0
…II… ある かいぶつの おはなし

プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日


これは もりにすむ おそろしい かいぶつの おはなし です。
とても ざんにん で、
とても きょうぼう で、
とても おそろしくて、
とても つよい かいぶつの なまえ は、
ネイムレス
と いいました。




0





プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
今ではもう誰も覚えていないその森ですが、そこにはかつて一人の恐ろしい魔女が住んでいました。
 魔女は22の不思議な魔法を操り、数えきれない程の恐ろしい悪魔たちを従えて、沢山の人々の生活を脅かしていました。
というのも、魔女は人間の恐怖という感情が大好物だったのです。
お腹が減ってきては迷い込んだ旅人を襲い、その恐怖を食べて生活をしていたのでした。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
魔女はとても気まぐれでした。二人の旅人が森に迷い込めば、その片方をわざと見逃すということをよくしました。
すると彼女の恐ろしい噂はやがて周辺の国々へと広がっていき、森に住んでは人を襲う魔女の言葉を畏れるようになりました。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
魔女はとても欲張りでした。世界中から集まってくる恐怖の感情で森の魔女は常に満たされていましたが、それで満足することは決してありませんでした。
 ある時は巨大な竜に変身し、世界が滅びる幻覚をあらゆる国々の人々に見せつけました。
 ある時は大きな雷を街の塔へと落とし、人々に深い絶望感を与えました。
 ある時は地獄から呼び寄せた軍馬の戦車を放ち、世界に大きな混乱をもたらしました。
 彼女の元に集まる恐怖は日毎大きくなり、それでも彼女は次々と魔法を操っては悪さを続ける事を止めなかったのでした。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
魔女はとても嫉妬深い性格でした。特に幸せそうな二人の恋人を見るのがとても嫌いでした。
 そんな時は男を誘惑し、心を操り、別れさせては二人をめちゃくちゃに弄んだのでした。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
好き勝手を繰り返す森の魔女に、人々の我慢は限界に達していました。
 お互いにいがみ合っていた国々は互いに結束し、お互いに憎しみ合っていた異民族たちは互いに手を取り合い、ひとつになって魔女を退治する事を誓いました。
 しかし、森の魔女には無限の心臓がある事を、誰も知りませんでした。
森の魔女の瞳にはとても不思議な力が籠められている事を、誰も知りませんでした。
森の魔女は運命すらも捻じ曲げてしまう力を持っている事を、誰も知りませんでした。
森の魔女が実は人間ではないという事を、誰も知りませんでした。
 世界の国々の兵士は、それはもう途方もない程の数の兵士達は、魔女の住む森へと進軍し、皆魔女に斃されてしまったのでした。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
それからしばらくの事。
魔女は、自分がさらってきた子供達の心臓を食べてしまおうと準備をしていると、二人の人間が彼女の下へとやって来ました。
 一人は煙草を咥え、青白い光を宿す剣を携えた金髪の男でした。
彼の瞳は憤怒と正義の炎を宿す神の雷のように、鋭く彼女の瞳を穿いていました。
 もう一人は巨大な杖を携えた年若い女でした。
彼女の瞼は閉ざされていましたが、静かな怒りを湛えて魔女の持つ無限の心臓を見据えているのがわかりました。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
魔女は彼らを嘲笑い、殺してやろうと思いました。
 得意の魔法を放つと、しかし、男が振るった剣の前にあっさりと掻き消えてしまったのでした。
 それに驚いた魔女は、今度は下僕の悪魔たちを呼び出すと、女の放った神聖な光に照らされて次々と砂になっていってしまいました。
 男が魔女の心臓を貫きます。するとすぐに蘇るはずの心臓が激しく痛みました。
 女が神聖な魔法を唱えます。
すると闇の住人である魔女の体が激しく燃え始めました。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
それでも魔女は激しく抵抗しました。
 男は魔女の攻撃を受けて右手と右足と記憶を失い、どこかへと消し飛ばされてしまいました。
 女は魔女を殺せない事を悟ると、禁じられた魔法を発動するのでした。
 禁じられた魔法は魔女を包み込みました。すると魔女の時間は巻き戻されて、みるみる内に彼女は赤ん坊の姿へとなってしまいました。
 禁じられた魔法は魔女の森全体を包み込みました。すると森は封印をかけられて、誰もこの森に入ったり出たりする事が出来なくなってしまいました。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
赤ん坊になった魔女の魔法は全て、禁じられた魔法を使った魔法使いの体の中に封印されていきました。
 赤ん坊になった魔女の記憶は、時間が巻き戻されてしまったので全て無かった事になってしまいました。
 赤ん坊になった魔女は、とてもお腹が減っていて、大声で泣くしかありませんでした。
 魔法使いは魔女を殺そうとしました。しかし、怪物だった魔女のあどけない泣き顔を見るとそれがどうしても出来ませんでした。
 魔法使いは、この赤ん坊を育てる事にしました。正しく育てば、いつか人々の為に魔法を使える善い魔女になる、と信じたからなのでした。
 すると、魔法使いの愛に満たされた森の魔女は、やがて空腹が癒やされて泣き止んだのでした。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
その後、男の剣士はどこへ消えたのか、女の魔法使いと森の魔女はどうなったのか、知る者はいませんでした。
 忘れられた森の伝説はこうして幕を閉じるのでした。
0
プリムララ・ネムレイス 2021年7月7日
…End…
0