴じみた吠え声を上げて翠の獣は頭を振るった。
 そうして、蹄が音高く鳴らされる――無機物たる床は土壌と化し、そこに佇むイドは力なき植物へと創り変えられてゆく。
「構いませんよ」
 けれどそれを特段のものと受け取る事なく、飄々とした声色でイドは告げた。
「この身が植物と化そうが石と化そうが金属と化そうが、それは材質の違いに過ぎませんので」
 皮膚に葉脈が這う。身体の裡に水が溢れる。植物の特性たるそれらを、イドはひとつたりとて怖れない――恐れる必要など在りはしない。
 変わらずその指先は踊る様にナイフを操り、邪神を着実に追い詰めてゆく。その刃すら苛立った様な鳴き声と共に植物へと変じられれば、浅く吐息で笑って戒める様に指先を曲げた。
「随分と手間を掛けていた様ですが、成果がこれとは爲定の血脈も底が識れる」
 古くから続く家柄とやらも、存外大した事はない――のたうちながら尚も抵抗を続ける翠の獣に相対したまま、その出来損ないへと向け、束ねた植物が刃を為して襲い掛かった。
 衝撃は甚大だ。虚ろな口から悲鳴を轟かせる哀れな苗床の末路に、イドの双眸が見限る様に窄められる。
「暇潰しにはなりました――さようなら、爲定家の集大成」

成功 🔵​🔵​🔴​

星鏡・べりる
「たすけて」は、ごめんね。もう無理そう。
「ころして」は、なんとかしてあげる。

植物の獣……
定石なら火攻めになるのかな。
それなら火の力を込めたレッドベリルの宝石弾を使おう。
本当に希少な石だからあんまり使いたくないんだけど、旅立つ貴女への送り火にしてあげる。

この右の黒銃に込めた一発の宝石弾以外は全て布石とフェイク。
左の白銃であいつに力を与える周りの植物を破壊しながら機を窺うね。
植物化については、呪いの類なら後でなんとかなるでしょう。
変にビビって命を落とさないようにだけ気を付けなくちゃ。

随分と手間取らせてくれたけど、これが私の本命。
当たったなら、そのまま大人しく灰になりなさい。



●鮮烈
 きっと『たすけて』も『ころして』も、あの翠の獣の咆哮に嚥まれて消えてしまったのだろう。
 ごめんね、と小さく口中で呟いて、 星鏡・べりるはその両手に二挺を番える。
 ごめんね――きっと、もうたすけてはあげられない。
 だから真っ直ぐに、べりるは蹌踉めく邪神から視線を逸らさない。植物の刃に強かに打ち据えられたその姿は、けれどまだ斃れる事は無いのだから。
「でも、もう一つの願いはたぶん、なんとかしてあげられるから」
 滴る様なレッドベリルの宝石弾。火の力を籠めたそれを、旅立つ貴女への送り火にしてあげる。
 軽やかな決意がべりるの靴裏を押し上げる。地を蹴りひらりと身軽に距離を詰めれば、その蹄が機嫌悪く床を掻くのが視界の端に垣間見えた。そこから土壌が広がるのも――体の奥底に、呪詛の種子が芽吹くのも。
 或いはその視界が星鏡を通して物事を見定める様に、べりるのエメラルドが見開かれて邪神を見遣る。同時に無駄の無い所作で左に構えた白銃が、白煙と共に視界に捉えた箇所を撃ち抜いた。
 指先に翠が凝る。肚の奥を蔦が這う。奥底から花咲く様に変生を得る――けれど何も恐れない。それが呪詛の類であるのなら、後からどうにだって出来るのだから。
「こんなことでビビってちゃ、命が幾つ在っても足りないんだよね」
 気丈に囁いて、乾く唇をちいさな舌先がぺろりと舐めた。
 淀まず間断なく攻撃を続けるべりるに、根負けをしたのは邪神の方だ。猟兵たちによる苛烈な猛攻に、ついに推され始めたのだろう。
 愛らしい眼差しは、けれどこの時ばかりは峻烈にそれを見抜いて咎める。竜よりも麒麟よりも、それは烈しく燃え盛るのだ。
「随分と手間取らせてくれたけど、――これが私の本命」
 とっておきだよ、とちいさく笑って囁いた声は、果たして獣の向こうの苗床まで届いたろうか。
 放たれたレッドベリルの宝石弾が、その胸の中央を穿ち貫いてゆく――断末魔めく悲鳴が晴天を割る様に響く様を、満足気に眺めるエメラルドが瞬いた。
「灰になれば、眠れるでしょう?」

成功 🔵​🔵​🔴​

花剣・耀子
嗚呼、――そう。
ヒトとして死にたいなら、それだけは叶えてあげられる。

正面から斬り込むわ。
意識をあたしに向けさせて、他の皆が動き易くなるように。
ほら、余所見なんてしないで頂戴。
おまえを斬るにはうってつけの剣よ。

呪詛を弾くのが難しければ、
即死だけはしないよう強く意志を持って。
剣を持つ手。踏み込む足。肺。心臓。首。頭。
斬るのに障らない部位が残れば良いわ。
後の事は、後でなんとかしましょう。


――あの子の手は掴んだのに、この子の手を斬るの。
そんな矛盾、あたしが一番良く判っている。
何もかもに手が届かないことだって。
出来る事なんて限られているのだと。

そう。そうね。これしか出来ない。
おまえは此処で、斬り祓うわ。



●晴嵐
「ヒトとして死にたいなら、それだけは叶えてあげられる」
 断末魔を聞き届けながら、花剣・耀子は囁いた。
 その苗床から、新たなる神が覚醒しきらないうちに――それがまだ、ひとの領域に留めておける内に。
 衒う事なく燿子は駆ける。真正面から斬り込む彼女の姿に、邪神もその意識を当然の様に彼女へと向ける。それは呪詛を帯びて燿子を内側から蝕んでゆく――音を立てて造り変わるのをまざまざと感じながら、それでも燿子は笑って紡ぐのだ。
「そう、余所見なんてしないで頂戴――おまえを斬るにはうってつけの剣よ」
 差し向けられた呪詛を弾けないのならば、嚥まれぬ様に意思を強く持つだけだ。
 絶対に失えないもの。剣を持つこの手。踏み込む為のこの足。それから肺、心臓、首、頭。
 蝕むと云うのなら、それすら併呑してこの身の裡に留め置くだけだ。それだけ残っていれば身体は動く、戦える。壮絶なその覺悟が、燿子を花剣たらしめる。
 嗚呼でも、それでも――あの子の手は掴んだのに、この子の手を斬るの。
「(そんな矛盾、あたしが一番良く判っている)」
 すべてに手を伸ばす事など出来やしない。手が届かない事など良く良く承知している。
 出来る事だなんて、限られているのだ。
 花弁がひとひら揺れ落ちる如きその隙間へと、翠の獣が咆哮を捩じ込む。だけどそれは呼び声にだって成り得てしまう。
 ――たん、と、軽やかに燿子の爪先が地を蹴った。距離はすっかり詰め切って、身体の一部を扱うかの如き気軽さで、その剣を抜き放つ。
「そう。そうね。これしか出来ない」
 吐息が笑う様にささやかに咲く。
 解き放たれた斬撃は、真っ直ぐに苔生す獣の身体を斬り伏せた。
「おまえは此処で、斬り祓うわ」
 ――それは嵐の舞う如く。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
望まれた子。
未来への針を進める児。未来の芽を摘み取る仔…
必要だったのはどちらか、考えるべくも無かったでしょうに。

戦場の合間を縫う様に鋼糸を通す。
断ち斬らんと舞うもの、足元へと敷くもの、引っ掛け固定するもの…
真贋フェイント織り交ぜて。

植物にとかちょっと、ゾッとしない話ですが…
…きっと、何になろうと、僕を操ろうってんなら手を焼きますよ?
叶うなら見切り避けたいですが、
術中であろうと、仕込みさえ出来ているなら。
指先が動けばそれでいい。
UC、拾式。

妄執に殉じたオトナの…死者の、過去の都合など如何でも良い。
貴女は生きて、「    」と言った。
哀切でも憐憫でも無く、ただ縁に依って、
最期の望みを、叶えましょう



●蜘蛛糸
 空間を揺らす様な咆哮は、次第に断末魔と聞き分けが付かなくなってくる。それ即ち終わりが近付いているのだと、否が応でも識れるのだ。
 ――望まれた子。未来への針を進める児。未来の芽を摘み取る仔。
「(必要だったのはどちらか、考えるべくも無かったでしょうに)」
 心中で密やかにそう紡ぎながら、クロト・ラトキエは戦場を駆ける。
 猟兵たちが猛攻を続ける様子を視界の端に捉えながら、クロトは糸を空間の彼方此方に渡しながら駆け抜けていた。時折こちらの意図を読まれぬ様に、糸を操り邪神の力を削ぎにも向かわせながら。
 仕込みは上々だ。後は仕上げを施すだけの段になって、ふ、とクロトの足が止まる。
 硬かった筈の祭祀場の床が――いつの間にか、柔らかな土壌へと創り変えられている。
「ッ、ぞっとしませんね……!」
 その蹄が音高く鳴らされたのだ、と気付くのには一瞬だけ遅かった。が、その呪詛が身体を這い上がる前に飛び退って回避する。
「――何になろうと、僕を操ろうってんなら手を焼きますよ?」
 植物の支配者たる様相で佇む翠の獣は、それでももう虫の息の様に思えた。
 青宿す双眸眇めて囁いたなら、後はクロトの独壇場だ。指先ひとつでそれは為される――入念に張り巡らされたものが、そこで漸く結実する。
 ――妄執に殉じたおとなたちなど識るものか。
 託された苗床たる少女の最期の願いは、確かにクロトの裡に引っ掻き傷を遺したのだ。
「哀切でも憐憫でも無く、ただ縁に依って――」
 式が起動する。
 蜘蛛の巣の様に巡らされたクロトの糸が、遂にその中央に翠を捉える――逃れようもなく、その苔生す巨躯を鋼糸が苛烈な斬撃で以て斬り裂いてゆく。
「最期の望みを、叶えましょう」

成功 🔵​🔵​🔴​

カタラ・プレケス
アドリブ歓迎

……分かっていたけど、やっぱりこうなったか
仕方ないから魂だけでも救うため
古き神にはご退場を願おうか~

『幻惑偽音』は世界を偽る呪いの音色
『地動観測』は迷い人を導く羅針盤
これら二つを合わせた術式で神の意識を偽りの何かに導き
『天蝎縛砂』で四肢を拘束
……古き神よ、これこそが人の願いと知るがいい
【願え、其は星をも超える輝き示す者】発動
全力の雷霆で持ってその全てを消し飛ばすよ

可能なら戦闘終了後に子ども達の魂だけでも正しく天に導こう
「……御子たるカタラが詠いましょう。
無垢なる子等に祝福を、死した者等に救済を、
導く先は天の門。
苦しみは無く、次なる生を願い給え。」
……こんなことしかできなくてごめんね



●始末
 崩れ落ちる様に跪く邪神を見下ろして、ふ、とカタラ・プレケスは眉尻を下げて微笑んだ。
 最初から分かってはいたのだ。分かってはいたけれど、やっぱりこうなってしまったか、だなんてそんな感情ばかりが胸を占める。
 叶わないのであれば――せめて、魂の救済を。
「……、ね。古き神には、ご退場を願おうか~」
 緩い声色で囁やけば、その髪が、衣服の裾が、風なき風を孕んでふわりと膨れる。
 世界を偽る呪いの音色が空間に産まれ、迷い人を導く為の羅針盤がそれの征く先を指し示す。
 崩折れた翠の獣の苔生す四肢を戒めるのは、光を撚り集めたかの如き光の鎖だ――もう逃げる余力すらない旧き神へと、カタラは願いを束ねて差し向ける。人の、人々の頼りない願いとて、掻き集めれば強大な力足り得るのだ。
 生死すら選べぬ身に貶されたこどもたちの幾人かは、猟兵の手に依り安寧たる死を齎された。少しだけ先に虹の袂で眠りに就いた少年少女らの、声なき願いもきっとそれには共に束ねられているのだろう。
「――これこそが、人の願いと知るがいい」
 齎す声は、穏やかだった。
 蒼穹から轟く様な雷霆が降りる。総てを裂く様なその剛咆が、少女の苗床から産まれ落ちた旧く新しき神を灼き尽くす。
 ――終わりは酷く、呆気なかった。

 やがて邪神の躯はゆっくりと朽ちて、猟兵たちの前で塵と化し、颯々と吹く初夏の風に攫われて散ってゆくだろう。
 苗床となった少女の身体は、躯すら戻らない――ただきっと、その眠りはきっと穏やかなのだろう。
 カタラがつと、その眼差しを抜ける様な晴天に投げ上げる。死者を送り出す為の煙も燈火も何も無いが、祷りばかりは此処に在った。
「……御子たるカタラが詠いましょう」
 無垢なる子等に祝福を、死した者等に救済を、導く先は天の門――苦しみは無く、次なる生を願い給え。
 ささやかな祝詞は滔々と紡がれて、風の向こうに、空の彼方に旅立ってゆく。
 歪んだ運命から解放されたこどもたちがきっと、その祷りを抱えてゆくのだろう。

 戻るものは何もない。
 ただ苗床たるこどもたちの次の生では、きっとその土壌にきらきらしい種が蒔かれるのだと、それだけは何となく――そう、思えた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年07月16日


挿絵イラスト