…IV… 魔女と黄金
プリムララ・ネムレイス 2021年7月9日
(喫茶『あかねこ』での邂逅は、那由多に広がるこの宇宙からすればほんの小さな揺らぎの様な出来事。しかし、プリムララにとってはとてもとても重大な事象となったようで。それにはいくつか理由があるのですが――)
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月9日
(鞄の中から金をいくつか掴み出してマジマジと見つめる。黄金に輝く表面に、無表情を湛えた自分の双眸が反射して)おまえ、意外と扱いづらい奴だったのね。お陰で恥をかいてしまったわ。
シャーロットさんのお優しさに触れる事ができたのはとても良かったですけれども。お母様が亡くなってからしばらくですし、少しお腹が空いてましたから。
愛、とはいいませんけど、おやつ程にはなりました。お母様は愛と恐怖も私に注いでくれましたですけれども、まさかそこまで贅沢は言いません。
ほんの少しだけでも、楽しい時間を過ごせたなら、それだけで。
(キラキラと輝く黄金を、手首を使ってその角度を変えていく。まるで万華鏡に映るかのように赤い瞳が揺らめいて)
プリムララ・ネムレイス 2021年7月9日
自分本位かしら。自分本位よね?自分本位だわ。
でも、だからって、他にどうしたらいいのよ。
お友達になりたかったのは本当よ?こういう歳の娘って、たくさんお友達がいるものでしょ?まだそんなに器用にできないだけよ。
それに私、魔法は使わなかったわ?ちゃんと我慢したもの。お母様の言いつけ通り、ちゃんと人の為に使うつもりよ。自分の事に使わなかったんだから、褒めてほしいくらいよ。(ふぅ、とため息をついて黄金をしまう。先程から耳に届くのは無遠慮な足音と、育ちの悪い耳障りな金属音。あらなんでしょう?大きな鴉たち?と振り返るとそこに立っていたのは五人の人相の悪い男たちで。皆こちらをジロジロと睨みながら口はだらしなく弧を描いていて)
どうしましょう。シャーロットさんの仰っていた“都会の怖い変なの”に見つかってしまったわ。折角ご忠告を頂いたばかりですのに……。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月9日
(魔女の黄金は特別。だからみんなそれを欲しがるの。たったそれだけそこにあるだけで、まるで魔法の様に。だから黄金を見れば悪い人も寄ってくる。それは常識。じゃあ、その悪い人をやっつけちゃうのは非常識?人を魔法で傷付けるのは悪い事。じゃあ、悪い人を傷付けるのは?お母様はもういないし、シャーロットさんも近くにいない。今は誰も私に教えてくれないの。どうしましょう)
ねえ、お聞きしてもよろしいですか?
貴方達を殺すのは、良い事ですか?悪い事なのですか?よろしければ教えて頂けませんか?
プリムララ・ネムレイス 2021年7月9日
(彼らも私に教えてくれない。けど彼らは嗤っていたわ?どうしてかしら。ううん、それは私に常識が足りないから。お母様ならどうするのでしょう。シャーロットさんならどうするかしら。一人が私の肩を摑むわ?もう一人が私のお腹にナイフを突き立てるの。柔らかい果物に、包丁を突き刺すように。やだ、これって痛いわ?どうしましょう。そしてもう一人が私の鞄を奪おうと私の手を取ってしまうの。とても汗ばんで、汚いお手手。どうしたらいいのかしら。でも、その汚い手で私の大切な鞄に触れられるのは、とても、嫌。)
プリムララ・ネムレイス 2021年7月10日
――結局魔法を使ってしまったのだけれど、殺さなかったのだからきっとセーフよね?ちょっと言うことを聞いて貰っただけですし。
それに久しぶりに恐いって感情も頂けて、お腹もいっぱいになりましたわ!
夜もだいぶ更けてきたことですし、今日はあの木の上で休みましょうか。
明日は大忙しよ?黄金を使いやすいように変えて、香水を見に行って。うふふ、楽しみだわ。
(服についた血の跡はすっかり消え去り、身体についた傷跡はその痕跡すらなく。逃げ出した男たちが落とした帽子をクルクル廻して近くに葉を広げる大木を見上げて)
プリムララ・ネムレイス 2021年7月10日
(やがて大樹の葉っぱの中からは軽快な歌謡曲が漏れ聞こえる。ラヂオから流れる音楽は、趣向は違えど彼女が休む時には欠かせない物。木の枝に座って幹に体重を預け、隣の枝木には旅行鞄を引っ掛けて。瞳に映る虧月は故郷の光となんら変わらないようにも見えて)
お母様、私は今とっても楽しいわ。お母様の残した黄金が使えなかったのには驚いちゃったけれども。
これからどうして行こうかしら。錬金術でお薬を作って人々に売って差し上げるのがいいかしら?それとも魔法を使って悪いドラゴンを倒しにいくのも悪くないかもしれないわ。
でもでも、シャーロットさんが言うような悪い人達がまた襲って来ないとも限らないわ?その方たちが私よりも強くないとも限らないもの。
まだ死にたくないわ。だって、まだまだやりたい事がある筈なんですものね。お友達もたくさん作りたい。色んな風景もたくさん見て回りたいわ。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月10日
その為にはもっとうんと強くならなくちゃ。
たまには愛が欲しいわ。ときには恐怖を捧げられたいの。
ねえ、お母様?この黄金は今後、どのように使ったらいいのかしらね?お買い物には使えそうにないですし。
でも欲しがる方も多そうよ?
ねえお母様。私のおやつ代わりに使ってもいい?ねえお願い。だってもうお母様は居てくださらないじゃない。
それなら黄金は私の為に使ってもいいわよね?魔法は人の為に使うんですものそれくらい。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月13日
お、お母様の黄金がこんな紙束に変わるなんて……
とっても冒瀆的だわ!
本当にこんなものでお買い物が出来るの?
とかなんとか言って渡したら破って捨てられたりしないのかしら。
不思議だわ?こんな紙切れにいったいなんの価値があるというのでしょう。
とりあえずはオードトワレを見に行きましょう。もし恥をかかされる事があればあの男、絶対に許さないんだから。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月13日
… 出会いの章 …
“シャーロットさんの印象”
乗り込んだ飛空艇でたまたまご一緒になった方なのだけれど、何故だがその時から不思議な親近感を覚えたの。
シャーロットさんの凛々しい瞳と慈愛に満ちた笑顔を見ていると、なんだかお母様の面影を見ている様で。似ている、という訳ではありませんのに本当に不思議。
どうやったらお友達になれるのかしら。
話は変わるのだけれど、私はやっぱり人間が好きみたい。ううん、みんな好きなのはそうなのだけども、やっぱり人間は特別。
理由?理由は私でもわからないわ。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月13日
“オルフェさんの印象”
シャーロットさんのお店で働いてる妖精さん。シャーロットさんとはとても仲が良さそうに見えました。
私が金をテーブルに出した時にチラチラ見ていたりして、きっと黄金が大好きなのね。好きな物がハッキリしている方はわかりやすくて素敵だと思うの。
私の事、ひょっとして少し警戒されていたのかも。シャーロットさんを守るように動いていたようにも見えたわ?気のせいかもしれないけれど。もしかしたら少し人見知りをするのかもしれないわね。
オルフェさんとも仲良くなれれば、きっとシャーロットさんともお友達になれるって思うの。
良き協力関係でいられたら、と思ったわ。