追躡
アルバ・アルフライラ 2019年2月11日
夜半の灯あつめから、それ程時も経たぬ頃。
昼を迎える少し前、塒を出た従者。
つい先日買出しへ赴いたのだから食糧は充分だ。
魔術の触媒や薬草も今ある物で事足りる。
――はて、ならば彼奴は何処へ出掛けたというのだろう?
ふつふつと込み上げる興味に、
主は自然と揺り椅子から腰を上げていた。
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アルバ・アルフライラ 2019年2月11日
(じ、と木の陰から従者の様子を窺う。幸い、未だ追えぬ位置ではない)(――はて、一体何処へ行くというのだろう)
ジャハル・アルムリフ 2019年2月11日
(飾り気もない黒麻の従者服、腰に提げた革袋、帯びるは短剣一本。軽装の男は注意深く屋敷を施錠し窓――師が読書に、または昼寝に勤しんでいる部屋を一度だけ見上げる)(それから陽の角度で何かを確かめ、屋敷から伸びる木の根と蔦の橋へ足早に歩き出した)
アルバ・アルフライラ 2019年2月13日
彼奴、随分と軽装だな…(常日頃より警戒を怠らぬ奴だ。そんな男がこれほどの軽装で塒の外へ赴こうというのだ――)…ふむ、ジジはこの島から出る訳ではないのか?(至った結論を、ぽつりと口にして)
ジャハル・アルムリフ 2019年2月13日
(今度は師の菜園で群れ咲く薬草と花を見ている。ふと一点に目を留め、眉間に皺を寄せた)……少し急ぐか。(独り言ちると歩調を速めた。長い尾が蛇のそれのように男の軌跡をなぞる)
アルバ・アルフライラ 2019年2月18日
――む(視線の先、従者の歩みが早くなった様に感じられる)…何だ何だ、流石に気付かれた――という訳ではないと思うが…(極力音を立てぬよう、物陰に隠れつつも追おうとするが中々に難しい)…致し方ない、か(暫しの逡巡の末。男が保険にと召喚したのは、不可視の怪人だった)――彼奴を追え。決して逃がすな。
ジャハル・アルムリフ 2019年2月21日
(ふと立ち止まり頭を巡らす。――と、主が育てた木の実へと手を伸ばし毟り取る。と、反動で揺れた枝から無数の水滴が降ちてきた
)…………仕置きか。(為す術なく浴びてしまい立ち尽くすこと数秒。気を取り直して橙色の実を囓ると、また歩き出した)
アルバ・アルフライラ 2019年2月24日
…、…っ……(微かに肩が震える。水の滴る良い男とは良く言うが、この様はあまりにも間が抜けているのではないだろうか)(歩き出したのを確認し、再び歩みを速めようとして――逡巡)(風の魔術で音なく従者の取った物と同じ実を落とす。美味い)…ふむ、この先は確か森の筈だが…奴、腹でも空いたか?
ジャハル・アルムリフ 2019年2月28日
(この陽の差す森は下草も短く歩きやすい。何かを探しながら樹々の間を抜け、ふと屈み込む)……此の間の片割れか。…うむ、申し分あるまい。(心なしか満足そうな呟き。その手は螺旋を描く青い鹿角を拾い上げ)(先程浴びせられた雫が毛先から滴るも、再開した歩みはむしろ軽やかになっていた)
アルバ・アルフライラ 2019年3月4日
(木陰に身を隠しつつ、進めた視線の先、)あー……(従者の腕に握られた其れには見覚えがあった)彼奴、本当に片割れを探すべく此処に来たのか? …全く、蒐集狂にも程があろう(そろそろ塔を拡張せねばならないのではと眉を顰め)(再び、心做しか軽くなった足取りを追う。今度は何処へ向かうのいうのだ)
ジャハル・アルムリフ 2019年3月9日
(再び足を止め、ある樹を見上げる――その角に。警戒心の薄い野鳥が二羽三羽と順番に留まっては慌ただしく飛び去った)……。枝ではないというに。次は串焼きにしてしまうぞ。(その気のない声で忠告すると、右角に触れる。異常のないことを確認し)……これは唯一の、(呟きの語尾は葉擦れに紛れて消えた)
アルバ・アルフライラ 2019年3月10日
(視線の先。きらきらと陽を受け煌く星角に、当たり前の様に群がる鳥達――前々から思っていたが、従者はどうやら動物に好かれる性質らしい。はてさて、それは彼奴の性格故か)全く、心にもないことを言う。……む?(耳に届いた呟きに聞き耳を立てる。唯一の――)(風に溶けた言葉に、無意識の内に舌を打った)
ジャハル・アルムリフ 2019年3月17日
(尚もしばし進んだのち、小川の傍で一点に目を留めた男は)―――!(身を低くして息を潜めること数秒。その尾の先が微かに草を薙いでしまう――同時、何かの影が跳ねて消えた)………気付かれたか。(対象を見失い肩を落とす。尾に連なる羽根が項垂れるように萎れた)つくづく、隠密行動には向いておらんな。精進せねば。
アルバ・アルフライラ 2019年3月20日
(感情を思う侭に表現する尾をただただ見守り)……本当に向かんな、彼奴(表情こそ乏しいが、それ以外から滲み出る感情は実に分かり易い。――やれやれ、もう良い年になるというのに、なんとあどけないことだろう)(…とはいえ、自分自身はといえば隠密などより派手な破壊の方が性に合っているが)…ある意味似たのだろうか。
ジャハル・アルムリフ 2019年3月25日
(いつのまにか、つい先日も訪ねたばかりの湖の畔まで来ていた。溜め息を吐いて水面を覗く)…此処まで来てしまったか。この辺りのはずだが。(この辺りには師の好む灯花もないようだ。歪んで映った自分の姿を見て眉間に皺を寄せると、尾の先で水を跳ねた。散った鏡像がまた結ばれる前に顔をそらし)
ジャハル・アルムリフ 2019年3月25日
……! そこか、(水音から逃げようとしたのか、すぐ近くで動いた影へと駆けた。――伸ばした腕が、すんでの所で地へと押さえつける)
アルバ・アルフライラ 2019年4月5日
(夜になれば仄かに光を湛える湖。薄く纏う霧が陽光できらきらと煌めく姿は静謐で美しい)(灯花でも取りに来たのだろうか――とはいえ籠の類は用意していないのだから、屋敷の光源を全て取替えられる程は持ち替えられないだろう)……ん?(尾が動く。水音がした)(奴が尾を動かすのは、感情が動いた時だ)…全く、男前が泣くぞ――ってうおっ(従者の動きに、咄嗟に身を隠す。どうやら標的は己ではないらしい)…な、何だ何だ?
ジャハル・アルムリフ 2019年4月7日
……ようやくか。手間を掛けさせる。(片手で地面から何かを持ち上げる――掴まれていたのは、まるまると肥えた栗鼠らしき動物)お前か、ここのところ師父の菜園を荒らしていたのは。森とて豊かだろうに。(打つ心算だったが美食が過ぎて素手で捕らえられる羽目になった栗鼠へと、苦々しげに視線を合わせる。ずっと痕跡を辿っていたらしい)…師父は鼠肉など好むまいが、捨て置くわけにもいかん。(もたもたと抵抗する栗鼠へ、空けた片手を伸ばそうと―――、)
アルバ・アルフライラ 2019年4月16日
最近何かと手塩を掛けた野菜が食い散らされると思っておったが……彼奴の仕業であったか。全く、野菜だけで如何すれば斯様に声太ることが出来るというのか(これは、想定以上に被害を被ったやも知れぬ。――周囲に罠の魔術でも張り巡らせるべきか)いやいや本当に勘弁しろよお前の悪食に付き合う此方の身にもなれと何度言えば…(ぶつぶつ)(事の顛末を見守りながら)
ジャハル・アルムリフ 2019年4月20日
(――その手は届くことなく、突然、掴んでいた栗鼠だけが宙へと浮く)というか、これはもはや猫だな。(大きくなりすぎた栗鼠を見上げ、指揮をとる様に森の果てを指差した)……島向こうの森に置いてこい。人里もなく同じ位豊かな所だ。(キュー、と栗鼠のそれではない鳴き声が応える。驚いて暴れる栗鼠ごと一回転すると、ふらふらと重たげに森の彼方へと遠ざかっていった)我が蜥蜴が途中で諦めなければいいが………まあ、こんなところだろう。
ジャハル・アルムリフ 2019年4月20日
(不可視の使い魔を見送った男が振り返り)…これで構わんか、師父。
アルバ・アルフライラ 2019年5月2日
(驚きも、安堵の感情は浮かばなかった。あの従者は、己の思った通りのことをしたのだから。やれと溜息を零した、刹那)げぇ!?(不意に呼ばれ、みっともない声が漏れた。暫しの沈黙の後――ゆっくりと姿を従者へ晒した。我ながら微妙な顔をしていると思う)……お前、一体いつより気付いておった。よもや最初から等と言わぬよな?(だとすれば、とんだ茶番ではないか)
ジャハル・アルムリフ 2019年5月3日
言わん。途中までは全く気付かなかった。鳥だと思っていたが……鳥はあんな忌々しげな舌打ちをしない。(多分、と最後に付け加え。複雑な顔をした師へと、多少は気を遣いながら種を明かし)して、ここまで追ってこられるとはどういった用向きであろうか。何時もなら、何かあれば即声をかけてこように。(不思議そうに疑問符を浮かべ、輝石の主へ一歩だけ距離を詰めた)
アルバ・アルフライラ 2019年5月19日
………地獄耳め(この男は、僅かな音すら聞き逃さない。――否然し、従者として、弟子としてその点は誇らしくはあるのだが)あー、そうさな……えー……(逆に問われ、言葉が詰まる。一歩近付かれたならば、一歩下がり、思索。ただの好奇心なぞ口走ろうものならば、その端正な眉間に深い皺が刻まれることだろう)お、お前が怪我なく精進に励んでおるか、この目で確かめようと思ったのだ。毎回生傷が絶えんとなれば心配するに決まっておろう。
ジャハル・アルムリフ 2019年5月19日
(歯切れの悪さも退がる足も、常日頃堂々としている筈の師には珍しく。訝る色を隠せなかったが)……む。(振り返れば確かに師の言う通り、このところ無傷で帰る日は殆どなかった)……それは、その……心配を掛けた。水鏡なり使い魔なり他に手はあったろうに、自ずから動かれる程とは。(疑う様子もなく呑み込んだ従者の頭は、灰の輝きとともに下げられた)
アルバ・アルフライラ 2019年5月26日
(健気に頭を下げる姿に、込み上げる罪悪感)…わ、分れば良いのだ。故に、頭を垂れる必要なぞない。面を上げよ――それに、ジジ。お前は私の唯一の従者なのだ。お前に何かあれば私にとっても驚天動地の一大事でもあるというに、自ら動かぬ訳にはいかぬだろう。それ、気が済んだならば帰るぞ。そろそろ昼餉の時刻だ。
ジャハル・アルムリフ 2019年5月29日
少なくとも屋敷の周りに命に関わる危険はないと思われるが……気遣い、痛み入る。(大袈裟な物言いに少しだけ首が傾いだが、言われた通りに顔を上げ)む――確かに、そろそろ戻らねば師父の食事が遅れてしまうか。承知した、ならば手っ取り早く戻るとしよう。(水辺の静謐を乱して広げられた対の竜翼。飛んで戻れば束の間だと、双星の主へ手を差し伸べた)
ジャハル・アルムリフ 2019年5月29日
……『散歩』の後では腹も減っておられよう。(従者の表情は変わらず。尾先だけが、代わり笑うように揺れた)
アルバ・アルフライラ 2019年6月2日
(何処か楽しげに揺らめく花蕾の尾を、差し伸べられた大きな手を交互に見詰め、躊躇うことなくそれを取る。高く舞えば霧纏い広がる森と、少し先には巨大な樹の塒。思えば存外に『歩いた』ものだ)……(――此奴、やはり最初から気付いていたのではないか?)
アルバ・アルフライラ 2019年6月2日
(沸き上がる疑問。幸い、従者の機嫌も良い。無言で睨めつけられることもなかろうと吐息を零し、小さな冒険は幕を閉じるのだった)(〆)