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うけとって、うけとって、わたしの気持ち

#UDCアース


 空はどこまでも青く、
 時折混じる雲の形を今でもよく覚えている。
 気の遠くなるような蝉の声。
 延々と続く土の道。
 そして果てまで続いていくようなひまわり畑。
 いつの間にこんなところまで来てしまったのだろう。……否。
 いつの間に帰ってきてしまったのだろう。
 この坂を登れば見下ろすばかりのひまわり畑。
 そしてその先には、あの懐かしいキミの姿が……、

●ここにいるから
 暑い日のことであった。
 花降・かなた(雨上がりに見た幻・f12235)は優しく微笑んだ。
「私、ひとのそういうところがとても好きよ。遠い昔をいつまでも大切にして、追いかける……」
 私も同じ。人の幻想が編んだようなものだから。と。冗談めかしてかなたは笑いながらも、まるでお茶を誘うかのように話を続けた。
「それでね。そう……。UDCアースに現れた幻想。それを退治していただきたいの。ユメがなければ人は生きてはいけないけれど、ユメが人を食べてしまうのは、本末転倒でしょう?」
 かなたは言う。
 それが根を張るのは公園の一角だ。ビルとビルの間に挟まれ、あるいは賑やかな商店街の隙間に置き去りにされた公園。
 子供たちならば見向きもしない、そんな公園にしかし、それはひっそりと息づいていた。
「彼女は……ええ。便宜上は「彼女」とするわね。彼女は、少女の姿をとって現れるわ。どんな少女の姿なのかは、解らないの」
 形が定まらないのだと、かなたはそういって、
「それに彼女は、ほとんど戦闘力も持たないわ。ただ、自分の生み出す世界に引きこもって、ふらりと迷い込んだ人を閉じ込める。……その世界にい続けた人は、やがて人ではなくなってしまうの。……私たちと同じ、幻想の世界の住人になるのかしらね」
 ねえ。とかなたは首をかしげる。お嬢様めいた仕草であったが、その瞳の奥は鋭い色を持っていた。
「それはだめよ。赦さない。……「彼女」を守るのは子供たち。楽園の『僕』というらしいわ。彼らが大人を、楽園に連れていくのね。……そう、被害者は大人が多いの。子供じゃなくて。……それは」
 そう。と、かなたは一息ついて。
 その挑戦的な目の色を隠そうともせずに、言い放った。
「「彼女」はね、楽園を見せてくれるの。「あの夏」の」
 あの夏、と誰かが言った。
 あの夏、と、かなたは返した。
「そう。麦藁帽子に青い空。蝉の鳴き声、遠くまで続くひまわり畑」
 あるいは故郷を。あるいは親戚の家を。
 あるいは……あるはずもない、「懐かしいと思う気持ち」を。それは呼び覚ますのだと言う。
「ううん、呼び覚ますだけじゃない……。実際に姿かたちを子供にされたり、心まで子供になってしまうことも、あるらしいの」
 けれど、そこまで戦闘能力は高くないから。
「でも、ま、油断しなければ大丈夫だと思うけれどね」
 なんて、そう言って。難しい話は終わりだとばかりに、かなたはにんまり、と笑った。そうすると若干お嬢様みがはげて意地の悪そうな顔になる。
「終わったら遊びに行きましょう。せっかくだもの、少しね」
 特に何か特別なお祭りがあるわけでもないけれども、
 日常で遊ぶ分には不自由はしないだろうと彼女は言った。
「とりあえずもうすぐ夏だから夏物の服を選んで、ついでに靴も見たいわね。そこまで来たならアクセサリーもそろえたいし、買い物の後はお茶してパフェを食べてから新しい本を買いに行きたいわ。ああ……映画なんかも素敵ね。それからそれから……」
 とにかく、色々遊べるらしい。
 あれこれプランを述べたあとで、かなたはにっこり笑顔を向けた。
「とにかく、よ。せっかくだもの、楽しみましょう。何だって、楽しんだものが一番強いのよ」


ふじもりみきや
 いつもお世話になり、ありがとうございます。
 ふじもりみきやです。

●お知らせ
 POW SPD WIZはあんまり気にせずざっくりプレイングをかけていただけたらと思います。
 第一章は普通に戦闘。
 第二章では、子供になってしまったり、敵が懐かしい誰かの姿を取ることがあるかもしれません。
 が、ふじもりさんエスパーではないので、きっちり書いてほしいことは記載してください。
 お任せされたら好き勝手されますが、勝手に初恋の人を捏造されたり、勝手に洟垂れ小僧にされたりするのが困るのならば、方向性だけでもご記入お願いします。
 第三章は、大体普通に休日を楽しめます。
 現在日本にふさわしい遊びならば、なんでもOKです。

●プレイング募集期間について
 プレイング投稿できるときであればいつでもどうぞ。
 その分、かけそうなときに書いて、早めに閉めるかもしれません。
 また、時間切れで却下になる可能性もあります。
 その際は申し訳ございません。
 お気持ちお変わりなければ、再送をお願いいたします。
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第1章 集団戦 『楽園の『僕』』

POW   :    かあさまのいうとおり
【手にした鳥籠の中にある『かあさま』の口】から【楽園の素晴らしさを説く言葉】を放ち、【それを聞いた対象を洗脳する事】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    とおさまがしたように
【相手の首を狙って振るったナイフ】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    僕をおいていかないで
【『楽園』に消えた両親を探し求める声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

胡散臭い楽園だね
人を人でなくしちゃう世界なんて、危なすぎるよ
でも、懐かしさにずっと浸りたくなる人もいるのかな……

ヨハンがそうなってしまったら?と不安も過るけれど
楽園への誘い手は悠長に待ってはくれないようで
彼を見上げていつもの調子で声を掛けてから、前線へと駆け出す

ねぇ、終わったら何して遊ぼうか
映画見た後にお茶する時間あるかな?

【範囲攻撃】で一気になぎ払い
振るわれたナイフは【見切り】、【カウンター】で首を狙い返す
奇遇だね、私もこういう殺し方は得意なの
討ち漏らした敵はヨハンが仕留めてくれるって信じてるから
多くの敵を巻き込んで攻撃することを重視して戦おう


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

過去は過去でしかないと思いますけどね。
ずっと浸りたくなるなんて気持ちは俺には理解できません。
過ぎたものに縋っても時間の無駄ですよ。

……彼女が囚われる事はないと思うが
向けた視線に、ふいに瞳が合って、
いつもと変わらぬ調子に内心少し安堵する
いつものようにと、後に続いて

なんでもいいですよ。
さっさと終わらせれば茶を飲む時間くらいとれるんじゃないですかね。

蠢闇黒から呪詛を纏った闇を這わせ、
狙うのは足止め
彼女の攻撃が通り易くなるようサポートを
捕らえた敵はそのまま全力魔法で闇に呑ませる
口を聞けなくしてやるよ
耳障りな声を聞かせるな



「胡散臭い楽園だね。人を人でなくしちゃう世界なんて、危なすぎるよ……」
 オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)はそういって、そっとその体を震わせた。
「でも、懐かしさにずっと浸りたくなる人もいるのかな……」
 それが現れるとされた公園は、それなりの広さがありながらも、人がいるという気配がまるでなかった。
 取り込まれてしまった人間もいるのだろう。
 けれども、それ以前に、錆びた遊具に伸び放題に伸びた木々は、どこか忘れ去られた。記憶の片隅に取り残された。そんな印象を伴っていた。
 だから、オルハはそっと隣をうかがう。
 あるいはこの光景も、どこか「大人の昔」を想像させるものであるかもしれないと思い至って、ふと不安になったからだ。
「過去は過去でしかないと思いますけどね。ずっと浸りたくなるなんて気持ちは俺には理解できません。過ぎたものに縋っても時間の無駄ですよ」
 あるいは、オルハの心が通じたのか。
 視線を向けた先で、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は無愛想に、平然と、そんなことを言った。
「そう……かな」
「違いますか?」
 その言い方があまりにもいつもどおり過ぎて。少しだけ息をつきながらオルハはヨハンを見ると、ヨハンも伺うようにオルハを見ていた。
「……」
「……」
 互いが互いのことを心配していたのだけれど、口には出さなかったので、微妙に見つめあうこと数秒。
 どこからか、少女の声が聞えた気がした。
「……いこっか」
「ああ」
 沈黙の意味を問いたかったけれども、楽園への誘い手は待ってはくれないようであった。
 いつものようにオルハが走り出す。その後ろを、ヨハンが追いかけた。

 公園の中、滑り台の影、ジャングルジムの向こう側。
 ふわふわ、ふわふわと姿を現す少女たち。
「……やあ!」
 オルハは三叉槍を振るう。周囲をなぎ払うようにして、少女の体を切り裂いていく。
『いたいよ』
『いたいよ』
『おとうさま……!』
「……!」
 少女のナイフが迫る。オルハは槍を旋回されてそれをかわし、返すように槍を少女へと叩き込む。
「……」
 ヨハンが蠢く闇を封じた黒光石から呪詛を開放する。銀の指輪を向けてそれを少女たちに叩き込むと、悲鳴が上がる。
「ねぇ、終わったら何して遊ぼうか。映画見た後にお茶する時間あるかな?」
 その声があまりに強くて。オルハは気を紛らわすようにそんなことを聞いた。
「なんでもいいですよ。さっさと終わらせれば茶を飲む時間くらいとれるんじゃないですかね」
「もう。やりたいこと、ないの? せっかくの時間なのに」
「そうですね。本を……いえ、あなたに任せますよ。せっかくの二人の時間なのに、没頭してしまっては悪いから」
「あはは。そんなこと言っても何も出ないよー」
 とはいえちょっとうれしい。ヨハンの言葉にオルハは思わず笑みがこぼれる。……大丈夫。
 子供のナイフが走る。それをオルハは一瞬でかわす。
「奇遇だね、私もこういう殺し方は得意なの。……見切れるなんて、思わないでくれる?」
 今は唯、先に進もう。
 子供たちの動きを見ていれば、『彼女』がどこにいるかがわかる。彼女たちがどこへ導こうとしているのか。どこからやってくるのか。そして、敵と認めた自分たちを、どこへ行くまいとさせているのか。
 あっちだね、と走り出すオルハに子供が向かう。
「口を聞けなくしてやるよ。耳障りな声を聞かせるな」
 それを封じるように、ヨハンの闇が子供を飲み込んだ。
 二人は協力し合いながら先へと進む。
 子供たちの声がなお、聞えてきていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

香散見・千夜之介
『楽園』なぁ。
やかましい街で育ったさかい、
そない綺麗な夏なんざお兄さんはついぞ見たことあらへんけど、
大人の世界もなかなか楽しいもんやよ?
……なんゆうて、大人のこういうところがイヤやんなぁ?ふふ。

【シーブズ・ギャンビット/SPD】【二回攻撃1】
「ほな行こかぁ」
ゆるい笑みは絶やさず、
ジャケットを脱ぎ捨て、腿のホルダーに差したナイフを素早く抜き切り、突き刺す。
怪異も人も、大人も子供も関係あらへんの。
武器を取ったらみな同じやよってになぁ?

その証拠に。
「お嬢ちゃん、なかなか速いやないか」
笑みは絶やさず、軽やかに。
切られることもいとわずに、
ナイフが鈍ればもう一本。
いやえらい楽しいなぁ?


ベイメリア・ミハイロフ
楽園…でございますか
夢を見せていただくのは結構なことでございますが
大人の皆さまが連れていかれてしまうことは、お止めしなければなりません

『僕』の攻撃は
絶望の福音にて先見し
第六感も活用しながら見切り、避けたく
退けられないようであれば武器受けにて受けたいと思います
首を狙われるとの事でございますので、防御は首を中心に
かあさまの言葉はオーラ防御が有効でありますれば使用
過去への気持ちを抱くことが必ずしも楽園へ繋がる事とは考えられません

こちらからの攻撃はジャッジメント・クルセイドにて
まずはかあさまを狙いたいと思います
その次は声が聞こえぬよう耳を狙いたく


※お仲間さまとの共闘が叶いますれば連携を意識いたします



「『楽園』、なぁ」
 香散見・千夜之介(爪先散華・f18757)はそう呟いて肩をすくめた。
「楽園……でございますか」
 ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は目を伏せて。胸の前で手を組んで祈るように呟いた。
「夢を見せていただくのは結構なことでございますが、大人の皆さまが連れていかれてしまうことは、お止めしなければなりません」
「そうやねえ。やかましい街で育ったさかい、そない綺麗な夏なんざお兄さんはついぞ見たことあらへんけど、大人の世界もなかなか楽しいもんやよ?」
 ベイメリアの真面目な口調に、千夜之介はへらりと笑う。公園の置くからふわりと現れる少女たちに、千夜之介はひらひら、手を振った。
「……なんゆうて、大人のこういうところがイヤやんなぁ? ふふ」
 千夜之介が声をかける。いつの間にか同じような顔をした子供たちが、近くに、近くに。集まってきていた。
『いこう』
『いこう』
『僕たちの、お友達になってくれる?』
 歌うような子供たちはしかし、既に千夜之介矢ベイメリアを敵と認識している。そのしぐさの端々から、こちらへの敵意が伝わってきて。ベイメリアは組んでいた手を、ほどいた。
「いいえ、おともだちにはなれません」
「ええ。言葉だけでも、なってあげたらええやないの」
「そ……そういうわけにも、いきませんから」
「あはは。真面目やなぁ」
 千夜之介の冗談めかした言葉に、ベイメリアはちょっとだけあわてる。そんな彼女を楽しげに見て取って、
「ほな行こかぁ」
 と。千夜之介は一瞬で子供に向かって距離をつめた。
『……っ!』
 ナイフが翻る。しかし千夜之介も笑みを絶やさず、即座にジャケットを脱ぎ捨てた。腿のホルダーに差したナイフを素早く抜き切り、突き刺す動作は一瞬のことである。子供がナイフを突き刺す前に、子供は千夜之介のダガーで胸を貫かれた。
「なーに。びっくりしてん? けど、怪異も人も、大人も子供も関係あらへんの。武器を取ったらみな同じやよってになぁ?」
 一瞬にして殺されて、消えていく子供。けれども他の子供たちは、それに対して何も思っていないかのような様子で千夜之介に向かってナイフを振り上げる。
「ええ……。その通り。その通りです。此処は戦場ですから」
 それを、今度はベイメリアがメイスで打ち払った。続けてくる一撃も、冷静に見切って避ける。そうして返すように指先を向けると、子供の持っている鳥かごに天から光が舞い落ちた。
「ふふ。お天道様も、えらい怒っているんやなぁ。せやけど……お嬢ちゃん、なかなか速いやないか」
 二人とも、自然とカバーをしあう形になりながらも、けれども個別に対処していく。ナイフが千夜之介の頬を掻く。流れる血をどこか楽しげに見やって千夜之介は軽やかにダガーを取って返して切り結ぶ。
 指を向けた先。鳥かごと共に燃え上がる子供と入れ替わるように、別の子供がベイメリアの前に立つ。変わらず鳥かごは楽園の素晴らしさを説く言葉を紡いでいた。
 ベイメリアは再び指を向ける。
「何度でも……繰り返すのだとしても。その楽園を、否定しましょう」
「そうやねえ。こんな子らがいっぱい、いっぱいや。いやえらい楽しいなぁ?」
 かみ合っているとかいないとか、ひとまずは置いておくとして。
「……あそこですか」
「ああ……ほんま」
 ベイメリアが力強く。
 千夜之介が笑みを変えぬまま異様な気配を探り当てる。
「せやけどそれは……このあとで、やね」
「ええ、まずはこの子達を……」
 片づけようかと千夜之介はいい。
 救いましょうかと、ベイメリアは告げた。
「過去への気持ちを抱くことが必ずしも楽園へ繋がる事とは考えられません」
「せやせや」
 言葉は兎も角。冷静に二人は子供たちを着実に屠っていく。
 その先にあるものが、楽園ではないことを。唯しっかりと、示すように……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

篝・倫太郎
夜彦(f01521)と

あざとい
子供の姿って辺りがあざとい……

多分……『やり難い』って思わせるのがテなんだろ
ま、俺の場合は子供だろーがオブリビオンな時点でぶちのめす一択だけどな

夜彦……
いや、なんでもねぇ

胸中がどうであれ、やることは変わらねぇしな
気に掛けても仕方ねぇ

エレクトロレギオン使用
召喚した機械兵器はナイフ攻撃の身代わりにしつつ
敵を攻撃するよう指示
俺と夜彦の死角もフォローさせる

俺自身は華焔刀で先制攻撃からの刃を返して
なぎ払いで範囲攻撃
残像やフェイントも交えて
出来るだけ敵の攻撃は回避するように立ち回り
夜彦の警告には手を軽く挙げて応え警戒

何を楽園とするかなんてな、それぞれだけど巻き込むんじゃねぇよ


月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と 参加

親玉のオブリビオンが子供だからこそ配下も然り
彼等は無知で純粋、だからこそ人の心を動かし易い
子供という存在は特別なのですよ
敵が子供でも、何も思わぬ訳ではありません
ですが……どんな姿であれ、捕らえて良い理由にはならない
行きましょう、倫太郎殿

攻撃の基本動作は2回攻撃
敵からの攻撃は見切り・残像より躱して斬り返し
第六感・聞き耳より子供の声を聞き、洗脳や増強を察知
倫太郎殿へ警戒するように声掛け
ナイフへの攻撃は早業と武器受けにて防御
接近した敵の隙を見て抜刀術『静風』

楽園とは言いますが私には呪いとしか思えぬのです
心を縛り付け、仕舞には体を縛る
それが本当の幸せとは私は思いません



「あざとい。なにがって子供の姿って辺りがあざとい……」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)がなんともいえなさそうな顔で呟いた。
「多分……『やり難い』って思わせるのがテなんだろ。ま、俺の場合は子供だろーがオブリビオンな時点でぶちのめす一択だけどな」
 口ではそんなことを言いながらも、若干その目線がいらだたしげに揺れているのを、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)はなるほど。と、非常に真剣な面持ちで聞いていた。
「親玉のオブリビオンが子供だからこそ配下も然り。彼等は無知で純粋、だからこそ人の心を動かし易い。子供という存在は特別なのですよ。それは即ち……」
「夜彦……」
 ものすごく真面目な顔をして考え込む夜彦に、思わず倫太郎が声を上げる。夜彦が顔を上げると、倫太郎は軽く頭を掻いた。
「いや、なんでもねぇ」
 多分。
 自分の心も一緒に考え込むような顔を、夜彦はしていた。
「敵が子供でも、何も思わぬ訳ではありません」
「……ああ。そうだな」
「ですが……どんな姿であれ、捕らえて良い理由にはならない」
「ま、そういうことだ。胸中がどうであれ、やることは変わらねぇしな。気に掛けても仕方ねぇ」
 ……実のところ二人とも、若干割り切れないような顔をしていた。
 それだけやっぱり、子供に手をかけるというのは抵抗があって、
「行きましょう、倫太郎殿」
「ああ。行くか夜彦」
 けれども二人とも、やるべきことはしっかりとわかってる。躊躇いはしないだろう。
 だから、二人はその錆びた公園に、まっすぐに足を踏み入れた。

 夜彦の愛刀が走る。曇りなき刃は子供の動きを先回りして、ナイフをかわすと同時にその腕を切り落とした。
 悲鳴が上がる。ひどいという声が聞える。けれども倫太郎も容赦なく薙刀でなぎ払った。
 朱で描かれた焔が舞い踊る黒塗りの柄が翻る。払われた刃に子供の体が切り裂かれて消えていく。それでも尽きることなく子供たちは刃が振るわれる隙を狙って、ナイフを再び走らせた。
「……」
 だが。倫太郎が一瞥すると、召喚した機械兵器が割り込むように現れてかわりにその刃を受ける。
 子供が鳥かごを振る。そのかすかな動きに、夜彦は反応した。
「……」
 手を掲げる。それだけで倫太郎は理解する。軽く手を挙げて警戒すると、鳥かごの中から声が聞えてきた。
 声は楽園を讃える。どうしてこちらに来ないのかと問いかける。
 それが幸福であるというのに。
 それを疑いもしない口調で鳥かごは歌う。
「……何を楽園とするかなんてな、それぞれだけど巻き込むんじゃねぇよ」
 苦虫を噛み潰したような表情で、倫太郎は首を横に振って華焔刀を払った。刃は鳥かごに当たり、かごはやすやすと砕ける。
 しかしそれもまたひとつではない。何度も、何度も。同じ言葉が重なるように。輪唱するかのように聞えてきて、夜彦はそっと刀を鞘に収めた。
「楽園とは言いますが私には呪いとしか思えぬのです。心を縛り付け、仕舞には体を縛る……。それが本当の幸せとは私は思いません」
 そういって。刀の柄に手を置いたのは、一瞬。
 声が止まった。本当に、瞬きをするようなまで夜彦は夜禱を抜き放ち、そして鳥かごを真っ二つに切り裂いていた。
「……」
「……」
 子供たちの絶叫を聞きながら、二人は視線を交わして己の獲物を握り締める。
 決して、何も感じていないわけではないけれど……。
 けれども許すことが出来ないものがあるのだと、その互いの目が言っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

城島・冬青
【アヤネさん(f00432)と】
子供の姿をしているのを攻撃するのは気がひけますね…
でもこれ以上犠牲者を増やすわけにも行きませんしやるっきゃないか!(手で頬をパンパンと軽く叩き気合い入魂)
あ、そーだ!アヤネさん
一仕事片付けたら買い物でもします?私は新しいバックが欲しくて…

刀を構え最も近くにいる『僕』へと斬りつけていきます
油断はしてませんけど気分はやっぱり良くないですね
囲まれたら【衝撃波】で蹴散らし孤立するのを防ぎます
アヤネさんは…容赦なく斬ってますね

さて問題は次かな。
一体何がおきるんだろ?
アヤネさんは…やはりこの後のことを考えて緊張してるみたい
大丈夫(アヤネの手を握り)私がついてますよ!


アヤネ・ラグランジェ
【ソヨゴ(f00669)と一緒】
夏の思い出?
ちらりとソヨゴを見遣る
ソヨゴは平気そうか
子供の頃
お父さんと過ごした夏の思い出を頭に描く
うまくやり過ごせる自信はない
ソヨゴにお願いする
僕の様子がおかしかったら頼むネ

終わったら買い物?いいね
ソヨゴはバッグが欲しいのネ
僕は
首を傾げ
なんだろう?
特に不自由はしていない、かな

子供が相手か
でも
籠の中身はUDCにしか見えないし
ナイフは血痕が付いている感じだし
一人称が僕と被っているのも気に入らない
手加減は必要ないよネ?

戦闘は大鎌を使用するよ
大きく手で弧を描く
袖口からぬるりと鎌を取り出し
ソヨゴの側に立って構える
【武器受け】で彼女に対する攻撃もまとめて捌く



 ふらりふらりと、
 公園の奥から、集まってくる子供たち。
「うう、子供の姿をしているのを攻撃するのは気がひけますね……」
 城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)がそっと二の腕をさすると、アヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)はなんとなくその腕に視線をやった。
「はい?」
「いや。だって」
「はい」
「籠の中身はUDCにしか見えないし、ナイフは血痕が付いている感じだし、一人称が僕と被っているのも気に入らない」
「……ええ。最後のはちょっと言いがかり」
「手加減は必要ないよネ?」
 言いかけた冬青の言葉をきっちり制して、アヤネは笑う。むぅ、と冬青は少しだけ考え込んで、
「でもこれ以上犠牲者を増やすわけにも行きませんしやるっきゃないか!」
 手で頬をパンパンと軽く叩き気合いを入れた。
「そうそう。犠牲者を増やさないためにも、仕方がないネ。なんたって僕とちょっと被ってるのが悪い」
「いやいや、かぶってるの多分、僕だけですからね!?」
 思わず突っ込みながらも、冬青は駆けた。そうと決めたら迷わなかった。現れる子供たちに、花髑髏を握り締める。
「花髑髏の本当の姿を見せますね」
 刃を漆黒の吸血武器へと変化して、冬青は刀を一閃させる。胴からまっすぐにそれを切り裂いて、返す刃で別の迫る子供を一刀の元斬り伏せた。
「目障りだヨ!」
 アヤネもまた、袖口から大鎌を取り出してそれをためらいなく振るった。弧を描く動きはためらいなく正確で、迫りくる子供の顔だろうが腹だろうが容赦なく切り裂いていく。
 子供たちは切り裂かれると絶叫し、そしてそれがやむ頃には消えうせる。そのありように冬青は思わず胸に手をやりながらも、
「あ、そーだ! アヤネさん。一仕事片付けたら買い物でもします? 私は新しいバックが欲しくて……」
 勤めて明るく、そんな声を出した。容赦ないアヤネに苦笑しながらも、ちょっとやっぱり自分としては気分が優れない。
「終わったら買い物? いいね。僕は……」
 僕は。言いかけて、アヤネはちょっと首をかしげる。
「なんだろう? 特に不自由はしていない、かな」
「うーん。じゃあ、食べたいものとか?」
「食べたいもの……?」
 鎌を振るいながら、アヤネは考える。それでもなんだか言葉がわいてこなくて、アヤネは困ったように眉根を寄せた。
「んー。じゃあ、このあとの宿題で!」
「はーい」
 言うアヤネの声が少し緊張していた。
 それが宿題のことではないのは、勿論冬青もよく解っていた。
(さて、問題は……次かな)
 勿論、この子供を殺すことではないのは、冬青もよく解っている。
「……一体何がおきるんだろ?」
 思わず声に出た冬青の言葉の意味を、アヤネは正確に察して僅かに表情を曇らせた。
 子供の頃、父と過ごした夏の思い出が一瞬、頭をよぎる。
 それで思わず冬青のほうに視線を見るも、冬青は平気そうな顔でアヤネの顔を見返した。
 そして冬青は笑う。その笑顔に、少し救われるような気がした。
「……ソヨゴ。実は僕は、うまくやり過ごせる自信はない。だから……僕の様子がおかしかったら頼むネ」
 いつになく神妙な顔になった。冬青は一瞬黙り込んで、片手を上げる。そっとアヤネの手を握り締めた。
「大丈夫、私がついてますよ!」
「うん、頼りにしているヨ」
「ふふ、嬉しいです!」
 いつの間にか子供の声はやんでいた。二人は公園の中を走り出す。
 予感があった。
 あちらへ行けば、会える、だろうと。
 だから二人は共に歩き出した。
 手を繋いだまま、その、幻想の先へ……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鵜飼・章
僕はずっと何となく浮いた子だった
どうしたらヒトの集団に馴染めるのか
今でもわからずにいる
そうして個性を欲しがる同級生達を
教室の片隅から冷めた目で眺めてたんだ

こんにちは
楽園に連れていってくれるのかな
幻想の世界の住人
ひとではない何か
花降さんはそうなると言っていたけど
僕は元々そういう扱いだから
『そっち』に棲むべきだったのかもしれないね

周りに誰も居ない事を確認し
UC【裏・三千世界】を発動
首を狙われたら【見切り】でかわす
幾ら人でなし扱いされようが
首が切れたら死ぬんだよね
人間だから

上手に浮ければ天国
下手に浮いたら地獄
そんなこの世でも僕は好きだけど
少しだけ楽園を見に戻ろうか
まだ何も知らなかった『ぼく』の世界へ



 公園に足を踏み入れたそのときに、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は感じた。
 どこか……夏の香りがすると。
 そんなはずが、ないと言うのに。
 そんなものが、あるはずもないのに。
 暑い暑い日ざしの中。一人ぼっちで歩いていく。
 夏休みの宿題も、背に追うたランドセルも。遠くに聞える蝉の声も。
 こんなところにあるはずもないのに、その匂いのかけらをかいだ気がした。
 ……ああ。
 いつだって、僕は一人だ。
 なんとなく浮いたこのまま。どうしたらヒトの集団になじめるのかすら解らないまま。
 個性を欲しがる同級生達を、教室の片隅から冷めた目で眺めてた。
 そしてそれは今も……、

 公園の土をもう一歩踏んだとき、章はそれで気がついた。
 滲むように現れる子供たちの姿が見える。
 章は目線を合わせるように、少し身をかがめた。
「こんにちは。楽園に連れていってくれるのかな」
 声をかけると、子供は笑う。
『いこう』
『いこう』
『帰ろう』
 どこへ。と、子供は言わなかった。
 同じような顔をした子供たちに囲まれる。それ自身が、子供たちが幻想の存在であることを思わせた。
「ひとではない何か……か」
 ついていってくれる人だとでも思ったのであろうか。
 嬉しそうに章に近寄ってくる子供たち。章は静かに視線を向ける。
「僕は元々そういう扱いだから。『そっち』に棲むべきだったのかもしれないね」
 周囲に人気がないことを確認しながら、章はそっと手を伸ばした。
「人類は滅んだ。美しい朝が来る。≪裏・三千世界≫」
 手を伸ばした先に鴉が舞い降りる。それに続くように、一羽、二羽。数え切れないほどの鴉の群れが公園へと舞い降りた。
 鴉が子供たちをついばむ。周囲を無差別に攻撃するその鴉たちは、一人きりの章以外のものへと襲い掛かった。
 体をついばまれた子供が悲鳴を上げながらもナイフを振り回す。それを難なく章はよけていく。
「幾ら人でなし扱いされようが、首が切れたら死ぬんだよね。人間だから」
『人間』
『にんげん?』
「……人間だよ」
 刃がかする。皮一枚裂けて血が落ちる。
「そんなこの世でも僕は好きだけど……。少しだけ楽園を見に戻ろうか」
 反撃のように鴉がその子供へと集中的に攻撃を加える。その音を聞きながら、
「まだ何も知らなかった『ぼく』の世界へ……」
 楽園の先へと、章は思いをはせて。鴉と共に、歩き出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

彼岸・椿祈
ひーちゃん(f01888)と
アドリブ大歓迎

楽園かあ
うちに難しいことはよう解らへんけれど
今が辛い人に幸いの夢を見せるんやったら
人が人でなくなっても楽園なのかもしれへんね

でも、仲良かったあの夏に戻れるんやったら
ひーちゃんがうちに笑ってくれとったあの頃に戻れるんやったら
…なんて、あかんね
思うけど言わへんよ

うん、今はお仕事頑張るんよ
うちがひーちゃんを護るつもりで前に出る
ひーちゃんの鈴蘭の舞をしてくれたなら
うちは巫覡載霊の舞とオーラ防御で守りを固めながら
範囲攻撃で弱った相手を各個撃破でトドメをさしていくんよ
倒せへん場合ナイフとか手に持ってる鳥籠とかうまく狙えればええんやけど
そうはうまくいかれへんかもね


彼岸・陽葵
つー(f01808)と
アドリブ大歓迎

楽園?馬鹿馬鹿しい
そんな馬鹿げた事を信じる輩がいるんだね
そいつらの脳内が楽園だろ

けど、仲良かったあの夏に戻れるんだったら
つーに対してこんな意地を張らずにいられたあの頃に戻れるんだったら
…なんて、いけないね
思うけど言わない

さ、さっさと倒して帰ろうか
こんな面倒くさいとこ長居は無用だからね
鈴蘭の嵐でウザったい奴らを纏めてなぎ倒す
前衛はつーに任せて、とにかく多くの数を巻き込むことを意識する
つーが前衛に立ってはくれてるけど正直信頼はしてないから
あたしも、もし攻撃受けそうになったらオーラ防御で防いどく

かあさまとおさまってそればっかかよ
まるで人形みたいだ
本当に馬鹿らしい



「楽園かあ」
 彼岸・椿祈(黎明カメリア・f01808)がふんわりと呟いた。
「楽園? 馬鹿馬鹿しい」
 彼岸・陽葵(仄日ジラソーレ・f01888)がさも面白くなさそうな顔でけだるげにそう言った。
「うちに難しいことはよう解らへんけれど、今が辛い人に幸いの夢を見せるんやったら、人が人でなくなっても楽園なのかもしれへんね」
「そんな馬鹿げた事を信じる輩がいるんだね。そいつらの脳内が楽園だろ」
「ひーちゃん……」
「つー……」
 困ったような顔で椿祈は陽葵を見つめ、
 なんともばかばかしい、と言いたげな目で陽葵は椿祈を一瞥した。
「……」
「……」
 お互いに、無言であった。
 鏡のように似ている二人は、けれどもその仕草も表情もまったく違っていて、
 こんなときでさえ、声を掛け合うことが、出来なかった。
 そんなことすら出来ないような。空気が二人の間に流れた。
(でも、仲良かったあの夏に戻れるんやったら……。ひーちゃんがうちに笑ってくれとったあの頃に戻れるんやったら……)
(けど、仲良かったあの夏に戻れるんだったら……。つーに対してこんな意地を張らずにいられたあの頃に戻れるんだったら……)
 視線をそらせて。お互いが同じようなことを考えているのだと、お互いはわかっているのだろうか。
(……なんて、あかんね)
(……なんて、いけないね)
 互いに言葉は胸のうち。締めくくりだって同じように。
 ぱ、と顔を同時に上げると、二人の視線がかち合った。
「さ、さっさと倒して帰ろうか。こんな面倒くさいとこ長居は無用だからね」
「うん、今はお仕事頑張るんよ」
 そこだけは想いが少しだけずれた。ほんのささやかな短い会話に、椿祈は少し、嬉しそうに微笑んで前に出る。
「うちがひーちゃんを護るよ」
「そう? ありがと。正直信頼してないから」
「うう。ひーちゃんのいけず」
 交わした会話は傍から見ればちゃんと姉妹をしているように見えただろうか。それはわからないけれども、椿祈は言うと同時に陽葵の前に出る。
 子供の笑う声が聞えてくる。
 鳥かごを持った子供たちに、陽葵は眉根を寄せた。
「かあさまとおさまってそればっかかよ。まるで人形みたいだ」
 言いながら。陽葵は獣奏器を翳す。それが一瞬で砕けて、鈴蘭の花びらへと変化する。
「本当に馬鹿らしい」
 美しい花の中、忌々しげに陽葵が言った。鈴蘭の花が降り注ぐ。かごを持つ少女たちに襲い掛かる。
 とにかく広範囲に向けて攻撃を続ける陽葵に、子供たちは悲鳴を上げていた。それでも逃げることはせずに、子供が今度はナイフを握り締める。
「いかせへんよ。ひーちゃんは、うちが護るから」
 ナイフを持って走り出す子供から陽葵を護るように、椿祈はその身を心霊体へと変化させた。衝撃波を放つ薙刀を握りこんで、ナイフを裁くように受ける。
「ひーちゃんがまとめてやっつけてくれてる分、うちはそこから漏れたのにあたるね」
「はいはい。好きにしなよ」
 興味がなさそうな口ぶりで、しかししっかり返答してくれる陽葵に椿祈は頷いて、薙刀を振るう。鈴蘭の攻撃で痛手を受けている子供たちを優先的に、着実に屠って言った。
 美しい鈴蘭の花に。衝撃波を伴う攻撃に、子供たちは悲鳴を上げる。
 それでも椿祈は淡々と。椿祈はほんの少し痛ましげに。
「……ん」
「……」
 鳥かごを狙った椿祈の薙刀が、僅かにそれた。意図を察した陽葵が、鈴蘭を差し向ける。
 少女が嫌がるようにかごを振り回す。その好きに今度こそ、狙い済ました薙刀の一撃が、その加護を破壊した。
「ありがとう。うまく狙おうと思ったんやけど、そうはうまくいかれへんね」
「そんなことより、手を動かして」
 ほんの少し、照れたように笑う椿祈。陽葵の返答はそっけなかった。
 わかった。と再び敵へと向き直る椿祈の前方に、陽葵の鈴蘭の花が降りそそいだ。
 子供たちが消える。消える。かすかな断末魔を残していなくなっていく。それで二人は公園の奥を目指して走り出した……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

火狸・さつま
楽園…?
あの、夏……

消えてしまった
戻らない
戻れない
そんな過去へ連れてってくれても
未来は、ない、よ


懐かしい…懐かしいけれど
懐かしむのは、過去の記憶だから
過ぎ去ったから


俺、ね
昔は、戻りたかった時があったよ
でも、今は…過去よりも、今を大事にしたい


ね、連れてった人達にも
きっと戻る場所はあると思うから…

奪ったら、駄目、だよ
だから、きみたちが…おやすみ


『範囲攻撃』の【安息を】
続いて『早業』『二回攻撃』で、<雷火>の『範囲攻撃』雷撃

攻撃を『見切り』躱して
『オーラ防御』纏わせた手で攻撃はじき
すかさず『早業』『カウンター』【安息を】



 火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)はゆっくりと天を見上げた。
 雲が流れていく。この世界はまだまともな世界で、異世界へ行くのはまだ先だけれど、
「楽園……? あの、夏……」
 その言葉は酷く。
 さつまの心を、捉えていた。
 さく、さく、さく、と。地を踏んで。
 さつまは一歩、一歩足を踏みしめて公園内へと侵入する。
 寂れた遊具。草の生えた地面。こういうものも、見るものが見たら懐かしさを抱くんだろうかとさつまはぼんやりと考えた。
 消えてしまった、
 戻らない、戻れない。
「そんな過去へ連れてってくれても……未来は、ない、よ」
 ぽつんと呟くさつまの前にも、楽園へといざなう子供が現れた。
『それでもいい』
『未来なんてなくていい』
 子供は笑う。囁くのは子供だろうか、その鳥かごだろうか。
「そんなことは……ない。懐かしい……懐かしいけれど、懐かしむのは、過去の記憶だから」
『過去でもいい』
「過ぎ去ったから」
『それがどうしていけないの』
 ……不意に、その声が。
 子供ではなく、自分から聞えているような気がして。さつまは足を止めた。
 それでいいじゃないか。それの何が悪いのか。そんな風に自分が言った気がして、さつまは首を横にふる。
「俺、ね。昔は、戻りたかった時があったよ。でも、今は……過去よりも、今を大事にしたい」
 熱さも苦痛も生じない優しき浄化の炎が周囲に浮かび上がる。それで向こう側も攻撃の石に気づいたのであろう。
 鳥かごより漏れる声は美しく。その楽園の素晴らしさを語る。
 それと同時に閃くナイフを、さつまは避けながらも周囲に炎を放った。
「ね、連れてった人達にも、きっと戻る場所はあると思うから……」
 自分だってあるのだ。
 きっとみんなが、そういう場所があるはずなのだ。
 だから……それを大切にしたい。
「奪ったら、駄目、だよ。だから、きみたちが……おやすみ」
 炎が少女たちを包み込む。
 続けてさつまはその尾に紋章を宿らせて、雷火を放った。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
こども?こども?
小さいのはダメって言われてた。ケド……今回は仕方ないもンなァ……。
賢い君、賢い君、目を瞑ってくれ。

あそぼあそぼ、何してあそぶ?
あそぶの嫌だ?
じゃあ、うたを歌おう。アァ……大きな声で歌を。
先制攻撃。それから人狼咆哮でまとめてやってしまおう。

そうだなァ……一人で行くのは寂しいンだろ?
ならまとめたらみーんな一緒。一緒。ほらほら寂しくない。

一人だけはぐれないように味方の側にはいるサ。
アァ……オオカミの歌に巻き込まれないようにしてくれヨ。
小さいのそれじゃァ、バイバイ。


村井・樹
可愛い面して、可愛くねぇモンを持ってやがるな、あのチビ

だけど、お前のやろうとしてる事なら、既にお見通しだ
「親の言葉に踊らされるままに、楽園を目指した子供」。そういう意味なら、何しろ、『村井樹』だって他人事じゃねぇんだからな

第三の人格を発動

相手の思考を読み、こちらの急所を狙う瞬間を避け、相手の攻撃をうまくかわせたのなら、そのまま『カウンター、シールドバッシュ』を叩き込んでしまえ
ああ、そのナイフも危ないな

責任持って、大人が預かってやろうか?
楽園に行くのに、そんな血生臭いモンは必要ねぇ

それ以上、手を汚す前に。子供のお前は静かに眠ると良い

※プレ外の言動等大歓迎



「こども? こども? 小さいのはダメって言われてた。ケド……今回は仕方ないもンなァ……」
 公園に足を踏み入れると、そこは既に異界のようになっていた。
 寂れた遊具の隙間から、どこからともなく爽やかな、夏を思わせるような風が流れ込んでいる。
 教習の向こう側から、迎えに来るように現れた子供たちの姿に、エンジ・カラカ(六月・f06959)は本気で困ったように考えこんでいた。
「別にいいだろ。可愛い面して、可愛くねぇモンを持ってやがるからな、あのチビ」
 そんなエンジの様子に、村井・樹(Iのために・f07125)がハンドガンに手を触れる。今日も『紳士的』に物事を解決するつもりであり、それは相手が大人だろうが、子供だろうが関係ないと。……いやいっそ、どこか忌々しげな表情さえ伴って、樹は前方の子供たちを見据えた。
「可愛くなければ、子供じゃないのかなァ。それとも可愛くなければ子供でも、殺していいのかなァ」
 そんな樹を、解っているのかいないのか。冗談なのか本気なのか。解らぬ口調でエンジは問う。それに、そうだな。と、樹は一瞬だけ、考え込んだ。どこか自分の考えを整理するように、
「例え子供でも……例え大人に言われてしたことでも、やっちゃいけねぇことをするやつは、止められるし場合によっちゃ殺されなくちゃいけねェってことだろ、この話は」
 この子供たちが、倒すべき存在である、ということはとはまた別の話で。
 例え誰かに言われたことでも、するのは自分だ。ならば責任を負うのは自分自身だろう、と樹はいった。
「あァ。なるほどなるほど。じゃあ、俺がダメって言われたのを破るのも、俺の責任なんだなァ」
 感心したように。どこか面白がるように。エンジはじゃあ、と頷く。己にかけた禁を破ることに、まったくこだわりのないような口調で、
「それでも、いいや。賢い君、賢い君、目を瞑ってくれ」
 行こう。と、子供たちが集う場所へと走り出した。
「……ああ」
 樹もまた、子供たちを一瞥して。
 罪か。と、小さく呟いて。走り出した。

「あそぼあそぼ、何してあそぶ?」
 ふわり、ふわりと。漂うように子供が漂っている。それを見てエンジは拷問具の賢い君に目を落とす。子供たちの返答はというと、
『帰ろう』
『帰ろう』
『楽園へ』
「親の言葉に踊らされるままに、楽園を目指した子供……か。お見通しだ、そういうのは。何しろ、『村井樹』だって他人事じゃねぇんだからな」
 急所への攻撃をかわす樹は、すかさずそのまま己の盾を操りナイフの起動をそらせた。そのまま強く打ち据えると、子供から悲鳴が上がる。すかさず銃弾を打ち込むと、悲鳴を上げながら子供たちは消失した。
 仲間が消えたことを、まったく気にしていないかのように子供たちは二人へと迫る。鳥かごを揺らしながら、ふわふわとこちらを目指す子供とはまだ少し距離があって、エンジはちらりと樹に視線を送ってから、走り出す。子供たちの中に突っ込んだ。
「んー。あそぶの嫌だ? じゃあ、うたを歌おう。そうだなァ……一人で行くのは寂しいンだろ?」
 エンジはあくまでふわっとそう言って口を開く。
 歌を歌おう。なんて言いながらも、大きく口を開けて形にしたのは方向であった。激しい咆哮は鳥かごの声をかき消し、子供たちの耳を震わせてその存在を揺さぶる。
「ならまとめたらみーんな一緒。一緒。ほらほら寂しくない」
「逃げられると、思うな」
 その輪から、辛うじて抜け出そうとした子供へと樹も走る。
「ああ、そのナイフも危ないな。責任持って、大人が預かってやろうか?」
 目の前に行くや否や、ナイフを振るう子供の手を樹は盾で打ち据えた。ナイフが音を立てて落ちる。
「楽園に行くのに、そんな血生臭いモンは必要ねぇ。それ以上、手を汚す前に。子供のお前は静かに眠ると良い」
 最後の言葉はどこか小さく。どこか他人事とは思えない色を孕んでいて。
 懐かしい何かを見るかのような顔で樹はそっと、声をかけた。
 銃声が、響いて。エンジはちらとそちらのほうへと目をやった。
「大丈夫、だいじょーぶ。みんな一緒に行けるからさァ。……それじゃァ小さいの、バイバイ」
 けれども再び周囲に目を向けると、咆哮に蹲る子供たち。エンジは止めをさすべく、もう一度口を開いた……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

静海・終
天国も楽園もきっと想像するものであり
往くべき場所ではないのでございましょう
あの海から戻ったモノの誘惑は全て悲劇への誘い
悲劇は殺して、壊しましょう

さあ、涙、お仕事でございますよ
相棒の蒼槍を撫でる
その姿が幼気な子供であろうと殺してみせましょう
フェイントを駆使して先制攻撃を仕掛ける
青白い炎で誘い手を燃やし
弱った個体が居ればそれを狙い確実に数を減らしていきましょう
誘いに緩やかに笑う
楽園に行けば何が変わるのでございましょうか
そこに私の理想があるとしてもそれはその中だけ
楽園より外の悲劇を放ってはいけません


三咲・織愛
楽園……ですか
懐かしい気持ちを思い起こさせる場所
浸りたくなるような過去があれば、
きっと囚われてしまうのでしょうね

私は……、

ううん。大丈夫
過去は過去だと知っているから
もう戻れないのだと、わかっているから
……それでも、会いたくなってしまいそう

一緒にいてね、ノクティス。
藍色の龍を抱きしめて
夜星の槍へと変えてから、戦いへ

惑わされる人のないよう、振り払わせていただきます
攻撃は見切りと武器受けで凌ぎ、急所を狙い串刺しを
どのような見た目であろうと躊躇わない
覚悟を胸に、対象を討ち果たして行きましょう


イア・エエングラ
夢を、ご覧になるかしら
現に在るなら楽園かしら
そこへいたなら寂しく、ないかな
なあ、お前は、ご存じだろか

――僕とも、遊んでくださる?

そっと擁くのは銀の短剣
あなたのとどちらが早く届くかを、ためしてみよか
おとすのならば、躊躇わずにおいでよう
僕は逃げも隠れも、しないもの
裾返せば纏うのは滄喪のあおを
躍るように遊ぶように、少女へと駆け寄ったなら
まっすぐ心の臓を貫いてお別れしましょうな
きっと視線が合ったとて僅かも迷いはしないから
待てど届かぬ迎えを待つのは、かわいそに

足跡のよに軌道を伝う蒼い火がきっとお前をおくるから
楽園には遠かれどしじまの海へおやすみなさい



 静海・終(剥れた鱗・f00289)にとって、この光景はどういうことなのだろうかと。
 終は自分自身で、そんなことを考えた。
 黄昏時の公園も、青い空とひまわり畑も。
 果たして自分には、覚えがあっただろうか、否か。
 どちらにせよ……、
「天国も楽園もきっと想像するものであり、往くべき場所ではないのでございましょう」
 きっと、終はそう思う。
 あの海から戻ったモノの誘惑は全て悲劇への誘い。
 ならば彼がすべきことは、唯ひとつであった。
 悲劇は殺して、壊しましょう。
 そのために、彼は今ここにいる。
「さあ、涙、お仕事でございますよ」
 相棒の蒼槍を撫でて。終は走り出した。

 三咲・織愛(綾綴・f01585)は静かに、そして痛ましげに、そっと目を伏せる。
「楽園……ですか」
 懐かしい気持ちを思い起こさせる場所。きっと誰もが思い返すような遠いあの日。
「浸りたくなるような過去があれば、きっと囚われてしまうのでしょうね」
 容易に想像できる。
 人はきっと、そこまで強くはなれないから。
 そこまでかんがえて、ふと織愛は己の胸に手を当てた。
「私は……」
 私は、どうだろうか。自分の胸に、問いかける。
「……ううん。大丈夫。過去は過去だと知っているから」
 本当に? と、誰かが言った気がして。
 ほかならぬ自分がそういっているのだと気がついて。
 織愛は小さく頷く。
「ええ。大丈夫。もう戻れないのだと、わかっているから。……それでも」
 会いたくなってしまいそう、と。彼女は口の中で呟いて。首を横に振った。……それは、いけないことだ。わかって、いるのだ。
「一緒にいてね、ノクティス」
 藍色の龍を、かわりにそっと抱きしめる。答えるように龍は、夜星の槍へ変化した。


「夢を、ご覧になるかしら。現に在るなら楽園かしら」
 ぼんやりと。どこか歌うように。イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は語りかける。
 子供に答えは持ち合わせてはいなかった。行こう、行こうとしきりに手を引き。どこへ行くのかと問えば曖昧な返答がある。
「そこへいたなら寂しく、ないかな。なあ、お前は、ご存じだろか」
『帰ろう』
『帰ろう』
「帰る場所……なんて」
 言いさして。不意とイアは目を細めた。あるのか。ないのか。曖昧とも取れぬその仕草で、子供たちへと向き直る。
「――僕とも、遊んでくださる?」
 子供は答えたりはしない。
 ただ帰ろうと歌うばかり。
 では、帰る場所のない人はどうするのかと。ぼんやりとイアは考えた……けれども。
「そうね。……そう。あなたのとどちらが早く届くかを、ためしてみよか」
 銀の短剣を握り締めて、イアはそっと囁くように、声をかけた。
「おとすのならば、躊躇わずにおいでよう。僕は逃げも隠れも、しないもの」
 イアの言葉にも、子供は唯。帰ろう、と繰り返すだけであった。


 蒼槍と星夜を彩る槍が同時に走った。
「惑わされる人のないよう、振り払わせていただきます」
 先ずは織愛の星夜の槍が、子供の体を貫いた。同時に引き抜き、槍を旋回させて己のみに迫ったナイフを弾き飛ばす。
「躊躇いは……しません。私は」
 覚悟がありますから。と、皆まで言わずに織愛は槍を振り払う。
「ええ。ええ。その姿が幼気な子供であろうと、殺してみせましょう」
 終も頷いて、よろけた子供を容赦なく突き刺した。青白い炎に子供が包まれる。
「これは埋め火の、白殺しの御伽噺」
 囁くような終の声。悲鳴を上げて消えていく子供。しかしそれは一人きりではなくて。
「揺蕩い、きえて」
 彼らの後ろに回りこんでいた子供に、踊るようにイアが接近した。
 碧く揺らぐ火をまとい、触れれば凍てる炎を手に。イアは銀の短剣を振りかざす。
「お別れしましょうな。だれも、だあれも、お前たちに惑わされなんて、しないのよ。おまえたちのことを救ってはくれないよ」
 子供の心臓に、銀の短剣が突き立てられた。炎が燃え上がる。燃え上がっているのに凍っていくような炎に子供は悲鳴を上げる。
 悲鳴が徐々に弱くなって、消えていく頃。少女の姿も、その場から消えうせていた。
「待てど届かぬ迎えを待つのは、かわいそに」
 イアはそう、ほんの少しだけ悼むように言いながらも。
 ためらうことなく短剣を振るい続けた。

 そうして戦うこと数分。
 悲鳴が聞える。それは子供のものであった。
 楽園へといざなう声が聞える。それはかごの中の首から発せられていた。
 どうして、どうしてと鳥かごは問う。
 そこに行けば幸福があるのにと。
「楽園に行けば何が変わるのでございましょうか。そこに私の理想があるとしても、それはその中だけ……。楽園より外の悲劇を放ってはいけません」
 緩やかに笑う終。私はこれで、我が儘なのですよ。なんて、そういって笑っていた。
「私の理想は、他者が会って初めて成り立つもの。私一人が包まれるものではないのです」
「そうですよ。私たちの……私たちの願いは、あなたたちには叶えようがありません」
 柔和な雰囲気の中にも、心の強さを映し出すように。背筋を伸ばして、織愛もまた、槍を振るいながら言い放つ。
 迷いがないといえばうそになる。うそだとわかっていても心が傾くときもあるだろう。
 けれども、だからこそ。織愛は言い放つ。そんなものには負けないと声を上げる。
 最後のひとりとなった子供は泣き叫ぶ。どうして、どうしてと。もはや何がどうしてなのかもわからないぐらいに声を上げた、ところで、
「この蒼い火がきっとお前をおくるから……。楽園には遠かれどしじまの海へおやすみなさい」
 イアの短剣が、胸をついた。
 炎が子供の体に燃え上がる。
 最後まで最後まで、
 声が物悲しく、周囲に響いていた……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『『向日葵』』

POW   :    あの日、あの時、あの場所で
小さな【相手の戦闘力を無効化する向日葵畑】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【郷愁漂う優しく平和な真夏の異界】で、いつでも外に出られる。
SPD   :    あたしといっしょに遊ぼ?
【幻影としての向日葵】の霊を召喚する。これは【嗅いだ者を幼少期の姿にする夏の香り】や【触れた物を無垢な童心に還す夏の風】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    夏はいつまでも
戦闘力のない【太陽】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【日が暮れ、暮れる毎に相手の敵愾心を削る事】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

 子供たちの声が公園から消えた頃。
 猟兵たちは、ひとつの異界に足を踏み入れた。
 あるいはそれは、ジャングルジムの真ん中だったか。
 それともすべり台の裏側だったか。
 いいやもしかしたら、ブランコの上だったのかもしれない。
 子供たちが示す先。やってきた場所。それらをたどった先の向こう側。
 夏の匂いを追いかけて、猟兵たちが足を動かしていると……、
 いつの間にか世界の色が、変わっていた。

 空はどこまでも青く。
 目に痛いばかりの大きな入道雲。
 あまりの暑さに汗が頬を伝う。
 気の遠くなるような蝉の声。
 延々と続く土の道。
 そして果てまで続いていくようなひまわり畑。
 あるいはキミの記憶の中にあるあの夏の景色。
 もしくは、キミの記憶にはないはずなのに何故か懐かしく思うあの夏の景色。
 そんな、ありえないはずの場所にキミたちは立っていた。
 一緒に戦っていたはずの猟兵たちの姿も見えない。
 気づけば君たちの姿は幼く。子供のように変わっていた。
 どうして。と、思う気持ちは一瞬だ。キミたちはひまわり畑のその先に、誰かが待っていることにきづいた。あるいは、思い出した。

 それはきっと、懐かしいあの人。
 遠い遠い記憶の向こう側にある、輝かしい夏の記憶だ……。
●マスターより
 あなた方は、いつの間にかその楽園に足を踏み入れました。
 出る方法は唯一つだけ。ひまわり畑の向こう側にいる、あなたを待っている誰かを意思を持って殺すことです。
 あなたが意思を持って攻撃すれば、一撃でそれは消失するでしょう。
 せっかくですから、そこに至るまでの過程を楽しんでいただけたらと思います。
 現れる幻想空間は、あなたの子供の頃。記憶のどこかにある、夏の景色。
 延々と続くひまわり畑と、誰かが待っていることだけは共通です。
 例えばその道の詳細は人によって違うかもしれませんし、
 待っている誰かは勿論、その人の記憶によって変わります。
 待っている誰かがどのようなことを言うかは人それぞれですが、最終的には「ここでずっと楽しく過ごそう」ということに帰結します。
 あるいは中には、都会の記憶しかない人もいるでしょう。
 そういう人も何故か、都会の中にひまわり畑があったはずと記憶を落とし込んで、それを懐かしいと感じるのでしょう。
 あるいはミレナリィドールの方々のように、子供の姿がない人もいるでしょう。
 そういう人も、何故かその幻想の中では子供の姿になりますし、子供の気持ちになりますし、少しばかりは、「それが当たり前だ」という感覚に襲われるでしょう。
 待っている人は、基本は少女の姿をしていますが、
 該当者がいない場合は、母親だったり、あるいは男性だったりするかもしれません。
 全てはあなたたちの、あの夏の思い出のままに……。


 一人参加者さん同士を同時に描写することはありません。個別描写になります。
 お誘いあわせて参加の方々は、同時のリプレイになりますが、
 各々、見えている景色が違います。ひまわり畑は同じでも細部は違いますし、待っている人はあなただけのものです。
(勿論、まったく同じ思い出を持っている人たちなら同じ景色になる可能性はありますが)
 早い段階でその齟齬に気づくか、気づかぬまま進むかなどは各自お任せします。
ベイメリア・ミハイロフ
土のにおい
おひさまの温かさ、背の高い黄色の花
いつの間に、このような所に

向日葵畑を歩いているうちに、なんだか楽しくなって参りました
わたくしのお家の近くに、このようなお花は咲いていたかしら?
でもそんなことは些細なこと

ふと、顔を上げますと
小学生位の男の子のお姿が
黒髪に黒い目の男の子
ああ、あの方は…
共に過ごした日々、わたくし覚えています
とても穏やかで楽しい日々

あの頃と同じように
ベイメリアさん、と呼ばれて
…?
何か違和感を覚えて

あの方とはわたくし、そんなに幼い日に会った訳ではなかった筈
そして、別々の道を進むと決めた時
笑顔でお別れした筈なのです

ごめんなさい
あの方に再び会わせていただいた事に
感謝しつつ攻撃を



 土のにおい。
 背中に当たるおひさまの温かさ。
 顔を上げると、黄色い花がベイメリアの、わたくしの顔を見下ろしていました。
「……いつの間に、このような所に」
 口に出して、首をかしげる。戸惑うようなこの声音がどこか自分じゃないように感じられて。
 ふわりと首をかしげる、この体が、なんだか自分のものではないような、そんなきがして。
「わたくしのお家の近くに、このようなお花は咲いていたかしら?」
 お家。
 一体どこの、おうちだっただでしょう。
 一体どんな、おうちだっただでしょう。
 首をかしげながらも、わたくしは足を進めます。
 そうしなければいけないような。
 そうすれば何か素敵なものに出会えるような。
 そんな些細な、根拠も意味もまるで何もない、子供のような予感につきうごかされて。
 胸をよぎる違和感は、黄色の花畑を歩くごとに消えていきました。
 そんなことは些細なことでしょう。
 どこのおうちだったのか。どんなおうちだったのか。
 歩いていけば、きっと解るはず。
 きっと誰かが、待ってくれているはず。
 そして……、
「――」
 そして、
 声が、聞えた気がして、わたくしは顔を上げました。
 するとひまわり畑の向こう側に、黒い人の影が見えました。
「ああ……」
 その顔を、よく存じ上げている……きがします。
 呼んでいる。呼んでくれている。黒い髪の、黒い目の男の子。
 手を振っている。そっと胸に温かい光が灯ります。
 走りましょう。急いで、すぐに。あの方の元へ。まっすぐにその手をとって。
 覚えている。わたくしはあの方を覚えています。
 そう、穏やかな日を過ごしました。楽しい日を過ごしました。
 本当に本当に幸せでした。
 ああ。あの方のお名前は……、

 名前を呼ぶ前に、あの方が口を開きました。
 ベイメリアさん、と呼ぶ優しいあの声。
 わたくしを見つめるそのまなざしが、とてもとても優しくて……、
「……?」
 それで。
 わたくしはひとつ。瞬きをしました。
 そのぬぐいようのない違和感は――………………。

「ええ……。そう、そうでした」
 ふ、と、微笑んで。
 ベイメリアは目を伏せた。
「あの方とはわたくし、そんなに幼い日に出会ってはいませんでした」
 そして、お互いに既に道を持っていた。
 歩みたい道があって、そして笑顔で別れたあの日。
 こんなにも純粋に。ただ幸せそうに。何もかも忘れて、過ごした日々なんて決して……。
「……ごめんなさい」
 この手を取れたら、どんなにか幸せだっただろう。
 子供のように、なんの使命も、目的もなく。ただ幸せを受け取るだけで、生きていけたらどんなにかよかっただろう。
 けれどもそれは、あの日の別れをうそにすることになるから。
 幻と解っていても、ベイメリアはそう詫びる。
 だってそのユメ、本当に幸せそうであったから。
 ベイメリアはそっと指先で、差し出された手に触れる。幻ではあるけれども、とても大切なあの方の。
「……あの方に会わせていただいて、ありがとうございます」
 天から落ちる光が、指先を通して周囲に満ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鵜飼・章
※捏造◎

小3の夏
雑木林のなか
ぼくはカブトムシをとりに来た

…あつい
ひまわり畑とかあったっけ
セミがないてる
女の子の泣き声もする

知ってる
3年2組の堀結香さん
いっしょに行くって言うからつれてきたのに
あつい
つかれた
のどかわいたって
うるさかったからぼく、こう言った

じゃあなんで来たの
じゃまするなら帰ってって
堀さんは泣いて走ってった
探すのめんどくさい
あついし
虫じゃないし


…いた
堀さん、帰ろ


あの日のぼくは堀さんを探さなかった
今は解る
きみはたぶん
僕の事が好きだったんだ

手を繋いで
優しく笑って
何を言われても上手に返せるよ
創り物のぼくだったとしても
この夏にはお似合いでしょう

お別れはUCで
ごめんね
きみの好きなひとは酷い奴だ



 せみの声がしている。
 でも今日はせみの気分じゃなかったんだ。
 章は。ぼくは。
 ……ああそうだ、ぼくは。
 カブトムシをとりにきていたんだ。

 せみの声がしている。
 それだけで暑くなってくるのに、更に女の子がないている声もしている。
 あつい。あつい。
 うっとおしくて、あつくるしい。
 雑木林のなか/ひまわり畑の真ん中で。
 立ち尽くし泣き続ける/こっちに来てよと泣いている、女の子の姿。
 勝手についてきたのになんて邪魔なんだろうって/それでも優しくしてあげなきゃって気がして、
 そうだ。そんなことを考えながら……、
 ぼくはあるいていた。
 いや、ぼくはあるいている。

 そうだ。あのこは3年2組の堀結香さん。
 ぼくと、同い年の女の子。
 いっしょに行くって言うからつれてきたのに、
 あつい、つかれた、のどかわいたって。
 そんなことばっかりで。勝手についてきたのにって腹が立って言ったんだ。
「じゃあなんで来たの。じゃまするなら帰って」
 って……。
 堀さんは泣いて走っていった。
 ぼくは探さなかった(探さなかった?)。
 うん、探さなかった。めんどくさいし、あついし、虫じゃなかったし。
 それきり堀さんは、もう帰ってこなかった。
 夜になって大人が知らないかって聞いたけれども、ぼくは知らなかったし、知らないって、答えた。
 堀さんの行方は、今も…………、

「……いた」
 ひまわり畑の真ん中で、彼女は立っていた。
「堀さん、帰ろ」
 章が声をかけると、彼女は泣きはらした目で顔を上げた。
「……ごめんね」
 ごめん。
 全然悪いとは、思っていないけれども。
 きっとこういう時、ひとはごめんと言うんだろうと、章は思ったから。
 彼女の唇が動く。
 わたしこそごめん、と、いっている気がして。
 章は笑って、その手を差し出した。
 彼女も笑って、その手を握った。

 あの日章は彼女を探さなかった。
 あの日の自分の気持ちがよく解る。
 そして、彼女の気持ちも今ならよく解っていた。
 たぶん……。
 きっと、いまさらわかっても。
 何の意味もない、ことだけれども。

 繋いだ手を握り締める。
 ずっと一緒にいてと、彼女は言った。
 優しく微笑んで章は、わかったと頷いた。ずっと一緒にいようと応えた。
「……創り物のぼくだったとしても、この夏にはお似合いでしょう」
 呟きはきっと、彼女には届かなかったろう。
「例えばきみのいない明日と。例えば君のいるかもしれない明日と。……きっと僕は、どちらでもいいんだね」
 まるでそれは悪魔の証明だと、章は思った。
 出現する針は昆虫標本を作るためのもの。
 大張りが地面に縫いとめるかのように彼女の腕を、足を、穿つ。
 何が起こったのかわからないという顔をする少女に、鴉の群れが襲い掛かる。
 骨まで貪る鴉たちはきっと、幻想のかけらも残さない。
「ごめんね。きみの好きなひとは酷い奴だ」
 呟いた章の言葉は酷く借り物めいていて。
 それでもきっとそれが、章の人らしいせいいっぱいだったのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルハ・オランシュ
ヨハン/f05367と

耳を劈く蝉の声
空を見上げれば強い陽射しに目が眩んで、
逃れるように下げた視線の先には沢山のひまわり

姉ちゃん、と呼ぶ声はあの頃の弟のもので
一面の黄色に囲まれたネクが私を待っていた

また私を連れ回して……
でもネクとなら、ずっとここで一緒に

……
「過去は、過去でしかない」
ふと口から零れた言葉
これは誰が言ってたんだっけ

えっ……この長い髪、もしかして私、昔に戻ってる?
そっか、『楽園』なんだ

過ぎたものには縋らないよ
私が会いたいのは幻影のネクじゃない!
迷いもなく、槍で一突き

彼は大丈夫かな
まだ何かを見せられているようなら
強く手を掴んでこちらへ引き戻す
――お願い、ヨハン
一人で背負いこまないでよ


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

懐古。どこか物悲しくなる気持ちは、
もう戻る事はないと分かっているからだろうか

眩しさに目を瞑り、開けば一面の黄
視点が変わる
こんな位置から世界が見えた時があったのか

先に見える姿は兄さんだ
今よりも背の違いを感じさせる
俺がこんなに小さいから

気持ちまで子供に戻りそうで
差し出された手に縋りたくなる
何も知らずに、ただこの手に引かれていた時は良かった
よかったよ
でももう何も知らなかった子供ではない
俺は、俺には出来ない色々な事を知ってしまったから

知らなかった頃には戻れないんだ

さようなら
顔は見ないまま、見れないまま
心臓を穿って

掴まれた手に現実に引き戻される
安心した、なんて
言えやしないけど



 これが、ユメだと。
 声を上げるには、あまりにその日差しが眩しすぎて。
「わ、まぶし……!」
「こちらです。手を……!」
 思わず二人は、はぐれないように手を繋いだ。
 夏の香りがすぐそこまで。
 強い強い夏の日差しは、何故か懐かしく二人を包んだ。


 耳を埋めるような蝉の声に、私は、オルハ・オランシュは握り締めていた左手にぎゅっと、力をこめた。
 確かな感触が、その手の中に残っていて。
 それがなんだか幸せで。とても心強くて。……嬉しくて。
 それで隣に目をやると、
 隣には、誰もいなかった。
「あれ?」
 首をかしげる。手を繋いだ感触はたしか似合って。
 けれども隣には誰もいなくて。
 私はわけのわからないままに、けれどもその手を離せないまま首をめぐらせた。
「姉ちゃん――!」
 そんな違和感をかき消すように。
 蝉の中から声がして。
 ひまわり畑の中から私は周囲に視線をめぐらせる。
「ネク!」
「こっちこっち!」
 はやく、とこちらへと手を振るのは弟のものだ。
「もー。またひとを連れ回して……」
 腰に手を当てて、不満げに。ちょっとお姉さんっぽく私は声を上げるけれども、
 その顔が笑っているのが、自分でもよくわかった。
 手を挙げようとして、ちょっとだけ(どうしてかわからないけれども)ためらって右手を上げて振る。
「ちょっと待ってて、ネク、今行くよー」
 うんー、と、明るい返事。ずっとここにいようと、笑っているその声。
 いいよ。勿論、構わないよ。
 ネクとなら、ずっとここで一緒に……。
 蝉のなく声と共に駆け寄る。左手にどういうわけか重みが掛かる。
 誰かを引きずっているみたいで、これじゃ走れないんじゃないかなあって。
 行かなくちゃと、私はその手をぱっと広げて。そして振り払って……、


 世界が、あらゆるものが眩しかった。
 ヨハン、と、呼ばれた気がして、俺は顔を上げた。
 懐古。どこか物悲しくなる気持ちは、もう戻る事はないと分かっているからだろうか。
 口をついて出た言葉に、どうして自分もそんな言葉が出たのかはわからなかった。
 難しい言葉を知っているな、なんて。
 少し驚いたような。呆れたような。声をかけられたような気がして、俺は顔を上げた。
 ……ああ。
 見上げる視点。
 ひまわり畑が自分を見下ろしていた。
 こんな位置から世界が見えた時があったのか。
 そもそもこんな明るい場所を、どうして自分は駆け回っているんだろうか。
 誰かと来た気がするけれども、それも思い出せない。
 そんな風に、明るい世界へと連れ出してくれる人を、俺はまだ知らない。
 ぎゅっと何か、手を握られるような感覚があって。驚いて顔を上げる。
 右手だ。けれども隣には誰もいない。馬鹿馬鹿しいと、俺は思った。
 この手を握り締めてくれるひと、なんて……。
 おぉぃ。と。
 何かを掴みかけた思考は、声によってするりと抜け落ちていく。
 ひまわり畑の向こう側に、見える姿は兄のものだった。
 こんなに背が高かっただろうかと。内心で首を傾げて。
 ああ。俺が小さいからだったと。自分自身に納得した。
 足早に歩く。ひまわり畑の先へと急ぐ。
 待ってくれている。手を差し出してくれている、あのひと。
 一緒にいこうと、兄は言った。
 何も知らずに、その手に引かれていればいいのだと笑った。
 ……ああ。そうだ。その通りだ。
 そうすれば幸せになれるんだと、俺は唯わかっていて。
 その、何かに繋がれたような右手を振り払って手を伸ばして……、

 繋いだ手が、離れた瞬間。
 思わず、二人は手を伸ばした。
「過去は、過去でしかない」
 それは、どちらの言葉だったか。
 今はわからないけれど。
 私は/俺は。
 手の中に残る一瞬の空虚さに、意味もなく耐えられなくなって。
「「違う!!」」
 もう一度手を伸ばして、掴んだ。
 もう一度、しっかり手を掴んだ。

「えっ……この長い髪、もしかして私、昔に戻ってる!?」
 はっ。と、我に返ったようなオルハの声。
「ああ。なんとも可愛らしい姿ですね」
「えええ。ヨハンだってかわいいよ」
 ヨハンはいつものように涼しげな台詞を吐いたけれども、その顔はどこか青かった。その顔にオルハも小さく、頷く。
「……そっか、『楽園』なんだ」
 その顔に、オルハは気づく。そうしてぐっと、槍を握り締めた。
「過ぎたものには縋らないよ。……私が会いたいのは幻影のネクじゃない!」
 幻想はすぐ傍まで迫っていた。
 弟は悲しそうにオルハを見ていたけれども、
 オルハはためらうことなく、その体を槍で貫く。
 幻想が揺らぐ。まるでそれは夏の陽炎のように。
「ヨハン、君も……」
「ああ」
 オルハの声に、ヨハンも頷いた。
 ヨハンには影が、まだ兄の姿に見えていた。
 ……唯、手を引かれていればよかった。
 それだけでよかった、あの頃。
「……でももう何も知らなかった子供じゃない。俺は、俺には出来ない色々な事を知ってしまったから」
 あの頃には戻れないんだと、ヨハンが口の中で呟くと、兄は困ったように、笑った気がした。
「……さようなら」
 その顔を、もう見ることは出来なかった。
 蠢く闇が兄の姿をしたものの心臓を貫く。
 その姿が消える瞬間まで。……そして消えても、
 ヨハンは、声を上げることが出来なかった。
 薄れ行く日差し。消えていく蝉の声。その中で、
「――お願い、ヨハン。一人で背負いこまないでよ」
 オルハはそっと、握った手に力をこめた。
 その手の暖かさに、ヨハンはそっと、息を呑む。
「……ああ」
 それだけ、絞るようにそう言うと。
 唯彼は息をついて、天を仰いだ。
 安心した、なんて。口に出しては、言えなかったけれど。
 唯、握り締めた手に力をこめた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

篝・倫太郎
夜彦(f01521)と

どうしてここに居るんだ?リカ……
独りで外に出る事なんて出来なかったろ?
近寄れば、いつも通りに小さな手を伸ばして

『ここはたのしいよ、だからずっといっしょにいよ?りんたろ』

そう、無邪気に笑って俺を招く

あぁ……お前はリカじゃねぇな?
あいつは、そんな風に笑ったことなんざ、一度もねぇし
そんな風に俺に望みを言う事も無かった
手だけ伸ばして、それで仕舞いだ
どんなに笑って欲しくても叶わなかった

だから、お前はリカじゃねぇ

巫覡載霊の舞でリカもどきを攻撃し
元の世界に戻ったら夜彦と合流

……大丈夫か?夜彦
何があったか聞くほど野暮じゃねぇけど
心配くらいはさせとけよ

補足
リカは幼馴染で悪友
そして相棒で弟分


月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と 参加

気付けば沢山の向日葵が並ぶ景色
見える空は普段より低く、向日葵が私を見下ろしている

気配に振り向けば見慣れた、愛おしい顔
ぬばたまの髪に、空を映した様な着物
私の主、小夜子様
微笑んで、差し伸べられた手を握った

ゆっくりと向日葵畑を歩く
静に、穏やかに、暑い日差しを浴びながら往く
しかし気になる事がある
何故、何も話してくれないのだろう
普段ならば……、……

話さないのではない、話せないのだ
私は貴女と言葉を交わせなかった
姿を変えた所で何を話せば良いのか分からないまま、貴女は逝ってしまった

幸福な夢を見るも同時に現実が私を起こす
此れもまた、夢
――さようなら


倫太郎殿、無事ならば良いのですが



 風が通り抜けた。
 夏の風は暑さを逃がしていくように気持ちよくて。
 俺は無性に、叫びたくなるのを我慢した。
 ……いやいくらなんでも叫ばない。叫ばないさ。
 だって急に叫んだりなんかしたら、隣で一緒にいる夜彦に………………、
「……あれ」
 延々と続く、ひまわり畑。
 夏の道をただ一人。俺は歩いていた。
 また寝ぼけていたんだろうか。んー。と、胡乱な眠気をはらうように軽く首を振る。
 俺の名前は、篝倫太郎。
 それでもって、あそこにいるのが……、
「……あれ」
 不思議だ。不思議なこともあるものだ。俺は歩く速度を速める。
「どうしてここに居るんだ? リカ……。独りで外に出る事なんて出来なかったろ?」
 何やってんだ、こいつ。
 ひまわり畑の中に立ちすくむリカに、俺は手を伸ばした。
 ちっちゃい手だなぁ。って、自分の手もなんだかちっちゃい気がするけれども、気のせいだろう。
 難しいことはあとで考えればいい。
 それよりも、今はリカのことだ。
 どうせこんな風に言っても、またクソ生意気なことしか言わないんだろうけど……、
「ここはたのしいよ、だからずっといっしょにいよ? りんたろ」
 ……なんだって。
 俺は頭か耳がどうにかしたんだろうか。
 それともあいつの頭か口があんまりの暑さにやられちまったんだろうか。
 あいつは、そんな風に笑ったことなんざ、一度もねぇし、
 そんな風に俺に望みを言う事も無かった。
 だから、たぶんおかしくなったのは……、
 一瞬、黙り込んで。

 そして倫太郎は答えを得た。
「あぁ……お前はリカじゃねぇな?」
 伸ばされた少女の手を、倫太郎は見つめて。
 ただ、見つめて。そっと息を、吐いた。
「どんなに笑って欲しくても叶わなかった。……だから、お前はリカじゃねぇ」
 無邪気に、優しそうに。
 微笑むリカを、倫太郎はただ、堪えるように見つめ続けた。
 ……そんな風に笑ってほしかった。
 そんな風に過ごしたかった。
 だったら一緒にいてと、彼女は言った。望んだ世界が、ここにあるのだと。
「……悪ぃな、ダチを、待たせてるんだ」
 だから、いけない。と。
 倫太郎の衝撃波を放つなぎなたが、少女の体を切り裂いた。


 ひまわりが私を見下ろしている。
 ふむ。ひまわりに見下ろされるのも、なかなか稀有な体験ですね。なんて考える私を、
 なんとも可愛くない子供だこと。なんて、私自身でそう評していた。
「……」
 思わず真顔になってしまう。
 いや。まあ。私がかわいい子供だなんてどうにも据わりが悪いでしょう。
 そう、何かがおかしいと思う違和感は、けれども、
「――」
 聞えた声に、一瞬で記憶の隅に沈んでいった。
「ああ……」
 振り返らずにはいられないでしょう。その姿。
 ぬばたまの髪に、空を映した様な着物。
 美しくも愛おしいその姿。
 私の主、小夜子様。
「……お待たせいたしました」
 何にかは、解らないままで。私がそんな言葉を浮べると、
 ふふ、と主は微笑んで手を差し出してくれた。
 それが本当に嬉しくて。嬉しくて。……そして、どうしてか意味の解らない痛みが少しだけ胸をよぎって。
 痛みながらも、私はその手を握り締めた。

 こちらです、と。ひまわり畑を共に歩けば。
 明るい明るい太陽の下。
 まるででえとのようですね、なんて。
 冗談めかして言えば、主は笑ってくれるでしょうか。と。
 それとも、それとも……。
 あれやこれやと会話を思い立ち。
 それでも口に出すこともないまま共に歩く。
 口に出せなかったのは、少しだけ違和感があったからかもしれないと。
 気づいたのは、しばらくしてのことだった。
 何故、何も話してくれないのだろう。普段ならば……、
 ……。
 そう、普段ならば。
 普段私たちは……。一体何を、話していたのだろうかと………………。

「……ああ」
 違う。話せないのだと気づいたとき。
 握り締めた手に、夜彦は力をこめた。
 こんな何でも叶う。幻想の中ですら。
「私は貴女と、言葉を交わせなかった。姿を変えた所で何を話せば良いのか分からないまま、貴女は逝ってしまった。そして今も、今だって……」
 果たしてなんと語りかければいいのかわからぬまま、こうしてたださ迷い歩いている。
「此れもまた、夢……か」
 気づいたのなら、醒めねばなるまい。
 それがどんなに、幸せなユメであろうとも。
「――さようなら」
 そっと、囁くように声をかける。その刹那、
 曇り無き刃が、夏空を舞った。


「倫太郎殿、無事ならば良いのですが」
「おお。……大丈夫か? 夜彦」
 幻想は破られた。
 気温までもそれで、少し下がったような気がした。
 落ち着いて周囲を見回す夜彦のすぐ傍に倫太郎はいて、軽く片手を挙げている。
「ああ……無事です。倫太郎殿も、無事のようで何より」
「そっか。それはよかった」
 双方、何も語らなかった。
 心配はしていても、あれこれ尋ねるほど互いが互いに野暮でもなかったから。
 けれども、顔を見れば。そして自分たちのことを振り返れば、何があるかはなんとなく察していて。
「今日は……まだ涼しいな」
「ええ。夏はまだ、これからですね」
「言うなよ、それ。気持ちが暑くなるだろーが」
 いいあって、笑いあえば遥か遠く。
 蝉の音だって、どこかから聞えてくる気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
傷だらけの、痩せた子供
抱えているのは一挺の銃

小さな手には余る重さのそれに縋るように
日々を生きていた

鮮やかなこの景色の先にいる人を知っている
長い黒髪の、背の高い女のひと
戦場で俺を拾い、育てて
最期には、俺を庇って死んでいった

俺の、一番大切なひとだ

あの人が笑って手を伸べていても
きっと、俺の足は一歩も動かない

抱えた銃を、目の前に立つ人へと向けた

そんな「幸せ」は、俺の歩いてきた道のずっと後ろ
もう戻れない場所にしか存在しない
……手が届くことなんて、二度とない

わかってるんだ
だから、俺は迷いなく引き金を引ける

そうしなきゃ前に進めないなら
なんだって切り捨てていけるんだ

でも、
……俺は、本当にこうなりたかったのかな



 暑くて。暑くて。……暑くて。
 耳の奥で、いっそ海の音が聞こえるようで。
 俺は自分の手に思わず視線を落として。
 痩せた手の中に、銃が握られていることに安堵した。
 ……そうだ。
 思い出した。
 俺を他人と区別する。その名前は鳴宮・匡(凪の海・f01612)だ。
 手にしているのは、「異邦人」と名付けられた銃だ。
 ……大丈夫だ。忘れていない。
 間違ってもいない。この手に必要なものは……、
「――」
 呼ばれて、俺は顔を上げた。
 ひまわり畑の向こう側に人影が見えて、俺は無意識のうちに縋るように、銃を握る手に力をこめる。
 長い黒髪の、背の高い女の人。
 ああ……知っている。
 知っているとも。
 覚えている。戦場で俺を拾ってくれたことも。
 覚えている。一緒に過ごした日々を。
 忘れるはずもない。育ててくれた感謝を。
 そして……俺を庇って死んでいった、あの日のことを。
「どうして……」
 だから、俺は問うた。この状況と、この世界は矛盾していて。
 けれどもそれに気づいたら、すべてが解けて消えてしまいそうで。掠れた声で。まるで真夏の氷を拾い集めるように慎重にたずねる。
 どうして? と、彼女は返した。まるで最初から、あの死がなかったかのように。
 こっちにおいでと、笑顔で手を差し伸べてくれている。
 それが現実であれば、どんなにかよかっただろう。
 ――全てを研ぎ澄まして「視る」こと。それが最初に教えられた、生きる為の術だった。
 だから、俺は彼女をじっと見つめた。そして答えを、得てしまった。
「……俺の、一番大切なひとだ。生きていたら、こんなに嬉しいことはない」
 それでも、これが現実ではないと。手にした銃の感触が、その重みが、悲しいぐらい伝わってきていて俺は……匡は足を止めた。

 嬉しいも、悲しいも。
 会えてよかったも、よくもあのひとの姿をとって、も。
 ごめんも、ありがとうも、
 愛しているも、さようならも。
 すべてすべて、
 匡は口に出すことが出来なくて。
 ただ、手にしていた銃を握り締めて黙り込む。
 抱えた銃を、目の前に立つ人へと向けた。
 笑顔のあのひとは、少し悲しそうな顔をして、どうして、と問うた。
 一緒にいられたら、幸せだったのに。
 全部ぜんぶ、なかったことにしてあげるのに。
 この夏の暑さの中で、幸せにいられるのに。
「……そんな「幸せ」は、俺の歩いてきた道のずっと後ろ。もう戻れない場所にしか存在しない」
 そうやって誘う彼女に、匡は目を細める。
「そういう風に、生きてきた。……手が届くことなんて、二度とない」
 狙いをつける、必要もなかった。
 構えて、迷いなく。もうすべてがわかっていると、匡は引き金を引いた。
 銃声が響く。胸を穿たれた彼女は、ずっとずっと匡へ向かって手を差し出したままだった。
「どうして……か」
 幻想が消えていく。最後までそれはあのひとの姿のままで。
「そうしなきゃ前に進めないなら、なんだって切り捨てていけるんだ」
 そうやって生きてきた。……そしてこれからも、そうやって生きていくんだと匡は呟いた。
 ……でも、
 ……俺は、本当にこうなりたかったのかな。
 消え行く彼女の前でうつむく匡に、
 それで、あなたはどこへいくのと。
 彼女が尋ねた気がした……。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
アァ……低い低い。景色がいつもと違う
掌だってこんなに小さいンだ
何歳?分からないなァ……。

記憶には無い景色が広がっている
記憶には無いのに懐かしいのは何ででしょうネェ
ヒマワリはいつもより大きい、太陽はいつもより遠い
不思議不思議。

所で、ヒマワリの向こうに見えるのはもしかしてもしかして賢い――
アァ……そうだそうだ
その姿はよーく覚えている。賢い君、相棒の拷問器具の本当の持ち主
忘れるわけ無いンだよなァ……。

あの時と同じように鬼ごっこをしようしよう。
また、同じ攻撃で全く同じように愛してるって囁きながら殺してやるサ

なァ……コイツを使ってもイイだろう?
オーブから生み出した騎士とこの小さな手で賢い彼女にさようなら



 歩く。歩く。歩く。
 アスファルトの感触が土になって。
 涼しい風が、熱気を含んで。
 道を行くひまわりは、どんどんどんどん大きくなって。
 伸ばした手が、こんなにもこんなにも……、

「アァ……低い低い」
 景色がいつもと違うなァ、と。
 いいかけて、首をかしげた。
「いつも? んー。んー。いつもってなんだろなァ」
 小さい手のひら。
 自分の年なのに、自分が今いくつだったかなんててんで覚えちゃいなかった。
「……まあ、いっかァ」
 いつものこと。いつものことだと俺は肩をすくめてみる。
 わからないのも、気づかないのも。
 しらないのも、わかりたくなんてないのも。
 きっといつものことの話。
 きっと深く、考えなくてもいい話。
「~♪」
 歌おう、歌おう。
 鼻歌歌って歩き出す。
 記憶には無い景色が広がっている。
 記憶には無いのに懐かしいのは何ででしょうネェ。
 そんなことはきっとどうでもいいことで。
 ひまわり一個、引っこ抜いて引きちぎって。
 ぶんぶん振り回しながら歩くのも、きっと予感があったからだ。
 ヒマワリはいつもより大きい、太陽はいつもより遠い。
 そんなはずなんてないのに不思議不思議。
 不思議だって思うのは、さあ、なんででしょうか。って。
 自分で自分に問いかけてみればあら不思議。
 所で、ヒマワリの向こうに見えるのはもしかしてもしかして賢い――、

「――」
 エンジは手にしていたひまわりをぶん、と振り回した。
 花びらが散って手にしていたのは、ひまわりじゃなく相棒の賢い君だと気がついた。
 ……いいやいいや、最初から知っていた。
 子供のような夢を見ながら、これが夢だってきっとエンジにはわかっていた。
「アァ……そうだそうだ。そうだった。うん」
 その姿はよーく覚えている。
 賢い君、相棒の拷問器具の本当の持ち主。
 ひまわり畑の向こう側で、優しくやさしく手を振っていた。
「忘れるわけ無いンだよなァ……」
 こっちにおいでと彼女は言った。
 こっちにいてと、彼女は言った。
「いいよいいよ。一緒にいよう」
 だからエンジも、笑顔を向けた。
「あの時と同じように鬼ごっこをしようしよう」
 君が掴まらなければずっと君の傍にいようと。
 エンジの言葉は勿論本気で。
 けれども負けるつもりなんて、まったくといっていいほどありはしなかった。
「また、同じ攻撃で全く同じように愛してるって囁きながら殺してやるサ」
 いいわよ、それじゃあ鬼ごっこね、と。
 笑う彼女に、エンジも頷く。
「なァ……コイツを使ってもイイだろう?」
 紅花と。名付けたオーブを翳して。
 まだ自分の手は小さいものだけれども。
「さようなら、さようなら」
 愛しているって、囁きながら。
 エンジは死霊騎士を召喚する。
 賢い彼女はきっと、きっと。
 あの頃と同じよに。殺されてくれるだろう……。

成功 🔵​🔵​🔴​

村井・樹
敵の空間に入り込んだ村井樹は、無垢なる少年に戻ってしまうことでしょう
『僕』、『村井樹』の眼の前に広がる向日葵畑

それを進んでいけば、きっと、大好きな両親がそこで待っている
両腕を広げて、僕を抱きとめようと。

「ここでずっと一緒にいよう」「ここには怖いものなんてなにもないから」
ああ、まるで『楽園』みたいな……

「違う、ここは楽園なんかじゃない」
「引き返しなさい」
そう僕に語りかけてくるのは誰だろう?

「そうやって、お前の両親は、無知なお前を地獄へと引きずり込んだ」
「他ならぬ『可愛い僕』を、みすみす親の幻影なんかに連れて行かせるものか」

そうやって現れるのは……『大人』の僕?

※アドリブなど大歓迎



 『僕』は、『村井樹』は。
 いつの間にか、少年の姿に戻っていた。
 『僕』は。『僕』とは。
 『僕』はいったい、誰なのだろう。と。
 頭をよぎるその疑問はしかし、首を振ると一瞬で消失した。
 『僕』は僕で、他の何者でもなくて、 
 目の前に広がるひまわり畑を、ただ期待の予感を持って歩いていくだけなのだ。
 暑い日ざしの中を歩く。
 それを進んでいけば、きっと、大好きな両親がそこで待っている。
 どうしてかわからないけれども、僕はそれを知っている。
 期待に胸が躍る。
 愛しい気持ちが強くなる。
 ほら、このひまわりをかきわけたらすぐだ。
 視界が開ける。顔を上げる。
 僕を待っていた両親は、優しい顔をしていた。
「樹」
 お父さんが僕の名を呼んで。それが嬉しくて。僕は走り出した。
「待っていたの」
 お母さんが優しく言って、両手を広げる。ためらうことなくその腕の中に飛び込むと、優しい腕が僕を抱きとめてくれた。
「ここでずっと一緒にいよう」
「ここには怖いものなんてなにもないから」
 お父さんは。お母さんは。
 そういって優しい貌をしていた。
「ずっといっしょ?」
 僕は聞いた。答えなんて解っていたけれども聞いてみた。
 勿論。予想通りに、そんな返事が聞えて僕は思わず笑顔になってお母さんの胸に顔を埋める。
 ああ。ずっと待っていたのだ。
 ああ。ずっとこれがほしかったのだ。
「それは、まるで『楽園』みたいな……」

「違う、ここは楽園なんかじゃない」
「引き返しなさい」
 遠くで声が聞える。
「そうやって、お前の両親は、無知なお前を地獄へと引きずり込んだ」
「他ならぬ『可愛い僕』を、みすみす親の幻影なんかに連れて行かせるものか」
 だれがか僕を呼んでいる。
 やめてほしい。僕はこれからずっとこうしていたいのに。
 この夏の中で、大事なお父さんと、お母さんと、ずっとずっと、永遠に暮らしていきたいのに。
「ダメだ」
「駄目です」
 どうしてそんなことを言うの。どうしてそんな意地悪を言うの。
 それなら。僕だって。……僕だって。考えが………………、

 はっ。と、振り返る。
 その目に飛び込んできたのは、大人になった自分の姿だった。
 夏のひまわり畑に、二人の自分がぽっかりと。まるで違う世界から来たかのように立ち尽くしていた。
「共に手を取り戦おう。【自分】を守る、そのためだけに」
 僕が二人いる。
 どうして。
 どうして。
 ……僕は、何……?
「どうしたの?」
 お母さんが優しくそう聞いてくれるけれど。
 ……けれど。

 そっと顔を上げる。母の腕から抜け出して、一歩後退する。
 心配そうな、両親の姿。
 ……ああ。これはまやかしだ。
 まやかしだと、気がついて、しまった。
 振り返る。振り返ると、大人の僕はもう消えてしまっていて……否。
 そこにいたのは、村井・樹という。大人の僕だった。
「……」
 胸に、手を置く。
 私は誰。俺は何。
 わかるようで、何一つわからないわが身ではあるけれども、
「ああ……戦おう」
 思いは、ここに。
 そっと、樹は銃に手を伸ばした……。

成功 🔵​🔵​🔴​

オズ・ケストナー
汗が落ちる
そのことへの違和は一瞬
ひまわりは天辺が見えない程高く

シュネー
駆け寄り頭一つ背の高い少女の手を取る
サマードレスに麦わら帽子

今日はなにして遊ぼうか

かくれんぼっ

いいよ

わたしがおにするっ

微笑む少女の手を離し
小さな手で目を覆う

わたしが見つけられないでいると
シュネーはしゃがんでひまわりを揺らす

みーっけ
シュネーの帽子が目線の高さ
白い羽を見つけて
あの、羽は

シュネーは笑う
ここでずっと遊ぼう

頷かない理由なんてない
はずなのに

オズ?
俯いたわたしに降る声
この声は誰の声?

ねえシュネー
わたしね、ひまわりを育ててるんだ
まだ背は高くないけど
シュネーより大きくなったよ

ごめんね
いっしょにあそんでくれてありがとう

斧を振って



 あせがおちて。
 なんだかふしぎだなあっておもったけれども、
 それがなんでふしぎなのか、わたしはよく、わからなかったんだ。
「んー。……んー」
 どうしてかな。
 あんまりわたしはわたしのことを、ふしぎだなっておもったことはないけれど。
「ねえ、どうしてだとおもう?」
 って。きいて、ふりかえったら。
 おっきなおっきなひまわりが。ぱぁっとこっちにかおをむけてわたしのことをみおろしてたの。
「わあ……」
 すごいすごい。かおをあげてもてっぺんがみえない。
 きがつけばまわりはひまわりばたけで。
 ひまわりいがいに、なにがあるのかわからない。
 このひまわりにのぼったら、もしかしたらみえるかな?
「でも、そんなことしたらひまわりがおれちゃうから」
 ねえ。って、もういちどくびをかたむけると、
 ひまわりばたけがちいさくゆれた。
「シュネー」
 ひまわりのかげからこっちをみてわらったのは、
 サマードレスにむぎわらぼうし。
 わたしのわたしの、たいせつなひと。
 かけよって、そのてをにぎりしめる。
 ちいさなて。わたしのわたしの………………ちいさな……て。
 あれ、って、くびをかしげそうになったけど。
 今日はなにして遊ぼうか。って、シュネーがわたしにむかってわらいかけるから、
「かくれんぼっ」
 わたしは、すぐにそうおへんじした。
 わたしね、あそぶの、かんがえるの、とくいだから。
 いいよってわらうシュネーに、
「わたしがおにするっ」
 そういっててをはなすと、そのままめのうえにてをおいて、まっくらに。
 かずをかぞえて。
 かおをあげて。
 シュネーのいるところだったら、きっとどこでもみつけられるよ。
 …………ううん。でも、
 ちょっとヒントをもらってもいいかなあって。
 おもったしゅんかん、ひまわりがゆれた。
「あ、みーっけ」
 シュネーがしゃがんでくれているから。
 わたしはゆれるひまわりにかけよって。
 そのまま、しゃがんだまま、シュネーはほほえんで。
 わたしは、そのぼうしの。

 帽子に飾られた、白い羽を………………、
 あの、羽は。あんな羽。なかったはずで……、
 ううん、そうじゃなくて…………。
 オズ? と。
 俯いたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の頭の上に、優しい声が振ってくる。
 ここでずっと遊ぼうと、
 ここにずっといようと、
 ひまわりの中で、彼女は言う。
 彼女は。
 この声は。
 誰の声だろう。
 こんな声を、聞いたことがあるだろうか。
 この声を、本当に自分は知っているのか。
「シュネー……」
 ここはどこ。
 君は、誰。
 微笑む少女と、無数のひまわり。
 蝉の声に、暑い夏の香り。
「……ねえシュネー。わたしね、ひまわりを育ててるんだ」
 そう、すてきね、と。
 やっぱり、覚えのない声で彼女が応える。
「まだ背は高くないけど、シュネーより大きくなったよ」
 きっともっと、大きくなるよとオズが言うと。
 ここのひまわりじゃ、だめなの、と。悲しそうに彼女が尋ねた。
「……うん。ここのひまわりは、違うの。ここのひまわりじゃ、ないの。……でもね。でも。でもね」
 でも。
 オズは自分の斧をぎゅっと握り締める。
 握り締める斧は身の丈ほどある斧で。
 自分の姿も既にいつもと同じ馴染んだ大きさになっていて。
「ごめんね。いっしょにあそんでくれてありがとう」
 楽しかった。……本当に楽しかったのだと。
 届いたかどうかはわからないけれども、伝えてオズは斧を振りおろした。

成功 🔵​🔵​🔴​

アヤネ・ラグランジェ
【ソヨゴ(f00669)と一緒】
ひまわりの黄色が視界いっぱいに広がる
「お父さんお父さん!」
何もかも振り払って駆けだすわたし
懐かしい笑顔
逞しい両腕を広げて出迎えてくれる
わたしね
お父さんのお嫁さんになるの
今度こそ間違わないで
わたしを選んでちょうだい
わたしをそっちに連れて行って
もうこっちの世界にいたくないの

でも自分を呼ぶ声は確かに聴こえた

ソヨゴ?

お父さんごめんなさい
僕は
こっちの世界に存在する理由を見つけた気がするんだ

昔、父が母に贈った花束にひまわりの黄色が鮮やかだった
二人ともそちらの世界で安らかに
アーメン

引き金を引く

バッグを買いに行く約束だネ
そのあとはアフタヌーンティーでもいかがかな?


城島・冬青
・アヤネさん(f00432)と
アヤネちゃんと手を繋ぎ歩く
お花があまり咲いてないね
ちょっと早かったかな

アヤネちゃんが私の手を振りほどいて走り出す
待ってよアヤネちゃん!
すると突然、目の前に知らないお姉さんが現れる(成長した今の姿のアヤネ)
お姉さん誰?
…でもどこかで見た気がする
お姉さんは嬉しそうにずっとここで一緒に遊ぼうと言ってくる
お姉さんと遊びたくなるけど
遊んではいけない気がする
どうして?

そうだ
一緒に買い物をするって約束したんだ
目の前の彼女じゃない本当の彼女と
偽アヤネさんに衝撃波を放ち
私よりも深くひまわり畑に囚われている筈の彼女へ届くよう叫ぶ

アヤネさん起きて!
買い物するって約束したじゃないですか!



 世界が、黄色くて。空が。青くて。
 綺麗で、綺麗で。
 繋いだ手のぬくもりが気持ちよくて。
 そして……、

「ねえ、アヤネちゃん。アヤネちゃん」
 そう。アヤネちゃん。アヤネちゃん。
 そう呼びかけて手を振っても、アヤネちゃんは全然応えてくれなくて。
「お花があまり咲いてないね、アヤネちゃん。ちょっと早かったかな?」
 ごくごく当然のように呼びかけて。私はひまわりの中を歩いていく。
「ねえねえ、アヤネちゃん。おつかいのおかいものね、……ねえ」
 きいてる? って。
 声が聞きたかったから、私がちょっともったいぶってそう尋ねた……その、瞬間、
「!」
 ばっ。と、振られて。つないでいた手の感触が遠くへ飛んでいった。
 隣の誰かが、走り出す。
「待ってよアヤネちゃん!」
 どこへ。……一体どこへいこうというのだろう。
 そして、私は…………、
「……っ」
 追いかけて、探して。そのときに。
 私は、誰かとぶつかって。
「……お姉さん誰?」
 知っているはずの人なのに、
 それが誰だか、なんだか思い出せなくて。
 どこかで見たきがするお姉さんは、笑顔で一緒に遊ぼうと声をかけてくる。
「でも……おつかいのとちゅうだから」
 だいじょうぶだよ、と、彼女は笑う。
 ずっといっしょに遊んでいれば、お使いなんて行かなくていいと声をかける。
「なにしてあそぶの? かくれんぼ? おにごっこ?」
 それでもいいよと、彼女は頷く。
「でも……」
 遊びたい。けれど。
 その。笑顔が……、
「アヤネさんは……そんな顔で笑わないですよね。そんな、本当にただ優しい、本当のお姉さんみたいな、顔で」
 我ながら結構ひどい感想だとは思ったけれども。
 そう言った時。冬青はぱっちりと目を開けた。
「そうだ。それに一緒に買い物をするって約束したんだ」
 声をあげる。それで完全に、醒めた。
 見覚えがあると思っていた幻は、アヤネの姿をしていて。冬青は問答無用で、衝撃波を放つ。
「アヤネさん!!」
 声を上げる。ひまわり畑が消えていく中、
 冬青は本当の、アヤネの姿を探した。


 世界が黄色くて。
 それだけでふわふわ幸せだった。
 わたしはわたし。
 わたしはアヤネ。
 わたしはちゃんと知っていた。
 ひまわり畑を歩きながら、ちゃんとちゃーんとわかっていた。
 誰かと手を繋いでいたようなきがするけれども、
 それは今は、全然思い出せなくて。
 それでもちゃんと、解っているのだ。
 だって、この先にいるのは……、
「お父さんお父さん!」
 何もかも振りきって、わたしは走り出す。
 遠くに影を見つけた瞬間から、わたしには解ってた。
 懐かしい笑顔も。
 たくましい両腕も。
 腕を広げたお父さんへ、わたしは飛び込んだ。
 抱きとめられると、その温かさに笑みがこぼれる。
「お父さん、お父さん」
 ねえ、聞いて。今ならわたし、なんだって言えちゃう。
「わたしね、お父さんのお嫁さんになるの」
 お父さんの腕の中。私は一生懸命言葉を紡ぐ。
 今言わなければ、お父さんがどこか遠くへいってしまうような気がして。
「今度こそ間違わないで、わたしを選んでちょうだい。わたしをそっちに連れて行って。ね?」
 いいでしょう? と、問いかける。
 もうこっちの世界にいたくないのと。訴えかける。
 いいよ、と、お父さんは頷く。
「……いいの? 本当に?」
 勿論。と、優しい声が聞えてきて。
 わたしは心から、笑みを浮べた。
 けれども何故か、どういうわけか。
 わたしを呼ぶ声が、確かに遠くから聞えてきていて。
 それがあんまりに。……あんまりに、力強くて。
「……ソヨゴ?」
 ああ。その声の主を知っている。
 その声を、きっと覚えている。
 わたしは……、
「……お父さんごめんなさい」
 覚えているのは、大切だからだ。
 きっと今は、何よりも。この甘い、ユメの世界よりも……。
「僕は、こっちの世界に存在する理由を見つけた気がするんだ」
 視界に移るのは、鮮やかな黄色。
 昔、父が母に贈ったひまわりと、まったく同じ色をしていた。
 だから、
「二人とも、そちらの世界で安らかに。……アーメン」
 祈りながら、アヤネは引き金を引いた。
 残念なことに最初っから、勝ち目なんてきっとなかったんだ。

「……さん、アヤネさん、アヤネさん!!」
 冬青は名を呼んだ。それこそ、何度も、何度も、何度も。
「アヤネさん起きて! 買い物するって約束したじゃないですか! 奢ってくれるって言ったじゃないですか!」
「バッグを買いに行く約束だネ。そのあとはアフタヌーンティーでもいかがかな? あと、奢ってあげるとは一言も言ってなかったと思うヨ」
 いっそアヤネの頬をはたこうかとする寸前で、アヤネが返答をしたので。
「あああ。よかったぁ……」
 冬青はその場にへなへなとへたり込んだ。
「待って。今何か物騒なこと考えてなかった?」
「えええ。考えてませんよぉ。どうやったらアヤネさんが起きるかなって、考えてただけです」
 むん、と、鞘のままの花髑髏を冬青は握り締める。……どうやら、ギリギリ間に合ったようであった。
「……本当に、よかったよネ」
「……はい」
 視線を泳がせるアヤネに、冬青は本当に嬉しそうに笑うから。
「……お茶ぐらいは、奢ってもいいよ」
「本当ですか!? やった!」
 そう言って。もう一度アヤネは手を差し出して。
 冬青も嬉しそうにその手を握った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

彼岸・椿祈
翼無く目も茶色
まだ普通の姉妹として同じ世界が見えとった頃

向日葵畑の中で迷子になってしもうた
何も見えへんし心細い
泣きながらひーちゃんの姿を探す
泣き歩いていたらひーちゃんが見つけてくれた

ずっと一緒だよ
優しく手をひいて涙を拭いてくれる“ひーちゃん”
せやから、気付いた
君は本物のひーちゃんやない
やって、ひーちゃんにそうやって優しくされる権利は今のうちにはない

いつも泣いて甘えて周囲を困らせたうちはほんま手の掛かる子どもやった
頼りにされるのはしっかり者のおねえちゃん
能力に目覚めて初めて超えられたような気がして
…ひーちゃんの気持ち、もっと考えればよかった

ごめんな、ありがとう
お陰でちょっとだけ見えた気がするんよ



「……あ、れ」
 うち、なんでこんなところにおるんやろ。
「ええ。まって。まってね?」
 なんだか背中に違和感がある。けれど違和感の正体がわからない。
 うち、なんか変なところにぶつけたんかなぁ。
 なんや。急に不安になってくるなあ。
 なんでやろうなあ。って。
 首をかしげて隣を見て。
 何もない。ただの空白を見つけたそのとき、
「……。ああ。そうや、そうやった。せやけど」
 なんでかなあって、
 もう一回、首をかしげた。
 こんなに不安になるのも。
 何だか足りないような気がするのも。
 きっとひーちゃんがいないからで。
 向日葵畑の中で迷子になってしもうたから。
 だからこんなに、心細いんやなあって。
 それは、そのことはわかるんやけれど。
 ……どうして、ひーちゃんはここにおらんのやろ。
 なんでやろう。なんかうちが、悪いことしたんかな。
 ひーちゃんは、どこへいってもたんやろう。
 いっぱいなんでをくりかえしたら、
 なんでかすごい、悲しくなってきて。
 心細くてしょうがなくて。
 涙が止まらなくて。ひまわり畑の中を、
 ひーちゃんを呼びながら、ずっと、ずぅっと、ずーっと、あるいて。
「つーちゃん」
 こえが、きこえて。
「ひーちゃん」
 ひまわり畑が、揺れて。
「だいじょうぶ?」
 うちを見つけてくれた、ひーちゃんは、
 優しい顔で駆け寄って、その手を引いてくれた。
「ひーちゃん。あんな。あのな……」
「うん。大丈夫。もう、ずっと一緒だよ」
 こぼれる涙を、優しくぬぐってくれるひーちゃん。
 あったかくて。嬉しくて。嬉しくて。
 大好きで、本当に。……だから、
「……せやね。君は本物のひーちゃんやない」
 だから、わかってしまった。……気がついて、しまった。
「やって、ひーちゃんにそうやって優しくされる権利は今のうちにはない」
 だって、変わってしまった。
 いつも泣いて甘えて、周囲を困らせて。
 それが、椿祈の日常だったのは、もう遠い昔の話で。
 しっかりした、頼りになるおねえちゃんを、
 能力に目覚めて、初めて超えられたような気がして…………。
 思うが侭に能力を振るい続けた。それがきっと、大事なおねえちゃんを傷つけた。
 そうしていつの間にか、二人の間柄も変わってしまって。
 直そうにも、直したくても。どうしたらいいのか、解らないままで。
 もう、こんなに、時間が経ってしまった。
「……ひーちゃんの気持ち、もっと考えればよかった」
 子供の姿のままで、椿祈は一度、頭を下げる。
「ごめんな、ありがとう。お陰でちょっとだけ見えた気がするんよ」
 元に戻りたいと、思っていた。
 けれどもどうすればいいのか、解らなくて苦しかった。
 だから……。
 最後には、倒さなければいけない敵だけれども。
 姉の姿をする彼女に、椿祈は深々と礼をした。
 きっとまだ、やり直せると。
 やり直したいと……、
 その気持ちを、思い出させてくれたから……。

成功 🔵​🔵​🔴​

彼岸・陽葵
翼無く目も茶色
まだ普通の姉妹として同じ世界が見えてた頃

向日葵畑で迷子になった妹を探して彷徨い歩く
目を離せば直ぐ何処かに行ってしまうつーちゃん
彼方に居ると思うのは双子の勘かな?
其方に行って見るとやっぱり、泣き喚く妹の姿があった

もう大丈夫だよ
いつものように
ずっとここにいて
そんな言葉に心が痛む

本当は夢だと気付いてた
夢だからこんな素直に声を掛けられたんだ

しっかり者の姉と手の掛かる駄目な妹
それがいつものあたし達の大人の評価
でも能力に覚醒した時にその評価が逆転した
今なら解る
椿祈は何も悪くない、ただの逆恨みだったって
でも謝るタイミングを見失ったまま
ここまで来てしまった

ごめんね、ありがとう
お陰で決心がついたよ



 遠くでつーちゃんの泣く声が聞える。
 いかなくちゃ。……いかなくちゃ。
 あたしが、つーちゃんを、助けてあげなくちゃ。
 ……なんて綺麗な、そして都合のいい世界。なんて。
 あたしも、ずいぶん可愛げのない子供だったんだなあって考えて、首をひねった。
 違和感があって、肩越しに振りかえる。
 それで残念ながら、ユメはさめてしまった。
 あたしは。

 陽葵は。子供の姿になっている自分の姿を正しく自覚した。
 あれほど忌々しく思った翼はこの身になく、
 見えないけれども、鏡を覗けばきっとその目も茶色をしていることだろう。
 なるほど、幻想かと。陽葵は一人、小さく呟く。
 これはまだまだ陽葵の世界が明るかった頃。
 妹とも、まだ普通の姉妹として同じ世界が見えてた頃の話なんだろう。
 泣き声が聞こえる。
 今までの情報を照らし合わせて、陽葵はそれが何であるか、既に気がついていた。
 泣き声のするほうに足をむける。
 自覚はしていても、子供の姿。背の高いひまわり畑の中では、同じ背丈の妹を見つけるのは少しは難しいはずだった。
「つーちゃん」
 けれども、陽葵ならわかる。
 目を離せば直ぐ何処かに行ってしまう妹が、
 いつもどういうわけか、どこにいるのか陽葵にはちゃんとわかっていたのだ。
「こういうの、双子の勘っていうのかな?」
 泣き声が近くなる。ひまわりの花をかき分けると果たして。
 ひどく泣き続ける妹の姿が、そこにはあった。
「もう大丈夫だよ、つーちゃん」
 手を伸ばす。優しくその髪の触れる。
「泣かないで。あたしがいるから」
 大丈夫、大丈夫と。
 言い聞かせるように頭をなでると、妹は泣き腫らした目で本当に? と、たずねた。
「本当だよ」
 じゃあ、
 ずっとここにいて、と。
 泣きながら妹は訴える。縋るように陽葵にしがみついた。
「……」
 ユメだとは、気づいていた。
 これが、本人ではないと理解していた。
 ……これは、何も出来ない。ただ無力な妹で。
 陽葵は、何でも出来るしっかり者の姉で。
 だからこそ、陽葵は声をかけられたのだ。
 彼女が、無力な。非力な。自分を頼り続ける。存在だからこそ……、
「……ぁー……」
 思わず、天を仰いで額に手をあてる。
 己の情けなさに、ほんの少しだけ嫌気がさした気がした。
 ここから数年もすれば、二人の立場は逆転する。
 能力に恵まれた妹は、周囲の期待を一身に受ける立場になり、
 自分はどんどん、卑屈になってしまっていた。
「……逆恨みだろ。そんなの」
 妹は、ただ。
 自分にもできることがあると、素直に喜んでいただけなのに。
 自分は、自分だけはそれを受け入れることが出来なくて。
 いつの間にか……こんなところまで一緒に来て。
 だというのに、ここには一緒に行けなかった。
「今、なにしてるんだろ、つーちゃん」
 無事でいるだろうか。一体どんな幻を見ているだろうか。
 なんとなく想像がつくけれども、彼女の口から、ほんの少しだけそれを聞きたくなった。
「タイミングかな、……タイミングだな」
 だから、ここでおしまいだと陽葵は言った。
 謝るタイミングを見失ったまま、ここまで来てしまった姉妹だから。
「ごめんね、ありがとう、お陰で決心がついたよ」
 陽葵は幻の妹に向かって、そう、そっと微笑みかけた。
 あとは、本物に向かって全てを伝えるのだと……。

成功 🔵​🔵​🔴​

イア・エエングラ
ぱちり瞬き背を追い越す向日葵見上げて
青いお空に浮かぶまあるい黄色いお花は
天辺に浮かんだお日様のようにも見えて
取っておくれ、ときみを振り返る
同じ見目に同じ背だから届く筈もないけれど
どんな我侭、聞いてくれるのを知っているから
――だのに肩越しに姿も見えなくて
僕らずうっと一緒にいる筈だのに

夏空に透く光の波紋を追いかけながら
いつも一番に呼んでくれる声の方まで
柔い記憶に違わぬ声は、けれど青い空の下
僕らの知らぬ空の色

そうなあ、きみと一緒にゆけるのならば
きっとずうっと楽しかろうな
だから手を引き、向日葵の迷路へ誘いましょうな
影も一つになるくらい傍に寄せたらお別れしよう
そしたら水の匂いで全部、わからなくなるかしら



「ねえ、取っておくれ」
 そう、声をかけてきみを振り返れば、
 きみはいつだって、どんなわがままだって、聞いてくれるのを知っていたのに。
「……?」
 だのに、ひとり。
 肩越しに振りかえっても、一人。
 蝉の声が遠くに聞える。
 さわさわとひまわりが揺れている。
 まっきいろな世界に、ひとり。
 ……ひとりきり。
 埋もれるように、小さい僕は一人の僕で。
 ぱちりと、瞬きをひとつ。
 それから視線を前へと向ける。
 背を追い越すひまわりは。
 なんともまあ。綺麗なまあるい黄色よな。
 とっておくれと。もう一度。
 呪文のように口の端乗せて振りかえる。
 やっぱりそこにはだあれもいなくて。
 同じ見目に同じ背だから届く筈もないけれど、
 聞いてくれると、知っているのに。
 ――僕らずうっと一緒にいる筈だのに。
「……」
 ひとり。ひとり。僕は、ひとり。
 どうしましょう。どうしてしまいましょう。
 少し途方にくれたそんな心地は、声がしてそこまでに。
 その声その声。きっと僕は知っているのな。

 夏空に透く光の波紋を追いかけながら、
 声の聞える方向へ。
 頭の上を雲が流れていく。
 風が吹いてさわさわと、ひまわり畑の光がこぼれる。
 花の影を覗き込む。
 雲の向こう側にその姿を探す。
 こんな場所にいるはずもないな。
 そんなことはわかってて。わかっているはずなのにな。
 いつも一番に呼んでくれる声の方まで。
 この声を僕は知っているよ。
 この見知らぬ空見知らぬ場所で、
 きみの声だけはしっているよ。
 僕らの知らぬ空の色。
 そこで佇むきみは、きみは……、

「ああ、そこに、いたの。いたのね」
 微笑んで。
 ずっとずっといっしょにいようときみは言う。
 だからイアも少し、微笑んで見せた。
 こっちにおいでと、ずっと一緒にいてと話してくれるその幻は、
「そうなあ、きみと一緒にゆけるのならば、きっとずうっと楽しかろうな」
 思うだけで、幸せになれそうなユメだった。
 手を伸ばす。きみがその手を取る。
 手を引くと、きみはその後ろへついてくる。
「……けれどもここは、この先は……」
 きっとどこへも、繋がってはいないだろう。
 だからその手を引いていこう。
 ひまわりの迷路の向こう側に。
 遠くて近い、花の影に。
 影も一つになるくらい傍に寄せたなら、
 お別れしよう。さよならを言おう。きっときみは最後の瞬間まで、微笑んでいるだろう。
「……そしたら水の匂いで全部、わからなくなるかしら」
 きっと。……ああきっと。
 呟く声に蝉の声が混じる。
 それが正しい、ことなのだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

香散見・千夜之介
*育ったのは都会の喧騒の中
*殺し屋の男に育てられた

子供の頃から遊び回った繁華街の、父の事務所や関係店があったはずの部分がどこもかしこもひまわり畑になっている。
その先で背の高い若い男が待っている。
遠くからしか見たことのない父よりも、
写真でした見たことのない母よりも親らしい、
けれど親ではない、けして親と呼んではいけない人。
ただいまだとか言いながら頭を大雑把に撫でられるが、
甘えて良いのかわからず上手く反応できない。

ふと自分の左腕に触れると、その腕が冷たい金属の腕でないことに気付く。
「──ああ。そんなら、これは夢やなぁ。」
本来の左腕は、彼と一緒に喪っている。
だから、この腕で刺し穿たねば先へは進めない。



 おかしいな。と。少しだけ、思った。
 だって、俺が、香散見千夜之介の住んでいる場所は、
 こんな場所じゃあ、なかったはずだ。
 どこもかしこもひまわり畑。
 薄汚い路地裏も、ぎらぎらした明かりも。
 凡そこの爽やかな夏の匂いにふさわしくない、父の事務所や関係店も。
 みんな、みんな、ひまわり畑。
 あれも、これも、夏の綺麗な黄色が隠して。
 それがどうにも、奇妙におかしくて………………。
 ……あれ。
 それが何か、問題やったやろか。
 何の問題も、なかったんじゃないやろか。
 そう。何の、何の問題も。
 そんなことより、そんなことだ。
 今、ひまわりの向こう側に、
 あのひとの姿が、見えた気がして。
 そうだ。きっと。そうに違いない。
 その姿が見えた瞬間、思わず足が地を蹴っていた。
 どうしてこんなに足が遅いんだろう。
 どうしてこんなにひまわりが大きいんだろう。
 そんなことは関係なかった。
 ひまわり畑の向こう側、
 あれはきっと、俺を待ってくれているんやろう。
 遠くからしか見たことのない父よりも、写真でした見たことのない母よりも親らしい。
 背の高い男性の。
「――、――」
 ああ、そういえば、なんと呼んでいたのだっけ。
 親と呼びたいけれども、親ではない。
 そんな風に親しげになんて、声をかけられるわけがない。
 勢いよく駆け込んで。目の前で息を弾ませて。
 見上げて、口を開いて。
 ……そこから先、なんて言えばええんやろう。
 あえぐ。
 息を漏らして、ただただ顔を上げてその人を見る。
 胸が詰まる。それからようやく押し出すように、
「ただいま」
 なにかいうまえに。
 その人は俺の頭を大雑把にぐしゃぐしゃとなでた。
「!」
 髪の毛がかき混ぜられる。
 こんなにも、こんなにも急いで駆けつけて。
 息を切らして、嬉しくてたまらなくて。
 ……なのに、なんていったらいいのか解らなくて。
 なでられるがまま、されるがままで。
 ただ…………、
 自分の左腕に……右手を…………、

「──ああ。そんなら、これは夢やなぁ」
 柔らかな感触に、千夜之介は息を詰めた。
 その、左腕は、血の通ったような温度をしていた。
 柔らかい。温かい。……ありえない。
 どうしたのかと、あのひとが問うた。
 それはそれは、優しい声だった。
「いや……なに。夢を見てるみたいなんよ」
 自嘲気味に呟く。本来の左腕は、彼と一緒に喪っている。
 この柔らかい左腕が、幻想の感触が、彼を現実へと引き戻した。
 それでもいいじゃないかと、あのひとが言った。そのままずっと、ここにいればいいと。
「……でも、それは」
 それだと。未来へいくことが出来ないから。
 だから、この腕で刺し穿たねば先へは進めない。
 千夜之介は左腕を掲げる。
 腕の中に内蔵された兵器があのひとを貫く、その瞬間を。
 千夜之介はしっかりと目をそらさずに、見つめ続けていた……。

成功 🔵​🔵​🔴​

イトゥカ・レスカン
一面の鮮やかな向日葵の群れ、群れ、群れ
相反するような空の青さと、白く抜けた雲
知らない、覚えていない、けれど懐かしいとそう思えるのは何故でしょう

小さな歩幅。大した距離ではない筈なのに道が長い
遠く遠くに佇む背中は、誰?
性別も年頃も、その貌はぼやけて定まらなくて
見えているのに、まるで見えない
近付いても、どれだけ近付いても
傍に、行き着いてすら
どうして?

ああ、そうですね
私は覚えていないのですから
幼い頃のことなんて、何も覚えてないのですから
あなたの顔が分からないのも当然のことですね

でも、作り物はいりません
思い出せずとも、なかった事にはしたくないのです
これを認めるわけには、いかないのです
お往きなさい、青の花



 目が醒めて、覚えていたのはそれだけ。
 イトゥカ。だからそれが、私の名前。

 一面の鮮やかな向日葵の群れ、群れ、群れ……。
 私はそれをなぞるように、記憶のかけらを追いかけます。
 相反するような空の青さと、白く抜けた雲。
 知らない、覚えていない、けれど懐かしいと、そう思えるのは何故でしょう。
 あるいはもしかしたら、もしかしたら。
 もしかしたら、――――で、――――――が、――――――――――かもしれなくて……、
 ふと。
 ひまわり瞬く白昼夢。
 まるで夏の日差しが落とす影。
 まるで遠くて近い、蜃気楼。
 歩く。歩く。歩く。
 どうして歩いているのでしょう。
 小さな歩幅。大した距離ではない筈なのに道が長くて。
 どこへ向かっているのでしょう。
 誰がいるというのでしょう。
 砂を踏む音。夏の匂い。
 懐かしい。懐かしいと思うこの気持ちは、一体どこからくるのでしょう。
 この気持ちは、この思いは。
 誰から。
 誰へ。
 どこから。
 どこへ。
 ……ああ、何ひとつ……、
 顔を上げて。
 そうしたらそこに人を見ました。
 遠く遠くに佇む背中は、誰?
 けれどもほんの少し。ほんの少しだけ嬉しいです。
 こんな私の中にも、
 こんな私の片隅にも。
 たゆたう誰かがいてくれるのが嬉しくて。
 私は足を速めました。
 誰でしょう。どんな人でしょう。
 性別も年頃もわからない。
 ぼやけたその貌へと近づいて。
 近づけばきっと、
 きっと…………、
「……どう、して?」
 思わず漏れた、掠れた声。
 近づいても近づいても。
 傍に、行き着いてすら。
 たゆたう影。顔のない蜃気楼。
 心に住む、待ってくれている誰かの顔は、
 だれでもない。
 なにもない。
 ただ色のない、のっぺらぼうで。

「……ああ、そうですね」
 自然と口をついて出た声は、どこか諦めが混じっていて。
「私は覚えていないのですから、幼い頃のことなんて、何も覚えてないのですから」
 そう。私はイトゥカ・レスカン(ブルーモーメント・f13024)。
 覚えていたのは一つきり。
 目が醒めて、覚えていたのはそれだけ。
 ただ、大切な何かがあった気配だけがそこにあって――、
 けれどもそれが何かは、解らずじまい。
「……あなたの顔が分からないのも当然のことですね」
 いるはずなのに。
 どこかにいるはずなのに。
 思い出せない、顔のないあなた。
 夏の残り香をまとって漂うその姿は、
 かすかに、揺らいだ気がした。
「そうですね。決めてしまえばどんなにか楽でしょう」
 こういうものだったと、像を結んで決め付けてしまえば、
 きっとこの蜃気楼も、誰かになれるのだろうか。
「でも、作り物はいりません。思い出せずとも、なかった事にはしたくないのです」
 大切なものなのだと、イトゥカは訴える。ユメがゆらゆらと揺れる。
「これを認めるわけには、いかないのです。……お往きなさい、青の花」
 咲いて、開いて。手を開くと青琥珀で作られたブルーエルフィンが世界に満ちる。
 ひまわりの黄色を押し流すように。
 たゆたう影を包み込むように。
 どこで覚えたのかも解らぬ魔法で、イトゥカは幻想を否定する。
「私は、本物を探します。……いつか、きっと」
 かならずと。青琥珀が世界を満たすなかで。
 イトゥカはただ静かに、夏の空を仰いだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

火狸・さつま
ここの向日葵さん、背が…高いなぁ…なんて
ぼんやり考えつつ歩く内に
自分の背が低くなっている事に気付く
この、背丈は…


今の姿からは考えれぬ程
低い背丈に、くりくりのおめめ
少女と見紛うばかりの其の姿は
可愛らしい小柄な青年に成長すると思われた頃の姿
そう、この時は、あの人と一緒だった
そうだ、この先で、待ってる…あの人……
記憶までも巻き戻ったかのように
いつの間にか駆け出して
愛するあの人の元へ
この姿であれば…きっと、また…

……ま、た…?

ああ…そうだ
長期お留守番の間に急成長して
あの人は……本当の理由を隠す為、其れを口実に…
そして…もう、この世に、居ない…

眠ってたのに、ゴメン、ね
安らかに、おやすみ…なさい
【安息を】



 てく。てく。てく。と。
 そう、口にでもしそうな今日この頃で。
 あつくて。鼻の頭をこする。
 蝉の声が、なんだか変に大きくて。
 ここの向日葵さん、背が……高いなぁ……なんて。
 ぼんやりと、考えながら、
 てく、てく、てく、と。
 ぺた。ぺた。ぺた。と。
 ひまわりがおおきくて。
 一歩一歩が小さくて。
 目を落とすと、その手があまりに小さくて。
「……」
 ああ。それで。
 よせばいいのに、さつまは夢から覚めてしまった。
 今の姿からは考えれぬ程、
 低い背丈に、くりくりのおめめ。
 少女と見紛うばかりの其の姿は、
 可愛らしい小柄な青年に成長すると思われた頃の姿。

 たぶん、無意識のうちに打算があった。
 だから、早くに夢から覚めてしまった。
 この姿なら。この姿であったほうが。
 ……、に、…………、で。
 ――ふいに。
 夏の暑さに、目がくらんだような気がした。
「……いか、なくちゃ」
 この姿になったのなら。この姿だったのなら。
 一緒にいた人が居たはずだ。
 そう。この姿のときに一緒だった、あのひと。
 ずっと待ってくれている、あのひと。
 そうだ、この先で、待ってる……あの人……。
 光に目がくらむ。
 一瞬、
 無理やりにでもさつまは己の記憶を封じた。
 走り出す。小さい足で駆け出していく。
 いかなくちゃ。
 愛するあの人の元へ。
 いっていいんだ。
 この、姿なら。
 ずっとずっと、それはさつまが、望んでいた世界のはずだ。
「この姿であれば……きっと、また……」
 ひまわり畑の向こう側に、
 見えたその姿。
 また。また。一緒に、ずっと……、
「……ま、た……?」
 手を、振っている、あのひと。
 思わず、足を止めて、それを凝視する。
「ああ……そうだ」
 あのひとは、こっちにおいでと、手を振っている。
 駆け足は、次第に緩やかに速度を落としていく。
 そうすれば、小さい小さい体では、たどりつくことだって、なんだか遠い。
「……そう、だ。長期お留守番の間に急成長して……」
 緩やかに、緩やかに。てく、てく、てく、と。
 歩くたびに、ひまわりの世界は崩れていく。
 歩くたびに、自分の本当の姿を思い知る。
「あの人は……本当の理由を隠す為、其れを口実に……。そして……もう、この世に、居ない……」
 今はもう、過去の自分とは比べ物にならない姿をしていて。
 けれどもそれが、さつまの姿で……。
「眠ってたのに、ゴメン、ね」
 さつまがあのひとの前にたどり着いたとき。
 もう、その姿は元の姿に戻っていた。
 そのままでもいいよと、ユメは笑った。
 ずっと一緒にいようと、ユメは誘った。
「……安らかに、おやすみ……なさい」
 熱さも苦痛も生じない優しき浄化の炎が、さつまのユメを包み込む。
 ひまわり畑が燃えて、燃えて、消えていく。
 うだるような夏の暑さだけがなんだか優しさを伴って。
 その姿が消えるまで、さつまを包み込んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

静海・終
いつの間に私は、私、僕は、向日葵に囲まれていた
擦り剝けた膝を見る
僕はさっきまでここに居たっけ
何時ものように電車に乗って連れてきてもらったのだろうか
あの人は、どこに居るんだろう

向日葵に違和感を感じる
こんなに大きな花だったっけ見上げながら歩いていると何かに躓く
にぃーっと鳴き声をあげたそれは、ちいさな生き物
それを拾いあげると両手で抱えて歩く
これは僕の落とし物で僕の物だ
それだけははっきり分かった

向日葵の向こうあの人が見えた
待っていたあの人が僕を抱きしめてくれる
何も喋らないけれどここにずっと居られるような気がした
けれど
小さな生き物を、槍に変える
僕は、ここには、残らない
貴方はもう、いないから
僕は楽園を穿つ



 膝が、痛くて。
 いつの間に私は、私、僕は、
 転んでしまったのだろうかと。痛む膝を抱えながら顔を上げた。
 ひまわりがいっせいにこちらを向いて、僕を見下ろしている。
 すりむいた膝を気遣うように、さわさわと揺れていた。
「あれ……」
 僕はさっきまでここにいたっけ。
 どうして、こんなところで転んでいるんだっけ。
 不思議だ。首をかしげる。
 そういえば御伽噺で、願いをかなえてくれるかわりにひとをさらう妖精の話を聞いた気がする。
 だとしたらここは妖精の国だろうか。
 願いをかなえてもらったつもりは、ないけれど。
 痛む膝に力を入れて立ち上がる。
 妖精につれてこられたのでなければ、僕はどこから来たのだろう。
 何時ものように電車に乗って連れてきてもらったのだろうか。
 それでは、一人ではないはずだ。
 一緒にいるべきはずの人が、どこかにはいるはずだ。
 あの人は、どこに居るんだろう?
「……探さないと」
 探さないと。
 きっと待ってくれているはずだから。
 どこにいるんだろう。
 ひまわり畑の向こう側?
 ……ひまわりって、こんな大きいものだったっけ。
 かきわけなければ、先を見ることが出来なくて。
 少しだけ、なんだかおかしい気がするけれども、
 それでも、あの人が待ってくれているはずだから。
 僕は、まだ少し痛む足に力をこめて歩き出した。
 早く。早く行かないと。早く見つけないと……、
「……っ」
 勢い込んだら、また何かに躓いた。
 地面に転がって。二度目の膝をすりむいた。
 何かがにーっと声を上げている。
 どうやら生き物のようだった。
「……」
 なぜ、それを抱き上げたのかは僕にもわからない。
 それが何なのか、どういうわけか自分には、なんだかよく解らなかった。
 ただ、生き物ということは解ったので。
 そして、これは僕の落とし物で僕の物だと。
 それだけははっきり分かったので。
 僕はそれを両手に抱えて歩き出した。

 ひまわりが揺れている。
 滲むような暑さに両手で抱いた何かが重くて。
 その重みが、僕にとって心地よいものなのか。
 それとも、投げ出してしまいたいものなのか。
 理解できぬまま、それを抱えて僕は進む。
 大丈夫、あと少し。あと少しで。
 きっと出会える。ひまわりの向こう側。
 あのひとが優しく手を振って……、

「……ああ」
 歩を早めた。あのひとがこちらを振りかえる。手を広げると、ためらいなくその胸に飛び込んだ。
 抱きしめてくれる腕。
 喋らなくてもいい。暖かで優しいその温度。
 このまま時間が止まって。ずっとここにいたくて。
 ずっとここにいて。ずっと傍にいてと、あのひともまたそういった気がして。
 ……けれど、
 腕の中の重みが。
 泣き虫の何かが。
「僕は、ここには、残らない。……貴方はもう、いないから」
 これは果たして悲劇なのだろうかと、終は思う。
 この楽園は、確かに楽園で。
 この楽園を、求める人は必ずどこかにいるだろう。
 これは、殺すべき悲劇だろうか?
 それとも……、
「僕は楽園を穿つ」
 それでも。
 腕の重みは、いつしか慣れたものに変わっていた。確かな力がそこにはあって、
 蒼槍の一条が、あのひとの胸へと吸い込まれていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三咲・織愛
青い空
ひまわり畑
こんな場所は知らない
それなのに――

胸を締め付けるような懐かしさに襲われる
道の先にあなたが見えたから

エルナ、……おねえちゃん!

伸ばした手が、ちいさな子供の手のようで、
早く駆けたいのに、子供の足ではなかなか進めない

会いたかったの。すごく。会いたかった
ずっとここにいたいよ
おねえちゃんと、いっしょにいたいの……

抱き着いた手を緩めたくなくて
優しい声を、ずっと聴いていたくて

……でも、出来ないの
おねえちゃんみたいに悪いやつに命を奪われてしまう子が
これ以上生まれないようにと誓ったから

私の手では殺せない。だから
ノクティス。ごめんね……ありがとう

夜星の槍に貫かれた時、笑って見えた

大丈夫。私は進める



 青い空。
 ひまわり畑。
 雲が遠く遠くに流れていって。
 こんな場所は知らない。それなのに――、
 違う違う。此処は懐かしいあの場所。
 私は。三咲・織愛は天へと手を翳す。
 私はこの場所を知っている。
 懐かしくも輝かしい。此処はきっと、私の居場所。
 だって、ほら……。
「エルナ、……おねえちゃん!」
 ひまわり畑の向こう側に、
 微笑むあのひとを見つけたから。
 一瞬、胸に締め付けられるような感触があって。
 その正体が何かも確かめぬまま、私は走る。
 伸ばした手が、不思議なくらい小さくて。
 駆ける足が、もどかしいぐらいに遅くて。
 どうして。どうしてと心の中で。
 どうしてそんなことを考えるのかもわからないままで。私はただ、がむしゃらにその道を走った。
 汗が落ちる。髪が乱れる。そんなことは、どうでもよくて。
「お姉ちゃん……!」
 お姉ちゃんまで、あと数歩というところで私は強く地を蹴った。
「会いたかったの。すごく。会いたかった」
 お姉ちゃんは優しく私を抱きしめてくれて。

 口をついて自然と出た言葉で、私は織愛の現状を知った。
 どうして、ずっと会いたかったのか。その理由に、思い当たってしまったから。
 ああこれは……。ああこれはきっと、ユメなんだ。
「それでもいい。それでもいいよ。ユメだっていい。幻想だって構わない。ずっとここにいたいよ……」
 胸に縋るように、目を閉じると。
 彼女も優しく、織愛の小さな体を抱きこんだ。
「おねえちゃんと、いっしょにいたいの……」
 一緒にいようと、彼女は言った。
「ずっとずっと、ずーっと一緒で」
 大丈夫、何も心配することはないと彼女は笑った。
「本当に?」
 そう。ずっとここにいてもいいよと彼女は優しくやさしく、微笑んで。
「ありがとう。嬉しい……」
 ずっと、ずっといっしょにと。織愛が言いかけた、そのとき。
「……」
 乾いた音が、した。
 何かが、落ちた。
 ふと、視線を下に。
 地面に転がるのは、星夜を彩る槍だった。
「……うん」
 小さく。織愛は頷く。槍は夜を翔ける藍色竜のノクティスへと変わっていく。
「一緒にいたい。ずっとここにいたい。……でも、出来ないの」
 寂しくて、悲しかった。
 ずっといっしょにいたかった。でも、
「おねえちゃんみたいに悪いやつに命を奪われてしまう子が、これ以上生まれないようにと誓ったから……」
 織愛の言葉を、静かに彼女は聞いていた。そしてノクティスも、静かに織愛を見つめていた。
「お姉ちゃんは、私のことを、ひどい子だって、言うかな」
 戯れに、尋ねたら。
 彼女が悲しそうに、首を横に振るので。
 きっと、それは思い出の中にある織愛の姉の姿を模倣しているだけかもしれないけれども、
 それだけでも、少しだけ気が楽になった気がした。
「……私の手では殺せない。だから、ノクティス」
 名を呼ぶと、それに応えるようにノクティスは走る。
「ごめんね……ありがとう」
 一瞬の出来事であった。彼女は抵抗はしなかった。
 ……夜星の槍に貫かれた時、笑って見えた。
「大丈夫。私は進める」
 確認するような言葉と共に、
 織愛が手を掲げると、その手の中に槍が飛び込んでくる。
「……うん。何も、怖くない」
 誓いは、果たすから。
 その、思いと共に。
 織愛はまた、歩き出した……。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『エンジョイ・タイム』

POW   :    ラーメン、カツ丼、がっつりご飯でごっつぁんです! 娯楽も全力、勝負も楽しもうぜ!

SPD   :    ファッション、雑貨、お土産選びは忙しい! 娯楽はほどほど、テクニックで魅せるぜ

WIZ   :    書籍、パーツにソフトウェア。ちょっとマニアなお店にゴー。 娯楽はのんびり、エンジョイプレイ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ひまわりが揺れる。
 誰かの影がゆらいでいく。
 公園の中に渦巻いていた異世界は、
 そうして不意に、消失した。
 戦っていた猟兵も、とらわれていた一般人も、その場にふいと投げ出される。
 ……それは、確かなユメの終わり。
 それは、確かな幸福の終わりだった。
 ……どうして、と。
 ここにいてよ、と。
 少女は最後に、揺らいだ気がした。
 ねえ、幸せだったでしょう。と。
 ねえ、楽しかったでしょう。と。
 わたしの気持ちを、どうか受け取ってください。
 わたしの祈りを、どうか受け取ってください。
 この、夏の果てで。
 永遠に、あなたに幸せをあげるから……………………。



 そんな、思いのかけらも。
 風が吹いて、いつの間にか消失した。
 それは……少しまだ春の匂いを引きずった。
 あの記憶ほど、暑くはない風だった。


 それで、おしまい。
 はじめから、そんな幻などなかったかのように。
 寂れた公園には、ただのありきたりな現実と。
 あの夏に比べれば、あまりにも騒がしい喧騒が町を包んでいた……。

 さあ、時間はまだたっぷりある。
 町へくりだそう。
 ひまわり畑はないけれど……、
 きっと、現実だってそんなに悪くはないはずだから。



プレイングは、6月9日(日)8:30~6月19日(水)23:00までの受付になります
プレイングは、6月9日(日)8:30~6月12日(水)23:00までの受付になります!
先述していた19日は間違いであり、訂正させていただきます。申し訳ございません。
彼岸・椿祈
どうしよう、上手く言葉が見つからへん
前を歩くひーちゃんはやっぱり無言
でもなんやろな…なんで真っ直ぐ家帰らへんのやろ

白熊ぬいぐるみが向日葵持ってるんやね
可愛い…
…なんや、えらい真剣に悩んではる
そないに欲しいんかな?
邪魔するとまた怒られるやろから少し離れとこ

暫くして戻ってくるとひーちゃんはおらへん
諦めたんかな?

好きでもぬいぐるみ買うような子やないし
そうや!ここはうちがひーちゃんの為に買おう!
オレンジリボンの子を選ぶんよ
わ、意外と高かった
暫くお小遣い節約生活やね…

これ!
差し出したら、ひーちゃんも同じでびっくり
貰ったくまさんにはごめんのメッセージカード

うちの方こそごめんな
この子大切にするな
ありがとう


彼岸・陽葵
謝ろう
そう決意をしたけれど中々踏ん切りがつかない
だから繁華街を意味もなく歩いた

…どう切り出したものかな
悩みながら立ち寄った雑貨屋
目に入ったのは、小さな造花のひまわりの花束を抱えた白熊のぬいぐるみ
そういや、つー、こういうの好きだったな
悩んでピンクリボンの奴を購入
…まぁちょっと高かったけど仕方ない

これ
直接伝えることは難しくて
ギフトカードにごめんって書いた

つーは抱きしめて喜んで
素直に喜ばれると物凄く照れるんだけど
…でも、嬉しかった
口には出せないけど、素直にそう思えた
きっと、つーの前で久しぶりに笑えたと思う

元通りまでは未だ多分ずっと時間が掛かる
けど、ずっと踏み出せなかった一歩を漸く踏み出せたと思うんだ



 椿祈と陽葵は歩いていた。
 一緒に、とつかないところが、二人らしかった。
 前をいく陽葵は無言で、一度も振り向くことなく早い足取りで歩いていけば、
 椿祈は何か言いたそうに顔を上げて、けれども結局何も言えずにうつむいてその後ろをついていく。
 椿祈が陽葵の服の袖を掴もうと手を伸ばしかけて、やめて。
 陽葵は椿祈がちゃんとついてきているか肩越しにうかがえば、彼女が顔を上げる前にさっと視線をそらすのであった。
 仲のよさそうな友達が。あるいは姉妹が。楽しそうに笑いながら町を歩いている。
 それをなんともいえない気持ちで、二人はそれぞれ目で追って、
 そして目で追っていることを悟られぬよう、そっと視線をまた外すのであった。
(……どう切り出したものかな。謝ろうって決めたけど、踏ん切りがつかないな……)
(どうしよう、上手く言葉が見つからへん……)
 思いは、別々で。
 お互いがお互いの考えていることを知らぬまま、二人は宛てもなく町をさまよって……、
 って、
(でもなんやろな……なんで真っ直ぐ家帰らへんのやろ)
 いつの間にか雑貨や扉をくぐったとき、初めて椿祈は疑問に思った。
(あれ? 今まで、なんも考えんとついてきたけど……)
 そもそもなぜ自分はこんなところにいるのか。
 入ってみるまで気づかなかった椿祈であったが、そのことを陽葵に問いただすべきかほんの少し、悩んで、
(あのこを見てる……? なんや、えらい真剣に悩んではる。そないに欲しいんかな?)
 陽葵の視線の先には、白熊のぬいぐるみがあることに気がついた。
 ひまわりを持っているぬいぐるみ。陽葵のあまりに真剣な表情に、椿祈は一歩、下がる。
(可愛い……。けど、邪魔するとまた怒られるやろから少し離れとこ)
 そ、と邪魔にならないように、声をかけずに後退する椿祈。
 そんな椿祈に気づかずに、陽葵は真剣に、そのぬいぐるみを見つめていた。
(ひまわり……か)
 ぬいぐるみを見つめる陽葵の目は真剣そのものであった。
 どちらかというとかわいいものを見る目いうよりは本当に、真剣、というのしっくり来る顔である。
(お値段……は、可愛くない)
 でも仕方ないかもしれない。背に腹はかえられないというか。何というか。
 『そういや、つー、こういうの好きだったな』なんて。
 考えながら、目が合ってしまったのが運のつきなのだろうな、なんて。
 陽葵は自分で自分のことをそう考えて、
(ええい……)
 一念発起。
 ピンクリボンで飾られた、白熊のぬいぐるみを手に取った。
 ちょっと気合入れすぎてがしっと掴みすぎた。
 そしてそのままレジに直行して、
 カードはご入用ですか、と聞かれて一瞬硬直する。
「…………いる。いります」
 直接伝えることは難しいだろうと、陽葵は判断して。ギフトカードを前にペンを握った。

 椿祈はぷらぷらと雑貨屋を見て過ごす。
 アクセサリーに、スマホケースに。
 色々あるけれども、どれもなんだかぴんと来なくて。
「ひーちゃんの見てたあの子、可愛かったなあ……」
 やっぱりあの子がいいかもしれない。なんて口に出したところで、ふと顔を上げる。
(……あれ?)
 いつの間にか、ぬいぐるみを見ていたはずの陽葵は消えていた。
(諦めたんかな? 好きでもぬいぐるみ買うような子やないし……)
 椿祈は内心そう結論付ける。ぬいぐるみを買っている陽葵、という図はあんまり想像ができなくて、
(そうや! ここはうちがひーちゃんの為に買おう!)
 だったら。と椿祈はそっと白熊のぬいぐるみを手に取った。
 つぶらな瞳がとても可愛くて、それだけで目元が緩みそうになる。
「あ、リボン色々あるねんな。ええと……」
 一目見て、オレンジリボンの子に目がひきつけられて、
「ん、この子にしよ」
 その子を手にとって、レジへと急いだ。なお、
「わ、意外と高いんや。暫くお小遣い節約生活やね……」
 ちょっぴりレジにてびっくりしたのは、また別の話、である。
 同じようにギフトカードいりますか、と問われると、椿祈は少し考え込んで、大丈夫。と、笑った。


 店を出た椿祈を陽葵が待っていた。
「ひーちゃん」
 それがなんだか意外で、椿祈はひとつ、瞬きをする。
「けど、丁度よかったんよ」
「そ。あたしも、丁度よかったよ」
 若干緊張気味に、何にか陽葵はそんなことを言って、入り口から二人少しはなれる。……と、
「「これ!」」
 椿祈と陽葵は二人同時に、ぬいぐるみを差し出した。
 それはまったく同じぬいぐるみ。
 リボンの色だけは違う、かわいいかわいい白熊の……、
「ひーちゃん」
 椿祈は驚いて瞬きをしてそれを受け取る。差し出されたピンクのリボンの白熊には、メッセージカードがついていた。そこには「ごめん」とだけ。不器用な文字が躍っている。
 陽葵はオレンジのリボンのぬいぐるみを受け取った。驚いたように、意味を咀嚼するかのように繰り返す瞬き。
「えーっと……つまり。つまりこれは……」
「うん!」
 言いよどむ陽葵。その言葉をみなまで聞かずに、椿祈は満面の笑みでぬいぐるみを抱きしめた。
「うちの方こそごめんな。この子大切にするな。ありがとうっ」
「……っ!」
 本当に、本当に嬉しそうな顔に、陽葵は思わず言葉に詰まる。
「……」
 なんだか猛烈に照れて、陽葵はそっぽを向いた。うれしい。そういってくれてすごくうれしい。ほっとして、自分もぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。……けれども、言葉には出さなくて。
 かわりに、自分の頬が緩んでいることに、陽葵は気がついた。
 そんな風に喜んでもらえるということが、すごくすごく、嬉しくて。
 本当に久しぶりに、陽葵は椿祈の前で笑った、気がした。
「……帰ろうか」
「うんっ」
 あの頃みたいに手はつなげない。
 きっとこれですぐ元通り、というわけにはいかないだろう。
 けれど……。
(けど、ずっと踏み出せなかった一歩を漸く踏み出せたと思うんだ)
 陽葵はそんな気持ちを胸に、椿祈と共に歩き出す。
 ショーウィンドウに映る二人は、先ほどすれ違った仲のよさそうな姉妹たちの雰囲気と、少し、似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

映画観よう、映画!
ヨハンは初めてでしょ?
ふふんっ
私が指南してあげるよ

明るく振る舞いながらも、彼をしっかり見る
さっきよりは顔色いいけど……無茶、してないよね

人気作だというアクション映画のチケット2枚
そして烏龍茶2杯とキャラメルポップコーンも購入
これで鑑賞の準備はばっちり!さ、行こ!

並んで座り、ポップコーンは真ん中に
怪盗ってこんなに派手に動き回るんだな、なんて
変なところに関心しちゃう
爆発シーンの爆音には少し驚いて
ヨハンは大丈夫かな、ちらりと隣を見遣る

……今更だけど、近いな
そこからはもう内容が頭に入ってこない

観賞後
ドキドキしちゃったね……!と感想を零す
嘘じゃないから、いいよね


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

映画、ですか。
確かに初めてですけど……、
なんだか妙に張り切ってますね。

気を遣っているだろうことはあからさまで分かりやす過ぎる
やれやれと溜息ひとつ
わざわざ大丈夫と言うのも何か違う気がするので
いつも通りの顔で付き合うことにしよう

見る間に用意されるチケット、他
素早いな……。
まぁ、ついて行きます

暗がりに浮かぶスクリーン
流れる映像
内容よりも技術的な面に目が行ってしまう
これは面白いんだろうか……内容は正直さっぱりだ

隣に視線を遣ればスクリーンに見入る顔
……まぁ、いいか きっと楽しいのだろう

良い時間でしたね。

嘘ではないから、いいだろう



「映画観よう、映画! ヨハンは初めてでしょ?」
 ふふん、と腰に手を当てて言うオルハに、ヨハンはゆっくり、瞬きをひとつ。
「映画、ですか。確かに初めてですけど……」
「でしょでしょ? 私が指南してあげるよっ」
「……」
 指南とは。
「そもそも映画に、そういうものが必要なのですか?」
 あわてず、騒がず、喋らない。ぐらいではなかろうかと、ちょっと胡乱げに問うヨハンに、
「もっちろん! だって映画は、映画なんだからね!」
 なんだかよく解らない理論で返答するオルハ。
「……なんだか妙に張り切ってますね」
「張り切るよー。なんたってヨハンと……じゃなかった。この映画すっごく見たかったんだ!」
 いつも以上にテンション高そうなオルハ。
 これでも結構な付き合いだから、ヨハンはその言葉が建前だと言うことは見抜いていた。
「……」
「な、なに!?」
 じっとヨハンはオルハを見る。
 時々、ヨハンを覗き込むオルハの顔が真剣になる。 
 明るい顔をしながらも、無理をしていないか確かめているのだ。
 その隠し切れない気遣いが、ヨハンにはまる解りで、
 わかりやすい彼女に、やれやれ。とどこか大げさにヨハンはため息をついた。
「そういう理由でしたか。わかりやすい」
「! わ、私は解りやすいくらいがいいんだよ!?」
 じ、とヨハンに見つめられて、思わず視線をそらすと、
 行こう。とオルハはその手を取った。

 人気アトラクションの映画、チケット二枚。
 勿論烏龍茶2杯とキャラメルポップコーンも忘れない。
「これで鑑賞の準備はばっちり! さ、行こ!」
「素早いな……」
「あはは。素早さは戦闘でも日常生活でも大事だよ!」
「まあ、そんなあなただからこそ俺も安心して戦えるんですけれどね」
 言いながらも、ヨハンはものめずらしげに。オルハはちょっと照れながらもどんどんどんどん先へと進む。
「あ、この映画も面白そう。今度来ようー」
「はいはい」
 ポスターを通り過ぎ、席について並んで座ると、ポップコーンは真ん中に。
 おしゃべりもそこそこに。映画が始まった。

 ダダダダダ、と、銃を撃つ音、建物が爆発する音。
 ほえ~。と思わず真剣に見入るオルハはしかし、
(怪盗ってこんなに派手に動き回るんだなぁ)
 若干変なところに感心していた。
 ヨハンはというと、
(この映像技術は……。なるほど確かに最近の映画はすごい。……内容は正直さっぱりだけれど)
 これは面白いんだろうかなんて内心首をひねっていた。
 バーン。と怪盗なのに派手に起きる爆発。悪の組織との正面対決。
 ポップコーンに手を伸ばしかけ、オルハは一瞬となりをうかがう。手がぶつからないか気を遣ったのもあるけれど、
(そういえばこういう爆発、ヨハンは大丈夫かな)
 それがちょっと心配だったのだ。ヨハンは映画の最新技術に感心することしきりだったのだけれど、それは見た目からは解らない。
(……今更だけど、近いな)
 ただ、真剣なその顔と、思いのほか距離が近かった。
 戦闘中は忙しいから、決して見ることの出来ないかおだ。
(……あれ、映画、どうなってるんだっけ)
 一瞬、見惚けて、
 あれ、と思って画面を戻したときには、もう対決シーンは終わっていた。
(………………どうしよう。全然頭に入ってこない)
 しまった。とは後の祭りである。
 ちらちらとヨハンの顔を見ながらも、オルハはそれを悟られぬよう、難しい顔でスクリーンのほうを向くのであった。
 一方のヨハンといえば、まったくやっぱりこっちも映画の内容は頭に入っていなくて。
 ふと視線を隣にすれば、スクリーンをなにやら真剣に見ているオルハの顔がある。
(正直、何が面白いのか解らないな……)
 彼女が、映像技術に興味があるとは思えないし。
 シナリオは、もう流石に追いかけられないほど進んでしまっている。
(……まぁ、いいか きっと楽しいのだろう)
 けれどもその真剣な顔を見るのは、ヨハンにとっても楽しいものだった。
 あんまり見るのも悪いだろうから、と。時々視線を向けるのだけれど、
 それにしてもあんまりに真剣なので、少し、ヨハンは笑ってしまう。
(そんなに面白いなら、次回作が出たら誘ってみようか)
 きっと喜んでくれるに違いない。
 自分は内容がまったく頭に入っていないので、次回までにおさらいだなあ。なんて考えたけれども、たぶんきっと、しないだろう。
 それでも充分、楽しいのだから。

 そして映画が終われば、二人して。
「ドキドキしちゃったね……!」
「ええ。良い時間でしたね」
 なんて、語り合ったりしたのだが。
(嘘ではないから、いいだろう)
(嘘じゃないから、いいよね)
 二人して相手が映画の具体的内容にまったく触れなかったことに、二人ともまったく気づかずに。
 また行こうか、なんて楽しそうに笑いあうのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
お疲れ様
花降さんにコンビニで買ったアイスをあげる
それが罪滅ぼしのような気がした

一人で電車に乗り千葉の実家の方へ行く
子供の頃雑木林だったあの場所は
整備され自然公園になって
中途半端な暑さの中
そそっかしい蝉が独りで鳴いていた

堀さんの件は当時結構な騒ぎになったけど
今は面影も見当たらない
それでも帰りを待ってる人はいるんだろうな

近所のお爺さんに餌を貰う鳩を
野生の鴉が後ろからじっと見てる
鴉は必要以上に人に近づかない
人間が怖い生き物だと知っているから
けど僕が指笛を吹けば…

こんにちは
きみも僕と友達になる?

あ、そうだアイス…
買ってきた二本のアイスは
当然溶けきっていて

…いいか、また凍らせれば
人間への道は今日も厳しい



「お疲れ様」
 そういって章がかなたにコンビニのアイスを手渡したとき。
「あら、ありがとう」
 かなたはそれを受け取ってから。
「……どうして?」
「うーん……。罪滅ぼしかな?」
「ふうん? 律儀なのね、あなた」
「それはどうかな」
 よく解らない説明を、理解したのかしなかったのか。かなたはそれを受け取ってぱっと袋を開けた。
「出かけるの?」
「うん、そうだよ」
「……気をつけてね」
「うん、どうして?」
「うーん……。ちょっとした、私の気分、かしら?」
 それは、何の話だったんだろう。
 ジワリと滲むような暑さは、もうすぐ訪れる夏を予感していて、
 章は彼女に見送られて、電車に飛び乗った。

 思いのほか家は遠くて、
 章は電車の窓にひじついて、その手にあごを乗せて窓の景色を眺める。
 流れてくる景色は、どこか見たことのあるような景色で、
 そのくせ、章の見たこともない景色だった。
 その景色が、流れて、流れて。
 次第に見覚えのある姿に変わっていく様を、章はずっと眺めていた。

 一人、ホームに降り立って。
 顔を上げれば懐かしい匂いがした。
 足は自然と行きたい場所を覚えていたけれど、
 たどり着いた場所は、子供の頃雑木林だったあの場所は、
 今は整備され自然公園になっていた。
 中途半端な暑さの中、そそっかしい蝉が独りで鳴いていて、
 まるでそれが違和感の象徴であるかのように。
 まるで公園は、最初から公園であって、
 雑木林だと主張する章の方が、異分子なんだと伝えるみたいに。
 作られた木々に、明るい広場。
 ベンチに滑り台。先ほどの戦場とは比べ物にならないその景色。
「……堀さんの件は当時結構な騒ぎになったけど……」
 今は、もう。
 そんな面影すらも見つかりはしなかった。
「……」
 それでも、待っている人は、きっといるのだろうけれど……。

 ブランコにでも乗っていこうかと章が一歩踏み出したとき、
 ふと、ベンチに座るおじいさんの姿を見つけた。
 おじいさんは鳩に餌をやっていて、
 それを、野生の鴉が後ろからずっと見つめていた。
 鴉は必要以上に人に近づかない。
 人間が怖い生き物だと知っているから。
 けど……。
 けれどもし、章が……、
 はっ。と。
 無意識のうちに指笛を吹こうとしたときに、手の中で何か、重みを持ったものが揺れた。
 電車に乗る前に買った、アイスクリームが入った袋。
 当然のごとくアイスクリームはとけきっていた。
「……いいか、また凍らせれば」
 そういうものじゃない、と突っ込む人は誰もいない。
 きっと章が指笛を鳴らしても、止める人は誰もいない。
 人間への道は今日も厳しい。けれども自分で踏みとどまれた分だけよかったのかもしれないと。
 だからかわりに、章は鴉のほうへと目を向ける。
「こんにちは。きみも僕と友達になる?」
 どこか人間に宛てるよりも明るく章はそういうと、
 鴉が返事をするかのように一声、鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベイメリア・ミハイロフ
【SPD】
かなたさまはご一緒していただけますでしょうか…?
一人は寂しいですので、ご一緒していただけたら嬉しゅうございます
どなたか他の方との絡みでも大丈夫です


ああ、一体何をいたしましょう
店先でふと、お花の入った瓶飾りが目に入り
まあ、ハーバリウムというのですね
お土産に良いやもしれません
しかしながら、置物ですか…
どのような形のものにいたしましょう

うんうん考えておりましたら、傍らに
ハーバリウムのボールペンなるものを見つけ
あら、こちらでしたら、実用も可能でございますね
オイルに浮かぶお花も涼しげでございます

さて、問題は、お色でございます
一体何色のものにいたしましょう
またしても、うんうん考え込んでしまいます



 ベイメリアは、悩んでいた。
「ああ……。そうですわよね。どうしましょう。いったいどうすれば……」
 ふるふると困ったように視線は町を行ったり来たり。
 アイスクリーム片手に通りかかったかなたが、思わず不思議そうに声をかけた。
「あら。ベイメリアさん……どうしたの?」
「ああ、かなたさま……!」
 思わず両手を胸の前に組んで、おろおろした様子で声を上げるベイメリアに、かなたはひとつ瞬きをする。とりあえずアイスクリームを片づけてから、
「どうしたの? 迷子になったのかしら。行きたい所があるなら、私が案内するけれど」
「はい、まさにその行きたい所、の話なのです。その……恥ずかしながら、こういった場所は不慣れでして。かなたさまはご一緒していただけますでしょうか……?」
 まだ何をするかも決まってはいないのですが、と、ベイメリアは言うと、私? とかなたは首をかしげて、
「私でいいなら、喜んでエスコートさせていただくわ。こういうところは初めて?」
「ええっと、初めてかどうかは……。けれども何せ不慣れなもので……。ああ、一体何をいたしましょう」
「そうね。とりあえずは買い物からかしら!」
 行きましょう、とかなたがベイメリアの手を引いて。
「は、はい……っ」
 ベイメリアも一緒に歩き出した。

 あれを見て、これを見て。結局何も買わなかったり。見つけたお菓子を半分こしたり、しながら。
 二人がふと、通りがかった店のにはいって。あれやこれやと商品を見ていたら瓶が輝いた気がして、ベイメリアは足を止めた。
「あら、あちらは……」
「ん。どれ?」
 帽子を眺めていたかなたが首をかしげると、ベイメリアはこれです、と、コーナーのひとつにある瓶を手に取った。
 透明な瓶に、透明な液体が満たされていて、その中に花が入っている。
 いろんな花が瓶にいっぱい詰められていて並ぶ様は、なんとも可愛らしかった。
「まあ、ハーバリウムというのですね。お土産に良いやもしれません」
「そうね。並べておいて置くと、いい感じかもしれない」
 ひとつをもって、光に透かせてみたベイメリアに、なんとなく同じようにかなたもしたからそれを覗き込んだりしながら頷く。
「お土産って、誰にあげるの? もしかして……」
「えっ。ええっ。なんだか変なことを考えていらっしゃいませんか? かなた様」
「いーえ。なんにもいってないけど? 逆に、変なことって、どんなこと?」
「………………。しかしながら、置物ですか……。どのような形のものにいたしましょう」
 咳払いをしてベイメリアが話を変えると、とても楽しげにかなたは笑っていた。
 もう、と、ベイメリアは少し困ったように微笑みながらもコーナーに視線をめぐらせる。
 大きな瓶もあれば、小さな瓶もあるし、もっと小さい、シャーレーに入ったモノもある。
 おき場所を考えながらもベイメリアがそれを悩んでいると、ふと目に入ったのは……、
「あら、こちらでしたら、実用も可能でございますね」
 ボールペンを見つけた。ボールペンだが、半分ぐらいハーバリウムが入るように透明に作られている。
「あら、かわいいし、これだとどこへでももっていけるわね」
 かなたもそれを手にとって、早速たくさんある買い物のひとつの中に入れることにしたようで、
「はい。オイルに浮かぶお花も涼しげでございます。さて、問題は、お色でございますが……」
「あら。色は色々あるのね。ちょっと待ったら、好きなお花を入れてくれるみたい。私もひとつ買おうかな……」
「うーん。一体何色のものにいたしましょう……」
「やっぱり私はヒロインだから、ピンクよね。少し水色も入れたいわ。となると……」
「うーん。赤。いえ。赤は派手すぎますし。でも白は、透明には……うーん……」
「済みません、これとこれで、お願いします。あとこれとこれとこれも、一緒にお会計で……」
「これから夏ですし、少し涼しげなお色の方が……」
「……ベイメリアさん、ベイメリアさん?」
 はっ。とベイメリアが顔を上げると、
 既に買い物を済ませたかなたが、ベイメリアの顔を覗き込んでいた。
「すみません、わたくしったら」
「いいわよ。悩む姿も可愛かったから。私としてはいい勉強になったわ。可愛く悩むのも時には必要ね」
「はあ……ええと?」
「いいのよ、こっちの話。……色で悩んでるの?」
「あ……。はい、そう。そうなのです」
「赤にしたら? あなた赤が似合うんだし」
「そう……ですね。でも少し派手すぎるかも、と」
「ああ。なるほど? じゃあこの緑はどうかしら。あなたの瞳の色よ」
「まあ……!」
 かなたが手に取ったのは、緑色がメインのボールペン。明るめの綺麗な色であった。
「ここに、少し赤を足すのもいいし……」
「いいえ。いいえ。では、少しピンク色を入れましょう。今日のかなた様のお色です」
 今日の思い出だから、と、ベイメリアが微笑むと、かなたは瞬きをひとつ。
「……」
「な、ど、どうしてそんな怖い顔をなさるのですか」
「……いいえ。私よりもかわいい女の子がいるから、ちょっと観察してただけ」
 じいいーっと見つめるかなたに、ベイメリアは瞬きをする。
「……その、かなたさんのお話は、少し難しいですね?」
「いいのよ。気にしないで。……じゃあ、決まったなら行きましょう?」
 次はどこへ行こうかしら。なんてかなたが問いながら手を差し出すので、
 ベイメリアはその手をとって引かれながらも、またうーん、と悩むことになるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と 食事へ

エンパイアでの食事は和食ですね
他の世界の料理は何度か食べた事はありますがどれも興味深いです
倫太郎殿が案内して頂きます

此処は随分煌びやかな店ですね
中華……あじあんとも呼ばれるものの一つ、興味深いです
周りに気を取られてはいけませんね、席に座らなくては

倫太郎殿から麻婆豆腐のお裾分けを頂きました
山椒の香りが混ざった良い香りがします
味は……美味しいですが少し辛いですね
わさびと異なり、南蛮と同じ舌に来る辛さです
……大人しくお水を頂きましょう

私からも倫太郎殿にあんかけ焼きそばを
具沢山でとても美味しいです

国が違うだけで料理も大きく異なる
買い物がてら他にも見てみたいです


篝・倫太郎
夜彦(f01521)と飯!

普段、和食なんだろ?
折角だし、和食以外の飯喰おうぜ

つー訳で、一本路地入ると日本なのに日本じゃねぇ……
そんな通りにある店へ行こう

店に入ったら、色々頼む
赤に金の内装は、如何にも中華!って感じの派手さに
好奇心を刺激されてるっぽい夜彦がなんか、ちょっと微笑ましい
普段落ち着いてるから余計にそう思うんだろうけども
ちょっとばかし新鮮でこーゆーんも悪くねぇや

初中華の夜彦に俺の頼んだもんも
ちょっとだけお裾分け

麻婆豆腐の辛さに黙り込む夜彦に
悪いと思うけど、笑っちまう

悪ぃ……ほら、水

水を差し出し、夜彦からのお裾分けも遠慮なく!

初中華の感想に笑いながら
帰りに食材とかも見てくか?
色々あるぜ?



「夜彦、飯だ!」
「なるほど、食事ですか……」
 倫太郎が勢い込んで言うと、夜彦も真面目に頷いた。
 町へ繰り出せば、いろんな食べ物や山河目に入る。なんだって食べられるだろうけれど……、
「普段、和食なんだろ? 折角だし、和食以外の飯喰おうぜ」
「はい。エンパイアでの食事は和食ですね。他の世界の料理は何度か食べた事はありますが……どれも興味深いです」
「そーだな。食はその世界の文化を知るって言うしな。なにするかなー」
 流石にパスタもピザも違うだろう。メロンパンは好きだけれども今のところは除外しよう。
 せっかくだからちょっと独特で、なかなか面白そうなもの……、
「あー……。うん、こっちだこっち」
 かむかむ。って促しながら路地を一本はいっていく。
 明るくきらびやかな道が、一歩踏み込めば別の顔に変わるのはよくあることだ。飲み屋が連なり、若干暗めの毒々しい色彩を放つ店が並ぶ。
「ほう……。これは、すごいですね」
 その変わりように、思わず夜彦が声を上げると、倫太郎はにやりと笑った。
「だろう? こういうのも醍醐味だよな……。と、うん、ここがいい。ここにしよう」
 うん、と、倫太郎が目をとめたのは、一軒の中華料理屋だった。
「此処は随分煌びやかな店ですね。中華……あじあんとも呼ばれるものの一つ、興味深いです」
 店の外装はものすごく古びた感じがあるが、真っ赤な色で塗られていて独特で華やかだ。
 看板にも窓辺にも、あちこち龍やら花やらの金色の飾りで彩られているし、
 入り口にいたっては、やけに黒目がちな怪しい人形が飾られていて、夜彦たちを出迎える。
 それにまったく気にすることなく店の暖簾をくぐる倫太郎の背中がやけに頼もしい。
 夜彦は感心しながらも、はっ。と我に返って、
「周りに気を取られてはいけませんね、席に座らなくては……」
 と、あわててその後を追った。

 床の踏み心地が若干脂によって独特感を出している。
 店内は外見と同じように、怪しげな赤と金色の空間に満ちていた。
「っと、そーだな。チャーハンは鉄板だろ。それからあんかけ焼きそばに麻婆豆腐と青椒肉絲。餃子に酢豚も捨てがたいな。それから……」
 注文は倫太郎に任せることにして、夜彦は席について興味深げにやはり周囲を見回していた。テーブルの上に鎮座した、謎の猫の瓶を手に取りたくて仕方がないが、店員がいる間は我慢している。そんな彼の様子を倫太郎はほほえましく見ながらも注文を終わらせる。
(普段落ち着いてるから余計にそう思うんだろうけども、ちょっとばかし新鮮でこーゆーんも悪くねぇや)
「……? どうかしましたか? 倫太郎殿」
「いーや。ところでそれは、餃子のたれいれだからな。あとで使おう」
「おお……」
 また感動する夜彦を、倫太郎は微笑ましそうに見ていた。
 そうこうしている間に料理がやってくる。
 中華は見た目もにおいも強烈で華やかで。倫太郎は思わず表情を崩し、夜彦はまた目を丸くする。
「んじゃ、いただきまーす」
「ああ。いただきます」
 両手を合わせて、いざ。
「あー。やっぱりこういうところのはうめえな」
「ああ。なるほどサムライエンパイアにはない味だ……」
「こっちもどうだ? ほれ、おすそ分け」
「ん……」
 倫太郎が麻婆豆腐を皿にとって夜彦に差し出すと、
 夜彦はそれに目を落とす。
「山椒の香りが混ざった良い香りがします」
「ああ」
 なにやら既に倫太郎は面白そうな顔をしている。首をかしげながらも夜彦はそれを一口、口に入れて、
「味は……美味しいですが少し辛いですね。わさびと異なり、南蛮と同じ舌に来る辛さです」
 口に入れて。
 ものすごく丁寧に夜彦はそう言った。
 そしてあまり表情を変えぬまま、
「……」
「……」
 見つめあう二人。
 わかっていてやったな、という表情の夜彦。
 悪びれもせずに倫太郎は笑う。
「……大人しくお水を頂きましょう」
「ああ。悪ぃ……ほら、水」
 ものすごい勢いで、お水に手を伸ばした夜彦に、やっぱり倫太郎は笑っていた。
「では、私からも倫太郎殿にあんかけ焼きそばを。具沢山でとても美味しいです」
「おうっ。いただくぜ!」
 夜彦の勧めに倫太郎も手を伸ばす。
「国が違うだけで料理も大きく異なる……。すごいですね」
「おー。帰りに食材とかも見てくか? 色々あるぜ?」
「では、先ずはあの辛いのに使うものを……」
 食の楽しみは世界を超えるらしい。
 二人の楽しそうな会話は、途切れることなくいつまでも続いていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……夢を見ていた気がするンだ。
とーってもしあわせな夢を。

まだまだ夢心地。ふわふわする足取りで気ままに散歩。
面白いコト、興味のあるコト
そんなモノであふれかえったまちはとーっても面白くて
そしてとーってもツマラナイ。

でもなぜだか妙に花が見たくなって
そうだそうだ花屋に行こう
きっときっと何かあるに違いない
かなたも花屋に行こう行こう
なぜ行きたいかは分からないケドきっととーっても楽しいンだ。

ひまわりはあるカ?大きな大きなひまわり
背丈くらいの、大きなひまわり
ソレがほしいンだ
なんでかは分からないケド



 ふわ、とエンジはひとつあくびをした。
 街行く人々はどれも同じような顔をしているように、エンジには見えた。
 気ままに町を散歩する。どこか夢遊病者のようで、地に足はついているのだけれども、まったく足がついていない気がする。
 楽しそうにすれ違う高校生たちは、次はどこにいく、何を食べるといつもいつだってせわしなくて、
 やりたいことがいっぱいあって、進む先が光に包まれているようで、どうやらなんとも、落ち着かない。
 面白いコト、興味のあるコト。そんなモノであふれかえったまちはとーっても面白くて、そしてとーってもツマラナイ。
「ん~~~」
 ぐるぐると腕を回す。それから軽く肩を叩く。
「……何をしているの?」
 そこに、どっさり荷物を抱えたかなたが通りかかって。エンジはへら、と笑った。
「アァ……夢を見ていた気がするンだ。とーってもしあわせな夢を」
「あら。それは、どんなユメ?」
「うーん……秘密、かなァ」
「まあ」
 面白そうにかなたは笑うので、エンジもふわふわと笑った。
 信号が赤になって人々が足を止める。自動車が走り出して流れていく。
「この町は、なんでもあるねェ」
「そうね。少なくとも生活に、困ることはないでしょう」
「でも、なんとなーく。欲しいものがないんだなあ。あるとすればー……」
「あるとすれば?」
 穏やかに聞き返す彼女に、んー。ってエンジは口元に手を宛てて考え込む。
「花かな。そうだな。花がみたいなァ。なんでかよくわかんないけれど……」
 そうして唐突に、ぽん、と手を打った。
「そうだそうだ花屋に行こう。きっときっと何かあるに違いない。かなたも花屋に行こう行こう」
「ええ? 花屋? 勿論いいけれど……どうして?」
 ほんの少し、エンジから花屋というキーワードが出たのが意外だったので。かなたが瞬きをしてたずね返すと、
「なぜ行きたいかは分からないケドきっととーっても楽しいンだ」
 と、にやりとエンジは笑った。

「ひまわりはあるカ? 大きな大きなひまわり。背丈くらいの、大きなひまわり。ソレがほしいンだ」
 街角にある、いかにも普通のお花屋さんと言うところにエンジが足を踏み入れて声をかけると、店員が困ったような顔をした。
「背丈ぐらいの? いいえ。これぐらいの大きさならありますが……」
 示されたのは、だいたい90cmぐらいのものである。 
「それじゃあダメダ。なんでかは分からないケド、背丈ぐらいのがいいんだよォ」
「と、申されましても……」
「……エンジさん。あなた、自分の身長を、ご存知?」
 後ろから、かなたが話に割り込んでくる。エンジはちょっと視線を下にして、かなたと目を合わせる。
「身長?」
「ええ。あなた。私よりも大きいでしょう?」
「……あれ? そんなはずはないんだけどなァ」
 じっとかなたの顔を見つめる。
「……かなた、なんだかちょっと大きくないかァ?」
 怪訝そうな顔を、エンジはした。ユメの名残のように、自分より背の高いひまわりの姿が焼きついていて。
 けれども、今の自分よりも背の高いひまわりとなると、なるほど確かに……。
「ふふ、きっと夢を見た所為ね。……この店で一番背の高いひまわりを買いましょう。ね?」
「うん」
 ひまわりを何本か。買うとかなたが天へとそれを掲げる。かなたが手を握って上に上げると、エンジの身長より少し、高くなる。
「ほーら。高い高い」
「ああ。ほんとだ高い」
「一体どんなユメを見たのかしらね?」
 ふふ。と笑うかなたに、うーん。とエンジは首をかしげる。
「よく、覚えてないなァ」
「あら。じゃあ、しょうがないわね」
 ユメだものねと。かなたは笑って。
 ユメだからなぁ。とエンジも頷いた。
 ユメの名残のように、エンジの頭の上でひまわりが揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村井・樹
……さっ、今日のお仕事はこれでおしまいです
『不良』もお疲れ様でした。これから街で一休みしましょうか?
「そういうのはお前だけでやれ?」……相変わらず釣れないですねぇ



UDCのメメ君と一緒に、近場のカフェにでも行きましょうか
今の時期だと、抹茶のスイーツがありますかねぇ

メメ君とも分け合いながら食べましょうか
ふと二人で窓の外を見ると、まだ日差しはそこまで強くもなく。
向日葵が咲き誇るのは……まだまだ先でしょうか

今度は、本物のひまわり畑を。『僕』にも見せてあげたいところですね……。

※アドリブ、改変等大歓迎



「……さっ、今日のお仕事はこれでおしまいです。『不良』もお疲れ様でした。これから街で一休みしましょうか?」
 ふう。と公園から脱出したあとで、彼はひとつ、息をついたけれども、
「「そういうのはお前だけでやれ?」……相変わらず釣れないですねぇ」
 自分の中の自分に問うと、なんとも味気ない返答があって彼は肩をすくめた。
 「当たり前だろ。一緒にお茶するわけでもないんだから」とか何とか。『不良』の言葉は相変わらずそっけなくて、
 彼は苦笑しながらも、のんびりと街へと向かうことにした。
 街はものに溢れていて、
 食べたいものは何でも見つかるし、
 ほしいものはたいていが手に入りそうだった。
 それでも、彼らの本当に欲しいものが手に入らないこともわかっていて。
 なんとなく、彼はぶらっと人と人との間を縫うように歩く。
「……うん、ここにしましょうか」
 特に意味はないけれども、
 しいて言うならば、明るそうで窓のおきなところが気に入って、彼はひとつカフェを選んで、その扉をくぐった。

「今の時期だと、抹茶のスイーツがありますかねぇ」
 UDCのメメ君と一緒に、席に着く。
 メメ君のことを一瞬、店員は不思議そうに見たけれども、
 どう解釈したのか、それ以上は何も問わずに注文を聞いてくれた。
「この、関心があるようで、関心のない世界がいいですねえ」
 のんびりと彼がそう言うと、いつもの毒づくような『不良』の言葉が返ってくる。それに苦笑しながらも、メメ君とひとつの抹茶パフェを分け合って食べる。
「ああ……。美味しい。でも、ちょっと」
 アイスクリームもりもりは、この時期には少しだけ寒かったかもしれない。
 思わず肌寒そうに腕をさすると、可笑しげな『不良』の言葉。
「はあ。どうして君はそういつも、意地悪なんてすかねえ」
 なんて、こちらも解っていて冗談めかして返すと、スプーンで抹茶アイスをすくってひとつ、メメ君の口元へ。
 ぱくんと食べるその姿をほほえましそうに見て取りながら、
 二人して、ふと、特に何があったわけではないけれども、窓の外を見た。
 楽しそうに子供が走っていく。
 まだ日差しはそこまで強くもなくて。窓の外の景色は穏やかで路行く人々の足取りも軽い。
「向日葵が咲き誇るのは……まだまだ先でしょうか」
 まだ早いだろう花に思いをはせる。こんな寒さじゃあひまわりも、見ても風情というものもありそうにはないだろう。
 あの夏を思い出しながら、そっと二の腕にやっていた手に目を落とした。
 幻だったはずなのに、つい先ほどまでに体験していた暑さが、今すぐにでも目の前に蘇るようで……。
「今度は、本物のひまわり畑を。『僕』にも見せてあげたいところですね……」
 懐かしい幻を思い出しながら、彼はそっと息をついた。
 『不良』も、同感のようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヤネ・ラグランジェ
【ソヨゴ(f00669)と一緒】
買い物をしつつ
ふいにソヨゴに話しかけ

さっきお父さんに会った
実は、僕はお父さんが嫌いだ
誰に聞いても彼はヒーローだったと言うだろう
でもそれは間違いだ
お父さんは最後に酷い過ちを犯し、自身の経歴に泥を塗った
そのせいで彼は命を落とした
彼に同行した者達も一人を残して全員死んだ
僕を選んでくれていれば、お父さんは死なずに済んだのに

冷たく笑い
いや、この話はやめておこう
気分を悪くさせてごめんネ

落ちたバッグを拾い上げ
うん、お茶にしよう

ダージリンティーに
僕はチョコレートケーキ
スコーンにはクロテッドクリームを添えて

顔色を伺いつつ
ソヨゴには悪い事をしてしまったかな

オレンジのタルトはいかが?


城島・冬青
アヤネさん(f00432)と

バックを選ぶぞー!
夏だし籠バッグがいいな
幾つか手に持ってウンウン悩む
アヤネさんはどっちがいいと思います?
意見が欲しくて振り向くと耳を疑う言葉が

お父さんが嫌い?嘘、だってあんなに慕ってたんじゃ…
過ちって?
アヤネさんを選んだら死ななかったの意味は?
というか、もしアヤネさんが選ばれたらどうなっていたの…?

手に持っていたバックはいつのまにか床に落としてしまっていて
後味の悪い怪談話を聞いた時のような言い知れぬ不快感が胸に広がる
問い正そうと彼女に声をかけようとするけどアヤネさんはもういつもの涼しげな表情で…これは訊ねても上手くかわされるな、と聞くのを諦める

なんか…喉乾きましたね



「バックを選ぶぞー!」
 と、そう。このとき冬青は割りと、やる気だった。
「夏だし籠バッグがいいな。ビニールっぽくて中が透けてるのも可愛いな」
 でもやっぱり籠かなぁ。とか、うんうんと悩む冬青。
「ちっちゃいのもかわいいけど、大きいのだと水着が入るし……。アヤネさんはどっちがいいと思います?」
 これとこれ。と。
 冬青が二つバックを手にとって、アヤネのほうに示したそのとき、
「さっきお父さんに会った」
「え?」
 徐に、アヤネはそう口にしたので、冬青はバッグを持ったまま固まった。
 先ほどの戦いで、冬青が見たものを思い出して、その話なんだろうと納得はするけれど、
「実は、僕はお父さんが嫌いだ」
「お父さんが嫌い? 嘘、だってあんなに慕ってたんじゃ……」
 思わず、口に出しかけた冬青の言葉を、アヤネは遮る。
「誰に聞いても彼はヒーローだったと言うだろう。でもそれは間違いだ……」
 ただ、言わずにはおれないと。アヤネは淡々と。言葉を挟む間すらないくらいくらい訥々と。語る。
「お父さんは最後に酷い過ちを犯し、自身の経歴に泥を塗った。そのせいで彼は命を落とした」
「過ち……って?」
 口に出されたアヤネの言葉に、冬青の手から持っていたバッグが滑り落ちた。
「……彼に同行した者達も一人を残して全員死んだ。僕を選んでくれていれば、お父さんは死なずに済んだのに……」
「え……。アヤネさんを選んだら死ななかったの意味は? というか、もしアヤネさんが選ばれたらどうなっていたの……?」
 流れてくる物騒な言葉に、バッグが落ちたことすら気づかずに。なんともいえない不快感から胸に手を当てて冬青は問う。
「ねえ、アヤネさ……」
 言いかけて。
 冬青は言葉を飲み込んだ。
 アヤネが冷たい笑顔で笑っていたから。
 それを見て……今は何を訊ねても、うまくかわされるな、と、思ってしまったから。
「いや、この話はやめておこう。気分を悪くさせてごめんネ」
 果たして。落ちたバッグを拾い上げて。ついでにこっちがいいとおもう、と、一方を渡して一方を棚に戻したアヤネに、
「なんか……喉乾きましたね」
 選ばれたほうのバッグを握り締めながら、冬青はポツリと呟いた。
「……うん、お茶にしよう」
 その言葉に、アヤネも笑った。それはいつもの笑顔だった。

 可愛らしいカフェには、かわいらしいものが溢れていて、
 アヤネと冬青たちと同じ年頃の少女たちが、明るい声を上げて笑いあっていた。
「ダージリンティーに、僕はチョコレートケーキ。スコーンにはクロテッドクリームを添えて。ソヨゴは……」
「あ、はい。ええと……」
 二人も席について、メニューを眺める。てきぱきと注文するアヤネの隣で、冬青はちょっと戸惑う。
(ソヨゴ……悪い事をしてしまったかな)
 その表情に、アヤネは若干考え込むように目を伏せると、
「オレンジのタルトはいかが?」
 そう、メニューのひとつを指し示した。
「あ、美味しそうですね。じゃあ、それで。飲み物は……」
 ようやく動き始める冬青は、手早く注文を済ませる。それから少しだけ。悩むように考え込んだ、そのあとで、
「……お話、しましょうか」
 と、笑った。
 別に先ほどの話の続きではない。
 周りにいる、どこにでもいる。そしてとても楽しげな、女の子たちと同じように。
「うん……そうだネ」
 その言葉に、アヤネも小さく頷いた。
 それで、おしまい。
 それ以上は、今は話さなくても構わない。
 いつか、きっと……。それだけで、いいのだろう。
 どこにでもある、ありきたりな話題はそれからしばらくの間、尽きることもないだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
コノf03130と

ぺそり垂れた耳も
どこか重い足取りも
相手の姿見れば
忽ちぴんっと立って
コノー!
びゅんっと駆け寄る

うん?んと、顔見たくなただけ
ふにゃり笑い
返答は正直に
頬に当たった手に、ぱちくり瞬くも
ただ、あいたくて、なんて理由でも
付き合ってくれる様子に嬉しそに隣歩き

買い出し?かいもの、行く?
何、買う、の?

人と、並んで
休日に、お買い物
…とても、懐かしい

一瞬ぼんやりしかけるも
掛かる声に、ぱぁっと笑顔で
麻婆豆腐!食べたい!
豆腐、買ってこ!
何だか
嬉しくて楽しくて
自然と尻尾は揺れて
ね、ね、お唄でも、うたう?なんてふざけて
そういえば、鼻歌も聞いた事、ないな?

帰ったら、一緒に呑みながら
今日見た向日葵の話でも…?


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

突然の呼び出しに応じてみれば、遠くに見えたしょぼくれた姿
どしたの急に、と問い掛ける頃には取り繕われて
そう、じゃあ買い出しにでも行く?とその頬をぺしりとはたいとく
そうねぇ、製菓材料に輸入食品のお店に……指折り数えつ歩き出し

食材をあれこれ吟味している内、気付けばまたぼんやりする姿
帰ったら飯作って飲む?ナンて、言えば是が返ると知っていて
そう、じゃあそン時ナニがあったか教えなさいな
いい加減何度もその面見てンだ
その権利位あるデショ

ハイハイ、豆腐
じゃあ酒はナンにしようかねぇ
揺れる尻尾に自然と口元綻ばす
歌?そーゆーのはたぬちゃんに任せるわ
歌いながら何かできる程、器用じゃナイの



 コノハ・ライゼ(空々・f03130)が連絡を受けて駆けつけると、
 駅中で瞬としょげ返るさつまの姿が目にはいった。
 これだけの人が行きかっていて、いろんな姿が見られる中で、
 それでも、コノハは一瞬で耳を垂らせたさつまの姿を見つけることが出来た。
 しょぼくれてるなあ。なんて心のうち。
 足早に人を掻き分けてさつまのほうへ向かうと、さつまも気づいたのかこちらを向く。
 一瞬で垂れた耳と尻尾が起き上がる様子に、僅かに口元をほころばせながら、
「たぬちゃん」
「コノ!」
 コノハが声をかけると、いつもくさんにさつまはこちらへ向かって走り出し、そして全力でコノハに抱きついた。
「……っ、と」
「コノー!」
「どしたの急に」
「うん? んと、顔見たくなただけ。ただ、あいたくて」
 ものすごく無邪気に嬉しそうな顔をするさつまに、コノハはそう、って、笑顔を向ける。
「じゃあ買い出しにでも行く?」
 向けながらも、さつまの頬を軽く、ぺしりとはたくと、んん? ってさつまは首をかしげた。だが買い物、といわれた途端に、
「買い出し? かいもの、行く? 何、買う、の?」
 興味津々、と言う顔でコノハのことを覗き込んだ。
「そうねぇ、製菓材料に輸入食品のお店に……」
 言われて改めて、コノハは考えながら。さつまの腕を引きながら、とりあえずあっちのビルのほう行こうか、なんて、着く前にめぼしをつけていた方向へと歩き出す。
 指折り数えて、あれをつくろうこれを作ろうと言うと、
 さつまがいちいち嬉しそうな顔をしてくれるので、こっちもなんだか嬉しくなって。
 それを悟られぬようにコノハは歩いて。
 食料品売り場であれこれ買い物をして、
 調味料を選んだところで、コノハは顔を上げる。
「……」
「……」
 なんだかとても、懐かしい目をしているさつまに。
 コノハは手を伸ばして、軽くさつまの額を指で弾いた。
「!?」
「帰ったら飯作って飲む?」
 一瞬、さつまはきょとんとしたあとで、
「飲む!!」
 と、元気な答えを返した。
「麻婆豆腐! 食べたい! 豆腐、買ってこ!」
「ハイハイ、豆腐。じゃあ酒はナンにしようかねぇ」
「えーっとねえ。ええと……」
 すぐに揺れる尻尾。こぼれんばかりの笑顔にコノハは苦笑する。
 買い物が終わって、荷物を半分こして。
 帰り道もずっと、さつまはご機嫌だった。
「ね、ね、お唄でも、うたう?」
 なんてふざけて言う始末。この街中で? とコノハは言いかけるけれども、
「歌? そーゆーのはたぬちゃんに任せるわ。歌いながら何かできる程、器用じゃナイの」
 さつまの歌はちょっと聴きたかったので、そんな風に返した。ええーって。さつまが声を上げる。
「そういえば、コノの鼻歌も聞いた事、ないな?」
「ないない。けれど、それはまた今度ね」
「そ?」
 じゃあ歌うー。なんて言いながら、
 上機嫌に歌いだすさつまの隣をコノハは歩く。
 時刻は既に夕暮れ時になっていて、
 二人の影が長々と伸びる。
 おなかをすかせて帰り道を急ぐ子供や、
 のんびり歩くサラリーマンたち、
 みんなみんな、幸せな家に帰っていくような。
 本当は……全ての人に幸せな帰る家があるだなんて、そんなでもないのだろうけれども、そんな幻想にとらわれる。
 そしてきっと、自分たちのも、周りから見るとそんな風に見られているのだろうと、思うとなんだかコノハも嬉しかった。
「あとで、そン時ナニがあったか教えなさいな。いい加減何度もその面見てンだ。その権利位あるデショ」
 だから。歩きながら、コノハがそんなことを言うと、
「んー」
 と、嬉しそうにさつまが小さく頷いた。自然とその尻尾が、楽しそうに揺れていて。
「あ、ひまわり。ねえコノ、ひまわり買ってー」
「ひまわり? はいはい。一本だけだヨ」
 街角の花屋に並ぶひまわりに、さつまが声を上げる。
 帰ったら、一緒に呑みながら。
 きっと、さつまは今日見た向日葵の話でもするだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
手に残る銃の感触を
振り切るように雑踏に紛れる

「日常」の中にいる、よく見知った人々は
当たり前みたいに、俺にも未来があると言うけれど

必要なら大事なものですら平気で切り捨てられる
そんな自分をもう「人間」なんて呼べるものとは思えなくて
だからそんな「当たり前」を
俺は自分に許していなくて

――なのに、なんでだろう
なんだか今は、あいつらの顔が見たい気がして
……声が聞けたら、なんて思って

――目を閉じて
思い浮かべたのは、喪った、大切な人

あの人が、「生きろ」と願ったから
何もかもを切り捨てて「人間」でなくなっても
ずっと、生きてきたけど

……あの人は、本当は
俺にどうなってほしかったんだろう

……答えなんてない
わかってるけど



 楽しそうに、人々が町を行きかっていた。
 男子高校生が5、6人。一緒になって何事か喋りながら匡の目の前を通り過ぎた。
 どうやら明日のテストの話をしているようで。
 明日が来なければいいのになんていいながら、笑いあっていた。
「……」
 ぐ、と。匡は己の手を握り締める。
 今は何も握られていない、その手だけれど、
 どこかにまだ、銃の感触が残っているような気がした。
 振りきるように、ひとごみに紛れる。
 行きかう人々はとても雑多で。その間をぶつからずに、縫うようにして進むのは、匡にとっては得意なことだった。
 同い年ぐらいの男性にすれ違う。
 電話で仕事の話をしているようだった。
 明日、そちらにうかがいます。
 漏れる言葉に、匡は足を速めてその場を遠ざかる。

 ……この世界の人々には、未来がある。
 帰る家がある。
 温かく迎えてくれる人が……いるかはどうかは、わからないけれども。
 それでも。
 ……それでも。

「……」
 歩く。歩く。歩く。
 どこか店でも入って休めばいいのに、
 そういう気にも、なれなくて。
「……」
 進む。進む。進む。
 ……どこへいこうと、いうのだろう。
 「日常」の中にいる、よく見知った人々は、当たり前みたいに、俺にも未来があると言うけれど……。
 人は途切れることはない。
 いく先なんてわからない。
 けれども立ち止まることは、できなかった。
 路上で座り込む柄の悪い人たちがいた。
 殺してやるとくだをまく。
 きっと殺すことなんてできもしないだろう、と、そんな風に思える人々。
 ……必要なら大事なものですら平気で切り捨てられる。そんな自分をもう「人間」なんて呼べるものとは思えなくて。
 あまりにも人間らしいその姿に、
 匡は、夏でもないのに目が眩んだ気がした。
 当たり前みたいに言われる未来。
 けれども人間じゃない自分に、「当たり前」許すことは出来なくて……、

 風が吹いた。
 春から初夏へ、移り変わる前の。爽やかな風だった。
「……なんでだろうな」
 だから、匡は立ち止まった。
 なんだか今は、あいつらの顔が見たい気がして。
 ……声が聞けたら、なんて思って。
 そんなことは、あっていいはずがないのに。
 雑踏の中、立ち止まる匡を誰も気にしない。
 誰も気づかない。
 そっと目を閉じる。
 まぶたの裏に思い浮かべるのは、喪った、大切な人だった。
 あの人が、「生きろ」と願ったから。
 何もかもを切り捨てて「人間」でなくなっても、
 ずっと、生きてきたけど……。
 生きるってなんだろう。
 本当に言われた言葉は、どういうことだったんだろう。
「……あの人は、本当は……俺にどうなってほしかったんだろう」
 答えはない。
 そんなことは解っていたけれど。
 数多の人がいる中で、ひとりきり。
 匡はただ静かに佇みながら天を仰ぐ。
 ……きっと、答えは永遠に見つからないだろうから。
 きっと、自分で掴むしかないのだろうと。
 匡はそっと、手を掲げて天へと伸ばした……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
竜の姿になったノクティスを抱っこして
ひまわり畑での出来事を振り払うように

……どこに行こうか、ノクティス

うん、気分転換しましょ!

せっかくのUDCアースですし……あ!時代劇グッズを買っていきましょう
公式マスコットのぬいぐるみ、キーホルダー、
時代劇扮装セットなどもありますね!
法被や十手などもいいですねぇ
でもこちらはサムライエンパイアで買った方が本格的なのかしら……?

大好きな時代劇の俳優さんのブロマイドも購入
えへへ、この方とってもかっこいいんですよね

……この世界に来ると、どこかにお義父様がいないかしらと
つい探してしまいそうになるのだけど……
それは今は考えないようにと首を振り
また来ようね、ノクティス



 織愛は竜となったノクティスをぎゅっと抱っこした。
 今でもまだ、ての中にその槍の重みが残っている気がして。
 心配そうに見つめるノクティスに、織愛は思わず、笑顔を向ける。
「……どこに行こうか、ノクティス」
 ノクティスの目を見つめて、織愛が言うと、ノクティスは静かに視線を返す。それに小さく頷いた。
「うん、気分転換しましょ!」
 上げた言葉はやっぱりちょっとだけ、元気がなかったような気が自分でしたけれども、
 これが自分の出来る精一杯だと。織愛は自分で開き直ることにする。
 ……だって。決めたから。
 自分のやるべきことをしたのだから。
 きっと、どれだけ痛んでも、胸をはっていいのだと、思った。
「せっかくのUDCアースですし……あ! 時代劇グッズを買っていきましょう」
 少し声を弾ませて、織愛が向かったのは駅前の、いろんな時代劇のグッズを売っているところであった。
「公式マスコットのぬいぐるみ、キーホルダー……時代劇扮装セットなどもありますね!」
 はしゃいだ声を上げながら、店のものを物色する。
 あれも、これも。店にはおみやげ物ならではのチープさ満載のものが色々置かれていて、
「法被や十手などもいいですねぇ。でもこちらはサムライエンパイアで買った方が本格的なのかしら……?」
 はて、と首をかしげる織愛。
「でもこの、本物じゃない感じも捨てがたいんですよね……」
 浅黄色の羽織はなんだかやけにてかてかしてるし、
 十手も実践で使ったら一瞬で折れそうである。
 そんなの買ってどうするんだ、と言うようなノクティスの目に、織愛は真剣に反論する。
「あのですね。こういうのは、ロマンなんです。実用性は二の次なんですよ」
 パジャマぐらいにはなるかもしれないけど。
 なんて真剣に語った織愛だったが、ノクティスが何事か伝えようとするより早く、
「あ、ブロマイド!! これをわすれちゃいけません!!」
 はっ。と織愛は方向転換。
「えへへ、この方とってもかっこいいんですよねー……。あれと、これと……」
 だから、そんなに買ってどうするんだろう、と言うような目を、ノクティスがしていた。

「ふー。すごいすごい。いっぱい、色々ありました」
 どっさり戦利品を抱えて、織愛は店を出た。この江戸幕府大回転最中は早速帰ったら食べてみないと。なんて、買い物内容に思いをはせていると、
「……」
 ふっと。すれ違う男の人を、織愛は目で追いそうになる。
 けれども、それを何とか堪えて。織愛は前を向いた。
「ノクティス……。ううん、なんでもない」
 ……この世界に来ると、どこかにお義父様がいないかしらと、つい探してしまいそうになるのだけど……。
 織愛は首を横にふる。今はそれを、考えたくはなかった。
 今はただ……。
「……また来ようね、ノクティス」
 また、きっと……。
 買い物袋を握り締めて、言う織愛に。
 ノクティスは優しい目で、彼女を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
わたしとあそんでくれた
あのまぼろしの子
ほんとうはなんて名前だったんだろう

ききそびれちゃった
たくさんのひまわりを思い出して微笑む
ちくりとするけれど
わすれない
倒さなければいけないけど
楽しかったことと笑顔はわすれないでいようと

シュネーはむぎわら帽子もきっとにあうね
店先でひまわりのついた帽子をながめ

夏のおようふく、ほしい?
そういえばずっとおなじ服だ
あつくて汗をかくことは
わたしたちないけれど
シュネーはおんなのこだもの
いろんな服を着てみたいかも

おとうさんの作ってくれた服は
その間にきれいになおしてー…

かなたにきいてみよう
いつもきれいな服を着ているもの
シュネーの服、どんなのがいいかなあ
ね、終わったらお茶しよっ



 公園には、もうだれもいなかった。
 うだるような暑さも、視界を覆うようなひまわりも、
 シュネーに似ている。けれどもシュネーじゃない。あの遊んでくれた、女の子も。
「ほんとうはなんて名前だったんだろう……」
 ひまわりの名残は、もうない。
 きっともう、会うこともないだろうけれども。
「それでもわたしは……わたしは忘れないよ」
 聞きそびれちゃった、あなたの名前。
 もっとお話をしたかった。
 もっと遊びたかった。
 そんな思いが胸を掠めると、
 なんだか思いがけず、些細な痛みが残ったりしたのだけれども。
 ……倒したのは、自分なのだけれども。
 楽しかったことと笑顔はわすれないでいようと。胸の奥でオズは自分に向かってそう約束して。
 小さくただ、微笑んだ。
 大切な思い出だから。
 だったらきっと、お別れは笑顔がいいだろう。
「また、ね」
 いつかどこかで、またお会いしましょうと。
 そのいつかはわからないけれど。
 笑って。オズはその場をあとにした。

「シュネーはむぎわら帽子もきっとにあうね」
 町を歩けば、この世界は色々なものにあふれていて。
 オズには少し、目が回ってしまうけれど。
 あちこちのお店はもうすっかり夏物を売り出していて、
 ふと立ち止まった店先で、ひまわりのついた帽子をながめてオズはそう呟いた。
「夏のおようふく、ほしい?」
 傍らのシュネーに問いかける。いつもと同じ重みが今日はなんだか懐かしい気がして、思わず微笑んでしまう。
 自分たちが汗をかくことはないけれど、
 そういえば、ずっとおんなじ服だったなって。
 あのサマードレスを思い出して。
「どんなお洋服なら、シュネーに似合うかなぁ」
 シュネーはおんなのこだもの。いろんな服を着てみたいかも……って。
 むむ、と。眉根を寄せたところで、覚えのある傘が目にはいった。
「あっ」
「あら」
 かなたがオズを見つけて、オズもかなたを見つけて軽く手を振りあう。
「服を見ていたの?」
「うん、シュネーのね。シュネーの服、どんなのがいいかなあ」
 かなたはいつもきれいな服を着ているもの。何かいい案があるはず。なんて。
 きらきらした目で見ていると、かなたはぱちり、瞬きをした。
「それはいいけれど……あなたが作るの?」
「つくる?」
 そういえば。人間用の服をみていても、シュネーが着ることは出来ないから。
「そう……うん、そう。わたし、わたしが作るよっ」
 おとうさんの作ってくれた服も、その間にきれいになおしてしなきゃねえ。なんて、あれこれ算段をはじめるオズに、
「そう。私はあなたの腕を知らないけれど、そういうわけならあんまり複雑な構造じゃなくて……、夏だからシンプル目でも可愛いわよね。とはいえ露出はイメージに合わないから……」
 割と真剣に悩み始めるかなた。
「とにかく、まずはいろんな服を見てみましょう。人間用でも、あなたにピンとくるのがあるかもしれないわ。そうしたらそれを元に作ればいいのだから……」
 このビルの、あの店とこの店を回って、ついでに自分のものも買おう、なんてちゃっかり算段をしているかなたに、オズは首をかしげる。
「んー。わたしがぴんとくるものがいいの?」
「あら。レディの洋服を選ぶのは、いつだって男の子の役目よ。決まったら裁縫店にも行かないといけないわね」
 さあ、忙しいわよ。なんて。意気込むかなたにオズもうん、うん、って、頷いて。
「かわいい、ぴん、ってくるお洋服があるかな」
「勿論。ピンとくるまで、探すのよ。いい? これはね……戦いなの」
「た、たたかい……」
 なんだかかなたの目が怖かったので、オズはうん、と、気おされたように頷いてから、
「ね、じゃあ、このたたかいが終わったら、一緒にお茶しよっ」
「勿論よ。オズさん、あなたのおごりでね?」
 ただ、そのお茶がいつになるのか。
 まだまだ、先になりそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

静海・終
ふと気づけば、先程であった風景、寂れた公園
あの向日葵の幻は
僕は、僕は、私は

ぼうっとした視界を下ろせば見慣れた黒
撫でると甘えるように手にすり寄ってくる
私はあの人をまた
そう思いだすと苦笑してしまう
本当に自分は弱いのだ、何度だってあの人を夢見てしまう
自己嫌悪に浸っているとがぶりと指をかまれてしまう
…あぁ、今日も助けてくださってありがとうございます
涙、あなたが居なければ私、進むことも儘ならない

さて、何か美味しい物でも食べに行きましょうか
アイスがいいでしょうか、パンケーキも好きでしたよね
涙に話しかけると機嫌よく鳴き声をあげる
満足したら電車に乗って一緒に海へ行きましょう
あこがきっと一番、波音で落ち着くから



 ふと、気づけば。
 世界はまた、色に溢れた。そして色を失った。そんな、寂れた公園に戻っていた。
「……あの向日葵の幻は……」
 僕は、僕は、私は。
 ユメを見ていたのだと。
 気はついていたけれど、認めるまで、少しの時間を要していた。
「……」
 呼ばれた気がして、ぼんやりと、視界をおろす。
 見慣れた黒が目に入る。
 撫でてやると、甘えるように手に擦り寄ってきた。
 そのさわり心地で、ようやく周囲に音が戻った。
 ようやく周囲に、温度が戻った。
「ああ……。私はあの人をまた……」
 記憶に、思いをはせて。
 そっと終は、息をつく。
 本当に自分は弱いのだ、何度だってあの人を夢見てしまう。
 口元に浮かぶのは苦笑である。夢を見て、そうして殺してしまっては世話がない。
 進歩もない。なんて、自分は……、
「……っ」
 痛みが、
 終を現実に引き戻した。
 自己嫌悪に浸る終の指に、涙が噛み付いたのだ。
 じわじわと痛みを持つ熱は、悲しいのか、ありがたいのかは本当は解らなかったけれど、
 それでようやく……。終は帰ってきた、ような、気がした。
「……あぁ、今日も助けてくださってありがとうございます」
 涙に再び手を添える。なでると涙は満足そうだった。
「涙、あなたが居なければ私、進むことも儘ならない。だからどうか……このまま、共にいてくださいね」
 本当にそれは、心からの願いだった。
 切なる望みであった。
 けれども、そんな彼の内心を知ってか知らずか。
 涙は、当たり前だみたいな顔をして。
 小さく頷きまたその手に懐くのであった。

「さて、何か美味しい物でも食べに行きましょうか」
 ひとしきり涙が満足するまでなでたあとで、終は立ち上がる。
「アイスがいいでしょうか、パンケーキも好きでしたよね」
 涙は嬉しそうだ。機嫌よく上げる鳴き声は、どっちも、と言っているようであった。
 どんなお店がいいですか、なんて終が訊ねると、見に行こう見に行こうと、涙はその気で、
「……」
 終はそっと、涙を少し強めに抱きしめた。
 涙の頭に鼻先を押し付けるようにして、一呼吸、目を閉じる。
「満足したら電車に乗って一緒に海へ行きましょう」
 少しまだ、海は寒いだろうけれど、
「遠い、遠いところがいいですね。電車に乗って、終点まで。行けるところまで行って、乗り継いで、乗り継いで……。遠くへ行きましょう。ずっと、遠い場所へ」
 きっと、美しい景色が見られるに違いない。
「あそこがきっと一番、波音で落ち着くから……」
 返事をするように涙が鳴いたので。
 終もただ、嬉しそうに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イトゥカ・レスカン
過ぎ行けば夏の情景はほんの一時の幻に消えて
目覚めれば懐かしさも遠ざかり
ああ、やはり本物ではないのですね
夏と言うにはまだ早い風に目を細める
ないのならば、きっと新しく積み上げていくしかないのでしょう
大丈夫です。今は寂しくありませんから

ふらり町を歩く途中目についたのはジュース屋台
夏にはまだ早いけれど南国の果物を彩ったものを一つ
よく冷えた喉越しに、ほのかな酸味のある果実の味が心地良い
嘗て触れた夏の温度も景色も、何も覚えていません
でも、だからこそ新しく触れていく時間が、季節が愛おしい
この世界の夏はどの様な色でしょうか
悲観していても始まりませんから
それにあらゆるものが新鮮というのも、悪いものではないのです



 目覚めたら、そうしたら。
 まるで風が通り過ぎたように、イトゥカの懐かしさも通り過ぎてしまった。
「……」
 思い返せば、まるで遠い昔でもあったかのよう。
 ひと時の幻は、今はもう、そのかけらすら追うことはできなかった。
「ああ……、やはり本物ではないのですね」
 わかっていたことだ。わかっていたことだけれども。
 夏と言うにはまだ早い風に目を細める。
 失望しているというのは少し違う。
 あの場所に、イトゥカの望むものはなにひとつなかった。
 イトゥカの求めるものは、何もありはしなかった。
 悲しくないといえばうそになる。
 けれどまた一方で……、
「ないのならば、きっと新しく積み上げていくしかないのでしょう」
 ぱん、と己の服を軽く払って、イトゥカは立ち上がる。
「大丈夫です。今は寂しくありませんから」
 気持ちはどこか、前向きであった。
「それにほら。大変な犯罪者だった、とか、悪い女の方に引っかかっていた、とか、そういうのがなかっただけでも、行幸です」
 冗談めかした言葉遣いは、それほど答えている風には聞こえない。
 勿論、残念だと思う気持ちはあるけれど……、けれども……。

 ふらりと町を歩く。
 この世界はもので溢れていた。
 何でもあるけれども、イトゥカの望むものは何もない。
「でしたら、望むものを作っていけばいいですね」
 けれどもイトゥカはいつだって前向きであった。
 ……あるいは、前向きでいようと決めているのかもしれない。
 さし当たって喉が渇いたな、なんて。
 ふらりと町を歩いていると、途中目に付いたのはジュース屋台。
「むむ。夏はまだ早いですが……」
 果物を、そのままミキサーにかけて摩り下ろしている。
 これはなんとも美味しそうだと。イトゥカはひとつ。大いに。大きく。頷いた。
「そうですね。ここはひとつ、南国の果物を彩ったものを一つ……」
 いそいそと注文すると、その場で果物がミキサーにかけられ、たちまち形を失いジュースに変わっていく。
「……!」
 美味しい。
 よく冷えた喉越しに、ほのかな酸味のある果実の味が心地良い。
「また……好きなものがひとつ、出来ました」
 まんぞくだ。と。イトゥカはそれをぐいぐい飲み干して。
 はーっと幸せそうに、天を仰いだ。

 青い空に、白い雲が流れていく。
 そんな景色を、まったく見たことがない、と言うことは勿論ないだろう。ないはずだ。
 それでもイトゥカは覚えていない。
 嘗て触れた夏の温度も景色も、何も覚えていなかった。
「でも、だからこそ新しく触れていく時間が……、季節が愛おしい」
 悲観しても始まりませんから。と、イトゥカは口の中で呟いた。
 だってこれからもイトゥカは生きていくから。
 だったら、後ろに落としたものを拾うより。目の前にあるものを掴んでいく方がきっといい。
「この世界の夏は、どの様な色でしょうか……」
 きっとこれからも、夏が来る。
 暑い暑い、夏が来るだろう。
「それにあらゆるものが新鮮というのも、悪いものではないのです」
 ならば、それも楽しんで生きて生きたいのだと。
 イトゥカは初めて見る空の景色に向かって手を伸ばした……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

香散見・千夜之介
幻から醒めて、しばし茫然。
まだ手に感触が残っている気がするのに、
はっきりと見たはずの顔はどうにもぼんやりしている。

……まだ三年やそこらやいうんに、
ざっくりしとるもんやなぁ、記憶いうんも。

……まぁ、どっかで一杯やって帰ろかなぁ。

抱えた上着をはたいて羽織り直す。
道すがら見つけた自販機で、
普段吸いもせん煙草を買って一服。
匂いはいつでもこないして思い出せるんやけどなぁ。

手放しで幸せやったかいうと微妙やし、
楽しかったかいうんも微妙やけど、
昔のこというたらええことの方が思い出してまうもんなんやなぁ。
醒めてったらフツーにどつかれたんとかも思い出してきてムカついてったわぁ。

さて、なんや冷やこいの飲みたいなぁ。



 千夜之介は呆然と、己の左腕を見つめた。
 その左腕は、やっぱり……。
「…………」
 なのにまだ。
 その手に感触が残っている気がする。
 砂を飲み込むような苦い思いは、
 そんな。子供みたいな胸の痛みなんて。
 もう……自分には、あるはずもないと思っていた、のに。
「ああ……」
 なのに。はっきりと見たはずの顔はどうにもぼんやりしている。
 なんとも割に合わない話だと、千夜之介は、そう思った。
「……まだ三年やそこらやいうんに、ざっくりしとるもんやなぁ、記憶いうんも」
 それで言いのかもしれない、と思う反面。
 何や面白くないなぁ。なんて心がちょっと、胸の奥にあったりもする。
「……まぁ、どっかで一杯やって帰ろかなぁ」
 やりきれない、なんていってしまうにはもう年を取りすぎた。
 けれども、なんとも思ってない、というには鮮やか過ぎる、今日の事件だった。

 記憶の中と違って、世界はまだ少し肌寒くて。
 千夜之介は抱えた上着をはたいて羽織り直した。
「今日のところは、これで勘弁しといたら」
 口に出して言うと、なんともいかにもな台詞で思わず自分で笑ってしまう。
 それから道すがら見つけた自販機で、
 普段は吸いもしない煙草を買って、口にくわえて火をつけた。
 一服。広がる香りと肺の中に広がるその味と。
「……匂いはいつでもこないして思い出せるんやけどなぁ」
 けれども肝心の顔はやはり、思い出すことはできなかった。
 紫煙の向こう側に臣お描く像はなんとっも曖昧で、
 それが、千夜之介に昔のことを漠然と思い出させた。
「手放しで幸せやったかいうと微妙やし、楽しかったかいうんも微妙やけど……」
 思い出の数々。
 あんなこととか、こんなこととか…………、
「あ、なんやムカついてったわぁ」
 さっきはいいことしか思い出さなかったのに、記憶を探ればでるわ出るわ。
 どつかれたことも、雑に扱われたことも、そりゃもう、たくさんあった。
「…………」
 それでも。
 ……それでも。
 あの夏の先で、思い出した人が。待っていてくれた人が、あのひとだったということは。
 きっとたぶん、「そういうこと」だったのだろう。
「さて、なんや冷やこいの飲みたいなぁ」
 雑踏の中を、風が通り抜けた。
 ひまわり畑の中よりも、それは涼しい風であったのだけれど。
 それでも、その喉の奥に。暑い日ざしが隠れているような、気がして。
「……もうすぐ、夏が来るんやなぁ」
 今年もきっと、暑い夏になるだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月12日


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 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠詩蒲・リクロウです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト