…VI… 残火
プリムララ・ネムレイス 2021年7月18日
崩れた虚城にひとり佇んで見上げる曇天からはポツポツと、燻り続ける大地を鎮めるような冷たい雨が静かに落ちて来ていました。
噴き上がる熱気のような白昼夢は消え去り、静かな雨音と、灼け爆ぜた木音だけが当たりに響きを残すのみでなんとも物寂しい気持ちにさせます。
グリモア猟兵からの帰還の印をしばらく無視して、私は未だ冷めぬ夢の余韻に浸っているのでした。
鍵森マスター様の手掛けたシナリオ『ざんか』
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=35591
の完結後の余韻を語るスレッドです。
ソロロールを考えていますが、シナリオ参加者様に限り書き込み自由とさせて頂きます。
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プリムララ・ネムレイス 2021年7月18日
瓦礫の城に囲まれていると、やがて差し込む夜明けの瑞光が眩しく双眸を照らして、それはまるで新世界の扉を開け放ったかのように新鮮な香りがしました。
本当は鼻腔を擽るのは残滓の焦げる匂い。でもその時私の胸に去来していたのは旅立ちの夜の情景。嗅ぎ慣れた深緑の余薫。
私はあの香りが好きだったのでした。
甘い夢に疼く身体を抱きしめれば、今度は新しく訪れた大地の頼もしさに抱かれて喜びに足を竦ませます。
戦いは終わりました。様々な感情が交差して、それはもう激しい濁流のような戦いでした。
私はその中で、未だ自身が絵本を読む一人の無垢な少女であるに過ぎない事を身を持って実感するのでした。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月18日
こんな時、お母様に優しく頭を撫でて貰いたい。
優しい言葉をかけられながら、愛おしむように、優しく、優しく。そうして満たされるままに眠りにつきたい。
ふかふかのベッドの上で、大好きだった枕に顔を埋めながら。
でも私はもう一人になってしまいました。
旅人として、これからは一人で強く生きるのです。
私は人々の愛を糧にしなければお腹が空いてしまいます。
でも、この焼け野が原の中心にポツンと立っていると、ワールドにはもっと甘美な恐怖という果実が沢山実っているのではという気持ちになってくるのでした。
それを収穫することで、きっと私はお母様がいなくても立派にやっていける。そんな風に思うのです。
それはいけない事なのでしょうか?
私はただ、生きたいだけ。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月18日
餓蒐が私に見せた夢は、どちらも悪夢そのものでした。
一人きりで縛られて、ずっとずっと何もない所に束縛されてしまうなんて、想像するだけで気分が悪くなってしまいます。
沢山の人間たちが私に向けて露出した殺意と恐怖心は、今までに経験したことのない感情を私に呼び覚まさせました。
どちらも深い深い泥のような、じっとりとこの身に纏わりつく悪夢の果て。
その中では、お母様の手も届かないのでしょう。
もう、二度と、お母様は手を差し伸べてはくれないのでしょう。
そんな確かな予感が、絶えることのない警鐘を私の中で鳴らし続けていたのでした。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月19日
ともあれ、戦いは終わりました。
あの人は、ひとつの物語を終える事ができたのでしょう。
いつか私も、私の人生という物語の主人公としてありたいと願います。
その時、焼け朽ちた柱がポキリと折れたのでした。それはきっと、誰かが本のページを捲る音。
いまこの瞬間は、誰かがもう読み過ぎ去ってしまった空白のページ。
その中で佇む私はただの、空白の、私。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月19日
帰りましょう。
新しい旅路がきっと私を待ってくれています。
素敵な出会いがありますように。