#ダークセイヴァー
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●喜劇『めいわくもののリチャード』
酔っぱらいのリチャードは、いつも街のみんなを困らせるめいわくものでした。
払う払うと言ってタダ酒を飲んでは、若い娘を口説こうとする日々。
叱ってくれる嫁さんが流行病で死んでからは、いよいよ手がつけられません。
ある日、酒場の娘は機転を利かせて言いました。
「私なんて相手にすることないわ、リチャード! 貴方ほどの男なら、美しい領主様だっていちころでしょう」
これを真に受けたリチャードは、意気揚々と上着を脱いで、領主様の館へ向かいます。
当然、そんな無礼をはたらく愚か者が許されるはずもありません。リチャードはあっという間に捕まりました。
領主様もお怒りになって、鎖で巻いたり、鞭で打ったりするのですが、この馬鹿な男はにやにや笑いをやめません。領主様が自分に気があると勘違いしているのです。これには領主様も困ってしまいました。
「はあ、勇敢なリチャードよ。お前ほどの男には、この世に怖いものなどないのですか?」
「怖いものなんて、あの世の嫁さんだけさ!」
賢い領主様は、その怖い怖い嫁さんのお墓の前で、間抜けなリチャードを逆さ吊りにしてしまいました。
死んでいたのを忘れるぐらいに呆れたのか。骨だけになった嫁さんは、墓から這い出てリチャードを蹴りつけます。
「死んでも顔見せんじゃないよ、このめいわくものが!」
●どっとはらい
「……という物語だったのさ、おしまい」
朗々と音読を終えて、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はアルバム型のグリモアを閉じた。
彼女の前で足を止めた猟兵たちの反応は様々だ。かすかな違和感に首を傾げる者から、強い不快感を隠さない者まで。ただ、皆が一様に――。
「この脚本に言いたいことがあるって顔をしてるよね? じゃあ、この任務は君たちが適任だ」
気楽そうな語り口に反して、夏報は妙に無表情だった。
「文字通り、舞台はダークセイヴァーのとある街。辺境のわりには大きめで、人口数百人程度かな。ここの領主様は教育熱心なようで、民衆を集めて劇を上演するんだと」
先の物語は、オブリビオンによって書かれた脚本なのだ。
それならあの内容にも納得がいく。領主に逆らう愚かしさを、民に劇で伝えようという魂胆らしい。……それで話が終われば、なにやら一風変わった計画で済むのだが。
「種を明かすと、『リチャード』は数年前に実在したんだよ。愚直な男でね。愛する妻を圧政で失って、殺されると知りながらオブリビオンの領主へ直訴に行ったのさ」
劇中の『リチャード』とは似ても似つかない。
「……街じゃ、彼を英雄視する向きがあった。領主様はそれが気に食わなかったんだろうね」
そんな彼を下品に貶めるために用意されたのが、喜劇『めいわくもののリチャード』というわけだ。
しかし、猟兵たちはひとつの疑問を口にする。いらぬ反感を買って、民衆を逆に結束させてしまう可能性は考えないのか、と。
「鋭いね」
ゆるやかな拍手。
「そこは抜かりない、ってのも変だけど。……領主様は『役者』として反抗的な市民たちを捕らえ、直々に演技指導をしているらしい。実際に劇を上演するのは彼らだ。もちろん、終わったら解放なんてことはないよ」
つまり、拷問、見せしめ、公開処刑を兼ねているのだ。反感以上の恐怖を与えるために。
想定以上に手が込んでいる。顔を見合わせる猟兵たちに、夏報は人差し指を立てて笑う。
「ちなみに栄えある『リチャード』役は、彼の一人息子だとさ。まだほとんど子供だよ」
……一体どこまで悪辣なのか。
「いやあ、才能を感じるよね。感情を動かすという一点において。――ぜひ感想を伝えに行こう。こうした催し物って、攻め込むには絶好のチャンスだろ?」
へらへらとにやけてみせる夏報の目は、まるで笑っていなかった。
さて、具体的な作戦である。
「まずは夏報さんが、上演前の劇場にみんなを転送するよ。『黒い薔薇の娘たち』と呼ばれる眷属がその場を守ってる。……女優気取りのオブリビオン達だから、これは存分に蹴散らして良し」
前哨戦においては、周囲への被害を考える必要は特にない。
「奥の控え室まで進めば、領主がいるのは間違いない。けど、ごめんね。その正体がよくわからないんだ。自分は表舞台に出てこないタイプでさ。――ひとつだけ確実に言えるのは、捕らわれた一般人たちが一緒だということ」
劇を上演させるつもりである以上、命は無事である可能性は高い、が。
「嫌な予感がする。悪趣味極まりない領主様のことだし……おそらく、卑怯な手を使ってくるよ。叩っ斬って終わりというわけにはいかないだろうね」
領主との戦いにおいては、一般人を傷付けないための手立てが必要となるだろう。
「全てが終わったら、そうだな。……意趣返しとして、こちらが劇をするというのはどうだろう? 残された人々が希望を持てるような……」
そこで初めて、彼女は悪戯っぽい本来の笑顔を見せた。
「みんなの活躍についてでもいいし、『リチャード』の真実についてでもいい。――もっと、真っ当な物語をさ。夏報さんはそれを楽しみにしておくよ」
八月一日正午
こんにちは、ほずみしょーごです!
2作目となります。ほのぼのの次はシリアスに挑戦です。よろしくおねがいします!
領主様がなにやら悪趣味なことを企んでいるので、どーんとぶち壊してあげてください!
終わったあとには楽しい劇もあります。みなさんの思いが、オブリビオンに弄ばれた人々の心に届きますように。
具体的には、第1章で『黒い薔薇の娘たち』との集団戦、第2章で悪趣味な領主様とのボス戦、第3章ではみんなで演劇を催す日常編となります。3章はプレイングで指定ある場合のみグリモア猟兵が出るそうです。
●おねがい
各章頭に(受付開始告知をかねて)状況説明を入れます。それを見てからのプレイングだと確実かと思います。
シナリオの雰囲気上、敵が容赦なく……こう、飛び散る可能性があります。苦手な方はご注意を! 猟兵側のダメージ描写は指定がない限り控えます(失敗・苦戦時は描写あっさりで被弾する場合があります)
アドリブ・連携についてはマスターページをご参照お願いします!
第1章 集団戦
『黒い薔薇の娘たち』
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POW : ジャックの傲り
戦闘中に食べた【血と肉】の量と質に応じて【吸血鬼の闇の力が暴走し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : クイーンの嘆き
自身に【死者の怨念】をまとい、高速移動と【呪いで錬成した黒い槍】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : キングの裁き
対象のユーベルコードを防御すると、それを【書物に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●リハーサルは入念に
『ねえ聞いた?』
『もう聞いた!』
『めいわくもののリチャードのこと』
贅を尽くした大劇場、赤絨毯の舞台の上で、黒いドレスの少女たちは無邪気に笑う。
その役割は喜劇役者ではなく、幕間を飾るコーラス隊だ。
人形のように整った容貌、機械のように揃った舞踏。三度と五度で重なり合う歌唱。……完璧すぎる練習風景は、美を通り越した悪夢のよう。
それも当然、彼女たちは領主を補佐するオブリビオン。本来は冷酷な殺戮者にすぎない。
ドレスには血肉のにおいがこびりつき、無数の死者の怨念を身に纏う。
手にした黒い書物に刻まれているのは、脚本ではなく、人々に対して働いてきた暴虐の記録の数々だ。
『――あらあら!』
少女の一人が、望まぬ客に目を留めた。
『無粋だわ。本当にめいわくものが来るなんて』
『そうかしら? あの死体で舞台を飾れば、もっと素敵な劇になる』
『クライマックスに使えるわ!』
開演前、無人であるべき客席で、まずは戦いの幕が上がる。
カイム・クローバー
俺はこういう物語、好きだぜ。我が身を顧みない英雄。その行動は亡くした妻の為に。…良いね。燃えてきた。折角だ、素晴らしい舞台にしてやろうぜ。
【SPD】
なるほど。俺達の死体で舞台を飾るとは。粋な事、考えるぜ。けどよ、女優にしちゃ、ちょっとばかり趣味が悪過ぎるぜ?下手すりゃ、スキャンダル物だ。
【二回攻撃】【属性攻撃】【なぎ払い】【援護射撃】を組み合わせてUC。敵対する者を中心に撃ち抜いていく。高速移動に対しては範囲攻撃型のUCだから逃がさねぇよ。黒い槍に関しては【見切り】【第六感】【残像】で回避。攻撃を躱しつつ、無人の客席で踊るか。主役は俺達だが、最後の舞台は楽しめたか?続きは骸の海でやりな
●主役交代のお時間
黒い少女たちの視線の先――客席の中心に、一人の青年が佇んでいた。
「俺はこういう物語、好きだぜ」
両手をコートに突っ込んだまま舞台を見降ろすのは、銀髪の青年、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)だ。
彼が触れた物語とは、無論、彼女たちの茶番じみた喜劇ではない。……先程グリモアベースで聞いた、この場所で本当に演じられるべき英雄譚のことだ。
「我が身を顧みない英雄。その行動は亡くした妻の為に。……良いね。燃えてきた」
『おっかしい!』
『人間にはこの脚本がそう見えるの?』
「見えるね。真実ってのは透けて見えるもんだ」
気障めかした返答を聞いて、舞台の上の少女たちは肩と肩を寄せてくすくすと笑う。
――いや、舞台の上だけではない。
舞台袖から、廊下から、無数の少女たちが姿を現し、漆黒の槍を構えて彼を出迎えた。
一見、多勢に無勢だ。しかしカイムは動じない。双魔銃『オルトロス』を引き抜いて、余裕の笑みで敵と対峙する。
「折角だ、素晴らしい舞台にしてやろうぜ」
少女たちが放つ漆黒の槍を、軽いステップで回避。
続けて、飛び掛かってきた少女の槍がカイムを貫いた……かに見えて、それは先程まで立っていた位置の残像にすぎなかった。
動きは直線的で読みやすい。次にどの攻撃が来るかすら、直感的に理解できる。
――無人の客席で、カイムは少女たちと踊る。
確かに、ダンスの相手には丁度いい。練習していただけはあって。
『大人しく串刺しになりなさいよ』
『せっかく色男なんだから!』
「なるほど。俺達の死体で舞台を飾るとは。粋な事、考えるぜ。けどよ……」
歯噛みして吠える少女たちに、双頭の魔犬の銃口を向けて。
「女優にしちゃ、ちょっとばかり趣味が悪すぎるぜ? 下手すりゃ、スキャンダル物だ」
――銃撃の狂詩曲(ガンズ・ラプソディ)。破壊力と速射力を併せ持つ、二丁拳銃の一斉掃射だ。
左右両面をカバーする範囲攻撃は、少女たちの高速軌道をも意に介さない。肩に、腰に、無差別の弾丸を受けて、少女たちは即興のダンスを踊る。
「最後の舞台は楽しめたか?」
――もっとも、主役はもはや俺達だが。
己に続いて転送されてくる仲間たちを見やって、カイムは不敵に宣言する。
「続きは、骸の海でやりな」
成功
🔵🔵🔴
安喰・八束
この世ならざるから、美しいってモンなのかねぇ……
嫌だ嫌だ、俺はもっと面白い見世物が好みなんだ。
俗で猥雑で、あったけぇやつがさ。
別嬪さんがたには、似合わん香を纏っているな。
狼の鼻には刺激が強すぎる。
……ちっと、昂っちまうじゃないか。
誰かが気を引いてくれりゃいいんだがね。
その間に【千里眼撃ち】で【援護射撃】しよう。
槍が飛んでこようが【武器落とし】は心得たものでね。
コノハ・タツガミ
アドリブ・連携歓迎だよ
【WIZ】
やれやれ、こういう敵ばかりなら呵責が無くて良いものだね
少々無粋をさせてもらおうかな。ミズチ、力を貸した給え。【指定UC】を使ってミズチの分霊を使った氷【属性攻撃】の【範囲攻撃】で纏めて攻撃をさせてもらうおかな
ふむ、高速移動かしかしこちらもそれぞれの分霊に意思はある
【誘導弾】のように、分霊の意思による追撃をしつつ、敵の攻撃はミズチ本体を盾にして、【オーラ防御】で防ごうかな
分霊の攻撃で凍った敵は、【宝珠:神の矢】で止めを刺していくとしよう。一匹ずつ、確実にかな
●咆える龍
『あらあら、綺麗な髪のお嬢さん』
『汚さないように首を撥ねなきゃ!』
「――やれやれ、こういう敵ばかりなら呵責が無くて良いものだね」
ころころ笑う少女たちを半目で見やって、コノハ・タツガミ(放蕩亜神・f17939)は首をすくめた。
コノハ自身、敵と比べても小柄な少女ではあるが、その佇まいには独特の威風があった。それは人の聖者としてのものか、それとも神の子としてのものか。
「少々無粋をさせてもらおうかな。――ミズチ、力を貸し給え」
――Draco salto glaciei(ドラコ・サルト・グラキ)。
コノハの短い呼びかけに応えて、翼持つ蛇の姿をした蒼い龍が顕現した。
主の細い体を護るようにぐるりと巡って、百を超える分霊が劇場を埋め尽くす。
……敵は高速で移動するようだが、それぞれの分霊には意思がある。彼らは踊りまわる黒い少女たちを追い立て、小さな牙を突き立てる。
『きゃっ!』
少女が軽く叩き落とせば、分霊は次々と粒子となって消えていく。
『これだけ……?』
『可愛いものね?』
その呆気なさに首を傾げ、一応と言わんばかりに痕を確認して――少女たちは目を見開いた。噛まれた個所から、自身の体が急速に凍っていくのだ。
「龍は踊り、全ては凍れってやつさ」
コノハの握りしめた宝珠が光を放ち、凍り付いた少女たちを『神の矢』で貫き砕いていく。一匹ずつ、確実に。
……あれに触れてはいけない。
少女の一人がそれを察したのか、黒き書物の背表紙でミズチの分霊を叩き落とす。
『やったわ、読めた……!』
凍り付いていく書物に、異教の神のものと思しき奇妙な文字が浮かんで輝く。
防御に成功したユーベルコードを、文字通り読み取って記録する。本が砕けるより先に、少女はその文字列を指先で撫でた。
『――ッ、あああァ!!』
細い肢体が仰け反るように折れ、その腹が奇妙に膨れ上がる。
皮膚を破って現れたのは、ミズチをそのまま黒く染めたような翼持つ蛇だ。
……主を護るどころか喰らい尽くして、黒き龍は血まみれで咆哮する。
「まあまあ似て……ないな。所詮、邪悪な術ってわけか」
片割れの歪な再現を見せられて、コノハは不快感を隠さずに眉をひそめた。姿かたちは写し取れても、その神性は再現できなかったらしい。
一撃きりとはいえ、おそらく戦力は同等だ。盾としている本体をこの迎撃に向かわせるべきか。コノハが一瞬の判断を迫られた、その時。
一発の銃弾が、黒き龍を貫いた。
●咆えぬ狼
遡ること十秒ほど前、大劇場の二階席。
壮年の男――安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は、主たる戦場から距離を取り、成り行きを慎重に見極めていた。
この位置を選んだのは、彼が狙撃手であることがまずひとつ。そして、二つ目の理由は――。
「別嬪さんがたには、似合わん香を纏っているからな」
――黒い少女たちのドレスに染み付いた、年月を経た血の匂い。
「……ちっと、昂っちまうじゃないか」
強面に似合わない、困ったような苦笑いが浮かぶ。
長年患った病、付き合い方は骨身に刻んでいるのだが。……流石にあれでは、『狼』である八束にとっては刺激が強すぎた。
さて、どうやら階下の戦場は正念場。
静かな客席で、八束は狙撃に集中する。敵の姿に思いを馳せて、精神を統一。
(この世なさざるから、美しいってモンなのかねぇ……)
こちらの血まで騒ぐほどの死の匂い。可憐な少女の一糸乱れぬ舞踏。
それはそれで、ひとつの芸術とやらなのかもしれない。まあ、少なくとも纏まりはある。酒の席での話の種くらいにはなるだろう。
――だが。
(嫌だ嫌だ、俺はもっと面白い見世物が好みなんだ。……俗で猥雑で、あったけぇやつがさ)
領主様にしか理解できない高尚な劇じゃあかなわない。いつか、旅すがらに二人で見たような、手を繋いで三人で見たような、そんな劇が良い。
――少なくとも、そういう劇に、あんな大掛かりな化物など出てこなかった。
狙うのは黒き龍の目だ。
奴の視線は龍使いの娘ばかりを睨み、こちらに気付いている様子はない。"古女房"の猟銃をそろりと撫でて、細かな感触を確かめる。
――『千里眼射ち』。引き金に指をかけて、一発。
「やれやれ、そんなに咆えるもんじゃないぜ」
今の狙撃で、敵もさすがにこちらに気付いたらしい。
とはいえ、さすがに階下の戦闘で余裕がないのか、合間合間に漆黒の槍がこちらへ飛んでくるのみだ。
武器落としなど慣れたもの、銃剣を帯び、猟銃を槍と変えて、右へ左へ叩き落とす。
……先の一撃さえ決まればそれで良かった。龍と龍の互角が崩れた以上、既に勝敗は決している。
蒼き龍が黒き龍を討ち倒すのを見届けて、八束は満足げに笑うのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マイ・ノーナ
連携、アドリブ歓迎
UC発動
劇場の*地形を利用しながら*目立たない様気配を殺して一気に距離を詰め*先制攻撃
目立ちたくないし上着は脱がない。
大体は速さで対応するが、必要であれば*オーラ防御と*呪詛耐性*フェイントでやり過ごす
劇中、飲食する奴に*盗み攻撃
触ると汚れるから腕を落とす
糧を奪われる気持ちって、
知っておいていいんじゃない?
演技の肥やし……になるかもね。
『お客さん』も結構入ってる様だし後は任せていいよね?
●上演中はお静かに
劇場が激しい戦闘へと雪崩れ込む中。
誰の目にも留まることなく、客席と客席の間を駆ける小柄な影がある。幼い少女――のまま時の止まったダンピール、マイ・ノーナ(偽りの少女・f07400)の姿だ。
……大技のぶつけ合いは、彼女の流儀ではない。
子供同然の体格は、低い背もたれの陰にも容易に収まる。更に、魔力の織り込まれたフード付きマントが、その姿を風景に溶け込ませている。速さはやや犠牲にしたが、隠密は完璧だ。
呼吸を止めて、静かに、慎重に、孤立している標的を見定めていく。
他の猟兵が大きく動くタイミングを見計らって、一気に敵との距離を詰め、――膝の裏に軽く一撃。
『えっ』
脚の関節を突然曲げられて、黒い少女は間の抜けた声を上げた。
このやり方なら気付かれ難く、あまり痛みを与えずに済む。
……もちろん、彼女らに慈悲などかけているわけではない。本能的な危険信号を認識できなかった敵は、一瞬の対応が遅れるのだ。
実際、少女は何が起きたのか理解が及んでいない。ぽかんと口を開けて天井を仰ぎ、マイの元へと倒れてくる。
――その無防備な後ろ首を、一突き。
「八匹目、だったかな」
だんだん数が曖昧になってくる程度には、着実に仕留めている。死体は座席の下へ蹴り入れて隠しておく。
……さて、次の標的は。
ここから十数メートル先。マイと同じように、座席の物陰に隠れている少女がいる。
這いつくばって一体何をと見てみれば、……倒れた同胞に口をつけ、血を補給している真っ最中のようだ。
「共食い、ね……」
――それ以外に道がないほど、餓えたことなどない癖に。
余計な感想を抱くのは程々にしておく。同じ視線の高さに居られては暗殺の邪魔だ。優先的に排除しなければ。
真っ直ぐに跳躍。
あっという間に彼我の距離。
顔を上げた敵が咄嗟に小型の槍を放ってきたが、魔力の壁でやり過ごす。
「――触ると汚れる」
改造ダガーを手首から射出し、少女の腕を両断。
『ッあ――』
起き上がり損ねてのたうつ黒い少女を、『食糧』から引き離すように蹴り転がす。
「――糧を奪われる気持ちって、知っておいていいんじゃない?」
突然に、理不尽に、なにひとつ納得できないままに、あらゆるものを奪われたときの気持ち。
怒りと呼ぶには呆気なく、悲しみと呼ぶには虚しすぎる、あの感情。
この異形の少女たちも、少しはそれを思い知るだろうか。それとも、奪われて痛いほどのものなど、最初から持っていやしないだろうか。
「演技の肥やし……になるかもね」
――どの道この化物どもに、人間の役など演じられまいが。
「できることは、やったわ。『お客さん』も結構入ってる様だし。――後は任せていいよね?」
成功
🔵🔵🔴
イリーツァ・ウーツェ
アルバート(f14129)と。
【POW】
何処であろうが、私のする事は変わらない。
仲間を補佐し、敵を討つ。
任せろアルバート。蹂躙劇の始まりだ。
先んじてUCの準備をしておく。
戦闘中に食事とは、礼儀の成っていないことだ。
頭部、顎、首を狙って杖とリボルバーで攻撃。
(怪力+見切り+鎧砕き)
死角からの攻撃は殺気と視線を読み、尾でなぎ払う。
(第六感+なぎ払い)
UCの準備が終わり次第、発動。
地面から複数の杭を生やし、劇場の床ごと敵を串刺しにする。
安心しろ、これで殺すつもりはない。
あとはアルバートの仕事だからな。
貴様等は避雷針の役をこなしてくれれば良い。
アルバート・クィリスハール
イル(f14324)と参加するよ。
あははっ! 我が生れ故郷はいつ戻っても悪趣味だなぁ。いっそ安心するよ。
おかげで遠慮容赦なく暴力を振るえる…。
さあ、行こうか兄弟。醜女共の死体で劇場を彩ってあげよう!
【SPD】
【蒼天に舞う者】を起動させ、劇場内の高い天井に雷雲を作りながら戦うよ。
翼を出して空中戦。高速移動出来ても飛べはしないだろ?
呪いの槍は空中ダッシュで避けつつ、当たりそうになったら矛槍で殴って払う。
空中から羽根弾を雨のように撃ちこむ。体中を鳥人間みたいに毛羽立たせてあげようか!
イルが“舞台”を整えたら、たくさんの“避雷針”めがけて雷を落とす。
天の怒槌を受けるがいい!
おつかれ、ナイスアシスト!
●天から地へ、地から天へ
「あははっ! 我が生れ故郷はいつ戻っても悪趣味だなぁ。――いっそ安心するよ」
アルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)は、場にそぐわない笑顔で劇場を見渡した。
見目麗しい柔和な好青年。……という振る舞いを捨て去ってはいないものの、今の彼の瞳にはわずかに暗い歓びの色がある。
なにせ、この劇場で待ち受けるのは化物ばかり。民も認める残虐非道。殺せば殺すほど有難がられて、ほんの少しは胸もすく。
――おかげで、遠慮容赦なく暴力を振るえる……。
アルバートの笑顔には、仮面と本音が重なって揺れていた。
それに対して、彼の傍らに佇むドラゴニアンの男――イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は、さして感慨もなさそうに相方の横顔を眺めている。
この場所が何であるのかも、敵が何事を企んでいるのかも、彼にとってはさして興味のない事柄だった。興味を持つべきだという認識すらない。……どの道、これから自分のする事は変わらないのだから。
仲間を補佐し、敵を討つ。それが全て。
アルバートの頭上の花が揺れ、楽しげにイリーツァへ振り向いた。
「さあ、行こうか兄弟。――醜女共の死体で劇場を彩ってあげよう!」
「任せろアルバート。――蹂躙劇の始まりだ」
アルバートの背、黒い猛禽類の翼が広げられると、それに応えて劇場の大気が鳴動した。
軽く床を蹴れば、『蒼天に舞う者』の身体はもはや重力から自由だ。形ばかりの羽ばたきを伴って、アルバートは上空へと舞い上がる。
客席に満ちた戦闘の熱気が渦巻き、高い天井の上で雷雲となった。まるで、主を迎え入れるかのように。
眼下の少女たちに、挑発的に手招き。
「どんなに速く動けても、ここまで飛べやしないだろ?」
『――生意気な鳥ねえ!』
『猟は貴族のたしなみよ!』
死者の呪いをまとった槍が、黒鷹を撃ち落とそうと迫る。しかし、アルバートは何もないはずの虚空を蹴り、自在に天空を跳ね、身をかわして踊る。
それでも追いすがる数本を矛槍で叩き落として、今度はこちらの番。
「狩られる側の自覚を持ちなよね。じゃあ、そうだな。……体中を、鳥人間みたいに毛羽立たせてあげようか!」
――大きく広げられた翼から、黒の羽根が地上へ降り注ぐ。
『――――ッ!』
高速で撃ちだされる魔力の塊には、鋼をも貫く威力がある。少女たちは部位の区別もつかないほどの羽根だるまと化して、鶏肉のようにごろりと床へ転がった。
一方。
地上のイリーツァは、淡々と敵を処理していた。頭部、顎、首、脆い個所を狙って確実に、杖の一撃を入れていく。
……ふと、そのうちの一匹に目を留めた。羽根に塗れた仲間の死体にかぶりつき、醜く血肉を啜っている個体。
「戦闘中に食事とは、礼儀の成っていないことだ」
肉が同じ肉を喰うことについて、イリーツァは感想を抱かなかった。
『貴方こそ、秘め事の最中に不躾ね――』
何やら戯言を吐いている口にリボルバーを向け、射撃。
……常人であれば、とても片手では扱えない威力の代物だ。顔面が容易く弾け飛び、その下顎と歯列を露にする。
この口内の、どこまでが喰っていた側の血で、どこまでが喰われた側の血だったのか、……区別する意味など、元よりない。
ふと、死角からの殺気。
一瞥もせずに尾で薙ぎ払う。
何かが折れる音がしたが、振り返る必要も最早ない。
「――舞台は整った」
周辺の敵を排除、儀式場を確保したとみて、イリーツァは魔杖を床に突き立てた。
「天に星、奈落に九泉、間の坤は頭を垂れよ――坤号自在・天支玄壌」
静かな詠唱に応じるように、床が震え、わずかに波打ち、――割れた。
床より下に在った大地が、複数の杭となって少女たちを貫いたのだ。
『――ッ、か』
『アァ――』
その全てが、正確に敵の骨盤を穿っている。
吸血鬼の再生力をもってすれば、それは致命の一撃ではない。しかし、骨の集中する部位を貫いた先端は、確実に肉を固定して離さない。猟兵たちの身の丈よりも更に高く、串刺しの少女が掲げられる。
「安心しろ、これで殺すつもりはない。……あとはアルバートの仕事だからな」
――上空のアルバートから見降ろせば、それはまるで天空におわす神へと捧げられた生贄のようだった。
「天の怒槌を受けるがいい……!」
雷雲の中で翼を広げ、高らかに叫ぶ。
しかし、彼は鳥にすぎないし、少女たちの役割もそんな高尚なものではない。
――雷鳴が轟き、立ち並ぶ『避雷針』を一瞬で焼き尽くす。
雲が失せる。
脂の焼ける煙だけが渦を巻く。
その光景は、天と呼ぶよりも――。
「……おつかれ、ナイスアシスト!」
「うむ」
イリーツァの目前に降り立って、アルバートは明るく笑ってみせた。
大成功
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風見・ケイ
ア〇連〇
・対集団UCが得意な【荊】に人格を切り替えている
ひ、ひぃ……こないな荒事はボクやなくて螢ちゃんにやらせてや!
慧ちゃんって集団相手やとすぐボクを呼ぶんやもん。
そりゃ、ボクもこんな悪趣味なやつは嫌いやけどさ……。
うっぷ……なんや綺麗やけど、おぞましいにおい、こんなん嗅いでたくないわぁ。
敵の攻撃はトンファーで受けるか掴み取るか(【グラップル】)、できたらええなあ……痛いやろなあ。
飛び込んで、味方に声かけて、半径20mに味方がおらへんことを確認したら、絶対溶融圏を【2回攻撃】。溶けてまうから生きてても【鎧砕き】の効果があるかもしれへんな。
まだ生きてたら?
……後は皆さんよろしゅうたのんます!
●女には向かない職業
戦場を通り越して屠殺場と化した客席を、一人の女がうろうろと彷徨っていた。
男装の長身、切れ長の青い目。……その容姿にそぐわない気弱そうな表情で、おずおずと段を降りていく。
――なにか軽いものが足に当たった。恐る恐る、足元を見てみれば、
『あら、墓場用の骨』
「ひ、ひぃ……!」
『そこに落としてたのね。貴女が見つけてくれたの?』
少女が突然話しかけてきてとても怖かったので、とりあえず手首を捻って投げ飛ばした。
「こないな荒事はボクやなくて『螢』ちゃんにやらせてや! 『慧』ちゃんって、集団相手やとすぐボクを呼ぶんやもん……!」
――今は『荊』である女は、風見・ケイ(K・f14457)としての肉体を共有する同居人たちに涙目で毒吐く。
「うっぷ……。なんや綺麗やけど、おぞましいにおい、こんなん嗅いでたくないわぁ」
そりゃあ、自分だって、死体を飾りにしようなんて悪趣味なやつは嫌いだ。……転がってるやつが動いて怖かったので頸椎を踏み折った。
関わり合いにはなりたくないけれど、世界からご退場も願いたい。……なんだか後ろに立っていて怖かったので下腹部あたりに肘を入れた。
でも、それを成すのは他の子たちでいいのではないか。気弱な自分に、絶対にこんな仕事は向いていない。『荊』はそう確信しつつ、飛来した漆黒の槍をトンファーバトンで受けた。
「痛いぃ! 痛いて! あぁあもう埒があかんよお……」
衝撃が骨に響いて、手首がじんじんする。痛みを必死に堪えて、掴み取った槍を少女の眼窩へ押し込んでおく。
「……危ないけども、一気にやらなあかんかなぁ」
気がつけば、なぜか周囲は死体だらけであった。
「皆さん、――ボクから離れてぇ!」
全力で叫んで、周囲を確認。半径20mに味方なし。
涙が、冷や汗が、……それでは説明できない量の透明な体液が、『荊』の肌を滴り落ちる。
――これこそが彼女の『絶対溶融圏』。
全てを融かし尽くす毒液が、座席の間を縫って劇場へ拡がっていく。
『な――』
『――ッ、熱……!!』
転がっている少女たちは一見すべて死体に見えたが、その血肉を啜るものが相当数混ざっていたようだ。
――生と死の区別なく、肉という肉が融け崩れ、液体じみた動きでぼとぼとと段を滑り落ちていく。
「生きとらん……よな?」
胎盤のように広がった桃色の肉煎餅を、『荊』は爪先でつついてみた。
……気のせいか、かすかに身震いしたような。
「っひいぃ!」
再びの涙と冷や汗、再びの毒液。
これでさすがに死んだろうか。やっぱり不安。
「皆さん! 皆さーん! ……後はよろしゅうたのんます!」
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。楽しみにしているところ悪いけど、演目変更よ。
三流の役者と脚本家には舞台を任せられないもの…。
“葬送の耳飾り”と第六感を頼りに目立たない魂の存在感を見切り、
魔力を溜めた両目で暗視した犠牲者の残像と心中で手を繋ぎ【断末魔の瞳】を発動
…私は声無き魂の声を聞き届ける者よ。
貴方達に復讐の機会を与えてあげる。
死者の精神汚染(誘惑)を呪詛耐性で耐え敵の纏う怨念を取り込み、
敵の攻撃は呪詛のオーラで防御し生命力を吸収するカウンターを行う
怪力の踏み込みからダッシュで接近し、
大鎌をなぎ払う闇属性の2回攻撃で仕留める。
…死んでいった人が必死で守ろうとした想いを、嗤わせなどしない。
…報いを受けなさい、吸血鬼。
●再演
「……ん。楽しみにしているところ悪いけど、演目変更よ」
血肉で汚れた劇場に、一際映える純白の少女――リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、客席の片隅に佇んでいた。
「三流の役者と脚本家には、舞台を任せられないもの……」
淡く輝くその両瞳は、敵である少女たちを見ていない。
この街の物語を最も知るのは誰か。
歴史を演じる権利を持つのは何者か。
――私には聴こえている。
――私には、それが視える。
劇場は、死者の嘆きで満ちていた。
ここ数年で済まされる量ではない。前の領主、そのまた前の領主、古の時代からの怨嗟の声が、身に着けた“葬送の耳飾り”を通してリーヴァルディに聴こえてくる。
目を細めれば、遠い昔の光景が視えた。吹きさらしの荒野、一面の夜空、立ち並ぶ十字架。ここに、悪趣味な劇場が建てられる前――。
「……墓場を、潰したのね。吸血鬼が、……道楽の為に」
二重三重に虐げられた死霊達の嘆きはあまりにも深い。……耐性を持たない者であれば、その残像を直視するだけで気がふれてしまうだろう。
リーヴァルディは、心の中で彼らと手を繋ぐ。強くそうイメージする。
止めるのではなく、流されるのでもなく。まわる。まわる。まわる。行き場のない憎しみが方向を持って、ひとつの円となるように――。
――私は声無き魂の声を聞き届ける者よ。
――貴方達に復讐の機会を与えてあげる。
代行者の羈束・断末魔の瞳(レムナント・ゴーストイグニッション)。
その左眼の聖痕が、誰かの憎悪で輝いた。
『何を突っ立っているのかしらぁ――』
「……そう、見える?」
リーヴァルディは振り返り、瞳に敵の姿を捉えた。
軽く踏み込めば、小柄な体はどこまでも跳ぶ。この瞳をくぐった死霊たちが、常ならざる速度を与えてくれる。
一瞬で距離を詰め、大鎌『過去を刻むもの』をまず一閃。
『っ、何……!?』
……初撃は槍で受けられたものの、敵の顔は焦燥に歪んでいた。
おそらく、急速に力が失せていく感覚を味わっていることだろう。……黒い少女が身に纏っていた死者の怨嗟が、もっと相応しい主を見つけ、リーヴァルディの方へと流れ込んでいく。
その瞳が輝きを増し、憎き敵を睨みつける。
今すぐにでもこの顔面を砕きたい。
喉から拡げてふたつに割いて、腹わたを心行くまで踏みにじりたい。
――この感情は、リーヴァルディ本人のものではない。力を貸してくれる死霊たちが、それと同時にささやく黒い誘惑だ。
否定はしないが、支配もされてはならない。冷静に敵を狩ることが、彼らの復讐のためにもなるのだから。
荒れ狂う怒りも苦しみも、私が御すれば敗けはしない。
……死んでいった人が必死で守ろうとした想いを、嗤わせなどしない。
「――報いを受けなさい、吸血鬼」
再びの一閃が、少女の首を正確に刎ね飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
剣堂・御空
意味が分かると怖い喜劇だな。
こんな劇のキャストにされたら俺は男なのに女の子役をやらされてただろうな…。怖い怖い。ってあまり今と変わらないな。
さて、この服のセンスが俺好みな娘達を懲らしめようか。さすがにこいつらは良くない嘘で民衆を困らせてるからな。思い切り戦っていいし吹き飛ばすか。
「悪いけど、お前達の劇は終わりだ。後は俺に倒される役を演じるんだな。俺の名前は剣堂御空。自称、色彩の光だ!」
こういってグラフィティスプラッシュを使う。当たればもちろんダメージになるし、当たらなくても塗料によって劇の雰囲気を変えることが出来るはず。この二段構えの作戦な上手く行くだろ。
※ダメージ描写はお任せします。
●喜劇に紅は似合わない
「しかし、意味が分かると怖い喜劇だな」
剣堂・御空(ダンピールの黒騎士・f17701)は、劇場の二階席から戦場を見渡していた。
グリモアベースでこの話が耳に入ったときには何事かと思ったが、種を明かせばなんとも吸血鬼らしい悪趣味さ。
スラップスティックな喜劇に見えて、その実は嘘と猥雑で英雄を貶め、人々の希望を砕く公開処刑ときた。
……もし、そんなものに自分が巻き込まれたら。
御空にとって、それは恐ろしい想像だった。
十中八九、やらされるのは酒場の娘の役だろう。いくら自分は男だとわめいても、もっと綺麗な服がよいと訴えても、拷問吏が虜囚の言葉を聞き届けるはずもない。
「怖い怖い……」
心なしか、あまり今と変わらないような?
「……そこは考えないでおく。とりあえず、今はこの服のセンスが俺好みな娘達を懲らしめようか」
御空とて、高みの見物のつもりでこの位置を取ったわけではない。
彼の今回の『ブキ』にとっては――この高さこそが最大のプラスとなるのだ。
……さて。
聞いた話では、この戦いが終わればここで楽しい劇をやる予定のはずなのだが――。
戦闘が佳境を超えた今、劇場を埋め尽くすのは、血、骨、死体、ときどき灰。
「流石にひどいよな」
元の敵からして悪趣味なので、それに対応した猟兵たちを責めることはできまい。
とは言っても、さすがにこの現状はどうにかしなければ。このまま何か上演しようものなら、あまりにレベルの高い喜劇になってしまう。
御空はしばし考える。……この陰鬱さを一気に塗り替えるとしたら、何色がいいだろう?
白か。黄色か。水色か。
「――いーや。ここはあえてのピンクだな!」
ペイントブキのひと振りが、空気を一瞬で塗り替えた。
高所から撒き散らされた塗料は、座席を、舞台を、あらゆる地形を広範囲に染め上げていく。
『な……なんてこと!』
『センス悪すぎるわ!』
「確かにピンクは難しいが、お前達のセンスよりずっとマシだ」
無論、オブリビオンに当たればダメージを与える塗料なのだが、……黒い少女たちにとっては、その鮮烈な色彩が一番の衝撃であったらしい。
少なくとも、悪趣味な劇は完全に台無しのはず。敵を倒して雰囲気も変える。二段構えの完璧な作戦だ。
「悪いけど、お前達の劇は終わりだ。後は俺に倒される役を演じるんだな」
パステルカラーのインクを再充填。
よくない嘘で民衆を困らせる連中は、思いっきり吹き飛ばさなければ。
「俺の名前は剣堂御空。――自称、色彩の光だ!」
成功
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ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と同行
時と共に『歴史』は書き換えられ、『嘘が史実となる』か。
なるほど、この領主、少しは頭が回るようだ。
だが貴様らオブリビオンが過去から蘇るように、『真実』もまた消えることはない。
くだらぬ三文芝居は、これで終わりにしてくれよう。
敵の攻撃は「野生の勘」「見切り」で察知し、急所への直撃を回避。
ヘルガや仲間が攻撃を受けそうになったら「かばう」。
攻撃を受けたら「激痛耐性」「気合い」「覚悟」で耐えつつ、傷口から【ブレイズフレイム】を放ち「カウンター」。
更に炎の「属性攻撃」で火力を増しダメ押し。
貴様らが食らった俺の血肉は、紅蓮の業火となって罪を焼き尽くす。
地獄の炎に焼かれて消えろ…!
ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と共に
歌や芸術は人の心を豊かにするもの。
人を恐怖で支配するための道具にされることなど、あってはなりません。
しかもかつての英雄を嘘で貶め辱めるばかりか、その忘れ形見の幼子にまで咎が及ぶなんて、なんてむごいことを……!
わたくしも歌を生業とする者。歌姫としての矜持が許しません。
囚われた人々を救い、領主の欺瞞を砕きましょう!
ヴォルフや仲間が傷を受けたら「祈り」と「優しさ」を込め【生まれながらの光】で回復。
同胞だけを癒す技ならば、敵に盗まれることもないでしょう。
仮にこの技を盗まれたとしても、ヴォルフたちはきっと『それ以上』の力で悪を打ち破ってくれる。
わたくしはそう信じています。
●真実のありか
客席での戦闘を終えて、猟兵たちは舞台へとのぼる。
この奥に『控え室』への通路がある。つまり、脚本家気取りの領主の居室への道だ。
――立ちはだかる黒い少女は、最後の一体だった。
『ここは通さない……なんて、言っておくべき?』
最後の砦を守る悲愴感……のようなものは、特に感じられない。骸の海からいくらでも湧き出る黒い薔薇の娘たち。与えられた役を演じただけの彼女に、決意も使命もありはしないのだろう。
猟兵たちの中から、一人の女が歩み出た。
その唇に、小さな歌を乗せながら。
雪のように白い髪、割って咲くような蒼い花。それはオラトリオとして選ばれた証。――ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は、舞台の中心で最後の敵と対峙する。
『なあにそれ、当てつけかしら。あーあ、ここで歌うのはあたしたちのはずだったのにねえ』
黒い少女が書物を開く。……しかし、その頁にはひとつの文字も浮かばない。
ヘルガの歌は、癒しの聖歌。これまでの戦いで傷ついた仲間たちを癒す歌だ。最初から少女の方を向いていない。ゆえに、写しとることは不可能だ。
……それは、攻撃能力がないということでもある。
ならばひと噛みで血を啜ってしまえばいいではないか。そう思い至った黒い少女がわずかに身を沈めた、その時。
「ヘルガ。あまり前に出ると危険だ」
大柄な騎士、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)が、ヘルガをかばうように進み出た。
「あ……御免なさい、ヴォルフ。少し気が急いてしまって」
「いや。謝らなくていい。……お前が怒るのも、わかる」
「……はい」
護ってくれる人の存在をすぐ隣に感じていれば、この意思はもっと強くなる。かたわらに騎士を伴って、ヘルガは改めて黒い少女を見据えた。
――ただ斬って捨てるのではなく、己の決意と使命を告げるために。
「歌や芸術は人の心を豊かにするもの。人を恐怖で支配するための道具にされることなど、あってはなりません」
ヘルガもまた、歌を生業とする者だ。歌姫としての矜持がそれを許せるはずもない。
「しかも……かつての英雄を嘘で貶め辱めるばかりか、その忘れ形見の幼子にまで咎が及ぶなんて……!」
『あら』
ヘルガの剣幕を見て、少女は意外そうに小首を傾げる。
『貴女、あの子供を救うつもりなの?』
「……え?」
もちろん救うつもりだが、オブリビオンがそんなことを聞き返してくる意図が理解できない。
ひどく嫌な予感が、背筋を撫でる。
「どういう意味です……!」
一歩を踏んで詰め寄ろうとするヘルガを、ヴォルフガングは片手で制す。
彼の持つ、野生の勘とでも言うべきものが危険を告げている。――敵に、これ以上のお喋りをするつもりはないようだ。
黒い少女が跳ね、踊る。これが最後のダンスだと、彼女自身も理解している。
狙いはもちろん歌姫様。
――そうすれば、騎士の動きが読める。本当の狙いは、血の気の多そうな男の首筋。
牙を肉に突き立てて、その血肉を――。
「ッ、く」
ヴォルフガングは、すんでのところで急所を避けた。……少女が噛みついたのは首ではなく、その位置をかばう左腕。
しかし、血が啜れればそれで良い。手首の肉をチェインメイルごと噛みちぎり、飲み下す。新鮮な血が少女の喉を、全身を巡り――。
「かかったな」
『ッ!?』
えぐれた手首の傷口から、少女の腹へ落ちた肉片から、紅蓮の業火が燃え上がった。
精悍な顔を激痛に歪めて、ヴォルフガングは敵を睨みつける。呪われた血を炎に変えて、全力のブレイズフレイムを注ぎこむ。
なんとしても、愛しい女を護る。その覚悟を胸に抱いて――。
「地獄の炎に焼かれて消えろ……!」
燃え尽きる寸前、少女は戸惑いに揺れるヘルガの瞳を見て、かすかに笑う。
『傑作に、なるわ』
……ひどく不吉な言葉を残して、敵は灰へと還っていった。
――時と共に『歴史』は書き換えられ、『嘘が史実となる』か。
ヘルガの腕に抱かれ、歌が負傷を癒していくのを感じながら、ヴォルフガングは目を伏せる。
「……この領主、少しは頭が回るようだ」
ヘルガと出会う前、彼女より長く歩いた世界の中、似たような企てをいくらか見てきたのだろう。彼はよく知っている――歌や芸術が悪意の手段となることは、実はそう珍しくもないのだと。
だからこそ、『かくあるべき』を信じる彼女が眩しいのだ。
護らなければならないのだ。
この世界は残酷で、幾重もの嘘で塗り固められている。
だが、オブリビオンが過去から蘇るように、『真実』もまた消えることはない。
ヘルガの語る理想の輝きも、揺るがない。
「くだらぬ三文芝居は、これで終わりにしてくれよう」
「ええ」
癒しの歌を一曲終えて、ヘルガが頷く。……この道の先に、どんな筋書きが待ち受けているのだとしても。
「ヴォルフは、皆さんは、きっとそれ以上の力で悪を打ち破ってくれる」
――囚われた人々を救い、領主の欺瞞を砕いてくれる。
「わたくしは、そう、信じています」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『災禍の操り手マルタメリエ』
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POW : 異神臨繰・結末ハ神ノ手ニ(デウスエクスマキナ)
対象の攻撃を軽減する【姿なき異端の神に操られるからくり人形】に変身しつつ、【敵さえ操りかける呪詛の声】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 『嫉妬は泉の如く』……ほら、敵がでたわよ……?
【扇動された民衆の増援】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 『憎悪は焔のように』…悔しいよね!?憎いよね!?
【弱者の怒りをはやし立てる声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠マックス・アーキボルト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●幕間
人間たちが憎い。
私を造った人間たちが憎い。
私を捨てた人間たちが憎い。
みんなみんな憎いから――殺すだけなんてつまらない。
●アドリブは柔軟に
そこは、控え室とは名ばかりの玉座の間であった。
並べ置かれた金銀財宝と、床に染み付いた大量の血。人間にとっては奇妙な取り合わせだが、この部屋の主にとってはどちらも等しく装飾なのだろう。
「来たのね猟兵ども。私の喜劇をぶち壊しに」
吸血鬼のおわすべき玉座には、古ぼけた人形がひとつだけ。少女を象ったちっぽけな体躯は、力ある支配者のイメージとは程遠い。
――これが、民の前に姿を見せず、闇に隠れて策を弄する、この街の『領主』の正体か。
「まあ、いいわ。……だってこの方が面白いもの!」
意思を持つからくり人形が叫ぶと、まるで玉座を護るように、人々が猟兵の前に立ちはだかった。
「元はと言えば、あいつのせいだ」
若い男が恨めしげに嘆く。
「あいつが余計なことをしたから、俺たちまでこんな目に!」
「静かに暮らしたいだけなのに」
「あの考えなしの男のせいで」
殺せやすまいと言わんばかりに、初老の夫婦が両手を広げる。
「貴方たちも同じでしょう! 自分が強いからって英雄気取りで!」
気の強そうな女が、猟兵たちに向けて金切り声を上げる。
「そうよ!」
「そうだわ!」
取り巻きらしき小娘たちが唱和する。
……『反抗的』だったはずの市民たちは、英雄に対する怒りと呪いの言葉を並べながら、猟兵たちに武器を向けた。
とても正気とは言い難いが、彼らの目には確かな意識の光がある。
彼らは今、体を操られているわけではない。魂を縛られているわけでもない。
ただ拷問によって心を折られ、思考を塗りつぶされているのだ。……自らの意思でその結論に至ったのだと錯覚するほど、念入りに。
「もとから気性が荒い連中だもの、憎悪の対象を『正してあげる』のなんて簡単だったわ。――私が『領主』、マルタメリエ。牙や翼がなくたって、人間たちの弱さが私の武器よ」
領主を名乗る悪辣な扇動者は、愉快そうに肘掛けを叩く。
「どう? 貴方たちが必死に助けに来た相手がこのザマよ。最高の喜劇だと思わない!? そう思うでしょ、『リチャード』」
……『リチャード』と呼ばれた、その人の忘れ形見である少年もまた、小さな領主の足元に跪いていた。
マルタメリエは、少年の頭を撫でてやる。まるで、野良猫に気まぐれにそうするように。
「ねえ。一人ぼっちで寂しかったでしょ?」
人形は微笑う。
「自分を置いて勝手に死んだ男のこと、ずっとずっと憎かったでしょ?」
人形は媚笑う。
「周りがどんなに誉めそやしても、貴方は孤独だったでしょ?」
人形は嘲笑う。
……その言葉はおそらく、いくらかの真実を含んでいて、だからこそ弱者を狂わせる毒となる。
「私は貴方の気持ちわかってあげる。貴方に役を与えてあげるわ。『リチャード』、――私のために戦って?」
「はい、領主様」
少年は立ち上がり、身の丈に合わない曲剣を掲げた。
まだ幼さの残る瞳は、危ういほどに澄んでいる。
「父さんなんか、大っ嫌いだ」
風見・ケイ
(荊がギブアップ宣言して螢にチェンジ)
良い趣味してやがるな。
傀儡師気取りの操り人形め、反吐が出る。
オマエみたいなタイプは、大嫌いだよ。
……嫌なことを思い出させやがって。
今は何言っても無駄だろうが……。
『リチャード』、後で思い出してみろ。家族との時間を。
オマエはいつから『リチャード』が大っ嫌いなんだ?
喜劇はここまでだ。
ここからは、木偶人形とっての悲劇の幕開けだ。
そういや、古い人形は焚き上げるもんだったな?
説得している余裕はないだろう。
ならば民衆には触れないし、触れさせもしない。
全て躱し、ふんぞり返ってる木偶人形に直接地獄の炎を乗せた零距離射撃をブチかましてやる。
万一誤射の恐れがあればブん殴る。
●三文芝居は犬も食わない
『壊しちゃあかん相手とか怖すぎるよお……無理……』
怖いのはオマエだよ、としか返しようのないコメントを残して『荊』は引っ込んでしまった。風見・ケイ(K・f14457)の火力担当、『螢』は、眠っている間の記憶を反芻して眉をひそめる。
「良い趣味してやがるな」
赤い瞳が捉えるのは、傀儡師気取りの操り人形だ。操られる物として造られながら、操る者を名乗るとは。……矛盾している自覚がないのか、それとも屈折した復讐か何かなのか。
――どちらにしても、反吐が出る。
「オマエみたいなタイプは、大嫌いだよ」
マルタメリエの態度が、佇まいが、体の奥の嫌な記憶をくすぐった。言葉を向けられたわけでもないのに、対峙するだけで不快感に胸が騒ぐ。
……これも、既に術中というやつか。
であれば、これ以上考えないほうがいい。
女はただ走る。ひとまず過去を振り切るように。
民衆を避けて。少年を避けて。触れないように、触れさせないように。
「待っ――!」
身の丈に合わない刃に振り回されながら、少年は『螢』の速度に追いすがろうとする。
なるほど、その姿は趣味の悪い喜劇のようにも見えた。……あの領主が、滑稽に見えるように武器を見繕ったのか。
「……なあ、『リチャード』」
今は、何を言っても無駄だろう。
けれど、『螢』は少年の前で一度足を止めた。……それこそが領主の策なのだとしても、無言で通り過ぎることなどできやしなかった。
「後で思い出してみろ。家族との時間を。――オマエはいつから『リチャード』が大っ嫌いなんだ?」
泥を煮詰めたような瞳が、『螢』を睨み返す。
「今のぼくには、何もない……!」
……まるで、こちらの質問への答えになっていない。
しかし、『螢』はその言葉尻を捉えようとはしなかった。説得している余裕はないし、そもそもそれは『螢』の担当ではない。自分が呼び起こされた以上、状況は火力を求めている。
ならばやるべきことはひとつ。
少年を振り切って加速。
狙いは玉座にふんぞり返るお人形。
「――そういや、古い人形は焚き上げるもんだったな?」
その右腕が燃え上がって――いや、最初からそこに右腕など存在しない。肉体を補う炎がほどけ、その本性を露にする。
――地獄の炎の猟犬が、女の身体を喰らい尽くす。
全身が超高熱に覆われて、噴出する光が獣人の姿となって揺れる。もはや輪郭の定まらない右腕で、マルタメリエに銃口を向ける。
誤射の恐れがない距離まで接近して、零距離射撃。
「――――」
痛覚を持たない人形は、悲鳴を上げずに燃え上がる。
玉座から飛び降り、階段を転がり落ちて、赤絨毯に地獄の炎を塗り拡げていく。
「……ッ、まだ、まだよ。私一人燃やしたって、この喜劇は終わらない……!」
「言うじゃねえか。だが、――こっちだって『一人』じゃねえんだよ」
喜劇はここまで。
ここからは――この木偶人形にとっての、悲劇の幕開けだ。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。怒りに身を任せるのは、少しだけ待って。
貴方達の…貴方の声を彼らに伝えてあげて、リチャード。
一般人の殺気を見切り防御主体で行動
“葬送の耳飾り”に魔力を溜め“聞き耳の呪詛”を付与
周囲の第六感に訴えて目立たない魂の存在感を捉え、
【断末魔の瞳】で取り込んだ霊の声が聴こえる状態にする
…私がどれだけ言葉を重ねても、貴方達には届かないでしょう。
…だけど、彼らの声ならどうかしら?
領主への道が開けたらダッシュで接近、
吸血鬼化した自身の生命力も吸収して【血の葬刃】を発動
心中で祈りを捧げ大鎌をなぎ払う闇属性攻撃を行い、
呪いを爆発させる追撃(2回攻撃)で傷口を抉る
…この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに。
カイム・クローバー
英雄…ね。強いから英雄なんじゃねぇよ。信念を最期まで貫けるその生き方が英雄って存在なんじゃねぇか?生憎と俺は英雄なんて存在には程遠い。そんな俺でも出来る事が一つだけ。
この街を下手糞な芝居好き人形の支配から解放する事だ
【SPD】
『英雄』リチャードの子供か。なぁ、父親の事、嫌いか?
会話をしながら【二回攻撃】【属性攻撃】【串刺し】でマルタメリエを狙う。住民を近付けないようにする為に黒銀の炎を刀身に宿して闘う。只の威嚇用だ。隙を見つけてUC。合間を縫うように必殺の突きを見舞うぜ。
お前の親父の生き方は真似出来るモンじゃねぇ。愛する妻を失った、けど、息子まで失いたくなかったんじゃねーかな…ま、勘だけどな
●英雄とそうではない誰か
武器を振り回す民衆に対して、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は防戦に徹していた。
「……ん」
鈍器の一撃を、大鎌の柄で軽くいなす。
相手は所詮、訓練を受けたわけでもない一般人。動きは見切りやすく、弾くだけなら造作もない。
「……怒りに身を任せるのは、少しだけ待って」
「英雄様は余裕だなぁ、おい!」
実際、余裕はある。罵声を浴びせる男を見上げ、表情を観察できるくらいには。……その血走った眼球が、彼が狂うに至るまでの状況を物語っていた。
この民衆も被害者だ。傷付けるわけにはいかないが、防御だけでは埒が明かない。黙考するリーヴァルディの前に、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が進み出た。
「策があるって顔してるな? しばらく俺が引き受けるぜ」
「……助かる。少し、集中する」
小柄な少女をひとまず背にかばって、カイムは民衆に向き直る。
「英雄、……ね」
それも随分な言い草だ、とカイムは思う。
確かに、猟兵である自分たちは『強い』のだろう。目の前の人々よりも、この街の英雄よりも、ずっと。
――けれど。
彼らが称えた『リチャード』は、強いから英雄なのではないだろう。信念を最期まで貫いたその生き方こそが、彼を英雄たらしめている。
「生憎と、俺は英雄なんて存在には程遠い」
苦笑いが出た。
便利屋として器用に生きる自分のことも嫌いではないが、ひとつの愛と正義のために全てを投げうった男と比べられると……少々むず痒いものがある。
そんな自分でも、出来る事が一つだけ。
この街を、下手糞な芝居好き人形の支配から解放する事だ。
カイムが右手を掲げると、黒銀の炎と共に大剣が顕現する。
翼持つ狼が姿を変えた業物、『Marchocias』。大袈裟に一振りしてやれば、闇色の光が尾をひいて輝く。
民衆はざわめき、一歩を退がる。……彼らを傷つけるつもりなど毛頭ないが、こうして道が開けばそれでよし。
――しかし、一人だけ、領主との間に立ち塞がる者がいた。
まだ幼さの残る、剣の似合わない少年だ。
「……『英雄』リチャードの子供、か」
大した勇気だ。きっと父親譲りなのだろう。これで、後ろに庇っているのが可憐なお姫様であれば完璧だったのだが。
魔力生成した数本の剣でマルタメリエを狙うが、どうにも少年の位置が悪い。……威嚇以外のやり方で、どうにか彼を退かせなければ。
「……なぁ、父親の事、嫌いか?」
「当たり前だろ」
少年の瞳に、黒銀の炎が反射して揺れる。
「みんな、ぼくのこと、そうやって呼ぶんだ。ぼくはあいつとは違うのに」
「確かに、お前の親父の生き方は真似出来るモンじゃねぇ」
「……なんにも考えてなかっただけだ。自分が意味もなく死んで、ぼくが、一人でどうなるか……!」
「意味もなく、……ね」
本当に、そうだろうか。
確かに少年の言う通り、『リチャード』は息を潜めて静かに暮らすこともできた。そうしていれば少なくとも、この少年は孤独にならずに済んだのだろう。
……しかし、このダークセイヴァーの暗い空の下で、そんなささやかな安寧がいつまで続いただろうか。
「愛する妻を失った、けど、息子まで失いたくなかったんじゃねーかな」
何かが変わらなければ、いつかは妻と同じことが起こった。父親の身にも、少年の身にも、等しく。
小さな子供の長い未来を保証する希望など、この街にはなかった。
「……ま、勘だけどな」
「じゃあ、やっぱりデタラメじゃないか! 父さんと会ったわけでもないくせに――」
「……ん。だったら――会ってみる?」
リーヴァルディが振り向いた。
その左眼が、耳飾りが、淡く紫に輝いている。場を引き受けてもらった間に、術式を完成させたのだ。
……彼女の『聞き耳の呪詛』の範囲を、周辺一帯、民衆の第六感を対象に広げる。彼女の瞳に取り込まれた死霊たちの声が、人々の耳にも聴こえるように。
自分たちがどれだけ言葉を重ねても、目の前の民衆には、あの少年には届くまい。――けれど、彼らの声ならどうだろうか。
空間に、気配が満ちた。
「え……」
「あ、あなた、は」
「……嘘……」
それは誰かの母親だった。
あるいは誰かの夫だった。
肖像画で見た祖先だった。
鍛冶仕事の師匠だった。
――民衆たちは、次々とその足を止めて、武器を取り落とす。
死者の呪いと憎しみは、リーヴァルディが引き受ける。その奥に残された優しい言葉が、それぞれの相手に伝わるように。
「貴方達の……貴方の声を彼らに伝えてあげて、『リチャード』」
少年もまた、目を見開いた。
多くの声なき声が木霊する中――その耳元で告げられた言葉は、彼自身にしか聞き取れない。
「……やめろっ!」
見えない影を振り払おうと、剣をやたらに振り回す。……重すぎる柄がずるりと滑り、武器は勢いを失って足元に落ちた。
「今さら、今さら謝るな――」
空いた両手で耳を塞いで、千切れるほどに首を振って、年相応の子供のようにうずくまる。
……受け入れるには時間がかかりそうだが、確かに、声は届けられた。
今は、それでいい。
「あーあ。……心変わりの忙しい連中よねえ?」
憎らしげに悪態を吐いてみせる、あの領主への道が開けたのだから。
二人は駆ける。膝を折る民衆の合間を縫って、敵のもとへと一直線に。
「――痺れさせてやるぜ?」
カイムの全身が紫色の雷光を纏う。
「紫雷の一撃(ソニックブロウ)、受け取りな!」
「ちッ」
目にも止まらぬ大剣の刺突を、マルタメリエは右腕で受ける。肘が砕けて、糸が切れたように下腕が落ちる。
「限定解放、血の葬刃(リミテッド・ブラッドブレード)。――この一撃を手向けとする」
死霊たちの闇、そしてリーヴァルディ自身の吸血鬼としての生命力が、大鎌を中心に結晶化していく。
――祈りをこめて、一閃。
マルタメリエもただでは退かない。今度は空いた左腕で、薙ぎ払う刃を受ける。
一瞬、止めたかに見えた。しかし、陶器製の白い肌に、無数の亀裂が広がっていき――
「眠りなさい。安らかに」
リーヴァルディの言葉と共に、注ぎこまれた呪いが爆ぜる。
両腕を落とされながら、人形は歪んだ笑みを崩さない。それ以外の表情を持たないのかもしれない。
「……まだ寝るには早いわよ。劇はこれからなんだから」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
安喰・八束
……ああ、嫌だねぇ。
芯の芯まで心底腐れた、茶番劇だ。
応、俺達はお前等より強い。
だから、俺達はこの御人形を叩ッ壊す。
お前達はそこで手出しせんで、見てりゃあ良いんだ。
英雄の勝利、って奴を特等席で見せてやるよ。
坊主。
だから、その物騒なモンは捨てちまえ。
それともお前等、舞台に相乗りするか?
何、強い方に靡くのは初めてでは無かろう?
……なんてなぁ。期待はせんよ。
民衆の武器を撃ち落とす(武器落とし)
狙撃は得手だ(スナイパー)
民衆が此方に突っ込んで、領主が孤立する瞬間が出来たら
真の姿・黒狼に変じ
肉薄して【人狼咆哮】
巻き込む奴は少ない方が、心が傷まん
●人情劇は子供にゃ早い
――民衆の手元に狙いを定めては、正確に武器を撃ち落とす。
死なない程度に男たちを蹴り転がして、安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は深く溜め息を吐いた。……獲物がこれでは、”古女房”もこの狩りを楽しめてはいないだろう。
「……ああ、嫌だねぇ」
彼自身、護るべき民衆に石を投げられた経験は少なくない。それ自体は仕方があるまいと八束は思う。
しかし、その石を投げる心すら、権力者にねじ曲げられた結果だとは。……いくらなんでも、虚しさがすぎる。
――芯の芯まで心底腐れた、茶番劇だ。
「余所者、が。領主様に逆らいやがって」
足元の男が、肺を絞るような声で呻いた。
「お前は強いから、いいんだろうがなぁ」
「応、俺達はお前等より強い。だから、俺達はこの御人形を叩ッ壊す」
……彼らが考えなしで突っ込んできたおかげで、領主は徐々に孤立しつつある。
攻めるなら今。
その意思だけ言い置いて、八束は振り返らず歩む。戦場で恨み言を吐くものではないし、耳を貸すものでもない。
「お前達はそこで手出しせんで、見てりゃあ良いんだ。――それともお前等、舞台に相乗りするか?」
――強い方に靡くのは、初めてではないだろう。
そういう含みで問いかければ、民衆は視線を泳がせるばかりだった。はなから期待もしていないが。
八束は進む。
この場で唯一、今、言葉を必要としているもののところへと。
――少年は膝を折ったまま、床に落とした武器を眺めていた。
八束はその肩を軽く叩いて、後ろ頭に手指を当ててやる。混ぜるように、ゆっくりと。
「……とうさ、」
自分の口から零れた言葉に、少年ははっと息を呑む。
そんな彼に、優しく笑いかけてやる。……こうも低い頭を撫でるのは、はたして何年ぶりだろうか。
「英雄の勝利、って奴を特等席で見せてやるよ。坊主」
「…………」
「だから、その物騒なモンは捨てちまえ」
「ぼくは、……ぼくは」
少年は、落とした武器を拾えなかった。拾えるはずもなかった。一度誰かに重ねた男に、刃など向けられやしない。
ただ、ふらふらと立ち上がって、……傷だらけのマルタメリエの前で、小さな両手を広げてみせる。
「それでも、……領主様は、ぼくの話を聞いてくれたんだ」
「――そうかい」
八束は一瞬、言葉に詰まる。
……人は時として、本当の助けより先に、ぬるい相槌を求めるものだ。
酒の席ならそれでいい。そうして生まれる縁だってある。
しかし、こればかりは錯覚だ。そうした心の弱さを承知の上で、化物が少年を誑かしたにすぎないのだから。
「坊主、お前のそれはなあ」
八束が慎重に言葉を選ぼうとした、その時だ。
「つまんないことするのねえ!」
――当のマルタメリエが、少年の背中を蹴り飛ばした。
庇っていたはずの相手からの不意の一撃。少年は力が入らずによろけ、そのまま横へと転がされる。
「りょうしゅ、さ」
「貴方が生きて苦しまなきゃ、『これ』は喜劇にならないの! もういいわ、そこで見てなさい」
癇癪がちに叫び、マルタメリエは少年を一瞥した。
――玩具に興味を無くした子供のような、冷たい目だった。
「人情劇って趣味じゃないわ……。まったく、興醒め」
「ああ、御人形さんが解りやすい手合いで助かった」
壮年の男の姿は、見る間に黒き狼に変じていく。
人を嘲り、人を拒んだ御人形の周りには――今、誰もいない。
巻き込む心配もなければ、心を傷めることもない。
「あァ――――」
狼が、咆える。
大気が震えて、風が痺れて、圧を持った音が人形を打ち据えて――形ばかりの玉座へと叩きつける。
……そんなに人が嫌いなら、そこに一人で居れば良い。
成功
🔵🔵🔴
剣堂・御空
【POW】
この領主だけ倒そう。
仲間とか数が武器って言うなら、真っ向勝負するのが一番やりやすい気がするな。声や頭では勝てなくても力で勝てばチャンスはあるだろ
俺の攻撃は断罪者の刻印(エリミネイト・サイン)だ。これはターゲットに×印のマーキングをすることでその対象を断ち切る斬撃を放つユーベルコード。マーキングした奴だけ攻撃するものだから、周りの被害は気にしなくていいだろう。
相手は劇の支配者だし、頭は回るな。だけど領主様は劇をする上で忘れちゃってる事がある。劇はみんなでやるもの、みんなを悲しませる配役ではより良い劇は出来ないんだよ。
「俺が劇で女役をやるなら、気分が乗った時だけにやりたいんだよ。」
●葬送は黒と決まっている
「よし。この領主だけ倒そう」
剣堂・御空(ダンピールの黒騎士・f17701)の作戦はシンプルであった。……相手が数を武器とするなら、真っ向勝負が一番やりやすい。
正直にいって、人と比べて頭が回るタイプではない自覚はある。会話の先を予測するのも苦手だし、多くの人々を説得する技術も特にない。
そんな御空に勝機があるとすれば力であり、――彼にとっての力とは、つまり、色彩だ。
今回は、色選びには悩まない。
「――お前には、黒以外ないな」
スプレー状のペイントブキを構えて、ストロークをふたつ。
血塗られた玉座の間の装飾を、一度塗りつぶすような夜闇の黒。……塗料はあたり一帯に吹きつけられるが、民衆には害を為さない。
ただ、ふたつの線が交わる位置――マルタメリエのドレスにのみ、塗料は意味を成す図形を描く。
……『標的』を示す、大きなバツ印を。
「…………。何の真似よ、これ」
「俺の攻撃、断罪者の刻印(エリミネイト・サイン)だ。解説いるか?」
「いらないけ、ど――ッ!?」
……眉根を寄せたマルタメリエを、不可視の斬撃が襲う。
塗料の線をなぞるように、その胴体が真横に両断される。――玉座にもたれていなければ、そのまま上半身が転がり落ちていただろう。
「これはバツ印をつけた標的だけを狙うんだ。周りの被害も気にしなくてよし。――人の話はちゃんと聞いておけ」
「なるほど、ねえ。見た目のわりに効くじゃない……!」
右腕、左腕、腰から下。四肢のすべてを断ち切られて尚、マルタメリエは歪に笑う。
彼女の身体に痛みはない。
流す血も、吐きだす息もない。
「私の身体は人形よ。――異端の神に見いだされた、意思を持つからくり人形よ。どんなに折れても、砕けても、……糸さえあれば動かせる!」
人形の背後に、渦巻くような邪気が満ちていく。
姿は見えずとも、そこに『居る』。彼女をオブリビオンたらしめ、糸を引いて操る、巨大な何者かが。
『――異神臨繰、結末ハ神ノ手ニ(デウスエクスマキナ)』
マルタメリエは、再び立ち上がった。不可視の糸に、断たれた手足を操られるようにして。
「くそ、あれで動けるのか……」
姿を変えていく敵を見上げて、御空はブキを構え直す。
猟兵たちの攻撃をここまで受けておいての大一番。……この演出を、今の今まで取っておいたのだろう。
なるほど、どんでん返しというやつか。劇の支配者というだけあって、頭は回るようだけれど――
「領主様は、劇をする上で忘れちゃってる事がある」
警戒こそするものの、御空はけして怯まない。異端の神の気配を前にして、真っ直ぐ人形の目を見据えてみせる。
「劇はみんなでやるもの、みんなを悲しませる配役ではより良い劇は出来ないんだよ」
「……はッ、やだやだ」
御空の視線を避けるように、人形は肩をすくめて首を振る。
「――そんなにいい子ちゃんぶりたいなら、いっそお人形でいれば良かったんじゃないの?」
「ッ、な……」
……その言葉は、御空の心の底に爪を立てた。
過去の不満も、反発も、そして、ずっと抱えた僅かな後ろめたささえも。
この硝子玉の眼球に、過去を見通す能力でもあるというのか。――それとも、これが人の心を暴く『呪詛の声』とやらなのか。
「そうじゃあない? せっかく可愛い顔なんだしさあ」
「……いや。違う!」
ここで、声に呑まれるわけにはいかない。
「だって、――それじゃあ俺が楽しくない!」
口に出してみれば、ごく当たり前の答えだった。
……自分を抑えこんでしまえば、『みんな楽しく』にはなりえない。そこには自分も含むのだから。
そんな詭弁で、その場しのぎの呪いの言葉で、操られたりなどするものか。
「俺が劇で女役をやるなら、――気分が乗った時だけにやりたいんだよ」
苦戦
🔵🔴🔴
マイ・ノーナ
連携・アドリブ歓迎
……言いたいことは特にない。
*目立たない様戦闘に乗じて玉座に近づく
民衆の、特に人形の周りに固まってる集団に向けてUC発動
…命は盗らない。動けなくなればそれでいい
もしまだ攻撃してくる奴がいる様ならダガーでそのまま*先制攻撃して武器を*盗み攻撃
間を開けず人形に*呪詛耐性*早業で間合いを詰め
奪った武器で*怪力攻撃
弱くても、強くても、
奪われたものを取り返すには
……自分でやるしかないのよ。
『手本』が必要なら、見ていて。
こうやるの。(救助活動)
コノハ・タツガミ
アドリブ・連携、歓迎だよ
【WIZ】
父親嫌いの少年かい、気が会うね。私も父親が嫌いでね
だけど、と。【指定UC】を使い口元をゆがめる。"真実はどうであれ"、そんなものに引っ張られて道を誤るのは間違いだ思うのさ。
他人に父親がどう思われようと、自分が父親をどう思おうと、お前さんがどう行動するかに本当に意味のあることなのかい?
【扇動された者】をミズチの分霊の【範囲攻撃】で凍らせ足止めをしつつ、戦わせてもらおうかね。本体への攻撃は【宝珠:神の矢】で雷の【全力魔法、属性攻撃、誘導弾、2回攻撃】で行う事にするかね
まったく、少年もそうだけど民衆も主体性が無いのかね。それとも、あんたの操り方が巧いんだろうかね?
●魂は自由であれ
「父親嫌いの少年かい」
小首を傾げれば、長い髪がかすかに揺れる。コノハ・タツガミ(放蕩亜神・f17939)は、動けない少年の前に屈みこんだ。
できるだけ、視線の高さを合わせるようにする。――これから彼に語るのは、『神』としての言葉ではない。
「気が合うね。私も父親が嫌いでね」
「え……?」
少年は目を丸くしてコノハを見上げた。まるで、産まれて初めて鏡を見た子猫のように。
……たった一言で済むその感情を、誰ひとりとも共有できずに過ごしてきたのだろう。
「だって、みんな、父さんのこと……」
「世間なんてそういうものだよ。――お前さんだけが見た醜いものも、きっと沢山あったんだろう」
「あ、ぁ――」
涙が溢れて、ぼろぼろと零れ落ちる。呼吸が喉につかえて、えずくような嗚咽となる。
声を殺して泣き出した少年を、……慰めてやってもよいけれど、それは少々甘やかしすぎというものだ。
「だけど、ね」
口元をゆがめて、コノハは毅然と立ち上がる。
「"真実はどうであれ"、そんなものに引っ張られて道を誤るのは間違いだと思うのさ」
他人に父親がどう思われようと。
自分が父親をどう思おうと。
「――お前さんがどう行動するかにとって、それは本当に意味のあることなのかい?」
コノハは少年に背を向けて、まずは自らの行動を示す。
ここから先は『神』であれ。
――Draco salto glaciei(ドラコ・サルト・グラキ)。
無数のミズチの分霊が、飛沫のように顕現する。
一方。
マイ・ノーナ(偽りの少女・f07400)は、戦闘に乗じてひそかに玉座へ近付いていた。
魔術の織り込まれた外套は、彼女の姿を風景に溶かしてくれる。身を低く、民衆の足元をすり抜けて、静かに距離を詰める。
誰かが誰かへ向けた怒号が、ただ頭上を通り過ぎていく。……どうせ、耳に入れても益のない情報だ。
マルタメリエの玉座は目前、ダガーの射出で狙える位置。
しかし――相手は操り人形。どこかを折れば動きは鈍るが、不可視の何者かに操られるように立ち上がる。……人体の急所を狙う暗殺術では、いささか相性が悪い。
不意討ちの機会は最大限に活かさなければ。何が有効な一打となるか、マイが考えあぐねていると――。
「うわッ――!」
「冷たいっ、つめた――!」
周囲の民衆が、突然、足元から凍り付いていく。
……見たところ、命に別状はないようだ。他の猟兵の足止め策か何かだろうか。
改めて観察すれば、翼の生えた蛇のような妙な生物が飛び回り、民衆の足首に次々と咬みついているのが見てとれる。
「誰だか知らないけど、――好都合」
少々、手伝ってやろう。
――詠唱などは必要ない。
生命強奪(ライフフォーススティール)。それはマイの身体に流れる吸血鬼の力であり、刻み込まれた死霊術の力。
凍り付いて動けない民衆の生命力を、吸い上げるように集めていく。
……もちろん、命は盗らない程度に。
「小娘だ! 小娘がいる……!」
少し術に集中しすぎたか、ひとりの男がマイに目を留めた。……ここから先は、時間との勝負。
即座に改造ダガーを射出、男の持つ槍を弾く。
素早く槍を奪い取り、石突を床に当てて跳躍。
人形の視線がこちらを向くより先に、一気に間合いを詰めて――
「な――ッ」
――ありったけの生命力を注いだ槍は、玉座をも貫通し、人形を磔に縫い留める。
「誰だか知らないけど、――好都合だね」
玉座の高さから振り返ると、悠然と佇む少女の姿が見えた
先程の蛇たちの本体らしき龍を侍らせ、その瞳はじっとこちらを……いや、今や動けない敵を見据えている。
握りしめた宝珠が、蒼い髪飾りが光を増して――
――極大の神の雷が、マルタメリエを、その胸を貫く槍を撃った。
「助かったよ、お疲れさま」
「気が早い」
二人の少女は、短く言葉を交わす。
……その足元で、人々がひとり、ふたり、氷から解放されて身を起こす。
「どうして……どうして、領主様に逆らうの……」
痩せた女が、少女たちを見上げて呻く。
「領主様は、血を吸わないって……。言うことさえ聞いていれば、殺したりしない、って……」
ちらと視線を合わせ、コノハとマイはそれぞれの大きさで溜息を吐く。……その口約束がどんなに恐ろしい意味か、理解もできないのだろうか。
「まったく、少年もそうだけど、……民衆も主体性が無いのかね」
それとも、あの領主の操り方が上手いのか。肩をすくめてみせるコノハに、マイは表情を動かさずに返す。
「主体性なんて、持っている奴のほうが珍しい」
「おや、見てきたように言う。……さては、意外と先輩かな?」
マイは答えず、痩せた女を冷たく見下ろした。
……言いたいことは特にない。
言って聞かせてやったって、はいそうですかと飲み込んでくれやしない。
――けれど。
「弱くても、強くても。奪われたものを取り返すには……自分でやるしかないのよ」
話の通じない相手には、まずは『手本』を見せなければ。
「こうやるの」
小さな体躯で胴を抱えて、マイは女を助け起こす。
……まずはこの愚かな女が、自分の足で立てるように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と共に
わたくしたちが本当に『英雄気取り』とお思いですか?
全てを奪われ、死の恐怖に怯える日々を過ごした事がないと、
己の無力を呪い、絶望に涙したことがないとお思いですか?
この聖痕は、衆世を救う誓いの徴
その怒りも嘆きも苦しみも全て受け入れましょう
我が身を【奇しき薔薇の聖母】に変え
口ずさむは【英雄騎士団の凱歌】
同胞と洗脳された人々を【生まれながらの光】で包む
遍くこの世を癒すが如く
どれほど殴られても、罵られても、決して抵抗せず
「激痛耐性」「覚悟」で耐えぬく
どれほど嘘で塗り固めようとも『真実』は決して消えることはない
ヴォルフ、わたくしは大丈夫です
あなたはあの領主を討ち取って……!
ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と同行
拷問による洗脳か……予想はしていたとはいえ、何という悪辣な真似を……
無辜の人々の安寧のため、哀しき英雄の名誉のために、
貴様の欺瞞、悉く砕いてくれよう!
住民には一切攻撃せず「野生の勘」「見切り」【疾風の青狼】で徹底回避
ただしヘルガが致命傷を負いそうになったら咄嗟に彼女を庇い【無敵城塞】
彼女の力でも洗脳解除が出来なかった住民は「気絶攻撃」
真実から目を背けるな。
お前たちを手酷く痛めつけたのは、あの玉座に居座る薄汚い人形ではなかったか。
憎むべき敵を見失うな!
領主の精神攻撃は「呪詛耐性」で耐え【ブレイズフレイム】【獄狼の軍団】で全力攻撃
最後に処刑台に立つのは貴様だ……!
●呪いでは汚せないもの
民衆は、もはやふたつに割れていた。
……割れている、というのは言い過ぎか。大半はどちらにつくとも決められず、おろおろと周囲を伺っている、というのが正しい。
仮にふたつに分けるとするなら、――武器を捨てたものと、まだ捨てていないものだ。
「大丈夫です。わたくしたちは、けして貴女がたを傷付けません」
手斧を握りしめて震える女たちに、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は静かに語りかける。
「――どうか、信じて」
女たちはお互いの顔を見合わせて、しかし、武器を手放そうとはしなかった。
心は揺れているのだろうし、最早決まっているのかもしれない。……ただ、誰もが『最初の一人』になれずにいる。
……女がひとり、躊躇いがちに尋ねてきた。
「ね、ねえ。本当に……」
「はぁ。……馬鹿よねえ」
――耳障りな高い声が、上から会話を遮った。
体中を砕かれ、玉座に磔にされ、しかしその声色だけは変わらない。
「よーく見なさいよ、随分と身なりのいい聖女じゃない! あんたたちさあ、……そんなお姫様の言うこと、信じるわけ?」
マルタメリエの呪いの声は、弱者の怒りに油を注ぐ。
「……そうよ、そうだわ」
「領主様の言う通りよ……」
女たちは顔を上げ、手斧を握りなおす。
その表情は、揃って、雲が晴れたような笑みだった。目が覚めたとでも言うような。真実に気付いたのだとでも言うような。
「あたしたち、あんな白い服、着たこともない――!」
女たちは一転、ヘルガを睨んでにじり寄る。……細い腕には余る手斧を、やけに軽々しく持ち上げて。
これもまた、呪いの与える力なのか。
ヘルガは動かない。
視線すら外さない。
……その瞳の奥に揺れる感情は、深い悲しみのようであり、かすかな怒りのようでもある。
「――わたくしたちが本当に『英雄気取り』とお思いですか?」
その顔を、純白のベールが覆う。
「全てを奪われ、死の恐怖に怯える日々を過ごした事がないと」
その体を、薔薇の咲き乱れる蔦が包む。
「己の無力を呪い、絶望に涙したことがないとお思いですか?」
そこに立つのは奇しき薔薇の聖母。
「ッ、ああァ!」
「死んで、しまえぇ!」
半狂乱の女たちが、ヘルガを斧の背で殴りつける。……刃の側を向ける覚悟を、彼女たちは持たないようだ。
繰り返し、繰り返し。
殴打の果てにボレロまで紅が滲んでも、ヘルガは抵抗することなく祈りを捧げる。
――この聖痕は、衆世を救う誓いの徴。
その怒りも、嘆きも、苦しみも。
「全て、受け入れましょう」
……この白は、虚飾でもなければ酔狂でもない。遍く、この世を癒すためのもの。
生まれながらの光で猟兵たちと民衆を包み、英雄騎士団の凱歌を口ずさむ。
「無辜の願いと明日のために、共に手をとり立ち向かえ――」
「その大層な歌をッ、止めなさいってのよ……!」
痺れを切らした女が、斧を持ち替えて――。
「――そこまでだ」
間へ割って入ったのは、ヘルガの騎士――ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)であった。……左手甲のルーンが光を放ち、振り下ろされた斧を受け止めている。
「……拷問による洗脳、か」
目の前の女の形相を見て、ヴォルフはその顔を歪める。
これが、あの黒い娘の言っていた傑作の喜劇とやらか。うすうす予想はしていたとはいえ、なんという悪辣な真似だろう。
「『真実』から目を背けるな。……お前たちを手酷く痛めつけたのは、あの玉座に居座る薄汚い人形ではなかったか」
静かに、しかし鋭く、騎士は女たちを一喝する。
「――憎むべき敵を見失うな!」
「あ、……あぁぁ……」
女たちは、次々と手斧を取り落とし――祈るように膝をついた。
「あーあ。せっかくいいところだったのに」
高みの見物を決め込んでいたマルタメリエが、つまらなそうに口を尖らせた。
「ズルいわよねえ。護ってくれる騎士様だなんて」
「――貴様は護られるに値せん。それだけの話だろう」
ふたりは、憎むべき敵を睨みつける。
「ヴォルフ、わたくしは大丈夫です」
ヘルガは、大きな背を押して送り出す。――どれほど嘘で塗り固めようとも、『真実』は決して消えることはない。
「あなたは、あの領主を討ち取って……!」
「任せておけ、ヘルガ」
無辜の人々の安寧のために。
哀しき英雄の名誉のために。
「――貴様の欺瞞、悉く砕いてくれよう!」
ヴォルフの身体を切り裂き、地獄の炎が噴出する。
そして、それだけでは終わらない。――炎は次第に姿を変え、燃えさかる狼犬の軍団となった。
「あいつ、人狼か?」
「……はぐれ者が、偉そうに」
この期に及んで領主側につく民衆が、ヴォルフの姿を見て毒吐いた。
その中心で、マルタメリエがくすくす笑う。彼女自身が言葉を放つまでもない、とでも言うように。
――効くものか。
そんな呪いの言葉など、とうにの昔に聞き飽きた。
ヘルガが示した態度を、騎士たる己も示さねばなるまい。
民衆はけして傷付けず、ひたすらその攻撃を躱すのみ。
獄狼の軍団は、彼らのはるか頭上、宙を駆け抜けて獲物を狙う。
「最後に処刑台に立つのは、貴様だ……!」
磔刑の次は、火刑と相場は決まっている。
――全力の攻撃が、偽りの玉座へ向けて殺到した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
イリーツァ・ウーツェ
引き続き、アルバート(f14129)と共闘する。
基本方針:両者共に殺さない程度になぎ払った後、
アルがUCで周囲全てを高威力で連続攻撃。
此方が味方及び人間のダメージを全て肩代わりする。
【POW】
アルバートが不穏だ。
あいつはDSにくると情緒が不安定になるな。
そういえば、日光に当たらずに居ると気分が沈むとか。
なるほど。帰ったら日光浴でもさせるか。
襲ってくる人間は死なない程度になぎ払う。
骨は折れてもいいだろう。大人しくなる。
雛(子供)は守るものなので抱えておく。
私の血は呪詛に強い。操られはしない。
……アルバートめ。UCを展開する。
(全力魔法+覚悟+呪詛耐性+盾受け)
アルバート・クィリスハール
イル(f14324)と共闘。
方針:基本に準拠
おや、吸血鬼かと思ったら……意外だなあ。
ところで君、ずいぶんと人間が嫌いなんだね。
わかるよ。わかるんだよ。僕も同じだから。
だからこそムカついて仕方ないんだ。
人間に頼らなきゃなんもできねぇ木偶人形が、偉そうに囀ってんじゃねえよ。
ああ、失望したよ。本当にさ。情けないったらない。
だから全部なぎ払ってやる。
範囲内に人間がいるだって? ああそうだね居るね。
それが何か?
……ああ、助けろってことか。
大丈夫だよ。頼れる兄貴分が居るんでね。なんとかしてくれるさ。
さあ――みんな、みんな、くたばってしまえよ!
●この夜は終わらない
「吸血鬼かと思ったら……意外だなあ」
アルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)は、ゆっくりと玉座への階段を上る。
一見、少女への恭しい謁見のように。
しかしその実、――壊れかけの人形に対する、嗜虐的な笑みを浮かべて。
「それで領主が務まるんだ」
「見たこともない癖に、吸血鬼だと思って恐れる。……人間ってそんなものでしょ?」
「そうかもね」
しかし、言われてみれば納得だ。……そもそも、人間を羽虫のように殺せる吸血鬼であれば、人心を操ることにああも執着するはずがない。
力を持たず、姿も見せられない小物だからこそ、この人形は小細工を弄したのだ。
「――ところで君、ずいぶんと人間が嫌いなんだね」
ぼろぼろの玉座のすぐ前に立って、アルバートは死に体の敵の姿を覗き込む。
「わかるよ。わかるんだよ。僕も同じだから」
「……そっちこそ」
マルタメリエの割れた顔面は、――人形本来の無表情だった。
「見ればわかるわよ。あなた、演技が下手すぎるもの」
あの卑屈な笑みも、煽るような声色も、そこにはなかった。
「ねえ。どうして駄目なのか、教えてあげましょうか。あなたの演技はね、演技だから駄目なのよ」
アルバートは理解する。理解してしまう。
これは呪詛の声ではない。
――マルタメリエは今、淡々と、事実を告げている。
喉につかえていた汚泥が、一瞬で濁流のように渦巻いた。
形ばかりの余裕は、いとも簡単に崩れ去る。だって本当は――最初から苛ついて堪らなかったのだ。
この人形を見た時から。
故郷の土を踏んだ時から。
喜劇の朗読を聴いた時から。
……この翼を得たあの時から、ずっと。
呪詛に悪罵で返してやれば、少しは発散ができるかと思ったのに――どうしてこいつは、同類を哀れむような目で『俺』を見る?
「人間に頼らなきゃなんもできねぇ木偶人形が、――偉そうに囀ってんじゃねえよ」
玉座の周囲には、先程『死なない程度に』片付けてやった人間たちがごろごろと転がっている。最後まで、領主の側についていた連中だ。
……無論、そこに忠誠などありやしない。
一度言ったことを取り下げられない臆病者、猟兵はこちらを殺すまいと打算した卑怯者。あるいは、何も考えていない愚か者。
――彼らはみんな、誰かに似ていた。
誰が誰に似ているかなんて、とても決められやしないくらい、今まで見てきた全てに似ていた。
「ああ、失望したよ。本当にさ。情けないったら、ない」
今此処でこの怒りをブチ撒ければ、何もかも全部薙ぎ払えば、少しは呼吸が楽になるだろうか。
うぞうぞと動く人間どもも、それを助け起こそうとする猟兵たちも、……すべてがこの呪詛の対象になる。
それが一体、――どうした? 当たり前だろう。大嫌いなんだから。
もう何も聴こえない。
マルタメリエの囁きも。
民衆たちの煩い悲鳴も。
猟兵たちが止める声も。
「さあ――みんな、みんな、くたばってしまえよ!」
――どんな声であろうと、この失望の底に届くものか。
●太陽は、ここにはない
「……アルバートめ」
イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)の対応は早かった。……兄貴分である彼は、アルバートの不穏な気配にいち早く気付いていた。
日頃は消している身体部位、堅牢で力強い竜翼を、玉座の間を覆うほどに大きく広げ――
「金剛不崩・不死盾(コンゴウフホウ・シナズタテ)。――私が居る限り、あいつの粗相は引き受ける」
詠唱とともに、竜の翼に気が満ちた。
猟兵であるはずのアルバートの魔力が、今やその場のすべてに牙を剥いていた。……オブリビオンにも劣らぬ怨憎と呪詛の波が、大気を震わせて竜翼を打つ。
無傷というわけにはいかないが、骨がしなるたび、皮が裂けるたび、それを上回る再生力が盾としての機能を保つ。
猟兵たちと、動けない民衆。その全てを包む翼は、――逆転して、アルバートひとりを包み込んでいるようにも見える。
「……倒した敵を今度は庇う、か。効率が悪いだけに思えるがな」
民衆のうち少なくはない数が、先程イリーツァが『痛めつけた』相手である。
……動かれては困るし、足骨ぐらいは折った。護るべき齢の雛が眠っているのも見つけたので、そちらは懐に抱えておいたが。
先は攻撃して、今は護る。足して割ればどちらの手間も省けたのでは、などと考えるイリーツァだが、過ぎつつあることを論じても仕方ない。
あの人形のいかなる言葉が、アルバートをここまで短慮にさせるのか。
それがどうにも理解できないのは、竜であるこの身に、呪詛への耐性があるからだろうか。
……思い返せば、このダークセイヴァーに転送されたときから、どことなく情緒が不安定に見えた。
「ああ、そういえば……」
薄い記憶をたどる間に、――黒い嵐は次第に収まっていく。
――アルバートは、玉座のあった場所に立ち尽くしていた。
爪先に転がる物体は、辛うじて頭部のかたちを保ってはいる。
「幕引き、かあ……。つまんない、の」
空っぽの眼窩が、アルバートを捉える。
「でも、いいわ。……最期に、最高の劇が見れたもの」
「人で勝手に満足してんじゃねえよ、この阿婆擦れ……!」
蹴飛ばせば、敵であったものは呆気なく砕け散った。
何度踏みしだいても、それはもはや陶器と木片にすぎなかった。『人形』としての意味付けすら失って、ただ骸の海に溶けていく。
「く、そ」
息を荒げるアルバートの肩を、何者かが叩いた。
……それが誰かは、大体察しがついている。振り返り、何事か吐き出そうとして――。
「日光浴だな」
イリーツァは、真顔でそう言った。
「……え。なにが」
実際に喉から出たのは、仮面とも、汚泥ともつかない乾いた声。
「言っただろう。日光に当たらずに居ると気分が沈むとか」
「えっ。いつ」
「忘れてどうする。自分の言ったことだろう」
……確かに言ったような気がしないではないけれど、それは数月も前の与太話じゃあなかったか。
掌を置かれた肩から、どっと力が抜ける。
怒りも、失望も、臓腑の底で渦巻くすべてが、けして消えたわけではないのに――、
どうにも、吐き出し方を見失ってしまった。
「わかったよ。日光浴だね。……UDCとか?」
……今日のところは、それもいいだろう。
たとえ、この夜が終わらないとしても。
人間たちがすべて、悪趣味な喜劇役者なのだとしても。
この狂った世界を離れれば――太陽のひとつやふたつ、どこかにはあるのだから。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 日常
『猟兵、舞台に立つ(ダークセイヴァー編)』
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POW : 書き割りの設置など、力仕事なら任せとけ。もちろん、出演もする!
SPD : 小道具や衣装の製作など、手先の器用さが求められる仕事なら任せとけ。もちろん、出演もする!
WIZ : 演出や脚本など、センスが必要な役割なら任せとけ。もちろん、出演もする!
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●幕間
嫌い。
嫌い。
こっちを向いて。
●カーテンコールを少年に
平和を取り戻した街は、不思議な『劇団』のうわさで持ち切りだった。
どこからともなく現れ、邪悪な領主を討ち果たした旅の劇団員たち。彼らが劇場を市民の憩いの場として作りなおし、民衆を元気付ける劇を開くのだ、と。
……劇団ではなく猟兵だ、と訂正する必要も特にあるまい。悪くは思われていないようだから。
元々、勇気ある『英雄』を生み、それを称える気風の街だ。支配から解放された人々には、一見、明るい笑顔が戻ったように見える。
――けれど。
「お前も飲めよ!」
陽気な誰かが、俯きがちな青年の背を叩いた。
「領主に屈しないで、そのうえ無事に帰って来たんだ。お前さんだって『リチャード』みたいなもんよ」
「……そう、ですね」
青年は、玉座の間にいた民衆の一人だった。
彼らはただ拷問に耐え、救出され、――英雄と共に戦ったと思われているらしい。
正気に戻った後も、……正気に戻ったからこそ、彼らの顔は浮かなかった。真実を告白すれば楽にはなれるだろうが、一人が口を開けば他全員の名誉も汚してしまう。
青年は、曖昧でぎこちない笑みを浮かべて、静かに人々の輪から外れていく。
――心の傷跡は、消えてはいない。
この街にはもっと希望が必要だ。
だから楽しい劇にしよう。
英雄の物語を語ってもよし。
自分の活躍を伝えてもよし。
街の復興に力を貸すもよし。
客席で静かに、今回の件を振り返るもよし。
そして、――あの少年もまた、今はまだ光のない瞳で、猟兵たちの舞台を見上げている。
アルバート・クィリスハール
兄弟(f14324)と。
……さっきはごめんね。あそこでぶっ放すつもりはなかったんだ。
ついカッとなって……無駄にケガさせたね。本当にごめん。
僕は……彼女と同じなのかな。猟兵のように見えてるだけなんだろうか。
はは、ブレないなあ。うん、そのときは頼むよ。
さーて、と。最後くらい猟兵らしく振る舞わないとね。
(ここから別行動)
そこのおちびさん。そうそう、目の淀んでる君だよ。
お名前は? リチャードじゃないだろ?
僕はアルバート。君の話が聞きたいんだ。
父親が嫌い? 自分を見てくれない周りの人が嫌い?
いいね、実は僕も人間が嫌いなんだ。内緒だよ?
君の嫌いなものを全部教えてくれ。ため込んだ毒を吐き出すといい。
イリーツァ・ウーツェ
アルバート(f14129)と劇を眺めている。
気にしていない。お前が不安定なのは良く知るところだ。
お前はオブリビオンではない。
いざとなれば必ず殺す。だから安心しろ。
(以下、別行動)
劇か。良くわからないな。
竜人の形(真の姿)なら、敵役くらいはこなせるか?
いいぞ、力一杯殴ってきても。痛くも痒くもない。
アルバートが迷惑をかけた分、無様に倒されて退場しよう。
人間は、化け物退治の劇が好きだろう?
私に出来ることなど戦いだけ。他の才などないからな。
安喰・八束
○SPD
これだけなんつうか……濃い面々なんだ。喜劇に大立ち回りから悲恋物、大概の芝居が出来るんじゃねえか。
だから注文つけてくれていいぜ。何が見てぇってな。
押し付けられる芝居は御免だろ、お互いさ。
とは言うが芝居の心得は無い。ついでに派手なことは出来んが、精一杯手伝おう。(援護射撃)
力仕事や手先仕事は得手だからな。
……坊主。名は何つったかね。
俺にもガキがいてな。お前さんより少し小さかったが。
一緒に芝居小屋に行ったことがある。
悪い鬼を少年剣士がやっつける活劇さ。
……そんとき?
ガキには泣かれてなあ。
鬼が怖いってよ。
すまねえな、ただの、昔話だ。
剣堂・御空
リチャードにしても俺たち猟兵にしても一歩踏み出したから掴めたものがあった筈だ。俺はこの街の人に一歩踏み出すことの大切さを教えたい。
となれば、今回使う色は…「白」だ。混ざりけのないこの色からこの街は始まるんだ。
俺は劇として壁を白の塗料で塗りつぶしていく。そして、真ん中にリチャードらしき茶色の男性を書く。
「リチャードは…この街の未来のために一歩踏み出した男だ。そして、俺たちはこの街を取り戻した」
壁の前にペイント道具を用意して民衆に呼び掛ける。
「今日の主役はお前達だ!さぁ、この壁に何を描こうか??」
この街の未来を決めるのは民衆だからな。思いをぶちまけるのがいいと思う。
壁を塗ったのは多目に見てくれよ。
カイム・クローバー
『英雄』リチャードの真実の物語をやる。俺が英雄なんて柄じゃねぇ…その考えは今も変わっちゃいないが、それでも街には支えになるだろう。何よりこんな男が居たって事を忘れないで欲しいモンだ。こんな狂った世界だから尚の事、な。
そうなりゃ、夏報。リチャードの真実を教えてくれ。出来るだけ細かく頼むぜ?英雄役なんざ似合わねぇと思うが、それでも全力でやるぜ。…口調を変えた方が良いか。ゴホン。『例え死ぬと分かっていても、私にはやらねばならんことがある!あの子を…あの子だけは失う訳にはいかないのだ!!』…こんな感じか?
クライマックスは処刑される。『最後まで共に居られなかった父を許せ。息子よ、真っ直ぐに育ってくれ』
風見・ケイ
怪我人を治療して廻ります。
……「人形の扇動だとしても」とお思いなら、それはおかしなことではありませんよ。
あの少年とは……飲み物片手に少しお話したいです。
そういえば名前も知りません。
……教えてもらえるかな。
英雄と迷惑者の話は聴きましたが、
「少年の父」の話を聴かせて欲しいですね。
私は聴き手。
ただ、必要ならある母娘の話を。
色に狂った母に、世界に置き去りにされた少女の話を。
……少女は楔になれなかった。
悲観は複雑です。
遺された者の中で、記憶と感情と疑問が渦巻く。
少しずつでも、言葉や文章として吐き出したほうがいい。
怒りも、哀しみも。間違いなんてないんですよ。
心は、自分だけのもの。どう思っても自由です。
ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と共に
・アドリブ歓迎
街は解放されたけれども、人々の心の傷は未だ根深い……
そうね、出来ることならハッピーエンドを。
未来に救いをもたらす結末がいいわ。
亡くなった『リチャード』の奥様は、きっと最期まで彼のことを愛していたのでしょう。
志半ばにして倒れた彼を慈しみ、その勇気を称えたであろうと。
願わくば、わたくしはその役目を演じたく思います。
ヴォルフたち革命の戦士に救われ、いついかなる時も彼らを信じ支えた女性を。
たとえ欺瞞の闇が世を覆いつくそうとも、
真実は決して消えることはない。
人を愛し慈しみ、幸せを願う心もまた。
愛と真実を後の世に歌い継ぐ、それがわたくしたちの使命なのですから。
ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と共に
・アドリブ歓迎
『英雄を称える気風』か。
ならば奇をてらわず、勧善懲悪の英雄譚がいいだろう。
リチャードの伝記か、それとも猟兵の活躍にするかは皆に合わせるが、最後には正義と真実が悪を滅ぼす内容にしたい。
人は元来弱い生き物だ。
リチャード自身、決して肉体的に「強い」人物ではなかった。
彼を英雄たらしめているのは、巨悪にも屈せず正義を貫くという強い意志だ。
それは俺たち猟兵も変わらない。
此度の勝利は皆で勝ち取ったもの。決して一人では得られなかったものだ。
あの少年は、この舞台を見てくれるだろうか。
今はまだ、心の傷が癒えなくても、
君が父の背を乗り越える時、その意味が分かることだろう。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。次なる演目は皆さま自身の手で紡ぎあげるもの。
『英雄』とは何かを今一度、思い返す即興劇になります…。
…この劇が終わった時、皆さまの中から『英雄』が現れるかもしれません…。
それでは暫しご清聴の程を…。
耳飾りに“聞き耳の呪詛”を再使用した後、
“彼らに想いを託して”と祈りを捧げ【変成の輝き】を発動
【断末魔の瞳】に取り込んだ霊魂を光の残像として舞台に呼び、
彼らの想いを関係者に託し浄化できないか試みる
…弱くても良い、不完全でも良い。
彼らから託された祈りを胸に、どうか生き続けて。
それが望むにせよ、望まざるにせよ。生き残った貴方達の務め。
…それを忘れなければ、人はいつでも『英雄』になれるはずだから…。
マイ・ノーナ
*連携・アドリブ・うっかり出演歓迎
(UC使用判断はマスターさんにお任せします)
やることは済んだ
後は帰るだけ……劇?…ああグリモア猟兵が言っていたな
興味はないけど…これも依頼の内か
人目につく事はしたくない、やるなら裏方
*早業と*念動力、あとはこのランタンでライトの演出にでもまわるか。明るさは保証する。露光調整も可能だ
生憎、念動力は鎖にしか宿ってない
ダガーにランタンを引っかけて使うことにする
鎖に触れていれば念動力の操作範囲内だ
鎖の長さも自由自在だから劇場内はカバーできる
こんな劇(もの)で何が変わるのか解らないけど、依頼だしね。
観届けるくらいはしていこうかな。
……観るだけだからね?(※演技派です)
●事実、真実、ほんとうのこと
――街の中心、とある酒場。
「居た居た。探したぜ」
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、客席に目当ての顔を見つけ、その隣に腰を下ろした。……彼の尋ね人とは、今回の事件を担当していたグリモア猟兵、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)である。
「しまった、飲んでるのバレバレかあ……。で、転送の御用かな?」
「いや、今度の劇の話だ。――俺は、『英雄』リチャードの真実の物語をやる」
あの事件のあと、カイムを含め、猟兵たちは街の人々に何度も頭を下げられた。……単純な感謝として。あるいは、ずっとこの街に居てほしいという意味を込めて。
自分は英雄なんて柄ではない。その考えは今も変わってはいない。
この街に本当に必要なのは、これからもずっと支えになるものだ。
猟兵のような力はなくとも、勇敢な男がこの街に居たということ事を忘れないでほしい。こんな狂った世界だから、尚の事。
「そうなりゃ、夏報。リチャードの真実を教えてくれ。出来るだけ細かく頼むぜ?」
「なるほど、役作りか」
劇を組み上げるにあたって、予知で視た内容を詳しく知っておきたい。それでグリモア猟兵に聞き込み……、というわけだ。
「それじゃ協力しないわけにはいかないな。でも、本当に『出来るだけ』だよ。何もかも全部視たわけじゃないから」
予知を視て、話す。それを聞いて、演じる。その過程でどうしても情報は変化してしまう。
「最終的には、あくまで君の解釈で演じるんだ。その責任は覚えておいて」
「おう。英雄役なんざ似合わねぇと思うが、それでも全力でやるぜ」
「頼もしいな」
ふたりは笑いあい、長い昔話を始める。
●
――劇場前の広場。
「大丈夫、怖くない、怖くない……」
風見・ケイ(K・f14457)は、連日、この場所で怪我人の治療に当たっていた。
今の彼女が操る炎は、あの地獄の猟犬ではない。小さな子犬の姿をしており、触れるとじんわり温かい。患者である青年の身体を可愛らしく嗅ぎまわり、傷のある部分に口をつけて舐める。
――この『痕喰らう獣』は、名前通り、物理的な傷痕そのものを『喰らう』ことで治療する。
「これで大丈夫かと。大体。多分」
「ありがとうございます……」
そっと添え木を外せば、折れていた右腕は全快していた。適当な口調のわりに丁寧な仕事である。
……しかし、当の青年の表情は暗い。
この件における怪我人とはすなわち、マルタメリエに誑かされ、猟兵たちに強く抵抗した民衆だ。戦場でケイ自身と相対した者たちが、今はその治療を乞いに来ている。……皆、ばつが悪そうに視線を落として。
正確には『荊』と『螢』が戦ったのであって、自分――『慧』はその記憶を共有しているのみなのだが。そんなことを説明して、相手の罪悪感が和らぐことはあるまい。
人形の扇動の結果だったとしても――自分たちの罪は変わらない。
そう思ってしまうこと自体は、おかしなことではないだろう。彼らの反省はある意味正しく、だからこそ、かける言葉を選ぶのが難しかった。
「よし、みんな、注目――!」
そんな気まずい沈黙は、突然の明るい声に破られる。
声の主――剣堂・御空(猟兵騙しの黒礼装・f17701)は、可愛らしい衣装に身を包み、スニークペインターを高く掲げていた。
「今日使うのは、白!」
騒ぎを聞きつけて集まった民衆の前で、劇場の壁を白一色に塗りつぶしていく。それだけならば、ただの改装作業の一環にしか見えない……、が。
「リチャードは……この街の未来のために一歩踏み出した男だ」
壁の真ん中に、茶色の塗料で、男性のシルエットが描かれる。
それ以上の説明を重ねなくても、その場の誰もがそれを『リチャード』だと理解する。
「そして、俺たちはこの街を取り戻した」
――絵を使った劇。いわゆるライブペイントと呼ばれる手法だ。
リチャードにしても、猟兵たちにしても、勇気をもって一歩を踏み出したから掴めたものがあった筈だ。
御空はこの街の人々に、一歩を踏み出すことの大切さを教えたかった。――そのために選んだのが、この『白』のキャンバス。
「混ざりけのないこの色から、この街は始まるんだ」
つまり、この劇は御空ひとりでは完成しない。
「というわけで。……今日の主役はお前達だ! さぁ、この壁に何を描こうか?」
カゴいっぱいに用意されたスプレー塗料を、御空は街の人々に配って回る。
彼らにとって、それは見たこともない奇怪な道具。最初のうちは怪訝そうに眺めていたものの、見よう見まねで壁に吹き付けてみれば……ダークセイヴァーでは滅多に目にすることのない鮮やかな原色に目を見張る。
最初に動いたのは子供たち。
次に動いたのは、少々酒の入った人々。
そうなれば後はなしくずし。競うようにして、人々は参加型の『劇』に加わっていく。
「おお、こりゃあスミレの色だな。こっちは何だ?」
「そんなに咲かせちゃ、春だか秋だかわかんないわ! ふふ、おっかしい」
「空って、こんなに青いか……? まあ、絵なんだから、このくらいでいいな」
真っ白な物語が、色とりどりに染められていく。
……その光景を眺める青年の背中を、ケイは優しく押してやる。
「あなたも行ってきては? 楽しそうですよ」
「でも、おれは」
「せっかく腕を治したんです。試しに使ってみないと」
この街の未来を決めるのは民衆だ。……もちろん、この青年も含めて。
まずは、言葉にならない思いを、色彩にしてぶちまけるのもいいだろう。
●
――劇場内部、観客席。
「……さっきはごめんね。あそこでぶっ放すつもりはなかったんだ」
ふたりの青年が、並んで劇の開幕を待っていた。……片方は俯いて、もう片方はまだ何もない前方を見て。
「ついカッとなって。……無駄にケガさせたね。本当にごめん」
アルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)は、ぽつぽつと、確かめるように言葉を落とす。……マルタメリエとの戦闘で思わず我を忘れたことを、彼はひどく引き摺っていた。
「気にしていない。お前が不安定なのは良く知るところだ」
対する兄貴分、イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)の態度は、一見そっけないものだ。
「僕は、……彼女と同じなのかな。猟兵のように見えてるだけなんだろうか」
――あの日からずっと、足元が揺らぐような不安が胸に燻っている。
理を外れた力を振るって、自分の感情を叶えようとする。そのくせ自分を嘘で塗り固めて、周囲を欺こうとする。……あの人形と自分を分ける違いは、何なのか。
「お前はオブリビオンではない」
……それが唯一絶対の違い。イリーツァの答えは単純で冷徹だ。
彼は視線を動かさない。わざわざ面と向かうほどでもないと言うように。単に、解りきった事実を確認するように――。
「――いざとなれば必ず殺す」
その答えに、アルバートは目を細める。
仮面を気にする必要がない瞬間だというのに、なんだか妙に上手く笑えた気がした。
「はは、ブレないなあ」
「だから安心しろ」
「……うん、そのときは頼むよ」
最期にそう終わってくれるなら、今ぐらい『猟兵』でいてもいいだろうか。……いてやってもいい、とも思うし、そうすることを赦してほしい、とも思う。
……気が付けば、観客席には人が集まり出していた。そろそろ開演の時間のようだ。
「さーて、と」
立ち上がり、凝った肩を回し、アルバートは歩き出す。
「どこへ行く? 劇には出ないと言っていたが」
「うん。でも、――最後くらい猟兵らしく振る舞わないとね」
――彼が真っ直ぐ向かったのは、舞台をぼんやりと眺める少年の前だった。
「そこのおちびさん」
少年の前に膝をつき、その淀んだ目に高さを合わせ、柔和な表情で問いかける。
「お名前は? 『リチャード』じゃないだろ?」
「……この街じゃ誰も呼ばないし、どうせあいつが付けた名前だ」
「そっか」
それ程までに、彼は『英雄』の付属品だったのか。
「僕はアルバート。君の話が聞きたいんだ。――父親が嫌い? 自分を見てくれない周りの人が、嫌い?」
俯くことで目を逸らそうとする少年を、アルバートはさらに身を屈めて覗き込む。
「いいね、実は僕も人間が嫌いなんだ。……内緒だよ?」
「……そう、なの?」
「うん、だから、……君の嫌いなものを全部教えてくれ。――ため込んだ毒を吐き出すといい」
――開演前の喧騒のなか。
ふたりの内緒話は、誰にも気に留められることなく続いていく。
●
かくして、劇は幕を上げる。
――第一幕、リチャードの物語。
昔々、この街に、慎ましく暮らす家族がいた。
領主の圧政により畑を奪われ、生活の糧を失い、妻が病の床に伏したところから――まずは悲劇が始まる。
「お前が居なきゃ、俺は一体どうすりゃいいんだよッ!」
「リチャード。あの、話し方」
「……ゴホン。君が居なくなったら、私は一体どうすればいいのだ!」
カイム扮する『リチャード』の手を握り、静かに語りかける女性――死にゆく妻の役を演じるのは、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)だ。
「あなたは、生きて……」
――ヘルガは、今は亡き女性に思いを馳せる。
彼女はきっと、最期まで彼のことを愛していたのだろう。志半ばにして倒れた彼を、慈しみ、死後もその勇気を称えたであろう。……かの英雄が、愛するに値した存在なのだから。
願わくば、そんな彼女の気高さを、自分の声で人々に伝えられたら。
「わたくしは、もう逝きます……。けれど、いつも、貴方を信じて、そばに――」
もともと歌を本業とするだけあって、ヘルガの表現力は圧倒的だった。その声は劇場全体によく響き、しかし、今にも消え入りそうな儚い情緒を併せ持っている。
「待ってくれ、行かないで……、行かないでくれ!」
観客たちは言葉もなく、ふたりの姿に見入っていた。
「こんな劇(もの)で何が変わるのか解らないけど、依頼だしね」
一方、舞台袖で待機しているマイ・ノーナ(偽りの少女・f07400)は、少々冷めた目でその劇を見ていた。
……彼女は本来、やることが終われば帰るだけのつもりで此処に来たのだ。こんな催しに全く興味はないのだが、これも依頼の内らしい。
目立つようなことはしたくない。やるなら裏方ということで、マイの担当は光の演出。
具体的には、愛用の鎖付き改造ダガーに、光る宝石を使ったランタンをくくり、念動力で動かしている。露光調節で光の強さも自由自在。……登場人物に刃物の先端が向いているのが難点だが、猟兵なので何かあっても大丈夫だろう。
「まあ、観届けるくらいはしていこうかな」
口ぶりのわりには、仕掛けに気合が入っているような。
演出のために仕方なく熟読した台本によれば、次は酒場の一幕。悲嘆に暮れる『リチャード』を、酒場の娘が励ますことになっている。
どうもこのシーンは、『リチャード』役の希望らしい。……マイが解釈するところでは、彼一人が勇敢だったのではないこと、街の人々との関わりを示すための重要な描写だと思われる。
――しかし。
「酒場の娘は……?」
登場人物をランタンで照らそうにも、肝心の娘役が出てこない。
不審に思って振り返ると、酒場の娘を演じる気分だったはずの御空と、――紫と黄色の塗料でマーブル模様になった衣装の姿が。
「やってしまった。シリアスなシーンにこれはダメだな」
「……いや、何がどうしてそんなことになってるの」
「つい、ほら、勢いがついて」
どうも先程のライブペイントが盛り上がりすぎたらしい。
……前衛的すぎるデザインと化した酒場の娘と、酒を飲む演技で時間を稼いでいる『リチャード』を交互に見比べるマイ。
「ああもう、仕方ない。――これ持ってて。動かさなければ落ちないから」
ダガーの操作器具を御空に押し付け、マイは隠密用のフードを脱ぎ捨てる。
「なっにを、飲んだくれてるの!」
やけに小柄な酒場の娘が、想定外の剣幕で『リチャード』を怒鳴りつけた。
……彼が目を白黒させたのは、劇としての演技だったのか。それとも、先程までとは似ても似つかない少女の姿への感想か。
マイ・ノーナ、意外にも演技派であった。
「ここで悲しんでたって、何も変わりやしないのよ?」
「……何かが変わったところで、彼女は帰って来ないんだ。この街で何をしたって、どうせ殺されるだけだろう」
「奥さんが言ったんでしょう? 『生きて』って。『死なないで』じゃなくて」
平坦な声に、感情が乗る。
「死んだように生きてたって、同じことの繰り返しよ。畑を奪われて、妻を奪われて、次は――」
「……そうだ」
男は、はっとしたように立ち上がった。
ただの悲劇の主人公が、『英雄』になる瞬間だ。
「例え死ぬと分かっていても、私にはやらねばならんことがある! あの子を……、あの子だけは失う訳にはいかないのだ!!」
●
――その熱演を、客として眺める猟兵たちもいた。安喰・八束(銃声は遠く・f18885)もその一人である。
「意外と芸達者だな、あの嬢ちゃんも」
……旅の劇団、というのは街の人々の誤解だが、実際そうとしか見えないほどに濃い面々だ。一見まるで繋がりのない顔ぶれが揃うのも、猟兵稼業ならではか。
喜劇、大立ち回り、悲恋物――大概の芝居はこなせそうにすら見える。
それが今回限りとは、なんとも勿体ないものだ。
舞台の上の『リチャード』は、館に仕掛けられた罠や脅しに屈することなく、領主の間へと真っ直ぐに進む。
矢を飛ばす仕掛けや小規模な爆薬は、何を隠そう八束の手仕事である。芝居の心得などないし、派手な役柄はこなせやしないが、力仕事と手先の器用さなら少しは役に立ったようだ。
……あれらを設置し終えたところで、演出の役割はひと段落。一足遅れて客に加わろうという心づもりだったのだが。
「どうにも盛況だ。こりゃあ、座れんかもしれんな」
他の客を邪魔しないよう、大柄な体をできるだけ低く。うろうろと空席を探していると、――あの日見た少年の姿が目に入った。
「ああ、……坊主。名は何つったかね」
少年より先に、その隣に座るアルバートが答える。
「嫌いだそうだよ。自分の名前」
「そうかい。難儀なもんだ」
アルバートが軽く横にずれ、礼儀正しく会釈する。空いたところに腰を下ろして、八束は長い息を吐く。
――少年の短い過去を、これ以上掘り返すのも酷だろう。代わりに少々、手前の話をしようか。
「俺にもガキがいてな。お前さんより少し小さかったが。……一緒に芝居小屋に行ったことがある」
「……小さかったのは、お芝居に行ったとき?」
「いいや」
「そう、なんだ」
八束に答える少年の態度は、前より幾分柔らかかった。気が抜けたのか、何か毒でも吐き出し終えたのか。
「ちょうどあんな感じで、悪い鬼を少年剣士がやっつける活劇さ」
「楽しかった?」
「俺は仕掛けがわかっちまうし、肝心のガキには泣かれてなあ。鬼が怖いってよ」
少年は黙り込む。
何か過去を辿るような、自分の中のよく似た記憶を探るような、そんな目をして。
「――すまねえな、ただの、昔話だ」
八束は無理に促さず、舞台へと視線を移した。
劇は第一幕のクライマックス。
磔刑に処される『リチャード』が、最後の言葉を遺す。
「最後まで共に居られなかった父を許せ。息子よ、真っ直ぐに育ってくれ――」
少年は、空っぽの目でそれを見ていた。
かつての彼ならば、嘘っぱちだと一言で切り捨て、こんな芝居は見なかったことにしただろう。
「あの人、知ってたのかな」
父を演じるカイムの姿を見て、少年はぽつぽつと語りだす。
「父さんが、あの夜、ほんとに酔っ払ってたってこと」
「……そうかい」
「酒場じゃなかったけど。お酒を飲んでたんだ。夜中に、一人で。……そのまま帰ってこなかった」
……それもまた、少年が見た『英雄』の真実の一側面なのだろう。
八束には理解できる。その晩、飲まずにはいられなかった男の心情も。酔わなければ踏み出せない一歩があることも。
酒を善くないと言い切るには、男はあまりにも大人であった。
――けれど、そんな親の姿は、幼子の目には確かに毒だろう。
それを裏切りだと感じた少年の気持ちも、また、間違いではないのだ。
「――親の溺れる姿というのは、見たくないものですよね」
ふと、澄んだ声が会話に加わった。
すぐ後ろの席で、飲み物片手に観劇していた女――『慧』であるケイは、いつしか劇よりも彼らの会話に耳を傾けていた。
「すみません、盗み聴きのつもりはなく。……『英雄』と『めいわくもの』の話は聞きましたが、この子の『父』の話は聴いていなかったと思って」
「俺は気にせんよ」
八束に合わせ、少年も静かに頷いた。
「……お姉さんの親も、お酒を飲んだの?」
「まあそれは飲みましたが。母が溺れたのは――、うーん、少年にはまだ早いですかね?」
苦笑いをしてみせて、『慧』はそれ以上の物語を胸にしまう。
かつて、少女は楔になれなかった。
女は風船のように飛んで行った。
けれど――。
「あの人も、私のいない世界では、誰かに愛されていたのかもしれませんね」
それは娘から見た一側面であって、母の持つすべての物語ではないのかもしれない。『リチャード』がそうであるように。
……悲観というのは複雑なものだ。遺された者の中で、記憶と感情と疑問が渦巻く。正解なんて、何処にもありやしないのに。
「少しずつでも、言葉や文章として吐き出したほうがいいですよ」
先程の青年が壁に描いた、黒くて青い絵を思い出した。――どんな怒りも、哀しみも、間違いなんてない。
「心は、自分だけのもの。あなたが父親をどう思っても、自由なんですから」
「……レイ」
「え?」
聞き返すと、少年は遠慮がちにケイを振り返る。
「レイ、だよ。意味は知らない」
「――そう。教えてくれて、ありがとう」
ケイも、八束も、アルバートも、『良い名前だ』とは返さなかった。……彼自身が自然とそう言える日が、いつか来るのだろうから。
●
舞台は続く。
――第二幕、猟兵の物語。
旅の騎士が、通りすがった墓場でひとりの女と出会う。
悲しげに佇む彼女こそ――『リチャード』の妻その人の亡霊だった。
「旅のかた、どうかお救いください」
「……話を聞かせてもらえるか?」
その旅の騎士を演じるのは、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)だ。
「私は既に死んだ身です。でも――この街は危機に瀕しています」
亡霊はとくとくと語る。
領主の敷いた圧政で、人々が苦しめられていること。妻を失った悲しみで、領主へ挑んだ英雄のこと。
……彼を貶める、悪辣な喜劇が仕組まれたこと。
「承知した。かの悪辣な領主を倒し、『英雄』の名誉を護ってみせよう……!」
――そう。猟兵たちの話し合いの結果、劇は二幕構成となった。
街は解放されたけれども、人々の心の傷は未だ根深い。
英雄『リチャ―ド』の物語は伝えたいが、それを悲劇としか見ない者もいるだろう。……出来ることなら分かりやすいハッピーエンドを、未来に救いをもたらす結末を示したい。
ゆえに、最後には正義と真実が悪を滅ぼす、勧善懲悪の冒険活劇を、第二幕に持ってきたのだ。
人は元来弱い生き物だ、とヴォルフガングは思う。
リチャード自身、決して肉体的に『強い』人物ではなかった。彼を英雄たらしめているのは、巨悪にも屈せず正義を貫くという強い意志だ。
自分たち猟兵も変わらない。今回の勝利は、同じ意思を持つ皆で勝ち取ったもの。決して一人では得られなかったもの。
……二幕構成で頭数が減ったぶん、『猟兵たち』の役は『一人の騎士』ということになってしまったが。
だからこそ、騎士は亡霊の話に深く耳を傾ける。
舞台に立つのは自分一人でも、多くの人々の意思を背負っているのだと、観客に示すために。
……あの少年は、この演劇を見てくれているだろうか。
見ていてくれれば良いと思う。亡き父の遺志を継ぐ第二幕なら、本来は息子の役柄だ。
今はまだ幼くとも、心の傷が癒えなくても、――彼が父の背を乗り越える時、その意味が分かることだろう。
●
「――人間の身で、我に歯向かうか」
低く、体の底に響く声。
悪しき領主を演じるのは――尾を、角を、翼を、竜人としての真の姿を顕したイリーツァだった。
……いくら悪辣だったとはいえ、憎き敵役の姿が少女人形では収まりが悪い。そもそも事実通りにやれば、舞台の上でも扇動された民衆と戦うことになってしまう。
そこで悪役に名乗り出たのが、竜の姿を持つ彼というわけだ。
彼の身体は吸血鬼とは異なるもの。しかし、これほどの異形の身体であれば、それを演じるぐらいは造作もない。
「無辜の人々の安寧のため、哀しき英雄の名誉のために、――貴様の欺瞞、悉く砕いてくれよう!」
「よかろう、かかって来い」
イリーツァは正直、劇というものが良くわからない。自分に出来ることは戦いだけ。他の才などありはしない。
決められた台詞をいくつか言い終えて、イリーツァはそのまま防戦に徹する。疾風のごとき剣戟を翼で受け、迫りくる炎を尾で叩き落とす。
……本当に痛くも痒くもない。もともとイリーツァが頑丈なのに加え、ヴォルフガングが力を抑えているからか。全力で殴りかかってくるぐらいを想像していたのだが。
仕方なく数歩を退いて、劣勢を演出。
――ここで自分が負けなければ、人間たちの喜ぶ、化物退治の活劇にならないではないか。
イリーツァは軽く両手を広げて合図した。もう少し本気で来い、と。
ヴォルフガングも目で頷く。最後くらいは派手に行こう、と。
「最後に処刑台に立つのは、貴様だ……!」
炎が渦巻き、ふたつに割れて、竜の両翼を打ち据える。
トドメの一撃を全身で受け切って、イリーツァは後方、舞台袖へ転がり落ちていく。
「思い知ったか、人々の怒りを!」
歓声が、舞台を包む。
●
――二幕のクライマックスが終わり、ふたりの男は舞台袖で戦闘の熱を冷ましていた。
舞台の向こうからは、客たちの呑気な声が聴こえてくる。
「竜とか炎とか、気合入ってたな」
「どうやったんだ?」
……どうやら多くの人々は、竜人の姿も炎の剣も、劇団らしい仕掛けか何かだと信じて疑っていないようだ。
意外と現実的というか、逆に素直というか。
「良かったな。好評のようだぞ」
「これは失敗ではないのか? 敵役が嫌われないのでは」
連れが迷惑をかけた分、無様な憎まれ役として退場しようと思ったのだが。……怪訝そうな顔をするイリーツァに、ヴォルフガングは苦笑を零す。
「なんというか、真面目だな。君は」
「ふふっ、そうですね」
舞台袖で二人を出迎えたヘルガも、つられたように微笑んだ。
「ヴォルフに言われるんじゃあ相当です。……良かったじゃあないですか。だって皆さん、笑顔ですよ」
……猟兵たちも、自分たちの持てる力で物語を表現するために、細部の事実を変えざるをえなかった。
猟兵たちは一人の騎士となり、領主の正体は竜となり、いつかはそれがこの街の歴史として語られるのかもしれない。
――しかし、それでも、本当に伝えるべきものは伝わったはずだ。
最も大切な真実は、そこにある。
たとえ欺瞞の闇が世を覆いつくそうとも、真実は決して消えることはない。人を愛し慈しみ、幸せを願う心も、また。
「愛と真実を後の世に歌い継ぐ、それがわたくしたちの使命なのですから」
それを信じて、ヘルガは凱歌を口ずさむ。
●
「……こうして街には平和が戻り、騎士はいずこかへ去っていく――。……めでたし、めでたし」
幕が下りた舞台の上で、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はエピローグを読み上げる。
――客席の反応は様々だった。
感じ入ったように目を伏せる者、大立ち回りに興奮冷めやらぬ者。干し肉や酒を片手に気楽そうな者もいる。
しかし、彼らは一様に――、これで催しも終わりかと、名残惜しそうな顔だった。
「……ん」
リーヴァルディは、右手を高く掲げてみせた。
その手のひらの上に、ひとつの宝石が現れる。虹の色彩が生まれては消え、夢か幻のように揺れる、不思議な水晶玉だった。
吸血鬼の力でも、死霊の力でもない。あの子のくれた宝物。……浄化の力が込められた、その場限りの『変成の輝き(アレクサンドラ)』。
――すべての視線が、彼女へと集まる。
「――次なる演目は、皆さま自身の手で紡ぎあげるもの」
断末魔の瞳が輝く。
「『英雄』とは何かを今一度、思い返す即興劇になります……」
葬送の耳飾りが輝く。
「……この劇が終わった時、皆さまの中から『英雄』が現れるかもしれません……」
光は、淡く、やわらかく、今日のリーヴァルディに、呪詛めいた名は少々似合わなかった。
「それでは暫しご清聴の程を……」
小さな小さな輝きが、世界を照らす。
「第三幕。――あなたの物語」
劇場に、死者の声が満ちた。
……声だけではない。水晶玉の光を借りて、それぞれの姿が七色に映し出される。おぼろげに揺れている者もあれば、ついこの間まで生きていたような姿の者も。
『――痛かった』
『――苦しかった』
『――でも、もう大丈夫』
現れた死者たちは、肩代わりしなければならないほどの呪いを持たないようだった。宝石の力で浄化されているからか、それとも街の人々の笑顔を見たからか。
「彼らに、思いを託して」
リーヴァルディの言葉に応え、光の残像たちは、それぞれの向かうべき相手の元へ。
『――どうか自分を責めないで』
『――誰かを恨もうとしないで』
『――私の残したものを護って』
『――お父さんのこと、許してあげて』
光の波が去ると、劇場は静まりかえっていた。
集まった街の人々の誰もが、喪った誰かの幻影を視たのだ。誰かが最初に泣き出せば、全員がそれに呑まれそうな空気の中で――、
少年が、そっと手を叩いた。
それを皮切りに、劇場が拍手に包まれる。
ひと仕事を終えて、リーヴァルディは静かに微笑んだ。
弱くても良い、不完全でも良い。
「――彼らから託された祈りを胸に、どうか、生き続けて……」
それが望むにせよ、望まざるにせよ。生き残った者達の務め。
――それを忘れなければ、人はいつでも『英雄』になれるはずだから。
大成功
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