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鏡映しの簒奪

#UDCアース


●それは静かに蝕むように
 予鈴が鳴り朝のHRまでの短い時間、必死に単語帳をめくる少年に別の少年が話しかける。
「なぁなぁ、知ってる?」
「なんだよ……HR終わったら英語の小テストなのわかってるだろ?」
 焦りからか少しイライラした様子を気にもとめず、話しかけた少年はどかりと机に腰を乗せる。
 勉強スペースをつぶされた少年は、諦めた様子で単語帳を放り出した。
「まぁまぁ、一緒に再テスト受けようぜ」
「巻き込んでんじゃねーよ!」
「で、それはいいとして。最近噂になってるアレだよ……隣町のさ」
「あぁ……なんか、アレだろ? デート中に人が消えるとか、なんか人が変わったようになるってやつ」
 それは最近学校で噂になっている話。少年も詳しい話までは知らなかったが、デート中に恋人が消えるやら、まるで別人のような言動をするようになるというものであった。
 恋人のいない少年にとっては興味の範疇から外れていたが、そんな少年の耳にも入る程度にはこの噂は学校中に広まっていた。
「そうそう。そこにCクラスのバカップルが行ってみるとかいう話になってて」
「うぇー……よくそんな曰くつきのとこ行きたがるな」
「愛があれば平気! だとか言ってたぜ」
 くだらない噂にくだらない雑談。瞬く間に時間は過ぎて、やがて本鈴と共に担任が英単語の小テストを手に教室へとはいってくる。
「やべっ、もう来た!」
「コラァ! 机の上に座るなといつも言ってるだろうが! ……まったく。それじゃあ出席取るぞ」
 慌てて席に戻る友人の姿にため息をつきながら、放り出した単語帳を少年は悪あがきと思いながら目を通す。
 ……………………。
 ………………。
 …………。
 ……。
「以上、34名今日も全員居るな」
「あれっ、先生。うち33人じゃなかったっけ?」
「はぁ……? 何をばかなことを――ありゃ、確かに33人だったな。おかしいな」
 出席簿を指で数え先生が首をひねる。何度数えても人数は33人だ。
「あははははは! 先生もうボケたのかよ!」
「――じゃあ今笑ったやつ、再テスト強制な」
「えー!?」
 それは何気ない朝の一幕。
 誰もがいつも通りに席に着き、何故か教室内に空席があるのかも考えることもなく。
 今日も一日、平凡な日が始まるのだった。

●簒奪者は音もなく
「……うん、こんなものでいいか。今回の依頼はUDCアースに行ってもらうことになる」
 ある程度猟兵が集まったのを見計らい、レクス・ロスト(彷徨う者・f13470)が切り出す。そして集まった人達に小さな写真のようなものを配り始め。
「今回皆にはこの写真の高校に潜入し、情報を集めてもらいたい」
 レクスが言うには、最近この学校周辺で人が消えるというような噂話が広がっているらしい。最も本当に人が消えたのを見たものはなく、噂話として終わっているのだが――。
「噂話だと思ってるのは本人たちだけ、ってな。実際は本当に人も消えているんだが……俺が予知を見た時点で、既に『消された』人間がいるようだ。どうやら邪神の儀式が関与してるらしくてな、人が消えていることに一般人は気づいていないらしい」
 もっとも元々が噂話のためなかなかちゃんとした情報が手に入らず、こうして猟兵が出張ることとなったのだという。
「おそらく噂の根本部分には邪神絡みの何かが居るはずだ。これ以上下手に一般人が噂に引っかかって邪神絡みの事件に巻き込まれる前に、邪神自体を何とかしてもらいたい」
 そして次にレクスが取り出していくのは、高校に潜入するための制服等の衣服である。よく見れば教員用のスーツのようなものもある。
「もう一度やることを確認しよう。まずは噂を集めること、そして噂の舞台となる場所を特定し儀式自体の阻止、そして邪神絡みのこの噂自体の解決」
 いくつか指折りしつつ今回の依頼の重要な点を再確認したレクスは、最後に応援するように笑みを浮かべるのであった。
「噂を聞きだして現場に行くのは大変かもしれないが、頑張ってきてくれよ」


原人
 どうも、原人です。

 今回はUDCアースにあります高校と、その周辺に広がる噂話の調査です。
 1章では高校に潜入し噂話を集め、2章でその噂話の舞台となっている場所へ。
 (1章、2章では選択肢にこだわらなくても大丈夫です。自分のやりたいことをやってください)
 そして3章で噂話の元凶となる邪神との対峙となります。
 また今回は採用人数を少なくその分濃く書けたらなと考えています。
 章進行の際、募集開始は断章の追記とマスター自己紹介等でお知らせしようと思います。

 では、頑張ってください。
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第1章 冒険 『高校潜入調査』

POW   :    放課後、運動系の部活動に励む学生を対象に調査

SPD   :    学外、バイトをしたり遊んでいる学生を対象に調査

WIZ   :    校内、生徒会活動や勉学に励む学生を対象に調査

👑11
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浅葱・シアラ
制服……!高校の制服……!
フェアリーのサイズに合わせてればばれない、よね……?
UDCアースだとフェアリー、珍しいかも、だけど、逆に人目を惹いて興味を持ってもらいやすくなるかも……!

えっと、生徒会の人とか、何か知ってるかも……!
転校生って言えばきっと優しくしてもらえると思う……!
生徒会長さんに会えれば一番いいかな……!

恥ずかしいけど、お仕事……!
だから、勇気を出して頑張る……!

生徒会室に言って訊いてみる……!
ねえねえ、生徒会の人達……!
あのね、もし知ってたら教えてほしいんだけど、最近この学校の近くとか、生徒の中で噂になってる事、ない……?
シアたち、その噂の正体について調べてるの……!



 ふよふよ。ふよふよふよ。
「えっと、こっちが理科室で……ふぇ……生徒会室、どこ……?」
 廊下をふらふら、ふらふらと浅葱・シアラは舞うようにさ迷い飛びながら、自身の目的地となる生徒会室を探す。
 フェアリー用に特別に用意された小さな小さな制服をその身に纏い、『シア、これで誰が見ても高校生立派なだよね……!』と張り切ってやってきたものの、道行く生徒達からは『あれ……小学……いや、中学生ぐらいじゃないの?』といった視線を向けられていることには気づいていない。
「ひぅっ……なんだかみんなに見られてるような……は、恥ずかしいよう……」
 もっとも本人は視線の意味には気づかぬまま、縮こまってはいたのだが。
「あの……」
「ひぅっ!? ……な、なに?」
 思わず隠れるところを探したものの、不審に思われてはいけないと勇気を出し思いとどまったシアラの前には、眼鏡をかけた大人しそうな少女が1人。
「なにかを探してるみたいだったから、どうしたのかな……って」
「……あの、えっと……生徒会室を探してて」
 少女の問いかけに、もじもじと指を絡ませながらシアラは返答する。大丈夫、この人は怖くない……怖くない……そう自分に言い聞かせ。
 そんなシアラの内心を知ってか知らずか、少女はにこりと小さく笑みを浮かべると、近くの階段を指さす。
「この階段を上って3階まで行くと、すぐ横に生徒会室があるよ。今の時間なら誰かいるんじゃないかな?」
「……あっ……ありがとうっ!」
 おずおずとではあるが嬉しそうに感謝を絞り出し、逃げるようにシアラは飛び去っていく。
「どうしたの? あっちゃん」
「うん? なんか妹みたいな子がいてね」
 背後でそんな会話がされているとは、夢にも思わずに。

「はぁ……はぁ……び、びっくりしたぁ」
 どきどきと早鐘のように鼓動する胸を押さえながら、シアラは階段をすっと音もなく飛び上っていく。
 自分から勇気を出して声をかけるのなら、覚悟を決める時間があるが――こうして不意打ちのように相手から話しかけられるのは……苦手なのだ。
 緊張と恥ずかしさで真っ赤になった顔をぺたぺたと手で冷やしながら3階に到達すると、すぐさま『生徒会室』と書かれた札が目に入る。今度こそ覚悟を決めなくちゃと意気込むシアラは、大きく一度深呼吸をして扉を勢いよく開くのだった。
「あの、誰かいますか……!」
「おや、どうかしましたか?」
 ノートパソコンの前に座っていた少年が、部屋の中に飛び込んできたシアラの姿に少し驚いたような様子で目を見開き迎え入れる。よくよく少年の周りを観察してみれば、ノートパソコンの置かれた机の上には会長席と札がのっていたのだがシアラは気づいているのやら。
「あの、えっと、シア最近転校してきて……その、んと……」
「あはは、落ち着いて。慌てなくても休憩時間はまだ十分残ってるから」
 いざ話す段階になるとぐるぐると思考が渦巻き、シアラの口からは上手く言葉が出てこない。それを察してか少年はノートパソコンを閉じると、時計を指さし空いた席をすすめる。座ってゆっくりと話せばいいということなのだろう。
「……えっとね、シア……今みんなの中で噂になってること調べてて」
「噂……噂かぁ」
 席に降り立ったシアラの言葉を受け、少年は少し考えるように腕を組む。やがて思い当たるものでもあったのか、「あっ……」と小さな呟きを漏らし話始める。
「そういえば最近噂になってるのがあったね。確か……人の消えるデートスポットだったかな」
「人が、消えちゃうの……?」
「噂通りならね。僕は確かめようとも思わなかったけど――」
 少年の知る噂の内容はこうだ。
 とあるデートスポットに恋人同士で遊びに行き、1人になったときにあることをすると、そのまま消えていなくなってしまうのだという。
「あることって……?」
「うーん、ごめんね。僕はあまりその噂に興味がなかったものだから、そこまで詳しくはないんだ」
「そっかぁ……」
「力になれなくてごめんね。ただそうだね……僕の私見を述べるなら、恋人同士でって言いながら1人きりになったときって時点でなんだか矛盾を感じるよね。本当は1人でもいいんじゃない?」
「1人ででも」
「1人ででも。本人が消えちゃうから複数人で行かないと噂にならないだけでさ、恋人同士で行かなきゃいけないって部分は少し引っ掛かりを覚えるかな」
 それは単なる疑問から来る拙い仮説。けれどもシアラはそれを覚えるように小さく何度も復唱すると、野道に咲く花のように小さく笑みを浮かべ少年を見上げる。
「……うん、ありがとうっ!」
「あまり力になれなくてごめんね」
 申し訳なさそうな少年に、元気よく手を振りながらシアラはそっと宙を舞う。そして生徒会室から飛び出していく。
「……あんな転校生の子、いたかな? まあいいか」
 シアラを見送った少年はそう呟き時間を確認すると、再度ノートパソコンへと向かっていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
人が消えるか……
サムライエンパイアでいう神隠しということか?
どうやら悪しき神の儀式のよってということであるし、阻止するために動くとしよう

さて、噂話の現場は高校か
校内へ潜入するのは、我が外見では厳しそうか
なれば、登下校中など、学外で声をかけるとするか

情報収集に不自然にならぬようにするには……(世界知識5)
小学生が課題として噂話を集めているという方向で行くとするか
(情報収集14)

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎



「よーっし、今日はスタートダッシュも完璧だったからな」
「すまぬ、少し聞きたいことがあるのだが」
 昼休みの鐘がなり、我先にと校外へと飛び出していく生徒達。この高校では食堂だけではなく、昼食時に限り学校前のコンビニの利用が許可されていた。
 そしてコンビニから無事戦利品をもぎ取りほくほく顔の少年に、豪奢な巫女服に身を包んだ小さな少女――天御鏡・百々が声をかける。
「……えっ、俺?」
「我の前には貴殿しかおらぬが……少し聞きたいことがあってな、時間は大丈夫だろうか」
「時間は……まあ大丈夫だけど」
 時間よりもこんな子供が何の用だろうという様子を隠そうともせず、少年はじろじろと百々を観察する。
 幼くあどけない見た目ながら、年齢とはかけ離れたどこか落ち着いた印象を受ける少女。平日にも関わらずこんな小さな少女が外を出歩いているというのも気になるが、何故巫女服を着ているのだろうかなど、少年はつらつらと考えを巡らせる。
「小学校の課題中なのだ。噂話を集めていて……何か知っていることがあれば教えて欲しいのだが」
「ああ、そういうことか……ええと、飯食いながらでもいい?」
「構わぬよ。こちらはお願いしている立場だしな」
 見た目からは想像しづらい古風な口ぶりで、それでいて幼いくりくりとした瞳が少年を見上げる。
 手に持ったレジ袋から菓子パンを取り出し、少年は噂話か……と首を傾げる。
 今身の回りでよく話されてる噂話といえば――。
「となれば、あれかな」
「あれ?」
「んー、最近さ……人が消えるって噂の場所があるんだよね」
 もそもそと菓子パンを頬張りつつ、少年は言う。この学校の近くに、そう噂をされている場所があるのだと。
「自転車で10分ぐらいの場所なんだけどさ、古びた神社があってさ……結構大きな神木とかあるとこなんだけど、結構寂れてて――」
 お茶でパンを流し込みつつ、少年は笑う。あまり人に説明をするのは慣れていないのか、余計な情報も多いのだが彼はどうやらその場所をよく知っているらしい。
「寂れてるとこってさ、結構たまり場になったりするんだよね」
「人が来ない場所故に、だな」
「そうそう。不良とかがたまり場にする場合もあるし……その神社の場合だとデートスポットってとこかな」
「でえとすぽっと――逢引き場所だな」
「逢引き……ああ、うん。とにかく2人っきりになれる場所ってこと」
 やけに古風な言い回しをするものだと首を傾げる少年に、何故首を傾げているのだろうと百々もまたこてんと首を傾げる。
 互いに首を傾げている姿が面白かったか、どちらともなく笑いが漏れ。
「で、場所がやっぱり神社だからさ。それまでにも色々噂とかがあってさ。その神社で告白したら絶対OKがもらえるとか、幸せになれる、とかさ。割といい感じの内容が多かったから、急に人が消えるっていう内容の噂が流れ始めたからびっくりしたんだよな」
「その噂、詳しく聞くことは出来るか? 出来ればどういう状況かも」
「いくつか俺が聞いたのだと……俺の友達とその彼女が神社に来たんだけど、既に逢引き中のカップルが居たんだってさ。2人っきりになりたいから来たのに、2人っきりになれないんじゃしょうがない……2人は帰ろうとしたんだが、そこで気づいたらしい」
「気づいた? それは何に」
 百々の先を急かすような瞳が少年を射貫く。
「宝物殿……所謂倉庫っていった方がわかりやすいか。そこの扉が開いてることに」
「……まさか忍び込んだのか? 罰当たり……というか犯罪だな」
 呆れたようなため息を漏らす百々に少年は苦笑を浮かべ、俺も聞いた話だからと取り繕う。
「中は結構広かったらしくてさ、少し手分けして探索してみようって話になって……暫くすると、探索してたはずの彼女が居ないことに、彼氏が気づいたわけだ」
「飽きて帰ってしまったのではないのか?」
「彼氏もそう思ったらしい」
 けど、と少年は顔をしかめる。
「彼女に連絡するも反応はなし。電話もアプリもな。挙句に翌日から学校にも来なくなっちまったもんで、『彼女が消えた』ってなったわけさ」
 話を聞いている分には、彼女が消えたと判断するには少し話の飛躍があるように感じる。そう思った百々は、言葉を選びながら質問を重ねる。
「……つまらない逢引きに、彼女が拗ねて帰っただけではないのか? 学校にも行かないぐらいに」
「俺も最初はそう思ったよ。でもその後のことを聞いてゾッとしたね」
 食べ終わったパンの袋をぐしゃぐしゃと丸め、少年はまるで怪談を話すように声のトーンを下げる。
「不審に思った彼氏は、彼女の家まで行ったのさ。そして言われたらしい――『そんな子はいません』ってな」
「……『彼女が消えた』」
 ごくり、と百々の喉が鳴る。
 ああ確かにそれは――人が消されたのだ。邪神の何かに巻き込まれて。
「……つっても、別に大事になったりしてないし、そいつの作り話だったのかもな。その後の話とか全然聞かないし、そいつもケロッとしてたしさ。でもそんな話がいくつかあって、どんどん噂が広がっていったんだよ」
 それらはきっと……事実なのだろう。
 しかしその邪神の影響か……徐々にその消えた人物のことが忘れ去られていったのだ。
 今こうして話をしてくれている少年の、その友達の彼女も。
「なかなか面白い話だった。礼を言う」
「どういたしまして。ああそうそう、気をつけて帰れよ。最近物騒だから――あれ?」
 しゃなり、と頭を下げた百々の様子に照れて顔を背けた少年であったが、再度百々の方へと向きなおったときには既に百々の姿はなく。
「……今度は女の子が消えた」
 狐につままれたような様子で、校舎へと戻っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンチ・アンディファインド
……っち、めんどくせぇ
あのグリモア猟兵が用意していた服を着たら、動きやすいよう適当に着崩す

真面目に聞き込みなんざオレには向いてねえ
校内で授業やらサボってたりする柄の悪そうな連中を探す
暇を持て余してる輩ならこういう噂も耳に入れる事も多いだろうしな

おい、お前ら
テメーらの知ってる噂について教えろ

素直に話さねー時は力で穏便に脅せるしな



【アドリブ、他の方との絡みも歓迎】



「あぁ、くそっ……動きづれぇ……」
 一度はちゃんと着た制服を着崩しながら、アンチ・アンディファインドはそう愚痴をこぼす。着慣れぬ真新しい制服はドンドンとぐしゃぐしゃにしわが付き、ようやく納得がいったのか満足気に口元をつり上げ歩き出す。
 向かうのは校舎裏――ようは『似た者』探しというわけだ。
「おーおー、どんなとこにもいるもんだな。おい、テメーら」
「あぁ? んだ、テメェ」
 校舎の死角となる場所にたむろしている少年達を見つけ、アンチは馴れ馴れしくそして太々しく声をかける。当然そんな声掛けをすれば、所謂『不良』と呼ばれる少年達は苛立った声と共にアンチを囲む。
「偉そうに声かけてきやがって……テメェ見ねえ顔だな」
「そんなことはどうだっていいんだよ。オレの聞くことにだけ答えろ」
 少年達のガンつけにも一切怯んだ様子をみせず、アンチは面倒くさそうにうんざりと眺めるだけ。……今までくぐってきた修羅場の数が違うのだ。殺し合いも体験したことのない少年達のすごみなど効くはずもない。
「うるせぇ! おいお前ら、やるぞ!」
「泣いて詫びの一つでも言わせてみろ。お前らに出来るんならな」
「この野郎……!」
 殴りかかろうとする少年を胡乱な目で見つめながら、アンチは一度退屈の籠ったあくびをするのであった。

 ――そして暫しの時間が過ぎ。
「……っち、いい加減気は済んだか? めんどくせぇ」
「ひっ、ひぃっ……ま、参った! だからこれ以上は勘弁してくれ!」
 のびている少年の1人を足で踏みつけ、まだ意識のある不良少年を見下ろすアンチ。既に戦意を喪失している不良少年達は、腰を抜かしたように後ずさりながら許しを請っている。
 アンチを囲んでいた不良達はほんの少しの時間で全員簡単にのされてしまっていたのだった。
「聞きたいことにだけ答えりゃ許してやるよ。お前ら最近流行ってる噂のことについて教えろ」
「噂って……な、なんの噂だよ――ですか」
「おい、あれじゃねぇか? 神社の」
「あぁ、あの……ちっ、あれさえなけりゃ、タッくんが……こいつにも、もしかしたら勝てたかも――」
「あぁん……? 一部聞き捨てならねえが、話してみろ」
 力量差を見せつけられてもまだ勝ち目があると思い込んでいる馬鹿馬鹿しさに、アンチはうんざりとしながらも先を促す。
「あれは先月ぐらいだったか。俺達のつるんでたヤツにタッくんって喧嘩の強いやつがいてさ、一度暴れだすと手が付けられねぇ狂犬って有名だったわけ」
「んでそれだけ強いと、女にもモテんだわ。そりゃもう俺らの界隈の女なら、選びたい放題っつーか」
「その中でもタッくんがベタ惚れしてた『サチ』って女が居て……いや、居たってタッくんは主張してたんだけど」
「あぁん? なんだか歯切れが悪いじゃねぇか」
 顔を見合わせどうしたものかといった様子の少年達に、アンチが眉を寄せる。説明をするつもりがないというよりは、どう説明をするべきかを迷っているといった少年達の様子に「いいから話せ」とアンチは続きを促す。
「居たって主張してるのはタッくんだけで、俺達はみんなそのサチって女を知らねぇんだ」
「けどある時、タッくんが『神社でサチに急にフラれた! 俺はもうダメだ!』って騒ぎだして」
「俺達が『サチって誰だ』って聞いたらとんでもないものでも見るような目で見られたよな」
「挙句に翌日になれば『思い出せない! 俺が好きだったはずのやつの、顔も、声も、名前も――頭がイカレちまいそうだ!』っつって暴れだしてさ。あれのせいで何人か怪我するわ、当の本人は塞ぎこんじまって今じゃ引きこもりだぜ」
「なんだそりゃ……」
 怪訝そうな表情を浮かべながらも、アンチはゆっくりと考えを巡らせる。
 おそらくそのサチという人物は消されたのだろう。今猟兵達が追っている邪神事件に巻き込まれたことで。
 そして推測するならば、そのサチという人物の記憶までも消えていったのではないだろうか。それこそ関係の薄い間柄なら一瞬で、よほどの執着心がある親密な間ですら翌日には。
(「……ああ、胸糞わりぃ」)
 目の前でタッくんとやらがどんな様子であったか語る少年達に他意はないのだろうが、邪神の振り撒く影響の強さを感じアンチの中に苛立ちが積もっていく。
「他に知ってることはねえか。些細なことでもいい」
「あとは……フラれたときに、そのサチって女が古い鏡を持ってたとか言ってたような」
「古い鏡?」
「そうそう。なんか神社の宝物殿で見つけたとか言ってたよな」
 神社の中に仕舞われた古い鏡――組み合わせとしてはおかしなものではないが、邪神の手掛かりになるかもしれないとアンチは考えを巡らせながらその場を離れていく。
 これ以上聞き出せることもないだろう。
「お、おいっ、どこ行くんだよ」
「オレは用事が出来た。あとは好きにしろ」
 そう一方的に告げ、アンチは校舎裏から立ち去っていく。残された少年達は、呆然とその背を眺めていることしか出来なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

勘解由小路・津雲
※アドリブ・連携等歓迎

高校、か。年齢的に非常勤講師として潜入するあたりが適当か。サムライエンパイア出身ゆえ、古典の授業ならある程度は……。

【行動】
ということで教師として潜入。高校生活は慣れてしまえば同じ毎日の繰り返しのように感じられ、新しい教師などの変化は歓迎されるはず。飽きられるまではな。

授業中、話の流れで雑談などをし「そういえば、前にいた学校の近くの公園にはカップルで乗るとわかれるなんて噂のあるボート乗り場なんかがあってね。ああいうのはどこでもあるものかねぇ」など餌をまいておこう。

後は放課後教室で作業をするなど生徒が話しかけやすい環境を作り、待つとしよう。可能なら他の猟兵のサポートも。



「それじゃあ解説はこれぐらいにしようか」
 非常勤の講師として潜入した勘解由小路・津雲は、頼まれていた古典のプリントの説明を終えると交流時間と称して生徒達と雑談を開始する。
 ヤドリガミの身なれども、あまり着慣れぬスーツに身を包みこうして教壇に立てば、何処にでもいる講師に早変わりだ。
「先生ー、何か面白い話してよー」
「なかなか難しい注文だねぇ。そうだな……」
 考えるそぶりをみせる津雲は、どうすれば生徒達の興味を引けるかを意識しつつ口をひらく。
 上手く乗ってくれればいいけれど、そんな思いを穏やかな表情の奥に隠して。
「先生の前いた学校の近くの公園には、カップルで乗ると別れる……なんて噂のボート乗り場なんかあってね」
「あー、なんかありがちなやつじゃん」
「それ本当だったのー?」
「さぁどうだろうね。確かめたことはないから。けれどみんな楽しそうに噂をしていたよ。……ああいうのは、どこにでもあるものかねぇ」
 君らもなにか似たようなのでも知ってるか? と津雲が生徒達に振れば、生徒達は顔を見合わせ微妙そうな表情を浮かべる。雑談とはいえ教師にするような話ではない、とでも考えているような様子ではあったが、津雲が非常勤であるという事実もあってか生徒の1人が声をあげる。
「先生は知らないの? 神社の噂」
「神社の噂か。一応軽く耳にはしたけれどな」
 他の授業の際などでも、神社についての噂は軽く聞いてはいる。
 曰く、恋人が豹変した話。
 曰く、恋人が姿を消した話。
 曰く、恋人の名前すら忘れてしまった話。
 どれも突拍子もないような話でありながら、どれもが邪神による影響の真実をはらんでいた。
 それ程に多くの人が関わるような、大きな噂になってしまっているのだ。
「やっぱ先生も知ってるよね。よくあんな気味の悪い宝物殿に近寄りたがるなって思わない?」
「あぁ……言われてみれば、噂の大半は宝物殿に忍び込んでるんだったな」
 今まで聞いた噂話を思い返してみれば、その多くは宝物殿で起きた出来事ばかりである。
 これは場所が絞れてきたかもしれないな、と津雲が笑みを深めていることに生徒達は気づかず、口々に雑談がすすんでいく。
 一度興味のあることに火さえつけば、こうして向こうから情報が舞い込んできてくれる。そんな人間のかしましさに、ほんの少し苦笑も混ざってしまうのだが。
「あそこの神社ってさ、今は寂れてるけど昔は結構立派だったんだってさ」
「あー、俺もそういや爺ちゃんに聞いたことあるな。だから宝物殿とかもでっけぇんだよな……」
「中って結構貴重なものありそうじゃない? 泥棒とか入ってもおかしくないよね。……聞いたことないけど」
(「泥棒、か。もしも人を消す邪神の何かが宝物殿にあるのだとすれば、もしかしたら今までに人知れず消された泥棒もいるのかもしれませんね」)
 それは証拠も何もない想像だけの推測ではあったが、おそらくは外れてもいないだろうなという確信めいたものを津雲は感じていた。
「でもいくら寂れてるって言っても、管理人ぐらいいるだろ?」
「んー、地元の組合がやってるって話は聞いたことあるけど……」
「正月とかそういうとき以外は人居ねぇもんな。宝物殿が開けっ放しになってんのも知らねぇんじゃないか?」
 呆れた管理体制に津雲は眉を寄せ、眉間に寄った皺をとんとんと指で叩き解す。こうして邪神事件に巻き込まれる人間が多く出ているのは、その管理の杜撰さも原因の1つのような気がしてならない。
(「後で調べに行くには好都合ですが、あまり好ましい状況でもありませんね」)
 はぁ、と思わず漏れそうになる溜息を飲み込み、一応は教師として……そして猟兵として生徒達にくぎを刺す。
「火のないところに煙は立たないともいうからね。噂になるってことは何かしら原因があるのかもしれない――事実か事実でないかはともかく、あまり不用意に近づかないように」
「はーい」
 お堅い大人の、教師の言葉を聞き流すかのようなおざなりな生徒達の返事に、津雲は思わず本業の講師達に同情を寄せる。警告の言葉とは、こうして虚しく消えていくのだと実感したからであった。
「……さて、そろそろ授業時間も終わりか。先生は空き教室にいるから、わからないことがあればいつでも来てくれ」
 荷物を纏め教室を出た津雲は、授業の雑談で集めた情報を纏めながら静かに廊下を歩く。
「やはり……神社に行ってみるしかありませんね」
 誰にも聞きとがめられぬほどの小さな声が廊下に消える。
 講師としての顔を一枚剥がせばそこには猟兵としての顔が、静かに自らの出番を待つように見え隠れする。
 生徒達には終ぞ見せることのなかった、退魔師としての顔が表に出るのも――時間の問題なのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
…………これ、着なければならないの?
全く、いつかあなたと食事を共にした時にはこんな事を頼まれるなんて想像もしていなかったけれど。

……通っているものたちの年代を考えれば、女学生に身を窶すべきね。
校内に侵入して、調査しましょう。
……最も、日傘だけは手放す訳にはいかないけれど。

既に、人が消えているにも関わらず、騒ぎにもなっていない、だなんて。明らかに異常だわ。

生徒に直接、噂について確かめましょう。
最近、いなくなった人はいるのか、こういう噂を知っているか……関係ありそうな事を片っ端から。
本人たちが気付いていなかったとしても。予知にかかった以上は、「何かしらの違和感」が、必ずあるはずなのだから。



「……全く、こんな服を着ることになるなんて」
 ぶつぶつと文句を言いながら、午後の日差しが差し込む廊下を歩いているのはミーユイ・ロッソカステルである。
「……こんなことを頼まれるとは想像もしていなかったわ。高校なんて卒業している歳だというのに」
 普段着ている豪奢なドレスに比べ短いスカートに少々の戸惑いを隠せない様子をみせているが、試着室でついポーズまで取ってしまっていたことはここだけの秘密である。女性たるもの、普段着ることのない服の着こなしには敏感になってしまうものなのだ。
 室内にも関わらず手放すことのできない日傘を手慰みに回しつつ、今日一日で手に入れた情報を整理する。
 一番の収穫は――消えた人物に限りなく近い関係だった人物から、直接話を聞くことが出来たことだろう。
 肝心のその人物自身は、消えた人物のことはすっかりと忘れてしまっていたのだが、神社に行ったことは覚えていたようである。
 もっとも話の内容はといえば――。

『ねぇ、あなたはその神社で何をしていたの?』
『俺達は――いや、俺は宝物殿の中に肝試し感覚で入ってさ、薄暗い中ぎゃあぎゃあ騒ぎながら歩いてたら、いつの間にかあいつが居なくて俺1人……あれ、俺は元々1人で宝物殿に――なんで宝物殿なんかに』
『……落ち着きなさい。言っていることが滅茶苦茶よ』
『俺……なんで宝物殿なんかに入ったんだ? ダメだ、思い出せない……頭が割れるように痛い……!』
『……これ以上は聞けそうにないわね』

 錯乱一歩手前になった少年との会話を強引に打ち切り、保健室へと放り込んできたのは今しがたである。いっそ空いてるベッドに自分も寝てしまいたい気持ちにもなったが、隣で錯乱している人間が居ると安眠できそうにもなく我慢をした。
「……状態を見る限りなら、忘れている記憶に関して矛盾は大きいみたいね。ただ矛盾に気づいて思い出そうとしても、さっきの子みたいに居たはずの人物が記憶からすっぱりと消されてるせいで錯乱してしまう……といったところかしら」
 厄介ね、と手袋に包まれた爪を軽く噛む。これでは近しい人物を見つけたとしても、ろくに話も聞けやしない。むしろ当事者よりもその周りの友人達から話を聞く方が、有意義な情報を得られるかもしれない。
「……ああ、でも。宝物殿の中の出来事を断片でも聞けたのは助かったわね」
 錯乱する少年を保健室へと連れていく最中のことである、少年は何度もうわ言のように宝物殿の内部であったことを呟いていたのだ。
『薄暗い部屋の中で……小さな鏡……小さな鏡があって――目を離したら、急に光って……光ってどうしたんだ? 何が……思い出せない……何かがあったはずなのに……! 鏡が――鏡の中に――!』
 錯乱している人間の言葉を鵜呑みにするのは自分でもどうかと思いはするのだが、少年が何度も繰り返す『鏡』が今回の事件の鍵となっていることは、おそらく間違いはないだろう。
 宝物殿を探索している際に、内部にあった鏡が何かしらの反応を――少年の言葉を信じるならば、光って『何かが』起きたのだ。
「鏡が反応したとするなら……その条件は何? きっとなにか、条件があるはず――」
 憂いを瞳に乗せたような表情で、ミーユイは被害者達の共通点を探る。
 もっとも被害者達は既に消されており、本人達を直接確認することは叶わない。困ったように髪を指先に巻き付けていたミーユイであったが、ふと自身の長い髪から一つの着想を得る。
「……消されている人達って、もしかしてみんな――女性なのかしら」
 思えば学内で集めた噂の登場人物も、今さっき会ってきた人物も、消されなかった側はみな男性なのである。
 女性が消されず残されたパターンの噂は、未だに1つも聞いてはいない!
「もしこれが事実だとすれば……恋人同士という条件も、怪しいものかもしれないわね」
 儀式の条件から外れている男性が残されたというだけであって、実際は女性1人でも起動してしまう儀式の可能性もある。
 ――そこまで考えて、ミーユイはそっと首を振る。
 今こうして考えている推測も、所詮は推測の域を出ないものだ。
 いくつか取るべき選択肢を増やすことは出来たものの、あとは実際に足を運んで試してみるしかない。
 それらはきっと……危険を伴うものとなるだろう。
「……けれど、やるしかないわね」
 放っておけば、これからも犠牲者は増え続けることだろう。
 例え直接消されずとも、保健室に放り込んできた少年のように心に傷を負う者も出るだろう。心に傷を負ったということすら気づかぬままに。
 ――別れの大事さを知るが故に、失う悲しみすらも奪われるということをミーユイは決して許しはしない。
 桃色の髪を揺らし、少女はそっと校外へと向かっていく。
 向かう先は――噂の本丸、神社である。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『人が消えるデートスポット』

POW   :    探偵気分でしらみつぶしに探し回る

SPD   :    デートスポットっぽい場所を訪れる

WIZ   :    とにかく違和感のある場所を探る

👑11
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 高校での情報収集を終えた猟兵達は、集めた噂に従うままに神社へとたどり着く。
 幸いにも神社で逢引きをしているカップルはいないらしい。
 まだ日の落ちる時間ではないにもかかわらず、神社には人の気配はなく。不気味な静寂と共に猟兵達を待ち受ける。
 見れば噂の通り、宝物殿の扉は無造作に開かれている。
 ……それは噂を集めてきた猟兵達を、誘っているかのようでもあり。
 はたして猟兵達は邪神の儀式にたどり着くことが出来るのか。
天御鏡・百々
宝物殿に鍵もかけぬとは不用心な……
しかし……鏡か
同族が邪なる神に利用されているならば、壊してでも止めねばならぬな
それがもし邪神そのものなれば、言うまでも無い

さて、人を消すという話だ
少々対策して調査するとしようか
『鏡の中より出づる者』で我自身を映し出し
我の鏡像体を鏡の中より呼び出そう

宝物殿の調査は、呼び出した我が鏡像体中心に行うぞ
不可思議な力で消えるにしても、鏡像体を囮とすれば安心だ

もしも男性の猟兵がいるのであれば、
その者に鏡像体を同行させよう
さすれば男女二人の条件も満たせるな
流石に恋人同士よりは親子に見えてしまいそうではあるが

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎


勘解由小路・津雲
 さて、場所は神社の宝物庫、消えるのは女性、手がかりは古い鏡。目を離したら光った、というのもあったな。

 これまでの話を聞く限り、偶然宝物庫に入り込んだ人間が被害にあっているようだが……噂自体意図的に流して人を呼び寄せているのなら「偶然」とは言えないだろうが……、レクスからは邪神の儀式を阻止してくれといわれたな。何かまだおれ達の知らない情報があるのか、それともこの噂話の流布自体が儀式なのか? 

 いずれにせよ、神社に行けばわかるだろう。……女性でないと異変が起きないなら、ちと困るがな。

【行動】 神社に行き、宝物庫に忍び込み、鏡を探す。見つけたら眼を離さぬよう監視しながら、何か異常がないか調査する


アンチ・アンディファインド
【WIZ】

確かアイツらは鏡がどうのとか言ってやがったな
真っ当なご神体とやらならご丁寧に分かりやすく飾りでもしてあんだろーが

クソUDCが絡んでんだ
罠らしく見つけやすいようになってんのか、バレねーように隠してあんのかのどっちかだろ

どっちにしろ、見つけだせば問題ねえ
箱やら棚を片っ端から開けて探し回る
なければ次は部屋を虱潰しだ、壁や床の中に隠してあるかもしれねえ

見つけ出したら、ぶち壊す……といきたいとこだが、そうも簡単にはいかねーか
っち、めんどくせぇ
ぼやきながら鏡を触るなりなんなりで調べてみるぜ

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】



 日の差し込む箇所が少ないのか、薄暗い宝物殿に足を踏み入れた猟兵達。入口同様に内部も管理が行き届いていないためか、物が散乱する有り様に百々は愛らしい顔をしかめる。
「宝物殿に鍵をかけぬのも不用心だが……大事にされていない物達が不憫だな」
 袖を口にあて埃が口に入らぬようにしながら、それなりの年月を経ながらも朽ちていくばかりとなる『宝物達』に憐れみの情が沸く。
 埃舞う宝物殿に放置され、日中は入り口からの日差しに焼かれる。
 長い時を経た物からすればそれは地獄とでもいうべきものであろう。
(「狭い世界ではあったが、我は大事にされていたのだな……」)
 外に憧れた少女であったが、自らのかつての境遇と比べずにはいられないほどに、顧みられない物達の姿は悲しいものであった。
「まずは……鏡か」
 自らの本体である神鏡を軽く撫でながら、百々の心中は複雑であった。
 もしも同族が利用されているのであれば、救ってやりたくもあるが――多少手荒な真似をしてでも止めねばならぬという決意が心を重くする。
「あまり気負い過ぎるな。察するにあんたも鏡に縁があるようだが、探す前から気を張ってると長丁場は持たないだろう」
 小さな少女を見下ろしながら、津雲もまたさりげなく首から下げた鏡を撫でる。
 そして少し考えたようなそぶりを見せ。
「子供は小難しく考えなくていい。そういうのは大人の仕事だろう?」
 だから大人に頼れ、と百々を安心させるため、ニヤリと笑みを浮かべる。
 かつてのあの人ならば、こう答えただろうか――そう心の片隅で亡き主の在りし日に思いを馳せながら。
「とはいえだ、この中から探すのは少々骨が折れるな」
「ややこしい事考えてんじゃねえよ」
 乱雑に……それでいて物を壊さぬ程度には加減をしながら、アンチが手近な棚を引っ張り出す。
「いいか? 難しく考える必要なんてねえんだ。クソUDCが絡んでんだ、その鏡ってのがキーになってんだとしたら、それは『罠らしく見つけやすいようになってんのか』、『バレねーように隠してあんのか』のどっちかだろ」
「ほう、そう考える理由は? 少々興味があるな」
 色褪せた反物を仕舞いながら、アンチは眼帯に隠されていない瞳を胡乱な目つきに変えながら津雲を見る。
 誠実そうな顔立ちの男がどこか面白がるように自分を見つめる姿に、アンチはどこか居心地の悪さと少々の苛立ちを覚えながらも自らの経験則を語る。
「偶然に見つかってるもんなら、そもそも見つかるところにねえと罠にもならねぇ。もしくはクソUDCのヤツが噂を流してるんだとしたら、興味を煽るように隠されてねえとスルーされちまう」
 埃まみれの葛籠を足でそっと開ける。中に入ってるのは虫食いになったボロボロの書物――ハズレだ。
「なるほど、その考えももっともだな。今でこそ偶然宝物殿に入り込んだ人間が被害にあっているようだが……始まりがそうであったとは限らないか。まずは宝物殿に忍び込み、鏡を探すように仕向けた噂を流した可能性もある――か」
「さぁな。そんな大層なことはどーでもいいだろうが」
「儀式の内容を推測するには重要だと思うが?」
「……っち、めんどくせぇ」
 思考を放棄し探すことに集中し始めたアンチの姿に、津雲は小さく苦笑を浮かべる。ぶっきらぼうな物言いではあるが、アンチなりに出来ることをやるということなのだろうと津雲は理解する。
 くいくい。
 くいくい。
「――うん?」
「我達も調査をするとしようか」
 袖を引く感触に振り向けば、心なしかうずうずとしたような顔の百々が見上げており。そしてさらによく見てみれば――。
「ああ、そうだが――あんたは本当に百々か?」
「……気づくのが早すぎてつまらぬな」
 不満そうに頬を膨らませる百々と――柱の陰からひょこと顔を出すもう1人の百々。
 いつの間にやら2人に増えていた百々は、ぽこぽこと小さく握られた手で津雲の膝を打つ。2人がかりで攻められる津雲は、宥めるように百々達の頭を撫でる。
「どうして気づいたのだ?」
「なに、簡単なことだ。確かにあんた達は瓜二つの見た目をしちゃいるが……こいつがな」
「あっ」
「髪飾りが左右逆になってるのを見れば、おれとしては間違う理由がない」
 津雲の両の手が、百々達の左右逆転した髪飾りに優しく触れる。
 まるで鏡の中から抜け出してきたかのような、完全に真逆となっている姿を見れば、同じく鏡を本体とする津雲からは間違いようがないというものである。
「むぅ……仕方ない。バレてしまったならばそれまでだ」
 種明かしをするならば――先に津雲に話しかけた百々は、鏡像として百々本体から呼び出された分身とでもいうべきものであった。
「さぁ、我等も調査を始めよう」
 鏡像の百々が津雲の手を引き宝物殿を歩き回る。
 小さな少女に連れ回されている大の大人という光景は、噂になっていたカップルというよりかは親子といった様子ではあったが、これも男女2人という条件に近づけるにはちょうど良いのかもしれない。
 なお本体の百々はといえば、入り口の段差に座って足をぶらぶらと遊ばせている。
 鏡像の百々を囮にすることで、本体の百々は安全である――理屈の上では納得できるようなものであるが、それに引き回されている津雲や1人で探し回っているアンチの安全は度外視されている点がミソである。
「おい、てめぇら! 遊んでんじゃねえぞ!」
「我は遊んでいるわけではないぞ!」
 すっかり埃まみれになってしまったアンチが吠えるが、百々としても別に遊んでいるわけではないので頬を膨らませ反論する。間に挟まれた津雲はやれやれと肩をすくめることしか出来ない。
「っち、いっそこの辺の物全部ぶち壊しちまえば楽なんだろうが――」
 頬を流れる汗を拭いながら、埃混じりの咳を吐く。
 すっかりと黒く汚れてしまってきているアンチの傍らには、既に何枚かの鏡が置かれている。
 黙々と虱潰しに捜索していた結果ではあるのだが、神社の宝物殿という特殊性か、鏡自体が複数枚出てきてしまいどれが該当の鏡なのか……それともこの中にすらないのかも分からぬまま、探し続ける羽目になっていた。
「もう割れてるのもありやがるな……っち、物を大事にしねえ連中だ」
 既に割れてしまっている鏡は怪我をせぬよう近くにあった布で包み、残った鏡をしげしげと眺める。
 どの鏡も手入れがされていないからかくすんではいるものの、磨けば綺麗になりそうなものばかりである。
 手鏡のようなものもあれば姿見のようなものもあり、どれも本来であれば上質なものであるのか、縁の部分の装飾が凝っていたりよく見れば鮮やかな彩色がされていたりと、どれも本来であれば宝物殿にあるべき品々ではある。
「くそっ……どれが例の鏡なんだ」
 触るだけではなく割らぬ程度に叩いてもみるが、どの鏡も何の反応も示さない。
 何か条件でもあるのだろうかと腕を組み噂を思い返すが、ピンとくるものがないのか苛立たし気に髪を掻く。
 UDCは必ずすべて殺す。
 その意志を持ってやってきたアンチにとって、近くにいるにもかかわらず手を出すこともできない今の状況は、まるで拷問でも受けているかのような苦しみすら伴うものであった。
 相手の尻尾を掴みこうしてその本丸まで攻め込んだにもかかわらず、肝心のUDCの姿がどこにあるのかもわからない。
「あの連中、もっとマシな情報をよこしやがれ……!」
 校舎裏でしめた連中を思い出しながら思わず毒づくアンチであったが、そうは言うもののあれ以上の情報が取れたとも思えず、ただただやり場のない怒りをぶつけることも出来ずに煩悶とするしかないのであるが。
「アンチ殿は何を悶えておるのだ」
「さぁな。どうだ、棚の上は何もないか?」
「埃ばかりだな。それにこんな高い場所にあったとして、忍び込んできた者達が見たりはしないと思うぞ」
 脇の下から抱えあげられていた百々の鏡像が、コンコンとせき込みながら桐箪笥の上を見渡す。しかしそんな上に鏡が置かれているはずもなく、煤のついた頬を袖で拭いながら百々の鏡像は疲れたようにため息を漏らす。
「確かに虱潰しで探してはいたが、被害者がふと見つけられる程度の場所……となると、多少は探す場所も絞れるか」
「津雲殿は、身長はいくつほどなのだ?」
「いくつだったか……170ぐらいだったか」
「十分だな。その状態で見渡せる範囲の中にあるものだけでいいだろう」
 落ちていた祓串を振りながら、鏡像の百々はそう結論付ける。
「灯りでも持ってくればよかったな。鏡なら光を反射して見つけやすかった」
「それは普通の鏡なら、だろう? 我等の探している鏡は、普通でないかもしれんのだ。それにどの道褪せた鏡は輝きを失ってしまっているぞ」
 目をすぼめるようにして周囲を見渡す津雲の言葉を、百々は切って捨てるように断ずる。
「こんな荒れた宝物殿に置かれる宝物の気持ちとはどんなものなのだろうな。邪神に関係がないものが大半とはいえ、人の目に留まることなく朽ちていくだけの未来。外の世界に飛び出すことも出来ず、忘れ去られいつかは壊れてしまう――ここが人が消える宝物殿であるのは、我等は理解していたが……その実、物も消えていく宝物殿なのやもしれぬな」
 ヤドリガミであるが故に、百々は宝物殿に眠る物達へと寄り添う。
 丁重に扱われてきた百々からすれば、この宝物殿はまるで……墓場だ。
「同情しているのか」
「かもしれぬ。我等はヤドリガミにでもならぬ限り命なきものではある。だがこの場の物達は、貴く生まれたにも関わらず大事に扱ってもらうことも出来ず……まるで命を簒奪されたかのようだ」
 鏡像とはいえ少女の瞳は悲しみに揺れる。
 そしてもう1人のヤドリガミの青年は、小さな同族の悲しみを目の当たりにし、今は亡き主『当代の勘解由小路』の道具であった自身を振り返る。
 勘解由小路家に代々伝わってきた呪具であった自身は、何代にも渡り使い続けられた鏡に過ぎなかった。
 幾人もの主が死に、志半ばで散っていった者達も1人や2人ではない。それが当たり前とさえ思っていた――嗚呼、それなのに何故。
 何故『私』はあの人の遺志を継ぎたいと思ったのだろう。
 ふと目についた場所に置かれていた鏡を見つけ、津雲はそっとその表面を撫でる。
 かつてのあの人が、自分にしてくれていたように。
 ――嗚呼、そうだ。
 物は大事にされるからこそ命を宿す。
 『私』は『あの人』にこうして命を貰ったのだ。
 そしてこの場の宝物達には、そうしてくれる人が居ないのだ。
 なんと……なんと悲しい事なのだろう。
 この場に来て、初めて津雲に同情の念が沸いた。
「このような場だからこそ……邪神は己の儀式の場に選んだのかもしれんな」
 返答を求めるでもない小さな呟き。
 その小さな呟きだけが、そっと埃塗れの宝物殿に染み渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
宝物殿……ここね。

校内探索は終わりとなれば、いつまでもあの服に袖を通している意味もなく。
いつのまにやら、いつも通りの豪奢なドレスを身に纏い、噂の中心地へと。


消されたのは、女ばかり……というのは、もう調べがついてる。
機動の鍵は何か……と、考えれば。
そう、ね。鏡なのだから……やはり、「写り込む」のが、正しい使い道。
消えたのは一般人だもの、UCを使うこともなければ、特別な知識があったとも思えないし……「偶然に写り込んでしまった」のはありえる話。

写り込んだ瞬間、抵抗する間もなく存在を消されてしまう……と、言うのなら、お手上げだけれど。
……それでも、やってみる価値はあるわ。

さぁ、私を決して御覧なさいな?


浅葱・シアラ
ひぁ……!
この神社、絶対怪しい……
人が近くにいないし、宝物殿の扉が開いてる……


【WIZ】で判定
怖いけど……やっぱり怪しいところを調べて行かなきゃ……!
やっぱり本命は宝物殿の中だよね

生徒会の人はデート中に消えたから噂になったって言ってた、でも一人で消えてる可能性もあるって
だからシア一人でも調べてみる……!

鏡……やっぱり鏡が怪しいよね?
割る、わけにはいかないから……

ちょっと刺激与えてみようか?
割れない程度に軽ーく、コンコンって叩いてノックしてみよう

それでもだめなら、鏡に映りこんでみよう
鏡が何かあるなら映り方がきっとおかしかったりするはずだから……!



「この鏡をどう起動させるか、ね。鏡なのだから――」
 皆が見つけてきた鏡の一枚を手に取り、ミーユイは自身を映すように掲げる。
 くすんだ鏡の表面に、どこか眠たそうなピンク髪の少女が現れ見返してくる。高校に潜入するために来ていた制服は既に脱ぎ、普段使いの豪奢なドレスに着替えた可憐な姿は、曇った鏡に映る姿であれど曇るものではない。
 ……だが、それ以上の反応はなく。
「これじゃないのかしら」
 ため息交じりに鏡を置く。周りで身構えていた猟兵達も、何も起きないことで気が抜けたのかそっと息をはいている。
(「おそらく使い方は間違っていないはず……鏡に使い道があるとすれば、それはやはり映りこむということ。一般人が邪神絡みの鏡を使う特殊な知識なんてあったとも思えないし……」)
 ならばやはり、この鏡ではなかったのだろう。そう結論付けて次の鏡を手に取っていく。
 だが……すべての鏡を調べたのにもかかわらず、邪神の儀式が発動したような気配はなく、ミーユイの可憐な顔にも困惑の表情が浮かぶ。
「おかしいわ。条件は合っているはずなのに」
 そう。調べた限りの条件は揃っているはずなのだ。ミーユイは考え込むようにして記憶を手繰る。
 この邪神の儀式で犠牲になっているのは、すべて『女性』である。
 だからこそ自分がこうして鏡に映ることで、邪神の儀式が発動するはずであった。
 だが、何も起こりはしない。
「そういえば、さっきは鏡像の子が鏡を集めているときも何も起こらなかったわね」
 そこで思い返されるのは、鏡を捜索していた仲間の少女。探している段階で鏡に映ることもあるだろう……だが、そちらにも反応はしていなかった。
 もっともあれはユーベルコードによって出現していた鏡像だからこそ、鏡が反応しなかったのだと思っていたのだが。
 となると、まだ他にも満たすべき条件があるということなのか。
「やはりカップルで……ううん、それこそさっきの子達のときに反応していないのがおかしいわ」
 一度思考がはまり込むと、新たな発想というものは出辛いものである。頬に手をやり物憂げに溜息をつきながら、何かいい考えでも思いつかないかしら、と鏡の一枚を再度手に取る。
「……あら?」
 そこでミーユイは気づく。先ほどまで見ていたはずの鏡が、1枚消えていることに。
「なっ……いつの間に、どこにっ!」
 慌てた様子で周囲を見渡すミーユイ。だが周囲にはすでに鏡は見当たらず。
「ひぁ……っ!? そーっと、そーっと……」
 焦ったようなミーユイの声を遠くに聞きながら、シアラはびくりと肩を震わせる。
 思わず運んでいる物を落としそうになるものの、引き寄せるようにして守り抜く。
 その手……いや、その身体が抱え込むようにして運んでいるのは、先ほどまでミーユイの傍らに置かれていた鏡の1枚。
 自分でも調べるべく持ち出したその鏡は、シアラの身体と同程度ほどの大きさで、シアラは運び出すだけですっかり疲れてしまっていた。
「はぁ……ふぅ……ようやく持ってこれた」
 きょろきょろと周りに誰もいないことを確認し、シアラはそっと鏡を床に置く。
 1人きりになったのには理由があった。
 猟兵達で調べてきた情報を照らし合わせたとき、ふと考えたことがあったのだ。
 ミーユイは邪神の儀式の起動には、女性でなくてはならないと考えた。
 だがシアラはそこに更に――。
「多分……1人きりにならないといけない……んじゃないかな」
 噂を集めてきた中には、当時その場にいた男性の証言もあった。
 いくつもの噂の証言を調べていく中で、シアラが気になったのは、誰もその邪神の儀式自体を目撃していないということであった。
 有力な証言であっても、すべてその部分は空白。邪神によるなにかが行われた瞬間の証言は、なかったのである。
「えっと……どうすればいいかな……」
 鏡を見下ろしながら、困ったような顔でどうしようかとシアラは悩む。条件はこれで揃ったはずである。あとは起動するだけ……なのだが。
「うぅん……どうすれば起動するんだろう」
 悩んだ挙句にシアラがとった行動は、しゃがみ込んでコンコンとその表面をノックしてみること。
(「刺激を与えてみたらなんとかなるかも!」)
 真剣な表情で、コンコン、コンコン、とあちこちをノックしてまわるフェアリーの少女という構図はいささか奇妙なものではあったが――次の瞬間であった。

『わたし――て――』

 突如どこからか聞こえてきた小さな声。
「ひぅっ……!? だ、誰っ!?」
 びっくりして悲鳴を上げたシアラは、背後や周囲を怯えた様子で確認するも声の主は見つからず。
『わた――を――て』
「ひぅぅっ! ま、またどこからか声が!」
 羽毛が生えていないのに毛羽立ったようにビクリと羽根が震え、既に泣きそうな様子で頭を抱えこむと、声がやむまでぎゅっと目を瞑って小さくなる。
 やがて声がしなくなったのを確認すると、シアラは恐る恐るといった様子で、傍らに置いてあった鏡を見る。
「さっきの、声……この鏡から……だよ、ね……」
 勇気を出して一歩踏み出し鏡に触れる。するとそれを待ち構えていたように、鏡はまた小さなささやき声を漏らし始める。
『わたし を みて』
「わたしを見る……? シアが、鏡を覗けばいいの?」
『わたし を みて』
 問いかけるシアラの声にも、鏡はただ録音された音声を再生するように同じ言葉を繰り返すだけ。
 しばらく様子を見ていたシアラであったが、それ以上何も起きないことをについに折れたか、ごくりと唾を飲み込み鏡の上へと舞い上がる。
「これで、いいの?」
『そう、そうよ。そしてわたしを見るの……わたしを……わたしを……』
 機械的にも思えていた声が、段々と喜びの色を帯びていく。その中に含まれる狂気のようなものを察し、シアラはなかなか直視することが出来なかった。そう。
『さぁ』
『早く』
『早く』
『早く』

「――シアを見て?」

「――――!!?」
 聞き覚えのある声に、弾かれたようにシアラの視線が眼下の鏡へ。
 そこには鏡に映るシアラが、口元を歪ませ邪な笑みを浮かべていた。
「――ぅ――ぁ」
 声をあげることすらできず、何かが……自分の中の、自分であった何かが吸い取られていくような脱力感に襲われ、シアラはそっと床へと堕ちていく。
「ひぅ……かわいいかわいい妖精さん。シア、この身体大事に……ううん、『飽きるまで』は大事にしてあげる」
 鏡の表面から、シアラの姿をした何かが這い出して来る。姿形、そして声までもが同じのシアラのようでシアラでないもの。
 それは勝ち誇ったような笑みで息も絶え絶えなシアラまで這い寄ると、力の入らぬシアラの身体を鏡の方へと投げ捨てようとし――。
「させないわ!」
 次の瞬間。容赦なく突き出されたミーユイの日傘が、映すもののなくなった鏡面を貫き砕く!
 返す振りでシアラの傍から偽物を追い払いながら、ミーユイがシアラを庇うように立ちふさがる。
「ひぅっ! 乱暴なことしないで!」
「それ以上その姿での戯れは許さないわよ。正体を現しなさい!」
 シアラのように怯えた風を装う何かに、ミーユイが怒りの声をあげる。くすり、と普段のシアラであればしないような、妖艶さと邪悪さを混ぜたような笑みを浮かべ飛びずさった何かは、そのまま次第に姿を変えていく。
「はぁ……もう少しでその身体は私のものだったのに。この身体はもう飽きちゃったのになぁ」
 見る見るうちに身長が伸びていき、青い髪は黒に近い茶髪へと染まっていく。愛らしい緑の瞳は血を混ぜたような赤い瞳へと変わり果て、いつの間にか纏う衣装も白のワンピースへと変わっている。
 街で見かけそうな高校生ほどの見た目になったそれは、慇懃にワンピースのスカートをつまみ礼をしてみせ。
「酷いことをする皆々様。ご挨拶といたしましょう。私の名前は……そうね、色々ありすぎて迷っちゃう。だからそう――ユァミーとでも呼んでもらえるかしら」
 先ほど砕かれたはずの鏡を手にしながら、少女はそう自らを呼称したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ユァミー』

POW   :    かつてわたしだったひとたち
【自分が成り代わって消滅させた人達】の霊を召喚する。これは【忘れ去られてしまった嘆きの声】や【忘れ去られてしまった嘆きの声】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    あなたたちにはもうあきちゃった
戦闘力のない【自分が成り代わって消滅させた人達の霊】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【鏡を通じて邪神に喰わせる事】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    つぎはあなたになりたいな
対象の攻撃を軽減する【鏡に映した相手の姿】に変身しつつ、【相手の存在を邪神に喰わせ抹消する事】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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浅葱・シアラ
あなたの脅威……いやというほどわかった……!
だから、貴女を絶対に外に出すわけにいかない……!
シアたちが、ここで貴女を止めるよ……!

使用するユーベルコードは「神薙胡蝶蘭」
シアの存在はシアのもの!
それにシアだけの命じゃない……お父さんやお母さんがくれたシアの命、シアの存在……!
あなたには絶対にあげない!
持っていた鉄塊剣を胡蝶蘭の花弁に変えて。花弁を嵐に乗せて。
嵐に乗った花弁は刃と変わって!
無数の花弁の刃を纏った嵐をシアの周りに発生させれば、相手の鏡には映らないはず!

この胡蝶蘭の嵐で、あなたの鏡も叩き割るから、覚悟して!

存在を喰らって他人に成りすますなんて、絶対に許せない!



「ユ……ァミー……」
「なにかしら? 臆病で泣き虫の妖精さん」
 ふらふらと、まだ足元もおぼつかぬ様子で立ち上がるシアラを、あざけ笑うようにユァミーは首を傾げてみせる。
 シアラの瞳に宿るのは、怒りの色。
 ほんの少しであったとしても、自らの存在を食われたということへの怒り。
 大切な両親から与えられたものを、奪われたということへの――。
「あなたの脅威……いやというほどわかった……!」
 文字通り身をもってその脅威を受け止めた少女は、その怒りのままに力を行使する。
 シアラの鉄塊剣が白い胡蝶蘭へと形を変え、花弁が竜巻のように舞い踊りながらユァミーへと襲い掛かる。しかし――。
「……『シア』も、その技知ってるよ」
「――っ! またっ!」
 胡蝶蘭の花弁に包まれていくユァミーの姿が、またもやシアラの姿へと変じる。白い花弁からその身を守るように、逆回りの赤い花弁が盾のように花弁の刃を防いでいく。
「さあ、根競べというこう? シアの花弁が『シア』を切り裂くのが先か、『シア』がシアの存在を喰らいつくすのが先か!」
「シアの存在は、シアのもの! あなたには……あなたには絶対にあげない!」
 紅白入り乱れる花弁の奥で『シア』が薄っすらと笑みを浮かべるのを、シアラはしっかりとその両の目で目撃する。
 少しずつ脱力していく身体に、怒りという名の力がみなぎるのを感じる。
(「絶対に……負けたくない。存在を真似て喰らっただけで、シアのことを『わかったつもり』になっている、あんな偽物になんて」)
 形だけの偽物は、きっとシアラを模倣することは出来るのだろう。
 だが――きっとあの『シア』は、ユァミーは知らないに違いない。
 お母さんの優しさを。怒るとちょっぴりおっかないところを。手作りの和菓子がとっても美味しいというところを。
 お父さんの可愛さを。お母さんに怒られたときかばってくれるシアに甘いところを。女の子みたいなのに、たまにお友達とすごくばかなことをしてるところを。
 そんな2人に――とっても愛してもらっているということを。
「絶対に……絶対に許さない……!」
 シアラの花弁が一層の勢いを増し、ユァミーの身体を取り囲んでいく。
 赤い花弁は白い花弁に切り伏せられていき、力を凌駕されていくことに『シア』の顔に驚愕が浮かんでいく。
「嘘……存在を喰らわれて、どうしてそれだけの力が!」
「シアのことを知らない貴女に、わかるもんかっ! 鏡に映すだけで、わかったようなつもりにならないで!」
 宙を舞う赤い花弁が白い花弁に駆逐され。
 驚愕を張りつけたユァミーの身体を、白い花弁が蹂躙するように包み込む。
「いやあああぁぁぁっ! 痛いっ! 痛いいいいっ! どうしてっ、どうして存在を喰われているはずなのにっ……!」
 『シア』の姿がユァミーへと戻っていく。
 白い花弁を振りほどきながら、ユァミーは涙の浮いた瞳でシアラを睨みつける。
 変じている白のワンピースは所々花弁に切り裂かれ、少なからぬ傷を負っていることがわかる。
 そしてその手に持つ鏡には――。
「ああっ、傷が……鏡に、傷が……!」
 一筋の傷が、確かに刻まれている。
「まだまだ、こんなものじゃないから! その鏡、叩き割るから覚――悟……あ、あれ……」
 花弁を手繰り追撃の力を振るおうとしたシアラであったが、ふと身体から力が抜けていくのを感じる。
 二度も存在を喰われたことが、ようやく事実としてシアラの身体をむしばみ始めたのだ。力の入らぬ両足を悔しそうに見つめ、そして眩暈を起こしながらも気丈にユァミーを睨み返す。
「は、ははは……ざまぁないね。今度こそ全部喰らいつくしてあげるよ」
 痛み分けとなった事実を確認し余裕が出てきたのか、ユァミーは涙を拭いシアラを見下すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

天御鏡・百々
……鏡そのものが邪神に類するモノか
同族なればこそ、人に危害を加えるのは許しがたい
我が力にて浄化してくれようぞ!

我は真実と未来を映す神鏡なり!
如何に姿を変えようと、我が身(本体の鏡)は貴殿の真の姿を映し出すのだ
『真実を映す神鏡』にて、
相手のユーベルコードを封じ、変身を解除してやろう

そして真朱神楽(武器:薙刀)に破魔の力を乗せて(破魔65)
ユァミーを切り裂き、浄化してくれようぞ

召喚された霊に対しては
破魔を乗せた真朱神楽でなぎ払って(なぎ払い21)
纏めて浄化してくれる

●神鏡のヤドリガミ(本体の神鏡へのダメージ描写NG)
●アドリブ、連携歓迎



「随分と口の悪い同族だな。……鏡そのものが邪神に類するものならば、そんなものか」
 シアラの身体隠すように進み出た百々が、傷ついた鏡を持つユァミーを嫌悪をのせた視線で見やる。
「あら、次に喰われたいのは貴女かしら? 活きのいい獲物は好きよ。傷ついた身体を治さないといけないし――貴女の存在、頂戴ね?」
 ユァミーの持つ鏡が百々の姿を映した瞬間、鏡が輝きを放ち百々の存在を喰らい始める。
 存在を奪われる脱力感に顔をしかめる百々の目の前で、ユァミーの姿が百々そっくりへと変わっていく。それはまるで鏡を探していた時の、百々の鏡像のようでもあったが、その口元に浮かんだ酷薄で邪悪な笑みは百々とは似ても似つかぬものではあった。
「くだらぬな。いくら姿形を模倣しようとも、無駄だということがわからぬか。――いや、我の姿を模倣した今ならわかるかもしれないな」
「いったい何を――ま、まさか貴女!」
「我は真実と未来を映す神鏡なり!」
 ユァミーの顔が焦りに歪むのを見ながら、百々は高らかにそう宣言する。
 百々の持つ鏡が、ユァミーの鏡とは違う清廉な輝きを放ち始める。
「やめなさい、その光を放つのをやめなさい!」
「如何に姿を変えようと、我が身は貴殿の真の姿を映し出すのだ」
 宝物殿全体を照らすほどの強烈な光が、百々の鏡から放射される。誰も目を開けられぬほどの眩い輝きの中で、百々は1人事の成り行きを見守る。
『いったい……何を……くっ……』
「それが貴殿の本当の姿か」
 百々の目の前には、薄汚れ埃塗れになった鏡が一枚浮いている。
 それは先ほどからユァミーが持つ鏡を、更にみすぼらしくしたような古い鏡であった。
 表面はくすんだような色で輝きを持たず。もはや鏡としての機能すら失っているような、そんな哀れな姿。
 シアラにつけられた一筋の真新しい傷跡が目に付く。
『……見たな……見たなァ!』
 点滅するような薄い輝きと共に、ユァミーが再度ユァミーとしての姿を形どる。百々の姿に化け存在を喰らうことは出来ぬようで、怒りのままに百々へと駆け出す。
「ああ、見たとも。哀れで、薄汚くて、穢れた鏡。それが貴殿の真の姿だ」
「煩い……私は――私はっ!」
 何の策をも持たぬ突進を軽やかに避け、百々は朱色の美しい薙刀を手に取る。
「来るがいい。我が力にて浄化してくれようぞ!」
「自分が正しいかのようなその顔、ぶん殴ってあげる!」
 力任せに振るわれる拳を、朱の軌跡が防いでいく。拳が傷つくことも厭わずただただ殴りかかってくるユァミーを、百々は憐れむように見つめ――そして。
「破魔の刃を受けるがいい!」
「いやあああぁぁぁぁっ!」
 裂ぱくの叫びと共に、銀の刃が弧を描く。邪を裂く刃は、擬態である少女の身体ではなく……その少女の持つ鏡を一閃し、耳障りな擦れる音と共に隠し切れぬほどの大きな切り傷を刻み込む!
「治らない……傷が、鏡が、治らない……!」
 切り付けられた跡に向かって、ユァミーが力を注ぎこむような仕草を取る。
 しかし百々につけられた傷跡は治ることはなく、小さな音と共に煙のような何かが立ち昇っていくばかりである。
「一度では祓えないか。随分と『喰った』らしいな」
「はぁ……はぁ……ええ、そうよ。みんな……みんな食べてあげたわ」
「ならばもう気は済んだだろう。これ以上の狼藉は許さぬ」
 鏡を抱きかかえ、強がるように口元を歪めるユァミーの姿は百々には理解できぬものであった。何故この同族と思わしきものが、これだけの凶行を行っているのかが。
「何故だ。何故その力を悪しきことに使うのだ」
「何故……? そんなこと」
 問われたユァミーは、ふらりと立ち上がる。
 鏡を傷つけられた怒りや、焦りはその顔からは消えている。
 その表情を例えるならば――愉悦。
 熱に浮かされたような、化け物の笑み。

「楽しいからよ」

 滲み出るような邪悪な哄笑が、宝物殿に響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
一人きりで鏡に写ることが条件だったなんて。
……ずいぶんと、臆病なのね、おまえ。
それとも一人を乗っ取るのでやっとの出力なのかしら。
そんなちっぽけな力で、何人もの人間に成り代わろうだなんておこがましいったら。……あら、怒った? なら、見せてみなさいな、おまえの力を。


歌うは、「魔物 第2番」。
オブリビオンと対峙することを歌うこの凱歌は、味方を奮い立たせる歌であり……真に敵である者を暴き立てる歌でもある。
どんな姿に変化しようと、その魔性を必ず晒してあげる。

いたずらに人の存在を喰らって、弄んできた報いを受ける時よ。
何物にもなれないまま――おまえとして、果ててゆきなさい。



「臆病な上に……随分と悪趣味なのね、おまえ」
「何ですって?」
 呆れたような、興味の失せたような――そんな冷めた呟きに、ユァミーの笑い声がぴたりと止まる。
 くるり。
 くるり。
 薄暗い宝物殿の中でなお、手慰みに日傘をまわすのはミーユイである。豪奢なフリルのついた日傘が優雅に踊るのを見上げながら、その興味は欠片もユァミーへと注がれていない。
「だってそうじゃない。1人きりで鏡に映ったときしか、存在を奪おうとすることが出来なかったのだから」
 それとも、と。人差し指を鮮やかなピンクの唇にそえ、くすりと笑い声を漏らす。ようやく向けられた意識と共に可憐な乙女の漏らした笑い声は、ユァミーにとってどんな笑いに見え聞こえたことだろうか。
「そんなちっぽけな力で、何人もの人間に成り代わろうだなんて――おこがましいったら」
「私を、取るに足らないものとでも言うつもり!?」
「……あら、怒った?」
 明らかな嘲りを含んだ言葉の数々に、ユァミーの頬が赤く染まる。
 百々が一度暴いたユァミーの真の姿から察するならば、数々の存在を喰らってきたユァミーにとって……あの古びたみすぼらしい姿は、明確な弱点ともいえるものであったのかもしれない。
「ここまでコケにされるなんて、初めてね」
「あれだけ古い見た目をしながら、初めてだなんて……臆病な上に引きこもりかしら。話相手も居なさそうだものね」
「――ッ! いい加減に……!」
 挑発に乗り怒りを露にしたユァミーは、牙を剥くように吠える。
「私にそれだけの口をきいた報い、その身をもって受けなさい!」
 両手に握られたひびの入った鏡を突き出し、ユァミーはその姿を変えていく。
 黒い髪は桃と紅の髪へ。傷だらけの白いワンピースは、フリルをあしらった愛らしくも大胆なドレスへ。
 ただその顔に浮かぶ、激しい怒りだけは模倣できず。
「……これが、存在を喰われるという感覚ね」
 日光に晒された時の眠気とは違う、四肢から力が抜けていくような感覚。
 自分が自分でなくなっていくような。まるで簒奪されていくかのような不快感に眉をひそめながら、ミーユイは静かに唇を開く。
 紡ぐ言葉はユァミーへの嘲りではなく、勇ましい鼓舞の戦慄。
 それは邪悪なるものを殲滅すべく、勇者がその力を振るう歌。
 聞く者達に力を与え、そして邪なる者の力を奪う言の葉。
「耳障りな、歌ね……!」
 ミーユイの姿となったユァミーは、奏でられる歌を耳に入れぬよう両手で塞ぐ。
 存在を喰らっているのは自分であるはずなのに、まるで自分が存在を喰われているかのように力が抜けていくのを、ユァミーは焦りと共に自覚する。
「やめなさい……やめなさいって言ってるでしょう!?」
 歌を止めるべく掴みかかるものの、ミーユイの歌声は止まりはしない。
 歌を止めるための術――対抗する歌でも歌ってみせれば何かが変わったのかもしれない。だがミーユイをただ模倣することしかしなかったユァミーでは、皮肉なことに奏でられるのは張りぼての同じ歌でしかない。
 ――邪なる者がその歌を歌うことなど、出来るはずもないのだ。
「それ以上! それ以上その歌を聴かせないで……!」
 力のままに突き飛ばされてもなお、ミーユイは歌うことをやめなかった。
「さあ、くだらない物真似の時間はこれまでよ。その魔性を晒しなさい!」
「ああっ、あああぁぁぁぁぁ!」
 突き飛ばされたときに切ったのだろう、口の端から薄く血を滲ませながらもミーユイは、己が映し身となったユァミーを射貫くように畳んだ日傘を差し向ける。
 金の両眼に見届けられながら、もう1人のミーユイは黒と白の少女へと姿を変えていく。
「私が……身体を、維持できなかった……!?」
 愕然とした言葉と共に。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンチ・アンディファインド
名乗ってんじゃねーよ、死ね! クソUDC!

ああ、ようやく見つけた
見つけたから殺す
出てきたらから殺す
喋ったから殺す
面倒なことは嫌いだ、とにかく殺す
殺して殺す!!

手持ちの【UDCの残骸】をまとめて喰って、【T・B】発動
怪人形態に変形したら突撃

死んでんなら黙っとけ!
テメーらの代わりにコイツはオレがぶち殺してやるからよぉぉぉ!!
召喚された霊の存在も声も無視して、UDCを一直線に目指す
オレが喰らうダメージなんざ気にしねぇ【捨て身の一撃】
【怪力】で思いっきり殴りつけて【2回攻撃】をぶち込んで死なす!!

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】



「くだらねえお喋りは済んだか、クソUDC!」
 愕然とするユァミーの様子などお構いなしに、アンチはそう吠え立てる。
 ……ようやく。ようやくだ。
 まだろっこしい調査もやった。
 儀式を阻止するために、頭も悩ませた。
 ようやく。ようやくだ。
「――ようやく、殺せる!」
「煩く吠えないで頂戴。あなたまるで狂犬のようよ」
 まだショックから立ち直りきっていないユァミーは、闘争心と殺意を露にしているアンチをあしらう様にそう告げる。
 相手にしていられない。まるで態度でそう示すかのように。
 ――だがそれはユァミーの事情に過ぎない。UDCを殺すことだけを命題にした少年に、そのような些事は関係ない。
「……殺す! クソUDCは殺す!」
 宣言するように。そして自分自身に言い聞かせるように。
「見つけたから殺す!」
 懐から取り出すのは、かつてアンチが戦ったUDC達の残した欠片。
「出てきたから殺す!」
 氷のような欠片であったり、機械のパーツのようなものであったり。
「喋ったから殺す!」
 そんな残骸を一纏めにして。
「面倒なことは嫌いだ、とにかく殺す!」
 アンチはそのすべてを無理やり口の中へと押し込む!
「貴方、いったい何を……!」
 その異様な光景を前に、ユァミーは口元を引きつらせ眺めることしか出来ない。
 残骸を飲み込み、取り込むたびに――アンチの身体が肥大化していく。
 肉塊のように筋肉が膨張し、肥大化した身体中を機械のケーブルのようなものが包み込む。ケーブルの先々からは凍てつくような冷気が放出されており、周囲の温度が急激にぐっと下がっていく。
「殺して! 殺す!」
 もはやアンチであった面影などそこにはなく、これではまるで。
「化け物じゃない……こんなもの、相手にしてられないわ!」
 ユァミーの呆然とした顔を、アンチは殺意を隠すことなく見下す。
 どちらがUDCなのかが逆転してしまったかのような状況で、アンチは力任せにその剛腕を振りかざす。一撃で潰されてしまいそうな攻撃をかわしながら、ユァミーはまだ使っていなかったもう1つの鏡の力を行使する。
「さぁ、存分に楽しんでくるといいわ。……残り短い現世での時間をね」
『……どこ……ここは、どこ』
『暗い……寒い……返して』
『タッくん……助けて……』
『私を……取らないで……それは私の――』
 耳障りな亡霊達。鏡から抜け出してきた半透明の少女達は、口々に助けを求めるように泣き、縋り付くようにアンチの身体に纏わりつく。
 ――彼女達は、儀式に巻き込まれ消された少女達に違いなかった。
 既に助かることはなく。助けるすべもなく。
 存在を喰われきった残りカス……恨みと悲しみだけを残した、残滓に過ぎない。
 辛かっただろう。
 悲しかっただろう。
 助けてほしかっただろう。
 その嘆きの声が、アンチの身体を這うケーブルを打ちのめしていくかのようであった。アンチの身体の一部となったケーブルが、無残にも裂かれ破壊されていく。だが――。
「死んでんなら、黙っとけ!」
 その少女の霊の1人を、アンチは容赦なく叩き潰す。邪魔なものを追い払うかのような、そんな動きで。
「なっ――」
 音もなくかき消えた少女を前に、アンチはただひたすらに殺意だけを込めユァミーを睨む。……彼の眼には、クソUDCの姿しか見えてはいない。
「恨みたいなら好きに恨め! 泣きたいのなら勝手に泣け! だからオレの前を遮るんじゃねえ! テメーらの代わりに、コイツはオレがぶち殺してやるからよぉぉぉ!!!」
 残霊の少女達から傷つけられるのも厭わずに、アンチはその巨躯を駆りユァミーへと迫る!
 少女達に纏わりつかれた結果か、身体を覆うケーブルはいつの間にやら断線しているものばかりだが、その肥大化した身体が脅威であることは変わらない。
「喰らって死ねえ!!!」
 ――自身のすべての力を込めて、アンチはユァミーを殴り飛ばした!

成功 🔵​🔵​🔴​

勘解由小路・津雲
※連携・アドリブ歓迎

 儀式を発動させなければならなかったのか。危険を避けたかったが、まあ大事にならずにすんだようなので、それはよかったが。
 さて、いよいよお出ましになったな。これは、もう被害者は助けられないか……ならせめて、これで終わりにしよう。

【戦闘】
 初めて戦う相手だが、扱いはわかってしまうな……あまりうれしくないが。

【エレメンタル・ファンタジア】を使用、持っているひょうたん(道具の御神水)の水をばらまき、相手の周りに氷属性の霧を発生させる。

 鏡はな、寒暖の差で曇ってしまうんだよ。【鏡に映した相手の姿】? その曇った鏡に、何が映るというのだ? (錫杖で攻撃)



 殴り飛ばされ宝物殿を転がるユァミー。足元にまで転がってきた少女を見下ろしながら、津雲はユァミーが手に持つ鏡の状況を確認する。
「おお、すごいな。あれだけ派手に殴られてもまだ完全に壊れてないのか」
 いくつもの無数の線が入り、まるで蜘蛛の巣のようになっていながらも鏡は崩壊一歩手前という状況でとどまっている。
 その最後踏みとどまった状態こそが、ユァミーの状態を示しているともいえるのだが。
「まだ……まだよ……まだ……!」
「しぶといな。普通の人間で言えば身体中の骨がバラバラになっているようなものだろうに」
「うる……さいっ……」
 鏡を本体とする津雲だからこそ、ユァミーにもう後がないことがわかってしまう。
 こうして話しているだけでもユァミーは急速に力を失っていっているのか、満足に立ち上がることも出来ず睨みあげるのが精いっぱいであった。
「存在を……喰らえば……!」
「もう諦めろ。といっても聞かないのだろうな」
 袂から取り出した瓢箪の逆さに振るい、津雲はユァミーの周囲の地面を水で濡らしていく。空になった瓢箪を袂に仕舞いながら嘆息する。
「……男、か……まあいい……お前の、存在を――」
「一応忠告しておいてやろう。あんたがやろうとしているのは無駄だ」
「何が無駄か! 確かに私の力は、女にこそ威力を発揮する……だが、男の存在を喰えないわけではないのよ!」
 足掻くように吠えるユァミーの返答を予想していたのか、再度津雲の口からため息が漏れる。もはや勝敗が決しているとでも言いたげなその態度が気に入らなかったのか、最後の力を振り絞りユァミーが鏡を振りかざす。
 鏡面が鈍い光を放ち、それと共にユァミーの姿が津雲に似たものへと変わっていく――だがその変化は、服装を模した辺りでピタリと止まってしまう。
「――!? な、何故……何故これ以上、存在を吸うことが……出来ない……!」
「簡単な話だ。その無残な鏡の表面を見てみるといい」
「鏡の……表面――なぁっ!? こ、これは」
 自身の持つ鏡を覗き込み、ユァミーはその顔を驚愕に歪める。
 ユァミーの持つ鏡の表面が、いつの間にかすっかりと曇って何も映せなくなってしまっているではないか。
「鏡はな、寒暖の差で曇ってしまうんだよ。お前も鏡ならそれはよくわかっているだろう。察するに鏡に映した相手の姿を模すのだろうが……その曇った鏡に、なにが映るというのだ?」
 そう口にしながら、肌寒さに津雲は身体を一度震わせる。津雲は先ほどユァミーの周りに巻いた水を利用し、ユーベルコードを使い氷の霧を発生させたのである。
 急激に下がった室温によって、ユァミーの本体である鏡は満足にものを映すことも出来ぬほどに曇ってしまったのだ。
「くそっ……くそっ……小癪な……!」
 ユァミーが必死に鏡を拭っても曇りは晴れることはなく、津雲は無慈悲に錫杖を振りかぶる。
「もういいだろう。十分にお前は暴れまわったんだ。贖う時が来ただけのこと」
「やめろ……やめて……た、頼む……見逃して――助けて――」
「先ほどの残霊の少女達が生きていた時、あんたは助けたのか?」
 アンチが戦っていた時に出現した残霊の少女達。存在喰われ消し去られたあの少女達がユァミーに襲われた時、きっと同じように請い願ったはずだ。
 それでもなお彼女達が消されたということは――そういうことだ。
「終わりにしよう」
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
 水の力を湛えた錫杖が、ユァミーが庇うように腕に抱えた本体の鏡に振り下ろされる。
 ガシャーン! と、鏡が完全に砕け散る音が宝物殿に響き渡る。
 鏡が破壊されたことで、ユァミーの身体が掻き消える。破壊された鏡ごと。
 まるでそこには元からなにも居なかったかのように。
「……さぁ、帰るとしよう」
 ユァミーの居た場所を軽く調べ何もないことを確認した津雲は、そうして宝物殿から立ち去っていく。同じくすべてを見届けた猟兵達もまた。
 こうして邪神の儀式を執り行っていたユァミーを倒したことで、噂はそっと消えていくことだろう。
 ――消えてしまった少女達の記憶と共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月15日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


30




種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ミコトメモリ・メイクメモリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト