はじまり
ニーナ・アーベントロート 2021年1月3日
消えかかる地獄の炎の代わりに、つくりものの心臓が胸に宿った。
「すぐに馴染むよ」と人形の医師は言ったけれど、
まだ自分が自分ではないような心地がどこかにあって。
家族に心配はかけないよう、早めに帰宅した。
先日依頼で異端の神と戦闘の後、ばったり倒れた弟が、目覚めているのを期待して。
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ニーナ・アーベントロート 2021年1月3日
ロラン、入っていい?(ドアの前に立ち、軽くノックを3回。家族とはいえ急に部屋に入る無粋は避けたくて。……長く一緒に暮らしてきたけど、そういえば弟の部屋に立ち入ったことはあんまり無かったような)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月3日
「はーい、はいって、おねえちゃん。」
(いつもより幾分か元気のない返事に従って部屋に入れば、目に入るのは、
端に寄せられた小さい黒板やハードカバーの本がびっしり詰まった本棚。
円陣に石が置かれた文机と、大きなベッド。
そして、中央の椅子に座り丸テーブルに置かれたミルク粥を冷ましながら少しずつ食べ進める、ガウンを羽織った少年の姿。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月4日
(おきてた!)(安堵と緊張が一緒に押し寄せてくるけど、促されたのなら入るしか。そっとドアノブを回し、かちゃりという軽い音と共に入室。視界に入った腰掛ける小さな姿に気づいて歩み寄る)……身体はもう大丈夫? 随分、無理してたみたいだったけど。
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月4日
ん、心配掛けちゃったの。ごめんなさい。
今は、落ち着いてるみたいなの。
(力なく微笑みを向ける。数日昏睡していた為か少しやつれ、尻尾も耳も垂れ気味になっている。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月5日
……そっか、それならよかった。(今までならきっと、ここで会話を打ち切って自分の部屋にでも戻っていただろうけど)
ロランのこと、友達も家のみんなも心配してたよ。……あたしもね、もしものことがあったらどうしようかって。(ぽつりぽつり、また口を開いた)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月5日
?(姉のいつもと違う対応に違和感を感じてきょとんとする。)
……、あ、えっと、あの…、ごめん、なさい。
人狼魔術を使うと、いつも、張り切りすぎちゃって…。
(ハッとして、言葉の意味を考えて申し訳なさでシュンとなりつつ応える)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月5日
あっ、(そんなに申し訳なさそうにされては心が痛い。それにほんとに言いたいことはそれじゃなくて)
や、あたしこそロランの暴走、止めてやれなかったし、ごめん。でも、こうしてちゃんと帰って来られて安心したよ。
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月5日
(怒ってるのではないと分かると少し力を抜いて)
えと、「人狼化」って意味なら、進んでるの。
ただ、「危険」かどうかって意味なら、違うかな。
今回は、暴走しちゃったし、限界近くまで行っちゃったけど…。
でも、何も知らない時より、何もしてない時より、対策は、できるように、なったよ。
(薄く微笑みながら目を伏せる様に答える。少年の精一杯の強がりなのは姉ならわかるだろう)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月6日
進んでるけど危険じゃない、か……。(弟が伝えようとしていることを反芻し、心得たように小さくひとつ頷いて)
対策って、どんなこと? 調べたり、同じ人狼病のひとから話聞いたり……とか?(まだ体力も戻っていないだろうに、笑いかけてくる表情が痛々しい)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月6日
(今日の姉はなにか違うと確信して、しっかり顔を上げて瞳を見つめながら応える事にする。)
おねえちゃん、ひとつずつ、お話しするね?
よかったら、座って?
(丸テーブルの反対側の椅子を勧めて、小さなベルを鳴らす。じぃやがノックの後入ってきて、二人分のハーブティを準備してから部屋を辞していった。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月7日
……うん。今まで何となく訊けずにいたから、お願い。話して欲しいな。
(ずん、と重くなった胸に届いたハーブティの香りが優しい。じぃやにお礼を言って、勧められた席に座る)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月7日
(椅子に着く姉を見て居住まいを正す。少しだけ考えるそぶりを見せてぽつぽつと話し始める)
えと、まずは、どうやって調べたか、からお話するね?
あの、怒らないでほしいんだけど…、使ってみたの。
人狼の力を、ぼくの魔術で引き出して。
使ってる間、電脳魔術で、ぼくの身体の変化をアナライズして、電脳空間で、解析したの。
(要点のみを話すその表情は幼いながら紛れもない一流の魔術師のそれで。)
あ、もちろん、準備はしたよ。
満月の夜には、勝手に活性化しちゃうから、その時のデータを集めて、制御式を作って、実験したの。
(不気味な位淀みなく、淡々と述べて、湯気の立つカップを手にして、ふーふーふーふーと冷ましにかかる。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月9日
……。(淡々と、理路整然と話す少年はいつになく大人びていて、まるでいつもの弟じゃないみたいで、戸惑いの色は隠しきれなかった)
つまり……ついうっかり力を出しすぎちゃうとかじゃなくて、分析の為にやってたってこと?
それって、ぜんぶひとりで?
(マグカップを両手で包んだまま呆然。誰の助力もなく総て自分で決めて行ったと言うのなら少し恐ろしいが、訊かずにはいられなかった)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月9日
(すぅっといつもの幼い表情に戻って)
あ、えと
、…………、うん、制御式が、形になってから、何回も試してたの。
ぼくひとりで。ひとりなら、失敗したり、暴走して、誰かを傷付ける事はないから。
(姉の様子がおかしく感じて、何か悪いことをしたのかと、恐る恐るといった感じで続ける)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月11日
(同じ家で暮らしてたのに、そんなこと全然知らなかった。……いや、知ろうとしなかったんだ)
なんというか……悪かったな、って。家族なのに、ロランの人狼病についてろくに踏み込まず、ずっとひとりで色々悩ませてしまったかもって。こないだの件でちょっと、気づいたんだ。
ニーナ・アーベントロート 2021年1月11日
あ、お姉ちゃんは怒るためにここへ来たわけじゃないんだよ。むしろ逆っていうか……。(居心地悪そうに話す弟の様子から心情を察した)
(自分も一旦落ち着こうと、ハーブティを少し飲んだ)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月11日
あ
……………。
(姉が自分に強く興味を持ってくれてる事が嬉しくなる。そして、同時に聞いた「こないだの件」でハッとなる。思い当たるのは、二つの依頼。どちらの話なのかの検討は付かない。どちらも、自分は力を使い果たし、気絶してしまって結末を知らないのだ。)
あのね、おねえちゃん?
ぼくからも、聞きたいの。
おねえちゃんは、あの時、どんな事を考えたの?
(姉が自分の事を知ろうとしている様に、自分も姉の事を知りたい。「あの時」には、話しをする暇がなかったから。祈る様に上目遣いになりながら、問うてみる。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月12日
(「こないだの件」は紅い月の夜と、母狼の声響く森、思い当たるであろう二つともを指している。立て続けの出来事の中、人狼の力は確実に強くなっていると確信して恐ろしくなって)
……あの時、ね。
姉として情けないし、恥ずかしいし、怖いこと言うんだけどさ。
(今話さないと、一生後悔する。一呼吸おいて)
ロランがこのまま目を覚まさなかったらどうしようって。
人狼病がどんどん進んで、ロランと二度と会えなくなることを考えて、恐ろしくなった。……おかーさんのこともあったから、余計に。(俯いたまま、言葉を絞り出した)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月12日
(図星を突かれて胸が痛い。姉を、仲間を、大事な人を、安心させたくて、守りたくて力を使った。それは「納得」している。そう、「納得」しているから。だから、そう言われたら、もう、自分ひとりの事にはできないと、子狼のタガは、外れる)
…………、おねえちゃん、きちんと、伝えておかないと、イケない事があるの。
落ち着いて、聞いてね?
(念を押したのは、姉の為じゃなくて、自分の為。叫びそうに、泣きそうになるのを堪えながら、呟くように言葉を絞り出す)
ぼくね、おねえちゃんより、長生きは、できないの。
きっと、たくさんの人を残して、ぼくは、旅立つの。
ニーナ・アーベントロート 2021年1月13日
(随分背丈が伸びたとはいえ、まだ幼い少年の口から語られる言葉はあまりにも残酷だった。聞きながら無意識に下唇を噛んでいたことに気付き、そっと戻す)
……やだ、やだよ。そんなの。
いつさよならが来るか怯えながら過ごすのは、寂しいし、悲しいよ。
おかーさんみたいに、ロランが急に遠くへ行ったら、やだ。
(あたしが泣いちゃだめ。本当に泣きたいのは、弟のほうだから。それに、伝えたいことはまだある)
……だからね、あたしなりにできることを考えてさ、ソーシャルディーヴァになったんだ。
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月13日
おねえちゃん…。
(姉の弱音は初めて聞いた気がする。その言葉にぎゅっと胸が苦しくなる。)
でもね、すぐじゃ、ないよ。
きちんと計算できてないけど、パパくらいまで、大丈夫だと思うの。
ぼくの病気は、「寿命を削る」んじゃなくて、「心臓に攻撃する」ものみたいだから。
(分析結果から、ほぼ確実な事を話す。時間は、ある。まだ、大事な人たちを泣かせずに、済む。)
え?
(姉の告白の意味を掴めず、疑問符だけが口から出る。見上げた姉の顔は、とても真剣そうに見えた。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月14日
……そんな、諦めた様なこと言わないで。(いや、今まで頼れる者が近くにいなかったんだ。口にして当然だろう。分かってはいるけど、言わずにはいられなくて)
あたしね、ロランが倒れた後から心境が変わったのかな。……心臓の地獄が変質して、なんか、元気が出なくなっちゃってさ。
それで、ツテを辿って猟兵のお医者様を訪ねて……人工の心臓を造って、入れて貰ったんだ。(とん、と自分の胸に手を当てれば、かすかなモーターの振動を感じる)
ただの心臓じゃなくて、ネットワークサーバーの役割も兼ねてる。これで端末を持ってる色んな世界の人達と繋がって、情報収集と魔術の研究をするつもり。……人狼病を治す方法とか、UCで削った寿命を取り返す方法とか。(一息に、話し終え)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月14日
(じっと話を聞き、姉が話し終えても微動だにせず。見開らかれた目尻に涙が盛り上がる。それを指で拭うと堰を切ったようにボロボロ零れ落ち)
ち、ちがうの、おねえちゃん…。
ぼくには、ぼくには、時間が、じかんが、あるの…。
あしたじゃない…、一年じゃ、ない…。
『おねえちゃんと』、…ちりょうする時間が…、あるの…。
(嗚咽を堪え、途切れ途切れに、吐き出す。一言毎に、胸が軽くなる気がして、余計に涙があふれて止まらない)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月16日
……あたしと、治療?
(途切れ途切れに紡がれる言葉に胸が詰まって、紫色の瞳から落ちた涙が呼び水となった。自身の黄昏色からも、熱いものが次から次にはらはらと)
今まで全然ロランの問題と向き合わずに、躱してばっかりだったのに。
……ひどいお姉ちゃんだったのに。
それでも、一緒に頑張りたいって思ってくれるの?
(すん、と時折小さく鼻をすすりながら、真っ直ぐに見詰めた)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月16日
(涙を止めようと顔を伏せて目をぐしぐしと手で拭う。だけど止まる気配はなくて。正面からは、姉が華をすする音が聞こえる。
自分は今、辛いのだろうか?うれしいのだろうか?)
もう、今日寝たら、明日起きられないかもって、思わなくても、
いいって…。
何もしなかったら、20年くらいだけど、どうにかできる時間があるって、まだ、がんばれるって…。
それだけでも…、いい事だったのに、…これからは、ひとりじゃ、ないの。
ひとりじゃ、ないのは…、とっても、うれしいの。
(「すぐ死ぬかもしれない」という恐怖と、ひとりで挑み続ける悲壮感の両方が和らいで、自分でも驚くほど涙が流れ続ける)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月17日
(明日を生きられるかどうかわからない不安、だなんて。いつその重圧に潰されてもおかしくないというのに)……ロラン、頑張ったね。
うん、これからは一人じゃないよ。一人ぼっちにはさせないから、約束させて。
(やっぱり涙は止まらないけれど、心は少しずつ暖かくなっていく)
……ねぇ、ぎゅって、ハグしてもいいかな。
恐かったら、断ってくれていいからさ。(濡れた瞳のまま笑って、弟にまた向き直る。もし是と答えてくれるのなら、その両腕を小さく開くだろう)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月17日
(ボロボロ涙を流したまま、顔を上げる。微笑む姉の顔が滲んで見える。)
おねえちゃん…。
(それは、ずっと待ってた言葉。いつも、抱き締めて欲しかった。可愛がって欲しかった。姉に自分を見て欲しかった。)
お、おねえちゃん…、おねえちゃん…っ!
(飛び込もうとしようにも、すっかり落ちた体力は立ち上がるにも不十分で、椅子からずり落ちる様に身体が滑る。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月18日
ありがとう。……っ、(ひとたびは泣き止みかけていたけれど、飛び込んでこようとする姿にまた小さな嗚咽が込み上げる。弟のことが大事なくせに意地を張っていた罪悪感と、健気に自分の言葉を受け入れてくれたことに対する感謝。色んな感情がごちゃ混ぜになって)
……ロラン!(傾いだ身体に思わず声が上がる。支えようと手を伸ばして)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月18日
(ガタンとテーブルや椅子の倒れる音。目の前は真っ暗で、なにも見えない。
ただ、あたたかくて、やわらかくて、弱った嗅覚でもわかる、やすらげるかおりがする。)
あ
…………。
(ゆっくり顔を上げると、近くに姉の顔。崩れそうになった身体は、しっかり抱き止められていた。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月19日
……もう、大丈夫。
あたしが、お姉ちゃんが、一緒にいるから、ね?
(抱き留めた姿勢のまま、記憶に残り根付いている母の想い出をなぞるように、優しい声色で語りかけた。そっと差し出した手はゆっくりその髪から背を撫でようと。弟が落ち着いて、もういいよと言うまでは、そうしてるつもり)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月20日
あ…、(ぐすっ)、お、おねえちゃ…、…。
(優しい声が心の奥まで染み込んで、伝わる体温が冷えた身体を温めて、撫でられる感触が不安を溶かしていく。喉の奥底から、呼気が溢れる。誰にも聞かせた事のないような大きな嗚咽が昇ってくる。張りつめた糸は、完全に切れた。)
あ、あぁ…、あああぁぁぁ…っ。
(その優しさにすべてを委ねて、弱々しい力で縋り付き、大声で泣きじゃくる。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月21日
(泣きじゃくる大きな声は、どんな言葉よりも雄弁だ。撫でる手は止めず、静かに頷いて)
……うん、うん。
あたし、これからいっぱい頑張るよ。(時間は有限だけど、延ばすことはできる。そうして、過去の空白を埋めるんだ)
ロラン・ヒュッテンブレナー 2021年1月22日
(大きな泣き声も次第におさまってくる。抑えて、ため込んだものはすべて出し切った。体の水分を出しすぎた疲労で頭は鈍くなるが、不思議と気分はいい。心が、とても、軽くなっていた。)
ぐすっ……、おねえちゃん、……ありがと。
すっきりしたの…。
(すっかり赤くなった目じりに残る最後の雫を払って顔を上げる。でも、まだ離れたくなくて、なのに眠気が強くて。もう少しだけ、甘えていたい。)
あの、…つかれちゃったの。
ベッドに行くの、手伝ってくれる?
(おずおずと上目遣いで見上げてみる。)
ニーナ・アーベントロート 2021年1月27日
(いつまでそうしていたかは分からない。震えていた小さな背中が少しずつ落ち着き始めたのに気付き、微かな安堵の吐息を漏らす)
……ふふ、沢山泣いたねぇ。でも、ロランが抱えてたもの吐き出せて、よかった。(泣き腫らした目に見上げられ、視線が合う。もしかして一緒に泣いていた自分のも赤いのだろうかと気付き、誤魔化すように瞼を伏せた)
はいはい、ベッドね。……(手を伸ばしかけて一旦静止。今年12歳になろうという弟は、抱えるにはちょっと大きくて)
肩、貸そっか。
ニーナ・アーベントロート 2021年1月27日
(小さいけれど、昔よりも随分大きくなった大事な弟を、ベッドまで送り届ける。そっと部屋を後にしたのは、程なくして静かな寝息が聞こえ始めてから)