落日
黒江・イサカ 2020年10月18日
夢の中≪列車≫
対面席の客室。線路の上を走る音がリズミカルに、車体を揺らした。
→ どうぞ、外の方でもどなたでも
→
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→ 2人まで
→ 夢
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黒江・イサカ 2020年11月10日
いいえ、此処は禁煙ではありません。どうぞお吸いになって。
黒江・イサカ 2020年11月10日
(列車の切先は水を掻き分け進んでいるはずなのに、それに因る水流は外に見当たらないばかりか下から上にぶくぶくと気泡まで浮いてゆく。今は随分とスピードが遅いのだろうか?タタン、タタン、タタタンと揺れる音こそくぐもるように低くはなったがそのテンポに変化は感じられなかった。車窓は圧し潰されそうなほどに真っ青と明るい。ひかりは何処にあるのだろう)
黒江・イサカ 2020年11月10日
……ふふふ。内緒にしていてね、僕がこんな制服までいただいてるってこと。(車掌さんごっこはすぐに終わった)(帽子を重たがるように小首を捻ると、見上げるような目つきで君を見て)でも、お給料とか貰ってるわけじゃないしな。景気はあんまりよくない。…でも、産まれたときからこの列車に揺られてる。昔はこの帽子も随分大きかったものさ。(列車の進む先は、どうやら男の見つめる方向にあるらしかった)(君は後ろ向きに運ばれて、そして過ぎ行く景色を車窓に見ることになる)インコくんには心当たり、ないのかい?この列車のゆく先。君の逢いたい死人さ。
納・正純 2020年11月11日
(疑問は確かに幾つもあった。目の前の彼が先ほどそう言っていたように、本当にいくつもの疑問が。此処は何処? これから何処へ? 自分は何故此処に? 今何時? 例えばそういった類のものだ。しかし、例え幾らの疑問を積み重ねたとて、恐らく何も満足のいく答えは返ってこないだろう。いいや、例えば彼はその疑問に一つずつ丁寧に答えてくれるかもしれない。その可能性だってあるだろう。だが、自分の性格上、それだけで満足するとは到底思えなかった。疑問に思ったことは、人聞きではなく自分の目で確かめなければ気が済まないのだ。
それに、なにも表層的な答えが聞ければ満足という話でもない。狙い澄ました疑問を持つのなら、きっと、このシチュエーションの根本的な部分だ――――『何故、自分と彼はここで出会ったのか』)
納・正純 2020年11月11日
……ああ、言わないさ。誰にもな。それに、『ある日のこと、俺は知らない間にイサカが産まれた時から車掌を務める列車に乗っていて、その列車は水の中を走っていきました。聞けば、この列車は死者に逢いに行く列車だというのです』――――なんて話、誰に話せば良いっていうんだ? トリップの最中にキリストとハイタッチしたって方がまだ信憑性がある話だぜ、そうだろ?
……フー……さて、どうかな。生憎ながら、逢いたい死人に心当たりはいなくてね。生きてる奴相手なら、殺したいほどに興味が湧く奴もいるさ。だが、死んだ奴に興味はないんだ
…………。そいつの物語は、死んだ時点で終わってるからな。そこに新しいものはなにもないし、新たに生まれるものもない。だから、俺は死人に興味がない。……お前はどうなんだ、イサカ。その口ぶりじゃ、まるで心当たりがありそうだぜ。
黒江・イサカ 2020年11月16日
どうだろなあ。(トリップの言いように小さく笑うことを、一言置きながらの時間稼ぎとする)(キリストとハイタッチするよりも浪漫のありそうなことだと思うのに、確かに信じてもらえないかもと自分でも思ったので)…逢いたいひとはいるけど、逢ったところであちらさんは僕に用事もないだろうし、わざわざ邪魔しに行こうとは思わないかも
。……、…ああ、いや、いるな。そういうの関係なく、逢いたいひと。(窓の外を見て、天井を見て、君へ視線が返ってくる)(姿勢を正して改めて座席に凭れると、帽子を被り直した)インコくんはさ、死んだひとに知らないことを持ち逃げされたこと、ないのかい?それとも、君の前で死ぬやつは君に丸裸にされたやつばっかりだったの?
納・正純 2020年11月17日
……そうかい。逢いたい人がいるってのは良いことなんじゃねえか。例えそれが死者であろうとよ。それに、ホラ……例えば『逢いたい人は死んでいました』なんて、浪漫がある言いぐさで俺は好きだぜ。空想小説の始まりの一遍みたいでな。
納・正純 2020年11月17日
そうだな……良いことを教えてやるよ、イサカ。俺の目の前で死ぬ奴は、二種類しかいないんだ。
一つ目は、『何の興味も湧かなくて俺が殺した奴』。
平凡な奴、詰まんない奴、面白くない奴、退屈な奴、成長しない奴、停滞してる奴、いつまでも過去に囚われている奴……。それから、人を殺したりする奴とかがそうさ。
二つ目は、『全部知っちまったから俺が殺した奴』。
表情、仕事、趣味、特技、しぐさ、好きなピザの具、言葉遣い、表現方法、交友関係、水たまりを踏んづけた回数、過去、現在、未来、セックスの癖、好きな音楽、嫌いな映画監督、煙草と酒とドラッグの好み、中身……。付き合っていくうちにそういう『全部』を知っちまった奴がそうだ。
あとは全員生きてるよ、俺が見てるこの世界の中ではな。この答えでよろしいかな、車掌さん?
黒江・イサカ 2020年11月24日
ははあ。…なかなか劇的な人生を送られてきたようだね、インコくん。大抵のひとが自分の感じた死をふたつになんて分けられないもんさ。お片付けが極端に上手いのか、それともそれが本当なのか。(断捨離って知ってる?なんて言い添える言葉はコーヒーに添えられたクッキーくらいに軽やかだ)(本当にヒーローみたいに生きて来たのか、それともそうじゃなかったことを忘れるのが上手なのか)(面白いなと思ったから、つばの下で笑って)そんな書き出し、僕はやだね。殺せなかったなんて悲劇でしかない、……ねえねえインコくん。じゃあさあ、僕がいま君の目の前で死んだらさ。どっちに分けてくれるんだい?
納・正純 2020年11月26日
自慢じゃないが、実はそうなんだ。劇的の二文字こそ、俺の人生を彩る全てだよ。先の読める芝居に興味はないし、終わりのない演劇にもそそられないものでね。人間、終わり時を見付けたらスパッと終わるのが良い。お前もそう思うだろ?
……もしもそうなったとしたら? そうだな、その時は……お前は俺の中で初めての『死ぬには惜しかった奴』になる。何故なら、お前にはまだ聞きたいことが幾つもあるからよ。想像するだにビビッドな響きじゃねえか、ええ? もしもそうなったとしたら、俺はイサカに聞きたかったことを墓まで抱えて生きていくことになるな。
納・正純 2020年11月26日
……フー……。なあ、イサカ。良い機会だから質問しても良いか? 代わりに……そうだな。お前も俺に聞きたいことがあるなら聞けよ。何だろうと答えてやる。目的地の死者が待つ場所まで邪魔の入らないシチュエーションだ、お互い気兼ねはなしでいこうじゃないか?
黒江・イサカ 2020年11月30日
あはははっ、は、ははは、はは、っ ……ひひ、はあ、は、…なんて?いま、何て言った?“良い機会だから”? はははっ 良い機会があろうとなかろうと、はらわた食い散らかすみたいな知りたがりの癖に?ははは、お行儀いい訊き方もするんだね…前も言ってたっけ…。(あんまりに笑ったものだから、仰け反った先の背凭れがぎいと鈍く軋んでいた)(隠そうとする仕草もなく、頭の中に残る君の声の「良い機会だから」を大いに楽しんで)(姿勢が正しく戻る頃には、滲んだらしい目尻の涙を指の腹で拭っていたりした)
黒江・イサカ 2020年11月30日
……いや、いや、失礼しちゃったね。思いがけないこと言うもんだから、ちょっとツボに入っちゃった。…なんだっけ?質問してもいいか?いいよ。僕、お喋り好きなんだ。特にこんな列車の中だとね…。何せ僕、死ぬには惜しかった奴だから。(わざとらしい咳払い)(帽子も格好つけて被り直し)(しかし君と目が合った途端、その笑うさまは悪戯っ子の楽しさで)その煙草、1本頂戴。(次の笑みは仰け反るのではなく前のめり)(座ったまま上体を傾けると、顎をほんの少し差し向けた)
納・正純 2020年12月1日
良い話の切り口だろ? 人は何だって理由があった方が安心するもんだ。それも出来れば、その理由って奴はお行儀が良い程相手の口を軽くしやすい。それに、個人的にもこっちのが好みでね。ただ『教えろ』と一言だけ言って銃をお前の顔に付きつけるより、『よろしければいかがですか』と行儀よく聞いて話を誘って、相手の口を自分から開かせる方がな。
ああ……楽しんで頂けたなら何よりだ。なんたってお前は、死ぬには惜しい奴だからな。ほら、好きに吸え。火は持ってるのか? 持ってねえなら火種も貸してやるが。
(差し向けられたいたずらっ子の口許へ、一本の黒いタバコを差し向けた。要求を拒否するでもなく、かといって押し当てるでもなく、そうしたいなら勝手に啄めと言いたげに、タバコを持つ男の手はそこで止まった)
納・正純 2020年12月1日
――――フー……。それで、質問だが……そうだな。これは冗談で聞くんで、お前も冗談みたいに答えてくれよ。
なあイサカ。おまえ、どうして人を殺すんだ?
教えろよ。包み隠さず、お前の動機を、理由を、ワケを、理念を、欲望を、使命の奥の妄執を。人を殺して、どうしたいんだ? あるいは、人を殺めて、どうなりたいんだ? 俺が、お前に、前々から聞きたかったのは、正にそれなんだ。
(そして、正純は銃を構えてそう言った。左手で彼に黒タバコを差し向けて、右手で彼の頭に銀色に鈍く光るリボルバーの銃口を指し向けた。彼の口許で揺蕩う白い煙だけが、揺れの大きい列車の中で向き合って座る二人の間で揺れていた。天国行きの街の夜みたいに静かだったし、蜘蛛の巣が張り巡らされた大都会の朝みたいに音が遠ざかっていくようだった)
黒江・イサカ 2020年12月4日
(小首を傾げて言葉なく微笑むと、それを礼として目の前の紙筒へ唇を寄せた)(薄く開いた口唇がこわごわと食べられないものを受け入れて、咥え)(無言であることの理由を作った)……僕には、自分から開かせるのも好きだけど無理矢理暴くのも好きって言われてるようにしか見えないけどなあ。(煙草を摘まんで収まりのいい位置を探しつつ、ちらりと見遣るのは煙草よりも余程向けられ慣れしている銃口だ)(それとも、咥えた方がいいのかしら)(あぐ、と揶揄うように噛みつくようなジェスチャーを)此処は夢だからね、その気になれば火なんて適当に点いたことにすることも出来る。でも僕は夢でしか煙草なんて吸わないから、火種も借りることにする。
黒江・イサカ 2020年12月4日
でもね。冗談で訊くなら教えてあげない。(ふたりの間に視線を落とす)(向かい合う座席、互いの膝、爪先、赤色のカーペット)(其方側にいる君を、見て)……だけどさ、それ、起きてる僕に訊いた方がいいような気もするけどな。君、夢の内容とか憶えてる方?起きてから思春期の男の子みたいに後悔めいた罪悪感は抱かない? ――― 俺はイサカに何てこと言わせちまったんだ!って。(声真似をし始めたときから既に声は笑っていた)はは、……ああ。うん。しかし、たぶん。僕と、起きてる僕は、きっと違うことを答えるだろな。こんなこと言うと、僕は『教えろ』の続きをされてしまう?
納・正純 2020年12月7日
もしもそう見えるなら、それが正しいのかもしれねえな。そう言われてみれば、ここ何年かはそれをしなくなって久しくてね。その、『無理やり暴く』ってヤツをさ。
しかもだぜ? 久し振りにそれをしてみてもいいかもしれない対象が俺の目の前にいて、それをしてみてもいいかもしれないシチュエーションが正に今ともなれば、俺の指も軽くなっちまうかもしれねえな。俺は確かに欲張りだ。目の前で高級食材をチラつかされりゃ、まず考えるのは『どうやったらそれを最高に美味く味わえるか』なんだよ。だが、たまには食欲に負けて高級食材に噛み跡を付けたくなったりもする。お腹が空いて仕方のない時には、噛み千切って飲み込んでしまうかも。そして罪悪感は抱かず、口の中に残る生の味を楽しむのさ。
――――『教えろ』の続き、されて欲しいのか?
(そして、引き金を引いた)
納・正純 2020年12月7日
――――ほらよ、『火種』だ。ここは夢の中なんだろ? だったら、俺がこういうモンを持ってて、イサカに火種を貸してやってもおかしくないって訳だ。
……本心を言えば、俺はお前を殺したいと思ってるよ。夢の中に問わずな。それは何故かといわれりゃ、お前が人を殺してるからだ。俺にとって、『変わりようのない殺人者』は土壌を荒らす厄介な獣でしかない。
だが…………俺がお前に興味を持ってるのも事実ではある。お前は奥が深くて底知れない、面白い奴だ。出来れば殺したくはないね。初めての『死ぬには惜しかった奴』になる。だから、お前が人を殺す理由を聞きたいんだ。それを聞いて、俺はお前の敵になるかどうかを判断したいのさ。
(リボルバーの先から放たれたのは、静かに燃える小さい炎だった。赤色のカーペットに包まれながら、炎は目の前の男が口にくわえた煙草に火を付けた。付いた灯りは、まるで死者を導くランタンのようだった)
黒江・イサカ 2020年12月15日
(引鉄に掛かる指に、引く動きに、その音に微かにも眉を動かさなかったのは此処が夢であると確信しているからなのか、それとも別の理由があるのか)(銃口からほんの小さな炎が飛び出したのを見たその瞬間、ようやくおかしげにくしゃりと目を細めて)自分がスケベだってわかってる男って、悪びれないから性質悪いんだよなあ。(火のついた煙草をたっぷり吸って熱を移すと、自身の座席へと落ち着き直した)(咥えたまま、口端から煙が漏れる)
黒江・イサカ 2020年12月15日
―――…敵ねえ。(たなびく香りに男の声が混じり)……僕、味方って少ないんだよね。少ないって言うか、…まあ、いいか。僕は誰のだって味方なのにさ、ちょっと悲しい話だね。(閑話休題)(煙を中に馴染ませる間、お得意のお喋りを間に挟んで)(殺したいなんてよく言われるけど、いつだってちょっとショックだったのだ)インコくんはさ、病気とか、事故とか。そういうので、不意に誰かを喪ったことはあるかい?さっきの話しようだとないのかもしれないけどね。
納・正純 2020年12月22日
お互い様だろ、カウボーイ。そんな風に物欲しげに唇からわざと煙の束を垂らして、誰の首に縄を付けるつもりでいるんだか知れたものじゃないな。たまにはこうしてナイスミドル同士で話すのも良いもんだ。何故って、自分の欲深い部分を隠さなくても良いからな。
(笑みには笑みで、煙には煙で応える。別に意味のあることをしゃべっているつもりはない。これはいわゆるじゃれ合いのようなものだ。夢の中だからこそ気軽に出来る、銃と炎と煙とを、二人の手で弄ぶじゃれ合いだ)
納・正純 2020年12月22日
ハッ……分からなくはないね、その気持ち。八方美人は嫌われるものさ。『自分一人だけ幸せになりたい』くらいの願いが丁度良いってもんさ、俺やお前、詰まる所の人の身にはな。
『みんなを幸せにしたい』なんて願いは欲が深すぎて底が見えないんだよ。ポケットにも入らないほどデカい望みを両手に抱えてお前の面がよく見えないのに、どうしてお前の味方になれるってんだ?
……ああ、無いね。『まだ』無い。だいたいそういうモンは無縁で生きてきた。運が良いのか悪いのかは分からないが、不意に誰かを失ったことは無い。俺の知識欲にとっては都合よくな。それで? それがどうかしたのかい? 聞いてれば、『自分はその経験がある』ように聞こえたが……そいつは俺の勘違いかな。
黒江・イサカ 2020年12月25日
(ナイスミドル?)(君がそうだとも、ましてや自分がそうだとも思っていなかったのでしばし眸を丸くする間があり)縄なんて掛けないよ。(そう、冗談がわからない生真面目みたいに言った)(手ずから以外にそんなことはしない、と)(安心させるように、手のひらを見せて)……君も、嫌いだから僕を殺すかい?ねえ稀有なひと。そりゃあるさ、僕は君と違って普通のにんげんだもの。僕の手で殺せなかったひとなんてたくさんいる。悲しかった。悲しいよ、そういうときはいつだって。僕が殺したってかなしい。どんなおしまいだって寂しさの匂いはするものさ。(君とお揃いの黒筒を摘まむようにすると、ご指摘いただいた口端をちろりと舌先が覗いた)(悲しい思い出はいつだって見上げる先にないから、自分の吐く紫煙は俯く眼前を汚すように漂って)(霞の何処かを、君の知らないものを見る)
黒江・イサカ 2020年12月25日
……それにしても、ふうん、 …そうか。ないのに、君はそんなにも餓えを恐れているんだね。それが訪れないように、あらゆる手を尽くしている。僕にはそう見えた。 しかし、喪ったこともないのに何処で餓えなんて味わってしまったのかな。君のこと、ちょっと印象が変わったよ。いろんなものを興味本位で食い散らかす、傲慢な美食家なのかと思ってた。(ふうっとひと吹き)(互いを阻むようだった煙の色は失われて、君をまっすぐに見つめる双眸)(空いた唇が笑う、煙草を携えた手指が口許を隠していようと)(揶揄う口振りに声が転がって)いまは、臆病な腹減り子。
納・正純 2020年12月31日
ハハ! 俺の綺麗な首に不条理の縄をかけないって言うんなら、どうやらお前はカウボーイじゃなかったらしいな。お前を撃ち殺す理由が一つ消えたぜ。それは良いことなんじゃねえか? きっと、お互いにとってな。
さて、ふむ。俺がお前を撃つ理由は、お前のことが嫌いだからか否か、か。その返答としては……『NO』だね。別に俺は好き嫌いや使命感で人を撃ち殺したりしないのさ。俺は殉教者でも執行人でもないもんでね。俺がお前を撃ち殺したいと願うのは、『俺の目的にお前が邪魔になりそうだから』だ。俺は自分の満足を知らない赤い知識欲のために、遠い未来で俺の知らない知識を生み出してくれる誰かの成長を願ってる。だから――どんな理由があるにせよ、大量殺人者は俺の目的の成就のためには邪魔なんだ。俺は人を生かしたい。お前は人を殺したい。おやおや、コイツは矛盾だね。ぶつけあってどちらが強いか試してみるかい?
納・正純 2020年12月31日
言うじゃねえかよレッドラム。そんな悪びれない視線で俺を見ないでくれるか? 人を見るのは好きだが、人に見られるのは慣れてねえんだ。……しかし、良く人を見てる目だ。お前の周りに人が集まるのも少しわかる気がするね。
お前は正しいよ、イサカ。俺は今から四年前、飽食の時代の最中で飢えたことがある。それもただの飢えじゃない――言うならば、俺は知識に飢えたのさ。その時以来、俺にとって『知的好奇心』と『食欲』って単語はほぼ同種のものになった。しかも厄介なことに、その欲はただ何かを貪って満たされるような代物じゃなくてね。まったく我儘なことに、『味わったことのない知識』じゃないと満足してくれないのさ。……さて、まだ俺の話を続けるかい? 俺としては、お前の話に戻りたいんだがね。お前が人を殺す理由って奴にさ。
黒江・イサカ 2021年1月6日
お腹空いてきた?それとも、全部知られてしまうのが怖い? (君ってひとの話ばっかり訊きたがるよね、なんて今更尋ねるには知りすぎたし、馬鹿のすることだ)(それでも尚、別の言葉に変えて訊くのはそれが君と僕の“断られるのに慣れている”所以ってやつなのかしら)(まるで幼な妻みたいにかわいこぶって小首を傾げて見せれば、自分で笑って紫煙を吐いて) なんて言ってもね、こればっかりは言葉にし辛いものなんだよ。動機、理由、ワケ、理念、欲望、使命の奥の妄執。そんな風に言われると尚更、これってそんなにご立派なものかしらと自信を失っちゃうわけ。何でか知らないけどさ、みんなハードル上げてくるんだよ。僕に訊いてくるひとって。 (乾いた香りを舌に塗せば、途端にいろんなことが言い辛いことのように思えてくる)(紙筒を咥えると勿体ぶるように腕を組んで)(助走をつけるようにひと呼吸)
黒江・イサカ 2021年1月6日
死ぬじゃない、生きていたら誰もが。死ぬから生きている。それってとても普通のことだよね?寿命とか病気とか、突然にとか、いろいろあるけど。……いや、わかる。わかるよ。かなしいことだよ、ひとが死ぬって。 (決してそういう機微がわからないキチガイではないのだと、言い訳するように両手を挙げた) でも、だからなんだ。死ぬから……そうしているだけで。 …ああ、話すとやっぱり馬鹿みたいだ。これ、起きてる僕にも訊いてみてくれる?あっちの方がちゃんと“考えて”るからさ。もう少し格好のつくこと言ってくれると思うよ。
納・正純 2021年1月12日
ハハ! 面白い質問だね。答えてやるよ、断るのも可哀そうだからな。そうだな、お前の二つの疑問に対する答えを言語化するなら――『飢えはずっと続いている』し、『自分のことを積極的に人に話すのは苦手なだけ』かな。
自分の話をするよりも、ひとの話を聞く方が……何というか、好きなんだよ。昔はそうでもなかったんだけどな。いつからかな……いつの間にか、そうする方が俺にとって正しく、そして自然になったのさ。だってそうだろ? 飢えていたらそれを満たしたいと思うのが生物の性だし、間違っているものは正しておかないといつまでも気になるもんだ。それとも、それは俺が几帳面だからかな?
(ただ、目の前に座って笑いながら煙草を吸っている男だけを見ていた。窓の外にも、天井にも、視線がずれることはなかった。今この瞬間、正純にとっての興味の対象が何であるのか、その視線が雄弁に語っていた)
納・正純 2021年1月12日
……ああ、お前が言ってることは正しいよ、イサカ。誰しもがいつかは死ぬだろう。概念的な意味でも、実質的な意味でも、永遠と停滞はこの世にありえない。それは分かるとも。終わりという名の変化があるから、ものごとには価値とカルマが生まれていくんだろう。
言い振りからして、お前が誰彼構わず理由もなしに死をばらまいているワケじゃないんだろう――というのも、何となくは理解できる。ハードルを上げたのは謝罪しよう。起きている時のお前にも、いつか同じ質問をすると約束するさ。その時は格好いい答えを期待してる。
……だが、分からないな。寿命、病気、突然な死――――それらの死と、お前の殺害によって齎された死は、お前にとって……何が違うんだ?
黒江・イサカ 2021年1月18日
何にも違わないんだよ、納正純。誰しもに寿命が訪れるように。誰かが病気に罹るように。誰も恨めず死んでしまうように。それらと同じように、それ以外とも同じように僕は――――…出逢う。ひとに。それらみたいに、死なせる。 (今は溜息も色を付けて漏れる)(掌は男の口許を隠し、唇のかたちを隠した)(笑うでも憂うでもなく、煙草を携えてずれたときには既に煙に塗れていて)(灰は床へ落した) 正純も……、死んじゃうじゃない。おじいちゃんになってかな。それとも、何か大病をして?急に黒塗りの高級車が突っ込んでくるかも。凄くひとに怨まれて… なんてことも。どのタイミングで出逢うか、それは神のみぞ知るだね。 (もう片手が自身の腿を撫でる)(そうして裏返り、何かを反復するような手首のスナップ)(小さく笑って) そしていま君は、僕と出逢った。いま、死ぬ。……ほら、何も違わないだろ?ただ、出逢ったんだもの。隣人のようにさ。
黒江・イサカ 2021年1月18日
……そう、僕って可哀想なんだ。“まとも”じゃないから。君はどうだろう?飢え続けるのと、食べ続けられることって幸せ不幸せどっちが勝るものなのかしら。 (君と違って、男の視線はふらふらとあちこちを辿る)(身振り手振りも同様で、それは見られることをわかっていた)(随分短くなってしまった煙草を勿体なげに摘まんで) インコくん、きっとご商売が向いてるね。何処で身についたの?君が自分のことを話すのが苦手なのって、それが切り札≪カード≫になるってわかってるからだよ。きっと。自分だけ手札を晒すと、負けちゃうものね。もちろん、几帳面だからかもしれないけど。
納・正純 2021年1月20日
そうかい。
納・正純 2021年1月20日
ああ、俺もいつかは死ぬだろう。死因は未だ分からないが、いつかは必ず俺も死ぬ。そして必ず誰の頭からも忘れられる。『死』は生きとし生けるものにいつか必ず訪れる結末だ。理路整然としていて整合性の取れた、先の読める結末だ。だから、俺はそれがあまり好きじゃないのさ。『死』よりも『生』の方が見ていて何倍も面白いからな。
だが……お前が今さっき言ったみたいに――この世に寿命や病気での緩やかな死と、事故や天災での突発的な死と、黒江イサカの齎す死とがあって、それらが果たして何も違わないのなら……。
俺はお前のしていることについて、考え直した方が良い気がしてきたよ。死を始めとする障害に抗うことで、人は新たな知識を獲得してきた。狩りを行うための武器しかり、病気に対する特効薬しかりな。だから、時々こうも思うのさ……
納・正純 2021年1月20日
お前みたいな『あたりに死を振りまく可哀想な障害』がいた方が、世界全体にとっては良いんじゃねえかってよ。UDCアースの行方不明者数、知ってるかい? 今年だけでだいたい16万人を超えるそうだ。だが、その数字は二年前と比べりゃ随分大人しいもんでね。分かるか? つまり、俺はこの数字の変遷をUDCアースって世界が進化してるんだと解釈してるのさ。
邪神、テロ組織、サイキック事故、それからお前みたいな殺人者。そういった『障害』があるが故、世界の成長が加速してる側面も確かにあるって話だ。UDC組織の成長は目覚ましいし、サイキック制御技術の進歩も目覚ましい。とはいえ、邪神だのオブリビオンだのについては俺たちが出張るしかないし、世界にとって害しかないから優先的に駆除してるってワケだが。……お前と話してるおかげで思い出したよ。目的を達成するときの、手段を択ばない手っ取り早さって奴をな。
納・正純 2021年1月20日
……さて、どうだかな。実を言えば、商売には向いてないんだ。恥ずかしながら、欲の皮が張りすぎててね。しかし少なくとも、俺の考えは今こうしてお前に全てぶちまけたぜ、イサカ。これで俺の切り札はその効果を失った。お前の話を聞いた分、それに合わせて俺の話もしたってワケだ。几帳面にな。
――几帳面ついでに、一つだけ約束しよう。『この夢から覚めて最初にお前と会ったとき、俺はお前を殺さない』ってな。見定めるとするさ、お前の死が世界にどんな影響を齎してるのか。興味も出てきたことだしな。勿論、お前が齎す死がこの世界に何の影響も齎さない無為な死だってコトが分かれば、俺はお前を躊躇なく殺しに動くぜ。
黒江・イサカ 2021年2月3日
(黒い双眸が、朗々と語る君のことを見ていた。きっと君は僕のことを見つめているだろうから、其処に金色をちらちらと反射していたかもしれないけど。うん、うん、と相槌すら打ちながら、君の中の僕の話を聞いていた)うん、……僕のこと、そうやって言うひとたまにいるよ。ちょっと意味合いは違うけど。こういうの、必要悪って言うんだって…。どんなに治世になったって、何でか産まれてくる世の障害。歪み。ゴミ。バグ。 …でも、世の中には必要なんだってさ。(摘まんだ紙筒を最後のひと吸い、キスでもするみたいに)ふふふ。インコくんって、ちょっとウザいね。これもよく言われない?勝手にひとのこと高めに評価しておいて、それを越えて来ないと失望したり応援したりしてくるやつ。ネガティブへの劇薬。まあ、深く知ろうとしてるだけなのかもしれないけど……インコくん、昔は結構人殺ししてた?何の興味も湧かないひとって、君には割といそうだな。
黒江・イサカ 2021年2月3日
だけどね、僕も思ったことがある。僕にはね、伏せた切り札≪カード≫がまだあるんだよ。……いや、まだあるどころじゃない。たくさん、たくさん、…そう、君が見たことのないやつ。僕のオリジナル。(そこで、勿体ぶるようにひと息置く。間、そして君の視線が自分に注がれていることを確かめてから徐に舌を伸ばすと、見せびらかすように載せたのはすっかりフィルターだけになってしまった黒い姿の煙草。眦が、にこりと緩んで)(ごくん、と。飲み込む音は施錠する音にも似ていた)……だからインコくん、僕のことを憶えていて。忘れないでいて。僕はね、君の“希望”になれる。君がどんなに知り尽くして、食い尽くしてしまったとしても、僕がいる限り“知らないこと”は存在するんだ。それってとっても―――…楽しいことでしょ、インコくん。だから僕、君より先に死なないようにするよ。君の為にね。僕、世界のことなんてわかんないし。君の希望であるように。
納・正純 2021年2月3日
そうかい。それは……ハハ、少しだけ気持ちがわかるかもな。だが、『必要悪』ね……。その言葉を使って一方的に満足する奴、俺はあまり好きじゃないな。そもそも俺は、世の中に絶対に必要なものだとかひとなんて存在しないと思ってるんでね。世界は勝手に回ってるのに、どうして俺たちが勝手に生きられない理由があるんだろうな。
お前は黒江・イサカだ。世の中に必要な奴じゃない。どこにでもいる、少しの秘密と幅広い交友関係を持つ身近な男さ。それに――、やっぱりお前は『必要悪』ってレッテルだのカテゴライズに収まるような奴じゃないよ。お前に似合う肩書きは、そうだな……。精々『共犯者』どまりじゃないか? 見極めさせてもらうぜ、イサカ。お前が俺の役に立つかどうかをな。
納・正純 2021年2月3日
ウザいとはよく言われるし、人も殺してきたよ。どちらも数えきれないくらいにはな。知ってるか? 何かの内面を知ろうとするには、必ず対象に踏み込む必要があるのさ。肉体的に、もしくは精神的にな。
俺は自分が知りたいことのためなら何でもするし、何でもしてきた。俺が興味を失うまで質問責めにもするし、息をしなくなるまで鉛弾を食らわせることもあった。それは全部俺のためだ。
……『この夢から覚めて最初にお前と会ったとき、俺はお前を殺さない』。この約束を結んだのも、俺のためさ。良いだろう。イサカ、俺はお前のことを覚えておいてやる。お前のオリジナルを、伏せた切り札を、俺の希望を見るときまでな。だが……
納・正純 2021年2月3日
……安心するなよ? 俺はいつでもお前を殺せる。お前のオリジナルとやらが贋作だった時。伏せた切り札が『ブラフ』だった時。俺の希望がそうではないと分かった時。お前の齎す死が無意味で退屈なものであると知った時。その時、俺はお前を殺しに行くぜ。
出来ればそうはならないでくれと祈ってる。俺だって好きで殺人はしたくない。だから、イサカ。お前は俺よりも長生きしてくれ。勉強もして、いろんなことを知ると良い。俺の希望であってくれ、黒江・イサカ。お前の殺人が、意味のあるものであることを願う。
納・正純 2021年2月3日
――さて。そろそろ夢から覚めたいトコなんだが、どうすればいい?
いくら煙草が無限に吸えるといっても、景色が変わらないことには退屈でね。自分の頭でも撃てばいいのか? それとも、そろそろ終着駅が見えてくる頃なのかな。
黒江・イサカ 2021年2月15日
もちろん、ひとは理由を欲しがるよねって話さ。僕だって僕が必要悪なんて思ったことないよ。だけど不思議と…なんて言うんだろうな、…特別だ、って。思いたがるんだよ。みんな、僕のことを。 ……不思議だとは思うけどわからないわけじゃない。だから僕はそのひとに向かってそれを否定しない。だって、“君”と僕が違うのは本当のことだもんね。(鼻先に寄せた指先を香る)(嗅ぎ慣れない煙の匂いがした、いわゆるそれって君の匂い)(お喋りはたなびくように流暢なまま)だからね、君が僕に何の理由を齎してくれるのか―――…それはほんのちょっと、楽しみではある。僕はいつだって、『君の役に立っている』し、『殺している』し、『学んでいる』。意味はいつだって君の中にしかないのさ。真実はいつもひとつ!みたいなね、ハハ、……いつだってそう、君の金色を通して。
黒江・イサカ 2021年2月15日
……ああ、残念ながら、お客さんは乗車券をお持ちでなかったようだからね。列車はずっと水の中を走ってたみたい。次の駅にお連れするわけにはいかなくて――――(空になった手を頭上の荷物置き、そのバーに伸ばす)(器用に手繰るようにすると、上半身を持ちあげて)大丈夫だよ、そんなことしなくて。だってこれ、夢だもんね。たぶん、びくんってなって起きると思うけど、君の傍に誰かいないことを祈ってるよ。女とか、男とか、いわゆるかわいこちゃん。もしくは、君をかわいこちゃんだと思ってる裸のひと。あれ、傍でやられるとかわゆくって仕方ないもんな。
黒江・イサカ 2021年2月15日
次に逢うのは起きてる僕かしら。それとも、逢いたいひとが出来た君?まあどっちでもいいや。後者の場合は、今度こそ次の駅にご案内するよ。(そのまま、懸垂でもするように)(腹筋を使って両脚までも折り畳んで持ち上げたのは一瞬のことで)(君の背には、尻には座席があって、背凭れがあったはずだ)(実際ある)(実際あるのに、男は、躊躇わず君の胸の辺りを思い切り脚で突き飛ばして)
黒江・イサカ 2021年2月15日
またのご乗車、お待ちしております。(君は、不思議なことに水中へと落ちていった)
黒江・イサカ 2021年2月15日
(列車はまるで生きているように、あぶくを上げて駆けていく)