[1:1]ヘートヴェッグに口付けを
盧・雪 2019年12月30日
『ヘートヴェッグ』
小荳蒄《カルダモン》の麪麭《パン》をくり抜いて
扁桃《アーモンド》とたっぷりの牛乳《ミルク》を詰め込んで。
二つに割って凝乳《クリィム》を挟んで
またたっぷりの牛乳《ミルク》で浸して――出来上がり。
雪際亜《スウェーデン》では国民的な、甘い甘い素敵な御菓子――
いつか読んだ西洋料理本に書かれていた、秘密のレシピ。
作ってみたはいいけれど一人で食べるには、甘すぎる。
雪の降る夜は、どうして無償に寂しい気持ちになるのだろう。
夜には営業していない店だけれど――たまには洋燈《ランプ》を付けたっていいでしょう?
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先着一名様。誰でも歓迎(御菓子付き)
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盧・雪 2019年12月30日
(温かい牛乳は膜を張っている。砂糖はカップの中で雪の様に解けた。一口含む。店内の煖爐《ストーブ》と加湿に、少しだけ眠気が誘われる気がする)
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月3日
(今日も今日とて理想のお姫様探しに勤しむ兎は、甘い香りに気付くと誘われるようにその店へとふらり顔を出す。最初にぴょこんと白い耳を覗かせて、店内の音を聞いてからひょこりと顔を出す。)ごめん、くださーい。(確か、この世界ではそういう挨拶をすると聞いたのだ。お店、まだやっているのかなと覗いた先に見覚えのある顔を見つけた。)あ、ロシュエだ!(兎の耳がピンと立った。)
(無効票)
盧・雪 2020年1月3日
(入店を知らせる扉の鈴が夢と現の混ざった意識と視界を、現実の方へ偏らせた。見ると、先日知り合ったばかりの兎の知己)ン……、驚きました。此の世界で御会いできるとは。運命――と、言う物の一つ、でせうかね。(くすり、と微笑んで。向かい側の椅子を引く)牛乳《ミルク》を飲むのは……大丈夫ですか? 宜しければ、先ずは暖かい牛乳を御用意させて頂きますが。外は寒かったでせう?
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月3日
(トトト、軽い足取りで近寄ってニコニコ)ボクはね、色んな世界をウロウロとしているのさ。でも世界は広いし、今日はいい匂いに惹かれてーだし、うん、そう、運命っ!(ありがとうと告げながら椅子へと座り)ミルク、好きだよ。あっ、温かいのもあるの? うれしい、温かいのがいいな。温かいのは、甘くて優しい感じがするんだ。
盧・雪 2020年1月4日
勿論。冬ですからね、冷たくするのは身体に宜しくありません。とは言え、過剰に暖房の利かせた室内でアイスクリィムを食する文化もあるそうですが……我には奢侈な物ですね。(調理塲《キッチン》から、暖かい牛乳の入った陶磁の容器とカップを運んでくる。いつも付けている氷砂糖は、今日は付いていなかった)姫追《フィオ》は稀人なのですね。我は此の世界から出た事はまだ在りません。いずれは……と言っても、結局此処に戻ってくる事になるのでしょうが。ああ、そういえば――甘い物は御好きですか?
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月4日
温かいお部屋の冷たいものはとっても贅沢な感じがするね!(調理場へと向かう背中を見送って、足をブラブラさせて暫し待つ。瞳は自然と店内をキョロキョロと珍しげに見て回って)まれびと……あっ、うんうん、そう。ボクはね、アリスの居る世界の子なんだ。旅行気分でお出かけしているんだ。(ぴょこんと頭上に立つ長い耳へ軽く手を当てから、置かれた牛乳の容器ににっこり笑みを浮かべながら「ありがとう!」と告げた。)甘いもの? 大好きだよ!
盧・雪 2020年1月5日
嗚呼、確か童謡迷庭《アリスラビリンス》……でしたか。道理で、絵本から飛び出したような御方と思った物です。(納得するように、其の姿と耳を視界に収めて。ふいと窓の外を見遣る)この世界は、楽しいですか? 花吹雪の止まぬ処無き桜源郷。我々の住む、この不変の都は――他の世界に比べて立派に誇れる処でせうか。
盧・雪 2020年1月5日
――甘い物が御好きなら、とても御薦めの物がありますよ。料理本を見て作った、試作品。お店で出せる物では無いのですが……宜しければ。是に関しては代金は頂戴致しません。
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月6日
ボクもね、ロシュエは真っ白で、絵本に出てくる雪の精霊みたいだなって思ったよ!(明るくにっこり笑って、カップで指先を温める。とてもあたたかくて、心までほっこりとした。)うん、楽しいよ。それにとってもキレイ。サクラって花は可愛くてすごく好き。(いただきますと告げてから少しだけふうふうと冷ましてから器に口をつければ「おいしい!」とまた笑顔を浮かべ)甘いのの試作品、があるの? わあ、食べてみたいなっ ロシュエは料理上手なんだねっ
盧・雪 2020年1月7日
ふふ。昔、よく言われたような……懐かしい響きですね。有難う御座います。(心温まる様な気分で、自分も温かな牛乳《ミルク》に口を付ける。そして身も温まった)其れは良かった。花の世界の稀人にそう言って頂ければ、幻朧桜も本望でせう。(食べてみたい。その言葉を聞けたので、そっと席を立ってまた調理塲《キッチン》へと向かって行く)肯《ええ》。是でも、御店を任されている身ですからね。恥の無い腕前は持ち合わせているつもりですよ。今から出すのは……ヘートヴェッグと呼ばれる御菓子なのですが。御存知でせうか?
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月8日
ロシュエのこと、雪の精霊みたいって思ったのはボクだけじゃないんだね!(いっしょだ!と嬉しげにホットミルクを口にする。まろやかで優しい味に、ボクはニコニコしてしまう。)ボクの世界のお花はおしゃべりだから、キレイで可愛いだけのサクラが不思議でもあるけれどね。(再度調理場へ向かう姿を目で追って、彼女は店長で料理人なのかなと耳を小さく動かした。聞き慣れぬ言葉に目をぱちり)……へーとえっぐ? 卵? 難しい名前のお菓子って、あまりしらないかも。焼き菓子なのかな?
盧・雪 2020年1月10日
此の世界の花は言葉を話す口を持ちませんから――その代わりに、此処では人が花の言葉を語るのです。桜花の言の葉は……「純潔」「優美」……種類によって、より多岐に渡るのですが――それでも、自らの意思で表される言詞とは比べようもありませんか。(窓では雪に代わって桜花が舞っている。木枯らしの中に在って、幻朧桜は生き生きと枝に花々を湛えていた)論ずるに術を持たずというか、百聞は一見に如かずというか。詳しくは味わって頂ければ、と思いますが。何でも、嘗ての雪際亜《スウェーデン》の王様が、余りの美味に十四人分平らげて見罷られた――という、御話が。嗚呼、今回は一人で一人前分しか用意していませんので、御安心を?(と、冗談めかしながら、中央に麪麭《パン》の置かれた深い皿を卓子《テーブル》に運ぶ)
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月16日
人が、花の言葉を……? わあ、わああ。なんだかとっても素敵。ロシュエも花の言葉を口にするんだね。すごいすごい。お花の見た目通りの綺麗な言葉だね。(興味深げに瞳を輝かせ、すごいなぁと何度も頷いて)(ロシュエが話す言葉は絵本の物語のようで、ボクは耳を揺らして君が紡ぐ言葉を聞いた。)すっごくおいしいってことだよね! わあ、ふふ、沢山あったらボクが猟師から逃げられないまん丸ウサギになっちゃうところだったよ。(目の前に置かれたパンを、角度を変えて眺めてみる。普通のパンのようだけれど、粉砂糖で雪化粧されているようにも見えて少し可愛い。)手で食べて大丈夫? いただきまーす。(ボクは元気にカプッと頬張った。)! おいしいっ
盧・雪 2020年1月17日
真ん丸……世界には、そのような兎も居ましたね。此の国では確か、『無垢毛』と呼ばれていましたか。雪玉のような、真ん丸で真っ白な兎です。我に少し似ていますね。――今より七百年以上も昔の話ですが、明治と呼ばれる時代に此の国では、あまりの可愛さに兎が大人気になったのですよ。余りの人気に、『兎取締リノ儀』……なんて布達が出た程に。
盧・雪 2020年1月17日
話を聞いた時には、そこまでの物かとも思っていましたが、姫追《フィオ》の美味しそうに食べる様を見て、成程、と少し納得致しました。我眼福。――嗚呼、ちなみにそのままでは、其のお菓子は『セムラ』という名前なのです。ここに、暖かい牛乳《ミルク》を注ぎ入れて、浸して食べると、『ヘートヴェッグ』になるのですよ。
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月26日
ムクゲ? 変わった響きだね。ふふ、でも真っ白でまん丸なのかぁ。ちょっと見てみたいかも。ロシュエに似ているの? でもロシュエは可愛いけど、まん丸じゃないよっ(笑顔とともにぱくりとまた一口頬張れば甘さが口内に広がって幸せな心地となる。)そんなことがあったんだ……。ロシュエは物知りさんだね。すごいすごい。美味しいお菓子のことも知っているし、すごいなぁ。(パンの中に入っているクリームも美味しくてぱくぱくと食べていたが、聞こえた言葉に長耳がぴょこんと揺れて)
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年1月26日
あっ、これはまだへーとゔぇっぐではなかったんだ? ふんふん、せむら? せむらが変わるの? このままでもおいしいのにまた変わっちゃうだなんて不思議不思議。楽しそう。兎穴を覗き込むときみたいにドキドキしちゃうね!(試してもいい?と視線で尋ねてから、早速言われた手順を試してみようとする。)
盧・雪 2020年1月31日
ふふ。勉強したのですよ。我は此の島国で産まれた訳では在りませんので。他所者の方が、其処に当たり前の様に居る人間よりも知りたがる事が多い物です。国だけでは無く、世界間でも言えることでせうか。姫追《フィオ》も、此の世界の事が気になるでせう? ……肯《ええ》。今、暖めた物を持ってきましたので、どうぞ御試しあれ。(と、白磁のミルクポットを卓子《テーブル》の敷物の上に丁重に置いた)
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年2月16日
そっか、そっか。うんうん、ボク気になるよ。ボクの居たとことは色々違って、知るとそうなんだってなって楽しいから。ロシュエも、他所から来た時はボクみたいだったのかなって、そうだったら一緒だなって思ったよ、ふふ。(ミルクポットから温かなミルクを注いで、ちょんちょんとパンを浸してみる。じんわり吸い込まれて生地がしっとりしていくと、期待で胸が膨らんで、自然と口角が上がった。)わぁ。(ぱくっと頬張れば先ほどとは違った食感にミルクの優しい甘さが口に広がって)すごいね、ロシュエ。魔法みたい。
盧・雪 2020年2月16日
魔法……肯《ええ》、そうですね。魔法と言えば、此の世界では多くが眉唾物と言われるものですが……其れでも是は本物で、類い稀なる“魅了”の魔法。それが甘味と言う物なのです。人を害さず笑顔にさせて、其れでいて我にでも扱える程簡単な、万人の揮うべき魔法でせう。(手元の杯《カップ》に視線を落として、白い水面に映る顔を覗き見る)そうですね……山の上の寒村に生を受けた身としては、帝都の都の華やかさはそれはそれは別世界の様でした。昔を偲べば懐かしい事ばかり。朧な記憶を客観的に見るのは難しいですが、確かに姫追《フィオ》の様で在ったのかも知れませんね。
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年2月20日
魅了……へぇ、たしかにプリンセスのとびきりの笑顔みたいに惹かれてしまうかも。食べるのやめられないや。ロシュエの魔法はすごいねぇ。僕はこういう魔法は使えないからなぁ。(にこにこ、ぱくぱく。とっても美味しくてお行儀悪くパタパタ足を振らないようにぐっと我慢)かんそん? 僕はお花畑にいたから、建物いっぱいなここは……うん、ロシュエといっしょ。華やかな街って感じさ。
盧・雪 2020年2月22日
寒村……さみしい村、でせうか。何分、山の上ですからね。良く言えば長閑《のどか》な処です。決して悪い所ではありませんでした。けれども、我は山を下りた……嗚呼、つまりはそういう事だったのでせう。――ふふ、かの国の王様の様にはならないように。十個二十個とは行きませんが、我の分で宜しければもう一つは在りますよ。何、遠慮は要りません。我は何時でも作れますが、姫追《フィオ》は今日、この時しかこの店には居ないかも知れないのですからね。
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年2月26日
さみしい村……(頭上の兎耳が、へにょりと落ちてくる。)あ、でものどか。のどかはいいとこ、お花畑みたいなところだよね。(ピョンっと耳がたった。)ロシュエは賑やかな街にこれて、幸せ? さみしくはなくなったのかな。(言葉を発する合間にもぱくぱくと食べて。そうして食べ終えてしまった。)もうなくなっちゃった……って、え、駄目だよ。ロシュエのはロシュエの分。ボクが食べたくなった時にロシュエ~って来ればいいだけだよ。ロシュエはいつでも作れるかもだけれど、今日のへーとゔぇっぐは今日だけのへーとゔぇっぐなんだからさ。
盧・雪 2020年2月28日
如何でせう。きっと、かつて離れた故郷にも、此処とは違った倖せが在りました。寒村であろうと住めば都とは言ったもので、もしかすると……と、考える夜も少なからず。此の店は閑古鳥が鳴いていますし、此処でなら淋しさを感じないと言えば嘘となりませう。ともすれば我は、帝都に余り馴染めていないのかもしれません。――けれど、偶に此の店を見初めた御客様が、我の手で作った料理で笑顔を作る――此処でしか生まれ得なかった我が手の意味に、我は如何しようもなく喜びを覚えるのですよ。(やんわりとした、優しい拒否に頷いて、牛乳に浸したセムラを口に運ぶ。其の笑みには、色々な意味が含まれていた事だろう)有難う御座います。姫追《フィオ》。
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年3月3日
ふんふん、そうなんだぁ……って、え。閑古鳥が鳴いているの? ボク、お店はあんまり詳しくないけれど、知っているよ、知っているよ。ロシュエのお店はこんなに素敵なところなのになぁ。(店内をキョロキョロと見渡す。ボクは建物とかお店とかよくは解らないけれど、けれど素敵なお店としか考えられない。ホットミルクをこくりと飲んで、)ロシュエはお料理好きなんだね。ロシュエのお料理、食べたのは今日が初めてだけど、ボクもおいしいしあわせ~ってなれたよ。ん? どうしてロシュエがありがとうを言うんだろ? ありがとうはボクのセリフ。おいしいのとあたたかいのを、ありがとうロシュエ。
盧・雪 2020年3月5日
鳴いているのです。(くすりとした笑み。自嘲の笑みでは無く、嬉しい言葉に喜んで)少し目立たない処にある……というのも在りますが、流行りは何処もカフェーなのです。珈琲の一杯も出さないミルクホールでは、世間には置いて行かれるのも、致し方なく。然れども、仕様の無いことでせう。好きなことには逆らえぬ物です。(嚼々《ぱくぱく》と、躊躇いも無く食べ進められるヘートヴェッグはあっという間に牛乳《ミルク》の湖に没し行く。主役が既に姿を消したカップを手に取ると、セムラの甘味が融け込む牛乳を口に含んで、最後の余韻を楽しんだ。)それは……貴様がまた来てくれると言ってくれた故の事ですよ。其の言葉を聞きたいが為に、我々は日夜店を開けるのですから。――どういたしまして、姫追《フィオ》。
フィオレンツァ・トリルビィ 2020年3月12日
そうなんだ。(ボクは耳を揺らして君の声を聞いた。カフェーとミルクホールの違いは解らないけれど、違いがある、ということだけは理解した。)ロシュエが好きなことを出来ていると、ボクも嬉しいな。えへへ。(きっとそれは、とっても幸せなことだ。笑みを零してからホットミルクを飲み干した。お腹だけでなく、胸のを暖かさも感じながらボクは席を立つ。)ん、そっか。ふふっ。……お代は、えーっと、これでいいかな?(ポシェットから財布を取り出すと、金銭をテーブルに置いて)それじゃあロシュエ、またね。ごちそうさまっ(またねと大きく手を振って、店を出ていく。その足取りは来たときよりもとても軽く、街へと消えていった。)
(退店)
盧・雪 2020年3月16日
(御金を仕舞い入れて、扉に手をかける彼女の方へ目を向ける)ええ、さようなら。また……お越しくださいませ。再見。(扉が閉まるのを確認して、数秒は呆として、すぐに店先の灯りを消した。『CLOSE《閉店》』の札を取り出しながら、考える。ヘートヴェッグは、新しい菜單《メニウ》に追加しよう。そんな事を考えながら――直に、店内は闇に染まって静かになった)