胎動~Signal Red~
●落園
何度も、何度も、何度も。諦めた方が良いと、友人にも、親族にも言われて居りました。夫婦ふたりで歩む生涯も有るのだと諭されました。――けれど、其れは子宝に恵まれた人々だから言えた事で、私がその度に惨めで、恥ずかしくて、虚しい思いをしたのだなんて、判らないのでしょうね。
私は縋りました。胡散臭いサプリメント、美談ばかりのセミナー、腕の良いお医者様がいると言われる病院だって何軒足を運んだか判らない程に。でも、駄目だった。
『空気の良い所に引っ越そう。そうすれば気分も良くなるかも知れないし、何より彼処には――』。そう言う、主人の言葉に手を引かれる儘に、様々なものや人から逃げる様に私達夫婦はこの街にやって来たのです。都会の喧騒から離れた此処、××××街は交通の便一つとっても、最初の内は余り便利とは言い難かったのだけれど、其れ程田舎な訳でも無く、あくまでそういった暮らしを楽しむのをコンセプトに創られたニュータウンでした。
不思議な事に――近隣には同じ悩みを抱えている御夫婦も多く、私を散々追い詰めた幾つもの感情は何時しか払拭されていった。そんな『日常』を過ごす中で、或る日を境に皆が同じものに縋って、信じたとして、何ら可笑しくはない話でしょう。
そうして、この街に越して来て程なくして。芽生えたの、私のお胎に。嗚呼、ああ! やっと! 私達ふたりの赤ちゃん! 結婚してから何年もの間、悩んだと言うのに――やっぱり、引っ越して来て良かったわ。然も、お医者様曰く私は、特別な『神の御子』を授かったんですって!
すっかり浮かれてしまった私達は、早速赤ちゃんを迎える準備をしてしまった位よ。柔らかな揺り籠、ベビーカートに、愛らしい縫いぐるみを沢山。それから、それから!
勿論、ご報告も欠かさなかったわ。いの一番に教団に向かえば、真理様も大層御喜びになられた様子で、直々にお腹を撫でて頂けて、元気に産まれておいでなさいねと、お声まで掛けて下さった。
嬉しかった。此れで、幸せそうな子供連れを妬むこともない。ましてや、勝手に腹を立てて、後から罪悪感に苛まれる事もない。悪気はないにしても、心ない言葉を掛けられる事もない。言い知れない悲しみが込み上げて来て、部屋の隅で涙を流す必要もないのね。
其処のあなたも入信するべきよ! その辺のお金を毟り取るだけの宗教じゃないわ、孔雀様は本物よ。進学、昇進、縁結びや子宝、病気の快癒、様々な御利益を齎して下さるのだから。
夫のメモより抜粋《1》――→。
『妻が授かったのは、『神の御子』と言えば聞こえの良い――だが実際は重い障害を背負った、奇形児らしい。
堕胎という、選択肢は勿論有った。そして何処かで素直に喜べなくなっていた俺が、酷い事を言う様だが其の事実を突き付けても尚、妻は頑なに『私は産みたい』と、『この手で子供を抱きたい』と言った。女――いや、母親は強いな。どんな形で産まれて来るのであれ、彼女が愛おしそうに撫でている彼処にはふたりの待望の赤児が宿っているのだ。嗚呼全く、俺は不甲斐無い。父親失格だろうか』
夫のメモより抜粋《4》――→。
『深い罪悪感からか、最近仕事に身が入らない。周りの言葉を借りるなら、『孔雀様』に懐疑的な自分への天罰が下ろうとしているのだろうか。最近誰かに見張られて居る様な気がするのも、其の所為かも知れない。
妻が病院から持ち帰って来たエコー写真の胎児がギョロリと此方を向いて目が合ったんだ、冗談だろう? ひょっとして視線の正体はあの子なのか?』
夫のメモより抜粋《6》――→。
『臨月に入った。産院に持ち込む物も、出産後必要な物も一式買い揃えて、準備も万端だと妻の機嫌は良い。今時はインターネットで記事や経験談等も豊富に読む事が出来る。俺が其れ等を見ながら浮かない顔をしていたら、『パパになる貴方がそんな不安がってどうするの、もっとどっしり構えてくれなきゃ』だなんて笑って肩を叩いて来た。そりゃあ、不安にもなるだろう。
だって、お腹の中の子は、妊娠3ヶ月程度の時の姿の儘、変わっていないのだから』
●兆し
「駅だ」
開口一番、テイア・ティアル(パラドックスブルー・f05368)は、祈る様に握った手の指を組み替えながらそう告げた。
「否、正確には電車、かな。君達にはとある電車に乗って貰いたい。すまない、今回はわたしから渡せる情報が限られている」
『予知が、変なんだ』と、申し訳無さそうに頭を擡げる彼女曰く。視たのは極普遍的な光景。何処かへと向かう電車に揺られ、眠気すら感じる程に穏やかな其れは、確かに自分の視点なのに、まるで他の誰かの視点とリンクして居る様な――謂わば追体験の様なものであったと。
そして、確かに感じる違和感。何かがおかしい、と言っても明確に何がおかしいとは言えない喉に刺さった小骨の様に心に突っ掛かる状態――まるで『怪異』の方から積極的干渉と妨害を受けて居るかの如く。其れが事実で有れば、此れは明らかな罠である。
「232、56、61……。予知の途中で頭に流れて来た数字だ。座標の様だろう? 気になって調べてみたんだが、少なくともそんな場所はこの世には存在しない。然し、此れがわたしひとりの話ならババアの寝言として笑って済ませたかも知れないのだが」
彼処に、と顔を向けた先。丸い眼鏡を掛けた明るい髪色の女子高生と視線が合った様で、軽く頷いて右手を挙げて見せると皆に向き直った。
「同じ様な場所、それと数字を予知した者が居てね。名を斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)と言う。流石にふたりにもなれば笑い話ではないと判断した。情報と数字を手掛かりに、UDC組織に協力を仰いだが、矢張りその様な場所は見当たらない、との回答だ。そうとなれば、わたし達が取れる手段はひとつ……――君達猟兵を、グリモアの力で其処まで送り届ける」
組織のエージェント達が決して無能だった訳では無い。只、彼等はこの怪異に取って招かれざる客人だったというだけであり――現に、謎の3つの数字についてはその割り当てに該当すると思われるヒントをくれて居る。
「『シグナルレッド』、色の名前らしい。と、言った所で其れが何を示してるかまでは判らないが、まあ電車らしくはあるな。後はだ、予知した時刻に少し差がある。こちらは昼からおやつ時と言った所か。よって、先行隊となる彼方に駅の探索を任せ、此方はホームに直接君達を転送する。そして直ぐに来る電車に乗り込んでおくれ。はは、無賃乗車にはなるが、何。解決した暁には幾らか返しに行けば良いだろう」
素直に受け取ってくれる様なものが相手で有れば良いけどな、そう自嘲的に笑ってから彼女は腰を曲げ、『頼む』と絞り出す様に言う。
「正直、得体の知れなさが怖い。けれど、放置すれば何れ災厄を齎すとも判らない、この世であってこの世ではないものを潰す事が出来る者は、君達をおいて他には居ないだろう。だから、どうか、頼む」
――→間も無く4番線に快速――行き、列車が参ります。
危ないですから、黄色い線までお下がり下さい――→。
しらね葵
しらね葵(――・あおい)と申します。
この度は当シナリオのオープニングを読んで下さり、有難う御座います。
●
5作目はUDCアースで少し早めに肝を冷やしてみませんか。
また、当シナリオは大いに後味の悪くなる要素を含んでおります。完全無欠のハッピーエンドを迎えられるとは限りませんので、参加をご検討される場合はその点をご容赦下さい。
また、今作はまなづる牡丹MSの『終着を齎す駅~Signal Red~』とのリンクシナリオとなっております。
OPでの説明通り、場所は同じですが時間帯が違います。よって、読まれる方の目線では情報開示で、
『此方で起こる事の何かを先行班は掴んでいる』
また逆に『此方で起こった事が彼方にとって大きなヒントとなり得る』
様な可能性が十分に有り得ます。そう言ったちょっとした答え合わせの部分も楽しみたい方はお目通し願えれば幸いです。
※ですが、各シナリオの判定でもう片方のシナリオに影響が起きる事は御座いません。
以下、章構成です。
第1章:集団戦『ゾンビ』
第2章:ボス戦
『???』
第3章:日常『帰ろう』
以上です。××××駅から、皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『ゾンビ』
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POW : 反射行動
【生者を追うだけの行動パターン】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 活性化
戦闘中に食べた【被害者の肉】の量と質に応じて【興奮状態となり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 感染増殖
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と同じユーベルコードを持ったゾンビ】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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●����駅4番線ホーム/14:30
ホームの隅に転送されて来た猟兵達には眼もくれず、人々は列を成し、前を向いて電車を待っていた。
ベビーカーを押す母親。
まだ、やんちゃ盛りらしく、父親に手を引かれて嬉しそうに体を揺らす少年を嗜めながらも、幸せそうな妻の姿。
あれはカップルだろうか。初々しく手を繋いで、程良い距離を保つ男女に。私達もああなりたいわねだなんて、彼女が指差した先には、お互いを支える様に寄り添う老夫婦。
営業にでも赴くのか、きちっとスーツを着込み、頻りにスマートフォンを覗き込む若い男性。
其の何もが――まるで誰かに整列させられたかの様に、綺麗に並んで居て。そして今ある『日常』に、向かう先に、何一つの憂いも抱く様子も無い振る舞いに、何だか少しだけ、寒気がした。
「『――』行きでしたら、次はこっちの4番線の快速がもう直ぐですよ、今日は少し遅れている様ですけどね」
立ち尽くす自分等に、そう優しく声を投げてくれる女性が居た。さぁさ、並んで並んで。此処の駅員さんは少しばかり厳しいの。今、この恰幅の良い女性は何処へ行くと言ったのだろう? 其処だけ何か早送りで再生されている様で聴き取れなかった。言葉を返そうとした所で、ホームのアナウンススピーカーから明瞭な女性の声が発せられ、阻まれてしまう。
「間も無く4番線に14時38分発、快速――行き、列車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がり下さい。当車両は、――まで、10両編成で参ります」
ごう、と風を凪いで、電車がホームに入って来る。其の時、生物が饐えた様な甘酸っぱい匂いがした気がして――そうして、怪異が手招く儘、違和感の正体に、この駅全体が孕む狂気がぽっかり開けた穴に飲み込まれるかの如く、一番後ろの車両へと乗り込んだ。
●車両《10》/14:40
寒い。何たってこんなに寒いんだろう。確かに、此処数日は季節的には早い程茹だる様な気温が続いていたけれど――肌をさすれば、ぞわりと粟立っているのを感じる。異様な迄に冷房の効いた車内だというのに、他の人達は平然としていた。
棺桶の様。そう、頭に思い浮かんだが刹那の事だった。ざらざらと、視界の中を砂の様にちらついていたノイズが消し飛び、光景がクリアになる。
――青白い、顔。
――首、手指に浮き出た血管もまた青く。
――露出した、足先だってそう。
――嗚呼、そうか。此れは、『保冷』だ。
――気付いて、しまった。
●車両《10》/14:49
「本日、線路内への立ち入りにより、遅延が発生しております。電車は運転を再開しております。この先状況によりましては、行き先が変更となる場合が御座います。変更が有り次第お客様にお知らせ致します」
やけに耳障りの良い、先程ホームで聞いたものと同じ声が聴こえると共に、ゆらりと乗客全員が立ち上がる。ある男は、拳を握り締め、此方へと歩み寄って来る。女は、子を守る盾として立ち塞がった。庇われている小さな子供は、悍ましい生き物を見る様な怯えた目付きで此方を見ていた。
嗚呼、其の姿はなんて人間らしい――『まるでこっちがゾンビみたいじゃないか』。
<<==========
!!!!! MISSION !!!! ==========>>
先頭車両まで駆け抜けろ。手段は問わない。
レナ・ヴァレンタイン
※アドリブ、他猟兵との絡み歓迎
どこのパニックホラーだか
洗脳か、寄生か、それとも未知のウィルスか?
おまけにゾンビとあってはこれはもう……
ま、どれであってもやることは一つだ
元凶を探して叩く、根っこまでな
――道を抉じ開ける。先手をもらうぞ
ユーベルコード起動
銃器複製、武装各38丁
先手はガトリングとアームドフォート
この狭い電車内で隙間なく弾幕を張れば回避も何もあるまい
車両と車両の間を移動する瞬間はまずアームドフォートで一撃見舞ってから車内に飛び込み、脳天狙いでリボルバーとマスケットの乱打
目につく敵は片っ端から撃ちぬく
先頭車両までは長いが、まあ雑魚散らしなら私でもなんとかなるか、な
小西・卓穂
子が親を守り、親が子を守る
いい事じゃないか、化け物じゃなければ、の話だがな
クロックアップ・スピード、使用
その前に一言、言っておかないとな
「俺は、別に殺しに来たわけじゃない、殺し合いがしたいわけじゃない。だが、立ちふさがるのなら、容赦はしない。痛い目に合うのが嫌なら、早々に淵によれ。以上だ。」
この間にも何かされるだろうが
それはいなしておこう
警告も与えた、時間も与えた、それでも来るのなら、容赦なく巻き込んで先頭車両へ突撃する
相手が、生きてるのか死んでるのかはわからないが…
こっちは嫌々でもヒーロー活動してる身なんでな
事件解決を優先させてもらう
恨み言は、機会があれば後で聞く
絡みやアドリブは好きしてくれ
●車両《10》/14:52
「はぁーあ、何処のパニックホラーだか」
最後尾車両、じりり、じりり、退路を断つ様にゾンビは迫って来る。その渦中で尊大に溜め息を吐きながら頭を搔いて見せる女が居た。
「洗脳か、寄生か、其れとも未知のウィルスか、何だ?」
判らない。けれど何かしらの『鍵』――若しくは『合言葉』。そう言った物で街人が、自分達を外敵だと認め、排除に動こうとしている事は想像に難しくない。そして現にこうして浴びせられる怒号、罵声、剥き出しの敵対心、隠そうともしない殺意、そんなもの。
誰よりも早く、武器を手にした女――レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)がそのトリガーを引く前に、『一言、良いでしょうか』だなんて挙手をして前に出る男が一人。
「子が親を守り、親が子を守る。いい事じゃ無いか、実にいい。でな、俺は、別に殺しに来たわけじゃない、殺し合いがしたいわけじゃない。だが、立ち塞がるのなら、容赦はしない。痛い目に合うのが嫌なら、早々に淵によれ。――以上だ、一先ず10秒、待つ」
「巫山戯るな! お前達の所為で『楽園』へお導き頂けないのかも知れないのだぞ!」
「そうよ! 折角のお務めに失敗したと有っては、今後私達はどうしたら!」
……2、1、0。その10秒の中で得られた事と言えば、その様な歎き。喚くゾンビは会話も噛み合わず退く気配を見せない處か、火が着いた様で終ぞは殴り掛かって来た者をいなし、男――小西・卓穂(ブラックマスクⅡ世・f18215)はサラリーマンの象徴たる腕時計から、レナへと視線を移すと首を縦に振る。
「行っちゃって良いかと」
警告も与えた。時間も与えた。その上で此方に危害を加えて来るなら、容赦は無用だ。
況してや、人語を解すものの、ちっとも理解の及ばない発言。そして理屈では説明出来ない目の前の事象に、どんなに思考を巡らせても無駄である。ましてやそれが自分達の命を脅かすかも知れないのであれば、やる事はひとつだった。
「そうだな、じゃあ戦争をしよう」
芝居掛かった口調、之愉快とばかりに取り出したる銃器は複製により各38丁。その中でも重たいガトリングガンとアームドフォードを選び、構える姿は堂に入って居て、こんな非現実的でつまらないB級映画か何かの様な光景には自然と馴染んでいる。
「銃に馴染みのある奴は使ってくれて構わない。こんな狭い場所じゃ回避もクソもあるか、数射ちゃ当たる! ――道を抉じ開けるぞ、まぁ他の見せ場は譲るからなッ!」
精密且つ隙の無い操作で放たれる弾丸のその暴力の威力たるや、《軍隊個人》の名は伊達では無い。蜂の巣だなんて表現が可愛らしく思える程に――無慈悲で、青白い肉は弾け、骨も細切れになり、軈て静まり返った其処に残ったのはいっそ清々しい程の火薬と血の匂い。
「さぁ、進め!」
「お先に失礼っと」
ちゃっかり耳を塞いでいた卓穂でさえも暫くは耳が痛いなんてものではなく、次の車両へと続くドアを開ける音も、自分が打ち鳴らした指の音も何処か遠く。然して、超人的なスピードと反応速度でもって駆け抜ける彼は、敵も味方でさえも追従を許さない。
彼は不詳ながらもヒーローの身である。相手がこんなに『人間らしくて』、生きているのか死んでいるのかが判らない儘では『救う対象』すら不明瞭で、場合に寄っては己の行動こそ『裁かれるべき悪逆』足り得る可能性すら頭に浮かんで、遠く背中に響く援護の銃声を聴きながら、何だか凄く興が冷めた様な、白々しい笑いが出た。
嗚呼、願わくば、事件解決の緒を掴む事が、この奇々怪界なこの世界の、一筋の光明であります様に。そんな陳腐な事に縋らないと、やっていけない気がして。こんな時、元来の性質が嫌になる。そら、――走れ、走れ、走れ!
「恨み言は、後で聞く。……機会があれば、だけどなぁって、ちょっと泣きそうなの、格好悪いだろうお前!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
トリテレイア・ゼロナイン
※身長とそれに付随する「電車の中での行動が可能か」問題は「現実と違ってUDCアースの電車は大きいんだよ」でご寛恕願います……
真っ先にセンサーで車両内の人々の情報……体温、脈拍、瞳孔の反応を集め彼らの状態を●見切ります
……ほぼ無意味だとわかってはいますが、救える人間がいるのではないかと自分でも信じていない願いのために。
状況を把握したら脚部スラスターを起動。●スライディングするかのように滑り高速で移動、立ち塞がる相手を●怪力での●UCシールドバッシュで電車を壊さぬよう排除
駅や車内の様子が尋常ではありませんでしたね。UDCの手による異常の範囲は一体どこまで……そしてこの電車の終着駅は何処なのでしょう
●車両《9》/15:00
『高感度マルチセンサー・収集情報解析結果』報告――→。
体温――極低度。
脈拍――Error! 感知不可。
瞳孔――散瞳状態、及び角膜の混濁が見受けられる。
以上により、猟兵を除く乗客に生きた人間は居ないと断定。
「……ほぼ、無意味だとは判っては居ましたが……」
其れでも矢張り、希望は捨て切れなかった。救える人間が居るのではないかと、そんな『自分でも信じておらぬ』世迷言、願いと謂った物が打ち砕かれて、大男――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は何処かでほっとしていたかも知れなかった。後は電車を壊さぬ様に排除に動くのみ、其処まで考えた所で一つの違和感に気付く。
抑もである、先手を取った彼女の各38丁もの戦術兵器の一斉掃射を受けたにも関わらず電車そのものには傷一つついていなかった。通常であれば大きな風穴が空くであろう鉛の暴風を受けて尚、無傷でその姿を保っている。通常であれば考え難い事態だ。自分達は、恰も平然と佇む次の車両へのドアをご丁寧にも開ける必要があったのだから。
まるで一目で異常だと判るゾンビ達はあくまでも付随品であり――本来の怪異はこの電車その物か、不可思議な何らかの力が働いているのか、若しくは想像にも及ばない程の強固な素材で作られているのか、其れとも何処かに『守りたいもの』でもあるのか。様々な考えが、彼の頭を過ぎる。判らない、けれど一つだけ言えるとしたら其れは――。
「成る程、多少のやんちゃをした所でこの乗り物は壊れない、と」
――脚部格納型スラスターを起動。同時に姿勢固定、重質量大型シールドをセットすると共に高速で滑り出す。縦横無尽とまでは行かずとも、ある程度のゾンビを避ける事には成功したし、果敢にも立ち塞がるものがあればその怪力を以ってして打ち据える。次の瞬間にはひしゃげ、吹き飛び、びちゃり、びちゃりと腐った脳漿や臓物を撒き散らして車両内にこびり付く汚れと化した。
この電車も――否、自分達が気付く前からずっと、きっと転送された時、駅のホームに降り立った瞬間からして既に尋常じゃなかったのだと、そう思う。而も、恐らくではあるが、何もこの電車に乗っている者だけがゾンビであるとは考え難い。騎士は不意に、口を開く。
「だとすれば、異常の範囲は一体何処まで……そしてこの電車の終着駅は何処なのでしょう」
成功
🔵🔵🔴
ロカジ・ミナイ
あの子の気持ちが知りたくて
死体の心に寄り添いたくて
一回入ってみたかったんだ、棺桶の中
ちょいとばかり大っきいし、動くし、一人用じゃないけれど
「生きた心地がしない」ってのは十分に分かった
冷えた身体に血を巡らす様に軽くジャンプを数回
反動で飛び出し一気にゾンビ壁を破って駆け出す
狭い空間で長刀を振り回すのは悪手だ
ゾンビって頭をカチ割るといいんだっけ?
死体は燃やすのがマナーだっけ?
懐から抜き出した簪もとい鉄の棒で
向かってくる個体を片っ端から殴る殴る殴る
叩いて切って破壊して、道を作る
そもそも誰だってヒトの足跡を踏ん付けて生きてくんだ
今更、屍を越える事に躊躇などないさ
ここは棺桶
死体は眠ってなきゃ行儀が悪い
●車両《8》/15:05
とある男の独白――→。
――僕さ、あの子の気持ちが知りたくて。死体の心に寄り添いたくて。一回入ってみたかったんだ、棺桶の中。
此れ、ちょいとばかり大っきいし、何なら動くし、一人用じゃないけれど……、『生きた心地がしない』ってのは十分に分かった。
嗚呼、寒い、寒い。さぁさ、分かった所で、お仕事を始めないとねか。こんな所にずっと居たら、其れこそ凍えて死んじゃうだろうよ。
吐く息も仄かに白く、悴む思いの指先を摺り合わせ、冷えた躰を温めるべく跳ねる男――ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は、一二の三四、五で飛んだ。最初の数歩は目測も外れ狙いを定めた標的とは別を蹴って、一歩等は天井すら蹴って、漸く血の巡った足取りは軽く、そして今度こそ外さない。多い塞る勢いで壁を作るゾンビ達を蹴破って、ぐん、ぐん、と加速する。
この人が密集した狭い空間で長刀を振り回すのは悪手である。よっては今は奴の出番は置いておくとして――
「ゾンビって頭をカチ割るといいんだっけ? こんなに居るんだ、カチ割り甲斐があるな。其れとも、死体は燃やすのがマナーだっけ?」
否、否、否!
懐から取り出したりますは、簪と言えば聴こえの良い鉄の棒。彼奴は何だか厄介だぞと言う声に誘われて、増える増える屍を、丁寧に片っ端から、殴る! 殴る! 殴る! こぉんなゲームが昔在った様な気がするだなんて、振るう此れは謂わばエティケットだ。葬られ損ねた此奴らを、叩いて、叩いて、叩いて、巧妙に仕込んだ刃で切って割いて絶って、そんな一方的な暴力で破壊為尽くして、道を作る様な気狂い染みた姿を演じるのは、悪い夢の様な世界に何とお似合いな事か!
――誰だって、ヒトの足跡を踏ん付けて生きてくんだ。無慈悲? いや違うね。今更、屍を越える事に躊躇などないだけさ。
赤黒く染まったスニーカーで歩み、ステップを刻みながら、ひとり、またひとり、ぽかり、ぽかり叩いて回って、『悪魔』だとか『鬼』だとか、屍から罵られる事が何だか可笑しくて、笑ってしまう。
其れどころか、無様に命乞いをするものまで現れる始末で、平身低頭して許しを乞う奴なんぞは、態々殴り易くしてくれて有難うと念を入れて叩いておいた。
「此処は棺桶、死体は眠ってなきゃ行儀が悪い」
成功
🔵🔵🔴
グリツィーニエ・オプファー
おやおや
こうも『人』らしく動かれては
心痛まぬ訳には参りますまい
…ええ、ハンス
此度の目的は彼等の殲滅では御座いません
此処は疾く駆け抜けます――先導を
襲いくるゾンビは【母たる神の擒】にて無力化を試み、その隙に先頭車両へ
無駄な殺生を行う心算は御座いません
立ち塞がる者の中でも止むを得ず倒さねばならぬ者
鳥籠より解放した蝶の魔力に囚われず
そしてハンスの攻撃に怯まなかった者のみ黒剣にて斬り捨てます
感染、増殖が進もうとやるべき事は変わりませぬ
猟兵の行く手を阻むならば相応の対処を
決して死角を取られぬよう
ミイラ取りがミイラにならぬよう警戒は怠らず
たとえこの身が血肉に塗れようと
立ち止まる事等、我々には許されぬのです
●車両《7》/15:12
「おやおや、こうも『人』らしく動かれては、心痛まぬ訳には参りますまい」
今や猟兵達は突如舞い込んだ悪虐非道たるものとして――電車に乗り込んだゾンビ達を『恐怖』へと落としめていた。女は、肩を震わせ哭いていた。その肩を抱く男は必至に彼女を慰め、励まし。勇猛果敢にも闘って散った父の姿を見てしまった子供は、尻餅をついたまま――顔から一切の表情が抜け落ちている。此処は戦場、痛ましき絶対の悲惨が在った。
新たにドアを開けて入って来た男――グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)の蹄が床を叩く音に怯える声が夫々の口から漏れ、其れは次第に膨れ狂騒と為す。
「……ええ、ハンス。此度の目的は彼等の殲滅では御座いません、此処は疾く駆け抜けます――先導を」
かあ、と一声、相棒である鴉は鳴いて応えると、肩の上から羽搏き低空を滑る様に飛んで――彼を追う様に走りながら、鳥籠を解錠して蝶を放った。その淡い光は虚に窪み始めている屍の眼にも奥床しく、神秘的に映り、そして蠱していく。
多くのゾンビ達が囚われ無力に地に伏せる中で、たったの一人だけ、彼らの足取りを阻む者が在った。歳は十も行かぬ幼い少年が、母を背に腕を広げて立ち塞がっていた。体格差もある、多少無理をすれば通る事だって出来ただろう。だが、今にも腐食した歯で噛み付かん程に顔を怨嗟で歪め此方を睨み上げるその姿を見て――『嗚呼、やめて欲しい』と、視線を逸らしたくなった。
「私に斬れ、と言うのですか。……嗚呼、ああ。例え既に死んでいるとは判っていても――こういう者には、少しばかし弱い」
黒き剣に手を掛けながらも何処か逃げ場を探し乍ら、僅かに眉を寄せる彼を案ずる様に『かあ』、と鴉が鳴いて、そうして我に帰った男は、少年を――斬り捨てた。
「大丈夫ですよハンス。やるべき事は変わりませぬ」
とある男の抱いたいたみ――→。
薄明の青を引き連れて、駆ける、駆ける、駆ける。此れ以降、喩え此の身が地肉に塗れようと、立ち止まる事等、我々には許されぬ。ええ、けれども。主よ、神よ、母よ! 何故に其れ等は存在し――どの様なご意向にして其れ等は作られしかご存知のあなたなら、『罪のない怪物』は何方であるかを私に教えてくれ給へ!
「何故だか、死んでしまいそうな程に胸《此処》が痛み疼くのです、死者を屠ったところで、死者な事には変わりはないのに」
成功
🔵🔵🔴
曽根・亮
捜査協力者のナナ(f12271)と共に
真っ直ぐ先頭車両を目指す
…ゾンビっつってもこれじゃあよ
まだ死んじゃいねえかも知れねェし
元に戻る方法だってあるかも知れねェ
願望なのは分かっちゃいるが、
罪の無い市民に銃口は向けられねェよ
基本戦闘は【見切り】活用して避けるが
向かってくる馬鹿には【チャカ】で【武器受け】
そのまま銃身で殴り【気絶攻撃】
ナナを【かばい】ながら【ダッシュ】してく
体力の無いナナが遅れてたら
囲まれる前に【怪力】で担いで走る
こうなる前にさっさと助け求めとけよテメェは!
多少は【激痛耐性】て乗り切る
もし、万が一
自壊や誰かとの戦闘で
助けられない程損傷の激しいゾンビがいたなら
【夕啼き烏】でせめて弔いを
七厶・脳漿
俺は先発隊で行っても良かったけど
亮(f11219)が一人じゃ心配だし
ゾンビの腐乱臭はサイアク
全部死んでるなら蹴散らしていい?
…やっぱ『お巡りさん』はそういう訳にはいかないか
それが自己満で独善だって、分かってるみたいだけど
亮を盾代わりにその背を追う
【午前二時~】で【chocolat chaud】入りの注射器を操り
ゾンビ共の首筋に優しく【気絶攻撃】や【マヒ攻撃】
担がれるのは寧ろ待ってた
疲れたって言わなくても亮は分かってくれるでしょ
楽できる分、UCに集中するよ
道中も可能な限り【情報収集】
ゾンビ達に何か共通点があったら面白い
気になるものはどさくさに【Pencil chocola】で引っ掻けて【盗み】
●車両《6》/15:20
とある新米警官の肉声を録音――→。
なぁ其処のあんた。ゾンビってーのに何を求める?
嫌だよなぁ、『人語を解する』ゾンビなんぞは。ましてや、『普通に出勤や学業、日常生活を謳歌している』ゾンビなんかは愚の骨頂だ。ゾンビならゾンビらしく、なんつーの? 肌は土気色とかでよ、肉もこー、ぼろっぼろに削げ落ちてて、蛆とか蝿とか兎に角虫が集ってて、『あー』とか『うー』とか言ってて欲しい訳だよ、俺はよ。
その、詰まりは何だ。滅茶苦茶やりにけェって事。
そしてとある情報屋の臆測を録音――→。
やっはー、俺でっす。え、俺がゾンビに求める事? そーだな、すっごい爽やかでフローラルな匂いがするとか嫌過ぎない?
とは言え、何だろうね、此処。確かに、此のゾンビパラダイスを作った奴ってのが居たら、すっごい悪趣味なんだと思うよ。こんなにキンキンに冷やしてさ――現にほら、俺は良くても、亮には効果は抜群だ。
そんな甘ったれた考え、今直ぐにでも捨てないと、がぶぅ! って噛まれて、何時か痛い目に合うんだからねー。
「嗚呼、もー……サイアク」
纏うショコラの薫りからは此処は程遠く。うへぇ、と腐乱臭に顔を顰めて鼻を摘む、七厶・脳漿(エス・f12271)の足取りは酷く重い。
「ねぇ、全部死んでるなら蹴散らしていい?」
「いや、その、臆! ……ゾンビっつってもこれじゃあよ」
まだ、死んじゃ居ねえかも知れねェし、元に戻る方法も――そう言い澱む曽根・亮(夕焼け色の衝動・f11219)だって、存分に承知の上だった。此れは自分の願望に過ぎないと。こんな、こんなこと。うだうだと言って居る自分は、まるで欲しいものが手に入らなくて駄々を捏ねている子供の様じゃないかと、足を止める事こそないものの、只管にやり切れない想いを抱く自分は屹と、甘い。
「それでも、罪の無い市民に銃口は向けられねェよ」
「ん、……やっぱ『お巡りさん』はそういう訳にはいかないか。――でも、」
頭をわしゃわしゃと掻いて、何とか気持ちの落とし所を探す男の顔を覗き込んで、脳漿はきゃらきゃら、笑う。
――良いよ、其れが自己満で独善だって事、分かってるのなら、今は良い。どんなチョコより甘くて優しい考えをする様な正義の『お巡りさん』、中々如何して、面白いじゃあないか!
「一つ、貸しにしといてあげる」
自前の傷だらけの拳銃に新たな傷を拵えながら駆ける亮のバックアップを甲斐甲斐しく担い、甘く痺れる毒薬で以ってゾンビを無力化する事で自然と盾代わりに使うのに脳漿は成功してはいるものの、如何せん普段からの歩幅だとか、体力の差であると言った差が歴然になって来る。先頭車両まで、後半分程か――正直なところを言えば『疲れた』。
「なァにが悠長に『貸し』だって!? こうなる前にさっさと助け求めとけよテメェは!」
酷く緩慢になりつつあったその身体を後部車両から追って来る屍達を薙ぎ払い、担ぎ上げられたのに対しては内心『待ってました』と拍手喝采の心持ちで一杯であるが――。
「俵抱きって、ねぇ、もうちょっと抒情的な方法は無かった訳? お姫様抱っことは言わないけどおぶるとかさ」
「うるせェな! ばっか、其れじゃあ両手が塞がって二人纏めてお陀仏だろうが! 文句があるなら下ろすぞ」
軽口を叩き合い乍らも、相方の馬鹿力と体力には舌を巻く。――ふたりで走って居た時より若しかしたらずっと早く、而も楽が出来るだなんて、もっと早くからこうして貰って居た方が良かったんじゃないか、なんて思ってしまう程に。暫しの間、走って、走って、走って、駆け抜けてしばらく、一足先に2両目に辿り着いたふたりは。
「なぁおい、ナナ、お前今、何盗った?」
「盗ってませーん、拾っただけだよ。其れより、ねぇ、他のゾンビ達とは違って此の人はてんで駄目だね」
次の車両へと続くそのドアを守る様に、腰掛けた男一人だけ――まるで木乃伊か何かの様に乾涸びて、そして、朽ち果てて居た。
奪取したスマートフォン・夫のメモより抜粋《7》――→。
『陣痛が始まったと、義母から連絡があった。同僚や上司が気を効かせてくれたお陰で今から産院へ向かう。正直な所、怖い。映画か何かじゃあないが――此のメモが、誰かに見られている時には俺はもう、死んでいるのだろう』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィーネ・ノスタルジュ
なるほど此処が棺桶だというのなら、行きつく先は決まっていそうなものですけど。
先頭車両への急行よりも、むしろ向かってくる死体の処理を優先。他の方はお先にどうぞ。
他の猟兵の補助として、露払い程度なら任されます。現車両を突破する、あるいは後方車両から来る猟兵達の為に、通り道の確保を担当しましょう。
【死天使の灰羽】を発動して周囲に展開。此方に向かう四肢は、その羽に触れた部分から灰塵となって頽れるだろうから、そのまま自身を起点に円の範囲を広げ、辺り一帯のゾンビの悉くを灰に変えていきます。
此処に存在する、動く屍は全て本来の姿へと葬り去ってしまおう。
それらは等しく、灰に還るのが道理である筈なのだから。
●車両《5》/15:26
とある死天使謂く――→。
此処が棺桶だと言うのなら、行き着く先は決まっていそうなものですけど。
『楽園』か、若しくは『奈落』か――嗚呼、そうか。『――』行きとはきっと、其の儘『楽園』を指していて。きっと其処へ向かって、この動く屍達はぐるり、ぐるり、ぐるりと、巡って居るのでしょう。
もう、既に至って居る共、識らずに。可哀想な人達。
でも、そう。私も見た事が或るから知っています、幸せだってこと――救われてるってこと。よく、判ります。
些か、活きが良いのを、除けば。
「お先にどうぞ、私はゆっくり向かいますから」
頭を下げて走り去って行く者達を、ヴェールの下、薄青と紫の眸で見送って、死へと寄り添う麗人――フィーネ・ノスタルジュ(死の領域にて・f13940)は、この異常な状況下に置いてやけに平静で居て、屹度、他の誰よりも異端だったかも知れない。
その手法は、屍を屍へ。本来在るべき姿へと、還す葬い。魂が安逸を享受する為に、怒罵叫喚、金属楽器の乱調子に、煙火の爆音、そう言ったものが一つにこんがらがって、玉になったものを紐解く様に歩き乍ら、等しく同一に全て、全て、全て――『灰』へと。
そして又、彼女へと手を伸ばす屍達が、死天使の羽に触れて、爛れて、灼け焦げて、頽れて、灰燼と化して行く。そうしてさらさらと、さらさらと、柔らかな乳灰色の粉へ。床にへばり付く喰い散らかされた肉片だとか、体の一部を失って未だのたうち回る常軌を逸した者達や、輾転と転がる首も、念入りにも程がある程に。その悉くは、散り散りになって、軈て溶け合う様に積もった。
――さあさあ、灰羽のお通りである。『死』を受け入れて、『死者』らしく振る舞う為に。皆! 皆! 皆!
「墜ちて、朽ち果て、灰となれ」
こうして、献身的な迄のこの行いによって、彼女の歩んだ道のりには小綺麗な『死』が『死』たらしめる事の形状である灰だけが残って、静かに皆が眠りにつける様になっていった。向かうと思っている先が『楽園』なら、こうして静々と美しい姿でのぞむ位が丁度良い。何よりも、其れが道理と云うものである。先頭車両まで、まだたっぷりと力の奮いどころは残っていそうだ。
誰しもが、自分が死後何らかの理由により、葬いもされずに――況してや動く屍と化して、暴虐の限りを尽くすだなんて想像も出来ないだろうし、ぞっとするだろうから。
「骨壷でもあればもっと良いのでしょうけど――残念、そこまでの用意はされていないみたい」
大成功
🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
ゾンビ?
彼らにはボクの方がバケモノに見えている?
なら、ボクはバケモノらしく振る舞いましょう
冷たいのが好きなようですし更に冷やしてあげましょう
【蒼く凍てつく復讐の火焔】を鞭剣と周囲に纏い前へ進みましょう
抵抗するものには鞭剣の斬撃を
凍てつかれ斬り砕く
抵抗しないものはボクの歩みと共に焔で凍てつかれ燃やし尽くしましょう
バケモノから送るのは葬送歌
抵抗は無駄です
ボクの焔で消え去ってください
理解が及ばないけれどここではボクが異端
それだけは感じる
ボクはその視線が苦手、いえキライです
だから、だからボクはあえてバケモノを演じましょう
ああ、速く速く駆け抜けてしまおう
この視線は私の心に突き刺さる
アドリブ歓迎
●車両《5》/15:32
「……彼等には、ボクの方が『バケモノ』に見えている?」
此処まで、散々と雨霰の様に浴びて来た忌避の眼、悲憤の涙を流す眼。そして激声は高らかに、耳を劈いて止まない。『バケモノ』なんて、まだ可愛いかも知れない。一度たりとも信じた覚えもないし、裏切った覚えだって勿論ないのに、『背信者』だなんて、酷い言い様だ。
然し、この場所で与えられた脚本の役を、其れらしく演じるのなら――より、『バケモノ』らしく。彼等の日常を、幸せを、破壊する、異端の者として。アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)は進んでそう振る舞い乍ら、地獄の様な場所を先頭車両に向かって歩んでいた。
どれ、どれ、どれ。冷たいのがお好きなら、もっと冷やしてあげましょう。ボクのこの、蒼く燃え上がる復讐の焔は、きっと皆様お気に召すに違いない! よぉく冷えると、評判なんですよ。そう――頭の天辺から爪先、其れどころか、心の臓まで凍て付いて、身が粉粉になって砕け散ってしまう程に。尤も、お客さん方、既にそんなのは動いていない様ですけど。
こんなバケモノから贈るのは葬送歌。死者だらけの此処では、なんて歌い甲斐があるのだろう。之を聴いた者から順に並んでおいで。おっと、奏者に手を出す様な不届き者には貪り食う者からの罰を、大人しくしていてくれるなら、とっても冷たく、燃やし尽くして差し上げましょう。
『抵抗は無駄です』と、何回申し上げたとお思い?
須らく、ボクの目の前から消え去って頂きたい。アナタ達のお望み通り、敢えて『バケモノ』を演じたのだから――せめて、『普通』に蹂躙される者らしく死んで頂きたい。
とある《ボク/私》の悲痛な歌声――→。
何故。皆、その様な目でを見るのです? ボクはその視線が苦手、いえ、キライです。
痛い! 痛い! 痛い! 突き刺さって抜けない杭を打つ様な、あの視線が、まるで何時か何処かのあの日々に受けた仕打ちを思い出して、私の凡ゆる所痛むのよ。
嗚呼、速く、速く、速く、駆け抜けてしまおう。また、次の車両に入ればどうせ同じ眸で見られるのだ、いい加減、もう、飽き飽きする!
別に何も、アナタ達の為にこの黒猫の面を被っている訳じゃ無い。こうしている間にも、全て忘れて切り捨ててしまいたい程に、痛くて痛くて、仕方がなくて、目を閉じていたい想い!
「其れにしても、如何でしたか? 『楽園』の創造主様、この脚本家。ボクの『バケモノ』っぷりは、見事だったでしょう」
大成功
🔵🔵🔵
ローウェン・カーティス
只、言われた儘に来てみれば…
どうなっていると言うのですか…これは
まるで、世界が一瞬で置き換えられたかのような…
それとも、最初から其処に在ったのはこの光景だったのか
何にせよ、慄いている暇はありませんね
早急に突破しなくては
UCで剣に風を纏わせ攻撃力を強化
【属性攻撃】にて道を切り拓きます
斬撃と風の圧で道を塞ぐものを退かせ
先頭まで一気に駆け抜けます
油断して地を這う者に足を取られぬよう
伏している不死者にも風の刃を見舞っておきましょう
此の世を知らぬ私とて、解ります
今は只、生き残るべくして駆けるべきなのだと
切り抜けてひと段落といけばよいのですが
未だ、此れ以上の怪異が待ちわびている
そんな気がしてなりませんね…
●車両《3》/15:40
とある青年の手記――→。
まるで、世界が一瞬で置き換えられたかの様な、そんな錯覚を覚えました。其れとも、本来、最初から此処に在ったのはこの光景だっただけで――何かの魔術であるとか、超常現象、そう言った類の代物に依って騙されていたか。
何にせよ、慄いている暇はありませんでしたね。いい加減、こういった珍事にも慣れませぬと、今後胃が保ちますまい?
まあ、何と言いましょう、私も昔に比べて随分と神経が太くなったという自負は有ったりもします。其れでも矢張り、悪い夢でも見せられてる気分で、もしそうなら早く醒めて欲しいと、頰を抓らずには居られなかったのですが……。
「もう何が何だか……今日ばかりは今後どんなものが出てきても驚き難い」
ゾンビがぎっしり乗り込んだ、電車内を駆け抜けるのは中々に骨が折れるものだった。この様な理解の及ばない地獄に於いて少しの心も痛まず、理解を示すだとか、平静であれる程、彼――ローウェン・カーティス(ピースメイカー・f09657)は正気を失ってはいない。
だけれど、嗚呼。厭だ、厭だ、厭だ! シャンパンの栓を抜く音の様に、規則的に正しい間を置いて劈く銃声も、誰かが頭をかち割って、ぐちゃりとひしゃげる頭蓋の音も何もかも、流石に『聞き飽きた』と言える位に、耳に馴染み始めている。
この電車では、屍が生き、屍が夢み、屍が苦悩をしていた。早急に突破しなければ、こんな悪い夢、早く終わらせなければ――頭が、どうにか為ってしまいそうで!
澱んだ濃厚な死の香りを祓い清める一陣の風を纏い、ローウェンもまた懸命に進んで来た。此れで何とか、鼻が捥げそうな腐敗臭や血肉の匂いと云ったものには事無きを得ているとして、好んで着込んで居る『白』が、斑らに汚れるのには些か悔いが残る。併しながら、そんな悠長な事を考えている暇はない、油断は禁物だ。先程、地に伏せったゾンビに足を掴まれた時などは――肝が存分に冷えた。
彼らに怨みなどは無いが――文字通り『死屍に鞭打つ』が如く、全てを疑って掛かり、丹念に不安の種を潰して行って、そうして数えるのを忘れて居たが、10両編成なのであれば後少しだろうか――永劫にも、たった数分の出来事にも見紛う時間の中で、一つだけ、確かな事は、今は只、生き残るべくして、駆けるべきなのだと云う事。
無論、切り抜けてひと段落だなんて甘い考えは捨てるべきだろう。先頭車両に近くに連れて――感じる、言い知れない圧力。今ある地獄を濃縮した様な、強力な力を感じて――未だ、此れ以上の怪異が待ち侘びている、そんな気がしてならないと云う彼の推測は満点花丸を押したくなる程に正解であった。
そうして、次第に強く為って来る得体の知れない力に挫ける事無く、辿り着いた《2》車両目。先に辿りついて者達も、其の先にある並並ならぬ雰囲気に、黙す者、情報を探す者、瘴気に当てられて膝を抱える者、様々だ。
「遅くなりまして。さて、鬼が出るか蛇が出るか……開けてみる迄のお楽しみですか、何とも気が重い」
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!!!!! CLEAR
!!!!! ==========>>
覚悟の決まりし者よりドアを開けて中に入れ。健闘を祈る。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『赤の王』
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POW : 新生
いま戦っている対象に有効な【性質を持った新しい形状の人類】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD : 創生
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使用できる新しい形状の人類を召喚し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ : 可能性
【レベル×2の値の任意の技能をひとつ取得】【レベル×2の値の任意の技能をひとつ取得】【レベル×2の値の任意の技能をひとつ取得】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
👑11
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●車両《2》/16:00
夫のメモより抜粋《8》――→。
『う ま れ た』
夫のメモより抜粋《9》――→。
『蜉ゥ縺代※縺上l縲∝ォ後□縲√d縺」縺ア繧贋ソコ縺ッ豁サ縺ォ縺溘¥縺ェ縺??ゅ≠縺ゑシ√??謇九′縲√≠縺ョ襍、繧灘搖縺九i謇九′窶補? 螯サ縺ッ繧ゅ≧蝟ー繧上l縺溘?∝現閠?b逵玖ュキ蟶ォ繧ゅb縺?ァ?岼縺?縲∝勧縺代※』
●車両《2》/16:16
一歩、其処に踏み込めば、誰しもが確信する。『この場所こそが、異界たる根源である』と。
景色が赤黒いのは、夕陽か、其れとも。
――一歩、また一歩と踏み込めば、どくりと脈打ち、跳ね返って来る弾力があった。
――先程迄は、背筋が凍る程に寒かったのに。此処は、とても暖かくて。
――馬鹿気た事に、何処か誰しもが懐かしい思いで泣きそうになる。
――その既視感の正体を理解する。此処は、『胎内』と云うのが相応しい。
――無条件に守られるべくして根を下ろす、赤子《彼/彼女》の居場所が在った。
その最深部に在わすのが、『赤の王』。この『楽園』の、王様である。既に至ってしまって居るとも識らぬ、生きた屍達が必死に守った唯一無二の概念である。とある女が、幻想に騙される儘、執念と猛着の末に産み落とした、無垢な存在である。
がたん、ごとん。がたん、ごとん。揺れ乍ら、廻り続ける電車は謂わば心地の良い揺り籠の役目を果たしているのだろう。もう1つ、この車両の調度は、屹度。王が母から離れて寂しくない様に誂えたのだ。
微睡む様に、眼を閉じて居た王が、玉座の様に築き上げられた骸の上で赤く、赤く、赤くギョロリとした眼を開けて、ぱちくりと此方を見遣った。少なくとも、其れ自体には敵意だとか、そう云ったものは見受けられず――然して、此れを悪意で動かす者の聲がする。
「控えおろう、控えおろう。此処は王の御前なるぞ。――初めまして、私は真理(しんり)、『孔雀様』とも呼ばれています。新たな産声、健やかなる成長を見守る者。一端の『楽園』への招待者、誘う者。此処まで生きて至るものがあるとは些か驚きましたが、……その手にお握りの数多の武器で、如何しようと云うのです。産まれたばかりの赤子に手を下そう等と云う、その様な酷い真似が出来るのです、嗚呼! 酷い、酷い、酷いですね。けれど、丁度良かった。王の食事の時間です、《彼/彼女》は可能性と創造の神性、生きの良い餌をお召しになられれば、その『可能性』の拡張も約束されましょう」
ブツッ、ザー、ザザー――、――――。
此処は『棺桶』の様だと最初に擬えたのは誰だったか。そう、『棺桶』から人が居なくなったとて、掘り返す者も居らぬこの場所で、誰が気付こうか? 仮に帰らぬのなら、『楽園』へ至ったのだと、良かったね、で終わるだけの話――そう、つまり正確には、王の『巣』だ、そして『餌場』だ。無限に『食事』の供給が行われる、『養分』の詰まった箱だ。
王の為にせっせと――あの『孔雀様』とやらが、この電車に招いたのだ。『お務め』とは王を見守る事、及びは食べられる事を指す。
ザザッ――。
場違いで、軽やかなメロディーが流れ出して、其の眼と、眼が合った。オギャア、オギャア、と、そう啼いて、捕食の対象たる猟兵達へと向けて、めきり、めきり、其の背が割れて無数の――『手』が、伸びてくる。此方においでよと、呼ぶ、聲がする――。
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!!!!! CAUTION
!!!!! ==========>>
喰われるな。王は成長過程の幼体である、何が起こっても不思議ではない。
トリテレイア・ゼロナイン
『胎内』を思わせようとも、生まれてきた胎など存在しない私にはなんら感慨もありません。狂気によって感じる既視感も、自身を●ハッキングして不要なエラーと削除してしまえば行動に支障なし
「母」などいない私はある意味「赤子殺し」に相応しいでしょうね
……赤子と呼ぶにはあれは禍々しいにも程がありますが
無辜の人々の「可能性」をこれ以上アレに消費させはしません
頭部と肩部格納銃器を展開し●スナイパー技能で迫る「手」を撃ち落とし、●武器受け●盾受けで受け流し、接近し剣で攻撃
急速成長するようですが、UCでその制御を妨害
細胞分裂のエラー…ガン化するやも
可能性とは正も負もあるもの、貪ったそれに押しつぶされてもらいます
●Cast【赤子殺し】――トリテレイア
『産まれてきた『胎』など存在しない私に、何らかの感慨があるとでも?』
蝕む狂気を取り除く為に現段階に於ける不安定なディレクトリ『感情上』にアクセス。該当した『既視感』を不要なErrorと認定、及び削除を実行。
――All Clean. 我が行動に支障無し。
――『母』もいない私には、ある意味『赤子殺し』には相応しいでしょう。
「……赤子と呼ぶには、アレは禍々しいにも程がありますが」
此方においでよと、呼び招く無数の手は恐らく、今まで王が『摂取』した人々のものであろう。溶け合って、共に成長の糧となろうと蠢く其れはまるで、翼の様にも見えた。幾多の可能性を捕食し、成長する王に取り込まれた有象無象。
此処、『楽園』では其れが幸せなのだろう。人々にとっては、極上の心地だったのであろう。然し、留まっていてはいけない。『怪異』がまだこの『楽園』という異世界である内に、何らかの拍子で殻を破って外界へと侵食する前に、殺してしまうべきだ。
「無辜の人々の『可能性』をこれ以上アレに消費させはしません」
其れが皆――等しく屍であろうとも。
頭部、及びに両前腕部装甲に一門ずつ格納されている隠蔽型銃火器を展開。迫る、迫る手を撃ち落とし、身の丈もある盾で受け流して、トリテレイアは自分と仲間を守った。飛び出す機を伺って、懸命に。
一体、この王が何れだけの『食事』を行ったかは判らないが――夥しい程の手の猛攻は止まない。一度活性化した其れ等は、払っても、払っても、払っても、生えて来る!
そうして彼は、一つの判断をする。
――『急速な成長を続ける存在で在るならば』。
――いっその事、『其れが命取りになれば良い』。
――彼は、一つの遺伝子に『傷をこさえてやった』。
戦場において尚、成長し続ける王の細胞へと、緻密に与えたその一点は、尋常ならざる速度で異常な細胞を増加させ、そして全身へと巡り。その躰の一切の都合を考えずして自律的に増殖を続け、止まる事を知らない。それどころか、彼方此方と飛び火して、仲間を増やしていく、『癌』と化した。
王が、オギャア、オギャア、と啼いた。痛みを訴えるかの様に。『手』が、慰める様に必死になって、痛む場所を排除しようと――躰を、『千切った』。
ぶちり、ぶちり、ぶちり。
王が、ぼろびていく。正常な部位が得るべき栄養までも貪って、その侵攻は止まらない。
「『可能性』とは正も負もあるもの、貪欲なあなたにはお似合いです」
成功
🔵🔵🔴
小西・卓穂
悪夢ってもんがあるなら、こいつはそこから出てきた存在だな
オブリビオンってのはどいつもこいつも趣味が悪い
ダーク・ヴェンジャンスを使って、攻撃に備えるが…
こいつに効果、あるのか?
まともに正面きって戦うよりも、隙を見て暗殺に切り替えた方がいいかもしれないな
誰かがこいつの気を引いた瞬間が勝負、だな
こいつが…、あの生きた死人共を操ってたって事か?
守らせてたって事のほうが正しいんだろうが…
…もしかして、こいつ、例の『妊娠3ヶ月程度の時の姿の儘、変わっていない』腹の中の子ども、か?
だとしたら、その母体と父親は…
いや、今は考えるよりも闘う事だな
こいつは赤子殺しじゃない、怪物退治だ
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
●Cast【誰かのヒーロー】――卓穂
『本当、オブリビオンってのはどいつもこいつも、趣味が悪い』
悪夢ってもんが在るなら、此奴は其処から出て来た存在なんだろうな。認めるよ、今此処に居る赤ん坊は、小さい乍らも格ってモンがある。この異空間で最も質の悪い――救い難い奴だ。
軽やかで、そう、まるでミュージカル・モビールの様な優しいオルゴール調のメロディーが一周したのか、ザザッと言う小さなノイズを挟んで、またスピーカーから鳴り始める。そして背にする扉には、もうゾンビなんて残って居ないと言うのに、『開けて』と言わんばかりの手形がベタベタと窓硝子に張り付いて、ドン、ドン、ドン、と音を立てていて、耳も頭も可笑しく為りそうだった。
「此奴が……、あの生きた死人共を操ってたって事か? いや、守らせてたって事の方が正しいんだろうが……」
ドンッ、ドドン。――『そうだよ』と呼応する様に。『今だってそうしたいのだ』とでも主張する様に、扉が揺れて止まない。
此れは推測だが、音楽は『王の食事の時間』とやらを乗客に知らすものなのだろう。『楽園』へ至るべく乗り込んだ者達が、静々と王に傅いて、一人、一人と食べられる為の、『鍵』だ。纏わりつく『生』、其れに付随する柵から解き放たれて、約束された場所へと向かう、儀式だ。
「……若しかして、此奴。例の『妊娠3ヶ月程度の時の姿の儘、変わっていない』腹の中の子ども、なのか?」
先程、仲間が奪取したメモにあったものと、成る程。詳しい程度までは判らないでも、恐らくは姿形は一致する。ゾッとした。どうして! どうして、どうして! 産まれて来るまでのその過程で、何度だって胎の中の写真を見る事も有っただろうに――『此れ』を、産み落とす迄に至ったのだろう。この王の母は――とっくの昔に、正気を失っていたに、違いない。
そして、産院も、何も警告をしなかったとは考え辛い。そうなれば、『王』を渇望する、下手したら街ぐるみで、『ぐる』だったとそう思って良いだろう。
「クソッ、何奴も此奴も狂って、いやがる……」
母体も、父親も。あのメモの最後を見れば、無事で済んで居るとは考え難い。卓穂は怖じ気付いてる自分に喝を入れる様に、両頬を叩く。
「オーケイ、考えは纏まったな。此れはまともに正面切って戦うよりも、隙を見て暗殺って形でどうだいブラザー。此奴は赤子なんて崇高なモンじゃあない、相応しい名前をくれてやる、『怪物』だ。だから、此処から先は『怪物退治』だ」
成功
🔵🔵🔴
ロカジ・ミナイ
おいおい……なんて不気味な
胎児は王様さ、それはよーく分かる
胎内でミルクなんて飲まねぇ
管から餌を“取り込む”だけでいい
好き嫌いも満腹もなく“そうしていればいい”
ここの全ては王のためにあるんだもの
なのにどうしてさ
産まれる前から泣いちまってんのかい
それとも、泣くようになっても産まれてないのかい
……可愛げのないクソガキだなぁ
ブクブクデカくなって一体何になるんだろうねぇ
遠目に構えて、そうだな、僕も餌をやろう
蛇は好きかい?初めて見るかな、気持ち悪いかな、
麺みたいにツルっと飲み込んでごらん
腹の中で七つに分かれて遊んでくれるから
●Cast【神逐】――ロカジ
『おいおい……なぁんて不気味で、けったいな王様なんだい』
「胎児は王様さ、それはよーく分かる」
――王は、胎内でミルクなんて、飲まない、『欲しない』。管から餌を『取り込む』だけでいいのだ。
好きも、嫌いも、満遍なく只管『そうしていればいい』、そう、あればいい。意向も表現も、持たぬ。
真っ赤で、柔らかくて、暖かくて、確実で、陳腐な愛で満ちている。
そう、此処の全ては王――胎児の為に、粧し込んだだけの。されど確かに、人生の厭なものであるとか、愁いであるとかそう謂うものから隔離された、居心地の良い、揺り籠であって、墓場だった。
有りと凡ゆるものがあって、たった一つ――無いと思きものは、逃げ場だった。
「……どうしてさ、お前さんは産まれる前から泣いちまってんのかい」
殺されるのが、恐いのかい。如何して、赤ん坊の意思の鞏固と言葉の紆余たる所の、そんな泣き声で、泣くんだい。一滴の涙すら浮かばない、そんな瞳を持ったお前は――まだ、その躰は、『産まれてもいないのに』。
「嗚呼、可愛げのないクソガキだなぁ」
ふふり。そう咲って、其れからロカジはほんの少しだけ、嘆いた。
産まれ損なったもの。『神の御子』だ等と――古い怨恨、侮蔑を洗い流せない儘、人々の望みなのだと、喜びなのだと、そんなもので一人の女が十月十日を育んで、『王』に据えられた、都合よく利用されただけの。彼とも彼女とも分からぬ、本当は、『希望』も『可能性』も持たない、手の施しようがない憐れな怪物。
――此れは此れは、処方すべきお薬も、ありゃあしませんよ。そうだなあ、その辺の誰かの唾でも着けて置けば良いのでは無いでせうか。
「ブクブクデカくなって、其れから一体何になるんだろうねぇ」
オギャア、オギャア、と啼く王に、ふぅーっとよく燻る烟を吹き掛けて、――やれ、やれ、離乳食なんてまだ早かろうに。一丁前に、食事を欲する赤子未満の口に、餌を遣わせた。
「蛇とかは好きかい? 初めて見るかな。気持ち悪いかな、ほぅれ、麺みたいにツルッと飲み込んでご覧」
運ばれて来る餌は何れも青白くて、生臭くて、ぼそぼそしたものばかりだったのに対してちゅるりと啜れる其れは、喉越しこそご満悦の様子であったが、その直後、その腹が、一つの根元から幾つもの生き物が夫々の意思で以ってぼこぼこと皮膚の下で蠢いて、苦しい、苦しいと――王は吐き出した。
「おやまあ、行儀が悪い。やっぱり――クソガキだ」
成功
🔵🔵🔴
フィーネ・ノスタルジュ
生まれて来るべきではない命はある、とは思いますけどね。
残念ながら、其方へはまだ行けません。例え片足どころか、彼岸に半身を置いている身であったとしても。約束してしまったのだから仕様がない。
まあ、物理的にも死ねないのだけれど。
後方支援に徹します。彼の王を屠る彼らの憂いは、可能な限り取り除くよう努めましょう。
【冥府の顕現】にて具現化した鎖で、伸ばされる手を丁寧に捌いていきます。相手が防御を試みようとも、その腕が凍りつけば無意味というもの。
その後は、風の刃で切り刻んで、温度のない焔で周囲の骸諸共塵へと変えていきましょう。
王よ、屹度貴方は、現世などに生まれ落ちず、永遠に微睡の中にいるべきだったのだろう。
●Cast【何時かあった死】――フィーネ
『生まれて来るべきではない命はある、とは思いますけどね』
「残念ながら、其方へはまだ、行けません」
おいでよ、おいでよ、そう招き乍ら、王を励まし、撫で上げる無数の手。
――小さな子供の細い手。
――薬指に指輪を嵌めた手。
――優しそうな、柔らかい母の手。
――無骨で、少し不器用そうな父の手。
――嗄れた老人の手。
其の何れもが、此方は幸せなのだと、一緒になろうよと、高らかに謳う。痛みを取り除いた分、栄養を欲して居るのだろう。羽を広げる様に伸ばされた何れも之もが不気味に、蠢いていた。
「其れは、識って居るんです、でも」
喩え、片足どころか、彼岸に半身置いている身であったとしても。私、『約束』してしまったのだから、仕様が無い!
「まあ、多少制約もそうこうあって、死ねない身なんですよね」
彼女が手に宿すのは肌を刺すような黒紫の焔。荒れ狂う禍つ風刃で以って巻き上げて、亡びの音が吹き荒ぶ。何、当てる必要等ないのだ。其の銀鎖に触れたもの一切、全ては凍てついて、《冥府》を此処に造り出した。王が神性、神格の頂きに或る超自然的で、超越的な者でなのならば、其れを裁く者も神だとかあの世、そう謂ったものがお似合いであろう。
途端に底冷えした空気に息すら氷りつき、凶刃が王の翼に疵を作れば、暖かく鮮やかな血は吹き出すより早く凝って、侵入した暖かみのない焔が、冷たく、冷たく、冷たく、灼き尽くして、壊死して行った。そうして、力無くだらりと垂れた手は、彼女が今までに屠った動く屍達と同じく、柔らかな塵へと化し漸く――長きに渡る悪夢から解放された様に、永遠の眠りへと就いた。
然し、王は、とんだ食いしん坊だったのか、其の様な『死』という幸せを許さないとでも言うかの様に、新たなる羽を生やす。無惨にも慰めを強いて――舞う様に命じて、聲に応じた僕達が、また、顔を出した。
「……キリが、無いのでしょうか、此れは……嗚呼、王よ、『孔雀様』とやらよ」
――呪われてあれ。死に行った者と其の清き休息を、顧みぬ事無く、乱す騒騒しい者達。お前達の其の野心、計画全て――呪われてあれ!
屍人に寄り添う花が、宿主の感情を吸い上げて、怒る様に――哀しむ様に、揺れた。
「王よ、屹度貴方は、現世などに生まれ落ちず、永遠に微睡の中にいるべきだったのだろう」
成功
🔵🔵🔴
グリツィーニエ・オプファー
胎内に赤子とは、成程
これは確かに絶対の守りに御座います
ならば我々は、愛し子を殺す病原菌に御座いましょうか
さあハンス、共に参りましょう
一撫でした精霊を花弁と変え
【黒き豊穣】にて迫り来る手を迎え撃ちます
痛いですか?
怒りましたか?
死角より伸びた手に無様に絡めとられぬよう、周囲に気を配りましょう
隙を補い合うよう、支援も怠らず
可能性が彼の身に宿ったならば更に警戒を
見切られようものならば、見切り等無意味と分からせるよう
包み込む様に――母の慈悲をその身全てに感じられる様に
黒き花弁にて、赤子を包囲致しましょう
ああ、可哀想に
呪縛、流血、毒も
どれも幼い身にはお辛いでしょうに
なればこそ、疾く終わらせねばなりますまい
●Cast【死に至らしめる病】――グリツィーニエ
『なんと、なんと。眩くばかりの不幸、嗚呼、御身は大いなる不幸な存在』
「胎内に赤子とは、成程。此れは確かに絶対の守りに御座います」
母の温もりこそ、今でもまざまざと思い出せるが、胎の暖かさ等、疾うに忘れた彼にとって此処は、非常に興味深いものであった。
ある一種、名状し難き優美さと。とても神聖で、超自然的、そんなものを兼ね備えた此の場所は、《彼/彼女》の居場所として、どうして、こうも適している。
母親は、嘗て今一度も見た事の無い一人の人間を――決して短くない年月の間、慎重に気遣って。無条件に愛するのだ。その生気溌溂たる動きに時に涙し、忘れ難き思い出として書残すのだ。
そんな、最も堅牢で、一切の被虐も、刻薄からも程遠い所にある、赤い窓から見る空も亦赤く――棚引く薔薇色の光が、眼の奥処に沁みて、痛んだ。
「ならば。我々は、愛し子を殺す病原菌に御座いましょうか、なんて――さあハンス、共に参りましょう」
一撫でした精霊は『かあ』と鳴いて、黒き豊穣、母の慈悲の化身となりて、ひらひらと、辺り一面を覆い尽くす程の蝶形の花弁が舞った。迫りくる手は飛び抜け大きな旗弁がすっぱりと斬り上げて、その後を舟弁が突き破り、散らす。迎え撃つ腕に容赦などはしない。最後に飛び立つ翼弁が、撫でる様にくるり、くるりと其処等を廻り続けて、花が咲けば咲く程、血の雨が降って、其れを嫋やかで、薫り高く、豊かで甘い藤の匂いで上書きして行く。
「痛いですか? 怒りましたか? ……結構」
視覚からの死角を狙い、凶暴に働きかける手には努努絡め取られぬ様に、足をすくわれぬ様に、周囲の気配を探る。考え得る可能性の種は全て丁寧に摘む様に、此方からうち得る全ての選択肢を考えて。
優しく全てを包み込むように黒き花弁を展開し、そうして王を包囲したなら、後はもう注入するだけだ。急速に熟した果実の皮が捩れて、裂けて。種子が、まるで弾丸の様に弾け飛び、その身に刺さる。根付いて、新たなる芽吹きを待つ様に。
「ああ、可哀想に」
可哀想に。お辛いでしょうに。――毒も、呪縛も、流血も。罵声も、暴力も、否定も。凡ゆるものを享受するには、なんて、幼すぎる身! 幾ら慰めは有っても、無償の愛が有っても、ただ唯一、抱いてくれる母の手は、もう、『食べてしまった』のだから。
其れに似ているかも識れない『孤独』が、熾烈に彼の心を燃やした。
「疾く、疾く終わらせねばなりますまい、閉幕を、急ぎましょう」
成功
🔵🔵🔴
曽根・亮
ナナ(f12271)と引き続き
いや、ガキに悪影響なのはテメェだけだろ
どっちにしろ餌になんかならねェよ!
【ダッシュ】でとっとと【先制攻撃】を試みる
手は【武器受け】で防ぎながらチャカでの射撃や殴打で対抗
ナナの仕込みが邪魔されねェように【かばい】つつ
手が封じられ胎児への道が一瞬でも開けたら
【地形の利用】で壁蹴った弾みで【捨て身の一撃】
【夕啼き烏】の炎と共に脳天へ銃口を突き付け【零距離射撃】
どうもまだ全容は分からねェが
こいつにも普通の人間の母親や父親がいるってことだろ
本当ならこいつのことも祝福して愛したかった、家族が
…そいつらは、きっとお前が泣き止んで静かに眠ることを望むと思う
だからイイコで眠っとけ
七厶・脳漿
亮(f11219)と
あはは、俺達なんか養分にしたら子供にはちょっと悪影響じゃない?
ここが胎内だってんなら母体は無防備だね
【医術】でめぼしい部位へUCを【一斉発射】
可能性の可能性から潰せないものかな
おっと、空になった注射器は怖くないって?
後方からせめて針で【援護射撃】…と見せかけ【騙し討ち】
注射器同士に結んだ【Pencil chocola】のワイヤーを絡ませ
手の動きを一瞬でも封じれは亮の出番
お巡りさんの綺麗事は聞き飽きてるし何にも言わないよ
あのメモの通りなら少なくとも父親は死んでるんだけど
ま、そこまで亮に言う必要は無いか
俺も子供の泣き声キライだし
救えない奴の為に落ち込むお巡りさんもうざくてキライ
●Cast【のぞむ者/のぞまざる者】――亮/脳漿
『ねえ、俺さ、お巡りさんってだーいキライ。せめて、亮の事までキライにならさせないでね』
『臆? 何だ、突然の駄々っ子か、どうしたどうした』
「あはは、『餌』だって! 俺達なんか養分にしたら子供にはちょっと悪影響じゃない?」
「いや、ガキに悪影響なのはテメェだけだろ、どっちにしろ喰われなんてしねェよ!」
正直な話、この真っ赤な夕焼け空を其の儘閉じ込めた様な此処は、亮にとっては、一寸だけ居心地が良かったかも判らない。――まあ、少なくとも、寒々しくて、生きた屍が蔓延る場所等よりは、余程良い。そんな事を宣った日には、きっとあの捜査協力者の男から、『マザコン』だとか笑われる事が目に見えて居るから、心の中に留めておくとして。
王は、彼等の発言に、何の疑問も抱かない。『餌』の質は問わない。否、猟兵などと言う良質な餌であれば、筋肉質であるとか、大柄な男であるとか、そう謂ったものは然程気にしなかった。
先ずは、頭をかち割って、硬い頭蓋骨に穴を開け、叡智の結晶たる脳を、乳の様にちゅう、ちゅうと、啜る所から王の食事は始まる。飲み終えるその頃には、ぐったり弛緩して、体に悪い排泄物などはすっかり流れ出て、一切の恐怖感等からは解き放たれて、抵抗しない分、軽くなるという寸法だ。
そうしたら、首の根元からずるりと背骨を引き摺り出して、ばりばりと頂く。骨髄などは柔らかく、甘くて美味しいので王は大変お好みである。次に、舌や内臓などの歯ごたえのあるものに手をつける。赤子の食事とて、食感の変化は大事であった。コリコリとしたもの。ざらりとしたもの。ぶにぶにしたもの。平らげる。その頃には、体重は3割程は減る。子供などは――手間が掛かる割に食べ応えが無いので、それならばいっその事、食事に文句をつけるなら、立派な体の方が良いのであった。
だから、王もその手も、その様な不安材料なんて気にも留めぬ。欲する。ぐん、と距離を縮めて此方へとやって来た亮を、恰好の餌だと認識した。その背後で、もう一人が、様々な罠を張り巡らせて居るとも識らずに。
新米の割には修羅場を潜って来た相棒たるチャカが、唸る、唸る、唸る! この場を満たす軽快なリズムにはそぐわない乱痴気なステップを踏んで、強かに殴り上げる。拉げようとも御構い無しで。なぁに、かえって箔が付くって言うもんだ。
大きく躰を逸らした隙に、脳漿が動いた。色鮮やかな『おくすり』が入っていた空の注射器を繋ぐ極細のワイヤーが、彼の意のままにぐるりと王の翼の周りを旋回して、纏め上げ――食い込んで『ぶちり、』と嫌な音を立てて切断した。
「仕込みは上上、バトンタッチ」
「あいよ。なぁ――烏の啼く時間じゃねェか」
カァァ――、カァ――、――、カァ。
むくり。地面に伝う赤で酷く濡れた烏の影が、湧き出でて、群れとなり、王の御身をつんつく、つんつく、啄んだ。それと同時に、沈みゆく夕陽の如く、燃える炎が辺りを取り巻いて――何も、見えなくなる。然して、まるで映画のワンシーンの様に、襤褸いモッズコートを纏った男がその中を潜って、脳天に向けて一発。ほんの少しだけ、僅か数秒躊躇って、其れから、引鉄を引いた。
「なあ、俺にはよ、どうもまだ全容ってモンが分からねェが」
「ん、なあに。お巡りさんの綺麗事は聞き飽きてるし何にも言わないケド」
(「此奴にも、普通の人間の母親や父親が『居る』って、事だろ? 本当なら、誕生を祝福して、愛したかった、家族が。――そうじゃないと、余りにも、辛い」)
(「あのメモの通りなら少なくとも父親は死んでるんだけど――ま、そこまで亮に言う必要は無いかあ」)
――オギャア、ァァ。ァ――。
「『まだ』あんたは泣くの。全くもう、子供の泣き声もキライだし――救えない奴の為に落ち込むお巡りさんもうざくて、ほんと。キライ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
バケモノですね
これを守り育てるために…
では摘み取りましょう
バケモノがバケモノを始末するのです
今日のボクはバケモノなのですから
新しい種は古い種にとっては天敵となるでしょう
でもそれは逆のことも言える
ボクは天敵となりましょう
【今は届かぬ希望の光】を発動し七つの光剣で攻撃をしかける
伸びる腕を切り裂きボクが進む道を切り開け
近づけたのなら血糸と鞭剣で動きを封じ、その頭蓋に光剣を叩き込みましょう
近づけないのなら光剣で牽制し、魔銃を眉間に撃ち込みましょう
さあ、バケモノからのプレゼントです
魔性の赤子、その身はそれ以上成長させはしない
あぁ、そうか
ボク…私はこうして恐れられたのか
驚異となるまえに摘み取れと
アドリブ◎
●Cast【バケモノ】――アウレリア
『此れを守り育てる為に、どれ程の命が失われたのでスカ? ああ、悍ましい』
「見紛う事無きバケモノですね。此れなら、摘み取り甲斐があるってものです」
今日のボクは、なんたって、『バケモノ』なのだから。
バケモノが、バケモノを始末する。なんて滑稽で、奇々怪界で、それで居て、痛快無比なお話なのでしょう!
架空譚を、此れから歌い上げて見せます故に、腹を抱えて、嗤って見て行って下さいませ、嗚呼、日没も近い。今際の栄光の上に、踏ん反り返って泣くあの者を、このバケモノの手で引き摺り降ろしてやりましょうぞ。
如何してそうもあのバケモノは、啼いて居るのでしょうね?
――苦しいのでしょうか。
――産まれ落ちた不幸を、嘆いているのでしょうか。
――それとも、曲がりなりにも『赤子』なのだとしたら、眠たくてぐずっているのでしょうか。
なんと。『お腹が空いている』? 可笑しな話ですね、バケモノを喰らった所で、其の可能性とやらも亦、末路はバケモノなのに。
「新しい種は古い種にとっては天敵となるでしょう。でもそれは逆のことも言える、ボクは、ボクが、天敵となりましょう」
其の手に有りっ丈、掻き集めた光は未だ小さく届かぬものなれど、心に呼応する様に、此の希望の光は決して潰える事はなく、軈ては虹色に輝く七つに光となりて、剣となりて、彼女の路を切り拓く。
なにものにも染まり、なにものにも染まらぬ遍し光の導線が迸り、幾つもの手がじゅ、っと妬けて、蒸発するかの様に消える。辺りには、嫌な臭いだけが残った。人を焼いた時の臭いとか、そうそう知り得る物では無いけれど、喩えるならそうなのであろう。
腕を傷付ければちり、と疾る痛みがあった。濡れそぼつ其処で細い、細い糸を組み上げて、血で滑る掌で握る鞭剣をしならせて、王の躰をきつく拘束し、そして魔銃で一発。発した神様さえ殺す銃弾が、眉間へとのめり込む。
淡色を金で縁取った透かし軽羅のスカートをふわりふわりと翻し、其の下のほっそりとした脚が地を蹴る。夜の深い喪にして、死の象徴たる黒猫の面の下、アウレリアはほんの少しだけ微笑んで――。
「さあ、バケモノからのプレゼントです。魔性の赤子、その身はそれ以上成長させはしない」
――跣で、赤子の身を蹴破った。
そうして、少しだけ、理解した、今日は最低で最高の1日だ。自分を嘖む過去の果実、取り除けず苦悩し、物憂げな気分にさせてくれる其れ等は。
「嗚呼、そうか。《ボク/私》はこうして恐れられたのか。『脅威』になる前に――"摘み採れ"と」
大成功
🔵🔵🔵
ローウェン・カーティス
これが怪異の根源…そして赤子であり、王であると
…嗚呼、ただの悪い夢ならまだ良かったものを
計り知れない悪意が、禁忌が
人の身に宿され、産み落とされて
更には人を貪欲に喰らう化け物として君臨する…
人を…いえ、命ある者を何処まで冒涜する気なのですか
喩え異なる空の下と言えど、此の剣は罪過を裁く為に
其の在り方は不変、ただ己の信じる儘、感じる儘
悪が神を名乗るならば、神とて斬って見せます
揮うは剣と術と
迫る腕は悉く斬り伏せ
刃が届かぬならば戦輪を見舞います
多くを破壊し、未来の芽を摘んでおきながら
可能性と創造を騙るなど
其れを傲慢、欺瞞と言わずして何としましょうか
…いいえ、誰がなんと答えようと
この剣は絶対に、揺るがない
●Cast【善良な青年】――ローウェン
『今までに見たどの様な『王』よりも、あなたは、醜悪だと言えるでしょうね』
「……鳴呼、只の悪い夢なら、まだ良かったものを」
計り知れない悪意で以って。生命に於ける禁忌を破って。人の身に宿された。
そして、産み落とされてしまった。其処までは、まだ、良かったのかも識れない。母は、身篭って嬉しかったのであろう。父も一緒になって、喜んだのであろう。少なくとも、望まれた命、存在だったのだから。
「人を貪欲に喰らう化け物として君臨する……。人を……いえ、命ある者を何処まで冒涜する気なのですか」
悲壮を顔に滲ませ、項垂れる青年の腹の内はかなり怒りで煮え繰り返っていた。いや、感情が一周して、今は逆に冷静になれている方だ。
王とて、王と祭り上げられただけの――信仰だとか、そんなものに対して都合の良い拠り所。自分はあくまでNo.2とでも言いた気な、あの『真理』とやらのお人形、謂わば、傀儡である。実際は、言葉も話せず、啼く事しか出来ぬ憐れな王様。
其れでも此の様なものは、救い難かった。責問うた所で、何一つ自分では出来ない赤子だろうと、人を食べ、生きている以上は。そうでなければ生きられないのならば、如何しようも無い。
そして何よりも、『悪』は『神』を名乗ってはならない、成ってはいけない。往々にして決まっているのだ。その末路など碌でも無い事を、青年は識っていた。只、陰鬱に、人を惑わし、誑かすものには、必ず罰が下る!
――此の剣は、罪過を裁く為に在る。
――其の在り方は不変。私の信じる儘、感じる儘。
――神とて、斬って見せましょう。
あの人々が『悪』を裁けぬ以上、此処より先は猟兵たる者の務め。多くを破壊し、未来の芽の悉くを摘んでおきながら、『可能性』だなどと。『楽園』の創造を騙って、決してもう戻れないあの日々に涙し後悔する余地すら与えない、存在する意義すら奪ったものを、傲慢、欺瞞と言わずに、何と称す?
――火炎に気息は荒だちて、
――氷雪を頭上に戴いて、
――雷鳴が陰にこもって轟いて、
清廉たる者が、『執行』する。罪深き、赤子を『断罪』する。
「……いいえ、本当は答えなど、求めていないのです。誰が何と答えようとも、もう、此処では何の意味も持たないのですから」
――神聖という光輪が、降り掛かる厄災全てを切り裂いた。
「只、此の剣だけは、揺るがない。地の果て迄逃げおうせようと、奈落にその身堕ちようと、必ずや斬って見せましょうぞ」
大成功
🔵🔵🔵
レナ・ヴァレンタイン
なるほど、私が此処に来た理由としては上等だ
他人の可能性をたらふく喰ってよーく肥えたろう
それを今ここで、全て台無しにする
まずはガトリングとアームドフォートの一斉発射で「手」を叩き落とす
弾丸の積み重ねで防御を固めさせ、その仕草から「何処を貫かれると最も致命的か」探る
それが済めば、トドメは“一発”で十分だ
相手に見えるように、ちっぽけな一発の弾丸を拳銃に装填
これで「たかが拳銃弾」と舐めてくれれば儲けもの
最も防護が硬い部分だろうが、私の弾丸は阻ませない
今まで喰らった人数分、貴様の身体は罪まみれなのだからな
「Take That, You Fiend(これでもくらえ)」
※アドリブ歓迎
●Cast【最期の銃声】――レナ
『成る程、良い、実に良い。私が此処に来た理由としては上等だ』
「鱈腹食って、良く、良ーく、肥えたろう。其れを此処で、全て台無しにしよう」
右手に、終末を告げるギャラルホルン。左手に、報復のヘクター。終わりをその身に刻むべく、女が腰だめに構えれば、そのふたりの獣が、研いだ牙を惜しみなく、剥いた。弾切れまで思う存分にぶっ放す。この電車の強度はお墨付きだ、今になって思えばそう、一番前に『この楽園の王』が居るのだ、その守りの堅さにも頷ける。
ばらばらと薬莢が舞って、からからと銃身が回って、嬲って、甚振った。そうして、貪り尽くした後には、肌にひり付く熱と硝煙、そして数多ものの手に守られて、何とか未だ最低限の形だけを保った王の姿があった。頭に銃弾を撃ち込まれても尚生きているのだとしたら――『弱点』とは何処なのか。然して、その手の守り方によって生じた小さな綻び、最も致命的だと思われる場所を、彼女は判断する、確信する。
――『眼』だ。あの、大きくてギョロリとしていて、ちっとも赤子としての可愛げを感じさせない不気味なあの『眼』だ!
「どれ、ボーイ、いやガール? 此れが見えるか。此れが今から、お前を『殺す』」
大仰な仕草で、ちっぽけな純銀の銃弾を、弾倉に装填して、セットしてスライドを引いた。安全装置を解除して、其れから王の側に馳せ参じた。手は、最早ストックが無いのか、観念したのか、沈黙していた。
赤子なぞ関わった事もないし、此れから先も自分がそうなるとは想像し難いものだが、子を抱く母と言うのはこういう気分なのだろうか。良い子、良い子と抱き上げて、揺すってあやして――、
こ れ で も く ら え !
「Take That, You Fiend」
悪い子の『眼』に銃口を突き付けて、そうと告げて、たった一発の最後の発砲音が鳴った。
――オギャア、ァー――、ァァ、ァ。
「嗚呼、なんだ、お前。ちゃんとに『泣ける』じゃないか」
つぅ、と王はその眼から赤い、赤い、赤い血の涙を流して、泣いた。此れから行く場所は、地獄だろうか。其れを憂いて、泣いた。もう戻れない『楽園』を思って、泣いた。
ジッ――、ザザーッ、ザ――。
『嗚呼、王よ、逝ってしまわれるのですね。何て、親不孝で哀しい王なのでしょう。大丈夫です、直に私も向かいます。此の『楽園』はお終いです。『今回の楽園』は、脆過ぎた。王の護衛も、あなた自身も、私の見通しも、全てが甘くて、脆くて壊れてしまいました。けれど、『新しい楽園』は、きっとすぐ其処に。私ではない私が、王では無い誰かを戴いて――……』
「五月蝿いなぁ」
スピーカーから声が止む頃には、その腕の中の赤子は。泣き乍ら、息絶えていた。
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!!!!! MISSION COMPLETE
!!!!! ==========>>
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『普通列車で行こう』
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POW : 素直に寝て過ごす
SPD : 窓の外の風景や他の乗客を観察して過ごす
WIZ : 携帯ゲーム、スマホ、小説を見て過ごす
|
●車両《1》/��:��
――パリン。パリ、パリィイィィン。
『赤の王』の死を切っ掛けにして、空間に血潮よりも尚濃く赤黒い亀裂が入ってゆく。『楽園』の崩壊が、急速に始まっているのだ。
然し、此処はこの世の様で、この世ならざるもの。異界。そうだとしたら、一体、罅割れた先に待つのは何処なのだろう。空を舞っていても、地に埋まっていても、広い海の上を漂っていようとも、何の不思議も無い。
車両が、ごぅん、と揺れた。何とか立っていようと、前に蹣跚めいて、それから後ろに蹣跚めいて、踏鞴を踏んで、皆して可笑しな舞踏会でもしているみたいだった。無情にも、揺れは大きなものと為り――一際大きくぐらりと揺れて、天と地が引っくり返って、空中で躰が分解される様な錯覚と共に、意識を手放した。
●�
次に目を覚ました時には、ごとごと、ごとごと、小刻みな音が心地好いとすら思える『其処』に居た。
柔らかくて手触りの良い天鵞絨の腰掛けの上に座り、広い窓に頭を預けてもう随分と長い事、悪い夢に魘されて、眠っていた様だった。顔を擡げて、ごしごし眼を擦って辺りを見開くと、電車の様である。
人の言葉と感情を、体に留めたゾンビも。翼を生やしてぷかぷか浮かぶ胎児の様な彼れも、此処には居ない。
見渡す限り、自分達以外の乗客の姿も無い様だ。
ある者は、『朝』だと言った。
またある者は、『昼』だと腹を摩って。
またまたある者は、『夕暮れ』が綺麗だと黄昏る。
そしてまたまたとある者は、『満点の星空』だと、呟いた。
自分達は、終ぞ頭が如何にか為ってしまったのであろうか。顔を見合わせて、首を捻った。
恐らく――屹度未だ、夢の中に居るのだ。其れで、自分の心地の良いと思える、空を臨んで居る。そう、思う事にした。
『当列車は、最終電車です。終点――まで、停車駅には停まらず運行致します。車内では、他のお客様のご迷惑になりますので、携帯電話はマナーモードに設定した上、通話はお控え下さい』
アナウンスも、もうあの女の声ではない。『楽園』だなんてものに執着する、終着を齎すあの場所からは、どうやら抜け出せたらしい事だけは判ってほっとする。
実は、只、あの街の周りをぐるりぐるりと、存在しない終点を目指して廻る環状線のレールからは、外れる事が出来たのだろう。
此の電車が、何処へ行こうと言うのかは、知らないけれど。何と無く――何処へでも、行ける気分だ。
好奇心の赴く儘に、窓を開けてみれば、空気の時化た、6月の雨の匂いがした。
小西・卓穂
SPD
終わった…のか?
一応、行き交う人達や外の様子を見て観察するが…
終わった事に確信が持てたら、外を見て過ごそうか
一体、あの町は…なんだったんだろうな?
救いを求めてやってきた信者達を押し留めて、救いと称した絶望を押し付けて、化け物を育てて…
あんな場所がこの日常のどこかにまだ潜んで…居るんだろうな
だが、今は終わった
次に同じ事が起こったとしても、また、終わらせればいい
さぁ、この電車が止まったら、帰ろう
また、明日が来る
どんな明日かはわからないが、かえって、寝て、明日に希望を馳せようか
アドリブ、絡み、好きにしてくれ
●End Episode《1》
「終わった……のか……?」
気味の悪い音楽も、窓を殴る無数の手も。泣く事しか出来なかった赤子も、崩れてゆく楽園の事も、確かに覚えていた。手を、握って開いて、握って開いて。頰を強めに抓って、其の痛みに漸く今在る自分が生きている事を認めて、そして確信する。
確かに、終わったのだ。己達の手で、悪い夢に終わりを告げたのだ。
――一体、あの街は……何だったんだろうな。そんな卓穂の問いに答える者は、居ない。
救いを求めて彷徨う人々が居て。其れを信者にして、誘って押し留めて。救いと称した、何処までも救えない絶望を押し付けて、化け物を王様だと崇んで、大事に、大事に育てあげた。
「あんな場所が、この日常のどこかにまだ潜んで……居るんだろうな」
幾らだって、或るのだろう。多分、人が人である以上、其れを格好の餌とする怪物は何処にだって現れる。信仰だとかそういったものは、大であれ小であれ無数に存在するのだから。
けれど、今は終わった。少なくとも一つ、終わらしてやった! 何れ見た事か、『孔雀様』と『赤の王』とやら――思い知ったか。
『私ではない私が、王では無い誰かを戴いて――……』
あの『巣』の中で最後に聴いた言葉を思い出す。問題は無い、瑣末な事である。そんなもん、また終わらせてやるさ。
窓の外を見れば、兎が喜んでぴょんと跳ねそうな満月が、深く静寂な海を照らして見事な月の道を作っていた。つい無邪気になって、『なあ、見ろよ』なんて言っても、他の者はその様なものは見えないし、海の上など走って居ないとも言う。
なら、独り占めだ。幻想的で心が癒されるこんな絶景、滅多に拝めるもんじゃあない。
「……『帰ろう』」
家に帰ったら、シャワーを浴びる間にでも、服を洗濯機に突っ込んで洗って。雨が降りそうだから、部屋干しだろうか。如何せんもう部屋が蒸していけない、アレは呼吸がし辛いんだ――エアコンでも入れて、涼しい部屋で布団に子供みたいに飛び込んで。
其れで、目覚まし時計をセットするのを忘れずに。枕に顔を埋め乍ら、思う存分、明日に希望を馳せて眠ろう。明日がどんな日かは判らないが、最低だった今日よりは、ネクタイをきっちり絞めて、定刻通りに出社して、内心では冷や汗が吹き出す気持ちで名刺を差し出して腰低くペコペコと、嫌味ったらしい取引先に頭を下げて。スーパーの半額弁当と惣菜を酒の肴に、ビールを煽って一人で壁に向かって愚痴垂れる様な何時もだって、ずっとマシで良い日だろう。
こんな事、言うのは柄じゃないが――、
「私は偉大な事を成し遂げた。だってそうでしょう、失敗も後悔も、恐れなかったのだから。――なぁんて、なあ」
大成功
🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
夕暮れ
いえ、夕陽が雲に隠れ始めている
直に雨が降るのでしょう
私はバケモノを演じきれたのでしょうか……
私は、本当にバケモノになってしまってはいないでしょうか
私は……やはり悪魔だったのでしょう
故郷の村のあの人たちにとっては
ボクはボク自身を悪魔だと何度でも言いましょう
でも、それでも……私は私は悪魔ではないと何度でも訴えましょう
仮面を外し思考の海に沈みながら
それでも歌を口ずさむ
バケモノではないボクから、もうこの世に存在しない人々に向けて
愛を思い出せない私から、愛を強制された人々へ弔いの歌を
あぁ、ボクは……私はいったい何者なのでしょう
アドリブ歓迎
●End Episode《2》
「……夕暮れ」
アウレリアの目に映っていたのは、夕間暮。雲が陽を喰らって、直に雨を降らそうとしている、そんな空だった。当てもなく移ろい歩いて辿り着いた最後部車両。途中、誰が開け放ったのかは判らない窓からは濃厚な雨の匂いがして、酷くじっとりとしていて絶えす晴れぬ鬱屈した気持ちを抱え、隅っこの席に腰を下ろして、じっと窓に顔を近付け変色を続ける空を見ていた。
「私は……私は、『バケモノ』を演じきれたのでしょうか……」
――本当に、『バケモノ』になってしまってはいないでしょうか。役目を演ずる所から外れて、本物の『バケモノ』に成り下がってしまっていないか。其れが今、とても怖い。
「嗚呼、私は、私は――」
矢張り、『悪魔』だった。小さくて、か弱いだけの身に宿して居たのは、魔性であった。故郷の村の、あの人々にとっては。そして、『バケモノ』を演じて、『バケモノ』の命の芽を摘んだ今なら、《私》でも判った。
何て、何て、何て、悍ましい。此の顔を、心の臓がある所を、ばりばりと掻き毟りたくて。どんどんと、壁に頭を叩いて打ち付けたくて、仕方が無かった。
「悪魔め、悪魔め、悪魔め!」――「違う、違う、違う!」
ボクが、何度も自分を罵った。そして私が、何度も違うと訴える。
闇黒の夜の奥から、生まれ堕ちた悪魔め。苦悩と歓楽を謡う魔宴の中で踊った悪魔め! 《ボク/私》という檻から抜け出して、融合してしまう迄に至れば、此のちぐはぐな感情なんて、抱かなくて済むと言うのに。
その二つの果実は、一つはとても高い所に在って手が届かなくて、もう一つは如何しようも無く深い、深い奈落の底に在った。
仮面を外した自分の顔を、窓硝子で覗けば、雲で覆い尽くされてしまった夕陽の中に、少しだけ、ほんの少しだけ、泣きそうな顔をしている自分が居た。
ずぶ、ずぶと。思考の海に沈み、溺れて行く。いっその事、忘れてしまえば良いのに。けれど、追憶の中に恥辱や、どんな被虐や、実際に異端であろうとも。《ボク/私》は、断じて其れを摘み取ろうとはしない。
「――、――――、―」
もう、『バケモノ』ではない自分から、もう此の世には居ない人々に弔いの歌を小さく口遊む。此れは、愛を思い出せない憐れな私より贈る、愛を強制され、無情にも死に行った人々へ添える手向けの歌。
ぴちゃり、ぴちゃりといつの間にか降り出していた雨が窓硝子を打って、軈て大振りになって、彼女の其の悲痛な歌声は掻き消えた。
「あぁ、ボクは……私は。一体、何者なのでしょう。只、今は――『帰りたい』」
大成功
🔵🔵🔵
レナ・ヴァレンタイン
“楽園”を潰したのはこれで二度目、か。因果なものだ
一回目は自由を得るため、あらゆる障害を撃ち抜いて
二回目は、結局どんな意味があったのか、まあそれは後々分かるか
今は風景を楽しもう。終点駅はまだ先だが、いつか終わりはくるのだから
終わりに辿り着かない電車なんてのは不自然だろう?どこまでも未熟で終わった赤い眼の坊や
この世界はお前たちにくれてやるには少しばかり価値がありすぎる
幾らでもかかってこい、“楽園”をいくつも築いてみせるがいい
その悉くを滅ぼしてやるとも。何度でも、何度でも
電車の窓から覗く風景をまっすぐ見つめる
「この世界は醜いか狂信者。だが私は美しいと思う」
――世界を守る理由なんてこの程度で十分だ
●End Episode《3》
「二度目、か。因果なものだ」
『楽園』を潰したのは、此れで二度目。一回目は、自由を得る為に凡ゆる障害を撃ち抜いて。
二回目は、結局はどんな意味があったのか。――追々、判るのだろうか。後で探索を担った人々と出逢う事でも有ったら、訊いてみるのも良いのかも知れない。そんな事を考えながら、レナが眺めていたのは何て事無い、平凡で穏やかな昼の街並み。人々が行き交って、暮らす風景。皆が夫々、好きな景色を見ているのだとしたら、嗚呼。自分が愛してるのは屹度こんな、至って普通な人々の営みなのだろう。
ずっと見ていても飽きない。そう、思った。けれど、終点駅まではまだ先だが、いつかは終わりが来る。
「終わりに辿り着かない電車なんてのは不自然だろう? なあ、――どこまでも未熟で終わった赤い眼の坊や」
あれを抱いた時の温もりは確かにまだ覚えていた。ぶよぶよとしていて、愛嬌も無ければ可愛げなんて一切感じられない赤ん坊の事は暫くは、記憶の片隅にでも置いておいてやろうか。
(「この世界はお前たちにくれてやるには少しばかり価値がありすぎるんだ」)
幾らでもかかってこい、『楽園』を幾つでも築いてみせるがいい。
例えば、
――事故だとか。
――事件だとか。
――病気だとか。
――喧嘩だとか。
――影口だとか。
そんな小さな、小さな石にすら躓いて、簡単に心に蟠りを作って、何かに縋らずには居られないのが、『人』。家族に、恋人に、現実では話した事も無い画面前の人に、将又胡散臭い宗教に。そうやって、生きている。簡単に口車に乗って、何て騙され易くて、とても脆くて儚い、其れが『人』。
いつだって、何処にだって、『楽園』は現れる。今、眺めている人々の隣にすら、寄り添う様にして――ぽっかりと口を開けて、喰らう機会を伺っている!
(「その悉くを滅ぼしてやるとも。――何度でも、何度でも」)
そうして暫く瞑目して、揺れに身を委ねて、目を開いた時には、窓の外に大きな虹が掛かっていて――何時の間にか、愚図る赤ん坊を抱き抱え、あやしながら外の景色を見せている一人の女性が居た。此方へ振り向き、『すいません、すいません』と謝り乍らも、その表情は何処か幸せそうで。そしてその人の腕の中にある『赤ん坊』と、目が――。
胸が騒ついて、一つ、瞬きをした後にはその親子の姿も、隅に寄せた真新しいベビーカーも、何処にも見当たらなかった。
「……夢、か」
愛玩用の人形とて、夢を見る。何だか随分と、悪い夢ばかり見る様な気がするが。思わず身構えようと立ち上がりかけた体を、再び椅子に沈めて。大きな、大きな、見事で消えない虹を臨んで、彼女はこう言った。
「この世界は醜いか狂信者。だが私は美しいと思う。愛おしいと思う。なぁに、――世界を守る理由なんてこの程度で十分だ。さぁて『帰ろうじゃないか』」
大成功
🔵🔵🔵
フィーネ・ノスタルジュ
窓越しに、外の景色を静かに眺めています。
何を思うでもなく、黄昏時、或いは逢魔時とも呼ばれる昼と夜のあわいの空を見つめています。
褪せていく夕焼けの名残たる朱。境界を曖昧にさせる淡い紫。紺碧が夜の淵から滲み広がっていく。
そうして太陽は隠れて、宵闇が茜色を塗り潰した。
夜の帳が辺りを覆い、蒼白い月が顔を出し、一つ、また一つと、朧げに瞬く星々が藍色の空に散り始める。
ふと、このUDCアースには、列車に乗った少年達が銀河を旅する有名な童話があったと、なんとなしに思い起こします。
それに対して、思いを馳せる何てことはしないけれど。
これといった感傷も、関心も、持ち合わせていないけれど。
ただずっと、空を見ています。
●End Episode《4》
「別に、……何の感傷も無いけれど」
きっちりと、姿勢を正して。手と手を膝の上で重ねて、窓越しにフィーネは外の景色を静かに眺めていた。
別段、何を思うでもなく。只、空を見ていた。其の空は、昼と夜のあわいの空。
「黄昏時。逢魔時」
褪せて行く夕焼けの名残の朱を指でつぅ、となぞれば、次第に境界を曖昧にさせる淡い紫に辿り着く。紺碧が、艶なる夜の淵から滲み広がって行く。窓と言う大きなカンバスに、パレットに出した幾つもの絵の具から選び取られた色が、絶妙な水加減と共に繊細に落とされて、複雑に絡み合って、溶け合って。
そうして、太陽はすっかりと夜の底へと姿を隠して、宵闇が茜色を喰らい尽くして、深い、深い、夜の帳が下りる頃、濃ゆい鋼青の空に不意に蒼白い月が顔を出し、一つ、眩く光るのは一番星か。ちらちらと、ふるふると、取って置きのラメを藍を溶いた一面に散らせれば朧に、そして時に強く明るく瞬く星々の完成だ。
(「あれは、何と言ったでしょうね――」)
此処、UDCアース。所謂現代社会には、列車に乗った少年達が、ごとごと、ごとごとと揺られながら。銀河を旅する有名な童話があった様な気がする。石っこ、だなんて呼ばれる程、熱心でご立派な先生が書いた其の作品は、小さな子供でも多くが知っているお話だ。なんて事をなんとなしに思い起こす。別に、それに対して、思いを馳せるだなんて事はしないのだけれど。
そう思いながら、ふとすぐ前の席に目を移すと、ころりと、黒曜石が一つと、一冊の文庫本が鼻を擽ぐる苹果の香りと共に置かれていた。前に乗車していた人の、忘れ物だろうか。いや、先程迄は無かった筈――ぼんやりしていて、気付かなかっただけだろうか。
保守的な自分にしてはまあ珍しく手に取って、何の気無しに栞紐の挟まった場所を開いて、ほんの少し、眼を走らせて、閉じて、慎重に元の場所に戻した。
本当に忘れ物だったのなら、誰かの領域を侵す様で申し訳ないし、目頭が熱くなる事も、凍て付く様な寒さの想起も、何もかも。自分には程遠いものだったから。
「……ほんとうのさいわい、」
其の単語にも、もう馨らない苹果にも、感傷も、関心も持ち合わせず。況してや、いっぱいに泣く事なんて遠く、程遠く。其れからというもの、彼女はずっと、ずっと、ずっと。終点まで、じっと身動き一つすらせず、まるで死人の様に口を噤んで。只、夜の空を見ていた。
(「何処へ『帰る』のが私にとっては、正しいのでしょうね……」)
大成功
🔵🔵🔵
七厶・脳漿
亮(f11219)と見たのは真っ赤な空
良かった、またちゃんと朝が来たって思えるから好きな朝焼けの色
…なぁに、亮の癖に探ってんの?
やめてよ、折角いい距離感掴めてきてるのに
あんたと俺はお巡りさんとナナくんなの、分かる?
お互いいつでも切り捨てられるくらいで丁度いーんだよ
あのさぁ、お巡りさんの偽善のせいで俺が人でなしみたいじゃん
…めんどくさ。タバコ一本ちょーだい
ほら、夢の中ならちょっとくらいいけないことしてもいーんじゃない?
勝手に亮のポケットからジッポ拝借
お疲れのお巡りさんにも点けてあげる、大サービス
こんなのホントは吸ったこと無いけど
この人を自分のトコまで引きずり下ろしたみたいで
何か楽しくて笑っちゃう
曽根・亮
ナナ(f12271)と見たのは真っ赤な空
今日も恙無く終わったと実感する、気に入りの夕焼けの色
にしてもこいつと電車なんて妙なシチュエーション
お前って普段電車とか乗んの?
ツレとしては知らねェ事が多いが
サツと協力者って意味じゃ確かに知る必要無い事の方が多いか
けど、そこまで警戒するこたねェだろ
何にせよ、ここまで関わった奴を切り捨てる事は無えよ
ポリとしても人としてもさ
煙草って、ここ電車ン中だぞ!?つーかお前吸うのかよ
ナナの理屈には少し、あーだいぶ悩むが、まあ夢ン中なら…?
一本渡して、自分も一本
手付きからして本当は吸わねェんだろうと何となく分かるが
二人してでこんな馬鹿馬鹿しい事
気が付きゃ何だか笑けてくるな
●End Episode《5》
二人で見たのは、雲一つない真っ赤な空。
『良かった、またちゃんと朝が来た』って思えるから、好きな朝焼けの色。暁闇を乗り越えて、そこここに真紅を散らして東からお日様が登る朝の色。
或いは。
『今日も恙無く終わった』と実感する、気に入りの夕焼けの色。西の空を彩って、目映く輝いて魂に差し込んで来る、何れ暮れる束の間の夕沁みの色。
変な所で気が合って、然して懐いたのは全く相容れない別の小景。
「にしても、お前って普段電車とか乗んの?」
「……なぁに、亮の癖に探ってんの? やめてよ、折角いい距離感掴めてきてるのに」
何と、たった此れだけの質問でこの回答。至って普通の世間話の心算で切り出したというのに、些か自意識過剰とも思えなくないと亮は肩を竦めた。只単純に――目の前の男が、今更にも程があるが、腰を落ち着けて考えてみれば。余りに電車に『似合っていない』のだ。
依頼を請け負って共に出掛ける時を除いて、脳漿が居る場所と言えば決まってあの小さくて無愛想で甘いチョコレイトの香りのするショコラトリー。まるでジュエリーショップの様に、不揃いな彼の愛し子達が陳列されている、星の無い夜にオープンして朝を待つ其処であった。だもんだから、今目の前にある光景が、何だかとても奇妙なシチュエーションで。
「そこまで警戒するこたねェだろ……」
「あのね、あんたと俺はお巡りさんとナナくんなの、分かる?」
折角掴み始めて来て居た距離感。其れをひょいと乗り越えて、自分の領分に、心に触ろうとするのが酷く気に入らなかった。深入りはしたくないしされたくない。お互い、何時でも切り捨てられる位の、たった一度の生涯の中で擦れ違って、たまたま言葉を交わして居ただけの、それ以上でもそれ以下でもないもので丁度良いのだと少なくとも脳漿は思う。
愛想が尽きたら、若しくはすっと猫の様に消えてしまいたくなったら、直ぐにでも消えてしまえる様に。
口を尖らせてツンとする自分を、此の思考を見抜いたかの様に見てくるのが、嫌で嫌で仕方がなくて、言ってやろう、釘を刺してやらなければと口を開こうとした所を制された。
――臆、それ以上は、聞きたくない。お互いの距離の為にだ。切り捨てるには近すぎて、最早惜しい。簡単に言えば、捨てたくないのだ。だから先に言ってやる。
「俺は何にせよ、此処迄関わった奴を切り捨てる事は無えよ」
ポリとしても人としてもさ。そう呟く此の男は恐らく、『好奇心は猫をも殺す』と言う言葉を知らないのだろう! 俺が居なくなったら律儀に『お巡りさん』として駆けずり回るに違いない。そんなの、たまったもんじゃあない。
「ふぅん、難儀な生き物だね……あのさぁ、お巡りさんの偽善のせいで俺が人でなしみたいじゃん……。はぁーめんどくさ。タバコ一本ちょーだい」
「ここ電車ン中だぞ!? つーかお前吸うのかよ」
「ほら、夢の中ならちょっとくらいいけないことしてもいーんじゃない? 其れとも、『お巡りさん』的には許せない?」
「あー、んー……まあ夢ン中なら……? ほらよ」
大分悩んだ挙句、『此れは夢だ』と思い込んで――やけにリアルな夢ではあるが、せめてもと窓を開けてから亮はポケットに無造作に捻じ込んであった煙草の箱をとんとんと指で叩いて取り出して、一本渡して、自分も一本咥える。勝手にジッポライターをポケットを漁った脳漿が『拝借』だなんて先に火を点けて、一口吸った後、ほんのちょっぴり目尻に涙が滲ませ沈黙したのを見て、それみた事かと呆れてしまう。
「お疲れのお巡りさんにも点けてあげる、大サービス」
本当に、火一つ点ける仕草、手付きからして本当は吸わないのだろう事が判る。見本を見せる様に、深く長く肺に吸い込んで、口から紫煙を吐き出して見せた。
(「こんなの、ホントは吸った事無いけど――此の人を自分のトコまで引きずり下ろしたみたいで、」)
(「大の大人が二人して、こんな馬鹿馬鹿しい事、」)
「ふふっ、何だか楽しくて笑っちゃう」
「はっ、俺もだ。何だか笑けてくるな」
「あー、もう何だか殆疲れたよ。変な所に行かされて、お巡りさんに付き合わせられてさー。ほらもう朝陽があんなに登ってる――『帰ろ、帰ろ』」
「そりゃ悪かった、そうだな……もう直ぐ陽が完全に落ちて暮れるわ――『帰るか』」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロカジ・ミナイ
昔っから車窓の外を眺めるのが大好きで
動く景色がおもちゃみたいで、飽きなくて
いい大人になった今もそう
なぁんにも変わっちゃいない
車窓だってね、全く同じ景色はないんだけど
同じ道、繰り返し見るそれはどうしてか「変わらない景色」と言う
――僕もおんなじ
変わっちまった自分を肯定するために
幼い自分を重ねて安心したいのさ
……なんて感慨に耽るのも、電車のガタゴト音のせいだ
だって僕、この路線初めてだもの!
空いた車内なら椅子にゆったり腰掛けて
持て余した時間でついついスマホを弄っちゃったり
終点まで停まらないのに
どの辺か気になっては顔を上げてね
だって他にする事も出来る事もないんだもの
だからずっと乗っていたいな
――なんてね
●End Episode《6》
「朝だねぇ」
昔っから、車窓の外を眺めるのが大好きで。動く景色がおもちゃみたいで、飽きなくて。そんなロカジが見ていたのは、平時であれば多くの社会人や学生で犇めいて箱詰めになってるであろう、一日の始まりの時間。たった、たった一度の人生だと言うのに、最後まで一度も言葉を交わす事も無く、会釈すらしない人と、とても近くにあるという不思議な時間。
自分だったら――まだ薄っぺらな布団の中で燻っているか、漸く起き抜けの一服をぐっと我慢して朝食を摂っている様な時間だ。
な、ものだから、こんなに気怠くない朝とは珍しい。いい大人が、爛々と、まるで子供みたいに眼を輝かせて、絶えず移ろう景色を堪能していた。自分はなぁんにも、変わっちゃあいない。否、変わらないのは屹度、景色の方だ。変わらない毎日に、何時しか新しい発見が無いものだとして、何と無く俯瞰して。そんな日々から抜け出せなくなった、変わってしまった自分が居て。
そんな自分を肯定する為に、幼い頃の自分に必死に言い訳をして、重ねる様にしてちょいと邪気無く振る舞って――要は、だ。変わってしまった自分が悪い事じゃないと証明する為に、変わらない景色を眺めて「毎日同じ景色はない、自分も同じ自分は一時もない。それでも『同じ景色』『同じ自分』」って安心したいって寸法だ。
善い事、悪い事識って。酸いも甘いも嚙み分けて、戻れなくなった、低い、低い、子供の目線。なぁにでも、そのままじゃあ、綺麗なお姉さんなんかとおイタする事も叶わぬ! 今の自分が気に入って居ないとか、そう言う訳じゃない。此れは、そんな感傷ではないのだ。
こんな感慨に耽るのも、何れも、此れも。電車のガタゴト音の所為だ。仕方ないじゃない――だって僕、この路線初めてなんだもの!
自分以外誰も居ない車両で、ゆったり深く腰掛けて。ちょっぴり行儀悪く足を広げて、まだ電池残量の残っていたスマートフォンを弄りながら、時折思い出したかの様に、今はどの辺かと顔を上げる。叩いても、振っても、うんともすんともその画面には時間だけが表示されない訳だから、随分と長い事乗っている気もするし、実は数分しか経って居ないかも曖昧で。
かと言って他にする事も出来る事も無く、外は一日が始まったばかりだと言うのに、今日の〆の長湯に思いを馳せったりもして。あれ等も全て、今見ている夢と同じく、何かの幻とかだったら良いのに、腐った肉と、血の匂いは鮮烈にこびり付いて止まず――そこら辺、几帳面で神経質な男としては何とも度し難い所であった。
其れでも、『あの子』の気持ちに浸ってみれた事だけは、少しだけ嬉しかったりしている自分も居たけれど。
「ずっと乗っていたいな、――なんてね。『帰らなきゃ』、お薬を待ってる人が仰山いる」
大成功
🔵🔵🔵
ローウェン・カーティス
先ほどまでの光景は、夢だったのでしょうか…
いや、今も夢を見ているのか…
掌に残る確かな手応え
行使した精霊達に残る幽かな騒めき
嗚呼…、すべて現の出来事だったのですね
ならば、あの王を身籠った人も確かに在ったのだと
人心を誑かし、意の儘に操る
どの様な世であっても其れは忌避されるべき悪徳
然し、此の世界に於いてのそれはまるで異質
果ての無い狂気、とでも言うべきですか
これほどの悲劇は此の世界にあとどれぐらい…
いえ、今は止しましょう
一つの悪を征した
憂いを絶った
其の事実だけで、今は充分です
ですが…どうか願わくば
狂気に取り込まれた人々
其の魂が安寧の眠りにつけますよう
あぁ…いつの間にか、降り出していたのですね…
●End Episode《7》
「先程迄の光景は、夢だったのでしょうか……」
いや、今も夢を見ているのか。然し、その掌に残り、伝う確かな手応えと、行使した精霊達が幽かに騒めき震えて居るのを思って、ローウェンはつい現実から眼を逸らしそうになるのを止めて、『認めた』。――嗚呼、全て、全ては現の出来事だった。ならば、王として戴かれたあの赤子を身篭った人も、確かに在ったのだと。
(「私は。私は、手を尽くせたのでしょうか。――正しい行いが、出来たのでしょうか」)
あれは、敵だった。疑い様の無い、討ち滅ぼさなければならぬ、『人』にとっての敵だった。目の前で起こる事、全ては。必然で、理由と意味が有るのだと言うのなら。子を望んだ女も、抗い切れなかった男も、『楽園』へ臨んだあの街の人々も。全てを掌握し、人心を誑かし、意の儘に操っていた『真理』と名乗った女にも、其々に存在事由が有った。
たったの、其れだけの事。どの様な世の中であっても其れは忌避されるべき悪徳が、当たり前の様に在った事が、末恐ろしくて、堪らない。自分が生まれ育って、暮らす世界では通用しない道理が罷り通る事が。異質で、果ての無い狂気が、彼を苦悩させる。
此れ程の悲劇は、此の世界にあとどれくらい、数えそうになって、今は止めようと首を振った。指折り数える時間を使って、一つずつに歯向かった方がずっとマシな位、数え切れない程の悲劇が、此処には滲透していた。
人は役割を皆が持っている。自分が『弟』で在る為に、武術だとか人間関係に秀でた乗り越えるべき『兄』が居た様に。そして、当たり前に、息子に誇られる、若しくは反発される『父』が居る様に。一つの悪を征した、憂いを絶った。其の事実だけで、今は充分過ぎる程だとも思うが――残念乍ら、褒めてくれる人は誰も居ない。
有り難迷惑だと罵られる事はあれど、感謝された事は、こう言った事象に於いては未だ一つだって無いのだ。其れが、酷く、今は悲しい。無条件に頭を撫でてくれる手が欲しいと、何となくそんな事を思った。――笑われてしまうかも知れないが、彼は臆病な迄に、『善良』な青年だから。
どうか、願わくば。狂気に取り込まれてしまった人々の其の魂が、安寧の眠りにつけます様に。そう祈って、漸く眼を開けたローウェンが見たのは、他の誰よりも現実に近い、夏の予熱を孕んだ一月の終わり。肌に纏わりつく、生暖かい風と、鉛色の空。
「あぁ……いつの間にか、降り出していたのですね……。そろそろ、『帰らなくてば』」
大成功
🔵🔵🔵
グリツィーニエ・オプファー
柔らかな椅子に腰掛け、伝う振動を感じて
己にはあまりにも馴染みない電車なる乗り物を堪能
窓から見える景色は――光が強く、確認出来ない
…不思議な感覚に御座いますね、ハンス
ちょこんと膝の上に乗る鴉を撫でて、視線は眩い空へ
ああ、確か公共の場…でしたか?
斯様な場所で精霊を放し飼いにするのは好ましくないのやも知れませぬ
…もし怒られた時は、一緒に謝りましょう
穏やかな光に包まれながらふと考える
先の戦いは、もしや夢の出来事で御座いましょうか?
然しこの身に感じる僅かな疲労に
未だちくりと痛む心に
きっとこれは夢ではないと結論付けて
…少し、疲れましたね
今は暫しの休息の時――ハンス、貴方も一緒に
そして座席に身を委ねましょう
●End Episode《8》
「……不思議な感覚に御座いますね、ハンス」
柔らかで、蒼い椅子に腰掛け、ごとごと、ごとごとと伝わってくる振動を感じながら、1人と1羽は余りにも馴染みの無い、『電車』という乗り物を堪能している所である。
グリツィーニエにも、勿論の事ながら、膝の上で行儀良く羽根をふくふくとさせて寛ぐ鴉も、初めてで貴重な試み。其処から仰ぐ窓は大きくて、そして、ぎらりとした太陽よりも、燃える様な月よりも明るく、強い光が差し込んで居て、外がどの様な景色かは判らない。相棒の其の躰を撫でつつ、只管に眩い空を見ていた。
「嗚呼、そう言えば確か、公共の場……でしたか?」
斯様な場所で精霊を放し飼いにするのは好ましくないのやも知れませぬ――不意に、そんな事を思い出して、咄嗟に大事な彼を隠そうと物を探すも、何処までも広々とした窓と、鼠色の壁が或るだけで、殆困ったと男の耳が垂れた。人っ子ひとり居ない車内を見遣って、まるで秘め事を得意たっぷりに共有するかの様に、『……もし万が一、怒られた時は、一緒に謝りましょう』だなんて、珍しく幼げな声音でそう囁いてみたりして。
そんな事は知識として有ったのに、もっと、もっと重要な事を男は識らない。普通、電車に乗る時は切符が必要な事だとか、持ってなければ悪い者である事とか、そもそも一般人は精霊を肩に泊めて居ないだとか、そんな事を。然し、誰も指摘して来ない以上、そんな無邪気な所を識れるのも、今の所は1羽の鴉のみだった。
穏やかな光に包まれながら、先の戦いは若しや夢の出来事で御座いましょうか、と――今見ているのは夢が切り替わっただけで、ずうっと、最初から、夢を見ているのではないかと、そんな事を考える。
其れでも、身に感じる僅かな疲労と。剣を握った感触も、未だにちくりと痛む心も、何れも到底そんな優しいものではないと結論付けて、短な溜め息を一つ。
「……少し、疲れましたね……でも、誰にとって夢の様な出来事だったとしても、私は屹度、覚えていましょう」
其れが、あの儚くて紛い物の『楽園』を信じた、永遠に続く『日常』を愛して止まなかった人々へのせめてもの餞。この旅に其れ以上となく相応しい運賃となるだろう。尤も、切符を得るのに先ず最初にお金を払うと言う事を失念していたとしても!
ほら、ハンス。貴方も一緒に休んで、と座席に身を委ね膝の温もりを抱き上げた所で、蕩ける様に男の意識は暗転した。
『かあ、かあ』
「ハンス? 嗚呼ハンス、如何しましたか」
つんつん、つんつん、つんつく。其の嘴に突かれて、重たい瞼を開けた時には電車は停まって居て。『終点――、終点――』と告げるアナウンスが車内に流れていた。先程までの光も此処には無く、窓も、漸く開いたドアの外も、真っ暗闇だ。
降り立ってみれば、最後のひとりを降ろして満足した、とでも言うかの様に、扉が閉まって。うんともすんとも言わなくなった。朧げな星に誘われる様に歩き出せば、何時しかさあっと眼の前が明るくなって――其れからの事は、嗚呼、良く憶えていない。
只、思い出したかの様に、高らかに謳ったアナウンスだけが、耳に残った。
『当駅、当電車をご利用下さいまして有難う御座いました。またのご利用をお待ちして――お待ち、』
―――ガガッ、ガ―――。
胎動~Signal Red~:Route【Good END】
『~回帰~』
To Be Continued???――→。
大成功
🔵🔵🔵