9
勇気ある村の土は朱殷に染まり

#ダークセイヴァー


●嗜虐の暗黒騎士
 村の広場に集められた村人達の前に一人の女騎士が立っている。
 村人達の表情は一様に不安の色を含んでおり、中には怯えたように家族や友人と身を寄せ合う者もいた。
 その様子を愉しそうに眺めた女騎士は、見せびらかすように剣を抜くと穏やかな口調で語りだした。
「この規模の村にしては妙に人がいますのね? 家の数も、まるでつい最近になって建てたようなものもちらほらと……ねぇ、村長さん?」
「はっ、いえ、そのようなことは……」
 皆を守るように矢面に立った初老の村長は、女騎士の嬲るような物言いに顔を真っ青にしながら言葉を濁した。
 女騎士はそう、と素っ気なく返しながら村長に歩み寄る。
 村人達は惨劇の予感に身を固くし、村長は逃れられない死の運命を悟った。
「あら、そんなに怯えなくてもよろしくてよ? あなた方を罰しようとか、処刑しようとか、そういうお仕事ではないですから」
「は、はぁ……で、では、こたびは、どういった、ご用件で」
「――――『猟兵』」
 呟くように放たれた女騎士の言葉に村人達は息を呑む。
 女騎士はその反応に満足したらしく、にこりと花が咲くような笑顔を浮かべた。
「どうやらご存じのようですわね? ああ良かった、無駄足にならなくて。異端の騎士様が人間狩りに出られたきり、帰ってこられないとのことでしたので……何か心当たりがありませんこと?」
 女騎士は笑顔のまま、凍り付いた村長の横を通り抜ける。
 そのまま村の農婦が腕に抱えた赤子の前まで歩くと、よしよしと優しくあやし出した。
 村人達にとっては悪夢のような光景だ。
 何せ目の前にいるのは善良な騎士などではなく、悪名高い暗黒騎士ヴィスダなのだから。

 ――暗黒騎士ヴィスダ。悪辣なサディスト。

 柔らかな物腰からは想像も付かないような、残酷な拷問や処刑を嬉々として行う悪魔の化身。
 それがいま、村の赤子をあやしている。
 母親であろう農婦は恐怖に凍り付いて動けない。父親も同じく動けない。周りの村人達もやはり、動けない。
 抗えぬ恐怖が村人達の未来を絶望の闇に沈めようとしていた。


 世界中から猟兵が集まるグリモアベースに一人の女がやってきた。
 グリモア猟兵のグロリア・グルッグは空いているスペースを見つけるとそちらへ移り、居合わせた猟兵達に声をかける。
「皆さんのお力が必要です! どうかお集まりください!」
 呼びかけに応じて集まってくれた猟兵に頭を下げ、グロリアは手前の空間に電脳魔術の映像を映し出した。
 それはいかにも農村といった雰囲気の村だ。
「ありがとうございます。こちらが今回の現場となります。私が予知したものはオブリビオンによる凄惨な拷問事件です」
 グロリアは電脳ゴーグルの奥に表情を隠したまま説明を続ける。
「事件はダークセイヴァー世界のとある村に、一体の暗黒騎士がやってきたことで始まります。騎士は村人全員を広場に集め、一人の例外もなく拷問にかけるようです。殺さないように、ひどく手慣れた拷問を。……この世界で傷を負っても治せるような医者はいません。必然、村人達は死ぬまで消えない傷と悪夢に苦しめられることでしょう」
 そこで一息をつくグロリア。
 重々しい語り口から予知で見た拷問の残酷さがうかがい知れる。
 言外に事の重大さが伝わり、誰かが息をのむ音が聞こえた。
「……ですが、今ならまだ間に合うかもしれません。拷問が始まる前に敵を村人から引き離し、これを倒す。村人を戦闘の余波から守りながら戦うのはとても難しいことだと思いますが、他に方法は無いです」
 予知した事件そのものを未然に防ぐことはできない。
 であれば次善の策は、手を尽くして結末を変えることのみ。
 オブリビオンを倒し人々を救い出す。
 言葉にするのは容易いが、その実現がいかに困難な道のりであるか。
「ただ、ひとつ気になることが。敵が我々『猟兵』の存在を知っているような口ぶりでした。……それとこの村、一度防衛しているのですよね。我々、猟兵が」
「敵に情報が伝わっている可能性がある、ということか?」
「はい。なにせ敵に支配された土地で、敵の騎士を返り討ちにしましたから。土地の支配者たるオブリビオンの領主が猟兵の関与を知ったとしても、その原因を探ろうと別のオブリビオンを派遣したとしても、ありえる話です」
 領地で起きた異変に興味を持つような領主であれば、配下の騎士が帰ってこないという特大の異変を見逃すはずもなかったのだろう。
 むしろ興味の度合いを一層強め、その原因究明に乗り出してもおかしくはない。
「敵に誘き出されるようで心苦しい限りですが、それでも村人達を見捨てるわけにはいきません。こういう時は速攻の電撃戦で、敵の思惑ごとぶち抜いてやるのもありかなと個人的には思います」
 敵の注意をこちらへ引き付けるなどの村人の安全を重視した慎重な作戦、あるいは敵の死角から奇襲を仕掛けるなど手早く村人から引き離す作戦。
 そのどちらも必要で、正しい作戦だろう。
「どうやって攻めるかは皆さんにお任せします。私は私で後方支援に努めますね。……では、ご武運を。どうか暗闇の中で必死に生きる人々を魔の手から救い出してください。応援しています」
 そういってグロリアは頭を下げ、猟兵達を送り出すのであった。


宝野ありか
 お世話になっております、マスターの宝野ありかです。
 今回はダークセイヴァーで起きる事件をお送りします。
 現場となる「村」が前回のダクセシナリオと同じという形になっております。
(一言説明:村を攻めてきた異端の騎士を返り討ちにしたら領主に目を付けられた)
 以下補足。

●一章のスタート地点など
『猟兵 →→→ 敵 村人』
 このような形で始まります。
 時間的には夕方ごろ、遠くで動くものを見落とすていどには薄暗い。
 足場は問題なし。家屋などの建築物に上ることも可能。
 村人は猟兵に対して友好・協力的で不利になるような行動は取りません。
 なお村人の負傷や生死は作戦の成否に影響しないものとします。
 村人の安全を重視するあまり攻撃の手がゆるむと事態が悪化する可能性があります。

●一章:ボス戦について
『慎重』…「」付きで発言すると敵が猟兵との会話に興味を持ちやすいでしょう。
『速攻』…「」を使わない場合、沈黙したまま速攻・奇襲を仕掛けることが可能。
 その他有効そうな技能を活用するとプラス判定が付きます。

●二章:集団戦
『連携不可』…村の東西南北が敵の軍団に包囲され、怒号が鳴り響くため意思疎通が困難になります。基本的にソロ描写。
『UC2つ』…ユーベルコードの使用を2つまで可としますが、全ての描写を確約するものではありません。
『村人』…村人は勇気1を振り絞って自主的に避難します。主に家屋へ逃げ込もうとしますが、何らかの手段で誘導できればそれに従うでしょう。

●三章:ボス戦
 この領地を支配するオブリビオンの領主との戦いになります。
 戦場は静かになり、村人の避難は完了しており、一切の制限なしで戦うことができるでしょう。
 一章のボスより強いものとし、プレイングボーナスを除いたダイスは1回だけ振ります(通常は2回ほど)

 以上です。
 それではよろしくお願いします。
32




第1章 ボス戦 『暗黒騎士ヴィスダ』

POW   :    止まらぬ嗜虐の一閃
【目にも留まらぬスピードの突進突き】が命中した対象に対し、高威力高命中の【追撃の踏みにじり】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    黒き翼の飛翔
自身に【暗黒のオーラで作り上げた翼】をまとい、高速移動と【翼から放たれる漆黒の矢】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    解き放たれし暗黒の領域
【周囲全体に放射される暗黒のオーラ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
イサナ・ノーマンズランド
SPD

なんだか見たことあるところだなあ…… あっ、そうか。
ここ、前にきたことあるんだ。
「……ほら、レイゲン。ああいう女の人とか好みなんじゃないの?」
『……アレは嫌だね。鼻っ柱へし折ってやるのは楽しそうだけどよ、あれ絶対重たい系のオンナだよ。めっちゃ根に持つ系だよきっと』

ダンボールもとい【迷彩】で【目立たない】ように気配をごまかしながら、【忍び足】で巧みに狙撃ポイントを変えつつ【スナイパー】として女騎士を牽制。
【傷口をえぐる】ような嫌らしい射撃も交えつつ、村人が被害に巻き込まれないように逃げる【時間を稼ぐ】。

アドリブ 他猟兵さまとの絡みなどなど歓迎です


セシリア・サヴェージ
また暗黒騎士の名を貶める輩が現れましたか。同じ力を持つ者として今回の事件は捨て置けません。

「あなたも暗黒騎士を名乗るのであれば、弱者を傷つけるのはやめなさい」

まずは村人たちから彼女を引き離すのが先決。説得に応じるような相手でないことは十分承知していますが、いきなり攻撃を仕掛けては村人たちに被害が及ぶ可能性があります。できれば、それは避けたい。
彼女との会話を引き延ばして【時間稼ぎ】して機会を伺い、他の猟兵の方とも協力して村人を救出します。

戦闘になれば暗黒剣で応戦します。私よりも素早そうですので命中率を重視したUC【暗黒剣技】で攻撃します。暗黒騎士同士、どちらが勝るか雌雄を決するとしましょう!


橘・焔
○心情
私達猟兵を知っている?
奴らは何処でそれを知ったのか…

【SPD】※アドリブ・連携可
村近辺に潜み、聞き耳を立てつつ突入のタイミングを窺う
※同時に突入する仲間がいれば陽動として、単独になる場合は敢えて敵の注意を引くよう動く

「ひゃっはー、猟兵のお出ましだー」
愛機フルスロットルで村へ侵攻、敵の目を引きつけると同時に村人へ敢えて強い口調と空吹かしで脅しかける
「轢かれたくなければ散れ!」
※本音「お願い逃げて!」

“光の刃”で敵の攻撃を捌きつつ、巧みなバイク捌き(操縦+騎乗)と高速剣技(2回攻撃+残像)の息を付かせぬ連続攻撃で一気に畳みかける
「…フフーフ、そんなんじゃ私“達”には勝てないよ~」


モリオン・ヴァレー
成程、向こうとしてもいい加減にあたし達猟兵が鬱陶しくなってきた訳ね
この拷問もあたし達を誘い出す為の……

<暗視><情報収集>眼帯を取り右義眼で霊力による視界を確保
<目立たない><ダッシュ><忍び足><地形の利用>
それを元に静かに、確実に背後より接近

【マリス・バインド】発動
<暗殺><早業><ロープワーク><投擲>
背後よりの奇襲でその羽ごと一気に締め上げるわ
<鎧砕き><属性攻撃><毒使い><マヒ攻撃>
重力のオーラを纏い硬化した針の前に、そんな鎧は布同然よ
<オーラ防御>あたし自身もその重力のオーラを纏い敵の攻撃に備えるわ

はいそうですかと首を差し出す訳が無いでしょう?
今回も狩られるのはあなた達の方よ


宇冠・由
私は空飛ぶヒーローマスク。今回は機械の義体装備で戦います
地獄の炎を噴射させて空中戦、夕暮れを背に両腕を組む。その存在感をあえて見せることで敵の目を引き付けおびき寄せ、村への進行を遅らせます

『そこの騎士! 止まりなさい!』

嗜虐性の強い相手は自己顕示欲も強いと聞いたことがあります
自分より目立つ相手からの挑発には乗ってくる可能性が高い

私は陽動、【十六夜月】で森側面から忍び回り込ませた狼たちが村人たちを背に乗せ救出するまでの時間稼ぎ


付かず離れ過ぎず、突進を空中に回避しつつ、地獄の炎を弾丸として放ちます
爆炎と轟音で多少の目晦ましにもなるはず
農村に燃え広がらないように注意しましょう


ステラ・アルゲン
このような事態を聞いては見過ごすわけにはいかない。すぐに村人を助けに参りましょう。

この薄闇でも輝き光る【月光槍】を手に敵の前に現れる。
「猟兵たる我々を誘い出すことが目的のようだったな」
目立つように【存在感】を持って話しかける。これで注意をそらし、他の者が動きやすくなればいい

敵の暗黒のオーラは【祈り】を込めながら【高速詠唱】【全力魔法】した【天満月】の聖なる光にて祓ってやろう
もちろん、怪我をした者がいればこの光にて癒やす
村人や他の者を狙うようであれば【オーラ防御】を展開しながら【かばう】

「正義を志す騎士として、貴様のような騎士の思惑通りにさせるわけにはいかないからな」

(アドリブ・連携OK)


フォルク・リア
俺達を誘い出すと言うのなら乗ってやろう。
但し、罪のない人を危険に晒した代償は
高くつくけどな。

敵や周辺状況を良く確認し
物陰に隠れダッシュと忍び足を使い分け接近。
ある程度近づいたら村人に紛れ(服装は事前に
村人に近い物を用意)
敵の注意している方向は良く確認しつつ
村人の様子を真似て不自然ではない様にする。
村人に怪しまれたら簡潔に事情を話し
敵に悟られない様に頼む。
接近出来たら敵の死角から
早業、高速詠唱、暗殺を駆使してナイトクロウを発動し攻撃。
注意を引き付け村人から引き離しつつ
敵には催眠術で自分が攻撃すべきは猟兵のみで
他に注意を向ける暇はないと暗示をかける。
それでも攻撃が村人に向く場合は盾となってかばう。



●猟の始まり
 転送された橘・焔(f01608)は愛機である可変式バイク・インフェルノを静かに転がしながら、遠巻きに現場となる農村の様子を窺っていた。
 村人達はすでに広場に集められているようだ。
 いざという時に突入できるよう、焔はやや離れた位置で機会を待つことにする。
(私達猟兵を知っている? 奴らが何処でそれを知ったのか……)
 敵がこちらのことを知っている可能性はやはり気になるものだ。
 その上で何を企み、何を狙っているのか。
 焔は敵の狙いを思案する傍ら、後ろに乗せていた同乗者に声をかける。
「イサナさん、この辺りでいい?」
「ん、ありがと」
 ここまで乗せてくれた焔に感謝を伝えたイサナ・ノーマンズランド(f01589)は、ひょいと身軽な仕草でバイクから飛び降りた。
「ついでだからね。それじゃ、私はもうちょっと距離詰めておくから」
 農村の方へと向かう焔を見送り、イサナは用意しておいた潜入用特殊装備のみかん箱をてきぱきと組み立てる。
 完成した段ボール箱にイサナが潜り込むと、不思議と目立たない段ボール箱だけが残された。
 まるで周囲に溶け込んでいるかのような迷彩技術で身を隠しながらイサナが移動を開始する。
「なんだか見たことあるところだなあ……」
 見覚えのある風景。踏んだ覚えのある土の感触。嗅いだ覚えのある草木の匂い。
 イサナは体感したものから記憶を引っ張り出した。
「あっ、そうか。ここ、前にきたことあるんだ」
 たしかあの時は夜通し戦っていたような覚えがある。
 それを思い出したイサナは、周囲の地形などの土地勘が冴えていくような感覚を得ていた。
 ほどなくして村の広場がよく見えるポジションに到着。
 それはつまり射線が通るということで、狙撃にはもってこいな場所だった。

 一方そのころ、広場に集めた村人達に歩み寄ろうとした暗黒騎士ヴィスダの背に声を飛ばす者が現れた。
「そこの騎士! 止まりなさい!」
 敵は自分を恐れぬ何者かの訪れを知ると、邪悪な笑みを浮かべゆっくりと振り向いた。
 だがそこには誰もいない。いや、上にいた。
 敵が見上げた先、まるで燃え盛る夕陽を背負うかのようにして宇冠・由(f01211)が空に立っていたのだ。
 嗜虐性の強い相手は自己顕示欲も強いと聞いたことがある。
 ならば自分より目立つ相手からの挑発には乗ってくる可能性が高いだろう。
 由は両腕を組み、自らの機械義体より地獄の炎を激しく噴出させた。
 ここで目立ち、敵の注意をこちらへと引き付けることで村人の安全度を高める算段である。
 由の威風堂々たる姿は敵のみならず村人達の目をも奪うのに十分すぎる存在感だった。
「……なるほど。あなたが猟兵とかいう野良犬ですわね」
 由の火炎が彩る赤い光に目を細め、敵は邪悪な笑みを深めて剣に手をかける。
 敵から噴き出す殺意の量が膨れ上がった。

 常人であれば即座に気を失いかねない殺意の嵐の中を、二人の猟兵が悠然と歩いてくる。
「また暗黒騎士の名を貶める輩が現れましたか。同じ力を持つ者として今回の事件は捨て置けません」
「このような事態を聞いては見過ごすわけにはいかない。すぐに村人を助けに参りましょう」
 暗黒騎士のセシリア・サヴェージ(f11836)と魔法騎士のステラ・アルゲン(f04503)だ。
 セシリアは暗黒と呼ばれる力を操る騎士として、同じ名で呼ばれている敵の所業を憂う。
 無辜の民を守るために剣を執り、自らの生命さえ削りながら暗黒の力を行使するセシリアにとって暗黒騎士の呼び名はある種の誇りだ。
 だからこそ、暗黒騎士と呼ばれる者が非道の限りを尽くすことが許せなかった。
「あなたも暗黒騎士を名乗るのであれば、弱者を傷つけるのはやめなさい」
 セシリアは敵から浴びせられる殺意を真っ向から受け止め、剣の切っ先を突き付けた。
 その横に肩を並べたステラは薄闇でも輝き光る月光槍を構える。
「猟兵たる我々を誘い出すことが目的のようだったな」
 冴え渡る刃のような目で敵を射抜き、ステラは不敵に笑った。
「光栄に思うがいい。望み通り来てやったぞ。もっとも、貴様を屠るためにだがな」
 好戦的に振舞いつつも、ステラの意識は敵の背後、集められた村人達の方に向けられている。
 あえて目立つように存在感を出すことで敵の注意をそらす。
 それがステラを含めた猟兵達の基本戦術となっていた。

 敵の注意をあえて引き付ける戦術があるのなら、それを前提とした別の動きを取る者もいる。
 モリオン・ヴァレー(f05537)とフォルク・リア(f05375)だ。
 二人は注意深く敵の視線を掻い潜っては村人達のいる集団へと紛れ込むことに成功した。
(成程、向こうとしてもいい加減にあたし達猟兵が鬱陶しくなってきた訳ね)
 モリオンは右の義眼マナ・オニキスを使い霊力による視界を確保。
 立て続けの出来事に足を竦ませた村人達の合間を縫うように進んでいく。
(この拷問も、あたし達を誘い出す為の……)
 男がいた。女がいた。子供がいた。老人がいた。
 村人達の数は決して多くはないけれど、闇に支配された世界で必死に生きている。
 それを餌にすることで猟兵を誘い出す敵の手口は、残酷なまでに正しい。
 モリオンは冷静な暗殺者として敵の作戦を分析する。
 だが。だからこそ、だ。
 救いに来たはずの弱者の群れに紛れ込むという危険な作戦を、猟兵側がするとは思いもしないだろう。
 なぜなら敵は己をこそ邪悪と認め、それに抗する猟兵を善良なるものだと見ているからだ。
 でなくば人質など取るはずもない。
 モリオンは忍び足で敵の背後へと回り込み、手にした針にオーラを流し始めた。
 同じく忍び足を使い村人達の合間を縫うように進むフォルク。
 その姿は他の村人と似たような質素なものであり、一目では見破れぬほどの擬態となっていた。
 途中、村人に怪訝な目を向けられはしたが、フォルクは手を横に振ることで気にするなと言外に伝える。
 その意味を察した村人はフォルクから顔をそらして協力してくれた。
(ふん、俺達を誘い出すと言うのなら乗ってやろう。但し、罪のない人を危険に晒した代償は高くつくけどな)
 フォルクの胸にあるのは静かな怒りだ。
 魔導を究める魔術士にして研究者である彼は、孤高であるようでいてその実友好的な人柄である。
 自分達を誘き出すために何の罪もない村人を利用するなど到底許せるようなことではない。
 それをしでかした相手には相応の代償を払ってもらうとしよう。
 敵の背後まで接近したフォルクは横目でモリオンと意思の疎通を図ると、声を殺して詠唱を始めた。
 ――冥空を覆う黒翼、煉獄を駆る呪われし爪。
 斬り裂き咬み砕け。常世の闇を纏い、振う我に従い望むままに蹂躙せよ。
 その飢えた牙を満たす迄――。
 詠唱を終えたフォルクが人から死霊吸収体へと姿を変え、ここに戦いの幕が上がる。

●猟の終わり
 オブリビオンの暗黒騎士ヴィスダは正面から殴り込んできた三人の猟兵を見て薄く微笑んだ。
「たった三人でこのわたくしを仕留められるとでも? ずいぶんと甘く――」
 会話という行動にて死角を晒した敵の背後を突くべくモリオンが踏み込んだ。
 鋼針ギベオンに注がれた霊力が内部に仕組まれた毒薬を呼び起こすと針の先に猛毒が宿る。
 毒の効果は対象の体力を奪うものと体の自由を奪う麻痺毒。
 一刺しでも受けたが最後、体内に注入された二種類の猛毒が確実なる破滅をもたらすだろう。
 モリオンは鍼灸師として、また暗殺者として磨き上げた針の技を振るった。
 マリス・バインド発動。
 がら空きになった敵の背中、その鎧の隙間に二針を通す。
 オーラによって硬化された針の前に防具など意味をなさない。
 まるで布に縫い針を差し込むような軽さでモリオンの針は敵の肉体を貫いていた。
「いつっ――なっ、なにっ!?」
 敵が驚きの声を上げる。
 だが遅い。その反応はあまりにも遅すぎた。
 モリオンは冷ややかな目で敵の次の動きを予測すると、仕上げとなる霊力の糸を虚空に放ち対象を絡め取る。
 重力の力を纏った霊糸が重くのしかかり敵の自由を束縛した。
「うっ、こ、これは――マズいですわね!」
 慌てて距離を取ろうとした敵の膝がかくりと曲がり回避行動は失敗する。
 敵に致命的な針の技を打ち終えたモリオンは冷ややかな目でその無様を見届けた。
「……あたし達を誘き出す。それは別に構わないけれど、はいそうですかと首を差し出す訳が無いでしょう?」
 もはや仕事は終わったと言わんばかりにモリオンが告げる。
「今回も狩られるのはあなた達の方よ」

 不意打ちを受けて態勢を崩した敵を見逃してやるほどフォルクという男は甘くない。
 死霊吸収体へと変身したフォルクはその身に帯びた冷たく黒い霊気を浴びせるようにして敵の動きを鈍化させた。
 同時に死を告げる大烏と冥府の黒狼を召喚して攻撃を命じる。
 上空より襲い掛かる大烏の爪が敵の肩に食い込み押さえつけると、その脇を薙ぐようにして黒狼が駆け抜けた。
 黒狼の呪われた爪が敵の胴体を深々と切り裂き大きな損傷を与えることに成功する。
 敵は血の代わりに暗黒の闇を吹き出しながら踏み留まっていた。
「こんな、わたくしとしたことが、何て無様な……」
 敵の呟きをフォルクは無視する。
 もとより交わす言葉などあるはずもなし。
 フォルクは未だに動揺から立ち直れていない敵の目を直視する。
 瞳の奥へと呪いをかけるが如く、フォルクは催眠術を使い敵へと暗示をかけた。
 ――攻撃すべきは猟兵だ。
 ――他に注意を向ける暇はない。
 通常の心理状態であれば暗示に抵抗されただろう。
 しかし敵は心理的無防備に陥っており、フォルクの催眠術はすっと敵の心に入り込むと思考の自由を奪い取った。
 敵は頭の中に埋め込まれた枷に顔をゆがめるが、その目は猟兵であるフォルクから離れない。
 催眠術による暗示の成立。もはや敵の目に村人が映ることはないだろう。
 絶対とまでは断言できないものの、少なくとも避難させるまでの時間くらいは稼げるはずだ。
 フォルクは敵を村人から引き離すべく、大烏と黒狼に命じて攻撃を浴びせ続ける。
 猛攻に晒された敵はじりじりと後退し、自らを狩るために用意された狩場へと追い込まれることとなった。

 決定的な隙を見せた敵に対し素早く反応したのは空を飛ぶ由だ。
 由は機動力という強みを活かして敵と村人の中間となるポイントまで飛行。
「地獄の弾丸をお見舞いして差し上げますわ!」
 村人を勇気づけようとしたのか無意識なのか、由は機械義体でポーズを決めながら激しく炎を噴出させた。
 燃え上がる炎をそのまま弾丸として撃ち出すと敵を容赦なく焼き貫く。
「うぐぐ、調子に、のらないで――――な、そんなっ」
 由の火炎弾を食らいつつ反撃しようとした敵の表情が凍り付いた。
 反撃のユーベルコードが出ないからだ。
 先手を打ったモリオンの技が敵の反撃を完全に封じ込めていた。
 永続的な封印ではないだろう。もって数分というところか。だがしかし。
 その数分は、勝負を決めるのに十分すぎる――!
「まさか卑怯とは申しませんわね? 力なき人々を害そうとしたのは明らかな非道。であれば、入念に狩りたてられるのもまた当然と言えましょう。どうかお覚悟を」
 由は攻撃の手を緩めることなく火炎弾を撃ち続ける。
 地獄の炎が敵を焼くのを確認しつつ、もう一つのサブプランを発動させた。
 ユーベルコード・十六夜月。
 村の近くにある森に潜ませていた歴戦の狼の群れが姿を表すと、狼達は音もなく走り村人達へと駆け寄った。
 基本的にダークセイヴァーの狼は人間に対して敵意を向けるものだ。
 しかし由の呼び出した狼達にそれはなく、むしろ人を守ろうとするような意志さえ感じられた。
 言葉にできない感情を得た村人達は最初こそ驚いたものの恐れることなく狼達を受け入れていた。
 狼は村人を背に乗せ慎重に敵から離れていく。
 上空では陽動役の由が火炎弾にて敵の頭を叩いており、村人の避難は気づかれていないだろう。
 狼による村人の避難はゆっくりと歩くような速さで完了した。
 それを見届けた由は火炎弾を撃ち続けながら内心でほっと胸を撫で下ろす。
 目下の重要作戦であった村人の避難は達成できた。
 あとはただ。
「狩るのみ、ですわ」
 由は一回り大きな火炎弾を撃ち出すと爆炎をもって敵を狩場へと追い詰めた。

 爆炎に背を焼かれ、前へと押し出された敵に鋭く踏み込んだセシリア。
「現世に縋る者よ、我が暗黒剣でお前を在るべき場所へと還そう!」
 セシリアは敵が間合いに入った瞬間、後ろに流した暗黒剣ダークスレイヤーを横一文字に振り抜いた。
 暗黒に染まった特大の刃が敵の胴に食い込み、そのまま上下に両断する。
「――ッ!!」
 敵が何かを叫ぼうとした。
 それは憤怒の声か、恨みの怨嗟か、はたまた悲鳴であったのだろうか。
 セシリアは暗黒剣を大上段に振りかぶるとまっすぐに切り下す。
 命中率を重視した暗黒剣技は敵の正中線を一刀両断のもとに切り捨てた。
 わずか一呼吸の間に四分割された敵の残骸が辺りに散らばっていく。
「……仕留めたのでしょうか?」
 油断なく月光槍を構えながらステラが戦果を問う。
 問われたセシリアは確かな手応えを感じつつも首を横に振った。
「否、まだです。殺しきるにはまだ足りない」
「なるほど、存外にしぶとい敵のようだ」
 ステラが見ていた残骸のうちのいくつかが、暗黒のような闇となって霧散した。
 セシリアが見ていた残骸から暗黒があふれ出ると、再び暗黒騎士が出現する。
「……が、抜けない。……針が、抜けない。毒が、針が、毒が、針が、毒が、針が」
 絶叫。
 敵は血走った眼をセシリアに向けると、衝動のままに切りかかっていく。
 速い。
 刹那の判断で防御を選択したセシリアの暗黒剣と敵の剣が噛み合った。
「ぐっ、重い……ッ!」
 まるで激流の中で剣を振るかの如き圧力にセシリアが奥歯を噛み締める。
 敵の猛攻。知性も技量もない剣による叩きつけだ。
 暗黒騎士を冠する者にあるまじき稚拙な剣技である。
 だがその一撃一撃が人外の怪力によるものであるなら話は別だろう。
「――ッ! ――ッ!!」
 一撃でも食らえば危険な猛攻を、しかしセシリアは研ぎ澄まされた暗黒剣技で凌いでいた。
 暗黒騎士同士、どちらが勝るのか。雌雄を決する時は今なのだ。
 セシリアは湧き上がる戦いへの喜びに笑みを作りながら剣を振るう。
「セシリア殿、援護します!」
 猛攻を凌ぎながら徐々に体力を削られていくセシリアを見たステラが月光槍を両手で構えた。
 祈るかのようにして槍を持ったステラが紡ぐは月への祈り。
「夜の闇を照らし導く満月よ。どうか手を貸してくれ」
 ステラの祈りが天に届くと、両手に握りしめた月光の槍の穂先より聖なる月の光が放たれた。
 ユーベルコード・天満月。
 聖なる月光がセシリアを照らし、その体力を急速に回復していく。
「援護、ありがとうございます!」
 回復を受けたセシリアは漲る活力を爆発させ敵の猛攻を弾き返した。
 その雄姿を支えるステラは他者回復の代償として自らの体力を消耗していく。
 わずかに霞む目にはセシリアが敵の首を切り落とす光景が映った。
 いかにしぶとい敵であろうとも倒し続ければ必ず滅ぼすことができるだろう。
 ステラはぐっと槍を持ち直すと背筋を正し、騎士然とした佇まいを固持した。
 凛とした目つきを取り戻したステラは邪悪なる敵を目で射貫く。
「正義を志す騎士として、貴様のような騎士の思惑通りにさせるわけにはいかないからな」
 ステラの掲げる聖なる月光のもと、幾度目かの決定打が敵に打ち込まれていた。

●追撃戦
 どれほどの間そうしていただろうか。
 反撃を封じられた敵は幾度となく粉砕されていた。
 この世に真なる不死は存在しない。
 猟兵は語るだろう。
 殺し続ければいつか殺せる、と。
 事実、不可思議な再生を繰り返していた敵の再生ペースが落ちている。
 敵から感じる魔力もだいぶ弱まっており、今となってはもう見る影もないほどだ。
 恐らくはあと数回殺せば完全に消滅させることができる。
 そう予測できてしまったのが、あるいはまずかったのかもしれない。
 猟兵達が一息ついた瞬間、肉体の再生もそこそこに敵が背中を見せて逃げ出したのだ。
「敵前逃亡とは、貴様それでも騎士か!」
「逃がすものか……!」
 即座に反応したものが追撃にかかる。その時だった。

 ――銃声が鳴る。
「あ、がっ!!」
 膝を撃ち抜かれた敵が崩れ落ちた。
 そのまま這ってでも逃げようとする敵に向け、後方より放たれた弾丸の雨が降り注ぐ。
「いぎっ、やめ、やめて――たすけっ」
 懇願の表情を浮かべて振り向いた敵の顔面、その半分が砕け散る。
 まるでカボチャが銃で撃たれて砕けるように、オブリビオンの頭部が破壊された。
 その着弾を遠距離から確認したのは地面に置かれたひとつの段ボール箱。
 イサナは段ボールをかぶったままスナイパーライフルを操作し次弾を装填する。
「……ほら、レイゲン。ああいう女の人とか好みなんじゃないの?」
「……アレは嫌だね。鼻っ柱へし折ってやるのは楽しそうだけどよ、あれ絶対重たい系のオンナだよ。めっちゃ根に持つ系だよきっと」
「ふーん……よくわかんないや」
 イサナは自分の体に間借りしているレイゲンと話しながら愛用の銃を操作する。
 その手つきは目視が困難になるほど高速で熟達していた。
 引き金が引かれ銃声が鳴る。わずか一秒の間に放たれた弾丸の数は四十発と少し。
 あり得ぬ数だ。イサナが手にしているのはマシンガンではなくスナイパーライフルである。
 本来の用途である狙撃には連射などという言葉はないのだ。
 だが現実として、イサナは高精度の狙撃を連射してみせた。
 不可能であるはずの高速連射狙撃を可能としたのはイサナの銃技。
 ――さあ、撃たせろ。
 極限まで高められたイサナの狙撃術が敵を肉片へと変えるのにそう時間はかからなかった。

 敵の敗因は何だったのか? 考えられる要素は多々あれど狙撃手に背中を見せたのは確実な悪手だろう。
 そして何よりも、騎兵が潜んでいたことが致命的だ。
「ひゃっはー、猟兵のお出ましだー!」
 村の近辺にて突入タイミングを窺っていた焔が愛機をフルスロットルで駆りながら爆走する。
 焔がまっすぐに目指すのは敵の位置。
 村人の避難がまだであれば彼らを逃がすつもりだった。
 その必要がなくなったのであれば、もう何の遠慮もなく敵を追撃してやればいい。
 追撃こそ騎兵の華。焔は暖めていたエンジンを思う存分吹かしながら戦場の風となった。
 あっという間に倒れた敵に追いついた焔は大きく前輪を浮かすと急停止をかける。
 高速で振り下ろされた前輪が鉄槌となりて敵を踏み潰した。
「おご、うげ……」
 車輪の下敷きとなった敵が潰れたカエルのような声を上げる。
「さっきから見てたぜ。けっこーしぶといのな。んじゃあ、こういうのはどうだ?」
 焔はにやりと笑い、後輪を止めたまま前輪だけを駆動する。
「ぎゃあああ!!」
 ぎゅりぎゅりと耳障りな音を立て車輪の回転が敵の体を削っていく。
 血の代わりに暗黒の闇を散らしながら敵の体積がぐんぐんと減っていく。
「あんた拷問が好きらしいね。たっぷりと味わっておくれよ、あんたが好きな拷問だよ」
 前輪の回転で敵を削りながら焔は愛機に立ち乗りする。
 よっと気合を入れた焔の両手に光の刃が出現した。
「――ッ、――ッ」
 下敷きにされた敵が必死の形相で最後の抵抗を試みる。
 しかし体を押し潰されたままでは満足に剣を振ることも許されない。
「……フフーフ、そんなんじゃ私“達”には勝てないよ~」
 心のどこかで敵の抵抗を期待していたのかもしれない。
 焔は光の刃で敵の剣を弾き、ざくざくと無造作に切りつけた。
 愛機による重量攻撃と車輪での削り取り、光の刃の滅多切り。
 苛烈な攻撃を受け続けた敵はほどなくして完全に消滅する。
 焔の愛機の前輪が地に着き、敵オブリビオン・暗黒騎士ヴィスダとの戦いがここに終了した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『朱殷の隷属戦士』

POW   :    慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

 村を脅かしていたオブリビオンを撃破した猟兵達。
 思いのほか時間がかかり、辺りはすでに暗くなっていた。
 闇と霧に覆われた世界であるダークセイヴァーの夜はとても暗い。
 手持ちの光源ではかろうじて近くが見えるくらいで、村の外まで見るのは難しいだろう。
 ひとまずの脅威が去ったと判断し村人達を呼び戻す。
 彼らの表情は不安の色が残っているものの、危機が去ったという安心感が勝っているようだ。
 これで事件は解決したのだろうか。そう思った時。
 ――ガン、ガン、ガンと。鉄板を打ち鳴らすような音が生まれた。
 それは瞬く間に膨れ上がり、村を取り囲む四方八方から聞こえてくるようになった。
 続いて起きたのは耳を覆いたくなるような怒号の嵐。
 まるで天地を揺るがすような怒りの声が世界に満ちる。
「――! ――!?」
「――っ!! ――!!!」
 突然の異常事態に誰もが声を上げた。
 しかしお互いの声は怒号の波に飲み込まれてしまい届かない。
 ならばと思った誰かが距離を狭め、耳打ちするようにして会話を試みるとそれは届いた。
 困惑する村人、事態を把握しようとする猟兵。
 その場の誰もが右往左往し始めようした矢先にその声が響いた。

「ごきげんよう、勇気ある諸君。あなた達の戦いぶりは見せてもらいました」
 物静かで品格というものを感じさせる女の声だ。
 上流階級の、あるいは貴族らしい声というものがあるとすれば、こういうものを指すのだろう。
 そんな印象を与える声が怒号渦巻く闇の中、はっきりと耳に届いていた。
 猟兵は互いに顔を見合わせ、この声が聞こえていることを確認し合う。
「勇気とは素晴らしいものですね。ここにいる彼らもそうでした。きっと、あなた達もそうなのでしょう」
 であるのなら、この声の主はまっとうな存在ではない。
 オブリビオン。それも何らかの魔術を操る類の強敵だ。
 猟兵達が周囲を警戒していると、村の向こうにある闇の奥から続々と敵兵が現れた。
 その数は多く、膨大だ。
 鎧を着込み盾を持ち、完全に武装したオブリビオンの戦士が村を包囲していた。
 敵兵の規模は大隊と呼んでも遜色ないだろう。
 村を狙った侵攻だとするならばあまりに過剰。
 こんな規模の兵力を動かせる存在がいるとすれば、それは領主くらいだろう。
「これより適格者の最終選別を行います。無益に死ぬならばそれも良し。けれどもし、生き延びることが出来たなら……ええ、その時は。命ごと召し上げ圧縮し、賢者の石と成れる器かどうかを試してあげましょう」
 期待しているわよ? と。声の主はくすくすと笑いながら会話を終えた。
 一方的な宣戦布告。
 村を取り囲んだ敵兵の大隊が動き出し、一つの村を蹂躙すべく侵攻を開始した。

 =========================
 以下、戦闘についての補足などです。参考までにどうぞ。

 戦場:農村およびその周辺地域。
 視界:夜のため不良。
 状況:東西南北にオブリビオンの戦士部隊が展開中。
 部隊:それぞれ数十から数百ほどで編成されている。
 個体:魔術により量産されているため、通常よりは弱体化している。

 猟兵サイドの特殊条件として連携して戦うことが出来ないものとします。
 村人は特に指示がない場合、自発的に家屋に逃げ込みます。
 村に敵兵を入れないよう、あえて敵陣深くに突撃するなどの作戦も有効でしょう。
 家屋の破壊や村人の生死は成功条件に含まれません。
 敵兵をすべて倒すとクリアとなり、領主との最終戦闘へと移行します。

 =========================
宇冠・由
(闇夜なのは向こうも同条件……と思いたいですが、ダークセイヴァーのオブリビオンなら夜目が利いても不思議ではありませんわ)
多勢に無勢、それはいつものこと。やることは変わりません

専守、とりわけ拠点防衛には心構えがありましてよ
私はすぐさま北側に飛行していき防衛へ移行

相手集団の頭上に到着後、【七草仏ノ座】を発動
義体の隙間から地獄の炎を噴出させ、30Mの燃える大鬼に変化

十階建て相当の小さな太陽が頭上に出現すれば、その存在感は相当なもの
そのまま落下し隷属戦士達を攻撃
村をかばうように周囲をおびき寄せ大立ち回りを行います

フレイルでの攻撃もブレイズキャリバーの能力で炎を修復します



 村ごと人々を破壊せんと押し寄せるオブリビオンの軍勢。
 天地を轟かせるような怒号を上げるそれらを前に、宇冠・由は毅然とした態度を崩さないでいた。
 数的有利は圧倒的に敵が上。数の暴力こそが戦場を支配する唯一にして絶対のルールである。
 ならばそれに抗ってみせましょうと、由は村の北側へと飛行するなり戦闘態勢に入った。
(闇夜なのは向こうも同条件……と思いたいですが、ダークセイヴァーのオブリビオンなら夜目が利いても不思議ではありませんわ)
 およそあらゆる存在は生まれ育った住環境に適応することができる。
 それはオブリビオンにも適応されると思われ、事実オブリビオンの軍勢は夜の闇などお構いなしに行軍していた。
 一糸乱れぬとまではいかないが、非常に統制された軍隊行動である。
 決して侮っていいような相手ではない。由は冷静かつ的確に自分の置かれた状況を受け入れた。
「多勢に無勢、それはいつものこと。やることは変わりません」
 専守防衛は己の本分。そう自負する由にはとりわけ拠点防衛の心構えがあった。
 このような理不尽の波に押し流されようとしている人々の手を取ってこそのヒーローである。
 かつて守れなかった大事な人達のことを思う由の胸に闘志の火が点いた。
「手加減は致しませんよ!」
 敵集団の頭上に陣取った由がユーベルコード・七草仏ノ座を発動する。
 ヒーローマスクの由から生み出された炎が機械義体へと注がれ一匹の巨大な炎鬼と化した。
 大きさにして十階建てに相当する極小の太陽とも呼べる炎鬼の出現に、敵の軍勢は進軍を忘れて立ち止まる。
 このダークセイヴァー世界より太陽の輝きが失われてどれほどの時が経つのだろうか。
 もはや誰もが忘れてしまった大いなる火、その化身が如き大炎鬼が敵集団へと向けて飛び降りた。
 大地を焦がす大火がまき散らされる。否、由の炎は敵の集団のみを撫でるようにして焼き払っていた。
 突如として大地に降り立った炎の大鬼に対してどんな攻撃が有効だろうか?
 近接武器のフレイルか。棘の付いた大盾か。それとも銀の弾丸を打ち込めばいいのか。
 オブリビオンの隷属戦士には適切な攻撃を選ぶことができなかった。
 敵が何かをするより早く、大きく振られた由の腕が多数の敵を薙ぎ払ったからだ。
 ゾウがアリを潰すのに複雑な動作は必要ない。ただ一歩足を踏み出せば終わるのだ。
 緩慢とも呼べる遅さで、しかし由は巨体を大きく動かしながら次々と敵を焼き滅ぼしていく。
 散発的に開始された敵の反撃が由の本体に傷を付けることはなかった。
 被弾し剥がされた炎の体は、ブレイズキャリバーたる由の炎によって修復されるのだ。
 こうなってしまえばもう勝ち目はない。
「火加減はどうでしょうか。せめて、苦しみませんように――」
 村をかばうように大立ち回りを演じながら、由は炎の腕で隷属戦士の群れを焼き尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「この軍勢が俺達の力の評価という事か。
…舐められたもだね。
その見積もりの甘さ、早々に分らせてやるとするか。」

周囲の状況を確認しつつ
真羅天掌を発動し、光属性の霧を発生させて
視界を確保して敵の勢いが強い方向を見極めて
其方へ【ダッシュ】しつつ向かう。
敵に近づいたら冥空へと至る影を使用。
敵の配置や銃口を良く確認して
【見切り】【残像】を使用。攻撃を回避すると共に
月光のローブや深炎護領布、【オーラ防御】で防御。
基本的に敵とは距離を取り、孤立している敵や
村に向おうとする敵を中心に
嵐撃縋咬鞭に【破魔】の力を付与した
【マヒ攻撃】で敵を打つ。
「村も人も。踏み荒らさせる訳には行かないのでね。
此処で止まって貰うよ。」



 押し寄せるオブリビオンの軍勢に臨んだフォルク・リアは敵の戦力を計算して鼻で笑った。
「この軍勢が俺達の力の評価という事か……舐められたものだね」
 あのいけ好かない声の主は何と言ったか。
 そう、見ていた、だ。
 フォルクを含めた猟兵が暗黒騎士のオブリビオンと戦うのを見て、その実力を見積もった。
 あの女は猟兵を釣るエサであり力量を試す試金石でもあったということか。
 それ自体はどうでもいい。合理的だなと思う程度のことだ。
 問題となるのはその見る目の無さであり蒙昧な思考回路である。
「その見積もりの甘さ、早々に分らせてやるとするか」
 敵軍と自分、彼我の距離や周辺の状況を読むフォルク。
 視界は良くないものの動きやすい土地であることは確認済だ。
 フォルクはユーベルコード・真羅天掌を発動する。
 詠唱を越えて編み出されたものは眩い光を放つ黄金の霧だった。
 光属性の霧によって敵の戦列が照らされると、その動向が手に取るように分かる。
 フォルクが立ち会った敵の部隊は方円のような陣形を組んで進んでいたようだ。
 夜の闇と溶け込むようにして進むと、なるほど実際の頭数以上に見せかけることも可能だろう。
 オブリビオンにしてはまともな戦術である。
 まともすぎて拍子抜けするとまではいかないが、ずいぶんと丁寧な作戦をするのだなという感想を得た。
 指揮者の性格が表れているのかもしれない。
 敵の並び方から多くの情報を読み取ったフォルクは最も敵の勢いが強い方向へと駆け出した。
 攻撃圏内に入るや否や冥空へと至る影を発動。
 戦闘力のない冥界へと繋がるもう一つの自分の影を召喚しながら敵の前へと躍り出る。
 そこでようやく敵の集団がフォルクを見つけ、やや遅れてマスケット銃の銃口が向けられた。
 唸りを上げる銃砲。
 単発式のマスケット銃から魔を封じる裏切りの弾丸が放たれる。
 だがそれらの弾丸がフォルクを捉えることはない。
 光属性の霧は敵の集団に対して逆光となり、フォルクの姿を隠すように作用していた。
 さらにフォルクは巧みな体裁きで残像を生み出しながら敵をかく乱。
 己に向けられる銃の死線をたやすく見切るとそれを潜り抜けながら接近した。
 フォルクの体が翻る。
 放たれた回し蹴りが敵に命中すると、後に続くように深炎護領布から生じた黒炎が敵を包み込んだ。
 敵を蹴破ったフォルクが一瞬の硬直を見せたところへ裏切りの弾丸が叩き込まれる。
 フォルクは月光のローブを翻し、流し込んだオーラで弾丸を弾き返した。
 返す刀でフォルクが放った嵐撃縋咬鞭の鞭が敵を打つ。
 打たれた敵はまるで雷にでも打たれたかのように痙攣すると地に突っ伏した。
 破魔の力とマヒ攻撃が有効とみたフォルクは次々と敵の集団を鞭で打つ。
 敵を打てば打つほど影を通して冥界より魔力が送られ、その魔力でもって己を武具を強化するフォルク。
「村も人も。踏み荒らさせる訳には行かないのでね。此処で止まって貰うよ」
 敵との駆け引きを制しながら、フォルクは村へと進もうとする敵の集団を制圧し続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
適格者……賢者の石? そんなものを作ってどうするというんだ?
まぁいい。今はこの村を守ることが最優先
敵の考えは後回しだ

周囲は闇に包まれて見えづらいというなら、明かりを灯そう
【流星剣】を片手に【赤星の剣】を発動させ【全力魔法】【高速詠唱】にて【オーラ防御】の波に乗せ、炎【属性攻撃】による炎の壁を作り出す
この炎の壁にて村への敵の侵入を防ぐと共に村人を守りつつ、炎にて攻撃もしよう

そしてこの炎を操る私は暗闇の中でも目立つ【存在感】がある
私目掛けてフレイルが飛んでくるだろうが、炎の影を囮に【ダッシュ】で避けようか
それでも無理なら【激痛耐性】と【呪詛耐性】で耐える
近づく敵は【月光槍】と共に斬り払おうとしよう



 迫りくるオブリビオンの軍勢をよそにステラ・アルゲンは先ほどの声の主の言葉を反芻する。
(適格者……賢者の石? そんなものを作ってどうするというんだ?)
 ステラは口元に指を寄せて刹那の思考を巡らせた。
 適格者という言葉には情報が足りない。だが賢者の石とは、かの有名なあれだろうか。
 いわく、錬金術の秘奥にして万能を宿した奇跡の石。
 その存在すら危うい、伝説として語られる夢物語。
 そう思っているだけで実はどこかの世界では実在しているのかもしれないが、真相は闇の中である。
 ステラは思考を中断して意識を切り替えた。
(まぁいい。今はこの村を守ることが最優先。敵の考えは後回しだ)
 すでにここは戦場と化した。
 であれば、騎士たるステラの成すべきことはただ一つ。
 ステラは己が本体である流星剣を高らかにかざした。
「赤く燃えろ、我が星よ!」
 発動したユーベルコード・赤星の剣が闇を跳ね返す炎を生み出した。
 剣身に宿る炎を掲げたステラが全身全霊の術式と共に剣を振り下ろすと、背後に巨大な炎の壁が現れる。
 村へと侵入しようとする邪悪なる敵を阻む炎の壁の前でステラは剣を構え直した。
 その姿は何者にも侵されぬ聖なる剣のようだ。
 必然、居合わせた全ての敵の目がステラへと向けられる。
 ステラはあふれ出す存在感を隠そうともしない。
 真っ向から敵の狙いを引き付け、悉くそれらを凌駕するつもりでいた。
「かかって来るがいい。我が流星剣にて貴様らを葬り去ってやろう」
 堰を切ったように敵の集団がステラ目掛けて襲い掛かる。
 一定距離まで近づいた敵に反応した炎の壁から自動的に炎属性の攻撃が放たれた。
 多くの敵が焼き払われ、突破してくる敵は片手で数えられるていどのものだ。
 振り回されたフレイルの嵐をステラは舞うようにして避けていく。
 ステラは炎の壁から延びる炎の影を巧みに利用しながら敵の攻撃を回避していた。
 すれ違いざまに一閃された敵の体が紅蓮の炎に包まれ消滅する。
 そこへと振るわれたフレイルの棘の先がステラに掠った。
 微量な呪いが注ぎ込まれようとしたが、ステラは呪詛耐性を使いそれに耐える。
 心に響いたのは哀れなる犠牲者の慟哭。
 ここではないどこかで虐殺された誰かの声にステラは歯を食いしばった。
 痛むのはこの身体ではない。
 名も知らぬ誰かの命が無残にも散らされた、その悲劇こそが痛ましかった。
 ステラは片手に持った月光槍で敵を斬り払う。
 人々の命を守るべく、炎の壁を背負ったステラは流星の剣と月光の槍にて敵の軍勢を打ち破っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イサナ・ノーマンズランド
「……家の中にひなんしててね。悪いやつ、近づけさせないから」
「でもすごい音とかするから、気をつけて」

「さあ、いくよレイゲン……!」
「まわりがみんな敵なら、誤射する心配もないんだ!」


SPD
【目立たない】ように高所に陣取り、機を伺って適度に牽制、【時間稼ぎ】する。
ここぞという場面でUC:非致死性兵器を敵のど真ん中に投げ込み、炸裂させる【破壊工作】。
閃光と轟音で敵を萎縮させたタイミングに2発目のUC:爆導索を発動し、敵兵を纏めて一挙に爆破。撃ち漏らしや生き残りを狙って【スナイパー】らしく狙撃銃のヘッドショットで【暗殺】し、近づく者はサブマシンガンの掃射による【範囲攻撃】で薙ぎ払う。



 夜の闇からオブリビオンの大軍が押し寄せる。
 打ち鳴らされる盾の音と怒号が収まる気配はない。
 このままでは、ちっぽけな農村など一晩と持たず灰燼に帰するだろう。
 現実を痛いほど知っているダークセイヴァーの村人は絶望の淵にいた。
 膝を折り地に屈したままの村人にとことこと近寄ったのはイサナ・ノーマンズランドだ。
 イサナは村人の肩をとんとんと叩いてから耳打ちするように顔を寄せた。
「……家の中にひなんしててね。悪いやつ、近づけさせないから。でもすごい音とかするから、気をつけて」
 村人の反応はひどく弱々しいものだった。
 絶望に打ちのめされた典型的な人間だな、とイサナの中に間借りしているレイゲンは思う。
 こんな時はこうだ、とレイゲンはイサナの身体を動かし村人の首根っこを掴んでは無理やり立たせた。
「家にいろ。んで、外に出るな。死にたくなけりゃな」
 要点だけを短く伝え、レイゲンは村人の尻を力強く押し出した。
 村人はよろよろと力なく、しかし言われたとおりに家に向かって歩き出す。
 その後姿を見送り、イサナはよしと気合を入れてフードを被り直した。
「さあ、いくよレイゲン……!」
「ああ、いけよイサナ! ディナーの時間だぜェ!」
「まわりがみんな敵なら、誤射する心配もないんだ!」
「撃って撃って撃ちまくれ! 奴らを血の海に還してやろうぜ!」
 戦いへと赴く己を鼓舞するイサナに相槌を打つレイゲン。
 敵の数は非常に多い。それは非常に危険であると同時に、非常な好機でもあるのだ。
 何せ銃口を向けて引き金を引けば敵に当たるような状況だ。
 物事は常にポジティブに考えるのが生き残るための秘訣だろう。
 イサナとレイゲンは目立たぬように村を発ち、迎撃に適した高所にて敵の軍勢を迎え撃った。


 一発目を撃ってからどれくらいの時間が経っただろうか。
 まだほんの数分のようにも、一時間ほど経ったようにも思える。
 周囲どころかこの世界の全てが叫んでいるような怒号の中、イサナは引き金を引いた。
 周りがうるさいというのは何とも厄介なものだ。
 放たれた銃弾が敵の頭を打ちぬいたのに実感がまるでない。
 弾道や弾速もスローに思え、どこか熱にうなされているような錯覚すら覚える。
 ガンナーズハイとでもいった銃撃戦における極度の集中が、時間の感覚を加速しているのだろうか。
 何にせよこうして敵軍の足を止め、侵攻までに時間を稼げているなら重畳だ。
 イサナは牽制射撃によって足を止めた敵の戦列の奥深くへと向けて非致死性兵器を投げ込んだ。
 闇夜に紛れて放物線を描いたスタングレネードが着弾し、炸裂する強烈な爆音と閃光によって辺り一面を包み込む。
「ナイスグレネード! 一網打尽だぜハッハー!」
「つぎは、これ……!」
 無防備となった敵軍に追い打ちをかけるべく、イサナはユーベルコード・爆導索を発動した。
 虚空より召喚される棺桶型の再殺兵装カズィクル・ベイ。
 イサナは兵装を腰だめに構えると機構を操り特殊なワイヤーを射出した。
 高速かつ長大に伸びたワイヤーはまるで意思を持つ蛇のように敵兵たちを次々と絡め取っていく。
 それで終わりではない。イサナは一定のグループを拘束したと見るやワイヤーを点火させた。
 爆炎が夜を焼く。
 ワイヤーに内蔵された爆薬が点火され、拘束した敵を丸ごと爆殺したのだ。
 爆導索は爆炎の尾を引きながら次なる獲物へと襲い掛かった。
 敵を拘束しては爆破し、拘束しては爆破する。
 その光景は炎の大蛇がのたうち回るような地獄絵図。
 地獄と化した戦場をさらに地獄へと変えていくのは適時投入される追加のスタングレネードだ。
 敵兵は閃光と爆音に動きを封じられ、爆導索に絡め捕られて爆殺されるのみ。
 その地獄が繰り返される中、幸運にも難を逃れた敵兵が盾以外の装備を投げ捨て走ってくる。
「お、ツイてる奴もいたか。しかし運の悪いこった」
 レイゲンが兵装を受け持ちながら、イサナは片手でサブマシンガンを構えた。
「よろいを捨てちゃダメだよね。ぼろきれみたいになっちゃうよ」
 イサナのマシンガンが火を噴いた。
 掃射をもろに浴びた敵兵がばたばたと薙ぎ倒される。
 当然だろう。銃弾を食らえば人も獣も皆死ぬのだ。オブリビオンとて例外ではない。
 イサナとレイゲンは互いに連携しあい、敵兵を血の海へと還し続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
住民の皆さんが家屋に逃げ込んでくださったのは幸いです。なぜなら、これから行われる殺戮を見ずに済むのですから……。

敵陣に飛び込んで敵を【なぎ払い】、UC【血に狂う魔剣】を発動します。敵陣のど真ん中で暴れて【存在感】を発揮すれば少なくとも住民に目を向ける余裕はないはずです。何せ、住民を襲おうために家屋に向かおうと私に背を向ければ一刀両断の運命ですから。闇に生きる暗黒騎士は【暗視】も備えています。見逃しはしません。

今の私は暗黒騎士ヴィスダと大差ないのかもしれません。刃を向ける相手が違うだけで、暗黒に精神を侵され虐殺を行うのですから……。私も死後は彼女のような存在になってしまうのでしょうか。



 ――実のところ。セシリア・サヴェージは村の住民たちが家屋に逃げ込んでくれたことに安堵していた。
 守る手間が省けたから? 間違ってはいないが正しくはない。
 弱き人々を危険より遠ざけることができたから? それもあるだろう。しかしそれが全てではない。
 では何故か?
 答えはセシリアの黒き鎧に宿る暗黒の力に起因する。
(これは幸いです。なぜなら彼らは、これから行われる殺戮を見ずに済むのですから……)
 セシリアはゆっくりと呼吸を繰り返しながら、思考回路を研ぎ澄ましていく。
 幾度目かの呼気に交じり、黒い霧のような何かが吐き出された。
 セシリアは細く長く暗黒の吐息を吐き出すと長大な暗黒剣ダークスレイヤーを握りしめる。
 全身に力が漲るようだ。鉄の塊のような剣の重さも心地よい。これを振るのはとても愉しそう。
 無尽蔵に湧き上がる破壊への渇望がセシリアの意思を暗黒に染め上げた。
「……ふぅ。いけませんね。戦場の風は、馴染みすぎる」
 ふっとセシリアは短く息を切り、破壊と殺戮を望む暗黒の意思を抑え込んだ。
 身体に残されたのは圧倒的な破壊を可能とする暗黒の力のみ。
 闘争心を刺激されてはいるものの、それはこれからの過酷な戦いを思えば好都合だろう。
 戦場に吹く風が銀の髪を一撫でした。
 セシリアは浅く目を伏せ、剣に誓う。
 ――無辜の民を邪悪より守る。そのために私は剣を執ったのだから。
 開かれた銀の瞳に映るは戦列をなして迫りくるオブリビオンの大軍団。
 狂飆の暗黒騎士セシリア・サヴェージが突撃する。

●暴風
 第一列目。
 真正面から飛び込んだセシリアが両手剣を振るう。
 暴風の如き唸りを上げた剣が戦列を組んでいた敵をまとめて薙ぎ払った。
 セシリアの圧倒的な剣圧を前に、敵の盾や鎧はまるで意味をなしていないようだ。
「ハアァッ!」
 振り下ろされたセシリアの剣が転倒した敵を完全に破壊した。
 飛び散った敵の血肉がセシリアの剣に鎧にこびり付く。
「――さあ、喰らい尽くしてやるぞ。私を止めてみろォ!」
 ユーベルコード・血に狂う魔剣。
 セシリアは己が武具に付着した血液を代償にして封印を解いた。
 それは忌まわしくも強大な暗黒の力。戦闘能力と狂暴性を増大させる技だ。
 咆哮。
 辺り一面に轟く敵の怒号すら喰らわんばかりの叫びが生まれた。
 その狂暴さは絶対的な存在感となって敵の目を縛り付ける。
 セシリアに向けられる無数の銃口。裏切りの弾丸を放つマスケット銃だ。
 その引き金が引かれるより速く、セシリアは剣を水平に構えながら回転斬りを放った。
 敵の手が腕が頭が次々と切断されていく。
 血に狂う魔剣によって強化されたセシリアの攻撃は苛烈を極めた。
 さらに恐ろしいことは、飛び交う血の雨を浴びたセシリアが加速度的に強く狂暴になることだ。
「オオオオオッ!!!」
 返り血に塗れた全身から暗黒を噴き上げ、狂戦士が戦列を蹂躙していく。
 第二列目、第三列目。
 この状況を見るものが居ればこう思わずにはいられないだろう。
 ――巨大な竜巻を前に列を組んでどうしろというのだ?
 最後列まで食い破ったセシリアは、もう前に誰もいないと見るや否や踵を返して軌道を変える。
 闇に生きる暗黒騎士は闇の中でも視力を失わず、敵がどこに残っているか見逃さない。
 手近にいた敵の胴を剣で貫き、そのまま別の敵ごとぶった切る。
 無造作に剣を振った時にはもう敵の死体は消滅していた。
 まさに死屍累々の地獄絵図である。
 その地獄を作り出した張本人であるセシリアは心の中で己の所業を顧みた。
(今の私は暗黒騎士ヴィスダと大差ないのかもしれません。刃を向ける相手が違うだけで、暗黒に精神を侵され虐殺を行うのですから……)
 剣を敵に向ける。剣を人に向ける。そこに何の違いがあるのだろうか。
 あの暗黒騎士は愉しんで人を殺そうとした。では今の自分はどうだ?
 セシリアは暗黒によって侵された精神のまま敵を虐殺する。
 今の自分がどんなカオをしているか、知りたいとは思わなかった。
(……私も死後は、彼女のような存在になってしまうのでしょうか)
 捨てられた過去の行き着く先、骸の海から蘇るオブリビオンという世界の敵。
 未だ謎の多いそれに、死した猟兵がならないという保障はどこにもない。
 精神を蝕もうとする暗黒から力を引き出しながら、セシリアは戦場を蹂躙する暴風となった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

モリオン・ヴァレー
これはまた大人数で押し寄せて来たわね

皆は安全な家の中へ
あたしは流れ弾がいかない村の外れで戦うわ

<暗視><情報収集>右義眼の情報収集は継続

左手で腰から取り出す片手銃へ霊力を集中させ
【フレア・クライシス】発動
<属性攻撃><部位破壊><早業>
荒れ狂う炎の弾幕で盾ごと本体を焼切るわ

くっ……霊力消費がやっぱり激しいわね

<医術>目立つ場所であえて攻撃中断
レスキュー・マナで大量に失った霊力を補充
<だまし討ち>弾切れと思わせ引き付け
<クイックドロウ><2回攻撃>右手で引き抜くはマスケット銃

【ニュートラライズ・バレット】発動
<破魔><鎧砕き><スナイパー>
こっちは一撃が重い分弾が有限だから正確に頭を狙っていくわ



「これはまた大人数で押し寄せて来たわね」
 天地を割らんばかりに鳴り響く怒号の嵐の中、モリオン・ヴァレーが呟いた。
 気の弱い者なら卒倒してもおかしくない状況だがモリオンの様子は涼しげだ。
 モリオンは冷静さを保ったまま、足を止めてしまった村人たちに避難を促す。
「さあ、皆は安全な家の中へ。あたしは流れ弾がいかない村の外れで戦うわ」
 落ち着いた声で語りかけられた村人たちはなけなしの勇気を振り絞って家へと急いだ。
 彼らの後姿を少しだけ見送りモリオンは村の外れへと駆け出した。

 モリオンの右目にある義眼マナ・オニキスが戦場に満ちる霊力の流れを視覚的に感知する。
 義眼によって収集される情報をもとに、モリオンは戦場での立ち回りを考えていた。
 暗視をも可能とするモリオンにとって戦場の暗さは障害ではない。
 昼間のようにとはいかないまでも、闇夜にまぎれた敵の動きを正確に見抜いてみせよう。
 モリオンは敵の軍勢と対峙し、左手で抜いた片手銃へと霊力を集中させた。
「パイロ・バスター……その内に秘めたる狂気よ、目覚めなさい」
 その銘を呼ばれたマシンピストルの銃口が眩い光を放って輝きだす。
 ユーベルコード・フレア・クライシス発動。
 莫大な霊力が銃に注がれ、闇を穿つ火炎の銃弾が生成された。
「これぞ荒れ狂う炎の弾幕。盾で防げるものなら防いでみなさい!」
 モリオンの超人的な銃技が閃く。
 わずか一息の間に九度もの銃撃が行われ、撃ち出された火炎弾の数は数百発を超えている。
 まるで爆発が起きたかのような赤い光が夜を焼いた。
 モリオンの火炎弾は瞬く間に敵の軍勢を火の海へと沈める結果となった。
 しかしその代償は大きい。
「くっ……霊力消費がやっぱり激しいわね」
 一瞬のうちに莫大な霊力を消費して無数の火炎弾を放つという絶技であるがゆえに、その反動もまた絶大なのだ。
 霊力の絶対量が大きなクリスタリアンとて、許容量を超えた霊力の行使は危険に過ぎる。
 安易な連発は死を招きかねないが、それに見合うだけの威力はあった。
 モリオンは呼吸を整えながら焼け野原となった敵陣を睥睨する。
 敵の戦列の中央をまるまる焼き尽くし、残るは左右の隊列のみだ。
 そこでモリオンは一計を案じ、あえて目立つようにレスキュー・マナを取り出した。
 豊富に蓄えられたマナを補給することで霊力回復の助けとする。
 それが意味することは何か?
 ――もう一度あれが来る。
 本能的にモリオンの狙いを感じ取った敵兵が、それを阻止すべく殺到する。
 弾切れの今しかチャンスはない。そう思わせることこそがモリオンの狙いだった。
「やれやれ。だまし討ちみたいで気が引けるけど、これがだまし討ちなのよね」
 悪く思わないでね、と締めくくったモリオンは右手でマスケット銃を抜いた。
 その銘は朱殷の銃。悔恨や血を受け継いだ小型銃だ。
 モリオンは正確に銃口を敵の頭に合わせてトリガーを引く。
 あらゆる抵抗を否定し闇を切り裂く銀の弾丸が敵の頭を撃ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『朱殷の魔術師』

POW   :    その技、興味深いわ
対象のユーベルコードを防御すると、それを【鮮血の石が煌く杖に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    美しく踊って頂戴?
自身が装備する【硝子瓶から追尾能力を持つ鮮血の刃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    朱く赤く紅く咲きましょう
全身を【薔薇が香る瘴気】で覆い、自身が敵から受けた【喜怒哀楽の感情の強さ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●黎明の刻
 一大軍団と呼んでも過言ではないオブリビオンの軍勢を文字通り全滅させた猟兵たち。
 あるものは肩で息をし、またあるものは昂ぶりを鎮めるべく瞑想し、それぞれのやり方で束の間の休息を取っていた。
 激戦に次ぐ激戦を乗り越えはしたが、まだ終わりではない。
 あれほどの大軍勢を率いてきた指揮官。この地を統べる圧政者。
 即ち『領主』が残っている。
 この大敵を打ち倒さぬ限り人々に安らぎは訪れないだろう。
 しかしこう考えることもできる。
 ここで領主を倒してしまえばこの地を解放できるのではないか、と。
 ダークセイヴァーにおけるオブリビオンの支配体制は盤石のものだという。
 なればこそ、ここでの勝利は盤石を崩す一手になりえるだろう。
「――素晴らしいわ。まさか本当に生き残るだなんて。それも村を守りながら」
 しんと静まり返った夜の中、領主の声と控えめな拍手の音が聞こえてきた。
 領主の声は方々で戦った猟兵全員に届いている。
 声の出所を探そうと猟兵が辺りを見回すと、突如として圧倒的な気配を放つエリアが現れた。
 そのエリアは村から離れた場所にあり、さほど時間をかけずに行くことができそうだ。
「村が気になるでしょう? 私としてもその村はもう少し使いたいから、こちらへどうぞ。ああ、でも、やはり怖くなって逃げだしても追いかけはしませんけどね?」
 うふふ、と領主がたおやかに笑う。
 安い挑発だと誰かが舌を打った。こちらが引けない状況だと見越していそうな口振りも気に入らない。
「うふふ、勇敢ね。勇猛ね。素敵だわ。勇気で熱く滾ったその血液は、どれほどの濃度を持っているのかしらね。気になるわ、識りたいわ」
 領主の存在感が一際大きくなった。
 もう待ちきれないと言わんばかりの貪欲さは、まさしく血に飢えた獣の如し。
 夜風に乗ってかすかに漂う薔薇の香りを感じつつ、猟兵たちは領主を狩るべく駆け出した。

 =========================
 以下、戦闘などについての補足です。

 戦場:村から離れた場所にある平地。足元など問題なし。
 視界:敵の気配が強いことと、各自夜目に慣れたということで問題なし。別途対策も可。
 状況:領主が待ち構えているので攻める。奇襲および不意打ち不可。
 領主:飽くなき知識欲から『賢者の石』を作ろうとしている魔術師。(人間を素材に)作って遊ぼう。
 勇気:勇敢な人間の血液には強いエネルギーがありそう。そういう趣味なので勇気ある人が好きらしい。

 領主との会話を試みた場合、上記の情報に沿った感じでやり取りが行われます。
 領主は勇敢なものや喜怒哀楽の感情が強いものを好むため、会話にはノリノリで応じます。
 なお第二章の隷属戦士は、勇敢にも領主に歯向かった生贄たちの成れの果てでした。この村からも勿論。
 会話等によって猟兵が強い感情を抱くと領主にバフがかかる反面、領主は大きな隙を晒すでしょう。

 それでは、勇気あるものたちの命を弄んできた領主との戦いです。
 よろしくお願いします。
=========================
セシリア・サヴェージ
冷静に敵の攻撃方法などを考察した方がよいのは分かっていますが、先の戦いの興奮が醒めておらず、今の私は抑えが効きません。UC【闇の解放】を使い最初から全力でいきます!

【ダッシュ】して敵に飛びかかり【先制攻撃】を仕掛ける。【怪力】を込めた暗黒剣の一撃を受けるがいい!避けられても【2回攻撃】で息つく間は与えん。

……なるほど、お前はユーベルコードの模倣が行えるのだな。だが力を得るためには大きな代償を払う必要がある。お前にその気概があるか?
私は人々を護るためならば躊躇なくこの身を捧げられる。それを【勇気】と呼ぶならば、私の血はお前の言う賢者の石の材料に最適だろう。ただし、暗黒に満たされた黒き血だが。



 圧倒的な存在感を放つ領主が戦場に君臨する。
 先ほどまで相手にしていた隷属戦士や暗黒騎士とは何もかもが違う強敵だ。
 戦いにセオリーがあるとすれば見に徹し、まずは敵の攻撃方法などを分析するべきなのだろう。
 それはきっと正しい。
 冷静に敵の情報を集め、攻め方を考察し、万全を期した上で剣を振るうのが歴戦の騎士というもの。
 だが戦いの興奮が覚めやらぬセシリア・サヴェージにとってそんなことはどうでもよかった。
 暴虐の狂風となりて破壊の限りを尽くした後、メインディッシュがのこのこと姿を現したのだ。
 こんな時に自分を抑えるなど到底無理な話。
「暗黒よ……この命を捧げよう。私に全てを護る力を!」
 セシリアは己が裡よりあふれ出す暗黒の衝動に駆られるがまま疾走した。
 ユーベルコード・闇の解放を発動したセシリアが真なる暗黒の力に覚醒する。
 闇の化身が如き極黒の騎士となったセシリアは風すら超える速さで駆け抜けた。
 その走りは地面を縮めているかのような理不尽な速度である。
 本来あり得ぬはずの速さ。比類なき身体能力。
 セシリアは生命を暗黒に捧げることで戦闘能力を爆発的に増大させていた。
「オオオオッ!」
 騎士咆哮。
 少なからぬ距離を一足飛びに駆け抜けたセシリアが狂暴な雄叫びを上げ領主に切りかかった。
 大上段から振り下ろされる暗黒剣ダークスレイヤー。
 剣撃の軌道を読んだ領主が手にした魔杖で受け止めにかかる。
「あらあら、単騎駆けとは勇ましい騎士様ね。でも残念、そんな大振りな剣では――」
 領主の狙いは敵の攻撃を受け止めること。つまりは敵との接触点を持つことで、敵がいかなる術を用いているか解析するのだ。
 魔術の使い手たる領主にとって、解析した敵の術をそっくりそのままお返しするなど児戯にも等しいことだった。
 目の前の勇ましい女騎士は自分の技をそのまま返されたらどんな顔をするのだろう?
 領主は歯向かってきた勇敢なる者の一撃をあえて受け、同じことをやり返すのが密やかな楽しみであった。
 剣と杖が交差する。
 刹那、領主は薄ら笑いと魔術による解析を行おうとし、その顔が凍り付いた。
 受け止めたはずの剣が止まっていないのだ。
 ぎりぎりと軋みを上げた剣が杖を押しのけ領主の肩に食い込んだ。
「な、なに、この馬鹿げた力はっ……!」
 恐るべき怪力をみせたセシリアの一撃に領主が金切り声を上げる。
 領主は焦る手に力をこめ、必死さを隠すこともなく杖で剣を防ごうとあがいた。
 斬りつけられはしたが一先ずの防御は成ったとみてもいいだろう。
 領主は急ぎ魔術でセシリアの技を解析し、背筋が凍るような悪寒を得た。
 驚きに目を見開いた領主と視線を合わせるセシリア。
「……なるほど、お前はユーベルコードの模倣が行えるのだな。だが力を得るためには大きな代償を払う必要がある。お前にその気概があるか?」
「だ、代償ですって? はっ、何を言い出すかと思えば。そんなもの、家畜たる人間を使えばいくらでも……ぐぅぅ!」
 領主の言葉を否定するかのようにセシリアの剣の重さが増した。
 重みとともに流し込まれるのは暗黒の力とその真意。
 技の解析を行った領主はセシリアの覚悟と狂気を見せつけられる形となる。
「私はッ! 人々を護るためならばッ! 躊躇なくこの身を捧げられるッ!! それを【勇気】と呼ぶならば――――私の血はお前の言う賢者の石の材料に最適だろう!」
 セシリアの暗黒が膨れ上がる。
 真の暗黒の力に圧倒された領主は言葉を失い、高らかに振り上げられた暗黒剣の切っ先に魅入られた。
「欲しければくれてやる! ただし、暗黒に満たされた黒き血だがな!」
 断罪の暗黒剣が振り下ろされ、魔杖ごと領主を切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

モリオン・ヴァレー
不意打ちが出来ないならあえて真正面から対峙するわ

勇敢勇猛なヒトをお望みの様だけれど、生憎あたしはその真逆、本質は臆病な側よ
だからこそなるべく背後から仕留める
苦悶に歪む顔を見なくて済むから……

【サイレント・ホーネット】発動
<オーラ防御><武器受け><誘導弾>
重力のオーラを纏った針をあたしの周囲に展開
高速回転させ、右目からの情報を元に相手の刃を弾かせるわ

血の刃に苦戦している様に見せかけ……
<だまし討ち><殺気><暗殺><毒使い><傷口をえぐる>
背後にこっそり回してた数本の針での奇襲
<2回攻撃>隙を見せた彼女へ周囲に残っている針で強襲を

言った筈よ、『背後から仕留める』と
面倒な研究もここで打ち切りよ



 先陣を切った仲間の攻撃が領主を捉えた。
 遠目にも強烈だったその一撃を受け、領主は血煙を上げて消滅する。
 これで終わりだろうか?
 いいや、まだ戦場には濃厚な敵の気配が漂っている。
 となれば、敵の打った策は――。

 戦場を見渡せる場所に陣取ったモリオン・ヴァレーが右目を覆う眼帯に手を触れる。
「……不意打ちが出来ないならあえて真正面から対峙するわ」
 こちらの存在を知り、待ち構えている相手の不意を突くのは難しい。
 ならばあえて逃げも隠れもせず、堂々と真正面から攻めることをモリオンは選択した。
 モリオンの手が眼帯を取る。
 露わとなったのは黒き義眼マナ・オニキス。
 霊力の流れを視覚的に捉える義眼が戦場を移動する不可視の影を補足した。
「仕切り直しが早いわね。とても優秀だわ。でも、オニキスの瞳からは逃げられない」
 モリオンは暗殺者として冷静に敵の出方を見極めていた。
 敵は出会い頭の先手を取られたが、すぐさま距離を取ることで仕切り直そうとしている。
 態勢が悪いまま交戦して主導権を握られることを恐れたのだろう。
 油断ならない敵の動きを、モリオンは義眼を通じて追いかける。
 ある程度の距離を移動した敵は姿を消したまま足を止めた。
「そこね。あなたは勇敢勇猛なヒトをお望みの様だけれど、生憎あたしはその真逆、本質は臆病な側よ」
 モリオンの手に握られた鋼針ギべオンが複製され分裂していく。
 瞬く間に数十本となった隕鉄製の毒針を、モリオンは念力によって個別に操作する。
 針の描く軌道は円。
 回転する刃と化し重力のオーラを纏った毒針がモリオンの周囲に配置された。
「だからこそなるべく背後から仕留める。苦悶に歪む顔を見なくて済むから……」
 ユーベルコード、サイレント・ホーネット発動。
 音もなく忍び飛ぶ毒針の群れが姿を消したままの領主へと向けて放たれた。
 静かなる攻撃に遅れて反応した領主が透明化を解除し姿を現す。
「ふぅ……この距離で魔術師である私とやり合うつもり? 侮られたものね、楽しいわ」
 領主は深々と切り裂かれた身体を癒すことなく応戦する。
 懐から取り出した硝子瓶から、追尾能力を持つ鮮血の刃が数多無数と生み出された。
「さぁ、美しく踊って頂戴?」
 モリオンの視界の中、領主の命令によって放たれた鮮血の刃と重力のオーラを纏う毒針が激突する。
 威力は互角。否、鮮血の刃の方がわずかに強い。
 勢力を増して逆襲を始めた鮮血の刃がモリオン目掛けて殺到した。
「くっ、そんな……!」
 苦虫を噛みつぶしたような顔でモリオンが声を上げる。
 力量差があるのは理解していた。だがここまでとは想像もしていなかった。
 そんな思いを言外に表すかのようにモリオンは必死の形相で追加の毒針を複製しては迎撃に放つ。
 ここに形勢は逆転した。
 防戦一方となったモリオンを嘲笑うかのように領主が語りかける。
「あら、威勢がよかったのは最初だけ? 残念ね、あなたには失望したわ。そのままボロ雑巾みたいに果てなさい」
 出会い頭に不覚を取ったことが領主のプライドを傷つけていたのだろう。
 一転して優位に立った領主はこれこそが自分の本当の実力なのだと見せつけるようにモリオンを甚振った。
 ――だが。
 驕れる領主よ気付いているだろうか。
 暴虐の限りを尽くすその背後に、音もなく暗殺者の毒針が迫っていることを。
「先に謝っておくわ。苦しめてごめんなさい。あたしの毒は、かなりキツいわよ」
「命乞いかしら? でもダメよ。あなたはここで――――はっ、まさか!?」
 気付くのが遅い。
 モリオンはそう呟くと、領主の背後にこっそり回していた数本の毒針を強襲させた。
 音もなく毒針が領主の身体に突き刺さる。
 傷口をえぐるようにして流し込まれる毒が領主を体内から破壊し始めた。
 未知なる毒に苦悶の叫びを上げる領主。
 飛び交っていた鮮血の刃は跡形もなく霧散し毒針の群れだけが残された。
 モリオンは伏し目がちに手を掲げると、念力による号令をもって毒針を操作する。
「言った筈よ、『背後から仕留める』と。……面倒な研究もここで打ち切りよ」
 隙を見せた領主に対し、モリオンの追撃が叩き込まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルク・リア
「成程。他人の勇気も覚悟も利用するだけの
安い悪魔のセリフだ。」
「見たければ見せてやるよ。
但し、其方の勇気も見せてもらおう。」

最初は言葉の通り攻撃を残像で躱したり
オーラ防御や月光のローブで防御し、
デモニックロッドの魔弾を誘導弾で命中率を上げ
呪殺弾の効果を纏わせて攻撃。
この時相手の感情の動きに注意して
より興味を引きそうな言葉や行動を選ぶ。
敵の攻撃を受け追い詰められた頃合いを見て
「やってくれるね。じゃあ、自分の言った事(
逃げても追わない)には責任を持ってもらう事にしようか。」
と踵を返して逃げ出す(ふりをする)。
敵の反応を見て感情が大きく振れたタイミングで
誘いの魔眼を使用。
呪詛で捕えダメージを与える。



 身体の自由を奪う未知なる毒に悶える領主の前に一人の猟兵が現れる。
 目深にかぶったフードで素顔を隠したフォルク・リアだ。
 フォルクは苦悶に顔を歪める領主を鼻で笑った。
 隠すつもりのない嘲りを感じ取った領主が血走った目をフォルクに向ける。
「――今、笑ったか?」
 先ほどまでの優雅さを投げ捨て、領主は獰猛な本性を剥き出しにした。
 嵐のような殺意に晒されながらフォルクは余裕の態度を崩さない。
「いや、悪い。勇気だの勇敢だのと楽しそうに語っていた誰かを思い出してね」
 フードの下でくつくつと笑うフォルク。
 それを挑発と受け取った領主が戦闘態勢に入った。
「家畜ごときがこの私を笑うか! 思いあがるな人間め……!」
「成程。他人の勇気も覚悟も利用するだけの安い悪魔のセリフだ。気概というものがない」
 フォルクは呪われし黒杖デモニックロッドを掲げて魔弾を形成すべく集中した。
 研ぎ澄まされた感覚が空中に漂う微量な甘い匂いを感知する。
 薔薇の香りだ。
 攻撃性のない薔薇の香りは領主の元へと流れ込んでいる。
「朱く赤く紅く咲きましょう。この地に渦巻くすべての感情を糧に、私はどこまでも咲き誇る!」
 薔薇が香る瘴気に覆われた領主は周囲に漂う怨念や無念、強い感情を飲み込みながら力を増していく。
 領主の周りに魔力で編まれた魔弾が形成された。
 互いに魔弾を撃ち合う中距離戦闘の始まりである。
「人の勇気が見たいといっていたな。見たければ見せてやるよ。但し、其方の勇気も見せてもらおう」
 領主から魔弾の群れが放たれた。
 迎え撃つはフォルクの魔弾。
 魔弾の強さは魔力の質によるところが大きい。
 彼我の魔力の差が、そのまま魔弾の強さに現れるのだ。
 魔弾の応酬は領主に軍配が上がる。
「はっ、さすがに魔力だけは一流だ! 使い手が三流なのが悔やまれるな!」
 密集して撃ち込まれた魔弾の束がフォルクの残像を消滅させた。
 フォルクは緩急自在な足捌きとオーラ防御の出力を織り交ぜながら駆け巡る。
 ただ逃げ回るだけではない。
 領主の魔弾の隙を突くようにしてフォルクの魔弾が打ち返される。
 そう、魔弾の強さで後れを取っても大した問題ではないのだ。
 フォルクは打ち返しの魔弾を領主へと誘導することで命中精度を高めていく。
 その魔弾には神をも傷付ける呪殺が込められており、着実に領主の生命を削っていた。
 業を煮やした領主は魔弾の数を増やし、広範囲を薙ぎ払うような一斉掃射を行った。
 雨のような魔弾を回避できぬと判断したフォルクは月光のローブを翻して身を守る。
 全力で注ぎこんだオーラ防御の上から領主の魔弾が殴りつけてきた。
 防御が貫通されることはない。だが、殴打されるような衝撃までは防げなかった。
 魔弾の雨が止んだと見るや、フォルクは再び月光のローブを翻して身を起こした。
「ちっ、やってくれるね。ここらで俺は逃げさせてもらうよ。逃げる者は追わないんだろう? じゃあ、自分の言った事には責任を持ってもらう事にしようか」
 踵を返してフォルクが逃げ出した。
 あまりの予想外の行動に領主の手がびたりと止まる。
「……逃げるですって? ここで? このていどの打ち合いで?」
 あは、と。
 沸き上がる感情のままに領主が高笑いをしてみせる。
「アッハッハッハ! なぁにそれ! あれだけ大口を叩いておいて逃げるですって? 気概がないのはどちらかしらねぇ!」
 憎い相手が尻尾を巻く。やられたことをやり返す。自分にとって都合のいい展開となった。
 そのどれもが抗いがたい誘惑であり、熟練の魔術師である領主ですら我を忘れて歓喜に打ち震えてしまった。
 領主が感情のまま高ぶるように仕向けたフォルクはフードの下で詠唱を完了する。
 ユーベルコード・誘いの魔眼が発動した。
 足を止めて振り返ったフォルクの周囲に瘴気を纏う不気味な無数の赤眼が召喚される。
 殺意や嫌悪、軽蔑といった感情を与えることに成功した対象に向け、赤眼から肉体と精神を蝕むと共に五感を狂わせる呪詛が放たれた。
「一つだけ認めよう。逃げる相手を追わないという言葉は真実だった」
 フードを目深に下げたフォルクの視界の向こうで、呪詛に蝕まれた領主が悲痛な叫びを上げていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

宇冠・由
【七草仏ノ座】で30Mの燃える大鬼に変身

そのまま村を背にして歩いて出発
(賢者の石、漫画で読んだことがあります。確か材料は人間のことが多い……)
先程私が焼いた方々も、そんな材料だったのでしょう
正々堂々と、内なる心は猛々しく燃やし、無言のまま真正面から挑みます

これは、この姿は、色んな出会いと戦いの果てに生まれ強化された姿
そう易々と借用できるとは思わないでくださいな

村から戦場までの移動時間で火力増加は十二分
大振りで躱されやすいという弱点も、あえて防御してくれるというなら好都合
目一杯拳を振り上げ、その怪力で、専守の力をすべて攻撃に回し、地形周辺さえ陥没させる想いで、一発の攻撃に込めます



 守るべき人々が生きる村に背を向け火炎の大鬼が平原を征く。
 倒すべき敵へと向かうその足取りは重く、大きく、力強い。
 大地を踏みしめる炎の大足が草花の一本たりとも燃やすことはなかった。
 火炎の大鬼の中核となっている宇冠・由の意思によるものだ。
 破壊の権化としか思えないような大鬼だが、その火は術者が敵とみなしたものだけを焼き尽くす。
 由は草花や虫を巻き込まないように注意しながら火炎の大鬼を制御していた。
 オブリビオンの領主と仲間の猟兵が戦っている光景を遠くに見ながら由は思う。
(賢者の石、漫画で読んだことがあります。確か材料は人間のことが多い……)
 あらゆる願いを叶えるという万能の秘宝、賢者の石。
 俗説には鉛などの卑金属を黄金へと変化させたり、人間を不老長寿にするともいう。
 人間という生き物が生み出す欲望を形にしたかのような伝説のアーティファクトだ。
 由の知る創作物ではおなじみのアイテムであり、それを現実の物にしようとするのは余程の酔狂だろう。
 だが、それがただの酔狂であるならば、まだ良かった。
 戦いが始まる前に領主が口にしたことを思い出す。
(――『命ごと召し上げ圧縮し、賢者の石と成れる器』。圧縮される材料は人間、ですわね……)
 具体的な方法は意識的に脳内から排除した。でなければ火炎の制御が吹き飛んでしまうだろう。
 先の戦いで由が焼いた戦士たちも、あるいはその材料にされた人々なのかもしれない。
 だとすれば、己の手で焼き尽くしたのは――。
 踏み出した火の大足から激しく炎が噴き上がる。
 由は正々堂々と真正面から、内なる心は猛々しく燃やし、最早言葉は不要と領主の前に立ちはだかった。
 火炎の大鬼が腕を振り上げると、はっとした様子で領主が顔を上げた。
 未知なる毒や精神をも蝕む強力な呪詛によって自由を奪われた領主は半壊した魔杖を掲げて身を守る。
「これは、この姿は、色んな出会いと戦いの果てに生まれ強化された姿」
 由は満身の力を込めて拳を握る。
 まるで太陽をその手に掴んだかのように、由の操る大鬼の拳から火炎の嵐が吹き荒れた。
「そう易々と借用できるとは思わないでくださいな」
「――――ア」
 大いなる火に魅入られた領主が声を漏らし、太陽が落とされた。
 由の一撃が地を叩き、生み出された極小の火炎地獄が領主を焼く。
「アアアアアアアーッッ!!」
 いわく、死の淵より蘇った不死者は火に弱いという。
 当然だろう。ソレが生きていようが死んでいようが火の前には等しく無力なのだ。
 熱き火はただ燃え盛り、ただ焼き尽くす。
 オブリビオンとして蘇った運命を呪うかのように領主は苦悶の叫びを上げた。
 由は心を鬼とし悲痛な叫び声を黙殺する。
 いま必要なのは完全なる破壊。一抹の仏心を出すような場面ではない。
 由はさらに火力を増加し、十二分の怪力でもって領主を圧し潰しにかかった。
 専守防衛をモットーとする由であるが、今この時だけは守りを捨てて攻撃に回る。
 大地を沈み込ませるほど強烈な一撃が領主を焼殺した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イサナ・ノーマンズランド
表情を隠すのにガスマスクをつける。
言葉はいらない。それは親切な誰かがしてくれる。
わたしはああいう相手にちゃんと付き合うほど親切でもないし、心に余裕があるわけでもない。

魔女殺すべし。慈悲はない。
わたしの中のレイゲンが吼えている。

いっしょにいこう。
わたしたちで、あいつをやっつけるんだ。

SPD
改造散弾銃『挽肉屋』使用。
異形の散弾銃を【クイックドロウ】で繰り出す。
束ねた銃身での【一斉発射】の【2回攻撃】で弾切れまで攻め立てる。
誰かを巻き込むかも……大丈夫、きっとなんとかなる。ごめんなさい。
敵の攻撃は棺での【盾受け】で凌ぎつつ、接近して棺桶内蔵の杭打ちによる【串刺し】と【破魔】を叩き込む。


ステラ・アルゲン
お前がこの村を虐げる領主か……
先程の戦士達はお前が殺したか
それだけでなく村の者達までも
それほどまでに賢者の石を求めるか
そんなもの作って何をするというんだ?

【真の姿】へ変身。【幻影の白銀】たる鎧を身にまとう。

先程身をもって心に感じた、犠牲者達の声
その痛ましき声を剣に込めて【願い星の守護剣】を発動する
この技の真似ができるならしてみろ
これは人の願いを力に変える技、貴様に願いを託す者はいるか?

我が光の剣にて敵を斬り払い、犠牲となった者達の魂を天へ導く
貴様の知識欲のせいで犠牲になった者達……彼らの痛みを、悲しみを、無念を思い知れ!



 燃え盛る炎が止み、爆心地となったクレーターには何も残っていなかった。
 焼き尽くす火によってオブリビオンの領主は倒されたのだろうか。
 戦場を支配していた気配が薄まっていくのを感じながら、猟兵たちは油断なく周囲を警戒していた。

 夜陰に紛れ足を引きずるように敗走する領主。
 その姿は優雅とは言い難く、文字通りの満身創痍といったところだ。
 途中、領主は懐から取り出した赤い宝石のような固形物を口にする。
 一つ、二つ、三つと。いくらあっても足りないと言わんばかりの様子である。
 領主が口にしたのは賢者の石のまがい物。ただ人間の命を圧縮しただけの出来損ないだ。
 伝説の賢者の石には到底及ばない失敗作ではあるが、いざという時の栄養補給にはなる。
 万が一に備えて常備していたものだが、まさかここで使うことになるとは。
 屈辱に身を震わせながら領主は逃亡を図る。


 その行く手を遮るように立ちはだかる人影があった。
 ガスマスクで表情を隠したイサナ・ノーマンズランドだ。
 イサナは言葉もなく、愛用の散弾銃を片手に領主の逃亡を阻止していた。
 どうやって領主の逃亡を察知したのか――それはイサナにも分からない。
 ただ呼ばれたような気がした。レイゲンは虫の知らせだとか言っていたような気がする。
 こっちに領主がいるぞと、声なき誰かの声がしたのだ。
 イサナを呼んだのは天の差配か、あるいはこの地で果てた怨霊か。
(魔女殺すべし。慈悲はない)
 イサナの中でレイゲンが吼えている。
 散弾銃を構える手の感触を確かめながらイサナが闘志を燃やした。
(いっしょにいこう。わたしたちで、あいつをやっつけるんだ)
 領主を逃がしてはならない。必ずここで仕留めないと。
 イサナは言い知れぬ焦燥感と明確な殺意をもって領主を見た。


 逃げ道を塞がれた領主の後ろに現れたのは白銀の鎧に身を包んだ流星の騎士。
 真の姿を開放し、幻影の白銀たる鎧を纏ったステラ・アルゲンだ。
 振り返ってきた領主の視線を受け止めながらステラが言葉を紡ぐ。
「お前がこの村を虐げる領主か……先程の戦士達はお前が殺したか。それだけでなく村の者達までも」
 静かに、しかし凛とした声には隠しきれない怒りがあった。
 先ほど戦った隷属戦士たちの姿がステラの脳裏に浮かぶ。
 領主は彼らだけではなく、村人たちまでも手にかけようとしているのだ。
「それほどまでに賢者の石を求めるか。そんなもの作って何をするというんだ?」
 多くの人々を犠牲にしてまで賢者を作ろうとする領主の考えが分からない。
 ステラの疑問に対し、領主は不思議そうな顔を向けた。
「何って……作りたいから作る。モノ作りとはそういうものでしょう?」
「貴様……それだけの理由で無辜の人々を手にかけたのか」
「領民とは即ち領主の私物でしょう? 私のモノをどう扱おうと、それは私の勝手ではなくて?」
 さらりと放たれた領主の答えにステラが激高する。
「人の命は物ではない!」
 ヤドリガミとして永きを生き、数えきれないほど多くの出会いと別れを繰り返した。
 そのどれもが生命の輝きに満ち溢れ、誰もがみな生きようと懸命だった。
 彼らの人生は彼らだけの物であり、一握りの支配者が自分勝手な都合で弄んでいいようなものではないのだ。
 この地に生きる全ての人を愚弄した領主をステラは決して許さない。
「あらまぁ、高潔な騎士様だこと。でもいいわ。その激しい怒りはとても美味ですもの」
 ステラの怒りを受け領主はにこりと微笑んだ。
 薔薇の香りの瘴気が領主を包み込み、その戦闘能力を高めていく。
「アッハハハハハ! 凄い怒り! いいわぁ、もっと怒ってちょうだい!」
 敵対者の強い感情を糧に戦闘力を増強させる術式の劇的な効果に酔いしれる領主。
 赤い紅い朱い花のように狂い咲く領主に対し、ステラは一振りの剣となるべく収束した。
「ふん、好きなだけ笑え。貴様の敷いた悪しき夜はここで終わるのだから」
 ステラは流星剣を天高く構えた。
 白銀の騎士の胸中に宿るは先の戦いで心に感じた犠牲者たちの声。
 その痛ましき声を剣に込め、ステラは願い星の守護剣を発動する。
 流星剣に光が集まり輝きを増していく。
 だが、猟兵という天敵を痛いほど知った領主がそれを黙って見過ごすことはない。
「その技、とっても興味深いけど、もういいわ」
 領主は硝子瓶を取り出し無数の鮮血の刃を展開させた。
「美しく踊ってほしかったけれど、それもいいわ。ただ無益に死んで頂戴ね?」
 鮮血の刃が複製され、加速度的に増えていく。
 もはや鮮血と呼べる数ではなく、その刃は血塗られた空を描くかのように配置された。
 いかにステラの鎧が強靭であろうとも、この数をまともに受けてはひとたまりもないだろう。
 ステラは剣の輝きを強めることに集中しながらもう一人の仲間を見た。


 鮮血の刃を無数に展開した領主に向かってイサナが走る。
「気合入れろよイサナァ! この数は避けきれねぇぞ!」
 レイゲンの檄にイサナはこくりと頷いた。
 視界の隅っこでは鮮血の刃が自動的に動き出し、死角からイサナを切り裂こうと飛んでくる。
 バカみたいな弾数に加えてこの追尾性能。どれだけ器用に避けようといずれは被弾してしまうだろう。
 ではどうするべきか?
 イサナは速度を落とさず愛用の散弾銃を異形へと変化させた。
 改造式散弾銃・挽肉屋。
 鍛え抜かれた早抜きの銃技で狙いを定めたイサナが異形のショットガンをぶっ放す。
 幾重にも束ねられた銃身から散弾が飛び出すと、追尾してきていた鮮血の刃がごっそりと撃ち落された。
 イサナは一斉発射の反動を活かして銃身を回転させる。
 流れるようなリロードによって装填された散弾を返す刀でぶっ放した。
「イヤッハッハー! ミンチメーカーのお通りだぜェ!!」
 ショットガン特有の解放感によって調子に乗るレイゲン。
 普段ならば反応したであろうそれに反応せず、イサナはそっと失われたはずの右眼に手を添える。
 刹那の疼きを経て、イサナの右眼から黄金色の瞳が現れた。
「……巻き込んだらごめんね、ステラさん。あとでちゃんと謝るから」
 撃ち漏らした鮮血の刃が襲い掛かってくるのをイサナは前方へとローリングすることで回避する。
 避けきれなかった刃が浅い傷を付けていくがイサナは気にしない。
 多少の被弾は承知の上なのだ。大きな攻撃さえ受けなければそれでよし。
 イサナは起き上がりに黄金色の瞳を輝かせると、怒涛の如く散弾銃を連射した。
 爆発的に放たれた散弾の雨は鮮血の刃を撃ち落すだけでなく、剣を構えたステラの鎧をも叩いていた。
 しかし幻影の白銀たる鎧は流れ弾を受けた程度ではビクともしない。
「私を気にするな! 行け!」
「――うん!」
 ステラから飛ばされた声に背中を押され、イサナは速度を増して領主に迫る。
「くっ、この! 嘘でしょう、どうしてこんな、味方ごと撃ってくるなんて……!」
 止まらないイサナに業を煮やした領主は鮮血の刃の標的をイサナに絞った。
 高密度に凝縮された刃の群れを、イサナは棺を盾とすることで凌いだ。
 棺型の武装コンテナは堅牢さを遺憾なく発揮し鮮血の刃から主を守り切っていた。
 領主までの距離はあともう少し。
 イサナは異形の散弾銃を領主に向けた。
「……コイツで死なない化け物はいないよ。覚悟してね、とびっきり痛いから」
 降り注ぐ雨のような鮮血の刃を無視し、イサナは散弾銃をぶっ放しながら駆け抜ける。
 散弾銃とはその構造上、近距離になるほど打撃力および殺傷力が高まっていくのだ。
 超高密度に密集した散弾を全身に浴びた領主が悲鳴を上げた。
 その隙を突くように滑り込んだイサナは棺桶に内蔵された杭打ち機能を作動させる。
 再殺兵装カズィクル・ベイ。
 串刺し君主の名のもとに打ち出された破魔の杭がオブリビオンの領主を串刺しにした。

●願いの剣
 杭打ちにされた領主が動きを止めた。
 いまこそ好機とステラが流星剣を振りかぶる。
「この技の真似ができるならしてみろ」
 尚も輝きを強めるステラの剣。
 その輝きに魅せられたのか、戦場の至る所から青白い光が生まれていた。
 初めはぽつりぽつりと単発的だったそれは瞬く間に燃え広がり、膨大な光の粒子となってステラの剣へと集う。
「これは人の願いを力に変える技、貴様に願いを託す者はいるか?」
 誰かの助けを願った者がいた。誰かを助けたいと願った者がいた。
 数多の願いが生まれては踏みにじられて。
 人はこの世は怨恨渦巻く地獄だと嘆くだろうか。たしかにそうかもしれない。
 けれども、そうだとしても、きっと人は願わずにはいられないのだ。
「我が光の剣にて貴様を斬り払い、犠牲となった者達の魂を天へ導く」
 この世に神は不在でも、願いよ届けと人は祈る。
 ステラは犠牲となった人々の声なき声に応えるように剣を握る手に力を込めた。
 いつしか光の剣は天へと至らんばかりの巨大な柱となっていた。
「貴様の知識欲のせいで犠牲になった者達……彼らの痛みを、悲しみを、無念を思い知れ!」
 ユーベルコード・願い星の守護剣。
 振り下ろされたステラの光の剣が、領主たる朱殷の魔術師を消し飛ばした。

 オブリビオンを撃破したステラはそのまま少しだけ黙祷を捧げる。
 役目を終えた光の剣からは光の粒子が解かれ、ゆっくりと虚空に溶けてゆく。
 彼らはきっと天へと還るのだろう。
 猟兵たちは光の粒子を見送り、戦いの終わりを知った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月02日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はヒルダ・ナインハルテンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は玖・珂です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト